JP2022114449A - ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物 - Google Patents

ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物 Download PDF

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宏之 井砂
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武志 東原
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俊輔 堀内
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Abstract

【課題】PPS樹脂の本来有する特性を維持しつつ、高温条件下での剛性低下を抑制したPPS樹脂組成物を得ることを課題とする。【解決手段】ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物中に配合される有機成分の50重量%以上が(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂であるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物であって、前記樹脂組成物中にオキサゾリドン環構造を含み、動的粘弾性測定により得られるガラス転移温度が98℃以上であるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。【選択図】なし

Description

本発明は、ポリフェニレンスルフィド樹脂の本来有する特性を維持しつつ、高温条件下での剛性低下を抑制したポリフェニレンスルフィド樹脂組成物に関するものである。
ポリフェニレンスルフィド(PPSと略すことがある)樹脂は、一般に80~90℃にガラス転移温度を、275~285℃に融点を持つ結晶性ポリマーである。上記熱特性に由来した優れた耐熱性や、耐薬品性、機械特性及び溶融成形性も兼ね備えた樹脂であり、射出成形や押出成形などの各種成形法により、各種成形品や繊維、フィルムなどに成形可能であるため、電気・電子部品、機械部品及び自動車部品など広範な分野において実用に供され、近年は特に高温条件下で使用される用途への適用が多く検討されている。しかし、PPS樹脂はその高い融点により高温での使用に耐える一方で、ガラス転移温度である80~90℃以上の温度では、それ以下の温度と比べて急激に剛性が低下するという本質的な課題を有していた。
PPS樹脂の耐熱性や機械特性を向上させる方法として、ポリマーアロイは有効な手法である。例えば特許文献1には、ガラス転移温度の高い非晶樹脂の1種であるポリエーテルイミド(PEIと略すことがある)樹脂を配合した例が報告されている。特許文献2にはPPS樹脂の柔軟性とポリアミド樹脂などとの接着性を向上させる目的で、エチレン・グリシジルメタクリレート共重合体に代表される熱可塑性エラストマーと多価イソシアネート化合物を配合した例が報告されている。
国際公開第2007/108384号 特開2008-110561号公報
しかしながら、特許文献1ではPEI樹脂の配合によるPPS樹脂の靭性改良が達成されているものの、ガラス転移温度の向上に関する記載はない。PPS樹脂の海相中にPEI樹脂が数百nmオーダーの島相として存在する相分離構造を形成するため、ガラス転移温度の向上は期待できない。また特許文献2においても、ガラス転移温度の向上に関する記載はない。熱可塑性エラストマーに含まれるエポキシ基と多価イソシアネート化合物との反応により、剛直な環構造であるオキサゾリドン環が一部形成すると推定されるものの、その形成量は僅かであるためガラス転移温度の向上は期待できない。
そこで、本発明は、PPS樹脂の本来有する特性を維持しつつ、高温条件下での剛性低下を抑制したPPS樹脂組成物を得ることを課題とする。
本発明者らは、かかる課題を解決すべく検討を行った結果、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物中に配合される有機成分の50重量%以上が(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂であるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物であって、前記樹脂組成物中にオキサゾリドン環構造を含み、動的粘弾性測定により得られるガラス転移温度が98℃以上であるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物とすることで、係る課題を解決することができる樹脂組成物を得るに至った。
すなわち、本発明は上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実施可能である。
(1)ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物中に配合される有機成分の50重量%以上が(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂であるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物であって、前記樹脂組成物中にオキサゾリドン環構造を含み、動的粘弾性測定により得られるガラス転移温度が98℃以上であるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
(2)(1)に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物であって、(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂、(b)多官能性イソシアネート化合物、および(c)多官能性エポキシ化合物を配合してなり、(b)多官能性イソシアネート化合物のイソシアネート基の官能基量[Is]と(c)多官能性エポキシ化合物のエポキシ基の官能基量[Ep]がそれぞれ[Is]≧1500μmol/g、[Ep]≧1500μmol/gであり、(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対して、(b)多官能性イソシアネート化合物と(c)多官能性エポキシ化合物との合計が1重量部以上、100重量部以下であるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
(3)(2)に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物であって、(b)多官能性イソシアネート化合物および(c)多官能性エポキシ化合物がそれぞれ芳香族イソシアネートおよび芳香族エポキシであるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
(4)(2)~(3)のいずれか1項に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物であって、(b)多官能性イソシアネート化合物と(c)多官能性エポキシ化合物がどちらも二官能性であるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
(5)(2)~(4)のいずれか1項に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物であって、(b)多官能性イソシアネート化合物のイソシアネート基の官能基量[Is]と(c)多官能性エポキシ化合物のエポキシ基の官能基量[Ep]の比[Is]/[Ep]が0.50以上、2.0以下であるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
(6)(1)~(5)のいずれか1項に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物であって、(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂の数平均分子量が12000以下であるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
(7)(1)~(6)のいずれか1項に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の製造方法であって、(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂、(b)多官能性イソシアネート化合物、および(c)多官能性エポキシ化合物の混合物を、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂の融点以上で加熱する工程を含むポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
(8)(1)~(6)のいずれか1項に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる成形品。
本発明によれば、PPS樹脂の本来有する特性を維持しつつ、高温条件下での剛性低下を抑制したPPS樹脂組成物を得ることができる。
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
(1)(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂
本発明で用いられる(a)PPS樹脂は、下記構造式で示される繰り返し単位を有する重合体であり、
Figure 2022114449000001
耐熱性の観点からは上記構造式で示される繰り返し単位を含む重合体を70モル%以上、更には90モル%以上含む重合体が好ましい。また(a)PPS樹脂はその繰り返し単位の30モル%未満程度が、下記の構造を有する繰り返し単位等で構成されていてもよい。
Figure 2022114449000002
かかる構造を一部有するPPS共重合体は、融点が低くなるため、このような樹脂組成物は成形加工性の点で有利となる。
