以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る動力伝達装置を備えた車両の概略構成図である。図1に示すように、車両1は、スポーツタイプなどのフロントエンジン・リヤドライブの車両であり、駆動源としてエンジン2及びモータ(駆動モータ)3を備えたハイブリッド車両である。
車両1には、車体前部にエンジン2及びモータ3が配置され、エンジン2及びモータ3の後方にエンジン2及びモータ3の少なくとも一方からの動力が伝達される変速機4が配置されている。エンジン2、モータ3及び変速機4は、軸心が車体前後方向に延びるように配置されている。
変速機4は、エンジン2及びモータ3の少なくとも一方からの動力がクラッチ(動力断接クラッチ)5を介して入力され、入力された動力を変速して出力するようになっている。変速機4は、入力された動力を変速して出力する変速機構6を備えている。変速機4は、手動変速機をベースとしてシフトフォークを支持するシフトロッドを車両の運転状態に応じて自動で、又は運転者の操作によって手動で移動させて所定変速段を達成するようになっている。
変速機4の後方には車体前後方向に延びるプロペラシャフト7が連結され、プロペラシャフト7の後端部にデファレンシャル装置8が連結されている。デファレンシャル装置8には、車幅方向両側にそれぞれ延びるドライブシャフト9が連結され、ドライブシャフト9にそれぞれ駆動輪として後輪10が連結されている。
エンジン2及びモータ3からの動力は、変速機4に伝達され、変速機4からプロペラシャフト7、デファレンシャル装置8及びドライブシャフト9を介して左右の後輪10に伝達される。モータ3は、エンジン2の回転方向と同一方向又は反対方向に回転可能に構成され、変速機4には、エンジン2とモータ3とを合わせた動力が入力されるようになっている。
本実施形態に係る動力伝達装置11は、駆動源2,3から駆動輪10に動力を伝達する動力伝達経路に、駆動源2,3から入力される動力を変速する変速機構6を有する変速機4を備えている。動力伝達装置11は、駆動源2,3と変速機4との間にスリップ制御可能に構成されたクラッチ5を備えている。
図2は、変速機の変速機構を説明するための説明図である。本実施形態では、変速機4は、6段の有段変速機であるが、以下では、変速機4の変速機構6について、変速下段である低速側ギヤから該低速側ギヤより変速上段である高速側ギヤへの変速操作について説明する。変速下段から変速上段への変速操作はすべて同様にして行われる。
図2に示すように、変速機4の変速機構6は、エンジン2の出力軸に接続されるメインシャフト20と、メインシャフト20に平行に配置されたカウンタシャフト22と、低速側ギヤ(例えば1速ギヤ)30と、低速側ギヤ30よりギヤ比が小さい高速側ギヤ(例えば2速ギヤ)32とを有している。変速機構6はまた、メインシャフト20に設けられた低速側及び高速側の噛合いクラッチ34,36と、低速側及び高速側の噛合いクラッチ34,36をそれぞれ操作するためのシフトフォーク38,40とを有している。
メインシャフト20は、変速機4の入力軸であり、図示しない変速機ケースに回転可能に支持されている。メインシャフト20は、エンジン2の出力軸にクラッチ5を介して接続されている。エンジン2の出力軸にはモータ3のロータが接続され、モータ3のステータに電力が供給されるとロータを回転させてエンジン2の出力軸を回転できるようになっている。メインシャフト20には、クラッチ5を介して駆動源2,3からの動力が入力されるようになっている。
カウンタシャフト22は、変速機4の出力軸であり、前記変速機ケースに回転可能に支持されている。カウンタシャフト22の回転は、プロペラシャフト7、デファレンシャル装置8及びドライブシャフト9を介して後輪10に伝達される。
低速側ギヤ30は、メインシャフト20に取り付けられたギヤ30aと、カウンタシャフト22に取り付けられたギヤ30bとから構成され、ギヤ30aとギヤ30bとは常時噛み合っている。ギヤ30bは、カウンタシャフト22に対して固定されて共に回転するように構成されている。ギヤ30aは、メインシャフト20に対して空動可能に取り付けられ、噛合いクラッチ34によりメインシャフト20に固定された状態で動力を伝達できるようになっている。
高速側ギヤ32は、メインシャフト20に取り付けられたギヤ32aと、カウンタシャフト22に取り付けられたギヤ32bとから構成され、ギヤ32aとギヤ32bとは常時噛み合っている。ギヤ32bは、カウンタシャフト22に対して固定されて共に回転するように構成されている。ギヤ32aは、メインシャフト20に対して空動可能に取り付けられ、噛合いクラッチ36によりメインシャフト20に固定された状態で動力を伝達できるようになっている。
低速側の噛合いクラッチ34は、メインシャフト20に固定されたクラッチカムリング42と、クラッチカムリング42の外周に取り付けられたクラッチリング44とを有している。クラッチカムリング42は、円筒状の部材であり、メインシャフト20の外周に取り付けられてメインシャフト20と共に回転するように構成されている。クラッチカムリング42の外周面には、概ね軸方向に延びるV字状のカム溝42aが周方向に等間隔に複数設けられている。
図3は、クラッチリングの斜視図である。図3に示すように、クラッチリング44は、クラッチカムリング42の外周に配置されたドーナツ状の円板である。クラッチリング44は、クラッチカムリング42に対して軸方向に摺動可能に取り付けられる。クラッチリング44の内周には、径方向内方に突出した複数の円形断面のカム突部44aが周方向に等間隔に設けられ、カム突部44aは、クラッチカムリング42の外周に設けられた複数のカム溝42aにそれぞれ受け入れられる。これにより、クラッチリング44は、軸方向に摺動される際、クラッチカムリング42に設けられたV字状のカム溝42aに沿って周方向にも移動される。
