JP2021055197A - タンパク質繊維の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】本発明は、延伸安定性に優れたタンパク質繊維の製造方法を提供することを目的とする。【解決手段】本発明のタンパク質繊維の製造方法は、クモ糸タンパク質及び溶媒を含有する紡糸原液を凝固液に接触させ、前記クモ糸タンパク質を凝固させる工程を含み、前記溶媒がギ酸を含有し、前記凝固液が低級アルコール及び水を含有し、前記凝固液中の前記水の含有量が、前記凝固液の全量に対して1体積%以上、10体積%未満である。【選択図】なし
Description
本発明は、タンパク質繊維の製造方法に関する。
従来から、人造繊維の製造方法として、ノズルから吐出させた紡糸原液を凝固液中で凝固させて繊維を形成する湿式紡糸法及び乾湿式紡糸法が知られている。湿式紡糸法及び乾湿式紡糸法は、タンパク質を主成分として含むタンパク質繊維を製造する際にも利用されている(例えば、特許文献1参照)。
湿式紡糸法及び乾湿式紡糸法等によってタンパク質繊維を製造する方法として、タンパク質を溶媒に溶解させたタンパク質溶液をドープ液(紡糸原液)として使用し、ドープ液を口金から脱溶媒槽中の凝固液に押し出し、ドープ液から溶媒を脱離させるとともに繊維形成して未延伸糸とし、タンパク質繊維を得ることが知られている(例えば、特許文献2参照)。
タンパク質を溶解する溶媒としては、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド及びギ酸等が知られている。また、湿式紡糸法及び乾湿式紡糸法によるタンパク質繊維の製造の際、溶媒を除去し、繊維形成させるためにメタノール、エタノール、2−プロパノール等の低級アルコールが凝固液として汎用されている。例えば、非特許文献1及び非特許文献2には、再生絹フィブロインをギ酸に溶解し、メタノールの凝固液に導入し、良好な凝固及び繊維形成能が得られたことが記載されている。
Int.J.Biol.Macromol.,41巻,2007年,pp.168−172
Int.J.Biol.Macromol.,34巻,2004年,pp.89−105
一般的に、未延伸糸は、繊維を構成する分子の配列が整っておらず、その強度及び物性が一定となりにくい。そこで、延伸を行うことにより、糸に適度な強度及び性能を付与することが可能である。例えば、タンパク質繊維を延伸する際、その延伸倍率がより高くなるほど、延伸応力はより大きくなる。
しかし、延伸時の延伸応力が高くなると、延伸製糸時にタンパク質繊維が破断を生じやすくなる。そこで、本発明の目的は、延伸安定性に優れたタンパク質繊維の製造方法を提供することにある。
本発明者らは、クモ糸タンパク質及び溶媒を含有する紡糸原液を凝固液に接触させ、クモ糸タンパク質を凝固させる工程を含むタンパク質繊維の製造方法において、溶媒がギ酸を含有し、凝固液が低級アルコール及び水を含有し、凝固液中の水の含有量が凝固液の全量に対して、1体積%以上、10体積%未満である条件において、上述の目的を達成することができることを見出した。本発明はこの新規な知見に基づく。
本発明は、例えば、以下の各発明に関する。
[1]
クモ糸タンパク質及び溶媒を含有する紡糸原液を凝固液に接触させ、前記クモ糸タンパク質を凝固させる工程を含み、
前記溶媒がギ酸を含有し、
前記凝固液が低級アルコール及び水を含有し、
前記凝固液中の前記水の含有量が、前記凝固液の全量に対して1体積%以上、10体積%未満である、タンパク質繊維の製造方法。
[2]
前記凝固液において、前記低級アルコールに対する前記水の体積比が0.01以上、0.11未満である、[1]に記載の製造方法タンパク質繊維の製造方法。
[3]
前記凝固液中の前記低級アルコールの含有量が、前記凝固液の全量に対して80体積%以上である、[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4]
前記低級アルコールがエタノールである、[1]〜[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]
凝固させたクモ糸タンパク質を延伸する工程を更に含む、[1]〜[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6]
得られるタンパク質繊維の繊維直径が35μm以下、繊維直径の変動係数が3.1%以下である、[1]〜[5]のいずれかに記載の製造方法。
[1]
クモ糸タンパク質及び溶媒を含有する紡糸原液を凝固液に接触させ、前記クモ糸タンパク質を凝固させる工程を含み、
前記溶媒がギ酸を含有し、
前記凝固液が低級アルコール及び水を含有し、
前記凝固液中の前記水の含有量が、前記凝固液の全量に対して1体積%以上、10体積%未満である、タンパク質繊維の製造方法。
[2]
前記凝固液において、前記低級アルコールに対する前記水の体積比が0.01以上、0.11未満である、[1]に記載の製造方法タンパク質繊維の製造方法。
[3]
前記凝固液中の前記低級アルコールの含有量が、前記凝固液の全量に対して80体積%以上である、[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4]
前記低級アルコールがエタノールである、[1]〜[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]
凝固させたクモ糸タンパク質を延伸する工程を更に含む、[1]〜[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6]
得られるタンパク質繊維の繊維直径が35μm以下、繊維直径の変動係数が3.1%以下である、[1]〜[5]のいずれかに記載の製造方法。
本発明のタンパク質繊維の製造方法によれば、延伸安定性に優れたタンパク質繊維の製造方法を提供でき、それによって従来の紡糸法と比べて、ノズルとローラー間で引き取り可能な最大延伸倍率が上がるため、より高速な製糸条件を採用することもできる。また、本発明のタンパク質繊維の製造方法により、より細いタンパク質繊維を提供することができる。さらに、本発明に係るタンパク質繊維は、より小さい繊維径の変動係数を有し、すなわち、本発明のタンパク質繊維の物性の相対的なばらつきが小さく、品質安定性に極めて優れている。
以下、場合により図面を参照しつつ、本発明を実施するための形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
〔タンパク質繊維の製造方法〕
本実施形態のタンパク質繊維の製造方法は、クモ糸タンパク質及び溶媒を含有する紡糸原液を凝固液に接触させ、前記クモ糸タンパク質を凝固させる工程を含み、溶媒がギ酸を含有し、凝固液が、低級アルコール及び水を含有し、凝固液中の水の含有量が凝固液の全量に対して、1体積%以上、10体積%未満である。本実施形態のタンパク質繊維の製造方法は、湿式紡糸、乾湿式紡糸等の公知の紡糸方法に準じて実施することができる。
本実施形態のタンパク質繊維の製造方法は、クモ糸タンパク質及び溶媒を含有する紡糸原液を凝固液に接触させ、前記クモ糸タンパク質を凝固させる工程を含み、溶媒がギ酸を含有し、凝固液が、低級アルコール及び水を含有し、凝固液中の水の含有量が凝固液の全量に対して、1体積%以上、10体積%未満である。本実施形態のタンパク質繊維の製造方法は、湿式紡糸、乾湿式紡糸等の公知の紡糸方法に準じて実施することができる。
<紡糸原液>
本発明の製造方法で使用する紡糸原液(ドープ液)は、クモ糸タンパク質及び溶媒を含有する。
本発明の製造方法で使用する紡糸原液(ドープ液)は、クモ糸タンパク質及び溶媒を含有する。
(クモ糸タンパク質)
原料となるクモ糸タンパク質は、特に限定されるものではなく、遺伝子組換え技術により微生物等で製造したタンパク質であってもよく、合成により製造されたタンパク質であってもよく、また天然由来のタンパク質であってもよい。
原料となるクモ糸タンパク質は、特に限定されるものではなく、遺伝子組換え技術により微生物等で製造したタンパク質であってもよく、合成により製造されたタンパク質であってもよく、また天然由来のタンパク質であってもよい。
本実施形態のクモ糸タンパク質は、天然由来のクモ糸タンパク質と人造クモ糸タンパク質(以下、「人造フィブロイン」ともいう。)とを含む。本明細書において「天然由来のクモ糸タンパク質」とは、天然由来のクモ糸タンパク質(クモ類フィブロイン等)と同一のアミノ酸配列を有する、天然由来のクモ糸タンパク質を精製したものを意味し、「人造クモ糸タンパク質」又は「人造フィブロイン」とは、遺伝子組換え技術により微生物等により製造されたものであってもよく、化学的に合成されたものであってもよく、天然由来のクモ糸タンパク質とは異なるアミノ酸配列を有するクモ糸タンパク質であってもよい。
天然由来のクモ糸タンパク質としては、例えば、大吐糸管しおり糸タンパク質、横糸タンパク質、及び小瓶状腺タンパク質等のクモ類が産生するクモ類フィブロインが挙げられる。大吐糸管しおり糸は、結晶領域と非晶領域(無定形領域とも言う。)からなる繰り返し領域を持つため、高い応力と伸縮性を併せ持つ。クモ糸の横糸は、結晶領域を持たず、非晶領域からなる繰り返し領域を持つという特徴を有する。横糸は、大吐糸管しおり糸に比べると応力は劣るが、高い伸縮性を持つ。
大吐糸管しおり糸タンパク質は、クモの大瓶状腺で産生され、強靭性に優れるという特徴を有する。大吐糸管しおり糸タンパク質としては、例えば、アメリカジョロウグモ(Nephila clavipes)に由来する大瓶状腺スピドロインMaSp1及びMaSp2、並びに二ワオニグモ(Araneus diadematus)に由来するADF3及びADF4が挙げられる。ADF3は、ニワオニグモの2つの主要なしおり糸タンパク質の一つである。クモ糸タンパク質は、これらのしおり糸タンパク質に由来するクモ糸タンパク質であってもよい。ADF3に由来するクモ糸タンパク質は、比較的合成し易く、また、強伸度及びタフネスの点で優れた特性を有する。
横糸タンパク質は、クモの鞭毛状腺(flagelliform gland)で産生される。横糸タンパク質としては、例えばアメリカジョロウグモ(Nephila clavipes)に由来する鞭毛状絹タンパク質(flagelliform silk protein)が挙げられる。
クモ類が産生するクモ類フィブロインの更なる例として、例えば、オニグモ、ニワオニグモ、アカオニグモ、アオオニグモ及びマメオニグモ等のオニグモ属(Araneus属)に属するクモ、ヤマシロオニグモ、イエオニグモ、ドヨウオニグモ及びサツマノミダマシ等のヒメオニグモ属(Neoscona属)に属するクモ、コオニグモモドキ等のコオニグモモドキ属(Pronus属)に属するクモ、トリノフンダマシ及びオオトリノフンダマシ等のトリノフンダマシ属(Cyrtarachne属)に属するクモ、トゲグモ及びチブサトゲグモ等のトゲグモ属(Gasteracantha属)に属するクモ、マメイタイセキグモ及びムツトゲイセキグモ等のイセキグモ属(Ordgarius属)に属するクモ、コガネグモ、コガタコガネグモ及びナガコガネグモ等のコガネグモ属(Argiope属)に属するクモ、キジロオヒキグモ等のオヒキグモ属(Arachnura属)に属するクモ、ハツリグモ等のハツリグモ属(Acusilas属)に属するクモ、スズミグモ、キヌアミグモ及びハラビロスズミグモ等のスズミグモ属(Cytophora属)に属するクモ、ゲホウグモ等のゲホウグモ属(Poltys属)に属するクモ、ゴミグモ、ヨツデゴミグモ、マルゴミグモ及びカラスゴミグモ等のゴミグモ属(Cyclosa属)に属するクモ、及びヤマトカナエグモ等のカナエグモ属(Chorizopes属)に属するクモが産生するスパイダーシルクタンパク質、並びにアシナガグモ、ヤサガタアシナガグモ、ハラビロアシダカグモ及びウロコアシナガグモ等のアシナガグモ属(Tetragnatha属)に属するクモ、オオシロカネグモ、チュウガタシロカネグモ及びコシロカネグモ等のシロカネグモ属(Leucauge属)に属するクモ、ジョロウグモ及びオオジョロウグモ等のジョロウグモ属(Nephila属)に属するクモ、キンヨウグモ等のアズミグモ属(Menosira属)に属するクモ、ヒメアシナガグモ等のヒメアシナガグモ属(Dyschiriognatha属)に属するクモ、クロゴケグモ、セアカゴケグモ、ハイイロゴケグモ及びジュウサンボシゴケグモ等のゴケグモ属(Latrodectus属)に属するクモ、及びユープロステノプス属(Euprosthenops属)に属するクモ等のアシナガグモ科(Tetragnathidae科)に属するクモが産生するスパイダーシルクタンパク質が挙げられる。
クモ類が産生するスパイダーシルクタンパク質のより具体的な例としては、例えば、fibroin−3(adf−3)[Araneus diadematus由来](GenBankアクセッション番号AAC47010(アミノ酸配列)、U47855(塩基配列))、fibroin−4(adf−4)[Araneus diadematus由来](GenBankアクセッション番号AAC47011(アミノ酸配列)、U47856(塩基配列))、dragline silk protein spidroin 1[Nephila clavipes由来](GenBankアクセッション番号AAC04504(アミノ酸配列)、U37520(塩基配列))、major ampullate spidroin 1[Latrodectus hesperus由来](GenBankアクセッション番号ABR68856(アミノ酸配列)、EF595246(塩基配列))、dragline silk protein spidroin 2[Nephila clavata由来](GenBankアクセッション番号AAL32472(アミノ酸配列)、AF441245(塩基配列))、major ampullate spidroin 1[Euprosthenops australis由来](GenBankアクセッション番号CAJ00428(アミノ酸配列)、AJ973155(塩基配列))、及びmajor ampullate spidroin 2[Euprosthenops australis](GenBankアクセッション番号CAM32249.1(アミノ酸配列)、AM490169(塩基配列))、minor ampullate silk protein 1[Nephila clavipes](GenBankアクセッション番号AAC14589.1(アミノ酸配列))、minor ampullate silk protein 2[Nephila clavipes](GenBankアクセッション番号AAC14591.1(アミノ酸配列))、minor ampullate spidroin−like protein[Nephilengys cruentata](GenBankアクセッション番号ABR37278.1(アミノ酸配列)等が挙げられる。
本実施形態のクモ糸タンパク質は、例えば、式1:[(A)nモチーフ−REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ−REP]m−(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質であってもよい。本実施形態のクモ糸タンパク質は、ドメイン配列のN末端側及びC末端側のいずれか一方又は両方に更にアミノ酸配列(N末端配列及びC末端配列)が付加されていてもよい。N末端配列及びC末端配列は、これに限定されるものではないが、典型的には、フィブロインに特徴的なアミノ酸モチーフの反復を有さない領域であり、100残基程度のアミノ酸からなる。
本明細書において「ドメイン配列」とは、フィブロイン特有の結晶領域(典型的には、アミノ酸配列の(A)nモチーフに相当する。)と非晶領域(典型的には、アミノ酸配列のREPに相当する。)を生じるアミノ酸配列であり、式1:[(A)nモチーフ−REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ−REP]m−(A)nモチーフで表されるアミノ酸配列を意味する。ここで、(A)nモチーフは、アラニン残基を主とするアミノ酸配列を示し、アミノ酸残基数は2〜27である。(A)nモチーフのアミノ酸残基数は、2〜20、4〜27、4〜20、8〜20、10〜20、4〜16、8〜16、又は10〜16であってもよい。また、(A)nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数の割合は40%以上であればよく、60%以上、70%以上、80%以上、83%以上、85%以上、86%以上、90%以上、95%以上、又は100%(アラニン残基のみで構成されることを意味する。)であってもよい。ドメイン配列中に複数存在する(A)nモチーフは、少なくとも7つがアラニン残基のみで構成されてもよい。REPは2〜200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。REPは、10〜200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列であってもよい。mは2〜300の整数を示し、10〜300、15〜300、20〜300、10〜200、15〜150、20〜100の整数であってもよい。複数存在する(A)nモチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。
