JP2022103819A - 水素環境下における転動疲労寿命に優れた軸受用鋼、この軸受用鋼で形成された軸受および軸受部品 - Google Patents
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Abstract
【課題】 水素が侵入する環境下において転動疲労寿命に優れた軸受用鋼を提供する。【解決手段】 軸受用鋼は、C:0.12~0.50質量%、Si:0.15~0.65質量%、Mn:0.30~1.80質量%、Cr:0.70~3.50質量%、P:0.030質量%以下、S:0.030質量%以下の化学成分を有する。残部はFe及び不可避不純物からなる。最大介在物径√area_maxが50μmよりも大きく、かつ120μm以下である。ここで、軸受用鋼には、さらに、Mo:0.06~0.70質量%や、Ni:0.30~2.00質量%の化学成分を含ませることができる。【選択図】 なし
Description
本発明は、水素が侵入する環境下において、非金属介在物を起点としたはく離を抑制して転動疲労寿命に優れた軸受用鋼と、この軸受用鋼で形成された軸受および軸受部品に関する。
近年、風力発電などで使用される軸受においては、水素が関与したはく離が生じることが問題となっている。軸受の使用中に水素が鋼中に侵入する環境下では、一般的な非金属介在物を起点として発生するはく離だけでなく、水素の関与によって特徴的な疲労組織が母相に形成されることに起因したはく離(母相はく離)が発生することが知られている。
特許文献1には、水素環境下において、転動疲労寿命に優れた高清浄度軸受鋼が開示されている。この軸受鋼は、C(0.13~0.35質量%)、Si(0.20~0.65質量%)、Mn(0.50~1.20質量%)、P(0.030質量%以下)、S(0.030質量%以下)、Cr(2.30~3.50質量%)、Ni(0.10~0.50質量%)及びMo(0.03~0.50質量%)から選択した1種または2種の化学成分を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼である。
ここで、鋼材断面100mm2中の非金属介在物のうち、最大介在物径の測定を30か所において行い、極値統計法により予測される30000mm2中における最大介在物径の予測値√area maxは50μm以下である。また、当該鋼を浸炭焼入焼戻した際または浸炭窒化焼入焼戻した際の鋼材最表面から100~300μm位置における母相成分中に固溶したSi、Mn、Cr、Ni、Moの合計が3.0%以上である。そして、残留γ量が25~50vol%であって、その他残部はマルテンサイトを主とする組織である。
一般的な転動疲労環境下においては、最大介在物径√area_maxの小径化が転動疲労に伴うはく離の抑制に有効であることが知られている。しかしながら、汎用の大気溶解鋼材の製造過程において介在物径を50μm以下に微細に制御することは容易ではなく、はく離寿命の長寿命化対策として非金属介在物の過度の小径化を追求することは現実的ではなかった。
特許文献1に記載の化学成分に似た化学成分を含有する軸受用鋼について、本願発明者らは、さらに鋭意研究を進めた。鋼中に存在する非金属介在物のサイズに着目して、水素が侵入する環境下における転動疲労寿命と非金属介在物のサイズの関係性について詳細に検討したところ、最大介在物径√area_maxが50μmを超える領域でも非金属介在物がはく離起点とはならずに上述の母相はく離が優先的に起こって、はく離を生じる場合があることを見出した。したがって、非金属介在物を必要以上に微細化したとしても母相のはく離寿命が部品の寿命を律速することとなるので、最大介在物径√area_maxを50μm以下にまで小さくしなくとも、水素が侵入する環境下において非金属介在物を起点とするはく離を抑えて、実用的に必要な転動疲労寿命を確保できる最大介在物径√area_maxを見出したことにより、本発明を完成するに至った。
本発明の目的は、水素が侵入する環境下において非金属介在物起点のはく離を抑えて、転動疲労寿命に優れた軸受用鋼と、この軸受用鋼で形成された軸受および軸受部品を提供することにある。
本発明である軸受用鋼は、C:0.12~0.50質量%、Si:0.15~0.65質量%、Mn:0.30~1.80質量%、Cr:0.70~3.50質量%、P:0.030質量%以下、S:0.030質量%以下の化学成分を有し、残部がFe及び不可避不純物からなる。そして、最大介在物径√area_maxが50μmよりも大きく、かつ120μm以下である。
軸受用鋼には、さらに、Mo:0.06~0.70質量%の化学成分を含ませることができる。また、軸受用鋼には、さらに、Ni:0.30~2.00質量%の化学成分を含ませることができる。
