病気の治療のための数多くの薬物および生理活性物質などが開発されたが、薬物および生理活性物質を身体内に伝達するにあたって、生物学的障壁(biological barrier、例えば皮膚、口腔粘膜および脳-血管障壁など)の通過問題および薬物伝達の効率問題は依然として改善されなければならない点として残っている。
薬物および生理活性物質は一般的に錠剤剤形またはカプセル剤形で経口投与されるが、数多くの薬物が胃腸管で消化または吸収されるか、肝のメカニズムによって消失するなどの理由で前記のような投与方法だけでは有効に伝達され得ない。しかも、いくつかの薬物は臓の粘膜を通過して有効に拡散することができない。また、患者の順応度も問題となる(例えば特定の間隔で薬物を服用しなければならないか、薬を服用できない重篤な患者の場合等)。
薬物および生理活性物質の伝達においてさらに他の一般的な技術は、従来の注射針(needle)を利用することである。この方法は経口投与に比べて効果的である反面、注射部位での痛みの随伴および皮膚の局部的損傷、出血および注射部位での疾病感染などを惹き起こす問題点がある。
前記経口投与および皮下注射の問題点を解決するためにパッチ剤を通じての経皮投与方法が利用される。パッチ剤を使用した経皮投与は副作用が少なく、患者の順応度が高いため、薬物の血中濃度を一定に維持しやすい。
前記のような問題点を解決するためにマイクロニードル(microneedle)を含む多様なマイクロ構造体が開発された。現在まで開発されたマイクロニードルは主に生体内薬物伝達、採血、体内分析物質の検出などに使われてきた。
マイクロニードルは既存のニードルとは異なり、無痛症の皮膚貫通と無外傷を特徴とし、無痛症皮膚貫通は最小尖鋭性のための上端部(top)の直径が重要である。また、マイクロニードルは皮膚のうち最も強力な障害物である10-20μmの角質層(stratum corneum)を貫通しなければならないため、十分な物理的硬度を有することが要求される。また、毛細血管まで到達することによって薬物伝達の効率性を高めるための適正長さも考慮されなければならない。
従来にIn-planeタイプのマイクロニードル(「Silicon-processed Microneedles」、Journal of microelectrochemical system 8、1999)が提案された後、多様な類型のマイクロニードルが開発された。エッチング方法を利用したout-of-planeタイプのソリッドマイクロニードル(アメリカ特許出願公開第2002138049号「Microneedle devices and methods of manufacture and use thereof」)製作方法は、50-100μmの直径、500μmの長さで固体シリコンマイクロニードルを製作するが、無痛症皮膚貫通を具現することが不可能であったし、目的の部位に薬物および美容成分を伝達するのに困難があった。
一方、アメリカ、ジョージア大学のプラウスニツ(Prausnitz)は、ガラスをエッチングしたりフォトリソグラフィ(photolithography)で鋳型を作って生分解性ポリマーマイクロニードルの製作方法を提案したことがある。この方法を使うと、カプセル形態で製作可能な薬物の搭載が自由であるという長所はあるものの、薬物の搭載量が多くなるとマイクロニードルの硬度が弱くなるため、多量の投薬が必要な薬物には適用に限界があった。
2005年には吸収型マイクロニードルがナノデバイスアンドシステムズ社によって提案された(日本特許出願公開第2005154321号)。
このような吸収型マイクロニードルは、皮膚内に挿入されたマイクロニードルを除去せずに薬物伝達または美容に使用しようとするものである。この方法では、鋳型にマルトース(maltose)と薬物を混合した組成物を加え、これを凝固させてマイクロニードルを製作した。前記日本特許はマイクロニードルを吸収型で製作して薬物の経皮吸収を提案しているが、皮膚貫通時に痛みを伴った。また、鋳型製作の技術的限界によって、無痛症を伴う適切な上端部直径を有し、効果的な薬物伝達に要求される水準の長さすなわち、1mm以上の長さを有したマイクロニードルを製作することが不可能であった。
