JP2023053601A - 超硬合金,それを用いた刃物および包丁 - Google Patents

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友浩 堤
Tomohiro Tsutsumi
祐介 勝
Yusuke Katsu
淳 茂木
Jun Mogi
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Abstract

【課題】切れ味が低下しにくい,すなわち耐久性に優れた,刃物に適する超硬合金を提供する。【解決手段】包丁1は超硬合金製の刀身2を備えている。刀身2は一直線状にのびる背部(みね)3とその反対側の弧状の刃部4を備え,刃部4は切っ先に向かうにしたがって背部3に次第に近づき,切っ先において背部3と連続する。刃部4の先端(刃先)は鋭く尖っており,刃部4を食材等に押し当てる(さらに前後に動かす)ことによって食材等が切断される。刀身2はWC,NiおよびCr3C2を含む超硬合金から作られる。WC結晶粒子同士の粒界にはCrが,WC結晶粒子とNiの粒界にはCrが,それぞれ含まれている。【選択図】図1

Description

この発明は,超硬合金,特に刃物に適する超硬合金に関する。この発明はまた上述した超硬合金を用いて作製された刃物および包丁に関する。
刃物たとえば包丁の重要な特性は切れ味と耐久性である。刃先を鋭角に形成することで包丁の切れ味は向上する。もっとも鋭角にしすぎると刃先にカケが発生しやすくなる。また,包丁は使用することで刃先に摩耗が生じ切れ味が低下する。切れ味の持続(耐久性)も肝要である。さらに,包丁は食品を切断するために用いられるので腐食しにくいこと(耐食性を持つこと)も必要である。
切れ味,耐久性さらには耐食性のいずれにも優れた包丁等の刃物に適する材料が求められている。特許文献1は炭化タングステン(WC),ニッケル(Ni)およびクロム(Cr)を含む機械的強度,耐食性および研磨光沢性に優れた超硬合金を開示する。
特開昭64-8245号公報
この発明は,刃物に加工したとき,切れ味が低下しにくい,すなわち耐久性に優れた刃物とすることができる超硬合金を提供することを目的とする。
この発明はまた,切れ味が低下しにくい,すなわち耐久性に優れた刃物を提供することを目的とする。
この発明はさらに,切れ味が低下しにくく,かつ切れ心地のよい包丁を提供することを目的とする。
この発明による超硬合金は,平均粒径が1.5μm以下であるWCを主成分とする硬質相を超硬合金全体に対して61~83wt%含み,Niを主成分とする結合相を超硬合金全体に対して16~34wt%含み,Crを主成分とする粒成長抑制相を超硬合金全体に対して1~5wt%含み,硬質相と結合相と粒成長抑制相との合計が100wt%であり,上記WC同士の結晶粒界にNiが含まれており,さらに以下の(1)または(2)の少なくともいずれか一つを備えていることを特徴とする。
(1)上記WC結晶粒子同士の粒界にCrが含まれている。
(2)上記WC結晶粒子と上記Niの粒界にCrが含まれている。
不可避不純物,すなわち原料中に存在したり,製造工程において不可避的に混入したりするもので,本来は不要なものであるが,微量であり,製品の特性に影響を及ぼさないため許容される不純物が,この発明の超硬合金に含まれる場合がある。
この発明による超硬合金は,「硬質相」と「結合相」と「粒成長抑制相」の3種類の相を含む。これらの3つの相の合計が100%である。これらの含有率はエネルギー分散型の蛍光X線分析装置を用いて分析される。
