JP2023042307A - アーク溶接継手、溶接構造体及びそれらの製造方法 - Google Patents

アーク溶接継手、溶接構造体及びそれらの製造方法 Download PDF

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和貴 松田
Kazutaka Matsuda
真二 児玉
Shinji Kodama
典禎 久保田
Norisada Kubota
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Abstract

【課題】アーク溶接対象に高張力鋼材が含まれる場合にアーク溶接部の塗装性や疲労強度を向上させる。【解決手段】アーク溶接継手であって、第1の鋼材と、第2の鋼材と、前記第1の鋼材及び前記第2の鋼材を接合するアーク溶接部とを有し、前記第1の鋼材及び前記第2の鋼材のうちの少なくとも一方が980MPa以上の引張強さを有し、前記アーク溶接部が溶接ビードを有し、前記溶接ビードが少なくとも定常部を有し、前記定常部における前記溶接ビードの表面に溶接スラグが付着しておらず、前記定常部における前記溶接ビードの止端部が5.00μm以下の表面粗さRaを有する、アーク溶接継手。【選択図】図1

Description

本願はアーク溶接継手、溶接構造体及びそれらの製造方法を開示する。
鋼材同士を接合する技術としてアーク溶接が知られている。アーク溶接の課題としてはアーク溶接部において疲労強度及び塗装性が低下し易いことが挙げられる。自動車の足回り部材等では高張力鋼を用いた薄肉化が進んでおり、アーク溶接部の疲労強度等を改善することが一層望まれる。例えば、溶接条件の改良や溶接構造の工夫等により、アーク溶接部の疲労強度を改善することがあり得る。しかしながら、高張力鋼が適用される部材では、要求される疲労強度も高く、これらの方法のみによる改善は困難である。
アーク溶接部の疲労強度を向上させる手法として、ブラスト処理をはじめとする、圧縮残留応力付与処理が知られている。しかしながら、溶接対象に高張力鋼材が含まれる場合、この処理が有効でない場合がある。溶接対象に高張力鋼材が含まれる場合、狭窄した溶接止端部まで圧縮残留応力付与処理が届かない場合や、或いは、この処理によってアーク溶接部の表面の粗さが増大し、それによって疲労強度が低下してしまう場合があるためである。高張力鋼材のような高強度な材料は、微小な欠陥に対する敏感性が高い。そのため、軟鋼では疲労強度を低下させる要因とはならないような微小な欠陥であっても、高張力鋼では疲労強度を低下させる場合がある。
特許文献1には、ショットブラスト処理を施したアーク溶接部材が開示されている。具体的には、1500MPa級鋼材をアーク溶接したうえで、アーク溶接部に対してφ0.3mmの研磨剤を用いてショットブラスト処理を施している。しかしながら、特許文献1に開示された方法では、ブラスト処理により大きな圧痕が生じる場合があり、その圧痕部における応力集中により、疲労強度が低下する場合がある。また、特許文献1に開示された方法では、溶接止端部にスラグが残存する場合があり、スラグの残存に起因して塗装不良が生じる虞がある。また、スラグ下部の溶接金属表面にブラスト処理が届かず、疲労強度が低下する場合がある。
特許文献2には、アーク溶接止端部にハンマーピーニングする方法が開示されている。特許文献2に開示された方法は、止端部に対してのみの処理であり、溶接ビード表面の電着塗装性は向上しない。また、高張力鋼に対してアーク溶接を施した場合、溶接金属が高強度となることから、ピンにより直接打撃を行う様式のピーニング処理では、一度に処理できる範囲が狭く、溶接ビード全体の処理を行うには不向きである。
特開2013-226585号公報 国際公開第2019/064930号
以上の通り、従来技術においては、アーク溶接対象に高張力鋼材(980MPa以上の引張強さを有するもの)が含まれる場合にアーク溶接部の塗装性や疲労強度を向上させることに関して、改善の余地がある。
本願は上記課題を解決するための手段の一つとして、
アーク溶接継手であって、第1の鋼材と、第2の鋼材と、前記第1の鋼材及び前記第2の鋼材を接合するアーク溶接部とを有し、
前記第1の鋼材及び前記第2の鋼材のうちの少なくとも一方が980MPa以上の引張強さを有し、
前記アーク溶接部が溶接ビードを有し、
前記溶接ビードが少なくとも定常部を有し、
前記定常部における前記溶接ビードの表面に溶接スラグが付着しておらず、
前記定常部における前記溶接ビードの止端部が5.00μm以下の表面粗さRa(算術平均粗さRa(JIS B 0601:2013)に相当、以下同様)を有する、
アーク溶接継手
を開示する。
本開示のアーク溶接継手において、
前記定常部における前記溶接ビードの止端部が20°以上50°以下のフランク角を有していてもよい。
本開示のアーク溶接継手において、
前記アーク溶接部を構成する溶接金属のビッカース硬さが300HV以上であってもよい。
本開示のアーク溶接継手において、
前記溶接ビードが少なくとも始端部と前記定常部とを有していてもよく、
前記始端部における前記溶接ビードの表面に溶接スラグが付着していなくてもよい。
本開示のアーク溶接継手において、
前記溶接ビードが少なくとも始端部と前記定常部とを有していてもよく、
前記始端部における前記溶接ビードの止端部が5.00μm以下の表面粗さRaを有していてもよい。
本開示のアーク溶接継手において、
前記溶接ビードが少なくとも始端部と前記定常部とを有していてもよく、
前記始端部における前記溶接ビードの止端部が20°以上50°以下のフランク角を有していてもよい。
本願は上記課題を解決するための手段の一つとして、
本開示のアーク溶接継手を備える、溶接構造体
を開示する。
本願は上記課題を解決するための手段の一つとして、
