JP2022186396A - クラッド鋼板およびその製造方法ならびに溶接構造物 - Google Patents

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Yusuke Oikawa
信二 柘植
Shinji Tsuge
将太郎 田中
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Abstract

【課題】接合面(母材と合せ材の界面)の耐水素脆化性および加工製に優れたクラッド鋼板およびその製造方法を提供する。【解決手段】ステンレス鋼またはNi基合金を合せ材とし、炭素鋼または低合金鋼を母材とするクラッド鋼板の母材と合せ材の界面において、ナノ硬さが7GPa以上である領域の幅が5μm以下かつ母材表層のフェライト相率が15%超である接合面の耐水素脆化性および加工性に優れたステンレスクラッド鋼板。クラッド鋼板の接合面において、水素脆化感受性の高いマルテンサイトの領域が小さいので、溶接ガスに水素を含有する溶接を実施した場合でも界面剥離を防止できるとともに、母材表層のフェライト相率が大きく加工性が高いので複雑な構造物にも適用できる。【選択図】なし

Description

本発明は、接合面の耐水素脆化性に優れたクラッド鋼板とその製造方法および上記クラッド鋼板を用い水素を含むガスを使用する溶接またはガウジングを含む製造工程で製造した溶接構造物に関する。
ステンレス鋼やNi基合金は耐食性に優れることから厳しい腐食環境において適した素材である。上述の厳しい腐食環境として、油井環境、海水や汽水に曝されるような高塩化物環境、各種酸溶液に曝されるプラント設備やケミカルタンカー等が例示される。そしてこのような厳しい腐食環境において、ステンレス鋼やNi基合金は海水淡水化プラント、排煙脱硫装置、化学薬品の保存タンク、油井管等の構造部材ポンプ・バルブ類、熱交換器などに使用されている。
一方でステンレス鋼やNi基合金は耐食性を確保するためCr、Ni、Moなどの合金元素が多く含有されており、炭素鋼や低合金鋼と比較すると材料コストはもちろん、加工や溶接などのコストも高い。また合金元素の高騰などによって価格が大きく変動することも考えられる。そのため、主にコストの面からその使用が制限される場合がある。
上述のようにコストの面を考慮した場合、加工や溶接などの観点からはクラッド鋼板を材料として使用することが有効である。クラッド鋼板とは、異なる二種類以上の金属を貼り合せた材料をいう。また、貼り合わせを行わない鋼板を以下、「ソリッド鋼板」と称する。クラッド鋼板は、高合金鋼のみからなるソリッド鋼板と比較し、高合金鋼を使用する量を低減することができ、材料コストを低減することができるとともに、異材溶接が少なくできるため溶接時の溶材コストなども低下することができる。
また、二種類の金属を貼り合わせたクラッド鋼板において、一方の金属を「母材」と記載し、母材に貼り合せた他方の金属(素材)を「合せ材」と記載する。優れた特性を有する材料(合せ材)を母材に貼り合せることで、合せ材と母材とがそれぞれ有する優れた特性を双方とも得ることができる。
例えば、合せ材に、その使用環境で要求される特性(耐食性等)を有する高合金鋼を用い、母材にその使用環境で要求される靭性および強度を有する炭素鋼または低合金鋼を用いた場合が考えられる。このような場合、上述のようにコストを低減することができるだけでなく、ソリッド鋼板と同等の特性(耐食性等)と、炭素鋼および低合金鋼と同等の強度および靭性とを確保できる。このため、経済性と機能性とが両立できる。
以上のような経緯から、ステンレス鋼やNi基合金を用いたクラッド鋼板のニーズは、近年各種産業分野で益々高まっている。しかしながら、クラッド鋼板を利用する際には、合せ材と母材との接合部での剥離を防止することが重要である。使用中に合せ材と母材とが剥離すると、所望する耐食性等の特性、および強度が得られない場合がある。また、例えば、構造物の穴あき、倒壊などの危険も生じることも考えられる。
また、クラッド鋼板の用途拡大につれて、ケミカルタンカーやプラント類、大型構造物など複雑な形状への適用も広まっている。このような用途では、母材の加工性や曲げ性が重要になる。
本発明では、クラッド鋼板であって、母材の表面のうち一方の面のみに合せ材を貼り合わせたものを対象とする。母材の表面のうちで合せ材を貼り合わせていない側の表面(母材が露出している)を以下「母材表面」と呼び、母材表面から板厚方向に1mmの位置を「母材表層」と呼ぶ。
クラッド鋼板を圧延した後に、合せ材の耐食性低下を抑制するなどのため水冷を実施する場合がある。しかしながら、冷却速度が速いと母材組織でベイナイトやマルテンサイトの割合が増え、加工性が低下しやすくなる。とくに冷却水が直接あたる母材表面に近い母材表層では冷却速度が大きくなるため、母材の内部に比べてベイナイトやマルテンサイトの割合が増えて加工性が低下する。
ベイナイトやマルテンサイトの軟質化のため、焼戻し処理を実施する場合がある。しかしながら、焼戻し処理を実施すると熱処理のコストが増加することやクラッド鋼板では合せ材と母材の熱膨張係数が異なるために板が歪んでしまい矯正のコストが増加することなど、コストの観点から問題が有る。
特許文献1には二相ステンレスクラッド鋼板について界面の炭素拡散層の厚みを制御することで界面近傍の鋭敏化を抑制する技術が開示されている。しかしながら、界面でのマルテンサイト相に関する記載はない。
特許文献2にはオーステナイト系ステンレスクラッド鋼板について、圧延後の焼戻しの温度・時間を規定することで界面のマルテンサイトの遅れ破壊を防止する技術が開示されている。しかしながら、この技術は製造時の遅れ破壊の防止であり、溶接構造物についての防止技術の開示はない。
特許文献3にはクラッド鋼板について、母材の表層と内部の組織を制御して、強度と加工性を両立させる技術が開示されている。しかしながら、この母材組織の制御は焼戻し処理によるものであり、焼戻し処理なしでの組織制御に関する記載はない。
特許文献4には普通鋼のソリッド鋼板について、高圧水デスケーリングを活用して表層のフェライト組織を制御する技術が開示されている。しかしながらこの特許はソリッド鋼板に関してであり、高圧水デスケーリングがクラッド鋼板の界面組織に及ぼす影響については記載はない。
