JP2022182605A - トナー - Google Patents

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Abstract

【課題】環境への負荷が少なく、かつ低温定着性、耐ホットオフセット性、耐熱保存性及び帯電安定性に優れるトナーを提供する。【解決手段】本発明のトナーは、トナー粒子を含む。トナー粒子は、トナー母粒子を含む。トナー母粒子は、トナーコアと、トナーコアの表面を被覆するシェル層とを備える。トナーコアは、特定ポリエステル樹脂と着色剤とを含有する。シェル層は、特定の第一繰り返し単位を有する特定ビニル樹脂を含有する。特定ポリエステル樹脂は、1,2-プロパンジオールに由来する繰り返し単位を有する。特定ポリエステル樹脂の酸価は、14mgKOH/g以上32mgKOH/g以下である。トナー粒子の放射性炭素同位体14Cの濃度は、26.9pMC以上60.0pMC以下である。【選択図】図1

Description

本発明は、トナーに関する。
電子写真方式の画像形成装置には、例えば、正帯電性を有するトナー粒子を含むトナーが用いられる。トナーは、例えば、低温定着性、耐ホットオフセット性、耐熱保存性及び帯電安定性に優れることが要求される。なお、ホットオフセットとは、高温で定着させた際に画像形成装置の部材(例えば、定着部)にトナーが付着する不具合である。トナーは、低温定着性の向上を目的として、例えば、結着樹脂としてポリエステル樹脂を含有する。
近年、様々な技術分野において環境(特に、地球温暖化対策)に配慮した取り組みが進められている。トナー分野においても、植物由来の原料(バイオマス)の利用が検討されている。バイオマスを利用したトナーとして、例えば、ロジン化合物を含む原料から合成されたポリエステル樹脂を結着樹脂として用いたトナーが提案されている(特許文献1)。
特開2009-288739号公報
しかしながら、特許文献1に記載のトナーは、低温定着性、耐ホットオフセット性、耐熱保存性及び帯電安定性の全てが十分に満足できるわけではない。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、環境への負荷が少なく、かつ低温定着性、耐ホットオフセット性、耐熱保存性及び帯電安定性に優れるトナーを提供することである。
本発明の実施形態に係るトナーは、トナー粒子を含む。前記トナー粒子は、トナー母粒子を含む。前記トナー母粒子は、トナーコアと、前記トナーコアの表面を被覆するシェル層とを備える。前記トナーコアは、特定ポリエステル樹脂と着色剤とを含有する。前記シェル層は、下記一般式(A)で表される第一繰り返し単位を有する特定ビニル樹脂を含有する。前記特定ポリエステル樹脂は、1,2-プロパンジオールに由来する繰り返し単位を有する。前記特定ポリエステル樹脂の酸価は、14mgKOH/g以上32mgKOH/g以下である。前記トナー粒子の放射性炭素同位体14Cの濃度は、26.9pMC以上60.0pMC以下である。
Figure 2022182605000002
前記一般式(A)中、R1は、水素原子、又はフェニル基で置換されていてもよい炭素原子数1以上10以下のアルキル基を表す。*は、前記トナーコアが含有する前記特定ポリエステル樹脂に含まれる原子との結合部位を表す。
本発明のトナーは、環境への負荷が少なく、かつ低温定着性、耐ホットオフセット性、耐熱保存性及び帯電安定性に優れる。
本発明のトナーに含まれるトナー粒子の一例を示す断面図である。 特定ポリエステル樹脂の有するカルボキシ基と、シェル層形成樹脂の有するオキサゾリン基との反応の概略を説明する図である。
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、トナーは、トナー粒子の集合体(例えば粉体)である。外添剤は、外添剤粒子の集合体(例えば粉体)である。粉体(より具体的には、トナー粒子の粉体、外添剤粒子の粉体等)に関する評価結果(形状、物性等を示す値)は、何ら規定していなければ、粉体から粒子を相当数選び取って、それら粒子の各々について測定した値の個数平均である。
粉体の体積中位径(D50)の測定値は、何ら規定していなければ、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製「LA-950」)を用いて測定されたメディアン径である。
粉体の個数平均1次粒子径は、何ら規定していなければ、走査型電子顕微鏡を用いて測定した1次粒子の円相当径(ヘイウッド径:1次粒子の投影面積と同じ面積を有する円の直径)の個数平均値である。粉体の個数平均1次粒子径は、例えば100個の1次粒子の円相当径の個数平均値である。なお、粒子の個数平均1次粒子径は、特に断りがない限り、粉体中の粒子の個数平均1次粒子径を指す。
帯電性は、何ら規定していなければ、摩擦帯電における帯電性を意味する。例えば、日本画像学会から提供される標準キャリア(負帯電極性トナー用標準キャリア:N-01、正帯電極性トナー用標準キャリア:P-01)と測定対象(例えばトナー)とを混ぜて攪拌することで、測定対象を摩擦帯電させる。摩擦帯電させる前と後とでそれぞれ、例えば吸引式小型帯電量測定装置(トレック社製「MODEL 212HS」)で測定対象の帯電量を測定し、摩擦帯電の前後での帯電量の変化が大きい測定対象ほど帯電性が強いことを示す。
軟化点(Tm)は、何ら規定していなければ、高化式フローテスター(株式会社島津製作所製「CFT-500D」)を用いて測定した値である。高化式フローテスターで測定されたS字カーブ(横軸:温度、縦軸:ストローク)において、「(ベースラインストローク値+最大ストローク値)/2」となる温度が、Tm(軟化点)に相当する。
ガラス転移点(Tg)は、何ら規定していなければ、示差走査熱量計(セイコーインスツル株式会社製「DSC-6220」)を用いて「JIS(日本産業規格)K7121-2012」に従って測定した値である。示差走査熱量計で測定された吸熱曲線(縦軸:熱流(DSC信号)、横軸:温度)において、ガラス転移に起因する変曲点の温度(詳しくは、ベースラインの外挿線と立ち下がりラインの外挿線との交点の温度)が、Tg(ガラス転移点)に相当する。
材料の「主成分」は、何ら規定していなければ、質量基準で、その材料に最も多く含まれる成分を意味する。
化合物名の後に「系」を付けて、化合物及びその誘導体を包括的に総称する場合がある。化合物名の後に「系」を付けて重合体名を表す場合には、重合体の繰り返し単位が化合物又はその誘導体に由来することを意味する。また、アクリル及びメタクリルを包括的に「(メタ)アクリル」と総称する場合がある。
<トナー>
以下、本発明の実施形態に係るトナーについて説明する。本発明のトナーは、トナー粒子を含む。トナー粒子は、トナー母粒子を含む。トナー母粒子は、トナーコアと、トナーコアの表面を被覆するシェル層とを備える。トナーコアは、特定ポリエステル樹脂と着色剤とを含有する。シェル層は、下記一般式(A)で表される第一繰り返し単位を有する特定ビニル樹脂を含有する。特定ポリエステル樹脂は、1,2-プロパンジオールに由来する繰り返し単位を有する。特定ポリエステル樹脂の酸価は、14mgKOH/g以上32mgKOH/g以下である。トナー粒子の放射性炭素同位体14Cの濃度は、26.9pMC以上60.0pMC以下である。
Figure 2022182605000003
一般式(A)中、R1は、水素原子、又はフェニル基で置換されていてもよい炭素原子数1以上10以下のアルキル基を表す。*は、トナーコアが含有する特定ポリエステル樹脂に含まれる原子との結合部位を表す。
