JP2022076860A - 高硬度・耐磨耗性部材および高硬度・耐磨耗性部材の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】高硬度で耐磨耗性に優れるとともに、基材と硬質な被膜との密着性にも優れる高硬度・耐磨耗性部材を提供すること、また、前記高硬度・耐磨耗性部材の製造方法を提供すること。【解決手段】本発明の高硬度・耐磨耗性部材は、基材と、被膜とを有し、前記被膜は、NiおよびFeを含有する固溶体を含む材料で構成された母相と、WC結晶粒子を含む材料で構成され、前記母相に支持された硬質層とを有するものである。前記硬質層の厚さは、0.5μm以上であるのが好ましい。前記被膜の厚さは、1.5μm以上5.0μm以下であるのが好ましい。【選択図】なし
Description
本発明は、高硬度・耐磨耗性部材および高硬度・耐磨耗性部材の製造方法に関する。
従来から、高速度工具鋼は、切削工具や金型材料として使用されている。上記の用途における耐摩耗性および寿命の良否に直結することから、高速度工具鋼においては高い強度および靭性を有することが望まれている。
しかし、一般に、強度と靭性とはトレードオフの関係にあることから、用途やコストに応じて、強度と靭性とのバランスを考慮して、素材、製造条件が調整されてきた。
例えば、特許文献1では、低合金高速度工具鋼に対する熱処理条件を適切に制御することで、靭性を高めた高速度工具鋼が提案されている。
また、特許文献2では、添加化学成分を工夫することにより、高価な添加元素の添加量を低減するとともに強度を確保する方法が提案されている。
コスト低減や、成形・加工の容易性を確保するために、広く流通している鋼材等を基材として用い、その表面に、硬質の被膜を形成する技術も知られている。このような方法としては、炭化タングステン(WC)の粒子と、バインダーとしてのCoとを含む材料(サーメット材料)を溶射して被膜を形成する方法(高速フレーム溶射)がある。しかしながら、このような方法では、WCとCoとの反応により、脆弱な相が形成されてしまうという問題があった。
本発明の目的は、高硬度で耐磨耗性に優れるとともに、基材と硬質な被膜との密着性にも優れる高硬度・耐磨耗性部材を提供すること、また、前記高硬度・耐磨耗性部材の製造方法を提供することにある。
このような目的は、下記(1)~(14)に記載の本発明により達成される。
(1) 基材と、被膜とを有する高硬度・耐磨耗性部材であって、
前記被膜は、NiおよびFeを含有する固溶体を含む材料で構成された母相と、WC結晶粒子を含む材料で構成され、前記母相に支持された硬質層とを有するものであることを特徴とする高硬度・耐磨耗性部材。
(1) 基材と、被膜とを有する高硬度・耐磨耗性部材であって、
前記被膜は、NiおよびFeを含有する固溶体を含む材料で構成された母相と、WC結晶粒子を含む材料で構成され、前記母相に支持された硬質層とを有するものであることを特徴とする高硬度・耐磨耗性部材。
(2) 前記硬質層の厚さが、0.5μm以上である上記(1)に記載の高硬度・耐磨耗性部材。
(3) 前記基材は、鋼材で構成されたものである上記(1)または(2)に記載の高硬度・耐磨耗性部材。
(4) 前記基材は、炭素鋼で構成されたものである上記(3)に記載の高硬度・耐磨耗性部材。
(5) 前記被膜の厚さが、1.5μm以上5.0μm以下である上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の高硬度・耐磨耗性部材。
(6) 前記硬質層は、棒状WC結晶粒子を含んでいる上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の高硬度・耐磨耗性部材。
(7) 前記WC結晶粒子は、短軸長が0.10μm以上1.4μm以下、長軸長が1.0μm以上4.0μm以下である上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の高硬度・耐磨耗性部材。
(8) Feを含む材料で構成された基材に対して無電解Ni-Pめっきを施し、無電解Ni-Pめっき層を形成する無電解めっき工程と、
電気めっきにより、前記無電解Ni-Pめっき層上に、Ni-W合金めっき層を形成する電気めっき工程と、
還元性雰囲気中で熱処理を施すことにより、W単相結晶と、NiおよびFeを含有する固溶体とを含む複合層を形成するW単相結晶形成工程と、
前記複合層にガス浸炭処理を施すことにより、WC結晶粒子を形成する浸炭処理工程とを有することを特徴とする高硬度・耐磨耗性部材の製造方法。
電気めっきにより、前記無電解Ni-Pめっき層上に、Ni-W合金めっき層を形成する電気めっき工程と、
還元性雰囲気中で熱処理を施すことにより、W単相結晶と、NiおよびFeを含有する固溶体とを含む複合層を形成するW単相結晶形成工程と、
前記複合層にガス浸炭処理を施すことにより、WC結晶粒子を形成する浸炭処理工程とを有することを特徴とする高硬度・耐磨耗性部材の製造方法。
(9) 前記無電解めっき工程で形成する前記無電解Ni-Pめっき層の厚さが、0.01μm以上10μm以下である上記(8)に記載の高硬度・耐磨耗性部材の製造方法。
(10) 前記電気めっき工程で形成する前記Ni-W合金めっき層の厚さが、1.0μm以上10μm以下である上記(8)または(9)に記載の高硬度・耐磨耗性部材の製造方法。
(11) 前記W単相結晶形成工程は、還元性雰囲気中で、500℃以上1000℃以下の熱処理を施すことにより行う上記(8)ないし(10)のいずれかに記載の高硬度・耐磨耗性部材の製造方法。
(12) 前記W単相結晶形成工程は、還元性雰囲気中で、10分間以上180分間以下の熱処理を施すことにより行う上記(8)ないし(11)のいずれかに記載の高硬度・耐磨耗性部材の製造方法。
(13) 前記浸炭処理工程は、浸炭性ガスを含む雰囲気中で、650℃以上1000℃以下の熱処理を施すことにより行う上記(8)ないし(12)のいずれかに記載の高硬度・耐磨耗性部材の製造方法。
(14) 前記浸炭処理工程は、浸炭性ガスを含む雰囲気中で、3分間以上180分間以下の熱処理を施すことにより行う上記(8)ないし(13)のいずれかに記載の高硬度・耐磨耗性部材の製造方法。
本発明によれば、高硬度で耐磨耗性に優れるとともに、基材と硬質な被膜との密着性にも優れる高硬度・耐磨耗性部材を提供すること、また、前記高硬度・耐磨耗性部材の製造方法を提供することができる。
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
[1]高硬度・耐磨耗性部材
まず、本発明の高硬度・耐磨耗性部材について説明する。
