JP2022042606A5 - - Google Patents

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本開示は、難燃性樹脂組成物、絶縁電線、ワイヤーハーネスに関する。
自動車に用いられる絶縁電線は、エンジンの周辺等の高温となる箇所に用いられることもあり、高い耐熱性が求められる。従来、このような絶縁電線の被覆材としては、架橋ポリ塩化ビニル樹脂や、架橋ポリオレフィン樹脂が用いられていた。これらの架橋樹脂の製造方法としては、電子線で架橋する方式が主流であった(例えば特許文献1)。
しかし、電子線架橋は、高価な電子線架橋装置などを必要とし、設備費用が高価であり、製品コストが上昇してしまうという問題があった。そこで安価な設備で架橋が可能であるシラン架橋が注目されている。電線、ケーブルなどの被覆材に用いられる、シラン架橋が可能なポリオレフィン樹脂組成物が公知である(例えば特許文献2)。
特開2000-294039号公報 特開2000-212291号公報
自動車用電線等、高温になりやすい環境で用いられる製品にシラン架橋ポリオレフィンを用いる場合に、難燃性を付与することが求められる。シラン架橋樹脂に難燃剤を添加することで、難燃性を付与することができる。難燃剤、特に金属水酸化物等、無機系難燃剤を多量に添加した場合に、樹脂成分の有する機械的特性が低下してしまう可能性がある。特に、柔軟性の低下が問題となりやすい。
難燃剤による柔軟性の低下の影響を抑えるために、シラン架橋ポリオレフィンを構成するベース樹脂として、柔軟性の高いものを用いることが考えられる。柔軟性の高いポリオレフィン系樹脂として、例えば、メタロセン系重合触媒を用いてコポリマーを増量した、非晶部の多い、低密度の樹脂を挙げることができる。しかし、それら柔軟性の高いポリオレフィン系樹脂は、融点が低い場合が多い。そのように、融点の低いポリオレフィン系樹脂をベース樹脂として用いてシラン架橋性の樹脂組成物を構成した場合に、樹脂組成物において、材料のブロッキング(密接による付着)が発生しやすくなる。例えば、絶縁電線を製造するために、樹脂組成物を導体の外周に押し出した状態において、ブロッキングが発生すると、架橋前の状態において、絶縁電線の取り扱い性が低下してしまう。特に、室温でブロッキングが起こると、絶縁電線の製造工程における取り扱い性が、著しく低くなってしまう。またそのように低融点のポリオレフィン系樹脂を用いて構成された樹脂組成物は、架橋体とした状態でも、表面にべたつきが発生し、架橋後の絶縁電線等、製品の取り扱い性が低下する可能性がある。
そこで、柔軟性の高さと取り扱い性の高さを兼ね備えたシラン架橋可能なポリオレフィン系の難燃性樹脂組成物、およびそのような難燃性樹脂組成物を用いて構成される絶縁電線およびワイヤーハーネスを提供することを課題とする。
本開示の第一の難燃性樹脂組成物は、樹脂成分として、(A)ポリオレフィンに対してシランカップリング剤がグラフトされたシラングラフトポリオレフィン、(B)未変性ポリオレフィン、(C)カルボキシル基、エステル基、酸無水物基、アミノ基、エポキシ基から選択される1種または2種以上の官能基を有する変性ポリオレフィン、を含有し、さらに、(D)難燃剤と、(E)架橋触媒と、を含有し、シラン架橋させた架橋体が、80℃以上の融点と、100MPa以下の曲げ弾性率を有する。
本開示の第二の難燃性樹脂組成物は、樹脂成分として、(A)ポリオレフィンに対してシランカップリング剤がグラフトされたシラングラフトポリオレフィン、(B)未変性ポリオレフィン、(C)カルボキシル基、エステル基、酸無水物基、アミノ基、エポキシ基から選択される1種または2種以上の官能基を有する変性ポリオレフィン、を含有し、さらに、(D)難燃剤と、(E)架橋触媒と、を含有し、前記(A)シラングラフトポリオレフィンを構成するポリオレフィンが、(a-1)密度0.870g/cm以下、融点110℃以上、曲げ弾性率11MPa以下である、第一のポリオレフィンと、(a-2)密度0.870g/cm以下、融点60℃以下、曲げ弾性率11MPa以下である、第二のポリオレフィンと、を含有し、前記(a-1)第一のポリオレフィンと前記(a-2)第二のポリオレフィンの混合比が、(a-1)/(a-2)の質量比で、30/70以上、70/30以下の範囲にある。
本開示の絶縁電線は、導体と、前記第一または第二の難燃性樹脂組成物の架橋体より構成され、前記導体の外周を被覆する電線被覆材と、を有する。本開示のワイヤーハーネスは、前記絶縁電線を有する。
本開示の難燃性樹脂組成物は、柔軟性の高さと取り扱い性の高さを兼ね備えたシラン架橋可能なポリオレフィン系の難燃性樹脂組成物となる。また、本開示の絶縁電線およびワイヤーハーネスは、そのような難燃性樹脂組成物を用いて構成されたものとなる。
図1は、本開示の一実施形態にかかる絶縁電線を示す斜視図である。 図2は、シラングラフトPE1に対して得られたDSC曲線である。
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態を列記して説明する。
本開示にかかる第一の難燃性樹脂組成物は、樹脂成分として、(A)ポリオレフィンに対してシランカップリング剤がグラフトされたシラングラフトポリオレフィン、(B)未変性ポリオレフィン、(C)カルボキシル基、エステル基、酸無水物基、アミノ基、エポキシ基から選択される1種または2種以上の官能基を有する変性ポリオレフィン、を含有し、さらに、(D)難燃剤と、(E)架橋触媒と、を含有し、シラン架橋させた架橋体が、80℃以上の融点と、100MPa以下の曲げ弾性率を有する。
一般に、シラン架橋性樹脂組成物において、架橋体が高い融点を有すること、また低い曲げ弾性率を有することは、架橋前の樹脂組成物も、高い融点と低い曲げ弾性率を有するものであることを意味する。上記第一の難燃性樹脂組成物は、100MPa以下の曲げ弾性率を有する架橋体を構成する、低弾性の組成物であることにより、樹脂組成物および架橋体が、高い柔軟性を示す。同時に、本難燃性樹脂組成物は、80℃以上の高い融点を有する架橋体を構成する、高融点の組成物であることにより、室温程度の温度では、ブロッキングを起こしにくい。よって、架橋前の絶縁電線等、本難燃性樹脂組成物を用いて形成した製品において、ブロッキングの影響による取り扱い性の低下を避けることができる。また、架橋後の樹脂においても、室温程度の温度ではべたつきが起こりにくく、架橋後の絶縁電線等、本難燃性樹脂組成物の架橋体を含む製品において、べたつきによる取り扱い性の低下を避けることができる。このように、本難燃性樹脂組成物およびその架橋体は、高い柔軟性と取り扱い性を兼ね備えたものとなる。
ここで、前記(A)シラングラフトポリオレフィンを構成するポリオレフィンが、(a-1)第一のポリオレフィンと、(a-2)第二のポリオレフィンと、を含み、前記(a-1)第一のポリオレフィンの方が、前記(a-2)第二のポリオレフィンよりも、高い融点を有するとよい。(A)シラングラフトポリオレフィンを構成するベースポリオレフィンとして、融点の異なる2種を混合することで、1種のみを用いる場合と比べて、融点および柔軟性を多様に制御することができる。よって、低い曲げ弾性率と高い融点とを両立する難燃性樹脂組成物および架橋体を得やすくなる。
この場合に、前記(a-1)第一のポリオレフィンが、密度0.870g/cm以下、融点110℃以上、曲げ弾性率11MPa以下であり、前記(a-2)第二のポリオレフィンが、密度0.870g/cm以下、融点60℃以下、曲げ弾性率11MPa以下であり、前記(a-1)第一のポリオレフィンと前記(a-2)第二のポリオレフィンの混合比が、(a-1)/(a-2)の質量比で、30/70以上、70/30以下の範囲にあるとよい。これら(a-1)第一のポリオレフィンおよび(a-2)第二のポリオレフィンは、いずれも0.870g/cm以下の低い密度と、11MPa以下の低い曲げ弾性率を有しているが、(a-2)第二のポリオレフィンが60℃以下の低い融点を有しているのに対し、(a-1)第一のポリオレフィンは110℃以上の高い融点を有している。これら2種のポリオレフィンを混合して(A)シラングラフトポリオレフィンのベース樹脂として用いることで、難燃性樹脂組成物をシラン架橋させた架橋体が、100MPa以下の曲げ弾性率と、80℃以上の融点を有するものとなりやすい。その結果として、高い柔軟性と取り扱い性を兼ね備えた難燃性樹脂組成物および架橋体を構成しやすくなる。
本開示にかかる第二の難燃性樹脂組成物は、樹脂成分として、(A)ポリオレフィンに対してシランカップリング剤がグラフトされたシラングラフトポリオレフィン、(B)未変性ポリオレフィン、(C)カルボキシル基、エステル基、酸無水物基、アミノ基、エポキシ基から選択される1種または2種以上の官能基を有する変性ポリオレフィン、を含有し、さらに、(D)難燃剤と、(E)架橋触媒と、を含有し、前記(A)シラングラフトポリオレフィンを構成するポリオレフィンが、(a-1)密度0.870g/cm以下、融点110℃以上、曲げ弾性率11MPa以下である、第一のポリオレフィンと、(a-2)密度0.870g/cm以下、融点60℃以下、曲げ弾性率11MPa以下である、第二のポリオレフィンと、を含有し、前記(a-1)第一のポリオレフィンと前記(a-2)第二のポリオレフィンの混合比が、(a-1)/(a-2)の質量比で、30/70以上、70/30以下の範囲にある。
上記第二の難燃性樹脂組成物においては、(A)シラングラフトポリオレフィンを構成するベースポリオレフィンとして、それぞれ所定の密度、曲げ弾性率、融点を有する(a-1)第一のポリオレフィンと、(a-2)第二のポリオレフィンの2種を用いている。2種のベースポリオレフィンが、ともに低い密度と曲げ弾性率を有していることにより、難燃性樹脂組成物全体、またその架橋体が、低い曲げ弾性率を有するものとなり、高い柔軟性を示す。また、融点が60℃以下と低い(a-2)第二のポリオレフィンに加えて、融点が110℃以上と高い(a-1)第一のポリオレフィンを用いることで、その高い柔軟性を損なわずに、難燃性樹脂組成物の架橋体の融点を、80℃以上のように高くすることができる。難燃性樹脂組成物が、そのように高い融点の架橋体を与えるものであることで、室温程度の温度では、難燃性樹脂組成物がブロッキングを起こしにくくなり、取り扱い性に優れたものとなる。また、架橋後の樹脂においても、室温程度の温度ではべたつきが起こりにくく、本難燃性樹脂組成物の架橋体を含む製品も、取り扱い性の高いものとなる。このように、本難燃性樹脂組成物およびその架橋体は、高い柔軟性と取り扱い性を兼ね備えたものとなる。
