JP2022159169A - 分割型複合繊維、その製造方法、ならびにそれを用いた繊維集合物およびセパレータ材料 - Google Patents

分割型複合繊維、その製造方法、ならびにそれを用いた繊維集合物およびセパレータ材料 Download PDF

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Abstract

【課題】生産性および水中分散性に優れ、加熱した際の熱収縮が抑制される分割型複合繊維、その製造方法、およびそれを用いた繊維集合物を提供する。【解決手段】本発明は、ポリプロピレンを含有する第1成分と、高密度ポリエチレンを含有する第2成分とを含む分割型複合繊維であって、前記ポリプロピレンの紡糸後のz平均分子量(Mz)が450,000以上1,000,000以下であり、かつ紡糸後のQ値が2.4以上6以下であり、ポリプロピレンの補外融解開始温度(Tim)とポリプロピレンの融解ピーク温度(Tpm)の温度差が7.3℃以上である分割型複合繊維に関する。【選択図】図1

Description

本発明は、分割型複合繊維、その製造方法、ならびにそれを用いた繊維集合物およびセパレータ材料に関する。
極細繊維を含む繊維集合物は緻密な構造を有することから、電池セパレータ、RO膜支持体、および各種フィルター用ろ材等に広く使用されている。電池セパレータやRO膜支持体は、アルカリ性の強い溶液に含浸する状態で使用する場合があり、このような用途にはポリプロピレンやポリエチレンなどのポリオレフィン系樹脂からなる極細繊維や熱接着性繊維を用いた繊維集合物を使用することが多い。
極細繊維を得る方法として、紡糸により直接的に極細の単一繊維を製造する方法、海島繊維から海成分を溶脱して極細繊維を得る方法、および分割型複合繊維を分割して極細繊維を得る方法などがある。分割型複合繊維を分割して極細繊維を得る方法は、紡糸により直接的に極細繊維を製造する方法や、海島繊維から海成分を溶脱させる方法と比較して容易に極細繊維が得られるが、分割率の向上が課題となっている。特に、ポリオレフィン系樹脂同士といった、同族系ポリマー同士を組み合わせた場合、樹脂同士の相溶性が良いため、分割率が低下しやすい。
ポリオレフィン系樹脂同士を組み合わせた分割型複合繊維、中でも比較的安価に入手できるポリプロピレンとポリエチレンを組み合わせた分割型複合繊維は種々提案されている。例えば、特許文献1にはポリプロピレンのQ値(重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比Mw/Mn)が少なくとも5であり、繊維断面の中央部が中空部分である分割型複合繊維が開示されている。特許文献1では、Q値が少なくとも5であるポリプロピレンを使用し、ポリプロピレンのQ値(Q1)とポリエチレンのQ値(Q2)の比(Q1/Q2)が少なくとも1.0であるようにポリエチレンを選択して溶融紡糸を行い、得られた未延伸繊維を5倍以上の延伸倍率で延伸することで分割率の高い分割型複合繊維を得ている。特許文献1では、高延伸倍率で未延伸繊維を延伸したことで分割型複合繊維を構成するポリプロピレンを結晶性の高い状態にすることで容易に分割しやすい分割型複合繊維としている。
また、特許文献2には、第1セグメントと第2セグメントを含む分割型複合繊維であって、前記第1セグメントは、第1成分からなる樹脂セグメントであり、前記第2セグメントは断面構造が前記第1成分を芯成分とし、第2成分を鞘成分とする芯鞘型樹脂セグメントであり、前記第1成分はポリプロピレン樹脂を50質量%以上含む樹脂成分であり、前記第2成分はポリエチレン樹脂を50質量%以上含む樹脂成分であり、前記ポリプロピレン樹脂は重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比Mw/Mnが6以下であり、得られた分割型複合繊維を示差走査熱量測定(DSC)した際、DSC曲線が示す前記ポリプロピレン樹脂の融解ピークの形状がダブルピーク形状となる分割型複合繊維が開示されている。この分割型複合繊維は第2セグメントの断面構造が芯鞘型の断面となっており、分割後に極細の芯鞘型複合繊維が得られるため、緻密な構造の繊維集合物が得られやすい。
特開2002-220740号公報 国際公開公報2018/181909号
しかし、特許文献1に記載の分割型複合繊維は高延伸倍率で延伸するため、延伸して得られた分割型複合繊維の中に過剰に延伸された状態(過延伸状態)のポリプロピレンが存在する場合がある。過延伸状態のポリプロピレンは過剰に延伸されたことでポリプロピレンの結晶相にひずみや破壊が生じており、加熱によりひずみが戻ろうとしたり再度結晶相に戻ろうとしたりする。過延伸状態のポリプロピレンを含む分割型複合繊維を使用して電池セパレータなどの繊維集合物を製造する際、繊維集合物を構成する繊維同士を熱接着するために加熱すると、結晶相のひずみや破壊が元の結晶相に戻ろうと収縮するため、繊維集合物が大きく熱収縮したり、繊維集合物に皺やクラックが発生したりすることがある。特許文献2に記載の分割型複合繊維は、第2セグメントの断面構造が芯鞘型であることから、通常の第1及び第2のいずれのセグメントの断面構造も単一型である分割型複合繊維と比較して繊維の断面構造が複雑であるため、溶融紡糸の際、繊維断面の形状を揃えることが難しく、生産性に劣ることがある。
また、特許文献1にもみられるように、ポリプロピレンと高密度ポリエチレンを含む複合繊維において、延伸後のフィラメントに残存している、加熱した際に熱収縮を生じる非晶質状態のポリプロピレンや過延伸状態となっているポリプロピレンに対し、非晶質状態のポリプロピレンの結晶化を促進したり、過延伸状態となっているポリプロピレンの過延伸状態を解消したりするため、水蒸気や加熱した金属ロールなどを用いて延伸後のフィラメントに対し、110℃以上の温度で熱処理することが知られている。延伸後のフィラメントに対し、このような熱処理を行うことで、前記の目的は達成される一方、延伸後のフィラメントが高温にさらされることで、フィラメントを構成する熱可塑性樹脂が軟化し、軟化した熱可塑性樹脂によって、フィラメント間が疑似的に融着する疑似融着が発生することがある。疑似融着が発生すると、疑似融着した部分が太い繊維となるため、得られた繊維を用いて繊維集合物とした際、その部分が原因となって地合不良などが発生するおそれがある。ポリプロピレンと高密度ポリエチレンを含む分割型複合繊維において、高密度ポリエチレンはポリプロピレンよりも融点が低いことから、110℃以上の温度で熱処理を行うと疑似融着を発生しやすい。よってポリプロピレンと高密度ポリエチレンを含む分割型複合繊維では、このような110℃以上の熱処理(延伸処理や熱セットなどの処理が含まれる)を行わなくても熱収縮しにくく、かつ、水中に投入したときの分散性に優れ、分割処理を行うことで極細繊維が得られる分割型複合繊維が求められている。
本発明は、前記従来の問題を解決するため、生産性および水中分散性に優れ、加熱した際の熱収縮が抑制される分割型複合繊維、その製造方法、ならびにそれを用いた繊維集合物およびセパレータ材料を提供する。
本発明は、複数の第1セグメントと、複数の第2セグメントを含み、繊維断面において第1セグメントと第2セグメントは交互に配置されており、
前記第1セグメントは、第1成分からなる単一型樹脂セグメントであり、
前記第2セグメントは、第2成分からなる単一型樹脂セグメントであり、
前記第1成分は、ポリプロピレンを50質量%以上含み、
前記第2成分は、高密度ポリエチレンを50質量%以上含み、
前記ポリプロピレンの紡糸後のz平均分子量(Mz)が450,000以上1,000,000以下であり、
前記ポリプロピレンの紡糸後のQ値(重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比 Mw/Mn)が2.4以上6以下であり、
JIS K 7121(1987年)で規定される、示差走査熱量(DSC)測定法において、加熱速度を毎分20℃として測定される、ポリプロピレンの補外融解開始温度(Tim)とポリプロピレンの融解ピーク温度(Tpm)の温度差(Tpm-Tim)が7.3℃以上であることを特徴とする分割型複合繊維に関する。
本発明は、また、複数の第1セグメントと、複数の第2セグメントを含み、繊維断面において第1セグメントと第2セグメントは交互に配置された分割型複合繊維の製造方法であり、
前記第1セグメントが、第1成分からなる単一型樹脂セグメントであり、
前記第2セグメントが、第2成分からなる単一型樹脂セグメントであり、
前記第1成分は、紡糸前のz平均分子量(Mz)が500,000以上1,500,000以下であり、かつ紡糸前のQ値(重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比 Mw/Mn)が2.6以上8以下のポリプロピレンを50質量%以上含み、
前記第2成分は、高密度ポリエチレンを50質量%以上含み、
複数の第1セグメントと、複数の第2セグメントを含み、繊維断面において第1セグメントと第2セグメントは交互に配置されている分割型複合紡糸ノズルを溶融紡糸機に装着すること、
前記第1成分および前記第2成分のそれぞれを溶融し、溶融紡糸機に装着された分割型複合紡糸ノズルの第1セグメントおよび第2セグメントのそれぞれに供給して溶融紡糸をすること、
前記分割型複合紡糸ノズルから吐出された溶融樹脂を300m/分以上2500m/分以下の紡糸速度で引き取り、前記第1成分と第2成分が凝固した、単繊維繊度が1dtex以上15dtex以下の未延伸繊維トウを得ること、
前記未延伸繊維トウを、60℃以上120℃以下の延伸温度、総延伸倍率が2倍以上10倍以下となる条件で延伸して、延伸フィラメントを得ることを含み、
前記未延伸繊維トウは、X線回折法(XRD)による測定にて得られたX線回折チャートにおいて、ポリプロピレンの回折ピークである2θ=14.2±0.5°の回折ピークPP1、2θ=17±0.5°の回折ピークPP2、および2θ=18.6±0.5°の回折ピークPP3、ならびに高密度ポリエチレンの回折ピークである2θ=21.6±0.5°の回折ピークPE1が、下記の(1)~(4)を満たすことを特徴とする分割型複合繊維の製造方法に関する。
(1)回折ピークPP1の半値幅が0.835°以上
(2)回折ピークPP2の半値幅が0.835°以上
(3)回折ピークPP3の半値幅が0.955°以上
(4)回折ピークPE1の回折強度(IPE)と、回折ピークPP1、回折ピークPP2、回折ピークPP3および回折ピークPE1の回折強度の総和(I)の比IPE/Iが0.105以上0.750未満
本発明は、また、前記分割型複合繊維を10質量%以上含むことを特徴とする繊維集合物に関する。
本発明は、また、前記繊維集合物を含むことを特徴とするセパレータ材料に関する。
本発明は、生産性および水中分散性に優れ、加熱した際の熱収縮が抑制される分割型複合繊維、その製造方法、ならびにそれを用いた繊維集合物およびセパレータ材料を提供することができる。
図1A~図1Dは、分割型複合繊維の断面を例示した模式的断面図である。 図2は、分割型複合繊維の製造方法に用いる溶融紡糸装置の一例を示す横断面図である。 図3は、繊維構造物の面積収縮率を測定する際の試料の模式図である。 図4は、湿式不織布を製造する際の乾燥および熱接着工程を示す概略図である。 図5は、湿式不織布を製造する際、熱接着工程で使用したネット箱の概略図である。 図6は、実施例1の分割型複合繊維を用いて行った示差走査熱量測定(DSC)において、ポリプロピレンの補外融解開始温度(Tim)と融解ピーク温度(Tpm)の温度差(Tpm-Tim)の求め方を示すDSC曲線である。 図7は、実施例1の分割型複合繊維を用いて行った示差走査熱量測定(DSC)において、約115℃から約145℃の温度領域で測定される吸熱ピークおよびその融解熱量の求め方を示すDSC曲線である。 図8は、実施例1の分割型複合繊維を用いて行った示差走査熱量測定(DSC)において、約145℃から約185℃の温度領域で測定される吸熱ピークおよびその融解熱量の求め方を示すDSC曲線である。
本発明の発明者は、上述した問題を解決するため鋭意検討を行った。その結果、紡糸前のz平均分子量が大きく、紡糸前のQ値(Mw/Mn)が一定の範囲となるポリプロピレンを第1セグメントに用い、高密度ポリエチレンを第2セグメントに用い、未延伸繊維トウの結晶相を少なくすることで、得られる分割型複合繊維は水中分散性に優れ、加熱した際の熱収縮が抑えられることを見いだした。前記ポリプロピレン樹脂の数平均分子量Mn、重量平均分子量Mw、z平均分子量Mz、およびQ値(Mw/Mn)は、紡糸前と紡糸後で異なる場合がある。
具体的には、複数の第1セグメントと、複数の第2セグメントを含み、繊維断面において第1セグメントと第2セグメントは交互に配置され、前記第1セグメントは、第1成分からなる単一型樹脂セグメントであり、前記第2セグメントは、第2成分からなる単一型樹脂セグメントであり、前記第1成分は、ポリプロピレンを50質量%以上含み、前記第2成分は、高密度ポリエチレンを50質量%以上含み、前記ポリプロピレンの紡糸後のz平均分子量(Mz)が450,000以上1,000,000以下であり、前記ポリプロピレンの紡糸後のQ値(重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比 Mw/Mn)が2.4以上6以下であり、JIS K 7121(1987年)で規定される、示差走査熱量(DSC)測定法において、加熱速度を毎分20℃として測定される、ポリプロピレンの補外融解開始温度(Tim)とポリプロピレンの融解ピーク温度(Tpm)の温度差(Tpm-Tim)が7.3℃以上である分割型複合繊維にすることで、該分割型複合繊維は生産性に優れるだけでなく水中に投入した際の分散性に優れることで、それを用いた湿式不織布の生産性、歩留まりが向上することに加え、繊維同士を熱接着させるために加熱した際、ポリプロピレンの熱収縮が抑えられていることで、繊維集合物の熱収縮が抑制され、皺やクラックが発生しにくくなることを見いだした。
(分割型複合繊維)
図1Aから図1Dに例示しているように、分割型複合繊維10は、第1セグメント11と第2セグメント12とを含む。前記第1セグメントは、第1成分からなる単一型樹脂セグメントであり、前記第2セグメントは、第2成分からなる単一型樹脂セグメントである。そして、前記第1成分は、ポリプロピレンを50質量%以上含み、前記第2成分は、高密度ポリエチレンを50質量%以上含む。本発明の分割型複合繊維は、分割型複合繊維を構成する第1セグメント11と第2セグメント12が放射状に交互に配列された断面構造を有することが好ましい。
