JP2023063698A - 揚げ物衣材用澱粉組成物 - Google Patents

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渉 古谷
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Abstract

【課題】本発明は、衣材に油脂加工澱粉を含むにも関わらず、揚げ種と衣との間のヌメリのある食感を抑制された揚げ物を提供することを課題とする。【解決手段】揚げ物の製造において、酸化澱粉及び/又は酸処理澱粉と油脂加工澱粉とからなる揚げ物衣材用澱粉組成物であって、酸化澱粉及び/又は酸処理澱粉のRVAピーク粘度が50mPa・s以上であり、酸化澱粉及び/又は酸処理澱粉の含有量が、油脂加工澱粉100質量部に対して0.3~110質量部である、前記澱粉組成物を使用することで上記課題を解決する。【選択図】なし

Description

本発明は、揚げ物衣材用澱粉組成物に関する。
フライやから揚げ等の揚げ物は、揚げ種をバッター等の衣材で被覆した後、適度に加熱した油槽で油ちょうすることにより製造される。このようにして得られる揚げ物は、揚げ種と衣とに一体感があり、揚げ種のジューシーな食味と衣のサクサクとした食感が好まれる。油ちょうにより揚げ種が加熱されると、例えば食肉類であれば縮みが生じて食肉と衣との間に隙間ができ、その隙間が原因となってしばしば揚げ物から衣が剥がれることがある。このような衣剥がれは外観や食感等の品質が低下する原因の一つとなる。従って、揚げ物には、揚げ種と衣との結着性が高く、衣が揚げ種から剥がれにくいことが求められている。
一般的に、衣剥がれが起こらないように揚げ種と衣との結着性を高めるために、衣材に油脂加工澱粉が用いられる(特許文献1等)。油脂加工澱粉の表面は親油的な性質を有しているため、揚げ物種への結着性は高いという利点がある反面、水分や油脂分が蒸気となってバッター層と揚げ種の間にこもり、ネチャつき、ヌメリにより揚げ種と衣との間がネチャついた食感となり損なわれるという問題があった。
斯かる問題を解決するべく衣材の改良技術が種々提案されている。特許文献2には、所定量の穀粉と油脂とを含有する混合物を所定の条件で熱処理する穀粉類組成物(油脂加工穀粉)の製造方法が開示されており、得られた穀粉類組成物を用いて揚げ物用バッターとしてコロッケを製造したところ、ネチャつきがなくサクサクとした食感の衣であったことが記載されている。特許文献3には、油脂加工澱粉、ゼラチン及び植物性蛋白質を含有する揚げ物用打ち粉ミックスが開示されており、この打ち粉ミックスを用いて製造したとんかつは衣が剥がれ難く、ネチャつきがなくサクサクとした食感であったことが記載されている。何れも優れた技術ではあるが、さらなる改良が求められている。
一方、揚げ物用衣材に酸化澱粉を使用する技術についても検討されている。
例えば、特許文献4には、カルボキシ基含量が0.1~1.1%である酸化サゴ澱粉、及び/又は酸処理サゴ澱粉を含有することを特徴とする揚げ物衣材用ミックスが開示されており、この揚げ物衣材用ミックスを使用して得られる揚げ物において経時的な食感の低下と油っぽくなること抑制できることが記載されている。
特許文献5には、酸化澱粉、架橋澱粉、アセチル化澱粉及びエーテル化澱粉からなる群から選択される1種以上の加工澱粉を含む穀粉類と、表面が油脂の被膜で被覆された重曹とを含有する揚げ物用バッターミックスが開示されており、当該揚げ物用バッターミックスを使用することにより、衣が、カリっとして適度な硬さを持つ良好な食感を有すると共に、具材が、ジューシーで軟らかい食感であり、且つ衣と具材との間に不快なねちゃり感がなく、しかも経時耐性に優れ、加熱調理から時間が経過しても品質の低下が少ない衣付き揚げ物を得ることができることが記載されている。この発明で指摘されている不快なねちゃり感は、揚げ物用バッターミックスに加工澱粉を含有させる場合において、衣付き揚げ物の衣の食感などが向上し得る反面、衣の伝熱性(いわゆる火通り)が悪くなる傾向があり、特に衣における具材との接触部分において伝熱性の悪さが顕著となり、そのため、油ちょう時において衣の厚み方向全体に熱が通りにくく、衣の表面側は火通りがよいために十分に揚がっても、衣の具材側は火通りが悪いために揚げが不十分となることに起因するものである。