図1は、本発明の高硬度・耐磨耗性部材の好適な実施形態を示す模式的な断面図である。
[1]高硬度・耐磨耗性部材
まず、本発明の高硬度・耐磨耗性部材について説明する。
図1は、本発明の高硬度・耐磨耗性部材の好適な実施形態を示す模式的な断面図である。
図1に示すように、高硬度・耐磨耗性部材100は、基材1と、被膜2とを有している。そして、被膜2は、NiおよびFeを含有する固溶体を含む材料で構成された母相21と、WC結晶粒子を含む材料で構成された硬質層22とを有している。
このような構成により、高硬度で耐磨耗性に優れるとともに、基材と硬質な被膜との密着性にも優れる高硬度・耐磨耗性部材100を提供することができる。
[1-1]基材
基材1は、被膜2を支持する機能を有するものであり、通常、高硬度・耐磨耗性部材100の主部を構成するものである。
基材1は、被膜2を支持する機能を有するものであり、通常、高硬度・耐磨耗性部材100の主部を構成するものである。
また、基材1は、通常、高硬度・耐磨耗性部材100全体の概形と同様の形状を有するものである。
基材1は、いかなる材料で構成されたものであってもよく、基材1の構成材料としては、例えば、各種金属材料、各種セラミックス材料、各種ガラス材料、各種樹脂材料、石材、炭素材料等が挙げられるが、少なくともFeを含むものであるのが好ましい。
これにより、高硬度・耐磨耗性部材100を製造する際に各種成膜法によりFeを含む膜を形成しなくても、母相21中に好適にFeを含ませることができる。特に、後述するような方法を用いて、Feを好適に含有する母相21を好適に形成することができる。また、基材1と母相21との密着性を特に優れたものとすることができる。
中でも、基材1は、鋼材で構成されたものであるのが好ましい。
これにより、高硬度・耐磨耗性部材100全体としての硬度をより高いものとすることができる。また、基材1と被膜2との密着性をより優れたものとすることができる。また、鋼材は、比較的安価で入手も容易であるため、高硬度・耐磨耗性部材100の安定供給、製造コストの低減の観点等からも好ましい。
これにより、高硬度・耐磨耗性部材100全体としての硬度をより高いものとすることができる。また、基材1と被膜2との密着性をより優れたものとすることができる。また、鋼材は、比較的安価で入手も容易であるため、高硬度・耐磨耗性部材100の安定供給、製造コストの低減の観点等からも好ましい。
基材1を構成する鋼材としては、例えば、炭素鋼や、ステンレス鋼、マンガン鋼等の合金鋼等が挙げられる。
特に、基材1は、炭素鋼で構成されたものであるのが好ましい。
これにより、基材1の加工性をより優れたものとすることができ、種々の形状の高硬度・耐磨耗性部材100の製造に好適に適用することができる。また、基材1と被膜2との密着性をさらに優れたものとすることができる。また、炭素鋼は、各種鋼材の中でも、特に安価で入手も容易であるため、高硬度・耐磨耗性部材100の安定供給、製造コストの低減の観点から、特に好ましい。
これにより、基材1の加工性をより優れたものとすることができ、種々の形状の高硬度・耐磨耗性部材100の製造に好適に適用することができる。また、基材1と被膜2との密着性をさらに優れたものとすることができる。また、炭素鋼は、各種鋼材の中でも、特に安価で入手も容易であるため、高硬度・耐磨耗性部材100の安定供給、製造コストの低減の観点から、特に好ましい。
基材1を構成する炭素鋼としては、例えば、0.02質量%以上0.25質量%以下の低炭素鋼、0.25質量%以上0.6質量%以下の中炭素鋼、0.6質量%以上の高炭素鋼が挙げられる。
基材1は、例えば、その全体が均一な材料で構成されたものであってもよいし、異なる材料で構成された複数の領域を有するものであってもよい。例えば、基材1は、基部と、当該基部の少なくとも一部を被覆する表面層とを有するものであってもよい。また、前記基部と前記表面層との間に、少なくとも1層の中間層が設けられていてもよい。
基材1の形状は、特に限定されないが、通常、高硬度・耐磨耗性部材100の概形と同様である。
なお、基材1は、組成の異なる部位を有するものであってもよい。例えば、基材1は、基部と当該基部とは異なる組成の表面層とを有するものであってもよいし、複数の層を有する積層体であってもよいし、構成材料の組成が傾斜的に変化する傾斜材料で構成されたものであってもよい。このような場合、少なくとも基材1の表面が前述したような材料で構成されているのが好ましい。
[1-2]被膜
高硬度・耐磨耗性部材100は、基材1に支持された被膜2を有している。
被膜2は、NiおよびFeを含有する固溶体を含む材料で構成された母相21と、WC結晶粒子を含む材料で構成された硬質層22とを有している。
高硬度・耐磨耗性部材100は、基材1に支持された被膜2を有している。
被膜2は、NiおよびFeを含有する固溶体を含む材料で構成された母相21と、WC結晶粒子を含む材料で構成された硬質層22とを有している。
被膜2は、主に、高硬度・耐磨耗性部材100の硬度を高めたり、高硬度・耐磨耗性部材100の耐摩耗性を向上させたりする機能を有している。
[1-2-1]母相
母相21は、NiおよびFeを含有する固溶体を含む材料で構成されている。
このような母相21は、通常、基材1および硬質層22に接触する部位に設けられている。
母相21は、NiおよびFeを含有する固溶体を含む材料で構成されている。
このような母相21は、通常、基材1および硬質層22に接触する部位に設けられている。
母相21が上記のような材料で構成されたものであることにより、母相21の基材1に対する密着性、および、母相21の硬質層22に対する密着性を、いずれも、優れたものとすることができる。
母相21を構成する固溶体は、NiおよびFeを含んでいればよいが、さらに、Wを含んでいてもよい。
これにより、高硬度・耐磨耗性部材100全体としての硬度、耐摩耗性をより優れたものとすることができる。また、母相21の硬質層22に対する密着性を、より優れたものとすることができる。
母相21を構成する固溶体は、上記以外の成分を含んでいてもよい。
ただし、母相21を構成する固溶体中におけるNi、Fe、W以外の成分の含有率は、10質量%以下であるのが好ましく、5質量%以下であるのがより好ましく、1質量%以下であるのがさらに好ましい。
ただし、母相21を構成する固溶体中におけるNi、Fe、W以外の成分の含有率は、10質量%以下であるのが好ましく、5質量%以下であるのがより好ましく、1質量%以下であるのがさらに好ましい。
また、母相21は、前記固溶体に加え、他の構成を含んでいてもよい。
