JP2022191644A - 遮熱水性クリヤー塗料、遮熱水性クリヤー塗料の塗装方法,及びその積層構造 - Google Patents

遮熱水性クリヤー塗料、遮熱水性クリヤー塗料の塗装方法,及びその積層構造 Download PDF

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Abstract

【課題】被塗装物の表面の加飾層の意匠性を十分に保ちながら、被塗装物への熱の伝わりを緩やかにし、被塗装物の劣化を抑えることができる遮熱水性クリヤーを提供する。【解決手段】合成樹脂エマルションの固形分に対して、顔料成分を添加した水性クリヤー塗料により形成されるクリヤー膜であって、このクリヤー膜の厚みが50μm~300μmの範囲である場合のクリヤー膜の光透過率が90~60%の範囲で、隠ぺい率が1.0~15.0%の範囲であることにより、被塗装物の表面の加飾層の意匠性を十分に保ちながら、被塗装物への熱の伝わりを緩やかにし、被塗装物の劣化を抑えることができる。【選択図】なし

Description

本開示は、建築物や土木構造物等の壁面及び壁面に用いられる壁板材などの加飾された被塗装物の表面に塗装されるのに用いられる遮熱水性クリヤー塗料、その塗装方法及び積層構造に関するものである。
従来、建築物、土木構造物等の壁面に塗装を行い、その壁面の色調や模様などを施し、美観や耐久性を向上させることが行われている。より耐久性を上げるために、これら塗装面にクリヤー塗料を塗布することも行われている。
また、建物のリフォームにおいては、意匠性のある壁面に対して、クリヤー塗料の塗布のみでリフォームが行われることもある。
このような方法としては、特許文献1にあるような方法の提案がある。この特許文献1に記載された建築外装材の補修方法は、建築外装材の表面上の旧塗膜を剥離又は除去することなく、該旧塗膜上の汚染物質を除去した後、該旧塗膜上にシーラーとして、水分散液(A)と密着付与剤(C)を含有する水性下塗塗料を塗布し、下塗塗膜を形成する工程と、 該下塗り塗膜上に水分散液(B)を含有する水性上塗塗料を塗布し、上塗塗膜を形成する工程と、を含むことを特徴とする建築外装材の補修方法である。
この補修方法によれば、既存の多彩模様等の高い意匠性を保ったまま建築外装材の塗膜の補修を行うことが可能となり、また水系塗料を使用するため、環境にも優しくコスト的にも優れる。また、本発明の下塗り塗膜に用いられる密着付与剤によって、旧塗膜への密着性が良好であり、耐候性に優れた塗膜を形成することが可能としたものである。
特開2013-208546号公報
しかしながら、特許文献1の建築外装材の補修方法では、旧塗膜への密着性が良好であり、耐候性に優れた塗膜を形成することが可能としたものではあり、塗装表面の耐久性についても十分ではあるが、補修を行った建築外装板などの被塗装物の熱劣化については、十分な効果を得ることができないことがある。
これは、外気の熱の変動により被塗装物が膨張するなどして動き、被塗装物が経年で劣化することである。また、その被塗装物が複数色で構成されたものであれば、その色毎で熱の吸収の程度が異なるため、被塗装物へのダメージが部分的に異なり、被塗装物の劣化も大きなものとなる。
本開示は、被塗装物の表面の加飾層の意匠性を十分に保ちながら、被塗装物への熱の伝わりを緩やかにし、被塗装物の劣化を抑えることができる遮熱水性クリヤーを提供することにある。
合成樹脂エマルションの固形分に対して、顔料成分を添加した水性クリヤー塗料により形成されるクリヤー膜であって、このクリヤー膜の厚みが50μm~300μmの範囲である場合のクリヤー膜の光透過率が90~60%の範囲で、隠ぺい率が1.0~15.0%の範囲であるものである。
これにより、被塗装物の表面の加飾層の意匠性を十分に保ちながら、被塗装物への熱の伝わりを緩やかにし、被塗装物の劣化を抑えることができるものである。
前記顔料成分が5~80μmの範囲の平均粒子径の光輝性顔料であることにより、顔料成分の添加量を効率的にすることができ、十分な遮熱効果のあるものである。