また、非特許文献1ではSUS316Lおよびインコネル625のクラッドについて、界面のマルテンサイトの水素脆化感受性を評価している。
特開2013-209688号公報 特開平6-7803号公報 特許第6573060号公報 特許第3572756号公報
櫛田ら,鉄と鋼,Vol.75(1989),p1508
本発明者は、鋭意検討の結果、解決すべき以下の課題を知見した。
ステンレス鋼やNi基合金を合せ材とするクラッド鋼板では圧延時の加熱中に、CrやNiが合せ材から母材側へ、Cが母材から合せ材側へ拡散することによって、母材と合せ材の界面(以下単に「界面」という。)に元素の拡散層が生じる。拡散層中は各元素の濃度が徐々に変化するが、元素濃度によってはマルテンサイト変態が開始する温度が高く、マルテンサイト変態が生じる臨界冷却速度が遅い領域で、圧延後の冷却中にマルテンサイト変態が生じる場合がある。
クラッド鋼板の通常の使用形態では界面のマルテンサイトは界面剥離に影響を与えないが、例えば溶接ガスに水素を用いて溶接した場合にはマルテンサイトに水素が入るとともに、構造上の応力や溶接時の変形、溶接部近傍での母材の変態などによって界面に応力が生じ、その複合作用によって水素脆化が生じる可能性が想定される。
特許文献2には、焼戻しによって界面のマルテンサイトの遅れ破壊を防止する技術の開示がある。また特許文献3には焼戻しによって母材表層のベイナイトやマルテンサイトを軟質化して母材の加工性を向上させる技術の開示が有る。しかし焼戻し工程が増えることはコスト増加につながるため、実用上焼戻しを省略しても界面のマルテンサイトの耐水素脆化性および母材の加工性を向上させる技術が求められるが、その解決手段については開示も示唆もない。
非特許文献1には、界面のマルテンサイトの水素脆化感受性の評価方法についての記載はある。しかし、実際のクラッド鋼においては、加熱温度と圧下比に応じて拡散層の幅が異なると推定されるが、拡散層の幅と水素脆化感受性の関係についての記載も示唆もない。
本発明者は、母材と合せ材の界面において、界面のマルテンサイトはその硬度が高いほど水素脆化感受性が高くなること、さらに、界面の拡散層中のマルテンサイト幅が大きいほど微小な水素脆化が大きな界面剥離につながる危険性が高くなることを認識した。
また本発明者は、母材組織のうち特に水冷時に冷却水が直接当たる母材表面に近い母材表層において、フェライト相率を一定値以上に制御することにより、良好な加工性を実現できることを認識した。
これらの結果から本発明者は、溶接時の水素脆化によるクラッド鋼板の界面剥離を抑制することおよび母材の加工性を両立するためには、界面のマルテンサイトの硬度と幅を制御すること、および母材表層のフェライト相率を制御することが、解決すべき課題であると知見した。
以下、クラッド鋼板の母材と合せ材との接合面を、単に「接合面」と呼ぶことがある。
上記記載の課題認識に鑑み、本発明は、接合面(母材と合せ材との接合面)の耐水素脆化性および加工性に優れたクラッド鋼板およびその製造方法ならびに溶接構造物を提供することを目的とする。
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、下記のクラッド鋼板およびその製造方法ならびに溶接構造物を要旨とする。
[1]母材と、前記母材の片面に接合された合せ材とを備えるクラッド鋼板であって、
前記母材は、炭素鋼または低合金鋼からなり、
前記合せ材は、耐食性合金からなり、
クラッド鋼板の母材と合せ材の界面において、ナノ硬さが7GPa以上である領域の板厚方向の幅が5μm以下、かつ母材表層のフェライト相率が15%超であることを特徴とするクラッド鋼板。
ここで母材表層とは母材表面から板厚方向に1mmの位置を指す。
[2][1]に記載のクラッド鋼板において母材の化学組成が質量%でC:0.020~0.200%、Si:1.00%以下、Mn:0.10~3.00%、P:0.050%以下、S:0.050%以下を含有し、かつCeqが0.20~0.40であり、残部がFe及び不純物からなる成分組成を有する[1]に記載のクラッド鋼板。ここで、Ceqは次式(1)により定義される。
Ceq=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5・・・式(1)
式中、C、Mn、Cu、Ni、Cr、MoおよびVは、母材鋼板の成分組成における各元素の含有量(質量%)である。
[3]前記母材の成分組成が、さらに前記Feの一部に替えて、質量%で、Ni:0.01~1.00%、Cr:0.01~1.00%、Mo:0.01~0.50%、Cu:0.01~1.00%、Co:0.01~0.50%,Se+Te:0.01~0.10%、V:0.001~0.100%、Ti:0.001~0.200%、Nb:0.010~0.200%、Al:0.005~0.300%、Ca:0.0003~0.0050%、B:0.0003~0.0030%およびREM:0.0003~0.0100%から選ばれる1種または2種以上を含有する、[2]に記載のクラッド鋼板。
[4]前記クラッド鋼板の合せ材が、質量%でCr:10%以上を含有するステンレス鋼またはニッケル基合金であることを特徴とする、[1]~[3]のいずれか1つに記載のクラッド鋼板。
[5][1]~[4]のいずれか1つに記載のクラッド鋼板において、母材と合せ材を圧着面が真空になるよう積層して圧着面の4周を溶接により密封してクラッド素材とし、2つの前記クラッド素材を、母材表面がいずれもクラッド圧延素材の表面になるように組み立てたクラッド圧延素材について、圧延の最終パスの1つまたは2つ前のパスを1030℃以下かつ開始する前に高圧水デスケーリングを実施し、圧延仕上げ温度を980℃以下とする熱間圧延を行い、圧延後に式(2)で計算されるTA3(℃)~650℃区間の平均冷却速度が2℃/s以上の冷却を行い、母材と合せ材の界面のナノ硬さが7GPa以上である領域の板厚方向の幅を5μm以下かつ母材表層のフェライト相率が15%超とすることを特徴とする、[1]~[4]のいずれか1つに記載のクラッド鋼板の製造方法。
A3(℃)=937.2-436.5C+56Si-19.7Mn-26.6Ni+136.3Ti-19.1Nb+198.4Al ・・・式(2)