しかしながら、揚げ物用衣材に油脂加工澱粉を使用した際に生じる揚げ種と衣との間のネチャつきに関する課題については記載も示唆もない。
特開2014-143929号公報 WO2018/181215 特開2018-113878号公報 特開2019-041717号公報 特開2019-134694号公報
本発明は、衣材に油脂加工澱粉を含むにも関わらず、揚げ種と衣との間のヌメリのある食感を抑制された揚げ物を提供することを課題とする。
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、揚げ物の製造において、酸化澱粉及び/又は酸処理澱粉と油脂加工澱粉とからなる揚げ物衣材用澱粉組成物であって、酸化澱粉及び/又は酸処理澱粉のRVAピーク粘度が50mPa・s以上であり、酸化澱粉及び/又は酸処理澱粉の含有量が、油脂加工澱粉100質量部に対して0.3~110質量部である、前記澱粉組成物を使用すると、衣材に油脂加工澱粉を含むにも関わらず、揚げ種と衣との間のヌメリのある食感を抑制された揚げ物を提供することができることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の態様を包含する。
[1]酸化澱粉及び/又は酸処理澱粉と油脂加工澱粉とからなる揚げ物衣材用澱粉組成物であって、酸化澱粉及び/又は酸処理澱粉のRVAピーク粘度が50mPa・s以上であり、酸化澱粉及び/又は酸処理澱粉の含有量が、油脂加工澱粉100質量部に対して0.3~110質量部である、前記澱粉組成物。
[2]酸化澱粉及び/又は酸処理澱粉のRVAピーク粘度が700mPa・s以上である、記載の揚げ物衣材用澱粉組成物。
[3][1]又は[2]に記載の揚げ物衣材用澱粉組成物を含有する、揚げ物衣材用ミックス粉。
[4]バッターミックス粉である、[3]に記載の揚げ物衣材用ミックス粉。
[5][1]又は[2]に記載の揚げ物衣材用澱粉組成物、ないしは、[3]又は[4]記載の揚げ物衣材用ミックスを使用する、揚げ物の製造方法。
本発明によれば、衣材に油脂加工澱粉を含むにも関わらず、揚げ種と衣との結着が良好で、揚げ種と衣との間のヌメリのある食感が抑制された揚げ物を提供することができる。
本発明において「揚げ物」は、畜肉や魚介類、野菜類等の揚げ種に衣材を付着させた後、熱した油浴中で油ちょう(乾熱加熱)して得られる食品であり、そのような食品として、天ぷら、から揚げ、カツ、フライ、フリッター等が挙げられる。
本発明において「揚げ物衣材」とは揚げ物類に使用される衣材であり、小麦粉等の穀粉やコーンスターチ等の澱粉を主体とする粉体組成物に加水して均質化し、バッターとして調整した後に揚げ種に付着させるものと、前記粉体組成物をそのまま揚げ種に付着させるものが含まれ、本発明の揚げ物衣材用澱粉組成物はそのどちらとしても使用することができる。
本発明の揚げ物衣材用澱粉組成物は酸化澱粉及び/又は酸処理澱粉と油脂加工澱粉とからなる。
本発明において「油脂加工澱粉」とは、澱粉及び食用油脂を混合して澱粉の表面に油脂を付着させた後、任意に乾燥し、加熱熟成(油脂加工)して得られるものをいう。
油脂加工澱粉の原料となる澱粉としては、特に限定されず、一般に食用に供される澱粉であればいずれも好適に使用することができ、例えば、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、小麦澱粉、米澱粉、甘藷澱粉、緑豆澱粉、サゴ澱粉等、並びにこれらのワキシー種及びハイアミロース種の未変性澱粉、並びにその未変性澱粉にα化、エーテル化、エステル化、架橋、酸化等の変性処理から選択される1種以上の変性処理を施した変性澱粉が挙げられる。上記澱粉は、これらのうちの1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
