JP2022035726A - シート状細胞構造物、シート状細胞構造物の加工方法、及び、シート状細胞構造物の製造方法 - Google Patents

シート状細胞構造物、シート状細胞構造物の加工方法、及び、シート状細胞構造物の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】移植に適した、異種由来成分不存在条件で作製することができる小腸の腸管壁に類似した細胞層構造を有するシート状細胞構造物、シート状細胞構造物の加工方法、及び、シート状細胞構造物の製造方法の提供。【解決手段】内胚葉系細胞、外胚葉系細胞、及び中胚葉系細胞を含む、面積が20mm2以上のシート状細胞構造物10であって、第1の表面11の側に内胚葉系細胞を含み、第2の表面12の側に外胚葉系細胞及び/又は中胚葉系細胞を含む、シート状細胞構造物。内胚葉系細胞、外胚葉系細胞、及び中胚葉系細胞を含む、面積が20mm2以上のシート状細胞構造物の製造方法であって、内腔を内包し、長軸方向の長さが5mm以上である、内胚葉系細胞、外胚葉系細胞、及び中胚葉系細胞を含む袋状細胞構造物20から、前記シート状細胞構造物を切り出すことを含む方法。【選択図】図1

Description

本明細書では、シート状細胞構造物、シート状細胞構造物の加工方法、及び、シート状細胞構造物の製造方法を開示する。
細胞工学によって立体的かつ多種の細胞から成る機能的な組織を形成することが可能となっている。人工的に作製される組織の代表的なものとして細胞シートが挙げられ、これは再生医療の分野で活発に使用され、治癒の促進や組織の代替物として患者に移植されている。また胚性幹細胞(ES細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)等の多能性幹細胞を用いることで、自己組織的に臓器や組織の類似構造物(オルガノイド)を形成することが可能となっている。
特許文献1には、胚性幹細胞或いは人工多能性幹細胞から腸と同等の機能を有する腸オルガノイドを作製する方法が記載されている。
特許文献2には、血管が張り巡らされている中空器官を作製する方法であって、a)ヒト腸オルガノイド(HIO)を免疫不全の生物に移植する工程を有し、前記HIOはヒト胚幹細胞(ESC)及び/または人工多能性幹細胞(iPSC)から得られ、前記移植する工程の間に前記HIOが成熟腸組織を形成する、方法が記載されている。この方法は、免疫不全生物の生体内での成熟を要する。
特許文献3には、(a)未分化胚性幹細胞を回収し、回収された該未分化胚性幹細胞をBDNFを含む培地中でハンギングドロップ培養し、胚様体を誘導する工程、(b)工程(a)で誘導された胚様体を培養ディッシュ上に付着させ、さらに培養する工程、を含んでなる、壁内神経系を備えた腸管様細胞塊を構築する方法が記載されている。この方法で得られた腸管様細胞塊は、蠕動運動能を有する。この方法で得られる腸管様細胞塊はサイズが小さくμmスケールである。
特許文献4には、組織傷害或いは組織欠損部を修復するための生体適合性組織インプラントが記載されている。この生体適合性組織インプラントは、組織部位に移植するのに好適な形状を有する生体組織スライスを含み、前記組織スライスが有効量の生細胞を含み、前記組織スライスが、前記生細胞が前記組織スライスから遊走して増殖し、前記組織傷害或いは組織欠損部の組織と一体化できるような寸法を有することを特徴とする。特許文献4には、前記生体適合性組織インプラントが、細胞外基質物質(ECM)を有することが記載されている。しかし特許文献4では、前記生体適合性組織インプラントを細胞培養により自己組織的に形成することは記載されていない。
特開2014-236716号公報 特表2017-532964号公報 特開2006-239169号公報 特開2005-169112号公報
従来の細胞シートやオルガノイドはヒト組織や臓器の部分的な模倣を可能にしている一方、ヒト組織や臓器を完全に代替することは多くの局面で困難である。その原因として、現在の技術レベルで作製される組織のサイズに限度があることや、細胞の層構造の形成が不完全であることが挙げられる。特に、小腸の機能を模したオルガノイドには小腸上皮細胞が必要であるが、小腸上皮細胞は近年までその培養すら困難であった。
例えば、特許文献3に記載の蠕動運動能を有する腸管様細胞塊は、サイズが非常に小さく(μmスケール)、移植に適したものではない。
特許文献4に記載の生体適合性組織インプラントは、細胞工学により細胞を配置して形成されるものであり、細胞培養により自己組織的に形成されるものではないため、細胞の層構造は生体内組織での本来の層構造とは異なる。
また、特許文献2に記載の成熟腸組織を有し血管が張り巡らされている中空器官は、非ヒト動物の生体内での成熟を経て作製されるため、ヒトへの移植に適したものではない。
小腸は三胚葉(内胚葉、外胚葉、中胚葉)に由来する細胞を含む複雑な器官である。小腸は、内胚葉に由来する小腸上皮細胞(腸細胞、杯細胞、内分泌細胞、刷子細胞、パネート細胞、M細胞等)、中胚葉に由来するリンパ組織、平滑筋細胞、カハール介在細胞、外胚葉に由来する腸管神経叢等が複雑に組み合わされて、分泌、吸収、蠕動運動等の機能を奏する。従来、小腸のように内胚葉系細胞、外胚葉系細胞、及び中胚葉系細胞を含み、且つ、移植に適したシート状の細胞構造物は提供されていない。
そこで本明細書では、移植に適した、異種由来成分不存在条件で作製することができる小腸の腸管壁に類似した細胞層構造を有するシート状細胞構造物を開示する。
本開示は、以下の発明を包含する。
(1)内胚葉系細胞、外胚葉系細胞、及び中胚葉系細胞を含む、面積が20mm以上のシート状細胞構造物。
(2)第1の表面の側に内胚葉系細胞を含み、
第2の表面の側に外胚葉系細胞及び/又は中胚葉系細胞を含む、(1)に記載のシート状細胞構造物。
(3)前記第1の表面の側に小腸上皮細胞層を含む、(1)又は(2)に記載のシート状細胞構造物。
(4)粘膜下層様の層を更に含む、(3)に記載のシート状細胞構造物。
(5)胚性幹細胞又は人工多能性幹細胞に由来する、(1)~(4)のいずれかに記載のシート状細胞構造物。
(6)リンパ球を含まない、(1)~(5)のいずれかに記載のシート状細胞構造物。
(7)ムチン及び抗菌ペプチド産生能を有する、(1)~(6)のいずれかに記載のシート状細胞構造物。
(8)蠕動運動能を有する、(1)~(7)のいずれかに記載のシート状細胞構造物。
(9)異種由来成分を含まない、(1)~(8)のいずれかに記載のシート状細胞構造物。
(10)前記シート状細胞構造物を平坦面上に静置した状態で、
前記シート状細胞構造物の平坦面と反対側の表面上の、最も低い位置の高さをA、最も高い位置の高さをBとしたとき、A/Bが0.003以上である、(1)~(9)のいずれかに記載のシート状細胞構造物。
(11)前記シート状細胞構造物を平坦面上に静置した状態で、
前記シート状細胞構造物の平坦面と反対側の表面上の、最も低い位置の高さをA、最も高い位置の高さをBとしたとき、A/Bが0.40以下である、(1)~(9)のいずれかに記載のシート状細胞構造物。
(12)(1)~(11)のいずれかに記載のシート状細胞構造物を加工する方法であって、
前記シート状細胞構造物を、鋳型面に接するように配置すること、
前記シート状細胞構造物を前記鋳型面に沿った形状に加工すること、
を含む方法。
(13)前記鋳型面が平坦な面であり、
加工に供される前記シート状細胞構造物が、(10)に記載のシート状細胞構造物である、(12)に記載の方法。
(14)前記鋳型面が歪曲及び/又は凹凸を有する面である、(12)に記載の方法。
(15)内胚葉系細胞、外胚葉系細胞、及び中胚葉系細胞を含む、面積が20mm以上のシート状細胞構造物の製造方法であって、
内腔を内包し、長軸方向の長さが5mm以上である、内胚葉系細胞、外胚葉系細胞、及び中胚葉系細胞を含む袋状細胞構造物から、前記シート状細胞構造物を切り出すことを含む方法。
(16)前記袋状細胞構造物が、外側の表面の側に内胚葉系細胞を含み、内側の表面の側に外胚葉系細胞及び/又は中胚葉系細胞を含む、(15)に記載の方法。
(17)前記袋状細胞構造物が、外側の表面の側に小腸上皮細胞層を含む、(15)又は(16)に記載の方法。
本開示の一以上の実施形態に係るシート状細胞構造物は移植に適している。
本開示の一以上の実施形態に係るシート状細胞構造物は加工が容易である。
本開示の一以上の実施形態に係る方法によれば、移植に適したシート状細胞構造物を製造することができる。
図1は、袋状細胞構造物からのシート状細胞構造物の製造方法を説明するための図である。図1Aは、内腔22を内包する、内胚葉系細胞、外胚葉系細胞、及び中胚葉系細胞を含む袋状細胞構造物20を示す。図1Bは、袋状細胞構造物20の壁部21の一部を切り出して得られるシート状細胞構造物10を示す。 図2は、袋状細胞構造物から切り出して得られたシート状細胞構造物の写真を示す。スケールバーは300μmを示す。 図3は、平坦又は歪曲の小さい形状のシート状細胞構造物10の断面を模式的に示す。 図4は、歪曲の大きいシート状細胞構造物10の断面を模式的に示す。 図5は、歪曲したシート状細胞構造物10を平坦な鋳型面50に沿った形状に加工する方法を説明するための図である。図5Aは、歪曲したシート状細胞構造物10を、平坦な鋳型面50に接するように配置した状態を示す。図5Bは、歪曲したシート状細胞構造物10を平坦な鋳型面50に沿った形状に加工して、平坦なシート状細胞構造物10とした状態を示す。 図6は、平坦なシート状細胞構造物10を歪曲した鋳型面60に沿った形状に加工する方法を説明するための図である。図6Aは、平坦なシート状細胞構造物10を、凸に歪曲した鋳型面60に接するように配置した状態を示す。図6Bは、平坦なシート状細胞構造物10を凸に歪曲した鋳型面60に沿った形状に加工して、歪曲したシート状細胞構造物10とした状態を示す。 図7Aは、蠕動運動を繰り返すシート状細胞構造物の観察動画のなかの視野内最収縮像を示し、図7Bは、視野内膨張様像を示す。 図8は、D-MEM培地中で37℃にて5日間培養したシート状細胞構造物の蛍光顕微鏡による観察像を示す。生存細胞は、Calcein-AM溶液により緑色蛍光に染色され、死細胞は、PI溶液により赤色蛍光に染色されている。 図9Aは、半球状のシート状細胞構造物の厚みの測定結果である。横軸は、測定ピッチ0.03mmでのX軸上の測定点を示し、縦軸は厚み(単位mm)を示す。図9Bは、平坦なシート状細胞構造物の厚みの測定結果である。横軸は、測定ピッチ0.01mmでのX軸上の測定点を示し、縦軸は厚み(単位mm)を示す。