式中、C、Si、Mn、Ni、Ti、NbおよびAlは、母材鋼板の成分組成における各元素の含有量(質量%)である。
[6][1]~[4]のいずれか1つに記載のクラッド鋼板を用いてなる溶接構造物。
[7]前記クラッド鋼板が、溶接ガスに水素を用いた溶接に使用されることを特徴とする、[1]~[4]のいずれか1つに記載のクラッド鋼板。
本発明によれば、接合面の耐水素脆化性および加工性に優れたクラッド鋼板を得ることができる。
本発明では前述のように、クラッド鋼板であって、母材の表面のうち一方の面のみに合せ材を貼り合わせたものを対象とする。母材の表面のうちで合せ材を貼り合わせていない側の表面(母材が露出している)を「母材表面」と呼び、母材表面から板厚方向に1mmの位置を「母材表層」と呼ぶ。
本発明者らは上記の課題に対し、以下の検討を行なった。具体的には、種々のステンレス鋼およびNi基合金を合せ材とするクラッド鋼板において、圧延後の冷却速度を変化させて界面の元素拡散や金属組織について調査し、界面の耐水素脆化性との関係を評価した。その結果、以下(a)~(c)の知見を得た。
(a)クラッド鋼板の界面のナノ硬さが7GPa以上の領域が薄いほどマルテンサイトの水素脆化感受性が低くなる傾向にある。このため、7GPa以上の領域を5μm以下にすることが有効である。
(b)クラッド鋼板の圧延素材においては、母材となる炭素鋼または低合金鋼と、合せ材となるステンレス鋼またはNi基合金とが接している。界面の合金元素のプロファイルは素材加熱の温度・時間および圧下比によって整理できた。またCrが質量%で10%以上含まれている合せ材を用いた際に、Crの拡散幅とマルテンサイト相の幅が対応していることを確認した。これは主要合金元素のうちCrが最も拡散が速く、さらに焼入れ性を高める元素であるため、Crの含有量のみが高くNiなどのオーステナイト安定化元素の含有量が低い領域でマルテンサイト変態が生じるためである。
(c)界面のマルテンサイトの硬さは圧延後の冷却速度に影響される。この機構は下記のように考えられる。圧延後の冷却中に冷却速度が遅く、オーステナイト→フェライト変態やオーステナイト→フェライト+パーライト変態に伴う炭素の吐き出しおよび拡散が生じる場合には、オーステナイト相に固溶していた炭素はCrを多く含有しており炭素の活量係数の低い合せ材側に濃化する。このとき、合せ材側がオーステナイト相であれば濃化程度はより大きくなる。この機構により、圧延後の冷却速度が遅い場合には界面近傍で炭素濃度が高くなる領域が生じ、その領域とマルテンサイトが生成しうる領域が重なるとクラッド鋼板の界面に硬質なマルテンサイトが生成し、界面の耐水素脆化性が低下する。
また本発明者らは上記の課題に対し、以下の検討を行なった。具体的には、種々の普通鋼・低合金鋼を母材とするクラッド鋼板において、母材の成分、圧延時の高圧水デスケールの有無、圧延仕上げ温度、および圧延後の冷却速度を変化させて母材表層の金属組織について調査し、加工性との関係を評価した。その結果、以下(d)~(f)の知見を得た。
(d)母材表層のフェライト相率が大きいほど加工性が良好になる。このため、母材表層のフェライト相率を15%超にすることが有効である。
(e)界面の硬質な領域を薄くするためには上記(c)より、圧延後の冷却においてオーステナイト→フェライト変態が開始するTA3℃以上から大きな冷却速度で界面近傍を冷却することが重要である。一方で、母材と合せ材の界面近傍の冷却速度を大きくすると、同時に界面とは反対側の水が直接当たる母材表面も急冷却され、特に母材表面から板厚方向に1mmの位置にある母材表層近傍において硬質なベイナイトやマルテンサイトが生成し、例えば引張試験などでは表面の硬質で低延性な部分から破断が生じ加工性が低下してしまう。特に、構造物として十分な強度が得られる母材の成分組成において、冷却速度増大時に硬質なベイナイトやマルテンサイトが生成しやすい。
オーステナイト→フェライト変態は残留ひずみによって促進する。そのため、急冷却を行ってもベイナイトやマルテンサイトの生成を抑制するには、再結晶や回復に時間がかかる低い温度で圧延を行い、圧延後の冷却時に残留ひずみを残存させておくことが有効である。しかし、低温で圧延すると特に薄手材では圧延機から冷却設備までの移送中に温度が低下して水冷開始時にTA3℃を下回ってしまい、母材と合せ材の界面近傍で炭素濃化が生じて硬質な領域が厚くなってしまう可能性が有る。したがって、界面近傍の硬質な領域を薄くすることと母材表層のベイナイトやマルテンサイトの生成抑制とを両立させるためには、母材と合せ材の界面近傍の温度を高温にしたまま、母材表面に近い母材表層の温度を低温にして圧延する必要がある。
(f)母材表面に近い母材表層だけを再結晶や回復に時間がかかる低い温度にするためには、通常はスケールを除去し表面疵などを防止するために用いられる高圧水デスケーリングを活用することが有効である。高圧水でスケーリングの水量および圧延のパススケジュールを調整することで、水が直接当たる母材表面に近い母材表層だけを低温にして残留ひずみを大きくすることができる。
したがって、接合面の耐水素脆化性および加工性に優れたクラッド鋼板を得るためには、圧延時の母材表層の温度と圧延後の冷却条件の適正化により、母材表層と、母材と合せ材の界面の両方について、オーステナイト→フェライト変態を制御する必要がある。本発明は、上記の知見に基づいてなされたものである。以下、本発明の各要件について詳しく説明する。
1.本発明の構成
本発明に係るクラッド鋼板は、母材と、母材の片面に接合された合せ材とを備える。母材は後述の炭素鋼または低合金鋼からなる。また合せ材は耐食性合金からなり、耐食性合金としてCrを10%以上含有するステンレス鋼やNi基合金などを例示できる。母材の表面のうちで合せ材を貼り合わせていない側の表面(母材が露出している)を「母材表面」と呼ぶ。さらに、母材と合せ材の界面においてナノ硬さが7GPa以上である領域の幅が5μm以下かつ母材表層のフェライト相率が15%超である。
2.クラッド鋼板の界面特性および表層組織
本発明に関わるクラッド鋼板の界面特性および表層組織について説明する。接合面の耐水素脆化性に優れるとともに、加工性に優れたクラッド鋼板を得るためには、母材と合せ材の界面での硬質なマルテンサイト相の生成の抑制と、母材表層(母材表面から板厚方向に1mmの位置)でのフェライト相変態促進を、両立する必要がある。