油脂加工澱粉の原料となる油脂としては、特に限定されず、一般に食用に供される油脂であればいずれも好適に使用することができ、例えば、大豆油、菜種油、サフラワー油、エゴマ油、シソ油、コーン油、ヒマワリ油、綿実油、ゴマ油、オリーブ油、ヤシ油、米油、亜麻仁油、パーム油等の植物性油脂、魚油、牛脂、豚脂(ラード油)、鶏脂等の動物性油脂、これらを2種類以上組み合わせた混合油脂、及びこれらの油脂のうち1種又は2種以上の組み合わせに分別操作、エステル交換、水素添加等の加工処理を行った加工油脂等が挙げられる。上記油脂は、これらのうちの1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
油脂加工澱粉の製造において、油脂の使用量は、澱粉100質量部に対して0.005~10質量部であることが好ましく、0.01~1質量部であることがより好ましい。また、油脂の代わりに、前記植物性油脂を分離精製する前の油糧種子を粉砕した油糧種子粉砕物を使用してもよい。この場合、澱粉に対する油脂の割合は、油糧種子に含まれる油脂の割合から適宜換算して求めることができる。
このような油脂加工澱粉は公知の方法により製造することができる。例えば、ミキサー等で機械的に澱粉を撹拌しながら油脂を徐々に添加して撹拌混合し、あるいは、澱粉を気流中に均一分散させて油脂をスプレー噴射して澱粉に油脂を満遍なく付着させた後に加熱する手法等により製造することができる。
本発明において使用する油脂加工澱粉としては上記公知の方法により製造したものでも良く、また市販品を使用してもよく、そのような市販品としてミルフィクスD(王子コーンスターチ株式会社製)、バッター用澱粉BT-800(三和澱粉工業株式会社製)、日食バッタースターチ#500(日本食品化工株式会社製)等が挙げられる。
本発明において「酸化澱粉」とは、次亜塩素酸ナトリウムや過ヨウ素酸等により澱粉を酸化反応させて得られるものであり、澱粉の分子内にカルボキシ基やカルボニル基が導入されると共に分子が解重合している。このような化学的特徴から、糊化開始温度が低い、糊液の粘性が低い、糊液の安定性が高い、老化し難い等の特性を有している。
このような酸化澱粉は公知の方法により製造することができる。酸化処理の一例としては、原料澱粉の水懸濁液に所定量の次亜塩素酸ナトリウムの溶液を添加してアルカリ性下で反応させた後、亜硫酸水素ナトリウムなどの還元剤を加えて残存する有効塩素を消去し、酸を加えて中和する。その後、水でよく洗浄して副生する塩や不純物を除去し、脱水乾燥して調製することができる。
本発明の揚げ物衣材用澱粉組成物において、酸化澱粉のカルボキシ基含有量は、2.2質量%以下であることが好ましく、より好ましくは2.0質量%以下であり、更に好ましくは1.8質量%以下であり、なお好ましくは1.7質量%以下である。また好ましくは0.01質量%以上であり、より好ましくは0.03質量%以上であり、更に好ましくは0.05質量%以上であり、なお好ましくは0.06質量%以上である。この範囲内であれば、揚げ種と衣との結着が良好で、揚げ種と衣との間のネチャつきのある食感が抑制された揚げ物を得ることができる。
なお酸化澱粉におけるカルボキシ基の含有率は、後述する実施例に記載の方法により求めることができる。
「酸処理澱粉」とは、無機酸により澱粉鎖が一部分解を受けて低分子化している澱粉である。低分子化しているため、糊化開始温度が低い、糊液の粘性が低い等の特性を有している。酸処理に用いられる酸として、塩酸、硫酸、硝酸などが挙げられ、種類、純度などを問わず利用できる。
このような酸処理澱粉は公知の方法により製造することができる。一例としては、原料澱粉の水懸濁液に所定量の酸を添加し、酸性下で加熱撹拌して酸処理を行った後、アルカリを加えて中和する。その後、水でよく洗浄して副生する塩や不純物を除去し、脱水乾燥して調製することができる。
本発明において、酸化澱粉及び酸処理澱粉の原料澱粉は特に制限されず、例えば、小麦澱粉、米澱粉、コーンスターチ、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、緑豆澱粉、サゴ澱粉等や、それらのワキシー澱粉並びにハイアミロース澱粉を使用することができる。
