JP2022001669A - タンパク質繊維の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】紡糸安定性、延伸安定性に優れたタンパク質繊維の製造方法を提供すること。【解決手段】タンパク質、第1溶媒、第2溶媒及び任意に溶解促進剤を含有する紡糸原液を、第3溶媒及び任意に溶解促進剤を含有する凝固浴液に導入して、タンパク質を凝固させる工程を含み、第2溶媒が、低級アルコール、ケトン及び水からなる群より選択される少なくとも1種である、タンパク質繊維の製造方法。【選択図】なし

Description

本発明は、タンパク質繊維の製造方法に関する。
従来から、人造繊維の製造方法として、ノズルから吐出させた紡糸原液を凝固浴液中で凝固させて繊維を形成する湿式紡糸法及び乾湿式紡糸法が知られている。湿式紡糸法及び乾湿式紡糸法は、タンパク質を主成分として含むタンパク質繊維を製造する際にも利用されている(例えば、特許文献1参照)。
湿式紡糸法及び乾湿式紡糸法等によってタンパク質繊維を製造する方法として、タンパク質を溶媒に溶解させたタンパク質溶液をドープ液(紡糸原液)として使用し、ドープ液を口金から脱溶媒槽の凝固浴液に押し出し、ドープ液から溶媒を脱離させるとともに繊維形成して未延伸糸とし、タンパク質繊維を得ることが知られている(例えば、特許文献2参照)。
タンパク質を溶解する溶媒としては、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド及びギ酸等が知られている。また、湿式紡糸法及び乾湿式紡糸法によるタンパク質繊維の製造の際、溶媒を除去し、繊維形成させるためにメタノール、エタノール、2−プロパノール等の低級アルコールが凝固浴液として汎用されている。
特許第5540154号公報 国際公開第2013/065651号
一般的に、未延伸糸は、繊維を構成する分子の配列が整っておらず、その強度及び物性が一定となりにくい。そこで、延伸を行うことにより、糸に適度な強度及び性能を付与することが可能である。例えば、タンパク質繊維を延伸する際、その延伸倍率がより高くなるほど、延伸応力はより大きくなる。
しかし、延伸時の延伸応力が高くなると、延伸製糸時にタンパク質繊維が破断を生じやすくなる。そこで、本発明の目的は、紡糸安定性、延伸安定性に優れたタンパク質繊維の製造方法を提供することにある。
本発明は、以下の[1]〜[21]を提供する。
[1]
タンパク質、第1溶媒、第2溶媒及び任意に溶解促進剤を含有する紡糸原液を、第3溶媒及び任意に溶解促進剤を含有する凝固浴液に導入して、タンパク質を凝固させる工程を含み、
第2溶媒が、低級アルコール、ケトン及び水からなる群より選択される少なくとも1種である、タンパク質繊維の製造方法。
[2]
第3溶媒が、低級アルコール、ケトン及び水からなる群より選択される少なくとも1種である、[1]に記載の方法。
[3]
第1溶媒が、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサフルオロイソプロパノール、ヘキサフルオロアセトン、ギ酸及び水からなる群より選択される少なくとも1種であり、
ただし、第1溶媒が水であるとき、紡糸原液は溶解促進剤を更に含有する、[1]又は[2]に記載の方法。
[4]
低級アルコールが、メタノール又はエタノールである、[1]〜[3]のいずれかに記載の方法。
[5]
タンパク質が、構造タンパク質である、[1]〜[4]のいずれかに記載の方法。
[6]
構造タンパク質が、フィブロインである、[5]に記載の方法。
[7]
フィブロインが、クモ糸フィブロインである、[6]に記載の方法。
[8]
第2溶媒の含有量が、タンパク質100質量部に対して35質量部以下である、[1]〜[7]のいずれかに記載の方法。
[9]
第2溶媒の含有量が、タンパク質100質量部に対して3質量部以上である、[1]〜[8]のいずれかに記載の方法。
[10]
第2溶媒が、メタノール、エタノール及びアセトンからなる群から選択される1種を含む、[1]〜[9]のいずれかに記載の方法。
[11]
第2溶媒が、第3溶媒と同一の溶媒である、[1]〜[10]のいずれかに記載の方法。
[12]
凝固させたタンパク質を延伸する工程を更に含む、[1]〜[11]のいずれかに記載の方法。
[13]
タンパク質及び第1溶媒を含有する紡糸原液を、第2溶媒を含有する凝固浴液に導入して、タンパク質を凝固させる工程を含む、タンパク質繊維の製造方法であって、タンパク質が、平均粒子径4〜15nmの粒子形状で紡糸原液中に分散している、タンパク質繊維の製造方法。
[14]
第2溶媒が、低級アルコール、ケトン及び水からなる群より選択される少なくとも1種である、[13]に記載の方法。
[15]
第3溶媒が、低級アルコール、ケトン及び水からなる群より選択される少なくとも1種である、[13]又は[14]に記載の方法。
[16]
第1溶媒が、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサフルオロイソプロパノール、ヘキサフルオロアセトン、ギ酸及び水からなる群より選択される少なくとも1種であり、
ただし、第1溶媒が水であるとき、紡糸原液は溶解促進剤を更に含有する、[13]〜[15]のいずれかに記載の方法。
[17]
タンパク質が、構造タンパク質である、[13]〜[16]のいずれかに記載の方法。
[18]
構造タンパク質が、フィブロインである、[17]に記載の方法。
[19]
フィブロインが、クモ糸フィブロインである、[18]に記載の方法。
[20]
凝固させたタンパク質を延伸する工程を更に含む、[13]〜[19]のいずれかに記載の方法。
[21]
タンパク質を含有する紡糸原液であって、タンパク質が平均粒子径4〜15nmの粒子形状で紡糸原液中に分散している、紡糸原液。
本発明のタンパク質繊維の製造方法は、クモ糸タンパク質に対して優れた繊維形成能(製糸性)を有する。加えて、本発明のタンパク質繊維の製造方法は、繊維形成能(製糸性)が確保でき、従来の紡糸法と比べて、ノズルとローラー間で引き取り可能な最大延伸倍率が上がるため、より高速な製糸条件を採用することもできる。本発明のタンパク質繊維の製造方法により、タンパク質繊維を提供することができる。
タンパク質繊維を製造するための紡糸装置の一例を概略図である。
本発明の一実施形態に係るタンパク質繊維の製造方法について、以下に詳述する。
本明細書において、「優れた紡糸安定性」とは、紡糸原液から未延伸のタンパク質繊維を得る際に、糸切れが生じにくいことを意味する。
本明細書において、「優れた延伸安定性」とは、未延伸のタンパク質繊維を延伸する際に、糸が破断しにくいことを意味する。
本実施形態に係るタンパク質繊維の製造方法では、タンパク質、第1溶媒、第2溶媒及を含有する紡糸原液を、凝固浴液に導入して、タンパク質を凝固させる工程を含む。ここで、紡糸原液は、任意に溶解促進剤を更に含有してもよい。また、凝固浴液は、第2溶媒を含有し、任意に溶解促進剤を含有してもよい。
本実施形態で使用する紡糸原液は、タンパク質繊維の主原料となるタンパク質と、第1溶媒と、第2溶媒と、を含有する。
<紡糸原液>
(タンパク質)
タンパク質は、特に限定されるものではなく、遺伝子組換え技術により微生物等により製造されたものであってもよく、化学的に合成されたものであってもよく、また天然由来のタンパク質を精製したものであってもよい。
本明細書において、用語「主成分として含む」とは、タンパク質繊維の全質量の少なくとも50質量%がタンパク質であることを意味する。タンパク質繊維におけるタンパク質が占める質量割合は、60質量%以上、65質量%以上、70質量%以上、75質量%以上、80質量%以上、90質量%以上であってもよい。
