JP2022071786A - 心尖拍動検出装置、コンピュータプログラム及び記録媒体 - Google Patents

心尖拍動検出装置、コンピュータプログラム及び記録媒体 Download PDF

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悦則 藤田
Yoshinori Fujita
成彦 金子
Shigehiko Kaneko
正生 吉栖
Masao Yoshizumi
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Abstract

【課題】 心尖拍動の測定の容易化を図る。【解決手段】心尖拍動と心音との境界周波数を求める構成である。これにより、生体信号検出センサ1により体表面の振動を介して収集される様々な生体音や体内振動を含んだ音や振動の集合体である生体信号から、心尖拍動の波形を容易に抽出することができる。超音波を利用した従来の装置のように、超音波振動子や受信素子の取り付け位置が限定されたり、測定時間が限定されたりすることもなく、人の体の様々な部位から心尖拍動の波形データを取得可能である。【選択図】 図10

Description

本発明は、心尖拍動の波形検出を行うことができる心尖拍動検出装置、コンピュータプログラム及び記録媒体に関する。
心尖拍動は、左室心尖部の運動を反映し、心臓、主として左室機能の評価に用いられる。心尖拍動は、心機図法により記録される心尖拍動図により客観化されるのが一般であるが、心尖拍動図は、心臓と胸壁の間の種々の組織を介して胸壁の動きを捉えているため、記録時の巧拙の影響を受けやすい。また、心機図記録装置は比較的大型のものが多く、測定にあたっても防音室で行わなければならないなどの制約がある。
この点に鑑み特許文献1では、体表面から心尖部近傍に向けて超音波信号を入射させる超音波発信部と、反射超音波を受信する受信センサを備えた心尖拍動図用の生体情報測定装置を開示しており、防音室等の特殊な環境でなくても容易に心尖拍動図を作成できるとしている。
一方、本発明者らは、特許文献2~5等において、人の背部の体表面に生じる振動を非拘束で捉え、その振動を解析して人の状態を推定する技術を提案している。人の背部の体表面に生じる振動は、心臓と大動脈等の生体内の振動が伝播したものであり、心房及び心室の収縮期及び拡張期の情報や、循環の補助ポンプとなる血管壁の弾力情報及び反射波の情報を含んでいる。
特許文献2では、体表面を介して伝播する振動(生体信号)から抽出した1Hz近傍の背部体表脈波の時系列波形に所定の時間幅を適用してスライド計算を行って周波数傾きの時系列波形を求め、その変化の傾向から、例えば、振幅が増幅傾向にあるか、減衰傾向にあるかなどによって生体状態の推定を行っている。また、生体信号を周波数解析し、予め定めたULF帯域(極低周波帯域)からVLF帯域(超低周波帯域)に属する機能調整信号、疲労受容信号及び活動調整信号に相当する各周波数のパワースペクトルを求め、各パワースペクトルの時系列変化から人の状態を判定することも開示している。
特許文献3~4では、恒常性維持機能レベルを判定する手段を開示している。また、特許文献5では、生体信号の音・振動情報に対応した固有振動数を含む固有振動子を備えた共鳴層を具備する音・振動情報収集機構を開示している。また、非特許文献1には、心音が不規則振動で構成されることが示されている。
WO2012/165660号公報 特開2011-167362号公報 特開2014-117425号公報 特開2014-223271号公報 特開2016-26516号公報
Nobuhiro, Y. et al. Development of Physical Condition Fluctuation Prediction Model Using Trunk Biosignals, Proceeding of Asia-Pacific Vibration Conference 2019 (2019)
特許文献1に開示のものは、192個の超音波振動子を用いた装置であり、12個を一組としてそれらを順次ずらしてスキャンして心尖拍動図を作成する。また、より高い精度の心尖拍動図を作成するために、192個の超音波振動子を一列とし、それを複数列用いた装置も開示している。特許文献1では、超音波振動子をこのように多数使用しなければ所望の心尖拍動図を得ることは難しい。よって、製品としては非常に高価なものにならざるを得ず、実用的ではない。また、鮮明な心尖拍動図を作成するためには、肋骨の位置の検出も考慮する必要があり、発信周波数も限定され、また、受信素子の位置も限られ、それらの条件を満たす装置としなければならず、その点も、構造の複雑化、製造コストの増加につながる。
また、特許文献1では、従来の心機図記録装置が複数人数で取り扱わなければならなかったのに対し、一人でも測定できるということを利点として述べている。しかし、超音波振動子をスキャンするために、医師や技師の操作が必要であり、測定に手間がかかると共に、スキャンしている間のデータしか得られない。すなわち、測定対象者の心尖拍動を長時間に亘って捉えることには適していない。
一方、特許文献2~5に開示した体表面に生じる振動を非拘束で捉えるセンサは、三次元立体編物、三次元立体編物を取り囲むフィルム、マイクロフォン等からなり、人の体に接触させておくだけで体表面を介した生体信号を取得できる。すなわち、人の体に取り付ければ、医師等が何らの操作をしなくても生体信号データが得られる。しかし、特許文献2~5は、主に自律神経機能や心拍変動の解析を行っており、左室心尖部の運動である心尖拍動に関する解析は行われていない。
生体信号検出センサは、体表面から伝播される生体信号を受動的に捉えるだけであり、その点、特許文献1の装置よりも簡易な装置とすることができる。しかしながら、捕捉される生体信号データには、様々な生体音や体内振動が含まれている。中でも、心尖拍動に関するデータは、心音のデータに埋もれ、心尖拍動のデータのみを抽出することが困難である。