上記第一および第二の難燃性樹脂組成物において、前記(B)未変性ポリオレフィンが、密度0.950g/cm以下、曲げ弾性率200MPa以下であるとよい。すると、難燃性樹脂組成物の柔軟性を高めやすくなる。
また、前記難燃性樹脂組成物は、前記樹脂成分として、前記(A)シラングラフトポリオレフィンを10質量部以上、70質量部以下、前記(B)未変性ポリオレフィンを20質量部以上、60質量部以下、前記(C)変性ポリオレフィンを1質量部以上、30質量部以下含有するとよい。すると、難燃性樹脂組成物を、柔軟性の高さと、高い融点を有することによる取り扱い性の高さをバランス良く両立するものとしやすい。
前記(D)難燃剤として、水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウムより選択される少なくとも1種を、前記樹脂成分100質量部に対して、合計で30質量部以上、150質量部以下含有するとよい。水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウムは、十分な難燃性を発揮させるためには、臭素系難燃剤等と比較して、多量に樹脂組成物に添加する必要があり、多量の添加により、柔軟性をはじめとして、樹脂成分の物性を損ないやすいが、本難燃性樹脂組成物においては、樹脂成分が高い柔軟性を有することにより、それらの難燃剤を添加しても、樹脂組成物全体としての柔軟性を高く保つことができる。特に、難燃剤の添加量を上記の範囲とすることで、優れた難燃性と柔軟性を両立しやすい。
前記水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウムの平均粒子径が、0.5μm以上、5.0μm以下であるとよい。すると、それら難燃剤が、樹脂成分中で、凝集を起こさずに、高度に分散しやすくなり、難燃性樹脂組成物全体としての柔軟性を高く保ちやすくなる。
前記(E)架橋触媒の含有量は、前記樹脂成分100質量部に対して、0.1質量部以上、1質量部以下であるとよい。すると、樹脂組成物の架橋を十分に促進し、高い融点と低い曲げ弾性率を有する架橋体を形成しやすくなる。
前記難燃性樹脂組成物は、(F)ヒンダードフェノール系酸化防止剤、(G)金属酸化物、(H)硫黄系酸化防止剤、(I)滑剤、の少なくとも1種を含有するとよい。難燃性樹脂組成物が、成分(F)~(I)を含有することで、それぞれが発揮する作用により、難燃性樹脂組成物全体としての特性を、向上させることができる。
この場合に、前記(H)硫黄系酸化防止剤が、少なくとも1種のイミダゾール系化合物を含むとよい。すると、難燃性樹脂組成物に、優れた酸化防止効果と耐熱性を付与することができる。
前記成分(F)~(I)の含有量は、前記樹脂成分100質量部に対して、それぞれ、下記のとおりとされるとよい。前記(F)ヒンダードフェノール系酸化防止剤について、0.5質量部以上、20質量部以下、前記(G)金属酸化物について、0.5質量部以上、15質量部以下、前記(H)硫黄系酸化防止剤について、0.5質量部以上、20質量部以下、前記(I)滑剤について、0.1質量部以上、5質量部以下。成分(F)~(I)が、それぞれ上記の範囲の含有量で、難燃性樹脂組成物に含有されることで、柔軟性および高い取り扱い性をはじめ、樹脂成分によって発揮される難燃性樹脂組成物の特性を損なうことなく、各成分の添加による効果を、十分に得ることができる。
本開示にかかる絶縁電線は、導体と、前記いずれかの難燃性樹脂組成物の架橋体より構成され、前記導体の外周を被覆する電線被覆材と、を有する。また、本開示にかかるワイヤーハーネスは、前記絶縁電線を有する。これら絶縁電線およびワイヤーハーネスは、上記の難燃性樹脂組成物を用いて、電線被覆材が構成されていることにより、架橋の前後を通じて、高い柔軟性を有するとともに、ブロッキングおよびべたつきの抑制による高い取り扱い性を有するものとなる。
[本開示の実施形態の詳細]
以下に、本開示の実施形態にかかる難燃性樹脂組成物、絶縁電線、およびワイヤーハーネスについて、詳細に説明する。本開示の実施形態にかかる難燃性樹脂組成物は、以下に挙げる成分を含有するシラン架橋可能なポリオレフィン系樹脂組成物として構成されている。本開示の実施形態にかかる絶縁電線は、そのような本開示の実施形態にかかる難燃性樹脂組成物を用いて構成されており、本開示の実施形態にかかるワイヤーハーネスは、そのような本開示の実施形態にかかる絶縁電線を含むものである。
<難燃性樹脂組成物>
まず、本開示の一実施形態にかかる難燃性樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」と称する場合がある)について説明する。
本開示の一実施形態にかかる難燃性樹脂組成物(以下、「本樹脂組成物」ともいう)は、樹脂成分として、(A)シラングラフトポリオレフィンと、(B)未変性ポリオレフィンと、(C)変性ポリオレフィンとを含んでいる。さらに、本樹脂組成物は(D)難燃剤と、(E)架橋触媒と、を含んでいる。加えて、本樹脂組成物は、(F)ヒンダードフェノール系酸化防止剤、(G)金属酸化物、(H)硫黄系酸化防止剤、(I)滑剤の少なくとも1種類を含むことが好ましく、それらの成分を全て含むことがさらに好ましい。また、本樹脂組成物は、シラン架橋させた架橋体が、80℃以上の融点と、100MPa以下の曲げ弾性率を有する。
以下に、本樹脂組成物に含有される各成分の詳細および本樹脂組成物の特性について説明する。以下、各成分の含有量は、樹脂成分の合計の質量を100質量部として表示する。ここで、樹脂成分とは、上記成分(A)~(C)を指し、さらに他の樹脂材料を含有する場合には、それら他の樹脂材料も含むものとする。また、樹脂組成物が、同じ群に分類される化学種を複数含有する場合に、各群について記載している含有量は、特記しないかぎり、それら複数の化学種の含有量の合計を指すものとする。各特性値は、特記しないかぎり、室温、大気中で測定される値とする。
[1]樹脂組成物に含有される成分
(A)シラングラフトポリオレフィン
(A)シラングラフトポリオレフィンは、主鎖となるポリオレフィンに、シランカップリング剤がグラフトされたものであり、主鎖にシラングラフト鎖が導入されたものとなっている。
(A)シラングラフトポリオレフィンに用いられるポリオレフィン(ベースポリオレフィン)の種類は、特に限定されるものではないが、エチレン、プロピレンの単独重合体、エチレンまたはプロピレンとα-オレフィンとの共重合体が、好適な例として挙げられる。また上記ポリオレフィンとしては、オレフィンをベースとするポリオレフィンエラストマーを用いてもよい。
上記ポリエチレンとしては、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、メタロセン低密度ポリエチレンを用いることが好ましい。これらのポリエチレンは1種を単独で用いてもよいし、併用してもよい。これらの低密度のポリエチレンを用いると、樹脂組成物およびその架橋体の柔軟性に特に優れる。
ポリオレフィンエラストマーとしては、例えばポリエチレン系エラストマー(PEエラストマー)、ポリプロピレン系エラストマー(PPエラストマー)などのポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、エチレン-プロピレンゴム(EPM、EPR)、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体(EPDM、EPT)などが挙げられる。これらのポリオレフィンエラストマーは1種を単独で用いてもよいし、併用してもよい。ポリオレフィンエラストマーを用いると、樹脂組成物およびその架橋体に、高い柔軟性を付与することができる。
(A)シラングラフトポリオレフィンのベースポリオレフィンとして、上記に列挙したものをはじめ、各種ポリオレフィンを、1種類単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよいが、後述する(a-1)第一のポリオレフィンと(a-2)第二のポリオレフィンのように、2種以上のポリオレフィンを相互に混合してベースポリオレフィンとすることが好ましい。(A)シラングラフトポリオレフィンのベースポリオレフィンとしては、上記で列挙したうち、少なくともポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-オクテン共重合体、ポリオレフィンエラストマーから選択される1種以上を用いることが好ましい。中でも、樹脂組成物において高い柔軟性を達成する観点から、ポリオレフィンエラストマーを用いることが好ましい。
後に説明するように、(A)シラングラフトポリオレフィンを構成するベースポリオレフィンは、相互に少なくともベースポリオレフィンの融点が相違する(a-1)第一のポリオレフィンと(a-2)第二のポリオレフィンをはじめ、複数のポリオレフィンの混合物として構成されることが好ましい。その場合に、複数のベースポリオレフィンは、同種のものであり、例えば主鎖の重合度や分岐鎖の有無や数、長さ等、具体的な分子の構造が異なることにより、相互に特性の異なっていても、あるいは、異種のものであってもよい。一般に、ポリオレフィンのポリマー鎖に分岐が多く、分岐側鎖が長いほど、密度が低く、柔軟性に優れるが、それに伴って融点が低くなる傾向がある。
(A)シラングラフトポリオレフィンに用いられるシランカップリング剤は、特に限定されるものではないが、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリブトキシシランなどのビニルアルコキシシランやビニルトリアセトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシランなどを例示することができる。これらのシランカップリング剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
