本発明は、トイレ床構造、特に、男性用小便器を使用することによってトイレ床の表面に生じる汚垂れを洗い流すことのできる対策を講じたトイレ床構造に関する。
小便器、特に男性用小便器では、尿跳ねや尿垂れに起因する汚垂れが小便器の下方やその周囲に生じることが多く、この種の汚垂れは、トイレ空間の美観や見た目の清潔感を阻害するだけでなく、臭気を発生したりして非衛生的でもある。そこで、この種の汚垂れは、清掃員が定期的、あるいは必要に応じて清掃により取り除いている。しかしながら、商業施設やオフィスビル、あるいはパーキングエリアや道の駅といった公共設備のトイレでは、1箇所のトイレに設置されている小便器の数が多いために清掃作業に多大な労力と時間を費やしていて、これを改善することのできる対策を講じることが望まれている。
このような状況下で、先行例には、床構造体の床板に1つ又は複数の噴出孔を形成しておき、この噴出孔に連続的又は間欠的に給水することによって、床板の表面に生じた汚垂れを洗い流す、という対策を講じることが開示されている(たとえば、特許文献1参照)。
図12及び図13は特許文献1によって開示されている床構造体を示していて、図12は床構造体の平面図、図13は床構造体の要部の断面図である。この床構造体では、壁面1に取り付けられた小便器である便器2の下方に設置された左右の床板3,3に多数の水の噴出孔4…が設けられていると共に、床板3,3の下方に給水パイプ5が設けられている。そして、給水パイプ5には多数の給水孔6…が形成されていて、それらの給水孔6…の1つ1つが、上記した床板3,3の多数の噴出孔4…の1つ1つに各別に対応している。床板3,3は、合成樹脂繊維と混合した砂利などの骨材を用いて形成されていて、透水性を発揮する。床板3,3の下方に防水パン7が設置されていて、上記した給水パイプ5はこの防水パン7に設けられた溝部8に敷設されている。
この床構造体において、給水パイプ5の給水孔6…から一定の水圧で矢印のように吐出された水は、床板3,3の噴出孔4…から溢れ出て床板3,3の表面に達する。このため、床板3,3の表面に生じている汚垂れが水で洗い流され、透水性を有する床板3,3を介して防水パン7の中に排出される。
ところが、この床構造体では、床板3,3の1つの噴出孔4から溢れ出た水で汚垂れを洗い流せる範囲が1つの噴出孔4の周囲だけに限定されて非常に狭くならざるを得ない。そのため、図12に示されているように、床板3,3には1箇所に多数の噴出孔4…が2列に亘って列設されていることに加え、便器使用者の立ち位置の両足Fのそれぞれの先端部分、踵部分、便器2の手前下方部分といった複数箇所に多数の噴出孔4…が2列に亘って列設されていて、これら各箇所の多数の噴出孔4…から水を溢れ出させることによって、汚垂れを洗い流せる範囲を広くするような工夫がなされているものと考えられる。
しかしながら、特許文献1の床構造体において、砂利などの骨材を用いて形成されている床板3,3に、図10に示したような複数箇所に多数の噴出孔4…を2列に亘って列設することは容易ではなく、噴出孔4…の形成箇所を起点とする亀裂や割れを生じやすくなって、床板3,3の強度が低下しやすいということも云える。また、給水パイプ5の給水孔6…の1つ1つを、床板3,3の多数の噴出孔4…の1つ1つに各別に対応させて給水パイプ5を敷設することに時間と熟練を要し、それだけ多くの施工時間や施工コストが必要になるであろうと考えられる。
本発明は、以上の状況に鑑みてなされたものであり、最少個数である1つだけの散水ノズルから散水する水によって1基の便器下の広い範囲に生じた汚垂れを効率よく洗い流すことのできるトイレ床構造を提供することを目的としている。また、便器下の広い範囲に生じた汚垂れを効率よく洗い流すことのできる作用とトイレ床に美観を付与する作用とを相乗させてトイレ空間の美観や清潔感を向上させることのできるトイレ床構造を提供することを目的としている。
本発明に係るトイレ床構造は、便器使用者の立ち位置に配備された床パネルを有するトイレ床構造であって、上記床パネルが、排水溝の上部開口部に装備された透水性を有する蓋体によって形成され、この蓋体に、水を当該蓋体の上面の近傍箇所でその上面に散水してこの蓋体の上面の汚垂れを洗い流す散水ノズルが設けられてなる、というものである。
この発明によれば、蓋体に設けられた散水ノズルが、水を蓋体の上面の近傍箇所でその上面に散水するので、水が蓋体の上面の広い範囲に散水されるようになる。このため、蓋体によって形成された床パネルに生じている汚垂れが少ない数の散水ノズル、通常は最少個数である1つだけの散水ノズルから散水される水によって洗い流される。そして、汚垂れは水と共に透水性の蓋体を通過して排出される。また、蓋体に設ける散水ノズルの個数を最少個数である1つだけにできるので、蓋体が亀裂や割れを生じやすくなったり、蓋体の強度が低下したりすることがないだけでなく、散水ノズルが設けられた蓋体を施工性よく安価に製作することが可能になる。
本発明では、相互間隙間が水通路として作用する骨材の集合体によって形成され、この集合体が、当該集合体の主要部を形成しているベース層と、このベース層の上側に施工されてこのベース層の表面を覆って装飾性を発揮する表層とに分かれている、という構成を採用することが望ましい。これによれば、便器下の広い範囲に生じた汚垂れを効率よく洗い流すことのできる作用とトイレ床に美観を付与する作用とが相乗してトイレ空間の美観や清潔感が向上する。
本発明において、上記散水ノズルは、水を上記蓋体の上面に沿う放射方向に噴射して散水するものであることが望ましい。これによれば、便器使用者の足元の周囲の広い範囲に生じている汚垂れが、散水ノズルから放射方向に噴射される水によって洗い流される。
本発明では、上記散水ノズルによる水の散水タイミングが、上記便器の使用中又は不使用中を判断するセンサーの出力信号を受信する制御回路により、上記センサーの上記判断に関連づけて制御される、という構成を採用することが可能である。これによれば、散水ノズルによる水の散水タイミングを自動制御することが可能になる。
本発明に係るトイレ床構造によれば、最少個数である1つだけの散水ノズルから散水する水によって一基の便器下の広い範囲に生じた汚垂れを効率よく洗い流すことができるため、清掃員が定期的、あるいは必要に応じて清掃により汚垂れを取り除く負担を大幅に軽減することが可能になる。また、散水ノズルの設置による床パネルの強度低下を来したり、散水ノズルの設置によって亀裂や割れの発生原因を生じさせたりすることがない。その上、床パネルに散水ノズルを設置するときの施工性に優れ、施工コストも安く付くという効果を奏する。
本発明の実施形態に係るトイレ床構造の概略構成を説明的に示した正面図である。
同トイレ床構造の概略構成を説明的に示した平面図である。
同トイレ床構造の概略構成を説明的に示した側面図である。
散水ノズルの設置状態を例示した概略断面図である。
散水ノズル本体の平面図である。
具体例としての蓋体を一部省略して示した平面図である。
同蓋体の側面図である。
図7のVIII部拡大断面図である。
同蓋体11の部分断面図
排水溝と蓋体とを示した概略分解斜視図である。
他の実施形態を説明的に示した側面図である。
特許文献1によって提案されている床構造体の平面図である。
同床構造体の要部の断面図である。
図1は本発明の実施形態に係るトイレ床構造の概略構成を説明的に示した正面図、図2は同トイレ床構造の概略構成を説明的に示した平面図、図3は同トイレ床構造の概略構成を説明的に示した側面図、図4は散水ノズル20の設置状態を例示した概略断面図、図5は散水ノズル本体23の平面図である。
