以下、実施形態の電力変換器、直流送電システム、および電力変換方法を、図面を参照して説明する。
(第1の実施形態)
[直流送電システムの構成]
図1は、第1の実施形態に係る直流送電システムの構成の一例を示す図である。図1には、送電側の発電設備から受電側の交流系統に電力を送電する直流送電システム1の一例を示している。図1に示した直流送電システム1では、発電設備で発電した交流電力を直流電力に変換して送電し、受電側で再び交流電力に変換して交流系統に送電する。図1には、送電側の電力変換器10(電力変換器10-P)と受電側の電力変換器10(電力変換器10-AC)との間に、二つの直流送電線23(直流送電線23-1および23-2)を備える、つまり2回線の直流送電システム1の構成を示している。
直流送電システム1は、例えば、発電設備Pと、交流遮断器B-Pと、変圧器T-Pと、電力変換器10-Pと、直流母線21と、二つの直流遮断器22(直流遮断器22-1および22-2)と、直流送電線23-1および23-2と、二つの直流遮断器24(直流遮断器24-1および24-2)と、直流母線25と、電力変換器10-ACと、変圧器T-ACと、交流遮断器B-ACと、交流系統ACと、上位制御装置30と、を備える。
発電設備Pは、交流系統AC側に送電する交流電力を発電する設備である。発電設備Pは、例えば、海上に設置された風力発電設備である。以下の説明においては、発電設備Pが風力発電設備であるものとする。発電設備Pは、例えば、複数の発電機(風力発電機)Gと、それぞれの発電機Gに対応する複数の連系インバータIVと、を備える。図1には、三つの発電機G(風力発電機G-1~G-3)と、それぞれの発電機Gに対応する三つの連系インバータIV(連系インバータIV-1~IV-3)を備える発電設備Pの一例を示している。発電設備Pでは、それぞれの発電機Gが発電した発電電力(交流電力)をそれぞれの連系インバータIVによって連系させて、交流遮断器B-Pに出力する。
交流系統ACは、発電設備Pにより発電されて送電されてきた交流電力を需要家に送電する送電設備である。交流系統ACは、送電されてきた交流電力を、接続された先に存在する需要家に送電する。これにより、それぞれの需要家に交流電力が供給される。
交流遮断器B-Pおよび交流遮断器B-ACのそれぞれは、交流電力の遮断器である。交流遮断器B-Pは、直流送電システム1における定常の送電時には、発電設備Pにより出力された交流電力を変圧器T-Pに送電する。交流遮断器B-Pは、例えば、発電設備P側に事故が発生したときなど、直流送電システム1において交流電力の送電に関連する事故が発生した場合には、発電設備Pと変圧器T-Pとの間の送電を遮断する。交流遮断器B-ACは、直流送電システム1における定常の送電時には、変圧器T-ACにより出力された交流電力を交流系統ACに送電する。交流遮断器B-ACは、例えば、交流系統AC側に事故が発生したときなど、直流送電システム1において交流電力の送電に関連する事故が発生した場合には、変圧器T-ACと交流系統ACとの間の送電を遮断する。
変圧器T-Pおよび変圧器T-ACのそれぞれは、入力された交流電圧を変圧する。変圧器T-Pは、交流遮断器B-Pから送電された交流電圧を変圧して、電力変換器10-Pの交流端子に出力する。変圧器T-ACは、電力変換器10-ACの交流端子から入力された交流電圧を変圧して、交流遮断器B-ACに出力する。
電力変換器10-Pおよび電力変換器10-ACのそれぞれは、交流端子に入力された交流電力を直流電力に変換して直流端子に出力する、あるいは、直流端子に入力された直流電力を交流電力に変換して交流端子に出力する、交直変換器の一種である。電力変換器10-Pおよび電力変換器10-ACのそれぞれは、正方向の電圧を出力することができるハーフブリッジ回路を用いてアームを構成するモジュラーマルチレベル変換器(Modular Multilevel Converter:MMC)である。電力変換器10-Pは、変圧器T-Pから交流端子に入力された交流電力を直流電力に変換して、直流端子から直流母線21に出力する。電力変換器10-Pは、例えば、定電圧定周波数(Constant Voltage Constant Frequency:CVCF)運転により動作している。この定電圧定周波数運転により、電力変換器10-Pは、発電設備P側の交流電力の電圧を保持した状態で、変換した直流電力を直流母線21に出力する。電力変換器10-ACは、直流母線25から直流端子に入力された直流電力を交流電力に変換して、交流端子から変圧器T-ACに出力する。電力変換器10-ACは、例えば、直流電圧制御(DC Automatic Voltage Regulation:DCAVR)運転により動作している。この直流電圧制御運転により、電力変換器10-ACは、直流母線25側の直流電力の電圧を保持した状態で、変換した交流電力を変圧器T-ACに出力する。電力変換器10-Pと電力変換器10-ACとのそれぞれは、いずれかの直流送電線23において事故(例えば、地絡事故)が発生した場合、発生した事故に起因して短時間で動作が停止してしまわないように、電力の変換を制御する。電力変換器10-Pおよび電力変換器10-AC、つまり、電力変換器10の構成や動作の詳細については後述する。電力変換器10-Pは、特許請求の範囲における「第1の電力変換器」の一例であり、電力変換器10-ACは、特許請求の範囲における「第2の電力変換器」の一例である。
直流遮断器22-1および22-2と、直流遮断器24-1および24-2とのそれぞれは、直流電力の遮断器である。直流遮断器22-1および22-2と、直流遮断器24-1および24-2とのそれぞれは、直流送電システム1における定常の送電時には、接続されている直流送電線23を介して、直流電力を送電する。直流遮断器22-1および22-2と、直流遮断器24-1および24-2とのそれぞれは、接続されている直流送電線23に事故が発生したときには、事故が発生した直流送電線23に流れる電流を遮断する。直流遮断器22-1および22-2は、特許請求の範囲における「第1の直流遮断器」の一例であり、直流遮断器24-1および24-2は、特許請求の範囲における「第2の直流遮断器」の一例である。
直流送電線23-1および23-2のそれぞれは、接続されている直流遮断器22と直流遮断器24との間で直流電力を送電する送電線(送電ケーブル)である。それぞれの直流送電線23は、例えば、正極側の送電ケーブルと負極側の送電ケーブルとが一対となった、対称単極の構成である。直流送電線23に発生することが想定される事故は、例えば、正極側あるいは負極側のいずれか一方の送電ケーブル、つまり、対称単極における片極の地絡事故である。
