JP2022043937A - sRNAの抽出方法及び生物の存在状態の判定方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】生物から効率的にsRNAを抽出する方法、及び生物の存在状態を迅速に判定する方法を提供する。【解決手段】生物と、特定コーティング材でコーティングされた担体とを、第一の液体中で共存させることにより、前記生物を前記コーティングされた担体に吸着させること、及び前記生物を吸着した前記コーティングされた担体を、前記第一の液体と同じであっても異なっていてもよい第二の液体中に浸漬することにより、前記生物由来のsRNAを前記第二の液体中に抽出すること、を含む、生物からのsRNAの抽出方法、並びに該抽出方法を用いた、生物の存在状態の判定方法である。【選択図】なし

Description

本開示は、sRNAの抽出方法及び生物の存在状態の判定方法に関する。
食品製造、医療、福祉、家庭等の衛生管理が必要とされる現場において、人体に対し好ましくない影響を与える細菌等の生物の管理は重要である。環境中の生物のほとんどは無害であるが、一部の生物は、食中毒、製品の腐敗又は変敗を引き起こし、人々の暮らしの大きな妨げとなる。
近年は細菌等の生物を何らかの方法で検出し(いわゆる「見える化」)、検出結果を生物に関する衛生管理の指標とする試みが普及しつつある。ここで、細菌等を検出する場合に最も基本的な検出方法は培養法である。培養法は、培地上で細菌等を培養し、細菌の形態を基に当該細菌を検出する方法である。
培養法以外の生物の検出方法として、生物の表面抗原を抗体で認識する方法(抗体法)が挙げられる。抗体法としては、イムノクロマト法、ラテックス凝集法、ELISA法等が代表的な方法として挙げられる。
上記の方法以外の生物の検出方法としては、生物に含まれる遺伝子を基に生物を検出する方法(遺伝子法)も挙げられる。
本開示の一実施形態は、生物から効率的にsRNAを抽出する方法、及び生物の存在状態を迅速に判定する方法を提供することを課題とする。
<1> 生物と、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、アミノ酸、オリゴペプチド、及びタンパク質からなる群より選択されるコーティング材でコーティングされた担体とを、第一の液体中で共存させることにより、前記生物を前記コーティングされた担体に吸着させること、及び
前記生物を吸着した前記コーティングされた担体を、前記第一の液体と同じであっても異なっていてもよい第二の液体中に浸漬することにより、前記生物由来のsRNAを前記第二の液体中に抽出すること、
を含む、生物からのsRNAの抽出方法。
<2> 前記浸漬は加熱下で行われる、前記<1>に記載の抽出方法。
<3> 前記生物は、細胞壁を有する生物である、<1>又は<2>に記載の抽出方法。
<4> 前記第二の液体は、水性溶媒である、前記<3>に記載の抽出方法。
<5> 生物と、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、アミノ酸、オリゴペプチド、及びタンパク質からなる群より選択されるコーティング材でコーティングされた担体とを、第一の液体中で共存させることにより、前記生物を前記コーティングされた担体に吸着させること、
前記生物を吸着した前記コーティングされた担体を、前記第一の液体と同じであっても異なっていてもよい第二の液体中に浸漬することにより、前記生物由来のsRNAを前記第二の液体中に抽出すること、
前記抽出されたsRNAの存在状態を検出すること、及び
得られたsRNAの存在状態を基に、前記生物の存在状態を判定すること、
を含む、生物の存在状態の判定方法。
<6> 前記sRNAは1種又は複数種のsRNAである、前記<5>に記載の判定方法。
<7> 前記浸漬は加熱下で行われる、前記<5>又は<6>に記載の判定方法。
<8> 前記生物は、細胞壁を有する生物である、<5>~<7>のうちいずれか一つに記載の判定方法。
<9> 前記第二の液体は、水性溶媒である、前記<8>に記載の判定方法。
<10> 前記水性溶媒が核酸増幅用試薬を含む、前記<9>に記載の判定方法。
<11> 前記浸漬が0℃~50℃の温度範囲内の温度で行われる、前記<5>~<10>のうちいずれか一つに記載の判定方法。
<12> 前記担体は、活性炭、シリカ、ゼオライト、多孔性セラミックス、炭素繊維、砂、及びガラスビーズからなる群より選択される少なくとも一種である、前記<5>~<11>のうちいずれか一つに記載の判定方法。
<13> 前記ノニオン性界面活性剤は、ポリソルベート20、ポリソルベート80、及びオクチルフェノールエトキシレートからなる群より選択される少なくとも一種である、前記<5>~<12>のうちいずれか一つに記載の判定方法。
<14> 前記カチオン性界面活性剤は、ベンザルコニウム塩化物及び臭化セチルトリメチルアンモニウムからなる群より選択される少なくとも一種である、前記<5>~<12>のうちいずれか一つに記載の判定方法。
<15> 前記アニオン性界面活性剤は、ドデシル硫酸ナトリウム及び1-オクタンスルホン酸ナトリウムからなる群より選択される少なくとも一種である、前記<5>~<12>のうちいずれか一つに記載の判定方法。
<16> 前記アミノ酸は、グリシンである、前記<5>~<12>のうちいずれか一つに記載の判定方法。
<17> 前記タンパク質は、脱脂粉乳、及びウシ血清アルブミンからなる群より選択される少なくとも一種である、前記<5>~<12>のうちいずれか一つに記載の判定方法。
<18> 前記sRNAは、前記生物中に存在する、前記<5>~<17>のうちいずれか一つに記載の判定方法。
<19> 前記生物の存在状態を判定することが、2種以上の生物の総体的な存在状態を判定することを含む、前記<5>~<18>のうちいずれか一つに記載の判定方法。
<20> 前記sRNAの存在状態を検出することが、前記sRNAの存在量を検出することを含む、前記<5>~<19>のうちいずれか一つに記載の判定方法。
<21> 前記生物が、Escherichia coli、Citrobacter freundii、及びSalmonella gallinarumからなる群より選ばれる少なくとも一種の細胞壁を有する生物を含む、前記<5>~<20>のうちいずれか一つに記載の判定方法。
<22> 前記生物が植物を含む、前記<5>~<21>のうちいずれか一つに記載の判定方法。
<23> 前記生物がベロ毒素生産菌を含む、前記<5>~<22>のうちいずれか一つに記載の判定方法。
<24> 前記sRNAそれぞれの塩基数が、5~500の範囲内である、前記<5>~<23>のうちいずれか一つに記載の判定方法。
<25> 前記sRNAは、配列番号1で表されるヌクレオチド配列を有するEC-5p-36、配列番号2で表されるヌクレオチド配列を有するEC-3p-40、配列番号3で表されるヌクレオチド配列を有するEC-5p-79、配列番号4で表されるヌクレオチド配列を有するEC-3p-393、配列番号5で表されるヌクレオチド配列を有するfox_milRNA_5、配列番号6で表されるヌクレオチド配列を有するmiR156、及び配列番号7で表されるヌクレオチド配列を有するmiR716bからなる群より選択される少なくとも1種を含む、前記<5>~<24>のうちいずれか一つに記載の判定方法。
<26> 前記sRNAの存在状態を検出することがPCRにより行われる、前記<5>~<25>のうちいずれか一つに記載の判定方法。
本開示によれば、生物から効率的にsRNAを抽出する方法、及び生物の存在状態を迅速に判定する方法が提供される。
以下において、本開示の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本開示の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本開示はそのような実施態様に限定されるものではない。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、1つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
更に、本開示において成分の含有量の記載は、各成分に該当する物質が複数含有されている場合においては、特に断らない限り、含有される当該複数の物質の合計量を意味する。
また、本開示において、「質量%」と「重量%」とは同義であり、「質量部」と「重量部」とは同義である。
更に、本開示において、別個に記載されている複数の例示的態様は、互いに矛盾しない限り、互いに組み合わせて新たな態様を構成してもよい。
本開示に係る生物からのsRNAの抽出方法は、生物と、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、アミノ酸、オリゴペプチド、及びタンパク質からなる群より選択されるコーティング材でコーティングされた担体とを、第一の液体中で共存させることにより、前記生物を前記コーティングされた担体に吸着させること、及び前記生物を吸着した前記コーティングされた担体を、前記第一の液体と同じであっても異なっていてもよい第二の液体中に浸漬することにより、前記生物由来のsRNAを前記第二の液体中に抽出すること、を含む(以下、単に「本開示に係る抽出方法」とも称する)。
本開示に係る、生物の存在状態の判定方法は、生物と、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、アミノ酸、オリゴペプチド、及びタンパク質からなる群より選択されるコーティング材でコーティングされた担体とを、第一の液体中で共存させることにより、前記生物を前記コーティングされた担体に吸着させること、前記生物を吸着した前記コーティングされた担体を、前記第一の液体と同じであっても異なっていてもよい第二の液体中に浸漬することにより、前記生物由来のsRNAを前記第二の液体中に抽出すること、前記抽出されたsRNAの存在状態を検出すること、及び得られたsRNAの存在状態を基に、前記生物の存在状態を判定すること、を含む(以下、単に「本開示に係る判定方法」とも称する)。
本願発明者は鋭意研究の結果、生物と、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、アミノ酸、オリゴペプチド、及びタンパク質からなる群より選択されるコーティング材でコーティングされた担体とを、第一の液体中で共存させることにより、前記生物を前記コーティングされた担体に吸着させること、及び前記生物を吸着した前記コーティングされた担体を、前記第一の液体と同じであっても異なっていてもよい第二の液体中に浸漬することにより、前記生物由来のsRNAを前記第二の液体中に抽出すること、を含む、生物からのsRNAの抽出方法によって、生物から効率的にsRNAを抽出できることを見出した。
さらには、生物と、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、アミノ酸、オリゴペプチド、及びタンパク質からなる群より選択されるコーティング材でコーティングされた担体とを、第一の液体中で共存させることにより、前記生物を前記コーティングされた担体に吸着させること、前記生物を吸着した前記コーティングされた担体を、前記第一の液体と同じであっても異なっていてもよい第二の液体中に浸漬することにより、前記生物由来のsRNAを前記第二の液体中に抽出すること、前記抽出されたsRNAの存在状態を検出すること、及び得られたsRNAの存在状態を基に、前記生物の存在状態を判定すること、を含む、生物の存在状態の判定方法によって、生物の存在状態を迅速に判定できることを見出した。
生物の細胞には、small RNAと呼ばれる短いRNA断片が含まれている。small RNA(以下、「sRNA」とも称する)は、発生、分化、トランスポゾンのサイレンシング、ウイルス防御等の生命プロセスの制御という重要な役割を担っている。
本願発明者は、生物内に存在するsRNAを収集しようとする場合、生物(例えば、生物の細胞)を担体に吸着させることが有益となりうると考えた。例えば、ある液体中に含まれる生物からsRNAを収集しようとする場合、生物を担体に吸着させることで、生物を溶媒成分と分離することができる。より具体的には、液体中に担体を加えて生物を吸着させ、担体を沈降させて上清を除去すれば、液体中に含まれる生物の濃度を増加させる、つまり濃縮することができる。あるいは、フィルタに担体を含ませ、生物を含む液体をフィルタ通過させることで、フィルタ中の担体に生物を吸着させ、前記液体の溶媒成分と分離することができる。さらには、上清除去した後に、あるいは液体をフィルタ通過させた後に、生物を吸着した担体に別の溶媒を加えることで、溶媒交換することができる。生物を吸着した担体に、元々の液体の溶媒と同じ種類の溶媒を加えた場合であっても、元々の液体中の成分のうち担体に結合しない夾雑成分を除去できるという効果がある。
生物を濃縮できればsRNAの収集効率を上昇させることができるし、溶媒交換が可能であればsRNAの抽出に適した溶媒を用いることができる。また、夾雑成分の除去は収集させるsRNAの純度の向上を可能にする。
本願発明者は、このように生物を吸着する担体を使用することは有用であると考えたが、実際には担体の使用に起因する問題も生じることを見出した。具体的には、担体は生物だけでなくsRNAも吸着してしまうため、たとえ生物を担体に吸着させて液体に浸漬させても、吸着された生物からのsRNAは担体に吸着し、溶液中に効率的に抽出できないことが分かった。
驚くべきことに、本願発明者は、担体を特定の物質でコーティングすることにより、担体が生物を吸着しつつも、sRNAの液体中への抽出の阻害を低減させることが可能であることを見出した。より具体的には、生物と、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、アミノ酸、オリゴペプチド、及びタンパク質からなる群より選択されるコーティング材(以下、「特定コーティング材」とも称する)でコーティングされた担体とを、第一の液体中で共存させ、前記生物を前記コーティングされた担体に吸着させることで、第二の液体において、より効率的にsRNAを抽出できることが見出された。担体の表面の一部又は全部を、特定コーティング材でコーティングすることで、担体表面の吸着性が変化し、前記生物の担体への吸着は可能としつつも、生物から放出されたsRNAの担体への吸着を低減させることができると推測される。
よって、特定コーティング材でコーティングされた担体と生物とを第一の液体中で共存させると、前記生物は担体に吸着し、前記生物を担体に捕捉することができ、さらには放出されたsRNAの特定コーティング材でコーティングされた担体への吸着は低減される。そのため、前記生物を吸着した前記コーティングされた担体を第二の液体中に浸漬すると、コーティングされていない担体へ前記生物を吸着させた場合と比較して、前記生物からより効率的にsRNAを抽出できる。
抽出されたsRNAは、任意の用途において使用することができ、例えば実験用の核酸として使用することができる。本開示によれば、抽出されたsRNAを用いる方法の一例として、生物の存在状態の判定方法が提供される。sRNAは細胞内で重要な機能を有することから、同一の生物種内においては発現するsRNAはヌクレオチド配列の保存性を有する、つまり、各種のsRNAの発現プロファイルは同一の生物種の複数の細胞の間では共通している。一方、異なる生物種間では、sRNAの発現プロファイルは生物種に応じた差示的なものとなる。そのため、DNAや16S rRNAと同様に、測定試料中に存在するsRNAの情報は生物種の判別に利用することができる。sRNAを用いて生物種の判別をすることができることは、これまで知られていなかった。