本発明の揚げ物衣材用澱粉組成物において、酸化澱粉及び/又は酸処理澱粉のRVAピーク粘度は、50mPa・s以上であり、好ましくは80mPa・s以上であり、より好ましくは600mPa・s以上であり、更に好ましくは1000mPa・s以上であり、なお好ましくは1500mPa・s以上であり、より更に好ましくは1800mPa・s以上である。また酸化澱粉及び/又は酸処理澱粉のRVAピーク粘度の上限は好ましくは4000mPa・s以下、より好ましくは3000mPa・s以下、更に好ましくは2500mPa・s以下、なお好ましくは2400mPa・s以下である。酸化澱粉及び/又は酸処理澱粉のRVAピーク粘度が50mPa・s以上であれば、揚げ種と衣との結着が良好で、揚げ種と衣との間のネチャつきのある食感が抑制された揚げ物を得ることができる。
ここでRVAピーク粘度とは、ラピッドビスコアナライザー(RapidVisco Analyzer:RVA)により澱粉を糊化させた後、その糊液を冷却した際の粘度曲線における最高粘度である。
酸化澱粉のRVA最高粘度は、主として、原料澱粉の酸化処理による置換基の種類や置換度、酸処理の程度などによって変動するので、これらの変動要因を適宜調節することで、所望のRVAピーク粘度を有する酸化澱粉を得ることが可能である。
酸処理澱粉のRVA最高粘度は、主として、原料澱粉の酸処理による澱粉鎖の部分分解の程度によって変動するので、この変動要因を適宜調節することで、所望のRVAピーク粘度を有する酸処理化澱粉を得ることが可能である。
なお酸化澱粉及び/又は酸処理澱粉を複数の種類を組み合わせて混合物として使用する場合は、その混合物を糊化させた後、その糊液を冷却した際の粘度曲線における最高粘度をRVAピーク粘度とする。
RVAピーク粘度は以下のようにして測定する。澱粉試料を8%(w/w)となるように蒸留水に分散させて-DS(懸濁液30g中澱粉2.4gを含有)スラリーを作製し、60秒間50℃で保持後50℃から95℃まで11.25℃/分で加熱後、2分半の間95℃で保持し、11.25℃/分で50℃まで冷却、2分間50℃で保持する。加熱処理中の内容物の粘度を測定し、粘度曲線を得、得られた波形に基づいて、ピーク粘度及び糊化開始温度を得る。加熱処理中の最高粘度をRVAピーク粘度として決定する。RVAピーク粘度は、ラピッドビスコアナライザーを用いて測定することができ、ラピッドビスコアナライザーとしては例えばニューポート サンエンティフィク社製のものを用いることができる。
本発明の揚げ物衣材用澱粉組成物において、酸化澱粉及び/又は酸処理澱粉の含有量は、油脂加工澱粉100質量部に対して0.3~110質量部であり、好ましくは1~90質量部であり、より好ましくは2~40質量部であり、更に好ましくは3~30質量部であり、なお好ましくは4~25質量部である。0.3~110質量部であれば、揚げ種と衣との結着が良好で、揚げ種と衣との間のネチャつきのある食感が抑制された揚げ物を得ることができる。
本発明の揚げ物衣材用ミックス粉は前記揚げ物衣材用穀粉類組成物を含有する。本発明の揚げ物衣材用ミックス粉において、揚げ物衣材用穀粉類組成物の含有量は、総質量に基づいて、30質量%より多いことが好ましく、50質量%以上であることがさらに好ましい。
一般に揚げ物衣材用ミックス粉は、その使用用途に応じて各種の原料を含んでおり、そのような原料として小麦粉、大麦粉、デュラム小麦粉、ライ麦粉、米粉、大豆粉、緑豆粉、コーンフラワー等の穀物粉;タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、小麦澱粉、米澱粉、甘藷澱粉、緑豆澱粉、サゴ澱粉等、並びにこれらのワキシー種及びハイアミロース種の未変性澱粉、並びにその未変性澱粉にα化、エーテル化、エステル化、架橋、酸化等の変性処理から選択される1種以上の変性処理を施した変性澱粉;キサンタンガム、ローカストビーンガム、ジェランガム、ペクチン、カラギーナン、グアガム、タマリンドガム、アラビアガム等の増粘多糖類;メチルセルロース等のセルロース誘導体;小麦蛋白、卵蛋白、乳蛋白、大豆蛋白、緑豆蛋白等の蛋白質素材;ブドウ糖、果糖、乳糖、砂糖、イソマルトース等の糖類;卵黄、卵白、全卵及びそれらを粉末化したものやその他の卵に由来する成分である卵成分;粉乳、脱脂粉乳、大豆粉乳等の乳成分;ショートニング、ラード、マーガリン、バター、液状油等の油脂類;乳化剤;膨張剤;食塩等の無機塩類;保存料;香料;香辛料;ビタミン;カルシウム等の強化剤等の通常揚げ物衣材用ミックス粉の製造に用いる副原料が挙げられる。