シランカップリング剤のグラフト量の上限は、過剰な架橋を防止するなどの観点から、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下であるとよい。一方、グラフト量の下限は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上、さらに好ましくは1.5質量%以上であるとよい。グラフト量が0.1%以上であると、本樹脂組成物を架橋させて電線被覆材等とした際に、十分に架橋し、耐熱性や機械的強度に優れる。なお、グラフト量は、シラングラフト前のポリオレフィンの質量に対して、グラフトされたシランカップリング剤の質量を百分率で表したものである。
(A)シラングラフトポリオレフィンを構成するベースポリオレフィンとしては、グラフトしていない状態で(以下、シラングラフトポリオレフィンのベースポリオレフィンの密度について同じ)、密度が、0.870g/cm以下のものを用いることが好ましい。ポリオレフィンは、低密度である方がシランカップリング剤をグラフトしやすく、架橋密度を高めやすいとともに、柔軟性に優れる。より好ましくは、その密度は、0.866g/cm以下であるとよい。(A)シラングラフトポリオレフィンを構成するベースポリオレフィンの密度には、特に下限は設けられないが、樹脂組成物の融点を高めやすい、耐摩耗性に優れた樹脂組成物を構成しやすい等の観点から、その密度は、0.855g/cm以上、さらには0.857g/cm以上であることが好ましい。(A)シラングラフトポリオレフィンを構成するベースポリオレフィンとして、2種以上のポリオレフィンが用いられる場合には、各ポリオレフィンが、上記のような密度を有することが好ましく、さらには、それら2種以上のポリオレフィンの混合物も、上記のような密度を有することが好ましい。樹脂材料の密度は、ASTM D790に準拠して測定することができる。
(A)シラングラフトポリオレフィンは、曲げ弾性率が、11MPa以下であることが好ましい(シラングラフト後の値)。(A)シラングラフトポリオレフィンが低い曲げ弾性率を有することで、(A)シラングラフトポリオレフィンおよびそれを含む樹脂組成物の柔軟性を高めやすい。より好ましくは、曲げ弾性率は、10MPa以下、さらに8MPa以下であるとよい。(A)シラングラフトポリオレフィンの曲げ弾性率には、特に下限は設けられないが、曲げ弾性率が低いシラングラフトポリオレフィンは、低い融点を示す傾向があり、樹脂組成物の融点を高めやすくする観点、耐摩耗性の高い樹脂組成物を得る等の観点から、3MPa以上、さらには5MPa以上であるとよい。(A)シラングラフトポリオレフィンを構成するベースポリオレフィンとして、2種以上のポリオレフィンが用いられる場合には、各ポリオレフィンのグラフト体が、上記のような曲げ弾性率を有することが好ましく、さらには、それら2種以上のポリオレフィンの混合物のグラフト体も、上記のような曲げ弾性率を有することが好ましい。樹脂材料の曲げ弾性率は、ASTM D790に準拠して測定することができる。
(A)シラングラフトポリオレフィンは、融点が80℃以上であることが好ましい(シラングラフト後の値)。より好ましくは100℃以上、さらに好ましくは110℃以上、120℃以上である。そのように高い融点を有するシラングラフトポリオレフィンを用いることで、樹脂組成物、またその架橋体全体として、高い融点を得やすくなり、樹脂組成物のブロッキングを抑えやすくなる。また、架橋体において、べたつきを抑えやすくなる。融点の上限は特に限定されないが、柔軟性やその他の物性に優れるシラングラフトポリオレフィンとしては、概ね135℃以下となる場合が多い。なお、樹脂材料の融点は、JIS K7121に準拠して、示差走査熱量測定法(DSC)によって、測定することができる。シラングラフトポリオレフィンを構成するベースポリオレフィンとして、2種以上のポリオレフィンが用いられる場合には、上記の融点は、それら2種以上のポリオレフィンの混合物に対して、シラングラフトを経て測定される値である。2種以上のポリオレフィンを混合してシラングラフトさせたシラングラフトポリオレフィンに対して、DSCで融点を計測すると、通常は、単一の吸熱ピークが見られるので(図2参照)、そのピークトップの温度を融点とすればよいが、複数の吸熱ピークが見られる場合には、そのうち最も低温のピークのピークトップの温度を、融点とすればよい。
本樹脂組成物において、(A)シラングラフトポリオレフィンの有する特性は、樹脂組成物全体としての特性に大きな影響を与えるものであるが、樹脂組成物全体として、架橋体とした際に、100MPa以下の曲げ弾性率と、80℃以上の融点を与えるものであれば、(A)シラングラフトポリオレフィンを構成するベースポリオレフィンの具体的な構成は、特に限定されず、上記のように、1種のみであっても、2種以上を混合したものであってもよい。しかし、一般に、密度の低いポリオレフィンは、低い曲げ弾性率を与える柔軟なものとなりやすい一方で、融点も低くなりやすい。よって、1種のポリオレフィンのみを用いて、低い曲げ弾性率と高い融点を両立するためには、ポリオレフィンとして選択できるものの種類が限られてしまう。しかし、異なる特性を有する2種以上のポリオレフィンを混合することで、混合物全体として、シラングラフトを経て得られる曲げ弾性率および融点等の物性を、高い自由度で選択することが可能となる。よって、低い曲げ弾性率と高い融点を両立する樹脂組成物および架橋体が得やすくなる。
具体的には、(A)シラングラフトポリオレフィンを構成するベースポリオレフィンが、(a-1)第一のポリオレフィンと、(a-2)第二のポリオレフィンと、を含み、(a-1)第一のポリオレフィンの方が、(a-2)第二のポリオレフィンよりも高い融点を有しているとよい。このことにより、主に(a-2)第二のポリオレフィンの寄与による低い曲げ弾性率と、(a-1)第一のポリオレフィンの寄与による高い融点とを、ベースポリオレフィン全体として得やすくなる。(a-1)第一のポリオレフィンおよび(a-2)第二のポリオレフィンの具体的な融点は、特に限定されるものではないが、(A)シラングラフトポリオレフィンを構成するベースポリオレフィン全体として想定される融点、あるいは樹脂組成物および架橋体全体として想定される融点を基準として、(a-1)第一のポリオレフィンはその基準よりも高い融点、(a-2)第二のポリオレフィンはその基準よりも低い融点を有することが好ましい。また、(a-1)第一のポリオレフィンと(a-2)第二のポリオレフィンの間の融点の差は、特に限定されるものではないが、低い曲げ弾性率と高い融点を両立しやすくする観点から、50℃以上、さらには60℃以上であることが好ましい。両者の融点の差に、特に上限は設けられないが、おおむね100℃以下としておくとよい。
(A)シラングラフトポリオレフィンを含有する本開示の実施形態にかかる樹脂組成物全体より構成される架橋体において、100MPa以下の曲げ弾性率および80℃以上の融点を与えることができる2種のベースポリオレフィンの好適な組み合わせとして、以下のものを例示することができる。
(a-1)第一のポリオレフィン:融点110℃以上
(a-2)第二のポリオレフィン:融点60℃以下
(a-1)第一のポリオレフィン、(a-2)第二のポリオレフィンともに、上記のように、密度が、0.870g/cm以下、さらには0.866g/cm以下であることが好ましい。また、特に下限は限定されないものの、0.855g/cm以上、さらには0.857g/cm以上であるとよい。さらに、(a-1)第一のポリオレフィン、(a-2)第二のポリオレフィンともに、上記のように、曲げ弾性率が、11MPa以下、さらには10MPa以下、8MPa以下であることが好ましい。また、特に下限は限定されないものの、3MPa以上、さらには5MPa以上であるとよい。
a-1)第一のポリオレフィンおよび(a-2)第二のポリオレフィンが、ともに0.870g/cm以下の低密度を有し、11MPa以下の低い曲げ弾性率を有することの結果として、ベースポリオレフィン全体として、低い曲げ弾性率が得られる。低密度、低曲げ弾性率を有するポリオレフィンは、低い融点を示す場合が多いが、110℃以上の融点を有する(a-2)第二のポリオレフィンを用いることで、成分(A)のベースポリオレフィン全体として、さらには樹脂組成物および架橋体全体として、80℃以上の融点を確保しやすくなっている。
2種のポリオレフィンのそれぞれの寄与を十分に得る観点から、(a-1)第一のポリオレフィンと(a-2)第二のポリオレフィンの混合比は、(a-1)/(a-2)の質量比で、30/70以上、さらには40/60以上であることが好ましい。また、70/30以下、さらには60/40以下であることが好ましい。低曲げ弾性率と高融点の両立のしやすさ、また成分組成の簡素性の観点から、(A)シラングラフトポリオレフィンのベースポリオレフィンとして、(a-1)第一のポリオレフィンおよび(a-2)第二のポリオレフィンとして1種ずつ、合計2種のポリオレフィンのみを用いることが好ましいが、樹脂組成物全体より構成される架橋体において、80℃以上の融点と、100MPa以下の曲げ弾性率を与えうるものであれば、さらに別のポリオレフィンを含んでいてもよい。また、(a-1)第一のポリオレフィンおよび(a-2)第二のポリオレフィンとして、それぞれ、2種以上のポリオレフィンを含んでいてもよい。
(B)未変性ポリオレフィン
(B)未変性ポリオレフィンは、例えば、グラフト重合や共重合などにより、変性基を導入されていない、炭化水素からなるポリオレフィンである。具体的には、エチレン、プロピレンの単独重合体、エチレンまたはプロピレンとα-オレフィンとの共重合体、またオレフィンをベースとするポリオレフィンエラストマーが挙げられる。これらのポリオレフィンは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。少なくともポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-オクテン共重合体から選択される1種以上を用いることが好ましい。
ポリエチレンとしては、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、メタロセン低密度ポリエチレンを用いることが好ましい。これらのポリエチレンは1種を単独で用いてもよいし、併用してもよい。これらの低密度のポリエチレンを用いると、樹脂組成物およびその架橋体の柔軟性に特に優れる。