2-1.母材と合せ材の界面のナノ硬さ
母材と合せ材の界面においてナノ硬さが7GPa以上の領域の幅を5μm以下とする。ナノ硬さが7GPa以上の領域の板厚方向の幅が5μm超では硬質で水素脆化感受性の高いマルテンサイトの領域が大きいため溶接ガスに水素を含有する溶接を実施した際に界面が剥離する場合がある。好ましくは3μm以下であり、更に好ましくは1μm以下である。ナノ硬さが7GPa以上の領域が小さいほど水素脆化感受性は低くなるため下限は設けない。
ここでナノ硬さとは、ISO 14577に規定する計装化押し込み硬さ試験(ナノインデンテーション試験ともいう。)に準拠して評価した材料の硬さを意味する。
2-2.母材表層のフェライト相率
クラッド鋼板の母材表層においてフェライト相率は15%超とする。15%以下では曲げ試験において割れが生じる可能性がある。フェライト相率が多いほど加工性が向上するため上限は設けない。好ましくは20%以上であり、更に好ましくは30%以上である。
ここで母材表層とは母材表面から板厚方向に1mm位置を指す。またフェライト相率とはEBSD試験のKAM(Kernel Average Misorientation)が1°以下の面積率を指す。
3.母材の化学組成
母材は炭素鋼または低合金鋼からなる。また母材の好ましい化学組成は、質量%でC:0.020~0.200%、Si:1.00%以下、Mn:0.10~3.00%、P:0.050%以下、S:0.050%以下を含有し、かつCeqが0.20~0.40であり、残部がFe及び不純物からなる成分組成を有する鋼板である。ここで、Ceqは次式(1)により定義される。
Ceq=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5・・・(1)
式中、C、Mn、Cu、Ni、Cr、MoおよびVは、母材の成分組成における各元素の含有量(質量%)である。
Cは鋼の強度を向上させる元素であり、0.020%以上含有させることで十分な強度を発現する。しかし、0.200%を超えると溶接性および靭性の劣化を招く。したがって、C量は0.020~0.200%とする。好ましくは0.040%以上、さらに好ましくは0.050%以上である。一方上限値は0.100%以下が好ましく、0.080%以下がさらに好ましい。より好ましい範囲は0.040%~0.100%であり、更に好ましい範囲は0.050%~0.080%である。
Siは脱酸に有効であり、また鋼の強度を向上させる元素である。しかしながら、1.00%を超えると鋼の表面性状及び靭性の劣化を招く。したがって、Si量は1.00%以下とする。好ましくは0.50%以下である。Siは含有しなくても良い。Siの好ましい含有量下限は0.01%である。
Mnは鋼の強度を上昇させる元素であり、0.10%以上含有させることでその効果が発現する。しかしながら、3.00%を超えると溶接性が損なわれるとともに合金コストも増大する。したがって、Mn量は0.10~3.00%とする。好ましくは0.50~2.00%であり、更に好ましくは0.90%~1.60%である。
Pは鋼中の不純物であり、含有量が0.050%を超えると靭性が劣化する。したがって、P量は0.050%以下とする。好ましくは0.015%以下である。
Sは鋼中の不純物であり、含有量が0.050%を超えると靭性が劣化する。したがって、S量は0.050%以下とする。好ましくは0.010%以下である。
Ceq(炭素当量)は、鋼の化学組成から硬度と溶接性を見積もるために用いられる値であり、式(1)で計算される。Ceqが高いほど硬さは向上し、溶接性は劣化する。Ceqが0.20未満では構造物として十分な強度が得られない。したがって、Ceqは0.20以上とする。好ましくは0.23以上である。Ceqが0.40超では溶接性が劣化し、パス間温度管理や後熱処理が必要になるなど溶接コストが増加する。したがって、Ceqは0.40以下とする。好ましくは0.35以下である。
Ceq=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5・・・式(1)
式中、C、Mn、Cu、Ni、Cr、MoおよびVは、母材の成分組成における各元素の含有量(質量%)である。
前記母材の成分組成にさらに、前記Feの一部に替えて質量%で、Ni:0.01~1.00%、Cr:0.01~1.00%、Mo:0.01~0.50%、Cu:0.01~1.00%、Co:0.01~0.50%、Se+Te:0.01~0.10%、V:0.001~0.100%、Ti:0.001~0.200%、Nb:0.010~0.200%、Al:0.005~0.300%、Ca:0.0003~0.0050%、B:0.0003~0.0030%およびREM:0.0003~0.0100%から選ばれる1種または2種以上を含有することができる。
Niは鋼の焼入れ性を向上させる元素であり、圧延後の鋼の強度及び靭性を向上させる。しかしながら、1.00%を超えると溶接性および靭性の劣化を引き起こす。したがってNiを含有する場合、Ni量は1.00%以下とする。好ましくは0.50%以下であり、より好ましくは0.30%以下である。好ましいNi含有量下限値は0.01%である。
Crは鋼の焼入れ性を向上させる元素であり、圧延後の鋼の強度及び靭性を向上させる。しかしながら、1.00%を超えると溶接性および靭性の劣化を引き起こす。したがってCrを含有する場合、Cr量は1.00%以下とする。好ましくは0.50%以下であり、より好ましくは0.30%以下である。好ましいCr含有量下限値は0.01%である。
Moは鋼の焼入れ性を向上させる元素であり、圧延後の鋼の強度及び靭性を向上させる。しかしながら、0.50%を超えると溶接性および靭性の劣化を引き起こす。したがってMoを含有する場合、Mo量は0.50%以下とする。好ましくは0.30%以下であり、より好ましくは0.1%以下である。好ましいMo含有量下限値は0.01%である。
Cuは鋼の焼入れ性を向上させる元素であり、圧延後の鋼の強度及び靭性を向上させる。しかしながら、1.00%を超えると溶接性および靭性の劣化を引き起こす。したがってCuを含有する場合、Cu量は1.00%以下とする。好ましくは0.50%以下であり、より好ましくは0.30%以下である。好ましいCu含有量下限値は0.01%である。
