JP2023082763A - クラッド鋼板およびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】合せ材の耐食性および母材の加工性に優れたクラッド鋼板およびその製造方法を提供する。【解決手段】二相ステンレス鋼を合せ材とし、炭素鋼または低合金鋼を母材とするクラッド鋼板であり、合せ材の塩化第二鉄CPTと合せ材を固溶化処理した試料の塩化第二鉄CPTの差が10℃以下かつ母材表層(母材表面から板厚方向に1mmの位置)のフェライト相率が15%超である、合せ材の耐食性および母材の加工性に優れたステンレスクラッド鋼板。製造後に耐食性及び加工性を改善するための熱処理が不要であるため、複雑な構造物にも適用できるクラッド鋼板を低コストで提供することができる。塩化第二鉄CPTとは、ASTM G48E法に準拠して評価する孔食発生温度(℃)を意味する。【選択図】なし

Description

本発明は、母材の加工性と合せ材の耐食性がともに優れるクラッド鋼板とその製造方法に関する。
ステンレス鋼は耐食性に優れることから厳しい腐食環境において適した素材である。上述の厳しい腐食環境として、油井環境、海水や汽水に曝されるような高塩化物環境、各種酸溶液に曝されるプラント設備やケミカルタンカー等が例示される。そしてこのような厳しい腐食環境において、ステンレス鋼は海水淡水化プラント、排煙脱硫装置、化学薬品の保存タンク、油井管等の構造部材ポンプ・バルブ類、熱交換器などに使用されている。
一方でステンレス鋼は耐食性を確保するためCr、Ni、Moなどの合金元素が多く含有されており、炭素鋼や低合金鋼と比較すると材料コストはもちろん、加工や溶接などのコストも高い。また合金元素の高騰などによって価格が大きく変動することも考えられる。そのため、主にコストの面からその使用が制限される場合がある。
上述のようにコストの面を考慮した場合、加工や溶接などの観点からはクラッド鋼板を材料として使用することが有効である。クラッド鋼板とは、異なる二種類以上の金属を貼り合せた材料をいう。また、貼り合わせを行わない鋼板を以下、「ソリッド鋼板」と称する。クラッド鋼板は、高合金鋼のみからなるソリッド鋼板と比較し、高合金鋼を使用する量を低減することができ、材料コストを低減することができるとともに、異材溶接が少なくできるため溶接時の溶材コストなども低下することができる。
また、二種類の金属を貼り合わせたクラッド鋼板において、一方の金属を「母材」と記載し、母材に貼り合せた他方の金属(素材)を「合せ材」と記載する。優れた特性を有する材料(合せ材)を母材に貼り合せることで、合せ材と母材とがそれぞれ有する優れた特性を双方とも得ることができる。
例えば、合せ材に、その使用環境で要求される特性(耐食性等)を有する高合金鋼を用い、母材にその使用環境で要求される靭性および強度を有する炭素鋼または低合金鋼を用いた場合が考えられる。このような場合、上述のようにコストを低減することができるだけでなく、ソリッド鋼板と同等の特性(耐食性等)と、炭素鋼および低合金鋼と同等の強度および靭性とを確保できる。このため、経済性と機能性とが両立できる。
以上のような経緯から、合せ材としてステンレス鋼を用いたクラッド鋼板のニーズは、近年各種産業分野で益々高まっている。従来その多くはオーステナイト系ステンレス鋼が合せ材として用いられてきた。これらの用途のステンレス鋼が安価な二相ステンレス鋼に変更される趨勢が進みつつあり、合せ材を二相ステンレス鋼としたさらに安価なクラッド鋼板の潜在的な要求も存在する。
クラッド鋼板の用途拡大につれて、ケミカルタンカーやプラント類、大型構造物など複雑な形状への適用も広まっている。このような用途では、例えば引張試験の伸びや曲げ試験の表面割れなどで評価される母材の加工性が重要になる。そのため、二相ステンレス鋼を合せ材としたクラッド鋼板について、合せ材の耐食性と母材の加工性を両立させる技術が望まれている。
本発明では、クラッド鋼板であって、母材の表面のうち一方の面のみに合せ材を貼り合わせたものを対象とする。母材の表面のうちで合せ材を貼り合わせていない側の表面(母材が露出している)を以下「母材表面」と呼び、母材表面から板厚方向に1mmの位置を「母材表層」と呼ぶ。
二相ステンレス鋼はCr,Mo,Ni,Nを多量に含有し、シグマ相とよばれる金属間化合物やクロム窒化物が析出しやすい。それらが析出する温度範囲は成分によって若干上下するものの、およそ950℃~650℃である。二相ステンレス鋼の中にシグマ相の析出がおこると、その周囲にクロム欠乏層が生成して鋼の耐食性が低下する。同様にクロム窒化物が析出すると、その周囲にクロム欠乏層が生成して鋼の耐食性が低下する。そのため、通常の二相ステンレスソリッド鋼板は圧延後に1000℃以上の固溶化熱処理を加えて析出物を固溶させて製造されている。
しかしながら、クラッド鋼板では母材と合せ材とが異なる成分および結晶構造であるため、両者の熱膨張係数は大きく異る。そのため、1000℃以上の固溶化熱処理を施すと熱膨張係数の差によって板が大きく変形してしまうという問題があり、平坦度の矯正には大きなコストがかかる。したがって、クラッド鋼板の製造時には圧延後の熱処理は省略される場合が多い。
特許文献1では、熱間圧延条件を制御することにより熱処理を省略しても良好な耐食性を有する二相ステンレスクラッド鋼板を製造する技術が開示されている。特許文献1では、900℃以上で圧延をした後、シグマ相の析出温度域である900℃~750℃区間を加速冷却することにより合せ材でのシグマ相析出を抑制し良好な耐食性を実現させている。上記特許文献以外でも、シグマ相やクロム窒化物の析出温度範囲を水冷などの方法で加速冷却することで良好な耐食性を実現する技術については数件の特許文献が存在する。
しかしながら、合せ材の耐食性の確保のために水冷を行うと、母材組織でベイナイトやマルテンサイトの割合が増え、加工性が低下しやすくなる。とくに冷却水が直接あたる母材表面に近い母材表層では冷却速度が非常に大きくなるため、母材の内部に比べてベイナイトやマルテンサイトの割合が増えて加工性が低下する。ベイナイトやマルテンサイトの軟質化のための焼戻し処理は前述の膨張係数差による板曲がりのため難しい。
特許文献2にはクラッド鋼板について、母材の表層と内部の組織を制御して、強度と加工性を両立させる技術が開示されている。しかしながら、この母材組織の制御は焼戻し処理によるものであり、焼戻し処理なしでの組織制御に関する記載はない。
特許文献3には普通鋼のソリッド鋼板について、高圧水デスケーリングを活用して表層のフェライト組織を制御する技術が開示されている。しかしながらこの特許文献はソリッド鋼板に関してであり、高圧水デスケーリングがクラッド鋼板の合せ材組織に及ぼす影響については記載はない。
特許第6477735号公報 特許第6573060号公報 特許第3572756号公報
本発明者は、鋭意検討の結果、解決すべき以下の課題を知見した。
特許文献1には、加速冷却によって圧延後の熱処理を省略しても合せ材の良好な耐食性を実現する技術の開示がある。また特許文献2には焼戻しによって母材表層のベイナイトやマルテンサイトを軟質化して母材の加工性を向上させる技術の開示が有る。特許文献3には普通鋼のソリッド材で母材の組織を制御する技術が開示されている。しかしながら、二相ステンレスクラッド鋼板において、圧延後の熱処理を省略しても合せ材の耐食性と母材の加工性を両立させる技術については開示も示唆もない。
上記記載の課題認識に鑑み、本発明は、合せ材の耐食性および母材の加工性に優れた二相ステンレスクラッド鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者は母材、合せ材、合せ材、母材の順に張り合わせた素材を加熱、圧延、冷却した後に中央部で剥離してクラッド鋼板を製造するに当たり、母材組織のうち特に水冷時に冷却水が直接当たる母材表面に近い母材表層において、フェライト相率を一定値以上に制御することにより、良好な加工性を実現できることを認識した。
また本発明者は、合せ材組織中のシグマ相およびクロム窒化物の析出を低減させることにより良好な耐食性を実現できることを認識した。
これらの結果から本発明者は、圧延後の熱処理を省略しても合せ材の耐食性および母材の加工性を両立するためには、母材成分および圧延条件の適正化によって合せ材の析出物を低減させることおよび母材表層のフェライト相率を制御することが、解決すべき課題であると知見した。
