JP2023026208A - 有機繊維用接着剤組成物、並びに、これを用いた有機繊維材料、ゴム物品、有機繊維-ゴム複合体およびタイヤ - Google Patents

有機繊維用接着剤組成物、並びに、これを用いた有機繊維材料、ゴム物品、有機繊維-ゴム複合体およびタイヤ Download PDF

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Abstract

【課題】レゾルシンを用いることなく所望の接着性を確保することができ、使用時における作業性を損なうこともない有機繊維用接着剤組成物、並びに、これを用いた有機繊維材料、ゴム物品、有機繊維-ゴム複合体およびタイヤを提供することを目的とする。【解決手段】(A)不飽和ジエンを有するゴムラテックス、および、(B)アセトアセチル基変性ポリビニルアルコールを含む有機繊維用接着剤組成物である。また、この有機繊維用接着剤組成物を用いた有機繊維材料、ゴム物品、有機繊維-ゴム複合体およびタイヤである。【選択図】なし

Description

本発明は、有機繊維用接着剤組成物(以下、単に「接着剤組成物」とも称する)、並びに、これを用いた有機繊維材料、ゴム物品、有機繊維-ゴム複合体およびタイヤに関するものである。
従来、タイヤ等のゴム物品を補強する目的において、ナイロン繊維やポリエステル繊維等からなるタイヤコード等の有機繊維と、タイヤ用ゴム組成物等のゴム組成物とを接着させて、有機繊維-ゴム複合体とすることが行われている。そして、上記接着には、有機繊維を接着剤組成物で被覆し、ゴム組成物に埋設して、ゴム組成物と共加硫する手法が汎用されている。
また、上記有機繊維を上記接着剤組成物で被覆する工程においては、接着剤組成物の粘度を調整する目的で一般的に溶媒を用いるが、この工程で溶媒が揮発するために、上記溶媒としては環境負荷の少ない水を用いることが好ましい。さらに、浸漬により上記有機繊維を上記接着剤組成物で被覆する場合には、接着剤組成物を浸漬により塗布できる程度の低粘度にすることが必要である。
一般的に、水性、すなわち、水に溶解あるいは分散できる性質を持たせた水系接着剤組成物に含まれる成分は、極性の分子構造を有する必要がある。しかし、一方で、被着体となるゴムや有機繊維基材等の高分子材料は極性が低く、ゴムや有機繊維基材等の表面の極性と接着剤組成物に含まれる成分の極性との差が大きくなると、接着し難くなる。従って、上記水系接着剤組成物をゴム物品用の接着剤組成物として用いるためには、上記水系接着剤組成物に含まれる成分については、水性であるために極性を持つ必要がある反面、このことにより被着体の極性との間に差が生じて接着性が低下しないような極性の制御が必要である。そこで、これらの背反する要請を両立できる機能を有する水系の接着剤組成物が好適に用いられている。
ここで、上記有機繊維を上記接着剤組成物で被覆する工程に関し、タイヤコード等の有機繊維コードを接着剤組成物に浸漬する場合の工程の一例を、図1を用いて説明する。
有機繊維コード1は、巻出しロールから巻出され、ロールにより搬送されて、接着剤組成物2が入った浸漬用浴槽(ディッピング槽)3にて、上記接着剤組成物2中に浸漬される。接着剤組成物2で被覆された有機繊維コード4は、上記浸漬用浴槽3から引き上げられ、絞りロール5により余分な接着剤組成物2が取り除かれる。次いで、接着剤組成物2で被覆された有機繊維コード4は、ロールによりさらに搬送されて、乾燥ゾーン6で乾燥され、ホットゾーン7では張力の付与により延伸されつつ樹脂の熱硬化を受け、ノルマライズゾーン8では目的の強伸度物性になるように上記張力を精度よく調整して標準化(ノルマライジング)されながら樹脂の熱硬化を受け、ゾーン外で空冷された後に、巻取ロールに巻き取られる。このようにして、上記有機繊維は、上記接着剤組成物で被覆される。
上記接着剤組成物としては、従来、レゾルシン、ホルムアルデヒドおよびゴムラテックスを含む混合液を熟成させて得られるRFL(レゾルシン-ホルムアルデヒド-ラテックス)接着剤組成物、または、このRFL接着剤組成物に特定の接着促進剤を混合した接着剤組成物が用いられてきた(特許文献1~4参照)。
周知のように、ゴム業界では、水分散性のゴムラテックス成分と、水溶性であるレゾルシンとホルムアルデヒドを混合して熟成することで得られた水系のフェノール樹脂と、からなる接着剤組成物(特許文献1)が、被着体となるゴムとの接着と、有機繊維等の極性が少ない基材表面との接着と、を両立する機能を有することが見出され、世界的に広く用いられている。上記RFL接着剤組成物による接着においては、ゴムラテックス成分により被着ゴム側と共加硫で接着し、一方、有機繊維基材との接着性を有するレゾルシンとホルムアルデヒドの縮合物からなるフェノール系樹脂成分により、被着基材側と接着する。
ここで、レゾルシンが好ましく用いられている理由は、被着体との接着性が高い樹脂種であるフェノール系縮合樹脂を提供できるとともに、水溶性を得るためにフェノール環に導入される極性官能基が、極性が比較的小さく立体障害となりにくい水酸基であって、有機繊維基材側と接着性が高い樹脂成分を提供できるためである。
また、上記RFL接着剤組成物は、塩基性組成物の存在下で、レゾルシンと、ホルムアルデヒドと、重合の際に乳化剤としてロジン酸等を用いたゴムラテックスと、を混合して熟成して得られる。これにより、水溶したレゾルシンとホルムアルデヒドが塩基下でのレゾール型縮合反応で縮合するとともに(特許文献2を参照)、ラテックス表面のロジン酸が、レゾール型のフェノール-ホルムアルデヒド付加縮合体の末端のメチロール基と付加縮合すると推察されている(非特許文献1を参照)。
この熟成により、ラテックスがロジン酸等を介してレゾール型レゾルシン-ホルムアルデヒド縮合物と架橋して、接着が強化され、ラテックスが水性樹脂と複合してカプセル化した保護コロイドとなり、図1に示されるような装置において接着剤組成物の処理を行う際に、ラテックスのゴム粘着性が抑制されるため、装置に対する接着剤組成物の粘着による汚れが少なくなる。
そして、上記RFL接着剤組成物に添加する接着促進剤としては、水系接着剤組成物により、有機繊維コード材料等の極性が少ない基材表面との接着を向上させるために、水性、すなわち、水に溶解あるいは分散できる性質を有する接着促進剤が用いられてきた。
水分散性の上記接着促進剤としては、粒子径が0.01~0.50μmであるメチレンジフェニルジイソシアネート等の(ブロックド)イソシアネート(特許文献3を参照)や、クレゾールノボラック型多官能エポキシ樹脂等の非水溶性であるフェノール系・ノボラック型樹脂の水分散粒子(特許文献4を参照)等が使用されている。
また、水溶性の基を含む上記接着促進剤としては、レゾルシンとホルムアルデヒドとをノボラック化反応させて得られるノボラック型縮合物の水酸化ナトリウム溶液(特許文献5を参照)、クロロフェノール類とホルムアルデヒドのノボラック型縮合物のアンモニウム溶液等の塩基性物質の存在下で水に溶解するフェノール系樹脂類、あるいは、(熱解離性ブロックド)イソシアネート基と自己水溶性である基を有する水性ウレタン化合物(特許文献6を参照)等が、RFL接着剤組成物と併せて使用されている。
ところが、近年、RFL接着剤組成物において水溶性の成分として用いられてきたレゾルシンについて、環境負荷低減の観点から、使用量の削減が求められるようになってきている。
これに対応するために、レゾルシンを含まないポリフェノール類を用いることで、水を溶媒とした系の接着剤組成物が、様々に検討されて提案されている。
例えば、ゴムラテックスとリグニン樹脂からなる有機繊維用接着剤組成物(特許文献7参照)や、ゴムラテックスとフラボノイドなどのポリフェノールおよび芳香族ポリアルデヒドをベースとする水系接着剤組成物(特許文献8、9参照)等が、レゾルシンおよびホルムアルデヒドを含まない接着剤組成物として知られている。
米国特許第2,128,229号明細書 特開2005-263887号公報 特開2006-37251号公報 特開平9-12997号公報 国際公開第97/013818号 特開2011-241402号公報 国際公開第2018/003572号 国際公開第2013/017421号 特表2016-528337号公報
博多 宏一、ネットワークポリマー Vol.31,No.5,p.252(2010)
しかしながら、レゾルシンを含まない接着剤組成物として、特許文献7のようなゴムラテックスとリグニン樹脂を単に混合させてなる接着剤組成物を使用すると、ゴムラテックスの粘着性が高いために、接着剤液のせん断歪下での機械的安定性が低くなる。そのため、例えば、図1に示すような、上記有機繊維コード1を上記接着剤組成物2で被覆して乾燥・熱硬化させる工程において、絞りロール5や乾燥ゾーン6のロール等に対する当該接着剤組成物2の付着が多くなり、当該工程の作業性が悪くなるという新たな問題が発生した。
また、このようなレゾルシンを含まない接着剤組成物は、上記装置に対する付着によって接着剤被覆の表面が荒れるために接着性が低下し易く、さらに、ラテックス成分とレゾルシン・ホルムアルデヒド縮合物との間の架橋が得られないために、そもそも、従来のRFL接着剤組成物に比べて、有機繊維と被覆ゴム組成物との接着性が低下するという課題も有していた。
さらにまた、特許文献8のように、ゴムラテックスと混合したポリフェノールに、水への溶解度が低いテレフタルアルデヒドまたは2,5-フランジカルボキサルデヒドなどの芳香族ジアルデヒドを混合して水系接着剤組成物を製造する場合、製造時において芳香族ジアルデヒドが水に溶解し難いことから、作業性の点で不十分であった。
さらにまた、上記のようなレゾルシンを含まない接着剤組成物は、当該接着剤組成物で被覆された有機繊維コードのコード強力の低下をもたらすという課題も有していた。
そこで本発明の目的は、レゾルシンを用いることなく所望の接着性を確保することができ、使用時における作業性を損なうこともない有機繊維用接着剤組成物、並びに、これを用いた有機繊維材料、ゴム物品、有機繊維-ゴム複合体およびタイヤを提供することにある。
本発明者は、上記課題を解決するべく、有機繊維用接着剤組成物の組成について鋭意研究を重ねた。その結果、所定のゴムラテックスとともにアセトアセチル基変性ポリビニルアルコールを配合し、好ましくはさらに、(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物、アミン化合物およびポリフェノールのうちの1種以上を配合することで、レゾルシンを用いることなく所望の接着性を確保することができ、使用時における作業性を損なうこともない有機繊維用接着剤組成物が得られることを見出して、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の有機繊維用接着剤組成物は、(A)不飽和ジエンを有するゴムラテックス、および、(B)アセトアセチル基変性ポリビニルアルコールを含むことを特徴とするものである。
本発明の有機繊維用接着剤組成物は、さらに、下記(C)~(E):
(C)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物、
(D)アミン化合物、および、
(E)ポリフェノール
からなる群から選択される1種以上の化合物を含むことが好ましい。本発明の有機繊維用接着剤組成物において、前記(B)アセトアセチル基変性ポリビニルアルコールのケン化度は、80モル%以上であることが好ましい。
本発明の有機繊維用接着剤組成物において、前記(C)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物は、(C-1)芳香環を有するポリイソシアネートと活性水素基を1個以上有するブロック剤との付加生成物からなる水分散性(熱解離性ブロックド)イソシアネート化合物であることが好ましい。
ここで、前記(C-1)芳香環を有するポリイソシアネートと活性水素基を1個以上有するブロック剤との付加生成物からなる水分散性(熱解離性ブロックド)イソシアネート化合物としては、メチレンジフェニルジイソシアネートのブロック体を好適に用いることができる。
また、本発明の有機繊維用接着剤組成物においては、前記(C)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物が、(C-2)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性ウレタン化合物であることも好ましい。
ここで、前記(C-2)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性ウレタン化合物としては、
(α)3個以上、5個以下の官能基を有する数平均分子量が2,000以下の有機ポリイソシアネート化合物、
(β)2個以上、4個以下の活性水素基を有する数平均分子量が5,000以下の化合物、
(γ)熱解離性ブロック剤、および、
(δ)少なくとも1つの活性水素基と、アニオン性、カチオン性または非イオン性である少なくとも1つの親水基と、を有する化合物、
を、(α)、(β)、(γ)および(δ)の総和量に対するそれぞれの混合比率が、
(α)については、40質量%以上、85質量%以下、
(β)については、5質量%以上、35質量%以下、
(γ)については、5質量%以上、35質量%以下、および、
(δ)については、5質量%以上、35質量%以下、
になるように混合して、反応させた後の反応生成物であって、かつ、
イソシアネート基(-NCO)の分子量を42としたときの、前記反応生成物中における(熱解離性ブロックド)イソシアネート基の構成比率が、0.5質量%以上、11質量%以下であるものを、好適に用いることができる。
また、前記(C-2)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性ウレタン化合物としては、下記一般式(1):
Figure 2023026208000001
[式(1)中、
Aは、有機ポリイソシアネート化合物の、活性水素基が脱離した残基、
Xは、2個以上、4個以下の水酸基を有する、数平均分子量が5,000以下のポリオール化合物の、活性水素基が脱離した残基、
Yは、熱解離性ブロック剤の、活性水素基が脱離した残基、
Zは、少なくとも1つの活性水素基と、少なくとも1つの塩を生成する基または親水性ポリエーテル鎖と、を有する化合物の、活性水素基が脱離した残基、
nは、2以上4以下の整数、
p+mは、2以上4以下の整数(m≧0.25)
を表す]で表されるものも、好適に用いることができる。
さらに、本発明の有機繊維用接着剤組成物において、前記(D)アミン化合物としては、1級~3級のアミノ基を2個以上有する多官能性のアミン化合物が好ましく用いられる。
さらにまた、本発明の有機繊維用接着剤組成物においては、前記(E)ポリフェノールが、分子内に複数のフェノール性ヒドロキシ基を有する植物由来の化合物であることが好ましく、また、リグニン、タンニン、タンニン酸、フラボノイド、または、その誘導体であることも好ましい。
本発明の有機繊維用接着剤組成物は、レゾルシンを含まないものとすることができる。