Coは鋼の焼入れ性を向上させる元素であり、圧延後の鋼の強度及び靭性を向上させる。しかしながら、0.50%を超えると熱間での加工性が損なわれて生産性が低下する。したがってCoを含有する場合、Co量は0.50%以下とする。好ましくは0.30%以下であり、より好ましくは0.1%以下である。好ましいCo含有量下限値は0.01%である。
SeおよびTeは鋼板中のMn、Si、Al等の酸化しやすい元素が鋼板表面に拡散されて酸化物を形成することを抑制し、鋼板の表面性状やめっき性を高める。しかしながら、合計で0.10%を超えるとこの効果が飽和する。したがって、SeおよびTeを添加する場合はSeとTeの合計量は0.10%以下とする。より好ましくは0.05%以下である。好ましいSe+Te含有量下限値は0.01%である。
Alは鋼の脱酸に効果がある元素である。しかしながら、0.300%を超えると溶接部の靭性の劣化を引き起こす。したがってAlを含有する場合、Al量は0.300%以下とする。好ましくは0.100%以下である。好ましいAl含有量下限値は0.005%である。
Vは炭窒化物を形成することで鋼の強度を上昇させる。しかしながら、0.100%を超えると溶接性および靭性の劣化を引き起こす。したがってVを含有する場合、V量は0.100%以下とする。好ましくは0.050%以下である。好ましいV含有量下限値は0.001%である。
Tiは結晶粒を微細化させて強度を増加させる元素であり、0.001%以上の添加でその効果が発現する。しかし、0.200%を超えると溶接性が損なわれるとともに合金コストも増大する。したがって、Ti量は0.001~0.200%とする。好ましくは0.005~0.100%であり、更に好ましくは0.010~0.050%である。
Nbは鋼の強度を上昇させたり圧延後の再結晶を遅延させてフェライト相率を増加させたりする元素であり、0.010%以上の添加が好ましい。しかし、0.200%を超えると溶接性が損なわれるとともに合金コストも増大する。したがって、Nb量は0.200%以下とする。好ましいNb上限は0.100%である。より好ましくは0.010~0.050%であり、更に好ましくは0.030~0.050%である。
Caは溶接熱影響部の組織を微細化し、靭性を向上させる。しかしながら、0.0050%を超えると粗大な介在物を形成して靭性を劣化させる。したがってCaを含有する場合、Ca量は0.0050%以下とする。好ましくは0.0030%以下である。好ましいCa含有量下限値は0.0003%である。
Bは鋼の焼入れ性を向上させる元素であり、圧延後の鋼の強度及び靭性を向上させる。しかしながら、0.0030%を超えると溶接性および靭性の劣化を引き起こす。したがってBを含有する場合、B量は0.0030%以下とする。好ましくは0.0015%以下である。好ましいB含有量下限値は0.0003%である。
REMは溶接熱影響部の組織を微細化し、靭性を向上させる。しかしながら、0.0100%を超えると粗大な介在物を形成して靭性を劣化させる。したがってREMを含有する場合、REM量は0.0100%以下とする。好ましくは0.005%以下である。好ましいREM含有量下限値は0.0003%である。
ここで、REMとは、ランタノイドの15元素にYおよびScを合せた17元素の総称である。これらの17元素のうちの1種以上を鋼材に含有することができ、REM含有量は、これらの元素の合計含有量を意味する。
本発明の母材の化学組成において、残部はFeおよび不純物である。ここで「不純物」とは、鋼材を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
4.耐食性合金が、Crを10%以上含有するステンレス鋼またはニッケル基合金
本発明の合せ材は、耐食性合金からなる。前述のように、耐食性合金はCrを多く含有し、そのCrの拡散によってクラッド界面の焼入れ性が上がりマルテンサイトに変態しやすくなるとともに、母材側の炭素が合せ材側に拡散し、母材側界面に硬質なマルテンサイト相が形成され、接合面の耐水素脆化性を低下させる原因となる。即ち、Crを多く含有する耐食性合金を用いる場合に、本発明の効果が発揮される。合せ材のCr含有量が10%以上であれば、本発明を適用することによる効果が顕著に表れる。Cr含有量が15%以上であればより顕著に効果が発揮できる。
本発明は接合界面(母材と合せ材の界面)組織の制御による接合面の耐水素脆化性に優れたクラッド鋼板および製造方法についての技術であり、合せ材の鋼種は特に規定されないが、合せ材の例としてステンレス鋼またはニッケル基合金を例示できる。ステンレス鋼にはオーステナイト系ステンレス鋼、フェライト系ステンレス鋼、二相系ステンレス鋼があり、ニッケル基合金にはインコネル、インコロイ、ハステロイなどの商品名で種々の合金成分がある。
5.製造方法
本発明に係るクラッド鋼板の製造方法について説明する。前述のように接合面の耐水素脆化性および加工性に優れたクラッド鋼板を得るためには金属組織を制御する必要があるが、そのような金属組織は鋼の化学組成と適切な製造条件を組み合わせることで実現できる。
上記のクラッド鋼板において、母材と合せ材を圧着面が真空になるよう積層して圧着面の4周を溶接により密封してクラッド素材とする。2つのクラッド素材を組み立ててクラッド圧延素材とし、各クラッド素材の母材表面がクラッド圧延素材の表面となるように組み合わせる。組み立てたクラッド圧延素材について、圧延の最終パスの1つまたは2つ前のパスを1030℃以下かつ開始する前に高圧水デスケーリングを実施し、圧延仕上げ温度を980℃以下とする熱間圧延を行い、圧延後に式(2)で計算されるTA3(℃)~650℃区間の平均冷却速度が2℃/s以上の冷却を実施し、クラッド鋼板を製造する。
A3(℃)=937.2-436.5C+56Si-19.7Mn-26.6Ni+136.3Ti-19.1Nb+198.4Al ・・・式(2)
式中、C、Si、Mn、Ni、Ti、NbおよびAlは、母材鋼板の成分組成における各元素の含有量(質量%)である。
5-1クラッド素材