2008年アメリカ、ジョージア大学のプラウスニツ(Prausnitz)で製作した生分解性マイクロニードルは、ポリジメチルシロキサン(Polydimethylsiloxane:PDMS)鋳型でポリビニルピロリドン(Polyvinypyrrolidone:PVP)とメタクリル酸(Methacrylic acid:MAA)を混合した物質を使って製作された。またカルボキシメチルセルロースをピラミッド構造の鋳型に入れてマイクロニードルを製作したりもした。しかし、鋳型を使って製作する方法は、マイクロニードルの直径と長さを調節するために複雑な過程を経て新しい鋳型と型を製作しなければならないという限界を有しており、鋳型内に物質を入れてマイクロニードルを製作する工程が複雑であり、長時間が必要とされるという短所が存在する。
2008年には日本のMukai et al.が出願したUS特許を通じてフィン構造を使ってskin needleを製作する装備および方法を発表した(アメリカ特許出願公開US20080157421A1)。この方法は基板上のベースで加熱、粘性物質をpin構造物を使って引っ張る方法を使っている。この方法は熱によって溶けたり、粘性を有する物質をpin構造物を使って引っ張る方法を使用したため、望むパターンに応じてpin構造を新しく製作しなければならない過程が必要であるため生産費用が増加し、加熱工程により熱に敏感な多様なバイオ医薬品(ホルモン、ワクチン、その他蛋白質医薬品など)の搭載が難しいという限界を克服できないでいる。
一方、皮膚は表皮から角質層(<20μm)、外皮(epidermis)(<100μm)および真皮(dermis)(300~2、500μm)で構成されている。したがって、特定皮膚層に痛みなしに薬物および生理活性物質を伝達するためにはマイクロニードルの上端部の直径を30μm以内、有効長さは200~2,000μm、皮膚貫通のための十分な硬度を有するように製作することが薬物と皮膚の美容成分の伝達に効果的である。また、生分解性ソリッドマイクロニードルを通じて薬物および生理活性物質などを伝達するためには、マイクロニードル製造工程の中で高熱処理、有機溶媒処理などの薬物および生理活性物質の活性を破壊できる工程を排除することができなければならない。
従来のソリッドマイクロニードルは製造方法上の限界によって、シリコン、ポリマー、金属、ガラスなどの素材に限定されたし、モールディング技術を通じての製作方法を利用するため複雑であり、長期間の製作時間による薬物の変性、不充分な硬度、薬物の損失が発生するなどの短所を有した。したがって、皮膚貫通時に無痛症を具現できるほどの細い直径と皮膚の深いところまで浸透できる十分な長さを有しつつ、素材に特別な制限なしに十分な硬度を具現し、薬物の損失を最小化できるマイクロニードルの製造方法に対する要求は持続されている。
前述したような従来技術の問題点を解決するために、本発明者は送風引張方式(droplet air-born blowing)という新しいマイクロニードル製造方法を提案したことがある。本発明者が提案した送風引張方式の多様なマイクロニードル製造方法は韓国特許出願第10-2009-94018号、第10-2010-30127号、第10-2010-130169号、第10-2012-117936号、第10-2015-174066号、第10-2016-61903号などで出願されたことがある。本発明者の韓国特許出願の内容はその全体が本明細書に統合されたものと見なされるべきである。
本発明者が提案した、従来のモールディングまたはマイクロモールディング方式と差別化される送風引張方式のマイクロニードル製造方法は、マイクロニードル材料として粘性組成物を採用する。粘性を有する材料でなければ、接触に続く引張後に送風乾燥によってマイクロニードルに製造が不可能である。