<1.シート状細胞構造物の細胞層の特徴>
本開示に係るシート状細胞構造物は、内胚葉系細胞、外胚葉系細胞、及び中胚葉系細胞を含み、且つ、面積が20mm以上であることを特徴とする。
シート状細胞構造物の面積とは、シート状細胞構造物を平面視したときの見かけ上の面積を指す。前記面積が20mm以上であることで、炎症部、創傷部、病変部、手術後の縫合部等を被覆することができ、移植が容易である。前記面積は好ましくは30mm以上、より好ましくは50mm以上、より好ましくは80mm以上、より好ましくは100mm以上、より好ましくは150mm以上である。前記面積の上限は特に限定されないが、通常は2000mm以下である。
シート状細胞構造物の平面視したときの形状は特に限定されないが、真円、楕円等の円形や、三角形、四角形等の多角形であることができる。
本開示に係るシート状細胞構造物は好ましくは胚性幹細胞、人工多能性幹細胞等の多能性幹細胞に由来する。
ここで胚性幹細胞(ES細胞)は、好ましくは哺乳動物由来のES細胞であり、例えば、マウスなどのげっ歯類又はヒトなどの霊長類由来のES細胞などを使用することができる。特に好ましくは、マウス又はヒト由来のES細胞を使用する。ES細胞は、動物の発生初期段階である胚盤胞期の胚の一部に属する内部細胞塊より作られる幹細胞株を指し、生体外にて、理論上すべての組織に分化する分化多能性を保ちつつ、ほぼ無限に増殖させることができる。ES細胞としては、例えば、その分化の程度の確認を容易とするために、Pdx1遺伝子付近にレポーター遺伝子を導入した細胞を用いることができる。例えば、Pdx1座にLacZ遺伝子を組み込んだ129/Sv由来ES細胞株又はPdx1プロモーター制御下のGFPレポータートランスジーンをもつES細胞SK7株などを使用することができる。あるいは、Hnf3β内胚葉特異的エンハンサー断片制御下のmRFP1レポータートランスジーン及びPdx1プロモーター制御下のGFPレポータートランスジーンを有するES細胞PH3株を使用することもできる。また、国立成育医療研究センターの生殖・細胞医療研究部で樹立し、Akutsu H, et al. Regen Ther. 2015;1:18-29に開示したES細胞株である、SEES1、SEES2、SEES3、SEES4、SEES5、SEES6又はSEES7や、これらのES細胞株に更なる遺伝子を導入した細胞株を使用することもできる。
人工多能性幹細胞(iPS細胞)は、体細胞を初期化することによって得られる多能性を有する細胞である。人工多能性幹細胞の作製は、京都大学の山中伸弥教授らのグループ、マサチューセッツ工科大学のルドルフ・ヤニッシュ(Rudolf Jaenisch)らのグループ、ウイスコンシン大学のジェームス・トムソン(James Thomson)らのグループ、ハーバード大学のコンラッド・ホッケドリンガー(Konrad Hochedlinger)らのグループなどを含む複数のグループが成功している。例えば、国際公開WO2007/069666号公報には、Octファミリー遺伝子、Klfファミリー遺伝子及びMycファミリー遺伝子の遺伝子産物を含む体細胞の核初期化因子、並びにOctファミリー遺伝子、Klfファミリー遺伝子、Soxファミリー遺伝子及びMycファミリー遺伝子の遺伝子産物を含む体細胞の核初期化因子が記載されており、さらに体細胞に上記核初期化因子を接触させる工程を含む、体細胞の核初期化により誘導多能性幹細胞を製造する方法が記載されている。
iPS細胞の作製に用いる体細胞の種類は特に限定されず、任意の体細胞を用いることができる。体細胞とは、生体を構成する細胞の内生殖細胞以外の全ての細胞を包含し、分化した体細胞でもよいし、未分化の幹細胞でもよい。体細胞の由来は、哺乳動物、鳥類、魚類、爬虫類、両生類の何れでもよく特に限定されないが、好ましくは哺乳動物(例えば、マウスなどのげっ歯類、又はヒトなどの霊長類)であり、特に好ましくはマウス又はヒトである。また、ヒトの体細胞を用いる場合、胎児、新生児又は成人の何れの体細胞を用いてもよい。体細胞の具体例としては、例えば、線維芽細胞(例えば、皮膚線維芽細胞)、上皮細胞(例えば、胃上皮細胞、肝上皮細胞、肺胞上皮細胞)、内皮細胞(例えば血管、リンパ管)、神経細胞(例えば、ニューロン、グリア細胞)、すい臓細胞、血球細胞、骨髄細胞、筋肉細胞(例えば、骨格筋細胞、平滑筋細胞、心筋細胞)、肝実質細胞、非肝実質細胞、脂肪細胞、骨芽細胞、歯周組織を構成する細胞(例えば、歯根膜細胞、セメント芽細胞、歯肉線維芽細胞、骨芽細胞)、腎臓・眼・耳を構成する細胞などが挙げられる。
iPS細胞は、所定の培養条件下(例えば、ES細胞を培養する条件下)において長期にわたって自己複製能を有し、また所定の分化誘導条件下において外胚葉、中胚葉及び内胚葉への多分化能を有する幹細胞のことを言う。また、iPS細胞はマウスなどの試験動物に移植した場合にテラトーマを形成する能力を有する幹細胞でもよい。
体細胞からiPS細胞を製造するためには、まず、少なくとも1種類以上の初期化遺伝子を体細胞に導入する。初期化遺伝子とは、体細胞を初期化してiPS細胞とする作用を有する初期化因子をコードする遺伝子である。初期化遺伝子の組み合わせの具体例としては、以下の組み合わせを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
(i)Oct遺伝子、Klf遺伝子、Sox遺伝子、Myc遺伝子
(ii)Oct遺伝子、Sox遺伝子、NANOG遺伝子、LIN28遺伝子
(iii)Oct遺伝子、Klf遺伝子、Sox遺伝子、Myc遺伝子、hTERT遺伝子、SV40 largeT遺伝子(iv)Oct遺伝子、Klf遺伝子、Sox遺伝子
続いて、本開示に係るシート状細胞構造物における細胞の特徴について説明する。
内胚葉は消化管のほか肺、甲状腺、膵臓、肝臓などの器官の組織、消化管に開口する分泌腺の細胞、腹膜、胸膜、喉頭、耳管、気管、気管支、尿路(膀胱、尿道の大部分、尿管の一部)などを形成する。多能性幹細胞から内胚葉系細胞への分化は、内胚葉に特異的な遺伝子の発現量を測定することにより確認することができる。内胚葉に特異的な遺伝子としては、例えば、AFP、SERPINA1、SST、ISL1、IPF1、IAPP、EOMES、HGF、ALBUMIN、PAX4、TAT等を挙げることができる。
本開示のシート状細胞構造物に含まれ得る内胚葉系細胞としては特に小腸上皮細胞が挙げられる。本開示のシート状細胞構造物には、小腸上皮細胞として、腸細胞、杯細胞、腸管内分泌細胞及びパネート細胞から選択される1以上を含むことが好ましく、小腸上皮細胞として、腸細胞、杯細胞、腸管内分泌細胞及びパネート細胞を全て含むことが特に好ましい。本開示のシート状細胞構造物に内胚葉系細胞が存在することは内胚葉系細胞のマーカーの発現が陽性であることに基づき判断できる。腸細胞マーカーとしてはCDX2、杯細胞マーカーとしてはMUC2、腸管内分泌細胞マーカーとしてはCGA、パネート細胞マーカーとしてはDEFA6が挙げられる。そのほか、ECAD、Na+/K+-ATPase、ビリンが腸上皮細胞のマーカーである。また、胚体内胚葉マーカーFOXA2、SOX17又はCXCR4も内胚葉系細胞を判別するためのマーカーとして利用できる。また、初期内胚葉及び中胚葉のマーカーであるGATA4、GATA6又はT(Brachyury)も、内胚葉系細胞を判別するためのマーカーとして利用できる。
外胚葉は皮膚の表皮や男性の尿道末端部の上皮、毛髪、爪、皮膚腺(乳腺、汗腺を含む)、感覚器(口腔、咽頭、鼻、直腸の末端部の上皮を含む、唾液腺)水晶体などを形成する。外胚葉の一部は発生過程で溝状に陥入して神経管を形成し、脳や脊髄などの中枢神経系のニューロンやメラノサイトなどの元にもなる。また末梢神経系も形成する。多能性幹細胞から外胚葉系細胞への分化は、外胚葉に特異的な遺伝子の発現量を測定することにより確認することができる。外胚葉に特異的な遺伝子としては、例えば、β-TUBLIN、NESTIN、GALANIN、GCM1、GFAP、NEUROD1、OLIG2、SYNAPTPHYSIN、DESMIN、TH等を挙げることができる。
本開示のシート状細胞構造物に含まれ得る外胚葉系細胞としては特に腸管神経叢を構成する細胞が挙げられる。本開示のシート状細胞構造物に外胚葉系細胞が存在することは外胚葉系細胞のマーカーの発現が陽性であることに基づき判断できる。外胚葉系細胞を判別するためのマーカーとしては腸管神経叢マーカーPGP9.5や、神経前駆細胞マーカーSOX1が利用できる。
中胚葉は体腔及びそれを裏打ちする中皮、筋肉、骨格、皮膚真皮、結合組織、心臓、血管(血管内皮も含む)、血液(血液細胞も含む)、リンパ管、脾臓、腎臓、尿管、性腺(精巣、子宮、性腺上皮)を形成する。多能性幹細胞から中胚葉系細胞への分化は、中胚葉に特異的な遺伝子の発現量を測定することにより確認することができる。中胚葉に特異的な遺伝子としては、例えば、FLK-1、COL2A1、FLT1、HBZ、MYF5、MYOD1、RUNX2、PECAM1等を挙げることができる。
本開示のシート状細胞構造物に含まれ得る中胚葉系細胞としては特に平滑筋細胞、カハール介在細胞が挙げられる。本開示のシート状細胞構造物に中胚葉系細胞が存在することは、中胚葉系細胞マーカーの発現が陽性であることに基づき判断できる。中胚葉系細胞マーカーとしては、平滑筋細胞マーカーのα-平滑筋アクチン(SMA)、カハール介在細胞マーカーのCD34及びCKIT(二重陽性の場合)が利用できる。また、初期内胚葉及び中胚葉のマーカーであるGATA4、GATA6又はT(Brachyury)も、中胚葉系細胞を判別するためのマーカーとして利用できる。
