JP2023014929A - 鋼板およびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】塗装耐食性および低温靭性に優れた鋼板を提供する。【解決手段】所定の元素を含有し、Ceq.≦0.50%である化学組成と、フェライトと硬質相との複合組織を含むミクロ組織とを有し、板厚中心における前記フェライトの平均結晶粒径が35μm以下である、鋼板。【選択図】図1

Description

本発明は、鋼板(steel plate)に関し、特に、低温靭性および塗装耐食性(塗装された場合の鋼板の耐食性)に優れた鋼板に関する。本発明の鋼板は、低温においても構造安全性が強く求められる溶接構造物などに好適に適用され、特に、塗装による塗膜を表面に有した状態で好適に適用される。具体的には、主に橋梁などの陸上かつ屋外で用いられる高強度構造物用として、特に、凍結防止剤が散布される地域および海岸近傍の地域などの厳しい腐食環境下での使用に適している。
また、本発明は、上記鋼板を製造可能な製造方法に関する。
橋梁などの屋外で用いられる鋼構造物には、通常、何らかの防食処理が施される。例えば、飛来塩分量が少ない環境では、耐候性鋼が広く用いられている。耐候性鋼とは、大気暴露環境で使用されるにつれ、Cu、P、Cr、Niなどの合金元素が濃化した保護性の高いさび層で表面が覆われることにより、腐食速度を大きく低下させた鋼材である。このような耐候性鋼を使用した橋梁は、飛来塩分量が少ない環境では、無塗装のまま数十年間の供用に耐え得ることが知られている。
一方、飛来塩分量が多い環境では、耐候性鋼において保護性の高いさび層が形成され難く、耐候性鋼を無塗装のまま使用することは困難である。このため、海上または海岸近傍などの高塩分環境では、普通鋼材に塗装などの防食処理を施して塗膜を形成した鋼材(塗装鋼材)が一般的に用いられている。
しかしながら、塗装鋼材では、時間の経過による塗膜の劣化、さびの発生、塗膜の膨れ等により、定期的な塗り替えなどの補修が必要となる。塗り替えに伴う塗装作業は高所での作業となることが多く、作業自体が困難であるとともに、作業にかかる人件費も増加する。そのため、塗装鋼材を使用する場合には、塗り替え作業によって構造物のメンテナンスコストが増大し、ひいてはライフサイクルコストが増大するという問題がある。特に、寒冷地においては凍結防止剤が散布されることが多く、凍結防止剤由来の塩分が塗装鋼材の腐食を促進するため、更なるライフサイクルコストの増大を招く可能性がある。
一方、鋼材は温度の低下に伴って靭性が低下するため、気温が著しく低下する寒冷地においては、鋼構造物の安全性を確保するために、鋼材の低温靭性を確保する必要もある。
このように、寒冷地のように気温が低く、かつ、高塩分環境においても、優れた低温靭性と塗装耐食性とを両立可能な鋼材の開発が望まれている。このような鋼材は、低温かつ厳しい腐食環境下においても、高い安全性を確保しつつ、塗り替え塗装の周期の延長、すなわち、補修頻度の低減を可能とし、鋼構造物のメンテナンスコストを抑制できる。
耐食性に優れた鋼材としては、例えば、特許文献1および2に記載の鋼材が提案されている。
特許文献1では、所定量の合金添加元素を含有させることにより、無塗装状態での裸耐候性と溶接性とに優れた鋼材を提供している。ここで、特許文献1は、かかる鋼材の製法について、通常の厚鋼板の製造方法に従うと開示している。
また、特許文献2では、所定量の合金添加元素を含有させ、かつ、圧延条件を制御することにより、塗装時の耐塗装剥離性、無塗装時の耐候性、および板厚方向の靱性に優れた鋼材を製造可能な方法を提供している。特許文献2の具体的な圧延条件は、900℃以上の温度域で全圧下量のうち70%以上の圧延を行い、800℃以上の温度域で圧延を終了すること(換言すれば、全圧下量に対する、900℃未満800℃以上の温度域での圧下量が30%未満であること)を特徴としている。
特開平11-241139号公報 特開2010-7109号公報
しかしながら、特許文献1および2はいずれも、大型構造物用の鋼材として重要な特性である低温靭性については検討しておらず、優れた低温靭性と、優れた塗装耐食性とを満足させる点について改善の余地があった。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、塗装耐食性および低温靭性に優れた鋼板、ならびに該鋼板の製造方法を提供することを目的とする。
なお、本明細書において「低温靭性に優れた」とは、-40℃におけるシャルピー衝撃吸収エネルギーが100J以上、かつ、延性脆性破面遷移温度(vTrs)が-40℃未満であることを意味する。
また、本明細書において「塗装耐食性に優れた」とは、鋼板表面に塗膜を形成し、以下の条件での腐食試験を行ったときの塗膜の膨れ面積が400mm以下であることを意味する。
腐食試験条件
塗膜に付与する初期欠陥部:幅1mm、長さ40mmの直線のカット
NaCl付着量:6.0g/m
試験時間:600サイクル(4800時間)
サイクル条件:
条件1.温度:60℃、相対湿度:35%、保持時間:3時間
条件2.温度:40℃、相対湿度:95%、保持時間:3時間
上記条件1から条件2および条件2から条件1への各移行時間を1時間とする、合計8時間のサイクル
発明者らは、上記課題の解決に向けて鋭意研究を重ねた結果、まず、鋼板表面に塗膜を付与した場合の塗装耐食性の向上には、WおよびPとともに、Sn、Cu、Ni、SbおよびMoのうちから選んだ1種または2種以上を所定量で複合添加することが有効であると知見した。さらに発明者らは、低温靭性の向上には、炭素当量、および、板厚中心でのフェライトの平均結晶粒径を所定以下に制御することが有効であると知見した。こうして発明者らは、鋼板において、優れた塗装耐食性と低温下での優れた靭性とを両立させる手段を新たに見出した。