上位制御装置30は、直流送電システム1における直流電力の送電を制御する管理装置である。上位制御装置30は、直流送電システム1において直流電力の送電を制御するための指令や指令値を、電力変換器10や直流遮断器22に出力する。例えば、上位制御装置30は、直流送電システム1において送電する直流電力の電力値を指示(制御)するための送電電力指令値を、電力変換器10-Pや電力変換器10-ACに出力(送信)する。これにより、直流送電システム1では、直流母線21、二つの直流遮断器22、二つの直流送電線23、二つの直流遮断器24、および直流母線25を介して、電力変換器10-Pの直流端子に出力された直流電力が、電力変換器10-AC側に送電され、電力変換器10-ACの直流端子に入力される。一方、例えば、上位制御装置30は、いずれかの直流送電線23において事故が発生した場合、この事故が発生した直流送電線23(以下、「事故回線」という)の遮断を指示するための遮断指令を、事故回線に属する直流遮断器22および直流遮断器24に出力(送信)する。これにより、直流送電システム1では、遮断指令を受けた直流遮断器22と直流遮断器24とのそれぞれによって、事故回線が遮断される。この場合でも、直流送電システム1では、事故が発生していない直流送電線23(以下、「健全回線」という)によって送電を継続することができる。
このような構成によって、直流送電システム1では、発電設備Pで発電した交流電力を、電力変換器10が直流電力に変換してから直流送電線23を介して電力変換器10-ACに送電し、電力変換器10-ACが交流電力に変換して(戻して)から交流系統AC側に送る。
[電力変換器10の構成]
図2は、第1の実施形態の直流送電システム1が備える電力変換器10の構成の一例を示す図である。電力変換器10は、例えば、三つの上側のアーム110U(アーム110U-1~110U-3)と、三つの下側のアーム110D(アーム110D-1~110D-3)と、二つのリアクトル120(リアクトル120-Pおよびリアクトル120-N)と、制御装置130と、を備える。
電力変換器10では、三相交流のそれぞれの相に対応する三つの交流端子TA(交流端子TA-1~TA-3)のそれぞれに、対応するアーム110Uとアーム110Dとが接続され、アーム110Uとアーム110Dとのそれぞれは、対応するリアクトル120に接続されている。それぞれのリアクトル120は、正極側または負極側のいずれかの直流端子TD(正極側の直流端子TD-Pまたは負極側の直流端子TD-N)に接続されている。図2においては、アーム110Uとアーム110Dとのそれぞれが三相交流のいずれの相に対応するアームであるかを表すために、それぞれの符号の後に「-(ハイフン)」と、相を表す数字とを付している。例えば、三相交流の第1相の交流端子TAである交流端子TA-1に対応するアーム110Uは「アーム110U-1」と表し、交流端子TA-1に対応するアーム110Dは「アーム110D-1」と表している。図2においては、リアクトル120のそれぞれが正極側または負極側のいずれの直流端子TDに対応するかを表すために、それぞれの符号の後にハイフンと、正極側を表す「P」あるいは負極側を表す「N」の文字とを付している。より具体的には、正極側の直流端子TD-Pに対応するリアクトル120は「リアクトル120-P」と表し、負極側の直流端子TD-Nに対応するリアクトル120は「リアクトル120-N」と表している。アーム110Uおよびアーム110Dのそれぞれは、特許請求の範囲における「アーム」の一例である。
アーム110Uおよびアーム110Dのそれぞれは、例えば、一つ以上のハーフブリッジ回路112(ハーフブリッジ回路112-1およびハーフブリッジ回路112-2)と、アームリアクトル114と、を備える。アーム110Uおよびアーム110Dのそれぞれでは、交流端子TA側から直流端子TD側に向かって、アームリアクトル114、ハーフブリッジ回路112-1、ハーフブリッジ回路112-2が直列に接続されている。アーム110Uおよびアーム110Dのそれぞれが備えるハーフブリッジ回路112の数は、二つに限定されない。図2においては、ハーフブリッジ回路112-1、ハーフブリッジ回路112-2、およびアームリアクトル114のそれぞれが、アーム110Uまたはアーム110Dのいずれのアームに属する構成要素であるかを表すために、それぞれの符号の後にハイフンと、アーム110Uを表す「U」またはアーム110Dを表す「D」の文字と、さらにハイフンと、相を表す数字とを付している。例えば、交流端子TA-1に対応するアーム110U-1が備えるハーフブリッジ回路112-1は「ハーフブリッジ回路112-1-U-1」と表し、アーム110U-1が備えるハーフブリッジ回路112-2は「ハーフブリッジ回路112-2-U-1」と表し、アーム110U-1が備えるアームリアクトル114は「アームリアクトル114-U-1」と表している。
それぞれのハーフブリッジ回路112は、例えば、互いに同じ向きで直列に接続された二つの半導体スイッチ部1122の直列回路と、直流コンデンサ1124とが並列に接続された構成である。半導体スイッチ部1122のそれぞれは、例えば、互いに並列に接続された半導体スイッチング素子とダイオードとを備える。より具体的には、半導体スイッチ部1122では、ダイオードのカソードと半導体スイッチング素子のコレクタとが互いに接続され、ダイオードのアノードと半導体スイッチング素子のエミッタとが接続されている。半導体スイッチング素子のゲートは、制御装置130によって制御(制御電圧が印加)される。つまり、半導体スイッチ部1122は、制御装置130によってオンまたはオフのいずれかの状態に制御される。
以下の説明においては、それぞれの構成要素がいずれの相に対応する構成要素であるか、いずれの直流端子TDに対応する構成要素であるか、いずれのアームに属する構成要素であるかを区別しない場合には、それぞれの構成要素の符号に付したハイフンとハイフンに続く識別のための数字や文字を省略する。さらに、以下の説明においては、アーム110Uとアーム110Dとを区別しない場合には、「アーム110」という。
リアクトル120は、対応するアーム110が接続された信号線、つまり、対応する直流端子TDにおける電流の変化を抑制する。
制御装置130は、アーム110が出力する電力を制御するための指令値をそれぞれのアーム110に出力することにより、電力変換器10における交流電力の直流電力への変換、あるいは、直流電力の交流電力への変換を制御する。電力変換器10は、少なくとも、直流電流制御装置131を備える。制御装置130は、直流電流制御装置131の他にも、例えば、直流コンデンサ電圧制御装置や、定電圧定周波数信号源、交流電流制御装置など、従来の交直変換器などにおいても備えられる種々の構成要素(全て不図示)を備える。言い換えれば、制御装置130は、従来の交直変換器などの構成に、直流電流制御装置131が追加された構成である。電力変換器10は、これらの不図示の構成要素(直流電流制御装置131を含む)を、制御装置130の外部に備える構成であってもよい。