上記タンパク質は、例えば、構造タンパク質、又は当該構造タンパク質に由来する人造タンパク質であってもよい。構造タンパク質とは、生体内で構造、形態等を形成又は保持するタンパク質を意味する。構造タンパク質としては、例えば、フィブロイン、ケラチン、コラーゲン、エラスチン、レシリン等を挙げることができる。好ましいタンパク質は、フィブロイン、又はフィブロインに由来する人造タンパク質である。上述した構造タンパク質及び当該構造タンパク質に由来する人造タンパク質は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
フィブロインは、例えば、絹フィブロイン、クモ糸フィブロイン、及びホーネットシルクフィブロインからなる群より選択される1種以上であってよい。特に、構造タンパク質は、絹フィブロイン、クモ糸フィブロイン又はこれらの組み合わせであってもよい。絹フィブロインとクモ糸フィブロインとを併用する場合、絹フィブロインの割合は、例えば、クモ糸フィブロイン100質量部に対して、40質量部以下、30質量部以下、又は10質量部以下であってよい。
絹フィブロインとしては、セリシン除去絹フィブロイン、セリシン未除去絹フィブロイン、又はこれらの組み合わせであってもよい。セリシン除去絹フィブロインは、絹フィブロインを覆うセリシン、及びその他の脂肪分などを除去して精製したものである。このようにして精製した絹フィブロインは、好ましくは、凍結乾燥粉末として用いられる。セリシン未除去絹フィブロインは、セリシンなどが除去されていない未精製の絹フィブロインである。
クモ糸フィブロインは、天然クモ糸タンパク質、又は天然クモ糸タンパク質に由来する人造タンパク質であってもよい。
天然クモ糸タンパク質としては、例えば、大吐糸管しおり糸タンパク質、横糸タンパク質、及び小瓶状腺タンパク質が挙げられる。大吐糸管しおり糸タンパク質は、結晶領域と非晶領域(無定形領域とも言う。)からなる繰り返し領域を持つため、高い応力と伸縮性を併せ持つ。一方、横糸タンパク質は、結晶領域を持たず、非晶領域からなる繰り返し領域を持つという特徴を有する。横糸タンパク質は、大吐糸管しおり糸タンパク質と比べると応力は劣るが、高い伸縮性を持つ。
大吐糸管しおり糸タンパク質は、クモの大瓶状腺で産生され、強靭性に優れるという特徴も有する。大吐糸管しおり糸タンパク質としては、例えば、アメリカジョロウグモ(Nephila clavipes)に由来する大瓶状腺スピドロインMaSp1及びMaSp2、並びにニワオニグモ(Araneus diadematus)に由来するADF3及びADF4が挙げられる。ADF3は、ニワオニグモの2つの主要なしおり糸タンパク質の一つである。天然クモ糸タンパク質に由来する人造タンパク質は、これらのしおり糸タンパク質に由来する人造タンパク質であってもよい。ADF3に由来する人造タンパク質は、比較的合成し易く、強伸度及びタフネスの点で優れた特性を有する。
横糸タンパク質は、クモの鞭毛状腺(flagelliform gland)で産生される。横糸タンパク質としては、例えばアメリカジョロウグモ(Nephila clavipes)に由来する鞭毛状絹タンパク質(flagelliform silk protein)が挙げられる。
天然クモ糸タンパク質に由来する人造タンパク質は、組換えクモ糸タンパク質であってよい。組換えクモ糸タンパク質としては、天然型クモ糸タンパク質の変異体、類似体又は誘導体等が挙げられる。このような人造タンパク質の好適な一例は、大吐糸管しおり糸タンパク質の組換えクモ糸タンパク質である。例えば、組換えクモ糸タンパク質は、いくつかの異種タンパク質生産系で産生されており、その製造方法として、トランスジェニック・ヤギ、トランスジェニック・カイコ、又は組換え植物若しくは哺乳類細胞が利用されている。
組換えクモ糸タンパク質は、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列から(A)モチーフをコードする配列の1又は複数を欠失させることにより得ることができる。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から1又は複数の(A)モチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から(A)モチーフが欠失したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行ってもよい。アミノ酸残基の置換、欠失、挿入及び/又は付加は、部分特異的突然変異誘発法等の当業者に周知の方法により行うことができる。具体的には、Nucleic Acid Res.10,6487(1982)、Methods in Enzymology,100,448(1983)等の文献に記載されている方法に準じて行うことができる。
大吐糸管しおり糸タンパク質の組換えクモ糸タンパク質及びカイコシルクに由来する人造タンパク質としては、例えば、式1:[(A)モチーフ−REP]で表されるドメイン配列を含むタンパク質が挙げられる。ここで、式1中、(A)モチーフは、Aはアラニン残基を示し、nは2〜27、2〜20、4〜27、4〜20、8〜20、10〜20、4〜16、8〜16、又は10〜16の整数であってよい。また(A)モチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数の割合は40%以上であればよく、60%以上、70%以上、80%以上、83%以上、85%以上、86%以上、90%以上、95%以上、又は100%(アラニン残基のみで構成されることを意味する。)であってもよい。REPは2〜200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。mは2〜300の整数を示す。式1で表されるアミノ酸配列中に含まれるグリシン(Gly)、セリン(Ser)及びアラニン(Ala)の合計残基数がアミノ酸残基数全体に対して40%以上が好ましく、60%以上、又は70%以上であってよい。複数存在する(A)モチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。大吐糸管しおり糸に由来する人造タンパク質の具体例としては、配列番号1又は配列番号2で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質を挙げることができる。
横糸タンパク質に由来するタンパク質としては、例えば、式2:[REP2]で表されるドメイン配列を含むタンパク質(ここで、式2中、REP2はGly−Pro−Gly−Gly−Xから構成されるアミノ酸配列を示し、Xはアラニン(Ala)、セリン(Ser)、チロシン(Tyr)及びバリン(Val)からなる群から選ばれる一つのアミノ酸を示す。oは8〜300の整数を示す。)を挙げることができる。横糸タンパク質に由来するポリペプチドとしては、式2:REP2で示されるアミノ酸配列の単位を10以上、好ましくは20以上、より好ましくは30以上含むポリペプチドが挙げられる。横糸タンパク質に由来するポリペプチドは、大腸菌等の微生物を宿主とした組み換えタンパク質生産を行う場合、生産性の観点から、分子量が500kDa以下であることが好ましく、より好ましくは300kDa以下であり、さらに好ましくは200kDa以下である。具体的には配列番号3で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質を挙げることができる。配列番号3で示されるアミノ酸配列は、NCBIデータベースから入手したアメリカジョロウグモの鞭毛状絹タンパク質の部分的な配列(NCBIアクセッション番号:AAF36090、GI:7106224)のリピート部分及びモチーフに該当するN末端から1220残基目から1659残基目までのアミノ酸配列(PR1配列と記す。)と、NCBIデータベースから入手したアメリカジョロウグモの鞭毛状絹タンパク質の部分配列(NCBIアクセッション番号:AAC38847、GI:2833649)のC末端から816残基目から907残基目までのC末端アミノ酸配列を結合し、結合した配列のN末端に配列番号4で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列)が付加されたものである。
