以下、本発明の実施形態による斜板式液圧回転機を、可変容量型の斜板式油圧ポンプに適用した場合を例に挙げ、添付図面に従って詳細に説明する。
図1ないし図6は本発明の第1の実施形態を示している。可変容量型の斜板式油圧ポンプ1(以下、油圧ポンプ1という)は、原動機によって駆動されることによりタンク(図示せず)に貯留された作動油を吸込んで加圧し、この作動油を圧油として油圧アクチュエータ(図示せず)に供給する。油圧ポンプ1は、後述のケーシング2、回転軸5、シリンダブロック8、ピストン10、斜板12、弁板16、シュー21等によって構成されている。
ケーシング2は、油圧ポンプ1の外殻を構成している。ケーシング2は、一端側がフロント底部3Aとなった段付筒状のケーシング本体3と、ケーシング本体3の他端側を閉塞するリヤケーシング4とにより構成されている。リヤケーシング4には、一対の給排通路4A,4Bが形成されている。一対の給排通路4A,4Bのうち一方はタンクに接続され、他方は油圧アクチュエータに接続される。
回転軸5は、ケーシング2内に回転可能に設けられている。回転軸5の軸方向の一側は、ケーシング本体3のフロント底部3Aに軸受6を介して回転可能に支持され、回転軸5の軸方向の一端5Aは、ケーシング本体3のフロント底部3Aから外部に突出している。回転軸5の軸方向の他端5Bは、リヤケーシング4に軸受7を介して回転可能に支持されている。回転軸5の一端5Aは、原動機等(図示せず)に連結され、この原動機によって回転軸5が回転駆動される。回転軸5の軸方向の中間部には雄スプライン部5Cが設けられている。
シリンダブロック8は、回転軸5の外周側に位置してケーシング2内に回転可能に設けられている。シリンダブロック8には、複数のシリンダ9が穿設されている。シリンダブロック8の軸方向の一側(フロント底部3A側)には、斜板12側に向けて軸方向に突出する筒状突部8Aが一体形成されている。この筒状突部8Aの外周側には、後述する球状ガイド14が軸方向に相対変位可能に挿嵌されている。シリンダブロック8の軸方向の他側(リヤケーシング4側)は、凹湾曲状の摺動面8Bとなり、この摺動面8Bは弁板16に摺動可能に当接している。
軸挿通孔8Cは、シリンダブロック8の中心部を軸方向に貫通して設けられている。軸挿通孔8Cには、回転軸5が挿通されている。軸挿通孔8Cは、筒状突部8A側に対して摺動面8B側が大径となった段付孔として形成されている。軸挿通孔8Cのうち筒状突部8A側の内周面には、雌スプライン部(孔スプライン)8Dが形成され、この雌スプライン部8Dは、回転軸5の雄スプライン部5Cにスプライン結合されている。これにより、シリンダブロック8は、回転軸5と一体に回転する。
複数のシリンダ9は、シリンダブロック8に形成されている。複数のシリンダ9は、回転軸5を中心にしてシリンダブロック8の周方向に一定の間隔をもって配置され、シリンダブロック8の軸方向に延びている。複数のシリンダ9のうち斜板12と対向する一端側は、シリンダブロック8の軸方向一側(筒状突部8A側)の端面に開口している。一方、複数のシリンダ9の他端側には、シリンダポート9Aがそれぞれ形成されている。シリンダポート9Aは、後述する弁板16の吸入ポート17、吐出ポート18を介してリヤケーシング4の給排通路4A,4Bに対して間欠的に連通,遮断される。
複数のピストン10は、シリンダブロック8に形成された複数のシリンダ9内に摺動可能に挿嵌されている。これら複数のピストン10は、シリンダブロック8の回転によってそれぞれのシリンダ9内を往復動し、シリンダ9内に吸込んだ作動油を加圧した後に高圧の圧油として吐出させる。複数のピストン10は、シリンダ9から大きく突出(伸長)した下死点と、シリンダ9内に挿入された上死点との間で往復動する。複数のピストン10は、シリンダブロック8が1回転する間に、シリンダ9内を上死点から下死点へと摺動変位してシリンダ9内に作動油を吸込む吸入行程と、下死点から上死点へと摺動変位してシリンダ9内の作動油を高圧の圧油として吐出する吐出行程とを繰返す。
シリンダ9から突出するピストン10の先端(突出端部)には、球形凹部10Aが設けられ、この球形凹部10Aには、後述のシュー21が揺動可能に接続されている(図2参照)。また、ピストン10の中心部には、軸方向に貫通する油通路10Bが設けられ、シリンダ9内に吸込まれた作動油の一部が、油通路10Bを通じてシュー21側に供給される構成となっている。