一方、前述した送風引張方式の他にもいくつかの引張方式のマイクロニードル製造方法が本発明の出願日当時に知られている。そのうちの一つが遠心分離リソグラフィ(centrifugal lithography)と呼ばれる工程である。遠心分離リソグラフィ工程では粘性組成物が回転体に提供される。回転体の回転時に発生する遠心力によって粘性組成物が引っ張られる。引っ張られた粘性組成物の外側端部が回転体の外部に位置したプレートに接触することによって砂時計の形態が形成されて凝固される。その後、砂時計形態の中間部が切断されることによって2個のマイクロニードルが形成される。前述した送風引張方式と対比する時、別途の送風凝固工程を経ることなく遠心力によって延びる時、粘性組成物の水分が蒸発しながら構造が凝固するという特徴がある。
このように、送風凝固工程の有無において送風引張方式と遠心分離リソグラフィ方式は差があるが、粘性組成物の引張によってマイクロニードルの形態を製造するという点においては同一であり、前述したモールディング方式と差別化される。本発明はモールディング方式ではなく引張方式を前提とするものであって、本発明が前提とするこのような引張方式は、前述した送風引張方式、遠心分離リソグラフィ方式などの粘性組成物の引張によってマイクロニードルを成形するすべての知られている方式を包括するものと理解されるべきである。
このように、引張方式でマイクロニードルを製造するために利用される粘性組成物では多様な物質が利用可能であった。例えば、ヒアルロン酸とその塩、ポリビニルピロリドン、セルロースポリマー(cellulose polymer)、デキストリン、ゼラチン、グリセリン、ポリエチレングリコール、ポリソルベート、プロピレングリコール、ポビドン、カルボマー(carbomer)、ガティガム(gum ghatti)、クアガム、クルコマンサン、グルコサミン、ダンマルガム(dammer resin)、レンネットカセイン(rennet casein)、ローカストビーンガム(locust bean gum)、微小繊維状セルロース(microfibrillated cellulose)、サイリウムシードガム(psyllium seed gum)、ザンサンガム、アラビノガラクタン(arabino galactan)、アラビアガム、アルギン酸、ゼラチン、ジェランガム(gellan gum)、カラギナン、カラヤガム(karaya gum)、カードラン(curdlan)、キトサン、キチン、タラガム(tara gum)、タマリンドガム(tamarind gum)、トラガカントガム(tragacanth gum)、ファーセルラン(furcelleran)、ペクチン(pectin)またはプルラン(pullulan)を含む。他の多様な粘性物質も使用可能であり、前記例示したものに限定されるものではない。前述した本発明者の送風引張方式に関連した韓国特許出願の明細書に開示された粘性物質もマイクロニードル材料である粘性組成物として使用可能な候補群に属し得る。
しかし、粘性を有する材料であっても引張方式にすべて適合する材料とは断定できない。ひいては、引張方式に提供される材料は粘性組成物であって、マイクロニードルの形成に使われるのに適合した点が確認された材料のみで構成されるものではない。多様な生理活性薬剤などが追加で含まれ得、配合比が変更されたりもする。既存のニードルの形成に適合性が確認された材料に他の成分が追加で含まれたり配合比が変更される場合、ニードル形成適合性が再度評価されなければならない。
引張方式の製造方法でマイクロニードルを形成するのに適合な材料であるかどうかは、実際の工程に投入して多様な長さのマイクロニードルを形成してみる実際の工程投入後に評価過程を経ることによってのみ確認可能であった。
本発明は引張工程で製造するのに適合なマイクロニードル材料、このような材料を利用したマイクロニードル製造方法、マイクロニードル材料の適合性試験方法およびこれを含むマイクロニードル製造方法を提供することを目的とする。
本発明の一実施形態に係るマイクロニードル製造方法は、粘弾性測定装備を使用した粘性率/弾性率の各せん断速度別測定値がすべて事前に設けられた上限値と下限値の間に属するマイクロニードル材料が選択されて提供される段階と;前記段階で選択されて提供された前記マイクロニードル材料を用いて引張方式でマイクロニードルが製造される段階を含む。
前記のようなマイクロニードル製造方法において、マイクロニードル材料を選択するにおいては、前記測定された粘性率/弾性率値がせん断速度が増加するにつれて持続的に減少するかどうかが追加的に検討され得る。