コラーゲンに由来するタンパク質として、例えば、式3:[REP3]で表されるドメイン配列を含むタンパク質(ここで、式3中、pは5〜300の整数を示す。REP3は、Gly−X−Yから構成されるアミノ酸配列を示し、X及びYはグリシン(Gly)以外の任意のアミノ酸残基を示す。複数存在するREP3は、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。)を挙げることができる。具体的には、配列番号5で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質を挙げることができる。配列番号5で示されるアミノ酸配列は、NCBIデータベースから入手したヒトのコラーゲンタイプ4の部分的な配列(NCBIのGenBankのアクセッション番号:CAA56335.1、GI:3702452)のリピート部分及びモチーフに該当する301残基目から540残基目までのアミノ酸配列のN末端に配列番号6で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列)が付加されたものである。
レシリンに由来するタンパク質として、例えば、式4:[REP4]で表されるドメイン配列を含むタンパク質(ここで、式4中、qは4〜300の整数を示す。REP4はSer−J−J−Tyr−Gly−U−Proから構成されるアミノ酸配列を示す。Jは任意のアミノ酸残基を示し、特にアスパラギン酸(Asp)、セリン(Ser)及びスレオニン(Thr)からなる群から選ばれるアミノ酸残基であることが好ましい。Uは任意のアミノ酸残基を示し、特にプロリン(Pro)、アラニン(Ala)、スレオニン(Thr)及びセリン(Ser)からなる群から選ばれるアミノ酸残基であることが好ましい。複数存在するREP4は、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。)を挙げることができる。具体的には、配列番号7で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質を挙げることができる。配列番号7で示されるアミノ酸配列は、レシリン(NCBIのGenBankのアクセッション番号NP 611157、Gl:24654243)のアミノ酸配列において、87残基目のスレオニン(Thr)をセリン(Ser)に置換し、かつ95残基目のアスパラギン(Asn)をアスパラギン酸(Asp)に置換した配列の19残基目から321残基目までのアミノ酸配列のN末端に配列番号13で示されるアミノ酸配列(タグ配列)が付加されたものである。
エラスチンに由来するタンパク質として、例えば、NCBIのGenBankのアクセッション番号AAC98395(ヒト)、I47076(ヒツジ)、NP786966(ウシ)等のアミノ酸配列を有するタンパク質を挙げることができる。具体的には、配列番号8で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質を挙げることができる。配列番号8で示されるアミノ酸配列は、NCBIのGenBankのアクセッション番号AAC98395のアミノ酸配列の121残基目から390残基目までのアミノ酸配列のN末端に配列番号6で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列)が付加されたものである。
ケラチンに由来するタンパク質として、例えば、カプラ・ヒルクス(Capra hircus)のタイプIケラチン等を挙げることができる。具体的には、配列番号9で示されるアミノ酸配列(NCBIのGenBankのアクセッション番号ACY30466のアミノ酸配列)を含むタンパク質を挙げることができる。
(人造タンパク質の製造方法)
タンパク質繊維に含まれるタンパク質は、例えば、所望のタンパク質をコードする核酸配列と、当該核酸配列に作動可能に連結された1又は複数の調節配列とを有する発現ベクターで形質転換された宿主により、当該核酸を発現させることにより生産することができる。
所望のタンパク質をコードする核酸の製造方法は、特に制限されない。例えば、天然の構造タンパク質をコードする遺伝子を利用して、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などで増幅しクローニングする方法、又は、化学的に合成する方法によって、当該核酸を製造することができる。核酸の化学的な合成方法も特に制限されず、例えば、NCBIのウェブデータベースなどより入手した構造タンパク質のアミノ酸配列情報をもとに、AKTA oligopilot plus 10/100(GEヘルスケア・ジャパン株式会社)などで自動合成したオリゴヌクレオチドをPCRなどで連結する方法によって遺伝子を化学的に合成することができる。この際に、タンパク質の精製及び/又は確認を容易にするため、上記のアミノ酸配列のN末端に開始コドン及びHis10タグからなるアミノ酸配列を付加したアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする核酸を合成してもよい。
調節配列は、宿主における組換えタンパク質の発現を制御する配列(例えば、プロモーター、エンハンサー、リボソーム結合配列、転写終結配列等)であり、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。プロモーターとして、宿主細胞中で機能し、目的とするタンパク質を発現誘導可能な誘導性プロモーターを用いてもよい。誘導性プロモーターは、誘導物質(発現誘導剤)の存在、リプレッサー分子の非存在、又は温度、浸透圧若しくはpH値の上昇若しくは低下等の物理的要因により、転写を制御できるプロモーターである。
発現ベクターの種類は、プラスミドベクター、ウイルスベクター、コスミドベクター、フォスミドベクター、人工染色体ベクター等、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。発現ベクターとしては、宿主細胞において自立複製が可能、又は宿主の染色体中への組込みが可能で、目的とするタンパク質をコードする核酸を転写できる位置にプロモーターを含有しているものが好適に用いられる。
宿主として、原核生物、並びに酵母、糸状真菌、昆虫細胞、動物細胞及び植物細胞等の真核生物のいずれも好適に用いることができる。