ただし、母相21中における前記固溶体以外の構成の占める割合は、10質量%以下であるのが好ましく、5質量%以下であるのがより好ましく、1質量%以下であるのがさらに好ましい。
ただし、母相21中における前記固溶体以外の構成の占める割合は、10質量%以下であるのが好ましく、5質量%以下であるのがより好ましく、1質量%以下であるのがさらに好ましい。
母相21は、いかなる形状を有するものであってもよいが、通常、基材1と硬質層22との間に、層状に設けられている。
このような場合、母相21の厚さは、特に限定されないが、1.0μm以上2.5μm以下であるのが好ましく、1.0μm以上2.0μm以下であるのがより好ましい。
これにより、高硬度・耐磨耗性部材100の硬度や耐磨耗性、基材1と被膜2との密着性のバランスをより優れたものとすることができる。また、高硬度・耐磨耗性部材100の生産性をより優れたものとすることができる。
母相21は、例えば、その全体が均一な材料で構成されたものであってもよいし、異なる材料で構成された複数の領域を有するものであってもよい。
[1-2-2]硬質層
被膜2は、WC結晶粒子を含む材料で構成され、母相21に支持された硬質層22を有している。
被膜2は、WC結晶粒子を含む材料で構成され、母相21に支持された硬質層22を有している。
このような硬質層22は、非常に高い硬度を有するとともに、耐摩耗性にも優れており、さらに、母相21との密着性にも優れたものである。これにより、高硬度・耐磨耗性部材100全体としての硬度、耐摩耗性を優れたものとすることができる。また、被膜2の不本意な剥離等が効果的に防止され、高硬度・耐磨耗性部材100の耐久性、信頼性を優れたものとすることができる。
硬質層22中に含まれるWC結晶粒子は、いかなる形態のものであってもよいが、硬質層22は、棒状WC結晶粒子を含んでいるのが好ましく、これらが被膜2の厚さ方向に選択的に配向しているのがより好ましい。
これにより、硬質層22表面での他の物体との摩擦摩耗・摺動時にWC結晶粒子の脱落がより効果的に抑制され、耐摩耗性能がさらに向上する。
WC結晶粒子は、特に限定されないが、短軸長が0.10μm以上1.4μm以下、長軸長が1.0μm以上4.0μm以下であるのが好ましく、短軸長が0.30μm以上1.20μm以下、長軸長が1.5μm以上3.5μm以下であるのがより好ましく、短軸長が0.50μm以上1.00μm以下、長軸長が2.0μm以上3.0μm以下であるのがさらに好ましい。
これにより、前述した被膜2の厚さ方向への選択的配向が成された状態において、硬質層22の厚さとWC結晶粒子の長軸長が適合する。
なお、本明細書においては、測定対象となる部位(例えば、WC結晶粒子については硬質層22)の表面における測定対象の結晶粒子を画像解析ソフトウェアにより検出したうえで、当該結晶粒子の全てについて短軸長および長軸長を求め、それぞれの算術平均値を、結晶粒子の短軸長および長軸長と定義する。
硬質層22は、WC結晶粒子を含む材料で構成されているが、さらに、WC以外の成分を含んでいてもよい。
ただし、硬質層22中におけるWC以外の成分の含有率は、10質量%以下であるのが好ましく、5質量%以下であるのがより好ましく、1質量%以下であるのがさらに好ましい。
硬質層22の厚さは、特に限定されないが、0.5μm以上であるのが好ましく、1.0μm以上2.5μm以下であるのがより好ましい。
これにより、高硬度・耐磨耗性部材100の硬度や耐磨耗性、基材1と被膜2との密着性のバランスをより優れたものとすることができる。また、高硬度・耐磨耗性部材100の生産性をより優れたものとすることができる。
硬質層22は、例えば、その全体が均一な材料で構成されたものであってもよいし、異なる材料で構成された複数の領域を有するものであってもよい。
なお、図示の構成では、層状をなす母相21と硬質層22との間に、明確な境界が存在しているが、母相21と硬質層22との境界は非不明瞭なものであってもよく、例えば、母相21の構成材料と硬質層22の構成材料とが混在する領域を有していてもよい。また、被膜2は、母相21および硬質層22以外の領域、例えば、中間層や下地層を有していてもよい。このような領域としては、例えば、Niを含みかつFeを含まない領域等が挙げられる。
また、図示の構成では、基材1と被膜2との間に、明確な境界が存在しているが、基材1と被膜2との境界は非不明瞭なものであってもよい。
被膜2の厚さは、特に限定されないが、1.5μm以上5.0μm以下であるのが好ましく、2.0μm以上4.5μm以下であるのがより好ましい。
これにより、高硬度・耐磨耗性部材100の硬度や耐磨耗性、基材1と被膜2との密着性のバランスをより優れたものとすることができる。また、高硬度・耐磨耗性部材100の生産性をより優れたものとすることができる。
被膜2は、基材1の表面の少なくとも一部を被覆するものであればよく、基材1は、被膜2で被覆されていない部位を有していてもよい。
高硬度・耐磨耗性部材100は、前述した基材1および被膜2に加えて、他の構成をさらに有していてもよい。このような構成としては、例えば、基材1と被膜2との間に設けられた中間層や、被膜2の表面の少なくとも一部を被覆するコート層等が挙げられる。また、基材1が被膜2で被覆されていない領域を有する場合、当該領域は、被膜2以外の膜で被覆されていてもよい。
上述したように、高硬度・耐磨耗性部材100は、高硬度で耐磨耗性に優れるとともに、基材1と被膜2との密着性に優れている。
高硬度・耐磨耗性部材100の被膜2が設けられた部位における、JIS Z 2244で規定されるビッカース硬さ試験方法に準じて測定されるビッカース硬さは、1000以上2700以下であるのが好ましく、1100以上2500以下であるのがより好ましく、1200以上2300以下であるのがさらに好ましい。
ビッカース硬さは、例えば、微小硬さ試験機(フィッシャー・インストルメンツ社製、ピコデンターHM500)を用いた測定により求めることができる。
また、高硬度・耐磨耗性部材100の被膜2が設けられた部位における、ISO 18535で規定されるボールオンディスク摩擦摩耗試験で求められる比摩耗量(specific wear rate)は、5.0×10-16m2/N以下であるのが好ましく、1.4×10-16m2/N以上2.5×10-16m2/N以下であるのがより好ましい。
ボールオンディスク摩擦摩耗試験には、例えば、ボールオンディスク摩擦摩耗試験機(CSM instrument社製、Tribometer)を用いることができる。
高硬度・耐磨耗性部材100は、いかなる用途のものであってもよいが、高硬度、耐摩耗性が求められる用途の物であるのが好ましい。このような物としては、例えば、切削工具等の各種工具、金型、圧延ロール等の各種ロール、ピストンリング、シリンダー、軸受、ベアリング等の各種摺動部品、各種バルブやポンプ用部品等が挙げられる。
