JP2021190427A - 固体電解質の製造方法 - Google Patents

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亮 田邊
Akira Tanabe
和明 柳
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Abstract

【課題】液相法を用いて高いイオン伝導度を有する固体電解質を得る新規なガラスセラミックス固体電解質製造方法を提供することを目的とする。【解決手段】ガラスセラミックス固体電解質の製造方法であって、リチウム原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子を含む原料含有物と、錯化剤とを混合し、前記錯化剤、リチウム原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子を構成成分として含む錯体結晶を含む電解質前駆体のスラリーを得ること、前記電解質前駆体のスラリーを乾燥すること、前記乾燥により得られた前記電解質前駆体を錯分解することにより、LiX錯体(式中、Xは、ハロゲンを表す)の回折ピーク強度Icと標準試料の強度Isとの強度比Ic/Isが0.02以下である非晶性固体電解質、又は、LiXの回折ピーク強度Ixとガラスセラミックスの回折ピーク強度Igcとの強度比Ix/Igcが0.5以下であるGC化固体電解質を得ること、を含むガラスセラミックス固体電解質の製造方法。【選択図】なし

Description

本発明は、固体電解質の製造方法に関する。
近年におけるパソコン、ビデオカメラ、及び携帯電話等の情報関連機器や通信機器等の急速な普及に伴い、その電源として利用される電池の開発が重要視されている。従来、このような用途に用いられる電池において可燃性の有機溶媒を含む電解液が用いられていたが、電池を全固体化することで、電池内に可燃性の有機溶媒を用いず、安全装置の簡素化が図れ、製造コスト、生産性に優れることから、電解液を固体電解質層に換えた電池の開発が行われている。
固体電解質層に用いられる固体電解質の製造方法としては、固相法と液相法に大別され、さらに液相法には、固体電解質材料を溶媒に完全に溶解させる均一法と、固体電解質材料を完全に溶解させず固液共存の懸濁液を経る不均一法とがある。例えば、固相法としては、硫化リチウム、五硫化二リン等の原料をボールミル、ビーズミル等の装置を用いてメカニカルミリング処理を行い、必要に応じて加熱処理をすることにより、非晶性又は結晶性の固体電解質を製造する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。この方法によれば、硫化リチウム等の原料に機械的応力を加えて固体同士の反応を促進させることにより固体電解質が得られる。
一方、液相法のうち均一法としては、固体電解質を溶媒に溶解して再析出させる方法が知られ(例えば、特許文献2参照)、また不均一法としては、極性非プロトン性溶媒を含む溶媒中で硫化リチウム等の固体電解質原料を反応させる方法が知られている(特許文献3、4、及び非特許文献1参照)。例えば、特許文献4には、LiPSI構造の固体電解質の製造方法として、ジメトキシエタン(DME)を使用し、LiPS構造と結合させてLiPS・DMEを得る工程を含むことが開示されている。得られた固体電解質のイオン伝導度は5.5×10−5S/cm(カルシウムをドープしたもので3.9×10−4S/cm)である。近年、全固体電池の実用化に向け、汎用性や応用性に加えて簡便かつ大量に合成できる方法として液相法が注目されている。
国際公開第2017/159667号パンフレット 特開2014−191899号公報 国際公開第2014/192309号パンフレット 国際公開第2018/054709号パンフレット
"CHEMISTRY OF MATERIALS"、2017年、第29号、1830−1835頁
ところが、従来のメカニカルミリング処理等を伴う固相法は、固相反応が中心であり、固体電解質を純度よく得られやすいため高いイオン伝導度を実現できたのに対し、液相法では、固相合成法と比較して高いイオン伝導度を実現することが難しいという問題があった。また、前記の錯化工程を行っても、特許文献4のように固体電解質が正方晶(tetraganal)に分類される結晶として得られるため、イオン伝導度が要求特性に対し十分高いものではなく、更なる向上が求められ、製造方法の最適化が求められていた。
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、液相法を用いて高いイオン伝導度を有するガラスセラミックス固体電解質を得る新規な製造方法を提供することを目的とする。
本発明者は、上記の課題を解決するべく鋭意検討した結果、下記の発明により当該課題を解決できることを見出した。
1.リチウム原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子を含む原料含有物と、錯化剤とを混合し、錯化剤、リチウム原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子を構成成分として含む錯体結晶を含む電解質前駆体のスラリーを得ることにより、均質な電解質前駆体を得ることができ、高いイオン伝導度を有するガラスセラミックス固体電解質を得ることができる。
2.電解質前駆体のスラリーを乾燥することにより、電解質前駆体の粉体が得られ、高いイオン伝導度を有するガラスセラミックス固体電解質が得ることができる。
3.乾燥により得られた電解質前駆体を、錯分解することによりLiX錯体(式中、Xは、ハロゲンを表す)の回折ピーク強度Icと標準試料の強度Isとの強度比Ic/Isが0.02以下である非晶性固体電解質、又はLiXの回折ピーク強度Ixとガラスセラミックスの回折ピーク強度Igcとの強度比Ix/Igcが0.5以下であるGC化固体電解質を得ることで、高いイオン伝導度を有するガラスセラミックス固体電解質が得ることができる。
すなわち本発明は、[1]〜[16]を提供するものである。
[1] ガラスセラミックス固体電解質の製造方法であって、
リチウム原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子を含む原料含有物と、錯化剤とを混合し、前記錯化剤、リチウム原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子を構成成分として含む錯体結晶を含む電解質前駆体のスラリーを得ること、
前記電解質前駆体のスラリーを乾燥すること、
前記乾燥により得られた前記電解質前駆体を錯分解することにより、LiX錯体(式中、Xは、ハロゲンを表す)の回折ピーク強度Icと標準試料の強度Isとの強度比Ic/Isが0.02以下である非晶性固体電解質、又は、LiXの回折ピーク強度Ixとガラスセラミックスの回折ピーク強度Igcとの強度比Ix/Igcが0.5以下である固体電解質(以下GC化固体電解質)、を得ること、を含むガラスセラミックス固体電解質の製造方法。
[2] 前記乾燥が、液体である前記錯化剤を除去することを含む[1]に記載のガラスセラミックス固体電解質の製造方法。
[3] 前記錯分解が、前記錯体結晶の構成成分である前記錯化剤を除去することを含む[1]又は[2]に記載のガラスセラミックス固体電解質の製造方法。
[4] 更に、加熱することを含む[1]〜[3]のいずれか1に記載のガラスセラミックス固体電解質の製造方法。
[5] 前記錯分解後、前記非晶性固体電解質、又は前記GC化固体電解質に、解砕及び造粒から選ばれる少なくとも一の機械的処理をする[1]〜[4]のいずれか1に記載のガラスセラミックス固体電解質の製造方法。
[6] 前記錯分解により、前記非晶性固体電解質、又は前記GC化固体電解質に含まれる前記錯化剤量を15質量%以下にする[1]〜[5]のいずれか1に記載のガラスセラミックス固体電解質の製造方法。
[7] 前記錯分解において、振動乾燥機を用いる[1]〜[6]のいずれか1に記載のガラスセラミックス固体電解質の製造方法。
[8] 前記乾燥が、媒体を用いた流動乾燥である[1]〜[7]のいずれか1に記載のガラスセラミックス固体電解質の製造方法。
[9] 原料含有物として、硫化リチウム、ハロゲン化リチウム、硫化リン、ハロゲン化リン、ハロゲン化チオホスホリル及びハロゲン分子から選ばれる少なくとも1種を含有する[1]〜[8]のいずれか1に記載のガラスセラミックス固体電解質の製造方法。
[10] 前記電解質前駆体のスラリーが更に溶媒を含有し、前記溶媒として、前記原料含有物、前記錯化剤及び前記電解質前駆体を溶解しない溶媒を含む[1]〜[9]のいずれか1に記載のガラスセラミックス固体電解質の製造方法。
[11] 前記原料含有物の合計の質量1gに対し前記溶媒を5〜50mL用いる[10]に記載のガラスセラミックス固体電解質の製造方法。
[12] 前記錯化剤が、ヘテロ原子を有する化合物を含む[1]〜[11]のいずれか1に記載のガラスセラミックス固体電解質の製造方法。
[13] 前記錯化剤が、アミノ基を有する化合物を含む[1]〜[12]のいずれか1に記載のガラスセラミックス固体電解質の製造方法。
[14] 前記錯化剤が、分子中に少なくとも二つの第三級アミノ基を有する化合物を含む[1]〜[13]のいずれか1に記載のガラスセラミックス固体電解質の製造方法。
[15] 前記固体電解質が、チオリシコンリージョンII型結晶構造を含む[1]〜[14]のいずれか1に記載のガラスセラミックス固体電解質の製造方法。
[16] 前記固体電解質が、CuKα線を用いたX線回折測定において、結晶性LiPSに該当する2θ=17.5°、26.1°の回折ピークを有しない[1]〜[15]のいずれか1に記載のガラスセラミックス固体電解質の製造方法。
本発明によれば、液相法を用いて、高いイオン伝導度を有するガラスセラミックス固体電解質を提供することができる。
本実施形態の製造方法の好ましい形態の一例を説明するフロー図である。 乾燥装置の概念図である。 実施例1で得られた電解質前駆体、非晶性固体電解質及びガラスセラミックス固体電解質のX線回折スペクトルである。 実施例1、2及び比較例1〜3で得られた非晶性固体電解質のX線回折スペクトルである。 実施例1、2及び比較例1、2で得られたガラスセラミクス固体電解質のX線回折スペクトルである。 実施例で用いた原料のX線回折スペクトルである。 比較例4で得られた固体電解質のX線回折スペクトルである。
以下、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」と称することがある。)について説明する。なお、本明細書において、「以上」、「以下」、「〜」の数値範囲に係る上限及び下限の数値は任意に組み合わせできる数値であり、また実施例の数値を上限及び下限の数値として用いることもできる。
〔ガラスセラミックス固体電解質の製造方法〕
本実施形態は、ガラスセラミックス固体電解質の製造方法であって、
リチウム原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子を含む原料含有物と、錯化剤とを混合し、前記錯化剤、リチウム原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子を構成成分として含む錯体結晶を含む電解質前駆体のスラリーを得ること、
前記電解質前駆体のスラリーを乾燥すること、
前記乾燥により得られた電解質前駆体を錯分解することによりリチウム原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子を構成成分として含み、LiX錯体(式中、Xは、ハロゲンを表す)の回折ピーク強度Icと標準試料の強度Isとの強度比Ic/Isが0.02以下である非晶性固体電解質、又はLiXの回折ピーク強度Ixとガラスセラミックスの回折ピーク強度Igcとの強度比Ix/Igcが0.5以下である固体電解質(以下GC化固体電解質)を得ること、を含むガラスセラミックス固体電解質の製造方法である。
本発明者らは、液相法におけるイオン伝導度に関する問題は、固体電解質成分の溶出や凝集に伴う当該成分の分散性や均一性に起因することを見出し発明に至った。例えば、均一法では、原料や固体電解質を一旦完全溶解させるため液中に成分を均一に分散させることができる。しかし、その後の析出工程では、各成分に固有の溶解度に従って析出が進行するため、成分の分散状態を保持したまま析出させることが極めて困難である。その結果、各成分が分離して析出してしまう。また、均一法では溶媒とリチウムとの親和性が強くなりすぎてしまうため、析出後に乾燥しても溶媒が抜けにくくなってしまう。これらのことから、均一法では、固体電解質のイオン伝導度が大幅に低下してしまう問題がある。
また、固液共存の不均一法においても、固体電解質の一部が溶解するため、例えばハロゲン原子等の特定成分の溶出により分離が起こり、また均一法と同様に溶媒が抜けにくくなると、所望の固体電解質を得ることが難しいことがわかった。さらに不均一法では、電解質前駆体に含まれる錯化剤を除去する、いわゆる錯分解の際に、当該電解質前駆体中の特定成分の溶出や凝集が起きやすいことがわかった。