また、ポリオレフィンエラストマーとしては、例えばポリエチレン系エラストマー(PEエラストマー)、ポリプロピレン系エラストマー(PPエラストマー)などのポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、エチレン-プロピレンゴム(EPM、EPR)、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体(EPDM、EPT)などが挙げられる。ポリオレフィンエラストマーを用いると、樹脂組成物およびその架橋体に高い柔軟性を付与することができる。
(B)未変性ポリオレフィンは、(A)シラングラフトポリオレフィンの主鎖に用いられるポリオレフィンと同じものでもよいし、異なるものを用いてもよい。同じ種のポリオレフィンを用いると相溶性に優れる。
(B)未変性ポリオレフィンの密度は、特に限定されるものではないが、0.855g/cm以上、さらには0.860g/cm以上であることが好ましい。このような密度を有することにより、樹脂組成物全体として、またその架橋体において、高い融点が得られやすくなり、樹脂組成物のブロッキングや架橋体のべたつきを抑えやすくなる。また、その密度は、0.950g/cm以下、さらに0.940g/cm以下であることが好ましい。すると、樹脂組成物全体として、またその架橋体において、柔軟性を高めやすい。
(B)未変性ポリオレフィンの曲げ弾性率も、特に限定されるものではないが、200MPa以下、さらには100MPa以下であることが好ましい。このような曲げ弾性率を有する場合に、樹脂組成物全体として、またその架橋体において、柔軟性を高めやすい。曲げ弾性率に下限は特に設けられないが、3MPa以上、さらには10MPa以上としておくことで、樹脂組成物全体として、またその架橋体において、高い融点を確保しやすくなる。
(C)変性ポリオレフィン
(C)変性ポリオレフィンは、カルボキシル基、エステル基、酸無水物基、アミノ基、エポキシ基から選択される1種または2種以上の官能基を有する変性ポリオレフィンである。(C)変性ポリオレフィンは、1種または2種以上のα-オレフィンからなる未変性のベースポリオレフィンに上記の官能基を有する重合性化合物をグラフト重合させることにより、官能基を導入したものとすることができる。あるいは、上記の官能基を有する重合性化合物と、該重合性化合物と重合可能なオレフィン(重合性モノマー)とを共重合させることにより、官能基を導入したものとすることができる。ただし、メタクリロキシアルキルシランなどにより、シラノール誘導体が導入されたものは、(A)シラングラフトポリオレフィンに分類されるため除くこととする。
(C)変性ポリオレフィンは、カルボキシル基、エステル基、酸無水物基、アミノ基、エポキシ基から選択される1種または2種以上の官能基を有することから、無機成分に対し高い親和性を示し、ポリオレフィン鎖を有することから、(A)シラングラフトポリオレフィン、(B)未変性ポリオレフィンなどの樹脂成分との親和性も高い。そのため、(C)変性ポリオレフィンは、樹脂成分と、難燃剤等の無機成分との相溶化剤として機能し、樹脂成分中での無機成分の分散性および接着性を高めるものとなる。
カルボキシル基を有する重合性化合物としては、分子内に炭素-炭素二重結合のような重合性基とカルボキシル基とを有する化合物であれば、特に限定されない。例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、α-クロロアクリル酸、イタコン酸、ブテントリカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、あるいはこれらの酸を分子構造の一部に含む誘導体などが挙げられる。これらの酸が酸無水物を形成する場合は、その酸無水物を用いることにより、酸無水物基を導入することができる。
エステル基を有する重合性化合物としては、上記のカルボキシル基を有する重合性化合物とアルコールとの反応により得られるエステル化合物を用いることができる。また、炭素-炭素二重結合を有するアルコールと、各種カルボン酸との反応により得られるエステル化合物であってもよい。このような化合物としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、などが挙げられる。
アミノ基を有する重合性化合物としては、分子内に炭素-炭素二重結合のような重合性基とアミノ基とを有する化合物であれば、特に限定されない。例えば、上記のカルボキシル基を有する重合性化合物とアルカノールアミンとの反応により得られるエステル類、ビニルアミン、アリルアミンあるいはこれらの化合物の構造を分子構造の一部に含む誘導体などが挙げられる。
エポキシ基を有する重合性化合物としては、分子内に炭素-炭素二重結合のような重合性基とエポキシ基とを有する化合物であれば、特に限定されない。例えば、上記のカルボキシル基を有する重合性化合物とグリシジルアルコールとの反応により得られる酸グリシジルエステル類、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、グリシジルオキシエチルビニルエーテル、スチレン-p-グリシジルエーテルなどのグリシジルエーテル類、p-グリシジルスチレン、あるいはこれらの化合物の構造を分子構造の一部に含む誘導体などが挙げられる。
上記で列挙したものをはじめ、各官能基を有する重合性化合物と共重合可能な重合性モノマーとしては、分子内に炭素-炭素二重結合のような重合性基を有する化合物であれば、特に限定されない。例えば、エチレン、プロピレンなどの官能基を有しないオレフィンモノマーを用いてもよいし、カルボキシル基、エポキシ基以外の官能基を有する重合性モノマーを用いてもよい。これらの重合性モノマーは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
本実施形態にかかる樹脂組成物は、樹脂成分として、以上に説明した(A)シラングラフトポリオレフィン、(B)未変性ポリオレフィン、(C)変性ポリオレフィンを含む。それらの樹脂成分の混合比は、特に限定されるものではないが、(A)シラングラフトポリオレフィンを10質量部以上、また70質量部以下、(B)未変性ポリオレフィンを20質量部以上、また60質量部以下、(C)変性ポリオレフィンを1質量部以上、また30質量部以下の比率で含有することが好ましい。そのような比率を満たすことで、樹脂組成物およびその架橋体が、低曲げ弾性率と高融点を、バランス良く備え、耐摩耗性にも優れたものとなりやすい。樹脂成分をはじめとして、樹脂組成物に含まれる成分間の相溶性、親和性にも優れたものとなりやすい。
樹脂組成物の成分構成を簡素にする観点から、本実施形態にかかる樹脂組成物は、樹脂成分として、上記成分(A)~(C)のみを含むものであることが好ましい。しかし、それらの成分によって発揮される、低弾性率や高融点等の特性を損なわないかぎりにおいて、他の樹脂成分を含有してもよい。
(D)難燃剤
(D)難燃剤は、樹脂組成物の難燃性を高める役割を果たす。(D)難燃剤としては、金属水酸化物等の無機系難燃剤、および臭素系難燃剤等の有機系難燃剤を用いることができる。本実施形態にかかる樹脂組成物においては、いずれの種類の難燃剤を用いてもよい。しかし、十分な難燃性を付与するために比較的多量に添加する必要があり、多量の添加による柔軟性の低下を、所定の樹脂成分を用いることで補うことによる効果が相対的に大きくなるという点において、無機系難燃剤、特に金属水酸化物を難燃剤として用いることが好ましい。
金属水酸化物よりなる難燃剤としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化ジルコニウムなどが挙げられ、1種または2種以上の金属水酸化物を用いることができる。特に、水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウムが、低コスト性等の観点で、特に好ましい。金属水酸化物は、樹脂成分中での分散性を向上させるなどの目的で、シランカップリング剤、高級脂肪酸、ポリオレフィンワックスなどの表面処理剤により処理されていてもよい。しかし、本実施形態にかかる樹脂組成物においては、樹脂成分として(C)変性ポリオレフィンが含有されることから、表面処理を施さなくても、金属水酸化物の分散性に優れる。
金属水酸化物は、平均粒径(D50)が、0.5μm以上であることが好ましい。すると、粒子間の凝集が起こりにくくなる。また、金属水酸化物の平均粒径は、5.0μm以下であることが好ましい。すると、金属水酸化物粒子が樹脂成分の中で分散しやすくなる。凝集の抑制および分散性の向上によって、金属水酸化物の粒子が、微細な粒子の状態で樹脂組成物中に均一性高く分布することで、高い難燃性が発揮されるとともに、樹脂成分によって発揮される柔軟性等の特性が、金属水酸化物粒子によって損なわれにくくなる。
金属水酸化物の添加量は、樹脂成分100質量部に対して、30質量部以上であることが好ましい。すると、高い難燃性を得ることができる。一方、金属水酸化物の添加量は、樹脂成分100質量部に対して、150質量部以下であることが好ましい。すると、難燃性向上効果の飽和を避けるとともに、樹脂組成物の柔軟性を高めることができる。
本樹脂組成物において、(D)難燃剤として、金属水酸化物等の無機系難燃剤とともに、あるいはその代わりに、臭素系難燃剤等の有機系難燃剤を用いてもよい。臭素系難燃剤としては、エチレンビステトラブロモフタルイミド、エチレンビストリブロモフタルイミドなどのフタルイミド構造を持つ臭素系難燃剤、エチレンビスペンタブロモフェニル、テトラブロモビスフェノールA(TBBA)、ヘキサブロモシクロドデカン(HBCD)、TBBA-カーボネイト・オリゴマー、TBBA-エポキシ・オリゴマー、臭素化ポリスチレン、TBBA-ビス(ジブロモプロピルエーテル)、ポリ(ジブロモプロピルエーテル)、ヘキサブロモベンゼン(HBB)などが挙げられる。これらの難燃剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