本発明は上記に鑑みなされたものであり、簡易で安価に製造可能であると共に、心尖拍動を心音データから区分して抽出でき、しかも長時間に亘る測定も可能な心尖拍動検出装置、コンピュータプログラム及び記録媒体を提供することを課題とする。
上記課題を解決するため、本発明の心尖拍動検出装置は、
体表面を介して生体信号検出センサにより得られる生体信号データを周波数解析する周波数解析手段と、
前記周波数解析手段から得られる前記生体信号データの周波数解析結果から、前記生体信号データ中、心尖拍動により生じる振動と心音により生じる振動との境界周波数を求める境界周波数特定手段と、
前記境界周波数により区分される前記心尖拍動の波形を抽出する心尖拍動波形抽出手段と
を有することを特徴とする。
前記境界周波数特定手段は、
前記周波数解析結果中、調和振動と不規則振動との境界となるパワースペクトルの急変部を求め、この急変部を基準に前記境界周波数を特定する手段を含むことが好ましい。
前記境界周波数特定手段は、
前記周波数解析結果に、同時に測定した心音データの周波数解析結果を加味して、前記パワースペクトルの急変部を求める手段を含むことが好ましい。
前記境界周波数特定手段は、
前記生体信号データ及び前記心音データの各周波数解析結果をそれぞれ加算平均処理した波形を対数差分法を用いて両対数軸表示する両対数軸表示手段と、両対数軸表示した波形からゆらぎの変化点を求め、このゆらぎの変化点を前記パワースペクトルの急変部として特定する急変部特定手段と
を有することが好ましい。
また、本発明は、体表面を介して生体信号検出センサにより得られる生体信号データを処理し、コンピュータを、心尖拍動検出装置として機能させるコンピュータプログラムであって、
前記生体信号データを周波数解析する手順と、
その周波数解析結果から、前記生体信号データ中、心尖拍動により生じる振動と心音により生じる振動との境界周波数を特定する手順と、
前記境界周波数により区分される前記心尖拍動の波形を抽出する手順と
を前記コンピュータに実行させるコンピュータプログラムを提供する。
前記境界周波数を特定する手順では、
前記周波数解析結果中、調和振動と不規則振動との境界となるパワースペクトルの急変部を求め、この急変部を基準に前記境界周波数を特定することが好ましい。
前記境界周波数を特定する手順では、
前記周波数解析結果に、同時に測定した心音データの周波数解析結果を加味して、前記パワースペクトルの急変部を求めることが好ましい。
前記境界周波数を特定する手順では、
前記生体信号データ及び前記心音データの各周波数解析結果をそれぞれ加算平均処理した波形を対数差分法を用いて両対数軸表示する両対数軸表示し、
両対数軸表示した波形からゆらぎの変化点を求め、このゆらぎの変化点を前記パワースペクトルの急変部として特定することが好ましい。
また、本発明は、上記のコンピュータプログラムが記録された記録媒体を提供する。
本発明によれば、心尖拍動と心音との境界周波数を求めることができる。このため、生体信号検出センサにより体表面の振動を介して収集される様々な生体音や体内振動を含んだ音や振動の集合体である生体信号から、心尖拍動の波形を容易に抽出することができる。しかも、超音波を利用した従来の装置のように、超音波振動子や受信素子の取り付け位置が限定されたり、測定時間が限定されたりすることもなく、人の体の様々な部位から心尖拍動の波形データを取得可能で、また、生体信号検出センサは生体信号を受動的に捉えるものであるため、体への取り付け時間も制限されず、人の心尖拍動の状態を長時間に亘り計測することができる。その結果、心尖拍動に影響する心臓の状態、健康状態をより高い精度で知ることができる。
図1(a)は、本発明の一の実施形態にかかる生体信号検出センサ(4SR)の示した外観斜視図であり、図1(b)は、エアパックとゲルパックとを分離して示した外観斜視図であり、図1(c)は、断面図である。 図2は、本発明の一の実施形態にかかる生体信号検出センサ(4SR)の構造を、従来の生体信号検出センサ(3SR)との比較で示した図である。 図3(a)は、スピーカーから出力され、実施形態の生体信号検出センサ(4SR)と従来の生体信号検出センサ(3SR)に入力される心音図(Phonocardiogram:PCG)の機械的複製音(PCG複製入力)と、三次元立体編物が伝達する音響振動データを示す図であり、図3(b)は、PCG複製入力の共鳴波形と変調されたPCG複製入力を構成する周波数成分を示す図であり、図3(c)は、実施形態の生体信号検出センサ(4SR)と従来の生体信号検出センサ(3SR)のばね特性及び減衰特性を示したリサージュ図形であり、図3(d)はボード線図を示し、図3(e)は実施形態の生体信号検出センサ(4SR)における三次元立体編物が収容フィルム内に密封収容された構造(sealed air pack)のばね定数を示した図である。 図4は、PCGの波形を入力したときの増幅効果を示した図であり、(a)は、実施形態の生体信号検出センサ(4SR)と従来の生体信号検出センサ(3SR)の出力波形を、(b)は、それぞれの周波数解析結果を、(c)は、4SR/3SRのゲインを示す。 図5は、APW(Acoustic Pulse Wave)の増幅効果を示した図であり、(a)は、実施形態の生体信号検出センサ(4SR)と従来の生体信号検出センサ(3SR)の出力波形を、(b)は、それぞれの周波数解析結果を、(c)は、4SR/3SRのゲインを示す。 図6(a)~(d)は、平均心拍数58/minの被験者のF-APW、R-APW、L-APWとPCGの3秒間の時系列波形計測結果を示した図である。 図7(a)~(d)は、平均心拍数71/minの被験者のF-APW、R-APW、L-APWとPCGの3秒間の時系列波形計測結果を示した図である。 図8(a)~(d)は、平均心拍数79/minの被験者のF-APW、R-APW、L-APWとPCGの3秒間の時系列波形計測結果を示した図である。 図9(a)~(d)は、平均心拍数93/minの被験者のF-APW、R-APW、L-APWとPCGの3秒間の時系列波形計測結果を示した図である。 