硬質相は炭化タングステン(WC)を主成分とする。WCは細かく,細かなWCを結合するのが結合相として用いられるニッケル(Ni)である。超硬合金は多数のWC(WC結晶粒子)を含み,多数のWC結晶粒子がNiによって互いに結合されて存在する。WCおよびNiに加えて,この発明による超硬合金はクロム(Cr)を含む(Crまたは炭化クロム(Cr)が超硬合金に含まれている)。CrまたはCrは,焼結時のWCの粒成長を効果的に抑制し,これによって微粒のWCを超硬合金に含有させることができる。CrまたはCrは超硬合金に耐酸化性ももたらし,耐食性に優れる超硬合金を得ることができる。もっとも,CrはNiに溶け込むので,NiとCrまたはCrは超硬合金において外観上区別して観察することはできない。
この発明による超硬合金は,WC結晶粒子の粒界に,次の(1)または(2)のいずれかが観察されることを特徴とする。
(1)上記WC結晶粒子同士の粒界にCrが含まれていること。
(2)上記WC結晶粒子と上記Niの粒界にCrが含まれていること。
WC結晶粒子同士の粒界に存在する元素,およびWC結晶粒子とNiとの粒界(界面)に存在する元素は,エネルギー分散型X線分光器(EDS)を用いて線分析することによって検出することができる。
WC結晶粒子同士の粒界にはCrを存在させることもできるし,存在させないこともできる。WC結晶粒子とNiとの粒界も同様であり,WC結晶粒子とNiとの粒界にCrを存在させることもできるし,存在させないこともできる。
WC結晶粒子同士の粒界にCrを存在させ,WC結晶粒子とNiとの粒界にCrを存在させる手法の一つは,超硬合金を焼結するときの焼結温度である。焼結温度を低温域にすることによって,WC結晶粒子同士の粒界にCrを存在させ,WC結晶粒子とNiとの粒界にCrを存在させることができる。逆に焼結温度を高温域にすると,これらの粒界にCrは存在しにくくなる。
上記WC結晶粒子同士の粒界にCrが含まれ,上記WC結晶粒子と上記Niの粒界にCrが含まれる超硬合金は,これらが含まれていない超硬合金に比べて,組成が同じであるとしても刃物に求められる特性の一つである耐久性(切れ味の低下しにくさ)に大きな違いが生じることが確認された。この発明が提供する超硬合金は硬く,しかも耐久性に優れているので刃物の素材に適している。上述のように耐食性にも優れることから,特には包丁の素材として適している。
この発明は,上述した超硬合金によって少なくとも刃部が形成されている刃物も提供する。刃物は,包丁,はさみ,鎌,斧,ナイフ,彫刻刀等を含む。
この発明はまた,上述した超硬合金を用いて作製される包丁であって,小刃部の開き角度(小刃角度)が25~40°,逃げ部の開き角度(逃げ角度)が2~6°であり,上記小刃部と上記逃げ部の境界が面取りされているものを提供する。切り心地が良く,使いやすい包丁が提供される。
包丁の側面図である。 超硬合金および包丁の製造方法を示すフローチャートである。 超硬合金の電子顕微鏡写真である。 超硬合金のエネルギー分散型X線分光器による線分析結果を示す写真である。 超硬合金の抗折力と,超硬合金から作製された包丁の切れ味低下量との関係を示すグラフである。 超硬合金の硬さと,超硬合金から作製された包丁の切れ味低下量との関係を示すグラフである。 包丁の刀身の拡大正面図である。 (A)は垂直モデルの刀身を,(B)は傾斜モデルの刀身を,それぞれ模式的に示している。 垂直モデルと傾斜モデルのそれぞれについての,小刃角度と小刃部に加わる引張応力との関係を示すグラフである。 垂直モデルと傾斜モデルのそれぞれについての,小刃角度と対象物に加わる応力との関係を示すグラフである。 垂直モデルと傾斜モデルのそれぞれについての,小刃角度と刀身を押し込む力との関係を示すグラフである。 小刃角度が30°,40°,60°,90°の4種類の刀身を用いて試験紙を切断した試験結果を示している。 逃げ角度が2°,4°,6°のときの押込量と押込荷重との関係を示すグラフである。 小刃部と逃げ部の境界を面取りしたもの(面取り有)と面取りしていないもの(面取り無)のそれぞれについての,押込量と押込荷重との関係を示すグラフである。