本開示のシート状細胞構造物は、更に好ましくは腸幹細胞を更に含む。腸幹細胞の存在は、腸幹細胞マーカーLGR5が陽性であることを指標として判断できる。
本開示のシート状細胞構造物は更に、セロトニン陽性の腸管内分泌細胞を含むことが好ましい。
本開示のシート状細胞構造物は更にトランスポーター陽性細胞を含むことが好ましい。トランスポーターとしては、腸オリゴペプチドトランスポーター(PEPT1)、ATP結合カセット(ABC)トランスポーターであるABCB1及びABCG2等が例示できる。
本開示のシート状細胞構造物は更に嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子(CFTR)陽性の小腸上皮細胞を含むことが好ましい。CFTR陽性の小腸上皮細胞は粘液の分泌に関与している。すなわち、CFTR陽性の小腸上皮細胞を有するシート状細胞構造物は、小腸と類似した粘液分泌能(分泌制御)を示す細胞である。CFTR陽性の小腸上皮細胞は、ムチン及び抗菌ペプチド産生能を有する。
本開示のシート状細胞構造物は、リンパ球を含まないことが好ましい。
本開示のシート状細胞構造物は更にヒスタミンH1受容体陽性細胞を含むことが好ましい。
本開示のシート状細胞構造物は、好ましくは、第1の表面の側に内胚葉系細胞を含み、第2の表面の側に外胚葉系細胞及び/又は中胚葉系細胞を含む。この実施形態に係るシート状細胞構造物は、前記第1の表面の側に、内胚葉系細胞として特に小腸上皮細胞を含む。この実施形態によれば、前記第1の表面の側にある物質を、小腸上皮細胞を介して、前記第2の表面の側に輸送することができるため好ましい。また、この実施形態において、前記第1の表面上の小腸上皮細胞が更にトランスポーター陽性であるとき、トランスポーターを介した物質の輸送が可能となるため更に好ましい。すなわち、トランスポーター陽性の小腸上皮細胞を含む本開示のシート状細胞構造物は、腸と類似した物質吸収能を有する。
本開示のシート状細胞構造物は、より好ましくは小腸上皮細胞を含む表面上に、微絨毛及び陰窩が形成されている。
本開示のシート状細胞構造物は、より好ましくは、粘膜と粘膜下層様の層とを含む。小腸の粘膜は上皮と基底膜により形成される。小腸の上皮は、吸収腸細胞及び分泌系細胞の2種の細胞からなり、これらの細胞は、粘液を産生する杯細胞、腸管内分泌細胞、及びパネート細胞を含む。粘膜下層様の層は粘膜に接続された結合組織の層であり、CKITまたはS-100またはその両方に陽性であるカハール(Cajal)介在細胞を含む。粘膜下層様の層ではCajal介在細胞から成る神経叢(submucosal plexuses)が形成され腸管様の機能的な蠕動運動が生じる。
本開示のシート状細胞構造物の上記の実施形態において、前記第2の表面の側に存在する外胚葉系細胞及び/又は中胚葉系細胞は、好ましくは、粘膜下層のリンパ管内皮(中胚葉)及び粘膜を構成する平滑筋(中胚葉)を形成している。
本開示のシート状細胞構造物は、好ましくは、蠕動運動に類似した収縮運動をする能力を有する。このような機能は、神経ネットワークと平滑筋の発達により生じるものである。蠕動運動は、ペースメーカー細胞であるカハール細胞が、神経細胞やホルモンよりシグナルを受けた後に平滑筋の筋肉細胞へと刺激を与えることで生じると考えられる。以下の説明では、蠕動運動に類似した収縮運動をする能力を「蠕動運動能」と称する。蠕動運動能を有する本開示のシート状細胞構造物は、特に好ましくは、ヒスタミン処理により収縮の頻度が高まり、アトロピン処理により収縮の頻度が低下するという、腸と同様の薬剤応答性を示す。腸と同様の薬剤応答性を示す蠕動運動能を有する本開示のシート状細胞構造物は、薬剤が、腸の蠕動運動に与える影響を評価する用途に好適に用いることができる。
<2.製造方法>
本開示のシート状細胞構造物は、内腔を内包し、長軸方向の長さが5mm以上である、内胚葉系細胞、外胚葉系細胞、及び中胚葉系細胞を含む袋状細胞構造物から切り出して製造することができる。
前記袋状細胞構造物は、特開2019-000014号公報及びUchida et al., JCI Insight 第2巻 e86492 2017年に記載された、絨毛層を含む小腸上皮細胞層が外向きに配置された袋状構造を有する腸オルガノイドに該当する。これらの文献によれば、前記袋状細胞構造物は、自己組織的に形成されて本来の小腸の腸管壁に近い細胞層構造を有し、サイズが数cmスケールと大きく、且つ、異種由来成分不存在条件で作製することができる。しかしながら、袋状構造を有しているため移植に適していない。また、袋状構造の内腔に内腔液が満たされているため、内腔液と培養液の浸透圧の差により張力が発生し、好ましくない構造に変化する。
本開示のシート状細胞構造物は、袋状細胞構造物の上記の課題を解決することができる。
<2.1.袋状細胞構造物の特徴>
前記袋状細胞構造物において、内胚葉系細胞、外胚葉系細胞、及び中胚葉系細胞の好ましい実施形態及び用いることができるマーカーは、本開示のシート状細胞構造物に関して記載の通りである。
前記袋状細胞構造物は、好ましくは、外側の表面の側に内胚葉系細胞を含み、内腔の側(内側)に外胚葉系細胞及び/又は中胚葉系細胞を含む。この実施形態に係る袋状細胞構造物は、外側の表面の側に、内胚葉系細胞として特に小腸上皮細胞を含む。この実施形態によれば、前記外側の表面の側にある物質を、小腸上皮細胞を介して、内腔に吸収することができるため好ましい。また、この実施形態において、外側の表面の側の小腸上皮細胞が更にトランスポーター陽性であるとき、トランスポーターを介した物質の吸収が可能となるため更に好ましい。
前記袋状細胞構造物は、より好ましくは小腸上皮細胞を含む外側の表面上に、微絨毛、陰窩の発達が認められる。
前記袋状細胞構造物は、より好ましくは、粘膜と粘膜下層様の層とを含む小腸の腸管壁と類似した層構造を有する。粘膜及び粘膜下層様の層の特徴は、本開示のシート状細胞構造物に関して記載の通りである。
前記袋状細胞構造物は、好ましくは、蠕動運動に類似した収縮運動をする能力を有する。
<2.2.袋状細胞構造物の製造方法>
前記袋状細胞構造物の製造方法としては、具体的には、
表面上に細胞接着部のパターンを備える細胞培養基材上に多能性幹細胞を播種する工程21と、
前記多能性幹細胞を培養して、内腔を内包し、長軸方向の長さが5mm以上である、内胚葉系細胞、外胚葉系細胞、及び中胚葉系細胞を含む袋状細胞構造物へと分化誘導させる工程22と、
を含む方法が挙げられる。
<2.2.1.細胞培養基材>
前記細胞培養基材は、表面上に細胞接着部のパターンを備える。
前記細胞接着部の形状は特に限定されないが、例えば、細胞非接着部を内包し、その細胞非接着部の周縁に沿って連続的に又は断続的に延在し、前記細胞非接着部を囲う細胞接着部であることができる。
細胞接着部の形状の別の例としては、細胞非接着部を内包していない四角形をはじめとする多角形、円形、楕円形等であることができ、円形が好ましい。
以下の説明では、細胞接着部を含む、細胞構造物が接着培養される領域を「細胞培養部」と称する。
前記細胞培養部は、細胞培養基材の表面上に1以上含まれ、好ましくは2以上含まれる。1つの細胞培養基材に含まれる2以上の前記細胞培養部の形状、寸法は同一であってもよいし、異なっていてもよい。
細胞接着部は、典型的には、細胞非接着部の領域のなかに島状に配置されている。
前記細胞培養部が細胞非接着部を内包する場合、前記細胞接着部に含まれる前記細胞非接着部は、前記細胞培養部以外の部分に存在する細胞非接着部(後述する第1の細胞非接着部)と区別するために、「第2の細胞非接着部」或いは「中央部」と称する場合がある。
以下の説明では、本開示で用いる細胞培養基材のうち前記細胞接着部及び細胞非接着部以外の部分を指して「支持基材」と称する場合がある。すなわち、本開示の一以上の実施形態で用いる細胞培養基材は、前記一以上の細胞接着部のパターンを含む表面を有する支持基材を含む、ということができる。
<2.2.1.1.細胞培養基材の支持基材、細胞非接着部及び細胞接着部>
支持基材の特徴、並びに、細胞非接着部と細胞接着部の形状以外の特徴について以下に説明する。
細胞培養基材に用いられる支持基材としては、その表面に、細胞非接着部と細胞接着部を形成することが可能な材料で形成された支持基材であれば特に限定されるものではない。具体的には、ガラス、金属、セラミック、シリコン等の無機材料、エラストマー、プラスチック(例えば、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ABS樹脂、ナイロン、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、メチルペンテン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂)で代表される有機材料を含む支持基材を挙げることができる。特に、ガラス基材を支持基材として用いることが好ましい。支持基材の形状も限定されず、例えば、平板、平膜、フィルム、多孔質膜等の平坦な形状や、シリンダ、スタンプ、マルチウェルプレート、マイクロ流路等の立体的な形状が挙げられる。
本開示において「細胞接着性」とは、細胞を接着する強度、すなわち細胞の接着しやすさを意味する。「細胞接着部」とは細胞接着性が良好な表面上の領域を意味し、「細胞非接着部」とは、細胞の接着性が悪い表面上の領域を意味する。従って、細胞接着部と細胞非接着部とが所定のパターンで配置された表面上に細胞を播種すると、細胞接着部には細胞が接着するが、細胞非接着部には細胞が接着しないため、細胞培養基材の表面に細胞がパターン状に配列されることになる。
「細胞接着部」は、実際に培養する細胞、好ましくは幹細胞、を細胞培養基材に播種した際に接着する部分と定義され、「細胞非接着部」は、実際に培養する細胞、好ましくは幹細胞、を播種した際に接着しない部分と定義される。細胞培養基材に細胞を播種する際に、細胞培養基材の表面は、タンパク質等でコーティングされ、細胞接着性が高められた状態であってもよい。「幹細胞」の具体例は本明細書に記載の通りである。細胞非接着部は、細胞接着部に接着し増殖した細胞により被覆されてもよい。