本発明の有機繊維材料は、有機繊維の表面が、上記有機繊維用接着剤組成物からなる接着剤層により被覆されていることを特徴とするものである。また、本発明の有機繊維用接着剤組成物は、特にはゴム-樹脂間接着剤組成物として好ましく用いることができる。
本発明の有機繊維材料においては、前記有機繊維が、複数本のフィラメントを撚り合わせてなるコードであることが好ましい。この場合、前記コードが上撚りと下撚りとを有し、下撚りの撚係数が1,300以上、2,500以下であって、上撚りの撚係数が900以上、1,800以下であることがより好ましい。
また、本発明の有機繊維材料においては、前記接着剤層が、乾燥質量で、前記コードの質量の0.5~6.0質量%であることが好ましい。
さらに、本発明の有機繊維材料においては、前記有機繊維がポリエステル樹脂からなることが好ましい。
本発明のゴム物品は、上記有機繊維材料により補強されていることを特徴とするものである。
本発明の有機繊維-ゴム複合体は、有機繊維とゴムとの複合体であって、該有機繊維が、上記有機繊維用接着剤組成物により被覆されていることを特徴とするものである。
本発明のタイヤは、上記有機繊維-ゴム複合体、特には有機繊維コード-ゴム複合体を用いたことを特徴とするものである。
本発明によれば、レゾルシンを用いることなく所望の接着性を確保することができ、使用時における作業性を損なうこともない有機繊維用接着剤組成物、並びに、これを用いた有機繊維材料、ゴム物品、有機繊維-ゴム複合体およびタイヤを提供できる。
浸漬処理により、有機繊維コードを接着剤組成物で被覆する工程の一例を示す概略図である。 本発明の有機繊維-ゴム複合体の一例を示す概略断面図である。
以下に、本発明の有機繊維用接着剤組成物、有機繊維材料、ゴム物品、有機繊維-ゴム複合体およびタイヤを、その実施形態に基づき、詳細に例示説明する。これらの記載は、本発明の例示を目的とするものであり、本発明を何ら限定するものではない。
本明細書にて、範囲を表す場合、特に記載がない限り、その範囲の端も、その範囲のうちに含まれるものとする。
[有機繊維用接着剤組成物]
本発明の有機繊維用接着剤組成物は、(A)不飽和ジエンを有するゴムラテックス、および、(B)アセトアセチル基変性ポリビニルアルコールを含むことを必須とし、好適にはさらに、下記(C)~(E):
(C)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物、
(D)アミン化合物、および、
(E)ポリフェノール
からなる群から選択される1種以上の化合物を含む。
本発明の有機繊維用接着剤組成物によれば、上記構成としたことで、レゾルシンを用いることなく、良好な接着性を得ることができ、特には、有機繊維と被覆ゴム組成物との間の接着性を良好に確保することができる。本発明の有機繊維用接着剤組成物においては、(A)不飽和ジエンを有するゴムラテックスと、好適にはさらに、(C)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物、(D)アミン化合物および(E)ポリフェノールからなる群から選択される1種以上の化合物とが、接着性の向上に寄与する。また、本発明の有機繊維用接着剤組成物においては、(B)アセトアセチル基変性ポリビニルアルコールを用いたことで、接着剤液のせん断歪下での機械的安定性として測定されるゴムラテックスの粘着性を抑制することにより、特に、有機繊維を接着剤組成物で被覆して乾燥・熱硬化させる工程において、ロール等に対する接着剤組成物の付着を抑制することができ、作業性が良好となる。よって、本発明の有機繊維用接着剤組成物によれば、レゾルシンを用いることなく所望の接着性を得ることができるとともに、使用時における作業性についても良好に確保することが可能となった。また、本発明の有機繊維用接着剤組成物によれば、レゾルシンを用いる必要がないために、環境負荷を低減することができる。
よって、本発明の有機繊維用接着剤組成物は、レゾルシンを含まないものとすることができる。また、本発明の有機繊維用接着剤組成物は、さらに、ホルムアルデヒドを含まないことが好ましい。
本発明の有機繊維用接着剤組成物は、特に、後述する有機繊維コードに適用する際に、有用である。
<(A)不飽和ジエンを有するゴムラテックス>
本発明の有機繊維用接着剤組成物において、(A)不飽和ジエンを有するゴムラテックスとしては、(A-1)不飽和ジエンを有する合成ゴムラテックスと、(A-2)天然ゴムラテックスとが挙げられる。
本発明の有機繊維用接着剤組成物における(A-1)不飽和ジエンを有する合成ゴムラテックスとは、硫黄による加硫性を有する不飽和ジエンを含む合成ゴムラテックスを意味する。
本発明の一実施形態において、有機繊維用接着剤組成物に含まれる上記(A-1)不飽和ジエンを有する合成ゴムラテックスは、有機繊維用接着剤組成物による接着剤層とその被着体である被覆ゴム組成物とを接着させるための成分である。上記不飽和ジエンを有する合成ゴムラテックスは、上記被着体である被覆ゴム組成物に含まれるゴムポリマーと相溶し、さらに、不飽和ジエン部位が共加硫することによって、ゴム共加硫接着を形成する。その結果、(A-1)不飽和ジエンを有する合成ゴムラテックスを含有する本発明の有機繊維用接着剤組成物によれば、例えば、有機繊維コードと被覆ゴム組成物の間を、良好に接着することができる。
上記(A-1)不飽和ジエンを有する合成ゴムラテックスとしては、限定されるものではないが、スチレン-ブタジエン共重合体ゴムラテックス、ビニルピリジン-スチレン-ブタジエン共重合体ゴムラテックス、カルボキシル基変性スチレン-ブタジエン共重合体ゴムラテックス、ニトリルゴムラテックス、クロロプレンゴムラテックス等を挙げることができる。これらを1種単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
上記のうちでも、ビニルピリジン-スチレン-ブタジエン共重合体ゴムラテックスが好ましい。ビニルピリジン-スチレン-ブタジエン共重合体ゴムラテックスは、従来より接着剤組成物や、タイヤ等の物品においても汎用されてきたゴムラテックスであり、本発明の有機繊維用接着剤組成物においても、接着剤層と被着ゴムとの間に、良好な結合をもたらし、比較的柔軟でかつ可撓性を有するとの利点によって、上記接着剤層が分裂することなく、有機繊維コードの変形を伴うことも可能にするからである。
また、本発明の有機繊維用接着剤組成物中の固形分全体に占める、上記(A-1)不飽和ジエンを有する合成ゴムラテックスの含有量(固形分含有率)は、特に限定されるものではないが、25質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることがさらに好ましい。また、上記(A-1)不飽和ジエンを有する合成ゴムラテックスの含有量は、95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましく、85質量%以下であることがさらに好ましい。上記(A-1)不飽和ジエンを有する合成ゴムラテックスの含有量が、25質量%以上であると、被着ゴム組成物と接着剤組成物に含まれるゴムラテックスとのゴムポリマー同士の相容がより適度となり、有機繊維-ゴム複合体における被覆ゴムの付着状態がより優れるものとなるからである。一方、上記(A-1)不飽和ジエンを有する合成ゴムラテックスの含有量が、95質量%以下であると、上記接着剤組成物中、他成分として含まれる樹脂成分の量を、相対的に一定以上に確保することができ、その結果、接着剤層の耐凝集破壊抗力が十分確保され、接着剤層内での破壊が起こり難くなることで、十分な接着性を得ることができるものとなるからである。
上記(A-1)不飽和ジエンを有する合成ゴムラテックスは、例えば、水にロジン酸カリウム等の乳化剤を溶解させた後、これに、単量体の混合物を添加し、さらに、リン酸ナトリウム等の電解質および過酸化物類等を重合開始剤として加えて、重合を行い、その後、所定の転化率に達した後、電荷移動剤を加え、重合を停止させ、さらに、残留する単量体を除去することによって、得ることができる。また、重合の際には、連鎖移動剤を使用することも好ましい。
上記乳化剤としては、脂肪酸のアルカリ金属塩、ロジン酸のアルカリ金属塩、ホルムアルデヒド縮合ナフタレンスルホン酸ナトリウム、高級アルコールの硫酸エステル、アルキルベンゼンスルホン酸塩、脂肪族スルホン酸塩等のアニオン性界面活性剤、あるいは、ポリエチレングリコールのアルキルエステル型、アルキルエーテル型、アルキルフェニルエーテル型等のノニオン性界面活性剤のうちの1種あるいは2種以上が用いられる。
これらの乳化剤のうちでも、ロジン酸の金属塩、特には、ロジン酸のアルカリ金属塩を含むことが好ましく、これは単独、すなわち、1種類のみで用いることもでき、他の乳化剤と2種以上で組み合わせて併用することもできる。ロジン酸は、松脂等から得られる3環性ジテルペン類を主成分として、よく似た化学構造の樹脂酸の混合物である。これら樹脂酸は、3つの環構造、2つの二重結合、1つのカルボキシル基を持っており、二重結合部分は、不飽和カルボン酸あるいはレゾール型フェノール樹脂のメチロール末端と、カルボキシル基部分でエステル化するなどの反応性に富んだ官能基を持っている。
このような乳化剤の使用量は、ラテックス重合に用いられる全単量体の100質量部に対し、通常、0.1~8質量部であり、好ましくは1~5質量部である。
上記重合開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の水溶性開始剤、レドックス系開始剤、または、過酸化ベンゾイル等の油溶性開始剤が使用できる。中でも、過硫酸カリウムを用いることが好ましい。
上記連鎖移動剤としては、例えば、n-ヘキシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、n-テトラデシルメルカプタン、t-ヘキシルメルカプタン等の単官能アルキルメルカプタン類;1,10-デカンジチオール、エチレングリコールジチオグリコレート等の2官能メルカプタン類;1,5,10-カンジトリチオール、トリメチロールプロパントリスチオグリコレート等の3官能メルカプタン類;ペンタエリスリトールテトラキスチオグリコレート等の4官能メルカプタン類;ジスルフィド類;四塩化炭素、四臭化炭素、臭化エチレン等のハロゲン化合物;α-メチルスチレンダイマー、ターピノーレン、α-テルピネン、ジペンテン、アリルアルコール等が使用できる。これらは、単独または2種以上を組み合わせて用いられる。
これらの連鎖移動剤のうち、好ましくはアルキルメルカプタンが挙げられ、より好ましくはn-オクチルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタンが挙げられる。中でも、t-ドデシルメルカプタンを用いることが好ましい。
このような連鎖移動剤の使用量は、ラテックス重合に用いられる全単量体の100質量部に対し、通常、0.01~5質量部であり、好ましくは0.1~3質量部である。
なお、上記ラテックスには、上記各成分以外に、必要に応じて、ヒンダードフェノール類等の老化防止剤、シリコーン系、高級アルコール系、鉱物油系の消泡剤、反応停止剤、凍結防止剤等の汎用の添加剤を使用してもよい。
<<ビニルピリジン-スチレン-ブタジエン共重合体ゴムラテックス>>
上記ビニルピリジン-スチレン-ブタジエン共重合体ゴムラテックスは、ビニルピリジン系単量体と、スチレン系単量体と、共役ジエン系ブタジエン単量体とを、三元共重合させたものであるが、これら単量体に共重合可能な他の単量体を更に含ませてもよい。
ここで、上記ビニルピリジン系単量体は、ビニルピリジンと、該ビニルピリジン中の水素原子が置換基で置換された置換ビニルピリジンとを包含する。このようなビニルピリジン系単量体としては、2-ビニルピリジン、3-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、2-メチル-5-ビニルピリジン、5-エチル-2-ビニルピリジン等が挙げられ、これらの中でも、2-ビニルピリジンが好ましい。これらビニルピリジン系単量体は、1種単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
上記スチレン系単量体は、スチレンと、該スチレン中の水素原子が置換基で置換された置換スチレンとを包含する。上記スチレン系単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、2,4-ジイノプロピルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、4-t-ブチルスチレン、ヒドロキシメチルスチレン等が挙げられ、これらの中でも、スチレンが好ましい。これらスチレン系単量体は、1種単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
上記共役ジエン系ブタジエン単量体としては、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン等の脂肪族共役ブタジエン化合物が挙げられ、これらの中でも、1,3-ブタジエンが好ましい。これら共役ジエン系ブタジエン単量体は、1種単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
上記ビニルピリジン-スチレン-ブタジエン共重合体ゴムラテックスの合成には、公知の方法を利用することができ、具体的には、例えば、本発明者らの検討による特開平9-78045号公報に記載の方法を利用することができる。そして、それらの方法を利用して、ビニルピリジン-スチレン-ブタジエン共重合体ゴムラテックスの同一粒子内で、組成比が均一あるいは異なる共重合体等、様々な組成や粒子内構造を持たせることができる。
上記ビニルピリジン-スチレン-ブタジエン共重合体ゴムラテックスについて、同一粒子内で均一な組成の単量体混合比を有する共重合体の市販品としては、日本ゼオン(株)製のNipol 2518、日本エイアンドエル(株)製のピラテックス等が挙げられる。また、同一粒子内で異なる組成の単量体混合比を有する共重合体の市製品としては、JSR(株)製のV0658等が挙げられる。これらはいずれも、本発明の有機繊維用接着剤組成物の(A-1)不飽和ジエンを有する合成ゴムラテックスとして、使用することができる。