例えば、生物種(A)においてはヌクレオチド配列(A)を有するsRNA(A)が発現するが、ヌクレオチド配列(B)を有するsRNA(B)は発現せず、生物種(B)においてはsRNA(B)は発現するがsRNA(A)は発現しない場合、測定試料中にsRNA(A)の存在は検出されるがsRNA(B)の存在は検出されないならば、生物種(A)の細胞は存在するが生物種(B)の細胞は存在しないと判定できる。ただし、sRNA(A)が、生物種(A)及び(B)以外の生物種(C)でも発現するsRNAである場合には、測定試料中にsRNA(A)の存在は検出されるがsRNA(B)の存在は検出されないならば、生物種(A)及び生物種(C)のうち1種以上の細胞が存在するが、生物種(B)の細胞は存在しないと判定できる。
さらに、sRNAは鎖長が短いことから、16S rRNAと比較してRNaseの攻撃を受けにくく、より安定して分析ができる。また、sRNAの細胞内でのコピー数は、多いものでは数千~数万のコピー数であるため、sRNAの存在状態についての情報を感度よく得ることができる。本開示に係る判定方法では、生物から第二の溶液中へと抽出されたsRNAの存在状態を検出して、これを基に生物の存在状態を判定する。
<生物>
本開示に係る抽出方法及び本開示に係る判定方法における生物は特に限定されず、細胞壁を有する生物であっても、細胞壁を有しない生物であってもよい。生物の例としては、動物、植物、微生物等が挙げられる。
一つの実施形態では、前記生物は、任意の細胞壁を有する生物である。一般的には、動物細胞以外の細胞、例えば植物細胞、微生物細胞等は細胞壁を有している。つまり、前記細胞壁を有する生物は、植物であってもよい。前記細胞壁を有する生物は、酵母、粘菌、カビ等の真菌であっても、大腸菌等の細菌であってもよい。
抽出又は判定の対象物は、生物体全体である必要は無く、生物の部分、つまり、生物の細胞であってもよい。つまり、本開示に係る抽出方法及び本開示に係る判定方法における「生物」とは、生物個体全体の意味には限定されず、生物の部分、例えば生物の細胞をも包含する意味を有する。生物の部分においても、sRNAは存在しており、また生物の部分の検出であっても生物の存在についての情報を与えるためである。前記生物の部分としては、多細胞生物の部分が挙げられ、例えば植物の花粉が挙げられる。ただし、生物の部分は、細胞の形状を維持している部分であることが好ましい。生物の部分が細胞の形状を維持していない場合には、第二の液体への浸漬前に、細胞内成分が既に周囲の媒体に流出しており、生物の部分を活性炭に吸着させても当該生物の部分はsRNAを含んでいない可能性があるためである。上記のとおり、本開示に係る抽出方法においては生物からsRNAを抽出することが記載され、本開示に係る判定方法においては生物の存在状態を判定することが記載されているが、ここでいう生物は、生物の部分も含む概念を表す。したがって、抽出された前記sRNAあるいは判定された前記存在状態は、生物種又は生物種のグループについての情報を与えれば十分である。実際、例えば草本植物の検出の場合などは、試料中に含まれているのは生物体全体ではなくその一部であるのが一般的であろうが、本開示に係る抽出方法又は判定方法により、生物種又は生物種のグループの存在に関する抽出結果又は判定結果を得ることができる。このため、本開示に係る抽出方法及び判定方法における生物は植物であってもよく、この場合、試料に含まれる成分は例えば花粉であってもよい。
前記細胞壁を有する生物は、例えば、衛生管理の必要とされる現場(食品製造、医療、福祉、家庭等)において存在が衛生管理上の問題となりうる生物であってもよい。そのような生物としては、病原性微生物、腐敗微生物が挙げられる。病原性微生物は病原性真菌であってもよく、その例としては、白癬菌、カンジダ、アスペルギルス等が挙げられる。病原性微生物は病原性細菌であってもよく、その例としては、グラム陽性菌(例えばブドウ球菌、レンサ球菌、肺炎球菌、腸球菌、ジフテリア菌、結核菌、らい菌、炭疽菌、枯草菌、ウェルシュ菌、破傷風菌、ボツリヌス菌等)、グラム陰性菌(淋菌、脳膜炎菌、サルモネラ菌、大腸菌、緑膿菌、赤痢菌、インフルエンザ菌、百日咳菌、コレラ菌、腸炎ビブリオ菌、アシネトバクター、カンピロバクター、レジオネラ菌、ヘリコバクター等)等が挙げられる。病原性細菌はベロ毒素生産菌であってもよい。腐敗微生物としては、魚介類の場合、シュードモナス、マイクロコッカス、ビブリオ、フラボバクテリウム等の各属の細菌が、畜肉類の場合、シュードモナス、アクロモバクター、マイクロコッカス、フラボバクテリウム等の各属の細菌が、米飯及びめん類の場合、バチルス属の細菌が挙げられる。
ある実施形態においては、前記細胞壁を有する生物はEscherichia coli、Citrobacter freundii、及びSalmonella gallinarumからなる群より選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。別のある実施形態においては、前記細胞壁を有する生物は植物を含み、前記植物はクロマツであってもよい。別のある実施形態においては、前記細胞壁を有する生物はベロ毒素生産菌を含む。
本開示に係る抽出方法及び判定方法においては細胞から第二の液体に抽出されたsRNAを用いるため、このような抽出を妨げるような物質を予め除去するための処理を行ってもよい。
<試料>
本開示に係る抽出方法又は本開示に係る判定方法において、生物と、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、アミノ酸、オリゴペプチド、及びタンパク質からなる群より選択されるコーティング材でコーティングされた担体と、第一の液体を含む混合物を、試料とも称する。本開示に係る抽出方法における試料とは、抽出しようとする生物のsRNAの抽出に用いられる試料であり、本開示に係る判定方法における試料とは、検出しようとする生物の存在状態の判定に用いられる試料である。sRNAの供給源となる生物を含む対象物又は生物の存在状態について判定したい対象物(以下、単に対象物とも称する)に生物が存在する場合に、試料も当該生物を含むように調製される限りは、試料について特に制限は無く、試料は対象物に特定コーティング材でコーティングされた担体を添加しただけの試料であっても、対象物から任意の処理により調製した調製物に特定コーティング材でコーティングされた担体を添加した試料であってもよい。対象物は、例えば、作業台の表面等の物体表面、食品等の物体自体、水道水等の液体、空気等の気体、生物種が不明な菌体、菌体培養液等である。作業をより簡便にする観点から、試料は対象物に特定コーティング材でコーティングされた担体を添加しただけの試料であることが好ましい。
例えば、対象物としての液体の中に存在する生物からsRNAを抽出したい場合又は該生物の存在状態について判定したい場合には、当該液体に特定コーティング材でコーティングされた担体を添加しただけの試料を試料としてもよいし、当該液体に希釈等の処理を施したものに特定コーティング材でコーティングされた担体を添加した試料を試料としてもよい。なお、希釈と特定コーティング材でコーティングされた担体の添加はどちらが先でも、あるいは同時であってもよい。また、例えば対象物としての物体の表面(例えば作業台の表面)に存在する生物からsRNAを抽出したい場合又は対象物を当該生物について分析したい場合には、当該表面をワイプ、綿棒等で拭き、当該ワイプ、綿棒等、又はその一部を第一の液体に浸漬した後に当該ワイプ、綿棒等、又はその一部を取り除き、また該第一の液体に特定コーティング材でコーティングされた担体を添加することで試料としてもよい。なお、前記浸漬と特定コーティング材でコーティングされた担体の添加はどちらが先でも、あるいは同時であってもよい。当該ワイプ、綿棒等、又はその一部を取り除く操作は、該第一の液体に特定コーティング材でコーティングされた担体を添加する前であっても、後であっても、同時でもよい。
対象物としての物体の内部(例えば、食品の内部)に存在する生物からsRNAを抽出したい場合又は物体を当該生物について分析したい場合には、当該物体の全体又は一部を第一の液体に浸漬した後に当該物体を取り除き、また該第一の液体に特定コーティング材でコーティングされた担体を添加することで試料としてもよい。空気を対象物として、空気中に存在する生物からsRNAを抽出したい場合又は空気を当該生物について分析したい場合には、当該空気中に存在する空中浮遊物を収集して得られた対象物を、第一の液体に浸漬し、また該第一の液体に特定コーティング材でコーティングされた担体を添加することで試料としてもよい。なお、前記浸漬と特定コーティング材でコーティングされた担体の添加はどちらが先でも、あるいは同時であってもよい。該収集は、フィルタ、遠心分離(例えばサイクロン式分離)、単に容器を開放して静置しておくこと(例えば、シャーレ等の蓋を開けて静置しておくこと)等により行うことができる。
このように、試料は、例えば、対象物としての液体;該液体を希釈した希釈液;又は、対象物としての表面を拭いたワイプ、綿棒等、空気の濾過フィルタ上に捕集された捕集物、若しくは周囲雰囲気に開放された容器内に付着した付着物等、を第一の液体に浸漬して得られた液体に、特定コーティング材でコーティングされた担体を添加したものとすることができる。
なお試料に含まれる生物は、細胞壁及び細胞膜が破壊されていない細胞壁を有する生物、あるいは細胞膜が破壊されていない細胞壁を有しない生物を含むことが好ましい。つまり、前記試料は、細胞破砕処理、膜破壊処理等を受けていないことが好ましい。細胞壁あるいは細胞膜が破壊されていると、生物を担体に吸着させても、当該生物はsRNAを含んでいない可能性があるためである。なお、本開示に係る抽出方法及び本開示に係る判定方法においては、第二の液体へのsRNAの抽出までのプロセスにおいて、生物の細胞壁及び/又は細胞膜を破壊するような処理(細胞破砕処理、膜破壊処理等)を含まないことが好ましい。
<担体>
本開示に係る抽出方法及び本開示に係る判定方法における担体は、当業者が担体として用いているもののうち、生物、例えば細胞壁を有する生物、を吸着させることができる担体であれば特に制限されない。
本開示に係る担体の粒径は、生物を吸着させることができれば特に限定されず、例えば、4メッシュの網ふるいに残留し400メッシュの網ふるいを通過する(つまり目開き4750μmの網ふるいを通過し38μmの網ふるいに残留する)、7メッシュの網ふるいに残留し100メッシュの網ふるいを通過する(つまり目開き2800μmの網ふるいを通過し150μmの網ふるいに残留する)、又は10メッシュの網ふるいに残留し32メッシュの網ふるいを通過する(つまり目開き1700μmの網ふるいを通過し500μmの網ふるいに残留する)等の粒径であってもよい。
本開示に係る担体のBET比表面積は、生物を吸着させることができれば特に限定されず、例えば、500m/g~2,500m/g、又は1,000m/g~2,000m/g等のBET比表面積であってもよい。
BET比表面積の測定方法は、流動式比表面積自動測定装置(株式会社島津製作所製「フローソーブIII2305」)を使用し、装置の取扱説明書に従って測定する方法が挙げられる。測定対象とする担体は、200℃で15分加熱する前処理を行ってよい。
本開示に係る担体の平均孔径は、生物を吸着させることができれば特に限定されず、例えば、直径20オングストローム以下、直径10オングストローム~200オングストローム、直径20オングストローム~500オングストローム、又は直径500オングストローム以上等の平均孔径であってもよい。
平均孔径の測定方法は、担体を上面から走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察し、無作為に選択した50個の空孔における孔径を測定し、その平均値を取ることによって算出することができる。
本開示に係る第一の液体中における担体の濃度は、生物を吸着させることができれば特に限定されず、例えば、0.01g/ml~100g/ml、0.1g/ml~70g/ml、1g/ml~50g/ml、又は5g/ml~40g/ml等の濃度であってもよい。
前記担体の例としては、活性炭、シリカ、ゼオライト、多孔性セラミックス、炭素繊維、砂、及びガラスビーズからなる群より選択される少なくとも一種が挙げられる。
前記活性炭の例としては、ヤシガラ又は石炭を原料として生産された活性炭が挙げられる。
前記担体は、粒状の担体であってもよく、粒状の担体がフィルタ又はカラム等の内部にセットされた状態の担体であってもよい。
<コーティング材>
本開示に係る抽出方法及び本開示に係る判定方法において、前述した担体は、コーティング材でコーティングされている。前記コーティング材は、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、アミノ酸、オリゴペプチド、及びタンパク質からなる群より選択される。
ノニオン性界面活性剤とは、1分子中に親水性基と疎水性基を有し、水中でイオンに解離する基を有しない化合物を意味する。
本開示に係るノニオン性界面活性剤は、ヒドロキシ基を有していてもよく、ポリオールエステル系ノニオン性界面活性剤、アルカノールアミド型ノニオン性界面活性剤、アルキルグルコシド型ノニオン性界面活性剤、アルコキシレート型ノニオン性界面活性剤、又は脂肪酸アルキルエステル型ノニオン性界面活性剤であってもよい。前記ノニオン性界面活性剤は、具体的には、ポリソルベート20(例えばTween 20)、ポリソルベート80(例えばTween 80)、及びオクチルフェノールエトキシレート(例えばTriton X-100)からなる群より選択される少なくとも一種とすることができる。
以下に、ポリソルベート20の構造式を示す。なお式中、w、x、y、及びzは整数を表し、w+x+y+z=20である。
Figure 2022043937000001
以下に、ポリソルベート80の構造式を示す。なお式中、w、x、y、及びzは整数を表し、w+x+y+z=20である。
Figure 2022043937000002
以下に、オクチルフェノールエトキシレートの構造式を示す。なお式中、xは平均の重合度を表しており、Triton X-100では約9.5である。
Figure 2022043937000003
カチオン性界面活性剤とは、1分子中に親水性基と疎水性基を有し、水中で電離してカチオンとなる化合物を意味する。
本開示に係るカチオン性界面活性剤は、アミン塩型カチオン性界面活性剤又は第4級アンモニウム塩型カチオン性界面活性剤であってもよい。前記カチオン性界面活性剤は、具体的には、ベンザルコニウム塩化物(例えばオスバン)及び臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)からなる群より選択される少なくとも一種とすることができる。
以下に、ベンザルコニウム塩化物の構造式を示す。なお式中、Rは、C17~C1837の炭化水素基を示す。
Figure 2022043937000004
アニオン性界面活性剤とは、1分子中に親水性基と疎水性基を有し、水中で電離してアニオンとなる化合物を意味する。
本開示に係るアニオン性界面活性剤は、スルホサクシネート型アニオン性界面活性剤、スルホン酸塩型アニオン性界面活性剤、硫酸エステル型アニオン性界面活性剤、又は脂肪酸塩型アニオン性界面活性剤であってもよい。前記アニオン性界面活性剤は、具体的には、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)及び1-オクタンスルホン酸ナトリウムからなる群より選択される少なくとも一種とすることができる。
