JP2022191572A - 電子顕微鏡および電子顕微鏡システム - Google Patents

電子顕微鏡および電子顕微鏡システム Download PDF

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Takahiko Hariyama
直人 松田
Naoto Matsuda
輝昭 大野
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Abstract

【課題】NanoSuit(登録商標)法を用いた電子顕微鏡観察に適した、簡易な操作でかつ短時間で検出対象物の検出ができる小型の電子顕微鏡を提供する。【解決手段】本発明の電子顕微鏡100は、少なくとも以下の1)から4)を備え、電子銃部110と試料室130との間を空間的に遮断することで電子銃部110内の真空度を維持可能に構成されたことを特徴とする。1)検体TSに電子線Bを照射する電子銃部110;2)検体TSに電子銃部110から放出された電子線Bを照射して生じる検出対象物からの反射電子または二次電子を検知するディテクター部120;3)ディテクター部120と検体TSとを収容可能であり、かつ、検体TS中の検出対象物の検出時に100パスカル以下の真空度に調整可能に構成された試料室130;4)検体TSを電子顕微鏡外部の大気圧条件下から試料室130に導入するための検体ホルダー140。【選択図】図1

Description

本発明は、電子顕微鏡および電子顕微鏡システムに関する。
本発明者らは先に、生物試料を生きたままの状態で電子顕微鏡観察することを目的として、含水状態の生物試料の電子顕微鏡による観察方法を提案してきた(特許文献1)。この特許文献1の提案においては、生存環境付与成分、糖類および電解質を含有する電子顕微鏡観察用保護剤を含水状態の生物試料に塗布し、この生物試料に電子線またはプラズマを照射して試料表面に薄膜を形成して、この薄膜で生物試料を覆うことを特徴としている。
上記の電子顕微鏡による試料の観察方法は、NanoSuit(登録商標)法として確立され、昆虫や植物などの生物試料をはじめ、組織・細胞・細菌・ウイルス試料、食品試料、化学材料等、様々な分野への応用が期待されている。
例えば、本発明者らは、走査型電子顕微鏡によってイムノクロマトテストストリップ中の標識物質である金属微粒子を検出することを考え、イムノクロマトテストストリップに走査型電子顕微鏡での観察を補助する補助液(NanoSuit(登録商標)液)を適用すると、良好に走査型電子顕微鏡で金属微粒子を検出し得ることを見出し、非特許文献1において報告している。
しかしながら、非特許文献1で示されているような既存の走査型電子顕微鏡を用いる場合には、操作の煩雑さや観察(検出対象物の検出)に要する時間が長くなるなど、更なる改善の余地が残されている。
すなわち、より簡易な操作で、かつ、短時間で検出対象物の検出ができる、NanoSuit(登録商標)法に適した、小型で汎用性のある電子顕微鏡の開発が望まれていた。
国際公開第2015/115502号
H. Kawasaki et al., Combination of the NanoSuit method and gold/platinum particle-based lateral flow assay for quantitative and highly sensitive diagnosis using a desktop scanning electron microscope, Journal of Pharmaceutical and Biomedical Analysis, 196 (2021) 113924.
本発明は、NanoSuit(登録商標)法を用いた電子顕微鏡観察に適した、簡易な操作でかつ短時間で検出対象物の検出ができる小型の電子顕微鏡の提供、および、当該電子顕微鏡を構成要素に含む電子顕微鏡システムの提供を意図するものである。
本発明者らが鋭意検討した結果、上記課題は、以下の態様を有する電子顕微鏡および電子顕微鏡システムにより解決可能となった。
[1] 少なくとも以下の1)から4)を備える電子顕微鏡において、1)の電子銃部と3)の試料室との間を空間的に遮断することで1)の電子銃部内の真空度を維持可能に構成されたことを特徴とする電子顕微鏡。
1)検体に電子線を照射する電子銃部
2)検体に1)の電子銃部から放出された電子線を照射して生じる検出対象物からの反射電子または二次電子を検知するディテクター部
3)2)のディテクター部と検体とを収容可能であり、かつ、検体中の検出対象物の検出時に100パスカル以下の真空度に調整可能に構成された試料室
4)検体を電子顕微鏡外部の大気圧条件下から3)の試料室に導入するための検体ホルダー。
[2] 前記2)のディテクター部は可動式であり、前記2)のディテクター部が前記1)の電子銃部から放出された電子線の光路上に位置することによって、前記1)の電子銃部と前記3)の試料室との間が空間的に遮断され、前記2)のディテクター部に形成された空間が前記1)の電子銃部から放出された電子線の光路上に位置することによって、前記1)の電子銃部と前記3)の試料室との間が空間的に開放されることを特徴とする[1]に記載の電子顕微鏡。
[3] 前記2)のディテクター部は可動式であり、かつ、前記2)のディテクター部に取り付けられた真空遮断部材を備え、前記真空遮断部材が前記1)の電子銃部から放出された電子線の光路上に位置することによって、前記1)の電子銃部と前記3)の試料室との間が空間的に遮断され、前記2)のディテクター部に形成された空間が前記1)の電子銃部から放出された電子線の光路上に位置することによって、前記1)の電子銃部と前記3)の試料室との間が空間的に開放されることを特徴とする[1]に記載の電子顕微鏡。
[4] 前記1)の電子銃部において電子線発生部が予め10-2パスカル以下の真空度に調整された真空管内に配置されていることを特徴とする[1]に記載の電子顕微鏡。
[5] 前記1)の電子銃部において電子線発生部および電子光学部品が予め10-2パスカル以下の真空度に調整された真空管内に配置されていることを特徴とする[41]に記載の電子顕微鏡。
[6] 前記1)の電子銃部における電子線発生部および電子光学部品、並びに、前記2)のディテクター部が予め10-2パスカル以下の真空度に調整された真空管内に配置されていることを特徴とする[5]に記載の電子顕微鏡。
[7] 前記3)の試料室内に内壁部材を備え、前記1)の電子銃部から放出された電子線が検体に照射されることで生じる散乱電子が前記3)の試料室内の所定の空間内に集まるように構成されていることを特徴とする[1]乃至[6]のいずれかに記載の電子顕微鏡。
[8] 前記4)の検体ホルダーにより検体が導入された後の前記3)の試料室の容積が300立方センチメートル以下であることを特徴とする[1]乃至[7]のいずれかに記載の電子顕微鏡。
[9] 前記4)の検体ホルダーが可動式であり、前記4)の検体ホルダーの動作によって前記3)の試料室の底部が開放可能に構成されていることを特徴とする[1]乃至[8]のいずれかに記載の電子顕微鏡。
[10] 前記1)の電子銃部の電子線発生部が熱電子放出型であることを特徴とする[1]乃至[9]のいずれかに記載の電子顕微鏡。
[11] 前記3)の試料室が検体の導入前の状態において予め10パスカル以下の圧力に調整されていることを特徴とする[1]乃至[10]のいずれかに記載の電子顕微鏡。
[12] 検体に対し少なくとも1種の界面活性性化合物の水溶液を電子線照射の前に当該検体に適用することを特徴とする[1]乃至[11]のいずれかに記載の電子顕微鏡を用いる検体の検査方法。但しここで当該界面活性性化合物は電子線照射により重合し検体の表面に被膜形成する性質を有する。
[13] [12]に記載の検査方法に供するための[1]乃至[11]のいずれかに記載の電子顕微鏡。
[14] 前記界面活性性化合物の水溶液を検体に適用するための機構および部品を有することを特徴とする[13]に記載の電子顕微鏡。
[15] 前記検体が専らイムノクロマトテストストリップであり、前記検出対象物がイムノクロマトグラフィーによる金属微粒子であることを特徴とする[13]または[14]に記載の電子顕微鏡。
[16] [1]乃至[11]および[13]乃至[15]のいずれかに記載の電子顕微鏡と、分析装置を備え、前記分析装置は、前記電子顕微鏡の、少なくとも1)の電子銃部、2)のディテクター部、3)の試料室、および、4)の検体ホルダーの動作を制御する制御部と、前記電子顕微鏡の2)のディテクター部により得られた画像情報を取得する画像取得部と、前記制御部および前記画像取得部からのデータを処理するデータ処理部と、前記データ処理部での処理結果を出力する出力部を備え、検体の状態を分析する、電子顕微鏡システム。
本発明によれば、NanoSuit(登録商標)法を用いた電子顕微鏡観察に適した、簡易な操作でかつ短時間で検出対象物の検出ができる小型の電子顕微鏡の提供、および、当該電子顕微鏡を構成要素に含む電子顕微鏡システムが提供される。