軸受用鋼には、さらに、V:0.01~0.20質量%、Nb:0.01~0.20質量%、Ti:0.01~0.20質量%から選択した1種又は2種以上の化学成分を含ませることができる。
軸受用鋼の硬さは58HRC以上とすることができる。また、軸受用鋼中の酸素含有量は8ppm以下とすることができる。
本発明である軸受用鋼を用いて、軸受を形成したり、軸受の一部を構成する軸受部品や軸受に類似した作動機構を有する部品を形成したりすることができる。
本発明によれば、水素が侵入する環境下において、実用上必要とされる寿命に対して非金属介在物を起点とするはく離を抑制することができる。
本実施形態である軸受用鋼は、軸受の全体で用いられたり、軸受を構成する一部の部品(軸受部品)や軸受に類似した作動機構を有する部品で用いられたりする。
本実施形態である軸受用鋼は、以下に説明する化学成分と、残部として、Fe及び不可避不純物を有する。化学成分は、溶鋼分析(JIS G0320)もしくは鋼材や部品の化学分析によって求められる。軸受用鋼中の化学成分は、軸受用鋼の製造工程における溶鋼精錬工程において調整することができる。以下、各化学成分の含有率について説明する。
(Cの含有率)
Cの含有率は、0.12~0.50質量%である。Cは、軸受用鋼から部品を作製する際の部品芯部の硬さに関与する焼入れ性、熱間や冷間での鍛造性、機械加工性に影響を与える元素である。Cの含有率を0.12~0.50質量%とすることにより、軸受用鋼からなる部品芯部の強度を確保できるとともに、被削性および鍛造性等の加工性が阻害されることを抑制できる。
Cの含有率は、0.12~0.50質量%である。Cは、軸受用鋼から部品を作製する際の部品芯部の硬さに関与する焼入れ性、熱間や冷間での鍛造性、機械加工性に影響を与える元素である。Cの含有率を0.12~0.50質量%とすることにより、軸受用鋼からなる部品芯部の強度を確保できるとともに、被削性および鍛造性等の加工性が阻害されることを抑制できる。
Cの含有率が0.12質量%未満である場合には、芯部において十分な硬さが得られず、芯部の強度が低下してしまう。一方、Cの含有率が0.50質量%よりも高い場合には、鋼材の硬さが増加することにより、被削性および鍛造性等の加工性が阻害されてしまう。ここで、Cの含有率は0.18質量%以上であることが好ましい。
(Siの含有率)
Siの含有率は、0.15~0.65質量%である。Siは、脱酸に必要な元素であり、また、鋼材の強度を高めて、転動疲労に伴う鋼材の組織変化の抑制や、転動疲労寿命の向上に寄与する元素である。これらの効果を得るためには、Siの含有率を0.15質量%以上とする必要がある。一方、Siの含有率を0.65質量%よりも高くすると、鋼材の硬さが増加することにより、被削性および鍛造性等の加工性を阻害したり、浸炭の阻害を引き起こすことにより、浸炭又は浸炭窒化を行っても十分な材料強度が得られなかったりする。
Siの含有率は、0.15~0.65質量%である。Siは、脱酸に必要な元素であり、また、鋼材の強度を高めて、転動疲労に伴う鋼材の組織変化の抑制や、転動疲労寿命の向上に寄与する元素である。これらの効果を得るためには、Siの含有率を0.15質量%以上とする必要がある。一方、Siの含有率を0.65質量%よりも高くすると、鋼材の硬さが増加することにより、被削性および鍛造性等の加工性を阻害したり、浸炭の阻害を引き起こすことにより、浸炭又は浸炭窒化を行っても十分な材料強度が得られなかったりする。
(Mnの含有率)
Mnの含有率は、0.30~1.80質量%である。Mnは、焼入性の確保に必要な元素であり、鋼材を浸炭又は浸炭窒化した際に残留オーステナイト量を増加させることにより、転動疲労において水素に起因する疲労の進行により現れる母相組織の白色組織変化の発達を抑制することができる元素である。これらの効果を得るためには、Mnの含有率を0.30質量%以上とする必要がある。ここで、Mnの含有率は0.50質量%以上であることが好ましい。さらに望ましくは、Mnの含有率が0.75質量%以上であると良い。
Mnの含有率は、0.30~1.80質量%である。Mnは、焼入性の確保に必要な元素であり、鋼材を浸炭又は浸炭窒化した際に残留オーステナイト量を増加させることにより、転動疲労において水素に起因する疲労の進行により現れる母相組織の白色組織変化の発達を抑制することができる元素である。これらの効果を得るためには、Mnの含有率を0.30質量%以上とする必要がある。ここで、Mnの含有率は0.50質量%以上であることが好ましい。さらに望ましくは、Mnの含有率が0.75質量%以上であると良い。