クレイドル11は、ケーシング本体3のフロント底部3Aに設けられ、斜板12を支持している。クレイドル11は、回転軸5の周囲に位置して斜板12の裏面側(後述する平滑面12Aとは反対側の面)に配置され、ケーシング本体3のフロント底部3Aに固定されている。クレイドル11には、斜板12を傾転可能に支持する一対の傾転摺動面11Aが設けられている。一対の傾転摺動面11Aは、それぞれ凹湾曲面として形成され、回転軸5を挟んで対向配置されている。
斜板12は、ケーシング2内に傾転可能に設けられ、油圧ポンプ1の容量可変部を構成している。斜板12は、ケーシング本体3のフロント底部3A側にクレイドル11を介して取付けられている。斜板12の表面側(シリンダブロック8側)は、複数のシュー21を摺動可能に案内する平滑面12Aとなっている。斜板12の中央部には軸挿通孔12Bが形成され、この軸挿通孔12Bには回転軸5が挿通されている。斜板12の裏面側(平滑面12Aとは反対側)には凸湾曲面12Cが形成され、この凸湾曲面12Cは、クレイドル11の傾転摺動面11Aに摺動可能に嵌合している。斜板12は、傾転アクチュエータ(図示せず)によって傾転角が零の中立位置から傾転駆動され、油圧ポンプ1の容量(圧油の吐出量)は、斜板12の傾転角に応じて可変に制御される。
リテーナ13は、シリンダブロック8と斜板12の平滑面12Aとの間に設けられている。リテーナ13は環状の板体として形成され、リテーナ13の内周側には、後述の球状ガイド14が摺動可能に嵌合している。リテーナ13には、周方向に間隔をもって複数のシュー保持孔13Aが形成され、シュー保持孔13A内には、ピストン10の突出端部に設けられたシュー21が保持されている。リテーナ13は、後述するスプリング15のばね力により、球状ガイド14を介して斜板12の平滑面12Aに向けて付勢されている。これにより、リテーナ13は、シュー保持孔13A内に保持されたシュー21を平滑面12Aに押付け、複数のシュー21を平滑面12A上で環状の軌跡を描くように案内する。
球状ガイド14は、シリンダブロック8の筒状突部8Aとリテーナ13の内周との間に設けられている。球状ガイド14は、半球面状の外周面を有する筒状体からなり、球状ガイド14の内周側には雌スプライン部14Aが形成されている。雌スプライン部14Aは、回転軸5の雄スプライン部5Cにスプライン結合されている。従って、球状ガイド14は、回転軸5の軸方向に移動可能な状態で回転軸5と一体に回転する。一方、球状ガイド14の半球面状の外周面には、リテーナ13の内周側が揺動(摺動)可能に嵌合している。
スプリング15は、シリンダブロック8の筒状突部8Aと球状ガイド14との間に設けられている。スプリング15は、回転軸5の外周側に配置された状態でシリンダブロック8と球状ガイド14とを互いに逆向きに付勢している。これにより、複数のシュー21は、球状ガイド14およびリテーナ13を介して斜板12の平滑面12Aに押圧される。また、シリンダブロック8の摺動面8Bは、弁板16に押付けられる。
弁板16は、リヤケーシング4とシリンダブロック8との間に位置してケーシング2内に設けられている。弁板16は中空な円板状に形成され、その中心部には軸挿通孔16Aが形成されている。弁板16の軸挿通孔16Aには、回転軸5が挿通されている。弁板16の裏面側はリヤケーシング4に固定され、弁板16の表面はシリンダブロック8の摺動面8Bに摺接している。これにより、弁板16は、シリンダブロック8を回転軸5と一緒に回転可能に支持している。弁板16には、吸入ポート17および吐出ポート18が設けられている。
吸入ポート17および吐出ポート18は、弁板16の中心を中心とする仮想円に沿ってそれぞれ眉形状(円弧状)をなすように配置されている。吸入ポート17は、リヤケーシング4の給排通路4Aを介してタンク(図示せず)に接続され、吐出ポート18は、リヤケーシング4の給排通路4Bを介して油圧アクチュエータ(図示せず)に接続されている。弁板16の吸入ポート17および吐出ポート18は、シリンダブロック8の回転時に複数のシリンダ9のシリンダポート9Aと間欠的に連通する。これにより、吸入ポート17からシリンダ9内に作動油が吸込まれ、この作動油は、ピストン10によって加圧されることにより、高圧の圧油となって吐出ポート18から吐出する。