また、特許文献4のように、錯分解により直接結晶構造を有する固体電解質を生成する製造方法もあるが、固体電解質のイオン伝導度は十分高くない。
そこで、本実施形態では、原料含有物を錯体を混合することにより電解質前駆体のスラリーを得た後、前記電解質前駆体のスラリーを乾燥し、更に乾燥した前記電解質前駆体のスラリーを錯分解し、錯分解後にXRDにより、LiX錯体(式中、Xは、ハロゲンを表す)の回折ピーク強度Icと標準試料の強度Isとの強度比Ic/Isが0.02以下である非晶性固体電解質を得ることで、LiXの回折ピーク強度Ixとガラスセラミックスの回折ピーク強度Igcとの強度比Ix/Igcが0.5以下であるGC化固体電解質を得ることができ、高いイオン伝導度を示す固体電解質を製造することができた。
図1に、本実施形態の製造方法の概要を示すフロー図を示す。原料含有物及び錯化剤を混合することにより電解質前駆体を含むスラリーを得て、これを更に乾燥し粉体の電解質前駆体とし、これを加熱(錯分解)することにより錯分解物(非晶性固体電解質)又は、加熱条件によっては非晶性固体電解質の一部、または全部がガラスセラミックス化したGC化固体電解質が得られる。
原料含有物を錯化剤とともに混合して錯体結晶を含む電解質前駆体を形成することで、ハロゲン原子等の特定成分を取り込み、その後錯分解することにより、当該特定成分の溶出や凝集を抑制し、非晶性固体電解質のLiX錯体の回折ピーク強度Icと標準試料の強度Isとの強度比Ic/Isが0.02以下、又はGC化固体電解質のLiXの回折ピーク強度Ixとガラスセラミックスの回折ピーク強度Igcとの強度比Ix/Igcが0.5以下とすることができるため、均質な錯分解物を得ることができ、高いイオン伝導度を有する固体電解質を得ることができる。
また、このような非晶性固体電解質を得ることにより、残留するハロゲン原子や硫黄原子等の含有量を減少させることができ、高いイオン伝導度を有する固体電解質を得ることができる。
本明細書において、「固体電解質」とは、窒素雰囲気下25℃で固体を維持する電解質を意味する。本実施形態における固体電解質は、リチウム原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子を含み、リチウム原子に起因するイオン伝導度を有する固体電解質である。
更に詳細は後記するが、本願におけるガラスセラミックス固体電解質は、そのすべてが結晶性であっても、一部が結晶性で、その他の部分が非晶性であってもよい。
本明細書において、結晶性固体電解質とは、X線回折測定においてX線回折パターンに、固体電解質由来のピークが観測される固体電解質であって、これらにおいての固体電解質の原料由来のピークの有無は問わない材料である。すなわち、結晶性固体電解質は、固体電解質に由来する結晶構造を含み、その一部が該固体電解質に由来する結晶構造であっても、その全部が該固体電解質に由来する結晶構造であってもよい、ものである。そして、結晶性固体電解質は、上記のようなX線回折パターンを有していれば、その一部に非晶性固体電解質が含まれていてもよいものである。したがって、結晶性固体電解質には、非晶性固体電解質を結晶化温度以上に加熱して得られる、いわゆるガラスセラミックスが含まれる。ただし、ガラスセラミックス固体電解質は、非晶性固体電解質を経由して得られるものである。例えば、後述する電解質前駆体を加熱したときに、非晶性固体電解質を経由して結晶化すること、すなわちガラスセラミックス化するものは、ガラスセラミックス固体電解質となり得るが、電解質前駆体を加熱したときに、非晶性固体電解質を経ることなく結晶化するものは、結晶性固体電解質ではあるが、ガラスセラミックス固体電解質ではない。
また、本明細書において、非晶性固体電解質とは、X線回折測定においてX線回折パターンが実質的に材料由来(錯化剤に起因する錯体を含む)のピーク以外のピークが観測されないハローパターンであるもののことであり、固体電解質の原料由来のピークの有無は問わないものであることを意味する。
(原料含有物)
本実施形態では原料含有物を要する。本実施形態で用いられる原料含有物は、リチウム原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子を含むものである。
原料含有物に含まれる原料として、例えばリチウム原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子の少なくとも一種を含む化合物を用いることができ、より具体的には、硫化リチウム;フッ化リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム等のハロゲン化リチウム(LiX、Xはハロゲンを表す。);三硫化二リン(P)、五硫化二リン(P)等の硫化リン;各種フッ化リン(PF、PF)、各種塩化リン(PCl、PCl、PCl)、各種臭化リン(PBr、PBr)、各種ヨウ化リン(PI、P)等のハロゲン化リン;硫化リチウム及び硫化リンから得られ、分子構造としてPS構造を有する非晶性非晶性LiPS又は結晶性LiPS等の固体電解質;フッ化チオホスホリル(PSF)、塩化チオホスホリル(PSCl)、臭化チオホスホリル(PSBr)、ヨウ化チオホスホリル(PSI)、二塩化フッ化チオホスホリル(PSClF)、二臭化フッ化チオホスホリル(PSBrF)等のハロゲン化チオホスホリル;などの上記四種の原子から選ばれる少なくとも二種の原子からなる原料、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)等のハロゲン単体、好ましくは塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)が挙げられ、更に好ましくは臭素(Br)、ヨウ素(I)が挙げられる。
前記の原料含有物として、硫化リチウム、ハロゲン化リチウム、硫化リン、ハロゲン化リン及びハロゲン分子から選ばれる少なくとも1種を含有することが更に好ましく、ハロゲン原子を含む化合物としては、ハロゲン化リチウム(LiX(式中、Xは、ハロゲンを表す。))を含むことがより好ましく、硫化リチウム、ハロゲン化リチウム及び硫化リンであることが更に好ましい。
また、原料含有物は、硫化リチウム及び硫化リンを反応させて生じるLiPS等の固体電解質ではなく、硫化リチウム、ハロゲン化リチウム及び硫化リンのように2種の原子からなる化合物であることが好ましい。例えばLiPS等の固体電解質とハロゲン化リチウムを、錯化剤とともに混合して得られる電解質前駆体は、後記する錯分解後に、LiX及びLiX錯体(式中、Xは、ハロゲンを表す。)を含み、固体電解質に取り込まれていないハロゲン原子等が含まれ、得られる結晶性固体電解質のイオン伝導度を向上させる観点から、硫化リチウム、ハロゲン化リチウム及び硫化リンであることが好ましい。
上記以外の原料含有物として用い得るものとしては、例えば、上記四種の原子から選ばれる少なくとも一種の原子を含み、かつ該四種の原子以外の原子を含む原料、より具体的には、酸化リチウム、水酸化リチウム、炭酸リチウム等のリチウム化合物;硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム等の硫化アルカリ金属;硫化ケイ素、硫化ゲルマニウム、硫化ホウ素、硫化ガリウム、硫化スズ(SnS、SnS)、硫化アルミニウム、硫化亜鉛等の硫化金属;リン酸ナトリウム、リン酸リチウム等のリン酸化合物;ヨウ化ナトリウム、フッ化ナトリウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム等のハロゲン化ナトリウム等のリチウム以外のアルカリ金属のハロゲン化物;ハロゲン化アルミニウム、ハロゲン化ケイ素、ハロゲン化ゲルマニウム、ハロゲン化ヒ素、ハロゲン化セレン、ハロゲン化スズ、ハロゲン化アンチモン、ハロゲン化テルル、ハロゲン化ビスマス等のハロゲン化金属;オキシ塩化リン(POCl)、オキシ臭化リン(POBr)等のオキシハロゲン化リン;などが挙げられる。
本実施形態で用いられる硫化リチウムは、粒子であることが好ましい。
硫化リチウム粒子の平均粒径(D50)は、10μm以上2000μm以下であることが好ましく、30μm以上1500μm以下であることがより好ましく、50μm以上1000μm以下であることがさらに好ましい。本明細書において、平均粒径(D50)は、粒子径分布積算曲線を描いた時に粒子径の最も小さい粒子から順次積算して全体の50%に達するところの粒子径であり、体積分布は、例えば、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置を用いて測定することができる平均粒径のことである。また、上記の原料として例示したもののうち固体の原料については、上記硫化リチウム粒子と同じ程度の平均粒径を有するものが好ましい、すなわち上記硫化リチウム粒子の平均粒径と同じ範囲内にあるものが好ましい。
原料含有物として、硫化リチウムと、五硫化二リン及びハロゲン化リチウムと、を用いる場合、硫化リチウム及び五硫化二リンの合計に対する硫化リチウムの割合は、より高い化学的安定性、及びより高いイオン伝導度を得る観点から、70〜80mol%が好ましく、72〜78mol%がより好ましく、74〜76mol%が更に好ましい。
硫化リチウム、五硫化二リン、ハロゲン化リチウム、必要に応じて用いられる他の原料を用いる場合の、これらの合計に対する硫化リチウム及び五硫化二リンの含有量は、60〜100mol%が好ましく、65〜90mol%がより好ましく、70〜80mol%が更に好ましい。
また、ハロゲン化リチウムとして、臭化リチウムとヨウ化リチウムとを組み合わせて用いる場合、イオン伝導度を向上させる観点から、臭化リチウム及びヨウ化リチウムの合計に対する臭化リチウムの割合は、1〜99mol%が好ましく、20〜90mol%がより好ましく、40〜80mol%が更に好ましく、50〜70mol%が特に好ましい。
原料含有物としてハロゲン単体を用いる場合であって、硫化リチウム、五硫化二リンを用いる場合、ハロゲン単体のモル数と同モル数の硫化リチウムを除いた硫化リチウム及び五硫化二リンの合計モル数に対する、ハロゲン単体のモル数と同モル数の硫化リチウムとを除いた硫化リチウムのモル数の割合は、60〜90%の範囲内であることが好ましく、65〜85%の範囲内であることがより好ましく、68〜82%の範囲内であることが更に好ましく、72〜78%の範囲内であることが更により好ましく、73〜77%の範囲内であることが特に好ましい。これらの割合であれば、より高いイオン伝導度が得られるからである。また、これと同様の観点から、硫化リチウムと五硫化二リンとハロゲン単体とを用いる場合、硫化リチウムと五硫化二リンとハロゲン単体との合計量に対するハロゲン単体の含有量は、1〜50mol%が好ましく、2〜40mol%がより好ましく、3〜25mol%が更に好ましく、3〜15mol%が更により好ましい。
硫化リチウムと五硫化二リンとハロゲン単体とハロゲン化リチウムとを用いる場合には、これらの合計量に対するハロゲン単体の含有量(αmol%)、及びハロゲン化リチウムの含有量(βmol%)は、下記式(2)を満たすことが好ましく、下記式(3)を満たすことがより好ましく、下記式(4)を満たすことが更に好ましく、下記式(5)を満たすことが更により好ましい。
2≦2α+β≦100…(2)
4≦2α+β≦80 …(3)
6≦2α+β≦50 …(4)
6≦2α+β≦30 …(5)
二種のハロゲン単体としてを用いる場合には、一方のハロゲン原子の物質中のモル数をA1とし、もう一方のハロゲン原子の物質中のモル数をA2とすると、A1:A2が1〜99:99〜1が好ましく、10:90〜90:10であることがより好ましく、20:80〜80:20が更に好ましく、30:70〜70:30が更により好ましい。
また、二種のハロゲン単体が、臭素とヨウ素である場合、臭素のモル数をB1とし、ヨウ素のモル数をB2とすると、B1:B2が1〜99:99〜1が好ましく、15:85〜90:10であることがより好ましく、20:80〜80:20が更に好ましく、30:70〜75:25が更により好ましく、35:65〜75:25が特に好ましい。
(錯化剤)
本実施形態では、錯化剤を用いる。本明細書において、錯化剤とは、リチウム原子と錯体形成することが可能な物質であり、上記原料に含まれるリチウム原子を含む硫化物やハロゲン化物等と作用して錯体結晶を含む電解質前駆体の形成を促進させる性状を有するものであることを意味する。
錯化剤を用いて、錯体結晶を含む電解質前駆体を形成することにより、従来技術で伝導度低下の原因ともなっていたハロゲン分子等の特定成分の溶出等を抑制し、イオン伝導度が高いガラスセラミックス固体電解質が得られる。
錯化剤としては、上記性状を有するものであれば特に制限なく用いることができ、特にリチウム原子との親和性が高い原子、例えば窒素原子、酸素原子、塩素原子等のヘテロ原子を有する化合物を含むことが好ましく、これらのヘテロ原子を含む基を有する化合物を含むことがより好ましく挙げられる。これらのヘテロ原子、該へテロ原子を含む基は、リチウムと配位(結合)し得るからである。