本発明のトナーは、静電潜像の現像に好適に用いることができる。本発明のトナーは、1成分現像剤として使用してもよい。本発明のトナーは、混合装置(例えば、ボウルミル)を用いてキャリアと混合して2成分現像剤として使用してもよい。本発明のトナーは、1成分現像剤として使用する場合、現像装置内において現像スリーブ又はトナー帯電部材と摩擦することで帯電(例えば、正に帯電)する。トナー帯電部材としては、例えば、ドクターブレードが挙げられる。本発明のトナーは、2成分現像剤を構成する場合、現像装置内においてキャリアと摩擦することで帯電(例えば、正に帯電)する。
放射性炭素同位体14Cの濃度(全炭素元素に対する放射性炭素同位体14Cの割合、以下、単に「14Cの濃度」と記載することがある)は、バイオマスの含有量の指標として知られている。詳しくは、14Cの濃度は、有機成分を含む化学製品において、どの程度の有機成分がバイオマスに由来するかを示す。なお、化学製品の14Cの濃度は、ASTM-D6866に従って測定できる。14Cの濃度の単位は、pMC(percent Modern Carbon)である。
大気中に存在する二酸化炭素を構成する炭素原子には、安定同位体である12C以外に、放射性炭素同位体である14Cが含まれている。大気中の14Cの濃度は、概ね一定(107.5pMC)に保たれている。植物は、生命活動を維持している間は大気中の二酸化炭素を取り込み続けているため、細胞中の14Cの濃度が大気中の14Cの濃度と概ね同一(107.5pMC)である。一方、植物が生命活動を停止すると、細胞中の14Cの濃度は一定速度で低下(半減期5730年)する。動物は、生命活動を維持している間は直接又は間接的に植物を摂取し続けるため、動物細胞中の14Cの濃度も、植物細胞中の14Cの濃度と同様の傾向を示す。バイオマスは、植物が生命活動を停止してから比較的短期間で利用される。そのため、バイオマスの14Cの濃度は大気中の14Cの濃度と概ね同一(107.5pMC)である。これに対して、石油等の化石資源は、由来となる動植物が生命活動を停止してから数万年~数億年が経過した状態で利用される。そのため、化石資源からは14Cはほぼ検出されない。以上から、石油等の化石資源のみを原料として用いた化学製品の14Cの濃度は、ほぼ0pMCである。一方で、バイオマスを原料として用いた化学製品は、バイオマスの使用量に比例して14Cの濃度が高くなる。
バイオマスの使用量が多い化学製品は、燃焼させたとしても、カーボンニュートラルの観点から大気中の二酸化炭素濃度をあまり増加させない。そのため、バイオマスの使用量が多い化学製品は、環境に対する負荷の低減に有効である。
トナー粒子中の炭素原子の総質量に対するバイオマス由来の炭素原子の質量の比率(バイオベース炭素含有率)は、下記数式によって算出される。
バイオベース炭素含有率[質量%]=(X/107.5)×100
本発明のトナーの組成では、トナー粒子の14Cの濃度が26.9pMC以上であると、バイオベース炭素含有率は概ね25.0質量%以上となる。このようなバイオベース炭素含有率が25.0質量%以上のトナーは、原料としてバイオマスを比較的多く使用した製品であるため、環境への負荷が少ない。そのため、本発明のトナーは、例えば、バイオマスプラマーク(日本バイオプラスチック協会認証)を得ることができる。
本発明のトナーは、上述の構成を満たすことにより、環境への負荷が少なく、低温定着性、耐ホットオフセット性、耐熱保存性及び帯電安定性に優れる。その理由は、以下のように推測される。本発明のトナーは、上述の通り、トナー粒子の14Cの濃度が26.9pMC以上であるため、環境への負荷が少ない。本発明のトナーは、バイオマス(例えば、植物油)から比較的安価に調製できる化合物である1,2-プロパンジオールを原料とする特定ポリエステル樹脂を結着樹脂として使用している。本発明のトナーは、特定ポリエステル樹脂を使用することにより、原料におけるバイオマスの使用量を増加させ、環境への負荷を軽減している。
一方、1,2-プロパンジオールは、一般的なトナー用ポリエステル樹脂の原料となるアルコール成分(例えば、ビスフェノールA等)と比較し、分子量が非常に小さい。そのため、特定ポリエステル樹脂は、一般的なトナー用ポリエステル樹脂と比較して、分子量が同程度であれば重合度が大きい。また、1,2-プロパンジオールは、上述のビスフェノールA等と比較し、ベンゼン環構造のような剛直な構造を有しない。そのため、特定ポリエステル樹脂は、一般的なトナー用ポリエステル樹脂と比較し、骨格が柔軟であり、トナーの耐熱保存性及び耐ホットオフセット性を低下させる傾向がある。なお、分子量の大きい特定ポリエステル樹脂を結着樹脂として用いることにより、トナーの耐熱保存性を改善できるが、一方でトナーの低温定着性が低下する傾向がある。以上から、従来のトナーにおいては、結着樹脂として特定ポリエステル樹脂を用いた場合、低温定着性及び耐熱保存性の両方を十分に満足させることが困難である。
これに対して、本発明のトナーにおいて、トナー粒子は、コアシェル構造を有する。つまり、本発明のトナーにおいて、トナー粒子は、低温で溶融するトナーコアが耐熱性に優れるシェル層で被覆されている。このようなトナー粒子を含むことにより、本発明のトナーは、低温定着性及び耐熱保存性の両方を十分に満足できる。また、シェル層が含む特定ビニル樹脂は、一般式(A)で表される第一繰り返し単位を有する。一般式(A)で表される第一繰り返し単位を有する特定ビニル樹脂は、優れた正帯電性を有する基であるオキサゾリン基を有する樹脂(シェル層形成樹脂)に由来するため、トナーに優れた正帯電性を付与する傾向がある。また、一定の酸価を有する特定ポリエステル樹脂を含むトナーコアは、上述のシェル層形成樹脂を用いて容易にシェル層を形成できる。以上から、本発明のトナーは、帯電安定性に優れる。以下、本発明のトナーの詳細を説明する。
[トナー粒子]
トナー粒子は、トナー母粒子を備える。トナー粒子は、トナー母粒子の表面に付着する外添剤を更に備えることが好ましい。外添剤は、外添剤粒子を含む。
14Cの濃度)
トナー粒子の14Cの濃度は、26.9pMC以上60.0pMC以下であり、53.8pMC以上60.0pMC以下が好ましい。トナー粒子の14Cの濃度を26.9pMC以上とすることで、環境への負荷を軽減できる。一方、トナー粒子には、結着樹脂以外の他の成分(例えば、特定ビニル樹脂、顔料及び離型剤)を一定量添加する必要がある。トナー粒子の14Cの濃度を60.0pMC以下とすることで、トナー粒子に上述の他の成分を十分に添加することができる。
なお、トナー粒子に含まれる14Cは、主に特定ポリエステル樹脂に含まれるが、これ以外の成分(例えば、離型剤及び特定ビニル樹脂)中に含まれていてもよい。
図1は、本発明のトナーに含まれるトナー粒子の一例の断面構造を示す。図1に示されるトナー粒子1は、トナー母粒子10と、トナー母粒子10の表面に付着する外添剤とを含む。トナー母粒子10は、トナーコア11と、トナーコア11の表面を被覆するシェル層12とを備える。シェル層12は、トナーコア11の表面を完全に被覆している。外添剤は、外添剤粒子13を含む。以上、図1を参照して、トナー粒子1の構造について説明した。
但し、本発明のトナーが含むトナー粒子は、図1に示すトナー粒子1とは異なる構造であってもよい。例えば、シェル層は、トナーコアの表面を部分的に被覆していてもよい。また、トナー粒子は、外添剤を含んでいなくてもよい。以下、本発明のトナーについて更に説明する。
[トナー母粒子]
