JP2022174832A - スパークプラグおよびスパークプラグの製造方法 - Google Patents

スパークプラグおよびスパークプラグの製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】貴金属チップの耐剥離性が悪化することを抑制する。【解決手段】貴金属チップが接地電極と貴金属チップとが溶け合って形成された溶融部を介して他端部に接合されているスパークプラグは、以下の条件(a)、(b)を満たす:(a)接地電極と貴金属チップとの境界に沿った第1の断面において、溶融部は、他端部から一端部へと向かう第1の方向にそれぞれ突出し第1の方向に直交する第2の方向に互いに並んで形成された複数の凸部を有する;(b)第1の方向に直交し凸部を通る第2の断面において、個々の凸部は、貴金属チップの厚みのうち第1の方向および第2の方向に垂直な方向であるチップ厚み方向における最大の寸法である第1の寸法をAとし、第2の方向における最大の寸法である第2の寸法をBとした場合に、B<Aを満たす。【選択図】図3

Description

本開示は、スパークプラグに関する。
従来から、内燃機関に用いる点火用のスパークプラグの電極には、耐久性を向上させるために貴金属チップが設けられることがある。特許文献1に記載のスパークプラグでは、接地電極に貴金属チップを接合するために、レーザー溶接によって接地電極と貴金属チップとが溶接され、その溶接によって接地電極と貴金属チップとが溶け合った溶融部が形成されている。
特開2019-139977号公報
近年、スパークプラグの耐久性を向上させるために、貴金属チップのサイズを大きくすることへの要請がある。しかしながら、同じ出力でレーザー溶接する場合、貴金属チップのサイズを大きくするほど、レーザー溶接によって形成される溶融部の厚みや表面積が不十分となり、貴金属チップの耐剥離性が悪化するおそれがあった。また、一般に、接地電極は、貴金属チップよりも熱溶融および熱膨張しやすい材料によって構成される。このため、レーザー溶接の出力を上げると、溶融部において接地電極由来材料の割合が大きくなり、この結果として、接地電極と貴金属チップとの熱膨張差に起因する応力を、溶融部によって吸収できなくなるおそれがある。この場合、燃焼室における冷熱サイクルによって、クラックの形成が進行して貴金属チップが剥離しやすくなるおそれがあった。このため、貴金属チップの耐剥離性が悪化することを抑制できる技術が求められていた。
本開示は、以下の形態として実現することができる。
(1)本開示の一形態によれば、スパークプラグが提供される。このスパークプラグは、中心電極と、前記中心電極を内周側に保持する筒状の絶縁体と、前記絶縁体を内周側に保持する筒状の主体金具と、接地電極と、を備え、前記接地電極は、前記主体金具の先端に取り付けられた一端部と、前記中心電極の先端部との間で火花放電のための隙間を形成する放電面を有する貴金属チップが接合されている他端部と、を有し、前記貴金属チップは、前記接地電極と前記貴金属チップとが溶け合って形成された溶融部を介して前記他端部に接合されている、スパークプラグであって、以下の条件(a)、(b)を満たすことを特徴とする:(a)前記接地電極と前記貴金属チップとの境界に沿った第1の断面において、前記溶融部は、前記他端部から前記一端部へと向かう第1の方向にそれぞれ突出し前記第1の方向に直交する第2の方向に互いに並んで形成された複数の凸部を有する;(b)前記第1の方向に直交し前記凸部を通る第2の断面において、個々の前記凸部は、前記貴金属チップの厚みのうち前記第1の方向および前記第2の方向に垂直な方向であるチップ厚み方向における最大の寸法である第1の寸法をAとし、前記第2の方向における最大の寸法である第2の寸法をBとした場合に、B<Aを満たす。この形態のスパークプラグによれば、接地電極と貴金属チップとの境界に沿った第1の断面において、溶融部が、第1の方向に突出する複数の凸部を有し、第1の方向に直交し凸部を通る第2の断面において、個々の凸部がB<Aを満たすので、溶融部の表面積を増大できる。この結果、貴金属チップと溶融部との接地面積を増大できるので、貴金属チップの耐剥離性が悪化することを抑制できる。