本開示の遮熱水性クリヤー塗料を複数の色彩要素で加飾された被塗布物表面に塗布することにより、被塗布物表面の加飾層の意匠性を十分に保ちながら、被塗装物への熱の伝わりを緩やかにし、被塗布物の劣化を抑えることができるものである。
複数の色彩要素で加飾された加飾層、本開示の遮熱水性クリヤー塗料によるクリヤー膜が積層されたものであることにより、被塗布物表面の加飾層の意匠性を十分に保ちながら、被塗布物への熱の伝わりを緩やかにし、被塗布物の劣化を抑えることができるものである。
本開示の実施形態を説明する。
本開示は、合成樹脂エマルションの固形分に対して、顔料成分を添加した水性クリヤー塗料により形成されるクリヤー膜であって、このクリヤー膜の厚みが50μm~300μmの範囲である場合のクリヤー膜の光透過率が90~60%の範囲で、隠ぺい率が1.0~15.0%の範囲であるものである。
まず、合成樹脂エマルションは、遮熱水性クリヤー塗料の主成分であり、被塗装面と密着するクリヤー膜を造るものである。この合成樹脂エマルションは、合成樹脂を水に分散させたもので、乳化重合のような通常の重合技術で製造できるものでる。
水性クリヤー塗料のバインダー成分として、合成樹脂エマルションは、その取扱いや塗料の作業性の点、更にクリヤー膜の耐水性の観点などから多く用いられるものである。
この合成樹脂には、アクリル樹脂,シリコーン樹脂,アクリルシリコン樹脂,フッ素樹脂,ポリウレタン樹脂,スチレン樹脂,エポキシ樹脂,メラミン樹脂,アルキッド樹脂,塩化ビニル樹脂,酢酸ビニル樹脂,ポリエステル樹脂,ポリエーテル樹脂,フェノール樹脂,ケトン樹脂などの樹脂を単独又2種類以上を混合して用いても良い。これらを構成するモノマーを単独又は共重合した一般的なものが使われる。
これら合成樹脂を用いた合成樹脂エマルションの中でも、耐候性の良いアクリル系合成樹脂エマルション,ウレタン系合成樹脂エマルション,シリコーン系合成樹脂エマルション,フッ素系合成樹脂エマルション,アクリルシリコン系合成樹脂エマルションを用いることが好ましい。
また、これらの合成樹脂エマルションは、耐候性の他にも塗料適性,塗膜の物性や入手の容易性などの点でも好適に用いられ、これらによりクリヤー膜の耐候性など耐久性が向上するものである。
合成樹脂は、遮熱水性クリヤー塗料中に15~45重量%の範囲が好ましい。15重量%より少ない場合には、クリヤー膜が脆く、劣化が速い場合がある。45重量%より多い場合は、後述するクリヤー膜の光透過率が低下することがある。
この合成樹脂エマルションに使われている合成樹脂のガラス転移点(以下、Tg)が0~40℃の範囲が好ましい。0℃より低い場合では、形成されたクリヤー膜が汚れ易くなり、40℃より高い場合では、形成されたクリヤー膜が硬く、下地の動きに追従できなくなり、割れなどが発生することがある。
この遮熱水性クリヤー塗料は、上記合成樹脂エマルションと後述する顔料成分の他に、遮熱水性クリヤーの効果が損なわない限りにおいて、必要に応じて通常の水性塗料用の添加剤を使用することができる。
この添加剤には、消泡剤,分散剤,湿潤剤などとして用いられる界面活性剤、造膜助剤,防凍剤などとして用いられる高沸点溶剤、粘度,粘性調整のための増粘剤やレベリング剤、防腐剤、防藻剤、防黴剤、pH調整剤、艶消し材,架橋剤、シランカップリング剤等のように一般に塗料に配合されている各種添加剤を必要に応じて添加することができる。
また、遮熱水性クリヤー塗料には、ヒンダードアミンライトスタビライザー(以下、「HALS」と言う。),紫外線吸収剤(以下、「UVA」と言う。)が好ましく添加される。これらを添加することで、形成されるクリヤー膜の耐候性を向上させるものである。
このHALSは、クリヤー膜の合成樹脂の劣化に影響を与える遊離ラジカルを捕捉するものである。
また、UVAは、有害な紫外線を吸収し、無害な熱又は運動エネルギーに変換するものである。
より好ましくは、このHALSとUVAとを併用することである。これは、HALSがクリヤー膜の劣化を起こす有害な光を吸収するものではないため、UVAを併用することにより、クリヤー膜の耐候性がより増すからである。
さらに、クリヤー膜の熱酸化劣化を防止するために酸化防止剤を添加することがある。これにより、より一層の耐候性を得ることができる。