錯化剤は、その分子中のヘテロ原子がリチウム原子との親和性が高く、本実施形態の製造方法により得られる固体電解質に主構造として存在する代表的にはPS構造を含むLiPS等のリチウムを含む構造体、またハロゲン化リチウム等のリチウムを含む原料と結合し、集合体を形成しやすい性状を有するものと考えられる。そのため、上記原料含有物と、錯化剤とを混合することにより、PS構造等のリチウムを含む構造体あるいは錯化剤を介した集合体、ハロゲン化リチウム等のリチウムを含む原料あるいは錯化剤を介した集合体が満遍なく存在することとなり、ハロゲン原子等の特定成分がより分散して定着した電解質前駆体が得られるので、結果としてイオン伝導度が高いガラスセラミックス固体電解質が得られるものと考えられる。
したがって、分子中に少なくとも二つの配位(結合)可能なヘテロ原子を有することが好ましく、分子中に少なくとも二つヘテロ原子を含む基を有することがより好ましい。分子中に少なくとも二つのヘテロ原子を含む基を有することで、PS構造を含むLiPS等のリチウムを含む構造体と、ハロゲン化リチウム等のリチウムを含む原料とを、分子中の少なくとも二つのヘテロ原子を介して結合させることができるので、電解質前駆体中でハロゲン原子がより分散して定着するため、その結果、イオン伝導度が高く、硫化水素の発生が抑制されたガラスセラミックス固体電解質が得られることとなる。また、ヘテロ原子の中でも、窒素原子が好ましく、窒素原子を含む基としてはアミノ基が好ましい、すなわち錯化剤はアミノ基を有する化合物を含むことが好ましい。
分子中にアミノ基を有するアミン化合物は、電解質前駆体の形成を促進し得るので特に制限はないが、錯化剤は分子中に少なくとも二つの第三級アミノ基を有する化合物を含有することが好ましい。
このような構造を有することで、原料含有物と、錯化剤とを混合した時に、PS構造を含むLiPS等のリチウムを含む構造体と、ハロゲン化リチウム等のリチウムを含む原料とを、分子中の少なくとも二つの窒素原子で介して結合させることができるので、電解質前駆体中でハロゲン原子がより分散して定着するため、その結果、イオン伝導度の高いガラスセラミックス固体電解質が得られることとなる。
このようなアミン化合物としては、例えば、脂肪族アミン、脂環式アミン、複素環式アミン、芳香族アミン等のアミン化合物が挙げられ、単独で、又は複数種を組み合わせて用いることができる。
より具体的には、脂肪族アミンとしては、エチレンジアミン、ジアミノプロパン、ジアミノブタン等の脂肪族一級ジアミン;N,N’−ジメチルエチレンジアミン、N,N’−ジエチルエチレンジアミン、N,N’−ジメチルジアミノプロパン、N,N’−ジエチルジアミノプロパン等の脂肪族二級ジアミン;N,N,N’,N’−テトラメチルジアミノメタン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラエチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルジアミノプロパン、N,N,N’,N’−テトラエチルジアミノプロパン、N,N,N’,N’−テトラメチルジアミノブタン、N,N,N’,N’−テトラメチルジアミノペンタン、N,N,N’,N’−テトラメチルジアミノヘキサン等の脂肪族三級ジアミン;などの脂肪族ジアミンが代表的に好ましく挙げられる。ここで、本明細書における例示において、例えばジアミノブタンであれば、特に断りがない限り、1,2−ジアミノブタン、1,3−ジアミノブタン、1,4−ジアミノブタン等のアミノ基の位置に関する異性体の他、ブタンについては直鎖状、分岐状の異性体等の、全ての異性体が含まれるものとする。
脂肪族アミンの炭素数は、好ましくは2以上、より好ましくは4以上、更に好ましくは6以上であり、上限として好ましくは10以下、より好ましくは8以下、更に好ましくは7以下である。また、脂肪族アミン中の脂肪族炭化水素基の炭化水素基の炭素数は、好ましくは2以上であり、上限として好ましくは6以下、より好ましくは4以下、更に好ましくは3以下である。
脂環式アミンとしては、シクロプロパンジアミン、シクロヘキサンジアミン等の脂環式一級ジアミン;ビスアミノメチルシクロヘキサン等の脂環式二級ジアミン;N,N,N’,N’−テトラメチル−シクロヘキサンジアミン、ビス(エチルメチルアミノ)シクロヘキサン等の脂環式三級ジアミン;などの脂環式ジアミンが代表的に好ましく挙げられ、また、複素環式アミンとしては、イソホロンジアミン等の複素環式一級ジアミン;ピペラジン、ジピペリジルプロパン等の複素環式二級ジアミン;N,N−ジメチルピペラジン、ビスメチルピペリジルプロパン等の複素環式三級ジアミン;などの複素環式ジアミンが代表的に好ましく挙げられる。
脂環式アミン、複素環式アミンの炭素数は、好ましくは3以上、より好ましくは4以上であり、上限として好ましくは16以下、より好ましくは14以下である。
また、芳香族アミンとしては、フェニルジアミン、トリレンジアミン、ナフタレンジアミン等の芳香族一級ジアミン;N−メチルフェニレンジアミン、N,N’−ジメチルフェニレンジアミン、N,N’−ビスメチルフェニルフェニレンジアミン、N,N’−ジメチルナフタレンジアミン、N−ナフチルエチレンジアミン等の芳香族二級ジアミン;N,N−ジメチルフェニレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルフェニレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルジアミノジフェニルメタン、N,N,N’,N’−テトラメチルナフタレンジアミン等の芳香族三級ジアミン;などの芳香族ジアミンが代表的に好ましく挙げられる。
芳香族アミンの炭素数は、好ましくは6以上、より好ましくは7以上、更に好ましくは8以上であり、上限として好ましくは16以下、より好ましくは14以下、更に好ましくは12以下である。
本実施形態で用いられるアミン化合物は、アルキル基、アルケニル基、アルコキシル基、水酸基、シアノ基等の置換基、ハロゲン原子により置換されたものであってもよい。
なお、具体例としてジアミンを例示したが、本実施形態で用いられ得るアミン化合物としては、ジアミンに限らないことは言うまでもなく、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、エチルジメチルアミン、上記脂肪族ジアミン等の各種ジアミンに対応する脂肪族モノアミン;またピペリジン、メチルピペリジン、テトラメチルピペリジン等のピペリジン化合物;ピリジン、ピコリン等のピリジン化合物、モルホリン、メチルモルホリン、チオモルホリン等のモルホリン化合物;イミダゾール、メチルイミダゾール等のイミダゾール化合物;上記脂環式ジアミンに対応するモノアミン等の脂環式モノアミン;上記複素環式ジアミンに対応する複素環式モノアミン;上記芳香族ジアミンに対応する芳香族モノアミン等のモノアミンの他;例えば、ジエチレントリアミン、N,N’,N’’−トリメチルジエチレントリアミン、N,N,N’,N’’,N’’−ペンタメチルジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、N,N’−ビス[(ジメチルアミノ)エチル]−N,N’−ジメチルエチレンジアミン、ヘキサメチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン等のアミノ基を3つ以上有するポリアミンも用いることができる。
上記の中でも、より高いイオン伝導度を得る観点から、アミノ基として第三級アミノ基を有する三級アミンであることが好ましく、二つの第三級アミノ基を有する三級ジアミンであることがより好ましく、二つの第三級アミノ基を両末端に有する三級ジアミンが更に好ましく、第三級アミノ基を両末端に有する脂肪族三級ジアミンがより更に好ましい。上記のアミン化合物において、三級アミノ基を両末端に有する脂肪族三級ジアミンとしては、テトラメチルエチレンジアミン、テトラエチルエチレンジアミン、テトラメチルジアミノプロパン、テトラエチルジアミノプロパンが好ましく、入手の容易性等も考慮すると、テトラメチルエチレンジアミン、テトラメチルジアミノプロパンが好ましい。
アミン化合物以外の他の錯化剤としては、例えば、酸素原子、塩素原子等のハロゲン原子等のヘテロ原子を含む基を有する化合物は、リチウム原子との親和性が高く、上記のアミン化合物以外の他の錯化剤として挙げられる。また、ヘテロ原子として窒素原子を含む、アミノ基以外の基、例えばニトロ基、アミド基等の基を有する化合物も、これと同様の効果が得られる。
上記の他の錯化剤としては、例えばエタノール、ブタノール等のアルコール系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ジメチルホルムアミド等のアルデヒド系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、シクロペンチルメチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、アニソール等のエーテル系溶媒;酢酸2−メトキシエチル、酢酸2−エトキシエチル(エチレングリコールアセテート)、酢酸2−メトキシ−1−メチルエチル、酢酸2−エトキシ−メチルエチル、酢酸2−(2−エトキシエトキシ)エチル、酢酸(2−アセトキシエトキシ)メチル、酢酸1−メチル−2−エトキシエチル(プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート)、3−メトキシプロピオン酸エチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、3−(2−メトキシエトキシ)プロピオン酸2−メトキシエチル等のグリコールエステル系溶媒;トリフルオロメチルベンゼン、ニトロベンゼン、クロロベンゼン、クロロトルエン、ブロモベンゼン等のハロゲン原子含有芳香族炭化水素溶媒;アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、二硫化炭素等の炭素原子とヘテロ原子を含む溶媒等が挙げられる。これらの中でも、エーテル系溶媒、グリコールエステル系溶媒が好ましく、グリコールエステル系溶媒がより好ましい。また、エーテル系溶媒の中でもジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフランがより好ましく、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテルが更に好ましく、グリコールエステル系溶媒の中でも酢酸エステルがより好ましく、酢酸2−メトキシ−1−メチルエチル、酢酸2−エトキシ−メチルエチルが更に好ましい。
原料含有物の合計の質量1gに対する錯化剤の使用量はハロゲン原子がより分散して定着した電解質前駆体を形成し、高いイオン伝導度のガラスセラミックス固体電解質を得るという、錯化剤の使用効果を効率的に獲得する観点から0.1〜30mLが好ましく、0.5〜20mLがより好ましく、1.0〜10mLが更に好ましい。
(溶媒)
本実施形態では、原料含有物と錯化剤に、溶媒を加えることが好ましい。溶媒を用いて原料含有物と錯化剤とを混合することで、上記の錯化剤を用いることによる効果、すなわちリチウム原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子と作用した電解質前駆体の形成が促進され、PS構造等のリチウムを含む構造体あるいは錯化剤を介した集合体、ハロゲン化リチウム等のリチウムを含む原料あるいは錯化剤を介した集合体を満遍なく存在させやすくなり、ハロゲン原子がより分散して定着した電解質前駆体が得られるので、結果として高いイオン伝導度が得られるという効果が発揮されやすくなる。
本実施形態は、いわゆる不均一法であり、電解質前駆体は、溶媒や液体である錯化剤に対して完全に溶解せず析出することが好ましい。本実施形態では、溶媒を加えることによって電解質前駆体の溶解性を調整することができる。特にハロゲン原子は電解質前駆体から溶出しやすいため、溶媒を加えることによってハロゲン原子の溶出を抑えて所望の電解質前駆体が得られる。その結果、ハロゲン等の特定成分が分散した電解質前駆体を経て、高いイオン伝導度を有するガラスセラミックス固体電解質を得ることができる。
また、溶媒は混合後の電解質前駆体のスラリーに更に添加することもできる。
このような性状を有する溶媒としては、溶解度パラメータが10以下の溶媒が好ましく挙げられる。本明細書において、溶解度パラメータは、各種文献、例えば「化学便覧」(平成16年発行、改定5版、丸善株式会社)等に記載されており、以下の数式(1)により算出される値δ((cal/cm1/2)であり、ヒルデブランドパラメータ、SP値とも称される。
Figure 2021190427

(数式(1)中、ΔHはモル発熱であり、Rは気体定数であり、Tは温度であり、Vはモル体積である。)
