JP7285050B2 - フェライト・オーステナイト二相ステンレス鋼板および溶接構造物、ならびにそれらの製造方法 - Google Patents

フェライト・オーステナイト二相ステンレス鋼板および溶接構造物、ならびにそれらの製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、フェライト・オーステナイト二相ステンレス鋼板およびそれからなる溶接構造物、ならびにそれらの製造方法に関する。
二相ステンレス鋼は、鋼の組織にオーステナイト相とフェライト相の両相を有するステンレス鋼である。二相ステンレス鋼は、一般に同等の耐食性を有するオーステナイト系ステンレス鋼に対して、低Niの成分系かつ高強度であることから、合金コストが低くかつ薄肉化が可能な材料として注目を浴びている。以前から高耐食性を活かして石油化学装置材料、ポンプ材料、ケミカルタンク用材料などに厚板として使用されているが、さらに近年では、高強度を活かして構造部材用材料などへの薄板の適用も進んでいる。
二相ステンレス鋼には多くの鋼種がある。例えば、SUS821L1またはASTM S32101などに代表される、Cr、Ni、Moの含有量が少なくN含有量が多い経済性に優れるフェライト・オーステナイト系ステンレス鋼は、省合金二相ステンレス鋼と呼ばれている。省合金二相ステンレス鋼は、汎用オーステナイト系ステンレス鋼であるSUS304と同等以上の耐食性を有することから、その代替として用いられる場合がある。
これらの二相ステンレス鋼を溶接が必要な用途に使用する際に課題となるのが、溶接金属部および溶接熱影響部でσ相またはクロム窒化物が析出することによる耐食性低下である。そのため、二相ステンレス鋼を使用する際は、耐食性があまり問題にならない用途において限定的に使用されるか、溶接方法を制限したり溶接後の再熱処理を実施したりするなど溶接作業性を犠牲にする場合が多い。
特に、省合金二相ステンレス鋼では、クロム窒化物の生成による耐食性低下が問題になる場合が多い。その耐食性低下は、以下の機構で生じる。
二相ステンレス鋼は、加熱温度によりフェライト相とオーステナイト相との相比が変動する。二相ステンレス鋼を溶接すると、母材を溶融するための加熱によって、溶接金属部および溶接熱影響部となる部分のフェライト相の割合が増加し、オーステナイト相の割合が減少する。一方、溶接金属部および溶接熱影響部が形成される冷却時には、オーステナイト相が増加する。しかし一般に、溶接金属部および溶接熱影響部が形成されるときの冷却速度は速いため、溶接金属部および溶接熱影響部のオーステナイト相の割合は母材よりも少なくなる。
二相ステンレス鋼中のNは、その殆どがオーステナイト相中に固溶している。しかし、溶接金属部および溶接熱影響部では、母材と比較してオーステナイト相の割合が少ないため、フェライト相中のN含有量が高くなっている。フェライト相中のNの固溶限界は、オーステナイト相に比べて非常に小さいため、溶接時の冷却中に溶接金属部および溶接熱影響部のフェライト相中またはフェライト/フェライト粒界には、フェライト相に固溶しきれないNがクロム窒化物として析出する。
このとき、クロム窒化物としてCrが消費されることにより、いわゆるクロム欠乏層が形成され、耐食性が低下する。したがって、溶接金属部および溶接熱影響部に析出するクロム窒化物量を低減することが溶接部の耐食性向上のために重要である。
省合金二相ステンレス鋼の溶接部材の耐食性低下を抑制または改善する方法として、特許文献1では、固溶レベルの微量V添加に加え、オーステナイト量推定式であるNi-bal.に応じてN含有量の上限を規定することにより、サブマージアーク溶接を想定した1300~900℃区間が約26℃/sの冷却速度で溶接模擬加熱を実施しても溶接熱影響部の耐食性が良好な省合金二相ステンレス鋼を製造できるとされている。
また、特許文献2ではクロム窒化物析出開始温度の計算値を適切な範囲とすることにより、レーザー溶接を施した際の、溶接熱影響部の耐食性と靭性が良好な省合金二相ステンレス鋼およびレーザー溶接部材を製造できるとされている。なお、この特許文献2では、溶接金属部の1000℃における冷却速度推定値は400℃/s以上とされている。
さらに、一般の二相ステンレス鋼の溶接方法として、特許文献3では溶接最終パスの溶接方法を制御することでクロム窒化物の析出を抑制する技術が開示されている。
そして、特許文献4では溶接後に溶接熱影響部を700℃~1000℃で熱処理を施すことでオーステナイト相を再析出させ、溶接熱影響部の耐食性を回復させる技術が開示されている。
特許第5345070号 特開2016-191094号公報 特開昭62-199272号公報 特開2015-217434号公報
一般的に、析出物は、析出温度域で保持される時間が長い方が多く析出する。この析出温度域は析出物に応じて異なるが、一般の二相ステンレス鋼においては、オーステナイト相の析出温度域は1200℃~900℃であり、クロム窒化物の析出温度域は950℃~550℃程度である。
レーザー溶接またはスポット溶接などのように、溶接入熱が小さく冷却速度が速い場合には、オーステナイト相の析出温度域に保持される時間が短いため、オーステナイト相の析出が少なくなる。しかし、クロム窒化物の析出温度域に保持される時間も短いため、クロム窒化物の析出も少なくなり、結果として耐食性の低下は小さい。
一方、サブマージアーク溶接のように溶接入熱が大きく冷却速度が遅い場合には、オーステナイト相の析出温度域に保持される時間が長くなるため、Nが十分固溶できるだけのオーステナイト相の析出があり、クロム窒化物の析出温度域に保持される時間が長くなってもクロム窒化物は析出しづらく耐食性の低下は小さい。