一方、Mnの含有率が1.80質量%よりも高くなると、鋼材の硬さが増加することにより、被削性および鍛造性等の加工性が阻害されてしまうとともに、MnがSと結合してMnSが生成されることにより、転動疲労において応力の集中作用をもたらし、水素を起因とした白色組織変化の起点となることがある。ここで、Mnの含有率は1.20質量%以下であることが好ましい。
(Pの含有率)
Pの含有率は、0.030質量%以下とする。Pは不可避不純物の元素であり、Pの含有率が0.030質量%よりも高い場合には、鋼材の脆化を引き起こし、疲労強度が低下してしまう。ここで、Pの含有率は、0.020質量%以下であることが好ましい。なお、本実施形態の軸受用鋼には、Pや後述するS以外の不可避不純物が含まれることがある。
Pの含有率は、0.030質量%以下とする。Pは不可避不純物の元素であり、Pの含有率が0.030質量%よりも高い場合には、鋼材の脆化を引き起こし、疲労強度が低下してしまう。ここで、Pの含有率は、0.020質量%以下であることが好ましい。なお、本実施形態の軸受用鋼には、Pや後述するS以外の不可避不純物が含まれることがある。
(Sの含有率)
Sの含有率は、0.030質量%以下である。Sは不可避不純物の元素であり、Sの含有率が0.030質量%よりも高い場合には、冷間加工性を阻害し、疲労強度が低下してしまう。ここで、Sの含有率は、0.025質量%以下であることが好ましく、より望ましくは0.010質量%以下である。なお、本実施形態の軸受用鋼には、Sや上述したP以外の不可避不純物が含まれることがある。
Sの含有率は、0.030質量%以下である。Sは不可避不純物の元素であり、Sの含有率が0.030質量%よりも高い場合には、冷間加工性を阻害し、疲労強度が低下してしまう。ここで、Sの含有率は、0.025質量%以下であることが好ましく、より望ましくは0.010質量%以下である。なお、本実施形態の軸受用鋼には、Sや上述したP以外の不可避不純物が含まれることがある。
(Crの含有率)
Crの含有率は、0.70~3.50質量%である。Crは、焼入れ性の確保に必要な元素であり、鋼材を浸炭又は浸炭窒化した際に、残留オーステナイト量を増加させることにより、水素を起因とした母相組織の白色組織変化を抑制することができる元素である。Crは、微細で均質な残留オーステナイトを形成する上で有効であり、水素を起因とした白色組織変化の発達を抑制する効果を高めることができる。これらの効果を得るためには、Crの含有率を0.70質量%以上とする必要がある。Crの含有率は、さらに望ましくは1.00質量%以上であり、さらに望ましくは1.60質量%以上であると良い。
Crの含有率は、0.70~3.50質量%である。Crは、焼入れ性の確保に必要な元素であり、鋼材を浸炭又は浸炭窒化した際に、残留オーステナイト量を増加させることにより、水素を起因とした母相組織の白色組織変化を抑制することができる元素である。Crは、微細で均質な残留オーステナイトを形成する上で有効であり、水素を起因とした白色組織変化の発達を抑制する効果を高めることができる。これらの効果を得るためには、Crの含有率を0.70質量%以上とする必要がある。Crの含有率は、さらに望ましくは1.00質量%以上であり、さらに望ましくは1.60質量%以上であると良い。
一方、Crの含有率が3.50質量%よりも高い場合には、浸炭又は浸炭窒化時に、鋼材の最表面において酸化物が形成されることにより、浸炭を阻害し、軸受用鋼の強度を低下させてしまう。また、Crは、浸炭時に粗大炭化物を形成し、この粗大炭化物の周囲において、水素を起因とした白色組織変化が発生しやすくなる。
(Moの含有率)
本実施形態の軸受用鋼には、上述した化学成分に加えて、Moを含ませることができる。この場合には、Moの含有率は、0.06~0.70質量%である。Moは、鋼材の焼入性を高め、鋼材を浸炭又は浸炭窒化した際に、残留オーステナイト量を増加させることができるとともに、組織を均質化して残留オーステナイトを均一に分布させる上で有効であり、水素が侵入する環境下での母相の疲労の進行を遅らせる作用がある。これらの効果を得るためには、Moの含有率を0.06質量%以上とする必要がある。より望ましくは0.10質量%以上である。一方、Moの過度の添加は、鋼材のコストを上昇させてしまうとともに、白色組織変化を抑制する効果は、Moの含有率が0.70質量%で飽和するため、Moの含有率は0.70質量%以下とするのが良い。ここで、Moの含有率は0.50質量%以下、さらに望ましくは0.37質量%以下であることが好ましい。