本発明で用いられる(a)PPS樹脂の数平均分子量は、(b)多官能性イソシアネート化合物や(c)多官能性エポキシ化合物との反応性や相溶性に優れ、より高いガラス転移温度を有するPPS樹脂組成物を得る観点から12000以下が好ましく、10000以下が更に好ましく、8000以下がより好ましい。数平均分子量の下限は特にないが、1000以上とすることでPPS樹脂組成物の機械特性や耐薬品性を確保することができるため好ましい。一方、数平均分子量が12000を超える場合には、機械特性はより向上するものの、ガラス転移温度の向上する効果が小さくなるため好ましくない。
なお、本発明における数平均分子量は、センシュー科学製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリスチレン換算で算出した値である。
また本発明における(a)PPS樹脂のガラス転移温度は、DMA測定(動的粘弾性測定)の昇温測定を実施して得られる、貯蔵弾性率と温度の散布図から算出することができる。ガラス転移温度は、上記散布図において、ガラス領域に引いた接線と、ガラス転移領域に引いた接線との交点における温度である。
以下に、本発明に用いる(a)PPS樹脂の製造方法について説明するが、上記特性を有する(a)PPS樹脂が得られれば下記方法に限定されるものではない。
まず、製造方法において使用するポリハロゲン芳香族化合物、スルフィド化剤、重合溶媒、分子量調節剤、重合助剤および重合安定剤の内容について説明する。
[ポリハロゲン化芳香族化合物]
ポリハロゲン化芳香族化合物とは、1分子中にハロゲン原子を2個以上有する化合物をいう。具体例としては、p-ジクロロベンゼン、m-ジクロロベンゼン、o-ジクロロベンゼン、1,3,5-トリクロロベンゼン、1,2,4-トリクロロベンゼン、1,2,4,5-テトラクロロベンゼン、ヘキサクロロベンゼン、2,5-ジクロロトルエン、2,5-ジクロロ-p-キシレン、1,4-ジブロモベンゼン、1,4-ジヨードベンゼン、1-メトキシ-2,5-ジクロロベンゼンなどのポリハロゲン化芳香族化合物が挙げられ、好ましくはp-ジクロロベンゼンが用いられる。また、カルボキシル基の導入を目的に、2,4-ジクロロ安息香酸、2,5-ジクロロ安息香酸、2,6-ジクロロ安息香酸、3,5-ジクロロ安息香酸などのカルボキシル基含有ジハロゲン化芳香族化合物、およびそれらの混合物を共重合モノマーとして用いることも好ましい態様の1つである、また、異なる2種以上のポリハロゲン化芳香族化合物を組み合わせて共重合体とすることも可能であるが、p-ジハロゲン化芳香族化合物を主要成分とすることが好ましい。
ポリハロゲン化芳香族化合物の使用量は、加工に適した粘度の(a)PPS樹脂を得る点から、スルフィド化剤1モル当たり0.9から2.0モル、好ましくは0.95から1.5モル、更に好ましくは1.005から1.2モルの範囲が例示できる。
[スルフィド化剤]
スルフィド化剤としては、アルカリ金属硫化物、アルカリ金属水硫化物、および硫化水素が挙げられる。
アルカリ金属硫化物の具体例としては、例えば硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。
アルカリ金属水硫化物の具体例としては、例えば水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化リチウム、水硫化ルビジウム、水硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも水硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属水硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。
また、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系においてin situで調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。また、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物からアルカリ金属硫化物を調製し、これを重合槽に移して用いることができる。
あるいは、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素から反応系においてin situで調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。また、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素からアルカリ金属硫化物を調製し、これを重合槽に移して用いることができる。
仕込みスルフィド化剤の量は、脱水操作などにより重合反応開始前にスルフィド化剤の一部損失が生じる場合には、実際の仕込み量から当該損失分を差し引いた残存量を意味するものとする。
なお、スルフィド化剤と共に、アルカリ金属水酸化物および/またはアルカリ土類金属水酸化物を併用することも可能である。アルカリ金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を好ましいものとして挙げることができ、アルカリ土類金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムなどが挙げられ、なかでも水酸化ナトリウムが好ましく用いられる。
スルフィド化剤として、アルカリ金属水硫化物を用いる場合には、アルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましいが、この使用量はアルカリ金属水硫化物1モルに対し0.95から1.20モル、好ましくは1.00から1.15モル、更に好ましくは1.005から1.100モルの範囲が例示できる。
[重合溶媒]
重合溶媒としては有機極性溶媒を用いるのが好ましい。具体例としては、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドンなどのN-アルキルピロリドン類、N-メチル-ε-カプロラクタムなどのカプロラクタム類、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホキシドなどに代表されるアプロチック有機溶媒、およびこれらの混合物などが挙げられ、これらはいずれも反応の安定性が高いために好ましく使用される。これらのなかでも、特にN-メチル-2-ピロリドン(以下、NMPと略記することもある)が好ましく用いられる。
有機極性溶媒の使用量は、スルフィド化剤1モル当たり2.0モルから10モル、好ましくは2.25から6.0モル、より好ましくは2.5から5.5モルの範囲が選ばれる。
[分子量調節剤]
生成する(a)PPS樹脂の末端を形成させるか、あるいは重合反応や分子量を調節するなどのために、モノハロゲン化合物(必ずしも芳香族化合物でなくともよい)を、上記ポリハロゲン化芳香族化合物と併用することができる。
[重合助剤]
比較的高重合度の(a)PPS樹脂をより短時間で得るために重合助剤を用いることも好ましい態様の一つである。ここで重合助剤とは、得られる(a)PPS樹脂の粘度を増大させる作用を有する物質を意味する。このような重合助剤の具体例としては、例えば有機カルボン酸塩、水、アルカリ金属塩化物、有機スルホン酸塩、硫酸アルカリ金属塩、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ金属リン酸塩およびアルカリ土類金属リン酸塩などが挙げられる。これらは単独であっても、また2種以上を同時に用いることもできる。なかでも、有機カルボン酸塩、水、およびアルカリ金属塩化物が好ましく、更に有機カルボン酸塩としてはアルカリ金属カルボン酸塩が、アルカリ金属塩化物としては塩化リチウムが好ましい。
上記アルカリ金属カルボン酸塩とは、一般式R(COOM)(式中、Rは、炭素数1~20を有するアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基またはアリールアルキル基である。Mは、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムから選ばれるアルカリ金属である。nは1~3の整数である。)で表される化合物である。アルカリ金属カルボン酸塩は、水和物、無水物または水溶液としても用いることができる。アルカリ金属カルボン酸塩の具体例としては、例えば、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、プロピオン酸ナトリウム、吉草酸リチウム、安息香酸ナトリウム、フェニル酢酸ナトリウム、p-トルイル酸カリウム、およびそれらの混合物などを挙げることができる。
アルカリ金属カルボン酸塩は、有機酸と、水酸化アルカリ金属、炭酸アルカリ金属塩および重炭酸アルカリ金属塩よりなる群から選ばれる一種以上の化合物とを、ほぼ等化学当量ずつ添加して反応させることにより形成させてもよい。上記アルカリ金属カルボン酸塩の中で、リチウム塩は反応系への溶解性が高く助剤効果が大きいが高価であり、カリウム、ルビジウムおよびセシウム塩は反応系への溶解性が不十分であると思われるため、安価で、重合系への適度な溶解性を有する酢酸ナトリウムが最も好ましく用いられる。
これらアルカリ金属カルボン酸塩を重合助剤として用いる場合の使用量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対し、通常0.01モル~2モルの範囲であり、より高い重合度を得る意味においては0.1~0.6モルの範囲が好ましく、0.2~0.5モルの範囲がより好ましい。
また水を重合助剤として用いる場合の添加量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対し、通常0.3モル~15モルの範囲であり、より高い重合度を得る意味においては0.6~10モルの範囲が好ましく、1~5モルの範囲がより好ましい。
これら重合助剤は2種以上を併用することももちろん可能であり、例えばアルカリ金属カルボン酸塩と水を併用すると、それぞれより少量で高分子量化が可能となる。
これら重合助剤の添加時期には特に指定はなく、後述する前工程時、重合開始時、重合途中のいずれの時点で添加してもよく、また複数回に分けて添加してもよいが、重合助剤としてアルカリ金属カルボン酸塩を用いる場合は前工程開始時或いは重合開始時に同時に添加することが、添加が容易である点からより好ましい。また水を重合助剤として用いる場合は、ポリハロゲン化芳香族化合物を仕込んだ後、重合反応途中で添加することが効果的である。