本発明は、上記の知見に基づき、さらに検討を重ねて完成させたものである。
すなわち、本発明の要旨構成は以下のとおりである。
1.質量%で、
C :0.02%以上0.20%以下、
Si:0.05%以上1.00%以下、
Mn:0.20%以上2.00%以下、
P :0.003%以上0.030%以下、
S :0.0001%以上0.0350%以下、
Al:0.001%以上0.100%以下、および
W :0.005%以上1.000%以下を含有し、
さらに、
Sn:0.200%以下、
Cu:0.50%以下、
Ni:0.50%以下、
Sb:0.200%以下、および
Mo:0.500%以下
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、かつ、炭素当量Ceq.が次式(1)を満たす化学組成を有し、
Ceq.=C+Mn/6+Si/24+Ni/40+Cr/5+Mo/4+V/14
≦0.50% ・・・(1)
ただし、式(1)中の元素記号は各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合は0とする
フェライトと硬質相との複合組織を含むミクロ組織を有し、
板厚中心における前記フェライトの平均結晶粒径が35μm以下である、鋼板。
ここで、上述した本発明において、「板厚中心」とは、鋼板の板厚方向1/2深さの位置を意味する。また、「硬質相」とは、マルテンサイト、ベイナイト、パーライト等のフェライトよりも硬い組織を意味する。そして、「平均結晶粒径」は、後述する手法に従って測定可能である。
2.前記化学組成が、さらに、質量%で、
Cr :2.00%以下、
V :0.200%以下、
Ti :0.050%以下、
Zr :0.100%以下、
B :0.0050%以下、
Ca :0.0100%以下、
Co :1.000%以下、
Mg :0.0100%以下、および
REM:0.0100%以下
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する、前記1に記載の鋼板。
3.少なくとも一方の表面に、更に塗膜を有する、前記1または2に記載の鋼板。
4.前記塗膜が、複数のエポキシ樹脂の層を含む、前記3に記載の鋼板。
5.-40℃におけるシャルピー衝撃吸収エネルギーが100J以上、延性脆性破面遷移温度vTrsが-60℃以下である、前記1~4のいずれかに記載の鋼板。
なお、本明細書において、「シャルピー衝撃吸収エネルギー」及び「延性脆性破面遷移温度」は、後述の実施例で記載する手法に従って測定可能である。
6.前記1または2に記載の化学組成に溶製後、凝固させて鋼スラブを得るスラブ調製工程と、
前記鋼スラブを、1050℃以上1250℃以下のスラブ加熱温度に加熱する加熱工程と、
前記加熱工程後に、板厚中心がオーステナイト相の再結晶温度以上かつ前記スラブ加熱温度以下の温度範囲で、圧下率の合計が15%以上の圧延を行う再結晶温度域圧延工程と、
前記再結晶温度域圧延工程後に、板厚中心が700℃以上かつ前記オーステナイト相の再結晶温度未満の温度範囲で、圧下率の合計が30%以上の圧延を行う未再結晶温度域圧延工程と、
前記未再結晶温度域圧延工程後に、冷却開始温度が板厚中心で(Ar-40)℃以上であり、前記冷却開始温度から冷却停止温度までの間の平均冷却速度が2.0℃/秒以上である冷却を行う冷却工程と、を有する、鋼板の製造方法。
ここで、上述した本発明において、「オーステナイト相の再結晶温度(単位:℃)」とは、加熱時にオーステナイトへの再結晶が開始する温度であり、以下の式(2)に従って算出可能である。
オーステナイト相の再結晶温度
=174×log(0.005C+1.71×10-5)+1444 ・・・(2)
ただし、式(2)中のCは炭素の含有量(質量%)を表す。
また、「Ar(単位:℃)」は、以下の式(3)に従って算出可能である。
Ar=910-310C-80Mn-20Cu-15Cr
-55Ni-80Mo ・・・(3)
ただし、式(3)中の元素記号は各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合は0とする。
本発明によれば、塗装耐食性および低温靭性に優れた鋼板を得ることができる。したがって、本発明によれば、橋梁のような屋外の大気腐食環境下、特には、飛来塩分量の多い海上または海岸近傍あるいは寒冷地などの凍結防止剤が散布されるような厳しい腐食環境下で使用する場合であっても、高い安全性を確保しつつ、塗膜の塗り替え頻度を低減することが可能である。このことは、厳しい腐食環境下にもかかわらず、溶接構造物などの鋼構造物のメンテナンスコスト、ひいてはライフサイクルコストを低減して、鋼構造物を長期にわたって安全に使用し続けることを可能とする。
腐食試験の様子を模式的に示した図である。
次に、本発明の実施形態について、具体的に説明する。
以下の実施形態は、本発明の好適な一例を示すものであり、これらの例によって何ら限定されるものではない。
(鋼板)
本発明の鋼板は、所定のCeq.を満たす化学組成と、所定の複合組織を含むミクロ組織とを有し、板厚中心におけるフェライトの平均結晶粒径が所定以下であることを特徴とする。本発明の鋼板が所定の化学組成、ミクロ組織およびフェライトの平均結晶粒径を満たさなければ、優れた塗装耐食性および低温靭性を発揮することができない。