トナー母粒子は、トナーコアと、トナーコアの表面を被覆するシェル層とを備える。低温定着性を維持しつつ、耐熱保存性に更に優れるトナーを得る観点から、シェル層の厚さとしては1nm以上400nm以下が好ましい。シェル層の厚さは、市販の画像解析ソフトウェア(例えば、三谷商事株式会社製「WinROOF」)を用いて、染色したトナー粒子の断面のTEM(透過電子顕微鏡)撮影像を解析することによって計測できる。なお、1つのトナー粒子においてシェル層の厚さが均一でない場合には、均等に離間した4箇所(詳しくは、トナー粒子の断面の略中心で直交する2本の直線を引き、それら2本の直線がシェル層と交差する4箇所)の各々でシェル層の厚さを測定し、得られた4つの測定値の算術平均を、そのトナー粒子の評価値(シェル層の厚さ)とする。
トナーコアの表面において、シェル層で覆われた領域の面積割合(シェル層の被覆率)としては、90%以上100%以下が好ましく、95%以上100%以下がより好ましい。シェル層の被覆率が90%以上である場合、耐熱保存性に更に優れるトナーを得ることができる。シェル層の被覆率は、市販の画像解析ソフトウェア(例えば、三谷商事株式会社製「WinROOF」)を用いてトナー粒子の断面のTEM(透過電子顕微鏡)撮影像を解析することによって測定できる。詳しくは、染色したトナー粒子の断面のTEM撮影像において、トナーコアの表面領域(外縁を示す輪郭線)のうちシェル層で覆われた領域の割合を測定することにより、シェル層の被覆率が得られる。
良好な画像を形成する観点から、トナー母粒子の体積中位径(D50)としては、4μm以上9μm以下が好ましい。
[トナーコア]
トナーコアは、特定ポリエステル樹脂及び着色剤を含有する。トナーコアは、必要に応じて、内添剤(例えば、離型剤及び電荷制御剤のうち少なくとも1つ)を更に含有してもよい。
(特定ポリエステル樹脂)
特定ポリエステル樹脂は、本発明のトナーの結着樹脂として機能する。トナーコアは、例えば、主成分として特定ポリエステル樹脂を含有する。特定ポリエステル樹脂は、非晶性であることが好ましい。非晶性の特定ポリエステル樹脂は、結晶性の特定ポリエステル樹脂と比較して、トナー粒子の帯電性に影響を与え難い。そのため、トナーコアが非晶性の特定ポリエステル樹脂を含有することで、本発明のトナーの帯電安定性を更に向上できる。
特定ポリエステル樹脂の酸価は、14mgKOH/g以上32mgKOH/g以下であり、18mgKOH/g以上25mgKOH/g以下が好ましい。特定ポリエステル樹脂の酸価を14mgKOH/g以上とすることで、後述するシェル層形成樹脂と、トナーコアが含有する特定ポリエステル樹脂とを十分に架橋できる。その結果、本発明のトナーの耐熱保存性及び耐ホットオフセット性を向上できる。特定ポリエステル樹脂の酸価を32mgKOH/g以下とすることで、後述するシェル層形成樹脂と、トナーコアが含有する特定ポリエステル樹脂とが過度に架橋することを抑制できる。その結果、本発明のトナーの低温定着性を向上できる。
特定ポリエステル樹脂の酸価は、JIS(日本産業規格)K0070-1992に準拠する方法で測定することができる。特定ポリエステル樹脂の酸価は、例えば、特定ポリエステル樹脂を合成するために使用されるカルボン酸の種類又は量を変更することにより、調整することができる。具体的には、一分子中に含まれるカルボキシ基の数が多いカルボン酸(例えば、3価以上のカルボン酸)を用いることで、合成される特定ポリエステル樹脂の酸価を増大させることができる。また、アルコール化合物の添加量に対するカルボン酸の添加量を多くすることで、特定ポリエステル樹脂の酸価を増大させることができる。
特定ポリエステル樹脂の軟化点(Tm)としては、108℃以上132℃以下が好ましく、115℃以上125℃以下がより好ましい。特定ポリエステル樹脂の軟化点を108℃以上とすることで、本発明のトナーの耐ホットオフセット性を更に向上できる。特定ポリエステル樹脂の軟化点を132℃以下とすることで、本発明のトナーの低温定着性を更に向上できる。
特定ポリエステル樹脂のガラス転移点(Tg)としては、40℃以上65℃以下が好ましく、50℃以上60℃以下がより好ましい。特定ポリエステル樹脂のガラス転移点を40℃以上とすることで、本発明のトナーの耐熱保存性を更に向上できる。特定ポリエステル樹脂のガラス転移点を65℃以下とすることで、本発明のトナーの低温定着性を更に向上できる。
特定ポリエステル樹脂は、1,2-プロパンジオールに由来する繰り返し単位を有する。即ち、特定ポリエステル樹脂は、1,2-プロパンジオールが原料として用いられている。特定ポリエステル樹脂は、例えば、1,2-プロパンジオールと1種以上の多価カルボン酸とを縮重合させることで得られる。特定ポリエステル樹脂を合成するためのカルボン酸としては、例えば以下に示すような、2価カルボン酸、及び3価以上のカルボン酸が挙げられる。なお、多価カルボン酸の代わりに、縮重合によりエステル結合を形成できる多価カルボン酸誘導体(例えば、多価カルボン酸の無水物、多価カルボン酸ハライド等)を使用してもよい。
特定ポリエステル樹脂の原料は、1,2-プロパンジオール及び多価カルボン酸に加え、1,2-プロパンジオール以外の他の多価アルコール化合物を含んでもよい。他の多価アルコールとしては、例えば、2価アルコール化合物(より具体的には、ジオール化合物、ビスフェノール化合物等)、及び3価以上のアルコール化合物が挙げられる。但し、特定ポリエステル樹脂の原料は、トナー粒子の14Cの濃度を増大させる観点から、他の多価アルコール化合物を含まないことが好ましい。具体的には、特定ポリエステル樹脂の原料において、他の多価アルコール化合物の含有割合としては、10質量%以下が好ましく、0質量%がより好ましい。
2価カルボン酸としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、マロン酸、コハク酸、アルキルコハク酸(より具体的には、n-ブチルコハク酸、イソブチルコハク酸、n-オクチルコハク酸、n-ドデシルコハク酸、イソドデシルコハク酸)、及びアルケニルコハク酸(より具体的には、n-ブテニルコハク酸、イソブテニルコハク酸、n-オクテニルコハク酸、n-ドデセニルコハク酸、イソドデセニルコハク酸)が挙げられる。
3価以上のカルボン酸としては、例えば、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸)、2,5,7-ナフタレントリカルボン酸、1,2,4-ナフタレントリカルボン酸、1,2,4-ブタントリカルボン酸、1,2,5-ヘキサントリカルボン酸、1,3-ジカルボキシ-2-メチル-2-メチレンカルボキシプロパン、1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸、テトラ(メチレンカルボキシ)メタン、1,2,7,8-オクタンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、及びエンポール三量体酸が挙げられる。
特定ポリエステル樹脂としては、1,2-プロパンジオールと、テレフタル酸と、無水トリメリット酸との縮重合物が好ましい。トナーコアにおける特定ポリエステル樹脂の含有割合としては、60質量%以上95質量%以下が好ましく、75質量%以上85質量%以下がより好ましい。
