JP2023035731A - 造血幹細胞培養組成物 - Google Patents

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Abstract

【課題】造血幹細胞を様々な血球細胞へと分化させず、未分化のまま、すなわち造血幹細胞の機能を維持したまま増殖させ得る技術を提供する。【解決手段】造血幹細胞を含む細胞群の培養に用いる組成物、特に、メチオニン、アルギニン、イソロイシン、ロイシン、リジン、セリン、アラニン、グルタミン、グルタミン酸およびアスパラギン酸からなる群から選択される、少なくとも1つのアミノ酸を実質的に含まない、造血幹細胞を含む細胞群の培養に用いる組成物およびその使用、培養細胞集団の造血能を修飾する培地アミノ酸成分の同定方法を提供する。【選択図】なし

Description

本開示は、造血幹細胞のための培養組成物およびその使用に関する。
造血幹細胞移植は、血液がんをはじめとした難治性の悪性血液疾患のみならず、自己免疫疾患等の非悪性疾患を根治できうる治療法である。移植に用いられる細胞の入手源として骨髄、末梢血幹細胞、臍帯血があり、それぞれ一長一短はあるものの、臍帯血は、(1)ドナーへの負担が少ない、(2)凍結保存されているため必要時に入手可能、(3)移植可能なHLAの型の範囲が骨髄、末梢血と比較して広い、(4)重症の拒絶反応を起こしにくいといったメリットを有する。しかしながら、臍帯血内に含まれる造血幹細胞の数が少ない場合も多く、造血幹細胞を生体外で増殖させる技術が求められている。
医学・生物学の歴史を振り返ると、動物やヒトの細胞を生体外に取り出し、制御された条件下で維持し続けることが常に大きなテーマとなってきた。例えばワクチン製造が可能になったのは1940~50年代に細胞培養技術が格段に進歩した為に培養細胞中でウイルスを増殖させることが可能になったことによる。
造血幹細胞移植は、血液がんをはじめとした難治性の血液疾患に対する根治療法になる可能性がある。また、造血幹細胞を増殖して利用することにより、基礎医学分野においても様々なイノベーションを起こしうる。しかしながら、造血幹細胞については未だに細胞培養技術が確立されていない。したがって、造血幹細胞を生体外で増殖させる技術の開発が期待されている。例えば、特許文献1に示されるように、特定のアミノ酸を培養組成物から欠乏させることで、生体内外で造血幹細胞を減少させる方法は知られている一方、造血幹細胞の増殖に適した組成を有する培養組成物を提供することが求められている。
国際特許出願公開第2016/084850号
未分化なCD34陽性造血幹細胞を生体外で培養すると大半の細胞は未分化性を維持(機能維持)することが出来ず様々な血球細胞へと分化してしまう。従って、もしこのような細胞を患者に投与した場合には移植時の生着が不十分でありかつ場合によっては副作用の原因となる。その為に現在の造血幹細胞移植では生体外で培養した造血幹細胞を移植することは殆ど行われていない。したがって、造血幹細胞を様々な血球細胞へと分化させず、未分化のまま、すなわち造血幹細胞の機能を維持したまま増殖させ得る技術の開発が大いに期待されている。
本開示の発明者らが鋭意研究を進めた結果、驚くべきことに、培養組成物から特定のアミノ酸を排除することで、造血幹細胞を様々な血球細胞へと分化を抑制し、造血幹細胞の機能を維持したまま増殖させ得ることを発見した。
上記発見に基づき、本開示は一態様において、
イソロイシン、ロイシン、リジン、セリン、アラニン、グルタミン、グルタミン酸およびアスパラギン酸からなる群から選択される、少なくとも1つのアミノ酸を実質的に含まない、造血幹細胞を含む細胞群の培養に用いる組成物を提供する。
本開示は一態様において、培地または培養添加物として提供される、上記細胞培養組成物を提供する。
本開示は一態様において、
造血幹細胞を含む細胞群を準備する工程と、
前記細胞群を、イソロイシン、ロイシン、リジン、セリン、アラニン、グルタミン、グルタミン酸、アスパラギン酸からなる群から選ばれる、少なくとも1つを実質的に含まない細胞培養組成物を含む培地で培養する工程とを含む、
造血幹細胞を含む細胞群を製造する方法を提供する。
本開示は一態様において、
1)造血機能を有する細胞と、
2)細胞培養培地であって、1つ以上のアミノ酸成分を含有しない試験培地と、
3)細胞培養培地であって、上記1つ以上のアミノ酸成分を含有する対照培地とを準備し、
4)前記細胞をそれぞれ試験培地および対象培地で培養し、
5)培養後に得られた細胞集団について、造血機能を試験することにより、試験培地で培養された細胞集団と、対照培地で培養された細胞集団との間に造血機能の差をもたらすアミノ酸成分を同定することを含む、
培養細胞集団の造血機能を修飾する培地アミノ酸成分を同定する方法を提供する。
より詳細には、本開示は以下を提供する。
[項目1]
イソロイシン、ロイシン、リジン、セリン、アラニン、グルタミン、グルタミン酸およびアスパラギン酸からなる群から選択される、少なくとも1つのアミノ酸を実質的に含まない、造血幹細胞を含む細胞群の培養に用いる組成物。
[項目2]
グルタミン、グルタミン酸およびアスパラギン酸からなる群から選択される、少なくとも1つのアミノ酸を実質的に含まない、項目1に記載の組成物。
[項目3]
アラニン、グルタミン、グルタミン酸およびアスパラギン酸を実質的に含まない、項目1に記載の組成物。
[項目4]
さらに、アスパラギン、セリン、スレオニンおよびアルギニンからなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸を実質的に含まない、項目1~3のいずれか一項に記載の組成物。
[項目5]