[重合安定剤]
重合反応系を安定化し、副反応を防止するために、重合安定剤を用いることもできる。重合安定剤は、重合反応系の安定化に寄与し、望ましくない副反応を抑制する。副反応の一つの目安としては、チオフェノールの生成が挙げられ、重合安定剤の添加によりチオフェノールの生成を抑えることができる。重合安定剤の具体例としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属水酸化物、およびアルカリ土類金属炭酸塩などの化合物が挙げられる。そのなかでも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、および水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物が好ましい。上述のアルカリ金属カルボン酸塩も重合安定剤として作用する。また、スルフィド化剤としてアルカリ金属水硫化物を用いる場合には、アルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましいことを前述したが、ここでスルフィド化剤に対して過剰となるアルカリ金属水酸化物も重合安定剤となり得る。
これら重合安定剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。重合安定剤は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対して、通常0.02~0.2モル、好ましくは0.03~0.1モル、より好ましくは0.04~0.09モルの割合で使用することが好ましい。この割合が少ないと安定化効果が不十分であり、逆に多すぎても経済的に不利益であったり、ポリマー収率が低下したりする傾向となる。
重合安定剤の添加時期には特に指定はなく、後述する前工程時、重合開始時、重合途中のいずれの時点で添加してもよく、また複数回に分けて添加してもよいが、前工程開始時或いは重合開始時に同時に添加することが容易である点からより好ましい。
次に、本発明に用いる(a)PPS樹脂の好ましい製造方法について、前工程、重合反応工程、回収工程、および後処理工程と、順を追って具体的に説明するが、勿論この方法に限定されるものではない。
[前工程]
(a)PPS樹脂の製造方法において、スルフィド化剤は通常水和物の形で使用されるが、ポリハロゲン化芳香族化合物を添加する前に、有機極性溶媒とスルフィド化剤を含む混合物を昇温し、過剰量の水を系外に除去することが好ましい。
また、上述したように、スルフィド化剤として、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系においてin situで、あるいは重合槽とは別の槽で調製されるスルフィド化剤も用いることができる。この方法には特に制限はないが、望ましくは不活性ガス雰囲気下、常温~150℃、好ましくは常温から100℃の温度範囲で、有機極性溶媒にアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物を加え、常圧または減圧下、少なくとも150℃以上、好ましくは180~260℃まで昇温し、水分を留去させる方法が挙げられる。この段階で重合助剤を加えてもよい。また、水分の留去を促進するために、トルエンなどを加えて反応を行ってもよい。
重合反応における、重合系内の水分量は、仕込みスルフィド化剤1モル当たり0.3~10.0モルであることが好ましい。ここで重合系内の水分量とは重合系に仕込まれた水分量から重合系外に除去された水分量を差し引いた量である。また、仕込まれる水は、水、水溶液、結晶水などのいずれの形態であってもよい。
[重合反応工程]
有機極性溶媒中でスルフィド化剤とポリハロゲン化芳香族化合物とを200℃以上290℃未満の温度範囲内で反応させることにより(a)PPS樹脂を製造する。
重合反応工程を開始するに際しては、望ましくは不活性ガス雰囲気下、常温~240℃、好ましくは100~230℃の温度範囲で、有機極性溶媒とスルフィド化剤とポリハロゲン化芳香族化合物を混合する。この段階で重合助剤を加えてもよい。これらの原料の仕込み順序は、順不同であってもよく、同時であってもさしつかえない。
かかる混合物を通常200℃~290℃未満の範囲に昇温する。昇温速度に特に制限はないが、通常0.01~5℃/分の速度が選択され、0.1~3℃/分の範囲がより好ましい。
一般に、最終的には250~290℃未満の温度まで昇温し、その温度で通常0.25~50時間、好ましくは0.5~20時間反応させる。
最終温度に到達させる前の段階で、例えば200℃~260℃で一定時間反応させた後、270~290℃未満に昇温する方法は、より高い重合度を得る上で有効である。この際、200℃~260℃での反応時間としては、通常0.25時間から20時間の範囲が選択され、好ましくは0.25~10時間の範囲が選ばれる。
なお、より高重合度のポリマーを得るためには、複数段階で重合を行うことが有効である場合がある。複数段階で重合を行う際は、245℃における系内のポリハロゲン化芳香族化合物の転化率が、40モル%以上、好ましくは60モル%に達した時点であることが有効である。
なお、ポリハロゲン化芳香族化合物(ここではPHAと略記)の転化率は、以下の式で算出した値である。PHA残存量は、通常、ガスクロマトグラフ法によって求めることができる。
(A)ポリハロゲン化芳香族化合物をアルカリ金属硫化物に対しモル比で過剰に添加した場合
転化率=〔PHA仕込み量(モル)-PHA残存量(モル)〕/〔PHA仕込み量(モル)-PHA過剰量(モル)〕。
(B)上記(A)以外の場合
転化率=〔PHA仕込み量(モル)-PHA残存量(モル)〕/〔PHA仕込み量(モル)〕。
[回収工程]
(a)PPS樹脂の製造方法においては、重合終了後に、重合体、溶媒などを含む重合反応物から固形物を回収する。回収方法については、公知の如何なる方法を採用してもよい。例えば、重合反応終了後、徐冷して粒子状のポリマーを回収する方法を用いてもよい。この際の徐冷速度には特に制限は無いが、通常0.1℃/分~3℃/分程度である。徐冷工程の全工程において同一速度で徐冷する必要はなく、ポリマー粒子が結晶化析出するまでは0.1~1℃/分、その後1℃/分以上の速度で徐冷する方法などを採用してもよい。
また上記の回収を急冷条件下に行うことも好ましい方法の一つである。この回収方法のうち、好ましい方法としてはフラッシュ法が挙げられる。フラッシュ法とは、重合反応物を高温高圧(通常250℃以上、8kg/cm以上)の状態から常圧もしくは減圧の雰囲気中へフラッシュさせ、溶媒回収と同時に重合体を粉末状にして回収する方法である。ここでいうフラッシュとは、重合反応物をノズルから噴出させることを意味する。フラッシュさせる雰囲気は、具体的には、常圧中の窒素または水蒸気が挙げられ、その温度は通常150℃~250℃の範囲が選ばれる。
[後処理工程]
(a)PPS樹脂は、上記重合、回収工程を経て生成した後、酸処理、熱水処理、有機溶媒による洗浄、アルカリ金属やアルカリ土類金属処理を施されたものであってもよい。
酸処理を行う場合は次のとおりである。(a)PPS樹脂の酸処理に用いる酸は、(a)PPS樹脂を分解する作用を有しないものであれば特に制限はなく、酢酸、塩酸、硫酸、リン酸、珪酸、炭酸およびプロピル酸などが挙げられ、なかでも酢酸および塩酸がより好ましく用いられるが、硝酸のような(a)PPS樹脂を分解、劣化させるものは好ましくない。
酸処理の方法は、酸または酸の水溶液に(a)PPS樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり、必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。例えば、酢酸を用いる場合、pH4の水溶液を80~200℃に加熱した中にPPS樹脂粉末を浸漬し、30分間撹拌することにより十分な効果が得られる。処理後のpHは4以上、例えばpH4~8程度となってもよい。酸処理を施された(a)PPS樹脂は残留している酸または塩などを除去するため、水または温水で数回洗浄することが好ましい。洗浄に用いる水は、酸処理による(a)PPS樹脂の好ましい化学的変性の効果を損なわない意味で、蒸留水、脱イオン水であることが好ましい。
熱水処理を行う場合は次のとおりである。(a)PPS樹脂を熱水処理するにあたり、熱水の温度を100℃以上、より好ましくは120℃以上、更に好ましくは150℃以上、特に好ましくは170℃以上とすることが好ましい。100℃未満では(a)PPS樹脂の好ましい化学的変性の効果が小さいため好ましくない。
熱水洗浄による(a)PPS樹脂の好ましい化学的変性の効果を発現するため、使用する水は蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましい。熱水処理の操作に特に制限は無く、所定量の水に所定量の(a)PPS樹脂を投入し、圧力容器内で加熱、撹拌する方法、連続的に熱水処理を施す方法などにより行われる。(a)PPS樹脂と水との割合は、水が多い方が好ましいが、通常、水1リットルに対し、(a)PPS樹脂200g以下の浴比が選ばれる。
また、処理の雰囲気は、末端基の分解が好ましくないので、これを回避するため不活性雰囲気下とすることが望ましい。更に、この熱水処理操作を終えた(a)PPS樹脂は、残留している成分を除去するため温水で数回洗浄するのが好ましい。
有機溶媒で洗浄する場合は次のとおりである。(a)PPS樹脂の洗浄に用いる有機溶媒は、(a)PPS樹脂を分解する作用などを有しないものであれば特に制限はなく、例えばN-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、1,3-ジメチルイミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホラスアミド、ピペラジノン類などの含窒素極性溶媒、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、スルホランなどのスルホキシド・スルホン系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセトフェノンなどのケトン系溶媒、ジメチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、クロロホルム、塩化メチレン、トリクロロエチレン、2塩化エチレン、パークロルエチレン、モノクロルエタン、ジクロルエタン、テトラクロルエタン、パークロルエタン、クロルベンゼンなどのハロゲン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノール、クレゾール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのアルコール・フェノール系溶媒およびベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒などが挙げられる。これらの有機溶媒のうちでも、N-メチル-2-ピロリドン、アセトン、ジメチルホルムアミドおよびクロロホルムなどの使用が特に好ましい。また、これらの有機溶媒は、1種類または2種類以上の混合で使用される。