第1の鋼材と第2の鋼材とをアーク溶接部を介して接合すること、及び、
前記アーク溶接部に対して研磨剤を用いたブラスト処理を施すこと、
を含み、
前記第1の鋼材及び前記第2の鋼材のうちの少なくとも一方が980MPa以上の引張強さを有し、
前記研磨剤の粒子径が前記アーク溶接部の局所止端半径よりも小さい、
アーク溶接継手の製造方法
を開示する。
本開示のアーク溶接継手の製造方法において、
前記アーク溶接部が溶接ビードを有していてもよく、
前記溶接ビードが少なくとも定常部を有していてもよく、
前記定常部における前記溶接ビードの止端部が20°以上50°以下のフランク角を有していてもよい。
本開示のアーク溶接継手の製造方法において、
フラックス入りワイヤを用いて前記第1の鋼材と前記第2の鋼材とをアーク溶接してもよい。
本開示のアーク溶接継手の製造方法において、
前記ブラスト処理がウェットブラスト処理であってもよい。
本開示のアーク溶接継手の製造方法において、
前記アーク溶接部を構成する溶接金属のビッカース硬さが300HV以上であってもよい。
本開示のアーク溶接継手の製造方法において、
前記アーク溶接部が溶接ビードを有していてもよく、
前記溶接ビードが少なくとも始端部を有していてもよく、
前記始端部における前記溶接ビードの止端部が20°以上50°以下のフランク角を有していてもよい。
本願は上記課題を解決するための手段の一つとして、
上記本開示の製造方法によってアーク溶接継手を得ること、
を含む、溶接構造体の製造方法
を開示する。
本開示のアーク溶接継手は、アーク溶接部の塗装性や疲労強度に優れる。
アーク溶接継手の構成を概略的に示している。 図1のII-II矢視断面の構成を概略的に示している。 図1のIII-III矢視断面の構成を概略的に示している。 溶接スラグの付着の有無を確認する方法を示している。 溶接スラグの付着の状態の一例を示している。 フランク角の特定方法を概略的に示している。 フランク角の特定方法を概略的に示している。 アーク溶接継手の溶接構造の一例を概略的に示している。 アーク溶接継手の溶接構造の一例を概略的に示している。 アーク溶接部の局所止端半径の特定方法を概略的に示している。 始端部付近のビード形状の一例を示している。 図11のSにおける断面形状を示している。 図11のMにおける断面形状を示している。 溶接狙い位置と局所止端半径/厚み(板厚)との関係の一例を示している。 溶接狙い位置の一例を概略的に示している。 溶接狙い位置の一例を概略的に示している。 溶接狙い位置の一例を概略的に示している。 ブラスト投射方向(投射角度)の一例を概略的に示している。
1.アーク溶接継手
図1~3に示されるように、一実施形態に係るアーク溶接継手100は、第1の鋼材10と、第2の鋼材20と、前記第1の鋼材10及び前記第2の鋼材20を接合するアーク溶接部30とを有する。アーク溶接継手100においては、前記第1の鋼材10及び前記第2の鋼材20のうちの少なくとも一方が980MPa以上の引張強さを有し、前記アーク溶接部30が溶接ビード31を有し、前記溶接ビード31が少なくとも定常部31aを有し、前記定常部31aにおける前記溶接ビード31の表面に溶接スラグが付着しておらず、前記定常部31aにおける前記溶接ビード31の止端部31axが5.00μm以下の表面粗さRaを有する。
1.1 鋼材(母材)
アーク溶接継手100においては、第1の鋼材10及び第2の鋼材20のうちの少なくとも一方が、980MPa以上の引張強さを有する。すなわち、アーク溶接継手100においては、第1の鋼材10の引張強さが980MPa以上、且つ、第2の鋼材20の引張強さが980MPa未満であってもよく、第1の鋼材10の引張強さが980MPa未満、且つ、第2の鋼材20の引張強さが980MPa以上であってもよく、第1の鋼材10及び第2の鋼材20の双方の引張強さが980MPa以上であってもよい。このように、アーク溶接継手100が、引張強さ980MPa以上の高強度の鋼材を含む場合に、アーク溶接部30の疲労強度の問題が顕著となり易い。第1の鋼材10と第2の鋼材20とは、互いに同程度の引張強さを有してもよいし、互いに異なる引張強さを有してもよい。また、アーク溶接継手100においては、第1の鋼材10及び第2の鋼材20のうちの少なくとも一方が、1000MPa以上、1050MPa以上、1100MPa以上、1150MPa以上、1180MPa以上又は1200MPa以上の引張強さを有してもよい。引張強さの上限は特に限定されるものではないが、例えば、2500MPa以下、2200MPa以下又は2000MPa以下であってもよい。尚、本願にいう鋼材の「引張強さ」とは、ISO 6892-1:2009にしたがうものである。
第1の鋼材10及び第2の鋼材20の化学組成や金属組織によらず、本開示の技術による効果が発揮される。すなわち、第1の鋼材10及び第2の鋼材20のうちの少なくとも一方が980MPa以上の引張強さを有する限り、各々の鋼材の化学組成や金属組織は特に限定されるものではない。鋼材10、20の化学組成や金属組織は、アーク溶接継手100の用途等に応じて適宜決定され得る。鋼材10、20は、例えば、質量%で、C:0.01~0.50%、Si:0.01~3.50%、Mn:0.10~5.00%、P:0.100%以下、S:0.0300%以下、N:0.0100%以下、O:0~0.020、Al:0~1.000%、B:0~0.010%、Nb:0~0.150%、Ti:0~0.20%、Mo:0~3.00%、Cr:0~2.00%、V:0~1.00%、Ni:0~2.00%、W:0~1.00%、Ta:0~0.10%、Co:0~3.00%、Sn:0~1.00%、Sb:0~0.50%、Cu:0~2.00%、As:0~0.050%、Mg:0~0.100%、Ca:0~0.100%、Zr:0~0.100%、Hf:0~0.100%、及び、REM:0~0.100%を含有し、残部がFe及び不純物からなる化学組成を有していてもよい。また、上記化学組成において、任意添加元素の含有量の下限は0.0001%又は0.001%であってもよい。