<第1成分>
第1成分は、ポリプロピレンを50質量%以上含み、80質量%以上含むことが好ましく、85質量%以上含むことがより好ましく、90質量%以上含むことがさらに好ましく、第1成分は実質的にポリプロピレンからなることが特に好ましい。ここで、「実質的に」という用語は、通常、製品として提供される樹脂が安定剤などの添加剤を含むため、および/または繊維の製造に際して各種添加剤が添加されるため、ポリプロピレンのみからなり、他の成分を全く含まない繊維が得られにくいことを考慮している。通常、第1成分は、添加剤を最大で15質量%含んでもよい。
前記ポリプロピレンは紡糸後のz平均分子量が450,000以上1,000,000以下である。紡糸後のz平均分子量Mzが上述した範囲であると、第1成分に含まれるポリプロピレンは高分子量体を多く含んだ状態であるといえる。本発明の分割型複合繊維において、紡糸後のz平均分子量が450,000以上1,000,000以下となるポリプロピレンを含む第1成分を得るためには、後述するように、ポリプロピレンは紡糸前のz平均分子量Mzを500,000以上1,500,000以下とする。このようなポリプロピレンを含む第1成分を溶融紡糸することで、第1成分が溶融紡糸の段階から、高分子量体を多く含むようになり、溶融紡糸の際、紡糸ノズルから溶融したポリプロピレンを含む第1成分を吐出し、引き取ると同時に冷却した際、ポリプロピレンが、結晶相より非晶質状態の相やスメチカ晶(スメクチック晶、スメチック晶、メゾフェイズ、安定中間相とも称されている)が多い樹脂成分となりやすい。溶融紡糸によって得られた未延伸繊維トウに含まれるポリプロピレンがこのような状態となることで、ポリプロピレンを含む第1成分は延伸されやすい状態となるため、延伸工程において過延伸状態となりにくいだけでなく、高密度ポリエチレンを含む第2成分の延伸を阻害しにくくなる。その結果、未延伸繊維トウを110℃未満の低温、特に、熱水を熱媒体として使用する湿式延伸の最高温度である100℃程度の延伸温度でもポリプロピレンが過延伸状態となることなく十分に延伸される。その結果、得られる分割型複合繊維に含まれる、ポリプロピレンを50質量%以上含む第1成分が過延伸状態になることなく、十分に結晶化されているだけでなく、高密度ポリエチレンを含む第2成分による融着や疑似融着が発生しにくくなるため、水中での分散性が高く、加熱しても熱収縮しにくい繊維となる。前記第1成分に含まれるポリプロピレンの紡糸後のz平均分子量は500,000以上980,000以下であることが好ましく、550,000以上960,000以下であることが好ましく、700,000以上950,000以下であることが好ましく、750,000以上920,000以下であることがより好ましく、770,000以上900,000以下であることが特に好ましい。
前記ポリプロピレンは、紡糸後のQ値(重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比 Mw/Mn)が2.4以上6以下である。前記ポリプロピレンの紡糸後のQ値が2.4以上6以下であることで、分割型複合繊維の第1成分に含まれるポリプロピレンは多分散度が大きく、低分子量体および高分子量体を多く含む状態であるといえる。本発明の分割型複合繊維において、前記第1成分を得るためには、後述するように、紡糸前のQ値が2.6以上8以下のポリプロピレンを含むようにして第1成分を溶融紡糸すると、第1成分が溶融紡糸の段階から多分散度が大きく、低分子量体および高分子量体を多く含むようになり、溶融紡糸の際、溶融樹脂を冷却することでポリプロピレンを含む第1成分が、非晶質状態の相やスメチカ晶の割合が多い樹脂成分となる。第1成分に含まれるポリプロピレンがこのような状態にあると、溶融紡糸によって得られた未延伸繊維トウは延伸性に優れ、延伸工程において延伸されやすいだけでなく、過延伸状態のポリプロピレンを生じにくくなる。前記ポリプロピレンの紡糸後のQ値は、2.8以上6以下であることが好ましく、3.0以上5.8以下であることが好ましく、3.2以上5.6以下であることがより好ましく、3.5以上5.4以下であることが特に好ましい。
前記ポリプロピレンは、JIS K 7210:2014に準ずるメルトマスフローレイト(以下において、単に「MFR230」とも記す;測定温度230℃、荷重2.16kgf(21.18N))は特に限定されないが3g/10分以上50g/10分以下であることが好ましく、5g/10分以上40g/10分以下であることがより好ましく、8g/10分以上35g/10分以下であることが特に好ましく、10g/10分以上35g/10分以下であることが最も好ましい。MFR230が上述した範囲内であると、紡糸時に糸切れが発生しにくい。
前記ポリプロピレンとしては、特に限定されず、例えばプロピレンのホモポリマー(プロピレンをモノマーとする単独重合体)、プロピレンと他の共重合モノマーとの共重合体、またはそれらの混合物を用いることができる。プロピレン共重合体は、ランダム共重合体でもよく、ブロック共重合体でもよい。前記プロピレン共重合体としては、例えば、プロピレンと、エチレンおよび炭素数4以上のα-オレフィンからなる群から選ばれる少なくとも一種のα-オレフィンとの共重合体が挙げられる。前記炭素数4以上のα-オレフィンとしては、特に限定されないが、例えば、1-ブテン、1-ペンテン、3,3-ジメチル-1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-オクタデセンなどが挙げられる。前記共重合体におけるプロピレンの含有量は、50質量%以上であることが好ましい。前記ポリプロピレン樹脂の中でも工程性や経済性(製造コスト)を考慮すると、プロピレンホモポリマーが特に好ましい。
<第2成分>
第2成分は高密度ポリエチレンを50質量%以上含み、80質量%以上含むことが好ましく、85質量%以上含むことがより好ましく、90質量%以上含むことがさらに好ましく、第2成分は実質的に高密度ポリエチレンからなることが特に好ましい。ここで、「実質的に」という用語は、通常、製品として提供される樹脂が安定剤などの添加剤を含むため、および/または繊維の製造に際して各種添加剤が添加されるため、高密度ポリエチレンのみからなり、他の成分を全く含まない繊維が得られにくいことを考慮している。通常、第2成分は、添加剤を最大で15質量%含んでもよい。
前記高密度ポリエチレンは、エチレンのホモポリマー(エチレンをモノマーとする単独重合体)であってもよいし、エチレンを主なモノマーとして含む共重合体であってもよいが、密度が0.94g/cm3以上であると好ましい。高密度ポリエチレンは本発明が目的とする分割型複合繊維を得ることができる限り、特に限定されることはない。高密度ポリエチレンは、エチレンのホモポリマー、エチレンに対し微量のα-オレフィン(例えば1-ブテン)を添加・共重合させることで結晶化度を意図的に下げた高密度ポリエチレン、エチレンをモノマーとして含むランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体またはそれらの混合物を用いることができる。前記ランダム共重合体、ブロック共重合体およびグラフト共重合体として、例えば、エチレンおよび炭素数3以上のα-オレフィンからなる群から選ばれる少なくとも一種のα-オレフィンとの共重合体を例示できる。前記高密度ポリエチレンの密度は0.945g/cm3以上であることがより好ましく、0.95g/cm3以上であることが特に好ましい。高密度ポリエチレンの密度の上限は特に制限されないが、0.97g/cm3以下であってもよいし、0.965g/cm3以下であってもよい。
前記炭素数3以上のα-オレフィンは、本発明が目的とする分割型複合繊維を得ることができる限り、特に限定されることはないが、例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、3,3-ジメチル-1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-オクタデセンなどを例示できる。前記共重合体におけるエチレンの含有量は、50質量%以上であることが好ましい。高密度ポリエチレンとしては、製造し易さおよび経済性(製造コスト)を考慮すると、エチレンのホモポリマー、エチレン以外のα-オレフィンモノマーの割合が5mol%以下のエチレン系共重合体を用いることが好ましい。これらの高密度ポリエチレンは、単独で用いてもよく、二種以上を組合せて用いてもよい。
前記高密度ポリエチレンは、JIS K 7210:2014に準ずるメルトマスフローレイト(以下、「MFR190」ともいう;測定温度190℃、荷重2.16kgf(21.18N))が特に限定されないものの、MFR190が5g/10分以上40g/10分以下であることが好ましく、8g/10分以上30g/10分以下であることがより好ましく、10g/10分以上25g/10分以下であることが特に好ましい。高密度ポリエチレンのMFR190が5g/10分以上40g/10分以下の範囲にある場合、分割型複合繊維の生産性がより向上する。
前記分割型複合繊維の分割数(すなわち、第1セグメントと第2セグメントの総数)は、分割型複合繊維の繊度および極細繊維の繊度に応じて決めることができる。例えば、4以上36以下とすることが好ましく、6以上30以下とすることがより好ましく、8以上24以下とすることが特に好ましい。前記分割型複合繊維は、分割数が小さくなると分割性が向上する傾向にあるが、第1セグメントと第2セグメントの界面が少なすぎると、細繊度の繊維を得にくい傾向にある。さらに、分割数が少なすぎると、所定の繊度の極細繊維を得るために、分割型複合繊維の繊度を小さくする必要があり、繊維の生産性が悪くなる、または紡糸が困難となる場合がある。分割数が多いと、第1セグメントと第2セグメントの界面が多くなり、細繊度の繊維を得やすい傾向にあるが、溶融紡糸の際、第1セグメントと第2セグメントが均一に配置された断面を得ることが難しくなる可能性がある。
前記分割型複合繊維は、図1Aや図1Cに示しているように、繊維断面の中央部に、中空部分13が形成されていてもよいし、図1Bや図1Dに示しているように繊維断面には中空部分が存在しない、いわゆる中実断面であってもよい。ここで、繊維断面の中央部とは、繊維断面のほぼ中心付近のことを指す。分割型複合繊維が繊維断面に中空部を有する、いわゆる中空分割型複合繊維である場合、前記中空部分は、中央部が空洞となっていれば、中心(同心)に位置しなくても偏心していてもよいが、生産性から考慮すると、同心に位置することが好ましい。また、中空部分の形状も円形、楕円形、異形のいずれであってもよい。このように、中空部分が存在することにより、第1セグメントと第2セグメントの接触面積が小さくなり、分割性が繊維中央部に中空部分を有しない中実断面の分割型複合繊維と比べて向上し、低水圧の水流交絡処理、湿式抄紙法におけるスラリー調製時の離解、叩解処理などの低い衝撃であっても高度に分割することができる。分割型複合繊維が、繊維断面に中空部分を有さない、いわゆる中実分割型複合繊維である場合、分割することで得られる極細繊維の断面形状が扁平な断面形状となるため、これらの極細繊維を含む不織布を電池セパレータとして使用した場合、電解液の枯れが発生しにくい、保液性の高い電池セパレータになりやすい。また、繊維の断面形状が扁平形状の極細繊維は、汚れを拭き取った際の掻き取り性に優れるため、この中実分割型複合繊維を含む繊維集合物から得られる不織布は、対人ワイピング材や対物ワイピング材に適したものとなる。
前記分割型複合繊維が中空部分を有する場合、その中空率は、分割率および極細繊維の断面形状などに応じて決定してもよい。中空率は、繊維断面に占める中空部分の面積の割合である。例えば、中空率は1%以上50%以下程度であることが好ましく、5%以上40%以下程度であることが好ましい。より具体的には、分割数が6以上10以下である場合には、中空率は5%以上20%以下であることが好ましく、分割数が12以上36以下である場合には、中空率は10%以上40%以下であることが好ましい。中空率が小さすぎると、中空部分を設けた際の効果を顕著に得ることが難しく、中空率が大きすぎると、分割型複合繊維の延伸工程や、開繊工程において、分割型複合繊維が割繊してしまい、取り扱い性が低下する恐れがある。
第1セグメントと第2セグメントとの複合比(第1成分/第2成分の体積比)は特に限定されないが、繊維の生産性、および得られる分割型複合繊維の分割性を考慮すると、30/70~70/30であることが好ましく、40/60~60/40であることがより好ましく、45/55~55/45であることが特に好ましい。
前記分割型複合繊維の単繊維繊度(分割前)は、特に限定されないが、0.3dtex以上5dtex以下であることが好ましく、0.5dtex以上3dtex以下であることがより好ましく、0.8dtex以上2.5dtex以下であることが特に好ましく、1dtex以上2dtex以下であることが最も好ましい。前記分割型複合繊維の分割前の単繊維繊度を0.3dtex未満にしようとすると、紡糸が不安定となり、繊維ひいては繊維集合物の生産性が低下する恐れがある。同様に、前記分割型複合繊維の分割前の単繊維繊度が5dtexを超えても、紡糸が不安定になる場合があるだけでなく、分割後に得られる繊維の繊度が十分に小さくなくなる可能性がある。
前記分割型複合繊維は、分割前の単繊維強度が2.5cN/dtex以上であることが好ましく、2.7cN/dtex以上であることがより好ましく、2.9cN/dtex以上であることが特に好ましく、3.0cN/dtex以上であることが最も好ましい。分割前の単繊維強度は好ましい上限が10cN/dtex以下であり、より好ましい上限は8.0cN/dtex以下であり、特に好ましい上限は7.5cN/dtex以下であり、最も好ましい上限は6.8cN/dtex以下である。前記分割型複合繊維の単繊維強度が2.5cN/dtex以上であると、優れた突刺強度を有する繊維集合物を得ることができるだけでなく、分割型複合繊維を構成するポリプロピレンやポリエチレンの結晶化が進んでおり、分割性の良好な分割型複合繊維となりやすい。本発明において、単繊維強度は、JIS L 1015に準じて測定する。