(2)上記形態のスパークプラグにおいて、前記第2の断面において、個々の前記凸部は、前記境界よりも前記放電面側に位置する第1の領域の前記チップ厚み方向における最大の寸法である第3の寸法をCとし、前記境界よりも前記放電面側とは反対側に位置する第2の領域の前記チップ厚み方向における最大の寸法である第4の寸法をDとした場合に、D<Cを満たしてもよい。この形態のスパークプラグによれば、第2の断面において、個々の凸部における第4の寸法が第3の寸法よりも小さいので、溶融部を形成する際に接地電極が過度に溶融することを抑制できる。この結果、溶融部における接地電極由来の材料の割合が過度に大きくなることを抑制できる。これにより、接地電極と貴金属チップとの熱膨張差に起因する応力を溶融部が吸収でき、この結果として、クラックの形成が進行することを抑制できるので、貴金属チップの剥離を抑制できる。
(3)本開示の他の形態によれば、スパークプラグの製造方法が提供される。このスパークプラグの製造方法は、中心電極と、前記中心電極を内周側に保持する筒状の絶縁体と、前記絶縁体を内周側に保持する筒状の主体金具と、接地電極と、を備え、前記接地電極は、前記主体金具の先端に取り付けられた一端部と、前記中心電極の先端部との間で火花放電のための隙間を形成する放電面を有する貴金属チップが接合されている他端部と、を有し、前記貴金属チップは、前記接地電極と前記貴金属チップとが溶け合って形成された溶融部を介して前記他端部に接合されている、スパークプラグの製造方法であって、前記接地電極と前記貴金属チップとの境界に対して、前記接地電極の前記他端部側からレーザー光を照射する操作を、前記境界を跨いで前記第2の方向に間欠的に複数回繰り返すことにより、以下の条件(a)、(b)を満たす前記溶融部を形成する工程を含むことを特徴とする:(a)前記境界に沿った第1の断面において、前記溶融部は、前記他端部から前記一端部へと向かう第1の方向にそれぞれ突出し前記第1の方向に直交する第2の方向に互いに並んで形成された複数の凸部を有する;(b)前記第1の方向に直交し前記凸部を通る第2の断面において、個々の前記凸部は、前記貴金属チップの厚みのうち前記第1の方向および前記第2の方向に垂直な方向であるチップ厚み方向における最大の寸法である第1の寸法をAとし、前記第2の方向における最大の寸法である第2の寸法をBとした場合に、B<Aを満たす。この形態のスパークプラグによれば、上記条件(a)、(b)を満たす溶融部を形成できるので、貴金属チップの耐剥離性を向上させたスパークプラグを製造できる。
(4)上記形態のスパークプラグの製造方法において、前記工程において照射する複数回のレーザー光は、先に照射するレーザー光ほど、後に照射するレーザー光よりも、照射距離が長くてもよい。この形態のスパークプラグの製造方法によれば、一般に、先に照射するレーザー光ほど後に照射するレーザー光よりも熱量が小さくなりやすい傾向にあるところ、先に照射するレーザー光ほど後に照射するレーザー光よりも照射距離が長いので、第2の方向において、接地電極および貴金属チップに加えられる熱量の大きさに偏りが生じることを抑制できる。
(5)上記形態のスパークプラグの製造方法において、前記工程において照射する複数回のレーザー光は、前記第2の方向において前記貴金属チップの重心に対称に、前記重心から徐々に離れるように照射してもよい。この形態のスパークプラグの製造方法によれば、第2の方向において貴金属チップの重心に対称に、重心から徐々に離れるようにレーザー光を複数回照射するので、第2の方向において、接地電極および貴金属チップに加えられる熱量の大きさに偏りが生じることをより抑制できる。
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、スパークプラグの接地電極の製造方法、スパークプラグの接地電極のチップ溶接方法、スパークプラグが取り付けられたエンジンヘッド等の形態で実現することができる。
スパークプラグの概略構成を示す部分断面図。 接地電極の他端部を軸線方向の後端側から見た拡大図。 図2のIII-III線に沿った断面図。 図3のIV-IV線に沿った断面図。 レーザー光の照射位置の例を示す説明図。 酸化スケールの形成割合を求める方法を説明するための説明図。 実施例と比較例との酸化スケールの評価結果を示す説明図。 他の実施形態におけるレーザー光の照射位置を模式的に示す説明図。 他の実施形態におけるレーザー光の照射位置を模式的に示す説明図。 他の実施形態におけるレーザー光の照射位置を模式的に示す説明図。 他の実施形態におけるレーザー光の照射位置を模式的に示す説明図。 他の実施形態におけるレーザー光の照射位置を模式的に示す説明図。
