本発明を実施する際には、別段の指定がない限り、細胞生物学、細胞培養、分子生物学、トランスジェニック生物学、微生物学、組換え核酸(例えば、DNA)技術、免疫学、及びRNA干渉(RNAi)の従来技術が典型的には用いられることになるが、こうした従来技術は、当該技術分野の技能範囲内のものである。こうした技術のある特定のものについての説明は、限定されないが、下記の刊行物に見られる:Ausubel,F.,et al.,(eds.),Current Protocols in Molecular Biology、Current Protocols in Immunology、Current Protocols in Protein Science、及びCurrent Protocols in Cell Biology(すべてJohn Wiley & Sons,N.Y.,edition(2008年12月時点))、Sambrook,Russell,and Sambrook,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,3rd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,2001、Harlow,E.and Lane,D.,Antibodies−A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,1988、Freshney,R.I.,“Culture of Animal Cells,A Manual of Basic Technique”,5th ed.,John Wiley & Sons,Hoboken,NJ,2005。治療剤及びヒト疾患に関する情報については、限定されないが、Goodman and Gilman’s The Pharmacological Basis of Therapeutics,11th Ed.,McGraw Hill,2005、Katzung,B.(ed.)Basic and Clinical Pharmacology,McGraw−Hill/Appleton & Lange;10th ed.(2006)または11th edition(July 2009)に見られる。遺伝子及び遺伝性障害に関する情報については、限定されないが、McKusick,V.A.:Mendelian Inheritance in Man.A Catalog of Human Genes and Genetic Disorders.Baltimore:Johns Hopkins University Press,1998(12th edition)またはより最近のオンラインデータベース:Online Mendelian Inheritance in Man,OMIM(商標).McKusick−Nathans Institute of Genetic Medicine,Johns Hopkins University(Baltimore,MD)and National Center for Biotechnology Information,National Library of Medicine(Bethesda,MD)(2010年5月1日時点)、ncbi.nlm.nih.gov/omim/、ならびにomia.angis.org.au/contact.shtmlにおけるOnline Mendelian Inheritance in Animals(OMIA)(動物種(ヒト及びマウス以外)における遺伝子、遺伝障害、及び遺伝形質のデータベース)に見られる。本明細書で言及される特許、特許出願、及び他の刊行物(例えば、科学論文、書籍、ウェブサイト、及びデータベース)はすべて、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる。本明細書と、組み込まれる参考文献のいずれかとの間に矛盾が生じる場合、本明細書(その任意の補正物(組み込まれる参考文献に基づき得る)を含む)が優先されるものとする。本明細書では、用語は、別段の指定がない限り、それが当該技術分野で認められている標準的な意味で使用される。本明細書では、さまざまな用語に対して標準的な略語が使用される。
転写凝縮体のタンパク質コンポーネントの多くは、天然変性の領域(天然(intrinsic)(もしくは天然(intrinsically))変性領域(IDR)または天然(intrinsic)(もしくは天然(intrinsically))変性ドメインとも称される)を有する。こうした用語はそれぞれ、本開示を通じて互換的に使用される。ヘテロクロマチン凝縮体のコンポーネントの多く、及びmRNA開始複合体またはmRNA伸長複合体と物理的に結び付く凝縮体のコンポーネントの多くもまた、IDRを有する。IDRは、安定な二次構造及び三次構造を有さない。いくつかの実施形態では、IDRは、Ali,M.,& Ivarsson,Y.(2018).High−throughput discovery of functional disordered regions.Molecular Systems Biology,14(5),e8377に開示の方法によって同定され得る。
本明細書に記載の組成物及び方法の実施形態のいくつかでは、凝縮体コンポーネントは、転写因子である。本明細書で使用される「転写因子」(TF)は、特定のDNA配列に結合することによって転写を制御するタンパク質である。TFは、一般に、DNA結合ドメイン及び活性化ドメインを含む。いくつかの実施形態では、転写因子は、活性化ドメインにIDRを有する。いくつかの実施形態では、転写因子(TF)は、OCT4、p53、MYCもしくはGCN4、NANOG、MyoD、KLF4、SOXファミリーの転写因子、またはGATAファミリーの転写因子である。いくつかの実施形態では、TFは、シグナル伝達因子によって制御される(例えば、TFがシグナル伝達因子と相互作用することによって転写が調節される)。いくつかの実施形態では、TFは、核内受容体(例えば、核内ホルモン受容体、エストロゲン受容体、レチノイン酸受容体−アルファ)である。核内受容体は、5〜6つの相同ドメイン(N末端からC末端の順にA〜Fと呼ばれる)からなる特徴的なモジュラー構造を示す進化的に関連するDNA結合転写因子の大きなスーパーファミリーのメンバーである。NRの活性は、さまざまな小分子リガンドがリガンド結合ドメイン中のポケットに結合することによって少なくとも部分的に制御される。ヒトゲノムは、約50種類のNRをコードする。NRスーパーファミリーのメンバーには、糖質コルチコイド受容体、鉱質コルチコイド受容体、プロゲステロン受容体、アンドロゲン受容体、及びエストロゲン受容体、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)、甲状腺ホルモン受容体、レチノイン酸受容体、レチノイドX受容体、NR1H受容体及びNR1I受容体、ならびにオーファン核内受容体(すなわち、特定の日付時点でリガンドが同定されていない受容体)が含まれる。いくつかの実施形態では、核内受容体(NR)は、核内受容体サブファミリー0のメンバー、核内受容体サブファミリー1のメンバー、核内受容体サブファミリー2のメンバー、核内受容体サブファミリー3のメンバー、核内受容体サブファミリー4のメンバー、核内受容体サブファミリー5のメンバー、または核内受容体サブファミリー6のメンバーである。いくつかの実施形態では、核内受容体は、NR1D1(核内受容体サブファミリー1、D群、メンバー1)、NR1D2(核内受容体サブファミリー1、D群、メンバー2)、NR1H2(核内受容体サブファミリー1、H群、メンバー2;異名:肝臓X受容体ベータ)、NR1H3(核内受容体サブファミリー1、H群、メンバー3;異名:肝臓X受容体アルファ)、NR1H4(核内受容体サブファミリー1、H群、メンバー4)、NR1I2(核内受容体サブファミリー1、I群、メンバー2;異名:プレグナンX受容体)、NR1I3(核内受容体サブファミリー1、I群、メンバー3;異名:構成的アンドロスタン受容体)、NR1I4(核内受容体サブファミリー1、I群、メンバー4)、NR2C1(核内受容体サブファミリー2、C群、メンバー1)、NR2C2(核内受容体サブファミリー2、C群、メンバー2)、NR2E1(核内受容体サブファミリー2、E群、メンバー1)、NR2E3(核内受容体サブファミリー2、E群、メンバー3)、NR2F1(核内受容体サブファミリー2、F群、メンバー1)、NR2F2(核内受容体サブファミリー2、F群、メンバー2)、NR2F6(核内受容体サブファミリー2、F群、メンバー6)、NR3C1(核内受容体サブファミリー3、C群、メンバー1;異名:糖質コルチコイド受容体)、NR3C2(核内受容体サブファミリー3、C群、メンバー2;異名:アルドステロン受容体、鉱質コルチコイド受容体)、NR4A1(核内受容体サブファミリー4、A群、メンバー1)、NR4A2(核内受容体サブファミリー4、A群、メンバー2)、NR4A3(核内受容体サブファミリー4、A群、メンバー3)、NR5A1(核内受容体サブファミリー5、A群、メンバー1)、NR5A2(核内受容体サブファミリー5、A群、メンバー2)、NR6A1(核内受容体サブファミリー6、A群、メンバー1)、NR0B1(核内受容体サブファミリー0、B群、メンバー1)、NR0B2(核内受容体サブファミリー0、B群、メンバー2)、RARA(レチノイン酸受容体、アルファ)、RARB(レチノイン酸受容体、ベータ)、RARG(レチノイン酸受容体、ガンマ)、RXRA(レチノイドX受容体、アルファ;異名:核内受容体サブファミリー2、B群、メンバー1)、RXRB(レチノイドX受容体、ベータ;異名:核内受容体サブファミリー2、B群、メンバー2)、RXRG(レチノイドX受容体、ガンマ;異名:核内受容体サブファミリー2、B群、メンバー3)、THRA(甲状腺ホルモン受容体、アルファ)、THRB(甲状腺ホルモン受容体、ベータ)、AR(アンドロゲン受容体)、ESR1(エストロゲン受容体1)、ESR2(エストロゲン受容体2;異名:ERベータ)、ESRRA(エストロゲン関連受容体アルファ)、ESRRB(エストロゲン関連受容体ベータ)、ESRRG(エストロゲン関連受容体ガンマ)、PGR(プロゲステロン受容体)、PPARA(ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体アルファ)、PPARD(ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体デルタ)、PPARG(ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体ガンマ)、VDR(ビタミンD(1,25−ジヒドロキシビタミンD3)受容体)である。
いくつかの実施形態では、核内受容体は、タンパク質分解による切断によって生じる天然起源の短縮形態の核内受容体(短縮型RXRアルファまたは短縮型エストロゲン受容体など)である。いくつかの実施形態では、受容体(例えば、NR)は、HSP70クライアントである。例えば、アンドロゲン受容体(AR)及び糖質コルチコイド受容体(GR)は、HSP70クライアントである。NRに関する詳細な情報は、Germain,P.,et al.,Pharmacological Reviews,58:685−704,2006において見つけることができ、この文献では、核内受容体の命名法及び構造の総説、ならびにNRサブファミリーに関する総説として同じ号の薬理学的総説に掲載される他の文献が提供されている)。いくつかの実施形態では、HSP90Aクライアントは、ステロイドホルモン受容体(例えば、エストロゲン、プロゲステロン、糖質コルチコイド、鉱質コルチコイド、またはアンドロゲン受容体)、PPARアルファ、またはPXRである。いくつかの実施形態では、核内受容体(NR)は、リガンド依存性NRである。リガンド依存性NRは、NRにリガンドが結合するとNRの活性が調節されることによって特徴付けられる。いくつかの実施形態では、リガンド依存性NFにリガンドが結合すると、NRに立体配座の変化が生じ、その結果、例えば、NRの核内移行、NRからの1つ以上のタンパク質の解離、NRの活性化、またはNRの抑制が生じる。いくつかの実施形態では、NRは、リガンド結合時に野生型NRなら生じる1つ以上の活性(例えば、NRの核内移行、NRからの1つ以上のタンパク質の解離、NRの活性化、またはNRの抑制)を有さない変異体である。いくつかの実施形態では、NRは、野生型NRではリガンド依存的な活性(例えば、NRの核内移行、NRからの1つ以上のタンパク質の解離、NRの活性化、またはNRの抑制)がリガンド結合に依存せずに生じる変異体である。いくつかの実施形態では、核内受容体は、関連リガンドに結合すると転写を活性化する。いくつかの実施形態では、核内受容体は、関連リガンドの非存在下で転写を活性化する変異核内受容体である。
NRは、幅広い範囲の生物学的プロセス(とりわけ、発生、分化、生殖、免疫応答、代謝制御、及び異物代謝など)、ならびにさまざまな病的状態において重要な役割を担う。NRは、重要なクラスの薬物標的となっている。NRを(例えば、NRを含む転写凝縮体を調節することによって)薬理学的に調節することは、さまざまな障害(がん、自己免疫性、代謝性、及び炎症性/免疫系の障害(例えば、関節炎、喘息、アレルギー)を含む)、ならびに拒絶の可能性を低減するための移植後の免疫抑制において有用であり得る。内在性小分子リガンド及び/または外来性小分子リガンド(複数可)との相互作用に加えて、NRは、さまざまな内在性タンパク質(二量体化パートナー、コアクチベーター、コリプレッサー、ユビキチンリガーゼ、キナーゼ、ホスファターゼなど)と相互作用し、こうした内在性タンパク質によってNRの活性が調節され得る。
核内受容体リガンドは、いくつかのNRの活性を調節する。いくつかのリガンドは、NRの活性を刺激する。そのようなリガンドは、「アゴニスト」と称され得る。いくつかのリガンドは、アゴニストの非存在下ではNRまたは他のリガンド依存性TFの活性に影響を与えない。一方で、「アンタゴニスト」と称され得るリガンドは、アゴニストの作用を阻害する能力を有し、こうした阻害は、例えば、タンパク質におけるアゴニストの結合部位と同じ結合部位に競合的に結合するか、またはタンパク質における異なる結合部位に結合することによって生じる。ある特定のNRは、アゴニストの非存在下で低レベルの遺伝子転写を促進する(基底活性または構成的活性とも称される)。核内受容体におけるこの基底レベルの活性を低減するリガンドは、インバースアゴニストと称され得る。
いくつかの実施形態では、転写因子は、表S3に記載の転写因子である。いくつかの実施形態では、転写因子は、メディエーターコンポーネント(例えば、表S3に記載のメディエーターコンポーネント)と相互作用する転写因子である。
いくつかの実施形態では、TFは、シグナル伝達因子によって制御される活性を有するTFである。いくつかの実施形態では、シグナル伝達因子は、IDRを含む。いくつかの実施形態では、シグナル伝達因子は、TCF7L2、TCF7、TCF7L1、LEF1、ベータ−カテニン、SMAD2、SMAD3、SMAD4、STAT1、STAT2、STAT3、STAT4、STAT5A、STAT5B、STAT6、またはNF−κBである。本明細書に記載の組成物及び方法の実施形態のいくつかでは、シグナル伝達因子は、NF−kB、FOXO1、FOXO2、FOXO4、IKKアルファ、CREB、Mdm2、YAP、BAD、p65、p50、GLI1、GLI2、GLI3、YAP、TAZ、TEAD1、TEAD2、TEAD3、TEAD4、STAT1、STAT2、STAT3、STAT4、STAT5A、STAT5B、STAT6、AP−1、C−FOS、CREB、MYC、JUN、CREB、ELK1、SRF、NOTCH1、NOTCH2、NOTCH3、NOTCH4、RBPJ、MAML1、SMAD2、SMAD3、SMAD4、IRF3、ERK1、ERK2、MYC、TCF7L2、TCF7、TCF7L1、LEF1、またはベータ−カテニンであり得る。
本明細書に記載の組成物及び方法の実施形態のいくつかでは、凝縮体コンポーネントは、表S1に記載のタンパク質である。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の組成物または方法のいずれかにおける凝縮体コンポーネントは、表S1に記載のタンパク質のIDRを含む。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の組成物または方法のいずかにおける凝縮体コンポーネントは、表S1に記載のタンパク質と結び付く。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の組成物または方法のいずれかにおける凝縮体コンポーネントは、表S1に記載のタンパク質のIDRと結び付く。いくつかの実施形態では、凝縮体コンポーネントは、表S3に記載のメディエーターコンポーネントである。
表S1では、「IDR長(aa)」は、変性%にタンパク質の全長を掛けることによって計算した。Potenza,et al.,“MobiDB 2.0:an improved database of intrinsically disordered and mobile proteins,”Nucleic Acids Res.2015 Jan;43(Database issue):D315−20に示される方法を使用して所与のタンパク質の変性%を得ることができ、当該文献は、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる。
こうしたモチーフは、凝縮体の形成、維持、崩壊、または制御に関与することが提唱されている(図2A)。ペプチド、核酸、または小化学分子が任意の1つの型のタンパク質モチーフと特異的に相互作用するのであれば、そうしたペプチド、核酸、または小化学分子は、凝縮体の形成、組成物、維持、崩壊、または制御に影響を与え、それによって、そのようなモチーフを利用する凝縮体による転写量が変わるであろうと想定される(図2B)。したがって、転写凝縮体を調節することによって1つ以上の遺伝子の発現が影響を受け得る。
例えば、いくつかの実施形態では、転写凝縮体を調節することで、エンハンサーまたはスーパーエンハンサー(SE)によって制御される遺伝子の発現が調節され得る。本明細書で使用される「スーパーエンハンサー」は、例外的に高い密度の転写装置によって占有されるエンハンサーのクラスターであり、ある特定のSEは、細胞独自性(例えば、細胞増殖、細胞分化)において特に重要な役割を有する遺伝子を制御する。本開示は、任意のエンハンサーまたはスーパーエンハンサーを調節することを企図する。スーパーエンハンサーの例は、2013年10月25日出願のPCT国際出願第PCT/US2013/066957号(代理人整理番号WIBR−137−WO1)に開示されており、当該文献は、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる。
本明細書で使用される「スーパーエンハンサーコンポーネント」という語句は、通常のエンハンサー、またはスーパーエンハンサー以外のエンハンサーとは対照的に、スーパーエンハンサーにおける局所濃度または占有度が高く、いくつかの実施形態では、関連遺伝子の発現増加に寄与するコンポーネント(タンパク質など)を指す。ある実施形態では、スーパーエンハンサーコンポーネントは、核酸(例えば、RNA(例えば、スーパーエンハンサーから転写されるeRNA、すなわちeRNA))である。ある実施形態では、核酸は、染色体核酸ではない。ある実施形態では、スーパーエンハンサーコンポーネントは、転写の活性化または制御に関与する。いくつかの実施形態では、スーパーエンハンサーコンポーネントは、RNAポリメラーゼII、メディエーター、コヒーシン、Nipbl、p300、CBP、Chd7、Brd4、及びesBAFのコンポーネント(Brg1)またはLsd1−Nurd複合体のコンポーネント(例えば、RNAポリメラーゼII)を含む。
いくつかの実施形態では、スーパーエンハンサーコンポーネントは、転写因子である。いくつかの実施形態では、転写因子は、OCT4、p53、MYC、またはGCN4である。いくつかの実施形態では、転写因子は、IDR(例えば、転写因子の活性化ドメインにおけるIDR)を有する。いくつかの実施形態では、転写因子は、表S3に記載の転写因子の活性化ドメインを有する。いくつかの実施形態では、転写因子は、表S3に記載の転写因子のIDRを有する。いくつかの実施形態では、転写因子は、表S3に記載のものである。いくつかの実施形態では、転写因子は、メディエーターコンポーネント(例えば、表S3に記載のメディエーターコンポーネント)と相互作用する転写因子である。本明細書で使用される「転写因子」という用語は、DNA結合ドメインを使用してDNAの特定部分に結合し、DNAからRNAへの遺伝情報の伝達(もしくは転写)を制御する系の一部となるタンパク質を指す。本明細書で使用される転写活性化ドメイン(AD)は、プロモーターからの転写を、DNA結合ドメインと連動して活性化できる転写因子領域である。いくつかの実施形態では、ADは、転写因子DNA結合ドメインを含まない。いくつかの実施形態では、ADは、Violaine Saint−Andre et al.,Gen Res,2015において定義されるヒト転写因子に由来するものである。いくつかの実施形態では、ADは、IDRを含む。いくつかの実施形態では、IDRは、少なくとも約5つ、少なくとも約10個、少なくとも約15個、少なくとも約20個、少なくとも約30個、少なくとも約40個、少なくとも約50個、少なくとも約60個、少なくとも約75個、少なくとも約100個、少なくとも約150個、またはそれを超える数の変性アミノ酸(例えば、連続する変性アミノ酸)である。いくつかの実施形態では、アミノ酸は、D2P2(Oates et al.,2013)によって用いられるアルゴリズムのうちの少なくとも75%が、当該残基が変性すると予測するのであれば、変性アミノ酸であると考えられる。いくつかの実施形態では、同定されるADの断片を選択することができ、こうした断片は、例えば、全長ADの活性化能力の少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、またはそれを超える%を保持する。
本明細書で使用される「エンハンサー」は、タンパク質(例えば、転写因子)が結合して遺伝子の転写を増進する短いDNA領域を指す。本明細書で使用される「転写コアクチベーター」は、転写因子と相互作用して遺伝子の転写を刺激するタンパク質またはタンパク質の複合体を指す。いくつかの実施形態では、転写コアクチベーターは、メディエーターである。いくつかの実施形態では、転写コアクチベーターは、Med1(遺伝子識別子:5469)またはMED15である。いくつかの実施形態では、転写コアクチベーターは、メディエーターコンポーネントである。本明細書で使用される「メディエーターコンポーネント」は、天然起源のメディエーター複合体ポリペプチドのアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列を有するポリペプチドを含むか、または当該ポリペプチドからなる。天然起源のメディエーター複合体ポリペプチドは、例えば、細胞に生じるメディエーター複合体または細胞から精製されるメディエーター複合体に見られるおよそ30種類のポリペプチドのいずれかであり得る(例えば、Conaway et al.,2005、Kornberg,2005、Malik and Roeder,2005を参照のこと)。いくつかの実施形態では、天然起源のメディエーターコンポーネントは、Med1〜Med31のいずれかであるか、または当該技術分野で知られる任意の天然起源のメディエーターポリペプチドである。例えば、天然起源のメディエーター複合体ポリペプチドは、Med6、Med7、Med10、Med12、Med14、Med15、Med17、Med21、Med24、Med27、Med28、またはMed30であり得る。いくつかの実施形態では、メディエーターポリペプチドは、Med11複合体、Med17複合体、Med20複合体、Med22複合体、Med8複合体、Med18複合体、Med19複合体、Med6複合体、Med30複合体、Med21複合体、Med4複合体、Med7複合体、Med31複合体、Med10複合体、Med1複合体、Med27複合体、Med26複合体、Med14複合体、Med15複合体に見られるサブユニットである。いくつかの実施形態では、メディエーターポリペプチドは、Med12/Med13/CDK8/サイクリン複合体に見られるサブユニットである。メディエーターについては、PCT国際出願第WO2011/100374号においてさらに詳述されており、当該文献の教示内容は、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる。
ペプチド、核酸、または小化学分子(例えば、本明細書に記載の化合物、小分子、薬剤)が、タンパク質において凝縮体形成に関与する任意の1つの型のモチーフと特異的に相互作用すると、そうした化合物が凝縮体に優先的に蓄積し得、こうして蓄積した化合物が作用することで、凝縮体関連機能の挙動に優先的に影響が及び得る。例えば、化合物は、凝縮体を安定化または崩壊させ、それによって転写を調節し得る。いくつかの実施形態では、化合物は、凝縮体を安定化または崩壊させ、それによって遺伝子サイレンシングを調節し得る。いくつかの実施形態では、化合物は、凝縮体を安定化または崩壊させ、それによってmRNAの開始または伸長(例えば、スプライシング)を調節し得る。いくつかの態様では、方法は、表S2に記載のモチーフと物理的に結び付く化合物を同定することを含む。いくつかの態様では、方法は、核内受容体ADのIDRと物理的に結び付く化合物を同定することを含む。いくつかの実施形態では、核内受容体は、疾患と結び付く変異核内受容体である。いくつかの実施形態では、変異核内受容体は、乳癌と結び付く。本明細書に開示の方法及び化合物の実施形態のいくつかでは、核内受容体は、変異エストロゲン受容体(例えば、エストロゲン受容体アルファ)(例えば、Y537S ESR1、D538G ESR1)である。いくつかの実施形態では、方法は、ヘテロクロマチンまたは遺伝子サイレンシング凝縮体のコンポーネントと相互作用する化合物(例えば、メチル化DNA、メチルDNA結合タンパク質、サプレッサー、またはスーパーエンハンサーにおけるメチル化DNAと相互作用する化合物)を同定することを含む。いくつかの実施形態では、方法は、開始複合体または伸長複合体と物理的に結び付く凝縮体と優先的に相互作用する化合物を同定することを含む。
したがって、本発明の態様のいくつかは、細胞における1つ以上の遺伝子の転写を調節する方法を対象とし、この方法は、1つ以上の遺伝子と結び付く凝縮体(例えば、転写凝縮体)の形成、組成、維持、崩壊、及び/または制御を調節することを含む。本発明の態様のいくつかは、遺伝子サイレンシング(例えば、1つ以上の遺伝子の転写の抑制、ヘテロクロマチンにおける1つ以上の遺伝子の転写の抑制)を調節する方法を対象とし、この方法は、1つ以上の遺伝子と結び付く凝縮体の形成、組成、維持、崩壊、及び/または制御を調節することを含む。本開示の態様のいくつかは、mRNAの開始または伸長を調節することを対象とし、この調節は、開始複合体または伸長複合体と物理的に結び付く凝縮体の形成、組成、維持、崩壊、及び/または制御を調節することを含む。
本明細書で使用される「調節すること」(及びその動詞形態(「調節する」など))は、定性的または定量的な変化、改変、または修飾を生じさせるか、または促進することを意味する。そのような変化は、定性的または定量的な側面での増加または減少であり得るが、こうしたものに、限定されない。
「増加した」、「増加する」、または「増進する」という用語は、例えば、統計的に有意な量での増加または増進であり得る。いくつかの実例では、例えば、要素の増加率または増進率は、参照レベル(例えば、対照)と比較して、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、または少なくとも約100%であり得、こうした範囲は、そこに含まれる任意の整数量(例えば、2%、14%、28%など)(簡略化のために包括的には記載されていない)を含むことが理解されよう。他の実例では、要素の増加倍率または増進倍率は、参照レベルと比較して、少なくとも約2倍、少なくとも約3倍、少なくとも約4倍、少なくとも約5倍、少なくとも約10倍、またはそれを超える倍率であり得る。
「減少する」、「低減する」、「低減される」、「低減」、及び「阻害する」という用語は、例えば、参照(例えば、対照)と比較して統計的に有意な量での減少または低減であり得る。いくつかの実例では、例えば、要素の減少率または低減率は、参照レベルと比較して、少なくとも10%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、少なくとも約99%(記載の最大値を含み、さらに、例えば、参照レベルと比較して要素が完全に存在しなくなることが含まれる)であり得る。こうした範囲は、そこに含まれる任意の整数量(例えば、6%、18%、26%など)(簡略化のために包括的には記載されていない)を含むことが理解されよう。
例えば、遺伝子の転写を調節することには、遺伝子の転写の速度または頻度を増加または減少させることが含まれる。凝縮体の形成を調節することには、形成率または形成成立有無を増加または減少させることが含まれる。凝縮体の組成を調節することには、凝縮体と結び付くコンポーネントのレベルを上昇または低下させることが含まれる。凝縮体の維持を調節することには、凝縮体の維持率を増加または減少させることが含まれる。凝縮体の崩壊を調節することには、凝縮体の崩壊率を増加または減少させること、及び凝縮体の崩壊を阻止または抑制することが含まれる。凝縮体の制御を調節することには、凝縮体の細胞制御を修飾することが含まれる。遺伝子サイレンシングを調節することには、遺伝子の転写阻害を増加または減少させることが含まれる。mRNAの開始または転写を調節することには、mRNAの転写開始、mRNAの伸長、及びmRNAのスプライシング活性を増加または減少させることが含まれる。本明細書で使用されるように、凝縮体を調節することは、凝縮体の形成、組成、維持、崩壊、及び/または制御を調節することのうちの1つ、2つ、3つ、4つ、または5つすべてを含む。いくつかの実施形態では、凝縮体を調節することは、凝縮体の形態または形状を変化させることを含む。
本明細書で使用される「遺伝子サイレンシング」(遺伝子転写抑制と称されることもある)は、遺伝子の転写の低減または除去を指す。遺伝子の転写の低減率は、参照レベル(例えば、非処理の対照細胞または凝縮体)と比較して、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、少なくとも約99%、少なくとも約99.5%、少なくとも約99.9%、またはそれを超える%であり得る。いくつかの実施形態では、遺伝子サイレンシングは、ヘテロクロマチンまたはメチル化ゲノムDNAと結び付く。いくつかの実施形態では、遺伝子サイレンシングは、メチル化DNAへのメチルDNA結合タンパク質の結合を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子サイレンシングは、クロマチンを修飾することを含む。本明細書で使用される「ヘテロクロマチン」は、密度が通常とは異なり(通常、密度が高まっている)、遺伝子の活性が修飾または抑制されている染色体物質を指す。本明細書の方法及び組成物の実施形態のいくつかでは、ヘテロクロマチンは、条件的ヘテロクロマチンを指し、条件的ヘテロクロマチンは、特定の発生的または環境的なシグナル伝達情報の下で、その凝縮構造を失い、転写的に活性となる。
いくつかの実施形態では、調節される1つ以上の遺伝子は、がん遺伝子を含む。がん遺伝子の例としては、MYC、SRC、FOS、JUN、MYB、RAS、ABL、HOXI1、HOXI1 1L2、TAL1/SCL、LMO1、LMO2、EGFR、MYCN、MDM2、CDK4、GLI1、IGF2、活性化EGFR、変異遺伝子(FLT3−ITD、変異TP53、変異PAX3、変異PAX7、変異BCR/ABL、変異HER2/NEU、変異FLT3R、変異FLT6−ITD、変異SRC、変異ABL、変異TAN1、変異PTC、変異B−RAF、変異PML−RAR−アルファ、変異E2A−PRX1、及び変異NPM−ALKなど)、ならびにPAX遺伝子ファミリー及びFKHR遺伝子ファミリーのメンバーが融合したものが挙げられる。がん遺伝子の例は、当該技術分野で他にもよく知られている。いくつかの実施形態では、がん遺伝子は、c−MYC及びIRF4からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、遺伝子は、発がん性融合タンパク質(例えば、MLL再構成体、EWS−FLI、ETS融合体、BRD4−NUT、NUP98融合体)をコードする。
いくつかの実施形態では、1つ以上の遺伝子は、疾患(がん(例えば、乳癌)など)の顕著な特徴と結び付くものである。いくつかの実施形態では、1つ以上の遺伝子は、疾患関連DNA配列バリエーション(SNPなど)と結び付くものである。いくつかの実施形態では、疾患は、アルツハイマー病であり、遺伝子は、BIN1(例えば、疾患関連DNA配列バリエーション(SNPなど)を有するもの)を含む。いくつかの実施形態では、疾患は、1型糖尿病であり、1つ以上の遺伝子は、初代Th細胞と結び付くもの(例えば、疾患関連DNA配列バリエーション(SNPなど)を有するもの)である。いくつかの実施形態では、疾患は、全身性エリテマトーデスであり、1つ以上の遺伝子は、B細胞生物学において重要な役割を担うもの(例えば、疾患関連DNA配列バリエーション(SNPなど)を有するもの)である。いくつかの実施形態では、1つ以上の遺伝子は、核内受容体(例えば、核内ホルモン受容体、リガンド依存性核内受容体)をコードする遺伝子における変異と結び付く疾患または状態と結び付くものである。いくつかの実施形態では、1つ以上の遺伝子は、細胞に特有の顕著な特徴と結び付くものである。いくつかの実施形態では、1つ以上の遺伝子は、異常に発現するものであるか、またはDNAバリエーション(SNPなど)と結び付くものである。「異常に発現する」は、1種以上の目的細胞または目的インビトロ凝縮体における遺伝子発現が、試験処理または試験条件に供されない正常細胞(例えば、同じ細胞型の正常細胞、もしくは培養細胞については、同等の条件の下で培養された細胞)または凝縮体(例えば、細胞から単離された凝縮体については、同じ細胞型の正常細胞から単離された凝縮体、もしくは培養細胞については同等の条件の下で培養された細胞から単離された凝縮体)に見られる当該遺伝子発現に典型的な対照レベルと異なることが検出可能であることを示すために使用される。いくつかの実施形態では、1つ以上の遺伝子は、細胞におけるシグナル伝達の異常(例えば、WNT経路、TGF−β経路、またはJAK/STAT経路と結び付くシグナル伝達の異常)と結び付くものである。いくつかの実施形態では、1つ以上の遺伝子は、mRNAの開始異常または伸長異常(例えば、スプライシング異常)を伴う遺伝子を含む。本明細書で使用される「mRNAの開始異常または伸長異常」は、対照の細胞または対象におけるmRNAの開始または伸長との差異(例えば、健康な細胞もしくは対象、またはmRNAの開始もしくは伸長が普通ではないことによって特徴付けられる疾患もしくは状態を有さない細胞もしくは対象、と比較したときの上昇または低下(増加または減少))が検出可能または有意なことである。いくつかの実施形態では、1つ以上の遺伝子は、疾患または状態に特有のスプライシングバリアント(例えば、疾患または状態を有さない対照の対象におけるmRNA配列と比較してmRNA配列が長鎖化または短鎖化したスプライシングバリアント)と結び付くものである。いくつかの実施形態では、1つ以上の遺伝子は、遺伝子サイレンシングの異常(例えば、健康な細胞または健康な対象(例えば、対照の細胞または対象)における遺伝子サイレンシングと比較したときの遺伝子サイレンシング増加または減少)と結び付く疾患または障害と結び付くものである。いくつかの実施形態では、遺伝子サイレンシングの異常と結び付く疾患または障害は、レット症候群、MeCP2過剰発現症候群、またはMeCP2の発現低下もしくは活性低下である。MeCP2は、メチルCpG結合タンパク質2(ヒトUniProt識別子:P51608)を指す。いくつかの実施形態では、1つ以上の遺伝子は、哺乳類細胞に見られるものであり、哺乳類細胞は、例えば、ヒトの細胞、胎児の細胞、胚性幹細胞または胚性幹細胞様細胞(例えば、臍帯静脈に由来する細胞(例えば、臍帯静脈に由来する内皮細胞))、筋肉(例えば、筋管、胎児の筋肉)、血液細胞(例えば、がん性血液細胞、胎児の血液細胞、単球)、B細胞(例えば、プロB細胞)、脳(例えば、星状膠細胞、脳の角回、脳の前部尾状核、脳の海馬、脳の下側頭葉、脳の中前頭葉、脳癌細胞)、T細胞(例えば、ナイーブT細胞、メモリーT細胞)、CD4陽性細胞、CD25陽性細胞、CD45RA陽性細胞、CD45RO陽性細胞、IL−17陽性細胞、PMAで刺激される細胞、Th細胞、Th17細胞、CD255陽性細胞、CD127陽性細胞、CD8陽性細胞、CD34陽性細胞、十二指腸(例えば、十二指腸の平滑筋組織)、骨格筋組織、筋芽細胞、胃(例えば、胃の平滑筋組織、例えば、胃細胞)、CD3陽性細胞、CD14陽性細胞、CD19陽性細胞、CD20陽性細胞、CD34陽性細胞、CD56陽性細胞、前立腺(例えば、前立腺癌)、結腸(例えば、結腸直腸癌細胞)、陰窩細胞(例えば、結腸陰窩細胞)、腸(例えば、大腸、例えば、胎児の腸)、骨(例えば、骨芽細胞)、膵臓(例えば、膵癌)、脂肪組織、副腎、膀胱、食道、心臓(例えば、左心室、右心室、左心房、右心房、大動脈)、肺(例えば、肺癌細胞)、皮膚(例えば、線維芽細胞)、卵巣、腰筋、S状結腸、小腸、脾臓、胸腺(例えば、胎児の胸腺)、乳房(例えば、乳癌)、子宮頸部(例えば、子宮頸癌)、乳腺上皮、肝臓(例えば、肝癌)、DND41細胞、GM12878細胞、H1細胞、H2171細胞、HCC1954細胞、HCT−116細胞、ヒーラ細胞、HepG2細胞、HMEC細胞、HSMM管細胞、HUVEC細胞、IMR90細胞、ジャーカット細胞、K562細胞、LNCaP細胞、MCF−7細胞、MM1S細胞、NHLF細胞、NHDF−Ad細胞、RPMI−8402細胞、U87細胞、VACO9M細胞、VACO400細胞、またはVACO503細胞である。
いくつかの実施形態では、1つ以上の遺伝子は、関節リウマチ、多発性硬化症、全身性強皮症、原発性胆汁性肝硬変、クローン病、グレーブス病、白斑、及び心房細動と関連する疾患関連バリエーションである。いくつかの実施形態では、1つ以上の遺伝子は、発達障害と結び付くものである。いくつかの実施形態では、1つ以上の遺伝子は、神経障害または発達神経障害と結び付くものである。
いくつかの実施形態では、1つ以上の遺伝子は、細胞型特異的であると考えられるものである。細胞型特異的遺伝子は、単一の細胞型にのみ発現する必要はなく、一般に認識されるおよそ200の細胞型(例えば、標準的な組織学の教科書に掲載されるもの)、及び/または成体脊椎動物(例えば、哺乳類(例えば、ヒト))に最も豊富に存在する細胞型、のうちの1つまたはいくつかの細胞型(例えば、最大で約5つの細胞型または約10の異なる細胞型)で発現するものでもあり得る。いくつかの実施形態では、細胞型特異的遺伝子は、その発現レベルを調べれば、細胞(例えば、本明細書に開示の細胞(下記の型のうちの1つの細胞など))をその他の細胞型の細胞と区別できる遺伝子である:脂肪細胞(例えば、白色脂肪細胞または褐色脂肪細胞)、心筋細胞、軟骨細胞、内皮細胞、外分泌腺細胞、線維芽細胞、グリア細胞、肝細胞、ケラチノサイト、マクロファージ、単球、メラノサイト、ニューロン、好中球、骨芽細胞、破骨細胞、膵島細胞(例えば、ベータ細胞)、骨格筋細胞、平滑筋細胞、B細胞、形質細胞、T細胞(例えば、制御性T細胞、細胞傷害性T細胞、ヘルパーT細胞)、または樹状細胞。いくつかの実施形態では、細胞型特異的遺伝子は、系譜特異的なものであり、例えば、特定の系譜(例えば、造血、神経、筋肉など)に特異的なものである。いくつかの実施形態では、細胞型特異的遺伝子は、他の細胞型のほとんど(例えば、少なくとも80%、少なくとも90%)またはすべてと比較して所与の細胞型で高発現する遺伝子である。したがって、特異性は、発現レベルと関連し得、例えば、ある遺伝子が、広くは発現レベルが低いが、ある特定の細胞型でははるかに高発現するのであれば、そうした遺伝子は、それが高発現する細胞型に対して細胞型特異的であると考えることができる。いくつかの実施形態では、細胞型特異的遺伝子は、他の細胞型のほとんど(例えば、少なくとも80%、少なくとも90%)またはすべてと比較して所与の細胞型で低発現するか、または発現しない遺伝子である。したがって、特異性は、発現レベルと関連し得、例えば、ある遺伝子が、広く発現するが、ある特定の細胞型でははるかに低発現するのであれば、そうした遺伝子は、それが低発現するか、全く発現しない細胞型に対して細胞型特異的であると考えることができる。発現は、全mRNA発現(miRNA転写物、長鎖の非コードRNA転写物、及び/または他のRNA転写物を任意選択で含む)に基づいて正規化されるか、及び/または細胞におけるハウスキーピング遺伝子の発現に基づいて正規化され得ることが理解されよう。いくつかの実施形態では、遺伝子は、その種の成体の細胞型の少なくとも25%、少なくとも50%、少なくとも75%、少なくとも90%、もしくはそれを超える%における平均発現レベル、または代表的な細胞型セットにおける平均発現レベルと比較して、特定の細胞型の細胞における発現レベルの増減倍率が少なくとも2倍、少なくとも5倍、または少なくとも10倍であるのであれば、その特定の細胞型に対して細胞型特異的であると考えられる。さまざまな細胞型の発現データを含むデータベースを当業者なら知っているであろうし、そうしたデータベースを使用することで細胞型特異的遺伝子を選択することができる。いくつかの実施形態では、細胞型特異的遺伝子は、転写因子である。いくつかの実施形態では、細胞型特異的遺伝子は、胚発生、胎児発達、または生後発達と結び付く。
いくつかの実施形態では、転写凝縮体は、凝縮体と結び付くコンポーネント(すなわち凝縮体コンポーネント)の結合価を増加または減少させることによって調節される。いくつかの実施形態では、ヘテロクロマチン凝縮体、またはmRNA開始複合体もしくはmRNA伸長複合体と物理的に結び付く凝縮体は、凝縮体と結び付くコンポーネント(すなわち凝縮体コンポーネント)の結合価を増加または減少させることによって調節される。本明細書で使用される「結合価」は、コンポーネント対する異なる結合パートナーの数と、1つ以上の結合パートナーへの結合強度と、の両方を指す。いくつかの実施形態では、「凝縮体と結び付くコンポーネント」は、タンパク質、核酸、または小分子であり得る。いくつかの実施形態では、コンポーネントは、核酸(例えば、RNA、eRNA)である。ある実施形態では、核酸は、染色体核酸ではない。ある実施形態では、コンポーネントは、転写の活性化または制御に関与する。いくつかの実施形態では、コンポーネントは、RNAポリメラーゼII、メディエーター、コヒーシン、Nipbl、p300、CBP、Chd7、Brd4、及び/またはesBAFのコンポーネント(Brg1)もしくはLsd1−Nurd複合体のコンポーネント(例えば、RNAポリメラーゼII)を含む。いくつかの実施形態では、コンポーネントは、メディエーターまたはメディエーターサブユニット(例えば、Med1)である。いくつかの実施形態では、コンポーネントは、クロマチン制御因子(例えば、BETブロモドメインタンパク質、BRD4)である。いくつかの実施形態では、コンポーネントは、核内受容体リガンド(例えば、ホルモン)である。いくつかの実施形態では、コンポーネントは、シグナル伝達因子である。いくつかの実施形態では、コンポーネントは、メチルDNA結合タンパク質である。いくつかの実施形態では、コンポーネントは、遺伝子サイレンシング因子である。いくつかの実施形態では、コンポーネントは、スプライシング因子である。いくつかの実施形態では、コンポーネントは、mRNA開始複合体またはmRNA伸長複合体(すなわち、装置)のコンポーネントである。いくつかの実施形態では、コンポーネントは、RNAポリメラーゼである。いくつかの実施形態では、コンポーネントは、官能基(例えば、メチル基またはアセチル基)をクロマチンコンポーネント(例えば、DNAまたはヒストン)に付加、から検出、もしくはから解読、またはから除去する酵素であるか、あるいは当該酵素を含む。いくつかの実施形態では、コンポーネントは、クロマチンコンポーネント(例えば、DNAまたはヒストン)の構造を改変、解読、または検出する酵素(例えば、ヒストンマーク(例えば、H3K4me1またはH3K27Ac)を付加、解読、または除去するDNAメチル化酵素もしくはDNA脱メチル化酵素、ヒストンメチル化酵素もしくはヒストン脱メチル化酵素、またはヒストンアセチル化酵素もしくはヒストン脱アセチル化酵素)であるか、あるいは当該酵素を含む。いくつかの実施形態では、コンポーネントは、官能基(例えば、メチル基またはアセチル基)をクロマチンコンポーネント(例えば、DNAまたはヒストン)に付加、から検出、もしくはから解読、またはから除去する酵素であるか、あるいは当該酵素を含む。いくつかの実施形態では、コンポーネントは、選択される細胞状態または細胞特性(例えば、分化状態、発生状態、もしくは病状(例えば、がん性状態)、または分化性質もしくはアポトーシスが生じる性質)への発生またはその維持に必要なタンパク質であるか、または当該タンパク質を含む。いくつかの実施形態では、病状は、増殖性疾患、炎症性疾患、循環器疾患、神経疾患、または感染性疾患である。いくつかの実施形態では、コンポーネントは、本明細書に記載の酵素ではない。いくつかの実施形態では、コンポーネントは、DNAメチル化酵素もしくはDNA脱メチル化酵素、ヒストンメチル化酵素もしくはヒストン脱メチル化酵素、及び/またはヒストンアセチル化酵素もしくはヒストン脱アセチル化酵素ではない。
いくつかの実施形態では、コンポーネントは、転写因子である。いくつかの実施形態では、転写因子は、OCT4、p53、MYC、もしくはGCN4、NANOG、MyoD、KLF4、SOXファミリーの転写因子(例えば、SRY、SOX1、SOX2、SOX3、SOX14、SOX21、SOX4、SOX11、SOX12、SOX5、SOX6、SOX13、SOX8、SOX9、SOX10、SOX7、SOX17、SOX18、SOX15、SOX30)、GATAファミリーの転写因子(例えば、GATA1〜6)、または核内受容体(例えば、核内ホルモン受容体、エストロゲン受容体、レチノイン酸受容体−アルファ)である。いくつかの実施形態では、転写因子は、IDR(例えば、転写因子の活性化ドメインにおけるIDR)を有する。いくつかの実施形態では、核内受容体は、関連リガンドに結合すると転写を活性化する。いくつかの実施形態では、核内受容体は、関連リガンドの非存在下で転写を活性化する変異核内受容体である。いくつかの実施形態では、TFは、シグナル伝達因子によって制御される(例えば、TFがシグナル伝達因子と相互作用することによって転写が調節される)。
いくつかの実施形態では、コンポーネント(例えば、ヘテロクロマチンコンポーネント)は、遺伝子サイレンシング因子またはその変異形態である。いくつかの実施形態では、ヘテロクロマチン因子は、ATRX、MECP2、WRN、DNMT1、DNMT3B、EZH2、HP1、D4Z4、ICR、ラミンA、WRN、変異ICR IGF2−H19、または変異ICR IGF2−H19である。
いくつかの実施形態では、コンポーネントは、表S1に記載のタンパク質である。いくつかの実施形態では、コンポーネントは、表S3に記載のメディエーターコンポーネントである。いくつかの実施形態では、コンポーネントは、表S2に記載のモチーフを有するタンパク質(例えば、モチーフを含むIDRを有するもの)である。いくつかの実施形態では、コンポーネントは、表S2に記載のIDRと相互作用するIDRを有する。いくつかの実施形態では、コンポーネントは、IDR(例えば、表S2に記載のモチーフを有するIDR)の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%を有する。いくつかの実施形態では、コンポーネントは、複数のIDR(例えば、2つ、3つ、4つ、5つ、またはそれを超える数のIDR領域)を有する。いくつかの実施形態では、コンポーネントは、複数の別々のセクションに分断されたIDRを少なくとも1つ有する。いくつかの実施形態では、コンポーネントは、転写凝縮体の骨格の一部である。いくつかの実施形態では、コンポーネントは、凝縮体のクライアントである。いくつかの実施形態では、転写凝縮体は、凝縮体を、転写凝縮体と結び付くコンポーネントの天然変性ドメインまたは天然変性領域(IDR)の1つ以上と相互作用する薬剤と接触させることによって調節される。いくつかの実施形態では、コンポーネントは、メディエーター、メディエーターコンポーネント、MED1、MED15、GCN4、核内受容体リガンド、シグナル伝達因子、またはBRD4である。いくつかの実施形態では、コンポーネントは、ヘテロクロマチン凝縮体の骨格の一部であるか、またはmRNA開始複合体もしくはmRNA伸長複合体と結び付く凝縮体の骨格の一部である。いくつかの実施形態では、コンポーネントは、ヘテロクロマチン凝縮体のクライアントであるか、またはmRNA開始複合体もしくはmRNA伸長複合体と結び付く凝縮体のクライアントである。いくつかの実施形態では、ヘテロクロマチン凝縮体、またはmRNA開始複合体もしくはmRNA伸長複合体と結び付く凝縮体は、凝縮体を、凝縮体と結び付くコンポーネントの天然変性ドメインまたは天然変性領域(IDR)の1つ以上と相互作用する薬剤と接触させることによって調節される。いくつかの実施形態では、コンポーネントは、メディエーター、メディエーターコンポーネント、MED1、MED15、GCN4、核内受容体リガンド、遺伝子サイレンシング因子、スプライシング因子、またはBRD4である。
いくつかの実施形態では、IDRは、表S2に示されるモチーフを有する。いくつかの実施形態では、IDRを有するコンポーネントは、表S1に記載のものである。いくつかの実施形態では、IDRは、核内受容体ADのIDRである。いくつかの実施形態では、コンポーネントは、本明細書に記載の任意のコンポーネントである。本明細書に開示の方法に有用なIDRは限定されない。IDRは、当該技術分野で知られるバイオインフォマティクス法によって同定することができる。例えば、Best RB(February 2017).“Computational and theoretical advances in studies of intrinsically disordered proteins”.Current Opinion in Structural Biology.42:147−154を参照のこと。http:address//d2p2.pro/about/predictorsも併せて参照のこと。いくつかの実施形態では、IDRを有するコンポーネントは、BRD4、メディエーター、またはMED1である。いくつかの実施形態では、IDRは、少なくとも5つ、少なくとも7つ、少なくとも10個、少なくとも15個、少なくとも20個、少なくとも25個、少なくとも30個、少なくとも35個、少なくとも40個、少なくとも45個、少なくとも50個、または少なくとも100個のアミノ酸の長さを有する。いくつかの実施形態では、IDRは、別々に分かれた領域を有する。いくつかの実施形態では、IDRは、少なくとも約5つ、少なくとも約10個、少なくとも約15個、少なくとも約20個、少なくとも約30個、少なくとも約40個、少なくとも約50個、少なくとも約60個、少なくとも約75個、少なくとも約100個、少なくとも約150個、またはそれを超える数の変性アミノ酸(例えば、連続する変性アミノ酸)である。いくつかの実施形態では、アミノ酸は、D2P2(Oates et al.,2013)によって用いられるアルゴリズムのうちの少なくとも75%が、当該残基が変性すると予測するのであれば、変性アミノ酸であると考えられる。
いくつかの実施形態では、コンポーネントは、メディエーター、メディエーターコンポーネント、MED1、MED15、p300、BRD4、TFIID、TCF7L2、TCF7、TCF7L1、LEF1、ベータ−カテニン、SMAD2、SMAD3、SMAD4、STAT1、STAT2、STAT3、STAT4、STAT5A、STAT5B、STAT6、NF−κB、MECP2、MBD1、MBD2、MBD3、MBD4、HP1α、TBL1R、HDAC3、SMRT、RNAポリメラーゼII、SRSF2、SRRM1、SRSF1、ホルモン、またはそのバリアント、変異形態、もしくは断片(例えば、機能性断片)である。
本明細書で使用される、タンパク質または核酸の「機能性断片」は、全長タンパク質または全長核酸の生物活性を少なくとも1つ示す。いくつかの実施形態では、生物活性のレベルは、全長タンパク質または全長核酸の生物活性のレベルの少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、または少なくとも約95%であり得る。本明細書で使用される「断片」は、機能性断片を含むことが理解されよう。いくつかの実施形態では、機能性断片の長さは、全長タンパク質または全長核酸の長さの少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、もしくは少なくとも約95%であるか、またはそれらの間に存在する任意の範囲である。いくつかの実施形態では、機能性断片は、少なくとも1つの機能性ドメインまたは少なくとも2つの機能性ドメインを含む。いくつかの実施形態では、機能性断片は、リガンド結合ドメイン及びDNA結合ドメインを含む。いくつかの実施形態では、機能性断片は、活性化ドメイン及びDNA結合ドメインを含む。いくつかの実施形態では、機能性断片は、IDRを含む。いくつかの実施形態では、生物活性は、結合活性(例えば、リガンド結合活性、ホルモン結合活性、DNA結合活性、転写補助因子結合活性、遺伝子サイレンシング因子結合活性、mRNA結合活性)であり得る。
いくつかの実施形態では、機能性断片は、異型の凝縮体及び/または同型の凝縮体に取り込まれ得る。取り込み(または取り込まれる)とは、適切な生理学的条件(例えば、細胞における条件と同じもしくは近い条件)または適切な実験条件(例えば、インビトロでの凝縮体の形成に適した条件)の下でのものを意味することが理解されよう。いくつかの実施形態では、機能性断片は、実施例セクションに後述される凝縮体コンポーネントの断片である。
いくつかの実施形態では、シグナル伝達因子の機能性断片は、転写因子に結合し得る。いくつかの実施形態では、シグナル伝達因子の機能性断片は、凝縮体(例えば、異型の凝縮体、転写凝縮体)に取り込まれる能力を有する。
いくつかの実施形態では、低リン酸化されたRNAポリメラーゼII C末端ドメインの機能性断片は、RNA合成生物活性を有し、及び/または凝縮体(例えば、異型の凝縮体、同型の凝縮体、メディエーターを含む凝縮体)に取り込まれる能力を有する断片である。いくつかの実施形態では、スプライシング因子の機能性断片は、mRNAスプライシング活性を有し、及び/または凝縮体(例えば、異型の凝縮体、同型の凝縮体、もしくはリン酸化されたRNAポリメラーゼを含む凝縮体)に取り込まれる能力を有する断片である。
いくつかの実施形態では、メチルDNA結合タンパク質の機能性断片は、メチル化DNAに結合することができ、及び/または凝縮体(例えば、異型の凝縮体、同型の凝縮体、もしくはサプレッサーを含む凝縮体)に取り込まれる能力を有する。いくつかの実施形態では、サプレッサーの機能性断片は、遺伝子サイレンシング活性を有し、及び/または凝縮体(例えば、異型の凝縮体、同型の凝縮体、もしくはメチルDNA結合タンパク質を含む凝縮体)に取り込まれる能力を有する。
いくつかの実施形態では、エストロゲン受容体の機能性断片は、(a)エストロゲンによる結合を受けると転写を活性化し(例えば、野生型ER断片)、(b)構成的に転写を活性化し(例えば、変異ER断片)、(c)エストロゲンに結合し、(d)メディエーターに結合し、(e)異型の凝縮体を形成し、及び/または(f)同型の凝縮体を形成する能力を有する。いくつかの実施形態では、エストロゲン受容体断片は、生物活性(a)〜(e)のうちの少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、または5つすべてを有する。いくつかの実施形態では、ERリガンド結合ドメインの機能性断片は、エストロゲン結合活性を有する。
本明細書で使用されるように、そしていくつかの実施形態では、タンパク質のバリアントは、対象タンパク質(例えば、野生型タンパク質、規定の変異タンパク質)のアミノ酸配列との同一性が少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、もしくは99.5%超であるアミノ酸配列を有するポリペプチドを含むか、または当該ポリペプチドからなる。本明細書で使用されるように、そしていくつかの実施形態では、核酸配列のバリアントは、対象核酸の核酸配列との配列同一性が少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、もしくは99.5%超である核酸配列を含むか、または当該核酸配列からなる。
「薬剤」は、任意の物質、化合物(例えば、分子)、超分子複合体、材料、またはそれらの組み合わせもしくは混合物を指すために本明細書で使用される。いくつかの態様では、薬剤は、化学式、化学構造、または配列によって表現され得る。薬剤の例としては、例えば、小分子、ポリペプチド、核酸(例えば、RNAi剤、アンチセンスオリゴヌクレオチド、アプタマー)、脂質、多糖、ペプチド模倣物などが挙げられる。一般に、薬剤は、当該技術分野で知られる任意の適切な方法を使用して得ることができる。当業者なら適切な方法を選択するであろう。こうした選択は、例えば、薬剤の性質に基づいて行われる。薬剤は、少なくとも部分的に精製されたものであり得る。いくつかの実施形態では、組成物の一部として薬剤を提供することができ、こうした組成物は、さまざまな実施形態において、当該薬剤に加えて、例えば、対イオン、水性もしくは非水性の希釈剤もしくは担体、緩衝剤、保存剤、または他の成分を含み得る。いくつかの実施形態では、薬剤は、塩、エステル、水和物、または溶媒和物として提供され得る。いくつかの実施形態では、薬剤は、細胞透過性(この透過性は、例えば、細胞によって取り込まれる典型的な薬剤の範囲内のものである)であり、細胞内(例えば、哺乳類細胞内)で作用する。ある特定の化合物は、特定の幾何学的形態または立体異性形態で存在し得る。別段の指定がない限り、本開示は、さまざまな実施形態において、そのような化合物(シス−異性体及びトランス−異性体、E−異性体及びZ−異性体、R−エナンチオマー及びS−エナンチオマー、ジアステレオマー、(D)−異性体、(L)−異性体、(−)−異性体及び(+)−異性体、それらのラセミ混合物、ならびにそれらの他の混合物を含む)を包含する。ある特定の化合物は、さまざまなプロトン化状態で存在し得、さまざまな立体配置を有し得、溶媒和物(例えば、水との溶媒和物(すなわち水和物)もしくは一般的な溶媒との溶媒和物)として存在し得、及び/または異なる結晶形態(例えば、多形)もしくは異なる互変異性形態を有し得る。適用可能な場合、本開示は、そのような別のプロトン化状態、立体配置、溶媒和物、及び形態をとる実施形態を包含する。
第1の薬剤の「類似体」は、第1の薬剤と構造的及び/または機能的に類似する第2の薬剤を指す。第1の薬剤の「構造類似体」は、第1の薬剤と構造的に類似する類似体である。別段の指定がない限り、本明細書で使用される「類似体」という用語は、構造類似体を指す。薬剤の構造類似体は、薬剤と実質的に類似する物理的特性、化学的特性、生物学的特性、及び/または薬理学的特性(複数可)を有し得るか、あるいは少なくとも1つの物理的特性、化学的特性、生物学的特性、または薬理学的特性が異なり得る。いくつかの実施形態では、少なくとも1つのそのような特性が、意図される目的(例えば、凝縮体を調節すること)への類似体の適合性が向上する様式で異なる。いくつかの実施形態では、薬剤の構造類似体は、薬剤の原子、官能基、または部分構造の少なくとも1つが、類似体では、異なる原子、官能基、または部分構造によって置き換えられているという点において薬剤とは異なる。いくつかの実施形態では、薬剤の構造類似体は、薬剤に存在する水素または置換基の少なくとも1つが、類似体では、異なる部分(例えば、異なる置換基)によって置き換えられているという点において薬剤とは異なる。
いくつかの実施形態では、薬剤は、核酸である。「核酸」という用語は、ポリヌクレオチド(デオキシリボ核酸(DNA)及びリボ核酸(RNA)など)を指す。「核酸」及び「ポリヌクレオチド」という用語は、本明細書で互換的に使用され、二本鎖ポリヌクレオチド、一本鎖ポリヌクレオチド(センスポリヌクレオチドまたはアンチセンスポリヌクレオチドなど)、及び部分的に二本鎖のポリヌクレオチドを含むことを理解されたい。核酸は、ホスホジエステル結合によって連結された、天然起源のDNAまたはRNAに典型的に見られる標準的なヌクレオチド(修飾(メチル化核酸塩基など)を含み得る)を含むことが多い。いくつかの実施形態では、核酸は、1つ以上の非標準的なヌクレオチドを含み得、こうした非標準的なヌクレオチドは、さまざまな実施形態において天然起源もしくは非天然起源のもの(すなわち、人工的なもの、天然に見られないもの)であり得、及び/または修飾糖もしくは修飾骨格結合を含み得る。核酸修飾(例えば、塩基、糖、及び/または骨格の修飾)、非標準的なヌクレオチド、あるいは非標準的なヌクレオシドなど(研究目的または治療目的のためのRNA干渉(RNAi)、アプタマー、CRISPR技術、ポリペプチド生成、初期化、またはアンチセンスベースの分子との関連において有用であることが当該技術分野で知られるものなど)を、さまざまな実施形態に含めることができる。そのような修飾は、例えば、安定性を増加させるか(例えば、ヌクレアーゼによる切断に対する感受性を低減することによって安定性を増加させる)、インビボでのクリアランスを減少させるか、細胞への取り込みを増加させるか、または翻訳を改善する他の特性、効力を改善する他の特性、有効性を改善する他の特性、特異性を改善する他の特性、もしくは意図される用途への核酸の適合性をその他の様式で向上させる他の特性を付与し得る。核酸修飾の例は、さまざまなものが報告されており、限定されないが、例えば、Deleavey GF,et al.,Chemical modification of siRNA.Curr.Protoc.Nucleic Acid Chem.2009;39:16.3.1−16.3.22、Crooke,ST(ed.)Antisense drug technology:principles,strategies,and applications,Boca Raton:CRC Press,2008、Kurreck,J.(ed.)Therapeutic oligonucleotides,RSC biomolecular sciences.Cambridge:Royal Society of Chemistry,2008、米国特許第4,469,863号、同第5,536,821号、同第5,541,306号、同第5,637,683号、同第5,637,684号、同第5,700,922号、同第5,717,083号、同第5,719,262号、同第5,739,308号、同第5,773,601号、同第5,886,165号、同第5,929,226号、同第5,977,296号、同第6,140,482号、同第6,455,308号、及び/またはPCT出願公開公報WO00/56746及び同WO01/14398に記載されている。二本鎖核酸の2つの鎖に異なる修飾が使用されることもあり得る。核酸は、均一に修飾されるか、もしくはその一部のみに修飾が施され得、及び/または複数の異なる修飾を含み得る。ヌクレオチド(nt)の数に関して核酸または核酸領域の長さが与えられる場合、そうした数は、別段の指定がない限り、一本鎖核酸におけるヌクレオチドの数を指すか、または二本鎖核酸の各鎖におけるヌクレオチドの数を指すことを理解されたい。「オリゴヌクレオチド」は、比較的短い核酸であり、典型的には、約5〜約100ntの長さを有する。
「核酸コンストラクト」は、人工的に生成される核酸を指し、天然に生じる核酸と同一ではなく、すなわち、天然起源の核酸分子とは配列が異なり、及び/または天然に見られる核酸とそれが区別される修飾を含む。核酸コンストラクトは、天然に見られる核酸またはその一部と同一ではあるが、天然の単一の核酸の一部としては見られない2つ以上の核酸を含み得る。いくつかの実施形態では、転写凝縮体を調節する薬剤は、核酸コンストラクトによってコードされる。いくつかの実施形態では、核酸コンストラクトは、細胞に導入され、そこで発現することで、当該細胞における転写凝縮体を調節する。いくつかの実施形態では、ヘテロクロマチン凝縮体、またはmRNA開始複合体もしくはmRNA伸長複合体と物理的に結び付く凝縮体、を調節する薬剤は、核酸コンストラクトによってコードされる。いくつかの実施形態では、核酸コンストラクトは、細胞に導入され、そこで発現することで、当該細胞において、ヘテロクロマチン凝縮体、またはmRNA開始複合体もしくはmRNA伸長複合体と物理的に結び付く凝縮体を調節する。
いくつかの実施形態では、薬剤は、小分子である。「小分子」という用語は、質量が約2キロダルトン(kDa)未満の有機分子を指す。いくつかの実施形態では、小分子は、約1.5kDa未満または約1kDa未満である。いくつかの実施形態では、小分子は、約800ダルトン(Da)未満、約600Da未満、約500Da未満、約400Da未満、約300Da未満、約200Da未満、約または100Da未満である。多くの場合、小分子は、少なくとも50Daの質量を有する。いくつかの実施形態では、小分子は、ポリマーではない。いくつかの実施形態では、小分子は、アミノ酸ではない。いくつかの実施形態では、小分子は、ヌクレオチドではない。いくつかの実施形態では、小分子は、糖ではない。いくつかの実施形態では、小分子は、複数の炭素間結合を含み、タンパク質との構造的相互作用(例えば、水素結合)に重要な1つ以上のヘテロ原子及び/または1つ以上の官能基(例えば、アミン基、カルボニル基、ヒドロキシル基、もしくはカルボキシル基)、ならびにいくつかの実施形態では、少なくとも2つの官能基を含み得る。小分子は、環式炭素構造もしくはヘテロ環式構造、及び/または芳香族構造もしくは多環芳香族構造を1つ以上含むことが多く、こうした構造は、上記の官能基のうちの1つ以上で、任意選択で置換される。
いくつかの実施形態では、薬剤は、タンパク質またはポリペプチドである。「ポリペプチド」という用語は、ペプチド結合によって連結されたアミノ酸のポリマーを指す。タンパク質は、1つ以上のポリペプチドを含む分子である。ペプチドは、比較的短いポリペプチドであり、その長さは、典型的には約2〜100アミノ酸(aa)であり、例えば、4〜60aa、8〜40aa、10〜30aaである。「タンパク質」、「ポリペプチド」、及び「ペプチド」という用語は、互換的に使用され得る。一般に、ポリペプチドは、さまざまな実施形態において、標準的なアミノ酸のみを含み得るか、あるいは非標準的なアミノ酸(天然起源もしくは非天然起源のアミノ酸であり得る)及び/またはアミノ酸類似体を1つ以上含み得る。「標準的なアミノ酸」は、哺乳類によるタンパク質の合成において一般に利用され、遺伝コードによってコードされる20種類のL−アミノ酸のいずれかである。「非標準的なアミノ酸」は、哺乳類によるタンパク質の合成において一般に利用されないアミノ酸である。非標準的なアミノ酸には、天然起源のアミノ酸(20種類の標準的なアミノ酸以外のもの)及び非天然起源のアミノ酸が含まれる。アミノ酸(例えば、ポリペプチドにおけるアミノ酸の1つ以上)は、修飾される可能性があり、こうした修飾は、例えば、ある部分(アルキル基、アルカノイル基、糖質基、リン酸基、脂質、多糖、ハロゲン、複合体化のためのリンカー、保護基、小分子(フルオロフォアなど)など)が付加される(例えば、共有結合で付加される)ことによって施される。
いくつかの実施形態では、薬剤は、ペプチド模倣物である。「模倣物(mimetic)」、「ペプチド模倣物(peptide mimetic)」、及び「ペプチド模倣物(peptidomimetic)」という用語は、本明細書で互換的に使用され、一般に、選択される天然のペプチドまたはタンパク質機能性ドメイン(例えば、結合モチーフもしくは活性部位)の三次結合構造または活性を模倣するペプチド分子、部分的ペプチド分子、または非ペプチド分子を指す。こうしたペプチド模倣物には、組換え的または化学的に修飾されたペプチド、ならびに非ペプチド剤(小分子薬物模倣物など)が含まれる。いくつかの実施形態では、ペプチド模倣物は、シグナル伝達因子模倣物である。シグナル伝達因子は、限定されず、当該技術分野で知られ、及び/または本明細書に記載の任意のものであり得る。いくつかの実施形態では、ペプチド模倣物は、核内受容体リガンド模倣物である。
いくつかの実施形態では、薬剤は、凝縮体(例えば、転写凝縮体、遺伝子サイレンシング凝縮体、mRNA開始複合体またはmRNA伸長複合体と物理的に結び付く凝縮体)と結び付くタンパク質、ポリペプチド、または核酸である。いくつかの実施形態では、薬剤は、凝縮体と結び付くタンパク質、ポリペプチド、または核酸のバリアントまたは変異体である。いくつかの実施形態では、薬剤は、核内受容体(例えば、核内ホルモン受容体)のアンタゴニストまたはアゴニストである。いくつかの実施形態では、薬剤は、野生型核内凝縮体と比較して、変異を有する核内受容体(例えば、変異を有する核内ホルモン受容体、変異を有するリガンド依存性核内受容体)に優先的に結合する。いくつかの実施形態では、薬剤は、野生型核内受容体を含む凝縮体と比較して、変異を有する核内受容体(例えば、変異を有する核内ホルモン受容体、変異を有するリガンド依存性核内受容体)を含む転写凝縮体を優先的に破壊する。