なお、トナーコアは、結着樹脂として、特定ポリエステル樹脂のみを含有することが好ましいが、特定ポリエステル樹脂以外の結着樹脂(以下、他の結着樹脂と記載することがある)を更に含有していてもよい。トナーコアが含有する結着樹脂において、他の結着樹脂の含有割合としては、5質量%以下が好ましく、0質量%がより好ましい。他の結着樹脂としては、例えば、特定ポリエステル樹脂以外のポリエステル樹脂、スチレン系樹脂、アクリル酸エステル系樹脂、オレフィン系樹脂(より具体的には、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等)、ビニル樹脂(より具体的には、塩化ビニル樹脂、ポリビニルアルコール、ビニルエーテル樹脂、N-ビニル樹脂等)、ポリアミド樹脂、及びウレタン樹脂が挙げられる。また、他の結着樹脂としては、上述の各樹脂の共重合体、すなわち上記樹脂中に任意の繰り返し単位が導入された共重合体(より具体的には、スチレン-アクリル酸エステル系樹脂、スチレン-ブタジエン系樹脂等)も使用できる。
(着色剤)
トナー母粒子は、着色剤を含有する。着色剤としては、本発明のトナーの色に合わせて公知の顔料又は染料を用いることができる。本発明のトナーを用いて高画質な画像を形成する観点から、着色剤の含有量としては、特定ポリエステル樹脂100質量部に対して、1質量部以上20質量部以下が好ましい。
トナー母粒子は、黒色着色剤を含有していてもよい。黒色着色剤の例としては、カーボンブラックが挙げられる。また、黒色着色剤は、イエロー着色剤、マゼンタ着色剤、及びシアン着色剤を用いて黒色に調色された着色剤であってもよい。
トナーコアは、カラー着色剤を含有していてもよい。カラー着色剤としては、イエロー着色剤、マゼンタ着色剤、及びシアン着色剤が挙げられる。
イエロー着色剤としては、例えば、縮合アゾ化合物、イソインドリノン化合物、アントラキノン化合物、アゾ金属錯体、メチン化合物、及びアリールアミド化合物からなる群より選択される1種以上の化合物を使用できる。イエロー着色剤としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー(3、12、13、14、15、17、62、74、83、93、94、95、97、109、110、111、120、127、128、129、147、151、154、155、168、174、175、176、180、181、191、及び194)、ナフトールイエローS、ハンザイエローG、並びにC.I.バットイエローが挙げられる。
マゼンタ着色剤としては、例えば、縮合アゾ化合物、ジケトピロロピロール化合物、アントラキノン化合物、キナクリドン化合物、塩基染料レーキ化合物、ナフトール化合物、ベンズイミダゾロン化合物、チオインジゴ化合物、及びペリレン化合物からなる群より選択される1種以上の化合物を使用できる。マゼンタ着色剤としては、例えば、C.I.ピグメントレッド(2、3、5、6、7、19、23、48:2、48:3、48:4、57:1、81:1、122、144、146、150、166、169、177、184、185、202、206、220、221、及び254)が挙げられる。
シアン着色剤としては、例えば、銅フタロシアニン化合物、アントラキノン化合物、及び塩基染料レーキ化合物からなる群より選択される1種以上の化合物を使用できる。シアン着色剤としては、例えば、C.I.ピグメントブルー(1、7、15、15:1、15:2、15:3、15:4、60、62、及び66)、フタロシアニンブルー、C.I.バットブルー、並びにC.I.アシッドブルーが挙げられる。
(離型剤)
トナー母粒子は、離型剤を含有していてもよい。離型剤は、例えば、本発明のトナーに更に優れた耐ホットオフセット性を付与する目的で使用される。本発明のトナーに更に優れた耐ホットオフセット性を付与する観点から、トナーコアにおいて、離型剤の含有量としては、特定ポリエステル樹脂100質量部に対して、1質量部以上20質量部以下が好ましい。
離型剤としては、例えば、脂肪族炭化水素系ワックス、脂肪族炭化水素系ワックスの酸化物、植物系ワックス、動物系ワックス、鉱物系ワックス、脂肪酸エステルを主成分とするエステルワックス、及び脂肪酸エステルの一部又は全部が脱酸化したワックスが挙げられる。脂肪族炭化水素系ワックスとしては、例えば、低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレン、ポリオレフィン共重合体、ポリオレフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス及びフィッシャートロプシュワックスが挙げられる。脂肪族炭化水素系ワックスの酸化物としては、例えば、酸化ポリエチレンワックス、及び酸化ポリエチレンワックスのブロック共重合体が挙げられる。植物系ワックスとしては、例えば、キャンデリラワックス、カルナバワックス、木ろう、ホホバろう、及びライスワックスが挙げられる。動物系ワックスとしては、例えば、みつろう、ラノリン及び鯨ろうが挙げられる。鉱物系ワックスとしては、例えば、オゾケライト、セレシン、及びペトロラタムが挙げられる。脂肪酸エステルを主成分とするエステルワックスとしては、例えば、モンタン酸エステルワックス及びカスターワックスが挙げられる。脂肪酸エステルの一部又は全部が脱酸化したワックスとしては、例えば、脱酸カルナバワックスが挙げられる。離型剤としては、エステルワックスが好ましい。
トナーコアが離型剤を含有する場合、特定ポリエステル樹脂と離型剤との相溶性を改善するために、相溶化剤をトナーコアに更に添加してもよい。
(電荷制御剤)
トナーコアは、電荷制御剤を更に含有してもよい。電荷制御剤は、例えば、より優れた帯電安定性又は優れた帯電立ち上がり特性を有するトナーを提供する目的で使用される。トナーの帯電立ち上がり特性は、短時間で所定の帯電レベルにトナーを帯電させることができるか否かの指標になる。トナーコアに正帯電性の電荷制御剤を含有させることで、トナー粒子のカチオン性を強めることができる。
[シェル層]
シェル層は、例えば、主成分として特定ビニル樹脂を含有する。シェル層としては、実質的に特定ビニル樹脂から構成されている層(例えば特定ビニル樹脂の含有割合が90質量%以上である層)が好ましく、特定ビニル樹脂のみを含有する層がより好ましい。
特定ビニル樹脂は、上述の一般式(A)で表される第一繰り返し単位を有する。特定ビニル樹脂は、下記一般式(B)で表される第二繰り返し単位を更に有することが好ましい。第二繰り返し単位は、優れた正帯電性を有する基である未開環オキサゾリン基を有する。特定ビニル樹脂が第二繰り返し単位を有することで、本発明のトナーの帯電安定性を更に向上できる。
Figure 2022182605000004
一般式(A)又は(B)において、R1又はR2で表される炭素原子数1以上10以下のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1,2-ジメチルプロピル基、直鎖状又は分枝鎖状のヘキシル基、直鎖状又は分枝鎖状のヘプチル基、直鎖状又は分枝鎖状のオクチル基、直鎖状又は分枝鎖状のノニル基、及び直鎖状又は分枝鎖状のデシル基が挙げられる。
1及びR2は、それぞれ、水素原子、メチル基、エチル基又はイソプロピル基を表すことが好ましい。
特定ビニル樹脂は、ビニル化合物に由来する繰り返し単位を更に有していてもよい。ここで、ビニル化合物は、ビニル基(CH2=CH-)を有する化合物、又は置換ビニル基(ビニル基の有する水素原子のうち少なくとも1つが置換基で置換された基)を有する化合物である。ビニル化合物としては、例えば、エチレン、プロピレン、ブタジエン、塩化ビニル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル(好ましくは、(メタ)アクリル酸アルキルエステル)、アクリロニトリル、及びスチレンが挙げられる。