本実施形態の軸受用鋼には、上述した化学成分に加えて、Moを含ませることができる。この場合には、Moの含有率は、0.06~0.70質量%である。Moは、鋼材の焼入性を高め、鋼材を浸炭又は浸炭窒化した際に、残留オーステナイト量を増加させることができるとともに、組織を均質化して残留オーステナイトを均一に分布させる上で有効であり、水素が侵入する環境下での母相の疲労の進行を遅らせる作用がある。これらの効果を得るためには、Moの含有率を0.06質量%以上とする必要がある。より望ましくは0.10質量%以上である。一方、Moの過度の添加は、鋼材のコストを上昇させてしまうとともに、白色組織変化を抑制する効果は、Moの含有率が0.70質量%で飽和するため、Moの含有率は0.70質量%以下とするのが良い。ここで、Moの含有率は0.50質量%以下、さらに望ましくは0.37質量%以下であることが好ましい。
(Niの含有率)
本実施形態の軸受用鋼には、上述した化学成分に加えて、Niを含ませることができる。この場合には、Niの含有率は、0.30~2.00質量%である。Niは、鋼材の焼入性を高めることができるとともに、鋼材を浸炭又は浸炭窒化した際に、残留オーステナイト量を増加させることができる。これらの効果を得るためには、Niの含有率を0.30質量%以上とする必要がある。ここで、Niの含有率は0.40質量%以上であることが好ましい。一方、Niの過度の添加は、鋼材のコストを上昇させてしまう。また、Niの過度の添加は、浸炭又は浸炭窒化時に塊状の比較的大きな残留オーステナイトが形成しやすくなり、残留オーステナイトによる水素を起因とした白色組織変化の発達を抑制する効果が失われてしまう。この点を考慮して、Niの含有率を2.00質量%以下とする。ここで、Niの含有率は1.80質量%以下、さらに望ましくは1.50質量%以下であることが好ましい。
本実施形態の軸受用鋼には、上述した化学成分に加えて、Niを含ませることができる。この場合には、Niの含有率は、0.30~2.00質量%である。Niは、鋼材の焼入性を高めることができるとともに、鋼材を浸炭又は浸炭窒化した際に、残留オーステナイト量を増加させることができる。これらの効果を得るためには、Niの含有率を0.30質量%以上とする必要がある。ここで、Niの含有率は0.40質量%以上であることが好ましい。一方、Niの過度の添加は、鋼材のコストを上昇させてしまう。また、Niの過度の添加は、浸炭又は浸炭窒化時に塊状の比較的大きな残留オーステナイトが形成しやすくなり、残留オーステナイトによる水素を起因とした白色組織変化の発達を抑制する効果が失われてしまう。この点を考慮して、Niの含有率を2.00質量%以下とする。ここで、Niの含有率は1.80質量%以下、さらに望ましくは1.50質量%以下であることが好ましい。
(Vの含有率)
本実施形態の軸受用鋼には、上述した化学成分に加えて、Vを含ませることができる。Vは、結晶粒を微細化し、粒界における水素濃度を低減することで水素を起因とした白色組織変化を抑制する元素である。また、Vは浸炭または浸炭窒化時にサブミクロンオーダーの炭化物および炭窒化物を形成することで水素トラップとして機能し、白色組織変化の抑制に有効に作用する。十分な効果を得るには、Vは0.01質量%以上の添加が必要である。一方、Vの添加による結晶粒微細化や、炭化物および炭窒化物析出による白色組織変化の抑制効果は、0.20質量%までのVの添加で飽和し、Vを過度に添加すると粗大な炭化物および炭窒化物を析出するため、かえって悪影響を及ぼす。そのため、Vの含有率は0.20質量%以下とするのが良い。そこで、Vの含有率は0.01~0.20質量%とする。
本実施形態の軸受用鋼には、上述した化学成分に加えて、Vを含ませることができる。Vは、結晶粒を微細化し、粒界における水素濃度を低減することで水素を起因とした白色組織変化を抑制する元素である。また、Vは浸炭または浸炭窒化時にサブミクロンオーダーの炭化物および炭窒化物を形成することで水素トラップとして機能し、白色組織変化の抑制に有効に作用する。十分な効果を得るには、Vは0.01質量%以上の添加が必要である。一方、Vの添加による結晶粒微細化や、炭化物および炭窒化物析出による白色組織変化の抑制効果は、0.20質量%までのVの添加で飽和し、Vを過度に添加すると粗大な炭化物および炭窒化物を析出するため、かえって悪影響を及ぼす。そのため、Vの含有率は0.20質量%以下とするのが良い。そこで、Vの含有率は0.01~0.20質量%とする。
(Nbの含有率)
本実施形態の軸受用鋼には、上述した化学成分に加えて、Nbを含ませることができる。Nbは、結晶粒を微細化し、粒界における水素濃度を低減することで水素を起因とした白色組織変化を抑制する元素である。また、Nbは浸炭または浸炭窒化時にサブミクロンオーダーの炭化物および炭窒化物を形成することで水素トラップとして機能し、白色組織変化の抑制に有効であり、これらの十分な効果を得るには、Nbは0.01質量%以上の添加が必要である。一方、Nbの添加による結晶粒微細化や、炭化物および炭窒化物の析出による白色組織変化の抑制効果は、0.20質量%までのNbの添加で飽和し、Nbを過多に添加すると粗大な炭化物および炭窒化物を析出するため、返って悪影響を及ぼす。そのため、Nbの含有率は0.20質量%以下とするのが良い。そこで、Nbの含有率は0.01~0.20質量%とする。