第1の鋼材10及び第2の鋼材20の各々の形状は特に限定されるものではない。例えば、第1の鋼材10及び第2の鋼材20のうちの少なくとも一方が板状(鋼板)であってよい。この場合、板厚は特に限定されるものではなく、アーク溶接継手100の用途に応じて適宜決定されればよい。板厚は、例えば、0.5mm以上、0.8mm以上、1.0mm以上、1.2mm以上又は2.0mm以上であってもよく、10.0mm以下、8.0mm以下、7.0mm以下、6.0mm以下、5.0mm以下、4.0mm以下、又は3.0mm以下であってもよい。特に、板厚が0.6mm以上4.0mm以下、中でも、0.8mm以上2.9mm以下である場合に高い効果が期待できる。板厚が薄過ぎると、後述するブラスト処理によって板が変形する虞がある。板厚が厚過ぎると、溶接残留応力が増大し、アーク溶接部30に対するブラスト効果が低下する虞がある。板厚は、鋼材の全体において同一であってもよいし、鋼材の部位ごとに異なっていてもよい。
1.2 アーク溶接部
図1に示されるように、アーク溶接部30は溶接ビード31を有する。また、溶接ビード31は、少なくとも定常部31aを有する。図1に示されるように、溶接ビード31は、定常部31aに加えて、始端部31bや終端部31cを有していてもよい。尚、溶接ビード31が始端部31bや終端部31cを有する場合、「始端部」とは、溶接ビード31の始端側の先端から15mmの長さ、又は、溶接ビード全長の25%の長さのうちの短い方の長さの範囲をいい、「終端部」とは、溶接ビード31の終端側の先端から15mmの長さ、又は、溶接ビード全長の25%の長さのうちの短い方の長さの範囲をいい、「定常部」とは、溶接ビード31のうち始端部及び終端部を除いた部分をいう。尚、アーク溶接部30は、アーク溶接によって元の鋼材から変化した部分をいい、上記の溶接ビード31のほか、母材熱影響部等も含み得るが、本開示の技術において、溶接ビード31以外の部分の形態は特に限定されるものではない。
1.2.1 溶接スラグの付着の有無
アーク溶接継手100においては、定常部31aにおける溶接ビード31の表面に溶接スラグが付着していない。すなわち、定常部31aにおいて、止端部31axを含む溶接ビード全体にブラスト処理が及んでいるものといえる。これにより、アーク溶接部30が疲労強度や塗装性に一層優れたものとなる。
アーク溶接継手100においては、上述の通り、溶接ビード31が少なくとも始端部31bを有していてもよく、この場合、始端部31bにおける溶接ビード31の表面に溶接スラグが付着していないほうがよい。これにより、アーク溶接部30が疲労強度や塗装性に一層優れたものとなる。
アーク溶接継手100においては、上述の通り、溶接ビード31が少なくとも終端部31cを有していてもよく、この場合、終端部31cにおける溶接ビード31の表面に溶接スラグが付着していないほうがよい。これにより、アーク溶接部30が疲労強度や塗装性に一層優れたものとなる。
尚、本願において「溶接ビードの表面に溶接スラグが付着していない」とは、溶接ビード31の表面に溶接スラグが実質的に付着していないことを意味し、溶接スラグがごく少量付着していることを許容するものである。溶接ビード31のうち、定常部31a、始端部31b及び終端部31cの各々について、下記の方法にて溶接ビード面積A2に対するスラグ面積A1の比A1/A2を測定することで、定常部31a、始端部31b及び終端部31cの各々の表面における溶着スラグの付着の有無を判断することができる。具体的には、図4に示されるように、溶接ビードを俯瞰した向きから、溶接長30mm以上(30mm以下のビードである場合は全長)の範囲で写真を撮影する。写真に含まれる溶接ビードを始端部、定常部及び終端部に区切る。始端部、定常部及び終端部の各々について、写真上のスラグ面積A1(図4にいうスラグ部ハッチング)と溶接ビード面積A2(スラグが付着している部分(スラグ部ハッチング)とスラグが付着していない部分との合計面積)を測定する。定常部31aにおける溶接ビード面積A2aに対するスラグ面積A1aの比A1a/A2aが0.1以下である場合に、定常部31aにおいて「溶接ビードの表面に溶接スラグが付着していない」ものとみなす。始端部31bや終端部31cについても同様であり、すなわち、始端部31bにおける溶接ビード面積A2bに対するスラグ面積A1bの比A1b/A2bが0.1以下である場合に、始端部31bにおいて「溶接ビードの表面に溶接スラグが付着していない」ものとみなし、終端部31cにおける溶接ビード面積A2cに対するスラグ面積A1cの比A1c/A2cが0.1以下である場合に、終端部31cにおいて「溶接ビードの表面に溶接スラグが付着していない」ものとみなす。図5に示されるように、溶接スラグは、溶接ビードの止端部近傍に残存し易い。本開示の技術においては、例えば、後述するようにブラスト処理における研磨剤として粒子径の小さなものを用いることで、止端部近傍における溶接スラグが効果的に除去され、これにより少なくとも定常部31aにおいて、好ましくは少なくとも定常部31a及び始端部31bにおいて、より好ましくは定常部31a、始端部31b及び終端部31cにおいて「溶接ビードの表面に溶接スラグが付着していない」アーク溶接継手100が得られる。尚、図4及び5は例示に過ぎず、図4は溶接ビード面積A2に対するスラグ面積A1の比が0.1(10%)を超えている、すなわち「溶接ビードの表面に溶接スラグが付着している」ものである。
1.2.2 表面粗さ