[2]高硬度・耐磨耗性部材の製造方法
次に、本発明の高硬度・耐磨耗性部材の製造方法について説明する。
図2は、本発明の高硬度・耐磨耗性部材の製造方法の好適な実施形態を示す模式的な断面図である。
次に、本発明の高硬度・耐磨耗性部材の製造方法について説明する。
図2は、本発明の高硬度・耐磨耗性部材の製造方法の好適な実施形態を示す模式的な断面図である。
図2に示すように、本実施形態の高硬度・耐磨耗性部材100の製造方法は、Feを含む材料で構成された基材1を用意する基材用意工程(1a)と、基材1に対して無電解Ni-Pめっきを施し、無電解Ni-Pめっき層2A’を形成する無電解めっき工程(1b)と、電気めっきにより、無電解Ni-Pめっき層2A’上に、Ni-W合金めっき層2B’を形成する電気めっき工程(1c)と、還元性雰囲気中で熱処理を施すことにより、W単相結晶と、NiおよびFeを含有する固溶体とを含む複合層2’を形成するW単相結晶形成工程(1d)と、複合層2’にガス浸炭処理を施すことにより、WC結晶粒子を形成する浸炭処理工程(1e)とを有する。
これにより、高硬度で耐磨耗性に優れるとともに、基材1と硬質な被膜2との密着性にも優れる高硬度・耐磨耗性部材100の製造方法を提供することができる。特に、上記のような優れた特性の高硬度・耐磨耗性部材100を生産性よく、優れた歩留まりで製造することができる。
[2-1]基材用意工程
基材用意工程では、前述したような基材1、特に、少なくともFeを含む材料で構成された基材1を用意する(1a)。
基材用意工程では、前述したような基材1、特に、少なくともFeを含む材料で構成された基材1を用意する(1a)。
本工程で用意する基材1は、例えば、洗浄処理や、鏡面加工、ブラスト処理、プラズマ処理等の表面処理が施されたものであってもよい。
[2-2]無電解めっき工程
無電解めっき工程では、基材1に対して無電解Ni-Pめっきを施し、無電解Ni-Pめっき層2A’を形成する(1b)。
無電解めっき工程では、基材1に対して無電解Ni-Pめっきを施し、無電解Ni-Pめっき層2A’を形成する(1b)。
無電解めっき工程は、Ni濃度が3g/L以上10g/L以下のめっき液を用いることにより、好適に行うことができる。
めっき液としては、例えば、市販のめっき液をそのまま用いてもよいし、市販のめっき液原料として、希釈する等して調製したものを用いてもよい。
無電解めっき工程で用いるめっき液のpH(25℃におけるpH)は、特に限定されないが、3.0以上4.5以下であるのが好ましく、3.3以上4.2以下であるのがより好ましい。
無電解めっき工程での処理温度は、特に限定されないが、50℃以上95℃以下であるのが好ましく、60℃以上90℃以下であるのがより好ましい。
無電解めっき工程での処理条件(例えば、処理温度等)は、無電解めっき工程中において変更してもよい。
無電解めっき工程の処理時間は、特に限定されないが、10分間以上120分間以下であるのが好ましく、15分間以上60分間以下であるのが好ましい。
これにより、最終的に得られる高硬度・耐磨耗性部材100の信頼性をより優れたものとすることができる。また、高硬度・耐磨耗性部材100の生産性をより優れたものとすることができる。
無電解めっき工程で形成する無電解Ni-Pめっき層2A’の厚さは、特に限定されないが、0.01μm以上10μm以下であるのが好ましく、0.1μm以上5.0μm以下であるのがより好ましく、1.5μm以上2.0μm以下であるのがさらに好ましい。
これにより、最終的に得られる高硬度・耐磨耗性部材100における被膜2の厚さ、母相21の厚さを、前述した条件を満たすように好適に調整することができる。
[2-3]電気めっき工程
電気めっき工程では、電気めっきにより、無電解Ni-Pめっき層2A’上に、Ni-W合金めっき層2B’を形成する(1c)。
電気めっき工程では、電気めっきにより、無電解Ni-Pめっき層2A’上に、Ni-W合金めっき層2B’を形成する(1c)。
Ni-W合金めっき層2B’は、母相21の構成成分となるとともに、硬質層22を構成するWCのW源ともなるものである。
電気めっき工程は、例えば、タングステン酸イオンとニッケルイオンとそれらの錯化剤とを含むめっき液を用いることにより、好適に行うことができる。
タングステン酸イオンは、例えば、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸カリウム、タングステン酸アンモニウム等の水溶性が高い塩としてめっき液中に含まれているのが好ましい。
ニッケルイオンは、例えば、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、炭酸ニッケル等の塩としてめっき液中に含まれているのが好ましい。
錯化剤としては、例えば、クエン酸やその塩、ピロリン酸やその塩、1-ヒドロキシエタン-1、1-ビスホスホン酸等を用いることができる。
クエン酸塩としては、例えば、クエン酸三ナトリウム、クエン酸水素二ナトリウム、クエン酸二水素ナトリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸水素二カリウム、クエン酸二水素カリウム、クエン酸三リチウム、クエン酸水素二リチウム、クエン酸二水素リチウム、クエン酸三アンモニウム、クエン酸水素二アンモニウム、クエン酸二水素アンモニウム等が挙げられる。
また、アンモニウムイオンには電流効率を高める効果があり、めっき液には、アンモニウム塩を含むものを用いてもよいし、アンモニアを含むものを用いてもよい。
電気めっき工程で用いるめっき液中におけるNi濃度は、1g/L以上30g/L以下であるのが好ましく、3g/L以上10g/L以下であるのがより好ましい。
電気めっき工程で用いるめっき液中におけるW濃度は、20g/L以上200g/L以下であるのが好ましく、30g/L以上100g/L以下であるのがより好ましい。
電気めっき工程で用いるめっき液のpH(25℃におけるpH)は、特に限定されないが、5.0以上7.0以下であるのが好ましく、5.5以上6.8以下であるのがより好ましい。
電気めっき工程での陰極電流密度は、3A/dm2以上30A/dm2以下であるのが好ましく、7A/dm2以上15A/dm2以下であるのがより好ましい。
電気めっき工程での処理温度は、特に限定されないが、25℃以上80℃以下であるのが好ましく、35℃以上65℃以下であるのが好ましい。
電気めっき工程での処理条件(例えば、処理温度等)は、無電解めっき工程中において変更してもよい。