メチオニン、アルギニンからなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸を実質的に含まない、造血幹細胞を減少させるための、項目1に記載の組成物。
[項目6]
培地または培養添加物として提供される、項目1~5のいずれか一項に記載の組成物。
[項目7]
造血幹細胞を含む細胞群を準備する工程と、
前記細胞群を、イソロイシン、ロイシン、リジン、セリン、アラニン、グルタミン、グルタミン酸、アスパラギン酸からなる群から選ばれる、少なくとも1つを実質的に含まない細胞培養組成物を含む培地で培養する工程とを含む、
造血幹細胞を含む細胞群を製造する方法。
[項目8]
前記細胞培養組成物が、さらに、アスパラギン、セリン、スレオニンおよびアルギニンからなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸を実質的に含まない、項目7に記載の方法。
[項目9]
1)造血機能を有する細胞と、
2)細胞培養培地であって、1つ以上のアミノ酸成分を含有しない試験培地と、
3)細胞培養培地であって、上記1つ以上のアミノ酸成分を含有する対照培地とを準備し、
4)前記細胞をそれぞれ試験培地および対象培地で培養し、
5)培養後に得られた細胞集団について、造血機能を試験することにより、試験培地で培養された細胞集団と、対照培地で培養された細胞集団との間に造血機能の差をもたらすアミノ酸成分を同定することを含む、
培養細胞集団の造血機能を修飾する培地アミノ酸成分を同定する方法であって、
前記培養細胞集団の造血機能の修飾が、培養細胞集団中で造血機能を維持する細胞の含有割合または細胞数が増大することである、前記方法。
本開示は、造血幹細胞を様々な血球細胞へと分化を抑制し、造血幹細胞の機能を維持したまま増殖させるために利用可能な培養組成物を提供するという効果を有している。
図1は、グリシン、システイン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、トリプトファン、チロシン、バリン、トレオニン、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸およびセリンからなる20種のアミノ酸を含有する培地(20種アミノ酸含有培地)と、20種アミノ酸含有培地に対して、システイン、バリン、アラニン、グルタミン、アスパラギン酸またはグルタミン酸を欠乏する培地で、臍帯血由来のLinCD34細胞を培養した際の、培養後の生細胞の数を示す図である。 図2は、グリシン、システイン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、トリプトファン、チロシン、バリン、トレオニン、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸およびセリンからなる20種のアミノ酸を含有する培地(20種アミノ酸含有培地)と、20種アミノ酸含有培地に対して、システイン、バリン、アラニン、グルタミン、アスパラギン酸またはグルタミン酸を欠乏する培地で、臍帯血由来のLinCD34細胞を培養した際の、培養後の細胞集団に含まれるCD34細胞の細胞数および生細胞中におけるCD34細胞の割合を示す図である。 図3は、20種アミノ酸含有培地と、20種アミノ酸含有培地に対して、システイン、バリン、アラニン、グルタミン、アスパラギン酸またはグルタミン酸を欠乏する培地で、臍帯血由来のLinCD34細胞を培養した際の、培養後の細胞60個を用いたCFU-GEMアッセイの結果を示す図である。各培養細胞集団から得られた細胞60個から生じたGEMMコロニー数を示す。 図4は、20種アミノ酸含有培地と、20種アミノ酸含有培地に対して、ロイシン、イソロイシン、リシンまたはセリンを欠乏する培地で、臍帯血由来のLinCD34細胞を培養した際の、培養後の細胞60個を用いたCFU-GEMアッセイの結果を示す図である。各培養細胞集団から得られた細胞60個から生じたGEMMコロニー数を示す。 図5は、20種アミノ酸含有培地と、20種アミノ酸含有培地に対して、アラニン、グルタミン、アスパラギン酸およびグルタミン酸の組み合わせを欠乏する培地で、臍帯血由来のLinCD34細胞を培養した際の、培養後の細胞60個を用いたCFU-GEMアッセイの結果を示す図である。各培養細胞集団から得られた細胞60個から生じたGEMMコロニー数(上パネル)および細胞60個中におけるその割合(下パネル)を示す。 図6は、図5に示すCFU-GEMアッセイの結果と、培養後に得られた生細胞数から試算される、培養によって得られたCFU-GEMMコロニー産生細胞の絶対数を示す図である。 図7は、20種アミノ酸含有培地に対して各種アミノ酸の組み合わせを欠乏する培地で、臍帯血由来のLinCD34細胞を培養した際の、培養後に得られた生細胞の数を示す図である。 図8は、20種アミノ酸含有培地に対して各種アミノ酸の組み合わせを欠乏する培地で、臍帯血由来のLinCD34細胞を培養した際の、培養後の細胞集団に含まれるCD34細胞の細胞数および生細胞中におけるCD34細胞の割合を示す図である。 図9は、20種アミノ酸含有培地に対して各種アミノ酸またはアミノ酸の組み合わせを欠乏する培地で、臍帯血由来のLinCD34細胞を培養した際の、培養後の細胞60個を用いたCFU-GEMアッセイの結果を示す図である。各培養細胞集団から得られた細胞60個から生じたGEMMコロニー数を示す。 図10は、図9に示すCFU-GEMアッセイの結果と、培養後に得られた生細胞数から試算される、培養によって得られたCFU-GEMMコロニー産生細胞の絶対数を示す図である。 図11は、20種アミノ酸含有培地に対して各種アミノ酸の組み合わせを欠乏する培地で、臍帯血由来のLinCD34細胞を培養した際の、培養後に得られた生細胞の数を示す図である。 