アーク溶接部30において疲労き裂が発生し易い部分は、止端部近傍の表面である。当該表面には、溶融池に生じる揺動と凝固との関係で、リップルと呼ばれる波目模様が生じる。さらに、後述のブラスト処理等を施した場合、研磨剤の衝突によって材料表面に塑性変形を生じさせて圧痕が生じ、これにより表面粗さが変化する。微小な凹凸によって疲労強度がどの程度低下するかは、アーク溶接部30の強度によって異なり、高強度であるほど、微小な凹凸に敏感に反応して疲労強度が低下し易い。すなわち、上記のように引っ張り強さが980MPa以上の高張力鋼材のアーク溶接部30では、低強度な鋼材のアーク溶接部では問題にならなかった微小なサイズの凹凸であっても疲労強度を悪化させる原因となる場合がある。
上述した問題を回避する観点から、アーク溶接継手100においては、定常部31aにおける溶接ビード31の止端部31axが、5.00μm以下の表面粗さRaを有することが重要である。当該表面粗さRaは、4.50μm以下、4.00μm以下又は3.50μm以下であってもよい。
アーク溶接継手100においては、上述の通り、溶接ビード31が少なくとも始端部31bを有していてもよく、この場合、上記と同様の観点から、始端部31bにおける溶接ビード31の止端部31bxが、5.00μm以下の表面粗さRaを有していてもよい。当該表面粗さRaは、4.50μm以下、4.00μm以下又は3.50μm以下であってもよい。
アーク溶接継手100においては、上述の通り、溶接ビード31が少なくとも終端部31cを有していてもよく、この場合、上記と同様の観点から、終端部31cにおける溶接ビード31の止端部が、5.00μm以下の表面粗さRaを有していてもよい。当該表面粗さRaは、4.50μm以下、4.00μm以下又は3.50μm以下であってもよい。
尚、本願にいう止端部の「表面粗さRa」とは、JIS B 0601:2013にいう「算術平均粗さRa」に相当するものである。止端部の表面粗さRaは以下のようにして測定する。まず、溶接ビードの長手方向に垂直な止端部の断面写真をトレースし、鋼材とアーク溶接部との境界部を原点として鋼材表面に沿う方向にx軸、鋼材表面と直交する方向にy軸をとり、x=0~200μmの範囲で、3次多項式にて止端形状を近似する。そして、近似式とトレース形状点の最短距離を求め、近似線より上なら+、下なら-を付記してyiとする。また、原点から、それぞれの最短距離の線と近似線の交わる点までの距離をxiとし、(xi、yi)をプロットすると、表面の巨視的なうねりを除いた凹凸形状のプロファイルが得られる。当該プロファイルのxi=0~200μmの範囲で算出した算術平均粗さRaを、本願にいう「止端部の表面粗さ」とする。尚、表面粗さの測定方法は、以下の非特許文献1に記載されたものと同じである。
非特許文献1:Kazuki Matsuda, Shinji Kodama, "Observation of fatigue microcracks and estimation of fatigue strength of a thin sheet arc welded part considering micro-ripples", International Journal of Fatigue, Volume 145, April 2021, 106087
1.2.3 フランク角
図2に示されるように、定常部31aにおいて、溶接ビード31の止端部31axは、鋼材10又は20の表面に対して、フランク角θを有して盛り上がっている。止端部のような狭窄した箇所に対して、後述のブラスト処理を施す場合、狭窄した箇所に研磨剤が堆積して、止端部の表面にブラスト処理の効果が及ばない場合がある。すなわち、疲労き裂の起点となる止端部においてブラスト処理が十分に施されない虞がある。また、ウェットブラスト処理の場合には、狭窄した箇所に水が滞留し、研磨剤の運動エネルギーを減衰させ、同様の問題が生じ得る。この問題は、フランク角が大きい場合(止端が急峻である場合)に生じ易い。また、フランク角が大きいと、止端部の応力集中係数が増加するため、これによっても疲労強度が低下し易くなる。一方、フランク角が小さ過ぎる場合には、止端部近傍の表面凹凸が増大する傾向があり、当該表面凹凸に起因して応力集中が生じ易くなり、疲労強度が低下する場合がある。以上の観点から、アーク溶接継手100においては、定常部31aにおける溶接ビード31の止端部31axが、20°以上50°以下のフランク角θを有するとよい。フランク角θは、21°以上、22°以上、23°以上、24°以上又は25°以上であってもよく、49°以下、48°以下又は47°以下であってもよい。
上述したように溶接ビード31は少なくとも始端部31bを有していてもよく、この場合、図3に示されるように、始端部31bにおいて溶接ビード31の止端部31bxが鋼材10又は20の表面に対してフランク角θを有して盛り上がっている。アーク溶接継手100においては、始端部31bにおける溶接ビード31の止端部31bxが、20°以上50°以下のフランク角θを有するようにしてもよい。これによる効果については上述した通りである。フランク角θは、21°以上、22°以上、23°以上、24°以上又は25°以上であってもよく、49°以下、48°以下又は47°以下であってもよい。フランク角θは、フランク角度θよりも大きくてもよく、小さくてもよく、フランク角θと同じであってもよいが、通常、フランク角度θはフランク角度θよりも大きい。
溶接ビード31が終端部31cを有する場合も上記と同様である。すなわち、終端部31cにおける溶接ビード31の止端部についても、20°以上、21°以上、22°以上、23°以上、24°以上又は25°以上、50°以下、49°以下、48°以下又は47°以下のフランク角を有するものであってよい。