図10は、本発明の一の実施形態に係る心尖拍動検出装置の構造を模式的に示した図である。 図11は、境界周波数を抽出する工程を説明するためのフローチャートである。 図12(a)~(d)は、平均心拍数58/min、71/min、79/min、93/minの各被験者のCAB(Cardiac Apex Beat)及びCAS(Cardiac Acoustic Sound)の周波数解析結果を示した図である。 図13は、平均心拍数58/minの被験者から得られたFrontCAB(0.5-BF)、FrontCAB(5-BF)、RearCAB(0.5-BF)、LumbarCAB(0.5-BF)、PCG、FrontCAS(BF-50)、RearCAS(BF-50)、及びLumbarCAS(BF-50)の各処理波形を示した図である。 図14は、平均心拍数71/minの被験者から得られたFrontCAB(0.5-BF)、FrontCAB(5-BF)、RearCAB(0.5-BF)、LumbarCAB(0.5-BF)、PCG、FrontCAS(BF-50)、RearCAS(BF-50)、及びLumbarCAS(BF-50)の各処理波形を示した図である。 図15は、平均心拍数79/minの被験者から得られたFrontCAB(0.5-BF)、FrontCAB(5-BF)、RearCAB(0.5-BF)、LumbarCAB(0.5-BF)、PCG、FrontCAS(BF-50)、RearCAS(BF-50)、及びLumbarCAS(BF-50)の各処理波形を示した図である。 図16は、平均心拍数93/minの被験者から得られたFrontCAB(0.5-BF)、FrontCAB(5-BF)、RearCAB(0.5-BF)、LumbarCAB(0.5-BF)、PCG、FrontCAS(BF-50)、RearCAS(BF-50)、及びLumbarCAS(BF-50)の各処理波形を示した図である。
以下、図面に示した本発明の実施形態に基づき、本発明をさらに詳細に説明する。
・生体信号検出センサ
まず、図1(a)~(c)に基づき、本実施形態で用いた生体信号検出センサ1の構成を説明する。本実施形態の生体信号検出センサ1は、エアパック1Aとゲルパック1Bとの積層構造からなる。エアパック1Aは、三次元立体編物(3Dネット)10及び該三次元立体編物(3Dネット)10を密閉的に収容する収容フィルム20とを有して構成される。ゲルパック1Bは、ケース40内にマイクロフォン30が固定配置され、マイクロフォン30の周囲にゲル50が充填されている。
三次元立体編物10は、互いに離間して配置された一対のグランド編地同士を連結糸で結合することにより形成されている。各グランド編地は、例えば、繊維を撚った糸から、ウェール方向及びコース方向のいずれの方向にも連続したフラットな編地組織(細目)に形成したり、ハニカム状(六角形)のメッシュを有する編地組織に形成したりすることができる。連結糸は、一方のグランド編地と他方のグランド編地とが所定の間隔を保持するように、三次元立体編物に所定の剛性を付与している。従って、面方向に張力が付与されることにより、三次元立体編物を構成する対向するグランド編地の糸、あるいは、対向するグランド編地間を連結する連結糸を弦振動させることが可能となる。それにより、生体信号である心臓・血管系の音・振動によって弦振動が生じ、三次元立体編物の面方向に伝播される。
三次元立体編物のグランド編地を形成する糸又は連結糸の素材としては、種々のものを用いることができるが、例えば、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、レーヨン等の合成繊維や再生繊維、ウール、絹、綿等の天然繊維が挙げられる。上記素材は単独で用いてもよいし、これらを任意に併用することもできる。好ましくは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などに代表されるポリエステル系繊維、ナイロン6、ナイロン66などに代表されるポリアミド系繊維、ポリエチレン、ポリプロピレンなどに代表されるポリオレフィン系繊維、あるいはこれらの繊維を2種類以上組み合わせたものである。また、グランド糸又は連結糸の糸形状も限定されるものではなく、丸断面糸、異形断面糸、中空糸等のいずれでもよい。さらに、カーボン糸、金属糸等を使用することもできる。
使用可能な三次元立体編物としては、例えば、以下のようなものを用いることができる。
(a) 製品番号:49013D(住江織物(株)製)、厚さ10mm
材質:
表側のグランド編地・・・450デシテックス/108fのポリエチレンテレフタレート繊維仮撚加工糸の2本の撚り糸
裏側のグランド編地・・・450デシテックス/108fのポリエチレンテレフタレート繊維仮撚加工糸の2本の撚り糸
連結糸・・・・・・・・・350デシテックス/1fのポリトリメチレンテレフタレートモノフィラメント
(b)製品番号:AKE70042(旭化成(株)製)、厚さ7mm
(c)製品番号:T28019C8G(旭化成(株)製)、厚さ7mm
三次元立体編物10は、収容フィルム20により被覆されている。収容フィルム20は、本実施形態では、合成樹脂製の2枚のフィルム21,22を用いてなり、これを三次元立体編物10の表面及び裏面を被覆するように配置し、両者の周縁部を溶着等により固着している。これにより、三次元立体編物10は、収容フィルム20内に密閉的に収容される。なお、フィルム21,22の周縁部を固着する際には、フィルム21,22によって三次元立体編物10を厚み方向に若干押圧されるように固着することが好ましい。三次元立体編物10の張力が高まり、該三次元立体編物10を構成する糸の弦振動がより生じやすくなる。
収容フィルム20の外側には、ケース40が取り付けられ、そのケース40内にマイクロフォン30が配設されている。ケース40内であって、マイクロフォン30の周囲は、外乱混入抑制部材としてのゲル50が充填されている。ケース40は、合成樹脂製で、マイクロフォン30に伝播される音響振動の外部への拡散を防ぐ機能を有し、ゲル50により、外部振動がマイクロフォン30によって捕捉されることを抑制する。なお、マイクロフォン30には検出した音響振動データを搬送するコード30aが接続されている。