制御装置130や、直流電流制御装置131を含めた不図示の構成要素は、例えば、CPU(Central Processing Unit)などのハードウェアプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することにより以下の機能を実現するものである。制御装置130や、直流電流制御装置131を含めた不図示の構成要素の機能のうち一部または全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)などのハードウェア(回路部;circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。制御装置130や、直流電流制御装置131を含めた不図示の構成要素の機能のうち一部または全部は、専用のLSIによって実現されてもよい。プログラムは、予め制御装置130あるいは電力変換器10が備えるHDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリなどの記憶装置(非一過性の記憶媒体を備える記憶装置)に格納されていてもよいし、DVDやCD-ROMなどの着脱可能な記憶媒体(非一過性の記憶媒体)に格納されており、記憶媒体が制御装置130あるいは電力変換器10が備えるドライブ装置に装着されることで制御装置130が備える記憶装置にインストールされてもよい。
制御装置130は、電力変換器10において直流端子TDに出力させる直流電力の電圧を制御するための指令値である直流端子電圧指令値Vdc*と、電力変換器10において交流端子TAに出力させる交流電力の電圧を制御するための指令値である交流端子電圧指令値Vac*とに基づいて、それぞれのアーム110によって出力させる直流端子電圧Vdcおよび交流端子電圧Vacを指示(制御)するためのアーム電圧指令値を求める。
より具体的には、制御装置130は、下式(1)によって、アーム110Uに出力するアーム電圧指令値VP*と、アーム110Dに出力するアーム電圧指令値VN*とを求める。
VP* = -Vac* + Vdc*/2
VN* = Vac* + Vdc*/2 ・・・(1)
直流端子電圧指令値Vdc*は、直流電流制御装置131が求める。交流端子電圧指令値Vac*は、例えば、不図示の直流コンデンサ電圧制御装置や、定電圧定周波数信号源、交流電流制御装置などの出力値に基づいて、制御装置130が求める。上式(1)において、アーム電圧指令値VP*およびアーム電圧指令値VN*は、正の値である必要がある。これは、電力変換器10が備えるそれぞれのアーム110が、正方向の電圧を出力することができるハーフブリッジ回路112を用いて構成されているためである。
制御装置130は、求めたアーム電圧指令値をそれぞれのアーム110に出力する。これにより、電力変換器10では、それぞれのアーム110から、制御装置130が指示した直流端子電圧Vdcが直流端子TDに出力され(図2参照)、制御装置130が指示した交流端子電圧Vacが交流端子TAに出力される。
このような構成によって、電力変換器10では、制御装置130がそれぞれのアーム110に出力した(与えた)アーム電圧指令値に応じた直流電圧を直流端子TDから出力し、アーム電圧指令値に応じた交流端子電圧を交流端子TAから出力する。これにより、電力変換器10は、交流端子TAに入力された交流電力を直流電力に変換して直流端子TDに出力し、直流端子TDに入力された直流電力を交流電力に変換して交流端子TAに出力する。
[直流電流制御装置131の構成]
図3は、第1の実施形態の直流送電システム1が備える電力変換器10が備える直流電流制御装置131の構成の一例を示す図である。直流電流制御装置131は、例えば、乗算器1312と、加算器1314と、直流電流制御器1316と、を備える。
乗算器1312は、直流電力指令値Pdc*を直流送電電圧定格値Vdc-ratedで除すことにより、直流電流指令値Idc*を得る。直流電力指令値Pdc*は、電力変換器10において直流端子TDに出力させる直流電力を制御するための指令値である。直流送電電圧定格値Vdc-ratedは、直流送電システム1において送電する直流電力における電圧の定格値である。乗算器1312は、例えば、除算器で構成してもよい。
加算器1314は、乗算器1312が求めた直流電流指令値Idc*から直流電流Idcを減算する。言い換えれば、加算器1314は、直流電流指令値Idc*と直流電流Idcとの偏差を取る。直流電流Idcは、電力変換器10が出力する直流電流の検出値である。直流電流Idcは、例えば、リアクトル120-Pと直流端子TD-Pとの間の配線に配置された直流電流センサ(不図示)が検出した電流値である(図2参照)。加算器1314は、例えば、減算器で構成してもよい。加算器1314が取る偏差は、特許請求の範囲における「第1の偏差」の一例である。
直流電流制御器1316は、加算器1314により出力された偏差に対してフィードバック制御を行って、直流端子電圧指令値Vdc*を得る。直流電流制御器1316としては、例えば、下式(2)のような比例積分特性F(s)を持った比例積分制御器(PI制御器)を用いることができる。
F(s)=Kp + Ki/s ・・・(2)
上式(2)において、Kpは比例ゲインを表し、Kiは積分ゲインを表し、sはラプラス空間における複素変数を表す。直流電流制御器1316は、特許請求の範囲における「第1の制御器」の一例である。
このような構成によって、直流電流制御装置131は、直流端子電圧指令値Vdc*を求める。つまり、直流電流制御装置131は、直流電力指令値Pdc*と直流送電電圧定格値Vdc-ratedとから得られる直流電流指令値Idc*を目標値とし、直流電流Idcを制御量としてフィードバック制御を行い、操作量として直流端子電圧指令値Vdc*を得る。
[制御装置130の動作]
次に、制御装置130の動作について説明する。上述したように、直流送電システム1では、電力変換器10-Pが定電圧定周波数運転により動作し、電力変換器10-ACが直流電圧制御運転により動作している。まず、定電圧定周波数運転をする電力変換器10-Pの動作について説明する。図4は、第1の実施形態の直流送電システム1が備える電力変換器10-Pの制御系の構成の一例を示す図である。図4には、定電圧定周波数運転において、制御装置130がそれぞれのアーム110に出力するアーム電圧指令値を求める制御系の構成を示している。
電力変換器10-Pが備える制御装置130(以下、「制御装置130-P」という)は、直流コンデンサ電圧制御装置132により出力される電力指令値Pcdc*を直流電力指令値Pdc*として直流電流制御装置131に入力する。これにより、制御装置130-Pは、直流電流制御装置131から直流端子電圧指令値Vdc*を得る。
[直流コンデンサ電圧制御装置132の構成]
ここで、直流コンデンサ電圧制御装置132の構成について説明する。図5は、第1の実施形態の直流送電システム1が備える電力変換器10-Pが備える直流コンデンサ電圧制御装置132の構成の一例を示す図である。直流コンデンサ電圧制御装置132は、電力変換器10においてそれぞれのアーム110が備えるハーフブリッジ回路112内の直流コンデンサ1124の電圧の総和の値を制御する電圧制御装置である。直流コンデンサ電圧制御装置132は、例えば、加算器1322と、直流コンデンサ電圧制御器1324と、を備える。