尚、止端部のフランク角θは以下のようにして測定する。すなわち、図6に示されるように、アーク溶接継手について、止端部近傍の断面(溶接ビードの長手方向と直交する断面)の写真を取得する。当該断面において、溶接ビード31と鋼材10又は20との境界点Pを特定する。境界点Pを通り、且つ、鋼材10又は20の表面に沿った直線Lを特定する。鋼材10又は20の表面から鋼材厚みの5%の高さHにあり、且つ、直線Lと平行な直線Lを特定する。直線Lと溶接ビード31の止端部の表面との交点Pを特定する。境界点Pと交点Pとを結んだ直線Lを特定する。直線Lと直線Lとのなす角度のうち、高さH側且つ溶接ビード側の角度を、フランク角θとして特定する。尚、鋼材の表面が湾曲している場合は、図7に示されるように、境界点Pにおける鋼材表面の接線を直線Lとして特定すればよい。
1.2.4 ビッカース硬さ
アーク溶接部は、溶接ワイヤ及び鋼材(母材)の成分が混合した溶接金属によって構成される。そのため、軟らかいワイヤを用いた場合でも、鋼材が高強度で合金元素が濃ければ、アーク溶接部を構成する溶接金属の強度はある程度高くなる。そのため、アーク溶接部では、母材がある程度の高強度であっても比較的軟らかいワイヤを用いる場合が多い。しかしながら、本開示のアーク溶接継手100のように、母材に引張強さ980MPa以上の高強度鋼材が含まれる場合、母材と溶接ワイヤとの成分の差が大きく、アンダマッチ(母材強度>溶接金属強度)となる場合が多い。過度なアンダマッチは継手の静的強度の低下を招くため、980MPa級以上の母材に対しては、高強度なワイヤを用いる場合がある。高強度なワイヤを用いた場合、アーク溶接部を構成する溶接金属も高強度となる。高強度なアーク溶接部に対してはブラスト処理によるピーニング効果が効き難く、また研磨剤が当たった箇所からピーニング効果が及ぶ範囲が、低強度材の場合と比べて狭くなる。このような場合には、溶接止端部の最奥までブラスト処理が及んでいなければ、疲労き裂の起点となる位置にまでピーニング効果が及ばないため、疲労強度の向上効果は得られない。
これに対し、後述するように、ブラスト処理の条件を工夫することで、アーク溶接部30を構成する溶接金属が高強度で硬質であったとしても、アーク溶接部30において優れた疲労強度及び塗装性を確保することができる。この点、アーク溶接継手100においては、アーク溶接部30を構成する溶接金属のビッカース硬さが260HV以上、270HV以上、280HV以上、290HV以上又は300HV以上であってもよい。
尚、アーク溶接部を構成する溶接金属のビッカース硬さは、以下のように測定する。すなわち、溶接ビード31の定常部31aにおいて断面サンプルを採取し、当該断面における溶接金属表面のうち、鋼材10又は20とアーク溶接部30との境界から0.5mm以上離れた位置、且つ、ビード表面から0.5mm以上離れた位置(すなわち、アーク溶接部30のビード表面から0.5mm以上深い位置にある内部)について、荷重200gfで5点以上ビッカース硬さを測定し、最大と最小を省いた平均値を「アーク溶接部を構成する溶接金属のビッカース硬さ」とする。
1.3 継手の溶接構造
アーク溶接継手100における溶接構造は特に限定されるものではない。例えば、図8に示されるような重ねすみ肉溶接構造を有するものであってもよいし、図9に示されるようなT字すみ肉溶接構造を有するものであってもよいし、これら以外の構造を有するものであってもよい。図8や図9に示された構造においては、例えば、少なくとも領域Xにおいて、上述したようなフランク角θ等が満たされる一方で、領域Xとは反対側のビード止端において、上述したようなフランク角θ等が満たされなくてもよい。すなわち、溶接ビード31は、一方側の止端とそれとは反対側(他方側)の止端とで異なる構造を有していてもよい。
2.溶接構造体
本開示の技術は、溶接構造体としての側面も有する。すなわち、本開示の溶接構造体は、上記のアーク溶接継手100を備える。アーク溶接継手100は、上述した構成を備えることで、引張強さ980MPa以上の鋼材を含みつつも、アーク溶接部30の疲労強度や塗装性に優れたものとなる。このようなアーク溶接継手100は、様々な溶接構造体に適用可能である。例えば、アーク溶接継手100をより有効に活かせる溶接構造体として、各種の自動車部材が挙げられる。特に、ロアアーム、サブフレーム、トーションビーム等の足回り部材が好適である。
3.アーク溶接継手の製造方法
上記のアーク溶接継手100は、例えば、以下の方法によって製造することができる。すなわち、本開示のアーク溶接継手の製造方法は、
第1の鋼材10と第2の鋼材20とをアーク溶接部30を介して接合すること、及び、
前記アーク溶接部30に対して研磨剤を用いたブラスト処理を施すこと、
を含み、
前記第1の鋼材10及び前記第2の鋼材20のうちの少なくとも一方が980MPa以上の引張強さを有し、
前記研磨剤の粒子径が前記アーク溶接部30の局所止端半径よりも小さいことを特徴とする。
3.1 アーク溶接
第1の鋼材10と第2の鋼材20とのアーク溶接の条件(電流値、溶接速度、シールドガス等)は特に限定されるものではない。一例については後述する。アーク溶接に用いられるワイヤについても、公知のソリッドワイヤやフラックス入りワイヤをいずれも採用可能である。特に、フラックス入りワイヤを用いて第1の鋼材10と第2の鋼材20とをアーク溶接した場合に、溶接ビード31の止端部が好適な形状となり易い。すなわち、フラックス入りワイヤはソリッドワイヤと比べ熱容量が小さく、アーク長が長くなり易いため、また、溶接スラグが溶接金属表面を覆い易いため、なだらかで凹凸の少ない止端形状が得られ易い。このようにアーク溶接時にフラックス入りワイヤを採用し、且つ、後述のブラスト処理を行うことで、止端形状がなだらかになり易く、ブラスト処理が止端の最奥部まで及び易くなり、且つ、溶接金属の表面凹凸も低減され易い。すなわち、溶接ビードの表面に付着したスラグを適切に除去できるとともに、上記した表面粗さRaやフランク角θが達成され易く、アーク溶接部30において一層優れた疲労強度や塗装性を確保し易い。