図1~図3のように、このトイレ床構造は、男性用小便器でなる便器100の下方の床に適用されていて、便器使用者の立ち位置に配備された床パネル10を有する。便器100はトイレ壁面110に設置されていて、便器設置箇所の上方に、上記立ち位置の人の有無などを検出して便器100が使用中であるか不使用中であるかを判断するセンサー200が設置されている。そして、便器の使用中又は不使用中を判断するセンサー200の出力信号を制御回路(制御パネル)300が受信すると、この制御回路300がセンサー200の出力信号に基づき、一定の条件に従って図示していない便器洗浄用の給水手段を制御し、この給水手段が所定のタイミングで便器100の内面に洗浄水を流して便器100の内面を洗浄するようになっている。なお、図3において、符号25は、散水ノズル20に接続された給水管を示している。
床パネル10は、図3に示した排水溝30の上部開口部31に装備された蓋体11によって形成されていて、この蓋体11がその全体に亘って透水性を有している。図示例においては、1基の便器100に1枚の床パネル10を形成している蓋体11が対応していて、この蓋体11の便器100の下方手前箇所に位置する1箇所だけに水を散水する散水ノズル20が設置されている。
図4に例示したように、散水ノズル20は、蓋体11に設けられている取付け孔22に嵌合状に装着されているノズル筒21を介して蓋体11に設置されている。散水ノズル20は、円筒壁23aの上部に通水口23cを有する上壁23bを一体に有する散水ノズル本体23と、この散水ノズル本体23に組み合わされる平面視円形のノズル蓋24とを備えている。さらに具体的には、散水ノズル本体23の上壁23bの中央部に形成されている凹入部23dにノズル蓋24に具備された筒状座部24aが載架されている。そして、ノズル蓋24が、ボルトBを使用して散水ノズル本体23の上壁23bに取り付けられている。ノズル蓋24を散水ノズル本体23の上壁23bに取り付けるボルトBは、鍔形頭部B1がノズル蓋24の中央部の段付き孔部24bに収容され、ねじ軸B2が散水ノズル本体23の上壁23bの中央部の貫通孔部23eの内壁に形成された雌ねじにねじ合わされる。このようなボルトBを使用して散水ノズル本体23にノズル蓋24を取り付けた状態では、図4に拡大して示したように、散水ノズル本体23の上壁23bとノズル蓋24との間に、上記通水口23cが臨む広い水溜め空間26が環状に形成されると共に、散水ノズル本体23の円筒壁23aの上端面とノズル蓋24との間に、スリット状の狭い散水口27が環状に形成され、しかも、この散水口27は、上記水溜め空間26に連通して外側ほど開口幅が狭くなった外窄まり空間27aと、この外窄まり空間27aに連通して外側ほど開口幅が広くなった外拡がり空間27bとを有している。なお、散水ノズル本体23の円筒壁23aの上端面とノズル蓋24との間にスリット状の狭い散水口27が環状に形成させるための対策として、図例では、ノズル蓋24の下面を外上がり傾斜面24cに形成しているのに対して、散水ノズル本体23の円筒壁23aの上端面に外上がり傾斜面23fと水平面23gとを形成している。このように構成された散水ノズル20は、図4のように蓋体11の取付け孔22に嵌合状に装着されているノズル筒21に内嵌合状に装備され、かつ、散水ノズル本体23の円筒壁23aに、給水管25の端部が接続される(図3参照)。ここで説明した構成を有する散水ノズル20を採用すると、給水管25(図3参照)を通じて供給された水が、通水口23cを経て広い水溜め空間26に供給され、この水溜め空間26から散水口27を通じて放出される。このため、散水口27から放出された水が水膜を形成して蓋体11の上面に沿う方向に水膜を形成して散水され、このような水膜を形成している水によって蓋体11の上面に生じている汚垂れが満遍なく洗い流される。特にこの散水ノズルでは、散水口27が上記した外窄まり空間27aと外拡がり空間27bとを有していることにより、散水された水膜が広い範囲に行き渡るようになるため、蓋体11の上面の広い範囲に汚垂れが生じていても、その汚垂れを満遍なく洗い流すことができるという利点がある。図例では、図5に示したように散水ノズル本体23の上壁23bの通水口23cが等角度置きの6箇所に設けられているけれども、通水口23cの数や形状は図例に限定されない。なお、散水口27から水膜を形成して放出される水は蓋体11の上面に流れ出るようになっていることが望ましく、そのようになっていると水跳ねが生じにくくなるという利点がある。
以上説明した床構造によれば、散水ノズル20が、図4の矢印aや図5の矢印bのように、水を蓋体11の上面の近傍箇所でその上面に沿う放射方向に前拡がりに噴射するので、水が蓋体11の上面の広い範囲に散水されるようになり、その到達範囲も広くなる。このため、蓋体11によって形成された床パネル10に生じている汚垂れが最少個数である1つだけの散水ノズル20から散水される水によって洗い流される。そして、汚垂れは水と共に透水性の蓋体11を通過して図5の矢印cのように排水溝30により回収され、その排水溝30から図示していない排水路を経て排出される。
このトイレ床構造において、散水ノズル20による水の散水タイミングは、便器100の使用中又は不使用中を判断するセンサー200の出力信号を受信する制御回路300により、センサー200の上記判断に関連づけて制御させることが可能である。たとえば、便器100が使用中であることをセンサー200が感知しているときには、制御回路300が図3に示した給水管25に介在されているバルブVを閉じて散水ノズル20からの水の散水を停止するという便器使用中モードを設定することができる。この便器使用中モードでは、散水ノズル20から散水された水が便器使用者にかかることはない。また、便器使用者が使用後に便器100の前から立ち去った後では、便器100が不使用中であることをセンサー200が感知し、制御回路300がバルブVを開いて散水ノズル20からの水の散水を開始するという便器不使用中モードを設定することができる。この便器不使用中モードは、制御回路に組み込まれたタイマー回路によって一定時間だけ継続されるようにすることができるだけでなく、便器不使用中モードの継続中に、便器100が使用されるようになると、便器100が使用中であることをセンサー200が感知して上記した便器使用中モードに切り替わるようにすることも可能である。さらに、便器100が長時間使用されないときに、上記した便器不使用中モードが間欠的に設定されるように制御することも可能である。
この実施形態において、散水ノズル20によって水が散水される範囲は、散水ノズル20の設置箇所を中心とする図2に一点鎖線Z1で示した円形範囲に定めることも、散水ノズル20の設置箇所を中心とする図2に一点鎖線Z2で示した楕円形範囲に定めることも可能である。散水範囲を円形範囲に定めると、便器100の下方の奥部分にまで水を到達させることが容易になるのに対して、散水範囲を楕円形範囲に定めると、蓋体11でなる床パネル10の前端縁を超えて水が手前に散水されなくすることが容易になる。したがって、散水範囲を円形範囲に定めるか、楕円形範囲に定めるかは、蓋体11でなる床パネル10の上方での便器100の手前側への出幅や、便器100の下方での床パネル10の手前側への出幅などを勘案し、汚垂れが生じる範囲に水が到達し、かつ、トイレ内の人の通行路にまでは水が到達しないようにすることなどを考慮して定めておけばよい。こうしておくと、水の到達範囲が過度に拡がらないようになってトイレ全体や便器100の使い勝手が損なわれない。散水範囲を円形範囲に定めるためには、散水ノズル20の複数の噴射口21の口径を同一にすることが有効であり、散水範囲を楕円形範囲に定めるためには、複数の噴射口21のなかで横向きの噴射口21の口径よりも手前方向及び奥行き方向に向いている噴射口21の口径を小さくしておくことが有効である。なお、床パネル10を形成している蓋体11の横幅が800mm、奥行きが600mmであるとすると、散水ノズル20の設置箇所を中心とする水の到達範囲を直径400mm程度の円形範囲、又は、長軸径400mm程度の楕円形範囲にしておくことが有益である。
図1及び図2では、2基の便器100が横並びに設置されているトイレのトイレ床構造を示しているけれども、1基の便器100だけが設置されているトイレや、3基以上の多数の便器100が横並びに設置されているトイレについても上記同様のトイレ床構造を適用することができる。