アミノ酸とは、1分子内にアミノ基(-NH)とカルボキシ基(-COOH)とを有する化合物を意味する。
本開示に係るアミノ酸は、疎水性アミノ酸又は親水性アミノ酸であってもよく、酸性アミノ酸、塩基性アミノ酸、又は中性アミノ酸であってもよい。なお本開示において、疎水性アミノ酸とは、ロイシン、イソロイシン、トリプトファン、フェニルアラニン、バリン、アラニン、グリシン、プロリン、及びメチオニンからなる群から選ばれるアミノ酸を表す。親水性アミノ酸とは、セリン、トレオニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、アルギニン、ヒスチジン、アスパラギン、グルタミン、チロシン、及びシステインからなる群から選ばれるアミノ酸を表す。また、酸性アミノ酸とは、アスパラギン酸又はグルタミン酸を表す。塩基性アミノ酸とは、リジン、アルギニン、及びヒスチジンからなる群から選ばれるアミノ酸を表す。中性アミノ酸とは、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン、及び前記疎水性アミノ酸に記載されたアミノ酸からなる群から選ばれるアミノ酸を表す。また、アミノ酸はα-アミノ酸であっても、β-アミノ酸であっても、それら以外のアミノ酸であってもよい。本開示に係るアミノ酸は、具体的には、例えばグリシンとすることができる。
オリゴペプチドとは、1分子中にアミノ酸残基が鎖状に2~20残基程度結合したポリマーを意味する。
本開示に係るオリゴペプチドは、1分子中にアミノ酸残基が鎖状に2~20残基程度結合したポリマーであってもよく、1分子中にアミノ酸残基が鎖状に5~15残基程度結合したポリマーであってもよく、1分子中にアミノ酸残基が鎖状に7~13残基程度結合したポリマーであってもよい。
タンパク質とは、1分子中にアミノ酸が鎖状に多数(例えば21残基以上)連結してできた化合物を意味する。
本開示に係るタンパク質は、乳製品、粉乳、ゼラチン、ヘモグロビン、アルブミン、血清又は血漿であってもよい。前記タンパク質は、具体的には、脱脂粉乳(例えばスキムミルク)、及びウシ血清アルブミン(BSA)からなる群より選択される少なくとも一種とすることができる。
前記特定コーティング材により担体をコーティングする方法は、担体と特定コーティング材を接触させ、担体の一部又は全部がコーティングされる方法であれば特に限定されない。なお、コーティングは、担体と特定コーティング材を接触させることにより行うことができるが、このような接触は例えば液体中に担体と特定コーティング材を共存させることで行ってもよい。特定コーティング材が担体表面に接触すると、特定コーティング材は担体表面に吸着される。コーティングにおいて、必ずしも担体の表面全部をコーティングする必要は無く、担体の一部がコーティングされれば、生物を担体へ吸着させ、かつ前記生物から放出されたsRNAの担体への吸着を低減することができる。
コーティングにおいて、担体の質量に対する特定コーティング材の質量は、0.0001倍~10倍の質量であってもよく、0.001倍~5倍の質量であってもよく、0.01倍~2倍の質量であってもよく、等倍の質量であってもよい。
なお特定コーティング材は、特定コーティング材を溶媒に溶解させた特定コーティング材溶液として、担体に接触させてもよい。このとき、担体の質量に対する特定コーティング材溶液の質量は、0.1倍~1000倍の質量であってもよく、0.5倍~100倍の質量であってもよく、1倍~10倍の質量であってもよく、等倍の質量であってもよい。なおこのとき、担体の質量に対する特定コーティング材溶液中の特定コーティング材の質量は、0.0001倍~10倍の質量であってもよく、0.001倍~5倍の質量であってもよく、0.01倍~2倍の質量であってもよく、等倍の質量であってもよい。
担体と特定コーティング材とを接触させる温度は、室温で行っても加熱又は冷却しながら行ってもよい。担体又は特定コーティング材の変性をなるべく起こさないように、接触は0℃~50℃の温度範囲内の温度で行うことが好ましく、4℃~40℃の温度範囲内の温度で行うことがより好ましく、10℃~40℃の温度範囲内の温度で行うことがさらに好ましく、20℃~40℃の温度範囲内の温度で行うことがさらにより好ましく、25℃~40℃の温度範囲内の温度で行うことがさらにより好ましく、30℃~37℃の温度範囲内の温度で行うことがいっそう好ましい。接触は室温で行ってもよい。接触は加熱下で行ってもよい。
担体と特定コーティング材との接触時間は、担体の一部又は全部が特定コーティング材によってコーティングされる限りは、特に制限されない。その接触時間は、例えば10秒~30時間であり、10秒~10時間であってもよく、1.0分~5.0時間であってもよく、あるいは5.0分~1.0時間であってもよい。接触時間は、あるいは、0.50時間~6.0時間であってもよく、0.70時間~4.5時間であってもよく、0.80時間~2.0時間であってもよい。担体と特定コーティング材とを接触させる時の状態は、静置であってもよく、振とうしながらであってもよく、攪拌しながらであってもよい。
前記特定コーティング材と接触させた担体は、さらに水洗してもよい。水洗の方法は、例えば、前記特定コーティング材と接触させた担体を含む懸濁液を、遠心分離し、上清を除去し、水を添加する、という一連の操作を1回~数回繰り返すのであってもよい。水洗に用いる水は、滅菌水、緩衝液、水道水、生理食塩水、又は後述する水性溶媒であってもよい。
前記特定コーティング材により担体をコーティングする方法は、例えば、担体としてのヤシガラ活性炭50mgと特定コーティング材としてのポリソルベート20(Tween 20)の2%溶液100μLとを混合して、室温で10分以上静置する方法であってもよい。このようにして得たポリソルベート20でコーティングされた活性炭をさらに水洗してもよい。具体的には、静置後に、前記特定コーティング材と接触させた担体を含む懸濁液を14000rpm(回転/分)で2分間遠心分離し、上清を除去した後に、さらに300μLの滅菌水を添加し、14000rpmで2分間遠心分離し、上清を除去することで、水洗済みのコーティングされた担体を得てもよい。
<第一の液体>
本開示に係る抽出方法及び本開示に係る判定方法における第一の液体は、生物と、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、アミノ酸、オリゴペプチド、及びタンパク質からなる群より選択される特定コーティング材でコーティングされた担体とが、共存する際に存在する液体である。本開示に係る抽出方法及び本開示に係る判定方法における第一の液体は、特に限定されないが、例えば、滅菌水、緩衝液、生理食塩水、生物の培養のための液体培地、又は、後述する水性溶媒であってもよい。第一の液体は、試料の調製過程によって決まり、例えばsRNAの供給源となる生物を含む対象物又は生物の存在状態について判定したい対象物が液体であって、特定コーティング材でコーティングされた担体を添加して用いる場合には当該対象物の液体部分ということになる。また、前記対象物が固体であって、第一の液体に浸漬させ、その前若しくはその後若しくはそれと同時に特定コーティング材でコーティングされた担体を添加して試料とする場合には、第一の液体として所望の液体を用いることができる。sRNAを含む生物を効率的に吸着する観点からは、第一の液体は、生物の細胞壁及び細胞膜(細胞壁を有する生物の場合)あるいは生物の細胞膜(細胞壁を有しない生物の場合)を破壊しない液体であることが好ましい。
上述のとおり、対象物が初めから液体の状態であれば、対象物に特定コーティング材でコーティングされた担体を添加することで試料とすることができるが、この場合は対象物の液体部分が第一の液体ということになる。例えば、水道水に特定コーティング材でコーティングされた担体を添加することで、水道水中における生物からsRNAを抽出する、又は水道水中における生物の存在状態を判定することができる。また、例えば、生物を培養した培養液に特定コーティング材でコーティングされた担体を添加することで、培養液中における生物からsRNAを抽出する、又は培養液中における生物の存在状態を判定することができる。対象物が生物を含む場合、上記の試料は第一の液体中に生物を含む。
対象物が液体ではあるものの、夾雑物が多い等の理由で前処理を行いたい場合には、夾雑物を濾過、遠心、透析等により除去する等の手法により少なくとも部分的に除去し、特定コーティング材でコーティングされた担体を添加することで試料を調製してもよい。例えば、泥水中の生物からsRNAを抽出又は泥水中の生物の存在状態を検査する場合、泥水中の泥を濾過等で除去してから、濾液(生物を含む)に特定コーティング材でコーティングされた担体を添加することで試料を調製し、生物からのsRNAの抽出又は生物の存在状態の判定を行うことができる。
第一の液体中において、生物とコーティングされた担体とがある程度の時間(例えば、後述の浸漬時間の例として例示した時間)接触するようにしておけば、前記生物は、前記コーティングされた担体に吸着する。
前記コーティングされた担体と前記生物とが第一の液体中で接触する操作である限りは、当該操作は前述の、前記コーティングされた担体と前記生物とを第一の液体中で共存させることに含まれる。コーティングされた担体と生物とを、第一の液体中で共存させる操作は、コーティングされた担体と生物とを第一の液体中で静置して又は撹拌等しながら、生物のコーティングされた担体への吸着のために人為的に経時させる操作であってもよい。
生物と特定コーティング材でコーティングされた担体とを第一の液体中で共存させることにより前記生物を前記コーティングされた担体に吸着させることは、生物が吸着したコーティングされた担体から第一の液体を部分的に又は完全に除去することを含んでいてもよい。例えば、生物と特定コーティング材でコーティングされた担体とを第一の液体中で所定時間共存させた後に、第一の液体を全量又は部分量除去してもよい。
コーティングされた担体が粒子状である場合、第一の液体を全量又は部分量除去することは、例えば、スピンダウン又は500rpm(回転/分)で3分程度の低速遠心分離等の後に、上清を取り除く操作であってもよい。
コーティングされた担体がフィルタ又はカラム等として装置の内部にセットされた状態である場合、試料にフィルタを通過させることは、それ自体、第一の液体を部分的に又は完全に除去することを含んでいる。前記コーティングされた担体は、試料を流し終わったら、装置の内部から取り出されてもよい。例えば、前記コーティングされた担体を単独で取り出してもよく、又は前記コーティングされた担体を含むフィルタ又はカラムを取り出してもよい。
第一の液体を部分的に又は完全に除去することにより、液量を減少させる、言い換えれば生物の濃度を上昇させることができる。また同時に、コーティングされた担体に吸着しなかった物質、例えば、夾雑物又は特定コーティング材の全量のうち吸着しなかった部分を除去することができる。このため、例えば、前記生物由来の高純度のsRNAを抽出するがより容易になりうる。
<第二の液体>
本開示に係る抽出方法及び本開示に係る判定方法における第二の液体は、前記生物を吸着した前記コーティングされた担体を浸漬させ、前記生物由来のsRNAを前記第二の液体中に抽出するために用いられる。本開示に係る抽出方法及び本開示に係る判定方法における第二の液体は、特に限定されないが、一般的な核酸抽出溶媒であってもよく、後述する水性溶媒であってもよい。細胞膜を溶解させて、細胞内の核酸を迅速に放出させる観点からフェノール、グアニジン塩、水酸化ナトリウム等の強い変性剤を使うことも可能である。ただし、このような変性剤を用いた場合、その後に核酸増幅処理等を行おうとする場合には溶媒交換等の手間が必要となる。
本開示に係る抽出方法及び本開示に係る判定方法における第二の液体は、前述の第一の液体と同じであっても異なっていてもよい。つまり、第一の液体を共存に用いた後、該第一の液体を除去せず又は部分的に除去して、該第一の液体をそのまま第二の液体として(つまり溶媒交換せず)浸漬に用いてもよい。又は、第一の液体を共存に用いた後、該第一の液体を部分量又は全量除去して、新たに準備した第一の液体を添加して浸漬に用いてもよい。又は、第一の液体を共存に用いた後、該第一の液体を部分量又は全量除去して、該第一の液体の組成とは異なる組成である第二の液体を添加して浸漬に用いてもよい。第一の液体を除去する場合には、全量除去した方が溶媒交換の観点からは好ましい。とはいえ、第一の液体を完全に全量除去することは操作上困難であるので、ここでいう「全量」は、操作の技術的制約により除去しきれない微量の第一の液体の残存を許容する概念である。
生物と、特定コーティング材でコーティングされた担体とを、第一の液体中で共存させることと、前記生物を吸着した前記コーティングされた担体を、前記第一の液体と同じであっても異なっていてもよい第二の液体中に浸漬することとは、同じ処理の中で起こっても、別々の処理として行われてもよい。なお本開示に係る抽出方法及び本開示に係る判定方法における第一の液体中での共存及び吸着の後は、第一の液体の一部又は全部を除去し、その後に、前記第一の液体と同じ組成であっても異なる組成であってもよい第二の液体による浸漬及び抽出を行うことが、夾雑物を除去しsRNA抽出用の溶媒の選択肢が広がる観点から好ましい。第一の液体の一部又は全部を除去する方法は、例えば遠心分離又は自然沈降させた後に、上清を除去する等の方法でもよい。
さらには、本開示に係る判定方法において、第二の液体による抽出の後は、前記生物を吸着した前記コーティングされた担体の一部又は全部を除去し、その後に第二の液体を用いてsRNAの存在状態を検出することが好ましい。sRNAの存在状態の検出において、前記生物を吸着した前記コーティングされた担体は、検出のための反応系にとって夾雑物となりえるからである。前記生物を吸着した前記コーティングされた担体の一部又は全部を除去する方法は、例えばフィルタ濾過する等の方法でもよい。
第二の液体中には、上記の生物を吸着した、コーティングされた担体以外の共在成分を含まないことも、好ましい実施形態である。生物が第二の液体とある程度の時間(例えば、後述の浸漬時間の例として例示した時間)接触するようにしておけば、前記生物からsRNAの漏出が起こり、後述の浸漬を行った場合と同様に、第二の液体中にsRNAが抽出される。
前記生物を吸着した前記コーティングされた担体が第二の液体に接触する操作である限りは、当該操作は前述の、前記生物を吸着した前記コーティングされた担体を第二の液体中に浸漬することに含まれる。前記生物を吸着した前記コーティングされた担体を第二の液体中に浸漬する場合、操作は、前記生物を吸着した前記コーティングされた担体を浸漬させた第二の液体を静置して又は撹拌等しながら、sRNAの抽出のために人為的に経時させる操作であってもよい。
<水性溶媒>
本開示に係る抽出方法及び本開示に係る判定方法における第二の液体は、水性溶媒であってもよい。
本開示に係る抽出方法及び本開示に係る判定方法における水性溶媒は、水を主体とする液体であって、水性溶媒は純水そのものでもよく、細胞膜の変性を生じさせない限りは水に加えて他の成分(以下、「共在成分」とも称する)を含む水溶液であってもよい。水性溶媒における、水以外の溶媒成分の含有量はなるべく少ない方が好ましく、水以外の溶媒成分の量は水の量に対して1質量%以下、0.1質量%以下、0.01質量%以下、0.001質量%以下、又は0質量%(つまり、溶媒成分としては水のみを含む)としてもよい。また、本開示において、「水性溶媒」は細胞膜を変性させて膜を破壊する成分は含まないか、細胞膜の変性を引き起こさない程度の少量のみ含む。言い換えると、水性溶媒は細胞膜の変性を引き起こさないという点で水と共通した基本的な性質を有しており、この基本的な性質を損なわない限りにおいて共在成分を含むことができる溶媒である。このため、本開示に係る水性溶媒には、細胞膜を破壊して細胞内成分を取り出すための抽出液(例えば、2013-93号公報で言及されている細胞成分抽出液EXTRAGEN(トーソー株式会社製))は含まれない。
