JP2022163716A - 積層フィルム - Google Patents

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【課題】 本発明は、広反射帯域・高反射率の光学特性を長期間持続可能な積層フィルムを提供することを課題とする。【解決手段】 異なる3種類以上の熱可塑性樹脂層を有し、前記3種類以上の熱可塑性樹脂層で形成される繰り返し単位を連続して5つ以上有しており、クロスカット法に基づく付着性試験での升目の剥離率が10%以下であり、横軸を波長、縦軸を反射率とする300nm以上2500nm以下の波長帯域における分光スペクトルにおいて、最も長波長帯域に位置する100nm以上にわたり連続して20%以上の反射率を示す波長帯域を波長帯域Π1、前記波長帯域Π1における中心波長をλ、前記波長帯域Π1の分光スペクトルと反射率のベースラインとで囲まれる領域面積をS、前記熱可塑性樹脂層の合計積層数をNとしたときに、0.060≦S/(λ・N)≦0.300を満足することを特徴とする、積層フィルム。【選択図】図1

Description

本発明は、実使用において、広反射帯域・高反射率の光学特性を長期にわたり備える積層フィルムに関する。
特定波長帯域の光線を遮蔽・抽出可能な光制御フィルムは、光や熱線などの環境因子から製品の内部環境や構成成分の劣化を防止したり、特定波長帯域の光線のみを抽出して所望の色調に発色させる目的で、多岐の分野にわたり実用化されている。代表例として、建材や自動車用途では室内温度上昇を抑制するための赤外線カットフィルム、工業材料用途では紫外線レーザー表面加工時の過剰な紫外線を吸収するための紫外線カットフィルム、電子情報分野ではディスプレイ光源から発せられる眼に有害な青色光線を遮蔽するブルーライトカットフィルムや、拡散・喪失するバックライトの光を再帰反射させることができる輝度向上フィルム、自動車内装材やモバイル筐体用途では金属調を付与するための可視光全域を反射する金属調フィルム、などが利用されている。その他、食品、医療、農業、インクなどの分野においても、内容物の光劣化を抑制する目的で光制御フィルムが用いられる。特に、電子情報分野においては光制御フィルムのニーズが高く、近年の曲面ディスプレイやフォルダブルディスプレイなどの薄型傾向に従い、構成部材の一つである光制御フィルムへの薄膜化の要望も高まっている。
特定波長帯域の光線を制御(遮蔽)する手法として、フィルムを構成する樹脂に染料・顔料・紫外線/熱線吸収剤等の光吸収剤を添加した吸収タイプの光制御フィルムが広く利用されている(特許文献1)。吸収タイプの光制御フィルムの光吸収特性は、吸収剤の添加濃度とフィルム厚みの積に性能が依存するため、フィルムを薄膜化するためには吸収剤の添加濃度を高くすることが必要となる。しかしながら、光吸収剤の種類によっては表面析出が顕著となり、製膜工程汚染によるフィルム欠点、光吸収剤含有濃度減少によるカット性能低下といった、フィルム品位低下が問題となっていた。さらに、遮蔽する波長帯域に合わせて光吸収剤を選択する必要があり、広い波長帯域を遮蔽する場合は、複数種の光吸収剤を併用することとなるため、相当量の添加濃度が必要となる他、染料や顔料を選択した場合には、前者は耐光性に乏しく、後者は吸収性能が広範囲にわたることで色調選択性が得られない、などの欠点もあった。
このような吸収タイプの欠点を補う、つまり、特定の波長帯域のみの光線を急峻に遮蔽でき、かつ、簡便に波長帯域を調整できる光制御フィルムとして、屈折率の異なる層をフィルム厚さ方向に積層し、光干渉理論に基づく干渉反射を利用した反射タイプの光制御フィルムが注目されている。中でも、2種類の屈折率の異なる層(A層、B層)を交互に積層する(AB)m構成(mは自然数)の光制御フィルムは多くの公知技術が報告されており、例えば、層厚みに連続的に傾斜分布を付与することで広い波長帯域の光線を反射できること、また、所望の波長帯域以外に発生する不要な短波長側の反射帯域(高次反射と称する)を抑制するために、光学厚みを波長の1/4に設計する技術(特許文献2,3)や、1:7:1の比率を有する特殊な層厚みパターニングを施す技術(特許文献4,5)、が報告されている。
特開2013-210598号公報 特表2004-503402号公報 特許4001619号 米国特許5360659号 特開2018-205615号公報
特許文献1~5が開示する(AB)m構成の反射タイプの光制御フィルムにおいて、高反射率化・反射帯域の広帯域化を実現するためには、積層数を増やす、あるいは、2種類の樹脂層の屈折率差を高めることが必要となる。しかしながら、前者の場合は、フィルム厚みが厚くなり近年の薄膜化傾向に反する態様になる点、後者の場合は、骨格構造の異なる樹脂同士を積層することが必要であり、屈折率が異なる樹脂層の界面で層間剥離が起こる点が問題となる。そのため、特許文献1~5が開示する(AB)m構成の反射タイプの光制御フィルムには、実用面での大きな問題があった。
上記の課題を解決するべく、本発明の積層フィルムは、広反射帯域・高反射率の光学特性を長期にわたり持続可能な積層フィルムを提供することを目的とする。
本発明は次の構成からなる。すなわち、異なる3種類以上の熱可塑性樹脂層を有し、前記3種類以上の熱可塑性樹脂層で形成される繰り返し単位を連続して5つ以上有しており、JIS K 5600-5-6:1999に規定されたクロスカット法に基づく付着性試験での升目の剥離率が10%以下であり、横軸を波長(nm)、縦軸を反射率(%)とする300nm以上2500nm以下の波長帯域における分光スペクトルにおいて、最も長波長帯域に位置する100nm以上にわたり連続して20%以上の反射率を示す波長帯域を波長帯域Π1、前記波長帯域Π1における中心波長をλ、前記波長帯域Π1の分光スペクトルと反射率のベースラインとで囲まれる領域面積をS、前記熱可塑性樹脂層の合計積層数をNとしたときに、0.060≦S/(λ・N)≦0.300を満足することを特徴とする、積層フィルムである。
また、本発明は、上記課題を解決するために以下の構成とすることができる。
(1) 異なる3種類以上の熱可塑性樹脂層を有し、前記3種類以上の熱可塑性樹脂層で形成される繰り返し単位を連続して5つ以上有しており、JIS K 5600-5-6:1999に規定されたクロスカット法に基づく付着性試験での升目の剥離率が10%以下であり、横軸を波長(nm)、縦軸を反射率(%)とする300nm以上2500nm以下の波長帯域における分光スペクトルにおいて、最も長波長帯域に位置する100nm以上にわたり連続して20%以上の反射率を示す波長帯域を波長帯域Π1、前記波長帯域Π1における中心波長をλ、前記波長帯域Π1の分光スペクトルと反射率のベースラインとで囲まれる領域面積をS、前記熱可塑性樹脂層の合計積層数をNとしたときに、0.060≦S/(λ・N)≦0.300を満足することを特徴とする、積層フィルム。
(2) 35.0≦S/λ≦150.0を満足することを特徴とする、(1)に記載の積層フィルム。
(3) 前記波長帯域Π1の、短波長端部の波長をλmin、長波長端部の波長をλmaxとしたときに、λmin≧λmax/2を満足することを特徴とする、(1)または(2)に記載の積層フィルム。
(4) 波長300nm以上、かつλmax/5以上λmin/2以下の波長帯域を波長帯域Π2としたときに、前記波長帯域Π2における平均反射率が25%以下であることを特徴とする、(3)に記載の積層フィルム。
(5) 前記波長帯域Π1の半波長帯域にあたるλmin/2以上λmax/2の波長帯域をΠ3としたときに、前記波長帯域Π3における平均反射率が25%以下であることを特徴とする、(1)~(4)のいずれかに記載の積層フィルム。
(6) 前記熱可塑性樹脂層の種類が3種類であることを特徴とする、(1)~(5)のいずれかに記載の積層フィルム。
(7) 前記熱可塑性樹脂層を屈折率の大きい順にA層、B層、およびC層としたときに、A層/B層/C層/B層の構成単位を繰り返した積層構成を有することを特徴とする、(6)に記載の積層フィルム。
(8) 前記繰り返し単位において、前記B層に対する前記A層の積層比(A/B)が0.50以上1.10以下であり、前記B層に対する前記C層の積層比(C/B)が0.90以上1.30以下であることを特徴とする、(7)に記載の積層フィルム。
(9) 透過色調測定における明度L*が70以下であり、かつヘイズが5.0%以下であることを特徴とする、(1)~(8)のいずれかに記載の積層フィルム。
(10) 前記Nが100以上901以下であることを特徴とする、(1)~(9)のいずれかに記載の積層フィルム。
(11) 繰り返し単位に含まれる各層の厚みが、いずれも単調に増加あるいは単調に減少する分布を示すことを特徴とする、(1)~(10)のいずれかに記載の積層フィルム。
(12) 屈折率の最も高い熱可塑性樹脂層の主成分である熱可塑性樹脂が、ポリエチレンテレフタレートもしくはポリエチレンナフタレートである、(1)~(11)のいずれかに記載の積層フィルム。
(13) 屈折率の最も低い熱可塑性樹脂層が、1.54以下の屈折率を示す熱可塑性樹脂を主成分とする層であることを特徴とする、(1)~(12)のいずれかに記載の積層フィルム。
(14) (1)~(13)のいずれかに記載の積層フィルムを用いてなる成形体。
(15) (1)~(13)のいずれかに記載の積層フィルム、あるいは(14)に記載の成形体を備える、画像表示装置。
(16) (1)~(13)のいずれかに記載の積層フィルム、あるいは(14)に記載の成形体を備える、ウインドウ。
(17) (1)~(13)のいずれかに記載の積層フィルム、あるいは(14)に記載の成形体を備える、交通機関外装材。
(18) (1)~(13)のいずれかに記載の積層フィルム、(14)に記載の成形体、(16)に記載のウインドウ、あるいは(17)に記載の交通機関外装材を備える、交通機関。
本発明により、広反射帯域・高反射率の光学特性を長期にわたり持続可能な積層フィルムを提供することができる。
(ABCB)mの繰り返し単位を有する積層フィルムの断面図の一例である。 等価膜構成の(AB)mの繰り返し単位を有する積層フィルムの断面図の一例である。 本発明の積層フィルムの剥離強度試験におけるS-Sカーブのイメージ図の一例である。 本発明の一実施態様に係る積層シートの分光スペクトルのうち、波長帯域Π1の領域面積S、中心波長λ、反射率ベースラインを示す模式図である。 本発明の一実施態様に係る積層シートの分光スペクトルのうち、波長帯域Π1の領域面積S、中心波長λ、反射率ベースラインを示す模式図である。 本発明の一実施態様に係る積層シートの分光スペクトルのうち、波長帯域Π1の領域面積S、中心波長λ、反射率ベースラインを示す模式図である。 本発明の一実施態様に係る積層シートの分光スペクトルのうち、脈流状の反射率変化を示す分光スペクトルにおけるベースラインを示す模式図である。
以下、本発明の積層フィルムについて詳細に説明する。本発明の積層フィルムは、異なる3種類以上の熱可塑性樹脂層を有し、前記3種類以上の熱可塑性樹脂層で形成される繰り返し単位を連続して5つ以上有しており、JIS K 5600-5-6:1999に規定されたクロスカット法に基づく付着性試験での升目の剥離率が10%以下であり、横軸を波長(nm)、縦軸を反射率(%)とする300nm以上2500nm以下の波長帯域における分光スペクトルにおいて、最も長波長帯域に位置する100nm以上にわたり連続して20%以上の反射率を示す波長帯域を波長帯域Π1、前記波長帯域Π1における中心波長をλ、前記波長帯域Π1の分光スペクトルと反射率のベースラインとで囲まれる領域面積をS、前記熱可塑性樹脂層の合計積層数をNとしたときに、0.060≦S/(λ・N)≦0.300を満足することを特徴とする、積層フィルムである。
本発明の積層フィルムは、層間密着性を向上しつつ、干渉反射により所望の反射特性を実現する観点から、異なる3種類以上の熱可塑性樹脂層を有することが必要である。本発明の積層フィルムにおいて、熱可塑性樹脂層が「異なる」とは、(1)組成が異なる、(2)示差走査熱量測定(DSC)において、ガラス転移温度や融点が異なる、(3)透過型電子顕微鏡観察(TEM)で断面観察したときの染色後の画像のコントラストが異なる、のいずれかに該当する場合を指す。
「組成が異なる」とは、以下に示す「組成が同じである」と見なす条件に該当しないことをいう。「組成が同じ」であるとは、各熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂の化学構造の繰り返し単位が95mol%以上共通している場合、若しくは各熱可塑性樹脂層の構成成分を比較したときに95質量%の成分が共通する場合をいう。
例えば、前者について、ポリエチレンテレフタレートであれば、エチレングリコール単位とテレフタル酸単位がエステル結合により結合した構成単位(エチレンテレフタレート単位)を主たる構成単位として有するが、ホモポリエチレンテレフタレートからなる層とイソフタル酸を10mol%共重合させたポリエチレンテレフタレートからなる層のように、層を構成する樹脂がポリエチレンテレフタレートという共通の化学構造を有しながら共重合成分量が5mol%を超える場合は両者の組成が異なるものとみなす。また、後者について、ホモポリエチレンテレフタレートのみからなる層とホモポリエチレンテレフタレートを90質量%含み残りの10質量%が他の成分である層のように、同じ構成成分を主成分としつつも5質量%の成分が互いに異なる場合も、両者の組成が異なるものとみなす。各熱可塑性樹脂層の具体的な組成/化学構造の繰り返し単位構造は、後述の測定方法の層構成に記載の方法に従い各熱可塑性樹脂層の層厚みを把握した後、当該熱可塑性樹脂層を切削して取り出す、あるいは、当該層を削り最表層に出すことで、赤外分光法(FT-IR法やナノIR法)、ガスクロマトグラフ/飛行時間型質量分析計(GC-MS)、核磁気共鳴装置(NMR)、を利用して、特定することが出来る。
一方で、熱可塑性樹脂層ごとに抽出できる上で、上記方法による組成の同定が困難であれば、示差走査熱量測定(DSC)において、積層フィルムを構成する熱可塑性樹脂層が、異なる融点および/またはガラス転移点温度を示すことで「異なる」ことを判断する。なお、本発明において、異なる融点、異なるガラス転移温度を示すとは、融点、ガラス転移温度が0.1℃以上異なっていることを表す。なお、後述の測定方法における示差走査熱量測定(DSC)の項に記載の25℃以上300℃以下の測定温度範囲において、熱可塑性樹脂がガラス転移温度および融点を示さない場合があるが、一方の熱可塑性樹脂層がガラス転移温度あるいは融点を示し、もう一方の熱可塑性樹脂層が示さない場合は、温度差として算出はできないが、樹脂の熱特性は異なるものとして解釈してもよい。
さらに、上記2通りの方法で特定が困難であれば、透過型電子顕微鏡観察において観察される断面画像でコントラスト差による層界面が確認できる場合、若しくは後述の層界面(コントラスト差)に記載の方法により、隣接する2層の輝度の平均値の差が、隣接する熱可塑性樹脂層の輝度の標準偏差のいずれよりも大きいことを確認できた場合は、隣接する熱可塑性樹脂層の「組成が異なる」と判断してもよい。本コントラストは、電子線の散乱、結晶回折などに起因して生じることから、熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂の組成が前述の基準に従って異なる場合、各熱可塑性樹脂の種類や共重合量に応じて、結晶性や電子密度状態が異なるため、染色状態が異なることにより、積層フィルムの断面画像において各層をコントラスト差のある層構造として視認することが可能となる。