(包丁の基本的形状および切れ味試験について)
図1は包丁および包丁の性能(切れ味)試験の様子を示している。
包丁1は,後述する超硬合金製の刀身2を少なくとも備えている。刀身2は一直線状にのびる背部(みね)3とその反対側の弧状の刃部4を備え,刃部4は切っ先に向かうにしたがって背部3に次第に近づき,切っ先において背部3と連続する。刃部4の先端(刃先)は尖っており,刃部4を食材等に押し当てる(さらに前後に動かす)ことによって食材等が切断される。
包丁1の切れ味は包丁1を使用すればするほど低下する。超硬合金製の刀身2を備える包丁1も例外ではないが,鋼製,セラミックス製,ステンレス製その他の従来の包丁に比べると,超硬合金製の包丁1は切れ味が格段に低下しにくい(耐久性がよい)。
包丁1の切れ味および耐久性の評価は,この実施例では,複数枚の紙を重ねた紙束7を用意し,包丁1の刀身2に所定荷重を加えて紙束7に押し当て,所定の移動長だけ包丁1を移動させたときに紙束7を切断することができた長さ(切断深さ)を用いる。切れ味のよい包丁1は紙束7の切断長(切断深さ)が長く,切れ味が低下すると切断長は短くなる。
(超硬合金について)
包丁1の刀身2を構成する超硬合金は炭化タングステン(WC)を主成分とする硬質相と,ニッケル(Ni)を主成分とする結合相と,クロム(Cr)または炭化クロム(Cr)を主成分とする粒成長抑制相を含む,いわゆる炭化タングステン基超硬合金である。
(1)WC(硬質相)の含有量
超硬合金の硬さは硬質相に基づく。この実施例の超硬合金は,硬くかつ微粒のWCを硬質相として含む。WCが超硬合金全体に対して61wt%未満になると,相対的に結合相(Ni)が多くなり,超硬合金の硬さが低下する。WCは超硬合金全体に対して61wt%以上とされる。後述する性能試験によれば66wt%以上であると好ましい。逆に,WCの量が多すぎると超硬合金の抗折力が低下し,耐衝撃性に欠けることになる(カケが生じやすくなる)。この観点からWCは超硬合金全体に対して83wt%以下とされる。後述する性能試験によれば78wt%以下であると好ましい。また,WC平均粒径が大きいと超硬合金の硬さが低下することからWCの平均粒径は1.5μm以下とされる。後述する性能試験によれば0.2~1.0μmであると好ましい。
(2)Ni(結合相)の含有量
結合相は,上述した硬くかつ微粒のWCの結晶粒子同士を結合するために用いられる。
この実施例の超硬合金は結合相としてNiを含む。結合相はNiを主成分(結合相全体に対して50wt%以上含む)とする金属であってもよい。
結合相が超硬合金全体に対して16wt%未満になると超硬合金の抗折力が低下し,34wt%を超えると超硬合金の硬さが低下する。これらの観点から結合相は超硬合金全体に対して16~34wt%とされる。後述する性能試験によれば20~30wt%であると好ましい。結合相によってWC結晶粒子同士をしっかりと結合させることで,超硬合金からのWC結晶粒子の脱落が防止され,超硬合金の強度を確保することができる。
(3)CrまたはCrの含有量
CrまたはCrはWC相の粒成長抑制のために用いられる。また,Crは結合相の強度および超硬合金の耐酸化性の向上にも寄与することが知られている。CrまたはCrが超硬合金全体に対して1.0wt%以上含まれると,WC相の粒成長が抑制され,結合相の強度および耐酸化性が向上し,超硬合金の硬さおよび強度が向上する。結合相にCrまたはCrを十分に溶解するために,CrまたはCrは結合相に対して5.0wt%以下とされる。後述する性能試験によれば2.4~4.0wt%であると好ましい。
(超硬合金および包丁の製造方法について)
図2は超硬合金および包丁1の製造方法を示すフローチャートである。