特定ビニル樹脂は、ビニル化合物に由来する繰り返し単位として、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する第三繰り返し単位を更に有することが好ましい。
特定ビニル樹脂は、第一繰り返し単位、第二繰り返し単位、及びビニル化合物に由来する繰り返し単位以外の他の繰り返し単位を更に有してもよいが、第一繰り返し単位、第二繰り返し単位、及びビニル化合物に由来する繰り返し単位のみを有することが好ましい。特定ビニル樹脂の有する全繰り返し単位の質量に対する他の繰り返し単位の質量の割合としては、1.0質量%以下が好ましく、0.0質量%がより好ましい。
[外添剤]
外添剤粒子としては、無機粒子が好ましい。無機粒子としては、シリカ粒子、又は金属酸化物(より具体的には、アルミナ、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、チタン酸ストロンチウム、又はチタン酸バリウム等)の粒子が好ましく、シリカ粒子又は酸化チタン粒子がより好ましい。
無機粒子の含有量としては、トナー母粒子100質量部に対して、0.01質量部以上10質量部以下が好ましく、0.1質量部以上5質量部以下がより好ましい。
<トナーの製造方法>
本発明のトナーの製造方法の一例を説明する。トナーの製造方法は、トナーコアを調製するトナーコア調製工程と、トナーコアの表面にシェル層を形成することでトナー母粒子を得るシェル層形成工程とを備える。トナーの製造方法は、シェル層形成工程後、トナー母粒子の表面に外添剤を外添する外添工程を更に備えてもよい。
[トナーコア調製工程]
トナーコアを調製する方法としては、特に限定されず、公知の粉砕法又は凝集法を用いることができる。トナーコアの製造方法としては、粉砕法が好ましい。
粉砕法の一例を説明する。まず、特定ポリエステル樹脂、着色剤及び必要に応じて添加される内添剤を混合する。続けて、得られた混合物を、溶融混練装置(例えば、1軸又は2軸の押出機)を用いて溶融混練する。続けて、得られた溶融混練物を粉砕及び分級する。これにより、トナーコアが得られる。
凝集法の一例を説明する。まず、特定ポリエステル樹脂、着色剤及び必要に応じて添加される内添剤の各々の微粒子を含む水性媒体中で、これらの微粒子を所望の粒子径になるまで凝集させる。これにより、特定ポリエステル樹脂等を含有する凝集粒子が形成される。続けて、得られた凝集粒子を加熱して、凝集粒子に含有される成分を合一化させる。これにより、トナーコアが得られる。
[シェル層形成工程]
シェル層を形成する方法としては、例えば、トナーコアとシェル層形成溶液とを水性媒体中で混合する方法が挙げられる。
シェル層形成溶液は、シェル層を形成するための樹脂(シェル層形成樹脂)を含有する。シェル層形成樹脂は、例えば、第二繰り返し単位を有する樹脂である。シェル層形成樹脂は、第三繰り返し単位を更に有してもよい。シェル層形成樹脂は、高い親水性を有する基であるオキサゾリン基を含む第二繰り返し単位を有するため、高い親水性を有する。そのため、シェル層形成樹脂は、水性媒体に溶解し易く、水性媒体中でトナーコアと反応し易い。また、シェル層形成樹脂は、オキサゾリン基を含む第二繰り返し単位を有すると共に、疎水性が比較的高い第三繰り返し単位を有するため、両親媒性を発揮する。両親媒性を有するシェル層形成樹脂は、分散剤としても機能し、分散剤(例えば界面活性剤)又は有機溶剤の存在しない水性媒体中でもトナーコアと反応することができる。
シェル層形成樹脂を含有する溶液としては、例えば、株式会社日本触媒製「エポクロス(登録商標)WS-300」又は「エポクロス(登録商標)WS-700」を使用できる。エポクロス(登録商標)WS-300は、2-ビニル-2-オキサゾリンとメタクリル酸メチルとの共重合体(シェル層形成樹脂)を含む。この共重合体を構成するモノマーの質量比は、(2-ビニル-2-オキサゾリン):(メタクリル酸メチル)=9:1である。エポクロス(登録商標)WS-700は、2-ビニル-2-オキサゾリンとメタクリル酸メチルとアクリル酸ブチルとの共重合体(シェル層形成樹脂)を含む。共重合体を構成するモノマーの質量比は、(2-ビニル-2-オキサゾリン):(メタクリル酸メチル):(アクリル酸ブチル)=5:4:1である。2-ビニル-2-オキサゾリンは、下記式(B-1)で表される化合物である。
Figure 2022182605000005
以下、トナーコアとシェル層形成溶液との混合方法の詳細を記載する。トナーコアとシェル層形成溶液との混合では、シェル層形成樹脂の有するオキサゾリン基と特定ポリエステル樹脂の有するカルボキシ基とが反応してアミドエステル基が形成される温度以上の温度(以下、第一温度と記載することがある)に、トナーコアとシェル層形成溶液との混合液を加熱することが好ましい。トナーコアとシェル層形成溶液との混合により、トナーコアの表面にシェル層が形成され、トナー母粒子を含有する分散液が得られる。得られた分散液に対して固液分離と洗浄と乾燥とを行えば、トナー母粒子が得られる。
本工程において、シェル層形成樹脂の添加量としては、トナーコア100質量部に対して、0.5質量部以上10質量部以下が好ましく、2質量部以上5質量部以下がより好ましい。
以下、図2を参照しながら、シェル層形成工程の一例を具体的に説明する。図2は、トナーコア11が含有する特定ポリエステル樹脂の有するカルボキシ基と、シェル層形成樹脂112のオキサゾリン基との反応を模式的に示す。図2において、オキサゾリン基の炭素原子(C)及び炭素原子に結合する水素原子(H)は、省略されている。図2で示されるシェル層形成樹脂112中の曲線は、シェル層形成樹脂112の主鎖を模式的に示している。
シェル層形成工程では、例えば水性媒体中で、トナーコア11(トナーコア調製工程で得られたトナーコア)と、シェル層形成樹脂112とを混合して、分散液を得る。次に、分散液を攪拌しながら、分散液の温度を、所定の昇温速度で、第一温度まで上昇させる。昇温速度としては、0.1℃/分以上1.0℃/分以下が好ましく、0.5℃/分がより好ましい。第一温度としては、45℃以上80℃以下が好ましく、65℃がより好ましい。その後、分散液を冷却する。続けて、固液分離(例えば、ろ過)により、トナー母粒子を得る。その後、必要に応じてトナー母粒子を洗浄した後、乾燥させてもよい。
図2に示すように、トナーコア11の表面には、特定ポリエステル樹脂の有するカルボキシ基が存在する。シェル層形成樹脂112は、第二繰り返し単位が有するオキサゾリン基を含む。分散液の昇温中、又は分散液を所定の温度に保っている間に、トナーコア11の有するカルボキシ基とシェル層形成樹脂112の有するオキサゾリン基とが反応して、アミドエステル基21が形成される。即ち、シェル層形成樹脂112の有する第二繰り返し単位に含まれるオキサゾリン基と、特定ポリエステル樹脂の有するカルボキシ基とから、第一繰り返し単位が形成される。これにより、トナーコア11及びシェル層形成樹脂112が架橋される。架橋されたシェル層形成樹脂112は、特定ビニル樹脂に該当する。トナーコア11と架橋されたシェル層形成樹脂112は、未架橋のシェル層形成樹脂112と共にシェル層を形成する。以上、図2を参照しながら、シェル層形成工程の一例について説明した。
シェル層形成工程で用いる水性媒体は、水を主成分とする媒体(具体的には、例えば、純水、又は純水と極性媒体との混合液)である。水性媒体中の極性媒体としては、例えば、アルコール(例えば、メタノール又はエタノール)を使用できる。水性媒体の沸点は約100℃である。上述の通りシェル層形成樹脂が分散剤として機能するため、水性媒体には、分散剤を添加しないことが好ましい。