A.実施形態:
図1は、本開示の一実施形態としてのスパークプラグ100の概略構成を示す部分断面図である。図1では、スパークプラグ100の軸心である軸線CAを境界として、紙面右側にスパークプラグ100の外観形状を示し、紙面左側にスパークプラグ100の断面形状を示している。以下の説明では、軸線CAに沿った図1の下方側(後述する接地電極40が配置されている側)を先端側と呼び、図1の上方側(後述する端子金具50が配置されている側)を後端側と呼び、軸線CAに沿った方向を軸線方向ADと呼ぶ。なお、図1では、説明の便宜上、スパークプラグ100が取り付けられるエンジンヘッド90を破線で示している。スパークプラグ100は、その先端部が燃焼室95内に露出するようにエンジンヘッド90に取り付けられている。
スパークプラグ100は、絶縁体10と、中心電極20と、主体金具30と、接地電極40と、貴金属チップ45と、端子金具50とを備える。なお、スパークプラグ100の軸線CAは、絶縁体10と中心電極20と主体金具30と端子金具50との各部材の軸線と一致する。
絶縁体10は、軸線方向ADに沿って貫通孔11が形成された略筒状の外観形状を有する。貫通孔11には、先端側において中心電極20の一部が収容され、後端側において端子金具50の一部が収容される。このため、絶縁体10は、中心電極20を内周側に保持する。絶縁体10は、先端側の部分が後述する主体金具30の軸孔38に収容され、後端側の部分が軸孔38から露呈している。絶縁体10は、アルミナ等のセラミック材料を焼成して形成された絶縁碍子により構成されている。
中心電極20は、軸線方向ADに沿って延びる棒状の電極である。中心電極20の先端部21は、貫通孔11の先端から突出している。先端部21には、例えば白金やイリジウム合金等によって形成された貴金属チップが接合されていてもよい。本実施形態の中心電極20は、ニッケルを主成分とするニッケル合金により形成されている。
絶縁体10の貫通孔11内の先端側には、中心電極20の一部が挿入され、絶縁体10の貫通孔11内の後端側には、端子金具50の一部が挿入されている。絶縁体10の貫通孔11内において、中心電極20と端子金具50との間には、先端側から後端側へと向かって順番に、先端側シール材61と、抵抗体62と、後端側シール材63とが配置されている。このため、中心電極20は、後端側において、先端側シール材61と、抵抗体62と、後端側シール材63とを介して、端子金具50と電気的に接続されている。
抵抗体62は、セラミック粉末と導電材とガラスと接着剤とを材料として形成されている。抵抗体62は、端子金具50と中心電極20との間における電気抵抗として機能することにより、火花放電を発生させる際のノイズの発生を抑制する。先端側シール材61と後端側シール材63とは、それぞれ導電性のガラス粉末を材料として含んでいる。本実施形態において、先端側シール材61および後端側シール材63は、銅粉末とホウケイ酸カルシウムガラス粉末とを混合した粉末を材料として含んでいる。
主体金具30は、軸線方向ADに沿って軸孔38が形成された略筒状の外観形状を有し、軸孔38内において絶縁体10を保持する。換言すると、主体金具30は、絶縁体10を内周側に保持する。主体金具30は、例えば、低炭素鋼により形成され、ニッケルめっきや亜鉛めっき等のめっき処理が全体に施されている。
主体金具30の外周には、工具係合部31と、雄ネジ部32とが形成されている。工具係合部31は、スパークプラグ100をエンジンヘッド90に取り付ける際に、図示しない工具と係合する。雄ネジ部32は、主体金具30の先端部において外周面にねじ山が形成されており、エンジンヘッド90の雌ネジ部93にねじ込まれる。
端子金具50は、スパークプラグ100の後端側の端部に設けられている。端子金具50の先端側は、絶縁体10の貫通孔11に収容され、端子金具50の後端側は、貫通孔11から露呈している。端子金具50には、図示しない高圧ケーブルが接続され、高電圧が印加される。この印加により、後述する隙間Gに火花放電が発生する。隙間Gに発生した火花は、燃焼室95における混合気を着火させる。
接地電極40は、主体金具30の先端37に取り付けられた一端部41と、中心電極20の先端部21と対向する他端部42と、を有する。本実施形態の接地電極40は、断面視略四角形の棒状の金属製部材が屈曲されて形成されている。より具体的には、接地電極40は、一端部41が主体金具30の先端37に接続され、他端部42が中心電極20の先端部21と対向するように屈曲している。本実施形態の接地電極40は、ニッケルを主成分とするニッケル合金により形成されている。なお、本明細書において、「主成分」とは、最も多く含まれている成分を意味している。