原料粉末として平均粒径0.05~2.0μmのWC11を作製すべき超硬合金に対して61~83wt%になるように秤量し,また結合相としてのNi12を主成分とする金属を超硬合金に対して16~34wt%になるように秤量し,さらにCr13を全体の合計が100wt%となるように秤量する。焼結後に遊離炭素や脱炭相を生じないように原料粉末にタングステン粉末14または炭素粉末15を加えてもよい。これらを有機溶剤とともにアトライタまたはボールミルに投入し,混合する(ステップ21)。
アトライタは円筒形容器および羽根付きシャフトを備えるもので,上述した原料粉末,超硬合金製の多数の小径のボール,およびアセトン,アルコール,ヘキサンなどの有機溶媒が円筒形容器に入れられる。羽根付きシャフトを回転させることによって容器内において原料粉末が粉砕されかつ混合される。有機溶媒によって粉砕効果が高められ,かつ粉末の酸化が防止される。このようにしてスラリー(泥状物)を得る。
ボールミルは円筒形容器を備えるもので,上述した原料粉末,超硬合金製の多数の小径のボール,およびアセトン,アルコール,ヘキサンなどの有機溶媒が円筒形容器に入れられる。円筒形容器を回転させることによって容器内において原料粉末が粉砕されかつ混合される。上述と同様に有機溶媒によって粉砕効果が高められ,かつ粉末の酸化が防止される。このようにしてスラリーを得る。
得られたスラリーは,次にスプレードライヤー法,ミキサー乾燥法等を用いて乾燥され,これによって原料粉末から有機溶剤が取り除かれる(ステップ22)。
有機溶剤が取り除かれた原料粉末は,金型成形,ゴム成形,押出成形等によってプレスされて押し固められ,所定形状に成形される(ステップ23)。
成形品が真空の加熱炉内において焼結される。W-Ni-C(タングステン-ニッケル-炭素)の三元共晶温度を超える温度,たとえば1380℃で成形品を焼結することによって,WCを硬質相とし,かつNiを結合相とする超硬合金が作られる(ステップ24)。
上述した1380℃の焼結温度は,超硬合金を製造するときの一般的な焼結温度(約1400℃)よりもやや低い。焼結温度を低温側に制御することによって,後述するように,WC結晶粒子の粒界の状態を制御することができ,これによって包丁1の刀身2に適する超硬合金を製造することができる。包丁1の刀身2に適する超硬合金の詳細については後述する。
最後に形状加工が行われることによって超硬合金製の包丁1の刀身2が製造される。具体的にはワイヤー放電加工機を用いて刀身2の概略形状を切り出し,その後に平面研削盤を用いて所望の厚さに研磨する。最後に刃物研削盤を用いて研削することによって刃部4が形成される。
(観察結果および刃物性能試験について)
表1は,包丁1の刃物性能試験の試験結果を示すもので,13種類の包丁1(実施例1~6,比較例1~7)を構成する超硬合金の組成(成分ごとの含有量),測定値および結晶粒界観察結果を,刃物性能試験結果とともに示している。
Figure 2023053601000002
実施例1~6および比較例1~7のうち,実施例1~6,比較例1~5および比較例7の超硬合金は1380℃の焼結温度で成形品を焼結した。比較例6の超硬合金のみ1400℃の比較的高温の焼結温度で成形品を焼結した。
「組成」(超硬合金の成分ごとの含有量)はエネルギー分散型(Energy dispersive X-ray spectroscopy)の蛍光X線分析装置(X‐ray Fluorescence)を用いて分析した。
「WC粒径」は走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope)を用いて焼結後の超硬合金の研磨面を観察しインターセプト法を用いて測定した。「硬さ」はロックウェル硬度計(Aスケール)を用いて測定した。「抗折力」は3点曲げ試験により測定した。「アイゾット衝撃値」はアイゾット衝撃試験機を用いて測定した。WC粒径,硬さ,抗折力およびアイゾット衝撃値は,いずれも複数の測定値を平均した平均値を示している。