前記分割型複合繊維は、分割前の伸度が100%以下であることが好ましく、80%以下であることがより好ましく、70%以下であることがさらに好ましい。前記分割型複合繊維の繊維伸度が100%以下であると、外力により伸長しにくい繊維集合物を得ることができる。特に電池セパレータを構成する繊維として用いると、製造工程での伸長を抑えることができるため、収縮の小さい電池セパレータを得ることができる。本発明において、伸度は、JIS L 1015に準じて測定する。前記分割型複合繊維の分割前の伸度について、その下限は特に限定されないが、伸度が15%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましく、25%以上であることが特に好ましい。
前記分割型複合繊維は、紡糸後のz平均分子量(Mz)が450,000以上1,000,000以下であり、紡糸後のQ値が2.4以上6以下であるポリプロピレンを含む第1成分と、高密度ポリエチレンを含む第2成分を含む分割型複合繊維である。分割型複合繊維を構成する第1成分において、第1成分に含まれるポリプロピレンについて紡糸後のz平均分子量およびQ値が前記範囲内であることで、第1成分に含まれるポリプロピレンは多分散度が大きく、低分子量体や高分子量体(特に高分子量体)を含む状態であるといえる。本発明の分割型複合繊維において、前記第1成分を得るためには、紡糸前のz平均分子量が500,000以上1,500,000以下であり、紡糸前のQ値が2.6以上8以下であるポリプロピレンを含む第1成分と、高密度ポリエチレンを含む第2成分を溶融紡糸することで製造することができる。分割型複合繊維を製造する際、分割型複合繊維を構成する第1成分において、第1成分に含まれるポリプロピレンについて紡糸前のz平均分子量およびQ値が前記範囲内であることで後述する溶融紡糸の際に、第1セグメントに含まれるポリプロピレンが結晶相の割合が少なく、延伸されやすい状態となる。この状態の未延伸繊維トウに対し、高密度ポリエチレンの軟化、融着が発生しにくい温度で延伸処理を行うことで、ポリプロピレンが過延伸状態となることなく十分に結晶化されるため、得られる分割型複合繊維は、加熱した際、過延伸状態のポリプロピレンや非晶質のポリプロピレンに起因する熱収縮が小さくなる。また、高密度ポリエチレンの軟化、溶融によって繊維同士の融着が発生していないため、水中に分散させた際の分散性に優れる。前記分割型複合繊維は、溶融紡糸の際に、溶融紡糸後に得られる未延伸繊維トウに含まれるポリプロピレンを結晶相の少ない状態、言い換えるならば、非晶質状態の相やスメチカ晶の多い状態にしている。ポリプロピレンのこれらの相は、延伸処理によって結晶子サイズの小さい結晶相になると推測される。結晶子サイズの小さい結晶相は結晶子サイズの大きい結晶相(溶融紡糸の段階で生じていた結晶相や、紡糸・延伸工程で粒成長した結晶相)よりも融解しやすいと考えられることから、得られた分割型複合繊維を用いた示差走査熱量測定(DSC)を行う際、加熱速度を速くした上で、150℃付近から開始するポリプロピレンの溶融の際の補外融解開始温度とポリプロピレンの融解ピーク温度を測定したとき、その温度差を求めることで確認できる。
分割型複合繊維を構成するポリプロピレンの補外融解開始温度(Tim)と融解ピーク温度(Tpm)を示差走査熱量分析(DSC)から求める。DSCの測定はJIS K 7121(1987年)に準じて行う。すなわち、試料ホルダーに試料となる分割型複合繊維を3mg充填する。そして、当該分割型複合繊維に含まれる熱可塑性樹脂の中で最も融点が高い熱可塑性樹脂の融点より30℃以上高い温度まで加熱して示差走査熱量測定を行う。例えば、加熱速度は毎分20℃とし、20℃から300℃まで昇温させる。
分割型複合繊維の示差走査熱量測定(DSC)によって得られたDSC曲線からポリプロピレンの補外融解開始温度(Tim)と融解ピーク温度(Tpm)を求める。ポリプロピレンの融解は試料が加熱されることで150℃付近から開始し、180℃付近で終了する。このとき、補外融解開始温度(Tim)は、例えば、図6に示すように、ポリプロピレンの融解ピークにおいて低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、融解ピークの低温側の曲線にこう配が最大になる点で引いた接点の交点の温度がポリプロピレンの補外融解開始温度(Tim)となる。ポリプロピレンの融解ピーク温度(Tpm)は、例えば、図6に示すように、融解ピークの頂点の温度とする。ポリプロピレンの融解ピークにおいて、頂点が複数ある場合、最も高温で測定された頂点の温度を融解ピーク温度とする。
前記分割型複合繊維において、ポリプロピレンの補外融解開始温度(Tim)とポリプロピレンの融解ピーク温度(Tpm)の温度差(Tpm-Tim)は7.3℃以上である。前記分割型複合繊維において、前記(Tpm-Tim)が7.3℃以上であることは、上述したとおり、分割型複合繊維中のポリプロピレンに、結晶子サイズの小さい相が比較的多く存在していることを意味すると推定できる。これは紡糸前のz平均分子量やQ値が特定の範囲を満たすポリプロピレンを用い、未延伸繊維トウにおける該ポリプロピレンの非晶質の相やスメチカ晶の相の割合を比較的高くすることで未延伸繊維トウの延伸性を高めるだけでなく、結晶相の比較的少ない未延伸繊維トウを延伸するため、未延伸トウに含まれる結晶相を核として結晶が成長しにくく、非晶質の相やスメチカ晶の相の多くが結晶子サイズの小さい相に変化したことに起因すると推測される。前記(Tpm-Tim)は7.7℃以上であることが好ましく、8.0℃以上であることがより好ましく、8.4℃以上であることが特に好ましい。前記(Tpm-Tim)の上限は特に限定されないが20℃以下であることが好ましい。
前記分割型複合繊維は、特定の条件を満たすポリプロピレンを含む第1成分と高密度ポリエチレンを含む第2成分を含む分割型複合繊維であり、溶融紡糸の際、ポリプロピレンを結晶相の少ない状態とした未延伸繊維トウを延伸することで得られる。未延伸繊維トウに含まれるポリプロピレンが結晶相の少ない状態となっていることで、ポリプロピレンよりも柔らかい高密度ポリエチレンは、延伸の際にポリプロピレンによって延伸を阻害されないため、延伸工程によって十分に延伸されることで配向が進み、結晶化度が高い状態となっている。このことは、得られた分割型複合繊維を用いた示差走査熱量測定(DSC)を行い、高密度ポリエチレンの融解熱量を求めることで確認できる。
分割型複合繊維に含まれる高密度ポリエチレンの融解熱量およびポリプロピレンの融解熱量を示差走査熱量分析(DSC)から求める。DSCの測定はJIS K 7121(1987年)に準じて行う。まず、DSCの測定を行う分割型複合繊維について、ポリプロピレンおよび高密度ポリエチレンの質量割合を求める。ポリプロピレンおよび高密度ポリエチレンの含有量は、DSC測定を行う分割型複合繊維の製造条件、具体的には、溶融紡糸の際、溶融したポリプロピレンおよび高密度ポリエチレンについて、単位時間あたりの押し出し量が分かる場合は、その比率から第1セグメントおよび第2セグメントの比率(体積比)を求め、ポリプロピレンおよび高密度ポリエチレンの密度や第1成分に占めるポリプロピレンの質量割合、第2成分に占める高密度ポリエチレンの質量割合から分割型複合繊維に占めるポリプロピレンおよび高密度ポリエチレンの質量割合が求められる。
示差走査熱量測定(DSC測定)を行う分割型複合繊維について、詳細な製造条件が不明な場合、公知の方法で分割型複合繊維中のポリプロピレンおよび高密度ポリエチレンの質量割合を求める。分割型複合繊維中のポリプロピレンおよび高密度ポリエチレンの割合を求める方法としては、示差走査熱量測定(DSC測定)を行う分割型複合繊維の断面を走査型電子顕微鏡にて500倍~2000倍に拡大したものを印刷し、第1セグメントごと、第2セグメントごとに印刷したものを切り抜き、第1セグメントの紙片の総質量、第2セグメントの紙片の総質量を測定し、その比率を第1セグメントおよび第2セグメントの比率(体積比)とし、ポリプロピレンおよび高密度ポリエチレンの密度、第1成分に占めるポリプロピレンの質量割合、第2成分に占める高密度ポリエチレンの質量割合から分割型複合繊維に占めるポリプロピレンおよび高密度ポリエチレンの質量割合を求める方法がある。そのほか、公知の分析方法、例えば、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)やクロス分別クロマトグラフ(CFC)、これらを応用した昇温溶出分別(TREF)、および結晶化溶出分別(CEF)、ならびに溶媒グラジエント法(SGIC)、および温度グラジエント法(TGIC)に代表されるグラファイトカーボンカラムとの相互作用の違いを利用した高温液体クロマトグラフィー(高温LC法とも称される)などを組み合わせて分割型複合繊維に占めるポリプロピレンおよび高密度ポリエチレンの質量割合を求める方法が挙げられる。
次に、分割型複合繊維におけるポリプロピレンおよび高密度ポリエチレンの質量割合を求めた分割型複合繊維を用い、JIS K 7121(1987年)に準じてDSCの測定を行う。DSCの測定は、上述したポリプロピレンの(Tpm-Tim)を求める方法と同じく加熱速度を毎分20℃として行う。測定する際の手順もポリプロピレンの(Tpm-Tim)を測定する場合と同様、試料ホルダーに試料となる分割型複合繊維を3mg充填する。そして、当該分割型複合繊維に含まれる熱可塑性樹脂の中で最も融点が高い熱可塑性樹脂の融点より30℃以上高い温度まで加熱して示差走査熱量測定を行う。
得られたDSC曲線から、ポリプロピレンの融解熱量(ΔHPP)およびポリエチレンの融解熱量(ΔHPE)を求める。DSC曲線には少なくとも2つの吸熱ピークが存在する。即ち、約115℃から約145℃で観察される高密度ポリエチレンの融解に伴う吸熱ピーク(高密度ポリエチレンの種類によって融解ピーク温度は変化する)と、約145℃から約185℃の温度にて観察されるポリプロピレンの融解に伴う吸熱ピーク(ポリプロピレンの種類によって融解ピーク温度は変化する)である。
示差走査熱量測定(DSC測定)では、例えば、図7および図8に示すように、各吸熱ピークにおいてDSC曲線(DSCチャート)と、低温側のベースライン(BLLT)を、その高温側終端部から高温側ベースライン(BLHT)に向けて延長した直線(BLE)で囲まれる領域の面積から当該吸熱ピークにおける融解熱量が算出される。このとき、各吸熱ピークで測定される融解熱量は試料全体、即ち分割型複合繊維1mgあたりの融解熱量として測定されている。しかし、115℃から145℃までの温度領域で相が変化し融解しているのは高密度ポリエチレンであり、一般的に融点が150℃以上であるポリプロピレンは、この温度領域ではほとんど相変化しないと考えられる。従って、図7に示すように、115℃から145℃までの温度領域で測定される吸熱ピークおよびその融解熱量を、分割型複合繊維1mgあたりの融解熱量から高密度ポリエチレン1mgあたりの融解熱量に換算する。即ち、下記数式(1)に基づいて、約115℃から約145℃までの温度領域で測定された融解熱量を、あらかじめ計算しておいた、分割型複合繊維に占める高密度ポリエチレンの質量割合で割ることで高密度ポリエチレン1mgあたりの融解熱量が求められる。例えば、約115℃乃至約145℃にて現れた融解ピークの融解熱量が75mJ/mg、分割型複合繊維に占める高密度ポリエチレンの含有量が50質量%であれば、当該分割型複合繊維に含まれる高密度ポリエチレン1mgあたりの融解熱量は150mJ/mgである。
Figure 2022159169000002
また、約145℃から約185℃までの温度領域では、一般的に融点が140℃以下である高密度ポリエチレンは既に溶融しており、相変化はほとんどしないと考えられる。この温度領域で相変化し、融解するのはポリプロピレンである。よって、図8に示すように、約145℃乃至約185℃に現れた吸熱ピークおよび融解熱量を、分割型複合繊維1mgあたりの融解熱量からポリプロピレン1mgあたりの融解熱量に換算する。換算する方法は前記高密度ポリエチレンの融解熱量を求める場合と同じであり、約145℃乃至約185℃にて測定された分割型複合繊維1mgあたりの融解熱量を、あらかじめ計算しておいた分割型複合繊維に占めるポリプロピレンの含有量(質量%)で割ることでポリプロピレン1mgあたりの融解熱量が求められる。例えば、下記数式(2)に基づいて、約145℃乃至約185℃にて現れた融解ピークの融解熱量が50mJ/mg、複合繊維に占めるポリプロピレンの含有量が50質量%であれば、当該分割型複合繊維に含まれるポリプロピレン1mgあたりの融解熱量は100mJ/mgである。
Figure 2022159169000003
前記分割型複合繊維において、加熱速度を毎分20℃として測定した示差走査熱量測定にて得られるDSC曲線から求められる、分割型複合繊維に含まれる高密度ポリエチレン1mgあたりの融解熱量(ΔHPE)は125mJ/mg以上であることが好ましい。分割型複合繊維に含まれる高密度ポリエチレン1mgあたりの融解熱量が125mJ/mg以上であることで、得られる分割型複合繊維は第2セグメントに含まれる高密度ポリエチレンの結晶化が十分に進んでいると推定され、分割型複合繊維を含むスラリーを抄紙工程で撹拌したり、分割型複合繊維を含む繊維集合物に対し、高圧水流を吹き付けたりする分割処理を行うことで第1セグメントが分離することで得られる極細繊維と、第2セグメントが分離することで得られる極細繊維に分割されやすくなる。分割型複合繊維に含まれる高密度ポリエチレン1mgあたりの融解熱量(ΔHPE)は、130mJ/mg以上であると好ましく、135mJ/mg以上であるとより好ましく、140mJ/mg以上であると特に好ましく、145mJ/mg以上であると最も好ましい。分割型複合繊維に含まれる高密度ポリエチレン1mgあたりの融解熱量(ΔHPE)の上限は特に限定されないが、例えば、280mJ/mg以下である。
前記分割型複合繊維において、JIS L 1015 8.15寸法変化率に準じて測定される140℃における乾熱寸法変化率は10.0%以下であることが好ましく、より好ましくは9.7%以下であり、さらにより好ましくは9.5%以下である。乾熱寸法変化率が上記範囲内にあると、加熱した際の熱収縮が抑制されるのに加えて、熱処理時の加工性にも優れる。
前記分割型複合繊維において、分割型複合繊維100質量%からなる湿式不織布の140℃面積収縮率は、20%以下であることが好ましく、より好ましくは15%以下であり、さらにより好ましくは10%以下である。面積収縮率が上記範囲内にあると、加熱した際の熱収縮が抑制されるのに加えて、熱処理時の加工性にも優れる。なお、前記分割型複合繊維100質量%からなる湿式不織布の140℃面積収縮率は小さいほど好ましいため、0%でもよいが、0.5%以上であってもよく、0.8%以上であってもよく、1.0%以上であってもよい。140℃面積収縮率は、実施例に記載のとおりに測定することができる。