本実施形態の軸受用鋼には、上述した化学成分に加えて、Nbを含ませることができる。Nbは、結晶粒を微細化し、粒界における水素濃度を低減することで水素を起因とした白色組織変化を抑制する元素である。また、Nbは浸炭または浸炭窒化時にサブミクロンオーダーの炭化物および炭窒化物を形成することで水素トラップとして機能し、白色組織変化の抑制に有効であり、これらの十分な効果を得るには、Nbは0.01質量%以上の添加が必要である。一方、Nbの添加による結晶粒微細化や、炭化物および炭窒化物の析出による白色組織変化の抑制効果は、0.20質量%までのNbの添加で飽和し、Nbを過多に添加すると粗大な炭化物および炭窒化物を析出するため、返って悪影響を及ぼす。そのため、Nbの含有率は0.20質量%以下とするのが良い。そこで、Nbの含有率は0.01~0.20質量%とする。
(Tiの含有率)
本実施形態の軸受用鋼には、上述した化学成分に加えて、Tiを含ませることができる。Tiは、結晶粒を微細化し、粒界における水素濃度を低減することで水素を起因とした白色組織変化を抑制する元素である。また、Tiは浸炭又は浸炭窒化時にサブミクロンオーダーの炭化物および炭窒化物を形成することで水素トラップとして機能し、白色組織変化の抑制に有効である。これらの十分な効果を得るには、Tiは0.01質量%以上の添加が必要である。一方、Tiの添加による結晶粒微細化、炭化物および炭窒化物の析出による白色組織変化の抑制効果は、0.20質量%のTiの添加で飽和し、Tiを過多に添加すると粗大な炭化物および炭窒化物を析出するため、返って悪影響を及ぼす。そのため、Tiの含有率は0.20質量%以下とするのが良い。そこで、Tiの含有率は0.01~0.20質量%とする。
本実施形態の軸受用鋼には、上述した化学成分に加えて、Tiを含ませることができる。Tiは、結晶粒を微細化し、粒界における水素濃度を低減することで水素を起因とした白色組織変化を抑制する元素である。また、Tiは浸炭又は浸炭窒化時にサブミクロンオーダーの炭化物および炭窒化物を形成することで水素トラップとして機能し、白色組織変化の抑制に有効である。これらの十分な効果を得るには、Tiは0.01質量%以上の添加が必要である。一方、Tiの添加による結晶粒微細化、炭化物および炭窒化物の析出による白色組織変化の抑制効果は、0.20質量%のTiの添加で飽和し、Tiを過多に添加すると粗大な炭化物および炭窒化物を析出するため、返って悪影響を及ぼす。そのため、Tiの含有率は0.20質量%以下とするのが良い。そこで、Tiの含有率は0.01~0.20質量%とする。
(最大介在物径√area_max)
最大介在物径√area_maxは、50μmよりも大きく、120μm以下である。最大介在物径√area_maxとは、鋼材に含まれる非金属介在物の最大の大きさであり、後述する方法によって求めることができる。
最大介在物径√area_maxは、50μmよりも大きく、120μm以下である。最大介在物径√area_maxとは、鋼材に含まれる非金属介在物の最大の大きさであり、後述する方法によって求めることができる。
最大介在物径√area_maxが120μmよりも大きい場合には、水素が侵入する環境下において、非金属介在物を起点としたはく離(以下、「介在物起点型はく離」という)が発生しやすくなる。一方、最大介在物径√area_maxが120μm以下である場合には、母相に生成した疲労組織を起点としたはく離(以下、「母相はく離」という)が発生することはあるものの、水素が侵入する環境下において介在物起点型はく離が発生することを抑制できる。これにより、実用上必要な部品の寿命を確保することができる。ここで、最大介在物径√area_maxは100μm以下であることがさらに好ましい。なお、最大介在物径√area_maxを50μmよりも大きくすることにより、介在物径を微細に制御しなくてもよくなる。
次に、最大介在物径√area_maxの求め方について説明する。
試験片の中周部から試料を採取し、試料を鏡面研磨した後、光学顕微鏡により試料を観察する。ここで、10mm×10mmの範囲を1つの視野(以下、「基準検鏡面積S0」という、S0=100mm2)とし、基準検鏡面積S0内に存在する最大の非金属介在物を探索する。探索した基準検鏡面積S0内の最大の非金属介在物の大きさを測定し、介在物径を√(長径a×短径b)により求め、1つの基準検鏡面積S0内の最大介在物径√area_max_sを決定する。