本発明の鋼板は、塗装耐食性および低温靭性に優れるので、主に橋梁などの陸上かつ屋外で用いられる構造物用として、とりわけ、凍結防止剤が散布される地域および海岸近傍の地域などの厳しい腐食環境下での使用に適している。
そして、本発明の鋼板は、例えば後述する本発明の製造方法に従って好適に得ることができる。
[化学組成]
まず、塗膜を含まない鋼板自体(母材)の化学組成を限定した理由について説明する。なお、鋼の化学組成における元素の含有量の単位はいずれも「質量%」であるが、以下、特に断らない限り単に「%」で示す。
C:0.02%以上0.20%以下
Cは、鋼板の強度を上昇させる元素である。このため、Cは、構造用鋼としての所望の強度を確保するため、0.02%以上含有させる必要がある。一方、C含有量が0.20%を超えると、靭性および溶接性が劣化する。したがって、C含有量は0.02%以上0.20%以下とし、好ましくは0.04%以上であり、好ましくは0.18%以下である。
Si:0.05%以上1.00%以下
Siは、脱酸と強度を確保するため0.05%以上含有させる必要がある。一方、Si含有量が1.00%を超えると、靭性および溶接性が著しく劣化する。したがって、Si含有量は0.05%以上1.00%以下とし、好ましくは0.10%以上であり、好ましくは0.80%以下である。
Mn:0.20%以上2.00%以下
Mnは、鋼板の焼き入れ性の向上により強度を上昇させる元素である。このため、Mnは、構造用鋼としての所望の強度を確保するため、0.20%以上含有させる必要がある。一方、Mn含有量が2.00%を超えると、靭性および溶接性が劣化する。したがって、Mn含有量は0.20%以上2.00%以下とし、好ましくは0.75%以上であり、好ましくは1.80%以下である。
P:0.003%以上0.030%以下
Pは、鋼板の塗装耐食性の向上に寄与する元素である。この効果を得る観点から、Pは0.003%以上含有させる必要がある。一方、P含有量が0.030%を超えると、靭性および溶接性が劣化する。したがって、P含有量は0.003%以上0.030%以下とし、好ましくは0.005%以上であり、より好ましくは0.018%以上であり、好ましくは0.022%以下である。
S:0.0001%以上0.0350%以下
Sは、靭性および溶接性を劣化させる元素である。このため、S含有量は0.0350%以下とする必要がある。ただし、S含有量を0.0001%未満にしようとすると、生産コストが増大する。したがって、S含有量は0.0001%以上0.0350%以下とし、好ましくは0.0100%以下である。
Al:0.001%以上0.100%以下
Alは、製鋼時の脱酸に必要な元素である。この効果を得るため、Alは0.001%以上含有させる必要がある。一方、Al含有量が0.100%を超えると、溶接性に悪影響を及ぼす。したがって、Al含有量は0.001%以上0.100%以下とし、好ましくは0.005%以上であり、より好ましくは0.010%以上であり、好ましくは0.080%未満であり、より好ましくは0.060%未満である。
W:0.005%以上1.000%以下
Wは鋼板の塗装耐食性を向上させる元素である。Wは鋼板のアノード反応に伴って溶出し、母材表面のさび層中にWO 2-として分布することによって、腐食促進因子である塩化物イオン等がさび層を透過して母材の更に板厚方向内部に到達するのを静電的に防止する。加えて、Wが微細なさびを形成してこのさび層を緻密化するので、腐食促進因子がさび層を透過するのを物理的にも良好に防止する。さらに、鋼板(母材)表面にWを含む化合物が沈殿することで、鋼板のアノード反応が抑制される。これらの効果を十分に得るためには、Wを0.005%以上含有させる必要がある。一方、W含有量が1.000%を超えると、合金コスト上昇を招く。したがって、W含有量は0.005%以上1.000%以下とし、好ましくは0.010%以上であり、より好ましくは、0.030%以上であり、更に好ましくは0.050%以上であり、好ましくは0.700%以下であり、より好ましくは0.500%以下であり、更に好ましくは0.100%以下である。
本発明の鋼板は、上記元素に加え、さらに、Sn:0.200%以下、Cu:0.50%以下、Ni:0.50%以下、Sb:0.200%以下、およびMo:0.500%以下のうちから選ばれる元素を単独で又は組み合わせて含有する必要がある。
Sn:0.200%以下
Snは鋼板の塗装耐食性を向上させる元素である。Snは母材表面およびその近傍に存在するさび層中で、さび粒子を微細化してさび層を緻密化することで、腐食促進因子である塩化物イオン等がさび層を透過して母材の更に板厚方向内部に到達するのを防止できる。また、Snは、鋼板表面においてアノード反応を抑制できる。これらの効果を十分に得るためには、Snを0.005%以上含有させることが好ましい。一方、Sn含有量が0.200%を超えると、鋼の延性や靭性の劣化を招く。したがって、Sn含有量は0.200%以下とし、好ましくは0.005%以上であり、より好ましくは0.010%以上であり、更に好ましくは0.020%以上であり、好ましくは0.100%以下であり、より好ましくは0.050%未満である。
Cu:0.50%以下
Cuは、さび粒子を微細化することで緻密なさび層を形成し、腐食促進因子である酸素や塩化物イオン等が母材の更に板厚方向内部へ透過することを抑制する効果を有する。この効果は、Cu含有量が0.03%以上で得られやすい。一方、Cu含有量が0.50%を超えると、合金コストの上昇を招く。したがって、Cu含有量は0.50%以下とし、好ましくは0.03%以上であり、より好ましくは0.04%以上であり、好ましくは0.45%以下である。
Ni:0.50%以下