(極細繊維)
前記分割型複合繊維を分割して、第1セグメントに由来する極細繊維、すなわち、ポリプロピレンを50質量%以上含む第1成分からなる極細繊維(極細繊維Aとも称す)と、第2セグメントに由来する極細繊維、すなわち、高密度ポリエチレンを50質量%以上含む第2成分からなる極細繊維(極細繊維Bとも称す)を形成することができる。すなわち、分割型複合繊維を構成する各セグメントが分割型複合繊維の割繊に伴いそれぞれ独立し、それぞれ極細繊維を形成する。
前記極細繊維Aおよび/または前記極細繊維Bは、単繊維繊度が0.6dtex未満であることが好ましく、0.4dtex未満であることがより好ましい。極細繊維の単繊維繊度が0.6dtex未満であると、厚みの薄い繊維集合物を得やすくなる。なお、極細繊維Aと極細繊維Bの単繊維繊度は、互いに異なっていてもよく、いずれの極細繊維についても、単繊維繊度の下限は、好ましくは0.02dtex以上である。
(分割型複合繊維の製造方法)
次に、本発明の分割型複合繊維の製造方法を説明する。前記分割型複合繊維は、例えば、複数の第1セグメントと、複数の第2セグメントを含み、繊維断面において第1セグメントと第2セグメントは交互に配置されている分割型の複合紡糸ノズルに対し、第1セグメントには、ポリプロピレンを50質量%以上含む第1成分を供給し、第2セグメントには高密度ポリエチレンを50質量%以上含む第2成分を供給し、これらを溶融紡糸して未延伸状態の紡糸フィラメント(未延伸繊維トウ)にし、得られた未延伸繊維トウを延伸することにより得られる。
具体的には、先ず、溶融紡糸機に所定の繊維断面が得られる分割型の複合紡糸ノズルを装着し、繊維断面において第1セグメントと第2セグメントが隣接し、互いに分割された構造となるように、紡糸温度200℃以上350℃以下で、ポリプロピレンを50質量%含む第1成分および高密度ポリエチレンを50質量%含む第2成分をそれぞれ溶融し、分割型の複合紡糸ノズルの第1セグメントおよび第2セグメントのそれぞれに供給し押出して(すなわち、溶融紡糸して)、未延伸繊維トウ、すなわち未延伸状態の紡糸フィラメントを得る。このとき、第1成分に含まれるポリプロピレンは、紡糸前のz平均分子量(Mz)が500,000以上1,500,000以下であり、かつ紡糸前のQ値が2.6以上8以下である。第1成分が上述した紡糸前のz平均分子量および紡糸前のQ値を有するポリプロピレンを50質量%以上含むことで、溶融紡糸の際、紡糸ノズルから押し出された溶融樹脂(溶融状態の第1成分及び第2成分)を引き取りながら冷却、好ましくは後述するように溶融樹脂が紡糸ノズルから押し出され、未延伸繊維トウ(紡糸フィラメント)として紡出された直後に(一例として、紡糸ノズルから25mm以上85mm未満の位置で)冷却した際、ポリプロピレンが非晶質の相やスメチカ晶を多く含んだ状態、言い換えるならば結晶相(α晶)の含有量が少ない状態となり、延伸工程にて引き延ばされやすい未延伸繊維トウとなる。
本発明の分割型複合繊維の製造方法において、前記ポリプロピレンの紡糸前のz平均分子量Mzは500,000以上1,500,000以下である。紡糸前のz平均分子量が上述した範囲であると、第1成分に含まれるポリプロピレンは高分子量体を多く含んだ状態であるといえ、得られる分割型複合繊維の第1成分に含まれるポリプロピレンも高分子量体を多く含んだ状態となる。前記ポリプロピレンの紡糸前のz平均分子量は550,000以上1,400,000以下であることが好ましく、600,000以上1,300,000以下であることが好ましく、700,000以上1,200,000以下であることが好ましく、800,000以上1,000,000以下であることがより好ましく、820,000以上980,000以下であることが特に好ましい。
また、前記ポリプロピレンの紡糸前のQ値は2.6以上8以下である。紡糸前のQ値が上述した範囲であると、第1成分に含まれるポリプロピレンは多分散度が大きく、低分子量体および高分子量体を多く含む状態であるといえ、得られる分割型複合繊維の第1成分に含まれるポリプロピレンも多分散度が大きく、低分子量体および高分子量体を多く含む状態となる。前記ポリプロピレンの紡糸前のQ値は2.8以上7以下であることが好ましく、3.0以上6.5以下であることが好ましく、3.2以上6以下であることが好ましく、3.4以上5.8以下であることがより好ましく、3.6以上5.6以下であることが特に好ましい。
本発明の分割型複合繊維の製造方法において、第1成分の紡糸温度(押出温度)は250℃以上330℃以下が好ましく、260℃以上310℃以下がより好ましく、260℃以上290℃以下がさらに好ましい。高密度ポリエチレンを含む第2成分の紡糸温度(押出温度)は、特に限定されないが、例えば、230℃以上330℃以下が好ましく、250℃以上300℃以下がより好ましい。
前記溶融紡糸において、特に限定されないが、安定的に紡糸フィラメントを得る観点から、引取速度は300m/分以上2500m/分以下である。引き取り速度が低速であるほど、溶融状態のポリプロピレンに対し、引き延ばそうとする力(紡糸張力)が小さくなることで、ポリプロピレンが配向しにくく、得られる未延伸繊維トウにおいてポリプロピレン中に含まれる結晶相の割合がより小さくなりやすい。一方、高速で紡糸すると、未延伸繊維トウの繊度が小さくなるため、延伸工程にて比較的低倍率の延伸処理でも十分に延伸されるため、細繊度の分割型複合繊維が得られやすく、生産性も向上しやすい。溶融紡糸において、引き取り速度は500m/分以上2300m/分以下であることが好ましく、600m/分以上2000m/分以下であることがより好ましく、700m/分以上1800m/分以下であることが特に好ましい。
紡糸ノズルの吐出孔から吐出された溶融樹脂は、引き延ばされると同時に冷却されることで、分子鎖が配向されながら未延伸繊維トウを形成する。このとき、溶融樹脂に含まれる分子鎖はランダムな状態で、自由に動ける状態であるが、冷却されるにつれて動きが鈍くなると考えられている。
本発明の分割型複合繊維の製造方法では、紡糸ノズルから押し出された溶融樹脂を引き取りながら冷却する際、紡糸ノズルから押し出された溶融樹脂を糸切れが発生しないよう留意しつつ、溶融樹脂を紡糸ノズルに近い位置で冷却しながら引き取ると好ましい。溶融樹脂が糸切れしない程度に紡糸ノズルに近い位置で冷却し、引き取ることで、未延伸繊維トウに含まれるポリプロピレンは結晶相ではない相、具体的には非晶質状態の相や、スメチカ晶を多く含む構造となりやすい。これらの相が多く占める未延伸繊維トウを延伸すると、これらの相は結晶相に比べて延伸されやすい状態であるため、高倍率で延伸処理を行っても延伸処理を安定して行うことができる。
溶融紡糸において、溶融樹脂を冷却する位置は、例えば、溶融樹脂に冷却風を吹き付ける強制冷却装置(一般的にはチムニーとも称される)の位置で調整することができる。強制冷却装置の位置の調整であれば、特殊な装置が必要なく、調整も容易である。本発明の分割型複合繊維の製造方法においても、強制冷却装置の位置を調整して、得られる未延伸繊維トウに含まれるポリプロピレンを結晶相以外の非晶質相やスメチカ晶が多い状態となるようにすることが好ましい。
本発明の分割型複合繊維の製造方法では、紡糸パックに設けられた紡糸ノズルの口金面から冷却開始点までの距離を25mm以上85mm未満にすることが好ましい。冷却開始点の位置が前記範囲を満たすことで、溶融紡糸において溶融樹脂が引き延ばされて分子鎖の配向が進む前に冷却されるため、得られる未延伸繊維トウは配向が進んでいない未延伸繊維トウとなりやすい。紡糸ノズルの口金面から冷却開始点までの距離は、30mm以上82mm以下であることがより好ましく、40mm以上80mm以下であることが特に好ましい。なお、本発明において、冷却開始点は、溶融樹脂に対し吹き付けられる冷却風のうち、最も紡糸ノズルの口金面に近い冷却風の位置をいう。例えば、図2に示すように、紡糸パック21に設けられた紡糸ノズルの吐出口から溶融樹脂23を吐出して冷却風で冷却しながら引き取ることで未延伸繊維トウ24を得る場合、紡糸ノズルの口金面から冷却開始点までの距離は、溶融樹脂23を吐出する紡糸ノズルの口金面から、溶融樹脂23に対し吹き付けられる冷却風のうち、最も紡糸ノズルの口金面に近い冷却風の上端位置(22)までの距離Lをいう。
前記強制冷却装置の冷却方法は特に制限されず、吐出され、引き延ばされている溶融樹脂に対し、一方向から冷却するユニフロータイプの冷却装置でもよいし、溶融樹脂もしくは未延伸繊維トウに対し、内側から外側へ、もしくは溶融樹脂もしくは未延伸繊維トウに対し外側から内側へ冷却風を当てる環状タイプの冷却装置でもよい。冷却風に用いられる気体について特に制限は無いが、常温で安定な(反応性が極めて低い)、アルゴン、ヘリウムなどの希ガスや、窒素、あるいは空気が好ましく用いられ、この中でも安価に供給できる窒素、あるいは空気が特に好ましく用いられる。また、このときの冷却風の速度は、0.2m/秒以上5m/秒以下であることが好ましく、0.3m/秒以上3m/秒以下であることがより好ましい。また、冷却風の温度は、均一冷却するために低い方が好ましいが、温度を調整する際のコストを考慮すると40℃以下であってもよいし、15℃以上35℃以下であってもよい。
得られた未延伸繊維トウの単繊維繊度は、1dtex以上15dtex以下の範囲内である。未延伸繊維トウの単繊維繊度が1dtex未満であると、紡糸時の糸切れが多発する傾向がある。一方、未延伸繊維トウの単繊維繊度が15dtexを超えると、後述する延伸工程にて、非常に大きい延伸倍率にて延伸工程を行わなければ細繊度の分割型複合繊維が得られないだけでなく、細繊度の分割型複合繊維が得られにくくなるため、当該分割型複合繊維を分割して得られる繊維も極細繊維とはならない傾向がある。未延伸繊維トウを延伸して、細繊度の分割型複合繊維および極細繊維を得るために、未延伸繊維トウの単繊維繊度は、1.5dtex以上12dtex以下であることが好ましく、1.8dtex以上10dtex以下であることがより好ましく、2dtex以上9dtex以下であることが特に好ましい。
本発明の分割型複合繊維の製造方法では、溶融紡糸によって得られる未延伸繊維トウにおいて、ポリプロピレンを含む第1セグメントは結晶相を含むものの、非晶質状態の相やスメチカ晶が多く存在する樹脂セグメントになっている。また、高密度ポリエチレンを含む第2セグメントは、結晶化が進み、結晶相が多く存在する状態となっている。このような状態にあることで、ポリプロピレンおよび高密度ポリエチレンが相互に延伸性を阻害しない状態となるため、未延伸繊維トウの延伸性が向上する。その結果、前記未延伸繊維トウを十分に延伸することで、得られる分割型複合繊維の内部には加熱によって熱収縮を発生する非晶質相が少なっているだけでなく、加熱によって熱収縮を引き起こす過延伸状態のポリプロピレン(過度に引き延ばされ、分子の配列に歪み、破壊を生じているポリプロピレン)が残存しにくくなっていると推定される。
本発明の分割型複合繊維の製造方法において、溶融紡糸で得られた未延伸繊維トウが前記のような状態となっていることは、未延伸繊維トウに対しX線回折法(XRD)を行い、得られる回折ピークから求める半値幅および回折ピークの強度を調べることで判断できる。
具体的には、前記未延伸繊維トウは、X線回折法(XRD)による測定にて得られたX線回折チャートにおいて、ポリプロピレンの回折ピークである2θ=14.2±0.5°の回折ピークPP1、2θ=17±0.5°の回折ピークPP2、および2θ=18.6±0.5°の回折ピークPP3、ならびに高密度ポリエチレンの回折ピークである2θ=21.6±0.5°の回折ピークPE1が、以下の(1)~(4)を満たす。
(1)回折ピークPP1の半値幅が0.835°以上
(2)回折ピークPP2の半値幅が0.835°以上
(3)回折ピークPP3の半値幅が0.955°以上
(4)回折ピークPE1の回折強度(IPE)と、回折ピークPP1、PP2、PP3およびPE1の回折強度の総和(I)の比IPE/Iが0.105以上0.750未満
前記未延伸繊維トウにおいて、上述したとおり、ポリプロピレンの回折ピークPP1、PP2、およびPP3の半値幅が一定の値以上になる。X線回折法において回折ピークの半値幅が大きいと、回折ピークがブロードなピークになっていることから、このような回折ピークを示す物質は結晶性の低い状態であると考えられる。従って、ポリプロピレンの回折ピークPP1、PP2、およびPP3の半値幅が一定の値以上であることで、未延伸繊維トウに含まれるポリプロピレンは、結晶性が低く、非晶質状態の相やスメチカ晶が多く存在する樹脂セグメントになっていると推定される。回折ピークPP1の半値幅は0.835°以上2.3°以下であることが好ましく、0.850°以上2.0°以下であることがより好ましく、0.870°以上1.95°以下であることが特に好ましい。回折ピークPP2の半値幅は0.835°以上1.8°以下であることが好ましく、0.840°以上1.6°以下であることがより好ましく、0.850°以上1.5°以下であることが特に好ましい。回折ピークPP3の半値幅は0.955°以上2.6°以下であることがより好ましく、0.98°以上2.2°以下であることがより好ましく、1.0°以上2.0°以下であることが特に好ましい。
未延伸繊維トウにおいて、上述したとおり、高密度ポリエチレンの回折ピークである2θ=21.6±0.5°の回折ピーク(PE1)の回折強度(IPE)と、前記PP1、PP2、PP3およびPE1の各回折ピークの回折強度の和(I、以降、全体の回折強度(I)とも称す)の比IPE/Iが0.105以上0.750未満である。前記IPE/Iが前記範囲を満たすことで、未延伸繊維トウに含まれるポリプロピレンと高密度ポリエチレンにおいて、それぞれに含まれる結晶相の比率が最適なものになり、このような未延伸繊維トウを延伸するとポリプロピレンおよび高密度ポリエチレンが互いに延伸性を阻害せず、ポリプロピレンおよび高密度ポリエチレンの延伸性が同程度になっていると推定される。IPE/Iが前記範囲を外れていると、ポリプロピレンまたは高密度ポリエチレンのどちらかが結晶相の多すぎる状態となっていると考えられ、ポリプロピレンに含まれる結晶相が多い(すなわちIPE/Iが0.105未満)と延伸後のポリプロピレンが過延伸状態となりやすく、高密度ポリエチレンに含まれる結晶相が多い(すなわち、IPE/Iが0.750以上)と、ポリプロピレンが十分に延伸される前に高密度ポリエチレンが破断してしまうため、ポリプロピレンの延伸が不十分となり、加熱した際に熱収縮を発生しやすくなると考えられる。前記IPE/Iは0.11以上0.70以下であることが好ましく、0.115以上0.65以下であることが好ましく、0.12以上0.60以下であることがより好ましい。
