JP2022175939A - シート - Google Patents

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Abstract

【課題】本発明は、微細繊維状セルロースを含む繊維層と無機層を有するシートであって、優れた耐久性を発揮し得るシートを提供することを課題とする。【解決手段】本発明は、繊維層と、繊維層の両面に樹脂層を有し、樹脂層の少なくとも一方の側に形成された無機層を有するシートであって、繊維層は、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースと、親水性高分子と、を含み、親水性高分子は、水酸基を含有する構成単位を有する、シートに関する。【選択図】図1

Description

本発明は、シートに関する。具体的には、本発明は、微細繊維状セルロースを含むシートに関する。
近年、石油資源の代替及び環境意識の高まりから、再生産可能な天然繊維を利用した材料が着目されている。天然繊維の中でも、繊維径が10μm以上50μm以下の繊維状セルロース、特に木材由来の繊維状セルロース(パルプ)は、主に紙製品としてこれまで幅広く使用されてきた。
繊維状セルロースとしては、繊維径が1μm以下の微細繊維状セルロースも知られている。そして、このような微細繊維状セルロースから構成されるシートや、微細繊維状セルロース含有シートと樹脂層を含む複合体、微細繊維状セルロース含有シートと無機層を含む複合シートの開発が検討されている。
例えば、特許文献1には、高分子組成物からなる基材の少なくとも一方の面に、無機化合物からなる第1層と、短方向の繊維幅が380nm以下のセルロースファイバーを含む第2層とを備える積層体が開示されている。特許文献1では、上記構成とすることで、バリア性を有する積層体を得ることが検討されている。また、特許文献2には、微細繊維を含む基材シート層、および基材シート層の少なくとも一方の側に形成された無機層を含む複合シートが開示されている。なお、特許文献2の実施例においては、微細繊維を含む基材シート層に、ポリエチレングリコールが添加されている。
特開2010-125814号公報 特開2016-37031号公報
上述したとおり、微細繊維状セルロース含有シートと無機層を含む複合シートが知られている。微細繊維状セルロース含有シートと無機層を含む複合シートの用途は多岐にわたり、その用途によっては、複合シートに高い耐久性が要求される場合がある。しかしながら、従来技術の複合シートにおいては、複合シートの耐久性が十分に得られない場合があり、改善が求められていた。
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、微細繊維状セルロースを含む繊維層と無機層を有するシートであって、優れた耐久性を発揮し得るシートを提供することを目的として検討を進めた。
具体的に、本発明は、以下の構成を有する。
[1] 繊維層と、繊維層の両面に樹脂層を有し、樹脂層の少なくとも一方の側に形成された無機層を有するシートであって、
繊維層は、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースと、親水性高分子と、を含み、
親水性高分子は、水酸基を含有する構成単位を有する、シート。
[2] 親水性高分子は、ポリビニルアルコール又はセルロース誘導体である、[1]に記載のシート。
[3] 繊維状セルロースは、イオン性置換基を有する、[1]又は[2]に記載のシート。
[4] イオン性置換基は、リンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基である、[3]に記載のシート。
[5] 無機層は、酸化チタン、酸化アルミニウム及び二酸化ケイ素からなる群から選択される少なくとも1種を含む、[1]~[4]のいずれかに記載のシート。
[6] 無機層の厚みが10nm以上である、[1]~[5]のいずれかに記載のシート。
[7] 無機層の厚みが500nm以下である、[1]~[6]のいずれかに記載のシート。
[8] 樹脂層の厚みは、それぞれ10μm以下である、[1]~[7]のいずれかに記載のシート。
[9] 樹脂層は非晶性樹脂を含む、[1]~[8]のいずれかに記載のシート。
[10] 樹脂層は溶剤塗工層である、[1]~[9]のいずれかに記載のシート。
[11] 無機層の露出表面の表面粗さが10nm以下である、[1]~[10]のいずれかに記載のシート。
[12] ヘーズ値が1.0%以下である、[1]~[11]のいずれかに記載のシート。
[13] 85℃、相対湿度85%の環境下に240時間置いた後のヘーズ値が1.5%以下である、[1]~[12]のいずれかに記載のシート。
[14] 水蒸気透過率が10g/m/day以下である、[1]~[13]のいずれかに記載のシート。
[15] 光学部材用である、[1]~[14]のいずれかに記載のシート。
本発明によれば、微細繊維状セルロースを含む繊維層と無機層を有するシートであって、優れた耐久性を発揮し得るシートを得ることができる。
図1は、本実施形態のシートの構成を説明する断面図である。 図2は、リンオキソ酸基を有する繊維状セルロース含有スラリーに対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。 図3は、カルボキシ基を有する繊維状セルロース含有スラリーに対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。
(シート)
本実施形態は、繊維層と、繊維層の両面に樹脂層を有し、樹脂層の少なくとも一方の側に形成された無機層を有するシートである。繊維層は、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースと、親水性高分子と、を含み、親水性高分子は、水酸基を含有する構成単位を有する。なお、本明細書において、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを微細繊維状セルロースもしくはCNFと呼ぶこともある。
本実施形態のシートは上記構成を有するため、耐久性に優れている。本明細書において、シートの耐久性は、シートを高温高湿環境下に長時間置いた前後のヘーズ変化が小さく、かつ、シートを高温高湿環境下に長時間置いた前後の重量変化率が小さい場合に良好であると評価できる。
具体的には、積層シートの耐久性は、積層シートを85℃、相対湿度85%の条件下に10日間(240時間)静置し、上記条件処理前後(耐久性試験前後)の積層シートのヘーズ変化量と、処理前後の積層シートの重量変化率を算出することで評価できる。耐久性試験前後の積層シートのヘーズは、JIS K 7136:2000に準拠し、ヘーズメーター(株式会社村上色彩技術研究所製、HM-150)を用いて測定され、耐久性試験前後の積層シートのヘーズの差(Δヘーズ)は1.5%未満であることが好ましい。また、耐久性試験後の積層シートの重量変化率は、以下の式により算出され、積層シートの重量変化率は10%未満であることが好ましい。
重量変化率(%)=((耐久性試験後の積層シートの重量-耐久性試験前の積層シートの重量)/耐久性試験前の積層シートの重量)×100
耐久性試験前の積層シートの重量:耐久性試験前の積層シートの重量であって、23℃、相対湿度50%条件下で調湿した後の積層シートの重量(g)
耐久性試験後の積層シートの重量:耐久性試験(85℃、相対湿度85%の条件下に10日間(240時間)静置)の積層シートの重量であって、上記条件処理後すぐに測定したの積層シートの重量(g)
また、本実施形態のシートは、耐黄変性にも優れている。例えば、積層シートを85℃、相対湿度85%の条件下に10日間(240時間)静置した場合、上記条件処理前後(耐久性試験前後)の積層シートの黄色度変化(ΔYI値)は、10以下であることが好ましく、5以下であることがより好ましく、2.5以下であることがさらに好ましく、2以下であることが一層好ましい。耐久性試験前後の積層シートの黄色度変化(ΔYI値)の下限値は特に限定されるものではなく、0であってもよい。なお、耐久性試験前後の積層シートの黄色度変化(ΔYI値)は以下の式で算出され、積層シートの黄色度(YI)は、JIS K 7373:2006に準拠し測定される値である。
ΔYI=(耐久性試験後の積層シートのYI)-(耐久性試験前の積層シートのYI)
繊維層が、水酸基を含有する構成単位を有する親水性高分子を含むことで、高温高湿下においても親水性高分子の分解(低重合度化)を抑制することができるため、高温高湿環境下に置いた際のヘーズの上昇を抑制することができるものと考えられる。なお、繊維層に含まれる高分子が分解(低重合度化)した場合、繊維層表面に高分子に由来する成分が析出し、ヘーズ等の上昇が生じるものと考えられる。そして、繊維層の両面に樹脂層を設け、その上にさらに無機層を設けることで水蒸気透過率を抑制し、吸湿性を抑制することができるため、高温高湿環境下に置いた際のヘーズの上昇を効果的に抑制することができ、さらにシート全体の重量変化を抑制することもできる。
図1は、本実施形態のシートの構成を説明する断面図である。図1に示されているように、本実施形態のシート10は、微細繊維状セルロースを含む繊維層2と、繊維層2の両面に樹脂を主成分として含む樹脂層6(第1の樹脂層及び第2の樹脂層)を有し、さらに樹脂層6上に無機層8(第1の無機層及び第2の無機層)を有している。図1では、両面に無機層6を有する構成を描画しているが、本実施形態においては、片面のみに無機層6を有していてもよい。なお、図1に示されるように、本実施形態のシート10は、積層構造を有するシートであるため、積層シートと称されることもある。なお、シート10における無機層8/樹脂層6/繊維層2/樹脂層6/無機層8の構成において、無機層と樹脂層、樹脂層と繊維層の間には接着層等の他の層が設けられてもよいが、本実施形態においては各層は互いに接した状態で直接積層された構成であることが好ましい。
本実施形態のシートにおいて、無機層の露出表面の表面粗さ(Ra)は、10nm以下であることが好ましく、8.5nm以下であることがより好ましく、7nm以下であることがさらに好ましい。なお、無機層の露出表面の表面粗さ(Ra)の下限値は特に限定されるものではないが、例えば0.5nm以上であることが好ましい。なお、シートの両面に無機層が設けられている場合には、シートの両面の表面粗さ(Ra)が各々上記範囲内であることが好ましい。この場合、一方の面の無機層(第1の無機層)側の表面と他方の面の無機層(第2の無機層)側の表面の表面粗さ(Ra)は同一の値であってもよく、上記範囲内で異なる数値であってもよい。
シートの表面粗さ(Ra)は、JIS B 0601:1994に準拠し、光干渉式非接触表面形状測定機によって測定される値である。光干渉式非接触表面形状測定機としては、例えば、菱化システム株式会社製、非接触表面・層断面形状測定システムVertScan2.0、R5500GMLを用いることができる。なお、表面粗さの測定は、×10対物レンズを用いて測定範囲470μm×350μmで行い、その平均値から算術平均粗さ(Ra)を算出する。
シートのヘーズは、1.0%以下であることが好ましく、0.7%以下であることがより好ましく、0.5%以下であることがさらに好ましい。シートのヘーズは、JIS K 7136:2000に準拠し、ヘーズメーターを用いて、測定される値である。ヘーズメーターとしては、例えば、株式会社村上色彩技術研究所製、HM-150を使用できる。
上述したように、本実施形態のシートは樹脂層及び無機層を積層した場合であっても優れた透明性を発揮することができる。本実施形態においてシートの透明性は、例えば、シートの表面粗さを小さくしたり、繊維層に含まれる微細繊維状セルロースや親水性高分子を適切に選択することなどによって達成される。本実施形態のシートは極めて高透明なシートであるため、例えば、光学部材用や、光学部材貼合用シートとして有用である。また、光学部材の用途の他にも高透明性が要求される用途に好適である。
シートの全光線透過率は、85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。ここで、シートの全光線透過率は、JIS K 7361-1:1997に準拠し、ヘーズメーターを用いて、測定される値である。ヘーズメーターとしては、例えば、株式会社村上色彩技術研究所製、HM-150を使用できる。
シートの水蒸気透過率は100g/m/day以下であることが好ましく、50g/m/day以下であることがより好ましく、10g/m/day以下であることがさらに好ましく、5g/m/dayであることが一層好ましい。また、シートの水蒸気透過率の下限値は特に限定されるものではないが0g/m/day以上であることが好ましい。水蒸気透過率は、JIS K 7129-2:2019に準拠し、透湿度測定装置を用いて測定される、40℃、相対湿度90%条件下における値である。透湿度測定装置としては、例えば、モコン社製、PERMATRAN-W 3/33を使用できる。
シートの23℃、相対湿度50%における引張弾性率は、2.5GPa以上であることが好ましく、5GPa以上であることがより好ましく、7GPa以上であることがさらに好ましく、9GPa以上であることが一層好ましく、10GPa以上であることが特に好ましい。また、シートの23℃、相対湿度50%における引張弾性率は、30GPa以下であることが好ましい。シートの引張弾性率は、JIS P 8113:2006に準拠して測定される値であり、引張弾性率は、SSカーブ(応力-ひずみ曲線)における正の最大の傾き値から算出される値である。
シートの全体厚みは、特に制限されるものではないが、10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましく、30μm以上であることがさらに好ましい。また、シートの全体厚みは、1000μm以下であることが好ましく、800μm以下であることがより好ましく、600μm以下であることがさらに好ましい。シートの厚みはその用途に応じて適宜調整することが好ましい。なお、シートの厚みは定圧厚さ計測定器(TECLOCK CORPORATION製、PG-02)で測定することができる。
シートの全体坪量は、10g/m以上であることが好ましく、20g/m以上であることがより好ましく、30g/m以上であることがさらに好ましい。また、シートの全体坪量は、特に制限されるものではないが、5000g/m以下であることが好ましく、2500g/m以下であることがより好ましく、1000g/m以下であることがさらに好ましく、500g/m以下であることが特に好ましい。シートの坪量は、JIS P 8124:2011に準拠して測定する。
シートの全体密度は、1.0g/cm以上であることが好ましく、1.2g/cm以上であることがより好ましく、1.3g/cm以上であることがさらに好ましく、1.4g/cm以上であることが特に好ましい。シートの密度は、シートの坪量を厚みで除すことで算出する。なお、シートの厚みは定圧厚さ計測定器(TECLOCK CORPORATION製、PG-02)で測定することができる。
シートが有する水分の含有率(水分率)は、15質量%以下であることが好ましく、12質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましく、5質量%以下であることが特に好ましい。ここで、シートの水分率は、次のように評価できる。具体的には、シートを5cm×5cmの試験片となるように切り出し、試験片を23℃、相対湿度50%で24時間調湿した後、105℃の恒温機で絶乾状態となるまで乾燥させ、調湿後の試験片の重量をW(g)、乾燥後の試験片の重量をDとし、(W-D)/W×100で算出される値をシートの水分率(質量%)とする。シートの水分率を上記範囲内とすることにより、引張弾性率等の引張特性を向上させることができる。
(無機層)
無機層を構成する物質としては、特に限定されないが、例えばアルミニウム、ケイ素、マグネシウム、亜鉛、錫、ニッケル、チタン;これらの酸化物、炭化物、窒化物、酸化炭化物、酸化窒化物、もしくは酸化炭化窒化物;またはこれらの混合物が挙げられる。中でも、無機層は、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ケイ素(二酸化ケイ素)、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、酸化炭化ケイ素、酸化窒化ケイ素、酸化炭化窒化ケイ素、酸化炭化アルミニウム及び酸化窒化アルミニウムからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、酸化チタン、酸化アルミニウム及び二酸化ケイ素からなる群から選択される少なくとも1種を含むことがより好ましい。なお、無機層はこれらの混合物を含むものであってもよい。無機層を構成する物質を上記物質とすることにより、水蒸気透過率をより効果的に高めることができ、シート全体の耐久性も高めることができる。
無機層の形成方法は、特に限定されない。一般に、薄膜を形成する方法は大別して、化学的気相成長法(Chemical Vapor Deposition、CVD)と物理成膜法(Physical Vapor Deposition、PVD)とがあるが、いずれの方法を採用してもよい。CVD法としては、具体的には、プラズマを利用したプラズマCVD、加熱触媒体を用いて材料ガスを接触熱分解する触媒化学気相成長法(Cat-CVD)等が挙げられる。PVD法としては、具体的には、真空蒸着、イオンプレーティング、イオンアシスト蒸着、分子線蒸着、スパッタリング等が挙げられる。
また、無機層の形成方法としては、原子層堆積法(Atomic Layer Deposition、ALD)を採用することもできる。ALD法は、形成しようとする膜を構成する各元素の原料ガスを、層を形成する面に交互に供給することにより、原子層単位で薄膜を形成する方法である。成膜速度が遅いという欠点はあるが、プラズマCVD法以上に、複雑な形状の面でもきれいに覆うことができ、欠陥の少ない薄膜を成膜することが可能であるという利点がある。また、ALD法には、膜厚をナノオーダーで制御することができ、広い面を覆うことが比較的容易である等の利点がある。さらにALD法は、プラズマを用いることにより、反応速度の向上、低温プロセス化、未反応ガスの減少が期待できる。
無機層の厚みは、特に限定されないが、5nm以上であることが好ましく、10nm以上であることがより好ましく、15nm以上であることがさらに好ましい。無機層の厚みは、透明性、フレキシブル性の観点から、1000nm以下であることが好ましく、800nm以下であることがより好ましく、500nm以下であることがさらに好ましい。なお、シートが無機層を2複数層有する場合には、無機層の厚みは、各々の無機層の厚みを指す。
(樹脂層)
樹脂層は、天然樹脂や合成樹脂を主成分とする層である。ここで、主成分とは、樹脂層の全質量に対して、50質量%以上含まれている成分を指す。樹脂の含有量は、樹脂層の全質量に対して、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましく、90質量%以上であることが特に好ましい。なお、樹脂の含有量は、100質量%であってもよい。
本実施形態においては、各樹脂層の厚みは10μm以下であることが好ましく、8μm以下であることがより好ましく、6μm以下であることがさらに好ましく、5μm以下であることが一層好ましく、4μm以下であることが特に好ましい。また、各樹脂層の厚みは、0.1μm以上であることが好ましい。なお、繊維層の各々の面に設けられた樹脂層(第1の樹脂層及び第2の樹脂層)の両方の値が上記範囲内であることが好ましい。ここで、シートを構成する樹脂層の厚さは、ウルトラミクロトームUC-7(日本電子株式会社製)によってシートの断面を切り出し、当該断面を電子顕微鏡、拡大鏡又は目視で観察して、測定される値である。
天然樹脂としては、例えば、ロジン、ロジンエステル、水添ロジンエステル等のロジン系樹脂を挙げることができる。
合成樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリスチレン樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂等を挙げることができる。中でも、合成樹脂は、非晶性樹脂であることが好ましく、ポリカーボネート樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂及びフッ素樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、ポリカーボネート樹脂及びアクリル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であることがさらに好ましい。なお、アクリル樹脂には、ウレタンアクリル樹脂も含まれる。
樹脂層を構成するポリカーボネート樹脂としては、例えば、芳香族ポリカーボネート系樹脂、脂肪族ポリカーボネート系樹脂が挙げられる。これらの具体的なポリカーボネート系樹脂は公知であり、例えば特開2010-023275号公報に記載されたポリカーボネート系樹脂が挙げられる。
樹脂層は疎水性樹脂を含むことが好ましい。なお、本明細書においては、疎水性樹脂とは、乾燥状態において水との接触角が60度以上の樹脂と定義する。ここで、「乾燥状態において」とは、例えば、疎水性樹脂がエマルション状態にあるときのように水と親和性を有するような状態ではないことを意味する。
樹脂層は密着助剤を含有していてもよい。密着助剤としては、例えば、イソシアネート基、カルボジイミド基、エポキシ基、オキサゾリン基、アミノ基及びシラノール基からなる群から選択される少なくとも1種を含む化合物や、有機ケイ素化合物が挙げられる。有機ケイ素化合物としては、例えば、シランカップリング剤縮合物や、シランカップリング剤を挙げることができる。中でも、密着助剤はイソシアネート基を含む化合物(イソシアネート化合物)であることが好ましく、樹脂層はイソシアネート化合物を含むものであることが好ましい。
イソシアネート化合物としては、ポリイソシアネート化合物又は多官能イソシアネートが挙げられる。ポリイソシアネート化合物としては、具体的には、NCO基中の炭素を除く炭素数が6以上20以下の芳香族ポリイソシアネート、炭素数2以上18以下の脂肪族ポリイソシアネート、炭素数6以上15以下の脂環式ポリイソシアネート、炭素数8以上15以下のアラルキル型ポリイソシアネート、これらのポリイソシアネートの変性物、およびこれらの2種以上の混合物を挙げることができる。中でも、炭素数6以上15以下の脂環式ポリイソシアネート、すなわちイソシアヌレートは好ましく用いられる。
脂環式ポリイソシアネートの具体例としては、例えばイソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート(水添MDI)、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、ビス(2-イソシアナトエチル)-4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボキシレート、2,5-ノルボルナンジイソシアネート、2,6-ノルボルナンジイソシアネート等が挙げられる。