原核生物の宿主の好ましい例として、エシェリヒア属、ブレビバチルス属、セラチア属、バチルス属、ミクロバクテリウム属、ブレビバクテリウム属、コリネバクテリウム属及びシュードモナス属等に属する細菌を挙げることができる。エシェリヒア属に属する微生物として、例えば、エシェリヒア・コリ等を挙げることができる。ブレビバチルス属に属する微生物として、例えば、ブレビバチルス・アグリ等を挙げることができる。セラチア属に属する微生物として、例えば、セラチア・リクエファシエンス等を挙げることができる。バチルス属に属する微生物として、例えば、バチルス・サチラス等を挙げることができる。ミクロバクテリウム属に属する微生物として、例えば、ミクロバクテリウム・アンモニアフィラム等を挙げることができる。ブレビバクテリウム属に属する微生物として、例えば、ブレビバクテリウム・ディバリカタム等を挙げることができる。コリネバクテリウム属に属する微生物として、例えば、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス等を挙げることができる。シュードモナス(Pseudomonas)属に属する微生物として、例えば、シュードモナス・プチダ等を挙げることができる。
原核生物を宿主とする場合、目的タンパク質をコードする核酸を導入するベクターとしては、例えば、pBTrp2(ベーリンガーマンハイム社製)、pGEX(Pharmacia社製)、pUC18、pBluescriptII、pSupex、pET22b、pCold、pUB110、pNCO2(特開2002−238569号公報)等を挙げることができる。
真核生物の宿主としては、例えば、酵母及び糸状真菌(カビ等)を挙げることができる。酵母としては、例えば、サッカロマイセス属、ピキア属、シゾサッカロマイセス属等に属する酵母を挙げることができる。糸状真菌としては、例えば、アスペルギルス属、ペニシリウム属、トリコデルマ(Trichoderma)属等に属する糸状真菌を挙げることができる。
真核生物を宿主とする場合、所望のタンパク質をコードする核酸を導入するベクターとしては、例えば、YEp13(ATCC37115)、YEp24(ATCC37051)等を挙げることができる。上記宿主細胞への発現ベクターの導入方法としては、上記宿主細胞へDNAを導入する方法であればいずれも用いることができる。例えば、カルシウムイオンを用いる方法〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA,69,2110(1972)〕、エレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、プロトプラスト法、酢酸リチウム法、コンピテント法等を挙げることができる。
発現ベクターで形質転換された宿主による核酸の発現方法としては、直接発現のほか、モレキュラー・クローニング第2版に記載されている方法等に準じて、分泌生産、融合タンパク質発現等を行うことができる。
タンパク質は、例えば、発現ベクターで形質転換された宿主を培養培地中で培養し、培養培地中に当該タンパク質を生成蓄積させ、該培養培地から採取することにより製造することができる。宿主を培養培地中で培養する方法は、宿主の培養に通常用いられる方法に従って行うことができる。
所望の組換えタンパク質は、例えば、発現ベクターで形質転換された宿主を培養培地中で培養し、培養培地中に当該タンパク質を生成蓄積させ、該培養培地から採取することにより製造することができる。宿主を培養培地中で培養する方法は、宿主の培養に通常用いられる方法に従って行うことができる。
宿主が、大腸菌等の原核生物又は酵母等の真核生物である場合、培養培地として、宿主が資化し得る炭素源、窒素源及び無機塩類等を含有し、宿主の培養を効率的に行える培地であれば天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。
炭素源としては、上記形質転換微生物が資化し得るものであればよく、例えば、グルコース、フラクトース、スクロース、及びこれらを含有する糖蜜、デンプン及びデンプン加水分解物等の炭水化物、酢酸及びプロピオン酸等の有機酸、並びにエタノール及びプロパノール等のアルコール類を用いることができる。窒素源としては、例えば、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム及びリン酸アンモニウム等の無機酸又は有機酸のアンモニウム塩、その他の含窒素化合物、並びにペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスチープリカー、カゼイン加水分解物、大豆粕及び大豆粕加水分解物、各種発酵菌体及びその消化物を用いることができる。無機塩類としては、例えば、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅及び炭酸カルシウムを用いることができる。
大腸菌等の原核生物又は酵母等の真核生物の培養は、例えば、振盪培養又は深部通気攪拌培養等の好気的条件下で行うことができる。培養温度は、例えば、15〜40℃である。培養時間は、通常16時間〜7日間である。培養中の培養培地のpHは3.0〜9.0に保持することが好ましい。培養培地のpHの調整は、無機酸、有機酸、アルカリ溶液、尿素、炭酸カルシウム及びアンモニア等を用いて行うことができる。
また、培養中、必要に応じて、アンピシリン及びテトラサイクリン等の抗生物質を培養培地に添加してもよい。プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときには、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、lacプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド等を、trpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはインドールアクリル酸等を培地に添加してもよい。
形質転換された宿主により生産された組換えタンパク質は、タンパク質の単離精製に通常用いられている方法で単離及び精製することができる。例えば、当該タンパク質が、細胞内に溶解状態で発現した場合には、培養終了後、宿主細胞を遠心分離により回収し、水系緩衝液に懸濁した後、超音波破砕機、フレンチプレス、マントンガウリンホモゲナイザー及びダイノミル等により宿主細胞を破砕し、無細胞抽出液を得る。該無細胞抽出液を遠心分離することにより得られる上清から、タンパク質の単離精製に通常用いられている方法、すなわち、溶媒抽出法、硫安等による塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、ジエチルアミノエチル(DEAE)−セファロース、DIAION HPA−75(三菱化成社製)等のレジンを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S−Sepharose FF(Pharmacia社製)等のレジンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロース等のレジンを用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の方法を単独又は組み合わせて使用し、精製標品を得ることができる。
上記クロマトグラフィーとしては、フェニル−トヨパール(東ソー)、DEAE−トヨパール(東ソー)、セファデックスG−150(ファルマシアバイオテク)を用いたカラムクロマトグラフィーが好ましく用いられる。
また、タンパク質が細胞内に不溶体を形成して発現した場合は、同様に宿主細胞を回収後、破砕し、遠心分離を行うことにより、沈殿画分としてタンパク質の不溶体を回収する。回収したタンパク質の不溶体はタンパク質変性剤で可溶化することができる。該操作の後、上記と同様の単離精製法によりタンパク質の精製標品を得ることができる。当該タンパク質が細胞外に分泌された場合には、培養上清から当該タンパク質を回収することができる。すなわち、培養物を遠心分離等の手法により処理することにより培養上清を取得し、その培養上清から、上記と同様の単離精製法を用いることにより、精製標品を得ることができる。