有機溶媒による洗浄の方法としては、有機溶媒中に(a)PPS樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり、必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。有機溶媒で(a)PPS樹脂を洗浄する際の洗浄温度については特に制限はなく、常温~300℃程度の任意の温度が選択できる。洗浄温度が高くなる程洗浄効率が高くなる傾向があるが、通常は常温~150℃の洗浄温度で十分効果が得られる。圧力容器中で、有機溶媒の沸点以上の温度で加圧下に洗浄することも可能である。また、洗浄時間についても特に制限はない。洗浄条件にもよるが、バッチ式洗浄の場合、通常5分間以上洗浄することにより十分な効果が得られる。また連続式で洗浄することも可能である。
アルカリ金属、アルカリ土類金属処理する方法としては、上記前工程の前、前工程中、前工程後にアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩を添加する方法、重合工程前、重合工程中、重合工程後に重合釜内にアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩を添加する方法、あるいは上記洗浄工程の最初、中間、最後の段階でアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩を添加する方法などが挙げられる。中でももっとも容易な方法としては、有機溶剤洗浄や、温水または熱水洗浄で残留オリゴマーや残留塩を除いた後にアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩を添加する方法が挙げられる。アルカリ金属、アルカリ土類金属は、酢酸塩、水酸化物、炭酸塩などのアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンの形でPPS中に導入するのが好ましい。また過剰のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩は温水洗浄などにより取り除く方が好ましい。上記アルカリ金属、アルカリ土類金属導入の際のアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン濃度としてはPPS1gに対して0.001mmol以上が好ましく、0.01mmol以上がより好ましい。温度としては、50℃以上が好ましく、75℃以上がより好ましく、90℃以上が特に好ましい。上限温度は特にないが、操作性の観点から通常280℃以下が好ましい。浴比(乾燥PPS重量に対する洗浄液重量)としては0.5以上が好ましく、3以上がより好ましく、5以上が更に好ましい。
本発明においては、(b)多官能性イソシアネート化合物や(c)多官能性エポキシ化合物との反応性に優れ、より高いガラス転移温度を有するPPS樹脂組成物を得る観点から、有機溶媒洗浄と80℃程度の温水または前記した熱水洗浄を数回繰り返すことにより残留オリゴマーや残留塩を除いた後、酸処理もしくはアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩で処理する方法が好ましく、酸処理する方法が更に好ましい。処理後のpHは、pH5~10が好ましく、pH6~9が更に好ましく、pH6~8がより好ましい。処理後のpHが前記の範囲内となることで、(a)PPS樹脂と(b)多官能性イソシアネート化合物、(c)多官能性エポキシ化合物との反応や、(b)多官能性イソシアネート化合物と(c)多官能性エポキシ化合物との反応が十分に進行し、より高いガラス転移温度を有するPPS樹脂組成物を得ることが可能となる。
また、熱酸化架橋を抑制し、揮発分除去を目的として乾式熱処理を行うことも可能である。その温度は130~250℃が好ましく、160~250℃の範囲がより好ましい。また、この場合の酸素濃度は5体積%未満、更には2体積%未満とすることが望ましい。処理時間は、0.5~50時間が好ましく、1~20時間がより好ましく、1~10時間が更に好ましい。加熱処理の装置は通常の熱風乾燥機でもよいし、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよいが、効率よく、しかもより均一に処理する場合は、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いるのがより好ましい。
本発明の(a)PPS樹脂は、(b)多官能性イソシアネート化合物や(c)多官能性エポキシ化合物との反応性に優れ、より優れたガラス転移温度を有するPPS樹脂組成物を得る観点から、熱酸化架橋処理による高分子量化を行わない実質的に直鎖型のPPS樹脂であるか、軽度に酸化架橋処理した半架橋型のPPS樹脂であることが好ましく、実質的に直鎖型のPPS樹脂がより好ましい。また本発明では、溶融粘度の異なる複数の(a)PPS樹脂を混合して使用してもよい。
本発明の(a)PPS樹脂は、(b)多官能性イソシアネート化合物や(c)多官能性エポキシ化合物との反応性や相溶性に優れ、より高いガラス転移温度を有するPPS樹脂組成物を得る観点から、カルボキシル基を25~1000μmol/g含むことも好ましい態様として挙げられる。カルボキシル基含有量は30~1000μmol/gが更に好ましく、50~1000μmol/gが更に好ましく、80~1000μmol/gが更に好ましい。PPS樹脂のカルボキシル基量が25μmol/gを下回る場合は、(b)多官能性イソシアネート化合物と(c)多官能性エポキシ化合物との反応が不十分となり、PPS樹脂組成物のガラス転移温度の向上が不十分となるため好ましくない。一方、(a)PPS樹脂のカルボキシル基含有量が1000μmol/gを超える場合は、加工工程における揮発性分量が増加するため好ましくない。
(a)PPS樹脂中に、カルボキシル基を導入する方法としては、カルボキシル基を含むポリハロゲン化芳香族化合物を共重合する方法や、カルボキシル基を含む化合物、例えば無水マレイン酸、ソルビン酸などを添加して、(a)PPS樹脂と溶融混練しながら反応せしめることにより導入する方法などを例示できる。
(2)(b)多官能性イソシアネート化合物
本発明では、より高いガラス転移温度を有するPPS樹脂組成物を得る観点から、イソシアネート基の官能基量[Is]が[Is]≧1500μmol/gの(b)多官能性イソシアネート化合物を配合することが好ましい。官能基量が特定量以上の(b)多官能性イソシアネート化合物を配合することで、(c)多官能性エポキシ化合物との反応により、剛直な環構造であるオキサゾリドン環が多く生成し、また(a)PPS樹脂との反応により、少なくとも一部の(b)多官能性イソシアネート化合物やオキサゾリドン環を有する生成物が(a)PPS樹脂中に取り込まれるため、ガラス転移温度が向上すると考えられる。イソシアネート基の官能基量[Is]は、[Is]≧3000μmol/gであることが更に好ましく、[Is]≧5000μmol/gであることがより好ましい。なお、各反応の進行は例えば、FT-IRスペクトルにおいて官能基由来の吸収によって評価することができる。
(b)多官能性イソシアネート化合物の配合量は、(a)PPS樹脂100重量部に対して、より高いガラス転移温度を有するPPS樹脂組成物を得る観点から0.5重量部以上であることが好ましい。1重量部以上がより好ましく、さらに好ましくは2重量部以上であり、4重量部以上が特に好ましい。また、上限値としては、(a)PPS樹脂が本来有する耐熱性や耐薬品性を確保し、溶融加工時のガスを抑制する観点から50重量部以下が好ましい。40重量部以下がより好ましく、30重量部以下がさらに好ましい。
また(b)多官能性イソシアネート化合物の配合量は、(a)PPS樹脂100重量部に対して、(b)多官能性イソシアネート化合物と(c)多官能性エポキシ化合物との合計が1重量部以上、100重量部以下であることが好ましく、5重量部以上、80重量部以下であることが更に好ましく、5重量部以上、60重量部以下であることがより好ましく、10重量部以上、50重量部以下が特に好ましい。(b)多官能性イソシアネート化合物と(c)多官能性エポキシ化合物との合計が1重量部以上であると、より高いガラス転移温度を有するPPS樹脂組成物を得ることができ、100重量部以下であると、(a)PPS樹脂が本来有する耐熱性や耐薬品性を確保することができ、また溶融加工時のガスを抑制することができるので、好ましい。
本発明における(b)多官能性イソシアネート化合物とは、1分子あたり2つ以上のイソシアネート基を有する化合物のことを指す。かかる(b)多官能性イソシアネート化合物としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、1,6,11-トリイソシアネートウンデカンなどの脂肪族イソシアネートや、ジシクロヘキシルメタン-2,2’-ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-2,4’-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、トランス1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、シクロヘキサン-1,2-ジイソシアネート、シクロヘキサン-1,3-ジイソシアネート、シクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、ポリメリックMDIの水添物などの脂環族イソシアネートや、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、1,3-フェニレンジイソシアネート、2,2-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジイソシアネート-3,3’-ジメチルビフェニル、オキシビス-1,4-フェニレンビスイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、ポリメリックMDIなどの芳香族イソシアネートなどが例示できる。