加算器1322は、直流コンデンサ電圧指令値Vcdc*から直流コンデンサ検出値Vcdcを減算する。言い換えれば、加算器1322は、直流コンデンサ電圧指令値Vcdc*と直流コンデンサ検出値Vcdcとの偏差を取る。直流コンデンサ電圧指令値Vcdc*は、それぞれのアーム110が備えるハーフブリッジ回路112内の直流コンデンサ1124の電圧を制御するための指令値である。直流コンデンサ検出値Vcdcは、それぞれのアーム110が備えるハーフブリッジ回路112内のそれぞれの直流コンデンサ1124の電圧の検出値にも基づくものである。直流コンデンサ検出値Vcdcは、例えば、それぞれのハーフブリッジ回路112が備える直流コンデンサ1124に配置された直流電圧センサ(不図示)が検出した電圧値の総和を平均化した平均値である。加算器1322は、例えば、減算器で構成してもよい。直流コンデンサ検出値Vcdcは、特許請求の範囲における「平均値」の一例である。加算器1322が取る偏差は、特許請求の範囲における「第2の偏差」の一例である。
直流コンデンサ電圧制御器1324は、加算器1322により出力された偏差に対してフィードバック制御を行って、電力指令値Pcdc*を得る。直流コンデンサ電圧制御器1324としては、例えば、上式(2)のような比例積分特性を持った比例積分制御器(PI制御器)を用いることができる。直流コンデンサ電圧制御器1324は、特許請求の範囲における「第2の制御器」の一例である。
このような構成によって、直流コンデンサ電圧制御装置132は、電力指令値Pcdc*を求める。つまり、直流コンデンサ電圧制御装置132は、直流コンデンサ電圧指令値Vcdc*を目標値とし、直流コンデンサ検出値Vcdcを制御量としてフィードバック制御を行い、操作量として電力指令値Pcdc*を得る。電力指令値Pcdc*は、それぞれのハーフブリッジ回路112において直流コンデンサ1124に流入する直流電力を制御するための指令値でもある。これにより、それぞれの直流コンデンサ1124は、両端の間の電圧を直流コンデンサ電圧指令値Vcdc*が表す電圧値に保持することができる。
上述したように、制御装置130-Pは、直流コンデンサ電圧制御装置132により出力される電力指令値Pcdc*を直流電力指令値Pdc*として直流電流制御装置131に入力することにより、直流電流制御装置131から直流端子電圧指令値Vdc*を得る。言い換えれば、制御装置130-Pは、直流コンデンサ電圧制御装置132による直流コンデンサ1124の電圧制御のフィードバックと、直流電流制御装置131による直流電流制御のフィードバックとの二重ループのフィードバック制御によって、直流端子電圧指令値Vdc*を得る。
図4に戻り、制御装置130-Pは、定電圧定周波数信号源133により出力される定電圧定周波数の信号を交流端子電圧指令値Vac*とする。定電圧定周波数信号源133は、交流電力の周波数を決定するための一定の周波数の信号を出力する発振器である。
制御装置130-Pは、得られた直流端子電圧指令値Vdc*と交流端子電圧指令値Vac*とに基づいて、上式(1)により、アーム電圧指令値VP*とアーム電圧指令値VN*とを求める。制御装置130-Pは、求めたアーム電圧指令値VP*を、電力変換器10-Pが備えるアーム110Uのそれぞれに出力し、アーム電圧指令値VN*を、電力変換器10-Pが備えるアーム110Dのそれぞれに出力する。これにより、電力変換器10-Pは、定電圧定周波数運転によって、交流端子TAに入力された交流電力を、直流端子電圧指令値Vdc*に応じた直流端子電圧Vdcの直流電力に変換して直流端子TDから出力する。
次に、制御装置130-Pによる事故時の直流電流の制御の一例について説明する。図6は、第1の実施形態の直流送電システム1が備える電力変換器10-Pにおける直流電流の制御の一例を示す図である。図6には、直流送電システム1においていずれかの直流送電線23に事故が発生した場合の直流電流の変化の一例を示している。図6には、電力変換器10-Pにおける直流端子TDの直流端子電圧Vdcと、電力変換器10-Pにおいて直流電流制御装置131が求めて出力する直流端子電圧指令値Vdc*と、電力変換器10-Pにおいて流れる直流電流Idcとの時間的な変化を示している。
電力変換器10-Pが定常動作をしているとき、直流端子電圧指令値Vdc*に応じた直流電力が直流端子TDに出力される。従って、このときの直流端子電圧Vdcと直流端子電圧指令値Vdc*とは同じである。このため、電力変換器10-Pにおいて直流電流Idcは、(定格値より少ない値で)安定している状態である。
ここで、時間taにおいて、いずれかの直流送電線23において地絡事故が発生したものとする。事故が発生すると、事故回線が大地と同電位になり、直流端子電圧Vdcが低下する。これにより、直流電流Idcが増加し始める。すると、直流電流制御装置131(より具体的には、直流電流制御器1316)は、直流電流のフィードバック制御により、低い値の直流端子電圧指令値Vdc*を求めることになる。つまり、直流電流制御装置131は、直流事故電流の増加を抑制するため、直流端子電圧指令値Vdc*を低い値にさせるように動作する。これにより、電力変換器10-Pでは、いずれかの直流送電線23において事故が発生した場合でも、直流電流Idcの増加が抑えられ、一定の値に保持される。つまり、電力変換器10-Pでは、過電流が発生して電力変換器10-Pが備える過電流保護機能(不図示)が動作する閾値を超えてしまうような直流電流Idcが流れることなく、運転が停止してしまう状態を回避して、交流電力の直流電力への変換動作を継続することができる。
その後、時間toにおいて、事故回線に属する直流遮断器22および直流遮断器24が事故回線を遮断すると、直流端子電圧Vdcが上昇(復帰)する。これにより、直流電流Idcが減少し始める。すると、直流電流制御装置131(より具体的には、直流電流制御器1316)は、直流電流のフィードバック制御により、高い値の直流端子電圧指令値Vdc*を求めることになる。つまり、直流電流制御装置131は、直流事故電流の減少を抑制するため、直流端子電圧指令値Vdc*を高い値、つまり、定常動作のときの直流端子電圧指令値Vdc*に戻すように動作する。これにより、電力変換器10-Pでは、事故回線が遮断された場合でも、直流電流Idcの減少が抑えられ、一定の値に保持される。
このように、制御装置130-Pでは、直流電流制御装置131が、いずれかの直流送電線23において事故が発生した時間taから、事故回線に属する直流遮断器22および直流遮断器24が事故回線を遮断する時間toまでの期間に電力変換器10-Pに流れる直流電流Idcの変動を抑えるように、直流端子電圧指令値Vdc*を低い値に変化させる。これにより、電力変換器10-Pでは、直流送電線23において発生した事故に影響されることなく、交流電力の直流電力への変換動作を継続することができる。