クラッチリング44の一方の面には、軸方向に突出するように複数のクラッチ歯(ドグ歯)44bが設けられている。クラッチ歯44bは、クラッチリング44におけるギヤ30aに対向する側の面に、放射方向に延びるように等間隔に形成されている。ギヤ30aにおけるクラッチリング44に対向する側の面にも複数のクラッチ歯(ドグ歯)30cが放射方向に延びるように等間隔に形成されている。
ギヤ30aの各クラッチ歯30cとクラッチリング44の各クラッチ歯44bは、クラッチリング44がギヤ30aに向けて軸方向に摺動されるとそれぞれ係合するように形成されている。クラッチ歯30cとクラッチ歯44bとがそれぞれ係合した状態では、メインシャフト20に対するギヤ30aの回転が阻止され、低速側ギヤ30、具体的にはギヤ30a及びギヤ30bによる動力の伝達が可能となる。図2では、クラッチリング44がギヤ30aに近接した位置へ摺動され、クラッチ歯30cとクラッチ歯44bとが係合した状態を示している。
クラッチリング44の外周縁部は、クラッチリング44を操作する変速操作部を構成するシフトフォーク38の先端に設けられた凹部38aに受け入れられている。これにより、シフトフォーク38の移動によって、クラッチリング44はクラッチカムリング42上を軸方向に摺動され、クラッチリング44とギヤ30aとの係合、解除が切り換えられる。
高速側の噛合いクラッチ36は、低速側の噛合いクラッチ34と同様に構成され、メインシャフト20に固定されたクラッチカムリング46と、クラッチカムリング46の外周に取り付けられたクラッチリング48とを有している。クラッチカムリング46は、円筒状の部材であり、メインシャフト20の外周に取り付けられてメインシャフト20と共に回転するように構成されている。クラッチカムリング46の外周面には、概ね軸方向に延びるV字状のカム溝46aが周方向に等間隔に複数設けられている。
クラッチリング48は、クラッチカムリング46の外周に配置されたドーナツ状の円板である。クラッチリング48は、クラッチカムリング46に対して軸方向に摺動可能に取り付けられる。クラッチリング48の内周には、径方向内方に突出した複数の円形断面のカム突部48aが周方向に等間隔に設けられ、カム突部48aは、クラッチカムリング46の外周に設けられた複数のカム溝46aにそれぞれ受け入れられる。これにより、クラッチリング48は、軸方向に摺動される際、クラッチカムリング46に設けられたV字状のカム溝46aに沿って周方向にも移動される。
クラッチリング48の一方の面には、軸方向に突出するように複数のクラッチ歯(ドグ歯)48bが設けられている。クラッチ歯48bは、クラッチリング48におけるギヤ32aに対向する側の面に、放射方向に延びるように等間隔に形成されている。ギヤ32aにおけるクラッチリング48に対向する側の面にも複数のクラッチ歯(ドグ歯)32cが放射方向に延びるように等間隔に形成されている。
ギヤ32aの各クラッチ歯32cとクラッチリング48の各クラッチ歯48bは、クラッチリング48がギヤ32aに向けて軸方向に摺動されるとそれぞれ係合するように形成されている。クラッチ歯32cとクラッチ歯48bとがそれぞれ係合した状態では、メインシャフト20に対するギヤ32aの回転が阻止され、高速側ギヤ32、具体的にはギヤ32a及びギヤ32bによる動力の伝達が可能となる。図2では、クラッチリング48がギヤ32aから離間した位置へ摺動され、クラッチ歯32cとクラッチ歯48bとが解除された状態を示している。
クラッチリング48の外周縁部は、前記変速機構部を構成するシフトフォーク40の先端に設けられた凹部40aに受け入れられている。これにより、シフトフォーク40の移動によって、クラッチリング48はクラッチカムリング46上を軸方向に摺動され、クラッチリング48とギヤ32aとの係合、解除が切り換えられる。
すなわち、シフトフォーク38,40の移動に伴って、クラッチリング44とギヤ30a及びクラッチリング48とギヤ32aの係合、解除がそれぞれ切り換えられる。これにより、低速側ギヤ30、具体的にはギヤ30a,30bによる動力の伝達と、高速側ギヤ32、具体的にはギヤ32a,32bによる動力の伝達とが切り換えられる。
シフトフォーク38,40はそれぞれ、図示されていないが、シフトロッドに支持され、各シフトロッドにはシフトアームが支持されている。シフトアームの先端には突起部が設けられ、突起部は円筒形のシフトドラムの外周面に設けられた溝に係合されている。これにより、シフトフォーク38,40は、シフトドラムの溝に沿ってメインシャフト20の軸線方向に移動可能に構成されている。
シフトドラムを回転駆動させるアクチュエータによってシフトドラムが回転されると、シフトドラムの溝に沿って所定のパターンでシフトロッドが移動されてシフトフォーク38,40が移動され、各ギヤの係合が切り換えられる。前記シフトロッド,前記シフトアーム,前記シフトドラム及び前記アクチュエータは、シフトフォーク38,40と共に前記変速機構部を構成する。
次に、変速機4の変速機構6におけるギヤの切り換えについて説明する。
変速機4による変速は、エンジン2、モータ3、変速機4及びクラッチ5などの作動を制御する制御ユニット12が前記アクチュエータを制御し、シフトドラムを回転させて各シフトフォークを移動させることにより行われる。制御ユニット12によって設定されるギヤ段である変速段は、車速及びアクセル開度と変速段との関係を示す変速段マップに基づいて自動で選択され、あるいは運転者の操作によって手動で選択される。
前述したように、図2は、低速側ギヤ30による動力の伝達が行われ、高速側ギヤ32のギヤ32aは、メインシャフト20に対して空転している状態を示している。図2に示す低速側ギヤ30により動力が伝達されている状態から、高速側ギヤ32による動力の伝達に切り換えてシフトアップの変速操作を行う場合、シフトドラムに設けられた溝に沿ってシフトフォーク38,40を移動させる。高速側に切り換える場合、シフトフォーク38をギヤ30aから離間させると共にシフトフォーク40をギヤ32aに近接させる。