また、これらの化合物の縮合物、重合体であってもよいし、ブロック剤によりイソシアネート基がマスクされた構造を有する多官能性ブロック型イソシアネートであってもよい。ブロック剤としては特に限定されないが、アルコール類、フェノール類、ε-カプロラクタム、オキシム類、活性メチレン化合物などが例示できる。また側鎖や末端にイソシアネート基を2つ以上有するポリマーを用いることも可能である。
これらの(b)多官能性イソシアネート化合物はそれぞれ単独または2種以上の混合物の形として用いることができる。
これらの中でも、優れた耐熱性やより高いガラス転移温度を有するPPS樹脂組成物を得る観点、溶融加工時の揮発抑制の観点から、(b)多官能性イソシアネート化合物は、脂環族イソシアネートおよび芳香族イソシアネートから選択される少なくともいずれかであることが好ましく、芳香族イソシアネートであることがより好ましい。
また過度な架橋構造の形成を抑制でき、優れた溶融加工性を有するPPS樹脂組成物を得る観点から、(b)多官能性イソシアネート化合物は二官能性であることが好ましい。二官能性とは、1分子あたり2つのイソシアネート基を有することを意味する。
(3)(c)多官能性エポキシ化合物
本発明では、より高いガラス転移温度を有するPPS樹脂組成物を得る観点から、エポキシ基の官能基量[Ep]が[Ep]≧1500μmol/gの(c)多官能性エポキシ化合物を配合することが好ましい。官能基量が特定量以上の(c)多官能性エポキシ化合物を配合することで、(b)多官能性イソシアネート化合物との反応により、剛直な環構造であるオキサゾリドン環が多く生成し、また(a)PPS樹脂との反応により、少なくとも一部の(c)多官能性エポキシ化合物やオキサゾリドン環を有する生成物が(a)PPS樹脂中に取り込まれるため、ガラス転移温度が向上すると考えられる。エポキシ基の官能基量[Ep]は、[Ep]≧3000μmol/gであることが更に好ましく、[Ep]≧5000μmol/gであることがより好ましい。なお、各反応の進行は例えば、FT-IRスペクトルにおいて官能基由来の吸収によって評価することができる。
(c)多官能性エポキシ化合物の配合量は、(a)PPS樹脂100重量部に対して、より高いガラス転移温度を有するPPS樹脂組成物を得る観点から0.5重量部以上であることが好ましい。1重量部以上がより好ましく、さらに好ましくは2重量部以上であり、4重量部以上が特に好ましい。また、上限値としては、(a)PPS樹脂が本来有する耐熱性や耐薬品性を確保し、溶融加工時のガスを抑制する観点から50重量部以下が好ましい。40重量部以下がより好ましく、30重量部以下がさらに好ましい。
また(c)多官能性エポキシ化合物の配合量は、(b)多官能性イソシアネート化合物と同様の理由で、(a)PPS樹脂100重量部に対して、(b)多官能性イソシアネート化合物と(c)多官能性エポキシ化合物との合計が1重量部以上、100重量部以下であることが好ましく、5重量部以上、80重量部以下であることが更に好ましく、5重量部以上、60重量部以下であることがより好ましく、10重量部以上、50重量部以下が特に好ましい。
本発明における(c)多官能性エポキシ化合物とは、1分子あたり2つ以上のエポキシ基を有する化合物のことを指す。かかる(c)多官能性エポキシ化合物としては、ビスフェノールA、レゾルシノール、ハイドロキノン、ピロカテコール、ビスフェノールF、サリゲニン、1,3,5-トリヒドロキシベンゼン、ビスフェノールS、トリヒドロキシ-ジフェニルジメチルメタン、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’,5,5’-テトラメチルビフェニル、1,5-ジヒドロキシナフタレン、9,10-ジヒドロキシアントラセン、カシューフェノール、2,2,5,5,-テトラキス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサンなどのビスフェノール類のグリシジルエーテル、ビスフェノールの替わりにハロゲン化ビスフェノールを用いたもの、ブタンジオールのジグリシジルエーテルなどのグリシジルエーテル系エポキシ化合物、フタル酸グリシジルエステル等のグリシジルエステル系化合物、N-グリシジルアニリン等のグリシジルアミン系化合物等々のグリシジルエポキシ樹脂、エポキシ化大豆油等の線状エポキシ化合物、ビニルシクロヘキセンジオキサイド、ジシクロペンタジエンジオキサイド等の環状系の非グリシジルエポキシ樹脂などが挙げられる。
また上記の化合物の他、ノボラック型エポキシ樹脂も挙げられる。ノボラック型エポキシ樹脂はエポキシ基を2個以上有し、通常ノボラック型フェノール樹脂にエピクロルヒドリンを反応させて得られるものである。また、ノボラック型フェノール樹脂はフェノール類とホルムアルデヒドとの縮合反応により得られる。原料のフェノール類としては特に制限はないが、フェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、ビスフェノールA、レゾルシノール、p-ターシャリーブチルフェノール、ビスフェノールF、ビスフェノールSおよびこれらの縮合物が挙げられる。
また、エポキシ基を有するオレフィン共重合体も挙げられる。かかるエポキシ基を有するオレフィン共重合体(エポキシ基含有オレフィン共重合体)としては、オレフィン系(共)重合体にエポキシ基を有する単量体成分を導入して得られるオレフィン共重合体が挙げられる。また、主鎖中に二重結合を有するオレフィン系重合体の二重結合部分をエポキシ化した共重合体も使用することができる。
オレフィン系(共)重合体にエポキシ基を有する単量体成分を導入するための官能基含有成分の例としては、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジル、シトラコン酸グリシジルなどのエポキシ基を含有する単量体が挙げられる。
これらエポキシ基を含有する成分を導入する方法は特に制限なく、α-オレフィンなどとともに共重合せしめたり、オレフィン(共)重合体にラジカル開始剤を用いてグラフト導入するなどの方法を用いることができる。
上記α-オレフィンとしては、エチレンが好ましく挙げられる。また、これら共重合体にはさらに、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチルなどのα,β-不飽和カルボン酸およびそのアルキルエステル、スチレン、アクリロニトリル等を共重合することも可能である。
またかかるオレフィン共重合体はランダム、交互、ブロック、グラフトいずれの共重合様式でも良い。
これらの(c)多官能性エポキシ化合物はそれぞれ単独または2種以上の混合物の形として用いることができる。
これらの中でも、優れた耐熱性やより高いガラス転移温度を有するPPS樹脂組成物を得る観点、溶融加工時の揮発抑制の観点から、(c)多官能性エポキシ化合物は芳香族エポキシであることが好ましい。芳香族エポキシとは、化合物の構造中に少なくとも1つの芳香環を有するものを指す。
また過度な架橋構造の形成を抑制でき、優れた溶融加工性を有するPPS樹脂組成物を得る観点から、(c)多官能性エポキシ化合物は二官能性であることが好ましい。二官能性とは、1分子あたり2つのエポキシ基を有することを意味する。
(4)(d)その他の添加物
本発明のPPS樹脂組成物には本発明の効果を損なわない範囲において、(a)PPS樹脂、(b)多官能性イソシアネート化合物、および(c)多官能性エポキシ化合物以外の化合物を配合してもよい。その具体例としては、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンスルホン、ポリスルホン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンエーテル、ポリケトン、液晶ポリマー、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン-テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE))などが例示できるが、これらに限定されるものではない。
また、改質を目的として、以下のような化合物の添加が可能である。ポリアルキレンオキサイドオリゴマ系化合物、チオエーテル系化合物、エステル系化合物、有機リン系化合物などの可塑剤、有機リン化合物、ポリエーテルエーテルケトンなどの結晶核剤、モンタン酸ワックス類、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸アルミ等の金属石鹸、エチレンジアミン・ステアリン酸・セバシン酸重縮合物、シリコーン系化合物などの離型剤、その他、水、滑剤、紫外線防止剤、着色防止剤、着色剤、発泡剤などの通常の添加剤を配合することができる。上記化合物は何れも組成物全体の10重量部を超えると本発明のPPS樹脂組成物本来の特性が損なわれるため好ましくなく、5重量部以下、更に好ましくは1重量部以下の添加がよい。
また、本発明においては、各樹脂間や添加剤との相溶性を高める目的で相溶化剤を併用することが可能である。具体的には、有機シラン化合物を例示できる。
かかる有機シラン化合物の具体例としては、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシ基含有アルコキシシラン化合物、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシランなどのメルカプト基含有アルコキシシラン化合物、γ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ-ウレイドプロピルトリメトキシシラン、γ-(2-ウレイドエチル)アミノプロピルトリメトキシシランなどのウレイド基含有アルコキシシラン化合物、γ-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルメチルジメトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルメチルジエトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルエチルジメトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルエチルジエトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルトリクロロシランなどのイソシアネート基含有アルコキシシラン化合物、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ基含有アルコキシシラン化合物などの有機シラン化合物を挙げることができ、中でも反応性の観点から、エポキシ基含有アルコキシシラン化合物、アミノ基含有アルコキシシラン化合物、イソシアネート含有アルコキシシラン化合物が好ましい。
