JP2022108965A - 電動歩行補助車 - Google Patents

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Abstract

【課題】 簡素な構成により状況に応じて安定的なアシストを行える電動歩行補助車を提供する。【解決手段】 電動歩行補助車(1)は、車体(2)、左右駆動輪(4L,4R)、左右モータ(40L,40R)、自在輪(5)、把持センサ(30)、前記左右駆動輪の回転速度センサ(43)、前記車体の進退方向の傾斜を検出する傾斜センサ(20)、および、前記左右モータを制御する制御部(10)を備え、前記把持センサが把持を検知している状態で、前記左右回転速度センサに検知される前記左右駆動輪の回転速度と、前記左右モータのトルク指令値との関係を規定する基本トルクマップと、前記傾斜センサに検出される傾斜に応じて、前記車体に作用する重力により前記左右駆動輪に生じる回転力を相殺する傾斜補償トルクを前記左右モータに付加する追加トルクマップに従って、前記左右モータにトルクを発生させるように構成されている。【選択図】図2

Description

本発明は、電動歩行補助車に関する。
高齢者など歩行に負担を抱える利用者のための手押し車型の電動歩行補助車が開発されている。例えば、特許文献1には、利用者がハンドルバーを押す力を力センサで検出し、その大きさおよび方向に応じてアシスト力が付与されるように、電気モータの駆動トルクを制御するようにした手押し車が開示されている。
特許第6620326号公報
この装置は、利用者がハンドルバーへ作用させた圧力(ハンドル力)を、ハンドルバーと支柱との結合部分に取り付けられた力センサ(圧力センサ)で検出し、アシスト力を決定する構成であるため、制御や構造が複雑化する問題があった。また、基本的に人間は前進歩行に比べて後退歩行は不得意であるので、特許文献1の図4に示されるように、前進方向と後退方向で対称(同等)にアシストを実行すると、後退方向のアシストが過剰になる問題もあった。
本発明は、従来技術の上記の点に鑑みてなされたものであり、その目的は、簡素な構成により状況に応じて安定的なアシストを行える電動歩行補助車を提供することにある。
上記課題を解決するために、本発明に係る電動歩行補助車は、
進退方向および幅方向を有する車体と、
前記車体の幅方向に離間して設けられた左右駆動輪と、
前記左右駆動輪に個別に動力伝達可能に接続された左右モータと、
前記左右駆動輪に対して前記車体の進退方向に離間して設けられた自在輪と、
前記車体の上部に利用者が起立歩行姿勢で把持できるように設けられた把持部と、
前記把持部の利用者による把持を検知する把持センサと、
前記左右駆動輪の回転速度を個別に検知する左右回転速度センサと、
前記車体の進退方向の傾斜を検出する傾斜センサと、
前記左右モータを制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記把持センサが把持を検知している状態で、前記左右回転速度センサに検知される前記左右駆動輪の回転速度と、前記左右モータのトルク指令値との関係を規定する基本トルクマップと、前記傾斜センサに検出される傾斜に応じて、前記車体に作用する重力により前記左右駆動輪に生じる回転力を相殺する傾斜補償トルクを前記左右モータに付加する追加トルクマップに従って、前記左右モータにトルクを発生させるように構成されている。
本発明に係る電動歩行補助車は、上記のように、利用者が把持部を把持して車体を押す/引く操作に伴い検知される左右駆動輪の回転速度に応じて左右モータのトルク指令値を規定する基本トルクマップと、傾斜補償トルクを左右モータに付加する追加トルクマップに従って、左右モータにトルクを発生させるように構成されているので、利用者が把持部を押す/引く力を検出する力センサ(圧力センサ)が不要になり、車体構造および制御が簡素化される。特に、左右モータの駆動により力センサに検出される牽引力を考慮する必要がなく、簡単な操作により傾斜補償を含む安定的なアシストを行える利点がある。