次いで、未延伸繊維トウに対して延伸処理を行うことで延伸フィラメントが得られる。延伸処理は、延伸温度を60℃以上110℃未満の範囲内の温度に設定して実施する。延伸処理は、分割型複合繊維を構成する樹脂成分のうち、もっとも融点の低い樹脂の融点以下で行うことが好ましい。延伸温度は、80℃以上105℃以下であることが好ましく、85℃以上100℃以下であることがより好ましく、90℃以上100℃未満であることが特に好ましい。かかる延伸温度で延伸処理を行うと、高密度ポリエチレンを含む第2成分が延伸工程にて溶融したり、軟化したりして繊維同士を融着しにくくなるため、得られる分割型複合繊維の水中分散性が向上しやすくなる。
延伸工程において、特に限定されないが、分割型複合繊維に含まれるポリプロピレンおよび高密度ポリエチレンの結晶性を高め、得られる分割型複合繊維の熱収縮をより効果的に抑制する観点から、総延伸倍率が2倍以上である。総延伸倍率が2倍以上であることで、分割型複合繊維に含まれるポリプロピレンおよび高密度ポリエチレンの非晶相やスメチカ晶の結晶化が進行し、熱による相転移により収縮を抑制することができる。また十分に結晶化することで後工程で付与する繊維処理剤が繊維表面に残り易くなり、水中分散性も高めることができる。分割型複合繊維およびそれを分割して得られる極細繊維の単繊維強度が高くなるため、これらを用いた繊維集合物の引張り強度や突き刺し強度といった機械的強度が高いものとなる。また、総延伸倍率が2倍以上であることで、得られる分割型複合繊維およびそれを分割して得られる極細繊維の繊度が十分に小さいものとなり、これらを用いた繊維集合物は地合いの良好な緻密な構造を持った繊維集合物が得られやすくなる。延伸工程において、総延伸倍率は3倍以上であることが好ましく、3.5倍以上であることがより好ましく、4倍以上であることが特に好ましい。延伸工程において、生産性の観点、即ち延伸工程における糸切れが多発せず、延伸フィラメントに含まれるポリプロピレンの一部が過剰に延伸された過延伸状態となって、歪みが発生したり、結晶相が破壊された状態となったりしないようにするといった点から、総延伸倍率は10倍以下であり、9倍以下であることが好ましく、8倍以下であることがより好ましい。
延伸工程において、総延伸倍率は、最大延伸倍率の60%以上98%以下であることが好ましく、70%以上97%以下であることがより好ましく、80%以上95%以下であることが特に好ましい。総延伸倍率が最大延伸倍率の60%以上98%以下であると、延伸の際、未延伸繊維トウに含まれるポリプロピレンが過延伸状態になりにくく、得られる分割型複合繊維は水中分散性に優れ、加熱しても熱収縮の小さい繊維となる。
また、延伸工程において、未延伸繊維トウに含まれるポリプロピレンおよび高密度ポリエチレンの結晶化が進みやすく、充分に細繊度の分割型複合繊維が得られるようにするため、総延伸倍率は最大延伸倍率の60%以上98%以下であり、かつ3.5倍以上8倍以下であることが好ましい。延伸方法は、湿式延伸法および乾式延伸法のいずれであってもよい。熱媒としては、空気、蒸気、水、グリセリンなどの油類などを適宜用いることができる。湿式延伸法の場合、液体中で加熱しながら延伸を行うことができ、例えば、熱水または温水中で延伸を行ってもよい。乾式延伸法の場合、高温の気体中または高温の金属ロールなどで加熱しながら延伸を行うことができる。また、水蒸気を熱媒体として常圧若しくは加圧状態にして繊維を加熱しながら延伸を行う水蒸気延伸でもよい。
延伸工程は、1段延伸であってもよく、2段以上の多段延伸であってもよい。1段延伸の場合、総延伸倍率は1段延伸の延伸倍率となる。多段延伸の場合は、総延伸倍率は、各段階の延伸倍率を乗ずることで求めることができる。例えば、85℃にて延伸倍率1.5倍の延伸工程を行い、その後90℃にて延伸倍率4倍の延伸工程を行った場合、この製造方法における総延伸倍率は6倍である。
本発明において、「最大延伸倍率(Vmax)」は、下記のように測定したものをいう。分割型複合紡糸ノズルを用いて溶融紡糸を行い、得られた未延伸繊維トウを、延伸槽を延伸処理温度になるように調整した温水で満たし、この延伸槽内で延伸する湿式延伸処理を行う。この際、前記未延伸繊維トウを送り出すロールの送り出し速度(V1)を10m/分とし、巻き取る側の金属ロールの巻き取り速度(V2)を10m/分より徐々に増加させる。そして、未延伸繊維トウが破断したときの巻き取る側の金属ロールの巻き取り速度を最大延伸速度とし、前記最大延伸速度と未延伸繊維トウを送り出すロールの送り出し速度との比(V2/V1)を求め、得られた速度比を最大延伸倍率(Vmax)とする。なお、延伸処理を乾式延伸で行う場合、その条件での最大延伸倍率は、延伸処理を行う際の熱媒体(例えば金属ロールの表面)を延伸処理時の温度と同じ温度に調整し、その状態で前記と同様、巻き取る速度を徐々に増加させることで同様に求めることができる。
延伸処理を1回行う、いわゆる1段延伸の場合や、同じ延伸方法で、同じ延伸温度の延伸処理を複数回に分けて行う場合(例えば、90℃、2倍の乾式延伸を3回繰り返して行う場合や、90℃、1.5倍の乾式延伸を行った後、90℃、4倍の乾式延伸を行う場合が該当する)、最大延伸倍率は当該延伸処理と同じ方法、同じ温度にて測定することができる。延伸処理を複数回行う、いわゆる多段延伸にて紡糸フィラメントを延伸する場合であって、延伸処理によって延伸温度が異なる場合は、より高温の延伸温度で処理を行う延伸処理と同一の延伸方法、延伸温度にて最大延伸倍率を測定する。
延伸処理を複数回行う、いわゆる多段延伸にて未延伸繊維トウを延伸する場合であって、どの延伸処理も延伸温度が同じであるが、延伸方法が異なる場合(具体的には、100℃の水蒸気中にて延伸倍率3倍の条件で水蒸気延伸を行い、その後100℃に加熱した金属ロールにて延伸倍率2倍の条件で乾式延伸を行う場合が例として挙げられる)は、両方の方法(この例でいえば、100℃の水蒸気延伸、100℃の金属ロールを用いた乾式延伸)で最大延伸倍率を測定し、大きい方の最大延伸倍率を、その製造条件における最大延伸倍率とする。
得られた延伸フィラメントには、必要に応じて所定量の繊維処理剤が付着させられ、さらに必要に応じてクリンパー(捲縮付与装置)で機械捲縮が与えられる。繊維処理剤は、不織布を湿式抄紙法で製造する場合には、繊維を水などに分散させることを容易にする。また、繊維処理剤が付着した繊維に、繊維表面から外力を加えて(外力は、例えば、クリンパーによる捲縮付与の際に加わる力が例示される)、繊維処理剤を繊維に染み込ませると、さらに水などへの分散性が向上する。捲縮数は、5山/25mm以上30山/25mm以下の範囲内にあることが好ましく、10山/25mm以上20山/25mm以下の範囲内にあることがより好ましい。捲縮数が5山/25mm以上であると、クリンパーによる外力が加わることに起因して分割性が向上し、捲縮数が30山/25mm以下であると、繊維が凝集してダマになることが少ない、またはない。
繊維処理剤付与後の(または繊維処理剤が付与されていないがウェットな状態にある)延伸フィラメントに80℃以上110℃以下の範囲内の温度で、数秒~約30分間、乾燥処理を施し、繊維を乾燥させる。乾燥処理は場合により省略してもよい。その後、延伸フィラメントは、必要に応じて、繊維長が1mm以上100mm以下、好ましくは2mm以上70mm以下となるように切断される。
分割型複合繊維を含む乾式不織布を製造する場合、繊維処理剤付与後の(または繊維処理剤が付与されていないがウェットな状態にある)延伸フィラメントを乾燥させる必要がある。延伸フィラメントを乾燥させる場合、延伸フィラメントを弛緩状態として60℃以上110℃未満の温度で乾燥処理を施すことができる。延伸フィラメントが十分に乾燥した後、所定の長さに切断し、乾式不織布の製造に適した分割型複合繊維となる。本発明の分割型複合繊維を用いて乾式不織布を製造する場合、その繊維長は特に限定されないが、例えば、20mm以上100mm以下とすると好ましい。繊維長が20mm以上100mm以下であることで、乾式不織布を製造する際の生産性が安定する。乾式不織布を製造する際の繊維長は25mm以上80mm以下であるとより好ましく、25mm以上65mm以下であると特に好ましい。
得られる分割型複合繊維を湿式不織布として繊維集合物にする場合、当該分割型複合繊維は湿潤状態でもよいし、乾燥状態でもよいが、水中分散性を考慮すると、湿潤状態にあることが好ましい。そのため、繊維処理剤付与後の(または繊維処理剤が付与されていないがウェットな状態にある)延伸フィラメントは特に乾燥させる必要はなく、湿潤状態のまま、所望の繊維長に切断する。本発明の分割型複合繊維を用いて湿式不織布を製造する場合、その繊維長は特に限定されないが、例えば、1mm以上20mm未満とすると好ましい。繊維長が1mm以上20mm未満であることで、湿式不織布を製造する際、繊維の水中分散性が良好なものとなる。湿式不織布を製造する際の繊維長は2mm以上15mm以下であるとより好ましく、3mm以上12mm以下であると特に好ましく、3mm以上10mm以下であると最も好ましい。
(繊維集合物)
次に、本発明の分割型複合繊維を含む繊維集合物について説明する。繊維集合物の形態としては、特に限定されないが、例えば織物、編物および不織布などが挙げられる。また、不織布の繊維ウェブ形態も特に限定されず、例えば、カード法により形成されたカードウェブ、エアレイ法により形成されたエアレイウェブ、湿式抄紙法により形成された湿式抄紙ウェブなどが挙げられる。
前記繊維集合物において、前記分割型複合繊維の含有量は10質量%以上であることが好ましく、より好ましくは15質量%以上であり、特に好ましくは20質量%以上である。前記分割型複合繊維の含有量が10質量%以上であると、繊維集合物、例えば不織布中の前記分割型複合繊維の占める割合が多く、緻密な不織布が得られやすい傾向がある。前記繊維集合物において、前記分割型複合繊維の含有量の上限は特に限定されないが、対人および/または対物ワイパーといった各種ワイピング用の繊維集合物、ニッケル水素電池といった各種二次電池に使用する電池セパレータ用の繊維集合物ならびにカートリッジフィルターや積層フィルターといった各種フィルターのろ過層用の繊維集合物であり、ある程度の構成繊維間の空隙やそれに伴う通気性、通液性が求められる繊維集合物の場合は、繊維集合物全体に対する分割型複合繊維の含有量は、好ましくは90質量%以下、より好ましくは75質量%以下、特に好ましくは50質量%以下である。乾式不織布、湿式不織布などの繊維集合物中に含まれる分割型複合繊維の割合が90質量%以下であると、得られた繊維集合物に含まれる分割型複合繊維に由来する極細繊維の割合が大きくなりすぎず、繊維集合物が必要以上に緻密な不織布となるおそれもない。また、前記分割型複合繊維を使用して湿式不織布を製作しようとする場合、前記分割型複合繊維の含有量が90質量%以下であると、湿式抄紙工程のスラリー調製時の離解処理において、未分割の分割型複合繊維がスラリー表面に浮遊する浮き種現象が発生しにくいため工程性も良好である。また、分割して発現した極細繊維同士および極細繊維と他の繊維とが絡みつくことも少ないうえ、ファイバーボール現象を引き起こすことも少なく、地合の均一な不織布が得られやすい。繊維集合物を構成する繊維間空隙が少ない、特に緻密な繊維集合物が必要であれば、前記用途に使用される繊維集合物であっても分割型複合繊維の含有量が多い方が好ましく、前記分割型複合繊維の含有量が90質量%を超える繊維集合物や前記分割型複合繊維のみからなる繊維集合物であってもよい。
前記繊維集合物において、前記分割型複合繊維以外に混合する他の繊維素材としては、特に限定されない。例えばコットン、パルプ、麻、ビスコースレーヨン、テンセル(登録商標)などのセルロース系繊維、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネートなどのポリエステル系繊維、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12などのポリアミド系繊維、アクリル系繊維などを用いることができる。また、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレンなどのポリエチレンの単一繊維、通常のチーグラ・ナッタ触媒やメタロセン触媒を使用して重合されるアイソタクチック、アタクチック、シンジオタクチックなどのポリプロピレンの単一繊維、若しくはこれらのポリオレフィンのモノマー同士の共重合ポリマー、またはこれらのポリオレフィンを重合する際にメタロセン触媒(カミンスキー触媒ともいう。)を使用したポリオレフィンなどのポリオレフィン系繊維を用いることができる。また、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリスチレン、環状ポリオレフィンなどのエンジニアリング・プラスチックで構成された繊維などを用いることができる。また、上述した繊維を単独または二種以上組み合わせて使用することができる。また、繊維形状も特に限定されず、例えば単一繊維、鞘芯型複合繊維、偏心鞘芯型複合繊維、多芯芯鞘型複合繊維、並列型複合繊維、海島型複合繊維、分割型複合繊維などが挙げられる。また、繊維断面が円状、異形状などのいずれであってもよい。
前記繊維集合物は、90質量%以下の範囲でバインダー繊維を含んでよい。前記繊維集合物におけるバインダー繊維の含有量は、より好ましくは85質量%以下であり、さらに好ましくは80質量%以下である。バインダー繊維(熱接着繊維)は、例えば、鞘芯型複合繊維であってもよい。熱接着繊維を含む繊維集合物は、構成繊維同士を接着させることにより、引張強度および突刺強度に優れた繊維集合物となる。
前記繊維集合物は、分割型複合繊維の分割により形成された極細繊維を10質量%以上の割合で含むことが好ましい。すなわち、繊維集合物は、極細繊維Aと極細繊維Bとを合わせて10質量%以上の割合で含むことが好ましい。また、繊維集合物は、極細繊維をより好ましくは20質量%以上の割合で含み、さらに好ましくは25質量%以上の割合で含む。好ましい上限は100質量%である。繊維集合物中の分割型複合繊維の占める割合が多いと、緻密な不織布が得られやすい傾向がある。