しかしながら、例えば、薄板の溶接で一般に使用されるTIG溶接の冷却速度は、レーザー溶接とサブマージアーク溶接との中間である。このような冷却速度の場合には、溶接金属部および溶接熱影響部では、Nが十分固溶できるだけのオーステナイト相の析出がないにも関わらず、クロム窒化物の析出温度域に保持される時間が長くなるため、耐食性の低下が大きくなってしまう。
特許文献1は冷却速度が遅いサブマージアーク溶接、特許文献2は冷却速度が速いレーザー溶接を対象とし、さらに厚さが10mm程度の厚板を対象としている。そのため、それらの中間の溶接入熱となるような溶接方法で薄板を溶接した際の、溶接金属部および溶接熱影響部の耐食性を向上させる技術については十分な検討がなされていない。
また、特許文献3では、溶接時の条件制御が重要となり、特許文献4では溶接後の熱処理が必要となる。薄板用途では大量に溶接する事が多く、溶接方法の制限または溶接後の熱処理などが難しい場合がある。さらに一般に薄板用途では溶加材を用いないため、溶加材による耐食性の改善も難しい。母材への合金元素の添加によって溶接金属部および溶接熱影響部の耐食性を向上させることは可能であるが、それには合金コストの増加という別の問題が生じる。
そのため、特に合金コストの観点から、合金添加が難しい省合金二相ステンレス鋼において、TIG溶接のような冷却速度がレーザー溶接またはスポット溶接ほど速くも、サブマージアーク溶接ほど遅くもない溶接について、溶接方法の制限、溶接後の再熱処理の実施および溶加材による耐食性改善を必要としない、溶接部耐食性に優れた二相ステンレス鋼板が望まれている。
本発明は、オーステナイト相とフェライト相との二相を持つ二相ステンレス鋼のうち、Cr、Ni、Mo等の高価な合金の含有量を抑えた省合金二相ステンレス鋼板において、溶接時の冷却速度がレーザー溶接ほど速くも、サブマージアーク溶接ほど遅くもない溶接方法で溶接した際の、溶接金属部および溶接熱影響部の耐食性低下が少なく、それにより当該鋼使用時のネックとなりうる溶接作業性の向上を図ることができ、さらに製造性の良好な、省合金フェライト・オーステナイト二相ステンレス鋼板および溶接構造物を提供することを目的とする。
本発明者らは、種々の成分および板厚を有する鋼について、TIG溶接で溶接した際の、溶接金属部および溶接熱影響部の耐食性に影響する因子を評価するため、種々の試験を実施した。
上記の試験結果について、溶接部の孔食電位に着目し、孔食電位を良好にする因子を調査した結果、以下の知見を得た。
(a)DF値が小さいほど溶接部の孔食電位が良好になる。
(b)Cu含有量が少ないほど溶接部の孔食電位が良好になる。
(c)母材の粒径が小さいほど溶接部の孔食電位が良好になる。
このうち、(a)は二相ステンレス鋼の溶接部に対して一般に知られている知見であるが、(b)および(c)は本調査によって初めて得られた知見である。
本発明は、上記の知見に基づいてなされたものであり、下記のフェライト・オーステナイト二相ステンレス鋼板および溶接構造物、ならびにそれらの製造方法を要旨とする。
(1)化学組成が、質量%で、
C:0.050%以下、
Si:2.00%以下、
Mn:0.50~6.00%、
P:0.050%以下、
S:0.050%以下、
N:0.08~0.25%、
Cr:17.0~30.0%、
Ni:0.10~8.00%、
Cu:0.10~1.50%、
Nb:0~0.10%、
Mo:0~3.50%、
Sn:0~1.00%、
W:0~1.00%、
V:0~1.00%、
Ti:0~0.05%、
B:0~0.0050%、
Ca:0~0.0050%、
Mg:0~0.0050%、
Al:0~0.05%、
REM:0~0.50%、
残部:Feおよび不純物であり、
下記(i)式で計算されるPREN_Mn値が40.0未満であり、
下記(ii)式で計算されるDF値が40.0~65.0であり、
下記(iii)式で計算される溶接部の孔食電位低下量予測値が100mV未満であり、
鋼板の圧延方向に垂直な断面における、フェライト粒の平均結晶粒径が12.0μm未満である金属組織を有する、
フェライト・オーステナイト二相ステンレス鋼板。
PREN_Mn値=Cr+3.3(Mo+0.5W)+16N-Mn ・・・(i)
DF値=7.2×(Cr+0.88Mo+0.78Si)-8.9×(Ni+0.03Mn+0.72Cu+22C+21N)-44.9 ・・・(ii)
溶接部の孔食電位低下量予測値=3.2DF値+54Cu-115 ・・・(iii)
但し、上記式中の元素記号は、鋼中に含まれる各元素の含有率(質量%)であり、含有しない場合は0を代入する。
(2)前記化学組成が、質量%で、
Nb:0.01~0.10%、
Mo:0.10~2.50%、
Sn:0.030~1.00%、
W:0.01~1.00%、および、
V:0.01~1.00%、
から選択される1種以上を含有する、
上記(1)に記載のフェライト・オーステナイト二相ステンレス鋼板。
(3)前記化学組成が、質量%で、
Ti:0.005~0.05%、および、
B:0.0003~0.0050%、
から選択される1種以上を含有する、
上記(1)または(2)に記載のフェライト・オーステナイト二相ステンレス鋼板。
(4)前記化学組成が、質量%で、
Ca:0.0001~0.0050%、
Mg:0.0001~0.0050%、
Al:0.0030~0.05%、および、
REM:0.005~0.50%、
から選択される1種以上を含有する、
上記(1)から(3)までのいずれかに記載のフェライト・オーステナイト二相ステンレス鋼板。
(5)上記(1)から(4)までのいずれかに記載のフェライト・オーステナイト二相ステンレス鋼板からなり、溶接部の孔食電位低下量実測値が100mV未満である、
溶接構造物。