「結晶粒界観察結果」には,(1)WC結晶粒子同士の粒界にCrが存在するかどうか(WC-WC間のCr),(2)WC結晶粒子とNiの粒界にCrが存在するかどうか(WC-Ni間のCr),(3)WC結晶粒子同士の粒界にNiが存在するかどうか(WC-WC間のNi)が示されており,「有」が存在することを,「無」が存在しないことをそれぞれ示している。透過型電子顕微鏡(TEM)観察によってWC結晶粒子同士の粒界およびWC結晶粒子とNiの粒界を同定し,その後同定された粒界付近を,エネルギー分散型X線分光器(EDS)を用いて線分析することによって,上記粒界におけるCr,Niの存在の有無を同定した。この実施例では任意の10μm角のTEM分析視野から選択される少なくとも3か所の粒界においてCr,Niの存在が確認されれば「有」と判定したものである。
図3は透過型電子顕微鏡を用いて撮影した,表1の実施例2に示す超硬合金の断面写真(暗視野像)である。図4はエネルギー分散型X線分光器を用いた実施例2に示す超硬合金の線分析結果を示している。図3の断面写真を参照して,実施例2の超硬合金には比較的角のあるWC結晶粒子が多く含まれていることが分かる。図4の線分析結果にはWC結晶粒子同士の粒界に存在する元素が赤,青,黄等によって色分けされて明示される。WC結晶粒子とNiの粒界に存在する元素も同様にして色分け表示される。図4では赤,青,黄等の色分けが輝度(濃度)のみによって表現されていることに留意されたい。
刃物性能試験結果には,包丁1の刃先角度(小刃角度),切れ味,耐久性および備考が示されている。
「刃先角度」は刀身2の刃部4の先端(小刃部)の断面角度(開き角度)であり,比較例7を除いて25°で統一している。「切れ味」は未使用の新品状態の包丁1を用いて紙束7(図1参照)を切断したときの切断長さ(深さ)である。「耐久性」は総切断長さ(深さ)が1000mmに達したときの切れ味の維持度合いを示す。総切断長さが1000mmに達するまでに要した包丁1の移動回数を数え,その移動回数によって1000を除算した値が「耐久性」欄に示されている。「耐久性」に示す数値が大きければ大きいほど,1回の移動あたりの切断距離が長いので,使用を重ねても切れ味が低下しにくいものであることを示す。「備考」には刃部4の観察結果等が示されている。詳細には,刀身2に加える荷重を8Nとし,包丁1の移動長さは10mmとした。切断の対象物である紙束7には約43g/mの新聞紙相当の坪量の紙を7.5mmの高さに重ねたものを用いた。刃部4は紙束7に対して垂直に当てた。
比較例7の包丁1は刃先角度(後述する小刃角度,小刃部の開き角度)が40°に形成されており,切れ味が悪い(0.8mm)。刃先角度が25°である実施例1~6および比較例1~6の包丁1は未使用のときの切れ味はいずれも同じであった(2.5mm)。刃先角度は40°程度では切れ味が悪く,不適であると考えられる。
「耐久性」を参照して,包丁1を所定期間にわたって使用したとき(この実施例では,紙束7を1000mm切断したとき)の切れ味を表す耐久性については,各実施例および比較例において0.3~2.2mmの大きなばらつきが発生している。