次に、本実施形態に用いられるシュー21について、図2ないし図5を参照しつつ説明する。
複数のシュー21は、シリンダ9から突出した複数のピストン10の先端(突出端部)に、それぞれ揺動可能に接続されている。これら複数のシュー21は、ピストン10からの押付力(油圧力)によって斜板12の平滑面12Aに押付けられ、この状態で回転軸5、シリンダブロック8、複数のピストン10と一緒に回転することにより、回転軸5を中心とした環状の軌跡を描くように斜板12の平滑面12A上を摺動する。シュー21は、ピストン10の先端に接続されるピストン接続部22と、ピストン接続部22と一体形成され、斜板12に当接する円板部23とを含んで構成されている。
ピストン接続部22は、シリンダ9から突出したピストン10の先端(突出端部)に揺動可能に接続されている。ピストン接続部22は、ピストン10の球形凹部10Aに対応する球状の突起として形成され、球形凹部10A内に摺動可能に嵌合している。円板部23は、リテーナ13のシュー保持孔13Aよりも大径な大径円板部23Aと、リテーナ13のシュー保持孔13Aよりも小径な小径円板部23Bとを有する段付き円板状に形成されている。
シュー21は、小径円板部23Bがリテーナ13のシュー保持孔13A内に挿通されることにより、リテーナ13によって斜板12に押し付けられる。これにより、シュー21の円板部23は、斜板12の平滑面12Aに摺動可能に当接する斜板摺動面23Cと、リテーナ13に当接するリテーナ当接面23Dとを有している。シュー21の中心部には、ピストン接続部22および円板部23を軸方向に貫通する油孔21Aが設けられ、油孔21Aは、ピストン10の油通路10Bに連通している。また、円板部23の斜板摺動面23Cには、円形状に凹陥したポケット23Eが設けられ、ポケット23Eの中心部には油孔21Aが開口している。これにより、ポケット23E内には、ピストン10の油通路10B、シュー21の油孔21Aを通じて供給された作動油の一部が保持され、このポケット23E内に保持された作動油が静圧軸受として機能することにより、シュー21の斜板摺動面23Cと斜板12の平滑面12Aとの間が常に潤滑される構成となっている。
外周溝24は、シュー21を構成する円板部23の外周面に設けられている。具体的には、外周溝24は、円板部23の大径円板部23Aの外周面から中心に向けて環状に凹陥する全周溝として形成されている。外周溝24は、大径円板部23Aの外周面に開口する開口端24Aと、開口端24Aから大径円板部23Aの中心側に配置された溝底部24Bとを有している。外周溝24は、大径円板部23Aの厚さ方向の中央部に形成され、大径円板部23Aのうち外周溝24から斜板摺動面23Cまでの厚さ寸法と、外周溝24からリテーナ当接面23Dまでの厚さ寸法はほぼ等しく設定されている。
開口端24Aの溝幅Hb1は、溝底部24Bの溝幅Hb2よりも大きく設定されている(Hb1>Hb2)。このように、外周溝24は、開口端24Aから溝底部24Bに向けて溝幅が漸次小さくなるテーパ状の断面形状を有している。これにより、外周溝24の開口端24A側では比較的大きな変形が許容され、溝底部24B側では変形が抑制される構成となっている。
油圧ポンプ1の回転軸5がシリンダブロック8と共に回転すると、複数のピストン10は、シリンダブロック8の回転によってシリンダ9内を往復動する。このとき、ピストン10の先端に設けられたシュー21は、ピストン10の推力によって斜板12の平滑面12Aに押付けられた状態で、回転軸5を中心とした環状の軌跡を描くように斜板12の平滑面12A上を摺動する。
複数のシュー21が、斜板12の平滑面12A上を環状の軌跡を描くように摺動するときには、シュー21に大きな遠心力が作用することにより、図6に示すように、シュー21の斜板摺動面23Cに対して矢印F方向のモーメントが作用する。これにより、斜板摺動面23Cのうち回転軸5から離れた外周側部位が平滑面12Aから浮き上がり、シュー21の斜板摺動面23Cが、斜板12の平滑面12Aに対して傾斜する。