細胞接着部であるか細胞非接着部であるかを判断する指標として、実際に細胞培養した際の細胞接着伸展率を用いることができる。細胞接着性を有する細胞接着部の表面は、細胞接着伸展率が60%以上の表面であることが好ましく、細胞接着伸展率が80%以上の表面であることが更に好ましい。細胞接着伸展率が高いと、効率的に細胞を培養することができる。本開示における細胞接着伸展率は、播種密度が4000 cells/cm以上30000 cells/cm未満の範囲内で培養しようとする細胞を測定対象表面に播種し、37℃、CO濃度5%のインキュベータ内に保管し、14.5時間培養した時点で接着伸展している細胞の割合({(接着している細胞数)/(播種した細胞数)}×100(%))と定義する。
上記測定において、細胞の播種は、10%FBS入りDMEM培地に懸濁させて測定対象表面上に播種し、その後、細胞ができるだけ均一に分布するよう、細胞が播種された測定対象表面をゆっくりと振とうすることにより行うものである。さらに、細胞接着伸展率の測定は、測定直前に培地交換を行って接着していない細胞を除去した後に行う。細胞接着伸展率の測定では、細胞の存在密度が特異的になりやすい箇所(例えば、存在密度が高くなりやすい所定領域の中央、存在密度が低くなりやすい所定領域の周縁)を除いた箇所を測定箇所とする。
細胞接着部は、支持基材の表面に細胞接着層が形成された領域であってもよいし、支持基材の表面が細胞接着性である場合(例えばガラス基材の表面)は、支持基材の表面が露出した領域であってもよいが、好ましくは、支持基材の細胞接着性の表面が露出した領域である。細胞非接着部は、支持基材の表面に細胞非接着層が形成された領域であることができる。細胞接着部および細胞非接着部は、種々の材料や方法により形成可能である。好ましくは、細胞非接着部は、支持基材の表面が、親水性ポリマー等の親水性有機化合物を含む層等の細胞非接着層により被覆された部分である。細胞非接着部を構成する細胞非接着層の平均厚さは、0.8nm~500μmが好ましく、0.8nm~100μmがより好ましく、1nm~10μmがより好ましく、1.5nm~1μmが最も好ましい。平均厚さが0.8nm以上であれば、タンパク質の吸着や細胞の接着において、支持基材の細胞非接着層で覆われていない領域の影響を受けにくいため好ましい。また、平均厚さが500μm以下であればコーティングが比較的容易である。特に、細胞非接着層を、ポリエチレングリコールの層により形成する場合、その膜厚の一例として5nm~10nmが例示できる。親水性有機化合物の具体例は、後述する通りである。
細胞接着部および細胞非接着部の形成方法の特に好ましい形態として、以下の2つの形態が挙げられる。
第1の形態では、支持基材の表面に細胞非接着層を形成し、次いで、細胞非接着層の一部に所定の処理を施し、細胞接着性を発現させて細胞接着部とする形態である。具体的には、支持基材の表面に、親水性ポリマー等の親水性有機化合物を含む細胞非接着性の親水性膜を細胞非接着層として形成し、次いで、細胞非接着層である前記親水性膜の一部を選択的に、酸化処理及び/又は分解処理を施して、前記一部を、細胞接着性を有する細胞接着部に改質する例が挙げられる。この形態では細胞非接着性の親水性膜を形成し、次いで、細胞の接着が望まれる部位に対して、酸化処理及び/又は分解処理を施すことにより、当該部位を、細胞接着性を有する部位に転換して細胞接着部とする。第1の形態により形成された細胞培養基材では、細胞非接着部が、支持基材の表面が、親水性ポリマー等の親水性有機化合物を含む層により被覆された部分であり、細胞接着部が、親水性ポリマー等の親水性有機化合物を含む層が酸化処理及び/又は分解処理により除去されて支持基材の表面が露出した部分、或いは、親水性ポリマー等の親水性有機化合物を含む層が酸化処理及び/又は分解処理を受けて細胞接着性に改質された層(=細胞接着層)により被覆された部分である。
第2の形態は、支持基材の表面上での有機化合物の密度の高低によって細胞接着部および細胞非接着部とする形態である。第2の形態により形成された細胞培養基材では、細胞接着部が、親水性ポリマー等の親水性有機化合物の密度が低い(親水性有機化合物を含まない場合も包含する)表面であり、細胞非接着部が、親水性ポリマー等の親水性有機化合物の密度が高い表面である形態である。第2の形態は、親水性ポリマー等の親水性有機化合物を高密度で含む支持基材の表面が細胞非接着性を有するのに対して、前記化合物の密度が低い支持基材の表面が細胞接着性を有することを利用したものである。支持基材表面に前記化合物が結合しやすい第1領域と結合しにくい第2領域とを設け、該基材表面に前記化合物の膜を形成すると、第1領域は細胞非接着部となり、第2領域は細胞接着領域となる。或いは、支持基材表面の一部をフォトレジスト等で選択的にマスキングし、マスキングされていない領域に前記親水性有機化合物の膜を形成して細胞非接着部を形成し、その後マスキングを除去して支持基材の表面を露出させることで細胞接着部を形成することができる。
また、上記の形態に限らず、細胞非接着性の表面(細胞非接着性層の表面であってよい)を有する支持基材を用意し、前記表面の一部をコラーゲンやフィブロネクチンなどの細胞接着性タンパク質をパターニングして被覆し、細胞接着性のパターンを形成してもよい。或いは、細胞接着性の表面(細胞接着性層の表面であってもよい)を有する支持基材を用意し、前記表面の一部をシリコーンゴム(例えば三菱ケミカル製 珪樹(登録商標))等の細胞非接着性の樹脂により被覆し、残部を細胞接着性のパターンとしてもよい。或いは、表面に所定のパターンの導電性層が設けられた支持基材を用意し、該支持基材の表面に細胞非接着性層を積層し、前記導電性層への電圧印加により、前記導電性層上を被覆する前記細胞非接着性層を剥離させて、露出した前記導電性層を細胞接着部としてもよい(具体的には特開2012-120443号公報、特開2013-179910号公報参照)。
以下では、支持基材表面上に細胞接着部と細胞非接着部を形成して、細胞接着部と細胞非接着部とを含む表面を有する細胞培養基材を製造する上記の第1の形態及び第2の形態について、順に説明する。
まず、第1の形態について説明する。
第1の形態では、まず、支持基材表面に、細胞非接着層として、親水性有機化合物、好ましくは親水性ポリマー、を含む親水性膜を設ける。当該親水性膜は、水溶性や水膨潤性を有する薄膜であり、酸化及び/又は分解される前は細胞非接着性を有し、酸化及び/又は分解された後の支持基材の露出した表面、或いは、酸化処理及び/又は分解処理を受けて改質された薄膜の表面が細胞接着性を呈するものであれば特に限定されない。
細胞非接着層が、親水性有機化合物により形成される親水性膜である場合、支持基材の表面と親水性膜との間には、必要に応じて結合層を設けることが好ましい。結合層は、親水性膜の前記有機化合物が有する官能基と結合可能な官能基(結合性官能基)を有する材料を含む層であることが好ましい。結合層の材料が有する結合性官能基と、親水性有機化合物が有する官能基との組み合わせとしては、エポキシ基と水酸基、フタル酸無水物と水酸基、カルボキシル基とN-ハイドロキシスクシイミド、カルボキシル基とカルボジイミド、アミノ基とグルタルアルデヒド等が挙げられる。それぞれの組み合わせにおいて、いずれが結合層側の官能基であってもよい。これらの方法においては、親水性有機化合物によるコーティングを行う前に、支持基材上に、所定の官能基を有する材料により結合層を形成する。細胞非接着層における、親水性有機化合物の薄膜を形成する前の結合層の表面の水接触角は、結合性官能基を有する材料としてエポキシ基を末端に有するシランカップリング剤を使用する場合を例にとると、典型的には45°以上、望ましくは47°以上である。このような結合層は、結合性官能基を有する材料の被膜を支持基材の表面に形成することにより得られる。
親水性有機化合物としては、親水性ポリマー(親水性オリゴマーを包含する)、水溶性有機化合物、界面活性物質、両親媒性物質等が挙げられ、親水性ポリマーが特に好ましい。
具体的な親水性ポリマーとしては、ポリアルキレングリコール、リン脂質極性基を有する両性イオンポリマー、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリビニルアルコール、多糖類等を挙げることができる。親水性ポリマーのこれらの具体例は、その誘導体の形態のものも包含する。親水性ポリマーの分子形状は、直鎖状、分岐を有するもの、デンドリマー等を挙げることができる。
ポリアルキレングリコールとしては具体的には、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールの共重合体、例えば、Pluronic F108、Pluronic F127等が好ましい。
リン脂質極性基を有する両性イオンポリマーとしては具体的には、ポリ(メタクリロイルオキシエチルフォスフォリルコリン)(=MPCポリマー)、メタクリロイルオキシエチルフォスフォリルコリンとアクリルモノマーの共重合体等が好ましい。
ポリアクリルアミドとしては具体的にはポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)が例示できる。
ポリメタクリル酸としては具体的にはポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)が例示できる。
多糖類としては具体的にはデキストラン、ヘパリン等が例示できる。
細胞非接着層を備える支持基材の表面は、細胞非接着層により被覆された状態では高い細胞非接着性を有し、細胞非接着層の酸化処理及び/又は分解処理後には、露出した支持基材の表面が、或いは、細胞非接着層が酸化処理及び/又は分解処理により改質されて形成される層の表面が細胞接着性を示すものであることが望ましい。