生体信号検出センサ1は、人の各種部位、例えば、背部、胸部、腰部などに当接して使用される。体表面の振動が収容フィルム20及び三次元立体編物10に伝播されてマイクロフォン30によって捕捉されるものであるが、皮膚表面に直接貼着する場合に限らず、衣服の表面に取り付けて用いることができる。
ここで、本実施形態で採用した新規の生体信号検出センサ1の検出性能を、本発明者らが特許文献2等で開示している従来の生体信号検出センサと比較して説明する。なお、以下において、本実施形態の生体信号検出センサ1を4SR(Sound Sensing System using Stochastic Resonance)と称し、従来の生体信号検出センサ1000を3SR(Sound Sensing System using Resonance)と称する。
(心音の周波数帯域での4SRセンシング性能評価)
図2に4SR(生体信号検出センサ1)と3SR(従来の生体信号検出センサ1000)のセンシング性能を比較するための実験装置の概略と部品構成を示す。中央の実験装置の左右の各3枚の写真は、加速度センサ(a-1)とそれぞれ3SRと4SRの構成部品(a-2~a-6)を示し、実験装置下部には3SR(a-7)と4SR(a-8)の概観写真を示す。また、3SR、4SRに用いられている厚さ10mmの3次元立体編物 (以後場合により、3Dネットと呼ぶ)の断面を写真(a-4)に示す。写真(Section:a-a, Section:b-b)は、3SRと4SR用の3Dネットのカット断面である。
まず、4SRの振幅増幅の基本原理を3Dネットの断面の写真(a-4)を用いて説明する。本実験で用いた3Dネットの上下面はマルチフィラメント糸で作られた基布層で、真ん中のモノフィラメント糸で作られたパイルは上下の基布層に編み込んであり、マルチフィラメント糸と摩擦結合している。被験者の体重が3Dネット上面に付加されると、エアパックに内蔵された3DネットのX型に編み込まれたパイル(以後、X型パイルと呼ぶ)がたわみ、体動によりパイル同士が擦れ、音と振動が生じる。この音と振動が確率共鳴現象を生じさせる。そして、X型パイルはたわむことで張力が発生し、固有振動子が構成される。張力作用下のX型パイルの固有振動数は20Hz近傍にある。そこで、密閉エアパックである4SRは確率共鳴と弦の振動という二つの共鳴機構により、0.5~80Hzの振動を増大させるものと考えられる。
次に、心音に対する増幅能について検討する。図3(a)に示したように、検討に用いた心音は、PCG上I音の分裂間隔を0.03秒にしたI音を用いた。この心音は心拍数56/minの被験者から計測されたもので、フィルター処理を行った後、スピーカーによって機械的に複製した。スピーカーはFOSTEX社製P1000Kをエンクロージャー無しで用いた。P1000Kは径が10cmのコーン型フルレンジユニットである。P1000Kの振動板に600gのウェイトを載せ振動板の重さを1005gにし、最低共振周波数を82Hzから52Hzに低く設定した。これにより52Hz~16kHzが再生周波数帯域となった。最低共振周波数f0は、
Figure 2022071786000002
で求められる。s0はばねの強さを示し、m0は振動板の重さを示す。
スピーカーから出力された機械的複製音(以後、Reproduction PCGと呼ぶ)は、加速度センサの上面に置かれた3Dネットを経由した後、3SRと4SRの各マイクロフォンで計測される。3SRのマイクロフォン1010は、3Dネット1020とともにエラストマフィルム1030とビーズ1040で包まれる。減衰は、スリット内を流れる空気の流動によって、内蔵された3Dネットがもつばね力によりマイクロフォン周りの空気が流動することによって発生する。その大きさは写真(a-7)に示すようにマイクロフォン付属のコード1010a周辺部のスリット幅で決められる。3SRは、エラストマフィルム1030内にマイクロフォン1010を配置しているため、コード1010aをエラストマフィルム1030外へ引き出さざるを得ず、その部位において必ず隙間が生じる。一方、4SRは、三次元立体編物(3Dネット)10が収容フィルム20内に収容されたエアパック1Aを、マイクロフォン30が配置されているゲルパック1Bとは分離した構成であるため、マイクロフォン30のコード30aはゲルパック1Bから外部に引き出されるため、エアパック1Aの密閉性がそれにより阻害されることがない。すなわち、4SRは、三次元立体編物(3Dネット)10の全周がエラストマフィルム(収容フィルム20)で密閉されており、4SRに負荷がかかると均一の空気圧がエラストマフィルムにかかることになるため、エラストマフィルムに張力が生じ、音響振動が伝播しやすい環境が作られる(図3(c)参照)。
なお、図3(a)は、上記のようにPCG複製入力と3Dネットが伝える音響振動データを示すが、3Dネットが伝える音響振動データは、3Dネットの固有振動子の共鳴効果による波形に続いて、変調されたPCG複製入力からなる。図3(c)のリサージュ図形の面積は、振動の1サイクル中に消費するエネルギーを示し、減衰容量から求めた3SRの減衰比は0.53で、4SRは0.20であった。
(心尖拍動の周波数帯域での4SRセンシング性能評価)
健常者のACGでは、収縮早期のみに認められる持続時間の短い拍動(収縮期波は持続の短い尖鋭な陽性波とそれに続く下行脚(dicrotic limb)からなり、左心房の収縮に由来するA波は痕跡のように認められる)でtappingと形容され、ACGで良好な記録をとることが難しい。そこで触診でtappingと形容される心尖拍動を触知できる座位姿勢の被験者(心拍数:62/min)を選定し、3SRと4SRを用いてF-APW(胸部前面から計測した生体情報:Front Acoustic Pulse Wave)を計測し、データロガーに記録し、フィルター処理を行って以下の解析を行った。