溶解度パラメータが10以下の溶媒を用いることにより、上記の錯化剤に比べて相対的にハロゲン原子、ハロゲン化リチウム等のハロゲン原子を含む原料、更には電解質前駆体に含まれる錯体結晶を構成するハロゲン原子を含む成分(例えば、ハロゲン化リチウムと錯化剤とが結合した集合体)等を溶解しにくい性状を有することとなり、電解質前駆体内にハロゲン原子を定着させやすくなり、得られる電解質前駆体、更には固体電解質中に良好な分散状態でハロゲン原子が存在することとなり、高いイオン伝導度を有するガラスセラミックス固体電解質が得られやすくなる。すなわち、本実施形態で用いられる溶媒は、電解質前駆体を溶解しない性状又は溶解しにくい性状を有することが好ましく、原料含有物、錯化剤及び電解質前駆体を溶解しない溶媒を含む溶媒であることがより好ましい。
これと同様の観点から、溶媒の溶解度パラメータは、好ましくは9.5以下、より好ましくは9.0以下、更に好ましくは8.5以下である。
本実施形態で用いられる溶媒としては、より具体的には、固体電解質の製造において従来より用いられてきた溶媒を広く採用することが可能であり、例えば、脂肪族炭化水素溶媒、脂環族炭化水素溶媒、芳香族炭化水素溶媒等の炭化水素溶媒;アルコール系溶媒、エステル系溶媒、アルデヒド系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、炭素原子とヘテロ原子を含む溶媒等の炭素原子を含む溶媒;等が挙げられ、これらの中から、好ましくは溶解度パラメータが上記範囲であるものから、適宜選択して用いればよい。
より具体的には、ヘキサン、ペンタン、2−エチルヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン等の脂肪族炭化水素溶媒;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂環族炭化水素溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、エチルベンゼン、tert−ブチルベンゼン、トリフルオロメチルベンゼン、ニトロベンゼン、クロロベンゼン、クロロトルエン、ブロモベンゼン等の芳香族炭化水素溶媒;エタノール、ブタノール等のアルコール系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ジメチルホルムアミド等のアルデヒド系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、シクロペンチルメチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、アニソール等のエーテル系溶媒;アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、二硫化炭素等の炭素原子とヘテロ原子を含む溶媒等が挙げられる。
これらの溶媒の中でも、脂肪族炭化水素溶媒、脂環族炭化水素溶媒、芳香族炭化水素溶媒、エーテル系溶媒が好ましく、より安定して高いイオン伝導度を得る観点から、脂肪族炭化水素溶媒、脂環族炭化水素溶媒、芳香族炭化水素溶媒が好ましく、ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、トルエン、エチルベンゼンがより好ましく、ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサンがより更に好ましい。本実施形態で用いられる溶媒は、好ましくは上記例示した有機溶媒であり、上記の錯化剤と異なる有機溶媒である。本実施形態においては、これらの溶媒を単独で、又は複数種を組み合わせて用いてもよい。
原料含有物の合計の質量1gに対する溶媒の使用量は高いイオン伝導度の固体電解質を得る観点から5〜50mLが好ましく、5〜30mLがより好ましく、5〜20mLが更に好ましい。
(混合)
図1のフロー図に示されるように、原料含有物、錯化剤及び溶媒とを混合することを要する。本実施形態において原料含有物、錯化剤及び溶媒とを混合するものの形態は固体状、液状のいずれであってもよいが、通常原料含有物は固体を含んでおり、錯化剤は液状であるため、通常液状の錯化剤及び溶媒中に固体の原料含有物が存在する形態(スラリー)で混合する。
原料含有物は、錯化剤及び溶媒の合計量1Lに対して、好ましくは5g以上、より好ましくは10g以上、更に好ましくは20g以上、より更に好ましくは30g以上であり、上限として好ましくは500g以下、より好ましくは400g以下、更に好ましくは300g以下、より更に好ましくは250g以下である。原料含有物の含有量が上記範囲内であると、原料含有物が混合しやすくなり、原料の分散状態が向上し、原料同士の反応が促進するため、効率的に電解質前駆体、更にはガラスセラミックス固体電解質が得られやすくなる。
原料含有物、錯化剤及び溶媒との混合の方法には特に制限はなく、原料含有物、錯化剤及び溶媒を混合できる装置に、原料含有物、錯化剤及び溶媒を投入して混合すればよい。例えば原料含有物を槽内に供給し、錯化剤及び溶媒を加えることで、固体投入による液体の飛び跳ねが抑えられ作業効率の観点から好ましい。
また、原料としてハロゲン単体を用いる場合、原料が固体ではない場合があり、具体的には常温常圧下において、フッ素及び塩素は気体、臭素は液体となる。例えば、原料が液体の場合は他の固体の原料とは別に錯化剤又は溶媒とともに槽内に供給すればよく、また原料が気体の場合は、錯化剤、溶媒及び固体の原料に吹き込むように供給すればよい。
本実施形態においては、原料含有物、錯化剤及び必要な場合、溶媒とを混合することを含むことを特徴としており、ボールミル、ビーズミル等の媒体式粉砕機等の、一般に粉砕機と称される固体原料の粉砕を目的として用いられる機器を用いない方法でも製造できる。
媒体式粉砕機を用いる場合には、後記する電解質前駆体の粉砕に記載した、湿式ビーズミル、湿式ボールミル、湿式振動ミル等を用いることができる。特に循環運転可能なビーズミルを用いることが好ましい。
本実施形態では、原料含有物、錯化剤及び溶媒とを単に混合するだけで、該含有物に含まれる原料と錯化剤とが混合され、電解質前駆体を形成することができる。なお、電解質前駆体を得るための混合時間を短縮したり、微粉化したりできることから、原料含有物、錯化剤及び溶媒との混合物を粉砕機によって粉砕してもよい。
原料含有物、錯化剤及び溶媒とを混合する装置としては、例えば槽内に撹拌翼を備える機械撹拌式混合機が挙げられる。機械撹拌式混合機は、高速撹拌型混合機、双腕型混合機等が挙げられ、原料含有物と錯化剤との混合物中の原料の均一性を高め、より高いイオン伝導度を得る観点から、高速撹拌型混合機が好ましく用いられる。また、高速撹拌型混合機としては、垂直軸回転型混合機、水平軸回転型混合機等が挙げられ、どちらのタイプの混合機を用いてもよい。
機械撹拌式混合機において用いられる撹拌翼の形状としては、ブレード型、アーム型、アンカー型、パドル型、フルゾーン型、リボン型、多段ブレード型、二連アーム型、ショベル型、二軸羽型、フラット羽根型、C型羽根型、アンカー型、パドル型、フルゾーン型等が挙げられ、原料含有物中の原料の均一性を高め、より高いイオン伝導度を得る観点から、ショベル型、フラット羽根型、C型羽根型等が好ましい。
また、少量の製造であれば撹拌子を用いた撹拌であってもよい。
原料含有物、錯化剤及び必要な場合溶媒とを混合する際の温度条件としては、特に制限はなく、例えば−30〜100℃、好ましくは−10〜50℃、より好ましくは室温(23℃)程度(例えば室温±5℃程度)である。また混合時間は、0.1〜150時間程度、より均一に混合し、より高いイオン伝導度を得る観点から、好ましくは0.2〜120時間、より好ましくは0.3〜100時間、更に好ましくは0.5〜80時間である。
原料含有物、錯化剤及び溶媒とを混合することで、上記の原料含有物に含まれるリチウム原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子と錯化剤との作用により、これらの原子が錯化剤を介して及び/又は介さずに直接互いに結合した電解質前駆体が得られる。すなわち、本実施形態において、原料含有物と錯化剤とを混合して得られる電解質前駆体は、錯化剤、リチウム原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子により構成される錯体結晶を含むものであり、上記の原料含有物と錯化剤とを混合することにより、電解質前駆体を含有する物(以下、「電解質前駆体含有物」と称することがある。)が得られることとなる。本実施形態において、得られる電解質前駆体は、液体である錯化剤に対して完全に溶解するものではなく、通常、固体である電解質前駆体を含む懸濁液が得られる。したがって、本実施形態は、いわゆる液相法における不均一系に相当する。
(電解質前駆体の粉砕)
本実施形態は、さらに上記電解質前駆体を粉砕することを含むことが好ましい。電解質前駆体を粉砕することで、イオン伝導度の低下を抑制しながら粒径の小さい固体電解質が得られる。
本実施形態における電解質前駆体の粉砕は、いわゆる固相法のメカニカルミリングと異なり、機械的応力によって非晶性又は結晶性固体電解質を得るものではない。上記のとおり電解質前駆体は錯化剤を含んでおり、PS構造等のリチウムを含む構造体と、ハロゲン化リチウム等のリチウムを含む原料とが、錯化剤を介して結合(配位)している。そして、電解質前駆体を粉砕すると、上記の結合(配位)、及び分散が維持されたまま、電解質前駆体の微粒が得られると考えられる。この電解質前駆体を熱処理すると、錯化剤が除去されると同時に錯化剤を介して結合(配位)していた成分が結びつき、結晶性固体電解質への反応が容易に起こる。そのため、通常の固体電解質の合成で見られるような粒子同士の凝集による大きな粒成長が生じにくく、容易に微粒化することができる。
また、全固体電池の性能及び製造等の観点から、固体電解質の粒径は小さいことが望ましいが、ビーズミル等を用いた粉砕によって固体電解質を微粒化することは容易ではない。溶媒を用いる湿式粉砕により、ある程度の微粒化が可能であるが、溶媒により固体電解質が劣化しやすく、また、粉砕中の凝集が起こり易いため、粉砕に過大な負荷がかかるという問題がある。一方、溶媒を用いずに乾式粉砕を行ってもサブミクロンまで微粒化することは困難である。このような状況下、電解質前駆体の粉砕を行うという容易な処理により、全固体電池の性能を向上させ、また製造効率を向上させることができることは、大きなメリットとなり得る。
さらに、粉砕に伴う撹拌混合によって、PS構造等のリチウムを含む構造体あるいは錯化剤を介した集合体、ハロゲン化リチウム等のリチウムを含む原料あるいは錯化剤を介した集合体を満遍なく存在させやすくなり、ハロゲン原子等の特定成分がより分散して定着した電解質前駆体が得られるので、結果として、微粒化とともに、高いイオン伝導度が得られるという効果が発揮されやすくなる。
電解質前駆体の粉砕に用いる粉砕機としては、粒子を粉砕できるものであれば特に制限なく、例えば、粉砕媒体を用いた媒体式粉砕機を用いることができる。媒体式粉砕機の中でも、電解質前駆体が、主に錯化剤、溶媒等の液体を伴う液状態、又はスラリー状態であることを考慮すると、湿式粉砕に対応できる湿式粉砕機であることが好ましい。
湿式粉砕機としては、湿式ビーズミル、湿式ボールミル、湿式振動ミル等が代表的に挙げられ、粉砕操作の条件を自由に調整でき、より小さい粒径のものに対応しやすい点で、ビーズを粉砕メディアとして用いる湿式ビーズミルが好ましい。また、乾式ビーズミル、乾式ボールミル、乾式振動ミル等の乾式媒体式粉砕機、ジェットミル等の乾式非媒体粉砕機等の乾式粉砕機を用いることもできる。
また、粉砕機で粉砕する電解質前駆体は、通常原料含有物と錯化剤とを混合して得られる電解質前駆体含有物として供給され、主に液状態又はスラリー状態で供給される、すなわち粉砕機で粉砕する対象物は、主に電解質前駆体含有液又は電解質前駆体のスラリーとなる。よって、本実施形態で用いられる粉砕機は、電解質前駆体含有液又は電解質前駆体のスラリーを、必要に応じて循環させる循環運転が可能である、流通式の粉砕機であることが好ましい。より具体的には、特開2010−140893号公報に記載されているような、スラリーを粉砕する粉砕機(粉砕混合機)と、温度保持槽(反応容器)との間で循環させるような形態の粉砕機を用いることが好ましい。
上記粉砕機で用いられるビーズのサイズは、所望の粒径、処理量等に応じて適宜選択すればよく、例えばビーズの直径として、0.05mmφ以上5.0mmφ以下程度とすればよく、好ましくは0.1mmφ以上3.0mmφ以下、より好ましくは0.3mmφ以上1.5mmφ以下である。
電解質前駆体の粉砕に用いる粉砕機としては、超音波を用いて対象物を粉砕し得る機械、例えば超音波粉砕機、超音波ホモジナイザー、プローブ超音波粉砕機等と称される機械を用いることができる。