親水性ポリマーとしては特にポリエチレングリコール(PEG)が好ましい。PEGは、1つ以上のエチレングリコール単位((CH-O)からなるエチレングリコール鎖(EG鎖)を少なくとも含むが、直鎖状でも分岐鎖状でもよい。エチレングリコール鎖は、例えば、次式:
-((CH-O)
(mは重合度を示す整数である)
で表される構造を指す。mは、好ましくは1~13の整数であり、より好ましくは1~10の整数である。
PEGにはエチレングリコールオリゴマーも包含される。また、PEGには、官能基が導入されたものも包含される。官能基としては、例えば、エポキシ基、カルボキシル基、N-ハイドロキシスクシイミド基、カルボジイミド基、アミノ基、グルタルアルデヒド基、(メタ)アクリロイル基等が挙げられる。官能基は、場合によりリンカーを介して、好ましくは末端に導入されたものである。官能基が導入されたPEGとして、例えば、PEG(メタ)アクリレート、PEGジ(メタ)アクリレートが挙げられる。
細胞接着部は、支持基材の表面に形成された親水性有機化合物を含む細胞非接着層に酸化処理及び/又は分解処理を施して、細胞接着性を有する支持基材の表面を露出させる、或いは、細胞非接着層を改質して細胞接着層に転換することで形成することができる。
本開示において「酸化」とは狭義の意味であり、有機化合物が酸素と反応して酸素の含有量が反応以前よりも多くなる反応を意味する。
本開示において「分解」とは有機化合物の結合が切断されて1種の有機化合物から2種以上の有機化合物が生じる変化を指す。「分解処理」としては典型的には、酸化処理による分解、紫外線照射による分解などが挙げられるがこれらには限定されない。「分解処理」が酸化を伴う分解(つまり酸化分解)である場合、「分解処理」と「酸化処理」とは同一の処理を指す。また細胞非接着層を分解して除去することも「分解処理」に含まれる。
紫外線照射による分解とは、有機化合物が紫外線を吸収し、励起状態を経て分解することを指す。なお、有機化合物が、酸素を含む分子種(酸素、水など)とともに存在している系中に紫外線を照射すると、紫外線が化合物に吸収されて分解が起こる以外に、該分子種が活性化して有機化合物と反応する場合がある。後者の反応は「酸化」に分類できる。そして活性化された分子種による酸化により有機化合物が分解する反応は、「紫外線照射による分解」ではなく「酸化による分解」に分類できる。
以上のように「酸化処理」と「分解処理」は操作としては重複する場合があり、両者を明確に区別することはできない。そこで本明細書では「酸化処理及び/又は分解処理」という用語を使用する。
次に、第2の形態について説明する。
第2の形態により形成される細胞培養基材では、支持基材の表面のうち、細胞接着部が、親水性ポリマー等の親水性有機化合物の密度が低い(親水性有機化合物を含まない場合も包含する)表面であり、細胞非接着部が、親水性有機化合物の密度が高い表面である。すなわち、細胞接着部と細胞非接着部とは、親水性有機化合物の密度が相違する。同密度が高いほど細胞は接着しにくくなる傾向がある。細胞接着部では、親水性有機化合物の密度が、細胞が接着できる程度に低い。親水性有機化合物及び親水性ポリマーの好ましい例は第1の形態について既述の通りである。
第2の形態では、細胞接着部及び細胞非接着部を、密度を制御した親水性膜により形成する場合には、支持基材との密着性を高めるために支持基材上に必要に応じて結合層を形成し、次いで親水性有機化合物からなる親水性膜を形成するのが好ましい。結合層は、親水性有機化合物が有する官能基と結合可能な官能基(結合性官能基)を含む材料を含む層であることが好ましい。結合層の材料が有する官能基と、親水性有機化合物が有する官能基との組み合わせとしては、エポキシ基と水酸基、フタル酸無水物と水酸基、カルボキシル基とN-ハイドロキシスクシイミド、カルボキシル基とカルボジイミド、アミノ基とグルタルアルデヒド等が挙げられる。それぞれの組み合わせにおいて、いずれが結合層側の官能基であってもよい。これらの方法においては、親水性材料によるコーティングを行う前に、支持基材上に、所定の官能基を有する材料により結合層を形成する。結合層における前記材料の密度は結合力を規定する重要な因子である。前記密度は、結合層の表面における水の接触角を指標として簡便に評価することができる。なお、水接触角は、協和界面科学社製 CA-Zを用い、マイクロシリンジから純水を滴下して30秒後に測定した値である。
細胞接着部の結合層における、結合性官能基を有する材料の密度は低い。細胞接着部における、親水性有機化合物の薄膜を形成する前の結合層の表面の水接触角は、結合層を構成する結合性官能基を有する材料として、エポキシ基を末端に有するシランカップリング剤を使用する場合を例にとると、典型的には、10°~43°、望ましくは15°~40°である。このような結合層を形成する方法としては、結合性官能基を有する材料の被膜(結合層)を支持基材の表面に形成した後、当該結合層の表面を酸化処理及び/又は分解処理する方法が挙げられる。結合層表面を酸化処理及び/又は分解処理する方法としては、結合層表面を紫外線照射処理する方法、光触媒処理する方法、酸化剤で処理する方法などが挙げられる。結合層表面の全面を酸化処理及び/又は分解処理してもよいし、部分的に処理してもよい。部分的な処理は、フォトマスクやステンシルマスク等のマスクを用いたり、スタンプを用いたりすることにより行うことができる。また、紫外線レーザー等のレーザーを用いた方式等の直描方式で酸化処理及び/又は分解処理を施してもよい。諸条件などについても、親水性膜の酸化処理及び/又は分解処理により細胞接着部を形成する方法の場合と同様の条件を適用できる。こうして形成された結合層上に親水性有機化合物の薄膜を形成することにより、細胞接着部が形成できる。
細胞非接着部の結合層における、結合性官能基を有する材料の密度は高い。細胞非接着部における、親水性有機化合物の薄膜を形成する前の結合層の表面の水接触角は、結合性官能基を有する材料としてエポキシ基を末端に有するシランカップリング剤を使用する場合を例にとると、典型的には45°以上、望ましくは47°以上である。このような結合層は、結合性官能基を有する材料の被膜を支持基材の表面に形成することにより得られる。結合層表面を部分的に酸化処理及び/又は分解処理した場合には、処理を受けない残余の部分が前記水接触角を有する結合層となる。こうして形成された結合層上に親水性有機化合物の薄膜を形成することにより、細胞非接着層が形成できる。
第2の形態ではまた、支持基材表面の一部を選択的に感光性フォトレジスト等によりマスキングし、マスキングされていない領域に前記親水性有機化合物の膜を形成して細胞非接着部を形成し、その後マスキングを除去して支持基材の表面を露出させることで細胞接着部を形成してもよい。
続いて、上記の第1の形態又は第2の形態、或いは他の方法により形成された細胞接着部と細胞非接着部の特徴について更に説明する。
細胞接着部(結合層が存在する場合には結合層も含む)の炭素量は、細胞非接着部(結合層が存在する場合には結合層も含む)の炭素量と比較して低いことが好ましい。具体的には、細胞接着部の炭素量が、細胞非接着部の炭素量に対して20~99%であることが好ましい。この範囲内に該当することは、細胞接着部及び細胞非接着部に含まれる親水性有機化合物層の厚さ(結合層が存在する場合には結合層の厚さと親水性膜の厚さの合計)が10μm以下の場合に特に好適である。「炭素量(atomic concentration、%)」は下記に定義する通りである。
また、細胞接着部(結合層が存在する場合には結合層も含む)における炭素のうちで酸素と結合している炭素の割合(%)の値は、細胞非接着部(結合層が存在する場合には結合層も含む)における炭素のうちで酸素と結合している炭素の割合(%)の値に対して小さい値であることが好ましい。具体的には、細胞接着部における炭素のうちで酸素と結合している炭素の割合(%)の値が、細胞非接着部における炭素のうちで酸素と結合している炭素の割合(%)の値に対して35~99%であることが好ましい。この範囲内に該当することは、親水性膜の厚さ(結合層が存在する場合には結合層の厚さと親水性膜の厚さの合計)が10μm以下の場合に特に好適である。「酸素と結合している炭素の割合(atomic concentration、%)」は下記に定義する通りである。
細胞接着部及び細胞非接着部に含まれる親水性有機化合物層(結合層が存在する場合には結合層も含む)の評価手法としては、接触角測定、エリプソメトリー、原子間力顕微鏡観察、電子顕微鏡観察、オージェ電子分光測定、X線光電子分光測定、各種質量分析法などを用いることができる。これらの手法の中で、最も定量性に優れているのはX線光電子分光測定(XPS/ESCA)である。この測定方法で求められるのは相対的定量値であり、一般的に元素濃度(atomic concentration、%)で算出される。以下、本開示におけるX線光電子分光分析方法を詳細に説明する。
細胞接着部及び細胞非接着部の「炭素量」は、「X線光電子分光装置を用いて得られるC1sピークの解析値から求められる炭素量」と定義される。また、本開示において細胞接着部及び細胞非接着部の「酸素と結合している炭素の割合」は、「X線光電子分光装置を用いて得られるC1sピークの解析値から求められる酸素と結合している炭素の割合」と定義される。具体的な測定は、特開2007-312736に記載されるとおりに実施できる。
<2.2.1.2.細胞接着部の形状の好ましい例>
細胞接着部の形状の一例は、上記の通り、細胞非接着部を内包していない四角形を初めとする多角形、円形、楕円形等であり、円形が好ましい。円形の場合の直径は、好ましくは、上記面積の範囲を満たす直径であることができ、具体的には円形の直径は350μm以上が例示でき、好ましくは800μm以上、好ましくは1000μm以上、好ましくは1200μm以上、より好ましくは1500μm以上であり、好ましくは6000μm以下、より好ましくは4000μm以下、さらに好ましくは3000μm以下、さらに好ましくは2000μm以下である。この例では、細胞培養部は、細胞接着部のみからなる。