前記揚げ物衣材用ミックス粉としては、バッターミックス粉、ブレッダーミックス粉及び打ち粉ミックス粉のいずれかであり、好ましくはバッターミックス粉である。
本発明の揚げ物の製造方法は、前記揚げ物衣材用澱粉組成物又は前記揚げ物衣材用ミックス粉を使用する。
本発明の揚げ物は、前記揚げ物衣材用澱粉組成物又は前記揚げ物衣材用ミックス粉を使用する以外は、公知の手法を用いて製造することができる。例えば、前記揚げ物衣材用澱粉組成物又は前記揚げ物衣材用ミックス粉に加水してバッター液として調製し又はまぶし粉とし、揚げ種に、任意に粉末調味料あるいは粉末調味料及び/又は液体調味料を含有する調味液で下味をつけ、任意に小麦粉等の穀粉やコーンスターチ等の澱粉を主体とする打ち粉を付着させ、バッター液又はまぶし粉を被覆させた後、油ちょうして製造される。油ちょうは160~200℃に予熱した油槽で油ちょうする手法等が挙げられる。油ちょうする代わりに、衣付けした揚げ種を、油を薄く引いたフライパンで加熱してもよく、オーブン加熱して揚げ物様食品を得てもよい。まぶし粉を使用する場合、揚げ種をバッター液に浸漬した後にまぶし粉で被覆することもできる。また、揚げ種をバッター液で被覆した後にパン粉、粗く砕いた穀物粉、あられ、適当なサイズに砕いた乾麺等の固形衣材を付着させることもできる。上記揚げ物用バッター液は、例えば、上記油脂加工澱粉組成物100質量部に対し、50~500質量部の水を加えて混合することで調製することができる。
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
<製造例1:酸化澱粉の製造>
(1)コーンスターチに酸化処理を行い、各種酸化度の酸化澱粉を製造した。コーンスターチ5kgに水7.5Lを加えて懸濁し、この懸濁液に酸化剤として有効塩素濃度0.5~12%の次亜塩素酸ナトリウムを270g加え、混合しながら30℃で2時間反応させて酸化処理を行なった。反応終了後、10%亜硫酸水素ナトリウム溶液を徐々に添加することで残存する次亜塩素酸ナトリウムを還元し、その後5%塩酸でpH5に調整した。終了後の懸濁液は脱水した後、80℃で乾燥して各種酸化澱粉(酸化澱粉A~F)を得た。
(2)製造した酸化澱粉のRVAピーク粘度は、ラピッドビスコアナライザー(RVA)を用いて測定した。測定の具体的手順を以下に説明する。製造した澱粉サンプルと蒸留水を8%-DS(懸濁液30g中澱粉2.4gを含有)スラリーを作製し、60秒間50℃で保持後50℃から95℃まで11.25℃/分で加熱後、2分半の間95℃で保持し、11.25℃/分で50℃まで冷却、2分間50℃で保持した。加熱処理中の内容物の粘度を測定し、粘度曲線を得た。得られた波形に基づいて、ピーク粘度及び糊化開始温度を得た。加熱処理中の最高粘度をRVAピーク粘度として決定した。
(3)製造した酸化澱粉のカルボキシ基含量は以下の方法で求めた。乾燥物質量 5.0gの澱粉試料に0.1N塩酸50mlを加え、30分間攪拌した後、孔径10~16μmのガラスフィルターを用いて吸引濾過し、濾液が塩化物の反応を呈さなくなるまで 蒸留水で洗浄を続けた。塩化物の反応は、濾液に0.1N硝酸銀溶液を添加することで確認することができ、濾液が白濁すれば塩化物反応が起こっていることとなる。残留物を水300mlに懸濁し、攪拌しながら加熱してゲル化させ、更に15分間加熱した後、フェノールフタレイン指示薬を3滴加え、直ちに0.1N水酸化ナトリウム溶液で呈色するまですばやく滴定し、この時の滴定値を試料滴定値aとする。空試験では、乾燥物質量5.0gの澱粉試料に蒸留水50mlを加え、30分間攪拌した後、孔径10~16μmのガラスフィルターを用いて吸引濾過し、蒸留水200mlで洗った。残留物を蒸留水300mlに懸濁し、攪拌しながら水浴上で加熱してゲル化させ、更に15分間加熱した後、フェノールフタレイン指示薬を3滴加え、直ちに0.1N水酸化ナトリウム溶液で呈色するまですばやく滴定し、この時の滴定値を空試験滴定値bとした。