Niは、さび粒子を微細化することで緻密なさび層を形成し、腐食促進因子である酸素や塩化物イオン等が母材の更に板厚方向内部へ透過することを抑制する効果を有する。この効果は、Ni含有量が0.03%以上で得られやすい。一方、Ni含有量が0.50%を超えると、合金コストの上昇を招く。したがって、Ni含有量は0.50%以下とし、好ましくは0.03%以上であり、より好ましくは0.05%以上であり、更に好ましくは0.08%以上であり、一層好ましくは0.10%以上であり、好ましくは0.47%以下である。
Sb:0.200%以下、
Sbは、母材表面およびその近傍に存在するさび層中で、さび粒子を微細化してさび層を緻密化することで、腐食促進因子である塩化物イオン等がさび層を透過して母材の更に板厚方向内部に到達するのを防止できる。また、Sbは、鋼板表面においてアノード反応を抑制できる。これらの効果を十分に得るためには、Sbを0.005%以上含有させることが好ましい。一方、Sb含有量が0.200%を超えると、鋼の延性や靭性の劣化を招く。したがって、Sb含有量は0.200%以下とし、好ましくは0.005%以上であり、より好ましくは、0.010%以上であり、更に好ましくは0.020%以上であり、好ましくは0.150%以下であり、より好ましくは0.100%以下である。
Mo:0.500%以下
Moは、鋼板のアノード反応に伴って溶出し、さび層中にMoO 2-として分布することで、腐食促進因子である塩化物イオン等がさび層を透過して母材の更に板厚方向内部に到達するのを防止できる。また、鋼板表面にMoを含む化合物が沈殿することで、鋼板のアノード反応が抑制される。これらの効果を十分に得るためには、Moを0.030%以上含有させることが好ましい。一方、Mo含有量が0.500%を超えると、合金コストの上昇を招く。したがって、Mo含有量は0.500%以下とし、好ましくは0.030%以上であり、好ましくは0.475%以下である。
以上、基本成分について説明したが、本発明の鋼板は、必要に応じて、Cr:2.00%以下、V:0.200%以下、Ti:0.050%以下、Zr:0.100%以下、B:0.0050%以下、Ca:0.0100%以下、Co:1.000%以下、Mg:0.0100%以下、およびREM:0.0100%以下のうちから選ばれる元素を単独で又は組み合わせて含有することができる。
Cr:2.00%以下
Crは、強度を高める元素である。また、Crは緻密なさび層を形成して塗装耐食性をさらに向上させる効果を有する。Crを添加する場合、上記効果を得るために、Cr含有量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、Cr含有量が2.00%を超えると溶接性と靭性とが損なわれ、耐候性にも悪影響を与える。そのため、Cr含有量は2.00%以下とする。Cr含有量は、好ましくは1.00%以下とし、より好ましくは0.50%以下とする。
V:0.200%以下
Vは、母材表面およびその近傍に存在するさび層中にVO 3-として分布することで、腐食促進因子である塩化物イオン等がさび層を透過して母材の更に板厚方向内部に到達するのを更に防止し得る。この効果を十分に得るためには、Vを0.005%以上含有させることが好ましい。一方、V含有量が0.200%を超えると、その効果が飽和する。したがって、Vを含有する場合、V含有量は0.200%以下とし、好ましくは0.005%以上とする。
Ti:0.050%以下
Tiは、強度を高める元素である。このような効果を十分に得るためには、Tiを0.005%以上含有させることが好ましい。一方、Ti含有量が0.050%を超えると、靭性の劣化を招く。したがって、Tiを含有する場合、Ti含有量は0.050%以下とし、好ましくは0.005%以上とする。
Zr:0.100%以下
Zrは、強度を高める元素である。このような効果を十分に得るためには、Zrを0.005%以上含有させることが好ましい。一方、Zr含有量が0.100%を超えると、強度を向上させる効果が飽和する。したがって、Zrを含有する場合、Zr含有量は0.100%以下とし、好ましくは0.005%以上とする。
B:0.0050%以下
Bは、強度を高める元素である。このような効果を十分に得るためには、Bを0.0001%以上含有させることが好ましい。一方、B含有量が0.0050%を超えると、靭性の劣化を招く。したがって、Bを含有する場合、B含有量は0.0050%以下とし、好ましくは0.0001%以上とする。
Ca:0.0100%以下
Caは、鋼中のSを固定し、溶接熱影響部の靭性を向上させる元素である。この効果を十分に得るためには、Caを0.0001%以上含有させることが好ましい。一方、Ca含有量が0.0100%を超えると、鋼中の介在物の量が増加し、かえって靭性の劣化を招く。したがって、Caを含有する場合、Ca含有量は0.0100%以下とし、好ましくは0.0001%以上とする。
Co:1.000%以下
Coは、さび層全体に分布し、緻密なさび層を形成することにより、塗装耐食性を向上させる効果を有する。この効果を得るためには、Coの含有量を0.010%以上とすることが好ましく、より好ましくは0.400%以上とする。一方、Co含有量を1.000%より高くしても効果が飽和することに加え、合金コストが増大する。このため、Co含有量を1.000%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.800%以下とする。
Mg:0.0100%以下