<2.2.2.工程21>
本開示に係る細胞構造物の製造方法の工程21は、表面上に細胞接着部のパターンを備える細胞培養基材上に多能性幹細胞を播種する工程である。
ここで細胞培養基材及び多能性幹細胞の好ましい実施形態については既述の通りである。
細胞培養基材は、多能性幹細胞の細胞接着部への接着を促進する目的で、プレコート剤によりプレコート処理されていることが好ましい。プレコート剤とは、細胞培養基材に予め適用して、細胞接着部への細胞の接着を促進するための成分である。プレコート剤としては、細胞外マトリックス(コラーゲン、フィブロネクチン、プロテオグリカン、ラミニン、ビトロネクチン)、ゼラチン、リジン、ペプチド、それらを含むゲル状マトリックス、血清等が挙げられる。プレコート処理を実施することにより、接着性の低い多能性幹細胞の細胞接着部への接着を促進でき、細胞の接着培養及び分化誘導を効果的に実施できる。
多能性幹細胞は、播種前に未分化性を維持した条件で培養することができる。このときの培養に用いる培地は、幹細胞を分化誘導させない培地であれば特に限定されないが、例えば、マウス胚性幹細胞及びマウス人工多能性幹細胞の未分化性を維持する性質を有していることが知られているleukemia inhibitory factorを含む培地や、ヒトiPS細胞の未分化性を維持する性質を有していることが知られているbasic FGFを含む培地等が挙げられる。
工程21及び後述する工程22は、多能性幹細胞を増殖させ、分化誘導することができる培地中で行えばよく、培地は特に限定されない。工程21及び後述する工程22で使用する培地の基礎培地として、Knockout DMEM(KDMEM)培地、DMEM培地、EMEM培地、MEM培地、DMEM-F12培地、BME培地、αMEM培地、IMDM培地、ES培地、DM-160培地、Fisher培地、F12培地、WE培地、RPMI1640培地等を用いることができる。培地には、各種増殖因子、血清又は血清代替成分、抗生物質、アミノ酸などを加えてもよい。例えば、0.1~2%のピルビン酸、0.1~2%の非必須アミノ酸、0.1~2%のペニシリン/ストレプトマイシン、0.1~1%のグルタミン、0.1~2%のβメルカプトエタノール、1mM~20mMのROCK阻害剤(例えば、Y27632)を添加してもよい。工程21及び後述する工程22で使用する培地の具体例としては、実施例で記載するXF32培地や、StemFit(味の素社)、StemFlex(Life Technologies社)、ReproFF(リプロセル社)などの市販の培地が例示できる。前記培地は、血清含有培地であってもよいし、血清代替成分を含有した無血清培地であってもよいが、好ましくは血清代替成分を含有した無血清培地である。
前記培地は、好ましくは、異種由来成分を含まない。
細胞培養基材への多能性幹細胞の播種密度は常法に従えばよく特に限定されるものではない。本開示においては、幹細胞を細胞培養基材に対し3×10 cells/cm以上の密度で播種することが好ましく、3×10~5×10 cells/cmの密度で播種することがより好ましく、3×10~2.5×10 cells/cmの密度で播種することがさらに好ましい。
<2.2.3.工程22>
工程22は、工程21で播種された前記多能性幹細胞を前記細胞培養基材上で培養して、内腔を内包し、長軸方向の長さが5mm以上である、内胚葉系細胞、外胚葉系細胞、及び中胚葉系細胞を含む袋状細胞構造物へと分化誘導させる工程である。
工程22で使用できる培地は上記の通りである。
工程22での培養温度は、通常37℃である。CO細胞培養装置などを利用して、5%程度のCO濃度雰囲気下で培養するのが好ましい。
工程22での培養期間は、細胞の初期播種密度や細胞接着部の形状、大きさによって差異が生じるが、2~4週間程度であることが好ましい。前記細胞培養基材上で幹細胞を培養し分化誘導するとき、播種後2~4週間で、分化誘導された、内腔を内包し、長軸方向の長さが5mm以上で、内胚葉系細胞、外胚葉系細胞、及び中胚葉系細胞を含む袋状細胞構造物が自然に浮遊して剥離し、回収することができる。また、袋状細胞構造物を破壊しない温和な酵素処理(例えばAccutaseやTrypLEなど)やEDTA処理、培地等の液体の吹きかけ、スクレーパーによる物理的な剥離等の各種手法を用いて、細胞培養基材からの、袋状細胞構造物の剥離を促進してもよい。
工程22で得られる袋状細胞構造物は、細胞培養基材から剥離したときに、長軸方向の長さが5mm以上、より好ましくは10mm以上である。袋状細胞構造物の長軸の長さの上限は特に限定されないが、通常は50mm以下である。
<2.3.袋状細胞構造物からのシート状細胞構造物の製造方法>
本開示のシート状細胞構造物は、前記袋状細胞構造物から切り出して製造することができる。
一般的に細胞構造物の加工は破壊的であり、機能的な構造の喪失に繋がることが知られている。それはIn vitroで作製される細胞外骨格(ECM)が一般的に非常に脆弱であるためである。加工の結果細胞内骨格が有する張力とECMのバランスが容易に崩れ凝集といった潰れた構造を取る事や、細胞死に伴いプロテアーゼがECMを破壊するといった状況が生じ本来の機能的構造を喪失する。実際に細胞シート工学ではECMを細胞層の間に積層させ機能的な構造を保つといった試みが行われている。
本開示のシート状細胞構造物は、袋構造由来の機能的な多層構造を維持したまま長期間の生存が可能であった。驚くべきことに本開示のシート状細胞構造物はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)でインキュベートする環境下でも少なくとも5日間蠕動運動能を見せ、PBS内で5日間機能的構造を維持していたと考えられる。
この製造方法を、図1を参照して説明する。
図1Aに示す袋状細胞構造物20は、内胚葉系細胞、外胚葉系細胞、及び中胚葉系細胞を含む壁部21が、内腔22を内包するように袋状物を形成したものである。壁部21は、好ましくは、外側の表面11と、内側の表面12とが区別できる層構造を有しており、より好ましくは、外側の表面11の側に内胚葉系細胞を含み、内側の表面12の側に外胚葉系細胞及び/又は中胚葉系細胞を含む。内胚葉系細胞、外胚葉系細胞、及び中胚葉系細胞のより好ましい実施形態は既述の通りである。
袋状細胞構造物20の壁部21の一部を切り出して、図1Bに示すシート状細胞構造物10を製造することができる。シート状細胞構造物10の第1の表面11は、袋状細胞構造物20における外側の表面11であり、第2の表面12が、袋状細胞構造物20における内側の表面11である。
図2に、袋状細胞構造物から切り出して得られたシート状細胞構造物の写真を示す。
驚くべきことに、本明細書の実施例では、袋状細胞構造物20の壁部21の一部を切り出して得られたシート状細胞構造物10が、少なくとも5日間は蠕動運動能を保持することができることが確認された。
シート状細胞構造物は、袋状細胞構造物よりも移植し易い。
また、袋状細胞構造物は、内腔に内腔液が満たされているため、内腔液と培養液の浸透圧の差により張力が発生し、好ましくない構造に変化する場合がある。また、内腔液が周辺の培養液と比較し浸透圧が高い場合、袋状細胞構造物は膨張するため蠕動運動が阻害される場合がある。これに対して、シート状細胞構造物は、周囲の培養液の影響を受けることなく形状が保持され易く、且つ、蠕動運動が阻害され難い。
シート状細胞構造物10を、袋状細胞構造物20から切り出す手段は特に限定されない。
例えば、袋状細胞構造物20の壁部21の一部に、外側の表面11から内側の表面12まで至る切込みを形成し、形成された切込みを必要に応じて広げることで、袋状細胞構造物20の壁部21の一部を周囲から切り離して、シート状細胞構造物10を得ることができる。
袋状細胞構造物20の壁部21における切込みは、袋状細胞構造物20の壁部21を、刃物、ニードル、浸透圧等の機械的な手段で破壊するか、電気、熱、薬品、酵素処理等の手段による、細胞外基質の分解、細胞間結合の分離又は細胞破壊によって破壊することによって形成することができる。
切込みは、ピンセット等の冶具が入る程度の穴であってもよいし、線状の切込みであっても良い。線状の切込みは、好ましくは、シート状細胞構造物10の辺縁部となる切込みである。
切込みを広げる方法は特に限定されない。例えば、袋状細胞構造物20の、切込みが形成された壁部21の、切込みを挟んだ2箇所をそれぞれ適当な冶具で保持し、前記冶具を引き離すことで、切込みを広げることができる。冶具はピンセットが例示できるが特に限定されない。壁部21の2箇所をそれぞれ冶具によって保持する場合、壁部21の各箇所を冶具によって挟んで保持してもよいし、壁部21の各箇所を冶具に接着して保持してもよい。
<3.シート状細胞構造物の形状の特徴と加工>
本開示のシート状細胞構造物は、平坦又は歪曲の小さい形状であってもよいし、歪曲した形状であってもよい。
平坦又は歪曲の小さい形状の本開示のシート状細胞構造物の例を図3に示す。図3に示すシート状細胞構造物10は、平坦面30上に、第2の表面12が平坦面30と対向するように静置したとき、シート状細胞構造物10の、平坦面30の反対側に向いた第1の表面11上の、最も低い位置112の高さをA、最も高い位置111の高さをBとしたとき、例えば、A/Bが0.40以下である。ここで、位置111の高さBは、平坦面30の法線方向に沿った、平坦面30から位置111までの距離を指す。位置112の高さAは、平坦面30の法線方向に沿った、平坦面30から位置112までの距離を指す。
図3に示すような平坦な又は歪曲の小さい本開示のシート状細胞構造物は、炎症部、創傷部、病変部、手術後の縫合部等を被覆することが容易であり好ましい。
平坦な又は歪曲の小さい本開示のシート状細胞構造物は、袋状細胞構造物の壁部のうち平坦な又は歪曲の小さい部分を切り出すことにより得ることができる。また、後述するように、歪曲したシート状細胞構造物を、平坦な又は歪曲の小さい鋳型面に沿うように加工することで得ることもできる。