いくつかの実施形態では、薬剤は、シグナル伝達因子のアンタゴニストまたはアゴニストである。シグナル伝達因子は、限定されず、本明細書に記載されるか、または当該技術分野で知られる任意のシグナル伝達因子であり得る。いくつかの実施形態では、シグナル伝達因子は、IDRを含む。いくつかの実施形態では、薬剤は、リン酸化もしくは低リン酸化されたRNAポリメラーゼII C末端ドメイン(PolII CTD)またはその機能性断片を含む。いくつかの実施形態では、薬剤は、リン酸化または低リン酸化されたPolII CTDに優先的に結合する。いくつかの実施形態では、薬剤は、スプライシング因子、伸長複合体コンポーネント、または開始複合体コンポーネントに結合する。いくつかの実施形態では、薬剤は、メチル化DNAに優先的に結合する。いくつかの実施形態では、薬剤は、メチルDNA結合タンパク質に結合する。
いくつかの実施形態では、薬剤は、合成RNA(例えば、修飾mRNA)によってコードされる。合成RNAは、本明細書に記載の任意の適切な薬剤をコードし得る。合成RNAについては、修飾RNAを含めて、WO2017075406に教示されており、当該文献は、参照によって本明細書に組み込まれる。例えば、合成RNAは、凝縮体の組成,維持,崩壊,形成,または制御を調節する薬剤をコードし得る。いくつかの実施形態では、合成RNAは、転写凝縮体コンポーネント、ヘテロクロマチン凝縮体コンポーネント、またはmRNA開始複合体もしくはmRNA伸長複合体と物理的に結び付く凝縮体のコンポーネント、に結合するIDR(例えば、表S2に記載のIDR)、抗体(一本鎖抗体(例えば、ナノボディ(nanobody))、または操作された親和性タンパク質(例えば、アフィボディ(affibody))をコードする。いくつかの実施形態では、薬剤は、合成RNAである。
いくつかの実施形態では、薬剤は、非核酸分子と複合体化した合成RNA(例えば、修飾mRNA)であるか、または当該合成RNAによってコードされる。いくつかの実施形態では、合成RNAは、細胞への取り込み、核内移行、及び/または核内保持を促進する部分(例えば、ペプチド輸送部分または核酸)と複合体化される(またはその他の様式で物理的に結び付けられる)。いくつかの実施形態では、合成RNAは、細胞への当該オリゴマーの輸送増進に有効なペプチド輸送部分(例えば、細胞透過性のペプチド輸送部分)と複合体化される。例えば、いくつかの実施形態では、ペプチド輸送部分は、アルギニン高含有ペプチドである。別の実施形態では、輸送部分は、オリゴマーの5’末端または3’末端のいずれかに付加される。そのようなペプチドが、いずれかの末端に複合体化されるとき、その後に、反対側の末端を、本明細書に記載の修飾末端基とのさらなる複合体化に利用することが可能である。ペプチド輸送部分は、一般に、細胞への核酸の浸透増進に有効である。いくつかの実施形態では、核酸と、ペプチド輸送部分の残部(例えば、当該担体ペプチドのカルボキシ末端またはアミノ末端)と、の間にグリシン(G)アミノ酸サブユニットまたはプロリン(P)アミノ酸サブユニットを含めることで、ペプチド輸送部分と核酸との間に異なる結合を有する複合体と比較して有効性を維持または改善しつつ、当該複合体の毒性が低減される。
いくつかの実施形態では、薬剤は、相破壊物質(例えば、凝縮体形成破壊物質)である。いくつかの実施形態では、相破壊物質は、ATP枯渇物質(例えば、アジ化ナトリウム(NaN3)及びジニトロフェノール(DNP))または1,6−ヘキサンジオールである。
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の薬剤は、転写凝縮体コンポーネントを細胞内分解(例えば、ユビキチン−プロテアソーム系(UPS)による分解)の標的とする。いくつかの実施形態では、そのような薬剤を使用することで転写凝縮体コンポーネントのレベルが低減され、それによって凝縮体の形成、維持、及び/または活性が阻害され得る。いくつかの実施形態では、転写凝縮体コンポーネントを細胞内分解の標的とする薬剤は、転写凝縮体コンポーネントに結合する第1のドメインと、分解(例えば、プロテアソームによる分解)を生じさせるために当該薬剤と結び付く実体を標的とする第2のドメインと、を含む。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の薬剤は、凝縮体(ヘテロクロマチン凝縮体、またはmRNA開始複合体もしくはmRNA伸長複合体と物理的に結び付く凝縮体)コンポーネントを細胞内分解(例えば、ユビキチン−プロテアソーム系(UPS)による分解)の標的とする。いくつかの実施形態では、そのような薬剤を使用することで凝縮体コンポーネントのレベルが低減され、それによって凝縮体の形成、維持、及び/または活性が阻害され得る。いくつかの実施形態では、凝縮体(ヘテロクロマチン凝縮体、またはmRNA開始複合体もしくはmRNA伸長複合体と物理的に結び付く凝縮体)コンポーネントを細胞内分解の標的とする薬剤は、凝縮体コンポーネントに結合する第1のドメインと、分解(例えば、プロテアソームによる分解)を生じさせるために当該薬剤と結び付く実体を標的とする第2のドメインと、を含む。そのような薬剤を使用することで、それが結合する凝縮体コンポーネントのレベルが低減され得る。いくつかの実施形態では、凝縮体コンポーネントは、タンパク質分解誘導キメラ分子(PROTAC)の概念に基づく分解の標的とされる(PROTACの概念については、例えば、Protacs:chimeric molecules that target proteins to the Skp1−Cullin−F box complex for ubiquitination and degradation Sakamoto,Kathleen M.et al.Proceedings of the National Academy of Sciences(2001),98(15),8554−8559、Carmony,KC and Kim,K,PROTAC−Induced Proteolytic Targeting,Methods Mol Biol.2012;832:Ch.44を参照のこと)。この手法では、目的タンパク質(この場合、凝縮体コンポーネント(例えば、転写凝縮体コンポーネント))に結合する第1のドメインと、E3ユビキチンリガーゼ複合体に結合する第2のドメインと、これらに加えて、典型的には、こうしたドメインを一緒に繋留するリンカーと、を含むようにヘテロ二官能性の薬剤が設計される。いくつかの実施形態では、第1のドメイン、第2のドメイン、またはそれらの両方は、ペプチドを含む。いくつかの実施形態では、第1のドメイン、第2のドメイン、またはそれらの両方は、小分子を含む。例えば、ユビキチンリガーゼ複合体に結合する分子は、セレブロン(Cullin4Aユビキチンリガーゼ複合体のコンポーネント)に対するリガンドである小分子であり得る。セレブロンに結合する小分子は、フタルイミド(例えば、サリドマイド、レナリドミド、またはポマリドミド)であり得る(例えば、Winter,GE,et al.Science 348(6241),1376−1381、特許公開公報第20160235731号、及び同第20180009779号を参照のこと)。いくつかの実施形態では、フォンヒッペル・リンドウE3ユビキチンリガーゼに結合する分子を使用することができ、こうした分子は、Buckley DL,et al.Targeting the von Hippel−Lindau E3 ubiquitin ligase using small molecules to disrupt the VHL/HIF−1α interaction.J Am Chem Soc.2012;134(10):4465−4468に記載の小分子(例えば、ヒドロキシプロリン類似体)、またはGaldeano,C.et al.Structure−guided design and optimization of small molecules targeting the protein−protein interaction between the von Hippel−Lindau(VHL)E3 ubiquitin ligase and the hypoxia inducible factor(HIF)alpha subunit with in vitro nanomolar affinities.J.Med.Chem.57,8657−8663(2014)に記載の小分子などである。いくつかの実施形態では、PROTACは、ブロモドメイン含有タンパク質(BRD1、BRD2、BRD3、及び/またはBRD4など)を分解の標的とし得る。いくつかの実施形態では、PROTACは、キナーゼ(CDK7またはCDK9など)を分解の標的とし得る。例えば、Robb,CM,et al.,Chem Commun(Camb).2017 Jul 4;53(54):7577−7580を参照のこと。
いくつかの実施形態では、薬剤は、コンポーネント(例えば、本明細書に記載のコンポーネント)に結合する小分子であり、この小分子は、ユビキチンリガーゼ複合体に結合する小分子に連結することができ、この連結によって得られる複合体は、上記タンパク質を分解の標的にするために使用される。いくつかの実施形態では、小分子は、表S1に記載のモチーフを有するIDRに結合する。いくつかの実施形態では、方法は、表S1に記載のコンポーネント(またはIDR)に結合する小分子を同定すること、及び当該小分子を、ユビキチンリガーゼ複合体のコンポーネントに結合する小分子に連結すること、を含む。
いくつかの実施形態では、薬剤と転写凝縮体(例えば、転写凝縮体コンポーネント)とを接触させることで凝縮体が安定化または崩壊し、それによって、1つ以上の遺伝子の転写、スプライシング、またはサイレンシングが調節される。いくつかの実施形態では、薬剤と凝縮体(例えば、ヘテロクロマチン凝縮体、またはmRNA開始複合体もしくはmRNA伸長複合体と物理的に結び付く凝縮体)とを接触させることで凝縮体が安定化または崩壊し、それによって、1つ以上の遺伝子の転写、スプライシング、またはサイレンシングが調節される。いくつかの実施形態では、薬剤は、凝縮体の半減期を増加または減少させ、その増減率は、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約99%、またはそれを超える%である。いくつかの実施形態では、薬剤は、凝縮体の半減期を増加または減少させ、その増減倍率は、非接触凝縮体の半減期と比較して、少なくとも約1.1倍、少なくとも約1.2倍、少なくとも約1.3倍、少なくとも約1.4倍、少なくとも約1.5倍、少なくとも約1.6倍、少なくとも約1.7倍、少なくとも約1.8倍、少なくとも約1.9倍、少なくとも約2倍、少なくとも約3倍、少なくとも約4倍、少なくとも約5倍、少なくとも約10倍、少なくとも約20倍、少なくとも約30倍、少なくとも約40倍、少なくとも約50倍、もしくは少なくとも約100倍、少なくとも約1,000倍、少なくとも約10,000倍、またはそれを超える倍率である。
いくつかの実施形態では、薬剤は、DNA、RNA、またはタンパク質に結合し、転写凝縮体、ヘテロクロマチン凝縮体、またはmRNA開始複合体もしくはmRNA伸長複合体と物理的に結び付く凝縮体、へのコンポーネントの取り込みを阻止し得る。他の実施形態では、薬剤は、現存転写凝縮体に取り込まれる。他の実施形態では、薬剤は、現存ヘテロクロマチン凝縮体に取り込まれるか、またはmRNA開始複合体もしくはmRNA伸長複合体と物理的に結び付く現存凝縮体に取り込まれる。他の実施形態では、薬剤は、現存転写凝縮体、現存ヘテロクロマチン凝縮体、またはmRNA開始複合体もしくはmRNA伸長複合体と物理的に結び付く現存凝縮体、へと別のコンポーネントを取り込ませる。他の実施形態では、薬剤は、転写凝縮体、ヘテロクロマチン凝縮体、またはmRNA開始複合体もしくはmRNA伸長複合体と物理的に結び付く凝縮体、へのコンポーネントの移行を阻止する。
いくつかの実施形態では、薬剤は、IDR(例えば、転写因子の活性化ドメイン、シグナル伝達因子のIDR、核内受容体のIDR、メチルDNA結合タンパク質のIDR、RNAポリメラーゼのIDR、またはサプレッサーのIDR)における酸性残基に結合し、当該酸性残基を遮蔽し、及び/または当該酸性残基を中和する。これによって、いくつかの実施形態では、TFとコアクチベーター(例えば、メディエーター(例えば、メディエーターコンポーネント))との間の相互作用が阻害され得る。これによって、いくつかの実施形態では、シグナル因子依存的な転写、遺伝子サイレンシング、あるいはmRNAの開始及び/または伸長(例えば、スプライシング)が調節され得る。いくつかの実施形態では、薬剤は、転写因子の活性化ドメインにおける非酸性残基に結合または当該非酸性残基を修飾する。これによって、いくつかの実施形態では、転写因子とコアクチベーター(例えば、メディエーター(例えば、メディエーターコンポーネント))との間の相互作用が増進し得る。いくつかの実施形態では、薬剤は、転写因子(例えば、核内受容体、リガンド非依存性変異核内受容体)と遺伝子サイレンシング因子またはシグナル伝達因子との間の相互作用を増進し得る。いくつかの実施形態では、薬剤は、野生型転写因子と比較して変異転写因子(例えば、リガンド非依存性変異核内受容体)と優先的に相互作用し得る。
いくつかの実施形態では、薬剤は、IDR(例えば、表S2に記載のモチーフを有するIDR、表S3に記載の転写因子のIDR)の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%を有するポリペプチドまたはタンパク質である。いくつかの実施形態では、薬剤は、複数のIDR(例えば、2つ、3つ、4つ、5つ、またはそれを超える数のIDR領域)を有する。いくつかの実施形態では、コンポーネントは、複数の別々のセクション(例えば、2つ、3つ、4つ、5つ、またはそれを超える数のセクション)に分断されたIDRを少なくとも1つ有する。いくつかの実施形態では、これらのセクションは、リンカー配列または構造化アミノ酸によって分断されている。
いくつかの実施形態では、薬剤は、修飾された転写凝縮体コンポーネント(例えば、転写因子、転写コアクチベーター、核内受容体リガンド)である。いくつかの実施形態では、薬剤は、修飾されたヘテロクロマチン凝縮体コンポーネント(例えば、メチルDNA結合タンパク質、遺伝子サイレンシング因子)である。いくつかの実施形態では、薬剤は、mRNA開始複合体またはmRNA伸長複合体と物理的に結び付く凝縮体のコンポーネント(例えば、スプライシング因子、RNAポリメラーゼII)が修飾されたものである。いくつかの実施形態では、コンポーネントは、修飾されたIDR領域を有する。いくつかの実施形態では、IDRは、転写因子の活性化ドメインに位置するか、または転写因子の活性化ドメインに由来する。いくつかの実施形態では、修飾IDRは、野生型配列と比較してセリンの数が増加または減少したものである。いくつかの実施形態では、IDRは、野生型配列と比較して芳香族酸の数が減少または増加したものである。いくつかの実施形態では、IDRは、野生型配列と比較して酸性残基の数が減少または増加したものである。いくつかの実施形態では、IDRは、野生型配列と比較して正または負の正味荷電が減少または増加したものである。
いくつかの実施形態では、IDRは、野生型配列と比較してプロリン残基の数が減少または増加したものである。いくつかの実施形態では、IDRは、野生型配列と比較してセリン残基及び/またはスレオニン残基の数が減少または増加したものである。いくつかの実施形態では、IDRは、野生型配列と比較してグルタミン残基の数が減少または増加したものである。いくつかの実施形態では、野生型配列と比較したときのIDRの残基(複数可)(例えば、セリン、スレオニン、プロリン、酸性残基、グルタミン酸、芳香族残基)の増減数は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、40、45、50、75、100、またはそれを超える数であり得る。いくつかの実施形態では、野生型配列と比較したときのIDRの残基(複数可)(例えば、セリン、スレオニン、プロリン、酸性残基、グルタミン酸、芳香族残基)の増減倍率は、約1.2、約1.5、約2、約2.5、約3、約3.5、約4、約4.5、約5、約6、約7、約8、約9、約10、またはそれを超える倍率であり得る。いくつかの実施形態では、野生型配列と比較したときのIDRの残基(複数可)(例えば、セリン、スレオニン、プロリン、酸性残基、グルタミン酸、芳香族残基)の増減率は、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約99%、またはそれを超える%であり得る。いくつかの実施形態では、IDRの酸性残基はすべて、非酸性残基(例えば、非荷電残基、塩基性残基)によって置き換えられ得る。いくつかの実施形態では、IDRのプロリン残基はすべて、非プロリン残基(例えば、親水性残基、極性残基)によって置き換えられ得る。いくつかの実施形態では、IDRのセリン残基及び/またはスレオニン残基はすべて、非セリン残基及び/または非スレオニン残基(例えば、疎水性残基、酸性残基)によって置き換えられ得る。いくつかの実施形態では、修飾されたコンポーネントは、凝縮体(例えば、転写凝縮体)の他のコンポーネントに対する結合価が減少または増加したものである。いくつかの実施形態では、修飾された転写凝縮体コンポーネントは、凝縮体形成を抑制または阻止する。いくつかの実施形態では、修飾されたヘテロクロマチン凝縮体コンポーネント、またはmRNA開始複合体もしくはmRNA伸長複合体と物理的に結び付く凝縮体のコンポーネントが修飾されたものは、凝縮体形成または凝縮体活性を抑制または阻止する。
マスター転写因子(TF)は、細胞型特異的エンハンサー(例えば、スーパーエンハンサー)を確立することによって主要な細胞独自性遺伝子を制御することが知られている。さらに、核内受容体は、がんを含めて、多数の疾患及び状態と結び付くTFである。TFは、その標的遺伝子の転写を、コアクチベーターを動員することによって活性化する。TFとコアクチベーターとの間の結合は、「ファジー」なものとして説明されており、これは、それらの相互作用界面を単一の立体配座によって説明できないことによるものである。こうした動的相互作用は、相分離凝縮体を構成するIDR間相互作用に特有のものでもある。さまざまな型の低複雑性活性化ドメインを有するTFは、同じ少数のマルチサブユニットコアクチベーター複合体(メディエーター、p300、及び一般的な転写因子II D(TFIID)を含む)と相互作用すると考えられている。本発明者らは、TFがコアクチベーターと相互作用することによって転写を活性化する作用機構が、コアクチベーター凝縮体を核とすることによるものであることを提唱する。したがって、TF活性化ドメインを改変すれば、コアクチベーター複合体との相互作用が破壊され、それによって転写量が変化することになる。
したがって、いくつかの実施形態では、転写凝縮体は、転写凝縮体のコンポーネントへの、転写凝縮体と結び付く転写因子(TF)の結合を調節することによって調節される。いくつかの実施形態では、1つ以上の凝縮体コンポーネントに対するTF活性化ドメインの親和性が調節される。いくつかの実施形態では、TF(例えば、TF活性化ドメイン)に対するコンポーネントの親和性が調節される。いくつかの実施形態では、転写凝縮体の形成は、転写凝縮体のコンポーネントへの、転写凝縮体と結び付く転写因子(TF)の結合を調節することによって調節される。いくつかの実施形態では、転写凝縮体と結び付くコンポーネントへのTFの結合は、TFまたはコンポーネントのレベルを調節することによって調節される。他の実施形態では、ヘテロクロマチン凝縮体、またはmRNA開始複合体もしくはmRNA伸長複合体と物理的に結び付く凝縮体は、凝縮体のコンポーネントへの、凝縮体と結び付く転写因子(TF)の結合を調節することによって調節される。いくつかの実施形態では、1つ以上の凝縮体コンポーネント(例えば、ヘテロクロマチン凝縮体コンポーネント、またはmRNA開始複合体もしくはmRNA伸長複合体と物理的に結び付く凝縮体のコンポーネント)に対するTF活性化ドメインの親和性が調節される。いくつかの実施形態では、TF(例えば、TF活性化ドメイン)に対するコンポーネントの親和性が調節される。いくつかの実施形態では、ヘテロクロマチン凝縮体の形成、またはmRNA開始複合体もしくはmRNA伸長複合体と物理的に結び付く凝縮体の形成は、凝縮体のコンポーネントへの、凝縮体と結び付く転写因子(TF)の結合を調節することによって調節される。いくつかの実施形態では、ヘテロクロマチン凝縮体と結び付くコンポーネントへのTFの結合、またはmRNA開始複合体もしくはmRNA伸長複合体と物理的に結び付く凝縮体と結び付くコンポーネントへのTFの結合は、TFまたはコンポーネントのレベルを調節することによって調節される。
コンポーネントは、限定されず、本明細書に記載の任意のコンポーネントであり得る。いくつかの実施形態では、コンポーネントは、コアクチベーター、補助因子、または核内受容体リガンドである。いくつかの実施形態では、コンポーネントは、メディエーター、メディエーターコンポーネント、MED1、MED15、GCN4、p300、BRD4、ホルモン(例えば、エストロゲン)、またはTFIIDである。いくつかの実施形態では、コンポーネントは、転写因子である。いくつかの実施形態では、転写因子は、活性化ドメインにIDRを有する。いくつかの実施形態では、転写因子は、OCT4、p53、MYCもしくはGCN4、NANOG、MyoD、KLF4、SOXファミリーの転写因子、GATAファミリーの転写因子、または核内受容体(例えば、核内ホルモン受容体、エストロゲン受容体、レチノイン酸受容体−アルファ)である。いくつかの実施形態では、核内受容体は、関連リガンドに結合すると転写を活性化する。いくつかの実施形態では、核内受容体は、関連リガンドの非存在下で転写を活性化する変異核内受容体である。変異核内受容体は、本明細書に記載の任意の変異核内受容体であり得る。いくつかの実施形態では、転写因子は、スーパーエンハンサーと結び付く転写因子である。いくつかの実施形態では、転写因子は、表S3に記載の転写因子の活性化ドメインを有する。いくつかの実施形態では、転写因子は、表S3に記載の転写因子のIDRを有する。いくつかの実施形態では、転写因子は、表S3に記載のものである。いくつかの実施形態では、転写因子は、メディエーターコンポーネント(例えば、表S3に記載のメディエーターコンポーネント)と相互作用する転写因子である。
いくつかの実施形態では、転写凝縮体のコンポーネント(例えば、非転写因子コンポーネント)への転写因子の結合は、転写因子または転写凝縮体を本明細書に記載の薬剤と接触させることによって調節される。いくつかの実施形態では、ヘテロクロマチン凝縮体のコンポーネント、またはmRNA開始複合体もしくはmRNA伸長複合体と物理的に結び付く凝縮体のコンポーネント、への転写因子の結合は、転写因子、あるいはヘテロクロマチン凝縮体、またはmRNA開始複合体もしくはmRNA伸長複合体と物理的に結び付く凝縮体を本明細書に記載の薬剤と接触させることによって調節される。いくつかの実施形態では、薬剤は、ペプチド、核酸、または小分子である。いくつかの態様では、負電荷を有するペプチドは、正電荷を有するIDRに結合し得る。いくつかの態様では、正電荷を有するペプチドは、負電荷を有するIDRに結合し得る。
いくつかの実施形態では、薬剤は、本明細書に記載の任意の小分子であり得る。小分子は、転写因子活性化ドメイン(例えば、転写因子活性化ドメインにおけるIDR)と関連コアクチベーター上の天然変性領域との結び付きを阻止するように設計され得る。この設計は、IDRを含む発がん性融合タンパク質(MLL再構成体、EWS−FLI、ETS融合体、BRD4−NUT、NUP98融合体、発がん性転写因子融合体など)を保有するがんに特に適し得る。そのような相互作用を乱すことは、特定の転写因子または特定の遺伝子座のいずれかと結び付く転写量を増進させるか、減少させるか、またはその他の様式で変化させるために利用することができる。小分子は、野生型転写因子と比較して変異転写因子(例えば、変異核内受容体)に優先的に結合するようにも設計され得る。
分子凝縮体は、「骨格(scaffold)」及び「クライアント(client)」に分類ことができる複数の型のコンポーネントを有することが報告されている(Banani,S.F.,Rice,A.M.,Peeples,W.B.,Lin,Y.,Jain,S.,Parker,R.,and Rosen,M.K.(2016).Compositional Control of Phase−Separated Cellular Bodies.Cell 166,651−663.)。骨格コンポーネントは、相分離し、それらが高度に密集する凝縮体を形成する。こうした骨格コンポーネントは、相分離する一方で、自体だけでは相分離しないが、クライアントと骨格との相互作用を介して高局所濃度を達成するクライアントコンポーネントと相互作用し得る(Banani et al.,2016)。本発明者らは、転写凝縮体が骨格コンポーネント及びクライアントコンポーネントからなり、こうしたクライアントコンポーネントの相互作用ドメイン(すなわち、天然変性ドメインまたは天然変性領域)を標的とするペプチド模倣物及び他の生体分子を導入することで、こうしたクライアントが転写凝縮体から除去されるということを提唱する。こうしたクライアントは、転写補助因子であり得、その結果、転写凝縮体から除去されると転写が変化する。こうしたクライアントは、シグナル伝達転写因子でもあり得、その結果、転写凝縮体から除去されると、過剰に活性化していたシグナル伝達経路が特異的に転写的に不活性となる。いくつかの態様では、骨格は、集合することで細胞内またはインビトロで凝縮体を形成し得るコンポーネントであり、それ故に、こうしたコンポーネントは、骨格コンポーネントであると考えることができる。
いくつかの実施形態では、転写凝縮体は、転写凝縮体と結び付くコンポーネント(例えば、クライアントコンポーネント)の量またはレベルを調節することによって調節される。コンポーネント(例えば、クライアントコンポーネント)は、限定されず、本明細書に記載の任意の凝縮体コンポーネントであり得る。いくつかの実施形態では、コンポーネント(例えば、クライアントコンポーネント)は、1つ以上の転写補助因子、及び/またはシグナル伝達転写因子、及び/または核内受容体リガンド(例えば、ホルモン)である。いくつかの実施形態では、コンポーネント(例えば、クライアントコンポーネント)は、メディエーター、MED1、MED15、GCN4、p300、BRD4、ホルモン、またはTFIIDである。
いくつかの実施形態では、転写凝縮体と結び付くコンポーネント(例えば、クライアントコンポーネント)の量またはレベルは、コンポーネント(例えば、クライアントコンポーネント)と転写凝縮体との間の相互作用を低減または除去する薬剤との接触によって調節される。薬剤は、限定されず、本明細書に記載の任意の薬剤であり得る。いくつかの実施形態では、薬剤は、ペプチド模倣物または類似生体分子である。
いくつかの実施形態では、薬剤は、コンポーネント(例えば、クライアントコンポーネント)の相互作用ドメインを標的とする。いくつかの実施形態では、相互作用ドメインは、天然変性ドメインまたは天然変性領域(IDR)である。IDRは、限定されない。いくつかの実施形態では、IDRは、表S2に記載のモチーフを有するIDRである。
本明細書に記載の例は、細胞型依存的なシグナル伝達特異性が、スーパーエンハンサーでの相分離を介してシグナル伝達因子が転写凝縮体に到達することによって少なくとも部分的には達成され得ることを示す。この様式では、そのような凝縮体に複数のシグナル伝達因子分子が密集し、ゲノム上の適切な位置を占有することが可能である。
したがって、いくつかの実施形態では、凝縮体(例えば、転写凝縮体)を(例えば、薬剤を用いて)調節することで、シグナル伝達因子に対する親和性を上昇または低下させることができる。いくつかの実施形態では、凝縮体(例えば、転写凝縮体)を、シグナル伝達因子に対する親和性を上昇または低下させる薬剤と接触させることができる。例えば、薬剤は、シグナル伝達因子、及び凝縮体(例えば、転写凝縮体)の別のコンポーネントと結び付き得る。あるいは、薬剤は、薬剤と転写因子のコンポーネントとの結び付きを低減または遮断し得る。いくつかの実施形態では、凝縮体(例えば、転写凝縮体)に対するシグナル伝達因子の親和性が(例えば、薬剤を用いて)調節され得る。いくつかの実施形態では、薬剤は、シグナル伝達因子による転写活性化を調節し得る(この調節は、例えば、シグナル伝達因子と結び付く転写凝縮体の形成、組成、維持、崩壊、活性、及び/または制御を調節することによって行われる)。いくつかの実施形態では、凝縮体/シグナル伝達因子の親和性または活性が薬剤によって調節されることは、細胞型またはエンハンサー(例えばスーパーエンハンサー)に特異的なことである。いくつかの実施形態では、薬剤は、シグナル伝達因子と補助因子(例えば、メディエーターまたはメディエーターコンポーネント)との間の親和性を調節する。
いくつかの実施形態では、凝縮体(例えば、転写凝縮体)は、エンハンサー(例えば、スーパーエンハンサー)と結び付く。エンハンサーは、本明細書に記載されるか、または当該技術分野で知られる遺伝子の1つ以上と結び付き得る。いくつかの実施形態では、エンハンサーは、細胞独自性に関与する遺伝子の1つ以上と結び付く。いくつかの実施形態では、エンハンサーは、本明細書に記載の疾患または状態(例えば、がん)と結び付く遺伝子と結び付く。凝縮体は、本明細書に記載されるか、または当該技術分野で知られる任意のTFと結び付き得る。いくつかの実施形態では、TFは、1つ以上のIDRを含む。いくつかの実施形態では、凝縮体は、マスターTFと結び付く。いくつかの実施形態では、凝縮体と結び付くTFは、MyoD、Oct4、Nanog、Klf4、またはMycである。
凝縮体(例えば、転写凝縮体)は、任意の遺伝子または遺伝子群と結び付き得る(例えば、任意の遺伝子または遺伝子群の転写を制御し得る)。いくつかの実施形態では、遺伝子(複数可)は、細胞独自性に関与する。いくつかの実施形態では、遺伝子は、本明細書に記載の疾患または状態(例えば、がん)と結び付く。凝縮体(例えば、転写凝縮体)は、補助因子を含み得る。補助因子は、限定されない。いくつかの実施形態では、補助因子及びシグナル伝達因子は、凝縮体において優先的に結び付く。いくつかの実施形態では、補助因子は、メディエーター、メディエーターコンポーネント、MED1、MED15、p300、BRD4、TFIIDである。
凝縮体(例えば、転写凝縮体)は、シグナル応答エレメント(例えば、特定のシグナル伝達因子に結合し、転写を制御することができる遺伝子プロモーター領域内の短いDNA配列)と結び付き得る。いくつかの実施形態では、シグナル応答エレメントは、スーパーエンハンサーと結び付く。いくつかの実施形態では、シグナル応答エレメントは、スーパーエンハンサーと結び付くゲノム領域にもスーパーエンハンサーと結び付かないゲノム領域にも存在する。
シグナル伝達因子は、限定されず、本明細書に記載されるか、または当該技術分野で知られる任意のシグナル伝達因子であり得る。いくつかの実施形態では、シグナル伝達因子は、1つ以上のIDRを含む。いくつかの実施形態では、シグナル伝達因子は、NF−kB、FOXO1、FOXO2、FOXO4、IKKアルファ、CREB、Mdm2、YAP、BAD、p65、p50、GLI1、GLI2、GLI3、YAP、TAZ、TEAD1、TEAD2、TEAD3、TEAD4、STAT1、STAT2、STAT3、STAT4、STAT5A、STAT5B、STAT6、AP−1、C−FOS、CREB、MYC、JUN、CREB、ELK1、SRF、NOTCH1、NOTCH2、NOTCH3、NOTCH4、RBPJ、MAML1、SMAD2、SMAD3、SMAD4、IRF3、ERK1、ERK2、MYC、TCF7L2、TCF7、TCF7L1、LEF1、またはベータ−カテニンからなる群から選択される。いくつかの実施形態では、シグナル伝達因子は、凝縮体と結び付く1つ以上のシグナル応答エレメントまたはメディエーターに優先的に結合する。いくつかの実施形態では、凝縮体は、マスター転写因子を含む。
シグナル伝達因子及び補助因子は、転写凝縮体と特異的に相互作用し得るものであり、疾患においては、いくつかのシグナル伝達経路に変化が生じている。シグナル伝達経路は、限定されない。いくつかの実施形態では、シグナル伝達経路は、Akt/PKBシグナル伝達経路、AMPKシグナル伝達経路、cAMP依存性経路、EGF受容体シグナル伝達経路、ヘッジホッグシグナル伝達経路、Hippoシグナル伝達経路、低酸素誘導因子(HIF)シグナル伝達経路、インスリンシグナル伝達経路、IGFシグナル伝達経路、JAK−STATシグナル伝達経路、MAPK/ERKシグナル伝達経路、mTORシグナル伝達経路、NF−kB経路、Notchシグナル伝達経路、PI3K/AKTシグナル伝達経路、PDGF受容体経路、T細胞受容体シグナル伝達経路、TGFベータシグナル伝達経路、TLRシグナル伝達経路、VEGF受容体シグナル伝達経路、またはWntシグナル伝達経路である。いくつかの実施形態では、シグナル伝達経路は、核内受容体関連シグナル伝達経路である。核内受容体は、限定されず、本明細書に記載の任意の核内受容体であり得る。シグナル伝達経路が疾患発病に寄与する場合、凝縮体の形成、組成、維持、崩壊、形態、及び/または制御を変化させることで、治療効果を得ることができる。
いくつかの実施形態では、転写凝縮体を調節することで、1つ以上のシグナル伝達経路が調節される。いくつかの実施形態では、シグナル伝達経路は、疾患発病に寄与する。いくつかの実施形態では、疾患は、増殖性疾患、炎症性疾患、循環器疾患、神経疾患、または感染性疾患である。いくつかの実施形態では、疾患は、がん(例えば、乳癌)である。
がんの型は、限定されない。「がん」は、一般に、腫瘍(例えば、悪性または潜在的に悪性の腫瘍)が1つ以上生じることによって特徴付けられる疾患を指すために使用される。本明細書で使用される「腫瘍」という用語は、細胞の異常増殖を伴う増殖異常を包含する。当該技術分野で知られるように、腫瘍は、典型的には、適切に制御されることなく細胞が過剰に増殖すること(例えば、通常であれば増殖を抑圧すると想定される生理学的な影響及びシグナルに正常に応答せずに細胞が過剰に増殖すること)によって特徴付けられ、下記の特性のうちの1つ以上を示し得る:異形成(例えば、正常な細胞分化が失われる結果、未熟細胞の数または比率が増加する)、退形成(例えば、分化の大幅な喪失、組織構造の喪失進行、細胞多形性、奇形(大型の過染性核、細胞質に対する核の比の上昇、非定型有糸分裂など))、周囲組織への浸潤(例えば、基底膜を破壊して通過すること)、及び/または転移。悪性腫瘍は、増殖が持続する傾向があり、拡散能力を有することで、例えば、局所的に浸潤し、及び/または局部的に転移し、及び/または遠隔部位に転移する一方で、良性腫瘍は、原発部位に局所的に留まることが多く、増殖に関して自己制限的であることが多い。「腫瘍」という用語は、悪性固形腫瘍を含み、こうした悪性固形腫瘍は、例えば、癌腫(上皮細胞から生じるがん)、肉腫(間葉起源の細胞から生じるがん)、及び固形腫瘤が検出不可能であり得る悪性増殖物(例えば、ある特定の血液悪性腫瘍)である。がんには、限定されないが、乳癌、胆道癌、膀胱癌、脳癌(例えば、膠芽腫、髄芽腫)、子宮頸癌、絨毛癌、結腸癌、子宮内膜癌、食道癌、胃癌、血液学的新生物(急性リンパ性白血病及び急性骨髄性白血病を含む)、T細胞性急性リンパ芽球性白血病/リンパ腫、ヘアリー細胞白血病、慢性リンパ球性白血病、慢性骨髄性白血病、多発性骨髄腫、成人T細胞性白血病/リンパ腫、上皮内新生物(ボーエン病及びパジェット病を含む)、肝癌、肺癌、リンパ腫(ホジキン病及びリンパ球性リンパ腫を含む)、神経芽細胞腫、メラノーマ、口腔癌(扁平上皮癌を含む)、卵巣癌(上皮細胞、間質細胞、生殖細胞、及び間葉系細胞から生じる卵巣癌を含む)、神経芽細胞腫、膵癌、前立腺癌、直腸癌、肉腫(血管肉腫、消化管間質腫瘍、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、脂肪肉腫、線維肉腫、及び骨肉腫を含む)、腎癌(腎細胞癌及びウイルムス腫瘍を含む)、皮膚癌(基底細胞癌及び扁平上皮癌を含む)、精巣癌(胚腫瘍(セミノーマ、非セミノーマ(奇形腫、絨毛癌)、間質性腫瘍、及び胚細胞性腫瘍など)を含む)、甲状腺癌(thyroid cancer)(甲状腺癌(thyroid adenocarcinoma)及び髄様癌を含む)が含まれる。ある特定の臓器には、さまざまな異なる腫瘍型(例えば、臨床的特徴及び/または病的特徴及び/または分子マーカーに関して異なる得る)が生じ得ることが理解されよう。さまざまな異なる臓器に生じる腫瘍については、例えば、International Agency for Research on Cancer(IARC)によるWHO Classification of Tumours seriesの4版または3版(Pathology and Genetics of Tumours series),WHO Press,Geneva,Switzerlandにおいて論じられており、これらの文献の巻はすべて、参照によって本明細書に組み込まれる。いくつかの実施形態では、がんは、肺癌、乳癌、子宮頸癌、結腸癌、胃癌、腎癌、白血病、肝癌、リンパ腫、(例えば、非ホジキンリンパ腫、例えば、びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫、バーキットリンパ腫)、卵巣癌、膵癌、前立腺癌、直腸癌、肉腫、皮膚癌、精巣癌、または子宮癌である。がんの型は、限定されない。いくつかの実施形態では、がんは、異常な遺伝子発現を示す。いくつかの実施形態では、がんは、異常な遺伝子産物活性を示す。いくつかの実施形態では、がんは、遺伝子産物を正常レベルで発現するが、その遺伝子産物の活性を変える変異を保有する。がん遺伝子が、異常に上昇した活性を有する場合、本発明の方法を使用することで、がん遺伝子の発現を低減することができる。腫瘍抑制遺伝子が、(例えば、変異に起因して)異常に低下した活性を有する場合、本発明の方法を使用して制御状況を調節することによって腫瘍抑制遺伝子の発現を増加させることができる。
転写凝縮体は、核膜孔タンパク質と相互作用することで、入ってくるシグナルに優先的にアクセスし、新たに転写されるmRNAを優先的に搬出することを可能にし得る。凝縮体と核膜孔との間の相互作用が安定化または破壊されると、凝縮体による転写量が変化し得る。このことは、凝縮体と結び付く遺伝子に由来するmRNAの搬出及び翻訳にも有利に働き得る。
いくつかの実施形態では、転写凝縮体を調節することで、転写凝縮体と1つ以上の核膜孔タンパク質との間の相互作用が調節される。いくつかの実施形態では、転写凝縮体と1つ以上の核膜孔タンパク質との間の相互作用を調節することで、核内シグナル伝達、mRNAの搬出、及び/またはmRNAの翻訳が調節される。いくつかの実施形態では、核内シグナル伝達、mRNAの搬出、及び/またはmRNAの翻訳は、疾患と結び付くものである。
細菌感染またはウイルス感染に対する炎症応答は、主要なサイトカイン及びケモカインの活性化に依存する。こうした炎症応答遺伝子の転写を低減すると、細菌感染またはウイルス感染の有害作用が低下することが知られている。主要な炎症性遺伝子の強固な発現は、凝縮体形成に依存する可能性があり、この凝縮体形成は、ペプチド、核酸、または小分子によって標的とすることができる特定のタンパク質、RNAモチーフ、またはDNAモチーフに特に依存し得るものである。
いくつかの実施形態では、転写凝縮体(あるいはいくつかの実施形態では、ヘテロクロマチン凝縮体、またはmRNA開始複合体もしくはmRNA伸長複合体と物理的に結び付く凝縮体)を調節することで、炎症応答が調節される。いくつかの実施形態では、炎症応答は、ウイルスまたは細菌に対する炎症応答である。いくつかの実施形態では、炎症応答は、不適切な炎症応答、誤って制御される炎症応答、または過剰な炎症応答である。ある特定の実施形態では、本開示の方法は、炎症状態を有する対象において炎症を低減し、1つ以上の炎症性サイトカインの発現を低減し、及び/または過剰な炎症応答を低減するために使用される。いくつかの実施形態では、炎症応答は、凝縮体を調節することによって調節され、それによって、転写、mRNAの開始、及び/またはmRNAの伸長が調節されるか、あるいは炎症に関与するか、または炎症応答を低減する1つ以上の遺伝子の遺伝子サイレンシングが調節される。いくつかの実施形態では、炎症に関与するか、または炎症応答を低減するシグナル伝達経路の活性が、本明細書に開示の方法を介して調節される(この調節は、例えば、シグナル伝達因子と凝縮体との親和性を調節することによって行われる)。
DNA配列を改変するか、またはDNAのメチル化/脱メチル化による修飾もしくは他のDNA修飾(アセチル化/脱アセチル化など)を行うと、凝縮体の形成、組成、維持、崩壊、形態、及び/または制御に影響を与えることができる。さらに、dCas9(または他の触媒的に不活性な部位特異的ヌクレアーゼ)との融合を利用し、特異的なガイドRNAを使用することによって、部位特異的な様式でコンポーネント(DNA、RNA、またはタンパク質)をゲノムDNAに繋留することができる。同様の手法を使用しても、特定のコンポーネントを現存凝縮体に局在化させることができ、これによって、当該現存凝縮体の組成、維持、崩壊、または制御を変えることができる。
いくつかの実施形態では、凝縮体(例えば、転写凝縮体)は、凝縮体と結び付くヌクレオチド配列(例えば、ゲノムDNA配列)を改変することによって調節される。例えば、転写凝縮体と結び付くエンハンサー(例えば、スーパーエンハンサー)が改変され得る。転写因子結合部位もまた、改変され得る。いくつかの実施形態では、ホルモン応答エレメントまたはシグナル応答エレメントが改変され得る。さらに、凝縮体と結び付くコンポーネントをコードする遺伝子(例えば、転写因子、補助因子、コアクチベーター、抑制因子、またはメチルDNA関連結合タンパク質をコードする遺伝子)が改変され得る。改変は、コード領域または非コード領域に対するものであり得る。いくつかの実施形態では、改変は、ヌクレオチドの付加または欠失を含む。いくつかの実施形態では、ヌクレオチドを付加することで、凝縮体の形成が誘発もしくは増進されるか、または凝縮体の安定性が調節される。いくつかの実施形態では、ヌクレオチドを欠失させることで、凝縮体の形成が阻止されるか、または凝縮体の安定性が調節される。いくつかの実施形態では、ヌクレオチドを付加または欠失させることで、凝縮体の形成、組成、維持、崩壊、形態、及び/または制御に影響が及ぶ。
いくつかの実施形態では、凝縮体と結び付くDNAは、ヘテロクロマチン(例えば、条件的ヘテロクロマチン)に局在化するものである。いくつかの実施形態では、凝縮体と結び付くDNAは、メチル化される。いくつかの実施形態では、ゲノムDNAをメチル化または脱メチル化することで凝縮体の形成が調節される。いくつかの実施形態では、DNAをメチル化または脱メチル化することで、凝縮体の形成または安定性が調節され、それによって遺伝子サイレンシングが調節される。いくつかの実施形態では、触媒的に不活性な部位特異的エンドヌクレアーゼをヘテロクロマチンのメチル化または脱メチル化に使用することで、凝縮体の形成または安定性が調節され、それによって遺伝子サイレンシングが調節される。
いくつかの実施形態では、改変は、エピジェネティック修飾を含む。いくつかの実施形態では、エピジェネティック修飾は、DNAのメチル化を含む。いくつかの実施形態では、ヌクレオチド配列の改変は、DNA、RNA、またはタンパク質をヌクレオチド配列に繋留することを含む。いくつかの実施形態では、DNA、RNA、またはタンパク質は、本明細書に記載の転写凝縮体コンポーネントまたはその断片(例えば、IDR含有断片)である。いくつかの実施形態では、DNA、RNA、またはタンパク質は、本明細書に記載のヘテロクロマチン凝縮体コンポーネントまたはその断片(例えば、IDR含有断片)である。いくつかの実施形態では、DNA、RNA、またはタンパク質は、本明細書に記載の薬剤である。いくつかの実施形態では、DNA、RNA、またはタンパク質は、凝縮体の形成を促進または増進するものである。いくつかの実施形態では、DNA、RNA、またはタンパク質は、凝縮体の形成を抑制または阻止するものである。いくつかの実施形態では、補助因子(例えば、メディエーター)またはその断片(例えば、IDR含有断片)がヌクレオチド配列に繋留される。いくつかの実施形態では、メチルDNA結合タンパク質またはその断片(例えば、IDR含有断片)がヌクレオチド配列に繋留される。いくつかの実施形態では、サイクリン依存性キナーゼまたはその断片がヌクレオチド配列に繋留される。いくつかの実施形態では、スプライシング因子またはその断片(例えば、IDR含有断片)がヌクレオチド配列に繋留される。
いくつかの実施形態では、触媒的に不活性な部位特異的ヌクレアーゼと、DNA、RNA、またはタンパク質をヌクレオチド配列に付加することが可能なエフェクタードメインと、が使用される。いくつかの実施形態では、触媒的に不活性な部位特異的ヌクレアーゼdCas(例えば、dCas9またはCpf1)が使用される。
当該技術分野で知られるさまざまなCRISPR関連(Cas)遺伝子またはCasタンパク質を修飾することで、触媒的に不活性な部位特異的ヌクレアーゼの調製することができ、Casタンパク質の選択は、方法の具体的条件に依存することになる(例えば、ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=cas9)。Casタンパク質の具体例としては、Cas1、Cas2、Cas3、Cas4、Cas5、Cas6、Cas7、Cas8、Cas9、及びCas10が挙げられる。特定の態様では、方法において使用されるCas核酸またはCasタンパク質は、Cas9である。いくつかの実施形態では、Casタンパク質(例えば、Cas9タンパク質)は、さまざまな原核生物種のいずれかに由来し得る。いくつかの実施形態では、特定のプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を認識させるために、特定のCasタンパク質(例えば、特定のCas9タンパク質)が選択され得る。ある特定の実施形態では、Casタンパク質(例えば、Cas9タンパク質)を、細菌もしくは古細菌から得るか、または既知の方法を使用して合成することができる。ある特定の実施形態では、Casタンパク質は、グラム陽性細菌またはグラム陰性細菌に由来し得る。ある特定の実施形態では、Casタンパク質は、Streptococcus(例えば、S.pyogenes、S.thermophilus)、Crptococcus、Corynebacterium、Haemophilus、Eubacterium、Pasteurella、Prevotella、VeiUonella、またはMarinobacterに由来し得る。いくつかの実施形態では、2つ以上の異なるCasタンパク質をコードする核酸、または2つ以上のCasタンパク質を細胞、接合体、胚、または動物に導入することで、例えば、同じ、同様、または異なるPAMモチーフを含む部位を認識し、修飾することが可能になり得る。
いくつかの実施形態では、Casタンパク質は、Cpf1タンパク質またはその機能性部分である。いくつかの実施形態では、Casタンパク質は、任意の細菌種に由来するCpf1またはその機能性部分である。ある特定の実施形態では、Cpf1タンパク質は、Francisella novicida U112のタンパク質もしくはその機能性部分、Acidaminococcusの1種BV3L6のタンパク質もしくはその機能性部分、またはLachnospiraceae bacterium ND2006のタンパク質もしくはその機能性部分である。Cpf1タンパク質は、V型CRISPR系のメンバーである。Cpf1タンパク質は、約1300個のアミノ酸を含むポリペプチドである。Cpf1は、RuvC様エンドヌクレアーゼドメインを含む。
いくつかの実施形態では、Cas9ヌクレアーゼドメインの1つ以上を不活性化することによってCas9ニッカーゼが生成され得る。いくつかの実施形態では、Cas9のRuvC Iドメインにおける残基10をアミノ酸置換することで、当該ヌクレアーゼがDNAニッカーゼに変換される。例えば、10番目に位置するアミノ酸残基であるアスパラギン酸がアラニンに置換され得る(Cong et al,Science,339:819−823)。触媒的に不活性なCas9タンパク質が創出される他のアミノ酸変異には、残基10及び/または残基840の変異が含まれる。残基10及び残基840の両方を変異させると触媒的に不活性なCas9タンパク質を創出することができ、この触媒的に不活性なCas9タンパク質は、本明細書ではdCas9と称されることもある。例えば、D10A変異及びH840A変異を有するCas9変異体は、触媒的に不活性である。
本明細書で使用される「エフェクタードメイン」は、ゲノム配列(例えば、遺伝子)の発現及び/または活性化を調節する分子(例えば、タンパク質)である。エフェクタードメインは、メチル化活性または脱メチル化活性(例えば、DNAメチル化活性またはDNA脱メチル化活性)を有し得る。いくつかの態様では、エフェクタードメインは、遺伝子の一方または両方のアレルを標的とする。エフェクタードメインは、核酸配列及び/またはタンパク質として導入され得る。いくつかの態様では、エフェクタードメインは、構成的エフェクタードメインまたは誘導性エフェクタードメインであり得る。いくつかの態様では、Cas(例えば、dCas)核酸配列またはそのバリアントと、エフェクタードメイン核酸配列とが、凝縮体を有する細胞にキメラ配列として導入される。いくつかの態様では、エフェクタードメインは、Casタンパク質と結び付く(例えば、結合する)分子と融合される(例えば、エフェクター分子は、Casタンパク質に結合する抗体またはその抗原結合断片と融合される)。いくつかの態様では、Cas(例えば、dCas)タンパク質またはそのバリアントとエフェクタードメインとが融合または繋留されてキメラタンパク質が創出され、当該キメラタンパク質として細胞に導入される。いくつかの態様では、Cas(例えば、dCas)タンパク質とエフェクタードメインとは、タンパク質間相互作用で結合される。いくつかの態様では、Cas(例えば、dCas)タンパク質とエフェクタードメインとは、共有結合で連結される。いくつかの態様では、エフェクタードメインは、非共有結合でCas(例えば、dCas)タンパク質と結び付く。いくつかの態様では、Cas(例えば、dCas)核酸配列及びエフェクタードメイン核酸配列は、別々の配列及び/またはタンパク質として導入される。いくつかの態様では、Cas(例えば、dCas)タンパク質とエフェクタードメインとは、融合または繋留されない。
いくつかの実施形態では、1つ以上のRNA配列(sgRNA)によって、触媒的に不活性な部位特異的ヌクレアーゼを特定のDNA部位に導いて1つ以上のゲノム配列の活性及び/または発現を調節することができる(例えば、転写もしくはクロマチン高次構造化にある特定の作用を及ぼすか、または特定種の分子を特定のDNA遺伝子座に運ぶか、または局所的なヒストン状態もしくはDNA状態のセンサーとして働かせることができる)。特定の態様では、エフェクタードメインのすべてまたは一部にdCas9を繋留して融合することで、1つ以上のRNA配列によって特定のDNA部位に導いて、1つ以上のゲノム配列のメチル化または脱メチル化を調節または修飾することが可能なキメラタンパク質が創出される。本明細書で使用される「エフェクタードメインの生物学的に活性な部分」は、エフェクタードメインの機能を(例えば、完全、部分的、最小限に)維持する部分(例えば、「最小」ドメインまたは「コア」ドメイン)である。1つ以上のエフェクタードメインのすべてまたは一部とCas9(例えば、dCas9)とを融合することで、キメラタンパク質が創出される。
エフェクタードメインの例としては、クロマチン高次構造化ドメイン、再構築ドメイン、ヒストン修飾ドメイン、DNA修飾ドメイン、RNA結合ドメイン、タンパク質相互作用入力装置ドメイン(Grunberg and Serrano,Nucleic Acids Research,3’8(8):‘2663−267’5(2010))、及びタンパク質相互作用出力装置ドメイン(Grunberg and Serrano,Nucleic Acids Research,3’8(8):‘2663−267’5(2010))が挙げられる。いくつかの態様では、エフェクタードメインは、DNA修飾因子である。DNA修飾因子の具体例としては、5mCから5hmcへの変換を行うもの(Tetl(TetlCD)など)と、DNAの脱メチル化を行うTetl、ACIDA、MBD4、Apobecl、Apobec2、Apobec3、Tdg、Gadd45a、Gadd45b、ROS1と、DNAのメチル化を行うDnmtl、Dnmt3a、Dnmt3b、CpGメチルトランスフェラーゼであるM.SssI、及び/またはM.EcoHK31Iと、が挙げられる。特定の態様では、エフェクタードメインは、Tet1である。他の特定の態様では、エフェクタードメインは、Dmnt3aである。いくつかの実施形態では、dCas9は、Tet1と融合される。他の実施形態では、dCas9は、Dnmt3aと融合される。エフェクタードメインの他の例は、PCT出願第PCT/US2014/034387号及び米国出願第14/785031号に記載されており、これらの文献は、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる。触媒的に不活性な部位特異的ヌクレアーゼ、ヌクレオチド配列(例えば、ゲノム配列)を修飾するためのエフェクタードメイン、及びsgRNAを使用する方法は、2017年12月12日出願のPCT/US2017/065918に教示されており、当該文献は、参照によって本明細書に組み込まれる。
外来性RNAを添加するか、RNAを安定化するか、またはある特定のRNAを除去することで凝縮体を調節できることにさらに留意されたい。したがって、いくつかの実施形態では、転写凝縮体は、凝縮体を、外来性に添加されたRNAと接触させることによって調節される。いくつかの実施形態では、ヘテロクロマチン凝縮体は、凝縮体を、外来性に添加されたRNAと接触させることによって調節される。いくつかの実施形態では、mRNA開始複合体またはmRNA伸長複合体と結び付く凝縮体は、凝縮体を、外来性に添加されたRNAと接触させることによって調節される。
いくつかの実施形態では、外来性RNAは、天然起源のRNA配列、修飾RNA配列(例えば、1つ以上の修飾塩基を含むRNA配列)、合成RNA配列、またはそれらの組み合わせである。本明細書で使用される「修飾RNA」は、RNA配列に対する1つ以上の修飾(例えば、骨格及びまたは糖に対する修飾)を含むRNA(例えば、非標準的及び/または非天然起源の塩基を1つ以上含むRNA)である。RNAの塩基を修飾する方法は、当該技術分野でよく知られている。そのような修飾塩基の例としては、ヌクレオシドである5−メチルシチジン(5mC)、シュードウリジン(Ψ)、5−メチルウリジン、2’0−メチルウリジン、2−チオウリジン、N−6メチルアデノシン、ヒポキサンチン、ジヒドロウリジン(D)、イノシン(I)、及び7−メチルグアノシン(m7G)に含まれる修飾塩基が挙げられる。さまざまな実施形態においてRNA配列における任意の数の塩基が置換され得ることに留意されたい。さらに、異なる修飾の組み合わせが使用され得ることが理解されよう。
いくつかの態様では、外来性RNA配列は、モルホリノである。モルホリノは、典型的には、長さが約25塩基の合成分子であり、標準的な核酸塩基対形成によってRNAの相補的配列に結合する。モルホリノは、標準的な核酸塩基を有するが、そうした塩基は、デオキシリボース環の代わりにモルホリン環に結合しており、ホスフェートの代わりにホスホロジアミデート基を介して連結されている。モルホリノは、その標的RNA分子を分解することはなく、このことは、多くのアンチセンス構造型(例えば、ホスホロチオエート、siRNA)とは異なる。代わりに、モルホリノは、立体的な遮断を行うことによって働くものであり、RNA内の標的配列に結合し、遮断しなければ当該RNAと相互作用し得る分子を遮断する。いくつかの実施形態では、合成RNAは、WO2017075406に記載のものである。
いくつかの実施形態では、RNA配列の長さは、約8塩基対(bp)〜約200bp、約500bp、または約1000bpの間で異なり得る。いくつかの実施形態では、RNA配列の長さは、約9〜約190bp、約10〜約150bp、約15〜約120bp、約20〜約100bp、約30〜約90bp、約40〜約80bp、約50〜約70bpであり得る。
いくつかの実施形態では、外来性RNAは、凝縮体の形成または安定性を安定化または増進する。いくつかの実施形態では、外来性RNAは、凝縮体の崩壊を促進するか、または凝縮体の形成を阻止/抑制する。
いくつかの実施形態では、ある特定の(すなわち、特定の)RNAの除去は、干渉RNA(RNAi)を使用して実施される。本明細書で使用される「RNA干渉」(「RNAi」)という用語(当該技術分野では「遺伝子サイレンシング」及び/または「標的サイレンシング」(例えば、「標的mRNAサイレンシング」)とも称される)は、細胞内での選択的なRNA分解を指す。天然では、RNAiは、外来性RNA(例えば、ウイルスRNA)を除去するために細胞内で生じる。天然のRNAiは、遊離のdsRNAが切断されて断片が生じ、こうした断片が、他の類似RNA配列に対して分解機構を誘導することで進行する。いくつかの態様では、特定のRNAの除去は、当該特定のRNAの転写を抑制することによるものである。
いくつかの実施形態では、RNAは、当該技術分野で知られる方法によってRNAの一方の末端または両方の末端を保護(キャッピング)することによって安定化される。いくつかの実施形態では、RNAは、凝縮体のコンポーネントへの結合を妨害しない分子(すなわち、アンチセンス核酸または小分子)と当該RNAを結び付けることによって安定化される。
いくつかの疾患は、RNA種のプロセシングの異常と結び付く。いくつかの実施形態では、転写凝縮体は、RNAプロセシング装置によって形成される凝縮体と融合し得る。こうした凝縮体の安定化または破壊は、治療的に有益な様式でRNAプロセシングを変化させ得る。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法を使用して凝縮体を調節することで、転写凝縮体とRNAプロセシング装置によって形成される凝縮体との融合を増進または安定化させることができる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法を使用して凝縮体を調節することで、転写凝縮体とRNAプロセシング装置によって形成される凝縮体との融合を抑制または不安定化させることができる。いくつかの実施形態では、mRNA開始複合体またはmRNA伸長複合体と物理的に結び付く凝縮体を、本明細書に開示の方法によって調節し、それによってRNAプロセシングを調節することができる。いくつかの実施形態では、mRNA開始複合体またはmRNA伸長複合体と物理的に結び付く凝縮体が、治療的に有益な様式で調節される。いくつかの実施形態では、mRNAの伸長と結び付く凝縮体が調節され、それによって、治療的に有益な様式でmRNAスプライシングが調節される(例えば、異常なスプライシングバリアントの低減、有益なスプライシングバリアントの増加)。
転写凝縮体は、核膜孔タンパク質と相互作用することで、新たに転写されるmRNAを優先的に搬出することを可能にし得る。したがって、凝縮体と核膜孔との間の相互作用を安定化または破壊すると、凝縮体と結び付く遺伝子に由来するmRNAの翻訳が変化し得る。そのような変化は、疾患によって特定のタンパク質が病的レベルで生じる場合に治療的に有用であり得る。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法を使用して凝縮体を調節することで、新たに転写されるmRNAの優先的な搬出を増進することができる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法を使用して凝縮体を調節することで、新たに転写されるmRNAの優先的な搬出を抑制することができる。いくつかの実施形態では、mRNAを調節することは、疾患治療のための治療となる。いくつかの実施形態では、mRNAを調節することによって、タンパク質のレベルが病的レベルから非病的レベルに戻る。
凝縮体(例えば、転写凝縮体、ヘテロクロマチン凝縮体、またはmRNA開始複合体もしくはmRNA伸長複合体と結び付く凝縮体)は、IDRを有するタンパク質の間に複数の弱い相互作用が生じることによって形成され得る。そのような変性領域がいずれの規定の二次構造または三次構造を有し得ないことを考慮すると、こうした領域に結合する小分子またはペプチド模倣物は、そうした結合を弱い親和性で生じさせている可能性がある。そのような分子を凝縮体(例えば、転写凝縮体、ヘテロクロマチン凝縮体、またはmRNA開始複合体もしくはmRNA伸長複合体と結び付く凝縮体)に密集させて弱いIDR間相互作用を妨害するために、「アンカー」及び「破壊物質」から構成される二価分子を利用することができる。「破壊物質」は、凝縮体の相互作用コンポーネントに弱く結合して相互作用の性質を破壊するか、または変化させる分子である。アンカーコンポーネントは、凝縮体の中または付近に存在する構造化が進んだタンパク質領域に対して強い親和性を有し、それによって凝縮体(例えば、転写凝縮体、ヘテロクロマチン凝縮体、またはmRNA開始複合体もしくはmRNA伸長複合体と結び付く凝縮体)の中または付近に破壊物質分子が密集するように働く分子である。
いくつかの実施形態では、転写凝縮体は、凝縮体を、凝縮体コンポーネントの天然変性ドメインに結合する薬剤と接触させることによって調節される。いくつかの実施形態では、ヘテロクロマチン凝縮体は、凝縮体を、凝縮体コンポーネントの天然変性ドメインに結合する薬剤と接触させることによって調節される。いくつかの実施形態では、mRNA開始複合体またはmRNA伸長複合体と結び付く凝縮体は、凝縮体を、凝縮体コンポーネントの天然変性ドメインに結合する薬剤と接触させることによって調節される。コンポーネントは、限定されず、本明細書に記載の任意のコンポーネントであり得る。いくつかの実施形態では、コンポーネントは、メディエーター、MED1、MED15、GCN4、p300、BRD4、核内受容体リガンド、またはTFIIDである。いくつかの実施形態では、コンポーネントは、表S3に記載のメディエーターコンポーネントである。いくつかの実施形態では、コンポーネントは、転写因子である。いくつかの実施形態では、転写因子は、活性化ドメインにIDRを有する。いくつかの実施形態では、転写因子は、OCT4、p53、MYC、GCN4、NANOG、MyoD、KLF4、SOXファミリーの転写因子、GATAファミリーの転写因子、核内受容体、または融合発がん性転写因子である。いくつかの実施形態では、転写因子は、表S3に記載の転写因子の活性化ドメインを有する。いくつかの実施形態では、転写因子は、表S3に記載の転写因子のIDRを有する。いくつかの実施形態では、転写因子は、表S3に記載のものである。いくつかの実施形態では、転写因子は、メディエーターコンポーネント(例えば、表S3に記載のメディエーターコンポーネント)と相互作用する転写因子である。
薬剤もまた、限定されず、本明細書に記載の任意の適切な薬剤であり得る。いくつかの実施形態では、薬剤は、多価(例えば、二価、三価、四価など)である。いくつかの実施形態では、薬剤は、コンポーネントの天然変性ドメインに結合すると共に、同じコンポーネントの非天然変性ドメインにさらに結合する。いくつかの実施形態では、薬剤は、コンポーネントの天然変性ドメインに結合すると共に、転写凝縮体と結び付く第2のコンポーネントにさらに結合する。いくつかの実施形態では、薬剤は、多価であり、活性化ドメイン(例えば、活性化ドメインのIDR)に結合すると共に、非活性化ドメイン(例えば、DNA結合ドメイン)、または転写因子の非天然変性領域にさらに結合する。いくつかの実施形態では、薬剤は、変異転写因子(例えば、疾患もしくは状態と結び付く変異転写因子)の非活性化ドメイン、または転写因子の非天然変性領域に特異的に結合する。いくつかの実施形態では、薬剤は、野生型転写因子の非活性化ドメイン、または野生型転写因子の非天然変性領域に結合しない。いくつかの実施形態では、多価薬剤は、核内受容体に結合する。いくつかの実施形態では、多価薬剤は、核内受容体の変異形態(例えば、疾患または状態と結び付く変異形態)に優先的に結合する。いくつかの実施形態では、多価薬剤は、シグナル伝達因子、補助因子、メチルDNA結合タンパク質、スプライシング因子、またはRNAポリメラーゼに結合する。
いくつかの実施形態では、薬剤は、転写凝縮体のコンポーネントの間の相互作用を変化させるか、または破壊する。いくつかの実施形態では、薬剤は、転写凝縮体を増強または安定化させる。いくつかの実施形態では、薬剤は、転写凝縮体を抑制または不安定化させる。
転写凝縮体及びヘテロクロマチン凝縮体は、DNA上に形成され得る。したがって、新たな凝縮体を形成させるために、触媒的に不活性な部位特異的ヌクレアーゼ及びエフェクタードメインを本明細書に開示の方法によって利用することで、コンポーネント(DNA、RNA、またはタンパク質)を部位特異的な様式でゲノムDNAに繋留することができる。いくつかの実施形態では、コンポーネントは、本明細書に記載のdCas(例えば、dCas9)を使用してDNA(例えば、ゲノムDNA)に繋留される。
いくつかの実施形態では、転写凝縮体の形成は、1つ以上の転写凝縮体コンポーネントをゲノムDNAに繋留することによって誘発、増進、または安定化される。いくつかの実施形態では、ヘテロクロマチン凝縮体の形成は、1つ以上のヘテロクロマチン凝縮体コンポーネントをゲノムDNAに繋留することによって誘発、増進、または安定化される。コンポーネントは、限定されず、本明細書に記載の任意のコンポーネントを含み得る。いくつかの実施形態では、コンポーネントは、DNA、RNA、及び/またはタンパク質を含む。いくつかの実施形態では、コンポーネントは、メディエーター、MED1、MED15、GCN4、p300、BRD4、β−カテニン、STAT3、SMAD3、NF−kB、MECP2、MBD1、MBD2、MBD3、MBD4、HP1α、TBL1R、HDAC3、SMRT、RNAポリメラーゼII、SRSF2、SRRM1、SRSF1、核内受容体リガンド、またはTFIIDを含む。いくつかの実施形態では、コンポーネントは、表S3に記載のメディエーターコンポーネントである。いくつかの実施形態では、コンポーネントは、本明細書に開示のIDRを有する。いくつかの実施形態では、コンポーネントは、転写因子である。いくつかの実施形態では、転写因子は、活性化ドメインにIDRを有する。いくつかの実施形態では、転写因子は、OCT4、p53、MYC、GCN4、NANOG、MyoD、KLF4、SOXファミリーの転写因子、GATAファミリーの転写因子、核内受容体、または融合発がん性転写因子である。いくつかの実施形態では、転写因子は、表S3に記載の転写因子の活性化ドメインを有する。いくつかの実施形態では、転写因子は、表S3に記載の転写因子のIDRを有する。いくつかの実施形態では、転写因子は、表S3に記載のものである。いくつかの実施形態では、転写因子は、メディエーターコンポーネント(例えば、表S3に記載のメディエーターコンポーネント)と相互作用する転写因子である。
がんを含めて、多くの疾患は、転写に関与する特定のタンパク質に依存し得る。例えば、Myc転写因子は、すべてのがんの大多数において過剰発現しており、それが乱れると、がん細胞の死及び分化が引き起こされる。Mycは、合成MED1凝縮体に優先的に取り込まれることが示されている。したがって、外来性のペプチド、核酸、または小化学分子によって誘導される凝縮体形成を利用すれば、活性遺伝子のプロモーターにMycが通常位置する位置からMycを引き離して隔離することができる。凝縮体に取り込まれる能力を有する任意の疾患関連タンパク質に対しても、同様の方針を使用することができる。変異事象または融合事象が生じる疾患関連タンパク質は、変異バージョンを合成凝縮体に特異的に取り込まれせることができ、一方で野生型バージョンのみがそのまま残るのであれば、特に容易にこの手法の標的とすることが可能であろう。