次に、床パネル10に使用可能な蓋体11の具体的構成を例示して説明する。
図6は具体例としての蓋体11を一部省略して示した平面図、図7は同蓋体11の側面図、図8は図7のVIII部拡大断面図、図9は同蓋体11の部分断面図、図10は排水溝30と蓋体11とを示した概略分解斜視図である。
図9のように、蓋体11は、ベース層12と表層13とを有する骨材の集合体でなる。集合体を形成している骨材には、砂利や砕石、細砂などを適宜選択使用することが可能である。この蓋体11では、集合体を形成している骨材の相互間隙間が水通路として作用して高い排水性能を発揮する。また、集合体のベース層12が、蓋体11の主要部を形成していて、当該蓋体11に要求される強度をこのベース層12が担っている。これに対し、集合体の表層13は蓋体11に要求される装飾性を発揮する。
この実施形態の蓋体11では、表層13の骨材として天然石である乾燥砂利が使用されている。天然石である乾燥砂利は天然化粧砂利とも称され、造園やガーデニングの分野でも使用されている。この種の乾燥砂利は、採石地域などに応じて様々な名称の砂利が知られている。具体例としては、琥珀、伊勢錆、吉備、黄金、淡路砂利、猿投、錦、南部、金華、東雲、花水木、桂林、ヤマトざくら、紅サンゴ、大納言、象牙、瀬戸内、庵治、雅、黒玉砂利、淡那智、御浜、大磯、青海、青玉砂利、などが知られている。これらの乾燥砂利は、それぞれが独特の色調や光沢といった表面性状を備えていて、数種類を混合して使用した場合は勿論、個々に単独で使用しても、高い装飾性を発揮する。
表層13の骨材は粒径が5mm前後に揃えられていて、ベース層12の骨材よりも粒径(平均粒径)が小さい。また、実施形態の蓋体11では、表層13の層厚が10mm以下になっている。これは、表層13に使用される骨材が比較的高価な天然石である乾燥砂利でなり、主な使用目的が装飾性を高めるためであるので、表層13の骨材の使用量を必要最少限度にすることが、蓋体11の低コスト化を図りやすくすることに役立ち、当該蓋体11に装飾性を持たせるためには、表層13の層厚は10mmもあれば十分であることによる。また、実施形態の蓋体11では、表層13及びベース層12のそれぞれの骨材が無機繊維を混合した樹脂バインダーで固められている。このように骨材が無機繊維を混合した樹脂バインダーで固められていると、骨材の相互間に広い隙間が形成されて高い排水性能が発揮されるようになるだけでなく、ベース層12や表層13の集合体の形崩れも起こりにくくなる。この作用は、無機繊維にセラミック繊維又はガラス繊維を採用し、樹脂バインダーにエポキシ系樹脂バインダーを採用することによって顕著に発揮されることが判っている。
図6~図8に示した蓋体11には、散水ノズル20の取付け孔22が設けられているほか、蓋体11の下面にはクッションゴム15が設けられている。また、蓋体11の周囲には縁枠16が備わっている。さらに、蓋体11のベース層12と表層13との間にステンレス製のワイヤーメッシュ17が介在されている。このような蓋体11は、図10に示したように、排水溝30に設けられている蓋受け段部32を利用してその上部開口部31に嵌め込み状に装備される。なお、図10に示した排水溝30の底面330には水流れ勾配が付与されていて、蓋体11を通過して排水溝30に回収された汚垂れを含む水が、排水溝30の底面330を流れて排水路を経て排出される。
図6~図10を参照して説明した蓋体11の1箇所だけに散水ノズル20を設けておくと、蓋体11が亀裂や割れを生じやすくなったり、蓋体11の強度が低下したりすることがないだけでなく、散水ノズル20が設けられた蓋体11を施工性よく安価に製作することが可能になる。
図11は他の実施形態を説明的に示した側面図である。上記した実施形態では、蓋体11が排水溝30の上部開口部31に直接に装備されている事例を説明したけれども、この点は、図11のように、床パネル10を形成する蓋体11を、トイレに既存の汚垂れ石400の上に設置することも可能である。なお、既存の汚垂れ石400は、図示していない排水溝の上に配備されているため、蓋体11は、排水溝の上部開口部に装備されていることになる。
10 床パネル
11 蓋体
12 ベース層
13 表層
20 散水ノズル
30 排水溝
31 排水溝の上部開口部
200 センサー
300 制御回路
本発明は、トイレ床構造、特に、男性用小便器を使用することによってトイレ床の表面に生じる汚垂れを洗い流すことのできる対策を講じたトイレ床構造に関する。
小便器、特に男性用小便器では、尿跳ねや尿垂れに起因する汚垂れが小便器の下方やその周囲に生じることが多く、この種の汚垂れは、トイレ空間の美観や見た目の清潔感を阻害するだけでなく、臭気を発生したりして非衛生的でもある。そこで、この種の汚垂れは、清掃員が定期的、あるいは必要に応じて清掃により取り除いている。しかしながら、商業施設やオフィスビル、あるいはパーキングエリアや道の駅といった公共設備のトイレでは、1箇所のトイレに設置されている小便器の数が多いために清掃作業に多大な労力と時間を費やしていて、これを改善することのできる対策を講じることが望まれている。
このような状況下で、先行例には、床構造体の床板に1つ又は複数の噴出孔を形成しておき、この噴出孔に連続的又は間欠的に給水することによって、床板の表面に生じた汚垂れを洗い流す、という対策を講じることが開示されている(たとえば、特許文献1参照)。
図12及び図13は特許文献1によって開示されている床構造体を示していて、図12は床構造体の平面図、図13は床構造体の要部の断面図である。この床構造体では、壁面1に取り付けられた小便器である便器2の下方に設置された左右の床板3,3に多数の水の噴出孔4…が設けられていると共に、床板3,3の下方に給水パイプ5が設けられている。そして、給水パイプ5には多数の給水孔6…が形成されていて、それらの給水孔6…の1つ1つが、上記した床板3,3の多数の噴出孔4…の1つ1つに各別に対応している。床板3,3は、合成樹脂繊維と混合した砂利などの骨材を用いて形成されていて、透水性を発揮する。床板3,3の下方に防水パン7が設置されていて、上記した給水パイプ5はこの防水パン7に設けられた溝部8に敷設されている。
この床構造体において、給水パイプ5の給水孔6…から一定の水圧で矢印のように吐出された水は、床板3,3の噴出孔4…から溢れ出て床板3,3の表面に達する。このため、床板3,3の表面に生じている汚垂れが水で洗い流され、透水性を有する床板3,3を介して防水パン7の中に排出される。
ところが、この床構造体では、床板3,3の1つの噴出孔4から溢れ出た水で汚垂れを洗い流せる範囲が1つの噴出孔4の周囲だけに限定されて非常に狭くならざるを得ない。そのため、図12に示されているように、床板3,3には1箇所に多数の噴出孔4…が2列に亘って列設されていることに加え、便器使用者の立ち位置の両足Fのそれぞれの先端部分、踵部分、便器2の手前下方部分といった複数箇所に多数の噴出孔4…が2列に亘って列設されていて、これら各箇所の多数の噴出孔4…から水を溢れ出させることによって、汚垂れを洗い流せる範囲を広くするような工夫がなされているものと考えられる。
しかしながら、特許文献1の床構造体において、砂利などの骨材を用いて形成されている床板3,3に、図12に示したような複数箇所に多数の噴出孔4…を2列に亘って列設することは容易ではなく、噴出孔4…の形成箇所を起点とする亀裂や割れを生じやすくなって、床板3,3の強度が低下しやすいということも云える。また、給水パイプ5の給水孔6…の1つ1つを、床板3,3の多数の噴出孔4…の1つ1つに各別に対応させて給水パイプ5を敷設することに時間と熟練を要し、それだけ多くの施工時間や施工コストが必要になるであろうと考えられる。
本発明は、以上の状況に鑑みてなされたものであり、最少個数である1つだけの散水ノズルから散水する水によって1基の便器下の広い範囲に生じた汚垂れを効率よく洗い流すことのできるトイレ床構造を提供することを目的としている。また、便器下の広い範囲に生じた汚垂れを効率よく洗い流すことのできる作用とトイレ床に美観を付与する作用とを相乗させてトイレ空間の美観や清潔感を向上させることのできるトイレ床構造を提供することを目的としている。