低速側ギヤ30により動力が伝達されている状態では、クラッチリング44のクラッチ歯44bとギヤ30aのクラッチ歯30cとが係合している。この状態では、メインシャフト20、ギヤ30a、クラッチカムリング42及びクラッチリング44は一体的に、完全に同一の回転数で回転している。次に、高速側に切り替えるべく、シフトフォーク40により高速側のクラッチリング48をギヤ32aに近づける。これにより、クラッチリング48のクラッチ歯48bとギヤ32aのクラッチ歯32cとが接触して、瞬間的に高速側ギヤ32によっても動力が伝達されるようになるため高速側ギヤ32に駆動トルクが作用して低速側ギヤ30に被動トルクが作用し、メインシャフト20及びカウンタシャフト22の回転速度が僅かに変化する。
メインシャフト20及びカウンタシャフト22の回転速度の変化によって、完全に一致していたクラッチカムリング42とクラッチカムリング46の回転に僅かな回転速度差が発生する。この回転速度差に基づいてクラッチカムリング42に形成されたV字状のカム溝42aの斜面が、クラッチカムリング42のカム突部44aを押圧する。カム溝42aの斜面がカム突部44aを押圧する力は、クラッチ歯44bとクラッチ歯30cの係合を解除すると共にクラッチリング44をギヤ30aから引き離す方向に作用し、クラッチリング44とギヤ30aの係合が解除される。
一方、前記回転速度差に基づいてクラッチカムリング46に形成されたV字状のカム溝46aの斜面が、クラッチカムリング46のカム突部48aを押圧する。カム溝46aの斜面がカム突部48aを押圧する力は、クラッチ歯48bとクラッチ歯32cの係合を保持すると共にクラッチリング48をギヤ32aに近づける方向に作用し、クラッチリング48とギヤ32aの係合を保持し、高速側ギヤ32によって動力が伝達されるようになる。
図4は、クラッチカムリングとクラッチリングとの嵌合状態を説明するための説明図である。図4(a)に示すように、変速機4の変速機構6は、変速操作時に低速側ギヤ30及び高速側ギヤ32の噛合いクラッチ34,36であるドグクラッチ34,36が同時に噛合うときに、クラッチカムリング46に形成されたV字状のカム溝46aの斜面がカム突部48aをギヤ側に押圧し、変速上段のドグクラッチ36が噛合い側へ移動するように構成されている。
変速機4の変速機構6はまた、図4(b)に示すように、変速操作時に低速側ギヤ30及び高速側ギヤ32の噛合いクラッチ34,36であるドグクラッチ34,36が同時に噛合うときに、クラッチカムリング42に形成されたV字状のカム溝42aの斜面がカム突部44aを反ギヤ側に押圧し、変速下段のドグクラッチ34が噛合い離脱側へ移動するように構成されている。
このように、シフトフォーク38の移動に基づくクラッチリング44とギヤ30aの係合の解除と、シフトフォーク40の移動に基づくクラッチリング48とギヤ32aの係合がほぼ同時に行われる。これにより、低速側ギヤ30から高速側ギヤ32への変速が瞬時に実行され、実質的に駆動力の途切れがない状態で高速側への変速が達成される。
一方、高速側ギヤ32により動力が伝達されている状態から、低速側ギヤ30による動力の伝達に切り換えてシフトダウンの変速操作を行う場合、低速側ギヤ30及び高速側ギヤ32の噛合いクラッチ34,36であるドグクラッチ34,36が同時に噛合うことなく、シフトドラムに設けられた溝に沿ってシフトフォーク38,40を移動させ、クラッチリング48とギヤ32aの係合が解除された後にクラッチリング44とギヤ30aとを係合させる。
図2では、各クラッチリング44,48の片側にのみ係合すべきギヤが配置されているが、各クラッチリングの両面にクラッチ歯を設けると共に、各クラッチリングの両側に選択的に係合すべきギヤが配置されるように変速機を構成することも可能である。
車両1にはまた、運転者によるアクセルペダルの踏込量(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサと、車速を検出する車速センサと、エンジンの回転数を検出するエンジン回転数センサとが備えられると共に、エンジン2、モータ3、変速機4及びクラッチ5などの作動を制御する制御ユニット12が備えられている。
制御ユニット12には、アクセル開度センサ、車速センサ、エンジン回転数センサからの信号等の各種情報が入力され、制御ユニット12は、各種情報に基づいてエンジン2、モータ3、変速機4及びクラッチ5などの作動を制御する。なお、制御ユニット12は、マイクロコンピュータを主要部として構成されている。
制御ユニット12には、車両1の運転状態、具体的には車速及びアクセル開度と変速段との関係を示す変速段マップ(図8参照)が記憶されている。車両1は、変速機構6の変速操作を運転者の操作によって手動で行う手動変速モードと変速段マップに基づいて自動で行う自動変速モードとを切り換える変速モードスイッチを備え、手動変速モードと自動変速モードとが設定可能に構成されている。
前述したように、ドグクラッチを有する変速機構6を備えた変速機4を用いる場合、運転者の操作による手動ではなく変速段マップに基づいて自動で変速操作が行われるとき、変速操作音による騒音によって運転者の快適性が損なわれるおそれがあるが、本実施形態では、人間の聴覚特性を考慮して変速操作時に変速機4の設置環境における環境音に対する変速操作音の音圧レベルが小さくなるように環境音を上昇させることで、運転者が感じる変速操作音による騒音を抑制する。
図5は、周波数重み付け特性を示すグラフであり、周波数と重み付け特性との関係を示している。図5では、周波数を横軸にとり、重み付け特性を縦軸にとって表し、周波数重み付けをしないZ特性と、人間の聴覚における感度特性である聴覚特性を考慮して周波数重み付けをしたA特性とを示している。
図5に示すように、Z特性は、周波数全体に亘って周波数重み付けがなく、周波数全体に亘って実際の音圧レベルとなる平坦な特性を示している。A特性は、低周波領域では感度が低くなると共に高周波領域では感度が高くなる人間の聴覚特性を考慮した特性を示している。