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、下記のクラッド鋼板およびその製造方法を要旨とする。
[1]母材と、前記母材に接合された合せ材とを備えるクラッド鋼板であって、
前記母材は、炭素鋼または低合金鋼からなり、
前記合せ材は、二相ステンレス鋼からなり、
固溶化処理した試料の前記合せ材の塩化第二鉄CPTと、前記合せ材の塩化第二鉄CPTとの差が10℃以下であり、
かつ母材表層のフェライト相率が15%超であることを特徴とするクラッド鋼板。
ここで母材表層とは母材表面から板厚方向に1mmの位置を指す。
また、塩化第二鉄CPTとは、ASTM G48E法に準拠して評価する孔食発生温度(℃)を意味する。
[2][1]に記載のクラッド鋼板において、前記母材の化学組成が質量%でC:0.020~0.200%、Si:1.00%以下、Mn:0.10~3.00%、P:0.050%以下、S:0.050%以下、Nb:0.200%以下、N:0.020%以下を含有し、かつCeqが0.20~0.50であり、残部がFe及び不純物からなる化学組成を有する[1]に記載のクラッド鋼板。ここで、Ceqは次式(1)により定義される。
Ceq=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5・・・(1)
式中、C、Mn、Cu、Ni、Cr、MoおよびVは、母材鋼板の化学組成における各元素の含有量(質量%)である。
[3]前記母材の化学組成がさらに、前記Feの一部に替えて、質量%で、Ni:0.01~3.00%、Cr:0.01~1.00%、Mo:0.01~0.50%、W:0.01~1.00%、Cu:0.01~2.00%、Co:0.01~0.50%、Se+Te:0.01~0.10%、V:0.001~0.100%、Ti:0.001~0.200%、Al:0.005~0.300%、Ca:0.0003~0.0100%、B:0.0003~0.0030%、Mg:0.0003~0.0100%、Zr+Hf+Ta:0.0001~0.0100%およびREM:0.0003~0.0100%から選ばれる1種または2種以上を含有する、[2]に記載のクラッド鋼板。
[4][1]~[3]のいずれか1項に記載のクラッド鋼板の製造方法において、母材と合せ材を圧着面が真空になるよう積層して圧着面の4周を溶接により密封してクラッド素材とし、2つの前記クラッド素材を組み立てたクラッド圧延素材について、圧延素材表面の温度が式(2)で計算されるTNb+70℃以下かつ950℃以上から一連の圧延パスを開始し、最終パスを含む1パス以上の圧延について、圧延時の圧延素材表面の温度がTNb以下となり、当該温度範囲での総圧下率が5%以上となるような圧延を行い、圧延後に900~650℃区間の全厚平均の平均冷却速度が2℃/s以上の冷却を行うことを特徴とする、[1]~[3]のいずれか1項に記載のクラッド鋼板の製造方法。
Nb(℃)=815℃+720×√Nb ・・・式(2)
式中、Nbは、母材鋼板の化学組成におけるNbの含有量(質量%)である。
本発明によれば、合せ材の耐食性および母材の加工性に優れた二相ステンレスクラッド鋼板を得ることができる。
本発明者らは上記の課題に対し、以下の検討を行なった。具体的には、種々の二相ステンレス鋼を合せ材とするクラッド鋼板において、圧延後の冷却速度を変化させて合せ材の耐食性について調査した。その結果、以下(a)、(b)の知見を得た。
(a)合せ材のシグマ相およびクロム窒化物の析出が少ないほど耐食性が良好になる。クラッド鋼板の合せ材部分の耐食性を評価する手段として、孔食発生温度評価を用いることができる。孔食発生温度は、ASTM G48E法に準拠して評価する。以下、この評価方法を「塩化第二鉄CPT」と呼ぶ。実用上は、固溶化熱処理を実施しないクラッド鋼板製品の合せ材部分を評価した塩化第二鉄CPT(以下「製品CPT」と呼ぶ。)と、製品の合せ材部分を固溶化熱処理した試料の塩化第二鉄CPT(以下「固溶化CPT」と呼ぶ。)を評価し、固溶化CPTと製品CPTとの差(以下「CPT差」という。)を10℃以下とすることが有効である。
(b)シグマ相およびクロム窒化物の析出を抑制して合せ材の耐食性を向上させるためには、圧延完了時の合せ材の温度が900℃以上かつ圧延後に900℃~650℃の温度範囲の冷却速度を2℃/s以上とする加速冷却が有効である。
上記(a)(b)の知見に至った調査結果の一例について説明する。具体例として合わせ材に後記表1のEに示す成分のものを用いた。熱間圧延方法として、圧延完了時の温度を900℃以上とし、900~650℃の温度範囲の全厚平均の平均冷却速度を、3.0℃/s(急冷)と1.0℃/s(緩冷)の2種類とした。
熱延後の合せ材のシグマ相とクロム窒化物の析出量を評価するため、抽出残渣分析を実施した。抽出残渣分析は、電解液(10%アセチルアセトン-1%塩酸-メタノール溶液)を用いて電解した残渣を、0.2μm孔のポリカーボネート+ポリエステルろ過フィルターを用いて採取した後、ICP分析を用いてFe、Cr、Mo、Nb、Vの元素について全抽出量に対する質量%を測定した。各成分の分析値のうち、シグマ相とクロム窒化物の両者に含まれ、ステンレス鋼の耐食性に大きく影響するCrについて析出量の指標とした。緩冷条件では残渣中のCrが0.08質量%であったのに対し、急冷条件では残渣中のCrは0.01質量%であり、熱延後の急冷によってシグマ相とクロム窒化物の析出が抑制されることがわかった。
また、急冷条件と緩冷条件それぞれで製造した合せ材について、1050℃、10分の固溶化処理を施した固溶化熱処理サンプルを準備した。固溶化熱処理を行わないサンプルを製品サンプルという。各試料について、前記塩化第二鉄CPTによる評価を行った。急冷条件、緩冷条件のいずれも、固溶化CPTが40℃であった。一方、固溶化熱処理を行わない製品サンプルについては、急冷条件の製品CPTは40℃でありCPT差が0℃で耐食性は固溶化熱処理サンプルと同等であったのに対し、緩冷条件の製品CPTは25℃でありCPT差が15℃であった。熱間圧延における急冷条件の採用により、塩化第二鉄CPTで評価される合せ材の耐食性が向上することが明らかである。
また本発明者らは上記の課題に対し、以下の検討を行なった。具体的には、種々の普通鋼・低合金鋼を母材とするクラッド鋼板において、母材の成分、圧延時の表層温度と圧下率、および圧延後の冷却速度を変化させて母材表層の金属組織について調査し、加工性との関係を評価した。その結果、以下(c)~(e)の知見を得た。
(c)母材表層(母材表面から板厚方向に1mmの位置)のフェライト相率が大きいほど母材の加工性が良好になる。このため、母材表層のフェライト相率を15%超にすることが有効である。
(d)合せ材の良好な耐食性を実現するためには上記(b)より、合せ材について圧延完了時の温度を900℃以上とし、900℃~650℃の温度範囲の全厚平均の平均冷却速度を2℃/s以上とすることが重要である。一方で、合せ材の冷却速度を大きくすると、同時に合せ材とは反対側の水や空気が直接当たる母材表面も急冷却され、母材表面から板厚方向に1mmの位置にある母材表層近傍において硬質なベイナイトやマルテンサイトが生成し、例えば引張試験などでは表面の硬質で低延性な部分から破断が生じて延性が低下したり、曲げ加工では母材表面からネッキングや割れが発生したりしてしまうなど、加工性が低下してしまう。特に、構造物として十分な強度が得られる母材の化学組成において、冷却速度増大時に硬質なベイナイトやマルテンサイトが生成しやすい。
オーステナイト→フェライト変態はオーステナイトを再結晶が生じない温度域で圧延することによってオーステナイトに蓄積される残留ひずみによって促進する。そのため、圧延後に急冷却を行ってもベイナイトやマルテンサイトの生成を抑制するには、再結晶や回復に時間がかかる低い温度で圧延を行い、圧延後の冷却時に残留ひずみを残存させておくことが有効である。
具体的には、詳細を後述するように、熱間圧延の際に最終パスを含む1パス以上の圧延について、圧延時の圧延素材表面の温度がTNb以下となり、当該温度範囲での総圧下率が5%以上となるようにおこなうことにより、母材表層におけるオーステナイト相の残留ひずみが大きくなり、圧延後に急冷却を行っても母材表層におけるフェライト相変態が促進されることとなる。