比較例1の包丁1に用いられている超硬合金はWCの含有量が多く(89.0wt%),Niの含有量が少ない(10wt%)。またCrの含有量も1.0wt%とやや少ない。比較例2の包丁1に用いられている超硬合金もWCの含有量が多く(84.0wt%),Niの含有量が少なく(15wt%),Crの含有量も少ない(1.0wt%)。比較例1,2の包丁1は耐久性が低く(それぞれ0.3mm,1.5mm),比較例1の包丁1については大きなカケも発生した。比較例1,2の包丁1に用いられている超硬合金は抗折力,アイゾット衝撃値も低いことが分かる。これは,比較例1,2の超硬合金は硬質相であるWCを多く含むものの,WCを結合するNiの含有量が少なすぎるためにWC結晶粒子を保持しきれずに耐久性が大きく低下したものと考えられる。超硬合金を包丁1に用いることを考慮すると,結合相としてのNiの含有量は20wt%以上必要である。相対的にWCの含有量は79wt%以下とする必要がある。CrまたはCrの含有量は少なくとも1.0wt%以上,好ましくは2.4wt%以上は必要である。
比較例3の包丁1に用いられている超硬合金はWCの含有量が少なく(60.0wt%),Niの含有量が多い(35wt%)。またCrの含有量もやや多い(5.0wt%)。比較例4の包丁1に用いられている超硬合金もWCの含有量が少なく(55.0wt%),Niの含有量が多い(40wt%)。またCrの含有量もやや多い(6.0wt%)。比較例3,4の包丁1も耐久性が低く(それぞれ1.6mm,0.4mm),硬さが低いことが分かる。これは,比較例3,4の超硬合金は硬質相であるWCの含有量が少なすぎるために硬さが足りず,またNiが相対的に多いことで刃先が塑性変形し,耐久性が低くなったと考えられる。超硬合金を包丁1に用いることを考慮すると,WC含有量は少なくとも61wt%は必要である。相対的にNiの含有量は34wt%以下とする必要がある。CrまたはCrの含有量は最大でも5.0wt%,好ましくは4.0wt%にとどめておくのが好ましい。
比較例5の包丁1に用いられている超硬合金はWC粒径が大きい(1.8μm)。WCの原料粉末の粒径が大きく,アトライタまたはボールミルにおける粉砕を経ても粒径が小さくならなかったものである。比較例5の超硬合金は抗折力がやや低く,耐久性が大きく劣ることが確認される。WC粒径が大きいことで刃部4においてWC結晶粒子の脱落が多くなり,結果的に耐久性が低くなると考えられる。耐久性を維持するにはWC粒径が小さいことが必須であり,包丁1に用いる場合,WC粒径は最大でも平均1.5μmとしておくことが必要である。
比較例6の包丁1は,WCの含有量(72.0wt%),Niの含有量(25wt%)およびWC粒径(0.4μm)のいずれについても包丁1として用いるのに適すると考えられるが,抗折力およびアイゾット衝撃値がさほど高くなく,耐久性に劣るものであった。結晶粒界観察結果を参照して,比較例6の包丁1に用いられた超硬合金は,WC結晶粒子間にCrが観察されず,WC結晶粒子とNi間にCrが観察されないものであった。
上述したように,比較例6の包丁1に用いられている超硬合金は焼結温度を1400℃として製造したもので,焼結時温度がやや高い。焼結温度が高いことによってWC結晶粒子同士の粒界にCrが存在せず,WC結晶粒子とNiの粒界(界面)にCrが存在せず,その結果として包丁1として用いたときの耐久性に欠けるものになったと考えられる。焼結温度によって制御されるWC結晶粒子同士の粒界におけるCrの存在,およびWC結晶粒子とNiの界面におけるCrの存在が,抗折力,アイゾット衝撃値および耐久性に影響を及ぼすと考えられる。
実施例1~6の包丁1は耐久性が2.0~2.2mmの範囲であり,耐久性に優れ,使用しても切れ味が比較的維持されている。
図5は,横軸を超硬合金の抗折力,縦軸を上述した「切れ味」から「耐久性」を減算した値(これを「切れ味低下量」と呼ぶ)とするグラフに,上述した実施例1~6および比較例1~7の値をそれぞれプロットしたものである。図5において,実施例1~6の値は白地の丸数字によって,比較例1~7の値は黒地の丸数字によって,それぞれプロットされている。