前記繊維集合物において、前記分割型複合繊維は、物理的衝撃を与えることにより分割させることができる。例えば、水流交絡処理(高圧水流を噴射すること)により分割させることができる。或いは、湿式抄紙法により不織布を製造する場合には、抄紙の際の離解処理時に受ける衝撃を利用して分割させることができる。
前記水流交絡処理は、例えば、孔径0.05mm以上0.5mm以下のオリフィスが0.5mm以上1.5mm以下の間隔で設けられたノズルから、水圧3MPa以上20MPa以下の柱状水流を繊維ウェブの裏表に1回以上噴射することで行うことができる。前記分割型複合繊維は、水圧10MPa以下であっても分割可能であり、水圧8MPa以下であっても分割可能であり、水圧6MPa以下であっても分割可能である。
前記繊維集合物の製造方法について、不織布を例に挙げて説明する。不織布は、公知の方法に従って、繊維ウェブを作製した後、必要に応じて、熱処理に付して繊維同士を熱接着させて作製することができる。また、必要に応じて、繊維ウェブを繊維交絡処理に付してもよい。まず、繊維ウェブは、例えば、繊維長10mm以上100mm以下の分割型複合繊維を用いてカード法またはエアレイ法などの乾式法により、或いは繊維長2mm以上20mm以下の分割型複合繊維を用いて湿式抄紙法により作製することができる。対人および/または対物ワイパーやフィルターなどの分野に用いる場合には、カード法またはエアレイ法などの乾式法により製造された不織布であることが好ましい。乾式法により製造された不織布は、風合いが柔らかく、適度な密度を有しているからである。また、電池セパレータなどの分野に用いる場合には、湿式抄紙ウェブから製造された不織布であることが好ましい。湿式抄紙ウェブを使用して作製する不織布は、一般的に緻密であって、良好な地合いを有するからである。さらに、湿式抄紙法によれば、抄紙の際の解離処理の条件を調節することによって、解離処理のみで分割型複合繊維を所望の分割率で分割することが可能である。
次いで、繊維ウェブを熱接着処理に付してもよい。例えば、前記分割型複合繊維に芯鞘型複合繊維(バインダー繊維)を加えて、芯鞘型複合繊維の鞘成分により繊維同士を接着してもよい。熱接着処理の条件は、繊維ウェブの目付、極細繊維の断面形状および不織布に含まれる繊維を構成する樹脂の種類などに応じて適宜選択することができる。例えば、熱処理機としては、シリンダードライヤー、熱風吹き付け加工機、熱ロール加工機および熱エンボス加工機などを用いることができる。特にシリンダードライヤーは、不織布の厚みを調整しながら、繊維同士を熱接着させることができる点で好ましい。シリンダードライヤーの熱処理温度は、例えば、バインダー繊維の鞘成分がエチレンビニルアルコール共重合体である場合には、80℃以上160℃以下であることが好ましく、バインダー繊維の鞘成分が各種ポリエチレンである場合には、100℃以上160℃以下であることが好ましく、バインダー繊維の鞘成分が高密度ポリエチレンである場合には130℃以上145℃以下であることが好ましい。
熱接着処理は、後述のように、繊維ウェブを水流交絡処理に付す場合には、水流交絡処理の前に実施することが好ましい。繊維ウェブの繊維同士を予め接合してから水流交絡処理を実施すると、繊維に高圧水流があたるときに繊維の「逃げ」が生じにくくなり、繊維同士を緊密に交絡させることができ、分割型複合繊維の分割がより促進される。なお、熱接着処理は、繊維同士を交絡させた後に実施してもよい。すなわち、熱接着処理と水流交絡処理の順序は、所望の不織布が得られる限りにおいて特に限定されない。
本発明の繊維集合物においては、繊維同士を交絡させてもよい。繊維同士を交絡させる手法としては、高圧水流の作用により繊維同士を交絡させる水流交絡処理が好ましい。水流交絡処理によれば、不織布全体の緻密さを損なうことなく、繊維同士を強固に交絡させることができる。また、水流交絡処理によって、繊維同士の交絡と同時に分割型複合繊維の分割および分割により生じた極細繊維同士の交絡も進行させることができる。
水流交絡処理の条件は、使用する繊維ウェブの種類および目付、ならびに繊維ウェブに含まれる繊維の種類および割合などに応じて、適宜選択することができる。例えば、目付10g/m2以上100g/m2以下の湿式抄紙ウェブを水流交絡処理に付す場合には、繊維ウェブを70メッシュ以上100メッシュ以下程度の平織り構造などの支持体に載置して、孔径0.05mm以上0.3mm以下のオリフィスが0.5mm以上1.5mm以下の間隔で設けられたノズルから、水圧1MPa以上15MPa以下、より好ましくは2MPa以上10MPa以下の柱状水流を繊維ウェブの片面または両面にそれぞれ1回以上10回以下ずつ噴射するとよい。水流交絡処理後の繊維ウェブは、必要に応じて乾燥処理に付される。
前記繊維集合物は、必要に応じて親水化処理に付してもよい。親水化処理は、フッ素ガス処理、ビニルモノマーのグラフト重合処理、スルホン化処理、放電処理、界面活性剤処理および親水性樹脂付与処理などの任意の方法を用いて実施することができる。特に、繊維集合物を電池セパレータとして用いる場合には、親水化処理に付すことが好ましい。電解液との親和性を高くして、液保持性を向上させるためである。
前記繊維集合物は、目付が好ましくは5g/m2以上100g/m2以下であり、より好ましくは10g/m2以上100g/m2以下であり、さらに好ましくは20g/m2以上80g/m2以下であり、特に好ましくは30g/m2以上60g/m2以下である。繊維集合物の目付が5g/m2以上であると、繊維集合物の地合が良好になり、繊維集合物の強力や突き刺し強力が高いものとなりやすい。繊維集合物の目付が100g/m2以下であると、繊維集合物の通気性は低下せず、また、繊維ウェブに含まれる前記分割型複合繊維を水流交絡処理により各成分に分割させる際、高圧水流が繊維ウェブ全体に均一に作用しやすくなり、前記分割型複合繊維を充分に分割させることが容易になる。
前記不織布の製造方法の一例としては、湿式抄紙法が好ましく、湿式抄紙は通常の方法で行えばよい。先ず、前記分割型複合繊維を準備し、0.01質量%以上0.6質量%以下の濃度になるように水に分散させ、スラリーを調製する。なお、前記分割型複合繊維は、弱い衝撃力においても分割性に優れるため、スラリー調整時の離解、叩解処理により容易に分割させることができる。次に、スラリーは、短網式、円網式、長網式、または短網式、円網式および長網式のいずれかを組合せた抄紙機を用いて抄紙され、含水状態の湿式抄紙ウェブになる。次いで、含水状態の湿式抄紙ウェブをシリンダードライヤーなどの熱処理機を用いて乾燥し、必要に応じてバインダー繊維を含有させて、乾燥と同時に接着させてもよい。また、別の方法としては、湿式抄紙ウェブを必要に応じて接着させて形態を安定化させた後、水流交絡処理を施して、未分割の分割型複合繊維を分割させるとともに繊維間を交絡させてもよい。なお、湿式不織布において、分割率が10%以上であると、湿式不織布の製造工程におけるミキサー処理(パルパー処理)など、高圧水流を使用しない単純な撹拌処理のみで充分に分割していることになり、極細繊維が得られるため好ましい。また、湿式不織布において、分割率が10%未満であっても湿式不織布などの各種繊維集合物の製造には問題ないが、分割型複合繊維を分割して極細繊維を得るには湿式不織布の製造工程におけるミキサー処理など、高圧水流を使用しない単純な撹拌処理のみでは充分に分割しないため、高圧水流を使用した分割処理が必要になる傾向がある。
本発明の分割型複合繊維は、上述のように優れた延伸性と分割性を有し、緻密で地合いのよい不織布などの繊維集合物を作製できる。例えば、繊維集合物は不織布であり、不織布の目付は5g/m2以上200g/m2以下の目付にすることができる。
(セパレータ)
前記繊維集合物は、電池セパレータなどのセパレータ材料として用いることができる。電池セパレータは、前記分割型複合繊維を10質量%以上100質量%以下の範囲で含むことが好ましい。電池セパレータは電解液を保持し易く、強度を保ちつつ、可能な限り薄いことが好ましいという観点から不織布で構成されることが好ましく、湿式不織布で構成されることがより好ましい。
前記電池セパレータを構成する不織布は、目付が好ましくは5g/m2以上100g/m2以下であり、より好ましくは8g/m2以上80g/m2以下であり、特に好ましくは10g/m2以上50g/m2以下である。目付が5g/m2未満であると、不織布に粗密が生じて、電池セパレータとして使用したときに短絡が生じることがある。一方、目付が100g/m2を超えると、電池セパレータの厚みが大きくなって、その分、電池内の正極および負極の量が少なくなる。
本発明の電池セパレータは各種の電池に組み込まれて、電池を構成する。例えば、円筒型ニッケル水素二次電池においては、正極板と負極板とを本発明の電池セパレータを介して渦巻き状に巻回することができる。本発明の電池セパレータは、それ以外の電池、例えば、ニッケル-カドミウム二次電池、ニッケル-鉄二次電池およびニッケル-亜鉛二次電池などに使用してもよい。
以下、実施例にて本発明をさらに詳しく説明する。なお、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
先ず、実施例および比較例において用いた測定方法および評価方法を説明する。
(数平均分子量Mn、重量平均分子量Mw、z平均分子量MzおよびQ値)
ポリプロピレンの数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、z平均分子量(Mz)、および重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比Mw/Mn、すなわちQ値をゲル浸透クロマトグラフ分析(GPC)により測定した。測定には、検出器として示差屈折率検出器RIを備えるゲル浸透クロマトグラフ装置(高温GPC装置 Polymer Laboratories 製 PL-220)を使用した。
ポリプロピレンを含む試料を5mg秤量し、この試料に対し、安定剤および酸化防止剤としてブチルヒドロキシトルエン(BHT)を0.1%含む1,2,4-トリクロロベンゼン(TCB)を5mL秤量して加え、160℃から170℃に加熱しながら30分間攪拌してポリプロピレンを溶媒に溶解させた。次に、試料を溶解させた溶液から未溶解の試料といった異物を除去するため、この溶液を金属フィルターでろ過して測定用試料溶液を得た。得られた測定用試料溶液を、前記ゲル浸透クロマトグラフ装置に対し、流速を1.0mL/分、注入量0.2mL(200μL)の条件で注入して数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、z平均分子量(Mz)を測定し、得られた数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)からQ値(Mw/Mn)を求めた。測定する際、測定溶媒としてBHTを0.1%含むTCBを用い、カラムとしてShodex製 HT-Gを1本、昭和電工株式会社製 HT-806Mを2本使用し、標準試料として単分散ポリスチレン(東ソー製)を用い、カラム恒温槽の温度を145℃とし、GPCデータ処理システム(東レリサーチセンター(TRC)製)を用いた。
紡糸前のポリプロピレン樹脂のMn、Mw、MzおよびQ値は、原料のポリプロピレン樹脂を測定用の試料として用いて測定した。紡糸後のポリプロピレン樹脂のMn、Mw、MzおよびQ値は、ポリプロピレン樹脂を、溶融紡糸を行う温度に昇温し、紡糸ノズルを取り付ける前の押出機(言い換えるならば紡糸ノズルが装着されていない押出機)から溶融樹脂を押し出し、直径約5mmの棒状に試料を採取し、それを細かく裁断したものを用いて測定した。なお、紡糸後のポリプロピレン樹脂のMn、Mw、MzおよびQ値は、この方法で採取した試料を用いてもよいし、得られた分割型複合繊維を試料とすることできる。
(メルトマスフローレイト、MFR)
ポリプロピレンはJIS K 7210-1:2014に準じ、測定温度:230℃、荷重:21.18N(2.16kgf)で測定し、高密度ポリエチレンはJIS K 7210-1:2014に準じ、測定温度:190℃、荷重:21.18N(2.16kgf)で測定した。
(未延伸繊維トウにおける回折ピークの半値幅および回折ピーク強度比)
未延伸繊維トウにおけるポリプロピレンと高密度ポリエチレンの結晶状態を確かめるため、以下の手順で未延伸繊維トウについて広角X線回折法(XRD)による測定を行い、得られた回折ピークから、回折ピークの半値幅および回折強度を求めるとともに、高密度ポリエチレンの回折ピークの回折強度と全体の回折強度の比を算出した。
まず、得られた未延伸繊維トウを3.5cmの長さに切断した。切断した未延伸繊維トウを25.0mg秤量し、両端をエナメル線で結束したものを試料とした。試料である未延伸繊維トウの束をX線の入射方向に対して垂直になるようホルダーに固定して広角X線回折を行った。測定条件は以下の通りである。
X線回折装置:株式会社リガク製 高分子用 MiniFlex II
X線源:CuKα線(Niフィルター使用)
出力:30kV 15mA
スリット系:DS:1.25°SS:1.25°mm RS:0.3mm
測定方向:繊維径方向スキャン
スキャン方法:連続スキャン
測定範囲:2θ=3~40°
ステップ:0.02°
スキャン速度:4°/min
前記の条件で広角X線回折法を行い、得られたX線回折図(X線回折チャート)から、高密度ポリエチレンの回折ピークである2θ=21.6±0.5°の位置で測定された回折ピークPE1の半値幅(°)およびピーク強度IPE(cps)、ならびにポリプロピレンの回折ピークである2θ=14.2±0.5°の位置で測定される回折ピークPP1の半値幅(°)およびピーク強度(cps)、2θ=17±0.5°の位置で測定される回折ピークPP2の半値幅(°)およびピーク強度(cps)、2θ=18.6±0.5°の位置で測定される回折ピークPP3の半値幅(°)およびピーク強度(cps)を求めた。その後、前記4つの回折ピークPE1、PP1、PP2、およびPP3の回折強度の和を全体の回折強度I(cps)とし、高密度ポリエチレンの回折ピーク強度IPEを全体の回折強度Iで除した値を回折ピーク強度比IPE/Iとした。
(単繊維繊度)
単繊維繊度は、JIS L 1015:2021 8.5.2 ISO法による繊度の測定に注記されている附属書JBに記載の振動法による正量繊度の測定に準じて測定した。
(単繊維強度と伸度)
単繊維強度および伸度は、JIS L 1015:2021に準じて、引張試験機を用いて、試料のつかみ間隔を20mmとしたときの繊維切断時の荷重値および伸度を測定し、それぞれ、単繊維強度および伸度とした。
(最大延伸倍率)