本発明の積層フィルムの熱可塑性樹脂層を形成するために用いられる代表的な熱可塑性樹脂を以下に示すが、本発明で用いることができる熱可塑性樹脂は下記に記載したものに限定されない。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(1-ブテン)、ポリ(4-メチルペンテン)、ポリイソブチレン,ポリイソプレン、ポリブタジエン,ポリビニルシクロヘキサン、ポリスチレン,ポリ(α-メチルスチレン)、ポリ(p-メチルスチレン)、ポリノルボルネン、ポリシクロペンテンなどに代表されるポリオレフィン樹脂、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66などに代表されるポリアミド樹脂、エチレン/プロピレンコポリマー、エチレン/ビニルシクロヘキサンコポリマー、エチレン/ビニルシクロヘキセンコポリマー、エチレン/アルキルアクリレートコポリマー、エチレン/アクリルメタクリレートコポリマー、エチレン/ノルボルネンコポリマー、エチレン/酢酸ビニルコポリマー,プロピレン/ブタジエンコポリマー、イソブチレン/イソプレンコポリマー、塩化ビニル/酢酸ビニルコポリマーなどに代表されるビニルモノマーのコポリマー樹脂、ポリアクリレート、ポリイソブチルメタクリレート、ポリメタクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリブチルアクリレート、ポリアクリルアミド,ポリアクリロニトリルなどに代表されるアクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート,ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、ポリエチレンフラノエートなどに代表されるポリエステル樹脂、ポリエチレンオキシド,ポリプロピレンオキシド、ポリアクリレングリコールに代表されるポリエーテル樹脂、エチルセルロース、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース、プロピオニルセルロース、ブチリルセルロース、アセチルプロピオニルセルロース、ニトロセルロースに代表されるセルロースエステル樹脂、ポリ乳酸,ポリブチルサクシネートなどに代表される生分解性ポリマー、その他、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリアセタール、ポリグルコール酸、ポリカーボネート、ポリケトン、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリシロキサン、4フッ化エチレン樹脂、3フッ化エチレン樹脂、3フッ化塩化エチレン樹脂、4フッ化エチレン-6フッ化プロピレン共重合体、ポリフッ化ビニリデンなどを用いることができる。
これらの熱可塑性樹脂は1種類単独で利用しても、2種類以上のポリマーブレンドあるいはポリマーアロイとして利用してもよい。ブレンドやアロイを実施することで、1種類の熱可塑性樹脂からは得られない物理的・化学的性質を得ることができるほか、相溶性の大きく異なる熱可塑性樹脂層の間にこのようなポリマーブレンド・ポリマーアロイを配置することで、層間密着性を向上させることができる。これらの中でも、強度・耐熱性・透明性・積層性にかかるレオロジー特性の観点から、熱可塑性樹脂層を形成する熱可塑性樹脂としては、特にポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂から選択されることが好ましい。
本発明の積層フィルムは、異なる3種類以上の熱可塑性樹脂層で形成される繰り返し単位を有することが必要である。異なる熱可塑性樹脂層を3種類以上有するとは、具体的には、本発明の積層フィルムが異なる3種類の熱可塑性樹脂層からなる繰り返し単位を有する場合、前述の記述に倣い、3種類の異なる骨格構造を有する熱可塑性樹脂から各熱可塑性樹脂層が形成されていてもよく、2種類の骨格構造を有する熱可塑性樹脂層を用い、3つの熱可塑性樹脂層でそれらの混合比あるいは共重合量が異なるように設計することも出来る。同様に、本発明の積層フィルムが異なる4種類の熱可塑性樹脂層から成る繰り返し単位を有する場合、2種類の異なる骨格構造を有する熱可塑性樹脂の混合・共重合で4種類の異なる組成の熱可塑性樹脂層を形成しても良く、3種類の異なる骨格構造を有する熱可塑性樹脂の混合・共重合で4種類の異なる組成の熱可塑性樹脂層を形成しても良く、全く異なる骨格構造を有する熱可塑性樹脂層を3種類用いることも出来る。
また、繰り返し単位を構成する熱可塑性樹脂層の種類は、製造工程の煩雑化を抑えつつ所望の反射特性を実現する観点から、熱可塑性樹脂層の種類が3種類であることが好ましい。以下、異なる熱可塑性樹脂層をA層、B層、C層、D層・・・として記述する。本発明の積層フィルムが、異なる3種類の熱可塑性樹脂層を有する場合、異なる3種類の熱可塑性樹脂層をA層、B層、C層とした場合、一定の繰り返し単位としては、例えば、(ABC)m、(ABCB)m、(ACBC)m、(BACA)m、(ABABC)m、(ACACB)m、(BCBCA)m、(ABCBCB)m、(ACBCBC)m、(BACACA)m、(BCACAC)m、(CABABA)m、(CBABAB)m(mは自然数)などを挙げることができる。
中でも、積層フィルムが熱可塑性樹脂層の界面で剥離しないためには、界面を形成する隣り合う熱可塑性樹脂層の組み合わせの種類が少ないことが好ましい。具体的には、3種類の異なる熱可塑性樹脂から形成される界面は、A-B界面、B-C界面、C-A界面の3種類が挙げられるが、前記繰り返し単位の中で、(ABCB)m、(ABCBCB)m、(CBABAB)mはA-B界面およびB-C界面の2種類、(ACBC)m、(ACBCBC)m、(BCACAC)mはA-C界面およびB-C界面の2種類、(BACA)m、(BACACA)m、(BCACAC)mはA-B界面およびA-C界面の2種類しか存在しない。そのため、積層フィルムの層間剥離レスを実現するための熱可塑性樹脂層の組み合わせを検討するにあたり、このような態様ではA層、B層、C層のある一つの層と他の2層の層間密着性のみを考慮すればよい。そのため、上記のような態様とすることは、層間密着性の高い積層フィルムをより容易に形成しやすくなる点で好ましい。
さらに、層間密着性を高めるためには、隣接する熱可塑性樹脂層の相溶性パラメータの差が小さいことが好ましい。ここで述べるところの相溶性パラメータとは、熱可塑性樹脂固有のエネルギーに関するパラメータであり、これらの数値が近いものほど、樹脂同士が混ざりやすいことを表す指標である。
本発明の積層フィルムにおいて、高い層間密着性を得るために、界面を形成する隣接する熱可塑性樹脂層の溶解性パラメータ(SP値)の絶対値の差は1.5以下であることが好ましい。隣接する熱可塑性樹脂層同士の熱可塑性樹脂の相溶性が良好であることで、積層状態での層間剥離が生じにくくなる。
相溶性パラメータは、Hansen、Hoy、およびFedors等の計算法によって推算することができるが、有機高分子材料として好適に用いることができる熱可塑性樹脂の相溶性パラメータは、分子鎖の繰り返し構造単位に基づき計算が可能なFedorsの計算法を用いる。この方法を用いることにより、共重合成分由来の構造単位を含む熱可塑性樹脂の相溶性パラメータは、各構造単位の比率に従って簡便に比率計算することができる。Fedorsの計算法では、置換基の種類や数に依存する分子の凝集エネルギー密度およびモル分子体積が相溶性パラメータを決定させており、式(6)に従い相溶性パラメータが推算される。ここで、Ecoh(cal/mol)は凝集エネルギーを、Vはモル分子体積(cm/mol)を表す。
Figure 2022163716000002
本発明の積層シートにおける相溶性パラメータは、Fedorの式に基づいて計算した推算値の小数第2位を四捨五入した数値とする。なお、代表的な熱可塑性樹脂の相溶性パラメータとしては、酢酸セルロース:11.0、セルロース:15.6、ポリアクリロニトリル:14.8、ポリアミド:13.6、ポリイソブチレン:7.7、ポリエチレン:8.0、ポリエチレンテレフタレート:10.7、ポリ塩化ビニル:10.1、ポリ酢酸ビニル:9.5、ポリカーボネート:9.9、ポリスチレン:9.4、ポリビニルアルコール:12.6、ポリフェニレンサルファイド:12.5、ポリブタジエン:8.3、ポリプロピレン:8.1、ポリメタクリル酸メチル:9.3などが挙げられる。
熱可塑性樹脂層が、複数の熱可塑性樹脂を含む場合、各熱可塑性樹脂単体の相溶性パラメータの値を有機高分子材料の含有比率と掛け合わせて合計した数値を、該熱可塑性樹脂層の相溶性パラメータとする。例えば、ポリエチレンテレフタレート成分(相溶性パラメータ:10.7)とポリメタクリル酸メチル(相溶性パラメータ:9.3)が50:50の比率で含有されている場合は、両相溶性パラメータの中間値にあたる10.0が当該層の相溶性パラメータとなる。
一般的に2つの熱可塑性樹脂層の相溶性パラメータの差を小さくする方法としては、2つの熱可塑性樹脂層における主成分である熱可塑性樹脂の骨格構造を共通のものとする方法が挙げられる。例えば、隣接する熱可塑性樹脂層の相溶性パラメータの差を抑えるには、これらの熱可塑性樹脂層の主成分を互いに共通の骨格構造を有する熱可塑性樹脂とした上で、共重合成分やアロイ/ブレンドの種類を変える態様することで、2つの熱可塑性樹脂層の相溶性パラメータの差を小さくすることができる。隣接する2つの熱可塑性樹脂層が互いに共通する化学構造を有することで、隣接する熱可塑性樹脂同士の強い分子間力が働き、高分子の界面拡散が起こり層界面を構成する厚み領域が増えることで、密着性を高める効果を奏する。
本発明の積層フィルムの最表層は、両表層とも同じ熱可塑性樹脂層が配されることが好ましい。両表層が同じ熱可塑性樹脂を主成分とする層で構成されることで、後述する製造方法において、ロール延伸時にロールとフィルムの粘着防止のために、ロールと接触する熱可塑性樹脂層の熱特性に合わせてロール温度を調整する必要がなく、両最表層に配される熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂の熱特性に合わせて、当該熱可塑性樹脂を主成分とする単膜フィルムを製膜する場合と同様の製膜工程で、積層フィルムを得ることが可能となるため好ましい。
さらに、最表層に位置する熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂は、結晶性の熱可塑性樹脂を主成分とする層であることが好ましい。最表層に位置する熱可塑性樹脂層が非晶性樹脂を主成分とする場合、後述の製造方法で二軸延伸積層フィルムを得た場合に、ロールやクリップなどの製造設備への粘着による製膜不良や表面状態の悪化が生じたり、延伸時に応力が立たず均一延伸ができないことで、フィルム面内で均一な物性・光学特性を有する積層フィルムが得られない、などの問題が生じる場合がある。結晶性の判断は、当該熱可塑性樹脂層を切削して抽出し、示差走査熱量分析(DSC)装置を用いて、融解エンタルピーの有無を確認することで判断できる。
本発明の積層フィルムは、後述の光学特性を満足することが重要であるが、積層フィルムが干渉による反射の効果を示すためには、熱可塑性樹脂層の屈折率差を高めることが重要であり、高屈折率を示す熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂は、延伸工程により屈折率を高めることが出来る、結晶性の熱可塑性樹脂からなることが好ましい。前記の製膜性も考慮すると、特に、積層フィルムの最表層に位置する熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂が、結晶性の熱可塑性樹脂を主成分とすることが最も好ましい。熱可塑性樹脂層の屈折率が低いことは、当該層を構成する熱可塑性樹脂が非晶性である場合が多く、前記の製膜性の観点でも不利となる。以下、便宜のため、結晶性を示す熱可塑性樹脂層が、積層フィルムを構成する熱可塑性樹脂層の中に含まれる場合は、少なくともA層は結晶性を示す熱可塑性樹脂層であることを前提として記述する。この場合、前記3種類の熱可塑性樹脂層を有する好ましい繰り返し単位の積層フィルムの中では、(ABCB)mA、(ABCBCB)mA、が好ましい繰り返し単位構成となる。
積層フィルムが異なる4種類の熱可塑性樹脂層(A層、B層、C層、D層)を有する場合、例えば、(ABCD)m、(ABDC)m、(ACBD)m、(ABCDCB)m、(ABDCDB)m、(ACBDBC)m、(ACDBDC)m、(ADBCBD)m、(ADCBCD)m、(BACDCA)m、(BADCDA)m、(BCADAC)m、(BCDADC)m、(BDACAD)m、(BDCACD)m、(CABDBA)m、(CADBDA)m、(CBADAB)m、(CBDADB)m、(CDABAD)m、(CDBABD)m、(DABCBA)m、(DACBCA)m、(DBACAB)m、(DBCACB)m、(DCABAC)m、(DCBABC)m(mは自然数)などの繰り返し単位を有する積層フィルムとすることができる。
積層フィルムが異なる4種類の熱可塑性樹脂層を有する場合においても、層間密着性を付与するために、隣接する熱可塑性樹脂層で形成される界面の種類は少ないことが好ましいため、前記繰り返し単位の中では、(ABCDCB)m、(DCBABC)mの繰り返し単位が好ましい。さらに、前述のように、最表層に配される熱可塑性樹脂層が結晶性の熱可塑性樹脂で形成されていることが、製膜性の観点で好ましいことを考慮すると、(ABCDCB)mの繰り返し単位を有することがより好ましい。
繰り返し単位に用いられる熱可塑性樹脂からなる層の種類および繰り返し単位の並びについては、無論前記に限定されるものではないが、層の種類が増えることで同時押出するための押出機数が増えるほか、界面の種類が増えて界面密着性を付与し、持続させるための樹脂設計が複雑となり、レオロジー挙動の異なる熱可塑性樹脂を同じ温度で積層するため、積層装置から口金でシート化するまでの工程における積層乱れが起こりやすくなる。さらに、樹脂層を合流する積層工程も煩雑になることから、5種類以上とすることは現実的ではない。
本発明において重要な特徴である広反射帯域・高反射を実現するには、光干渉反射を発生する繰り返し単位の数(前記mに相当)が多いことも重要である。本発明の積層フィルムのフィルム設計と光学性能の関係としては、類似する厚みの繰り返し単位が複数存在することで高反射率化、その繰り返し単位の厚みに傾斜を付与することで広反射帯域が実現できる。さらに、繰り返し単位の中において、後述する隣接する熱可塑性樹脂層の屈折率関係や、各熱可塑性樹脂層の屈折率と層厚みの積で表される光学厚みを一定の関係に制御することで、高次反射抑制を実現することが出来る。繰り返し単位に含まれる異なる熱可塑性樹脂層の種類が多いことで、より高度な光学設計が可能となるが、骨格構造の異なる熱可塑性樹脂の種類が増えるため、積層装置が複雑になるほか、レオロジー挙動の異なる熱可塑性樹脂を複数種積層することになるため、積層乱れが発生しやすく製膜の難易度が高くなる。よって、繰り返し単位を構成する熱可塑性樹脂層の種類はなるべく少ないことが好ましく、具体的には、積層フィルムを形成する熱可塑性樹脂層の種類は4種類以下、より好ましくは3種類の熱可塑性樹脂層で構成されることが、積層工程が煩雑になることなく、本発明で重要な広反射帯域・高反射をなるべく低積層数で実現でき、光学用途で求められる薄膜化傾向にも則るため好ましい。さらに、前記の好ましい3種類の熱可塑性樹脂層で構成される積層フィルムの中でも、図1に示すように、熱可塑性樹脂層をA層、B層、およびC層としたときに、A層/B層/C層/B層の構成単位を繰り返した積層構成を有すること、すなわち、繰り返し単位がA層/B層/C層/B層であることが特に好ましい。なお、図1において符号1~4は、順にA層、B層、C層、繰り返し単位を表す。以後他の図面においても同様である。