本発明に係るトイレ床構造は、便器使用者の立ち位置に配備された床パネルを有するトイレ床構造であって、上記床パネルが、排水溝の上部開口部に装備された透水性を有する蓋体によって形成され、この蓋体には、1基の便器に対する1つだけの散水ノズルが設けられてなり、上記蓋体は、相互間隙間が水通路として作用する骨材の集合体によって形成され、上記散水ノズルが、円筒壁の上部に通水孔を備えた上壁を有する散水ノズル本体と、この散水ノズル本体に組み合わされる平面視円形のノズル蓋とを備えていて、上記円筒壁が、蓋体に設けられている取付け孔に嵌合状に装着されているノズル筒を介して蓋体に設置され、散水ノズル本体の上記上壁とノズル蓋との間に、上記通水口を経て水が供給される広い水溜め空間が環状に形成され、散水ノズル本体の円筒壁の上端面とノズル蓋との間に、上記水溜め空間に連通するスリット状の狭い散水口が環状に形成されていると共に、この散水口は、ノズル蓋の下面によって形成された外上がり傾斜面と散水ノズル本体の円筒壁の上端面との間の隙間によって形成されて外側ほど開口幅が狭くなった外窄まり空間と、この外窄まり空間に連通して上記外上がり傾斜面と散水ノズル本体の円筒壁の上端面及びノズル筒の上端面との間の隙間によって形成されて外側ほど開口幅が広くなった外拡がり空間とを有していると共に、上記散水ノズル本体の円筒壁の上端面及び上記ノズル筒の上端面が上記蓋体の上面と同一高さ位置に配備され、散水ノズルの上記散水口から水が水膜を形成して蓋体の上面に沿う方向に噴射して散水されるようになっている、というものである。
この発明によれば、蓋体に設けられた散水ノズルが、水を蓋体の上面の近傍箇所でその上面に散水するので、水が蓋体の上面の広い範囲に散水されるようになる。このため、蓋体によって形成された床パネルに生じている汚垂れが少ない数の散水ノズル、具体的には最少個数である1つだけの散水ノズルから散水される水によって洗い流される。そして、汚垂れは水と共に透水性の蓋体を通過して排出される。また、蓋体に設ける散水ノズルの個数を最少個数である1つだけにできるので、蓋体が亀裂や割れを生じやすくなったり、蓋体の強度が低下したりすることがないだけでなく、散水ノズルが設けられた蓋体を施工性よく安価に製作することが可能になる。特に、この発明では、散水ノズルが、広い環状の水溜め空間とこの水溜め空間に連通するスリット状の狭い環状の散水口とを有していると共に、この散水口が、外窄まり空間とこの外窄まり空間に連通する外拡がり空間とを有していると共に、散水ノズル本体の円筒壁の上端面及び上記ノズル筒の上端面が蓋体の上面と同一高さ位置に配備され、散水ノズルの散水口から水が水膜を形成して蓋体の上面に沿う方向に噴射して散水されるようになっていることにより、水溜め空間に供給された水が、水膜を形成して放出されるようになる。そして、水膜の下面が散水ノズル本体の円筒壁の上端面及びノズル筒の上端面の延長方向に噴射されて蓋板の上面に沿って拡がりやすく、水膜の上面がノズル蓋の外上がり傾斜面の延長方向に噴射されて蓋板の広い範囲に拡がりやすくなる。これにより、蓋体が透水性を有しているとしても、放出された水がすぐに蓋体を通して排水されることなく、便器下の広い範囲に水膜状になって行き亘り、広い範囲に生じた汚垂れが効率よく洗い流されようになる。
本発明では、上記蓋体を形成している骨材の集合体が、当該集合体の主要部を形成しているベース層と、このベース層の上側に施工されてこのベース層の表面を覆って装飾性を発揮する表層とに分かれている、という構成を採用することが望ましい。これによれば、便器下の広い範囲に生じた汚垂れを効率よく洗い流すことのできる作用とトイレ床に美観を付与する作用とが相乗してトイレ空間の美観や清潔感が向上する。
本発明では、上記散水ノズルによる水の散水タイミングが、上記便器の使用中又は不使用中を判断するセンサーの出力信号を受信する制御回路により、上記センサーの上記判断に関連づけて制御される、という構成を採用することが可能である。これによれば、散水ノズルによる水の散水タイミングを自動制御することが可能になる。
本発明に係るトイレ床構造によれば、最少個数である1つだけの散水ノズルから散水する水によって一基の便器下の広い範囲に生じた汚垂れを効率よく洗い流すことができるため、清掃員が定期的、あるいは必要に応じて清掃により汚垂れを取り除く負担を大幅に軽減することが可能になる。また、散水ノズルの設置による床パネルの強度低下を来したり、散水ノズルの設置によって亀裂や割れの発生原因を生じさせたりすることがない。その上、床パネルに散水ノズルを設置するときの施工性に優れ、施工コストも安く付くという効果を奏する。
本発明の実施形態に係るトイレ床構造の概略構成を説明的に示した正面図である。
同トイレ床構造の概略構成を説明的に示した平面図である。
同トイレ床構造の概略構成を説明的に示した側面図である。
散水ノズルの設置状態を例示した概略断面図である。
散水ノズル本体の平面図である。
具体例としての蓋体を一部省略して示した平面図である。
同蓋体の側面図である。
図7のVIII部拡大断面図である。
同蓋体11の部分断面図
排水溝と蓋体とを示した概略分解斜視図である。
他の実施形態を説明的に示した側面図である。
特許文献1によって提案されている床構造体の平面図である。
同床構造体の要部の断面図である。
図1は本発明の実施形態に係るトイレ床構造の概略構成を説明的に示した正面図、図2は同トイレ床構造の概略構成を説明的に示した平面図、図3は同トイレ床構造の概略構成を説明的に示した側面図、図4は散水ノズル20の設置状態を例示した概略断面図、図5は散水ノズル本体23の平面図である。
図1~図3のように、このトイレ床構造は、男性用小便器でなる便器100の下方の床に適用されていて、便器使用者の立ち位置に配備された床パネル10を有する。便器100はトイレ壁面110に設置されていて、便器設置箇所の上方に、上記立ち位置の人の有無などを検出して便器100が使用中であるか不使用中であるかを判断するセンサー200が設置されている。そして、便器の使用中又は不使用中を判断するセンサー200の出力信号を制御回路(制御パネル)300が受信すると、この制御回路300がセンサー200の出力信号に基づき、一定の条件に従って図示していない便器洗浄用の給水手段を制御し、この給水手段が所定のタイミングで便器100の内面に洗浄水を流して便器100の内面を洗浄するようになっている。なお、図3において、符号25は、散水ノズル20に接続された給水管を示している。
床パネル10は、図3に示した排水溝30の上部開口部31に装備された蓋体11によって形成されていて、この蓋体11がその全体に亘って透水性を有している。図示例においては、1基の便器100に1枚の床パネル10を形成している蓋体11が対応していて、この蓋体11の便器100の下方手前箇所に位置する1箇所だけに水を散水する散水ノズル20が1つだけ設置されている。