また、本発明に係る好適な態様では、前記追加トルクマップは、前記傾斜センサに、前記車体の進退方向に対して前記車体が前傾するマイナス傾斜が検出される場合、前記車体の後退方向の傾斜補償トルクが、前記車体の前進方向の傾斜補償トルクよりも小さくなるように構成されているので、制御の複雑化を回避しつつ、前進歩行に比べて後退歩行を不得意とする人間の特性を考慮したアシストを行える利点もある。
本発明実施形態の電動歩行補助車を示す側面図である。 本発明実施形態の電動歩行補助車の制御系統を示すブロック図である。 本発明実施形態の電動歩行補助車の制御用基本トルクマップである。 本発明実施形態の電動歩行補助車の制御を示すフローチャートである。 (a)旋回アシストを示す概略平面図、(b)その場旋回アシスト(スピンターン)を示す概略平面図、および、(c)旋回時の追加トルクマップである。 車体が後傾するプラス傾斜となる(a)前進登坂時および(b)後退降坂時の傾斜補償アシストを示す概略側面図である。 車体が前傾するマイナス傾斜となる(a)前進降坂時および(b)後退登坂時の傾斜補償アシストを示す概略側面図である。 傾斜補償アシストのための追加トルクマップである。 横傾斜補償アシストを示す概略斜視図である。
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
図1において、本発明実施形態に係る電動車両1は、移動ベース21(下部走行体)およびその後部(後側ベース24)に立設された上部フレーム22からなる車体2を備えており、図中実線で示される歩行補助車モード(1)と、図中2点鎖線で示される小型電動車モード(乗車モード1′)とで利用可能である。
移動ベース21は、左右の駆動輪4(後輪)および上部フレーム22が設けられた後側ベース24(本体部)と、左右の従動輪5(前輪)が設けられた前側ベース25を備え、前側ベース25は、後側ベース24の前側に前後方向に摺動可能に連結されており、移動ベース21はホイールベースが伸縮可能に構成されている。
左右の駆動輪4は、後側ベース24に搭載された左右のモータユニット40(40L,40R)により独立して駆動される。左右の従動輪5は、接地部に周方向の軸周りに回転可能な多数のローラ50を備えた自在輪(オムニホイール、全方位車輪)で構成されており、後述のように、電動車両1は、左右のモータユニット40L,40Rの制御のみで操舵および制駆動が可能になっている。
上部フレーム22は、後側ベース24の左右両側部から上方に立設された左右一対の側部フレームの上端が車幅方向に延びる上端フレームで連結された逆U字状もしくは門形状をなし、上端フレームの車幅方向中央の結合部23には、リアハンドル3のステム31の下端部が剛結合されるとともに、シートバック6が支持されている。
リアハンドル3は、ステム31の上端との接続部32から左右に延出した一対の把持部を有するTバー形状をなしている。リアハンドル3の左右の把持部には、利用者(または介助者)が把持している状態(ハンズオン)を検知する把持センサ30が設けられている。把持センサ30としては、静電容量センサや感圧センサなどのタッチセンサを用いることができる。リアハンドル3の左右の把持部は、利用者自身が歩行補助車モード(1)で使用する場合、および、利用者をシート7に着座させた状態で介助者などが電動車両を操縦する場合の操作部となる。
上部フレーム22(側部フレーム)の高さ方向中間の屈曲部には、アームレスト8のサポートフレーム81の基部が固定されている。図1において奥側となる右側のアームレスト8の前端部には乗車モード操作部83が設けられており、図1において手前側となる左側のアームレスト8の前端部には同形状の把持部(83)の上面に表示部80が設けられている。乗車モード操作部83は前後左右に傾動可能な2軸ジョイスティックなどで構成される。
上部フレーム22(側部フレーム)の屈曲部から前方に突出した枢支部27には、シート7(シートクッション)のサポートフレーム71が、車幅方向の軸7aで枢支される一方、サポートフレーム71の下端は、連結部7b(スロット)を介して前側ベース25(ピン)に回動可能かつ摺動可能に連結されている。