人造クモ糸タンパク質は、例えば、天然由来のクモ類フィブロインのアミノ酸配列に依拠してそのアミノ酸配列を改変したもの(例えば、クローニングした天然由来のクモ類フィブロインの遺伝子配列を改変することによりアミノ酸配列を改変したもの)であってもよく、また天然由来のクモ類フィブロインに依らず人工的に設計及び合成したもの(例えば、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより所望のアミノ酸配列を有するもの)であってもよい。天然由来のクモ糸タンパク質とは異なるアミノ酸配列を有する人造クモ糸タンパク質は、改変クモ糸タンパク質(以下、「改変フィブロイン」)ともいう。
改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のクモ類フィブロインの遺伝子配列に対し、例えば、1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行うことで得ることができる。アミノ酸残基の置換、欠失、挿入及び/又は付加は、部分特異的突然変異誘発法等の当業者に周知の方法により行うことができる。具体的には、Nucleic Acid Res.10,6487(1982)、Methods in Enzymology,100,448(1983)等の文献に記載されている方法に準じて行うことができる。
改変フィブロインの具体的な例として、クモの大瓶状腺で産生される大吐糸管しおり糸タンパク質に由来する改変フィブロイン(第1の改変フィブロイン)、グリシン残基の含有量が低減された改変フィブロイン(第2の改変フィブロイン)、(A)nモチーフの含有量が低減された改変フィブロイン(第3の改変フィブロイン)、グリシン残基の含有量、及び(A)nモチーフの含有量が低減された改変フィブロイン(第4の改変フィブロイン)、局所的に疎水性指標の大きい領域を含むドメイン配列を有する改変フィブロイン(第5の改変フィブロイン)、及びグルタミン残基の含有量が低減されたドメイン配列を有する改変フィブロイン(第6の改変フィブロイン)が挙げられる。
クモの大瓶状腺で産生される大吐糸管しおり糸タンパク質に由来する改変フィブロイン(第1の改変フィブロイン)としては、式1:[(A)nモチーフ−REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質が挙げられる。第1の改変フィブロインは、式1中、nは3〜20の整数が好ましく、4〜20の整数がより好ましく、8〜20の整数が更に好ましく、10〜20の整数が更により好ましく、4〜16の整数が更によりまた好ましく、8〜16の整数が特に好ましく、10〜16の整数が最も好ましい。第1の改変フィブロインは、式1中、REPを構成するアミノ酸残基の数は、10〜200残基であることが好ましく、10〜150残基であることがより好ましく、20〜100残基であることが更に好ましく、20〜75残基であることが更により好ましい。第1の改変フィブロインは、式1:[(A)nモチーフ−REP]mで表されるアミノ酸配列中に含まれるグリシン残基、セリン残基及びアラニン残基の合計残基数がアミノ酸残基数全体に対して、40%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、70%以上であることが更に好ましい。
第1の改変フィブロインは、式1:[(A)nモチーフ−REP]mで表されるアミノ酸配列の単位を含み、かつC末端配列が配列番号1〜3のいずれかに示されるアミノ酸配列、又は配列番号1〜3のいずれかに示されるアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列である、タンパク質であってもよい。
配列番号1に示されるアミノ酸配列は、ADF3(GI:1263287、NCBI)のアミノ酸配列のC末端の50残基のアミノ酸からなるアミノ酸配列と同一であり、配列番号2に示されるアミノ酸配列は、配列番号1に示されるアミノ酸配列のC末端から20残基取り除いたアミノ酸配列と同一であり、配列番号3に示されるアミノ酸配列は、配列番号1に示されるアミノ酸配列のC末端から29残基取り除いたアミノ酸配列と同一である。
第1の改変フィブロインのより具体的な例として、(1−i)配列番号4で示されるアミノ酸配列、又は(1−ii)配列番号4で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
配列番号4で示されるアミノ酸配列は、N末端に開始コドン、His10タグ及びHRV3Cプロテアーゼ(Human rhinovirus 3Cプロテアーゼ)認識サイトからなるアミノ酸配列(配列番号5)を付加したADF3のアミノ酸配列において、第1〜13番目の反復領域をおよそ2倍になるように増やすとともに、翻訳が第1154番目アミノ酸残基で終止するように変異させたものである。配列番号4で示されるアミノ酸配列のC末端のアミノ酸配列は、配列番号3で示されるアミノ酸配列と同一である。
(1−i)の改変フィブロインは、配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
グリシン残基の含有量が低減された改変フィブロイン(第2の改変フィブロイン)は、そのドメイン配列が、天然由来のクモ類フィブロインと比較して、グリシン残基の含有量が低減されたアミノ酸配列を有する。第2の改変フィブロインは、天然由来のクモ類フィブロインと比較して、少なくともREP中の1又は複数のグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたことに相当するアミノ酸配列を有するものということができる。
第2の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のクモ類フィブロインと比較して、REP中のGGX及びGPGXX(但し、Gはグリシン残基、Pはプロリン残基、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)から選ばれる少なくとも一つのモチーフ配列において、少なくとも1又は複数の当該モチーフ配列中の1つのグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
第2の改変フィブロインは、上述のグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたモチーフ配列の割合が、全モチーフ配列に対して、10%以上であってもよい。
第2の改変フィブロインは、式1:[(A)nモチーフ−REP]mで表されるドメイン配列を含み、上記ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)nモチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列中の全REPに含まれるXGX(但し、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)からなるアミノ酸配列の総アミノ酸残基数をzとし、上記ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)nモチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列中の総アミノ酸残基数をwとしたときに、z/wが30%以上、40%以上、50%以上又は50.9%以上であるアミノ酸配列を有するものであってもよい。(A)nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数は83%以上であってよいが、86%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが更に好ましく、100%であること(アラニン残基のみで構成されることを意味する)が更により好ましい。
第2の改変フィブロインは、GGXモチーフの1つのグリシン残基を別のアミノ酸残基に置換することにより、XGXからなるアミノ酸配列の含有割合を高めたものであることが好ましい。第2の改変フィブロインは、ドメイン配列中のGGXからなるアミノ酸配列の含有割合が30%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましく、10%以下であることが更に好ましく、6%以下であることが更により好ましく、4%以下であることが更によりまた好ましく、2%以下であることが特に好ましい。ドメイン配列中のGGXからなるアミノ酸配列の含有割合は、下記XGXからなるアミノ酸配列の含有割合(z/w)の算出方法と同様の方法で算出することができる。
z/wの算出方法を更に詳細に説明する。まず、式1:[(A)nモチーフ−REP]mで表されるドメイン配列を含むクモ類フィブロイン(改変フィブロイン又は天然由来のクモ類フィブロイン)において、ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列に含まれる全てのREPから、XGXからなるアミノ酸配列を抽出する。XGXを構成するアミノ酸残基の総数がzである。例えば、XGXからなるアミノ酸配列が50個抽出された場合(重複はなし)、zは50×3=150である。また、例えば、XGXGXからなるアミノ酸配列の場合のように2つのXGXに含まれるX(中央のX)が存在する場合は、重複分を控除して計算する(XGXGXの場合は5アミノ酸残基である)。wは、ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列に含まれる総アミノ酸残基数である。例えば、図1に示したドメイン配列の場合、wは4+50+4+100+4+10+4+20+4+30=230である(最もC末端側に位置する(A)nモチーフは除いている。)。次に、zをwで除すことによって、z/w(%)を算出することができる。
第2の改変フィブロインにおいて、z/wは、50.9%以上であることが好ましく、56.1%以上であることがより好ましく、58.7%以上であることが更に好ましく、70%以上であることが更により好ましく、80%以上であることが更によりまた好ましい。z/wの上限に特に制限はないが、例えば、95%以下であってもよい。
第2の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のクモ類フィブロインの遺伝子配列から、グリシン残基をコードする塩基配列の少なくとも一部を置換して別のアミノ酸残基をコードするように改変することにより得ることができる。このとき、改変するグリシン残基として、GGXモチーフ及びGPGXXモチーフにおける1つのグリシン残基を選択してもよいし、またz/wが50.9%以上になるように置換してもよい。また、例えば、天然由来のクモ類フィブロインのアミノ酸配列から上記態様を満たすアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のクモ類フィブロインのアミノ酸配列からREP中のグリシン残基を別のアミノ酸残基に置換したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行ってもよい。
上記の別のアミノ酸残基としては、グリシン残基以外のアミノ酸残基であれば特に制限はないが、バリン(V)残基、ロイシン(L)残基、イソロイシン(I)残基、メチオニン(M)残基、プロリン(P)残基、フェニルアラニン(F)残基及びトリプトファン(W)残基等の疎水性アミノ酸残基、グルタミン(Q)残基、アスパラギン(N)残基、セリン(S)残基、リシン(K)残基及びグルタミン酸(E)残基等の親水性アミノ酸残基が好ましく、バリン(V)残基、ロイシン(L)残基、イソロイシン(I)残基及びグルタミン(Q)残基がより好ましく、グルタミン(Q)残基が更に好ましい。
第2の改変フィブロインのより具体的な例として、(2−i)配列番号6、配列番号7、配列番号8若しくは配列番号9で示されるアミノ酸配列、又は(2−ii)配列番号6、配列番号7、配列番号8若しくは配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
(2−i)の改変フィブロインについて説明する。配列番号6で示されるアミノ酸配列は、天然由来のクモ類フィブロインに相当する配列番号10で示されるアミノ酸配列のREP中の全てのGGXをGQXに置換したものである。配列番号7で示されるアミノ酸配列は、配列番号6で示されるアミノ酸配列から、N末端側からC末端側に向かって2つおきに(A)nモチーフを欠失させ、更にC末端配列の手前に[(A)nモチーフ−REP]を1つ挿入したものである。配列番号8で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列の各(A)nモチーフのC末端側に2つのアラニン残基を挿入し、更に一部のグルタミン(Q)残基をセリン(S)残基に置換し、配列番号7の分子量とほぼ同じとなるようにN末端側の一部のアミノ酸を欠失させたものである。配列番号9で示されるアミノ酸配列は、配列番号11で示されるアミノ酸配列中に存在する20個のドメイン配列の領域(但し、当該領域のC末端側の数アミノ酸残基が置換されている。)を4回繰り返した配列のC末端にHisタグが付加されたものである。
配列番号10で示されるアミノ酸配列(天然由来のクモ類フィブロインに相当)におけるz/wの値は、46.8%である。配列番号6で示されるアミノ酸配列、配列番号7で示されるアミノ酸配列、配列番号8で示されるアミノ酸配列、及び配列番号9で示されるアミノ酸配列におけるz/wの値は、それぞれ58.7%、70.1%、66.1%及び70.0%である。また、配列番号10、配列番号6、配列番号7、配列番号8及び配列番号9で示されるアミノ酸配列のギザ比率(後述する)1:1.8〜11.3におけるx/yの値は、それぞれ15.0%、15.0%、93.4%、92.7%及び89.3%である。
(2−i)の改変フィブロインは、配列番号6、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
(2−ii)の改変フィブロインは、配列番号6、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(2−ii)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ−REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
(2−ii)の改変フィブロインは、配列番号6、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつREP中に含まれるXGX(但し、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)からなるアミノ酸配列の総アミノ酸残基数をzとし、上記ドメイン配列中のREPの総アミノ酸残基数をwとしたときに、z/wが50.9%以上であることが好ましい。
第2の改変フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方にタグ配列を含んでいてもよい。これにより、改変フィブロインの単離、固定化、検出及び可視化等が可能となる。
タグ配列として、例えば、他の分子との特異的親和性(結合性、アフィニティ)を利用したアフィニティタグを挙げることができる。アフィニティタグの具体例として、ヒスチジンタグ(Hisタグ)を挙げることができる。Hisタグは、ヒスチジン残基が4から10個程度並んだ短いペプチドで、ニッケル等の金属イオンと特異的に結合する性質があるため、金属キレートクロマトグラフィー(chelating metal chromatography)による改変フィブロインの単離に利用することができる。タグ配列の具体例として、例えば、配列番号12で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含むアミノ酸配列)が挙げられる。