歪曲した形状の本開示のシート状細胞構造物の例を図4に示す。図4に示すシート状細胞構造物10は、平坦面30上に、第2の表面12が平坦面30と対向するように静置したとき、図3に示す実施形態と同様に定義するA/Bが、例えば、0.003以上である。
図4に示すような歪曲した形状の本開示のシート状細胞構造物は、歪曲した面上の、炎症部、創傷部、病変部、手術後の縫合部等を被覆するのに適している。
歪曲した本開示のシート状細胞構造物は、袋状細胞構造物の壁部のうち歪曲した部分を切り出すことにより得ることができる。また、シート状細胞構造物を、歪曲した鋳型面に沿うように加工することで得ることもできる。歪曲したシート状細胞構造物の例としては、袋状細胞構造物を二つに分割して得られる半球上の断片が挙げられる。
本開示のシート状細胞構造物の形状は加工により変化させることができる。
本開示の更なる実施形態は、本開示のシート状細胞構造物を加工する方法であって、
前記シート状細胞構造物を、鋳型面に接するように配置すること、
前記シート状細胞構造物を前記鋳型面に沿った形状に加工すること、
を含む方法に関する。
前記シート状細胞構造物を前記鋳型面に沿った形状に加工する方法は特に限定されない。例えば、前記シート状細胞構造物を、前記鋳型面に向けて付勢して前記鋳型面に押し当てて、前記鋳型面に沿った形状とすることが挙げられる。前記シート状細胞構造物を、前記鋳型面に向けて付勢する方法の一例としては、前記シート状細胞構造物を前記鋳型面に載せた状態で、前記シート状細胞構造物に、前記鋳型面に垂直且つ前記鋳型面に向かう方向に遠心力を加える方法が挙げられる。前記シート状細胞構造物を、前記鋳型面に向けて付勢する方法の別の一例としては、前記シート状細胞構造物を前記鋳型面に載せた状態で、前記鋳型面と対向する別の鋳型を前記シート状細胞構造物の側から前記鋳型面に近接させて、前記シート状細胞構造物を挟み込み、前記シート状細胞構造物を前記鋳型面に押し付ける方法が挙げられる。
鋳型面は、平坦な面であってもよいし、一部又は全体に歪曲及び/又は凹凸を有する面であってもよい。
前記加工方法の好ましい実施形態を図5及び図6を参照して説明する。
図5に示す実施形態では、歪曲したシート状細胞構造物10を、平坦な鋳型面50に接するように配置し(図5A)、続いて、歪曲したシート状細胞構造物10を平坦な鋳型面50に沿った形状に加工して、平坦なシート状細胞構造物10を得る(図5B)。
図6に示す実施形態では、平坦なシート状細胞構造物10を、上に凸に歪曲した鋳型面60に接するように配置し(図6A)、続いて、平坦なシート状細胞構造物10を、歪曲した鋳型面60に沿った形状に加工して、歪曲したシート状細胞構造物10を得る(図6B)。
鋳型面に沿った形状に加工されたシート状細胞構造物は、そのまま移植に用いても良いし、加工後に更に培養してもよい。
<4.シート状細胞構造物の移植>
本開示のシート状細胞構造物は、ヒト又は非ヒト動物の体に移植する用途、特に、臓器等における炎症部、創傷部、病変部、手術後の縫合部、腹腔、欠損した腸組織等を被覆する用途、で用いることができる。
特に、本開示のシート状細胞構造物が、粘液分泌能、具体的には、ムチン及び抗菌ペプチド産生能を有する実施形態では、癒合部を保護する効果が高いため好ましい。
本開示のシート状細胞構造物は、好ましくは、炎症部、創傷部、病変部、手術後の縫合部又は腹腔に癒合させることにより、癒合部を保護することができる。
本開示のシート状細胞構造物は、好ましくは、炎症部、創傷部、病変部、手術後の縫合部又は腹腔に癒合させることにより、癒合部からの漏出、癒合部への漏出、或いは、癒合部への侵入を抑制することができる。
本開示のシート状細胞構造物は、好ましくは、炎症部、創傷部、病変部、手術後の縫合部又は腹腔に癒合させることにより、癒合部の治癒に必要な細胞や細胞の足場を提供することができる。
本開示のシート状細胞構造物は、好ましくは、炎症部、創傷部、病変部、手術後の縫合部又は腹腔に癒合させることにより、癒合部の異所への癒着を防止することができる。
本開示のシート状細胞構造物は、好ましくは、炎症部、創傷部、病変部、手術後の縫合部又は腹腔に癒合させることにより、癒合部の炎症亢進を緩和することができる。
本開示のシート状細胞構造物は、好ましくは、手術後の縫合部に癒合させることにより、術後合併症を予防することができる。
本開示のシート状細胞構造物は、好ましくは、欠損した腸組織に移植することにより、腸機能を代替することができる。
本開示のシート状細胞構造物は、開腹手術、腹腔鏡手術何れでも、ピンセット等により保持し、所望の移植部位に貼り付けることができる。腹腔鏡手術等で移植が困難な部位に移植する場合には、本開示のシート状細胞構造物を、支持体と一体化した状態で移植しても良いし、ワイヤー等のキャリアにより保持して移植してもよい。
本開示のシート状細胞構造物は、生体適合性の支持体に固定し、支持体と共に移植することができる。
本開示のシート状細胞構造物を、生体に移植する際、シート状細胞構造物及び/又は移植部位に、フィブリン等の生体適合性を有する接着補助物質を適用してもよい。また、シート状細胞構造物と移植部位とを縫合してもよい。
本開示のシート状細胞構造物を移植部位に貼り付ける場合、例えば、本開示のシート状細胞構造物をピンセットで広げた状態のまま移植部位に載せて貼り付けてもよいし、本開示のシート状細胞構造物を移植部位に載せた後に広げてもよい。
続いて、本発明のシート状細胞構造物が、第1の表面の側に小腸上皮細胞層等の内胚葉系細胞を含み、第2の表面の側に外胚葉系細胞及び/又は中胚葉系細胞を含む実施形態における、好ましい移植方法について説明する。
前記実施形態に係るシート状細胞構造物を、シート構造を維持するためのキャリアに保持する場合、前記第1の表面の側をキャリアに貼り付け、前記第2の表面の側が移植部位に接するように移植することが好ましい。この際、キャリアとシート状細胞構造物との接着力は、生体とシート状細胞構造物との間に生じる接着力より弱いことが好ましい。キャリアの表面は、疎水処理等のタンパク質吸着阻害処理を施してもよい。
前記実施形態に係るシート状細胞構造物は、移植部位の層構造と一致する向きで移植することが好ましい。例えば、腸管内壁に移植する場合、前記第1の表面の側が管腔内に向くように配置する。
以下、具体的な実験結果を参照して本開示を説明するが、本開示の範囲は実験結果の範囲には限定されない。
<実施例1>
シート状腸臓器様細胞構造物の作製を実施した。以下にその方法を記載する。
(細胞培養基材の作製)
細胞培養基材として、ガラス基材上に形成された、ポリエチレングリコール400の層が酸化分解されて形成された領域である、直径1500μmの円形パターンからなる細胞接着部と、前記細胞接着部の円形パターンの外側の、ガラス基材の表面がポリエチレングリコール400で被覆された領域である細胞非接着部とを備える細胞培養基材を作製した。前記細胞培養基材は、複数個の、300~500μm間隔で形成された前記円形パターンからなる細胞接着部を備える。以下の説明では、円形パターンからなる細胞接着部を「円形細胞接着部」と称する。
細胞培養基材は、特許第5070565号に記載の手順により作製した。以下にその概要を説明する。
(一段階目の反応)
トルエン39.0g、エポキシシランTSL8350(GE東芝シリコーン製)0.48g、トリエチルアミン0.97gを混合し、室温で10分間攪拌した。このシラン溶液にUV洗浄済みの10cm角のガラス基板を洗浄面が上向きとなるように浸漬した。室温で16時間放置した後、基板をエタノールと水で洗浄し、窒素ブローで乾燥させた。これにより、ガラス基板表面にエポキシ基を含む薄膜が形成された。
(二段階目の反応)
50gの平均分子量400のポリエチレングリコール(PEG400)を攪拌しながら25μlの濃硫酸を一滴ずつ添加した。そのまま数分間攪拌してから、全量をガラス皿に移した。ここに上記の基板を浸漬し、80℃で20分間反応させた。反応後、基板をよく水洗し、窒素ブローで乾燥させた。これにより、ガラス表面に均一な親水性薄膜が形成された。
(酸化処理)
表面全域に酸化チタン系光触媒を塗布したフォトマスクを作製した。フォトマスクは、複数個の、300~500μm間隔で形成された上記寸法の円形細胞接着部に対応する形状の開口部が形成され、且つ、周囲に幅約1.5cmの開口部を有する5インチサイズのものを用いた。あらかじめ露光機の照度を350nmの波長で計測し、露光時間の設定の目安とした。このフォトマスクの光触媒層と基板表面の親水性薄膜を接触させ、フォトマスク側から光が照射されるよう露光機内に設置した。波長350nmの照度が20mW/cmの水銀ランプで50秒間露光し、基板表面の親水性薄膜を部分的に酸化分解した。この基板を5cm×5cmの大きさに切断し、細胞接着基材として使用した。細胞培養に使用する前に、細胞培養基材に対しEOG滅菌処理を22時間施した。
前記細胞培養基材を、10cmペトリディッシュ(Falcon社)の底面上に設置し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で1/100希釈したビトロネクチン(Life Technologies社)と室温で30分間以上接触させてコーティングした後に、PBSで3回洗浄してから使用した。
(培養)
国立研究開発法人国立成育医療研究センターは、月経血から取得した細胞に山中4因子をセンダイウイルスベクターによって一過的に発現させて、ヒトiPS細胞株であるEdom iPS細胞を樹立している(PLOS Genet. 2011 May; 7(5): e1002085. Published online 2011 May 26. doi: 10.1371/journal.pgen.1002085PMCID: PMC3102737)。Edom iPS細胞を、PBSで1/100希釈したビトロネクチン(Vitronectin,Life Technologies社)により上記と同様にコーティングした細胞培養用ディッシュ中でStemFit培地(味の素社)を用いてあらかじめ増殖させた。増殖した細胞を、PBSで0.5mMに希釈したEDTA溶液(Life Technologies社)により処理して前記ディッシュから剥離した。
