以下、実施形態の一例を説明する。同一の構成要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。各図面では、説明の便宜のため、適宜、構成要素の一部を省略、拡大、縮小する。図面は符号の向きに合わせて見るものとする。
(第1実施形態)図1、図2を参照する。吐出装置10は衛生設備12に用いられる。本実施形態の衛生設備12は、浴室設備14であり、浴槽16を備える。浴室設備14は、この他にも、浴室壁、洗い場床等を備える。吐出装置10は、浴槽16に固定される。浴槽16は、吐出装置10から吐出される噴流J及び膜状流Fdを受けることができる槽体の一例となる。
吐出装置10は、吐出システム18に用いられる。吐出システム18は、噴射対象の液体Wを貯留する貯留槽20と、貯留槽20から吐出装置10に液体Wを供給する給液路22と、給液路22の途中に設けられるポンプ24と、ポンプ24を制御する制御部26と、を備える。本実施形態の貯留槽20は、噴射対象の液体Wとして浴槽水を貯留する浴槽16である。ポンプ24は、制御部26による制御のもと、貯留槽20から吸引した液体Wを圧送することによって、給液路22を通して吐出装置10の噴射流路32aや吐出流路32bに液体Wを供給する。制御部26は、CPU、ROM、RAM等のハードウェアとソフトウェアを組み合わせたコンピュータである。
本実施形態の吐出装置10は、噴射流路32aから運動噴流Jを噴射し、吐出流路32bから膜状流Fdを吐出する。運動噴流J及び膜状流Fdは、ユーザ8の身体、特に、浴槽16内において座位姿勢にあるユーザ8の首、肩、背中等に背面側から当てることができる。これにより、ユーザ8にマッサージ効果を付与できる。
吐出装置10は、装置本体28を備える。装置本体28は、衛生設備12に設けられる壁状のベース30に取り付けられる。本実施形態のベース30は、浴槽16の上端開口の周縁部を構成するフランジ部である。
吐出装置10は、装置本体28内に、給液路22から液体Wが供給される噴射流路32a及び吐出流路32bを備える。本実施形態の噴射流路32a及び吐出流路32bには、給液路22からそれぞれ上向きに液体Wが供給される。噴射流路32aの下流側端部には噴射孔38aが形成される。吐出流路32bの下流側端部には吐出孔38bが形成される。本明細書では、吐出装置10の吐出方向に沿った方向を前後方向A(図3参照)といい、前後方向Aに直交する水平方向を左右方向Bという。前後方向Aの両側のうち、噴射流路32aの噴射方向を前側といい、それとは反対側を後側という。
噴射孔38は、装置本体28の前面部に開口する。本実施形態の吐出装置10は、複数(図示の例は2つ)の噴射流路32aを備える。複数の噴射流路32aの噴射孔38aは、正面視において、左右方向Bに間隔を空けた位置に設けられる。吐出流路32bの吐出孔38bは、装置本体28の前面部に開口する。吐出孔38bは、左右方向Bに延びるスリット状をなす。ここでの「正面視」とは、前後方向Aの前側から見ることであり、例えば、図2の視点から見ることと同義である。
噴射孔38aは、正面視において、吐出孔38bより下方に設けられる。本実施形態の噴射孔38aは、正面視において、吐出孔38bと上下に重なる位置に設けられる。本実施形態の噴射孔38aは、正面視において、吐出孔38bの設けられる左右方向Bでの範囲の内側に収まる位置に設けられる。噴射孔38aは、この範囲の外側にはみ出る位置に設けられないということである。
噴射流路32aは、給液路22から供給される液体Wを運動噴流Jとして噴射する。各図では運動噴流Jの噴射範囲を示す。噴射流路32aは、運動噴流Jを噴射孔38から前方に噴射可能である。ここでの運動噴流Jとは、噴射流路32aから外部に出るときの進行方向が、周期的、つまり、時間的に変化する噴流をいう。噴射流路32aは、噴流の噴射方向Da(図6参照)を時間的に変化させることによって、運動噴流Jを噴射孔38から噴射可能である。本実施形態の噴射流路32aは、噴流の噴射方向Daを平面内で振動させることによって、運動噴流Jとして波状噴流を放射状に噴射する。この「噴射方向Da」は、噴射流路32aから外部に噴流が出るときを基準とする。「波状」とは、噴射流路32aから離れるに連れて、運動噴流Jがなす噴流軌跡JTの軌跡中心Ct(図6参照)と直交する方向に周期的にうねる形状をいう。この「波状」には、物理的に厳密な波としての条件を満たす形状の他に、その形状に似た形状も含まれる。本実施形態の噴射流路32aは、空気中において運動噴流Jを噴射する。装置本体28は、静止した状態のまま運動噴流Jを噴射する流体素子を構成する。