実施例および比較例で得られた各々の未延伸繊維トウに対し、延伸槽を延伸処理温度になるように調整した温水で満たし、この延伸槽内で延伸する延伸処理を行った。この際、前記未延伸繊維トウを送り出すロールの送り出し速度(V1)を10m/分とし、巻き取る側の金属ロールの巻き取り速度(V2)を10m/分より徐々に増加させた。そして、未延伸繊維トウが破断したときの巻き取る側の金属ロールの巻き取り速度を最大延伸速度とし、前記最大延伸速度と未延伸繊維トウを送り出すロールの送り出し速度との比(V2/V1)を求め、得られた速度比を最大延伸倍率(Vmax)とした。なお、延伸処理を乾式延伸で行う場合、その条件での最大延伸倍率は、延伸処理を行う際の熱媒体(例えば金属ロールの表面)を延伸処理時の温度と同じ温度に調整し、その状態で前記と同様、巻き取る速度を徐々に増加させることで同様に求めることができる。
(示差走査熱量分析)
分割型複合繊維に対し、示差走査熱量測定(DSC)を行った。示差走査熱量測定は前記の通りJIS K 7121:1987に準じて、試料となる分割型複合繊維を3mg充填し、加熱速度を毎分20℃とした条件で、20℃から300℃まで加熱して行った。
(水中分散性)
得られた分割型複合繊維を使用して、各種電池セパレータやRO膜支持体に使用される湿式不織布を製造する場合を想定して、分割型複合繊維の水中分散性を以下の手順で評価した。
(1)水槽(幅:100cm、奥行:20cm、高さ:55cm)に攪拌機を取り付けた。
(2)水槽に水道水を80L入れた後、攪拌機を回転させながら、ドデシルフェノールEO付加物を主成分とする繊維処理剤を、繊維処理剤の有効成分(水以外の界面活性剤などの成分)の濃度が0.03質量%になるように加えた。
(3)延伸処理が終わった分割型複合繊維(延伸フィラメント)を採取し、ドデシルフェノールEO付加物を主成分とする繊維処理剤を含み、前記繊維処理剤の有効成分(水以外のドデシルフェノールEO付加物をはじめとする界面活性剤などの成分)の濃度が3.0質量%に調整されている繊維処理剤水溶液に含浸し、繊維の質量に対し、繊維処理剤水溶液の質量が30質量%になるように脱水する。脱水した分割型複合繊維のフィラメントを繊維長が5mmになるように切断した。
(4)繊維長5mmに切断した分割型複合繊維を5g秤量して水槽に入れ、攪拌機で120秒間撹拌した。
(5)撹拌後、水槽に懐中電灯を照らし、太い繊維(融着繊維)が何本あるか目視で確認し太い繊維の本数を計測し、下記の基準で水中分散性を評価した。
++:融着している繊維がないか3本以内であり、水中分散性が極めて良好である。
+:融着している繊維が4本以上9本以内であり、水中分散性が良好である。
-:融着している繊維が10本以上であり、水中分散性が不良である。
(面積収縮率)
分割型複合繊維を使用して、各種電池セパレータやRO膜支持体に使用される湿式不織布を製造する場合、原料となる繊維を水中に投入し、抄紙した後、乾燥と同時に140℃前後の熱風で繊維の一部を溶融、熱接着することで、得られる湿式不織布の強度を高めている。この際、繊維が熱収縮すると、得られる湿式不織布に皺や破れが発生する。そこで、分割型複合繊維を使用して湿式不織布を製造する場合を想定して、分割型複合繊維を含む湿式不織布の面積収縮率は、下記のとおりに測定した。
(1)分割型複合繊維を絶乾状態で3.15gとなるよう秤量した。
(2)秤量した繊維を1Lの水道水に入れてスラリーとし、該スラリーをパルパーにて回転数1000rpmで1分間撹拌し、繊維を水中に均一に分散させた。
(3)パルパーで撹拌したスラリーに水道水を加え、16Lのスラリーとした。
(4)16Lに希釈したスラリーを、金属製メッシュ(200メッシュ)を張った、250mm四方の枠に流し込み、湿式抄紙して、縦250mm、横250mm、乾燥時の目付が50g/cm2となる湿式抄紙ウェブにした。
(5)得られた湿式抄紙ウェブをろ紙で挟み3.5kg/cm2の圧力を2分間かけ脱水を行った。
(6)脱水後の湿式抄紙ウェブの中心で点対称となり、間隔が200mmとなる2点を縦横それぞれ1組ずつ計4点、具体的にはa1、a2、b1およびb2について油性インキで印をつけた。図3Aに示されているように、初期のa1とa2の2点間の直線距離(横間隔)をA0とし、初期のb1とb2の2点間の直線距離(縦間隔)をB0とした。A0およびB0は、いずれも200mmとなる。
(7)印をつけた湿式抄紙ウェブを、図4に示しているように、コンベアネット41を備えた熱風乾燥機40にて、湿式抄紙ウェブ43の上側から、温度140℃の熱風45を風速0.9m/秒の風速で吹き付ける熱風乾燥処理を30秒間行い、湿式抄紙ウェブを絶乾させると同時に、鞘成分を融解させて繊維同士を接着させて、熱接着不織布を得た。
このとき、
(a)図4に示しているように、コンベアネット41の上に、まずポリエチレンテレフタレート製ネット42(フィラメントの直径:0.3mm、35メッシュ×25メッシュ)を敷き、その上に湿式抄紙ウェブ43を載せた。
(b)湿式抄紙ウェブ43が熱風の影響で飛ばされないようにするため、図5に示している外側の寸法が縦(L)380mm、横(W)380mm、高さ(H)75mmとなるように角材(断面が1辺15mmの正方形)を用いて作製した木枠に、底面を除く5つの面に前記ポリエチレンテレフタレート製ネットを張ったポリエステル樹脂ネット箱44を湿式抄紙ウェブ43の上からかぶせた。
(8)不織布形成後の2点間の距離を測定し、図3Bに示されているように、熱処理後のa1とa2の2点間の直線距離(横間隔)をA1とし、b1とb2の2点間の直線距離(縦間隔)をB1とした。
(9)下記の式(3)に基づいて面積収縮率を求めた。
Figure 2022159169000004
(乾熱寸法変化率)
JIS-L-1015:2021 8.15 寸法変化率 b)乾熱寸法変化率に準じて測定した。熱処理温度は140℃、熱処理時間は10分間とし、初荷重はテックス×5.88mNとし、掴み間隔は25mmで実施した。
実施例および比較例では下記の樹脂を用いた。
<第1成分:ポリプロピレン樹脂(PP)>
PP1:密度0.90g/cm3、紡糸前のMz=9.0×105、紡糸前のQ値=5.2、MFR230(g/10分)=30のプロピレンホモポリマー
PP2:密度0.90g/cm3、紡糸前のMz=8.1×105、紡糸前のQ値=3.6、MFR230(g/10分)=9のプロピレンホモポリマー
PP3:密度0.90g/cm3、紡糸前のMz=5.8×105、紡糸前のQ値=2.8、MFR230(g/10分)=30のプロピレンホモポリマー
<第2成分:高密度ポリエチレン(PE)>
PE1:密度0.96g/cm3、MFR190(g/10分)=12の高密度ポリエチレン
PE2:密度0.96g/cm3、MFR190(g/10分)=20の高密度ポリエチレン
(実施例1)
<分割型複合繊維の製造>
第1成分としてPP1を用い、第2成分としてPE1を準備した。次に、第1成分と第2成分の複合比(体積比)を50/50にし、紡糸ノズルとして中空16分割型複合紡糸ノズルを用いて、PP1とPE1を別々の押出機に投入し、第1成分は270℃、第2成分は270℃で溶融して紡糸ノズルの吐出孔から押し出した。ノズル温度は270℃とし、溶融状態の樹脂を紡糸速度1200m/分で引き取った。このとき強制冷却装置の位置を調整し、紡糸ノズルの口金面から冷却開始点までの距離L(以下において、単に「冷却開始点の距離」と記す)が55mmとなるようにした。そして、冷却風の温度を27℃にして溶融樹脂に吹き付け、溶融樹脂を冷却した。
得られた未延伸繊維トウを構成する繊維は単繊維繊度が6dtexであり、図1Cに示すような繊維断面が歯車型で中空部分(中空率10%)を有し、第1セグメントと第2セグメントが繊維断面に放射状かつ交互に配置された16分割(以下において、中空16分割型と記す。)の断面を持つ繊維となっている。この未延伸繊維トウを試料として、上述したとおりに広角X線回折法(XRD)による測定を行ったところ、ポリプロピレンの半値幅は、2θ=14.26の回折ピークPP1が0.935°、2θ=17.06の回折ピークPP2が0.901°、2θ=18.56の回折ピークPP3が1.171°であり、IPE/Iは0.215であった。また、溶融紡糸を行う際、紡糸パック(スピンパック)を取り付けずに前記条件(第1成分の押出機の温度:270℃)で採取したポリプロピレンを試料として使用した平均分子量の測定を行った結果、z平均分子量は8.3×105、Q値は4.7であった。
得られた未延伸繊維トウを90℃の温水で満たした温水槽を使用し、90℃にて3.8倍の延伸倍率で湿式延伸(1段目延伸、以下同様)した後、90℃の温水槽にて延伸倍率1.2倍にて熱セット(2段目延伸、以下同様)を行い、単繊維繊度1.79dtexの延伸フィラメントを得た。なお、実施例1の未延伸繊維トウは、最大延伸倍率が4.8倍、総延伸倍率は4.6倍である。得られた延伸フィラメントをドデシルフェノールEO付加物が主成分である繊維処理剤を含み、当該繊維処理剤の有効成分(水以外のドデシルフェノールEO付加物をはじめとする界面活性剤などの成分)の濃度を3.0質量%に調整されている繊維処理剤水溶液に含浸し、繊維の質量に対し、繊維処理剤水溶液の質量が25質量%、繊維処理剤の成分付着量が0.35質量%となるように脱水した。脱水した延伸フィラメントを繊維長が5mmになるように切断し、実施例1の分割型複合繊維を得た。
(実施例2)
第1成分と第2成分の複合比(体積比)を60/40にした以外は、実施例1と同様にして溶融紡糸を行い、未延伸繊維トウを得た。得られた未延伸繊維トウを90℃の温水で満たした温水槽を使用し、90℃にて3.3倍の延伸倍率で湿式延伸した後、90℃の温水槽にて延伸倍率1.2倍にて熱セットを行い、単繊維繊度1.84dtexの延伸フィラメントを得た。なお、実施例2の未延伸繊維トウは、最大延伸倍率が4.6倍、総延伸倍率は4.0倍である。得られた延伸フィラメントに対し、実施例1と同様に繊維処理剤水溶液を含浸させ、脱水した延伸フィラメントを繊維長が5mmになるように切断し、実施例2の分割型複合繊維を得た。
(実施例3)
紡糸ノズルから吐出された溶融樹脂を引き取る紡糸速度を1440m/分として、未延伸繊維トウの構成する繊維の単繊維繊度を5dtexとした以外は実施例1と同様にして溶融紡糸を行い、未延伸繊維トウを得た。得られた未延伸繊維トウを90℃の温水で満たした温水槽を使用し、90℃にて3.0倍の延伸倍率で湿式延伸した後、90℃の温水槽にて延伸倍率1.2倍にて熱セットを行い、単繊維繊度1.72dtexの延伸フィラメントを得た。なお、実施例3の未延伸繊維トウは、最大延伸倍率が4.4倍、総延伸倍率は3.6倍である。得られた延伸フィラメントに対し、実施例1と同様に繊維処理剤水溶液を含浸させ、脱水した延伸フィラメントを繊維長が5mmになるように切断し、実施例3の分割型複合繊維を得た。
(実施例4)
第1成分としてPP2を用い、第1成分を270℃で溶融して押出し、未延伸繊維トウを得たこと以外は実施例1と同様にして溶融紡糸を行い、未延伸繊維トウを得た。得られた未延伸繊維トウを90℃の温水で満たした温水槽を使用し、90℃にて3.3倍の延伸倍率で湿式延伸した後、90℃の温水槽にて延伸倍率1.2倍にて熱セットを行い、単繊維繊度1.89dtexの延伸フィラメントを得た。なお、実施例4の未延伸繊維トウは、最大延伸倍率が4.2倍、総延伸倍率は4.0倍である。得られた延伸フィラメントに対し、実施例1と同様に繊維処理剤水溶液を含浸させ、脱水した延伸フィラメントを繊維長が5mmになるように切断し、実施例4の分割型複合繊維を得た。なお、溶融紡糸を行う際、紡糸パック(スピンパック)を取り付けずに前記条件(第1成分の押出機の温度:270℃)で採取したポリプロピレンを試料として使用した平均分子量の測定を行った結果、z平均分子量は7.8×105、Q値は3.3であった。
(実施例5)
第2成分としてPE2を用いたこと以外は実施例1と同様にして実施例1と同様にして溶融紡糸を行い、未延伸繊維トウを得た。得られた未延伸繊維トウを90℃の温水で満たした温水槽を使用し、90℃にて3.3倍の延伸倍率で湿式延伸した後、90℃の温水槽にて延伸倍率1.2倍にて熱セットを行い、単繊維繊度1.56dtexの延伸フィラメントを得た。なお、実施例5の未延伸繊維トウは、最大延伸倍率が4.6倍、総延伸倍率は4.0倍である。得られた延伸フィラメントに対し、実施例1と同様に繊維処理剤水溶液を含浸させ、脱水した延伸フィラメントを繊維長が5mmになるように切断し、実施例5の分割型複合繊維を得た。
(実施例6)
第2成分としてPE2を用い、紡糸ノズルから吐出された溶融樹脂を引き取る紡糸速度を720m/分としたこと以外は実施例1と同様にして未延伸繊維トウを製造した。このとき、得られた未延伸繊維トウを構成する繊維の単繊維繊度は10dtexであった。得られた未延伸繊維トウを90℃の温水で満たした温水槽を使用し、90℃にて2倍の延伸倍率で湿式延伸した後、95℃の温水槽にて延伸倍率3.8倍にて湿式延伸を行い、単繊維繊度1.57dtexの延伸フィラメントを得た。なお、実施例6の未延伸繊維トウは、最大延伸倍率が8.0倍、総延伸倍率が7.6倍である。得られた延伸フィラメントをドデシルフェノールEO付加物が主成分である繊維処理剤を含み、当該繊維処理剤の有効成分(水以外の界面活性剤などの成分)の濃度を3.0質量%に調整されている繊維処理剤水溶液に含浸し、繊維の質量に対し、繊維処理剤水溶液の質量が30質量%、繊維処理剤の成分付着量が0.47質量%となるようになるように脱水した。脱水した延伸フィラメントを繊維長が5mmになるように切断し、実施例6の分割型複合繊維を得た。
(実施例7)
第1成分としてPP3を用い、第1成分を270℃で溶融して押出し、未延伸繊維トウを得たこと以外は実施例1と同様にして溶融紡糸を行い、未延伸繊維トウを得た。得られた未延伸繊維トウを90℃の温水で満たした温水槽を使用し、90℃にて3.3倍の延伸倍率で湿式延伸した後、90℃の温水槽にて延伸倍率1.2倍にて熱セットを行い、単繊維繊度1.81dtexの延伸フィラメントを得た。なお、実施例7の未延伸繊維トウは、最大延伸倍率が4.6倍、総延伸倍率は4.0倍である。得られた延伸フィラメントに対し、実施例1と同様に繊維処理剤水溶液を含浸させ、脱水した延伸フィラメントを繊維長が5mmになるように切断し、実施例7の分割型複合繊維を得た。なお、溶融紡糸を行う際、紡糸パック(スピンパック)を取り付けずに前記条件(第1成分の押出機の温度:270℃)で採取したポリプロピレンを試料として使用した平均分子量の測定を行った結果、z平均分子量は5.3×105、Q値は2.6であった。
(比較例1)