データロガーに記録した入力波形を周波数解析し、周波数に対する4SRと3SRのパワースペクトルの比(PSD4SR/PSD3SR)をゲインとし、センシング性能をゲインで評価する。4SRは左第5肋間、胸部正中線から左6cmの胸部前面に配置し、3SRは左10cmの胸部前面(心電図のV4誘導付近に相当)に配置する。PCGならびに4SRセンシングシステム用の各マイクロフォンの設置位置は、肺胞呼吸音が混入し易い部位であるため、呼吸を止めた状態で、F-APWを10秒間計測する。なお、計測実験の手順は安静時の呼吸を5分間継続して2秒間の吸気の後、呼吸を止めた。被験者には40歳代の心循環系に基礎疾患のない健康な男性を選定した。
(APW計測)
次に、APWの計測を行う。計測は、全て座位姿勢で行う。心尖拍動を含むと考えられるF-APWを捉えるための4SRは、左第5肋間で胸部正中線から左10cmの胸部前面に配置し、R-APW(胸部後部から計測した生体情報:Rear Acoustic Pulse Wave)のための4SRは、胸部前面のF-APWのための4SRと同じ高さで背部正中線から左6cmの胸部後面に配置する。腰部のL-APW(腰部から計測した生体情報:Lumber Acoustic Pulse Wave)を捉える4SRは臍部の真後ろである第3~4腰椎部正中に配置し、PCG用マイクロフォンは心尖部に置く。また、ECG(Electrocardiogram:心電図)は、II誘導を取得する。
なお、胸部前部の心尖部マイクロフォンセンサ配置は、I音、III音、IV音の至適記録部位であるが、II音については良好な記録をとることが難しい。II音は、収縮終期に心室へ逆流しようとする動脈内血液が半月弁の過伸展、ついで動脈壁に反動を生じさせる(cardiohemic system)ことで発生すると言われており、心尖部では減弱する。
PCGならびに4SRセンシングシステム用の各マイクロフォンの設置位置は、肺胞呼吸音が混入し易い部位であるため、呼吸を止めた状態での10秒間の計測結果を用いて計算する。なお、安静時のAPW計測実験は自然呼吸を5分間継続して行い、2秒間の吸気の後30秒間呼吸を止め、再度30秒間の自然呼吸を行い、2秒間の吸気の後30秒間呼吸を止めた状態で行う。被験者には20~60歳代の心循環系に基礎疾患のない健康な男39名、女11名、計50名を選定した。解析対象データは、呼吸を止めた最初の30秒間のうちRR変動が15%以内の部分から10秒間のデータを用い、心拍数はその10秒間のデータでの平均値とする。
(4SRセンシングシステムの性能の評価結果とAPW計測結果)
図3(a)中で黒の細線で示した波形がReproduction PCGで、グレーの太線で示した波形が加速度センサで計測したAcceleration PCGである。Reproduction PCGは、I音(A波とB波)と30Hz近傍の波形(C波)、およびII音(D波、E波、F波)で構成され、Acceleration PCGは、Reproduction PCGの共鳴波形(a波とb波、およびd波とe波) とそれに続く振幅と周波数が変化した波形(c波とf波)で構成される。図3(b)の周波数解析結果で示す様に60Hz以上の周波数帯域にあるA波とB波およびD波とE波は、振幅が大きくなって、a波とb波、およびd波とe波になっており、30Hz近傍のC波とF波は、ヘテロダインにより振幅と周波数が変調されたc波とf波になった。その結果、30Hz近傍ではAcceleration PCG のパワースペクトルは、Reproduction PCGのものよりも小さくなった。
次に、センシングシステムを構成する機械振動系に含まれる減衰性能について検討する。図3(c)は、3SRと4SRの各センサがもつ減衰特性を示すリサージュ図形である。リサージュ図形は加圧板を110×110mmにして振幅±1.0mm、加振周波数1.34Hzの入力で、サーボパルサーを用いて描いた。予備圧縮力は652Nである。リサージュ図形で囲まれる面積は、振動の1サイクル中に消費するエネルギーで、減衰容量である。これをWと表すと、Wは、
Figure 2022071786000003
となる。4SR と3SRの動的特性を比較すると、3SRは4SRとほぼ同等のばね特性に加えて、エアの流入流出による減衰の影響が顕著であることが分かる。
また、振動変位を評価する場合に用いられる振幅倍率Z/Yは、相対変位をZとし、心尖拍動の変位をYとすれば、
Figure 2022071786000004
で与えられる。ここに4SRと3SRの各センサの機械振動系の固有角振動数は、
Figure 2022071786000005
であり、減衰比は、
Figure 2022071786000006
である。
図3(d)は、式(3)を用いて計算した4SRと3SRの振幅倍率曲線を示す。4SRの各センサのばね定数を比較したものである。
Figure 2022071786000007
の値を代入した。
なお、図3(e)は、φ15mmの加圧板で図2(a-8)で示したセンサ(4SR)をデジタルフォースゲイジ(RZ-20)で計測して得た荷重-たわみ特性である。心尖拍動の計測を想定してばね定数を計算した。胸部前部から計測する場合は、センサの押し付け力を小さくしているために、たわみ量が1mmの場合のばね定数を用いた。胸部後部からの計測は体重がセンサにかかるため、たわみ量が3SRの設計値である4~5mmの場合のばね定数を用いた。
4SRはセンシングシステムの固有振動数を低く設定してあるため、Z/Y≒1の範囲で測定すると4SRは0.45Hz以上の周波数帯域が測定でき、3SRは2.10Hz以上が測定できることが分かる。なお、減衰比をζ=0.7とした場合、4SRは0.99Hz以上が測定でき、3SRは3.15Hz以上が測定できる。このように、減衰比を変化させるとメカニカルフィルターの特性を調整することが可能である。