このため、シュー21が斜板12の平滑面12A上を回転軸5を中心として環状の軌跡を描くように摺動するときに、シュー21の斜板摺動面23Cのうち環状の軌跡の内周側、即ち、斜板摺動面23Cのうち回転軸5側に位置する外周側部位23C1が、平滑面12Aに当接することにより、外周溝24の開口端24Aの間隔が狭まるように変形する。これにより、斜板摺動面23Cのうち回転軸5側に位置する外周側部位23C1は、斜板12の平滑面12Aに対して面接触するようになる。従って、油圧ポンプ1の作動時にシュー21に大きな遠心力が作用した場合でも、斜板12の平滑面12Aとシュー21の斜板摺動面23Cとの接触面圧を緩和することができる構成となっている。
一方、シュー21を構成する円板部23のリテーナ当接面23Dに着目すると、図6に示すように、シュー21の斜板摺動面23Cが、斜板12の平滑面12Aに対して傾斜した場合には、リテーナ当接面23Dのうち回転軸5を中心とした環状の軌跡の外周側、即ち、回転軸5から離れる側に位置する外周側部位23D1が、リテーナ13に当接することにより、外周溝24の開口端24Aの間隔が狭まるように変形する。これにより、リテーナ当接面23Dのうち回転軸5から離れる側に位置する外周側部位23D1は、リテーナ13に対して面接触するようになる。従って、油圧ポンプ1の作動時にシュー21に大きな遠心力が作用した場合でも、シュー21のリテーナ当接面23Dとリテーナ13との接触面圧を緩和することができる構成となっている。
ここで、図5に示すように、外周溝24の開口端24Aから溝底部24Bまでの溝深さLbは、開口端24Aの溝幅Hb1よりも大きく設定されている(Lb>Hb1)。これにより、シュー21に遠心力が作用し、シュー21の斜板摺動面23Cが斜板12の平滑面12Aに対して傾斜したときに、外周溝24の開口端24A側が適度な弾性をもって変形することができる構成となっている。これにより、斜板摺動面23Cのうち回転軸5側に位置する外周側部位23C1を、斜板12の平滑面12Aに対して面接触させることができる構成となっている(図6参照)。
また、大径円板部23Aの厚さ寸法をH2とすると、外周溝24の溝底部24Bの溝幅Hb2は、大径円板部23Aの厚さ寸法H2に対して下記(数1)の範囲に設定されることが望ましい。
さらに、大径円板部23Aのリテーナ当接面23Dの径方向寸法をL2とすると、外周溝24の溝深さLbは、リテーナ当接面23Dの径方向寸法L2に対して下記(数2)の範囲に設定されることが望ましい。
このように、本実施形態では、外周溝24の溝底部24Bの溝幅Hb2の大きさを、上記(数1)の範囲に設定し、外周溝24の溝深さLbを、上記(数2)の範囲に設定している。これにより、外周溝24の変形によって、斜板摺動面23Cを斜板12(平滑面12A)に適度な弾性をもって面接触させ、リテーナ当接面23Dをリテーナ13に適度な弾性をもって面接触させることができ、かつ、シュー21を構成する大径円板部23Aの耐久性を高めることができる。
第1の実施形態による油圧ポンプ1は、上述の如きシュー21を備えるもので、以下、油圧ポンプ1の動作について説明する。
油圧ポンプ1の回転軸5が回転すると、回転軸5と一体にシリンダブロック8が回転する。これより、シリンダブロック8の複数のシリンダ9内にそれぞれ設けられた複数のピストン10は、斜板12の傾転角に対応したストローク量をもってシリンダ9内を往復動し、例えば給排通路4A側からシリンダ9内に吸込んだ作動油を加圧し、高圧の圧油として給排通路4B側に吐出する。複数のピストン10は、シリンダブロック8が1回転する間にシリンダ9内を上死点から下死点へと摺動変位し、シリンダ9内に作動油を吸込む吸入行程と、下死点から上死点へと摺動変位し、シリンダ9内の作動油を高圧の圧油として吐出する吐出行程とを繰返す。
油圧ポンプ1の作動時において、ピストン10の先端に設けられたシュー21は、ピストン10の推力によって斜板12の平滑面12Aに押付けられた状態で、回転軸5を中心とした環状の軌跡を描くように斜板12の平滑面12A上を摺動する。このとき、平滑面12A上を摺動するシュー21に対して大きな遠心力が作用し、シュー21の斜板摺動面23Cに対し、図6中の矢印F方向にモーメントが作用する。これにより、シュー21の斜板摺動面23Cが、斜板12の平滑面12Aに対して傾斜する。