一方、本発明の一実施形態に係るマイクロニードル材料の適合性試験方法は、粘弾性測定装備を使ってマイクロニードル材料の粘性率/弾性率が各せん断速度別に測定される段階と;前記せん断速度別に測定された値が全て事前に設けられた上限値と下限値の間に属するかが検討される段階と;前記検討結果が肯定である場合、前記マイクロニードル材料が引張方式によるマイクロニードルの成形に適合なものと判断される段階を含む。
前記のようなマイクロニードル材料の適合性試験方法において、マイクロニードル材料の測定された粘性率/弾性率値がせん断速度が増加するにつれて持続的に減少するかどうかが追加的に検討され得る。
前記マイクロニードルの製造方法とその材料の適合性試験方法において、すべて粘性率/弾性率の各せん断速度別事前に設けられた上限値と下限値は、好ましくは次のように実施され得る。
せん断速度が0.03(1/s)であるとき、上限値47.17、下限値6.67、
せん断速度が0.04(1/s)であるとき、上限値35.07、下限値4.86、
せん断速度が0.06(1/s)であるとき、上限値25.37、下限値3.77、
せん断速度が0.10(1/s)であるとき、上限値18.40、下限値3.06、
せん断速度が0.16(1/s)であるとき、上限値13.47、下限値2.56、
せん断速度が0.25(1/s)であるとき、上限値10.06、下限値2.18、
せん断速度が0.40(1/s)であるとき、上限値7.71、下限値1.88、
せん断速度が0.63(1/s)であるとき、上限値5.99、下限値1.65、
せん断速度が1.01(1/s)であるとき、上限値4.71、下限値1.46、
せん断速度が1.62(1/s)日のとき、上限値は4.08、下限値1.32、
せん断速度が2.59(1/s)であるとき、上限値2.89、下限値1.09.
このような各せん断速度別上限値と下限値は本発明者らによる反復実験によって導き出された結果物であり、本発明に達する前には本発明が属する技術分野の専門家たちの間で知られていない新しい境界値であり、このような境界値による基準を適用することによって、引張工程に適合なマイクロニードル材料の判別が容易かつ正確になされ得る。
その他にも追加的な構成が本発明にさらに含まれ得る。
本発明によると、引張工程で製造するのに適合なマイクロニードル材料、このような材料を利用したマイクロニードル製造方法、マイクロニードル材料の適合性試験方法およびこれを含むマイクロニードル製造方法が提供され得る。
より具体的には、本発明によると、実際の引張工程に投入してマイクロニードルを形成する工程を遂行せずとも、事前に製造適合性が確認されるマイクロニードル材料が提供され得、このようなマイクロニードルを利用したマイクロニードル製造方法が提供され得る。一方、本発明によると、マイクロニードル材料となる物質が新しく入庫される場合、工程投入前に適合性の可否を判断できる試験方法が提供され得、このような試験方法を含む製造方法が提供され得る。これにより、新しい物質を追加したり配合比の変更などの場合にも工程投入前に適合性の可否を判断できるようになる。
このように本発明の新しくて特徴的なマイクロニードル材料またはマイクロニードル材料の試験方法または前記マイクロニードル材料を利用した製造方法または前記試験方法を含む製造方法を提供することによって、引張工程に適合なマイクロニードル材料を工程投入前に判別できるようになり、これで全体工程の効率性が高まる。適合な材料を客観的かつ効率的に判別可能になることにより、引張方式によって生産されるマイクロニードルの品質が向上し得る。
後述する本発明に対する詳細な説明は、本発明が実施され得る特定の実施形態を例示として図示する添付図面を参照する。このような実施形態は当業者が本発明を充分に実施できるほど詳細に説明される。本発明の多様な実施形態は互いに異なるが互いに排他的である必要はないことが理解されるべきである。例えば、本明細書に記載されている特定形状、構造および特性は、本発明の精神と範囲を逸脱することなく一実施形態から他の実施形態に変更されて具現され得る。また、それぞれの実施形態内の個別構成要素の位置または配置も本発明の精神と範囲を逸脱することなく変更され得ることが理解されるべきである。したがって、後述する詳細な説明は限定的な意味として行われるものではなく、本発明の範囲は特許請求の範囲の請求項が請求する範囲およびそれと均等なすべての範囲を含むものと理解されるべきである。