上記ビニルピリジン-スチレン-ブタジエン共重合体ゴムラテックスでは、ビニルピリジン:スチレン:ブタジエンの単量体比は、特に限定されるものではないが、ビニルピリジン-スチレン-ブタジエン共重合体粒子を構成する共重合体のうちに、ビニルピリジン5~20質量%、スチレン10~40質量%、ブタジエン45~75質量%からなる単量体混合物を重合した共重合体を含むことが好ましい。ビニルピリジンが、5質量%以上であれば、ゴム成分内で加硫促進効果のあるピリジン部位が適量となり、硫黄による架橋度が増すと接着剤層全体の接着力がより向上し、20質量%以下であれば、ゴムの架橋度が過加硫になることもなく、硬い接着剤とすることができるからである。また、スチレンが、10質量%以上であれば、ラテックス粒子および接着剤層の強度を十分なものとし、接着力がより向上し、40質量%以下であれば、接着剤層と被着ゴムとの共加硫性を適度にしながら、やはり接着力を確保することにつながるからである。さらに、ブタジエンが、45質量%以上であれば、より十分な架橋を形成することが可能となり、75質量%以下であれば、架橋を適度として、体積およびモジュラスの変化による耐久性を良好に確保することができるからである。ビニルピリジン:スチレン:ブタジエンの単量体混合物の組成比は、好適には例えば、15:15:70とすることができる。
本発明においては、(A)不飽和ジエンを有するゴムラテックスとして、上記(A-1)不飽和ジエンを有する合成ゴムラテックス以外に、(A-2)天然ゴムラテックスを用いることができる。天然ゴムラテックスとしては、特に限定されず、例えば、フィールドラテックス、アンモニア処理ラテックス、遠心分離濃縮ラテックス、界面活性剤や酵素で処理した脱タンパク質ラテックス、および、これらを組み合せたもの等を用いることができる。中でも、フィールドラテックスを用いることが好ましい。
なお、本発明の接着剤組成物中の固形分全体に占める(A-2)天然ゴムラテックスの含有量(固形分含有率)は、特に限定されるものではないが、25質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることがさらに好ましい。また、(A-2)天然ゴムラテックスの含有量は、95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましく、85質量%以下であることがさらに好ましい。
<(B)アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール>
上記(B)アセトアセチル基変性ポリビニルアルコールは、ポリビニルアルコール系樹脂とジケテンとを公知の方法で反応させる等により得られる。例えば、製造方法は特に限定されるものではないが、ポリビニルアルコール系樹脂を酢酸などの溶媒中に分散した後にジケテンを添加する方法、ポリビニルアルコール系樹脂をジメチルホルムアミドまたはジオキサンなどの溶媒にあらかじめ溶解した後にジケテンを添加する方法、あるいは、ポリビニルアルコール系樹脂にジケテンガスまたは液状ジケテンを接触させる方法等により得ることができる。
本発明において、(B)アセトアセチル基変性ポリビニルアルコールは、通常、アセトアセチル基変性度が0.05モル%以上のものを用いることができる。(B)アセトアセチル基変性ポリビニルアルコールのアセトアセチル基変性度は、好ましくは0.1~40モル%であり、より好ましくは1~20モル%であり、最も好ましくは2~15モル%である。上記アセトアセチル基の変性度が0.05モル%以上であると、接着剤層の耐水性を十分なものとすることができる。
また、(B)アセトアセチル基変性ポリビニルアルコールで用いられる、ポリビニルアルコール系樹脂は、ポリ酢酸ビニル系樹脂をケン化することによって得られる。ポリ酢酸ビニル系樹脂としては、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニル以外に、酢酸ビニルとそれに共重合可能な他の単量体との共重合体などが挙げられ、酢酸ビニルに共重合される他の単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸類、不飽和スルホン酸類、オレフィン類、ビニルエーテル類、アンモニウム基を有するアクリルアミド類などが挙げられる。また、このポリビニルアルコール系樹脂は、さらに変性されていてもよく、例えば、アルデヒド類で変性されたポリビニル重合体やポリビニルアセタールなども使用することができる。
(B)アセトアセチル基変性ポリビニルアルコールのケン化度は、(B)アセトアセチル基変性ポリビニルアルコールが水溶性であれば、特に制限されないが、含有するポリビニルアルコール系樹脂のケン化度に応じ、80モル%以上であることが好ましく、85~100モル%であることがより好ましく、特に好ましくは98モル%以上である。(B)アセトアセチル基変性ポリビニルアルコールのケン化度が80モル%以上であると、十分な水溶性が発現されるために、接着剤組成物液の作業性の低下する問題の発生を防止できる。
(B)アセトアセチル基変性ポリビニルアルコールの重合度は、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコールが水で可溶であれば特に制限されないが、100~10,000の範囲内にあることが好ましく、より好ましくは200~5,000である。(B)アセトアセチル基変性ポリビニルアルコールの分子量が10,000以下であると、接着剤組成物液の粘度が高くなって作業性が低下する問題の発生を、抑制することができる。
(B)アセトアセチル基変性ポリビニルアルコールの市販品としては、特に限定されないが、例えば、三菱ケミカル株式会社製のゴーセネックスZシリーズが挙げられ、Z-100、Z-200、Z-210、Z-220、Z-300、Z-320およびZ-410などが挙げられる。
なお、(B)アセトアセチル基変性ポリビニルアルコールは、水溶下でアミン、ヒドラジド、アルデヒド、金属塩等の各種材料との縮合剤や、熱処理による自己架橋剤として、従来より知られており、酢酸ビニル系エマルションの乳化剤、耐水強度を必要とする塗工紙、非塗工紙等のコーティングの縮合剤への応用、接着剤、バインダーなどの耐水性を付与する応用等で、従来より幅広く用いられている。これまでに(B)アセトアセチル基変性ポリビニルアルコールを接着剤組成物として樹脂架橋に提供する検討を行った例はあるが、ゴムラテックス等のゴム成分との混合により、ゴムと樹脂とを接着する接着剤組成物として検討されている例は、これまでに殆ど知られていない。
従来、レゾルシンとホルムアルデヒドとを含有する接着剤組成物では、これらレゾルシンとホルムアルデヒドが、水溶媒に分散するゴムラテックス粒子間でレゾール型レゾルシン・ホルムアルデヒド縮合物を形成するとともに、接着剤組成物中のゴムラテックスの表面で、乳化剤として使用されるロジン酸塩等にレゾール型レゾルシン・ホルムアルデヒド縮合物のメチロール基が付加し共縮合して、これにより形成されたフェノール系樹脂の化学的な架橋による被覆によって、ゴムラテックスの粘着性が抑制されていた。
一方、本発明の有機繊維用接着剤組成物においては、(B)アセトアセチル基変性ポリビニルアルコールが、その乳化剤としての機能により、不飽和ジエンを有する合成ゴムラテックスの表面を被覆して、不飽和ジエンを有するゴムラテックスと複合体となり、そしてこの被覆によって、不飽和ジエンを有するゴムラテックスの粘着性を抑制する効果を得ることができる。
この結果、(B)アセトアセチル基変性ポリビニルアルコールを含有する本発明の有機繊維用接着剤組成物は、接着剤液のせん断歪下での機械的安定性として測定されるゴムラテックスの粘着性を抑制することによって、有機繊維コードを有機繊維用接着剤組成物で被覆して乾燥・熱硬化させる工程において、ロール等に対する該有機繊維用接着剤組成物の付着を抑制することが可能となり、作業性が良好なものとなる。
また、本発明の有機繊維用接着剤組成物を有機繊維コードの表面に被覆して乾燥・熱硬化させる工程において、(B)アセトアセチル基変性ポリビニルアルコールは、熱処理における自己架橋剤による化学架橋とともに、さらに本発明の有機繊維用接着剤組成物に他の成分が含まれる場合には、それらの成分と化学架橋することにより、有機繊維と被覆ゴム組成物との接着性をより良好なものとすることができる。
例えば、(B)アセトアセチル基変性ポリビニルアルコールのポリビニルアルコールに由来する水酸基は、本発明の有機繊維用接着剤組成物が(C)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物を含む場合には、この(C)成分の(熱解離性ブロックド)イソシアネート基のブロック剤が解離したイソシアネート基(NCO基)の成分と化学架橋することにより、有機繊維と被覆ゴム組成物との接着性をより良好なものとすることができる。
また、例えば、(B)アセトアセチル基変性ポリビニルアルコールのアセトアセチル基は、(D)アミン化合物の成分と化学架橋することによっても、有機繊維と被覆ゴム組成物との接着性をより良好なものとすることができる。
本発明に使用される(B)アセトアセチル基変性ポリビニルアルコールは、粉末または水溶液の形態で入手できるが、本発明の有機繊維用接着剤組成物への使用においては、水溶液として使用することが好ましい。
本発明の有機繊維用接着剤組成物の固形分全体に占める、上記(B)アセトアセチル基変性ポリビニルアルコールの含有量(固形分含有率)は、特に限定されるものではないが、0.05質量%以上であることが好ましく、25質量%以下であることが好ましい。上記(B)アセトアセチル基変性ポリビニルアルコールの含有量は、より好ましくは、0.2質量%以上で15質量%以下であり、さらに好ましくは、0.4質量%以上で12質量%以下である。
上記(B)アセトアセチル基変性ポリビニルアルコールの含有量が、0.05質量%以上であると、その乳化剤としての機能により、不飽和ジエンを有する合成ゴムラテックスの被覆によって、ゴムラテックスの粘着性を抑制する効果を得ることができる。また、上記(B)アセトアセチル基変性ポリビニルアルコールの含有量が、0.2質量%以上であると、本発明の有機繊維用接着剤組成物の架橋により接着層の耐破壊抗力が高くなり、有機繊維と被覆ゴム組成物との接着性をより良好なものとすることができる利点がある。さらに、上記(B)アセトアセチル基変性ポリビニルアルコールの含有量が、25質量%以下であると、本発明の有機繊維用接着剤組成物液中に含まれる(B)アセトアセチル基変性ポリビニルアルコールの量が多くなり過ぎず、接着剤組成物の液粘度が高くなることに起因する作業性の低下が抑制できる。
<(C),(D),および(E)>
本発明の有機繊維用接着剤組成物は、好適にはさらに、(C)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物、(D)アミン化合物、および、(E)ポリフェノールからなる群から選択される1種以上の化合物を含む。
本発明の有機繊維用接着剤組成物において、(C)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物は、架橋剤として機能して、例えば、有機繊維と被覆ゴム組成物との接着性の向上に寄与する。
また、(D)アミン化合物は、本発明の有機繊維用接着剤組成物に含まれる(B)アセトアセチル基変性ポリビニルアルコールのアセトアセチル基と化学架橋することによる相互作用等で、有機繊維と被覆ゴム組成物との接着性を向上させることができる。
さらに、(E)ポリフェノールは、有機繊維用接着剤組成物と有機繊維表面との親和性を向上させる機能を有し、その結果として、有機繊維と被覆ゴム組成物との接着性を向上させることができる。
よって、(C)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物、(D)アミン化合物、および、(E)ポリフェノールは、いずれも接着性の向上、例えば、有機繊維と被覆ゴム組成物との接着性の向上に寄与する。
<(C)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物>
上記(C)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物の(熱解離性ブロックド)イソシアネート基とは、熱解離性ブロックドイソシアネート基またはイソシアネート基を意味する。
具体的には、上記(熱解離性ブロックド)イソシアネート基とは、(イ)イソシアネート基が当該イソシアネート基に対する熱解離性ブロック剤と反応して生じた熱解離性ブロックドイソシアネート基、(ロ)イソシアネート基が当該イソシアネート基に対する熱解離性ブロック剤と未反応であるイソシアネート基、(ハ)熱解離性ブロックドイソシアネート基から熱解離性ブロック剤が解離して生じたイソシアネート基、および、(ニ)イソシアネート基、を含む。
上記(C)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物の水性とは、水溶性または水分散性であることを示す。また、上記水溶性とは、必ずしも完全な水溶性を意味するのではなく、部分的に水溶性であること、または、接着剤組成物の水溶液中で相分離をしないことをも意味する。
上記(C)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物は、(C-1)芳香環を有するポリイソシアネートと活性水素基を1個以上有するブロック剤との付加生成物からなる水分散性(熱解離性ブロックド)イソシアネート化合物(以下、単に「(C-1)成分」とも称する)であることが好ましい。この場合、有機繊維用接着剤組成物を有機繊維に用いた際に、有機繊維と被覆ゴム組成物との接着性が、より良好となる。
ここで、上記(C-1)成分に関して、活性水素基とは、好適な条件下に置いたとき、活性水素(原子状水素(水素ラジカル)および水素化物イオン(ヒドリド))となる水素を含む基のことを意味する。上記活性水素基の例としては、アミノ基、水酸基が挙げられる。
上記熱解離性ブロック剤は、イソシアネート基を任意の化学反応から保護しつつ、必要に応じて熱処理をすることによりブロック剤を解離させて、イソシアネート基を復元することを可能とするブロック剤化合物であれば、特に限定されるものではない。具体的には、図1で示される工程で、接着処理液を付着・乾燥させた後における、熱硬化を行う加熱処理の温度において、熱解離性ブロック剤で封鎖されて反応性が抑えられたイソシアネート基の架橋反応性が回復できるような熱解離温度であることが好ましい。