クラッド素材は、以下に記載の方法により製造される。具体的には、転炉、電気炉、真空溶解炉等の公知の方法で母材となる炭素鋼および低合金鋼ならびに合せ材となる耐食性合金を溶製した後、連続鋳造法または造塊-分塊法によりスラブを作成する。得られたスラブを通常用いられる条件で熱間圧延し、熱延板である合せ材及び母材とする。得られた熱延板に対し、必要に応じて、焼鈍、酸洗、研磨などを施してもよい。
上記の合せ材および母材を圧着面が真空になるよう積層して圧着面の4周を溶接により密封してクラッド素材を組み立てる。密着性や界面耐食性を改善するために合せ材と母材の間にNi箔などインサート材を挿入しても良い。圧着面を真空にする方法は特に規定されないが、真空中で電子ビーム溶接する方法や、予め真空引き用の穴を開けておき大気中でアーク溶接やレーザー溶接で4周を溶接した後に真空ポンプで真空引きする方法などが例示できる。真空度(絶対圧)は0.1Torr以下であれば界面の酸化物などが少ない良好な接合界面が得られ、より好ましくは0.05Torr以下であり、真空度は高いほど(絶対圧が低いほど)接合界面が良好になる傾向が有るため特に下限は設けない。
得られたクラッド素材は、2つのクラッド素材の間に剥離剤を塗布して重ねるように組み立てたものをクラッド圧延素材として熱間圧延に供すると好ましい。2つを重ねるに際し、冷却時の板反りを少なくするために母材同士、合せ材同士はそれぞれ等厚であることが望ましい。もちろん、上記で記述した組立方式に限定する必要はない。前述のとおり、クラッド素材の母材表面がいずれもクラッド圧延素材の表面になるように組み立てを行う。
5-2.熱間圧延
続いて、得られたクラッド圧延素材について圧延の最終パスの1つまたは2つ前のパスを1030℃以下かつ開始する前に高圧水デスケーリングを実施し、圧延仕上げ温度を980℃以下とする熱間圧延を行い、圧延後に式(2)で計算されるTA3(℃)~650℃区間の平均冷却速度が2℃/s以上の冷却を実施する。
A3(℃)=937.2-436.5C+56Si-19.7Mn-26.6Ni+136.3Ti-19.1Nb+198.4Al ・・・式(2)
式中、C、Si、Mn、Ni、Ti、NbおよびAlは、母材鋼板の成分組成における各元素の含有量(質量%)である。ここで式(2)のTA3は、A3変態点温度と鋼中成分含有量との関係について知られている式である。
圧延の最終パスの1つまたは2つ前のパスを1030℃以下かつ開始する前に高圧水デスケーリングを実施する。1030℃超の場合は高圧水デスケーリングを実施しても復熱によって母材表面及び母材表層の温度が上昇し、母材表層に再結晶や回復が生じて残留ひずみが少なくなり、後のフェライト変態を促進させることができなくなる。低温であるほど残留ひずみが多くなるため下限は設けないが、母材と合せ材の界面の硬質層の生成を抑制する観点から、930℃以上とするのが好ましく、980℃以上とするのが更に好ましい。また高圧水デスケーリングは圧延の最終パスの1つまたは2つ前のパスで実施する。最終パスの3つ前のパス以前で高圧水デスケーリングを実施しても、板が復熱してから時間が経過しすぎて、表層の残留ひずみを多くする効果が得られない。高圧水デスケーリングは板の表面を十分冷やすために0.5m/min以上の流量で実施する。好ましくは1.0m/minである。板表面に当たった水はすべてが蒸発するわけではなく、板の上に乗ったり流れ落ちたりする。流量の上限は設けないが、表面の冷却に寄与するのは表面に直接接触する水が主であり水量を多くしてもコストが増えるだけで冷却効果は飽和してしまうため、好ましくは3.0m/min以下である。上記の高圧水デスケーリングの流量(m/min)は実質的に板表面に当たる水の量であり、一例としてノズルから放出される全流量(m/min)×板幅(m)÷ノズル幅(m)で計算される。実用上の圧延時の通板速度の範囲では速度の影響は無視できる。当然、高圧水デスケーリングの本来の効果であるデスケーリングのために、最終パスの3つ前のパス以前に実施することはなんら妨げられない。
圧延の仕上げ温度は980℃以下とする。980℃超の場合は圧延後の復熱によって表面及び母材表層の温度が上昇し、再結晶や回復が生じて残留ひずみが少なくなり、後のフェライト変態を促進させることができなくなる。低温であるほど残留ひずみが多くなるため下限は設けないが、母材と合せ材の界面の硬質層の生成を抑制する観点から、880℃℃以上とするのが好ましく、930℃℃以上とするのが更に好ましい。
素材の加熱温度、加熱時間、圧下比は適宜定めれば良いが、界面の耐水素脆化性および加工性以外の特性や製造性の観点から以下に好ましい範囲を例示する。
加熱温度は1050~1250℃とするのが好ましい。加熱温度が1050℃未満であると熱間加工性が悪化し、接合強度も劣化する。このため、加熱温度は1050℃以上であるのが好ましく、1100℃以上であるのがより好ましい。一方、加熱温度が1250℃超であると、加熱炉内で鋼片が変形したり熱延時に疵が生じやすくなったりする。このため、加熱温度は1250℃以下であるのが好ましく、1220℃以下であるのがより好ましい。
加熱時間は短いほど界面での元素拡散距離が短くなるため下限は特に設けないが、板厚中央まで温度を均一にさせるには30分以上の加熱が望ましい。
素材厚/製品厚で計算される圧下比は3以上15以下とすることが好ましい。圧下比が3未満である場合は圧延による界面接合が不十分で界面のせん断強度が低くなる可能性がある。より好ましくは5以上である。また圧下比が15超である場合は圧延時間が長くなり仕上げ温度が低くなりすぎるとともに圧延コストが増加する。より好ましくは10以下である。
5-3.圧延後の冷却
圧延後に式(2)から計算されるTA3(℃)~650℃区間の平均冷却速度は2℃/s以上とすることが望ましい。2℃/s未満の冷却速度ではオーステナイト→フェライト変態やオーステナイト→フェライト+パーライト変態に伴い、母材と合せ材の界面のマルテンサイトになり得るオーステナイト領域に炭素が拡散して濃化するため、ナノ硬さが7GPa以上となる領域の幅が増加する。好ましくは4℃/s以上である。冷却速度が速すぎる場合は母材表層組織でベイナイトやマルテンサイトが主となり加工性が劣化するため、望ましくは10℃/s以下である。
A3(℃)=937.2-436.5C+56Si-19.7Mn-26.6Ni+136.3Ti-19.1Nb+198.4Al ・・・式(2)