上記構成により、図中実線で示される歩行補助車モード(1)から、折畳み位置にあるシート7を、図中2点鎖線で示されるように後上方に回動させて着座位置7′に移動させると、それに連動して前側ベース25が前方にスライドし、移動ベース21が伸長され乗車モード(1′)となる。この状態で、トレイ24bの前方に移動した前側ベース25の上面25bは、搭乗者のフットレストとして利用可能になる。
逆に、乗車モード(1′)から、シート7を前下方に回動させて折畳み位置に移動させると、前側ベース25が後方にスライドし、移動ベース21が短縮され、利用者がリアハンドル3を把持して起立歩行しながら操作できる歩行補助車モード(1)となる。
図2は、電動車両1の制御系統を示すブロック図であり、電動車両1は、左右のモータユニット40(40L,40R)に電力を供給するバッテリ9、左右のモータユニット40(40L,40R)の制御を行う制御部10を備え、制御部10は、歩行補助車モード(1)、乗車モード(1′)のそれぞれにおいて対応する制御を実施するインターロック機構を備えている。
歩行補助車モード(1)では、乗車モード操作部83は無効になり、制御部10は、傾斜センサ20、左右の回転速度センサ43などの検知情報と予め設定されている制御マップに基づいて、左右のモータユニット40(40L,40R)の制御を実行する。把持センサ30は、利用者によるリアハンドル3の把持(ハンズオン/オフ)のみを検知し、モータユニット40のトルク制御には関与しない。
一方、乗車モード(1′)では、把持センサ30は無効になり、制御部10は、乗車モード操作部83の操作と傾斜センサ20の検知情報に基づいて左右のモータユニット40(40L,40R)の制御を実行する。
制御部10は、上記各モードにおける制御を実行するためのプログラムやデータを記憶したROM、演算処理結果を一時記憶するRAM、演算処理を行うCPUなどからなるコンピュータ(マイコン)、左右のモータ41の駆動回路(モータドライバ)、バッテリ9の電力をオン/オフするリレーを含む電源回路などで構成されている。
左右のモータユニット40(40L,40R)は、それぞれ、モータ41と、モータ41のロータをロックする電磁ブレーキ42と、モータ41の回転位置を検知する回転位置センサ(43)とを備えており、モータ41の駆動軸は不図示の減速ギアを介して駆動輪4(4L,4R)に動力伝達可能に接続されている。
本実施形態では、左右のモータ41は、回転位置センサ(43)で検出されるロータの位相に合わせて駆動回路で各相コイルの電流をスイッチングするブラシレスDCモータからなり、後述のように、歩行補助車モード(1)では、回転位置センサ(ホールセンサ)を回転速度センサ43として利用するようにしている。
また、左右のモータ41の駆動回路はコイル電流を検出する電流センサを備えている。このコイル電流は左右のモータ41のトルクに対応しており、制御部10は、コイル電流を制御することにより左右のモータ41のトルク制御を実行する。
電磁ブレーキ42は、無励磁状態でモータ41の駆動軸をロックし、励磁状態でロック解除する負作動型電磁ブレーキが好適である。また、バッテリ残量低下時などの非常時に電磁ブレーキ42のロックを解除して電動車両1を移動できるように、電磁ブレーキ解除スイッチ34が設けられている。
傾斜センサ20は、車体2の移動ベース21(後側ベース24)の内部に搭載された制御部10の回路基板上に実装されており、車体2の前後方向および横方向の傾斜を検知する2軸傾斜センサまたは加速度センサ、あるいは、加速度センサと角加速度センサ(ジャイロセンサ)を一体化した多軸慣性センサを利用可能である。
(歩行補助車モードにおける基本制御)
以上のように構成された電動車両1は、歩行補助車モード(1)では、利用者がリアハンドル3を把持した状態で車体2を押す/引く操作に伴い左右回転速度センサ43に検知される左右駆動輪4L,4Rの回転速度に応じて左右のモータユニット40(40L,40R)にトルクを発生させ、前進/後退/旋回の全ての操作におけるトルクアシストを行えるようになっている。