アーク溶接部は、上述の通り、止端部のフランク角がなだらかであるほうがよい。また、上述の通り、アーク溶接部を構成する溶接金属は硬質なものであってもよい。具体的には、アーク溶接部30が溶接ビード31を有してもよく、溶接ビード31が少なくとも定常部31aを有してもよく、定常部31aにおける溶接ビード31の止端部31axが20°以上50°以下のフランク角θを有してもよい。また、溶接ビード31が少なくとも始端部31bを有してもよく、始端部31bにおける溶接ビード31の止端部31bxが20°以上50°以下のフランク角θを有していてもよい。さらに、アーク溶接部30を構成する溶接金属のビッカース硬さが300HV以上であってもよい。
3.2 ブラスト処理
上記のようにしてアーク溶接を行った後は、アーク溶接部30に対してブラスト処理を施す。アーク溶接部30にブラスト処理を施すことで、スラグやスケールの除去ができ、さらにはピーニング効果により疲労強度が向上する。
ただし、上述したように、溶接対象に高強度鋼材が含まれる場合、アーク溶接部も高強度となり、ピーニング効果の影響範囲が狭くなる。そのため、ブラスト処理を施した場合に、例えば止端部までピーニング効果が及ばない虞がある。また、止端部の最奥部(疲労き裂の起点となる部分)を構成する溶接金属が硬いほどピーニング効果が及び難くなる。このように、アーク溶接対象として高強度の鋼材を採用した場合、アーク溶接部にブラスト処理を施しても疲労強度が向上しない場合がある。また、止端部にまでブラスト処理の効果を及ぼすことができない場合、止端部に付着したスラグが除去できない。この点、スラグの残存によってアーク溶接部の塗装性も低下してしまう。また、疲労き裂は止端部の最も湾曲した応力集中が生じ易い部分から生じ、スラグが残存している場合には、スラグの下部からき裂が生じることとなる。上述の通り、溶接対象に高強度鋼材が含まれる場合、ピーニング効果の影響範囲が狭く、スラグの下部においてブラスト処理の効果が及んでいないことが想定され、スラグの下部からのき裂の発生を抑制できず、疲労強度が向上し難い。
上記の問題を解消するため、本開示の方法においては、ブラスト処理に用いる研磨剤として、粒子径の小さなものを用いる。具体的には、研磨剤の粒子径がアーク溶接部30の局所止端半径よりも小さい。これにより、研磨剤が止端部にまで入り込み易くなり、且つ、止端部における研磨剤の堆積等も回避され易くなり、ブラスト処理によるピーニング効果を止端部まで及ばせ易くなる。研磨剤には、アーク溶接部30の局所止端半径よりも小さな粒子径を有するものと、局所止端半径以上の粒子径を有するものとが混在していてもよいが、局所止端半径よりも小さな粒子径を有するものができるだけ多いほうがよい。具体的には、ブラスト処理に使用される研磨剤の全体を基準(100質量%)として、アーク溶接部30の局所止端半径よりも小さな粒子径を有するものが50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上又は99質量%以上を占めるとよい。
尚、アーク溶接部30の局所止端半径は、以下の通りに定義されるものである。すなわち、図10に示されるように、止端部近傍の断面(溶接ビードの長手方向と直交する断面)において、溶接ビードと鋼材との境界点Pを特定する。また、鋼材表面よりも上であって鋼材厚みの5%、7.5%、及び10%となる位置に、鋼材表面に沿った直線Lと平行な線を引き、それぞれがビード表面(溶接金属表面)と交わる点P、P、Pを特定する。鋼材の表面に沿った直線Lに直交し、且つ、境界点Pを通る直線Lを特定する。直線L上に中心を有し、且つ、境界点Pと点Pとを通る円Cと、直線L上に中心を有し、且つ、境界点Pと点Pとを通る円Cと、直線L上に中心を有し、且つ、境界点Pと点Pとを通る円Cとを各々特定する。3つの円C~Cについて、各々の半径を求め、その平均値を「局所止端半径」と定義する。
ブラスト処理の条件は、上述の通り小さな粒子径を有する研磨剤を用いること以外は、従来のブラスト処理と同様の条件であってよい。ブラスト処理は、ショットブラスト(ドライブラスト)であってもよいし、ウェットブラストであってもよい。ショットブラストは、エア圧等により研磨剤を対象に投射する技術である。ウェットブラストは、研磨剤と液体(例えば水)とを混合したスラリー(泥)を対象に投射する技術である。本開示の方法においては、ブラスト処理がウェットブラスト処理である場合に一層高い効果が期待できる。ウェットブラストは、研磨剤とともに液体(水)を混合することで、ショットブラストよりも粒径の小さい研磨剤を用いることができる。ショットブラストでは研磨剤が軽すぎると運動エネルギーが小さくなり、空気抵抗により速度が減衰し、加工力が著しく低下する一方で、ウェットブラストではこのような問題は生じ難い。また、ウェットブラストによれば、対象物をブラスト処理すると同時に、水により研磨剤や研削屑を洗い流すことができるため、研磨剤の堆積等を防ぎ易く、洗浄性が良好になる。また、ウェットブラストによれば、粉塵の飛散も生じ難い。
3.3 補足
アーク溶接部の開始位置(始端)におけるブラスト処理について補足する。始端部においては、定常部よりも、止端形状が急峻になり易い(図3のθのほうが、図2のθよりも大きくなり易い)ことから、応力集中が高くなり易く、疲労き裂の発生起点となり易い。始端部付近の溶接ビードの外観は、例えば、図11に示される通りである。図12は、図11中のS(始端部)の位置で採取したサンプルについての光学顕微鏡による断面写真である。図13は、図11中のM(定常部)の位置で採取したサンプルについての光学顕微鏡による断面写真である。図12及び13から、定常部と比べて始端部の方が、急峻な止端形状となることが分かる。このように、一般的に始端付近の止端部は定常部の止端部よりも急峻になる場合が多く、定常部にブラスト処理を施すことを前提にブラスト条件を選定すると、始端側の止端部において、適切にブラスト処理が施されない場合がある。その結果、始端付近の止端部から疲労き裂が生じてしまい、継手としての疲労強度が低下する虞がある。この問題を回避するためには、始端側の止端部においても、上述のように、局所止端半径を測定し、適切な粒径の研磨剤を用いてブラスト処理を施すことが好ましい。