Nb(℃)=815℃+720×√Nb ・・・式(2)
(e)TNb以下の温度範囲での総圧下率を5%以上する手段として、圧延中に放冷するなどによって板全体の温度を低下させて圧延する手段を採用すると、表面と同時に合せ材部分の温度も低下するため、特に薄手材では圧延機から冷却設備までの移送中に温度が低下して水冷開始時に合せ材の温度が900℃を下回ってしまい、圧延後の冷却を十分な急冷却とすることができず、合せ材の耐食性が低下する可能性が有る。したがって、合せ材の良好な耐食性と母材表層のベイナイトやマルテンサイトの生成抑制とを両立させるためには、合せ材部分を含め板全体の温度を高温にしたまま、母材表面に近い母材表層の温度を低温にして圧延すると好ましい。
母材表面に近い母材表層だけを再結晶や回復に時間がかかる低い温度にするためには、母材表面を圧延素材の表面に配置した上で、通常はスケールを除去し表面疵などを防止するために用いられる高圧水デスケーリングを活用することが有効である。高圧水デスケーリングの水量および圧延のパススケジュールを調整することで、水が直接当たる母材表面に近い母材表層だけを低温にして残留ひずみを大きくすることができるので好ましい。またNbは再結晶温度を上げる元素である。母材へのNb添加により母材の再結晶温度が高くなるので、圧延時の温度をさほど下げることなく、再結晶や回復を遅延させることが可能となる。即ち、冷却設備までの移送中に板内部の熱により復熱して表層の残留ひずみが解消されることを抑制するためには、Nb添加によって母材の再結晶温度を高くすることも重要である。
したがって、合せ材の耐食性および母材の加工性に優れた二相ステンレスクラッド鋼板を得るためには、母材成分、圧延時の母材表層の温度および圧延後の冷却条件の適正化により、合せ材でのシグマ相やクロム窒化物の析出抑制と、母材表層でのオーステナイト→フェライト変態を制御する必要がある。本発明は、上記の知見に基づいてなされたものである。以下、本発明の各要件について詳しく説明する。
1.本発明の構成
本発明に係るクラッド鋼板は、母材と、母材の片面に接合された合せ材とを備える。母材は後述の炭素鋼または低合金鋼からなる。また合せ材は二相ステンレス鋼からなる。母材の表面のうちで合せ材を貼り合わせていない側の表面(母材が露出している)を「母材表面」と呼び、母材表面から板厚方向に1mmの位置を「母材表層」と呼ぶ。さらに、合せ材を固溶化熱処理した試料の塩化第二鉄CPT(前記「固溶化CPT」)と製品の合せ材の塩化第二鉄CPT(前記「製品CPT」)との差(前記「CPT差」)が10℃以下であり、かつ母材表層のフェライト相率が15%超である。
2.合せ材の耐食性と母材の加工性
合せ材の耐食性に優れるとともに、母材の加工性に優れたクラッド鋼板を得るためには、合せ材でのシグマ相やクロム窒化物の析出の抑制による耐食性の向上と、母材表層でのフェライト相変態促進を、両立する必要がある。
2-1.
本発明に関わるクラッド鋼板の合せ材の耐食性について説明する。
合せ材の耐食性は、前述のとおり、合せ材を固溶化熱処理した試料の塩化第二鉄CPT(前記「固溶化CPT」)と、製品の合せ材の塩化第二鉄CPT(前記「製品CPT」)の差(前記「CPT差」)が10℃以下とする。CPT差が10℃超では、使用する環境に応じた合せ材を選択する際に、より高合金で耐食性の高い合せ材を選択せざるを得ず、クラッド鋼板の利点の一つである合せ材のコスト低減効果が得られない。好ましくはCPT差が5℃以下であり、更に好ましくは0℃以下である。CPT差は小さいほど望ましいため下限は設けない。
ここで塩化第二鉄CPTとは、前述のとおりASTM G48E法に準拠して評価した孔食発生温度を意味する。
2-2.母材表層のフェライト相率
クラッド鋼板の母材表層においてフェライト相率は15%超とする。15%以下では曲げ試験において割れが生じる可能性がある。母材表層のフェライト相率が多いほど母材の加工性が向上するため上限は設けない。好ましくは20%以上であり、更に好ましくは30%以上である。フェライト相以外の残部はパーライト、ベイナイト、マルテンサイトの各相または2つ以上の混合組織とする。母材内部は冷却水が直接当たらず母材表層よりも冷却速度が遅くなるためその組織は特に規定はしないが、母材表層同様にフェライト相率は15%超とするのが望ましい。好ましくは20%以上であり、更に好ましくは30%以上である。残部はパーライト、ベイナイト、マルテンサイトの各相または2つ以上の混合組織とする。
ここで母材表層とは母材表面から板厚方向に1mm位置を指す。またフェライト相率とはEBSD試験のKAM(Kernel Average Misorientation)が1°以下の面積率を指す。
3.母材の化学組成
母材は炭素鋼または低合金鋼からなる。
また母材の好ましい化学組成は、質量%でC:0.020~0.200%、Si:1.00%以下、Mn:0.10~3.00%、P:0.050%以下、S:0.050%以下、Nb:0.200%以下、N:0.020%以下を含有し、かつCeqが0.20~0.50であり、残部がFe及び不純物からなる化学組成を有する鋼板である。ここで、Ceqは次式(1)により定義される。
Ceq=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5・・・(1)
式中、C、Mn、Cu、Ni、Cr、MoおよびVは、母材の化学組成における各元素の含有量(質量%)である。
Cは鋼の強度を向上させる元素であり、0.020%以上含有させることで十分な強度を発現する。しかし、0.200%を超えると溶接性および靭性の劣化を招く。したがって、C量は0.020~0.200%とする。好ましくは0.040%以上、さらに好ましくは0.050%以上である。一方上限値は0.100%以下が好ましく、0.080%以下がさらに好ましい。より好ましい範囲は0.040%~0.100%であり、更に好ましい範囲は0.050%~0.080%である。
Siは脱酸に有効であり、また鋼の強度を向上させる元素である。しかしながら、1.00%を超えると鋼の表面性状及び靭性の劣化を招く。したがって、Si量は1.00%以下とする。好ましくは0.50%以下である。Siは含有しなくても良い。Siの好ましい含有量下限は0.01%である。
Mnは鋼の強度を上昇させる元素であり、0.10%以上含有させることでその効果が発現する。しかしながら、3.00%を超えると溶接性が損なわれるとともに合金コストも増大する。したがって、Mn量は0.10~3.00%とする。好ましくは0.50~2.00%であり、更に好ましくは0.90%~1.60%である。
Pは鋼中の不純物であり、含有量が0.050%を超えると靭性が劣化する。したがって、P量は0.050%以下とする。好ましくは0.015%以下である。
Sは鋼中の不純物であり、含有量が0.050%を超えると靭性が劣化する。したがって、S量は0.050%以下とする。好ましくは0.010%以下である。
Nbは再結晶温度を上げる元素であり、0.008%超の添加が好ましく、0.010%以上の添加がより好ましい。しかし、0.200%を超えると溶接性が損なわれるとともに合金コストも増大する。したがって、Nb量は0.200%以下とする。好ましいNb上限は0.100%である。より好ましくは0.010~0.050%であり、更に好ましくは0.030~0.050%である。
NはNb、V、Tiなどと結合し窒化物または炭窒化物を析出させる元素であり、含有量が0.010%を超えると、微細な析出物によって加工性や靭性を低下させる。したがって、N量は0.010%以下とする。好ましくは0.006%以下である。下限は特に規定しないが、生産技術上の制約から、Nの含有量は0.0005%以上とすることが好ましい。
Ceq(炭素当量)は、鋼の化学組成から硬度と溶接性を見積もるために用いられる値であり、式(1)で計算される。Ceqが高いほど硬さは向上し、溶接性は劣化する。Ceqが0.20未満では構造物として十分な強度が得られない。したがって、Ceqは0.20以上とする。好ましくは0.23以上である。Ceqが0.50超では溶接性が劣化し、パス間温度管理や後熱処理が必要になるなど溶接コストが増加する。したがって、Ceqは0.50以下とする。好ましくは0.40以下であり、更に好ましくは0.35以下である。
Ceq=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5・・・(1)
