JP2022126521A - ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ - Google Patents
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Abstract
【課題】ヒューム及びスパッタ発生量が少なく、溶接作業性に優れ、さらに大入熱・高パス間温度の溶接施工条件下においても良好な機械的性質を有する溶接金属を得ることができるガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤを提供する。【解決手段】鋼製外皮中のCが鋼製外皮全質量に対する質量%で0.02%以下含有し、ワイヤ全質量に対する質量%で、鋼製外皮とフラックスの合計で、C:0.01~0.08%、Si:0.4~1.4%、Mn:1.5~3.0%、Cu:0.05~0.5%、Ti:0.1~0.3%を含有し、S:0.007%以下であり、さらに、ワイヤ全質量に対する質量%で、フラックス中に、F換算値の合計で0.005~0.10%、SiO2換算値の合計で0.01~0.2%、K2O換算値の合計で0.01~0.10%を含有し、Na2O換算値の合計が0.01%以下であることを特徴とする。【選択図】なし
Description
本発明は、490~550MPa級鋼のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤであって、特に高電流で溶接するときのヒューム発生量及びスパッタ発生量が少なく、溶接作業性に優れ、さらに大入熱・高パス間温度の溶接施工条件下においても良好な機械的性質を有する溶接金属を得ることができるガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤに関する。
造船及び建築鉄骨分野では、溶接能率向上を図るため、高電流域でのガスシールドアーク溶接方法が従来から使用されている。ガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤを用いた高電流溶接では、単時間当たりの溶着量を多くできるので溶接の高能率化が可能であるが、アークが不安定でスパッタ発生量が多く、ビード外観・形状が不良であるなど溶接作業性が悪いという問題がある。
一方、ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤを用いた高電流溶接では、ヒューム発生量が多くなるという問題の他、スラグ発生量も多くなるので、スラグ巻き込みなどの溶接欠陥が発生しやすいという問題がある。
これらの問題を解決する手段として、スパッタ発生量が少ないガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤの開発が行われており、例えば特許文献1には、希土類元素を含有し、ワイヤ表面に固形潤滑剤を有し、さらに固形潤滑剤の外周面に液体潤滑剤皮膜を有することによって、スパッタ発生量が少なく、かつワイヤ送給性を良好にする技術が開示されている。また、特許文献2には、2種類以上のアルカリ金属を含侵させたアルカリ金属含侵部をワイヤ表層下に形成させることによってスパッタ発生量を低減できるガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤが開示されている。しかし、ガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤを用いた大電流溶接では、発生するスパッタ自体が多いので、たとえワイヤ送給性が良好になってもスパッタ発生量を十分に低減できず、またビード外観・形状も改善できないという問題があった。
一方、ヒューム発生量が少ないガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤの開発も行われており、例えば特許文献3には、鋼製外皮中のC、Ti、Alを調整し、フラックス中のアルカリ金属としてCs及び/またはRbを添加することによってヒューム発生量を低減できる技術の開示がある。このフラックス入りワイヤは、ヒューム発生量の低減については良好であるが、大電流溶接では安定した溶接金属の強度及び靭性を得ることはできない。また、スラグ系フラックス入りワイヤであるのでスラグ生成量が多くなるのでスラグ巻き込み欠陥が生じやすいという問題があった。
また近年では、さらなる溶接施工の効率化を目的として、大入熱・高パス間温度の溶接施工条件に対応するガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤが開発されており、JIS Z3312 YGW18に規定されている。このようなガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤは、溶接金属の強度及び靭性の低下を招くことなく溶接施工が可能な条件として、引張強さが490MPa級の高張力鋼に対して、最大入熱40kJ/cm、最高パス間温度350℃の溶接施工条件が許容される。また、引張強さが520MPa級の高張力鋼に対しては、最大入熱30kJ/cm、最大パス間温度250℃の溶接施工条件が許容される。