吐出流路32bは、給液路22から供給される液体Wを膜状流Fdとして吐出可能である。各図では膜状流Fdの吐出範囲を示す。吐出流路32bは、運動噴流Jの上方を通る膜状流Fdを吐出孔38bから前方に吐出可能である。
膜状流Fdは、運動噴流Jの飛沫の流れを遮ることで、その飛沫の飛散範囲を制限可能である。本実施形態では、波状噴流Jとユーザ8等の物体との衝突により飛沫が生じる。本実施形態において、吐出流路32bはユーザ8の首に当たるように膜状流Fdを吐出し、噴射流路32aはユーザ8の首より下方にてユーザ8の肩に当たるように運動噴流Jを噴射する。これにより、膜状流Fdより上方への運動噴流Jの飛沫の飛散を制限でき、膜状流Fdより上方でのユーザ8の顔への飛沫の飛散を防止できる。
膜状流Fdは、流れ方向に直交する断面において有端膜状をなす。図2のハッチングは、吐出流路32bを飛び出るときの流れ方向に直交する膜状流Fdの断面を示す。ここでの「有端膜状」とは、流れ方向に直交する断面において、両端部が離れた箇所に設けられる膜状を意味する。膜状流Fdは、この断面において、非環状をなすともいえる。この条件は、吐出流路32bを飛び出るときの流れ方向に直交する断面において、少なくとも満たされていればよい。本実施形態の膜状流Fdは、このような断面において、直線状を描く有端膜状をなすが、円弧状等の曲線状でもよいし、その具体的な形状は特に限られない。
本構成によると、波状噴流Jの飛沫が飛散し易い状況のもとでも、膜状流Fdにより波状噴流Jの飛沫を遮ることができ、その飛散を効果的に防止できる。特に、波状噴流Jは流れ方向が時間的に変化するため、その流れ方向が時間的に一定の場合と比べ、噴射範囲が広くなる。このように噴射範囲が広くなる場合でも、膜状流Fdを有端膜状とすることで、膜状流Fdとの合流を避けられ、運動噴流Jを直接に浴びられる範囲をより広くできる。
図3~図7を参照する。以下、運動噴流Jを噴射する流体素子について説明する。噴射流路32aは、後述する一対の中間流路42A、42Bの各々を流通した液体Wを合流させることによって波状噴流Jを噴射可能である。噴射流路32aは、運動噴流Jを誘起する誘起流路36と、誘起流路36が誘起した運動噴流Jを外部に噴射する噴射孔38aとを備える。誘起流路36の流路中心線CL1に沿った中心線方向をX方向という。本実施形態のX方向は前後方向Aと一致する。この流路中心線CL1は、誘起流路36の幾何学的な重心を連ねた重心線上に位置する。この「重心」とは、本実施形態の誘起流路36のように、後述する複数の中間流路42A、42Bに分かれる箇所においては、複数の中間流路42A、42B全体の重心をいう。流路中心線CL1は、誘起流路36の下流端36aよりも下流側において、その下流端36aを通る重心線の接線方向に沿って直線状に延びるとする。
流路中心線CL1に直交し、互いに直交するY方向及びZ方向のそれぞれを幅方向及び高さ方向という。本実施形態のY方向は、波状噴流Jの振動方向でもある。この振動方向は、流路中心線CL1に直交する平面において、噴射流路32aから外部に波状噴流Jが出るときに波状噴流Jのなす波が振動する方向をいう。本実施形態のY方向は左右方向Bと一致する。
中継流路34は、中継流路34の下流側端部に設けられる第1流路部35aと、第1流路部35aに対して上流側に連続する第2流路部35bとを備える。第2流路部35bは、第1流路部35aに対して噴射流路32aの下流側(前側)に位置する。第1流路部35aの中心軸線CL2は、第2流路部35bの中心軸線CL3よりも噴射流路32aの下流側(前側)に位置するともいえる。
第1流路部35aは、第2流路部35bと接続される部分に、第1曲がり部35cを有する。第2流路部35bは、第1流路部35aと接続される部分に、第2曲がり部35dを有する。第1曲がり部35c及び第2曲がり部35dは、屈曲した構造によって流路の進行方向を変える。中心軸線CL2に対する第1曲がり部35c及び第2曲がり部35dの中心軸線CL4の角度を第1曲がり部35cの曲がり角度θ1とする。中心軸線CL3に対する中心軸線CL4の角度を第2曲がり部35dの曲がり角度θ2とする。本実施形態の曲がり角度θ1及びθ2は、45°である。