分散液におけるトナーコアの含有割合としては、10質量%以上50質量%以下が好ましく、20質量%以上40質量%以下がより好ましい。
分散液(トナーコアとシェル層形成溶液とを含む分散液)は、塩基性物質を更に含むことが好ましい。塩基性物質の量を変更することで、形成されるトナー母粒子に含まれる未開環オキサゾリン基の量を変更することができる。より具体的には、分散液における塩基性物質の量が多いほど、形成されるトナー母粒子に含まれる未開環オキサゾリン基の量が多くなる傾向がある。これは、分散液が塩基性物質を更に含むことで、特定ポリエステル樹脂が有するカルボキシ基が塩基性物質で中和され、シェル層形成樹脂が有するオキサゾリン基との架橋が抑制されるためであると考えられる。
塩基性物質としては、アンモニア又は水酸化ナトリウムが好ましい。
分散液における塩基性物質の含有割合としては、水性媒体100質量部に対して、0.0001質量部以上0.0010質量部以下が好ましく、0.0001質量部以上0.0003質量部以下がより好ましい。塩基性物質の含有割合を0.0001質量部以上0.0010質量部以下とすることで、トナー母粒子に含まれる未開環オキサゾリン基の量を適度な範囲に調整し易くなる。
本工程により得られたトナー母粒子は、そのままトナー粒子として用いてもよい。また、本工程により得られたトナー母粒子は、後述する外添工程を行った後にトナー粒子として用いてもよい。
(外添工程)
本工程では、トナー母粒子の表面に外添剤を付着させる。これにより、トナー母粒子と、トナー母粒子の表面に付着した外添剤とを備えるトナー粒子が得られる。トナー母粒子の表面に外添剤を付着させる方法としては、特に限定されないが、例えば、トナー母粒子及び外添剤をミキサー等で攪拌する方法が挙げられる。
実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。なお、本発明は実施例の範囲に何ら限定されない。
<トナーの製造>
以下の方法により、実施例1~5、比較例1~3及び参考例のトナーを得た。まず、特定ポリエステル樹脂の原料として用いるバイオマス由来の1,2-プロパンジオールを調製した。
[バイオマス由来の1,2-プロパンジオールの調製]
まず、植物油脂であるパーム油を加水分解してグリセリンを得た。具体的には、パーム油に対して、10質量%水酸化ナトリウム水溶液を添加して混合物を得た。水酸化ナトリウム水溶液の添加量は、パーム油を完全に鹸化するのに理論上必要とされる量の2倍の量とした。次に、パーム油が完全に鹸化するまで、上述の混合物を150℃で加熱した。次に、鹸化後の反応液から上澄み(グリセリン水溶液)を分離した。次に、上述の上澄みを減圧下で加熱することで水分を蒸発させた(蒸留処理)。蒸留処理後のグリセリンを活性炭フィルターでろ過することで精製し、精製グリセリンを得た。
別途、銅-白金/シリカ触媒を調製した。具体的には、還流冷却器を備える反応容器に、エチレングリコール200gと硝酸第二銅三水和物76gとを加えて反応液を得た。次に、反応液を80℃で2時間加熱攪拌することで反応させた。次に、反応液にテトラエトキシシラン52gを滴下し、80℃で2時間加熱攪拌することで反応させた。次に、反応液に18gの水を滴下し、80℃で3時間加熱攪拌することで反応させた。反応により、沈殿物が発生した。上述の沈殿物をろ取した後、約120℃に加熱することで乾燥させた。次に、乾燥後の沈殿物を400℃で2時間空気中にて焼成し、銅/シリカ触媒(銅含有割合:50質量%)を得た。得られた3gの銅/シリカ触媒に、テトラアンミン白金(II)硝酸塩[Pt(NH34(NO32]29.8mgを含有する水溶液を添加して混合物を得た。得られた混合物をロータリーエバポレーターで乾燥させることで固形物を得た。得られた固形物を120℃に加熱することで更に乾燥させた後、400℃で2時間、空気中で焼成し、銅-白金/シリカ触媒(質量比:Cu/Pt/Si=50/0.5/17)(銅含有割合:50質量%)を得た。
上述の精製グリセリンから、1,2-プロパンジオールを調製した。詳しくは、攪拌機付きのオートクレーブ(鉄製)に、2gの銅-白金/シリカ触媒と、200gの精製グリセリンとを加えた後、オートクレーブの内部を水素ガスで置換した。次に、上述のオートクレーブの内容物を230℃に加熱すると共に、オートクレーブ内の圧力が2MPaに達するまで25℃の水素ガスを5L/分の速度でオートクレーブ内に導入した。次に、オートクレーブの内容物を2MPa、250℃で7時間反応させることで反応生成物を得た。得られた反応生成物を常法(分留法)に従って精製することにより、バイオマス由来の1,2-プロパンジオールを得た。
(特定ポリエステル樹脂(H1)の合成)
攪拌機(アズワン株式会社販売「SM-104」)、窒素導入管、熱電対、脱水管、及び精留塔を備えた4つ口フラスコを反応容器として用いた。この反応容器に、アルコール成分である上述のバイオマス由来の1,2-プロパンジオール1200gと、カルボン酸成分であるテレフタル酸1700gと、縮合触媒であるジオクタン酸スズ(II)4gとを加えた。窒素雰囲気下、220℃かつ1気圧で、反応容器から水を除去しながら反応容器の内容物を15時間反応させた。その後、反応容器内を8.3kPaに減圧して、反応容器の内容物を更に220℃で1時間反応させた。次いで、反応容器の内容物の温度を180℃まで下げた後、反応容器に無水トリメリット酸300gを加えた。その後、10℃/時間の昇温速度で、反応容器の内容物の温度を210℃まで上げた。次いで、210℃かつ1気圧で、反応容器の内容物を10時間反応させた。そして、反応容器内を20kPaまで減圧し、反応容器の内容物を更に約1時間反応させた。反応終了後、反応容器の内容物を取り出し、冷却した。冷却後の反応容器の内容物から溶媒を留去することにより、非晶性の特定ポリエステル樹脂(H1)を得た。特定ポリエステル樹脂(H1)は、軟化点(Tm)が120℃、酸価が22mgKOH/g、ガラス転移点(Tg)が53℃であった。
(特定ポリエステル樹脂(H2)~(H8)の合成)
使用する原料の種類及び量を下記表1に示す通りに変更した以外は、特定ポリエステル樹脂(H1)の合成と同様の方法により、特定ポリエステル樹脂(H2)~(H8)を合成した。
なお、下記表1において、1,2-プロパンジオール(石油由来)は、市販の1,2-プロパンジオールを示す。市販されている1,2-プロパンジオールは、通常は石油から合成された化合物である。
Figure 2022182605000006
<トナーの製造>
以下の方法により、実施例1~8のトナーを調製した。
[実施例1]
(トナーコアAの調製)
結着樹脂(上述の特定ポリエステル樹脂(H1))100質量部と、離型剤(日油株式会社製「ニッサンエレクトール(登録商標)WEP-3」、成分:エステルワックス)5質量部と、黒色着色剤(三菱化学株式会社製「MA-100」、成分:酸性カーボンブラック)6質量部とを、FMミキサー(日本コークス工業株式会社製「FM-20B」)により、回転数2000rpmの条件で、4分間混合した。