大入熱・高パス間温度の溶接施工条件に対応したガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤは、例えば特許文献4~6にあるように、ワイヤにMo、Ti、Bを含有したものが提案されている。これらのソリッドワイヤによれば、大入熱・高パス間温度の溶接施工条件においても、溶接金属の強度及び靭性を確保することが可能であるが、やはりアークが不安定でスパッタ発生量が多く、ビード外観・形状が不良であるなど溶接作業性が悪いという問題があった。
大入熱・高パス間温度の溶接施工条件で溶接金属の強度及び靭性を確保しつつ、溶接作業性が良好なガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤとして、例えば特許文献7や特許文献8には、大入熱・高パス間温度の溶接施工条件の下で、良好な溶接作業性が得られるとともに、機械的性質が優れた溶接金属が得られるフラックス入りワイヤが開示されている。しかし、これらのフラックス入りワイヤでは、ヒューム発生量が多いという問題があった。また、後者はスラグ生成量も多くなるので、スラグ巻き込みなどの溶接欠陥が発生しやすくなるという問題があった。
そこで本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、490~550MPa級鋼のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤであって、特に高電流で溶接するときのヒューム発生量及びスパッタ発生量が少なく、溶接作業性に優れ、さらに大入熱・高パス間温度の溶接施工条件下においても良好な機械的性質を有する溶接金属を得ることができるガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤを提供することを目的とする。
本発明者らは、490~550MPa級鋼における高電流の溶接、さらに大入熱・高パス間温度でのガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤについて、適正な強度及び靱性を有する溶接金属が得られるとともに、アークが安定し、ヒューム発生量及びスパッタ発生量が少なく、ビード形状・外観に優れ、溶接欠陥が防止できるなど良好な溶接作業性が得られるガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤの成分組成について詳細に検討した。
その結果、鋼製外皮中のC、ワイヤ中のS及びNa酸化物の含有量を少なくすることにより高電流の溶接施工条件においてもヒューム発生量を低減できることを見出した。
また、その他の溶接作業性については、ワイヤ中のC、金属弗化物のF換算値の合計及びK酸化物のK2O換算値の合計を適量とすることでアークを安定化させてスパッタ発生量を低減させ、Si酸化物のSiO2換算値の合計を適量とすることでビード形状・外観を良好にすることを見出した。
さらに、高電流の溶接施工条件においても溶接金属の適正な強度と安定した靱性を達成するために、ワイヤ中のスラグ生成剤である酸化物を極力減らし、合金成分のC、Si、Mn、Cu、Tiのそれぞれの適量化が有効であることを見出した。
また、ワイヤ中のMo、B量を適量にすることにより、大入熱・高パス間温度の溶接施工条件においても、溶接金属の靱性を低下させることなく高強度化が可能であることも見出した。
さらに、ワイヤ中のAl及びMgを適量にすることにより、溶接金属の靭性をさらに良好にすることも見出した。
すなわち、本発明の要旨は、鋼製外皮にフラックスを充填してなるガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤにおいて、鋼製外皮中のCが鋼製外皮全質量に対する質量%で0.02%以下含有し、ワイヤ全質量に対する質量%で、鋼製外皮とフラックスの合計で、C:0.01~0.08%、Si:0.4~1.4%、Mn:1.5~3.0%、Cu:0.05~0.5%、Ti:0.1~0.3%を含有し、S:0.007%以下であり、さらに、ワイヤ全質量に対する質量%で、フラックス中に、金属弗化物:F換算値の合計で0.005~0.10%、Si酸化物:SiO2換算値の合計で0.01~0.2%、K酸化物:K2O換算値の合計で0.01~0.10%を含有し、Na酸化物:Na2O換算値の合計が0.01%以下であり、残部が、鋼製外皮のFe、成分調整のために添加する鉄粉、鉄合金のFe分及び不可避不純物からなることを特徴とする。
また、ワイヤ全質量に対する質量%で、鋼製外皮とフラックスの合計で、Mo:0.5%以下、B:0.010%以下をさらに含有することも特徴とする。
さらに、ワイヤ全質量に対する質量%で、鋼製外皮とフラックスの合計で、Al及びMgの一方または両方の合計:0.25%以下をさらに含有することも特徴とするガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤにある。
上述した構成からなる本発明を適用したガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤによれば、490~550MPa級鋼を溶接するにあたり、特に高電流で溶接するときのヒューム発生量及びスパッタ発生量が少なく、アークの安定性が良好で、ビード外観・形状に優れ、スラグ生成量が少なく溶接欠陥を防止できるなど溶接作業性が良好で、さらに、大入熱・高パス間温度の溶接施工条件下においても溶接金属の強度及び靭性を十分に確保し、高能率で高品質な溶接金属を得ることができる。