接地電極40の他端部42には、貴金属チップ45が接合されている。貴金属チップ45は、放電面46を有する。放電面46は、中心電極20の先端部21との間で火花放電のための隙間Gを形成する。
図2は、接地電極40の他端部42を軸線方向ADの後端側から見た拡大図である。貴金属チップ45は、貴金属または貴金属を主成分とする合金により形成されている。本実施形態の貴金属チップ45は、白金により形成されているが、白金に限らず、イリジウムやロジウム、ルテニウム等の貴金属またはこれらの貴金属を主成分とする合金により形成されていてもよい。また、本実施形態の貴金属チップ45は、薄い直方体状の外観形状を有する。貴金属チップ45は、接地電極40と貴金属チップ45とが溶け合うことにより形成された溶融部70を介して、接地電極40の他端部42に接合されている。溶融部70についての詳細な説明は、後述する。
図3は、図2のIII-III線に沿った断面図である。図4は、図3のIV-IV線に沿った断面図である。図2~図4に示す溶融部70は、接地電極40に貴金属チップ45を接合するためのレーザー溶接によって、接地電極40と貴金属チップ45とが溶け合うことにより形成される。接地電極40に対する貴金属チップ45の接合は、以下の工程S110~工程S130を順に経て行われる。
(工程S110)他端部42に凹部43を形成。
(工程S120)凹部43に貴金属チップ45を配置。
(工程S130)接地電極40と貴金属チップ45との境界44をレーザー溶接。
図4に示すように、工程S110において、凹部43は、貴金属チップ45が配置される予定の位置に形成される。凹部43は、例えば、凹部43に対応する形状を有する図示しない押圧部材を、プレス機等を用いて他端部42に押圧することによって形成される。工程S120では、接地電極40の他端部42に形成された凹部43に、貴金属チップ45が配置される。工程S120によって、貴金属チップ45の軸線方向ADの先端側の面と、凹部43の底面とは、互いに接触する。以下の説明では、図3に示すように、貴金属チップ45と凹部43とが接触する面を、「接地電極40と貴金属チップ45との境界44」とも呼ぶ。本実施形態において、境界44は、放電面46に平行に形成されている。なお、凹部43の形成が省略されて、他端部42の後端側の面に貴金属チップ45が直接配置される態様であってもよい。
工程S130では、境界44に対して、接地電極40の他端部42側からレーザー光を間欠的に照射する。図4では、レーザー光の照射方向を白抜きの矢印で模式的に示している。レーザー光の照射方法についての詳細な説明は、後述する。工程S130のレーザー照射によって、接地電極40と貴金属チップ45とが溶融し、その後に凝固することによって、溶融部70が形成される。このため、溶融部70には、接地電極40の材料成分と貴金属チップ45の材料成分とが含まれている。
図4では、接地電極40と貴金属チップ45との境界44に沿った断面が示されている。以下の説明では、図4に示される接地電極40と貴金属チップ45との境界44に沿った断面を、第1の断面CS1とも呼ぶ。境界44の位置は、例えば、接地電極40の他端部42を、端から削ることによって確認できる。本実施形態において、第1の断面CS1は、放電面46に平行な断面であり、また、接地電極40と貴金属チップ45との積層方向に直交している。図3に示すように、接地電極40と貴金属チップ45との積層方向は、スパークプラグ100の軸線方向ADおよび貴金属チップ45のチップ厚み方向TDと一致する。本実施形態において、溶融部70は、以下の条件(a)~(c)を満たしている。なお、下記条件(c)は、任意の条件であり、満たしていなくてもよい。
(a)接地電極40と貴金属チップ45との境界44に沿った第1の断面CS1において、溶融部70は、他端部42から一端部41へと向かう第1の方向D1にそれぞれ突出し第1の方向D1に直交する第2の方向D2に互いに並んで形成された複数の凸部72を有する。
(b)第1の方向D1に直交し凸部72を通る第2の断面CS2において、個々の凸部72は、貴金属チップ45の厚みのうち第1の方向D1および第2の方向D2に垂直な方向であるチップ厚み方向TDにおける最大の寸法である第1の寸法をAとし、第2の方向D2における最大の寸法である第2の寸法をBとした場合に、B<Aを満たす。