本発明の一実施例に係る電子顕微鏡の構成を示す模式図。 図1に示す電子顕微鏡において、電子銃部の電子線発生部が真空管内に配置された構成の例を示す模式図。 (a)~(c)図1に示す電子顕微鏡において、検体ホルダーによる試料室の開閉機構の一態様を示す模式図。 (a)~(c)検体ホルダーによる試料室の開閉機構の別の態様を示す模式図。 図1に示す電子顕微鏡における検体ホルダーの形状を示す模式図。(a)側面視、(b)上面視。 検体ホルダーの外観形状がロッド状である態様における、検体ホルダーの形状を示す模式図。(a)側面視、(b)上面視。 検体ホルダーの外観形状がプレート状である態様における、検体ホルダーの形状を示す模式図。(a)側面視、(b)上面視。 検体ホルダーの外観形状がディスク状である態様における、検体ホルダーの形状を示す模式図。(a)側面視、(b)上面視。 (a)~(f)検体ホルダーにおける検体(イムノクロマトテストストリップ)の固定様式の例示的な態様を示す模式図。 (a)~(c)検体ホルダーにアタッチメント部品を設ける態様において、アタッチメント部品が複数種類の検体(イムノクロマトテストストリップ)に適合する場合の例を示す模式図。 (a)、(b)図1に示す電子顕微鏡における、真空遮断機構の一態様を示す模式図。 (a)、(b)図1に示す電子顕微鏡における、真空遮断機構の別の態様を示す模式図。 (a)図1に示す電子顕微鏡において、試料室内に内壁部材を設ける態様を示す模式図。(b)(a)の要部拡大図。 (a)、(b)図1に示す電子顕微鏡において、試料室内に補助液供給部を備える態様を示す模式図。 本発明の一実施例に係る電子顕微鏡システムの構成を示すブロック図。
以下、本発明の実施の形態について説明する。
以下では、本発明の代表的な実施形態として、電子顕微鏡が走査型電子顕微鏡であり、検体がイムノクロマトグラフィーで用いられるイムノクロマトテストストリップであり、検出対象物が、イムノクロマトテストストリップ中の標識物質である金属微粒子である態様を例に挙げて構成要件を説明することがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。
本発明の一実施形態に係る電子顕微鏡(以下、単に「本発明の電子顕微鏡」とも称する。)は、上記の態様[1]の構成1)から4)を備える。すなわち、本発明の電子顕微鏡は、少なくとも以下の1)から4)を備える電子顕微鏡である。
1)検体に電子線を照射する電子銃部
2)検体に1)の電子銃部から放出された電子線を照射して生じる検出対象物からの反射電子または二次電子を検知するディテクター部
3)2)のディテクター部と検体とを収容可能であり、かつ、検体中の検出対象物の検出時に100パスカル以下の真空度に調整可能に構成された試料室
4)検体を電子顕微鏡外部の大気圧条件下から3)の試料室に導入するための検体ホルダー。
本発明の電子顕微鏡は、上記3)の試料室を有するが、試料室を真空に調整するための時間を短縮すること、および/または、真空ポンプ(真空排気手段)の負担を下げ真空ポンプの構造を簡易化するために、試料室の容積(試料室容積)は小さいことが望ましい。ここで、試料室容積とは、電子顕微鏡の試料空間(検体中の検出対象物の検出時に、検体が導入される空間;試料室)の容積から上記4)の検体ホルダーを当該試料空間に導入した際の占有体積を減じた容積を意味し、その容積は1000立方センチメートル以下が好ましく、より好ましくは500立方センチメートル以下であり、300立方センチメートル以下が最も好ましい。
本発明の電子顕微鏡は、上記1)の電子銃部と上記3)の試料室との間を空間的に遮断することで1)の電子銃部内の真空度を維持可能に構成されていることを特徴としている。
本発明の電子顕微鏡の好ましい態様としては、上記1)の電子銃部と上記3)の試料室との間に、可動式の部材を有し、上記4)の検体ホルダーの作動に際しての3)の試料室の真空度の変化によらず、1)の電子銃部の真空度が維持される機構(真空遮断機構)を有していることが挙げられる。真空遮断機構を設けることにより、検体の交換に際して3)の試料室が一旦大気圧状態になった場合でも、1)の電子銃部は所定の真空度が維持されるため、検体中の検出対象物の検出開始時に3)の試料室を所定の真空度とするのに要する時間が短縮できる。
この可動式の真空遮断機構は、3)の試料室に検体が導入されて検出対象物の検出が開始される時点では開放され、検体に電子銃部から放出された電子線が照射されるように構成される。そのため、真空遮断機構を構成する部材は、電子線透過性を有しない材質のもので良い。但し、電子線透過性を有する材質の部材で真空遮断機構を構成しても良い。
また、試料室は、検体中の検出対象物の検出時において真空ポンプ(真空排気手段)によって真空に調整されるが、その真空度は1000パスカル以下が好ましく、より好ましくは100パスカル以下である。一方で、真空度が高すぎると対象物の検出に支障が生じる場合があり、好ましい真空度は10-4パスカル以上であり、より好ましくは10-2パスカル以上であり、1パスカル以上が更に好ましい。本発明における試料室の真空度の範囲は、10-4パスカル以上1000パスカル以下が好ましく、より好ましくは10-2パスカル以上100パスカル以下であり、更に好ましくは1パスカル以上100パスカル以下である。
本発明の電子顕微鏡において、上記3)の試料室とは別に、上記1)の電子銃部は、検体中の検出対象物の検出の前に予め真空に調整されていることが好ましい。これにより、より迅速に検体中の検出対象物の検出を行うことができる。その場合の電子銃部の真空度は10-2パスカル以下が好ましく、より好ましくは10-4パスカル以下である。
かかる電子銃部の真空度を達成するためには、真空ポンプを用いて検体中の検出対象物の検出前に電子銃部を予め真空に調整するようにし、更に上述した真空遮断機構を設けて所望の真空度を維持可能としても良いし、電子銃部の電子線発生部が予め上述した真空度に調整された真空管内に配置されているもの(以下、便宜的に「真空管電子銃」とも称する。)を用いても良い。
なお、本発明の電子顕微鏡では、使用者が各々真空ポンプを用意して使用しても良いし、また、予め真空ポンプを電子顕微鏡の付属部品として備えておくことでも良い。
本発明の電子顕微鏡では、電子銃部の電子線発生部としていかなるものも使用することができる。典型的には、電子銃部の電子線発生部は、フィールドエミッション型、ショットキー型、熱電子放出型に大別される。このうち、本発明の電子顕微鏡においては、熱電子放出型を用いることが、装置全体の小型化の点で好ましい。
本発明の電子顕微鏡において、検体中の検出対象物を検出する様式はいかなるものでも良く、一般的に、電子顕微鏡における検出様式である反射電子モード、二次電子モード、または蛍光X線を検出する様式であっても良い。このうち、本発明の電子顕微鏡においては、反射電子モードまたは二次電子モードによる検出様式が好ましい。すなわち、本発明の電子顕微鏡において、上記2)のディテクター部としては、反射電子検出器または二次電子検出器であることが好ましい。
検体を試料室内に導入する様式はいかなるものでも良く、例えば、i)ロッド状(棒状)の外観形状を有する検体ホルダーを用いて、当該検体ホルダーを電子顕微鏡の側面から挿入することで、検体を試料室内に導入する機構、ii)プレート状(平板状)またはディスク状(円盤状)の外観形状を有する検体ホルダーを用いて、当該検体ホルダーに複数の検体を配置できるようにし、検体ホルダーのスライドまたは回転によって検体を試料室内に導入する機構、iii)検体ホルダーが試料室の底部を構成する構造とし、試料室の下方(底部)から検体ホルダー(裏蓋)を開閉する方式で、検体を試料室内に導入する様式等を採りうる。このうち、試料室の真空度を維持しやすい機構としては、i)およびii)の機構を好ましい態様として挙げることができる。また、試料室と電子銃部の真空度の調整に関し差動排気の原理を利用した構造、あるいは、上述した真空管電子銃の態様を採用することで、iii)の様式を適用することも可能である。
また、検体がイムノクロマトテストストリップである態様において、現在実用に供されている多様なイムノクロマトテストストリップの形状およびサイズへの適合性を付与するために、検体ホルダーは、基本部品と、各々のイムノクロマトテストストリップの形状に応じたアタッチメント部品を有する構造とすることも好ましい。この場合において、検体ホルダーは、多様な幅や長さである各種イムノクロマトテストストリップを保持可能なように構成されており、アタッチメント部品は、検体ホルダーと個別のイムノクロマトテストストリップとの間に生じ得る空隙を調整して、常にイムノクロマトテストストリップの被検査部が電子銃部から放出された電子線の照射部位(以下、単に電子線照射部位ともいう。)に位置するように調整可能であることが好ましい。