カルボキシ基含量は以下の計算式(1)を用いて算出した。
カルボキシ基含量(質量%)=(a-b)×f×0.45/5…(1)
上記式(1)中、a:試料滴定量(ml)、b:空試験滴定量(ml)、f:0.1N水酸化ナトリウムの力価を意味する。
得られた酸化澱粉を表1に示す。
表1
Figure 2023063698000001
<製造例2:酸処理澱粉の製造>
(1)コーンスターチに酸処理を行い、下記酸処理澱粉を製造した。コーンスターチ5kgに水5.5Lを加えて懸濁し、この懸濁液に50質量%硫酸溶液を添加し、pH1.0~2.0になるよう調整した。その後、40℃、25時間攪拌し、酸処理を行なった。苛性ソーダ水溶液を加えて中和し、更に水洗した。終了後の懸濁液は脱水した後、80℃で乾燥して酸処理澱粉を得た。
(2)製造した酸処理澱粉のRVA最高粘度の測定手順は製造例1と同様である。
得られた酸処理澱粉を表2に示す。
表2
Figure 2023063698000002
<製造例3:揚げ物(トンカツ)の製造>
(1)油脂加工澱粉100質量部及び冷水200質量部をスリーワンモーター(新東科学株式会社製、撹拌翼かい十字を先端に取り付けた撹拌棒を使用)を用いて800rpmで5分間撹拌混合することにより、揚げ物用バッター液を調製した。
(2)厚さ1.0cmの豚肉塊100gを(1)で得られた揚げ物用バッター液で満遍なく被覆し、更に生パン粉を満遍なく付着させて衣付き揚げ種を調製した。バッター被覆直後及びパン粉付着直後に揚げ種を重量測定(n=10)したところ、各々平均110g、125gであった。
(3)食用油を170℃に予熱した油槽に(2)の衣付き揚げ種を投入し、反転含めて5分間油ちょうしてトンカツを得た。
[評価例1:トンカツの食感評価]
油ちょうしたトンカツを油切りバットに上げて油切りし、短手方向に約2cmに切断し、熟練パネラー10名により下記評価基準表1に従って評価し、平均点を求めた。
評価基準表1
Figure 2023063698000003
[評価例2:衣の結着性評価]
フライしたトンカツを油切りバットに上げて油切りし、短手方向に約2cm幅に切断し、豚肉と衣との接着部分の剥がれの程度(豚肉の全表面積に対する衣が剥がれている部分の豚肉の表面積)を目視で確認し、下記評価基準表2に従って各試験区に対して10枚のトンカツで評価した。
評価基準表2
Figure 2023063698000004
〔試験例1:酸化澱粉の種類の検討〕
表3記載の油脂加工澱粉と酸化澱粉とを均質になるまで混合し、その混合物100質量部を油脂加工澱粉に代えて用いた以外は製造例3と同様にしてトンカツを製造し、評価基準表1及び2に従って評価した。結果を表3に示す。なお、表3に記載の酸化澱粉A~Fは表1、酸処理澱粉は表2の通りであり、原料澱粉は酸化又は酸処理澱粉の製造に用いた未処理のコーンスターチである。
その結果、酸化澱粉A~E及び酸処理澱粉を用いた実施例1~6では、何れも原料澱粉よりもネチャついた食感が改善した。特に実施例1~3及び6では、ネチャついた食感がなく、極めて良好なトンカツであった。実施例4では、ネチャついた食感がほとんどなく、十分に商品として提供できるレベルであった。実施例5では、わずかにネチャついた食感であったが、比較例1及び2に対して不適とまでは言えなかった。また、実施例3~6において、衣剥がれがわずかに認められたが、商品として十分に提供できるものであった。
表3
Figure 2023063698000005

油脂加工澱粉:日本食品化工株式会社の日食バッタースターチ#500
原料澱粉:酸化澱粉の製造に用いた未処理のコーンスターチ
〔試験例2:油脂加工澱粉及び酸化澱粉の割合の検討〕