次に、直流電圧制御運転をする電力変換器10-ACの動作について説明する。図7は、第1の実施形態の直流送電システム1が備える電力変換器10-ACの制御系の構成の一例を示す図である。図7には、直流電圧制御運転において、制御装置130がそれぞれのアーム110に出力するアーム電圧指令値を求める制御系の構成を示している。
電力変換器10-ACが備える制御装置130(以下、「制御装置130-AC」という)は、直流電力指令値Pdc*として、電力変換器10-ACにおいて交流から直流に変換する電力を直流電流制御装置131に入力する。制御装置130-ACが直流電力指令値Pdc*として直流電流制御装置131に入力する電力は、例えば、電力変換器10-ACにおいて交流から直流に変換する最大電力である。以下の説明においては、直流電力指令値Pdc*を、電力変換器10-ACにおける最大電力とする。電力変換器10-ACにおける最大電力は、定格容量比=1puである。これにより、制御装置130-ACは、直流電流制御装置131から直流端子電圧指令値Vdc*を得る。ここで、直流電流制御装置131には、直流電力指令値Pdc*として電力変換器10-ACにおける最大電力(定格容量比=1pu)を入力している。これにより、電力変換器10-ACでは、直流遮断器22および直流遮断器24が事故回線を遮断した後に、発生した事故の影響によって低下していた健全回線の直流電圧を、早期に元の直流電圧に回復(復帰)させることができる。
ただし、直流電圧制御運転では、定常時の直流電圧制御と、事故時の直流電圧制御とのいずれにおいても、直流端子電圧指令値Vdc*を操作することによって実現される。このため、制御装置130-ACは、定常時には、直流送電電圧定格値Vdc-ratedを直流端子電圧指令値Vdc*とし、事故時には、直流電流制御装置131により出力された直流端子電圧指令値Vdc*をそのまま直流端子電圧指令値Vdc*とする。より具体的には、制御装置130-ACは、切替部134によって、直流送電電圧定格値Vdc-ratedと直流電流制御装置131により出力された直流端子電圧指令値Vdc*との内、いずれか低い方の値を直流端子電圧指令値Vdc*とする。このように、定常動作のときの直流電圧制御と、事故に対応するときの直流電圧制御とで、直流端子電圧指令値Vdc*を切り替えることにより、制御装置130-ACは、いずれかの直流送電線23において事故が発生したとき(事故時)のみ、直流電流制御装置131による直流電圧制御を有効にする。言い換えれば、直流電圧制御運転では、事故時のみ、直流端子TDから出力する直流電力に対して、直流電流制御装置131による直流端子電圧指令値Vdc*のフィードバック制御を行う。これにより、電力変換器10-ACでは、定常時には、直流送電電圧定格値Vdc-ratedに基づく定格送電電圧に直流端子電圧Vdcが固定された直流電圧制御運転となり、事故時には、直流電流制御装置131が出力する直流端子電圧指令値Vdc*に応じた直流端子電圧Vdcに変化するようになる。
制御装置130-ACは、直流コンデンサ電圧制御装置132により出力される電力指令値Pcdc*を交流電力の交流有効電力指令値Pac*とし、この交流有効電力指令値Pac*と交流無効電力指令値Qac*とを交流電流制御装置135に入力する。言い換えれば、直流電圧制御運転では、交流端子TAから出力する交流電力に対して、直流コンデンサ電圧制御装置132による直流コンデンサ1124の電圧制御のフィードバック制御を行う。これにより、制御装置130-ACは、交流端子電圧指令値Vac*を得る。交流電流制御装置135は、電力変換器10において交流端子TAから出力させる交流電力の電流(交流電流)を制御する電流制御装置である。交流有効電力指令値Pac*は、交流端子TA側に有効電力を出すための指令値であり、交流無効電力指令値Qac*は、交流端子TA側に無効電力を出すための指令値である。
制御装置130-ACは、得られた直流端子電圧指令値Vdc*と交流端子電圧指令値Vac*とに基づいて、上式(1)により、アーム電圧指令値VP*とアーム電圧指令値VN*とを求める。制御装置130-ACは、求めたアーム電圧指令値VP*を、電力変換器10-ACが備えるアーム110Uのそれぞれに出力し、アーム電圧指令値VN*を、電力変換器10-ACが備えるアーム110Dのそれぞれに出力する。これにより、電力変換器10-ACは、直流電圧制御運転によって、直流端子TDに入力された直流端子電圧指令値Vdc*に応じた直流端子電圧Vdcの直流電力を、交流電力に変換して交流端子TAから出力する。
次に、制御装置130-ACによる事故時の直流電流の制御の一例について説明する。図8は、第1の実施形態の直流送電システム1が備える電力変換器10-ACにおける直流電流の制御の一例を示す図である。図8には、直流送電システム1においていずれかの直流送電線23に事故が発生した場合の直流電流の変化の一例を示している。図8には、電力変換器10-ACにおける直流端子TDの直流端子電圧Vdcと、電力変換器10-ACにおいて直流電流制御装置131が求めて出力する直流端子電圧指令値Vdc*と、電力変換器10-ACにおいて流れる直流電流Idcとの時間的な変化を示している。直流電流Idcの時間的な変化において、直流電流Idcが負の状態のときは、直流端子TD-P側から交直変換器側に直流電流Idcが流れ、直流電流Idcが正の状態のときは、交直変換器側から直流端子TD-P側に直流電流Idcが流れている状態を示している。
電力変換器10-ACが定常動作をしているとき、直流端子電圧指令値Vdc*は、直流送電電圧定格値Vdc-ratedである。
ここで、時間taにおいて、いずれかの直流送電線23において地絡事故が発生したものとする。事故が発生すると、事故回線が大地と同電位になり、直流端子電圧Vdcが低下する。これにより、直流電流Idcが増加し始める。つまり、直流電流Idcが、交直変換器側から、事故が発生している直流端子TD側に流れ始める。すると、制御装置130-ACでは、切替部134の状態が、直流電流制御装置131により出力された直流端子電圧指令値Vdc*を選択するように変化する。そして、直流電流Idcが直流電流指令値Idc*に達すると、直流電流制御装置131(より具体的には、直流電流制御器1316)は、直流電流のフィードバック制御により、直流端子電圧指令値Vdc*を低い値にさせるように動作する。これにより、電力変換器10-ACでは、いずれかの直流送電線23において事故が発生した場合でも、直流電流Idcの増加が抑えられ、直流電流指令値Idc*で一定の値になる、つまり、直流電流指令値Idc*に追従するように直流電流Idcが保持される。これは、直流電流制御装置131に、直流電力指令値Pdc*として最大電力(定格容量比=1pu)を入力したことによるものである。そして、制御装置130-ACでは、切替部134が、直流電流制御装置131により出力された直流端子電圧指令値Vdc*を選択する状態となる。このようにして、電力変換器10-ACでは、過電流が発生して電力変換器10-ACが備える過電流保護機能(不図示)が動作する閾値を超えてしまうような直流電流Idcが流れることなく、運転が停止してしまう状態を回避して、直流電力の交流電力への変換動作を継続することができる。