電気めっき工程の処理時間は、特に限定されないが、例えば、1分間以上240分間以下であるのが好ましく、3分間以上120分間以下であるのがより好ましく、5分間以上30分間以下であるのがさらに好ましい。
これにより、最終的に得られる高硬度・耐磨耗性部材100の信頼性をより優れたものとすることができる。また、高硬度・耐磨耗性部材100の生産性をより優れたものとすることができる。
電気めっき工程で形成されるNi-W合金めっき層2B’には、固溶限界以上のWが固溶しているのが好ましい。
これにより、W単相結晶形成工程において、より好適にW単相結晶を析出させることができ、後に詳述するような効果がより顕著に発揮される。
固溶限界以上のWが固溶しているNi-W合金めっき層2B’は、電気めっき工程を上述した好ましい条件で行うことにより、好適に形成することができる。
電気めっき工程で形成するNi-W合金めっき層2B’の厚さは、特に限定されないが、1.0μm以上10μm以下であるのが好ましく、1.4μm以上5.0μm以下であるのがより好ましく、2.5μm以上3.0μm以下であるのがさらに好ましい。
これにより、最終的に得られる高硬度・耐磨耗性部材100における被膜2の厚さ、母相21の厚さ、硬質層22の厚さを、前述した条件を満たすように好適に調整することができる。
[2-4]W単相結晶形成工程
W単相結晶形成工程では、無電解Ni-Pめっき層2A’およびNi-W合金めっき層2B’が形成された基材1に対して、還元性雰囲気中で熱処理を施すことにより、W単相結晶と、NiおよびFeを含有する固溶体とを含む複合層2’を形成する(1d)。より具体的には、還元性雰囲気中で熱処理を施すことにより、NiとFeとの固溶化が進行するとともに、固溶W量が減少してWが単相粒子として析出する。このように、本工程で、W単相粒子を析出させることにより、後の浸炭処理工程で生成するWCの粒子が粗大化することが効果的に防止される。なお、前記固溶体中に含まれるFeは、通常、基材1から拡散したものである。
W単相結晶形成工程では、無電解Ni-Pめっき層2A’およびNi-W合金めっき層2B’が形成された基材1に対して、還元性雰囲気中で熱処理を施すことにより、W単相結晶と、NiおよびFeを含有する固溶体とを含む複合層2’を形成する(1d)。より具体的には、還元性雰囲気中で熱処理を施すことにより、NiとFeとの固溶化が進行するとともに、固溶W量が減少してWが単相粒子として析出する。このように、本工程で、W単相粒子を析出させることにより、後の浸炭処理工程で生成するWCの粒子が粗大化することが効果的に防止される。なお、前記固溶体中に含まれるFeは、通常、基材1から拡散したものである。
W単相結晶形成工程で形成されるW単相結晶は、後の浸炭処理工程で、主にWC結晶粒となるものである。
W単相結晶形成工程を行う雰囲気は、還元性の雰囲気であればよいが、具体的には、例えば、水素ガスを含む雰囲気等が挙げられる。
水素ガスを含む雰囲気としては、水素ガスそのもののほか、例えば、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガスとの混合ガス等が挙げられる。
特に、W単相結晶形成工程を行う際の雰囲気は、水素ガスとアルゴンガスとの混合ガスであるのが好ましい。
W単相結晶形成工程を行う雰囲気中における水素ガスの圧力(水素ガスと他の成分との混合ガスである場合には、水素ガスの分圧)は、1kPa以上100kPa以下であるのが好ましく、3kPa以上20kPa以下であるのがより好ましく、7kPa以上10kPa以下であるのがさらに好ましい。
W単相結晶形成工程を行う際の雰囲気の圧力は、50kPa以上500kPa以下であるのが好ましく、100kPa以上350kPa以下であるのがより好ましく、140kPa以上200kPa以下であるのがさらに好ましい。
W単相結晶形成工程で行う還元性雰囲気中での熱処理の処理温度は、500℃以上1000℃以下であるのが好ましく、550℃以上800℃以下であるのがより好ましく、650℃以上700℃以下であるのがさらに好ましい。
これにより、NiとFeとの固溶化をより好適に進行させるとともに、W単相粒子をより好適に析出させることができ、W単相結晶と、NiおよびFeを含有する固溶体とを含む複合層2’をより効率よく形成することができ、高硬度・耐磨耗性部材100の生産性をより優れたものとすることができるとともに、最終的に得られる高硬度・耐磨耗性部材100の信頼性をより優れたものとすることができる。
W単相結晶形成工程での処理条件(例えば、雰囲気の組成、圧力、処理温度等)は、W単相結晶形成工程中において変更してもよい。
W単相結晶形成工程での昇温速度(例えば、20℃から500℃までの昇温速度)は、50℃/分間以上250℃/分間以下であるのが好ましく、80℃/分間以上220℃/分間以下であるのがより好ましく、120℃/分間以上200℃/分間以下であるのがさらに好ましい。
これにより、NiとFeとの固溶化をより好適に進行させるとともに、W単相粒子をより好適に析出させることができ、W単相結晶と、NiおよびFeを含有する固溶体とを含む複合層2’をより効率よく形成することができ、高硬度・耐磨耗性部材100の生産性をより優れたものとすることができるとともに、最終的に得られる高硬度・耐磨耗性部材100の信頼性をより優れたものとすることができる。
W単相結晶形成工程で行う還元性雰囲気中での熱処理の処理時間(例えば、500℃以上での処理時間)は、10分間以上180分間以下であるのが好ましく、20分間以上90分間以下であるのがより好ましく、30分間以上60分間以下であるのがさらに好ましい。
これにより、最終的に得られる高硬度・耐磨耗性部材100の信頼性をより優れたものとすることができる。また、高硬度・耐磨耗性部材100の生産性をより優れたものとすることができる。
[2-5]浸炭処理工程
浸炭処理工程では、複合層2’にガス浸炭処理を施すことにより、WC結晶粒子を形成する(1e)。
浸炭処理工程では、複合層2’にガス浸炭処理を施すことにより、WC結晶粒子を形成する(1e)。
これにより、複合層2’が母相21および硬質層22を有する被膜2となり、高硬度・耐磨耗性部材100が得られる。
また、上述したようにして形成された複合層2’に対して、浸炭処理を施すことにより、母相21を、NiおよびFeに加えてWを含む固溶体で構成されたものとして好適に形成することができる。
浸炭処理工程は、浸炭性ガスを含む雰囲気中で、複合層2’に熱処理を施すことにより行う。