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のタンパク質、DNA、RNA、または他の凝縮体コンポーネントを隔離するために、本明細書に記載の方法を使用して凝縮体を形成または安定化させることができる。例えば、コンポーネントをDNAに繋留し、凝縮体形成の核にすることによって、凝縮体を誘導して形成させることができる。適切な薬剤(例えば、外来性に添加されるタンパク質、DNA、もしくはRNA)または適切なコンポーネントを本明細書に記載の細胞に添加することによっても、凝縮体を誘導して形成させることができる。いくつかの実施形態では、コンポーネントを凝縮体に隔離してコンポーネントへのアクセスを制限することによって第2の凝縮体が調節される。いくつかの実施形態では、隔離コンポーネントは、Mycである。いくつかの実施形態では、隔離コンポーネントは、野生型タンパク質の変異バージョンである。いくつかの実施形態では、野生型タンパク質は、隔離されない。いくつかの実施形態では、隔離コンポーネントは、病状において過剰発現するコンポーネントである。いくつかの実施形態では、コンポーネントを隔離することによって病状が治療される。隔離コンポーネントは、限定されず、本明細書に記載の凝縮体の任意のコンポーネント(例えば、メディエーター、MED1、MED15、GCN4、p300、BRD4、核内受容体リガンド、及びTFIID)であり得る。いくつかの実施形態では、隔離コンポーネントは、転写因子またはその一部(例えば、活性化ドメイン)である。いくつかの実施形態では、転写因子は、活性化ドメインにIDRを有する。いくつかの実施形態では、転写因子は、OCT4、p53、MYC、GCN4、NANOG、MyoD、KLF4、SOXファミリーの転写因子、GATAファミリーの転写因子、核内受容体、または融合発がん性転写因子である。いくつかの実施形態では、転写因子は、表S3に記載の転写因子の活性化ドメインを有する。いくつかの実施形態では、転写因子は、表S3に記載の転写因子のIDRを有する。いくつかの実施形態では、転写因子は、表S3に記載のものである。いくつかの実施形態では、転写因子は、メディエーターコンポーネント(例えば、表S3に記載のメディエーターコンポーネント)と相互作用する転写因子である。
凝縮体の多くが、RNAコンポーネントを有する(Banani,S.F.,Lee,H.O.,Hyman,A.A.,and Rosen,M.K.(2017).Biomolecular condensates:organizers of cellular biochemistry.Nat.Rev.Mol.Cell Biol.18,285−298.)。遺伝子制御エレメントは、例外的に高いレベルの非コードRNAを生じさせる(Li,W.,Notani,D.,and Rosenfeld,M.G.(2016).Enhancers as non−coding RNA transcription units:recent insights and future perspectives.Nat.Rev.Genet.17,207−223.)。しかしながら、こうしたRNAの生物学的機能は理解されてない。さらには、転写因子及び補助因子の多くが、RNAと相互作用し得る(Li et al.,2016)。本発明者らは、いくつかの転写凝縮体の形成及び維持が非コードRNAに依存することを提唱する。転写凝縮体内のこうした非コードRNAコンポーネントを直接的に標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチド、RNase(RNAを分解する酵素)、または化合物は、健康な細胞及び疾患細胞における転写凝縮体の崩壊を誘発し得る。
いくつかの実施形態では、転写凝縮体は、転写凝縮体と結び付くncRNAのレベルまたは活性を調節することによって調節される。ncRNAのレベルまたは活性を調節することは、任意の適切な方法によって実施され得る。いくつかの実施形態では、ncRNAのレベルまたは活性を調節することは、本明細書に記載の方法(例えば、RNAiを使用するもの)によって実施され得る。いくつかの実施形態では、ncRNAのレベルまたは活性は、ncRNAを、ncRNAに結合するアンチセンスオリゴヌクレオチド、RNase、または小分子と接触させることによって調節される。
本開示の態様のいくつかは、凝縮体(例えば、転写凝縮体、ヘテロクロマチン凝縮体、mRNA開始複合体またはmRNA伸長複合体と結び付く凝縮体)を修飾することが可能な本明細書で定義される薬剤をスクリーニングする方法を対象とする。
本開示の態様のいくつかは、凝縮体(例えば、転写凝縮体)の形成、安定性、または形態を調節する薬剤を同定する方法を対象とし、この方法は、凝縮体を有する細胞を提供すること、細胞を試験薬剤と接触させること、及び試験薬剤との接触によって凝縮体の形成、安定性、または形態が調節されるかどうかを決定すること、を含む。いくつかの実施形態では、凝縮体は、検出可能なタグを有し、検出可能なタグは、試験薬剤との接触によって凝縮体の形成、安定性、または形態が調節されるかどうかを決定するために使用される。いくつかの実施形態では、細胞は、検出可能なタグを発現するように遺伝子操作される。本明細書で使用される「検出可能なタグ」または「検出可能な標識」という用語は、限定されないが、検出可能な標識(フルオロフォア、放射性同位体、発色基質、または酵素など)、それに対する特異的抗体が市販されている異種エピトープ(例えば、FLAGタグ)、市販の結合タンパク質に対するリガンドである異種アミノ酸配列(例えば、Strepタグ、ビオチン)、典型的には他のポリペプチドに対する蛍光タグと併用される蛍光消光剤、ならびに相補的な生物発光ポリペプチド断片または蛍光ポリペプチド断片を含む。検出可能な標識、または相補的な生物発光ポリペプチド断片もしくは蛍光ポリペプチド断片であるタグは、直接的に測定され得る(この測定は、例えば、適切な基質もしくは酵素の蛍光もしくは放射能を測定するか、または適切な基質もしくは酵素と共にインキュベートすることで、関連ポリペプチドと非関連ポリペプチドとで比較できるように、分光光度法で検出可能な色の変化を生じさせることによって行われる)。異種エピトープまたは異種リガンドであるタグは、典型的には、それに結合する第2のコンポーネント(例えば、抗体または結合タンパク質)を用いて検出され、第2のコンポーネントは、検出可能な標識と結び付く。
いくつかの態様では、方法は、凝縮体コンポーネントを有する細胞、細胞を試験薬剤と接触させること、及び試験薬剤との接触によって、コンポーネント(例えば、異型の凝縮体を形成するもの、同型の凝縮体を形成するもの)を含む凝縮体の形成または活性が調節されるかどうかを決定すること、を含む。いくつかの実施形態では、1つ以上の凝縮体コンポーネントは、検出可能な標識を含む。いくつかの実施形態では、凝縮体コンポーネントは、凝縮体を形成することになり、試験薬剤は、凝縮体形成の調節(例えば、凝縮体形成または凝縮体形成率の増加または減少)についてスクリーニングされることになる。いくつかの実施形態では、凝縮体コンポーネントは、凝縮体を形成することはなく、試験薬剤は、凝縮体の形成を誘発するかどうかが分かるようにスクリーニングされることになる。いくつかの実施形態では、凝縮体コンポーネントは、MED1(またはその断片)と、ERまたはその断片(例えば、変異ER(例えば、本明細書に記載のもの))と、を含み、変異ERは、例えば、MED1を含む凝縮体へとタモキシフェンの存在下で取り込まれることが可能な変異ERである。
いくつかの実施形態では、「決定すること」は、対照または参照と比較して物理的特性を測定することを含む。例えば、凝縮体の安定性が調節されるかどうかを決定することは、試験条件または試験薬剤に供されない対照凝縮体と比較して凝縮体が存在する時間を測定することを含み得る。凝縮体の形状が調節されるかどうかを決定することは、試験条件または試験薬剤に供されない対照凝縮体と比較して凝縮体の形状を比較することを含み得る。いくつかの実施形態では、凝縮体が有する1つ以上の特性は、それが統計的に有意な変化量(例えば、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも50%、少なくとも75%、またはそれを超える%)を伴って調節されるかどうかが「決定」され得る。
いくつかの実施形態では、検出可能なタグは、蛍光タグ(例えば、tdTomato)である。いくつかの実施形態では、検出可能なタグは、本明細書に記載の凝縮体コンポーネントに付加される。いくつかの実施形態では、コンポーネントは、OCT4、p53、MYC、GCN4、メディエーター、メディエーターコンポーネント、MED1、MED15、p300、BRD4、NANOG、MyoD、KLF4、SOXファミリーの転写因子、GATAファミリーの転写因子、核内受容体、核内受容体リガンド、融合発がん性転写因子、TFIID、シグナル伝達因子、メチルDNA結合タンパク質、スプライシング因子、遺伝子サイレンシング因子、RNAポリメラーゼ、β−カテニン、STAT3、SMAD3、NF−KB、MECP2、MBD1、MBD2、MBD3、MBD4、HP1α、TBL1R、HDAC3、SMRT、RNAポリメラーゼII、SRSF2、SRRM1、SRSF1、及び天然変性領域(IDR)を含むそれらの断片から選択される。
いくつかの実施形態では、試験薬剤との接触によって凝縮体の形成、安定性、または形態が調節されるかどうかを決定するために、凝縮体に選択的に結合する抗体が使用される。いくつかの実施形態では、抗体は、本明細書に記載の凝縮体コンポーネントに結合する。いくつかの実施形態では、コンポーネントは、メディエーター、MED1、MED15、GCN4、p300、BRD4、核内受容体リガンド、及びTFIID、または表S3に示されるか、もしくは本明細書に記載されるメディエーターコンポーネントもしくは転写因子から選択される。いくつかの実施形態では、コンポーネントは、本明細書に記載の核内受容体またはその断片である。いくつかの実施形態では、コンポーネントは、OCT4、p53、MYC、GCN4、メディエーター、メディエーターコンポーネント、MED1、MED15、p300、BRD4、NANOG、MyoD、KLF4、SOXファミリーの転写因子、GATAファミリーの転写因子、核内受容体、核内受容体リガンド、融合発がん性転写因子、TFIID、シグナル伝達因子、メチルDNA結合タンパク質、スプライシング因子、遺伝子サイレンシング因子、RNAポリメラーゼ、β−カテニン、STAT3、SMAD3、NF−KB、MECP2、MBD1、MBD2、MBD3、MBD4、HP1α、TBL1R、HDAC3、SMRT、RNAポリメラーゼII、SRSF2、SRRM1、SRSF1、及び天然変性領域(IDR)を含むそれらの断片から選択される。
当該技術分野で知られる方法及び本明細書に教示される方法を含めて、試験薬剤による凝縮体の調節の検出する任意の適切な方法を使用することができる。いくつかの実施形態では、試験薬剤との接触によって凝縮体の形成、安定性、または形態が調節されるかどうかを決定するステップは、顕微鏡法を使用して実施され、こうした顕微鏡法は、限定されない。いくつかの実施形態では、顕微鏡法は、デコンボリューション顕微鏡法、構造化照明顕微鏡法、または干渉顕微鏡法である。いくつかの実施形態では、試験薬剤との接触によって凝縮体の形成、安定性、または形態が調節されるかどうかを決定するステップは、DNA−FISH、RNA−FISH、またはそれらの組み合わせを使用して実施される。
凝縮体を有する細胞の型は、限定されず、本明細書に開示の任意の細胞型であり得る。いくつかの実施形態では、細胞は、疾患を発症しているもの(例えば、がん細胞)である。いくつかの実施形態では、凝縮体を有する細胞は、初代細胞、細胞株のメンバー、疾患を患う対象から単離された細胞、または疾患を患う対象から単離された細胞に由来する細胞(例えば、疾患を患う対象から単離された、人工多能性細胞とする前の細胞)である。
いくつかの実施形態では、細胞は、エストロゲン介在性の遺伝子活性化に対して応答性である。いくつかの実施形態では、細胞は、核内受容体リガンド介在性の遺伝子活性化に対して応答性である。いくつかの実施形態では、細胞は、変異核内受容体を含む。いくつかの実施形態では、細胞は、核内受容体(例えば、変異核内受容体)を発現するトランスジェニック細胞である。いくつかの実施形態では、細胞は、がん細胞(例えば、乳癌細胞)である。いくつかの実施形態では、細胞は、エストロゲンの存在下で試験薬剤と接触され、エストロゲン介在性の遺伝子活性化が評価される。いくつかの実施形態では、細胞は、標識を有するエストロゲン受容体を含み、凝縮体へのエストロゲン受容体の取り込みが試験薬剤の存在下で評価される。
いくつかの実施形態では、細胞は、エストロゲン介在性の遺伝子活性化に対してタモキシフェンの存在下で応答性である。いくつかの実施形態では、細胞は、がん細胞(例えば、乳癌細胞)である。いくつかの実施形態では、細胞は、エストロゲン及びタモキシフェンの存在下で試験薬剤と接触され、エストロゲン介在性の遺伝子活性化が評価される。いくつかの実施形態では、細胞は、標識を有するエストロゲン受容体を含み、凝縮体へのエストロゲン受容体の取り込みが試験薬剤の存在下で評価される。
いくつかの実施形態では、凝縮体は、シグナル伝達因子を含む。いくつかの実施形態では、インビトロ凝縮体は、シグナル伝達因子、または遺伝子の転写の活性化に必要なIDRを含むその断片を含む。いくつかの実施形態では、シグナル伝達因子は、発がん性のシグナル伝達経路と結び付く。
いくつかの実施形態では、凝縮体は、メチルDNA結合タンパク質もしくはC末端IDRを含むその断片、またはサプレッサーもしくはIDRを含むその断片を含む。いくつかの実施形態では、凝縮体は、メチル化DNAまたはヘテロクロマチンと結び付く。いくつかの実施形態では、凝縮体は、レベルまたは活性が異常なメチルDNA結合タンパク質(例えば、参照レベルと比較してレベルが上昇または低下しているもの)を含む。いくつかの実施形態では、凝縮体と結び付く遺伝子の、薬剤によるサイレンシングが評価される。いくつかの実施形態では、凝縮体は、スプライシング因子もしくはIDRを含むその断片、またはRNAポリメラーゼもしくはIDRを含むその断片を含む。
いくつかの実施形態では、凝縮体は、転写の開始複合体または伸長複合体と結び付く。いくつかの実施形態では、凝縮体は、サイクリン依存性キナーゼと接触される。いくつかの実施形態では、RNAポリメラーゼは、RNAポリメラーゼII(PolII)である。いくつかの実施形態では、薬剤との接触によって生じる、凝縮体と結び付くRNA転写開始活性の変化が評価される。いくつかの実施形態では、薬剤との接触によって生じる、凝縮体と結び付くRNA伸長活性またはRNAスプライシング活性の変化が評価される。
凝縮体は、RNA、DNA、及びタンパク質から構成される液滴をインビトロで形成し得る。転写凝縮体コンポーネントもまた、1つ以上のタンパク質(例えば、TF、及び1つ以上のコアクチベーターまたは補助因子)を含む液滴をインビトロで形成し得る。そのような液滴は、RNA及び/またはDNAをさらに含み得る。そのような液滴は、インビトロ凝縮体であり、インビボに存在する凝縮体(例えば、転写凝縮体、ヘテロクロマチン凝縮体、mRNA開始複合体またはmRNA伸長複合体と結び付く凝縮体、スプライシング因子を含む凝縮体)のモデルに相当し、及び/または当該モデルとして働き得る。こうした液滴は、測定可能な物理的特性(すなわち、サイズ、濃度、透過性、及び粘性)を有する。こうした物理的特性は、凝縮体がレポーター遺伝子をインビボで活性化する能力と相関し得る。小分子、ペプチド、RNAオリゴ、またはDNAオリゴのライブラリーが液滴の任意の物理的特性に与える作用を測定することができる。さらに、液滴特性を調節する分子が遺伝子発現に与える作用について、細胞ベースのレポーターを使用してアッセイすることができる。こうした凝縮体から個々のコンポーネントを取り払うと、当該凝縮体が非機能性(すなわち、生産的な転写を行う能力を有さない状態)となり得る。さらに、新規のコンポーネントを現存凝縮体に取り込ませると、現存凝縮体の出力が修飾されるか、弱まるか、または増幅され得る。したがって、既存凝縮体にコンポーネントを追加するか、または既存凝縮体からコンポーネントを除去することが望ましくあり得る。それ故に、いくつかの実施形態では、DNA、RNA、またはタンパク質に結合し、転写凝縮体、ヘテロクロマチン凝縮体、またはmRNA開始複合体もしくはmRNA伸長複合体と物理的に結び付く凝縮体へとコンポーネントを誘導する小分子が単離されるようにスクリーニングが実施され得る。他の実施形態では、DNA、RNA、またはタンパク質に結合し、凝縮体へのコンポーネントの取り込みを阻止する小分子が単離されるようにスクリーニングが実施され得る。他の実施形態では、設計、発現、または導入される小分子、タンパク質、RNA、タンパク質、またはDNAの中で、現存凝縮体に取り込まれるものが単離されるようにスクリーニングが実施され得る。他の実施形態では、設計、発現、または導入される小分子、タンパク質、RNA、タンパク質、またはDNAの中で、別のコンポーネントを現存凝縮体に取り込ませるものが単離されるようにスクリーニングが実施され得る。他の実施形態では、設計、発現、または導入される小分子、タンパク質、RNA、またはDNAの中で、転写凝縮体、ヘテロクロマチン凝縮体、またはmRNA開始複合体もしくはmRNA伸長複合体と物理的に結び付く凝縮体、へのコンポーネントの移行を阻止するものが単離されるようにスクリーニングが実施され得る。他の実施形態では、設計、発現、または導入される小分子、タンパク質、RNA、またはDNAの中で、1つ以上のコンポーネントが凝縮体を形成することを阻止するか、またはその可能性を低減するものが単離されるようにスクリーニングが実施され得る。
本開示の態様のいくつかは、凝縮体の形成、安定性、または形態を調節する薬剤を同定する方法を対象とし、この方法は、インビトロ凝縮体を提供し、インビトロ凝縮体の1つ以上の物理的特性を評価すること、インビトロ凝縮体を試験薬剤と接触させること、及びインビトロ凝縮体の1つ以上の物理的特性が試験薬剤によって変化するかどうかを評価すること、を含む。いくつかの実施形態では、1つ以上の物理的特性は、インビトロ凝縮体が細胞において遺伝子の発現を生じさせる能力と相関する。いくつかの実施形態では、1つ以上の物理的特性は、インビトロ凝縮体のサイズ、濃度、透過性、形態、または粘性を含む。1つ以上の物理的特性を測定するために、当該技術分野で知られる任意の適切な方法を使用することができる。
本開示の態様のいくつかは、凝縮体形成を調節する薬剤を同定する方法を対象とする。いくつかの実施形態では、方法は、1つ以上の凝縮体コンポーネントまたはその断片(例えば、本明細書に記載の任意の凝縮体コンポーネント、IDRを有する任意の凝縮体コンポーネント、メディエーターまたはそのサブユニット(例えば、MED1)、転写因子)を含む組成物を提供すること、組成物を試験薬剤と接触させること、及び凝縮体コンポーネント(複数可)を含む凝縮体の形成が試験薬剤によって調節されるかどうか、または凝縮体コンポーネント(複数可)によって形成される凝縮体の1つ以上の特性が試験薬剤によって調節されるかどうか(例えば、安定性、機能、活性、形態が増加もしくは減少するかどうか)を決定すること、を含む。いくつかの実施形態では、1つ以上の凝縮体コンポーネントは、検出可能な標識を含む。コンポーネントを提供し、それらのコンポーネントを容器において混合し、凝縮体形成に関して生じることを観測し、及び/または得られた凝縮体の特性(複数可)を測定(例えば、安定性、機能、活性、形態の増加もしくは減少の測定)することができる。いくつかの実施形態では、提供される組成物は、凝縮体を形成することになり、試験薬剤は、形成の調節(例えば、凝縮体形成または凝縮体形成率の増加または減少)についてスクリーニングされることになる。いくつかの実施形態では、提供される組成物は、凝縮体を形成することはなく、試験薬剤は、凝縮体の形成を誘発するかどうかが分かるようにスクリーニングされることになる。いくつかの実施形態では、凝縮体コンポーネントは、1つ以上の補助因子(例えば、MED1またはその機能性断片)と、核内受容体(例えば、野生型核内受容体、変異核内受容体、疾患もしくは状態と結び付く変異核内受容体)またはその機能性断片と、を含む。いくつかの実施形態では、凝縮体コンポーネントは、MED1(またはその断片)と、ERまたはその断片(例えば、変異ER(例えば、本明細書に記載のもの))と、を含み、変異ERは、例えば、MED1を含む凝縮体へとタモキシフェンの存在下で取り込まれることが可能な変異ERである。
いくつかの実施形態では、インビトロ凝縮体は、核内受容体リガンド介在性の遺伝子活性化に対して応答性である。いくつかの実施形態では、インビトロ凝縮体では、変異核内受容体介在性の遺伝子活性化が構成的に生じる。いくつかの実施形態では、インビトロ凝縮体は、エストロゲン介在性の遺伝子活性化に対して応答性である。いくつかの実施形態では、インビトロ凝縮体は、エストロゲンの存在下で試験薬剤と接触され、エストロゲン介在性の遺伝子活性化が評価される。いくつかの実施形態では、エストロゲン介在性の遺伝子活性化が試験薬剤の存在下で低減または除去されるのであれば、ER+癌の治療のための候補抗がん剤として試験薬剤が同定される。いくつかの実施形態では、インビトロ凝縮体は、標識を有するエストロゲン受容体を含み、凝縮体へのエストロゲン受容体の取り込みが試験薬剤の存在下で評価される。いくつかの実施形態では、ERの取り込みが試験薬剤の存在下で低減または除去されるのであれば、ER+癌の治療のための候補抗がん剤として試験薬剤が同定される。
いくつかの実施形態では、インビトロ凝縮体は、エストロゲン介在性の遺伝子活性化に対してタモキシフェンの存在下で応答性であり(例えば、インビトロ凝縮体は、タモキシフェン抵抗性乳癌細胞から単離される)、凝縮体は、構成的活性を有する変異ER(例えば、本明細書に記載のもの)を含む。いくつかの実施形態では、インビトロ凝縮体は、エストロゲン及びタモキシフェンの存在下で試験薬剤と接触され、エストロゲン介在性の遺伝子活性化が評価される。いくつかの実施形態では、エストロゲン介在性の遺伝子活性化が試験薬剤の存在下で低減または除去されるのであれば、タモキシフェン抵抗性癌の治療のための候補抗がん剤として試験薬剤が同定される。いくつかの実施形態では、インビトロ凝縮体は、標識を有するエストロゲン受容体を含み、凝縮体へのエストロゲン受容体の取り込みが試験薬剤の存在下で評価される。いくつかの実施形態では、ERの取り込みが試験薬剤の存在下で低減または除去されるのであれば、タモキシフェン抵抗性癌の治療のための候補抗がん剤として試験薬剤が同定される。
いくつかの実施形態では、インビトロ凝縮体は、本明細書に記載のコンポーネントを1つ以上含む。いくつかの実施形態では、インビトロ凝縮体は、DNA、RNA、及び/またはタンパク質のうちの1つ、2つ、または3つすべてをコンポーネントとして含む。いくつかの実施形態では、インビトロ凝縮体は、DNA、RNA、及びタンパク質をコンポーネントとして含む。いくつかの実施形態では、インビトロ凝縮体は、メディエーター、MED1、MED15、GCN4、p300、BRD4、核内受容体リガンド、またはTFIIDを含む。いくつかの実施形態では、インビトロ凝縮体は、OCT4、p53、MYC、GCN4、メディエーター、メディエーターコンポーネント、MED1、MED15、p300、BRD4、NANOG、MyoD、KLF4、SOXファミリーの転写因子、GATAファミリーの転写因子、核内受容体、核内受容体リガンド、融合発がん性転写因子、TFIID、シグナル伝達因子、メチルDNA結合タンパク質、スプライシング因子、遺伝子サイレンシング因子、RNAポリメラーゼ、β−カテニン、STAT3、SMAD3、NF−KB、MECP2、MBD1、MBD2、MBD3、MBD4、HP1α、TBL1R、HDAC3、SMRT、RNAポリメラーゼII、SRSF2、SRRM1、SRSF1、及び天然変性領域(IDR)を含むそれらの断片を含む。いくつかの実施形態では、凝縮体は、単一のコンポーネントを含む(すなわち、同型のものである)。いくつかの実施形態では、インビトロ凝縮体は、異型のものであり、2つ、3つ、4つ、5つ、またはそれを超える数のクライアントコンポーネントまたは骨格コンポーネントを含む。いくつかの実施形態では、インビトロ凝縮体は、MED15及びGCN4を含む。いくつかの実施形態では、インビトロ凝縮体は、本明細書に記載の核内受容体またはその断片を含む。いくつかの実施形態では、インビトロ凝縮体は、MED1及びERを含む。いくつかの実施形態では、ERは、変異ER(例えば、本明細書に記載の変異ER、構成的活性を有する変異ER、タモキシフェン抵抗性を付与する変異を有する変異ER)である。いくつかの実施形態では、凝縮体は、スプライシング因子及びRNAポリメラーゼを含む。いくつかの実施形態では、凝縮体は、メチルDNA結合タンパク質(例えば、MeCP2)を含む。いくつかの実施形態では、凝縮体は、シグナル伝達因子を含む。
いくつかの実施形態では、インビトロ凝縮体は、本明細書に記載の検出可能なタグを複数含む。いくつかの実施形態では、検出可能なタグは、異なるコンポーネントに対する異なる蛍光タグを含む(例えば、1つの蛍光タグでMED15が標識され、異なる蛍光タグでGCN4または核内受容体もしくはその断片が標識される)。いくつかの実施形態では、凝縮体のコンポーネントの1つ以上は、消光剤を有する。
インビトロ凝縮体は、天然変性領域もしくは天然変性ドメイン、または天然変性領域もしくは天然変性ドメインを有するタンパク質も含み得る。IDRは、本明細書に記載の任意のものであるか、または当該技術分野で知られる方法(例えば、本明細書で言及される文献及びウェブサイトに記載のもの)によって得られる任意のものであり得る。いくつかの実施形態では、IDRは、表S2に示されるモチーフを有するIDRである。いくつかの実施形態では、コンポーネントは、表S1に示されるものである。いくつかの実施形態では、天然変性領域または天然変性ドメインは、MED1、MED15、GCN4、またはBRD4の天然変性領域または天然変性ドメインである。いくつかの実施形態では、IDRは、OCT4、p53、MYC、GCN4、メディエーター、メディエーターコンポーネント、MED1、MED15、p300、BRD4、NANOG、MyoD、KLF4、SOXファミリーの転写因子、GATAファミリーの転写因子、核内受容体、核内受容体リガンド、融合発がん性転写因子、TFIID、シグナル伝達因子、メチルDNA結合タンパク質、スプライシング因子、遺伝子サイレンシング因子、RNAポリメラーゼ、β−カテニン、STAT3、SMAD3、NF−KB、MECP2、MBD1、MBD2、MBD3、MBD4、HP1α、TBL1R、HDAC3、SMRT、RNAポリメラーゼII、SRSF2、SRRM1、またはSRSF1のIDRに由来するIDRまたはその一部を含む。いくつかの実施形態では、インビトロ凝縮体は、IDRの一部を含み得る。例えば、凝縮体は、タンパク質(例えば、インビボ転写凝縮体と結び付くタンパク質)のIDRの少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、またはそれを超える%を含み得る。いくつかの実施形態では、インビトロ凝縮体は、IDRの少なくとも約20アミノ酸部分、少なくとも約30アミノ酸部分、少なくとも約40アミノ酸部分、少なくとも約50アミノ酸部分、少なくとも約60アミノ酸部分、少なくとも約75アミノ酸部分、少なくとも約100アミノ酸部分、少なくとも約150アミノ酸部分、少なくとも約200アミノ酸部分、少なくとも約250アミノ酸部分、または少なくとも約300アミノ酸部分を含み得る。
いくつかの実施形態では、インビトロ凝縮体は、シグナル伝達因子またはその断片を含む。いくつかの実施形態では、インビトロ凝縮体は、シグナル伝達因子、または遺伝子の転写の活性化に必要なIDRを含むその断片を含む。いくつかの実施形態では、シグナル伝達因子は、発がん性のシグナル伝達経路と結び付く。
いくつかの実施形態では、凝縮体は、メチルDNA結合タンパク質もしくはC末端IDRを含むその断片、またはサプレッサーもしくはIDRを含むその断片を含む。いくつかの実施形態では、凝縮体は、メチル化DNAまたはヘテロクロマチンと結び付く。いくつかの実施形態では、凝縮体は、レベルまたは活性が異常なメチルDNA結合タンパク質を含む。いくつかの実施形態では、凝縮体と結び付く遺伝子の、薬剤によるサイレンシングが評価される。いくつかの実施形態では、凝縮体は、スプライシング因子もしくはIDRを含むその断片、またはRNAポリメラーゼもしくはIDRを含むその断片を含む。
いくつかの実施形態では、凝縮体は、転写の開始複合体または伸長複合体と結び付く。いくつかの実施形態では、凝縮体は、サイクリン依存性キナーゼと接触される。いくつかの実施形態では、RNAポリメラーゼは、RNAポリメラーゼII(PolII)である。いくつかの実施形態では、薬剤との接触によって生じる、凝縮体と結び付くRNA転写開始活性の変化が評価される。いくつかの実施形態では、薬剤との接触によって生じる、凝縮体と結び付くRNA伸長活性またはRNAスプライシング活性の変化が評価される。
いくつかの実施形態では、インビトロ凝縮体は、弱いタンパク質間相互作用によって形成される。いくつかの実施形態では、弱いタンパク質間相互作用は、IDR間相互作用またはIDRの一部分間相互作用を含む。
いくつかの実施形態では、インビトロ凝縮体は、(天然変性ドメイン)−(誘導性オリゴマー化ドメイン)融合タンパク質を含む。誘導性オリゴマー化ドメインもまた、限定されない。いくつかの実施形態では、誘導性オリゴマー化ドメインは、電磁波照射(例えば、可視光)または薬剤(例えば、小分子)に反応してオリゴマー化する。誘導性オリゴマー化ドメインの例としては、FK506結合タンパク質のFK506結合ドメイン、及びシクロフィリンのシクロスポリン結合ドメイン、ならびにFRAPのラパマイシン結合ドメインが挙げられる。いくつかの実施形態では、誘導性オリゴマー化ドメインは、Cryタンパク質(例えば、Cry2)である。いくつかの実施形態では、融合タンパク質は、天然変性ドメイン−Cry2融合タンパク質である。本明細書で使用される「CRY」は、クリプト−クロム(クリプトクロム)タンパク質を指し、典型的には、Arabidopsis thalianaのCRY2(GenBank番号:NM_100320)である。光誘導性のオリゴマー化にCry2を使用する方法については、Che,et al,“The Dual Characteristics of Light−Induced Cryptochrome 2,Homo−oligomerization and Heterodimerization,for Optogenetic Manipulation in Mammalian Cells,”ACS Synth Biol.2015 Oct 16;4(10):1124−1135、及びDuan,et al.,“Understanding CRY2 interactions for optical control of intracellular signaling,”Nature Communications,vol.8:547(2017)に教示されており、これらの文献は、参照によって本明細書に組み込まれる。いくつかの実施形態では、誘導性オリゴマー化ドメインは、小分子、タンパク質、または核酸によって誘導される。いくつかの実施形態では、誘導性オリゴマー化ドメインは、可視光(例えば、青色光)によって誘導される。
IDRは、限定されず、本明細書に記載または言及される任意のものであり得る。いくつかの実施形態では、IDRは、表S2に示されるモチーフを有する。いくつかの実施形態では、天然変性ドメインは、MED1、MED15、GCN4、またはBRD4の天然変性ドメインである。いくつかの実施形態では、IDRは、表S3に記載の転写因子のIDRである。いくつかの実施形態では、IDRは、核内受容体活性化ドメインのIDRである。いくつかの実施形態では、IDRは、核内受容体活性化ドメインのIDRであり、核内受容体は、疾患と結び付く変異を有する。
いくつかの実施形態では、インビトロ転写凝縮体、インビトロヘテロクロマチン凝縮体、またはmRNA開始複合体もしくはmRNA伸長複合体と物理的に結び付くインビトロ凝縮体は、単離される。任意の適切な単離手段が本明細書に包含される。いくつかの実施形態では、インビトロ凝縮体は、化学的または免疫学的に沈降される。いくつかの実施形態では、インビトロ凝縮体は、遠心分離(例えば、約5,000×g、約10,000×g、約15,000×gで約5〜15分間行うもの、約10.000×gで約10分間行うもの)によって単離される。
いくつかの実施形態では、インビトロ凝縮体は、細胞から単離された、転写凝縮体、ヘテロクロマチン凝縮体、またはmRNA開始複合体もしくはmRNA伸長複合体と物理的に結び付く凝縮体である。凝縮体を単離するために、当該技術分野で知られる任意の適切な方法を使用することができる。例えば、凝縮体の単離は、適切な緩衝条件の下でホモジナイザー(すなわち、ダウンス型ホモジナイザー)を用いて細胞の核を溶解した後、遠心分離及び/またはろ過して凝縮体を分離することによって実施できる。
本開示の態様のいくつかは、凝縮体の凝縮体形成、凝縮体安定性、凝縮体機能、または凝縮体形態を調節する薬剤を同定する方法を対象とし、この方法は、転写凝縮体依存的にレポーター遺伝子を発現する細胞を提供すること、細胞を試験薬剤と接触させること、及びレポーター遺伝子の発現を評価すること、を含む。いくつかの実施形態では、細胞は、試験薬剤との接触する前はレポーター遺伝子を発現せず、凝縮体の形成、安定性、機能、または形態を増進する薬剤と接触した後にレポーター遺伝子を発現する。いくつかの実施形態では、細胞は、試験薬剤と接触する前はレポーター遺伝子を発現し、凝縮体の形成、安定性、機能、または形態を抑制するか、劣化させるか、または阻止する薬剤と接触した後にレポーター遺伝子の発現を停止するか、または減少させる。
いくつかの実施形態では、凝縮体の形成、安定性、機能、または形態を調節する薬剤を同定する方法は、転写因子の制御下でレポーター遺伝子を発現する細胞もしくはインビトロ転写アッセイを提供すること(または当該インビトロアッセイ及び当該細胞の両方を提供すること)、細胞またはアッセイを試験薬剤と接触させること、ならびにレポーター遺伝子の発現を評価すること、を含む。いくつかの実施形態では、TFは、異種のDNA結合ドメイン(DBD)及び活性化ドメインを含む。いくつかの実施形態では、TFは、哺乳類TF、本明細書に記載のTF、もしくは変異哺乳類TFの活性化ドメイン、または本明細書に記載のTFの変異TFの活性化ドメインを含み得る。いくつかの実施形態では、TFは、核内受容体(例えば、変異核内受容体、関連リガンドの結合に依存しない構成的活性を有する変異核内受容体、エストロゲン介在性の遺伝子活性化をタモキシフェンの存在下で生じさせる変異エストロゲン受容体、エストロゲンの非存在下で遺伝子活性化を生じさせる変異エストロゲン受容体)である。いくつかの実施形態では、変異TF活性化ドメインは、疾患または状態(例えば、本明細書に記載の疾患または状態)と結び付き得る。DBDは、限定されず、任意の適切なDBDであり得る。いくつかの実施形態では、DBDは、GAL4 DBDである。インビトロアッセイは、限定されず、当該技術分野で開示される任意のものであり得る。いくつかの実施形態では、インビトロアッセイは、Sabari et al.Science.2018 Jul 27;361(6400)に開示のインビトロ転写アッセイである。
本明細書に開示の薬剤を同定する方法の実施形態のいくつかでは、凝縮体は、核内受容体(例えば、野生型核内受容体、変異核内受容体、疾患もしくは状態と結び付く変異核内受容体、核内ホルモン受容体、関連リガンドの結合に依存しない構成的活性を有する変異核内ホルモン受容体)または活性化ドメインIDRを含むその断片を含む。本明細書に記載の任意の核内受容体または断片を使用することができる。いくつかの実施形態では、核内受容体は、関連リガンドに結合すると転写を活性化する。いくつかの実施形態では、核内受容体は、リガンド結合に依存せずに転写を活性化する(例えば、リガンド非依存的となる変異を有する核内受容体、エストロゲン介在性の遺伝子活性化をタモキシフェンの存在下で生じさせる変異エストロゲン受容体、エストロゲンの非存在下で遺伝子活性化を生じさせる変異エストロゲン受容体)。いくつかの実施形態では、核内受容体は、核内ホルモン受容体である。いくつかの実施形態では、核内受容体は、変異を有する。いくつかの実施形態では、変異は、疾患または状態と結び付く。いくつかの実施形態では、疾患または状態は、がん(例えば、乳癌)である。本明細書に開示の薬剤を同定する方法の実施形態のいくつかでは、薬剤は、野生型核内受容体を含む凝縮体に対しても、疾患と結び付く変異を有する核内受容体を含む凝縮体に対しても、スクリーニングされる。いくつかの実施形態では、同定される薬剤は、野生型核内凝縮体と比較して、変異を有する核内受容体(例えば、変異を有する核内ホルモン受容体、変異を有するリガンド依存性核内受容体、エストロゲン介在性の遺伝子活性化をタモキシフェンの存在下で生じさせる変異エストロゲン受容体、エストロゲンの非存在下で遺伝子活性化を生じさせる変異エストロゲン受容体)に優先的に結合する。いくつかの実施形態では、同定される薬剤は、野生型核内受容体を含む凝縮体と比較して、変異を有する核内受容体(例えば、変異を有する核内ホルモン受容体、変異を有するリガンド依存性核内受容体、エストロゲン介在性の遺伝子活性化をタモキシフェンの存在下で生じさせる変異エストロゲン受容体、エストロゲンの非存在下で遺伝子活性化を生じさせる変異エストロゲン受容体)を含む転写凝縮体を優先的に破壊する。
いくつかの実施形態では、凝縮体の形成、安定性、機能、または形態を調節する本明細書に開示の方法によって同定される薬剤は、凝縮体の機能特性の1つ以上に対するその作用(例えば、凝縮体と結び付く1つ以上の遺伝子の転写を調節する能力)を評価するために、付加的または代替的に試験される。いくつかの実施形態では、凝縮体の形成、安定性、機能、または形態を調節する本明細書に開示の方法によって同定される薬剤は、疾患の特徴の1つ以上を調節するその能力についてさらに試験される。疾患は、限定されず、本明細書に開示の任意の疾患であり得る。例えば、発がん性変異TFによる凝縮体形成を薬剤が阻害するのであれば、そのTFを含むがん細胞(例えば、生存能力及び/または増殖を維持することをそのTFに依存するがん細胞)の増殖を薬剤が阻害する能力が試験されることになる。
いくつかの実施形態では、凝縮体の構造特性(例えば、形成、安定性、もしくは形態)、または凝縮体の機能特性(例えば、転写の調節)の1つ以上を調節するものとして、本明細書に開示の方法によって同定される薬剤は、対象(例えば、疾患のモデルとして働く非ヒト動物、または疾患の治療が必要な対象)に投与され得る。いくつかの実施形態では、凝縮体の構造特性の1つ以上を調節するものとして同定される薬剤での治療が必要な対象は、本明細書に開示の方法によって同定され得る。
いくつかの実施形態では、凝縮体の構造特性(例えば、形成、安定性、機能、もしくは形態)、または凝縮体の機能特性(例えば、転写の調節)の1つ以上を調節するものとして、本明細書に開示の方法によって同定される薬剤の類似体が生成され得る。類似体を生成する方法は、当該技術分野で知られており、そうした方法には、本明細書に記載の方法が含まれる。いくつかの実施形態では、生成される類似体の目的特性を試験することができ、こうした目的特性は、安定性(例えば、水性媒体、ヒト血液、胃腸管などにおける安定性)の向上、生物学的利用率の向上、対象への投与時の半減期の長期化、細胞への取り込みの増加、凝縮体特性(凝縮体の構造特性(例えば、形成、安定性、機能、もしくは形態)または凝縮体の機能特性(例えば、転写の調節)を含む)を調節する活性の上昇、野生型コンポーネントまたは変異コンポーネント(例えば、変異TF、変異NR)を含む凝縮体に対する特異性の向上、本明細書に開示の細胞型に対する特異性の向上などである。
いくつかの実施形態では、ハイスループットスクリーニング(HTS)が実施される。ハイスループットスクリーニングでは、無細胞アッセイまたは細胞ベースのアッセイ(例えば、本明細書に記載の凝縮体含有細胞、インビトロ凝縮体、単離されたインビトロ凝縮体)を利用することができる。ハイスループットスクリーニングは、多数の化合物を高効率で(例えば、並行して)試験するものであることが多い。例えば、数万または数十万もの化合物を短い時間(例えば、数時間〜数日)で決められた通りにスクリーニングすることができる。多くの場合、そのようなスクリーニングは、少なくとも96個のウェルを含むマルチウェルプレートにおいて実施されるか、または物理的に別々に分かれた複数の空洞もしくは窪みが基物に存在する他の容器において実施される。ハイスループットスクリーニングは、自動化して行うことが多く、例えば、液体の取り扱い、画像化、データの取得及び処理などが自動化される。本発明のHTSの実施形態に適用され得るある特定の一般的な原理及び手法については、Macarron R & Hertzberg RP.Design and implementation of high−throughput screening assays.Methods Mol Biol.,565:1−32,2009 、及び/またはAn WF & Tolliday NJ.,Introduction:cell−based assays for high−throughput screening.Methods Mol Biol.486:1−12,2009、及び/またはこれらの文献のいずれかで引用される参考文献に記載されている。William P.JanzenによるHigh Throughput Screening:Methods and Protocols(Methods in Molecular Biology)(2002)、及びJorg HvserによるHigh−Throughput Screening in Drug Discovery(Methods and Principles in Medicinal Chemistry)(2006)にも有用な方法が開示されている。
「ヒット」という用語は、一般に、スクリーニングまたはアッセイにおいて目的作用を達成する薬剤を指し、例えば、細胞生存、細胞増殖、遺伝子発現、タンパク質活性、またはスクリーニングもしくはアッセイにおいて測定される他の目的パラメーターに対する少なくとも所定レベルの調節作用を有する薬剤を指す。スクリーニングにおいてヒットとして同定される試験薬剤は、さらなる試験、開発、または修飾に向けて選択され得る。いくつかの実施形態では、試験薬剤は、同じアッセイまたは異なるアッセイを使用して再試験される。例えば、候補抗がん剤は、がん細胞の生存または増殖、腫瘍増殖などに対するその作用を決定するために、複数の異なるがん細胞株に対して試験されるか、またはインビボ腫瘍モデルにおいて試験され得る。必要に応じて、追加量の試験薬剤を合成するか、またはその他の方法で入手することができる。スクリーニングにおいて同定される化合物の物理化学的特性、薬物動態学的特性、及び/または薬力学的特性を1つ以上決定または予測するために、物理的試験または計算的手法を使用することができる。例えば、溶解性、吸収、分布、代謝、及び排出(ADME)パラメーターを実験的に決定または予測することができる。そのような情報を使用することで、例えば、さらなる試験、開発、または修飾に向けてヒットを選択することができる。例えば、「薬物様」分子に特有の特徴を有する小分子を選択することができ、及び/または望ましくない特徴を1つ以上有する小分子を回避するか、または修飾してそのような望ましくない特徴(複数可)を低減もしくは除去することができる。
いくつかの実施形態では、ヒット化合物の構造を調べてファーマコフォアを同定し、同定したファーマコフォアを使用して追加化合物を設計することができる。追加化合物は、例えば、最初のヒットと比較して物理化学的特性、薬物動態学的特性(例えば、吸収、分布、代謝、及び/または排出)及び/または薬力学的特性が1つ以上改変(例えば、改善)されたものであり得るか、あるいは特性はほぼ同じであるが、構造が異なるものであり得る。改善される特性は、一般に、化合物の利便性を向上させる特性、または意図される使用の1つ以上に対する化合物の有用性を向上させる特性である。ヒット構造を経験的に修飾すること(例えば、関連構造を有する化合物を合成し、合成した化合物を無細胞アッセイもしくは細胞ベースのアッセイ、または非ヒト動物において試験すること)、及び/または計算的手法を使用すること、によって改善を達成することができる。そのような修飾を行うにあたっては、1つ以上の特性を予想通りに改変するために確立された医薬品化学の原理を利用することができる。いくつかの実施形態では、ヒット化合物の分子標的は、同定されるか、または既知のものである。いくつかの実施形態では、同じ分子標的に作用する化合物が経験的に追加同定されるか(例えば、化合物ライブラリーのスクリーニングを介して行われる)、または追加設計され得る。
薬剤を試験するか、またはスクリーニングを実施して得られるデータまたは結果は、保存されるか、または電子的に伝送され得る。そのような情報は、有形媒体に保存することができ、そうした有形媒体は、コンピューターで読み取り可能な媒体、紙などであり得る。いくつかの実施形態では、薬剤を同定または試験する方法は、試験薬剤が1つ以上の目的特性(複数可)を有することを示す情報、または試験薬剤が特定のスクリーニングにおける「ヒット」であることを示す情報、または試験薬剤を使用して達成される特定の結果を示す情報、を保存及び/または電子的に伝送することを含む。スクリーニングから得られるヒットのリストが作成され、保存または伝送され得る。ヒットは、活性、構造類似性、または他の特徴に基づいて順位付けされるか、または2つ以上の群に分類され得る。
候補薬剤が同定されると、当該候補薬剤に基づいて追加薬剤(例えば、類似体)を生成させることができる。追加薬剤では、例えば、がん細胞への取り込みを増加させるか、効力を向上させるか、安定性を向上させるか、溶解性を上昇させるか、または任意の特性を改善することができる。いくつかの実施形態では、薬剤の標識形態が生成される。標識薬剤を使用することで、例えば、細胞における分子標的に対する薬剤の結合が直接的に測定され得る。いくつかの実施形態では、本明細書に記載のように同定される薬剤の分子標的が同定され得る。薬剤は、分子標的を単離するための親和性試薬として使用され得る。分子標的を同定するためのアッセイ(例えば、質量分析などの方法を使用するもの)が実施され得る。分子標的が同定されると、その標的に対して特異的に作用する薬剤を同定するために、1つ以上のスクリーニングが追加で実施され得る。
さまざまな実施形態において、さまざまな薬剤のいずれも、試験薬剤として使用することができる。例えば、試験薬剤は、小分子、ポリペプチド、ペプチド、アミノ酸、核酸、オリゴヌクレオチド、脂質、糖質、またはハイブリッド分子であり得る。いくつかの実施形態では、試験薬剤として使用される核酸は、siRNA、shRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、アプタマー、またはランダムオリゴヌクレオチドを含む。いくつかの実施形態では、試験薬剤は、細胞透過性であるか、あるいはそれが細胞に移行することを可能にする形態で提供されるか、またはそのことを可能にする担体もしくはベクターと共に提供される。試験薬剤は、本明細書に記載の任意の薬剤であり得る。
薬剤は、天然源から得るか、または合成的に生成させることができる。薬剤は、少なくとも部分的に純粋であり得るか、または抽出物もしくは他の型の混合物に存在し得る。抽出物またはその画分は、例えば、植物、動物、微生物、海洋生物、発酵ブロス(例えば、土壌、細菌または真菌の発酵ブロス)などから得ることができる。いくつかの実施形態では、化合物コレクション(「ライブラリー」)が試験される。化合物ライブラリーは、天然物、及び/または非指向化合成有機化学もしくは指向化合成有機化学を使用して生成される化合物を含み得る。いくつかの実施形態では、ライブラリーは、小分子ライブラリー、ペプチドライブラリー、ペプトイドライブラリー、cDNAライブラリー、オリゴヌクレオチドライブラリー、またはディスプレイライブラリー(例えば、ファージディスプレイライブラリー)である。いくつかの実施形態では、ライブラリーは、上述の型のうちの2つ以上の型の薬剤を含む。いくつかの実施形態では、オリゴヌクレオチドライブラリーにおけるオリゴヌクレオチドは、siRNA、shRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、アプタマー、またはランダムオリゴヌクレオチドを含む。
ライブラリーは、例えば、100〜500,000個の化合物、またはそれを超える数の化合物を含み得る。いくつかの実施形態では、ライブラリーは、少なくとも10,000個、少なくとも50,000個、少なくとも100,000個、または少なくとも250,000個の化合物を含む。いくつかの実施形態では、化合物ライブラリーの化合物は、マルチウェルプレートにおいてアレイ化される。そうした化合物は、溶媒(例えば、DMSO)に溶解されるか、または乾燥形態(例えば、粉末もしくは固体)で提供され得る。合成化合物、半合成化合物、及び/または天然起源の化合物のコレクションが試験され得る。化合物ライブラリーは、構造的に関連する化合物、構造的に多様な化合物、または構造的に関連しない化合物を含み得る。化合物は、人工のもの(ヒトによって発明された構造を有し、天然に見られないもの)または天然起源のものであり得る。いくつかの実施形態では、化合物は、創薬プログラムにおいて「ヒット」もしくは「リード」として同定されているもの、及び/またはその類似体である。いくつかの実施形態では、ライブラリーは、的を絞ったものであり得る(例えば、同じコア構造を有する化合物、同じ前駆物質に由来する化合物、または少なくとも1つの生物学的を共有する化合物、から主に構成される)。化合物ライブラリーは、いくつかの商業的供給業者(Tocris BioScience、Nanosyn、BioFocusなど)、及び政府機関(米国国立衛生研究所(NIH)など)から利用可能である。いくつかの実施形態では、試験薬剤は、当該技術分野で知られるか、または使用される細胞培養培地(例えば、脊椎動物細胞(例えば、哺乳類細胞)の培養のためのもの)に見られる薬剤(例えば、細胞を培養する目的のために提供される薬剤)ではない。いくつかの実施形態では、薬剤が、当該技術分野で知られるか、または使用される細胞培養培地に見られる薬剤であるならば、そうした薬剤は、本明細書に記載の方法または組成物において試験薬剤として使用される場合、濃度を変えて(例えば、濃度を高めて)使用され得る。
本開示の態様のいくつかは、凝縮体の形成、安定性、または形態を調節する試験薬剤を同定する方法に関し、この方法は、細胞を提供すること、細胞を試験薬剤と接触させること、及び試験薬剤との接触によって凝縮体の形成、安定性、または形態が調節されるかどうかを決定すること、を含み、凝縮体は、核内受容体(NR)またはその断片を凝縮体コンポーネントとして含む。核内受容体は、限定されず、本明細書に記載の任意の核内受容体であり得る。いくつかの実施形態では、核内受容体は、変異核内受容体(例えば、疾患と結び付く変異核内受容体、関連リガンドの結合に依存しない構成的活性(例えば、転写活性)を有する変異核内受容体)である。いくつかの実施形態では、核内受容体は、核内ホルモン受容体、エストロゲン受容体、またはレチノイン酸受容体−アルファである。いくつかの実施形態では、凝縮体は、補助因子(例えば、メディエーター、MED1)を凝縮体コンポーネントとしてさらに含む。凝縮体のコンポーネントは、本明細書に記載の任意の適切な凝縮体コンポーネントであり得る。いくつかの実施形態では、細胞は、凝縮体を含む。いくつかの実施形態では、薬剤は、細胞において凝縮体の形成を誘発する。
試験薬剤を同定する方法の実施形態のいくつかでは、凝縮体の形成、安定性、または形態を調節する薬剤は、(例えば、凝縮体の形成または安定性を低減するのであれば)候補治療剤(例えば、変異核内受容体によって特徴付けられる疾患、がん、またはシグナル伝達経路がそうした核内受容体を含むことによって特徴付けられる疾患、に対する治療剤)として同定される。いくつかの実施形態では、同定される薬剤は、本明細書に記載の任意の対応疾患または対応状態の治療候補であり得る。本明細書に記載の試験薬剤を同定する方法の実施形態のいくつかでは、変異核内受容体を含む凝縮体の形成または安定性を低減する薬剤は、変異NRによって特徴付けられる疾患または状態を治療するための候補薬剤として同定される。本明細書に記載の試験薬剤を同定する方法の実施形態のいくつかでは、核内受容体(例えば、変異核内受容体)またはその断片を含む凝縮体の形成または安定性を低減する薬剤は、核内受容体の活性の候補調節剤として同定される。
試験薬剤を同定する方法の実施形態のいくつかでは、凝縮体を調節することで、標的遺伝子(例えば、MYCがん遺伝子、あるいは本明細書に記載されるか、またはがんの増殖もしくは生存能力に関与する他の遺伝子)の転写が低減または除去される。いくつかの実施形態では、標的遺伝子(例えば、MYCがん遺伝子)の転写が低減され、その低減率は、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約99%、またはそれを超える%である。
いくつかの実施形態では、凝縮体は、検出可能な標識を含む。標識は、限定されず、本明細書に記載の任意の標識であり得る。いくつかの実施形態では、凝縮体のコンポーネントは、検出可能な標識を含む。いくつかの実施形態では、核内受容体またはその断片は、検出可能な標識を含む。
本発明の態様のいくつかは、凝縮体の形成、安定性、または形態を調節する薬剤を同定する方法に関し、この方法は、インビトロ凝縮体を提供すること、凝縮体を試験薬剤と接触させること、及び試験薬剤との接触によって凝縮体の形成、安定性、または形態が調節されるかどうかを決定すること、を含み、凝縮体は、核内受容体(NR)またはその断片を凝縮体コンポーネントとして含む。核内受容体は、限定されず、本明細書に記載の任意の核内受容体であり得る。いくつかの実施形態では、核内受容体は、変異核内受容体(例えば、疾患と結び付く変異核内受容体、関連リガンドの結合に依存しない構成的活性(例えば、転写活性)を有する変異核内受容体)である。いくつかの実施形態では、核内受容体は、核内ホルモン受容体、エストロゲン受容体、またはレチノイン酸受容体−アルファである。いくつかの実施形態では、凝縮体は、補助因子(例えば、メディエーター、MED1)を凝縮体コンポーネントとしてさらに含む。凝縮体のコンポーネントは、本明細書に記載の任意の適切な凝縮体コンポーネントであり得る。いくつかの実施形態では、凝縮体は、細胞から単離される。凝縮体の単離元である細胞は、任意の適切な細胞であり得る。いくつかの実施形態では、薬剤は、インビトロで凝縮体の形成を誘発する。
試験薬剤を同定する方法の実施形態のいくつかでは、インビトロ凝縮体の形成、安定性、または形態を調節する薬剤は、(例えば、凝縮体の形成または安定性を低減するのであれば)候補治療剤(例えば、変異核内受容体によって特徴付けられる疾患、がん、またはシグナル伝達経路がそうした核内受容体を含むことによって特徴付けられる疾患、に対する治療剤)として同定される。いくつかの実施形態では、同定される薬剤は、本明細書に記載の任意の対応疾患または対応状態の治療候補であり得る。本明細書に記載の試験薬剤を同定する方法の実施形態のいくつかでは、変異核内受容体を含むインビトロ凝縮体の形成または安定性を低減する薬剤は、変異NRによって特徴付けられる疾患または状態を治療するための候補薬剤として同定される。本明細書に記載の試験薬剤を同定する方法の実施形態のいくつかでは、核内受容体(例えば、変異核内受容体)またはその断片を含むインビトロ凝縮体の形成または安定性を低減する薬剤は、核内受容体の活性の候補調節剤として同定される。
いくつかの実施形態では、インビトロ凝縮体は、検出可能な標識を含む。標識は、限定されず、本明細書に記載の任意の標識であり得る。いくつかの実施形態では、凝縮体のコンポーネントは、検出可能な標識を含む。いくつかの実施形態では、核内受容体またはその断片は、検出可能な標識を含む。
がん細胞は、転写依存に見られるように、ある特定の遺伝子の転写に高度に依存するようになり得、この転写は、特定の凝縮体に依存し得る。例えば、転写凝縮体は、腫瘍が依存するがん遺伝子に形成され得るものであり、この凝縮体は、本明細書に記載の薬剤(例えば、ペプチド、核酸、または小分子)によって標的とし得る特定のタンパク質モチーフ、RNAモチーフ、またはDNAモチーフに特に依存し得る。本開示の実施形態のいくつかは、がん細胞における転写凝縮体を抑制、除去、または分解する抗がん剤を、本明細書に記載の方法を使用してスクリーニングすることを対象とする。本開示の実施形態のいくつかは、がん細胞におけるヘテロクロマチン凝縮体を調節する抗がん剤を、本明細書に記載の方法を使用してスクリーニングすることを対象とする。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法を使用することで、核内受容体(例えば、変異核内受容体、変異ホルモン受容体)を含む転写凝縮体の形成または安定性を低減する薬剤が同定される。
例えば、いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法を使用することで、MED1及びERを含む転写凝縮体の形成または安定性を低減する薬剤が同定される。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法を使用することで、MED1と、タモキシフェンに抵抗性の変異ERと、を含む転写凝縮体の形成または安定性を低減する薬剤が同定される。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法を使用することで、MED1及びERを含む転写凝縮体の形成または安定性を低減する薬剤(例えば、本明細書に記載のSERM活性を有する薬剤(例えば、ER+乳癌に対して有効な候補薬剤))が同定される。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法を使用することで、含有するMED1のレベルが上昇している(例えば、タモキシフェン抵抗性ではないER+乳癌細胞に由来する凝縮体と比較してMED1のレベルが少なくとも4倍である)転写凝縮体の形成または安定性を低減する薬剤が同定される。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法を使用することで、変異ER(例えば、本明細書に記載のもの)及びMED1を含む転写凝縮体の形成または安定性を低減する薬剤が同定される。いくつかの実施形態では、同定される薬剤は、SERM(タモキシフェン)抵抗性がん(例えば、乳癌)の発症を阻止するか、またはSERM(タモキシフェン)抵抗性がん(例えば、乳癌)を克服するための候補薬剤である。
疾患を生じさせ、転写を変化させてしまう変異またはエピジェネティック変化を保有する細胞は、特定の凝縮体に依存する。例えば、疾患は、1つ以上の疾患遺伝子における凝縮体の形成、組成、維持、崩壊、または制御によって生じ、それに依存し得る。本開示の実施形態のいくつかは、疾患と結び付く凝縮体を、本明細書に記載の方法を使用して調節することを対象とする。本開示の実施形態のいくつかは、疾患と結び付く凝縮体を調節し得る薬剤を、本明細書に記載の方法によってスクリーニングすることを対象とする。
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の疾患または状態は、核内受容体と結び付く。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の疾患または状態は、核内受容体の変異または核内受容体の発現異常(例えば、参照レベルと比較したときのレベルの上昇もしくは低下)と結び付く。
本開示の態様のいくつかは、本明細書に記載の転写凝縮体コンポーネントと、本明細書に記載のオリゴマー化の誘導を可能にするドメインと、を含む融合タンパク質を対象とする。いくつかの実施形態では、オリゴマー化の誘導を可能にするドメインは、Cry2である。いくつかの実施形態では、融合タンパク質は、本明細書に記載の検出可能なタグをさらに含む。いくつかの態様では、検出可能なタグは、蛍光タグである。いくつかの実施形態では、オリゴマー化の誘導を可能にするドメインは、小分子、タンパク質、または核酸を用いて誘導することが可能である。
本開示の態様のいくつかでは、合成転写凝縮体、ヘテロクロマチン凝縮体、及びmRNA開始複合体またはmRNA伸長複合体と物理的に結び付く凝縮体、を調製する方法が提供される。いくつかの実施形態では、方法は、転写凝縮体、ヘテロクロマチン凝縮体、及びmRNA開始複合体またはmRNA伸長複合体と物理的に結び付く凝縮体、を形成させる上で適した条件の下で、2つ以上の凝縮体コンポーネントをインビトロで混合することを含む。条件には、適切なコンポーネント濃度、塩濃度、pHなどが含まれ得る。いくつかの実施形態では、条件には、約25mM、約40mM、約50mM、約125mM、約200mM、約350mM、もしくは約425mMの塩(例えば、NaCl)濃度、または約10〜250mM、約25〜150mM、もしくは約40〜100mMの範囲の塩(例えば、NaCl)濃度が含まれる。いくつかの実施形態では、条件には、約7〜8、約7.2〜7.8、約7.3〜7.7、約7.4〜7.6、または約7.5のpHが含まれる。いくつかの実施形態では、転写凝縮体コンポーネントは、MED1、BRD4、BRD4の天然変性ドメイン(BRD4−IDR)、及び/またはMED1の天然変性ドメイン(MED1−IDR)を含む。いくつかの実施形態では、転写凝縮体コンポーネントは、BRD4−IDR及びMED1−IDRを含む。いくつかの実施形態では、転写凝縮体コンポーネントは、転写因子(例えば、OCT4、p53、MYC、NANOG、MyoD、KLF4、SOXファミリーの転写因子、GATAファミリーの転写因子、核内受容体、融合発がん性転写因子、またはGCN4)の活性化ドメインのIDRを含む。いくつかの実施形態では、IDRは、表S3に記載の転写因子のIDRである。いくつかの実施形態では、転写凝縮体コンポーネントは、核内受容体(例えば、ER)活性化ドメインを含む。いくつかの実施形態では、IDRは、OCT4、p53、MYC、GCN4、メディエーター、メディエーターコンポーネント、MED1、MED15、p300、BRD4、NANOG、MyoD、KLF4、SOXファミリーの転写因子、GATAファミリーの転写因子、核内受容体、シグナル伝達因子、メチルDNA結合タンパク質、スプライシング因子、遺伝子サイレンシング因子、RNAポリメラーゼ、β−カテニン、STAT3、SMAD3、NF−KB、MECP2、MBD1、MBD2、MBD3、MBD4、HP1α、TBL1R、HDAC3、SMRT、RNAポリメラーゼII、SRSF2、SRRM1、SRSF1、またはTFIIDのIDRである。
以下に示されるように、PolII CTDがリン酸化されると、その凝縮体分配挙動が変化し、それによって、転写開始に関与する凝縮体から、RNAスプライシングに関与する凝縮体へとPolIIが移動するように誘導され得る。このモデルは、大きなPolIIクラスターが細胞におけるメディエーター凝縮体と融合するという以前の研究、リン酸化が生じるとCTD介在性のPolIIクラスターが崩壊するという以前の研究、CDK9/サイクリンTが相分離機構を介してCTDと相互作用し得るという以前の研究、転写伸長の間はPolIIがもはやメディエーターとは結び付かないという以前の研究、及びスプライシング因子を含む核スペックルが、転写活性が高い遺伝子座において観測され得るという以前の研究、から得られた証拠と一致するものである。
本開示の態様のいくつかは、mRNAの開始を調節する方法を対象とし、この方法は、mRNAの開始と物理的に結び付く凝縮体の形成、組成、維持、崩壊、及び/または制御を調節することを含む。いくつかの実施形態では、mRNAの開始を調節することで、mRNAの伸長、スプライシング、またはキャッピングも調節される。いくつかの実施形態では、mRNAの開始と物理的に結び付く凝縮体の形成、組成、維持、崩壊、及び/または制御を調節することで、mRNAの転写速度が調節される。いくつかの実施形態では、mRNAの開始と物理的に結び付く凝縮体の形成、組成、維持、崩壊、及び/または制御を調節することで、遺伝子産物のレベルが調節される。
いくつかの実施形態では、mRNAの開始と物理的に結び付く凝縮体の形成、組成、維持、崩壊、及び/または制御は、薬剤を用いて調節される。薬剤は、限定されず、本明細書に記載の任意の薬剤であり得る。いくつかの実施形態では、薬剤は、リン酸化もしくは低リン酸化されたRNAポリメラーゼII C末端ドメイン(PolII CTD)またはその機能性断片を含む。いくつかの実施形態では、薬剤は、リン酸化または低リン酸化されたPolII CTDに優先的に結合する。いくつかの実施形態では、薬剤は、Pol CTDをリン酸化または脱リン酸化する。いくつかの実施形態では、薬剤は、サイクリン依存性キナーゼ(CDK)のリン酸化活性を調節する。いくつかの実施形態では、薬剤は、スプライシング因子と結び付くリン酸化されたRNAポリメラーゼを増進または阻害する。スプライシング因子は、本明細書に記載の任意のスプライシング因子であり得、限定されない。
本開示の態様のいくつかは、mRNAの伸長を調節する方法を対象とし、この方法は、mRNAの伸長と物理的に結び付く凝縮体の形成、組成、維持、崩壊、及び/または制御を調節することを含む。いくつかの実施形態では、mRNAの伸長を調節することで、mRNAの開始も調節される。いくつかの実施形態では、mRNAの伸長と物理的に結び付く凝縮体の形成、組成、維持、崩壊、及び/または制御を調節することで、転写と同時発生的なmRNAプロセシングが調節される。いくつかの実施形態では、mRNAの伸長と物理的に結び付く凝縮体の形成、組成、維持、崩壊、及び/または制御を調節することで、mRNAスプライスバリアントの数または相対比率が調節される。いくつかの実施形態では、mRNAの伸長と物理的に結び付く凝縮体の形成、組成、維持、崩壊、及び/または制御は、薬剤を用いて調節される。薬剤は、限定されず、本明細書に開示の任意の薬剤であり得る。いくつかの実施形態では、薬剤は、リン酸化もしくは低リン酸化されたRNAポリメラーゼII C末端ドメイン(PolII CTD)またはその機能性断片を含む。いくつかの実施形態では、薬剤は、リン酸化または低リン酸化されたPolII CTDに優先的に結合する。いくつかの実施形態では、薬剤は、リン酸化または低リン酸化されたPolII CTDに優先的に結合する。いくつかの実施形態では、薬剤は、Pol CTDをリン酸化または脱リン酸化する。いくつかの実施形態では、薬剤は、サイクリン依存性キナーゼ(CDK)のリン酸化活性を調節する。いくつかの実施形態では、薬剤は、スプライシング因子と結び付くリン酸化されたRNAポリメラーゼを増進または阻害する。スプライシング因子は、本明細書に記載の任意のスプライシング因子であり得、限定されない。
本開示の態様のいくつかは、凝縮体の形成、組成、維持、崩壊、及び/または制御を調節する方法に関し、この方法は、凝縮体コンポーネントのリン酸化または脱リン酸化を調節することを含む。いくつかの実施形態では、コンポーネントは、RNAポリメラーゼIIまたはRNAポリメラーゼII C末端領域である。いくつかの実施形態では、薬剤を使用することで、凝縮体コンポーネントのリン酸化または脱リン酸化が調節される。薬剤は、限定されず、本明細書に開示の任意の薬剤であり得る。いくつかの実施形態では、薬剤は、サイクリン依存性キナーゼ(CDK)のリン酸化活性を調節する。
本開示の態様のいくつかは、mRNAプロセシングの異常と結び付く疾患もしくは状態を治療するか、または当該疾患もしくは状態が生じる可能性を低減する方法に関し、この方法は、mRNAの伸長と物理的に結び付く凝縮体の形成、組成、維持、崩壊、及び/または制御を調節することを含む。凝縮体を調節する方法は、限定されず、本明細書に記載の任意の凝縮体調節方法であり得る。いくつかの実施形態では、凝縮体は、本明細書に記載の薬剤を用いて調節される。いくつかの実施形態では、mRNAプロセシングの異常と結び付く疾患または状態は、異常なスプライシングバリアントによって特徴付けられる。いくつかの実施形態では、mRNAプロセシングの異常と結び付く疾患または状態は、mRNAの開始異常によって特徴付けられる。
本開示の態様のいくつかは、mRNA開始複合体またはmRNA伸長複合体と物理的に結び付く凝縮体の形成、安定性、または形態を調節する薬剤を同定する方法に関する。薬剤を同定する方法は、本明細書に記載の任意の薬剤同定方法または薬剤スクリーニング方法であり得る。
いくつかの実施形態では、方法は、凝縮体を有する細胞を提供すること、細胞を試験薬剤と接触させること、及び試験薬剤との接触によって凝縮体の形成、安定性、または形態が調節されるかどうかを決定すること、を含み、凝縮体は、低リン酸化されたRNAポリメラーゼII C末端ドメイン(PolII CTD)、リン酸化されたRNAポリメラーゼII C末端ドメイン(PolII CTD)、スプライシング因子、またはその機能性断片を含む。本開示の態様のいくつかは、凝縮体の形成、安定性、または形態を調節する薬剤を同定する方法に関し、この方法は、インビトロ凝縮体を提供し、インビトロ凝縮体の1つ以上の物理的特性を評価すること、インビトロ凝縮体を試験薬剤と接触させること、及びインビトロ凝縮体の1つ以上の物理的特性が試験薬剤によって変化するかどうかを評価すること、を含み、凝縮体は、低リン酸化されたRNAポリメラーゼII C末端ドメイン(PolII CTD)、リン酸化されたRNAポリメラーゼII C末端ドメイン(PolII CTD)、スプライシング因子、またはその機能性断片を含む。