有機ケイ素化合物としては、シロキサン構造を有する化合物、または縮合によりシロキサン構造を形成する化合物を挙げることができる。例えば、シランカップリング剤、またはシランカップリング剤の縮合物を挙げることができる。シランカップリング剤としては、アルコキシシリル基以外の官能基を有するものであってもよいし、それ以外の官能基を有しないものであってもよい。アルコキシシリル基以外の官能基としては、ビニル基、エポキシ基、スチリル基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、スルフィド基、イソシアネート基などが挙げられる。本実施形態で用いるシランカップリング剤は、メタクリロキシ基を含有するシランカップリング剤であることが好ましい。
分子内にメタクリロキシ基を有するシランカップリング剤の具体的な例としては、例えば、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、1,3-ビス(3-メタクリロキシプロピル)テトラメチルジシロキサンなどが挙げられる。中でも、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン及び1,3-ビス(3-メタクリロキシプロピル)テトラメチルジシロキサンから選択される少なくとも1種は好ましく用いられる。シランカップリング剤は、アルコキシシリル基を3つ以上含有するものであることが好ましい。
シランカップリング剤においては、加水分解後にシラノール基が生成し、シラノール基の少なくとも一部は繊維層を積層した後にも存在していることが好ましい。シラノール基は親水性基であるため、樹脂層の繊維層側の面の親水性を高めることで、樹脂層と繊維層の密着性を高めることもできる。
密着助剤は、樹脂層に均一に分散した状態で含まれていてもよい。ここで、密着助剤が樹脂層中に均一に分散した状態とは、以下の3つの領域((a)~(c))の濃度を測定して、どの2領域の濃度を比較しても2倍以上の差がでない状態をいう。
(a)樹脂層の繊維層側の面から樹脂層の全体の厚みの10%までの領域
(b)樹脂層の繊維層側の面とは反対側の面から樹脂層の全体の厚みの10%までの領域
(c)樹脂層の厚み方向の中心面から全体の厚みの±5%(合計10%)の領域
また、密着助剤は、樹脂層の繊維層側の領域に偏在していてもよい。例えば、密着助剤として有機ケイ素化合物が用いられる場合、有機ケイ素化合物は、樹脂層の繊維層側の領域に偏在していてもよい。
ここで、樹脂層の繊維層側の領域に偏在している状態とは、以下の領域((d)及び(e))の2つの濃度を測定して、これらの濃度に2倍以上の差がでる状態をいう。
(d)樹脂層の繊維層側の面から樹脂層の全体の厚みの10%までの領域
(e)樹脂層の厚み方向の中心面から全体の厚みの±5%(合計10%)の領域
ここで、密着助剤の濃度は、X線電子分光装置又は赤外分光光度計によって測定される数値であり、ウルトラミクロトームUC-7(日本電子株式会社製)によってシートの所定の領域の断面を切り出し、当該断面を当該装置によって測定して得る値である。
樹脂層の繊維層側の面上には、有機ケイ素化合物含有層が設けられていてもよく、このような状態も有機ケイ素化合物が樹脂層の繊維層側の領域に偏在している状態に含まれる。有機ケイ素化合物含有層は、有機ケイ素化合物含有塗工液を塗工することで形成された塗工層であってもよい。
なお、樹脂層の繊維層側の面上に有機ケイ素化合物含有層が設けられている場合は、上記領域(d)において、「樹脂層の繊維層側の面」は、「有機ケイ素化合物含有層の露出表面」と読み替えるものとし、「樹脂層全体の厚み」は「樹脂層と有機ケイ素化合物含有層の合計厚み」と読み替えるものとする。
密着助剤の含有量は、樹脂層に含まれる樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、0.5質量部以上であることがより好ましい。また、密着助剤の含有量は、樹脂層に含まれる樹脂100質量部に対して、40質量部以下であることが好ましく、35質量部以下であることがより好ましい。
密着助剤がイソシアネート化合物である場合、イソシアネート化合物の含有量は樹脂層に含まれる樹脂100質量部に対して、10質量部以上であることが好ましく、15質量部以上であることがより好ましく、18質量部以上であることがさらに好ましい。また、イソシアネート化合物の含有量は樹脂層に含まれる樹脂100質量部に対して、40質量部以下であることが好ましく、35質量部以下であることがより好ましく、30質量部以下であることがさらに好ましい。
密着助剤が有機ケイ素化合物である場合、有機ケイ素化合物の含有量は樹脂層に含まれる樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、0.5質量部以上であることがより好ましい。また、有機ケイ素化合物の含有量は樹脂層に含まれる樹脂100質量部に対して、10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましい。密着助剤の含有量を上記範囲内とすることにより、より効果的に、繊維層と樹脂層の密着性を高めることができる。
密着助剤がイソシアネート化合物である場合、樹脂層に含まれるイソシアネート基の含有量は、0.5mmol/g以上であることが好ましく、0.6mmol/g以上であることがより好ましく、0.8mmol/g以上であることがさらに好ましく、0.9mmol/g以上であることが特に好ましい。また、樹脂層に含まれるイソシアネート基の含有量は、3.0mmol/g以下であることが好ましく、2.5mmol/g以下であることがより好ましく、2.0mmol/g以下であることがさらに好ましく、1.5mmol/g以下であることが特に好ましい。
樹脂層の繊維層側の面には表面処理を施してもよい。表面処理の方法としては、例えば、コロナ処理、プラズマ放電処理、UV照射処理、電子線照射処理、火炎処理等を挙げることができる。中でも、表面処理は、コロナ処理及びプラズマ放電処理から選択される少なくとも1種であることが好ましい。なお、プラズマ放電処理は真空プラズマ放電処理であることが好ましい。
樹脂層には、本実施形態の効果を損なわない範囲において、合成樹脂以外の任意成分が含まれていてもよい。任意成分としては、例えば、フィラー、顔料、染料、紫外線吸収剤等の樹脂フィルム分野で使用される公知成分が挙げられる。
本実施形態において、樹脂層は紫外線硬化型樹脂層であってもよく、溶剤塗工層であってもよい。中でも、樹脂層は溶剤塗工層であることが好ましい。すなわち、樹脂層は、繊維層上に溶剤を含む樹脂塗工液を塗工して硬化させることにより形成される層であることが好ましい。このように樹脂層を溶剤塗工層とすることにより、シートの表面粗さを小さくすることができ、より高い透明性を発揮するシートを効率よく製造することができる。
樹脂層が紫外線硬化型樹脂層である場合、樹脂塗工液には、光重合開始剤が含まれることが好ましい。例えば、繊維層上に溶剤と光重合開始剤を含む樹脂塗工液を塗工して、加熱乾燥により溶剤を揮発させた後、紫外線を照射することにより樹脂層を形成することができる。紫外線の照射量は、光重合開始剤がラジカルを発生させる範囲であれば、任意である。
(繊維層)
繊維層は、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロース(微細繊維状セルロース)と、水酸基を含有する構成単位を有する親水性高分子とを含む。繊維層における微細繊維状セルロースの含有量は、繊維層の全質量に対して10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましく、40質量%以上であることが一層好ましい。
繊維層の厚みは10μm以上であることが好ましく、15μm以上であることがより好ましく、20μm以上であることがさらに好ましい。また、繊維層の厚みは、1000μm以下であることが好ましく、800μm以下であることがより好ましく、600μm以下であることがさらに好ましい。ここで、シートを構成する繊維層の厚さは、ウルトラミクロトームUC-7(日本電子株式会社)によってシートの断面を切り出し、当該断面を電子顕微鏡、拡大鏡又は目視で観察して、測定される値である。
繊維層の密度は、1.0g/cm以上であることが好ましく、1.1g/cm以上であることがより好ましく、1.2g/cm以上であることがさらに好ましい。また、繊維層の密度は、1.8g/cm以下であることが好ましく、1.7g/cm以下であることがより好ましく、1.6g/cm以下であることがさらに好ましい。
繊維層の密度は、繊維層の坪量と厚さから、算出される。繊維層の坪量は、ウルトラミクロトームUC-7(日本電子株式会社)によってシートの繊維層のみが残るように切削し、以下の方法にしたがって算出される値である。50mm角以上の大きさに切り出したシートを23℃、相対湿度50%で24時間調湿した後、重量を測定し、この重量を切り出したシートの面積で除することで坪量を算出する。なお、繊維層が微細繊維状セルロース以外の任意成分を含む場合は、繊維層の密度は、微細繊維状セルロース以外の任意成分を含む密度である。
本実施形態においては、繊維層は非多孔性の層であることが好ましい。ここで、繊維層が非多孔性であるとは、繊維層全体の密度が1.0g/cm以上であることを意味する。繊維層全体の密度が1.0g/cm以上であれば、繊維層に含まれる空隙率が、所定値以下に抑えられていることを意味し、多孔性のシートや層とは区別される。
また、繊維層が非多孔性であることは、空隙率が15体積%以下であることからも特徴付けられる。ここでいう繊維層の空隙率は簡易的に下記式(a)により求められるものである。
式(a):空隙率(体積%)={1-B/(M×A×t)}×100
ここで、Aは繊維層の面積(cm)、tは繊維層の厚み(cm)、Bは繊維層の質量(g)、Mは繊維層を構成する固形分の密度である。
<微細繊維状セルロース>
繊維層は、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含む。繊維状セルロースの繊維幅は100nm以下であることがより好ましく、50nm以下であることがより好ましく、20nm以下であることがさらに好ましく、10nm以下であることが一層好ましく、8nm以下であることが特に好ましい。繊維状セルロースの繊維幅を上記範囲内とすることにより、繊維状セルロースの分散性をより効果的に高めることができ、高強度かつ高透明な繊維層が得られやすくなる。
繊維状セルロースの繊維幅は、たとえば電子顕微鏡観察などにより測定することが可能である。繊維状セルロースの平均繊維幅は、たとえば1000nm以下である。繊維状セルロースの平均繊維幅は、たとえば2nm以上1000nm以下であることが好ましく、2nm以上100nm以下であることがより好ましく、2nm以上50nm以下であることがさらに好ましく、2nm以上20nm以下であることが一層好ましく、2nm以上10nm以下であることが特に好ましい。繊維状セルロースの平均繊維幅を2nm以上とすることにより、セルロース分子として水に溶解することを抑制しやすくなる。なお、繊維状セルロースは、たとえば単繊維状のセルロースである。
繊維状セルロースの平均繊維幅は、たとえば電子顕微鏡を用いて以下のようにして測定される。まず、濃度0.05質量%以上0.1質量%以下の繊維状セルロースの水系懸濁液を調製し、この懸濁液を親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストしてTEM観察用試料とする。幅の広い繊維を含む場合には、ガラス上にキャストした表面のSEM像を観察してもよい。次いで、観察対象となる繊維の幅に応じて1000倍、5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。但し、試料、観察条件や倍率は下記の条件を満たすように調整する。
(1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、該直線Xに対し、20本以上の繊維が交差する。
(2)同じ画像内で該直線と垂直に交差する直線Yを引き、該直線Yに対し、20本以上の繊維が交差する。
上記条件を満足する観察画像に対し、直線X、直線Yと交差する繊維の幅を目視で読み取る。このようにして、少なくとも互いに重なっていない表面部分の観察画像を3組以上得る。次いで、各画像に対して、直線X、直線Yと交差する繊維の幅を読み取る。これにより、少なくとも20本×2×3=120本の繊維幅を読み取る。そして、読み取った繊維幅の平均値を、繊維状セルロースの平均繊維幅とする。
繊維状セルロースの繊維長は、特に限定されないが、たとえば0.1μm以上1000μm以下であることが好ましく、0.1μm以上800μm以下であることがより好ましく、0.1μm以上600μm以下であることがさらに好ましい。繊維長を上記範囲内とすることにより、繊維状セルロースの結晶領域の破壊を抑制できる。また、繊維状セルロースのスラリー粘度を適切な範囲とすることも可能となる。なお、繊維状セルロースの繊維長は、たとえばTEM、SEM、AFMによる画像解析より求めることができる。
繊維状セルロースはI型結晶構造を有していることが好ましい。ここで、繊維状セルロースがI型結晶構造を有することは、グラファイトで単色化したCuKα(λ=1.5418Å)を用いた広角X線回折写真より得られる回折プロファイルにおいて同定できる。具体的には、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。微細繊維状セルロースに占めるI型結晶構造の割合は、たとえば30%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましく、50%以上であることがさらに好ましい。これにより、耐熱性と低線熱膨張率発現の点でさらに優れた性能が期待できる。結晶化度については、X線回折プロファイルを測定し、そのパターンから常法により求められる(Seagalら、Textile Research Journal、29巻、786ページ、1959年)。
繊維状セルロースの軸比(繊維長/繊維幅)は、特に限定されないが、たとえば20以上10000以下であることが好ましく、50以上1000以下であることがより好ましい。軸比を上記下限値以上とすることにより、微細繊維状セルロースを含有するシートを形成しやすい。軸比を上記上限値以下とすることにより、たとえば繊維状セルロースを分散液として扱う際に、希釈等のハンドリングがしやすくなる点で好ましい。
本実施形態における繊維状セルロースは、たとえば結晶領域と非結晶領域をともに有している。特に、結晶領域と非結晶領域をともに有し、かつ軸比が高い微細繊維状セルロースは、後述する微細繊維状セルロースの製造方法により実現されるものである。
繊維状セルロースは、イオン性置換基を有することが好ましい。繊維状セルロースがイオン性置換基を有することで、分散媒中における繊維状セルロースの分散性を向上させ、解繊処理における解繊効率を高めることができる。イオン性置換基としては、たとえばアニオン性基およびカチオン性基のいずれか一方または双方を含むことができる。本実施形態においては、イオン性置換基としてアニオン性基を有することが特に好ましい。また、イオン性置換基は、エステル結合またはエーテル結合を介して繊維状セルロースに導入される基であることが好ましく、エステル結合を介して繊維状セルロースに導入される基であることがより好ましい。この場合、エステル結合は、繊維状セルロースの水酸基とイオン性置換基となる化合物の脱水縮合で形成される。
アニオン性基としては、例えば、リンオキソ酸基またはリンオキソ酸基に由来する置換基(単にリンオキソ酸基ということもある)、カルボキシ基またはカルボキシ基に由来する置換基(単にカルボキシ基ということもある)、硫黄オキソ酸基または硫黄オキソ酸基に由来する置換基(単に硫黄オキソ酸基ということもある)、ザンテート基またはザンテート基に由来する置換基(単にザンテート基ということもある)、ホスホン基またはホスホン基に由来する置換基(単にホスホン基ということもある)、ホスフィン基またはホスフィン基に由来する置換基(単にホスフィン基ということもある)、スルホン基またはスルホン基に由来する置換基(単にスルホン基ということもある)、カルボキシアルキル基(カルボキシメチル基やカルボキシエチル基を含む)等を挙げることができる。中でも、アニオン性基は、リンオキソ酸基、リンオキソ酸基に由来する置換基、カルボキシ基、カルボキシ基に由来する置換基、カルボキシアルキル基、硫黄オキソ酸基及び硫黄オキソ酸基に由来する置換基からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、リンオキソ酸基、リンオキソ酸基に由来する置換基、カルボキシ基、カルボキシ基に由来する置換基、硫黄オキソ酸基及び硫黄オキソ酸基に由来する置換基からなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、リンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基であることが特に好ましい。アニオン性基としてリンオキソ酸基を導入することにより、例えば、アルカリ性条件下や酸性条件下においても、繊維状セルロースの分散性をより高めることができ、結果として高強度かつ高透明な繊維層が得られやすくなる。
カチオン性基としては、たとえばアンモニウム基、ホスホニウム基、スルホニウム基等を挙げることができる。中でもカチオン性基はアンモニウム基であることが好ましい。
リンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基は、例えば下記式(1)で表される置換基である。各繊維状セルロースには、下記式(1)で表される置換基が複数種導入されていてもよい。この場合、複数導入される下記式(1)で表される置換基はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
Figure 2022175939000002
式(1)中、a、bおよびnは自然数であり、mは任意の数である(ただし、a=b×mである)。n個あるαおよびα’のうち少なくとも1つはOであり、残りはR又はORである。なお、各αおよびα’の全てがOであっても構わない。n個あるαは全て同じでも、それぞれ異なっていてもよい。βb+は有機物又は無機物からなる1価以上の陽イオンである。
Rは、各々、水素原子、飽和-直鎖状炭化水素基、飽和-分岐鎖状炭化水素基、飽和-環状炭化水素基、不飽和-直鎖状炭化水素基、不飽和-分岐鎖状炭化水素基、不飽和-環状炭化水素基、芳香族基、またはこれらの誘導基である。また、式(1)においては、nは1であることが好ましい。
飽和-直鎖状炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、又はn-ブチル基等が挙げられるが、特に限定されない。飽和-分岐鎖状炭化水素基としては、i-プロピル基、又はt-ブチル基等が挙げられるが、特に限定されない。飽和-環状炭化水素基としては、シクロペンチル基、又はシクロヘキシル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和-直鎖状炭化水素基としては、ビニル基、又はアリル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和-分岐鎖状炭化水素基としては、i-プロペニル基、又は3-ブテニル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和-環状炭化水素基としては、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられるが、特に限定されない。芳香族基としては、フェニル基、又はナフチル基等が挙げられるが、特に限定されない。
また、Rにおける誘導基としては、上記各種炭化水素基の主鎖又は側鎖に対し、カルボキシ基、カルボキシレート基(-COO)、ヒドロキシ基、アミノ基及びアンモニウム基などの官能基から選択される少なくとも1種類が付加又は置換した状態の官能基が挙げられるが、特に限定されない。また、Rの主鎖を構成する炭素原子数は特に限定されないが、20以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましい。Rの主鎖を構成する炭素原子数を上記範囲とすることにより、リンオキソ酸基の分子量を適切な範囲とすることができ、繊維原料への浸透を容易にし、繊維状セルロースの収率を高めることもできる。なお、式(1)中にRが複数個存在する場合や繊維状セルロースに上記式(1)で表される複数種の置換基が導入される場合には、複数存在するRはそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
βb+は有機物又は無機物からなる1価以上の陽イオンである。有機物からなる1価以上の陽イオンとしては、有機オニウムイオンを挙げることができる。有機オニウムイオンとしては、例えば、有機アンモニウムイオンや有機ホスホニウムイオンを挙げることができる。有機アンモニウムイオンとしては、例えば、脂肪族アンモニウムイオンや芳香族アンモニウムイオンを挙げることができ、有機ホスホニウムイオンとしては、例えば、脂肪族ホスホニウムイオンや芳香族ホスホニウムイオンを挙げることができる。無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、ナトリウム、カリウム、若しくはリチウム等のアルカリ金属のイオンや、カルシウム、若しくはマグネシウム等の2価金属のイオン、水素イオン、アンモニウムイオン等が挙げられる。なお、式(1)中にβb+が複数個存在する場合や繊維状セルロースに上記式(1)で表される複数種の置換基が導入される場合には、複数存在するβb+はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。有機物又は無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、βb+を含む繊維原料を加熱した際に黄変しにくく、また工業的に利用し易いナトリウム、又はカリウムのイオンが好ましいが、特に限定されない。
リンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基としては、より具体的には、リン酸基(-PO)、リン酸基の塩、亜リン酸基(ホスホン酸基)(-PO)、亜リン酸基(ホスホン酸基)の塩が挙げられる。また、リンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基は、リン酸基が縮合した基(例えば、ピロリン酸基)、ホスホン酸が縮合した基(例えば、ポリホスホン酸基)、リン酸エステル基(例えば、モノメチルリン酸基、ポリオキシエチレンアルキルリン酸基)、アルキルホスホン酸基(例えば、メチルホスホン酸基)などであってもよい。