本発明における、一定の繰り返し単位を有する積層フィルムは、繰り返し単位を構成する複数の熱可塑性樹脂を、熱可塑性樹脂の種類と同数以上の押出機を用いて異なる流路からそれぞれ送り出し、公知の積層装置であるマルチマニホールドタイプのフィードブロックやスタティックミキサー等を用いて積層体を形成することができる。特に、光学用途に用いる場合には、層厚みの制御が非常に重要となるため、本発明の積層構成を高精度に効率よく得るためには、微細スリットを有するフィードブロックを用いる方法が好ましい。スリットタイプのフィードブロックを用いて積層体を形成する場合、各層の厚みおよびその分布は、スリットの長さや幅を変化させて圧力損失を傾斜させることにより達成可能となる。ここでスリットの長さとは、スリット板内で各熱可塑性樹脂層を一定の繰り返し単位となるように流すための流路を形成する櫛歯部の長さのことである。
本発明の積層フィルムにおいて、積層フィルムの繰り返し単位を構成する熱可塑性樹脂層は、組成が異なることにより結晶性や電子状態が異なるため、本発明の積層フィルムの光学特性を実現する上で重要な屈折率も異なる。屈折率が異なるとは、具体的には、フィルム面内で任意に選択される直交する2方向および該平面に垂直な方向のいずれかにおいて、特定の熱可塑性樹脂層の屈折率と別の熱可塑性樹脂層の屈折率が0.01以上異なることを指す。この定義に倣うと、例えば「異なる3種類の熱可塑性樹脂層を有する」とは、3種類の熱可塑性樹脂層が存在し、そのうち2種類を選んで屈折率値を比較したときに、いずれも0.01以上の差がある態様も意味する。
屈折率の異なる熱可塑性樹脂層が積層されることにより、各層間の屈折率の差と層厚みとの関係より特定の波長の光を反射させることが出来る光学理論に基づく光干渉反射を発現可能となる。具体的には、界面を挟んで隣接する各熱可塑性樹脂を主成分とする層の層厚みをdx、dy(x,y=A,B,C・・・)、および、隣接する層の屈折率差をΔn=|ny-nx|とした場合に、式(2)に従い反射光線波長(λ)が、また、隣接する層の屈折率差Δnxに基づく式(3)に従い反射率(R)が概ね決定される(θx、θyは積層フィルムの面直方向から見て当該層への入射角、隣接する層へと入射する際の入射角を指す。kは、任意の自然数である。)。ここで、隣接する層に同一の屈折率を有する熱可塑性樹脂を利用する場合、特に面直方向に入射した光に対しては、反射率を表す式(3)の分子が0となるため、界面における干渉反射が発生しないことを意味する。
Figure 2022163716000003
Figure 2022163716000004
本発明の積層フィルムは、3種類以上の熱可塑性樹脂層で形成される繰り返し単位を連続して5つ以上有することが必要である。連続して繰り返し単位を有することで干渉反射が生じやすくなるため、積層フィルムの反射率向上や反射波長帯域拡張が可能となる。これは、本発明の積層フィルムの重要な特徴である広反射帯域・高反射性能を示す後述のS/λを高めることに繋がる。上記観点から、連続して含まれる繰り返し単位の数は、好ましくは10以上であり、より好ましくは50以上、さらに好ましくは100以上である。繰り返し単位の数は多ければ多いほど干渉反射しやすいが、製造装置の大型化に伴う製造コストの増加、積層工程の複雑化に伴う積層乱れ・積層比率の幅方向傾斜による積層フィルム幅方向均一性の悪化、フィルム厚みが厚くなることでのハンドリング性の悪化などが生じる場合があることから、300以下であることが現実的である。
また、本発明の積層フィルムは、積層数が101層以上901層以下の積層フィルムであることが好ましい。3種類以上の熱可塑性樹脂層が一定の繰り返し単位を有しつつ、101層以上の積層数を有することで、十分に干渉反射を発生しやすくなり、高反射率に加えて、広反射帯域も実現しやすくなる。積層フィルムの層数は、好ましくは301層以上701層以下である。積層数が901層を超える場合、製造装置の大型化に伴う製造コストの増加などが生じる場合がある。
本発明の積層フィルムは、積層フィルムを構成する各熱可塑性樹脂層の層厚みが、いずれも単調に増加または減少する層厚み分布、フィルムの片面側からフィルム中心へ向かって層厚みが増加した後に減少する層厚み分布、フィルムの片面側からフィルム中心へ向かって層厚みが減少した後に増加する層厚み分布等に設計することができる。また、層厚み分布の傾斜形態は、線形、等比、階差数列といった連続に変化するものや、10層から50層程度の層がほぼ同じ層厚みを持ち、その層厚みがステップ状に変化するものに設計することができる。
同じ層厚みを有する層が多く存在するほど、特定の波長における積層フィルムの反射率が高まるため、高反射率化に向けては層厚みの増加・減少の傾斜分布が複数存在する層厚み分布であることが好ましいが、同じ積層数で同じ波長帯域をターゲットとする場合、傾斜分布が複数存在する分布の方が、単調増加/減少を示す分布と比べて、少ない積層数で狙いの反射波長帯域に相当する層厚み分布を設計する必要があるため、層厚み分布の傾斜が大きくなる。これにより、反射帯域の端部がブロード化することや、複数の傾斜分布間で干渉反射距離が生じることで反射率のベースラインのうねりの大きさが強くなることにより、視認方向に応じた積層フィルムの色むらが強くなる問題が生じる場合がある。前記問題を生じないために、積層フィルムを構成する各熱可塑性樹脂層の層厚みは、単調に増加、あるいは、単調に減少する層厚み分布を示すことが好ましい。
本発明の積層フィルムの波長帯域Π1(横軸を波長(nm)、縦軸を反射率(%)とする300nm以上2500nm以下の波長帯域における分光スペクトルにおいて、最も長波長帯域に位置する100nm以上にわたり連続して20%以上の反射率を示す波長帯域を波長帯域)の反射率は、繰り返し単位の中で最も屈折率の高い層の屈折率と、最も屈折率の低い層の屈折率の差によって決定づけられる。例えば、繰り返し単位が屈折率の異なる3種類の熱可塑性樹脂層(A層、B層、C層)を有し、A層、B層、C層の順に屈折率が高い場合は、A層とC層の屈折率差が、積層フィルムの1次反射の反射率を決定づけることとなる。よって、A層とC層の屈折率差を大きくする熱可塑性樹脂の組み合わせ、とりわけ、延伸工程後に屈折率差が大きくなる組み合わせとすることが最も重要となる。屈折率が最も高い層、ならびに、最も低い層として好ましく用いることができる熱可塑性樹脂については後述する。
本発明の積層フィルムにおいて、広反射帯域は、式(2)に従い、積層フィルムの層厚みに連続的に傾斜をつけた態様とすることで達成できる。その上で、積層数を増やすことで反射波長帯域を拡大したり、反射率を高くすることができるが、本発明の積層フィルムのような干渉反射を利用すると、主反射にあたる1次反射よりも短波長側の波長帯域に、式(2)に従った高次反射が発生する場合がある。例えば、2種類の異なる屈折率を有する熱可塑性樹脂を主成分とする層を交互積層した(AB)mタイプの積層フィルムでは、式(2)の係数kを2、3としたときの反射帯域にあたる2次反射、3次反射を、屈折率と層厚みの積にあたる光学厚みを制御することで高くすることも抑制することもできる。たとえば、A層の光学厚みnA×dAとB層の光学厚みをnB×dBを狙いの波長帯域の1/4波長となるように設計すると2次反射を抑制することができる。これは一般的にλ/4設計と呼ばれる。さらに、特許文献4に記載されているA:B:A:B:A:B=1:7:1:1:7:1の、図2に示すような特殊な等価膜設計と呼ばれる光学厚み設計を施すことで、2次反射に加えて3次反射をも同時に抑制することができる。但し、(AB)mタイプの積層フィルムにおいては、どのような光学厚み設計を行っても、式(2)の係数kを4としたときの4次反射までの高次反射を同時に抑制することは、理論上不可能である。4次反射までの高次反射を同時に抑制するためには、3種類以上の複数の屈折率が異なる熱可塑性樹脂層を用いることで初めて達成可能となる。なお、これら高次反射の発生は、1次反射率の反射率低下および反射帯域幅の狭帯域化を招く傾向があることから、後述する高次反射が生じない光学設計とすることが好ましい。
例えば、熱線(近赤外線)を反射するフィルムなどの用途では、赤外線の波長帯域をなるべく広い反射帯域にわたり反射しつつ、高透明なフィルムであることが求められる。高次反射を抑制する光学設計とせず、近赤外線にあたる800nm以上の近赤外線にあたる波長帯域を反射帯域Π1となるように設計した積層フィルムの場合、可視光線帯域にあたる波長400~800nmにおいて2次以上の高次反射が発生するため、積層フィルムが着色し透明性が失われる場合がある。可視光線領域の反射を生じることなく、広反射帯域の熱線を反射できる積層フィルムとする場合には、前記のλ/4設計や等価膜設計を用い、発生する高次反射の長波長端部が400nm以下となるまで、1次反射の長波長端部を拡張することで達成できるが、2種類の異なる熱可塑性樹脂層からなる積層フィルムでは、抑制出来る高次反射の次数が3次までであり、透明性を維持しつつ1次反射波長帯域を拡張できる波長帯域に限界が生じる。具体的には、4次以降の高次反射が発生するため、波長帯域Π1の長波長端部は1600nmが上限となる。この場合、十分な反射帯域・高反射が得られないため、波長帯域Π1の面積Sの数値を高くすることが出来ず、後述する本発明の積層フィルムの広反射帯域・高反射を表す指標であるS/(λ・N)およびS/λが、本発明で必要な数値若しくは好ましい数値を満足できない。そこで、繰り返し単位を構成する熱可塑性樹脂の種類を3種類以上とし、かつ、高屈折率および低屈折率を示す層以外の層を、後述する好ましい光学設計に従い設計すれば、4次反射まで同時に抑制することが出来、1次反射帯域を最大2000nmまで拡張しつつ、積層フィルムを着色することなく広い反射波長帯域を有する熱線反射フィルムを得ることができる。
以下、3種類の(屈折率が)異なる熱可塑性樹脂層を有する積層フィルムを例に挙げて、高次反射を抑制するための好ましい積層フィルムの光学設計について説明する。3種類の異なる熱可塑性樹脂を主成分とする層で構成される積層フィルムにおいて、高次反射を抑制するためには、屈折率の大きい順にA層、B層、C層、それぞれの層の面内平均屈折率をnA、nB,nCとすると、最も高い屈折率を示す層と最も低い屈折率を示す層界面以外の各界面における比率、nA/nB、nB/nCが、式(4)の関係を満たすことが好ましい。干渉反射の光学理論では、干渉反射の有無は隣り合う界面で反射される光線同士の位相の重なりに加え、各界面で反射する光の強度にも影響することから、完全に干渉反射を打ち消しあうためには、干渉し合う波の位相が反転することに加え、各界面で反射する光の強度を一定にすることが必須条件となる。界面で反射される光の大きさは、界面を構成する2種類の層の屈折率の比に影響することから、前記関係を満たすことが、干渉光を打ち消し合い高次反射を抑制するためには好ましい。
Figure 2022163716000005
以下、屈折率が最も高い熱可塑性樹脂層、および屈折率が最も低い熱可塑性樹脂層に好ましく用いることが出来る熱可塑性樹脂について記載する。ここでは、最も屈折率が高い熱可塑性樹脂層をA層として記述する。
本発明の積層フィルムにおける屈折率が最も高い熱可塑性樹脂層であるA層は、未延伸の状態でも高屈折率を示す熱可塑性樹脂、とりわけ、1.58以上の屈折率を示す熱可塑性樹脂を主成分とする層であることが好ましい。例えば、1.58以上の高屈折率を示す熱可塑性樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(1.58)、ポリカーボネート(1.59)、ポリエチレンナフタレートグリコール(1.60)、ポリスチレン(1.60)、ポリブチレンナフタレート、ポリイミド(1.61)、ポリジクロロスチレン(1.62)、ポリスルフォン(1.63)、ポリエチレンナフタレート(1.64)、ポリエーテルイミド(1.66)、ポリエーテルエーテルケトン(1.73)、ポリフェニレンスルフィド、などが挙げられる(括弧内は屈折率を示す)。無論、これらのブレンド品、アロイ品などを用いてもよく、前記の熱可塑性樹脂をベースとして、屈折率向上、層間密着性向上に寄与するような共重合成分を加えてもよい。屈折率向上のために熱可塑性樹脂に含まれるべき成分としては、骨格構造として芳香族環を一つ以上含み、芳香族環が直線的に並んだ成分であることが好ましく、テレフタル酸、フランジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、フルオレンジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、ピレンテトラカルボン酸、パラキシレングリコール、ナフタレンジオール、ビフェニルジオール、フルオレンジオール、アントラセンジオールなどの成分を含む熱可塑性樹脂であることが最も好ましい。結晶性を示す熱可塑性樹脂であるかは、示差走査熱量計(DSC)測定において融解エンタルピーを有するか否かで判断することができる(融解エンタルピーを有するものを、結晶性を示すものとする。)。前述の熱可塑性樹脂の中では、延伸することでより高い面内屈折率を示すことができ、かつ、光学用途に適した高透明性、汎用性などを兼備した結晶性の熱可塑性樹脂として、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、から選ばれることが最も好ましい。すなわち、屈折率の最も高い熱可塑性樹脂層の主成分である熱可塑性樹脂が、ポリエチレンテレフタレートもしくはポリエチレンナフタレートであることが最も好ましい態様である。なお、ここで主成分とは層中に50質量%を超えて100質量%以下含まれる成分をいう。
本発明の積層フィルムにおける屈折率が最も低い熱可塑性樹脂層(熱可塑性樹脂層が3種類の場合はC層)は、未延伸の状態で低屈折率を示す熱可塑性樹脂、特に1.54以下の屈折率を示す熱可塑性樹脂を主成分とする層であることが好ましい。たとえば、単独の熱可塑性樹脂で低屈折率を示す樹脂としては、フッ化エチレン-プロピレンコポリマー(1.34)、ポリフッ化ビニリデン(1.42)、ポリブチルアクリレート(1.46)、ポリ乳酸(1.46)、ポリメチルペンテン(1.46)、ポリイソブチルメタクリレート(1.48)、ポリメチルアクリレート(1.48)、ポリエチルメタクリレート(1.48)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、セルロースアセテート(1.49)、ポリプロピレン(1.50)、ポリブチレン(1.50)、ポリアクリロニトリル(1.51)、エクデル(Ecdel;商標)(1.52)、ナイロン(1.53)、ポリエチレン(1.54)、などが挙げられる。無論、これらのブレンド品、アロイ品などを用いてもよく、前記の熱可塑性樹脂をベースとして、屈折率向上、層間密着性向上に寄与するような共重合成分を加えてもよい。また、最終的な熱可塑性樹脂の屈折率が1.54以下を満足するのであれば、1.54を超える熱可塑性樹脂をベースとし、共重合成分として異なる成分を含む熱可塑性樹脂とすることもできる。屈折率が最も低い熱可塑性樹脂層を形成する熱可塑性樹脂の屈折率は、好ましくは1.51以下、さらに好ましくは1.49以下である。