浸炭性ガスとしては、例えば、プロパン、プロピレン、エチレン、アセチレン等の炭化水素、CO等が挙げられ、これからか選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。また、浸炭性ガスとしては、RXガス等を用いてもよい。
浸炭処理工程での熱処理の温度は、650℃以上1000℃以下であるのが好ましく、750℃以上950℃以下であるのがより好ましく、800℃以上900℃以下であるのがさらに好ましい。
これにより、浸炭処理をより効率よく行うことができ、高硬度・耐磨耗性部材100の生産性をより優れたものとすることができるとともに、最終的に得られる高硬度・耐磨耗性部材100の信頼性をより優れたものとすることができる。
浸炭処理工程での処理条件(例えば、浸炭性ガスの組成、圧力、処理温度等)は、浸炭処理工程中において変更してもよい。
浸炭処理工程での昇温速度(例えば、200℃から650℃までの昇温速度)は、50℃/分間以上250℃/分間以下であるのが好ましく、80℃/分間以上220℃/分間以下であるのがより好ましく、120℃/分間以上200℃/分間以下であるのがさらに好ましい。
これにより、浸炭処理をより効率よく行うことができ、高硬度・耐磨耗性部材100の生産性をより優れたものとすることができるとともに、最終的に得られる高硬度・耐磨耗性部材100の信頼性をより優れたものとすることができる。
浸炭処理の処理時間(例えば、650℃以上での処理時間)は、3分間以上180分間以下であるのが好ましく、5分間以上120分間以下であるのがより好ましく、10分間以上60分間以下であるのがさらに好ましい。
これにより、最終的に得られる高硬度・耐磨耗性部材100の信頼性をより優れたものとすることができる。また、高硬度・耐磨耗性部材100の生産性をより優れたものとすることができる。
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
例えば、本発明の高硬度・耐磨耗性部材の製造方法は、前述した工程以外の工程(例えば、前処理工程、中間処理工程、後処理工程等)を有していてもよい。
より具体的には、例えば、本発明の高硬度・耐磨耗性部材の製造方法は、前処理工程、中間処理工程、後処理工程のうちの少なくとも1つとして、表面を清浄化する清浄化工程を有していてもよい。また、本発明の高硬度・耐磨耗性部材の製造方法は、中間工程として、研磨等により先の工程で形成された層の厚さを調整する膜厚調整工程を有していてもよい。また、本発明の高硬度・耐磨耗性部材の製造方法は、浸炭工程の後に、前述した被膜以外の膜を形成する膜形成工程を有していてもよい。
また、本発明の高硬度・耐磨耗性部材の製造方法は、例えば、高硬度・耐磨耗性部材の修理・改造にも適用することができる。
例えば、本発明の高硬度・耐磨耗性部材とは異なる構成を有する部材、例えば、切削工具等の各種工具、金型、圧延ロール等の各種ロール、ピストンリング、シリンダー、軸受、ベアリング等の各種摺動部品、各種バルブやポンプ用部品等の高い硬度や優れた耐磨耗性が求められる部材を前述した基材として用意し、当該部材(基材としての部材)に対して、本発明の製造方法を適用することにより、修理・改造に係る高硬度・耐磨耗性部材を得ることができる。上記のような部材を基材として用いる場合、前述した無電解めっき工程に先立って、当該基材の一部を除去する等の処理を施してもよい。
また、例えば、本発明の高硬度・耐磨耗性部材は、基材と、被膜とを有し、前記被膜が、NiおよびFeを含有する固溶体を含む材料で構成された母相と、WC結晶粒子を含む材料で構成され、前記母相に支持された硬質層とを有するものであればよく、前述した方法以外の方法で製造されたものであってもよい。
また、前述した実施形態では、被膜が、基材側に設けられた母相と、母相よりも高硬度・耐磨耗性部材の表面側に設けられた硬質層とからなるものである場合について代表的に説明したが、被膜は、母相と硬質層とを有するものであればよく、例えば、それぞれ微小な母相と硬質層とが混在する領域を有するものであってもよい。
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、特に温度条件を示していない処理、測定については、25℃で行った。
[3]高硬度・耐磨耗性部材の製造
(実施例1)
まず、基材として、炭素鋼であるS45Cを用意し、表面に鏡面加工を施した。
(実施例1)
まず、基材として、炭素鋼であるS45Cを用意し、表面に鏡面加工を施した。
次に、鏡面加工を施した基材に対して、NiSO4・6H2O:0.09mol/L、NaPH2O2・H2O:0.28mol/L、CH3COONa:0.12mol/L、クエン酸:0.05mol/L、Ni濃度:5.3g/L、25℃におけるpH:3.7であるめっき液を用いた無電解めっきを施し、無電解Ni-Pめっき層を形成した(無電解めっき工程)。
無電解めっき工程での処理温度は85℃、無電解めっき工程の処理時間は30分間とした。
無電解めっき工程で形成された無電解Ni-Pめっき層の厚さは、1.0μmであった。
次に、電気めっきにより、上記のようにして形成された無電解Ni-Pめっき層上に、Ni-W合金めっき層を形成した(電気めっき工程)。
電気めっき工程には、NiSO4・6H2O:0.06mol/L、Na2WO4・2H2O:0.26mol/L、クエン酸:0.05mol/L、14.8Nのアンモニア水:8mL、25℃におけるpH:6.2であるめっき液を用いた。
また、電気めっき工程での陰極電流密度は10A/dm2、電気めっき工程での処理温度は50℃、電気めっき工程の処理時間は10分間とした。
電気めっき工程で形成されたNi-W合金めっき層の厚さは2.0μmであった。
電気めっき工程で形成されたNi-W合金めっき層の厚さは2.0μmであった。
次に、無電解Ni-Pめっき層およびNi-W合金めっき層が形成された基材に対して、水素ガス分圧7.5kPa、アルゴンガス分圧142.5kPaである水素ガスとアルゴンガスとの混合ガス雰囲気(150kPa)中で処理温度:650℃、処理時間(500℃以上での処理時間):60分間の熱処理を施すことにより、W単相結晶と、NiおよびFeを含有する固溶体とを含む複合層を形成した(W単相結晶形成工程)。なお、200℃から500℃までの昇温速度は160℃/分間とした。複合層を構成する固溶体中に含まれるFeは、基材から拡散したものである。
次に、上記のようにして得られた複合層に、アセチレンガスとアルゴンガスとの混合ガスを用いたガス浸炭処理を施すことにより、WC結晶粒子を形成し、硬質層を形成するとともに、NiとFeとWとを含む固溶体で構成された母相を形成し、母相と硬質層とを有する被膜を形成し、高硬度・耐磨耗性部材を得た(浸炭処理工程)。ガス浸炭処理には、アセチレンガス(4.8kPa)とアルゴンガス(315.2kPa)との混合ガス(320kPa)を用いた。