Mgは、鋼中のSを固定し、溶接熱影響部の靭性を向上させる元素である。この効果を十分に得るためには、Mgを0.0001%以上含有させることが好ましい。一方、Mg含有量が0.0100%を超えると、鋼中の介在物の量が増加し、かえって靭性の劣化を招く。したがって、Mgを含有する場合、Mg含有量は0.0100%以下とし、好ましくは0.0001%以上とする。
REM:0.0100%以下
REMは、鋼中のSを固定し、溶接熱影響部の靭性を向上させる元素である。この効果を十分に得るためには、REMを0.0001%以上含有させることが好ましい。一方、REM含有量が0.0100%を超えると、鋼中の介在物の量が増加し、かえって靭性の劣化を招く。したがって、REMを含有する場合、REM含有量は0.0100%以下とし、好ましくは0.0001%以上とする。
なお、REMとは、希土類金属のことを指し、ランタノイドの15元素にYおよびScを合わせた17元素の総称であり、これらの元素のうちの1種または2種以上を含有させることができる。また、REMの含有量はこれらの元素の合計含有量を意味する。
上記以外の成分は、Feおよび不可避的不純物である。なお、不可避的不純物の例としては、NおよびO(酸素)が挙げられ、N:0.010%以下、O:0.010%以下であれば許容できる。
炭素当量(Ceq.):0.50%以下
炭素当量は、組織の強度を把握するための指標であり、値が大きいほど組織の強度も大きい傾向がある。鋼板の強度が過度に大きくなると優れた靭性を確保することが困難になる。したがって、本発明の鋼板は、式(1)で示される炭素当量が0.50%以下を満たすことが必要であり、0.40%以下が好ましい。一方、炭素等量が過度に低い場合は、所望の強度を得難くなるため、好ましくは炭素当量の下限を0.25%とする。
Ceq.=C+Mn/6+Si/24+Ni/40+Cr/5+Mo/4+V/14
≦0.50% ・・・(1)
ここで、式(1)中の元素記号は各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合は0とする。
[ミクロ組織]
本発明の鋼板のミクロ組織は、フェライトと硬質相との複合組織を含むことが必要であり、通常、フェライトと硬質相との複合組織からなる。ここで、「硬質相」とは、上述のとおり、マルテンサイト、ベイナイト、パーライトに代表される、フェライトよりも硬さの高い組織を意味する。「硬質相」は、単相からなることに限られない。
例えば、ミクロ組織がフェライトを含まない組織であると、優れた低温靭性を確保することができない。一方、ミクロ組織がフェライトの単相組織であると、所望の強度が得られない。したがって、所望の強度を維持しつつ、低温靭性を高めるためには、少なくともフェライトと硬質相との複合組織を含むことが必要である。ミクロ組織は、フェライトが占める割合が、面積率で30%以上(換言すれば、硬質相が占める割合が面積率で70%以下)であることが好ましく、50%以上(換言すれば、硬質相が占める割合が面積率で50%以下)であることがより好ましい。
上記のミクロ組織は、例えば、再結晶温度域圧延工程および未再結晶温度域圧延工程後に施す冷却工程の条件を適切に設定することにより制御可能である。具体的には、この冷却工程を、板厚中心が(Ar-40)℃以上の温度で開始し、板厚中心が冷却開始温度~冷却停止温度での平均冷却速度が2.0℃/秒以上の条件で行うことによって制御可能である。
フェライトの平均結晶粒径:35μm以下
更に、鋼板の板厚中心における上記フェライトの平均結晶粒径が35μm以下である必要がある。フェライトの結晶粒径が35μmよりも大きく粗大であると、鋼板の低温靭性が低下する。フェライトの平均結晶粒径は、10μm以下であることが好ましい。また、フェライトの結晶粒径が過度に小さいと所望の強度が得られないため、フェライトの平均結晶粒径は、2μm以上であることが好ましい。
フェライトの結晶粒径は、例えば、後述する再結晶温度域圧延工程、未再結晶温度域圧延工程、冷却工程の条件を調整することによって制御可能である。
なお、フェライトの平均結晶粒径は以下のとおり測定可能である。すなわち、まず、例えば、鋼板の圧延方向と平行な断面について、ミクロ組織観察用サンプルを採取し、観察面をナイタール腐食した後、倍率400倍の光学顕微鏡で組織を撮影し、画像解析装置を用いて、フェライト相の同定を行う。そして、市販の画像処理ソフトを用いて、観察面におけるフェライト相の粒径の測定およびその平均値の算出を行う。
本発明の鋼板は、防錆などの任意の特性を付与するために、少なくとも一方の表面に、更に塗膜を有することが好ましく、両面に更に塗膜を有してもよい。また、該塗膜が、複数のエポキシ樹脂の層を含むことがより好ましい。具体例として、塗膜が、母材表面側から順に、防食下地層、下塗り層、中塗り層および上塗り層の複数層からなることが好適に挙げられ、防食下地層は無機ジンクリッチペイント塗料からなることができ、下塗り層はエポキシ樹脂塗料からなることができ、中塗り層はふっ素樹脂上塗り塗料用のエポキシ樹脂塗料からなることができ、上塗り層はふっ素樹脂塗料からなることができる。鋼板の表面に複数のエポキシ樹脂の層を含む塗膜を形成することにより、厳しい腐食環境下においても鋼板をより安全にかつ低いメンテナンスコストで長期間使用することができる。
そして、本発明の鋼板は、上述の塗膜を有さない鋼板自体の特性として、-40℃におけるシャルピー衝撃吸収エネルギーが100J以上、かつ、延性脆性破面遷移温度vTrsが-60℃以下であることが好ましく、-40℃におけるシャルピー衝撃吸収エネルギーが110J以上、かつ、延性脆性破面遷移温度vTrsが-60℃以下であることがより好ましい。