以下、本発明を適用したガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤの成分と、その組成の限定理由とについて説明する。なお、各成分組成の含有量は、質量%で表すものとし、その質量%に関する記載を単に%と記載して表すこととする。
[鋼製外皮中のC:鋼製外皮全質量に対する質量%で0.02%以下]
鋼製外皮中のCを鋼製外皮全質量に対し0.02%以下とすることでCO2ガスシールドアーク溶接において、溶滴移行時に発生する溶滴の破裂現象が抑制され、溶融プール及びアーク状態が安定し、スパッタ発生量及びヒューム発生量が低減する。従って、鋼製外皮全質量に対する鋼製外皮中のCは0.02%以下とする。
鋼製外皮中のCを鋼製外皮全質量に対し0.02%以下とすることでCO2ガスシールドアーク溶接において、溶滴移行時に発生する溶滴の破裂現象が抑制され、溶融プール及びアーク状態が安定し、スパッタ発生量及びヒューム発生量が低減する。従って、鋼製外皮全質量に対する鋼製外皮中のCは0.02%以下とする。
以下、各成分の含有量は、フラックス入りワイヤ全質量に対する質量%で示し、その質量%に関する記載を単に%と記載して表すこととする。
[鋼製外皮とフラックスの合計でC:0.01~0.08%]
Cは、溶接金属の強度を向上させる効果がある。Cが0.01%未満であると、十分な溶接金属の強度が得られない。一方、Cが0.08%を超えると、溶接金属の強度が高くなり靱性が低下する。従って、鋼製外皮とフラックスの合計でCは0.01~0.08%とする。なお、Cは鋼製外皮に含まれる成分の他、フラックスから金属粉及び合金粉末等から添加できる。
Cは、溶接金属の強度を向上させる効果がある。Cが0.01%未満であると、十分な溶接金属の強度が得られない。一方、Cが0.08%を超えると、溶接金属の強度が高くなり靱性が低下する。従って、鋼製外皮とフラックスの合計でCは0.01~0.08%とする。なお、Cは鋼製外皮に含まれる成分の他、フラックスから金属粉及び合金粉末等から添加できる。
[鋼製外皮とフラックスの合計でSi:0.4~1.4%]
Siは、脱酸剤であり溶接金属の酸素量を調整する。またSiは、溶接金属の強度を向上させる効果がある。Siが0.4%未満であると、脱酸不足となり溶接金属の強度が低く、靱性が低下する。一方、Siが1.4%を超えると、溶接金属の強度が過剰に高くなり、靱性が安定して得られない。またSiが1.4%を超えると、溶接時に生成するスラグ量が増加してスラグ巻込み等の溶接欠陥が発生しやすくなる。従って、鋼製外皮とフラックスの合計でSiは0.4~1.4%とする。なお、Siは鋼製外皮に含まれる成分の他、フラックスから金属Si、Fe-Si、Fe-Si-Mn等の合金粉末から添加できる。
Siは、脱酸剤であり溶接金属の酸素量を調整する。またSiは、溶接金属の強度を向上させる効果がある。Siが0.4%未満であると、脱酸不足となり溶接金属の強度が低く、靱性が低下する。一方、Siが1.4%を超えると、溶接金属の強度が過剰に高くなり、靱性が安定して得られない。またSiが1.4%を超えると、溶接時に生成するスラグ量が増加してスラグ巻込み等の溶接欠陥が発生しやすくなる。従って、鋼製外皮とフラックスの合計でSiは0.4~1.4%とする。なお、Siは鋼製外皮に含まれる成分の他、フラックスから金属Si、Fe-Si、Fe-Si-Mn等の合金粉末から添加できる。
[鋼製外皮とフラックスの合計でMn:1.5~3.0%]
Mnは、溶接金属の靱性及び強度を向上させる効果がある。Mnが1.5%未満であると、溶接金属の強度が低くなり靱性が低下する。一方、Mnが3.0%を超えると、溶接金属の強度が高くなり、靱性が安定して得られない。またMnが3.0%を超えると、溶接時に生成するスラグ量が増加してスラグ巻込み等の溶接欠陥が発生しやすくなる。従って、鋼製外皮とフラックスの合計でMnは1.5~3.0%とする。なお、Mnは、鋼製外皮に含まれる成分の他、金属Mn、Fe-Mn、Fe-Si-Mn等の合金粉末から添加できる。
Mnは、溶接金属の靱性及び強度を向上させる効果がある。Mnが1.5%未満であると、溶接金属の強度が低くなり靱性が低下する。一方、Mnが3.0%を超えると、溶接金属の強度が高くなり、靱性が安定して得られない。またMnが3.0%を超えると、溶接時に生成するスラグ量が増加してスラグ巻込み等の溶接欠陥が発生しやすくなる。従って、鋼製外皮とフラックスの合計でMnは1.5~3.0%とする。なお、Mnは、鋼製外皮に含まれる成分の他、金属Mn、Fe-Mn、Fe-Si-Mn等の合金粉末から添加できる。
[鋼製外皮とフラックスの合計でCu:0.05~0.5%]
Cuは、析出強化作用を有し、変態温度を低下させ溶接金属の組織を微細化して靭性を安定させる効果がある。Cuが0.05%未満であると、この効果が得られず、安定した溶接金属の靭性が得られない。一方、Cuが0.5%を超えると、析出脆化が生じて溶接金属の靭性が低下し、また高温割れが生じやすくなる。従って、鋼製外皮とフラックスの合計でCuは0.05~0.5%とする。なお、Cuは、鋼製外皮に含まれる成分及び鋼製外皮表面に施したCuめっき分の他、フラックスからの金属Cu、Fe-Si-Cu等の合金粉から添加できる。