先ず、平坦路での前進/後退を想定して、歩行補助車モード(1)における基本制御について説明する。
図3は、左右回転速度センサ43に検知される回転速度Vと、左右モータ41のトルクT指令値との関係を規定する基本トルクマップを示している。既に述べたように、本実施形態では、左右回転速度センサ43として左右モータ41の回転位置センサを利用しており、左右駆動輪4L,4Rの回転速度は、減速ギアのギア比によって増速された左右モータ41(ロータ)の回転速度Vとして検出される。
例えば、左右モータ41が三相ブラシレスDCモータである場合、120度間隔で配置された3つの回転位置センサ(43)によって60度、1/6回転まで検出可能であり、減速ギアのギア比が10:1であれば、左右駆動輪4L,4Rが36度回転すれば左右モータ41(ロータ)は1回転するので、左右モータ41(ロータ)の回転速度または単位時間当たりの回転数[rpm]として実用上十分な分解能が得られる。
歩行補助車モード(1)は、利用者がリアハンドル3を把持した状態で前進する動作を基本としており、図3に示される基本トルクマップは、利用者がリアハンドル3を把持する動作に伴うマイナス側(手前側)への初動回転により電動車両1が後退しないように、回転速度Vの僅かにマイナス側に操作原点Vn(中立点)が設定されている。
この構成により、利用者がリアハンドル3を把持する動作によりマイナス側への初動回転が検出されても、左右駆動輪4L,4Rの回転速度Vn以内では前進方向のアシストトルクが発生し、利用者が明確な意思を持ってリアハンドル3を引く操作を行った場合(マイナス方向の回転速度がVnよりも大きくなった場合)のみ後退方向のアシストトルクが発生するようになっている。
また、図3に示される基本トルクマップは、操作原点Vnのプラス側に前進方向の始動トルクを発生させるトルク指令値のピーク領域A1(-Vn~+Va1)を有するとともに、操作原点Vnのマイナス側に後退方向の始動トルクを発生させるトルク指令値のピーク領域B1(-Vn~-Vb1)を有している。
この構成により、電動車両1の停止状態で、利用者のリアハンドル3を把持して押す操作に即応してトルクアシストを実行し、電動車両1を速やかに発進させ定常前進走行(A2)に移行させることができる。また、利用者のリアハンドル3を引く操作に対応して電動車両1を速やかに定常後進走行(B2)に移行させることができる。
さらに、図3に示される基本トルクマップは、前進側ピーク領域A1のさらにプラス側に前進方向の定常トルク領域A2(+Va1~+Va2)を有し、後退側ピーク領域B1のさらにマイナス側に後退方向の定常トルク領域B2(-Vb1~-Vb2)を有している。
前進方向の定常トルク領域A2(+Va1~+Va2)は、電動車両1の速度に応じて増加する摩擦抵抗を補償するために、回転速度Vに応じて増加するものの、概ね左右モータ41の定格付近のトルク指令値により、想定される利用者の標準的な歩行速度に合わせてトルクアシストを実行することが意図されている。
後退方向の定常トルク領域B2(-Vb1~-Vb2)も同様であるが、前進時に比べて後退時の歩行速度は遅いことから、前進方向の定常トルク領域A2よりもトルク指令値自体が小さく、回転速度に応じたトルク指令値の増加率も小さいことが好ましく、図示例では定常トルク領域B2のトルク指令値は一定である。
さらに、図3に示される基本トルクマップは、前進側定常トルク領域A2のさらにプラス側に前進方向の制動トルク領域A3(+V2~+V3)を有しており、後退側定常トルク領域B2のさらにマイナス側に後退方向の制動トルク領域B3(-Vb2~-Vb3)を有している。
前進方向の制動トルク領域A3では、電動車両1の走行速度が想定される利用者の標準的な歩行速度範囲の上限(例えば6km/h)に近づくに従ってトルク指令値を減少させ、さらに、想定歩行速度範囲の上限近傍では進行方向と逆方向のトルクアシストを実行することによって、電動車両1に制動トルクを発生させ、電動車両1の走行速度が想定歩行速度範囲に収まるように制御する。