図12は、20種アミノ酸含有培地に対して各種アミノ酸の組み合わせを欠乏する培地で、臍帯血由来のLinCD34細胞を培養した際の、培養後の細胞集団に含まれるCD34細胞の細胞数および生細胞中におけるCD34細胞の割合を示す図である。 図13は、20種アミノ酸含有培地に対して各種アミノ酸またはアミノ酸の組み合わせを欠乏する培地で、臍帯血由来のLinCD34細胞を培養した際の、培養後の細胞60個を用いたCFU-GEMアッセイの結果を示す図である。各培養細胞集団から得られた細胞60個から生じたGEMMコロニー数を示す。 図14は、図13に示すCFU-GEMアッセイの結果と、培養後に得られた生細胞数から試算される、培養によって得られたCFU-GEMMコロニー産生細胞の絶対数を示す図である。
発明者らは、造血幹細胞を培養する培地において、アミノ酸欠乏が与える影響を鋭意研究した結果、ある種のアミノ酸が造血幹細胞の増殖および機能維持に必要であることを解明するとともに、ある種のアミノ酸およびこれらの組み合わせを培地から欠乏させることにより、造血幹細胞の増殖を促進し、および/またはその機能維持を亢進することを見出した。
例えば、システイン、バリンはCD34陽性細胞の生存に必要である一方、アラニン、グルタミン、アスパラギン酸およびグルタミン酸はCD34陽性細胞の生存および増殖に不要であり、アラニン、グルタミン、アスパラギン酸またはグルタミン酸を欠乏した培地でCD34陽性細胞を培養することで、CD34陽性細胞数が増加することを見出した。
さらに、システインまたはバリンを欠乏した培地でCD34陽性細胞を培養すると、GEMMコロニーアッセイにおいてGEMMコロニーは生じなかったことから、これらのアミノ酸はCD34陽性細胞の造血能維持に必要であることを見出した。一方、アラニン、グルタミン、アスパラギン酸またはグルタミン酸を欠乏した培地でCD34陽性細胞を培養することにより、これらのアミノ酸を含む培地に比してGEMMコロニーの発生率が増加したことから、これらのアミノ酸はCD34陽性細胞の造血能維持に不要であり、これらのアミノ酸を欠乏した培地組成物で培養することにより、CD34陽性細胞の造血能維持を亢進し得ることを見出した。
発明者らはまた、アラニン、グルタミン、アスパラギン酸およびグルタミン酸をいずれも欠乏した培地でCD34陽性細胞を培養することで、これらのアミノ酸を含む培地に比して、CD34陽性細胞数が増加することを見出した。したがって、これらのアミノ酸はCD34+細胞の増殖に不要であると考えられた。さらに、これらアミノ酸を欠乏する培地で培養したCD34陽性細胞は、これらアミノ酸を含む培地と同様のGEMMコロニー発生割合を有していたことから、CD34陽性細胞の造血能維持において、培地中にアラニン、グルタミン、アスパラギン酸およびグルタミン酸の組み合わせが存在する必要性は低いことを見出した。したがって、上記4種のアミノ酸を欠乏した培地は、CD34陽性細胞を高い割合で含有する培養細胞集団を提供すること、絶対数において多くのCD34陽性細胞を提供すること、造血能を維持した細胞を高い割合で含有する培養集団を提供することが判明した。
発明者らはまた、アラニン、グルタミン、アスパラギン酸およびグルタミン酸に加えて、さらにアスパラギン、セリン、スレオニンおよびアルギニンを欠乏する(計8種のアミノ酸を欠乏する)培地でCD34陽性細胞を培養することで、これらのアミノ酸を含む培地に比べて、CD34陽性細胞数は減少する一方、CD34陽性細胞の含有率は上昇すること、および同等のGEMM発生率が得られることを見出した。したがって、上記8種のアミノ酸を欠乏した培地は、CD34陽性細胞を高い割合で含有する培養細胞集団を提供すること、および、アルギニンはCD34陽性細胞の増殖に関与している可能性が高いことが判明した。
発明者らはまた、アラニン、グルタミン、アスパラギン酸およびグルタミン酸に加えて、さらにアスパラギン、セリン、スレオニンを欠乏する(計7種のアミノ酸を欠乏する)培地でCD34陽性細胞を培養することで、これらのアミノ酸を含む培地に比べてCD34陽性細胞の含有率が増加することを見出した。したがって、これらのアミノ酸はCD34+細胞の増殖に不要であると考えられた。さらに、当該アミノ酸欠乏培地で培養したCD34陽性細胞は、これらのアミノ酸を含む培地に対してやや高いGEMMコロニー発生割合を有していたことから、CD34陽性細胞の造血能維持において、培地中にアラニン、グルタミン、アスパラギン酸およびグルタミン酸の組み合わせが存在する必要性は低いことを見出した。
発明者らはまた、上記アラニン、グルタミン、アスパラギン酸、アスパラギン、セリン、スレオニンおよびアルギニンを欠乏する培地の結果と、アラニン、グルタミン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、セリン、スレオニンを欠乏する培地の結果を比較することにより、アルギニンがCD34陽性細胞の増殖および、造血機能維持に必要であることを見出した。
発明者らはまた、上記アラニン、グルタミン、アスパラギン酸およびグルタミン酸を欠乏する培地の結果と、アラニン、グルタミン、アスパラギン酸、グルタミン酸およびグルタミン酸に加えて、メチオニンを欠乏する培地(アミノ酸5種欠乏)の結果、アラニン、グルタミン、アスパラギン酸、グルタミン酸およびグルタミン酸に加えて、アスパラギン、セリン、スレオニン、アルギニンおよびメチオニンを欠乏する培地(アミノ酸9種欠乏)の結果、を比較することにより、メチオニンがCD34陽性細胞の生存および造血機能維持に必要であることを見出した。