また、グルタチオンに特異的に結合するグルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)、マルトースに特異的に結合するマルトース結合タンパク質(MBP)等のタグ配列を利用することもできる。
さらに、抗原抗体反応を利用した「エピトープタグ」を利用することもできる。抗原性を示すペプチド(エピトープ)をタグ配列として付加することにより、当該エピトープに対する抗体を結合させることができる。エピトープタグとして、HA(インフルエンザウイルスのヘマグルチニンのペプチド配列)タグ、mycタグ、FLAGタグ等を挙げることができる。エピトープタグを利用することにより、高い特異性で容易に改変フィブロインを精製することができる。
さらにタグ配列を特定のプロテアーゼで切り離せるようにしたものも使用することができる。当該タグ配列を介して吸着したタンパク質をプロテアーゼ処理することにより、タグ配列を切り離した改変フィブロインを回収することもできる。
タグ配列を含む第2の改変フィブロインのより具体的な例として、(2−iii)配列番号13、配列番号11、配列番号14若しく配列番号15で示されるアミノ酸配列、又は(2−iv)配列番号13、配列番号11、配列番号14若しく配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
配列番号16、配列番号17、配列番号13、配列番号11、配列番号14及び配列番号15で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号10、配列番号18、配列番号6、配列番号7、配列番号8及び配列番号9で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号12で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。
(2−iii)の改変フィブロインは、配列番号13、配列番号11、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
(2−iv)の改変フィブロインは、配列番号13、配列番号11、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(2−iv)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ−REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
(2−iv)の改変フィブロインは、配列番号13、配列番号11、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつREP中に含まれるXGX(但し、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)からなるアミノ酸配列の総アミノ酸残基数をzとし、上記ドメイン配列中のREPの総アミノ酸残基数をwとしたときに、z/wが50.9%以上であることが好ましい。
第2の改変フィブロインは、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
(A)nモチーフの含有量が低減された改変フィブロイン(第3の改変フィブロイン)は、そのドメイン配列が、天然由来のクモ類フィブロインと比較して、(A)nモチーフの含有量が低減されたアミノ酸配列を有する。第3の改変フィブロインのドメイン配列は、天然由来のクモ類フィブロインと比較して、少なくとも1又は複数の(A)nモチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を有するものということができる。
第3の改変フィブロインは、天然由来のクモ類フィブロインから(A)nモチーフを10〜40%欠失させたことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
第3の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のクモ類フィブロインと比較して、少なくともN末端側からC末端側に向かって1〜3つの(A)nモチーフ毎に1つの(A)nモチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
第3の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のクモ類フィブロインと比較して、少なくともN末端側からC末端側に向かって2つ連続した(A)nモチーフの欠失、及び1つの(A)nモチーフの欠失がこの順に繰り返されたことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
第3の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、少なくともN末端側からC末端側に向かって2つおきに(A)nモチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
第3の改変フィブロインは、式1:[(A)nモチーフ−REP]mで表されるドメイン配列を含み、N末端側からC末端側に向かって、隣合う2つの[(A)nモチーフ−REP]ユニットのREPのアミノ酸残基数を順次比較して、アミノ酸残基数が少ないREPのアミノ酸残基数を1としたとき、他方のREPのアミノ酸残基数の比が1.8〜11.3となる隣合う2つの[(A)nモチーフ−REP]ユニットのアミノ酸残基数を足し合わせた合計値の最大値をxとし、ドメイン配列の総アミノ酸残基数をyとしたときに、x/yが20%以上、30%以上、40%以上又は50%以上であるアミノ酸配列を有するものであってもよい。(A)nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数は83%以上であってよいが、86%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが更に好ましく、100%であること(アラニン残基のみで構成されることを意味する)が更により好ましい。
x/yの算出方法を図1を参照しながら更に詳細に説明する。図1には、クモ類フィブロインからN末端配列及びC末端配列を除いたドメイン配列を示す。当該ドメイン配列は、N末端側(左側)から(A)nモチーフ−第1のREP(50アミノ酸残基)−(A)nモチーフ−第2のREP(100アミノ酸残基)−(A)nモチーフ−第3のREP(10アミノ酸残基)−(A)nモチーフ−第4のREP(20アミノ酸残基)−(A)nモチーフ−第5のREP(30アミノ酸残基)−(A)nモチーフという配列を有する。
隣合う2つの[(A)nモチーフ−REP]ユニットは、重複がないように、N末端側からC末端側に向かって、順次選択する。このとき、選択されない[(A)nモチーフ−REP]ユニットが存在してもよい。図1には、パターン1(第1のREPと第2のREPの比較、及び第3のREPと第4のREPの比較)、パターン2(第1のREPと第2のREPの比較、及び第4のREPと第5のREPの比較)、パターン3(第2のREPと第3のREPの比較、及び第4のREPと第5のREPの比較)、パターン4(第1のREPと第2のREPの比較)を示した。なお、これ以外にも選択方法は存在する。
次に各パターンについて、選択した隣合う2つの[(A)nモチーフ−REP]ユニット中の各REPのアミノ酸残基数を比較する。比較は、よりアミノ酸残基数の少ない方を1としたときの、他方のアミノ酸残基数の比を求めることによって行う。例えば、第1のREP(50アミノ酸残基)と第2のREP(100アミノ酸残基)の比較の場合、よりアミノ酸残基数の少ない第1のREPを1としたとき、第2のREPのアミノ酸残基数の比は、100/50=2である。同様に、第4のREP(20アミノ酸残基)と第5のREP(30アミノ酸残基)の比較の場合、よりアミノ酸残基数の少ない第4のREPを1としたとき、第5のREPのアミノ酸残基数の比は、30/20=1.5である。
図1中、よりアミノ酸残基数の少ない方を1としたときに、他方のアミノ酸残基数の比が1.8〜11.3となる[(A)nモチーフ−REP]ユニットの組を実線で示した。以下このような比をギザ比率と呼ぶ。よりアミノ酸残基数の少ない方を1としたときに、他方のアミノ酸残基数の比が1.8未満又は11.3超となる[(A)nモチーフ−REP]ユニットの組は破線で示した。
各パターンにおいて、実線で示した隣合う2つの[(A)nモチーフ−REP]ユニットの全てのアミノ酸残基数を足し合わせる(REPのみではなく、(A)nモチーフのアミノ酸残基数もである。)。そして、足し合わせた合計値を比較して、当該合計値が最大となるパターンの合計値(合計値の最大値)をxとする。図1に示した例では、パターン1の合計値が最大である。
次に、xをドメイン配列の総アミノ酸残基数yで除すことによって、x/y(%)を算出することができる。
第3の改変フィブロインにおいて、x/yは、50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、65%以上であることが更に好ましく、70%以上であることが更により好ましく、75%以上であることが更によりまた好ましく、80%以上であることが特に好ましい。x/yの上限に特に制限はなく、例えば、100%以下であってよい。ギザ比率が1:1.9〜11.3の場合には、x/yは89.6%以上であることが好ましく、ギザ比率が1:1.8〜3.4の場合には、x/yは77.1%以上であることが好ましく、ギザ比率が1:1.9〜8.4の場合には、x/yは75.9%以上であることが好ましく、ギザ比率が1:1.9〜4.1の場合には、x/yは64.2%以上であることが好ましい。
第3の改変フィブロインが、ドメイン配列中に複数存在する(A)nモチーフの少なくとも7つがアラニン残基のみで構成される改変フィブロインである場合、x/yは、46.4%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、55%以上であることが更に好ましく、60%以上であることが更により好ましく、70%以上であることが更によりまた好ましく、80%以上であることが特に好ましい。x/yの上限に特に制限はなく、100%以下であればよい。
第3の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のクモ類フィブロインの遺伝子配列から、x/yが64.2%以上になるように(A)nモチーフをコードする配列の1又は複数を欠失させることにより得ることができる。また、例えば、天然由来のクモ類フィブロインのアミノ酸配列から、x/yが64.2%以上になるように1又は複数の(A)nモチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のクモ類フィブロインのアミノ酸配列から(A)nモチーフが欠失したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行ってもよい。
第3の改変フィブロインのより具体的な例として、(3−i)配列番号18、配列番号7、配列番号8若しくは配列番号9で示されるアミノ酸配列、又は(3−ii)配列番号18、配列番号7、配列番号8若しくは配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
(3−i)の改変フィブロインについて説明する。配列番号18で示されるアミノ酸配列は、天然由来のクモ類フィブロインに相当する配列番号10で示されるアミノ酸配列から、N末端側からC末端側に向かって2つおきに(A)nモチーフを欠失させ、更にC末端配列の手前に[(A)nモチーフ−REP]を1つ挿入したものである。配列番号7で示されるアミノ酸配列は、配列番号18で示されるアミノ酸配列のREP中の全てのGGXをGQXに置換したものである。配列番号8で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列の各(A)nモチーフのC末端側に2つのアラニン残基を挿入し、更に一部のグルタミン(Q)残基をセリン(S)残基に置換し、配列番号7の分子量とほぼ同じとなるようにN末端側の一部のアミノ酸を欠失させたものである。配列番号9で示されるアミノ酸配列は、配列番号11で示されるアミノ酸配列中に存在する20個のドメイン配列の領域(但し、当該領域のC末端側の数アミノ酸残基が置換されている。)を4回繰り返した配列のC末端にHisタグが付加されたものである。
配列番号10で示されるアミノ酸配列(天然由来のクモ類フィブロインに相当)のギザ比率1:1.8〜11.3におけるx/yの値は15.0%である。配列番号18で示されるアミノ酸配列、及び配列番号7で示されるアミノ酸配列におけるx/yの値は、いずれも93.4%である。配列番号8で示されるアミノ酸配列におけるx/yの値は、92.7%である。配列番号9で示されるアミノ酸配列におけるx/yの値は、89.3%である。配列番号10、配列番号18、配列番号7、配列番号8及び配列番号9で示されるアミノ酸配列におけるz/wの値は、それぞれ46.8%、56.2%、70.1%、66.1%及び70.0%である。
(3−i)の改変フィブロインは、配列番号18、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
(3−ii)の改変フィブロインは、配列番号18、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(3−ii)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ−REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
(3−ii)の改変フィブロインは、配列番号18、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつN末端側からC末端側に向かって、隣合う2つの[(A)nモチーフ−REP]ユニットのREPのアミノ酸残基数を順次比較して、アミノ酸残基数が少ないREPのアミノ酸残基数を1としたとき、他方のREPのアミノ酸残基数の比が1.8〜11.3(ギザ比率が1:1.8〜11.3)となる隣合う2つの[(A)nモチーフ−REP]ユニットのアミノ酸残基数を足し合わせた合計値の最大値をxとし、ドメイン配列の総アミノ酸残基数をyとしたときに、x/yが64.2%以上であることが好ましい。
第3の改変フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方に上述したタグ配列を含んでいてもよい。
タグ配列を含む第3の改変フィブロインのより具体的な例として、(3−iii)配列番号17、配列番号11、配列番号14若しくは配列番号15で示されるアミノ酸配列、又は(3−iv)配列番号17、配列番号11、配列番号14若しくは配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
配列番号16、配列番号17、配列番号13、配列番号11、配列番号14及び配列番号15で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号10、配列番号18、配列番号6、配列番号7、配列番号8及び配列番号9で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号12で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。
(3−iii)の改変フィブロインは、配列番号17、配列番号11、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
(3−iv)の改変フィブロインは、配列番号17、配列番号11、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(3−iv)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ−REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
(3−iv)の改変フィブロインは、配列番号17、配列番号11、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつN末端側からC末端側に向かって、隣合う2つの[(A)nモチーフ−REP]ユニットのREPのアミノ酸残基数を順次比較して、アミノ酸残基数が少ないREPのアミノ酸残基数を1としたとき、他方のREPのアミノ酸残基数の比が1.8〜11.3となる隣合う2つの[(A)nモチーフ−REP]ユニットのアミノ酸残基数を足し合わせた合計値の最大値をxとし、ドメイン配列の総アミノ酸残基数をyとしたときに、x/yが64.2%以上であることが好ましい。