(6)上記(1)から(4)までのいずれかに記載のフェライト・オーステナイト二相ステンレス鋼板を製造する方法であって、
上記(1)から(4)までのいずれかに記載の化学組成を有する鋼を連続鋳造し、熱間圧延を行い、熱間圧延によって得られた熱延板を1150℃以下で焼鈍し、冷延圧下率が50%以上である1回の冷間圧延、または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を行い、1050℃未満で最終焼鈍を行う、
フェライト・オーステナイト二相ステンレス鋼板の製造方法。
ここで、冷延圧下率(%)は、(冷延前の板厚-冷延後の板厚)/冷延前の板厚×100で計算される値である。但し、冷間圧延を複数回行い、冷間圧延の間で中間焼鈍を行った場合は、最終の冷間圧延の圧下率とする。
(7)上記(5)に記載の溶接構造物を製造する方法であって、
上記(1)から(4)までのいずれかに記載のフェライト・オーステナイト二相ステンレス鋼板に対して、板厚1mmあたり500~3000J/cmの溶接入熱となる条件で溶接を行う、
溶接構造物の製造方法。
本発明によれば、省合金二相ステンレス鋼板において、溶接部の耐食性に優れたフェライト・オーステナイト二相ステンレス鋼板およびそれを用いた溶接構造物を得ることが可能になる。
DF値が同等でCu含有量の異なる試料の溶接熱影響部および溶接金属部の断面組織写真である。(a)は試料番号8-2であり、(b)は試料番号15-1である。 溶接部の孔食電位低下量予測値と実際に測定した孔食電位低下量との関係を示す図である。但し、粒径が本発明の特許請求の範囲外となる例は白抜きで示し、孔食電位以外の要因で本発明の特許請求の範囲外となる例を除く。
以下、本発明の各要件について詳しく説明する。
1.鋼板の化学組成
各元素の限定理由は下記のとおりである。なお、以下の説明において含有量についての「%」は、「質量%」を意味する。
C:0.050%以下
Cは、オーステナイト相に固溶して強度を高める元素である。しかし、C含有量が0.050%を超えると、鋼板の強度が高くなり加工性が劣化する。また、Cr炭化物の析出を促進するために粒界腐食の発生をもたらす。したがって、C含有量は0.050%以下とする。C含有量は0.040%以下であるのが好ましい。また、耐食性の点からCは低くする方が好ましいが、現存の製鋼設備ではC含有量を0.002%以下に低下させるには大きなコスト増加を招く。そのため、C含有量は0.002%以上であることが好ましい。
Si:2.00%以下
Siは、脱酸元素として使われたり、耐酸化性向上のために添加されたりする場合がある。しかし、Si含有量が2.00%を超えると、鋼板の硬質化をもたらし、靭性および加工性が劣化する。したがって、Si含有量は2.00%以下とする。Si含有量は1.50%以下であるのが好ましく、1.00%以下であるのがより好ましい。また、Si含有量を極少量まで低減するためには、鋼の精錬時のコスト増加を招く。そのため、Si含有量は0.03%以上であることが好ましい。
Mn:0.50~6.00%
Mnは、オーステナイト相を増加させ、また窒素の固溶度を上げ製造時の気泡欠陥などを抑制する効果を有する。しかし、Mnを多量に含有すると、耐食性および熱間加工性を低下させる。したがって、Mn含有量は0.50~6.00%とする。Mn含有量は1.00%以上であるのが好ましく、2.50%以上であるのがより好ましい。また、Mn含有量は4.00%以下であるのが好ましい。
P:0.050%以下
Pは、鋼中に不可避的に混入する元素であり、またCrなどの原料にも含有されているため、低減することが困難であるが、Pを多量に含有すると成形性を低下させる。P含有量は少ないほど好ましく、0.050%以下とする。P含有量は0.040%以下であるのが好ましい。
S:0.050%以下
Sは、鋼中に不可避的に混入する元素であり、Mnと結合して介在物を作り、発銹の基点となる場合がある。したがって、S含有量は0.050%以下とする。S含有量は低いほど耐食性が向上するので、0.0030%以下であるのが好ましい。
N:0.08~0.25%
Nは、オーステナイト相に固溶して強度および耐食性を高めて省合金化に寄与する元素である。しかしながら、Nは、溶接冷却時のクロム窒化物の析出に大きく影響する元素である。0.25%を超えて含有させると、溶接金属部および溶接熱影響部のクロム窒化物の析出量が多く、母材試料と溶接部との耐食性差が大きくなる。したがって、N含有量は、0.08~0.25%とする。強度および耐食性の観点からは、N含有量は0.15%以上であるのが好ましい。また、クロム窒化物の析出を抑制する観点からは、N含有量は0.20%であるのが好ましい。
Cr:17.0~30.0%
Crは、耐食性を確保するために必要な元素である。しかし、Crを多量に含有すると、熱間加工割れをもたらし、また、溶接金属部および溶接熱影響部でのクロム窒化物の析出量が多くなる。したがって、Cr含有量は17.0~30.0%とする。Cr含有量は20.0%以上であるのが好ましく、21.0%以上であるのがより好ましい。また、Cr含有量は25.0%以下であるのが好ましく、23.0%以下であるのがより好ましく、22.0%以下であるのがさらに好ましい。
Ni:0.10~8.00%
Niは、オーステナイト安定化元素であり、DF値を調整するために重要な元素である。また、Niは耐食性を向上させる効果を有する。しかし、Niを多量に含有すると、原料コストの増加をもたらし、またDF値が低くなることで応力腐食割れなどの問題が生じる可能性がある。したがって、Ni含有量は0.10~8.00%とする。Ni含有量は1.00%以上であるのが好ましい。また、Ni含有量は6.00%以下であるのが好ましく、4.00%以下であるのがより好ましく、3.00%以下であるのがさらに好ましい。