これらHALS,UVA,酸化防止剤は、合成樹脂エマルションと容易に混ざり合うものが良い。
このHALSには、1-[2-〔3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ〕エチル]-4-〔3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ〕-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-ベンゾイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジンなどのような1分子にテトラメチルピペリジンの数が1つのものや8-アセチル-3-ドデシル-7,7,9,9-テトラメチル-1,3,8-トリアザスピロ[4.5]デカン-2,4-ジオンなど2つのものなどがあり、テトラメチルピペリジンを有するものが好ましく用いられる。
HALSの平均分子量は、200~1000の範囲のものが好ましく、200より小さいものは、クリヤー膜から流出し易く、耐候性の向上が少なくなることがある。平均分子量が1000より大きいものは、遮熱水性クリヤー塗料の貯蔵安定性を損なうことがある。
HALSの添加量は、その種類にもよるが、有効成分が合成樹脂エマルションの固形分中に、0.1重量%~5.0重量%の割合の範囲が好ましく、0.1重量%より少ない場合では、クリヤー膜の耐候性の向上を期待することができない場合がある。
5.0重量%より多い場合には、耐候性の効果が格段に向上することが期待できないことがある。より好ましくは、0.1重量%~3.0重量%の割合の範囲である。この範囲である場合には、十分な塗膜の耐候性を期待できるものである。
UVAには、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、トリアジン系、サリシレート系、シアノアクリレート系、オキザニリド系のUVAが挙げられる。
これらUVAの中では、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、トリアジン系のUVAが、熱及び光に安定であるため好ましく用いられる。さらに、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤は、HALSとの相乗効果が大きいためより好ましく用いられる。
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤には、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-[2’-ヒドロキシ-3’,5’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)フェニル]ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5-ジ-t-ブチル-フェニル)-ベンゾトリアゾールなどがある。
ベンゾフェノン系紫外線吸収剤には、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン-5-スルフォニックアシドなどが挙げられる。
トリアジン系紫外線吸収剤には、2,4-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-6-(2-ヒドロキシ-4-n-オクチルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリス(4-ブトキシ-2-ヒドロキシフェニル)-1,3,5-トリアジンなどが挙げられる。
UVAの添加量は、その種類にもよるが、有効成分が合成樹脂エマルションの固形分中に、0.2重量%~10.0重量%の割合の範囲が好ましく、0.2重量%より少ない場合では、クリヤー膜の耐候性の向上を期待することができない場合がある。
10.0重量%より多い場合には、耐候性の効果が格段に向上することが期待できないことがある。
より好ましくは、0.2重量%~5.0重量%の割合の範囲である。この範囲である場合には、十分な塗膜の耐候性を期待できるものである。