特に、屈折率が最も低い熱可塑性樹脂層は、延伸工程後に屈折率が大きく変化しない非晶性の熱可塑性樹脂で構成されていることが好ましい。非晶性樹脂であることは、示差走査熱量計(DSC)測定において融解エンタルピーを示さない熱可塑性樹脂を指し、透明性・層間密着性・製膜性などを考慮すると、前記の中ではポリブチルアクリレート、ポリイソブチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリメチルメタクリレートなどのアクリル樹脂、などを用いることが好ましい。あるいは、屈折率が最も高い層であるA層との密着性を得るために、高屈折率を示すポリエステル樹脂に共重合成分を付与して屈折率を1.54以下とした非晶性の熱可塑性樹脂とすることも好ましい。例えば、この場合、熱可塑性樹脂を構成する成分の総当量を100モル%とした場合、共重合成分にあたる副成分の含まれる量を25モル%以上45モル%以下含むことが好ましい。例えば、主成分がポリエチレンテレフタレートである共重合ポリエステル樹脂の場合、テレフタル酸成分以外のジカルボン酸成分、および、エチレングリコール成分以外のジオール成分が合計して25モル%以上45モル%以下含まれることが好ましい。共重合量をこの範囲に制御することで、積層フィルムの層間密着性や、熱流動特性の差が小さくなるため、各層の厚みの精度や厚み均一性に優れた非晶性の熱可塑性樹脂とすることができる。
屈折率を低下するための共重合成分として好ましい成分としては、例えば、アジピン酸、シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAエチレンオキサイド、スピログリコール、イソフタル酸、イソソルビド、シクロヘキサンジカルボン酸、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール2000、m-ポリエチレングリコール1000、m-ポリエチレングリコール2000、m-ポリエチレングリコール4000、m-ポリプロピレングリコール2000、ビスフェニルエチレングリコールフルオレン(BPEF)、フマル酸、アセトキシ安息香酸などが挙げられる。中でも、3次元的な骨格構造を示すスピログリコールやネオペンチルグリコール、もしくは、ポリエチレングリコール成分、などが挙げられる。スピログリコールは、共重合した際にポリエチレンテレフタレートとのガラス転移温度差が小さいため、成形時に過延伸となりにくく、かつ、層間剥離も発生しにくい。ポリエチレングリコール成分は、親水性を高めて層間密着性が高まるほか、ガラス転移温度を効果的に下げることができ、共延伸性が高まる効果を奏する。
本発明の積層フィルムは、JIS K 5600-5-6:1999に規定されたクロスカット法に基づく付着性試験での升目の剥離率が10%以下であることが必要である。なお、以下「JIS K 5600-5-6:1999に規定されたクロスカット法に基づく付着性試験での升目の剥離率」を単に剥離率ということがある。積層フィルムの剥離は、各熱可塑性樹脂内部で破断が起きて剥離する凝集/材料破壊、熱可塑性樹脂層間の界面で剥離する界面破壊の両方によって生じると考えられるが、クロスカット試験ではその両方に起因する剥離を捉えることができる。いずれの破壊も、積層フィルムを長時間にわたり使用する場合には発生してはならない現象であり、クロスカット試験において剥離率が10%以下であることは、積層フィルムとして長期信頼性を備えていることを示す。10%を超える剥離率を示す場合は、長期使用において積層フィルム界面からの破壊が発生し、例えば、加工工程において、ロールでのフィルム搬送中に界面で剥離による浮きが生じることや、断裁工程において断面部分でクラックが生じることで、積層フィルムとは異なる位置に設けた保護フィルム剥離時の剥離強度に負けて積層フィルム界面で剥離が生じる場合がある。繰り返し行われる折り曲げ工程が行われるような用途においては、界面での浮きが生じることで、積層フィルム由来の物性・光学特性が失われる問題が発生する。上記観点から、剥離率はより好ましくは、3%以下であり、最も好ましくは剥離率0%である。
本発明の積層フィルムは、高反射でかつ広い反射波長帯域を達成するために、高い屈折率を示す層と低い屈折率を示す層の屈折率差を高める目的で、骨格構造の異なる熱可塑性樹脂を積層する場合がある。しかし、一般的には、骨格構造が異なり、相溶性パラメータの差が大きい樹脂同士を積層する場合、層間密着性に乏しく、剥離が発生する。従来の公知例においても、高い反射率を示すために骨格構造の異なる熱可塑性樹脂の組み合わせた記述・実施例や、得られる積層フィルムの光学特性について記載した内容が多く見受けられるが、このような積層フィルムは光学特性を満足するものの、層間剥離が発生して実用化が困難な場合が多い。本発明において、剥離率を10%以下または上記の好ましい範囲とする方法としては、層間密着性を高めるように樹脂設計・フィルム設計を調整する方法を用いることができ、以下その方法について説明する。
層間密着性を高める好ましい樹脂設計の一つの態様として、前述したように、隣接する熱可塑性樹脂層の片側を構成する熱可塑性樹脂に、もう片側の熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂を共重合、アロイ、あるいはブレンドする手法が挙げられる。例えば、A/B/C/Bの繰り返し単位を有する積層フィルムにおいて、熱可塑性樹脂B層が、熱可塑性樹脂Aと熱可塑性樹脂Cのブレンドあるいはアロイ原料となっていることを表す。本手法が最もよく利用され、簡便な手法であるが、層を主に構成する熱可塑性樹脂内に、異なる基本骨格を有する成分が共存する形となるため、分散混合状態によっては、層を主に構成する熱可塑性樹脂内に異なる基本骨格を有する成分が海島構造(ドメイン)として存在し、白濁度(ヘイズ)が上昇して積層フィルムの透明性を損なう場合がある。特に、相溶性パラメータの差が大きい熱可塑性樹脂をブレンド/アロイする場合には、この海島構造が生じやすいことから、屈折率差を高めるために基本の化学構造が全く異なる樹脂同士を熱可塑性樹脂Aおよび熱可塑性樹脂Bに適用する場合は、好ましくない。異なる骨格構造を有する熱可塑性樹脂同士の分散度を高めるためには、二軸以上のスクリューを備える混錬押出機を用い、添加剤混錬時の吐出量に対するスクリュー回転数の比率を上げる、もしくは、スクリューの混錬に係るセグメントのアレンジメントをよりスクリュー同士が深く噛み合う形に変更し、混錬度を上げることが好ましい。もしくは、熱可塑性樹脂の相溶性を高めるような、共通骨格を有する添加剤を含ませることが好ましい。
層間密着性を高める樹脂設計の他の態様として、少なくとも一つの熱可塑性樹脂層に、隣接する熱可塑性樹脂層と同じ基本骨格を有する未反応性官能基を有する反応性添加剤を予め反応させ、両層に共通骨格の成分を含有させ相溶性を高める方法が挙げられる。具体的には、密着性を向上させたい相手側の層を構成する熱可塑性樹脂に含まれる未反応末端基、もしくは、密着性を向上させたい相手側の層内に予め添加した添加剤に含まれる末端基と、反応性添加剤とを反応させ、隣接する層との同じ基本骨格構造を持つ成分を付与し、相溶性を高める方法である。このような反応を実現するための官能基としては、例えば、密着性を向上させたい相手側の層にカルボキシル基末端が含まれる場合は、反応性添加剤としてフェノール基、エポキシ基やアミノ基などカルボシキル基と反応性の高い末端基を含む添加剤を、また、密着性を向上させたい相手側の層がアルコキシシリル基末端を含む場合は、反応性添加剤として無機フィラーや金属成分を含む添加剤を、添加することで達成できる。本手法の場合、熱可塑性樹脂を共重合、アロイ、あるいはブレンドする場合と同様に、分散状態によるヘイズ上昇の問題が起こることに加え、未反応の添加剤が積層工程前の時点において熱が加えられた際に反応がさらに進み、レオロジー特性が変化して積層乱れが発生する問題が生じる場合がある。
さらに、層間密着性を高める樹脂設計の別の態様として、少なくとも一つの熱可塑性樹脂層に、密着性を向上させたい相手側の熱可塑性樹脂層内に含まれる未反応官能基成分と反応する未反応官能基を含ませる処方が挙げられる。この方法では、積層工程で個別の押出機から供給された熱可塑性樹脂が積層装置内での積層工程中に反応するため、前者の方法のように各層を構成する熱可塑性樹脂のレオロジー挙動を積層工程前に変化させることないため、積層乱れを発生することなく、密着性を高めることができるため好ましい。このような反応を実現する官能基の組み合わせとしては、前記した官能基の組み合わせを利用することができる。
層間密着性を高めることが出来る好ましい製膜条件として、延伸後に180℃以上の熱処理温度で熱処理することが挙げられる。高温での熱処理工程を経ることで、界面において樹脂同士の流動性が向上して拡散し、両熱可塑性樹脂層が相溶した界面が得られるため、熱処理温度が低い場合と比べて界面密着性を高めることができる。上記観点から、熱処理温度は好ましくは190℃以上、より好ましくは200℃以上である。熱処理温度が高すぎると、熱可塑性樹脂の種類によっては結晶の融解により屈折率が変化し、光学特性が変わる場合がある。そのため、熱処理温度は、230℃以下にすることが好ましい。熱処理温度は、示差走査熱量計(DSC)を用いてフィルムの熱特性を昇温測定したときの微結晶融解温度(Tmeta)で把握することが出来る。
また、層間密着性は、積層フィルムを構成する繰り返し単位数や層数を減らすことによっても向上させることができる。これは繰り返し単位数や層数が少ないことで、剥離を生じる界面の数も比例して減少することにより、クロスカット試験における剥離が生じにくくなるためである。本傾向は、添加剤による化学的な界面反応による密着向上がない場合に顕著となる場合がある。上記観点から、具体的には層数が701層以下であることが好ましく、より好ましくは601層以下、さらに好ましくは353層以下である。
さらに、本発明の積層フィルムは、JIS K 6854-3:1999に規定されたT型剥離試験における剥離強度が1.3N/10mm以上を示すことが好ましい。T型剥離試験とは、クロスカット試験法と異なり、得られるS-Sカーブのうち、一定値を示す領域に着目することで界面破壊のみに着目した剥離強度を定量化することができ、高い数値を示すほど十分な界面密着性を有すると判断できる。当該剥離強度が1.3N/10mm未満を示す場合は、前記のような加工面・実用面での剥離による問題が生じる場合がある。上記観点から当該剥離強度は、好ましくは2.0N/10mm以上であり、より好ましくは3.0N/10mm以上である。界面剥離による剥離強度は、得られるS-Sカーブのうち、図3に示す通り、20mm以上の剥離範囲にわたり一定の強度(数値変動が±10%以内)を示す領域の平均値を読み取ることで得られる。なお、図3において、符号5は剥離強度試験におけるS-Sカーブを、符号6は剥離強度をそれぞれ示す。
本発明の積層フィルムは、横軸を波長(nm)、縦軸を反射率(%)とする300nm以上2500nm以下の波長帯域における分光スペクトルにおいて、最も長波長帯域に位置する100nm以上にわたり連続して20%以上の反射率を示す波長帯域を波長帯域Π1、波長帯域Π1における中心波長をλ、波長帯域Π1の分光スペクトルと反射率のベースラインとで囲まれる領域をS、積層フィルムの熱可塑性樹脂層の合計積層数をNとしたときに、0.060≦S/(λ・N)≦0.300を満足することが必要である。ここで述べるところの分光スペクトルは、実施例で後述する反射率・反射分光スペクトル測定にて、分光光度計を用いて1nmピッチで測定して得られる反射分光スペクトルに、10点平均処理を施して得られる分光スペクトルを指す。詳説は後述するが、分光光度計による測定において295nm~2505nmの反射率データを取得し、連続する10点のデータを平均処理することで、300nm~2500nmの反射スペクトルデータを得ることができる。
最も長波長帯域に位置する連続して20%以上の反射率を示す波長帯域Π1について、図4~7を用いて説明する。なお、図4~7において、符号7~16は順に、分光スペクトル、波長帯域Π1の領域面積S、高次反射、波長帯域Π1の中心波長λ、波長帯域Π1のλmin、波長帯域Π1のλmax、波長帯域Π1の最大反射率、波長帯域Π1の最大反射率とベースライン反射率の中間値、ベースライン、分光スペクトルの脈流をそれぞれ示し、符号7の分光スペクトルは10点平均処理を施して得られる分光スペクトルである。反射率波長帯域Π1とは、図4に示す通り、前記の平均処理を施した分光スペクトルにおいて、300nm以上2500nm以下の波長帯域において、100nm以上にわたり連続して反射率が20%以上を示す波長帯域のうち、最も長波長側に位置する波長帯域のことを指す。図5に示す通り、反射波長帯域において、反射率が20%未満を示す領域が一部でも含まれる場合には、その領域を境界として、反射率が20%以上を示す長波長側の波長帯域をΠ1と定義する。また、図6に示す通り、2500nmを超えて反射率が20%以上を示す波長帯域が長波長側に存在する場合には、300nm以上2500nm以下の波長帯域内に含まれる部分において、100nm以上にわたり20%以上の反射率を示す場合に、当該波長帯域をΠ1と定める。
波長帯域Π1の分光スペクトルと反射率のベースラインとで囲まれる領域の面積Sとは、図4~7に記載の斜線領域の面積を示す。この領域の面積Sの数値が積層フィルムの広帯域・高反射率の性能を実質上表すが、本発明の積層フィルムの場合、同じ積層工程を経て作製した積層フィルムであっても、積層フィルムの厚みに応じて波長帯域がシフトするため、領域Sの面積のみでは積層フィルムの構成に基づく、高反射率化・広反射帯域の効果を表すことができない。そこで本発明では、前記面積Sを当該波長帯域の中心波長λで割り返すことにより、積層フィルムの厚みによる波長帯域幅変化の影響を打ち消し、積層フィルムの構成に基づいた高反射率・広反射帯域の効果を表す。ここで述べるところの中心波長λは、反射帯域Π1の最大反射率(図4~6の13)とベースラインとの中央値(図4~6の14)を示す反射帯域Π1の波長範囲において、中間の波長とする(図4~6の10)。領域の面積Sは、例えば、波長帯域が800nm以上1200nm以下の帯域を90%反射する積層フィルム(ベースラインの反射率は10%とする)は単純計算で面積Sは(1200-800)nm×(90-10)%の32000を示すが、積層フィルムを半分の厚みにすると、波長帯域は400nm以上600nm以下となるため、(600-400)nm×(90-10)%の16000となり、同じ積層構造の積層フィルムであっても面積が変化するため、積層フィルム構成による広反射帯域・高反射率化の効果を表すことができない。そこで、波長帯域の中心波長λ、前者は1000nm、後者は500nm、で割り返すと、いずれもS/λ=32となり、異なる波長帯域を反射する積層フィルム同士であっても、積層フィルムの厚みに依存せず、積層フィルムの構成に基づく広反射帯域・高反射率化の効果を比較することが可能となる。
S/(λ・N)は、波長帯域Π1の分光スペクトルと反射率のベースラインとで囲まれる領域の面積S/中心波長λを、さらに合計積層数で割り返した数値であることから、S/(λ・N)が本数値範囲を示すことは、従来技術、特に2種類の熱可塑性樹脂層を交互に積層する(AB)mの積層フィルムでは達成できない、低積層数でありながら、高反射率かつ広帯域反射を兼備した積層フィルムが得られることを表す。S/(λ・N)が0.060よりも低い数値を示すことは、積層数を過度に多く設けていること、又は層厚み分布の傾斜が小さく反射帯域が狭いことを意味する。前者の場合においては、積層フィルムの厚みが過度に大きくなり、例えばディスプレイ用光学フィルムとしては近年の薄膜化傾向に則しないこととなる。さらに、積層フィルムの厚みが過度に大きくなると、後加工時のハンドリング性やスパッタ蒸着などの加工性を満足できないこともある。また、後者の場合は、積層フィルムの反射帯域が不足することから、後述する用途での使用に適さないことがある。