Cu:0.10~1.50%
Cuは、耐硫酸性の向上に非常に有効な元素である。しかし、上述のように、本発明者らは、Cuが溶接部の孔食電位を劣化させる元素であることを見出した。図1は、DF値が同等でCu含有量の異なる試料の溶接熱影響部および溶接金属部の断面組織写真である。図1に示すように、DF値が同等でもCu含有量が少ない試料では、溶接金属部の黒色にエッチングされた領域、つまりクロム窒化物の析出部の面積は、Cu含有量が多い試料に比べて明らかに小さいことが分かる。
特に、Cu含有量が1.50%を超えると、孔食電位差を大きくし溶接金属部および溶接熱影響部の耐食性を劣化させる。したがって、Cu含有量は0.10~1.50%とする。Cu含有量は0.30%以上であるのが好ましく、0.50%以上であるのがより好ましい。また、Cu含有量は1.00%以下であるのが好ましく、0.75%以下であるのがより好ましい。
本発明に係るフェライト・オーステナイト二相ステンレス鋼板は、耐食性を向上させることを目的として、必要に応じて、Nb、Mo、Sn、WおよびVから選択される1種以上を含有させてもよい。
Nb:0~0.10%
Nbは、Nと化合物を作ることでクロム窒化物の析出を抑制する効果があるため、必要に応じて含有させてもよい。しかし、Nbを多量に含有すると、鋼板の加工性を低下させる。したがって、Nb含有量は0.10%以下とする。上記の効果を得るためには、Nb含有量は0.01%以上であるのが好ましく、0.04%以上であるのがより好ましい。
Mo:0~3.50%
Moは、耐食性を向上させる元素であるため、必要に応じて含有させてもよい。しかし、Moを多量に含有すると、原料コストの増加をもたらし、また溶接部のσ相の析出による耐食性低下が問題となる。したがって、Mo含有量は3.50%以下とする。上記の効果を得るためには、Mo含有量は0.10%以上であるのが好ましい。また、Mo含有量は2.50%以下であるのが好ましく、1.00%以下であるのがより好ましく、0.60%以下であるのがさらに好ましい。
Sn:0~1.00%
Snは、耐食性を向上させる元素であるため、必要に応じて含有させてもよい。しかし、Snを多量に含有すると、熱間加工性を悪化させる。したがって、Sn含有量は1.00%以下とする。上記の効果を得るためには、Sn含有量は0.030%以上であるのが好ましい。
W:0~1.00%
Wは、耐食性を向上させる元素であるため、必要に応じて含有させてもよい。しかし、Wを多量に含有すると、圧延時の負荷を増大させて製造疵を生成させやすくなる。したがって、W含有量は1.00%以下とする。上記の効果を得るためには、W含有量は0.01%以上であるのが好ましい。また、W含有量は0.50%以下であるのが好ましい。
V:0~1.00%
Vは、耐食性を向上させる元素であるため、必要に応じて含有させてもよい。しかし、Vを多量に含有すると、圧延時の負荷を増大させて製造疵を生成させやすくなる。したがって、V含有量は1.00%以下とする。上記の効果を得るためには、V含有量は0.01%以上であるのが好ましい。また、V含有量は0.50%以下であるのが好ましい。
本発明に係るフェライト・オーステナイト二相ステンレス鋼板は、熱間加工性および成形性を向上させることを目的として、必要に応じて、TiおよびBから選択される1種以上を含有させてもよい。
Ti:0~0.05%
Tiは、Nbと同様に、溶接熱影響部の粗大化を防止し、さらには凝固組織を微細等軸晶化する効果を有するため、必要に応じて含有させてもよい。しかし、Tiを多量に含有すると、均一伸びおよび局部伸びを低下させる。したがって、Ti含有量は0.05%以下とする。上記の効果を得るためには、Ti含有量は0.005%以上であるのが好ましい。
B:0~0.0050%
Bは、熱間加工性を向上させる効果を有するため、必要に応じて含有させてもよい。しかし、Bを多量に含有すると、耐食性が著しく劣化する。したがって、B含有量は0.0050%以下とする。上記の効果を得るためには、B含有量は0.0003%以上であるのが好ましい。また、B含有量は0.0030%以下であるのが好ましい。
本発明に係るフェライト・オーステナイト二相ステンレス鋼板は、精錬時に脱酸および脱硫を行うことを目的として、必要に応じて、Ca、Mg、AlおよびREMから選択される1種以上を含有させてもよい。
Ca:0~0.0050%
Caは、脱硫、脱酸のために必要に応じて含有させてもよい。しかし、Caを多量に含有すると、熱間加工割れが生じやすくなり、また耐食性が低下する。したがって、Ca含有量は0.0050%以下とする。上記の効果を得るためには、Ca含有量は0.0001%以上であるのが好ましい。
Mg:0~0.0050%
Mgは、脱酸だけでなく、凝固組織を微細化する効果を有するため、必要に応じて含有させてもよい。しかし、Mgを多量に含有すると、製鋼工程でのコスト増加をもたらす。したがって、Mg含有量は0.0050%以下とする。上記の効果を得るためには、Mg含有量は0.0001%以上であるのが好ましい。
Al:0~0.05%
Alは、脱硫、脱酸のために必要に応じて含有させてもよい。しかし、Alを多量に含有すると、製造疵の増加ならびに原料コストの増加を招く。したがって、Al含有量は0.05%以下とする。上記の効果を得るためには、Al含有量は0.0030%以上であるのが好ましい。
REM:0~0.50%
REM(希土類元素)は、熱間加工性を向上させる効果を有するため、必要に応じて含有させてもよい。しかし、REMを多量に含有すると、製造性を損なうとともにコスト増加をもたらす。したがって、REM含有量は0.50%以下とする。上記の効果を得るためには、REM含有量は0.005%以上であるのが好ましい。REM含有量は0.020%以上であるのが好ましく、0.20%以下であるのが好ましい。