(c)第2の断面CS2において、個々の凸部72は、境界44よりも放電面46側に位置する第1の領域75のチップ厚み方向TDにおける最大の寸法である第3の寸法をCとし、境界44よりも放電面46側とは反対側に位置する第2の領域76のチップ厚み方向TDにおける最大の寸法である第4の寸法をDとした場合に、D<Cを満たす。
条件(a)に関し、以下に説明する。第1の断面CS1において他端部42から一端部41へと向かう第1の方向D1は、スパークプラグ100の軸線CAを基点として、接地電極40に沿って径方向外側に向かう方向と一致する。また、第1の断面CS1において第1の方向D1に直交する第2の方向D2は、接地電極40の幅方向と一致する。複数の凸部72は、第1の断面CS1において、第1の方向D1にそれぞれ突出し、第2の方向D2に互いに並んで形成されている。第1の断面CS1において溶融部70が有する凸部72の数は、複数であれば特に限定されない。例えば、図4では、溶融部70の一例として、6つの凸部72が示されているが、6つに限らず任意の複数であってもよい。
条件(b)に関し、以下に説明する。図3では、第1の方向D1に直交し凸部72を通る第2の断面CS2が示されている。第2の断面CS2において、チップ厚み方向TDにおける個々の凸部72の最大の寸法である第1の寸法をAとし、第2の方向D2における個々の凸部72の最大の寸法である第2の寸法をBとする。この場合に、個々の凸部72において、第1の寸法Aは、第2の寸法Bよりも大きい。すなわち、個々の凸部72は、いずれもB<Aを満たしている。なお、第2の寸法Bと第1の寸法Aとの好ましい比率として、第2の寸法Bの長さを1とした場合に、第1の寸法Aの長さは、例えば2以上3以下等であってもよい。
条件(c)に関し、以下に説明する。第2の断面CS2において、境界44よりも放電面46側に位置する凸部72の領域を第1の領域75とし、境界44よりも放電面46側とは反対側に位置する凸部72の領域を第2の領域76とする。そして、第1の領域75のチップ厚み方向TDにおける個々の凸部72の最大の寸法である第3の寸法をCとし、第2の領域76のチップ厚み方向TDにおける個々の凸部72の最大の寸法である第4の寸法をDとする。この場合に、個々の凸部72において、第4の寸法Dは、第3の寸法Cよりも小さい。すなわち、個々の凸部72は、いずれもD<Cを満たしている。なお、第4の寸法Dと第3の寸法Cとの好ましい比率として、第4の寸法Dの長さを1とした場合に、第3の寸法Cの長さは、例えば2以上3以下等であってもよい。
ここで、スパークプラグの耐久性向上等を目的として貴金属チップのサイズが比較的大きい構成においては、同じ出力でレーザー溶接する場合、レーザー溶接によって形成される溶融部の厚みが不十分となる結果、溶融部の表面積が不十分となるおそれがある。溶融部の表面積が不十分である場合、貴金属チップと溶融部との接地面積が確保できず、この結果として、貴金属チップが剥離しやすくなるおそれがある。
これに対して、本実施形態のスパークプラグ100では、溶融部70が上記条件(a)、(b)を満たすので、溶融部70の構成を複雑にして溶融部70の表面積を増大できる。この結果、溶融部70と貴金属チップ45との接地面積を増大できるので、貴金属チップ45の耐剥離性が悪化することを抑制できる。
また、一般に、接地電極の熱膨張率と貴金属チップの熱膨張率とが異なることから、燃焼室における冷熱サイクルによって、接地電極および貴金属チップには、応力が発生する。このため、溶融部には、接地電極と貴金属チップとの熱膨張差に起因する応力を吸収する機能が求められる。ここで、一般に、接地電極は、貴金属チップよりも熱溶融および熱膨張しやすい材料によって構成される。このため、溶融部の厚みを増加させて表面積を増大させるために、接地電極と貴金属チップとのレーザー溶接の出力を上げると、接地電極の溶融量が増加し、溶融部において接地電極由来の材料が占める割合が大きくなる。この結果として、接地電極と貴金属チップとの熱膨張差に起因する応力を、溶融部によって吸収できなくなるおそれがある。この場合、燃焼室における冷熱サイクルによって、溶融部と貴金属チップとの界面および溶融部と接地電極との界面に応力が生じる結果、クラックの形成が進行して貴金属チップが剥離しやすくなるおそれがある。