ここで、長径a及び短径bの決め方について説明する。非金属介在物の長径aは、単体の非金属介在物又は、複数の群として存在する非金属介在物について、端と端を結んだ最大の辺とし、長径aの辺と平行な線で挟んだ非金属介在物の最大幅を短径bとした。ここで、複数の群として存在する非金属介在物については、隣り合う2つの非金属介在物の間の距離dと、小さい方の非金属介在物の大きさ(√area)とを比較し、小さい方の非金属介在物の大きさ(√area)が非金属介在物間の距離dよりも大きい場合には、2つの非金属介在物は一体であるとみなす。一方、小さい方の非金属介在物の大きさ(√area)が非金属介在物間の距離dよりも小さい場合には、2つの非金属介在物は別々の非金属介在物であるとみなす。これらは非金属介在物の長径a及び短径bの決定に対して考慮される。
上述した作業を互いに異なる30個分の視野において行い、最大介在物径√area_max_sが小さい非金属介在物から順に極値統計グラフ上にプロットし、最小二乗法を用いて最大介在物分布の回帰直線を求め、この回帰直線を利用して予測面積S(S=30,000mm2)内に存在する最大介在物径を算出する(参考;「金属疲労微小欠陥と介在物の影響」村上敬宜著,養賢堂,1993.3)。このように求められた最大介在物径が、本実施形態における最大介在物径√area_maxとなる。
(硬さ)
軸受用鋼を使用する際の表面硬さは58HRC以上とすることができる。この硬さは、ロックウェル硬さ試験(JIS Z2245)による硬さである。軸受用鋼の硬さが58HRC未満である場合には、転動疲労寿命が大きく低下してしまう。より望ましくは、軸受用鋼の硬さが60HRC以上である。この硬さは、またロックウェル硬さ試験以外の試験方法によって求めた硬さをロックウェル硬さ試験による硬さに換算したものでも良い。
軸受用鋼を使用する際の表面硬さは58HRC以上とすることができる。この硬さは、ロックウェル硬さ試験(JIS Z2245)による硬さである。軸受用鋼の硬さが58HRC未満である場合には、転動疲労寿命が大きく低下してしまう。より望ましくは、軸受用鋼の硬さが60HRC以上である。この硬さは、またロックウェル硬さ試験以外の試験方法によって求めた硬さをロックウェル硬さ試験による硬さに換算したものでも良い。
(酸素含有量)
軸受用鋼中に不純物として含まれる酸素含有量は8ppm以下とすることができる。酸素含有量は、JIS G1239の規定に準じて測定することができる。酸素含有量を8ppm以下にすることで、鋼中において、大型の非金属介在物の存在頻度を低減することができる。より望ましくは酸素含有量が6ppm以下である。
軸受用鋼中に不純物として含まれる酸素含有量は8ppm以下とすることができる。酸素含有量は、JIS G1239の規定に準じて測定することができる。酸素含有量を8ppm以下にすることで、鋼中において、大型の非金属介在物の存在頻度を低減することができる。より望ましくは酸素含有量が6ppm以下である。
(試験片の用意)
実施例(後述する実施例1~6)及び比較例(後述する比較例1~5)について、下記表1に示す化学組成と、残部としてFeならびに不可避不純物を有する鋼を用意した。比較例3~5の鋼種(鋼材2)は、JIS G4805に規定されているSUJ2である。
実施例(後述する実施例1~6)及び比較例(後述する比較例1~5)について、下記表1に示す化学組成と、残部としてFeならびに不可避不純物を有する鋼を用意した。比較例3~5の鋼種(鋼材2)は、JIS G4805に規定されているSUJ2である。
上述した鋼(100kg)を真空溶解炉で溶製し、鋼を1150℃において直径65mmに鍛伸した。これらの鋼材に対して、鋼材1は900℃で1時間保持した後に空冷する焼ならしを行った。鋼材2は865℃で1時間保持した後に空冷する焼ならしと、最高点加熱温度(800℃)で保持した後に徐冷を行う球状化焼なましを行った。次に、機械加工によって、鋼材を外径60mm、内径20mm及び厚さ8mmに粗加工し、鋼材の片面をバフ研磨仕上げしてスラスト型転動疲労試験片を作製した。
次に、先端直径0.20mmのマイクロドリルを用いることにより、試験片のバフ研磨面に直径0.2mmで深さ1mmのドリルホールを加工した。このドリルホールに、非金属介在物の模擬として人工球形のAl2O3粒子を投入した。ここで、Al2O3粒子としては、直径が52μm(実施例1,比較例3)、60μm(実施例2,比較例4)、70μm(実施例3,比較例5)、80μm(実施例4)、100μm(実施例5)、120μm(実施例6)、130μm(比較例1)、150μm(比較例2)であるAl2O3粒子をそれぞれ用いた。