なお、REMは、Sc、YおよびLa~Luまでの15元素(ランタノイド)の計17元素の総称であり、REMの含有量はこれらの元素の合計含有量を意味する。なお、ランタノイドは、工業的には、ミッシュメタルの形で添加される。
本発明の鋼板の化学組成において、残部はFeおよび不純物である。ここで「不純物」とは、鋼を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
本発明の鋼板の化学組成は、各元素の含有量が上述した範囲内であるのに加えて、下記に示す式によって算出されるPREN_Mn値、DF値および溶接部の孔食電位低下量予測値がそれぞれ所定の範囲内である必要がある。
PREN_Mn値:40.0未満
PREN_Mn値は、ステンレス鋼板の耐孔食性を示す一般的な指標であり、鋼板の化学組成から、下記(i)式で計算される。
PREN_Mn値=Cr+3.3(Mo+0.5W)+16N-Mn ・・・(i)
但し、上記式中の元素記号は、鋼中に含まれる各元素の含有率(質量%)であり、含有しない場合は0を代入する。
PREN_Mn値の増加は、CrおよびMoの含有量の増加による、合金コスト増加およびσ相の析出の問題を生じさせるおそれがある。さらに、N含有量の増加およびMn含有量の低減による窒素気泡の発生が問題になる。したがって、PREN_Mn値は40.0未満とする。PREN_Mn値は30.0未満であるのが好ましく、27.0未満であるのがより好ましい。下限は特に規定する必要はないが、SUS304相当の耐食性を得るためには、18.0以上であるのが好ましく、20.0以上であるのがより好ましい。
DF値:40.0~65.0
DF値は、オーステナイト相の安定度を示す指標であり、鋼板の化学組成から、下記(ii)式で計算される。
DF値=7.2×(Cr+0.88Mo+0.78Si)-8.9×(Ni+0.03Mn+0.72Cu+22C+21N)-44.9 ・・・(ii)
但し、上記式中の元素記号は、鋼中に含まれる各元素の含有率(質量%)であり、含有しない場合は0を代入する。
オーステナイト相はフェライト相に比べてNの固溶限が大きく、溶接冷却時のオーステナイト相の析出はクロム窒化物の析出を抑制する。したがって、耐食性の観点からはDF値は小さいほうが望ましい。一方、DF値が小さいと熱間加工性が悪化し製造時に問題が生じるとともに耐応力腐食割れ性が劣化する。したがって、DF値は40.0~65.0とする。DF値は45.0以上であるのが好ましく、60.0以下であるのが好ましい。
溶接部の孔食電位低下量予測値:100mV未満
溶接部の孔食電位低下量予測値は、DF値および鋼板中のCuの化学組成から、下記(iii)式で計算される値である。
溶接部の孔食電位低下量予測値=3.2DF値+54Cu-115 ・・・(iii)
但し、上記式中の元素記号は、鋼中に含まれる各元素の含有率(質量%)であり、含有しない場合は0を代入する。
(iii)式において、DF値は二相ステンレス鋼の鋳片表層のδ-Fe量の指標であり、小さいほうがオーステナイト相の安定度が高い。係数が正であることは、DF値が小さいほど溶接部の耐孔食性が良好であることを意味している。これは溶接金属部および溶接熱影響部で冷却中のオーステナイト相の析出が多く、固溶される窒素が多いためだと考えられ、過去知見と矛盾しない。
また、Cuの係数は正であり、Cu含有量が低いほど溶接部の耐孔食性が良好であることを意味している。この原因については完全に解明されてはいないが、Cuは窒素と反発相互作用を有する元素であるため、Cu含有量が高くなると鋼中の固溶Cuによって窒素が窒化物として析出しやすくなることが考えられる。
以上の知見に基づいて、上記(iii)式が導出された。なお、後述するように、溶接部の孔食電位低下量の予測値と溶接部の孔食電位低下量の実測値とはよく一致する。
溶接部は母材部よりも耐食性が低下するため、使用可能な環境は溶接部の耐食性で決定される。溶接部の耐食性を担保するために合金添加によってPREN_Mn値を上げる必要があるが、前述の理由のため難しい。省合金二相鋼はSUS304またはSUS316Lの代替鋼種としての用途が存在するが、その場合に許容される孔食電位低下量は100mVである。
そのため、溶接部の孔食電位低下量予測値は100mV未満とする。また、成分調整および製造条件の厳密化によるコスト増の観点から、90mV以下であるのが好ましく、85mV以下であるのがより好ましい。溶接部の孔食電位低下量は小さいほうが望ましいため下限は設けない。
2.鋼板の金属組織
フェライト粒の平均結晶粒径:12.0μm未満
上述のように、本発明者らは、溶接前のフェライト粒の平均結晶粒径が小さいほど、溶接熱影響部においてクロム窒化物の析出が少なくなり、良好な溶接部耐食性が得られることを見出した。この原因として、フェライト粒径が小さいほどオーステナイト析出サイトであるフェライト/フェライト粒界が多いため、溶接冷却時のオーステナイト相析出が促進され、窒素が多く固溶されたことが考えられる。
そのため、フェライト粒の平均結晶粒径は12.0μm未満とする。上記平均結晶粒径は8.0μm未満であるのが好ましい。また、平均結晶粒径の下限は特に規定する必要はないが、平均結晶粒径を過度に小さくすると伸びが低下するため、2.0μm以上であるのが好ましい。なお、本発明において、フェライト粒の平均結晶粒径は、C断面(圧延長さ方向に垂直な面を圧延方向から観察した面)の電子後方散乱解析像法(EBSP)を用いた測定により、フェライト粒の投影面積円相当径の測定結果の平均値を算出することにより求める。