(紡糸原液)
紡糸原液は、タンパク質、第1溶媒、第2溶媒及び任意に溶解促進剤を混合して、調製することができる。具体的には、タンパク質及び第1溶媒を混合し、任意に溶解促進剤を更に添加した後、第2溶媒を添加して調製することができる。必要に応じて、タンパク質及び第1溶媒の混合液を加温してもよい。加温する温度は、第1溶媒の沸点に応じて調整することができ、例えば、35〜90℃、35〜50℃、35〜45℃、35〜40℃、50〜90℃、60〜80℃、80〜90℃であってもよい。第2溶媒の添加は、第2溶媒の沸点に応じて調整することができ、例えば、10〜90℃、10〜50℃、50〜90℃、10〜40℃、60〜80℃、10〜30℃、15〜30℃、又は20〜30℃で行うことが好ましい。タンパク質は、紡糸原液中で第1溶媒及び第2溶媒の混合溶媒に溶解又は分散した状態で存在する。
タンパク質繊維は、上述したタンパク質を紡糸したものであり、上述したタンパク質を主成分として含む。
紡糸原液におけるタンパク質の含有量は、紡糸原液の全質量を基準として、1〜90質量%であってもよい。また、タンパク質の含有量は、紡糸原液の全質量を基準して、1質量%以上、2質量%以上、4質量%以上、7質量%以上、10質量%以上、又は15質量%以上であってよく、40質量%以下、35質量%以下、30質量%以下、又は25質量%以下であってもよい。
第1溶媒は、タンパク質を溶解し得る溶媒であればよく、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ヘキサフルオロイソプロノール(HFIP)、ヘキサフルオロアセトン(HFAc)、ギ酸(FA)及び水からなる群より選択される少なくとも1種であってもよい。第1溶媒は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
紡糸原液における第1溶媒の含有量は、紡糸原液100質量部に対して、50〜90質量部であってもよい。また、第1溶媒の含有量は、紡糸原液100質量部に対して、50質量部以上、60質量部以上、70質量部以上、又は80質量部以上であってもよく、90質量部以下、80質量部以下、70質量部以下、60質量部以下、50質量部以下であってもよい。第1溶媒の含有量は、紡糸原液100質量部に対して、好ましくは60〜90質量部、より好ましくは60〜85質量部、更に好ましくは65〜85質量部、更により好ましくは70〜80質量部、更によりまた好ましくは70〜75質量部である。
第2溶媒は、紡糸原液から第1溶媒を除去してタンパク質を凝固(脱溶媒)できる溶媒であればよい。第2溶媒は、例えば、低級アルコール、ケトン及び水からなる群より選択される少なくとも1種であってもよい。第2溶媒は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
低級アルコールは、炭素原子数1〜5の直鎖状又は分岐鎖状アルコールを意味し、具体的には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、アミルアルコール、ネオペンチルアルコール等が挙げられる。好ましい低級アルコールはメタノール又はエタノールであり、より好ましい低級アルコールはエタノールである。
ケトンとは、式(1):R−C(=O)−Rで表される化合物である。式(1)中、R及びRは、それぞれ独立に炭素原子数1〜6の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基を示す。このようなケトンの具体例としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトンが挙げられる。また、R及びRは、互いに単結合を介して環構造を形成していてもよい。このような環状ケトンの具体例としては、シクロペンタノン、シクロヘキサノンが挙げられる。好ましいケトンは、アセトン又はメチルエチルケトンである。
製造コストをより低減でき、かつ蒸留による回収のしやすさの観点から、アセトンを第2溶媒として使用することが好ましい。
紡糸原液における第2溶媒の含有量は、溶解するタンパク質100質量部に対して、1〜90質量部であってもよい。また、第2溶媒の含有量は、溶解するタンパク質100質量部に対して、1質量部以上、5質量部以上、10質量部以上、20質量部以上、30質量部以上、40質量部以上、50質量部以上、60質量部以上、70質量部以上、又は80質量部以上であってもよく、90質量部以下、80質量部以下、70質量部以下、60質量部以下、50質量部以下、40質量部以下、30質量部以下、20質量部以下、10質量部以下、又は5質量部以下であってもよい。第2溶媒の含有量は、溶解するタンパク質100質量部に対して、好ましくは1〜50質量部、より好ましくは1〜40質量部、更に好ましくは5〜40質量部、更により好ましくは5〜30質量部、更によりまた好ましくは5〜20質量部である。第2溶媒の含有量が、上述の範囲内である場合、タンパク質繊維の応力がより一層大きくなり、延伸安定性がよりよくなる。なお、本明細書における応力とは、タンパク質繊維が繊維軸方向の引張外力により破断するまでの最大荷重を、タンパク質繊維の9000mあたりの質量で除した値(単位:g/D)を意味する。
紡糸原液は、溶解促進剤を更に含有していてもよい。紡糸原液が溶解促進剤を含有することにより、タンパク質をより容易に、かつより多量に溶解させることができる。特に、第1溶媒が水である場合、紡糸原液は溶解促進剤を含有する。
溶解促進剤は、タンパク質及び溶解溶媒の種類等に応じて、適宜選択することができる。溶解促進剤は、例えば、以下に示すルイス酸とルイス塩基とからなる無機塩であってよい。ルイス塩基としては、例えば、オキソ酸イオン(硝酸イオン、過塩素酸イオン等)、金属オキソ酸イオン(過マンガン酸イオン等)、ハロゲン化物イオン、チオシアン酸イオン、シアン酸イオン等が挙げられる。ルイス酸としては、例えば、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン等の金属イオン、アンモニウムイオン等の多原子イオン、錯イオン等が挙げられる。溶解溶媒が有機溶媒である場合、無機塩としては、例えば、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、硝酸リチウム、過塩素酸リチウム、及びチオシアン酸リチウム等のリチウム塩、塩化カルシウム、臭化カルシウム、ヨウ化カルシウム、硝酸カルシウム、過塩素酸カルシウム、及びチオシアン酸カルシウム等のカルシウム塩、塩化鉄、臭化鉄、ヨウ化鉄、硝酸鉄、過塩素酸鉄、及びチオシアン酸鉄等の鉄塩、並びに、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、ヨウ化アルミニウム、硝酸アルミニウム、過塩素酸アルミニウム、及びチオシアン酸アルミニウム等のアルミニウム塩、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、硝酸カリウム、過塩素酸カリウム、及びチオシアン酸カリウム等のカリウム塩、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、硝酸ナトリウム、過塩素酸ナトリウム、及びチオシアン酸ナトリウム等のナトリウム塩、塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛、硝酸亜鉛、過塩素酸亜鉛、及びチオシアン酸亜鉛等の亜鉛塩、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム、硝酸マグネシウム、過塩素酸マグネシウム、及びチオシアン酸マグネシウム等のマグネシウム塩、塩化バリウム、臭化バリウム、ヨウ化バリウム、硝酸バリウム、過塩素酸バリウム、及びチオシアン酸バリウム等のバリウム塩、塩化ストロンチウム、臭化ストロンチウム、ヨウ化ストロンチウム、硝酸ストロンチウム、過塩素酸ストロンチウム、及びチオシアン酸ストロンチウム等のストロンチウム塩などが挙げられる。これらの無機塩は、溶解溶媒に対するタンパク質の溶解促進剤として用いられる。紡糸原液が溶解促進剤(上記の無機塩)を含有することにより、タンパク質が紡糸原液中に高い濃度で溶解可能となる。これにより、タンパク質繊維の生産効率がより一層向上し、かつタンパク質繊維の高品質化と応力等の物性の向上等が期待される。無機塩は、塩化リチウム及び塩化カルシウムからなる群より選択される少なくとも1種であってよい。溶解促進剤は、1種単独、又は2種以上を組み合わせて用いたものであってよい。