臭素系難燃剤を用いる場合には、難燃性を高めるために、三酸化アンチモン等の無機系難燃助剤を併用ることが好ましい。三酸化アンチモンとしては、平均粒子径が3μm以下、さらには1μm以下のものを用いることが好ましい。三酸化アンチモンは、分散性を向上させるなどの目的で、シランカップリング剤、高級脂肪酸、ポリオレフィンワックスなどの表面処理剤により処理されていてもよい。
難燃成分として臭素系難燃剤および無機系難燃助剤の併用系を用いる場合には、臭素系難燃剤と無機系難燃助剤とを、当量比で、臭素系難燃剤:無機系難燃助剤=3:1~2:1の範囲内で含むことが好ましい。また、樹脂組成物において、樹脂成分100質量部に対して、臭素系難燃剤10~40質量部と三酸化アンチモン5~20質量部の範囲内で配合することが好ましい。
難燃剤として、金属水酸化物と臭素系難燃剤を併用して用いる場合には、それぞれの添加量を減らすことができ、樹脂成分合計100質量部に対して、金属水酸化物を10~50質量部、臭素系難燃剤を5~20質量部、必要に応じて無機系難燃剤を5~20質量部の範囲内で配合することが好ましい。
(E)架橋触媒
(E)架橋触媒は、(A)シラングラフトポリオレフィンをシラン架橋させるためのシラノール縮合触媒である。架橋触媒として、錫、亜鉛、鉄、鉛、コバルトなどの金属のカルボン酸塩、チタン酸エステル、有機塩基、無機酸、有機酸などを例示することができる。具体的には、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジマレート、ジブチル錫ビスイソオクチルチオグリコールエステル塩、ジブチル錫β-メルカプトプロピオン酸塩、ジブチル錫ジアセテート、ジオクチル錫ジラウレート、酢酸第一錫、カプリル酸第一錫、ナフテン酸鉛、ナフテン酸コバルト、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸カルシウム、チタン酸テトラブチルエステル、チタン酸テトラノニルエステル、ジブチルアミン、ヘキシルアミン、ピリジン、硫酸、塩酸、トルエンスルホン酸、酢酸、ステアリン酸、マレイン酸などを例示することができる。架橋触媒として好ましくは、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジマレート、ジブチル錫ビスイソオクチルチオグリコールエステル塩、ジブチル錫β-メルカプトプロピオン酸塩を用いるとよい。
(E)架橋触媒は、(A)シラングラフトポリオレフィンと混合すると架橋反応が進行してしまうため、電線を被覆する直前で混合することが好ましい。この際、架橋触媒の分散性を向上させるため、予めバインダー樹脂と混合して架橋触媒バッチとして用いることが好ましい。架橋触媒を予め混合した架橋触媒バッチとして用いることで、(A)シラングラフトポリオレフィンの意図せぬ架橋反応を防止できるとともに、架橋触媒の分散性に優れ、十分に架橋反応を進行させやすい。また、架橋触媒バッチとして用いることで、架橋触媒の添加量の制御が容易となる。
架橋触媒バッチに用いられるバインダー樹脂としては、前述の(A)~(C)で用いられるポリオレフィンを用いることができる。特に低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、メタロセン低密度ポリエチレンが好ましい。これらの低密度のポリエチレンを用いると、電線の柔軟性が良好となる。また、例えば、(B)未変性ポリオレフィンの一部を、バインダー樹脂として用いてもよい。
架橋触媒バッチは、バインダー樹脂100質量部に対して、0.5~5質量部の範囲内で架橋触媒を含むことが好ましい。より好ましくは1~5質量部の範囲内である。0.5質量部以上であれば架橋反応が進行しやすく、5質量部以下であると触媒の分散性に優れる。
(E)架橋触媒は、樹脂成分100質量部に対して、架橋触媒そのものの含有量として、0.1質量部以上とすることが好ましい。すると、架橋反応を進行させやすくなる。一方、その含有量は、1.0質量部以下であることが好ましい。すると、過度な架橋を防止できる。
(F)ヒンダードフェノール系酸化防止剤
(F)ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、チオジエチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N’-(ヘキサン-1,6-ジイル)ビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオンアミド]、2,4-ジメチル-6-(1-メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォネート、3,3’,3”,5,5’5”-ヘキサ-tert-ブチル-a,a’,a”-(メシチレン-2,4,6-トリル)トリ-p-クレゾール、カルシウムジエチルビス[[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォネート]、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、1,3,5-トリス[(4-tert-ブチル-3-ヒドロキシ-2,6-キシリル)メチル]-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、2,6-tert-ブチル-4-(4,6-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2-イルアミノ)フェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4’-チオビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、3,9-ビス[2-(3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)-プロピノキ)-1,1-ジメチルエチル]-2,4,8,10-テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカンなどが挙げられる。これらの酸化防止剤は1種単独で用いても2種以上併用してもよい。これらの酸化防止剤の中で、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を用いることが、特に好ましい。
(F)ヒンダードフェノール系酸化防止剤の添加量は、樹脂成分100質量部に対し、0.5質量部以上、さらには1質量部以上とすることが好ましい。すると、優れた酸化防止効果が得られる。一方、その添加量は、20質量部以下、さらには10質量部以下とすることが好ましい。すると、樹脂組成物において、ブルーム等、多量の酸化防止剤の添加による影響を抑制できる。
(G)金属酸化物
樹脂組成物に金属酸化物を添加することで、樹脂組成物の耐熱性を高めることができる。耐熱性向上に高い効果を有する金属酸化物として、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化カリウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム等を例示することができる。特に酸化亜鉛を用いることが好ましく、酸化亜鉛の平均粒径は、3μm以下、さらには1μm以下であるとよい。
(G)金属酸化物の添加量は、樹脂成分100質量部に対し、0.5質量部以上、さらには1質量部以上とすることが好ましい。すると、耐熱性向上の効果が高くなる。一方、その添加量は、15質量部以下、さらには10質量部以下とすることが好ましい。すると、金属酸化物粒子の凝集が起こりにくく、樹脂成分中での分散性が高くなる。
(H)硫黄系酸化防止剤
樹脂組成物に(H)硫黄系酸化防止剤を添加することで、樹脂組成物の酸化が抑制されるとともに、樹脂組成物の耐熱性を高めることができる。(H)硫黄系酸化防止剤の種類は、特に限定されるものではないが、イミダゾール系化合物を用いることが好ましい。
イミダゾール系化合物より構成さる酸化防止剤としては、メルカプトベンズイミダゾールを例示することができる。メルカプトベンズイミダゾールとしては、2-メルカプトベンズイミダゾール、2-メルカプトメチルベンズイミダゾール、4-メルカプトメチルベンズイミダゾール、5-メルカプトメチルベンズイミダゾールなどや、これらの化合物の亜鉛塩などが挙げられる。融点が高く、混合中の昇華も少ないため高温で安定であることから、2-メルカプトベンズイミダゾールおよびその亜鉛塩が特に好ましい。
(H)硫黄系酸化防止剤の添加量は、樹脂成分100質量部に対し、0.5質量部以上、さらには1質量部以上とすることが好ましい。すると、酸化防止効果および耐熱性向上効果が高くなる。一方、その添加量は、20質量部以下、さらには15質量部以下とすることが好ましい。すると、樹脂組成物において、ブルーム等、多量の酸化防止剤の添加による影響を抑制できる。
(I)滑剤
(I)滑剤は、樹脂組成物に潤滑効果を付与するものとなる。滑剤としては、内部滑剤、外部滑剤のいずれを用いてもよい。滑剤を構成する化合物の種類も特に限定されず、流動パラフィン、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスなどの炭化水素、ステアリン酸、オレイン酸、エルカ酸などの脂肪酸、高級アルコール、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミドなどの脂肪酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミドなどのアルキレン脂肪酸アミド、ステアリン酸金属塩などの金属せっけん、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリルステアレート、硬化油などのエステル系滑剤が挙げられる。滑剤としては、樹脂成分との相溶性の観点から、エルカ酸、オレイン酸、ステアリン酸などの脂肪酸またはそれらの酸の誘導体、またはポリエチレン系ワックスを用いるのが好ましい。
(I)滑剤の添加量は、樹脂成分100質量部に対し、0.1質量部以上であることが好ましい。すると、高い潤滑効果が得られる。一方、その添加量は、5質量部以下であることが好ましい。