人間の聴覚特性は、A特性に示されるように、1000Hz未満の低周波領域では実際の音圧レベルに対して音圧レベルが小さく感じられ、1000Hz以上の高周波領域では実際の音圧レベルに対してほぼそのままの音圧レベルに感じられる特性を有している。
1000Hz以上の高周波領域では運転者に変速操作音の実際の音圧レベルがそのまま感じられて変速操作音による騒音を引き越こし得ることから、好ましくは1000Hz以上の高周波領域において環境音を上昇させることで、変速操作音による騒音を抑制する。
本願発明者等は、運転者が変速操作音による騒音を感じて運転者の快適性が損なわれることを評価するために、人間の聴覚特性に基づく人間の感覚による騒音についての官能評価を行った。複数のメンバで構成される評価会を設定し、変速機4について変速操作音を発生させると共にそのときの変速機4の設置環境における環境音である暗騒音を変化させて、車両1内における人間の感覚による騒音について評価した。
変速機4の設置環境における環境音として、走行時の風切り音とエンジン音とを用い、所定の運転状態において、変速操作音の発生時に環境音として走行時のエンジン音を変化させることで環境音を変化させて運転者が感じる変速操作音による騒音について評価を実施した。
そして、1000Hz以上の高周波領域において環境音に対する変速操作音の音圧レベルが10dBA未満になるように環境音としてのエンジン音を上昇させたときに変速操作音による騒音を異音として感じないという結果が得られた。一方、1000Hz以上の高周波領域において環境音に対する変速操作音の音圧レベルが10dBA以上であるときは変速操作音による騒音を異音として感じるという結果が得られた。また、1000Hz未満の低周波領域においても環境音としてのエンジン音を上昇させたときに変速操作音による騒音が抑制されたという結果が得られた。
前記評価では、所定の運転状態では風切り音は一定となることから、エンジン音を上昇させることにより環境音を変化させた。なお、1000Hz以上の高周波領域におけるエンジン音の上昇として、エンジン回転数を上昇させることを模擬した実験にてエンジン音を加工することにより行い、1000Hz未満の低周波領域におけるエンジン音の上昇として、エンジン回転数を上昇させることなくエンジン出力トルクを上昇させることを模擬した実験にてエンジン音を加工することにより行った。
図6は、NC曲線を示すグラフであり、周波数別の騒音の許容値を示している。図6では、周波数を横軸にとり、音圧レベルを縦軸にとって表し、NC-15~NC-70のNC(Noise Criteria)曲線を示している。NC曲線は、騒音レベルを表し、NC値が小さいほど騒音レベルが低くて静かであることを示している。
NC曲線は、NC値が同一である同一騒音レベルである場合、人間の聴覚特性に基づき、1000Hz未満の低周波領域では音圧レベルが高く、1000Hz以上の高周波領域では音圧レベルが低くなっている。NC曲線はまた、1000Hz以上の高周波領域ではNC曲線がほぼ等間隔に設けられている。NC曲線を用いた騒音評価についても、NC-50とNC-60のように10dBA以上音圧レベルが異なるNC曲線にある場合、人間の聴覚上の印象を変えることが知られている。
図7は、変速操作音と環境音の一例を示すグラフである。図7では、周波数を横軸にとり、音圧レベルを縦軸にとって表し、所定の運転状態において低速側ギヤから高速側ギヤへの変速操作時に発生する変速操作音の音圧レベルを実線L1で示し、そのときの変速機4の設置環境における環境音の音圧レベルを一点鎖線L2で示している。環境音として風切り音及びエンジン音を用いた。
図7に示すように、変速操作音の音圧レベルL1は、環境音の音圧レベルL2に比して音圧レベルが高い場合、運転者は変速操作音によって騒音を感じることとなる。本実施形態では、1000Hz以上の高周波領域で環境音に対する変速操作音の音圧レベルが10dBA未満になるように環境音を上昇させて、変速操作時に運転者が感じる変速操作音による騒音を抑制する。
図7に示すように、1000Hz以上の高周波領域で環境音の音圧レベルL2に対する変速操作音の音圧レベルL1の音圧レベル差D12、具体的には最大音圧レベル差D12が10dBA以上であるときに環境音を上昇させて、変速操作音による騒音を抑制する。
図7の二点鎖線で示すように、1000Hz以上の高周波領域で環境音の音圧レベルL2に対する変速操作音の音圧レベルL1の音圧レベル差D12´が5dBAなど10dBA未満になるように環境音の音圧レベルを上昇させて音圧レベルL2´とし、変速操作音による騒音を抑制する。変速操作音による騒音を抑制するため、環境音より変速操作音の音圧レベルが高い部分における最大音圧レベル差が10dBA未満になるように環境音を上昇させる。
車両1では、車速とアクセル開度と変速段との関係を示す変速段マップに基づいて、各運転状態において変速操作音及び環境音とが算出され、1000Hz以上の高周波領域で環境音に対する変速操作音の音圧レベルが10dBA以上である領域を変速操作音による騒音を抑制する騒音抑制領域として設定される。
図8は、変速段マップを示す図である。図8では、横軸に車速をとり、縦軸にアクセル開度をとり、車速とアクセル開度と変速段との関係を変速段マップとして示している。変速段マップには、1速から6速についてそれぞれ変速下段と変速上段の運転領域の境界線である変速ポイントが示されている。変速機構6の変速操作が自動で行われる場合、変速段マップに基づいて変速操作が行われる。
図8に示す変速段マップにはまた、変速機構6の変速操作時に発生する変速操作音によって運転者が感じる騒音を抑制する騒音抑制制御が行われる騒音抑制領域S1として、1000Hz以上の高周波領域で環境音に対する変速操作音の音圧レベルが10dBA以上となる領域が斜線ハッチングによって示されている。環境音としては走行時の風切り音とエンジン音とを用いた。