このとき、斜板摺動面23Cのうち回転軸5側に位置する外周側部位23C1は、外周溝24の開口端24Aの間隔が狭まるように変形することにより、斜板12の平滑面12Aに対して面接触する。このため、油圧ポンプ1の作動時にシュー21に大きな遠心力が作用した場合でも、斜板12の平滑面12Aとシュー21の斜板摺動面23Cとが点接触して面圧が増大するのを抑えることができる。この結果、斜板12の平滑面12Aとシュー21の斜板摺動面23Cとの接触面圧を緩和し、平滑面12Aと斜板摺動面23Cとの間で局所的な摩耗が生じるのを抑制することにより、両者の摩耗を低減することができる。
一方、シュー21を構成する円板部23のリテーナ当接面23Dに着目すると、シュー21の斜板摺動面23Cが、斜板12の平滑面12Aに対して傾斜した場合には、リテーナ当接面23Dのうち回転軸5から離れる側に位置する外周側部位23D1は、外周溝24の開口端24Aの間隔が狭まるように変形することにより、リテーナ13に対して面接触する。このため、油圧ポンプ1の作動時にシュー21に大きな遠心力が作用した場合でも、シュー21のリテーナ当接面23Dとリテーナ13とが点接触して面圧が増大するのを抑えることができる。この結果、シュー21のリテーナ当接面23Dとリテーナ13との接触面圧を緩和し、リテーナ当接面23Dとリテーナ13との局所的な摩耗を抑制することにより、両者の摩耗を低減することができる。
次に、本実施形態によるシュー21と比較例によるシューとの比較について説明する。
図7および図8に示すように、比較例によるシュー101は、ピストン10の先端に接続される球状のピストン接続部102と、ピストン接続部102と一体形成された円板部103とを含んで構成されている。円板部103は、大径円板部103Aと小径円板部103Bとを有し、大径円板部103Aには、斜板12の平滑面12Aに摺動可能に当接する斜板摺動面103Cと、リテーナ13に当接するリテーナ当接面103Dとが設けられている。しかし、大径円板部103Aの外周面には、本実施形態による外周溝24は設けられていない。
比較例によるシュー101が、斜板12の平滑面12A上を環状の軌跡を描くように摺動するときには、シュー101に遠心力が作用することにより、図8に示すように、シュー101の斜板摺動面103Cに対して矢印F方向のモーメントが作用する。これにより、シュー101の斜板摺動面103Cが、斜板12の平滑面12Aに対して傾斜し、斜板摺動面103Cのうち回転軸5側に位置する外周側部位103C1が、斜板12の平滑面12Aに対して点接触するようになる。この結果、斜板12の平滑面12Aに対するシュー101の斜板摺動面103Cの接触面圧が局所的に過大となり、斜板12の平滑面12A、シュー101の斜板摺動面103Cの摩耗が進行してしまう不具合がある。
一方、円板部103のリテーナ当接面103Dに着目すると、シュー101の斜板摺動面103Cが、斜板12の平滑面12Aに対して傾斜した場合には、リテーナ当接面103Dのうち回転軸5から離れる側に位置する外周側部位103D1が、リテーナ13に対して点接触するようになる。この結果、リテーナ13に対するシュー101のリテーナ当接面103Dの接触面圧が局所的に過大となり、リテーナ13、シュー101のリテーナ当接面103Dの摩耗が進行してしまう不具合がある。
これに対し、本実施形態によるシュー21は、円板部23の外周面に外周溝24を設けることにより、油圧ポンプ1の作動時にシュー21に大きな遠心力が作用し、シュー21の斜板摺動面23Cが斜板12の平滑面12Aに対して傾いた場合でも、外周溝24が変形することにより、斜板摺動面23Cのうち回転軸5側に位置する外周側部位23C1を、斜板12の平滑面12Aに対して面接触させることができる。この結果、斜板12の平滑面12Aとシュー21の斜板摺動面23Cとの接触面圧を緩和し、平滑面12Aと斜板摺動面23Cとの局所的な摩耗を低減することができる。