図5に示すグラフにおいて,実施例1~6の包丁1に用いられている超硬合金は抗折力が300kgf/mm以上である。他方,比較例1~7の包丁1に用いられている超硬合金は300kgf/mmを超えるものはほとんどない。抗折力の観点からは,包丁1に適する超硬合金は抗折力が300kgf/mm以上であるものが好ましい。
図6は,横軸を超硬合金の硬さ,縦軸を切れ味低下量とするグラフに,上述した実施例1~6および比較例1~7の値をそれぞれプロットしたものである。図6においても,実施例1~6の値は白地の丸数字によって,比較例1~7の値は黒地の丸数字によって,それぞれプロットされている。
図6に示すグラフにおいて,実施例1~6の包丁1に用いられている超硬合金は硬さが81~88HRAの範囲にある。比較例1~7の包丁1に用いられている超硬合金は硬さがかなり低いもの,またはかなり高いものが散見される。硬さの観点からは,包丁1に適する超硬合金は硬さが81~88HRAの範囲であるものが好ましい。
カケが発生した比較例1の包丁1に用いられている超硬合金はアイゾット衝撃値が5.4kJ/mmであった。実施例1~6の包丁1に用いられている超硬合金のアイゾット衝撃値は8.0kJ/mm以上である。比較例2の包丁のアイゾット衝撃値が6.5KJ/mmであり,この包丁には大きなカケが発生しなかったことを考慮すると,包丁1のカケを予防するにはアイゾット衝撃値が7.0kJ/mm以上であることが望ましいと考えられる。
図5および図6のグラフ,ならびに上述の検討結果からは,約81HRA以上の硬さ,約300kgf/mm以上の抗折力,および約7.0kJ/mm以上のアイゾット衝撃値を有する超硬合金が,包丁1に使用する超硬合金に適すると推察される。
(包丁の形状)
図7は包丁1の刀身2の拡大正面図を示している。
包丁1の刀身2に超硬合金を用いることによって,刀身2の厚さTを1mm以下に薄くしても十分な耐久性(カケにくさ)を維持することができる。発明者はさらに包丁1として用いるときの切れ心地の観点から刀身2の形状を検討した。以下では,超硬合金製の包丁1の刀身2に適する形状を考察する。
図7を参照して,包丁1の刀身2は,刀身本体部2a,逃げ部2bおよび小刃部2cから構成される。以下の説明では,小刃部2cの開き角度を小刃角度θと呼び,逃げ部2bの開き角度を逃げ角度θと呼ぶ。
包丁1の小刃部2cは対象物に対して常に垂直には当てられず,斜めに当てられることも多い。図8(A)および(B)に示すように,対象物Sに対して小刃部2cを垂直に押し当てる垂直モデル(図8(A))に加えて,対象物Sに対して小刃部2cを斜め(角度10°)に押し当てる傾斜モデル(図8(B))も解析した。
(1)小刃角度θ
図9は対象物Sに対して小刃部2cを垂直に当てて刀身2を1μm分押し込んだ(垂直モデル,図8(A))ときに刀身2の小刃部2cに加わる引張応力(破線)(縦軸)と,対象物Sに対して小刃部2cを傾斜角度10°で斜めに当てて刀身2を1μm分押し込んだ(傾斜モデル,図8(B))ときに小刃部2cに加わる引張応力(実線)(縦軸)を,小刃角度θ(図7参照)(横軸)を変数として示すグラフである。図9の実線で示す傾斜モデルのグラフから,対象物Sに対して小刃部2cを斜めに当てると,小刃角度θが25°以下のときに,小刃角度θが小さくなればなるほど小刃部2cに加わる引張応力が急増し,小刃部2cにカケが生じる可能性が高まる。包丁1の小刃部2cは対象物Sに対して常に垂直には当てられず,斜めに当てられることも多いので,垂直モデルに加えて傾斜モデルを考慮しなければならない。図9のグラフから,包丁1として用いることを考慮すると小刃角度θは25°以上とするのが適切である。
図10は垂直モデル(破線)と傾斜モデル(実線)のそれぞれについて,対象物Sに対して小刃部2cを押し当てて刀身2を1μm分押し込んだときに対象物Sに加わる応力を,小刃角度θ(図7参照)を変数として示すグラフである。垂直モデル(破線)では対象物Sに加わる応力は小刃角度θの大きさにかかわらずほぼ一定であるのに対し,傾斜モデル(実線)では小刃角度θが80°を超えると対象物Sに加わる応力が急減することが分かる。