以下では、本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者が本発明を容易に実施できるようにするために、本発明の多様な好ましい実施形態に関して添付された図面を参照して詳細に説明することにする。
図1は、本発明に係るマイクロニードル材料の適合性試験方法に使われる粘弾性測定装備である。図1に図示されたような材料の粘弾性測定装備をレオメータ(rheometer)と当業界で称する。レオメータはエアベアリングを使って摩擦を最小化させた上部のプレートと固定された下部のプレートの間に試料をローディングして試料の粘弾性を測定する装備である。
試料の粘弾性を測定する前、装備の摩擦力を測定して実際に試料の粘弾性測定時に装備自体の摩擦を排除する方式で測定が進行される。上部のプレートは平板状、円錐状などの形に形成されており、これは試料の粘性やその他の特徴によって使う形と大きさが変わり得る。例えば、粘性が非常に低い水のような物質を測定する時には、より広い面積を有するプレートを使わないと測定できない程度の抵抗がかかることになる。二つのプレートまたは円錐状の装置とプレートまたはcup & bobシステムのような他の類似するジオメトリーの間に試料をロードする。上部プレートにトルクを加えると物質に回転せん断応力が加えられ、結果的な変形または変形速度(せん断速度)が測定される。図1に図示された粘弾性測定装備、すなわち、レオメータを使って本明細書に開示された材料の粘弾性物性を測定する時の測定条件は下記の通りである。
-温度:25℃
-ジオメトリー間隔:1mm
-せん断速度:0.03~2.59 1/s
-試料量:0.3mL
-使用プレート:20mm平板状
図1に図示された粘弾性測定装備を使って本発明者が測定した材料固有の値はtangent of delta値である。略してtan delta値とも呼称する。粘性組成物のtan delta値は該当粘性組成物を使ってマイクロニードルを成形できるかどうかおよび成形可能なニードルの長さと相関関係があることが本発明者によって明らかになった。マイクロニードル製造のために新規の原料物質を選定したり、既存物質を使っても新規の配合比を選定しようとする場合、粘性組成物のtan delta値を測定してみることによってあらかじめマイクロニードルの成形の可否を確認することができる。
高分子は粘性(viscosity)と弾性(elasticity)をすべて有した粘弾性(viscoelasticity)物質である。分かりやすく言えば、完全粘性を有した物質は外部の力に対して全く抵抗なく形状が変わる。その反面、完全弾性を有した物質は外部の力に対して強く抵抗し、その力が消えるとすぐに本来の状態に復帰する。高分子の性質はその二つの物質の中間のいずれかに位置する。例えばゴムボールを考えてみることにしよう。ゴムボールを底に落とすと、本来の高さよりは低い地点まで跳ね返る。このように跳ね返ったのは弾性の性質である。そうすると、本来の高さまで戻ることができないのはなぜだろう?それは、それだけの力をなくしたためである。正確に言うと、熱の形態で外部に送り出したのであるが、これがすなわち、粘性の性質である。
前述したtan delta値は材料の粘性率/弾性率と定義される。この値が小さいということはすなわち、弾性の性質が強くて弾性率が大きいということを意味する。この値が大きいということはすなわち、粘性の性質が強くて粘性率が大きいということを意味する。
図2は多様な材料に対してtan delta値を測定したグラフであり、ここでx軸は粘弾性測定装備の測定時のせん断速度値(1/s)であり、y軸はtan delta値である。図2の実験に使われた物質は高分子ヒアルロン酸と低分子ヒアルロン酸を多様な配合比率で混ぜて製造した。