その後、時間toにおいて、事故回線に属する直流遮断器22および直流遮断器24が事故回線を遮断すると、健全回線に流れる直流電流に応じて直流端子電圧Vdcが上昇(復帰)する。これにより、直流電流Idcが減少し始める。つまり、直流電流Idcが、発生した事故が解消された直流端子TD側から交直変換器側に流れ始める。すると、制御装置130-ACでは、切替部134の状態が、直流送電電圧定格値Vdc-ratedを直流端子電圧指令値Vdc*として選択するように変化する。そして、例えば、直流電流Idcが直流電流指令値Idc*よりも低くなると、直流電流制御装置131(より具体的には、直流電流制御器1316)は、直流電流のフィードバック制御により、直流端子電圧指令値Vdc*を高い値にさせるように動作する。このとき、制御装置130-ACでは、切替部134が、直流送電電圧定格値Vdc-ratedを選択する状態となっている。これにより、電力変換器10-ACでは、事故回線が遮断された場合には、直流電流Idcが、交直変換器側から直流端子TD側に流れないようになる。
このように、制御装置130-ACでは、いずれかの直流送電線23において事故が発生した時間taから、事故回線に属する直流遮断器22および直流遮断器24が事故回線を遮断する時間toまでの期間のみ、直流電流制御装置131により出力された直流端子電圧指令値Vdc*を有効にする。これにより、電力変換器10-ACでは、直流送電線23において発生した事故に影響されることなく、直流電力の交流電力への変換動作を継続することができる。
上記説明したように、第1の実施形態の直流送電システム1によれば、いずれかの直流送電線23において事故が発生した場合、それぞれの電力変換器10が備える直流電流制御装置131が、事故が発生したときから、事故回線に属する直流遮断器22および直流遮断器24が事故回線を遮断するまでの間、電力変換器10に流れる直流電流Idcの変動を抑えるように、直流端子電圧指令値Vdc*を低い値に変化させる。これにより、それぞれの電力変換器10では、発生した事故の影響による直流電流Idcの増加が抑えられ、一定の値に保持される。これにより、それぞれの電力変換器10では、過電流が発生して過電流保護機能(不図示)が動作する閾値を超えてしまうような直流電流Idcが流れることなく、電力変換器10の運転が停止してしまうような状態を回避することができる。このことにより、それぞれの電力変換器10は、電力の変換動作を継続することができる。言い換えれば、事故回線に属する直流遮断器22および直流遮断器24が事故回線を遮断すれば、直流送電システム1における直流電力の送電を継続することができる。
しかも、電力変換器10における直流電流Idcの変動の抑制は、直流電流制御装置131の制御によるものであるため、直流送電システム1に大きなインダクタンスの直流リアクトルを設ける必要がなく、直流送電システム1における全体の設備の大型化やコストの増加も抑えることができる。さらに、電力変換器10では、ハーフブリッジ回路112を用いてアーム110を構成していることにより、フルブリッジ回路を用いてアームを構成したモジュラーマルチレベル変換器よりも部品数が少ないため、回路規模の増大や、電力の変換損失の増加を抑え、電力変換器10や直流送電システム1の大型化やコストの増加も抑えることができる。
(第2の実施形態)
[直流送電システムの構成]
以下、第2の実施形態について説明する。図9は、第2の実施形態に係る直流送電システムの構成の一例を示す図である。図9には、送電側の交流系統から受電側の交流系統に電力を送電する直流送電システム2の一例を示している。図9に示した直流送電システム2では、送電側の交流系統から供給される交流電力を直流電力に変換して送電し、受電側で再び交流電力に変換して受電側の交流系統に送電する。図9には、送電側の電力変換器10(電力変換器10-AC-1)と受電側の電力変換器10(電力変換器10-AC-2)との間に、直流送電線23-1と直流送電線23-2との二つの直流送電線23を備える2回線の直流送電システム2の構成を示している。
直流送電システム2は、例えば、交流系統AC-1と、交流遮断器B-AC-1と、変圧器T-AC-1と、電力変換器10-AC-1と、直流母線21と、直流遮断器22-1および22-2と、直流送電線23-1および23-2と、直流遮断器24-1および24-2と、直流母線25と、電力変換器10-AC-2と、変圧器T-AC-2と、交流遮断器B-AC-2と、交流系統AC-2と、上位制御装置30と、を備える。直流送電システム2においては、第1の実施形態の直流送電システム1が備える構成要素と同様の機能を有する構成要素に同一の符号を付している。従って、直流送電システム2が備える構成要素において、第1の実施形態の直流送電システム1が備える構成要素と同様の構成や動作をする構成要素に関しての再度の詳細な説明は省略し、異なる構成や動作についてのみを説明する。
交流系統AC-1は、交流系統AC-2側に送電する交流電力を供給する設備である。交流系統AC-1は、例えば、第1の実施形態の直流送電システム1が備える交流系統ACであってもよい。つまり、交流系統AC-1は、発電設備Pにより送電された交流電力をさらに交流系統AC-2に送電するものであってもよい。
電力変換器10-AC-1は、変圧器T-AC-1から交流端子TAに入力された交流電力を直流電力に変換して、直流端子TDから直流母線21に出力する。電力変換器10-AC-1は、例えば、定電力(Automatic Power Regulation:APR)運転により動作している。この定電力運転により、電力変換器10-AC-1は、交流系統AC-1側の交流電力の電圧を保持した状態で、変換した直流電力を直流母線21に出力する。電力変換器10-AC-2は、直流母線25から直流端子に入力された直流電力を交流電力に変換して、交流端子から変圧器T-AC-2に出力する。電力変換器10-AC-2は、例えば、第1の実施形態の直流送電システム1が備える電力変換器10-ACと同様に、直流電圧制御運転により動作している。電力変換器10-AC-1および電力変換器10-AC-2のそれぞれも、いずれかの直流送電線23において事故(例えば、地絡事故)が発生した場合、発生した事故に起因して短時間で動作が停止してしまわないように、電力の変換を制御する。電力変換器10-AC-1は、特許請求の範囲における「第1の電力変換器」の一例であり、電力変換器10-AC-2は、特許請求の範囲における「第2の電力変換器」の一例である。
このような構成によって、直流送電システム2では、送電側の交流系統AC-1からの交流電力を、電力変換器10が直流電力に変換してから直流送電線23を介して電力変換器10-AC-2に送電し、電力変換器10-AC-2が交流電力に変換して(戻して)から受電側の交流系統AC-2側に送る。
[制御装置130の動作]