発明者らはまた、アラニン、グルタミン、アスパラギン酸およびグルタミン酸に加えて、さらにアスパラギンを欠乏する(計5種のアミノ酸を欠乏する)培地でCD34陽性細胞を培養することで、これらのアミノ酸を含む培地に比べてCD34陽性細胞数が増加することを見出した。さらに、当該アミノ酸欠乏培地で培養したCD34陽性細胞は、これらのアミノ酸を含む培地に対して高いGEMMコロニー発生割合を有していたことから、CD34陽性細胞の造血能維持において、培地中にアラニン、グルタミン、アスパラギン酸、グルタミン酸およびアスパラギンの組み合わせが存在する必要性は低く、これらのアミノ酸を欠乏した培地組成物で培養することにより、CD34陽性細胞の造血能維持を亢進し得ることを見出した。
発明者らはまた、アラニン、グルタミン、アスパラギン酸およびグルタミン酸に加えて、さらにセリンを欠乏する(計5種のアミノ酸を欠乏する)培地でCD34陽性細胞を培養することで、これらのアミノ酸を含む培地に比べて同等のCD34陽性細胞数が得られる一方、培養細胞集団中でより高いCD34陽性細胞含有率が得られることを見出した。さらに、当該アミノ酸欠乏培地で培養したCD34陽性細胞は、これらのアミノ酸を含む培地に対して高いGEMMコロニー発生割合を有していたことから、CD34陽性細胞の造血能維持において、培地中にアラニン、グルタミン、アスパラギン酸、グルタミン酸およびセリンの組み合わせが存在する必要性は低く、これらのアミノ酸を欠乏した培地組成物で培養することにより、CD34陽性細胞の造血能維持を亢進し得ることを見出した。
発明者らはまた、アラニン、グルタミン、アスパラギン酸およびグルタミン酸に加えて、さらにスレオニンを欠乏する(計5種のアミノ酸を欠乏する)培地でCD34陽性細胞を培養することで、これらのアミノ酸を含む培地に比べてCD34陽性細胞数はやや減少するものの、培養細胞集団中におけるCD34陽性細胞含有率はほぼ同等であることを見出した。さらに、当該アミノ酸欠乏培地で培養したCD34陽性細胞は、これらのアミノ酸を含む培地に対して高いGEMMコロニー発生割合を有していたことから、CD34陽性細胞の造血能維持において、培地中にアラニン、グルタミン、アスパラギン酸、グルタミン酸およびセリンの組み合わせが存在する必要性は低く、これらのアミノ酸を欠乏した培地組成物で培養することにより、CD34陽性細胞の造血能維持を亢進し得ることを見出した。
発明者らはまた、アラニン、グルタミン、アスパラギン酸およびグルタミン酸に加えて、さらにアルギニンを欠乏する(計5種のアミノ酸を欠乏する)培地でCD34陽性細胞を培養することで、これらのアミノ酸を含む培地に比べてCD34陽性細胞数はやや減少するものの、培養細胞集団中におけるCD34陽性細胞含有率はより高くなることを見出した。なお、当該アミノ酸欠乏培地で培養したCD34陽性細胞は、これらのアミノ酸を含む培地に対して低いGEMMコロニー発生割合を有していた。
発明者らはまた、アラニン、グルタミン、アスパラギン酸およびグルタミン酸に加えて、さらにアルギニンを欠乏する(計5種のアミノ酸を欠乏する)培地でCD34陽性細胞を培養することで、これらのアミノ酸を含む培地に比べてCD34陽性細胞数はやや減少するものの、培養細胞集団中におけるCD34陽性細胞含有率はより高くなることを見出した。なお、当該アミノ酸欠乏培地で培養したCD34陽性細胞は、これらのアミノ酸を含む培地に対して低いGEMMコロニー発生割合を有していた。
(定義)
本明細書において、複数の数値の範囲が示された場合、それら複数の範囲の任意の下限値および上限値の組み合わせからなる範囲も同様に意味する。
本開示において、「造血幹細胞」とは、すべての血球(赤血球、白血球、巨核球および血小板等)に最終的に分化し得る多分化能性幹細胞を意味する。造血幹細胞は、前駆細胞もしくは芽細胞への分化の中間段階を包含し得る。「前駆細胞」もしくは「芽細胞」は、本開示において交換可能に使用され、低下した分化能を有するが、特定の系列(例えば、骨髄系統もしくはリンパ系統)の異なる細胞へとなお成熟する能力がある、成熟しつつある細胞を意味する。一態様において、造血幹細胞は各種細胞表面マーカーの組み合わせによって同定することができる(Cell、2005年、Vol.121、pp.1109-1121)。
造血幹細胞が未分化性を維持し、幹細胞としての機能、すなわち造血能を維持しているか否かを評価するために、当業者に知られた方法を利用することができる。例えば、一般的に用いられているColony Forming Unit Assay (CFUアッセイ)を用いることができる。
本開示において、特定のアミノ酸などを「実質的に」含まないとは、製造工程で避けることのできない程度の混入があってもよいことを意味する。本開示において、特定のアミノ酸などを「含まない」という表現は、当該アミノ酸を「欠損する」「欠損している」と同様の意味を有している。一態様において、本開示の組成物等が特定のアミノ酸などを「実質的に」含まないとは、例えば、当該組成物中における当該アミノ酸の含有量が、5重量%以下、4重量%以下、3重量%以下、1重量%以下、0.5重量%以下、0.1重量%以下であることを意味するが、これらに限定されない。
(培養組成物)
本開示は一態様において、イソロイシン、ロイシン、リジン、セリン、アラニン、グルタミン、グルタミン酸およびアスパラギン酸からなる群から選択される、少なくとも1つのアミノ酸を実質的に含まない、造血幹細胞を含む細胞群の培養に用いる組成物を提供する。
本開示の造血幹細胞を含む細胞群の培養に用いる組成物は、上記構成を有することにより、造血幹細胞を様々な血球細胞へと分化させず、未分化のまま、すなわち造血幹細胞の造血機能を維持したまま増殖させる能力において優れた特性を有している。当該組成物により培養された細胞集団は、高い造血機能を保持している。