図2で点線または一点鎖線で図示されたグラフはマイクロニードルに成形するのに不適切な材料のtan delta値の推移である。その反面、実線で図示されたグラフはマイクロニードルに成形するのに適合な材料のtan delta値の推移である。
図2を参照すると、マイクロニードルに成形するのに適合な材料のせん断速度の増加によるtan delta値の変位の特徴を確認することができる。
第1の特徴は、せん断速度の増加によりtan delta値が減少することである。点線で示されてマイクロニードルに成形するのに適合しない材料中の一つは、特定のせん断速度(略0.06 1/s)に至るまでtan delta値が増加してからその特定のせん断速度の後に減少する推移を示す。このような挙動を示す材料は引張方式によってマイクロニードルに成形するのに適合しない材料と判明した。
第2の特徴は、tan delta値が特定範囲以内でなければならないということである。図2のグラフでせん断速度の増加によりtan delta値が減少する2個の一点鎖線のグラフが存在するが、これらはせん断速度の増加によりtan delta値が減少する推移を示すものの、その値がマイクロニードルに成形するのに適合な範囲に属さない。
本発明者は多様な分子量のヒアルロン酸に対して、前記第2の特徴に該当する上限と下限値を得るために反復実験を行い、その結果、図3のグラフに図示した結果を導き出した。
図3は、引張を通じての製造適合性が確認されたtan delta範囲を示すグラフである。
図3に図示されたグラフで最も上の実線グラフと最も下の実線グラフがそれぞれ上限と下限となり、その間に表示された領域に属するtan delta値を有する材料はマイクロニードルに成形するのに適合な材料と判明された。
図3に図示されたグラフにおいて、各せん断速度別マイクロニードルに成形可能な上限値と下限値は次の通りである。
せん断速度が0.03(1/s)であるとき、上限値47.17、下限値6.67、
せん断速度が0.04(1/s)であるとき、上限値35.07、下限値4.86、
せん断速度が0.06(1/s)であるとき、上限値25.37、下限値3.77、
せん断速度が0.10(1/s)であるとき、上限値18.40、下限値3.06、
せん断速度が0.16(1/s)であるとき、上限値13.47、下限値2.56、
せん断速度が0.25(1/s)であるとき、上限値10.06、下限値2.18、
せん断速度が0.40(1/s)であるとき、上限値7.71、下限値1.88、
せん断速度が0.63(1/s)であるとき、上限値5.99、下限値1.65、
せん断速度が1.01(1/s)であるとき、上限値4.71、下限値1.46、
せん断速度が1.62(1/s)であるとき、上限値は4.08、下限値1.32、
せん断速度が2.59(1/s)であるとき、上限値2.89、下限値1.09である。
図3は、すべてヒアルロン酸に対するtan delta値の測定結果を図示しているが、複数個のグラフはそれぞれ異なる分子量のヒアルロン酸に対する結果を示す。図3で最も上に位置した実線グラフは最も低分子量のヒアルロン酸を示し、最も下に位置した実線グラフは最も高分子量のヒアルロン酸を示す。図3の結果から分子量が大きいほどせん断速度によるtan delta値の変化が少なく、分子量が少ないほどせん断速度によるtan delta値の変化が大きいという事実が分かる。より具体的には、図3のグラフのうち、せん断速度によるtan delta値の変化が最も大きいヒアルロン酸(分子量が最も小さいヒアルロン酸)から最も小さいヒアルロン酸(分子量が最も大きいヒアルロン酸)の分子量は順次、450kDa、510kDa、530kDa、540kDa、550kDa程度である。
図3は、多様な分子量を有するヒアルロン酸のtan delta値を測定して引張方式でマイクロニードルを成形可能であるかとうかに対して実験した結果を図示する。本発明者はヒアルロン酸に限定せず、他の物質に対しても同一のtan delta値の範囲を引張方式でマイクロニードルの成形の可能性の有無を判定するのに使用できるかを調べるために実験を遂行した。その結果が図4に図示される。
図4は、ヒアルロン酸以外の多様な高分子物質に対するtan delta測定結果を示すグラフである。