酸化防止剤には、リン系,フェノール系,イオウ系の酸化防止剤を挙げることができる。これらの中でも、リン系,フェノール系の酸化防止剤が好ましく用いられる。また、リン系酸化防止剤は、HALSとの相乗効果が大きいためより好ましく用いられる。
リン系酸化防止剤には、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイトなどが挙げられる。酸化防止剤は、UVAと併用することも可能である。
顔料成分には、酸化チタン,カオリン,タルクやクレーなどの白色顔料、酸化鉄などの無機系の顔料や有機系顔料などの着色顔料、炭酸カルシウム,珪藻土,水酸化アルミニウム,ベントナイト,ホワイトカーボン,沈降性バリウムや珪砂などの体質顔料が挙げられ、これらの他に光輝性顔料も挙げることができる。
この顔料成分の平均粒子径は、5~80μmの範囲が好ましい。5μmより小さい場合では、所望の遮熱効果を得るために比較的多くの添加量が必要になることがある。80μmより大きい場合では、被塗布物表面の加飾層の意匠性を十分に保つことができないことがある。
本開示では、これら顔料成分を合成樹脂エマルションの固形分に対して、0.01~5.0重量%の範囲で添加したものが好ましい。
この添加量が、0.01重量%より少ない場合では、被塗布物表面の加飾層や被塗装物自体に太陽光の光,熱を伝え易く、それらの劣化を抑えることができないなどクリヤー膜の遮熱性を十分に持たせることができない。
5.0重量%より多い場合では、被塗布物表面の加飾層の意匠性を十分に保つことができない。
これら顔料成分は、1種又は複数種用いるもので、その中でも光輝性顔料が好ましく用いられる。この光輝性顔料は、その形状が鱗片状のものであるため、光を反射させ易く、クリヤー膜の遮熱効果が効率的になる。
この光輝性顔料とは、パールのような光沢や金属調の光沢など特有の光沢を持つ顔料のことで、見る角度によって塗膜に異なる色感を持たせることができ、鱗片状にしたアルミニウムなどの金属片や雲母、ガラスなどがあり、これらに酸化チタンをコーティングしたものなどがある。
この中でも、アルミニウムなどの金属片や雲母、ガラスに酸化チタンでコーティングされたパール顔料が好ましく用いられる。このパール顔料は、その形状や大きさが揃っているため、安定した遮熱効果を得ることができる。
このパール顔料は、薄板状雲母粒子やガラスの表面を酸化チタンでコーティングしたもので、この粒子が層状にされることにより、光が多重層反射され、特徴のある光沢を得るものである。これは、雲母片やガラスと酸化チタンの屈折率の差異による光の干渉作用によりパールのような特徴のある光沢を発するものである。
この光輝性顔料の平均粒子径が5~80μmの範囲であることが好ましい。5μmより小さい場合では、光の反射が乱反射に近くなることで、遮熱効果の効率が悪くなり、所望の遮熱効果を得るために比較的多くの添加量が必要になることがある。
80μmより大きい場合では、クリヤー膜に光輝性顔料が添加させていることが目視で確認することができ、被塗布物表面の加飾層の意匠性を十分に保つことができないことがある。
より好ましいものとして、この範囲が5~60μmであることで、顔料成分の添加量を効率的にすることができ、十分な遮熱効果のあるものである。
上記成分により遮熱水性クリヤー塗料は構成される。この遮熱水性クリヤーは、通常の塗装方法である吹付塗装,塗装用ローラー,刷毛などの器具をもちいて被塗布物などに塗装される。
また、塗布された遮熱水性クリヤー塗料は、硬化乾燥させ、クリヤー膜を得ることができる。この乾燥には、建築現場など屋外で使用される多くの場合は、自然に乾燥させることが多い。
後述される壁板材などを工場内で塗装する場合では、自然に乾燥させることもあるが、遠赤炉,ガス炉,電気炉など使用して、強制的に乾燥させることも可能である。
この遮熱水性クリヤー塗料により形成されるクリヤー膜の厚みは、特に制限されないが、好ましくは50μm~300μmであり、50μmより薄い場合では、遮熱効果が期待し難く、300μmより厚い場合では、被塗布物表面の加飾層の意匠性を十分に保つことができないことがある。