また、硫黄オキソ酸基(硫黄オキソ酸基又は硫黄オキソ酸基に由来する置換基)は、例えば下記式(2)で表される置換基である。各繊維状セルロースには、下記式(2)で表される置換基が複数種導入されていてもよい。この場合、複数導入される下記式(2)で表される置換基はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
Figure 2022175939000003
上記構造式中、bおよびnは自然数であり、pは0または1であり、mは任意の数である(ただし、1=b×mである)。なお、nが2以上である場合、複数あるpは同一の数であってもよく、異なる数であってもよい。上記構造式中、βb+は有機物または無機物からなる1価以上の陽イオンである。有機物からなる1価以上の陽イオンとしては、有機オニウムイオンを挙げることができる。有機オニウムイオンとしては、例えば、有機アンモニウムイオンや有機ホスホニウムイオンを挙げることができる。有機アンモニウムイオンとしては、例えば、脂肪族アンモニウムイオンや芳香族アンモニウムイオンを挙げることができ、有機ホスホニウムイオンとしては、例えば、脂肪族ホスホニウムイオンや芳香族ホスホニウムイオンを挙げることができる。無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、ナトリウム、カリウム、若しくはリチウム等のアルカリ金属のイオンや、カルシウム、若しくはマグネシウム等の2価金属のイオン、水素イオン、アンモニウムイオン等が挙げられる。なお、繊維状セルロースに上記式(2)で表される複数種の置換基が導入される場合には、複数存在するβb+はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。有機物又は無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、βb+を含む繊維原料を加熱した際に黄変しにくく、また工業的に利用し易いナトリウム、又はカリウムのイオンが好ましいが、特に限定されない。
繊維状セルロースに対するイオン性置換基の導入量は、例えば繊維状セルロース1g(質量)あたり0.05mmol/g以上であることが好ましく、0.10mmol/g以上であることがより好ましく、0.20mmol/g以上であることがさらに好ましく、0.40mmol/g以上であることが一層好ましく、0.60mmol/g以上であることが特に好ましい。また、繊維状セルロースに対するイオン性置換基の導入量は、例えば繊維状セルロース1g(質量)あたり5.20mmol/g以下であることが好ましく、3.65mmol/g以下であることがより好ましく、3.00mmol/g以下であることがさらに好ましく、2.50mmol/g以下であることが一層好ましく、2.00mmol/g以下であることが特に好ましい。ここで、単位mmol/gにおける分母は、イオン性置換基の対イオンが水素イオン(H)であるときの繊維状セルロースの質量を示す。イオン性置換基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維原料の微細化を容易とすることができ、繊維状セルロースの安定性を高めることが可能となる。また、イオン性置換基の導入量を上記範囲内とすることにより、高透明なシートが得られやすくなる。
なお、繊維状セルロースに対するイオン性置換基の導入量は、例えば繊維状セルロース1g(質量)あたり0.50mmol/g未満であってもよく、0.40mmol/g以下であってもよく、0.30mmol/g以下であってもよく、0.25mmol/g以下であってもよく、0.15mmol/g以下であってもよい。イオン性置換基の含有量(導入量)が上記範囲内にある繊維状セルロースは、例えば、後述するような置換基除去処理工程を経て得られるものである。すなわち、繊維層に含まれる繊維状セルロースは置換基除去処理後の繊維状セルロースであってもよい。繊維状セルロースとして置換基除去処理後の繊維状セルロースを用いることにより、繊維層及び積層シートの黄変をより効果的に抑制することができ、特に、高温高湿環境下における黄変をより効果的に抑制することができる。
繊維状セルロースに対するイオン性置換基の導入量は、たとえば中和滴定法により測定することができる。中和滴定法による測定では、得られた繊維状セルロースを含有するスラリーに、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリを加えながらpHの変化を求めることにより、導入量を測定する。
図2は、イオン性置換基としてリンオキソ酸基を有する繊維状セルロース含有スラリーに対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。繊維状セルロースに対するリンオキソ酸基の導入量は、たとえば次のように測定される。
まず、繊維状セルロースを含有するスラリーを強酸性イオン交換樹脂で処理する。なお、必要に応じて、強酸性イオン交換樹脂による処理の前に、後述の解繊処理工程と同様の解繊処理を測定対象に対して実施してもよい。
次いで、水酸化ナトリウム水溶液を加えながらpHの変化を観察し、図2の上側部に示すような滴定曲線を得る。図2の上側部に示した滴定曲線では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットしており、図2の下側部に示した滴定曲線では、アルカリを加えた量に対するpHの増分(微分値)(1/mmol)をプロットしている。この中和滴定では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットした曲線において、増分(pHのアルカリ滴下量に対する微分値)が極大となる点が二つ確認される。これらのうち、アルカリを加えはじめて先に得られる増分の極大点を第1終点と呼び、次に得られる増分の極大点を第2終点と呼ぶ。滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中に含まれる繊維状セルロースの第1解離酸量と等しくなり、第1終点から第2終点までに必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中に含まれる繊維状セルロースの第2解離酸量と等しくなり、滴定開始から第2終点までに必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中に含まれる繊維状セルロースの総解離酸量と等しくなる。そして、滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量を滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して得られる値が、リンオキソ酸基導入量(mmol/g)となる。なお、単にリンオキソ酸基導入量(またはリンオキソ酸基量)と言った場合は、第1解離酸量のことを表す。
なお、図2において、滴定開始から第1終点までの領域を第1領域と呼び、第1終点から第2終点までの領域を第2領域と呼ぶ。例えば、リンオキソ酸基がリン酸基の場合であって、このリン酸基が縮合を起こす場合、見かけ上、リンオキソ酸基における弱酸性基量(第2解離酸量)が低下し、第1領域に必要としたアルカリ量と比較して第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなる。一方、リンオキソ酸基における強酸性基量(第1解離酸量)は、縮合の有無に関わらずリン原子の量と一致する。また、リンオキソ酸基が亜リン酸基の場合は、リンオキソ酸基に弱酸性基が存在しなくなるため、第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなるか、第2領域に必要としたアルカリ量はゼロとなる場合もある。この場合、滴定曲線において、pHの増分が極大となる点は一つとなる。
なお、上述のリンオキソ酸基導入量(mmol/g)は、分母が酸型の繊維状セルロースの質量を示すことから、酸型の繊維状セルロースが有するリンオキソ酸基量(以降、リンオキソ酸基量(酸型)と呼ぶ)を示している。一方で、リンオキソ酸基の対イオンが電荷当量となるように任意の陽イオンCに置換されている場合は、分母を当該陽イオンCが対イオンであるときの繊維状セルロースの質量に変換することで、陽イオンCが対イオンである繊維状セルロースが有するリンオキソ酸基量(以降、リンオキソ酸基量(C型))を求めることができる。
すなわち、下記計算式によって算出する。
リンオキソ酸基量(C型)=リンオキソ酸基量(酸型)/{1+(W-1)×A/1000}
A[mmol/g]:繊維状セルロースが有するリンオキソ酸基由来の総アニオン量(リンオキソ酸基の総解離酸量)
W:陽イオンCの1価あたりの式量(たとえば、Naは23、Alは9)
図3は、イオン性置換基としてカルボキシ基を有する繊維状セルロースを含有する分散液に対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。繊維状セルロースに対するカルボキシ基の導入量は、たとえば次のように測定される。
まず、繊維状セルロースを含有する分散液を強酸性イオン交換樹脂で処理する。なお、必要に応じて、強酸性イオン交換樹脂による処理の前に、後述の解繊処理工程と同様の解繊処理を測定対象に対して実施してもよい。
次いで、水酸化ナトリウム水溶液を加えながらpHの変化を観察し、図3の上側部に示すような滴定曲線を得る。図3の上側部に示した滴定曲線では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットしており、図3の下側部に示した滴定曲線では、アルカリを加えた量に対するpHの増分(微分値)(1/mmol)をプロットしている。この中和滴定では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットした曲線において、増分(pHのアルカリ滴下量に対する微分値)が極大となる点が一つ確認され、この極大点を第1終点と呼ぶ。ここで、図3における滴定開始から第1終点までの領域を第1領域と呼ぶ。第1領域で必要としたアルカリ量が、滴定に使用した分散液中のカルボキシ基量と等しくなる。そして、滴定曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象の繊維状セルロースを含有する分散液中の固形分(g)で除すことで、カルボキシ基の導入量(mmol/g)を算出する。
なお、上述のカルボキシ基導入量(mmol/g)は、分母が酸型の繊維状セルロースの質量であることから、酸型の繊維状セルロースが有するカルボキシ基量(以降、カルボキシ基量(酸型)と呼ぶ)を示している。一方で、カルボキシ基の対イオンが電荷当量となるように任意の陽イオンCに置換されている場合は、分母を当該陽イオンCが対イオンであるときの繊維状セルロースの質量に変換することで、陽イオンCが対イオンである繊維状セルロースが有するカルボキシ基量(以降、カルボキシ基量(C型))を求めることができる。すなわち、下記計算式によって算出する。
カルボキシ基量(C型)=カルボキシ基量(酸型)/{1+(W-1)×(カルボキシ基量(酸型))/1000}
W:陽イオンCの1価あたりの式量(たとえば、Naは23、Alは9)
滴定法によるイオン性置換基量の測定においては、水酸化ナトリウム水溶液1滴の滴下量が多すぎる場合や、滴定間隔が短すぎる場合、本来より低いイオン性置換基量となるなど正確な値が得られないことがある。適切な滴下量、滴定間隔としては、例えば、0.1N水酸化ナトリウム水溶液を5~30秒に10~50μLずつ滴定するなどが望ましい。また、繊維状セルロース含有スラリーに溶解した二酸化炭素の影響を排除するため、例えば、滴定開始の15分前から滴定終了まで、窒素ガスなどの不活性ガスをスラリーに吹き込みながら測定するなどが望ましい。
繊維状セルロースに対する硫黄オキソ酸基又はスルホン基の導入量は、繊維状セルロースを過塩素酸と濃硝酸を用いて湿式灰化した後に、適当な倍率で希釈してICP発光分析により硫黄量を測定することで算出することができる。硫黄量を、供試した繊維状セルロースの絶乾質量で除した値が硫黄オキソ酸基量又はスルホン基量(単位:mmol/g)である。
繊維状セルロースに対するザンテート基量の導入量は、Bredee法により以下の方法で測定することができる。まず、繊維状セルロース1.5質量部(絶乾質量)に飽和塩化アンモニウム溶液を40mL添加し、ガラス棒でサンプルを潰しながらよく混合し、約15分間放置後、GFPろ紙(ADVANTEC社製GS-25)でろ過して、飽和塩化アンモニウム溶液で十分に洗浄する。次いで、サンプルをGFPろ紙ごと500mLのトールビーカーに入れ、0.5M水酸化ナトリウム溶液(5℃)を50mL添加して撹拌し、15分間放置する。溶液がピンク色になるまでフェノールフタレイン溶液を添加した後、1.5M酢酸を添加して、溶液がピンク色から無色になった点を中和点とする。中和後蒸留水を250mL添加してよく撹拌し、1.5M酢酸10mL、0.05mol/Lヨウ素溶液10mLをホールピペットを使用して添加する。そして、この溶液を0.05mol/Lチオ硫酸ナトリウム溶液で滴定し、チオ硫酸ナトリウムの滴定量、繊維状セルロースの絶乾質量より次式からザンテート基量を算出する。
ザンテート基量(mmol/g)=(0.05×10×2-0.05×チオ硫酸ナトリウム滴定量(mL))/1000/繊維状セルロースの絶乾質量(g)
<微細繊維状セルロースの製造工程>
<繊維原料>
微細繊維状セルロースは、セルロースを含む繊維原料から製造される。セルロースを含む繊維原料としては、特に限定されないが、入手しやすく安価である点からパルプを用いることが好ましい。パルプとしては、たとえば木材パルプ、非木材パルプ、および脱墨パルプが挙げられる。木材パルプとしては、特に限定されないが、たとえば広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)および酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ、セミケミカルパルプ(SCP)およびケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)およびサーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ等が挙げられる。非木材パルプとしては、特に限定されないが、たとえばコットンリンターおよびコットンリント等の綿系パルプ、麻、麦わらおよびバガス等の非木材系パルプが挙げられる。脱墨パルプとしては、特に限定されないが、たとえば古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられる。本実施態様のパルプは上記の1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。上記パルプの中でも、入手のしやすさという観点からは、たとえば木材パルプおよび脱墨パルプが好ましい。また、木材パルプの中でも、セルロース比率が大きく解繊処理時の微細繊維状セルロースの収率が高い観点や、パルプ中のセルロースの分解が小さく軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースが得られる観点から、たとえば化学パルプがより好ましく、クラフトパルプ、サルファイトパルプがさらに好ましい。なお、軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースを用いると粘度が高くなる傾向がある。
セルロースを含む繊維原料としては、たとえばホヤ類に含まれるセルロースや、酢酸菌が生成するバクテリアセルロースを利用することもできる。また、セルロースを含む繊維原料に代えて、キチン、キトサンなどの直鎖型の含窒素多糖高分子が形成する繊維を用いることもできる。
<リンオキソ酸基導入工程>
微細繊維状セルロースの製造工程は、イオン性置換基導入工程を含むことが好ましく、イオン性置換基導入工程としては、例えば、リンオキソ酸基導入工程が挙げられる。リンオキソ酸基導入工程は、セルロースを含む繊維原料が有する水酸基と反応することで、リンオキソ酸基を導入できる化合物から選択される少なくとも1種の化合物(以下、「化合物A」ともいう)を、セルロースを含む繊維原料に作用させる工程である。この工程により、リンオキソ酸基導入繊維が得られることとなる。
本実施形態に係るリンオキソ酸基導入工程では、セルロースを含む繊維原料と化合物Aの反応を、尿素及びその誘導体から選択される少なくとも1種(以下、「化合物B」ともいう)の存在下で行ってもよい。一方で、化合物Bが存在しない状態において、セルロースを含む繊維原料と化合物Aの反応を行ってもよい。
化合物Aを化合物Bとの共存下で繊維原料に作用させる方法の一例としては、乾燥状態、湿潤状態またはスラリー状の繊維原料に対して、化合物Aと化合物Bを混合する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、乾燥状態または湿潤状態の繊維原料を用いることが好ましく、特に乾燥状態の繊維原料を用いることが好ましい。繊維原料の形態は、特に限定されないが、たとえば綿状や薄いシート状であることが好ましい。化合物Aおよび化合物Bは、それぞれ粉末状または溶媒に溶解させた溶液状または融点以上まで加熱して溶融させた状態で繊維原料に添加する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、溶媒に溶解させた溶液状、特に水溶液の状態で添加することが好ましい。また、化合物Aと化合物Bは繊維原料に対して同時に添加してもよく、別々に添加してもよく、混合物として添加してもよい。化合物Aと化合物Bの添加方法としては、特に限定されないが、化合物Aと化合物Bが溶液状の場合は、繊維原料を溶液内に浸漬し吸液させたのちに取り出してもよいし、繊維原料に溶液を滴下してもよい。また、必要量の化合物Aと化合物Bを繊維原料に添加してもよいし、過剰量の化合物Aと化合物Bをそれぞれ繊維原料に添加した後に、圧搾や濾過によって余剰の化合物Aと化合物Bを除去してもよい。
本実施態様で使用する化合物Aとしては、リン原子を有し、セルロースとエステル結合を形成可能な化合物であればよく、リン酸もしくはその塩、亜リン酸もしくはその塩、脱水縮合リン酸もしくはその塩、無水リン酸(五酸化二リン)などが挙げられるが特に限定されない。リン酸としては、種々の純度のものを使用することができ、たとえば100%リン酸(正リン酸)や85%リン酸を使用することができる。亜リン酸としては、99%亜リン酸(ホスホン酸)が挙げられる。脱水縮合リン酸は、リン酸が脱水反応により2分子以上縮合したものであり、例えばピロリン酸、ポリリン酸等を挙げることができる。リン酸塩、亜リン酸塩、脱水縮合リン酸塩としては、リン酸、亜リン酸または脱水縮合リン酸のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などが挙げられ、これらは種々の中和度とすることができる。これらのうち、リン酸基の導入効率が高く、後述する解繊工程で解繊効率がより向上しやすく、低コストであり、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩または亜リン酸、亜リン酸のナトリウム塩、亜リン酸のカリウム塩、亜リン酸のアンモニウム塩が好ましく、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素アンモニウム、または亜リン酸、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸水素ナトリウムがより好ましい。
繊維原料に対する化合物Aの添加量は、特に限定されないが、たとえば化合物Aの添加量をリン原子量に換算した場合において、繊維原料(絶乾質量)に対するリン原子の添加量が0.5質量%以上100質量%以下となることが好ましく、1質量%以上50質量%以下となることがより好ましく、2質量%以上30質量%以下となることがさらに好ましい。繊維原料に対するリン原子の添加量を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースの収率をより向上させることができる。一方で、繊維原料に対するリン原子の添加量を上記上限値以下とすることにより、収率向上の効果とコストのバランスをとることができる。
本実施態様で使用する化合物Bは、上述のとおり尿素及びその誘導体から選択される少なくとも1種である。化合物Bとしては、たとえば尿素、ビウレット、1-フェニル尿素、1-ベンジル尿素、1-メチル尿素、および1-エチル尿素などが挙げられる。反応の均一性を向上させる観点から、化合物Bは水溶液として用いることが好ましい。また、反応の均一性をさらに向上させる観点からは、化合物Aと化合物Bの両方が溶解した水溶液を用いることが好ましい。
繊維原料(絶乾質量)に対する化合物Bの添加量は、特に限定されないが、たとえば1質量%以上500質量%以下であることが好ましく、10質量%以上400質量%以下であることがより好ましく、100質量%以上350質量%以下であることがさらに好ましい。
セルロースを含む繊維原料と化合物Aの反応においては、化合物Bの他に、たとえばアミド類またはアミン類を反応系に含んでもよい。アミド類としては、たとえばホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトアミド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。アミン類としては、たとえばメチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。これらの中でも、特にトリエチルアミンは良好な反応触媒として働くことが知られている。
リンオキソ酸基導入工程においては、繊維原料に化合物A等を添加又は混合した後、当該繊維原料に対して加熱処理を施すことが好ましい。加熱処理温度としては、繊維の熱分解や加水分解反応を抑えながら、リンオキソ酸基を効率的に導入できる温度を選択することが好ましい。加熱処理温度は、たとえば50℃以上300℃以下であることが好ましく、100℃以上250℃以下であることがより好ましく、130℃以上200℃以下であることがさらに好ましい。また、加熱処理には、種々の熱媒体を有する機器を利用することができ、たとえば撹拌乾燥装置、回転乾燥装置、円盤乾燥装置、ロール型加熱装置、プレート型加熱装置、流動層乾燥装置、バンド型乾燥装置、ろ過乾燥装置、振動流動乾燥装置、気流乾燥装置、減圧乾燥装置、赤外線加熱装置、遠赤外線加熱装置、マイクロ波加熱装置、高周波乾燥装置を用いることができる。