表4記載の油脂加工澱粉と酸化澱粉とを均質になるまで混合し、その混合物100質量部を油脂加工澱粉に代えて用いた以外は製造例3に従ってトンカツを製造し、評価基準表1及び2に従って評価した。結果を表4に示す。
表4より、比較例4、実施例7、8、1、9と酸化澱粉Aの使用量が増加するのに伴って衣と豚肉との間のネチャついた食感が抑制され、実施例1及び9ではネチャつきが全く感じられないレベルであった。更に酸化澱粉Aの使用量が増加する実施例10、11では、ネチャつきはなかったものの、火通りの向上により肉が硬く食感が悪くなった。油脂加工澱粉100質量%に対し5~20%で食感及び結着性で良好であった。更に酸化澱粉の含有割合を多くすると、いずれも商品として十分に提供できるものであったが衣剥がれが増加する傾向にあった。
表4
Figure 2023063698000006

油脂加工澱粉:日本食品化工株式会社の日食バッタースターチ#500
〔試験例3:油脂加工澱粉及び酸処理澱粉の割合の検討〕
表5記載の油脂加工澱粉と酸処理澱粉とを均質になるまで混合し、その混合物100質量部を油脂加工澱粉に代えて用いた以外は製造例3に従ってトンカツを製造し、評価基準表1及び2に従って評価した。結果を表5に示す。
その結果、酸処理澱粉の使用割合を変動させたトンカツの食感及び結着性の評価は、酸化澱粉を用いた試験例2とほぼ同等であった。
表5
Figure 2023063698000007

油脂加工澱粉:日本食品化工株式会社の日食バッタースターチ#500
〔試験例4:油脂加工澱粉の種類の検討(酸化澱粉)〕
油脂加工澱粉の種類を下記表6に記載の通りにしたこと以外は、実施例1と同様にしてトンカツを製造し、評価基準表1及び2に従って評価した。結果を表6に示す。
表6より、いずれの油脂加工澱粉を使用しても、酸化澱粉を配合することにより、得られたトンカツにおける豚肉と衣との間のネチャついた食感が抑制された。
表6
Figure 2023063698000008

油脂加工澱粉V:日本食品化工株式会社製、日食バッタースターチ#500
油脂加工澱粉W:三和澱粉工業株式会社製、バッター用澱粉BT-800
油脂加工澱粉X:東海デキストリン株式会社製、OC-2
油脂加工澱粉Y:日本食品化工株式会社製、日食バッタースターチ#200N
油脂加工澱粉Z:王子コーンスターチ株式会社製、ミルフィクスD
〔試験例5:油脂加工澱粉の種類の検討(酸処理澱粉)〕
油脂加工澱粉の種類を下記表7に記載の通りにしたこと以外は、実施例7と同様にしてトンカツを製造し、評価基準表1及び2に従って評価した。結果を表7に示す。
表7より、いずれの油脂加工澱粉を使用しても、酸処理澱粉を配合することにより、得られたトンカツにおける豚肉と衣との間のネチャついた食感が抑制された。
表7
Figure 2023063698000009

油脂加工澱粉V:日本食品化工株式会社製、日食バッタースターチ#500
油脂加工澱粉W:三和澱粉工業株式会社製、バッター用澱粉BT-800
油脂加工澱粉X:東海デキストリン株式会社製、OC-2
油脂加工澱粉Y:日本食品化工株式会社製、日食バッタースターチ#200N
油脂加工澱粉Z:王子コーンスターチ株式会社製、ミルフィクスD

Claims (5)

  1. 酸化澱粉及び/又は酸処理澱粉と油脂加工澱粉とからなる揚げ物衣材用澱粉組成物であって、酸化澱粉及び/又は酸処理澱粉のRVAピーク粘度が50mPa・s以上であり、酸化澱粉及び/又は酸処理澱粉の含有量が、油脂加工澱粉100質量部に対して0.3~110質量部である 、前記澱粉組成物。
  2. 酸化澱粉及び/又は酸処理澱粉のRVAピーク粘度が700mPa・s以上である、記載の揚げ物衣材用澱粉組成物。
  3. 請求項1又は2に記載の揚げ物衣材用澱粉組成物を含有する、揚げ物衣材用ミックス粉。
  4. バッターミックス粉である、請求項3に記載の揚げ物衣材用ミックス粉。
  5. 請求項1又は2に記載の揚げ物衣材用澱粉組成物、ないしは、請求項3又は4記載の揚げ物衣材用ミックスを使用する、揚げ物の製造方法。
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