図4に例示したように、散水ノズル20は、蓋体11に設けられている取付け孔22に嵌合状に装着されているノズル筒21を介して蓋体11に設置されている。散水ノズル20は、円筒壁23aの上部に通水口23cを有する上壁23bを一体に有する散水ノズル本体23と、この散水ノズル本体23に組み合わされる平面視円形のノズル蓋24とを備えている。さらに具体的には、散水ノズル本体23の上壁23bの中央部に形成されている凹入部23dにノズル蓋24に具備された筒状座部24aが載架されている。そして、ノズル蓋24が、ボルトBを使用して散水ノズル本体23の上壁23bに取り付けられている。ノズル蓋24を散水ノズル本体23の上壁23bに取り付けるボルトBは、鍔形頭部B1がノズル蓋24の中央部の段付き孔部24bに収容され、ねじ軸B2が散水ノズル本体23の上壁23bの中央部の貫通孔部23eの内壁に形成された雌ねじにねじ合わされる。このようなボルトBを使用して散水ノズル本体23にノズル蓋24を取り付けた状態では、図4に拡大して示したように、散水ノズル本体23の上壁23bとノズル蓋24との間に、上記通水口23cが臨む広い水溜め空間26が環状に形成されると共に、散水ノズル本体23の円筒壁23aの上端面とノズル蓋24との間に、スリット状の狭い散水口27が環状に形成され、しかも、この散水口27は、上記水溜め空間26に連通して外側ほど開口幅が狭くなった外窄まり空間27aと、この外窄まり空間27aに連通して外側ほど開口幅が広くなった外拡がり空間27bとを有している。なお、散水ノズル本体23の円筒壁23aの上端面とノズル蓋24との間にスリット状の狭い散水口27を環状に形成させるための対策として、図例では、ノズル蓋24の下面を外上がり傾斜面24cに形成しているのに対して、散水ノズル本体23の円筒壁23aの上端面に外上がり傾斜面23fと水平面23gとを形成している。このように構成された散水ノズル20は、図4のように蓋体11の取付け孔22に嵌合状に装着されているノズル筒21に内嵌合状に装備され、かつ、散水ノズル本体23の円筒壁23aに、給水管25の端部が接続される(図3参照)。ここで説明した構成を有する散水ノズル20を採用すると、給水管25(図3参照)を通じて供給された水が、通水口23cを経て広い水溜め空間26に供給され、この水溜め空間26から散水口27を通じて放出される。このため、散水口27から放出された水が水膜を形成して蓋体11の上面に沿う方向に水膜を形成して散水され、このような水膜を形成している水によって蓋体11の上面に生じている汚垂れが満遍なく洗い流される。特にこの散水ノズルでは、散水口27が上記した外窄まり空間27aと外拡がり空間27bとを有していることにより、散水された水膜が広い範囲に行き渡るようになるため、蓋体11の上面の広い範囲に汚垂れが生じていても、その汚垂れを満遍なく洗い流すことができるという利点がある。図例では、図5に示したように散水ノズル本体23の上壁23bの通水口23cが等角度置きの6箇所に設けられているけれども、通水口23cの数や形状は図例に限定されない。なお、散水口27から水膜を形成して放出される水は蓋体11の上面に流れ出るようになっていることが望ましく、そのようになっていると水跳ねが生じにくくなるという利点がある。
以上説明した床構造によれば、散水ノズル20が、水を蓋体11の上面の近傍箇所でその上面に沿う方向に前拡がりに噴射するので、水が蓋体11の上面の広い範囲に散水されるようになり、その到達範囲も広くなる。このため、蓋体11によって形成された床パネル10に生じている汚垂れが最少個数である1つだけの散水ノズル20から散水される水によって洗い流される。そして、汚垂れは水と共に透水性の蓋体11を通過して排水溝30により回収され、その排水溝30から図示していない排水路を経て排出される。
このトイレ床構造において、散水ノズル20による水の散水タイミングは、便器100の使用中又は不使用中を判断するセンサー200の出力信号を受信する制御回路300により、センサー200の上記判断に関連づけて制御させることが可能である。たとえば、便器100が使用中であることをセンサー200が感知しているときには、制御回路300が図3に示した給水管25に介在されているバルブVを閉じて散水ノズル20からの水の散水を停止するという便器使用中モードを設定することができる。この便器使用中モードでは、散水ノズル20から散水された水が便器使用者にかかることはない。また、便器使用者が使用後に便器100の前から立ち去った後では、便器100が不使用中であることをセンサー200が感知し、制御回路300がバルブVを開いて散水ノズル20からの水の散水を開始するという便器不使用中モードを設定することができる。この便器不使用中モードは、制御回路に組み込まれたタイマー回路によって一定時間だけ継続されるようにすることができるだけでなく、便器不使用中モードの継続中に、便器100が使用されるようになると、便器100が使用中であることをセンサー200が感知して上記した便器使用中モードに切り替わるようにすることも可能である。さらに、便器100が長時間使用されないときに、上記した便器不使用中モードが間欠的に設定されるように制御することも可能である。
この実施形態において、散水ノズル20によって水が散水される範囲は、散水ノズル20の設置箇所を中心とする図2に一点鎖線Z1で示した円形範囲に定めることも、散水ノズル20の設置箇所を中心とする図2に一点鎖線Z2で示した楕円形範囲に定めることも可能である。散水範囲を円形範囲に定めると、便器100の下方の奥部分にまで水を到達させることが容易になるのに対して、散水範囲を楕円形範囲に定めると、蓋体11でなる床パネル10の前端縁を超えて水が手前に散水されなくすることが容易になる。したがって、散水範囲を円形範囲に定めるか、楕円形範囲に定めるかは、蓋体11でなる床パネル10の上方での便器100の手前側への出幅や、便器100の下方での床パネル10の手前側への出幅などを勘案し、汚垂れが生じる範囲に水が到達し、かつ、トイレ内の人の通行路にまでは水が到達しないようにすることなどを考慮して定めておけばよい。こうしておくと、水の到達範囲が過度に拡がらないようになってトイレ全体や便器100の使い勝手が損なわれない。なお、床パネル10を形成している蓋体11の横幅が800mm、奥行きが600mmであるとすると、散水ノズル20の設置箇所を中心とする水の到達範囲を直径400mm程度の円形範囲、又は、長軸径400mm程度の楕円形範囲にしておくことが有益である。
図1及び図2では、2基の便器100が横並びに設置されているトイレのトイレ床構造を示しているけれども、1基の便器100だけが設置されているトイレや、3基以上の多数の便器100が横並びに設置されているトイレについても上記同様のトイレ床構造を適用することができる。
次に、床パネル10に使用可能な蓋体11の具体的構成を例示して説明する。
図6は具体例としての蓋体11を一部省略して示した平面図、図7は同蓋体11の側面図、図8は図7のVIII部拡大断面図、図9は同蓋体11の部分断面図、図10は排水溝30と蓋体11とを示した概略分解斜視図である。
図9のように、蓋体11は、ベース層12と表層13とを有する骨材の集合体でなる。集合体を形成している骨材には、砂利や砕石、細砂などを適宜選択使用することが可能である。この蓋体11では、集合体を形成している骨材の相互間隙間が水通路として作用して高い排水性能を発揮する。また、集合体のベース層12が、蓋体11の主要部を形成していて、当該蓋体11に要求される強度をこのベース層12が担っている。これに対し、集合体の表層13は蓋体11に要求される装飾性を発揮する。
この実施形態の蓋体11では、表層13の骨材として天然石である乾燥砂利が使用されている。天然石である乾燥砂利は天然化粧砂利とも称され、造園やガーデニングの分野でも使用されている。この種の乾燥砂利は、採石地域などに応じて様々な名称の砂利が知られている。具体例としては、琥珀、伊勢錆、吉備、黄金、淡路砂利、猿投、錦、南部、金華、東雲、花水木、桂林、ヤマトざくら、紅サンゴ、大納言、象牙、瀬戸内、庵治、雅、黒玉砂利、淡那智、御浜、大磯、青海、青玉砂利、などが知られている。これらの乾燥砂利は、それぞれが独特の色調や光沢といった表面性状を備えていて、数種類を混合して使用した場合は勿論、個々に単独で使用しても、高い装飾性を発揮する。
表層13の骨材は粒径が5mm前後に揃えられていて、ベース層12の骨材よりも粒径(平均粒径)が小さい。また、実施形態の蓋体11では、表層13の層厚が10mm以下になっている。これは、表層13に使用される骨材が比較的高価な天然石である乾燥砂利でなり、主な使用目的が装飾性を高めるためであるので、表層13の骨材の使用量を必要最少限度にすることが、蓋体11の低コスト化を図りやすくすることに役立ち、当該蓋体11に装飾性を持たせるためには、表層13の層厚は10mmもあれば十分であることによる。また、実施形態の蓋体11では、表層13及びベース層12のそれぞれの骨材が無機繊維を混合した樹脂バインダーで固められている。このように骨材が無機繊維を混合した樹脂バインダーで固められていると、骨材の相互間に広い隙間が形成されて高い排水性能が発揮されるようになるだけでなく、ベース層12や表層13の集合体の形崩れも起こりにくくなる。この作用は、無機繊維にセラミック繊維又はガラス繊維を採用し、樹脂バインダーにエポキシ系樹脂バインダーを採用することによって顕著に発揮されることが判っている。