本実施形態に係る加熱処理においては、たとえば薄いシート状の繊維原料に化合物Aを含浸等の方法により添加した後、加熱する方法や、ニーダー等で繊維原料と化合物Aを混練又は撹拌しながら加熱する方法を採用することができる。これにより、繊維原料における化合物Aの濃度ムラを抑制して、繊維原料に含まれるセルロース繊維表面へより均一にリンオキソ酸基を導入することが可能となる。これは、乾燥に伴い水分子が繊維原料表面に移動する際、溶存する化合物Aが表面張力によって水分子に引き付けられ、同様に繊維原料表面に移動してしまう(すなわち、化合物Aの濃度ムラを生じてしまう)ことを抑制できることに起因するものと考えられる。
また、加熱処理に用いる加熱装置は、たとえばスラリーが保持する水分、及び化合物Aと繊維原料中のセルロース等が含む水酸基等との脱水縮合(リン酸エステル化)反応に伴って生じる水分、を常に装置系外に排出できる装置であることが好ましい。このような加熱装置としては、例えば送風方式のオーブン等が挙げられる。装置系内の水分を常に排出することにより、リン酸エステル化の逆反応であるリン酸エステル結合の加水分解反応を抑制できることに加えて、繊維中の糖鎖の酸加水分解を抑制することもできる。このため、軸比の高い微細繊維状セルロースを得ることが可能となる。
加熱処理の時間は、たとえば繊維原料から実質的に水分が除かれてから1秒以上300分以下であることが好ましく、1秒以上1000秒以下であることがより好ましく、10秒以上800秒以下であることがさらに好ましい。本実施形態では、加熱温度と加熱時間を適切な範囲とすることにより、リンオキソ酸基の導入量を好ましい範囲内とすることができる。
リンオキソ酸基導入工程は、少なくとも1回行えば良いが、2回以上繰り返して行うこともできる。2回以上のリンオキソ酸基導入工程を行うことにより、繊維原料に対して多くのリンオキソ酸基を導入することができる。
リンオキソ酸基導入工程におけるリンオキソ酸基の導入量は、たとえば微細繊維状セルロース1g(質量)あたり0.10mmol/g以上であることが好ましく、0.20mmol/g以上であることがより好ましく、0.50mmol/g以上であることがさらに好ましく、1.00mmol/g以上であることがとくに好ましい。また、リンオキソ酸基導入工程におけるリンオキソ酸基の導入量は、たとえば微細繊維状セルロース1g(質量)あたり5.20mmol/g以下であることが好ましく、3.65mmol/g以下であることがより好ましく、3.00mmol/g以下であることがさらに好ましい。リンオキソ酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維原料の微細化を容易にし、微細繊維状セルロースの安定性を高めることができる。
なお、微細繊維状セルロースの製造工程において、後述するような置換基除去処理工程が設けられる場合には、最終的に得られる微細繊維状セルロースが有するリンオキソ酸基量は、たとえば微細繊維状セルロース1g(質量)あたり0.50mmol/g未満であってもよく、0.40mmol/g以下であってもよく、0.30mmol/g以下であってもよく、0.25mmol/g以下であってもよく、0.15mmol/g以下であってもよい。
<カルボキシ基導入工程>
微細繊維状セルロースの製造工程は、イオン性置換基導入工程として、例えば、カルボキシ基導入工程を含んでもよい。カルボキシ基導入工程は、セルロースを含む繊維原料に対し、オゾン酸化やフェントン法による酸化、TEMPO酸化処理などの酸化処理やカルボン酸由来の基を有する化合物もしくはその誘導体、またはカルボン酸由来の基を有する化合物の酸無水物もしくはその誘導体によって処理することにより行われる。
カルボン酸由来の基を有する化合物としては、特に限定されないが、たとえばマレイン酸、コハク酸、フタル酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、イタコン酸等のジカルボン酸化合物やクエン酸、アコニット酸等のトリカルボン酸化合物が挙げられる。また、カルボン酸由来の基を有する化合物の誘導体としては、特に限定されないが、たとえばカルボキシ基を有する化合物の酸無水物のイミド化物、カルボキシ基を有する化合物の酸無水物の誘導体が挙げられる。カルボキシ基を有する化合物の酸無水物のイミド化物としては、とくに限定されないが、たとえばマレイミド、コハク酸イミド、フタル酸イミド等のジカルボン酸化合物のイミド化物が挙げられる。
カルボン酸由来の基を有する化合物の酸無水物としては、特に限定されないが、たとえば無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸、無水イタコン酸等のジカルボン酸化合物の酸無水物が挙げられる。また、カルボン酸由来の基を有する化合物の酸無水物の誘導体としては、特に限定されないが、たとえばジメチルマレイン酸無水物、ジエチルマレイン酸無水物、ジフェニルマレイン酸無水物等のカルボキシ基を有する化合物の酸無水物の少なくとも一部の水素原子が、アルキル基、フェニル基等の置換基により置換されたものが挙げられる。
カルボキシ基導入工程において、TEMPO酸化処理を行う場合には、たとえばその処理をpHが6以上8以下の条件で行うことが好ましい。このような処理は、中性TEMPO酸化処理ともいう。中性TEMPO酸化処理は、たとえばリン酸ナトリウム緩衝液(pH=6.8)に、繊維原料としてパルプと、触媒としてTEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル)等のニトロキシラジカル、犠牲試薬として次亜塩素酸ナトリウムを添加することで行うことができる。さらに亜塩素酸ナトリウムを共存させることによって、酸化の過程で発生するアルデヒドを、効率的にカルボキシ基まで酸化することができる。また、TEMPO酸化処理は、その処理をpHが10以上11以下の条件で行ってもよい。このような処理は、アルカリTEMPO酸化処理ともいう。アルカリTEMPO酸化処理は、たとえば繊維原料としてのパルプに対し、触媒としてTEMPO等のニトロキシラジカルと、共触媒として臭化ナトリウムと、酸化剤として次亜塩素酸ナトリウムを添加することにより行うことができる。
カルボキシ基導入工程におけるカルボキシ基の導入量は、置換基の種類によっても変わるが、たとえばTEMPO酸化によりカルボキシ基を導入する場合、微細繊維状セルロース1g(質量)あたり0.10mmol/g以上であることが好ましく、0.20mmol/g以上であることがより好ましく、0.50mmol/g以上であることがさらに好ましく、0.90mmol/g以上であることがとくに好ましい。また、カルボキシ基導入工程におけるカルボキシ基の導入量は、2.5mmol/g以下であることが好ましく、2.20mmol/g以下であることがより好ましく、2.00mmol/g以下であることがさらに好ましい。その他、置換基がカルボキシメチル基である場合、微細繊維状セルロース1g(質量)あたり5.8mmol/g以下であってもよい。
なお、微細繊維状セルロースの製造工程において、後述するような置換基除去処理工程が設けられる場合には、最終的に得られる微細繊維状セルロースが有するカルボキシ基量は、たとえば微細繊維状セルロース1g(質量)あたり0.50mmol/g未満であってもよく、0.40mmol/g以下であってもよく、0.30mmol/g以下であってもよく、0.25mmol/g以下であってもよく、0.15mmol/g以下であってもよい。
<硫黄オキソ酸基導入工程>
微細繊維状セルロースの製造工程は、イオン性置換基導入工程として、例えば、硫黄オキソ酸基導入工程を含んでもよい。硫黄オキソ酸基導入工程は、セルロースを含む繊維原料が有する水酸基と硫黄オキソ酸が反応することで、硫黄オキソ酸基を有するセルロース繊維(硫黄オキソ酸基導入繊維)を得ることができる。
硫黄オキソ酸基導入工程では、上述した<リンオキソ酸基導入工程>における化合物Aに代えて、セルロースを含む繊維原料が有する水酸基と反応することで、硫黄オキソ酸基を導入できる化合物から選択される少なくとも1種の化合物(以下、「化合物C」ともいう)を用いる。化合物Cとしては、硫黄原子を有し、セルロースとエステル結合を形成可能な化合物であればよく、硫酸もしくはその塩、亜硫酸もしくはその塩、硫酸アミドなどが挙げられるが特に限定されない。硫酸としては、種々の純度のものを使用することができ、例えば96%硫酸(濃硫酸)を使用することができる。亜硫酸としては、5%亜硫酸水が挙げられる。硫酸塩又は亜硫酸塩としては、硫酸塩又は亜硫酸塩のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などが挙げられ、これらは種々の中和度とすることができる。硫酸アミドとしては、スルファミン酸などを使用することができる。硫黄オキソ酸基導入工程では、上述した<リンオキソ酸基導入工程>における化合物Bを同様に用いることが好ましい。
硫黄オキソ酸基導入工程においては、セルロース原料に硫黄オキソ酸、並びに、尿素及び/又は尿素誘導体を含む水溶液を混合した後、当該セルロース原料に対して加熱処理を施すことが好ましい。加熱処理温度としては、繊維の熱分解や加水分解反応を抑えながら、硫黄オキソ酸基を効率的に導入できる温度を選択することが好ましい。加熱処理温度は、100℃以上であることが好ましく、120℃以上であることがより好ましく、150℃以上であることがさらに好ましい。また、加熱処理温度は、300℃以下であることが好ましく、250℃以下であることがより好ましく、200℃以下であることがさらに好ましい。
加熱処理工程では、実質的に水分がなくなるまで加熱をすることが好ましい。このため、加熱処理時間は、セルロース原料に含まれる水分量や、硫黄オキソ酸、並びに、尿素及び/又は尿素誘導体を含む水溶液の添加量によって、変動するが、例えば、10秒以上10000秒以下とすることが好ましい。加熱処理には、種々の熱媒体を有する機器を利用することができ、例えば熱風乾燥装置、撹拌乾燥装置、回転乾燥装置、円盤乾燥装置、ロール型加熱装置、プレート型加熱装置、流動層乾燥装置、バンド型乾燥装置、ろ過乾燥装置、振動流動乾燥装置、気流乾燥装置、減圧乾燥装置、赤外線加熱装置、遠赤外線加熱装置、マイクロ波加熱装置、高周波乾燥装置を用いることができる。
硫黄オキソ酸基導入工程における硫黄オキソ酸基の導入量は、0.10mmol/g以上であることが好ましく、0.20mmol/g以上であることがより好ましく、0.40mmol/g以上であることがさらに好ましく、0.50mmol/g以上であることが特に好ましい。また、硫黄オキソ酸基導入工程における硫黄オキソ酸基の導入量は、5.00mmol/g以下であることが好ましく、3.00mmol/g以下であることがより好ましい。硫黄オキソ酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維原料の微細化を容易とすることができ、繊維状セルロースの安定性を高めることが可能となる。また、硫黄オキソ酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、加熱時の黄変が抑制されたシートが得られやすくなる。
なお、微細繊維状セルロースの製造工程において、後述するような置換基除去処理工程が設けられる場合には、最終的に得られる微細繊維状セルロースが有する硫黄オキソ酸基量は、たとえば微細繊維状セルロース1g(質量)あたり0.50mmol/g未満であってもよく、0.40mmol/g以下であってもよく、0.30mmol/g以下であってもよく、0.25mmol/g以下であってもよく、0.15mmol/g以下であってもよい。
<塩素系酸化剤による酸化工程(第二のカルボキシ基導入工程)>
微細繊維状セルロースの製造工程は、イオン性置換基導入工程として、塩素系酸化剤による酸化工程を含んでもよい。塩素系酸化剤による酸化工程では、塩素系酸化剤を湿潤あるいは乾燥状態の、水酸基を有する繊維原料に加えて反応を行うことで、繊維原料にカルボキシ基が導入される。
塩素系酸化剤としては、次亜塩素酸、次亜塩素酸塩、亜塩素酸、亜塩素酸塩、塩素酸、塩素酸塩、過塩素酸、過塩素酸塩、二酸化塩素などが挙げられる。置換基の導入効率、ひいては解繊効率、コスト、取り扱いやすさの点から、塩素系酸化剤は、次亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸ナトリウム、二酸化塩素であることが好ましい。塩素系酸化剤を添加する際には、試薬(固形状もしくは液状)としてそのまま繊維原料に加えてもよいし、適当な溶媒に溶かして加えてもよい。
塩素系酸化剤による酸化工程における塩素系酸化剤の溶液中濃度は、たとえば有効塩素濃度に換算して、1質量%以上1,000質量%以下であることが好ましく、5質量%以上500質量%以下であることがより好ましく、10質量%以上100質量%以下であることがさらに好ましい。塩素系酸化剤の繊維原料100質量部に対する添加量は、1質量部以上100,000質量部以下であることが好ましく、10質量部以上10,000質量部以下であることがより好ましく、100質量部以上5,000質量部以下であることがさらに好ましい。
塩素系酸化剤による酸化工程における塩素系酸化剤との反応時間は、反応温度に応じて変わり得るが、たとえば1分間以上1,000分間以下であることが好ましく、10分間以上500分間以下であることがより好ましく、20分間以上400分間以下であることがさらに好ましい。反応時のpHは、5以上15以下であることが好ましく、7以上14以下であることがより好ましく、9以上13以下であることがさらに好ましい。また、反応開始時、反応中のpHは塩酸や水酸化ナトリウムを適宜添加しながら一定(たとえば、pH11)を保つことが好ましい。また、反応後は濾過等により、余剰の反応試薬、副生物等を水洗・除去してもよい。
<ザンテート基導入工程(キサントゲン酸エステル化工程)>
微細繊維状セルロースの製造工程は、イオン性置換基導入工程として、たとえばザンテート基導入工程(以下、ザンテート化工程ともいう。)を含んでもよい。ザンテート化工程では、二硫化炭素とアルカリ化合物を、湿潤あるいは乾燥状態の、水酸基を有する繊維原料に加えて反応を行うことで、繊維原料にザンテート基が導入される。具体的には、二硫化炭素を後述の手法でアルカリセルロース化した繊維原料に対して加え、反応を行う。
<<アルカリセルロース化>>
繊維原料へのイオン性置換基導入に際しては、繊維原料が含むセルロースにアルカリ溶液を作用させ、セルロースをアルカリセルロース化することが好ましい。この処理により、セルロースの水酸基の一部がイオン解離し、求核性(反応性)を高めることができる。アルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物は、特に限定されず、無機アルカリ化合物であってもよいし、有機アルカリ化合物であってもよい。汎用性が高いことから、たとえば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドを用いることが好ましい。アルカリセルロース化は、イオン性置換基の導入と同時に行ってもよいし、その前段として行ってもよいし、両方のタイミングで行ってもよい。
アルカリセルロース化を始める際の溶液温度は、0℃以上50℃以下であることが好ましく、5℃以上40℃以下であることがより好ましく、10℃以上30℃以下であることがさらに好ましい。
アルカリ溶液中のアルカリ濃度としては、モル濃度として0.01mol/L以上4mol/L以下であることが好ましく、0.1mol/L以上3mol/L以下であることがより好ましく、1mol/L以上2.5mol/L以下であることがさらに好ましい。特に、アルカリセルロース化における処理温度が10℃未満である場合は、アルカリ濃度は1mol/L以上2mol/L以下であることが好ましい。
アルカリセルロース化の処理時間は、1分間以上であることが好ましく、10分間以上であることがより好ましく、30分間以上であることがさらに好ましい。また、アルカリ処理の時間は、6時間以下であることが好ましく、5時間以下であることがより好ましく、4時間以下であることがさらに好ましい。
アルカリ溶液の種類、処理温度、濃度、浸漬時間を上述のように調整することで、セルロースの結晶領域へのアルカリ溶液浸透を抑制でき、セルロースI型の結晶構造が維持されやすくなり、微細繊維状セルロースの収率を高めることができる。
イオン性置換基導入とアルカリセルロース化を同時に行わない場合、アルカリセルロース化はイオン性置換基導入の前段で行われことが好ましい。この場合、アルカリセルロース化処理で得られたアルカリセルロースは、遠心分離や、濾別などの一般的な脱液方法により、固液分離し、水分を除去しておくことが好ましい。これにより、次いで行われるイオン性置換基導入工程での、反応効率が向上する。固液分離後のセルロース繊維濃度は、5%以上50%以下であることが好ましく、10%以上40%以下であることがより好ましく、15%以上35%以下であることがさらに好ましい。
<ホスホン基またはホスフィン基導入工程(ホスホアルキル化工程)>
微細繊維状セルロースの製造工程は、イオン性置換基導入工程として、ホスホン基またはホスフィン基導入工程(ホスホアルキル化工程)を含んでもよい。ホスホアルキル化工程では、必須成分として、反応性基とホスホ基またはホスフィン基とを有する化合物(化合物E)、任意成分としてアルカリ化合物、前述した尿素およびその誘導体から選択される化合物Bを、湿潤あるいは乾燥状態の、水酸基を有する繊維原料に加えて反応を行うことで、繊維原料にホスホン基またはホスフィン基が導入される。
反応性基としては、ハロゲン化アルキル基、ビニル基、エポキシ基(グリシジル基)などが挙げられる。
化合物Eとしては、たとえばビニルホスホン酸、フェニルビニルホスホン酸、フェニルビニルホスフィン酸等が挙げられる。置換基の導入効率、ひいては解繊効率、コスト、取り扱いやすさの点から化合物Eはビニルホスホン酸であることが好ましい。
さらに任意成分として、上述した<リンオキソ酸基導入工程>における化合物Bを同様に用いることも好ましく、添加量も前述のようにすることが好ましい。
化合物Eを添加する際には、試薬(固形状もしくは液状)としてそのまま繊維原料に加えてもよいし、適当な溶媒に溶かして加えてもよい。繊維原料は事前にアルカリセルロース化するか、反応と同時にアルカリセルロース化されることが好ましい。アルカリセルロース化の方法は、前述のとおりである。
反応時の温度は、たとえば50℃以上300℃以下であることが好ましく、100℃以上250℃以下であることがより好ましく、130℃以上200℃以下であることがさらに好ましい。
化合物Eの繊維原料100質量部に対する添加量は、1質量部以上100,000質量部以下であることが好ましく、2質量部以上10,000質量部以下であることがより好ましく、5質量部以上1,000質量部以下であることがさらに好ましい。
反応時間は、反応温度に応じて変わり得るが、たとえば1分間以上1,000分間以下であることが好ましく、10分間以上500分間以下であることがより好ましく、20分間以上400分間以下であることがさらに好ましい。また、反応後は濾過等により、余剰の反応試薬、副生物等を水洗・除去してもよい。
<スルホン基導入工程(スルホアルキル化工程)(第二のスルホン基導入工程)>
イオン性置換基導入工程としては、スルホン基導入工程(スルホアルキル化工程)を含んでもよい。スルホアルキル化では、必須成分として、反応性基とスルホン基とを有する化合物(化合物E)と、任意成分としてアルカリ化合物、前述した尿素およびその誘導体から選択される化合物Bを、湿潤あるいは乾燥状態の、水酸基を有する繊維原料に加えて反応を行うことで、繊維原料にスルホン基が導入される。
反応性基としては、ハロゲン化アルキル基、ビニル基、エポキシ基(グリシジル基)などが挙げられる。
化合物Eとしては、2-クロロエタンスルホン酸ナトリウム、ビニルスルホン酸ナトリウム、p-スチレンスルホン酸ナトリウム、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等が挙げられる。中でも、置換基の導入効率、ひいては解繊効率、コスト、取り扱いやすさの点から化合物Eはビニルスルホン酸ナトリウムであることが好ましい。
さらに任意成分として、上述した<リンオキソ酸基導入工程>における化合物Bを同様に用いることも好ましく、添加量も前述のようにすることが好ましい。
化合物Eを添加する際には、試薬(固形状もしくは液状)としてそのまま繊維原料に加えてもよいし、適当な溶媒に溶かして加えてもよい。繊維原料は事前にアルカリセルロース化するか、反応と同時にアルカリセルロース化されることが好ましい。アルカリセルロース化の方法は、前述のとおりである。
反応時の温度は、たとえば50℃以上300℃以下であることが好ましく、100℃以上250℃以下であることがより好ましく、130℃以上200℃以下であることがさらに好ましい。
化合物Eの繊維原料100質量部に対する添加量は、1質量部以上100,000質量部以下であることが好ましく、2質量部以上10,000質量部以下であることがより好ましく、5質量部以上1,000質量部以下であることがさらに好ましい。
反応時間は、反応温度に応じて変わり得るが、たとえば1分間以上1,000分間以下であることが好ましく、10分間以上500分間以下であることがより好ましく、15分間以上400分間以下であることがさらに好ましい。また、反応後は濾過等により、余剰の反応試薬、副生物等を水洗・除去してもよい。
<カルボキシアルキル化工程(第三のカルボキシ基導入工程)>
微細繊維状セルロースの製造工程は、イオン性置換基導入工程として、カルボキシアルキル化工程を含んでもよい。必須成分として、反応性基とカルボキシ基とを有する化合物(化合物E)、任意成分としてアルカリ化合物、前述した尿素およびその誘導体から選択される化合物Bを、湿潤あるいは乾燥状態の、水酸基を有する繊維原料に加えて反応を行うことで、繊維原料にカルボキシ基が導入される。
反応性基としては、ハロゲン化アルキル基、ビニル基、エポキシ基(グリシジル基)などが挙げられる。
化合物Eとしては、置換基の導入効率、ひいては解繊効率、コスト、取り扱いやすさの点からモノクロロ酢酸、モノクロロ酢酸ナトリウム、2-クロロプロピオン酸、3-クロロプロピオン酸、2-クロロプロピオン酸ナトリウム、3-クロロプロピオン酸ナトリウムが好ましい。
さらに任意成分として、上述した<リンオキソ酸基導入工程>における化合物Bを同様に用いることも好ましく、添加量も前述のようにすることが好ましい。
化合物Eを添加する際には、試薬(固形状もしくは液状)としてそのまま繊維原料に加えてもよいし、適当な溶媒に溶かして加えてもよい。繊維原料は事前にアルカリセルロース化するか、反応と同時にアルカリセルロース化されることが好ましい。アルカリセルロース化の方法は、前述のとおりである。
反応時の温度は、たとえば50℃以上300℃以下であることが好ましく、100℃以上250℃以下であることがより好ましく、130℃以上200℃以下であることがさらに好ましい。
化合物Eの繊維原料100質量部に対する添加量は、1質量部以上100,000質量部以下であることが好ましく、2質量部以上10,000質量部以下であることがより好ましく、5質量部以上1,000質量部以下であることがさらに好ましい。