後退方向の制動トルク領域B3も同様であるが、後退時の歩行速度は前進時に比べて遅いことから、前進側よりも低い回転速度で制動トルクを発生させる。なお、基本トルクマップは、ルックアップテーブルとして制御部10のROMエリアに格納されている。
以上述べたように、図3に示される基本トルクマップによって、前進方向のピーク領域A1(始動トルク領域)、定常トルク領域A2、制動トルク領域A3に応じたトルク指令値が与えられることによって、利用者のリアハンドル3を把持して押す操作により速やかに始動して定常トルク領域A2に移行した後、定常トルク領域A2を超えて増速すれば制動トルク領域A3にて制動方向のトルクアシストが実行され、定常トルク領域A2以下に減速するとピーク領域A1にて増速方向のトルクアシストが実行されるので、利用者がリアハンドル3を把持して押す/引くだけの簡単な操作により、利用者が特に意識しなくても標準的な歩行速度範囲(+Va1~+Va2)に対応する定常トルク領域A2に維持され、安定的なアシストを行える利点がある。
また、上記のようなトルクアシスト制御では、利用者がリアハンドル3を把持して押す/引く操作による回転速度Vの増減と、左右モータ41の駆動(トルクアシスト)による回転速度Vの増減は区別されておらず(区別する必要がなく)、利用者がリアハンドル3を把持して押す操作と左右モータ41の駆動力の協働作業の結果としての回転速度Vに応じてトルクアシストが実行されるので、利用者がリアハンドル3を押す/引く力の方向と大きさを検出する力センサ(圧力センサなど)が不要であるばかりか、検出される力の方向と大きさの変動に制御が影響されることがなく、車体構造および制御が簡素化される利点もある。
さらに、上記のようなトルクアシスト制御では、前進歩行に比べて後退歩行を不得意とする人間の特性を考慮して、前進方向と後退方向で非対称の基本トルクマップに基づいてトルクアシストが実行されるので、利用者がリアハンドル3を把持して引く操作による後退方向のトルクアシストが過剰に感じられるのが防止され、前進歩行と後進歩行で感覚的にバランスの取れた歩行アシストを実現できる利点もある。
(歩行補助車モードにおける旋回アシスト)
次に、歩行補助車モード(1)における旋回アシストについて、図5(a)~(c)を参照しながら説明する。
既に述べたように、電動車両1は、左右駆動輪4L,4Rのモータユニット40(40L,40R)それぞれに回転速度センサ43を備えており、利用者が左右の手で(または何れか一方の手で)リアハンドル3を把持した状態で、左右異なる力で車体2を押す/引く操作を行った場合、左右駆動輪4L,4Rの回転速度に差を生じる。
例えば、図5(a)に示されるように、リアハンドル3の右側を相対的に強く押すことにより、右側の駆動輪4Rには、左側の駆動輪4Lの回転速度VLよりも大きい回転速度VRが検出され、左右回転速度センサ43に検知される回転速度VR,VLに回転速度差ΔV=VR-VLを生じる。ここで、図3に示した基本トルクマップを左右駆動輪4L,4Rのモータユニット40(40L,40R)の制御にそのまま適用すると、僅かな回転速度差が生じても、回転速度差が左右個別のトルクアシストで拡大され、電動車両1は旋回してしまい、安定的な前進/後退が行えなくなる。
そこで、図5(c)に示されるように、左右駆動輪4L,4Rの回転速度差ΔVと追加トルクTL,TRの関係を規定した追加トルクマップにより、以下のように回転速度差ΔVに応じたトルクアシストを実行することで、安定的な前進/後退アシストと旋回アシストを状況に応じて適切に実行できる。なお、この追加トルクマップも、基本トルクマップと同様にルックアップテーブルとして制御部10のROMエリアに格納されている。
(i)左右駆動輪4L,4Rの回転速度差ΔVが所定閾値±VT0未満の場合は、左右駆動輪4L,4Rの回転速度差ΔVを無視して、図3の基本トルクマップに従って、左右のモータユニット40(40L,40R)に、左右回転速度VR,VLの何れか一方またはそれらの中間値(平均値)から選定される原則的に等しいトルクを発生させ、前進/後退アシストを実行する。