この場合、超音波の周波数等の諸条件は、所望の電解質前駆体の平均粒径等に応じて適宜選択すればよく、周波数は、例えば1kHz以上100kHz以下程度とすればよく、より効率的に電解質前駆体を粉砕する観点から、好ましくは3kHz以上50kHz以下、より好ましくは5kHz以上40kHz以下、更に好ましくは10kHz以上30kHz以下である。
また、超音波粉砕機が有する出力としては、通常500〜16,000W程度であればよく、好ましくは600〜10,000W、より好ましくは750〜5,000W、更に好ましくは900〜1,500Wである。
粉砕することにより得られる電解質前駆体の平均粒径(D50)は、所望に応じて適宜決定されるものであるが、通常0.01μm以上50μm以下であり、好ましくは0.03μm以上5μm以下、より好ましくは0.05μm以上3μm以下である。このような平均粒径とすることで、平均粒径1μm以下という小さい粒径の固体電解質の要望に対応することが可能となる。
粉砕する時間としては、電解質前駆体が所望の平均粒径となる時間であれば特に制限はなく、通常0.1時間以上100時間以内であり、効率的に粒径を所望のサイズとする観点から、好ましくは0.3時間以上72時間以下、より好ましくは0.5時間以上48時間以下、更に好ましくは1時間以上24時間以下である。
粉砕することは、電解質前駆体含有液又は電解質前駆体のスラリー等の電解質前駆体含有物を乾燥し、電解質前駆体を粉末としてから、行ってもよい。
この場合、本製造方法において用い得る粉砕機として例示した上記の粉砕機の中でも、乾式粉砕機のいずれかを用いることが好ましい。その他、粉砕条件等の粉砕に関する事項は、電解質前駆体含有液又は電解質前駆体のスラリーの粉砕と同じであり、また粉砕により得られる電解質前駆体の平均粒径も上記と同様である。
(乾燥)
本実施形態は、前記錯体結晶を含む電解質前駆体のスラリーを乾燥することを要する。特に、乾燥は液体である錯化剤(電解質前駆体内に取り込まれない錯化剤)を除去することを含むことが好ましい。
これにより前記錯化剤の液体成分が除去され電解質前駆体の粉末が得られる。事前に乾燥することにより、ハロゲン原子の電解質前駆体からの離脱を抑制し、効率的に錯分解することを行うことが可能となる。なお、乾燥と、その後の加熱とを同一工程で行ってもよい。
なお、前記錯化剤の液体成分は電解質前駆体に取り込まれず、電解質前駆体のスラリーの液体部分に存在する錯化剤を意味する。
乾燥により得られた電解質前駆体は錯体構造を形成しており、錯化剤を含有している。
電解質前駆体のスラリーの乾燥は、減圧、加熱及びそれらの組み合わせであることが好ましいが、媒体を用いた流動乾燥により乾燥することがより好ましい。電解質前駆体を真空下で加熱乾燥を行うことで、電解質前駆体のスラリーの液体部分に存在する錯化剤を除去することが可能である。
なお本乾燥は必要に応じて、非晶性固体電解質及び少なくともその一部がガラスセラミックス化した固体電解質の乾燥にも適用することができる。
媒体を用いた流動乾燥は、乾燥対象物となるスラリーが流動することで、当該スラリーの伝熱面積が増加し、速やかにかつ均一に熱の伝導が促進することから、短時間で乾燥することが可能となる。そのため、均一乾燥のために高温で乾燥する必要はなく、また仮に高温で乾燥したとしても短時間の乾燥でよいことから、高温乾燥による熱履歴によるハロゲン原子の溶出を極力抑制することができ、イオン伝導度の低下等の品質の劣化を抑制することが可能となる。そして、高温乾燥による熱履歴の抑制のために、低温乾燥を選択する必要もなくなり、長時間の乾燥時間が不要となるため、優れた生産性が得られる。
また、スラリーを媒体を用いて流動させることから、スラリーの粘度にほとんど左右されずに均一に乾燥できるため、幅広い粘度のスラリーに対応することができる。
媒体として後述するメディア粒子を採用し、乾燥機内でメディア粒子を流動させながら流動乾燥を行う場合、当該乾燥機内で媒体は既に加熱されて熱量を有する状態となっている。乾燥対象物となるスラリーは、メディア粒子の流動接触分解触媒に伴い流動することで伝熱面積が増加していることに加え、媒体の熱量による加熱がなされるため、乾燥時間をより短くすることが可能となる。
このような乾燥を行うことにより、従来採用されてきた乾燥、例えば真空乾燥等のバッチ式の乾燥による均一性の低い乾燥状態に起因する凝集を抑制し、品質の劣化を抑制することができる。更に、媒体を用いた流動乾燥は、流通式を採用し得ることから、優れた生産性も得られることとなる。かくして、本実施形態の製造方法は、媒体による流動乾燥を採用することにより、イオン伝導度等の性能に優れた固体電解質をより生産性高く製造することを可能とした。
媒体を用いた流動乾燥を行い得る乾燥機(「媒体流動乾燥機」とも称される。)としては、媒体となるメディア粒子により乾燥対象物であるスラリーが流動しながら乾燥できるものであれば特に制限なく使用することができ、乾燥機内に媒体としてメディア粒子が入っており、当該メディア粒子が流動しながら乾燥させる形式を有する、流動層乾燥装置として市販される乾燥機を用いることも可能である。
本実施形態で用い得る媒体を用いた流動乾燥を行い得る乾燥装置の好ましい一態様について、図2を用いて説明する。図2に示される乾燥装置は、メディア粒子を媒体として当該媒体を流動させて流動乾燥を行い得る媒体流動乾燥機とともに、当該乾燥機により排出された、気体と乾燥して得られる粉末、すなわちスラリー中に含まれる固体電解質又は電解質前駆体とを含む流体から、粉末である固体電解質又は当該固体電解質を回収するためのバグフィルターを備えるものである。
図2に示される媒体流動乾燥機は、媒体としてメディア粒子を用いる形式のものであり、乾燥機内にあるメディア粒子を気体により流動させており、メディア粒子の流動層中にスラリーを供給し、当該スラリーを乾燥する、という機器である。メディア粒子の流動層中にスラリーを供給すると、当該スラリーが流動し、伝熱面積が増加することで、より短時間の乾燥が可能となる。
乾燥機内には、気体を供給するための好ましくは複数の通気口を有する仕切り板を有している。仕切り板を有することにより、媒体となるメディア粒子は底部に滞留することなく、当該通気口を通じて乾燥機内に供給される気体により、乾燥機内を対流することにより流動層を形成する。
媒体流動乾燥機の上方には、下方から供給した気体と、当該スラリーに含まれる粉末、すなわち固体電解質又は電解質前駆体とを含む流体を排出する排出口が備えられており、当該排出口から排出された当該流体は、バグフィルターに供給される。バグフィルターは、フィルターが多段に備えられており、当該フィルターにて、当該流体中の粉末を捕集し、固体電解質又は電解質前駆体として回収され、当該流体中の気体はバグフィルターの上方の排出口より排気される。
媒体流動乾燥機において、媒体としてメディア粒子が用いられ、図2に示されるように当該メディア粒子が気体により流動状態を保持する形式が効果的である。気体としては、固体電解質、電解質前駆体を酸化による劣化を抑制する観点から、窒素、アルゴン等の不活性ガスを用いることが好ましく、コストを考慮すると、窒素を採用することがより好ましい。
メディア粒子としては、乾燥効率、流動性等を考慮すると、セラミックボールを用いることが好ましい。メディア粒子の粒径としては、流動乾燥機の大きさ等によりかわるため一概に規定することはできないが、通常0.5mm以上5.0mm以下程度のものを用いればよく、乾燥効率、流動性等を考慮すると、好ましくは1.0mm以上3.0mm以下である。また、メディア粒子の粒径が上記範囲内であると、気体と乾燥したスラリー中に含まれる固体電解質及び/又は電解質前駆体とを含む流体に伴った乾燥機外への排気を抑制できるので、バグフィルターでの捕集量を低減することができる。
媒体を流動させるために気体を用いる場合、気体は加熱されたものであることが好ましい。図2に示される形式の媒体流動乾燥機の場合は、気体はスラリーを乾燥させるための熱源ともなるため、加熱されたものが用いられる。
また、メディア粒子も加熱されたものであることが好ましい。図2に示される形式の媒体流動乾燥機の場合は、メディア粒子は加熱された気体により加熱された状態となっており、スラリーに対して気体による加熱、気体により加熱されたメディア粒子による加熱がなされ、極めて短時間で乾燥させることが可能となる。
また、仕切り板の通気口の開口サイズは、メディア粒子が底部に落ちないように、メディア粒子の粒径より小さいサイズであれば特に制限はなく、例えば0.1mm以上3mm以下程度とすればよく、下方からの媒体(気体)の供給のしやすさを考慮すると、好ましくは0.3mm以上2.5mm以下、より好ましくは0.5mm以上2.0mm以下である。
本乾燥における乾燥温度としては、スラリーに含まれる錯化剤(主に電解質前駆体内に取り込まれない錯化剤)、また必要に応じて用いられる溶媒の種類に応じた温度で行うことができる。例えば、錯化剤、また必要に応じて用いられる溶媒の沸点以上の温度で行うことができる。このように、乾燥温度は使用する極性溶媒の沸点等に応じてかわるため、一概に規定することはできないが、通常50〜150℃程度で行えばよく、好ましくは55〜130℃、より好ましくは60〜100℃、より更に好ましくは65〜80℃である。
例えば、図2に示される形式の媒体流動乾燥機を用いる場合、気体の供給温度としては通常60〜200℃程度とすればよく、より短時間で乾燥させ、かつ熱履歴を抑制して品質を向上させる観点から、好ましくは70〜180℃、より好ましくは80〜160℃、更に好ましくは90〜150℃とし、かつ当該気体の供給量として、供給温度を基準として、通常0.5〜10.0m/s程度とすればよく、メディア粒子の良好な流動性を維持する観点から、好ましくは1.0〜8.0m/s、より好ましくは1.5〜5.0m/s、更に好ましくは2.0〜3.5m/sとする。なお、気体の供給量は、媒体となるメディア粒子の流動層の、当該気体の流通方向に対して垂直方向の断面の面積(乾燥機内の当該メディア粒子が収納させる容器の、当該気体の流通方向に対して垂直方向の断面の面積、ともいえる。)に対する線速である。
流動乾燥機の排出口における流体の温度は、通常50〜120℃程度とし、同様の観点から、好ましくは55〜100℃、より好ましくは60〜90℃、更に好ましくは65〜80℃である。上記範囲内であると、流動乾燥機内の乾燥温度を、上記の好ましい乾燥温度の範囲としやすくなる。流体の温度は、気体の供給量及び温度、並びにスラリーの供給量等により調整可能であり、スラリーの供給量により調整しやすい。
本実施形態の製造方法において、乾燥により得られた粉末、すなわち固体電解質又は電解質前駆体を効率的に捕集する観点から、図2に示されるように、バグフィルターが好ましく用いられる。
バグフィルターに用いられるフィルターとしては、特に制限なく用いることが可能であり、ポリプロピレン、ナイロン、アクリル、ポリエステル、木綿、羊毛、耐熱ナイロン、ポリアミド・ポリイミド、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、ガラス繊維、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等の素材により構成されるフィルターが挙げられ、また静電フィルターのような機能付きフィルターを用いることもできる。中でも耐熱ナイロン、ポリアミド・ポリイミド、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、ガラス繊維、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)により構成されるフィルターが好ましく、耐熱ナイロン、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)により構成されるフィルターがより好ましく、特にPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)により構成されるフィルターが好ましい。
また、バグフィルターは、払い落し手段を有していてもよく、例えば脈動逆圧方式、パルスジェット方式による手段が好ましく挙げられ、中でもパルスジェット方式による手段が好ましい。
バグフィルターの排気口からのラインには、当該排気口から排気される気体を強制的に排気するため、誘引通風機を設けてもよい。誘引通風機等により気体を排気することにより、バグフィルターにおけるろ過が円滑に進行し、流動乾燥機内のメディア粒子の安定した流動層が得られるため、より短時間にスラリーを乾燥することができる。
本実施形態の乾燥を減圧下で行う場合には、イオン伝導度が高いガラスセラミックス固体電解質を得る観点から1000.0Pa未満であることが好ましく、500.0Pa以下であることがより好ましく、300.0Pa以下であることが更に好ましく、装置上の観点から0.1Pa以上であることが好ましく、1.0Pa以上であることがより好ましく、5.0Pa以上であることが更に好ましい。
減圧下で乾燥する場合、乾燥時間を短縮するため加熱してもよく、その温度は圧力等に応じて一概にはいえないが、イオン伝導度が高い固体電解質を得る観点から通常、120℃以下が好ましく、80℃以下がより好ましく、50℃以下が更に好ましく、下限としては特に制限はないが、好ましくは0℃以上、より好ましくは10℃以上、更に好ましくは15℃以上であり、外部からの加熱又は冷却を行わず乾燥することがより更に好ましい。