ただし、水性溶媒は、1価又は2価の直鎖、分枝鎖又は脂環式のC2~C8アルコール、及びアセトンについては、これらの総量で65質量%以下含んでいてもよい。このような量での特定の種類のアルコールの添加は、sRNAの水性溶媒への抽出効率を上昇させうる。具体的には、1価又は2価の直鎖、分枝鎖又は脂環式のC2~C8アルコール、及びアセトンそれぞれの含有量としては、水性溶媒の全量に対して65質量%以下であり、60質量%以下であってもよく、55質量%以下であってもよく、50質量%以下であってもよく、40質量%以下であってもよく、30質量%以下であってもよく、20質量%以下であってもよく、10質量%以下であってもよく、あるいは5.0質量%以下であってもよい。
前記水性溶媒中における1価又は2価の直鎖、分枝鎖又は脂環式のC2~C8アルコールの含有量の範囲の下限値は特に限定されず、0質量%(非含有)でもよい。前記水性溶媒中における1価又は2価の直鎖、分枝鎖又は脂環式のC2~C8アルコールの含有量は0.5質量%以上であってもよく、1.0質量%以上であってもよく、5.0質量%以上であってもよく、10質量%以上であってもよく、20質量%以上であってもよく、40質量%以上であってもよい。上記の上限値と下限値の値は、任意に組み合わせて数値範囲を形成してよい。
水性溶媒が、1価又は2価の直鎖、分枝鎖又は脂環式のC2~C8アルコール、及びアセトンのうち2種類以上を含む場合、これらの合計量も上記範囲内にあることが好ましい。
1価の直鎖、分枝鎖又は脂環式のC2~C8アルコールは、1価の直鎖、分枝鎖又は脂環式のC2~C5アルコールであることが好ましく、1価の直鎖、分枝鎖又は脂環式のC2~C4アルコールであることがより好ましい。1価の直鎖、分枝鎖又は脂環式のC2~C8アルコールの例としては、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-2-プロパノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、2-メチル-1-ブタノール、2-メチル-2-ブタノール、3-メチル-1-ブタノール、3-メチル-2-ブタノール、2,2-ジメチル-1-プロパノールが挙げられる。
2価の直鎖、分枝鎖又は脂環式のC2~C8アルコールは、2価の直鎖、分枝鎖又は脂環式のC2~C6アルコールであることが好ましく、2価の直鎖、分枝鎖又は脂環式のC2~C4アルコールであることがより好ましい。2価の直鎖、分枝鎖又は脂環式のC2~C8アルコールの例としては、1,2-エタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオールが挙げられる。
これらの1価又は2価の直鎖、分枝鎖又は脂環式のC2~C8アルコールの1種類又は複数種類を任意に選択して用いることができる。
本開示によれば、前記生物が細胞壁を有する生物であり、第二の液体が水性溶媒である場合であっても、sRNAの抽出が可能である。
sRNAは微生物の細胞膜によって細胞内に閉じ込められており、直接的に測定することが困難であると考えられていた。sRNAを解析するには、フェノール、グアニジン塩、水酸化ナトリウム等の強い変性剤(細胞膜を変性させる程度に強い変性剤)で細胞膜を変性させて核酸を取り出し、さらに変性剤を除去又は中和する操作が必要となると考えられていた。これは、実際、微生物のDNA及び16S rRNAを細胞外に取り出すには、水酸化ナトリウム等の強い変性剤(細胞膜を変性させる程度に強い変性剤)で細胞膜を変性させることが必要であって、強い変性剤を用いない場合にはDNA及び16S rRNAを取り出すことは出来なかったためである。このように、従来の核酸抽出法においては、変性剤で処理する操作と、変性剤を除去又は中和する操作に手間がかかるため、操作が煩雑となり、簡便ではない。
以上のような状況を考慮して、本願発明者は鋭意研究の結果、細胞壁を有する生物の細胞を水、又は水に加えて細胞変性作用を大きくは上昇させない程度の追加成分を含む水溶液中に細胞壁を有する生物の細胞を浸漬することにより、細胞中のsRNAを抽出することができることを見出した。この知見は驚くべきものである。なぜなら、細胞壁を有さない生物の細胞については、細胞を低張液に浸漬させると、浸透圧によって細胞膜が破裂して、上述の変性剤を用いなくとも周辺環境中にDNA及び16S rRNAを取り出すことができる可能性がある一方、これまでの技術常識からすれば、細胞壁を有する生物の細胞についてはこのような手法は適用できないからである。より具体的には、細胞壁を有する生物の細胞は、細胞壁によって構造が維持されるため、周辺環境の浸透圧の変化によって細胞膜が破裂することがなく、溶菌しにくい。このため、これまでの技術常識からすれば、上述の細胞膜の変性操作無くしては、細胞壁を有する生物の細胞内に存在する核酸を周辺環境中に放出させることは困難であると考えられる。このため、水中への浸漬によって細胞壁を有する生物の細胞からsRNAを細胞外に抽出できることは驚くべきことである。
このように、従来からsRNAの存在自体は知られていたものの、sRNAは強い変性剤を用いなければ細胞壁を有する細胞の外に取り出すことはできないと考えられていた。しかし、本開示においては、驚くべきことに、細胞壁を有する細胞が水性溶媒中に置かれた場合、強い変性剤などで細胞膜を破壊しなくても細胞内のsRNAは細胞周囲の水性溶媒中に抽出される(つまり、水性溶媒中へと漏出する)ことが見出された。当該抽出は室温でも可能である。水性溶媒中に抽出されたsRNAは、関心のある特定の生物の存在の検出や、測定試料中に存在する生物の種類の同定に用いることができる。このため、水性溶媒によるsRNAの抽出を用いれば、手間をかけることなく簡便に、関心のある細胞壁のある生物からsRNAを検出できる。
水性溶媒のpHは、強酸性又は強アルカリ性の条件における細胞膜の変性を防ぐ観点から、pH5~pH9の範囲内のpHであることが好ましく、pH6~pH8の範囲内のpHであることがより好ましく、pH6.5~pH7.5の範囲内のpHであることがさらに好ましい。水性溶媒は、上記のとおり水以外に共在成分を含んでいてもよい。共在成分の総含有量は、水性溶媒の全量に対して30質量%以下、10質量%以下、1質量%以下、0.1質量%以下、0.01質量%以下、又は0.001質量%以下であってもよい。水性溶媒に含まれていてもよい共在成分の例としては、塩、緩衝剤、界面活性剤、DTT、RNase阻害剤等が挙げられる。sRNAは鎖長が短いことから、16S rRNA等のより長いRNAと比較してRNaseの攻撃を受けにくいが、DTTやRNase阻害剤といったRNA安定化剤を共存させることによってsRNAをより安定化することができる。
水性溶媒は、共在成分を、細胞膜を変性させて膜を破壊する量では含まない。また、細胞膜の変性を防ぐ観点から、水性溶媒はフェノール、グアニジン、上述の1価又は2価の直鎖、分枝鎖又は脂環式のC2~C8アルコール以外のアルコール、イオン性界面活性剤、及びNaOHなどの強アルカリは含まないことが好ましい。水性溶媒がフェノール、グアニジン、上述の1価又は2価の直鎖、分枝鎖又は脂環式のC2~C8アルコール以外のアルコール、イオン性界面活性剤、及びNaOHなどの強アルカリ等の変性成分を含む場合には、その総含有量は、水性溶媒の全量に対して0.1質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以下であることが好ましく、0.001質量%以下であることがさらに好ましい。強アルカリ等の変性成分を含まないか、含んでいても含有量が上記範囲内である場合、第二の液体による浸漬後にさらなる処理のためにこれら変性成分を取り除くための追加の処理を行うことが不要となり、sRNAの抽出又は生物の存在状態の判定がより簡便に行える。変性成分を含まないこと、又は含んでいても上記の含有量範囲内であることはこの観点からも、好ましい。
界面活性剤は、その種類及び量によっては細胞膜を変性及び破壊するため、水性溶媒が界面活性剤を含む場合にはその種類及び量を制限する必要がある。水性溶媒の表面張力は20℃において50mN/m~72.8mN/m(水の表面張力)であることが好ましく、60mN/m~72.8mN/mであることがより好ましく、65mN/m~72.8mN/mであることがさらに好ましく、70mN/m~72.8mN/mであることがいっそう好ましい。水性溶媒が界面活性剤を含む場合には、該界面活性剤はノニオン性界面活性剤であることが好ましく、ノニオン性界面活性剤の例としてはポリソルベート20又はポリソルベート80(例えばTween 20又はTween 80等のTweenシリーズの界面活性剤)、NP-40(ノニルフェノールエトキシレート)、及びオクチルフェノールエトキシレート(例えばTriton X-100等のTritonシリーズの界面活性剤)等が挙げられる。
水性溶媒の性質を純水に近いものとする観点からは、水性溶媒中の塩濃度は、0mol/L~0.2mol/Lであることが好ましく、0mol/L~0.1mol/Lであることがより好ましく、0mol/L~0.05mol/Lであることがさらに好ましい。
共在成分は、溶媒成分である必要は無く、水中に懸濁する微粒子、水溶性物質等であってもよい。また、水性溶媒は、核酸増幅用試薬を共在成分として含んでいてもよい。前記核酸増幅用試薬は、ポリメラーゼ、ヌクレオチド3リン酸(dNTPの混合物)、プライマー、Mg2+イオン等を含む、核酸の増幅に必要な試薬である。前記核酸増幅用試薬は、RNAを鋳型にDNA鎖を合成できる活性(逆転写活性)を有するポリメラーゼを含んでいることが好ましい。核酸増幅用試薬にはTriton X-100等の弱い界面活性剤(特にノニオン性界面活性剤)が含まれる場合があるが、核酸増幅用試薬用の濃度では、細胞を変性させて膜を破壊することはないので、核酸増幅用試薬中の界面活性剤はそのまま水性溶媒に含まれてもよい。例えば、水性溶媒がTriton X-100を含む場合には、細胞膜の変性を防ぐ観点及び核酸増幅を効率的に行う観点から、Triton X-100の含有量は水性溶媒の全量に対して0.01質量%~5質量%であることが好ましく、0.05質量%~3質量%であることがより好ましく、0.1質量%~2質量%であることがさらに好ましい。核酸増幅用試薬は、例えば、PCR用の試薬、等温遺伝子増幅用の試薬等であってもよい。水性溶媒に核酸増幅用試薬を含ませることによって、細胞から漏出したsRNAを含む第二の液体を用いて、試薬添加操作や温度サイクル操作を行うことなく、そのまま核酸増幅を行うことが可能となる。
なお、上記では生物が細胞壁を有する生物である場合を中心に水性溶媒の使用を記載したが、水性溶媒は、細胞壁を有しない生物からsRNAを抽出するために用いても構わない。
水性溶媒中における溶媒以外の共在成分の例としては、水性溶媒の全量に対して5.0質量%以下のノニオン性界面活性剤、水性溶媒の全量に対して1.0質量%以下の抗菌ペプチド、及び1.0M以下の還元剤も挙げられる。ノニオン性界面活性剤は、1分子中に親水性基と疎水性基を有し、水中でイオンに解離する基を有しない化合物である。ノニオン性界面活性剤は、ヒドロキシ基を有していてもよく、例えば、親水性のポリオキシアルキレン(ポリオキシプロピレン、ポリオキシエチレン等)鎖部分と、アルキル、アリール、アルキレン、アリーレン等の疎水性部分を有する化合物であってもよい。あるいは、ノニオン性界面活性剤は、ポリオールエステル系、アルカノールアミド型、アルキルグルコシド、アルコキシレート型、又は脂肪酸アルキルエステル型であってもよい。より具体的には、ポリオキシエチレンアルキルエーテル型、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル型等であってもよい。前記ノニオン性界面活性剤は、具体的には、ポリソルベート20(例えばTween 20)、ポリソルベート80(例えばTween 80)、ノニルフェノールエトキシレート(NP-40)、オクチルフェノールエトキシレート(例えばTriton X-100)、及びポリ(エチレングリコール)-block-ポリ(プロピレングリコール)-block-ポリ(エチレングリコール)(例えば、Synperoinc F108)からなる群より選択される少なくとも一種類を含んでいてもよい。
前記水性溶媒中におけるノニオン性界面活性剤の含有量は、細胞壁を有する生物の細胞膜へのダメージを低減する観点から、水性溶媒の全量に対して5.0質量%以下である。前記水性溶媒中におけるノニオン性界面活性剤の含有量は、水性溶媒の全量に対して4.0質量%以下であってもよく、3.0質量%以下であってもよく、2.0質量%以下であってもよく、あるいは1.5質量%以下であってもよい。
前記水性溶媒中におけるノニオン性界面活性剤の含有量の範囲の下限値は特に限定されず、0質量%(非含有)でもよい。前記水性溶媒中におけるノニオン性界面活性剤の含有量は0.01質量%以上であってもよく、0.1質量%以上であってもよく、0.3質量%以上であってもよく、0.5質量%以上であってもよく、0.7質量%以上であってもよい。上記の上限値と下限値の値は、任意に組み合わせて数値範囲を形成してよい。
前記抗菌ペプチドは、当業界で知られた抗菌ペプチドであれば特に限定されない。抗菌性ペプチドは、基本的には、親水性の面と、疎水性の面とを有する両親媒性のペプチドであって、これにより細胞膜に存在することが可能である。抗菌ペプチドの例としては、陰イオン性ペプチドであるマクシミンH5及びダームシジン;システイン残基を含まない直鎖陽イオン性α-ヘリックスペプチドであるセクロピン、アンドロピン、モリシン、セラトトキシン、メリチン、マガイニン(マガイニンI及びマガイニンII), デルマセプチン、ボンビニン、ブレビニン-1、エスクレチン、ブフォリンII、CAP18、及びLL37;プロリン、アルギニン、フェニルアラニン、及びトリプトファンのうち一つ以上に富む陽イオン性ペプチドであるアバエシン、アピダエシン、プロフェニン、インドリシジン;並びに、ジスルフィド結合を含むブレビニン、プロテグリン、タキプレシン、ディフェンシン、及びドロソマイシンが挙げられる。当業界で知られた抗菌ペプチドの1種類又は複数種類を任意に選択して用いることができる。
前記水性溶媒中における抗菌ペプチドの含有量は、細胞壁を有する生物の細胞膜へのダメージを低減する観点から、水性溶媒の全量に対して1.0質量%以下である。前記水性溶媒中における抗菌ペプチドの含有量は、水性溶媒の全量に対して0.8質量%以下であってもよく、0.5質量%以下であってもよく、0.2質量%以下であってもよく、あるいは0.15質量%以下であってもよい。
前記水性溶媒中における抗菌ペプチドの含有量の範囲の下限値は特に限定されず、0質量%(非含有)でもよい。前記水性溶媒中における抗菌ペプチドの含有量は0.001質量%以上であってもよく、0.005質量%以上であってもよく、0.01質量%以上であってもよく、0.05質量%以上であってもよく、0.07質量%以上であってもよい。上記の上限値と下限値の値は、任意に組み合わせて数値範囲を形成してよい。