次に、HIP(Hot Isostatic Pressing)加工によって、Al2O3粒子と母相の密着化を行った。具体的には、まず、Al2O3粒子の抜け止めを施して、低炭素鋼製のケースに試験片を収容し、試験片の内径穴部に芯金を入れてからケースを密閉した。そして、ケースの内部を真空脱気した後、147MPa及び1170℃で5時間保持した後に徐冷することにより、Al2O3粒子と母相とを密着化させた。これにより、非金属介在物(Al2O3粒子)及び母相の界面に隙間の無い状態を意図的に作りだした。
HIP加工を行った後、鋼材1から作製した試験片(実施例1~6,比較例1、2)については上述と同様の焼ならしを施してから、また、鋼材2から作製した試験片(比較例3~5)については上述と同様の焼ならしと球状化焼なましを施してから、引張加工を付与するための形状(外径φ54mm、厚さ6.2mm)を有する中間材にいったん加工してから、引張加工を加えることにより埋設したAl2O3粒子と母相の間に隙間を形成させた。その後、鋼材1から作製した試験片(実施例1~6、比較例1、2)については、浸炭処理(930℃で3時間の浸炭処理後油冷)を施した後、焼戻処理(180℃で1.5時間の加熱保持後空冷)を行うことにより、鋼材の表面硬さを62HRCに調整した。鋼材2から作製した試験片(比較例3~5)については、焼入れ処理(加熱温度835℃、加熱後油冷)を施した後、焼戻処理(180℃で1.5時間の加熱保持後空冷)を行うことにより、硬さを62HRCに調整した。
次に、熱処理時の酸化スケールを平面研削によって除去した後、試験片中のAl2O3粒子の位置を50MHzの超音波探傷(UT)により特定した。この位置情報に基づいて研削及びバフ研磨仕上げを行い、後述するスラスト型転動疲労試験において、高せん断応力深さ域内にAl2O3粒子が配置されるように調整した。
下記表2には、実施例1~6及び比較例1~5について、人工的に埋設したAl2O3粒子の直径と試験片の硬さをまとめた。ここで、Al2O3粒子の直径は、作製した鋼中に製造過程で不可避的に生成し残存した非金属介在物としてスラスト型転動疲労試験片に包含されるものより大きいので、人工的に埋設したAl2O3粒子の直径を上述した最大介在物径√area_maxとみなすことができる。
(スラスト型転動疲労試験)
下板として試験片(実施例1~6及び比較例1~5)を用い、上板として、SUJ2製単式スラスト軸受のレース(型番51305)を用い、上板及び下板の間に3個の転動体(直径3/8インチのSUJ2製の鋼球)を120°ピッチで等分に配置した。ここで、試験片(下板)においては、Al2O3粒子の埋設位置の直上を転動体が通過するように、転動体の軌道位置に埋設位置を合わせる。
下板として試験片(実施例1~6及び比較例1~5)を用い、上板として、SUJ2製単式スラスト軸受のレース(型番51305)を用い、上板及び下板の間に3個の転動体(直径3/8インチのSUJ2製の鋼球)を120°ピッチで等分に配置した。ここで、試験片(下板)においては、Al2O3粒子の埋設位置の直上を転動体が通過するように、転動体の軌道位置に埋設位置を合わせる。
転動体及び試験片の接触部分に4.5GPaの最大ヘルツ接触応力が加わるように荷重を付与した。また、負荷サイクル速度を1800サイクル/minとし、潤滑をISO VG68油浴への浸漬方式とした。この条件において、スラスト型転動疲労試験を常温で実施した。ここで、本実施例の条件下においてせん断応力が最大となる0.09mm深さ付近に試験片内部のAl2O3粒子が位置するように、Al2O3粒子の埋設深さを予め調整しておく。
一方、水素が侵入する環境下におけるはく離寿命を測定するために、下記表3に示す条件で陰極チャージ法によってスラスト型転動疲労試験に先立ち、試験片(実施例1~6及び比較例1~5)に水素を添加した。
上述したスラスト型転動疲労試験において、はく離までの応力繰り返し数を測定し、その繰り返し数をはく離寿命として求めた。
一方、はく離の要因を調査し、はく離の種類を2種類に分類した。はく離後の外観を観察し、はく離位置の関係に基づいて、はく離の種類を2種類に分類した。また、はく離部分の断面をバフ研磨後にナイタールによって腐食して光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することにより、はく離の起点を特定した。Al2O3粒子(非金属介在物の模擬)を埋設した部分からはく離が生じている場合には、「介在物起点型はく離」と判断した。また、埋設したAl2O3粒子を起点とする「介在物起点型はく離」ではなく、母相に生成した疲労組織を起点としたはく離の場合は「母相はく離」と判断した。