同様に、シュー21のリテーナ当接面23Dのうち、回転軸5から離れる側に位置する外周側部位23D1を、リテーナ13に対して面接触させることができる。この結果、シュー21のリテーナ当接面23Dとリテーナ13との接触面圧を緩和し、リテーナ当接面23Dとリテーナ13との局所的な摩耗を低減することができる。さらに、シュー21は、大径円板部23Aの外周面に形成された外周溝24が、開口端24Aから溝底部24Bに向けて溝幅が漸次小さくなるテーパ状の断面形状を有している。これにより、外周溝24の開口端24A側では比較的大きな変形が許容され、溝底部24B側では変形が抑制されるので、シュー21の耐久性を高めることができる。
かくして、本実施形態による油圧ポンプ1は、ケーシング2と、ケーシング2内に回転可能に設けられた回転軸5と、回転軸5と一体に回転するシリンダブロック8と、シリンダブロック8のシリンダ9内に往復動可能に挿嵌された複数のピストン10と、複数のピストン10の先端にそれぞれ設けられた複数のシュー21と、複数のシュー21が摺動する斜板12と、複数のシュー21を斜板12に押し付けるように保持するリテーナ13とを備え、シュー21は、ピストン10の先端に揺動可能に接続されるピストン接続部22と、斜板12に摺動可能に当接する斜板摺動面23Cおよびリテーナ13に当接するリテーナ当接面23Dが設けられた円板部23とを有している。そして、円板部23の外周面には、円板部23の外周面から中心に向けて凹陥する外周溝24が設けられ、外周溝24は、円板部23の外周面に開口する開口端24Aと、開口端24Aから円板部23の中心側に配置された溝底部24Bとを有し、外周溝24の溝幅は、開口端24Aから溝底部24Bに向けて小さくなる。
この構成によれば、油圧ポンプ1の作動時にシュー21に遠心力が作用し、円板部23の斜板摺動面23Cが、斜板12の平滑面12Aに対して傾斜したとしても、外周溝24が変形することにより、斜板摺動面23Cの外周側を斜板12の平滑面12Aに対して面接触させることができ、かつリテーナ当接面23Dの外周側をリテーナ13に対して面接触させることができる。この結果、斜板摺動面23Cと斜板12(平滑面12A)との局所的な摩耗、およびリテーナ当接面23Dとリテーナ13との局所的な摩耗を抑えることができる。しかも、外周溝24の開口端24A側では比較的大きな変形が許容され、溝底部24B側では変形が抑制されるので、シュー21の耐久性を高めることができる。
次に、図9および図10は本発明の第2の実施形態を示している。本実施形態の特徴は、厚さ寸法が小さい円板部を有するシューにおいて、この円板部の外周面に外周溝を形成したことにある。なお、本実施形態では、第1の実施形態と同一の構成要素に同一符号を付し、その説明を省略する。
図中、シュー31は、第1の実施形態によるシュー21と同様に、ピストン10の先端に接続される球状のピストン接続部32と、斜板12に当接する円板部33とを含んで構成され、ピストン接続部32と円板部33を貫通する油孔31Aを有している。円板部33は、大径円板部33Aと小径円板部33Bとを有する段付き円板状に形成され、大径円板部33Aには、斜板摺動面33C、リテーナ当接面33D、ポケット33Eが設けられている。しかし、大径円板部33Aの厚さ寸法H3は、第1の実施形態によるシュー21の大径円板部23Aの厚さ寸法H2よりも小さく形成されている(H3<H2)。
外周溝34は、円板部33の大径円板部33Aの外周面から中心に向けて環状に凹陥する全周溝として形成されている。外周溝34は、大径円板部33Aの外周面に開口する開口端34Aと、開口端34Aから大径円板部33Aの中心側に配置された溝底部34Bとを有している。外周溝34は、第1の実施形態によるシュー21の外周溝24と同様に、開口端34Aから溝底部34Bに向けて溝幅が漸次小さくなるテーパ状の断面形状を有している。そして、外周溝34の開口端34Aから溝底部34Bまでの溝深さLcは、開口端24Aの溝幅Hcよりも大きく設定されている(Lc>Hc)。
第2の実施形態によるシュー31は上述の如き構成を有するもので、以下、油圧ポンプ1の作動時におけるシュー31の動作について説明する。