式中、C、Mn、Cu、Ni、Cr、MoおよびVは、母材の化学組成における各元素の含有量(質量%)である。
前記母材の化学組成にさらに、前記Feの一部に替えて質量%で、Ni:0.01~3.00%、Cr:0.01~1.00%、Mo:0.01~0.50%、W:0.01~1.00%、Cu:0.01~2.00%、Co:0.01~0.50%、Se+Te:0.01~0.10%、V:0.001~0.100%、Ti:0.001~0.200%、Al:0.005~0.300%、Ca:0.0003~0.0100%、B:0.0003~0.0030%、Mg:0.0003~0.0100%、Zr+Hf+Ta:0.0001~0.0100%およびREM:0.0003~0.0100%から選ばれる1種または2種以上を含有することができる。
Niは鋼の焼入れ性を向上させる元素であり、圧延後の鋼の強度及び靭性を向上させる。しかしながら、3.00%を超えると溶接性および靭性の劣化を引き起こす。したがってNiを含有する場合、Ni量は3.00%以下とする。好ましくは1.00%以下であり、より好ましくは0.50%以下であり、更に好ましくは0.30%以下である。好ましいNi含有量下限値は0.01%である。
Crは鋼の焼入れ性を向上させる元素であり、圧延後の鋼の強度及び靭性を向上させる。しかしながら、1.00%を超えると溶接性および靭性の劣化を引き起こす。したがってCrを含有する場合、Cr量は1.00%以下とする。好ましくは0.50%以下であり、より好ましくは0.30%以下である。好ましいCr含有量下限値は0.01%である。
Moは鋼の焼入れ性を向上させる元素であり、圧延後の鋼の強度及び靭性を向上させる。しかしながら、0.50%を超えると溶接性および靭性の劣化を引き起こす。したがってMoを含有する場合、Mo量は0.50%以下とする。好ましくは0.30%以下であり、より好ましくは0.1%以下である。好ましいMo含有量下限値は0.01%である。
Wは、高温での相変態を抑制して鋼板強度の向上に寄与する元素である。Wが1.00%を超えると、熱間加工性が低下して生産性が低下する。したがってWを含有する場合、W量はは1.00%以下とする。好ましくは0.50%以下であり、より好ましくは0.30%以下である。好ましいW含有量下限値は0.01%である。
Cuは鋼の焼入れ性を向上させる元素であり、圧延後の鋼の強度及び靭性を向上させる。しかしながら、2.00%を超えると溶接性および靭性の劣化を引き起こす。したがってCuを含有する場合、Cu量は2.00%以下とする。好ましくは1.00%以下であり、より好ましくは0.50%以下であり、更に好ましくは0.30%以下である。好ましいCu含有量下限値は0.01%である。
Coは鋼の焼入れ性を向上させる元素であり、圧延後の鋼の強度及び靭性を向上させる。しかしながら、0.50%を超えると熱間での加工性が損なわれて生産性が低下する。したがってCoを含有する場合、Co量は0.50%以下とする。好ましくは0.30%以下であり、より好ましくは0.1%以下である。好ましいCo含有量下限値は0.01%である。
SeおよびTeは鋼板中のMn、Si、Al等の酸化しやすい元素が鋼板表面に拡散されて酸化物を形成することを抑制し、鋼板の表面性状やめっき性を高める。しかしながら、合計で0.10%を超えるとこの効果が飽和する。したがって、SeおよびTeを添加する場合はSeとTeの合計量は0.10%以下とする。より好ましくは0.05%以下である。好ましいSe+Te含有量下限値は0.01%である。
Alは鋼の脱酸に効果がある元素である。しかしながら、0.300%を超えると溶接部の靭性の劣化を引き起こす。したがってAlを含有する場合、Al量は0.300%以下とする。好ましくは0.100%以下である。好ましいAl含有量下限値は0.005%である。
Vは炭窒化物を形成することで鋼の強度を上昇させる。しかしながら、0.100%を超えると溶接性および靭性の劣化を引き起こす。したがってVを含有する場合、V量は0.100%以下とする。好ましくは0.050%以下である。好ましいV含有量下限値は0.001%である。
Tiは結晶粒を微細化させて強度を増加させる元素であり、0.001%以上の添加でその効果が発現する。しかし、0.200%を超えると溶接性が損なわれるとともに合金コストも増大する。したがって、Ti量は0.001~0.200%とする。好ましくは0.005~0.100%であり、更に好ましくは0.010~0.050%である。
Caは溶接熱影響部の組織を微細化し、靭性を向上させる元素である。しかしながら、0.0100%を超えると粗大な介在物を形成して靭性を劣化させる。したがってCaを含有する場合、Ca量は0.0100%以下とする。好ましくは0.0050%以下であり、更に好ましくは0.0030%以下である。好ましいCa含有量下限値は0.0003%である。
Bは鋼の焼入れ性を向上させる元素であり、圧延後の鋼の強度及び靭性を向上させる。しかしながら、0.0030%を超えると溶接性および靭性の劣化を引き起こす。したがってBを含有する場合、B量は0.0030%以下とする。好ましくは0.0015%以下である。好ましいB含有量下限値は0.0003%である。
Mgは硫化物系介在物の形態制御によって延性や靭性を向上させる元素である。しかしながら、0.0100%を超えると非金属介在物量が増加し、延性、靭性が低下する。したがって、Mgを含有する場合、0.0100%以下とする。好ましくは0.0050%以下であり、更に好ましくは0.0030%以下である。好ましいMg含有量下限値は0.0003%である。
Zr、Hf、Taは成形性の向上に寄与する元素である。Zr、Hf、Taの1種又は2種以上の合計が0.0100%を超えると、延性が低下する恐れがあるので、Zr、Hf、Taの1種又は2種以上を含有する場合、合計で0.0100%以下とする。好ましくは0.0070%以下である。好ましいZr、Hf、Taの1種又は2種以上の合計は0.0001%である。
REMは溶接熱影響部の組織を微細化し、靭性を向上させる。しかしながら、0.0100%を超えると粗大な介在物を形成して靭性を劣化させる。したがってREMを含有する場合、REM量は0.0100%以下とする。好ましくは0.005%以下である。好ましいREM含有量下限値は0.0003%である。
ここで、REMとは、ランタノイドの15元素にYおよびScを合せた17元素の総称である。これらの17元素のうちの1種以上を鋼材に含有することができ、REM含有量は、これらの元素の合計含有量を意味する。
本発明の母材の化学組成において、残部はFeおよび不純物である。ここで「不純物」とは、鋼材を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
4.二相ステンレス鋼の合せ材
次に、二相ステンレス鋼の合せ材について説明する。二相ステンレス鋼とは例えば、JIS G 4304に「オーステナイト・フェライト系」として規定されている。
本実施形態の合せ材に適用可能なフェライト・オーステナイト二相ステンレス鋼としては、例えば化学組成が質量%で、C:0.10%以下、Si:2.00%以下、Mn:0.50~6.00%、P:0.050%以下、S:0.050%以下、Ni:0.10~8.00%、Cr:17.0~30.0%、N:0.05~0.30%、Mo:0~3.50%、Cu:0~2.0%、Nb:0~0.10%、Sn:0~1.00%、W:0~1.00%、V:0~1.00%、Ti:0~0.05%、B:0~0.0050%、Ca:0~0.0050%、Mg:0~0.0050%、Al:0~0.05%、REM:0~0.50%、残部がFeおよび不可避的不純物であり、下記(i)式で計算されるPREN_Mn値が45.0未満といった化学組成が挙げられる。この化学組成はあくまでも例示であり、本発明はこれによって限定されるものではない。この化学組成を挙げた理由は次の通りである。なお、以下の説明において含有量についての「%」は、「質量%」を意味する。
PREN_Mn値=Cr+3.3Mo+16N-Mn ・・・(i)
但し、上記式(i)中の元素記号は、合せ材に含まれる各元素の含有率(質量%)であり、含有しない場合は0を代入する。
C:0.10%以下