ブロック剤としては、アルコール、フェノール、活性メチレン、オキシム、ラクタム、アミン等が挙げられ、特に限定されず、具体的には、ε-カプロラクタム、δ-バレロラクタム、γ-ブチロラクタム等のラクタム類;フェノール、クレゾール、エチルフェノール、ブチルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノール、ジノニルフェノール、チオフェノール、クロルフェノール、アミルフェノール等のフェノール類;メチルエチルケトキシム、アセトキシム、アセトフェノンオキシム、ベンゾフェノンオキシム、シクロヘキサノンオキシム等のオキシム類;メタノール、エタノール、ブタノール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、シクロヘキサノール等のアルコール類;ジメチルマロネート、ジエチルマロネート等のマロン酸ジアルキルエステル類;アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセチルアセトン等の活性メチレン類、ブチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン等のメルカプタン類;アセトアニリド、酢酸アミド等のアミド類;コハク酸イミド、フタル酸イミド、マレイン酸イミド等のイミド類;重亜硫酸ソーダ等の亜硫酸塩類;メチルセロソルブ、エチルセロソルブおよびブチルセロソルブ等のセロソルブ類;ピラゾール、3,5-ジメチルピラゾール、3-メチルピラゾール、4-ベンジル-3,5-ジメチルピラゾール、4-ニトロ-3,5-ジメチルピラゾール、4-ブロモ-3,5-ジメチルピラゾールおよび3-メチル-5-フェニルピラゾール等のピラゾール類;ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジ-n-プロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジシクロヘキシルアミン、ジフェニルアミン、キシリジン、N,N-ジエチルヒドロキシアミン、N,N’-ジフェニルホルムアミジン、2-ヒドロキシピリジン、3-ヒドロキシピリジンおよび2-メルカプトピリジン等のアミン類:および、1,2,4-トリアゾール等のトリアゾール類などが挙げられる。これらの2種以上の混合物等を使用してもよい。
これらのブロック剤のうちでも、加熱での熱解離による有機繊維用接着剤組成物の熱硬化が安定して得られ易いフェノール、ε-カプロラクタムおよびケトオキシムを好適に用いることができる。
また、上記(C-1)成分は、具体的には、芳香族ポリイソシアネート類または芳香脂肪族ポリイソシアネート類を含み、芳香族イソシアネート類としては、m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート等のフェニレンジイソシアネート類;2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート(TDI)等のトリレンジイソシアネート類;2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ジアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート等のジフェニルメタンジイソシアネート類;ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(ポリメリックMDI);m-またはp-イソシアナトフェニルスルホニルイソシアネート類;4,4’-ジイソシアナトビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアナトビフェニル等のジイソシアナトビフェニル類;1,5-ナフチレンジイソシアネート等のナフタレンジイソシアネート類;等が挙げられる。芳香脂肪族ポリイソシアネート類としては、m-キシリレンジイソシアネート、p-キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等のキシリレンジイソシアネート類;ジエチルベンゼンジイソシアネート;および、α,α,α,α-テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI);等が挙げられる。また、上記ポリイソシアネートのカルボジイミド、ポリオールおよびアロファネート等の変性物等が挙げられる。
これらの芳香環を分子内に含むポリイソシアネートのうち、有機繊維用接着剤組成物のコード集束性の観点から、芳香族イソシアネートが好ましく、より好ましくは、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)あるいはポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(ポリメリックMDI)であり、特に好ましくは、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)類である。(C-1)成分として、メチレンジフェニルイソシアネート類のブロック体、中でも、メチレンジフェニルジイソシアネート(ジフェニルメタンジイソシアネート)のブロック体を用いることで、有機繊維用接着剤組成物を有機繊維に用いた際に、有機繊維と被覆ゴム組成物の接着性が、より良好となる。
また、上記(C)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物は、(C-2)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性ウレタン化合物(以下、単に「(C-2)成分」とも称する)であることが、より好ましい。この場合も、有機繊維用接着剤組成物を有機繊維に用いた際に、有機繊維と被覆ゴム組成物との接着性が、より良好となる。上記(C-2)成分の詳細については、説明の便宜上、後述する。
本発明の有機繊維用接着剤組成物の固形分全体に占める、上記(C)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物の含有量(固形分含有率)は、特に限定はされるものではないが、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることがさらに好ましい。また、上記(C)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物の含有量は、75質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、45質量%以下であることがさらに好ましい。上記(C)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物の含有量が、5質量%以上であれば、有機繊維と被覆ゴム組成物の接着性がより良好なものになるからである。また、上記(C)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物の含有量が、75質量%以下であれば、有機繊維用接着剤組成物に配合するゴムラテックス等の他の成分の量を、相対して一定以上確保することが可能となり、その結果、被着ゴムとの接着性がより良好となるからである。
ここで、従来の、レゾルシンとホルムアルデヒドを含有する有機繊維用接着剤組成物では、これらレゾルシンとホルムアルデヒドが共縮合したフェノール系樹脂(海に例えられる)中にゴムラテックス粒子(島に例えられる)が分散した海島構造が形成され、これにより、有機繊維表面を被覆するフェノール系樹脂と有機繊維との間の良好な接着性を得ていた。
一方、本発明の有機繊維用接着剤組成物の一好適実施態様においては、上記レゾルシンとホルムアルデヒドが共縮合したフェノール系樹脂に代わり、上記(C)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物が、以下の2つの機能効果(a),(b)をもって、接着促進剤として作用する。これらの結果、上記有機繊維用接着剤組成物においては、上記(C)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物が、有機繊維と被覆ゴム組成物の接着性が良好という特徴に寄与する。
(a)有機繊維と有機繊維用接着剤組成物による接着剤層との界面近傍の位置に、上記水性化合物が分布して、上記有機繊維と上記接着剤層との接着を促進する機能効果。
(b)有機繊維用接着剤組成物による接着剤層内で、上記(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する化合物によるイソシアネート基による架橋で3次元ネットワーク構造が形成され、上記接着剤層を補強する機能効果。
本発明の有機繊維用接着剤組成物の一実施形態において、上記(C)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物の上記2つの接着促進剤としての機能効果(a),(b)の原理の一例について、以下、詳細に説明する。
<<(a)の接着促進剤としての機能効果について>>
有機繊維として汎用されるポリエチレンテレフタレート等のポリエステルの合成樹脂素材は、扁平線状の高分子鎖からなる。そして、該高分子鎖の表面または該高分子鎖の間隙は、該高分子鎖に含まれる芳香族等に由来するπ電子的雰囲気を有している。さらに、ポリエステルは、6,6-ナイロンに比べて、表面の水酸基が特に少ない。
そこで、従来より、ポリエステルからなる有機繊維に対して使用される有機繊維用接着剤組成物は、十分な接着力を得るために、上記有機繊維用接着剤組成物が有機繊維の高分子鎖の間隙へ分散すること、および、上記有機繊維用接着剤組成物による接着剤層が上記有機繊維の高分子鎖の表面に密着すること、を目的として、芳香族性π電子を有する芳香環を側面に有する平面的な構造(有機繊維に拡散しやすい部分)の分子を、接着促進剤として含有している。
<<(b)の接着促進剤としての機能効果について>>
上記(C-1)成分を含む接着剤層では、前述のとおり、有機繊維用接着剤組成物に含まれる(B)アセトアセチル基変性ポリビニルアルコールの水酸基と、熱処理でブロック剤が解離したイソシアネートとのイソシアネート架橋による共有結合を形成することで、有機繊維用接着剤組成物による接着を強化することができる。
なお、上記(C-1)成分の粒子径は、0.01~0.50μmであることが好ましい。上記(C-1)成分の粒径が0.50μm以下の場合、粒径が小さいほど、該(C-1)成分が液中で沈降し難く、接着剤層での分散が不均一になりにくいためである。
一方、(C-2)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性ウレタン化合物である場合、水溶性が高いために、接着剤組成物液中の成分沈降が発生し難く、静置保存を行っても成分が不均一になることなどが少ないので、経時等での接着が安定し、好ましい。
<<熱解離性ブロック剤、水性ウレタン化合物>>
上記(C-2)成分の熱解離性ブロック剤は、イソシアネート基を任意の化学反応から保護しつつ、必要に応じて熱処理をすることによりブロック剤を解離させて、イソシアネート基を復元することが可能であるようなブロック剤化合物であれば、特に限定されるものではない。上記熱解離性ブロック剤の具体例としては、上記(C-1)成分について前述したブロック剤と同じ化合物を用いることができ、好ましくは、フェノール、チオフェノール、クロルフェノール、クレゾール、レゾルシノール、p-sec-ブチルフェノール、p-tert-ブチルフェノール、p-sec-アミルフェノール、p-オクチルフェノール、p-ノニルフェノール等のフェノール類;イソプロピルアルコール、tert-ブチルアルコール等の第2級または第3級のアルコール;ジフェニルアミン、キシリジン等の芳香族第2級アミン類;フタル酸イミド類;δ-バレロラクタム等のラクタム類;ε-カプロラクタム等のカプロラクタム類;ジエチルマロネート、ジメチルマロネートなどのマロン酸ジアルキルエステル、アセチルアセトン、アセト酢酸アルキルエステル等の活性メチレン化合物;アセトキシム、メチルエチルケトキシム、シクロヘキサノンオキシム等のオキシム類;3-ヒドロキシピリジン、1,2-ピラゾール、3,5-ジメチルピラゾール、1,2,4-トリアゾール、ジイソプロピルアミン、N,N’-ジフェニルホルムアミジン等の塩基性窒素化合物および酸性亜硫酸ソーダ等が挙げられる。
これらのブロック剤の中でも、加熱での熱解離による有機繊維用接着剤組成物の熱硬化が安定して得られ易いフェノール、ε-カプロラクタムおよびケトオキシムを好適に用いることができる。
ここで、上記水性ウレタン化合物の水性とは、水溶性または水分散性であることを意味する。また、上記水溶性とは、必ずしも完全な水溶性を意味するのではなく、部分的に水溶性であること、または、有機繊維用接着剤組成物の水溶液中で相分離をしないことをも意味する。
上記水性ウレタン化合物のウレタン化合物は、アミンの窒素とカルボニル基の炭素との間で形成された共有結合を有する化合物であり、下記一般式(2)で表される化合物を意味する。
Figure 2023026208000002
上記式(2)中、R、R’は、炭化水素基を表す。
上記(C-2)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性ウレタン化合物の分子量は、水性を保てるものであれば特に限定されるものではなく、好ましくは数平均分子量1,500~100,000であり、特に好ましくは数平均分子量9,000以下である。
上記(C-2)成分を合成する方法は、前述の通り、特に限定されるものではなく、特開昭63-51474号公報に記載の方法等、公知の方法とすることができる。
<<(C-2)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性ウレタン化合物の好ましい実施態様>>
上記(C-2)成分の好ましい実施態様は、(α)3個以上、5個以下の官能基を有する数平均分子量が2,000以下の有機ポリイソシアネート化合物、(β)2個以上、4個以下の活性水素基を有する数平均分子量が5,000以下の化合物、(γ)熱解離性ブロック剤、および、(δ)少なくとも1つの活性水素基と、アニオン性、カチオン性または非イオン性である少なくとも1つの親水基と、を有する化合物を、所定の混合比率になるように混合して、反応させた後の反応生成物であって、かつ、イソシアネート基(-NCO)の分子量を42としたときの、上記反応生成物中における(熱解離性ブロックド)イソシアネート基の構成比率が、0.5質量%以上、11質量%以下であることを特徴とする。この場合、接着剤組成物を有機繊維に用いた際に、有機繊維と被覆ゴム組成物の接着性が、より良好となる。このような(C-2)成分は、(熱解離性ブロックド)イソシアネート基からなる部位と、親水性基を有する親水性の部位を併せ持つために、ウレタン化合物の自己水溶性が高まる利点を有するからである。
(α)、(β)、(γ)および(δ)の総和量に対するそれぞれの混合比率は、(α)については、40質量%以上、85質量%以下、(β)については、5質量%以上、35質量%以下、(γ)については、5質量%以上、35質量%以下、また、(δ)については、5質量%以上、35質量%以下である。
上記(α)3個以上、5個以下の官能基を有する数平均分子量2,000以下の有機ポリイソシアネート化合物は、特に限定されるものではないが、芳香族ポリイソシアネート化合物およびそのオリゴマーであることが好ましく、その他の脂肪族、脂環式、複素環式のポリイソシアネート化合物およびそのオリゴマーであってもよい。このような(α)3個以上、5個以下の官能基を有する数平均分子量2,000以下の有機ポリイソシアネート化合物を反応させた後の反応生成物である(C-2)成分は、有機繊維の高分子鎖の間隙に、より分散しやすくなるからである。