図4に図示されたグラフで各せん断速度別多様な高分子物質の測定されたtan delta値は次の通りである。
0.03 1/s:HPMC4.95、Dextran7.52、Chondroitin6.7、PVP23.47
0.04 1/s:HPMC5.00、Dextran5.39、Chondroitin4.89、PVP15.61
0.06 1/s:HPMC5.13、Dextran4.03、Chondroitin3.8、PVP10.94
0.10 1/s:HPMC5.33、Dextran3.09、Chondroitin3.09、PVP8.11
0.16 1/s:HPMC5.59、Dextran2.44、Chondroitin2.59、PVP6.28
0.25 1/s:HPMC5.87、Dextran1.98、Chondroitin2.21、PVP5.05
0.40 1/s:HPMC6.14、Dextran1.68、Chondroitin1.91、PVP4.18
0.63 1/s:HPMC6.41、Dextran1.32、Chondroitin1.68、PVP3.54
1.01 1/s:HPMC6.72、Dextran1.17、Chondroitin1.49、PVP3.10
1.62 1/s:HPMC6.89、Dextran1.14、Chondroitin1.35、PVP2.58
2.59 1/s:HPMC6.97、Dextran1.11、Chondroitin1.12、PVP2.05
図4の実験の目的はtan delta値を基準として引張方式を通じてのマイクロニードルの成形可能の有無を判断するにおいて、ヒアルロン酸に限定されず、多様な高分子物質に対しても同一の基準を適用できるかどうかを確認するためであった。
このためにHPMC(HydroxyPropyl MethylCellulose)、Dextran、Chondroitin、PVP(Polyvinylpyrrolidone)の4つの物質の粘弾性を測定したのであり、HPMCの場合、成形可能範囲から外れた値を、Dextran、Chondroitin、PVPは成形可能基準を満足した。この4つの材料のうち、HPMC、Dextran、Chondroitinはすべて多糖類(polysaccharide)系列であるが、PVPは多糖類ではなく高分子物質であって材料群に含まれた。
図4には適合判定のためのtan delta値の範囲が表示されている。前記4つの物質はそれぞれ異なる種類の線で測定されたtan delta値の推移が図示された。HPMCの場合、事前に設けられたtan delta値の範囲に属さない区間が確認されただけでなく、tan delta値が他の3つの物質とは異なって、せん断速度が増加するにつれて持続的に減少する挙動を見せないという点で、成形可能基準を満足しないものと判断することができた。
実際に各物質を材料として引張方式の工程を通じてマイクロニードルの成形を進行したのであり、その結果、tan delta値を基準として予想したのと同一の結論を得た。すなわち、HPMCは実際に成形が不可能であり、DextranとChondroitin、PVPは実際に成形が可能であった。
本実験を通じてtan delta値を引張工程でマイクロニードルの成形可能な基準として使用できることを確認したし、これはヒアルロン酸にのみ限定されず、多様な高分子物質に汎用的に適用できることを確認した。
以上で説明した通り、マイクロニードル材料固有の粘弾性性質、より具体的には、tan delta値とマイクロニードルとしての成形可能の有無の相関関係が確認された。
本発明が具体的に構成要素などのような特定事項と限定された実施形態および図面によって説明されたが、これは本発明のより全般的な理解を助けるために提供されたものに過ぎず、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者であればこのような記載から多様な修正、および変形ができる。
したがって、本発明の思想は前記説明された実施形態に限定されて定められてはならず、後述する特許請求の範囲だけでなくこの特許請求の範囲と均等なまたは等価的に変更されたすべての範囲は本発明の思想範疇に属するものと言える。