アーク溶接条件の詳細について補足する。アーク溶接の電流値は、例えば、80A以上250A以下であってもよい。また、溶接速度は0.6m/min以上1.2m/min以下であってもよい。また、シールドガスは、アルゴンと二酸化炭素との混合ガスであってよく、この場合、混合ガスに占める二酸化炭素の割合は5体積%以上20体積%以下であってもよい。溶接狙い位置と局所止端半径/厚み(板厚)との関係は例えば図14に示されるような関係であってもよい。尚、図14は、電圧について、溶接電源の一元設定時から±0、+2V、-2Vに設定した場合である。図14をもとに、局所止端半径を求めることもできる。溶接狙い位置は、例えば、図15に示される通りであり、より具体的には、重ねすみ肉溶接の場合は図16で示される領域Y、T字すみ肉溶接の場合は図17で示される領域Yを溶接狙い位置としてもよい。
ブラスト処理条件の詳細について補足する。ブラスト圧力は0.2MPa以上0.4MPa以下であってもよい。また、投影距離は30mm以上又は60mm以上、150mm以下又は120mm以下であってもよい。研磨剤としては、例えば、ガラス、ジルコニア、アルミナ又はSUS等からなるものを用いることができる。研磨剤の形状は粒子状であればよく、例えば、ビーズ状、グリッド状又はカットワイヤ状であってよい。上述したように研磨剤は所定の粒子径を有し得る。ここで、研磨剤の「粒子径」とは研磨剤の球相当直径(研磨剤の粒子の体積を球に換算した場合における当該球の直径)をいう。研磨剤の粒子径は、上述の通りアーク溶接部の局所止端半径に応じて決定されればよい。ブラストの投射方向(投射角度)は、図18に示されるように、例えば、90°(鋼材表面の真上)から45°(鋼材表面に対して斜め45°)の間であってもよい。
4.溶接構造体の製造方法
本開示の技術は溶接構造体の製造方法としての側面も有する。すなわち、本開示の溶接構造体の製造方法は、上記の製造方法によってアーク溶接継手を得ること、を含む。溶接構造体の製造に際しては、上記の手順でアーク溶接継手を得ること以外は、公知の工程が採用されてよい。溶接構造体の用途等に応じて適切な工程が採用され得る。
以下、実施例を示しつつ、本開示の技術についてさらに詳細に説明するが、本開示の技術は以下の実施例に限定されるものではない。
1.母材の準備
母材として、引張強さ989MPaの鋼からなる鋼板Aと、引張強さ1212MPaの鋼からなる鋼板Bと、引張強さ441MPaの鋼からなる鋼板Cとの3種類を用意した。板厚はともに2.9mmであった。
2.溶接ワイヤの準備
アーク溶接用の溶接ワイヤとして、Ar+COシールドガス用の490MPa級鋼用ソリッドワイヤaと、780MPa級鋼用ソリッドワイヤbと、780MPa級鋼用フラックス入りワイヤcとの3種類を用意した。
3.アーク溶接及びブラスト処理
上記の母材に対して、鋼板A同士、鋼板B同士又は鋼材C同士をアーク溶接(重ねすみ肉溶接)して接合し、その後、アーク溶接部にブラスト処理を施した。表1に、各例についてのアーク溶接条件及びブラスト条件を示す。また、各例に共通する条件は以下の通りである。
(各例に共通するアーク溶接条件)
溶接電流:235A
溶接速度:0.8m/min
シールドガス:Ar+20%CO
直流パルスモード
(各例に共通するブラスト処理条件)
圧力:0.3MPa
投射距離:100mm
ブラスト投射方向(ブラスト角度、図18参照):90°
4.電着塗装性の評価
上記のようにして得られた各々のアーク溶接継手に対して、まず、脱脂処理及び化成処理を施した。次いで、膜厚が20μmとなるように電着塗装を行った。そして、電着塗装後の溶接ビード部を鋼板の表面に垂直な方向から写真撮影し、その写真を画像解析することにより、溶接ビードの面積に対する電着塗装不良部の面積の比率を測定し、この比率を「塗装不良面積率」とした。なお、溶接ビードの長さは120mmとした。この溶接ビードから、溶接始端部(溶接ビードの溶接開始側の端から15mmまでの領域)と終端部(溶接ビードの溶接終了側の端から15mmまでの領域)とを除いた、長さ90mmの領域に対し、上述の測定を行った。塗装不良面積率が5%以下の溶接継手を合格「○」、5%超の溶接継手を不合格「×」と判断した。
5.疲労特性の評価
上記のようにして得られた各々のアーク溶接継手について、アーク溶接部の疲労特性を評価した。ビード定常部の評価では始終端部を除いた溶接ビードの安定した箇所から、始端部の評価では始端側の溶接ビード端部から、それぞれ溶接線方向に幅20mmの試験片を採取し、平面曲げ疲労試験を実施した。載荷条件は応力比-1の両振りの変位制御、破断条件は試験片に作用する曲げモーメントが1N・m以下となった時点、疲労限σは10回未破断時点の応力振幅[MPa]とした。また、応力の基準は試験片中央における溶接止端部の応力集中を考慮しない場合の曲げ応力の最大値(曲げモーメントM[N・mm]、試験片幅h[mm]、板厚t[mm]とすると、6M/ht[MPa])とした。
曲げ載荷における疲労限には板厚影響が存在するため、板厚影響を考慮した下記の(1)式の関係を満足する疲労限σ[MPa]が得られた場合に、良好な疲労限「○」が得られたものと判断した。(1)式を満たさない場合を「×」と判断した。さらに、(1)式を満たすとともに、(2)式を満たす場合は、より優れた疲労限「◎」が得られたものと判断した。
221+56/t≦σ<232+51/t …(1)
232+51/t≦σ …(2)
6.評価結果
下記表1に各例のアーク溶接条件、ブラスト処理条件、電着塗装性の評価結果、及び、疲労特性の評価結果を示す。