Cuは、析出強化作用を有し、変態温度を低下させ溶接金属の組織を微細化して靭性を安定させる効果がある。Cuが0.05%未満であると、この効果が得られず、安定した溶接金属の靭性が得られない。一方、Cuが0.5%を超えると、析出脆化が生じて溶接金属の靭性が低下し、また高温割れが生じやすくなる。従って、鋼製外皮とフラックスの合計でCuは0.05~0.5%とする。なお、Cuは、鋼製外皮に含まれる成分及び鋼製外皮表面に施したCuめっき分の他、フラックスからの金属Cu、Fe-Si-Cu等の合金粉から添加できる。
[鋼製外皮とフラックスの合計でTi:0.1~0.3%]
Tiは、特に高電流での溶接及び大入熱・高パス間温度での溶接施工時にアークを安定にし、脱酸剤として作用するとともに、溶接金属中にTiの微細酸化物を生成し溶接金属の靭性をより向上させる効果がある。Tiが0.1%未満であると、この効果が得られず、高電流での溶接及び大入熱・高パス間温度での溶接施工時にアークが不安定になるとともに溶接金属の靭性が低下する。一方、Tiが0.3%を超えると、溶接金属中にTiの析出物が多くなり、靭性が低下する。従って、鋼製外皮とフラックスの合計でTiは0.1~0.3%とする。なお、Tiは、鋼製外皮に含まれる成分の他、フラックスからの金属Ti、Fe-Ti等の合金粉から添加できる。
Tiは、特に高電流での溶接及び大入熱・高パス間温度での溶接施工時にアークを安定にし、脱酸剤として作用するとともに、溶接金属中にTiの微細酸化物を生成し溶接金属の靭性をより向上させる効果がある。Tiが0.1%未満であると、この効果が得られず、高電流での溶接及び大入熱・高パス間温度での溶接施工時にアークが不安定になるとともに溶接金属の靭性が低下する。一方、Tiが0.3%を超えると、溶接金属中にTiの析出物が多くなり、靭性が低下する。従って、鋼製外皮とフラックスの合計でTiは0.1~0.3%とする。なお、Tiは、鋼製外皮に含まれる成分の他、フラックスからの金属Ti、Fe-Ti等の合金粉から添加できる。
[鋼製外皮とフラックスの合計でS:0.007%以下]
Sは、鋼製外皮及びフラックス中の金属粉及び合金鉄に不純物として存在し、微量で溶滴の表面張力を低下する作用がある。Sが0.007%未満であると、溶接時の溶滴が大きくなることから、アーク雰囲気中で金属の蒸発を抑えて、ヒュームの発生を抑制する。一方、Sが0.007%を超えると、特に高電流での溶接及び大入熱・高パス間温度での溶接時の溶滴が小さくなり溶滴の表面積が大きくなって、アーク雰囲気中で金属が蒸発してヒューム発生量が多くなる。従って、鋼製外皮とフラックスの合計でSは0.007%以下とする。
Sは、鋼製外皮及びフラックス中の金属粉及び合金鉄に不純物として存在し、微量で溶滴の表面張力を低下する作用がある。Sが0.007%未満であると、溶接時の溶滴が大きくなることから、アーク雰囲気中で金属の蒸発を抑えて、ヒュームの発生を抑制する。一方、Sが0.007%を超えると、特に高電流での溶接及び大入熱・高パス間温度での溶接時の溶滴が小さくなり溶滴の表面積が大きくなって、アーク雰囲気中で金属が蒸発してヒューム発生量が多くなる。従って、鋼製外皮とフラックスの合計でSは0.007%以下とする。
[フラックス中の金属弗化物:F換算値の合計で0.005~0.10%]
金属弗化物は、アークを集中させて安定させる効果がある。金属弗化物のF換算値の合計が0.005%未満では、この効果が得られず、アークが不安定でスパッタ発生量が多くなる。一方、金属弗化物のF換算値の合計が0.10%を超えると、アークが不安定になり、スパッタ発生量が多くなる。従って、フラックス中に含有する金属弗化物のF換算値の合計は0.005~0.10%とする。なお、金属弗化物は、フラックスからのCaF2、NaF、LiF、MgF2、K2SiF6、Na3AlF6、AlF3等から添加でき、F換算値はそれらに含有されるFの含有量の合計である。
金属弗化物は、アークを集中させて安定させる効果がある。金属弗化物のF換算値の合計が0.005%未満では、この効果が得られず、アークが不安定でスパッタ発生量が多くなる。一方、金属弗化物のF換算値の合計が0.10%を超えると、アークが不安定になり、スパッタ発生量が多くなる。従って、フラックス中に含有する金属弗化物のF換算値の合計は0.005~0.10%とする。なお、金属弗化物は、フラックスからのCaF2、NaF、LiF、MgF2、K2SiF6、Na3AlF6、AlF3等から添加でき、F換算値はそれらに含有されるFの含有量の合計である。
[フラックス中のSi酸化物:SiO2換算値の合計で0.01~0.2%]
フラックス中のSi酸化物は、溶融スラグの粘性を高めてスラグ被包性を向上させてビード止端部のなじみを良好にし、ビード外観・形状を良好にする効果がある。Si酸化物のSiO2換算値の合計が0.01%未満であると、溶接ビードの止端部のなじみが悪くなり、ビード外観・形状が悪くなる。一方、Si酸化物のSiO2換算値の合計が0.2%を超えると、溶接金属中の酸素量が増加して靭性が低下する。また、Si酸化物のSiO2換算値の合計が0.2%を超えるとスラグ量が多くなり、スラグ巻込み等の溶接欠陥が発生しやすくなる。従って、フラックス中に含有するSi酸化物のSiO2換算値の合計は0.01~0.2%とする。なお、Si酸化物は、フラックスからの珪砂、正長石、珪酸カリウムからなる水ガラスの固質成分等から添加できる。