溶解促進剤の含有量は、紡糸原液の全質量に対して、0.1質量%以上、1質量%以上、4質量%以上、7質量%以上、10質量%以上、又は15質量%以上であってよく、20質量%以下、16質量%以下、12質量%以下、又は9質量%以下であってよい。
紡糸原液は、必要に応じて、各種の添加剤を更に含有していてよい。添加剤としては、例えば、可塑剤、レベリング剤、架橋剤、結晶核剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤、フィラー、合成樹脂が挙げられる。添加剤の含有量は、紡糸原液中のタンパク質全量100質量部に対して、50質量部以下であってよい。
<タンパク質繊維の製造方法>
本実施形態に係るタンパク質繊維の製造方法は、上述の紡糸原液を、第3溶媒及び任意に溶解促進剤を含有する凝固浴液に導入して、タンパク質を凝固させる工程(紡糸工程)を含む。本実施形態に係るタンパク質繊維の製造方法は、湿式紡糸、乾湿式紡糸等の公知の紡糸方法に準じて実施することができる。
<紡糸工程>
紡糸工程では、紡糸原液を凝固浴液に接触させ、タンパク質を凝固させる。紡糸工程を含め、本実施形態のタンパク質繊維の製造方法は、例えば、図1に示す紡糸装置を使用して実施することができる。
図1は、タンパク質繊維を製造するための紡糸装置の一例を概略的に示す説明図である。図1に示す紡糸装置10は、乾湿式紡糸用の紡糸装置の一例であり、押出し装置1と、凝固浴槽20と、洗浄浴槽(延伸浴槽)21と、乾燥装置4とを上流側から順に有している。
押出し装置1は貯槽7を有しており、ここに紡糸原液(ドープ液)6が貯留される。凝固浴槽20に凝固浴液11が貯留される。紡糸原液6は、上述したタンパク質を溶解溶媒に溶解させて得られる。紡糸原液6は、貯槽7の下端部に取り付けられたギアポンプ8により、凝固浴液11との間にエアギャップ19を開けて設けられたノズル9から押し出される。押し出された紡糸原液6は、エアギャップ19を経て、凝固浴槽20の凝固浴液11内に供給(導入)される。凝固浴液11内で紡糸原液から溶媒が除去されてタンパク質が凝固する。凝固したタンパク質は、洗浄浴槽21に導かれ、洗浄浴槽21内の洗浄液12により洗浄された後、洗浄浴槽21内に設置された第一ニップローラ13と第二ニップローラ14により、乾燥装置4へと送られる。このとき、例えば、第二ニップローラ14の回転速度を第一ニップローラ13の回転速度よりも速く設定すると、回転速度比に応じた倍率で延伸されたタンパク質繊維36が得られる。洗浄液12中で延伸されたタンパク質繊維は、洗浄浴槽21内を離脱してから、乾燥装置4内を通過する際に乾燥され、その後、ワインダーにて巻き取られる。このようにして、タンパク質繊維が、紡糸装置10により、最終的にワインダーに巻き取られた巻回物5として得られる。なお、18a〜18gは糸ガイドである。
凝固浴液11は、第3溶媒を含有する。第3溶媒として、第2溶媒で定義した溶媒を使用できる。第2溶媒と第3溶媒は、互いに同じものであってもよく、異なっていてもよい。凝固浴液11は、適宜水を含んでいてもよい。
第3溶媒の含有量は、凝固浴液の全質量に対して、60質量%以上であるのが好ましく、70質量%以上であるのがより好ましく、80質量%以上であるのが更に好ましく、90質量%以上であるのが更により好ましく、95質量%以上であるのが特に好ましい。凝固浴液11は、第2溶媒のみからなるものであってもよい。
凝固浴液11が水を含む場合、水の含有量は、凝固浴液の全質量に対して、30質量%以下であるのが好ましい。水の含有量は、凝固浴液の全質量に対して、20質量%以下であってもよく、10質量%以下であってもよい。
凝固浴液11は、溶解促進剤を更に含んでもよい。凝固浴液における溶解促進剤は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いたものであってもよい。
凝固浴液11の温度は、特に限定されないが、40℃以下、30℃以下、25℃以下、20℃以下、10℃以下、又は5℃以下であってよい。凝固浴液11の温度は、特に限定されないが、−30℃以上、−20℃以上、又は−10℃以上であってよく、作業性、冷却コスト等の観点から、0℃以上であることが好ましい。凝固浴液11の温度が上記範囲内であれば、ボイドの発生が充分に抑制され、タンパク質繊維の応力がより増大し、かつ所望のタンパク質繊維を安定供給しやすくなる。なお、凝固浴液11の温度は、例えば、熱交換器を内部に備える凝固浴槽20と、冷却循環装置と、を有する紡糸装置10を用いることにより調整することができる。例えば、凝固浴槽20内に設置した熱交換器に冷却循環装置で所定の温度まで冷却した媒体を流すことにより、凝固浴液11と熱交換器間での熱交換により温度を上記範囲内に調整することができる。この場合、媒体として凝固浴液11に用いる溶媒(例えば、メタノール)を循環することでより効率的な冷却が可能となる。
凝固浴液11が貯留される凝固浴槽20は複数設けられていてもよい。この場合、ノズル9から押し出された紡糸原液6が直接供給(導入)される凝固浴槽20の凝固浴液(第1凝固浴液)が、第3溶媒を含有していればよい。すなわち、凝固浴液11が貯留される凝固浴槽20は複数設けられている場合、第1凝固浴液以外の凝固浴液(他の凝固浴液)は、第3溶媒を含有していなくてもよい。他の凝固浴液の温度は、40℃以下、30℃以下、25℃以下、20℃以下、10℃以下、又は5℃以下であってもよく、0℃以上、又は40℃超であってもよい。作業性、冷却コスト等の観点から、凝固浴液の温度は0℃以上であることが好ましい。なお、凝固浴液11の温度は、例えば、熱交換器を内部に備える凝固浴槽20と、冷却循環装置と、を有する紡糸装置10を用いることにより調整することができる。例えば、凝固浴槽20内に設置した熱交換器に冷却循環装置で所定の温度まで冷却した媒体を流すことにより、凝固浴液11と熱交換器間での熱交換により温度を上記範囲内に調整することができる。この場合、媒体として凝固浴液11に用いる溶媒を循環することでより効率的な冷却が可能となる。
凝固したタンパク質は、凝固浴槽又は洗浄浴槽を離脱してから、そのままワインダーにて巻き取られてもよいし、乾燥装置を通過し、乾燥され、その後、ワインダーにて巻き取られてもよい。
凝固したタンパク質が凝固浴液11中を通過する距離(実質的には、糸ガイド18aから糸ガイド18bまでの距離)は、脱溶媒が効率的に行えるよく、ノズル9からの紡糸原液の押出速度(吐出速度)等に応じて決定されるものであってよい。凝固したタンパク質(又は紡糸原液)の凝固浴液11中での滞留時間は、凝固したタンパク質が凝固浴液11中を通過する距離、ノズル9からの紡糸原液6の押出速度等に応じて決定されるものであってよい。滞留時間は、例えば、0.01〜3分であってよく、0.05〜0.15分であることが好ましい。また、凝固浴液11中で延伸(前延伸)をしてもよい。