本実施形態の誘起流路36は、X方向に直交する断面において、Y方向に沿った内幅寸法Lyよりも、Z方向に沿った高さ寸法Lzが小さい矩形状をなす。誘起流路36は、X方向から見て(図7の視点から見て)、その流路中心線CL1を含みY方向に平行な平面に対して対称な断面形状を持つ。誘起流路36は、Z方向から見て(図5の視点から見て)、誘起流路36の流路中心線CL1を対称軸としてY方向に対称な断面形状を持つ。本実施形態において、この条件は噴射孔38aも満たす。ここでの対称な断面形状には、X方向、Y方向及びZ方向の少なくとも何れかについて、成形型の抜き勾配に起因してずれた形状や製造誤差の分だけずれた形状も含まれる。
誘起流路36は、装置本体28に設けられた中継流路34を介して給液路22から液体Wが流入する貯留室40と、上流側の貯留室40から液体Wが流入する一対の中間流路42A、42Bと、一対の中間流路42A、42Bのそれぞれから流入する液体Wが合流する合流室44とを備える。
中継流路34の下流側端部と貯留室40の上流側端部とによって断面積変化部41aが形成される。断面積変化部41aでは、中心軸線CL2に直交する方向における貯留室40の断面積(図5の視点から見た貯留室40の面積)は、上記直交する方向における中継流路34の下流端の断面積(図5の視点から見た第1流路部35aの下流端の面積)よりも大きい。そのため、断面積変化部41aでは、中心軸線CL2に直交する方向における断面積は、中継流路34の下流端から貯留室40の上流側端部に向けて大きくなるように変化する。
貯留室40は、左右方向Bの両側に、左側曲がり部41b及び右側曲がり部41cを有する。左側曲がり部41b及び右側曲がり部41cは、屈曲した構造によって貯留室40から中間流路42A、42Bに向けて流路の進行方向をそれぞれ変える。
誘起流路36内には、貯留室40内にて下流側に向かう液体の流れを遮る第1壁部46が設けられる。一対の中間流路42A、42Bは、第1壁部46に対してY方向の両側に設けられる。一対の中間流路42A、42Bは、Y方向の片側に設けられる左側中間流路42A(第1中間流路)と、その反対側に設けられる右側中間流路42B(第2中間流路)とを含む。誘起流路36には、合流室44内にて下流側に向かう液体Wの流れを遮る第2壁部48が設けられる。第2壁部48は、誘起流路36の内部空間と装置本体28の外部空間を隔てており、噴射孔38aは第2壁部48をX方向に貫通する。
噴射孔38aは、噴射流路32aの下流側端部に形成される。噴射孔38aは、装置本体28の外面部に開口する。本実施形態の噴射孔38aは装置本体28の前面部に開口し、装置本体28は前方に運動噴流Jを噴射する。噴射孔38aは、前側に向かうに連れて、X方向と直交する方向(本実施形態ではY方向)に連続的に広がるように形成される。
本実施形態の噴射流路32aの動作を説明する。図8、図9を参照する。本図では、主な液体の流れ方向に矢印を付して示す。
貯留室40内に流入した液体は、一対の中間流路42A、42Bを介して合流室44内に流入する。左側中間流路42Aは、合流室44に左側内部噴流F1を噴射する。右側中間流路42Bは、合流室44に右側内部噴流F2を噴射する。これら噴流F1、F2は、液体のランダム性に起因する揺らぎの影響を受けて、いずれか一方が他方よりも勢いの強い支配的な流れ(以下、支配流という)となる。図8は、左側内部噴流F1が支配流となる第1流れ状態を示す。図9は、右側内部噴流F2が支配流となる第2流れ状態を示す。
図8に示すように、第1流れ状態にあるとき、右側内部噴流F2は、左側内部噴流F1との衝突によって流れを阻害される。これに対して、左側内部噴流F1は、第2壁部48に衝突するまで勢いを持って流れる。この左側内部噴流F1は、合流室44内で折り返して右側内部噴流F2と合流し、右側内部噴流F2の勢いを増幅する。この結果、右側内部噴流F2が支配流となる第2流れ状態に切り替わる。
図9に示すように、第2流れ状態にあるとき、左側内部噴流F1は、右側内部噴流F2との衝突によって流れを阻害される。これに対して、右側内部噴流F2は、第2壁部48に衝突するまで勢いを持って流れる。この右側内部噴流F2は、合流室44内で折り返して左側内部噴流F1と合流し、左側内部噴流F1の勢いを増幅する。この結果、左側内部噴流F1が支配流となる第1流れ状態に切り替わる。