一方で、S/(λ・N)が0.300よりも高い数値を示す場合、少ない積層数で高反射率・広反射帯域を実現することを意味する。そのためには、熱可塑性樹脂層の屈折率差を高める必要があり、そのために骨格構造が全く異なる熱可塑性樹脂からなる熱可塑性樹脂層を積層することが不可欠となるため、積層フィルムとしたときの層間密着性が劣る。このようなメカニズムで生じる層間密着性の低下を軽減する方法として、密着性を向上させたい相手側の熱可塑性樹脂層内に含まれる未反応官能基成分と反応する未反応官能基を有する化合物(改質剤)を加える方法があるが、これは化合物(改質剤)を添加する熱可塑性樹脂との相性から、明度の低下を招くことがある。S/(λ・N)のより好ましい範囲は0.080以上0.200以下であり、さらに好ましくは0.080以上0.150以下、特に好ましくは0.090以上0.130以下である。なお、積層フィルムを明度の低下等を避ける必要がある用途で使用することを考慮すると、上記の改質剤を用いずにS/(λ・N)を好適な範囲に制御することが好ましい。
S/(λ・N)を0.060≦S/(λ・N)≦0.300を満たす範囲、若しくは上記の好ましい範囲とする方法としては、例えば、積層フィルムを3種類の熱可塑性樹脂層を一定の繰り返し単位で積層したフィルムとし、さらに、3種類以上の熱可塑性樹脂層の中で、最も屈折率が高い熱可塑性樹脂層および最も屈折率が低い熱可塑性樹脂層として、前記の好ましい骨格構造・屈折率条件を満足する熱可塑性樹脂層を組み合わせる方法や、3種類以上の熱可塑性樹脂層の積層比を後述する波長帯域Π2およびΠ3の平均反射率を低減できる光学厚み(積層比)設計とする方法が挙げられる。
本発明の積層フィルムは、35.0≦S/λ≦150.0を満足することが好ましい。本発明で最も重要なS/(λ・N)の範囲に加えて、S/λの数値が前記数値範囲内に制御されることで、積層フィルムが、前記の低積層数・高反射率化・広反射帯域でありながら、実用するに足る十分な光線カット性を備えていることを表す。S/λが35以上である場合は、積層フィルムを構成する層のうち、最も高い屈折率を示す層と、最も低い屈折率を示す層の屈折率差が十分であり反射率が高い、もしくは反射率が高いΠ1の波長帯域が十分であり、本発明が目指す広反射帯域を達成できていることを表す。なお、S/λの上限を150とするのは、実現可能性の観点からである。
本発明の積層フィルムは、波長帯域Π1の、短波長端部の波長をλmin、長波長端部の波長をλmaxとしたときに、λmin≧λmax/2を満足することが好ましい。λmaxおよびλminは、それぞれ図4~7の11,12番に相当し、波長帯域Π1の反射率最大値とベースラインの反射率との中間値を示す波長帯域内の波長の最小値、最大値で表す。この波長の関係を満たすことで、1次反射と2次反射、2次反射と4次反射の帯域が完全に重複しないように設計することができる。積層フィルムを、λmin<λmax/2を満たす設計とした場合、反射帯域が重なり合う波長帯域で特異的な反射率低下/増加が起こる。これにより、反射率が低くなることで十分な光線カット性が得られなくなるほか、当該反射帯域が重なり合う波長帯域が可視光線領域にかかる場合には、重なり合う部分の反射率が高まることで望ましくない着色、明度の低減や色調変化、反射効果の低減が生じる場合がある。さらに、干渉反射理論を用いた積層フィルムの特徴である、斜め視野角での波長帯域シフトの際に、視野角によって望ましくない色調変化が発生する場合もある。この波長関係は、積層フィルムの積層数、層厚みの分布の傾斜を変更し、反射波長帯域幅を変化させることで実現できる。具体的には、層数を少なくすることや、単調増加する層厚み分布の層厚みの傾斜を緩くすること、層厚み分布を2段階にわたって単調増加する態様とすること等でλmin≧λmax/2を達成しやすい。
本発明の積層フィルムは、3種類以上の熱可塑性樹脂を幾何学的配列で積層して2種交互積層では達成できない高次反射を抑制し、広反射帯域を実現する観点から、波長300nm以上、かつλmax/5以上λmin/2以下の波長帯域Π2における平均反射率が25%以下であることが好ましい。当該波長帯域Π2は、3次反射および4次反射の一部に相当する波長帯域である。なお、本要件は、波長帯域Π1のλminが600nm以上を示さない限り成立しないことは言うまでもない。前述と同じく、高次反射の存在は、反射帯域Π1の平均反射率、および、赤外線カットフィルムにおける透明性向上に効果を奏することから、本波長帯域Π2においても高次反射を抑制することが好ましい。上記観点から、当該波長帯域Π2における平均反射率は、より好ましくは20%以下であり、最も好ましくは、数値を限定することはできないが、完全に高次反射が抑制され、1次反射における面積S算出時の反射率のベースラインと同じ平均反射率を示すことである。従来の2種類の熱可塑性樹脂層を交互に多層積層した積層フィルムでは実現できない、当該高次反射帯域Π2の反射率を低減することで、積層フィルムの透明性を保ちながら波長帯域Π1の反射帯域をより拡張することが出来る。これにより、熱線反射フィルムの熱線カット性をより高めることができる。
波長帯域Π2の平均反射率を25%以下とするためには、3次反射、4次反射の反射率を低減すればよく、例えば、(ABCB)mの繰り返し単位を有する積層フィルムでは、異なる熱可塑性樹脂を主成分とする層の積層比を調整することで達成できる。より具体的には、B層に対するA層の積層比(A/B)を0.50以上1.50以下(好ましくは0.75以上1.50以下)、および、B層に対するC層の積層比(C/B)を0.75以上1.50以下とすることで達成できる。また、上記を達成するためには3種類の層を有する場合は(ABCB)mの層構成を採用することが好ましい。なお、ここでいう積層比とは、後述する層厚み解析の評価方法で分析した各熱可塑性樹脂層の層厚みの合計について、比率計算したときの値を表す。以下、積層比について同様に解釈する。
また、波長帯域Π2の平均反射率を25%以下とする別の方法として、当該波長帯域Π2に吸収性能を有する光吸収剤を添加する方法、あるいは、当該波長帯域を吸収する熱可塑性樹脂を用いる方法が挙げられる。後者の波長帯域を吸収する熱可塑性樹脂は、例えば、波長300nm以上320nmの波長帯域を吸収するポリエチレンテレフタレート、波長300nm以上370nm以下の波長帯域を吸収するポリエチレンナフタレート、等が挙げられる。但し、熱可塑性樹脂により当該波長を吸収する場合、長期使用において熱可塑性樹脂自体が光劣化し、屈折率が変化することで、積層フィルム本来の光学性能・力学特性が損なわれる問題がある。この場合、積層フィルムの最表面に紫外線から熱可塑性樹脂を守るための紫外線吸収層を設けることや、熱可塑性樹脂中に紫外線吸収剤、耐候安定剤(酸化防止剤、光安定剤HALS、クエンチャー剤)を含有させることが好ましい。
本発明の積層フィルムは、波長帯域Π1の半波長帯域にあたるλmin/2以上λmax/2以下の波長帯域Π3における平均反射率が25%以下であることが好ましい。当該波長帯域Π3は、1次反射帯域Π1に対する2次反射帯域、および一部の3次反射帯域に相当する領域である。前述したとおり高次反射が生じることは、1次反射の反射率低下を招き、本発明の積層フィルムの特徴である高反射・広反射帯域を損ねる場合がある。そのため、2次反射、3次反射の高次反射が発生しない態様とし、当該波長帯域Π3の平均反射率は25%以下を示すことが好ましい。上記観点から、波長帯域Π3における平均反射率は、より好ましくは20%以下である。最も好ましくは、数値を限定することはできないが、完全に高次反射が抑制され、波長帯域Π1における面積S算出時の反射率のベースラインと同じ平均反射率を示すことである。
波長帯域Π3の平均反射率を25%以下とするためには、例えば、(ABCB)m積層タイプでは、2次反射および3次反射の反射率を低減するように、異なる熱可塑性樹脂を主成分とする層の積層比を調整することで達成できる。特に、A層/B層の積層比を0.5以上3.0以下、あるいはC層/B層の積層比を0.5以上1.5以下とすることで2次反射および3次反射を抑制し、波長帯域Π3の平均反射率を25%以下とすることができる。
さらに、本発明の積層フィルムは、(ABCB)m積層タイプにおいて、繰り返し単位における、B層に対するA層の積層比(A/B)が0.50以上1.50以下であり、かつ、B層に対するC層の積層比(C/B)が0.90以上1.30以下であることが好ましい。各層がこの積層比の範囲を満足することで、製膜時における押出機の吐出変動などによる積層比条件の変動や、延伸倍率、延伸温度や熱処理温度などのプロセス条件変動に伴う屈折率条件の変動により、高次反射を抑制するための好ましい屈折率条件式(4)を満足できなくなった場合においても、高次反射を効果的に抑制することが容易となる。また、本発明の積層フィルムは各層の厚みがnmレベルであるため、積層装置の設計によっては積層フィルムに含まれる全ての(ABCB)繰り返し単位を構成する各層の厚みを設計通り正確に制御することは現実的でなく、積層フィルム内に複数含まれる繰り返し単位の層厚みの比率には微差が生じることがある。A/BやC/Bを上記範囲に制御することで、繰り返し単位の層厚みの比率の変動の影響を軽減し、安定して高次反射を抑制した積層フィルムを得ることができる。
特に、上記A/B、C/Bの範囲は、2次反射ならびに3次反射の高次反射を抑制する場合に好適な積層比の範囲である。上記観点から、より好ましくは、積層比(A/B)が0.80以上1.10以下、かつ、積層比(C/B)が1.00以上1.30以下である。各層の積層比を上記好ましいに制御することで、2次反射、3次反射等の高次反射によって生じる反射帯域の平均反射率を20%以下に抑制することができる場合が多い。そのため、可視光線の波長帯域にこれらの高次反射の帯域が存在する場合においても、着色を抑えた透明性の高い積層フィルムを得ることができる。
なお、A/BやC/Bは、積層装置のスリット間隙・長さなどの設計を調整することや、各熱可塑性樹脂層を形成する熱可塑性樹脂を吐出する押出機の吐出量比を制御すること等により、好ましい範囲に制御することができる。
本発明の積層フィルムは、本来満たすべきフィルムの特性を悪化させない程度に、光吸収剤(紫外線吸収剤、染料、顔料、熱線吸収剤)、酸化防止剤、光安定剤、消光剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、有機系易滑剤、有機又は無機の微粒子、充填剤、帯電防止剤、核剤、難燃剤などを、含有していてもよい。特に、熱可塑性樹脂の種類に応じてはエネルギーの強い紫外線を吸収して劣化が促進される場合があることから、反応競合させて光劣化を抑制する目的で紫外線吸収剤を含むことが好ましい。さらに、光吸収剤自身は樹脂押出工程において熱・酸素による影響を受けた劣化、および、紫外線および酸素との反応による光劣化の影響を受ける場合がある。そのため、前者に対しては酸化防止剤を、後者に対しては光安定剤や消光剤を、共に添加剤として、劣化の可能性がある熱可塑性樹脂に添加することが好ましい。
本発明の積層フィルムを、可視光線全域を高反射する金属調フィルムとして設計する場合、透過色調測定における明度L*が70以下であり、かつ、ヘイズが5.0%以下であることが好ましい。明度L*が70以下で透明性が低く、かつ、ヘイズが5.0%以下で拡散光が生じない状態は、光拡散に伴う白色ではなく、平行光線のみを反射する金属調であることを表す。光を吸収して黒色に近づく場合も、明度は低下するが、その場合は反射率も低下するため、通常0.060≦S/(λ・N)≦0.300を満足しない。明度L*はより低い方が、透明性が低く金属調が強いことを表すため、好ましくは50以下である。明度L*の数値が低いほど光を透過しないことを示すため、金属調反射フィルムとして好ましい性能を示すことから、明度L*は0.1以上を示すことが好ましい。ヘイズの値もより低い方が、フィルム自体の拡散性が低いことを表すことから、より好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは1.0%以下である。ヘイズは低いほど光拡散性が少ないことを意味し、本発明の干渉反射特性が十分に備わっていることを示すことから、0.1%以上を示すことが好ましい。
前記の明度L*およびヘイズを満足するためには、例えば、前記のS/(λ・N)を満足する光学厚み条件で、かつ、反射波長帯域Π1が可視光線領域内に入るようにフィルム厚みを制御することで達成できる。または、高次反射を利用して可視光線領域を高反射する場合には、例えば、(ABC)mの繰り返し単位を有する場合は、A層/B層の積層比が1.0以下で、かつ、C層/B層の積層比が0.75以下を満たすこと、あるいは、(ABCB)mの繰り返し単位を有する場合は、A層/B層の積層比あるいはC層/B層の積層比が4以上を満足すること等が効果的である。
本発明の積層フィルムは、従来の多層積層構造を有する積層フィルムよりも広反射帯域・高反射率を示すことから、紫外線、可視光線、熱線を、広い範囲わたり強く遮蔽・発色したい用途に好適に用いることができる。たとえば、自動車・建材建具用途ではウィンドウフィルム、家電や電子機器、自動車では、外装・内装用の金属調を発色する加飾フィルム、工業材料用途では、看板などへの鋼板ラミネート用フィルム、レーザー表面加工用の光線カットフィルム、また、電子デバイス用途ではフォトリソ材料の工程・離型フィルム、スマートフォン、ヘッドアップディスプレイ、電子ペーパーやデジタルサイネージなど各種画像表示装置向けの光学フィルム、その他食品、医療、インクなどの分野においても、内容物の光劣化抑制などを目的としたフィルム用途として、利用することができる。使用方法としては、後貼り、もしくは、成形体としてインモールド成形あるいはインサート成形を施して利用することができる。すなわち、本発明の成形体は、本発明の積層フィルムを用いてなる。
以下、本発明の画像表示装置、ウインドウ、交通機関外装材、及び交通機関について説明する。
本発明の積層フィルムや成形体は、特に画像表示装置用の光学フィルムとして好ましく用いることが出来る。言い換えると、本発明の画像表示装置は、本発明の積層フィルムあるいは本発明の成形体を備える。画像表示装置としては、液晶画像表示装置、有機EL表示装置、量子ドットディスプレイ、屋外で使用するデジタルサイネージなどの画像表示装置など様々な表示方法によるものが利用されており、各種ディスプレイ内部には多種機能を示すフィルムが配されている。
本発明の積層フィルムは、例えば、各画像表示装置における以下に示すフィルムとして用いることができる。液晶画像表示装置の場合、偏光板を構成する偏光子保護フィルムや位相差フィルム、ディスプレイ前面に貼り合わせて機能付加する表面処理フィルム、バックライトの導光板直上に配置する輝度向上フィルム、バックライト導光板背面に用いる正反射フィルム、ITO等に用いる透明導電基材フィルム、タッチセンサー部材の紫外線保護フィルム等が挙げられる。有機EL表示装置の場合は、発光層よりも視認側(上側)に配される円偏光板を構成するλ/4位相差フィルムや偏光子保護フィルム、ディスプレイ前面に貼り合わせて機能付与するための表面処理フィルム、外光からの内容物保護の目的で内蔵される各種光学フィルム等が挙げられる。量子ドットディスプレイの場合は、調光のためのカラーフィルターを備えた液晶パネルを含む量子ドット液晶ディスプレイと、青色有機EL層とカラーフィルターを組み合わせた量子ドット有機ELディスプレイの主に2種類が存在する。これらは、前記の液晶画像表示装置におけるバックライト部分や有機EL表示装置の発光層部分が量子ドット構造に変わったものである。そのため、これらのディスプレイにおいても、前記した液晶画像表示層ならびに有機EL表示装置で用いられる各種フィルムと同様の配置・用途で本発明の積層フィルムを用いることができる。屋外で使用するデジタルサイネージなどの画像表示装置では、熱線・紫外線の双方から画像表示装置内部の劣化を抑制することが求められるが、高次反射を制御可能な本発明の積層フィルムを用いることで、Π1を赤外線領域、特定の高次反射が紫外線領域に含まれるように設計して、両波長帯域を効果的に遮蔽するフィルムとすることもできる。また、本発明の成形体を備える画像表示装置としては、例えば、本発明の積層フィルムを、金属調を発色する加飾フィルムとして筐体に用いた例が挙げられる。