図11は垂直モデル(破線)と傾斜モデル(実線)のそれぞれについて,対象物Sに対して小刃部2cを押し当てて刀身2を1μm分押し込むのに必要な力を,小刃角度θ(図7参照)を変数として示すグラフである。垂直モデル(破線)では押し込みに必要な力は小刃角度θの大きさにかかわらずほぼ一定であるのに対し,傾斜モデル(実線)では小刃角度θが100°を超えると押し込みに必要とされる力が急増している。
図12は,小刃角度θが30°,40°,60°,90°の4種類の刀身2を用いて試験紙(図示略)を切断した試験結果(切れ味)(切断長)を示している。この試験では試験紙に対して小刃部2cを垂直に当てて試験した。小刃角度θが60°,90°であると,小刃部2cが試験紙において滑ってしまい,試験紙を切断することができなかった。
図9から図12に示す結果から,小刃角度θを25°未満とするとカケが発生しやすく,小刃角度θを40°より大きくすると切れ味の低下が生じる。小刃角度θは25~40°の範囲が適当であり,この範囲とすることによって良好な切り心地が達成されると考察される。
(2)逃げ角度θ
図13は適切な逃げ角度θ(図7参照)を検討するためのシミュレーション結果を示すもので,逃げ角度θを2°,4°,6°としたときの押込量(mm)(横軸)と押込荷重(N)(縦軸)との関係を示している(小刃角度は40°に統一)。図13を参照して,逃げ角度θが小さければ小さいほど押込に必要とされる荷重は小さくなっており,切断抵抗が小さくなることが分かる。逃げ角度θは2~6°程度あればよい。
(3)小刃部と逃げ部の境界(つなぎ部)の面取りの有無
図14は,小刃部2cと逃げ部2bの境界(つなぎ部)を面取りした(滑らかにした)刀身2(面取り有)(実線)と,面取りしていない刀身2(面取り無)(破線)のそれぞれについて,押込量(mm)(横軸)と押込荷重(N)縦軸との関係を示している。つなぎ部を面取りすることによって押し込みを始めたときの初期の押込み荷重が小さくなっており,食材に対して刀身2を押込みやすいことが分かる。つなぎ部を面取りすることによってスムーズに食材を切断することができ,良好な切り心地が達成される。
1 包丁
2 刀身
2a 刀身本体部
2b 逃げ部
2c 小刃部
3 背部
4 刃部
7 紙束
11 炭化タングステン
12 ニッケル
13 炭化クロム

Claims (4)

  1. 平均粒径が1.5μm以下であるWCを主成分とする硬質相を超硬合金全体に対して61~83wt%含み,
    Niを主成分とする結合相を超硬合金全体に対して16~34wt%含み,
    Crを主成分とする粒成長抑制相を超硬合金全体に対して1~5wt%含み,
    硬質相と結合相と粒成長抑制相との合計が100wt%であり,
    上記WC同士の結晶粒界にNiが含まれており,
    以下の(1)または(2)のいずれか一つを備えている,超硬合金。
    (1)上記WC同士の結晶粒界にCrが含まれている。
    (2)上記WC結晶粒子と上記Niの粒界にCrが含まれている。
  2. 上記(1)および(2)の両方を備えている,
    請求項1に記載の超硬合金。
  3. 請求項1または2に記載の超硬合金によって少なくとも刃部が形成されている,刃物。
  4. 請求項1または2に記載の超硬合金を用いて作製される包丁であって,
    小刃部の開き角度が25~40°,
    逃げ部の開き角度が2~6°であり,
    上記小刃部と上記逃げ部の境界が面取りされている,
    包丁。
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