3.鋼板の製造方法
本発明に係るフェライト・オーステナイト二相ステンレス鋼板の製造方法については、特に制限は設けないが、例えば、上記の化学組成を有する鋼を連続鋳造し、熱間圧延を行い、熱間圧延によって得られた熱延板を1150℃以下で焼鈍し、冷延圧下率が50%以上である1回の冷間圧延、または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を行い、1050℃未満で最終焼鈍を行うことによって製造することができる。
熱延板焼鈍温度:1150℃以下
最終製品のフェライト粒径を小さくするためには、冷延素材である熱延焼鈍板でのフェライト粒径を小さくする必要がある。熱延板焼鈍温度が1150℃を超えると、最終焼鈍後のフェライト相粒径が12.0μm以上となり、溶接部の耐食性が劣化するおそれがある。したがって、熱延板焼鈍温度は1150℃以下とする。
下限は特に設けないが、熱延板焼鈍温度が1000℃未満であると、十分な再結晶ができず冷間圧延を実施しづらくなるため、1000℃以上とすることが好ましい。熱延板焼鈍温度は1050℃超であるのがより好ましい。実用上は1100℃超であってよい。好適温度範囲に制御することによって、その後の冷延における冷延率を上げることができ、最終焼鈍におけるフェライト粒径の制御が容易になるため、実用上好適である。
冷延率:50%以上
冷延率が50%未満であると、冷延焼鈍後のフェライト相粒径が12.0μm以上となり、溶接部の耐食性が劣化するおそれがある。したがって、冷間圧延を行うに際しては、その冷延率は50%以上とする。より好ましくは60%以上であり、さらに好ましくは75%以上である。ここで冷延圧下率(%)は、(冷延前の板厚-冷延後の板厚)/冷延前の板厚×100で計算される値である。但し、冷間圧延を複数回行い、冷間圧延の間で中間焼鈍を行った場合は、最終の冷間圧延の圧下率とする。
最終焼鈍温度:1050℃未満
最終焼鈍温度が1050℃以上であると、最終焼鈍後のフェライト相粒径が12.0μm以上となり、溶接部の耐食性が劣化するおそれがある。したがって、最終焼鈍温度は1050℃未満とする。下限は特に設けないが、最終焼鈍温度が1000℃未満である場合は十分な再結晶が出来ず加工性が劣化するため1000℃以上とすることが好ましい。
4.溶接構造物
本発明に係る溶接構造物は、上述した化学組成および金属組織を有する鋼板に対して、後述する条件において溶接を実施することによって得られる。そのようにして得られた溶接構造物は、溶接部の孔食電位低下量の実測値が100mV未満となるため、SUS304またはSUS316Lの代替鋼種としての用途に好適である。
5.溶接構造物の製造方法
本発明に係る溶接構造物を製造する方法についても、特に制限は設けない。しかし、溶接部における耐食性を確保する観点からは、上記のフェライト・オーステナイト二相ステンレス鋼板に対して、板厚1mmあたり500~3000J/cmの溶接入熱となる条件で溶接を行うことが好ましい。
なお、板厚1mmあたりの溶接入熱は、溶接電流I(A)、溶接電圧E(V)、溶接速度v(cm/s)、板厚t(mm)を用いて、下記(iv)式により計算される。
板厚1mmあたりの溶接入熱(J/cm/mm)=I×E÷v÷t ・・・(iv)
上記の溶接入熱が500J/cm/mm未満では、溶接時に裏面まで溶融できず、溶接部の強度が低下する。また、溶接入熱が3000J/cm/mm超では、溶接部の溶け落ちが頻発し、溶接部の強度が低下する。したがって、板厚1mmあたりの溶接入熱は500~3000J/cm/mmとする。
なお、薄板でこのような溶接入熱となる溶接方法の1つにTIG溶接がある。発明者らの熱電対を用いた溶接部の冷却速度の実測では、溶接冷却時の溶接金属部の1200~900℃の区間の冷却速度は、サブマージアーク溶接では30℃/s以下、レーザー溶接では400℃/s以上であったのに対して、上記の入熱範囲でTIG溶接を行った場合には、60~300℃/sであった。
なお、その他の溶接方法または溶接条件および溶加材の使用有無については、適宜設定することが可能であり、何ら限定されるものではない。また、鋼板形状、溶接継手形状についても何ら限定されるものではない。
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
表1に示す化学組成を有する鋼を溶製して鋼片とし、板厚5mmに熱間圧延した後、焼鈍を実施した。この熱延焼鈍板に対して冷間圧延を施すことよって、板厚1~3mmの冷延鋼板を作製し、その後、最終焼鈍を実施した。
Figure 0007285050000001
溶接前の鋼板の組織形態を調査するために、製造した冷延焼鈍鋼板の圧延幅方向中心位置の圧延長さ方向に垂直な断面(C断面)の金属組織をEBSPにより調査した。このEBSPによる調査では、相の同定および結晶粒径の測定を行った。
そして、EBSPより得られたデータを結晶粒ごとにフェライト粒(BCC相)およびオーステナイト粒(FCC相)に分類し、その境界を結晶粒界とした。また、同一の結晶構造を有する粒同士が隣接している場合は、隣接する測定点における結晶方位差が15°以上の箇所については結晶粒界とみなした。フェライト粒(BCC相)の各粒の投影面積円相当径を測定した。
その後、製造した冷延焼鈍鋼板に対して、1パスのTIGなめつけ溶接を、シールドガスをArガスとし、溶加材を使用せず、所定の電流・電圧・速度条件において、長さ300mm以上行った。
それらの製造条件を表2にまとめて示す。なお、表2中の符号の意味は、以下に示すとおりである。
HA:熱延板焼鈍温度(℃)
FA:最終焼鈍温度(℃)
α粒径:溶接前の鋼板のフェライト粒の平均結晶粒径(μm)