さらに、本実施形態にかかる難燃性樹脂組成物は、柔軟性、高融点等の特性を損なわない範囲で、種々の添加剤を含んでもよい。添加剤としては、例えば、金属不活性剤、無機フィラー、顔料、シリコーンオイルなどを例示することができる。金属不活性剤としては、銅不活性剤またはキレート化剤などが用いることができ、具体的には、2,3-ビス[3-(3,5-ジーtert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニル]プロピオノヒドラジドなどのヒドラジド誘導体や3-(N-サリチロイル)アミノ-1,2,4-トリアゾールなどのサリチル酸誘導体を用いることができる。無機フィラーとしては、炭酸カルシウムなどを例示することができる。無機フィラーの添加量は、樹脂強度などの観点から、樹脂成分の合計100質量部に対し、30質量部以下であることが好ましい。
[2]樹脂組成物の特性
本実施形態にかかる樹脂組成物は、上記のように、シラン架橋を経て形成される架橋体が、80℃以上の高い融点と、100MPa以下の低い曲げ弾性率を有している。架橋体が高い融点および低い曲げ弾性率を有していることは、架橋前の樹脂組成物も、高い融点および低い曲げ弾性率を有することを示す。なお、架橋体は、融点以上に加熱しても、樹脂が流動を起こすものではないが、DSCにおいて吸熱ピークが出現し、その吸熱ピークのピークトップが、架橋体の融点となる。架橋体の融点は、架橋前の樹脂組成物の融点と、同程度となるので、架橋前の樹脂組成物も、80℃以上の融点を有することが好ましい。
本樹脂組成物が、架橋体において100MPa以下の曲げ弾性率を与える、低弾性の樹脂組成物であることにより、架橋前の樹脂組成物の状態、およびシラン架橋を行った架橋体の状態において、高い柔軟性を有する。樹脂組成物が高い柔軟性を有することで、本樹脂組成物およびその架橋体を、絶縁電線の被覆材等、曲げを頻繁に受ける製品に、好適に用いることができる。
同時に、本樹脂組成物が、架橋体において、80℃以上の融点を与える、高融点の樹脂組成物であることにより、樹脂組成物が、熱の影響による溶融や軟化を起こしにくく、例えば、室温程度の温度では、ブロッキングが起こりにくい。また、架橋体において、室温程度の温度では、表面にべたつきが発生しにくい。樹脂組成物のブロッキングや架橋体のべたつきは、樹脂組成物および架橋体の室温での取り扱い性を低下させるものとなるが、それらの現象が抑えられることで、樹脂組成物や架橋体の室温での取り扱い性が高くなる。本樹脂組成物を用いて、絶縁電線等の製品を製造した際に、製造途中の架橋前の樹脂組成物の状態でのブロッキング、および架橋後の完成品の状態でのべたつきを抑制し、高い取り扱い性を得ることができる。
このように、本樹脂組成物は、80℃以上の融点と100MPa以下の曲げ弾性率を有する架橋体を与える、高い柔軟性と、高い取り扱い性を兼ね備えたものとなっている。架橋体の融点は、100℃以上、さらには110℃以上であると、さらに好ましい。また、架橋体の曲げ弾性率は、90MPa未満、さらには80MPa未満であると、さらに好ましい。
なお、本樹脂組成物は、成分(A)~(C)として、合計で少なくとも3種のポリオレフィンを含有しているが、樹脂組成物の架橋体に対して、DSCで融点を計測すると、通常は、単一の吸熱ピークが見られる。その単一のピークトップの温度として得られる融点が、80℃以上となるものである。ただし、複数の吸熱ピークが見られる場合には、そのうち最も低温のピークのピークトップの温度を、融点として、その融点が80℃以上であればよい。また、樹脂成分以外の成分の一部が、80℃未満の融点を有することを妨げるものではないが、樹脂成分以外の各成分としても、架橋体中で、80℃未満の融点を与えるものでないことが好ましい。
[3]樹脂組成物の製造方法
本実施形態にかかる樹脂組成物は、例えば、(A)~(E)の各成分、および、必要に応じて添加される各種添加成分を配合し、二軸押出混練機などを用いて混練することにより調製できる。ただし、(A)シラングラフトポリオレフィンと(E)架橋触媒とを混合すると、大気中の水分により架橋反応が進行してしまう。保存時等の架橋反応や、その他の意図しない反応を防止する観点から、電線を被覆する直前で各種成分を混合することが好ましい。このような方法としては、予めシラングラフトバッチ、難燃バッチ、架橋触媒バッチをそれぞれ調整し、ペレット化しておくことが好ましい。
シラングラフトバッチは、(A)シラングラフトポリオレフィンを含むバッチである。難燃バッチは、(B)未変性ポリオレフィン、(C)変性ポリオレフィン、(D)難燃剤を含むバッチである。架橋触媒バッチは、(E)架橋触媒とバインダー樹脂を含むバッチである。(F)~(I)の各成分、および、必要に応じて添加されるその他の各種添加成分は、各バッチを構成する成分による特性を阻害しない範囲であれば、シラングラフトバッチ、難燃バッチ、架橋触媒バッチのいずれに含まれてもよい。
[4]他の実施形態
ここで、変形形態にかかる難燃性樹脂組成物について、簡単に説明する。上記で説明した実施形態においては、樹脂組成物より構成される架橋体が、全体として、80℃以上の融点と100MPa以の曲げ弾性率を有することが指定されている。しかし、樹脂組成物がそれらの融点および/または曲げ弾性率を有する架橋体を必ずしも与えない変形形態においても、(A)シラングラフトポリオレフィンを構成するベースポリオレフィン樹脂として、以下の(a-1)第一のポリオレフィンと(a-2)第二ポリオレフィンを用いることで、高い柔軟性と高い取り扱い性を兼ね備えた樹脂組成物とすることができる。
(a-1)第一のポリオレフィン:密度0.870g/cm以下、融点110℃以上、曲げ弾性率11MPa以下であるポリオレフィン
(a-2)第二のポリオレフィン:密度0.870g/cm以下、融点60℃以下、曲げ弾性率11MPa以下であるポリオレフィン
ここで、(a-1)第一のポリオレフィンと(a-2)第二のポリオレフィンの混合比は、(a-1)/(a-2)の質量比で、30/70以上、70/30以下の範囲とされる。
(a-1)第一のポリオレフィンと(a-2)第二のポリオレフィンが、ともに、低い密度と低い曲げ弾性率を有することに由来して、(A)シラングラフトポリオレフィン全体として、さらに樹脂組成物全体として、低い曲げ弾性率を有することにより、高い柔軟性が得られる。一方、(a-1)第一のポリオレフィンが、高い融点を有することに由来して、(A)シラングラフトポリオレフィン全体として、さらに樹脂組成物全体、また架橋体全体として、高い融点を有することにより、室温での取り扱い性が高くなる。
一般に、融点の低いポリオレフィンほど、シラングラフトポリオレフィンとし、架橋させた際に、低い曲げ弾性率を示す傾向がある。よって、単一のポリオレフィンを用いてシラングラフトポリオレフィンを構成する場合には、組成物全体として、所望されるレベルの低い曲げ弾性率と、高い融点とを両立することが難しい場合がある。しかし、相互に異なる融点を有する上記(a-1)第一のポリオレフィンと(a-2)第二のポリオレフィンを混合して、(A)シラングラフトポリオレフィンを構成することで、樹脂組成物および架橋体において、高融点と低曲げ弾性率を両立しやすい。
この変形形態にかかる樹脂組成物においても、(a-1)第一のポリオレフィンと(a-2)第二のポリオレフィンをベースポリオレフィンとする(A)シラングラフトポリオレフィンの材料組成および特性について、上記で詳細に説明した実施形態において、好ましい形態として挙げた材料組成や特性を、好適に適用することができる。また、樹脂組成物に含有される(A)シラングラフトポリオレフィン以外の各成分についても、上記で詳細に説明した実施形態において、好ましい形態として挙げた材料組成や特性を、好適に適用することができる。
<絶縁電線およびワイヤーハーネス>
次に、本開示の一実施形態にかかる絶縁電線および一実施形態にかかるワイヤーハーネスについて説明する。
図1に示すように、本実施形態にかかる絶縁電線1は、導体2と、導体2の外周を被覆する電線被覆材(単に被覆材ということもある)3と、を有している。電線被覆材3は、上記で説明した本開示の実施形態かかる難燃性樹脂組成物を架橋させた架橋体より構成されている。
絶縁電線1の導体2は、その導体径や材質などは特に限定されるものではなく、絶縁電線1の用途などに応じて適宜選択することができる。導体2を構成する材料としては例えば、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金などの金属材料が挙げられる。電線の軽量化などの観点から、アルミニウムまたはアルミニウム合金であることが好ましい。電線被覆材3の層は、単層であっても、2層以上の複数層であってもよい。
絶縁電線1を製造するには、本開示の実施形態にかかる樹脂組成物を導体2の外周に配置したうえで、架橋すればよい。例えば、上記シラングラフトバッチ、難燃バッチ、架橋触媒バッチの各バッチを、例えば、バンバリミキサー、加圧ニーダー、混練押出機、二軸押出機、ロールなどの通常の混練機を用いて加熱混練し、押出成形機などを用いて得られた樹脂組成物を導体2の外周に押出被覆した後、架橋すればよい。
被覆材3を架橋する方法としては、被覆電線の被覆層を水蒸気あるいは水にさらす方法を挙げることができる。このとき、水蒸気または水との接触は、常温から90℃の温度範囲内で、48時間以内で行うことが好ましい。より好ましくは、50℃から80℃の温度範囲内で、8時間以上、24時間以内の時間で行うとよい。
本開示の一実施形態にかかるワイヤーハーネスは、上記の絶縁電線1を有するものである。ワイヤーハーネスは、上記絶縁電線1のみがひとまとまりに束ねられた単独電線束の形態、あるいは上記の絶縁電線1と他の絶縁電線とが混在状態で束ねられた混在電線束の形態のいずれでもよい。電線束は、コルゲートチューブなどのワイヤーハーネス保護材や、粘着テープのような結束材などで束ねられてワイヤーハーネスとして構成される。
そして、本開示の実施形態にかかる絶縁電線1は、単独の状態、あるいはワイヤーハーネスの状態で、自動車用、電気・電子機器用、情報通信用、電力供給用、船舶用、航空機用など各種電線に利用することができる。特に自動車用電線として好適に利用できる。
以下に実施例を示す。なお、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。ここでは、種々の成分組成を有する難燃性樹脂組成物を調製し、特性を比較した。