より好ましくは80μm~200μmであり、被塗布物表面の加飾層の意匠性を十分に保ち、遮熱効果のあるバランスの取れたものとなる。
この遮熱水性クリヤー塗料により形成されるクリヤー膜は、その膜厚が50~300μmの範囲である場合において、光透過率が90~60%の範囲で、隠ぺい率が1.0~15.0%の範囲であるものである。
光透過率は、クリヤー膜の光を通す程度を表すもので、分光光度計により測
定が可能である。
この光透過率は、厚みが50~300μmの範囲のクリヤー膜を通す前の光の強度に対して透過後の光の強度の割合で、その割合が90~60%のものであり、この範囲内であれば、被塗布物の表面の加飾層の意匠性を十分に保ちながら、被塗装物への熱の伝わりを緩やかにすることが可能である。
光透過率が90%より高い場合では、被塗布物への熱が伝わり易く、被塗布物の熱劣化を抑えることが難しく、60%より低い場合では、クリヤー膜が濁った状態であり、被塗布物の加飾層の色合いなどがぼやけたものとなり、その意匠性を保つことができないものである。
好ましくは、光透過率が85~70%の範囲で、この範囲内であれば、被塗布物の表面の加飾層の色合いなど十分に保ちながら、被塗装物への熱の伝わりがより緩やかになり、バランスの取れたものとなる。
隠ぺい率は、クリヤー膜が下地の色の差を覆い隠す能力である隠ぺい力を数値化したもので、色分けが見えにくくなる程度のことで、この場合は、色分けがわかることを表すものである。
つまり、遮熱性水性クリヤー塗料によるクリヤー膜のクリヤー度を表すことになる。
この隠ぺい率は、黒と白とに塗り分けて作った隠ぺい力試験紙などの下地の上に、クリヤー膜の厚みが50~300μmの範囲で、黒の部分と白の部分とを同じ厚さで塗ったときの、クリヤー膜の45度,0度拡散反射率又は三刺激値Yの比で表すもので、JIS K5600-4-1にあるように測定されるものである。
遮熱水性クリヤー塗料によるクリヤー膜の隠ぺい率は、隠ぺい率が1.0~15.0%の範囲であり、この範囲内であれば、被塗布物の表面の加飾層の意匠性を十分に保ちながら、被塗装物への熱の伝わりを緩やかにすることが可能である。
隠ぺい率が15.0%より高い場合では、クリヤー膜に隠ぺい力があることになり、被塗布物の加飾層の色合いをはっきり確認することが難しいこととなり、その意匠性を保つことができない。1.0%より低い場合では、被塗布物への熱が伝わり易く、被塗布物の熱劣化を抑えることが難しい。
好ましくは、隠ぺい率が2.0~10.0%の範囲で、この範囲内であれば、被塗布物の表面の加飾層の色合いなど十分に保ちながら、被塗装物への熱の伝わりがより緩やかになり、バランスの取れたものとなる。
このように構成された遮熱水性クリヤー塗料は、その形成されたクリヤー膜
により、その効果を発揮するものである。
この遮熱水性クリヤー塗料は、各種被塗布物表面に塗布することが可能で、この被塗布物には、建築物や土木構造物等のコンクリートなどの壁面やこの壁面を構成する壁板材などである。
この遮熱水性クリヤー塗料は、太陽光などの外界の光,熱などの影響を受け易く、その変化が大きい熱容量の少ない壁板材への塗布が好ましいことである。
この壁板材は、コンクリート壁面に比べ、厚みが薄いため、外界の温度の影響を受け易いものである。
つまり、この壁板材は、太陽光を受けると温度が直ぐに上昇し、受けなくなると温度が比較的速く下がることになる。このように太陽光による温度変化が激しいため、それにより被塗布物が温度により膨張収縮が大きく繰り返され、そのために劣化も速くなる。特に、その表面は、その影響を受け易くなる。
そのため遮熱水性クリヤー塗料を塗布し、形成されたクリヤー膜によりその影響を少なくし、劣化の速度も遅くすることができる。
この壁板材には、窯業系サイディングボード,フレキシブルボード,ケイ酸カルシウム板,押し出し成型板,石膏スラグバーライト板,木片セメント板,プレキャストコンクリート板,軽量気泡コンクリート板及び石膏ボード等の壁板材やアルミニウム,鉄及びステンレス等の金属材料で形成された壁板材などがある。
また、これら被塗布物表面には、塗料,塗材やインクなどで加飾されている場合が多い。この場合、単色で加飾しているものや複数色で加飾されている場合がある。