第1成分としてPP1を用い、第2成分としてPE1を準備した。次に、第1成分と第2成分の複合比(体積比)を50/50にし、中空16分割型複合紡糸ノズルを用いて、PP1とPE1を別々の押出機に投入し、第1成分は270℃、第2成分は270℃で溶融して紡糸ノズルの吐出孔から押し出した。ノズル温度は270℃とし、溶融状態の樹脂を紡糸速度1200m/分で引き取った。このとき、強制冷却装置の位置を調整し、冷却開始点の距離が85mmとなるようにした。そして、冷却風の温度を27℃にして溶融樹脂に吹き付け、溶融樹脂を冷却した。
得られた未延伸繊維トウを構成する繊維は単繊維繊度が6dtexであり、図1Cに示すような繊維断面が歯車型で中空部分を有し(中空率15%)、第1セグメントと第2セグメントが繊維断面に放射状かつ交互に配置された16分割の断面を持つ繊維となっている。この未延伸繊維トウを試料として、上述したとおりに広角X線回折法(XRD)による測定を行ったところ、ポリプロピレンの半値幅は、2θ=14.16の回折ピークが0.882°、2θ=17.00の回折ピークが0.830°、2θ=18.56の回折ピークが1.002°であり、IPE/Iは0.092であった。
得られた未延伸繊維トウを90℃の温水で満たした温水槽を使用し、90℃にて3.3倍の延伸倍率で湿式延伸した後、90℃の温水槽にて延伸倍率1.2倍にて熱セットを行い、単繊維繊度1.81dtexの延伸フィラメントを得た。なお、比較例1の未延伸繊維トウは、最大延伸倍率が4.4倍、総延伸倍率は4.0倍である。得られた延伸フィラメントに対し、実施例1と同様に繊維処理剤水溶液を含浸させ、脱水した延伸フィラメントを繊維長が5mmになるように切断し、比較例1の分割型複合繊維を得た。
(比較例2)
第1成分と第2成分の複合比(体積比)を60/40にした以外は、比較例1と同様にして溶融紡糸を行い、未延伸繊維トウを得た。得られた未延伸繊維トウを90℃の温水で満たした温水槽を使用し、90℃にて3.3倍の延伸倍率で湿式延伸した後、90℃の温水槽にて延伸倍率1.2倍にて熱セットを行い、単繊維繊度1.83dtexの延伸フィラメントを得た。なお、比較例2の未延伸繊維トウは、最大延伸倍率が4.5倍、総延伸倍率は4.0倍である。得られた延伸フィラメントに対し、比較例1と同様に繊維処理剤水溶液を含浸させ、脱水した延伸フィラメントを繊維長が5mmになるように切断し、比較例2の分割型複合繊維を得た。
(比較例3)
紡糸ノズルから吐出された溶融樹脂を引き取る紡糸速度を1440m/分として、未延伸繊維トウの構成する繊維の単繊維繊度を5dtexとした以外は比較例1と同様にして溶融紡糸を行い、未延伸繊維トウを得た。得られた未延伸繊維トウを90℃の温水で満たした温水槽を使用し、90℃にて3.0倍の延伸倍率で湿式延伸した後、90℃の温水槽にて延伸倍率1.2倍にて熱セットを行い、単繊維繊度1.71dtexの延伸フィラメントを得た。なお、比較例3の未延伸繊維トウは、最大延伸倍率が4.0倍、総延伸倍率は3.6倍である。得られた延伸フィラメントに対し、比較例1と同様に繊維処理剤水溶液を含浸させ、脱水した延伸フィラメントを繊維長が5mmになるように切断し、比較例3の分割型複合繊維を得た。
(比較例4)
第1成分としてPP2を用い、第1成分を270℃で溶融して押出し、未延伸繊維トウを得たこと以外は比較例1と同様にして溶融紡糸を行い、未延伸繊維トウを得た。得られた未延伸繊維トウを90℃の温水で満たした温水槽を使用し、90℃にて3.7倍の延伸倍率で湿式延伸した後、90℃の温水槽にて延伸倍率1.0倍にて熱セットを行い、単繊維繊度1.89dtexの延伸フィラメントを得た。なお、比較例4の未延伸繊維トウは、最大延伸倍率が3.8倍、総延伸倍率は3.7倍である。得られた延伸フィラメントに対し、比較例1と同様に繊維処理剤水溶液を含浸させ、脱水した延伸フィラメントを繊維長が5mmになるように切断し、比較例4の分割型複合繊維を得た。
(比較例5)
第2成分としてPE2を用いたこと以外は比較例1と同様にして溶融紡糸を行い、未延伸繊維トウを得た。得られた未延伸繊維トウを90℃の温水で満たした温水槽を使用し、90℃にて3.3倍の延伸倍率で湿式延伸した後、90℃の温水槽にて延伸倍率1.2倍にて熱セットを行い、単繊維繊度1.6dtexの延伸フィラメントを得た。なお、比較例5の未延伸繊維トウは、最大延伸倍率が4.5倍、総延伸倍率は4.0倍である。得られた延伸フィラメントに対し、比較例1と同様に繊維処理剤水溶液を含浸させ、脱水した延伸フィラメントを繊維長が5mmになるように切断し、比較例5の分割型複合繊維を得た。
実施例および比較例の分割型複合繊維の単繊維強度および伸度を上述したとおりに測定し、その結果を下記表2、および表4に示した。また、実施例および比較例の分割型複合繊を試料とし、JIS K 7121(1987年)に準じ、加熱速度を毎分20℃にして行ったDSCの測定結果から求めたポリプロピレンの補外融解開始温度(Tim)とポリプロピレンの融解ピーク温度(Tpm)の温度差、ポリプロピレンおよびポリエチレンの融解熱量を上述したとおりに測定評価し、その結果を下記表2、および表4に示した。また、実施例および比較例の分割型複合繊維の乾熱寸法変化率、水中分散性および140℃面積収縮率を前記のとおり測定し、その結果を下記表2、および表4に示した。また、下記表1には実施例の紡糸条件および得られた未延伸繊維トウの広角X線回折法(XRD)の結果、表3には比較例の紡糸条件および得られた未延伸繊維トウの広角X線回折法(XRD)の結果を示した。
Figure 2022159169000005
Figure 2022159169000006
Figure 2022159169000007
Figure 2022159169000008
表1および表2のデータから分かるように、実施例の分割型複合繊維は、第1成分に含まれるポリプロピレンの紡糸後のQ値が2.4以上6以下であるとともに、およびポリプロピレンの(Tpm-Tim)が7.3℃以上であり、水中分散性に優れるとともに、加熱した際の熱収縮も少なかった。これは、分割型複合繊維を構成する第1成分に含まれるポリプロピレンが、紡糸前のz平均分子量が500,000以上1,500,000以下であり、かつ紡糸前のQ値が2.6以上8以下であることに加え、溶融紡糸の際、紡糸ノズルから押し出され、未延伸繊維トウ(紡糸フィラメント)として紡出された溶融樹脂を紡出直後、具体的には、紡糸ノズルから55mmの位置で冷却したことで、溶融状態のポリプロピレンが引き延ばされる前の状態で冷却が開始されるようになり、得られた未延伸繊維中のポリプロピレンが結晶相の少ない状態、すなわち非晶状態の相やスメチカ晶が多い状態、かつポリプロピレンとポリエチレンの結晶状態のバランスが良い状態となっていることで、延伸により両成分とも過不足なく結晶化が進んでいるためと推測される。また、延伸後繊維中のポリプロピレンには結晶子サイズの小さな結晶が多く存在するため、ポリプロピレンの補外融解開始温度の低く観測され、結晶子サイズの小さな結晶相が均一に生じていることで、非晶部分で収縮が生じても結晶同士がすぐにぶつかり、熱収縮を抑えることに寄与していると推定される。
一方、表3および表4のデータから分かるように、ポリプロピレンの(Tpm-Tim)が7.3未満である比較例1~5の分割型複合繊維は、水中分散性が悪い上、熱による収縮が大きかった。これらの繊維は、未延伸繊維中のポリプロピレンの結晶相が多く、その状態で延伸処理をしたことで、その結晶相が核となり結晶子が大きく成長するとともに、一部は結晶相が壊されながら延伸される、過延伸状態となっていると推定される。このような大きく成長したポリプロピレン、過延伸状態のポリプロピレンを含むため、比較例1~5の分割型複合繊維は補外融解開始温度が高く観測され、補外融解開始温度と融解ピーク温度の温度差(Tpm-Tim)が小さくなると推定される。
比較例1~5の分割型複合繊維は溶融紡糸の際、冷却点の位置が紡糸ノズルの吐出孔から遠い、具体的には冷却点の位置が実施例1~7よりも30mm遠いことで実施例1~7の製造方法と比較して溶融状態のポリプロピレンが引き延ばされる距離が長くなっている。その結果、未延伸繊維トウに含まれるポリプロピレンの結晶化が進んだり、結晶子サイズが大きくなったりしたと推定される。このような状態の未延伸繊維を延伸すると、既に結晶相となった部分の間に非晶相が残り易くもなっていると考えられる。よって、比較例1~5の繊維は、過延伸状態のポリプロピレンが存在するだけでなく、結晶相間に残った非晶部分の存在により、加熱した際、実施例の分割型複合繊維よりも大きく熱収縮すると考えられる。
本発明の分割型複合繊維は、各種電池のセパレータ、RO膜支持体、各種フィルターのろ材、人工皮革、衛生材料、対人および/または対物ワイパーといった各種ワイピング用品などの用途に用いることができる。
10 分割型複合繊維
11 第1セグメント
12 第2セグメント
13 中空部分
20 溶融紡糸装置
21 紡糸パック(スピンパック)
22 冷却点(冷却風の上端位置)
23 溶融樹脂
24 未延伸繊維トウ
40 熱風乾燥機
41 コンベアネット
42 ポリエステル樹脂製ネット(35メッシュ×25メッシュ)
43 湿式抄紙ウェブ
44 ポリエステル樹脂ネット箱
45 所定温度に調整された熱風

Claims (10)

  1. 複数の第1セグメントと、複数の第2セグメントを含み、繊維断面において第1セグメントと第2セグメントは交互に配置されており、
    前記第1セグメントは、第1成分からなる単一型樹脂セグメントであり、
    前記第2セグメントは、第2成分からなる単一型樹脂セグメントであり、
    前記第1成分は、ポリプロピレンを50質量%以上含み、
    前記第2成分は、高密度ポリエチレンを50質量%以上含み、
    前記ポリプロピレンの紡糸後のz平均分子量(Mz)が450,000以上1,000,000以下であり、
    前記ポリプロピレンの紡糸後のQ値(重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比 Mw/Mn)が2.4以上6以下であり、
    JIS K 7121:1987で規定される、示差走査熱量(DSC)測定法において、加熱速度を毎分20℃として測定される、ポリプロピレンの補外融解開始温度(Tim)とポリプロピレンの融解ピーク温度(Tpm)の温度差(Tpm-Tim)が7.3℃以上である、分割型複合繊維。
  2. JIS K 7121:1987で規定される、示差走査熱量(DSC)測定法において、加熱速度を毎分20℃として測定される、高密度ポリエチレンの融解熱量(ΔHPE)が125mJ/mg以上である、請求項1に記載の分割型複合繊維。
  3. 単繊維繊度が2dtex以下である、請求項1または2に記載の分割型複合繊維。
  4. JIS L 1015:2021 8.15寸法変化率に準じて測定される140℃における乾熱寸法変化率が10%以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の分割型複合繊維。
  5. 繊維長が2mm以上20mm以下であり、140℃面積収縮率が20%以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の分割型複合繊維。
  6. 請求項1~5のいずれか1項に記載の分割型複合繊維を10質量%以上含む、繊維構造物。
  7. 請求項6に記載の繊維構造物を含む、セパレータ材料。
  8. 複数の第1セグメントと、複数の第2セグメントを含み、繊維断面において第1セグメントと第2セグメントは交互に配置された分割型複合繊維の製造方法であり、
    前記第1セグメントが、第1成分からなる単一型樹脂セグメントであり、
    前記第2セグメントが、第2成分からなる単一型樹脂セグメントであり、
    前記第1成分は、紡糸前のz平均分子量(Mz)が500,000以上1,500,000以下であり、紡糸前のQ値(重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比 (Mw/Mn)が2.6以上8以下のポリプロピレンを50質量%以上含み、
    前記第2成分は、高密度ポリエチレンを50質量%以上含み、
    複数の第1セグメントと、複数の第2セグメントを含み、繊維断面において第1セグメントと第2セグメントは交互に配置されている分割型複合紡糸ノズルを溶融紡糸機に装着すること、
    前記第1成分、および前記第2成分をそれぞれ溶融し、溶融紡糸機に装着された分割型複合紡糸ノズルの第1セグメントおよび第2のセグメントのそれぞれに供給して溶融紡糸をすること、
    前記分割型複合紡糸ノズルから吐出された溶融樹脂を550m/分以上2500m/分以下の紡糸速度で引き取り、前記第1成分と第2成分が凝固した、単繊維繊度が1dtex以上15dtex以下の未延伸繊維トウを得ること、
    前記未延伸繊維トウを、60℃以上120℃以下の延伸温度、かつ総延伸倍率が2倍以上10倍以下となる条件で延伸して、延伸フィラメントを得ることを含み、
    前記未延伸繊維トウは、X線回折法(XRD)による測定にて得られたX線回折チャートにおいて、ポリプロピレンの回折ピークである2θ=14.2±0.5°の回折ピークPP1、2θ=17±0.5°の回折ピークPP2、および2θ=18.6±0.5°の回折ピーク(PP3)、ならびに高密度ポリエチレンの回折ピークである2θ=21.6±0.5°の回折ピーク(PE1)が、下記の(1)~(4)を満たすことを特徴とする分割型複合繊維の製造方法。
    (1)回折ピークPP1の半値幅が0.835°以上
    (2)回折ピークPP2の半値幅が0.835°以上
    (3)回折ピークPP3の半値幅が0.955°以上
    (4)回折ピークPE1の回折強度(IPE)と、回折ピークPP1、回折ピークPP2、回折ピークPP3および回折ピークPE1の回折強度の総和(I)の比IPE/Iが0.105以上0.750未満
  9. 前記溶融紡糸装置が強制冷却装置を備えており、前記分割型複合紡糸ノズルから吐出された溶融樹脂が前記強制冷却装置から供給される空気流によって冷却されており、分割型複合紡糸ノズルの口金面から冷却開始点までの距離が25mm以上85mm未満である、請求項8に記載の分割型複合繊維の製造方法。
  10. 前記延伸が湿式延伸であり、延伸温度が80℃以上100℃以下である、請求項8または9に記載の分割型複合繊維の製造方法。
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