具体例として、脂肪族ポリイソシアネート化合物としては、エチレンジイソシアネート、1,4-テトラメチレンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、1,12-ドデカンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、リジンジイソシアネート等が挙げられ、脂環式ポリイソシアネート化合物としては、シクロブタン-1,3-ジイソシアネート、シクロヘキサン-1,3-ジイソシアネート、シクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチルシクロヘキサン-2,4-ジイソシアネート、メチルシクロヘキサン-2,6-ジイソシアネート、1,3-(イソシアナトメチル)シクロヘキサン等が挙げられ、複素環式ポリイソシアネート化合物としては、1,3,5-トリス(2’-ヒドロキシエチル)イソシアヌル酸のトリレンジイソシアネート付加物等が挙げられ、芳香族ポリイソシアネート化合物としては、m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、m-キシリレンジイソシアネート、p-キシリレンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、m-テトラメチルキシリレンジイソシアネート、p-テトラメチルキシリレンジイソシアネート、メチントリス(4-フェニルイソシアネート)、トリス(4-イソシアナトフェニル)メタン、チオリン酸トリス(4-イソシアナトフェニルエステル)、3-イソプロペニル-α’,α’-ジメチルベンジルイソシアネートおよびこれらのオリゴマー混合物、または、これらのポリイソシアネート化合物のカルボジイミド、ポリオールおよびアロファネート等の変性物等が挙げられる。
これらの中でも、芳香族ポリイソシアネート化合物が好ましく、特に好ましくは、メチレンジフェニルポリイソシアネート、ポリフェニレンポリメチレンポリイソシアネート等が挙げられる。特には、数平均分子量2,000以下のポリフェニレンポリメチレンポリイソシアネートが好ましく、数平均分子量1,000以下のポリフェニレンポリメチレンポリイソシアネートが特に好ましい。このような(α)3個以上、5個以下の官能基を有する数平均分子量2,000以下の有機ポリイソシアネート化合物を反応させた後の反応生成物である(C-2)成分は、有機繊維の高分子鎖の間隙に、より分散しやすくなるからである。
上記(β)2個以上、4個以下の活性水素基を有する数平均分子量5,000以下の化合物としては、特に限定されるものではないが、具体的には、下記(i)から(vii)よりなる群から選ばれる化合物等が挙げられる。
(i)2個以上4個以下の水酸基を有する数平均分子量5,000以下の多価アルコール類、
(ii)2個以上4個以下の第一級および/または第二級アミノ基を有する数平均分子量5,000以下の多価アミン類、
(iii)2個以上4個以下の第一級および/または第二級アミノ基と水酸基を有する数平均分子量5,000以下のアミノアルコール類、
(iv)2個以上4個以下の水酸基を有する数平均分子量5,000以下のポリエステルポリオール類、
(v)2個以上4個以下の水酸基を有する数平均分子量5,000以下のポリブタジエンポリオール類およびそれらと他のビニルモノマーとの共重合体、
(vi)2個以上4個以下の水酸基を有する数平均分子量5,000以下のポリクロロプレンポリオール類およびそれらと他のビニルモノマーとの共重合体、
(vii)2個以上4個以下の水酸基を有する数平均分子量5,000以下のポリエーテルポリオール類である、
多価アミン、多価フェノールおよびアミノアルコール類のC2~C4のアルキレンオキサイド重付加物、C3以上の多価アルコール類のC2~C4のアルキレンオキサイド重付加物、C2~C4のアルキレンオキサイド共重合物、または、C3~C4のアルキレンオキサイド重合物。
ここで、上記(C-2)成分に関して、活性水素基とは、好適な条件下に置いたとき、活性水素(原子状水素(水素ラジカル)および水素化物イオン(ヒドリド))となる水素を含む基を意味する。上記活性水素基の例としては、アミノ基、水酸基が挙げられる。
上記(δ)少なくとも1つの活性水素基と、アニオン性、カチオン性または非イオン性の少なくとも1つの親水基と、を有する化合物の、少なくとも1つの活性水素基とアニオン性の少なくとも1つの親水基とを有する化合物としては、特に限定されるものではないが、タウリン、N-メチルタウリン、N-ブチルタウリン、スルファニル酸等のアミノスルホン酸類、グリシン、アラニン等のアミノカルボン酸類等が挙げられる。
上記(α)、(β)、(γ)および(δ)を混合して反応させることにより、上記(C-2)成分を合成する方法は、特に限定されるものではないが、特開昭63-51474号公報に記載の方法等、公知の方法とすることができる。
<<(C-2)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性ウレタン化合物の別の好ましい実施態様>>
上記(C-2)成分の別の好ましい実施態様は、(α)3個以上、5個以下の官能基を有する数平均分子量2,000以下の有機ポリイソシアネート化合物、(β)2個以上、4個以下の活性水素基を有する数平均分子量5,000以下の化合物、(γ)熱解離性ブロック剤、(δ)少なくとも1つの活性水素基と、アニオン性、カチオン性または非イオン性の少なくとも1つの親水基と、を有する化合物、および、(ε)活性水素基を含む、(α)、(β)、(γ)および(δ)以外の化合物とを、所定の混合比率となるように混合して、反応させた後の反応生成物であって、かつ、イソシアネート基(-NCO)の分子量を42としたときの、上記反応生成物中における(熱解離性ブロックド)イソシアネート基の構成比率が、0.5質量%以上、11質量%以下であることを特徴とする。このような(C-2)成分は、(熱解離性ブロックド)イソシアネート基からなる部位と、親水性基を有する親水性の部位を併せ持つために、ウレタン化合物の自己水溶性が高まる利点を有するからである。
(α)、(β)、(γ)、(δ)および(ε)の総和量に対するそれぞれの混合比率は、(α)については、40質量%以上、85質量%未満、(β)については、5質量%以上、35質量%以下、(γ)については、5質量%以上、35質量%以下、(δ)については、5質量%以上、35質量%以下、(ε)については、0質量%より多く、45質量%以下である。
ここで、(α)3個以上、5個以下の官能基を有する数平均分子量2,000以下の有機ポリイソシアネート化合物、(β)2個以上、4個以下の活性水素基を有する数平均分子量5,000以下の化合物、(γ)熱解離性ブロック剤、および、(δ)少なくとも1つの活性水素基と、アニオン性、カチオン性または非イオン性の少なくとも1つの親水基と、を有する化合物は、混合比率以外、前述の<<(C-2)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性ウレタン化合物の好ましい実施態様>>に記載した通りである。
上記(α)、(β)、(γ)、(δ)および(ε)を混合して反応させることにより、上記(C-2)成分を合成する方法は、特に限定されるものではないが、特開昭63-51474公報に記載の方法等、公知の方法とすることができる。
<<(C-2)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性ウレタン化合物のさらに別の好ましい実施態様>>
上記(C-2)成分のさらに別の好ましい実施態様は、下記一般式(1):
Figure 2023026208000003
[式(1)中、
Aは、有機ポリイソシアネート化合物の、活性水素基が脱離した残基、
Xは、2個以上、4個以下の水酸基を有する、数平均分子量が5,000以下のポリオール化合物の、活性水素基が脱離した残基、
Yは、熱解離性ブロック剤の、活性水素基が脱離した残基、
Zは、少なくとも1個の活性水素基と、少なくとも1個の塩を生成する基または親水性ポリエーテル鎖とを、有する化合物の、活性水素基が脱離した残基、
nは、2以上4以下の整数、
p+mは、2以上4以下の整数(m≧0.25)
を表す]で表されることを特徴とする。この場合も、接着剤組成物を有機繊維に用いた際に、有機繊維と被覆ゴム組成物の接着性が、より良好となる。上記(C-2)成分は、(熱解離性ブロックド)イソシアネート基からなる部位と、親水性基を有する親水性の部位を併せ持つために、ウレタン化合物の自己水溶性が高まる利点を有するからである。
ここで、一般式(1)中のAである、有機ポリイソシアネート化合物の活性水素基が脱離した残基の、有機ポリイソシアネート化合物は、芳香族環を含むことが好ましい。(C-2)成分が有機繊維の高分子鎖の間隙に、より分散しやすくなるからである。
特に限定されるものではないが、具体的には例えば、メチレンジフェニルポリイソシアネート、ポリフェニレンポリメチレンポリイソシアネート等が挙げられる。数平均分子量6,000以下のポリフェニレンポリメチレンポリイソシアネートが好ましく、数平均分子量4,000以下であるポリフェニレンポリメチレンポリイソシアネートが特に好ましい。
一般式(1)中のXである、2個以上、4個以下の水酸基を有する数平均分子量が5,000以下のポリオール化合物の活性水素基が脱離した残基の、2個以上、4個以下の水酸基を有する数平均分子量が5,000以下のポリオール化合物としては、特に限定されるものではないが、具体的には、下記(i)から(vi)よりなる群から選ばれる化合物等が挙げられる。
(i)2個以上4個以下の水酸基を有する、数平均分子量5,000以下の多価アルコール類、
(ii)2個以上4個以下の第一級および/または第二級アミノ基と水酸基を有する、数平均分子量5,000以下のアミノアルコール類、
(iii)2個以上4個以下の水酸基を有する、数平均分子量5,000以下のポリエステルポリオール類、
(iv)2個以上4個以下の水酸基を有する、数平均分子量5,000以下の、ポリブタジエンポリオール類およびそれらと他のビニルモノマーとの共重合体、
(v)2個以上4個以下の水酸基を有する、数平均分子量5,000以下の、ポリクロロプレンポリオール類およびそれらと他のビニルモノマーとの共重合体、
(vi)2個以上4個以下の水酸基を有する、数平均分子量5,000以下のポリエーテルポリオール類である、
多価アミン、多価フェノールおよびアミノアルコール類のC2~C4のアルキレンオキサイド重付加物、C3以上の多価アルコール類のC2~C4のアルキレンオキサイド重付加物、C2~C4のアルキレンオキサイド共重合物、または、C3~C4のアルキレンオキサイド重合物。
上記(C-2)成分は、特に限定されるものではないが、第一工業製薬(株)製のエラストロン BN27、BN77、BN11等の市販品を用いることもできる。中でも、エラストロンBN77が好ましい。
<(D)アミン化合物>
本発明の有機繊維用接着剤組成物の一好適実施態様は、(A)不飽和ジエンを有するゴムラテックス、(B)アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール、および、(D)アミン化合物を含む。
(D)アミン化合物としては、1級~3級のアミノ基を2個以上有する多官能性のアミン化合物が好ましく用いられる。(D)アミン化合物としては、具体的には例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジアミン、フェニレンジアミン、メタキシレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、トリアミノプロパン、あるいはポリビニルアミン、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリリジンなどのアミノ基を有するアミノ基含有樹脂が挙げられる。
上記アミノ基含有樹脂の数平均分子量は、例えば、100~1,000,000であり、好ましくは200~10,000、より好ましくは300~5,000である。上記アミノ基含有樹脂の数平均分子量は、例えば、公知の粘度法により求められる。上記アミノ基含有樹脂の分子量が大きすぎる場合、接着剤組成物の液中でゲル架橋をするなどにより、粘度が高くなりすぎると、作業性において不具合を発生させることがある。
本発明においては、これらの中でも、(D)アミン化合物として、アミノ基含有樹脂であるポリエチレンイミンを好適に用いることができる。なお、ポリエチレンイミンは、エチレンイミンを重合した水溶性ポリマーであり、アミンとエチレン(CHCH)の繰り返し単位からなるポリマーである。ポリエチレンイミンは一般的には第一級、第二級、第三級アミノ基を含んでおり、例えば、完全な直鎖状分子ではなく分岐した構造を有した、市販品試薬で平均分子量約600であるポリエチレンイミンを用いることができる。
本発明の有機繊維用接着剤組成物において、(D)アミン化合物であるポリエチレンイミンは、水溶媒に分散するゴムラテックス表面において、乳化剤の作用で乳化する(B)アセトアセチル基変性ポリビニルアルコールのアセトアセチル基との化学的な架橋などの相互作用により、ラテックス表面の保護膜を強める効果で、ゴムラテックスの粘着性を抑制することによって、有機繊維コードを接着剤組成物で被覆して乾燥・熱硬化させる工程において、ロール等に対する該接着剤組成物の付着を抑制することが可能となり、作業性が良好なものとなる。
本発明に使用されるポリエチレンイミンは、液体の形態で入手できるが、本発明の接着剤組成物への使用においては、水溶液として使用することが好ましい。
本発明の有機繊維用接着剤組成物の固形分全体に占める、(D)アミン化合物の含有量(固形分含有率)は、特に限定されるものではないが、0.3質量%以上であることが好ましく、1.0質量%以上であることがより好ましい。また、(D)アミン化合物の含有量(固形分含有率)は、35質量%以下であることが好ましく、25質量%以下であることがより好ましい。
<(E)ポリフェノール>
本発明の有機繊維用接着剤組成物の一好適実施態様は、(A)不飽和ジエンを有するゴムラテックス、(B)アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール、および、(E)ポリフェノールを含む。
上記(E)ポリフェノールとは、分子内に複数のフェノール性ヒドロキシ基を持つ植物由来の化合物であることが好ましい。この場合、接着剤組成物を有機繊維に用いた際に、有機繊維と被覆ゴム組成物の接着性がより良好となる。(E)ポリフェノールとしては、具体的には、リグニン、タンニン、タンニン酸、フラボノイド、および、その誘導体などが挙げられる。この場合も、接着剤組成物を有機繊維に用いた際に、有機繊維と被覆ゴム組成物の接着性がより良好となる。
木材や樹皮中の成分であるリグニンやタンニン等のポリフェノールを分離し、ホルムアルデヒドと反応させ接着剤を製造する研究(例えば、特開平07-53858号公報を参照)が古くから行われているが、レゾルシンを含まない水系接着剤組成物を製造する知見は少ない。