浸炭処理工程での熱処理の温度は900℃とし、浸炭処理の処理時間(650℃以上での処理時間)は、10分間とした。また、浸炭処理工程での昇温速度(200℃から650℃までの昇温速度)は、160℃/分間とした。
また、形成された硬質層は、棒状WC結晶粒子を含んでなるものであった。WC結晶粒子の短軸長は0.30μm、長軸長は2.2μmであった。
(実施例2~4)
各工程での処理条件を表1に示すように変更することにより、高硬度・耐磨耗性部材の構成が表2に示すものとなるようにした以外は、前記実施例1と同様にして高硬度・耐磨耗性部材を製造した。
各工程での処理条件を表1に示すように変更することにより、高硬度・耐磨耗性部材の構成が表2に示すものとなるようにした以外は、前記実施例1と同様にして高硬度・耐磨耗性部材を製造した。
(比較例1、2)
W単相結晶形成工程を省略するとともに、電気めっき工程の処理時間、浸炭処理工程での処理条件を表1に示すように変更することにより、高硬度・耐磨耗性部材の構成が表2に示すものとなるようにした以外は、前記実施例1と同様にして高硬度・耐磨耗性部材を製造した。
W単相結晶形成工程を省略するとともに、電気めっき工程の処理時間、浸炭処理工程での処理条件を表1に示すように変更することにより、高硬度・耐磨耗性部材の構成が表2に示すものとなるようにした以外は、前記実施例1と同様にして高硬度・耐磨耗性部材を製造した。
(比較例3)
浸炭処理工程を省略した以外は、前記実施例3と同様にして高硬度・耐磨耗性部材を製造した。
浸炭処理工程を省略した以外は、前記実施例3と同様にして高硬度・耐磨耗性部材を製造した。
前記各実施例および各比較例について、高硬度・耐磨耗性部材の製造条件を表1にまとめて示し、高硬度・耐磨耗性部材の構成を表2にまとめて示す。
前記各実施例および各比較例のW単相結晶形成工程終了時および浸炭処理工程終了時において、X線回折法(XRD)および走査型電子顕微鏡(SEM)による分析を行った。X線回折には、理学電気社製のX線回折装置Rint2100を用い、表面SEM写真、断面SEM写真の撮影には、日本電子社製のJSM-5310LVB Scanning Electron Microscope、および、JCM-6000 NeoScopeを用いた。
前記実施例1、2についてのW単相結晶形成工程終了時および浸炭処理工程終了時のX線回折(XRD)パターンを図3に示し、前記実施例3、4についての浸炭処理工程終了時のX線回折(XRD)パターンを図4に示し、前記比較例1、2についての浸炭処理工程終了時のX線回折(XRD)パターンを図5に示し、前記実施例1、2の高硬度・耐磨耗性部材についての表面SEM(走査型電子顕微鏡)写真を図6に示し、前記比較例1、2の高硬度・耐磨耗性部材についての表面SEM(走査型電子顕微鏡)写真を図7に示し、前記実施例3についてのW単相結晶形成工程終了時の断面エネルギー分散型X線分析(EDS)の結果を図8に示し、前記実施例3についての浸炭処理工程終了時の表面エネルギー分散型X線分析(EDS)の結果を図9に示し、前記実施例3についての浸炭処理工程終了時の表面電子線後方散乱回折(EBSD)の結果を図10に示し、前記実施例3についての浸炭処理工程終了時の断面エネルギー分散型X線分析(EDS)の結果を図11に示し、前記実施例4についての浸炭処理工程終了時の表面エネルギー分散型X線分析(EDS)の結果を図12に示し、前記実施例4についての浸炭処理工程終了時の表面EDS/EBSDの結果を図13に示し、前記実施例4についての浸炭処理工程終了時の断面エネルギー分散型X線分析(EDS)の結果を図14に示す。
図3および4から明らかなように、本発明では、W単相結晶形成工程終了時には、析出したWのピークが認められるのに対し、浸炭処理工程終了時には、当該Wのピークが消失し、WCの強いピークが出現している。これに対し、比較例1、2では、図5から明らかなように、WCのピークとともに、耐磨耗性の向上において不利であると考えられるW2Cのピークも確認された。また、図6から、本発明の高硬度・耐磨耗性部材では、WCの結晶が確認される一方で、W2Cの結晶は確認されなかった。特に、浸炭処理工程の処理時間が比較的短い実施例1では、比較的小さな棒状WC結晶粒子が主に存在していたのに対し、浸炭処理工程の処理時間が比較的長い実施例2では、棒状WC結晶粒子の成長が確認された。これに対し、図7から、比較例1、2では、針状のWC粒子とともに、微小粒子としてのW2C粒子も多数確認された。また、図8から、W単相結晶形成工程までの工程を経ることにより、均質なNi-W合金被膜、下地の無電解Ni-Pめっき膜、Feを主成分とする基材を備える部材が得られていることがわかる。また、図9~図11から、比較的短時間の浸炭処理を施して得られた実施例3の高硬度・耐磨耗性部材では、表面に微細な細長いWC結晶粒子(特に、1μm程度の大きさのWC結晶粒子)が広がっていること、NiとFeとが相互に拡散していること、下地中に含まれていたPが表面付近に移動していることがわかる。また、図12~図14から、実施例3よりも還元性雰囲気中での熱処理(W単相結晶形成工程)の時間を長くして得られた実施例4の高硬度・耐磨耗性部材では、表面に微細な三角形断面の柱状WC結晶粒子(特に、3μm程度以下の大きさのWC結晶粒子)が広がっていること、下地中に含まれていたPが表面付近に移動していること(特に、PがNi、Fe中に偏って分布していること)、NiとFeとの固溶体が形成されていることがわかる。
[4]評価
[4-1]硬さの評価
前記各実施例および各比較例で得られた高硬度・耐磨耗性部材の被膜が設けられた表面について、微小硬さ試験機(フィッシャー・インストルメンツ社製、ピコデンターHM500)を用いて、JIS Z 2244に準した測定を行い、ビッカース硬さを求めた。
[4-1]硬さの評価
前記各実施例および各比較例で得られた高硬度・耐磨耗性部材の被膜が設けられた表面について、微小硬さ試験機(フィッシャー・インストルメンツ社製、ピコデンターHM500)を用いて、JIS Z 2244に準した測定を行い、ビッカース硬さを求めた。
[4-2]耐磨耗性の評価
前記各実施例および各比較例で得られた高硬度・耐磨耗性部材の被膜が設けられた表面について、ボールオンディスク摩擦摩耗試験機(CSM instrument社製、Tribometer)を用いて、ISO 18535に準じた方法でボールオンディスク摩擦摩耗試験を行い、比摩耗量(specific wear rate)を求めた。