前記還元剤は、当業界で知られた還元剤であれば特に限定されない。還元剤の例としては、シュウ酸 、ギ酸、没食子酸、アスコルビン酸、β-メルカプトエタノール、及びジチオトレイトールが挙げられる。還元剤はメルカプト基を有する還元剤であることが好ましく、例えばβ-メルカプトエタノール又はジチオトレイトールであってもよい。還元剤として、当業界で知られた還元剤の1種類又は複数種類を任意に選択して用いることができる。
前記水性溶媒中における還元剤の濃度は、細胞壁を有する生物の細胞膜へのダメージを低減する観点から、1.0M以下である。前記水性溶媒中における還元剤の濃度は、0.8M以下であってもよく、0.5M以下であってもよく、0.2M以下であってもよく、あるいは0.15M以下であってもよい。
前記水性溶媒中における還元剤の濃度の範囲の下限値は特に限定されず、0M(非含有)でもよい。前記水性溶媒中における還元剤の濃度は0.001M以上であってもよく、0.005M以上であってもよく、0.01M以上であってもよく、0.05M以上であってもよく、0.07M以上であってもよい。上記の上限値と下限値の値は、任意に組み合わせて数値範囲を形成してよい。
<共存>
本開示に係る抽出方法及び本開示に係る判定方法における生物と、特定コーティング材でコーティングされた担体とを、第一の液体中で共存させることは、室温で行っても加熱又は冷却しながら行ってもよい。細胞膜の変性をなるべく起こさないように、共存は0℃~50℃の温度範囲内の温度で行うことが好ましく、4℃~40℃の温度範囲内の温度で行うことがより好ましく、10℃~40℃の温度範囲内の温度で行うことがさらに好ましく、20℃~40℃の温度範囲内の温度で行うことがさらにより好ましく、25℃~40℃の温度範囲内の温度で行うことがさらにより好ましく、30℃~37℃の温度範囲内の温度で行うことがいっそう好ましい。生物と、特定コーティング材でコーティングされた担体とを、第一の液体中で共存させることは室温で行ってもよい。生物と、特定コーティング材でコーティングされた担体とを、第一の液体中で共存させることは加熱下で行ってもよい。
生物と、特定コーティング材でコーティングされた担体とを、第一の液体中で共存させる時間は、生物が、十分な量、特定コーティング材でコーティングされた担体へ吸着する限りは、特に制限されない。生物と、特定コーティング材でコーティングされた担体とを、第一の液体中で共存させる時間は、例えば10秒~30時間であり、10秒~10時間であってもよく、1.0分~5.0時間であってもよく、あるいは5.0分~1.0時間であってもよい。生物と、特定コーティング材でコーティングされた担体とを、第一の液体中で共存させる時間は、あるいは、0.50時間~6.0時間であってもよく、0.70時間~4.5時間であってもよく、0.80時間~2.0時間であってもよい。
生物と、特定コーティング材でコーティングされた担体とを、第一の液体中で共存させるやり方は特に限定されず、生物が、特定コーティング材でコーティングされた担体と接触することになる任意の処理を挙げることができる。共存は、例えば、容器中に格納された第一の液体中で前記生物と前記コーティングされた担体を共存することで行うことができる。この際、第一の液体は静置していても、撹拌していてもよい。
生物と、特定コーティング材でコーティングされた担体とを、第一の液体中で共存させることによって、生物の特定コーティング材でコーティングされた担体への吸着が起こり、第一の液体中に前記生物を吸着した前記コーティングされた担体を含む試料が得られる。
<浸漬>
本開示に係る抽出方法及び本開示に係る判定方法における浸漬は、室温で行っても加熱又は冷却しながら行ってもよい。機器を必要としない観点からは浸漬は室温で行うことが好ましい。細胞膜の変性をなるべく起こさないようにする観点及び操作を簡便化する観点からは、浸漬は0℃~50℃の温度範囲内の温度で行うことが好ましく、4℃~40℃の温度範囲内の温度で行うことがより好ましく、10℃~40℃の温度範囲内の温度で行うことがさらに好ましく、20℃~40℃の温度範囲内の温度で行うことがさらにより好ましく、25℃~40℃の温度範囲内の温度で行うことがさらにより好ましく、30℃~37℃の温度範囲内の温度で行うことがいっそう好ましい。浸漬は室温で行ってもよい。一方、sRNAの抽出速度を増加させる観点から浸漬を加熱下で行ってもよい。
浸漬時間は、sRNAの細胞外への漏出が十分な量で起こる限りは、特に制限されない。浸漬時間は、例えば10秒~30時間であり、10秒~10時間であってもよく、1.0分~5.0時間であってもよく、あるいは5.0分~1.0時間であってもよい。浸漬時間は、あるいは、0.50時間~6.0時間であってもよく、0.70時間~4.5時間であってもよく、0.80時間~2.0時間であってもよい。
浸漬を加熱下で行う場合、浸漬温度及び浸漬時間は、例えば、50℃~100℃の温度範囲内の温度で10秒~30時間であってもよく、70℃~100℃の温度範囲内の温度で1.0分~10時間であってもよく、80℃~100℃の温度範囲内の温度で3.0分~1時間であってもよく、95℃の温度で5.0分であってもよい。
浸漬のやり方は特に限定されず、前記生物を吸着した前記コーティングされた担体が、第二の液体と接触することになる任意の処理を挙げることができる。浸漬は、例えば、容器中に格納された第二の液体に前記生物を吸着した前記コーティングされた担体を浸漬することで行うことができる。
浸漬を行うことによって、sRNAの細胞外への漏出が起こり、第二の液体中にsRNAを含む試料が得られる。
上述の「水性溶媒」の項で説明した細胞壁を有する細胞からのsRNAの漏出は、驚くべきことに、核酸一般に起こる現象ではなく、sRNAにおいて特に起こる現象である。このため、例えば従来から生物種の判別のために用いられてきた16S rRNAを水性溶媒中に漏出させようとして細胞壁を有する細胞を水性溶媒中に浸漬したとしても、16S rRNAは細胞壁を有する細胞から全く漏出しないか、漏出したとしても低い量でしか漏出しない。この違いは、16S rRNA(1600塩基程度)とsRNAとの長さの違いが一因ではないかと考えられる。つまり、mRNA及び16S rRNAに比べて鎖長の短いsRNAは、驚くべきことに、細胞膜を破壊しなくても細胞壁を有する細胞の外の水性溶媒に漏出する。一方、mRNA、16S rRNA等のより大きな分子はこのような漏出は実質的に示さず、細胞膜の変性を伴う抽出操作を行わなければ細胞壁を有する細胞の外に取り出すことができない。
<sRNA>
本開示に係る抽出方法及び本開示に係る判定方法におけるsRNAとは、small RNAとも称され、細胞に含まれる短鎖のRNAを意味する。sRNAの具体的な鎖長は、5塩基~500塩基であることが好ましく、8塩基~500塩基であることがより好ましく、10塩基~200塩基であることがさらに好ましく、12塩基~100塩基であることがいっそう好ましく、15塩基~30塩基であることが特に好ましい。
なお、sRNAの中には、真核細胞に含まれる20塩基~30塩基程度のRNAであるmicro RNAなどもある。また、原核生物でも同程度の特に短いsRNAのことをmicroRNA-size small RNAと呼ぶ場合もある。
本開示に係る抽出方法及び本開示に係る判定方法におけるsRNAは、生物が細胞外に放出したsRNAを抽出又は存在状態を検出する観点から、前記生物中に存在することが好ましい。つまり、sRNAは、前記生物の細胞に内包されていることが好ましい。
生物に存在するsRNAについては研究が進められており、各生物において見出されたsRNAの配列情報は、Rfam(EMBL EBI) 、Small RNA Database(MD Anderson Cancer Center) 、miRBase(Griffiths-Jones lab at the Faculty of Biology, Medicine and Health, University of Manchester)、National Center for Biotechnology Information (NCBI)のデータベース等のデータベースに蓄積されている他、学術論文にも種々報告されている。このため、各種の生物に含まれるsRNAの情報は、データベース検索を始めとする公知の方法で得ることが可能である(杏林医会誌41巻1号pp.13~18 2010年4月参照)。例えば、National Center for Biotechnology Information (NCBI)のデータベースに含まれる核酸配列と、検索対象の核酸配列とを、Nucleotide BLAST(https://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi)を用いて比較及び同一配列の検索(当該同一配列の由来となる生物の情報を含む)をすることができる。
sRNAは、生物の種類に応じて差示的に発現する。例えば、Rfam、Small RNA Database、miRBase、National Center for Biotechnology Information (NCBI)データベース等の配列データベースを参照すると、特定のsRNAがどの1種又は複数種の生物において発現しているかを検索することができ、また、特定の生物においてどの1種又は複数種のsRNAが発現しているかを検索することができる。
本開示に係る抽出方法及び本開示に係る判定方法において、前記sRNAは1種又は複数種のsRNAであってもよい。
本開示に係る判定方法においては、sRNAは、関心のある特定の生物において差示的な発現状態を示すものであることが好ましい。このようにすることで、sRNAの存在状態から生物の存在状態をよりよく判別できる。
ここで、「差示的な発現状態」とは、前記特定の生物においてのみ差示的に発現するsRNAである必要はなく、前記特定の生物を含む特定の生物の群においてのみ差示的に発現するsRNAといった、前記特定の生物にのみに完全に差示的であるわけではないsRNAをも含む概念を意味する。
本開示に係る抽出方法においても、抽出する対象となるsRNAは、生物に応じて差示的な発現状態を示すものであることが好ましい。
上述したとおり、第二の液体が水性溶媒であり前記生物が細胞壁を有する生物である場合、本開示に係る抽出方法及び本開示に係る判定方法においては、強アルカリ処理、グアニジン処理、フェノール、1価又は2価の直鎖、分枝鎖又は脂環式のC2~C8アルコール以外のアルコール、イオン性界面活性剤などによる細胞膜の変性を行わずに細胞壁を有する細胞の外部の第二の液体にsRNAを漏出させることができる。このため、変性剤の使用が必要無く、変性剤による処理時間も不要になり、また、sRNAを漏出させた第二の液体はそのままでもその後の処理(例えば、sRNA検出のための核酸増幅処理等)に供することができる。
<存在状態>
本開示に係る判定方法において、「存在状態」とは、単に存在の有無を指してもよく、また、存在量を指していてもよい。つまり、「存在状態を検出すること」とは、存在するというバイナリーな情報を得ることであってもよいが、存在という情報に加えて存在量の情報までも得るものであってもよい。存在量の情報には、存在の有無についての情報も内在している。同様に、「存在状態を判定すること」とは、存在するというバイナリーな判定を行うことであってもよいが、存在するという情報に加えて存在量の判定までも行うものであってもよい。ここで、存在量は、絶対的な存在量には限定されず、ネガティブコントロール又はポジティブコントロール等の比較対象に対する相対存在量であってもよい。
<存在状態の検出>
本開示に係る判定方法においてsRNAの存在状態を検出する手法については特に制限されない。sRNAの存在状態を検出する手法としては、標識された核酸プローブとのハイブリダイゼーション(ノーザンブロッティングを含む)、核酸増幅などの方法がある。核酸増幅はDNA又はRNAを増幅させる方法であればよく、その例としては、PCR(Polymerase Chain Reaction)法、RT-PCR(Reverse Transcription-PCR)法、LCR(Ligase Chain Reaction)法、SDA(Strand Displacement Amplification)法、NASBA(Nucleic Acid Sequence-based Amplification)法、TRC(Transcription Reverse-transcription Concerted Reaction)法、LAMP(Loop-mediated Isothermal Amplification)法、RT-LAMP(Reverse Transcription-LAMP)法、ICAN(Isothermal and Chimeric Primer-initiated Amplification of Nucleic Acids)法、RCA(Rolling Cycle Amplification)法、Smart Amp(Smart Amplification Process)法、TMA(Transcription-mediated Amplification)法、TAS(transcription Amplification System)法、3SR(Self-sustained Sequence Replication System)法等の各増幅方法が挙げられる。RNAを直接増幅できない方法の場合には、一旦sRNAを逆転写酵素で逆転写してDNAに変換してから核酸増幅すればよい。ある実施形態においては、sRNAの存在状態の検出は等温遺伝子増幅又はPCRによって行われる。
sRNAの存在状態を検出するために用いられる核酸増幅は、温度サイクルのための設備を必要としないという点では、好ましくは等温遺伝子増幅法であるLAMP法又はRCA法である。RCA法としては、特にSATIC(termed signal amplification by ternary initiation complexes)法が挙げられる。等温遺伝子増幅は、増幅のための機器(温度サイクルに合わせて温度を変動させる機器)を用意する必要が無い点で好ましい。等温遺伝子増幅は例えば10℃~40℃の温度範囲内の温度でも可能であるため、室温で行うことができる。なお、本開示において、実施例等で特に定める場合を除き、室温とは20℃~40℃の範囲内の温度であってもよい。
また、前述のPCRは、qPCR(定量PCR)であってもよく、qPCRはリアルタイムPCRであってもよい。リアルタイムPCRとしては、特に、Taqman(登録商標) miRNA assay(Thermo Scientific社製)を用いる方法が挙げられる。qPCRを用いることで、sRNAの存在状態について定量的な解析を行うことが容易となる。
sRNAの検出に用いられるプローブ又はプライマー等の試薬(以下sRNA検出用試薬とも称する)については、浸漬完了後に第二の液体中に添加してもよいし、浸漬前の第二の液体にあらかじめ含ませておいてもよい。浸漬前の第二の液体にあらかじめsRNA検出用試薬を含ませておいた場合は、浸漬完了後の添加操作が不要となる点で好ましい。また、水性溶媒である試料において溶媒交換せずに該水性溶媒を第二の液体として用いる場合には、該第二の液体にsRNA検出用試薬を添加してもよいし、第二の液体を調製する過程が存在する場合には当該調製過程でsRNA検出用試薬を添加してもよい。
増幅した核酸は、例えば、プライマーに蛍光色素を付着しておく、沈殿物を目視で確認する、核酸染色色素を用いる、蛍光プローブとハイブリダイゼーションさせる、核酸クロマトグラフィーに供する等の既存の増幅核酸検出方法を用いることにより検出することができる。前記蛍光プローブは、マイクロアレイ上に配置されていてもよい。マイクロアレイを用いることで、複数種のsRNAの存在情報を一度に得ることができる。