心臓聴診は、50~100Hz近傍の高い周波数範囲にある心音の特徴をつかみ、解釈し、それを確認することにあり、高い周波数の音響振動を記録することが重要である。一方、心尖拍動は心音よりも低い周波数波範囲内にある収縮早期のみに認められる持続の短い拍動であり、高い周波数の計測に力点を置くと良好な心尖拍動図を記録するのが難しくなる。このように、心音と心尖拍動ではセンシングシステムの要求仕様が異なるため、センシングシステムの定量評価を個別に評価した。図4(a)は、Acceleration PCGを入力にして、3SRと4SRの各センシングシステムが捉えた音響振動情報(以後、3SR data、4SR dataと呼ぶ)を比較したものである。また、図4(b)は、周波数解析結果を示す。3SR data及び4SR dataは、確率共鳴と固有振動子による共鳴の影響を受けた音響振動情報で、両者を比較すると同じ周波数帯域でパワースペクトルに増減が見られる。図4(c)は、4SR/3SRのゲイン(PSD4SR/PSD3SR)を示す。10Hz近傍の確率共鳴の効果と20Hz近傍の固有振動子の共鳴効果及び20~80Hzのセンサのもつ機械的振動特性の差がゲインの変化(最大11.6dBと最小8.0dB)となって表れ、図4(a)で示す波形の最大振幅差は4.3倍になった。なお、80Hz以上のゲインの急低下は4SRセンシングシステムに取り付けられたゲルの減衰効果によるものと考えられる。
図5(a)に、スピーカに変えて人を音源としたときの3SR dataと4SR dataの時系列波形を示し、図5(b)に周波数解析結果を示す。図5(c)に、4SR/3SRのゲイン(PSD4SR/PSD3SR)を示す。3SRセンシングシステムに内在する減衰は1.34Hz以上で機能し、1Hz近傍のゲインが13.4dBであるのに、1.34~10Hz近傍のゲインは4.9dBまで低下している。波形で見ると減衰の影響は顕著で、図5(a)に示されるように収縮期波の最大振幅は6.8倍となって表れた。
なお、3SRのエアダンピングが、心音に関係する不規則振動に与える影響は小さいものの、図5(b)に示すように13Hz以下の心尖拍動波のパワースペクトルには影響を与え、その値は小さくなった。また、図3(c)に示すダンピング効果は、主に基本調波と2次高調波で顕著に認められた。これは、図3(d)のシミュレーション結果とも一致し、3SRでは心尖拍動波は描記できないことが分かった。
振動伝達機構について考察すると、エラストマフィルム(4SRでは符号20の収容フィルム、3SRでは符号1030のエラストマフィルム)自体にも張力が生じるため、張力変動を介して、4SRでは1Hz近傍の低周波振動は内部の3Dネットに伝達される。その結果、13Hz以上の振動は、20Hz近傍で生じる固有振動子の効果で、図5(b)に示される13~30Hz間のほぼ同等のパワースペクトルとして3SRと4SRで計測された。その振動成分が3Dネットのパイルを伝わるものと考えられる。また、図5(b)で心音の最小周波数と心尖拍動波の高調波成分が心音に混じる周波数帯が10Hz近傍にあることが分かった。そこで、4SRの方が、考察対象周波数の全帯域にわたり、3SRよりも感度が高いことが分かった。
従来、3SRの解析対象周波数は10~30Hzに設定していたが、以上の実験結果より4SRが計測対象とするF-APWの振動数は、マイクロフォンの性能保証範囲が0.1Hz以上であることを考慮し、0.5~80Hzまでとし、心音については、大部分の音が低い可聴域に集まっていることで、100Hz以上ではなく、25~45Hzないし40~80Hzを解析対象周波数とすることとした。また、サンプリング周波数は、3SRでは200Hzとしていたが、4SRでは1000Hzに設定した。
図6~図9に、平均心拍数58、71、79、93/minの被験者4名についてのF-APW、R-APW、L-APWとPCGの3秒間の時系列波形計測結果を示す。これら3種類のAPWには心音と心尖拍動の情報が含まれる。F-APWは1~1.5Hzの帯域の波形、R-APWとL-APWでは5~7Hzの帯域の波形が観測された。
・心尖拍動検出装置
次に、本実施形態の生体信号検出センサ1から得られるデータを処理するコンピュータプログラムが設定されたコンピュータ機能を有する心尖拍動検出装置100について図10に基づき説明する。
心尖拍動検出装置100は、生体信号検出センサ1によって取得される生体信号の時系列データを処理して心尖拍動の波形を得る。心尖拍動検出装置100は、コンピュータ(パーソナルコンピュータ、機器に組み込まれるマイクロコンピュータ等も含む)からなり、生体信号検出センサ1のマイクロフォン30から送信される生体信号の時系列データを受信する。そして、受信した時系列データを用いて所定の処理を行う周波数解析手段110、境界周波数特定手段120、心尖拍動波形抽出手段130を有している。
より詳細には、心尖拍動検出装置100は、周波数解析手段110、境界周波数特定手段120、心尖拍動波形抽出手段130として機能する手順を実行させるコンピュータプログラムが記憶部(当該コンピュータ(心尖拍動検出装置100)としての内蔵のハードディスク等の記録媒体のほか、リムーバブルの各種記録媒体、通信手段で接続された他のコンピュータの記録媒体等も含む)に記憶されている。なお、心尖拍動検出装置100は、周波数解析手段110、境界周波数特定手段120、心尖拍動波形抽出手段130を実現するコンピュータプログラムが組み込まれた1以上の記憶回路を有する電子回路を用いて実現することもできる。
また、コンピュータプログラムは、記録媒体に記憶させて提供することができる。コンピュータプログラムを記憶した記録媒体は、非一過性の記録媒体であっても良い。非一過性の記録媒体は特に限定されないが、例えば フレキシブルディスク、ハードディスク、CD-ROM、MO(光磁気ディスク)、DVD-ROM、メモリカードなどの記録媒体が挙げられる。また、通信回線を通じてコンピュータプログラムをコンピュータに伝送してインストールすることも可能である。
周波数解析手段110は、体表面を介して生体信号検出センサ1により得られる生体信号データを周波数解析する。