上記(E)ポリフェノールは、リグニンあるいはその誘導体であることが好ましい。リグニンとは、セルロースなどの多糖類と共に、植物の植物体細胞壁を構成する主要成分である。リグニンは、例えば、ヒドロキシル基、メトキシ基、カルボニル基およびカルボキシル基などの官能基を含むが、特に、フェノール性のヒドロキシ基は反応性の高いものであることから、ポリエチレンイミンなどのカチオン性ポリマーと相互作用を持つことができる。
リグニンは、フェニルプロパンに基づいた構造を有するポリマーであるが、リグニンの分子構造は様々であり、三次元網目構造を形成した、巨大な生体高分子であるので、その分子構造はいまだ完全には解明されていない。
天然のリグニンは、植物細胞壁中で、セルロースなどの多糖類と共に強固に複合材料を形成しているため、化学構造の変性を伴わない天然リグニンの単離は、非常に困難とされている。様々な工業的な分離方法が、木などの材料からリグニンを抽出するために使用されている。分離後に得られるリグニンは、スルホン酸リグニン、クラフトリグニン、ソーダリグニン、水蒸気爆砕リグニン等が挙げられる。これらの工業的に扱われているリグニンで、入手性・経済性の観点から、紙パルプ製造プロセスの化学パルプ化のパルプ廃液より大規模に得られるリグニン、すなわち、リグノスルホン酸塩、あるいはクラフトリグニンが周知の材料である。
それ以外のリグニン類の例としては、ヒドロキシメチル化、エポキシ化、脱窒素化、アシル化またはヒドロキシル化によって変性されたリグニン、ジエタノールアミン変性リグニン、酵素変性リグニン、ラッカーゼ変性リグニン、尿素変性リグニン、リグノスルホネート、アルセル法リグニン、アルカリグラニット法リグニン、ポリエチレングリコール付加リグニン、などが挙げられる。
上記クラフトリグニンは、原料の木材としての、例えば、広葉樹、針葉樹、雑木、タケ、ケナフ、バガス等の木材チップを、水酸化ナトリウム/硫化ナトリウムなどによる蒸解液と共に蒸解釜へ投入することによる、高温高圧反応であるクラフト蒸解法と呼ばれる化学パルプ化法(高温高圧反応)由来のリグニンである。クラフト蒸解後に得られるクラフト廃液に酸および/または二酸化炭素を添加して、溶解しているリグニン変性物を沈殿させ、生成した沈殿物を脱水・洗浄して得られる。また、脱水・洗浄後の沈殿は、アルコールやアセトンなどの有機溶媒を添加して溶解させ、不溶物である不純物を分離させて乾燥する精製や、必要に応じて各種の官能基を導入させる変性を行うことができる。上記クラフトリグニンは、市販される製品を入手して使用することができる。中でも、Sigma-Aldrich Co.LLC社製の試薬名「Lignin,alkali,kraft」(CAS Number:8068-05-1)が好ましい。
上記スルホン酸リグニンは、木材チップを、亜硫酸および/または亜硫酸塩を用いた蒸解液とともに高温高圧反応させる亜硫蒸解法による化学パルプ化法において、亜硫酸パルプから溶出する廃液等を原料として得られるリグニンスルホン酸およびその塩であり、リグニンスルホン酸カルシウム、リグニンスルホン酸ナトリウム、リグニンスルホン酸カリウム、リグニンスルホン酸マグネシウム塩が特に好ましく挙げられる。中でも、リグニンスルホン酸ナトリウム等が好ましい。これらスルホン酸リグニンは市販品として入手でき、例えば、リグニンスルホン酸塩あるいは変性リグニンスルホン酸塩としては、日本製紙株式会社製品のサンエキスシリーズなどを用いることができる。
リグニンスルホン酸塩の高付加価値品としては、例えば、高純度品はもちろんのこと、リグニンスルホン酸塩を水酸化ナトリウムまたはアンモニアを使用するアルカリ性水溶液中で、酸素等の酸化剤の存在下で加熱する方法(例えば、特開2016-135834号公報などを参照)により、スルホン化度を低減させた部分脱(低)スルホン化リグニンスルホン酸塩が挙げられる。高純度のリグニンスルホン酸塩あるいは変性リグニンスルホン酸塩としては、日本製紙株式会社製品のパールレックスシリーズ、部分脱スルホンリグニンスルホン酸としては、日本製紙株式会社製品のバニレックスシリーズなどを用いることができる。中でも、スルホン化度を低減させた部分脱(低)スルホン化リグニンスルホン酸塩である、東京化成工業株式会社製、試薬名「リグニン(アルカリ)」(CAS Number:8061-51-6、固形粉体)が好ましい。
上記タンニンとは、広範な植物、例えば、木質の木のみならず、果実、葉および種子、例えば、ブドウ、カキ、ベリー、クローブ、豆類、薬草、茶の葉およびカカオ豆の中にも存在する一群のポリフェノール化合物である。タンニン分子は一般に、多数のヒドロキシル基、および、しばしばカルボキシル基をも含み、様々な範囲の高分子と強い錯体および複合体を形成する傾向がある。
上記タンニンには、タンニン酸、プロアントシアニジン、フラボノイド、没食子酸エステル、カテキン等を含み、またそれらの塩やその変性体などの誘導体をも含む。また、上記フラボノイドは、植物の葉、幹および樹皮中に遍在しており、一般にタンニンと呼ばれる物質であるが、加水分解型タンニンおよび縮合型タンニンからなる。これらのタンニンの識別は、希塩酸で煮沸すると、縮合型タンニンは不溶性の沈殿を生じ、加水分解型に属するタンニンは加水分解して、水溶性の物質を生じる。
上記タンニンは、加水分解型タンニンおよび縮合型タンニンのいずれも水溶性で、木質部、樹皮、葉、実、莢、虫嬰などの植物材料から、熱水抽出の方法等で抽出して得ることができる。加水分解型タンニンは、例えば、チェスト、ナッツの木質部、オークの樹皮、茶の葉、五倍子や没食子の虫嬰から得られ、縮合型タンニンは、ケブラチョの木質部、ミモザの樹皮、柿やソバの実などから得ることができる。中でも、加水分解型タンニンとしての、五倍子などから得られるタンニン酸である、ナカライテスク株式会社製、試薬名「タンニン酸」(CAS Number:1401-55-4-6、固形粉体)、および、縮合型タンニンとしての、ミモザの樹皮から得られる、川村通商株式会社製、商品名「ミモザ」(固形粉体)などが好ましい。
本発明の有機繊維用接着剤組成物中の固形分全体に占める、上記(E)ポリフェノールの含有量(固形分含有率)は、特に限定はされるものではないが、2質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、8質量%以上であることがさらに好ましい。また、上記(E)ポリフェノールの含有量は、75質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましく、35質量%以下であることがさらに好ましい。上記(E)ポリフェノールの含有量が、2質量%以上であれば、有機繊維と被覆ゴム組成物の接着性がより良好なものになるからである。また、上記(E)ポリフェノールの含有量が、75質量%以下であれば、有機繊維用接着剤組成物に配合するゴムラテックス等の他の成分の量を、相対して一定以上確保することが可能となり、その結果、被着ゴムとの接着性がより良好となるからである。
<有機繊維用接着剤組成物の製造方法>
本発明の有機繊維用接着剤組成物は、(A)不飽和ジエンを有するゴムラテックス、および、(B)アセトアセチル基変性ポリビニルアルコールを必須成分として含み、さらに好適には、(C)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物、(D)アミン化合物、および、(E)ポリフェノールからなる群から選択される1種以上の化合物を含む。
上記有機繊維用接着剤組成物を製造するにあたっては、これら(A)不飽和ジエンを有するゴムラテックスおよび(B)アセトアセチル基変性ポリビニルアルコールを混合し、さらには、(C)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物、(D)アミン化合物、(E)ポリフェノールを、任意の順序で混合することができる。
本発明の有機繊維用接着剤組成物において、(A)不飽和ジエンを有するゴムラテックスと(B)アセトアセチル基変性ポリビニルアルコールとの混合質量比[(A):(B)](固形分換算)は、特に限定されるものではないが、100:0.1から100:25の範囲にあることが好ましく、100:0.2から100:15の範囲にあることがより好ましい。
上記混合質量比が、100:0.1以上であれば(比の値として1000以下であれば)、(A)不飽和ジエンを有するゴムラテックスをコアとして、その周囲に(B)アセトアセチル基変性ポリビニルアルコールのマイクロカプセルの皮膜を形成することができ、かつ、十分な強度の接着剤層を得ることもできるからである。また、上記混合質量比が、100:25以下であれば(比の値として4以上であれば)、(A)不飽和ジエンを有するゴムラテックスをコアとして、その周囲に形成される(B)アセトアセチル基変性ポリビニルアルコールのマイクロカプセルの皮膜が厚くなりすぎず、有機繊維の被着体である被覆ゴム組成物と有機繊維用接着剤組成物とを共加硫して接着させる際に、上記被着体である被覆ゴム組成物と上記(A)不飽和ジエンを有するゴムラテックスとが良好に相溶し、その結果、上記被着体である被覆ゴム組成物と上記有機繊維用接着剤組成物との間の接着の初期過程が好適に進行するからである。
上記(A)不飽和ジエンを有するゴムラテックスと上記(B)アセトアセチル基変性ポリビニルアルコールとの混合においては、通常のコアセルベートで、(B)アセトアセチル基変性ポリビニルアルコールからなる皮膜を強化できる公知の水溶性材料を併用することができる。例えば、アラビアガム、カラギーナン、CMC類、有機または無機の塩からなる電解質物質、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化アンモニウムのような陽イオンを有する塩、硫酸塩、リン酸塩、炭酸塩、酢酸塩のような陰イオンを有する塩を使用することができる。さらに、水溶解性の液体であって、その中の皮膜形成材料が水よりも少なく溶解するような液体物質、例えば、エタノール、プロパノールのようなアルコール類、または、イソブチレン-無水マレイン酸開環共重合体塩などの水溶性高分子類を使用することもできる。
本発明の有機繊維用接着剤組成物において、(A)不飽和ジエンを有するゴムラテックスと、(C)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物、(D)アミン化合物および(E)ポリフェノールからなる群から選ばれる化合物との混合質量比[(A):〔(C)+(D)+(E)〕](固形分換算)は、特に限定されるものではないが、100:5から100:300の範囲にあることが好ましく、100:10から100:150の範囲にあることがより好ましく、100:15から100:60の範囲にあることがさらにより好ましい。
上記混合質量比が、100:5以上であれば(比の値として20以下であれば)、有機繊維用接着剤組成物中における(A)不飽和ジエンを有するゴムラテックスが占める比が大きくなりすぎず、上記有機繊維用接着剤組成物による接着剤層の耐破壊抗力を十分に保つことができ、歪下での接着性の低下を防止することができるからである。また、上記混合質量比が100:300以下であれば(比の値として1/3以上であれば)、有機繊維用接着剤組成物中における(A)不飽和ジエンを有するゴムラテックスが占める比が低くなりすぎず、有機繊維の被着体である被覆ゴム組成物と有機繊維用接着剤組成物とを共加硫して接着させる際に、上記被着体である被覆ゴム組成物と上記(A)不飽和ジエンを有するゴムラテックスとが良好に相溶し、その結果、上記被着体である被覆ゴム組成物と上記有機繊維用接着剤組成物との間の接着性が、十分に高いものとなるからである。
また、上記(A)不飽和ジエンを有するゴムラテックス、(B)アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール、(C)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物、(D)アミン化合物、および、(E)ポリフェノールは、水性であることが好ましい。環境への汚染が少ない水を溶媒に使用することができるからである。
[有機繊維材料]
以上のように構成された有機繊維用接着剤組成物を、有機繊維、例えば、ポリエステル樹脂、芳香族ポリアミド樹脂またはアクリル樹脂等からなる有機繊維の表面に被覆させ、適度な熱処理を施すことにより、有機繊維用接着剤組成物からなる接着材層が有機繊維の表面に被覆され、接着処理が施された有機繊維材料を作製することができる。
本発明の有機繊維材料は、有機繊維の表面が、上記有機繊維用接着剤組成物からなる接着材層で被覆されたものであることを特徴とする。これにより、環境性や作業性を確保しつつ、耐久性に優れた有機繊維材料とすることができる。特に好ましくは、上記有機繊維が、ポリエステル樹脂、芳香族ポリアミド樹脂またはアクリル樹脂であり、中でも、有機繊維がポリエステル樹脂であることが好ましい。また、上記有機繊維は、複数本のフィラメントを撚り合わせてなるコードであることが好ましい。
有機繊維の表面を接着剤組成物により被覆させる方法としては、接着剤組成物に有機繊維を浸漬する方法、接着剤組成物を有機繊維にハケなどで塗布する方法、接着剤組成物を有機繊維にスプレーする方法等があるが、必要に応じて適当な方法を選択することができる。接着剤組成物を有機繊維の表面に被覆させる方法は、特に限定されないが、接着剤組成物を有機繊維の表面に被覆させる際には、接着剤組成物を種々の溶剤に溶解して粘度を下げると、被覆が容易となるため、好ましい。また、上記接着剤組成物の粘度を下げるための溶剤は、主に水からなると、環境的に好ましい。
また、上記有機繊維に含浸させる接着剤組成物の溶液濃度は、特に限定されるものではないが、上記有機繊維の質量に対して、固形分換算値で、5.0質量%以上、25.0質量%以下であることが好ましく、7.5質量%以上、20.0質量%以下であることがより好ましい。
ここで、上記接着剤組成物による接着剤層の厚さは、特に限定されるものではないが、50μm以下であることが好ましく、0.5μm以上、30μm以下であることがより好ましい。
なお、特に本発明の有機繊維材料をタイヤに適用する場合、接着処理による接着剤組成物の付着量が厚くなると、タイヤ転動下での接着耐久性が低下する傾向がある。この理由は、被着する繊維材料の界面の接着剤組成物は、繊維材料の剛性が高いため歪による応力を負担することにより比較的変形が小さくなるが、界面から離れるに従って歪による変形が大きくなるためである。被着ゴム材料に比べて接着剤組成物は熱硬化性縮合物を多く含むため、硬く脆いことにより繰り返し歪下での接着疲労が大きくなりやすい。以上より、接着剤組成物層の平均厚さは、50μm以下であることが好ましく、0.5μm以上、30μm以下であることがより好ましい。
上記有機繊維がコードである場合には、上記有機繊維材料において、上記接着剤層が、乾燥質量で、上記コードの質量の0.5~6.0質量%であることが好ましい。接着材層の乾燥質量をこの範囲とすることで、適切な接着性を確保することができる。