例えば、Taqman(登録商標)プローブ、SYBR Green色素などを用いることで、核酸増幅量を蛍光シグナルにより測定でき、その情報を基にsRNAの存在状態を知ることができ、この手法は特にqPCRにおいて有効である。
上述のように、sRNAの検出において核酸増幅は必須ではなく、核酸増幅無しに蛍光プローブとsRNAとをハイブリダイゼーションさせること等により直接検出してもよい。
上記の核酸増幅又はプローブとのハイブリダイゼーション等の検出操作においては、sRNAの全長を増幅してもよく、及び/又はsRNAの全長とハイブリダイゼーションするプローブを用いてもよい。ただし、sRNAの全長を増幅すること、及び/又はsRNAの全長とハイブリダイゼーションするプローブを用いることは必須ではない。sRNAの一部の領域、例えばsRNAの3’末端側領域の10塩基~30塩基程度を対象として、核酸増幅又はハイブリダイゼーションを行ってもよい。
前記sRNAの存在状態の検出は、細胞からのsRNAの抽出と同時並行で行ってもよい。例えば、PCR法、又はSATIC法等の等温遺伝子増幅法の反応液中に、前記生物を吸着した前記コーティングされた担体を直接浸漬又は添加して、sRNAの漏出と検出を同時に行ってもよい。等温遺伝子増幅法の場合、温度サイクルが無いため、核酸増幅に必要な試薬が第二の液体中に揃っているのであれば、いつでも核酸増幅を開始できる状態にある。
なお本開示に係る前記sRNAの存在状態を検出することは、前記sRNAの存在量を検出することを含んでいてもよい。
<生物の存在状態の判定>
試料中に生物に差示的なsRNAが検出されることは、試料中における当該生物の存在を示唆する。試料中における生物に差示的なsRNAの存在量の情報からは、試料中における当該生物の存在量についての情報を得ることもできる。
生物の検出方法の中で、培養法は非常に感度が高く、信頼性も高い方法である。ただし、培養法には問題点もある。例えば、培養に1日~数日を要するため結果を得るまでに時間がかかること、培養が困難な細菌には適用が困難であること、培養後の細菌の同定には特殊な技術が必要であること、培養した細菌の廃棄にはオートクレーブ等の滅菌操作が必要で、廃棄物の体積もかさばることから、廃棄の手間とコストがかかること、などが培養法の問題点として挙げられる。
また、抗体法の場合、例えばイムノクロマト法及びラテックス凝集法は、サンプルを接触させるだけで微生物を検出できるので、操作が簡便という利点がある。しかし、イムノクロマト法及びラテックス凝集法は、検出感度が低く、高濃度の微生物菌体が存在しないと検出ができないという問題点がある。ELISA法は、イムノクロマト法等よりも高感度な方法であるが、洗浄及び発色操作が必要なため手間がかかる。
sRNAの検出に基づく生物の存在状態の判定方法によれば、培養法とは異なり、測定試料に含まれる可能性のある生物を培養する必要が無い。このため、短時間での判定又は同定が可能である。
sRNAがどの生物で発現するかについては、例えば以下のようにして知ることができる。前記sRNAの核酸配列を基準配列として、National Center for Biotechnology Information (NCBI)のデータベースから、基準配列と類似する核酸配列をNucleotide BLAST(https://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi)を用いて比較する。得られた比較結果の中から、基準配列としたsRNAと核酸配列が100%一致するsRNAを含む生物が、前記sRNAを発現する生物ということになる。
sRNAの存在状態を検出する前においては、細胞外に抽出されているsRNAの種類は定かではないが、特定のsRNAが細胞外で検出されれば、その特定のsRNAを持つことが知られている生物が存在すると判断できる。
本開示に係る判定方法における生物とは、検出対象となる生物を指し、検出しようとする任意の生物であってよい。当該生物において、他の生物と比較して差示的に発現するsRNAの存在状態を検出することにより、前記生物の存在状態を判定することができる。前記生物において差示的に発現するsRNAが検出されることは、前記生物が存在することを示唆し、該sRNAが検出されないことは前記生物が存在しないことを示唆する。本開示に係る判定方法においては、試料中における存在状態を検出したい生物の種類に応じて、当該生物に差示的な発現状態を示すsRNAを、存在状態の検出を行うsRNAとして選択することが好ましい。sRNAの差示的な発現状態とは、存在状態を検出したい生物において差示的に多く発現することであっても、存在状態を検出したい生物において差示的に少なく発現することであってもよい。ただし、存在状態を検出する1種又は複数種のsRNAのうち少なくとも1種は、存在状態を検出したい生物において差示的に発現するsRNAであることが好ましい。
なお、1種類のsRNAが1種類の生物に完全に差示的であるとは限らず、同じsRNAを発現する生物が複数種存在する場合もある。しかし、1種類の生物におけるsRNAの発現プロファイルはsRNA毎に異なるため、複数種のsRNAそれぞれの存在状態を基にすれば、存在する可能性のある生物の種類をより絞り込むことができる。このため、本開示に係る判定方法においては、複数種のsRNAそれぞれの存在状態に基づいて、生物の存在状態を判定してもよい。この判定においては、前記生物において差示的に少なく発現するsRNAの発現状態も用いることができる。前記生物において差示的に少なく発現するsRNAが検出されること又はされないことは、単独では、前記生物の存在状態を示唆するものではないが、前記生物において差示的に発現するsRNAの存在状態についての情報と組み合わせることで、それらsRNAの発現プロファイルを示す生物の候補をより絞り込むことができる。
本開示に係る判定方法において存在状態を検出するsRNAとして、その発現プロファイルを基に関心のある特定の生物が、他の生物からよりよく判別されるようなsRNAを選択することが好ましい。
とはいえ、存在する生物の候補を1種類に限定することは本開示に係る判定方法においては必須ではなく、複数種の生物からなる候補群を同定するだけでも十分である。このため、本開示に係る判定方法は、複数種の生物の存在状態を判定するものであってもよく、その場合、前記判定方法は複数種の生物それぞれの存在状態を個別に判定するものではなく、複数種の生物の存在状態を総体的に判定するものである。つまり、前記判定方法は、複数種の生物のうちどれが実際に存在しているかまでは判定できないにしても、候補群(グループ)を構成する複数種の生物のうち少なくとも1種が存在していることを判定できれば十分である。
すなわち、本開示に係る判定方法において、生物の存在状態を判定することが、2種以上の生物の総体的な存在状態を判定することを含んでいてもよい。本開示に係る判定方法が2種以上の生物の総体的な存在状態を判定することを含む場合、2種以上の生物の総体的な存在状態を判定することが、2種以上の生物のいずれもが存在しないか、2種以上の生物のうち少なくとも1種が存在するかを判定することを含んでいてもよく、2種以上の生物のうち少なくとも1種が存在すると判定した場合には、さらに、2種以上の生物のうち存在する少なくとも1種の存在量を判定することを含んでいてもよい。
この場合、2種以上の生物のうち関心のある1種類の生物についての存在状態が完全に判定できるわけではないが、当該関心のある1種類の生物についての存在の可能性については判定することが可能であり、この判定結果を基にしてさらなる試験を行ってもよく、あるいはこの判定結果に基づいて試料を得た対象物の清浄化などの作業を行うようにしてもよい。つまり、2種以上の生物の総体的な存在状態を判定することは、当該2種以上の生物に含まれる特定の生物の存在の可能性を判定することを含んでいてもよく、さらに当該特定の生物の推定存在量を判定することを含んでいてもよい。
sRNAの存在状態の検出の際に、sRNAの存在量についても測定することで、上記に記載の生物の存在量の判定が可能となる。sRNAの存在量の検出は、当業界で一般的に用いられている手法により行うことができ、例えば、sRNAにハイブリダイズする蛍光標識プローブからの蛍光発光量を測定する、sRNAからの核酸増幅時に蛍光標識プライマーを用い当該プライマーからの蛍光発光量を測定する、qPCRを用いる等の手法により測定することができる。
<試料中に存在する生物の同定>
本開示に係る判定方法では、sRNAの存在状態から、当該sRNAの存在状態と合致するsRNA発現プロファイルを有する1種又は複数種の生物を特定する同定方法も提供される。前記sRNAは、生物に応じて差示的な発現状態を示すsRNAであることが好ましい。第二の液体中におけるsRNAの存在状態を検出することは、第二の液体中に存在するsRNAを網羅的に検出することを含んでいてもよいが、試料中に存在する可能性のある生物の種類を考慮してあらかじめ選択した1種又は複数種のsRNAの存在状態を測定することを含んでいてもよい。
1種類のsRNAの特定の存在状態が、1種類の生物のsRNA発現プロファイルに完全に差示的であるとは限らず、sRNAの特定の存在状態に合致するsRNA発現プロファイルを有する生物が複数種存在する場合もある。しかし、生物毎のsRNA発現プロファイルはsRNA毎に異なるため、複数種のsRNAそれぞれの存在状態の情報を基にすれば、存在する生物の種類をより絞り込むことができる。このため、同定方法においては、複数種のsRNAそれぞれの存在状態に基づいて、試料中に存在する生物を同定してもよい。とはいえ、存在する生物種の候補を1種類に絞り込むことは同定方法においては必須ではなく、複数種の生物からなる候補群を同定するだけでも十分である。
このため、同定方法は、複数種の生物を同定するものであってもよく、その場合、前記同定方法は複数種の生物のそれぞれが存在していると個別に検出するものではなく、複数種の生物の存在を総体的に検出するものであってもよい。つまり、前記同定方法は、複数種の生物のうちどれが実際に存在しているかは検出できないまでも、複数種の生物のうち少なくとも1種が存在していると検出できれば十分である。
すなわち、同定方法において、前記試料中に存在する生物を同定することが、2種以上の候補生物のうち1種以上が存在していると同定していることを含んでいてもよい。2種以上の生物のうち少なくとも1種が存在していると同定した場合には、さらに、2種以上の候補となる生物のうち存在する少なくとも1種の存在量を同定することを含んでいてもよい。つまり同定方法において、前記試料中に存在する生物を同定することが、2種以上の候補となる生物のうち1種以上が存在していると同定していることを含む場合には、2種以上の候補となる生物のうちどれが存在しているかを正確に特定できるわけではないが、この同定結果を基にしてさらなる試験を行ってもよく、あるいはこの同定結果に基づいて試料を得た対象物の清浄化(候補生物の種類に応じた適切な清浄化)などの作業を行うようにしてもよい。
すなわち、2種以上の候補となる生物のうち1種以上が存在していると同定することは、当該2種以上の候補となる生物に含まれる特定の生物を存在の可能性がある生物として同定することを含んでいてもよく、さらに当該特定の生物の推定存在量を同定することを含んでいてもよい。
sRNAの存在状態の検出の際に、sRNAの存在量についても測定することで、上記に記載の生物の存在量の同定が可能となる。第二の液体中におけるsRNAの存在量は、当該sRNAを発現する生物の量を反映(最も単純な場合は当該sRNAを発現する生物の量に比例)すると考えられるためである。sRNAの存在量の検出は、当業界で一般的に用いられている手法により行うことができ、例えば、sRNAにハイブリダイズする蛍光標識プローブからの蛍光発光量を測定する、sRNAからの核酸増幅時に蛍光標識プライマーを用い当該プライマーからの蛍光発光量を測定する、qPCRを用いる(例えばリアルタイムPCRにおけるCt値を求める)等の手法により測定することができる。
本開示に係る判定方法に含まれてもよい同定方法における、第二の液体中における1種又は複数種のsRNAの存在状態に基づく生物の同定の一例について説明する。sRNAであるEC-5p-36(配列番号1;5’-UGUGGGCACUCGAAGAUACGGAU-3’、Curr Microbiol.2013 Nov;67(5):609-13参照)は、Nucleotide BLAST検索によれば、Escherichia属細菌、Shigella属細菌、Salmonella属細菌、Citrobacter属細菌において共通して発現している。このことから、第二の液体中にEC-5p-36が存在すると検出された場合、存在している生物は、Escherichia属細菌、Shigella属細菌、Salmonella属細菌、及びCitrobacter属細菌のうち1種以上であると同定できる。また、sRNAであるEC-3p-40は、Nucleotide BLAST検索によれば、Shigella属細菌、Salmonella属細菌、Escherichia属細菌、及びCitrobacter属細菌に加えて、Klebsilla属細菌にも共通して発現する。このため、EC-3p-40(配列番号2;5’-GUUGUGAGGUUAAGCGACU-3’)が第二の液体中に存在すると検出された場合、存在する生物はEscherichia属細菌、Shigella属細菌、Salmonella属細菌、Citrobacter属細菌、及びKlebsilla属細菌のうち1種以上であると同定できる。また、これらの結果を組み合わせて同定を行ってもよい。たとえば、EC-5p-36はKlebsilla属細菌では発現しないが、EC-3p-40はKlebsilla属細菌で発現するので、第二の液体中にEC-3p-40は存在するがEC-5p-36は存在しないと検出された場合は、存在する生物はKlebsilla属細菌であると同定できる。
また、生物の同定は、特定の機能を有するsRNAの存在状態に基づいて同定してもよい。たとえば、腸管出血性大腸菌(O-157等)の毒素(ベロ毒素。シガトキシンとも呼ばれる)に関与するsRNAである24B_1(配列番号8;5’-UAACGUUAAGUUGACUCGGG-3’、Scientific Reports volume 5, Article number: 10080 (2015)参照)は、Nucleotide blast検索によればベロ毒素(シガトキシン)生産菌に共通して発現する。このため、第二の液体中に24B_1が存在すると検出された場合は、存在する生物はベロ毒素保有菌であると同定できる。
また、本開示に係る判定方法において、Escherichia属細菌、Shigella属細菌、Salmonella属細菌、及びCitrobacter属細菌の総体的な存在状態(いずれも存在しないか、1種以上が存在するか等)を判定したい場合には、EC-5p-36の存在状態を検出するようにすればよい。本開示に係る判定方法において、Klebsilla属細菌の存在状態を判定したい場合には、EC-3p-40及びEC-5p-36の存在状態を検出するようにすればよい。