(ii)左右駆動輪4L,4Rの回転速度差ΔVが所定閾値±VT0以上の場合は、回転速度差ΔVに応じて、回転速度が大きい方のモータのトルク指令値を増加させ、回転速度が小さい方のモータのトルク指令値を減少させる旋回アシスト制御を実行する。
(iii)但し、左右駆動輪4L,4Rの回転速度差ΔVが、第2の閾値±VT1以上の場合は、回転速度に応じたトルク指令値の増減はせず、第2の閾値±VT1に対応するトルク指令値TL,TRにて旋回アシスト制御を実行する。
上記のような旋回アシスト制御により、従動輪5に発生する操舵抵抗が補償され、リアハンドル3の片側を押す操作により、軽快かつ確実な旋回アシストを実行できる。また、図5(b)に示されるように、リアハンドル3の一側を押し、他側を引く操作により、軽快かつ確実なその場旋回(スピンターン)アシストを実行できる。
(歩行補助車モードにおける登坂/降坂アシスト)
次に、歩行補助車モード(1)における登坂/降坂アシストについて、図6~図8を参照しながら説明する。
以上の説明では便宜的に平坦路における制御について述べたが、図6(a)(b)に示す登坂路91や、図7(a)(b)に示す降坂路92では、車体2に作用する重力により、車両重量mと傾斜θpに応じて、進行方向と逆方向/同方向の負荷(mg・sinθp)を生じる。
そこで、登坂路91や降坂路92では、図8に示されるような追加トルクマップを併用し、傾斜センサ20に検知される傾斜(角度)θpに応じて生じる負荷を相殺する補償トルクTca,Tcb,Tda,Tdbをトルク指令値に追加する。すなわち、基本トルクマップのトルク指令値に追加トルクマップの補償トルク指令値を重畳する。この追加トルクマップも、基本トルクマップと同様にルックアップテーブルとして制御部10のROMエリアに格納されている。
なお、傾斜θpには閾値(±θp1未満、不感帯)が設定されており、基本制御や旋回制御に影響がない閾値未満の場合には基本的にトルク補償は行わない。
(i)図6(a)に示されるように、傾斜θp1以上の登坂路91を前進で上る場合(前進登坂する場合)は、登坂路91のプラス傾斜+θpに応じて加重される前進方向と逆方向の負荷を相殺するために、図8の追加トルクマップの右側に実線で示されるように、登坂路91のプラス傾斜+θpに比例して増加する同方向の補償トルクTcaを追加し、登坂アシストを実行する。
(ii)図6(b)に示されるように、傾斜θp1以上の登坂路91を後進で下る場合(後退降坂する場合)は、登坂路91のプラス傾斜+θpに応じて加重される後退方向と同方向の負荷となるので、上記同様、図8の追加トルクマップの右側に実線で示されるように、登坂路91のプラス傾斜+θpに比例して増加する逆方向の補償トルクTcbを追加しての制動アシストを実行する。
(iii)図7(a)に示されるように、傾斜θp1以上の降坂路92を前進で下る場合(前進降坂する場合)は、降坂路92のマイナス傾斜-θpに応じて加重される進行方向と同方向の負荷となるので、図8の追加トルクマップの左側に実線で示されるように、降坂路92のマイナス傾斜-θpに比例して増加する逆方向(回生方向)の補償トルクTdaを追加して制動アシストを実行する。また、マイナス傾斜-θpが所定閾値に達すると、傾斜ベースの補償トルクより大きい絶対値の所定の制動トルクを発生させ制動制御を実行する。
(iv)図7(b)に示されるように、傾斜θp1以上の降坂路92を後進で上る場合(後退登坂する場合)は、降坂路92のマイナス傾斜-θpに応じて加重される後退方向と逆方向の負荷となるので、図8のトルクマップの左側に破線で示されるように、降坂路92のマイナス傾斜-θpに比例して増加する逆方向の補償トルクTdbを追加して登坂アシストを実行する。
但し、この後退登坂する場合の補償トルクTdbは、前進歩行に比べて後退歩行を不得意とする人間の特性に加えて、後退降坂時に比べて踵が早く着地し歩を進め難い後退登坂時の人間の特性を考慮して、補償トルクTdbは、後退降坂時(Tda)よりも小さい値としている。
また、この後退登坂の場合には、図8に示されるように、マイナス傾斜-θpが所定閾値(-θp1)未満の場合、このマイナス傾斜範囲における計算上の傾斜補償トルクより小さい制動方向の所定トルクTdb"を追加して、先述した基本トルクマップでの制御に加えて、利用者がリアハンドル3を引く操作による後退登坂方向のトルクアシストが過剰に感じられるのを抑制することもできる。