本開示の態様のいくつかは、細胞タンパク質のアミノ酸残基の中で、そのリン酸化状態が凝縮体の形成、安定性、局在化、分配、活性、または他の特性を制御するアミノ酸残基を同定する方法に関する。同定される残基は、対象またはインビトロにおける凝縮体の形成、安定性、局在化、分配、活性、または他の特性を調節するための修飾標的となり得る。いくつかの実施形態では、方法は、凝縮体コンポーネントにおけるリン酸化部位または潜在的リン酸化部位(例えば、セリン、スレオニン、またはチロシン)を物理的または計算的に1つ以上同定すること、そのような残基を1つ以上変異させること(例えば、そうした残基がアラニンに変更される)、及び変異によって、変異凝縮体コンポーネントを含む凝縮体の特性(例えば、形成、安定性、局在化、分配、活性)が変化するかどうかを決定すること(例えば、変異が導入されていない凝縮体コンポーネントと比較して決定される)、を含む。変異によって凝縮体特性が変わるのであれば、そのリン酸化部位が、凝縮体の形成、安定性、局在化、分配、または活性を調節するための修飾標的として同定される。本発明の実施形態のいくつかでは、同定される残基のリン酸化を担うキナーゼが同定される(この同定は、例えば、凝縮体を基質とするインビトロキナーゼアッセイを使用するか、個々のキナーゼの発現が低減された細胞を使用するか(例えば、キノーム全体にわたるsiRNAスクリーニングが実施される)、特定のキナーゼを阻害することが知られる既知のキナーゼ阻害剤を使用して行われる)。代替的または付加的に、いくつかの実施形態では、既知のキナーゼ阻害剤のライブラリーをスクリーニングすることで、同定される残基のリン酸化状態に影響を与えるキナーゼが1つ以上同定される。本発明の実施形態のいくつかでは、同定される残基の脱リン酸化を担うホスファターゼが同定される(この同定は、例えば、凝縮体を基質とするインビトロホスファターゼアッセイを使用するか、個々のホスファターゼの発現が低減された細胞を使用するか(例えば、既知のホスファターゼのsiRNAスクリーニングが実施される)、特定のホスファターゼを阻害することが知られる既知のホスファターゼ阻害剤を使用して行われる)。代替的または付加的に、いくつかの実施形態では、既知のホスファターゼ阻害剤のライブラリーをスクリーニングすることで、同定される残基のリン酸化状態に影響を与えるホスファターゼが1つ以上同定される。こうしたアッセイは、さまざまな実施形態において、インビトロ、無細胞系、または細胞において実施することができる。
本開示の態様のいくつかは、低リン酸化されたRNAポリメラーゼII C末端ドメイン(PolII CTD)またはその機能性断片を含む単離された合成凝縮体に関する。本開示の態様のいくつかは、リン酸化されたRNAポリメラーゼII C末端ドメイン(PolII CTD)またはその機能性断片を含む単離された合成凝縮体に関する。本開示の態様のいくつかは、スプライシング因子またはその機能性断片を含む単離された合成凝縮体に関する。
ヘテロクロマチンは、染色体の維持及び遺伝子サイレンシングにおいて重要な役割を担う。MeCP2は、細胞に遍在性に発現し、正常発生に必要不可欠なメチルDNA結合タンパク質であり、動的な液状ヘテロクロマチン凝縮体の主要コンポーネントであることが以下に示される。MeCP2を含む凝縮体は、遺伝子サイレンシングに寄与する抑制性のヘテロクロマチン因子をコンパートメント化し得る。MeCP2が、凝縮体を形成し、細胞におけるヘテロクロマチンに取り込まれ、遺伝子サイレンシング因子をコンパートメント化する能力は、そのC末端天然変性領域(IDR)に依存する。
本開示の態様のいくつかは、1つ以上の遺伝子の転写を調節する方法に関し、この方法は、ヘテロクロマチンと結び付く凝縮体(すなわち、ヘテロクロマチン凝縮体)の形成、組成、維持、崩壊、及び/または制御を調節することを含む。ヘテロクロマチン凝縮体を調節する方法は、限定されず、本明細書に記載の任意の凝縮体調節方法であり得る。いくつかの実施形態では、ヘテロクロマチン凝縮体を調節することで、1つ以上の遺伝子の転写の抑制(すなわち、遺伝子サイレンシング)が増強または安定化される。いくつかの実施形態では、ヘテロクロマチン凝縮体を調節することで、1つ以上の遺伝子の転写の抑制(すなわち、遺伝子サイレンシング)が減少する。いくつかの実施形態では、ヘテロクロマチンと結び付く複数の凝縮体が調節される。いくつかの実施形態では、ヘテロクロマチン凝縮体の形成、組成、維持、崩壊、及び/または制御は、薬剤を用いて調節される。薬剤は、限定されず、本明細書に記載の任意の薬剤であり得る。いくつかの実施形態では、薬剤は、ペプチド、核酸、もしくは小分子を含むか、またはペプチド、核酸、もしくは小分子からなる。いくつかの実施形態では、薬剤は、メチル化DNA、メチルDNA結合タンパク質、または遺伝子サイレンシング因子に結合する。
本開示の態様のいくつかは、遺伝子サイレンシングを調節する方法に関し、この方法は、ヘテロクロマチン凝縮体の形成、組成、維持、崩壊、及び/または制御を調節することを含む。いくつかの実施形態では、遺伝子サイレンシングは、安定化または増強される。いくつかの実施形態では、遺伝子サイレンシングは、低減される。いくつかの実施形態では、遺伝子サイレンシングは、薬剤を用いて調節される。薬剤は、限定されず、本明細書に記載の任意の薬剤であり得る。
本開示の態様のいくつかは、遺伝子サイレンシングの異常(例えば、参照レベルまたは対照レベルと比較したときのレベルの上昇または低下)と結び付く疾患もしくは状態を治療するか、または当該疾患もしくは状態が生じる可能性を低減する方法に関し、この方法は、ヘテロクロマチン凝縮体の形成、組成、維持、崩壊、及び/または制御を調節することを含む。いくつかの実施形態では、遺伝子サイレンシングの異常と結び付く疾患または状態は、メチルDNA結合タンパク質の発現異常または活性異常と結び付く。いくつかの実施形態では、遺伝子サイレンシングの異常と結び付く疾患または状態は、ATR−X症候群、ジュバーグ・マルシディ(Juberg−Marsidi)症候群、サザーランド・ハーン(Sutherland−Haan)症候群、スミス・フィネマーズ(Smith−Finemers)症候群、乳癌、MECP2重複症候群、レット症候群、自閉症、ダウン症候群、ADHD/ADD、アルツハイマー病、ハンチントン病、パーキンソン病、てんかん、双極性気分障害、鬱病、胎児性アルコール症候群、ウェルナー症候群、結腸癌、リンパ腫、膵癌、ICF症候群、膀胱癌、乳癌、結腸癌、肝細胞癌、肺癌、バレット食道、膀胱癌、乳癌、結腸直腸癌、メラノーマ、骨髄腫/リンパ腫、肝細胞癌、前立腺癌、ウイルムス腫瘍、乳癌、髄芽腫、甲状腺乳頭癌、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー、フリードライヒ運動失調症、脆弱X症候群、アンジェルマン症候群、プラダー・ウィリー症候群、ハッチンソン・ギルフォード早老症候群、ウェルナー症候群、ベックウィズ・ヴィーデマン症候群、シルバー・ラッセル症候群、脊髄小脳変性症、またはコカイン物質乱用である。いくつかの実施形態では、遺伝子サイレンシングの異常と結び付く疾患または状態は、レット症候群またはMeCP2過剰発現症候群である。
本開示の態様のいくつかは、ヘテロクロマチン凝縮体の凝縮体形成、凝縮体安定性、または凝縮体形態を調節する薬剤を同定する方法に関する。薬剤を同定する方法は、本明細書に記載の任意の薬剤同定方法または薬剤スクリーニング方法であり得る。いくつかの実施形態では、方法は、凝縮体を有する細胞を提供すること、細胞を試験薬剤と接触させること、及び試験薬剤との接触によって、ヘテロクロマチン凝縮体の形成、安定性、または形態が調節されるかどうかを決定すること、を含み、凝縮体は、メチルDNA結合タンパク質(例えば、MeCP2)もしくはその断片(例えば、MeCP2のC末端天然変性領域)、またはサプレッサーもしくはその機能性断片を含む。いくつかの実施形態では、凝縮体は、メチル化DNAと結び付く。いくつかの実施形態では、方法は、インビトロ凝縮体を提供し、インビトロ凝縮体の1つ以上の物理的特性を評価すること、インビトロ凝縮体を試験薬剤と接触させること、及びインビトロ凝縮体の1つ以上の物理的特性が試験薬剤によって変化するかどうかを評価すること、を含み、凝縮体は、メチルDNA結合タンパク質(例えば、MeCP2)もしくはその断片(例えば、MeCP2のC末端天然変性領域)、またはサプレッサーもしくはその機能性断片を含む。
本開示の態様のいくつかは、メチルDNA結合タンパク質(例えば、MeCP2)もしくはその断片(例えば、MeCP2のC末端天然変性領域)、またはサプレッサーもしくはその機能性断片を含む単離された合成凝縮体に関する。
本開示の態様のいくつかは、凝縮体標的化治療剤を用いる治療の候補となる対象を診断する方法及び同定する方法に関する。いくつかの実施形態では、凝縮体標的化治療剤を用いる治療の候補となる対象を同定する方法は、対象から単離される試料を得ること、試料における1つ以上の凝縮体のレベル(または安定性、崩壊、もしくは維持から選択される特性)を決定すること、及び凝縮体のレベルが異常であるか(例えば、参照レベルと比較してレベルが上昇もしくは低下している)、または安定性、崩壊、もしくは維持から選択される凝縮体の特性が異常であることが検出されるならば、凝縮体標的化治療剤を用いる治療の候補として対象を同定すること、を含む。方法は、凝縮体標的化治療剤を対象に投与することをさらに含み得、薬剤は、凝縮体のレベル(または安定性、崩壊、もしくは維持から選択される特性)の異常を少なくとも部分的に正常化する。「凝縮体標的化治療剤」は、治療的に有益な様式で凝縮体の形成、安定性、組成、維持、崩壊、または制御を調節する薬剤として本明細書で定義され、この調節は、例えば、当該薬剤が、凝縮体コンポーネントと物理的に結び付くか、凝縮体コンポーネントを修飾するか、または凝縮体コンポーネントの修飾因子/脱修飾因子を阻害もしくは活性化することによって行われる。いくつかの実施形態では、対象は、がんを患っている。いくつかの実施形態では、凝縮体は、がん遺伝子を含むか、またはがん遺伝子の転写を誘導する。いくつかの実施形態では、凝縮体は、転写凝縮体である。いくつかの実施形態では、凝縮体は、ヘテロクロマチン関連凝縮体である。
いくつかの態様では、方法は、対象(例えば、哺乳類対象(例えば、ヒト対象))から得られる試料を提供すること、及び試料における転写凝縮体を検出すること、を含む。いくつかの実施形態では、試料は、少なくとも1種類の細胞(例えば、少なくとも1種類のがん細胞)を含む。いくつかの実施形態では、方法は、対照細胞または対照試料(例えば、健康な細胞、または健康な対象から得られる試料)と比較して、細胞または試料における転写凝縮体のレベルの異常(例えば、参照レベルと比較したときのレベルの上昇もしくは低下)、組成の異常、または局在化の異常を検出すること、を含む。いくつかの実施形態では、転写凝縮体のレベル、組成物、または局在化の異常を検出して疾患が診断され得る。
いくつかの態様では、方法は、対象(例えば、哺乳類対象(例えば、ヒト対象))から得られる試料を提供すること、及び対照細胞または対照試料(例えば、健康な細胞、または健康な対象から得られる試料)と比較して、試料における転写凝縮体のコンポーネントの変異またはレベル異常もしくは活性異常を検出すること、を含む。いくつかの実施形態では、試料は、少なくとも1種類の細胞(例えば、少なくとも1種類のがん細胞)を含む。いくつかの実施形態では、転写凝縮体のコンポーネントの変異またはレベル変化もしくは活性変化によって、転写凝縮体の形成、安定性、局在化、活性、または形態が影響を受ける。いくつかの実施形態では、試料における転写凝縮体のコンポーネントの変異またはレベル異常もしくは活性異常を検出して疾患が診断され得る。
本開示の態様のいくつかは、トランスジェニック非ヒト動物(例えば、非ヒト哺乳類、非ヒト霊長類、げっ歯類(例えば、マウス、ラット、ウサギ、ハムスター)、イヌ、ネコ、ウシ、または他の哺乳類)に関し、当該トランスジェニック非ヒト動物の細胞は、検出可能な標識と融合した凝縮体コンポーネントを含むポリペプチドをコードする導入遺伝子を含む。いくつかの実施形態では、方法は、そのような動物に試験薬剤を投与すること、動物から単離される1種以上の細胞を含む試料を得ること、及び上記ポリペプチドを含む凝縮体の形成、安定性、または活性に対する試験薬剤の作用を決定すること、を含み得る。いくつかの実施形態では、試料は、組織試料である。
本開示の態様のいくつかは、疾患または状態の動物モデルとしてのトランスジェニック動物に関する。疾患または状態は、限定されず、本明細書に開示の任意の疾患または状態であり得る。いくつかの実施形態では、トランスジェニック動物を使用することで、疾患に対する候補薬剤が試験される。いくつかの実施形態では、トランスジェニック動物は、本明細書に開示の方法(例えば、薬剤をスクリーニングする方法、または薬剤を同定する方法)を実施するための初代細胞の供給源である。
乳癌は、最も一般的ながんの1つであり、がんによって死に至る主な原因である。ヒト乳癌のおよそ70%がホルモン依存性であり、エストロゲン受容体陽性(ER+)である(例えば、増殖をエストロゲンに依存する)。ER+乳癌の治療には、選択的エストロゲン受容体調節剤(SERM)(タモキシフェン、ラロキシフェン、またはトレミフェンなど)が使用されることが多い。SERMは、乳房組織ではER阻害剤(アンタゴニスト)として働き得るが、薬剤によっては、ある特定の他の組織(例えば、骨)ではERのアクチベーター(例えば、部分アゴニスト)として働き得ることが理解されよう。タモキシフェン自体は、ERに対する親和性が比較的低いプロドラッグであるが、代謝されて活性代謝物(4−ヒドロキシタモキシフェン(アフィモキシフェン)及びN−デスメチル−4−ヒドロキシタモキシフェン(エンドキシフェン)など)に変換されることも理解されよう。本明細書で使用される「タモキシフェン」という用語は、文脈に即して解釈されて、タモキシフェンまたはその活性代謝物を意味することになる。例えば、タモキシフェンは、通常、患者に投与される形態をとる。一方で、インビトロでの使用については、活性代謝物(4−ヒドロキシタモキシフェン(アフィモキシフェン)及び/またはN−デスメチル−4−ヒドロキシタモキシフェン(エンドキシフェン)など)がより適し得る。
タモキシフェンは、ER陽性乳癌患者に対して最も一般に使用される化学療法剤である。タモキシフェンは、ERへの結合でエストロゲンと競合し、タモキシフェンがERに結合すると、その転写因子活性が低減または除去されると考えられている。しかしながら、タモキシフェンを服用する患者の多くが、最終的には、タモキシフェン抵抗性乳癌を発症する。ERは、エストロゲン刺激を受けると、スーパーエンハンサーを確立する(Bojcsuk et al,Nucleic Acids Res 2017)。さらに、以下に示されるように、ER+乳癌ではMED1が過剰発現しており、ER機能及びER+発がんにはMED1が必要である。さらに以下に示されるように、エストロゲンは、MED1凝縮体へのERの取り込みを刺激する。この取り込みは、MED1におけるLXXLモチーフの存在に依存している。
本明細書の結果は、インビトロ及び細胞においてMED1−IDR及びERがエストロゲン依存性の凝縮体を形成することを示す。凝縮体形成は、タモキシフェンによって弱まる。しかしながら、いくつかのタモキシフェン抵抗性ER+乳癌は、エストロゲンに依存せずに活性を有する変異ER(例えば、Y537S変異体及びD538G変異体)を含む。他のタモキシフェン抵抗性ER+乳癌は、エストロゲンに依存せずに活性を有するER融合タンパク質(例えば、ER−YAP1、ER−PCDH11X)を含む。こうしたERは、エストロゲンの存在に依存せずにMED1と凝縮体を形成する。本明細書に示される別の結果は、MED1を過剰発現するER+乳癌細胞(発現量が、例えば、非タモキシフェン抵抗性ER+乳癌細胞と比較して4倍を超えるもの)では、ERへのエストロゲンの結合に依存せずにERがMED1含有凝縮体に取り込まれることを実証している。
本開示の態様のいくつかは、細胞における1つ以上の遺伝子の転写を調節する方法に関し、この方法は、1つ以上の遺伝子と結び付く凝縮体の組成、維持、崩壊、及び/または制御を調節することを含み、凝縮体は、エストロゲン受容体(ER)またはその断片と、MED1またはその断片と、を凝縮体コンポーネントとして含む。いくつかの実施形態では、エストロゲン受容体は、変異エストロゲン受容体である。いくつかの実施形態では、変異エストロゲン受容体は、エストロゲンの結合に依存しない構成的活性を有する(例えば、Y537S変異体及びD538G変異体)。いくつかの実施形態では、変異エストロゲン受容体は、融合タンパク質である。いくつかの実施形態では、融合タンパク質は、エストロゲンの結合に依存しない構成的活性を有する(例えば、ER−YAP1、ER−PCDH11X)。いくつかの実施形態では、エストロゲン受容体断片は、リガンド結合ドメインまたはその機能性断片を含む。いくつかの実施形態では、ER断片は、リガンド結合ドメインまたはその機能性断片を2つ含む。いくつかの実施形態では、ER断片は、DNA結合ドメインを含む。いくつかの実施形態では、MED1断片は、IDR、LXXLLモチーフ、またはこれら両方を含む。いくつかの実施形態では、ERまたはMED1は、ヒトのERまたはMED1である。本明細書に記載の方法及び組成物の実施形態のいくつかでは、ERまたはMED1は、非ヒト哺乳類(例えば、ラット、マウス、ウサギ)のERまたはMED1である。
いくつかの実施形態では、凝縮体は、エストロゲンまたはその機能性断片と接触される(例えば、エストロゲンまたはその断片は、凝縮体と物理的に結び付くか、または凝縮体を含む溶液に含まれる)。いくつかの実施形態では、凝縮体は、選択的エストロゲン選択的調節剤(SERM)と接触される(例えば、SERMは、凝縮体と物理的に結び付くか、または凝縮体を含む溶液に含まれる)。いくつかの実施形態では、SERMは、タモキシフェンまたはその活性代謝物(4−ヒドロキシタモキシフェン及び/またはN−デスメチル−4−ヒドロキシタモキシフェン)である。いくつかの実施形態では、凝縮体を調節することで、MYCがん遺伝子の転写が低減または除去される。いくつかの実施形態では、MYCがん遺伝子の転写が低減され、その低減率は、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約99%、またはそれを超える%である。
細胞は、任意の適切な細胞であり得る。いくつかの実施形態では、細胞は、乳癌細胞(例えば、患者から単離された乳癌細胞、細胞株(例えば、600MPE、AU565、BT−20、BT−474、BT483、BT−549、Evsa−T、Hs578T、MCF−7、MDA−MB−231、SkBr3、T−47D)に由来する乳癌細胞)である。いくつかの実施形態では、細胞は、MED1及びエストロゲン受容体(例えばヒトのMED1及び/またはエストロゲン受容体)を発現するトランスジェニック細胞である。いくつかの実施形態では、細胞は、MED1またはその機能性断片と、エストロゲン受容体(例えば、変異エストロゲン受容体)またはその機能性断片と、を発現するトランスジェニック細胞(例えばヒトのMED1及び/またはエストロゲン受容体を発現するもの)である。いくつかの実施形態では、細胞は、MED1を過剰発現する。本明細書で使用される「MED1を過剰発現する」は、細胞のMED1発現レベルが、対照細胞または参照レベルと比較して、少なくとも約1.1倍、少なくとも1.2倍、1.3倍、少なくとも1.4倍、少なくとも1.5倍、少なくとも1.6倍、少なくとも1.7倍、少なくとも1.8倍、少なくとも1.9倍、少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも4倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、少なくとも50倍、もしくは少なくとも100倍、少なくとも1,000倍、少なくとも10,000倍、またはそれを超える倍率であることを意味する。いくつかの実施形態では、細胞は、タモキシフェン抵抗性ER+乳癌細胞であり、対照細胞は、非タモキシフェン抵抗性ER+乳癌細胞である。いくつかの実施形態では、細胞(例えば、タモキシフェン抵抗性ER+乳癌細胞)は、対照細胞(例えば、非タモキシフェン抵抗性ER+乳癌細胞)と比較して約4倍以上(例えば、約4倍〜4.5倍)のレベルでMED1を過剰発現する。
いくつかの実施形態では、転写凝縮体は、転写凝縮体を薬剤と接触させることによって調節される。いくつかの実施形態では、薬剤は、ERとMED1との間の物理的相互作用を低減または除去する。いくつかの実施形態では、薬剤は、ERとMED1との間の物理的相互作用を低減し、その低減率は、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約99%、またはそれを超える%である。いくつかの実施形態では、薬剤は、ERとエストロゲンとの間の相互作用を低減または除去する。いくつかの実施形態では、薬剤は、ERとエストロゲンとの間の物理的相互作用を低減し、その低減率は、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約99%、またはそれを超える%である。いくつかの実施形態では、凝縮体は、変異ERまたはその断片を含み、薬剤は、1つ以上の遺伝子の転写を低減する。
本開示の態様のいくつかは、凝縮体の形成、安定性、または形態を調節する薬剤を同定する方法に関し、この方法は、細胞を提供すること、細胞を試験薬剤と接触させること、及び試験薬剤との接触によって凝縮体の形成、安定性、または形態が調節されるかどうかを決定すること、を含み、凝縮体は、エストロゲン受容体(ER)またはその断片と、MED1またはその断片と、を凝縮体コンポーネントとして含む。いくつかの実施形態では、細胞は、凝縮体を含む。いくつかの実施形態では、薬剤は、凝縮体の形成を誘発する。
本明細書に記載の試験薬剤を同定する方法の実施形態のいくつかでは、凝縮体の形成、安定性、または形態を調節する薬剤は、(例えば、凝縮体の形成または安定性を低減するのであれば)候補治療剤(例えば、抗がん剤)として同定される。いくつかの実施形態では、薬剤は、抗ER+癌剤(例えば、ER+乳癌剤、抗タモキシフェン抵抗性乳癌剤)として同定される。本明細書に記載の試験薬剤を同定する方法の実施形態のいくつかでは、変異ER(またはその断片)及びMED1(またはその断片)を含む凝縮体の形成または安定性を低減する薬剤は、ER+癌(例えば、タモキシフェン抵抗性ER+癌)を治療するための候補薬剤として同定される。本明細書に記載の試験薬剤を同定する方法の実施形態のいくつかでは、ER(またはその断片)を含む凝縮体の形成または安定性を低減する薬剤は、ER活性(例えば、ER介在性の転写)の候補調節剤として同定される。
いくつかの実施形態では、エストロゲン受容体は、変異エストロゲン受容体である。いくつかの実施形態では、変異エストロゲン受容体は、エストロゲンの結合に依存しない構成的活性を有する(例えば、Y537S変異体及びD538G変異体)。いくつかの実施形態では、変異エストロゲン受容体は、融合タンパク質である。いくつかの実施形態では、融合タンパク質は、エストロゲンの結合に依存しない構成的活性を有する(例えば、ER−YAP1、ER−PCDH11X)。いくつかの実施形態では、エストロゲン受容体断片は、リガンド結合ドメインまたはその機能性断片を含む。いくつかの実施形態では、ER断片は、リガンド結合ドメインまたはその機能性断片を2つ含む。いくつかの実施形態では、ER断片は、DNA結合ドメインを含む。いくつかの実施形態では、MED1断片は、IDR、LXXLLモチーフ、またはこれら両方を含む。いくつかの実施形態では、ERまたはMED1は、ヒトのERまたはMED1である。いくつかの実施形態では、ERまたはMED1は、非ヒト哺乳類(例えば、ラット、マウス、ウサギ)のERまたはMED1である。
いくつかの実施形態では、凝縮体は、エストロゲンまたはその機能性断片と接触される。いくつかの実施形態では、凝縮体は、選択的エストロゲン選択的調節剤(SERM)と接触される。SERMは、限定されず、本明細書に記載されるか、または当該技術分野で知られる任意のものであり得る。いくつかの実施形態では、SERMは、タモキシフェンまたはその活性代謝物(例えば、本明細書に記載のもの)である。本明細書に記載の方法の実施形態のいくつかでは、凝縮体を調節することで、標的遺伝子(例えば、MYCがん遺伝子、あるいは本明細書に記載されるか、またはがんの増殖もしくは生存能力に関与する他の遺伝子)の転写が低減または除去される。いくつかの実施形態では、標的遺伝子(例えば、MYCがん遺伝子)の転写が低減され、その低減率は、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約99%、またはそれを超える%である。
いくつかの実施形態では、細胞は、乳癌細胞(例えば、本明細書に記載のもの)である。いくつかの実施形態では、細胞は、MED1(例えば、本明細書に記載のもの)を過剰発現する。いくつかの実施形態では、細胞(例えば、タモキシフェン抵抗性ER+乳癌細胞)は、対照細胞(例えば、非タモキシフェン抵抗性ER+乳癌細胞)と比較して約4倍以上(例えば、約4倍〜4.5倍)のレベルでMED1を過剰発現する。いくつかの実施形態では、細胞は、ER+乳癌細胞である。いくつかの実施形態では、ER+乳癌細胞は、タモキシフェン処理に抵抗性である。いくつかの実施形態では、凝縮体は、検出可能な標識を含む。標識は、限定されず、本明細書に記載の任意の標識であり得る。いくつかの実施形態では、凝縮体のコンポーネントは、検出可能な標識を含む。いくつかの実施形態では、ERもしくはその断片、及び/またはMED1もしくはその断片は、検出可能な標識を含む。いくつかの実施形態では、1つ以上の遺伝子は、レポーター遺伝子を含む。レポーター遺伝子は、限定されず、本明細書に記載の任意のレポーター遺伝子であり得る。
本発明の態様のいくつかは、凝縮体の形成、安定性、または形態を調節する薬剤を同定する方法に関し、この方法は、インビトロ凝縮体を提供すること、凝縮体を試験薬剤と接触させること、及び試験薬剤との接触によって凝縮体の形成、安定性、または形態が調節されるかどうかを決定すること、を含み、凝縮体は、エストロゲン受容体(ER)またはその断片と、MED1またはその断片と、を凝縮体コンポーネントとして含む。いくつかの実施形態では、エストロゲン受容体は、変異エストロゲン受容体(例えば、本明細書に記載の任意の変異エストロゲン受容体)である。いくつかの実施形態では、変異エストロゲン受容体は、エストロゲンの結合に依存しない構成的活性を有する(例えば、Y537S変異体及びD538G変異体)。いくつかの実施形態では、変異エストロゲン受容体は、融合タンパク質である。いくつかの実施形態では、融合タンパク質は、エストロゲンの結合に依存しない構成的活性を有する(例えば、ER−YAP1、ER−PCDH11X)。いくつかの実施形態では、エストロゲン受容体断片は、リガンド結合ドメインまたはその機能性断片を含む。いくつかの実施形態では、MED1断片は、IDR、LXXLLモチーフ、またはこれら両方を含む。
いくつかの実施形態では、凝縮体は、エストロゲンまたはその機能性断片と接触される(例えば、エストロゲンまたはその断片は、凝縮体と物理的に結び付くか、または凝縮体を含む溶液に含まれる)。いくつかの実施形態では、凝縮体は、選択的エストロゲン選択的調節剤(SERM)と接触される(例えば、SERMは、凝縮体と物理的に結び付くか、または凝縮体を含む溶液に含まれる)。いくつかの実施形態では、SERMは、タモキシフェンまたはその活性代謝物(4−ヒドロキシタモキシフェン及び/またはN−デスメチル−4−ヒドロキシタモキシフェン)である。
いくつかの実施形態では、凝縮体は、細胞から単離される。凝縮体の単離元である細胞は、任意の適切な細胞であり得る。いくつかの実施形態では、細胞は、乳癌細胞(例えば、患者から単離された乳癌細胞、細胞株(例えば、600MPE、AU565、BT−20、BT−474、BT483、BT−549、Evsa−T、Hs578T、MCF−7、MDA−MB−231、SkBr3、T−47D)に由来する乳癌細胞)である。いくつかの実施形態では、細胞は、MED1及びエストロゲン受容体(例えばヒトのMED1及び/またはエストロゲン受容体)を発現するトランスジェニック細胞である。いくつかの実施形態では、細胞は、MED1またはその機能性断片と、エストロゲン受容体(例えば、変異エストロゲン受容体)またはその機能性断片と、を発現するトランスジェニック細胞(例えばヒトのMED1及び/またはエストロゲン受容体を発現するもの)である。
いくつかの実施形態では、凝縮体は、検出可能な標識を含む。検出可能な標識は、限定されず、本明細書に記載されるか、または当該技術分野で知られる任意の標識であり得る。いくつかの実施形態では、凝縮体のコンポーネントは、検出可能な標識を含む。いくつかの実施形態では、ERもしくはその断片、及び/またはMED1もしくはその断片は、検出可能な標識を含む。
本開示の態様のいくつかは、エストロゲン受容体(ER)またはその断片と、MED1またはその断片と、を凝縮体コンポーネントとして含む単離された合成転写凝縮体に関する。いくつかの実施形態では、エストロゲン受容体は、変異エストロゲン受容体である。いくつかの実施形態では、変異エストロゲン受容体は、エストロゲンの結合に依存しない構成的活性を有する。いくつかの実施形態では、エストロゲン受容体断片は、リガンド結合ドメインまたはその機能性断片を含む。いくつかの実施形態では、MED1断片は、IDR、LXXLLモチーフ、またはこれら両方を含む。いくつかの実施形態では、凝縮体は、エストロゲンまたはその機能性断片を含む。いくつかの実施形態では、凝縮体は、選択的エストロゲン選択的調節剤(SERM)を含む。
薬剤は、医薬的に許容可能な溶液に含めて投与することができ、そうした医薬的に許容可能な溶液は、塩、緩衝剤、保存剤、適合担体、補助剤、及び任意選択の他の治療成分を医薬的に許容可能な濃度で規定通りに含み得る。
薬剤は、固形形態、半固形形態、液体形態、またはガス状形態(錠剤、カプセル、粉末、顆粒、軟膏、溶液、沈着物、吸入物、及び注射物など)において経口投与、非経口投与、または外科的投与に有用な方法で製剤化して調製物にすることができる。本発明は、局所投与(植込みによるものなど)向けに製剤化される医薬組成物も包含する。
経口投与に適した組成物は、別々の単位(カプセル、錠剤、トローチ剤など)として提供することができ、それぞれが所定量の活性薬剤を含む。他の組成物には、水性液体または非水性液体における懸濁液(シロップ、エリキシル剤、または乳濁液など)が含まれる。
いくつかの実施形態では、薬剤は、組織に直接的に投与され得る。直接的な組織投与は、直接的な注射によって達成され得る。薬剤は、単回投与され得るか、あるいは複数回の投与によって投与され得る。投与回数が複数回であるならば、異なる経路でペプチドが投与されることもあり得る。例えば、初回(または最初の数回)の投与を患部組織に直接的に行うことができ、その後の投与を全身性に行うことができる。
経口投与については、当該技術分野でよく知られる医薬的に許容可能な担体と薬剤を組み合わせることによって組成物を容易に製剤化することができる。そのような担体を用いることで、治療対象が経口摂取するための錠剤、丸剤、糖衣錠、カプセル、液体、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁液などとして薬剤を製剤化することが可能になる。経口使用のための医薬調製物は、固形の医薬品添加物として得ることができ、その際、得られる混合物を任意選択で粉砕し、顆粒混合物を加工し、必要に応じて適切な補助剤を添加することで、錠剤または糖衣錠コアが得られる。適切な医薬品添加物は、具体的には、糖(ラクトース、スクロース、マンニトール、またはソルビトールを含む)などの賦形剤、セルロース調製物、例えば、トウモロコシデンプン、小麦デンプン、米デンプン、ジャガイモデンプン、ゼラチン、トラガカントガム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、及び/またはポリビニルピロリドン(PVP)などである。必要に応じて崩壊剤(架橋ポリビニルピロリドン、寒天、またはアルギン酸もしくはその塩(アルギン酸ナトリウムなど)など)が添加され得る。任意選択で、生理食塩水もしくは内部の酸性条件を中和するための緩衝液において経口製剤を製剤化することもでき、またはいずれの担体も用いずに経口製剤を投与することもできる。
糖衣錠コアは、適切なコーティングを施して提供される。この目的には、濃縮糖溶液を用いることができ、そうした濃縮糖溶液は、アラビアガム、タルク、ポリビニルピロリドン、carbopolゲル、ポリエチレングリコール、及び/または二酸化チタン、ラッカー溶液、ならびに適切な有機溶剤または溶剤混合物を任意選択で含み得る。異なる組み合わせの活性化合物を識別または特徴付けるために、錠剤または糖衣錠コーティングに染料または色素が添加され得る。
経口的に使用可能な医薬調製物には、ゼラチンでできた押し込み式カプセル、ならびにゼラチン及び可塑剤(グリセロールまたはソルビトールなど)でできたソフト密封カプセルが含まれる。押し込み式カプセルは、賦形剤(ラクトースなど)、結合剤(デンプンなど)、及び/または滑沢剤(タルクもしくはステアリン酸マグネシウムなど)ならびに任意選択の安定剤と混合された状態で活性成分を含み得る。ソフトカプセルでは、活性化合物は、適切な液体(脂肪油、流動パラフィン、または液体ポリエチレングリコールなど)に溶解または懸濁され得る。さらに、安定剤も添加され得る。経口投与向けに製剤化されたマイクロスフェアも使用され得る。そのようなマイクロスフェアは、当該技術分野でよく定義されている。経口投与用製剤はすべて、そのような投与に適した用量のものであるべきである。口腔投与については、組成物は、通常の様式で製剤化された錠剤またはトローチ剤の形態をとり得る。
化合物は、それを全身性に送達することが望ましい場合、注射による非経口投与(例えば、ボーラス投与または持続注入によるもの)向けに製剤化され得る。注射用製剤は、保存剤を添加した単位剤形(例えば、アンプルまたは多用量容器)において提供され得る。組成物は、油性媒体または水性媒体における懸濁液、溶液、または乳濁液などの形態をとり得、懸濁剤、安定剤、及び/または分散剤などの製剤化用薬剤を含み得る。
非経口投与用調製物には、滅菌された水性または非水性の溶液、懸濁液、及び乳濁液が含まれる。非水性溶剤の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油(オリーブ油など)、及び注射用有機エステル(オレイン酸エチルなど)である。水性担体には、水、アルコール性/水性の溶液、乳濁液、または懸濁液(生理食塩水及び緩衝媒体を含む)が含まれる。非経口媒体には、塩化ナトリウム溶液、ブドウ糖リンゲル液、ブドウ糖及び塩化ナトリウム、乳酸リンゲル液、または不揮発性油が含まれる。静脈内媒体には、水分及び栄養の補給液、電解質補給液(ブドウ糖リンゲル液に基づくものなど)、及び同様のものが含まれる。保存剤及び他の添加剤もまた存在し得、こうしたものは、例えば、抗微生物剤、抗酸化剤、キレート剤、及び不活性ガス、ならびに同様のものなどである。他の投与形態(静脈内投与など)の結果から、用量を減らすこともあろう。初回の適用用量では対象の応答が不十分な場合、患者の耐容能が許す程度に用量を増やすこと(または限局性が高まる異なる送達経路を用いることによって用量の効率を高めること)も行われ得る。1日に複数の用量を用いることが企図され、こうすることで、いくつかの実施形態では、化合物の適切な全身レベルが達成される。
本発明は、目的が達成され、言及される目標及び利点が、それらに内包されるものを含めて得られるように十分に適合化されたものであることを当業者なら容易に理解するであろう。本明細書における説明の詳細及び実施例は、ある特定の実施形態を代表するものであり、例示であり、本発明の範囲を限定することは意図されない。そうしたものの変更及び他の使用を当業者なら思い付くであろう。こうした変更は、本発明の趣旨に包含される。本発明の範囲及び趣旨から逸脱することなく、本明細書に開示の本発明に対してさまざまな置き換え及び変更を実施できることを当業者なら容易に理解するであろう。
本明細書及び特許請求の範囲において使用される「a」及び「an」という冠詞は、異なる定義が明確に示されない限り、複数の指示対象を含むと理解されたい。ある1つの群に属する1つ以上のメンバーの間に「または」を含む請求項または説明は、異なる定義が示されるか、またはその他の様式で文脈から明らかでない限り、当該群メンバーのうちの1つ、複数、またはすべてが、所与の生成物もしくはプロセスに存在するか、そこで用いられるか、またはその他の様式でそれと関連するのであれば、満たされたものと見なされる。本発明は、当該群に属する正確に1つのメンバーが、所与の生成物もしくはプロセスに存在するか、そこで用いられるか、またはその他の様式でそれと関連する実施形態を含む。本発明は、当該群メンバーの複数またはすべてが、所与の生成物もしくはプロセスに存在するか、そこで用いられるか、またはその他の様式でそれと関連する実施形態も含む。さらに、別段の指定がない限り、または矛盾もしくは不一致が生じるであろうことが当業者に明らかであると想定されない限り、1つ以上の限定、要素、項、説明用語などが、列挙される請求項の1つ以上から、同じ基礎請求項に依存する別の請求項(または同様に関連する任意の他の請求項)へと導入される変形、組み合わせ、及び順列はすべて、本発明によって提供されることが理解されよう。本明細書に記載の実施形態はすべて、適切な場合、本発明の異なる態様すべてに適用可能であることが企図される。実施形態または態様はいずれも、適切な場合はいつでも、他のそのような実施形態または態様の1つ以上と自由に組み合わせ可能であることも企図される。要素がリスト(例えば、マーカッシュ群または類似形式のもの)として提示される場合、そうした要素の各部分群も開示されると共に、当該群から任意の要素(複数可)を除外可能であることが理解されよう。一般に、本発明または本発明の態様が特定の要素、特徴などを含むと称される場合、本発明のある特定の実施形態、または本発明のある特定の態様は、そのような要素、特徴などからなるか、またはそれから本質的になると理解されたい。単純化の目的で、そうした実施形態は、そのような多くの言葉を用いて本明細書で場合ごとに具体的には示されていない。本発明の実施形態または態様はいずれも、具体的に除外されることが本明細書に記載されているか否かとは無関係に、請求項から明確に除外可能であることも理解されたい。例えば、1つ以上の核酸、ポリペプチド、細胞、生物種もしくは生物型、障害、対象、またはそれらの組み合わせはいずれも除外可能である。
請求項または説明が組成物(例えば、核酸、ポリペプチド、細胞、または非ヒトトランスジェニック動物)に関する場合、本明細書に開示の方法のいずれかに従って当該組成物を調製または使用する方法、及び本明細書に開示の目的のいずれかのために当該組成物を使用する方法は、別段の指定がない限り、または矛盾もしくは不一致が生じるであろうことが当業者に明らかであると想定されない限り、本発明の態様であることが理解されよう。請求項または説明が方法に関する場合、例えば、当該方法の実施に有用な組成物を調製する方法、及び当該方法に従って生成される生成物は、別段の指定がない限り、または矛盾もしくは不一致が生じるであろうことが当業者に明らかであると想定されない限り、本発明の態様であることが理解されよう。
本明細書で範囲が与えられる場合、本発明は、両方の終点が含まれる実施形態、両方の終点が除外される実施形態、及び一方の終点が含まれ、もう一方の終点が除外される実施形態を含む。別段の指定がない限り、両方の終点が含まれると想定されたい。さらに、別段の指定がない限り、またはその他の様式で文脈及び当業者の理解から明らかでない限り、範囲として示される値は、本発明の異なる実施形態に記載の範囲に含まれる任意の特定の値または部分範囲であり、こうした任意の特定の値または部分範囲は、別に文脈上明確に示されない限り、当該範囲の下限値の単位の10分の1の桁までのものであると想定され得ることが理解されよう。一連の数値が本明細書に記載される場合、本発明は、当該一連の数値に介在する任意の値に同様に関する実施形態、または当該一連の数値に含まれる任意の2つの値によって定義される範囲に同様に関する実施形態を含み、最小値として下限値をとることができ、最大値として上限値をとることができることも理解されよう。数値には、本明細書で使用されるように、パーセントとして表される値が含まれる。数値の前に「約」または「およそ」が付く本発明の実施形態のいずれについても、本発明は、正確な値が挙がる実施形態を含む。数値の前に「約」または「およそ」が付かない本発明の実施形態のいずれについても、本発明は、当該値の前に「約」または「およそ」が付く実施形態を含む。「およそ」または「約」は、別段の記載がない限り、またはその他の様式で文脈から明らかでない限り、一般に、値からいずれかの向き(その値を上回る向きもしくはその値を下回る向き)に1%広げた範囲以内に含まれる数、またはいくつかの実施形態では値からいずれかの向き(その値を上回る向きもしくはその値を下回る向き)に5%広げた範囲以内に含まれる数、またはいくつかの実施形態では値からいずれかの向き(その値を上回る向きもしくはその値を下回る向き)に10%広げた範囲以内に含まれる数を含む(但し、そのような値が、とり得る値の100%を許容不可能なほどに超えると想定される場合を除く)。異なる定義が明確に示されない限り、本明細書で請求される方法の中で、複数の動作を含むもののいずれにおいても、そうした方法の動作の順序は、そうした方法の動作が記載される順序に必ずしも限定されないが、本発明は、順序がそのように限定される実施形態を含むことが理解されよう。別段の指定がない限り、または文脈から明らかでない限り、本明細書に記載の生成物または組成物はいずれも、「単離された」ものであると見なされ得ることも理解されよう。
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実施例1
現存する転写制御モデルの主要な特徴は、確率論的性質を有する生化学的法則によって決定される段階的様式で生じる制御相互作用が基礎をなすことにある。こうしたモデルでは、スーパーエンハンサーが関与するという知見が最近得られたこと、または2つの異なる遺伝子においてエンハンサーが同期的に転写バーストを生じさせる能力を有することを説明するとなると、限界が生じる。相分離多分子集合体からは、細胞内で生化学反応をコンパートメント化する上で必要不可欠な制御機構が得られる。本発明者らは、相分離モデルが、スーパーエンハンサーを形成、乱れに対するスーパーエンハンサーの感度、スーパーエンハンサーの転写バーストパターン、及び複数の遺伝子に対してエンハンサーが同時に作用する能力を含めて、既知の転写制御特徴の説明を容易化するものであることを提唱する。このモデルからは、哺乳類における遺伝子制御原理をさらに探求するための概念的枠組みが得られる。
序論
転写制御の最近の研究から明らかになっている知見のいくつかは、これまで定量的な説明に欠けており、不可解なものであるが、そうした知見に対する理解が深まれば、発生及び疾患の間に生じる遺伝子制御に対する新規かつ有用な洞察が得られる可能性がある。例えば、任意の所与のヒト細胞型においては、数千のエンハンサーエレメントが数千の遺伝子の活性を制御するが、細胞型特異的プロセスにおいて特に顕著な役割を有する遺伝子を制御するのは、スーパーエンハンサー(SE)と呼ばれる数百のエンハンサークラスターである(ENCODE Project Consortium et al.,2012、Hnisz et al.,2013、Loven et al.,2013、Parker et al.,2013、Roadmap Epigenomics et al.,2015、Whyte et al.,2013)。がん細胞は、スーパーエンハンサーを獲得して顕著ながん遺伝子の発現を誘導することから、SEは、発生及び疾患の両方において重要な役割を担う(Chapuy et al.,2013、Loven et al.,2013)。スーパーエンハンサーは、相互作用因子によって異常に高密度で占有され、典型的エンハンサーと比較して高いレベルで転写を誘導することができ、ほとんどのエンハンサーと共通して結び付くコンポーネントが乱れると例外的に影響を受ける(Chapuy et al.,2013、Hnisz et al.,2013、Loven et al.,2013、Whyte et al.,2013)。
最近の研究から新たに得られている別の不可解な知見は、単一のエンハンサーが複数の近位遺伝子を同時に活性化できるということである(Fukaya et al.,2016)。エンハンサーは、その活性化対象である遺伝子のプロモーターと物理的に接しており、クロマチン接触マッピング技術を使用した初期の研究(例えば、β−グロビン遺伝子座に対してこの技術を使用したもの)では、任意の所与の時点でエンハンサーが活性化させるのは、遺伝子座内にいくつかあるグロビン遺伝子のうちの1つのみであることが明らかとなった(Palstra et al.,2003、Tolhuis et al.,2002)。しかしながら、高い時間分解能で定量的な画像化を行ったより最近の研究からは、エンハンサーが、典型的には遺伝子を一気に活性化し、2つの遺伝子プロモーターが同じエンハンサーによって活性化されると、これらの遺伝子プロモーターが同期的バーストを示し得ることが明らかとなった(Fukaya et al.,2016)。
以前の転写制御モデルからは、遺伝子制御の原理に対する重要な洞察が得られている。以前の転写制御モデルのほとんどの主要な特徴は、確率論的性質を有する生化学的法則によって決定される段階的様式で生じる制御相互作用が基礎をなすことにある(Chen and Larson,2016、Elowitz et al.,2002、Levine et al.,2014、Orphanides and Reinberg,2002、Raser and O’Shea,2004、Spitz and Furlong,2012、Suter et al.,2011、Zoller et al.,2015)。そのような動力学的モデルは、単一遺伝子レベルでの遺伝子活性化が確率論的かつノイズのあるプロセスであることを予測するものであると共に、多段階制御プロセスがどのように固有ノイズを抑制し、結果的にバーストを生じさせ得るのかということに対する洞察を与えるものでもある。こうしたモデルでは、SEの形成、機能、及び特性の基礎をなす機構には光が当たっていないか、または謎(同じエンハンサーによって活性化された場合に2つの遺伝子プロモーターがどのように同期的バーストを示すのかということなど)対する説明は得られない。
本発明者らは、本明細書において、上記の謎を説明し得るモデルを提唱及び探求する。このモデルは、多分子集合体の相分離に関する原理に基づく。
転写制御における協同性
エンハンサーが発見されてから30年以上にわたって、エンハンサーの機能特性を定量的様式で説明しようと数々の研究が試みており、こうした試みのほとんどが、エンハンサーコンポーネント間に協同的な相互作用が生じるという概念に依存している。古典的には、エンハンサーは、標的遺伝子プロモーターの上流または下流にさまざまな距離をとっていずれかの向きで挿入されるとそうしたプロモーターからの転写を増加させ得るエレメントとして定義されている(Banerji et al.,1981、Benoist and Chambon,1981、Gruss et al.,1981)。エンハンサーは、典型的には、数百塩基対のDNAからなり、エンハンサーには、複数の転写因子(TF)分子が協同的な様式で結合する(Bulger and Groudine,2011、Levine et al.,2014、Malik and Roeder,2010、Ong and Corces,2011、Spitz and Furlong,2012)。古典的には、協同的結合は、DNAに1つのTF分子が結合すると別のTF分子の結合に影響が及ぶ現象を説明するものである(図3A)(Carey,1998、Kim and Maniatis,1997、Thanos and Maniatis,1995、Tjian and Maniatis,1994)。エンハンサーに対する転写因子の協同的結合は、DNAの屈曲にTFが影響を与えること(Falvo et al.,1995)、TF間に相互作用が生じること(Johnson et al.,1979)、及びTFによって大きな補助因子複合体が組み合わさって動員されること(Merika et al.,1998)に起因することが提唱されている。
スーパーエンハンサーは、高度に協同的な特性を示す。
細胞型特異的プロセスにおいて特に顕著な役割を有する遺伝子を制御するのは、スーパーエンハンサー(SE)と呼ばれる数百のエンハンサークラスターである(Hnisz et al.,2013、Whyte et al.,2013)。SEの形成及び機能には協同的特性が特に重要であることを示す主要なSE特徴は3つある:1)SEは、相互作用因子によって異常に高密度で占有される、2)SEは、単一の核形成事象によって形成され得る、及び3)SEは、ほとんどのエンハンサーと共通して結び付くいくつかのコンポーネント(すなわち、スーパーエンハンサーコンポーネント)が乱れると例外的に影響を受ける。
SEは、エンハンサー関連因子によって異常に高密度で占有されるものであり、こうしたエンハンサー関連因子には、転写因子、補助因子、クロマチン制御因子、RNAポリメラーゼII、及び非コードRNAが含まれる(Hnisz et al.,2013)。非コードRNA(エンハンサーRNAまたはeRNA)は、SE内の転写因子結合部位における分岐転写によって生じるものであり(Hah et al.,2015、Sigova et al.,2013)、エンハンサー活性及び近位遺伝子の発現にシスで寄与し得る(Dimitrova et al.,2014、Engreitz et al.,2016、Lai et al.,2013、Pefanis et al.,2015)。SEにおけるタンパク質因子及びeRNAの密度は、ゲノム中の典型的エンハンサーにおける同じコンポーネントセットの密度のおよそ10倍であると推計されている(図3B)(Hnisz et al.,2013、Loven et al.,2013、Whyte et al.,2013)。SE内のエンハンサークラスターは、互いに物理的に密接に接触すると共に、その活性化対象である遺伝子のプロモーター領域とも物理的に密接に接触することが、クロマチン接触マッピング法によって示されている(図3C)(Dowen et al.,2014、Hnisz et al.,2016、Ji et al.,2016、Kieffer−Kwon et al.,2013)。
SEは、単一の転写因子結合部位が、他にも因子が追加で結合する可能性のあるDNA領域に導入される結果として形成され得る。T細胞性白血病では、一方のアレルに小さな挿入(2〜12bp)が生じることが、マスター転写因子MYBの結合部位の創出よるSE全体の形成の核となり、その結果、隣接する結合部位に転写制御因子が追加動員され、SEに特有の特徴を有する因子集合領域が8kbのドメインに広がって構築される(Mansour et al.,2014)。炎症性の刺激もまた、内皮細胞におけるSEの急速な形成に繋がり、ここでもまた、炎症性の刺激に応答して生じる単一の転写因子結合事象が核となってSEが形成されるものと思われる(Brown et al.,2014)。
何万もの塩基対にまたがるスーパーエンハンサー全体は、その補助因子が乱されると一単位として崩壊し得、SE内の構成エンハンサーを遺伝的に欠失させると、他の構成要素の機能が損なわれ得る。例えば、コアクチベーターBRD4は、SE、典型的エンハンサー、及びプロモーターにおけるアセチル化クロマチンに結合するが、アセチル化クロマチンへのBRD4の結合を遮断する薬剤に対する感受性がはるかに高いのはSEである(Chapuy et al.,2013、Loven et al.,2013)。サイクリン依存性キナーゼCDK7の阻害に対しても同様にSEの感受性が過剰に高いことも複数の研究において観測されている(Chipumuro et al.,2014、Kwiatkowski et al.,2014、Wang et al.,2015)。このキナーゼは、RNAポリメラーゼII(RNAPII)による転写の開始に必要不可欠なものであり、RNAPIIの反復C末端ドメイン(CTD)をリン酸化する(Larochelle et al.,2012)。さらに、SE内の構成エンハンサーを遺伝的に欠失させると、スーパーエンハンサー内の他の構成要素の活性が損なわれ得(Hnisz et al.,2015、Jiang et al.,2016、Proudhon et al.,2016、Shin et al.,2016)、スーパーエンハンサー全体の崩壊に繋がり得るが(Mansour et al.,2014)、構成エンハンサーのこの相互依存は、発生的に制御されるいくつかのスーパーエンハンサーについては不明確である(Hay et al.,2016)。
まとめると、いくつかの系統の証拠は、SEの形成及び機能が、多くの構成エンハンサー及びそれらに結合する因子を空間的に近接するように導く協同的なプロセスを伴うものであることを示している。タンパク質及び核酸の高密度で存在すること、これに加えて、こうした分子の間に協同的相互作用が生じることは、細胞内構造体と呼ばれる無膜オルガネラが真核細胞に形成に関与している(Banjade et al.,2015、Bergeron−Sandoval et al.,2016、Brangwynne et al.,2009)。以下では、本発明者らは、細胞内構造体の形成の特徴について初めて説明し、さらには、関連概念を活用したスーパーエンハンサーの形成及び機能のモデルを構築する。
相分離による無膜オルガネラの形成
真核細胞は、細胞内構造体と呼ばれる無膜オルガネラを含み、こうした無膜オルガネラは、細胞内で必要不可欠な生化学反応をコンパートメント化する上で必要不可欠な役割を担う。こうした構造体は、多価分子の間の協同的相互作用によって媒介される相分離によって形成される(Banjade et al.,2015、Bergeron−Sandoval et al.,2016、Brangwynne et al.,2009)。核におけるそのようなオルガネラの例としては核小体(rRNA新生が生じる場所)、カハール体(核内低分子RNPの構築場所として働く)、及び核スペックル(mRNAスプライシング因子の貯蔵コンパートメント)が挙げられる(Mao et al.,2011、Zhu and Brangwynne,2015)。こうしたオルガネラは、液滴の特性を示し、例えば、こうしたオルガネラは、分裂及び融合を起こし得るため、その形成は、液−液相分離によって媒介されるものと説明されている。精製されたRNAとRNA結合タンパク質との混合物は、こうした型の相分離構造体をインビトロで形成する(Berry et al.,2015、Feric et al.,2016、Kato et al.,2012、Kwon et al.,2013、Li et al.,2012、Wheeler et al.,2016)。こうした知見と一致して、過去の理論研究は、ゲルの形成が、通常、相分離によって達成されることを示している(Semenov and Rubinstein,1998)。したがって、いくつかの研究は、タンパク質及び核酸の高密度で存在すること、これに加えて、こうした分子の間に協同的相互作用が生じることが、相分離した細胞内構造体の形成に関与することを示している。
上記のように、スーパーエンハンサーは、本質的には、転写因子、転写補助因子、クロマチン制御因子、非コードRNA、及びRNAポリメラーゼII(RNAPII)の高密度協同的集合体であると考えることができる。さらに、低複雑性ドメインを有するいくつかの転写因子は、ゲル様構造をインビトロで創出することが提唱されている(Han et al.,2012、Kato et al.,2012、Kwon et al.,2013)。したがって、本発明者らは、相分離多分子集合体の形成に伴う相分離が、SE形成の間に生じる可能性があり、典型的エンハンサーでは生じる頻度が低いという仮説を立てている(図4A)。
SEの構築及び機能に対する相分離の役割を探求するために、本発明者らは、相互作用コンポーネントの数及び結合価、ならびにこうした転写制御因子及び核酸の間の相互作用の親和性と関連付けて協同性を強調する単純なモデルを提唱する。このモデルのコンピューターシミュレーションは、SEの重要な特徴が、その形成、機能、及び脆弱性の側面を含めて、相分離によって説明され得ることを示す。このシミュレーションは、弱いエンハンサー及び強いエンハンサーによって誘導される転写バーストパターンの間に差異が観測されること、ならびに単一の共有エンハンサーによって制御される複数の遺伝子が同時バーストすることとも一致する。本発明者らは、この相分離モデルから得られるいくつかの意義及び予測に着目することによって、この相分離モデルが脊椎動物におけるこの転写制御概念をさらに探求するする上での指針となり得ると結論付ける。
エンハンサーの構築及び機能の相分離モデル
エンハンサー及びSEに結合する分子(転写因子、転写コアクチベーター(例えば、BRD4)、RNAPII、及びRNAなど)の多くが、複数の部位に可逆的な化学修飾(例えば、アセチル化、リン酸化)を受け得る。こうした多価分子は、そのような修飾を受けると、複数の他のコンポーネントと相互作用できるようになり、それによって「架橋」を形成する(図4A)。本明細書では、架橋は、可逆的な化学修飾を含む、任意の可逆的特徴、または動的な結合相互作用及び非結合相互作用に関与する任意の他の特徴を有するものとして定義され得る。相分離が、観測されるある特定の転写制御特徴の基礎をなし得るかどうかを考える上では、相互作用分子の結合価及び親和性(生物学者が測定するパラメーター)の変化に相分離が依存することを説明するために単純なモデルが必要である。以下では、本発明者らは、そのようなモデルについて記載し、このモデルのパラメーターがどのように典型的エンハンサー及びスーパーエンハンサーの特徴を示すのかについて説明する。
このモデルでは、エンハンサーのタンパク質コンポーネント及び核酸コンポーネントは、鎖様分子として表現され、こうした鎖様分子のそれぞれが、他の鎖との相互作用に関与する可能性があり得る一連の残基を含む(図4B)。こうした残基は、可逆的な化学修飾を受け得る部位として表現され、こうした残基の修飾は、それらの残基が鎖の間に非共有結合性の架橋相互作用を形成する能力と結び付く(図4B)。転写因子、補助因子、及びRNAポリメラーゼIIのC末端ドメイン(CTD)のヘプタペプチド反復配列を含めて、多数のエンハンサーコンポーネントがリン酸化を受け、こうしたエンハンサーコンポーネントは、そのリン酸化状態に基づいて他のタンパク質に結合することが知られている(Phatnani and Greenleaf,2006)。本発明者らのモデルは、結合相互作用を生じさせ得るそのようなリン酸化または脱リン酸化、ならびにヒストン及びエンハンサーに見られる他のタンパク質及び転写制御因子の相互作用(アセチル化、メチル化、または他の型の化学修飾によって調節される)を含む。簡潔には、本発明者らは、すべての型の化学的な修飾及び脱修飾を、一般に、それぞれ「修飾因子」及び「脱修飾因子」によって媒介される「修飾」及び「脱修飾」と称する。
このモデルは、その最も単純な形態では、以下の3つのパラメーターを有する:1)「N」=系における巨大分子(「鎖」とも称される)の数。このパラメーターによって相互作用コンポーネントの濃度が設定される(N値が大きくなるほど濃度が高くなる)。SEは、より大きなN値を有すると考えられる一方で、典型的エンハンサーは、それが有するコンポーネントの数がより少ないものとしてモデル化される。2)「f」=結合価(各分子の残基の中で、修飾され、他の鎖との架橋に関与する可能性を有し得る残基の数に対応する)。本発明者らの単純モデルでは、残基が別の鎖と架橋を創出することが可能になるには、当該残基が修飾される必要があることに留意されたい。概念的には、残基の架橋形成に脱修飾状態が必要であるならば、架橋形成を可能化または阻害する酵素活性が逆転しない限り、このモデルは同様に機能する。3)Keq=(kon/koff)(架橋反応または相互作用を説明する結合速度及び解離速度によって定義される平衡定数)(図4B)。
このモデルの平衡特性は、少数の前提事項(鎖長は長いものとする、及び分子内架橋または同じ2つの鎖の間に複数の結合を許容しないなど)を考慮して分析的に得ることができる(Cohen and Benedek,1982、Semenov and Rubinstein,1998)。相互作用鎖の限界濃度(C*)を超えると、相分離が生じて多分子集合体が創出される。こうした条件の下では、C*は、1/Keqf2に従って変化する。したがって、集合体が形成されるための限界濃度は、結合価に敏感に依存し、結合定数にはそれほど依存しない。
本発明者らは、モデルのコンピューターシミュレーションを実施(上記の平衡理論における前提事項のいくつかを緩和した)することで、その平衡特性というよりは、むしろその動的特性を探求した。モデルの動的コンピューターシミュレーションでは、結合価は、残基の修飾及び脱修飾に伴って0〜「f」の間で変化し、本発明者らの試験では、修飾反応速度及び脱修飾反応速度は変動しない。系における修飾因子と脱修飾因子との比(例えば、キナーゼとホスファターゼとの比)によって、各コンポーネント上で修飾され、架橋し得る部位の数が決まり、本発明者らの試験では、この比は変動する。
エンハンサーまたはSEのさまざまなコンポーネントが密集する領域に相当する体積を固定し、鎖の数をNとしてモデルのシミュレーションを実施した。本発明者らは、さまざまなN値を考慮した。シミュレーションの間は、修飾及び脱修飾が鎖に生じ得、その際、動力学的定数はk修飾=0.05、k脱修飾=0.05とされる。修飾因子レベル及び脱修飾因子レベル(N修飾、N脱修飾)は変動する。架橋の形成及び解離は、動力学的定数をkon=0.5及びkoff=0.5(Keq=kon/koff=1)としてシミュレーションされる。異なる鎖上の修飾残基のみに架橋形成を許容した。すなわち、鎖内架橋反応は許容されないが、2つの鎖の間には複数の結合が形成され得る。あらゆる鎖上のあらゆる部位が、他の鎖上のすべての他の部位と架橋することを許容するという限定条件でシミュレーションを実施した(Cohen and Benedek,1982、Semenov and Rubinstein,1998)。すなわち、相互作用部位の平均濃度(N及び修飾部位数によって決定される)が存在する一方で、シミュレーション体積内の局所濃度変動は考慮されない。
シミュレーションは、Gillespieアルゴリズム(Gillespie,1977)を使用して実施し、このアルゴリズムでは、考慮される動的プロセス(すなわち、修飾反応及び架橋反応)を時間発展させた確率論的軌跡が生成される。任意の単一軌跡は、サイズが変動するクラスターに対して相互作用鎖がどのように分布するかを含めて、相互作用鎖の状態の時間発展を表すものである。すべての軌跡の初期化において、鎖は脱修飾され、架橋が存在しない状態とされ、すなわち、各鎖は、「個別クラスター」内にあるようにされる。シミュレーションは、安定状態に到達するまで実行され、安定状態に到達すると、系の特性(例えば、平均クラスターサイズ)が時間変動しなくなる。統計的に平均化された特性を得るために、必要に応じて、すべての計算について複数の軌跡(50回反復実行して得られるもの)が取得される。
シミュレーションでは、架橋鎖の最大クラスターのサイズを、転写活性(TA)に代わるものとして定義した(鎖の総数によって調整される)[TA=(クラスターmaxのサイズ)/N]。系におけるすべての鎖が単一の架橋クラスターを形成すると(TA=約1)、相分離集合体の生成が終了する。この集合体は、エンハンサー/SEに対する因子の結合、さらにはプロモーターに対する因子の結合も含むと考えられ、こうした結合が、遺伝子の転写増進に重要なコンポーネントの密集を引き起こす。本発明者らは、エンハンサー及びSEによって生じる転写活性を時間の関数として記録した。
結合価の変化を伴う転写制御
結合価の関数として転写活性をモデル化したところ、典型的エンハンサーの形成と比較してSEの形成にはより顕著な協同性が伴うことが明らかとなった(図4C)。こうしたシミュレーションでは、SEは、N=50分子からなる系としてモデル化し、典型的エンハンサーは、N=10分子からなる系としてモデル化しており、こうしたエレメントにおけるコンポーネントの密度差異がおよそ1桁であることと一致させた(Hnisz et al.,2013)。次に、本発明者らは、結合価を変えて転写活性(TA)をグラフ化し、その間、他のパラメーターはすべて、一定に保った。SEでは、正規化結合価値が2(すなわち、f=3の参照値の2倍)のときに転写活性が最大転写活性の約90%に達した一方で、典型的エンハンサーでは、最大転写活性の90%が達成されるのは、正規化結合価値が5のときである。正規化結合価が2のとき、典型的エンハンサーでは、転写活性が最大転写活性の約40%に達した(図4C)。こうした結果は、同一条件の下では、多数のコンポーネントからなるSEが、少数のコンポーネントからなる典型的エンハンサーと比較して低い結合価レベルで、より大きな連結クラスター(すなわち、相分離を起こす)を形成することを示唆している。さらに、SEでは、正規化結合価値が約1.5のときに転写活性が急上昇する一方で、典型的エンハンサーでは、結合価が上昇しても転写活性の上昇はより穏やかかつなだらかなものであることが観測され(図4C)、このことは、以前の考察と一致する(図3A)(Loven et al.,2013)。
協同性の増進に起因して相互作用コンポーネント(すなわち、スーパーエンハンサーコンポーネント)の結合価の変化時にSEの転写活性変化が急速化することは、ヒル係数によって定量化することができる。SEの挙動は、ヒル係数の値が大きくなることによって特徴付けられ、このことは、協同性が大きくなり、結合価の変化に対して過剰感受性であることを示している(図4C)。実際、図4Cの挿入図に示されるように、約N0.4として、エンハンサーに関与するコンポーネントの数に応じて、広いN値範囲にわたってヒル係数が上昇している。同様に、予測した通り、典型的エンハンサーの転写活性とSEの転写活性との間の差異は、それらのモデル化に使用する「N」値の差異と相関した。Nの差異が十分に大きい場合、図4Cに報告される挙動が再現される(図8)。
スーパーエンハンサーの形成及び脆弱性
相分離モデルのこうした予測は、以前に公開された実験データと定性的に一致している。例えば、TNFαによって内皮細胞を刺激すると、炎症性遺伝子にSEが形成される(Brown et al.,2014)。この文献では、転写補助因子BRD4(SE及び典型的エンハンサーの主要コンポーネント)のゲノム占有によってSE形成が監視された。こうした細胞において炎症性の刺激が生じると、他の遺伝子における典型的エンハンサーと比較して炎症性遺伝子のSEへとBRD4がより顕著に動員された(Brown et al.,2014)。このことが生じる理由は、相互作用コンポーネントの結合価を変化させる修飾がTNFαによる刺激によって生じ、SEについては、典型的エンハンサーと比較して低い結合価値を上回ると相分離が急激に生じ、それによって相互作用コンポーネント(BRD4など)の動員が増進するためであることを、本発明者らの相分離モデルは示唆している(図4C)。
次に、本発明者らは、共通の転写補助因子が阻害剤によって乱れることに対してSEが異常に脆弱性であることが相分離モデルによって説明されるかどうかを調べた。BRD4及びCDK7は、典型的エンハンサーのコンポーネントでもあり、SEのコンポーネントでもあるが、SE及びその関連遺伝子は、典型的エンハンサーと比較してBRD4及びCDK7の化学的阻害に対する感受性がはるかに高い(図5A)(Chipumuro et al.,2014、Christensen et al.,2014、Kwiatkowski et al.,2014、Loven et al.,2013)。本発明者らは、本発明者らの系における脱修飾因子/修飾因子活性の比を変化させる(相互作用分子内の修飾部位のバランスが変化する)ことによって結合価を減少させたときのBRD4阻害剤及びCDK7阻害剤の作用をモデル化した。これを行った理由は、CDK7が、修飾因子として働くキナーゼであり、BRD4が、多くのコンポーネントと相互作用し得る大きな結合価を有しており、それ故にBRD4を阻害することによって相互作用コンポーネントの平均結合価が不相応に減少するものであることによるものである。図5Bに示されるように、SE(N=50)は、典型的エンハンサー(N=10)と比較して低い脱修飾因子/修飾因子比でその活性を急激かつ大幅に失う。こうした結果は、相分離が、主要な変数が閾値を超えると突然生じる協同的現象であるため、SE活性が結合価の変動に対して高い感受性を有するという概念と一致する。
転写バースト
真核生物における遺伝子発現は、一般に、突発性であり、転写バーストからなり立っている。本発明者らは、相分離モデルが転写バーストを予測し得るかどうかを調べた。生細胞において転写バーストを定量的に画像化した最近の研究からは、エンハンサーによって誘導される遺伝子発現のレベルが転写バーストの頻度と相関することが示唆されている(Fukaya et al.,2016)。弱いエンハンサーと比較して強いエンハンサーでは、バーストの誘導頻度が高く、ある特定の強度レベルを超えると、複数のバーストがもはや分離されず、その結果、比較的一定した高い転写活性が見られた(図6A)。相分離モデルは、SEが、強いエンハンサーによって示される低変動(比較的一定した高い転写活性を中心とするもの)バーストパターンを伴って高頻度でバーストを繰り返す一方で、典型的エンハンサーが示すバーストは、変動が大きく、頻度は低いことを示している(図6B)。SEについては、相分離が持続的に生じると(TAが飽和する)、揺らぎが静まり、その結果、TAの変動が低下する。このバーストパターン差異は、本発明者らの結果をパワースペクトルに変換することによって定量化できる。強いエンハンサーは、SEと比較してコンポーネント数(N)が少ないものの、典型的エンハンサーと比較して、結合価架橋数が大きいため、安定な相分離多分子集合体をより容易に形成することになると、本発明者らは予測する。それ故に、本発明者らのモデルからは、SEのような強いエンハンサーが、弱いエンハンサーまたは典型的エンハンサーと比較して異なる転写バーストパターンを示すであろうことが予測される。