また、検体がイムノクロマトテストストリップである態様に関し、本発明の電子顕微鏡においては、イムノクロマトテストストリップの被検査部の位置を電子線照射部位に位置するよう調整するための作動機構(X-Yテーブル等の位置調整機構)を、3)の試料室に設けても良く、4)の検体ホルダーが当該作動機構を備えていても良い。中でも、4)の検体ホルダーを含めてイムノクロマトテストストリップの位置を調整し得る作動機構を、3)の試料室に備えていることが好ましい。
かかる位置調整機構をより有効ならしめるため、本発明の電子顕微鏡には、イムノクロマトテストストリップの被検査部の位置を任意の手段で認識する機構を備えていることも好ましい。
例えば、現在実用に供されているイムノクロマトテストストリップは、通常、被検査部の位置が識別できるよう外装部品に印字や凹凸による目印が付いている。そのため、上記認識機構がこの目印を自動的に読み取って得た情報を基に、上記位置調整機構がイムノクロマトテストストリップ(検体ホルダーを含む)の位置を電子線照射部位に位置するよう調整する、あるいは、別の機構を用いて電子線照射部位がイムノクロマトテストストリップの被検査部に位置するよう調整することが、好ましい態様として挙げられる。
また、検体がイムノクロマトテストストリップである態様において、本発明の電子顕微鏡は、イムノクロマトテストストリップ中の金属微粒子を検出するために使用されるが、ディテクター部によって得られる反射電子画像または二次電子画像におけるバックグラウンドである繊維(ニトロセルロースなど)とのコントラスト比を高くするような構成が付加されていてもよい。例えば、電子線をイムノクロマトテストストリップに照射する際の角度は、イムノクロマトテストストリップの上面に対して垂直であることが好ましいが、イムノクロマトテストストリップの構造や材質によっては、電子線の入射角を垂直から10°から45°の範囲で傾けた方が金属微粒子の検出が容易になる場合がある。
本発明の電子顕微鏡では、機構を単純化し装置を小型化する観点から、電子銃部末端に位置する対物レンズと検体の観察対象部位(例えば、イムノクロマトテストストリップの被検査部)までの距離(作動距離、Working Distance)、および、当該観察対象部位からディテクター部(反射電子検出器または二次電子検出器)までの距離を固定しておくことも好ましい。従来の電子顕微鏡では、観察対象試料を様々な倍率で観察可能とするために、かかる観察対象部位と対物レンズまたは電子検出器の間の距離は可変であるが、本発明の電子顕微鏡においては、寧ろ固定されている方が装置設計の単純化の点で好ましい。但しここで、検体中の検出対象物の検出時に、積極的に観察倍率を変えないまでも、検出対象物の検出に際してのピントを調整するための距離の微調整を可能とする機構まで不要とするものではない。
検体がイムノクロマトテストストリップである態様において、本発明の電子顕微鏡には、いかなるイムノクロマトテストストリップも用いることができる。一般的なイムノクロマトテストストリップの構造は、プラスチック筐体の内部にラテラルフロー法の流路となるメンブレン部品を有する。このメンブレン部品を含むプラスチック筐体の内側容積が本発明の電子顕微鏡の上記3)の試料室を真空に調整する際の容積に含まれるため、メンブレン部品を含むプラスチック筐体の内部容積は小さい方が好ましく、具体的には3立方センチメートル以下が好ましく、より好ましくは2立方センチメートル以下であり、より好ましくは1立方センチメートル以下である。
ここで、本発明の電子顕微鏡を用いてイムノクロマトテストストリップを検査する場合、非特許文献1に示されるような補助液を適用することが好ましい。
本発明の電子顕微鏡を用いたイムノクロマトテストストリップの検査方法に適用可能な補助液は、ディテクター部により得られる画像情報をデータ処理して出力される結果(分析画像)の鮮明性を改善するものであり、当該補助液を適用することにより、イムノクロマトテストストリップの検査において、高いコントラストで分析画像を得ることができる。補助液の一態様では、当該補助液は、検査条件において導電性となる性質であり、および/または、検査条件下での電子線照射により重合して被膜を形成する性質であることにより、上述した効果を効率的に得ることができる。
すなわち、補助液は、本発明の電子顕微鏡を用いたイムノクロマトテストストリップの検査において、分析画像の鮮明性を改善する。補助液は、当該検査条件において、導電性となる性質である、および/または、検査条件下での電子線照射により重合して被膜を形成する性質であることが好ましい。より具体的には、補助液は、必須成分として、グリセリンおよびグリセリン代替物;ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート65、ポリソルベート80、ポリソルベート85などのポリソルベート類、および、ポリソルベート類代替物から選ばれる少なくとも1種の界面活性性化合物を含み、任意成分として、単糖類、二糖類、塩類、および、緩衝液から選ばれる少なくとも1種の化合物を含んでなる。
グリセリンは3価のアルコール(いわゆる多価アルコール)であり、水酸基を分子内に有し、低蒸気圧物質である。また、グリセリンは粘性を有している。これらの特徴を有する物質は、グリセリンの代替成分として補助液に含めることができる。具体的には、グリセリン代替物としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、トリグリセリド、ポリレゾルシノール、ポリフェノール、タンニン酸、ウルシオール、サポニンなどが挙げられる。グリセリンおよびグリセリン代替物は、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
本明細書において、「ポリソルベート類」とは、ソルビタン脂肪酸エステル(非イオン性界面活性剤)にエチレンオキシドを反応させて作製されたものを意図する。現在一般に入手可能なポリソルベート類としては、ポリソルベート20(Tween 20)、ポリソルベート40(Tween 40)、ポリソルベート60(Tween 60)、ポリソルベート65(Tween 65)、ポリソルベート80(Tween 80)、ポリソルベート85(Tween 85)が挙げられるが、補助液に含めることができるポリソルベート類はこれらに限定されない。また、ポリソルベート類と同様に非イオン性界面活性剤に分類される物質は、ポリソルベート類の代替成分として補助液に含めることができる。具体的には、ポリソルベート類代替物としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリオキシエチレンモノ脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、アルキルポリグリコシド、N-メチルアルキルグルカミドなどが挙げられる。ポリソルベート類およびポリソルベート類代替物は、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
単糖類としては、例えば、グルコース、フルクトースなどが挙げられる。
二糖類としては、例えば、スクロース、トレハロースなどが挙げられる。
塩類としては、例えば、例えば、イミダゾリウム塩類、ピリジニウム塩類、ピペリジニウム塩類、ピロリジニウム塩類、四級アンモニウム塩類などが挙げられる。
緩衝液としては、例えば、酢酸緩衝液(酢酸・酢酸ナトリウム緩衝液)、リン酸緩衝液(リン酸・リン酸ナトリウム緩衝液)、クエン酸緩衝液(クエン酸・クエン酸ナトリウム緩衝液)、クエン酸リン酸緩衝液(クエン酸・リン酸ナトリウム緩衝液)、ホウ酸緩衝液、酒石酸緩衝液、トリス緩衝液などが挙げられる。
これらの単糖類、二糖類、塩類、および、緩衝液は、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
グリセリン、グリセリン代替物、ポリソルベート類、および、ポリソルベート類代替物から選ばれる少なくとも1種の化合物からなる必須成分は、補助液中に0.01重量パーセントから10重量パーセント含む態様が好ましく、0.1重量パーセントから2重量パーセント含む態様がより好ましい。
検体がイムノクロマトテストストリップである態様において、本発明の電子顕微鏡には、上述の補助液をイムノクロマトテストストリップに供給する補助液供給部を備え付けておくことも好ましい態様として挙げることができる。例えば、インクジェットプリンターで使用されるインクカートリッジのようなノズル部と溶液収容部を備え、検査の事前にイムノクロマトテストストリップの被検査部に適量の補助液を吐出する方式が好ましい実施形態として挙げられる。補助液は、当該イムノクロマトテストストリップのメンブレン全体に浸透するように供給しても良く、また被検査部のみ、すなわち、電子線を照射して生じる金属微粒子からの反射電子または二次電子を捕捉して画像情報を取得する面積部分のみに供給するのでも良い。