(歩行補助車モードにおける横傾斜補償アシスト)
図9は、歩行補助車モード(1)における電動車両1の進行方向に対して交差する方向に傾斜(横傾斜θr)がある路面93を前進する場合(または、斜面93の傾斜θrと交差する方向に前進する場合)における横傾斜補償アシストを示している。
すなわち、図9において、駆動輪4L,4Rの車軸に対して前方に距離Lを有して重心がある場合、重心に作用する重力mgと横傾斜θrにより、電動車両1には横傾斜θrの下降方向に向かう偏向モーメント(mg・sinθr・L)を生じる。
そこで、この偏向モーメントを、左右駆動輪4L,4Rのモータユニット40(40L,40R)によるアシストトルクで相殺するために、トレッド幅Dの中央(D/2)を中心とする補償モーメントに相当する偶力を生じるような互いに逆方向の補償トルクTaL、TaRを左右のモータユニット40(40L,40R)に追加する。駆動輪4L,4Rの半径r、路面の走行抵抗などを考慮した係数δとすると、横傾斜θrに対する補償トルクTaL、TaRは次式で与えられる。
TaL=TaR=δ・mg・sinθr・Lr/D
なお、横傾斜θrにも閾値(不感帯)が設定されており、基本制御や旋回制御に影響がない閾値未満の場合には、横傾斜補償アシストは行わない。
(歩行補助車モードにおける基本的制御フロー)
以上のように構成された電動車両1は、キー11の操作で電源オンになりシステムが起動すると、起動時のフレーム形態に応じて歩行補助車モード(1)または乗車モード(1′)に設定される。なお、既に述べたように、電動車両1の停止状態では電磁ブレーキ42がロック状態にある。
以下、起動時に歩行補助車モード(1)になっているか、または、起動後の停止状態で利用者の操作により歩行補助車モード(1)に設定された場合の制御について、図4のフローチャートを参照しながら説明する。
先ず、歩行補助車モード(1)に設定されると(ステップ100)、把持センサ30が作動状態となる。この状態で利用者がリアハンドル3を把持し、把持センサ30が把持状態(ハンズオン)を検知すると(ステップ101)、傾斜センサ20が車体2の進退方向の傾斜θpおよび横方向の傾斜θrを検出する(ステップ102)。
進退方向の傾斜θp、および/または、横方向の傾斜θrが閾値以上の場合には、補償トルクTca,Tcb,Td、および/または、補償トルクTaL、TaRを左右モータユニット40(40L,40R)に発生させるトルクアシストを実行し、左右駆動輪4L,4Rに前進方向の初期トルクを印加した中立状態で待機する(ステップ103)。
次いで、左右電磁ブレーキ42がロック状態であるか否かチェックされ(ステップ104)、ロック状態である場合(初回起動時など)には、左右電磁ブレーキ42のロックを解除する(ステップ105)。
この時、電動車両1は静止状態ではあるが、傾斜に伴う外力が補償トルクで相殺され、傾斜の有無にかかわらず、直ちに移動可能な状態であり、この状態で、利用者がリアハンドル3を押す/引く操作を行うことにより、左右の駆動輪4L,4Rが回転し、回転速度センサ43に回転速度V(VL,VR)が検出されると、回転速度V(VL,VR)およびトルクマップに従って、左右モータユニット40(40L,40R)にトルクを発生させ、前進/後退/旋回などのトルクアシストを実行する(ステップ106)。
電動車両1の走行中も把持センサ30による把持状態(ハンズオン)の検知は継続されており(ステップ107)、把持センサ30に把持状態が検知されなくなり、制御部10がハンズオフと判断すると、左右モータユニット40(40L,40R)へのトルク指令値を漸減し、電動車両1を減速停止させるトルクアシストを実行する(ステップ108)。これとともにハンズオフから所定時間(例えば2秒)経過後に左右電磁ブレーキ42をロックする(ステップ109)。