(電解質前駆体)
本実施形態の電解質前駆体は、錯化剤、リチウム原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子を構成成分として含む、X線回折測定においてX線回折パターンに、原料由来のピークとは異なるピークが観測される、という特徴を有するものであり、錯化剤、リチウム原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子を構成成分として含む錯体結晶を含むことを要する。
単に原料含有物のみを混合しただけでは、原料由来のピークが観測されるだけであり、原料含有物と錯化剤とを混合することにより、原料由来のピークとは異なるピークが観測されることから、電解質前駆体(又はそれに含まれる錯体結晶)は、原料含有物に含まれる原料自体とは明らかに異なる構造を有するものである。このことは実施例において具体的に確認されている。電解質前駆体(又はそれに含まれる錯体結晶)及び硫化リチウム等の各原料のX線回折パターンの測定例を図3、6にそれぞれ示す。X線回折パターンから、電解質前駆体(又はそれに含まれる錯体結晶)が所定の結晶構造を有していることがわかる。また、その回折パターンは、図6に示した硫化リチウム等のいずれの原料の回折パターンを含むものではなく、電解質前駆体(又はそれに含まれる錯体結晶)が原料とは異なる結晶構造を有していることがわかる。
また、電解質前駆体(又はそれに含まれる錯体結晶)は、結晶性固体電解質とも異なる構造を有するものであることを特徴とするものである。このことも実施例において具体的に確認されている。図3には結晶性固体電解質のX線回折パターンも示されており、電解質前駆体(又はそれに含まれる錯体結晶)の回折パターンと異なることがわかる。なお、電解質前駆体(又はそれに含まれる錯体結晶)は所定の結晶構造を有しており、図3に示されるブロードなパターンを有する非晶性固体電解質とも異なる。
錯体結晶は、錯化剤、リチウム原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子を構成成分として含み、典型的には、リチウム原子と、他の原子とが、錯化剤を介して及び/又は介さずに直接結合した錯体構造を形成しているものと推認される。
ここで、錯化剤が、錯体結晶の構成成分であることは、例えば、ガスクロマトグラフィー分析によって確認することができる。具体的には、電解質前駆体の粉末をメタノールに溶解させ、得られたメタノール溶液のガスクロマトグラフィー分析を行うことで錯体結晶に含まれる錯化剤を定量することができる。
電解質前駆体中の錯化剤の含有量は、錯化剤の分子量により異なるが、通常10質量%以上70質量%以下程度、好ましくは15質量%以上65質量%以下である。
本実施形態において、ハロゲン原子を含む錯体結晶を形成することが、イオン伝導度の向上の点で、好ましい。錯化剤を用いることにより、PS構造等のリチウムを含む構造体と、ハロゲン化リチウム等のリチウムを含む原料とが、錯化剤を介して結合(配位)し、ハロゲン原子がより分散して定着した錯体結晶が得られやすくなり、イオン伝導度が向上する。
電解質前駆体中のハロゲン原子が錯体結晶を構成していることは、電解質前駆体含有物の固液分離を行っても所定量のハロゲン原子が電解質前駆体に含まれていることによって確認できる。錯体結晶を構成しないハロゲン原子は、錯体結晶を構成するハロゲン原子に比べて容易に溶出し、固液分離の液体中に排出されるからである。また、電解質前駆体又は固体電解質のICP分析(誘導結合プラズマ発光分光分析)による組成分析により、該電解質前駆体又は固体電解質中のハロゲン原子の割合が原料により供給したハロゲン原子の割合と比べて顕著に低下していないこと、によって確認することもできる。
電解質前駆体に留まるハロゲン原子の量は、仕込み組成に対して30質量%以上であることが好ましく、35質量%以上がより好ましく、40質量%以上がさらに好ましい。電解質前駆体に留まるハロゲン原子の量の上限は100質量%である。
(錯分解)
本実施形態は、前記乾燥により得られた電解質前駆体を錯分解することにより非晶性固体電解質又は少なくとも非晶性固体電解質の一部がガラスセラミックス化した固体電解質を得ること、を含む。
錯分解は、電解質前駆体(錯体結晶)から錯化剤を除去することを意味し、錯化剤を除去し得る方法であればいずれの方法を採用してもよく、例えば加熱する方法、また電解質前駆体に振動を加えながら、1000Pa未満の減圧下で、加熱することを含むことが好ましい。錯分解することで、電解質前駆体中の錯体結晶の構成成分である錯化剤が除去され、リチウム原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子を含む非晶性固体電解質又は少なくともその一部がガラスセラミックス化した固体電解質が得られる。また、錯分解される電解質前駆体は、上記の粉砕することにより粉砕された電解質前駆体粉砕物であってもよい。本錯分解において、一部がガラスセラミックス化したものをガラスセラミックス固体電解質としてもよく、これをさらに加熱して結晶化が進んだものをガラスセラミックス固体電解質としてもよい。
ここで、電解質前駆体中の錯化剤が除去されることについては、X線回折パターン、ガスクロマトグラフィー分析等の結果から錯化剤が電解質前駆体の錯体結晶を構成していることが明らかであることに加え、電解質前駆体を錯分解することで錯化剤を除去して得られた固体電解質が、錯化剤を用いずに従来の方法により得られた固体電解質とX線回折パターンが同じであることにより裏づけされる。
本実施形態の製造方法において、非晶性固体電解質又はガラスセラミックス固体電解質は、電解質前駆体を加熱することにより、該電解質前駆体中の錯化剤を除去して得られ、非晶性固体電解質又はガラスセラミックス固体電解質中の錯化剤は少ないほど好ましいものであるが、非晶性固体電解質又はガラスセラミックス固体電解質の性能を害さない程度に錯化剤が含まれていてもよい。非晶性固体電解質又はガラスセラミックス固体電解質に含まれる錯化剤の含有量は、15質量%以下となっていればよく、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、更に好ましくは1質量%以下である。
従来、イオン伝導度が高い結晶性固体電解質、例えば後述するチオリシコンリージョンII型結晶構造を有する固体電解質を得るには、メカニカルミリング等の機械的粉砕処理、その他溶融急冷処理等により非晶性固体電解質を作製した後に該非晶性固体電解質を加熱して得ることを要していた。しかし、本実施形態の製造方法では、機械的粉砕処理、その他溶融急冷処理等を行わない方法によってもチオリシコンリージョンII型結晶構造を有する結晶性固体電解質が得られる点で、従来のメカニカルミリング処理等による製造方法に比べて優位であるといえる。
本実施形態において、非晶性固体電解質を得てから結晶性固体電解質を得る場合、加熱温度、加熱時間等により結晶性固体電解質の結晶構造を調整することが可能である。
電解質前駆体の加熱温度は、非晶性固体電解質を得る場合、該非晶性固体電解質を加熱して得られる結晶性固体電解質の構造に応じて加熱温度を決定すればよく、具体的には、該非晶性固体電解質)を、示差熱分析装置(DTA装置)を用いて、10℃/分の昇温条件で示差熱分析(DTA)を行い、最も低温側で観測される発熱ピークのピークトップの温度を起点に、好ましくは5℃以下、より好ましくは10℃以下、更に好ましくは20℃以下の範囲とすればよく、下限としては特に制限はないが、最も低温側で観測される発熱ピークのピークトップの温度−40℃以上程度とすればよい。このような温度範囲とすることで、より効率的かつ確実に非晶性固体電解質が得られる。非晶性固体電解質を得るための加熱温度としては、得られる結晶性固体電解質の構造に応じてかわるため一概に規定することはできないが、通常、300℃以下が好ましく、250℃以下がより好ましく、230℃以下が更に好ましく、下限としては特に制限はないが、好ましくは100℃以上、より好ましくは150℃以上、更に好ましくは100℃以上である。
電解質前駆体の加熱温度は、錯分解により結晶性固体電解質を得る場合、後記する結晶化と同様の温度で錯分解を行うことが好ましい。
錯分解時の真空度は、イオン伝導度が高い固体電解質を得る観点から1000.0Pa未満であることが好ましく、500.0Pa以下であることがより好ましく、300.0Pa以下であることが更に好ましく、装置上の観点から0.1Pa以上であることが好ましく、1.0Pa以上であることがより好ましく、5.0Pa以上であることが更に好ましい。
高真空下であれば、錯化剤の除去速度は速く、固体電解質中の各成分の分散状態を保持したまま、錯化剤の含有量を低減させることができる。一方、低真空下であれば、錯化剤の除去速度は遅く、電解質前駆体中の特定成分の溶出や凝集が生じ、錯化剤の含有量を十分低減できない。錯化剤を多く含んだまま、結晶化工程に進むと、イオン伝導度が低い結晶相が見られ、性能が低下するため錯化剤の含有量を十分に低減することが好ましい。
振動を与える方法としては、加熱及び減圧とすることができれは特に限定されないが、振動乾燥機、ドラム乾燥装置、スクリューコンベア乾燥装置、加熱管付回転乾燥装置又は振動輸送乾燥装置が好ましい。
上述の通り、特定成分の溶出や凝集を防ぐには、粉体に均一に熱を加えることが好ましい。均一に熱を加える方法としては、撹拌等の手法もあるが、撹拌では、粉体に直接エネルギーがかかってしまい、必要以上に熱を加えてしまう危険性がある。その結果、振動乾燥機を用いることがより好ましい。
特に錯分解は短時間で行うことが、ハロゲン原子の不均化を防ぎ、高いイオン伝導度を有する固体電解質を得る観点から好ましく、これを達成するため温度、減圧度及び振動方法を適宜選択し、組み合わせることが好ましい。
錯分解についてより詳細に説明する。
乾燥により得られた電解質前駆体は、錯化剤により錯体結晶を形成している。この錯化剤の役割は、特定の成分を錯体とすることで配位(分散)することにある。
錯分解工程では、錯化剤によって分散した特定成分を凝集させることなく錯化剤を取り除く(分解)ことが重要である。錯分解とは熱を加えることによって錯体構造を分解して錯化剤を取り除くことであるが、特定成分を凝集させることなく錯分解するには、高い真空度が求められる。
圧力が低い状態で熱を加えた場合、その熱は錯体からの錯化剤の分解に使われ、分解により生じる錯化剤に由来するガス(分解ガス)は電解質前駆体の粉体表面や細孔内を通過して抜けていく。一方、圧力が高い状態で熱を加えた場合は、前記ガスが電解質前駆体から抜けにくくなるにしたがって錯化剤も分解されにくくなるが、その間も熱は加えられ続けるため、それまで分解に使われていたエネルギーは特定成分(ハロゲン原子等)の遊離など電解質前駆体構造そのものに影響を与えてしまう。そして、遊離した特定成分は、分解ガスとして抜けられずに粒子表面に吸着してしまった分解ガス分子(極性を持つ)に引き寄せられてしまい凝集する。これらのことから、凝集させず錯分解するためには、与えた熱量に見合った分解ガスを円滑に抜くことが重要であり、円滑な分解ガス除去には高真空である必要がある。
電解質前駆体は錯体であり、デリケートな物質である。よって、熱や機械的な力を加えることは好ましくないが、熱を加えなければ錯分解はできず、機械的に混合しなければ均一に加熱することはできない。
前記した振動乾燥機の利点は、撹拌翼などによる機械的エネルギーを直接加えるのではなく、缶体の振動のさせ方を工夫することで乾燥機内に対流を生じさせ、粉体を均一に加熱できることである。錯分解は熱を加えることで初めて進行するため、粉体に均一に熱を加えることは非常に重要である。このため、振動乾燥機を用いて錯分解することが、高いイオン伝導性を有するガラスセラミックス固体電解質を得ることができるため極めて好ましい。
前記乾燥により得られた前記電解質前駆体を錯分解することによりリチウム原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子を構成成分として含み、LiX錯体(式中、Xは、ハロゲンを表す)の回折ピーク強度Icと標準試料の強度Isとの強度比Ic/Isが0.02以下である非晶性固体電解質、又はLiXの回折ピーク強度Ixとガラスセラミックスの回折ピーク強度Igcとの強度比Ix/Igcが0.5以下であるGC化固体電解質を得る。
非晶性固体電解質における、LiX錯体(式中、Xは、ハロゲンを表す)の回折ピーク強度Icと標準試料の強度Isとの強度比Ic/Isが0.02以下であると、LiX錯体が生じていないか、またはLiX錯体の析出が極めて少ないため、ハロゲンは非晶質に取り込まれ分散しており、一方、強度比Ic/Isが大きいと錯体結晶が多数生じており、ハロゲンが非晶質に取り込まれずに偏在していると考えられる。また、GC化固体電解質におけるLiXの回折ピーク強度Ixとガラスセラミックスの回折ピーク強度Igcとの強度比Ix/Igcが0.5以下であることは、非晶質にハロゲンが取り込まれた結果、LiXの析出が抑えられ、ガラスセラミックスの結晶構造にもハロゲンが取り込まれていることを示している。したがって、本実施形態のような錯分解物とすることで、結晶構造に取り込まれていないハロゲン原子等を減少させることができるため、イオン伝導度を高くすることができ好ましい。