騒音抑制領域S1は、エンジン回転数、エンジンの出力トルクが規定値未満であると共に車速が規定値未満であり、且つ変速機の入力回転数が規定値より大きくなる領域として設定されている。エンジン回転数及び変速機の入力回転数は、車速からデファレンシャル装置8の減速比及び変速機構6の変速比に基づいて算出することができ、エンジン2の出力トルクは、車速及びアクセル開度からエンジン2の性能曲線を用いて算出することができる。
例えば、車両1の運転状態が、運転状態P1から運転状態P2に変化する場合、変速操作時である運転状態P12のときに、1000Hz以上の高周波領域で環境音に対する変速操作音の音圧レベルが10dBA以上となることから、環境音を上昇させて変速操作音による騒音を抑制する。本実施形態では、クラッチ5をスリップ制御してエンジン2のエンジン回転数を上昇させることにより環境音を上昇させる。
制御ユニット12は、変速機構6の変速操作時に発生する変速操作音によって運転者が感じる騒音を抑制する騒音抑制制御を行い、変速操作時に変速機4の設置環境における環境音に対する変速操作音の音圧レベルが小さくなるように環境音を上昇させる。
制御ユニット12は具体的には、変速操作時にクラッチ5をスリップ制御してエンジン2のエンジン回転数を上昇させることにより環境音を上昇させる。クラッチ5をスリップ制御してエンジン2のエンジン回転数を上昇させることにより環境音を上昇させる場合、1000Hz以上の周波数領域で環境音に対する変速操作音の音圧レベルが10dBA未満になるように環境音を上昇させる。エンジン2のエンジン回転数を上昇させる場合、主として1000Hz以上の周波数領域でエンジン音の音圧レベルが上昇する。
本実施形態ではまた、クラッチ5をスリップ制御してエンジン2のエンジン回転数を上昇させることにより環境音を上昇させることができない場合、変速操作時にモータ3をエンジン2の回転方向と反対方向のトルクを発生するように駆動させてエンジン2のエンジン回転数を上昇させることなくエンジン2の出力トルクを上昇させることにより環境音を上昇させる。エンジン2の出力トルクを上昇させる場合、主として1000Hz未満の周波数領域でエンジン音の音圧レベルが上昇する。
エンジン2のエンジン回転数を上昇させることなくエンジン2の出力トルクを上昇させることにより、クラッチ5のスリップ制御によってエンジン2のエンジン回転数を上昇させることができない場合においても、1000Hz未満の周波数領域で環境音としてのエンジン音を上昇させ、変速操作音による騒音を抑制する。
図9は、騒音抑制制御を示すフローチャートである。車両1において変速操作音によって運転者が感じる騒音を抑制する騒音抑制制御は、制御ユニット12によって実行される。制御ユニット12には、車両1に関係する構成により検出される車速、アクセル開度などの各種信号が読み込まれ、制御ユニット12は、車両1の動力伝達に関係する構成を制御する。
先ず、ステップS1において、自動変速モードであるか否かが判定される。変速モードスイッチからの信号に基づいて自動変速モードであるか否かが判定される。ステップS1での判定結果がイエス(YES)である場合、車両1の運転状態が騒音抑制領域S1であるか否かが判定される(ステップS2)。変速段マップに基づいて低車速及び低アクセル開度である騒音抑制領域S1であるか否かが判定される。
ステップS2での判定結果がイエスである場合、車両1の運転状態に基づいて変速段マップを用いて変速機構6の変速操作を行う変速操作運転状態にあるか否かが判定される(ステップS3)。変速段マップに基づいて変速下段と変速上段の運転領域の境界線である変速ポイントを通過する変速操作運転状態にあるか否かが判定される。
ステップS3での判定結果がイエスである場合、スリップ制御可能であるか否かが判定される(ステップS4)。スリップ制御可能であるか否かは、変速操作時のスリップ制御によるエンジン音の音圧レベル上昇可能量と、変速ポイントにおける変速操作時のスリップ制御によるエンジン音の音圧レベル上昇必要量とを算出し、音圧レベル上昇可能量が音圧レベル上昇必要量より大きいか否かによって判定する。
前記音圧レベル上昇可能量の算出は、変速操作時における変速機4の入力回転数とエンジン2の出力トルクとから、クラッチ5のスリップ制御による許容発熱量及びエンジン2の許容出力トルクなどに基づいてスリップ可能量を算出し、このスリップ可能量でクラッチ5をスリップ制御したときのエンジン2のエンジン回転数を算出し、そのときのエンジン音の音圧レベルの上昇量、具体的には1000Hz以上の周波数領域でエンジン音の音圧レベルの上昇量をエンジン音の音圧レベル上昇可能量として算出する。
前記音圧レベル上昇必要量の算出は、変速操作時における環境音に対する変速操作音の音圧レベルが1000Hz以上の周波数領域で10dBA未満になるように、例えば5dBAとなるようにエンジン2のエンジン回転数を上昇させてエンジン音の音圧レベルを上昇させるときのエンジン音の音圧レベルの上昇量をエンジン音の音圧レベル上昇必要量として算出する。
そして、変速操作時のスリップ制御によるエンジン音の音圧レベル上昇可能量が変速操作時のスリップ制御によるエンジン音の音圧レベル上昇必要量より大きい場合、スリップ制御可能であると判定する。一方、変速操作時のスリップ制御によるエンジン音の音圧レベル上昇可能量が変速操作時のスリップ制御によるエンジン音の音圧レベル上昇必要量以下である場合、スリップ制御可能ではないと判定する。
ステップS4での判定結果がイエスである場合、騒音抑制スリップ制御が行われる(ステップS5)と共に所定変速段への変速操作が実行され(ステップS6)、変速操作時に騒音抑制スリップ制御が行われる。
騒音抑制スリップ制御は、クラッチ5をスリップ制御させ、環境音に対する変速操作音の音圧レベルが1000Hz以上の周波数領域で10dBA未満になるように、例えば5dBAとなるようにエンジン2のエンジン回転数を上昇させることにより環境音を上昇させる。騒音抑制スリップ制御を行う場合、変速機4に入力される駆動源からの動力がほぼ一定となるように制御される。