境界周波数特定手段120は、周波数解析手段110から得られる生体信号データの周波数解析結果から、生体信号データ中、心尖拍動に起因する振動と心音に起因する振動との境界周波数(Boundary Frequency:BF)を求める。境界周波数特定手段120は、周波数解析手段110により得られる周波数解析結果中、調和振動と不規則振動との境界となるパワースペクトルの急変部を求め、この急変部を基準に境界周波数を特定する手段を含む。
心尖拍動波形抽出手段130は、境界周波数特定手段120により求めた境界周波数により区分される心尖拍動の波形を抽出する。なお、抽出される心尖拍動の波形は、モニタ、プリンタなどに出力され、従来と同様に医学的解析に利用され、心臓の状態や健康状態の判断に用いられる。
上記のように、生体信号検出センサ1は、人の体の背部、胸部、腰部等に取り付けられ、体内の音、振動を捉えるものであり、得られる生体信号は、種々の生体音、体内振動の集合体である。一方、心尖拍動は、心音の波形に隠れた振動であり、それらを分離することは難しい。しかしながら、本実施形態では、心尖拍動と波形と心音の波形とを区別する境界周波数(Boundary Frequency:BF)を見出した。
本実施形態によれば、境界周波数が求められることで、生体信号から心尖拍動の波形を心音の波形とは区別して得ることが可能となる。
ここで、急変部の求め方としては、まず、体表面を介して生体信号検出センサ1により得られる生体信号データを周波数解析し、その周波数解析結果に、同時に測定した心音データの周波数解析結果を加味し、生体信号データ中、心尖拍動に起因する振動と前記心音に起因する振動との境界周波数を抽出して求めることができる。
具体的には、周波数解析手段110により求められる生体信号データの周波数解析結果を加算平均処理し、その波形を周波数とパワースペクトルを用いて両対数軸表示すると共に、心音データの周波数解析結果を加算平均処理してその波形を周波数とパワースペクトルを用いて両対数軸表示し、両対数軸表示した2つの波形の対数差分の波形からゆらぎの変化点を求め、このゆらぎの変化点を心尖拍動の高調波成分が極めて小さくなる実質的な消失点とし、消失点の周波数を上記の急変部に相当するものとして境界周波数を求めることができる。
以下、周波数解析手段110により周波数解析し、境界周波数特定手段120により境界周波数を特定する方法について詳述する。本実施形態においては、上記のように、両対数軸表示した波形を用い、その波形において高調波調和振動が実質的に消失する周波数に基づきゆらぎの変化点を求め、このゆらぎの変化点をパワースペクトルの急変部とする。
[境界周波数(BF)の抽出法]
(APWの高調波調和振動消失周波数に基づくBF抽出法)
心音は、非特許文献1に示されているように不規則振動であるが、心尖拍動波は、後述の実験結果より、主に基本調波と高調波からなる調和振動で構成されることが明らかになった。そこで、胸部前部に取り付けた4SRセンシングシステムから得られるAPWの波形を周波数解析し、加算平均処理を行い、高調波調和振動と不規則振動のパワースペクトルの変化点、すなわちパワースペクトルの急変部を見つけることに着目した。心尖拍動波のCAB(Cardiac Apex Beat)の高調波成分は周波数が高くなるにつれて、そのパワースペクトルが小さくなる。一方、心音のCAS(Cardiac Acoustic Sound)の不規則振動系のパワースペクトルは、周波数に依存せず、パワースペクトルの大きさが変化する。ここでは、このCABの高調波成分のパワースペクトルが小さくなり、そしてCASの変動挙動が変化する周波数を境界周波数:Boundary Frequencyと呼び、以下では、これをBFと呼ぶ。なお、心拍変動や血圧変動が生じるとAPWの波形が瞬時に変動するが、APW波形の瞬時変動の要因の一つに、PCGの卓越周波数の変動があると考えられる。
被験者の個人差により、体幹の音響振動の伝達特性に関してもインピーダンスが異なり、BFを見つけにくい場合もある。そこで、対数差分法を適用して心尖拍動波の高調波成分が消失する周波数(高調波成分のパワースペクトルが非常に小さくなり、実質的に無視できるレベルの周波数)を見つける。APWの加算平均処理は時間窓8.2秒で、90%オーバーラップでフーリエ変換を行う。加算平均処理された波形を両対数軸表示で表す。両対数軸表示のパワースペクトル波形は、加法定理が使えるためである。なお、心音にはPCGの波形を用いる。対数差分法を適用することで、PCGの0.5~20Hzの周波数帯域のパワースペクトルの絶対値が大きくなり、かつパワースペクトルの波形を逆位相にできる。これにより、心尖拍動の高調波成分と心音の不規則振動のパワースペクトルを小さくし、BFを見つけ易くする。
(APWの高調波調和振動消失周波数からのBF抽出の結果)
図11は、APW×PCG-1を用いてのBFを抽出する手順を示したフローチャートであり、次の(1)から(10)は図11中の丸囲み数字に該当する。以下、計算の手順と着眼点を説明する。
(1) 4SR dataからフィルタ処理を行わず、APWを求め、周波数解析する。以下ではこれをAPWと表す。
(2) APWに対して加算平均処理を行う(時間窓8.2秒で、90%オーバーラップ)。
(3) PCGから波形を抽出し、周波数解析する。以下ではこれをPCGと表す。
(4) (2)と同様の加算平均処理(時間窓8.2秒, 90%オーバーラップ)を行う。
(5) (2)と(4)で求められたAPW とPCGのパワースペクトルAPW、PCGを用いてAPW×PCG -1を生成し、Breakpointを見つける。
(6) APW×PCG-1 波形上にあるBreakpointから、ゆらぎをもつ心尖拍動波の高調波消失周波数とホワイトノイズとなる心音の不規則振動成分出現周波数を同定する。
(7) APW×PCG -1上の高調波消失点からBFラインを引き、BFラインとAPWとの交点をBFとする。
(8) 0.5Hz~BFがCAB帯域(以後、CAB (0.5-BF))となり、BF~50HzがCAS帯域(以後、CAS(BF-50))となる。