供給される補助液は、検査1回あたり100マイクロリットル以下であることが好ましく、より好ましくは30マイクロリットルであり、補助液を被検査部のみに供給する場合は10マイクロリットル以下が好ましく、より好ましくは1マイクロリットル以下である。かかる少量の補助液の吐出を可能とする機構としては、例えば、補助液供給部にピエゾ素子を設け、電圧印加によるピエゾ素子の変形を利用した方式を用いることができる。
検体がイムノクロマトテストストリップである態様において、本発明の電子顕微鏡の特に好ましい態様としては以下を挙げることができる。
少なくとも以下の1)から4)を備える電子顕微鏡であって、
下記4)の検体ホルダーが、i)ロッド状(棒状)の外観形状を有し、電子顕微鏡の側面からイムノクロマトテストストリップを下記3)の試料室内に導入する機構、またはii)プレート状(平板状)またはディスク状(円盤状)の外観形状を有し、当該検体ホルダーのスライドまたは回転によってイムノクロマトストリップを下記3)の試料室内に導入する機構を有するものであって、これらは様々なイムノクロマトテストストリップを使用可能に構成されたアタッチメント部品を含んだ構造を有し、
下記3)の試料室の容積が300立方センチメートル以下であって、当該試料室はイムノクロマトテストストリップの検査時に1パスカルから100パスカルの真空度に調整される空間であり、
下記1)の電子銃部の電子線発生部は、予め10-2パスカル以下に調整された真空管内に配置された熱電子放出型であり、
補助液をイムノクロマトテストストリップの被検査部に自動的に供給する補助液供給部を有し、
下記2)のディテクター部により取得された画像情報を人工知能(AI)で分析して金属微粒子数または金属微粒子の数に相関する任意の物理量をアウトプットとして提供するもの。
1)イムノクロマトテストストリップに電子線を照射する電子銃部
2)イムノクロマトテストストリップに1)の電子銃から放出された電子線を照射して生じる金属微粒子からの反射電子または二次電子を検知するディテクター部
3)2)のディテクター部とイムノクロマトテストストリップの被検査部とを収容可能であり、かつ、イムノクロマトテストストリップの検査時に100パスカル以下の真空度に調整可能に構成された試料室
4)イムノクロマトテストストリップを電子顕微鏡外部の大気圧条件下から3)の試料室に導入するための検体ホルダー。
検体がイムノクロマトテストストリップである態様において、イムノクロマトグラフィーの原理や検出対象物の検出手法は特に制限されない。代表的な実施形態としては、標識物質として金属微粒子を担持させた標識抗体と、当該標識抗体と検出対象物との複合体と結合する性質を有する捕捉抗体とを用いるイムノクロマトグラフィーが挙げられる。但し、本発明におけるイムノクロマトグラフィーの具体的な態様はこれに限定されない点に留意されたい。
検体がイムノクロマトテストストリップである態様において、本発明の電子顕微鏡を用いた検出対象物(金属微粒子)の数の計測は、目視により行うことができる。また、金属微粒子の数の計測は、機械学習(マシンラーニング)や深層学習(ディープラーニング)を用いた画像認識システムによって行うこともでき、人工知能を用いて分析画像中の金属微粒子を識別することにより金属微粒子の識別を行う自動分析システムとすることも可能である。中でも、人工知能によって自動的に金属微粒子の数を計測することが好ましい。
以下、本発明の実施例について、添付の図面を参照して説明するが、本発明は、以下の実施例の範囲に制限されるものではない。
[電子顕微鏡]
図1は、本発明の一実施例に係る電子顕微鏡の構成を示す模式図である。
図1に示すように、本実施例の電子顕微鏡100(以下、単に電子顕微鏡100とも称する。)は、電子銃部110と、ディテクター部120と、試料室130と、検体ホルダー140を備える。
1)電子銃部
電子銃部110は、検体TSに電子線Bを照射する。なお、以下では、検体TSがイムノクロマトテストストリップである場合を例に挙げて説明する。
具体的には、電子銃部110は、筐体111を有し、筐体111の内部には、電子線発生部(電子銃)112が配置されている。また、筐体111の下部末端には、対物レンズ113が配置されており、電子線発生部112から放出される電子線Bは、筐体111内に設けられたコンデンサレンズ114a,114b、コンデンサ絞り115、偏向コイル116等の電子光学部品を通過し、対物レンズ113を介してイムノクロマトテストストリップTS(より具体的には、イムノクロマトテストストリップTSの被検査部(テストラインおよびコントロールライン等の、標識物質である金属微粒子が存在する部分))に照射される。なお、図1に示す筐体111内の電子光学系(電子光学部品群)の構成および配置はあくまで例示であり、一般的な電子顕微鏡における電子光学系の構成および配置を適宜採用することができる。
また、筐体111には真空排気手段150aが取り付けられており、矢印方向への排気によって筐体111内を所定の真空度に調整可能とされている。真空排気手段150aは、真空ポンプで構成されている。
電子銃部110と試料室130との間には微小穴(オリフィス)を設けてガス分子の流れの隘路を設け、差動排気の原理を利用する。オリフィスの径は1μm~数100μmが好ましい。
具体的には、図1に示す電子顕微鏡100では、対物レンズ113の中(底部)に、差動排気用のオリフィス117が形成されている。試料室130を大気圧に開放する場合は、電子銃部110との間に後述する真空遮断機構を設ける。
なお、一般に差動排気はオリフィスを多段にすれば効果が上がるが、図1に示す電子顕微鏡100では、オリフィス117は、電子線Bが通過する絞りとしても機能するため、電子線Bを精度良く通過させることができる限りにおいて、複数のオリフィスを設けても良い。但し、図1に示すように、オリフィスの数が1つであっても、差動排気の効果を十分に得ることができる。
ここで、上述したように、電子顕微鏡100では、電子線発生部112は、予め所定の真空度に調整された真空管内に配置された真空管電子銃であっても良い。図2は、電子顕微鏡100が当該態様である場合の構成を示す模式図である。
図2に示す態様では、電子線発生部112は、予め10-2パスカル以下の真空度に調整された真空管118の内部に設けられている。これにより、図2に示す電子顕微鏡100においては、真空排気手段150aを省略することができるので、電子顕微鏡の稼働に要する構成をより簡略化することができる。なお、それ以外の構成については、図1に示す構成と同様の構成を採用することができ、また、後述する各種の変形例についても同様である。そのため、以下では専ら、図1に示す電子顕微鏡100を参照して各構成要素について説明する。
また、上述した真空管電子銃の変形例としては、電子線発生部112および電子光学部品(コンデンサレンズ114a,114b、コンデンサ絞り115、偏向コイル116等)が、予め10-2パスカル以下の真空度に調整された真空管内に配置された構成を採用することができる。さらに、電子線発生部112および上記電子光学部品、並びに、後述するディテクター部が、予め10-2パスカル以下の真空度に調整された真空管内に配置された構成を採用することもできる。これらの変形例の態様においては、真空管によって、電子銃部110と後述する試料室との間が空間的に遮断され、電子銃部110内の真空度が維持可能であるので、オリフィス117は不要となる。
2)ディテクター部
ディテクター部120は、検体(イムノクロマトテストストリップ)TSに電子銃部110から放出された電子線Bを照射して生じる検出対象物(金属微粒子)からの反射電子または二次電子を検知する。
図1に示す電子顕微鏡100では、ディテクター部120は、反射電子検出器120Aであり、反射電子検出器120Aは、対物レンズ113の下部に設けられている。なお、図1において、対物レンズ113の下部に示されている黒丸印はシール材(Oリング)である。
ここで、電子顕微鏡100においては、ディテクター部120は、1種類のディテクターから構成されていても良く、複数種類のディテクターを組み合わせて構成されていても良い。具体的には、ディテクター部120としては、反射電子検出器および二次電子検出器のいずれか一方または両方であっても良く、更に、蛍光X線検出器を組み合わせても良い。なお、ディテクター部120が複数種類のディテクターを組み合わせて構成される場合、それらの配置(具体的には、対物レンズ113との位置関係、ディテクター同士の位置関係等)は、当業者であれば適宜設計することができる。
3)試料室
試料室130は、ディテクター部120と検体TS(イムノクロマトテストストリップTSの被検査部)とを収容可能であり、かつ、検体TS中の検出対象物の検出時(イムノクロマトテストストリップTSの検査時)に100パスカル以下の真空度に調整可能に構成されている。