一方、ステップS4での判定結果がノー(NO)である場合、モータ制御可能であるか否かが判定される(ステップS7)。モータ制御可能であるか否かは、変速操作時のモータ制御によるエンジン音の音圧レベル上昇可能量と、変速操作時のモータ制御によるエンジン音の音圧レベル上昇必要量とを算出し、音圧レベル上昇可能量が音圧レベル上昇必要量より大きいか否かによって判定する。
前記音圧レベル上昇可能量の算出は、変速操作時における変速機4の入力回転数とエンジン2の出力トルクとから、モータ3の許容出力トルク及びエンジン2の許容出力トルクに基づいて、モータ3をエンジン2の回転方向と反対方向のトルクを発生するように駆動させてエンジン2のエンジン回転数を上昇させることなくエンジン2の出力トルクを上昇させることができるモータ3のトルク可能量を算出し、このトルク可能量でモータ3を駆動させたときのエンジン2の出力トルクを算出し、そのときのエンジン音の音圧レベルの上昇量、具体的には1000Hz未満の周波数領域でエンジン音の音圧レベルの上昇量をエンジン音の音圧レベル上昇可能量として算出する。
前記音圧レベル上昇必要量の算出は、変速操作時における環境音に対する変速操作音の音圧レベルが1000Hz未満の周波数領域で10dBA未満程度になるように、例えば5dBAとなるようにエンジン2のエンジン回転数を上昇させることなくエンジン2の出力トルクを上昇させてエンジン2の音圧レベルを上昇させるときのエンジン音の音圧レベルの上昇量をエンジン2の音圧レベル上昇必要量として算出する。
そして、変速操作時のモータ制御によるエンジン音の音圧レベル上昇可能量が変速操作時のモータ制御によるエンジン音の音圧レベル上昇必要量より大きい場合、モータ制御可能であると判定する。一方、変速操作時のモータ制御によるエンジン音の音圧レベル上昇可能量が変速操作時のモータ制御によるエンジン音の音圧レベル上昇必要量以下である場合、スリップ制御可能ではないと判定する。
ステップS7での判定結果がイエスである場合、騒音抑制モータ制御が行われる(ステップS8)と共に所定変速段への変速操作が実行され(ステップS9)、変速操作時に騒音抑制モータ制御が行われる。
騒音抑制モータ制御は、モータ3をエンジン2の回転方向と反対方向のトルクを発生するように駆動させ、環境音に対する変速操作音の音圧レベルが1000Hz未満の周波数領域で10dBA未満程度となるように、例えば5dBAとなるようにエンジン2のエンジン回転数を上昇させることなくエンジン2の出力トルクを上昇させることにより環境音を上昇させる。騒音抑制モータ制御を行う場合、変速機4に入力される駆動源からの動力がほぼ一定となるように制御される。
一方、ステップS7での判定結果がノーである場合、ステップS1~S4が繰り返される。また、ステップS3での判定結果がノーである場合、ステップS1~S2が繰り返され、ステップS2での判定結果がノーである場合、ステップS1が繰り返される。一方、ステップS1での判定結果がノーである場合、騒音抑制制御を行わない。
制御ユニット12は、変速操作時に、騒音抑制スリップ制御又は騒音抑制モータ制御が行われる場合、所定変速段への変速操作が終了すると、騒音抑制スリップ制御又は騒音抑制モータ制御についても終了する。
なお、制御ユニット12によって、変速機構6の変速操作時に発生する変速操作音によって運転者が感じる騒音を抑制する騒音抑制手段が構成され、制御ユニット12は、変速操作時に変速機4の設置環境における環境音に対する変速操作音の音圧レベルが小さくなるように環境音を上昇させる。
このように、本実施形態に係る車両の動力伝達装置11は、変速機構6の変速操作時に発生する変速操作音によって運転者が感じる騒音を抑制する騒音抑制手段12を備え、騒音抑制手段12は、変速操作時に変速機4の設置環境における環境音に対する変速操作音の音圧レベルが小さくなるように環境音を上昇させる。
これにより、騒音抑制手段12によって、変速操作時に変速機4の設置環境における環境音に対する変速操作音の音圧レベルが小さくなるように環境音が上昇される。従って、変速機構6を有する変速機4を備えた車両1において、変速操作時に環境音に対する変速操作音の音圧レベルを小さくして変速操作時に運転者が感じる変速操作音による騒音を抑制することができる。
また、駆動源としてエンジン2を備え、エンジン2と変速機4との間にクラッチ5が備えられ、騒音抑制手段12は、変速操作時にクラッチ5をスリップ制御してエンジン2のエンジン回転数を上昇させることにより環境音を上昇させる。
これにより、騒音抑制手段12によって変速操作時にクラッチ5をスリップ制御してエンジン2のエンジン回転数を上昇させることにより環境音が上昇されるので、エンジン回転数の上昇によって1000Hz以上の周波数領域でエンジン音の音圧レベルを大きくして環境音を上昇させることができる。従って、エンジン2と変速機4との間にクラッチ5が備えられた車両1において、駆動源からの動力を維持しつつ別途吸音部材などを用いることなく変速操作音による騒音を抑制することができる。
また、騒音抑制手段12は、変速操作時にクラッチ5をスリップ制御してエンジン2のエンジン回転数を上昇させることにより環境音を上昇させる場合に、1000Hz以上の周波数領域において環境音に対する変速操作音の音圧レベルが10dBA未満になるように環境音を上昇させる。
これにより、1000Hz以上の周波数領域において環境音に対する変速操作音の音圧レベルが10dBA未満になるように環境音が上昇されるので、人間の聴覚特性を考慮して変速操作時に運転者が感じる変速操作音による騒音を有効に抑制することができる。
また、駆動源としてエンジン2及びモータ3を備え、騒音抑制手段12は、クラッチ5をスリップ制御してエンジン2のエンジン回転数を上昇させることにより環境音を上昇させることができない場合、変速操作時にモータ3をエンジン2の回転方向と反対方向のトルクを発生するように駆動させてエンジン2のエンジン回転数を上昇させることなくエンジン2の出力トルクを上昇させることにより環境音を上昇させる。