油圧ポンプ1が作動して回転軸5と共にシリンダブロック8が回転すると、ピストン10の先端に設けられたシュー31は、ピストン10の推力によって斜板12の平滑面12Aに押付けられた状態で、回転軸5を中心とした環状の軌跡を描くように斜板12の平滑面12A上を摺動する。このとき、大径円板部33Aの斜板摺動面33Cは、平滑面12Aに当接し、リテーナ当接面33Dはリテーナ13に当接する。この場合、シュー31は、大径円板部33Aの厚さ寸法H3が小さく形成されているため、ピストン10の推力によって円板部33の中央部が平滑面12Aに押付けられることにより、斜板摺動面33Cの外周縁が、平滑面12Aから離れる方向に反り返るように変形する。
この場合、大径円板部33Aの斜板摺動面33Cとリテーナ当接面33Dとの間には、全周に亘って外周溝34が形成されている。このため、斜板摺動面33Cの外周縁が平滑面12Aから離れる方向に反り返るように変形したとしても、この変形がリテーナ当接面33Dに及ぶことがなく、リテーナ当接面33Dは、大きな接触面圧をもってリテーナ13に面接触することができる。この結果、油圧ポンプ1の作動時に、シュー31のリテーナ当接面33Dとリテーナ13との間で局所的な摩耗が生じるのを抑えることができる。
次に、本実施形態によるシュー31と比較例によるシューとの比較について説明する。
図11および図12に示すように、比較例によるシュー111は、ピストン10の先端に接続される球状のピストン接続部112と、斜板12に当接する円板部113とを含んで構成されている。円板部113は、大径円板部113Aと小径円板部113Bとを有し、大径円板部113Aの厚さ寸法は、本実施形態による大径円板部33Aの厚さ寸法H3と等しく設定されている。大径円板部113Aには、斜板12の平滑面12Aに摺動可能に当接する斜板摺動面113Cと、リテーナ13に当接するリテーナ当接面113Dとが設けられている。しかし、大径円板部113Aの外周面には、本実施形態による外周溝34は設けられていない。
比較例によるシュー111が、斜板12の平滑面12A上を環状の軌跡を描くように摺動するときには、大径円板部113Aの斜板摺動面113Cは、平滑面12Aに当接し、リテーナ当接面113Dはリテーナ13に当接する。この場合、シュー111は、大径円板部113Aの厚さ寸法H3が小さく形成されているため、ピストン10の推力によって円板部113の中央部が平滑面12Aに押付けられると、大径円板部113Aの外周縁が、平滑面12Aから離れる方向に反り返るように変形する。これにより、リテーナ当接面113Dの外周縁が、リテーナ13に対して点接触または線接触するようになる。この結果、リテーナ13に対するシュー111のリテーナ当接面113Dの接触面圧が局所的に過大となり、リテーナ当接面113Dとリテーナ13との間で局所的な摩耗が生じるという不具合がある。
これに対し、本実施形態によるシュー31は、大径円板部33Aの外周面に外周溝34を設けることにより、ピストン10の推力によって斜板摺動面33Cの外周縁が平滑面12Aから離れる方向に反り返るように変形したとしても、この変形がリテーナ当接面33Dに及ぶことがなく、リテーナ当接面33Dを、大きな接触面圧をもってリテーナ13に面接触させることができる。この結果、油圧ポンプ1の作動時に、シュー31のリテーナ当接面33Dとリテーナ13との間で局所的な摩耗が生じるのを抑え、両者の摩耗を低減することができる。
次に、図13および図14は本発明の第3の実施形態を示している。本実施形態の特徴は、外周溝の溝底部を曲面形状としたことにある。なお、本実施形態では、第1の実施形態と同一の構成要素に同一符号を付し、その説明を省略する。
本実施形態によるシュー41は、第1の実施形態によるシュー21と同様に、ピストン10の先端に接続される球状のピストン接続部42と、斜板12に当接する円板部43とを含んで構成され、ピストン接続部42と円板部43を貫通する油孔41Aを有している。円板部43は、大径円板部43Aと小径円板部43Bとを有する段付き円板状に形成されている。大径円板部43Aには、斜板摺動面43C、リテーナ当接面43D、ポケット43Eが設けられ、大径円板部43Aの外周面には外周溝44が形成されている。しかし、外周溝44の形状は、第1の実施形態による外周溝24とは異なっている。
シュー41の外周溝44は、大径円板部43Aの外周面に開口する開口端44Aと、開口端44Aから大径円板部43Aの中心側に配置された溝底部44Bとを有している。溝底部44Bは、開口端44Aと等しい溝幅を有し、この溝幅を直径とする半円形の曲面形状に形成されている。