(9) APWに0.5Hz~BFのバンドパスフィルタを適用し、CABの高調波成分がBF近傍で減少していることを確認する。
(10) APWにBF~50Hzのバンドパスフィルタを適用し、BF近傍では周波数に依らずパワースペクトルが変化していることを確認する。
図12は、両軸線形表示で心拍数(HR)別(58~93/min)にまとめた CABとCASの周波数解析結果である。この図から、BFでのCABの高調波成分の消失、BF近傍からCASの不規則振動の出現、およびBFの HR依存性が理解でき、本発明の手法が、CABとCASを分離してその特徴を可視化できることがわかる。
次に、図13~図16に、APWの高調波調和振動消失周波数に基づくBF抽出法によって描記されたCAB、CAS波形を示す。平均心拍数58、71、79、93/minの被験者から得られたF-APW、R-APW、L-APWから抽出されたFrontCAB(0.5-BF)、FrontCAS(5-BF)、RearCAB(0.5-BF)、LumbarCAB(0.5-BF)および PCGならびにFrontCAS(BF-50)、RearCAS(BF-50)、LumbarCAS(BF-50)の各処理波形を示す。描記時間は1.5秒間である。括弧内は適応したフィルターの周波数帯域を示す。各CAB、各CAS波形の縦軸、横軸のレンジは計測部位毎で統一されている。4人の被験者のFrontCAB(0.5-BF)は、基本調波が主となる心尖拍動波が描記されていることがわかる。
得られた結果の考察から、FrontCAB(5-BF)は、複数の5~10Hzの波形の組み合わせで形成されていることが分かった。一方、RearCAB(0.5-BF) 、LumbarCAB(0.5-BF)については、FrontCAB(0.5-BF)に示す波形より周波数の高い波形が主体の調和振動波形となり、FrontCAB(0.5-BF)とは異なる波形になった。また、心音は、複数の振動成分と複数の振動波形が合成された高周波波形からなる不規則振動であった。
以上より、F-APWは、心尖拍動波と近似した波形となった。そして、F-APWから心尖拍動波と心音の各波形を生成できた。R-APWとL-APWは、圧力脈動による共振現象が起因して異なる波形になったと考えられる。但し、F-APWと異なる波形となったR-APWとL-APWも、振動解析を適用することで心尖拍動を含む心臓の運動に関する振動情報(CAB)と心音(CAS)を抽出でき、臨床的意義のあるものとなる可能性が示された。
1 生体信号検出センサ(4SR)
10 三次元立体編物
20 収容フィルム
30 マイクロフォン
40 カバーフィルム
50 ゲル
100 心尖拍動検出装置
110 周波数解析手段
120 境界周波数特定手段
130 心尖拍動波形抽出手段
1000 生体信号検出センサ(3SR)

Claims (9)

  1. 体表面を介して生体信号検出センサにより得られる生体信号データを周波数解析する周波数解析手段と、
    前記周波数解析手段から得られる前記生体信号データの周波数解析結果から、前記生体信号データ中、心尖拍動により生じる振動と心音により生じる振動との境界周波数を求める境界周波数特定手段と、
    前記境界周波数により区分される前記心尖拍動の波形を抽出する心尖拍動波形抽出手段と
    を有することを特徴とする心尖拍動検出装置。
  2. 前記境界周波数特定手段は、
    前記周波数解析結果中、調和振動と不規則振動との境界となるパワースペクトルの急変部を求め、この急変部を基準に前記境界周波数を特定する手段を含む請求項1記載の心尖拍動検出装置。
  3. 前記境界周波数特定手段は、
    前記周波数解析結果に、同時に測定した心音データの周波数解析結果を加味して、前記パワースペクトルの急変部を求める手段を含む請求項2記載の心尖拍動検出装置。
  4. 前記境界周波数特定手段は、
    前記生体信号データ及び前記心音データの各周波数解析結果をそれぞれ加算平均処理した波形を対数差分法を用いて両対数軸表示する両対数軸表示手段と、両対数軸表示した波形からゆらぎの変化点を求め、このゆらぎの変化点を前記パワースペクトルの急変部として特定する急変部特定手段と
    を有する請求項3記載の心尖拍動検出装置。
  5. 体表面を介して生体信号検出センサにより得られる生体信号データを処理し、コンピュータを、心尖拍動検出装置として機能させるコンピュータプログラムであって、
    前記生体信号データを周波数解析する手順と、
    その周波数解析結果から、前記生体信号データ中、心尖拍動により生じる振動と心音により生じる振動との境界周波数を特定する手順と、
    前記境界周波数により区分される前記心尖拍動の波形を抽出する手順と
    を前記コンピュータに実行させるコンピュータプログラム。
  6. 前記境界周波数を特定する手順では、
    前記周波数解析結果中、調和振動と不規則振動との境界となるパワースペクトルの急変部を求め、この急変部を基準に前記境界周波数を特定する
    請求項5記載のコンピュータプログラム。
  7. 前記境界周波数を特定する手順では、
    前記周波数解析結果に、同時に測定した心音データの周波数解析結果を加味して、前記パワースペクトルの急変部を求める
    請求項6記載のコンピュータプログラム。
  8. 前記境界周波数を特定する手順では、
    前記生体信号データ及び前記心音データの各周波数解析結果をそれぞれ加算平均処理した波形を対数差分法を用いて両対数軸表示する両対数軸表示し、
    両対数軸表示した波形からゆらぎの変化点を求め、このゆらぎの変化点を前記パワースペクトルの急変部として特定する
    請求項7記載のコンピュータプログラム。
  9. 前記請求項5~8のいずれか1に記載のコンピュータプログラムが記録された記録媒体。
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