図6~図8に示した蓋体11には、散水ノズル20の取付け孔22が設けられているほか、蓋体11の下面にはクッションゴム15が設けられている。また、蓋体11の周囲には縁枠16が備わっている。さらに、蓋体11のベース層12と表層13との間にステンレス製のワイヤーメッシュ17が介在されている。このような蓋体11は、図10に示したように、排水溝30に設けられている蓋受け段部32を利用してその上部開口部31に嵌め込み状に装備される。なお、図10に示した排水溝30の底面33には水流れ勾配が付与されていて、蓋体11を通過して排水溝30に回収された汚垂れを含む水が、排水溝30の底面33を流れて排水路を経て排出される。
図6~図10を参照して説明した蓋体11の1箇所だけに散水ノズル20を設けておくと、蓋体11が亀裂や割れを生じやすくなったり、蓋体11の強度が低下したりすることがないだけでなく、散水ノズル20が設けられた蓋体11を施工性よく安価に製作することが可能になる。
図11は他の実施形態を説明的に示した側面図である。上記した実施形態では、蓋体11が排水溝30の上部開口部31に直接に装備されている事例を説明したけれども、この点は、図11のように、床パネル10を形成する蓋体11を、トイレに既存の汚垂れ石400の上に設置することも可能である。なお、既存の汚垂れ石400は、図示していない排水溝の上に配備されているため、蓋体11は、排水溝の上部開口部に装備されていることになる。
10 床パネル
11 蓋体
12 ベース層
13 表層
20 散水ノズル
30 排水溝
31 排水溝の上部開口部
200 センサー
300 制御回路
本発明は、トイレ床構造、特に、男性用小便器を使用することによってトイレ床の表面に生じる汚垂れを洗い流すことのできる対策を講じたトイレ床構造に関する。
小便器、特に男性用小便器では、尿跳ねや尿垂れに起因する汚垂れが小便器の下方やその周囲に生じることが多く、この種の汚垂れは、トイレ空間の美観や見た目の清潔感を阻害するだけでなく、臭気を発生したりして非衛生的でもある。そこで、この種の汚垂れは、清掃員が定期的、あるいは必要に応じて清掃により取り除いている。しかしながら、商業施設やオフィスビル、あるいはパーキングエリアや道の駅といった公共設備のトイレでは、1箇所のトイレに設置されている小便器の数が多いために清掃作業に多大な労力と時間を費やしていて、これを改善することのできる対策を講じることが望まれている。
このような状況下で、先行例には、床構造体の床板に1つ又は複数の噴出孔を形成しておき、この噴出孔に連続的又は間欠的に給水することによって、床板の表面に生じた汚垂れを洗い流す、という対策を講じることが開示されている(たとえば、特許文献1参照)。
図12及び図13は特許文献1によって開示されている床構造体を示していて、図12は床構造体の平面図、図13は床構造体の要部の断面図である。この床構造体では、壁面1に取り付けられた小便器である便器2の下方に設置された左右の床板3,3に多数の水の噴出孔4…が設けられていると共に、床板3,3の下方に給水パイプ5が設けられている。そして、給水パイプ5には多数の給水孔6…が形成されていて、それらの給水孔6…の1つ1つが、上記した床板3,3の多数の噴出孔4…の1つ1つに各別に対応している。床板3,3は、合成樹脂繊維と混合した砂利などの骨材を用いて形成されていて、透水性を発揮する。床板3,3の下方に防水パン7が設置されていて、上記した給水パイプ5はこの防水パン7に設けられた溝部8に敷設されている。
この床構造体において、給水パイプ5の給水孔6…から一定の水圧で矢印のように吐出された水は、床板3,3の噴出孔4…から溢れ出て床板3,3の表面に達する。このため、床板3,3の表面に生じている汚垂れが水で洗い流され、透水性を有する床板3,3を介して防水パン7の中に排出される。
ところが、この床構造体では、床板3,3の1つの噴出孔4から溢れ出た水で汚垂れを洗い流せる範囲が1つの噴出孔4の周囲だけに限定されて非常に狭くならざるを得ない。そのため、図12に示されているように、床板3,3には1箇所に多数の噴出孔4…が2列に亘って列設されていることに加え、便器使用者の立ち位置の両足Fのそれぞれの先端部分、踵部分、便器2の手前下方部分といった複数箇所に多数の噴出孔4…が2列に亘って列設されていて、これら各箇所の多数の噴出孔4…から水を溢れ出させることによって、汚垂れを洗い流せる範囲を広くするような工夫がなされているものと考えられる。
しかしながら、特許文献1の床構造体において、砂利などの骨材を用いて形成されている床板3,3に、図12に示したような複数箇所に多数の噴出孔4…を2列に亘って列設することは容易ではなく、噴出孔4…の形成箇所を起点とする亀裂や割れを生じやすくなって、床板3,3の強度が低下しやすいということも云える。また、給水パイプ5の給水孔6…の1つ1つを、床板3,3の多数の噴出孔4…の1つ1つに各別に対応させて給水パイプ5を敷設することに時間と熟練を要し、それだけ多くの施工時間や施工コストが必要になるであろうと考えられる。
本発明は、以上の状況に鑑みてなされたものであり、最少個数である1つだけの散水ノズルから散水する水によって1基の便器下の広い範囲に生じた汚垂れを効率よく洗い流すことのできるトイレ床構造を提供することを目的としている。また、便器下の広い範囲に生じた汚垂れを効率よく洗い流すことのできる作用とトイレ床に美観を付与する作用とを相乗させてトイレ空間の美観や清潔感を向上させることのできるトイレ床構造を提供することを目的としている。
本発明に係るトイレ床構造は、便器使用者の立ち位置に配備された床パネルを有するトイレ床構造であって、上記床パネルが、排水溝の上部開口部に装備された透水性を有する蓋体によって形成され、この蓋体には、1基の便器に対する1つだけの散水ノズルが設けられてなり、上記蓋体は、相互間隙間が水通路として作用する骨材の集合体によって形成され、上記散水ノズルが、円筒壁の上部に通水口を備えた上壁を有する散水ノズル本体と、この散水ノズル本体に組み合わされる平面視円形のノズル蓋とを備えていて、上記円筒壁が、蓋体に設けられている取付け孔に嵌合状に装着されているノズル筒を介して蓋体に設置され、散水ノズル本体の上記上壁とノズル蓋との間に、上記通水口を経て水が供給される広い水溜め空間が環状に形成され、散水ノズル本体の円筒壁の上端面とノズル蓋との間に、上記水溜め空間に連通するスリット状の狭い散水口が環状に形成されていると共に、この散水口は、ノズル蓋の下面によって形成された外上がり傾斜面と散水ノズル本体の円筒壁の上端面との間の隙間によって形成されて外側ほど開口幅が狭くなった外窄まり空間と、この外窄まり空間に連通して上記外上がり傾斜面と散水ノズル本体の円筒壁の上端面及びノズル筒の上端面との間の隙間によって形成されて外側ほど開口幅が広くなった外拡がり空間とを有していると共に、上記散水ノズル本体の円筒壁の上端面及び上記ノズル筒の上端面が上記蓋体の上面と同一高さ位置に配備され、散水ノズルの上記散水口から水が水膜を形成して蓋体の上面に沿う方向に噴射して散水されるようになっている、というものである。