これに対して、本実施形態のスパークプラグ100では、溶融部70が上記条件(c)を満たすので、溶融部70を形成する際のレーザー溶接において接地電極40が過度に溶融することを抑制できる。この結果、溶融部70における接地電極40由来の材料の割合が大きくなることを抑制できる。これにより、接地電極40と貴金属チップ45との熱膨張差に起因する応力を溶融部70が吸収でき、この結果として、クラックの形成が進行することを抑制できるので、貴金属チップ45の剥離を抑制できる。したがって、本実施形態のスパークプラグ100は、溶融部70が上記条件(a)、(b)に加えて上記条件(c)を満たすことにより、溶融部70の表面積を増大でき、かつ、接地電極40の溶融量増加を抑制できるので、貴金属チップ45の耐剥離性が悪化することを効果的に抑制できる。
上記条件を満たす溶融部70は、上記工程S130において、例えば以下のように、境界44に対して、接地電極40の他端部42側からレーザー光を照射する操作を、境界44を跨いで第2の方向D2に間欠的に複数回繰り返すことによって形成できる。
図5は、レーザー光の照射位置の例を示す説明図である。図5では、接地電極40と貴金属チップ45との境界44を、接地電極40の他端部42側から見た図を模式的に示している。図5において、クロスのハッチングで示す領域は、レーザー光の照射位置LBを示しており、円で囲まれた数字は、レーザー光が照射される順番を便宜的に示している。レーザー光の照射位置LBどうしを結ぶ破線は、レーザーがオフにされていることを示している。図5に示す例では、チップ厚み方向TDに沿って境界44を跨ぐようにレーザー光を照射する操作を、第2の方向D2に間欠的に14回繰り返している。より具体的には、白抜きの矢印で示すように、軸線方向ADの後端側から先端側に向かってレーザー光を照射する操作を、第2の方向D2の位置を互いに異ならせて行っている。このような間欠的な照射によって、図5に示す例では、14個の凸部72を有する溶融部70が形成される。このように、レーザー光を照射する操作を、境界44を跨いで第2の方向D2に間欠的に複数回繰り返すことによって、第1の断面CSにおいて複数の凸部72を有する溶融部70を容易に形成できる。また、このような照射方法によれば、個々のレーザーの照射時間を短くできるので、接地電極40が過度に溶融することを抑制できる。
図5に示す例において、複数回のレーザー光は、先に照射するレーザー光ほど、後に照射するレーザー光よりも照射距離が長い。すなわち、先に照射するレーザー光ほど、後に照射するレーザー光よりも、レーザーがオンにされている距離が長く設定されている。ここで、一般に、先に照射するレーザー光ほど後に照射するレーザー光よりも熱量が小さくなりやすい傾向にある。しかしながら、本実施形態における照射方法によれば、先に照射するレーザー光ほど後に照射するレーザー光よりも照射距離が長いので、第2の方向D2において、接地電極40および貴金属チップ45に加えられる熱量の大きさに偏りが生じることを抑制できる。
また、図5に示す例において、複数回のレーザー光は、第2の方向D2において貴金属チップ45の重心に対称に、重心から徐々に離れるように照射されている。このような照射方法によれば、第2の方向D2において貴金属チップ45の重心に対称に、第2の方向D2に間欠的にレーザー光を複数回照射するので、第2の方向D2において、接地電極40および貴金属チップ45に加えられる熱量の大きさに偏りが生じることをより抑制できる。
B.実施例:
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
<試料>
実施例の試料として、第1の断面CS1において上記条件(a)~(c)を満たす溶融部70が形成されたスパークプラグ100を用いた。比較例の試料として、上記条件(a)~(c)を満たさない溶融部が形成されたスパークプラグを用いた。実施例の試料と比較例の試料とにおいて、溶融部70以外の構成は同じとし、サンプル数はそれぞれ3とした。
<冷熱サイクル試験>
実施例の試料と比較例の試料に対し、高周波試験によって、加熱2分と徐冷1分とを1000サイクル実施した。加熱は、接地電極40の他端部42の最高温度が1100℃±20℃となるように実施した。冷熱サイクル試験後に、実施例の試料の接地電極40を、第1の方向D1に沿って貴金属チップ45の重心を通る断面において切断した。比較例の試料の接地電極についても、同様の断面において切断した。その後、各試料の切断断面を金属顕微鏡で観察し、以下に示す方法によって酸化スケールの形成割合を求めた。なお、「酸化スケール」とは、クラックの形成度合いを意味している。