相分離モデルは、2つのプロモーターが、同じエンハンサーによって活性化されると同期的バーストを示し得る(Fukaya et al.,2016)という興味深い知見とも一致しており、この場合、相分離集合体には、当該エンハンサー及び両方のプロモーターが取り込まれている(図6C)。
相分離集合体をインビボで形成する候補転写制御因子
本発明者らの単純モデルでは、相互作用コンポーネント(すなわち、スーパーエンハンサーコンポーネント)上の残基の修飾度(または結合価)が変化する結果、分子間相互作用が生じることによって相分離が媒介される。一方で、実際は、エンハンサーは、そのような相互作用を説明し得る多くの多様な因子から構成されており、こうした因子のほとんどが、可逆的な化学修飾を受ける(図7)。こうしたコンポーネントには、転写因子、転写コアクチベーター(メディエーター複合体及びBRD4など)、クロマチン制御因子(例えば、ヒストン修飾のリーダー、ライター、及びイレイサー)、サイクリン依存性キナーゼ(例えば、CDK7、CDK8、CDK9、CDK12)、RNA結合タンパク質を伴う非コードRNA、ならびにRNAポリメラーゼIIが含まれる(Lai and Shiekhattar,2014、Lee and Young,2013、Levine et al.,2014、Malik and Roeder、2010)。こうした分子の多くが多価であり、すなわち、複数のモジュラードメインまたは相互作用モチーフを含み、それ故に、複数の他のエンハンサーコンポーネントと相互作用することができる。例えば、ヒト細胞では、RNAポリメラーゼIIの大サブユニットは、そのC末端ドメイン(CTD)にヘプタペプチド52回反復配列を含んでおり、いくつかの転写因子は、低複雑性ドメインの反復配列、またはポリマー化易発性の同じアミノ酸区間の反復配列を含む(Gemayel et al.,2015、Kwon et al.,2013)。エンハンサー及び多くのプロモーターのDNA部分は、複数の転写因子に対する結合部位を含んでおり、こうした転写因子のいくつかは、DNA及びRNAの両方に同時に結合し得る(Sigova et al.,2015)。エンハンサーにおけるヒストンタンパク質は、クロマチンリーダーによって認識され得る修飾の含量が高まっており、それ故に、隣接ヌクレオソームは、複数のクロマチンリーダーと相互作用できるプラットホームであると考えることができる。RNAは、それ自体が化学的に修飾され、複数のRNA結合分子及びスプライシング因子と物理的に相互作用し得る。こうした相互作用に関与する残基の多くが、「架橋」を形成し得る(図7)。
相分離モデルから考え得る意義及び予測
本発明者らの単純な相分離モデルからは、発生及び疾患における遺伝子制御の原理をさらに探求するための概念的枠組みが得られる。以下では、本発明者らは、転写制御における相分離多分子複合体の構築と関連する可能性のある少数の現象例、及びモデルから得られるいくつかの試験可能な予測について論じる。
転写制御因子の相分離多分子集合体の可視化
モデルに必要不可欠なことは、転写制御因子の多分子集合体の相分離がインビボで直接的に観測され得るかどうかを試験し、そうした複合体の相分離が遺伝子活性と結び付くことを実証することである。いくつかの系統の最近の研究からは、こうした問いに対する最初の洞察が得られる。例えば、高分解能顕微鏡法を使用した最近の研究は、シグナル刺激が生じると、哺乳類の生細胞においてRNAポリメラーゼIIの大きなクラスターが形成されること(Cisse et al.,2013)、及び遺伝子のサブセットにおける転写が一致して活性化されること(Cho et al.,2016)を示している。したがって、この技術ならびに他の単分子技術(Chen and Larson,2016、Shin et al.,2017)を使用すれば、SEによって制御される遺伝子の近傍に相分離多分子複合体が形成されるかどうか、及び本発明者らが本明細書に記載する単純モデルが転写制御の特徴を予測するかどうか、を可視化及び試験することが可能となり得る。一例として、本発明者らは、RNAPII C末端ドメイン(ヘプタペプチド52回反復配列からなる)が、この集合体内の結合価に寄与する主要因子であり、短縮型CTDを有するRNAPIIを発現する細胞では、クラスターの半減期が顕著に低下するであろうという仮説を立てている。
シグナル依存性の遺伝子制御
細胞は、情報を遺伝子に中継するシグナル伝達経路介して、自体の環境を感知し、それに応答するが、特定のシグナル伝達経路に応答する遺伝子は、同じシグナルに対する活性化の大きさが異なり得る。本発明者らは、相分離が生じると集合体が、脱修飾因子であるコンポーネントを動員するという仮説を用いて計算を実施した。こうした条件の下では、相分離(すなわち、転写活性)への移行及び相分離(すなわち、転写活性)の解消は、典型的エンハンサーと比較してSEではより明瞭である。興味深いことに、そのようなシミュレーションは、SEコンポーネントの最大結合価及び最大数が存在し、この最大結合価及び最大数を超えると、現実的な時間尺度では集合解離することが不可能であることを示唆している(図9)。これは、こうした分子がそのように重度に架橋すると、準安定状態に長時間留まるためである。このモデルから予測されることは、細胞シグナル伝達が病的に過剰活性化されることが病状の基礎をなしており、この病的な過剰活性化が、正常な生理学的条件の下ではそうした病状を相殺することになるシグナルに対して少なくとも一時的に無応答性となる発現プログラムへと細胞をロックすることによって生じる得ということである。本発明者らは、相互作用コンポーネントの結合価または数を増加させることによってそのような状態を人工的に誘導し得ると推測する。
転写制御の忠実度
同じ環境シグナルに曝露された同系細胞集団内での遺伝子の転写物レベルの変動(転写ノイズと称される)は、細胞表現型に大きな影響を与え得る(Raj and van Oudenaarden,2008)。相分離モデルは、SEの形成には高い協同性が伴うため、結合価(修飾因子/脱修飾因子比によって調節され、この調節は、実は、発生シグナルが活性化カスケードを介して伝達されることと類似している)が、厳格に規定された閾値を超えると転写が生じることを示している(図4C)。典型的エンハンサーでは、コンポーネントの数が少ないため、環境シグナルに伴う転写の変動は、幅広い範囲のシグナル強度にわたって連続化し、これによって「ノイズが多くなる」か、または転写エラーが生じやすくなる可能性がある。相分離点付近では、2つの相(本発明者らの場合では低いTA及び強固なTA)の間に揺らぎが存在する。本発明者らのモデルは、こうした揺らぎ(またはノイズ)が、SEでは狭い範囲の環境シグナルに限局されるが、これに対して、典型的エンハンサーではこうした揺らぎが生じる範囲が広いことを示す(図10)。こうした揺らぎの幅を正規化したものもまた、SEの方が小さい。こうした結果は、細胞独自性の維持に必要な遺伝子を相対的にエラーなく、強固に転写すること可能にすることが、SEが進化を遂げた唯一の理由であることを示唆している。各遺伝子を制御するために、特定の分子を進化させることによって媒介される化学的特異性ではなく、協同性を介して転写忠実度を得るこの形態は、一方では、病状における異常な遺伝子発現の誘導に利用される可能性もある(例えば、がん細胞におけるSE)。
転写阻害に対する抵抗性
スーパーエンハンサーコンポーネント(BRD4など)の小分子阻害剤は、医療機関において抗がん治療剤として現在試験されており、そこでは、標的化治療剤に対して抵抗性の腫瘍細胞が出現することが普遍的な課題となっている(Stathis et al.,2016)。興味深いことに、さまざまな腫瘍細胞においていずれの遺伝的変化も伴わずにJQ1(BRD4を阻害する薬剤)に対する抵抗性が生じることが最近の研究から明らかになった(Fong et al.,2015、Rathert et al.,2015、Shu et al.,2016)。JQ1は、BRD4とアセチル化ヒストンとの相互作用を阻害するが、JQ1抵抗性細胞では、BRD4が過剰にリン酸化されるため、BRD4が依然としてスーパーエンハンサーに動員される(Shu etal.、2016)。このことは、BRD4が、SEの高結合価コンポーネントであるという本発明者らのモデルの予測と一致しており、BRD4とアセチル化ヒストンとの相互作用を阻害(すなわち、BRD4の結合価を低減)しても、BRD4自体を標的とするキナーゼ経路が活性化されてBRD4の結合価が増加することによって埋め合わせが生じる可能性がある。本発明者らのモデルでは、スーパーエンハンサーは、ヒル係数が大きいこと、すなわち、協同性が高いことによって特徴付けられ(図4C)、このことは、複数のSEコンポーネントを正しく選択して阻害すれば、腫瘍細胞におけるSE誘導性がん遺伝子に相乗的な作用を与える得ることを示唆している。この予測が正しければ、転写制御因子の阻害剤を追加で用いる併用治療によってBRD4阻害剤に対する抵抗性を阻止し得るはずである。
結論
転写制御のこの相分離モデルの本質的特徴は、この相分離モデルがコンポーネントの結合価及び数の変化と関連付けて相互作用コンポーネント間の協同性を考慮していることである。この単一の概念的枠組みは、最近観測されたさまざまな転写制御特徴(因子のクラスター化、動的変化、転写阻害剤に対するSEの過剰感受性、及び同じエンハンサーによる複数の遺伝子の同時活性化など)を一貫して説明するものである。細胞シグナル伝達経路は、結合価を変えることによって短時間で転写を調節し得る。細胞の増殖及び生存の選択となれば、より長い時間にわたってエンハンサーの相互作用数またはサイズの増減が生じることになる。このモデルからは、多くの細胞状況において探求可能ないくつかの予測(いくつかは上に記載される)も得られる。同様に、魅力的なことに、このモデルは、エンハンサー型の遺伝子制御、及び特にスーパーエンハンサー型の遺伝子制御を、相分離多分子集合の結果として、幅広いファミリーの無膜オルガネラ(核における核小体、カハール体、及びスプライシングスペックル、ならびに細胞質におけるストレス顆粒及びP体など)に当てはめるものである。
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実施例2
本明細書において、本発明者らは、スーパーエンハンサーが液体様相分離凝縮体を形成するという実験的証拠を提供する。これによって、こうした制御エレメントについて述べられる多様な特性を説明するための新たな枠組みが確立され、LLPSによって制御される生化学的プロセスが遺伝子制御を含むように拡大される。
BRD4及びMED1は、核内凝縮体のコンポーネントである
SEを構成するエンハンサークラスターは、マスター転写因子及び通常は高密度の補助因子(BRD4及びメディエーターなど)によって占有され、こうしたものの存在が、SEの定義に使用され得る(1、2、13)。本発明者らは、SEが核内凝縮体を形成するのであれば、こうしたSE濃縮補助因子を細胞の核において個別の構造体として可視化できるであろうと推論した。実際、BRD4及びMED1(メディエーターのサブユニット)に対する抗体を用いる免疫蛍光(IF)の構造化照明顕微鏡法(SIM)で分析したところ、マウス胚性幹細胞(mESC)の核に個別のフォーカスが存在することが明らかとなった(図11A)。BRD4フォーカス及びMED1フォーカスは、顕著にオーバーラップしており(図11B)(ChIP−seqデータ(図16A及び図15B)とも一致する)、このことは、これら2つのタンパク質が、典型的には、こうした凝縮体を共占有することを示唆している。BRD4フォーカス及びMED1フォーカスは、HP1a(図11C)または核の他のDAPI濃染色領域(図11A)とはあまりオーバーラップしておらず、このことは、BRD4凝縮体及びMED1凝縮体が、核のヘテロクロマチン領域の外側に生じる傾向を有することを示している。本発明者らは、以前に報告された核内凝縮体についても、デコンボリューション顕微鏡法またはSIMによって可視化した。可視化した核内凝縮体には、核小体(FIB1)(14)、ヒストン構造体(NPAT)(15)、構成的ヘテロクロマチン(HP1a)(16、17)(図11D)が含まれる。核内凝縮体のサイズ及び数は多様であった一方で、BRD4及びMED1のものは、以前に報告された凝縮体のサイズ範囲内であった(図11E)。こうした結果は、BRD4及びMED1が、核内で拡散するのではなく、個別領域を占有することを示しており、本発明者らは、こうした個別領域をBRD4凝縮体及びMED1凝縮体と称する。
BRD4凝縮体及びMED1凝縮体は、転写が活発なSEに生じる
エンハンサーに対するBRD4及びMED1の結合のChIP−seqによる網羅的な解析からは、mESCには、数百のSEが存在し、こうした補助因子のレベルが相対的に高いエンハンサーが追加で多く存在することが示唆されている(1)。BRD4凝縮体及びMED1凝縮体が、活性SE(SE誘導性のRNA合成が生じている部位)と同時に生じるかどうかを決定するために、本発明者らは、BRD4またはMED1のIFを使用して凝縮体を同定すると共に、SE誘導性の新生転写物のRNA−FISH(イントロンRNAのプロービング)を使用することによって活性SEを同定した(図12及び図17)。4つの異なる活性SEを調べたところ、各場合において、活性SE誘導性の転写物の存在部位は、BRD4凝縮体またはMED1凝縮体とオーバーラップするか、またはその近傍に位置していた(図12B及び図17B)。FISHシグナル及びIFシグナルがオーバーラップするか、または近傍に位置する頻度は、偶然起こり得る頻度と比較してはるかに高いものであった(図17C〜17D、材料及び方法を参照のこと)。こうした結果は、転写が活発なSEに誘導される遺伝子が、BRD4またはMED1を含む凝縮体と結び付くことを示している。
BRD4凝縮体及びMED1凝縮体は、液体様の光退色後蛍光回復動力学を示す
本発明者らは、BRD4凝縮体及びMED1凝縮体が、液体様凝縮体に特有の特徴を示すかどうかを探求して調べた。液体様凝縮体の顕著な特徴は、内部的な動的再組織化及び急速交換動力学であり(10〜12)、これらの特徴は、光退色後蛍光回復(FRAP)速度を測定することによって調べることができる。生細胞におけるBRD4体及びMED1体の動態を試験するために、本発明者らは、mESCにおいてBRD4−GFPまたはMED1−GFPのいずれかを異所性に発現させ、FRAP実験を実施した。光退色実施後、BRD4−GFP凝縮体及びMED1−GFP凝縮体では、数秒の時間尺度で蛍光の回復が生じ(図13及び図18A)、見かけの拡散係数は、それぞれ0.54±0.15μm2/秒及び0.36±0.13μm2/秒であった。こうした値は、以前に報告された液体様凝縮体コンポーネントと類似している(18、19)(図18A)。興味深いことに、蛍光の回復は同じ境界内で生じており、このことは、この蛍光シグナルが、コンポーネントと希薄相との交換が急速に生じる動的濃密相を示すことを実証している(図13B及び図13E)。パラホルムアルデヒドでの固定化を行うと、BRD4−GFP凝縮体またはMED1−GFP凝縮体は、依然として存在したが、光退色実施後の回復を示さなくなっており、このことは、架橋によって凝縮体の全体構造は維持されるが、希薄相との交換は生じなくなることを実証している(図18B)。ATPは、エネルギー依存性プロセスを誘導し、及び/またはそれに固有のヒドロトロープ活性を介して凝縮体の流動性を促進することに関与している(20、21)。グルコース除去及びオリゴマイシン処理によって細胞ATPを枯渇させると(図18C)、BRD4−GFP体及びMED1−GFP体の両方で光退色後蛍光回復が抑止された(図13C及び図13F)。こうした結果は、BRD4を含む構造体及びMED1を含む構造体が、細胞において液体様特性を有することを示しており、このことは、以前に報告された相分離凝縮体と一致する。
BRD4及びMED1の天然変性領域は、インビトロで相分離する
天然変性領域(IDR)を有するタンパク質は、凝縮体形成の促進に関与している(10、12)。BRD4及びMED1は、大きなIDRを含む(図14A)。凝縮体形成に関与するいくつかのタンパク質の精製IDRは、インビトロで相分離液滴を形成する(18、22、23)。それ故に、本発明者らは、BRD4またはMED1のIDRがインビトロで相分離液滴を形成するかどうかを調べた。精製組換えGFP−IDR融合タンパク質(BRD4−IDR及びMED1−IDR)(図14B)を液滴形成緩衝液(材料及び方法を参照のこと)に添加すると溶液が不透明化したが、GFPのみを含む対応溶液は透明のままであった(図14C)。不透明なMED1−IDR溶液及びBRD4−IDR溶液を蛍光顕微鏡法で分析したところ、GFP陽性のミクロンサイズの球状液滴が存在し、こうした球状液滴は、溶液中を自由に移動し、ガラスのカバースリップの表面に落ちると表面を濡らし、そこに安定して留まるものであることが明らかとなった。MED1−IDR液滴及びBRD4−IDR液滴は、高度に球状であることがアスペクト比分析から決定され(図19A)、こうして高度に球状であることは、液体様液滴で予測される特性である(10〜12)。
相分離液滴は、典型的には、系におけるコンポーネントの濃度に応じてサイズが増減する(24)。本発明者らは、0.6μM〜20μMの範囲の異なる濃度でBRD4−IDR、MED1−IDR、及びGFPを用いて液滴形成アッセイを実施した。BRD4−IDR及びMED1−IDRは、濃度依存性のサイズ分布を有する液滴を形成した一方で、GFPは、試験したすべての条件で拡散したままであった(図14D及び図19B)。濃度が下がると液滴は小さくなったが、最小試験濃度(0.6μM)でもBRD4−IDR液滴及びMED1−IDR液滴が観測された(図19C)。
精製IDRからなる液滴は、塩濃度の上昇に感受性であり得る(25)。NaCl濃度の上昇(50mM→350mM)に伴ってBRD4−IDR及びMED1−IDRの両方のサイズ分布が、液滴が小さくなる方向に向かって変化し、このことは、弱い塩感受性タンパク質間相互作用のネットワークによって液滴形成が誘導されることと一致する(図14E及び図19D)。
液滴が、不可逆的に凝集するのか、または可逆的に相分離凝縮するのかどうかを試験するために、BRD4−IDR及びMED1−IDRの液滴を形成させ、等モル濃度の塩溶液または高濃度の塩溶液で希釈してタンパク質濃度を1/2にした(図14F)。事前に形成させたBRD4−IDR液滴及びMED1−IDR液滴は共に、希釈及び塩濃度上昇に伴ってサイズ及び数が減少した(図14F)。こうした結果は、BRD4−IDR液滴及びMED1−IDR液滴が系の条件に依存してサイズ分布を形成し、一度形成されても、系の変化に応答性であり、その際、サイズ分布が急速に調整されることを示している。こうした特徴は、弱いタンパク質間相互作用のネットワークによって形成される相分離凝縮体に特有のものである。
MED1 IDRは、細胞における液−液相分離に関与する
細胞における相分離の促進においてMED1のIDRが役割を担うかどうかを調べるために、本発明者らは、インビボでの液滴形成を直接的に観測することを可能にする以前に開発されたアッセイを使用した(26)。簡潔に記載すると、光活性化可能な自己会合Cry2タンパク質がmCherryで標識され、目的IDRと融合しており、これによって、選択IDRの局所濃度を青色光誘導性に細胞内で上昇させることが可能である(図15A)(26)。このアッセイでは、相分離を促進することが知られるIDRは、cry2の光反応性のクラスター特性を増進することで(27、28)、青色光刺激に応じて液体様の球状液滴(optoDroplet)を急速に形成させる(図15A)(26)。MED1 IDRの一部をCry2−mCherryと融合させると、青色光刺激に応じたミクロンサイズの球状optoDropletの急速形成が促進された(図15B及び図15C)。青色光刺激の間、近位に存在するoptoDropletが共に融合している(図5D)。さらに、融合においては、くびれ形成及び球形への弛緩という特徴的な液体様融合特性が示された(図5E)。
次に、本発明者らは、MED1−IDR optoDropletが、液体様のFRAP回復速度を示すかどうかを試験した(図15F〜H)。青色光を用いてOptoDroplet形成を誘導した後、青色光の非存在下で光退色を実施し、回復を観測した。蛍光は、数秒以内に回復し、optoDropletの境界を保持した(図15F及び図15H)。青色光によるCry2相互作用の活性化の非存在下で急速なFRAP動力学が得られたことは、青色光によって確立されたMED1−IDR optoDropletが、元のシグナルの非存在下で希薄相との交換が生じる動的な集合体であることを示唆している。こうしたデータは、生細胞の核内の臨界局所濃度での液−液相分離にMED1のIDRが関与し得ることを示す。
考察
スーパーエンハンサー(SE)は、健康な細胞状態及び病的な細胞状態において顕著な役割を有する遺伝子を制御することから、こうしたエレメントの理解が進めば、こうした細胞状態の転写制御に関与する制御機構への新たな洞察を得ることができる(1、2、29)。SE及びそのコンポーネントは、相分離凝縮体を形成することが提唱されているが(3)、この仮説に対する実験的証拠はほとんど存在しない。本明細書において、本発明者らは、2つの主要なSEコンポーネントであるBRD4及びMED1が、SE誘導性の転写が生じる部位に核内凝縮体を形成することを実証する。こうしたSE凝縮体内では、BRD4及びMED1は、インビボでの相分離を誘導する他のタンパク質について以前に報告されたものと同様の見かけの拡散係数を示す(18、19)。BRD4のIDR及びMED1のIDRの両方が、インビトロでの相分離に十分なものであり、MED1−IDRの一部分は、生細胞において液−液相分離を促進する。こうした結果は、転写装置を主要遺伝子にコンパートメント化し、そこに密集させる相分離凝縮体をSEが形成することを示すと共に、相分離において役割を担う可能性のあるSEコンポーネントを同定するものである。このモデルは、主要な細胞独自性遺伝子の制御及び核の機能的組織化に関わる機構に対する意義を有する。
SEは、マスター転写因子(TF)がエンハンサークラスターに結合することによって確立され(1、2)、こうしたマスターTFは、細胞独自性を規定する遺伝子発現プログラムの制御を確立する上で十分なものである(30〜36)。こうしたTFは、典型的には、結晶学的な方法によって決定可能な構造を有するDNA結合ドメインと、そのような方法によって規定できていない構造を有するIDRからなる転写活性化ドメインと、からなる(37〜39)。こうしたTFの活性化ドメインは、補助因子(メディエーター及びBRD4など)をSEに高密度で動員するものであり(2)、転写装置のこうしたコンポーネント及び他のコンポーネントの濃度は、液状凝縮体の形成に十分なものであると思われる。ヒトゲノムにコードされるほとんどのタンパク質と比較して、TF、補助因子、及び転写装置は、IDR含量が高く(40)、こうしたIDRは、弱い多価相互作用を媒介し、それによってインビボでの凝縮を促進し得る。本発明者らは、高結合価因子がSEに凝縮すると、分離濃密相内に反応るつぼが創出され、そこでは、転写装置の局所濃度が高いことで、強固な遺伝子発現が維持されることを提唱する。
染色体の核内高次構造化は、SE凝縮体によって影響を受ける可能性がある。SE内の個々のエンハンサーが互いに相互作用する頻度は例外的に高いことがDNA相互作用技術によって示されており(3、41〜43)、このことは、凝縮体がこうしたエレメントを濃密相中で近接するように導くいう考えと一致する。いくつかの最近の研究は、SEが互いに相互作用し得、この様式で染色体高次構造化にも寄与し得ることを示唆している(44、45)。コヒーシンは、染色体構造維持(SMC)タンパク質複合体であり、それが失われると核内でSEが広範に融合することから、SE間相互作用の抑制に関与している(45)。こうしたSE間相互作用は、液相凝縮体が融合を起こす傾向を有すること起因し得る(10〜12)。
重要な遺伝子において転写装置をコンパートメント化する相分離凝縮体をSEが形成するというモデルは、多くの疑問を生じさせる。凝縮がどのように転写量の制御に寄与するのか?RNAポリメラーゼIIクラスター(相分離凝縮体であり得る)の超分解能試験は、凝縮体の寿命と転写量との間に正の相関があることを示唆している(46)。どのコンポーネントが転写凝縮体の形成及び崩壊を誘導するのか?本発明者らの試験は、BRD4及びMED1が関与する可能性があることを示しているが、DNA結合TF、補助因子、RNA POLII、及び制御性RNAの役割については、さらなる研究が必要である。腫瘍細胞は、ドライバーがん遺伝子に例外的に大きなSEを有しており、こうした例外的に大きなSEは、その起源細胞には生じないものであり、そのいくつかは、SEでの濃度が高いコンポーネントを標的とする薬物に例外的に感受性である(29、47)。
材料及び方法
細胞培養
V6.5マウス胚性幹細胞(mESC)は、Jaenisch labからの供与物である。0.2%のゼラチン(Sigma、G1890)でコートされた組織培養プレート上で2i培地において細胞を増殖させた。この2i培地の組成は、DMEM−F12(Life Technologies、11320082)、0.5×B27サプリメント(Life Technologies、17504044)、0.5×N2サプリメント(Life Technologies、17502048)、追加の0.5mMのL−グルタミン(Gibco、25030−081)、0.1mMのb−メルカプトエタノール(Sigma、M7522)、1%のペニシリンストレプトマイシン(Life Technologies、15140163)、0.5×非必須アミノ酸(Gibco、11140−050)、1000U/mlのLIF(Chemico、ESG1107)、1μMのPD0325901(Stemgent、04−0006−10)、3μMのCHIR99021(Stemgent、04−0004−10)である。細胞は、加湿インキュベーターにおいて、5%のCO2雰囲気下、37℃で増殖させた。共焦点画像化、デコンボリューション画像化、及び超分解能画像化については、ガラスのカバースリップ(Carolina Biological Supply、633029)、ガラス底ディッシュ(Thomas Scientific、1217N79)、または8つのチャンバーを備えたカバーガラス(Life Technologies、155409PK、またはVWR、100489−104)の上で細胞を増殖させ、これらのものは、5μg/mlのポリ−L−オルニチン(Sigma−Aldrich、P4957)及び5μg/mlのラミニン(Corning、354232)を用いて、それぞれ37Cで30分間、及び37Cで2時間〜16時間コートしてから使用した。継代培養については、1000U/mlのLIFを含むPBS(LifeTechnologies、AM9625)で細胞を洗浄した。プレートからの細胞の剥離には、TrypLE Express Enzyme(Life Technologies、12604021)を使用した。TrypLEの反応停止は、FBS/LIF−培地を用いて行い、このFBS/LIF−培地の組成は、DMEM K/O(Gibco、10829−018)、1×非必須アミノ酸、1%のペニシリンストレプトマイシン、2mMのL−グルタミン、0.1mMのb−メルカプトエタノール、及び15%のウシ胎仔血清(FBS)(Sigma Aldrich、F4135)である。1000rpm、室温で細胞を3分間スピンダウンしてから、2i培地に再浮遊させ、5×106個の細胞を152cm2に蒔いた。
optoDroplet実験に使用するウイルスの生成には、HEK293T細胞(ATCC、CRL−3216)を使用した。HEK293T細胞の培養は、10%のFBS(Sigma Aldrich、F4135)、2mMのL−グルタミン(Gibco、25030)、及び100U/mLのペニシリン−ストレプトマイシン(Gibco、15140)が添加されたDMEM(GIBCO、11995−073)において、加湿インキュベーター中、5%のCO2雰囲気下、37℃で行った。
optoDroplet実験では、NIH3T3細胞(ATCC、CRL−3216)を使用した。NIH3T3細胞の培養は、10%のFBS(Sigma Aldrich、F4135)、2mMのL−グルタミン(Gibco、25030)、及び100U/mLのペニシリン−ストレプトマイシン(Gibco、15140)が添加されたDMEM(GIBCO、11995−073)において、加湿インキュベーター中、5%のCO2雰囲気下、37℃で行った。
コンストラクトの生成
30bpのセリン−グリシンリンカーを利用して全長ヒトMED1 cDNAをmEGFPと融合させることによってMED1−GFP発現コンストラクトを生成させ、これを、NEB Hi−Fiクローニングキット(NEB E5520S)を使用してレンチウイルス発現ベクター中のPGKプロモーターの隣に配置した。
細胞の処理及び細胞株の生成
トランスフェクト:細胞のトランスフェクトは、Lipofectamine3000(Life Technologies、L3000008)を用いて製造者の説明に従って行い、その際、下記の改変を加えた。1mlのFBS/LIF−培地に含めた1×106個の細胞を、6マルチウェルディッシュのうちの1つのゼラチンコートウェルに蒔いた。細胞を蒔く間、細胞上にLipofectamine−DNA混合物を直ちに添加した。12時間後、FBS/LIF−培地を2i培地で置き換えた。トランスフェクトから24〜48時間後に細胞を画像化した。
ATPの枯渇:0.5×B27サプリメント及び0.5×N2サプリメントが添加されたグルコース非含有DMEM(Gibco、11966025)において細胞を2時間培養した後、5mMの2−デオキシ−グルコース(Sigma、D6134)及び126nMのオリゴマイシン(Sigma、75351)と共に細胞を2時間インキュベートした。製造者の説明に従って生物発光アッセイ(Invitrogen、A22066)を使用して細胞のATPレベルを測定した。
免疫蛍光法
免疫蛍光法は、以前の報告のように実施し、その際、幾分かの改変を加えた(49)。簡潔に記載すると、コートガラス上で増殖した細胞を、4%のパラホルムアルデヒド(PFA)(VWR、BT140770)を含むPBSにおいて室温で10分間固定化した。PBSでの5分間の洗浄を3回行った後、細胞を4Cで保管するか、または免疫蛍光法を行うために処理した。0.5%のtriton X100(Sigma Aldrich,X100)を含むPBSを用いて細胞の透過処理を室温で5分間行った。PBSでの5分間の洗浄を3回行った後、4%のIgG非含有ウシ血清アルブミン(BSA)(VWR、102643−516)を用いて室温で少なくとも15分間、細胞をブロッキングし、4%のIgG非含有BSAにおいて一次抗体(抗体表を参照のこと)と共に室温で一晩インキュベートした。PBSでの洗浄を3回行った後、暗所で二次抗体(抗体表を参照のこと)によって一次抗体を認識させた。PBSを用いて細胞を3回洗浄し、20μm/mlのHOESCH(Life Technologies、H3569)を使用して暗所で核を室温で5分間染色した。Vactashield(VWR、101098−042)を用いてスライドガラスをスライド上にマウントした。透明マニキュア液(Electron Microscopy Science 番号72180)を用いてカバースリップをシールし、4℃で保管した。画像の取得は、MetaMorph取得ソフトウェア及びHammamatsu ORCA−ER CCDカメラ(W.M.Keck Microscopy Facility,MIT)を使用して、100×対物レンズを備えたRPIスピニングディスク型共焦点顕微鏡で行うか、または60×対物レンズを備えたApplied Precision DeltaVision−OMX Super−Resolution Microscope顕微鏡(Microscopy Core Facility,Koch Institute for Integrative Cancer Research)で行い、図の説明に記載されるように行った。構造化照明顕微鏡法は、直径が200nm未満の核内構造体に使用し、その他の場合は、図の説明に記載したようにデコンボリューション顕微鏡法または共焦点顕微鏡法を使用した。画像の後処理は、Fiji Is Just ImageJ(FIJI)(50)もしくはImaris v9.0.0 Bitplane Inc(W.M.Keck Microscopy Facility,MIT)(//bitplane.comで利用可能なソフトウェア)、またはSoftworx処理ソフトウェア(Microscopy Core Facility,Koch Institute for Integrative Cancer Research)を使用して行った。
RNA−FISHと免疫蛍光法との併用
免疫蛍光法は、以前の報告のように実施し、その際、下記の改変を加えた。免疫蛍光法は、RNaseが存在しない環境で実施し、ピペット及びベンチは、RNaseZap(Life Technologies、AM9780)で処理した。RNase非含有PBSを使用し、抗体の希釈は、常にRNase非含有PBSで行った。免疫蛍光法の完了後、4%のPFAを含むPBSを用いて細胞を室温で10分間、ポスト固定化した。RNase非含有PBSで細胞を2回洗浄した。20%のStellaris RNA FISH緩衝液A(Biosearch Technologies,Inc.,SMF−WA1−60)、及び10%の脱イオン化ホルムアミド(EMD Millipore、S4117)を含むRNase非含有水(Life Technologies、AM9932)を用いて細胞を室温で5分間、1回洗浄した。90%のStellaris RNA FISHハイブリダイゼーション緩衝液(Biosearch Technologies、SMF−HB1−10)、10%の脱イオン化ホルムアミド、SE関連遺伝子の転写物のイントロンへのハイブリダイゼーションが生じるように設計された12.5μMのStellaris RNA FISHプローブを用いて細胞のハイブリダイゼーションを行った。ハイブリダイゼーションは、37Cで一晩実施した。次に、洗浄緩衝液Aを用いて細胞を37℃で30分間洗浄し、20μm/mlのHOESCHを含む洗浄緩衝液Aを用いて核を室温で5分間染色した。Stellaris RNA FISH洗浄緩衝液B(Biosearch Technologies、SMF−WB1−20)を用いて5分間の洗浄を室温で1回実施した後、免疫蛍光法について記載したようにカバースリップをマウントした。画像の取得は、RPIスピニングディスク型共焦点顕微鏡で行った。
光退色後蛍光回復(FRAP)
蛍光タグを有するタンパク質を発現する細胞の画像化は、100×対物レンズを備えたAndor Revolution Spinning Disk Confocal,FRAPPAシステム、及びMetamorph取得ソフトウェア(W.M.Keck Microscopy Facility,MIT)を用いて20秒間にわたって1秒ごとに行った。退色実施前に1枚または2枚の画像を取得してから、定量可能なレーザーモジュール(QLM)のレーザー(488nm)を用いておよそ0.5μm2を退色させた。目的の選択領域に対して各20μ秒のパルスを5回照射してFRAPを実施した。
画像化解析
構造化照明及びデコンボリューションの処理については、Softworx処理ソフトウェア(Microscopy Core Facility,Koch Institute for Integrative Cancer Research)を使用した。
図11Eに示されるデータについては、FIJI Particle Analysis(51)またはFIJI Object Counter 3D Plugin(51)を使用して核内凝縮体の数を数えた。最小ボクセルサイズを4とし、強度のカットオフは、明暗対比解析に基づいて決定した。
IF/RNA−FISHの解析については、BRD4凝縮体及びMED1凝縮体ならびにRNA−FISHフォーカスのサイズ及び座標をFIJI Object Counter 3D Pluginを用いて測定した(51)。画像取得パラメーターに従って、画像のピクセルの幅及び長さをFIJI内で0.0572009ミクロンに設定し、ボクセル幅を0.5ミクロンに設定した。構造体については、最小値を4ボクセルとする必要があった。それぞれの新生RNA転写物構造体(FISH)と最も近いタンパク質構造体(IF)との間の3次元距離は、以下のように測定した。FIJI Object Counter 3D pluginを用いて個別フォーカスを特定した後、同じセットの画像におけるそれぞれのFISHフォーカスの中心とすべての他のIFフォーカスの中心との間の3次元距離を計算した。最も近い1つのIFフォーカスを確保し、最近傍フォーカスまでの距離の分布の表示に使用した。それぞれのFISHフォーカスの5ミクロン以内に存在する無作為なIFフォーカスもまた、確率論的対照として確保した。
FRAP解析については、非退色領域の強度または核全体の強度に対して光退色領域の蛍光強度を正規化したものとして蛍光回復を測定した。蛍光強度は、FIJI FRAPプロファイラープラグイン(コードは、Jeff Hardinによって記述されたものであり(Tony CollinsのMacbiophotonicsプラグインの改良物)、以下で入手可能である://worms.zoology.wisc.edu/research/4d/4d.html)を用いて測定した
ChIP−Seq解析
リード長に対するパラメーターを−k 1 −m 1 −best及び−lに設定してbowtieを使用してmm9バージョンのマウス参照ゲノムへのChIP−Seqデータのアライメントを行った(52)。ビンにおけるリードカバレッジを表示するためのWiggleファイルは、MACS(パラメーターを−w −S −space=50 −nomodel −shiftsize=200とした)を使用して作成し、ビン当たりのリード数は、wiggleファイルの作成に使用した数百万のマッピングリードに正規化した(53)。リード数/百万に正規化されたwiggleファイルをUCSCゲノムブラウザーに表示した(54)。BRD4、MED1、及びRNA PolIIについて、MACS(−p 1e−9−keep−dup=1を使用)及びインプット対照を使用して濃縮のピークを同定した。マウス胚性幹細胞におけるスーパーエンハンサーの位置は、以前の刊行物からダウンロードした(55)。
因子の共局在化ヒートマップは、BRD4またはMED1のピークが特定されたコラプス領域単位を使用して作成し、コラプス領域単位は、bedtools mergeを使用して生成させた(56)。bamToGFF(https://github.com/BradnerLab/pipeline)(パラメーターを−m 50−r−f 1−e 200とした)を使用することで、コラプス領域ごとに、等しいサイズの50のビンにおいてリード密度を計算した。ヒートマップでは、所与の横列におけるBRD4/MED1/PolIIシグナルのリードシグナルによる順序付けを、すべての縦列にわたって行った。samtools rmdupを使用して、想定されるPCR重複を除去し、こうした非重複リードの密度をヒートマップの構築に使用した(57)。
データセットは、以下の通りである:
HP1a:GSM1375159 RNAPII:GSM1566094 MED1:GSM560348 BRD4:GSM1659409
インプット対照:GSM1082343
タンパク質精製
細菌における組換えタンパク質発現については、6×HIS−mEGFP−リンカー−IDR(BRD4−IDR(BRD4674−1351)もしくはMED1−IDR(MED1948−1574)のためのもの)または6×−HIS−mEGFP−リンカーをT7 pET発現ベクター(addgene:29663)にクローニングした。リンカー配列は、GAPGSAGSAAGGSG(配列番号14)である。プラスミドを用いた形質転換は、LOBSTR細胞(Cheeseman Labからの供与物)に対して行った。カナマイシン及びクロラムフェニコールを含むLB培地に新鮮な細菌コロニーを播種し、37℃で一晩増殖させた。カナマイシン及びクロラムフェニコールを新たに添加した500mlの予熱LBでこうした細菌を1:15希釈し、37℃で1.5時間増殖させた。1mMのIPTGを用いてタンパク質発現を誘導した後、細胞をさらに5時間増殖させ、収集し、使用するまで−80℃で凍結保管した。
500mlの細胞から得られたペレットを、10mMのイミダゾール及びcOmpleteプロテアーゼ阻害剤(Roche、11873580001)を含む15mlの緩衝液A(50mMのトリス(pH7.5)、500mMのNaCl)に再浮遊させ、超音波処理(15秒間オン、60秒間オフのサイクルを10回実施)に供した。可溶化液を12,000g、4℃で30分間遠心分離することによって清澄化し、10倍体積の緩衝液Aで事前に平衡化した1mlのNi−NTAアガロース(Invitrogen、R901−15)を添加した。このアガロース可溶化液スラリーを含むチューブを4Cで1.5時間旋回振とうした。このスラリーをカラムに流し込み、このパッキングしたアガロースを15倍体積のイミダゾール(10mM)含有緩衝液Aで洗浄した。タンパク質の溶出を、2mlのイミダゾール(50mM)含有2×緩衝液A、2mlのイミダゾール(100mM)含有2×緩衝液A、及び最後に2mlのイミダゾール(250mM)含有4×緩衝液Aで行った。
タンパク質を含むことをクマシー染色ゲルによって判断した溶出液を統合し、緩衝液D(50mMのトリス−HCl(pH7.5)、500mMのNaCl、10%のグリセロール、1mMのDTT)に対して透析した。
インビトロの液滴アッセイ
Amicon Ultra遠心分離フィルター(30K MWCO、Millipore)を使用して組換えGFP融合タンパク質を濃縮及び脱塩することで、タンパク質を適切な濃度とし、NaCl濃度を125mMとした。液滴形成緩衝液(50mMのトリス−HCl(pH7.5)、10%のグリセロール、10%のPEG−8000(Sigma 89510)、1mMのDTT)中に異なる濃度(記載の最終塩濃度)で塩を含む溶液に組換えタンパク質を添加した。このタンパク質溶液を、並行に配置された2つの両面テープ片によってカバースリップが取り付けられたスライドガラスから構成される自作チャンバーに直ちにロードした。次に、100×対物レンズを使用してAndor Revolution Spinning Disk Confocalでスライドを画像化した。別段の指定がない限り、示される画像は、ガラスのカバースリップ上で安定した状態の液滴のものである。
OptoDropletアッセイ
optoDropletアッセイは、Shin,Y et al Cell 2017のものを当てはめた(58)。IDRのクローニングについては、天然変性ドメインをコードするDNAセグメントを、Phusion Flash(ThermoFisher F548S)を使用して増幅した。mCherry−Cry2融合タンパク質を含む第II世代のレンチウイルス骨格(Brangwynne laboratoryから入手した)へと、Hi−Fi NEBuilder(NEB E2621S)を使用してセグメントをクローニングした。クローニングしたopto−dropletプラスミドを、psPAX(Addgene 12260)ウイルスパッケージングプラスミド及びpMD2.G(Addgene 12259)ウイルスパッケージングプラスミドと共に、PEIトランスフェクト試薬(polysciences 23966−1)を使用してコトランスフェクトした。HEK293T細胞においてウイルスを生成させ、直接的に使用するか、またはTakara Lenti−X Concentrator(631232)を使用して濃縮した。形質導入については、形質導入の1日前に3T3細胞を蒔いた(35mmの組織培養ウェル当たり400,000個細胞で播種した)。細胞にウイルス培地を添加し、24時間の時点で、画像化または増殖のために細胞を通常培地で増殖させた。画像化については、0.1mg/mlのフィブロネクチン(EMD−Millipore FC010)を用いて35mmのMatTekガラス底ディッシュ(MatTek P35G−1.5−20−C)を37℃で20分間コートし、細胞を蒔く前にPBSで2回洗浄した。画像化の1日前に、35mmのディッシュ当たり400,000個細胞で細胞を蒔いた。画像化は、Zeiss LSM710ポイントスキャン顕微鏡で実施した。別段の指定がない限り、画像化の間、2秒ごとに488nmの光パルスを用いて液滴形成を誘導し、画像もまた、2秒ごとに取得した。画像化時間は、示される通りである。mCherry蛍光は、561nmの光で刺激した。FRAP実験については、488nmの光を用いて液滴形成を40秒間誘導し、40秒の時点で、561nmの光でフォーカスの退色を実施し、488nmの刺激の非存在下で回復を2秒ごとに画像化した。
コンストラクト
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実施例3
遺伝子発現は、DNA結合ドメイン(DBD)及び活性化ドメイン(AD)からなる転写因子(TF)によって制御される。DBDについてはよく特徴付けられているが、ADが遺伝子活性化に影響を与える機構についてはほとんど知られていない。本明細書において、本発明者らは、多様なADが、メディエーターコアクチベーターと共に相分離凝縮体を形成することを報告する。OCT4 TF及びGCN4 TFについて、本発明者らは、メディエーターと共に相分離液滴をインビトロで形成する能力と、インビボで遺伝子を活性化する能力とが、同じアミノ酸残基に依存することを示す。エストロゲン受容体(ER)(リガンド依存性アクチベーター)について、本発明者らは、エストロゲンがメディエーターと共に相分離を増進することで、先と同様に、相分離が遺伝子活性化と結び付くことを示す。こうした結果は、多様なTFが、そのADの相分離能力によってメディエーターと相互作用することができ、メディエーターとの凝縮体の形成が、遺伝子活性化に関与することを示唆している。
酵母TF GCN4のADは、メディエーターサブユニットMED15の複数部位に対して複数の配向及び立体配座で結合することが最近の研究によって示されている(Brzovic et al.,2011、Jedidi et al.,2010、Tuttle et al.,2018、Warfield et al.,2014)。この型のタンパク質間相互作用は、その相互作用界面を単一の立体配座によって説明できないものであり、こうした相互作用の産物は、「ファジー複合体」と呼ばれている(Tompa and Fuxreiter,2008)。こうした動的相互作用は、相分離生体分子凝縮体の形成を促進するIDR間相互作用に典型的なものでもある(Alberti,2017、Banani et al.,2017、Hyman et al.,2014、Shin and Brangwynne,2017、Wheeler and Hyman,2018)。
本明細書において、本発明者らは、多様なTF ADがメディエーターコアクチベーターと共に相分離することを報告する。本発明者らは、胚性幹細胞(ESC)多能性TF OCT4、エストロゲン受容体(ER)、及び酵母TF GCN4が、メディエーターと共に相分離凝縮体を形成し、活性化及び相分離の両方に同じアミノ酸またはリガンドを必要とすることを示す。本発明者らは、コアクチベーターとのIDR介在性の相分離が、TF ADが遺伝子を活性化する機構であることを示す。
結果
ESCスーパーエンハンサーにおけるメディエーター凝縮体は、OCT4に依存する
OCT4は、ESCの多能性状態に必要不可欠なマスターTFであり、ESC SEにおける決定的なTFである(Whyte et al.,2013)。メディエーターコアクチベーターは、ESC SEにおいて凝縮体を形成するものであり(Sabari et al.,2018)、MED1サブユニット(表S3)を介してOCT4と相互作用すると考えられている(Apostolou et al.,2013)。メディエーター凝縮体の形成にOCT4が寄与するのであれば、MED1小斑点が観測されているSEにOCT4小斑点が存在するはずである。実際、免疫蛍光(IF)顕微鏡法を新生RNA FISHと同時に行うと、主要な多能性遺伝子であるEsrrb、Nanog、Trim28、及びMir290のSEに個別のOCT4小斑点が認められた(図20)。平均画像解析からは、OCT4 IFがRNA FISHフォーカスの中心に濃縮されることが確認された。この濃縮は、無作為に選択された核内位置を使用すると観測されなかった(図27)。こうした結果から、メディエーターが凝縮体を形成するSEと同じSEに存在する小斑点にOCT4が生じることが確認され(Sabari et al.,2018)、こうしたSEを、OCT4とMED1とが共に占有するすることをChIP−seqは示している(図20)。
本発明者らは、SEに存在するメディエーター凝縮体がOCT4に依存するかどうかを、分解方針を使用して調べた(Nabet et al.,2018)。OCT4と融合したFKBPタンパク質をコードするDNAの内在性ノックインを有するESC株におけるOCT4の分解を、dTagを添加することによって24時間誘導した(Weintraubetal.,2017)(図21A及び図28A)。OCT4の分解を誘導すると、OCT4タンパク質のレベルは減少したが、MED1のレベルは影響を受けなかった(図28B)。ChIP−seqで分析したところ、エンハンサーに対するOCT4及びMED1の占有が減少し、典型的エンハンサー(TE)と比較して、SEが受ける影響が最も大きいことが示された(図21B)。RNA−seqからは、SE誘導性遺伝子の発現が同時に減少することが明らかとなった(図21B)。例えば、OCT4及びMED1による占有は、Nanog SEでは、およそ90%減少し(図21C)、この占有減少は、Nanog mRNAのレベルが60%減少することと関連していた(図21D)。免疫蛍光(IF)顕微鏡法をDNA FISHと同時に行ったところ、OCT4が分解されると、NanogにおけるMED1凝縮体が減少することが示された(図21E及び図28C)。こうした結果は、ESC SEにおけるメディエーター凝縮体の存在がOCT4に依存することを示す。
ある特定のESC SEでは、ESCが分化するとOCT4の結合が減少し、それによってこうしたOCT4依存性SEが減少することで、こうした部位におけるメディエーター凝縮体が減少することになる。この考えを試験するために、本発明者らは、LIFの供給停止によってESCを分化させた。分化細胞集団では、MED1タンパク質が継続的に発現している(図28E)にもかかわらず、MiR290 SEに対するOCT4及びMED1の占有が減少し(図21F、図21G、及び図28D)、MiR290 miRNAのレベルが減少する(図21H)ことが観測された。このことに対応して、分化細胞集団では、MED1凝縮体がMir290において減少した(図21I及び図28F)。こうした結果は、OCT4デグロン実験から得られたものと一致しており、こうしたESC SEにおけるメディエーター凝縮体が、OCT4によるエンハンサーエレメントの占有に依存するという考えを支持するものである。
OCT4は、MED1液滴に取り込まれる
OCT4は、遺伝子活性化を担う天然変性ADを2つ有しており、これらの天然変性ADは、構造化DBDに隣接する(図22A)(Brehm et al.,1997)。IDRは、弱い相互作用の動的ネットワークを形成することが可能であり、凝縮体形成に関与するタンパク質の精製IDRは、相分離液滴を形成できることから(Burke et al.,2015、Lin et al.,2015、Nott et al.,2015)、本発明者らは、次に、メディエーターのMED1サブユニットのIDRの存在下及び非存在下で、OCT4が、インビトロで液滴を形成することが可能かどうかを調べた。
組換えOCT4−GFP融合タンパク質を精製し、クラウディング剤(10%のPEG−8000)を含む液滴形成緩衝液に添加して、核の密に込み合った環境を模倣した。液滴混合物を蛍光顕微鏡法で分析したところ、OCT4は、試験した濃度範囲を通じて、単独では液滴を形成しないことが明らかとなった(図22B)。対照的に、精製された組換えMED1−IDR−GFP融合タンパク質では、濃度依存性の液−液相分離が生じ(図22B)、このことは、以前の報告(Sabari et al.,2018)と一致した。
次に、本発明者らは、これら2つのタンパク質を混合し、MED1−IDRの液滴が精製OCT4−GFPを取り込み、密集させて異型の液滴を形成することを見出した(図22C)。対照的に、精製GFPは、MED1−IDR液滴に密集しなかった(図22C、図29A)。OCT4−MED1−IDR液滴は、ほぼミクロンサイズの大きさを有し(図29B)、光退色後の回復が早く(図22D)、球形を有し(図29C)、塩に感受性であった(図22E及び図29D)。このように、OCT4−MED1−IDR液滴が示した特徴は、相分離液状凝縮体と結び付くものであった(Banani et al 2017、Shin et al 2017)。さらに、本発明者らは、クラウディング剤が全く存在しなくてもOCT4−MED1−IDR液滴が形成され得ることを見出した(図29E及び図29F)。
OCT4−MED1−IDRの液滴形成及び遺伝子活性化に必要な残基
凝縮体の形成には、複数のカテゴリーのアミノ酸相互作用が関与しているため、本発明者らは、次に、OCT4−MED1−IDR相分離液滴が形成される上で特定のOCT4アミノ酸残基が必要であるかどうかを調べた。例えば、MED1相分離にはセリン残基が必要である(Sabari et al.,2018)。本発明者らは、OCT4 ADにおけるアミノ酸含量の高まりが相互作用のための機構を示唆し得るかどうかを調べた。アミノ酸頻度及び電荷の偏りを分析したところ、OCT4 IDRは、プロリン及びグリシンの含量が高く、全体として酸性の電荷を有していることが明らかとなった(図23A)。ADは、酸性アミノ酸及びプロリンの含量が高いことが知られており、このことを基礎として歴史的に分類されているが(Frietze and Farnham,2011)、こうして高含有であることによって遺伝子活性化が生じ得る機構は知られていない。本発明者らは、ADにおけるプロリンまたは酸性アミノ酸が、相分離MED1−IDR液滴との相互作用を促進し得るという仮説を立てた。このことを試験するために、本発明者らは、蛍光標識されたプロリンデカペプチド及びグルタミン酸デカペプチドを設計し、これらのペプチドがMED1−IDR液滴に密集し得るかどうかを調べた。これらのペプチドを単独で液滴形成緩衝液に添加すると、これらのペプチドは、溶液に留まった(図30A)。一方で、MED1−IDR−GFPとの混合時には、プロリンペプチドはMED1−IDR液滴に取り込まれなかった一方で、グルタミン酸ペプチドは、その中に密集した(図23B及び図30B)。こうした結果は、酸性残基を有するペプチドがMED1相分離液滴に取り込まれやすいことを示している。
こうした結果に基づき、本発明者らは、OCT4タンパク質がそのADに酸性アミノ酸を有さなければ、それがMED1−IDRと共に相分離する能力が失われ得ると推定した。そのように酸性残基に依存するのであれば、OCT4−MED1−IDR液滴が塩に対して高度に感受性であるという本発明者らの知見と一致することになる。この考えを試験するために、本発明者らは、ADにおける酸性残基をすべてアラニンで置き換えた変異OCT4(したがって、N末端ADにおける17個のAA、及びC末端ADにおける6つのAAが変更されている)を生成させた(図23C)。このGFP融合型OCT4変異体を精製MED1−IDRと混合すると、液滴への移行が大幅に弱まった(図23C及び図30C)。この効果が酸性残基に特異的なものであるかどうかを試験するために、本発明者らは、AD内のすべての芳香族アミノ酸をアラニンに変更したOCT4変異体を生成させた。本発明者らは、この変異体がMED1−IDR液滴に依然として取り込まれることを見出した(30C及び30D)。こうした結果は、OCT4がMED1−IDRと共に相分離する能力がOCT4 IDRの酸性残基に依存することを示している。
こうした結果がMED1−IDRに限ったものではないことを確かめるために、本発明者らは、精製メディエーター複合体がインビトロで液滴を形成し、OCT4を取り込み得るかどうかを探求した。以前の報告(Meyer et al.,2008)のようにヒトメディエーター複合体を精製した後、液滴形成アッセイに使用するために濃縮した(図30E)。精製した内在性メディエーターは蛍光タグを含まないため、本発明者らは、微分干渉(DIC)顕微鏡法によって液滴形成を監視し、この精製内在性メディエーターが約200〜400nMで液滴を単独で形成することを見出した(図23D)。MED1−IDR液滴についての結果と一致して、OCT4は、ヒトメディエーター複合体液滴内に取り込まれたが、OCT4酸性変異体の取り込みは弱まった。こうした結果は、MED1−IDR及び完全なメディエーター複合体がそれぞれ、相分離挙動をとることを示すと共に、それら両方が、酸性アミノ酸によって生じる静電的相互作用に依存する様式でOCT4を取り込むことを示唆している。
OCT4 ADの酸性変異が、この因子がインビボで転写を活性化する能力に影響を与えるかどうかを試験するために、本発明者らは、GAL4トランス活性化アッセイを利用した(図23E)。この系では、ADまたはその変異体対応物をGAL4 DBDと融合させ、ルシフェラーゼレポータープラスミドを保有する細胞において発現させた。本発明者らは、GAL4−DBDと融合した野生型OCT4−ADが転写を活性化することができる一方で、酸性変異体はこの機能を失っていることを見出した(図23E)。こうした結果は、インビトロでのMED1相分離液滴に取り込まれるためにも、インビボで遺伝子を活性化するためにも、OCT4 ADの酸性残基が必要であることを示している。
複数のTFがメディエーターサブユニット液滴と共に相分離する
さまざまな型のADを有するTFがメディエーターサブユニットと相互作用することが示されており、そうしたサブユニットの中で、MED1は、TFが最も標的とするサブユニットである(表S3)。以前の分析によって示されているように、TF及びその推定ADは、IDRの含有率が高いことが、哺乳類TFの分析から確認されている(Liu et al.,2006、Staby et al.,2017b)(図24A)。本発明者らは、多くの異なるTFが、MED1−IDRと相互作用して液滴を形成し、それ故に、MED1凝縮体に取り込まれ得ると推論した。多様なMED1相互作用転写因子がMED1と共に相分離し得るかどうかを評価するために、本発明者らは、全長のMYC、p53、NANOG、SOX2、RARa、GATA2、及びERをmEGFPタグ付きの組換え体として精製して調製した(表S5)。液滴形成緩衝液に添加すると、ほとんどのTFが単独で液滴を形成した(図24B)。MED1−IDRと共に液滴形成緩衝液に添加すると、こうしたTFの7つすべてが、MED1−IDR液滴に密集した(図24C、図31A)。本発明者らは、FRAP分析にp53液滴を選択した。p53液滴では、急速かつ動的な内部組織化が生じ(図31B)、このことは、p53液滴が液状凝縮体であるという考えを支持するものである。こうした結果は、メディエーターのMED1サブユニットと相互作用することが以前に示されたTFがそのような能力を有することが、MED1と共に相分離凝縮体を形成することによるものであることを示している。
エストロゲンは、MED1と共に生じるエストロゲン受容体の相分離を刺激する
エストロゲン受容体(ER)は、リガンド依存性TFの研究がよく進んでいる例である。ERは、N末端に位置するリガンド非依存性ADと、中央に位置するDBDと、C末端に位置するリガンド依存性AD(リガンド結合ドメイン(LBD)とも呼ばれる)と、からなる(図25A)。エストロゲンは、ERのLBDに結合する(この結合によって、MED1−IDR内のLXXLLモチーフに対する結合ポケットが露出する)ことによって、ERとMED1との相互作用を促進する(図25A及び図25B)(Manavathi et al.,2014)。本発明者らは、ERが、これまでこうした試験に使用してきたMED1−IDR組換えタンパク質(LXXLLモチーフを有さない)と共に異型の液滴を形成し得ることを見出した(図24C)。このことがきっかけとなり、本発明者らは、ER−MED1液滴形成がエストロゲンに対して応答性であるかどうか、及びこのことにMED1 LXXLLモチーフが関与するかどうかを調べた。
本発明者らは、LXXLLモチーフを含むMED1−IDR組換えタンパク質(MED1−IDRXL−mCherry)を使用して液滴形成アッセイを実施し、MED1−IDR及び完全なメディエーターと同様に、MED1−IDRXL−mCherryが単独で液滴を形成する能力を有していることを見出した(図25C)。次に、本発明者らは、ERがMED1−IDRXL−mCherry液滴及びMED1−IDR−mCherry液滴と共に相分離する能力を試験した。いくつかの組換えERは、MED1−IDRXL−mCherry液滴に取り込まれ、そこに密集したが、エストロゲンを添加すると異型の液滴の形成がかなり増進した(図25D及び図25E)。対照的に、この実験をMED1−IDR−mCherry(LXXLLモチーフを有さない)を用いて実施すると、エストロゲンを添加しても液滴形成に対する影響をほとんどなかった(図32)。こうした結果は、エストロゲン(インビボでER介在性の転写を刺激する)が、インビトロでのMED1−IDR液滴へのERの取り込みも刺激することを示している。したがって、OCT4及びERは共に、相分離にも活性化にも同じアミノ酸/リガンドを必要とする。さらに、LBDは、エストロゲンが結合するとMED1と相互作用するように立体配座が変化する構造化ドメインであるため、構造化相互作用は、転写凝縮体形成に寄与し得ると思われる。
GCN4及びMED15の相分離は、活性化に必要な残基に依存する
TF−コアクチベーター系の中で、最も研究されたものは、酵母TF GCN4と、メディエーターのMED15サブユニットと、の相互作用である(Brzovic et al.,2011、Herbig et al.,2010、Jedidi et al.,2010)。GCN4 ADは、遺伝子学的に解明されており、活性化に寄与するアミノ酸が同定されており(Drysdale et al.,1995、Staller et al.,2018)、最近の研究から、GCN4 ADが複数の配向及び立体配座でMED15と相互作用して「ファジー複合体」を形成することが示されている(Tuttle et al.,2018)。ファジー複合体を形成する弱い相互作用は、相分離凝縮体を生じさせると考えられるIDR間相互作用の特徴を有する。
GCN4及びMED15が相分離液滴を形成し得るかどうかを試験するために、本発明者らは、組換え酵母GCN4−GFPと、残基6〜651(GCN4との相互作用を担う)を含む酵母MED15−mCherryのN末端部分(本明細書ではこれ以後はMED15と呼ばれる)と、を精製した。別々に液滴形成緩衝液に添加すると、GCN4は、非常に高い濃度(40uM)でのみミクロンサイズの液滴を形成し、この高濃度でMED15が形成した液滴は小さなもののみであった(図26A)。一方で、GCN4組換えタンパク質及びMED15組換えタンパク質は、一緒に混合すると、二重に陽性のミクロンサイズの球状液滴を、より低い濃度で形成した(図26B、図33A)。こうしたGCN4−MED15液滴は、急速なFRAP動力学を示し(図33B)、このことは、液体様挙動と一致するものである。本発明者らは、これら2つのタンパク質の相図を作成し、これら2つのタンパク質が、低い濃度で一緒に液滴を形成することを見出した(図33C及び図33D)。このことは、低濃度での相分離には、これら2つの間の相互作用が必要であることを示唆している。
GCN4がMED15と相互作用し、遺伝子発現を活性化する能力は、GCN4 ADにおける特定の疎水性パッチ及び芳香族残基に起因している(Drysdale et al.,1995、Staller et al.,2018、Tuttle et al.,2018)。本発明者らは、こうした疎水性パッチに含まれる11個の芳香族残基をアラニンに変更したGCN4変異体を創出した(図26C)。この変異タンパク質を、液滴形成緩衝液に添加すると、それが単独で液滴を形成する能力が弱まっていた(図33E)。次に、本発明者らは、MED15との液滴形成が影響を受けるかを試験したところ、実際に、変異タンパク質がMED15と液滴を形成する能力が損なわれていた(図26C及び図33F)。GCN4及びGCN4の芳香族変異体を、完全なメディエーター複合体と共に液滴形成緩衝液に添加しても同様の結果が得られ、GCN4は、メディエーター液滴に取り込まれた一方で、メディエーター液滴へのGCN4変異体の取り込みは弱まっていた(図26D及び図33G)。こうした結果は、GCN4のADとMED15との間の多価の弱い相互作用が、液体様液滴への相分離を促進することを実証するものである。
酵母TFのADは、哺乳類細胞において機能し得ると共に、ヒトメディエーターと相互作用することによって機能し得る(Oliviero et al.,1992)。GCN4 ADの芳香族変異体が、そのインビボでのメディエーター動員能力を失っているかどうかを調べるために、GCN4 AD及びGCN4変異ADをU2OS細胞においてLacアレイに繋留した(図26E)(Janicki et al.,2004)。繋留されたGCN4 ADは、メディエーターを強固に動員した一方で、GCN4芳香族変異体ではこの動員は生じなかった(図26E)。本発明者らは、以前に報告されたGAL4トランス活性化アッセイを使用することで、GCN4 ADが、インビボで転写を活性化する能力を有する一方で、GCN4芳香族変異体がその特性を失っていることを確認した(図26F)。こうした結果は、メディエーターと共に生じる相分離に必要不可欠なTF ADアミノ酸が遺伝子活性化に必要であるという考えをさらに支持するものである。
考察
本明細書に記載の結果は、TFがメディエーターと相互作用し、TFのADがこのコアクチベーターと共に相分離凝縮体を形成する能力によって遺伝子を活性化するというモデルを支持するものである。哺乳類のESC多能性TF OCT4及び酵母TF GCN4の両方について、本発明者らは、メディエーター凝縮体と共に生じる相分離に必要なADアミノ酸が、インビボでの遺伝子活性化にも必要であることを見出した。エストロゲン受容体について、本発明者らは、エストロゲンが相分離ER−MED1液滴の形成を刺激することを見出した。AD及びコアクチベーターは、一般に、IDRとして分類されている低複雑性アミノ酸配列からなり、IDR間相互作用は、相分離凝縮体の形成促進に関与している。本発明者らは、メディエーターと共に生じるIDR介在性の相分離が、TF ADが遺伝子発現に影響を与える一般的な機構であることを提唱すると共に、このことが、インビボでSEにおいて生じるという証拠を提供する。本発明者らは、メディエーターと共に相分離する能力(高結合価かつ低親和性であるという、液体−液相分離凝縮体に特有の特徴を利用すると想定される)が、いくつかのTFがメディエーターと共に高親和性相互作用を形成する能力と並行して機能することを提唱する(図26G)(Taatjes,2017)。
TF ADがコアクチベーターと共に相分離凝縮体を形成することによって機能するというモデルは、タンパク質間相互作用の古典的な鍵と鍵穴モデルとの両立が困難ないくつかの知見を説明するものである。哺乳類ゲノムは、非常に少数のコアクチベーターと相互作用することになる多様なADを有する数百ものTFをコードし(Allen and Taatjes,2015、Arany et al.,1995、Avantaggiati et al.,1996、Dai and Markham,2001、Eckner et al.,1996、Gelman et al.,1999、Green,2005、Liu et al.,2009、Merika et al.,1998、Oliner et al.,1996、Yin and Wang,2014、Yuan et al.,1996)、配列相同性をほとんど共有しないADがTF間で機能的互換性を有する(Godowski et al.,1988、Hope and Struhl,1986、Jin et al.,2016、Lech et al.,1988、Ransone et al.,1990、Sadowski et al.,1988、Struhl,1988、Tora et al.,1989)。ADに共通する特徴は、低複雑性IDRを有することであり、この特徴は、コアクチベーターに顕著な特徴でもある。したがって、コアクチベーターが相分離凝縮体を形成することによって相互作用し、遺伝子を活性化するというモデルは、数百もの哺乳類TFがこうしたコアクチベーターとどのように相互作用するかを、より容易に説明するものである。
以前の研究からは、相分離凝縮体を形成することによってTF ADが機能する可能性を調べるきっかけを本発明者らに与えた重要な洞察が得られている。TF ADは、そのアミノ酸プロファイルによって、酸性、プロリン高含有、セリン/スレオニン高含有、グルタミン高含有として分類されているか、またはその仮説形状によって酸性ブロッブ、ネガティブヌードル、もしくはペプチドの投げ縄として分類されている(Sigler,1988)。こうした特徴の多くは、相分離凝縮体を形成することが可能なIDRについて報告されているものである(Babu,2016、Darling et al.,2018、Das et al.,2015、Dunker et al.,2015、Habchi et al.,2014、van der Lee et al.,2014、Oldfield and Dunker,2014、Uversky,2017、Wright and Dyson,2015)。GCN4 ADが複数の配向及び立体配座でMED15と相互作用して「ファジー複合体」を形成する(Tuttle et al.,2018)という証拠は、相分離凝縮体に特有の動的な低親和性相互作用が生じるという考えと一致する。同様に、FET(