以上の結果、第1流れ状態と第2流れ状態とが周期的に切り替わる。第1流れ状態にあるとき、左側内部噴流F1は、噴射孔38aを通り抜ける液流F3を形成する。この液流F3は、Y方向の一方側(図中右側)かつ前側に向かう速度ベクトルを持つ。第2流れ状態にあるとき、右側内部噴流F2は、噴射孔38aを通り抜ける液流F4を形成する。この液流F4は、Y方向の他方側(図中左側)かつ前側に向かう速度ベクトルを持つ。これらの流れ状態が周期的に切り替わることで、噴射孔38aを通り抜ける液流F3、F4についてのY方向での速度ベクトルの大きさが周期的に増減する。この結果、噴流Jの噴射方向Daが平面内で振動することによって、前述の波状噴流Jが噴射される。
このように波状噴流J(運動噴流J)を噴射するうえで、誘起流路36は、運動噴流Jを誘起する誘起流を内部で生成する。この「誘起流」は、本実施形態では内部噴流F1、F2である。噴射孔38aは、このように誘起流路36が誘起した運動噴流Jを外部に噴射する。
図3、図4を参照する。このような吐出装置10は、波状噴流Jのなす波の規則性を乱す規則性乱し部50を備える。本実施形態の「波の規則性」とは、波状噴流Jのなす波の振動に関する周期及び振幅(以下、単に「周期及び振幅」という)の規則性をいう。ここでの「周期及び振幅」は、波状噴流Jのなす波における半周期分の波形を単位波形(図11を用いて後述する)というとき、波状噴流Jのなす波において連続する複数の単位波形に関する周期及び振幅である。例えば、図11でいえば、極大値となる時刻t1から極小値となる時刻t2となるまでの波形を一つの単位波形W1とする。極小値となる時刻t2から極大値となる時刻t3となるまでの波形を一つの単位波形W2とする。本実施形態の規則性乱し部50は、この周期及び振幅を不規則にする。本実施形態の規則性乱し部50は、装置本体28に設けられ、第1曲がり部35c及び第2曲がり部35dと、断面積変化部41aと、左側曲がり部41b及び右側曲がり部41cと、によって構成される。
図10を参照する。噴射方向Daは、左右方向の一方に向かって変化し、その後に反対方向に切り替わるように繰り返し変化する。周期及び振幅の規則性が乱れた状態(図10中の波状噴流J2)では、反対方向に切り替わるタイミングやそのタイミングでの噴射方向Daにばらつきが生じやすい。噴射方向Daが反対方向に切り替わるタイミングが早い場合、左右方向の一方に向かって変化を開始してから反対方向に切り替わるまでに要する時間が小さくなるとともに、軌跡中心Ctに対する噴射方向Daの角度が小さくなる。その結果、周期及び振幅が小さくなる。同様に、噴射方向Daが反対方向に切り替わるタイミングが遅い場合、上記の切り替わるまでに要する時間が大きくなるとともに、軌跡中心Ctに対する噴射方向Daの角度が大きくなる。その結果、周期及び振幅が大きくなる。このように、波状噴流Jのなす波に関する周期及び振幅は、正の相関関係を有する。そのため、周期及び振幅の規則性が乱れる場合、波状噴流J2の周期及び振幅はばらつきやすくなる。仮に周期及び振幅の規則性が乱れていない状態(図10中の波状噴流J1)では、反対方向に切り替わるタイミングやそのタイミングでの噴射方向Daにばらつきが生じにくい。そのため、波状噴流J1の周期及び振幅はばらつきにくい。
規則性乱し部50は、一対の中間流路42A、42Bよりも上流側を流通する液体Wに渦流を発生させる渦流生成部52を含む。渦流生成部52では、流入した液体Wの流れの整流性が損なわれる。その結果、渦流が生じる。渦流生成部52は、中間流路42A、42Bの上流に設けられた段差、絞り、曲がりなどの構造によって形成される。段差とは、配管の継ぎ手部分など、段差状に流路幅が変わる部分をいう。絞りとは、液体Wの流路を絞る部分をいう。曲がりは、流路の進行方向を変えるように屈曲した部分をいう。本実施形態の渦流生成部52は、第1曲がり部35c及び第2曲がり部35dと、断面積変化部41aと、左側曲がり部41a及び右側曲がり部41bと、によって主に構成される。
第1曲がり部35c及び第2曲がり部35d並びに左側曲がり部41a及び右側曲がり部41bでは、曲がり部内での曲げの内側と外側で液体Wの流速差が発生することにより、液体Wの流れが乱れて渦流が生じる。断面積変化部41aでは、中継流路34から貯留室40に流入した液体Wが下方から貯留室40の上面に向かってZ方向に流れて貯留室40の上面と衝突して、左右の中間流路42A、42Bに向けて流れる。この衝突により、貯留室40の上面近傍と下面近傍ではY方向の流速に大きな違いが生じることで、渦流が生じる。