得られた混合物を、2軸押出機(株式会社池貝製「PCM-30」)により、溶融混錬温度(シリンダー温度)100℃、回転数150rpm、処理速度100g/分の条件にて溶融混練した。得られた溶融混練物を、粉砕機(ホソカワミクロン株式会社製「ロートプレックス(登録商標)」)を用いて2mm程度に粗粉砕した。得られた粗粉砕物を、粉砕機(フロイント・ターボ株式会社製「ターボミル(RSタイプ)」)を用いて粉砕した。粗粉砕物の粉砕条件は、ミル回転数12,000rpm及び投入量2kg/時間とした。得られた粉砕物を、風力分級機(日鉄鉱業株式会社製「EJ-LABO型」)にて分級して、D50が7.0μmのトナーコアAを得た。トナーコアAは、軟化点(Tm)が114℃、ガラス転移点(Tg)が52℃であった。
(シェル層の形成)
温度計及び攪拌羽根を備えた3つ口フラスコをウォーターバスにセットし、フラスコ内にイオン交換水300gを投入した。その後、ウォーターバスを用いてフラスコ内の温度を30℃に保った。続けて、シェル層形成樹脂を含有するシェル層形成溶液(株式会社日本触媒製「エポクロス(登録商標)WS-300」、固形分濃度10質量%、ガラス転移点90℃)12g(固形分換算で1.2g)をフラスコ内に加えた後、フラスコ内容物を十分攪拌した。
続けて、フラスコ内に、トナーコア(トナーコアA)を300g添加し、回転速度200rpmでフラスコ内容物を1時間攪拌した。その後、フラスコ内にイオン交換水300gを添加した。続けて、濃度1質量%のアンモニア水溶液6mLをフラスコ内に添加した。
続けて、回転速度150rpmでフラスコ内容物を攪拌しながら、フラスコ内の温度を0.5℃/分の速度で60℃まで昇温させた。続けて、温度60℃を保持した状態で、フラスコ内容物を回転速度100rpmで1時間攪拌した。続けて、フラスコ内に濃度1質量%アンモニア水溶液を加えて、フラスコ内容物のpHを7に調整した。続けて、フラスコ内容物を常温(約25℃)になるまで冷却して、トナー母粒子を含む分散液を得た。
上記のようにして得られたトナー母粒子の分散液を、ブフナー漏斗を用いてろ過(固液分離)して、ウェットケーキ状のトナー母粒子を得た。その後、得られたウェットケーキ状のトナー母粒子をイオン交換水に再分散させた。このイオン交換水への分散とろ過とを5回繰り返して、トナー母粒子を洗浄した。
続けて、洗浄後のトナー母粒子を、濃度50質量%のエタノール溶液に分散させた。これにより、トナー母粒子を含有するスラリーを得た。続けて、連続式表面改質装置(フロイント産業株式会社製「コートマイザー(登録商標)」)を用いて、熱風温度45℃かつブロアー風量2m3/分の条件で、スラリー中のトナー母粒子を乾燥させた。その結果、トナー母粒子の粉体が得られた。
(外添)
FMミキサー(日本コークス工業株式会社製「FM-10B」)を用いて、回転速度3000rpm、ジャケット温度20℃の条件で、トナー母粒子100質量部と、乾式シリカ粒子(日本アエロジル株式会社製「AEROSIL(登録商標)REA90」、D50:20nm)1.0質量部とを混合した。これにより、トナー母粒子の表面に外添剤粒子(乾式シリカ粒子)を付着させた。その後、得られた混合物を、200メッシュ(目開き75μm)の篩を用いて篩別した。これにより、トナー粒子を含む実施例1のトナーを得た。
14Cの濃度測定]
以下の方法により、実施例1のトナーについて、加速器質量分析装置(AMS)を用いた放射性炭素同位体14Cの濃度測定を行った。CuOの存在下、実施例1のトナーを500℃で0.5時間加熱処理した後、850℃で2時間加熱処理し、発生した炭酸ガスを捕集した。この捕集炭酸ガスを用い、加速器質量分析装置を用い、14C、13C、12Cの存在比を測定した。得られた各同位体炭素量から、放射性炭素同位体14Cの濃度を算出した。
使用する材料の種類を下記表2に示す通りに変更した以外は、実施例1のトナーの調製と同様の方法により、実施例2~5、比較例1~3及び参考例のトナーを調製した。なお、比較例3のトナーの調製では、シェル層の形成を行わなかった。すなわち、トナーコアAに対して外添を行うことにより、比較例3のトナーを調製した。なお、下記表3において、「部」は、質量部を示す。また、シェル層形成樹脂の「部」は、固形分換算での質量部を示す。
Figure 2022182605000007
<評価>
以下の方法により、実施例1~5、比較例1~3及び参考例のトナーの低温定着性、耐ホットオフセット性、耐熱保存性、及び帯電安定性を評価した。評価結果を下記表3に示す。
[2成分現像剤の調製]
現像剤用キャリア(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製「FS-C5200DN」用のキャリア)100質量部と、評価対象となるトナー(詳しくは、実施例1~5、比較例1~3及び参考例のトナーの何れか)10質量部とを、プラスチックボトルに封入した。次に、ボウルミルを用いて上述のプラスチックボトルを100rpm、30分間回転させることで混合した。これにより、2成分現像剤を調製した。
[低温定着性]
低温定着性の評価では、評価機として、カラープリンター(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製「FS-C5200DN」から定着装置を取り外した改造機)を用いた。上述の2成分現像剤(詳しくは、実施例1~5、比較例1~3及び参考例のトナーの何れかを含む2成分現像剤)を、評価機のブラック用現像装置に投入した。また、補給用トナー(2成分現像剤に含まれるトナーと同一のトナー)を、評価機のブラック用トナーコンテナに投入した。
評価機を用いて、複数枚のA4サイズの印刷用紙(mondi社製「CC90」)に、トナー載り量1.0mg/cm2の条件で、2.5cm×2.5cmのソリッド画像(詳しくは、未定着のトナー像)を形成した。
続けて、評価用の定着装置を用意した。評価用の定着装置は、カラープリンター(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製「FS-C5200DN」)から取り外した定着装置に対して、単独で駆動できるようにする改造と、定着温度を調整できるようにする改造とを施したものであった。ソリッド画像が形成された複数枚の印刷用紙(評価用紙)を、上述の定着装置に通した。このとき、定着装置の温度(具体的には、定着装置に含まれる定着ローラーの温度)は、評価用紙毎に、150℃から100℃まで2℃刻みで低下させた。このようにして、各定着温度(100~150℃)で定着されたソリッド画像を得た。
得られたソリッド画像の各々に対して折擦り試験を行うことにより、低温オフセットが発生しているか否かを判断した。まず、定着装置に通した評価用紙を、ソリッド画像を形成した面が内側となるように折り曲げた。より詳細には、折り曲げ線がソリッド画像の略中央を通過するように評価用紙を折り曲げた。折り曲げた評価用紙について、布帛で底面を被覆した真鍮製の重り(1kg)を用いて、上からの力を加えずに折り目上を5往復摩擦した。その後、評価用紙を広げ、評価用紙の折り曲げ部のうちソリッド画像が定着された部分におけるトナーの剥がれの長さ(剥がれ長)を測定した。剥がれ長が1mm以下である場合、未定着のトナー像を定着させることができたと判断した。剥がれ長が1mm超である場合、低温オフセットが発生したと判断した。
各トナーにおいて、低温オフセットが発生しなかった定着温度の最低温度を最低定着温度とした。トナーの低温定着性は、最低定着温度が120℃未満の場合を「良好(A)」と評価し、最低定着温度が120℃以上の場合を「不良(B)」と評価した。
[耐ホットオフセット性]
上述の評価機を用いて、複数枚のA4サイズの印刷用紙(王子製紙株式会社製「上質コピー用紙」)に、トナー載り量1.0mg/cm2の条件で、2.5cm×2.5cmのソリッド画像(詳しくは、未定着のトナー像)を形成した。