)RNA結合タンパク質の低複雑性ドメイン(Andersson et al.,2008)は、相分離ハイドロゲルを形成し、RNAポリメラーゼII C末端ドメイン(CTD)とCTDリン酸化依存性様式で相互作用し得る(Kwon et al.,2013)。このことは、RNAポリメラーゼIIが、それがリン酸化されていない状態では活性遺伝子に動員され、CTDがリン酸された後は伸長に向けて放出される機構を説明し得るものである。
本発明者らがTF AD機能について本明細書に記載するモデルは、これまではほとんど理解されていなかった融合がんタンパク質のクラスの機能を説明し得る。悪性腫瘍の多くが、TFの一部分が関与する融合タンパク質転座を有する(Bradner et al.,2017、Kim et al.,2017、Latysheva et al.,2016)。こうした異常な遺伝子産物では、DNA結合ドメインまたはクロマチン結合ドメインが幅広いパートナーと融合していることが多く、こうしたパートナーの多くはIDRである。例えば、MLLは、AMLでは80の異なるパートナー遺伝子と融合し得(Winters and Bernt,2017)、ユーイング肉腫におけるEWS−FLI再構成体は、変性ドメインをがん遺伝子に動員することによって悪性形質転換を生じさせ(Boulay et al.,2017、Chong et al.,2017)、変性相分離タンパク質FUSは、ある特定の肉腫ではDBDと融合することが明らかとなっている(Crozat et al.,1993、Patel et al.,2015)。相分離は、そのような遺伝子産物が、異常な遺伝子発現プログラムを生じさせる機構となり、変性タンパク質がクロマチンに動員されることによって、多様なコアクチベーターが相分離凝縮体を形成してがん遺伝子発現を誘導し得る。こうした異常な転写凝縮体を構成する相互作用、その構造、及び挙動を理解することで、新たな治療への道が開かれる可能性がある。
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表S3.報告されている転写因子−メディエーターサブユニット相互作用の表
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STAR法
実験モデル及び主題詳細
細胞
V6.5マウス胚性幹細胞は、Whitehead InstituteのR.Jaenischからの供与物である。V6.5は、C57BL/6(F)×129/sv(M)交雑種から得られた雄性細胞である。HEK293T細胞は、ATCC(ATCC CRL−3216)から購入した。細胞は、マイコプラズマ陰性であった。
細胞培養条件
V6.5マウス胚性幹(mES)細胞は、2i+LIF条件で増殖させた。mES細胞は、常に、0.2%のゼラチン(Sigma、G1890)でコートされた組織培養プレートで増殖させた。2i+LIF培地条件に使用した培地は、以下の通りである:967.5mLのDMEM/F12(GIBCO 11320)、5mLのN2サプリメント(GIBCO 17502048)、10mLのB27サプリメント(GIBCO 17504044)、0.5mMのL−グルタミン(GIBCO 25030)、0.5×非必須アミノ酸(GIBCO 11140)、100U/mLのペニシリン−ストレプトマイシン(GIBCO 15140)、0.1mMのb−メルカプトエタノール(Sigma)、1uMのPD0325901(Stemgent 04−0006)、3uMのCHIR99021(Stemgent 04−0004)、及び1000U/mLの組換えLIF(ESGRO ESG1107)。分化については、下記の血清培地においてmESCを培養した:15%のウシ胎仔血清(Hyclone、キャラクタライズドSH3007103)、100mMの非必須アミノ酸(Invitrogen、11140−050)、2mMのL−グルタミン(Invitrogen、25030−081)、100U/mLのペニシリン、100mg/mLのストレプトマイシン(Invitrogen、15140−122)、及び0.1mMのb−メルカプトエタノール(SigmaAldrich)が添加されたDMEM(Invitrogen、11965−092)。HEK293T細胞は、ATCC(ATCC CRL−3216)から購入し、DMEM、高濃度グルコース、ピルビン酸(GIBCO 11995−073)(10%ウシ胎仔血清(Hyclone、キャラクタライズドSH3007103)、100U/mLのペニシリン−ストレプトマイシン(GIBCO15140)、2mMのL−グルタミン(Invitrogen、25030−081)を含む)において培養した。細胞は、マイコプラズマ陰性であった。
方法詳細
免疫蛍光法とRNA FISHとの併用
5ug/mLのポリ−L−オルニチン(Sigma−Aldrich、P4957)及び5μg/mLのラミニン(Corning、354232)を用いて、それぞれ30分間及び2時間、カバースリップを37℃でコートした。事前にコートしたカバースリップ上に細胞を蒔き、24時間増殖させた後、4%のパラホルムアルデヒド(PFA)(VWR、BT140770)を含むPBSを使用して10分間固定化した。細胞をPBSで3回洗浄した後、カバースリップを加湿チャンバーに入れるか、またはPBSにおいて4℃で保管した。0.5%のtriton X100(Sigma Aldrich、X100)を含むPBSを使用して細胞の透過処理を10分間行った後、PBSでの洗浄を3回行った。4%のIgG非含有ウシ血清アルブミン(BSA)(VWR、102643−516)を用いて細胞を30分間ブロッキングし、記載の一次抗体(表S4を参照のこと)を、PBSで1:500希釈した濃度で添加し、4〜16時間インキュベートした。細胞をPBSで3回洗浄し、PBSで1:5000希釈した濃度の二次抗体と共に1時間インキュベートした。PBSでの洗浄を2回行った後、4%のパラホルムアルデヒド(PFA)(VWR、BT140770)を含むPBSを使用して細胞を10分間固定化した。PBSでの洗浄を2回行った後、洗浄緩衝液A(20%のStellaris RNA FISH緩衝液A(Biosearch Technologies,Inc.、SMF−WA1−60)、10%の脱イオン化ホルムアミド(EMD Millipore、S4117)を含むRNase非含有水(Life Technologies、AM9932))を細胞に添加し、5分間インキュベートした。12.5μMのRNAプローブ(表S6、Stellaris)を含むハイブリダイゼーション緩衝液(90%のStellaris RNA FISHハイブリダイゼーション緩衝液(Biosearch Technologies、SMF−HB1−10)及び10%の脱イオン化ホルムアミド)を細胞に添加し、37Cで一晩インキュベートした。洗浄緩衝液Aでの洗浄を37℃で30分間行った後、20μm/mLのHoechst 33258(Life Technologies、H3569)において核を5分間染色してから、洗浄緩衝液B(Biosearch Technologies,SMF−WB1−20)での洗浄を5分間行った。細胞を水で1回洗浄した後、Vectashield(VWR、101098−042)を用いてカバースリップをスライドガラス上にマウントし、最終的に、マニキュア液(Electron Microscopy Science 番号72180)を用いてカバースリップをシールした。画像の取得は、MetaMorph取得ソフトウェア及びHammamatsu ORCA−ER CCDカメラ(W.M.Keck Microscopy Facility,MIT)を使用して、100×対物レンズを備えたRPIスピニングディスク型共焦点顕微鏡で行った。画像の後処理は、Fiji Is Just ImageJ(FIJI)を使用して行った。
免疫蛍光法とDNA FISHとの併用
免疫蛍光法は、上記のように実施した。細胞を二次抗体と共にインキュベートした後、PBSで細胞を室温で5分間、3回洗浄し、4%のPFAを含むPBSを用いて10分間固定化し、PBSで3回洗浄した。70%のエタノール、85%のエタノール、次いで100%のエタノールにおいて細胞を室温で1分間インキュベートした。7μLのFISHハイブリダイゼーション緩衝液(Agilent G9400A)、1μlのFISHプローブ(対象領域については後述部を参照のこと)、及び2μLの水を混合してプローブハイブリダイゼーション混合物を調製した。5μLの混合物をスライド上に添加し、カバースリップを上に被せた(細胞側の面がハイブリダイゼーション混合物と接するようにした)。ゴムのりを使用してカバースリップをシールした。ゴムのりが固化した時点で、ゲノムDNA及びプローブを78℃で5分間変性させ、スライドを暗所、16℃で一晩インキュベートした。スライドからカバースリップを剥がし、予熱した洗浄緩衝液1(Agilent、G9401A)において73℃で2分間インキュベートし、洗浄緩衝液2(Agilent、G9402A)において室温で1分間インキュベートした。スライドを風乾し、Hoechstを含むPBSを用いて核を室温で5分間染色した。PBSでカバースリップを3回洗浄し、Vectashieldを使用してスライド上にマウントし、マニキュア液を用いてシールした。画像の取得は、MetaMorph取得ソフトウェア及びHammamatsu ORCA−ER CCDカメラ(W.M.Keck Microscopy Facility,MIT)を使用して、100×対物レンズを備えたRPIスピニングディスク型共焦点顕微鏡で行った。
Nanogスーパーエンハンサー及びMiR290スーパーエンハンサーを標的とするために、DNA FISHプローブは、Agilentによってカスタム設計及び生成されたものを使用した。
Nanog
設計インプット領域−mm9
chr6 122605249−122705248
設計領域−mm9
chr6:122605985−122705394
Mir290
設計領域−mm10
chr7:3141151−3241381
組織培養
V6.5マウス胚性幹細胞(mESC)は、Jaenisch labからの供与物である。0.2%のゼラチン(Sigma、G1890)でコートされた組織培養プレート上で2i培地において細胞を増殖させた。この2i培地の組成は、DMEM−F12(Life Technologies、11320082)、0.5×B27サプリメント(Life Technologies、17504044)、0.5×N2サプリメント(Life Technologies、17502048)、追加の0.5mMのL−グルタミン(Gibco、25030−081)、0.1mMのb−メルカプトエタノール(Sigma、M7522)、1%のペニシリンストレプトマイシン(Life Technologies、15140163)、0.5×非必須アミノ酸(Gibco、11140−050)、1000U/mlのLIF(Chemico、ESG1107)、1μMのPD0325901(Stemgent、04−0006−10)、3μMのCHIR99021(Stemgent、04−0004−10)である。細胞は、加湿インキュベーターにおいて、5%のCO2雰囲気下、37℃で増殖させた。共焦点画像化については、5μg/mLのポリ−L−オルニチン(Sigma Aldrich、P4957)及び5μg/mlのラミニン(Corning、354232)を用いて、それぞれ37℃で30分間、及び37℃で2時間〜16時間コートしたガラスのカバースリップ(Carolina Biological Supply、633029)上で細胞を増殖させた。継代培養については、1000U/mlのLIFを含むPBS(LifeTechnologies、AM9625)で細胞を洗浄した。プレートからの細胞の剥離には、TrypLE Express Enzyme(Life Technologies、12604021)を使用した。TrypLEの反応停止は、FBS/LIF−培地(DMEM K/O(Gibco、10829−018)、1×非必須アミノ酸、1%のペニシリンストレプトマイシン、2mMのL−グルタミン、0.1mMのb−メルカプトエタノール、及び15%のウシ胎仔血清(FBS)(Sigma Aldrich、F4135))を用いて行った。1000rpm、室温で細胞を3分間スピンダウンしてから、2i培地に再浮遊させ、5×106個の細胞を15cmディッシュに蒔いた。mESCの分化については、6ウェル組織培養ディッシュのウェルごとに6000個の細胞を蒔くか、またはラミニンでコートされたガラスのカバースリップを含む24ウェルプレートのウェルごとに1000個の細胞を蒔いた。24時間後、2i培地をLIF非含有FBS培地(上記のもの)と交換した。5日間、培地を毎日交換した後、細胞を収集した。
ウエスタンブロット
プロテアーゼ阻害剤(Roche、11697498001)を含むCell Lytic M(Sigma−Aldrich C2978)において細胞を溶解させた。3%〜8%のトリス酢酸ゲルまたは10%のビス−トリスゲルまたは3〜8%のビス−トリスゲルにおいて80Vで可溶化液を約2時間泳動させた後、色素の最前部がゲルの末端に達するまで120Vで泳動させた。次に、氷冷転写緩衝液(25mMのトリス、192mMのグリシン、10%のメタノール)において、孔径0.45μmのPVDF膜(Millipore、IPVH00010)へと300mA、4℃でタンパク質を湿潤状態で2時間転写した。転写後、5%の無脂肪乳を含むTBSにおいて膜を振とうしながら室温で1時間ブロッキングした。次に、5%の無脂肪乳を含むTBSTで1:1,000希釈した記載の抗体(表S4)と共に膜をインキュベートし、振とうしながらインキュベートを4℃で一晩継続した。朝に、TBSTを用いて膜の洗浄を3回行い、その際、洗浄ごとに、室温で振とうしながら膜の洗浄を5分間行った。1:5,000希釈した二次抗体と共に膜を室温で1時間インキュベートし、TBSTを用いる5分間の膜の洗浄を3回行った。ECL基質(Thermo Scientific、34080)を用いて膜を発色させ、CCDカメラを使用して画像化するか、もしくはフィルムを使用して感光させるか、または高感度ECLを用いて膜を発色させた。
クロマチン免疫沈降(ChIP)qPCR及びシークエンシング
2i培地において80%コンフルエンスになるまでmESを増殖させた。1%のホルムアルデヒドを含むPBSを使用して細胞における架橋反応を15分間行った後、最終濃度125mMのグリシンを用いて氷上でこの架橋反応を停止した。冷却PBSで細胞を洗浄し、冷却PBSにおいて細胞を剥がし取ることによって細胞を収集した。収集した細胞を、1000g、4℃で3分間ペレット化し、液体窒素中で急速凍結させ、−80℃で保管した。新たに調製したcOmpleteプロテアーゼ阻害剤(Roche、11873580001)をすべての緩衝液に含めた。凍結架橋細胞を氷上で解凍した後、溶解緩衝液I(50mMのHEPES−KOH(pH7.5)、140mMのNaCl、1mMのEDTA、10%のグリセロール、0.5%のNP−40、0.25%のTritonX−100、13種類のプロテアーゼ阻害剤)に再浮遊させ、4℃で10分間、旋回振とうした後、1350rcf、4℃で5分間スピンダウンした。ペレットを溶解緩衝液II(10mMのトリス−HCl(pH8.0)、200mMのNaCl、1mMのEDTA、0.5mMのEGTA、13種類のプロテアーゼ阻害剤)に再浮遊させ、4℃で10分間、旋回振とうし、1350rcf、4℃で5分間スピンダウンした。ペレットを超音波処理緩衝液(20mMのトリス−HCl(pH8.0)、150mMのNaCl、2mMのEDTA(pH8.0)、0.1%のSDS、及び1%のTritonX−100、13種類のプロテアーゼ阻害剤)に再浮遊させた後、Misonix3000超音波処理器での各30秒の超音波処理(18〜21W)を氷上で10サイクル行い、サイクル間には氷上での60秒の保持を挟んだ。超音波処理した可溶化液を、16,000rcf、4℃での10分間の遠心分離に1回供して清澄化した。インプット材料を取り分け、残りを、抗体(表S4)が結合した磁気ビーズと共に4℃で一晩インキュベートして、記載の因子が結合したDNA断片を濃縮した。下記の緩衝液のそれぞれを用いてビーズを2回洗浄した:洗浄緩衝液A(50mMのHEPES−KOH(pH7.5)、140mMのNaCl、1mMのEDTA(pH8.0)、0.1%のデオキシコール酸Na、1%のTritonX−100、0.1%のSDS)、洗浄緩衝液B(50mMのHEPES−KOH(pH7.9)、500mMのNaCl、1mMのEDTA(pH8.0)、0.1%のデオキシコール酸Na、1%のTritonX−100、0.1%のSDS)、洗浄緩衝液C(20mMのトリス−HCl(pH8.0)、250mMのLiCl、1mMのEDTA(pH8.0)、0.5%のデオキシコール酸Na、0.5%のIGEPALC−630、0.1%のSDS)、洗浄緩衝液D(0.2%のTritonX−100を含むTE)、及びTE緩衝液。溶出緩衝液(50mMのトリス−HCl(pH8.0)、10mMのEDTA、1%のSDS)において65℃で間欠的に1時間ボルテックスしながらインキュベートすることによってビーズからDNAを溶出させた。65℃で一晩架橋を外した。DNAを精製するために、TEを200μL添加した後、33mg/mLのRNaseA(Sigma、R4642)を2.5μL添加し、37℃で2時間インキュベートすることによってRNAを分解した。20mg/mLのプロテイナーゼK(Invitrogen、25530049)を10μL添加し、55℃で2時間インキュベートすることによってタンパク質を分解した。フェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール抽出を実施した後、エタノール沈殿を実施した。次に、DNAを50μLのTEに再懸濁し、qPCRまたはシークエンシングのいずれかに使用した。ChIP−qPCR実験については、Power SYBR Green mix(Life Technologies 番号4367659)を使用してQuantStudio 5 System またはQuantStudio 6 System(Life Technologies)でqPCRを実施した。
RNA−Seq
記載の処理を行った記載の細胞株においてRNA−Seqを実施し、発現遺伝子の決定に使用した。AllPrep Kit(Qiagen 80204)によってRNAを単離し、TruSeq Stranded mRNA Library Prep Kit(Illumina、RS−122−2101)を製造者のプロトコールに従って使用してストランド特異的ポリA選択ライブラリーを調製し、Hi−seq 2500装置でシングルエンドシークエンシングに供した。
タンパク質精製
目的遺伝子またはそのIDRをコードするcDNAを改変バージョンのT7 pET発現ベクターにクローニングした。このベースベクターは、5’に6×HIS、その下流にmEGFPまたはmCherryのいずれか、及び「GAPGSAGSAAGGSG」(配列番号14)という14個のアミノ酸のリンカー配列を含むように操作した。こうした配列(PCRによって生成させた)をリンカーアミノ酸と共にフレーム内に挿入するために、NEBuilder(登録商標)HiFi DNA Assembly Master Mix(NEB E2621S)を使用した。mEGFPまたはmCherryを単独で発現するベクターは、リンカー配列の下流に終始コドンを含む。変異配列は、geneblocks(IDT)として合成し、上記のものと同じベースベクターに挿入した。発現コンストラクトはすべて、シークエンシングして配列が変化していないことを確認した。タンパク質発現については、プラスミドを用いた形質転換をLOBSTR細胞(Chessman Labからの供与物)に対して行い、下記のように増殖させた。カナマイシン及びクロラムフェニコールを含むLB培地に新鮮な細菌コロニーを播種し、37℃で一晩増殖させた。MED1−IDRコンストラクトを含む細胞を、カナマイシン及びクロラムフェニコールを新たに添加した500mlの室温のLBで1:30希釈し、16℃で1.5時間増殖させた。IPTGを添加して1mMとし、増殖を18時間継続した。細胞を収集し、−80℃で凍結保管した。いずれの他のコンストラクトを含む細胞もまた、IPTGによる誘導後に37℃で5時間増殖させたことを除いて、同様の様式で処理した。
cOmpleteプロテアーゼ阻害剤(Roche、11873580001)を含む15mlの変性緩衝液(50mMのトリス(7.5)、300mMのNaCl、10mMのイミダゾール、8Mの尿素)に500mlのcMyc細胞及びNanog細胞のペレットを再浮遊させ、超音波処理(15秒間オン、60秒間オフのサイクルを10回実施)した。12,000gで30分間遠心分離することによって可溶化液を清澄化し、10倍体積の同じ緩衝液で事前に平衡化しておいた1mlのNi−NTAアガロース(Invitrogen、R901−15)に添加した。このアガロース可溶化液スラリーを含むチューブを1.5時間旋回振とうした。スラリーをカラムに流し込み、15倍体積の溶解緩衝液で洗浄し、250mMのイミダゾールを含む変性緩衝液を用いて溶出処理を4回行った。各画分を12%ゲルで泳動させ、正しいサイズのタンパク質の透析を行った。この透析は、最初は緩衝液(50mMのトリス(pH7.5)、125MmのNaCl、1MmのDTT、及び4Mの尿素)に対して行い、次に、2Mの尿素を含む同じ緩衝液に対して行い、最終的に、10%のグリセロールを含む尿素非含有緩衝液(この緩衝液による外液交換を2回実施)に対して行った。透析後に生じた沈殿物はいずれも、3,000rpmでの10分間の遠心分離によって除去した。他のタンパク質もすべて、同様の様式で精製した。10mMのイミダゾール及びcOmpleteプロテアーゼ阻害剤を含む15mlの緩衝液A(50mMのトリス(pH7.5)、500mMのNaCl)に500mlの細胞のペレットを再浮遊させ、超音波処理を行い、可溶化液を、12,000g、4℃で30分間遠心分離することによって清澄化し、事前に平衡化した1mlのNi−NTAアガロースに添加し、4℃で1.5時間旋回振とうした。スラリーをカラムに流し込み、10mMのイミダゾールを含む15倍体積の緩衝液Aで洗浄し、タンパク質の溶出処理を、50mMのイミダゾールを含む緩衝液Aで2回、100mMのイミダゾールを含む緩衝液Aで2回、及び250mMのイミダゾールを含む緩衝液Aで3回行った。代替法として、樹脂スラリーを3,000rpmで10分間遠心分離し、15倍体積の緩衝液で洗浄し、上記の緩衝液(50mMのイミダゾール、100mMのイミダゾール、及び250mMのイミダゾール)のそれぞれと共に10分間以上旋回振とうしながらインキュベートすることによってタンパク質を溶出させた後、遠心分離及びゲルでの分析を行った。50mMのトリス(7.5)、125mMのNaCl、10%のグリセロール、及び1mMのDTTを含む緩衝液(この緩衝液による外液交換を2回実施)に対して、正しいサイズのタンパク質を含む画分を4℃で透析した。
インビトロの液滴アッセイ
Amicon Ultra遠心分離フィルター(30K MWCO、Millipore)を使用して組換えGFP融合タンパク質または組換えmCherry融合タンパク質を濃縮及び脱塩することで、タンパク質を適切な濃度とし、NaCl濃度を125mMとした。液滴形成緩衝液(50mMのトリス−HCl(pH7.5)、10%のグリセロール、1mMのDTT)中に異なる濃度(記載の最終塩濃度)の塩及び10%のPEG−8000(クラウディング剤)を含む溶液に組換えタンパク質を添加した。このタンパク質溶液を、並行に配置された2つの両面テープ片によってカバースリップが取り付けられたスライドガラスから構成される自作チャンバーに直ちにロードした。次に、150×対物レンズを備えたAndor共焦点顕微鏡を用いてスライドを画像化した。指定がない限り、示される画像は、ガラスのカバースリップ上で安定した状態の液滴のものである。蛍光標識ポリペプチドを用いる実験については、TMR蛍光タグを用いてKoch Institute/MIT Biopolymers & Proteomics Core Facilityによって合成された記載のデカペプチドを使用した。記載のポリペプチドを含む緩衝液D(125mMのNaCl及び10%のPeg−8000を含む)に目的タンパク質を添加し、上記のように画像化した。インビトロ液滴のFRAPについては、50u秒の画素滞在時間でレーザーパルスを液滴に5回照射し、回復の画像化をAndor顕微鏡で1秒ごとに記載の時間実施した。エストロゲンによる刺激実験については、B−エストラジオール(E8875Sigma)を100%のEtOHで新たに再構成して10mMとした後、125mMのNaClを含む液滴形成緩衝液で希釈して100uMとした。10uLの液滴形成反応液においてこの高濃度貯蔵液を1マイクロリットル使用して最終濃度を10uMとした。
ゲノム編集及びタンパク質分解
ESC株の遺伝子操作にはCRISPR/Cas9系を使用した。GFPと共にコドン最適化バージョンのCas9を保有するプラスミド(R.Jaenischからの供与物)に標的特異的オリゴヌクレオチドをクローニングした。標的DNAの配列(プロトスペーサー隣接モチーフには下線が付けられている)は、同じ表に記載されている。内在性にタグ付けされた株の生成には、以下のガイド配列を含む2.5mgのCas9プラスミド(pX330−GFP−Oct4)、1.25mgの非直鎖化修復プラスミド1(pUC19−Oct4−FKBP−BFP)、及び1.25mgの非直鎖化修復プラスミド2(pUC19−Oct4−FKBP−mcherry)(表S5)を、Med1−mEGFPタグを有する100万個のmES細胞にトランスフェクトした。48時間後、GFPが存在する細胞を選別した。細胞を5日間増殖させた後、mCherry及びBFPについて二重に陽性の細胞を再び選別した。40,000個のmCherry+/BFP+選別細胞を段階希釈して6ウェルプレートに蒔いた。2i培地において細胞をおよそ1週間増殖させた後、立体鏡を使用して個々のコロニーをピッキングし、96ウェルプレートに移した。細胞を増殖させ、PCRによって遺伝子型を同定し、分解が生じることをウエスタンブロット及びIFによって確認した。ホモ接合型ノックインタグを有するクローンをさらに増殖させ、実験に使用した。FKBPタグ付きOct4を発現するホモ接合型ノックインクローン株を分解実験に使用した。2iにおいて細胞を増殖させた後、100nM濃度のdTAG−47で24時間処理してから収集した。
Oct4ガイド配列
tgcattcaaactgaggcacc*NGG(PAM)(配列番号15)
GAL4転写アッセイ
GAL4 DNA結合ドメインの発現を誘導するSV40プロモーターを含む哺乳類発現ベクターにおいて転写因子コンストラクトを構築した。このDNA結合ドメインのC末端に対してOct4及びGcn4の野生型活性化ドメイン及び変異活性化ドメインを、Gibsonクローニング(NEB 2621S)によって融合し、この融合では、GAPGSAGSAAGGSG(配列番号16)という配列のリンカーを連結に使用した。こうした転写因子コンストラクトを、Lipofectamine 3000(Thermofisher L3000015)を使用してHEK293T細胞(ATCC CRL−3216)またはV6.5マウス胚性幹細胞にトランスフェクトし、トランスフェクトした細胞を白色の平底96ウェルアッセイプレート(Costar 3917)において増殖させた。こうした転写因子コンストラクトは、ホタルルシフェラーゼ遺伝子の上流に5つのGAL4上流活性化部位を含む改変バージョンのPGL3−Basic(Promega)ベクターと共にコトランスフェクトした。pRL−SV40(Promega)もまた、コトランスフェクトした。pRL−SV40は、SV40プロモーターによって誘導されるウミシイタケルシフェラーゼ遺伝子を含むプラスミドである。トランスフェクトから24時間後、各ルシフェラーゼタンパク質によって生じる発光を、Dual−glo Luciferase Assay System(Promega E2920)を使用して測定した。データは、ウミシイタケルシフェラーゼの発現量として示されている。
Lac結合アッセイ
CFP−LacI融合タンパク質の発現を誘導するSV40プロモーターを含むpSV2哺乳類発現ベクターにおいて、NEB HIFIクローニングによってコンストラクトを構築した。この組換えタンパク質のC末端に対してGcn4の活性化ドメイン及び変異活性化ドメインを融合し、この融合では、GAPGSAGSAAGGSG(配列番号17)という配列のリンカーを連結に使用した。約51,000個のLacリプレッサー結合部位のアレイが安定的に組み込まれたU2OS−268細胞(Spector laboratoryからの供与物)へのトランスフェクトを、lipofectamine 3000(Thermofisher L3000015)を使用して行った。トランスフェクトから24時間後、フィブロネクチンでコートされたガラスのカバースリップ上に細胞を蒔いた。ガラスのカバースリップ上に蒔いてから24時間後、上記のようにMED1抗体(表S4)での免疫蛍光を行うために細胞を固定化し、スピニングディスク型共焦点顕微鏡法によって画像化した。
CDK8−メディエーターの精製
CDK8−メディエーター試料は、報告(Meyer et al.,2008)に改変を加えて精製した。親和性精製を行う前に、硫酸アンモニウム沈殿法(35%)によってP0.5M/QFT画分を濃縮して12mg/mLとした。20mMのKCl、20mMのHEPES、0.1mMのEDTA、2mMのMgCl2、20%のグリセロールを含むpH7.9の緩衝液にペレットを再懸濁した後、0.15MのKCl、20mMのHEPES、0.1mMのEDTA、20%のグリセロール、及び0.02%のNP−40を含むpH7.9の緩衝液に対して透析してから、親和性精製ステップに供した。報告(Meyer et al.,2008)のように親和性精製を実施し、溶出した材料を、0.15MのKCl HEMG(20mMのHEPES、0.1mMのEDTA、2mMのMgCl2、10%のグリセロール)を2mL入れた2.2mLの遠心分離チューブにロードし、50K RPM、4℃で4時間遠心分離した。この操作を行うことで、過剰な遊離GST−SREBPが除去され、CDK8−メディエーターが最終画分に濃縮された。液滴アッセイを行う前に、Ultracel−30膜(Millipore MRCF0R030)を備えたMicrocon−30kDa Centrifugal Filter Unitを使用して精製CDK8−メディエーターを濃縮して、メディエーター複合体の濃度を約300nMとした。濃縮したCDK8−メディエーターを、最終濃度が約200nMとなるようにして液滴アッセイに使用し、その際、10μMの記載のGFPタグ付きタンパク質の存在下または非存在下で液滴アッセイを行った。液滴反応には、10%のPEG−8000及び140mMの塩を含めた。
定量化及び統計解析
実験設計
実験はすべて、反復測定した。具体的な反復測定実施回数については、図の説明または以下の具体的なセクションを参照のこと。試験は盲検の状況で行ったものではない。試料のサイズは所定のものではなく、異常値の除去は行わなかった。
平均画像及び動径分布解析
免疫蛍光法を併用するRNA FISHの解析については、社内カスタムMATLAB(登録商標)スクリプトを記述することで、FISH(RNA/DNA)チャネル及びIFチャネルに集積した3次元画像データを処理及び解析した。強度閾値によって個々のz軸スタック画像においてFISHフォーカスを手動で同定し、サイズl=2.9μmのボックスの中心に置き、z軸スタック画像にまたがって3次元で繋ぎ合わせた。特定されたFISHフォーカスは、FISHフォーカスの手動精選リストに対する相互参照を行うことで偽陽性を除去してあり、こうした偽陽性は、過剰な核内シグナルまたは誤差に起因して生じるものである。同定したRNA FISHフォーカスごとに、IFチャネルにおける対応位置に由来するシグナルが、あらゆるz軸スライス画像においてRNA FISHフォーカスを中心とするl×l四方に集積される。次に、FISHとIFとのペアごとに、FISHフォーカスを中心とするIFシグナルが統合され、平均強度プロジェクションが計算されることで、FISHフォーカスを中心とするl×l四方内のIFシグナル強度の平均データが得られる。自体の座標に中心を置いたFISHシグナル強度について同じ処理を実施することで、FISHフォーカスを中心とするl×l四方内のFISHシグナル強度の平均データを得た。対照として、これと同じ処理を、無作為に選択された核内位置を中心とするIFシグナルにも実施した。無作為に選択された核内位置は、核体積を最初に同定し、次に、その体積内の位置を選択することによって画像セットごとに同定した。核体積は、z軸スタック画像を取得した後、カスタムCellProfilerパイプライン(補助ファイルとして含めた)を介して処理することでDAPI染色から決定した。簡潔に記載すると、このパイプラインでは、画像強度の再調整、処理速度を得るために行われる元サイズの20%への画像の縮小、検出されたスペックルの強調、シグナルのメジアンフィルター処理、構造体の閾値判定、穴の除去、シグナルのメジアンフィルター処理、元のサイズへの画像の拡大、核の境界決定、及び得られる物体の白黒画像への変換が行われる。この白黒画像は、カスタムRスクリプトのインプットとして使用され、このカスタムRスクリプトでは、readTIFF及びim(spatstat由来)を使用することで、画像セット当たり40の無作為な核ボクセルが選択される。次に、こうした平均強度プロジェクションを使用して、シグナル強度の2次元等高線図または動径分布プロットが作成される。等高線図は、MATLAB(登録商標)のイン・ビルト(in−built)関数を使用して作成される。強度動径関数((r))は、平均データから計算される。等高線図については、示される強度−色範囲は、直線色範囲(n!=15)にわたってカスタマイズしたものである。FISHチャネルについては、黒色〜マゼンタ色を使用した。IFチャネルについては、本発明者らは、chroma.js(オンラインカラージェネレーター)を使用して15のビンわたって色を生成させ、主要な変遷色として、黒色、青紫色、ミディアムブルー色、ライム色を選択した。これを行った目的は、読み手が一目でシグナル強度差をより容易に判別し得るようにすることにある。作成したカラーマップを、すべてのIFプロットについて、等間隔の15の強度ビンに用いた。FISH位置または無作為に選択された核内位置を中心とする平均IFは、同じ色尺度を使用してプロットされ、この色尺度は、各プロットに由来する最小シグナル及び最大シグナルを含むように設定されている。DNA FISH解析については、FIJIにおける強度閾値によって個々のz軸スタック画像においてFISHフォーカスを手動で同定し、参照領域として選択した。次に、この参照領域を、画像のMED1 IFチャネルに当てはめ、当該FISHフォーカス内の平均IFシグナルを決定した。画像当たり11個以上の細胞を含む5枚の画像の平均シグナルを平均化することで、DNA FISHフォーカスと結び付く平均MED1 IF強度を計算した。
クロマチン免疫沈降PCR及びシークエンシング(ChIP)解析
図に示される値は、インプットに正規化したものである。平均WT正規化値及び標準偏差が示される。使用プライマーは、以下に示される。目的領域(ROI)に対するChIPをインプット値に正規化し(インプット倍率)、mir290エンハンサーについては、追加で負の領域に正規化した(負の正規化値)。値は、分化実験ではES状態に正規化したものが示され、OCT4分解実験ではDMSO対照に正規化したもの(対照正規化値)が示される。qPCR反応は、同じ試料を3回反復測定して実施した。
インプット倍率=2(Ct_インプット−Ct_CHIP)
負の正規化値=インプット倍率ROI/インプット倍率neg
対照正規化値(分化)=負の正規化値分化/負の正規化値ES
ChIP qPCRプライマー
リード長に対するパラメーターを−k 1 −m 1 −best及び−lに設定してbowtieを使用してmm9バージョンのマウス参照ゲノムへのChIP−Seqデータのアライメントを行った。ビンにおけるリードカバレッジを表示するためのWiggleファイルは、MACS(パラメーターを−w −S −space=50 −nomodel −shiftsize=200とした)を使用して作成し、ビン当たりのリード数は、wiggleファイルの作成に使用した数百万のマッピングリードに正規化した。リード数/百万に正規化されたwiggleファイルをUCSCゲノムブラウザーに表示した。図1に示されるChIP−Seqトラックは、Whyte et al.,2013のGSM1082340(OCT4)及びGSM560348(MED1)から得られたものである。2i条件で増殖した細胞におけるスーパーエンハンサー及び典型的エンハンサーならびにその関連遺伝子は、Sabari et al.,2018からダウンロードした。bamToGFF(github.com/BradnerLab/pipeline)を使用して占有倍率変化の分布を計算することで、2i条件で増殖した細胞に由来するスーパーエンハンサー及び典型的エンハンサーのカバレッジを定量化した。それぞれの典型的エンハンサー及びスーパーエンハンサーのリードオーバーラップは、bamToGFF(パラメーターを−e 200−f 1−t TRUEとした)を使用して決定し、その後、数百万のマッピングリードに正規化した(RPM)。次に、各条件から得られたRPM正規化インプットリード数を、対応条件から得られたRPM正規化ChIP−Seqリード数から差し引いた。この差し引きの結果が負の数となる領域に由来する値を0に設定した。DMSO処理(通常のOCT4量)とdTAG処理(OCT4の枯渇)との間のLog2倍率変化を計算した。各条件には、擬頻度(pseudocount)として1を追加した。
スーパーエンハンサーの同定
スーパーエンハンサーは、Whyte et al.に記載のように同定した。MACS(−p 1e−9−keep−dup=1)及びインプット対照を使用してMED1における濃縮のピークを同定した。非処理細胞に由来するMED1アライメントリード及びMED1の対応ピークを、ROSE(bitbucket.org/young_computation/)(パラメーターを−s 12500 −t 2000 −g mm9とした)のインプット、及びインプット対照として使用した。D7Ertd143eを追加する共に、Mir290、Mir291a、Mir291b、Mir292、Mir293、Mir294、及びMir295を除外することによってカスタム遺伝子リストを作成することで、同じ転写物の一部であるこうした近隣マイクロRNAが重複カウントされないようにした。繋ぎ合わせたエンハンサー(スーパーエンハンサー及び典型的エンハンサー)を、そうした繋ぎ合わせたエンハンサーの中央に最も近い位置にプロモーターを有する単一の発現RefSeq転写物に割り当てた。発現転写物は、上記のように定義した。
RNA−Seq解析
解析については、デフォルトパラメーターでhisat2を使用してmm9版のマウス参照ゲノムに生のリードをアライメントした。遺伝子名−レベルリード数定量化は、htseq−count(パラメーターを−I gene_id −stranded=reverse −f bam −m intersection−strictとした)と、Refseq(6/6/18にダウンロード)由来の転写物位置を含むGTFと、を用いて実施した。正規化数、正規化倍率変化、及び発現差p値は、DEseq2(標準的なワークフロー及び各条件の両方の反復測定結果を使用)を使用して決定した。
OCT4の濃縮及び電荷解析
アミノ酸組成プロットは、タンパク質のアミノ酸配列に沿って各残基のアミノ酸独自性をプロットすることによってRを使用して作成した。OCT4の残基当たりの正味荷電は、localCIDERパッケージ(Holehouse et al.,2017)を使用してアミノ酸数5のスライド幅でOCT4アミノ酸配列に沿って平均アミノ酸電荷を計算することによって決定した。
変性濃縮解析
(Saint−andre et al.)に定義されるTFに対する解析のすべてについて、ヒト転写因子タンパク質配列のリストが使用される。参照ヒトプロテオーム(Uniprot UP000005640)を使用してリストの抽出が行われ(約1200のタンパク質に数が絞られる)、その際、非標準的アイソフォームの大部分が除去される。GO:0003713及びGO:0045944のGO濃縮IDを使用してヒトにおいて転写コアクチベーター及びPolII関連タンパク質を同定した。上に定義した参照ヒトプロテオームを使用してすべてのヒトタンパク質のリストを作成し、Uniprotのレビューリストからペルオキシソームタンパク質及びゴルジタンパク質を同定した。タンパク質ごとに、D2P2を使用して各アミノ酸の変性傾向を調べた。タンパク質におけるアミノ酸は、D2P2(Oates et al.,2013)によって用いられるアルゴリズムうちの少なくとも75%が、当該残基が変性すると予測するのであれば、変性するものと考えられる。さらに、転写因子については、アノテーションされているPFAMドメインをすべて同定した(総数5741、特有ドメイン数180)。既知のDNA結合活性に対するPFAMアノテーションの相互参照を行うことで、45の特有の高信頼性DNA結合ドメインのサブセットを同定した。これは、すべての同定ドメインの約85%に相当する。TFの圧倒的多数(>95%)が、同定結合ドメインを少なくとも1つ有していた。あらゆるTFのDNA結合領域のすべて、ならびに配列の残りの部分(ほとんどの同定トランス活性化ドメインを含む)について、変性スコアを計算した。
インビトロ液滴の画像化解析
インビトロでの相分離画像化実験を解析するために、カスタムMATLAB(登録商標)スクリプトを記述して液滴を同定し、そのサイズ及び形状を特徴付けた。いずれの具体的な実験条件についても、ヒストグラムのピークに基づく強度閾値、及びサイズ閾値(半径2ピクセル)を用いて画像をセグメント化した。液滴の同定は、「骨格」チャネル(MED1+TFの場合はMED1、GCN4+MED15についてはGCN4)で実施し、面積及びアスペクト比を決定した。インビトロの液滴アッセイのための濃縮を計算するために、骨格チャネルによって液滴をFIJIの目的領域として定義し、その液滴内のクライアントの最大シグナルを決定した。MED1、メディエーター複合体、またはGCN4を骨格として選択した。これを、画像中のバックグラウンドクライアントシグナルで割ることで、Cイン/アウトを得た。濃縮スコアの計算は、実験条件のCイン/アウトを、対照蛍光タンパク質(GFPまたはmCherryのいずれか)のCイン/アウトで割ることによって計算した。
データ及びソフトウェアの入手
全体的な受け入れ番号:
GSE120476
表S5.コンストラクト。別段の指定がない限り、タンパク質の配列はすべて、ヒトのものである。
実施例4
哺乳類ヘテロクロマチンは、特徴的なクロマチン修飾(ヒストンH3リジン9トリメチル化(H3K9me3)及びDNAメチル化)によって特徴付けられる2つの主要なエピジェネティック経路によって制御される。こうした修飾は、特異的に認識され、抑制活性を有するリーダータンパク質による結合を受ける。最も注目すべきは、HP1αがH3K9me3修飾のリーダーである一方で、MeCP2がDNAメチル化のリーダーであるということである。HP1α及びMeCP2は、全体的な遺伝子制御に関与する一般的なクロマチン制御因子である。両タンパク質は、正常発生に必要不可欠なものであり、多くの組織に広く発現し、多数の相互作用パートナーを介してその作用を媒介する。
ヘテロクロマチンは、核における静的かつ隔絶された構造であると伝統的に見なされている。転写サイレンシングは、ヘテロクロマチンにおいてクロマチン凝縮が生じることで、内包DNAからタンパク質(RNAポリメラーゼなど)が排除され、それによって転写が抑制されるものであるという見方が一般的である。しかしながら、いくつかの知見からは、ヘテロクロマチンが、ある特定のタンパク質の急速交換を許容するより動的な集合体であることが示唆されている。例えば、ヘテロクロマチンタンパク質HP1αは、クロマチン修飾因子(H3K9メチルトランスフェラーゼ及びヒストン脱アセチル化酵素など)をクロマチンに動員するものであり、クロマチン結合形態と核質形態との間だけでなく、異なるヘテロクロマチンドメインの間でも急速に交換される。
液−液相分離(LLPS)は、分子の混合が解かれ、異なる濃度を有する別々の液相へと別れることによって特徴付けられる物理的現象である。高密度液相の形成は、弱い多価分子間相互作用(タンパク質の低複雑性ドメイン及び天然変性ドメインによって生じるものなど)によって誘導される。LLPSは、凝縮体と呼ばれる無膜オルガネラの形成を誘導する細胞組織化の機構として浮上してきており、こうした凝縮体によって生体分子が無膜構造体にコンパートメント化され、そこに密集する。
本発明者らは、MeCP2が相分離ヘテロクロマチンコンパートメントに寄与するのではないかと疑った。さらに、重度の神経症候群は、MeCP2の機能が失われてもMeCP2が過剰に発現しても引き起こされるものであり、凝縮体モデルは、何故レベルが低下しても上昇しても関連症候群が引き起こされ得るかを説明できる可能性を有するものである。本明細書において、本発明者らは、MeCP2が相分離によって動的な液状凝縮体を形成し、この特性がヘテロクロマチン機能に寄与することを示す。MeCP2は、ヘテロクロマチンにおいて動的な液体様特性を有する核内凝縮体を形成する。このタンパク質は、抑制因子を取り込む得る相分離液滴をインビトロで形成し得る。MeCP2のC末端天然変性ドメインは、インビトロでの凝縮体形成、インビボでのヘテロクロマチンとの結び付き、及びヘテロクロマチンの遺伝子抑制に必要不可欠なものである。こうした結果は、MeCP2が、ヘテロクロマチンに抑制因子をコンパートメント化し、そこに密集させるように機能することを示唆している。
結果
MeCP2及びHP1αは、液体様ヘテロクロマチン凝縮体に存在する
本発明者らは、ヘテロクロマチンにおけるMeCP2の動的挙動を調べることによって、哺乳類ヘテロクロマチンの動的な液状凝縮体特性にMeCP2が寄与し得るかどうかを決定することを目指した。生細胞においてMeCP2を内在レベルで試験するために、本発明者らは、CRISPR/Cas9系を使用して、マウス胚性幹細胞(mESC)のMeCP2が高感度緑色蛍光タンパク質(GFP)単量体タグを有するように操作導入した。同じ細胞型においてMeCP2及びHP1αの動態を比較するために、本発明者らは、mESCのHP1αがmCherryタグを有するように追加操作を行った。MeCP2−GFPを含む細胞及びHP1α−mCherryを含む細胞の両方を生細胞での蛍光顕微鏡法によって分析したところ、個別の核内構造体がDNA高密度ヘテロクロマチンフォーカスとオーバーラップすることが明らかとなった(図43A及び図43B)。同じ核においてMeCP2−GFPとHP1α−mCherryとのシグナル比較を行ったところ、これら両方のシグナルが、mESCにおいて同じヘテロクロマチン凝縮体に生じることが示された(図43C)。生細胞画像の解析から、MeCP2凝縮体が核当たり14.9±2.7個存在し、凝縮体当たりの体積は1.04±1.47μm3であることが示された(平均値±標準偏差)。こうした結果は、MeCP2及びHP1αが、mESCにおいて正常レベルで発現する場合、それらがヘテロクロマチン凝縮体の共有コンポーネントであることを示している。
次に、本発明者らは、相分離によって形成される液状凝縮体に特有の特徴をMeCP2凝縮体が示すかどうかを決定することを目指した。液−液相分離によって形成される凝縮体の主な特徴は、分子の内部再構成及び内外交換が動的に生じることであり(Hyman et al.2014、Banani et al.2017、Shin & Brangwynne 2017)、こうしたことは、光退色後蛍光回復(FRAP)実験を使用して測定することができる。生細胞におけるMeCP2凝縮体の動態を調べるために、本発明者らは、内在性にタグ付けされたMeCP2−GFPを含むmESCでのFRAP実験を実施した。MeCP2−GFP凝縮体では、光退色実施後に数秒の時間尺度で蛍光の回復が生じた(図43D及び図43E)。HP1α−mCherryを含むmESCのFRAPでも、同様の回復動力学が示された(図43F及び図43G)。定量的解析からは、MeCP2−GFPが回復に至るまでの時間の半分の時間は約10秒であり、流動率は約80%であることが示された(図43H及び図43I)。したがって、MeCP2及びHP1αの両方が、ヘテロクロマチン凝縮体において動的な液体様特性を示す。
MeCP2は、インビトロで相分離液滴を形成する
MeCP2は、その構造化メチル結合ドメイン(MBD)に隣接する2つの保存された天然変性領域(IDR)を含む(図44A及び図50A)(Ghosh et al.2010、Wakefield et al.1999、Nan et al.1993、Adams et al.2007)。凝縮体形成に関与するタンパク質は、IDRを含むことが多く、精製されると、インビトロで相分離液滴を形成し得る(Burke et al.2015、Nott et al.2015、Lin et al.2015、Kato et al.2012;Sabari et al.2018)。MeCP2が相分離液滴を形成する能力を有するかどうかを決定するために、組換えMeCP2−GFP融合タンパク質を精製し、液滴形成アッセイにおいて試験した。クラウディング剤を含む緩衝液にタンパク質を添加することで、因子が核に高濃度で存在する状態を模倣したところ、MeCP2−GFPが濃縮された球状液滴(蛍光顕微鏡法を使用して検出した)の形成が誘導された(図44B)。相分離液滴は、典型的には、系におけるコンポーネントの濃度に応じてサイズが増減する(Brangwynne 2013)。MeCP2−GFPは、160nM〜10μMの濃度範囲で液滴を形成することが明らかとなり、タンパク質濃度の上昇に伴って液滴のサイズが増加した(図44B〜D及び図50B)。液滴は、融合する能力を有しており、MeCP2−GFPで液滴融合が観測された(図44E)。MeCP2−GFP液滴のFRAPからは、MeCP2−GFP液滴内で分子が動的に再構成されることを示す回復が生じることが示された(図44F)。HP1α−mCherryもまた、相分離液滴を形成することが明らかとなり(図50C)、以前の報告(Strom et al.2017、Larson et al.2017)が追認された。こうした結果は、MeCP2が相分離を起こして液滴を形成できることを実証するものであり、このことから、本発明者らは、MeCP2及びHP1αの両方が、インビトロで相分離を起こす能力を有するヘテロクロマチンコンポーネントであるという結論を下す。
相分離は、タンパク質IDR内のアミノ酸残基の間の多価の弱い分子間相互作用によって誘導され得るものであり、荷電残基及び芳香族残基の両方が相分離に寄与することが示されている。MeCP2の2つの大きなIDRのアミノ酸含量を調べたところ、荷電残基が顕著に豊富であるが、芳香族残基は少数にすぎないことが明らかとなった(図44A及び図50A)。静電的相互作用がMeCP2相分離に寄与するのであれば、液滴形成アッセイにおいて塩濃度を上昇させることによって(イオン性相互作用が破壊されることになる)、MeCP2が液滴を形成する能力が低下するはずである。実際、塩濃度を上昇させることによってMeCP2液滴が減少し(図44G〜図44I)、このことは、MeCP2が相分離液滴を形成する能力に静電的相互作用が寄与することを示唆している。MeCP2−GFPがさまざまな塩濃度及びタンパク質濃度で液滴を形成する能力を調べることによって、MeCP2−GFP液滴形成の相図を作成した(図44J及び図50D)。
凝縮体形成、ヘテロクロマチンとの結び付き、及び遺伝子抑制は、MeCP2のC末端IDRに依存する。
MeCP2が相分離液滴を形成する能力が、そのIDRの一方または両方に依存するかどうかを決定するために、本発明者らは、N末端IDRを欠失させた組換えMeCP2−GFP変異体(ΔIDR−1)またはC末端IDRを欠失させた組換えMeCP2−GFP変異体(ΔIDR−2)を精製し(図45A)、それらがインビトロで液滴を形成する能力を調べた。液滴アッセイを行ったところ、N末端IDRを有さない変異体(ΔIDR−1)は、液滴形成能力を依然として有していたが、C末端IDRを有さない変異体(ΔIDR−2)は、この能力を失っていることが明らかとなった(図45B)。こうした結果は、MeCP2がインビトロで相分離液滴を形成する能力が、そのC末端IDRに依存することを示している。
次に、本発明者らは、N末端IDRを有さないMeCP2−GFP変異体(ΔIDR−1)またはC末端IDRを有さないMeCP2−GFP変異体(ΔIDR−2)が細胞においてヘテロクロマチンと結び付く能力を、こうしたタンパク質を内在性のMecp2遺伝子座から発現するように操作したmESCを使用することによって調べた。生細胞での蛍光顕微鏡法で分析したところ、ΔIDR−1 MeCP2が、ヘテロクロマチンに局在化し、そこに全長MeCP2と同様に濃縮されることが明らかとなった(図45C及び図45D)。対照的に、ΔIDR−2 MeCP2では、ヘテロクロマチンにおける局在化及び濃縮が減少した(図45C及び図45D)。こうした結果は、インビトロでの凝縮体形成と、インビボでのヘテロクロマチンとの結び付きと、の両方が、MeCP2のC末端IDRに依存することを示している。
MeCP2が、ヘテロクロマチン凝縮体に局在及び密集することによって遺伝子抑制を促進するように機能するのであれば、IDR−2が失われると、反復エレメントサイレンシングに影響が及ぶであろうと本発明者らは想定した。実際、ΔIDR−2 MeCP2細胞では、メジャーサテライト反復配列の発現が、全長MeCP2細胞と比較して有意に増加した(図45E)。まとめると、こうした結果は、凝縮体形成、ヘテロクロマチン局在化、及び遺伝子サイレンシングが、MeCP2のC末端IDRに相互依存することを示唆している。
MeCP2凝縮体は、ヘテロクロマチン因子をコンパートメント化し得る
凝縮体は、凝縮液相内に因子をコンパートメント化し、そこに密集させるように機能すると考えられる。本発明者らは、核抽出物を用いる液滴形成アッセイを使用することで、ヘテロクロマチンと結び付くことが知られるさまざまな因子をMeCP2が液滴にコンパートメントし得るかどうかを調べた(図46A)。核抽出物を使用した理由は、こうしたものが、核のコンポーネントをすべて含み、人工的なクラウディング剤を添加せずとも凝縮体形成が生じ得ることよるものである。核抽出物は、MeCP2−mCherryまたはMeCP2−ΔIDR−2−mCherryのいずれかを発現するHEK293細胞から高塩濃度下で調製し、核抽出物の塩濃度を低下させることによって液滴形成を誘導した。本発明者らは、MeCP2−mCherryを発現する細胞に由来する核抽出物では液滴が形成されるが、MeCP2−ΔIDR−2−mCherryを発現する細胞に由来する核抽出物では液滴が形成されないことを見出した(図46B)。凝縮体にはタンパク質コンポーネントが密集しており、それ故に、こうした凝縮体は、周囲の相と比較して密度が高いため、核抽出物を遠心分離して高密度材料をスピンダウンし、この材料をウエスタンブロットによって分析した。この結果から、HP1α、TBL1R(トランスデューシンベータ様タンパク質)、HDAC3(ヒストン脱アセチル化酵素3)、及びSMRT(レチノイン酸受容体及び甲状腺受容体のサイレンシングメディエーター)を含めて、ヘテロクロマチンと結び付くことが知られる抑制因子が、MeCP2−mCherry抽出物には濃縮されるが、MeCP2−ΔIDR−2−mCherry抽出物には濃縮されないことが明らかとなった(図46C及び図46D)。対照的に、ユークロマチンのコンポーネント(RNAポリメラーゼII(RPB1)など)は濃縮されなかった(図46C及び図46D)。こうした結果は、ヘテロクロマチンと結び付く抑制因子をコンパートメント化し、密集させ得る液滴をMeCP2が核抽出物において形成し得ることを示している。
MeCP2 IDR−2は、ヘテロクロマチン凝縮体へと分配され得る
凝縮体を形成するタンパク質のIDRは、タンパク質を特定の凝縮体に到達させることが提唱されているが、そのような到達先決定機能に対する直接的な証拠はほとんど存在しない(Banani et al.2017)。それ故に、本発明者らは、細胞においてmCherryタンパク質がヘテロクロマチンに到達する上でMeCP2 IDR−2が十分なものであるかどうかを試験した(図47A)。mCherryと融合したMeCP2 IDR−2(mCherry−MeCP2−IDR−2)、及び対照mCherryをmESCにおいて異所性に発現させ、それらの局在化を顕微鏡法によって調べた。mCherry−MeCP2−IDR−2は、DNA高密度ヘテロクロマチン及び核小体(相分離によって形成される別の核内構造体)に優先的に局在化した(図47B〜図47D)。対照的に、単独のmCherryは、ヘテロクロマチンまたは核小体に濃縮されなかった(図47B〜図47C)。こうした結果は、MeCP2−IDR−2が細胞において特異的な分配挙動をある程度示すことを示唆しており、このことは、優先的な分配が生じることが一因となって特定の凝縮体に因子が適切に到達し得るという考えと一致する。
MeCP2は、マウスの脳のニューロンのヘテロクロマチンに密集する
MeCP2は集中的に研究されており、この理由は、MECP2に機能喪失変異が生じるとレット症候群が引き起こされ、遺伝子重複が生じるとMECP2重複症候群が引き起こされることによるものであり、こうした症候群は両方共、重度の知的障害によって特徴付けられる神経障害を伴う。MeCP2は、すべての動物組織に発現するが、ニューロンでは特に高いレベルで発現する(Skene et al.2010)。こうした理由から、本発明者らは、MeCP2が、マウスの脳のニューロンにおいても液体様凝縮体に密集するかどうかを決定することを目指した。レット症候群のマウスモデルでは、ヒト症候群において観測される表現型が忠実に再現される。MECP2−GFPコンストラクト及びMED1−GFPコンストラクトをレポーターES細胞の内在性遺伝子座に組み込むことで、高度キメラマウスを生成させた。2ヶ月齢の時点で、ホルマリン灌流による固定化を行った後、マウスの脳の10μm切片を作成した。蛍光顕微鏡法によって分析したところ、Map2発現ニューロン及びPU.1発現ミクログリアにおいてDNA高密度ヘテロクロマチンフォーカスの位置にMeCP2が個別の核内構造体を形成することが明らかとなった(図48A〜図48C)。新たに調製した生存脳組織切片を用いたFRAP実験からは、こうしたヘテロクロマチン凝縮体においてMeCP2−GFPが高度に動的であることが示された(図48D及び図48E)。予測通り、MED1−GFP小斑点は、サイズが小さくかつ数が多く、ヘテロクロマチンと結び付いていなかった(図48F)。こうした結果は、生存マウスニューロンのヘテロクロマチンにMeCP2が密集することを示すと共に、こうした組織におけるヘテロクロマチンが動的凝縮体として挙動することを示唆している。
考察
本明細書において、本発明者らは、ES細胞においても、脳組織のニューロンにおいても、MeCP2が、動的なヘテロクロマチン凝縮体のコンポーネントであることを示す。MeCP2のC末端IDRは、それがインビトロで凝縮体を形成する特性、及びそれがインビトロで抑制因子をコンパートメント化する能力、ならびにインビボでのヘテロクロマチンとの結び付き及び遺伝子サイレンシングに必要不可欠なものである。このMeCP2 IDRは、MeCP2タンパク質の残りの部分から独立させて発現させると、このドメインが細胞のヘテロクロマチン凝縮体に到達し、それに取り込まれる上で十分なものである。したがって、本発明者らの結果は、MeCP2が複数の細胞型において動的なヘテロクロマチン凝縮体のコンポーネントであることを示すと共に、MeCP2とヘテロクロマチンとの相互作用が、それがメチルDNAと結合する特性と、それが凝縮体と結び付く特性と、の両方によって媒介され得ることを示唆している。
MeCP2及びHP1αの両方がヘテロクロマチン凝縮体のコンポーネントであるという知見は、これら2つのタンパク質が正常発生に必要不可欠なものであり、多くの組織において広く発現し、遺伝子抑制に関与するという以前の証拠と一致する(Allshire & Madhani 2018、Ip et al.2018、Ausio et al.2014、Lyst & Bird 2015、Guy et al.2011)。DNAメチル化、H3K9メチル化、ならびに結合タンパク質であるMeCP2及びHp1αの間でクロストークが生じることが以前の研究によって報告されている。例えば、動原体周囲のサテライト反復配列のヘテロクロマチン形成、及び胚着床後のPOU5F1遺伝子サイレンシングでは、ヒストンメチルトランスフェラーゼG9aが、ヒストンH3K9をトリメチル化し(これによってHP1αの結合が可能になる)、DNMT3(DNAをメチル化する)を結合させることで、MeCP2の結合を生じさせる。MeCP2及びHP1αの両方が、遺伝子サイレンシングに関与する追加パートナー(ヒストン脱アセチル化酵素など)を動員し得る。本発明者らの結果は、HP1αについて以前に報告されたものと合わせると、MeCP2及びHP1αの両方が、こうした抑制因子をコンパートメント化し、密集させることで、ヘテロクロマチンコンパートメントの静的状態を維持することを示唆している。
ヘテロクロマチンタンパク質の相分離が、抑制因子を密集させ、コンパートメント化するように機能し得るという知見からは、こうしたタンパク質に起因する多様な相互作用を説明する単純化モデルが得られる。ヘテロクロマチンは、数百のタンパク質因子と結び付く。MeCP2及びHP1αの両方が、多数の多様な相互作用パートナーと相互作用することが観測されている。こうした相互作用パートナーが、どのようにヘテロクロマチン構造体と物理的に相互作用し、それと安定的に結び付くのかということは、タンパク質間相互作用の古典的な鍵と鍵穴モデルの下ではうまく説明することが困難である。こうした知見を説明する上では、相互作用の動的網目構造内に抑制因子を密集させ、そこにコンパートメント化する相分離ヘテロクロマチン凝縮体を形成する能力をMeCP2及びHP1αが有するとした方が適切である。注目すべきことに、ヘテロクロマチン凝縮体が、抑制コンポーネントを特異的に密集させ、活性転写装置は密集させない能力を有することは、異なる凝縮体の相分離特性を介して活性因子及び抑制因子がこうした凝縮体に特異的にコンパートメント化される機構が存在することを示唆している。
このモデルを用いれば、何故、DNA結合ドメインまたはC末端IDRのいずれにMeCP2変異(ほとんどの変異が、IDRの消失または短縮に繋がる)が生じてもレット症候群が引き起こされ得るのかが説明されることになる(図48A)。
いくつかの疾患では、ヘテロクロマチンタンパク質をコードする遺伝子を破壊する変異が生じている。こうした変異がヘテロクロマチン相分離を破壊することによって疾患表現型を生じさせ得るかどうかを推測することは興味深いことである。注目すべきことに、MECP2にミスセンス変異及びナンセンス変異が生じるとレット症候群が引き起こされる。レット症候群は、若年女性の10、000人に1人が発症する神経発達障害である(Amir et al.1999)。こうした変異は、多くの場合、MeCP2のIDRに影響を与え、MeCP2がヘテロクロマチンにおいて相分離を起こす能力、またはMeCP2がヘテロクロマチン凝縮体内に主要因子をコンパートメント化する能力を乱し得る。さらに、MECP2遺伝子量が病原性に増加すると、MECP2重複症候群(若年男性における関連神経発達障害)が引き起こされる(Van Esch et al.2005)。相分離系は、コンポーネント因子の軽微な濃度変化に感受性であり得、このことは、遺伝子量が異常に増減すれば、凝縮体挙動に相当な影響が及ぶことになることを示唆している。ヘテロクロマチン相分離に対する疾患変異の意義を理解することは、分子病態を理解し、こうした疾患を治療する新たな治療機会を得る上で重要なことであり得る。
方法
細胞培養条件
細胞培養
V6.5マウス胚性幹細胞(ESC)は、0.2%のゼラチン(Sigma G1890)でコートされた組織培養処理プレート上で2i/LIF培地において培養した。5%のCO2雰囲気の加湿インキュベーターにおいてESCを37℃で増殖させた。TrypLE Express(Gibco 12604)を使用して解離させることによって細胞を2〜3日ごとに継代培養した。解離反応の反応停止は、血清/LIF培地を使用して行った。MycoAlert Mycoplasma Detection Kit(Lonza LT07−218)を使用して細胞のマイコプラズマ試験を定期的に行い、陰性であることを確認した。
HEK293T細胞は、ATCCから入手し、高濃度グルコース、10%のウシ胎仔血清(Hyclone、キャラクタライズドSH3007103)、2mMのL−グルタミン、及び100U/mLのペニシリン−ストレプトマイシン(GIBCO 15140)を含むDMEM(GIBCO)において培養した。
培地組成
2i/LIF培地の組成は、以下の通りである:0.5×N2サプリメント(Gibco 17502)、0.5×B27サプリメント(Gibco 17504)、2mMのL−グルタミン(Gibco 25030)、1×MEM非必須アミノ酸(Gibco 11140)、100U/mLのペニシリン−ストレプトマイシン(Gibco 15140)、0.1mMの2−メルカプトエタノール(Sigma M7522)、3μMのCHIR99021(Stemgent 04−0004)、1μMのPD0325901(Stemgent 04−0006)、及び1000U/mLの白血病抑制因子(LIF)(ESGRO ESG1107)が添加されたDMEM/F12(Gibco 11320)。
血清/LIF培地の組成は、以下の通りである:15%のウシ胎仔血清(Sigma F4135)、2mMのL−グルタミン(Gibco 25030)、1×MEM非必須アミノ酸、100U/mLのペニシリン−ストレプトマイシン(Gibco 15140)、0.1mMの2−メルカプトエタノール(Sigma M7522)、及び1000U/mLの白血病抑制因子(LIF)(ESGRO ESG1107)が添加されたKnockOut DMEM(Gibco 10829)。
ゲノム編集
遺伝子改変ESC株の生成にはCRISPR/Cas9系を使用した。sgRNA骨格、コドン最適化バージョンのCas9、及びmCherryまたはBFPを含むプラスミド(R.Jaenischからの供与物)に標的特異的配列をクローニングした。内在性にタグ付けされたMeCP2−mEGFP株及びHP1a−mCherry株の生成には、NEBuilder HiFi DNA Master Mix(NEB E2621S)を使用して相同組換え修復鋳型をpUC19にクローニングした。この相同組換え修復鋳型は、PCRを使用してゲノムDNAから増幅した800bpのホモロジーアームが両側に隣接するmEGFP cDNA配列またはmCherry cDNA配列からなるものを使用した。
細胞株の生成には、833ngのCas9プラスミド及び1666ngの非直鎖化相同組換え修復鋳型を、Lipofectamine3000(Invitrogen L3000)を使用して750,000個の細胞にトランスフェクトした。トランスフェクトから48時間後に、Cas9プラスミド上にコードされるmCherry蛍光タンパク質またはBFP蛍光タンパク質が存在する細胞を選別してトランスフェクト細胞を濃縮した。この集団を1週間増殖させてから、GFPまたはmCherryの存在を対象とする選別を再度行った。40,000個のGFP陽性細胞を段階希釈して6ウェルプレートに蒔き、1週間増殖させてから個々のコロニーを手動でピッキングして96ウェルプレートに移した。標的化が成功したかについて、PCRによる遺伝子型判定を行って24個のコロニーをスクリーニングすることで挿入を確認した。
生細胞画像化
生細胞画像化条件
35mmのガラスプレート(Mattek Corporation P35G−1.5−20−C)上で細胞を増殖させ、Airyscan検出器を備えたLSM880共焦点顕微鏡(Zeiss,Thornwood,NY)を使用して2i/LIF培地において画像化した。細胞の画像化は、37℃の加湿空気が供給される37℃加温ステージ上で行った。さらに、顕微鏡は、37℃に加温されたインキュベートチャンバー内に入れた。画像の取得には、ZENブラックエディションバージョン2.3(Zeiss,Thornwood NY)を使用した。画像の取得は、Plan−Apochromat 63x/1.4油浸対物レンズと共にAiryscan検出器を高分解能(SR)モードで使用して行った。生のAiryscan画像の処理は、ZEN2.3(Zeiss,Thornwood NY)を使用して行った。
光退色後蛍光回復(FRAP)
FRAPは、488nm及び561nmのレーザーを用いてLSM880 Airyscan顕微鏡で実施した。退色は、100%のレーザー出力で実施し、2秒ごとに画像を収集した。各画像は、LSM880 Airyscanの平均化機能を利用したものであり、2枚の画像が平均化された結果である。次に、この統合画像を、ZEN2.3を使用して処理した。