具体的には、図1に示す電子顕微鏡100では、試料室130は、対向する側壁部材160と、電子銃部110の下部底面と、検体ホルダー140の上面とで概略囲まれて形成されており、その内部に、対物レンズ113と、ディテクター部120と、検体ホルダー140に固定されたイムノクロマトテストストリップTSが収容されている。なお、図1に示す電子顕微鏡100では、検体ホルダー140に固定されたイムノクロマトテストストリップTSの上面と、検体ホルダー140の上面が、略同一平面を形成しているが、本明細書においては、イムノクロマトテストストリップTSの被検査部が試料室130の内部に向いている限りにおいて、このような態様も、試料室130にイムノクロマトテストストリップTS(の被検査部)が収容されているものとして取り扱うこととする。
また、側壁部材160には真空排気手段150bが取り付けられており、矢印方向への排気によってイムノクロマトテストストリップTSの検査時に、試料室130を100パスカル以下の真空度に調整可能とされている。真空排気手段150bは、真空ポンプで構成されている。
4)検体ホルダー
検体ホルダー140は、検体(イムノクロマトテストストリップ)TSを、電子顕微鏡100の外部の大気圧条件下から、試料室130に導入するためのものである。
具体的には、図1に示す電子顕微鏡100では、検体ホルダー140は、側面視の形状が略矩形であり、上面の任意の位置に形成された凹部を有し、当該凹部に、イムノクロマトテストストリップTSを固定可能とされている。なお、図1に示す電子顕微鏡100では、検体ホルダー140の側面視の幅(左右方向の長さ)が、対向する側壁部材160の両側端までの長さとほぼ同じである態様を示しているが、検体ホルダー140の形状、サイズ、および、検体ホルダー140にイムノクロマトテストストリップTSを固定する様式はこれに限定されない点に留意されたい。詳細は後述する。
検体ホルダー140は、イムノクロマトテストストリップTSの検査時において、側壁部材160の下部底面と接触することで試料室130を密閉状態としている。ここで、側壁部材160の下部底面にシール部160aを設けることにより、上記密閉状態がより確実になるため、真空排気手段150bによる試料室130の真空度の調整がより確保されやすい。
一方、イムノクロマトテストストリップTSの検査終了時、および、イムノクロマトテストストリップTSの交換時には、検体ホルダー140は、側壁部材160の下部底面との接触状態が解消される。すなわち、電子顕微鏡100において、検体ホルダー140は可動式であり、試料室130は、検体ホルダー140の動作によって、その底部が開放可能とされている。言い換えると、電子顕微鏡100は、試料室130の底部が開閉式であり、イムノクロマトテストストリップTSの検査終了時、および、イムノクロマトテストストリップTSの交換時において、試料室130が大気雰囲気となることを特徴の一つとしている。
<検体ホルダーによる試料室の開閉機構>
ここで、図3および図4を参照して、検体ホルダー140による試料室130の開閉機構について説明する。
図3(a)は、試料室130が閉鎖した状態を示す模式図であり、検体ホルダー140は、対向する側壁部材160の下部底面と接触することで試料室130を密閉状態としている。
図3(b)は、試料室130が開放した状態を示す模式図であり、検体ホルダー140が図3(a)に示す状態から矢印方向に(X方向に)移動することで、試料室130の底部が開放されている。なお、当然ながら、検体ホルダー140の移動は逆方向(左方向)であっても良い。
ここで、検体ホルダー140の移動は、X方向(左右方向)のみであっても良いし、図3(c)に示すようにZ方向(上下方向)とX方向の組み合わせであっても良い。また、必要に応じて、Y方向(図3の紙面貫通方向)の移動を更に組み合わせても良い。なお、図3(a)~(c)では、検体ホルダー140の移動を可能とするための機構は省略しているが、そのような機構の構成および配置等は、当業者であれば適宜設計することができる。
図4(a)~(c)は、検体ホルダー140による試料室130の開閉機構の別の態様を示す模式図である。
本態様では、側壁部材160の側端面(試料室130とは反対側の端面)に、支持部材161が設けられており、支持部材161は、回動軸部161aを有している。なお、当然ながら、支持部材161の配置は、試料室130の左側であっても良い。
また、検体ホルダー140は、回動軸部161aを嵌め込み可能な接続部140aを有する構造体であり、接続部140aに回動軸部161aが嵌め込まれた状態で、回動軸部161aを支点として回動可能に構成されている。
図4(a)は、試料室130が閉鎖した状態を示す模式図であり、検体ホルダー140は、対向する側壁部材160の下部底面と接触することで試料室130を密閉状態としている。
図4(b)は、試料室130が開放した状態を示す模式図であり、検体ホルダー140が、図4(a)に示す状態から、支持部材161の回動軸部161aを支点として下方向に回動することで、試料室130の底部が開放されている。
なお、本態様では、検体ホルダー140において、イムノクロマトテストストリップTSの固定部を含む部分と、支持部材161の回動軸部161aと接続される接続部140aを含む部分とは、図4(a)および(b)に示すように一体的に構成されていても良く、図4(c)に示すように別々の構造体141,142が任意の連結手段によって連結された構成であっても良い。
<検体ホルダーの構造に関する変形例>
次に、図5~図10を参照して、検体ホルダー140の構造およびその変形例について説明する。
図5(a)および(b)は、それぞれ、図1に示す電子顕微鏡100における検体ホルダー140の側面視および上面視の形状を示す模式図である。
なお、図5(b)において、破線で示した矩形の枠Fは、試料室130が閉鎖した状態において、側壁部材160の端面が位置する部分を模式的に示している。後述する図6(b)、図7(b)および図8(b)についても同様である。
図5(a)および(b)に示す態様では、検体ホルダー140は、外観形状が略矩形であり、その意味において、従来の電子顕微鏡で用いられる試料台(試料ステージ)の形状と類似していると言える。
一方、従来の電子顕微鏡では、通常、試料台は、平面内の移動(X,Y)、縦方向の移動(Z)に加え、載置された試料の傾斜(T)および回転(R)ができるように構成されているのに対して、本実施例の電子顕微鏡100は、専らイムノクロマトテストストリップTSを検査対象とする専用機器として使用することも可能であるので、検体ホルダー140に対して複雑な動作は必ずしも要求されず、比較的単純な、X方向,Y方向,Z方向の移動の組み合わせが可能であれば良い。
そのため、電子顕微鏡100においては、検体ホルダー140の構造の自由度が高いことをその特徴の一つとしている。具体的には、検体ホルダー140は、その外観形状が、ロッド状(棒状)、プレート状(平板状)、ディスク状(円盤状)などであっても良い。
図6(a)および(b)は、それぞれ、検体ホルダー140の外観形状がロッド状である態様における、検体ホルダー140の側面視および上面視の形状を示す模式図である。
図6(a)および(b)に示す態様では、検体ホルダー140は、図5(a)および(b)に示す態様と比べて、X方向の長さが大きく、その中心部よりも一方の端部側(右側)に、イムノクロマトテストストリップTSを固定するための凹部が形成されている。
本態様の検体ホルダー140においては、図6(b)に両向き矢印で示すように、X方向の移動を主として検体ホルダー140が動作することにより、試料室130の開閉、および、イムノクロマトテストストリップTSの交換等を行うのに適している。もちろん、検体ホルダー140の移動はX方向のみに限定されず、Y方向およびZ方向の移動を組み合わせても良い。
図7(a)および(b)は、それぞれ、検体ホルダー140の外観形状がプレート状である態様における、検体ホルダー140の側面視および上面視の形状を示す模式図である。
図7(a)および(b)に示す態様では、検体ホルダー140は、図6(a)および(b)に示す態様と比べて、Y方向の長さが大きく、その中心部よりも一方の端部側(右側)に、イムノクロマトテストストリップTSを固定するための凹部が複数箇所(例示として5箇所)形成されている。
本態様の検体ホルダー140においては、図7(b)に両向き矢印で示すように、検体ホルダー140をY方向に移動させることにより(あるいは、検体ホルダー140の位置は固定して、電子銃部110および側壁部材160等の部材を可動式とすることにより)、1つの検体ホルダー140に固定された複数のイムノクロマトテストストリップTSを検査することができる。
また、試料室130の開閉時、および、イムノクロマトテストストリップTSの交換時には、X方向、Y方向およびZ方向の移動を適宜組み合わせて、検体ホルダー140を動作させれば良い。
このように、電子顕微鏡100では、検体ホルダー140のサイズとして、従来の電子顕微鏡で用いられる試料台と比べてX方向および/またはY方向の長さが大きいものを適用することができる。
図8(a)および(b)は、それぞれ、検体ホルダー140の外観形状がディスク状である態様における、検体ホルダー140の側面視および上面視の形状を示す模式図である。