そのほか、sRNAであるEC-5p-79(配列番号3;5’-UUUGCUCUUUAAAAAUC-3’)及びEC-3p-393(配列番号4;5’-CUCGAAGAUACGGAUUCUUAAC-3’)は、Escherichia coli、Citrobacter freundii、及びSalmonella gallinarumにおいて発現している。以上のことから、sRNAと生物種の対応関係として、EC-5p-36、EC-3p-40、EC-5p-79、及びEC-3p-393からなる群より選択される少なくとも1種と、Escherichia coli、Citrobacter freundii、及びSalmonella gallinarumからなる群より選択される少なくとも1種との組み合わせ、配列番号5で表されるヌクレオチド配列を有するfox_milRNA_5(配列番号5;5’-UCCGGUAUGGUGUAGUGGC-3’、PLoS One. 2014 Aug 20;9(8):e104956.参照)とFusarium oxysporumとの組み合わせ、配列番号6で表されるヌクレオチド配列を有するmiR156(配列番号6;5’-CAGAAGAUAGAGAGCACAUC-3’;http://www.mirbase.org/;pta-miR156aを参照)とクロマツとの組み合わせ、ならびに配列番号7で表されるヌクレオチド配列を有するmiR716b(配列番号7;5’-GAGAUCUUGGUGGUAGUAGCAAAUA-3’;Sci. Rep., 2015,5,7763参照)とSaccharomyces cerevisiaeとの組み合わせが挙げられる。
その他、以下の表1及び表2に記載したsRNAは、腸内細菌科の細菌、例えば大腸菌において発現することが判明している。特に、sRNA13~sRNA32は、tRNAの配列である。本開示に係る抽出方法によって抽出されるsRNAはこれらのsRNAから選択されてもよい。また、本開示に係る抽出方法及び本開示に係る判定方法においては、これらのsRNAから選択されるsRNAの存在量を測定してもよい。
Figure 2022043937000005
Figure 2022043937000006
また、sRNA9、10、13~15、17~19、21~24、26、及び27について、その発現が確認されている生物をその属名(カンジダ属については種名)により以下の表3及び表4に示す。表3及び表4中「Yes」はその生物においてsRNAが発現することを表す。
Figure 2022043937000007
Figure 2022043937000008
表1及び表2に記載されたsRNAも、本開示に係る抽出方法において抽出の対象とすることができ、また、本開示に係る抽出方法及び本開示に係る判定方法において用いることができる。本開示に係る抽出方法において抽出するsRNAは、配列番号1~48で表されるsRNAのうちの少なくとも1種類を含むことが好ましく、配列番号1~8、13~15及び34で表されるsRNAのうちの少なくとも1種類を含むことがより好ましい。本開示に係る抽出方法及び本開示に係る判定方法においては、sRNAは、配列番号1~48で表されるsRNAのうちの少なくとも1種類を含むことが好ましく、配列番号1~8、13~15及び34で表されるsRNAのうちの少なくとも1種類を含むことがより好ましく、配列番号1~8で表されるsRNAのうちの少なくとも1種類を含むことがさらに好ましい。
例えば、抽出の対象となるsRNAは、配列番号9~48で表されるsRNAのうちの少なくとも1種類(つまりsRNA9~sRNA48のうちの少なくとも1種類)を含んでいてもよい。
また、例えば、抽出の対象となるsRNAは、配列番号9~48で表されるsRNAのうちの少なくとも1種類(好ましくは配列番号13~15及び34で表されるsRNAのうちの少なくとも1種類)と、配列番号1~8のsRNAのうちの少なくとも1種類とを含んでいてもよい。
検出するsRNAは、実施例に記載の試験において用いているEC-5p-36、EC-3p-40、EC-5p-79、EC-3p-393、fox_milRNA_5、miR156、及びmiR716bからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
なお、上記では数例のsRNAに言及したが、本開示に係る抽出方法及び判定方法は他のsRNAを検出する場合でも同様にして行うことができる。抽出又は判定に必要なsRNAと生物との対応関係は、上述のデータベースから容易に入手することができる。
本開示に係る抽出方法によれば、特定コーティング材でコーティングされていない担体に生物を吸着させる場合と比べて、生物から効率的にsRNAを抽出することができる。さらには本開示に係る判定方法によれば、培養法とは異なり、短時間での判定が可能でありながら、核酸増幅等を用いれば高い感度を実現することも可能である。さらに、培養が困難な細菌等にも本開示に係る抽出方法及び本開示に係る判定方法を適用することができる。また、培養法とは異なり、本開示に係る判定方法は、迅速な判定を可能とし、必要なサンプル量が少なく、処理に用いた資材の廃棄も容易である。本開示に係る判定方法では、遺伝子法の利点を維持しつつ、さらに従来の遺伝子法よりも迅速で簡便な操作で生物の存在状態の判定をすることができる。
本開示に係る抽出方法は、例えば、生物が有するsRNAの研究、生物が有するsRNAの生産のために用いることができる。その例としては、生物種特異的なsRNAの基礎研究、sRNAの核酸医薬としての製造、及びsRNAの検出剤としての製造等が挙げられる。さらには、本開示に係る抽出方法は、本開示に係る判定方法にも用いることができる。
本開示に係る判定方法は、例えば、衛生管理の必要とされる現場(食品製造、医療、福祉、家庭等)での迅速で簡便な微生物検査のために用いることができる。その例としては、食品製造工程における腐敗変敗菌検査による製品の衛生管理、食中毒事故時のすみやかな原因特定、医療施設のベッドや待合室における食中毒菌検出による二次感染予防、児童福祉施設や老人福祉施設における食中毒菌の二次感染予防、家庭に食中毒患者がいる場合における食中毒菌の検出による二次感染予防等が挙げられる。
以下の実施例により実施形態を更に説明するが、本開示は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。また、実施例の組成物における含有成分量を示す「%」は、特に断らない限り質量基準である。以下の実施例において、「室温」は約30℃であった。
<リアルタイムPCR法によるsRNAの定量方法>
実施例1~実施例24、比較例1~比較例5、及び参考例1~参考例13において、抽出する対象又は存在状態を検出する対象となるsRNAは、以下に記載の方法により定量した。
実施例1~実施例24、比較例1~比較例5、及び参考例1~参考例13のそれぞれにおける反応液中のsRNAを、リアルタイムPCR法により定量した。定量の対象となるsRNAに合わせてカスタム合成した定量試薬(Taqman(登録商標) microRNA Assays、アプライドバイオシステムズ社製)及び逆転写酵素(Taqman(登録商標) microRNA RT kit、アプライドバイオシステムズ社製)を用いて、製造業者の指示に従って逆転写反応を行い、逆転写により形成されたDNAを含む逆転写反応溶液を得た。逆転写反応において、具体的には、1反応あたり、1μLのRNAサンプル、1.5μの10× RT buffer、0.15μLのdNTP mix、0.19μLのRNase inhibitor、終濃度が1×になる量のカスタム合成Taqman assays(例:20×のTaqman assaysであれば0.75μL)の第一液、1μLのMultiscribe RT enzyme、を用い、純水で液量が15μLになるよう調整した。逆転写反応の温度プロファイルは、(1)16℃で30分、続いて(2)42℃で30分、及び(3)85℃で5分からなるステップを含んでいた。
次に、得られた逆転写反応溶液を用い、リアルタイムPCR反応を行った。定量の対象となるsRNAに合わせてカスタム合成した定量試薬(Taqman(登録商標)、microRNA Assays、アプライドバイオシステムズ社製、及びリアルタイムPCR用マスターミックス(TaqMan(登録商標) Universal PCR Master Mix II with UNG、アプライドバイオシステムズ社製)を用い、製造業者の指示に従って反応液を調製した。具体的には、2μLの逆転写反応溶液、10μLのUniversal PCR Master Mix II with UNG、終濃度が1×になる量のカスタム合成Taqman assays(例:20×のTaqman assaysであれば1μL)の第二液を用い、純水で液量が20μLになるよう調整して反応液を調製した。調製した反応液をStepOnePlus(登録商標)リアルタイムPCRシステム(アプライドバイオシステムズ社製)を用い、95℃で10分のステップの後、95℃で15秒及び60℃で1分からなるサイクルを40サイクル含む温度プロファイルでリアルタイムPCRを行った。その際、StepOnePlus(登録商標)リアルタイムPCRシステム(アプライドバイオシステムズ社製)を用い、reagents =“Taqman reagents”、ramp speed =“Standard”の条件で、StepOnePlusソフトウェアの自動計算(上記の設定以外はデフォールトの設定)によりCt値を算出した。標品と比較して定量する場合、定量の対象となるsRNA配列を合成(ユーロフィンジェノミクス社によるRNAプライマー合成、HPLC精製グレード)し、10-10M~10-15Mの範囲で希釈系列を調製して、サンプルの測定と同時並行して前記希釈系列についてもリアルタイムPCRを行い、Ct値を比較することでsRNA量を定量した。
(実施例1)
-ノニオン性界面活性剤(Tween 20)による担体のコーティング-
ヤシガラ活性炭50mg(10-32 mesh;ナカライテスク社製)を1.5mL容量のチューブに量り取った。量り取ったヤシガラ活性炭に、Tween 20(ナカライテスク社製)の2%溶液(Tween 20のストック濃度が2%)を100μLずつ添加し、室温で10分以上静置した。その後、静置した前記ヤシガラ活性炭を14000rpm(回転/分)で2分間遠心分離し、上清を除去し、300μLの滅菌水を添加して洗浄し、14000rpmで2分間遠心分離し、上清を除去することで、Tween 20でコーティングされた水洗済みの活性炭を得た。
-生物-
細胞壁を有する生物である、Escherichia coli W3110(以下、単に「大腸菌W3110」と称する)を用いた。
大腸菌W3110をLBプレートに塗布して培養し、そのコロニーを2mLのLB培地に懸濁して、37℃、180rpmで24時間振とう培養を行った。その後、培養液を40μL採取して、4mLのLB培地に植菌し、37℃、180rpmで5時間振とう培養を行った。その後、培養液を3000g(遠心加速度)で3分間遠心分離し、上清を吸引除去した後、滅菌水を添加して大腸菌懸濁液を得た。懸濁後、OD600(600nmの波長で測定されたサンプルの光学濃度(OD))を測定し、OD600=1.0となるように滅菌水で大腸菌懸濁液の濃度を調製した。
-大腸菌W3110の吸着及びsRNAの抽出-
前記ノニオン性界面活性剤(Tween 20)によりコーティングされた水洗済みの活性炭に対して、OD600=1.0になるように濃度を調製した大腸菌W3110の懸濁液を30μL添加し、室温で10分間静置することで、コーティングされた活性炭に大腸菌W3110を吸着させた。次いで、前記大腸菌W3110を吸着させた活性炭を含む懸濁液をスピンダウンして上清を除去した後、1mLの滅菌水を添加して、再度スピンダウンして上清を除去することで、大腸菌W3110を吸着させた水洗済みの活性炭を得た。
前記大腸菌W3110を吸着させた水洗済みの活性炭に、Triton X-100を1%含む滅菌水を50μL添加して、37℃で1時間静置することで、前記大腸菌W3110からsRNAを含むサンプルを抽出した。
-sRNAの定量-
大腸菌W3110に含まれるsRNAの一種であるEC-5p-36を対象として、大腸菌W3110からのsRNAの定量を試みた。
前記サンプルについて、リアルタイムPCR法によりEC-5p-36を定量した。具体的には、スピンダウン後、1μLの上清を採取し、上記<リアルタイムPCR法によるsRNAの定量方法>に従ってリアルタイムPCRを行った。なおプライマーは、EC-5p-36に対応したヌクレオチド配列を有するTaqman(登録商標)Assayプライマーを用いた。StepOnePlus(登録商標)リアルタイムPCRシステム(アプライドバイオシステムズ社製)により得られたCt値の結果を表5に示す。
(実施例2~実施例16及び比較例1~比較例3)
コーティング材の種類及びコーティング材のストック濃度を、以下及び表5に示すとおりに変更したこと以外は、実施例1と同様に、Ct値を求めた(表5)。表5中、ストック濃度とは、担体をコーティングするのに用いたコーティング材溶液の濃度をいう。なお比較例3は、活性炭をそのまま使用、つまり、コーティングしない活性炭を用いた。
使用したコーティング材の詳細は以下のとおりである。
ポリソルベート20(ナカライテスク社製、商品名:Tween 20)
ポリソルベート80(ナカライテスク社製、商品名:Tween 80)
オクチルフェノールエトキシレート(ナカライテスク社製、商品名:Triton X-100)
ベンザルコニウム塩化物液(和光純薬社製、商品名:オスバン)
臭化セチルトリメチルアンモニウム(和光純薬社製、略称:CTAB)
ドデシル硫酸ナトリウム(和光純薬社製、略称:SDS)
1-オクタンスルホン酸ナトリウム(和光純薬社製)
グリシン(和光純薬社製)
脱脂粉乳(和光純薬社製、商品名:スキムミルク)
ウシ血清アルブミン(和光純薬社製、略称:BSA)
ポリエチレングリコール6000(ナカライテスク社製、略称:PEG-6000)
ポリエチレングリコール4000(ナカライテスク社製、略称:PEG-4000)
Figure 2022043937000009
コーティング材でコーティングしない担体を用いてCt値を測定したときのCt値が36.25であった(比較例3)。そのため、Ct値が36.25よりも小さいとき、担体を該コーティング材でコーティングするとsRNA抽出効率が向上したといえる。一方で、Ct値が36.25よりも大きい又は測定限界以上であるとき、担体を該コーティング材でコーティングするとsRNA抽出効率が低下したといえる。なおCt値が測定限界以上とは、Ct値が大きすぎることによりCt値を得られなかったことを表し、生物からsRNAをほとんど抽出できなかったことを意味する。
なお、大腸菌を添加しなかった場合には、Ct値は測定限界以上となるため、表中でCt値が得られたサンプルは、生物の存在状態を迅速に判定できている。
実施例1~実施例16の結果から、特定コーティング材、例えば、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、又はタンパク質で担体をコーティングすると、担体をコーティング材でコーティングしないときよりも、sRNAの抽出効率が向上した。一方で、比較例1~比較例2の結果から、親水性高分子で担体をコーティングすると、担体をコーティング材でコーティングしないとき又は前記特定のコーティング材でコーティングしたときよりも、sRNAの抽出効率は低下した。
なおコーティング材のストック濃度によるCt値の変化が見られなかったため、いずれの実施例においても、十分に活性炭をコーティングできていたことが分かった。
なお実施例1~実施例16では、ノイズとは区別可能なCt値が得られたため、各サンプルは大腸菌を含んでいると判定できた。
(実施例17)
-ノニオン性界面活性剤(Tween 20)による担体のコーティング-
ヤシガラ活性炭100mg(10-32 mesh;ナカライテスク社製)を1.5mL容量のチューブに量り取った。量り取ったヤシガラ活性炭に、1mLの滅菌水を添加した後、10μLずつ別のチューブに分注してヤシガラ活性炭懸濁液を得た。前記分注した10μLのヤシガラ活性炭懸濁液に、Tween 20の2%溶液(Tween 20のストック濃度が2%)を100μLずつ添加し、4℃で10分間静置した。その後、静置した前記ヤシガラ活性炭を14000rpm(回転/分)で2分間遠心分離し、上清を除去し、300μLの滅菌水を添加して洗浄し、14000rpmで2分間遠心分離し、上清を除去することで、Tween 20でコーティングされた水洗済みの活性炭を得た。