本発明のウインドウは、本発明の積層フィルム、あるいは本発明の成形体を備える。例えば、本発明の積層フィルムのうち近赤外線領域に反射帯域を有するものをウインドウ用途に用いることで、室内の温度上昇軽減、冷房効率改善、省エネルギー、及び車両の燃費向上などを実現できる。より好ましくは、一部の高次反射が紫外線領域において生じている、あるいは、積層フィルム内に紫外線吸収剤などを含むことで、近赤外線と紫外線を双方とも遮蔽できる積層フィルムである。このような積層フィルムを備えるウインドウは、室内の温度上昇軽減に加え、日射による肌のじりじり感や紫外線による日焼けなども効果的に軽減することが出来る。また、本発明の積層フィルムや成形体は、カラーや透明ガラス等の色調などに制限は無く、特定の光を遮蔽したい用途において、特定の波長帯域を反射・遮蔽できる性能を有するものを適宜用いることができる。
特に、自動車等の車両用ウインドウでは、規格において高い透明性が強く要求される。そのため、熱線吸収剤の吸収特性により可視光線を幾分か遮蔽する現行の熱線吸収タイプのウインドウ材料に比べて高透明を実現出来る点で、本発明の積層フィルムを好ましく利用できる。車両用途においては、フロントウインドウ、ドアウインドウ、サイドウインドウ、デルタウインドウ、リアウインドウ、及びサンルーフなどの窓材において、合わせガラス中間膜材料として本発明の積層フィルムを用いてもよく、上記の各ウインドウの表面にアフターパーツとして貼ることもできる。また、本発明の成形体を備える例としては、近年の軽量化や多種多様な意匠性に沿うように、ガラス代替としてポリカーボネートなどの高強度樹脂を用いたウインドウ材料が挙げられる。このようなウインドウ材料は、本発明の積層フィルムとともに一体成形して得ることもできる。
本発明の積層フィルムや成形体を用いることができるウインドウとしては、自動車等の車両以外に、建材建具用途のウインドウが挙げられる。建材建具用途のウインドウの場合も、本発明の積層フィルムを組み合わせることが出来る材料としては、自動車等の車両用ウインドウと同様に、ガラスや樹脂等の素材が挙げられる。
本発明の交通機関外装材は、本発明の積層フィルム、あるいは本発明の成形体を備える。交通機関とは、車両や航空機、船舶、無人航空機などの移動・運搬手段をもつ動力機関などをいい、交通機関外装材とは、交通機関の外部に用いることができる材料をいう(内部に用いることができる材料であっても、外部に用いることができる材料はこれに含まれるものとする。)。交通機関外装材の具体例としては、エンブレムやフロントグリル、バンパーなどが挙げられる。
交通機関外装材に本発明の積層フィルムや成形体を用いる例として、エンブレムやフロントグリル、バンパーなどの自動車外装材に、本発明の積層フィルムを貼る態様や、本発明の積層フィルムとポリカーボネートなどの高強度樹脂を一体成形した成形体を用いる態様が挙げられる。上記の自動車外装材には従来金属材料が用いられてきたが、ミリ波レーダやLIDAR(Light Detection and Ranging)を用いた自動運転技術の普及などに伴い、車両外装に用いられる金属材料におけるレーダ反射損失によって本来備えるべき障害物や前車を認識することによる衝突防止効果などが得られない等の問題が生じている。このような問題点を解消するために、上記の自動車外装材においては金属調を示す非金属材料への置き換えが期待されており、このような用途に本発明の積層フィルムや成形体を好ましく利用することができる。
本発明の交通機関は、本発明の積層フィルム、本発明の成形体、本発明のウインドウ、あるいは本発明の交通機関外装材を備える。その例としては、例えば、車両や筐体内の温度上昇を防止するため本発明の積層フィルムや成形体を遮熱ウインドウ用の材料や、エンブレムやフロントグリル、バンパー等の材料として用いる例が挙げられる。例えば、遮熱ウインドウ材料に好適に用いることが出来る本発明の積層フィルムとしては、波長帯域Π1を近赤外線領域に設計し、可視光線領域に発生する高次反射を抑制することが好ましい。
次に、本発明の積層体や成形体の他の用途について説明する。自動車や家電、電子機器用途では、インサート成形やインモールド成形を行うことで、成形体に金属調の光学性能を付与することができるが、従来の積層フィルムでは、成形による局所的な伸びにより、積層フィルムの厚みが変化した場合に、薄膜化により波長帯域がシフトして金属調が損なわれる課題があった。本発明の積層フィルムは、可視光領域に加え、さらに長波長領域にも反射帯域を有する広帯域反射可能な積層フィルムとすることで、成形により積層フィルムが伸長した後でも金属調を保持することが容易となる。その他、自動車内装の加飾用途(ガーニッシュ材)として、金属調の可視光線反射フィルムやこれを備える成形体を用いた例も挙げられる、このとき、本発明の積層フィルムの波長帯域Π1を可視光線全域とすることで、従来よりも低積層数・薄膜で、密着性良好な金属調フィルムとすることが出来る。
次に、本発明の積層フィルムの好ましい製造方法を以下に説明する。もちろん本発明は係る例に限定して解釈されるものではない。
積層フィルムの各層を構成する熱可塑性樹脂をペレットなどの形態で用意する。ペレットは、必要に応じて、熱風中あるいは真空下で乾燥された後、別々の押出機に供給される。添加剤を熱可塑性樹脂中に含有する場合は、本押出の過程で粉末・顆粒・液状の添加剤を混練分散してもよく、予め熱可塑性樹脂中に添加剤を分散させたマスターペレットを供給することもできる。押出機内において、融点以上に加熱溶融された各熱可塑性樹脂は、ギヤポンプ等で樹脂の押出量を均一化され、フィルター等を介して異物や変性した樹脂などが取り除かれる。これらの熱可塑性樹脂は積層装置を介して所望の積層体を形成された後、ダイよりシート状に吐出される。そして、ダイから吐出されたシートは、キャスティングドラム等の冷却体上に押し出され、冷却固化され、キャストシートが得られる。この際、ワイヤー状、テープ状、針状あるいはナイフ状等の電極を用いて、静電気力によりキャスティングドラム等の冷却体に密着させ急冷固化させることが好ましい。また、スリット状、スポット状、面状の装置からエアーを吹き出してキャスティングドラム等の冷却体に密着させ急冷固化させたり、ニップロールにて冷却体に密着させ急冷固化させたりする方法も好ましい。補助的に、キャスティングドラム面に液状の界面活性水や流動パラフィンなどの濡れ性のよい液体を塗布し、密着性を付与することもできる。
積層フィルムを構成する複数種の熱可塑性樹脂は、熱可塑性樹脂層の種類以上の台数の押出機を用いて異なる流路から送り出し、シート状で吐出される前に多層積層装置へ送り込まれる。多層積層装置としては、マルチマニホールドダイやフィードブロックやスタティックミキサー等を用いることができるが、特に、多層積層構造を効率よく得るためには、微細スリットを有するフィードブロックを用いることが好ましい。このようなフィードブロックを用いると、装置が極端に大型化することがないため、熱劣化による異物発生量が少なく、積層数が極端に多い場合でも、高精度な積層が可能となる。また、幅方向の積層精度も従来技術に比較して格段に向上する。また、この装置では、各層の厚みをスリットの形状(長さ、幅)で調整できるため、任意の層厚みを達成することが可能となる。このようにして所望の層構成に形成した溶融多層積層シートをダイへと導き、上述の通りキャストシートが得られる。
積層体をダイまで導くための単管の流路断面形状は、流路の厚みに対する流路の幅方向長さの比が5以上の、高いアスペクト比を有することが好ましい。単管内を積層体が流れる際、単管壁面近傍と単管中心部分では、単管壁面で受けるせん断の影響により、一般に流速差が生まれる。特に、単管の幅方向端部では、単管幅方向壁面による流速差の影響も加わるため、複雑な渦状の樹脂流が発生し、積層乱れが生じる。流路断面のアスペクト比が小さい単管を用いると、単管の幅方向位置での樹脂流の乱れの影響が幅方向中央付近にも影響するため、フィルム幅方向での積層乱れがより大きい積層フィルムが得られることとなる。さらに、本発明のように熱可塑性樹脂層の種類が3種類以上の積層体の場合、層を構成する熱可塑性樹脂ごとに粘弾性挙動が異なる場合が多く、樹脂流速差が生まれやすい低アスペクト比の流路断面を有する単管を用いると、粘弾性挙動の変化も相まって、積層乱れがより顕著となる場合がある。このことから、フィルム幅方向に積層乱れの少ない積層フィルムを得るためには、単管の流路断面形状はなるべく高いアスペクト比を示すことが好ましく、より好ましくは10以上、さらに好ましくは20以上である。単管流路断面のアスペクト比が極端に高い場合、流路の幅方向長さが非常に長くなることでフィルム幅方向への装置の大型化を招く、あるいは、流路の厚みが非常に薄くなることで単管の幅方向位置に限らず単管壁面における流速差の影響を強く受け、フィルム全体で厚み方向への積層厚み乱れが大きくなる等の問題が生じる場合がある。そのため、アスペクト比の上限は100以下とすることが現実的である。
得られたキャストシートは、つづいて長手方向および幅方向に二軸延伸されることが好ましい。延伸は、逐次に二軸延伸してもよいし、同時に二軸延伸してもよい。また、さらに長手方向および/または幅方向に再延伸を行ってもよい。ここで長手方向とは、フィルムの走行方向をいい、幅方向とは長手方向とフィルム面内で直交する方向をいう。
逐次二軸延伸の場合についてまず説明する。ここで、長手方向への延伸とは、シートに長手方向の分子配向を与えるための一軸延伸を指し、通常は、ロールの周速差により施され、1段階で行っても、複数本のロール対を使用して多段階に行ってもよい。延伸の倍率としては樹脂の種類により異なるが、通常、2~15倍が好ましく、例えば、本発明の積層フィルムに好ましく用いられる結晶性の熱可塑性樹脂であるポリエチレンテレフタレートあるいはポリエチレンナフタレートを用いた場合には、2~7倍が特に好ましく用いられる。また、延伸温度としては積層フィルムを構成する樹脂のうち最もガラス転移温度が高い樹脂の、ガラス転移温度~ガラス転移温度+100℃の範囲内に設定することが好ましい。長手方向の延伸工程で強く配向させた場合には、フィルム幅方向のネックダウンが生じるため、十分なフィルム幅を得られない他、幅方向延伸後の長手方向および/または幅方向の厚みむらや透過スペクトルむらが大きくなる場合がある。
このようにして得られた一軸延伸された積層シートに、必要に応じてコロナ処理やフレーム処理、プラズマ処理などの表面処理を施した後、易滑性、易接着性、帯電防止性などの機能を付した易接着層をインラインコーティングにより付与する。インラインコーティングの工程において、易接着層は積層フィルムの片面に塗布してもよく、積層フィルムの両面に同時あるいは片面ずつ順に塗布してもよい。
続いて一軸延伸された積層シートに幅方向の延伸を施す。幅方向の延伸とは、シートに幅方向の配向を与えるための延伸をいい、通常は、テンターを用いて、シートの幅方向両端部をクリップで把持しながら搬送して行う。延伸の倍率としては樹脂の種類により異なるが、通常、2~15倍が好ましく、例えば、本発明の積層フィルムに好ましく用いられる結晶性の熱可塑性樹脂であるポリエチレンテレフタレートあるいはポリエチレンナフタレートを用いた場合には、2~7倍が特に好ましく用いられる。また、延伸温度としては積層フィルムを構成する樹脂のうち最もガラス転移温度が高い樹脂の、ガラス転移温度~ガラス転移温度+120℃が好ましい。
こうして二軸延伸された積層フィルムは、テンター内で延伸温度以上融点以下の熱処理を行い、均一に徐冷後、室温まで冷やして巻き取られる。また、必要に応じて、熱寸法安定性を付与するために熱処理から徐冷する際に、長手方向および/あるいは幅方向に弛緩処理などを併用してもよい。
続いて、同時二軸延伸の場合について説明する。同時二軸延伸の場合には、得られたキャストシートに、必要に応じてコロナ処理やフレーム処理、プラズマ処理などの表面処理を施した後、易滑性、易接着性、帯電防止性などの機能をインラインコーティングにより付与してもよい。インラインコーティングの工程において、易接着層は積層フィルムの片面に塗布してもよく、積層ユニットの両面に同時あるいは片面ずつ順に塗布してもよい。
次に、キャストシートを、同時二軸テンターへ導き、シートの幅方向両端部をクリップで把持しながら搬送して、長手方向と幅方向に同時および/または段階的に延伸する。同時二軸延伸機としては、パンタグラフ方式、スクリュー方式、駆動モーター方式、リニアモーター方式があるが、任意に延伸倍率を変更可能であり、任意の場所で弛緩処理を行うことができる駆動モーター方式もしくはリニアモーター方式が好ましい。延伸の倍率は樹脂の種類により異なるが、通常、面積倍率として6~50倍が好ましく、本発明の積層フィルムに好ましく用いられる結晶性の熱可塑性樹脂であるポリエチレンテレフタレートあるいはポリエチレンナフタレートを用いた場合には、面積倍率として8~30倍が特に好ましく用いられる。延伸速度は同じ速度でもよく、異なる速度で長手方向と幅方向に延伸してもよい。また、延伸温度としては積層フィルムを構成する樹脂のうち最もガラス転移温度が高い樹脂の、ガラス転移温度~ガラス転移温度+120℃が好ましい。
こうして同時二軸延伸されたシートは、平面性、寸法安定性を付与するために、引き続きテンター内で延伸温度以上融点以下の熱処理を行うのが好ましい。この熱処理の際に、幅方向での主配向軸の分布を抑制するため、熱処理ゾーンに入る直前および/または直後に瞬時に長手方向に弛緩処理することが好ましい。このようにして熱処理された後、均一に徐冷後、室温まで冷やして巻き取られる。また、必要に応じて、熱処理から徐冷する際に長手方向および/あるいは幅方向に弛緩処理を行ってもよい。また、熱処理ゾーンに入る直前および/あるいは直後に瞬時に長手方向に弛緩処理をしてもよい。
以上のようにして得られた積層フィルムは、巻き取り装置を介して必要な幅にトリミングされ、巻き取り皺が付かないようにロールの状態で巻き取られる。なお、巻き取り時に巻姿改善のためにシート両端部にエンボス処理を施してもよい。
本発明の積層フィルムの厚みは、特に限定されるものではないが、5μm以上100μm以下であることが好ましい。各種機能性フィルムの薄膜化傾向や、ハイエンド特性である屈曲性を加味すると、80μm以下であることが好ましく、より好ましくは50μm以下である。下限はないものの、ロール巻取り性を安定なものとし、破れなく製膜するためには、現実的には10μm以上の厚みであることが好ましい。
また、本発明の積層フィルムの最表面には、耐擦傷や寸法安定性、接着性・密着性などの機能を付加するために硬化型樹脂を主成分として構成されるハードコート層が積層されていてもよい。積層フィルムを製品へ実装するためにロールトゥロールで搬送した際に、ロールとフィルム間の擦れにより積層フィルム表面に傷発生を防止することができる。さらに、積層フィルム内の樹脂オリゴマー成分や、積層フィルムに添加することができる各種添加剤が、高温熱処理においてブリードアウトする可能性がある場合でも、ハードコート層を最表面に設けることで、架橋密度の高いハードコート層が析出抑制効果を示しうる。また、硬化性樹脂層を積層することで熱処理によるフィルムの寸法変化を抑えることもでき、熱収縮によるフィルム厚みの増加、それに伴う積層フィルムの透過スペクトルなどの光学特性の変化を抑制することができる。