この発明によれば、蓋体に設けられた散水ノズルが、水を蓋体の上面の近傍箇所でその上面に散水するので、水が蓋体の上面の広い範囲に散水されるようになる。このため、蓋体によって形成された床パネルに生じている汚垂れが少ない数の散水ノズル、具体的には最少個数である1つだけの散水ノズルから散水される水によって洗い流される。そして、汚垂れは水と共に透水性の蓋体を通過して排出される。また、蓋体に設ける散水ノズルの個数を最少個数である1つだけにできるので、蓋体が亀裂や割れを生じやすくなったり、蓋体の強度が低下したりすることがないだけでなく、散水ノズルが設けられた蓋体を施工性よく安価に製作することが可能になる。特に、この発明では、散水ノズルが、広い環状の水溜め空間とこの水溜め空間に連通するスリット状の狭い環状の散水口とを有していると共に、この散水口が、外窄まり空間とこの外窄まり空間に連通する外拡がり空間とを有していると共に、散水ノズル本体の円筒壁の上端面及び上記ノズル筒の上端面が蓋体の上面と同一高さ位置に配備され、散水ノズルの散水口から水が水膜を形成して蓋体の上面に沿う方向に噴射して散水されるようになっていることにより、水溜め空間に供給された水が、水膜を形成して放出されるようになる。そして、水膜の下面が散水ノズル本体の円筒壁の上端面及びノズル筒の上端面の延長方向に噴射されて蓋板の上面に沿って拡がりやすく、水膜の上面がノズル蓋の外上がり傾斜面の延長方向に噴射されて蓋板の広い範囲に拡がりやすくなる。これにより、蓋体が透水性を有しているとしても、放出された水がすぐに蓋体を通して排水されることなく、便器下の広い範囲に水膜状になって行き亘り、広い範囲に生じた汚垂れが効率よく洗い流されようになる。
本発明では、上記蓋体を形成している骨材の集合体が、当該集合体の主要部を形成しているベース層と、このベース層の上側に施工されてこのベース層の表面を覆って装飾性を発揮する表層とに分かれている、という構成を採用することが望ましい。これによれば、便器下の広い範囲に生じた汚垂れを効率よく洗い流すことのできる作用とトイレ床に美観を付与する作用とが相乗してトイレ空間の美観や清潔感が向上する。
本発明では、上記散水ノズルによる水の散水タイミングが、上記便器の使用中又は不使用中を判断するセンサーの出力信号を受信する制御回路により、上記センサーの上記判断に関連づけて制御される、という構成を採用することが可能である。これによれば、散水ノズルによる水の散水タイミングを自動制御することが可能になる。
本発明に係るトイレ床構造によれば、最少個数である1つだけの散水ノズルから散水する水によって一基の便器下の広い範囲に生じた汚垂れを効率よく洗い流すことができるため、清掃員が定期的、あるいは必要に応じて清掃により汚垂れを取り除く負担を大幅に軽減することが可能になる。また、散水ノズルの設置による床パネルの強度低下を来したり、散水ノズルの設置によって亀裂や割れの発生原因を生じさせたりすることがない。その上、床パネルに散水ノズルを設置するときの施工性に優れ、施工コストも安く付くという効果を奏する。
本発明の実施形態に係るトイレ床構造の概略構成を説明的に示した正面図である。
同トイレ床構造の概略構成を説明的に示した平面図である。
同トイレ床構造の概略構成を説明的に示した側面図である。
散水ノズルの設置状態を例示した概略断面図である。
散水ノズル本体の平面図である。
具体例としての蓋体を一部省略して示した平面図である。
同蓋体の側面図である。
図7のVIII部拡大断面図である。
同蓋体11の部分断面図
排水溝と蓋体とを示した概略分解斜視図である。
他の実施形態を説明的に示した側面図である。
特許文献1によって提案されている床構造体の平面図である。
同床構造体の要部の断面図である。
図1は本発明の実施形態に係るトイレ床構造の概略構成を説明的に示した正面図、図2は同トイレ床構造の概略構成を説明的に示した平面図、図3は同トイレ床構造の概略構成を説明的に示した側面図、図4は散水ノズル20の設置状態を例示した概略断面図、図5は散水ノズル本体23の平面図である。
図1~図3のように、このトイレ床構造は、男性用小便器でなる便器100の下方の床に適用されていて、便器使用者の立ち位置に配備された床パネル10を有する。便器100はトイレ壁面110に設置されていて、便器設置箇所の上方に、上記立ち位置の人の有無などを検出して便器100が使用中であるか不使用中であるかを判断するセンサー200が設置されている。そして、便器の使用中又は不使用中を判断するセンサー200の出力信号を制御回路(制御パネル)300が受信すると、この制御回路300がセンサー200の出力信号に基づき、一定の条件に従って図示していない便器洗浄用の給水手段を制御し、この給水手段が所定のタイミングで便器100の内面に洗浄水を流して便器100の内面を洗浄するようになっている。なお、図3において、符号25は、散水ノズル20に接続された給水管を示している。
床パネル10は、図3に示した排水溝30の上部開口部31に装備された蓋体11によって形成されていて、この蓋体11がその全体に亘って透水性を有している。図示例においては、1基の便器100に1枚の床パネル10を形成している蓋体11が対応していて、この蓋体11の便器100の下方手前箇所に位置する1箇所だけに水を散水する散水ノズル20が1つだけ設置されている。
図4に例示したように、散水ノズル20は、蓋体11に設けられている取付け孔22に嵌合状に装着されているノズル筒21を介して蓋体11に設置されている。散水ノズル20は、円筒壁23aの上部に通水口23cを有する上壁23bを一体に有する散水ノズル本体23と、この散水ノズル本体23に組み合わされる平面視円形のノズル蓋24とを備えている。さらに具体的には、散水ノズル本体23の上壁23bの中央部に形成されている凹入部23dにノズル蓋24に具備された筒状座部24aが載架されている。そして、ノズル蓋24が、ボルトBを使用して散水ノズル本体23の上壁23bに取り付けられている。ノズル蓋24を散水ノズル本体23の上壁23bに取り付けるボルトBは、鍔形頭部B1がノズル蓋24の中央部の段付き孔部24bに収容され、ねじ軸B2が散水ノズル本体23の上壁23bの中央部の貫通孔部23eの内壁に形成された雌ねじにねじ合わされる。このようなボルトBを使用して散水ノズル本体23にノズル蓋24を取り付けた状態では、図4に拡大して示したように、散水ノズル本体23の上壁23bとノズル蓋24との間に、上記通水口23cが臨む広い水溜め空間26が環状に形成されると共に、散水ノズル本体23の円筒壁23aの上端面とノズル蓋24との間に、スリット状の狭い散水口27が環状に形成され、しかも、この散水口27は、上記水溜め空間26に連通して外側ほど開口幅が狭くなった外窄まり空間27aと、この外窄まり空間27aに連通して外側ほど開口幅が広くなった外拡がり空間27bとを有している。なお、散水ノズル本体23の円筒壁23aの上端面とノズル蓋24との間にスリット状の狭い散水口27を環状に形成させるための対策として、図例では、ノズル蓋24の下面を外上がり傾斜面24cに形成しているのに対して、散水ノズル本体23の円筒壁23aの上端面に外上がり傾斜面23fと水平面23gとを形成している。このように構成された散水ノズル20は、図4のように蓋体11の取付け孔22に嵌合状に装着されているノズル筒21に内嵌合状に装備され、かつ、散水ノズル本体23の円筒壁23aに、給水管25の端部が接続される(図3参照)。ここで説明した構成を有する散水ノズル20を採用すると、給水管25(図3参照)を通じて供給された水が、通水口23cを経て広い水溜め空間26に供給され、この水溜め空間26から散水口27を通じて放出される。このため、散水口27から放出された水が水膜を形成して蓋体11の上面に沿う方向に水膜を形成して散水され、このような水膜を形成している水によって蓋体11の上面に生じている汚垂れが満遍なく洗い流される。特にこの散水ノズルでは、散水口27が上記した外窄まり空間27aと外拡がり空間27bとを有していることにより、散水された水膜が広い範囲に行き渡るようになるため、蓋体11の上面の広い範囲に汚垂れが生じていても、その汚垂れを満遍なく洗い流すことができるという利点がある。図例では、図5に示したように散水ノズル本体23の上壁23bの通水口23cが等角度置きの6箇所に設けられているけれども、通水口23cの数や形状は図例に限定されない。なお、散水口27から水膜を形成して放出される水は蓋体11の上面に流れ出るようになっていることが望ましく、そのようになっていると水跳ねが生じにくくなるという利点がある。