-生物-
細胞壁を有する生物である、Escherichia coli W3110(以下、単に「大腸菌W3110」と称する)を用いた。
大腸菌W3110をLBプレートに塗布して培養し、そのコロニーを2mLのLB培地に懸濁して、37℃、180rpmで24時間振とう培養を行った。その後、培養液を40μL採取して、4mLのLB培地に植菌し、37℃、180rpmで5時間振とう培養を行った。その後、培養液を3000g(遠心加速度)で3分間遠心分離し、上清を吸引除去した後、滅菌水を添加して大腸菌懸濁液を得た。懸濁後、OD600(600nmの波長で測定されたサンプルの光学濃度(OD))を測定し、OD600=1.0となるように滅菌水で大腸菌懸濁液の濃度を調製した。
-大腸菌W3110の吸着及びsRNAの抽出-
前記ノニオン性界面活性剤(Tween 20)によりコーティングされた水洗済みの活性炭に対して、OD600=1.0になるように濃度を調製した大腸菌W3110の懸濁液を30μL添加し、4℃で10分間静置することで、コーティングされた活性炭に大腸菌W3110を吸着させた。次いで、前記大腸菌W3110を吸着させた活性炭を含む溶液を500rpmで3分間遠心分離して上清を除去した後、30μLの滅菌水を添加した。
前記大腸菌W3110を吸着させた活性炭を含む懸濁液を、95℃で5分間熱処理することで、前記大腸菌W3110からsRNAを含むサンプルを抽出した。
-sRNAの定量-
大腸菌W3110に含まれるsRNAの一種であるEC-5p-36を対象として、大腸菌W3110からのsRNAの定量を試みた。
前記サンプルについて、リアルタイムPCR法によりEC-5p-36を定量した。具体的には、スピンダウン後、1μLの上清を採取し、上記<リアルタイムPCR法によるsRNAの定量方法>に従ってリアルタイムPCRを行った。なおプライマーは、EC-5p-36に対応したヌクレオチド配列を有するTaqman(登録商標)Assayプライマーを用いた。StepOnePlus(登録商標)リアルタイムPCRシステム(アプライドバイオシステムズ社製)により得られたCt値の結果を表6に示す。
(実施例18~実施例24及び比較例4~比較例5)
実施例18~実施例24及び比較例4~比較例5においては、コーティング材の種類及を、表6に示すとおりに変更したこと以外は、実施例17と同様に、Ct値を求めた(表6)。使用したコーティング材の詳細は、前述したコーティング材の詳細と同様である。
Figure 2022043937000010
コーティング材でコーティングしない担体を用いて、さらに前記担体に吸着した生物を95℃で5分間熱処理してCt値を測定したときのCt値が30.8であった(比較例5)。そのため、担体に吸着した生物を加熱したとしても、Ct値が30.8よりも小さいとき、担体を該コーティング材でコーティングするとsRNA抽出効率が向上したといえる。一方で、Ct値が30.8よりも大きいとき、担体を該コーティング材でコーティングするとsRNA抽出効率が低下したといえる。
なお、大腸菌を添加しなかった場合には、Ct値は測定限界以上となるため、表中でCt値が得られたサンプルは、生物の存在状態を判定できたサンプルである。
実施例17~実施例24の結果から、特定コーティング材、例えば、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、タンパク質、又はアミノ酸で担体をコーティングすると、担体をコーティング材でコーティングしないときよりも、sRNAの抽出効率が向上した。一方で、比較例4の結果から、親水性高分子で担体をコーティングすると、担体をコーティング材でコーティングしないとき又は前記特定コーティング材でコーティングしたときよりも、sRNAの抽出効率は低下した。
また、大腸菌W3110を吸着させた活性炭を、水性溶媒に浸漬することでsRNAを抽出したサンプルのCt値は36.25であった(比較例3)。一方で、前記大腸菌W3110を吸着させた活性炭を含む懸濁液を、95℃で5分間熱処理することでsRNAを抽出したサンプルのCt値は30.8であった(比較例5)。このことから、水性溶媒への浸漬よりも、熱処理のほうが、sRNA抽出効率が向上したことが分かった。
実施例1~実施例16の結果及び実施例17~実施例24の結果の比較からも、水性溶媒への浸漬よりも、熱処理のほうが、sRNA抽出効率が向上し、さらには水性溶媒への浸漬又は熱処理のいずれであっても、特定コーティング材でコーティングすることによりsRNA抽出効率が向上したことが分かった。
なお実施例17~実施例24では、ノイズと区別可能なCt値が得られたため、各サンプルは大腸菌を含んでいると判定できた。
以上のことから、実施例1~実施例24では、生物から効率的にsRNAを抽出する方法、又は生物の存在状態を迅速に判定する方法を提供することができた。
(参考例1)sRNA13、14、15及び34による腸内細菌科に属する菌の検出
腸内細菌科に属する菌であるEscherichia coli、Citrobacter freundii、及びSalmonella gallinarumの各菌をLBプレートに播種して培養し、生じたコロニーを2mLのLB培地に懸濁して、37℃、180rpmで24時間振とう培養を行った。その後、培養液40μLを採取して、4mLのLB培地に植菌し、37℃、180rpmで24時間振とう培養を行った。その後、培養液を3000Gで5分間遠心し、上清を吸引除去した後、滅菌水を添加した。この際、OD600を測定し、滅菌水でOD=1に調整して菌懸濁液を調製した。調製した菌懸濁液から500μLの試料を3個用意し、それぞれ5℃、25℃、又は37℃で1時間静置した。
次いで、静置後の菌懸濁液中のsRNA(sRNA13、sRNA14、sRNA15及びsRNA34)を対象として、逆転写反応及びリアルタイムPCRを行った。静置後の菌懸濁液各1μLのサンプルを用い、上記<リアルタイムPCR法によるsRNAの定量方法>に従ってリアルタイムPCRを行った。リアルタイムPCRシステム(アプライドバイオシステムズ社製)により得られたCt値の結果を表7に示す。いずれの場合においても、Ct値が30以下を示し、調査対象である腸内細菌科の菌の存在が検出された。したがって、腸内細菌科のtRNA及びその他のsRNAを用いても、腸内細菌科の微生物の検出が可能であることが示された。
Figure 2022043937000011
(参考例2)E. coliからのsRNA抽出時の添加剤による影響の検討
大腸菌W3110をLBプレートに塗布して培養し、生じたコロニーを2mLのLB培地に懸濁して、37℃、180rpmで24時間振とう培養を行った。得られた培養液を40μL採取して、4mLのLB培地に植菌し、37℃、180rpmで5時間振とう培養を行った。その後、培養液を3000Gで3分間遠心し、上清を吸引除去した後、滅菌水を添加した。OD600を測定し、OD600の値が1.0となるように滅菌水で希釈し、OD1.0大腸菌W3110懸濁液とした。
OD1.0大腸菌W3110懸濁液を10μL採取し、Triton X-100を終濃度が1質量%になるように10μL添加して、OD600の値が0.5となるように滅菌水で希釈したのち、37℃で1時間放置した。1時間放置後の液体試料を用いて、リアルタイムPCR法によりEC-5p-36の定量を行った。具体的には、1μLの液体試料を採取し、上記<リアルタイムPCR法によるsRNAの定量方法>に従ってリアルタイムPCRを行い、Ct値を求めた。別途、Triton X-100を添加しない以外は上記と同様に作製した対照(添加剤なしの参考例13)についてもリアルタイムPCR法によりCt値を得た。参考例13のCt値から参考例2のCt値を引き、得られた値(つまり、添加剤無しの対照と比較してのCt値の減少)を「スコア」とした。スコアが正の値であれば、Ct値が減少したことを示し、すなわちsRNAの抽出量が増大したことを示す。逆にスコアが負の値の場合は、Ct値が増加したことを示し、すなわちsRNAの抽出量が減少したことを示す。また、スコアが「検出限界未満」と記載されている参考例については、sRNAの増幅は観察されず、Ct値が得られなかった(つまり、sRNAの抽出量は、検出限界未満にまで減少した)。各添加剤に関する結果を表8に示す。
(参考例3~12)
大腸菌W3110懸濁液の濃度が参考例2と同様になるように、表8に示す添加剤を用い、その終濃度を表8に示す通りとしたこと以外は参考例2と同様にして、スコアを測定した。例えば、参考例3のSynperoinc F108の場合、Synperoinc F108の2質量%水溶液を用いて、OD1.0大腸菌W3110懸濁液10μLに対して10μLを添加し、OD600の値が0.5となり、かつSynperoinc F108の終濃度(得られた液体試料中における濃度)が1質量%となるようにした。参考例3~12についても、結果を表8に示す。
Figure 2022043937000012
表8に示された結果から分かるように、ノニオン性界面活性剤、抗菌ペプチド、1価又は2価の直鎖、分枝鎖又は脂環式のC2~C8アルコール、アセトン、及び還元剤を、本開示に規定の含有量範囲内で用いた場合、これら添加剤の含有によりsRNAの抽出効率が向上するという効果が確認された。一方、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、及び酸化剤を添加剤として用いた場合には、sRNAの抽出効率は逆に低下することが確認された。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。

Claims (26)

  1. 生物と、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、アミノ酸、オリゴペプチド、及びタンパク質からなる群より選択されるコーティング材でコーティングされた担体とを、第一の液体中で共存させることにより、前記生物を前記コーティングされた担体に吸着させること、及び
    前記生物を吸着した前記コーティングされた担体を、前記第一の液体と同じであっても異なっていてもよい第二の液体中に浸漬することにより、前記生物由来のsRNAを前記第二の液体中に抽出すること、
    を含む、生物からのsRNAの抽出方法。
  2. 前記浸漬は加熱下で行われる、請求項1に記載の抽出方法。
  3. 前記生物は、細胞壁を有する生物である、請求項1又は請求項2に記載の抽出方法。
  4. 前記第二の液体は、水性溶媒である、請求項3に記載の抽出方法。
  5. 生物と、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、アミノ酸、オリゴペプチド、及びタンパク質からなる群より選択されるコーティング材でコーティングされた担体とを、第一の液体中で共存させることにより、前記生物を前記コーティングされた担体に吸着させること、
    前記生物を吸着した前記コーティングされた担体を、前記第一の液体と同じであっても異なっていてもよい第二の液体中に浸漬することにより、前記生物由来のsRNAを前記第二の液体中に抽出すること、
    前記抽出されたsRNAの存在状態を検出すること、及び
    得られたsRNAの存在状態を基に、前記生物の存在状態を判定すること、
    を含む、生物の存在状態の判定方法。
  6. 前記sRNAは1種又は複数種のsRNAである、請求項5に記載の判定方法。
  7. 前記浸漬は加熱下で行われる、請求項5又は請求項6に記載の判定方法。
  8. 前記生物は、細胞壁を有する生物である、請求項5~請求項7のうちいずれか一項に記載の判定方法。
  9. 前記第二の液体は、水性溶媒である、請求項8に記載の判定方法。
  10. 前記水性溶媒が核酸増幅用試薬を含む、請求項9に記載の判定方法。
  11. 前記浸漬が0℃~50℃の温度範囲内の温度で行われる、請求項5~請求項10のうちいずれか一項に記載の判定方法。
  12. 前記担体は、活性炭、シリカ、ゼオライト、多孔性セラミックス、炭素繊維、砂、及びガラスビーズからなる群より選択される少なくとも一種である、請求項5~請求項11のうちいずれか一項に記載の判定方法。
  13. 前記ノニオン性界面活性剤は、ポリソルベート20、ポリソルベート80、及びオクチルフェノールエトキシレートからなる群より選択される少なくとも一種である、請求項5~請求項12のうちいずれか一項に記載の判定方法。
  14. 前記カチオン性界面活性剤は、ベンザルコニウム塩化物及び臭化セチルトリメチルアンモニウムからなる群より選択される少なくとも一種である、請求項5~請求項12のうちいずれか一項に記載の判定方法。
  15. 前記アニオン性界面活性剤は、ドデシル硫酸ナトリウム及び1-オクタンスルホン酸ナトリウムからなる群より選択される少なくとも一種である、請求項5~請求項12のうちいずれか一項に記載の判定方法。
  16. 前記アミノ酸は、グリシンである、請求項5~請求項12のうちいずれか一項に記載の判定方法。
  17. 前記タンパク質は、脱脂粉乳、及びウシ血清アルブミンからなる群より選択される少なくとも一種である、請求項5~請求項12のうちいずれか一項に記載の判定方法。
  18. 前記sRNAは、前記生物中に存在する、請求項5~請求項17のうちいずれか一項に記載の判定方法。
  19. 前記生物の存在状態を判定することが、2種以上の生物の総体的な存在状態を判定することを含む、請求項5~請求項18のうちいずれか一項に記載の判定方法。
  20. 前記sRNAの存在状態を検出することが、前記sRNAの存在量を判定することを含む、請求項5~請求項19のうちいずれか一項に記載の判定方法。
  21. 前記生物が、Escherichia coli、Citrobacter freundii、及びSalmonella gallinarumからなる群より選ばれる少なくとも一種の細胞壁を有する生物を含む、請求項5~請求項20のうちいずれか一項に記載の判定方法。
  22. 前記生物が植物を含む、請求項5~請求項21のうちいずれか一項に記載の判定方法。
  23. 前記生物がベロ毒素生産菌を含む、請求項5~請求項22のうちいずれか一項に記載の判定方法。
  24. 前記sRNAそれぞれの塩基数が、5~500の範囲内である、請求項5~請求項23のうちいずれか一項に記載の判定方法。
  25. 前記sRNAは、配列番号1で表されるヌクレオチド配列を有するEC-5p-36、配列番号2で表されるヌクレオチド配列を有するEC-3p-40、配列番号3で表されるヌクレオチド配列を有するEC-5p-79、配列番号4で表されるヌクレオチド配列を有するEC-3p-393、配列番号5で表されるヌクレオチド配列を有するfox_milRNA_5、配列番号6で表されるヌクレオチド配列を有するmiR156、及び配列番号7で表されるヌクレオチド配列を有するmiR716bからなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項5~請求項24のうちいずれか一項に記載の判定方法。
  26. 前記sRNAの存在状態を検出することがPCRにより行われる、請求項5~請求項25のうちいずれか一項に記載の判定方法。
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