有機繊維用接着剤組成物を有機繊維の表面に被覆させた有機繊維材料は、例えば、100℃~210℃の温度で乾燥させた後、引き続いて熱処理を行う。この熱処理は、有機繊維のポリマーのガラス転移温度以上、好ましくは、該ポリマーの〔融解温度-70℃〕以上、〔融解温度-10℃〕以下の温度で施すことが好ましい。この理由としては、ポリマーのガラス転移温度未満では、ポリマーの分子運動性が悪く、有機繊維用接着剤組成物のうちの、接着を促進する成分とポリマーとが十分な相互作用を行えないため、有機繊維用接着剤組成物と有機繊維の結合力が得られないためである。このような有機繊維は、あらかじめ電子線、マイクロ波、コロナ放電、プラズマ処理等により前処理加工されたものでもよい。
[ゴム物品]
本発明の有機繊維用接着剤組成物は、各種ゴム物品の補強用途に好適に用いることができる。本発明のゴム物品は、上記有機繊維材料により補強されていることを特徴とするものである。これにより、環境性や作業性を確保しつつ、耐久性に優れたゴム物品とすることができる。このような本発明のゴム物品としては、タイヤの他、コンベヤベルト、ベルト、ホース、空気バネ等を挙げることができる。
[有機繊維-ゴム複合体]
本発明の有機繊維-ゴム複合体は、有機繊維とゴムとの複合体であって、該有機繊維が、上記有機繊維用接着剤組成物により被覆されていることを特徴とするものである。これにより、レゾルシンを用いることなく良好な接着性を得ることができ、環境性や作業性が良好な有機繊維-ゴム複合体とすることができる。本発明の有機繊維用接着剤組成物は、特に、有機繊維コード等の有機繊維と被覆ゴム組成物との接着性に優れている。
本発明の有機繊維-ゴム複合体を、図2を参照しながら、詳細に説明する。
図2は、本発明の有機繊維-ゴム複合体の一例の有機繊維コード-ゴム複合体を示す概略断面図である。図2に示す有機繊維-ゴム複合体31は、有機繊維コード1の外径方向外側表面が、本発明の有機繊維用接着剤組成物2による接着剤層32で被覆されている。そして、上記有機繊維コード1は、上記有機繊維用接着剤組成物2による接着剤32を介して、さらにその外径方向外側にある被覆ゴム組成物33と接着し、本発明の有機繊維-ゴム複合体31が形成される。
なお、本発明の有機繊維用接着剤組成物を用いたゴム物品の補強材の形態としては、上記有機繊維コード-ゴム複合体に加えて、短繊維、不織布等の形態とすることもできる。
<有機繊維コード>
上記有機繊維の一例の有機繊維コードとは、タイヤ等のゴム物品の強度を補うために使用されるものである。上記有機繊維コードを補強材として使用する際には、まず、紡糸された有機繊維の原糸を撚糸することで有機繊維コードとする。そして、当該有機繊維コードを、有機繊維用接着剤組成物を用いて、当該有機繊維コードを被覆するゴムに埋設して加硫を行い接着させることにより有機繊維-ゴム複合体を作製し、この有機繊維-ゴム複合体を、タイヤ等のゴム物品の補強部材として使用することができる。
上記有機繊維の材質としては、特に限定されないが、ポリエステル、6-ナイロン、6,6-ナイロン、4,6-ナイロン等の脂肪族ポリアミド繊維、人造フィブロイン繊維等のタンパク質繊維、ポリケトン繊維、ポリノナメチレンテレフタルアミド、パラフェニレンテレフタルアミドに代表される芳香族ポリアミド繊維、アクリル繊維、炭素繊維、レーヨン、リヨセル等のセルロース繊維に代表される繊維材料を挙げることができる。これらのうちでも、ポリエステル、6-ナイロン、6,6-ナイロンが好ましく、ポリエステルが特に好ましい。
上記ポリエステルの材料は、主鎖中にエステル結合を有する高分子であり、より詳しくは、主鎖中の繰り返し単位の結合様式の80%以上がエステル結合様式のものである。上記ポリエステルの例としては、特に限定されるものではないが、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、メトキシポリエチレングリコールおよびペンタエリスリトール等であるグリコール類と、テレフタル酸、イソフタル酸およびそれらのジメチル体等であるジカルボン酸類とのエステル化反応またはエステル交換反応によって縮合して得られるものが挙げられる。最も代表的なポリエステルは、ポリエチレンテレフタレートである。
上記有機繊維コードは、特に、タイヤやコンベヤベルト等のゴム物品を補強する目的において、複数の単繊維フィラメントを撚り合わせてなる有機繊維コードであることが好ましい。また、上記有機繊維コードは、上撚りの単繊維フィラメントと下撚りの単繊維フィラメントとを撚り合わせてなる有機繊維コードであることが好ましい。この場合、下撚りの撚係数が1,300以上、2,500以下、および/または、上撚りの撚係数が900以上、1,800以下であることが、より好ましい。
本発明においては、上記有機繊維が、撚構造1670dtex/2、上撚数39回/10cm、下撚数39回/10cmのポリエステル(ポリエチレンテレフタレート)のタイヤコードであり、このタイヤコードに上記接着剤組成物を付着させた、有機繊維-ゴム複合体であることが好ましい。
<<有機繊維-ゴム複合体の被覆ゴム組成物>>
本発明の有機繊維-ゴム複合体を構成する被覆ゴム組成物は、ゴム成分に、通常ゴム業界で用いられる各種配合剤を配合したものが好ましい。ここで、ゴム成分としては、特に限定はなく、例えば、天然ゴムの他、ポリイソプレンゴム(IR)、ポリブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)等の共役ジエン系合成ゴム、さらには、エチレン-プロピレン共重合体ゴム(EPM)、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体ゴム(EPDM)、ポリシロキサンゴム等が挙げられる。これらの中でも、天然ゴムおよび共役ジエン系合成ゴムが好ましい。また、これらゴム成分は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
<<有機繊維-ゴム複合体の製造方法>>
本発明の有機繊維-ゴム複合体は、有機繊維コード等の有機繊維を、本発明の有機繊維用接着剤組成物により被覆して接着剤層を形成し、上記有機繊維用接着剤組成物中の(A)不飽和ジエンを有するゴムラテックスと、上記有機繊維の被着体である被覆ゴム組成物中のゴム成分とを共加硫して接着させることにより、製造することができる。
上記被覆ゴム組成物中のゴム成分の共加硫には、例えば、硫黄、テトラメチルチラリウムジスルフィド、ジペンタメチレンチラリウムテトラサルファイド等のチラリウムポリサルファイド化合物、4,4-ジチオモルフォリン、p-キノンジオキシム、p,p’-ジベンゾキノンジオキシム、環式硫黄イミドなど有機加硫剤を用いることができる。中でも、硫黄を用いることが好ましい。また、上記被覆ゴム組成物中のゴム成分には、ゴム業界で通常用いられるカーボンブラック、シリカ、水酸化アルミニウム等の充填剤、加硫促進剤、老化防止剤、軟化剤等の各種配合剤を、適宜配合することができる。
また、本発明の有機繊維用接着剤組成物は、有機繊維等の合成樹脂材料の被着体および/または被覆ゴム組成物の被着体に含まれる加硫剤が上記有機繊維用接着剤組成物へ移行し、移行してきた上記加硫剤により上記有機繊維用接着剤組成物が架橋される接着方法においても、接着の効果が得られることは言うまでもない。
[タイヤ]
本発明のタイヤは、本発明の有機繊維-ゴム複合体を用いたものである。これにより、レゾルシンを用いることなく良好な接着性を得ることができ、環境性や作業性が良好なタイヤとすることができる。
ここで、本発明のタイヤにおいて、上記有機繊維-ゴム複合体は、例えば、カーカス、ベルト、ベルト補強層、フリッパー等のベルト周りの補強層として用いることが可能である。
本発明のタイヤは、適用するタイヤの種類に応じ、未加硫のゴム組成物を用いて成形後に加硫して得てもよく、または、予備加硫工程等を経た半加硫ゴムを用いて成形後、さらに本加硫して得てもよい。なお、本発明のタイヤには、当該タイヤのいずれかの箇所に、上述の有機繊維用接着剤組成物で処理した有機繊維コード等が用いられるが、その他の部材は、特に限定されず、公知の部材を使用することができる。また、本発明のタイヤは、空気入りタイヤであることが好ましく、この空気入りタイヤに充填する気体としては、通常の、または、酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いることができる。
なお、上述した、本発明の有機繊維用接着剤組成物、これを用いた有機繊維材料および有機繊維-ゴム複合体は、上記タイヤに加えて、コンベヤベルト、ベルト、ホース、空気バネ等のあらゆるゴム物品にも適用することができる。
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は下記の実施例により、何ら限定されるものではない。
<(A-1)不飽和ジエンを有する合成ゴムラテックス>
以下の比較例1,3~8および実施例1~11においては、(A-1)不飽和ジエンを有する合成ゴムラテックスとして、ビニルピリジン-スチレン-ブタジエン共重合体ラテックスを、特開平9-78045号公報に記載の比較例1に準拠して、以下の通り調製し、使用した。
窒素置換した5リットル容量のオートクレーブに、脱イオン水130質量部、乳化剤としてのロジン酸カリウム4.0質量部を仕込み溶解した。これに、ビニルピリジン単量体15質量部、スチレン15質量部およびブタジエン70質量部組成の単量体混合物と、連鎖移動剤としてのt-ドデシルメルカプタン0.60質量部を仕込み、乳化した。その後、50℃に昇温させ、重合開始剤としての過硫酸カリウム0.5質量部を加え、重合を開始した。単量体混合物の反応率が90%に達した後、ハイドロキノン0.1質量部を加え、重合を停止した。次に、減圧下、未反応単量体を除去し、固形分濃度41質量%のビニルピリジン-スチレン-ブタジエン共重合体ラテックスを得た。
<(A-2)天然ゴムラテックス>
以下の比較例2および実施例12においては、(A-2)天然ゴムラテックスとして、固形分濃度60%のフィールドラテックスを、脱イオン水で固形分濃度41%に調整して用いた。
<(B)アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール>
以下の実施例1~12においては、(B)アセトアセチル基変性ポリビニルアルコールとして、(B-1)三菱ケミカル株式会社製の商品名「ゴーセネックスZ-200」(固形分濃度10%、ケン化度99モル%以上、水溶液)、(B-2)三菱ケミカル株式会社製の商品名「ゴーセネックスZ-300」(固形分濃度10%、ケン化度98~99モル%、水溶液)、あるいは、(B-3)三菱ケミカル株式会社製の商品名「ゴーセネックスZ-410」(固形分濃度10%、ケン化度97.5~99.5%、水溶液)を用い、以下の方法で脱イオン水により希釈した5%水溶液を得た。
まず、脱イオン水950.0gを室温で撹拌しているところに、上記の(B-1)~(B-3)のアセトアセチル基変性ポリビニルアルコール50.0gを徐々に添加した。この溶液を室温で10分撹拌した後に、内温が85から90℃になるまで加熱し、その温度で2時間撹拌を継続した。アセトアセチル基変性ポリビニルアルコールの溶解を確認した後、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール水溶液を室温まで冷却し、その後、溶解したポリビニルアルコール水溶液を1μmフィルターでろ過し、加熱攪拌で蒸発した水分は脱イオン水を添加して、固形分濃度5質量%のアセトアセチル基変性ポリビニルアルコール水溶液を製造し、該水溶液を接着剤組成物の調製に使用した。
<(C)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物>
以下の比較例3および実施例7においては、(C)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物として、(C-1)メチレンジフェニルジイソシアネートのカプロラクタムのブロック体であるEMS-CHEMIE HOLDIMG AG社製品のグリルボンドIL-6(固形分濃度:50質量%)をそのまま用いた。
以下の比較例4および実施例2~6,12においては、(C)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物として、第一工業製薬株式会社製の商品名「エラストロンBN77」((C-2)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性ウレタン化合物、ブロック剤熱解離温度:約160℃、pH:8.0、固形分濃度:31質量%)をそのまま用いた。
<(D)アミン化合物>
以下の比較例5および実施例8においては、(D)アミン化合物として、和光純薬工業株式会社製の試薬名「ポリエチレンイミン(平均分子量約600)」(CAS番号:9002-98-6、液体)を、脱イオン水で希釈して、固形分濃度10質量%の水溶液を製造し、該水溶液を接着剤組成物の調製に使用した。
<(E)ポリフェノール>
以下の比較例6~8および実施例5,9~11においては、(E)ポリフェノールとして、下記に示す、ポリフェノールがクラフトリグニンであるもの(E-1)、リグニンスルホン酸塩であるもの(E-2)、および、縮合型タンニンであるもの(E-3)を用いた。これら粉末であるポリフェノールを、脱イオン水で溶解して、固形分濃度5質量%の水溶液を製造し、該水溶液を接着剤組成物の調製に使用した。
(E-1)Sigma-Aldrich Co.LLC社製の製品名「Lignin,alkali」(CAS Number:8068-05-1)クラフトリグニン
(E-2)東京化成工業株式会社製の商品名「リグニン(アルカリ)」(CAS Number:8061-51-6)、スルホン化度を低減させた部分脱スルホン化リグニンスルホン酸塩
(E-3)川村通商株式会社製、商品名「ミモザ」(固形粉体)タンニン
<<ラテックス接着剤組成物(比較例1,2)の調製>>
上記(A)ゴムラテックスと、水とを、表2に示すように配合(Wet配合)し、固形分濃度が17質量%となるように量を調節して混合した後、十分に攪拌を行い、ラテックス接着剤組成物を得た。なお、以下の比較例1では上記(A-1)不飽和ジエンを有する合成ゴムラテックスを、比較例2では上記(A-2)天然ゴムラテックスを、それぞれ用いた。
<<ラテックス-水性ウレタン接着剤組成物(比較例3,4)の調製>>
上記(A-1)不飽和ジエンを有する合成ゴムラテックスと、上記(C-1)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物とを、表2に示すように配合(Wet配合)し、接着剤組成物の固形分濃度が17質量%となるように水で量を調節して混合した後、十分に攪拌を行い、ラテックス-水性ウレタン接着剤組成物(比較例3)を得た。