反応時間は、反応温度に応じて変わり得るが、たとえば1分間以上1,000分間以下であることが好ましく、3分間以上500分間以下であることがより好ましく、5分間以上400分間以下であることがさらに好ましい。また、反応後は濾過等により、余剰の反応試薬、副生物等を水洗・除去してもよい。
<カチオン性基導入工程(カチオン化工程)>
必須成分として、反応性基とカチオン性基とを有する化合物(化合物E)、任意成分としてアルカリ化合物、前述した尿素およびその誘導体から選択される化合物Bを、湿潤あるいは乾燥状態の、水酸基を有する繊維原料に加えて反応を行うことで、繊維原料にカチオン基が導入される。
反応性基としては、ハロゲン化アルキル基、ビニル基、エポキシ基(グリシジル基)などが挙げられる。
カチオン性基としては、アンモニウム基、ホスホニウム基、スルホニウム基等を挙げることができる。中でもカチオン性基はアンモニウム基であることが好ましい。
化合物Eとしては、置換基の導入効率、ひいては解繊効率、コスト、取り扱いやすさの点からグリシジルトリメチルアンモニウムクロリド、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリド等が好ましい。
さらに任意成分として、上述した<リンオキソ酸基導入工程>における化合物Bを同様に用いることも好ましい。添加量も前述のようにすることが好ましい。
化合物Eを添加する際には、試薬(固形状もしくは液状)としてそのまま繊維原料に加えてもよいし、適当な溶媒に溶かして加えてもよい。繊維原料は事前にアルカリセルロース化するか、反応と同時にアルカリセルロース化されることが好ましい。アルカリセルロース化の方法は、前述のとおりである。
反応時の温度は、たとえば50℃以上300℃以下であることが好ましく、100℃以上250℃以下であることがより好ましく、130℃以上200℃以下であることがさらに好ましい。
化合物Eの繊維原料100質量部に対する添加量は、1質量部以上100,000質量部以下であることが好ましく、2質量部以上10,000質量部以下であることがより好ましく、5質量部以上1,000質量部以下であることがさらに好ましい。
反応時間は、反応温度に応じて変わり得るが、たとえば1分間以上1,000分間以下であることが好ましく、10分間以上500分間以下であることがより好ましく、20分間以上400分間以下であることがさらに好ましい。また、反応後は濾過等により、余剰の反応試薬、副生物等を水洗・除去してもよい。
<洗浄工程>
本実施形態における微細繊維状セルロースの製造方法においては、必要に応じてイオン性置換基導入繊維に対して洗浄工程を行うことができる。洗浄工程は、たとえば水や有機溶媒によりイオン性置換基導入繊維を洗浄することにより行われる。また、洗浄工程は後述する各工程の後に行われてもよく、各洗浄工程において実施される洗浄回数は、特に限定されない。
<アルカリ処理工程>
微細繊維状セルロースを製造する場合、イオン性置換基導入工程と、後述する解繊処理工程との間に、繊維原料に対してアルカリ処理を行ってもよい。アルカリ処理の方法としては、特に限定されないが、例えばアルカリ溶液中に、イオン性置換基導入繊維を浸漬する方法が挙げられる。
アルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物は、特に限定されず、無機アルカリ化合物であってもよいし、有機アルカリ化合物であってもよい。本実施形態においては、汎用性が高いことから、たとえば水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムをアルカリ化合物として用いることが好ましい。また、アルカリ溶液に含まれる溶媒は、水または有機溶媒のいずれであってもよい。中でも、アルカリ溶液に含まれる溶媒は、水、またはアルコールに例示される極性有機溶媒などを含む極性溶媒であることが好ましく、少なくとも水を含む水系溶媒であることがより好ましい。アルカリ溶液としては、汎用性が高いことから、たとえば水酸化ナトリウム水溶液、または水酸化カリウム水溶液が好ましい。
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の温度は、特に限定されないが、たとえば5℃以上80℃以下であることが好ましく、10℃以上60℃以下であることがより好ましい。アルカリ処理工程におけるイオン性置換基導入繊維のアルカリ溶液への浸漬時間は、特に限定されないが、たとえば5分以上30分以下であることが好ましく、10分以上20分以下であることがより好ましい。アルカリ処理におけるアルカリ溶液の使用量は、特に限定されないが、たとえばイオン性置換基導入繊維の絶対乾燥質量に対して100質量%以上100000質量%以下であることが好ましく、1000質量%以上10000質量%以下であることがより好ましい。繊維状セルロースがアニオン性基を有する場合、アルカリ処理では、そのアニオン性基の中和処理及び/又はイオン交換処理が行われてもよい。この場合、アルカリ溶液の温度は室温であることが好ましい。
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の使用量を減らすために、イオン性置換基導入工程の後であってアルカリ処理工程の前に、イオン性置換基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄してもよい。アルカリ処理工程の後であって解繊処理工程の前には、取り扱い性を向上させる観点から、アルカリ処理を行ったイオン性置換基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄することが好ましい。
<酸処理工程>
微細繊維状セルロースを製造する場合、イオン性置換基を導入する工程と、後述する解繊処理工程の間に、繊維原料に対して酸処理を行ってもよい。例えば、イオン性置換基導入工程、酸処理、アルカリ処理及び解繊処理をこの順で行ってもよい。
酸処理の方法としては、特に限定されないが、たとえば酸を含有する酸性液中に繊維原料を浸漬する方法が挙げられる。使用する酸性液の濃度は、特に限定されないが、たとえば10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。また、使用する酸性液のpHは、特に限定されないが、たとえば0以上4以下であることが好ましく、1以上3以下であることがより好ましい。酸性液に含まれる酸としては、たとえば無機酸、スルホン酸、カルボン酸等を用いることができる。無機酸としては、たとえば硫酸、硝酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸、リン酸、ホウ酸等が挙げられる。スルホン酸としては、たとえばメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等が挙げられる。カルボン酸としては、たとえばギ酸、酢酸、クエン酸、グルコン酸、乳酸、シュウ酸、酒石酸等が挙げられる。これらの中でも、塩酸または硫酸を用いることが特に好ましい。
酸処理における酸溶液の温度は、特に限定されないが、たとえば5℃以上100℃以下が好ましく、20℃以上90℃以下がより好ましい。酸処理における酸溶液への浸漬時間は、特に限定されないが、たとえば5分以上120分以下が好ましく、10分以上60分以下がより好ましい。酸処理における酸溶液の使用量は、特に限定されないが、たとえば繊維原料の絶対乾燥質量に対して100質量%以上100000質量%以下であることが好ましく、1000質量%以上10000質量%以下であることがより好ましい。微細繊維状セルロースがカチオン性基を有する場合、酸処理では、そのカチオン性基の中和処理及び/又はイオン交換処理が行われてもよい。この場合、酸溶液の温度は室温であることが好ましい。
<解繊処理>
イオン性置換基導入繊維を解繊処理工程で解繊処理することにより、微細繊維状セルロースが得られる。解繊処理工程においては、たとえば解繊処理装置を用いることができる。解繊処理装置は、特に限定されないが、たとえば高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミル、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、またはビーターなどを使用することができる。上記解繊処理装置の中でも、粉砕メディアの影響が少なく、コンタミネーションのおそれが少ない高速解繊機、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザーを用いるのがより好ましい。
解繊処理工程においては、たとえばイオン性置換基導入繊維を、分散媒により希釈してスラリー状にすることが好ましい。分散媒としては、水、および極性有機溶媒などの有機溶媒から選択される1種または2種以上を使用することができる。極性有機溶媒としては、特に限定されないが、たとえばアルコール類、多価アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、非プロトン性極性溶媒等が好ましい。アルコール類としては、たとえばメタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブチルアルコール等が挙げられる。多価アルコール類としては、たとえばエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどが挙げられる。ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。エーテル類としては、たとえばジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。エステル類としては、たとえば酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられる。非プロトン性極性溶媒としてはジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリジノン(NMP)等が挙げられる。
解繊処理時の微細繊維状セルロースの固形分濃度は適宜設定できる。また、イオン性置換基導入繊維を分散媒に分散させて得たスラリー中には、例えば水素結合性のある尿素などのイオン性置換基導入繊維以外の固形分が含まれていてもよい。
<窒素除去処理工程>
微細繊維状セルロースの製造工程は、繊維状セルロースに導入された窒素量や系内に存在する窒素量を低減させる工程(窒素除去処理工程)をさらに含んでもよい。窒素量を低減させることで、さらに着色を抑制し得る微細繊維状セルロースを得ることができる。窒素除去処理工程は、解繊処理工程の後に設けられてもよいが、解繊処理工程の前に設けられることが好ましい。
窒素除去処理工程においては、イオン性置換基導入繊維を含むスラリーのpHを10以上に調整し、加熱処理を行うことが好ましい。加熱処理においては、スラリーの液温を50℃以上100℃以下とすることが好ましく、加熱時間は15分以上180分以下とすることが好ましい。イオン性置換基導入繊維を含むスラリーのpHを調整する際には、上述したアルカリ処理工程で用いることができるアルカリ化合物をスラリーに添加することが好ましい。
窒素除去処理工程の後、必要に応じてイオン性置換基導入繊維に対して洗浄工程を行うことができる。洗浄工程は、例えば水や有機溶媒によりイオン性置換基導入繊維を洗浄することにより行われる。また、各洗浄工程において実施される洗浄回数は、特に限定されない。
<置換基除去処理工程>
微細繊維状セルロースの製造方法は、置換基を有し、かつ繊維幅が1000nm以下の微細繊維状セルロースから、置換基の少なくとも一部を除去する工程を含んでもよい。このような工程を経ることで、置換基導入量が低いが、繊維幅の小さい微細繊維状セルロースを得ることもできる。本明細書において、微細繊維状セルロースから、置換基の少なくとも一部を除去する工程は、置換基除去処理工程とも言う。
置換基除去処理工程としては、置換基を有し、かつ繊維幅が1000nm以下の微細繊維状セルロースを加熱処理する工程、酵素処理する工程、酸処理する工程、アルカリ処理する工程等が挙げられる。これらは単独で行ってもよく、組み合わせて行ってもよい。中でも、置換基除去処理工程は、加熱処理する工程又は酵素処理する工程であることが好ましい。上記処理工程を経ることで、置換基を有し、かつ繊維幅が1000nm以下の微細繊維状セルロースから、置換基の少なくとも一部が除去され、例えば、置換基導入量が0.5mmol/g未満の微細繊維状セルロースを得ることができる。
置換基除去処理工程は、スラリー状で行われることが好ましい。すなわち、置換基除去処理工程は、置換基を有し、かつ繊維幅が1000nm以下の微細繊維状セルロースを含むスラリーを、加熱処理する工程、酵素処理する工程、酸処理する工程、アルカリ処理する工程等であることが好ましい。置換基除去処理工程をスラリー状で実施することによって、置換基除去処理時の加熱等によって生じる着色物質や、添加もしくは発生する酸、アルカリ、塩などの残留を防ぐことができる。これにより、繊維層や積層シートの着色を抑制することができる。また、置換基除去処理後に除去した置換基由来の塩の除去処理を行う場合、塩の除去効率を高めることも可能となる。
置換基を有し、かつ繊維幅が1000nm以下の微細繊維状セルロースを含むスラリーに対して置換基除去処理を行う場合、該スラリー中の微細繊維状セルロースの濃度は、0.05質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましく、0.2質量%以上であることがさらに好ましい。また、該スラリー中の微細繊維状セルロースの濃度は、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましい。スラリー中の微細繊維状セルロースの濃度を上記範囲内とすることにより、置換基除去処理をより効率よく行うことができる。さらに、スラリー中の微細繊維状セルロースの濃度を上記範囲内とすることにより、置換基除去処理時の加熱等によって生じる着色物質や、添加もしくは発生する酸、アルカリ、塩などの残留を防ぐことができる。これにより、繊維層や積層シートの着色を抑制することができる。また、置換基除去処理後に除去した置換基由来の塩の除去処理を行う場合、塩の除去効率を高めることも可能となる。
置換基除去処理工程が、置換基を有し、かつ繊維幅が1000nm以下の微細繊維状セルロースを加熱処理する工程である場合、加熱処理する工程における加熱温度は、40℃以上であることが好ましく、50℃以上であることがより好ましく、60℃以上であることがさらに好ましい。また、加熱処理する工程における加熱温度は、250℃以下であることが好ましく、230℃以下であることがより好ましく、200℃以下であることがさらに好ましい。中でも、置換基除去処理工程に供する微細繊維状セルロースが有する置換基がリンオキソ酸基である場合、加熱処理する工程における加熱温度は、80℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましく、120℃以上であることがさらに好ましい。
置換基除去処理工程が加熱処理する工程である場合、加熱処理工程において使用できる加熱装置としては、特に限定されないが、熱風加熱装置、蒸気加熱装置、電熱加熱装置、水熱加熱装置、火力加熱装置、赤外線加熱装置、遠赤外線加熱装置、マイクロ波加熱装置、高周波加熱装置、撹拌乾燥装置、回転乾燥装置、円盤乾燥装置、ロール型加熱装置、プレート型加熱装置、流動層乾燥装置、バンド型乾燥装置、ろ過乾燥装置、振動流動乾燥装置、気流乾燥装置、減圧乾燥装置を用いることができる。蒸発を防ぐ観点から、加熱は密閉系で行われることが好ましく、さらに加熱温度を高める観点から、耐圧性の装置内や容器内で行われることが好ましい。加熱処理はバッチ処理であってもよく、バッチ連続処理であってもよく、連続処理であってもよい。
置換基除去処理工程が、置換基を有し、かつ繊維幅が1000nm以下の微細繊維状セルロースを酵素処理する工程である場合、酵素処理する工程では、置換基の種類に応じて、リン酸エステル加水分解酵素、硫酸エステル加水分解酵素等を用いることが好ましい。
酵素処理工程では、微細繊維状セルロース1gに対して酵素活性が0.1nkat以上となるよう酵素を添加することが好ましく、1.0nkat以上となるよう酵素を添加することがより好ましく、10nkat以上となるよう酵素を添加することがさらに好ましい。また、微細繊維状セルロース1gに対して酵素活性が100000nkat以下となるよう酵素を添加することが好ましく、50000nkat以下となるよう酵素を添加することがより好ましく10000nkat以下となるよう酵素を添加することがさらに好ましい。微細繊維状セルロース分散液(スラリー)に酵素を添加した後には、0℃以上50℃未満の条件下で1分以上100時間以下処理を行うことが好ましい。
酵素反応の後、酵素を失活させる工程を設けてもよい。酵素を失活させる方法としては、酵素処理を施したスラリーに酸成分もしくはアルカリ成分を添加して酵素を失活させる方法、酵素処理を施したスラリーの温度を90℃以上に上昇させて酵素を失活させる方法が挙げられる。
置換基除去処理工程が、置換基を有し、かつ繊維幅が1000nm以下の微細繊維状セルロースを酸処理する工程である場合、酸処理する工程では、上述した酸処理工程で用いることができる酸化合物をスラリーに添加することが好ましい。
置換基除去処理工程が、置換基を有し、かつ繊維幅が1000nm以下の微細繊維状セルロースをアルカリ処理する工程である場合、アルカリ処理する工程では、上述したアルカリ処理工程で用いることができるアルカリ化合物をスラリーに添加することが好ましい。
置換基除去処理工程では、置換基除去反応が均一に進むことが好ましい。反応を均一に進めるためには、例えば微細繊維状セルロースを含むスラリーを撹拌してもよく、加熱媒体と接するスラリーの比表面積を高めてもよい。スラリーを撹拌する方法としては、外部からの機械的シェアを与えてもよく、反応中のスラリーの送液速度を上げることで自己撹拌を促してもよい。
置換基除去処理工程では、スペーサー分子を添加してもよい。スペーサー分子は、隣接する微細繊維状セルロースの間に入り込み、それにより微細繊維状セルロース間に微細なスペースを設けるためのスペーサーとして働く。置換基除去処理工程において、このようなスペーサー分子を添加することで、置換基除去処理後の微細繊維状セルロースの凝集を抑制することができる。これにより、繊維層や積層シートの透明性をより効果的に高めることができる。
スペーサー分子は水溶性有機化合物であることが好ましい。水溶性有機化合物としては、例えば、糖や水溶性高分子、尿素等を挙げることができる。具体的には、トレハロース、尿素、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレンオキサイド(PEO)、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール(PVA)等を挙げることができる。また、水溶性有機化合物として、メタクリル酸アルキル・アクリル酸コポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウム、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、イソプレングリコール、ヘキシレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ポリアクリルアミド、キサンタンガム、グアーガム、タマリンドガム、カラギーナン、ローカストビーンガム、クインスシード、アルギン酸、プルラン、カラギーナン、ペクチン、カチオン化デンプン、生デンプン、酸化デンプン、エーテル化デンプン、エステル化デンプン、アミロース等のデンプン類、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸の金属塩を用いることもできる。
また、スペーサー分子として公知の顔料を使用することができる。例えば、カオリン(含クレー)、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化亜鉛、非晶質シリカ(含コロイダルシリカ)、酸化アルミニウム、ゼオライト、セピオライト、スメクタイト、合成スメクタイト、珪酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、珪藻土、スチレン系プラスチックピグメント、ハイドロタルサイト、尿素樹脂系プラスチックピグメント、ベンゾグアナミン系プラスチックピグメント等が挙げられる。
<pH調整工程>
上述した置換基除去処理工程がスラリー状で行われる場合、置換基除去処理工程の前に、微細繊維状セルロースを含むスラリーのpHを調整する工程を設けてもよい。例えば、セルロース繊維にイオン性置換基を導入し、このイオン性置換基の対イオンがNaである場合、解繊後の微細繊維状セルロースを含むスラリーは弱アルカリ性を示す。この状態で加熱を行うと、セルロースの分解により着色要因の一つである単糖が発生する場合があるため、スラリーのpHを8以下に調整することが好ましく、6以下に調整することがより好ましい。また、酸性条件においても同様に単糖が発生する場合があるため、スラリーのpHを3以上に調整することが好ましく、4以上に調整することがより好ましい。
また、置換基を有する微細繊維状セルロースがリン酸基を有する微細繊維状セルロースである場合、置換基の除去効率向上の観点から、リン酸基のリンが求核攻撃を受けやすい状態であることが好ましい。求核攻撃を受けやすいのは、セルロース-O-P(=O)(-O-H)(-O-Na)と表される中和度1の状態であり、この状態とするには、スラリーのpHを3以上8以下に調整することが好ましく、pHを4以上6以下に調整することがさらに好ましい。
pHを調整する手段は特に限定されないが、例えば微細繊維状セルロースを含むスラリーに酸成分やアルカリ成分を添加してもよい。酸成分は無機酸および有機酸のいずれであってもよく、無機酸としては、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸等が挙げられる。有機酸としては、ギ酸、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、アジピン酸、セバシン酸、ステアリン酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、フマル酸、グルコン酸等が挙げられる。アルカリ成分は、無機アルカリ化合物であってもよいし、有機アルカリ化合物であってもよい。無機アルカリ化合物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどが挙げられる。有機アルカリ化合物としては、アンモニア、ヒドラジン、メチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジプロピルアミン、ブチルアミン、ジアミノエタン、ジアミノプロパン、ジアミノブタン、ジアミノペンタン、ジアミノヘキサン、シクロヘキシルアミン、アニリン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ピリジン、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン等が挙げられる。