第3の改変フィブロインは、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
グリシン残基の含有量、及び(A)nモチーフの含有量が低減された改変フィブロイン(第4の改変フィブロイン)は、そのドメイン配列が、天然由来のクモ類フィブロインと比較して、(A)nモチーフの含有量が低減されたことに加え、グリシン残基の含有量が低減されたアミノ酸配列を有するものである。第4の改変フィブロインのドメイン配列は、天然由来のクモ類フィブロインと比較して、少なくとも1又は複数の(A)nモチーフが欠失したことに加え、更に少なくともREP中の1又は複数のグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたことに相当するアミノ酸配列を有するものということができる。すなわち、第4の改変フィブロインは、上述したグリシン残基の含有量が低減された改変フィブロイン(第2の改変フィブロイン)と、(A)nモチーフの含有量が低減された改変フィブロイン(第3の改変フィブロイン)の特徴を併せ持つ改変フィブロインである。具体的な態様等は、第2の改変フィブロイン、及び第3の改変フィブロインで説明したとおりである。
第4の改変フィブロインのより具体的な例として、(4−i)配列番号7、配列番号8若しくは配列番号9で示されるアミノ酸配列、(4−ii)配列番号7、配列番号8若しくは配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。配列番号7、配列番号8若しくは配列番号9で示されるアミノ酸配列を含む改変フィブロインの具体的な態様は上述のとおりである。
局所的に疎水性指標の大きい領域を含むドメイン配列を有する改変フィブロイン(第5の改変フィブロイン)は、そのドメイン配列が、天然由来のクモ類フィブロインと比較して、REP中の1又は複数のアミノ酸残基が疎水性指標の大きいアミノ酸残基に置換されたこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性指標の大きいアミノ酸残基が挿入されたことに相当する、局所的に疎水性指標の大きい領域を含むアミノ酸配列を有するものであってよい。
局所的に疎水性指標の大きい領域は、連続する2〜4アミノ酸残基で構成されていることが好ましい。
上述の疎水性指標の大きいアミノ酸残基は、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)及びアラニン(A)から選ばれるアミノ酸残基であることがより好ましい。
第5の改変フィブロインは、天然由来のクモ類フィブロインと比較して、REP中の1又は複数のアミノ酸残基が疎水性指標の大きいアミノ酸残基に置換されたこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性指標の大きいアミノ酸残基が挿入されたことに相当する改変に加え、更に、天然由来のクモ類フィブロインと比較して、1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変があってもよい。
第5の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のクモ類フィブロインの遺伝子配列からREP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がマイナスであるアミノ酸残基)を疎水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がプラスであるアミノ酸残基)に置換すること、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入することにより得ることができる。また、例えば、天然由来のクモ類フィブロインのアミノ酸配列からREP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基を疎水性アミノ酸残基に置換したこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入したことに相当するアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のクモ類フィブロインのアミノ酸配列からREP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基を疎水性アミノ酸残基に置換したこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行ってもよい。
第5の改変フィブロインは、式1:[(A)nモチーフ−REP]mで表されるドメイン配列を含み、最もC末端側に位置する(A)nモチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を上記ドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域に含まれるアミノ酸残基の総数をpとし、最もC末端側に位置する(A)nモチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を上記ドメイン配列から除いた配列に含まれるアミノ酸残基の総数をqとしたときに、p/qが6.2%以上であるアミノ酸配列を有してもよい。
アミノ酸残基の疎水性指標については、公知の指標(Hydropathy index:Kyte J,&Doolittle R(1982)“A simple method for displaying the hydropathic character of a protein”,J.Mol.Biol.,157,pp.105−132)を使用する。具体的には、各アミノ酸の疎水性指標(ハイドロパシー・インデックス、以下「HI」とも記す。)は、下記表1に示すとおりである。
p/qの算出方法を更に詳細に説明する。算出には、式1:[(A)nモチーフ−REP]mで表されるドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列(以下、「配列A」とする)を用いる。まず、配列Aに含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値を算出する。疎水性指標の平均値は、連続する4アミノ酸残基に含まれる各アミノ酸残基のHIの総和を4(アミノ酸残基数)で除して求める。疎水性指標の平均値は、全ての連続する4アミノ酸残基について求める(各アミノ酸残基は、1〜4回平均値の算出に用いられる。)。次いで、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域を特定する。あるアミノ酸残基が、複数の「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」に該当する場合であっても、領域中には1アミノ酸残基として含まれることになる。そして、当該領域に含まれるアミノ酸残基の総数がpである。また、配列Aに含まれるアミノ酸残基の総数がqである。
例えば、「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」が20カ所抽出された場合(重複はなし)、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域には、連続する4アミノ酸残基(重複はなし)が20含まれることになり、pは20×4=80である。また、例えば、2つの「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」が1アミノ酸残基だけ重複して存在する場合、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域には、7アミノ酸残基含まれることになる(p=2×4−1=7。「−1」は重複分の控除である。)。例えば、図2に示したドメイン配列の場合、「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」が重複せずに7つ存在するため、pは7×4=28となる。また、例えば、図2に示したドメイン配列の場合、qは4+50+4+40+4+10+4+20+4+30=170である(C末端側の最後に存在する(A)nモチーフは含めない)。次に、pをqで除すことによって、p/q(%)を算出することができる。図2の場合28/170=16.47%となる。
第5の改変フィブロインにおいて、p/qは、6.2%以上であることが好ましく、7%以上であることがより好ましく、10%以上であることが更に好ましく、20%以上であることが更により好ましく、30%以上であることが更によりまた好ましい。p/qの上限は、特に制限されないが、例えば、45%以下であってもよい。
第5の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のクモ類フィブロインのアミノ酸配列を、上記のp/qの条件を満たすように、REP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がマイナスであるアミノ酸残基)を疎水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がプラスであるアミノ酸残基)に置換すること、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入することにより、局所的に疎水性指標の大きい領域を含むアミノ酸配列に改変することにより得ることができる。また、例えば、天然由来のクモ類フィブロインのアミノ酸配列から上記のp/qの条件を満たすアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のクモ類フィブロインと比較して、REP中の1又は複数のアミノ酸残基が疎水性指標の大きいアミノ酸残基に置換されたこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性指標の大きいアミノ酸残基が挿入されたことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当する改変を行ってもよい。
疎水性指標の大きいアミノ酸残基としては、特に制限はないが、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)及びアラニン(A)が好ましく、バリン(V)、ロイシン(L)及びイソロイシン(I)がより好ましい。
第5の改変フィブロインの具体的な例として、(5−i)配列番号19、配列番号20若しくは配列番号21で示されるアミノ酸配列、又は(5−ii)配列番号19、配列番号20若しくは配列番号21で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
(5−i)の改変フィブロインについて説明する。配列番号22で示されるアミノ酸配列は、天然由来のクモ類フィブロインの(A)nモチーフ中のアラニン残基が連続するアミノ酸配列をアラニン残基が連続する数を5つになるよう欠失したものである。配列番号19で示されるアミノ酸配列は、配列番号22で示されるアミノ酸配列に対し、REP一つ置きにそれぞれ3アミノ酸残基からなるアミノ酸配列(VLI)を2カ所挿入し、かつ配列番号22で示されるアミノ酸配列の分子量とほぼ同じとなるようにC末端側の一部のアミノ酸を欠失させたものである。配列番号23で示されるアミノ酸配列は、配列番号22で示されるアミノ酸配列に対し、各(A)nモチーフのC末端側に2つのアラニン残基を挿入し、更に一部のグルタミン(Q)残基をセリン(S)残基に置換し、かつ配列番号22で示されるアミノ酸配列の分子量とほぼ同じとなるようにC末端側の一部のアミノ酸を欠失させたものである。配列番号20で示されるアミノ酸配列は、配列番号23で示されるアミノ酸配列に対し、REP一つ置きにそれぞれ3アミノ酸残基からなるアミノ酸配列(VLI)を1カ所挿入したものである。配列番号21で示されるアミノ酸配列は、配列番号23で示されるアミノ酸配列に対し、REP一つ置きにそれぞれ3アミノ酸残基からなるアミノ酸配列(VLI)を2カ所挿入したものである。
(5−i)の改変フィブロインは、配列番号19、配列番号20又は配列番号21で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
(5−ii)の改変フィブロインは、配列番号19、配列番号20又は配列番号21で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(5−ii)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ−REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
(5−ii)の改変フィブロインは、配列番号19、配列番号20又は配列番号21で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域に含まれるアミノ酸残基の総数をpとし、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれるアミノ酸残基の総数をqとしたときに、p/qが6.2%以上であることが好ましい。
第5の改変フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方にタグ配列を含んでいてもよい。
タグ配列を含む第5の改変フィブロインのより具体的な例として、(5−iii)配列番号24、配列番号25若しくは配列番号26で示されるアミノ酸配列、又は(5−iv)配列番号24、配列番号25若しくは配列番号26で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
配列番号24、配列番号25及び配列番号26で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号19、配列番号20及び配列番号21で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号12で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。
(5−iii)の改変フィブロインは、配列番号24、配列番号25若しくは配列番号26で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
(5−iv)の改変フィブロインは、配列番号24、配列番号25若しくは配列番号26で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(5−iv)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ−REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
(5−iv)の改変フィブロインは、配列番号24、配列番号25若しくは配列番号26で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域に含まれるアミノ酸残基の総数をpとし、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれるアミノ酸残基の総数をqとしたときに、p/qが6.2%以上であることが好ましい。
第5の改変フィブロインは、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
グルタミン残基の含有量が低減されたドメイン配列を有する改変フィブロイン(第6の改変フィブロイン)は、天然由来のクモ類フィブロインと比較して、グルタミン残基の含有量が低減されたアミノ酸配列を有する。
第6の改変フィブロインは、REPのアミノ酸配列中に、GGXモチーフ及びGPGXXモチーフから選ばれる少なくとも一つのモチーフが含まれていることが好ましい。
第6の改変フィブロインが、REP中にGPGXXモチーフを含む場合、GPGXXモチーフ含有率は、通常1%以上であり、5%以上であってもよく、10%以上であるのが好ましい。GPGXXモチーフ含有率の上限に特に制限はなく、50%以下であってよく、30%以下であってもよい。
本明細書において、「GPGXXモチーフ含有率」は、以下の方法により算出される値である。