図8(a)および(b)に示す態様では、検体ホルダー140は、その中心部に対して放射状に、イムノクロマトテストストリップTSを固定するための凹部が複数箇所(例示として8箇所)形成されている。
本態様の検体ホルダー140においては、図8(b)に両向き矢印で示すように、検体ホルダー140をXY平面内で回転させることにより(あるいは、検体ホルダー140の位置は固定して、電子銃部110および側壁部材160等の部材を可動式(回転式)とすることにより)、1つの検体ホルダー140に固定された複数のイムノクロマトテストストリップTSを検査することができる。
また、試料室130の開閉時、および、イムノクロマトテストストリップTSの交換時には、X方向、Y方向およびZ方向の移動を適宜組み合わせて、検体ホルダー140を動作させれば良い。
なお、ここで、検体ホルダー140におけるイムノクロマトテストストリップTSの固定様式は上述した態様に限定されず、種々変更することができる。
例えば、外観形状がロッド状である態様の検体ホルダー140(図6(a)、(b)参照)について説明すると、図9(a)~(f)に示すような変形例が挙げられる。
図9(a)に示す態様では、図6(a)に示したのと同様に、検体ホルダー140に形成された凹部に、イムノクロマトテストストリップTSが固定され、検体ホルダー140の上面とイムノクロマトテストストリップTSの上面が、略同一平面を形成している。
図9(b)に示す態様では、検体ホルダー140に形成された凹部の深さは、イムノクロマトテストストリップTSの高さより小さく、イムノクロマトテストストリップTSが固定された状態において、イムノクロマトテストストリップTSの一部が、検体ホルダー140の上面よりも突出している。
本態様では、検体ホルダー140が試料室130の内部に収容された状態において、検体ホルダー140の上面よりも突出しているイムノクロマトテストストリップTSの部分に対応する容積の分、試料室130の容積が減少することになる。
図9(c)に示す態様では、イムノクロマトテストストリップTSは、検体ホルダー140の上面に載置されている。
上述したように、本実施例の電子顕微鏡100では、検体ホルダー140に対して複雑な動作は必ずしも要求されないため、本態様のような様式も採用可能である。但し、イムノクロマトテストストリップTSの検査時や、イムノクロマトテストストリップTSの交換時などに、意図せずイムノクロマトテストストリップTSが検体ホルダー140の所定の位置からずれたり、検体ホルダー140から落下したりすることを防止するために、例えば図9(d)に示すように、アタッチメント部品143などの任意の固定手段を設け、アタッチメント部品143にイムノクロマトテストストリップTSを固定するようにすることがより好ましい。
更に、図9(d)に示すようなアタッチメント部品143を検体ホルダー140に設ける場合には、例えば図9(e)に示すように、アタッチメント部品143、および、それに固定されたイムノクロマトテストストリップTSの上面が略同一平面を形成するようにしても良いし、図9(f)に示すように、検体ホルダー140に形成された凹部にアタッチメント部品143が嵌め込まれており、アタッチメント部品143にイムノクロマトテストストリップTSが固定された状態において、イムノクロマトテストストリップTSの一部が、アタッチメント部品143の上面(検体ホルダー140の上面)よりも突出するようにしても良い。
なお更に、検体ホルダー140にアタッチメント部品143を設ける態様においては、アタッチメント部品143は、1種類のイムノクロマトテストストリップに適合するものであっても良く、複数種類のイムノクロマトテストストリップに適合するものであっても良い。
図10(a)~(c)は、後者の態様の構成を示す模式図である。
図10(a)~(c)に示す態様では、検体ホルダー140に設けられたアタッチメント部品143は、3種類の異なる外観寸法を有するイムノクロマトテストストリップTS1,TS2,TS3に適合するものである。ここで、アタッチメント部品143は、各イムノクロマトテストストリップTS1~TS3が固定された状態において、被検査部M1,M2,M3(典型的にはテストライン)の位置が概ね同じとなるように調整可能とされている。図10(a)~(c)では、これを破線による矩形の枠Pで概念的に示している。これにより、検査対象のイムノクロマトテストストリップの外観寸法の違いに応じて検体ホルダー140の設計を変更したり、検査時における電子顕微鏡100の設定を変更したりするなどの手間を削減することができるので、上述したように電子顕微鏡100を専用機器として使用する場合における、イムノクロマトテストストリップの検査のより一層の効率化が可能となる。
<真空遮断機構>
ここで、図1、並びに、図11および図12を参照して、本実施例の電子顕微鏡100における、差動排気系および真空遮断機構について説明する。
上述したように、図1に示す電子顕微鏡100では、対物レンズ113の中(底部)に、差動排気用のオリフィス117が形成されている。従来の差動排気系では、このオリフィスに、真空に耐えることができ、かつ、電子線に対する透過性を有する電子線透過膜(例えば、コロジオン膜)を取り付ける態様が知られているが、本実施例の電子顕微鏡100では、そのような電子線透過膜は必須の構成要素ではない。
図11(a)および(b)は、電子顕微鏡100における真空遮断機構の一態様を示す模式図である。
本態様では、図11(a)、(b)に示すように、反射電子検出器120Aは、位置制御手段121に取り付けられており、位置制御手段121は、X方向への移動によって、反射電子検出器120Aを左右方向に移動可能に構成されている。また、反射電子検出器120Aは、所定の位置において、オリフィス117に対応する位置に、電子線Bが通過可能な空間122を有している。
本態様では、図11(a)に示すように、試料室130の閉鎖状態においては、空間122は、電子線Bの光路(下向き矢印)上にあり、イムノクロマトテストストリップTSに対する電子線Bの照射が可能とされている。
一方、図11(b)に示すように、試料室130の開放状態においては、位置制御手段121が矢印方向に移動することで反射電子検出器120Aの位置が変化し、反射電子検出器120Aが電子線Bの光路上に位置する(言い換えると、反射電子検出器120Aの上面によってオリフィス117が塞がれる)ことで、電子銃部110と試料室130との間が空間的に遮断される。これにより、電子銃部110の筐体111内の真空度が維持可能とされている。
そして、試料室130を開放状態から再び閉鎖状態とした際には、反射電子検出器120Aの位置が図11(b)に示すような状態のまま、閉鎖状態とした試料室130の排気(予備排気)を行うことができる。これにより、電子銃部110の筐体111内の真空度を保ちつつ、短い時間で、試料室130を所望の真空度(もしくはそれとほぼ同等の真空度)にすることができる。その後、イムノクロマトテストストリップTSの検査時には、反射電子検出器120Aの位置を図11(a)に示す状態とすることで、電子銃部110の電子線発生部112から放出される電子線Bの光路が確保され、電子線BがイムノクロマトテストストリップTSに照射される。
なお、本態様における位置制御手段121の構成、および、反射電子検出器120Aの位置を変化させるための機構は、図11(a)、(b)に示す態様に限定されず、当業者であれば適宜設計変更が可能である。
図12(a)および(b)は、電子顕微鏡100における真空遮断機構の別の態様を示す模式図である。
本態様では、図12(a)、(b)に示すように、反射電子検出器120Aは、真空遮断部材170を介して位置制御手段121に取り付けられており、位置制御手段121は、X方向への移動によって、反射電子検出器120Aを左右方向に移動可能に構成されている。また、対物レンズ113には、真空遮断部材170が位置する側とは反対側の側部において、反射電子検出器120Aを収容可能に構成された格納部材171が設けられている。
本態様では、図12(a)に示すように、試料室130の閉鎖状態においては、反射電子検出器120Aの空間122は、電子線Bの光路(下向き矢印)上にあり、イムノクロマトテストストリップTSに対する電子線Bの照射が可能とされている。
一方、図12(b)に示すように、試料室130の開放状態においては、位置制御手段121が矢印方向に移動することで反射電子検出器120Aの位置が変化し、反射電子検出器120Aが格納部材171に収容され、かつ、真空遮断部材170が電子線Bの光路上に位置する(言い換えると、真空遮断部材170の上面によってオリフィス117が塞がれる)ことで、電子銃部110と試料室130との間が空間的に遮断される。これにより、電子銃部110の筐体111内の真空度が維持可能とされている。