次に、直流送電システム2が備える電力変換器10における制御装置130の動作について説明する。上述したように、直流送電システム2でも、電力変換器10-AC-2は直流電圧制御運転により動作している。このため、電力変換器10-AC-2の動作に関する説明は省略し、定電力運転をする電力変換器10-AC-1の動作について説明する。図10は、第2の実施形態の直流送電システム2が備える電力変換器10-AC-1の制御系の構成の一例を示す図である。図10には、定電力運転において、制御装置130がそれぞれのアーム110に出力するアーム電圧指令値を求める制御系の構成を示している。
電力変換器10-AC-1が備える制御装置130(以下、「制御装置130-AC-1」という)は、第1の実施形態の直流送電システム1が備える電力変換器10-Pと同様にして、つまり、定電圧定周波数運転のときと同様にして、直流端子電圧指令値Vdc*を得る。より具体的には、制御装置130-AC-1は、直流コンデンサ電圧制御装置132により出力される電力指令値Pcdc*を直流電力指令値Pdc*として直流電流制御装置131に入力することによって、直流電流制御装置131から直流端子電圧指令値Vdc*を得る。つまり、制御装置130-AC-1も、電力変換器10-Pが備える制御装置130-Pと同様に、直流コンデンサ電圧制御装置132による直流コンデンサ1124の電圧制御のフィードバックと、直流電流制御装置131による直流電流制御のフィードバックとの二重ループのフィードバック制御によって、直流端子電圧指令値Vdc*を得る。
制御装置130-AC-1は、APR上位制御装置136により出力される送電電力指令値PAPR*を交流有効電力指令値Pac*とし、この交流有効電力指令値Pac*と交流無効電力指令値Qac*とを交流電流制御装置135に入力して、交流端子電圧指令値Vac*を得る。APR上位制御装置136は、電力変換器10における定電力運転の全体を制御する上位の制御装置である。送電電力指令値PAPR*は、交流端子TAに入力された交流電力を直流電力に変換して直流端子TDに出力する、つまり、電力変換器10において交流端子TA側から直流端子TD側に送電させる電力を制御するための指令値である。APR上位制御装置136の機能は、上位制御装置30によって実現されてもよい。この場合、送電電力指令値PAPR*は、上位制御装置30に出力される指令値であってもよい。APR上位制御装置136、あるいは上位制御装置30は、特許請求の範囲における「上位制御装置」の一例である。
制御装置130-AC-1は、得られた直流端子電圧指令値Vdc*と交流端子電圧指令値Vac*とに基づいて、上式(1)により、アーム電圧指令値VP*とアーム電圧指令値VN*とを求める。制御装置130-AC-1は、求めたアーム電圧指令値VP*を、電力変換器10-AC-1が備えるアーム110Uのそれぞれに出力し、アーム電圧指令値VN*を、電力変換器10-AC-1が備えるアーム110Dのそれぞれに出力する。これにより、電力変換器10-AC-1は、定電力運転によって、交流端子TAに入力された交流電力を、直流端子電圧指令値Vdc*に応じた直流端子電圧Vdcの直流電力に変換して直流端子TDから出力する。
制御装置130-AC-1による事故時の直流電流の制御は、図6に示した第1の実施形態の直流送電システム1における電力変換器10-Pによる事故時の直流電流の制御と同様である。つまり、電力変換器10-AC-1でも、電力変換器10-Pと同様に、直流電流制御装置131が、いずれかの直流送電線23において事故が発生した時間(例えば、時間ta)から、事故回線に属する直流遮断器22および直流遮断器24が事故回線を遮断する時間(例えば、時間to)までの期間に電力変換器10-AC-1に流れる直流電流Idcの変動を抑えるように、直流端子電圧指令値Vdc*を低い値に変化させる。これにより、電力変換器10-AC-1でも、直流送電線23において発生した事故に影響されることなく、交流電力の直流電力への変換動作を継続することができる。
[制御装置130の別の動作]
定電力運転をする電力変換器10-AC-1では、図10に示した制御系の構成と異なる構成の制御系でも、同様の定電力運転をすることができる。ここで、電力変換器10-AC-1が備える制御装置130-AC-1における別の動作について説明する。図11は、第2の実施形態の直流送電システム2が備える電力変換器10-AC-1の制御系の構成の別の一例を示す図である。図11にも、定電力運転において、制御装置130-AC-1がそれぞれのアーム110に出力するアーム電圧指令値を求める制御系の構成を示している。以下の説明においては、別の動作をする電力変換器10-AC-1を「電力変換器10a-AC-1」といい、電力変換器10a-AC-1が備える、図11に示した制御系の構成の制御装置130-AC-1を、「制御装置130a-AC-1」といって、図10に示した制御系の構成の制御装置130-AC-1と区別する。
制御装置130a-AC-1は、APR上位制御装置136により出力される送電電力指令値PAPR*を直流電力指令値Pdc*として直流電流制御装置131に入力することによって、直流電流制御装置131から直流端子電圧指令値Vdc*を得る。
制御装置130a-AC-1は、直流コンデンサ電圧制御装置132により出力される電力指令値Pcdc*を交流有効電力指令値Pac*とし、この交流有効電力指令値Pac*と交流無効電力指令値Qac*とを交流電流制御装置135に入力して、交流端子電圧指令値Vac*を得る。これは、第1の実施形態の直流送電システム1が備える電力変換器10-ACや、電力変換器10-AC-2における直流電圧制御運転と同様である。つまり、制御装置130a-AC-1は、定電力運転において、交流端子TAから出力する交流電力に対して、直流コンデンサ電圧制御装置132による直流コンデンサ1124の電圧制御のフィードバック制御を行って、交流端子電圧指令値Vac*を得る。
制御装置130a-AC-1は、得られた直流端子電圧指令値Vdc*と交流端子電圧指令値Vac*とに基づいて、上式(1)により、アーム電圧指令値VP*とアーム電圧指令値VN*とを求める。制御装置130a-AC-1は、求めたアーム電圧指令値VP*を、電力変換器10a-AC-1が備えるアーム110Uのそれぞれに出力し、アーム電圧指令値VN*を、電力変換器10a-AC-1が備えるアーム110Dのそれぞれに出力する。これにより、電力変換器10a-AC-1は、定電力運転によって、交流端子TAに入力された交流電力を、直流端子電圧指令値Vdc*に応じた直流端子電圧Vdcの直流電力に変換して直流端子TDから出力する。
制御装置130a-AC-1による事故時の直流電流の制御も、制御装置130-AC-1と同様である。つまり、電力変換器10a-AC-1でも、電力変換器10-Pと同様に、直流電流制御装置131が、いずれかの直流送電線23において事故が発生した時間(例えば、時間ta)から、事故回線に属する直流遮断器22および直流遮断器24が事故回線を遮断する時間(例えば、時間to)までの期間に電力変換器10a-AC-1に流れる直流電流Idcの変動を抑えるように、直流端子電圧指令値Vdc*を低い値に変化させる。これにより、電力変換器10a-AC-1でも、直流送電線23において発生した事故に影響されることなく、交流電力の直流電力への変換動作を継続することができる。