図6は、酸化スケールの形成割合を求める方法を説明するための説明図である。図6では、貴金属チップ45の重心を通り、第1の方向D1に沿った断面を模式的に示している。図6では、貴金属チップ45と接地電極40との境界のうち、クラックが発生している箇所を太線で示している。酸化スケールの割合(%)は、図6に示す断面において溶融部70が剥離している部分の割合によって示され、下記式(1)により求めることができる。
酸化スケール(%)=(a+b)/L×100・・・式(1)
図6に示されるように、上記式(1)において、aは、クラック78の第1の方向に沿った寸法を示しており、bは、クラック79の第1の方向に沿った寸法を示しており、Lは、溶融部70の第1の方向に沿った寸法を示している。なお、酸化スケール100%とは、図6に示す断面において溶融部70が全て剥離している状態を示しており、酸化スケールの割合(%)の数値が小さいほど、貴金属チップ45の耐剥離性が高いことを示している。
図7は、実施例と比較例との酸化スケールの評価結果を示す説明図である。図7において、縦軸は、上記方法によって測定された酸化スケールの割合(%)を示している。線状のマーカーは、各試料の平均値を示している。図7に示す結果から、実施例の試料では、比較例の試料と比較して、酸化スケールの割合が有意に小さいことが認められた。したがって、実施例の試料では、比較例の試料と比較して、貴金属チップ45の耐剥離性が向上していることがわかった。
C.他の実施形態:
上記実施形態における溶融部70の構成は、あくまで一例であり、種々変更可能である。例えば、溶融部70は、上記条件(c)を満たしていなくてもよい。すなわち、第2の断面CS2において、複数の凸部72のうちの少なくとも1つは、C≦Dを満たしていてもよい。また、例えば、複数の凸部72における第1の寸法Aは、互いに同じであってもよく、互いに異なっていてもよい。また、例えば、複数の凸部72における第2の寸法をBは、互いに同じであってもよく、互いに異なっていてもよい。このような構成によっても、溶融部70が上記条件(a)、(b)を満たすことにより、溶融部の表面積を増大できるので、貴金属チップと溶融部との接地面積を増大できる結果、貴金属チップの耐剥離性が悪化することを抑制できる。
図8~12は、他の実施形態におけるレーザー光の照射位置を模式的に示す説明図である。図8~12では、図5と同様の断面を示しており、クロスのハッチングで示す領域は、レーザー光の照射位置LBを示している。上記実施形態における接地電極40と貴金属チップ45とのレーザー溶接の方法、すなわち溶融部70の形成方法は、あくまで一例であり、種々変更可能である。例えば、図8および図9に示すように、レーザーをオンオフする回数、すなわちレーザーの間欠的な照射回数を減少させてもよく、増加させてもよい。また、例えば、軸線方向ADの先端側から後端側に向かってレーザー光を照射する操作を、第2の方向D2に間欠的に複数回繰り返していてもよい。また、例えば、複数回のレーザー光は、第2の方向D2において貴金属チップ45の重心に対称に、重心に徐々に近づくように照射されてもよい。また、図10、図11および図12に示すように、レーザー光は、チップ厚み方向TDに沿って照射することに限らず、チップ厚み方向TDと第2の方向とに交わる方向に沿って、境界44の界面を跨いで照射してもよい。また、図11に示すように、複数回の照射において、第2の方向D2の位置が同じである照射が存在していてもよい。すなわち一般には、境界44に対して、接地電極40の他端部42側からレーザー光を照射する操作を、境界44を跨いで第2の方向D2に間欠的に複数回繰り返してもよい。このような方法によっても、上記条件を満たすような溶融部70を形成できる。
本発明は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部または全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部または全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