一態様において、イソロイシン、ロイシン、リジン、セリン、アラニン、グルタミン、グルタミン酸およびアスパラギン酸からなる群から選択される、少なくとも1つのアミノ酸を実質的に含まない、造血幹細胞を含む細胞群の培養に用いる組成物は、培養後に得られた細胞集団において、造血幹細胞の機能を維持した細胞の含有割合を増加させることができる。一態様において、当該組成物により培養された細胞集団は、造血機能を保持した細胞、例えばCD34陽性細胞を高い割合で含有している。一態様において、当該組成物により培養された細胞集団は、造血機能を保持した細胞、例えばCFU-GEMMアッセイにおいてGEMMコロニーを産生する細胞を高い割合で含有している。
一態様において、グルタミン、グルタミン酸およびアスパラギン酸からなる群から選択される、少なくとも1つのアミノ酸を実質的に含まない、造血幹細胞を含む細胞群の培養に用いる組成物は、培養後によって得られる造血幹細胞の機能を維持した細胞の絶対数を増加させることができる。
一態様において、アラニン、グルタミン、グルタミン酸およびアスパラギン酸を実質的に含まない、造血幹細胞を含む細胞群の培養に用いる組成物は、培養後によって得られる造血幹細胞、例えばCD34陽性細胞の絶対数を大幅に増加させることができる。
一態様において、本開示の組成物は、アラニン、グルタミン、グルタミン酸およびアスパラギン酸に加えて、さらにアスパラギンまたはスレオニンを実質的に含まない。これらアラニン、グルタミン、グルタミン酸、アスパラギン酸およびアスパラギン、または、アラニン、グルタミン、グルタミン酸、アスパラギン酸およびスレオニンを実質的に含まない、造血幹細胞を含む細胞群の培養に用いる組成物は、培養後に得られた細胞集団において、造血幹細胞の機能を維持した細胞の含有割合を増加させることができる。当該組成物により培養された細胞集団は、造血機能を保持した細胞、例えばCD34陽性細胞、あるいは、CFU-GEMMアッセイにおいてGEMMコロニーを産生する細胞を高い割合で含有している。
一態様において、本開示はシステイン、バリン、アルギニンまたはメチオニンを実質的に含まない、造血幹細胞を含む細胞群の培養に用いる組成物を提供する。当該組成物は、培養細胞集団中に造血能を維持する細胞の存在が望ましくない場合に、培養細胞集団中に存在する造血能を維持した細胞の増殖を阻害し、その含有割合を減少させることができる。当該組成物により培養された細胞集団において、造血機能を保持した細胞、例えばCD34陽性細胞、あるいは、CFU-GEMMアッセイにおいてGEMMコロニーを産生する細胞の含有割合は低い。例えば、特許6449909号に示されるように、造血幹細胞の増殖を阻害する培養培地は、造血幹細胞を減少させることに用いるための組成物として使用することができ、培養組成物や医薬組成物として使用することができる。
本開示の造血幹細胞を含む細胞群の培養に用いる組成物は、上記欠乏するアミノ酸を除き、グリシン、システイン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、トリプトファン、チロシン、バリン、トレオニン、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸およびセリンから選択される1つ以上のアミノ酸を含有することが望ましい。
本開示の造血幹細胞を含む細胞群の培養に用いる組成物として、哺乳動物細胞の培養に通常使用される培地において、アミノ酸組成を変更したものを用いることができる。例えば、イーグル培地、ダルベッコイーグル改変培地(DMEM)、イスコブの修飾ダルベッコ培地などを用いることができるが、これらに限定されない。
本開示の造血幹細胞を含む細胞群の培養に用いる組成物は、専ら造血幹細胞の機能を維持した細胞の促進を目的とする組成物として提供できる他、造血幹細胞の機能を維持した細胞の促進が有益である、他の用途を目的とする組成物として使用することもできる。
(他の成分)
本開示の造血幹細胞を含む細胞群の培養に用いる組成物は、細胞培養のために許容される任意の他の成分を含むことができる。このような成分には、糖類、ビタミン、血清、増殖因子、造血幹細胞の増殖を促進する他の薬剤、溶媒、色素などが含まれるが、これらに限定されない。
より具体的には、グルコース、IGF、造血幹細胞の増殖を促進する他の薬剤として、U-173、DMSOなどを使用することができるが、これらに限定されない。
本開示の造血幹細胞を含む細胞群の培養に用いる組成物は、それ自体が完全な培地として提供される他、培地に添加する培養補助剤として提供されてもよい。本開示の培養補助剤を添加することにより、得られた培地は上記アミノ酸をより低い濃度で含み、より優れた造血幹細胞培養特性を有する。
例えば、細胞培養時に培地を連続供給またはバッチ供給する場合、培養期間の全体またはその一部に本開示の組成物を用いることができる。
本開示の細胞培養組成物により培養する細胞は、造血能を有する細胞を含んでいるものであれば特に限定されない。当該造血能を有する細胞を含む細胞集団は、当業者の技術常識に従って特定することが可能である。例えば、臍帯血由来の細胞、骨髄由来の細胞、ES細胞やiPS細胞などの天然あるいは人工多能性幹細胞から誘導された細胞などを用いることができるが、特に限定されない。
(培養方法)
本開示は一態様において、造血幹細胞を含む細胞群を準備する工程と、前記細胞群を、イソロイシン、ロイシン、リジン、セリン、アラニン、グルタミン、グルタミン酸、アスパラギン酸からなる群から選ばれる、少なくとも1つを実質的に含まない細胞培養組成物を含む培地で培養する工程とを含む、造血幹細胞を含む培養細胞集団を製造する方法を提供する。