ハードコート層は、本積層フィルムにおいて優位な特性を有することから、積層フィルムの少なくとも片面に塗布することが、フィルムの性状、特にフィルム寸法を維持するために好ましい。ハードコート層は積層フィルムの両面に塗布することも可能であるが、ハードコート層同士が接着することでフィルムの滑り性、ひいてはロールの巻き性を悪化させる可能性があるため、ハードコート層は片面のみに塗布する、もしくは、両面に塗布する際には、少なくとも片側のハードコート層は滑り性を付与するために、粒子添加や大気プラズマ・真空下プラズマなどの表面凹凸処理を行うことが好ましい。
該ハードコート層は、積層フィルムの最表面に直接積層することもできるが、インラインコーティング層を介して積層することがより好ましい。ハードコート層と積層フィルム最表面の熱可塑性樹脂との屈折率差が大きい場合、インラインコーティング層の屈折率を調整することで、双方の密着性を向上することができるため好ましい。インラインコーティング層の屈折率としては、積層フィルムを構成する熱可塑性樹脂A層の屈折率と、ハードコート層を構成する硬化性樹脂の屈折率との間の数値を示すことが好ましく、より好ましくは両樹脂の屈折率の中間(熱可塑性樹脂Aの屈折率をα、ハードコート層を構成する硬化性樹脂の屈折率をβとしたとき、0.98×(α+β)/2以上1.02×(α+β)/2以下)の値を示すことである。たとえば、積層フィルム最表面に位置する熱可塑性樹脂としてポリエチレンテレフタレートを、硬化性樹脂としてアクリル樹脂を用いる場合、前者は延伸後の屈折率が1.65程度、後者は屈折率が1.50程度と屈折率差が大きくなることから、密着不良を引き起こす可能性がある。そのため、該インラインコーティング層の屈折率は1.50以上1.60以下の値を有することが好ましく、より好ましくは1.55以上1.58以下の屈折率である。
ハードコート層に用いることができる硬化性樹脂としては、高透明で耐久性があるものが好ましく、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂、シリコン樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂を単独で、または混合して使用できる。硬化性や可撓性、生産性の点において、硬化性樹脂はポリアクリレート樹脂に代表されるアクリル樹脂などの活性エネルギー線硬化型樹脂からなることが好ましい。また、耐擦傷性を付加する場合、硬化性樹脂は熱硬化性のウレタン樹脂からなることが好ましい。
本発明における活性エネルギー線とは、紫外線、電子線、放射線(α線、β線、γ線など)などアクリル系のビニル基を重合させる各種電磁波を意味する。実用的には、紫外線が最も簡便であり好ましい。紫外線源としては、紫外線蛍光灯、低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、キセノン灯、炭素アーク灯などを用いることができる。紫外線源により硬化する場合は、酸素阻害を防ぐ点で酸素濃度が出来るだけ低い方が好ましく、窒素雰囲気下や不活性ガス雰囲気下で硬化する方がより好ましい。また、電子線方式の場合は、装置が高価でかつ不活性気体下での操作が必要であるが、光重合開始剤や光増感剤などを含有させなくてもよい点から有利である。
以下、実施例に沿って本発明について説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。各特性は、以下の手法により測定した。
(特性の測定方法および効果の評価方法)
本発明における特性の測定方法、および効果の評価方法は次のとおりである。
(1)層構成
積層フィルムの層厚み分布は、ウルトラミクロトームを用いて薄片化したサンプルについて、透過型電子顕微鏡(TEM)観察により求めた。すなわち、透過型電子顕微鏡JEM-1400 Plus((株)日本電子製)を用い、加速電圧100kVの条件で積層フィルムの断面を観察し、断面像を取得することで、層構成(積層数、繰り返し単位、層厚み分布)および各層厚みを測定した。なお、各層間のコントラスト差を大きく得るために、電子染色剤(RuOなど)を使用した染色技術を用いた。また、各層の厚みにあわせて、薄膜層厚みが100nm未満の場合は直接倍率4万倍、薄膜層厚みが100nm以上500nm未満である場合は直接倍率2万倍、500nm以上である場合は厚みに応じて1千倍~1万倍にて観察を実施し、層厚み分布を解析した。得られた画像のコントラスト差を基に、積層数、繰り返し単位、各層の層厚み、積層比を判断した。なお、積層比については、最表層を除く部分の層厚みに対し、積層フィルムを構成するそれぞれの熱可塑性樹脂層の層厚みの合計を算出し、特定の熱可塑性樹脂層に対する比率で算出した。例えば、B層に対する前記A層の積層比(A/B)、B層に対するC層の積層比(C/B)は、積層フィルムに含まれる熱可塑性樹脂層B層の合計層厚みに対する、熱可塑性樹脂A層、C層の合計層厚みの比率からを算出した。
(2) 層界面(コントラスト差)
(1)の透過型電子顕微鏡観察において得られた断面画像を圧縮画像ファイル(JPEG)に変換し、積層フィルムの厚み方向に沿って、ImagePro-10(販売元 伯東株式会社)を用いて、ラインプロファイルにより位置-輝度データを取得した。その後、表計算ソフト(マイクロソフト社“Excel”(登録商標) 2016)を用いて、位置と輝度の関係をプロットして得られたプロファイルに対し、5点移動平均処理を施した。平均処理は、連続する5点の測定位置に対して輝度の平均処理を施し、同じ計算を位置を1点ずつ変更して連続処理することで行い、平均処理した位置-輝度プロファイルを取得した。得られた平均処理済の位置-輝度プロファイルにおいて、傾きが正から負、あるいは負から正へ変化する変曲点で囲まれる位置を1つの層と判断した。当該手法で得られた各層に対し、続いて積層フィルムの平面方向(厚み方向に対して垂直な方向)に対して位置-輝度データを取得した。各層毎に得られた輝度の平均値と標準偏差を算出した後、隣接する2層の輝度の平均値の差が、隣接する熱可塑性樹脂層の輝度の標準偏差のいずれよりも大きい場合、これら隣接する2層は異なると判断した。また、当該変曲点間の位置の差(距離)を、各層の層厚みとして算出した。
(3)反射率・反射分光スペクトル測定
サンプルを積層フィルム幅方向中央部から4cm四方で切り出し、積層フィルムの片面に黒色ラッカースプレーを用いて背面黒処理を施した。背面黒処理では3回重ね塗りを行い、光を完全に透過しない状態とした。日立ハイテクサイエンス製の分光光度計U-4100を使用し、背面黒処理したサンプルの未処理側を光源側に向けて積分球背面の開口部に固定し、反射分光スペクトルを測定した。測定にあたっては、装置付属の積分球に酸化アルミニウム標準白色板(本体付属)を取り付けた状態でバックグラウンド補正を行い、波長295nm以上2505nm以下の波長領域における反射分光スペクトルを、スリットを2nm(可視)/自動制御(赤外)設定、赤外-可視光源切替波長を850nm、ゲインを2、スキャン速度を600nm/min、サンプリングピッチを1nmに設定し、連続的に測定した。
(4)反射分光スぺクトルの平均処理、Sおよびλの算出
前記(3)の反射率測定で得られた1nmピッチの反射分光スペクトルデータに対し、前後10点の透過率データ平均値を算出した。(例えば、295nm~304nmのデータに対しては、299.5nmの透過率平均値データが算出される。以降2505nmまで行い、299.5nmから2500.5nmまでの1nmピッチのデータを算出。)その後、隣り合う2点の平均値を順に算出し(例えば、299.5nmと300.5nmの平均から300nmの平均透過率データを算出)、同様の計算を繰り返すことにより、波長300nm~2500nmの10点平均した反射分光スペクトルデータを求めた。当該データを横軸が波長nm、縦軸が反射率%となるようにグラフ化し、面積Sおよび中心波長λを求めた。
(5)クロスカット剥離率
JIS K 5600-5-6(1999年)に規定の付着性(クロスカット)試験方法に従い評価した。COTEC社製の1mm間隔のクロスカットガイドCCJ-1を用い、NTカッターで20~30°の角度にて縦横各11本の直交する切りこみを入れ、100マスの升目を作成した。当該升目に、24mm幅のニチバン社製“セロテープ”(登録商標)を貼りつけ、約60°の角度でテープを素早く引き剥がし、完全に剥離した升目の数を読み取った。この作業を10回繰り返し、平均化することで、剥離率を算出した。
(6)剥離強度試験
長さ方向200mm、幅が10mmの短冊状のサンプルを切り出し、サンプルの片端にカッターで切り込みを入れて50mmほど剥離し、剥離開始点を作成した。引張試験機として株式会社島津製作所製 精密万能試験機オートグラフ AG-ISを用い、剥離した箇所を上下のクリップに噛ませ固定した。チャック間距離を50mm、クロスヘッド移動速度を100mm/分に設定し、サンプルが静止してからクロスヘッドを移動させ、剥離強度のS-Sカーブを取得した。得られたS-Sカーブに対し、図2に記載のような強度が安定した領域の応力を読み取り、剥離強度とした。この作業を5回繰り返し、平均値をサンプルの剥離強度とした。
(7)示差走査熱量測定(DSC)
(株)日立ハイテクノロジーズ社製の示差走査熱量計EXSTAR DSC6220を用いた。測定ならびに温度の読み取りは、JIS-K-7122(1987年)に従って実施した。試料約5mgをアルミニウム製受皿上、25℃から300℃まで10℃/分の速度で昇温させた際の、室温から昇温した際のベースラインと段差転移部分の変曲点での接線との交点におけるガラス転移温度より高い温度において、融点とは異なる微小な吸熱ピークを示す微結晶融解温度(℃)、および、昇温後に液体窒素で急冷し、さらに同じ条件で昇温した際に最も高温側で確認される吸熱ピーク(融点)の面積にあたる融解エンタルピー(J/g)を読み取った。
(8)透過色調測定
サンプルをフィルム幅方向中央部から10cm×10cmで切り出し、コニカミノルタセンシング製の分光測色計CM3600dを用いて、積層フィルムの透過色調の明度L*を測定した。測定径が25.4mmのLVDアタッチメントを取り付け、付属の透過用ゼロ校正板CM-A100による0%校正、ならびに、付属の白色校正板による100%校正を実施した後、光源をD65光源としたときの明度L*値を読み取った。10cm四方の積層サンプル面内でランダムに5点測定し、平均値を測定値とした。
(9)ヘイズ測定
スガ試験機(株)製 ヘイズメーター(HGM-2DP)を用いた。サンプルをフィルム幅方向中央部から10cm×10cmで切り出し、旧JIS-K-7105(1994)に準じて測定を行うことで全光線透過率ならびにヘイズ値を測定した。フィルム幅方向に対して等間隔で3点測定し、その平均値を測定結果とした。
(10)長期信頼性試験
得られた積層フィルムから10cm四方のサンプルを切り出し、サンプルを普通紙2枚で挟んだ状態で85℃85%RHの恒温恒湿機(エスペック(株)製 恒温恒湿機(LHL-114))に静置した。250時間静置処理後、(3)ならびに(4)に記載の反射分光スペクトル測定によるλおよびS/λの算出、(5)に記載のクロスカット剥離率評価を実施し、下記の通りA~Dで判定した。
A:λの変化が1%未満、S/λの変化が1未満、かつクロスカット剥離率が3%以下であった。
B:Aに該当せず、λの変化が3%未満、S/λの変化が3未満、かつクロスカット剥離率が10%以下であった。
C:A、Bに該当せず、λの変化が5%未満、S/λの変化が5未満、かつクロスカット剥離率が20%以下であった。
D:A~Cの何れにも該当しなかった。
<熱可塑性樹脂>
本発明の実施例で用いる熱可塑性樹脂について下記する。なお、屈折率は実施例に記載の延伸倍率で延伸したときの屈折率(SAIRON Technology社のSPA-4000により、波長632nmで測定)を示す。
樹脂1: 屈折率1.66、融点255℃を示す結晶性ポリエチレンテレフタレート樹脂
樹脂2: 屈折率1.73、融点257℃を示す結晶性のイソフタル酸4モル%共重合ポリエチレンナフタレート樹脂
樹脂3: 屈折率1.60、融点225℃を示す結晶性のシクロヘキサンジメタノール25モル%共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂
樹脂4: 屈折率1.56を示す非晶性のシクロヘキサンジメタノール30モル%共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂
樹脂5: 屈折率1.62、融点230℃を示す結晶性のイソフタル酸12モル%共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂
樹脂6: 屈折率1.61、融点220℃を示す結晶性のイソフタル酸15モル%共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂
樹脂7: 屈折率1.53を示す非晶性のスピログリコール25モル%およびシクロヘキサンジカルボン酸20モル%共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂
樹脂8: 屈折率1.51、融点140℃を示す結晶性のエチレン共重合5モル%ポリプロピレン樹脂
樹脂9: 屈折率1.49を示す非晶性ポリメチレンメタクリレート樹脂
樹脂10: 屈折率1.77、融点264℃を示す結晶性ポリエチレンナフタレート樹脂。
樹脂11: 屈折率1.59を示す非晶性のシクロヘキサンジメタノール18モル%共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂
(実施例1)
熱可塑性樹脂層A層、B層、C層を構成する各熱可塑性樹脂として、それぞれ順に樹脂1、樹脂3、樹脂4を用いた。準備した各熱可塑性樹脂をそれぞれ、ペレット状で3台の二軸押出機に別々に投入し、いずれも270℃で溶融させて混練した。混錬条件は、いずれも吐出量に対するスクリュー回転数が0.7となるように設定した。次いで、それぞれFSSタイプのリーフディスクフィルタを7枚介した後、ギヤポンプにて計量しながら、スリット数601個のフィードブロックにて合流させて、積層比がA層/B層、C層/B層ともに1.0を示し、厚さ方向の繰り返し単位がA層/B層/C層/B層を示し、かつ両表層がA層となるように、601層を積層して積層体とした。ここで、フィードブロック内は、スリット長さは階段状に単調増加となるように設計した。
その後、フィードブロックを通過した積層体をTダイへ供給し、シート状に成形した後、ワイヤーで8kVの静電印可電圧をかけながら、表面温度が25℃に保たれたキャスティングドラム上で急冷固化し、未延伸の積層キャストシートを得た。得られた積層キャストシートを、90℃に設定したロール群で加熱した後、フィルム両面からラジエーションヒーターにより急速加熱しながら、ロール周速差を利用して長手方向に3.6倍延伸し、その後一旦冷却した。続いて、この積層一軸延伸フィルムの両面に空気中でコロナ放電処理を施し、基材フィルムの濡れ張力を55mN/mとし、そのフィルム両面の処理面に#4のメタバーで易滑層となる粒径100nmのコロイダルシリカを3質量%含有した酢酸ビニル・アクリル樹脂を含有した水系塗剤をコーティングし(以後、コーティングを行うとは、前記内容を意味する。)、透明・易滑・易接着層を形成した。さらに、この一軸積層フィルムをテンターに導き、90℃の熱風で予熱後、100℃の温度でフィルム幅方向に3.6倍延伸した。延伸したフィルムは、延伸終了直後にテンター内で180℃の熱風にて熱処理を行い、続いて同温度条件で幅方向に2%の弛緩処理を施し、その後巻き取ることで、積層フィルムを得た。積層フィルムの厚みは90μmであり、TEM観察により易接着厚みは両面とも約90nmを示した。得られた積層フィルムは表1に示す性能を有していた。
(実施例2、3)
各熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂を表1に記載のとおりとした以外は、実施例1と同様にして積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの評価結果を表1に示す。
(実施例4)
波長帯域Π1の中心波長が1200nmとなるように、製膜中に分光スペクトルを確認しながら、キャスティングドラム速度を調整し、積層フィルム厚みを最適化した以外は実施例3と同様にして積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの評価結果を表1に示す。
(実施例5~12)
A層/B層、およびC層/B層の積層比を表1、2に記載の通りとし、波長帯域Π1の中心波長が1200nmとなるように製膜中に分光スペクトルを確認しながら、キャスティングドラム速度を調整して積層フィルム厚みを最適化した以外は、実施例4と同様にして積層フィルムを得た。評価結果を表1、2に示す。
(実施例13)
各熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂を表2に記載のとおりとし、熱可塑性樹脂C層を構成する熱可塑性樹脂8に熱可塑性樹脂B層との密着性向上のために酸価を上げるオレフィン系改質剤を2質量%添加して押出機に投入し、260℃で混練させた。最表層に当たる熱可塑性樹脂A層のガラス転移温度94℃に合わせて、延伸温度を105℃に設定したロール群で長手方向へ3.6倍延伸し、さらに、テンターに導いた後、100℃の熱風で予熱、105℃の温度でフィルム幅方向に3.6倍延伸した積層フィルムを作製した以外は、実施例4と同様にして積層フィルムを得た。評価結果を表2に示す。
(実施例14)
各熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂を表2に記載のとおりとし、熱可塑性樹脂C層のガラス転移温度100℃に合わせて延伸温度を110℃に設定したロール群で長手方向へ3.6倍延伸し、さらに、テンターに導いた後、105℃の熱風で予熱、110℃の温度でフィルム幅方向に3.6倍延伸し、熱処理温度を190℃とした以外は、実施例4と同様にして積層フィルムを得た。評価結果を表2に示す。
(実施例15~17)
積層体を形成するスリットタイプのフィードブロックの積層数および繰り返し単位をそれぞれ表2に記載の通りとした以外は、実施例14と同様にして積層フィルムを得た。評価結果を表2に示す。なお、最終的に得られた積層フィルムの各熱可塑性樹脂層の層厚み分布はいずれも単調増加の傾向を示しており、繰り返し単位A層/B層/C層/B層を有し、最表面にあたる2層の熱可塑性樹脂A層の厚みがそれぞれ5μmずつであり、ユニット数が表2に記載の通りとなっていることを、透過型電子顕微鏡観察により確認した。
(実施例18)
テンターでの熱処理温度を表2に記載の温度に変更した以外は、実施例14と同様にして積層フィルムを得た。評価結果を表2に示す。
(実施例19)
積層装置として実施例17に記載のスリット数301個のフィードブロックを用い、その後、積層装置から口金の間に位置する単管内に、幅方向中央位置で積層体を分割し重ね合わせるミキサー機構を設け、601層の積層フィルムとした以外は、実施例18と同様にして積層フィルムを得た。評価結果を表2に示す。なお、最終的に得られた積層フィルムの各熱可塑性樹脂層の層厚み分布はミキサー機構を利用したため、片側表層(1層目)から中間層(301層)まで単調増加で、かつ、中間層(302層)から反対側の最表層まで単調増加の傾向を示す2段の傾斜構造を有することを、透過型電子顕微鏡で確認した。
(実施例20)
積層フィルムの層厚みがフィルム最表面の片側から厚み中央(301層目)にかけて厚みが単調増加し、さらに中央からもう片側のフィルム最表面にかけて厚みが単調減少する2段傾斜構成を有する、601層のスリット式フィードブロック積層装置を用いた以外は、実施例18と同様にして積層フィルムを得た。評価結果を表3に示す。
(実施例21、22)
ポリエステル樹脂とアクリル樹脂の界面密着性を向上させるためのエポキシ基末端付きのアクリル分子改質剤4質量%を、実施例21では熱可塑性樹脂B層に用いる樹脂6に、実施例22では熱可塑性樹脂C層に用いる樹脂9に添加した以外は、実施例14と同様の方法で積層フィルムを得た。評価結果を表3に示す。
(実施例23)
キャスティングドラム速度を上げて、積層フィルム厚みを半分とし、波長帯域Π1の中心波長が600nmとなるようにした以外は、実施例18と同様にして積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの性能を表3に示す。
(実施例24~25)
実施例18において、A層/B層およびC層/B層の積層比が表3に記載の数値を満足するように押出機吐出量を調整して製膜した以外は、実施例18と同様の方法で積層フィルムを得た。評価結果を表3に示す。
(実施例26)
実施例24において、積層装置の単調増加の層厚み分布傾斜を実施例24における分布の1.3倍とした積層装置を用いた以外は、実施例24と同様にして積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの性能を表3に示す。
(実施例27~32)
実施例18において、A層/B層およびC層/B層の積層比が表3、4に記載の数値を満足するように押出機吐出量を調整して製膜した以外は、実施例18と同様の方法で積層フィルムを得た。評価結果を表3、4に示す。
(実施例33)
積層装置として、厚さ方向に繰り返し単位がA層/B層/C層を示すスリット数601個のフィードブロックにて合流させて、両表層が熱可塑性樹脂A層である、601層積層された積層体とした。熱可塑性樹脂Cとして、実施例20で用いたアクリル分子改質剤を4wt%添加したものを使用した。これらの点以外は、実施例18と同様にして積層フィルムを得た。評価結果を表4に示す。
(実施例34~38)
A層/B層およびC層/B層の積層比を表4に記載の条件とした以外は、実施例33と同様にして積層フィルムを得た。評価結果を表4に示す。
(実施例39)
熱可塑性樹脂層A層、B層、C層、D層を構成する各熱可塑性樹脂として、それぞれ順に樹脂2、樹脂1、樹脂4、樹脂9を用いた。準備した各熱可塑性樹脂を、ペレット状で4台の二軸押出機に別々に投入し、いずれも270℃で溶融させて混練した。スリット数643個のフィードブロックにて合流させて、積層比がA層/B層、C層/B層、D層/B層ともに1.0を示し、厚さ方向に繰り返し単位がA層/B層/C層/D層/C層/B層を示し、かつ両表層が熱可塑性樹脂A層となるように643層を積層して積層体とした。ここで、フィードブロック内は、スリット長さは階段状に単調増加となるように設計した。その他は、実施例18と同様の製膜条件で製膜し、波長帯域Π1の中心波長が1200nmとなるように製膜中に分光スペクトルを確認しながら、キャスティングドラム速度を調整してフィルム厚みを最適化して、目的の積層フィルムを得た。評価結果を表4に示す。
(比較例1)
熱可塑性樹脂層A層、B層を構成する各熱可塑性樹脂として、それぞれ前記樹脂2、樹脂7を用いた。準備した各熱可塑性樹脂をそれぞれ、ペレット状で2台の二軸押出機に別々に投入し、両者とも270℃で溶融させて混練した。スリット数231個のフィードブロックにて合流させて、積層比A層/B層が1.0を示す、厚さ方向に繰り返し単位がA層/B層で、両表層が熱可塑性樹脂A層である、231層積層された積層体とした。ここで、フィードブロック内は、スリット長さは階段状に単調増加となるように設計した。また、波長帯域Π1の中心波長λが1200nmとなるように、キャスティングドラム速度を変更してフィルム厚みを調整した。その他は、実施例13と同様の製膜条件で製膜し、積層フィルムを得た。評価結果を表5に示す。得られた積層フィルムは、最終的な積層フィルムが、繰り返し単位A層/B層で交互積層され、繰り返し単位が115ユニットを有しており、最表面にあたる2層の熱可塑性樹脂A層の厚みがそれぞれ5μmずつ、それ以外の内部の層厚みは100nm以上200nm以下の範囲の厚みを有していたことを透過型電子顕微鏡観察により確認した。
(比較例2)
比較例1において、積層装置として、A:B:A:B:A:B=1:7:1:1:7:1の等価膜設計を有するスリット数931個のフィードブロックにて合流させた以外は、比較例1に記載の内容で積層フィルムを得た。評価結果を表5に示す。
(比較例3、4)
比較例1において、熱可塑性樹脂層A層、B層を構成する各熱可塑性樹脂として、表5に記載の樹脂を選択した。比較例3では、熱可塑性樹脂層B層を構成する樹脂9のガラス転移温度に合わせ、延伸温度を110℃に設定したロール群で長手方向へ3.6倍延伸し、さらに、テンターに導いた後、105℃の熱風で予熱、110℃の温度でフィルム幅方向に3.6倍延伸した。比較例4では、熱可塑性樹脂A層を構成する樹脂10のガラス転移温度125℃に合わせて、延伸温度を140℃に設定したロール群で長手方向へ3.6倍延伸し、さらに、テンターに導いた後、130℃の熱風で予熱、145℃の温度でフィルム幅方向に3.6倍延伸した。評価結果を表5に示す。
(比較例5)
実施例13において、C層に、酸価を上げるためのオレフィン系改質剤を添加せずに、積層フィルムを作製した評価結果を表5に示す。
(比較例6)
実施例14において、テンターでの熱処理温度を140℃として積層フィルムを作製した。評価結果を表5に示す。
Figure 2022163716000006
Figure 2022163716000007
Figure 2022163716000008
Figure 2022163716000009
Figure 2022163716000010
各実施例及び比較例におけるA層~D層は、「(2)層界面(コントラスト差)」に記載の評価基準で判定すると、いずれも他の層と組成が異なるものである。すなわち、A層とB層を有する例は2種類の組成の異なる熱可塑性樹脂層を有し、A層~C層を有する例は3種類の組成の異なる熱可塑性樹脂層を有し、A層~D層を有する例は4種類の組成の異なる熱可塑性樹脂層を有する。
本発明の積層フィルムは、3種類以上の異なる熱可塑性樹脂層を一定の繰り返し単位で積層した積層構造を有することで、従来の2種類の熱可塑性樹脂を交互に積層した積層フィルムと比較して、骨格構造の異なる熱可塑性樹脂を用いた場合でも、中間に配される熱可塑性樹脂によって層間密着性を付与することが出来、積層フィルムの本来の性能を損ねることなく、長期にわたり使用することが出来る。また、3種類以上の光学特性の異なる熱可塑性樹脂層を用いるため、従来の積層フィルムでは達成できなかった光学設計が実現でき、従来の積層フィルムよりも広反射帯域・高反射率を有する積層フィルムを、低積層数で、かつ、薄膜で実現することができる。このような積層フィルムは、建材や自動車用途ではウィンドウフィルム、工業材料用途では、看板などへの鋼板ラミネート用フィルム、レーザー表面加工用の光線カットフィルム、また、電子デバイス用途ではフォトリソ材料の工程・離型フィルム、ディスプレイ用光学フィルム、その他食品、医療、インクなどの分野においても、内容物の光劣化抑制などを目的としたフィルム用途として、紫外線カットを求められる製品に広く利用することが可能である。特に、画像表示装置、ウインドウ、交通機関外装材、及び交通機関用途において、遮熱や紫外線カット、金属調の加飾等を目的として好適に用いることが出来る。
1:A層
2:B層
3:C層
4:繰り返し単位
5:剥離強度試験におけるS-Sカーブ
6:剥離強度
7:分光スペクトル
8:波長帯域Π1の領域面積S
9:高次反射
10:λ
11:λmin
12:λmax
13:波長帯域Π1の最大反射率
14:波長帯域Π1の最大反射率とベースライン反射率の中間値
15:ベースライン反射率
16:分光スペクトルの脈流

Claims (18)

  1. 異なる3種類以上の熱可塑性樹脂層を有し、
    前記3種類以上の熱可塑性樹脂層で形成される繰り返し単位を連続して5つ以上有しており、
    JIS K 5600-5-6:1999に規定されたクロスカット法に基づく付着性試験での升目の剥離率が10%以下であり、
    横軸を波長(nm)、縦軸を反射率(%)とする300nm以上2500nm以下の波長帯域における分光スペクトルにおいて、最も長波長帯域に位置する100nm以上にわたり連続して20%以上の反射率を示す波長帯域を波長帯域Π1、前記波長帯域Π1における中心波長をλ、前記波長帯域Π1の分光スペクトルと反射率のベースラインとで囲まれる領域面積をS、前記熱可塑性樹脂層の合計積層数をNとしたときに、0.060≦S/(λ・N)≦0.300を満足することを特徴とする、積層フィルム。
  2. 35.0≦S/λ≦150.0を満足することを特徴とする、請求項1に記載の積層フィルム。
  3. 前記波長帯域Π1の、短波長端部の波長をλmin、長波長端部の波長をλmaxとしたときに、λmin≧λmax/2を満足することを特徴とする、請求項1または2に記載の積層フィルム。
  4. 波長300nm以上、かつλmax/5以上λmin/2以下の波長帯域を波長帯域Π2としたときに、前記波長帯域Π2における平均反射率が25%以下であることを特徴とする、請求項3に記載の積層フィルム。
  5. 前記波長帯域Π1の半波長帯域にあたるλmin/2以上λmax/2の波長帯域をΠ3としたときに、前記波長帯域Π3における平均反射率が25%以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の積層フィルム。
  6. 前記熱可塑性樹脂層の種類が3種類であることを特徴とする、請求項1または2に記載の積層フィルム。
  7. 前記熱可塑性樹脂層を屈折率の大きい順にA層、B層、およびC層としたときに、A層/B層/C層/B層の構成単位を繰り返した積層構成を有することを特徴とする、請求項6に記載の積層フィルム。
  8. 前記繰り返し単位において、前記B層に対する前記A層の積層比(A/B)が0.50以上1.10以下であり、前記B層に対する前記C層の積層比(C/B)が0.90以上1.30以下であることを特徴とする、請求項7に記載の積層フィルム。
  9. 透過色調測定における明度L*が70以下であり、かつヘイズが5.0%以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の積層フィルム。
  10. 前記Nが100以上901以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の積層フィルム。
  11. 繰り返し単位に含まれる各層の厚みが、いずれも単調に増加あるいは単調に減少する分布を示すことを特徴とする、請求項1または2に記載の積層フィルム。
  12. 屈折率の最も高い熱可塑性樹脂層の主成分である熱可塑性樹脂が、ポリエチレンテレフタレートもしくはポリエチレンナフタレートである、請求項1または2に記載の積層フィルム。
  13. 屈折率の最も低い熱可塑性樹脂層が、1.54以下の屈折率を示す熱可塑性樹脂を主成分とする層であることを特徴とする、請求項1または2に記載の積層フィルム。
  14. 請求項1または2に記載の積層フィルムを用いてなる成形体。
  15. 請求項1または2に記載の積層フィルムを備える、画像表示装置。
  16. 請求項1または2に記載の積層フィルムを備える、ウインドウ。
  17. 請求項1または2に記載の積層フィルムを備える、交通機関外装材。
  18. 請求項1または2に記載の積層フィルムを備える、交通機関。
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