そして、試料室130を開放状態から再び閉鎖状態にした際には、反射電子検出器120Aが格納部材171に収容された状態(図12(b)に示す状態)のまま、試料室130の排気(予備排気)を行うことができる。これにより、本態様では、電子銃部110の筐体111内の真空度を保ちつつ、短い時間で、試料室130を所望の真空度(もしくはそれとほぼ同等の真空度)にすることができることに加えて、予備排気時にイムノクロマトテストストリップTSから生じ得る飛散物(例えば、イムノクロマトテストストリップTSの被検査部に含まれる水分等に起因する飛散物)による反射電子検出器120A、および/または、オリフィス117の汚染を抑制することができる。
この点に関し、図11に示した態様では、予備排気時に、上述したような飛散物が生じた場合には、オリフィス117の汚染を抑制することはできるものの、反射電子検出器120Aの表面(下面)に付着する可能性がある。
このように、検査対象のイムノクロマトテストストリップTS(特に、その被検査部)が、大気圧条件から真空条件に曝される過程で何らかの飛散物が生じない程度に十分に乾燥した状態ではない(可能性がある)場合には、真空遮断機構として図12に示した態様を採用することがより好ましい。さらに言えば、上述した真空管電子銃の態様およびその変形例の態様では、真空遮断(つまり、電子銃部110内の真空度を維持する)目的で真空遮断部材170および格納部材171を設けることは必須の構成要件ではないが、装置の耐久性向上や試料室130(およびその内部にある部材等)の汚染防止の目的でこれらと同等の可動式部品を備えることも好ましい。
なお、本態様における位置制御手段121、真空遮断部材170、格納部材171の構成、および、反射電子検出器120Aの位置を変化させ、反射電子検出器120Aを格納部材171に収容するための機構は、図12(a)、(b)に示す態様に限定されず、当業者であれば適宜設計変更が可能である。
<内壁部材>
また、電子顕微鏡100においては、試料室130内に内壁部材を設け、イムノクロマトテストストリップTSに電子線Bが照射されることで生じる電子の散乱(散乱電子)を、試料室130内の所定の空間内に集めるようにしても良い。図13(a)および(b)は、当該態様の構成例を示す模式図である。
図13(a)、(b)に示す態様では、内壁部材180は、対物レンズ113の下部に設けられた反射電子検出器120Aの両端を取り囲むように配置されている。また、内壁部材180は、その上端部から下端部にかけて傾斜して配置されていることにより、図13(b)の要部拡大図において複数の矢印で示すように、散乱電子SEがイムノクロマトテストストリップTSの被検査部の上面を含む空間内に集まるように構成されている。これにより、従来の電子顕微鏡(例えば、卓上型の走査型電子顕微鏡)と比べて、得られる画像情報(分析画像)の明るさ(明度)が向上し得る。
より具体的には、反射電子検出器120Aが半導体型(半導体結晶で作製された検出器)である場合、反射電子検出器120Aは、一定以上(例示として2~3kV以上)のエネルギーを有する電子を検出し、それ未満のエネルギーを有する電子には反応しない。そのため、内壁部材180を設けることで、当該一定以上のエネルギーを有する電子をより多く反射電子検出器120Aに捕捉させることで、得られる画像情報の明度が高くなる。
これに対し、従来の電子顕微鏡では、上述した内壁部材180を設ける思想とは反対に、分解能を高めることを志向して、電子のエネルギーや散乱角によって弁別する方式を採用している。しかし、当該弁別方式では、得られる画像情報の明度が比較的低いことが懸念点であり得る。
本発明の電子顕微鏡100では、小型であることの特徴を生かすために、電子弁別方式とは全く発想を異にする内壁部材180の配置により、画像情報の明度を高め、ひいてはバックグラウンドと検出対象の金属微粒子とのコントラストを高めることが可能である。その結果、検出感度の向上、および、判定結果の精度向上をも達成し得る。
内壁部材180の材質としては特に制限されないが、散乱電子をより多く生じさせやすくする観点から、Au(金)などの比較的原子量の大きい元素で作製する、もしくは、当該元素で表面(イムノクロマトテストストリップ側の面)が被覆されていることがより好ましい。
なお、内壁部材180は、任意の移動手段(図示せず)によって試料室130内を移動可能に構成されていても良く、検査の事前や事後など、電子線Bの照射が行われないときには、電子顕微鏡100の各種の動作(操作)の妨げにならない位置に退避させることができる。
<補助液供給部>
ここで、上述した内壁部材180を配置する構成は、上記補助液を適用する態様において、より効果的であり得る。すなわち、試料室130内に内壁部材180を備えることで散乱電子SEがより生じやすい条件となった空間においては、補助液が適用されたイムノクロマトテストストリップTSの被検査部における被膜の形成がより効率的に進行し得る。
図14(a)および(b)は、電子顕微鏡100において、試料室130内に補助液供給部を備える態様を示す模式図である。
図14(a)および(b)に示す補助液供給部190は、補助液(上述した界面活性性化合物の水溶液)をイムノクロマトテストストリップTSの被検査部に適用するための機構および部品を有している。具体的には、図14(a)の右側の要部拡大図に示したように、補助液供給部190は、ノズル部191と溶液収容部192を備え、ピエゾ素子193への電圧印加によるピエゾ素子193の変形を利用して、溶液収容部192に収容された補助液NSの所定量をノズル部191から吐出させて、イムノクロマトテストストリップTSの被検査部に補助液NSを適用可能に構成されている。このような補助液供給部の構成は、上述したように、インクジェットプリンターで使用されるような構成を採用することができ、当業者であれば適宜設計変更等が可能である。
また、補助液供給部190は、図14(b)において両向き矢印で示すように、任意の移動手段によって試料室130内を移動可能に構成されており、補助液NSの適用時(検査の事前)には、ノズル部191をイムノクロマトテストストリップTSの被検査部に位置合わせされ、補助液NSの適用後(検査時)には、イムノクロマトテストストリップTSに照射される電子線Bの光路を遮らない位置に退避させることができる。
なお、電子顕微鏡100が補助液供給部を備える態様において、当該補助液供給部が試料室130内に設けられていることは必須の要件ではない点に留意されたい。例えば、試料室130の外部に補助液供給部を設けても良く、この場合、補助液供給部は、イムノクロマトテストストリップTSが試料室130に導入される前に、検体ホルダー140上のイムノクロマトテストストリップTSの被検査部に補助液NSを適用するための機構および部品を有してなる。
<その他の変形例>
上述した実施例に係る電子顕微鏡100では、試料室130は、検体ホルダー140の動作によって、その底部が開放可能とされているが、試料室130とは別個に、予備排気空間を設けるようにしても良い。本態様では、検体ホルダー140は、側壁部材160の下部底面とは接触しておらず、側壁部材160の任意の位置に、検体ホルダー140の出し入れを行うための予備排気空間が設けられる。そして、検体ホルダー140は、検査対象のイムノクロマトテストストリップTSを固定した状態で、予備排気空間から試料室130と連通する部分(ゲートバルブとも称される。)を介して試料室130内に挿入されることで、イムノクロマトテストストリップTSを試料室130内に導入する。なお、本態様における試料室130および予備排気空間の真空度の調整方法や、そのための装置構成等は、従来の電子顕微鏡で用いられるものを採用することができ、当業者であれば適宜設計することができる。
また、上述した実施例に係る電子顕微鏡100では、電子銃部110の末端に位置する対物レンズ113とイムノクロマトテストストリップTSの被検査部までの距離(作動距離)が一定の値となるように固定されていると、機構の単純化および装置の小型化の観点から望ましい。但し、標識物質である金属微粒子の検出に際してのピントを調整するための距離の微調整を可能とする機構(例えば、検査時に、イムノクロマトテストストリップTSのX方向,Y方向の移動(微動)を可能とする機構)を設けても良い。あるいは、検体ホルダー140の動作による試料室130の底部の開閉を補助するための機構(例えば、検体ホルダー140と側壁部材160の下部底面との接触およびその解消を補助する機構)を設けても良い。
[電子顕微鏡システム]
図15は、本発明の一実施例に係る電子顕微鏡システムの構成を示すブロック図である。
図15に示すように、本実施例の電子顕微鏡システム300は、電子顕微鏡100と、分析装置200を備える。
電子顕微鏡100としては、図1~図14を参照して説明した本実施例の電子顕微鏡100を用いることができる。
分析装置200は、制御部210と、画像取得部220と、データ処理部230と、出力部240を備える。
制御部210は、電子顕微鏡100の、少なくとも電子銃部110、ディテクター部120、試料室130、および、検体ホルダー140の動作を制御する。制御部210による電子顕微鏡100の制御に関する情報(データ)は、データ処理部230に送信可能とされている。