Cは、オーステナイト相に固溶して強度を高める元素である。しかし、C含有量が0.10%を超えると、鋼材の強度が高くなり加工性が劣化する。また、Cr炭化物の析出を促進するために粒界腐食の発生をもたらす。したがって、C含有量は0.10%以下とする。C含有量は0.050%以下であってもよく、0.040%以下であってもよい。また、耐食性の点からCは低くする方が好ましいが、現存の製鋼設備ではC含有量を0.002%以下に低下させるには大きなコスト増加を招く。そのため、C含有量は0.002%以上であることが好ましい。
Si:2.00%以下
Siは、脱酸元素として使われたり、耐酸化性向上のために添加されたりする場合がある。しかし、Si含有量が2.00%を超えると、鋼板の硬質化をもたらし、靭性および加工性が劣化する。したがって、Si含有量は2.00%以下とする。Si含有量は1.50%以下であるのが好ましく、1.00%以下であるのがより好ましい。また、Si含有量を極少量まで低減するためには、鋼の精錬時のコスト増加を招く。そのため、Si含有量は0.03%以上であることが好ましい。
Mn:0.50~6.00%
Mnは、オーステナイト相を増加させ、また窒素の固溶度を上げ製造時の気泡欠陥などを抑制する効果を有する。しかし、Mnを多量に含有すると、耐食性および熱間加工性を低下させる。したがって、Mn含有量は0.50~6.00%とする。Mn含有量は1.00%以上であるのが好ましく、2.50%以上であるのがより好ましい。また、Mn含有量は4.00%以下であるのが好ましい。
P:0.050%以下
Pは、鋼中に不可避的に混入する元素であり、またCrなどの原料にも含有されているため、低減することが困難であるが、Pを多量に含有すると成形性を低下させる。P含有量は少ないほど好ましく、0.050%以下とする。P含有量は0.040%以下であるのが好ましい。P含有量は低い方が望ましいが、P含有量を低減するには多大なコスト増となるので、P含有量は0.0005%以上であってもよい。
S:0.050%以下
Sは、鋼中に不可避的に混入する元素であり、Mnと結合して介在物を作り、発銹の基点となる場合がある。したがって、S含有量は0.050%以下とする。S含有量は低いほど耐食性が向上するので、0.0030%以下であるのが好ましい。S含有量は低い方が望ましいが、S含有量を低減するには多大なコスト増となるので、S含有量は0.0001%以上であってもよい。
Ni:0.10~8.00%
Niは、オーステナイト安定化元素であり、表層のオーステナイト相率を増加させるために重要な元素である。また、Niは耐食性を向上させる効果を有する。しかし、Niを多量に含有すると、原料コストの増加をもたらし、応力腐食割れなどの問題が生じる可能性がある。したがって、Ni含有量は0.10~8.00%とする。Ni含有量は1.00%以上であるのが好ましい。また、Ni含有量は6.00%以下であるのが好ましく、4.00%以下であるのがより好ましく、3.00%以下であるのがさらに好ましい。
Cr:17.0~30.0%
Crは、耐食性を確保するために必要な元素である。しかし、Crを多量に含有すると、熱間加工割れをもたらし、また、溶接金属部および溶接熱影響部でのクロム窒化物の析出量が多くなる。したがって、Cr含有量は17.0~30.0%とする。Cr含有量は20.0%以上であるのが好ましく、21.0%以上であるのがより好ましい。また、Cr含有量は25.0%以下であるのが好ましく、23.0%以下であるのがより好ましく、22.0%以下であるのがさらに好ましい。
N:0.05~0.30%
Nは、オーステナイト相に固溶して強度および耐食性を高めて省合金化に寄与する元素である。しかしながら、Nは、溶接冷却時のクロム窒化物の析出に大きく影響する元素である。0.30%を超えて含有させると、溶接金属部および溶接熱影響部のクロム窒化物の析出量が多くなり、母材と溶接部との耐食性差が大きくなる。したがって、N含有量は、0.05~0.30%とする。強度および耐食性の観点からは、N含有量は0.08%以上であってもよく、0.10%以上が好ましく、0.15%以上であるのがより好ましい。また、クロム窒化物の析出を抑制する観点からは、N含有量は0.25%以下であることが好ましく、0.20%以下であるのがより好ましい。
Mo:0~3.50%
Moは、耐食性を向上させる元素であるため、必要に応じて含有させてもよい。しかし、Moを多量に含有すると、原料コストの増加をもたらし、また溶接部のシグマ相の析出による耐食性低下が問題となる。したがって、Mo含有量は3.50%以下とする。上記の効果を得るためには、Mo含有量は0.10%以上であるのが好ましい。また、Mo含有量は2.50%以下であるのが好ましく、1.00%以下であるのがより好ましく、0.60%以下であるのがさらに好ましい。
Cu:0~2.0%
Cuは、耐硫酸性の向上に非常に有効な元素であり、必要に応じて添加しても良い。上記の効果を得るためにはCu含有量は0.1%以上であるのが好ましい。Cu含有量は0.3%以上とするのがより好ましい。一方で、CuはNの活量を上げて溶接金属部でクロム窒化物を析出させやすくする元素であるため、2.0%以下とする。Cu含有量は1.5%以下であるのが好ましく、1.0%以下であるのがより好ましい。
Nb:0~0.10%
Nbは、Nと化合物を作ることでクロム窒化物の析出を抑制する効果があるため、必要に応じて含有させてもよい。しかし、Nbを多量に含有すると、鋼板の加工性を低下させる。したがって、Nb含有量は0.10%以下とする。上記の効果を得るためには、Nb含有量は0.01%以上であるのが好ましく、0.04%以上であるのがより好ましい。
Sn:0~1.00%
Snは、耐食性を向上させる元素であるため、必要に応じて含有させてもよい。しかし、Snを多量に含有すると、熱間加工性を悪化させる。したがって、Sn含有量は1.00%以下とする。上記の効果を得るためには、Sn含有量は0.010%以上であるのが好ましい。
W:0~1.00%
Wは、耐食性を向上させる元素であるため、必要に応じて含有させてもよい。しかし、Wを多量に含有すると、圧延時の負荷を増大させて製造疵を生成させやすくなる。したがって、W含有量は1.00%以下とする。上記の効果を得るためには、W含有量は0.01%以上であるのが好ましい。また、W含有量は0.50%以下であるのが好ましい。
V:0~1.00%
Vは、耐食性を向上させる元素であるため、必要に応じて含有させてもよい。しかし、Vを多量に含有すると、圧延時の負荷を増大させて製造疵を生成させやすくなる。したがって、V含有量は1.00%以下とする。上記の効果を得るためには、V含有量は0.01%以上であるのが好ましい。また、V含有量は0.50%以下であるのが好ましい。
Ti:0~0.05%
Tiは、Nbと同様に、溶接熱影響部の粗大化を防止し、さらには凝固組織を微細等軸晶化する効果を有するため、必要に応じて含有させてもよい。しかし、Tiを多量に含有すると、均一伸びおよび局部伸びを低下させる。したがって、Ti含有量は0.05%以下とする。上記の効果を得るためには、Ti含有量は0.005%以上であるのが好ましい。
B:0~0.0050%
Bは、熱間加工性を向上させる効果を有するため、必要に応じて含有させてもよい。しかし、Bを多量に含有すると、耐食性が著しく劣化する。したがって、B含有量は0.0050%以下とする。上記の効果を得るためには、B含有量は0.0003%以上であるのが好ましい。また、B含有量は0.0030%以下であるのが好ましい。
Ca:0~0.0050%
Caは、脱硫、脱酸のために必要に応じて含有させてもよい。しかし、Caを多量に含有すると、熱間加工割れが生じやすくなり、また耐食性が低下する。したがって、Ca含有量は0.0050%以下とする。上記の効果を得るためには、Ca含有量は0.0001%以上であるのが好ましい。
Mg:0~0.0050%
Mgは、脱酸だけでなく、凝固組織を微細化する効果を有するため、必要に応じて含有させてもよい。しかし、Mgを多量に含有すると、製鋼工程でのコスト増加をもたらす。したがって、Mg含有量は0.0050%以下とする。上記の効果を得るためには、Mg含有量は0.0001%以上であるのが好ましい。
Al:0~0.05%
Alは、脱硫、脱酸のために必要に応じて含有させてもよい。しかし、Alを多量に含有すると、製造疵の増加ならびに原料コストの増加を招く。したがって、Al含有量は0.05%以下とする。上記の効果を得るためには、Al含有量は0.0030%以上であるのが好ましい。
REM:0~0.50%