光退色からの回復は、最初にバックグラウンド値を差し引き、次に、光退色を説明するために、退色凝縮体内の蛍光強度の減少を、別の近隣細胞における凝縮体内のシグナルに正規化して定量化することによって計算した。カスタム解析を行って正規化を実施することによる画像中の強度値の計算には、MATLAB(登録商標)スクリプトFRAPPA Profilerを使用した。
MeCP2凝縮体体積の計算
z軸スタック画像の取得は、ZEN2.3ソフトウェアを使用して行った。焦点調節手順を簡略化するために、SiR−DNA色素(Spirochrome SC007)を用いて細胞を処理してDNAを染色した。核の上側z軸境界及び下側z軸境界の決定には、Far−red(SiR−DNA)シグナルを使用した。次に、488チャネルまたは561チャネルのいずれかと643チャネルとの両方において核質を上方向に通過させて0.19ミクロン刻みで画像を取得した。画像は、ZEN2.3ソフトウェアを使用して処理した1枚のAiryscan画像の結果である。
MeCP2凝縮体の体積を定量化するために、SiR−DNAを使用して所与の細胞の核境界を定義した。この境界を使用して、488画像または561画像における非核シグナルをマスクした。非核シグナルをマスクした時点で、488画像及び561画像を7.0ピクセルのメジアンフィルターに供し、閾値を154としてFIJI 3D Object counterを使用して物体の計数及び定量化を行った。
分配係数の計算
生細胞画像化における分配係数は、Fijiを使用して計算した。細胞当たり単一の焦点面を使用して、凝縮体内の平均シグナル強度を定量化し、核の境界内の8〜12ヶ所の非ヘテロクロマチン領域に由来する平均シグナル強度と比較した。ヘテロクロマチン領域の限界及び核の境界は、Hoechstチャネルにおいて定義した。選択した面におけるヘテロクロマチンフォーカスの数が>3である細胞を分配係数の計算に使用した。この個々の係数が、実験における1つのnに相当する。
タンパク質精製
タンパク質発現ベクターのクローニング
ヒトcDNAを改変バージョンのT7 pET発現ベクターにクローニングした。このベースベクターは、N末端の6×Hisをコードする配列、その下流にmEGFPまたはmCherryのいずれかをコードする配列、及び「GAPGSAGSAAGGSG」(配列番号14)という14個のアミノ酸のリンカー配列をコードする配列を含むように操作した。cDNA配列は、PCRによって生成させ、NEBuilder HiFi DNA Assembly Master Mix(NEB E2621S)使用してリンカー配列の下流に位置するようにフレーム内に挿入した。mEGFPを単独で発現するベクターは、リンカー配列の下流に終始コドンを含む。変異cDNA配列は、PCRによって生成させ、上記のものと同じベースベクターに挿入した。発現コンストラクトはすべて、シークエンシングして配列が変化していないことを確認した。
タンパク質精製
タンパク質発現については、プラスミドを用いた形質転換をLOBSTR細胞に対して行い、下記のように増殖させた。カナマイシン及びクロラムフェニコールを含むLB培地に新鮮な細菌コロニーを播種し、37℃で一晩増殖させた。カナマイシン及びクロラムフェニコールを新たに添加した500mLの予熱LBで細胞を1:30希釈し、37℃で1.5時間増殖させた。発現を誘導するために、IPTGを細菌培地に添加して最終濃度を1mMとし、増殖を4時間継続した。次に、誘導をかけた細菌を遠心分離によってペレット化し、使用するまでの間、細菌ペレットを−80℃で保管した。
500mlの細胞のペレットを15mlの溶解緩衝液(50mMのトリス−HCl(pH7.5)、500mMのNaCl、及び1×cOmpleteプロテアーゼ阻害剤)に再浮遊させた後、超音波処理(15秒間オン、60秒間オフのサイクルを10回実施)に供した。12,000×g、4℃で30分間遠心分離することによって可溶化液を清澄化し、事前に平衡化した1mLのNi−NTAアガロースに添加し、4℃で1.5時間旋回振とうした。スラリーを3,000rpmで10分間遠心分離し、10倍体積の溶解緩衝液で洗浄し、50mMのイミダゾールを含む溶解緩衝液、100mMのイミダゾールを含む溶解緩衝液、または250mMのイミダゾールを含む溶解緩衝液(3回)と共に10分間以上旋回振とうしながらインキュベートすることによってタンパク質を溶出させた後、遠心分離及びゲルでの分析を行った。50mMのトリス−HCl(pH7.5)、125mMのNaCl、10%のグリセロール、及び1mMのDTTを含む緩衝液(この緩衝液による外液交換を2回実施)に対して、正しいサイズのタンパク質を含む画分を4℃で透析した。精製タンパク質のタンパク質濃度は、Pierce BCA Protein Assay Kit(Thermo Scientific 23225)を使用して決定した。
インビトロの液滴アッセイ
インビトロの液滴アッセイ
タンパク質は、10%のグリセロール、50mMのトリス−HCl(pH7.5)、500mMのNaCl、1mMのDTTにおいて保管した。Amicon Ultra Centrifugal filter(30K MWCOまたは50K MWCO、Millipore)を使用してタンパク質を所望の濃度に濃縮した。具体的な液滴アッセイの反応条件は、本明細書を通じて個々の反応ごとに示される。液滴アッセイは、8チューブPCRストリップにおいて実施した。10%のPEG−8000、10%のグリセロール、50mMのトリス−HCl(pH7.5)、1mMのDTT、及び塩濃度が異なる(0mM〜500mMの範囲)のNaClから構成される液滴形成緩衝液において組換えタンパク質相分離を誘導した。次に、所望量のタンパク質を添加して相転移を誘導し、ピぺッティングによって溶液を混合した。次に、顕微鏡スライドガラス上にマウントした2つの並行な両面テープ片上にガラスのカバースリップをマウントして作成したカスタムスライドチャンバー、またはガラス底の384ウェルプレートのいずれかに上記の反応液をロードした。次に、100×対物レンズを備えたAndor共焦点顕微鏡で反応液を画像化した。示される画像は、別段の記載がない限り、ガラスのカバースリップまたはガラス底の384ウェルプレートの上で安定した状態の液滴のものである。
データ解析
インビトロでの相分離画像化実験を解析するために、カスタムMATLAB(登録商標)スクリプトを記述して液滴を同定し、そのサイズ、アスペクト比、凝縮部分割合、及び分配係数を特徴付けた。いずれの具体的な実験条件についても、ヒストグラムのピークに基づく強度閾値、及びサイズ閾値(半径2ピクセル)を用いて画像をセグメント化し、こうすることで、目的領域を定義し、液滴の内外においてシグナル強度を定量化することが可能であった。
核抽出物における液滴アッセイ
核抽出物の調製
核抽出物は、HEK293T細胞から調製した。激しくピぺッティングして培養プレートから細胞を回収した後、1,000×gで細胞をペレット化した。このペレットを、プロテアーゼ阻害剤を新たに添加したTMSD50緩衝液(20mMのHEPES、5mMのMgCl2、250mMのスクロース、1mMのDTT、50mMのNaCl)に再浮遊させた。TMSD50緩衝液において細胞を4℃で30分間攪拌して核を抽出した。次に、3,500×gで10分間、溶液のスピンダウンを行った。核をMnase緩衝液(20mMのHEPES、100mMのNaCl、5mMのMgCl2、5mMのCaCl2、プロテアーゼ阻害剤)で洗浄し、3,500×gで再びスピンダウンした。次に、ペレットと同体積のMnase緩衝液に核を再浮遊させ、1UのMnaseを用いて37℃で15分間処理した。ペレットと同体積の停止緩衝液(20mMのHEPES、500mMのNaCl、5mMのMgCl2、20%のグリセロール、15mMのEGTA、プロテアーゼ阻害剤)を用いて反応を停止させた。次に、消化した核を、チップ付き超音波処理器での超音波処理(振幅値を20)に20回供し、2,700×gで2回スピンダウンしてデブリを除去した。
核抽出物での液滴形成
核抽出物を用いる液滴形成アッセイは、貯蔵核抽出物を緩衝液B(10%のグリセロール、20mMのHEPES)で1:2希釈して総NaCl塩濃度を150mMに下げることによって実施した。アッセイは、8ウェルPCRストリップにおいて実施し、反応液を15分間インキュベートしてからガラス底の384ウェルプレートにロードした。液滴がプレートのガラス底で安定した状態となるまで15分間保持してからAndor共焦点顕微鏡(150×)で画像化した。
核抽出物のペレット化
1.5mLのEppendorfチューブにおいて上記のように液滴を形成させ、10分間インキュベートした。この時点で、反応液を2,700×gで10分間遠心分離した。上清をすべて除去した。次に、1mLの液滴形成緩衝液(20mMのHEPES、15%のグリセロール、150mMのNaCl、6.6mMのMgCl2、5mMのEGTA、1.7mMのCaCl2)を用いてチューブを穏やかに洗浄した。洗浄溶液を除去した後、βMEを25%、XT緩衝液(Bio−rad)を25%、水を50%含む溶液をチューブに添加してウエスタンブロットのためのペレット画分を調製した。液滴形成に使用した材料のうちの10%にも、βME、XT緩衝液、及び水を混合してウエスタンブロット用とした。
ウエスタンブロット分析
10%のビス−トリスゲル(Bio−Rad)において上記のタンパク質溶液を80Vで15分間泳動させてから、150Vで約1.5時間泳動させた。次に、転写緩衝液(25mMのトリス、192mMのグリシン、10%のメタノール)において孔径0.45μmのPVDF膜(Millipore、IPVH00010)へとタンパク質を260mA、4℃で2時間転写した。次に、5%の無脂肪乳を含むTBSTにおいて膜を室温で1時間ブロッキングした。次に、5%の乳を含むTBSTにおいて、記載のタンパク質に対する抗体と共に膜を振とうしながら4℃で一晩インキュベートした。次に、TBSTで膜を3回洗浄(各10分間)し、二次抗体と共に室温で1時間インキュベートし、TBSTでさらに3回洗浄し、ECL基質またはfempto−ECL基質(Thermo Scientific)を使用してBio−Rad chemidocで画像化した。
qPCR分析
RNAは、RNeasyキット(Qiagen)を使用して収集した。次に、Superscript3(Invitrogen)を使用して逆転写酵素反応を実施した。qPCRは、下記のTaqManプローブを使用して実施した:
mL1−Orf2a_1f− cctccattgttggtgggatt(配列番号221)、mL1−Orf2a_2r− ggaaccgccagactgatttc(配列番号222)、mGapdh_1f− ccatgtagttgaggtcaatgaagg(配列番号223)、mGapdh_2r− tggtgaaggtcggtgtgaa(配列番号224)。
免疫蛍光法
ポリ−L−オルニチン及びラミニンでコートされたガラスのカバースリップ上にマウスESCを蒔いた。24時間後、4%のパラホルムアルデヒドを含むPBSを用いて細胞を固定化した。次に、細胞をPBSで3回洗浄し、0.5%のTriton−X100を含むPBSを用いて細胞の透過処理を行った。次に、細胞をPBSで3回洗浄した。4%のIgG非含有BSAを含むPBSにおいて細胞を1時間ブロッキングした後、加湿チャンバー内で、4%のIgG非含有BSA溶液において記載の抗体を用いて室温で一晩染色した。次に、細胞をPBSで3回洗浄した。細胞を含む4%のIgG非含有BSA溶液に二次抗体を添加し、室温で1時間インキュベートした。次に、細胞をPBSで2回洗浄した。Hoecsht色素を含むmilliQ水を用いて細胞を5分間染色した後、Vectashieldマウント媒体にマウントした。RPIスピニングディスク型共焦点顕微鏡(拡大率100×)で画像化を実施した。
IDR発現ベクターのトランスフェクト
細胞へのトランスフェクトは、Lipofectamine3000(Life Technologies)を使用して行った。マウスESCの個数を数えて750,000個とし、この750,000個のマウスESCを、ゼラチンでコートされた6ウェルディッシュに蒔いた。蒔き終えてからすぐに、Lipofectamine3000キットの説明に従って調製したDNA混合液を細胞に添加した。24時間後、細胞をトリプシンで処理し、ポリ−L−オルニチン及びラミニンでコートされた35mmガラス底ディッシュ(Matek)に分割して蒔き、画像化用とした。
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実施例5
各細胞の独自性を規定する遺伝子発現プログラムは、マスター転写因子(TF)(細胞型特異的エンハンサーを確立する)及びシグナル伝達因子(そのようなエンハンサーに細胞外刺激を伝える)によって制御される。シグナル伝達因子は、多様な細胞型において発現しており、DNA結合配列特異性をほとんど有さないにもかかわらず、細胞型特異的エンハンサーに動員されるが、この動員機構については、ほとんど理解されていない。最近の研究からは、エンハンサーにおいてマスターTFがコアクチベーターと共に相分離凝縮体を形成することが明らかとなっている。本明細書において、本発明者らは、WNT経路、TGF−β経路、及びJAK/STAT経路のシグナル伝達因子が、その天然変性領域(IDR)を利用してスーパーエンハンサー誘導性遺伝子におけるメディエーター凝縮体に移行し、そこに密集するという証拠を提示する。本発明者らは、シグナル伝達に対する応答の細胞型特異性の一部が、シグナル伝達因子のIDRによって媒介され、こうしたIDRは、こうした因子を、細胞独自性において顕著な役割を有する遺伝子においてマスターTF及びメディエーターによって確立される凝縮体へと分配させることを提唱する。
シグナル伝達因子が、所与の細胞型の活性エンハンサー及びスーパーエンハンサーに優先的に結合する能力を説明するものとして、いくつかの機構が報告されている。シグナル伝達因子は、哺乳類ゲノムに高頻度で存在する比較的短い配列モチーフに対して弱い親和性で結合する(Farley et al.,2015)。活性エンハンサーにおける配列への結合優先性が存在することは、活性エンハンサーと結び付く「オープンクロマチン」へのアクセスを部分的に反映するものである可能性がある(Mullen et al.,2011)。シグナル伝達因子は、こうしたエンハンサーに他のTFが結合することによって媒介されるDNAの構造変化に起因してそのような部位に優先的に結合するか(Hallikas et al.,2006、Zhu et al.,2018)、またはマスターTFとの直接的なタンパク質間相互作用を介して協同的に結合する可能性もある(Kelly et al.,2011)。
スーパーエンハンサーにおいてマスターTF及びメディエーターコアクチベーターが相分離凝縮体を形成し、こうした相分離凝縮体が転写装置を主要な細胞独自性遺伝子にコンパートメント化し、そこに密集させることが最近の研究によって明らかになっている(Boija et al.,2018、Cho et al.,2018、Sabari et al.,2018)。シグナル伝達因子は、細胞型特異的スーパーエンハンサーに特殊な優先性を有していることが示されており(Hnisz et al.,2015)、このことがきっかけとなり、本発明者らは、スーパーエンハンサーにおける転写凝縮体へとシグナル伝達因子自体を導いてそこに分配移入させる特性をシグナル伝達因子が有し得るのではないかという仮説を立てるに至った。これは、細胞型特異的エンハンサーとの結び付きに対してこれまで特徴付けられたことのない機構である。本明細書において、本発明者らは、細胞型特異的な様式でシグナル伝達刺激に応じてスーパーエンハンサー誘導性遺伝子においてシグナル伝達因子がコアクチベーターと共に相分離することを報告する。本発明者らは、シグナル伝達因子がマスターTF誘導性転写凝縮体に到達するように導くことによって相分離がシグナル伝達の状況依存的特異性の達成を支援することを提唱する。
結果
スーパーエンハンサーにおける凝縮体へのシグナル伝達因子のシグナル依存的取り込み
スーパーエンハンサーにおいてTF及びメディエーターが相分離凝縮体を形成することが最近の研究によって示されており(Boija et al.,2018、Cho et al.,2018、Sabari et al.,2018)、さらに、WNT経路、JAK/STAT経路、及びTGF−β経路の最終シグナル伝達因子(それぞれβ−カテニン、STAT3、及びSMAD3)がスーパーエンハンサーを優先的に占有することが示されている(Hnisz et al.,2015)。こうしたシグナル伝達因子がスーパーエンハンサー関連遺伝子における凝縮体に取り込まれるかどうかを試験するために、本発明者らは、これら3つのシグナル伝達因子のそれぞれの対する免疫蛍光法と組み合わせてNanogに対するRNA FISHを実施した(図52A)。Nanogは、多能性に重要な遺伝子であり、マウス胚性幹細胞(mESC)においてこれら3つのシグナル伝達因子及びメディエーターによって占有されるスーパーエンハンサーと結び付くことが、ChIP−シークエンシングによって示される(図52B)。本発明者らは、3つすべての因子について、個々の細胞のNanog遺伝子座に凝縮フォーカスが観測され得ることを見出し(図52A)、このことは、3つすべての因子が、凝縮体と結び付くスーパーエンハンサーに取り込まれることを示唆している。mESCにおいて転写凝縮体が生じることが実証されている追加のスーパーエンハンサー遺伝子座においても同様の結果が得られた(Boija et al,2018、Sabari et al.,2018)(図58A、図58B)。この遺伝子座とシグナル伝達因子との結び付きが細胞型特異的なものであるかを確認するために、本発明者らは、β−カテニン凝縮フォーカスがC2C12筋芽細胞におけるNanogとオーバーラップするかどうかを、免疫蛍光法とDNA FISHとを組み合わせて使用して調べ、その結果、C2C12細胞におけるこの遺伝子座ではβ−カテニンシグナルは検出されなかった(図58C)。こうした結果は、シグナル伝達因子が細胞型特異的スーパーエンハンサー凝縮体に取り込まれるという考えと一致する。シグナル伝達因子(β−カテニン、STAT3、及びSMAD3)が経路刺激に応じて核内凝縮体に取り込まれるかどうかを確認するために、本発明者らは、それぞれのシグナル伝達経路に対する刺激の存在下または非存在下でmESCにおいてそうした因子に対して免疫蛍光法を実施した。本発明者らは、3つすべてのシグナル伝達因子が、それらのそれぞれのシグナル伝達経路が活性化されると、免疫蛍光による凝縮核内フォーカスとして検出されることを見出した(図52C)。こうした結果は、経路活性化に応じてβ−カテニン、SMAD3、及びSTAT3が核内凝縮体に取り込まれることを示している。
スーパーエンハンサーにおいて転写因子及びメディエーターによって形成される凝縮体は、液体様挙動を示す(Boija et al.,2018、Cho et al.,2018、Sabari et al.,2018)。液−液相分離凝縮体の顕著な特徴は、動的な内部再組織化及び急速な交換動力学であり(Banani et al.,2017、Hyman et al.,2014、Shin and Brangwynne,2017)、こうした特徴は、光退色後蛍光回復(FRAP)の速度を測定することによって調べることができる。シグナル伝達因子がこの型の挙動を示すかどうかを試験するために、本発明者らは、構成的にWNTが活性化しているHCT116細胞におけるβ−カテニン遺伝子の内在性遺伝子座にmEGFPタグを導入し、こうした細胞におけるmEGFPタグ付きβ−カテニンの発現レベルが、こうした細胞において通常発現するものと同様であることを確認し(図58D)、こうした凝縮体の挙動をFRAPによって調べた。β−カテニン核内小斑点では、数秒の時間尺度で回復が生じ(図52D)、およその見かけの拡散係数は、0.004±0.003μm2/秒であった。こうした値は、以前に報告された液体様凝縮体コンポーネントのものと同様であり(Nott et al.,2015、Pak et al.,2016、Sabari et al.,2018)、β−カテニンを含む凝縮体が液体様特性を示すことを示している。
精製シグナル伝達因子は、インビトロで凝縮体を形成し得る
β−カテニン、STAT3、及びSMAD3のアミノ酸配列を分析したところ、それらが天然変性領域(IDR)を含むことが明らかとなった(図53A、図59)。IDRは、弱い相互作用の動的ネットワークを形成する能力を有し、凝縮体形成に関与しているため(Burke et al.,2015、Lin et al.,2015、Nott et al.,2015)、本発明者らは、こうしたシグナル伝達タンパク質がインビトロで相分離液滴を形成し得るかどうかを調べた。実際に、精製された組換えmEGFP−β−カテニン、mEGFP−STAT3、及びmEGFP−SMAD3は、濃度依存性の液滴を形成した(図53B)。こうした液滴は、球状であり、ミクロンサイズを有し、溶液中を自由に移動するものであった。こうしたタンパク質の液滴形成挙動は、マイクロモル濃度で濃密相と希薄相と間で分配比が切り替わり、このことは、相分離を起こすタンパク質の挙動と一致する(図53B)。こうした液滴をさらに特徴付けたところ、それらが希釈による可逆性を有しており、塩濃度の上昇に対して感受性であることが明らかとなり(図53C)、こうした挙動は、液−液相分離液滴に特有の挙動である。
精製シグナル伝達因子は、インビトロでメディエーター凝縮体に取り込まれる
スーパーエンハンサーに形成される転写凝縮体は、メディエーターコアクチベーターを高濃度で含み、転写因子は、その活性化ドメインの相分離に重要な残基と同じ残基を介してメディエーターと相互作用する(Sabari et al.,2018、Boija et al.,2018)。β−カテニン、SMAD3、及びSTAT3の液滴形成特性、及びインビボでのその局在化を踏まえ、本発明者らは、こうしたシグナル伝達タンパク質もまた、メディエーター凝縮体と相互作用し、そこに密集し得ると推論した。この考えを試験するために、本発明者らは、MED1−IDR(メディエーター複合体の代替物(Boija et al.,2018))を使用してPEG−8000において液滴を形成させ、この溶液に希薄なシグナル伝達因子を添加し、MED1−IDR液滴へのシグナル伝達因子の取り込みを監視した(図54A)。本発明者らは、β−カテニン、SMAD3、及びSTAT3が、MED1−IDR液滴に取り込まれ、そこに密集することを見出した(図54B、図54C)。
β−カテニン、SMAD3、及びSTAT3は、哺乳類細胞ではナノモル濃度で見られるが(Beck et al.,2017)、組換えシグナル伝達タンパク質がインビトロで液滴を形成する濃度は、マイクロモル濃度範囲内である(図53B)。このことがきっかけとなり、本発明者らは、メディエーターが存在すればシグナル伝達因子がナノモル濃度(シグナル伝達因子が、それ自体だけでは検出可能な液滴を形成することが不可能な濃度)で液滴を形成し得るかどうかを調べた。こうしたアッセイでは、先と同様に、シグナル伝達因子はMED1−IDR液滴へと効率的に分配された(図54D)。こうした結果は、メディエーター凝縮体にシグナル伝達因子が分配されることが、スーパーエンハンサーにおける転写凝縮体へのシグナル伝達因子の局在化に寄与するという可能性と一致するものである。
β−カテニンの相分離及び標的遺伝子の活性化は、芳香族アミノ酸に依存する
スーパーエンハンサーにおけるシグナル伝達因子の濃縮が、そのIDRの相分離特性、及びメディエーター凝縮体への取り込みを介して生じるのであれば、IDRが相分離液滴をインビトロで形成する能力に影響を与える変異をIDRに導入すれば、IDRがインビボで遺伝子を標的とし、活性化する能力に影響が及ぶであろうと予測される。この仮説を試験するために、本発明者らは、β−カテニンに関する追加試験に重点を置き、その相分離特性を担うタンパク質部分を同定することを目指した。β−カテニンは、アルマジロ反復配列を有する中央の構造化ドメイン、ならびにそれを囲むN末端IDR及びC末端IDRからなる(図55A)。液滴アッセイを行ったところ、アルマジロ反復配列またはN末端IDRもしくはC末端IDRのみを含む組換えタンパク質は、いずれの試験濃度でも相分離能力を有さないことが示され(図55B)、このことは、こうしたコンポーネントが、インタクトなタンパク質の相分離特性に単独では寄与せず、この挙動には、両方のIDRが必要であることを示唆している。
次に、本発明者らは、これら2つのIDR内で凝縮に寄与し得るアミノ酸残基に注意を払い、芳香族残基の存在量に着目した(図59)。本発明者らは、β−カテニンの変異形態を生成し、この変異形態では、両方のIDRにおける芳香族残基をアラニンで置き換えた(図55C)。こうした型の変異は、π−陽イオン相互作用を乱すものであり、この相互作用は、複数のタンパク質の相分離能力において重要な役割を担う(Frey et al.,2018、Wang et al.,2018)。液滴形成アッセイにおいて試験すると、β−カテニンの変異形態は、非常に高濃度では非常に小さな液滴が観測されたことを除けば、液滴を形成することができなかった(図55C)。MED1−IDRを用いる異型液滴形成アッセイにおいて試験すると、MED1−IDR液滴への変異β−カテニンタンパク質の取り込み及び密集は生じなかった(図55D、図55E)。こうした結果は、β−カテニンのIDRにおける芳香族残基が、その相分離挙動に寄与することを示唆している。
IDRにおける芳香族残基が、インビボでのβ−カテニン機能に寄与するかどうかを試験するために、TdTomatoタグ付きの野生型β−カテニンをドキシサイクリン誘導性プロモーターの制御下にコードするコンストラクト、及びTdTomatoタグ付きのβ−カテニン変異形態をドキシサイクリン誘導性プロモーターの制御下にコードするコンストラクトをmESCのゲノムに組み込み(図56A)、ドキシサイクリンによる活性化後にβ−カテニンに対するChIP−qPCRを実施した。野生型β−カテニンは、WNT応答性遺伝子であるMyc、Sp5、及びKlf4を占有することが明らかとなった一方で、予測通り、こうしたエンハンサーでは芳香族変異体のレベルが下がっていることが明らかとなった(図56B)。この占有差異は、こうした遺伝子の発現レベルの低下に反映された(図56B)。こうした結果は、β−カテニンIDRにおける芳香族アミノ酸が、凝縮体を形成するにも、β−カテニンがインビボでエンハンサーと適切に結び付いてそこで機能するにも必要であることを示唆している。
本発明者らは、ルシフェラーゼアッセイにおいてβ−カテニン芳香族変異体がWNT応答性レポーター遺伝子をトランス活性化する能力を、野生型及び変異形態のβ−カテニンを用いて独立して試験した(図56C)。野生型β−カテニンを発現させるとルシフェラーゼ活性が刺激されて8倍に増加した一方で、芳香族変異体を発現させてもルシフェラーゼレポーターに対する作用はほとんどなかった(図56C)。こうした結果は、インビトロでメディエーターと共に凝縮体を形成するために必要なβ−カテニンアミノ酸が、インビボでの遺伝子活性化にも重要であるという考えをさらに支持するものである。
本明細書で使用したベータ−カテニンの配列:
ベータ−カテニンN末端IDRの配列:
Gctactcaagctgatttgatggagttggacatggccatggaaccagacagaaaagcggctgttagtcactggcagcaacagtcttacctggactctggaatccattctggtgccactaccacagctccttctctgagtggtaaaggcaatcctgaggaagaggatgtggatacctcccaagtcctgtatgagtgggaacagggattttctcagtccttcactcaagaacaagtagctgatattgatggacagtatgcaatgactcgagctcagagggtacgagctgctatgttccctgagacattagatgagggcatgcagatcccatctacacagtttgatgctgctcatcccactaatgtccagcgtttggctgaaccatcacagatgctg(配列番号249)
>ベータ−カテニン_C末端IDRの配列:
Ccacaagattacaagaaacggctttcagttgagctgaccagctctctcttcagaacagagccaatggcttggaatgagactgctgatcttggacttgatattggtgcccagggagaaccccttggatatcgccaggatgatcctagctatcgttcttttcactctggtggatatggccaggatgccttgggtatggaccccatgatggaacatgagatgggtggccaccaccctggtgctgactatccagttgatgggctgccagatctggggcatgcccaggacctcatggatgggctgcctccaggtgacagcaatcagctggcctggtttgatactgacctg(配列番号250)
>芳香族残基をアラニンに変換したベータ−カテニンN末端IDR:
Gctactcaagctgatttgatggagttggacatggccatggaaccagacagaaaagcggctgttagtcacgcgcagcaacagtctgccctggactctggaatccattctggtgccactaccacagctccttctctgagtggtaaaggcaatcctgaggaagaggatgtggatacctcccaagtcctggctgaggcggaacagggagcttctcagtccgccactcaagaacaagtagctgatattgatggacaggctgcaatgactcgagctcagagggtacgagctgctatggcccctgagacattagatgagggcatgcagatcccatctacacaggctgatgctgctcatcccactaatgtccagcgtttggctgaaccatcacagatgctg(配列番号251)
芳香族残基をアラニンに変換したベータ−カテニン_C末端IDR:
Ccacaagatgccaagaaacggctttcagttgagctgaccagctctctcgccagaacagagccaatggctgcgaatgagactgctgatcttggacttgatattggtgcccagggagaaccccttggagctcgccaggatgatcctagcgctcgttctgctcactctggtggagctggccaggatgccttgggtatggaccccatgatggaacatgagatgggtggccaccaccctggtgctgacgctccagttgatgggctgccagatctggggcatgcccaggacctcatggatgggctgcctccaggtgacagcaatcagctggccgcggctgatactgacctg(配列番号252)
β−カテニン−凝縮体相互作用は、TCF因子に依存せずに生じ得る
β−カテニンは、DNA結合活性を有しておらず、β−カテニンが遺伝子に動員される従来のモデルは、そのアルマジロ反復配列とTCF/LEFファミリーのDNA結合転写因子との間に構造化相互作用が生じるというものである。インビボでのβ−カテニンの凝縮を可能にする動的相互作用を介してβ−カテニンがメディエーター凝縮体に動員されるのであれば、この動員は、TCF/LEF因子が存在しなくても生じるはずである。本発明者らは、この考えを試験するために一連のアッセイを開発した。
本発明者らは、元々は核スペックルを試験するために開発された凝縮体アッセイ(Janicki et al.,2004)を使用することによってインビボでβ−カテニンがMED1凝縮体に取り込まれ得るかどうかを最初に調べた(図57A)。U2OS細胞におけるLacI結合部位のアレイにMED1−IDRを繋留した。このU2OS細胞では、WNTシグナル伝達経路が構成的に活性化されており(Chen et al.,2015)、それ故に、検出可能なレベルのβ−カテニンが核に存在する。LacI−MED1−IDRまたは対照LacIのいずれかを細胞に一過性にトランスフェクトした。LacI−MED1−IDRは、内在性β−カテニンをlacアレイに動員することが明らかとなったが、LacI単独ではこの動員は生じなかった(図57A)。この作用は、TCF/LEFとの相互作用、及びDNAとの直接的な相互作用を介して媒介されるものではなかった可能性があり、この理由は、このlacアレイは、TCFモチーフを含んでおらず、IFによってLacI−MED1−IDRフォーカスにTCF4が検出されなかったことによるものである(図57B)。ヘテロクロマチン結合タンパク質HP1αを対照としたが、HP1αもアレイに動員されることはなかった(図61A)。TdTomatoで標識された野生型β−カテニン及び芳香族変異β−カテニンを異所性に発現させると、TdTomatoで標識された野生型β−カテニンは、MED1−IDRが占有するlacアレイに蓄積したが、TdTomatoで標識された芳香族変異体の蓄積は有意に少なかった(図57C)。こうした結果は、インビボでのMED1−IDR凝縮体へのβ−カテニンの取り込みが、TCF4が存在しなくても生じ、インビトロでのMED1凝縮体へのβ−カテニンの取り込み及び密集に必要なアミノ酸と同じアミノ酸に依存する様式で生じること示唆している。
自体がメディエーターと共に相分離することを可能にするβ−カテニンの領域が、TCF/LEF因子との相互作用の非存在下でβ−カテニンが特定のゲノム遺伝子座に到達する上で十分なものであるかどうかをさらに試験するために、本発明者らは、TCF相互作用ドメインを含むアルマジロ反復配列をmEGFPで置き換える操作を行ってβ−カテニン−キメラタンパク質を得た。このβ−カテニン−キメラを、HEK293T細胞に組み込んでドキシサイクリン誘導性プロモーターの制御下に置いた。GFPに対するChIP−qPCRを行ったところ、WNT−誘導性遺伝子であるSOX9、SMAD7、KLF9、及びGATA3にβ−カテニン−キメラが濃縮されることが示され、このことは、β−カテニンのIDRが、mEGFPを特定のゲノム遺伝子座に到達させる上で十分なものであることを示している(図57D)。この作用は、このキメラの発現レベルが野生型形態のβ−カテニンの発現レベルと同等であったことから、こうした因子の発現差異に起因するものではなかった(図61B)。β−カテニンのC末端IDRは、そのトランス活性化ドメインを含むため、本発明者らは、β−カテニン−キメラが、正しいゲノム位置に局在化するだけでなく、転写を活性化することも可能であり得るかどうかを探求して調べた。ルシフェラーゼレポーターアッセイにおいてβ−カテニン−キメラを過剰発現させると、β−カテニン−キメラは、β−カテニンの野生型と比較すると活性化レベルは低かったものの、WNT−レポーターを活性化することが可能であった(図57E)。こうしたデータは、β−カテニンがメディエーター凝縮体に動員され、この動員が、β−カテニンがこの凝縮体と相互作用する能力を介して生じるものであり、β−カテニンとTCF/LEF因子との古典的相互作用に依存することなく生じ得るものであるという考えと一致している。
考察
細胞外情報を伝達して遺伝子発現プログラムを適切に調節する上で、発生的に重要な少数の共有シグナル伝達経路が多様な細胞型によって利用される(Perrimon et al.,2012)。いずれの1つの細胞型においても、その細胞型のマスター転写因子によって形成される活性エンハンサーにおけるエフェクターコンポーネントに優先的に結合することで、WNT経路、TGF−β経路、及びJAK/STAT経路のエフェクターコンポーネントは、多数の潜在的シグナル応答エレメントのうちのごく少数のみと繋がっており、これによって細胞型特異的な応答を生じさせている(David and Massague,2018、Hnisz et al.,2015、Mullen et al.,2011、Trompouki et al.,2011)。この偏りを説明するために報告されている機構には、「オープンクロマチン」への優先的アクセス(Mullen et al,2011)、他のTFの結合によって変化が生じたDNA構造への優先的アクセス、及びマスターTFとの協同的タンパク質間相互作用(Hallikas et al.,2006、Kelly et al.,2011)が含まれる。シグナル伝達因子が細胞型特異的スーパーエンハンサーに対する空間的優先性を有するという知見(Hnisz et al.,2015)に加えて、スーパーエンハンサーにおいてTF及びメディエーターが相分離凝縮体を形成することが見出されており(Boija et al.,2018、Cho et al.,2018、Sabari et al.,2018)、このことがきっかけとなり、本発明者らは、スーパーエンハンサーにおける転写凝縮体への分配を促進する特性をシグナル伝達因子が有するかどうかを調べるに至った。本明細書に記載の証拠は、シグナル伝達の細胞型依存的特異性が、スーパーエンハンサーにおける相分離を介してシグナル伝達因子を転写凝縮体に到達させることによって少なくとも部分的には達成され得るということを立証するものである。この様式では、そのような凝縮体に複数のシグナル伝達因子分子が密集し、ゲノム上の適切な位置を占有することが可能である。
本発明者らは、シグナル伝達因子であるβ−カテニン、STAT3、及びSMAD3が、ESCのシグナル応答性スーパーエンハンサーにおける凝縮小斑点に生じることを見出しており、こうしたシグナル応答性スーパーエンハンサーでは、転写凝縮体が、数百のメディエーター分子及びRNAポリメラーゼII分子を含むことが報告されている(Boija et al.,2018、Cho et al.,2018、Sabari et al.,2018)。こうしたシグナル伝達因子は、インビトロでメディエーターサブユニット凝縮体に取り込まれ、そこに密集することができ、このことは、こうしたシグナル伝達因子がメディエーター凝縮体に移入する能力が、こうしたシグナル伝達因子がスーパーエンハンサーに見られるメディエーター凝縮体とインビボで優先的に結び付くことに寄与し得ることを示唆している。実際、ゲノム部位のアレイにメディエーターサブユニットを繋留すると、こうしたシグナル伝達因子のうちの少なくとも1つ(β−カテニン)を自体に動員し得る凝縮体が形成され、この動員は、その古典的パートナーであるDNA結合因子TCF4との構造化相互作用の非存在下で生じる。重要なことに、インビトロでのβ−カテニン−メディエーター凝縮体取り込みを低減する残基変異は、同様に、β−カテニンがインビボでメディエーターサブユニット凝縮体に移入し、転写を活性化する能力も低減する。
スーパーエンハンサー凝縮体へのβ−カテニンの移入について本発明者らが説明するモデルは、シグナル伝達に関する文献におけるさらなる難問を説明する上で役立ち得るものである。例えば、β−カテニンは、多数の異なるタンパク質と相互作用することが報告されており(Schuijers et al.,2014)、この相互作用乱雑性の結果として、TCF/LEFファミリーの標準的な動員因子に加えて、多数のDNA結合転写因がβ−カテニンを動員する能力を有するという提唱がなされている(Nateri et al.,2005、Kouzmenko et al,2004、Essers et al.,2005、Kaidi et al.,2007、Botrugno et al.,2004、Kelly et al.,2011、Sinner et al.,2004)。しかしながら、報告されたこうした相互作用の大多数は、機能性データによって裏付けされておらず、TCFへの結合のみが、共結晶化によって裏付けられている(Poy et al.,2001、Sampietro et al.,2006)。本発明者らのモデルは、どのようにβ−カテニンが転写凝縮体における多数のTFと機能的に相互作用し、さらには、人工的な系では転写を活性化し得ない(この場合、そのような凝縮体が構築されていない可能性がある)のかを説明し得るものである。
本明細書に記載の凝縮体モデルは、疾患(がんなど)における病的シグナル伝達のさらなる理解を促進し得るものである。実際、転写及びシグナル伝達の制御不全は、がんの2つの顕著な特徴である(Bradner et al.,2017)。がん細胞では、ドライバーがん遺伝子にスーパーエンハンサーを創出するゲノム変化が生じており(Chapuy et al.,2013、Hnisz et al.,2013、Lin et al.,2016、Mansour et al.,2014、Zhang et al.,2016)、こうしたがん遺伝子は、発がん性シグナル伝達に特に応答性である(Hnisz et al.,2015)。発がん性シグナル伝達に寄与するシグナル伝達因子は、一般に、相分離も促進する特性を介してスーパーエンハンサー凝縮体と相互作用し得る。このようにして、特定のシグナル伝達経路に依存する腫瘍細胞は、代替のシグナル伝達経路を利用することによって治療に対する抵抗性を獲得し得、こうした代替のシグナル伝達経路のシグナル伝達因子は、転写凝縮体に取り込まれ得る。おそらく、発がん性のシグナル伝達経路及びスーパーエンハンサーコンポーネントの両方を標的とする治療は、シグナル伝達依存性及び転写依存性を有する腫瘍細胞に特に有用であることが判明するであろう。
STAR法
実験モデル及び主題詳細
細胞株
V6.5マウス胚性幹細胞は、Jaenisch labからの供与物である。HEK293T細胞及びHCT116細胞は、ATCCから入手した。U2OS細胞は、Spector labから入手した。細胞のマイコプラズマ試験を定期的に行った。
細胞培養条件
V6.5マウス胚性幹細胞は、0.2%のゼラチン(Sigma、G1890)でコートされた組織培養プレート上で2i+LIF条件で増殖させた。2i+LIF培地条件に使用した培地は、以下の通りである:967.5mLのDMEM/F12(GIBCO 11320)、5mLのN2サプリメント(GIBCO 17502048)、10mLのB27サプリメント(GIBCO 17504044)、0.5mMのL−グルタミン(GIBCO 25030)、0.5×非必須アミノ酸(GIBCO 11140)、100U/mLのペニシリン−ストレプトマイシン(GIBCO 15140)、0.1mMのβ−メルカプトエタノール(Sigma)、1uMのPD0325901(Stemgent 04−0006)、3uMのCHIR99021(Stemgent 04−0004)、及び1000U/mLの組換えLIF(ESGRO ESG1107)。HEK293T細胞、U2OS細胞、及びHCT116細胞は、DMEM、高濃度グルコース、ピルビン酸(GIBCO11995−073)(10%ウシ胎仔血清(Hyclone、キャラクタライズドSH3007103)、100U/mLのペニシリン−ストレプトマイシン(GIBCO15140)、2mMのL−グルタミン(Invitrogen、25030−081)が添加されたもの)において培養した。
細胞株の刺激
WNTについては、CHIRを含まない2i+LIF培地(mES)またはCHIRを含む10%のFBS DMEM培地(HEK293)においてCHIR99021またはIWP2(Sigma Aldrich I0536)のいずれかで細胞を24時間処理した。
SMAD3については、2i+LIF培地においてアクチビンA(R&D systems 338−AC−010)またはSB431542(Tocis Bioscience 16−141)で細胞を24時間処理した。STAT3については、2i+LIF培地または2i−LIF培地で細胞を24時間処理した。
細胞株の生成
CRISPR−Cas9系を使用してV6.5マウス胚性幹細胞、HCT116結腸直腸癌細胞、またはHEK293T胚性腎細胞を遺伝子改変した。ベータカテニンのN末端を標的とするガイドを、mCherry選択可能マーカーを含むpx330ベクターにクローニングした。このガイドは、次の配列を有する:CTGCGTGGACAATGGCTACT(配列番号248)。内在性遺伝子座に相同性を有する800bpをmEGFPタグと隣接して含む修復鋳型をpUC19ベクターにクローニングした。両方のコンストラクト(2.5μg)を細胞にトランスフェクトし、トランスフェクトから2日後にmCherryを対象として選別し、トランスフェクトから1週間後にmEGFPを対象として再び選別した。細胞を段階希釈し、コロニーをピッキングしてクローン細胞株を得た。
FRAP
FRAPは、488nmレーザーを用いてLSM880 Airyscan顕微鏡で実施した。退色は、100%のレーザー出力を使用してr退色≒1umで実施し、2秒ごとに画像を収集した。蛍光強度は、FIJIを使用して測定した。バックグラウンド強度の差し引きを行い、退色実施前時点に対する値が報告される。
カスタムMATLAB(登録商標)スクリプトを記述することで、バックグラウンドの光退色及び退色実施前強度に対する正規化を考慮して強度データを処理した。退色実施後のFRAP回復データを、細胞株及び条件ごとに9回の反復測定にわたって平均化した。FRAPの回復曲線は、下記の式にフィッティングさせた:
FRAP(t)=M(1−exp(−t/τ))
免疫蛍光法
Sabari et al.2018に記載のように4%のパラホルムアルデヒドにおいて細胞を室温で10分間固定化した。次に、細胞を3回洗浄し、0.5のTritonX 100を含むPBSを用いて細胞の透過処理を室温で5分間行った。PBSでの洗浄を3回行った後、4%のウシ血清アルブミンにおいて細胞を室温で15分間ブロッキングし、4%のBSAにおいて一次抗体と共に室温で一晩インキュベートした。PBSでの洗浄を3回行った後、4%のBSAにおいて二次抗体と共に細胞を暗所で1時間インキュベートした。細胞をPBSで3回洗浄した後、Hoechstと共に細胞を暗所、室温で5分間インキュベートした。スライドにVectashield H−1000をマウントし、透明マニキュア液を用いてカバースリップをシールし、4Cで保管した。画像の取得は、Metamorphソフトウェア及びCCDカメラを使用して、100×対物レンズを備えたRPIスピニングディスク型共焦点顕微鏡を使用して実施した。
免疫蛍光法とDNA FISHとの併用
免疫蛍光法は、先に記載したように実施し、その際、二次抗体とのインキュベート後のプロトコールに改変を加えた。二次抗体とのインキュベート後、PBSにおいて細胞を室温で3回洗浄した後、4%のPFAを含むPBSで細胞を20分間固定化し、PBSで3回洗浄した。70%のエタノール、85%のエタノール、次いで100%のエタノールにおいて細胞を室温で1分間インキュベートした。7μlのFISHハイブリダイゼーション緩衝液(Agilent G9400A)、1μlのFISHプローブ、及び2μlの水を用いてプローブハイブリダイゼーション混合物を調製した。5μlの混合物をスライド上に添加し、カバースリップを上に被せた。ゴムのりを使用してカバースリップをシールした。ゴムのりが固化した時点で、ゲノムDNA及びプローブを78Cで5分間変性させ、スライドを暗所、16Cで一晩インキュベートした。スライドからカバースリップを剥がし、予熱した洗浄緩衝液1において73Cで3分間インキュベートし、洗浄緩衝液2において室温で1分間インキュベートした。スライドを風乾し、Hoechstを含むPBSを用いて核を室温で5分間染色した。PBSでカバースリップを3回洗浄し、Vectashield H−1000を使用してスライド上にマウントし、マニキュア液を用いてシールした。画像の取得は、MetaMorph取得ソフトウェア及びHammamatsu ORCA−ER CCDカメラを使用して、100×対物レンズを備えたRPIスピニングディスク型共焦点顕微鏡を使用して行った。DNA FISHプローブは、Nanog遺伝子座が標的となるようにAgilentによってカスタム設計及び生成されたものを使用した。
免疫蛍光法とRNA FISHとの併用
免疫蛍光法は、以前の報告のように実施し(Sabari et al.,2018)、その際、軽微な改変を加えた。免疫蛍光法は、RNaseが存在しない環境で実施し、ピペット及びベンチは、RNaseZap(Life Technologies、AM9780)で処理した。RNase非含有PBSを使用し、抗体の希釈は、常にRNase非含有PBSで行った。免疫蛍光法の完了後、4%のPFAを含むPBSを用いて細胞を室温で10分間、ポスト固定化した。RNase非含有PBSで細胞を2回洗浄した。20%のStellaris RNA FISH緩衝液A(Biosearch Technologies,Inc.,SMF−WA1−60)、及び10%の脱イオン化ホルムアミド(EMD Millipore、S4117)を含むRNase非含有水(Life Technologies、AM9932)を用いて細胞を室温で5分間、1回洗浄した。90%のStellaris RNA FISHハイブリダイゼーション緩衝液(Biosearch Technologies、SMF−HB1−10)、10%の脱イオン化ホルムアミド、SE関連遺伝子の転写物のイントロンへのハイブリダイゼーションが生じるように設計された12.5μMのStellaris RNA FISHプローブを用いて細胞のハイブリダイゼーションを行った。ハイブリダイゼーションは、37℃で一晩実施した。次に、洗浄緩衝液Aを用いて細胞を37℃で30分間洗浄し、20μm/mlのHOESCHTを含む洗浄緩衝液Aを用いて核を室温で5分間染色した。Stellaris RNA FISH洗浄緩衝液B(Biosearch Technologies、SMF−WB1−20)を用いて5分間の洗浄を室温で1回実施した。免疫蛍光法について記載したようにカバースリップをマウントした。画像の取得は、MetaMorph取得ソフトウェア及びHammamatsu ORCA−ER CCDカメラを使用して、100×対物レンズを備えたRPIスピニングディスク型共焦点顕微鏡で行った。使用した一次抗体は、抗MED1 Abcam ab64965 1:500希釈、抗bカテニンAbcam ab22656 1:500希釈、抗pSTAT3 Santa Cruz 1:20希釈、抗SMAD2/3 Santa Cruz 1:20希釈である。使用した二次抗体は、抗ウサギIgG、抗ヤギIgG、及び抗マウスIgGである。
平均画像解析
免疫蛍光法を併用するRNA FISHの解析については、カスタムMATLAB(登録商標)スクリプトを記述することで、RNA FISHチャネル及びIFチャネルに集積した3次元画像データを処理及び解析した。強度及びサイズの閾値によって個々のz軸スタック画像においてFISHフォーカスを同定し、サイズl=2.9μmのボックスの中心に置き、z軸スタック画像にまたがって3次元で繋ぎ合わせた。同定したFISHフォーカスごとに、IFチャネルにおける対応位置に由来するシグナルが、あらゆるz軸スライス画像においてRNA FISHフォーカスを中心とするl×l四方に集積される。次に、FISHとIFとのペアごとに、FISHフォーカスを中心とするIFシグナルが統合され、平均強度プロジェクションが計算されることで、FISHフォーカスを中心とするl×l四方内のIFシグナル強度の平均データが得られる。自体の座標に中心を置いたFISHシグナル強度について同じ処理を実施することで、FISHフォーカスを中心とするl×l四方内のFISHシグナル強度の平均データを得た。対照として、これと同じ処理を、無作為に選択された核内位置を中心とするIFシグナルにも実施した。反復測定ごとに、サイズ上限(200ボクセル)閾値及び強度(DNA密度)閾値を組み合わせることによって、DAPIチャネルから同定した核膜の内部から40ヶ所の無作為な核内地点を選択した。次に、こうした平均強度プロジェクションを使用してシグナル強度の2次元等高線図を作成した。等高線図は、MATLAB(登録商標)の組み込み関数を使用して作成されている。等高線図については、示される強度−色範囲は、直線色範囲(n!=15)にわたってカスタマイズしたものである。FISHチャネルについては、黒色〜マゼンタ色を使用した。IFチャネルについては、本発明者らは、chroma.js(オンラインカラージェネレーター)を使用して15のビンわたって色を生成させ、主要な変遷色として、黒色、青紫色、ミディアムブルー色、ライム色を選択した。これを行った目的は、読み手が一目でシグナル強度差をより容易に判別し得るようにすることにある。作成したカラーマップを、すべてのIFプロットについて、等間隔の15の強度ビンに用いた。FISH位置または無作為に選択された核内位置を中心とする平均IFは、同じ色尺度を使用してプロットされ、この色尺度は、各プロットに由来する最小シグナル及び最大シグナルを含むように設定されている。
タンパク質精製
目的遺伝子またはそのIDRをコードするcDNAを改変バージョンのT7 pET発現ベクターにクローニングした。このベースベクターは、5’に6×HIS、その下流にmEGFPまたはmCherryのいずれか、及び「GAPGSAGSAAGGSG」(配列番号14)という14個のアミノ酸のリンカー配列を含むように操作した。こうした配列(PCRによって生成させた)をリンカーアミノ酸と共にフレーム内に挿入するために、NEBuilder(登録商標)HiFi DNA Assembly Master Mix(NEB E2621S)を使用した。mEGFPまたはmCherryを単独で発現するベクターは、リンカー配列の下流に終始コドンを含む。変異配列は、geneblocks(IDT)として合成し、上記のものと同じベースベクターに挿入した。発現コンストラクトはすべて、シークエンシングして配列が変化していないことを確認した。
タンパク質発現については、プラスミドを用いた形質転換をLOBSTR細胞(Chessman Labからの供与物)に対して行い、下記のように増殖させた。カナマイシン及びクロラムフェニコールを含むLB培地に新鮮な細菌コロニーを播種し、37℃で一晩増殖させた。MED1−IDRコンストラクトを含む細胞を、カナマイシン及びクロラムフェニコールを新たに添加した500mlの室温のLBで1:30希釈し、16℃で1.5時間増殖させた。IPTGを添加して1mMとし、増殖を18時間継続した。細胞を収集し、−80℃で凍結保管した。いずれの他のコンストラクトを含む細胞もまた、IPTGによる誘導後に37℃で5時間増殖させたことを除いて、同様の様式で処理した。
cOmpleteプロテアーゼ阻害剤(Roche、11873580001)を含む15mlの変性緩衝液(50mMのトリス(7.5)、300mMのNaCl、10mMのイミダゾール、8Mの尿素)に500mlのベータカテニン変異体細胞のペレットを再浮遊させ、超音波処理(15秒間オン、60秒間オフのサイクルを10回実施)した。12,000gで30分間遠心分離することによって可溶化液を清澄化し、事前に平衡化した1mlのNi−NTAアガロース(Invitrogen、R901−15)に添加した。このアガロース可溶化液スラリーを含むチューブを室温で1.5時間旋回振とうした。このスラリーを、Thermo Legend XTRスイングバケットローターにおいて3,000rpmで10分間遠心分離した。5mlの溶解緩衝液でペレットを2回洗浄した後、上記のように3,000rpmで10分間遠心分離した。250mMのイミダゾールを含む2mlの溶解緩衝液でタンパク質を3回溶出させた。サイクルごとに溶出緩衝液を添加し、少なくとも10分間旋回振とうし、上記のように遠心分離した。溶出液を12%のアクリルアミドゲルで分析し、クマシーで染色した。予測サイズのタンパク質を含む画分をプールし、250mMのイミダゾール緩衝液で1:1希釈し、透析を行った。この透析は、50mMのトリス(pH7.5)、125MmのNaCl、1mMのDTT、及び4Mの尿素を含む緩衝液に対して最初に行い、次に、2Mの尿素を含む同じ緩衝液に対して行い、最終的に、10%のグリセロールを含む尿素非含有緩衝液(この緩衝液による外液交換を2回実施)に対して行った。透析後に生じた沈殿物はいずれも、3,000rpmでの10分間の遠心分離によって除去した。MED1−IDR及びWTベータカテニンも同様の様式で精製し、その際の例外として、尿素を含まない溶解緩衝液を使用し、インキュベートは4Cで行い、透析では、外液(50mMのトリス(pH7.5)、125mMのNaCl、10%のグリセロール、及び1mMのDTT)の交換を2回行った。
インビトロの液滴形成アッセイ
Amicon Ultra遠心分離フィルター(30K MWCO、Millipore)を使用して組換えGFP融合タンパク質または組換えmCherry融合タンパク質を濃縮及び脱塩することで、タンパク質を適切な濃度とし、NaCl濃度を125mMとした。液滴形成緩衝液(50mMのトリス−HCl(pH7.5)、10%のグリセロール、1mMのDTT)中に異なる濃度(記載の最終塩濃度)の塩及び10%のPEG−8000(クラウディング剤)を含む溶液に組換えタンパク質を添加した。このタンパク質溶液を、並行に配置された2つの両面テープ片によってカバースリップが取り付けられたスライドガラスから構成される自作チャンバーに直ちにロードした。次に、150×対物レンズを備えたAndor共焦点顕微鏡を用いてスライドを画像化した。指定がない限り、示される画像は、ガラスのカバースリップ上で安定した状態の液滴のものである。
電荷を中和するためにPEG−シランを用いてカバースリップをコートした。簡潔に記載すると、カバースリップを、2%のHelmanexIIIで2時間洗浄し、H2Oで3回洗浄し、エタノールで1回洗浄した後、0.5%のPEG−シランを含むエタノール(酢酸を1%含有)において一晩インキュベートした。次に、カバースリップをエタノールで1回洗浄し、水浴超音波処理器においてエタノール中で15分間超音波処理し、H2Oで3回洗浄した後、エタノールですすぎ、風乾した。
異型の液滴の分析
インビトロの液滴実験を分析するために、scikit−imageパッケージを使用してカスタムPythonスクリプトを記述して液滴を同定し、そのサイズ、形状、及び強度を特徴付けた。取り込みチャネルの平均画像からさまざまな基準(以下のもの)で液滴をセグメント化した:(1)強度閾値(画像の平均値+標準偏差の3倍超)(2)サイズ閾値(最小液滴サイズが9ピクセル)、及び(3)最小円形度((円形度=4π*面積/周囲長2)が0.8(真円の場合は1))。セグメント化後、液滴ごとの平均強度を計算し、その際、相の境界面付近のピクセルは除外した(Banani et al.,2016)。典型的には5〜10個の独立画像領域において同定した数百の液滴を定量化した。液滴内の平均強度(C−イン)及び広域内の平均強度(C−アウト)をチャネルごとに計算した。分配比は、(C−イン)/(C−アウト)として計算した。ボックスプロットは、すべての液滴の分布を示す。図2bにおける分配比対タンパク質濃度の測定データセットは、下記のロジスティック方程式(Wang et al.,2018)によってフィッティングを行った:
式中、fは分配比であり、xは対応タンパク質濃度である。
RT−qPCR
RNAは、製造者の説明に従ってRneasy Plus Mini Kit(QIAGEN、74136)を使用して単離した。cDNAは、製造者の説明に従ってオリゴdTプライマー(Promega、C1101)と共にSuperScript II Reverse Transcriptase(Invitrogen、18080093)を使用して生成させた。定量的リアルタイムPCRは、SE遺伝子に対するTaqManプローブを使用してApplied Biosystems7000装置、QuantStudio5装置、及びQuantStudio6装置で実施した。
ChIP
プレート当たり4〜5万個の細胞密度で細胞をプレートに蒔き、24〜48時間後に収集した。1%のホルムアルデヒドを含むPBSを使用して細胞における架橋反応を15分間行った後、最終濃度125mMのグリシンを用いて氷上でこの架橋反応を停止した。冷却PBSで細胞を洗浄し、冷却PBSにおいて細胞を剥がし取ることによって細胞を収集した。収集した細胞を、1500g、4℃で5分間ペレット化し、LB1(50mMのHepes−KOH(pH7.9)、140mMのNaCl、1mMのEDTA 0.5mL(0.5M)、10%のグリセロール、0.5%のNP40、1%のTritonX−100、1×プロテアーゼ阻害剤)に再浮遊させ、4℃で20分間旋回振とうしながらインキュベートした。細胞を1350gで5分間ペレット化し、LB2(10mMのトリス(pH8.0)、200mMのNaCl、1mMのEDTA、0.5mMのEGTA、1×プロテアーゼ阻害剤)に再浮遊させ、4℃で5分間旋回振とうしながらインキュベートした。ペレットを30〜50百万個細胞/mlの濃度でLB3(10mMのトリス(pH8.0)、100mMのNaCl、1mMのEDTA、0.5mMのEGTA、0.1%のデオキシコール酸ナトリウム、0.5%のラウロイルサルコシンナトリウム、1%のTritonX−100、1×プロテアーゼ阻害剤)に再浮遊させた。製造者の説明に従ってCovaris S220を使用して細胞を12分間超音波処理した後、20000g、4℃で30分間スピンダウンした。0.5%のBSAを用いて事前にブロッキングしたDynabeadsを、GFP抗体(Abcam、ab290)、Med1抗体(Abcam、ab64965)、またはdsRed抗体(Takara、632496)と共に6時間インキュベートした。クロマチンを抗体−ビーズ複合体に添加し、4℃で一晩旋回振とうしながらインキュベートした。洗浄緩衝液1(50mMのHepes(pH7.5)、500mMのNaCl、1mMのEDTA、1mMのEGTA、1%のTriton、0.1%のNaDoc、0.1%のSDS)及び洗浄緩衝液2(20mMのトリス(pH8)、1mMのEDTA、250mMのLiCl、0.5%のNP40、0.5%のNaDoc)のそれぞれでビーズを4℃で3回洗浄した後、TEを用いて室温で1回洗浄した。溶出緩衝液(50mMのトリス(pH8.0)、10mMのEDTA、1%のドデシル硫酸ナトリウム、20ug/mlのRNaseA)をビーズに添加することによってクロマチンを溶出し、60℃で30分間振とうしながらインキュベートした。架橋の解除を58℃で4時間実施した。タンパク質を除去するために、プロテイナーゼKを添加し、37℃で1〜2時間インキュベートした。Qiagen PCR精製キットを使用してDNAを精製し、10mMのトリス−HCLに再懸濁した。キットの説明に従ってSwift Biosciences Accel−NGS(登録商標)2S Plus DNA Library Kitを用いてChIPライブラリーを調製し、Sage Scienceから入手したPippinHTシステムでサイズ選択ステップを追加で行った。ライブラリーの調製後、PippinHTを使用して2%のゲルでChIPライブラリーを泳動させ、200〜600塩基のサイズ幅での収集を行った。最終的なライブラリーを、Rocheから入手したKAPA Library Quantificationキットを用いるqPCRによって定量化し、Illumina HiSeq 2500で40塩基のシングルリードモードでシークエンシングした。
ChIP−seq解析
リード長に対するパラメーターを−k 1 −m 1 −best及び−lに設定してbowtieを使用してmm9バージョンのマウス参照ゲノムへのChIP−Seqデータのアライメントを行った。ビンにおけるリードカバレッジを表示するためのWiggleファイルは、パラメーターを−w −S space=50 −nomodel −shiftsize=200としてMACSを使用して作成し、ビン当たりのリード数は、wiggleファイルの作成に使用した数百万のマッピングリードに正規化した(Zhang et al.,2008)。リード数/百万に正規化されたwiggleファイルをUCSCゲノムブラウザーに表示した(Kent et al.,2002)。
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実施例6
転写開始装置及びスプライシング装置の両方が、多数のコンポーネント分子を含む相分離凝縮体を形成し得、スーパーエンハンサーにおける凝縮体には数百のPolII複合体及びメディエーター複合体が密集し8、9、核スペックルには多数のスプライシング因子が密集し、こうした核スペックルのいくつかは、高度に活性な転写部位に生じる10〜17。本明細書において、本発明者らは、転写開始及びスプライシングと結び付く相分離凝縮体へのCTDの取り込みがそのリン酸化によって制御されるかどうかを調べている。本発明者らは、低リン酸化されたPolII CTDがメディエーター凝縮体に取り込まれ、制御性CDKによってリン酸化されると、その排除が生じることを見出している。本発明者らは、リン酸化CTDが、スプライシング因子によって形成される凝縮体に優先的に取り込まれることも見出している。こうした結果は、PolII CTDのリン酸化が、転写開始に関与する凝縮体からRNAプロセシングに関与する凝縮体への交換を誘導し、凝縮体優先性を制御する機構としてリン酸化を関連付けるものであることを示唆している。
低リン酸化されたPolII CTDがメディエーターと相互作用し得5〜7、スーパーエンハンサーにおける凝縮体にPolII及びメディエーターが生じる8、9ことが研究によって示されている。PolII CTDがメディエーター凝縮体取り込まれるかどうかを調べるために、本発明者らは、ヒトメディエーター複合体を精製し、インビトロの液滴アッセイにおける凝縮体形成を測定した。GFPと融合したヒト全長CTD(GFP−CTD)はメディエーター液滴に取り込まれ、そこに密集したが、対照GFPではこの取り込み及び密集は生じなかった(図62B)。こうしたアッセイでは、クラウディング剤を使用することで、細胞における込み合ったタンパク質環境を模倣すると共に、こうした知見が使用薬剤に限ったものではないことを確認するために、本発明者らは、化学的に異なる2つのクラウディング剤の存在下で同じ実験を実施し、同一の結果を得た(図62B)。こうした結果は、PolII CTDが、メディエーター凝縮体へのその取り込みに寄与するという考えと一致する。
本発明者らは、本発明者らの実験をMED1(メディエーター複合体の最大サブユニット18)に重点を置いたものとすることによってCTDとメディエーターとの相互作用をさらに調べた。本発明者らが、さらなる試験のためにMED1を選択した理由は、以前の研究9においてMED1がメディエーター凝縮体の有用な代替物であることが判明していることによるものである。さらに、MED1は、凝縮体形成に寄与する例外的に大きな天然変性領域(IDR)を有しており9、MED1は、ヒト細胞においてPolIIと優先的に結び付くことが示されている19。液滴アッセイを行ったところ、GFP−CTDがMED1−IDR凝縮体に取り込まれ、そこに密集することが明らかとなり(図62C)、このことは、メディエーター複合体についての観測と同様であった(図62B)。CTDヘプタペプチドの反復回数を減らすと、CTDがMED1−IDR凝縮体に移入する能力が損なわれ(図62D)、このことは、高結合価コンポーネントが関与する相互作用では予測されることであり、これは、凝縮体形成生体分子の特徴である20、21。PolII CTD/MED1−IDR凝縮体は、液体様融合挙動を示すと共に(図62E)、光退色後蛍光回復(FRAP;図62F)によって分子の内部再構成及び内外交換が動的に生じる証拠を示し、こうしたことは、液−液相分離凝縮体と一致するものである。
開始から伸長へのPolIIの移行は、CTDヘプタペプチド反復配列がCDK7及びCDK9によってリン酸化されることによって達成される22〜25。CTDがリン酸化されると、FET(FUS/EWS/TAF15)タンパク質の低複雑性ドメインによって形成されるハイドロゲルとのCTDの相互作用が影響を受けることが示されており26、このことは、CTDの凝縮体相互作用特性にリン酸化が影響し得ることを示唆している。
本発明者らは、CDK7またはCDK9によってCTDがリン酸化されると、MED1−IDR凝縮体へのCTDの取り込みが影響を受けることになるかどうかを調べた。CTDリン酸化アッセイを行ったところ、組換えCTDのセリン2及びセリン5の両方をCDK7調製物及びCDK9調製物がインビトロでリン酸化することが可能であり、CDK7によるリン酸化には、セリン5に対する優先的が存在することが示され(図66A、図66B)、このことは、公開結果22〜25と一致する。本発明者らは、CDK7によってCTDがリン酸化されると、MED1−IDR液滴へのCTDの取り込みが有意に減少することを見出した(図63A、図63B;図66C)。この作用は、使用したクラウディング剤に非依存的であった(図63A、図63B)。同様に、CDK9によるリン酸化が生じると、MED1−IDR液滴へのCTDの取り込みが有意に減少し、このことは、反応において使用したクラウディング剤に非依存的であった(図63A、図63B)。こうした結果は、PolII CTDがリン酸化されるとメディエーター凝縮体から排除されるというモデルと一致する。
リン酸化されたPolII CTDは、多くのスプライシング装置コンポーネントと相互作用することが報告されており27〜30、こうしたスプライシング因子の中で、セリン/アルギニン高含有(SR)タンパク質SRSF2が最も豊富に存在する(図66A)7。SRSF2は、スプライス部位へのスプライソソームの動員を促進し31、核スペックルにおけるpre−mRNAスプライシング装置と結び付いた状態で見られ得る10。本発明者らは、SRSF2をスプライシング装置の代替物として使用することで、マウス胚性幹細胞(mESC)における活性なスーパーエンハンサー関連遺伝子にスプライシング関連凝縮体が見られ得るかどうかを調べた(図64)。SRSF2に特異的な抗体を使用する免疫蛍光顕微鏡法(図67B)を新生RNA FISHと併用すると、個別のSRSF2小斑点がNanog遺伝子及びTrim28遺伝子(主要なESC多能性転写因子をコードするスーパーエンハンサー関連遺伝子である)に存在することが明らかとなった(図64A)。Nanog FISHフォーカス及びTrim28 FISHフォーカスの複数の画像を解析したところ(方法を参照のこと)、両方の遺伝子における新生RNA FISHフォーカスにSRSF2が濃縮されることが示された(図64A)。本発明者らは、スプライシングに必要な2つの追加SRタンパク質(SRRM1及びSRSF132、33)もまた、Nanog遺伝子及びTrim28遺伝子の両方における新生RNA FISHフォーカスに濃縮されることを確認した(図64B)。こうした結果は、SRSF2、及びスプライシング装置と結び付く他のタンパク質が、こうした活発に転写される遺伝子に位置する凝縮体のコンポーネントであることを示している。