下記表4には、実施例1~6及び比較例1~5について、人工的に埋設したAl2O3粒子の直径(最大介在物径√area_maxとみなす)、各スラスト試験片のはく離要因と、基準値としての平均寿命(以下、「平均寿命(基準)」という)に対するはく離寿命(寿命/平均寿命(基準))を示す。ここで、平均寿命(基準)は、比較例3~5のはく離寿命(母相はく離)の平均値とした。
上記表4によれば、Al2O3粒子の直径(最大介在物径√area_max)が120μm以下である場合(実施例1~6)には、母相はく離が支配的に起こった。Al2O3粒子の直径が(最大介在物径√area_max)130μm以上である場合(比較例1、2)には、介在物起点型はく離が支配的に起こった。
早期はく離が生じるか否かは、上記表4より、Al2O3粒子の直径(最大介在物径√area_max)で決定され、その要因については転動疲労に伴い発生した非金属介在物起点のき裂の進展範囲が関与している。Al2O3粒子の直径(最大介在物径√area_max)が120μmより大きい場合(比較例1、2)、非金属介在物を起点としたき裂の進展が広範囲に及ぶため、母相はく離よりも早い時間で非金属介在物を起点としたはく離に至る。一方で、Al2O3粒子の直径(最大介在物径√area_max)が120μm以下の場合(実施例1~6)には、非金属介在物を起点としたき裂の進展が局所化するため、非金属介在物を起点としたはく離に至る前に母相の白色組織を起点とした母相はく離が発生し、そのはく離寿命は非金属介在物を起点とするはく離に比べて長寿命化することが示された。
また、上記表4に示す値(寿命/平均寿命(基準))に関して、実施例1~6は、平均寿命(基準)(比較例3~5)の5.5~6.5倍であり、鋼材1,2の違いにより母相はく離の寿命が異なっている。比較例3~5の平均寿命(基準)は軸受の基本定格寿命(100万回転の軸受寿命が得られる信頼度90%寿命)と概ね同等であり、この点を考慮すると、本発明の化学成分を有する軸受用鋼は、水素侵入環境下において、母相はく離、介在物起点型はく離の長寿命化対策に有効であることが示された。
したがって、水素侵入環境下における早期はく離対策として、本発明である軸受用鋼の化学成分による水素侵入環境下の転動疲労寿命の向上に加え、非金属介在物径の制御が重要であることが明らかになった。非金属介在物径の制御については、非金属介在物の小径化に伴い母相はく離が支配的になることから、非金属介在物の最大径√area maxを50μm以下に過度に小径化する必要はない。ただし、非金属介在物径の大型化に伴い、非金属介在物を起点とした短寿命はく離が生じるため、それを抑制するためには、少なくとも最大介在物径√area_maxを120μm以下とする必要がある。
本発明により、軸受用鋼中の非金属介在物を過度に小径化するための製造コストの上昇を抑えることができ、なおかつ水素が侵入する環境下において転動疲労寿命に優れた軸受用鋼を得ることができる。
Claims (9)
- C:0.12~0.50質量%、Si:0.15~0.65質量%、Mn:0.30~1.80質量%、Cr:0.70~3.50質量%、P:0.030質量%以下、S:0.030質量%以下の化学成分を有し、
残部がFe及び不可避不純物からなり、
最大介在物径√area_maxが50μmよりも大きく、かつ120μm以下であることを特徴とする軸受用鋼。 - 前記軸受用鋼は、Mo:0.06~0.70質量%の化学成分を含むことを特徴とする請求項1に記載の軸受用鋼。
- 前記軸受用鋼は、Ni:0.30~2.00質量%の化学成分を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の軸受用鋼。
- 前記軸受用鋼は、V:0.01~0.20質量%、Nb:0.01~0.20質量%、Ti:0.01~0.20質量%から選択した1種又は2種以上の化学成分を含有することを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載の軸受用鋼。
- 硬さが58HRC以上であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1つに記載の軸受用鋼。
- 軸受用鋼中の酸素含有量が8ppm以下であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1つに記載の軸受用鋼。
- 請求項1から6のいずれか1つに記載の軸受用鋼で形成された軸受。
- 請求項1から6のいずれか1つに記載の軸受用鋼で形成された軸受部品。
- 請求項1から6のいずれか1つに記載の軸受用鋼で形成された転動疲労が負荷される部品。
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