左右電磁ブレーキ42のロック状態で、キー11のオフ操作が検知されると(ステップ110)、左右モータユニット40(40L,40R)への電力供給が停止され、その後、システムがシャットダウンされる(ステップ111)。
以上、本発明の実施の形態について述べたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいてさらに各種の変形および変更が可能である。
例えば、上記実施形態では、電動歩行補助車1が、小型電動車モード(乗車モード)を備える場合について述べたが、本発明は、乗車モードを備えない電動歩行補助車としても実施可能である。
また、上記実施形態では、従動輪5としてオムニホイールを用いる場合を示したが、キャスター形式の自在輪を用いることもできる。
1 電動車両
2 車体
3 リアハンドル(把持部)
4 駆動輪(後輪)
5 従動輪(自在輪、前輪)
6 シートバック
7 シート
8 アームレスト
9 バッテリ
10 制御部
20 傾斜センサ
21 移動ベース
22 上部フレーム
24 後側ベース
25 前側ベース
30 把持センサ(タッチセンサ)
34 電磁ブレーキ解除スイッチ
40(40L,40R) モータユニット
41 左右モータ
42 左右電磁ブレーキ
43 左右回転速度センサ
80 表示部
83 乗車モード操作部

Claims (5)

  1. 進退方向および幅方向を有する車体と、
    前記車体の幅方向に離間して設けられた左右駆動輪と、
    前記左右駆動輪に個別に動力伝達可能に接続された左右モータと、
    前記左右駆動輪に対して前記車体の進退方向に離間して設けられた自在輪と、
    前記車体の上部に利用者が起立歩行姿勢で把持できるように設けられた把持部と、
    前記把持部の利用者による把持を検知する把持センサと、
    前記左右駆動輪の回転速度を個別に検知する左右回転速度センサと、
    前記車体の進退方向の傾斜を検出する傾斜センサと、
    前記左右モータを制御する制御部と、を備え、
    前記制御部は、前記把持センサが把持を検知している状態で、前記左右回転速度センサに検知される前記左右駆動輪の回転速度と、前記左右モータのトルク指令値との関係を規定する基本トルクマップと、前記傾斜センサに検出される傾斜に応じて、前記車体に作用する重力により前記左右駆動輪に生じる回転力を相殺する傾斜補償トルクを前記左右モータに付加する追加トルクマップに従って、前記左右モータにトルクを発生させるように構成されている、電動歩行補助車。
  2. 前記追加トルクマップは、前記傾斜センサに、前記車体の進退方向に対して前記車体が前傾するマイナス傾斜が検出される場合、前記車体の後退方向の傾斜補償トルクが、前記車体の前進方向の傾斜補償トルクよりも小さくなるように構成されている、請求項1記載の電動歩行補助車。
  3. 前記追加トルクマップは、前記傾斜センサに検出される前記車体の傾斜が所定閾値未満の場合は前記傾斜補償トルクを追加しないが、前記車体の進退方向に対して前記マイナス傾斜が検出されかつ前記左右回転速度センサに前記車体の後退方向の回転速度が検出される場合は、当該マイナス傾斜範囲における傾斜補償トルクより小さい制動方向の所定トルクを追加するように構成されている、請求項2記載の電動歩行補助車。
  4. 前記基本トルクマップは、前記左右回転速度センサに検知される前記左右駆動輪の回転方向のマイナス側に操作原点が設定され、前記操作原点のプラス側に前進方向の始動トルクを発生させるピーク領域を有し、前記操作原点のマイナス側に後退方向の始動トルクを発生させるピーク領域を有している、請求項1~3の何れか一項記載の電動歩行補助車。
  5. 前記基本トルクマップは、前記プラス側ピーク領域のさらにプラス側に前進方向の定常トルク領域を有し、前記マイナス側ピーク領域のさらにマイナス側に後退方向の定常トルク領域を有しており、前記プラス側定常トルク領域よりも前記マイナス側定常トルク領域のトルク指令値、および/または、回転速度に応じたトルク指令値の増加率が小さい、請求項4記載の電動歩行補助車。
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