また、pH調整工程では、pHを調整するためにイオン交換処理を行ってもよい。イオン交換処理に際しては、強酸性陽イオン交換樹脂もしくは弱酸性イオン交換樹脂を用いることができる。適切な量の陽イオン交換樹脂で十分な時間処理することにより、目的とするpHの微細繊維状セルロースを含むスラリーを得ることができる。さらに、pH調整工程では酸成分やアルカリ成分の添加とイオン交換処理を組み合わせてもよい。
<塩の除去処理工程>
置換基除去処理工程の後には、除去した置換基由来の塩の除去処理を行うことが好ましい。置換基由来の塩を除去することで、着色を抑制し得る微細繊維状セルロースが得られ易くなる。置換基由来の塩を除去する手段は特に限定されないが、例えば洗浄処理が挙げられる。洗浄処理は、たとえば水や有機溶媒により、置換基除去処理で凝集した微細繊維状セルロースを洗浄することにより行われる。黄変をより効果的に抑制する観点から、洗浄処理は濾過脱水や、遠心脱水、遠心分離により行うことが好ましい。
<均一分散処理工程>
置換基除去処理工程の後には、置換基除去処理を経て得られた微細繊維状セルロースを均一分散処理する工程を設けてもよい。微細繊維状セルロースに対して置換基除去処理を施すことにより、少なくとも一部の微細繊維状セルロースが凝集する。均一分散処理工程においては、このように凝集した微細繊維状セルロースを均一分散する工程である。
均一分散処理工程では、例えば高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザー高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミル、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機又はビーターなどを使用することができる。上記均一分散処理装置の中でも、高速解繊機、高圧ホモジナイザーを用いることがより好ましい。
均一分散処理工程における処理条件は特に限定されないが、処理中の微細繊維状セルロースの最高移動速度や、処理時の圧力を大きくすることが好ましい。高速解繊機においては、その周速が20m/sec以上であることが好ましく、25m/sec以上であることがより好ましく、30m/sec以上であることがさらに好ましい。高圧ホモジナイザーは、高速解繊機よりも、処理中の微細繊維状セルロースの最高移動速度や、処理時の圧力が大きくなるため、より好ましく使用できる。高圧ホモジナイザー処理においては、処理時の圧力は1MPa以上であることが好ましく、10MPa以上であることがより好ましく、50MPa以上であることがさらに好ましく、100MPa以上であることが特に好ましい。また、高圧ホモジナイザー処理においては、処理時の圧力は350MPa以下であることが好ましく、300MPa以下であることがより好ましく、250MPa以下がさらに好ましい。
なお、均一分散処理工程においては、上述したスペーサー分子を新たに添加してもよい。均一分散処理工程において、このようなスペーサー分子を添加することで、微細繊維状セルロースの均一分散をよりスムーズに行うことができる。これにより、繊維層や積層シートの透明性をより効果的に高めることができる。
<親水性高分子>
繊維層は、水酸基を含有する構成単位を有する親水性高分子を含む。親水性高分子は、例えばSP値が9.0以上の親水性高分子であることが好ましい。また、親水性高分子は、たとえば100mlのイオン交換水に含酸素有機化合物が1g以上溶解するものであることが好ましい。
水酸基を含有する構成単位を有する親水性高分子としては、デキストリン、澱粉、変性澱粉、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール(アセトアセチル化ポリビニルアルコール等)、ポリビニルブチラール、セルロース誘導体(ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等)等が挙げられる。中でも、積層シートの耐久性を向上させる観点から、親水性高分子は、ポリビニルアルコール又はセルロース誘導体であることが好ましい。
繊維層にポリビニルアルコールが配合される場合、ポリビニルアルコールのけん化度は、99.9%以下であることが好ましく、99%以下であることがより好ましく、95%以下であることがさらに好ましい。また、ポリビニルアルコールのけん化度は、85%以上であることが好ましい。けん化度が上記範囲内にあるポリビニルアルコールを繊維層に含有させることで、繊維層の透明性をより効果的に高めることができ、結果として、より高い透明性を有するシートを得ることができる。
繊維層にセルロース誘導体が配合される場合、セルロース誘導体の重量平均分子量は、繊維層としての形状安定性およびゲル化を抑制して繊維層を形成する観点、ならびに、高い引張弾性率および高い引張伸度の両立の観点、加熱前後の黄変を抑制する観点から、好ましくは2.5×10以上、より好ましくは5.0×10以上、さらに好ましくは1.0×10以上であり、そして、好ましくは2.8×10以下、より好ましくは2.6×10以下である。セルロース誘導体の重量平均分子量は、光散乱法によるゲル浸透クロマトグラフィー法(GPC-MALLS法)により測定される。
セルロース誘導体は、微細繊維状セルロースとの親和性を高める観点、および微細繊維状セルロースのスラリー(微細繊維状セルロース分散液)中への添加が容易である観点から、水溶性セルロースエーテルであることが好ましい。ここで、水溶性であるとは、20℃の水100gに対して、1g以上が溶解することを意味する。また、セルロースエーテルとは、セルロースのヒドロキシ基をエーテル化したセルロース誘導体の総称である。水溶性セルロースエーテルとしては、メチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース等が好ましく例示される。また、水溶性セルロースエーテルは、加熱によるシートの黄変を抑制する観点から、非イオン性の水溶性セルロースエーテルであることが好ましい。非イオン性水溶性セルロースエーテルとしては、メチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等が例示される。非イオン性水溶性セルロースエーテルは、メトキシ基およびヒドロキシプロポキシ基よりなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有することが好ましく、メチルセルロースおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースよりなる群から選択されることがより好ましく、ヒドロキシプロピルメチルセルロースがさらに好ましい。
セルロース誘導体がメチルセルロースである場合、メトキシ基の置換度は、好ましくは0.5以上、より好ましくは0.8以上、さらに好ましくは1.0以上、よりさらに好ましくは1.2以上、とくに好ましくは1.5以上であり、そして、好ましくは3.0以下、より好ましくは2.6以下、さらに好ましくは2.2以下、よりさらに好ましくは2.0以下である。
セルロース誘導体がヒドロキシプロピルメチルセルロースである場合、メトキシ基の置換度の好ましい範囲は、上述したメチルセルロースにおけるメトキシ基の置換度と同様である。また、ヒドロキシプロポキシ基の置換度は、好ましくは0.08以上、より好ましくは0.10以上、さらに好ましくは0.12以上、よりさらに好ましくは0.15以上、とくに好ましくは0.18以上であり、そして、好ましくは0.50以下、より好ましくは0.40以下、さらに好ましくは0.35以下、よりさらに好ましくは0.30以下である。
親水性高分子の重量平均分子量は、1万以上であればよく、5万以上であることが好ましく、10万以上であることがより好ましい。また、親水性高分子の重量平均分子量は800万以下であることが好ましく、500万以下であることがより好ましい。
水酸基を含有する構成単位を有する親水性高分子の含有量は、繊維層の全質量に対して、5質量%以上であることが好ましく、10質量%であることがより好ましく、15質量%以上であることがさらに好ましく、20質量%以上であることが特に好ましい。また、水酸基を含有する構成単位を有する親水性高分子の含有量は、繊維層の全質量に対して、95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましく、80質量%以下であることがさらに好ましい。水酸基を含有する構成単位を有する親水性高分子の含有量を上記範囲内とすることにより、耐久性に優れ、かつ高透明な繊維層及び積層シートを形成しやすくなる。
なお、繊維層には、水酸基を含有しない構成単位を有する親水性高分子が含まれていてもよいが、その含有量は1質量%以下であることが好ましい。また、繊維層には、上述した置換基除去処理工程等で用いられるスペーサー分子が含まれていてもよく、このようなスペーサー分子には水酸基を含有しない構成単位を有する親水性高分子も含まれるが、スペーサー分子が水酸基を含有しない構成単位を有する親水性高分子である場合には、スペーサー分子の含有量は繊維層の全質量に対して、1質量%以下であることが好ましい。
(任意成分)
シートには、任意成分が含まれていてもよい。任意成分としては、例えば、親水性低分子、紙力増強剤、熱可塑性樹脂、界面活性剤、有機イオン、カップリング剤、無機層状化合物、無機化合物、レベリング剤、防腐剤、消泡剤、有機系粒子、潤滑剤、帯電防止剤、紫外線防御剤、染料、顔料、安定剤、磁性粉、配向促進剤、可塑剤、分散剤、着色防止剤、重合禁止剤、pH調整剤および架橋剤等が挙げられる。なお、これらの任意成分は、繊維層、樹脂層及び無機層のいずれの層に含まれていてもよい。
親水性低分子としては、グリセリン、ソルビトール、エチレングリコール等が挙げられる。本明細書において、親水性低分子とは重量平均分子量が1万未満のものである。
また、有機イオンとしては、テトラアルキルアンモニウムイオンやテトラアルキルホスホニウムイオンを挙げることができる。テトラアルキルアンモニウムイオンとしては、例えば、テトラメチルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラプロピルアンモニウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオン、テトラペンチルアンモニウムイオン、テトラヘキシルアンモニウムイオン、テトラヘプチルアンモニウムイオン、トリブチルメチルアンモニウムイオン、ラウリルトリメチルアンモニウムイオン、セチルトリメチルアンモニウムイオン、ステアリルトリメチルアンモニウムイオン、オクチルジメチルエチルアンモニウムイオン、ラウリルジメチルエチルアンモニウムイオン、ジデシルジメチルアンモニウムイオン、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムイオン、トリブチルベンジルアンモニウムイオンが挙げられる。テトラアルキルホスホニウムイオンとしては、例えばテトラメチルホスホニウムイオン、テトラエチルホスホニウムイオン、テトラプロピルホスホニウムイオン、テトラブチルホスホニウムイオン、およびラウリルトリメチルホスホニウムイオンが挙げられる。また、テトラプロピルオニウムイオン、テトラブチルオニウムイオンとして、それぞれテトラn-プロピルオニウムイオン、テトラn-ブチルオニウムイオンなども挙げることができる。
(シートの製造方法)
シートの製造方法は、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースと、水酸基を含有する構成単位を有する親水性高分子とを含む繊維層の両面に樹脂層を形成する工程と、樹脂層の少なくとも一方の側に無機層を形成する工程と、を含む。
<樹脂層形成工程>
繊維層の両面に樹脂層を形成する工程は、繊維層の両面に樹脂フィルムもしくは樹脂シートを貼合する工程であってもよいが、繊維層の両面に樹脂塗工液を塗工して樹脂層を形成する工程であることが好ましい。ここで、樹脂塗工液は溶剤を含むことが好ましく、繊維層の両面に形成される樹脂層は溶剤塗工層であることが好ましい。
溶剤を含む樹脂塗工液の粘度は、100cps以下であることが好ましく、80cps以下であることがより好ましく、60cps以下であることがさらに好ましい。ここで、樹脂塗工液の粘度は、B型粘度計により測定される値である。測定条件は、回転速度60rpmとし、測定開始から1分後の粘度値を樹脂塗工液の粘度とする。B型粘度計としては、例えばBLOOKFIELD株式会社製、アナログ粘度計T-LVTを用いることができる。樹脂塗工液の粘度を上記範囲内とすることにより、シートの表面粗さを所定の範囲にコントロールしやすくなり、結果としてシートの透明性をより効果的に高めることができる。
樹脂塗工液中における固形分含有量は12質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、8質量%以下であることがさらに好ましい。ここで、樹脂塗工液中における固形分含有量は、主に樹脂塗工液に含まれる樹脂成分の含有量となるが、樹脂塗工液中に後述するような密着助剤等の任意成分が含まれる場合は、任意成分も含めた含有量となる。
樹脂塗工液は、必要に応じて密着助剤等の任意成分を含んでいてもよい。密着助剤としては、上述した密着助剤を好ましく例示できる。
繊維層の両面に樹脂塗工液を塗工して樹脂層を形成する工程は、公知の塗工装置を用いて実施できる。塗工装置としては、例えば、ブレードコーター、エアナイフコーター、ロールコーター、バーコーター、グラビアコーター、マイクログラビアコーター、ロッドブレードコーター、リップコーター、ダイコーター、カーテンコーター等が挙げられる。
<無機層形成工程>
樹脂層上に無機層を形成する工程では、スパッタリング、CVD法やイオンアシスト蒸着法、ALD法を用いることが好ましい。無機層の形成には、例えばイオンビームスパッタ装置(伯東社製)やスパッタ装置(アネルバ社製)、イオンアシスト蒸着装置、ALD装置等を使用することができる。
<繊維層形成工程>
シートの製造方法は、繊維層の両面に樹脂層を形成する工程の前工程として、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースと、水酸基を含有する構成単位を有する親水性高分子とを含む繊維層を形成する工程を含む。ここで、繊維層を形成する工程は、繊維状セルロース分散液(以下、スラリーともいう)を得る工程と、該繊維状セルロース分散液を基材上に塗工する塗工工程、または該繊維状セルロース分散液を抄紙する抄紙工程を含む。これにより、上述した繊維層が得られることとなる。なお、繊維状セルロース分散液は、上述したような微細繊維状セルロースと、水酸基を含有する構成単位を有する親水性高分子を含む分散液である。
繊維層形成工程を経て得られた繊維層の樹脂層側の面には表面処理を施してもよい。表面処理の方法としては、例えば、コロナ処理、プラズマ放電処理、UV照射処理、電子線照射処理、火炎処理等を挙げることができる。中でも、表面処理は、コロナ処理及びプラズマ放電処理から選択される少なくとも1種であることが好ましい。なお、プラズマ放電処理は真空プラズマ放電処理であることが好ましい。
<<塗工工程>>
塗工工程では、たとえば繊維状セルロース分散液(スラリー)を基材上に塗工し、これを乾燥して形成された繊維シートを基材から剥離することにより繊維層を得ることができる。また、塗工装置と長尺の基材を用いることで、繊維層となる繊維シートを連続的に生産することができる。
塗工工程で用いる基材の材質は、とくに限定されないが、繊維状セルロース分散液(スラリー)に対する濡れ性が高いものの方が乾燥時の繊維シートの収縮等を抑制することができて良いが、乾燥後に形成された繊維シートが容易に剥離できるものを選択することが好ましい。中でも樹脂製のフィルムや板または金属製のフィルムや板が好ましいが、とくに限定されない。たとえばポリプロピレン、アクリル、ポリエチレンテレフタレート、塩化ビニル、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニリデン等の樹脂のフィルムや板、アルミ、亜鉛、銅、鉄板の金属のフィルムや板、および、それらの表面を酸化処理したもの、ステンレスのフィルムや板、真ちゅうのフィルムや板等を用いることができる。
塗工工程において、スラリーの粘度が低く、基材上で展開してしまう場合には、所定の厚みおよび坪量の繊維シートを得るため、基材上に堰止用の枠を固定して使用してもよい。堰止用の枠としては、とくに限定されないが、たとえば乾燥後に付着する繊維シートの端部が容易に剥離できるものを選択することが好ましい。このような観点から、樹脂板または金属板を成形したものがより好ましい。本実施形態においては、たとえばポリプロピレン板、アクリル板、ポリエチレンテレフタレート板、塩化ビニル板、ポリスチレン板、ポリカーボネート板、ポリ塩化ビニリデン板等の樹脂板や、アルミ板、亜鉛板、銅板、鉄板等の金属板、およびこれらの表面を酸化処理したもの、ステンレス板、真ちゅう板等を成形したものを用いることができる。
スラリーを基材に塗工する塗工機としては、とくに限定されないが、たとえばロールコーター、グラビアコーター、ダイコーター、カーテンコーター、エアドクターコーター等を使用することができる。繊維シートの厚みをより均一にできることから、ダイコーター、カーテンコーター、スプレーコーターがとくに好ましい。
スラリーを基材へ塗工する際のスラリー温度および雰囲気温度は、とくに限定されないが、たとえば5℃以上80℃以下であることが好ましく、10℃以上60℃以下であることがより好ましく、15℃以上50℃以下であることがさらに好ましく、20℃以上40℃以下であることがとくに好ましい。塗工温度が上記下限値以上であれば、スラリーをより容易に塗工できる。塗工温度が上記上限値以下であれば、塗工中の分散媒の揮発を抑制できる。
塗工工程においては、繊維シートの仕上がり坪量が好ましくは10g/m以上100g/m以下となるように、より好ましくは20g/m以上60g/m以下となるように、スラリーを基材に塗工することが好ましい。坪量が上記範囲内となるように塗工することで、より強度に優れた繊維シートが得られる。
塗工工程は、上述のとおり、基材上に塗工したスラリーを乾燥させる工程を含む。スラリーを乾燥させる工程は、とくに限定されないが、たとえば非接触の乾燥方法、もしくは繊維シートを拘束しながら乾燥する方法、またはこれらの組み合わせにより行われる。
非接触の乾燥方法としては、とくに限定されないが、たとえば熱風、赤外線、遠赤外線もしくは近赤外線により加熱して乾燥する方法(加熱乾燥法)、または真空にして乾燥する方法(真空乾燥法)を適用することができる。加熱乾燥法と真空乾燥法を組み合わせてもよいが、通常は、加熱乾燥法が適用される。赤外線、遠赤外線または近赤外線による乾燥は、とくに限定されないが、たとえば赤外線装置、遠赤外線装置または近赤外線装置を用いて行うことができる。
加熱乾燥法における加熱温度は、とくに限定されないが、たとえば20℃以上150℃以下とすることが好ましく、25℃以上105℃以下とすることがより好ましい。加熱温度を上記下限値以上とすれば、分散媒を速やかに揮発させることができる。また、加熱温度を上記上限値以下であれば、加熱に要するコストの抑制および繊維状セルロースの熱による変色の抑制を実現できる。
<<抄紙工程>>
抄紙工程は、抄紙機によりスラリーを抄紙することにより行われる。抄紙工程で用いられる抄紙機としては、とくに限定されないが、たとえば長網式、円網式、傾斜式等の連続抄紙機、またはこれらを組み合わせた多層抄き合わせ抄紙機等が挙げられる。抄紙工程では、手抄き等の公知の抄紙方法を採用してもよい。
抄紙工程は、スラリーをワイヤーにより濾過、脱水して湿紙状態の繊維シートを得た後、この繊維シートをプレス、乾燥することにより行われる。スラリーを濾過、脱水する際に用いられる濾布としては、とくに限定されないが、たとえば繊維状セルロースは通過せず、かつ濾過速度が遅くなりすぎないものであることがより好ましい。このような濾布としては、とくに限定されないが、たとえば有機ポリマーからなる繊維シート、織物、多孔膜が好ましい。有機ポリマーとしてはとくに限定されないが、たとえばポリエチレンテレフタレートやポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のような非セルロース系の有機ポリマーが好ましい。本実施形態においては、たとえば孔径0.1μm以上20μm以下であるポリテトラフルオロエチレンの多孔膜や、孔径0.1μm以上20μm以下であるポリエチレンテレフタレートやポリエチレンの織物等が挙げられる。
スラリーから繊維シートを製造する方法は、たとえば繊維状セルロースを含むスラリーを無端ベルトの上面に吐出し、吐出されたスラリーから分散媒を搾水してウェブを生成する搾水セクションと、ウェブを乾燥させて繊維シートを生成する乾燥セクションとを備える製造装置を用いて行うことができる。搾水セクションから乾燥セクションにかけて無端ベルトが配設され、搾水セクションで生成されたウェブが無端ベルトに載置されたまま乾燥セクションに搬送される。
抄紙工程において用いられる脱水方法としては、とくに限定されないが、たとえば紙の製造で通常に使用している脱水方法が挙げられる。これらの中でも、長網、円網、傾斜ワイヤーなどで脱水した後、さらにロールプレスで脱水する方法が好ましい。また、抄紙工程において用いられる乾燥方法としては、とくに限定されないが、たとえば紙の製造で用いられている方法が挙げられる。これらの中でも、シリンダードライヤー、ヤンキードライヤー、熱風乾燥、近赤外線ヒーター、赤外線ヒーターなどを用いた乾燥方法がより好ましい。
(用途)
本実施形態のシートは高い透明性を有しており、優れた耐久性を発揮する。このため、本実施形態のシートは、光学部材用に用いられることが好ましい。より具体的には、本実施形態のシートは各種のディスプレイ装置、各種の太陽電池といった光透過性基板の用途に適している。また、本実施形態のシートは、電子機器の基板、家電の部材、各種の乗り物や建物の窓材、内装材、外装材、包装用資材、ガスバリア性資材等の用途にも適している。
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
<製造例A1>
原料パルプとして、王子製紙株式会社製の針葉樹クラフトパルプ(固形分93質量%、坪量245g/mシート状、離解してJIS P 8121-2:2012に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)が700ml)を使用した。