単色で加飾されている被塗布物に本開示の遮熱水性クリヤー塗料を塗布し、クリヤー膜を積層した場合では、全体に一様な仕上がりとなり、その遮熱効果も全体として一様なものを得ることができる。
この遮熱水性クリヤー塗料では、被塗布物が複数色で加飾されている場合にその効果をより発揮する。
例えば、複数色で加飾された被塗布物では、加飾された色毎で、光の吸収が異なり、そのため温度の上昇も異なり、その温度上昇により被塗布物の膨張のも異なり、被塗布物に加わる応力も異なることになる。これにより、被塗布物の表面の色によりその部分の劣化が異なり、被塗布物の応力による劣化も異なるようになる。
このような場合に、この遮熱水性クリヤー塗料を複数色で加飾された被塗布物に塗布し、クリヤー膜を積層させることで、加飾層に吸収される太陽光などの光を全体に和らげ、被塗布物の温度分布もなだらかにすることができることになる。
そのため、被塗布物の表面の加飾層の意匠性を十分に保ちながら、被塗布物への熱の伝わりを緩やかにし、被塗布物の劣化を抑えることができるものである。
また、被塗布物が平面である場合より凹凸など形状がある場合には、よりその効果を発揮するものである。被塗布物に凹凸形状がある場合には、温度による応力が、不均一に掛かり易いことがあり、被塗布物の劣化が起き易いためである。
このような被塗布物に凹凸形状があるものには、窯業系サイディングボードがあり、このような壁板材では、その板が応力により反ることもあるため、遮熱水性クリヤー塗料によるクリヤー塗膜の効果がより発揮される。
リフォームなど既存の被塗装物に対して塗布する場合では、被塗布物表面に付着している埃や汚れなど汚染物質を水洗など一般的な汚染物質除去方法により取除いた後に塗布を行う。
以下、上記記載の実施形態をより具体的に説明する。下記に具体的な遮熱水性クリヤー塗料を例示する。
遮熱水性クリヤー塗料の主成分である合成樹脂エマルションには、一般的な、アクリルシリコン樹脂を用いたものを使用した。このアクリルシリコン系合成樹脂エマルションは、入手が比較的容易で、塗装時の作業性などの塗料適正に優れた遮熱水性クリヤー塗料を得ることができた。
また、それにより得られるクリヤー膜は、耐水性や耐候性などの耐久性に優れたものであった。
このアクリルシリコン系合成樹脂エマルションの固形分は、47重量%で、合成樹脂のTgは、11℃ものであった。
このアクリルシリコン系合成樹脂エマルションに造膜助剤,防凍剤としての高沸点溶剤を加え、消泡剤,分散剤,湿潤剤としての界面活性剤と粘性調整のための増粘剤、防腐剤とpH調整剤をその他の成分として添加し調整を行った。
また、HALS、UVAを添加し、遮熱水性クリヤー塗料のベース塗料とし、これに顔料成分を加え、高耐候性が期待できる遮熱水性クリヤー塗料を作製した。
このHALSには、テトラメチルピペリジンを有する有効成分が100%のものを用いた。その添加量は、合成樹脂エマルションの固形分中に、3.0重量%の割合になるように調整を行い添加した。
UVAには、HALSとの相乗効果が大きいトリアジン系紫外線吸収剤で有効成分が20%含有しているものを用いた。その添加量は、有効成分が合成樹脂エマルションの固形分中に、1.5重量%の割合になるように添加した。
上記のように構成された遮熱水性クリヤー塗料のベース塗料に顔料成分を加え遮熱水性クリヤー塗料を得た。
この遮熱水性クリヤー塗料に加えた顔料成分は、パールのような光沢や金属調の光沢など特有の光沢を持つガラスフレークに酸化チタンをコーティングした光輝性顔料を用いた。この光輝性顔料の平均粒子径は、30μmであった。
この光輝性顔料の添加量によって、遮熱水性クリヤー塗料によるクリヤー膜の評価を行った。
(遮熱水性クリヤー塗料のベース塗料配合例)
合成樹脂エマルション 70.0重量%
配合水 16.0重量%
造膜助剤(テキサノール) 7.0重量%
防凍剤(プロピレングリコール) 0.5重量%
HALS 1.0重量%
UVA 2.5重量%
その他添加剤 3.0重量%
合計 100.0重量%
上記のように構成された遮熱水性クリヤー塗料のベース塗料の固形分は、34.0重量%であった。これに顔料成分を加え遮熱水性クリヤー塗料を得た。