規則性乱し部50は、波状噴流Jのなす波において連続する複数の単位波形に関する周期及び振幅の少なくとも何れかの測定値の標準偏差をその測定値の平均値で割った値を変動係数というとき、周期及び振幅の少なくとも何れかの変動係数が0.06以上2.00以下に収まるように規則性を乱す。本実施形態の周期及び振幅の変動係数は、周期及び振幅の変動のしやすさをそれぞれ示す無次元量である。ここでの周期は、波状噴流JがY方向の一端から他端まで移動するのに要する時間である。ここでの振幅は、一端から他端までのY方向の距離である。周期及び振幅の変動係数が大きいほど、周期及び振幅がそれぞれ変動しやすくなって噴流Jが不規則になる。周期及び振幅の変動係数が小さいほど、周期及び振幅がそれぞれ変動しにくくなって噴流Jが規則的になる。波状噴流Jのなす波についての上記平均値及び標準偏差は、ポンプ24からの供給流量や後述する基準位置によって変化する。上記標準偏差を上記平均値で除算した上記変動係数を用いることで、平均値及び標準偏差の大きさによらずにその基となる測定値のばらつきを把握することができる。本実施形態の標準偏差は、標本標準偏差である。
周期及び振幅と、周期及び振幅の各々の標準偏差、平均値及び変動係数の例示的な測定方法について説明する。ポンプ24からの供給流量を毎分5.5リットルとし、フレームレート(1秒間に処理可能なフレーム数)が10000fps(frames per second)の撮影装置を用いる。所定の基準位置からの波状噴流JのY方向の変位を計測する。ここでの所定の基準位置は、例えば、噴射孔38aの下流端から前側に5cm離れた位置であって、軌跡中心Ctから左右方向Bの右側に10cm離れた位置(例えば、図10中、基準位置P)である。
図11を参照する。周期を測定する場合について説明する。nを単位波形のサンプル数とし、単位波形Wn(mは1~nのうちの自然数)に関する周期の測定値をTnとする。波状噴流Jの噴射開始から1分後に始まる所定の測定期間(10秒間)内に得られた連続する複数の単位波形W1~Wnに関して、その左右方向Bの変位が極大値及び極小値をそれぞれ取るときの時刻t1~tn+1を特定する。サンプルには所定の測定期間の全データを用いるが、もしサンプル数nが20個に満たない場合は、所定の測定期間は適宜延長してサンプル数を確保する。特定した複数の時刻t1~tn+1の各々について、その前の時刻との差分を取ることにより、個々の単位波形W1~Wnに関する周期(時間間隔)の測定値T1~Tnが得られる。周期の測定値Tmは、以下の式(1)で表される。
Tm=tm+1-tm 式(1)
得られた周期の測定値T1~Tnから周期の標準偏差Ts及び平均値Taが得られる。周期の標準偏差Ts及び平均値Taは、以下の式(2)及び式(3)でそれぞれ表される。
得られた周期の標準偏差Tsを周期の平均値Taで割ることにより、周期の変動係数Tc=Ts/Taが得られる。周期の標準偏差Ts及び平均値Taを算出する際には、同じ時系列データにおける同じ測定値を用い、サンプル数を同じにすることに留意する。
振幅を測定する場合について説明する。単位波形Wmに関する振幅の測定値をAmとする。上記特定した複数の時刻t1~tn+1における変位x1~xn+1の各々について、その前の時刻での変位との差分の絶対値を取ることにより、個々の単位波形W1~Wnに関する振幅の測定値A1~Anが得られる。振幅の測定値Amは、以下の式(4)で表される。
Am=|xm+1-xm| 式(4)
得られた振幅の測定値A1~Anから振幅の標準偏差及び平均値が得られる。振幅の標準偏差As及び平均値Aaは、以下の式(5)及び式(6)でそれぞれ表される。
得られた振幅の標準偏差Asを振幅の平均値Aaで割ることにより、振幅の変動係数Ac=As/Aaが得られる。振幅の標準偏差As及び平均値Aaを算出する際には、同じ時系列データにおける同じ測定値を用い、サンプル数を同じにすることに留意する。
例えば、上記変動係数は、上記曲がり、上記絞り、上記段差の数の増減によって増減させることができる。しかし、これに限定されず、上記変動係数は、他の様々な方法によって調整可能である。例えば、上記曲がりにおける曲がり角度、上記絞りの絞り度合いなどの規則性乱し部50における流路の構造を実験的に検討し、構造に応じた変動係数の変化の傾向を求めることにより、この傾向に基づいて上記変動係数が調整されてもよい。