REM(希土類元素)は、熱間加工性を向上させる効果を有するため、必要に応じて含有させてもよい。しかし、REMを多量に含有すると、製造性を損なうとともにコスト増加をもたらす。したがって、REM含有量は0.50%以下とする。上記の効果を得るためには、REM含有量は0.005%以上であるのが好ましい。REM含有量は0.020%以上であるのが好ましく、0.20%以下であるのが好ましい。
なお、REMは、Sc、YおよびLa~Luまでの15元素(ランタノイド)の計17元素の総称であり、REMの含有量はこれらの元素の合計含有量を意味する。なお、ランタノイドは、工業的には、ミッシュメタルの形で添加される。
本発明の鋼板の化学組成において、残部はFeおよび不純物である。ここで「不純物」とは、鋼を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
PREN_Mn値:45.0未満
PREN_Mn値は、ステンレス鋼板の耐孔食性を示す一般的な指標であり、ステンレス鋼の化学組成から、下記(i)式で計算される。
PREN_Mn値=Cr+3.3Mo+16N-Mn ・・・(i)
但し、上記式(i)中の元素記号は、鋼中に含まれる各元素の含有率(質量%)であり、含有しない場合は0を代入する。
PREN_Mn値の増加は、CrおよびMoの含有量の増加による、合金コスト増加およびシグマ相の析出による耐食性低下の問題を生じさせるおそれがある。さらに、N含有量の増加およびMn含有量の低減による窒素気泡の発生が問題になる。したがって、PREN_Mn値は45.0未満とする。PREN_Mn値は35.0未満であるのが好ましい。下限は特に規定する必要はないが、SUS304相当の耐食性を得るためには、18.0以上であるのが好ましく、20.0以上であるのがより好ましい。
5.製造方法
本発明に係るクラッド鋼板の製造方法について説明する。前述のように合せ材の耐食性および母材の加工性に優れたクラッド鋼板を得るためには金属組織を制御する必要があるが、そのような金属組織は鋼の化学組成と適切な製造条件を組み合わせることで実現できる。
上記のクラッド鋼板において、母材と合せ材を圧着面が真空になるよう積層して圧着面の4周を溶接により密封してクラッド素材とする。2つのクラッド素材を各クラッド素材の母材表面がクラッド圧延素材の表面となるように組み立ててクラッド圧延素材とする。組み立てたクラッド圧延素材について、最終パスを含む1パス以上の圧延が圧延素材表面の温度を式(2)で計算されるTNb以下の温度範囲での総圧下率が5%以上となるような一連の圧延パスをおこなう。表層部の温度制御のため、任意の圧延パス直前にデスケーリング等により表層部を冷却してもよい。圧延後に900~650℃区間の全厚平均の平均冷却速度が2℃/s以上の冷却を実施し、クラッド鋼板を製造する。
Nb(℃)=815℃+720×√Nb ・・・式(2)
式中、Nbは、母材鋼板の化学組成におけるNbの含有量(質量%)である。
5-1.クラッド素材
クラッド素材は、以下に記載の方法により製造される。具体的には、転炉、電気炉、真空溶解炉等の公知の方法で母材となる炭素鋼および低合金鋼ならびに合せ材となる二相ステンレス鋼を溶製した後、連続鋳造法または造塊-分塊法によりスラブを作成する。得られたスラブを通常用いられる条件で熱間圧延し、熱延板である合せ材及び母材とする。得られた熱延板に対し、必要に応じて、焼鈍、酸洗、研磨などを施してもよい。
上記の合せ材および母材を圧着面が真空になるよう積層して圧着面の4周を溶接により密封してクラッド素材を組み立てる。密着性や界面耐食性を改善するために合せ材と母材の間にNi箔などインサート材を挿入しても良い。圧着面を真空にする方法は特に特定しないが、真空中で電子ビーム溶接する方法や、予め真空引き用の穴を開けておき大気中でアーク溶接やレーザー溶接で4周を溶接した後に真空ポンプで真空引きする方法などが例示できる。真空度(絶対圧)は0.1Torr以下であれば界面の酸化物などが少ない良好な接合界面が得られ、より好ましくは0.05Torr以下であり、真空度は高いほど(絶対圧が低いほど)接合界面が良好になる傾向が有るため特に下限は設けない。
得られたクラッド素材は、2つのクラッド素材を各クラッド素材の母材表面がクラッド圧延素材の表面となるように重ね、その間に剥離剤を塗布して組み立ててクラッド圧延素材とする。冷却時の板反りを少なくするために2つのクラッド素材は母材同士、合せ材同士がそれぞれ等厚であることが望ましい。もちろん、上記で記述した組立方式に限定する必要はない。
5-2.熱間圧延
続いて、得られたクラッド圧延素材について、熱間圧延を行う。ここで、熱間圧延における「一連の圧延パス」について説明する。一連の圧延パスの開始パスは圧延前の圧延素材表面温度がTNb℃~TNb+70℃からデスケーリング等により圧延素材表面を冷却して圧延しかつ圧延パス後に復熱により表面温度がTNb℃以上にならなかったパス、または、TNb℃以下で圧延を実施したパスの早い方とする。一連の圧延パスは開始パスから最終パスの圧延を総圧下率が5%以上となるようにおこなう。一連の圧延パスは1パスのみで開始パスと最終パスが同じであってもよい。
母材表層部の温度制御のため、任意の圧延パス直前にデスケーリング等により圧延素材表面を冷却してもよい。圧延後に900~650℃区間の全厚平均の平均冷却速度が2℃/s以上の冷却を実施する。
Nb(℃)= 815℃ + 720×√Nb ・・・式(2)
式中のNbは、母材鋼板の成分組成における元素の含有量(質量%)である。ここで式(2)のTNbは、鋼の再結晶温度へのNb含有量の影響について経験的に得られた式である。
一連の圧延パスの開始パスは圧延前の圧延素材表面温度がTNb℃~TNb+70℃からデスケーリング等により圧延素材表面を冷却して圧延しかつ復熱により表面温度がTNb℃以上にならなかったパス、または、TNb℃以下で圧延を実施したパスの早い方とする。この場合、一連の圧延パスの開始パス圧延時の圧延素材表面の温度がTNb以下となる。圧延機の温度計は通常はデスケーリング設備よりも前についており、またデスケーリングを実施すると水が鋼板上に乗るため、デスケーリングを施した際の実際の圧延時の表面温度の測定は難しい。しかし後述のデスケーリング水量以上で表面冷却する場合は表面温度に70℃超の温度低下が生じるため、TNb℃以下で圧延を実施したとみなせる。圧延前の圧延素材表面温度がTNb℃~TNb+70℃からデスケーリング等により圧延素材表面を冷却しても、パスの後に復熱などによって表面温度がTNb℃超まで達した場合は一連の圧延パスの開始パスとはしない。何らかの技術またはシミュレーションによりデスケーリング実施時の圧延温度を測定できるなら、その温度がTNb℃以下となるパスを一連の圧延パスの開始パスとしてもよい。
一連の圧延パスをTNb+70℃超から始めた場合、デスケーリングを実施したとしても冷却の不均一や板内部からの復熱によって表面の温度がTNb以下まで低下できない部分が生じる可能性がある。好ましくはTNb+50℃以下である。一連の圧延パスは圧延素材表面温度が950℃以上から開始することが好ましい。合せ材は板厚中央に位置するため、一連の圧延パス開始時の圧延素材表面温度が950℃以上であれば合せ材温度はそれ以上であり、通常の圧延時間およびデスケ―リング水量であれば圧延完了時の合せ材温度が900℃を下回ることはない。一連の圧延パスを950℃未満から始めると熱間圧延中および冷却設備までの移送中に合せ材の温度が低下するため、後述の900~650℃区間での十分な冷却が困難となり、シグマ相やクロム窒化物が析出して耐食性が低下してしまう。より好ましくは970℃以上である。
一連の圧延パスの総圧下率は5%以上となるようにおこなう。TNb超の温度で行う圧延は熱間圧延中および冷却設備までの移送中にオーステナイト相の再結晶が生じてしまうため、残留ひずみが小さくなり、後のフェライト相変態の促進に寄与しない。そこで本発明では、TNb以下の温度範囲で行う一連の圧延パスの総圧下率について規定する。TNb以下の温度範囲での総圧下率が5%未満である場合はオーステナイト相の残留ひずみが小さくなり、後のフェライト相変態を促進できなくなる。圧延温度が低温であるほど残留ひずみが多くなりフェライト相変態が促進するため、TNb以下の温度範囲で行う圧延温度の下限は設けないが、組織の微細化による強度や靭性の向上の観点から式(3)で計算されるAr3以上とすることが好ましい。またTNb以下の温度範囲での総圧下率が高いほど残留ひずみが多くなりフェライト相変態が促進するため上限は設けないが、圧延時間や低温圧延による疵の増加などの観点から総圧下率は15%以下とするのが好ましい。