LiX錯体、LiX及びガラスセラミックスの回折ピーク強度は、それぞれ最大ピークの強度を用いる。強度比Ic/Isは、0.01以下がより好ましく、0.05以下がさらに好ましい。強度比Ix/Igcは、0.3以下が好ましく、0.2以下がより好ましく、0.1以下がさらに好ましい。
(非晶性固体電解質)
錯分解により得られる非晶性固体電解質としては、リチウム原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子を含んでおり、代表的なものとしては、例えば、LiS−P−LiI、LiS−P−LiCl、LiS−P−LiBr、LiS−P−LiI−LiBr等の、硫化リチウムと硫化リンとハロゲン化リチウムとから構成される固体電解質;更に酸素原子、珪素原子等の他の原子を含む、例えば、LiS−P−LiO−LiI、LiS−SiS−P−LiI等の固体電解質が好ましく挙げられる。より高いイオン伝導度を得る観点から、LiS−P−LiI、LiS−P−LiCl、LiS−P−LiBr、LiS−P−LiI−LiBr等の、硫化リチウムと硫化リンとハロゲン化リチウムとから構成される固体電解質が好ましい。
非晶性固体電解質を構成する原子の種類は、例えば、ICP発光分光分析装置により確認することができる。
錯分解により得られる非晶性固体電解質が、少なくともLiS−Pを有するものである場合、LiSとPとのモル比は、より高いイオン伝導度を得る観点から、65〜85:15〜35が好ましく、70〜80:20〜30がより好ましく、72〜78:22〜28が更に好ましい。
本実施形態において得られる非晶性固体電解質が、例えば、LiS−P−LiI−LiBrである場合、硫化リチウム及び五硫化二リンの含有量の合計は、60〜95モル%が好ましく、65〜90モル%がより好ましく、70〜85モル%が更に好ましい。また、臭化リチウムとヨウ化リチウムとの合計に対する臭化リチウムの割合は、1〜99モル%が好ましく、20〜90モル%がより好ましく、40〜80モル%が更に好ましく、50〜70モル%が特に好ましい。
錯分解により得られる非晶性固体電解質において、リチウム原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子の配合比(モル比)は、1.0〜1.8:1.0〜2.0:0.1〜0.8:0.01〜0.6が好ましく、1.1〜1.7:1.2〜1.8:0.2〜0.6:0.05〜0.5がより好ましく、1.2〜1.6:1.3〜1.7:0.25〜0.5:0.08〜0.4が更に好ましい。また、ハロゲン原子として、臭素及びヨウ素を併用する場合、リチウム原子、硫黄原子、リン原子、臭素、及びヨウ素の配合比(モル比)は、1.0〜1.8:1.0〜2.0:0.1〜0.8:0.01〜0.3:0.01〜0.3が好ましく、1.1〜1.7:1.2〜1.8:0.2〜0.6:0.02〜0.25:0.02〜0.25がより好ましく、1.2〜1.6:1.3〜1.7:0.25〜0.5:0.03〜0.2:0.03〜0.2がより好ましく、1.35〜1.45:1.4〜1.7:0.3〜0.45:0.04〜0.18:0.04〜0.18が更に好ましい。リチウム原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子の配合比(モル比)を上記範囲内とすることにより、後述するチオリシコンリージョンII型結晶構造を有する、より高いイオン伝導度のガラスセラミックス固体電解質が得られやすくなる。
また、非晶性固体電解質の形状としては、特に制限はないが、例えば、粒子状を挙げることができる。粒子状の非晶性固体電解質の平均粒径(D50)は、例えば、0.01μm〜500μm、0.1〜200μmの範囲内を例示できる。
(ガラスセラミックス固体電解質)
本実施形態により得られるガラスセラミックス固体電解質は、錯分解により、結晶化を同時に行ってガラスセラミックス固体電解質を得てもよく、錯分解により非晶性固体電解質を得た後に、後記する加熱(結晶化)により、ガラスセラミックス固体電解質を得てもよく、錯分解により、一部がガラスセラミックス化した固体電解質を得た後に、更に後記する加熱により、更に結晶化を進めてガラスセラミックス固体電解質としてもよい。本実施形態において、最終生成物として得られる固体電解質は、ガラスセラミックス固体電解質であり、それが得られる過程で生じるガラスセラミックスを含む固体電解質をGC化固体電解質という。また、錯分解後の加熱(結晶化)を行うことなく最終生成物としてのガラスセラミックス固体電解質が得られるときは、ガラスセラミックス固体電解質とGC化固体電解質は同じものである。
本実施形態で得られるガラスセラミックス固体電解質の結晶構造としては、LiPS結晶構造、Li結晶構造、LiPS結晶構造、Li11結晶構造、2θ=20.2°近傍及び23.6°近傍にピークを有する結晶構造(例えば、特開2013−16423号公報)等が挙げられる。
また、Li4−xGe1−x系チオリシコンリージョンII(thio−LISICON Region II)型結晶構造(Kannoら、Journal of The Electrochemical Society,148(7)A742−746(2001)参照)、Li4−xGe1−x系チオリシコンリージョンII(thio−LISICON Region II)型と類似の結晶構造(Solid State Ionics,177(2006),2721−2725参照)等も挙げられる。ガラスセラミックス固体電解質の結晶構造は、より高いイオン伝導度が得られる点で、上記の中でもチオリシコンリージョンII型結晶構造であることが好ましい。ここで、「チオリシコンリージョンII型結晶構造」は、Li4−xGe1−x系チオリシコンリージョンII(thio−LISICON Region II)型結晶構造、Li4−xGe1−x系チオリシコンリージョンII(thio−LISICON Region II)型と類似の結晶構造のいずれかであることを示す。また、ガラスセラミックス固体電解質は、上記チオリシコンリージョンII型結晶構造を有するものであってもよいし、主結晶として有するものであってもよいが、より高いイオン伝導度を得る観点から、主結晶として有するものであることが好ましい。本明細書において、「主結晶として有する」とは、結晶構造のうち対象となる結晶構造の割合が80%以上であることを意味し、90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましい。また、ガラスセラミックス性固体電解質は、より高いイオン伝導度を得る観点から、結晶性LiPS(β-LiPS)を含まないものであることが好ましい。
CuKα線を用いたX線回折測定において、LiPS結晶構造の回折ピークは、例えば2θ=17.5°、18.3°、26.1°、27.3°、30.0°付近に現れ、Li結晶構造の回折ピークは、例えば2θ=16.9°、27.1°、32.5°付近に現れ、LiPS結晶構造の回折ピークは、例えば2θ=15.3°、25.2°、29.6°、31.0°付近に現れ、Li11結晶構造の回折ピークは、例えば2θ=17.8°、18.5°、19.7°、21.8°、23.7°、25.9°、29.6°、30.0°付近に現れ、Li4−xGe1−x系チオリシコンリージョンII(thio−LISICON Region II)型結晶構造の回折ピークは、例えば2θ=20.1°、23.9°、29.5°付近に現れ、Li4−xGe1−x系チオリシコンリージョンII(thio−LISICON Region II)型と類似の結晶構造の回折ピークは、例えば2θ=20.2、23.6°付近に現れる。なお、これらのピーク位置については、±0.5°の範囲内で前後していてもよい。
上記したとおり、本実施形態においてチオリシコンリージョンII型結晶構造が得られる場合には、結晶性LiPS(β-LiPS)を含まないものであることが好ましい。図3に本実施形態の製造方法により得られたガラスセラミックス固体電解質のX線回折測定例を示す。また、図4にガラスセラミックスLiPS(β-LiPS)のX線回折測定例を示す。図3及び図4から把握されるように、本実施形態の固体電解質は、結晶性LiPSに見られる2θ=17.5°、26.1°の回折ピークを有しないか、有している場合であってもチオリシコンリージョンII型結晶構造の回折ピークに比べて極めて小さいピークが検出される程度である。
上記のLiPSの構造骨格を有し、Pの一部をSiで置換してなる組成式Li7−x1−ySi及びLi7+x1−ySi(xは−0.6〜0.6、yは0.1〜0.6)で示される結晶構造は、立方晶又は斜方晶、好ましくは立方晶で、CuKα線を用いたX線回折測定において、主に2θ=15.5°、18.0°、25.0°、30.0°、31.4°、45.3°、47.0°、及び52.0°の位置に現れるピークを有する。上記の組成式Li7−x−2yPS6−x−yCl(0.8≦x≦1.7、0<y≦−0.25x+0.5)で示される結晶構造は、好ましくは立方晶で、CuKα線を用いたX線回折測定において、主に2θ=15.5°、18.0°、25.0°、30.0°、31.4°、45.3°、47.0°、及び52.0°の位置に現れるピークを有する。また、上記の組成式Li7−xPS6−xHa(HaはClもしくはBr、xが好ましくは0.2〜1.8)で示される結晶構造は、好ましくは立方晶で、CuKα線を用いたX線回折測定において、主に2θ=15.5°、18.0°、25.0°、30.0°、31.4°、45.3°、47.0°、及び52.0°の位置に現れるピークを有する。
なお、これらのピーク位置については、±0.5°の範囲内で前後していてもよい。
ガラスセラミックス固体電解質の形状としては、特に制限はないが、例えば、粒子状を挙げることができる。粒子状の結晶性固体電解質の平均粒径(D50)は、例えば、0.01μm〜500μm、0.1〜200μmの範囲内を例示できる。
(加熱(結晶化))
本実施形態は、更に錯分解により得られた非晶性固体電解質を加熱して結晶化することを含んでもよい。また、錯分解により一部がガラスセラミックス化した固体電解質が得られる場合でも、更に結晶化を進行させるために、加熱してもよい。
前記の特許文献4のように、錯分解の後非晶性固体電解質を経由せずに結晶性固体電解質となるものに対して本実施形態は適しない。本実施形態のガラスセラミックスは準安定相であり所定の結晶化温度での加熱を要するのに対し、非晶性固体電解質を経ない安定相の結晶性固体電解質の場合、LiXやLiX錯体が比較的多く生じても、加熱して結晶化すれば均一なものとなり得るし、また非晶性固体電解質にLiXを取り込むことができないため、LiX等の回折ピーク強度を所定の数値以下まで低減することも難しいからである。
ガラスセラミック固体電解質を得るための加熱温度としては、得られるガラスセラミック固体電解質の構造に応じてかわるため一概に規定することはできないが、通常、130℃以上が好ましく、135℃以上がより好ましく、140℃以上が更に好ましく、上限としては特に制限はないが、好ましくは300℃以下、より好ましくは280℃以下、更に好ましくは250℃以下である。
加熱時間は、所望のガラスセラミック固体電解質が得られる時間であれば特に制限されるものではないが、例えば、1分間以上が好ましく、10分以上がより好ましく、30分以上が更に好ましく、1時間以上がより更に好ましい。また、加熱時間の上限は特に制限されるものではないが、24時間以下が好ましく、10時間以下がより好ましく、5時間以下が更に好ましく、3時間以下がより更に好ましい。
また、加熱は、不活性ガス雰囲気(例えば、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気)、または減圧雰囲気(特に真空中)で行なうことが好ましい。ガラスセラミック固体電解質の劣化(例えば、酸化)を防止できるからである。加熱の方法は、特に制限されるものではないが、例えば、撹拌型の乾燥機、ホットプレート、真空加熱装置、アルゴンガス雰囲気炉、焼成炉を用いる方法等を挙げることができ、また、工業的には、加熱手段と送り機構を有する横型乾燥機、横型振動流動乾燥機等を用いることもでき、加熱する処理量に応じて選択すればよいが、造粒を防ぐ観点からPVミキサー等の撹拌型の乾燥機が好ましい。
(非晶性又はガラスセラミック固体電解質の機械的処理)