図12を参照する。本実施形態の吐出装置10について、上述の測定方法に従って所定の基準位置からの波状噴流JのY方向の変位を計測した。図12は、簡略化のため、その測定したデータのうちの一部を示す(以下の図15、図19も同様とする)。図12に示すように、本実施形態の吐出装置10では、波状噴流Jが振動を繰り返す毎にその周期及び振幅が大きく変動している。そのため、本実施形態の吐出装置10から周期及び振幅の不規則な波状噴流Jが噴射されたことが理解される。一例として、本実施形態におけるある試作体の周期と振幅の変動係数はそれぞれ1.067、0.439であった。
本実施形態の吐出装置10の効果を説明する。波状噴流Jを噴射する流体素子は、一般的に、左右方向Bに規則的に往復するように噴流を噴射する。しかし、自然界の海、山を吹く風や川のせせらぎの音は不規則なものである。そのため、このような規則的な噴射を行う流体素子を利用する吐出装置では、噴流を体に浴びたときの着水音や当たり心地が不自然に一定になり、ユーザが違和感を持つ場合がある。
本実施形態の吐出装置10は、単位波形に関する周期及び振幅の少なくとも何れかの変動係数が所定の範囲に収まるように、波状噴流Jのなす波の規則性を乱す規則性乱し部50を備える。本実施形態によると、変動係数が所定の範囲に収まるように波状噴流Jのなす波の規則性を乱すことで、着水音を自然界の音により近くすることができる。その結果、ユーザが違和感を持つことが抑制され、ユーザをよりリラックスさせることが可能となる。
本実施形態の上記所定の範囲の下限値は、0.06である。仮に周期及び振幅の両方の変動係数が0.06未満である場合(例えば、規則性乱し部50を有さない従来の吐出装置の場合)、波状噴流Jの噴射が規則的になりやすくなる。その結果、例えば噴流Jの振動がアクチュエータの駆動によって機械的に制御されているような違和感をユーザが持ちやすくなる。本実施形態によると、上記所定の範囲の下限値が0.06であることにより、運動噴流Jが不規則に噴射されやすくなり、着水音が自然界の音により近くなる。その結果、ユーザが違和感を持つことが抑制され、ユーザをよりリラックスさせることが可能となる。この効果は、本願発明者の実験的な検討によって得られたものである。
本実施形態の上記所定の範囲の上限値は、2.00である。仮に周期及び振幅の両方の変動係数が2.00より大きい場合、噴流Jの乱れが大きくなり過ぎてしまい、噴流Jが波状に形成されていないように見えやすくなり、ひいては吐出装置10が故障しているように見えてしまう場合がある。本実施形態によると、上記所定の範囲の上限値が2.00であることにより、波状噴流Jが形成されるように見えやすくなるため、吐出装置10が故障しているような違和感をユーザが持つことが抑制される。この効果は、本願発明者の実験的な検討によって得られたものである。
本実施形態の規則性乱し部50は、一対の中間流路42A、42Bよりも上流側を流通する液体Wに渦流を生じさせる渦流生成部52を含む。本実施形態によると、渦流生成部52で整流性が損なわれた液体Wの流れが渦流生成部52の下流に位置する中間流路42A、42Bを通って流れていくことで、一対の中間流路42A、42Bの各々を流通する液体Wの流れが大きく乱れる。その結果、合流室44内での左側内部噴流F1及び右側内部噴流F2の直進性が下がり、合流室44内で不規則な流れが発生する。これにより、波状噴流Jの噴射方向Daが不安定になる。その結果、波状噴流Jのなす波の規則性を乱すことが可能となる。
(第2実施形態)本開示の第2実施形態を説明する。第2実施形態の図面および説明では、第1実施形態と同等(同一を含む)の構成要素、部材には、同一の符号を付する。第1実施形態と重複する説明を適宜省略し、第1実施形態と相違する構成について重点的に説明する。後述の第3実施形態でも同様に適宜省略する。
図13、図14を参照する。第2実施形態の中継流路34は、第1曲がり部35c及び第2曲がり部35dを有さず、直線状に延びる。第2実施形態の渦流生成部52は、断面積変化部41a、左側曲がり部41a及び右側曲がり部41bによって主に構成される。
図15を参照する。第2実施形態の吐出装置10では、波状噴流Jが振動を繰り返す毎に噴流Jの周期及び振幅が変動している。第2実施形態の吐出装置10から周期及び振幅の不規則な波状噴流Jが噴射されることが理解される。第2実施形態における上記変動は、第1実施形態における上記変動(図12参照)と比較して小さいことが理解される。一例として、第2実施形態におけるある試作体の周期と振幅の変動係数はそれぞれ0.174、0.154であった。