かかる有機シラン化合物の添加量は、PPS樹脂組成物の合計100重量部に対して、0.1~5重量部が好ましく、0.2~3重量部が更に好ましい。
本発明のPPS樹脂組成物には、必須成分ではないが、本発明の効果を損なわない範囲で無機フィラーを配合して使用することも可能である。かかる無機フィラーの具体例としては、ガラス繊維、炭素繊維、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、チタン酸カリウムウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、炭酸カルシウムウィスカー、ワラステナイトウィスカー、硼酸アルミニウムウィスカ、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維などの繊維状充填材、あるいはフラーレン、タルク、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、マイカ、カオリン、クレー、パイロフィライト、シリカ、ベントナイト、アスベスト、アルミナシリケートなどの珪酸塩、酸化珪素、酸化マグネシウム、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄などの金属化合物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの水酸化物、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラス粉、セラミックビーズ、窒化ホウ素、炭化珪素、カーボンブラックおよびシリカ、黒鉛などの非繊維状充填材が用いられる。
これらの無機フィラーは中空であってもよく、更に2種類以上併用することも可能である。また、これらの無機フィラーをイソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物およびエポキシ化合物などのカップリング剤で予備処理して使用してもよい。
本発明において、無機フィラーを配合することは、優れた機械強度、より高いガラス転移温度を有するPPS樹脂組成物を得ることができるため好ましい。無機フィラーの中でも、優れた機械強度、高いガラス転移温度を有するPPS樹脂組成物を得る観点からは、繊維状充填材を配合することが好ましい。繊維状充填材の中でも、ガラス繊維、炭素繊維が特に好ましい。
また防食材、滑材の効果の観点からは、シリカ、炭酸カルシウム、カーボンブラックが好ましい。
かかる無機フィラーの配合量は、PPS樹脂組成物の合計100重量部に対して、0.1重量部以上200重量以下が好ましく、0.5重量部以上150重量以下が更に好ましく、1重量部以上100重量部以下がより好ましい。PPS樹脂組成物の合計100重量部に対して、無機フィラーを0.1重量部以上配合することで、材料の機械強度とガラス転移温度が向上する効果が十分であり、200重量部以下とすることで溶融加工時の流動性が十分であるため好ましい。
本発明において、(b)多官能性イソシアネート化合物と(c)多官能性エポキシ化合物からオキサゾリドン環が生成する反応を促進し、PPS樹脂組成物のガス量を低減したり、優れたガラス転移温度を得たりする目的で、触媒を添加することも好ましい。前記効果が得られる触媒であれば種類は特に限定されないが、好ましくは塩基性触媒である。塩基性触媒としては例えば、塩化リチウム、ブトキシリチウム等のリチウム化合物、3フッ化ホウ素の錯塩、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラメチルアンモニウムブロミド、テトラエチルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラメチルアンモニウムヨージド、テトラエチルアンモニウムヨージド、テトラブチルアンモニウムヨージド等の4級アンモニウム塩、ジメチルアミノエタノール、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ベンジルジメチルアミン、N-メチルモルホリン、N,N’-ジメチルピペラジン、1,4-ジエチルピペラジン等の3級アミン化合物、トリフェニルホスフィン、トリス(2,6-ジメトキシフェニル)ホスフィン等のホスフィン化合物、アミルトリフェニルホスホニウムブロミド、ジアリルジフェニルホスホニウムブロミド、エチルトリフェニルホスホニウムクロリド、エチルトリフェニルホスホニウムブロミド、エチルトリフェニルホスホニウムヨージド、ブチルトリフェニルホスホニウムクロリド、ブチルトリフェニルホスホニウムブロミド、ブチルトリフェニルホスホニウムヨージド、テトラブチルホスホニウムアセテート・酢酸錯体、テトラブチルホスホニウムアセテート、テトラブチルホスホニウムクロリド、テトラブチルホスホニウムブロミド、テトラブチルヨードイド等のホスホニウム塩、トリフェニルアンチモン及びヨウ素の組み合わせ、2-フェニルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール等のイミダゾール化合物、ジアザビシクロウンデセン(DBU)およびその錯塩、ジアザビシクロノネンおよびその錯塩等が挙げられる。これらの触媒を2種類以上併用してもよい。
これらの中でも、触媒効果が高く、ガス量の少ないPPS樹脂組成物を得る観点で、4級アンモニウム塩、イミダゾール化合物、DBUおよびその錯塩が好ましく、特にテトラブチルアンモニウムブロミド、2-エチル-4-メチルイミダゾール、DBUが好ましい。
触媒の添加量は特に限定されないが、(c)多官能性エポキシ化合物のエポキシ基の官能基量[Ep]に対して、50モル%以下であることが好ましく、10モル%以下であることがより好ましく、5モル%以下であることが特に好ましい。また触媒としての十分な効果を得るために、0.01モル%以上であることが好ましく、0.1モル%以上であることがより好ましく、0.2モル%以上であることが特に好ましい。
(5)樹脂組成物の製造方法
本発明のPPS樹脂組成物を製造する方法としては、(a)PPS樹脂、(b)多官能性イソシアネート化合物、および(c)多官能性エポキシ化合物の混合物を、(a)PPS樹脂の融点以上で加熱する工程を含むことが好ましい。加熱温度は、使用する(a)PPS樹脂にもよるが、例えば270~400℃の範囲であり、280~360℃の範囲がより好ましく、280~330℃の範囲が更に好ましい。(a)PPS樹脂の融点以上で加熱することで、(a)PPS樹脂、(b)多官能性イソシアネート化合物、および(c)多官能性エポキシ化合物のそれぞれの間で反応が進行し、(a)PPS樹脂にオキサゾリドン環構造が取り込まれるため、より高いガラス転移温度を有するPPS樹脂組成物を得ることができると考えられる。
ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の製造は、溶融状態での製造や溶液状態での製造等が使用できるが、簡便さの観点から、溶融状態での製造が好ましく用いられる。溶融状態での製造については、押出機による溶融混練や、ニーダーによる溶融混練等が使用できるが、生産性の観点から、連続的に製造可能な押出機による溶融混練が好ましく用いられる。押出機による溶融混練については、単軸押出機、二軸押出機、四軸押出機等の多軸押出機、二軸単軸複合押出機等の押出機を少なくとも1台使用できるが、混練性、反応性、生産性向上の点から、二軸押出機、四軸押出機等の多軸押出機が好ましく使用でき、二軸押出機による溶融混練が最も好ましい。
溶融混練する更に具体的な方法としては、必ずしもこれに限定されるものでは無いが、L/D(L:スクリュー長さ、D:スクリュー直径)が10以上、好ましくは20以上であり、ニーディング部を2箇所以上、好ましくは3箇所以上有する二軸押出機を使用することが好ましい。L/Dの上限については特に制限しないが、60以下が経済性の観点から好ましい。また、ニーディング部の数の上限についても特に制限しないが、生産性の観点から10箇所以下であることが好ましい。スクリュー全長に対するニーディング部の割合は、15%以上が好ましく、20%以上がより好ましく、30%以上が更に好ましい。スクリュー全長に対するニーディング部の割合が15%を下回る場合は、混練力が劣るため、所望の物性も発現し難い。一方、スクリュー全長に対するニーディング部の割合の上限については、混練時の過剰な剪断発熱の発生による樹脂の劣化を防ぐ観点から、70%以下が好ましい。
スクリュー回転数については150~1000回転/分、好ましくは300~1000回転/分の条件で混練する方法が好ましい。
溶融混練する際の原料の混合順序については特に制限されるものではないが、全ての原材料を配合後上記の方法により溶融混練する方法、一部の原材料を配合後上記の方法により溶融混練し、これと更に残りの原材料を配合し溶融混練する方法、あるいは一部の原材料を配合後、2軸の押出機により溶融混練中にサイドフィーダーを用いて残りの原材料を混合する方法など、いずれの方法を用いてもよい。
(6)PPS樹脂組成物
本発明のPPS樹脂組成物は、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物中に配合される有機成分の50重量%以上が(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂であるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物であって、前記樹脂組成物中にオキサゾリドン環構造を含み、動的粘弾性測定により得られるガラス転移温度が98℃以上であるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物とすることによって、PPS樹脂の本来有する特性を維持しつつ、ガラス転移温度が向上することで高温条件下での剛性低下を抑制できたものである。なお、有機成分とは、PPS樹脂組成物に含まれる成分のうち無機成分(無機フィラー)を除いたものである。