光輝性顔料を加えなかった水性クリヤー塗料と、光輝性顔料を合成樹脂エマルションの固形分に対して、0.1,0.6,2.5,5.0,6.0重量%添加した遮熱水性クリヤー塗料をそれぞれ比較を行った。
0.1重量%添加したものを遮熱水性クリヤー塗料(1)(0.1重量%添加品)とし、順に遮熱水性クリヤー塗料(2)(0.6重量%添加品),遮熱水性クリヤー塗料(3)(2.5重量%添加品),遮熱水性クリヤー塗料(4)(5.0重量%添加品),遮熱水性クリヤー塗料(5)(6.0重量%添加品)とした。
これら5種類の塗料の貯蔵安定性では、どの塗料も変質しないものであり、安定したものであり、塗装作業性についても、どの塗料も問題がなく、支障がないものであった。
これら水性クリヤー塗料と遮熱水性クリヤー塗料(1)~(5)の6種類の塗料からクリヤー膜となるクリヤーフィルムを作製し、光透過率の測定を行った。このクリヤーフィルムの厚みを150μmになるように調整した。また、1種類当たりの塗料から3枚ずつクリヤーフィルムを作製した。
この6種類のクリヤーフィルムの光透過率を分光光度計により、それぞれの光透過率を測定した。この測定では、1種類の塗料から得られた3枚のクリヤーフィルムをそれぞれ測定し、この平均値をそのクリヤー塗料の光透過率とした。
この光透過率は、水性クリヤー塗料により得られたクリヤーフィルムでは、90.1%であった。
遮熱水性クリヤー塗料(1)では、82.3%であった。
遮熱水性クリヤー塗料(2)では、80.8%であった。
遮熱水性クリヤー塗料(3)では、79.9%であった。
遮熱水性クリヤー塗料(4)では、74.4%であった。
遮熱水性クリヤー塗料(5)では、68.9%であった。
次に、隠ぺい率の測定を行った。この隠ぺい率は、黒と白とに塗り分けて作った隠ぺい力試験紙の上に、クリヤー膜の厚みが150μmの範囲で、黒の部分と白の部分とを同じ厚さで塗った試験体をJIS K5600-4-1にあるように測定した。
この隠ぺい率は、水性クリヤー塗料を使った試験体では、0.3%であった。
遮熱水性クリヤー塗料(1)では、1.6%であった。
遮熱水性クリヤー塗料(2)では、2.7%であった。
遮熱水性クリヤー塗料(3)では、7.5%であった。
遮熱水性クリヤー塗料(4)では、10.0%であった。
遮熱水性クリヤー塗料(5)では、15.9%であった。
さらに、この隠ぺい力試験紙に塗布した試験体の白部分と黒部分との境界線の目視観察を行った。
水性クリヤー塗料を使った試験体では、その境界部分がはっきり鮮明に確認することができた。
遮熱水性クリヤー塗料(1),遮熱水性クリヤー塗料(2)では、境界線が若干ぼやけた感じはあるが、その境界ははっきりと確認することができた。
遮熱水性クリヤー塗料(3)では、遮熱水性クリヤー塗料(1),(2)に比べて、少しぼやけた感じはあるが、境界線をはっきりと確認することができた。遮熱水性クリヤー塗料(4)では、境界線の確認をすることができるが、全体的にぼやっとした感じであった。
また、遮熱水性クリヤー塗料(5)では、境界線の確認をすることができづらくなり、全体的に光輝性顔料によるキラキラしたぼやっとした感じであった。
この遮熱水性クリヤー(1)~(4)のクリヤー膜と水系クリヤー塗料のクリヤー膜との仕上がり感を比較した場合、どちらも下地の色などを損なわない仕上がりとなった。
しかし、遮熱水性クリヤー(5)によるクリヤー膜は、下地の色などを鮮明に表すことが難しく、全体的にキラキラしたぼやっとした感じとなった。これは、光輝性顔料が多くなり、見る角度によって塗膜に異なる色感を持たてしまったことによるものであった。
また、この隠ぺい力試験紙に塗布した試験体を使って、遮熱効果の検証を行った。
試験体を台の上に置き試験体の真上に60cmの所に100Wの白熱球のライトを試験体に光や熱が直接当たるように設置し、60分間静置し、温度を確認した。
水性クリヤー塗料を使った試験体では、隠ぺい力試験紙の白部分の温度が46.2℃で、黒部分の温度が98.2℃であった。
遮熱水性クリヤー塗料(1)では、白部分が45.5℃で、黒部分が92.3℃であった。