なお、塗膜を除く鋼板自体の厚さは、特に限定されるものではないが、4mm以上が好ましく、6mm以上がより好ましく、10mm以上がさらに好ましく、100mm以下が好ましく、80mm以下がより好ましく、50mm以下がさらに好ましい。
(鋼板の製造方法)
本発明の製造方法は、上記所定の化学組成を有する鋼スラブを得るスラブ調製工程と、鋼スラブを所定温度に加熱する加熱工程と、所定の温度範囲かつ所定の圧下率で圧延する再結晶温度域圧延工程と、所定の温度範囲かつ所定の圧下率で圧延する未再結晶温度域圧延工程と、所定の温度から開始して所定の平均冷却速度で冷却する冷却工程とを順に有し、任意にその他の工程を更に有し得る。本発明の製造方法が上記所定の工程を経なければ、得られる鋼板に所定の化学組成、ミクロ組織および結晶粒径をもたらすことができず、優れた塗装耐食性および低温靭性を発揮させることができない。
本発明の製造方法は、例えば上述した本発明の鋼板を得るために好適に使用することができる。
[スラブ調製工程]
スラブ調製工程では、上述した化学組成に溶製後、凝固させて鋼スラブを得る。鋼スラブを調製する具体的手法は特に制限されず、例えば、上述した化学組成に調整した鋼を、転炉、電気炉、真空脱ガス等の公知の精錬プロセスを用いて溶製し、連続鋳造法または造塊-分塊圧延法で鋼素材(鋼スラブ)とすることができる。
[加熱工程]
スラブ加熱温度:1050℃~1250℃
加熱工程では、得られた鋼スラブを、1050℃以上1250℃以下のスラブ加熱温度に加熱する。加熱温度が1050℃未満では、次工程での熱間圧延での変形抵抗が高くなり、1パス当たりの圧下量を大きくすることができない。これにより、圧延パス数が増加して圧延効率の低下を招くとともに、鋼スラブ中の鋳造欠陥を圧着することができない場合が生じる。一方、1250℃を超えて鋼スラブを加熱すると、過度のスケール生成による歩留りの低下およびエネルギー消費量の増大を招く。また、結晶粒の粗大化による靱性の劣化が問題となる。したがって、スラブ加熱温度は1050℃以上1250℃以下とし、1100℃以上が好ましく、1200℃以下が好ましい。
[再結晶温度域圧延工程]
再結晶温度域圧延条件:板厚中心がオーステナイト相の再結晶温度以上かつスラブ加熱温度以下、圧下率の合計が15%以上
上記加熱工程後に、熱間圧延、具体的には、再結晶温度域圧延工程および後述する未再結晶温度域圧延工程を順に実施する。再結晶温度域圧延工程とは、オーステナイトが再結晶する比較的高温域での圧延工程を意味する。再結晶温度域圧延工程では、板厚中心がオーステナイト相の再結晶温度以上かつスラブ加熱温度以下の温度範囲で、圧下率の合計が15%以上の圧延を行うことが肝要である。比較的高温域である再結晶温度域においては、圧下率を高めてオーステナイト粒の微細化を行い、変態後の最終組織中のフェライト粒の微細化につなげる必要がある。圧下率が15%未満では、板厚中心でのオーステナイト粒への加工歪の導入が不足し、最終的にフェライト粒を十分に微細化できず、低温靭性が劣化する。したがって、圧下率の合計が15%以上である必要があり、20%以上が好ましく、25%以上がより好ましい。一方、過度に微細化して強度を損なわない観点からは、圧下率の合計を90%以下とすることが好ましく、85%以下とすることがより好ましい。
本工程では、板厚中心での温度がオーステナイト相の再結晶温度以上である必要があり、板厚中心に比べて温度低下しやすい鋼板表面まで十分な再結晶効果を得る観点からは、(オーステナイト相の再結晶温度+25)℃以上であることが好ましい。また、板厚中心での温度がスラブ加熱温度以下である必要があり、オーステナイト相の過度な粗大化を招く異常粒成長を良好に抑制する観点からは、1200℃以下であることが好ましい。
[未再結晶温度域圧延工程]
未再結晶温度域圧延条件:板厚中心が700℃以上かつオーステナイト相の再結晶温度未満、圧下率の合計が30%以上
続く未再結晶温度域圧延工程とは、加工してもオーステナイトが再結晶しない比較的低温域での圧延工程を意味する。未再結晶温度域圧延工程では、板厚中心が700℃以上かつオーステナイト相の再結晶温度未満の温度範囲で、圧下率の合計が30%以上の圧延を行うことが肝要である。比較的低温域である未再結晶温度域では、圧下率を高めて、前工程からのオーステナイトに変態核の導入を行い、変態後の最終組織中のフェライト粒の微細化を確実にする必要がある。圧下率が30%未満では、板厚中心でのオーステナイト粒への歪が不十分であり、これに起因して、続く冷却工程でのオーステナイト相からフェライト相への変態時に、フェライトが必要な程度に細粒化されず、低温靭性が劣化する。したがって、圧下率の合計が30%以上である必要があり、40%以上が好ましく、45%以上がより好ましい。一方、過度に微細化して強度を損なわない観点からは、圧下率の合計を80%以下とすることが好ましく、70%以下とすることがより好ましい。
本工程をオーステナイト相の再結晶温度以上で行うと、導入された歪が再結晶のために消費されるので、後の冷却工程におけるオーステナイトからフェライトへの変態核として歪を使用することができない。その結果、最終組織中のフェライト粒が粗大となり、靭性が劣化する。また、本工程を700℃未満で行うと、圧延により十分に加工歪を導入する前に、一部のオーステナイトが変態を開始してフェライトが生成する。その結果、最終組織中のフェライト粒が粗大となり、靭性が劣化する。したがって、板厚中心での温度が700℃以上である必要があり、710℃以上であることが好ましく、オーステナイト相の再結晶温度未満である必要があり、(オーステナイト相の再結晶温度-25)℃以下であることが好ましい。
[冷却工程]
冷却工程条件:冷却開始温度が板厚中心で(Ar-40)℃以上、冷却開始温度~冷却停止温度での平均冷却速度が2.0℃/秒以上