式1:[(A)nモチーフ−REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ−REP]m−(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むクモ類フィブロインにおいて、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、その領域に含まれるGPGXXモチーフの個数の総数を3倍した数(即ち、GPGXXモチーフ中のG及びPの総数に相当)をsとし、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除き、更に(A)nモチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数をtとしたときに、GPGXXモチーフ含有率はs/tとして算出される。
式1:[(A)nモチーフ−REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ−REP]m−(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むクモ類フィブロインにおいて、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、その領域に含まれるGPGXXモチーフの個数の総数を3倍した数(即ち、GPGXXモチーフ中のG及びPの総数に相当)をsとし、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除き、更に(A)nモチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数をtとしたときに、GPGXXモチーフ含有率はs/tとして算出される。
GPGXXモチーフ含有率の算出において、「最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」を対象としているのは、「最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列」(REPに相当する配列)には、クモ類フィブロインに特徴的な配列と相関性の低い配列が含まれることがあり、mが小さい場合(つまり、ドメイン配列が短い場合)、GPGXXモチーフ含有率の算出結果に影響するので、この影響を排除するためである。なお、REPのC末端に「GPGXXモチーフ」が位置する場合、「XX」が例えば「AA」の場合であっても、「GPGXXモチーフ」として扱う。
図3は、クモ類フィブロインのドメイン配列を示す模式図である。図3を参照しながらGPGXXモチーフ含有率の算出方法を具体的に説明する。まず、図3に示したクモ類フィブロインのドメイン配列(「[(A)nモチーフ−REP]m−(A)nモチーフ」タイプである。)では、全てのREPが「最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」(図3中、「領域A」で示した配列。)に含まれているため、sを算出するためのGPGXXモチーフの個数は7であり、sは7×3=21となる。同様に、全てのREPが「最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」(図3中、「領域A」で示した配列。)に含まれているため、当該配列から更に(A)nモチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数tは50+40+10+20+30=150である。次に、sをtで除すことによって、s/t(%)を算出することができ、図3のフィブロインの場合21/150=14.0%となる。
第6の改変フィブロインは、グルタミン残基含有率が9%以下であることが好ましく、7%以下であることがより好ましく、4%以下であることが更に好ましく、0%であることが特に好ましい。
本明細書において、「グルタミン残基含有率」は、以下の方法により算出される値である。
式1:[(A)nモチーフ−REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ−REP]m−(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むクモ類フィブロインにおいて、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列(図3の「領域A」に相当する配列。)に含まれる全てのREPにおいて、その領域に含まれるグルタミン残基の総数をuとし、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除き、更に(A)nモチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数をtとしたときに、グルタミン残基含有率はu/tとして算出される。グルタミン残基含有率の算出において、「最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」を対象としている理由は、上述した理由と同様である。
式1:[(A)nモチーフ−REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ−REP]m−(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むクモ類フィブロインにおいて、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列(図3の「領域A」に相当する配列。)に含まれる全てのREPにおいて、その領域に含まれるグルタミン残基の総数をuとし、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除き、更に(A)nモチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数をtとしたときに、グルタミン残基含有率はu/tとして算出される。グルタミン残基含有率の算出において、「最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」を対象としている理由は、上述した理由と同様である。
第6の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のクモ類フィブロインと比較して、REP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失したこと、又は他のアミノ酸残基に置換したことに相当するアミノ酸配列を有するものであってよい。
「他のアミノ酸残基」は、グルタミン残基以外のアミノ酸残基であればよいが、グルタミン残基よりも疎水性指標の大きいアミノ酸残基であることが好ましい。アミノ酸残基の疎水性指標は表1に示すとおりである。
表1に示すとおり、グルタミン残基よりも疎水性指標の大きいアミノ酸残基としては、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)アラニン(A)、グリシン(G)、スレオニン(T)、セリン(S)、トリプトファン(W)、チロシン(Y)、プロリン(P)及びヒスチジン(H)から選ばれるアミノ酸残基を挙げることができる。これらの中でも、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)及びアラニン(A)から選ばれるアミノ酸残基であることがより好ましく、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)及びフェニルアラニン(F)から選ばれるアミノ酸残基であることが更に好ましい。
第6の改変フィブロインは、REPの疎水性度が、−1.0以上、−0.9以上、−0.8以上、−0.7以上、−0.6以上であってもよい。−0.8以上であることがより好ましく、0以上であることが更に好ましく、0.3以上であることが更により好ましく、0.4以上であることが特に好ましい。REPの疎水性度の上限に特に制限はなく、1.0以下であってよく、0.7以下であってもよい。
本明細書において、「REPの疎水性度」は、以下の方法により算出される値である。
式1:[(A)nモチーフ−REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ−REP]m−(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むクモ類フィブロインにおいて、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列(図3の「領域A」に相当する配列。)に含まれる全てのREPにおいて、その領域の各アミノ酸残基の疎水性指標の総和をvとし、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除き、更に(A)nモチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数をtとしたときに、REPの疎水性度はv/tとして算出される。REPの疎水性度の算出において、「最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」を対象としている理由は、上述した理由と同様である。
式1:[(A)nモチーフ−REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ−REP]m−(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むクモ類フィブロインにおいて、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列(図3の「領域A」に相当する配列。)に含まれる全てのREPにおいて、その領域の各アミノ酸残基の疎水性指標の総和をvとし、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除き、更に(A)nモチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数をtとしたときに、REPの疎水性度はv/tとして算出される。REPの疎水性度の算出において、「最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」を対象としている理由は、上述した理由と同様である。
第6の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のクモ類フィブロインと比較して、REP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失したこと、及び/又はREP中の1又は複数のグルタミン残基を他のアミノ酸残基に置換したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変があってもよい。
第6の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のクモ類フィブロインの遺伝子配列からREP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失させること、及び/又はREP中の1又は複数のグルタミン残基を他のアミノ酸残基に置換することにより得ることができる。また、例えば、天然由来のクモ類フィブロインのアミノ酸配列からREP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失したこと、及び/又はREP中の1又は複数のグルタミン残基を他のアミノ酸残基に置換したことに相当するアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。
第6の改変フィブロインのより具体的な例として、(6−i)配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33若しくは配列番号43で示されるアミノ酸配列を含む、改変フィブロイン、又は(6−ii)配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33若しくは配列番号43で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
(6−i)の改変フィブロインについて説明する。
配列番号7で示されるアミノ酸配列(Met−PRT410)は、天然由来のフィブロインであるNephila clavipes(GenBankアクセッション番号:P46804.1、GI:1174415)の塩基配列及びアミノ酸配列に基づき、(A)nモチーフ中のアラニン残基が連続するアミノ酸配列をアラニン残基が連続する数を5つにする等の生産性を向上させるためのアミノ酸の改変を行ったものである。一方、Met−PRT410は、グルタミン残基(Q)の改変は行っていないため、グルタミン残基含有率は、天然由来のフィブロインのグルタミン残基含有率と同程度である。
配列番号27で示されるアミノ酸配列(M_PRT888)は、Met−PRT410(配列番号7)中のQQを全てVLに置換したものである。
配列番号28で示されるアミノ酸配列(M_PRT965)は、Met−PRT410(配列番号7)中のQQを全てTSに置換し、かつ残りのQをAに置換したものである。
配列番号29で示されるアミノ酸配列(M_PRT889)は、Met−PRT410(配列番号7)中のQQを全てVLに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。
配列番号30で示されるアミノ酸配列(M_PRT916)は、Met−PRT410(配列番号7)中のQQを全てVIに置換し、かつ残りのQをLに置換したものである。
配列番号31で示されるアミノ酸配列(M_PRT918)は、Met−PRT410(配列番号7)中のQQを全てVFに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。
配列番号34で示されるアミノ酸配列(M_PRT525)は、Met−PRT410(配列番号7)に対し、アラニン残基が連続する領域(A5)に2つのアラニン残基を挿入し、Met−PRT410の分子量とほぼ同じになるよう、C末端側のドメイン配列2つを欠失させ、かつグルタミン残基(Q)13箇所をセリン残基(S)又はプロリン残基(P)に置換したものである。
配列番号32で示されるアミノ酸配列(M_PRT699)は、M_PRT525(配列番号34)中のQQを全てVLに置換したものである。
配列番号33で示されるアミノ酸配列(M_PRT698)は、M_PRT525(配列番号34)中のQQを全てVLに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。
配列番号43で示されるアミノ酸配列(Met−PRT966)は、配列番号9で示されるアミノ酸配列(C末端に配列番号42で示されるアミノ酸配列が付加される前のアミノ酸配列)中のQQを全てVFに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。
配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33及び配列番号43で示されるアミノ酸配列は、いずれもグルタミン残基含有率は9%以下である(表2)。
(6−i)の改変フィブロインは、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33又は配列番号43で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
(6−ii)の改変フィブロインは、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33又は配列番号43で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(6−ii)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ−REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ−REP]m−(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
(6−ii)の改変フィブロインは、グルタミン残基含有率が9%以下であることが好ましい。また、(6−ii)の改変フィブロインは、GPGXXモチーフ含有率が10%以上であることが好ましい。