オキサゾリドン環構造はPPS樹脂組成物中において、(a)PPS樹脂と反応して主鎖あるいは側鎖構造の一部として存在していてもよいし、樹脂組成物中に(a)PPS樹脂と反応せず存在していてもよい。より高いガラス転移温度を有するPPS樹脂組成物を得る観点から、好ましくはオキサゾリドン環構造の少なくとも一部がPPS樹脂と反応して主鎖あるいは側鎖構造の一部として存在することが好ましい。
なおオキサゾリドン環構造とは下記構造式で表されるものであり、PPS樹脂組成物の非晶フィルムをFT-IRで測定した際のスペクトルにおいて、オキサゾリドン環のカルボニル基の伸縮振動ピーク(1763cm-1付近)から確認できる。
Figure 2022114449000003
ここで、Rは(c)多官能性エポキシ化合物から2つのエポキシ基を除いた残基、Rは(b)多官能性イソシアネート化合物から2つのイソシアネート基を除いた残基を表す。RおよびRはそれぞれ独立して、水素、ハロゲン、炭素数1~7のアルキル基、フェニル基、ハロアルキル基、アミノアルキル基などから選択される。RおよびRは水素原子であることが好ましい。
本発明のPPS樹脂組成物は、PPS樹脂組成物中に配合される有機成分の50重量%以上が(a)PPS樹脂であることが必須であり、55重量%以上が好ましく、60重量%以上がより好ましく、65重量%以上が特に好ましい。(a)PPS樹脂が有機成分のうち50重量%未満であると、PPS樹脂組成物の耐薬品性や耐熱性などが損なわれる。
本発明におけるPPS樹脂組成物の動的粘弾性測定により得られるガラス転移温度は98℃以上であることが必要である。ガラス転移温度が98℃未満であると、高温条件下での剛性低下を抑制できない。ガラス転移温度は100℃以上が好ましく、102℃以上がより好ましく、104℃以上が特に好ましい。ガラス転移温度は高いほど好ましく上限はないが、溶融成形性の観点から200℃以下であることが好ましい範囲として例示できる。
なお、本発明におけるPPS樹脂組成物のガラス転移温度は、DMA測定(動的粘弾性測定)の昇温測定を実施して得られる、貯蔵弾性率と温度の散布図から算出することができる。ガラス転移温度は、上記散布図において、ガラス領域に引いた接線と、ガラス転移領域に引いた接線との交点における温度である。
上記PPS樹脂組成物は、例えば(a)PPS樹脂、イソシアネート基の官能基量[Is]が特定量以上の(b)多官能性イソシアネート化合物、およびエポキシ基の官能基量[Ep]が特定量以上の(c)多官能性エポキシ化合物の混合物を、(a)PPS樹脂の融点以上で加熱することによって得ることができる。
本発明において、(b)多官能性イソシアネート化合物のイソシアネート基の官能基量[Is]と(c)多官能性エポキシ化合物のエポキシ基の官能基量[Ep]の比[Is]/[Ep]は、より高いガラス転移温度を有するPPS樹脂組成物を得る観点で、0.50以上、2.0以下であること好ましい。[Is]/[Ep]が0.67以上、1.5以下であることが更に好ましく、0.83以上、1.2以下であることがより好ましく、0.91以上1.1以下であることが特に好ましい。
(7)用途
本発明のPPS樹脂組成物及びそれからなる成形品の用途としては、電気・電子部品、音声機器部品、家庭、事務電気製品部品、機械関連部品、光学機器、精密機械関連部品、水廻り部品、自動車・車両関連部品、航空・宇宙関連部品その他の各種用途が例示できる。中でも高温条件下での剛性低下を抑制できる観点から、電気・電子部品、自動車・車両関連部品、航空・宇宙関連部品として特に好適である。
射出成形により得られる成形品の用途としては、発電機、電動機、変圧器、変流器、電圧調整器、整流器、インバーター、継電器、電力用接点、開閉器、機遮断機、ナイフスイッチ、他極ロッド、電気部品キャビネットなどの電気機器部品;センサー、LEDランプ、コネクター、ソケット、抵抗器、リレーケース、小型スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、コンピューター関連部品等に代表される電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザーディスク(登録商標)・コンパクトディスク等の音声機器部品;照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品等に代表される家庭・事務電気製品部品;オフィスコンピューター関連部品、電話器関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、モーター部品、ライター、タイプライターなどに代表される機械関連部品;顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計等に代表される光学機器・精密機械関連部品;オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、ICレギュレーター、ライトディマー用ポテンシオメーターベース、排気ガスバルブ等の各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプとダクト、ターボダクト、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、ブレーキパットウェアーセンサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、ブレーキパッド摩耗センサー、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンベイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビューター、スタータースイッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウォッシャーノズル、エアコンパネルスイッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクター、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、クラッシュパッド、インシュロック、結束バンド、点火装置ケース等の自動車・車両関連部品;携帯電話、スマートフォン、ノート型パソコン、タブレット型パソコン、ビデオカメラ、ハイブリッド自動車、電気自動車などの一次電池または二次電池用のガスケット等々を例示できる。
押出成形により得られる成形品としては、丸棒、角棒、シート、フィルム、チューブ、パイプなどが挙げられる。具体的な用途としては、給湯器モーター、エアコンモーター、駆動モーター用などの電気絶縁材料、フィルムコンデンサー、スピーカー振動板、記録用の磁気テープ、プリント基板材料、プリント基板周辺部品、シームレスベルト、半導体パッケージ、半導体搬送トレイ、工程・離型フィルム、保護フィルム、自動車用フィルムセンサー、ワイヤーケーブルの絶縁テープ、リチウムイオン電池内の絶縁ワッシャー、熱水や冷却水、化学薬品用のチューブ、自動車用の燃料チューブ、熱水配管、化学プラントなどの薬品配管、超純水や超高純度溶媒用の配管、自動車配管、フロンや超臨界二酸化炭素冷媒用の配管パイプ、研磨装置用のワークピース保持リングなどが例示できる。その他、ハイブリッド自動車や電気自動車、鉄道、発電設備のモーターコイル用巻線の被覆成形体、家電用の耐熱電線ケーブル、自動車内の配線に使用されるフラットケーブル等のワイヤーハーネスやコントロールワイヤー、通信、伝送用、高周波用、オーディオ用、計測用などの信号用トランスまたは車載用トランスの巻線の被覆成形体などが例示できる。
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれのみに限定されるものではない。
実施例および比較例において、(a)PPS樹脂、(b)多官能性イソシアネート化合物、(c)多官能性エポキシ化合物、および(d)その他の添加物として以下のものを用いた。
[(a)PPS樹脂(a-1、a-2)]
a-1:直鎖型PPS樹脂 数平均分子量:6000、カルボキシル基量:100μmol/g、融点:280℃
a-2:直鎖型PPS樹脂、数平均分子量:12000、カルボキシル基量:50μmol/g、融点:280℃
[(b)多官能性イソシアネート化合物(b-1、b-2)]
b-1:4,4’-ジイソシアネート-3,3’-ジメチルビフェニル イソシアネート基の官能基量[Is]:7570μmol/g(クミアイ化学工業社製、ハートデュア118)
b-2:1,5-ナフタレンジイソシアネート イソシアネート基の官能基量[Is]:9520μmol/g(クミアイ化学工業社製、イハラND)
[(c)多官能性エポキシ化合物(c-1~c-3)]
c-1:テトラメチルビフェニル型エポキシ エポキシ基の官能基量[Ep]:5380μmol/g(三菱化学社製、YX4000K)
c-2:WHR-991S(商品名) エポキシ基の官能基量[Ep]:3760μmol/g(日本化薬社製)
c-3:ノボラック型エポキシ エポキシ基の官能基量[Ep]:3640μmol/g(日本化薬社製、NC3000)
[(d)その他の添加物(d-1~d-7)]
d-1:ガラス繊維(日本電気硝子社製、T760H)
d-2:エチレン・グリシジルメタクリレート共重合体 融点103℃、MFR:3g/10分(190℃、21.2N荷重)、エポキシ基の官能基量[Ep]:850μmol/g(住友化学社製、ボンドファーストE)
d-3:ポリエーテルイミド樹脂 ガラス転移温度:217℃(sabic社製、ULTEM1000)
d-4:γ-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン イソシアネート基の官能基量[Is]:4040μmol/g(信越化学工業社製、KBE-9007N)
d-5:テトラブチルアンモニウムブロミド(東京化成工業社製)
d-6:2-エチル-4-メチルイミダゾール(東京化成工業社製)
d-7:ジアザビシクロウンデセン(サンアプロ社製、DBU)
以下の実施例において、材料特性については次の方法により評価した。
[曲げ試験]