遮熱水性クリヤー塗料(2)では、白部分が44.9℃で、黒部分が91.8℃であった。
遮熱水性クリヤー塗料(3)では、白部分が43.1℃で、黒部分が90.2℃であった。
遮熱水性クリヤー塗料(4)では、白部分が41.0℃で、黒部分が88.6℃であった。
遮熱水性クリヤー塗料(5)では、白部分が40.3℃で、黒部分が88.1℃であった。
この遮熱水性クリヤー塗料(1)~(5)のクリヤー膜と水性クリヤー塗料のクリヤー膜について、その遮熱性を比較した場合、遮熱水性クリヤー塗料(1)~(5)のクリヤー膜の方が上昇温度が低くなり、その遮熱効果を確認することができた。
さらに、上記水性クリヤー塗料と遮熱水性クリヤー塗料(1),(2),(5)の4種類の塗料を暴露していた窯業系サイディングに塗布し、その仕上がりを確認した。
この窯業系サイディングは、表面に凹凸状のタイル張り調に成形され、白い下地に黒,赤,グレー3色のインクジェット印刷された多彩感のあるものであった。これを5年間ほど暴露し、表面劣化させたものであった。
この窯業系サイディングを塗布前に洗浄し、付着している埃や汚れなど汚染物質を洗い流し、乾かした後に塗布を行った。
この窯業系サイディングに塗装用ローラーにより塗膜が平均膜厚150μm程度になるように調整して塗布を行った。
塗布後の仕上がりを暴露していない同じ窯業系サイディング板と比較して確認した。
水性クリヤー塗料を使った窯業系サイディングは、多少の色落ちはあるが、遜色のない仕上がりであった。
遮熱水性クリヤー塗料(1),(2)では、水性クリヤー塗料を使用したものと同じような仕上がりであった。
遮熱水性クリヤー塗料(5)では、全体的に光輝性顔料によるキラキラした感じになり、印刷で加飾された色がぼやけた感じであった。
上記実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
合成樹脂のTgが0~40℃の範囲のアクリル系,ウレタン系,シリコーン系,フッ素系,アクリルシリコン系の合成樹脂エマルションの1又は2以上の合成樹脂エマルションを用い、その合成樹脂エマルションの固形分に対して、5~60μmの範囲の平均粒子径の光輝性顔料を0.6~2.5重量%の範囲で添加した水性クリヤー塗料により形成されるクリヤー膜であって、このクリヤー膜の厚みが50~300μmの範囲である場合のクリヤー膜の光透過率が85~70%の範囲で、隠ぺい率が2.0~10.0%の範囲であるものである。
これにより、被塗装物の表面の加飾層の意匠性を十分に保ちながら、被塗装物への熱の伝わりを緩やかにし、被塗装物の劣化を抑えることができるものである。
また、塗料適正に優れた塗料であり、その形成されたクリヤー膜が汚れ難く、割れの発生が少なく耐久性の優れたものである。
さらに、効率的な十分な遮熱効果により、被塗装物への熱の伝わりをより緩やかにし、被塗装物の劣化を抑えることができ、表面の加飾層の意匠性を十分に保つバランスの取れたものとなる。
本開示の遮熱水性クリヤー塗料を複数の色彩要素で加飾された壁板材表面に塗布することにより、外界の温度の影響を受け易い壁板材表面の加飾層の意匠性を十分に保ちながら、太陽光による温度変化を緩やかにし、被塗布物の劣化を遅くすることができるものである。

Claims (4)

  1. 合成樹脂エマルションの固形分に対して、顔料成分を添加した水性クリヤー塗料により形成されるクリヤー膜であって、
    このクリヤー膜の厚みが50~300μmの範囲である場合のクリヤー膜の光透過率が90~60%の範囲で、隠ぺい率が1.0~15.0%の範囲である遮熱水性クリヤー塗料。
  2. 前記顔料成分が5~80μmの範囲の平均粒子径の光輝性顔料である請求項1に記載の遮熱水性クリヤー塗料。
  3. 請求項1又は請求項2に記載の遮熱水性クリヤー塗料を複数の色彩要素で加飾された被塗布物表面に塗布する遮熱水性クリヤー塗料の塗装方法。
  4. 複数の色彩要素で加飾された加飾層、請求項1又は請求項2に記載の遮熱水性クリヤー塗料によるクリヤー膜が積層された積層構造。

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