<延伸工程>
本実施形態のタンパク質繊維の製造方法は、凝固させたタンパク質を延伸する工程(延伸工程)を更に含むものであってよい。延伸工程は、例えば、凝固浴槽20内で実施してもよく、洗浄浴槽21内で実施してもよい。延伸工程はまた、空気中で実施することもできる。
洗浄浴槽21内で実施される延伸は、温水中、温水に有機溶剤等を加えた溶液中等で行う、いわゆる湿熱延伸であってもよい。湿熱延伸の温度は50〜90℃であることが好ましい。該温度が50℃以上であると、糸の細孔径を安定的に小さくすることができる。また、温度が90℃以下であると、温度設定が容易であり紡糸安定性が向上する。温度は75〜85℃がより好ましい。
延伸工程における凝固させたタンパク質の延伸倍率が高いほど、槽内で走行する糸が弛まずに安定することから、隣接して走行する糸に干渉することなく工程通過性が向上する。なお、本実施形態のタンパク質繊維の製造方法では、最大延伸倍率を向上することができ、延伸倍率を制御する範囲が広げられるため、タンパク質繊維の繊維径を制御することができる。
最終的な延伸倍率は、その下限値が、未延伸糸(又は前延伸糸)に対して、好ましくは、5倍以上、6倍以上、7倍以上、8倍以上、9倍以上のうちのいずれかであり、上限値が、好ましくは40倍以下、30倍以下、20倍以下、15倍以下、14倍以下、13倍以下、12倍以下、11倍以下、10倍以下である。
乾燥及び/又は脱溶媒後の未延伸糸は、水中で延伸をしてもよく、2段以上の多段延伸をしてもよい。水中延伸は、20〜90℃の水温で行われることが好ましい。延伸後の糸は、50〜200℃の乾熱で5〜600秒間熱固定することが好ましい。この熱固定により、常温における寸法安定性が得られる。
なお、タンパク質繊維を得る際に洗浄浴槽21内で実施される延伸は、温水中、温水に有機溶剤等を加えた溶液中等で行う、いわゆる湿熱延伸であってもよい。この湿熱延伸の温度としては、例えば、50〜90℃であってよく、75〜85℃が好ましい。湿熱延伸では、未延伸糸(又は前延伸糸)を、例えば、1〜10倍延伸することができる。
また、本発明は、タンパク質及び第1溶媒を含有する紡糸原液を、第2溶媒を含有する凝固浴液に導入して、タンパク質を凝固させる工程を含む、タンパク質繊維の製造方法であって、紡糸原液に含まれるタンパク質の平均粒子径が4〜15nmである、タンパク質繊維の製造方法という他の側面も備える。
紡糸原液において、タンパク質は、その平均粒子径が4〜15nmの大きさで分散している。タンパク質の平均粒子径は、4〜13nmであることが好ましく、4〜10nmであることがより好ましく、4〜8nmであることが特に好ましい。タンパク質の平均粒子径が上記範囲であると、凝固後、延伸させて得られるタンパク質繊維の応力がより高くなり、タフネスも向上する。
タンパク質の平均粒子径を上記範囲内となるように調整する手段としては、例えば、紡糸原液に特定の量の第2溶媒を添加する方法が挙げられる。第1溶媒、第2溶媒の各定義は、上述のとおりである。
紡糸原液中のタンパク質の平均粒子径は、粒度分布の平均値である。本発明において、粒子径は、例えば、特定の粒子形状と特定の物理的な条件を仮定したときに導かれる物理学的法則を用いて測定した量に基づいて、算出されたものであってもよい。例えば、動的光散乱(光子相関法)を用いて、粒子に光を照射した時に得られる散乱光が示す揺らぎを光子相関法で解析することにより、粒子径や粒度分布を求めてもよい。タンパク質の平均粒子径は、ダイナミック光散乱光度計DLS−8000(商品名、大塚電子株式会社製)を用いた動的光散乱によって粒子径分布を測定し、散乱光強度基準の平均粒子径を算出することができる。
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
1.クモ糸タンパク質(クモ糸フィブロイン:PRT799)の製造
(1)クモ糸タンパク質をコードする遺伝子の合成、及び発現ベクターの構築
ネフィラ・クラビペス(Nephila clavipes)由来のフィブロイン(GenBankアクセッション番号:P46804.1、GI:1174415)の塩基配列及びアミノ酸配列に基づき、配列番号12で示されるアミノ酸配列を有する改変フィブロイン(以下、「PRT799」ともいう。)を設計した。
配列番号10で示されるアミノ酸配列は、ネフィラ・クラビペス由来のフィブロインのアミノ酸配列に対して、生産性の向上を目的としてアミノ酸残基の置換、挿入及び欠失を施したアミノ酸配列と、そのN末端に付加された配列番号11で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列を含むアミノ酸配)とを有する。配列番号12で示されるアミノ酸配列(PRT799)は、配列番号10で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号6で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含むアミノ酸配列)を付加したものである。
設計したPRT799をコードする核酸を合成した。当該核酸には、5’末端にNdeIサイト及び終止コドン下流にEcoRIサイトを付加した。当該核酸をクローニングベクター(pUC118)にクローニングした。その後、同核酸をNdeI及びEcoRIで制限酵素処理して切り出した後、タンパク質発現ベクターpET−22b(+)に組換えて発現ベクターを得た。
得られたpET22b(+)発現ベクターによって、大腸菌BLR(DE3)を形質転換した。当該形質転換大腸菌を、アンピシリンを含む2mLのLB培地で15時間培養した。当該培養液を、アンピシリンを含む100mLのシード培養用培地(表1)にOD600が0.005となるように添加した。培養液温度を30℃に保ち、OD600が5になるまで約15時間、フラスコ培養を行って、シード培養液を得た。
Figure 2022001669
当該シード培養液を500mlの生産培地(表2)を添加したジャーファーメンターにOD600が0.05となるように添加した。培養液温度を37℃に保ち、pH6.9で一定に制御して培養した。また培養液中の溶存酸素濃度を、溶存酸素飽和濃度の20%に維持した。
Figure 2022001669
生産培地中のグルコースが完全に消費された直後に、フィード液(グルコース455g/1L、Yeast Extract 120g/1L)を1mL/分の速度で添加した。培養液温度を37℃に保ち、pH6.9で一定に制御して培養した。培養液中の溶存酸素濃度を、溶存酸素飽和濃度の20%に維持しながら、20時間培養を行った。その後、1Mのイソプロピル−β−チオガラクトピラノシド(IPTG)を培養液に対して終濃度1mMになるよう添加し、PRT799を発現誘導させた。IPTG添加後20時間経過した時点で、培養液を遠心分離し、菌体を回収した。IPTG添加前とIPTG添加後の培養液から調製した菌体を用いてSDS−PAGEを行い、IPTG添加に依存したPRT799に相当するサイズのバンドの出現により、PRT799の発現を確認した。
(2)クモ糸フィブロインの精製