次に、本発明者らは、リン酸化されたPolIIが、クロマチン上のSRSF2と結び付くかどうかを調べた。MED1、SRSF2、非リン酸化PolII CTD、及びセリン2がリン酸化されたPolII CTD(S2P)に対する抗体を用いてChIP−seqを実施することで、さまざまな遺伝子座に対するこうしたコンポーネントの相対占有度に対する手がかりをゲノム規模で得た(図4a、図4b)。予測通り、MED1は、非リン酸化CTDを含むPolIIと一緒にスーパーエンハンサー及びプロモーターを占有した(図65A、図65B)。セリン2がリン酸化されたCTDを含むPolIIは、転写される遺伝子の3’末端に最も顕著に観測され、SRSF2との強いオーバーラップを示した(図65A、図65B)。こうした結果は、SRSF2によって占有されるゲノム部分が、リン酸化CTDを有するPolIIによって共占有される傾向を有することを示唆している。
CTDのリン酸化が、スプライシング因子凝縮体へのCTDの取り込みに影響を与えるかどうかを直接的に試験するために、本発明者らは、組換えSRSF2を使用してこうした凝縮体をインビトロでモデル化することを目指した。mCherryと融合した全長ヒトSRSF2を精製し、これが相分離液滴を形成することが明らかとなった(図65C、図65D)。非リン酸化CTDは、SRSF2液滴に効率的に取り込まれなかった一方で、CDK7またはCDK9によってリン酸化されたCTDは、SRSF2液滴に取り込まれ、そこに密集した(図65C、図65D、図65E、図65F、及び図67C)。リン酸化されたPolII CTDがSRSF2液滴によって取り込まれることに対するこの選択性は、実験で使用したクラウディング剤に非依存的であった(図65C、図65D、図65E、図65F)。こうした結果は、PolII CTDがリン酸化されると、PolII CTDがSRSF2凝縮体と相互作用する能力が切り替わることを示している。
本発明者らの結果は、PolII CTDがリン酸化されると、その凝縮体分配挙動が変化し、それによって、転写開始に関与する凝縮体から、RNAスプライシングに関与する凝縮体へとPolIIが移動するように誘導され得ることを示している。このモデルは、大きなPolIIクラスターが細胞におけるメディエーター凝縮体と融合し得るという以前の研究8、リン酸化が生じるとCTD介在性のPolIIクラスターが崩壊するという以前の研究34、CDK9/サイクリンTが相分離機構を介してCTDと相互作用し得るという以前の研究35、転写伸長の間はPolIIがもはやメディエーターとは結び付かないという以前の研究18、及びスプライシング因子を含む核スペックルが、転写活性が高い遺伝子座において観測され得るという以前の研究10〜17、から得られた証拠と一致するものである。転写開始装置のコンポーネント及びRNAプロセシング装置のコンポーネントとCTDがリン酸化形態特異的様式で相互作用し得ることが以前の研究によって示されているが5〜7、そうした研究では、こうしたコンポーネントが凝縮体に生じる可能性、またはPolII CTDがリン酸化されると、こうした凝縮体の間でのPolII CTDの分配挙動が変化する可能性については探求されなかった。本発明者らの結果は、メディエーター凝縮体及びスプライシング因子凝縮体が、同じスーパーエンハンサー誘導性遺伝子に生じることを明らかにするものであると共に、開始に関与するコンポーネントとの相互作用から、スプライシングに関与するコンポーネントとの相互作用へとPolIIが移行することが、CTDのリン酸化によって制御される凝縮体分配切り替えを介して媒介され得ることを示唆するものである。こうした結果は、リン酸化が、ある凝縮体からの排除及び別の凝縮体への移行をタンパク質機能が伴うプロセスにおいてタンパク質の凝縮体分配を制御する機構の1つであり得ることも示唆している。
方法
細胞培養
V6.5マウス胚性幹細胞(mESC)は、Jaenisch labからの供与物である。0.2%のゼラチン(Sigma、G1890)でコートされた組織培養プレート上で2i培地において細胞を増殖させた。この2i培地の組成は、DMEM−F12(Life Technologies、11320082)、0.5×B27サプリメント(Life Technologies、17504044)、0.5×N2サプリメント(Life Technologies、17502048)、追加の0.5mMのL−グルタミン(Gibco、25030−081)、0.1mMのベータ−メルカプトエタノール(Sigma、M7522)、1%のペニシリンストレプトマイシン(Life Technologies、15140163)、1×非必須アミノ酸(Gibco、11140−050)、1000U/mlのLIF(Chemico、ESG1107)、1μMのPD0325901(Stemgent、04−0006−10)、3μMのCHIR99021(Stemgent、04−0004−10)である。細胞は、加湿インキュベーターにおいて、5%のCO2雰囲気下、37℃で増殖させた。共焦点画像化については、5μg/mLのポリ−L−オルニチン(Sigma Aldrich、P4957)及び5μg/mlのラミニン(Corning、354232)を用いて、それぞれ37℃で少なくとも30分間、及び37℃で2時間〜16時間コートしたガラスのカバースリップ(Carolina Biological Supply、633029)上で細胞を増殖させた。継代培養については、1000U/mlのLIFを含むPBS(LifeTechnologies、AM9625)で細胞を洗浄した。プレートからの細胞の剥離には、TrypLE Express Enzyme(Life Technologies、12604021)を使用した。TrypLEの反応停止は、FBS/LIF−培地(DMEM K/O(Gibco、10829−018)、1×非必須アミノ酸、1%のペニシリンストレプトマイシン、2mMのL−グルタミン、0.1mMのベータ−メルカプトエタノール、及び15%のウシ胎仔血清(FBS)(Sigma Aldrich、F4135))を用いて行った。
ウエスタンブロット
精製されたリン酸化CTDを1×XT緩衝液(Bio−Rad)に含め、10%のCriterion(商標)XT Bis−Tris Precast Gel(Bio−Rad)において色素の最前部がゲルの末端に達するまで100Vで泳動させた。次に、氷冷転写緩衝液(25のmMトリス、192のmMグリシン、10%のメタノール)において孔径0.45μmのPVDF膜(Millipore、IPVH00010)へとタンパク質を湿潤状態、250mA、4℃で2時間転写した。転写後、5%の無脂肪乳を含むTBSにおいて膜を振とうしながら室温で1時間ブロッキングした。次に、抗GFP抗体(Abcam 番号ab290)、抗Ser5リン酸化Pol II抗体(Millipore 番号04−1572)、または抗Ser2リン酸化Pol II抗体(Millipore 番号04−1571)を無脂肪乳5%含有TBSTで1:2,000希釈した溶液と共に膜を振とうしながら4℃で一晩インキュベートした。振とうしながら室温で10分間、膜をTBSTで3回洗浄した。1:10,000希釈した二次抗体(GE health)と共に膜を室温で1時間インキュベートし、TBSTで膜を5分間洗浄(3回)した。Femto ECL基質(Thermo Scientific、34095)を用いて膜を発色させ、CCDカメラを使用して画像化した。
免疫蛍光法とRNA FISHとの併用
5ug/mLのポリ−L−オルニチン(Sigma−Aldrich、P4957)及び5μg/mLのラミニン(Corning、354232)を用いて、それぞれ30分間及び2時間、カバースリップを37℃でコートした。事前にコートしたカバースリップ上に細胞を蒔き、24時間増殖させた後、4%のパラホルムアルデヒド(PFA)(VWR、BT140770)を含むPBSを使用して10分間固定化した。細胞をPBSで3回洗浄した後、カバースリップを加湿チャンバーに入れるか、またはPBSにおいて4℃で保管した。0.5%のtriton X100(Sigma Aldrich、X100)を含むPBSを使用して細胞の透過処理を10分間行った後、PBSでの洗浄を3回行った。4%のIgG非含有ウシ血清アルブミン(BSA)(VWR、102643−516)を用いて細胞を30分間ブロッキングした。その後、PBSで1:500希釈した濃度の記載一次抗体と共に細胞を4〜16時間インキュベートした。細胞をPBSで3回洗浄し、PBSで1:5000希釈した濃度の二次抗体と共に1時間インキュベートした。PBSでの洗浄を2回行った後、4%のパラホルムアルデヒド(PFA)(VWR、BT140770)を含むPBSを使用して細胞を10分間固定化した。洗浄緩衝液A(20%のStellaris RNA FISH緩衝液A(Biosearch Technologies,Inc.、SMF−WA1−60)、10%の脱イオン化ホルムアミド(EMD Millipore、S4117)を含むRNase非含有水(Life Technologies、AM9932))を細胞に添加し、5分間インキュベートした。12.5μMのRNAプローブを含むハイブリダイゼーション緩衝液(90%のStellaris RNA FISHハイブリダイゼーション緩衝液(Biosearch Technologies、SMF HB1−10)及び10%の脱イオン化ホルムアミド)を細胞に添加し、37℃で一晩インキュベートした。洗浄緩衝液Aでの洗浄を37℃で30分間行った後、20μm/mLのHoechst 33258(Life Technologies、H3569)において核を5分間染色してから、洗浄緩衝液B(Biosearch Technologies、SMFWB1−20)での洗浄を5分間行った。細胞を水で1回洗浄した後、Vectashield(VWR、101098−042)を用いてカバースリップをスライドガラス上にマウントし、最終的に、マニキュア液(Electron Microscopy Science 番号72180)を用いてカバースリップをシールした。画像の取得は、MetaMorph取得ソフトウェア及びHammamatsu ORCA−ER CCDカメラ(W.M.Keck Microscopy Facility,MIT)を使用して、100×対物レンズを備えたRPIスピニングディスク型共焦点顕微鏡で行った。画像の後処理は、Fiji Is Just ImageJ(FIJI)を使用して行った。RNA FISHプローブは、Nanog及びTrim28のイントロン領域が標的となって新生RNAが可視化されようにAgilentによってカスタム設計及び生成されたものを使用した。
タンパク質精製
ヒトcDNAを改変バージョンのT7 pET発現ベクターにクローニングした。このベースベクターは、5’に6×HIS、その下流にmEGFPまたはmCherryのいずれか、及び「GAPGSAGSAAGGSG」(配列番号14)という14個のアミノ酸のリンカー配列を含むように操作した。こうした配列(PCRによって生成させた)をリンカーアミノ酸と共にフレーム内に挿入するために、NEBuilder(登録商標)HiFi DNA Assembly Master Mix(NEB E2621S)を使用した。mEGFPを単独で発現するベクターは、リンカー配列の下流に終始コドンを含む。変異配列は、PCRによって生成させ、上記のものと同じベースベクターに挿入した。発現コンストラクトはすべて、シークエンシングして配列が変化していないことを確認した。
タンパク質発現については、プラスミドを用いた形質転換をLOBSTR細胞(Chessman Labからの供与物)に対して行い、下記のように増殖させた。カナマイシン及びクロラムフェニコールを含むLB培地に新鮮な細菌コロニーを播種し、37℃で一晩増殖させた。カナマイシン及びクロラムフェニコールを新たに添加した500mlの室温のLBで細胞を1:30希釈し、16℃で1.5時間増殖させた。IPTGを添加して1mMとし、増殖を20時間継続した。細胞を収集し、−80℃で凍結保管した。GFPを単独で含む細胞、及びGFP−SRSF2を含む細胞を、IPTGによる誘導後に37℃で5時間増殖させたことを除いて、同様の様式で処理した。
500mlのmCherry−SRSF2発現細胞のペレットを、cOmpleteプロテアーゼ阻害剤(Roche、11873580001)を含む15mlの変性緩衝液(50mMのトリス(7.5)、300mMのNaCl、10mMのイミダゾール、8Mの尿素)に再浮遊させ、超音波処理(15秒間オン、60秒間オフのサイクルを10回実施)した。12,000gで30分間遠心分離することによって可溶化液を清澄化し、10倍体積の同じ緩衝液で事前に平衡化しておいた1mlのNi−NTAアガロース(Invitrogen、R901−15)に添加した。このアガロース可溶化液スラリーを含むチューブを室温で1.5時間旋回振とうした。スラリーをカラムに流し込み、15倍体積の溶解緩衝液で洗浄し、250mMのイミダゾールを含む2mlの変性緩衝液で4回溶出処理を行った。各画分を12%ゲルで泳動させ、正しいサイズのタンパク質の透析を行った。この透析は、最初は緩衝液(50mMのトリス(pH7.5)、125MmのNaCl、1MmのDTT、及び4Mの尿素)に対して行い、次に、2Mの尿素を含む同じ緩衝液に対して行い、最終的に、10%のグリセロールを含む尿素非含有緩衝液(この緩衝液による外液交換を2回実施)に対して行った。透析後に生じた沈殿物はいずれも、3,000rpmでの10分間の遠心分離によって除去した。
他のタンパク質もすべて、同様の様式で精製した。10mMのイミダゾール及びcOmpleteプロテアーゼ阻害剤を含む15mlの緩衝液A(50mMのトリス(pH7.5)、500mMのNaCl)に約500mlの細胞のペレットを再浮遊させ、超音波処理によって可溶化させ、12,000×g、4℃で30分間遠心分離することによって清澄化し、事前に平衡化した1mLのNi−NTAアガロースに添加し、4℃で1.5時間旋回振とうした。スラリーをカラムに流し込み、10mMのイミダゾールを含む15倍体積の溶解緩衝液で洗浄し、タンパク質の溶出処理を、50mMのイミダゾールを含む緩衝液で2回、100mMのイミダゾールを含む緩衝液で2回、250mMのイミダゾールを含む緩衝液で3回行った。代替法として、樹脂スラリーを3,000rpmで10分間遠心分離し、10mMのイミダゾールを含む緩衝液(10倍体積)で洗浄し、上記の緩衝液のそれぞれと共に10分間以上旋回振とうしながらインキュベートすることによってタンパク質を溶出させた後、遠心分離及びゲルでの分析を行った。50mMのトリス(7.5)、125mMのNaCl、10%のグリセロール、及び1mMのDTTを含む緩衝液(この緩衝液による外液交換を2回実施)に対して、正しいサイズのタンパク質を含む画分を4℃で透析した。
メディエーターの精製
メディエーター試料の精製は、以前の報告36に改変を加えて行った。親和性精製を行う前に、硫酸アンモニウム沈殿法(35%)によってP0.5M/QFT画分を濃縮して12mg/mLとした。20mMのKCl、20mMのHEPES、0.1mMのEDTA、2mMのMgCl2、20%のグリセロールを含むpH7.9の緩衝液にペレットを再懸濁した後、0.15MのKCl、20mMのHEPES、0.1mMのEDTA、20%のグリセロール、及び0.02%のNP−40を含むpH7.9の緩衝液に対して透析してから、親和性精製ステップに供した。報告36のように親和性精製を実施し、溶出した材料を、0.15MのKCl HEMG(20mMのHEPES、0.1mMのEDTA、2mMのMgCl2、10%のグリセロール)を2mL入れた2.2mLの遠心分離チューブにロードし、50K RPM、4℃で4時間遠心分離した。この操作を行うことで、過剰な遊離GST−SREBPが除去され、メディエーターが最終画分に濃縮された。液滴アッセイを行う前に、Ultracel−30膜(Millipore MRCF0R030)を備えたMicrocon−30kDa Centrifugal Filter Unitを使用して精製メディエーターをさらに濃縮して、メディエーター複合体の濃度を約300nMとした。濃縮したメディエーターを、最終濃度が約200nMとなるようにして液滴アッセイに使用し、その際、10μMの記載のGFPタグ付きタンパク質の存在下または非存在下で液滴アッセイを行った。液滴反応には、10%のPEG−8000または16%のFicoll−400と140mMの塩とを含めた。
クロマチン免疫沈降シークエンシング(ChIP−seq)
2i培地において80%コンフルエンスになるまでmESを増殖させた。1%のホルムアルデヒドを含むPBSを使用して細胞における架橋反応を15分間行った後、最終濃度125mMのグリシンを用いて氷上でこの架橋反応を停止した。冷却PBSで細胞を洗浄し、冷却PBSにおいて細胞を剥がし取ることによって細胞を収集した。収集した細胞を、1000g、4℃で3分間ペレット化し、液体窒素中で急速凍結させ、−80℃で保管した。新たに調製したcOmpleteプロテアーゼ阻害剤(Roche、11873580001)をすべての緩衝液に含めた。リン酸特異的抗体抗体を使用するChIPについては、新たに調製したPhosSTOPホスファターゼ阻害剤カクテル(Roche、4906837001)をすべての緩衝液に含めた。凍結架橋細胞を氷上で解凍した後、LB1(50mMのHepes−KOH(pH7.9)、140mMのNaCl、1mMのEDTA 0.5mL(0.5M)、10%のグリセロール、0.5%のNP−40、1%のTritonX−100、1×プロテアーゼ阻害剤)に再浮遊させ、4℃で20分間旋回振とうしながらインキュベートした。細胞を1350gで5分間ペレット化し、LB2(10mMのトリス(pH8.0)、200mMのNaCl、1mMのEDTA、0.5mMのEGTA、1×プロテアーゼ阻害剤)に再浮遊させ、4℃で5分間旋回振とうしながらインキュベートした。ペレットを30〜50百万個細胞/mlの濃度でLB3(10mMのトリス(pH8.0)、100mMのNaCl、1mMのEDTA、0.5mMのEGTA、0.1%のデオキシコール酸ナトリウム、0.5%のラウロイルサルコシンナトリウム、1%のTritonX−100、1×プロテアーゼ阻害剤)に再浮遊させた。Covaris S220を使用して細胞を12分間超音波処理(デューティサイクル:5%、強度:4、バースト当たりのサイクル数:200)した。超音波処理した材料を、20000×g、4℃で30分間スピンダウンすることによって清澄化した。上清を、可溶性クロマチンとしてChIPに使用した。0.5%のBSAを用いて事前にブロッキングしたDynabeadsを記載の抗体と共に2時間インキュベートした。クロマチンを抗体−ビーズ複合体に添加し、4℃で一晩旋回振とうしながらインキュベートした。洗浄緩衝液1(50mMのHepes(pH7.5)、500mMのNaCl、1mMのEDTA、1mMのEGTA、1%のTriton、0.1%のNaDoc、0.1%のSDS)及び洗浄緩衝液2(20mMのトリス(pH8)、1mMのEDTA、250mMのLiCl、0.5%のNP−40、0.5%のNaDoc)を用いてビーズを4℃でそれぞれ3回洗浄した後、TEを用いて室温で1回洗浄した。溶出緩衝液(50mMのトリス(pH8.0)、10mMのEDTA、1%のドデシル硫酸ナトリウム)をビーズに添加することによってクロマチンを溶出し、60℃で30分間振とうしながらインキュベートした。架橋の解除を58℃で一晩実施した。RNAを除去するために、RNaseAを添加し、50℃で1時間インキュベートした。タンパク質を除去するために、プロテイナーゼKを添加し、60℃で1時間インキュベートした。製造者の説明に従ってQiagen PCR精製キットを使用してDNAを精製し、50μLのトリス−HCl(10mM、pH8.5)において溶出し、これを定量化及びChIPライブラリー調製に使用した。キットの説明に従ってSwift Biosciences Accel−NGS(登録商標)2S Plus DNA Library Kitを用いてChIPライブラリーを調製し、Sage Scienceから入手したPippinHTシステムでサイズ選択ステップを追加で行った。ライブラリーの調製後、PippinHTを使用して2%のゲルでChIPライブラリーを泳動させ、200〜600塩基のサイズ幅での収集を行った。最終的なライブラリーを、Rocheから入手したKAPA Library Quantificationキットを用いるqPCRによって定量化し、Illumina HiSeq 2500で40塩基のシングルリードモードでシークエンシングした。
リード長に対するパラメーターを−k 1 −m 1 −best及び−lに設定してbowtieを使用してmm9バージョンのマウス参照ゲノムへのChIP−Seqデータのアライメントを行った。ビンにおけるリードカバレッジを表示するためのWiggleファイルは、MACS(パラメーターを−w −S −space=50 −nomodel −shiftsize=200とした)を使用して作成し、ビン当たりのリード数は、wiggleファイルの作成に使用した数百万のマッピングリードに正規化した。リード数/百万に正規化されたwiggleファイルをUCSCゲノムブラウザーに表示した。メタ遺伝子プロットは、ngs.plot37(v2.61)(デフォルトパラメーターを使用)を使用して作成した。発現遺伝子の上位20%の計算は、公開RNA−seqデータセット(GSE112807)9から行った。SRSF2及びSer2−P PolIIのChIP−seqは、SRSF2に対する抗体(Abcam ab11826)及びSer2リン酸化Pol II CTDに対する抗体(Millipore 04−1571)を使用して本試験において得たものであり、MED1及び全Pol IIのChIP−seqは、以前に公開されたもの(GSE112808)9である。
平均画像解析
免疫蛍光法を併用するRNA FISHの解析については、社内カスタムMATLAB(登録商標)スクリプトを記述することで、RNA FISHチャネル及びIFチャネルに集積した3次元画像データを処理及び解析した。強度及びサイズの閾値によって個々のz軸スタック画像においてFISHフォーカスを同定し、サイズl=2.9μmのボックスの中心に置き、z軸スタック画像にまたがって3次元で繋ぎ合わせた。同定したFISHフォーカスごとに、IFチャネルにおける対応位置に由来するシグナルが、あらゆるz軸スライス画像においてRNA FISHフォーカスを中心とするl×l四方に集積される。次に、FISHとIFとのペアごとに、FISHフォーカスを中心とするIFシグナルが統合され、平均強度プロジェクションが計算されることで、FISHフォーカスを中心とするl×l四方内のIFシグナル強度の平均データが得られる。自体の座標に中心を置いたFISHシグナル強度について同じ処理を実施することで、FISHフォーカスを中心とするl×l四方内のFISHシグナル強度の平均データを得た。図の説明内には、平均強度プロジェクション当たりの反復測定数が、画像ごとに示される。対照として、これと同じ処理を、無作為に選択された核内位置を中心とするIFシグナルにも実施した。反復測定ごとに、サイズ上限(200ボクセル)閾値及び強度(DNA密度)閾値を組み合わせることによって、DAPIチャネルから同定した核膜の内部から40ヶ所の無作為な核内地点を選択した。
次に、こうした平均強度プロジェクションを使用してシグナル強度の2次元等高線図を作成した。等高線図は、MATLAB(登録商標)の組み込み関数を使用して作成されている。等高線図については、示される強度−色範囲は、直線色範囲(n!=15)にわたってカスタマイズしたものである。FISHチャネルについては、黒色〜マゼンタ色を使用した。IFチャネルについては、本発明者らは、chroma.js(オンラインカラージェネレーター)を使用して15のビンわたって色を生成させ、主要な変遷色として、黒色、青紫色、ミディアムブルー色、ライム色を選択した。これを行った目的は、読み手が一目でシグナル強度差をより容易に判別し得るようにすることにある。作成したカラーマップを、すべてのIFプロットについて、等間隔の15の強度ビンに用いた。FISH位置または無作為に選択された核内位置を中心とする平均IFは、同じ色尺度を使用してプロットされ、この色尺度は、各プロットに由来する最小シグナル及び最大シグナルを含むように設定されている。
インビトロの液滴アッセイ
Amicon Ultra遠心分離フィルター(30K MWCO、Millipore)を使用して、組換えGFP融合タンパク質または組換えmCherry融合タンパク質を濃縮及び脱塩することで、タンパク質を適切な濃度とし、NaCl濃度を125mMとした。図の説明に記載のように液滴形成緩衝液(50mMのトリス−HCl(pH7.5)、10%のグリセロール、1mMのDTT)中に異なる最終塩濃度(100〜125mM)の塩と、16%のFicoll−400または10%のPEG−8000(クラウディング剤)と、を含む溶液に組換えタンパク質を添加した。このタンパク質溶液を、並行に配置された2つの両面テープ片によってカバースリップが取り付けられたスライドガラスから構成される自作チャンバーに直ちにロードした。次に、150×対物レンズを備えたAndor共焦点顕微鏡を用いてスライドを画像化した。指定がない限り、示される画像は、ガラスのカバースリップ上で安定した状態の液滴のものである。インビトロの液滴のFRAPについては、20u秒の画素滞在時間でレーザー(出力20%)パルスを液滴に2回適用し、回復の画像化をAndor顕微鏡で1秒ごとに記載の時間実施した。CDK7介在性またはCDK9介在性のCTDのリン酸化については、市販の活性なCDK7/MAT1/CCNH(CAK複合体、Millipore 14−476)またはCDK9/サイクリンT1(Millipore 14−685)を使用することで、キナーゼ反応緩衝液(20mMのMOPs−NaOH(pH7.0)、1mMのEDTA、0.001%のNP−40、2.5%のグリセロール、0.05%のベータ−メルカプトエタノール、10mMのMgAc、10uMのATP)においてGFP−CTD52を室温で2〜3時間リン酸化した。CTD:酵素比は、CTD約1uM:CDK7またはCDK9約4.8ng/ulである。
インビトロ液滴の画像化解析
インビトロでの相分離画像化実験を解析するために、カスタムMATLAB(登録商標)スクリプトを記述して液滴を同定し、そのサイズ及び形状を特徴付けた。いずれの具体的な実験条件についても、ヒストグラムのピークに基づく強度閾値、及びサイズ閾値(z軸スライス画像当たり9ピクセル)を用いて画像をセグメント化した。液滴の同定は、「骨格」チャネル(MED1−IDR+CTDの場合はMED1−IDR、SRSF2+CTDについてはSRSF2)で実施し、面積及びアスペクト比を決定した。典型的には画像における5〜10ヶ所の独立領域において同定した数百の液滴を定量化した。GFPチャネル(すなわちGFP−CTD)を対象として、液滴内の平均強度(C−イン)及び広域内の平均強度(C−アウト)を計算した。GFP−CTDの分配係数/濃縮比を、(C−イン)/(C−アウト)として計算した。濃縮スコアは、対照GFP蛍光タンパク質のCイン/アウトによって実験条件のCイン/アウトを割ることによって計算した。
データの入手
本試験において得られたデータセットは、受入番号GSE120656の下でGene Expression Omnibusに登録されている。
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実施例7
相分離は、生体分子が希薄相及び濃密相へと別れ、それによって「無膜オルガネラ」を形成する物理化学的プロセスである(1〜5)。TF及びメディエーターコアクチベーターが相分離凝縮体を形成することで、正常な細胞独自性において顕著な役割を有する遺伝子に転写装置をコンパートメント化し、そこに密集させ得ることが最近の研究によって示されている(6〜10)。転写制御不全は、悪性腫瘍をうまく言い表す特徴であるが、がんにおいて凝縮体が担う役割についての我々の理解は限られている(11〜16)。それ故に、本発明者らは、転写凝縮体が発がん性転写プログラムを誘導するかどうか、がん治療によって転写凝縮体が乱されるかどうか、及び薬物抵抗性状態では転写凝縮体が変化しているかどうかを明らかにすることを試みた。
乳癌は、最も一般的な悪性腫瘍であり、症例の大多数がER(発がん性TF)によって誘導される(17)。ERは、転写装置と相互作用することで、MYCがん遺伝子を含む、エストロゲン応答性遺伝子の発現を誘導する(18〜20)。ヒト腫瘍組織におけるMYCに転写凝縮体が生じるかどうかを決定するために、本発明者らは、ER+浸潤性乳管癌生検試料に対して、メディエーターのMED1サブユニット及びERに対する免疫蛍光法(IF)をRNA FISHと併せて実施した(図68A、図72A)。本発明者らは、ER及びMED1が、ヒト腫瘍組織における活性なMYC遺伝子座に生じる核内小斑点のコンポーネントであることを見出し、このことは、本発明者らが転写凝縮体について予測したことと一致する(図68A、図72B)。本発明者らは、実験的により扱いやすいER+乳癌細胞株MCF7に本発明者らの試験を広げ、エストロゲンの存在下でMYCの転写が活性な部位にMED1小斑点及びER小斑点が形成されることを確認した(図68B)。mEGFPタグ付きMED1を産生するように操作したMCF7細胞におけるMED1小斑点では、光退色後蛍光回復(FRAP)が急速に生じることが実証され(図68C、図72C)、このことは、液体様凝縮体について予測される特性と一致する。こうした結果は、ER及びメディエーターが、乳癌細胞におけるMYCがん遺伝子に転写凝縮体を形成することを示唆するものである。
多種多様ながんにおいて、MYCがん遺伝子の発現は制御されておらず、腫瘍形成を誘導する(21)。メディエーターは、いくつかのTFのコアクチベーターであり、したがって、多くのがん細胞型では、メディエーター凝縮体がMYCに存在すると予測され得る(22)。実際、前立腺癌細胞株、多発性骨髄腫細胞株、バーキットリンパ腫細胞株、及び結腸癌細胞株では、転写が活発なMYC遺伝子座にMED1小斑点が見られた(図68D)。まとめると、こうした結果は、MYC遺伝子が発がん性ドライバーである腫瘍組織及びがん細胞では、メディエーター凝縮体がMYCを占有することを示唆している。
ER+乳癌細胞では、ERにエストロゲンが結合すると、ER標的遺伝子の活性化が増進する(23)。ER標的遺伝子でのメディエーター凝縮体の形成をエストロゲンが増進するかどうかを評価するために、本発明者らは、MCF7細胞においてMYC遺伝子座に対するDNA FISHと併せてMED1に対するIFを実施した。エストロゲン刺激を受けるとMED1シグナルがMYCにおいて増進し(図69A)、このことは、MYC RNA発現が増加することによって達成された(図69B)。タモキシフェンは、ERのリガンド結合ドメイン(LBD)に結合し、ERの活性化潜在力及びMED1に対する親和性を低減する立体配座変化を引き起こす抗エストロゲン治療剤である(24)。タモキシフェン処理を行うと、MYCにおけるMED1シグナルが減少し(図69A)、これと同時に、MYCのRNA発現も減少した(図69B)。こうした結果は、がん遺伝子におけるコアクチベーター凝縮体形成及び転写をエストロゲンが刺激し、凝縮体形成及び転写の両方のエストロゲン依存性刺激をタモキシフェンが抑制するというモデルと一致する(図69A)。
エストロゲン及びタモキシフェンの作用が、コアクチベーター凝縮体のER LBD依存性の形成及び崩壊に起因するものであるかどうかをさらに調べるために、本発明者らは、細胞におけるLacアレイにER LBDが繋留されると相分離凝縮体の形成を監視することが可能となる操作系を使用した(図69C)(25、26)。本発明者らは、細胞がエストロゲンに曝露されると、繋留ER LBDがMED1含有凝縮体を生じさせ、この凝縮体形成が、タモキシフェンによって阻止されることを見出した(図69C)。内在性にタグ付けされたMED1−mEGFP(図73A、図73B)を含むこうした細胞を生細胞画像化すると、タモキシフェンがER LBD−MED1凝縮体を崩壊させることが明らかとなり、これによって、この集合体について予測された動的性質が確認された(図69D)。こうした結果は、ER LBDのエストロゲン依存性かつタモキシフェン感受性のトランス活性化機能が、細胞におけるエストロゲン依存性かつタモキシフェン感受性のMED1含有凝縮体の形成と相関することを示している。
ER−MED1凝縮体に対するエストロゲン及びタモキシフェンの作用をさらに試験するために、本発明者らは、精製された組換えER−GFP融合タンパク質及び切断型MED1−mCherry融合タンパク質を用いるインビトロの液滴形成アッセイを使用した。以前の報告のように、MED1−mCherryは相分離液滴を形成し、この相分離液滴へのERの取り込みは、エストロゲンによって増進した(図69E、図73C)(6)。MED1凝縮体へのERのエストロゲン刺激性の取り込みは、タモキシフェンによって相殺された(図69E、図73C)。こうした結果は、エストロゲン応答性がん遺伝子の活性化が、メディエーター凝縮の増進を介して生じ、乳癌において治療効果を有する薬物が、こうした凝縮体の形成を相殺し得るというモデルと一致する(図69F)。
抗エストロゲン剤(タモキシフェンなど)は、極めて有効な乳癌治療であるが、抵抗性が生じることが大きな課題として残っている(17)。抵抗性は複数の機構によって生じ得、こうした機構の多くが、ERとコアクチベーターとの間にホルモン非依存性の相互作用を引き起こし、その結果、遺伝子活性化及び腫瘍増殖を招く(27)。本発明者らは、ERがコアクチベーターと共に凝縮する能力が腫瘍の増殖及び生存に必要不可欠であるならば、当該転写因子及び当該補助因子が希薄相と凝縮相との間の境界をまたいで移行する能力が変化することによって抗エストロゲン剤抵抗性が達成され得ると推論した。図70Aに示されるように、TF−メディエーター凝縮体の相分離境界をまたぐシフトが、凝縮体を構成するコンポーネントの間の親和性が変化することによって生じ得る(28)。
抗エストロゲン剤抵抗性乳癌患者では、ERに多様な遺伝子変化が見られ、こうした遺伝子変化には、コアクチベーター相互作用に適した構造立体配座を安定化させるLBD変異(Y537S及びD538G)(29)、ならびに多様な遺伝子(コアクチベーターYAP1及び細胞表面タンパク質PCDH11Xを含む)への転座(図70B、図74A)(30)が含まれる。こうしたER変異体の凝縮体形成特性を調べるために、本発明者らは、ER Y537S GFP融合タンパク質、ER D538G GFP 融合タンパク質、ER−YAP1 GFP融合タンパク質、及びER−PCDH11X GFP融合タンパク質を組換えで生じさせた。野生型ERでは、MED1液滴への取り込みがエストロゲンによって増進し、タモキシフェンによって相殺されるという結果が得られたこととは対照的に、4つすべての変異ERタンパク質が、エストロゲン非依存かつタモキシフェン非感受性の凝縮体をMED1と共に形成した(図70C〜D、図74B)。これらの変異ERタンパク質の相分離能力の変化は、それらのエストロゲン非依存性のトランス活性化潜在力と相関した(図70E〜G)(29、30)。細胞におけるそれらの凝縮体形成特性を調べるために、細胞におけるLacアレイにそうしたER LBD点変異体を繋留した(図69C)。正常なERは、エストロゲンの存在下でのみゲノム遺伝子座にMED1凝縮体を生成させた一方で、ER変異体は、エストロゲンが存在してもしなくてもMED1凝縮体を形成させた(図74C)。まとめると、こうしたデータは、抗エストロゲン剤抵抗性患者に見られる遺伝子変化が獲得されると、ER及びMED1がエストロゲン非依存的に凝縮することが可能となり、その結果、遺伝子活性化及び腫瘍増殖を招くことを実証するものである。
TF−メディエーター凝縮体の相分離境界にまたがるシフトは、凝縮体コンポーネント(MED1など)の濃度が変化することによっても生じ得る(図71A)(8、28)。タモキシフェンが結合したERは、エストロゲンが結合したERと比較してコアクチベーターに対する親和性が低下した状態となる(31)。しかしながら、MED1が過剰発現すると、この親和性低下が補われると思われ、MED1過剰発現腫瘍を有する患者では、タモキシフェン治療を行っても再発が生じる可能性がある(32)。このことと一致して、タモキシフェン抵抗性として選択したMCF7細胞は、MED1を4倍超過剰発現する(図71B)。このことがきっかけとなり、本発明者らは、MED1が高濃度で存在すると、タモキシフェンが結合したERは、コアクチベーターに対する親和性が低下しているにもかかわらず、ER−MED1凝縮体を形成し、遺伝子を活性化し、がん細胞の生存に影響を及ぼし得るという仮説を立てるに至った。MED1の濃度が上昇すると、タモキシフェンが結合したERとの凝縮体形成が促進され得るという考えを試験するために、本発明者らは、異なるMED1濃度でインビトロの液滴実験を実施した。低MED1濃度では、エストロゲンがERに結合すると、MED1凝縮体の形成が促進されたが、ERにタモキシフェンが結合するとこの促進は生じなかった(図71C、図75A)。一方で、MED1濃度が高まると、ERにエストロゲンが結合してもタモキシフェンが結合してもMED1凝縮が可能であった(図71C、図75A)。このことが細胞においても生じるかどうかを試験するために、本発明者らは、Lacアレイに繋留されたER LBDを含む細胞におけるMED1レベルを変化させた。正常なMED1レベルでは、タモキシフェンが存在するとER LBDはMED1凝縮体を生じさせなかったが(図71D)、対照的に、MED1が過剰発現すると、タモキシフェンがER LBDに結合しても、MED1凝縮体が生じた(図71D)。MED1が過剰に発現することの機能的な結果を調べるために、タモキシフェンが結合したERを用いてGAL4トランス活性化アッセイを行い、タモキシフェンが結合したERは、MED1の存在レベルが上昇していると、活性化を生じさせた(図71E及び図75B)。MED1の過剰発現が乳癌細胞における薬物抵抗性に寄与し得るかを確認するために、本発明者らは、MED1を過剰発現するMCF7細胞を生成させたところ、このMCF7細胞では、タモキシフェンに対する感受性が低下していた(図71F)。こうしたデータは、MED1の過剰発現が、凝縮体形成を増進することによって抗エストロゲン剤抵抗性を媒介し、それによって、がんにおける薬物抵抗性機構としてタンパク質発現及び濃度依存性相分離の調節に関与し得ることを示唆している(図71G)。
本発明者らの結果は、転写凝縮体が転写装置をコンパートメント化し、密集させることで、がんにおけるがん遺伝子発現を誘導し、こうした発がん性凝縮体が、臨床的に有効な薬物によって乱し得るものであり、多様な薬物抵抗性機構の進化が、転写凝縮体挙動の調節に収束し得るものであることを示唆している。こうした考えは、腫瘍細胞がドライバーがん遺伝子においてスーパーエンハンサー(SE)を獲得するという以前の証拠(33)、発がん性SEが、TF−DNA相互作用がわずかに変化しただけでも獲得され得るものであるという以前の証拠(34)、及びいくつかのがん遺伝子SEが、ある特定の薬剤によって異常に破壊されやすいという以前の証拠(11)と一致する。形成と崩壊との移行が急激に生じること、コンポーネント濃度が高いこと、及び特定の化学によって差次的な分配を生じさせる潜在力を有することを含めて、凝縮体に特有の特徴は、こうした知見を説明し得るものである。したがって、凝縮体挙動及び小分子化学によるその調節についての理解を深めることが、がんの状況において有益なこととなる可能性がある。
材料及び方法
細胞培養
MCF7細胞(Weinberg laboratoryからの供与物)、HCT116細胞(ATCC CCL−247)、約50,000個のLac−リプレッサー結合部位が安定的に組み込まれたアレイを含むU2OS−268細胞(これ以後は、「U2OS−Lac細胞」と称される)(Spector laboratoryからの供与物)、及びHEK293T細胞(ATCC CRL−3216)は、完全DMEM培地(DMEM(Life Technologies 11995073)、10%のウシ胎仔血清(FBS)(Sigma Aldrich,F4135)、1%のL−グルタミン(GIBCO,25030−081)、1%のペニシリンストレプトマイシン(Life Technologies,15140163))において増殖させた。エストロゲンの枯渇については、エストロゲン非含有DMEM((フェノールレッド非含有DMEM(Life Technologies、31053028)、活性炭処理済ウシ胎仔血清(FBS)(Sigma−Aldrich F6765)、1%のL−グルタミン(GIBCO、25030−081)、1%のペニシリンストレプトマイシン(Life Technologies、15140163))において記載の時間、細胞を増殖させた。
LN−CAP細胞(ATCC CRL−1740)、MM1S細胞(ATCC CRL−2974)、及びRamos細胞(ATCC CRL−1596)は、完全RPMI培地(RPMI−1640(Life Technologies、61870127)、1%のペニシリンストレプトマイシン(Life Technologies、15140163)、10%のウシ胎仔血清(FBS)(Sigma Aldrich、F4135))において増殖させた。
TamR7細胞(ECACC 16022509)は、TAMR7培地(フェノールレッド非含有DMEM/F12(Life Technologies 21041025)、1%のL−グルタミン(GIBCO、25030−081)、1%のペニシリンストレプトマイシン(Life Technologies、15140163)、1%のウシ胎仔血清(FBS)(Sigma Aldrich、F4135)、6ng/mLのインスリン(Santa Cruz Biotechnology、sc−360248))において増殖させた。
継代培養については、細胞をPBS(Life Technologies、AM9625)で洗浄した。プレートからの細胞の剥離には、TrypLE Express Enzyme(Life Technologies、12604021)を使用した。TrypLEの反応停止は、完全DMEMを用いて行った。
組織試料
エストロゲン受容体陽性、プロゲステロン受容体陽性、HER2/neu陰性の新鮮凍結非処理浸潤性乳管癌の10uM切片は、BioIVTから入手した。H&E染色は、試料の入手元の会社によって実施された。
細胞株の生成
U2OS−Lac細胞において内在性にmEGFPタグが付加されるMED1の生成には、CRISPR/Cas9を使用した。タンパク質のN末端付近のゲノム配列を標的とする2つのガイドRNAをコードするオリゴヌクレオチドを、Cas9及びmCherryを発現するpx330ベクター(R.Jaenischからの供与物)にクローニングした。MED1を標的とするために使用した配列は、5’CCTTCAGGATGAAAGCTCAG3’(配列番号253)及び5’CCCCTGAGCTTTCATCCTGA3’(配列番号254)である。mEGFP、10個のアミノ酸のGSリンカー、及び当該挿入断片に隣接する800bpのホモロジーアームを含むpUC19ベクター(NEB)に修復鋳型をクローニングした。Lipofectamine3000を使用して1.25μgのpx330ベクター及び1.25μgの修復鋳型を500k個の細胞にトランスフェクトした。トランスフェクトから2日後に、mCherryを含む細胞を選別した。最初の選別から1週間後に、96ウェルプレートのウェル当たり単一の細胞を用いてmEGFPを含む細胞を選別した。細胞を増殖させ、PCRによって遺伝子型を同定し、ホモ接合型ノックインタグを含むクローンを実験に使用した。
MCF7 mEGFP−MED1細胞を生成させるために、10個のアミノ酸のGSリンカーによって連結されたN末端mEGFP融合部を有する全長MED1を含むピューロマイシン選択マーカー含有レンチウイルスコンストラクトをクローニングした。レンチウイルス粒子の生成は、HEK293T細胞において行った。6ウェルプレートの1つのウェルに250,000個のMCF7細胞を蒔き、ウイルス上清を添加した。48時間後にピューロマイシンを1ug/mLで添加し、5日間の選択を行った。
タンパク質の産生
目的遺伝子またはそのIDRをコードするcDNAを改変バージョンのT7 pET発現ベクターにクローニングした。ER及びそのバリアントについては、すべての場合において全長タンパク質を使用した。MED1については、ERと相互作用することが知られるLXXLLドメインを含む延長型IDR(アミノ酸600〜1582を含む)を産生させた。上記のベースベクターは、5’に6×HIS、その下流にmEGFPまたはmCherryのいずれか、及び「GAPGSAGSAAGGSG」(配列番号14)という14個のアミノ酸のリンカー配列を含むように操作した。こうした配列(PCRによって生成させた)をリンカーアミノ酸と共にフレーム内に挿入するために、NEBuilder(登録商標)HiFi DNA Assembly Master Mix(NEB E2621S)を使用した。mEGFPまたはmCherryを単独で発現するベクターは、リンカー配列の下流に終始コドンを含む。変異配列は、geneblocks(IDT)として合成し、上記のものと同じベースベクターに挿入した。発現コンストラクトはすべて、シークエンシングして配列が変化していないことを確認した。
タンパク質発現プラスミドを用いた形質転換は、LOBSTR細胞(Chessman laboratoryからの供与物)に対して行った。カナマイシン及びクロラムフェニコールを含むLB培地に新鮮な細菌コロニーを播種し、37℃で一晩増殖させた。MED1−IDRコンストラクトを含む細胞を、カナマイシン及びクロラムフェニコールを新たに添加した500mlの室温のLBで1:30希釈し、16℃で1.5時間増殖させた。IPTGを添加して1mMとし、増殖を20時間継続した。細胞を収集し、−80℃で凍結保管した。いずれの他のコンストラクトを含む細胞もまた、IPTGによる誘導後に37Cで5時間増殖させたことを除いて、同様の様式で処理した。
500mlの細胞のペレットを15mlの緩衝液A(50mMのトリス(pH7.5)、500mMのNaCl、10mMのイミダゾール、cOmpleteプロテアーゼ阻害剤(Roche 11872580001))に再浮遊させ、超音波処理(15秒間オン、60秒間オフのサイクルを10回実施)に供した。12,000g、4℃で30分間遠心分離することによって可溶化液を清澄化し、事前に平衡化した1mlのNi−NTAアガロース(Invitrogen、R901−15)に添加し、4℃で1.5時間旋回振とうした。このスラリーを、Thermo Legend XTRスイングバケットローターにおいて3,000rpmで10分間遠心分離した。5mlの緩衝液Aで樹脂ペレットを2回洗浄した後、上記のように遠心分離した。250mMのイミダゾールを含む2mlの緩衝液Aでタンパク質を3回溶出させた。サイクルごとに溶出緩衝液を添加し、4Cで少なくとも10分間旋回振とうし、上記のように遠心分離した。溶出液を12%のアクリルアミドゲルで分析し、クマシーで染色した。予測サイズのタンパク質を含む画分をプールし、250mMのイミダゾール緩衝液で1:1希釈し、50mMのトリス(7.5)、125mMのNaCl、10%のグリセロール、及び1mMのDTTを含む緩衝液(この緩衝液による外液交換を2回実施)に対して4Cで透析した。タンパク質濃度の測定は、Thermo BCA Protein Assay Kit−Reducing Agent Compatibleによって行った。
免疫蛍光法
ヒト腫瘍組織を10μmの厚さにスライスするか、またはポリ−L−オルニチンでコートされたガラス上で増殖させた細胞をPBSで1回洗浄し、4%のパラホルムアルデヒド(PFA)(VWR、BT140770)において10分間固定化した。5分間のPBSでの洗浄を3回行った後、細胞を4℃で保管するか、または加湿チャンバーに移し、免疫蛍光法のための処理を行った。0.5%のtriton X100(Sigma Aldrich、X100)を含むPBSを使用して細胞の透過処理を10分間行った後、PBSでの洗浄を3回行った。4%のIgG非含有ウシ血清アルブミン(BSA)(VWR、102643−516)を用いて細胞を30分間ブロッキングし、4%のIgG非含有ウシ血清アルブミンで1:500希釈した濃度で記載の一次抗体(ER ab32063、MED1 ab64965)を添加し、4〜16時間インキュベートした。その後にRNA FISHまたはDNA FISHを行う場合は、一次抗体の希釈はPBSで行った。細胞をPBSで3回希釈した後、PBSで1:500希釈した濃度の二次抗体(ヤギ抗ウサギIgG Alexa Fluor 488、Life Technologies A11008)と共に1時間インキュベートした。
PBSでの洗浄を2回行った後、20μm/mLのHoechst 33258(Life Technologies、H3569)において核を5分間洗浄した。次に、細胞を水で1回洗浄した後、Vectashield(VWR、101098−042)を用いてカバースリップをスライドガラス上にマウントし、最終的に、マニキュア液(Electron Microscopy Science 番号72180)を用いてカバースリップをシールした。画像の取得は、MetaMorph取得ソフトウェア及びHammamatsu ORCA−ER CCDカメラ(W.M.Keck Microscopy Facility,MIT)を使用して、100×対物レンズを備えたRPIスピニングディスク型共焦点顕微鏡で行った。画像の後処理は、Fiji Is Just ImageJ(//fiji.sc/のワールドワイドウェブ)を使用して行った。
免疫蛍光法とRNA FISHとの併用
免疫蛍光法は、上記のように実施した。二次抗体と共に細胞をインキュベートした後、PBSでの細胞の洗浄を室温で5分間、3回行い、4%のPFAを含むPBSを用いて細胞を10分間固定化した。PBSでの洗浄を2回行った後、洗浄緩衝液A(20%のStellaris RNA FISH緩衝液A(Biosearch Technologies,Inc.、SMF−WA1−60)、10%の脱イオン化ホルムアミド(EMD Millipore、S4117)を含むRNase非含有水(Life Technologies、AM9932))を細胞に添加し、5分間インキュベートした。12.5μMのRNAプローブ(Custom Stellaris MYCプローブ参照番号SS4687950104)を含むハイブリダイゼーション緩衝液(90%のStellaris RNA FISHハイブリダイゼーション緩衝液(Biosearch Technologies、SMF−HB1−10)及び10%の脱イオン化ホルムアミド)を細胞に添加し、37℃で一晩インキュベートした。洗浄緩衝液Aでの洗浄を37℃で30分間行った後、20μm/mLのHoechst33258(Life Technologies、H3569)を含むPBSにおいて核を5分間染色してから、洗浄緩衝液B(Biosearch Technologies、SMF−WB1−20)での洗浄を5分間行った。次に、細胞を水で1回洗浄した後、スライドガラス上へのカバースリップのマウント、シール、画像化、及び後処理を上記のように行った。
免疫蛍光法とDNA FISHとの併用
24ウェルプレートにおいてポリ−L−オルニチンでコートされたカバースリップ上で、エストロゲン非含有DMEMにおいてMCF7細胞を3日間増殖させ、その際、初期の細胞播種密度をウェル当たり50,000個とした。次に、媒体、10uMのエストラジオール、または10uMのエストラジオール及び5uMの4−ヒドロキシタモキシフェンで細胞を45分間処理した。次に、カバースリップ上の細胞を4%のパラホルムアルデヒドにおいて固定化した。免疫蛍光法は、上記のように実施した。細胞を二次抗体と共にインキュベートした後、PBSで細胞を室温で5分間、3回洗浄し、4%のPFAを含むPBSを用いて10分間固定化し、PBSで3回洗浄した。70%のエタノール、85%のエタノール、次いで100%のエタノールにおいて細胞を室温で1分間インキュベートした。7μLのFISHハイブリダイゼーション緩衝液(Agilent G9400A)、1μlのFISHプローブ(SureFISH 8q24.21 MYC 294kb G101211R−8)、及び2μLの水を混合してプローブハイブリダイゼーション混合物を調製した。5μLの混合物をスライド上に添加し、カバースリップを上に被せた(細胞側の面がハイブリダイゼーション混合物と接するようにした)。ゴムのりを使用してカバースリップをシールした。ゴムのりが固化した時点で、ゲノムDNA及びプローブを78℃で5分間変性させ、スライドを暗所、16℃で一晩インキュベートした。スライドからカバースリップを剥がし、予熱した洗浄緩衝液1(Agilent、G9401A)において73℃で2分間インキュベートし、洗浄緩衝液2(Agilent、G9402A)において室温で1分間インキュベートした。スライドを風乾し、20μm/mLのHoechst 33258(Life Technologies、H3569)を含むPBSにおいて核を室温で5分間染色した。PBSでカバースリップを3回洗浄した後、スライドガラス上へのカバースリップのマウント、シール、画像化、及び後処理を上記のように行った。
RT−qPCR
MCF7細胞のエストロゲンを3日間枯渇させた後、10nMのエストロゲン、または10nMのエストロゲン及び5uMの4−ヒドロキシタモキシフェンのいずれかを用いてMCF7細胞を24時間刺激した。AllPrep Kit(Qiagen 80204)によってRNAを単離した後、High−Capacity cDNA Reverse Transcription Kit(Applies Biosystems 4368814)を使用してcDNAを合成した。QuantStudio 6 System(Life Technologies)でPower SYBR Green mix(Life Technologies 番号4367659)を使用して生物学的かつ技術的に3回反復測定してqPCRを実施した。qPCRでは、下記のオリゴを使用した;Myc fwd AACCTCACAACCTTGGCTGA(配列番号255)、MYC rev TTCTTTTATGCCCAAAGTCCAA(配列番号256)、GAPDH fwd TGCACCACCAACTGCTTAGC(配列番号257)、GAPDH rev GGCATGGACTGTGGTCATGAG(配列番号258)。倍率変化を計算し、MYCの発現値は、GAPDHの発現量に正規化した。
Lac結合アッセイ
CFP−LacI融合タンパク質の発現を誘導するSV40プロモーターを含むpSV2哺乳類発現ベクターにおいて、NEB HIFIクローニングによってコンストラクトを構築した。この組換えタンパク質のC末端に対してESR1の活性化ドメイン及び変異活性化ドメインを融合し、この融合では、GAPGSAGSAAGGSG(配列番号14)という配列のリンカーを連結に使用した。いくつかの実験については、CFPの代わりにmCherryを含むバリアントプラスミドを使用した。U2OS−Lac細胞のエストロゲンを24時間枯渇させた。次に、フィブロネクチンでコートされたガラスのカバースリップ上に細胞を蒔き、lipofectamine 3000(Thermofisher L3000015)を使用して細胞へのトランスフェクトを行った。MED1高濃度条件については、GFPと融合したMED1の発現を誘導するPGKプロモーターを含む哺乳類発現ベクターを用いたコンストラクトをコトランスフェクトした。トランスフェクトから24時間後、DMSO、DMSOにおいて再構成した10nMのB−エストラジオール(Sigma−Aldrich E8875)、またはDMSOにおいて再構成した1uMの4−ヒドロキシタモキシフェン(Sigma−Aldrich H7904)のいずれかを用いて細胞を45分間処理した。処理後、細胞を固定化し、上記のようにMED1抗体を用いて免疫蛍光法を実施した。
Lacアレイ画像解析
Lacアレイデータの解析については、カスタムPythonスクリプトを記述することで、Lacチャネル及びタグ付きタンパク質チャネルに集積した画像データを処理及び解析した。ガウシアンフィルター(シグマ=2.0)を用いて核染色をぼかし、K平均法によって2つのクラスター(核及びバックグラウンド)にクラスター化した。次に、measure.label関数を使用してpython scikit−imageパッケージで核を標識した。Lacスポットをセグメント化するために、Lac画像チャネルを、ガウシアンフィルター(シグマ=2.0)を用いてぼかし、画像に強度閾値(平均値+1.5*標準偏差)を適用した。次に、セグメント化した領域(measure.labelによっても決定される)を、最小面積(150ピクセル)、最大面積(2000ピクセル)、円形度(c=4π*面積/周囲長^2;0.8)、及び核内存在判定(上記のマスクによって定義される)に基づいてフィルタリングした。正規化濃縮比は、セグメント化Lacスポットにおけるタグ付きタンパク質の平均強度を決定し、この平均強度を、同じ全体核に存在するタグ付きタンパク質の平均強度で割ることによって計算した。
生細胞画像化
U2OS−Lac細胞の生細胞での処理については、内在性にタグ付けされたGFP−MED1を含むU2OS−Lac細胞のエストロゲンを24時間欠乏させた後、このU2OS−Lac細胞をポリ−L−オルニチンでコートされた(Sigma−AldrichA−004)ディッシュ上に蒔き、mCherry−LacI−ESR1融合体を含むプラスミドを当該U2OS−Lac細胞にトランスフェクトした。24時間後、10nMのB−エストラジオールを用いて細胞を45分間処理した。DMSOまたは10uMの4−ヒドロキシタモキシフェンをエストロゲン非含有DMEMで1:1000希釈した溶液を用いる処理の前及び30分後に細胞を画像化した。定量化は、FIJIにおいて実施した。アレイにおける平均シグナル強度から機器バックグラウンドを差し引いた後、このシグナル強度差を、平均核シグナルから機器バックグラウンドを差し引いたもので割ることで、正規化シグナル強度を得た。30分時点の正規化シグナル強度を、0分時点のものによって割ることで、タモキシフェン処理検体または媒体処理検体の相対強度を得た。
生細胞でのFRAP実験については、内在性にタグ付けされたU2OS−Lac細胞またはMED1−mEGFP MCF7細胞を、ポリ−L−オルニチンでコートされたガラス底の組織培養プレートに蒔いた。上記のようにB−エストラジオールでU2OS−Lac細胞を処理した。50u秒の画素滞在時間でレーザーのパルスをアレイに20回適用し、回復の画像化をAndor顕微鏡で1秒ごとに記載の時間実施した。定量化は、FIJIにおいて実施した。
MCF7 MED1−mEGFPのFRAPについては、退色を行った小斑点における平均シグナル強度から機器バックグラウンドを差し引いた後、このシグナル強度差を、対照小斑点から機器バックグラウンドを差し引いたもので割った。U2OS−Lac MED1−mEGFPのFRAPについては、lacアレイにおけるMED1シグナルの退色実施部分における平均シグナル強度から機器バックグラウンドを差し引いた後、このシグナル強度差を、核内の対照領域から機器バックグラウンドを差し引いたもので割った。こうした値を秒ごとにプロットし、95%信頼区間を有する最良適合線を計算した。
インビトロの液滴アッセイ及び定量化
Amicon Ultra遠心分離フィルター(30K MWCO、Millipore)を使用して組換えGFP融合タンパク質または組換えmCherry融合タンパク質を濃縮及び脱塩することで、タンパク質を適切な濃度とし、NaCl濃度を125mMとした。液滴形成緩衝液(50mMのトリス−HCl(pH7.5)、10%のグリセロール、1mMのDTT)中に異なる濃度(記載の最終塩濃度)の塩及び10%のPEG−8000(クラウディング剤)を含む溶液に組換えタンパク質を添加した。このタンパク質溶液を、並行に配置された2つの両面テープ片によってカバースリップが取り付けられたスライドガラスから構成される自作チャンバーに直ちにロードした。次に、150×対物レンズを備えたAndor共焦点顕微鏡を用いてスライドを画像化した。指定がない限り、示される画像は、ガラスのカバースリップ上で安定した状態の液滴のものである。B−エストラジオール(E8875 Sigma)または4−ヒドロキシタモキシフェン(Sigma−Aldrich H7904)を100%のEtOHで再構成して10mMとした後、125mMのNaClを含む液滴形成緩衝液で希釈して1mMとした。10uLの液滴形成反応液においてこの高濃度貯蔵液を1マイクロリットル使用して最終濃度を100uMとした。インビトロの液滴アッセイのための濃縮を計算するために、MED1骨格チャネルによって液滴をFIJIの目的領域として定義し、その液滴内のERクライアントの最大シグナルを決定した。あるいは、MED1の最大シグナルを測定した。すべての場合において、画像における最大シグナルをバックグラウンドクライアントシグナルで割ることでCイン/アウトを得た。
Gal4転写アッセイ
GAL4 DNA結合ドメインの発現を誘導するSV40プロモーターを含む哺乳類発現ベクターにおいて転写因子コンストラクトを構築した。このDNA結合ドメインのC末端に対してESR1の野生型活性化ドメイン及び変異活性化ドメインを、Gibsonクローニング(NEB 2621S)によって融合し、この融合では、GAPGSAGSAAGGSG(配列番号14)という配列のリンカーを連結に使用した。HEK293T細胞(ATCC CRL−3216)のエストロゲンを24時間枯渇させた後、このHEK293T細胞を白色の平底96ウェルアッセイプレート(Costar 3917)に蒔いた。24時間後に、Lipofectamine 3000(Thermofisher L3000015)を使用して転写因子コンストラクトのトランスフェクトを行った。こうしたコンストラクトを、ホタルルシフェラーゼ遺伝子の上流に5つのGAL4上流活性化部位を含む改変バージョンのPGL3−Basic(Promega)ベクターと共にコトランスフェクトした。pRL−SV40(Promega)もまた、コトランスフェクトした。pRL−SV40は、SV40プロモーターによって誘導されるウミシイタケルシフェラーゼ遺伝子を含むプラスミドである。MED1の高濃度条件については、GFPと融合したMED1の発現を誘導するPGKプロモーターを含む哺乳類発現ベクターを用いたコンストラクトをコトランスフェクトした。トランスフェクトした時点で、記載のようにDMSO、10nMのB−エストラジオール、または1uMのタモキシフェンの1:1000希釈液で細胞を処理した。MED1の過剰発現実験については、10nMのタモキシフェンを用いて細胞を処理した。トランスフェクトから24時間後、各ルシフェラーゼタンパク質によって生じる発光を、Dual−glo Luciferase Assay System(Promega E2920)を使用して測定した。示されるデータは、ウミシイタケルシフェラーゼの発現量として示されており、ER−LBDエストロゲン枯渇条件のものに正規化されている。
ハイスループットシークエンシングデータセット及び視覚化
エストロゲンで刺激したMCF細胞から得られたMED1及びESR1のChIP−Seq(GEO受入番号GSE60270)ならびにMCF7 CTCF ChIA−PET(GEO受入番号GSE92881)は、公的な入手元から入手し、UCSC ブラウザーで視覚化した(https://genome.ucsc.edu/cgi−bin/hgGateway)。
Cbioportalデータの取得
患者変異の頻度については、任意の乳癌シークエンシングデータセットに存在するESR1変異についてcbioportal(http://www.cbioportal.org/)を検索した。
ウエスタンブロット
プロテアーゼ阻害剤(Roche、11697498001)を含むCell Lytic M(Sigma−Aldrich C2978)において細胞を溶解させた。3%〜8%のトリス酢酸ゲルまたは10%のビス−トリスゲルまたは3〜8%のビス−トリスゲルにおいて80Vで可溶化液を約2時間泳動させた後、色素の最前部がゲルの末端に達するまで120Vで泳動を行った。次に、氷冷転写緩衝液(25mMのトリス、192mMのグリシン、10%のメタノール)において、孔径0.45μmのPVDF膜(Millipore、IPVH00010)へと300mA、4℃でタンパク質を湿潤状態で2時間転写した。転写後、5%の無脂肪乳を含むTBSにおいて膜を振とうしながら室温で1時間ブロッキングした。次に、5%の無脂肪乳を含むTBSTで1:1,000希釈した記載の抗体(ER ab32063、MED1 ab64965)と共に膜をインキュベートし、振とうしながらインキュベートを4℃で一晩継続した。朝に、TBSTを用いて膜の洗浄を3回行い、その際、洗浄ごとに、室温で振とうしながら膜の洗浄を5分間行った。1:5,000希釈した二次抗体と共に膜を室温で1時間インキュベートし、TBSTを用いる5分間の膜の洗浄を3回行った。ECL基質(Thermo Scientific、34080)を用いて膜を発色させ、CCDカメラを使用して画像化するか、もしくはフィルムを使用して感光させるか、または高感度ECLを用いて膜を発色させた。ウエスタンブロットの定量化は、BioRad image labを使用して実施した。
MCF7生存アッセイ
PiggyBacトランスポゼース、及びMED1−mAppleを含むPiggyBac組み込みベクターをMCF7細胞にトランスフェクトし、2ug/mlのドキシサイクリンの存在下で増殖させた。5日後、mAppleを高レベルで発現する細胞を選別した。次に、親MCF7細胞、またはMED1−mAppleを発現するMCF7細胞を、ウェル当たり50,000個として、完全DMEMを含む24ウェルプレートに播種した。1日後、媒体(DMSO)または25uMの4−ヒドロキシタモキシフェンのいずれかを含む培地への培地交換を行った。48時間後、Cell Titer−Gloによってウェルをアッセイすることで、白色底の96ウェルプレートにおけるATPの量をTecanプレートリーダーで定量化した。処理ウェルにおけるルシフェラーゼシグナルを、媒体処理ウェルにおけるシグナルで割ったものとしてとして、生存パーセントを計算し、データは、相対生存率を得るために、処理行った場合の生存パーセントを、媒体で処理した場合の生存パーセントで割ったものとして示される。
FISH−IF平均画像解析
免疫蛍光法を併用するRNA/DNA FISHの解析については、カスタムPythonスクリプトを記述することで、FISHチャネル及びIFチャネルに集積した三次元画像データを処理及び解析した。ガウシアンフィルター(シグマ=2.0)を用いて核染色をぼかし、z軸平面に最大限プロジェクションし、K平均法によって2つのクラスター(核及びバックグラウンド)にクラスター化した。FISHフォーカスを、ImageJを用いて手動で特定するか、またはscipy ndimageパッケージを使用して自動で特定した。自動検出については、FISHチャネルに強度閾値(平均値+3*標準偏差)を適用した。次に、ndimage find_objects関数を使用して近接FISHフォーカスを三次元で特定した。こうしたFISHフォーカスをさまざまな判定基準(サイズ(最小ボクセル100)、最大z軸プロジェクションの円形度(円形度=4π*面積/周囲長^2;0.7)、及び核内存在判定(上記の核マスクによって決定される)を含む)によってフィルタリングした。手動特定については、FISHチャネルの最大z軸プロジェクションにおいてFISHフォーカスを同定し、そのx座標及びy座標を参照点として使用することで、上記の自動検出をガイドした。次に、当該FISHフォーカスを三次元ボックス(サイズ長l=3.0μm)の中心に置いた。次に、FISHとIFとのペアごとに、FISHフォーカスを中心とするIFシグナルが統合され、平均強度プロジェクションが計算されることで、FISHフォーカスを中心とするl×l四方内のIFシグナル強度の平均データが得られる。対照として、これと同じ処理を、同数の無作為に選択された核内位置に中心を置いたIFシグナルにも実行した。次に、こうした平均強度プロジェクションを使用してシグナル強度の2次元等高線図を作成した。等高線図の作成は、matplotlib pythonパッケージを使用して行った。等高線図については、示される強度−色範囲は、直線色範囲(n!=15)にわたってカスタマイズしたものである。FISHチャネルについては、黒色〜マゼンタ色を使用した。IFチャネルについては、本発明者らは、chroma.js(オンラインカラージェネレーター)を使用して15のビンわたって色を生成させ、主要な変遷色として、黒色、青紫色、ミディアムブルー色、ライム色を選択した。これを行った目的は、読み手が一目でシグナル強度差をより容易に判別し得るようにすることにある。作成したカラーマップを、すべてのIFプロットについて、等間隔の15の強度ビンに用いた。FISH位置または無作為に選択された核内位置を中心とする平均IFは、同じ色尺度を使用してプロットされ、この色尺度は、各プロットに由来する最小シグナル及び最大シグナルを含むように設定されている。
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