フラックス中のSi酸化物は、溶融スラグの粘性を高めてスラグ被包性を向上させてビード止端部のなじみを良好にし、ビード外観・形状を良好にする効果がある。Si酸化物のSiO2換算値の合計が0.01%未満であると、溶接ビードの止端部のなじみが悪くなり、ビード外観・形状が悪くなる。一方、Si酸化物のSiO2換算値の合計が0.2%を超えると、溶接金属中の酸素量が増加して靭性が低下する。また、Si酸化物のSiO2換算値の合計が0.2%を超えるとスラグ量が多くなり、スラグ巻込み等の溶接欠陥が発生しやすくなる。従って、フラックス中に含有するSi酸化物のSiO2換算値の合計は0.01~0.2%とする。なお、Si酸化物は、フラックスからの珪砂、正長石、珪酸カリウムからなる水ガラスの固質成分等から添加できる。
[フラックス中のK酸化物:K2O換算値の合計で0.01~0.10%]
K酸化物は、アークを安定にする効果がある。K酸化物のK2O換算値の合計が0.01%未満であると、アークが不安定になり、スパッタ発生量が多くなる。一方、K酸化物のK2O換算値の合計が0.10%を超えると、アークが不安定でスパッタ発生量が多くなる。また、K酸化物のK2O換算値の合計が0.10%を超えると、溶接時に生成するスラグ量が多くなり、スラグ巻込み等の溶接欠陥が発生しやすくなる。従って、フラックス中に含有するK酸化物のK2O換算値の合計は0.01~0.10%とする。なお、K酸化物は、珪酸カリウムからなる水ガラスの固質成分、正長石等の粉末から添加できる。
K酸化物は、アークを安定にする効果がある。K酸化物のK2O換算値の合計が0.01%未満であると、アークが不安定になり、スパッタ発生量が多くなる。一方、K酸化物のK2O換算値の合計が0.10%を超えると、アークが不安定でスパッタ発生量が多くなる。また、K酸化物のK2O換算値の合計が0.10%を超えると、溶接時に生成するスラグ量が多くなり、スラグ巻込み等の溶接欠陥が発生しやすくなる。従って、フラックス中に含有するK酸化物のK2O換算値の合計は0.01~0.10%とする。なお、K酸化物は、珪酸カリウムからなる水ガラスの固質成分、正長石等の粉末から添加できる。
[フラックス中のNa酸化物:Na2O換算値の合計で0.01%以下]
Na酸化物のNa2O換算値の合計が0.01%を超えると、特に高電流での溶接及び大入熱・高パス間温度での溶接施工時にヒューム発生量が多くなる。従って、フラックス中に含有するNa酸化物のNa2O換算値の合計は0.01%以下とする。なお、Na酸化物は必須の成分ではなく、含有率が0%でもよい。
Na酸化物のNa2O換算値の合計が0.01%を超えると、特に高電流での溶接及び大入熱・高パス間温度での溶接施工時にヒューム発生量が多くなる。従って、フラックス中に含有するNa酸化物のNa2O換算値の合計は0.01%以下とする。なお、Na酸化物は必須の成分ではなく、含有率が0%でもよい。
[鋼製外皮とフラックスの合計でMo:0.5%以下]
Moは、大入熱・高パス間温度の溶接施工条件で、溶接金属の強度を確保するうえで重要である。しかし、Moが0.5%を超えると、溶接金属の強度が過剰に高くなり、靭性が安定して得られない。従って、鋼製外皮とフラックスの合計でMoは0.5%以下とする。なお、大入熱・高パス間温度の溶接施工条件で、溶接金属の強度を確保するために、Moは0.15%以上であることが好ましい。Moは、鋼製外皮に含まれる成分の他、フラックスからの金属Mo粉から添加できる。
Moは、大入熱・高パス間温度の溶接施工条件で、溶接金属の強度を確保するうえで重要である。しかし、Moが0.5%を超えると、溶接金属の強度が過剰に高くなり、靭性が安定して得られない。従って、鋼製外皮とフラックスの合計でMoは0.5%以下とする。なお、大入熱・高パス間温度の溶接施工条件で、溶接金属の強度を確保するために、Moは0.15%以上であることが好ましい。Moは、鋼製外皮に含まれる成分の他、フラックスからの金属Mo粉から添加できる。
[鋼製外皮とフラックスの合計でB:0.010%以下]
Bは、大入熱・高パス間温度での溶接施工条件において、溶接金属の結晶粒界に生成する粒界フェライトの生成を抑制し靭性を向上させる効果がある。しかし、Bが0.010%を超えると、結晶粒界が脆化して靭性が低下し、また高温割れが発生しやすくなる。従って、鋼製外皮とフラックスの合計でBは0.010%以下とする。なお、大入熱・高パス間温度での溶接施工条件での溶接金属の組織を微細化して靭性を向上させるために、Bは0.0015%以上であることが好ましい。Bは、鋼製外皮に含まれる成分の他、Fe-Si-B、Fe-Mn-B等の合金粉から添加できる。
Bは、大入熱・高パス間温度での溶接施工条件において、溶接金属の結晶粒界に生成する粒界フェライトの生成を抑制し靭性を向上させる効果がある。しかし、Bが0.010%を超えると、結晶粒界が脆化して靭性が低下し、また高温割れが発生しやすくなる。従って、鋼製外皮とフラックスの合計でBは0.010%以下とする。なお、大入熱・高パス間温度での溶接施工条件での溶接金属の組織を微細化して靭性を向上させるために、Bは0.0015%以上であることが好ましい。Bは、鋼製外皮に含まれる成分の他、Fe-Si-B、Fe-Mn-B等の合金粉から添加できる。