以上説明した床構造によれば、散水ノズル20が、水を蓋体11の上面の近傍箇所でその上面に沿う方向に前拡がりに噴射するので、水が蓋体11の上面の広い範囲に散水されるようになり、その到達範囲も広くなる。このため、蓋体11によって形成された床パネル10に生じている汚垂れが最少個数である1つだけの散水ノズル20から散水される水によって洗い流される。そして、汚垂れは水と共に透水性の蓋体11を通過して排水溝30により回収され、その排水溝30から図示していない排水路を経て排出される。
このトイレ床構造において、散水ノズル20による水の散水タイミングは、便器100の使用中又は不使用中を判断するセンサー200の出力信号を受信する制御回路300により、センサー200の上記判断に関連づけて制御させることが可能である。たとえば、便器100が使用中であることをセンサー200が感知しているときには、制御回路300が図3に示した給水管25に介在されているバルブVを閉じて散水ノズル20からの水の散水を停止するという便器使用中モードを設定することができる。この便器使用中モードでは、散水ノズル20から散水された水が便器使用者にかかることはない。また、便器使用者が使用後に便器100の前から立ち去った後では、便器100が不使用中であることをセンサー200が感知し、制御回路300がバルブVを開いて散水ノズル20からの水の散水を開始するという便器不使用中モードを設定することができる。この便器不使用中モードは、制御回路に組み込まれたタイマー回路によって一定時間だけ継続されるようにすることができるだけでなく、便器不使用中モードの継続中に、便器100が使用されるようになると、便器100が使用中であることをセンサー200が感知して上記した便器使用中モードに切り替わるようにすることも可能である。さらに、便器100が長時間使用されないときに、上記した便器不使用中モードが間欠的に設定されるように制御することも可能である。
この実施形態において、散水ノズル20によって水が散水される範囲は、散水ノズル20の設置箇所を中心とする図2に一点鎖線Z1で示した円形範囲に定めることも、散水ノズル20の設置箇所を中心とする図2に一点鎖線Z2で示した楕円形範囲に定めることも可能である。散水範囲を円形範囲に定めると、便器100の下方の奥部分にまで水を到達させることが容易になるのに対して、散水範囲を楕円形範囲に定めると、蓋体11でなる床パネル10の前端縁を超えて水が手前に散水されなくすることが容易になる。したがって、散水範囲を円形範囲に定めるか、楕円形範囲に定めるかは、蓋体11でなる床パネル10の上方での便器100の手前側への出幅や、便器100の下方での床パネル10の手前側への出幅などを勘案し、汚垂れが生じる範囲に水が到達し、かつ、トイレ内の人の通行路にまでは水が到達しないようにすることなどを考慮して定めておけばよい。こうしておくと、水の到達範囲が過度に拡がらないようになってトイレ全体や便器100の使い勝手が損なわれない。なお、床パネル10を形成している蓋体11の横幅が800mm、奥行きが600mmであるとすると、散水ノズル20の設置箇所を中心とする水の到達範囲を直径400mm程度の円形範囲、又は、長軸径400mm程度の楕円形範囲にしておくことが有益である。
図1及び図2では、2基の便器100が横並びに設置されているトイレのトイレ床構造を示しているけれども、1基の便器100だけが設置されているトイレや、3基以上の多数の便器100が横並びに設置されているトイレについても上記同様のトイレ床構造を適用することができる。
次に、床パネル10に使用可能な蓋体11の具体的構成を例示して説明する。
図6は具体例としての蓋体11を一部省略して示した平面図、図7は同蓋体11の側面図、図8は図7のVIII部拡大断面図、図9は同蓋体11の部分断面図、図10は排水溝30と蓋体11とを示した概略分解斜視図である。
図9のように、蓋体11は、ベース層12と表層13とを有する骨材の集合体でなる。集合体を形成している骨材には、砂利や砕石、細砂などを適宜選択使用することが可能である。この蓋体11では、集合体を形成している骨材の相互間隙間が水通路として作用して高い排水性能を発揮する。また、集合体のベース層12が、蓋体11の主要部を形成していて、当該蓋体11に要求される強度をこのベース層12が担っている。これに対し、集合体の表層13は蓋体11に要求される装飾性を発揮する。
この実施形態の蓋体11では、表層13の骨材として天然石である乾燥砂利が使用されている。天然石である乾燥砂利は天然化粧砂利とも称され、造園やガーデニングの分野でも使用されている。この種の乾燥砂利は、採石地域などに応じて様々な名称の砂利が知られている。具体例としては、琥珀、伊勢錆、吉備、黄金、淡路砂利、猿投、錦、南部、金華、東雲、花水木、桂林、ヤマトざくら、紅サンゴ、大納言、象牙、瀬戸内、庵治、雅、黒玉砂利、淡那智、御浜、大磯、青海、青玉砂利、などが知られている。これらの乾燥砂利は、それぞれが独特の色調や光沢といった表面性状を備えていて、数種類を混合して使用した場合は勿論、個々に単独で使用しても、高い装飾性を発揮する。
表層13の骨材は粒径が5mm前後に揃えられていて、ベース層12の骨材よりも粒径(平均粒径)が小さい。また、実施形態の蓋体11では、表層13の層厚が10mm以下になっている。これは、表層13に使用される骨材が比較的高価な天然石である乾燥砂利でなり、主な使用目的が装飾性を高めるためであるので、表層13の骨材の使用量を必要最少限度にすることが、蓋体11の低コスト化を図りやすくすることに役立ち、当該蓋体11に装飾性を持たせるためには、表層13の層厚は10mmもあれば十分であることによる。また、実施形態の蓋体11では、表層13及びベース層12のそれぞれの骨材が無機繊維を混合した樹脂バインダーで固められている。このように骨材が無機繊維を混合した樹脂バインダーで固められていると、骨材の相互間に広い隙間が形成されて高い排水性能が発揮されるようになるだけでなく、ベース層12や表層13の集合体の形崩れも起こりにくくなる。この作用は、無機繊維にセラミック繊維又はガラス繊維を採用し、樹脂バインダーにエポキシ系樹脂バインダーを採用することによって顕著に発揮されることが判っている。
図6~図8に示した蓋体11には、散水ノズル20の取付け孔22が設けられているほか、蓋体11の下面にはクッションゴム15が設けられている。また、蓋体11の周囲には縁枠16が備わっている。さらに、蓋体11のベース層12と表層13との間にステンレス製のワイヤーメッシュ17が介在されている。このような蓋体11は、図10に示したように、排水溝30に設けられている蓋受け段部32を利用してその上部開口部31に嵌め込み状に装備される。なお、図10に示した排水溝30の底面33には水流れ勾配が付与されていて、蓋体11を通過して排水溝30に回収された汚垂れを含む水が、排水溝30の底面33を流れて排水路を経て排出される。
図6~図10を参照して説明した蓋体11の1箇所だけに散水ノズル20を設けておくと、蓋体11が亀裂や割れを生じやすくなったり、蓋体11の強度が低下したりすることがないだけでなく、散水ノズル20が設けられた蓋体11を施工性よく安価に製作することが可能になる。
図11は他の実施形態を説明的に示した側面図である。上記した実施形態では、蓋体11が排水溝30の上部開口部31に直接に装備されている事例を説明したけれども、この点は、図11のように、床パネル10を形成する蓋体11を、トイレに既存の汚垂れ石400の上に設置することも可能である。なお、既存の汚垂れ石400は、図示していない排水溝の上に配備されているため、蓋体11は、排水溝の上部開口部に装備されていることになる。
10 床パネル
11 蓋体
12 ベース層
13 表層
20 散水ノズル
30 排水溝
31 排水溝の上部開口部
200 センサー
300 制御回路