これらの結果を表3にまとめて示す。
前記各実施例および各比較例で得られた高硬度・耐磨耗性部材の被膜が設けられた表面について、ボールオンディスク摩擦摩耗試験機(CSM instrument社製、Tribometer)を用いて、ISO 18535に準じた方法でボールオンディスク摩擦摩耗試験を行い、比摩耗量(specific wear rate)を求めた。
これらの結果を表3にまとめて示す。
表3から明らかなように、前記各実施例では、硬度および耐磨耗性を両立した高硬度・耐磨耗性部材が得られた。これに対し、各比較例では、満足のいく結果が得られなかった。
なお、無電解めっき工程で形成する無電解Ni-Pめっき層の厚さを0.01μm以上10μm以下の範囲内、電気めっき工程で形成する前記Ni-W合金めっき層の厚さを1.0μm以上10μm以下の範囲内、W単相結晶形成工程での熱処理温度を500℃以上1000℃以下の範囲内、W単相結晶形成工程での熱処理時間を10分間以上180分間以下の範囲内、浸炭処理工程での熱処理温度を650℃以上1000℃以下の範囲内、浸炭処理工程での熱処理温度(浸炭時間)を3分間以上180分間以下の範囲内で種々変更し、高硬度・耐磨耗性部材が有する母相の厚さを1.0μm以上2.5μm以下の範囲、硬質層の厚さを0.5μm以上、WC結晶粒子の短軸長を0.10μm以上1.4μm以下、長軸長を1.0μm以上4.0μm以下の範囲、被膜の厚さを1.5m以上5.0μm以下の範囲内で種々変更されたものとなるようにした以外は、前記実施例と同様にして高硬度・耐磨耗性部材を製造し、これらの高硬度・耐磨耗性部材について前記と同様の評価を行ったところ、前記と同様の効果が得られることが確認された。
本発明の高硬度・耐磨耗性部材は、基材と、被膜とを有する高硬度・耐磨耗性部材であって、前記被膜は、NiおよびFeを含有する固溶体を含む材料で構成された母相と、WC結晶粒子を含む材料で構成され、前記母相に支持された硬質層とを有するものである。これにより、高硬度で耐磨耗性に優れるとともに、基材と硬質な被膜との密着性にも優れる高硬度・耐磨耗性部材を提供することができる。
また、本発明の高硬度・耐磨耗性部材の製造方法は、Feを含む材料で構成された基材に対して無電解Ni-Pめっきを施し、無電解Ni-Pめっき層を形成する無電解めっき工程と、電気めっきにより、前記無電解Ni-Pめっき層上に、Ni-W合金めっき層を形成する電気めっき工程と、還元性雰囲気中で熱処理を施すことにより、W単相結晶と、NiおよびFeを含有する固溶体とを含む複合層を形成するW単相結晶形成工程と、前記複合層にガス浸炭処理を施すことにより、WC結晶粒子を形成する浸炭処理工程とを有する。これにより、高硬度で耐磨耗性に優れるとともに、基材と硬質な被膜との密着性にも優れる高硬度・耐磨耗性部材の製造方法を提供することができる。
したがって、本発明の高硬度・耐磨耗性部材および高硬度・耐磨耗性部材の製造方法は、産業上の利用可能性を有する。
100…高硬度・耐磨耗性部材
1…基材
2…被膜
21…母相
22…硬質層
2A’…無電解Ni-Pめっき層
2B’…Ni-W合金めっき層
2’…複合層
1…基材
2…被膜
21…母相
22…硬質層
2A’…無電解Ni-Pめっき層
2B’…Ni-W合金めっき層
2’…複合層
Claims (14)
- 基材と、被膜とを有する高硬度・耐磨耗性部材であって、
前記被膜は、NiおよびFeを含有する固溶体を含む材料で構成された母相と、WC結晶粒子を含む材料で構成され、前記母相に支持された硬質層とを有するものであることを特徴とする高硬度・耐磨耗性部材。 - 前記硬質層の厚さが、0.5μm以上である請求項1に記載の高硬度・耐磨耗性部材。
- 前記基材は、鋼材で構成されたものである請求項1または2に記載の高硬度・耐磨耗性部材。
- 前記基材は、炭素鋼で構成されたものである請求項3に記載の高硬度・耐磨耗性部材。
- 前記被膜の厚さが、1.5μm以上5.0μm以下である請求項1ないし4のいずれか1項に記載の高硬度・耐磨耗性部材。
- 前記硬質層は、棒状WC結晶粒子を含んでいる請求項1ないし5のいずれか1項に記載の高硬度・耐磨耗性部材。
- 前記WC結晶粒子は、短軸長が0.10μm以上1.4μm以下、長軸長が1.0μm以上4.0μm以下である請求項1ないし6のいずれか1項に記載の高硬度・耐磨耗性部材。
- Feを含む材料で構成された基材に対して無電解Ni-Pめっきを施し、無電解Ni-Pめっき層を形成する無電解めっき工程と、
電気めっきにより、前記無電解Ni-Pめっき層上に、Ni-W合金めっき層を形成する電気めっき工程と、
還元性雰囲気中で熱処理を施すことにより、W単相結晶と、NiおよびFeを含有する固溶体とを含む複合層を形成するW単相結晶形成工程と、
前記複合層にガス浸炭処理を施すことにより、WC結晶粒子を形成する浸炭処理工程とを有することを特徴とする高硬度・耐磨耗性部材の製造方法。 - 前記無電解めっき工程で形成する前記無電解Ni-Pめっき層の厚さが、0.01μm以上10μm以下である請求項8に記載の高硬度・耐磨耗性部材の製造方法。
- 前記電気めっき工程で形成する前記Ni-W合金めっき層の厚さが、1.0μm以上10μm以下である請求項8または9に記載の高硬度・耐磨耗性部材の製造方法。
- 前記W単相結晶形成工程は、還元性雰囲気中で、500℃以上1000℃以下の熱処理を施すことにより行う請求項8ないし10のいずれか1項に記載の高硬度・耐磨耗性部材の製造方法。
- 前記W単相結晶形成工程は、還元性雰囲気中で、10分間以上180分間以下の熱処理を施すことにより行う請求項8ないし11のいずれか1項に記載の高硬度・耐磨耗性部材の製造方法。
- 前記浸炭処理工程は、浸炭性ガスを含む雰囲気中で、650℃以上1000℃以下の熱処理を施すことにより行う請求項8ないし12のいずれか1項に記載の高硬度・耐磨耗性部材の製造方法。
- 前記浸炭処理工程は、浸炭性ガスを含む雰囲気中で、3分間以上180分間以下の熱処理を施すことにより行う請求項8ないし13のいずれか1項に記載の高硬度・耐磨耗性部材の製造方法。
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JP2020187486A JP2022076860A (ja) | 2020-11-10 | 2020-11-10 | 高硬度・耐磨耗性部材および高硬度・耐磨耗性部材の製造方法 |
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2020
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