[鋼製外皮とフラックスの合計でAl及びMgの一方または両方の合計:0.25%以下]
Al及びMgは、強脱酸剤で溶接金属中の酸素を低減し、溶接金属の靭性を高める効果がある。しかし、Al及びMgの一方または両方の合計で0.25%を超えると、溶接時にアーク中で激しく酸化反応してヒューム発生量やスパッタ発生量が多くなる。従って、鋼製外皮とフラックスの合計でAl及びMgの一方または両方の合計は0.25%以下とする。なお、溶接金属中の酸素を低減し、溶接金属の靭性を高める効果を得るために、Al及びMgの一方または両方の合計は0.05%以上であることが好ましい。Al及びMgは、金属Al、Fe-Al、金属Mg、Al-Mg等の合金粉から添加できる。
Al及びMgは、強脱酸剤で溶接金属中の酸素を低減し、溶接金属の靭性を高める効果がある。しかし、Al及びMgの一方または両方の合計で0.25%を超えると、溶接時にアーク中で激しく酸化反応してヒューム発生量やスパッタ発生量が多くなる。従って、鋼製外皮とフラックスの合計でAl及びMgの一方または両方の合計は0.25%以下とする。なお、溶接金属中の酸素を低減し、溶接金属の靭性を高める効果を得るために、Al及びMgの一方または両方の合計は0.05%以上であることが好ましい。Al及びMgは、金属Al、Fe-Al、金属Mg、Al-Mg等の合金粉から添加できる。
本発明のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤは、鋼製外皮をパイプ状に成形し、その内部にフラックスを充填した構造である。ワイヤの種類としては、成形した鋼製外皮の合わせ目を溶接して得られる鋼製外皮に継目の無いワイヤと、鋼製外皮に合わせ目の溶接を行わないままとした鋼製外皮に継目を有するワイヤとに大別できる。本発明においては、何れの断面構造のワイヤを採用することができるが、鋼製外皮に継目を有するワイヤは、溶接金属の強度が高くなると低温割れが生じやすくなるので水分含有量の少ない原材料を用いる必要がある。一方、鋼製外皮に継目が無いワイヤは、ワイヤ中の全水素量を低減することを目的とした熱処理が可能であり、また製造後のフラックスの吸湿が無いため、溶接金属の拡散性水素量を低減し、耐低温割れ性の向上を図ることができるので、より好ましい。
本発明のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤの残部は、鋼製外皮のFe、成分調整のために添加する鉄粉、Fe-Si、Fe-Mn、Fe-Ti合金などの鉄合金粉のFe分及び不可避不純物である。不可避不純物については特に規定しないが、高温割れ及び溶接金属の靱性の観点から、P:0.05%以下であることが好ましい。
また、フラックス充填率は特に限定しないが、生産性の観点からワイヤ全質量に対して8~20%とするのが好ましい。
以下、本発明の効果を実施例により具体的に説明する。
表1に示す化学成分の鋼製外皮を使用し、鋼製外皮をU字形に成形、フラックス充填率を10~15%で充填してC字形に成形した後、鋼製外皮の合わせ目を溶接して造菅、伸線し、表2に示す各種成分のフラックス入りワイヤを試作した。なお、試作したワイヤ径は1.4mmとした。
表2に示す試作したフラックス入りワイヤを用いて、ヒューム発生量、スパッタ発生量、アーク安定性、ビード外観・形状、X線透過試験による欠陥の有無及び溶接金属性能の調査を行った。
ヒューム発生量は、JIS Z 3930に準じ、1分間溶接した際に発生するヒュームの重量を測定することにより、単時間当たりの値(mg/min)を求めた。なお、ヒュームの測定は、表3に示す条件No.T1の施工条件で3回測定した平均値とし、600mg/min以下を良好とした。
スパッタの発生量は、銅製の捕集箱を用いて、1分間溶接した際に発生するスパッタの重量を測定することにより、単時間当たりの値(g/min)を求めた。なお、スパッタの測定は、表3に示す条件No.T1の施工条件で5回測定した平均値とし、1.5g/min以下を良好とした。
溶接作業性及び溶接金属性能は、表3に示す条件No.T2の施工条件で、35°レ形開先、ルートギャップ8mmの裏当金付きの試験体を用いた多層盛溶接金属試験を行い、溶接時のアーク安定性及びビード外観・形状を調査した。
アーク安定性とは、アークの安定の程度を示すものである。つまりこのアーク安定性とは、図1に示すようにフラックス入りワイヤ1から発生させるアーク2のアーク長やアークの指向性が一定している度合を示すものである。図1(a)に示すように溶接時に電圧変動によるアーク2のアーク長やアーク拡がりの変動がなく、安定して溶接できる状態であれば、アーク2が安定している状態であると判断することができる。これに対して、図1(b)に示すように、溶接時にアーク長が変動し、アーク2の拡がりが変動して安定しない状態であれば、アーク2が不安定である状態と判断することができる。一般的にアークが不安定である場合には、ビード形状や外観が悪化してしまう。