[試験方法]
[1]用いた材料
(A)シラングラフトポリオレフィン
まず、樹脂組成物の原料として、(A)シラングラフトポリオレフィンを準備した。まず、下の表1に示す6種のポリオレフィン(PE1~PE6)を準備し、下の表2に示すように、1種または2種を選択した。2種を選択する場合については、表2に示す質量比で2種を配合し、140℃にて単軸混練機で混練した。混練により得られたベースポリオレフィンのそれぞれ、または単一のポリオレフィンに対して、シラングラフトを行い、(A)シラングラフトポリオレフィン(シラングラフトPE1~PE14)とした。シラングラフトに際しては、ベースポリオレフィン100質量部に対してビニルトリメトキシシラン(信越化学社製「KBM1003」)1.5質量部、ジクミルパーオキサイド(日油社製「パークミルD」)0.15質量部をドライブレンドした材料を、単軸混練機にて、140℃で混練した。
下の表1に、原料として用いたポリオレフィン(PE1~PE6)について、具体的な製品名と、密度、融点、曲げ弾性率を示す。
Figure 2022042606000001
さらに、下の表2に、各シラングラフトポリオレフィン(シラングラフトPE1~PE14)について、原料の配合比を、単位を質量部として示す。合わせて、グラフト後のベースポリオレフィンについて測定された融点および曲げ弾性率の値を示す。ここで、融点の測定は、JIS K7121に準拠して、DSC法によって行った。図2に、例として、シラングラフトPE1について得られたDSC曲線を示す。この測定結果によると、121℃付近に、融解に対応する単一のピークが見られている。シラングラフトPE1~PE14のいずれにおいても、単一の融解に対応するピークが観測され、その頂点の温度を融点とした。曲げ弾性率の測定は、ASTM D790に準拠して行った。
Figure 2022042606000002
(B)未変性ポリオレフィン
未変性ポリオレフィン(未変性PE1~PE3、PP1)として、以下のものを準備した。
・未変性PE1:ダウエラストマー社製「エンゲージ7467」(密度:0.862g/cm、曲げ弾性率:4MPa)
・未変性PE2:ダウエラストマー社製「エンゲージ7256」(密度:0.885g/cm曲げ弾性率:30MPa)
・未変性PE3:日本ポリプロ社製「ノバテックHDHY331」(密度:0.951g/cm、曲げ弾性率:1050MPa)
・未変性PP1:日本ポリプロ社製「ニューコンNAR6」(密度:0.890g/cm、曲げ弾性率:550MPa)
(C)変性ポリオレフィン
変性ポリオレフィン(変性PE1,PE2,PP)として、以下のものを準備した。
・変性PE1:三菱ケミカル社製「モディックAP512P」(無水マレイン酸変性ポリエチレン)
・変性PE2:住友化学社製「ボンドファーストE」(メタクリル酸グリシジル変性ポリエチレン)
・変性PP:三井化学社製「アドマーQB550」(無水マレイン酸変性ポリプロピレン)
上記以外の成分は、下記の通りである。
(D)難燃剤
・水酸化マグネシウム:アルベマール社製「マグニフィンH10」
・水酸化アルミニウム:住友化学社製「C305」
(E)架橋触媒
・架橋触媒バッチ:三菱化学社製「リンクロンLZ082」(架橋触媒含有量:1%、バインダー樹脂:密度0.91g/cmのポリエチレン)
(F)ヒンダードフェノール系酸化防止剤
・BASFジャパン社製「イルガノックス1010」
(G)金属酸化物
・酸化亜鉛:ハクスイテック社製「亜鉛華1種」
(H)硫黄系酸化防止剤
・イミダゾール化合物:川口化学社製「アンテージMB」(2-メルカプトベンゾイミダゾール)
(I)滑剤
・日本油脂社製「アルフローP10」(エルカ酸アミド)
(その他の成分)
・金属不活性剤:ADEKA社製「CDA-1」
[2]試料の作製
(シラングラフトバッチの調製)
シラングラフトポリオレフィンをペレット化したものをシラングラフトバッチとして用いた。
(架橋触媒バッチの調製)
予めペレットの状態で供給される三菱化学社製「リンクロンLZ082」を架橋触媒バッチとして用いた。
(難燃剤バッチの調製)
表3,4に示す成分のうち、シラングラフトポリオレフィンと架橋触媒バッチおよびバインダー樹脂を除く成分を二軸混練機に加え、200℃で0.1~2分程度加熱混練し、十分に分散させた後、ペレット化して、難燃剤バッチを調製した。
(試験体の作製)
試料A1~A14および試料B1,B2にかかる樹脂組成物を、表3,4に示す配合量比で調整した。この際、上記のように調製したシラングラフトバッチ、難燃剤バッチ、架橋触媒バッチを、200℃にて二軸混練機にて混錬し、圧縮成形にて短冊状の試験片を作成した。その後、湿度95%、温度65℃の恒温恒湿槽で12時間架橋処理を施した後、常温で24時間乾燥して、架橋体試験片とした。
別途、試験用に、表3,4に示す配合比の樹脂組成物を用いて、絶縁電線を作製した。この際、上記で準備したシラングラフトバッチ、難燃剤バッチ、架橋触媒バッチを押出成形機のホッパーで混合し、押出成形機の温度を200℃に設定して、押出加工を行った。押出加工としては、外径2.4mmの導体上に、厚さ0.7mmの絶縁体を押出被覆して被覆材を形成した。その後、湿度95%、温度65℃の恒温恒湿槽で24時間架橋処理を施して絶縁電線を作製した。
[3]評価方法
・架橋体の物性
上記で作製された架橋体試験片に対して、融点と曲げ弾性率を測定した。
(融点)
融点の測定は、JIS K7121に準拠して、DSC法によって行った。融点が80℃以上の場合を、融点が高い(A)と評価し、さらに、融点が110℃以上の場合を、融点が特に高い(A+)と評価した。一方、融点が80℃未満の場合を、融点が低い(B)と評価した。
(曲げ弾性率)
曲げ弾性率の測定は、ASTM D790に準拠して行った。曲げ弾性率が100MPa以下の場合を、曲げ弾性率が低い(A)と評価し、さらに、曲げ弾性率が80MPa未満の場合を、曲げ弾性率が特に低い(A+)と評価した。一方、曲げ弾性率が100MPaを超える場合を、曲げ弾性率が高い(B)と評価した。
・絶縁電線の特性
上記で作製された試験用の絶縁電線に対して、耐融着性、柔軟性、耐摩耗性の評価を行った。
(耐融着性)
上記の絶縁電線の製造工程の途中において、電線導体に絶縁体を押出被覆して被覆材を形成した段階の、架橋処理前の絶縁電線を、外径600mmのリールに巻き付け、その状態で、湿度95%、温度65℃の恒温恒湿槽で24時間架橋処理を施した。その後、絶縁電線をリールから引き出し、引き出した箇所を目視して、融着の有無を確認した。絶縁電線のうち、リールに巻かれた状態で相互に接触していた部位において、被覆材の表面に融着跡が目視確認されない場合を、耐融着性が高い(A)と評価した。この場合、架橋前の樹脂組成物のブロッキングや、架橋後の表面のべたつきが生じないと判定することができる。一方、融着跡が目視された場合には、耐融着性が低い(B)と評価した。
(柔軟性)
JIS K7171を参考にし、3点曲げ柔軟性の評価を行った。この際、架橋させた絶縁電線を100mmの長さに切り出したものを3本、横一列に並べ、それら3本を、両端においてポリ塩化ビニルテープで相互に固定して、試験片とした。間隔50mmで設置された1対の支柱を有する治具上に、その試験片をセットした。そして、支柱間の中心に当たる位置において、試験片を、1mm/分の速度で上方から押し込みながら、試験片に印加される最大荷重を測定した。最大荷重が4N以下の場合を、柔軟性が高い(A)と評価し、さらに、最大荷重が2N以下の場合を、柔軟性が特に高い(A+)と評価した。一方、最大荷重が4Nを超える場合を、柔軟性が低い(B)と評価した。
(耐摩耗性)
ISO 6722に準拠し、摩耗試験を行った。この際、架橋させた絶縁電線に対して、外径0.45mmの鉄線を荷重7Nで押し当て、55回/分の速さで往復運動させ、鉄線と導体である銅が導通するまでの回数を測定した。往復回数が500回以上の場合を、耐摩耗性が高い(A)と評価し、さらに往復回収が700回以上である場合を、耐摩耗性が特に高い(A+)と評価した。一方、往復回数が500回未満の場合を、耐摩耗性が低い(B)と評価した。
[4]試験結果
下の表3,4に、試料A1~A14および試料B1,B2について、各成分の配合比を、質量部を単位として示すとともに、各評価の結果を示す。
Figure 2022042606000003
Figure 2022042606000004
試料A1~A14においては、いずれも、架橋体において、80℃以上の融点(AまたはA+)と、100MPa以下の曲げ弾性率(AまたはA+)が得られている。そのことに対応して、絶縁電線において、高い耐融着性(A)と、高い柔軟性(AまたはA+)が、両立されている。評価結果の対応関係から、架橋体の融点の高さが耐融着性の高さに、曲げ弾性率の低さが柔軟性の高さに、それぞれつながっていると解釈できる。これらの試料においては、耐摩耗性も高くなっている(AまたはA+)。
試料A1~A14の中でも、試料A1~A7に着目する。これらの試料においては、いずれも、(A)シラングラフトポリオレフィンを構成するベースポリオレフィンとして、(a-1)密度0.870g/cm以下、融点110℃以上、曲げ弾性率11MPa以下である、第一のポリオレフィン、つまりPE1またはPE2と、(a-2)密度0.870g/cm以下、融点60℃以下、曲げ弾性率11MPa以下である、第二のポリオレフィン、つまりPE3またはPE4が、(a-1)/(a-2)の質量比にして30/70から70/30の範囲の混合比で、混合されている。また、(B)未変性ポリオレフィンとして、密度0.950g/cm以下、曲げ弾性率200MPa以下のもの、つまり未変性PE1またはPE2を用いている。このように、(A)シラングラフトポリオレフィンに、融点の異なる2種のベースポリオレフィンを用いていること、また(B)未変性ポリオレフィンとして、所定の低密度、低曲げ弾性率のものを用いていることに対応して、架橋体において、80MPa未満の特に低い曲げ弾性率(A+)とともに、110℃以上の特に高い融点(A+)が、得られている。また、絶縁電線において、高い耐融着性(A)とともに、特に高い柔軟性(A+)が得られている。