また、上記(A-1)不飽和ジエンを有する合成ゴムラテックスと、上記(C-2)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物とを、表2に示すように配合(Wet配合)し、接着剤組成物の固形分濃度が17質量%となるように水で量を調節して混合した後、十分に攪拌を行い、ラテックス-水性ウレタン接着剤組成物(比較例4)を得た。
<<ラテックス-アミン化合物接着剤組成物(比較例5)の調製>>
上記(A-1)不飽和ジエンを有する合成ゴムラテックスと、上記(D)アミン化合物とを、表2に示すように配合(Wet配合)し、接着剤組成物の固形分濃度が17質量%となるように水で量を調節して混合した後、十分に攪拌を行い、ラテックス-アミン化合物接着剤組成物(比較例5)を得た。
<<ラテックス-ポリフェノール接着剤組成物(比較例6~8)の調製>>
上記(A-1)不飽和ジエンを有する合成ゴムラテックスと、上記(E)ポリフェノールとを、表3に示すように配合(Wet配合)し、接着剤組成物の固形分濃度が17質量%となるように水で量を調節して混合した後、十分に攪拌を行い、ラテックス-ポリフェノール接着剤組成物(比較例6~8)を得た。
<<本発明の一実施形態である接着剤組成物(実施例1~12)の調製>>
表3~5に示すように、各所定の(A)不飽和ジエンを有するゴムラテックス、(B)アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール、(C)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物(実施例2~7、実施例12)、(D)アミン化合物(実施例8)、および、(E)ポリフェノール(実施例5,9~11)を、この順番にて配合(Wet配合)し、接着剤組成物の固形分濃度が17質量%となるように水で量を調節して混合した後、十分に攪拌を行い、本発明の一実施形態である接着剤組成物(実施例1~12)を得た。
<各接着剤組成物によるタイヤコードの被覆>
有機繊維コードとして、撚構造1670dtex/2、上撚数39回/10cm、下撚数39回/10cmのポリエチレンテレフタレート製のタイヤコードを用いた。
上記タイヤコードを、比較例1~8および実施例1~12の各接着剤組成物に浸漬し、タイヤコードに含浸した接着剤組成物の濃度が、上記有機繊維コードの質量に対して3.8質量%となるようにした。次いで、乾燥ゾーンにおける乾燥(150℃、60秒)、ホットゾーンにおける張力(0.8kg/本)を加えながらの樹脂の熱硬化、ノルマライズゾーンにおける上記張力を緩めながらの熱硬化(240℃、60秒)に順次供して、比較例1~8および実施例1~12の各接着剤組成物で被覆されたタイヤコードを取得した。
<タイヤコード-ゴム複合体の作製>
上記比較例1~8および実施例1~12の各接着剤組成物で被覆されたタイヤコードを、未加硫のゴム組成物に埋め込み、155℃×20分で共加硫した。なお、被覆用の未加硫のゴム組成物としては、天然ゴム、スチレン-ブタジエンゴム、カーボンブラックおよび加硫系薬品等を含むゴム組成物を用いた。
<接着剤組成物の作業性評価>
各比較例および実施例の接着剤組成物の作業性に関して、以下の評価を行った。
<<機械的安定性(凝固率)の評価>>
各接着剤組成物の機械的安定性(凝固率)を、JIS K6392-1995に示される共重合体ラテックス組成物のマロン式機械的安定度試験機(熊谷理機工業株式会社製、マーロン安定度試験機No.2312-II)を用いた方法に準拠して、測定した。
概述すると、各接着剤組成物に、上記マロン式機械的安定度試験機のローターを用いて、圧縮荷重10kg、回転数1000r/minで10分間のせん断歪を与えた後、発生した凝固物量から、以下の式にて凝固率(%)を評価し、四捨五入して小数点以下1桁までの数値として求めた。数値が小さい方が、機械的安定性に優れることを示す。
凝固率(%)=[(発生した凝固物の乾燥質量)/(供試の接着剤液の固形分質量)]×100
<<絞りロールへの付着性の評価>>
有機繊維コードである上記ポリエチレンテレフタレートタイヤコードについて、各接着剤組成物を貯留する浸漬処理機にて、2000m連続処理をし、上記絞りロール上に各接着剤組成物が付着した量を目視し、次の5段階で評価した。
特大:特に多い。
大:多い。
中:中程度。
少:少ない。
微少:非常に少ない。
<接着剤組成物の接着性評価>
各比較例および実施例の接着剤組成物の接着性に関して、以下の評価を行った。
<<接着力の評価>>
各接着剤組成物を使用して得られたタイヤコード-ゴム複合体を300mm/分の速度にて引張することで、タイヤコードを上記タイヤコード-ゴム複合体から剥離し、タイヤコード1本あたりの剥離抗力を求めて、これを接着力(N/本)とした。
<<被覆ゴムの付着状態の評価>>
上記タイヤコード-ゴム複合体から剥離させたタイヤコードについて、被覆ゴムの付着状態を目視観察し、下記表1に従い、スコア付けを行った。
Figure 2023026208000004
<接着剤組成物の作業性評価および接着性評価の結果>
各比較例および実施例の接着剤組成物の各配合を、下記表2~5に、その作業性評価および接着性評価の結果を、下記表6に、それぞれ示す。
Figure 2023026208000005
Figure 2023026208000006
Figure 2023026208000007
Figure 2023026208000008
*A-1)ビニルピリジンラテックス:上記の方法で合成したビニルピリジン-スチレン-ブタジエン共重合体ラテックス(固形分濃度41質量%)
*A-2)天然ゴムラテックス:フィールドラテックス(固形分濃度41%)
*B-1)アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール:三菱ケミカル株式会社製、商品名「ゴーセネックスZ-200」(純度93.5%以上、粉体)、ケン化度99%以上、4%水溶液の20℃での粘度11.5~14.0mPa・s(カタログ値)
*B-2)アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール:三菱ケミカル株式会社製、商品名「ゴーセネックスZ-300」(純度93.5%以上、粉体)、ケン化度98~99%、4%水溶液の20℃での粘度24.0~30.0mPa・s(カタログ値)
*B-3)アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール:三菱ケミカル株式会社製、商品名「ゴーセネックスZ-410」(純度93.5%以上、粉体)、ケン化度97.5~99.5%、4%水溶液の20℃での粘度43.5~58.5mPa・s(カタログ値)
*C-1)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物:EMS-CHEMIE HOLDIMG AG社製、商品名「グリルボンドIL-6」(固形分濃度50質量%)メチレンジフェニルジイソシアネートのカプロラクタムのブロック体
*C-2)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物:第一工業製薬株式会社製、商品名「エラストロンBN77」(ブロック剤熱解離温度:約160℃、pH8.0、固形分濃度31質量%)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性ウレタン化合物
*D)ポリエチレンイミン:和光純薬工業株式会社製、試薬名「ポリエチレンイミン 平均分子量600」(固形分濃度100質量%、液体)
*E-1)ポリフェノール:Sigma-Aldrich Co.LLC社製、製品名「Lignin,alkali」(CAS Number:8068-05-1)クラフトリグニン
*E-2)ポリフェノール:東京化成工業株式会社製、商品名「リグニン(アルカリ)」(CAS Number:8061-51-6)スルホン化度を低減させた部分脱スルホン化リグニンスルホン酸塩
*E-3)ポリフェノール:川村通商株式会社製、商品名「ミモザ」(固形粉体)タンニン
Figure 2023026208000009
表6から、(A)不飽和ジエンを有するゴムラテックスに(B)アセトアセチル基変性ポリビニルアルコールを加えると、接着剤組成物の抗菌作用で接着剤としての可使用期間が長くなることが分かる。
また、表6から、各実施例においては、作業性が良好であって、有機繊維と被覆ゴム組成物との間の接着性が良好である接着剤組成物が得られていることが分かる。
本発明によれば、レゾルシンを用いることなく所望の接着性を確保することができ、使用時における作業性を損なうこともない有機繊維用接着剤組成物、並びに、これを用いた有機繊維材料、ゴム物品、有機繊維-ゴム複合体およびタイヤを提供できる。従って、本発明は、タイヤ等のゴム物品を製造する産業分野において利用可能である。
1:有機繊維コード
2:接着剤組成物
3:浸漬用浴槽(ディッピング槽)
4:接着剤組成物で被覆された有機繊維コード
5:絞りロール
6:乾燥ゾーン
7:ホットゾーン
8:ノルマライズゾーン
31:有機繊維-ゴム複合体
32:接着剤組成物による接着剤層
33:被覆ゴム組成物

Claims (20)

  1. (A)不飽和ジエンを有するゴムラテックス、および、(B)アセトアセチル基変性ポリビニルアルコールを含むことを特徴とする有機繊維用接着剤組成物。
  2. さらに、下記(C)~(E):
    (C)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物、
    (D)アミン化合物、および、
    (E)ポリフェノール
    からなる群から選択される1種以上の化合物を含む請求項1記載の有機繊維用接着剤組成物。
  3. 前記(B)アセトアセチル基変性ポリビニルアルコールのケン化度が、80モル%以上である請求項1または2記載の有機繊維用接着剤組成物。
  4. 前記(C)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物が、(C-1)芳香環を有するポリイソシアネートと活性水素基を1個以上有するブロック剤との付加生成物からなる水分散性(熱解離性ブロックド)イソシアネート化合物である請求項2記載の有機繊維用接着剤組成物。
  5. 前記(C-1)芳香環を有するポリイソシアネートと活性水素基を1個以上有するブロック剤との付加生成物からなる水分散性(熱解離性ブロックド)イソシアネート化合物が、メチレンジフェニルジイソシアネートのブロック体である請求項4記載の有機繊維用接着剤組成物。
  6. 前記(C)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物が、(C-2)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性ウレタン化合物である請求項2記載の有機繊維用接着剤組成物。
  7. 前記(C-2)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性ウレタン化合物が、
    (α)3個以上、5個以下の官能基を有する数平均分子量が2,000以下の有機ポリイソシアネート化合物、
    (β)2個以上、4個以下の活性水素基を有する数平均分子量が5,000以下の化合物、
    (γ)熱解離性ブロック剤、および、
    (δ)少なくとも1つの活性水素基と、アニオン性、カチオン性または非イオン性である少なくとも1つの親水基と、を有する化合物、
    を、(α)、(β)、(γ)および(δ)の総和量に対するそれぞれの混合比率が、
    (α)については、40質量%以上、85質量%以下、
    (β)については、5質量%以上、35質量%以下、
    (γ)については、5質量%以上、35質量%以下、および、
    (δ)については、5質量%以上、35質量%以下、
    になるように混合して、反応させた後の反応生成物であって、かつ、
    イソシアネート基(-NCO)の分子量を42としたときの、前記反応生成物中における(熱解離性ブロックド)イソシアネート基の構成比率が、0.5質量%以上、11質量%以下である請求項6記載の有機繊維用接着剤組成物。
  8. 前記(C-2)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性ウレタン化合物が、下記一般式(1):
    Figure 2023026208000010
    [式(1)中、
    Aは、有機ポリイソシアネート化合物の、活性水素基が脱離した残基、
    Xは、2個以上、4個以下の水酸基を有する、数平均分子量が5,000以下のポリオール化合物の、活性水素基が脱離した残基、
    Yは、熱解離性ブロック剤の、活性水素基が脱離した残基、
    Zは、少なくとも1つの活性水素基と、少なくとも1つの塩を生成する基または親水性ポリエーテル鎖と、を有する化合物の、活性水素基が脱離した残基、
    nは、2以上4以下の整数、
    p+mは、2以上4以下の整数(m≧0.25)
    を表す]で表される請求項6記載の有機繊維用接着剤組成物。
  9. 前記(D)アミン化合物が、1級~3級のアミノ基を2個以上有する多官能性のアミン化合物である請求項2記載の有機繊維用接着剤組成物。
  10. 前記(E)ポリフェノールが、分子内に複数のフェノール性ヒドロキシ基を有する植物由来の化合物である請求項2記載の有機繊維用接着剤組成物。
  11. 前記(E)ポリフェノールが、リグニン、タンニン、タンニン酸、フラボノイド、または、その誘導体である請求項2記載の有機繊維用接着剤組成物。
  12. レゾルシンを含まない請求項1~11のうちいずれか一項記載の有機繊維用接着剤組成物。
  13. 有機繊維の表面が、請求項1~12のうちいずれか一項記載の有機繊維用接着剤組成物からなる接着剤層により被覆されていることを特徴とする有機繊維材料。
  14. 前記有機繊維が複数本のフィラメントを撚り合わせてなるコードである請求項13記載の有機繊維材料。
  15. 前記コードが上撚りと下撚りとを有し、下撚りの撚係数が1,300以上、2,500以下であって、上撚りの撚係数が900以上、1,800以下である請求項14記載の有機繊維材料。
  16. 前記接着剤層が、乾燥質量で、前記コードの質量の0.5~6.0質量%である請求項14または15記載の有機繊維材料。
  17. 前記有機繊維がポリエステル樹脂からなる請求項13~16のうちいずれか一項記載の有機繊維材料。
  18. 請求項13~17のうちいずれか一項記載の有機繊維材料により補強されていることを特徴とするゴム物品。
  19. 有機繊維とゴムとの複合体であって、該有機繊維が、請求項1~12のうちいずれか一項記載の有機繊維用接着剤組成物により被覆されていることを特徴とする有機繊維-ゴム複合体。
  20. 請求項19記載の有機繊維-ゴム複合体を用いたことを特徴とするタイヤ。
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