この原料パルプに対してリンオキソ酸化処理を次のようにして行った。まず、上記原料パルプ100質量部(絶乾質量)に、リン酸二水素アンモニウムと尿素の混合水溶液を添加して、リン酸二水素アンモニウム45質量部、尿素120質量部、水150質量部となるように調整し、薬液含浸パルプを得た。次いで、得られた薬液含浸パルプを165℃の熱風乾燥機で250秒加熱し、パルプ中のセルロースにリン酸基を導入し、リン酸化パルプを得た。
次いで、得られたリン酸化パルプに対して洗浄処理を行った。洗浄処理は、リン酸化パルプ100g(絶乾質量)に対して10Lのイオン交換水を注いで得たパルプ分散液を、パルプが均一に分散するよう撹拌した後、濾過脱水する操作を繰り返すことにより行った。ろ液の電気伝導度が100μS/cm以下となった時点で、洗浄終点とした。
次いで、洗浄後のリン酸化パルプに対して中和処理を次のようにして行った。まず、洗浄後のリン酸化パルプを10Lのイオン交換水で希釈した後、撹拌しながら1Nの水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ添加することにより、pHが12以上13以下のリン酸化パルプスラリーを得た。次いで、当該リン酸化パルプスラリーを脱水および洗浄して、中和処理が施されたリン酸化パルプを得た。
得られたリン酸化パルプに対しFT-IRを用いて赤外線吸収スペクトルの測定を行った。その結果、1230cm-1付近にリン酸基のP=Oに基づく吸収が観察され、パルプにリン酸基が付加されていることが確認された。また、得られたリン酸化パルプを供試して、X線回折装置にて分析を行ったところ、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークが確認され、セルロースI型結晶を有していることが確認された。なお、後述する〔リンオキソ酸基量の測定〕に記載の測定方法で測定されるリン酸基量(第1解離酸量)は、1.45mmol/gだった。なお、総解離酸量は、2.45mmol/gであった。
得られたリン酸化パルプにイオン交換水を添加し、固形分濃度が2質量%のスラリーを調製した。このスラリーを、湿式微粒化装置(株式会社スギノマシン製、スターバースト)で200MPaの圧力にて6回処理し、微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液(A)を得た。
X線回折により、得られた微細繊維状セルロースがセルロースI型結晶を維持していることが確認された。また、微細繊維状セルロースの繊維幅を透過型電子顕微鏡を用いて測定したところ、3~5nmであった。なお、後述する[リンオキソ酸基量の測定]に記載の測定方法で測定されるリン酸基量(第1解離酸量)は、1.45mmol/gだった。なお、総解離酸量は、2.45mmol/gであった。
<製造例B1>
リン酸二水素アンモニウムの代わりに亜リン酸(ホスホン酸)33質量部を用いた以外は、製造例A1と同様に操作を行い、亜リン酸化パルプおよび微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液(B)を得た。
得られた亜リン酸化パルプに対しFT-IRを用いて赤外線吸収スペクトルの測定を行った。その結果、1210cm-1付近に亜リン酸基の互変異性体であるホスホン酸基のP=Oに基づく吸収が観察され、パルプに亜リン酸基(ホスホン酸基)が付加されていることが確認された。また、得られた亜リン酸化パルプを供試して、X線回折装置にて分析を行ったところ、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークが確認され、セルロースI型結晶を有していることが確認された。
X線回折により、得られた微細繊維状セルロースがセルロースI型結晶を維持していることが確認された。また、微細繊維状セルロースの繊維幅を透過型電子顕微鏡を用いて測定したところ、3~5nmであった。なお、得られた微細繊維状セルロースについて、後述する[リンオキソ酸基量の測定]に記載の測定方法で測定される亜リン酸基量(第1解離酸量)は1.51mmol/gだった。なお、総解離酸量は、1.54mmol/gであった。
<製造例C1>
リン酸二水素アンモニウムの代わりにアミド硫酸(スルファミン酸)38質量部を用い、加熱時間を20分間に延長した以外は、製造例A1と同様に操作を行い、硫酸化パルプおよび微細セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液(C)を得た。
得られた硫酸化パルプに対しFT-IRを用いて赤外線吸収スペクトルの測定を行った。その結果、1220-1260cm-1付近に硫酸エステル基のS=Oに基づく吸収が観察され、パルプに硫酸エステル基が付加されていることが確認された。また、得られた硫酸化パルプを供試して、X線回折装置にて分析を行ったところ、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークが確認され、セルロースI型結晶を有していることが確認された。
X線回折により、得られた微細繊維状セルロースがセルロースI型結晶を維持していることが確認された。また、微細繊維状セルロースの繊維幅を透過型電子顕微鏡を用いて測定したところ、3~5nmであった。なお、得られた微細繊維状セルロースについて、後述する[硫黄オキソ酸基量・スルホン基量の測定]に記載の測定方法で測定される硫黄オキソ酸基量は1.47mmol/gだった。
<製造例D1>
原料パルプとして、王子製紙株式会社製の針葉樹クラフトパルプ(未乾燥)を使用した。この原料パルプに対してアルカリTEMPO酸化処理を次のようにして行った。
まず、乾燥質量100質量部相当の上記原料パルプと、TEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル)1.6質量部と、臭化ナトリウム10質量部を、水10000質量部に分散させた。次いで、13質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、1.0gのパルプに対して10mmolになるように加えて反応を開始した。反応中は0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを10以上10.5以下に保ち、pHに変化が見られなくなった時点で反応終了と見なした。
次いで、得られたTEMPO酸化パルプに対して洗浄処理を行った。洗浄処理は、TEMPO酸化後のパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、5000質量部のイオン交換水を注ぎ、撹拌して均一に分散させた後、濾過脱水する操作を繰り返すことにより行った。ろ液の電気伝導度が100μS/cm以下となった時点で、洗浄終点とした。
この脱水シートに対して、残存するアルデヒド基の追酸化処理を次のようにして行った。乾燥質量100質量部相当の上記脱水シートを、0.1mol/L酢酸緩衝液(pH4.8)10000質量部に分散させた。次いで80質量%亜塩素酸ナトリウム113質量部を加え、直ちに密閉した後、マグネチックスターラーを用いて500rpmで撹拌しながら室温で48時間反応させ、パルプスラリーを得た。
次いで、得られた追酸化済みTEMPO酸化パルプに対して洗浄処理を行った。洗浄処理は、追酸化後のパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、5000質量部のイオン交換水を注ぎ、撹拌して均一に分散させた後、濾過脱水する操作を繰り返すことにより行った。ろ液の電気伝導度が100μS/cm以下となった時点で、洗浄終点とした。
得られたTEMPO酸化パルプを供試して、X線回折装置にて分析を行ったところ、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークが確認され、セルロースI型結晶を有していることが確認された。
得られたTEMPO酸化パルプにイオン交換水を添加し、固形分濃度が2質量%のスラリーを調製した。このスラリーを、湿式微粒化装置(株式会社スギノマシン製、スターバースト)で200MPaの圧力にて6回処理し、微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液(D)を得た。
X線回折により、得られた微細繊維状セルロースがセルロースI型結晶を維持していることが確認された。また、微細繊維状セルロースの繊維幅を透過型電子顕微鏡を用いて測定したところ、3~5nmであった。なお、得られた微細繊維状セルロースについて、後述する[カルボキシ基量の測定]に記載の測定方法で測定されるカルボキシ基量は、1.80mmol/gだった。
<製造例E1>
[次亜塩素酸酸化]
針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)を抄き上げたシート(固形分濃度90質量%)を、ハンドミキサー(大阪ケミカル株式会社製、ラボミルサーPLUS)を用い、回転数20000rpmで15秒処理して綿状のフラッフィングパルプ(固形分濃度90質量%)にした。次いで、次亜塩素酸ナトリウム・5水和物をイオン交換水に加え、次亜塩素酸ナトリウムの固形分濃度を22質量%とした水溶液を準備した。綿状のフラッフィングパルプ100質量部に、22質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を9000質量部加え、温浴で30℃に調整しながら2時間反応させ、カルボキシ基導入パルプを得た。反応中は1N水酸化ナトリウム水溶液を適宜加え、pHを11に維持した。
次いで、得られたカルボキシ基導入パルプに対して洗浄処理を行った。洗浄処理は、得られたカルボキシ基導入パルプにイオン交換水を注いで得たパルプ分散液を、パルプが均一に分散するよう撹拌した後、濾過脱水する操作を繰り返すことにより洗浄を行った。ろ液の電気伝導度が100μS/cm以下となった時点で、洗浄終点とした。
得られたカルボキシ基導入パルプを供試して、X線回折装置にて分析を行ったところ、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークが確認され、セルロースI型結晶を有していることが確認された。
得られたカルボキシ基導入パルプにイオン交換水を添加し、固形分濃度が2質量%のスラリーを調製した。このスラリーを、湿式微粒化装置(株式会社スギノマシン製、スターバースト)で200MPaの圧力にて6回処理し、微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液(E)を得た。
X線回折により、得られた微細繊維状セルロースがセルロースI型結晶を維持していることが確認された。また、微細繊維状セルロースの繊維幅を透過型電子顕微鏡を用いて測定したところ、3~5nmであった。なお、得られた微細繊維状セルロースについて、後述する[カルボキシ基量の測定]に記載の測定方法で測定されるカルボキシ基量は、0.70mmol/gだった。
<製造例F1>
[マレイン酸エステル化]
針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)を抄き上げたシート(固形分濃度90質量%)を、ハンドミキサー(大阪ケミカル株式会社製、ラボミルサーPLUS)を用い、回転数20000rpmで15秒処理して綿状のフラッフィングパルプ(固形分濃度90質量%)にした。オートクレーブに、綿状のフラッフィングパルプ100質量部と無水マレイン酸50質量部とを充填し、150℃で2時間処理して、カルボキシ基導入パルプを得た。
次いで、得られたカルボキシ基導入パルプに対して洗浄処理を行った。洗浄処理は、得られたカルボキシ基導入パルプにイオン交換水を注いで得たパルプ分散液を、パルプが均一に分散するよう撹拌した後、濾過脱水する操作を繰り返すことにより洗浄を行った。ろ液の電気伝導度が100μS/cm以下となった時点で、洗浄終点とした。
得られたカルボキシ基導入パルプに対しFT-IRを用いて赤外線吸収スペクトルの測定を行った。その結果、1580および1720cm-1付近にカルボキシ基に基づく吸収が観察され、マレイン酸エステル化されていることを確認した。また、カルボキシ基導入パルプを供試して、X線回折装置にて分析を行ったところ、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークが確認され、セルロースI型結晶を有していることが確認された。
得られたカルボキシ基導入パルプにイオン交換水を添加し、固形分濃度が2質量%のスラリーを調製した。このスラリーを、湿式微粒化装置(株式会社スギノマシン製、スターバースト)で200MPaの圧力にて6回処理し、微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液(F)を得た。
X線回折により、得られた微細繊維状セルロースがセルロースI型結晶を維持していることが確認された。また、微細繊維状セルロースの繊維幅を透過型電子顕微鏡を用いて測定したところ、3~5nmであった。なお、得られた微細繊維状セルロースについて、後述する[カルボキシ基量の測定]に記載の測定方法で測定されるカルボキシ基量は、1.22mmol/gだった。
<製造例G1>
[カルボキシエチル化]
原料パルプとして、王子製紙株式会社製の針葉樹クラフトパルプ(固形分93質量%、坪量245g/mシート状、離解してJIS P 8121-2:2012に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)が700ml)を使用した。
この原料パルプ100質量部(絶乾質量)に、12N NaOH水溶液を250質量部と、2-クロロプロピオン酸163質量部、イオン交換水140質量部からなる薬液(合計553質量部)を加え、薬液含浸パルプを得た。次いで、得られた薬液含浸パルプを165℃の熱風乾燥機で10分加熱し、パルプ中のセルロースにカルボキシエチル基(カルボキシ基)を導入し、カルボキシ基導入パルプを得た。
次いで、得られたカルボキシ基導入パルプに対して洗浄処理を行った。洗浄処理は、得られたカルボキシ基導入パルプにイオン交換水を注いで得たパルプ分散液を、パルプが均一に分散するよう撹拌した後、濾過脱水する操作を繰り返すことにより洗浄を行った。ろ液の電気伝導度が100μS/cm以下となった時点で、洗浄終点とした。
次いで、洗浄後のカルボキシ基導入パルプに対して中和処理を次のようにして行った。まず、洗浄後のカルボキシ基導入パルプを10Lのイオン交換水で希釈した後、撹拌しながら1Nの水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ添加することにより、pHが12以上13以下のカルボキシ基導入パルプスラリーを得た。次いで、当該カルボキシ基導入パルプスラリーを脱水および洗浄をして、中和処理が施されたカルボキシ基導入パルプを得た。
カルボキシ基導入パルプを供試して、X線回折装置にて分析を行ったところ、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークが確認され、セルロースI型結晶を有していることが確認された。
得られたカルボキシ基導入パルプにイオン交換水を添加し、固形分濃度が2質量%のスラリーを調製した。このスラリーを、湿式微粒化装置(株式会社スギノマシン製、スターバースト)で200MPaの圧力にて6回処理し、微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液(G)を得た。
X線回折により、得られた微細繊維状セルロースがセルロースI型結晶を維持していることが確認された。また、微細繊維状セルロースの繊維幅を透過型電子顕微鏡を用いて測定したところ、3~5nmであった。なお、得られた微細繊維状セルロースについて、後述する[カルボキシ基量の測定]に記載の測定方法で測定されるカルボキシ基量は、1.41mmol/gだった。
<製造例H1>
[スルホエチル化]
原料パルプとして、王子製紙株式会社製の針葉樹クラフトパルプ(固形分93質量%、坪量245g/mシート状、離解してJIS P 8121-2:2012に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)が700ml)を使用した。
この原料パルプ100質量部(絶乾質量)に、2N NaOH水溶液を180質量部と25質量%濃度のビニルスルホン酸ナトリウム水溶液780質量部からなる薬液(合計960質量部)を加え、薬液含浸パルプを得た。次いで、得られた薬液含浸パルプを165℃の熱風乾燥機で16分加熱し、パルプ中のセルロースにスルホエチル基(スルホン基)を導入し、スルホエチル基導入パルプ(スルホン基導入パルプ)を得た。
次いで、得られたスルホエチル基導入パルプに対して洗浄処理を行った。洗浄処理は、得られたスルホエチル基導入パルプにイオン交換水を注いで得たパルプ分散液を、パルプが均一に分散するよう撹拌した後、濾過脱水する操作を繰り返すことにより洗浄を行った。ろ液の電気伝導度が100μS/cm以下となった時点で、洗浄終点とした。
スルホエチル基導入パルプを供試して、X線回折装置にて分析を行ったところ、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークが確認され、セルロースI型結晶を有していることが確認された。
得られたスルホエチル基導入パルプにイオン交換水を添加し、固形分濃度が2質量%のスラリーを調製した。このスラリーを、湿式微粒化装置(株式会社スギノマシン製、スターバースト)で200MPaの圧力にて6回処理し、微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液(H)を得た。
X線回折により、得られた微細繊維状セルロースがセルロースI型結晶を維持していることが確認された。また、微細繊維状セルロースの繊維幅を透過型電子顕微鏡を用いて測定したところ、3~5nmであった。なお、得られた微細繊維状セルロースについて、後述する[硫黄オキソ酸基量・スルホン基量の測定]に記載の測定方法で測定されるスルホエチル基量(スルホン基量)は、1.48mmol/gだった。
<製造例J1>
[カチオン化処理]
原料パルプとして、王子製紙株式会社製の針葉樹クラフトパルプ(固形分93質量%、坪量245g/mシート状、離解してJIS P 8121-2:2012に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)が700ml)を使用した。
この原料パルプ100質量部(絶乾質量)に、1N NaOH水溶液を180質量部とカチオン化剤(カチオマスターG、四日市合成株式会社製、グリシジルトリメチルアンモニウムクロリド、純分73.1質量%、含水率20.2質量%)325質量部からなる薬液(合計505質量部)を加え、薬液含浸パルプを得た。次いで、得られた薬液含浸パルプを165℃の熱風乾燥機で12分加熱し、パルプ中のセルロースにカチオン基を導入し、カチオン基導入パルプを得た。
次いで、得られたカチオン基導入パルプに対して洗浄処理を行った。洗浄処理は、得られたカチオン基導入パルプにイオン交換水を注いで得たパルプ分散液を、パルプが均一に分散するよう撹拌した後、濾過脱水する操作を繰り返すことにより洗浄を行った。ろ液の電気伝導度が100μS/cm以下となった時点で、洗浄終点とした。
次いで、洗浄後のカチオン基導入パルプに対して中和処理を次のようにして行った。まず、洗浄後のカチオン基導入パルプを10Lのイオン交換水で希釈した後、撹拌しながら1Nの塩酸を少しずつ添加することにより、pHが1以上2以下のカチオン基導入パルプスラリーを得た。次いで、当該カチオン基導入パルプスラリーを脱水および洗浄をして、中和処理が施されたカチオン基導入パルプを得た。
カチオン基導入パルプを供試して、X線回折装置にて分析を行ったところ、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークが確認され、セルロースI型結晶を有していることが確認された。
得られたカチオン基導入パルプにイオン交換水を添加し、固形分濃度が2質量%のスラリーを調製した。このスラリーを、湿式微粒化装置(株式会社スギノマシン製、スターバースト)で200MPaの圧力にて6回処理し、微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液(J)を得た。
X線回折により、得られた微細繊維状セルロースがセルロースI型結晶を維持していることが確認された。また、微細繊維状セルロースの繊維幅を透過型電子顕微鏡を用いて測定したところ、3~5nmであった。なお、得られた微細繊維状セルロースについて、微量窒素分析を行い、下記式でカチオン基量を計算したところ、1.45mmol/gだった。
(カチオン基量)[mmol/g]=(窒素量)/14×1000/(供試した微細繊維状セルロース量)
<製造例K1>
[置換基除去処理セルロースの作製]
<窒素除去処理>
製造例A1にて作製したリン酸化パルプにイオン交換水を添加し、固形分濃度が4質量%のスラリーを調製した。スラリーに48質量%の水酸化ナトリウム水溶液を添加してpH13.4に調整し、液温85℃の条件で1時間加熱した。その後、このパルプスラリーを脱水し、リン酸化パルプ100g(絶乾質量)に対して10Lのイオン交換水を注いで得たパルプ分散液を、パルプが均一に分散するよう撹拌し、濾過脱水する操作を繰り返すことにより余剰の水酸化ナトリウムを除去した。ろ液の電気伝導度が100μS/cm以下となった時点で、除去の終点とした。なお、後述する測定方法で測定されるカルバミド基の導入量は、0.01mmol/gであった。
これにより得られたリンオキソ酸化パルプに対しFT-IRを用いて赤外線吸収スペクトルの測定を行った。その結果、1230cm-1付近にリン酸基のP=Oに基づく吸収が観察され、パルプにリン酸基が付加されていることが確認された。また、X線回折により、得られた微細繊維状セルロースがセルロースI型結晶を維持していることが確認された。なお、後述する[リンオキソ酸基量の測定]に記載の測定方法で測定されるリン酸基量(第1解離酸量)は、1.35mmol/gだった。なお、総解離酸量は、2.30mmol/gであった。
<解繊処理>
得られたリン酸化パルプにイオン交換水を添加し、固形分濃度が2質量%のスラリーを調製した。このスラリーを、湿式微粒化装置(株式会社スギノマシン製、スターバースト)で200MPaの圧力にて6回処理し、微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液を得た。
<置換基除去処理(高温熱処理)>
微細繊維状セルロース分散液を耐圧容器に入れ、液温160℃で15分間加熱し、リン酸基量が0.08mmol/gとなるまで加熱を行った。この操作により微細繊維状セルロース凝集物の生成が確認された。
<置換基除去後スラリーの洗浄処理>