式中、C、Si、Mn、Ni、Ti、NbおよびAlは、母材鋼板の成分組成における各元素の含有量(質量%)である。
5-3.圧延後の熱処理
本発明により、熱処理なしでも接合面の耐水素脆化性および加工性に優れたクラッド鋼板を得ることができ、また前述の通りクラッド鋼板の熱処理はコスト増となるが、他の特性の必要に応じて熱処理することは妨げられない。熱処理の際にフェライト→オーステナイト変態が生じると界面でのC拡散によって界面に硬質な領域が生成してしまう可能性があるので、熱処理温度は式(2)で求められるTA3℃以下とするのが望ましい。好ましくはTA3 - 100℃以下である。
A3(℃)=937.2-436.5C+56Si-19.7Mn-26.6Ni+136.3Ti-19.1Nb+198.4Al ・・・式(2)
本発明によれば、接合面の耐水素脆化性および加工性に優れたクラッド鋼板を得ることができる。本発明に係るクラッド鋼板、及び本発明のクラッド鋼板を用いてなる溶接構造物は、溶接時の剥離対策や付加的な熱処理などを必要としない。また、上記クラッド鋼板は、加工性が高く複雑な形状にも加工できるため使用用途の制限がなく、従来、ソリッド鋼板が用いられていた構造部材に適用できる。このため、上記クラッド鋼板は、低コスト化に大きく貢献するものである。本発明のクラッド鋼板を用いてなる溶接構造物は、水素を含むガスを使用する溶接またはガウジングを含む製造工程で製造した溶接構造物とすることができる。
本発明のクラッド鋼板は、耐水素脆化性および加工性に優れるので、溶接ガスに水素を用いた溶接に使用しても水素脆化が生じることがなく、複雑な構造物に対しても適用可能である。
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
表1に示す化学組成の合せ材および表2に示す化学組成の母材を溶製して鋼片とし、熱間圧延、焼鈍、酸洗の工程を経て合せ材は厚さ30mm、母材は厚さ130mmの鋼板を製造した。得られた合せ材と母材を素材として、母材と合せ材を圧着面が真空になるよう積層して圧着面の4周を溶接により密封してクラッド素材を作成した。2つのクラッド素材を母材-合せ材-剥離剤-合せ材-母材となるように合せ材と合せ材の間に剥離剤を塗布して重ね、クラッド圧延素材として組み立てた。得られたクラッド圧延素材について、表3に示す熱間圧延条件で熱間圧延を行った後に剥離剤部分で剥離させ、厚さ16mmのクラッド鋼板を製造した。
Figure 2022186396000001
Figure 2022186396000002
クラッド鋼板の圧延において表3に記載の条件を変化させ、各特性値を調べた。以下、表2および表3における製造条件の項目について説明する。表2において、TA3は母材の化学組成から式(2)で計算される値(℃)を示す。表3において、デスケは高圧水デスケーリングの有無および実施パスを示し、数字は最終パスの何パス前の圧延開始前に実施したかを示す。T1はデスケーリングを実施したパスの温度を示す。T2は圧延の仕上げ温度を示す。CRはTA3(℃)~650℃までの平均冷却速度(℃/s)を示す。Lは界面近傍でナノ硬さが7GPa以上である領域の幅(μm)を示す。α率は母材表層のフェライト面積率(%)を示す。耐水素は耐水素脆化性評価試験の結果であり、○は耐水素脆化性が良好、×は不良を示す。加工性は引張試験の結果であり、○は加工性が良好、×は不良を示す。
A3(℃)=937.2-436.5C+56Si-19.7Mn-26.6Ni+136.3Ti-19.1Nb+198.4Al ・・・式(2)
式中、C、Si、Mn、Ni、Ti、NbおよびAlは、母材鋼板の成分組成における各元素の含有量(質量%)である。
ナノ硬さの測定はISO 14577に規定する計装化押し込み硬さ試験に準拠し、合せ材側、母材側に界面から板厚方向に各10μm範囲を0.5μmピッチでナノ硬さを測定した。ナノ硬さ測定の条件は適宜選択すればよいが、例えば荷重1000μN、押し込み指定荷重まで5sec、保持0sec、戻り5secとする測定を各位置で3回実施し、その平均値をナノ硬さとする測定を例示できる。ナノ硬さが7GPa以上ある領域の範囲を読み取り、Lとした。なお、合せ材と母材の間にNi箔などインサート材を挿入した場合は、合せ材とインサート材の界面、インサート材と母材の界面について、それぞれ測定すれば良い。
KAM値の測定のため、試料の圧延方向に垂直な断面をコロイダルシリカ研磨し、母材表層(母材表面から深さ方向へ1mm位置)について倍率500倍、177μm×519μmエリア(177μm側が厚み方向であり、エリア中心が母材表面から1mmの位置である。)、測定ステップ1μmの測定条件でEBSD測定を3回実施した。得られたデータからそれぞれKAM値が1°以下である面積率を計算し、その平均を母材表層のフェライト相率とした。なお、この測定条件は一例であり、試料の金属組織、特に結晶粒径に応じて適宜変更してよい。
Kernel Average Misorientation(KAM)は測定データのピクセルについて、隣り合う6個のピクセル間の方位差の平均した値をそのピクセルのKAM値とする計算を各ピクセルに行う。粒界を超えないようにこの計算を実施することで粒内の局所的な方位変化にもとづく歪の分布図を得ることができる。高温で生成するフェライトは変態機構として拡散変態が主であるため、ベイナイトやマルテンサイトよりも変態ひずみが小さいという特性を有する。この特性を元にエッチングして観察した組織との比較からKAM値が1°以下のものをフェライトとし、EBSDから測定されるフェライト面積率を母材表層のフェライト相率と定義した。
耐水素脆化性の評価として下記の試験を実施した。試験片は板厚方向の長さを確保するため、クラッド鋼板の合せ材側に合せ材と同じ鋼種を溶接し、母材側に母材と同じ鋼種を溶接し、クラッド界面を含む平行部が4φ×20mmでクラッド界面に60°、ρ=0.1mm、のノッチを入れて3φとした丸棒試験片を作成した。溶接による熱影響を抑制するため、溶接方法として入熱が小さく溶接金属の幅を小さくできる電子ビーム溶接を選択し、溶接後に研削を実施した。なお、試験片の断面観察を実施し、溶接金属が界面から2mm以上離れていることを確認している。