これにより、騒音抑制手段12によって変速操作時にモータ3をエンジン2の回転方向と反対方向のトルクを発生するように駆動させてエンジン2の出力トルクを上昇させることにより環境音が上昇されるので、エンジン出力トルクの上昇によって1000Hz未満の周波数領域でエンジン音の音圧レベルを大きくして環境音を上昇させることができる。従って、エンジン2及びモータ3が備えられた車両において、駆動源からの動力を維持しつつ別途吸音部材などを用いることなく変速操作音による騒音を抑制することができる。クラッチ5をスリップ制御することができない場合においても、変速操作音による騒音を抑制することができる。
また、変速機構6は、ドグクラッチ34,36を有する。これにより、変速操作時に発生する変速操作音が大きくなるドグクラッチを用いる場合に、運転者が感じる変速操作音による騒音を有効に抑制することができる。
また、変速機構6は、変速操作時に変速上段及び変速下段のドグクラッチ34,36が同時に噛合うときに変速上段のドグクラッチが噛合い側へ移動すると共に変速下段のドグクラッチが噛合い離脱側に移動するように構成される。これにより、シフトアップの変速操作時に駆動ロスを低減することができる変速機構6を用いる場合に、運転者が感じる変速操作音による騒音を有効に抑制することができる。
また、騒音抑制手段12は、自動変速モードである場合に変速操作音によって運転者が感じる騒音を抑制する騒音抑制制御を行い、手動変速モードである場合に騒音抑制制御を行わない。これにより、手動変速モードである場合は、運転者が変速操作時を把握しやすく変速操作音による騒音によって運転者の快適性が損なわれにくいことから、騒音抑制制御を行うことなく騒音抑制制御による燃費の悪化を抑制することができる。
図10は、本発明の別の実施形態に係る騒音抑制制御を示すフローチャートである。本発明の別の実施形態に係る騒音抑制制御は、前述した実施形態において変速操作時に騒音抑制制御を行う場合に、変速操作前から騒音抑制制御を行うようにしたものであり、同様の構成については説明を省略する。
本実施形態においても、制御ユニット12は、変速機構6の変速操作時に発生する変速操作音によって運転者が感じる騒音を抑制する騒音抑制制御を行い、変速操作時に変速機4の設置環境における環境音に対する変速操作音の音圧レベルが小さくなるように環境音を上昇させる。
本実施形態では、制御ユニット12は、変速操作時にクラッチ5をスリップ制御してエンジン2のエンジン回転数を上昇させることにより環境音を上昇させる場合、変速操作時のスリップ制御によるエンジン音の音圧レベル上昇必要量が所定値より大きいとき、変速操作前からクラッチ5をスリップ制御してエンジン2のエンジン回転数を上昇させることにより環境音を上昇させる。
制御ユニット12はまた、変速操作時にモータ3をエンジン2の回転方向と反対方向のトルクを発生するように駆動させてエンジン2のエンジン回転数を上昇させることなくエンジン2の出力トルクを上昇させることにより環境音を上昇させる場合、変速操作時のモータ制御によるエンジン音の音圧レベル上昇必要量が所定値より大きいとき、変速操作前からモータ3をエンジン2の回転方向と反対方向のトルクを発生するように駆動させてエンジン2のエンジン回転数を上昇させることなくエンジン2の出力トルクを上昇させることにより環境音を上昇させる。
図10に示すように、本実施形態では、ステップS4での判定結果がイエスである場合、変速操作時のスリップ制御によるエンジン音の音圧レベル上昇必要量が所定値より大きいか否かが判定される(ステップS11)。前記所定値として、例えば10dBAなどの所定値が設定される。ステップS11では環境音の上昇が大きいか否かが判定される。
ステップS11での判定結果がイエスである場合、変速操作前に、変速前騒音抑制スリップ制御が行われる(ステップS12)。変速前騒音抑制スリップ制御は、変速操作前に、例えば1秒などの所定時間、変速操作時のスリップ制御によるエンジン音の音圧レベル上昇必要量の少なくとも一部、例えば二分の一だけエンジン音の音圧レベルを上昇させるようにクラッチ5をスリップ制御させ、エンジン2のエンジン回転数を上昇させることにより環境音を上昇させる。
そして、変速時騒音抑制スリップ制御が行われる(ステップS13)と共に所定変速段への変速操作が実行され(ステップS14)、変速操作時に変速時騒音抑制スリップ制御が行われる。変速時騒音抑制スリップ制御は、クラッチ5をスリップ制御させ、環境音に対する変速操作音の音圧レベルが1000Hz以上の周波数領域で10dBA未満になるように、例えば5dBAとなるようにエンジン2のエンジン回転数を上昇させることにより環境音を上昇させる。
変速前騒音抑制スリップ制御が行われる場合、変速操作前にエンジン音の音圧レベル上昇必要量の少なくとも一部、例えば二分の一だけ環境音を上昇させているので、変速時騒音抑制スリップ制御では、エンジン音の音圧レベル上昇必要量の残部、例えば二分の一だけさらにエンジン音の音圧レベルを上昇させるようにクラッチ5をスリップ制御させ、エンジン2のエンジン回転数を上昇させることにより環境音を上昇させる。変速前騒音抑制スリップ制御及び変速時騒音抑制スリップ制御を行う場合、変速機4に入力される駆動源からの動力がほぼ一定となるように制御される。
一方、ステップS11での判定結果がノーである場合、変速前騒音抑制ステップ制御が行われることなく、変速時騒音抑制スリップ制御が行われる(ステップS13)と共に所定変速段への変速操作が実行され(ステップS14)、変速操作時に変速時騒音抑制スリップ制御が行われる。変速時騒音抑制スリップ制御は、クラッチ5をスリップ制御させ、環境音に対する変速操作音の音圧レベルが1000Hz以上の周波数領域で10dBA未満になるように、例えば5dBAとなるようにエンジン2のエンジン回転数を上昇させることにより環境音を上昇させる。