第6の改変フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方にタグ配列を含んでいてもよい。これにより、改変フィブロインの単離、固定化、検出及び可視化等が可能となる。
タグ配列を含む第6の改変フィブロインのより具体的な例として、(6−iii)配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41若しくは配列番号44で示されるアミノ酸配列を含む、改変フィブロイン、又は(6−iv)配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41若しくは配列番号44で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41及び配列番号44で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33及び配列番号43で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号12で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。N末端にタグ配列を付加しただけであるため、グルタミン残基含有率に変化はなく、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41及び配列番号44で示されるアミノ酸配列は、いずれもグルタミン残基含有率が9%以下である(表3)。
(6−iii)の改変フィブロインは、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41又は配列番号44で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
(6−iv)の改変フィブロインは、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41又は配列番号44で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(6−iv)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ−REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ−REP]m−(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
(6−iv)の改変フィブロインは、グルタミン残基含有率が9%以下であることが好ましい。また、(6−iv)の改変フィブロインは、GPGXXモチーフ含有率が10%以上であることが好ましい。
第6の改変フィブロインは、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
改変フィブロインは、第1の改変フィブロイン、第2の改変フィブロイン、第3の改変フィブロイン、第4の改変フィブロイン、第5の改変フィブロイン、及び第6の改変フィブロインが有する特徴のうち、少なくとも2つ以上の特徴を併せ持つ改変フィブロインであってもよい。
クモ糸タンパク質は、親水性クモ糸タンパク質であってもよく、疎水性クモ糸タンパク質であってもよい。疎水性クモ糸タンパク質とは、クモ糸タンパク質を構成する全てのアミノ酸残基の疎水性指標(HI)の総和を求め、次にその総和を全アミノ酸残基数で除した値(平均HI)が0以上であるクモ糸タンパク質である。疎水性指標は表1に示したとおりである。また、親水性クモ糸タンパク質とは、上記の平均HIが0未満であるクモ糸タンパク質である。
疎水性クモ糸タンパク質としては、例えば、上述した第6の改変フィブロインを挙げることができる。疎水性クモ糸タンパク質のより具体的な例としては、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33又は配列番号43で示されるアミノ酸配列、配列番号35、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41又は配列番号44で示されるアミノ酸配列を含むクモ糸タンパク質が挙げられる。
親水性クモ糸タンパク質としては、例えば、上述した第1の改変フィブロイン、第2の
改変フィブロイン、第3の改変フィブロイン、第4の改変フィブロイン、及び第5の改変
フィブロインを挙げることができる。親水性クモ糸タンパク質のより具体的な例としては、配列番号4で示されるアミノ酸配列、配列番号6、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列、配列番号13、配列番号11、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列、配列番号18、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列、配列番号17、配列番号11、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列、配列番号19、配列番号20又は配列番号21で示されるアミノ酸配列を含むクモ糸タンパク質が挙げられる。
改変フィブロイン、第3の改変フィブロイン、第4の改変フィブロイン、及び第5の改変
フィブロインを挙げることができる。親水性クモ糸タンパク質のより具体的な例としては、配列番号4で示されるアミノ酸配列、配列番号6、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列、配列番号13、配列番号11、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列、配列番号18、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列、配列番号17、配列番号11、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列、配列番号19、配列番号20又は配列番号21で示されるアミノ酸配列を含むクモ糸タンパク質が挙げられる。
上述したクモ糸タンパク質は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
クモ糸タンパク質は、例えば、当該クモ糸タンパク質をコードする核酸配列と、当該核酸配列に作動可能に連結された1又は複数の調節配列とを有する発現ベクターで形質転換された宿主により、当該核酸を発現させることにより生産することができる。
クモ糸タンパク質をコードする核酸の製造方法は、特に制限されない。例えば、天然のクモ糸タンパク質をコードする遺伝子を利用して、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)等で増幅しクローニングする方法、又は、化学的に合成する方法によって、当該核酸を製造することができる。核酸の化学的な合成方法も特に制限されず、例えば、NCBIのウェブデータベースなどより入手したクモ糸タンパク質のアミノ酸配列情報をもとに、AKTA oligopilot plus 10/100(GEヘルスケア・ジャパン株式会社)等で自動合成したオリゴヌクレオチドをPCR等で連結する方法によって遺伝子を化学的に合成することができる。この際に、クモ糸タンパク質の精製及び/又は確認を容易にするため、N末端に開始コドン及びHis10タグからなるアミノ酸配列を付加したアミノ酸配列からなるクモ糸タンパク質をコードする核酸を合成してもよい。
調節配列は、宿主における組換えタンパク質の発現を制御する配列(例えば、プロモーター、エンハンサー、リボソーム結合配列、転写終結配列等)であり、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。プロモーターとして、宿主細胞中で機能し、目的とするクモ糸タンパク質を発現誘導可能な誘導性プロモーターを用いてもよい。誘導性プロモーターは、誘導物質(発現誘導剤)の存在、リプレッサー分子の非存在、又は温度、浸透圧若しくはpH値の上昇若しくは低下等の物理的要因により、転写を制御できるプロモーターである。
発現ベクターの種類は、プラスミドベクター、ウイルスベクター、コスミドベクター、フォスミドベクター、人工染色体ベクター等、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。発現ベクターとしては、宿主細胞において自立複製が可能、又は宿主の染色体中への組込みが可能で、クモ糸タンパク質をコードする核酸を転写できる位置にプロモーターを含有しているものが好適に用いられる。
宿主として、原核生物、並びに酵母、糸状真菌、昆虫細胞、動物細胞及び植物細胞等の真核生物のいずれも好適に用いることができる。
細菌等の原核生物を宿主として用いる場合は、発現ベクターは、原核生物中で自立複製が可能であると同時に、プロモーター、リボソーム結合配列、クモ糸タンパク質をコードする核酸、及び転写終結配列を含むベクターであることが好ましい。プロモーターを制御する遺伝子が含まれていてもよい。
原核生物としては、エシェリヒア属、ブレビバチルス属、セラチア属、バチルス属、ミクロバクテリウム属、ブレビバクテリウム属、コリネバクテリウム属及びシュードモナス属等に属する微生物を挙げることができる。エシェリヒア属に属する微生物として、例えば、エシェリヒア・コリ等を挙げることができる。ブレビバチルス属に属する微生物として、例えば、ブレビバチルス・アグリ等を挙げることができる。セラチア属に属する微生物として、例えば、セラチア・リクエファシエンス等を挙げることができる。バチルス属に属する微生物として、例えば、バチルス・サチラス等を挙げることができる。ミクロバクテリウム属に属する微生物として、例えば、ミクロバクテリウム・アンモニアフィラム等を挙げることができる。ブレビバクテリウム属に属する微生物として、例えば、ブレビバクテリウム・ディバリカタム等を挙げることができる。コリネバクテリウム属に属する微生物として、例えば、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス等を挙げることができる。シュードモナス(Pseudomonas)属に属する微生物として、例えば、シュードモナス・プチダ等を挙げることができる。
原核生物を宿主とする場合、クモ糸タンパク質をコードする核酸を導入するベクターとしては、例えば、pBTrp2(ベーリンガーマンハイム社製)、pGEX(Pharmacia社製)、pUC18、pBluescriptII、pSupex、pET22b、pCold、pUB110、pNCO2(特開2002−238569号公報)等を挙げることができる。
真核生物の宿主としては、例えば、酵母及び糸状真菌(カビ等)を挙げることができる。酵母としては、例えば、サッカロマイセス属、ピキア属、シゾサッカロマイセス属等に属する酵母を挙げることができる。糸状真菌としては、例えば、アスペルギルス属、ペニシリウム属、トリコデルマ(Trichoderma)属等に属する糸状真菌を挙げることができる。
真核生物を宿主とする場合、クモ糸タンパク質をコードする核酸を導入するベクターとしては、例えば、YEp13(ATCC37115)、YEp24(ATCC37051)等を挙げることができる。上記宿主細胞への発現ベクターの導入方法としては、上記宿主細胞へDNAを導入する方法であればいずれも用いることができる。例えば、カルシウムイオンを用いる方法〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA,69,2110(1972)〕、エレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、プロトプラスト法、酢酸リチウム法、コンピテント法等を挙げることができる。
発現ベクターで形質転換された宿主による核酸の発現方法としては、直接発現のほか、モレキュラー・クローニング第2版に記載されている方法等に準じて、分泌生産、融合タンパク質発現等を行うことができる。
クモ糸タンパク質は、例えば、形質転換された宿主を培養培地中で培養し、培養培地中にクモ糸タンパク質を生成蓄積させ、該培養培地から採取することにより製造することができる。形質転換された宿主を培養培地中で培養する方法は、宿主の培養に通常用いられる方法に従って行うことができる。
宿主が、大腸菌等の原核生物又は酵母等の真核生物である場合、培養培地として、該宿主が資化し得る炭素源、窒素源及び無機塩類等を含有し、該宿主の培養を効率的に行える培地であれば天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。
炭素源としては、該宿主が資化し得るものであればよく、例えば、グルコース、フラクトース、スクロース、及びこれらを含有する糖蜜、デンプン及びデンプン加水分解物等の炭水化物、酢酸及びプロピオン酸等の有機酸、並びにエタノール及びプロパノール等のアルコール類を用いることができる。
窒素源としては、例えば、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム及びリン酸アンモニウム等の無機酸又は有機酸のアンモニウム塩、その他の含窒素化合物、並びにペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスチープリカー、カゼイン加水分解物、大豆粕及び大豆粕加水分解物、各種発酵菌体及びその消化物を用いることができる。
無機塩類としては、例えば、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅及び炭酸カルシウムを用いることができる。
大腸菌等の原核生物又は酵母等の真核生物の培養は、例えば、振盪培養又は深部通気攪拌培養等の好気的条件下で行うことができる。培養温度は、例えば、15〜40℃である。培養時間は、通常16時間〜7日間である。培養中の培養培地のpHは3.0〜9.0に保持することが好ましい。培養培地のpHの調整は、無機酸、有機酸、アルカリ溶液、尿素、炭酸カルシウム及びアンモニア等を用いて行うことができる。
また、培養中必要に応じて、アンピシリン及びテトラサイクリン等の抗生物質を培養培地に添加してもよい。プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときには、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、lacプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド等を、trpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはインドールアクリル酸等を培地に添加してもよい。
形質転換された宿主により生産されたクモ糸タンパク質は、タンパク質の単離精製に通常用いられている方法で単離及び精製することができる。例えば、クモ糸タンパク質が、細胞内に溶解状態で発現した場合には、培養終了後、宿主細胞を遠心分離により回収し、水系緩衝液にけん濁した後、超音波破砕機、フレンチプレス、マントンガウリンホモゲナイザー及びダイノミル等により宿主細胞を破砕し、無細胞抽出液を得る。該無細胞抽出液を遠心分離することにより得られる上清から、タンパク質の単離精製に通常用いられている方法、すなわち、溶媒抽出法、硫安等による塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、ジエチルアミノエチル(DEAE)−セファロース、DIAION HPA−75(三菱化成社製)等のレジンを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S−Sepharose FF(Pharmacia社製)等のレジンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロース等のレジンを用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の方法を単独又は組み合わせて使用し、精製標品を得ることができる。
上記クロマトグラフィーとしては、フェニル−トヨパール(東ソー)、DEAE−トヨパール(東ソー)、セファデックスG−150(ファルマシアバイオテク)を用いたカラムクロマトグラフィーが好ましく用いられる。
また、クモ糸タンパク質が細胞内に不溶体を形成して発現した場合は、同様に宿主細胞を回収後、破砕し、遠心分離を行うことにより、沈殿画分としてクモ糸タンパク質の不溶体を回収する。回収したクモ糸タンパク質の不溶体は蛋白質変性剤で可溶化することができる。該操作の後、上記と同様の単離精製法によりクモ糸タンパク質の精製標品を得ることができる。