本開示の製造方法は、上記構成を有する細胞培養組成物を含む培地で培養する工程を採用することにより、造血幹細胞の機能を維持した細胞を多く含有する培養細胞集団を製造することができる。
本開示の培養方法に用いる細胞培養組成物を含む培地の組成は、上記アミノ酸の配合以外の点においては当業者が適宜決定することができる。例えば、上記(培養組成物)に関して例示した哺乳類細胞用の培養培地を改変したものなどを用いることができる。
本開示の培養方法に用いる造血幹細胞を含む細胞群は特に限定されず、例えば上記(培養組成物)に関して例示した細胞などを用いることができる。
(培養細胞集団の造血機能を修飾する培地アミノ酸成分を同定する方法)
本開示は一態様において、造血機能を有する細胞を培養する際に培地に添加あるいは培地から欠乏させることにより、細胞の造血機能を修飾する培地アミノ酸成分を同定する方法を提供する。
一態様において本開示の方法は、
1)造血機能を有する細胞と、
2)細胞培養培地であって、1つ以上のアミノ酸成分を含有しない試験培地と、
3)細胞培養培地であって、上記1つ以上のアミノ酸成分を含有する対照培地とを準備し、
4)前記細胞をそれぞれ試験培地および対象培地で培養し、
5)培養後に得られた細胞集団について、造血機能を試験することにより、試験培地で培養された細胞集団と、対照培地で培養された細胞集団との間に造血機能の差をもたらすアミノ酸成分を同定することを含む、
培養細胞集団の造血機能を修飾する培地アミノ酸成分を同定する方法を提供する。
一態様において、前記造血機能の差は、培養後に得られた細胞集団における造血機能を有する細胞の数あるいは、前記細胞集団における造血機能を有する細胞の割合における差である。例えば、培養後に得られた細胞集団におけるCD34陽性細胞数もしくはその含有割合の差、または、培養後に得られた細胞集団において、CFU-GEMMアッセイによりGEMMコロニーを産生する細胞の数もしくはその含有割合の差に基づいて、本開示の細胞の造血機能を修飾する培地アミノ酸成分の同定を行うことができる。
一態様において、本開示の培地アミノ酸成分の同定方法は、培養細胞集団中で造血機能を維持する細胞の含有割合が増大または減少するように、培養細胞集団の造血機能を修飾する培地アミノ酸成分を同定する。一態様において、本開示の培地アミノ酸成分の同定方法は、培養細胞集団中で造血機能を維持する細胞の絶対数が増大または減少するように、培養細胞集団の造血機能を修飾する培地アミノ酸成分を同定する。
本開示の同定方法に用いる細胞培養組成物を含む培地の組成は、上記アミノ酸の配合以外の点においては当業者が適宜決定することができる。例えば、上記(培養組成物)に関して例示した哺乳類細胞用の培養培地を改変したものなどを用いることができる。
本開示の同定方法に用いる造血幹細胞を含む細胞群は特に限定されず、例えば上記(培養組成物)に関して例示した細胞などを用いることができる。
以下、実施例により本開示をさらに詳細に説明するが、これらは例示に過ぎず本開示を限定するものではない。
(材料と方法)
1.培地
培地はイスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)を基本として、含有アミノ酸を改変した培地を用いた。なお、下記(2)ビタミン類、(3)塩類の含有量はダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)に準じ、成分(4)~(7)の含有量はIMDMに準じた。
(1)アミノ酸類: グリシン(30mg/L)、L-システイン(182.8mg/L)、L-ヒスチジン(42mg/L)、L-イソロイシン(105mg/L)、L-ロイシン(105mg/L)、L-リシン(146mg/L)、L-メチオニン(30mg/L)、L-フェニルアラニン(66mg/L)、L-プロリン(40mg/L)、L-トリプトファン(16mg/L)、L-チロシン(104mg/L)、L-バリン(94mg/L)、L-トレオニン(95mg/L)、L-アラニン(25mg/L)、L-アルギニン(84mg/L)、L-アスパラギン(25mg/L)、L-アスパラギン酸(30mg/L)、L-グルタミン(584mg/L)、L-グルタミン酸(75mg/L)、L-セリン(42mg/L)の20種すべて、またはこれらの一部を欠く組み合わせ。
(2)ビタミン類:塩化コリン、D-パントテン酸カルシウム、葉酸、イノシトール、ニコチンアミド、ピリドキサール塩酸塩、リボフラビン、塩酸チアミン
(3)塩類:塩化カルシウム、塩化カリウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸2水素ナトリウム、硝酸鉄(III)
(4)グルコース
(5)ピルビン酸ナトリウム
(6)HEPES
(7)フェノールレッド
上記(1)~(7)を含む組成物に、
培養時下記(8)~(15)を添加して培養液を作成した。
(8)インスリン、(9)トランスフェリン、(10)亜セレン酸ナトリウム、(11)エタノールアミン、(12)ペニシリン、(13)スプレプトマイシン、(14)グルタミン、(15)サイトカインであるStem Cell Factor(SCF)、Thrombopoietin(TPO)
2.培養
上記培養液にて、臍帯血由来のLin陰性CD34陽性細胞を37℃,CO5%で7日間培養を行う。
3.CFU-GEMMアッセイ
培養後に得られた培養細胞集団のうち、60個の細胞についてCFU-GEMMアッセイを行い、GEMM細胞コロニー数を測定した。GEMM細胞コロニー率を以下の式で算出した。
GEMM細胞コロニー数/試験細胞数(60個)x100%
アミノ酸欠乏を有する培養組成物