作成した試験片を引張前に3質量%NaCl+3g/L・NHSCN水溶液中で電流密度10(A/m)×72(hr)の陰極チャージを行った後、3%NaCl+3g/L・NHSCN水溶液中で10(A/m)陰極チャージしながら平行部の歪速度:1×10-3(1/s)で破断まで引張った。引張前および引張中の陰極チャージをせずに引っ張る試験を別途実施し、破断までのストロークを比較し、チャージ有り材のストローク/チャージ無し材のストロークが0.25以上であれば良好(○)、0.25未満であれば不良(×)と評価した。
加工性の評価として下記の試験を実施した。クラッド鋼板から、合せ材部分を機械加工によって取り除き、母材鋼板部分からJIS 1A号の引張試験片を採取し、JIS Z 2241に準拠する引張試験を実施し、全伸びを求めた。そして、全伸びが16.0%以上であれば良好(○)、16.0%未満であれば不良(×)と評価した。
製造条件および上記の結果をまとめて表3に示す。本発明のクラッド鋼板の範囲から外れる項目、本発明の好適な製造方法範囲から外れる項目に、それぞれ下線を付している。
Figure 2022186396000003
試料1~44は本発明例であり、好ましい製造条件を満足し、ナノ硬さが7GPa以上である領域の長さLが5μm以下かつ、母材表層のフェライト相率が15%超であり、良好な接合面の耐水素脆化性と良好な加工性を有する。試料45~52は比較例であり、好ましい製造条件を満足せず、ナノ硬さが7GPa以上である領域の長さLが5μm超または母材表層のフェライト相率が15%以下であり、接合面の耐水素脆化性または加工性が不良である。
上述したように、本発明例では接合面の耐水素脆化性と加工性に優れるクラッド鋼板が得られた。一方、比較例では好ましい製造条件を満足せず、ナノ硬さが7GPa以上である領域の長さが本発明の規定から外れるか母材表層のフェライト相率が本発明の規定から外れたため、接合面の耐水素脆化性もしくは加工性が不良であった。
本発明によれば、接合面の耐水素脆化性と加工性に優れるクラッド鋼板を低コストで得ることができ、産業上極めて有用である。合せ材として耐食性合金を適用するので、本発明のクラッド鋼板は、腐食環境として、海水に曝されるような高塩化物環境、リン酸または硫酸などの酸溶液に曝されるプラント設備等での腐食環境等に適用可能性がある。具体的には、海水淡水化プラント、排煙脱硫装置、化学薬品の保存タンク、油井管等の構造部材、ポンプ・バルブ類、熱交換器などである。

Claims (7)

  1. 母材と、前記母材の片面に接合された合せ材とを備えるクラッド鋼板であって、
    前記母材は、炭素鋼または低合金鋼からなり、
    前記合せ材は、耐食性合金からなり、
    クラッド鋼板の母材と合せ材の界面において、ナノ硬さが7GPa以上である領域の板厚方向の幅が5μm以下、かつ母材表層のフェライト相率が15%超であることを特徴とするクラッド鋼板。
    ここで母材表層とは母材表面から板厚方向に1mmの位置を指す。
  2. 請求項1に記載のクラッド鋼板において母材の化学組成が質量%でC:0.020~0.200%、Si:1.00%以下、Mn:0.10~3.00%、P:0.050%以下、S:0.050%以下を含有し、かつCeqが0.20~0.40であり、残部がFe及び不純物からなる成分組成を有する請求項1に記載のクラッド鋼板。ここで、Ceqは次式(1)により定義される。
    Ceq=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5・・・式(1)
    式中、C、Mn、Cu、Ni、Cr、MoおよびVは、母材鋼板の成分組成における各元素の含有量(質量%)である。
  3. 前記母材の成分組成が、さらに前記Feの一部に替えて、質量%で、Ni:0.01~1.00%、Cr:0.01~1.00%、Mo:0.01~0.50%、Cu:0.01~1.00%、Co:0.01~0.50%,Se+Te:0.01~0.10%、V:0.001~0.100%、Ti:0.001~0.200%、Nb:0.010~0.200%、Al:0.005~0.300%、Ca:0.0003~0.0050%、B:0.0003~0.0030%およびREM:0.0003~0.0100%から選ばれる1種または2種以上を含有する、請求項2に記載のクラッド鋼板。
  4. 前記クラッド鋼板の合せ材が、質量%でCr:10%以上を含有するステンレス鋼またはニッケル基合金であることを特徴とする、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のクラッド鋼板。
  5. 請求項1~請求項4のいずれか1つに記載のクラッド鋼板において、母材と合せ材を圧着面が真空になるよう積層して圧着面の4周を溶接により密封してクラッド素材とし、2つの前記クラッド素材を、母材表面がいずれもクラッド圧延素材の表面になるように組み立てたクラッド圧延素材について、圧延の最終パスの1つまたは2つ前のパスを1030℃以下かつ開始する前に高圧水デスケーリングを実施し、圧延仕上げ温度を980℃以下とする熱間圧延を行い、圧延後に式(2)で計算されるTA3(℃)~650℃区間の平均冷却速度が2℃/s以上の冷却を行い、母材と合せ材の界面のナノ硬さが7GPa以上である領域の板厚方向の幅を5μm以下かつ母材表層のフェライト相率が15%超とすることを特徴とする、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のクラッド鋼板の製造方法。
    A3(℃)=937.2-436.5C+56Si-19.7Mn-26.6Ni+136.3Ti-19.1Nb+198.4Al ・・・式(2)
    式中、C、Si、Mn、Ni、Ti、NbおよびAlは、母材鋼板の成分組成における各元素の含有量(質量%)である。
  6. 請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のクラッド鋼板を用いてなる溶接構造物。
  7. 前記クラッド鋼板が、溶接ガスに水素を用いた溶接に使用されることを特徴とする、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のクラッド鋼板。
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