続けて、ソリッド画像が形成された複数枚の印刷用紙を、上述の定着装置に通した。このとき、定着装置の温度(具体的には、定着装置に含まれる定着ローラーの温度)は、評価用紙毎に、150℃から200℃まで2℃刻みで増加させた。このようにして、各定着温度(150~200℃)でソリッド画像を定着した。各温度で定着するたびに、定着装置に含まれる定着ローラーの表面を目視で観察し、トナーが付着しているか否かを確認した。定着ローラーの表面にトナーが付着している場合、ホットオフセットが発生したと判断した。
各トナーにおいて、ホットオフセットが発生しなかった定着温度の最高温度を最高定着温度とした。トナーの耐ホットオフセット性は、最高定着温度が180℃以上の場合を「良好(A)」と評価し、最高定着温度が180℃未満の場合を「不良(B)」と評価した。
[耐熱保存性]
測定対象となるトナー(詳しくは、実施例1~5、比較例1~3及び参考例のトナーの何れか)10gをガラス瓶に秤量した。50℃に設定された恒温槽内に上述のガラス瓶を100時間静置することで、耐熱保存性評価用の試料を得た。得られた試料10gを、140メッシュ(目開き106μm)の質量既知の篩に載せた。ホソカワミクロン株式会社製の「パウダテスタ(登録商標)PT-X」に上述の篩をセットし、「パウダテスタ(登録商標)PT-X」のマニュアルに従い、振幅2.0mmの条件で30秒間、篩を振動させた。このようにして、試料を篩別した。篩別後、篩を通過しなかった試料の質量を測定した。篩別前の試料の質量(10g)と、篩別後の試料の質量と、下記式とに基づいて、試料の凝集度[%]を求めた。なお、下記式における「篩別後の試料の質量」は、篩を通過しなかった試料の質量(篩別後に篩上に残留した試料の質量)である。
凝集度=100×篩別後の試料の質量/篩別前の試料の質量
凝集度に基づいて、各トナーの耐熱保存性を評価した。各トナーの耐熱保存性は、凝集度が10%未満の場合を良好(A)、凝集度が10%以上の場合を不良(B)と評価した。
[帯電安定性]
帯電安定性の指標として、トナー(より具体的には、実施例1~5、比較例1~3及び参考例のトナーのいずれか)の電荷減衰係数を測定した。電荷減衰係数は、静電気拡散率測定装置(株式会社ナノシーズ製「NS-D100」)を用いて、JIS(日本産業規格)C 61340-2-1-2006に準拠した方法で測定した。
まず、測定セルに試料(トナー)を入れた。測定セルとしては、凹部(内径:10mm、深さ:1mm)が形成された金属製のセルを用いた。スライドガラスを用いて試料を上から押し込み、セルの凹部に試料を充填した。セルの表面においてスライドガラスを往復移動させることによって、セルから溢れた試料を除去した。試料の充填量は50mgとした。試料が充填された測定セルを接地させた後、この測定セルを静電気拡散率測定装置内に置いた。この静電気拡散率測定装置を温度32.5℃、湿度80%RHの環境下で12時間静置した。
同環境において、静電気拡散率測定装置の表面電位計を0Vに調整した後、静電気拡散率測定装置によってトナーの電荷減衰係数αを測定した。測定においては、表面電位10kV、帯電時間0.5秒、サンプリング周波数10Hz、最大測定時間300秒とした。静電気拡散率測定装置によって測定された表面電位と、下記式とに基づいて、減衰時間2秒におけるトナーの電荷減衰係数(電荷減衰速度)αを算出した。
V=V0exp(-α√t)
(式中、Vは表面電位[単位:V]を表し、V0は初期表面電位[単位:V]を表し、tは減衰時間[単位:秒]を表す。)
帯電安定性の評価基準を以下に示す。トナーは、電荷減衰係数αの値が大きいほど、トナーから電荷が抜け易く帯電安定性に劣る。
良好(A):電荷減衰係数αが0.0250以下
不良(B):電荷減衰係数αが0.0250超
Figure 2022182605000008
表1~3に示す通り、実施例1~5のトナーは、トナー粒子を含んでいた。トナー粒子は、トナー母粒子を含んでいた。トナー母粒子は、トナーコアと、トナーコアの表面を被覆するシェル層とを備えていた。トナーコアは、特定ポリエステル樹脂と着色剤とを含有していた。シェル層は、一般式(A)で表される第一繰り返し単位を有する特定ビニル樹脂を含有していた。特定ポリエステル樹脂は、1,2-プロパンジオールに由来する繰り返し単位を有していた。特定ポリエステル樹脂の酸価は、14mgKOH/g以上32mgKOH/g以下であった。トナー粒子の放射性炭素同位体14Cの濃度は、26.9pMC以上60.0pMC以下であった。実施例1~5のトナーは、環境への負荷が少なく、かつ低温定着性、耐ホットオフセット性、耐熱保存性及び帯電安定性に優れていた。
一方、比較例1~3のトナーは、上述の構成を備えていなかった。その結果、比較例1~3のトナーは、低温定着性、耐ホットオフセット性、耐熱保存性及び帯電安定性のうち少なくとも一つが不良であった。
詳しくは、比較例1のトナーは、特定ポリエステル樹脂の酸価が過度に低いため、シェル層形成樹脂と特定ポリエステル樹脂とが十分に架橋しなかったと判断される。その結果、比較例1のトナーは、耐ホットオフセット性及び耐熱保存性が不良であったと判断される。
比較例2のトナーは、特定ポリエステル樹脂の酸価が過度に高いため、シェル層形成樹脂と特定ポリエステル樹脂とが過度に架橋したと判断される。その結果、比較例2のトナーは、低温定着性が不良であったと判断される。
比較例3のトナーは、シェル層の形成を行わなかった。その結果、比較例3のトナーは、耐ホットオフセット性、耐熱保存性及び帯電安定性が不良であったと判断される。
参考例のトナーは、トナー粒子の放射性炭素同位体14Cの濃度が26.9pMC未満であった。参考例のトナーは、原料におけるバイオマスの使用量が少なかった。
本発明に係るトナーは、例えば複写機、プリンター、又は複合機において画像を形成するために用いることができる。
1 :トナー粒子
10 :トナー母粒子
11 :トナーコア
12 :シェル層
13 :外添剤粒子
112:シェル層形成樹脂
21 :アミドエステル結合

Claims (3)

  1. トナー粒子を含むトナーであって、
    前記トナー粒子は、トナー母粒子を含み、
    前記トナー母粒子は、トナーコアと、前記トナーコアの表面を被覆するシェル層とを備え、
    前記トナーコアは、特定ポリエステル樹脂と着色剤とを含有し、
    前記シェル層は、下記一般式(A)で表される第一繰り返し単位を有する特定ビニル樹脂を含有し、
    前記特定ポリエステル樹脂は、1,2-プロパンジオールに由来する繰り返し単位を有し、
    前記特定ポリエステル樹脂の酸価は、14mgKOH/g以上32mgKOH/g以下であり、
    前記トナー粒子の放射性炭素同位体14Cの濃度は、26.9pMC以上60.0pMC以下である、トナー。
    Figure 2022182605000009
    (前記一般式(A)中、R1は、水素原子、又はフェニル基で置換されていてもよい炭素原子数1以上10以下のアルキル基を表し、*は、前記トナーコアが含有する前記特定ポリエステル樹脂に含まれる原子との結合部位を表す。)
  2. 前記特定ビニル樹脂は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する第二繰り返し単位を更に有する、請求項1に記載のトナー。
  3. 前記特定ポリエステル樹脂の軟化点は、108℃以上132℃以下である、請求項1又は2に記載のトナー。
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