IPTGを添加してから2時間後に回収した菌体を20mM Tris−HCl buffer(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の菌体を約1mMのPMSFを含む20mM Tris−HCl緩衝液(pH7.4)に懸濁させ、高圧ホモジナイザー(GEA Niro Soavi社)で細胞を破砕した。破砕した細胞を遠心分離し、沈殿物を得た。得られた沈殿物を、高純度になるまで20mM Tris−HCl緩衝液(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の沈殿物を100mg/mLの濃度になるように8M グアニジン緩衝液(8M グアニジン塩酸塩、10mM リン酸二水素ナトリウム、20mM NaCl、1mM Tris−HCl、pH7.0)で懸濁し、60℃で30分間、スターラーで撹拌し、溶解させた。溶解後、透析チューブ(三光純薬株式会社製のセルロースチューブ36/32)を用いて水で透析を行った。透析後に得られた白色の凝集タンパク質(PRT799)を遠心分離により回収した。回収した凝集タンパク質から凍結乾燥機で水分を除き、PRT799の凍結乾燥粉末を得た。
2.タンパク質繊維の製造
(1)紡糸原液の調製
改変フィブロイン(PRT799)の凍結乾燥粉末24質量%と、第1溶媒としてのギ酸(純度98%)76質量%とを混合し、40℃のアルミブロックヒーターで12時間加温し、PRT799が溶解した溶液を得た。得られた溶液の温度が23℃になるまで冷ました後、下記の質量比となるように第2溶媒を溶液に添加した。
(a)PRT799:第2溶媒=100:5
(b)PRT799:第2溶媒=100:10
(c)PRT799:第2溶媒=100:20
すなわち、紡糸原液における第2溶媒の含有量は、それぞれ(a)5w/w%、(b)10w/w%、(c)20w/w%である。
10〜12時間混合した後、目開き1μmの金属フィルターで濾過し、脱泡して、濃度の異なる3種類の紡糸原液(ドープ液)を調製した。
(2)紡糸
卓上の紡糸装置を用いて湿式紡糸を行なった。調製した紡糸原液をリザーブタンクに充填した。不活性ガス(窒素)を用いて、内径20μmの孔径のノズルから紡糸原液を吐出し、100質量%エタノール凝固浴槽中へ吐出させた。タンパク質が凝固した後、凝固浴槽中で延伸を行った。ついで、メタノール洗浄浴、水洗浄浴で順次洗浄及び延伸した後、乾熱板を用いて乾燥させ、タンパク質繊維(原糸)を得て、これを巻き取った。
湿式紡糸の条件は以下のとおりである。
吐出圧:0.5bar
凝固浴延伸倍率:0倍
水洗浄浴延伸倍率:7〜10倍
凝固浴液の温度:5℃
乾燥温度:60℃
(3)延伸と物性測定
光学顕微鏡を用いて繊維の直径を求めた。
温度:25℃、相対湿度:60%RHの雰囲気温度で、引張り試験機(島津社製小型卓上試験機EZ−S)を用いて、タンパク質繊維の応力を測定し、タフネスを算出した。サンプルは厚紙で型枠を作製したものに貼り付け、つかみ具間距離は20mm、引張り速度は10mm/minで行った。ロードセル容量1N、つかみ冶具はクリップ式とした。測定値はサンプル数n=5の平均値とした。
タフネスは、以下の式に基づいて算出した。
[E/(r×π×L)×1000](単位:MJ/m
但し、
E 破壊エネルギー(単位:J)
r 繊維の半径(単位:mm)
π 円周率
L 引張り試験測定時のつかみ具間距離:20mm
得られた各タンパク質繊維の応力(MPa)、タフネス(MJ/m)、巻き取り時間の評価結果を以下に示す。なお、表3〜5中、「第2溶媒の含有量」は、紡糸原液に含まれるタンパク質を100質量部としたときの第2溶媒の含有量(質量部)を意味する。
Figure 2022001669

(第2溶媒:エタノール、第3溶媒:エタノール)
表3中、応力及びタフネスは、対応する比較例の数値を100%としたときの相対値で示す。また、比較例2及び3は延伸できなかったため、実施例2a、2b、3の応力及びタフネスは、比較例1の数値を100%としたときの相対値で示した。第2溶媒としてエタノールを用いて、第2溶媒を紡糸原液に添加した場合と添加しない場合について、3種類の延伸倍率の条件で延伸を行った。延伸倍率が7.8倍の場合では、実施例1で得られたタンパク質繊維は、比較例2で得られたタンパク質繊維に比べて、応力が大きく、巻き取り時間も長くなった。また、延伸倍率が8.2倍又は8.5倍の場合では、比較例2及び3では延伸ができなかった。これに対し、実施例2a、2b、3の方法では、高い応力及びタフネスを有するタンパク質繊維が得られた。
Figure 2022001669

(第2溶媒:メタノール、第3溶媒、メタノール)
表4中、応力及びタフネスは、対応する比較例の数値を100%としたときの相対値で示す。また、比較例5は延伸できなかったため、実施例4及び5の応力及びタフネスは、比較例4の数値を100%としたときの相対値で示した。第2溶媒としてメタノールを用いて、同様に延伸を行い、得られたタンパク質繊維の物性を評価した。実施例4で得られたタンパク質繊維は、比較例4で得られたタンパク質繊維と比べて、より細く、応力及びタフネスが優れていた。また、延伸倍率が9.0である条件では、比較例5では延伸ができなかった。一方、実施例5の方法では、高い応力及びタフネスを有するタンパク質繊維が得られた。
Figure 2022001669

(第2溶媒:アセトン、第3溶媒:アセトン)
表5中、応力及びタフネスは、対応する比較例の数値を100%としたときの相対値で示す。第2溶媒としてアセトンを用いて、同様に延伸を行い、得られたタンパク質繊維の物性を評価した。実施例6、7で得られたタンパク質繊維は、それぞれ比較例6、7で得られたタンパク質繊維と比べて、応力及びタフネスが優れていた。
(4)紡糸原液中のタンパク質粒子の粒子径測定
改変フィブロイン(PRT799)の凍結乾燥粉末24質量%と、第1溶媒(ギ酸)と、第2溶媒(エタノール)とを表6に記載の質量比で混合した後、40℃のアルミブロックヒーターで12時間加温し、PRT799が溶解した紡糸原液1〜3を得た。
Figure 2022001669
得られた紡糸原液1〜3中に分散しているタンパク質(PRT799)の平均粒子径を、ダイナミック光散乱光度計DLS−8000(商品名、大塚電子株式会社製)を用いて測定した。各紡糸原液中の平均粒子径を表7に示す。
Figure 2022001669
1…押出し装置、2…未延伸糸製造装置、3…湿熱延伸装置、4…乾燥装置、6…紡糸原液、10…紡糸装置、20…凝固浴槽、21…洗浄浴槽、36…タンパク質繊維。

Claims (6)

  1. タンパク質、第1溶媒、第2溶媒及び任意に溶解促進剤を含有する紡糸原液を、第3溶媒及び任意に溶解促進剤を含有する凝固浴液に導入して、前記タンパク質を凝固させる工程を含み、
    前記第2溶媒が、低級アルコール、ケトン及び水からなる群より選択される少なくとも1種である、タンパク質繊維の製造方法。
  2. 前記第3溶媒が、低級アルコール、ケトン及び水からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の方法。
  3. 前記第1溶媒が、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサフルオロイソプロパノール、ヘキサフルオロアセトン、ギ酸及び水からなる群より選択される少なくとも1種であり、
    ただし、前記第1溶媒が水であるとき、前記紡糸原液は前記溶解促進剤を含有する、請求項1又は2に記載の方法。
  4. 前記タンパク質が、構造タンパク質である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
  5. 前記構造タンパク質が、フィブロインである、請求項4に記載の方法。
  6. 前記フィブロインが、クモ糸フィブロインである、請求項5に記載の方法。
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