クモ糸タンパク質が細胞外に分泌された場合には、培養上清からクモ糸タンパク質を回収することができる。すなわち、培養物を遠心分離等の手法により処理することにより培養上清を取得し、該培養上清から、上記と同様の単離精製法を用いることにより、精製標品を得ることができる。
クモ糸タンパク質の含有量は、紡糸原液全量に対して、1質量%以上、2質量%以上、4質量%以上、7質量%以上、10質量%以上、又は15質量%以上であってよく、40質量%以下、35質量%以下、30質量%以下、又は25質量%以下であってよい。
<溶媒>
紡糸原液に使用する溶媒は、クモ糸タンパク質を溶解又は分散させることができるものであれば、特に制限なく使用することができる。
紡糸原液に使用する溶媒は、クモ糸タンパク質を溶解又は分散させることができるものであれば、特に制限なく使用することができる。
溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチルピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、ヘキサフルオロ−2−プロパノール(HFIP)、へキサフルオロアセトン(HFA)、ギ酸等の有機溶媒であってよく、ギ酸を含むものであることが好ましい。また、溶媒は、水に後述する溶解促進剤を添加したものであってもよい。溶媒は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
溶媒としては、ギ酸及び溶解促進剤を添加したであることが好ましい。溶媒としては、ギ酸であることが特に好ましい。
(溶解促進剤)
紡糸原液(ドープ液)は、溶解促進剤を更に含有するものであってよい。溶解促進剤を含むことにより、紡糸原液の調製が容易になる。
紡糸原液(ドープ液)は、溶解促進剤を更に含有するものであってよい。溶解促進剤を含むことにより、紡糸原液の調製が容易になる。
溶解促進剤は、例えば、以下に示すルイス酸とルイス塩基とからなる無機塩であってよい。ルイス塩基としては、例えば、オキソ酸イオン(硝酸イオン、過塩素酸イオン等)、金属オキソ酸イオン(過マンガン酸イオン等)、ハロゲン化物イオン、チオシアン酸イオン、シアン酸イオン等が挙げられる。ルイス酸としては、例えば、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン等の金属イオン、アンモニウムイオン等の多原子イオン、錯イオン等が挙げられる。無機塩としては、例えば、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、硝酸リチウム、過塩素酸リチウム、及びチオシアン酸リチウム等のリチウム塩、塩化カルシウム、臭化カルシウム、ヨウ化カルシウム、硝酸カルシウム、過塩素酸カルシウム、及びチオシアン酸カルシウム等のカルシウム塩、塩化鉄、臭化鉄、ヨウ化鉄、硝酸鉄、過塩素酸鉄、及びチオシアン酸鉄等の鉄塩、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、ヨウ化アルミニウム、硝酸アルミニウム、過塩素酸アルミニウム、及びチオシアン酸アルミニウム等のアルミニウム塩、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、硝酸カリウム、過塩素酸カリウム、及びチオシアン酸カリウム等のカリウム塩、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、硝酸ナトリウム、過塩素酸ナトリウム、及びチオシアン酸ナトリウム等のナトリウム塩、塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛、硝酸亜鉛、過塩素酸亜鉛、及びチオシアン酸亜鉛等の亜鉛塩、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム、硝酸マグネシウム、過塩素酸マグネシウム、及びチオシアン酸マグネシウム等のマグネシウム塩、塩化バリウム、臭化バリウム、ヨウ化バリウム、硝酸バリウム、過塩素酸バリウム、及びチオシアン酸バリウム等のバリウム塩、並びに塩化ストロンチウム、臭化ストロンチウム、ヨウ化ストロンチウム、硝酸ストロンチウム、過塩素酸ストロンチウム、及びチオシアン酸ストロンチウム等のストロンチウム塩が挙げられる。これらの無機塩は、ギ酸に対するクモ糸タンパク質の溶解促進剤として用いられる。紡糸原液が溶解促進剤(上記の無機塩)を含有することにより、クモ糸タンパク質が紡糸原液中に高い濃度で溶解可能となる。これにより、タンパク質繊維の生産効率がより一層向上し、かつタンパク質繊維の高品質化と応力等の物性の向上等が期待される。無機塩は、塩化リチウム及び塩化カルシウムからなる群より選択される少なくとも1種であってよい。溶解促進剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
溶解促進剤の含有量は、紡糸原液全量に対して、0.1質量%以上、1質量%以上、4質量%以上、7質量%以上、10質量%以上、又は15質量%以上であってよく、20質量%以下、16質量%以下、12質量%以下、又は9質量%以下であってよい。
(各種添加剤)
紡糸原液は、必要に応じて、各種の添加剤を更に含有していてよい。添加剤としては、例えば、可塑剤、レベリング剤、架橋剤、結晶核剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤、フィラー、合成樹脂が挙げられる。添加剤の含有量は、紡糸原液中のタンパク質全量100質量部に対して、50質量部以下であってよい。
紡糸原液は、必要に応じて、各種の添加剤を更に含有していてよい。添加剤としては、例えば、可塑剤、レベリング剤、架橋剤、結晶核剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤、フィラー、合成樹脂が挙げられる。添加剤の含有量は、紡糸原液中のタンパク質全量100質量部に対して、50質量部以下であってよい。
紡糸原液は、クモ糸タンパク質を溶媒に溶解させて得られる。紡糸原液は、本発明による効果を損なわない範囲で、更にアルコールを含んでいてもよい。
紡糸原液における溶媒の含有量は、紡糸原液100質量部に対して、50〜90質量部であってもよい。また、溶媒の含有量は、紡糸原液100質量部に対して、50質量部以上、60質量部以上、70質量部以上、又は80質量部以上であってもよく、90質量部以下、80質量部以下、70質量部以下、60質量部以下、50質量部以下であってもよい。溶媒がギ酸である場合、紡糸原液におけるギ酸の含有量は、紡糸原液100質量部に対して、好ましくは60〜90質量部、より好ましくは60〜85質量部、更に好ましくは65〜85質量部、更により好ましくは70〜80質量部、更によりまた好ましくは70〜75質量部である。紡糸原液における溶媒の含有量は、紡糸原液100質量部に対して、50〜90質量部であってもよい。また、溶媒の含有量は、紡糸原液100質量部に対して、50質量部以上、60質量部以上、70質量部以上、又は80質量部以上であってもよく、90質量部以下、80質量部以下、70質量部以下、60質量部以下、50質量部以下であってもよい。溶媒の含有量は、紡糸原液100質量部に対して、好ましくは60〜90質量部、より好ましくは60〜85質量部、更に好ましくは65〜85質量部、更により好ましくは70〜80質量部、更によりまた好ましくは70〜75質量部である。
紡糸原液の粘度は、紡糸方法に応じて適宜設定すればよく、例えば、35℃において100〜15,000cP(センチポイズ)とすることができる。紡糸原液の粘度は、例えば京都電子工業社製の商品名“EMS粘度計”を使用して測定することができる。
<凝固液>
凝固液は、水及び低級アルコールを含むことが好ましい。凝固液は、紡糸原液に含まれる溶媒及び溶解促進剤からなる群より選択される少なくとも1種を更に含有していてもよい。
凝固液は、水及び低級アルコールを含むことが好ましい。凝固液は、紡糸原液に含まれる溶媒及び溶解促進剤からなる群より選択される少なくとも1種を更に含有していてもよい。
低級アルコールは、炭素原子数1〜5の直鎖状又は分岐鎖状アルコールを意味し、具体的には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、アミルアルコール、ネオペンチルアルコール等が挙げられる。好ましい低級アルコールはメタノール又はエタノールであり、より好ましい低級アルコールはエタノールである。
低級アルコールの含有量は、凝固液全量に対して、60体積%以上であるのが好ましく、65体積%以上であるのがより好ましく、70体積%以上であるのがより好ましく、75体積%以上であるのがより好ましく、80体積%以上であるのが更に好ましく、85体積%以上であるのが更により好ましく、90体積%以上であるのが特に好ましい。
水の含有量は、凝固液全量に対して、10体積%(体積パーセント濃度、「v/v%」ともいう)未満であるのが好ましい。水の含有量は、凝固液全量に対して、8体積%以下であってもよく、5体積%以下であってもよい。水の含有量は、凝固液全量に対して、1体積%以上であってもよく、5体積%以上であってもよく、8体積%以上であってもよい。水の含有量が、上述の範囲内である場合、製造されるタンパク質繊維がより一層均一的になり、細くなる。
凝固液において、低級アルコールに対する水の体積比は、0.01以上、0.11未満であるのが好ましい。低級アルコールに対する水の体積比は、0.1以下であってもよく、0.09以下であってもよく、0.08以下であってもよく、0.07以下であってもよく、0.06以下であってもよく、0.05以下であってもよい。低級アルコールに対する水の体積比もよく、0.05以上であってもよい。低級アルコールに対する水の体積比が、上述の範囲内である場合、製造されるタンパク質繊維がより一層均一的になり、細くなる。
凝固液は、低級アルコールとしてエタノールを含む場合、エタノールに対する水の体積比は、0.11未満であるのが好ましい。エタノールに対する水の体積比は、0.1以下であってもよく、0.09以下であってもよく、0.08以下であってもよく、0.07以下であってもよく、0.06以下であってもよく、0.05以下であってもよい。エタノールに対する水の体積比は、0.01以上であってもよく、0.02以上であってもよく0.03以上であってもよく、0.05以上であってもよく、0.05以上であってもよい。エタノールに対する水の体積比が、上述の範囲内である場合、製造されるタンパク質繊維がより一層均一的になり、細くなる。
凝固液は、溶解促進剤を含んでいてよい。凝固液における溶解促進剤として、例えば、上述の無機塩を用いてもよい。また、凝固液は、溶解促進剤を含有する溶媒を用いることにより、溶解促進剤を含んでいてよい。凝固液は、無機塩を含んでいてよく、塩化リチウム及び塩化カルシウムからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてよい。凝固液における溶解促進剤は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いたものであってもよい。
<紡糸工程>
紡糸工程では、上述した紡糸原液を上述した凝固液に接触させ、クモ糸タンパク質を凝固させる。紡糸工程を含め、本実施形態のタンパク質繊維の製造方法は、例えば、図4に示す紡糸装置を使用して実施することができる。
紡糸工程では、上述した紡糸原液を上述した凝固液に接触させ、クモ糸タンパク質を凝固させる。紡糸工程を含め、本実施形態のタンパク質繊維の製造方法は、例えば、図4に示す紡糸装置を使用して実施することができる。
図4は、タンパク質繊維を製造するための紡糸装置の一例を概略的に示す説明図である。図4に示す紡糸装置10は、乾湿式紡糸用の紡糸装置の一例であり、押出し装置1と、凝固浴槽20と、洗浄浴槽(延伸浴槽)21と、乾燥装置4とを上流側から順に有している。好ましい紡糸方法としては、湿式紡糸を挙げることができる。
押出し装置1は貯槽7を有しており、ここに紡糸原液(ドープ液)6が貯留される。凝固浴槽20に凝固液11が貯留される。紡糸原液6は、貯槽7の下端部に取り付けられたギアポンプ8により、凝固液11との間にエアギャップ19を開けて設けられたノズル9から押し出される。押し出された紡糸原液6は、エアギャップ19を経て、凝固浴槽20の凝固液11内に供給(導入)される。凝固液11内で紡糸原液から溶媒が除去されてクモ糸タンパク質が凝固する。凝固したクモ糸タンパク質は、洗浄浴槽21に導かれ、洗浄浴槽21内の洗浄液12により洗浄された後、洗浄浴槽21内に設置された第一ニップローラ13と第二ニップローラ14により、乾燥装置4へと送られる。このとき、例えば、第二ニップローラ14の回転速度を第一ニップローラ13の回転速度よりも速く設定すると、回転速度比に応じた倍率で延伸されたタンパク質繊維36が得られる。洗浄液12中で延伸されたタンパク質繊維は、洗浄浴槽21内を離脱してから、乾燥装置4内を通過する際に乾燥され、その後、ワインダーにて巻き取られる。このようにして、タンパク質繊維が、紡糸装置10により、最終的にワインダーに巻き取られた巻回物5として得られる。なお、18a〜18gは糸ガイドである。凝固液が貯留される凝固浴槽は複数設けられていてもよい。
湿式紡糸では、改変フィブロインを溶解させた溶媒を紡糸口金(ノズル9)から凝固液11(凝固液槽20)の中に押出して、凝固液11中で改変フィブロインを固めることにより糸の形状の未延伸糸を得ることができる。紡糸口金として、直径0.1〜0.6mmのノズルを有するシリンジポンプを使用する場合、押し出し速度は1ホール当たり、0.2〜6.0ml/時間が好ましく、1.4〜4.0ml/時間であることがより好ましい。凝固液槽の長さは、脱溶媒が効率的に行える長さがあればよく、例えば、200〜500mmである。未延伸糸の引き取り速度は、例えば、1〜20m/分であってよく、1〜3m/分であることが好ましい。滞留時間は、例えば、0.01〜3分であってよく、0.05〜0.15分であることが好ましい。また、凝固液中で延伸(前延伸)をしてもよい。低級アルコールの蒸発を抑えるため凝固液を低温に維持し、未延伸糸の状態で引き取ってもよい。凝固液槽は多段設けてもよく、また延伸は必要に応じて、各段、又は特定の段で行ってもよい。
凝固液11の温度は、特に限定されないが、40℃以下、30℃以下、25℃以下、20℃以下、10℃以下、又は5℃以下であってよい。作業性、冷却コスト等の観点から、0℃以上であることが好ましい。なお、凝固液の温度は、例えば、熱交換器を内部に備える凝固浴槽と、冷却循環装置と、を有する紡糸装置を用いることにより調整することができる。例えば、凝固浴槽内に設置した熱交換器に冷却循環装置で所定の温度まで冷却した媒体を流すことにより、凝固液11と熱交換器間での熱交換により温度を上記範囲内に調整することができる。この場合、媒体として凝固液11に用いる溶媒を循環することでより効率的な冷却が可能となる。
凝固したクモ糸タンパク質は、凝固浴槽又は洗浄浴槽を離脱してから、そのままワインダーにて巻き取られてもよいし、乾燥装置を通過し、乾燥され、その後、ワインダーにて巻き取られてもよい。
凝固したクモ糸タンパク質が凝固液中を通過する距離は、脱溶媒が効率的に行えればよく、ノズルからの紡糸原液の押出速度(吐出速度)等に応じて決定されるものであってよい。凝固したクモ糸タンパク質(又は紡糸原液)の凝固液中での滞留時間は、凝固したクモ糸タンパク質が凝固液中を通過する距離、ノズルからの紡糸原液の押出速度等に応じて決定されるものであってよい。
<延伸工程>
本実施形態のタンパク質繊維の製造方法は、凝固させたクモ糸タンパク質を延伸する工程(延伸工程)を更に含むものであってよい。延伸工程は、例えば、凝固浴槽20内で実施してもよく、洗浄浴槽21内で実施してもよい。延伸工程はまた、空気中で実施することもできる。
本実施形態のタンパク質繊維の製造方法は、凝固させたクモ糸タンパク質を延伸する工程(延伸工程)を更に含むものであってよい。延伸工程は、例えば、凝固浴槽20内で実施してもよく、洗浄浴槽21内で実施してもよい。延伸工程はまた、空気中で実施することもできる。
洗浄浴槽21内で実施される延伸は、温水中、温水に有機溶剤等を加えた溶液中等で行う、いわゆる湿熱延伸であってもよい。湿熱延伸の温度は50〜90℃であることが好ましい。該温度が50℃以上であると、糸の細孔径を安定的に小さくすることができる。また、温度が90℃以下であると、温度設定が容易であり紡糸安定性が向上する。温度は75〜85℃がより好ましい。
延伸工程における凝固させたクモ糸タンパク質の延伸倍率が高いほど、槽内で走行する糸が弛まずに安定することから、隣接して走行する糸に干渉することなく工程通過性が向上する。なお、本実施形態のタンパク質繊維の製造方法では、最大延伸倍率を向上することができ、延伸倍率を制御する範囲が広げられるため、タンパク質繊維の繊維径を制御することができる。