未再結晶温度域圧延工程後の冷却工程では、板厚中心が(Ar-40)℃以上の温度で冷却を開始し、板厚中心における冷却開始温度から冷却停止温度までの間の平均冷却速度を2.0℃/秒以上とする必要がある。板厚中心での冷却開始温度がAr-40℃よりも低いと、上記所定の冷却速度での板厚中心部の加速冷却が開始する前に、多くのオーステナイト粒のフェライトへの変態および該フェライトの粒成長が開始してしまい、粗大なフェライトが過剰に生成する。その結果、引張強度が低下し、靭性が劣化する。したがって、板厚中心での冷却開始温度をAr-40℃又はこれよりも高くする必要があり、好ましくは(Ar-30)℃以上とする。また、フェライトの過度な微細化を防ぐ観点からは、冷却開始温度を(Ar+20)℃以下とすることが好ましい。
また、板厚中心における冷却開始温度から冷却停止温度までの間の平均冷却速度が2.0℃/秒未満であると、最終組織中のフェライト粒径が粗大となり、靭性が劣化する。したがって、上記温度範囲での平均冷却速度を2.0℃/秒以上とする必要があり、3.0℃/秒以上とすることが好ましい。また、フェライトの過度な微細化を防ぐ観点からは、上記温度範囲での平均冷却速度を50.0℃/秒以下とすることが好ましい。
[その他の工程]
上述した工程に加え、例えば、ブラスト工程、塗装工程などのその他の工程を更に施すことができる。ブラスト工程では、例えば、得られた鋼板の少なくも一方の表面に任意のブラスト材を吹き付けたり衝突させたりして、該表面に凸凹を作り、表面粗さを調整することができる。
また、塗装工程では、ブラスト工程を経ていない、または、経た鋼板の少なくとも一方の表面に、所望の特性を付与可能な塗膜を形成することができる。好適には、エポキシ樹脂塗料を成膜してなるエポキシ樹脂の層を塗膜(主層)として形成すれば、より好適には、防食下地として無機ジンクリッチペイント塗料を塗布し、ついで下塗りとしてエポキシ樹脂塗料を塗布し、ついで中塗りとしてふっ素樹脂上塗り塗料用のエポキシ樹脂塗料を塗布し、ついで上塗りとしてふっ素樹脂塗料を塗布することにより、防食下地層、下塗り層、中塗り層および上塗り層からなる塗膜を形成すれば、鋼板に更なる塗装耐食性の向上効果をもたらすことができる。そして、塗膜を有する鋼板は、厳しい腐食環境下での使用に特に良好に耐えることができる。
更に、こうして得られた、塗膜を有さない、または、塗膜を有する鋼板は、任意の加工工程を経て形鋼等の所望の形状にして使用することもできる。
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明する。なお、以下の実施例は、本発明の好適な一例を示すものであり、本発明を何ら限定するものではない。また、以下の実施例は、本発明の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、そのような態様も本発明の技術的範囲に含まれる。
表1に示す化学組成を有する鋼を溶製後、凝固させて鋼スラブを得た。得られた鋼スラブに対して、表2に示す製造条件に従って、表2に示す板厚を有する鋼板を製造した。なお、板厚中心での温度は、鋼板の圧延時に板の長手、幅、板厚方向中心に熱電対を取り付けて測定した。
Figure 2023014929000002
Figure 2023014929000003
得られた鋼板について、次に示す試験を実施して、ミクロ組織、塗装耐食性および低温靭性を評価した。結果を表3に示す。
(1)ミクロ組織
塗膜を形成することなく、得られた鋼板の板厚1/2位置(板厚中心)で圧延方向と平行な断面について、大きさ10mm×10mm×5mm厚の試験片を採取した。試験片の観察面をナイタール腐食した後、倍率400倍の光学顕微鏡で組織を撮影し、画像解析装置を用いて、各相の同定を行った。また、市販の画像処理ソフトを用いて、観察面におけるフェライト相の粒径の測定を50箇所行い(n=50)、その平均値の算出を行った。
(2)塗装耐食性
図1に示す大きさ70mm×50mm×5mm厚の試験片を採取した。この試験片の一方の表面に、圧縮空気を用いて平均粒径が0.5~2.0mmφのブラスト材を衝突させるブラスト工程を施した。その後、アセトン中で超音波脱脂を5分間行い、風乾した。ついで、ブラスト工程を施した方の試験片の表面を塗装面とし、順に、無機ジンクリッチプライマー(関西ペイント(株)製、SDジンク1500、厚さ:75μm)を防食下地層として塗布し、エポキシ樹脂塗料(関西ペイント(株)製、エポマリンHB、厚さ:120μm)を下塗り層として塗布し、更にエポキシ樹脂塗料(関西ペイント(株)製、セラテクトF中塗、厚さ:30μm)を中塗り層として塗布し、ふっ素樹脂塗料(関西ペイント(株)製、セラテクトF上塗、厚さ:25μm)を上塗り層として塗布した(合計厚さ:250μm)。なお、試験片の他方の表面と端面とは、エポキシ樹脂塗料にてシールした。
塗装後、図1に示すように、塗膜下部の鋼板自体(母材)に到達する、幅:1mm、長さ:40mmの直線のカットを入れ、初期欠陥部を設けた腐食試験片とした。ついで、以下に示す条件にて腐食試験を実施した。すなわち、人工海塩として、NaClを純水で濃度:5.0%に希釈した溶液を、試験片の表面のうち初期欠陥部が設けられた側に、付着量が6.0g/mとなるようにスプレーした。ついで、この試験片を用いて、条件1(温度:60℃、相対湿度:35%、保持時間:3時間)および条件2(温度:40℃、相対湿度:95%、保持時間:3時間)として、条件1から条件2および条件2から条件1への各移行時間を1時間とする、合計8時間のサイクルを1サイクル(つまり、1サイクル=条件1の3時間+移行時間の1時間+条件2の3時間+移行時間の1時間=8時間)として、これを600サイクル繰り返す、合計4800時間の腐食試験を実施した。なお、人工海塩は、週に1回のペースで付着を繰り返した。