10…絶縁体、11…貫通孔、20…中心電極、21…先端部、30…主体金具、31…工具係合部、32…雄ネジ部、37…先端、38…軸孔、40…接地電極、41…一端部、42…他端部、43…凹部、44…境界、45…貴金属チップ、46…放電面、50…端子金具、61…先端側シール材、62…抵抗体、63…後端側シール材、70…溶融部、72…凸部、75…第1の領域、76…第2の領域、78、79…クラック、90…エンジンヘッド、93…雌ネジ部、95…燃焼室、100…スパークプラグ、AD…軸線方向、CA…軸線、CS1…第1の断面、CS2…第2の断面、D1…第1の方向、D2…第2の方向、G…隙間、LB…照射位置、TD…チップ厚み方向

Claims (5)

  1. 中心電極と、前記中心電極を内周側に保持する筒状の絶縁体と、前記絶縁体を内周側に保持する筒状の主体金具と、接地電極と、を備え、
    前記接地電極は、前記主体金具の先端に取り付けられた一端部と、前記中心電極の先端部との間で火花放電のための隙間を形成する放電面を有する貴金属チップが接合されている他端部と、を有し、
    前記貴金属チップは、前記接地電極と前記貴金属チップとが溶け合って形成された溶融部を介して前記他端部に接合されている、スパークプラグであって、
    以下の条件(a)、(b)を満たすことを特徴とする、スパークプラグ:
    (a)前記接地電極と前記貴金属チップとの境界に沿った第1の断面において、前記溶融部は、前記他端部から前記一端部へと向かう第1の方向にそれぞれ突出し前記第1の方向に直交する第2の方向に互いに並んで形成された複数の凸部を有する;
    (b)前記第1の方向に直交し前記凸部を通る第2の断面において、個々の前記凸部は、前記貴金属チップの厚みのうち前記第1の方向および前記第2の方向に垂直な方向であるチップ厚み方向における最大の寸法である第1の寸法をAとし、前記第2の方向における最大の寸法である第2の寸法をBとした場合に、B<Aを満たす。
  2. 請求項1に記載のスパークプラグにおいて、
    前記第2の断面において、個々の前記凸部は、前記境界よりも前記放電面側に位置する第1の領域の前記チップ厚み方向における最大の寸法である第3の寸法をCとし、前記境界よりも前記放電面側とは反対側に位置する第2の領域の前記チップ厚み方向における最大の寸法である第4の寸法をDとした場合に、D<Cを満たすことを特徴とする、
    スパークプラグ。
  3. 中心電極と、前記中心電極を内周側に保持する筒状の絶縁体と、前記絶縁体を内周側に保持する筒状の主体金具と、接地電極と、を備え、
    前記接地電極は、前記主体金具の先端に取り付けられた一端部と、前記中心電極の先端部との間で火花放電のための隙間を形成する放電面を有する貴金属チップが接合されている他端部と、を有し、
    前記貴金属チップは、前記接地電極と前記貴金属チップとが溶け合って形成された溶融部を介して前記他端部に接合されている、スパークプラグの製造方法であって、
    前記接地電極と前記貴金属チップとの境界に対して、前記接地電極の前記他端部側からレーザー光を照射する操作を、前記境界を跨いで前記第2の方向に間欠的に複数回繰り返すことにより、以下の条件(a)、(b)を満たす前記溶融部を形成する工程を含むことを特徴とする、スパークプラグの製造方法:
    (a)前記境界に沿った第1の断面において、前記溶融部は、前記他端部から前記一端部へと向かう第1の方向にそれぞれ突出し前記第1の方向に直交する第2の方向に互いに並んで形成された複数の凸部を有する;
    (b)前記第1の方向に直交し前記凸部を通る第2の断面において、個々の前記凸部は、前記貴金属チップの厚みのうち前記第1の方向および前記第2の方向に垂直な方向であるチップ厚み方向における最大の寸法である第1の寸法をAとし、前記第2の方向における最大の寸法である第2の寸法をBとした場合に、B<Aを満たす。
  4. 請求項3に記載のスパークプラグの製造方法において、
    前記工程において照射する複数回のレーザー光は、先に照射するレーザー光ほど、後に照射するレーザー光よりも、照射距離が長いことを特徴とする、
    スパークプラグの製造方法。
  5. 請求項4に記載のスパークプラグの製造方法において、
    前記工程において照射する複数回のレーザー光は、前記第2の方向において前記貴金属チップの重心に対称に、前記重心から徐々に離れるように照射することを特徴とする、
    スパークプラグの製造方法。
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