Figure 0007285050000002
溶接前の鋼板について、その表皮下0.2mmの面に対して研磨粒度#600で湿式研磨した後、JIS G 0577に定められた方法にて、30℃の1mol/L NaCl溶液と飽和塩化銀電極(SSE)を用いて、電流密度100μA/cmに対応する孔食電位(V´c100)を測定し、測定データ6個を平均した値を母材部の孔食電位平均値とした。
さらに、上記で溶接を施した鋼板について、溶接開始点または終了点から50mm以上離れており、かつ裏面まで溶融しており溶け落ちなどの不良がない部分を溶接定常部とし、その表皮下0.2mmの面に対して研磨粒度#600で湿式研磨した後、JIS G 0577に定められた方法にて、30℃の1mol/L NaCl溶液および飽和塩化銀電極(SSE)を用いて、電流密度100μA/cmに対応する孔食電位(V´c100)を測定し、測定データ6個を平均した値を溶接部の孔食電位平均値とした。
なお、試験片は幅3~6mm程度の溶接線を中央として、測定面積1cmに溶接長が10mm含まれるように作製した。したがって、試験片の測定面積中には、溶接金属部、溶接熱影響部および母材部が含まれている。孔食電位の測定後に試験片の孔食発生位置を確認し、溶接金属部または溶接熱影響部以外の、例えば樹脂との隙間部などで孔食が発生している場合は、測定データから除いた。また、測定データを採取した前記試験片の部位は、本発明においては溶接部と定義した。溶接部は、溶接金属部および溶接熱影響部から構成される。
そして、母材部の孔食電位測定データ6個の平均値から、溶接部の孔食電位測定データ6個の平均値を引いた値(V´c100 mV vs SSE)を、孔食電位低下量実測値として求めた。
なお、溶接部の外観評価において、溶接裏ビードが出ず、溶接定常部が採取できなかった鋼板に「裏波出ず」、溶接の溶け落ちが発生し、溶接定常部が採取できなかった鋼板に「溶落ち大」と記載した。
上記の結果を表2に併せて示す。
試料番号1-1および1-2は本発明例であり、溶接部の孔食電位低下量実測値は良好であった。試料番号1-3は比較例であり、HAが高すぎるため、α粒径が大きくなり、孔食電位低下量実測値が悪化する結果となった。
試料番号2-1および2-2は本発明例であり、溶接部の孔食電位低下量実測値は良好であった。試料番号2-3は比較例であり、FAが高すぎるためα粒径が大きくなり、孔食電位低下量実測値が悪化する結果となった。
試料番号3-1および3-2は本発明例であり、溶接部の孔食電位低下量実測値は良好であった。試料番号3-3は比較例であり、FAが高すぎるためα粒径が大きくなり、孔食電位低下量実測値が悪化する結果となった。
試料番号4-1および4-2は本発明例であり、溶接部の孔食電位低下量実測値は良好であった。試料番号4-3は比較例であり、HAが高すぎるためα粒径が大きくなり、孔食電位低下量実測値が悪化する結果となった。
試料番号5-1および5-2は本発明例であり、溶接部の孔食電位低下量実測値は良好であった。試料番号5-3は比較例であり、冷延率が低すぎるためα粒径が大きくなり、孔食電位低下量実測値が悪化する結果となった。
試料番号6-1および6-2は本発明例であり、溶接部の孔食電位低下量実測値は良好であった。試料番号6-3は参考例であり、溶接入熱が小さすぎたため、板の裏まで溶け切らずに溶接定常部が採取できず、孔食電位試験が実施できなかった。
試料番号7-1および7-2は本発明例であり、溶接部の孔食電位低下量実測値は良好であった。試料番号7-3は参考例であり、溶接入熱が大きすぎたため、溶接部で溶け落ちが発生して溶接定常部が採取できず、孔食電位試験が実施できなかった。
試料番号8-1および8-2は本発明例であり、溶接部の孔食電位低下量実測値は良好であった。試料番号8-3は参考例であり、溶接入熱が小さすぎたため、板の裏まで溶け切らずに溶接定常部が採取できず、孔食電位試験が実施できなかった。
試料番号9-1および9-2は本発明例であり、溶接部の孔食電位低下量実測値は良好であった。試料番号9-3は比較例であり、冷延率が低すぎるためα粒径が大きくなり、孔食電位低下量実測値が悪化する結果となった。
試料番号10-1および10-2は本発明例であり、溶接部の孔食電位低下量実測値は良好であった。試料番号10-3は比較例であり、HAが高すぎるためα粒径が大きくなり、孔食電位低下量実測値が悪化する結果となった。
試料番号11-1および11-2は本発明例であり、溶接部の孔食電位低下量実測値は良好であった。試料番号12-3は参考例であり、溶接入熱が大きすぎたため、溶接部で溶け落ちが発生して溶接定常部が採取できず、孔食電位試験が実施できなかった。
試料番号12-1および12-2は本発明例であり、溶接部の孔食電位低下量実測値は良好であった。試料番号12-3は比較例であり、FAが高すぎるためα粒径が大きくなり、孔食電位低下量実測値が悪化する結果となった。
試料番号13-1および13-2は本発明例であり、溶接部の孔食電位低下量実測値は良好であった。試料番号13-3は比較例であり、冷延率が低すぎるためα粒径が大きくなり、孔食電位低下量実測値が悪化する結果となった。
試料番号14-1および14-2は本発明例であり、溶接部の孔食電位低下量実測値は良好であった。試料番号14-3は比較例であり、FAが高すぎるためα粒径が大きくなり、孔食電位低下量実測値が悪化する結果となった。
試料番号15-1、15-2および15-3は比較例であり、Cu含有量が高く、孔食電位低下量予測値が100mV以上のため、孔食電位低下量実測値が悪化する結果となった。
試料番号16-1、16-2および16-3は比較例であり、DF値が高く孔食電位低下量予測値が100mV以上のため、孔食電位低下量実測値が悪化する結果となった。