そして、腐食試験終了後、腐食試験片の外観のデジタル画像を取得し、塗膜における初期欠陥部からの膨れ面積(塗膜膨れ面積)を基準スケールと比較することで測定した。塗膜膨れ面積が400mm以下であれば、塗装耐食性に優れると判断した。
(3)低温靭性
塗膜を形成することなく、得られた鋼板の板厚1/2位置で圧延方向と直角な方向(板幅方向)に沿って、JIS Z2202の規定に準拠してVノッチ試験片を採取した。そして、JIS Z2242の規定に準拠してシャルピー衝撃試験を実施し、-40℃におけるシャルピー衝撃吸収エネルギーおよび延性-脆性破面遷移温度(vTrs)を測定した。-40℃におけるシャルピー衝撃吸収エネルギーが100J以上、かつ、延性脆性破面遷移温度(vTrs)が-40℃未満であれば、鋼板自体の低温靭性に優れると判断した。
Figure 2023014929000004
表1および3より、所定の化学組成、ミクロ組織およびフェライトの平均結晶粒径を満たす発明例の鋼板であれば、優れた塗装耐食性と低温靭性とを両立できることがわかる。また、表1~3より、所定のスラブ調製工程、加熱工程、再結晶温度域圧延工程、未再結晶温度域圧延工程及び冷却工程に従えば、所定の化学組成、ミクロ組織およびフェライトの平均結晶粒径を満たした鋼板が製造可能であり、得られた鋼板が優れた塗装耐食性と低温靭性を両立できることがわかる。
一方、耐食性に寄与する元素W、Pが所定範囲に満たない比較例では、塗装耐食性に劣る。また、Ceq.が所定範囲を上回る比較例、強度に影響を及ぼす元素Mnが所定範囲を上回る比較例では、低温靭性に劣る。
そして、再結晶温度域圧延工程、未再結晶温度域圧延工程及び冷却工程の少なくともいずれかの所定条件を外れた比較例では、得られる鋼板のフェライト粒径を微細化することができず、低温靭性に劣る。
本発明によれば、塗装耐食性および低温靭性に優れた鋼板を提供できる。
1 腐食試験片(塗膜が形成された鋼板)
2 初期欠陥部
3 塗膜膨れ面積

Claims (6)

  1. 質量%で、
    C :0.02%以上0.20%以下、
    Si:0.05%以上1.00%以下、
    Mn:0.20%以上2.00%以下、
    P :0.003%以上0.030%以下、
    S :0.0001%以上0.0350%以下、
    Al:0.001%以上0.100%以下、および
    W :0.005%以上1.000%以下を含有し、
    さらに、
    Sn:0.200%以下、
    Cu:0.50%以下、
    Ni:0.50%以下、
    Sb:0.200%以下、および
    Mo:0.500%以下
    のうちから選ばれる1種または2種以上を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、かつ、炭素当量Ceq.が次式(1)を満たす化学組成を有し、
    Ceq.=C+Mn/6+Si/24+Ni/40+Cr/5+Mo/4+V/14
    ≦0.50% ・・・(1)
    ただし、式(1)中の元素記号は各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合は0とする
    フェライトと硬質相との複合組織を含むミクロ組織を有し、
    板厚中心における前記フェライトの平均結晶粒径が35μm以下である、鋼板。
  2. 前記化学組成が、さらに、質量%で、
    Cr :2.00%以下、
    V :0.200%以下、
    Ti :0.050%以下、
    Zr :0.100%以下、
    B :0.0050%以下、
    Ca :0.0100%以下、
    Co :1.000%以下、
    Mg :0.0100%以下、および
    REM:0.0100%以下
    のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する、請求項1に記載の鋼板。
  3. 少なくとも一方の表面に、更に塗膜を有する、請求項1または2に記載の鋼板。
  4. 前記塗膜が、複数のエポキシ樹脂の層を含む、請求項3に記載の鋼板。
  5. -40℃におけるシャルピー衝撃吸収エネルギーが100J以上、延性脆性破面遷移温度vTrsが-60℃以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の鋼板。
  6. 請求項1または2に記載の化学組成に溶製後、凝固させて鋼スラブを得るスラブ調製工程と、
    前記鋼スラブを、1050℃以上1250℃以下のスラブ加熱温度に加熱する加熱工程と、
    前記加熱工程後に、板厚中心がオーステナイト相の再結晶温度以上かつ前記スラブ加熱温度以下の温度範囲で、圧下率の合計が15%以上の圧延を行う再結晶温度域圧延工程と、
    前記再結晶温度域圧延工程後に、板厚中心が700℃以上かつ前記オーステナイト相の再結晶温度未満の温度範囲で、圧下率の合計が30%以上の圧延を行う未再結晶温度域圧延工程と、
    前記未再結晶温度域圧延工程後に、冷却開始温度が板厚中心で(Ar-40)℃以上であり、前記冷却開始温度から冷却停止温度までの間の平均冷却速度が2.0℃/秒以上である冷却を行う冷却工程と、を有する、鋼板の製造方法。
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