第3の実施形態によるシュー41は、上述の如き外周溝44を有するもので、その基本的な作用効果については、第1の実施形態によるシュー21と格別差異はない。然るに、本実施形態による外周溝44は、溝底部44Bを曲面形状とすることにより、外周溝44の開口端44Aが溝幅が狭まるように変形したときに、溝底部44Bの周辺に応力が集中するのを抑えることができ、シュー41の耐久性を高めることができる。
なお、第1の実施形態では、シュー21の大径円板部23Aに形成された外周溝24の溝底部24Bを平面状に形成した場合を例示している。しかし、本発明はこれに限らず、例えば図15に示す第1の変形例のように、開口端24A′と、開口端24A′よりも小さな溝幅を有し、半円形の曲面形状に形成された溝底部24B′とからなる外周溝24′を設ける構成としてもよい。
また、第1の実施形態では、大径円板部23Aの斜板摺動面23Cにポケット23Eが設けられたシュー21に、外周溝24を設けた場合を例示している。しかし、本発明はこれに限らず、例えば図16および図17に示す第2の変形例によるシュー51に、外周溝を設ける構成としてもよい。
第2の変形例によるシュー51は、ピストン接続部52と、円板部53と、これらピストン接続部52と円板部53を貫通する油孔51Aとを含んで構成されている。円板部53は、大径円板部53Aと小径円板部53Bとを有し、大径円板部53Aには、斜板摺動面53C、リテーナ当接面53D、ポケット53Eが設けられている。さらに、斜板摺動面53Cには、例えば2個の環状の油溝53Fと、この油溝53Fによって仕切られた3個のパッド53Gが形成されている。このような油溝53Fおよびパッド53Gが形成された大径円板部53Aの外周面に、全周に亘って外周溝54を設ける構成としてもよい。
また、第1の実施形態では、シュー21の大径円板部23Aの厚さ方向の中央部に外周溝24を形成し、大径円板部23Aのうち外周溝24から斜板摺動面23Cまでの厚さ寸法と、外周溝24からリテーナ当接面23Dまでの厚さ寸法とを等しく設定した構成を例示している。
しかし、本発明はこれに限らず、例えば図18に示す第3の変形例によるシュー61のように構成してもよい。第3の変形例によるシュー61は、ピストン接続部62と、円板部63と、油孔61Aとを含んで構成されている。円板部63は、大径円板部63Aと小径円板部63Bとを有し、大径円板部63Aには、斜板摺動面63C、リテーナ当接面63D、ポケット63Eが設けられている。大径円板部63Aの外周面には、外周溝64が設けられ、この外周溝64は、大径円板部63Aの厚さ方向の中央部よりもリテーナ当接面63D側に片寄った位置に形成されている。従って、シュー61の大径円板部63Aは、外周溝64を挟んで斜板摺動面63C側の厚さが、リテーナ当接面63D側の厚さよりも大きくなっている。
これにより、油圧ポンプ1の作動時にシュー61に遠心力が作用し、斜板摺動面63Cが斜板12の平滑面12Aに対して傾斜したときに、斜板摺動面63Cの変形が抑えられる。この結果、ポケット63E内に作動油が保持され、斜板12の平滑面12Aと斜板摺動面63Cとの間の潤滑性が確保できるので、斜板12とシュー61との間の摩耗を低減することができる。
また、第1の実施形態では、ピストン10の先端に球形凹部10Aが設けられ、シュー21は、ピストン10の球形凹部10Aに嵌合する球状の突起からなるピストン接続部22と、斜板摺動面23Cを有する円板部23とを有し、この円板部23(大径円板部23A)の外周面に外周溝24を設ける構成を例示している。しかし、本発明はこれに限らず、例えば図19に示す第4の変形例によるシュー71に外周溝を設ける構成としてもよい。
第4の変形例によるシュー71は、凹球面状のピストン接続部72と円板部73とを含んで構成されている。ピストン接続部72は、ピストン74の先端に設けられた球形凸部74Aに揺動可能に嵌合している。このように構成されたシュー71の円板部73の外周面に、全周に亘って外周溝75を設ける構成としてもよい。
さらに、実施形態では、斜板式液圧回転機として、可変容量型の油圧ポンプ1を例示している。しかし、本発明はこれに限らず、例えば容量固定型の斜板式油圧ポンプに適用してもよく、斜板式油圧モータに適用してもよい。