加熱後のスラリーに、スラリーと同量のイオン交換水を加えて固形分濃度が約1質量%のスラリーとし、スラリーを撹拌した後、濾過脱水する操作を繰り返すことにより、スラリーの洗浄を行った。ろ液の電気伝導度が10μS/cm以下となった時点で、再びイオン交換水を添加して約1質量%のスラリーとし、24時間静置した。そこからさらに濾過脱水する操作を繰り返し、再び濾液の電気伝導度が10μS/cm以下となった時点を洗浄終点とした。得られた微細繊維状セルロース凝集物にイオン交換水を加え、置換基除去後スラリーを得た。このスラリーの固形分濃度は1.7質量%であった。
<置換基除去後スラリーの均一分散>
得られた置換基除去後スラリーにイオン交換水を加え、固形分濃度が1.0質量%のスラリーとした後、湿式微粒化装置(株式会社スギノマシン製、スターバースト)で200MPaの圧力にて3回処理し、置換基除去微細繊維状セルロースを含む置換基除去微細繊維状セルロース分散液(K)を得た。また、透過型電子顕微鏡を用いて微細繊維状セルロースの数平均繊維幅を測定したところ、4nmであった。
<実施例1-1>
(ポリビニルアルコールの溶解)
イオン交換水に、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール(三菱ケミカル株式会社製、ゴーセネックスTMZ-200)を12質量%になるように加え、95℃で1時間撹拌し、溶解した。以上の手順により、ポリビニルアルコール水溶液を得た。
(繊維層の形成)
微細繊維状セルロース分散液(A)、および上記ポリビニルアルコール水溶液をそれぞれ固形分濃度が0.6質量%となるようにイオン交換水で希釈した。次いで、希釈後の微細繊維状セルロース分散液70質量部に対し、希釈後のポリビニルアルコール水溶液が30質量部になるように混合し、混合液を得た。さらに、シートの仕上がり坪量が70g/mになるように混合液を計量して、市販のアクリル板上に展開した。なお、所定の坪量となるようアクリル板上には堰止用の枠(内寸250mm×250mm、高さ5cm)を配置した。そのあと70℃の乾燥機で24時間乾燥し、アクリル板から剥離することで、繊維層(微細繊維状セルロース含有層)を形成した。繊維層の厚みは50μmであった。
(樹脂層の形成)
アクリルポリマー樹脂(アイカ工業株式会社製、アイカアイトロンZ-815-4L)をベースに、低屈折率モノマーを重合に組み込み、屈折率が1.52となるように調整したアクリルポリマー樹脂塗工液を調製した。なお、後述する測定方法で測定される樹脂塗工液の粘度は、38cpsであった。この樹脂塗工液を繊維層の一方の面(アクリル板と接している面にバーコーターにて塗布した。その後、100℃で1時間加熱し、樹脂層を形成した。次いで、繊維層の反対側の面にも同様の手順で樹脂層を形成した。樹脂層の厚みは片面あたり3μmであった。以上の手順により、繊維層の両面に樹脂層が積層された積層シートを得た。
(無機層の形成)
樹脂層が積層された積層シートをイオンビームスパッタ装置(伯東株式会社製)へ設置した。真空排気し、100℃設定で1時間加熱した後、放冷し、できるだけ温度を下げた状態で成膜を実施した。イオンビームスパッタによるシリコン基板上へのSiO成膜速度9.65nm/minをもとに、目的の膜厚になるよう、成膜時間を設定し、樹脂層上にSiOの無機層膜を20nm積層した。これにより、無機層/樹脂層/繊維層/樹脂層の構成の積層シートを得た。
<実施例1-2>
実施例1-1において、無機層を両面に形成し、無機層/樹脂層/繊維層/樹脂層/無機層の構成とした以外は、実施例1-1と同様にし、無機層が積層された積層シートを得た。
<実施例1-3>
実施例1-1において、無機層の膜厚を200nmとした以外は、実施例1-1と同様にし、無機層が積層された積層シートを得た。
<実施例1-4>
実施例1-2において、無機層の膜厚を200nmとした以外は、実施例1-2と同様にし、無機層が積層された積層シートを得た。
<実施例1-5>
実施例1-2において、無機層の材質をTiOとした以外は、実施例1-2と同様にし、無機層が積層された積層シートを得た。
<実施例1-6>
実施例1-2において、無機層の材質をAlとした以外は、実施例1-2と同様にし、無機層が積層された積層シートを得た。
<実施例2-1~2-6>
実施例1-1~1-6の繊維層の形成)において、希釈後の微細繊維状セルロース分散液(A)の混合量を40質量部とし、希釈後のポリビニルアルコール水溶液の混合量を60質量部に変更した以外は実施例1-1~1-6とそれぞれと同様にし、積層シートを得た。
<実施例3-1>
実施例1-2の(樹脂層の形成)において、変性ポリカーボネート樹脂(三菱ガス化学株式会社製、ユピゼータFPC-2136)10質量部、トルエン60質量部、メチルエチルケトン30質量部にさらに密着助剤としてイソシアネート化合物(旭化成ケミカルズ株式会社製、デュラネートTPA-100)を1.5質量部を混合してなる樹脂塗工液を用いた以外は、実施例1-2と同様の手順で無機層が積層された積層シートを得た。なお、後述する測定方法で測定される樹脂塗工液の粘度は、30cpsだった。
<実施例3-2>
実施例3-1において、無機層の材質をTiOとした以外は、実施例3-1と同様にし、無機層が積層された積層シートを得た。
<実施例3-3>
実施例3-1において、無機層の材質をAlとした以外は、実施例3-1と同様にし、無機層が積層された積層シートを得た。
<実施例4-1>
(セルロースエーテルの溶解)
イオン交換水に、メチルセルロース(信越化学工業株式会社製、メトローズ65SH-1500、重量平均分子量:2.2×10、置換度(メトキシ基):1.8、置換モル数(ヒドロキシプロポキシ基):0.15)を2質量%になるように加え、室温で1時間撹拌し、溶解した。以上の手順により、セルロースエーテル水溶液を得た。
次いで、上記セルロースエーテル水溶液を固形分濃度が0.6質量%となるようにイオン交換水で希釈した。
実施例1-1の(繊維層の形成)において、希釈後のポリビニルアルコール水溶液の代わりに、希釈後のセルロースエーテル水溶液を使用した以外は実施例1-1と同様にし、無機層が積層された積層シートを得た。
<実施例4-2~4-6>
実施例1-2~1-6の(繊維層の形成)において、希釈後のポリビニルアルコール水溶液の代わりに、希釈後のセルロースエーテル水溶液を使用した以外は、実施例1-2~1-6とそれぞれ同様にし、無機層が積層された積層シートを得た。
<実施例5-1~5-6>
実施例2-1~2-6の(繊維層の形成)において、希釈後のポリビニルアルコール水溶液の代わりに、希釈後のセルロースエーテル水溶液を使用した以外は実施例2-1~2-6とそれぞれ同様にし、無機層が積層された積層シートを得た。
<実施例6~13>
実施例2-2の(繊維層の形成)において、微細繊維状セルロース分散液(A)に代えて下記表に記載された微細繊維状セルロース分散液(微細繊維状セルロース分散液(B~J))をそれぞれ用いた以外は、実施例2-2と同様にし、無機層が積層された積層シートを得た。
<実施例14-1~14-6>
実施例2-1~2-6の(繊維層の形成)において、微細繊維状セルロース分散液(A)に代えて微細繊維状セルロース分散液(K)を用いた以外は、実施例2-1~2-6とそれぞれ同様にし、無機層が積層された積層シートを得た。
<実施例15-1~15-6>
実施例5-1~5-6の(繊維層の形成)において、微細繊維状セルロース分散液(A)に代えて微細繊維状セルロース分散液(K)を用いた以外は、実施例5-1~5-6とそれぞれ同様にし、無機層が積層された積層シートを得た。
<実施例16>
実施例3-1の(樹脂層の形成)において、ポリカーボネート樹脂の代わりにウレタン単位/アクリル単位の質量比率が2/8であるウレタンアクリル樹脂(大成ファインケミカル株式会社製、アクリット8UA-347A)を用いた以外は、実施例3-1と同様の手順で無機層が積層された積層シートを得た。なお、後述する測定方法で測定される樹脂塗工液の粘度は、36cpsだった。
<実施例17>
実施例3-1の(樹脂層の形成)において、ポリカーボネート樹脂の代わりにポリエステル樹脂塗工液(ユニチカ株式会社製、エリーテルUE-3320)を用いた以外は実施例3-1と同様の手順で無機層が積層された積層シートを得た。なお、後述する測定方法で測定される樹脂塗工液の粘度は、40cpsだった。
<実施例18>
実施例3-1の(樹脂層の形成)において、ポリカーボネート樹脂の代わりにフッ素樹脂塗工液(旭硝子株式会社製、サイトップ)を用いた以外は実施例3-1と同様の手順で無機層が積層された積層シートを得た。なお、後述する測定方法で測定される樹脂塗工液の粘度は、43cpsだった。
<比較例1>
実施例1-1において(無機層の形成)を実施しなかった以外は、実施例1-1と同様にしてシートを得た。
<比較例2>
実施例2-1において(無機層の形成)を実施しなかった以外は、実施例2-1と同様にしてシートを得た。
<比較例3>
(ポリエチレンオキサイドの溶解)
イオン交換水に、ポリエチレンオキサイド(住友精化株式会社製、PEO-18、粘度平均分子量4.3×10)を2質量%となるように加え、室温で1時間撹拌し、溶解した。以上の手順により、ポリエチレンオキサイド水溶液を得た。
次いで、上記ポリエチレンオキサイド水溶液を固形分濃度が0.6質量%となるようにイオン交換水で希釈した。
実施例1-2の(繊維層の形成)において、希釈後のポリビニルアルコール水溶液の代わりに、希釈後のポリエチレンオキサイド水溶液を使用した以外は、実施例1-2と同様にし、無機層が積層された積層シートを得た。
<比較例4>
ポリウレタン樹脂(第一工業製薬株式会社製、スーパーフレックス420)にイオン交換水を加え、0.6質量%に希釈したポリウレタン樹脂溶液を得た。実施例1-2の(繊維層の形成)において、希釈後のポリビニルアルコール水溶液の代わりに、0.6質量%に希釈したポリウレタン樹脂溶液を使用した以外は、実施例1-2と同様にし、無機層が積層された積層シートを得た。
<測定>
[リンオキソ酸基量の測定]
リンオキソ酸基量(リン酸基もしくは亜リン酸基量)の測定においては、まず、対象となる微細繊維状セルロースにイオン交換水を添加し、固形分濃度が0.2質量%のスラリーを調製した。得られたスラリーに対し、イオン交換樹脂による処理を行った後、アルカリを用いた滴定を行うことにより測定した。
イオン交換樹脂による処理は、上記微細繊維状セルロース含有スラリーに体積で1/10の強酸性イオン交換樹脂(アンバージェット1024;オルガノ株式会社、コンディショニング済)を加え、1時間振とう処理を行った後、目開き90μmのメッシュ上に注いで樹脂とスラリーを分離することにより行った。
また、アルカリを用いた滴定は、イオン交換樹脂による処理後の微細繊維状セルロース含有スラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を、5秒に10μLずつ加えながら、スラリーが示すpHの値の変化を計測することにより行った。なお、滴定開始の15分前から窒素ガスをスラリーに吹き込みながら滴定を行った。この中和滴定では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットした曲線において、増分(pHのアルカリ滴下量に対する微分値)が極大となる点が二つ観測される。これらのうち、アルカリを加えはじめて先に得られる増分の極大点を第1終点と呼び、次に得られる増分の極大点を第2終点と呼ぶ(図1)。滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中の第1解離酸量と等しくなる。また、滴定開始から第2終点までに必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中の総解離酸量と等しくなる。なお、滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除した値をリンオキソ酸基量(mmol/g)とした。
なお、パルプのリンオキソ酸基量を測定する場合には、リンオキソ酸化パルプにイオン交換水を添加し、固形分濃度が2質量%のスラリーを調製し、このスラリーを、湿式微粒化装置(株式会社スギノマシン製、スターバースト)で200MPaの圧力にて6回処理して得られた分散液に対して、上述した方法と同様にアルカリを用いた滴定を行った。
[硫黄オキソ酸基量・スルホン基量の測定]
硫黄オキソ酸基量又はスルホン基量は、次のように測定した。得られた微細繊維状セルロース(分散液を加熱乾燥して得られる固形分)を過塩素酸と濃硝酸を用いて湿式灰化した後に、適当な倍率で希釈してICP発光分析により硫黄量を測定した。この硫黄量を、供試した微細繊維状セルロースの絶乾質量で除した値を硫黄オキソ酸基量又はスルホン基量(単位:mmol/g)とした。
[ザンテート基量の測定]
ザンテート基量は、Bredee法により測定した。具体的には、微細繊維状セルロース(分散液を加熱乾燥して得られる固形分)1.5質量部(絶乾質量)に飽和塩化アンモニウム溶液を40mL添加し、ガラス棒でサンプルを潰しながらよく混合し、約15分間放置後、GFPろ紙(ADVANTEC社製GS-25)でろ過して、飽和塩化アンモニウム溶液で十分に洗浄した。サンプルをGFPろ紙ごと500mLのトールビーカーに入れ、0.5M水酸化ナトリウム溶液(5℃)を50mL添加して撹拌した。15分間放置後、溶液がピンク色になるまでフェノールフタレイン溶液を添加した後、1.5M酢酸を添加して、溶液がピンク色から無色になった点を中和点とした。中和後蒸留水を250mL添加してよく撹拌し、1.5M酢酸10mL、0.05mol/Lヨウ素溶液10mLをホールピペットを使用して添加した。この溶液を0.05mol/Lチオ硫酸ナトリウム溶液で滴定した。チオ硫酸ナトリウムの滴定量、微細繊維状セルロースの絶乾質量より次式からザンテート基量を算出した。
ザンテート基量(mmol/g)=(0.05×10×2-0.05×チオ硫酸ナトリウム滴定量(mL))/1000/微細繊維状セルロースの絶乾質量(g)
[カルボキシ基量の測定]
微細繊維状セルロースのカルボキシ基量は、対象となる(マレイン酸化、TEMPO酸化、次亜塩素酸酸化又はカルボキシエチル化)微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液にイオン交換水を添加して、含有量を0.2質量%とし、イオン交換樹脂による処理を行った後、アルカリを用いた滴定を行うことにより測定した。
イオン交換樹脂による処理は、0.2質量%の微細繊維状セルロース含有スラリーに体積で1/10の強酸性イオン交換樹脂(アンバージェット1024;オルガノ株式会社製、コンディショニング済)を加え、1時間振とう処理を行った後、目開き90μmのメッシュ上に注いで樹脂とスラリーを分離することにより行った。
また、アルカリを用いた滴定は、イオン交換樹脂による処理後の繊維状セルロース含有スラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を加えながら、スラリーが示すpHの値の変化を計測することにより行った。水酸化ナトリウム水溶液を加えながらpHの変化を観察すると、図2に示されるような滴定曲線が得られる。図2に示されるように、この中和滴定では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットした曲線において、増分(pHのアルカリ滴下量に対する微分値)が極大となる点が一つ観測される。この増分の極大点を第1終点と呼ぶ。ここで、図2における滴定開始から第1終点までの領域を第1領域と呼ぶ。第1領域で必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中のカルボキシ基量と等しくなる。そして、滴定曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象の微細繊維状セルロース含有スラリー中の固形分(g)で除すことで、カルボキシ基の導入量(mmol/g)を算出した。
なお、上述のカルボキシ基導入量(mmol/g)は、カルボキシ基の対イオンが水素イオン(H)であるときの繊維状セルロースの質量1gあたりの置換基量(以降、カルボキシ基量(酸型)と呼ぶ)を示している。
[カルバミド基量の測定]
繊維状セルロース(パルプ)におけるカルバミド基の導入量は、繊維状セルロースを含むスラリーを凍結乾燥し、さらに粉砕した試料を、微量窒素分析することで算出することができる。繊維状セルロース単位質量あたりのカルバミド基の導入量(mmol/g)は、微量窒素分析で得られた繊維状セルロース単位質量あたりの窒素含有量(g/g)を窒素の原子量で除することで算出できる。
(樹脂層の厚み)
ウルトラミクロトームUC-7(日本電子株式会社製、UC-7)によって、シートの断面を切り出し、当該断面を電子顕微鏡、拡大鏡または目視で観察して、測定される値を樹脂層の厚みとした。
(無機層の厚み)
無機層の厚みは、触針式段差膜厚計(KLA Tencor社製、P-6)を用いて、無機層成膜処理面と非処理面の膜厚の差を測定し、その差分を無機層の厚みとした。
(樹脂塗工液の粘度)
調製した樹脂塗工液の粘度は、B型粘度計(BLOOKFIELD株式会社製、アナログ粘度計T-LVT)により測定した。測定条件は、回転速度60rpmとし、測定開始から1分後の粘度値を樹脂塗工液の粘度とした。
(表面粗さ(Ra))
JIS B 0601:1994に準拠し、光干渉式非接触表面形状測定機(株式会社菱化システム製、非接触表面・層断面形状測定システムVertScan2.0、R5500GML)を用いて、積層シートの両面の表面粗さを測定した。なお、表面粗さは、×10対物レンズで測定範囲470μm×350μmで算出した。なお、積層シートにおいて、一方の面にのみ無機層が設けられている場合、無機層が設けられている面を第1面とした。
(透明性(初期ヘーズ))
JIS K 7136:2000に準拠し、ヘーズメーター(株式会社村上色彩技術研究所製、HM-150)を用いて、積層シートのヘーズを測定した。
(耐久性評価)
積層シートを5cm角に切り出し、85℃、相対湿度85%の条件下に10日間(240時間)静置し、上記条件処理後(耐久性試験後)の積層シートのヘーズ(耐久性評価1)と、処理前後の積層シートの重量変化率(耐久性評価2)について、以下の基準で評価した。
<耐久性評価1>
耐久性試験前後の積層シートのヘーズの差(Δヘーズ)を算出し、下記の基準で積層シートの耐久性を評価した。なお、積層シートのヘーズは、JIS K 7136:2000に準拠し、ヘーズメーター(株式会社村上色彩技術研究所製、HM-150)を用いて測定した。
Δヘーズ=(耐久性試験後の積層シートのヘーズ)-(耐久性試前の積層シートのヘーズ)
A:耐久性試験前後の積層シートのΔヘーズが1.5%未満である。
B:耐久性試験前後の積層シートのΔヘーズが1.5%以上である。
<耐久性評価2>
耐久性試験前後の積層シートの重量変化率を以下の式により算出し、下記の基準で積層シートの耐久性を評価した。
重量変化率(%)=((耐久性試験後の積層シートの重量-耐久性試験前の積層シートの重量)/耐久性試験前の積層シートの重量)×100
耐久性試験前の積層シートの重量:耐久性試験前の積層シートの重量であって、23℃、相対湿度50%条件下で調湿した後の積層シートの重量(g)
耐久性試験後の積層シートの重量:耐久性試験(85℃、相対湿度85%の条件下に10日間(240時間)静置)の積層シートの重量であって、上記条件処理後すぐに測定したの積層シートの重量(g)
評価基準:
A:積層シートの重量変化率が10%未満である。
B:積層シートの重量変化率が10%以上である。
(黄色度変化(ΔYI))
耐久性試験前後の積層シートの黄色度(YI)を、JIS K 7373:2006に準拠し、Colour Cute i(スガ試験機株式会社製)を用いて測定し、下記式により黄色度変化(ΔYI値)を算出した。
ΔYI=(耐久性試験後の積層シートのYI)-(耐久性試験前の積層シートのYI)
(水蒸気透過率)
積層シートの水蒸気透過率は、JIS K JIS K 7129-2:2019に準拠し、透湿度測定装置(モコン社製、PERMATRAN-W 3/33)を用いて、40℃、相対湿度90%雰囲気下で測定した。ただし、積層シートの厚みは、定圧厚さ計測定器(TECLOCK CORPORATION製、PG-02)で測定した。
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実施例においては、耐久性試験後の積層シートのヘーズ及び重量変化率がいずれも低く耐久性に優れていた。一方、比較例においては、耐久性試験後の積層シートのヘーズもしくは重量変化率が高く、耐久性が不十分な傾向が見られた。
2 繊維層
6 樹脂層
8 無機層
10 シート

Claims (15)

  1. 繊維層と、前記繊維層の両面に樹脂層を有し、前記樹脂層の少なくとも一方の側に形成された無機層を有するシートであって、
    前記繊維層は、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースと、親水性高分子と、を含み、
    前記親水性高分子は、水酸基を含有する構成単位を有する、シート。
  2. 前記親水性高分子は、ポリビニルアルコール又はセルロース誘導体である、請求項1に記載のシート。
  3. 前記繊維状セルロースは、イオン性置換基を有する、請求項1又は2に記載のシート。
  4. 前記イオン性置換基は、リンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基である、請求項3に記載のシート。
  5. 前記無機層は、酸化チタン、酸化アルミニウム及び二酸化ケイ素からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のシート。
  6. 前記無機層の厚みが10nm以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載のシート。
  7. 前記無機層の厚みが500nm以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載のシート。
  8. 前記樹脂層の厚みは、それぞれ10μm以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載のシート。
  9. 前記樹脂層は非晶性樹脂を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載のシート。
  10. 前記樹脂層は溶剤塗工層である、請求項1~9のいずれか1項に記載のシート。
  11. 前記無機層の露出表面の表面粗さが10nm以下である、請求項1~10のいずれか1項に記載のシート。
  12. ヘーズ値が1.0%以下である、請求項1~11いずれか1項に記載のシート。
  13. 85℃、相対湿度85%の環境下に240時間置いた後のヘーズ値が1.5%以下である、請求項1~12のいずれか1項に記載のシート。
  14. 水蒸気透過率が10g/m/day以下である、請求項1~13のいずれか1項に記載のシート。
  15. 光学部材用である、請求項1~14のいずれか1項に記載のシート。
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