Nb(℃)= 815℃ + 720×√Nb ・・・式(2)
r3(℃)==910℃-310×C-80×Mn-20×Cu-15×Cr-55×Ni-80×Mo ・・・式(3)
式中、Nb、C、Mn、Cu、Cr、NiおよびMoは、母材鋼板の成分組成における各元素の含有量(質量%)である。
前記の一連の圧延パスについて、圧延時の圧延素材表面の温度がTNb以下となり、当該温度範囲での総圧下率が5%以上となるように圧延をおこなうにあたり、圧延素材表面の温度制御および前述の圧延後に900℃以上から冷却できるようにするため、任意の圧延パス直前に高圧水デスケーリング等により圧延素材表面を冷却してもよい。高圧水デスケ―リングによって圧延素材表面のみを冷却することで、圧延素材表面に位置している母材の母材表層部の残留ひずみを多くしてフェライト相の変態を促進させることと、合せ材が位置する圧延素材内部の温度を保ち、圧延後の冷却でシグマ相やクロム窒化物の析出を抑制することを両立できる。母材のNb含有量が十分高ければデスケ―リングなしでも母材表層のフェライト相率と合せ材の耐食性を両立することも可能であるが、デスケ―リングによる圧延素材表面温度低下は母材表層のフェライト相率増大に効果的であるため実施することが望ましい。高圧水デスケーリングによって圧延素材表面を冷却する場合、十分冷やすために0.05m/m/min以上の水量密度で実施する。好ましくは0.1m/m/minである。板表面に当たった水はすべてが蒸発するわけではなく、板の上に乗ったり流れ落ちたりする。流量の上限は設けないが、表面の冷却に寄与するのは表面に直接接触する水が主であり水量を多くしてもコストが増えるだけで冷却効果は飽和してしまう。また板に乗っている水による温度低下のため移送中に板全体の温度が低下し合せ材の耐食性が低下する懸念がある。そのため、水量密度は好ましくは1.0m/m/min以下である。上記の高圧水デスケーリングの水量密度(m/m/min)は実質的に板表面に当たる水の量であり、一例としてノズルから放出される全流量(m/min)÷水が当たる領域の面積(m)で計算される。実用上の圧延時の通板速度の範囲では通板速度の影響は無視できる。当然、高圧水デスケーリングの本来の効果であるデスケーリングのために実施することはなんら妨げられない。
Nb(℃)=815℃+720×√Nb ・・・式(2)
圧延素材の加熱温度、加熱時間、圧下比は適宜定めれば良いが、耐食性および加工性以外の特性や製造性の観点から以下に好ましい範囲を例示する。
加熱温度は1050~1250℃とするのが好ましい。加熱温度が1050℃未満であると熱間加工性が悪化し、接合強度も劣化する。このため、加熱温度は1050℃以上であるのが好ましく、1100℃以上であるのがより好ましい。一方、加熱温度が1250℃超であると、加熱炉内で鋼片が変形したり熱延時に疵が生じやすくなったりする。このため、加熱温度は1250℃以下であるのが好ましく、1220℃以下であるのがより好ましい。
加熱時間は板厚中央まで温度を均一にさせるため30分以上の加熱が望ましい。
素材厚/製品厚で計算される圧下比は3以上15以下とすることが好ましい。圧下比が3未満である場合は圧延による界面接合が不十分で界面のせん断強度が低くなる可能性がある。より好ましくは5以上である。また圧下比が15超である場合は圧延時間が長くなり仕上げ温度が低くなりすぎるとともに圧延コストが増加する。より好ましくは10以下である。
5-3.圧延後の冷却
圧延後に900~650℃区間の鋼板の全厚平均の平均冷却速度は2℃/s以上とすることが望ましい。2℃/s未満の冷却速度では合せ材でシグマ相やクロム窒化物が析出し、耐食性が低下してしまう。好ましくは4℃/s以上である。冷却速度が速すぎる場合は母材表層組織でベイナイトやマルテンサイトが主となり加工性が劣化するため、好ましくは30℃/s以下である。より好ましくは10℃/s以下である。合せ材の耐食性の観点から冷却終了温度は650℃以下とすることが好ましく、さらに好ましくは600℃以下である。また母材の加工性の観点から冷却終了温度は350℃以上とすることが好ましい。圧延後において、900~650℃区間の鋼板の全厚平均の平均冷却速度を特定することが必要であることから、圧延終了時の鋼板の全厚平均の温度は900℃以上となる。圧延中及び圧延後の鋼板温度として、鋼板表面温度を計測することができる。圧延後冷却中の鋼板の全厚平均の温度については、計測した鋼板表面温度実績に基づき、伝熱計算を行うことによって求めることができる。鋼板の全厚平均の温度が900℃となった時点と650℃となった時点との時間差に基づき、900~650℃区間の鋼板の全厚平均の平均冷却速度を算出することができる。
5-4.圧延後の熱処理
本発明により、圧延後の熱処理なしでも合せ材の耐食性および母材の加工性に優れた二相ステンレスクラッド鋼板を得ることができる。前述の通りクラッド鋼板の熱処理はコスト増となるが、他の特性の必要に応じて熱処理することは妨げられない。熱処理の際に合せ材でシグマ相やクロム窒化物が析出すると耐食性が低下してしまうので、熱処理温度は800℃以下で実施する。望ましくは650℃以下である。
本発明によれば、合せ材の耐食性および母材の加工性に優れたクラッド鋼板を得ることができる。本発明に係るクラッド鋼板は耐食性や加工性を改善するための付加的な熱処理などを必要としない。また、上記クラッド鋼板は、加工性が高く複雑な形状にも加工できるため使用用途の制限がなく、従来、ソリッド鋼板が用いられていた構造部材に適用できる。このため、上記クラッド鋼板は、低コスト化に大きく貢献するものである。
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
表1に示す化学組成の二相ステンレス鋼からなる合せ材、および表2に示す化学組成の母材を溶製して鋼片とし、熱間圧延、焼鈍、酸洗の工程を経て合せ材は厚さ30mm、母材は厚さ130mmの鋼板を製造した。得られた合せ材と母材を素材として、母材と合せ材を圧着面が真空になるよう積層して圧着面の4周を溶接により密封してクラッド素材を作成した。2つのクラッド素材を母材-合せ材-剥離剤-合せ材-母材となるように合せ材と合せ材の間に剥離剤を塗布して重ね、クラッド圧延素材として組み立てた。得られたクラッド圧延素材について、表3に示す熱間圧延条件で熱間圧延を行った後に剥離剤部分で剥離させ、厚さ16mmのクラッド鋼板を製造した。合せ材の化学組成から前記(i)式で算出するPREN_Mn値を、表1の「PREN」欄に記載している。表2において、TNbは母材の化学組成から式(2)で計算される値を示す。
Nb(℃)=815℃+720×√Nb ・・・式(2)
式中、Nbは、母材鋼板の化学組成におけるNbの含有量(質量%)である。
Figure 2023082763000001
Figure 2023082763000002
クラッド鋼板の圧延において表3の母材No.、合せ材No.に記載の素材を用い、表3に記載の製造条件を変化させ、各特性値を調べた。以下、表3における製造条件の項目について説明する。表3において「T1」は一連の圧延パスの開始時における圧延素材表面の温度(℃)を示す。「デスケ」は高圧水デスケ―リングを実施した回数を示す。本発明例は、T1がTNb℃~TNb+70℃からデスケーリングにより圧延素材表面を冷却して圧延しかつ圧延パス後に復熱により表面温度がTNb℃以上にならなかったパス、または、デスケーリングなしでTNb℃以下で圧延を実施している。この場合、一連の圧延パスの開始パス圧延時の圧延素材表面の温度がTNb以下となる。「r」は一連の圧延パスでの総圧下率(%)を示す。「CR」は圧延後の900~650℃区間の全厚平均の平均冷却速度(℃/s)を示す。
表3に記載の評価結果について説明する。
表3の「α率」欄は母材表層のフェライト相率(%)を示す。フェライト相率は以下に説明するKAM値によって評価した。KAM値の測定のため、試料の圧延方向に垂直な断面をコロイダルシリカ研磨し、母材表層(母材表面から深さ方向へ1mm位置)について倍率500倍、177μm×519μmエリア(177μm側が厚み方向であり、エリア中心が母材表面から1mmの位置である。)、測定ステップ1μmの測定条件でEBSD測定を3回実施した。得られたデータからそれぞれKAM値が1°以下である面積率(%)を計算し、その平均を母材表層のフェライト相率とした。なお、この測定条件は一例であり、試料の金属組織、特に結晶粒径に応じて適宜変更してよい。