変速前騒音抑制スリップ制御が行われない場合、変速時騒音抑制スリップ制御では、エンジン音の音圧レベル上昇必要量だけエンジン音の音圧レベルを上昇させるようにクラッチ5をスリップ制御させ、エンジン2のエンジン回転数を上昇させることにより環境音を上昇させる。変速時騒音抑制スリップ制御を行う場合、変速機4に入力される駆動源からの動力がほぼ一定となるように制御される。
本実施形態ではまた、ステップS7での判定結果がイエスである場合、変速操作時のモータ制御によるエンジン音の音圧レベル上昇必要量が所定値より大きいか否かが判定される(ステップS16)。前記所定値として、例えば10dBAなどの所定値が設定される。ステップS16では環境音の上昇が大きいか否かが判定される。
ステップS16での判定結果がイエスである場合、変速操作前に、変速前騒音抑制モータ制御が行われる(ステップS17)。変速前騒音抑制モータ制御は、変速操作前に、例えば1秒などの所定時間、変速操作時のモータ制御によるエンジン音の音圧レベル上昇必要量の少なくとも一部、例えば二分の一だけエンジン音の音圧レベルを上昇させるようにモータ3をエンジン2の回転方向と反対方向のトルクを発生するように駆動させ、エンジン2の出力トルクを上昇させることにより環境音を上昇させる。
そして、変速時騒音抑制モータ制御が行われる(ステップS18)と共に所定変速段への変速操作が実行され(ステップS19)、変速操作時に変速時騒音抑制モータ制御が行われる。変速時騒音抑制モータ制御は、モータ3をエンジン2の回転方向と反対方向のトルクを発生するように駆動させ、環境音に対する変速操作音の音圧レベルが1000Hz未満の周波数領域で10dBA未満程度となるように、例えば5dBAとなるようにエンジン2のエンジン回転数を上昇させることなくエンジン2の出力トルクを上昇させることにより環境音を上昇させる。
変速前騒音抑制モータ制御が行われる場合、変速操作前にエンジン音の音圧レベル上昇必要量の少なくとも一部、例えば二分の一だけ環境音を上昇させているので、変速時騒音抑制モータ制御では、エンジン音の音圧レベル上昇必要量の残部、例えば二分の一だけエンジン音の音圧レベルをさらに上昇させるように、モータ3をエンジン2の回転方向と反対方向のトルクを発生するように駆動させ、エンジン2の出力トルクを上昇させることにより環境音を上昇させる。変速前騒音抑制モータ制御及び変速時騒音抑制モータ制御を行う場合、変速機4に入力される駆動源からの動力がほぼ一定となるように制御される。
一方、ステップS16での判定結果がノーである場合、変速前騒音抑制モータ制御が行われることなく、変速時騒音抑制モータ制御が行われる(ステップS18)と共に所定変速段への変速操作が実行され(ステップS19)、変速操作時に変速時騒音抑制モータ制御が行われる。変速時騒音抑制モータ制御は、モータ3をエンジン2の回転方向と反対方向のトルクを発生するように駆動させ、環境音に対する変速操作音の音圧レベルが1000Hz未満の周波数領域で10dBA未満程度となるように、例えば5dBAとなるようにエンジン2のエンジン回転数を上昇させることなくエンジン2の出力トルクを上昇させることにより環境音を上昇させる。
変速前騒音抑制モータ制御が行われない場合、変速時騒音抑制モータ制御では、エンジン音の音圧レベル上昇必要量だけエンジン音の音圧レベルを上昇させるようにモータ3をエンジン2の回転方向と反対方向のトルクを発生するように駆動させ、エンジン2の出力トルクを上昇させることにより環境音を上昇させる。
本実施形態では、変速前騒音抑制スリップ制御を行う場合、変速操作前にエンジン音の音圧レベル上昇必要量の少なくとも一部を上昇させるとき、変速操作前の所定タイミングで上昇させるようにしてもよいが、変速操作時までに徐々に上昇させるようにしてもよい。
変速前騒音抑制モータ制御を行う場合についても、変速操作前にエンジン音の音圧レベル上昇必要量の少なくとも一部を上昇させるとき、変速操作前の所定タイミングで上昇させるようにしてもよいが、変速操作時までに徐々に上昇させるようにしてもよい。
このように、本実施形態に係る車両の動力伝達装置11では、騒音抑制手段12は、変速操作前からクラッチ5をスリップ制御してエンジン2のエンジン回転数を上昇させることにより環境音を上昇させる。これにより、変速操作時に環境音を上昇させる場合に比して、変速操作時に発生する変速操作音による騒音をさらに抑制することができる。
また、騒音抑制手段12は、変速操作前からモータ3をエンジン2の回転方向と反対方向のトルクを発生するように駆動させてエンジン2のエンジン回転数を上昇させることなくエンジン2の出力トルクを上昇させることにより環境音を上昇させる。これにより、変速操作時に環境音を上昇させる場合に比して、変速操作時に発生する変速操作音による騒音をさらに抑制することができる。
車両1では、変速機4の変速機構6は、変速操作時に変速上段及び変速下段のドグクラッチが同時に噛合うときに、変速上段のドグクラッチが噛合い側へ移動すると共に変速下段のドグクラッチが噛合い離脱側に移動するように構成されているが、変速操作時に変速前の変速段の噛合いを解除した後に変速後の変速段の噛合いを行うように構成された変速機構を用いることも可能である。
本実施形態では、駆動源としてエンジン2とモータ3とを有する車両1について説明しているが、駆動源としてエンジンのみを有し、エンジンと変速機との間にクラッチが備えられた車両において、騒音抑制手段によって騒音抑制スリップ制御のみを行うようにすることも可能である。
図9に示すフローチャートにおいて、ステップS7~S9を行うことなくステップS4での判定結果がノーである場合、ステップS1~S4が繰り返されるようにすることも可能である。また、図10に示すフローチャートにおいて、ステップS7、S16~S19を行うことなくステップS4での判定結果がノーである場合、ステップS1~S4が繰り返されるようにすることも可能である。
本発明は、例示された実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計上の変更が可能である。