上記説明したように、第2の実施形態の直流送電システム2でも、第1の実施形態の直流送電システム1と同様に、いずれかの直流送電線23において事故が発生した場合、それぞれの電力変換器10が備える直流電流制御装置131が、事故が発生したときから、事故回線に属する直流遮断器22および直流遮断器24が事故回線を遮断するまでの間、電力変換器10に流れる直流電流Idcの変動を抑えるように、直流端子電圧指令値Vdc*を低い値に変化させる。これにより、第2の実施形態の直流送電システム2でも、第1の実施形態の直流送電システム1と同様に、それぞれの電力変換器10では、過電流が発生して過電流保護機能(不図示)が動作したことにより運転が停止して、電力の変換動作を継続することができなくなってしまうような状態を回避することができる。このことにより、第2の実施形態の直流送電システム2でも、第1の実施形態の直流送電システム1と同様に、事故回線に属する直流遮断器22および直流遮断器24が事故回線を遮断すれば、直流電力の送電を継続することができる。そして、第2の実施形態の直流送電システム2でも、第1の実施形態の直流送電システム1と同様に、電力変換器10や直流送電システム2の大型化やコストの増加を抑えることができる。
上記に述べたとおり、各実施形態の直流送電システムでは、電力変換器が備える制御装置内の直流電流制御装置が、いずれかの直流送電線において事故が発生したことにより、事故回線に流れる直流事故電流が増加した場合、事故回線に属する直流遮断器が事故回線を遮断するまでの間、電力変換器に流れる直流電流の変動を抑えるように、直流端子電圧指令値を、定常時よりも低い値に変化させる。これにより、各実施形態の直流送電システムでは、いずれかの直流送電線において事故が発生した場合でも、電力変換器を流れる直流電流の増加が抑えられて一定の値に保持される。これにより、各実施形態の直流送電システムが備える電力変換器では、過電流によって過電流保護機能が動作して運転が停止しまうような状態を回避することができ、電力の変換動作を継続することができる。つまり、各実施形態の直流送電システムでは、直流送電線において発生した事故の影響により電力変換器の動作が停止してしまうことなく、直流送電システムにおける送電が停止してしまうこともなくなる。これにより、各実施形態の直流送電システムでは、事故回線の遮断と、健全回線による直流電流の正常な送電を維持するとともに、大型化やコストの増加を抑え、信頼度を向上させたシステムを実現することができる。
ところで、各実施形態の直流送電システムが備える電力変換器は、ハーフブリッジ回路を用いてアームを構成したモジュラーマルチレベル変換器である。このため、上述したように、それぞれのアームに出力させる直流端子電圧および交流端子電圧を指示(制御)するためのアーム電圧指令値は、正の値である必要がある。しかしながら、電力変換器に流れる直流電流の変動を抑えるために直流端子電圧指令値を、定常時よりも低い値にすると、電力変換器の正極側の直流端子に対応するアームに出力するアーム電圧指令値、あるいは負極側の直流端子に対応するアームに出力するアーム電圧指令値のいずれか一方または両方が負の値になってしまうこともあり得る。これを回避するため、電力変換器が備える制御装置は、いずれのアーム電圧指令値も負の値にならないように、直流端子電圧指令値を低い値にさせる、つまり、直流端子電圧を低下させるのと同時に、交流端子電圧指令値も低い値にさせて、交流端子電圧も低下させる。一般的に、交直変換器において交流端子電圧を低下させると、交流端子側の交流端子電流の制御をすることができなくなり、交流端子電流が増加してしまうことが考えられる。すると、発電設備や交流系統側から大きな交流電流が流入したり、発電設備や交流系統の運転に影響を与えてしまったりすることも考えられる。しかしながら、各実施形態の直流送電システムが備える電力変換器では、直流端子電圧指令値を低い値にして直流端子電圧を低下させる時間は、直流遮断器が事故回線を遮断させるまでの短時間(例えば、5~10[ms]程度)である。つまり、各実施形態の直流送電システムが備える電力変換器では、短時間で、低下させていた直流端子電圧を上昇(復帰)させる。このため、各実施形態の直流送電システムでは、電力変換器が交流端子電流の制御をすることができずに交流端子電流が増加してしまうと考えられる時間が、短時間である。しかも、直流送電線が対称単極の構成である直流送電システムにおいて一般的に発生する頻度が高いと考えられる片極(正極側あるいは負極側)の地絡事故の場合では、直流端子電圧指令値を低い値にさせたことに伴う直流端子電圧の低下幅は比較的小さい(電圧低下量は少ない)。このため、各実施形態の直流送電システムでも、電力変換器が直流電流の変動を抑えるために低下させる直流端子電圧の低下量は少なく、同時に低下させる交流端子電圧の低下量も少ないことから、交流端子電流の増加量も少ないと考えられる。これらのことから、各実施形態の直流送電システムにおける短時間で少ない交流端子電流の増加は、直流送電システムや電力変換器、さらには発電設備や交流系統において特に問題になることはないと考えられる。しかし、より信頼度を向上させるために、各実施形態の直流送電システムが備える電力変換器を、例えば、短時間の交流端子電流の増加に耐えることができる構成にしてもよい。この場合であっても、各実施形態の直流送電システムでは、電力変換器や直流送電システムの大型化やコストの増加を抑えることができると考えられる。
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、直列に接続された第1の直流遮断器(22)と第2の直流遮断器(24)とを有する複数の直流送電線(23)を備える直流送電システム(1)において、送電側から供給された交流電力を直流電力に変換して第1の直流遮断器側に出力する、あるいは第2の直流遮断器側から供給された直流電力を交流電力に変換して受電側に出力する電力変換器(10)であって、ハーフブリッジ回路(112)を用いて構成される複数のアーム(110)と、アームから出力する直流電力の電圧値を制御するための直流端子電圧指令値(Vdc*)を求める直流電流制御装置(131)を備え、少なくとも直流端子電圧指令値に基づいて、アームを制御するためのアーム電圧指令値(VP*およびVN*)を出力する制御装置(130)と、を備え、直流電流制御装置は、いずれかの直流送電線に事故が発生した際に、定常時とは異なる値の直流端子電圧指令値を求めることにより、直流送電線に発生した事故に伴う短時間の直流電圧の低下によって生じる、直流電流の増加に起因した動作停止を回避することができる。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。