臍帯血由来のCD34陽性細胞1000個を、アミノ酸を20種含む培地(アミノ酸20種含有培地)または、アミノ酸を各1種欠く培地にて培養し、培養後の細胞数、CD34+細胞数を測定し、合わせてCFU-GEMMアッセイによりGEMMコロニー数を測定した。
その結果、システインまたはバリンを欠乏する培地で培養した培養細胞集団では培養期間後の生存細胞数が極めて少なく、これらのアミノ酸はCD34陽性細胞およびこれ由来の細胞の生存に必須であることが判明した(図1、2)。また、これらの培養細胞集団からはGEMMコロニーは得られなかった(図3)。また、メチオニンまたはアルギニンを欠乏する培地においても生存細胞数が減少傾向にあった。
一方、アラニン、グルタミン、グルタミン酸またはアスパラギン酸を欠乏する培地は、アミノ酸20種含有培地と同等またはより多くのCD34陽性細胞を産生し、培養開始時点に比して4倍のCD34陽性細胞を産生した。また、培養細胞集団における全生存細胞中のCD34陽性細胞の割合は、アミノ酸20種含有培地で培養した培養細胞集団では62%であったのに対して、アラニン、グルタミン、グルタミン酸、アスパラギン酸を欠乏する培地で培養した培養細胞集団ではそれぞれ、46%(アラニン欠乏)、46%(グルタミン欠乏)、40%(グルタミン酸欠乏)、38%(アスパラギン酸欠乏)であり、高い水準を維持していた(図2)。
さらに、CFU-GEMMアッセイを行った結果、アラニン、グルタミン、グルタミン酸、アスパラギン酸を欠乏する培地で培養した培養細胞集団は、アミノ酸20種含有培地で培養した培養細胞集団に比べて、より高い割合でGEMMコロニーを産生した(図3)。
[培養後生細胞数]
Figure 2023035731000001
[培養後CD34陽性細胞数]
Figure 2023035731000002
[培養後CD34陽性細胞率]
Figure 2023035731000003
SDは標準偏差を意味する。
また、イソロイシン、ロイシン、リシンまたはセリンを欠乏する培地では生細胞数が減少したものの、アミノ酸20種含有培地より高い割合でGEMMコロニーを産生した(図4)。
これらの結果から、アラニン、グルタミン、グルタミン酸、アスパラギン酸はCD34陽性細胞の増殖に不要であることが判明した。また、造血機能維持のためには、アラニン、グルタミン、グルタミン酸、アスパラギン酸、イソロイシン、ロイシン、リシンまたはセリンを培地から欠乏させることが有利であることが判明した。したがって、アラニン、グルタミン、グルタミン酸、アスパラギン酸、イソロイシン、ロイシン、リシンまたはセリンのいずれかを欠乏する培地でCD34陽性細胞を培養することにより、造血機能維持した細胞を高い割合で含有する細胞集団を取得することが可能となる。
アラニン、グルタミン、グルタミン酸およびアスパラギン酸の組み合わせを欠乏する培養組成物
アラニン、グルタミン、グルタミン酸およびアスパラギン酸のうち、2以上の組み合わせを欠乏する培地組成物について、臍帯血由来のCD34陽性細胞を300個に変更した点を除いて、実施例1と同様の試験を行った。
その結果、アラニン、グルタミン、グルタミン酸およびアスパラギン酸をすべて欠乏する培地(Ala/Gln/Glu/Asp/4種アミノ酸欠乏培地)は、アミノ酸20種を含む培地よりも高レベルのGEMMコロニー発生率をもたらした(図5)。さらに、培養後の生細胞数とGEMMコロニー発生率から試算されるCFU-GEMMコロニー産生細胞数を試算すると、Ala/Gln/Glu/Asp/4種アミノ酸欠乏培地はより多くのCFU-GEMMコロニー産生細胞をもたらすことが判明した(図6)。これらの結果から、アラニン、グルタミン、グルタミン酸およびアスパラギン酸の同時欠乏は、造血機能を有する細胞をより高濃度で含有する培養細胞集団、および、造血機能を有するより細胞を絶対数においてより多くもたらすという利点を有する。なお、Ala/Gln/Glu/Asp/4種アミノ酸のうち、2種から3種を組み合わせて欠乏させた培地では、アスパラギン酸とグルタミンを同時欠乏させた場合を除いて、アラニン、グルタミン、グルタミン酸またはアスパラギン酸の単独欠乏以上のCFU-GEMMコロニー産生をもたらした。
追加のアミノ酸欠損を有する培養組成物
アラニン、グルタミン、グルタミン酸およびアスパラギン酸をすべて欠乏する培地(アミノ酸4種欠乏培地)から、さらに追加のアミノ酸を欠乏させた培地について、臍帯血由来のCD34陽性細胞を300個に変更した点を除いて、実施例1と同様の試験を実施した。
その結果、アラニン、グルタミン、グルタミン酸およびアスパラギン酸に加えて、さらにアスパラギン、セリン、スレオニンの合計7種のアミノ酸を欠乏した培地(Ala/Gln/Gln/Asp/Asn/Ser/Thr/7種アミノ酸欠乏培地)は、Ala/Gln/Gln/Asp/4種アミノ酸欠乏培地よりも高いCD34陽性細胞率をもたらした(図6~8)。さらに、Ala/Gln/Gln/Asp/Asn/Ser/Thr/7種アミノ酸欠乏培地はアミノ酸20種含有培地およびAla/Gln/Gln/Asp/4種アミノ酸欠乏培地よりも高いGEMMコロニー発生率をもたらした(図9)。
また、アラニン、グルタミン、グルタミン酸およびアスパラギン酸に加えて、さらにアスパラギン、セリン、スレオニンおよびアルギニンの合計8種のアミノ酸を欠乏した培地(Ala/Gln/Gln/Asp/Asn/Ser/Thr/Arg/8種アミノ酸欠乏培地)では、CD34陽性細胞数は減少したものの、生細胞に占めるCD34陽性細胞の割合は上昇し、GEMコロニー発生率も上昇した(図7~10)。このことから、アルギニンはCD34陽性細胞の増殖に必要であることが示唆された。