Figure 2023042307000002
表1に示される結果をまとめると、以下の通りである。
No.4及び10については、研磨剤の粒径が局所止端半径よりも大きく、止端部にスラグが残存した。これにより塗装性が悪化した。また、スラグ下部においてブラスト処理が十分に施されておらず、十分な疲労特性が得られなかった。
No.9については、定常部における溶接ビードの止端部の表面粗さRaが5μm超であった。これにより、疲労試験において微小凹凸による応力集中が生じ、十分な疲労特性が得られなかった。
No.12については、研磨剤の粒径が局所止端半径よりも大きく、止端部にスラグが残存した。これにより塗装性が悪化した。一方で、アーク溶接部を構成する溶接金属のビッカース硬さが300HV未満と軟らかかったため、残存したスラグの周辺部分に施されたブラスト処理効果がスラグ下部にまで及び、良好な疲労特性が得られた。
No.14については、研磨剤の粒径が局所止端半径よりも大きく、止端部にスラグが残存した。これにより塗装性が悪化した。一方で、母材鋼板が低強度であり、結果としてアーク溶接部を構成する溶接金属のビッカース硬さが300HV未満と軟らかくなったため、残存したスラグの周辺部分に施されたブラスト処理効果がスラグ下部にまで及び、良好な疲労特性が得られた。
これに対し、No.1~3、5~8及び13については、定常部における溶接ビードの表面に溶接スラグが付着しておらず、且つ、定常部における溶接ビードの止端部が5.00μm以下の表面粗さを有するものであり、これにより、優れた塗装性及び疲労特性を有していた。また、No.11については、始端部における溶接ビードの表面に溶接スラグが付着しておらず、且つ、始端部における溶接ビードの止端部が5.00μm以下の表面粗さを有するものであり、これにより、優れた塗装性及び疲労特性を有していた。尚、No.11については、定常部においても溶接ビードの表面に溶接スラグが付着しておらず、且つ、溶接ビードの止端部が5.00μm以下の表面粗さを有するものであった。
10 第1の鋼材
20 第2の鋼材
30 アーク溶接部
31 溶接ビード
31a 定常部
31ax 止端部
31b 始端部
31bx 止端部
31c 終端部
100 アーク溶接継手

Claims (14)

  1. アーク溶接継手であって、第1の鋼材と、第2の鋼材と、前記第1の鋼材及び前記第2の鋼材を接合するアーク溶接部とを有し、
    前記第1の鋼材及び前記第2の鋼材のうちの少なくとも一方が980MPa以上の引張強さを有し、
    前記アーク溶接部が溶接ビードを有し、
    前記溶接ビードが少なくとも定常部を有し、
    前記定常部における前記溶接ビードの表面に溶接スラグが付着しておらず、
    前記定常部における前記溶接ビードの止端部が5.00μm以下の表面粗さRaを有する、
    アーク溶接継手。
  2. 前記定常部における前記溶接ビードの止端部が20°以上50°以下のフランク角を有する、
    請求項1に記載のアーク溶接継手。
  3. 前記アーク溶接部を構成する溶接金属のビッカース硬さが300HV以上である、
    請求項1又は2に記載のアーク溶接継手。
  4. 前記溶接ビードが少なくとも始端部と前記定常部とを有し、
    前記始端部における前記溶接ビードの表面に溶接スラグが付着していない、
    請求項1~3のいずれか1項に記載のアーク溶接継手。
  5. 前記溶接ビードが少なくとも始端部と前記定常部とを有し、
    前記始端部における前記溶接ビードの止端部が5.00μm以下の表面粗さRaを有する、
    請求項1~4のいずれか1項に記載のアーク溶接継手。
  6. 前記溶接ビードが少なくとも始端部と前記定常部とを有し、
    前記始端部における前記溶接ビードの止端部が20°以上50°以下のフランク角を有する、
    請求項1~5のいずれか1項に記載のアーク溶接継手。
  7. 請求項1~6のいずれか1項に記載のアーク溶接継手を備える、
    溶接構造体。
  8. 第1の鋼材と第2の鋼材とをアーク溶接部を介して接合すること、及び、
    前記アーク溶接部に対して研磨剤を用いたブラスト処理を施すこと、
    を含み、
    前記第1の鋼材及び前記第2の鋼材のうちの少なくとも一方が980MPa以上の引張強さを有し、
    前記研磨剤の粒子径が前記アーク溶接部の局所止端半径よりも小さい、
    アーク溶接継手の製造方法。
  9. 前記アーク溶接部が溶接ビードを有し、
    前記溶接ビードが少なくとも定常部を有し、
    前記定常部における前記溶接ビードの止端部が20°以上50°以下のフランク角を有する、
    請求項8に記載のアーク溶接継手の製造方法。
  10. フラックス入りワイヤを用いて前記第1の鋼材と前記第2の鋼材とをアーク溶接する、
    請求項8又は9に記載のアーク溶接継手の製造方法。
  11. 前記ブラスト処理がウェットブラスト処理である、
    請求項8~10のいずれか1項に記載のアーク溶接継手の製造方法。
  12. 前記アーク溶接部を構成する溶接金属のビッカース硬さが300HV以上である、
    請求項8~11のいずれか1項に記載のアーク溶接継手の製造方法。
  13. 前記アーク溶接部が溶接ビードを有し、
    前記溶接ビードが少なくとも始端部を有し、
    前記始端部における前記溶接ビードの止端部が20°以上50°以下のフランク角を有する、
    請求項8~12のいずれか1項に記載のアーク溶接継手の製造方法。
  14. 請求項8~13のいずれか1項に記載の製造方法によってアーク溶接継手を得ること、
    を含む、溶接構造体の製造方法。
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