試料番号17-1は比較例であり、DF値が低く、規定範囲から外れているため、熱間圧延時に10mm以上の大きな耳割れが発生した。そのため、それ以降の実験は中止した。
以上説明したように、本発明例では良好な熱間加工性および溶接部の孔食電位が得られた。一方、参考例では、溶接入熱が過大または過小であったため、適切な溶接継手を作製できなかった。また、比較例では、フェライト粒径が大きいか、もしくは溶接部の孔食電位低下量予測値が100mV以上であったため、溶接部の孔食電位低下量実測値が100mV以上となるか、またはDF値が小さすぎるため熱間加工性が不良であった。
図2は、溶接部の孔食電位低下量予測値と実際に測定した孔食電位低下量との関係を示す図である。図2中においては、粒径が本発明の特許請求の範囲外となる例は白抜きで示し、孔食電位以外の要因で本発明の特許請求の範囲外となる例は除いている。図2に示すように、溶接部の孔食電位低下量の予測値と溶接部の孔食電位低下量の実測値とはよく一致することが分かる。
本発明によれば、省合金二相ステンレス鋼板において、溶接部の耐食性に優れたフェライト・オーステナイト二相ステンレス鋼板およびそれを用いた溶接構造物を得ることが可能になる。

Claims (7)

  1. 化学組成が、質量%で、
    C:0.050%以下、
    Si:2.00%以下、
    Mn:0.50~6.00%、
    P:0.050%以下、
    S:0.050%以下、
    N:0.08~0.25%、
    Cr:17.0~30.0%、
    Ni:0.10~8.00%、
    Cu:0.10~1.50%、
    Nb:0~0.10%、
    Mo:0.102.50%、
    Sn:0~1.00%、
    W:0~1.00%、
    V:0~1.00%、
    Ti:0~0.05%、
    B:0~0.0050%、
    Ca:0~0.0050%、
    Mg:0~0.0050%、
    Al:0~0.05%、
    REM:0~0.50%、
    残部:Feおよび不純物であり、
    下記(i)式で計算されるPREN_Mn値が40.0未満であり、
    下記(ii)式で計算されるDF値が40.0~65.0であり、
    下記(iii)式で計算される溶接部の孔食電位低下量予測値が100mV未満であり、
    鋼板の圧延方向に垂直な断面における、フェライト粒の平均結晶粒径が12.0μm未満である金属組織を有する、
    フェライト・オーステナイト二相ステンレス鋼板。
    PREN_Mn値=Cr+3.3(Mo+0.5W)+16N-Mn ・・・(i)
    DF値=7.2×(Cr+0.88Mo+0.78Si)-8.9×(Ni+0.03Mn+0.72Cu+22C+21N)-44.9 ・・・(ii)
    溶接部の孔食電位低下量予測値=3.2DF値+54Cu-115 ・・・(iii)
    但し、上記式中の元素記号は、鋼中に含まれる各元素の含有率(質量%)であり、含有しない場合は0を代入する。
  2. 前記化学組成が、質量%で、
    Nb:0.01~0.10%
    Sn:0.030~1.00%、
    W:0.01~1.00%、および、
    V:0.01~1.00%、
    から選択される1種以上を含有する、
    請求項1に記載のフェライト・オーステナイト二相ステンレス鋼板。
  3. 前記化学組成が、質量%で、
    Ti:0.005~0.05%、および、
    B:0.0003~0.0050%、
    から選択される1種以上を含有する、
    請求項1または請求項2に記載のフェライト・オーステナイト二相ステンレス鋼板。
  4. 前記化学組成が、質量%で、
    Ca:0.0001~0.0050%、
    Mg:0.0001~0.0050%、
    Al:0.0030~0.05%、および、
    REM:0.005~0.50%、
    から選択される1種以上を含有する、
    請求項1から請求項3までのいずれかに記載のフェライト・オーステナイト二相ステンレス鋼板。
  5. 請求項1から請求項4までのいずれかに記載のフェライト・オーステナイト二相ステンレス鋼板からなり、溶接部の孔食電位低下量実測値が100mV未満である、
    溶接構造物。
  6. 請求項1から請求項4までのいずれかに記載のフェライト・オーステナイト二相ステンレス鋼板を製造する方法であって、
    請求項1から請求項4までのいずれかに記載の化学組成を有する鋼を連続鋳造し、熱間圧延を行い、熱間圧延によって得られた熱延板を1000℃以上1150℃以下で焼鈍し、冷延圧下率が50%以上である1回の冷間圧延、または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を行い、1000℃以上1050℃未満で最終焼鈍を行う、
    フェライト・オーステナイト二相ステンレス鋼板の製造方法。
    ここで、冷延圧下率(%)は、(冷延前の板厚-冷延後の板厚)/冷延前の板厚×100で計算される値である。但し、冷間圧延を複数回行い、冷間圧延の間で中間焼鈍を行った場合は、最終の冷間圧延の圧下率とする。
  7. 請求項5に記載の溶接構造物を製造する方法であって、
    請求項1から請求項4までのいずれかに記載のフェライト・オーステナイト二相ステンレス鋼板に対して、板厚1mmあたり500~3000J/cm/mmの溶接入熱となる条件で溶接を行う、
    溶接構造物の製造方法。
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