また、アラニン、グルタミン、グルタミン酸およびアスパラギン酸に加えて、さらにメチオニンの合計5種のアミノ酸を欠乏した培地(Ala/Gln/Gln/Asp/Met/5種アミノ酸欠乏培地)、並びに、アラニン、グルタミン、グルタミン酸およびアスパラギン酸に加えて、さらにアスパラギン、セリン、スレオニン、アルギニンおよびメチオニンの合計9種のアミノ酸を欠乏した培地(Ala/Gln/Gln/Asp/Asn/Ser/Thr/Arg/Met/8種アミノ酸欠乏培地)、では、生細胞数が大幅に少なくなった一方、生細胞に占めるCD34陽性細胞の割合は高くなっており、メチオニンはCD34陽性細胞の生存、および増殖能維持に必要であることが示唆された(図7~10)。
次に、アスパラギン、セリン、スレオニン、アルギニン、またはメチオニンの追加欠乏のそれぞれの効果を確認するために、Ala/Gln/Gln/Asp/4種アミノ酸欠乏培地に対してアスパラギン、セリン、スレオニン、アルギニン、またはメチオニンをそれぞれ欠乏した培地を作成し、臍帯血由来のCD34陽性細胞を300個に変更した点を除いて実施例1等と同様の試験を行った。
その結果、アラニン、グルタミン、グルタミン酸およびアスパラギン酸に加えて、さらにアスパラギンの合計5種のアミノ酸を欠乏した培地(Ala/Gln/Gln/Asp/Asn/5種アミノ酸欠乏培地)は、培養開始時点に比して約5倍のCD34陽性細胞をもたらし、Ala/Gln/Gln/Asp/4種アミノ酸欠乏培地よりも多くのCD34陽性細胞を産生し、より高いCD34陽性細胞率(約30%)をもたらした(図11~12)。さらに、Ala/Gln/Gln/Asp/Asn/5種アミノ酸欠乏培地はAla/Gln/Gln/Asp/4種アミノ酸欠乏培地よりも高いGEMMコロニー発生率をもたらした(図13~14)。
また、アラニン、グルタミン、グルタミン酸およびアスパラギン酸に加えて、さらにスレオニンの合計5種のアミノ酸を欠乏した培地(Ala/Gln/Gln/Asp/Thr/5種アミノ酸欠乏培地)では、Ala/Gln/Gln/Asp/4種アミノ酸欠乏培地よりも産生されるCD34陽性細胞数は低下したものの、より高いCD34陽性細胞含有率、およびより高いGEMMコロニー発生率をもたらした(図11~14)。
これらの結果から、アラニン、グルタミン、グルタミン酸およびアスパラギン酸に加えて、さらにアスパラギンまたはスレオニンを培地から欠乏させることが造血機能維持のためには有利であることが判明した。これら5種のアミノ酸を欠乏する培地は、造血機能を維持する細胞を高濃度で含有する培養細胞群を提供する。
本開示は、生体機能研究の局面において細胞培養のための培養組成物または培養方法に利用できる他、血液がんをはじめとした難治性の血液疾患を、造血幹細胞移植などにより治療する際の細胞培養などといった、医療の局面においても幅広く利用することが可能である。

Claims (9)

  1. メチオニン、アルギニン、イソロイシン、ロイシン、リジン、セリン、アラニン、グルタミン、グルタミン酸およびアスパラギン酸からなる群から選択される、少なくとも1つのアミノ酸を実質的に含まない、造血幹細胞を含む細胞群の培養に用いる組成物。
  2. グルタミン、グルタミン酸およびアスパラギン酸からなる群から選択される、少なくとも1つのアミノ酸を実質的に含まない、請求項1に記載の組成物。
  3. アラニン、グルタミン、グルタミン酸およびアスパラギン酸を実質的に含まない、請求項1に記載の組成物。
  4. さらに、アスパラギン、セリン、スレオニンおよびアルギニンからなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸を実質的に含まない、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
  5. メチオニン、アルギニンからなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸を実質的に含まない、造血幹細胞を減少させるための、請求項1に記載の組成物。
  6. 培地または培養添加物として提供される、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
  7. 造血幹細胞を含む細胞群を準備する工程と、
    前記細胞群を、イソロイシン、ロイシン、リジン、セリン、アラニン、グルタミン、グルタミン酸、アスパラギン酸からなる群から選ばれる、少なくとも1つを実質的に含まない細胞培養組成物を含む培地で培養する工程とを含む、
    造血幹細胞を含む細胞群を製造する方法。
  8. 前記細胞培養組成物が、さらに、アスパラギン、セリン、スレオニンおよびアルギニンからなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸を実質的に含まない、請求項7に記載の方法。
  9. 1)造血機能を有する細胞と、
    2)細胞培養培地であって、1つ以上のアミノ酸成分を含有しない試験培地と、
    3)細胞培養培地であって、上記1つ以上のアミノ酸成分を含有する対照培地とを準備し、
    4)前記細胞をそれぞれ試験培地および対象培地で培養し、
    5)培養後に得られた細胞集団について、造血機能を試験することにより、試験培地で培養された細胞集団と、対照培地で培養された細胞集団との間に造血機能の差をもたらすアミノ酸成分を同定することを含む、
    培養細胞集団の造血機能を修飾する培地アミノ酸成分を同定する方法であって、
    前記培養細胞集団の造血機能の修飾が、培養細胞集団中で造血機能を維持する細胞の含有割合または細胞数が増大することである、前記方法。
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