このようなアークの安定性は、溶接時における電圧変動として現れる。このため、本実施例において、このアークの安定性は、電圧変動を連続的に測定し、その変動の大きさを介して評価する。アークの判定性を判別する一つの例として、図2(a)における時系列的な電圧変動のチャートに示すように、平均電圧に対して±1Vを閾値としたとき、電圧変動が閾値を超える時間が測定時間内で90%未満の場合、アークが安定とする。これに対して、図2(b)における時系列的な電圧変動のチャートに示すように、平均電圧に対して±1Vを閾値としたとき、電圧変動が閾値を超える時間が測定時間内で10%を超える場合、アークが不安定とする。 ビード外観・形状の調査については、ビード外観・形状が美麗で均一に揃っている様子であれば良好と判別し、ビード外観・形状の一部又は全部が不揃いで安定していない様子であれば不良と判別している。ビード外観・形状が不良の例として、例えば図3(a)に示すレ形開先に示すように、母材3がアークで削れてしまうアンダーカットや、オーバーラップが生じてしまうものがあり、いずれも溶接後にグラインダー処理が必要になる。図3(b)に示すビードを上から見た場合のように、ビードの波形が不揃いのケースや、ビードの止端が不揃いのケースも同様にビード外観・形状が不良と判別する。本実施例においてこのビード外観・形状の良好か不良かの判別は、目視による観察を通じて判別し、アンダーカットやオーバーラップなどが1箇所でもあれば不良と判断する。
溶接終了後、裏当金を削除してX線透過試験を行った。X線透過試験では、JIS Z 3104:1995に示す鋼溶接継手の放射線透過試験法に基づいて試験を行い、一つも疵が発生しない場合に、無欠陥と判別した。また、溶接金属部からA0号引張試験片及び衝撃試験片を採取して機械的性質を調査した。
強度の評価は、引張強さが490~690MPa、靭性の評価は、0℃におけるシャルピー衝撃試験を各5本実施し、吸収エネルギーの平均値が80J以上、最低値が60J以上を良好とした。それらの結果を表4にまとめて示す。
表2及び表4中のワイヤ記号W1~W10が本発明例、ワイヤ記号W11~W20は比較例である。本発明例であるワイヤ記号W1~W10は、鋼製外皮のC、フラックス入りワイヤ中のC、Si、Mn、Ti、Sの含有量が適量で、フラックス中の金属弗化物のF換算値の合計、Si酸化物のSiO2換算値の合計、K酸化物のK2O換算値の合計、Na酸化物のNa2O換算値の合計が適量であるので、大電流の溶接施工条件においてもヒューム発生量及びスパッタ発生量が少なく、アークが安定して、ビード外観・形状が良好で、溶接欠陥がなく、溶接金属の引張強さ及び吸収エネルギーの平均値及び最低値ともに良好であった。
なお、Al及びMgの一方または両方の合計が適量であるワイヤ記号W3、W5、W7及びW9は、溶接金属の吸収エネルギーの平均値が100J以上得られ極めて満足な結果であった。
比較例中ワイヤ記号W11は、鋼製外皮記号F4のCが多いので、ヒューム発生量及びスパッタ発生量が多かった。また、Tiが多いので、溶接金属の吸収エネルギーが低値であった。なお、Al及びMgの一方または両方の合計が少ないので、溶接金属の吸収エネルギーを向上させる効果は得られなかった。
ワイヤ記号W12は、フラックス入りワイヤ中のCが少ないので溶接金属の引張強さが低かった。また、Si酸化物のSiO2換算値の合計が多いので、スラグ巻き込み欠陥が生じ、溶接金属の吸収エネルギーが低値であった。さらに、Al及びMgの一方または両方の合計が多いので、ヒューム発生量及びスパッタ発生量が多かった。
ワイヤ記号W13は、フラックス入りワイヤ中のCが多いので、溶接金属の引張強さが高く、吸収エネルギーが低値であった。また、金属弗化物のF換算値の合計が少ないので、アークが不安定でスパッタ発生量が多かった。
ワイヤ記号W14は、Siが少ないので、溶接金属の引張強さが低く、吸収エネルギーも低値であった。また、金属弗化物のF換算値の合計が多いので、アークが不安定でスパッタ発生量が多かった。
ワイヤ記号W15は、Siが多いので、スラグ巻き込み欠陥が発生し、溶接金属の引張強さが高く、吸収エネルギーの最低値が低かった。なお、Al及びMgの一方または両方の合計が少ないので、溶接金属の吸収エネルギーを向上させる効果は得られなかった。
ワイヤ記号W16は、Mnが少ないので、溶接金属の引張強さが低く、吸収エネルギーも低値であった。また、Si酸化物のSiO2換算値の合計が少ないので、ビード外観・形状が不良であった。
ワイヤ記号W17は、Mnが多いので、溶接金属の引張強さが高く、吸収エネルギーに最低値が低かった。また、Mnが多いので、スラグ巻き込み欠陥が生じた。さらに、Sが多いので、ヒューム発生量が多かった。
ワイヤ記号W18は、Cuが少ないので、溶接金属の吸収エネルギーの最低値が低かった。
ワイヤ記号W19は、Cuが多いので、溶接金属の吸収エネルギーが低値であった。また、Cuが多いので、クレータ割れが生じた。さらに、K酸化物のK2O換算値の合計が少ないので、アークが不安定で、スパッタ発生量が多かった。
ワイヤ記号W20は、Tiが少ないので、アークが不安定で、溶接金属の吸収エネルギーが低値であった。また、K酸化物のK2O換算値の合計が多いので、スラグ巻き込み欠陥が生じた。
実施例1と同様に表1に示す化学成分の鋼製外皮を用いて、鋼製外皮をU字形に成形、フラックス充填率を10~15%で充填してC字形に成形した後、鋼製外皮の合わせ目を溶接して造菅、伸線し、表5に示す各種成分のフラックス入りワイヤを試作した。なお、試作したワイヤ径は1.4mmとした。