第2実施形態によると、中継流路34が第1曲がり部35c及び第2曲がり部35dを有さない分、液体Wの流れは整流性を保ちながら中継流路34を通過する。整流性が比較的損なわれていない液体Wの流れが貯留室40を介して一対の中間流路42A、42Bの各々に流入するため、一対の中間流路42A、42Bの各々を流通する液体Wの流れの乱れが抑えられる。そのため、合流室44内で左側内部噴流F1及び右側内部噴流F2が大きく乱れにくくなり、噴流Jの規則性の乱れが抑制されることから、周期及び振幅の変動係数の増大が抑制される。その結果、周期及び振幅の少なくとも何れかの変動係数を0.06以上0.4以下にすることが可能となる。
上述の第1実施形態の一例では変動係数が0.4より大きい値であったが、本願発明者は、実験的な検討により、周期及び振幅の少なくとも何れかの変動係数が0.06以上0.4以下である場合に、着水音と当たり心地についてユーザが違和感を持ちにくいのはそのままに、吐出装置10が故障しているような違和感をユーザがより持ちにくくなることを見出した。したがって、第2実施形態における効果が得られる変動係数の下限値と上限値はそれぞれ0.06と0.4である。
(第3実施形態)本開示の第3実施形態を説明する。
図16~図18を参照する。第3実施形態の中継流路34は、第1曲がり部35c及び第2曲がり部35dを有さず、寸法変化部35eを備える。寸法変化部35eは、噴射流路32aに接続される。寸法変化部35eにおける波状噴流Jの振動方向の寸法は、下流側に向かって大きくなる。第3実施形態の寸法変化部35eは、第1流路部35a及び第2流路部35bにより形成される。第3実施形態の第1流路部35aにおける波状噴流Jの振動方向の寸法は、第2流路部35bにおける波状噴流Jの振動方向の寸法よりも大きい。寸法変化部35eの波状噴流Jの振動方向の寸法は、寸法変化部35eの流路中心線CL1の方向の寸法よりも大きい。第3実施形態の渦流生成部52は、寸法変化部35e、断面積変化部41a、左側曲がり部41a及び右側曲がり部41bによって主に構成される。
図19を参照する。第3実施形態の吐出装置10では、波状噴流Jが振動を繰り返す毎に波状噴流Jの周期及び振幅が変動している。そのため、第3実施形態の吐出装置10から周期及び振幅の不規則な波状噴流Jが噴射されることが理解される。第1及び第2実施形態における上記変動(図12、図15参照)と比較して、第3実施形態における上記変動は小さいことが理解される。一例として、第3実施形態におけるある試作体の周期と振幅の変動係数はそれぞれ0.122、0.071であった。
第3実施形態によると、寸法変化部35eの振動方向の寸法は、下流側に向かって大きくなる。そのため、液体Wが寸法変化部35eを通る際に、液体Wの流れにおいて振動方向に向かう速度ベクトル成分が徐々に大きくなる。液体Wは振動方向に向かう速度ベクトル成分を持ちつつ断面積変化部41aを通って貯留室40の上面に衝突する。そのため、貯留室40の上面近傍と下面近傍で振動方向の流速に差が生じにくくなることから、中継流路34の下流端近傍で液体Wの流れが乱れにくくなる。整流性が比較的損なわれていない液体Wの流れが一対の中間流路42A、42Bの各々に流入するため、一対の中間流路42A、42Bの各々を流通する液体Wの流れの乱れが抑えられる。そのため、合流室44内で左側内部噴流F1及び右側内部噴流F2が大きく乱れにくくなり、噴流Jの規則性の乱れが抑制されることから、周期及び振幅の変動係数の増大が抑制される。その結果、周期及び振幅の少なくとも何れかの変動係数を0.06以上0.13以下にすることが可能となる。
上述の第2実施形態の一例では変動係数が0.13より大きい値であったが、本願発明者は、実験的な検討により、周期及び振幅の少なくとも何れかの変動係数が0.06以上0.13以下である場合に、着水音と当たり心地についてユーザが違和感を持ちにくいのはそのままに、吐出装置10が故障しているような違和感をユーザが非常に持ちにくくなることを見出した。したがって、第3実施形態における効果が得られる変動係数の下限値と上限値はそれぞれ0.06と0.13である。
(評価)一例として変動係数を上述した第1実施形態、第2実施形態及び第3実施形態の各々の試作体を用いて、入浴感のアンケート評価を行った。