画像取得部220は、電子顕微鏡100のディテクター部120により得られた画像情報を取得する。画像取得部220によって取得された画像情報(画像データ)は、データ処理部230に送信可能とされている。
データ処理部230は、制御部210および画像取得部220からのデータを処理し、その処理結果を出力部240に送信可能とされている。
出力部240は、データ処理部230での処理結果を出力する。出力部240としては、例えば、液晶表示装置、プリンタ等が用いられる。なお、出力部240には、データ処理部230での処理結果をUSBメモリ等の記録媒体に記録する記録装置を用いても良い。
このような構成を備える電子顕微鏡システム300により、イムノクロマトテストストリップTSの被検査部の状態が分析される。ここで、イムノクロマトテストストリップTS中の標識物質である金属微粒子の検出は、出力部240にイムノクロマトテストストリップTSの被検査部の画像を表示させ、当該画像中の金属微粒子の数を目視により計測することであっても良く、出力部240にイムノクロマトテストストリップTSの被検査部の画像を表示させると共に、人工知能を用いて当該画像中の金属微粒子を識別させることで得られた金属微粒子数または金属微粒子の数に相関する任意の物理量を出力することであっても良い。
特に、後者の場合には、使用者が、電子顕微鏡100の検体ホルダー140へのイムノクロマトテストストリップTSの装着・脱着、および、イムノクロマトテストストリップTSの交換を行い、分析装置200を始動させることで、電子顕微鏡システム300は、イムノクロマトテストストリップTS中の金属微粒子を人工知能によって自動的に計測する、自動解析システムとなる。更には、そのような電子顕微鏡システム300と、現在実用に供されている産業用ロボット等を組み合わせることで、使用者は所定の場所にイムノクロマトテストストリップTSを配置するのみで足り得、それ以外の操作は自動化された、イムノクロマトテストストリップの検査システムとすることも可能であり得る。
本発明によれば、イムノクロマトテストストリップ中の標識物質である金属微粒子など、検体中の検出対象物を、簡易な操作でかつ短時間で検出することができるため、NanoSuit(登録商標)法を用いた電子顕微鏡観察に使用する小型の電子顕微鏡として好適である。
100 電子顕微鏡
110 電子銃部
111 筐体
112 電子線発生部(電子銃)
113 対物レンズ
114a、114b コンデンサレンズ
115 コンデンサ絞り
116 偏向コイル
117 オリフィス
118 真空管
120 ディテクター部
120A 反射電子検出器
121 位置制御手段
122 空間
130 試料室
140 検体ホルダー
140a 接続部
141 イムノクロマトテストストリップの固定部を含む部分(構造体)
142 接続部を含む部分(構造体)
143 アタッチメント部品
150a、150b 真空排気手段
160 側壁部材
160a シール部
161 支持部材
170 真空遮断部材
171 格納部材
180 内壁部材
190 補助液供給部
191 ノズル部
192 溶液収容部
193 ピエゾ素子
200 分析装置
210 制御部
220 画像取得部
230 データ処理部
240 出力部
300 電子顕微鏡システム
TS 検体(イムノクロマトテストストリップ)
TS1、TS2、TS3 イムノクロマトテストストリップ
M1、M2、M3 イムノクロマトテストストリップの被検査部
B 電子線
SE 散乱電子
NS 補助液

Claims (16)

  1. 少なくとも以下の1)から4)を備える電子顕微鏡において、1)の電子銃部と3)の試料室との間を空間的に遮断することで1)の電子銃部内の真空度を維持可能に構成されたことを特徴とする電子顕微鏡。
    1)検体に電子線を照射する電子銃部
    2)検体に1)の電子銃部から放出された電子線を照射して生じる検出対象物からの反射電子または二次電子を検知するディテクター部
    3)2)のディテクター部と検体とを収容可能であり、かつ、検体中の検出対象物の検出時に100パスカル以下の真空度に調整可能に構成された試料室
    4)検体を電子顕微鏡外部の大気圧条件下から3)の試料室に導入するための検体ホルダー。
  2. 前記2)のディテクター部は可動式であり、
    前記2)のディテクター部が前記1)の電子銃部から放出された電子線の光路上に位置することによって、前記1)の電子銃部と前記3)の試料室との間が空間的に遮断され、
    前記2)のディテクター部に形成された空間が前記1)の電子銃部から放出された電子線の光路上に位置することによって、前記1)の電子銃部と前記3)の試料室との間が空間的に開放されることを特徴とする請求項1に記載の電子顕微鏡。
  3. 前記2)のディテクター部は可動式であり、かつ、前記2)のディテクター部に取り付けられた真空遮断部材を備え、
    前記真空遮断部材が前記1)の電子銃部から放出された電子線の光路上に位置することによって、前記1)の電子銃部と前記3)の試料室との間が空間的に遮断され、
    前記2)のディテクター部に形成された空間が前記1)の電子銃部から放出された電子線の光路上に位置することによって、前記1)の電子銃部と前記3)の試料室との間が空間的に開放されることを特徴とする請求項1に記載の電子顕微鏡。
  4. 前記1)の電子銃部において電子線発生部が予め10-2パスカル以下の真空度に調整された真空管内に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の電子顕微鏡。
  5. 前記1)の電子銃部において電子線発生部および電子光学部品が予め10-2パスカル以下の真空度に調整された真空管内に配置されていることを特徴とする請求項4に記載の電子顕微鏡。
  6. 前記1)の電子銃部における電子線発生部および電子光学部品、並びに、前記2)のディテクター部が予め10-2パスカル以下の真空度に調整された真空管内に配置されていることを特徴とする請求項5に記載の電子顕微鏡。
  7. 前記3)の試料室内に内壁部材を備え、前記1)の電子銃部から放出された電子線が検体に照射されることで生じる散乱電子が前記3)の試料室内の所定の空間内に集まるように構成されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の電子顕微鏡。
  8. 前記4)の検体ホルダーにより検体が導入された後の前記3)の試料室の容積が300立方センチメートル以下であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の電子顕微鏡。
  9. 前記4)の検体ホルダーが可動式であり、前記4)の検体ホルダーの動作によって前記3)の試料室の底部が開放可能に構成されていることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の電子顕微鏡。
  10. 前記1)の電子銃部の電子線発生部が熱電子放出型であることを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の電子顕微鏡。
  11. 前記3)の試料室が検体の導入前の状態において予め10パスカル以下の圧力に調整されていることを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載の電子顕微鏡。
  12. 検体に対し少なくとも1種の界面活性性化合物の水溶液を電子線照射の前に当該検体に適用することを特徴とする請求項1乃至11のいずれかに記載の電子顕微鏡を用いる検体の検査方法。但しここで当該界面活性性化合物は電子線照射により重合し検体の表面に被膜形成する性質を有する。
  13. 請求項12に記載の検査方法に供するための請求項1乃至11のいずれかに記載の電子顕微鏡。
  14. 前記界面活性性化合物の水溶液を検体に適用するための機構および部品を有することを特徴とする請求項13に記載の電子顕微鏡。
  15. 前記検体が専らイムノクロマトテストストリップであり、前記検出対象物がイムノクロマトグラフィーによる金属微粒子であることを特徴とする請求項13または14に記載の電子顕微鏡。
  16. 請求項1乃至11および請求項13乃至15のいずれかに記載の電子顕微鏡と、
    分析装置を備え、
    前記分析装置は、
    前記電子顕微鏡の、少なくとも1)の電子銃部、2)のディテクター部、3)の試料室、および、4)の検体ホルダーの動作を制御する制御部と、
    前記電子顕微鏡の2)のディテクター部により得られた画像情報を取得する画像取得部と、
    前記制御部および前記画像取得部からのデータを処理するデータ処理部と、
    前記データ処理部での処理結果を出力する出力部を備え、
    検体の状態を分析する、電子顕微鏡システム。
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