Kernel Average Misorientation(KAM)は測定データのピクセルについて、隣り合う6個のピクセル間の方位差の平均した値をそのピクセルのKAM値とする計算を各ピクセルに行う。粒界を超えないようにこの計算を実施することで粒内の局所的な方位変化にもとづく歪の分布図を得ることができる。高温で生成するフェライトは変態機構として拡散変態が主であるため、ベイナイトやマルテンサイトよりも変態ひずみが小さいという特性を有する。この特性を元にエッチングして観察した組織との比較からKAM値が1°以下のものをフェライトとし、EBSDから測定されるフェライト面積率を母材表層のフェライト相率と定義した。
耐食性は前記塩化第二鉄CPTによって評価した。塩化第二鉄CPTは、ASTM G 48 E法に準拠した塩化第二鉄腐食試験により測定した。
塩化第二鉄CPTは二相ステンレスクラッド鋼板製品の合せ材部分を評価した塩化第二鉄CPT(製品CPT)と、製品の合せ材部分を固溶化熱処理した試料の塩化第二鉄CPT(固溶化CPT)を評価し、固溶化CPTと製品CPTとの差(CPT差)に基づいて合せ材の耐食性の良否を判断した。
製品の二相ステンレスクラッド鋼板と、当該二相ステンレスクラッド鋼板に1050℃、10分の固溶化処理を施した固溶化熱処理鋼板とを準備した。それぞれの鋼板の合せ材部分について、表面から板厚方向に0.5mm位置および2.5mm位置を評価面とする板厚2mm×長さ25mm×幅50mmの試験片を各4個用いて測定した。試験片採取位置は特に指定しないが、非定常部を避けるため圧延材の幅および長さの端部から100mm以上離れた内部から採取することが望ましい。より望ましくは端部から300mm以上離れた内部である。そして、それぞれの試料で測定した孔食発生温度の最低値(℃)を孔食発生温度とし、固溶化していない製品の孔食発生温度を「製品CPT」、固溶化処理を施した試料の孔食発生温度を「固溶化CPT」とした。そして、測定した「固溶化CPT」から、「製品CPT」を減じて、「CPT差」とした。
表3の「CPT差」欄に結果を示す。○はCPT差が10℃以下、×は10℃超を示す。
加工性の評価として下記の試験を実施した。クラッド鋼板から、合せ材部分を機械加工によって取り除き、母材鋼板部分からJIS 1A号の引張試験片を採取し、JIS Z 2241に準拠する引張試験を実施し、全伸びを求めた。そして、全伸びが16.0%以上であれば良好(○)、16.0%未満であれば不良(×)と評価した。
表3の「加工性」欄は引張試験の結果であり、○は加工性が良好、×は不良を示す。
製造条件および上記の結果をまとめて表3に示す。本発明のクラッド鋼板の範囲から外れる項目、本発明の好適な製造方法範囲から外れる項目に、それぞれ下線を付している。
Figure 2023082763000003
試料1~47は本発明例であり、好ましい製造条件を満足し、合せ材の耐食性が良好かつ、母材表層のフェライト相率が15%超であり良好な加工性を有する。
試料48~55は比較例であり、好ましい製造条件を満足せず、合せ材の耐食性が不良または母材表層のフェライト相率が15%以下であり加工性が不良である。
比較例No.45、51は、本発明における一連の圧延の条件を外れる例であり、圧延パスの開始時の温度T1を意図的にTNb+70℃を超える温度とし、TNb以下とならない温度を含む温度範囲での総圧下率rを5%以上とした場合であるが、母材表層のフェライト相率が15%以下となった。これはT1がTNb+70℃を超えるとデスケーリング時の冷却の不均一や板内部からの復熱によって圧延時の圧延素材表面の温度がTNb以上となったパスが生じたため、この温度域での総圧下率rが5%以上であっても母材表層のフェライト相率を15%超とすることができないと考えられる。比較例No.47、49はTNb以下の温度範囲での総圧下率rが5%未満であり、母材表層のフェライト相率が15%以下となった。比較例No.46、48、50、52は圧延後の900~650℃区間の全厚平均の平均冷却速度CRが2℃/s未満であり、合せ材の耐食性が不良となった。
上述したように、本発明例では合せ材の耐食性と母材の加工性に優れるクラッド鋼板が得られた。一方、比較例では好ましい製造条件を満足せず、合せ材の耐食性が不良もしくは表層のフェライト相率が本発明の規定から外れたため母材の加工性が不良であった。
本発明によれば、合せ材の耐食性および母材の加工性に優れる二相ステンレスクラッド鋼板を低コストで得ることができ、産業上極めて有用である。本発明のクラッド鋼板は、腐食環境として、海水に曝されるような高塩化物環境、リン酸または硫酸などの酸溶液に曝されるプラント設備等での腐食環境等に適用可能性がある。具体的には、海水淡水化プラント、排煙脱硫装置、化学薬品の保存タンク、油井管等の構造部材、ポンプ・バルブ類、熱交換器などである。

Claims (4)

  1. 母材と、前記母材に接合された合せ材とを備えるクラッド鋼板であって、
    前記母材は、炭素鋼または低合金鋼からなり、
    前記合せ材は、二相ステンレス鋼からなり、
    固溶化処理した試料の前記合せ材の塩化第二鉄CPTと、前記合せ材の塩化第二鉄CPTとの差が10℃以下であり、
    かつ母材表層のフェライト相率が15%超であることを特徴とするクラッド鋼板。
    ここで母材表層とは母材表面から板厚方向に1mmの位置を指す。
    また、塩化第二鉄CPTとは、ASTM G48E法に準拠して評価する孔食発生温度(℃)を意味する。
  2. 請求項1に記載のクラッド鋼板において、前記母材の化学組成が質量%でC:0.020~0.200%、Si:1.00%以下、Mn:0.10~3.00%、P:0.050%以下、S:0.050%以下、Nb:0.200%以下、N:0.020%以下を含有し、かつCeqが0.20~0.50であり、残部がFe及び不純物からなる化学組成を有する請求項1に記載のクラッド鋼板。ここで、Ceqは次式(1)により定義される。
    Ceq=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5・・・(1)
    式中、C、Mn、Cu、Ni、Cr、MoおよびVは、母材鋼板の化学組成における各元素の含有量(質量%)である。
  3. 前記母材の化学組成がさらに、前記Feの一部に替えて、質量%で、Ni:0.01~3.00%、Cr:0.01~1.00%、Mo:0.01~0.50%、W:0.01~1.00%、Cu:0.01~2.00%、Co:0.01~0.50%、Se+Te:0.01~0.10%、V:0.001~0.100%、Ti:0.001~0.200%、Al:0.005~0.300%、Ca:0.0003~0.0100%、B:0.0003~0.0030%、Mg:0.0003~0.0100%、Zr+Hf+Ta:0.0001~0.0100%およびREM:0.0003~0.0100%から選ばれる1種または2種以上を含有する、請求項2に記載のクラッド鋼板。
  4. 請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のクラッド鋼板の製造方法において、母材と合せ材を圧着面が真空になるよう積層して圧着面の4周を溶接により密封してクラッド素材とし、2つの前記クラッド素材を組み立てたクラッド圧延素材について、最終パスを含む1パス以上の圧延について、圧延時の圧延素材表面の温度がTNb以下となり、当該温度範囲での総圧下率が5%以上となるような圧延を行い、圧延後に900~650℃区間の全厚平均の平均冷却速度が2℃/s以上の冷却を行うことを特徴とする、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のクラッド鋼板の製造方法。
    Nb(℃)=815℃+720×√Nb ・・・式(2)
    式中、Nbは、母材鋼板の化学組成におけるNbの含有量(質量%)である。
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