表5に示す試作したフラックス入りワイヤを用いて、ヒューム発生量、スパッタ発生量、アーク安定性、ビード外観・形状、X線透過試験による欠陥の有無及び溶接金属性能の調査を行った。
ヒューム発生量は、JIS Z 3930に準じ、1分間溶接した際に発生するヒュームの重量を測定することにより、単時間当たりの値(mg/min)を求めた。なお、ヒュームの測定は、表3に示す条件No.T1の施工条件で3回測定した平均値とし、600mg/min以下を良好とした。
スパッタの発生量は、銅製の捕集箱を用いて、1分間溶接した際に発生するスパッタの重量を測定することにより、単時間当たりの値(g/min)を求めた。なお、スパッタの測定は、表3に示す条件No.T1の施工条件で5回測定した平均値とし、1.5g/min以下を良好とした。
溶接作業性及び溶接金属性能は、表3に示す条件No.T3の大入熱・高パス間温度の施工条件で、35°レ形開先、ルートギャップ8mmの裏当金付きの試験体を用いた多層盛溶接金属試験を行い、溶接時のアーク安定性及びビード外観・形状を調査した。溶接終了後、裏当金を削除してX線透過試験を行った。また、溶接金属部からA0号引張試験片及び衝撃試験片を採取して機械的性質を調査した。
強度の評価は、引張強さが520~720MPa、靭性の評価は、0℃におけるシャルピー衝撃試験を各5本実施し、吸収エネルギーの平均値が80J以上、最低値が60J以上を良好とした。それらの結果を表6にまとめて示す。
表5及び表6のワイヤ記号W21~W25が本発明例、ワイヤ記号W26~W30は比較例である。本発明例であるワイヤ記号W21~W25は、鋼製外皮のC、フラックス入りワイヤ中のC、Si、Mn、Ti、S、Mo、Bの含有量が適量で、フラックス中の金属弗化物のF換算値の合計、Si酸化物のSiO2換算値の合計、K酸化物のK2O換算値の合計、Na酸化物のNa2O換算値の合計が適量であるので、大入熱・高パス間温度の溶接施工条件においてもヒューム発生量及びスパッタ発生量が少なく、アークが安定して、ビード外観・形状が良好で、溶接欠陥がなく、溶接金属の引張強さ及び吸収エネルギーの平均値及び最低値ともに良好であった。
なお、Al及びMgの一方または両方の合計が適量であるワイヤ記号W21及びW23は、溶接金属の吸収エネルギーの平均値が100J以上得られ極めて満足な結果であった。
比較例中ワイヤ記号W26は、フラックス入りワイヤ中のCが少ないので、溶接金属の引張強さが低かった。なお、Moが少ないので、溶接金属の引張強さを向上する効果は得られなかった。
ワイヤ記号W27は、Sが多いので、ヒューム発生量が多かった。また、Moが多いので、溶接金属の引張強さが高く、吸収エネルギーの最低値が低かった。なお、Al及びMgの一方または両方の合計が少ないので、溶接金属の吸収エネルギーを向上する効果は得られなかった。
ワイヤ記号W28は、Tiが少ないので、アークが不安定で、溶接金属の吸収エネルギーが低値であった。なお、Bが少ないので、溶接金属の吸収エネルギーを向上する効果は得られなかった。
ワイヤ記号W29は、Na酸化物のNa2O換算値の合計が多いので、ヒューム発生量が多かった。また、Bが多いので、クレータ割れが生じた。さらに、Bが多いので、溶接金属の吸収エネルギーが低値であった。
ワイヤ記号W30は、Mnが少ないので、溶接金属の引張強さが低く、吸収エネルギーも低値であった。なお、Moが少ないので、溶接金属の引張強さを向上する効果は得られなかった。
1 フラックス入りワイヤ
2 アーク
3 母材
2 アーク
3 母材
Claims (3)
- 鋼製外皮にフラックスを充填してなるガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤにおいて、
鋼製外皮中のCが鋼製外皮全質量に対する質量%で0.02%以下含有し、
ワイヤ全質量に対する質量%で、鋼製外皮とフラックスの合計で、
C:0.01~0.08%、
Si:0.4~1.4%、
Mn:1.5~3.0%、
Cu:0.05~0.5%、
Ti:0.1~0.3%を含有し、
S:0.007%以下であり、
さらに、ワイヤ全質量に対する質量%で、フラックス中に、
金属弗化物:F換算値の合計で0.005~0.10%、
Si酸化物:SiO2換算値の合計で0.01~0.2%、
K酸化物:K2O換算値の合計で0.01~0.10%を含有し、
Na酸化物:Na2O換算値の合計が0.01%以下であり、
残部が、鋼製外皮のFe、成分調整のために添加する鉄粉、鉄合金のFe分及び不可避不純物からなることを特徴とするガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。 - ワイヤ全質量に対する質量%で、鋼製外皮とフラックスの合計で、
Mo:0.5%以下、
B:0.010%以下をさらに含有することを特徴とする請求項1に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。 - ワイヤ全質量に対する質量%で、鋼製外皮とフラックスの合計で、
Al及びMgの一方または両方の合計:0.25%以下をさらに含有することを特徴とする請求項1または2に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
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