前記細胞培養基材に、剥離して回収した前記Edom iPS細胞を1×10個播種し45日間培養した。培養はUchida et al., JCI Insight 第2巻 e86492 2017年に記載の手順で行った。なお、播種翌日には直径10cm細胞培養ディッシュ(Falcon社)に、細胞が接着した状態の前記細胞培養基材を移した上で培地を約15mLになるように維持し2日毎に培地交換を行った。
使用した異種由来成分不含培地(XF32培地と称する)の組成は下記の通りであり、それぞれ混和して作製した(内容物濃度はUchida et al., JCI Insight 第2巻 e86492 2017年より抜粋した)。
Knockout DMEM(KDMEM; ThermoFisher Scientific社):培地全体との体積比約85%
XenoFree-Knockout Serum Replacement(XF-KSR; ThermoFisher Scientific社):培地全体との体積比約15%
Basic Fibroblast Growth Factor(bFGF; ThermoFisher Scientific社):20ng/mL
Insulin growth factor-I(IGF-I;ニチレイ社):200ng/mL
Hereglin(富士フイルム和光純薬工業社):10ng/mL
Glutamax-I(L-alanyl-L-glutamine; ThermoFisher Scientific社):2mM
Non Essential Amino Acid Solution(NEAA; ThermoFisher Scientific社):非必須アミノ酸全てについて0.1mM
Sodium Pylvate(ThermoFisher Scientific社):1mM
Streptomycin(ThermoFisher Scientific社):50U/mL
Penicillin(ThermoFisher Scientific社)50μg/mL
培養中、細胞が円形細胞接着部上で増殖し袋状(球状)の細胞構造物が形成され、播種から3~4週後に袋状細胞構造物が自然に剥離して浮遊した。剥離後も播種から45日後まで浮遊培養を行った。
袋状細胞構造物(腸オルガノイド)は、特開2019-000014号公報及びUchida et al., JCI Insight 第2巻 e86492 2017年で確認されたのと同様の細胞種及び組織を含み、蠕動運動能を有するものであった。袋状細胞構造物は外側の表面の側に、絨毛層を含む小腸上皮細胞層を有し、内側の表面の側に、平滑筋細胞、カハール細胞及び神経細胞を含む細胞層(粘膜下層様の層)を有する多層構造が確認された。袋状細胞構造物は直径約5mmの球形であり、内腔を内包する構造であった。
袋状細胞構造物(腸オルガノイド)を細胞培養ディッシュに回収し培地を加え、自発的な蠕動運動を40分間動画撮影で確認した。
続いて、回収した腸オルガノイドを細胞培養ディッシュ上で半球状になるようメスで分割し、半球状の断片を得た。半球状の断片は、細胞シートが歪曲した半球形状であり、以下の説明では、シート状細胞構造物と称する。
シート状細胞構造物の蠕動運動能を動画で確認した。
この結果、袋状細胞構造物を分割して得られるシート状細胞構造物が、蠕動運動能を有することが確認された。
シート状細胞構造物は、直径5.23mmの円形であり、面積は23.82mmであった。
<実施例2>
シート状細胞構造物が構造変化の検出に優れていることを確かめた。以下にその方法を記載する。
実施例1で撮影したシート状細胞構造物の蠕動運動の動画を用い、Image Jによる面積計算で数値化し、その最大値と最小値の値を求めた。シート状細胞構造物の視野内で最も収縮した時点での像(視野内最収縮像)を図7Aに、視野内で最も膨張した時点での像(視野内膨張様像)を図7Bにそれぞれ示す。
結果を下記に示す。シート状細胞構造物は、構造変化の幅が大きく、構造変化を視覚的に捉えやすいことが分かる。
Figure 2022035726000002
<実施例3>
シート状細胞構造物が加工後に移植や評価といった用途に使用することが可能かを、国内流通の指標となる5日間を基準とし確かめた。以下にその方法を記載する。
実施例1で得たシート状細胞構造物を、D-MEM培地中で37℃にて5日間培養し、続いて、異なる培養ディッシュに移しPBSで3回洗浄した。
洗浄後の前記シート状細胞構造物を、1mlのPBSに対し1mg/mlのCalcein-AM溶液を1μl、1mg/mlのヨウ化プロピジウム(PI)溶液を1μl加えた混合液中に浸して15分間インキュベータ内でインキュベートして、二重染色を行った。
続いて前記シート状細胞構造物を蛍光観察し、Calcein-AM溶液により緑の蛍光で染色された生存細胞、及び、PI溶液により赤の蛍光で染色された死細胞を観察した。
前記シート状細胞構造物の蛍光顕微鏡による観察像を図8に示す。シート状細胞構造物において、大部分の細胞が緑色蛍光を示す生細胞であったことから、加工後少なくとも5日間は構成細胞が生存していることが示された、更に、シート状細胞構造物は加工後少なくとも5日間は蠕動運動能を有していること示された。この結果は、シート状細胞構造物は加工から5日間は腸オルガノイドとしての機能を保持できることを示す。
<実施例4>
図5Aに示すように、実施例1で得た半球状のシート状細胞構造物10を、内腔の側(第2の表面12の側)が平坦な鋳型面50と対向するように平坦な鋳型面50上に配置し、シート状細胞構造物10に、鋳型面50に垂直且つ前記鋳型面に向かう方向に遠心力を加えて、平坦な鋳型面50に沿った形状に加工して、平坦なシート状細胞構造物10を得た。
半球状のシート状細胞構造物及び平坦なシート状細胞構造物の立体構造をNH-3SPs“超精密非接触三次元測定装置”(三鷹光器株式会社)によって測定した。
測定では、半球状のシート状細胞構造物及び平坦なシート状細胞構造物を内腔の側が下になるようにディッシュ上に静置し、平面視での辺縁部から中央部までを測定範囲とし、Y軸を固定した後にX軸方向に走査しZ軸(単位mm)として厚みデータを取得した。半球状のシート状細胞構造物の測定は二分割した直後に行った。
図9Aは、半球状のシート状細胞構造物の厚みの測定結果である。横軸は、測定ピッチ0.03mmでのX軸上の測定点を示し、縦軸は厚み(単位mm)を示す。半球状のシート状細胞構造物の厚みの最小値Aは0.00277mm、厚みの最大値Bは0.8754mm、A/Bは0.00316であった。
図9Bは、平坦なシート状細胞構造物の厚みの測定結果である。横軸は、測定ピッチ0.01mmでのX軸上の測定点を示し、縦軸は厚み(単位mm)を示す。平坦なシート状細胞構造物の厚みの最小値Aは0.00766mm、厚みの最大値Bは0.01568mm、A/Bは0.488であった。
なお図9のA及びBでは、検出結果にエラーのあった測定点での測定値は示していない。

Claims (17)

  1. 内胚葉系細胞、外胚葉系細胞、及び中胚葉系細胞を含む、面積が20mm以上のシート状細胞構造物。
  2. 第1の表面の側に内胚葉系細胞を含み、
    第2の表面の側に外胚葉系細胞及び/又は中胚葉系細胞を含む、請求項1に記載のシート状細胞構造物。
  3. 前記第1の表面の側に小腸上皮細胞層を含む、請求項1又は2に記載のシート状細胞構造物。
  4. 粘膜下層様の層を更に含む、請求項3に記載のシート状細胞構造物。
  5. 胚性幹細胞又は人工多能性幹細胞に由来する、請求項1~4のいずれか1項に記載のシート状細胞構造物。
  6. リンパ球を含まない、請求項1~5のいずれか1項に記載のシート状細胞構造物。
  7. ムチン及び抗菌ペプチド産生能を有する、請求項1~6のいずれか1項に記載のシート状細胞構造物。
  8. 蠕動運動能を有する、請求項1~7のいずれか1項に記載のシート状細胞構造物。
  9. 異種由来成分を含まない、請求項1~8のいずれか1項に記載のシート状細胞構造物。
  10. 前記シート状細胞構造物を平坦面上に静置した状態で、
    前記シート状細胞構造物の平坦面と反対側の表面上の、最も低い位置の高さをA、最も高い位置の高さをBとしたとき、A/Bが0.003以上である、請求項1~9のいずれか1項に記載のシート状細胞構造物。
  11. 前記シート状細胞構造物を平坦面上に静置した状態で、
    前記シート状細胞構造物の平坦面と反対側の表面上の、最も低い位置の高さをA、最も高い位置の高さをBとしたとき、A/Bが0.40以下である、請求項1~9のいずれか1項に記載のシート状細胞構造物。
  12. 請求項1~11のいずれか1項に記載のシート状細胞構造物を加工する方法であって、
    前記シート状細胞構造物を、鋳型面に接するように配置すること、
    前記シート状細胞構造物を前記鋳型面に沿った形状に加工すること、
    を含む方法。
  13. 前記鋳型面が平坦な面であり、
    加工に供される前記シート状細胞構造物が、請求項10に記載のシート状細胞構造物である、請求項12に記載の方法。
  14. 前記鋳型面が歪曲及び/又は凹凸を有する面である、請求項12に記載の方法。
  15. 内胚葉系細胞、外胚葉系細胞、及び中胚葉系細胞を含む、面積が20mm以上のシート状細胞構造物の製造方法であって、
    内腔を内包し、長軸方向の長さが5mm以上である、内胚葉系細胞、外胚葉系細胞、及び中胚葉系細胞を含む袋状細胞構造物から、前記シート状細胞構造物を切り出すことを含む方法。
  16. 前記袋状細胞構造物が、外側の表面の側に内胚葉系細胞を含み、内側の表面の側に外胚葉系細胞及び/又は中胚葉系細胞を含む、請求項15に記載の方法。
  17. 前記袋状細胞構造物が、外側の表面の側に小腸上皮細胞層を含む、請求項15又は16に記載の方法。
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