住友重機械工業製射出成形機(SE75DUZ-C250)を用い、樹脂温度:310℃、金型温度150℃にて、ISO527-2-1Aダンベル試験片を成形した。得られた試験片について、支点間距離64mm、試験速度2mm/min、温度23℃あるいは100℃、相対湿度50%条件下で、ISO178に従って曲げ弾性率を測定した。曲げ弾性率保持率は以下の式より算出した。
曲げ弾性率保持率(%)=(100℃で測定した曲げ弾性率)/(23℃で測定した曲げ弾性率)×100
[PPS樹脂の数平均分子量]
PPS樹脂の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリスチレン換算で算出した。GPCの測定条件を以下に示す。
装置:SSC-7110(センシュー科学)
カラム名:Shodex UT806M×2
溶離液:1-クロロナフタレン
検出器:示差屈折率検出器
カラム温度:210℃
プレ恒温槽温度:250℃
ポンプ恒温槽温度:50℃
検出器温度:210℃
流量:1.0mL/min
試料注入量:300μL(スラリー状:約0.2重量%)。
[PPS樹脂のカルボキシル基量]
PPS樹脂のカルボキシル基含有量は、フーリエ変換赤外分光装置(以下、FT-IRと略す)を用いて算出した。
まず、標準物質として安息香酸をFT-IRにて測定し、ベンゼン環のC-H結合の吸収である3066cm-1のピークの吸収強度(b1)とカルボキシル基の吸収である1704cm-1のピークの吸収強度(c1)を読み取り、ベンゼン環1単位に対するカルボキシル基量(U1)、(U1)=(c1)/[(b1)/5]を求めた。次に、PPS樹脂を320℃にて1分間溶融プレスした後、急冷して得られた非晶フィルムのFT-IR測定を行った。3066cm-1の吸収強度(b2)と1704cm-1の吸収強度(c2)を読み取り、ベンゼン環1単位に対するカルボキシル基量(U2)、(U2)=(c2)/[(b2)/4]を求めた。PPS樹脂1gに対するカルボキシル基含有量を以下の式から算出した。
PPS樹脂のカルボキシル基量(μmol/g)=(U2)/(U1)/108.161×1000000。
[DSC測定]
PPS樹脂組成物のペレットにつき、示差走査熱量計(Q200、TAインスツルメント社製)を用い、窒素雰囲気下において以下の条件で測定した。20℃/分の速度で0℃から340℃まで昇温した。その後、340℃で1分保持し、20℃/分の速度で100℃まで降温した。その後、100℃で1分保持し、20℃/分の速度で100℃から340℃まで昇温した。2回目の昇温過程において検出される融解ピーク温度の値を融点とし、融解ピーク面積から融解熱量を得た。
[DMA測定]
PPS樹脂組成物のペレットを試料とし、ポリイミドフィルムに試料とスペーサー(250μm厚のアルミ板)を挟んだ。ポリイミドフィルムごと320℃に加熱したプレスの金型に挟み、2分間予熱、1分間加圧を行った。1分間加圧し試料を滞留させた後、ポリイミドフィルムごと取出し、150℃に加熱した金属板に挟み、5分間加熱して結晶化を行い、厚さ約200μmの結晶化フィルムを得た。この結晶化フィルムから、幅20mm、長さ25mmの試験片を切り出し、動的粘弾性測定装置(DMA+1000、MetraVib社製)を用い、引張試験治具に試験片をセットし、昇温速度2℃/min、周波数1Hz、ひずみ量0.05%にて、50~200℃の温度範囲について測定を行った。この際、ガラス転移温度は、得られた貯蔵弾性率と温度のグラフにおいて、ガラス状態に引いた接線と、ガラス転移温度領域に引いた接線との交点における温度とした。
[FT-IR測定]
PPS樹脂組成物のペレットを320℃にて1分間溶融プレスした後、急冷して得られた非晶フィルムのFT-IR測定を行った。1763cm-1付近(カルボニル基)のピーク有無からオキサゾリドン環構造の形成を確認した。
[ガス量]
PPS樹脂組成物のペレットを130℃で3時間予備乾燥した後、約10gをアルミカップに精秤した。これを大気下320℃で2時間処理した際の重量減少を測定した。
[実施例1~17、比較例1~7]
(a)PPS樹脂、(b)多官能性イソシアネート化合物、(c)多官能性エポキシ化合物、および(d)その他の添加物を表1~3に示す割合でドライブレンドした後、真空ベントを具備した日本製鋼所製TEX30α型二軸押出機(30mmφ、L/D=45)を用い、スクリューアレンジをニーディング部3箇所、スクリュー全長に対するニーディング部の割合を30%とし、シリンダー温度は320℃に設定して溶融混練した。その後、ストランドカッターによりペレット化した。得られたペレットを120℃で一晩乾燥した後、DSC、DMA、FT-IR、ガス量測定に用いた。また得られたペレットを射出成形に供し、得られた試験片の曲げ試験を行った。結果は表1~3に示す通りであった。
Figure 2022114449000004
Figure 2022114449000005
Figure 2022114449000006
上記実施例と比較例の結果を比較して説明する。
比較例1、2に示すように、PPS樹脂単体ではガラス転移温度は低かった。PPS樹脂に、官能基量が特定量以上の多官能性イソシアネート化合物、あるいは多官能性エポキシ化合物を配合した比較例3、4では、ガラス転移温度の向上は僅か、あるいは向上しなかった。比較例5に示すように、PPS樹脂に官能基量が特定量以上の多官能性イソシアネート化合物を配合しても、エチレン・グリシジルメタクリレート共重合体のような多官能性エポキシ化合物の併用では、オキサゾリドン環構造を含むものの、ガラス転移温度は98℃未満であった。また比較例6に示すように、PPS樹脂にガラス転移温度の高いポリエーテルイミド樹脂を配合しても、ガラス転移温度の向上は僅かであった。
一方で実施例1~17は、PPS樹脂に、官能基量が特定量以上の多官能性イソシアネート化合物、多官能性エポキシ化合物を配合することで、ガラス転移温度が大きく向上した。これらはオキサゾリドン環構造を含むことをFT-IR測定により確認した。実施例1、10と比較例1の曲げ弾性率保持率の比較から、ガラス転移温度が高いほど高温条件下での剛性低下を抑制できていた。
また触媒を配合した実施例12~17は、触媒を配合しなかった実施例10と比べてガス量を抑制できていた。

Claims (8)

  1. ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物中に配合される有機成分の50重量%以上が(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂であるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物であって、前記樹脂組成物中にオキサゾリドン環構造を含み、動的粘弾性測定により得られるガラス転移温度が98℃以上であるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
  2. 請求項1に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物であって、(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂、(b)多官能性イソシアネート化合物、および(c)多官能性エポキシ化合物を配合してなり、(b)多官能性イソシアネート化合物のイソシアネート基の官能基量[Is]と(c)多官能性エポキシ化合物のエポキシ基の官能基量[Ep]がそれぞれ[Is]≧1500μmol/g、[Ep]≧1500μmol/gであり、(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対して、(b)多官能性イソシアネート化合物と(c)多官能性エポキシ化合物との合計が1重量部以上、100重量部以下であるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
  3. 請求項2に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物であって、(b)多官能性イソシアネート化合物および(c)多官能性エポキシ化合物がそれぞれ芳香族イソシアネートおよび芳香族エポキシであるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
  4. 請求項2~3のいずれか1項に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物であって、(b)多官能性イソシアネート化合物と(c)多官能性エポキシ化合物がどちらも二官能性であるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
  5. 請求項2~4のいずれか1項に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物であって、(b)多官能性イソシアネート化合物のイソシアネート基の官能基量[Is]と(c)多官能性エポキシ化合物のエポキシ基の官能基量[Ep]の比[Is]/[Ep]が0.50以上、2.0以下であるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
  6. 請求項1~5のいずれか1項に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物であって、(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂の数平均分子量が12000以下であるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
  7. 請求項1~6のいずれか1項に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の製造方法であって、(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂、(b)多官能性イソシアネート化合物、および(c)多官能性エポキシ化合物の混合物を、(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂の融点以上で加熱する工程を含むポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
  8. 請求項1~6のいずれか1項に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる成形品。
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