アンケート評価の結果、着水音と当たり心地については、第3実施形態、第2実施形態、第1実施形態の試作体の順で、すなわち変動係数が大きくなるにつれて、ユーザに対して着水音と当たり心地の違和感を与えにくくなるという結果が得られた。故障しているような印象については、第1実施形態、第2実施形態、第3実施形態の試作体の順で、すなわち変動係数が小さくなるにつれて、ユーザに対して故障しているような印象を与えにくくなるという結果が得られた。
(変形例)各構成要素の他の変形例を説明する。
衛生設備12の具体例は、特に限定されない。衛生設備12は、たとえば、トイレ設備、キッチン設備、洗面設備等でもよい。衛生設備12の槽体の具体例は特に限定されない。衛生設備12の槽体は、例えば、キッチンシンク、手洗シンク等のシンクでもよい。
浴室設備14は、少なくとも浴槽16を備えていればよく、浴室壁、洗い場床等はなくともよい。
貯留槽20は、浴槽16に限定されない。貯留槽20は、例えば、浴槽16とは別に設けられてもよい。給液路22には、衛生設備12が設置される建物の外部に設けられる上水道等の給水設備から水を供給してもよい。この場合、吐出システム18は、給水設備から給水圧をかけた状態の水が給液路22に供給されるため、ポンプ24を備えなくともよい。
吐出装置10の具体例は、特に限定されない。吐出装置10は、例えば、シャワー装置、水栓装置として用いられてもよい。
吐出装置10は、ユーザの身体に当たるように噴流Jを噴射できればよく、その噴流Jがユーザに当たる位置は特に限定されない。たとえば、吐出装置10は、ユーザの身体に側面側から当たるように噴流Jを噴射してもよい。
装置本体28が取り付けられるベース30は、実施形態とは異なり、浴槽16以外を対象としてもよい。
噴射対象の液体Wの具体例は、浴槽水に限定されない。液体Wは、例えば、液体洗剤等でもよい。
運動噴流Jの具体例は、波状噴流に限定されない。運動噴流Jは、例えば、噴流の噴射方向を旋回中心周りに旋回させることによって放射状に噴射される螺旋状噴流でもよい。吐出流路32bは膜状流を吐出した。しかし、これに限定されず、吐出流路32bはミスト流やシャワー流を吐出してもよい。
誘起流路36による波状噴流Jの誘起メカニズムは、特に限定されない。誘起流路36は、例えば、誘起流としてカルマン渦を生成して波状噴流を誘起してもよいし、コアンダ効果を利用して波状噴流を誘起してもよい。
上記実施形態では、規則性乱し部50は、中継流路34及び貯留室40によって構成される。しかし、これに限定されず、規則性乱し部50は、中継流路34、貯留室40、中間流路42及び合流室44のうちの少なくとも1つによって構成されてもよい。渦流生成部52は、中継流路34、貯留室40、中間流路42及び合流室44のうちの少なくとも1つに形成されてもよい。
上記実施形態では、規則性乱し部50は、液体Wに渦流を生じさせる渦流生成部52を含む。しかし、これに限定されず、規則性乱し部50は、液体Wに渦流を生じさせる以外の方法によって波状噴流Jのなす波の規則性を乱してもよい。
上記実施形態では、変動係数を所定の範囲に収めることで波の規則性を乱した。しかし、これに限定されず、変動係数とは異なる他の要素に基づいて波の規則性を乱してもよい。
波状噴流JのY方向の変位を計測する際のポンプ24からの供給流量、計測時間、噴流の変位の計測位置は、上述した例に限定されない。これらは適宜変更可能である。
上記実施形態では、第1曲がり部35c及び第2曲がり部35dの曲がり角度θ1及びθ2は、それぞれ45°である。しかし、これに限定されず、第1曲がり部35c及び第2曲がり部35dの曲がり角度θ1及びθ2は、他の角度であってもよい。
上記実施形態では、誘起流路36内に2つの中間流路42A、42Bが設けられた。しかし、これに限定されず、例えば、貯留室40から第1壁部46を貫通して合流室44につながる追加の中間流路42を設けることにより、誘起流路36内に2つ以上の中間流路42が設けられてもよい。
実施形態及び変形例を説明した。以上の構成要素の任意の組み合わせも、実施形態及び変形例を抽象化した技術的思想の態様として有効である。たとえば、実施形態に対して他の実施形態の任意の説明事項を組み合わせてもよいし、変形例に対して実施形態及び他の変形例の任意の説明事項を組み合わせてもよい。図面の断面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。