一方、試料A8~A11,A14は、いずれも、(A)シラングラフトポリオレフィンのベースポリオレフィンが、上記(a-1)第一のポリオレフィンと(a-2)第二のポリオレフィンを、(a-1)/(a-2)の質量比にして30/70から70/30の範囲の混合比で混合したものとはなっていない。試料A8,A9では、(a-2)第二のポリオレフィンの代わりに、密度が高く、曲げ弾性率の高いポリオレフィン(PE5,PE6)を用いている。また、試料A10では、(a-1)/(a-2)=70/30との混合比よりも、(a-2)第二のポリオレフィンが少ない領域にある。このように、試料A8~A10では、低密度、低曲げ弾性率、低融点を兼ね備えた(a-2)第二のポリオレフィンを、(A)シラングラフトポリオレフィンのベースポリオレフィンとして含んでいない、あるいはそれほど多く含んでいないことと対応して、試料A1~A7ほどは、低い曲げ弾性率および高い柔軟性が得られていないと解釈できる。
一方、試料A11では、(a-1)/(a-2)=30/70との混合比よりも、(a-1)第一のポリオレフィンが少ない領域にある。この試料A11では、低密度、低曲げ弾性率と高融点を同時に備えた(a-1)第一のポリオレフィンを、(A)シラングラフトポリオレフィンのベースポリオレフィンとして、それほど多く含んでいないことと対応して、試料A1~A7ほどは、架橋体において高い融点が得られていないと解釈できる。耐摩耗性も、特に高い水準までには達していない。
試料A14では、(A)シラングラフトポリオレフィン(シラングラフトポリオレフィンPE12)として、1種のポリオレフィンのみ(PE1)をベースポリオレフィンとするもの用いている。表2に示されるように、このシラングラフトポリオレフィンPE12が、高い融点と、比較的低い曲げ弾性率を有していることに対応して、試料A14も、ある程度低い曲げ弾性率、およびある程度高い柔軟性を示すものとなっているが、2種のベースポリオレフィン(a-1),(a-2)を混合して(A)シラングラフトポリオレフィンを構成している試料A1~A7には、いずれも及んでいない。
試料A12,A13では、(B)未変性ポリオレフィンとして、密度0.950g/cm以下、曲げ弾性率200MPa以下の少なくとも一方の特性を有さないもの(未変性PE3,PP1)を用いている。このことと対応して、低密度、低曲げ弾性率の未変性ポリオレフィンを用いている試料A1~A7ほどは、低い曲げ弾性率および高い柔軟性が得られていないと解釈できる。
最後に、試料B1,B2でも、試料A14と同様に、(A)シラングラフトポリオレフィン(シラングラフトポリオレフィンPE13,PE14)として、1種のポリオレフィンのみ(PE3,PE6)をベースポリオレフィンとするもの用いている。しかし、試料B1,B2では、それら1種のベースポリオレフィンのみを含むシラングラフトポリオレフィンPE13,PE14が、試料A14で用いられているシラングラフトポリオレフィンPE12とは異なり、高融点を低曲げ弾性率とともに備えるものではない。シラングラフトポリオレフィンPE13,PE14ともに、融点が80℃以下と低くなっている。そのことと対応して、試料B1,B2では、架橋体の融点および絶縁電線の耐融着性が、低くなってしまっている。試料B2ではさらに、シラングラフトポリオレフィンPE14の曲げ弾性率が高いことにより、架橋体の曲げ弾性率の低さおよび絶縁電線の柔軟性にも劣っている。
以上の結果に示されるとおり、試料A1~A14のように、80℃以上の融点と100MPa以下の曲げ弾性率を有する架橋体を与えるシラン架橋性樹脂組成物を用いて、絶縁電線を構成することで、高い耐融着性と柔軟性を備え、耐摩耗性にも優れた絶縁電線とすることができる。また、試料A1~A7および試料A10,A11のように、(A)シラングラフトポリオレフィンを構成するベースポリオレフィンとして、相互に融点の異なる(a-1)第一のポリオレフィンと(a-2)第二のポリオレフィンを混合することで、そのように高い融点と低い曲げ弾性率を備える架橋体を形成し、高い耐融着性および柔軟性を有する絶縁電線を、効率的に得ることができる。試料A1~A7のように、(a-1)/(a-2)の質量比を、30/70から70/30の範囲内とすると、さらに好ましい。試料A1と試料A12,A13との比較から、(B)未変性ポリオレフィンとしては、密度0.950g/cm以下、曲げ弾性率200MPa以下のものを用いることが好ましい。
以上、本開示の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
1 絶縁電線
2 導体
3 電線被覆材

Claims (14)

  1. 樹脂成分として、
    (A)ポリオレフィンに対してシランカップリング剤がグラフトされたシラングラフトポリオレフィン、
    (B)未変性ポリオレフィン、
    (C)カルボキシル基、エステル基、酸無水物基、アミノ基、エポキシ基から選択される1種または2種以上の官能基を有する変性ポリオレフィン、を含有し、
    さらに、
    (D)難燃剤と、
    (E)架橋触媒と、を含有し、
    シラン架橋させた架橋体が、80℃以上の融点と、100MPa以下の曲げ弾性率を有する、難燃性樹脂組成物。
  2. 前記(A)シラングラフトポリオレフィンを構成するポリオレフィンが、
    (a-1)第一のポリオレフィンと、
    (a-2)第二のポリオレフィンと、を含み、
    前記(a-1)第一のポリオレフィンの方が、前記(a-2)第二のポリオレフィンよりも、高い融点を有する、請求項1に記載の難燃性樹脂組成物。
  3. 前記(a-1)第一のポリオレフィンが、密度0.870g/cm以下、融点110℃以上、曲げ弾性率11MPa以下であり、
    前記(a-2)第二のポリオレフィンが、密度0.870g/cm以下、融点60℃以下、曲げ弾性率11MPa以下であり、
    前記(a-1)第一のポリオレフィンと前記(a-2)第二のポリオレフィンの混合比が、(a-1)/(a-2)の質量比で、30/70以上、70/30以下の範囲にある、請求項2に記載の難燃性樹脂組成物。
  4. 樹脂成分として、
    (A)ポリオレフィンに対してシランカップリング剤がグラフトされたシラングラフトポリオレフィン、
    (B)未変性ポリオレフィン、
    (C)カルボキシル基、エステル基、酸無水物基、アミノ基、エポキシ基から選択される1種または2種以上の官能基を有する変性ポリオレフィン、を含有し、
    さらに、
    (D)難燃剤と、
    (E)架橋触媒と、を含有し、
    前記(A)シラングラフトポリオレフィンを構成するポリオレフィンが、
    (a-1)密度0.870g/cm以下、融点110℃以上、曲げ弾性率11MPa以下である、第一のポリオレフィンと、
    (a-2)密度0.870g/cm以下、融点60℃以下、曲げ弾性率11MPa以下である、第二のポリオレフィンと、を含有し、
    前記(a-1)第一のポリオレフィンと前記(a-2)第二のポリオレフィンの混合比が、(a-1)/(a-2)の質量比で、30/70以上、70/30以下の範囲にある、難燃性樹脂組成物。
  5. 前記(B)未変性ポリオレフィンが、密度0.950g/cm以下、曲げ弾性率200MPa以下である、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の難燃性樹脂組成物。
  6. 前記樹脂成分として、
    前記(A)シラングラフトポリオレフィンを10質量部以上、70質量部以下、
    前記(B)未変性ポリオレフィンを20質量部以上、60質量部以下、
    前記(C)変性ポリオレフィンを1質量部以上、30質量部以下含有する、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の難燃性樹脂組成物。
  7. 前記(D)難燃剤として、水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウムより選択される少なくとも1種を、前記樹脂成分100質量部に対して、合計で30質量部以上、150質量部以下含有する、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の難燃性樹脂組成物。
  8. 前記水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウムの平均粒子径が、0.5μm以上、5.0μm以下である、請求項7に記載の難燃性樹脂組成物。
  9. 前記(E)架橋触媒の含有量は、前記樹脂成分100質量部に対して、0.1質量部以上、1質量部以下である、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
  10. さらに、
    (F)ヒンダードフェノール系酸化防止剤、
    (G)金属酸化物、
    (H)硫黄系酸化防止剤、
    (I)滑剤、
    の少なくとも1種を含有する、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の難燃性樹脂組成物。
  11. 前記(H)硫黄系酸化防止剤が、少なくとも1種のイミダゾール系化合物を含む、請求項10に記載の難燃性樹脂組成物。
  12. 前記成分(F)~(I)の含有量は、前記樹脂成分100質量部に対して、それぞれ、下記のとおりとされる、請求項10または請求項11に記載の難燃性樹脂組成物。
    前記(F)ヒンダードフェノール系酸化防止剤について、0.5質量部以上、20質量部以下、
    前記(G)金属酸化物について、0.5質量部以上、15質量部以下、
    前記(H)硫黄系酸化防止剤について、0.5質量部以上、20質量部以下、
    前記(I)滑剤について、0.1質量部以上、5質量部以下。
  13. 導体と、
    請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の難燃性樹脂組成物の架橋体より構成され、前記導体の外周を被覆する電線被覆材と、を有する絶縁電線。
  14. 請求項13に記載の絶縁電線を有する、ワイヤーハーネス。
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