最終的な延伸倍率は、その下限値が、未延伸糸(又は前延伸糸)に対して、好ましくは、1倍超、2倍以上、3倍以上、4倍以上、5倍以上、6倍以上、7倍以上、8倍以上、9倍以上のうちのいずれかであり、上限値が、好ましくは40倍以下、30倍以下、20倍以下、15倍以下、14倍以下、13倍以下、12倍以下、11倍以下、10倍以下である。最終的な延伸倍率は、その下限値が、未延伸糸(又は前延伸糸)に対して、例えば、5〜20倍であり、6〜11倍であることが好ましい。
<繊維直径>
タンパク質繊維の繊維直径又は繊維径の平均値又は中央値は、50μm未満、45μm未満、40μm未満であることが好ましく、35μm以下、32μm以下、30μm以下であることが更に好ましい。繊維直径が小さいことにより、糸と布地にさまざまな品質及び特性を与えることができる。繊維の柔軟性は、直径又は繊度によって影響され、繊維の直径を減少させることによって繊維の柔軟性を調整することができる。繊維密度が高い(糸断面積あたりの繊維が多い)フィラメント糸に形成することもでき、同様の寸法の他の糸と比較して高い強度を与えることができる。また、繊維直径が小さいと、体積に対する表面積が大きいため、より明るく鮮明な染色が可能になる。繊維の直径は光学顕微鏡で測定することができる。
タンパク質繊維の繊維直径又は繊維径の平均値又は中央値は、50μm未満、45μm未満、40μm未満であることが好ましく、35μm以下、32μm以下、30μm以下であることが更に好ましい。繊維直径が小さいことにより、糸と布地にさまざまな品質及び特性を与えることができる。繊維の柔軟性は、直径又は繊度によって影響され、繊維の直径を減少させることによって繊維の柔軟性を調整することができる。繊維密度が高い(糸断面積あたりの繊維が多い)フィラメント糸に形成することもでき、同様の寸法の他の糸と比較して高い強度を与えることができる。また、繊維直径が小さいと、体積に対する表面積が大きいため、より明るく鮮明な染色が可能になる。繊維の直径は光学顕微鏡で測定することができる。
<変動係数>
タンパク質繊維の繊維径の変動係数は、クモ糸フィブロインフィラメントの繊維径[μm]を測定することで、それぞれ算出できる。変動係数の算出は、以下の式を用いて算出する。
繊維径の変動係数(CV)[%]=繊維径の標準偏差/繊維径の平均値×100
タンパク質繊維の繊維径の変動係数は、クモ糸フィブロインフィラメントの繊維径[μm]を測定することで、それぞれ算出できる。変動係数の算出は、以下の式を用いて算出する。
繊維径の変動係数(CV)[%]=繊維径の標準偏差/繊維径の平均値×100
クモ糸フィブロインフィラメントの繊維径の変動係数の上限値は10%以下である。繊維径の変動係数が10%以下であると、撚糸、紡績、織り、編みやカット等の後工程における工程通過性をより向上させることができる。また、繊維径の変動係数の下限値は0.01%以上、0.1%以上又は0.3%以上であってよい。繊維径の変動係数は、好ましくは9%以下、8%以下、7%以下、6%以下、5%以下又は3.1%以下である。また、繊維径の変動係数は好ましくは0.01%〜10%、0.01%〜9.5%、0.01%〜9%、0.01%〜8.5%、0.01%〜8%、0.01%〜7.5%、0.01%〜7%、0.01%〜6.7%、0.01%〜6.5%、0.01%〜6%、0.01%〜5.5%、0.01%〜5%、0.01%〜4.5%、0.01%〜4%、0.01%〜3.5%、0.01%〜3%、0.01%〜2.5%、0.01%〜2%、0.01%〜1.5%、0.01%〜1%、0.1%〜10%、0.1%〜9.5%、0.1%〜9%、0.1%〜8.5%、0.1%〜8%、0.1%〜7.5%、0.1%〜7%、0.1%〜6.5%、0.1%〜6%、0.1%〜5.5%、0.1%〜5%、0.1%〜4.5%、0.1%〜4%、0.1%〜3.5%、0.1%〜3.4%、0.1%〜3.3%、0.1%〜3.2%、又は0.1%〜3.1%である。本発明の製造方法によって、繊維径の変動係数を低減させることができ、繊維全体の太さをより均一に制御することができる。
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
〔(1)クモ糸タンパク質をコードする核酸の合成、及び発現ベクターの構築〕
ネフィラ・クラビぺス(Nephila clavipes)由来のフィブロイン(GenBankアクセッション番号:P46804.1、GI:1174415)の塩基配列及びアミノ酸配列に基づき、配列番号5で示されるアミノ酸配列を有するクモ糸タンパク質(以下、「PRT799」ともいう。)を設計した。
ネフィラ・クラビぺス(Nephila clavipes)由来のフィブロイン(GenBankアクセッション番号:P46804.1、GI:1174415)の塩基配列及びアミノ酸配列に基づき、配列番号5で示されるアミノ酸配列を有するクモ糸タンパク質(以下、「PRT799」ともいう。)を設計した。
配列番号9で示されるアミノ酸配列(Met−PRT799)は、ネフィラ・クラビペス由来のフィブロインのアミノ酸配列に対して、生産性の向上を目的としてアミノ酸残基の置換、挿入及び欠失を施し、C末端に配列番号42で示されるアミノ酸配列(ヒンジ配列とHisタグ)を付加したアミノ酸配列である。配列番号15で示されるアミノ酸配列(PRT799)は、配列番号9で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号12で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含むアミノ酸配列)を付加したものである。
設計した配列番号15で示されるアミノ酸配列を有するクモ糸タンパク質をコードする核酸を合成した。当該核酸には、5’末端にNdeIサイト、終止コドン下流にEcoRIサイトを付加した。これら2種類の核酸をクローニングベクター(pUC118)にクローニングした。その後、同核酸をNdeI及びEcoRIで制限酵素処理して切り出した後、タンパク質発現ベクターpET−22b(+)に組換えて発現ベクターを得た。
〔(2)クモ糸タンパク質の発現〕
(1)で得られた発現ベクターで、大腸菌BLR(DE3)を形質転換した。当該形質転換大腸菌を、アンピシリンを含む2mLのLB培地で15時間培養した。当該培養液をアンピシリンを含む100mLのシード培養用培地(表4)にOD600が0.005となるように添加した。培養液温度を30℃に保ち、OD600が5になるまでフラスコ培養を行い(約15時間)、シード培養液を得た。
(1)で得られた発現ベクターで、大腸菌BLR(DE3)を形質転換した。当該形質転換大腸菌を、アンピシリンを含む2mLのLB培地で15時間培養した。当該培養液をアンピシリンを含む100mLのシード培養用培地(表4)にOD600が0.005となるように添加した。培養液温度を30℃に保ち、OD600が5になるまでフラスコ培養を行い(約15時間)、シード培養液を得た。
当該シード培養液を500mLの生産培地(表5)を添加したジャーファーメンターにOD600が0.05となるように添加して形質転換大腸菌を植菌した。培養液温度を37℃に保ち、pH6.9で一定に制御して培養した。また培養液中の溶存酸素濃度を、溶存酸素飽和濃度の20%に維持するようにした。
生産培地中のグルコースが完全に消費された直後に、フィード液(グルコース455g/1L、Yeast Extract 120g/1L)を1mL/分の速度で添加した。培養液温度を37℃に保ち、pH6.9で一定に制御して培養した。また培養液中の溶存酸素濃度を、溶存酸素飽和濃度の20%に維持するようにし、20時間培養を行った。その後、1Mのイソプロピル−β−チオガラクトピラノシド(IPTG)を培養液に対して終濃度1mMになるよう添加し、目的のクモ糸タンパク質を発現誘導させた。IPTG添加後20時間経過した時点で、培養液を遠心分離し、菌体を回収した。IPTG添加前とIPTG添加後の培養液から調製した菌体を用いてSDS−PAGEを行い、IPTG添加に依存した目的とするクモ糸タンパク質サイズのバンドの出現により、目的とするクモ糸タンパク質の発現を確認した。
〔(3)クモ糸タンパク質の精製〕
IPTGを添加してから24時間後に回収した菌体を20mM Tris−HCl buffer(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の菌体を約1mMのPMSFを含む20mM Tris−HCl緩衝液(pH7.4)に懸濁させ、高圧ホモジナイザー(GEA Niro Soavi社)で細胞を破砕した。破砕した細胞を遠心分離し、沈殿物を得た。得られた沈殿物を、高純度になるまで20mM Tris−HCl緩衝液(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の沈殿物を100mg/mLの濃度になるように8M グアニジン緩衝液(8M グアニジン塩酸塩、10mM リン酸二水素ナトリウム、20mM NaCl、1mM Tris−HCl、pH7.0)で懸濁し、60℃で30分間、スターラーで撹拌し、溶解させた。溶解後、透析チューブ(三光純薬株式会社製のセルロースチューブ36/32)を用いて水で透析を行った。透析後に得られた白色の凝集タンパク質を遠心分離により回収し、凍結乾燥機で水分を除き、凍結乾燥粉末を回収した。
IPTGを添加してから24時間後に回収した菌体を20mM Tris−HCl buffer(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の菌体を約1mMのPMSFを含む20mM Tris−HCl緩衝液(pH7.4)に懸濁させ、高圧ホモジナイザー(GEA Niro Soavi社)で細胞を破砕した。破砕した細胞を遠心分離し、沈殿物を得た。得られた沈殿物を、高純度になるまで20mM Tris−HCl緩衝液(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の沈殿物を100mg/mLの濃度になるように8M グアニジン緩衝液(8M グアニジン塩酸塩、10mM リン酸二水素ナトリウム、20mM NaCl、1mM Tris−HCl、pH7.0)で懸濁し、60℃で30分間、スターラーで撹拌し、溶解させた。溶解後、透析チューブ(三光純薬株式会社製のセルロースチューブ36/32)を用いて水で透析を行った。透析後に得られた白色の凝集タンパク質を遠心分離により回収し、凍結乾燥機で水分を除き、凍結乾燥粉末を回収した。
得られた凍結乾燥粉末における目的とするクモ糸タンパク質の精製度は、粉末のポリアクリルアミドゲル電気泳動の結果をTotallab(nonlinear dynamics ltd.)を用いて画像解析することにより確認した。
〔(4)紡糸液(ドープ液)の調製〕
(3)で得られたクモ糸タンパク質(PRT799)の凍結乾燥粉末を、濃度24質量%となるように、ギ酸(株式会社朝日化学社製)に添加した後、40℃で一晩で溶解させた。その後、ゴミと泡を取り除き、ドープ液とした。
(3)で得られたクモ糸タンパク質(PRT799)の凍結乾燥粉末を、濃度24質量%となるように、ギ酸(株式会社朝日化学社製)に添加した後、40℃で一晩で溶解させた。その後、ゴミと泡を取り除き、ドープ液とした。
〔(5)最大延伸倍率の評価〕
卓上の紡糸装置を用いて湿式紡糸を行なった。調製した紡糸原液をリザーブタンクに充填した。不活性ガス(窒素)を用いて、内径0.20mmの孔径のニードルから紡糸原液を吐出し、100体積%エタノール凝固浴槽中へ吐出させた。タンパク質が凝固した後、凝固浴槽中で延伸を行った。ついで、メタノール洗浄浴、水洗浄浴で順次洗浄及び延伸した後、乾熱板を用いて乾燥させ、タンパク質繊維(原糸)を得て、これを巻き取った。
湿式紡糸の条件は以下のとおりである。
吐出圧:0.5bar
凝固浴延伸倍率:0倍
水洗浄浴延伸倍率:7〜9倍
凝固浴液の温度:5℃
乾燥温度:60℃
卓上の紡糸装置を用いて湿式紡糸を行なった。調製した紡糸原液をリザーブタンクに充填した。不活性ガス(窒素)を用いて、内径0.20mmの孔径のニードルから紡糸原液を吐出し、100体積%エタノール凝固浴槽中へ吐出させた。タンパク質が凝固した後、凝固浴槽中で延伸を行った。ついで、メタノール洗浄浴、水洗浄浴で順次洗浄及び延伸した後、乾熱板を用いて乾燥させ、タンパク質繊維(原糸)を得て、これを巻き取った。
湿式紡糸の条件は以下のとおりである。
吐出圧:0.5bar
凝固浴延伸倍率:0倍
水洗浄浴延伸倍率:7〜9倍
凝固浴液の温度:5℃
乾燥温度:60℃
延伸と物性測定
光学顕微鏡を用いて繊維の直径を求めた。
温度:20℃、相対湿度:60%RHの雰囲気温度で、引張り試験機(島津社製小型卓上試験機EZ−S)を用いて、タンパク質繊維の応力及び伸度を測定し、タフネスを算出した。サンプルは厚紙で型枠を作製したものに貼り付け、つかみ具間距離は20mm、引張り速度は10mm/minで行った。ロードセル容量1N、つかみ冶具はクリップ式とした。
タフネスは、以下の式に基づいて算出した。
[E/(r2×π×L)×1000](単位:MJ/m3)
但し、
E 破壊エネルギー(単位:J)
r 繊維の半径(単位:mm)
π 円周率
L 引張り試験測定時のつかみ具間距離:20mm
光学顕微鏡を用いて繊維の直径を求めた。
温度:20℃、相対湿度:60%RHの雰囲気温度で、引張り試験機(島津社製小型卓上試験機EZ−S)を用いて、タンパク質繊維の応力及び伸度を測定し、タフネスを算出した。サンプルは厚紙で型枠を作製したものに貼り付け、つかみ具間距離は20mm、引張り速度は10mm/minで行った。ロードセル容量1N、つかみ冶具はクリップ式とした。
タフネスは、以下の式に基づいて算出した。
[E/(r2×π×L)×1000](単位:MJ/m3)
但し、
E 破壊エネルギー(単位:J)
r 繊維の半径(単位:mm)
π 円周率
L 引張り試験測定時のつかみ具間距離:20mm
表6に示すように、水を添加しない凝固液(比較例1、比較例3、比較例5)と、添加する凝固液(実施例1〜5、比較例2、比較例4、比較例6)で得られたタンパク質繊維について、それぞれ3つの延伸倍率の条件で延伸を行った。得られた各タンパク質繊維の応力、伸度及び巻き取り時間を評価し、結果を表6に示す。
延伸倍率が7.5倍(比較例3)及び8.0倍(比較例4)で得られたタンパク質繊維は、延伸倍率が7.0倍で(比較例1)の場合に比べて、巻き取り時間が短くなった。延伸倍率が7.0の場合、水を添加した実施例1及び実施例2で得られたタンパク質繊維は、比較例1で得られたタンパク質繊維と比べて、応力及び伸度が維持されたまま、より細い繊維径を有し、また、繊維径の変動係数もより低くなった。一方、水の添加量がより高い比較例2では巻き取り時間が短くなったものの、繊維径の変動係数が上昇した。延伸倍率が7.5及び8.0の場合、実施例3〜5で得られたタンパク質繊維は、比較例3又は比較例5に比べて、水の添加によって、繊維径が細くなり、繊維径の変動係数がより低くなった。一方、水の添加量が増えると、繊維径が細くなったものの、繊維径の変動係数が上昇し、また、巻き取り時間も長くなった(比較例4及び比較例6)。
1…押出し装置、2…未延伸糸製造装置、3…湿熱延伸装置、4…乾燥装置、6…紡糸原液、10…紡糸装置、20…凝固浴槽、21…洗浄浴槽、36…タンパク質繊維。
Claims (6)
- クモ糸タンパク質及び溶媒を含有する紡糸原液を凝固液に接触させ、前記クモ糸タンパク質を凝固させる工程を含み、
前記溶媒がギ酸を含有し、
前記凝固液が低級アルコール及び水を含有し、
前記凝固液中の前記水の含有量が、前記凝固液の全量に対して1体積%以上、10体積%未満である、タンパク質繊維の製造方法。 - 前記凝固液において、前記低級アルコールに対する前記水の体積比が0.01以上、0.11未満である、請求項1に記載のタンパク質繊維の製造方法。
- 前記凝固液中の前記低級アルコールの含有量が、前記凝固液の全量に対して、80体積%以上である、請求項1又は2に記載の製造方法。
- 前記低級アルコールがエタノールである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
- 凝固させたクモ糸タンパク質を延伸する工程を更に含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法。
- 得られるタンパク質繊維の繊維直径が35μm以下、繊維直径の変動係数が3.1%以下である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法。
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