本実施形態では錯分解後に得られる非晶性又はガラスセラミック固体電解質(以下、この機械的処理の説明において、非晶性又はガラスセラミック固体電解質(非晶性固体電解質の少なくとも一部がガラスセラミック化した固体電解質を含む)を単に固体電解質ということがある。)を機械的処理することも好ましい。機械的処理はレーザー回折式粒度分布測定方法により測定される体積基準の平均粒径が3μm以上、BET法により測定される比表面積が20m/g以上である本実施形態で得られる固体電解質に、解砕及び造粒から選ばれる少なくとも一の機械的処理を行うものであることが好ましい。すなわち、固体電解質の機械的処理は、固体電解質に、解砕及び造粒から選ばれる少なくとも一の機械的処理を行うことを特徴とするものである。
上記の本実施形態の固体電解質を機械的処理することで、容易に従来にはないモルフォロジーを調整する、あるいは所望のモルフォロジーに調整することが可能となり、所望のモルフォロジーを有し、かつイオン伝導度が高い結晶性固体電解質が得られる。また、本実施形態の固体電解質は、粗粒を粉砕して活性の高い新生面が露出した一次粒子とは異なるため、分散剤を用いなくとも解砕によって容易に微粒化できる。
固体電解質の機械的処理の方法としては、解砕及び造粒から選ばれる少なくとも一の処理を含んでいれば特に制限はないが、粉砕機、撹拌機等の装置を用いた方法が挙げられる。
撹拌機としては、上記の、固体電解質の製造方法で用いられ得る装置として例示した、例えば槽内に撹拌翼を備える機械撹拌式混合機が挙げられる。機械撹拌式混合機は、高速撹拌型混合機、双腕型混合機等が挙げられ、いずれのタイプのものも採用できるが、より容易に所望のモルフォロジーを調整する観点から、高速撹拌型混合機が好ましい。高速撹拌型混合機としては、より具体的には、既述のように、垂直軸回転型混合機、水平軸回転型混合機等が挙げられる他、高速旋回薄膜型撹拌機、高速せん断型撹拌機等の各種装置が挙げられる。中でも、より容易に所望のモルフォロジーを調整する観点から、高速旋回薄膜型撹拌機(「薄膜旋回型高速ミキサー」等とも称される。)が好ましい。
固体電解質の機械的処理において用いられ得る粉砕機としては、少なくともレーザー回折式粒度分布測定方法により測定される体積基準の平均粒径が3μm以上、BET法により測定される比表面積が20m/g以上である固体電解質を撹拌し得る回転体を有する粉砕機が挙げられる。
固体電解質の機械的処理においては、粉砕機が有する回転体の周速を調整することにより、固体電解質の解砕(微粒化)及び造粒(粒成長)を調整することができる、すなわち解砕により平均粒径を小さくしたり、造粒により平均粒径を大きくすることができるため、容易に固体電解質結晶性及び本実施検体の結果物である結晶性固体電解質のモルフォロジーを自在に調整することができる。より具体的には、回転体を低周速で回転させることで解砕ができ、回転体を高周速で回転させることで造粒が可能となる。このように、回転体の周速を調整するだけで、容易に固体電解質のモルフォロジーを調整することができる。
回転体の周速について、低周速及び高周速は、例えば粉砕機で使用する媒体の粒径、材質、使用量等によって変わり得るため一概に規定することはできない。例えば、高速旋回薄膜型撹拌機のようにボールやビーズの粉砕媒体を用いない装置の場合には、比較的高周速であっても主として解砕が起こり、造粒は起きにくい。一方、ボールミルやビーズミルのような粉砕媒体を用いる装置の場合には、既述のとおり低周速で解砕でき、高周速で造立が可能となる。したがって、粉砕装置、粉砕媒体等の所定の条件が同じであれば、解砕が可能な周速は、造粒が可能な周速よりも小さい。したがって、例えば、周速6m/sを境に造粒が可能となる条件においては、低周速は6m/s未満であることを意味し、高周速は6m/s以上のことを意味する。
また、粉砕機として、より具体的な装置としては、例えば媒体式粉砕機が挙げられる。媒体式粉砕機は、容器駆動式粉砕機、媒体撹拌式粉砕機に大別される。
容器駆動式粉砕機としては、撹拌槽、粉砕槽、あるいはこれらを組み合わせたボールミル、ビーズミル等が挙げられる。ボールミル、ビーズミルとしては、回転型、転動型、振動型、遊星型等の各種形式のいずれも採用することができる。
また、媒体撹拌式粉砕機としては、カッターミル、ハンマーミル、ピンミル等の衝撃式粉砕機;タワーミルなどの塔型粉砕機;アトライター、アクアマイザー、サンドグラインダー等の撹拌槽型粉砕機;ビスコミル、パールミル等の流通槽型粉砕機;流通管型粉砕機;コボールミル等のアニュラー型粉砕機;連続式のダイナミック型粉砕機;などの各種粉砕機が挙げられる。
固体電解質の機械的処理において、より容易に所望のモルフォロジーを調整する観点から、容器駆動式粉砕機が好ましく、中でもビーズミル、ボールミルが好ましい。ビーズミル、ボールミルといった容器駆動式粉砕機では、機械的処理用前駆体を撹拌し得る回転体として、当該機械的処理用前駆体を収納する撹拌槽、粉砕槽といった容器を備えている。よって、既述のように、当該回転体の周速の調整により、容易に固体電解質のモルフォロジーを調整することができる。
ビーズミル、ボールミルは、使用するビーズ、ボール等の粒径、材質、使用量等を調整することによっても、モルフォロジーを調整することができるため、よりきめの細かいモルフォロジーの調整が可能となり、また従来にはないモルフォロジーを調整することも可能となる。例えば、ビーズミルとしては、遠心分離式のタイプで、極微粒(φ0.015〜1mm程度)のいわゆるマイクロビーズを用いることができるようなタイプ(例えば、ウルトラアペックスミル(UAM)等)も使用できる。
モルフォロジーの調整について、固体電解質に付与するエネルギーを小さくする、すなわち回転体の周速を低くする、あるいはビーズ、ボール等の粒径を小さくするほど、平均粒径は小さくなり(解砕)、比表面積は大きくなる傾向となり、一方、エネルギーを大きくする、すなわち回転体の周速を高くする、あるいはビーズ、ボール等の粒径を大きくするほど、平均粒径は大きくなり(造粒)、比表面積は小さくなる傾向となる。
また、例えば機械的処理の時間を長くするほど平均粒径は大きくなる(造粒)傾向となる。
ビーズミル、ボールミル等に用いられる媒体の粒径としては、所望のモルフォロジーとともに、使用する装置の種類、規模等を考慮して適宜決定すればよいが、通常好ましくは0.01mm以上、より好ましくは0.015mm以上、更に好ましくは0.02mm以上、より更に好ましくは0.04mm以上であり、上限として好ましくは3mm以下、より好ましくは2mm以下、更に好ましくは1mm以下、より更に好ましくは0.8mm以下である。
また媒体の材質としては、例えば、ステンレス、クローム鋼、タングステンカーバイド等の金属;ジルコニア、窒化ケイ素等のセラミックス;メノウ等の鉱物等が挙げられる。
機械的処理の処理時間は、所望のモルフォロジーとともに、使用する装置の種類、規模等を考慮して適宜決定すればよいが、通常好ましくは5秒以上、より好ましくは30秒以上、更に好ましくは3分以上、より更に好ましくは15分以上であり、上限として好ましくは5時間以下、より好ましくは3時間以下、更に好ましくは2時間以下、より更に好ましくは1.5時間以下である。
機械的処理における回転体の周速(ビーズミル、ボールミル等の装置における回転速度)は、所望のモルフォロジーとともに、使用する装置の種類、規模等を考慮して適宜決定すればよいが、通常好ましくは0.5m/s以上、より好ましくは1m/s以上、更に好ましくは2m/s以上、より更に好ましくは3m/s以上であり、上限として好ましくは55m/s以下、より好ましくは40m/s以下、更に好ましくは25m/s以下、より更に好ましくは15m/s以下である。また、周速は同じであってもよいし、途中でかえることもできる。
機械的処理は、溶媒とともに行うことができる。溶媒としては、前記溶媒として例示したものの中から適宜選択して用いることができ、所定の平均粒径及び比表面積とともに、より安定して高いイオン伝導度を得る観点から、脂肪族炭化水素溶媒、脂環族炭化水素溶媒、芳香族炭化水素溶媒、エーテル系溶媒が好ましく、ヘプタン、シクロヘキサン、トルエン、エチルベンゼン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジメトキシエタン、シクロペンチルメチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、アニソールがより好ましく、ヘプタン、トルエン、エチルベンゼンが更に好ましく、ヘプタン、トルエンがより更に好ましい。固体電解質の機械的処理では、錯化剤を用いなくとも解砕により容易に微粒化できる。ただし、より分散を高め、より効率的に微粒化する観点から分散剤を用いてもよい。上記溶媒のうち、例えばエーテル系溶媒は分散剤として機能し得る。
溶媒の使用量は、固体電解質のスラリーに含まれる溶媒との合計量に対する固体電解質の含有量が好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、更に好ましくは5質量%以上、上限として好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは15質量%以下、となるような量とすればよい。
機械的処理は、錯分解後、結晶化前の非晶性固体電解質に行ってもよく、加熱後のガラスセラミック固体電解質に行ってもよい。非晶性固体電解質を機械的処理する場合には、その後結晶化が必要となる。一方、ガラスセラミック固体電解質を機械的処理する場合、ガラスセラミック固体電解質の機械的処理後には結晶化のための熱処理は原則不要である。ただし、機械的処理のエネルギーは比較的小さいものの一部又は全部がガラス化(非晶化)する場合がある。この場合は、再度結晶化(加熱)を行ってもよい。すなわち、本実施形態においては、固体電解質の機械的処理後、加熱することを含んでもよい。また、本実施形態において、加熱することは、機械的処理後だけでなく、当該処理前に行ってもよい。すなわち、本実施形態の処理方法においては、機械的処理用前駆体の機械的処理後、加熱することを含んでもよい。また、本実施形態の処理方法において、加熱することは、機械的処理後だけでなく、当該処理前に行ってもよい。
本実施形態の結晶性固体電解質は、粗粒を粉砕して新生面が露出したような一次粒子とは異なり、化学的に安定な一次粒子が集まったモルフォロジーを有しているため、結晶化における造粒が比較的抑えられる。したがって、従来の粗粒を微粒化する方法に比べてモルフォロジーを調整することが容易である。
本実施形態によれば、所望のモルフォロジーを有する固体電解質を容易に製造することができる。
本実施形態により得られる固体電解質の体積基準の平均粒径は所望に応じて調整し得るものであるが、通常0.05μm以上、好ましくは0.07μm以上、より好ましくは0.1μm以上、更に好ましくは0.15μm以上であり、上限としては通常50μm以下、好ましくは30μm以下、より好ましくは20μm以下、更に好ましくは15μm以下、より更に好ましくは10μm以下である。
また、固体電解質の比表面積も所望に応じて調整し得るものであるが、通常0.1m/g以上、好ましくは0.3m/g以上、より好ましくは0.5m/g以上、更に好ましくは1m/g以上であり、上限としては通常70m/g以下、好ましくは50m/g以下、より好ましくは45m/g以下、更に好ましくは40m/g以下である。
本実施形態により得られるガラスセラミックス固体電解質は、イオン伝導度が高く、優れた電池性能を有しており、また、硫化水素が発生し難いため、電池に好適に用いられる。伝導種としてリチウム原子を採用した場合、特に好適である。本実施形態の固体電解質は、正極層に用いてもよく、負極層に用いてもよく、電解質層に用いてもよい。なお、各層は、公知の方法により製造することができる。
〔正極合材、負極合材〕
例えば、正極層、負極層に用いる場合には、電解質前駆体含有物である電解質前駆体のスラリーに、正極活物質、負極活物質をそれぞれ分散させて混合し、乾燥させることで、活物質表面に電解質前駆体が付着する。さらに上記の実施形態と同様に、電解質前駆体を加熱することで非晶性固体電解質または結晶性固体電解質となる。このときに活物質ととも加熱することで活物質表面に固体電解質が付着した正極合材、または負極合材が得られる。
正極活物質としては、負極活物質との関係で、本実施形態においてイオン伝導度を発現させる原子として好ましく採用されるリチウム原子に起因するリチウムイオンの移動を伴う電池化学反応を促進させ得るものであれば特に制限なく用いることができる。このようなリチウムイオンの挿入脱離が可能な正極活物質としては、酸化物系正極活物質、硫化物系正極活物質等が挙げられる。
酸化物系正極活物質としてはLMO(マンガン酸リチウム)、LCO(コバルト酸リチウム)、NMC(ニッケルマンガンコバルト酸リチウム)、NCA(ニッケルコバルトアルミ酸リチウム)、LNCO(ニッケルコバルト酸リチウム)、オリビン型化合物(LiMeNPO、Me=Fe、Co、Ni、Mn)等のリチウム含有遷移金属複合酸化物が好ましく挙げられる。
硫化物系正極活物質としては、硫化チタン(TiS)、硫化モリブデン(MoS)、硫化鉄(FeS、FeS)、硫化銅(CuS)、硫化ニッケル(Ni)等が挙げられる。
また、上記正極活物質の他、セレン化ニオブ(NbSe)等も使用可能である。
本実施形態において、正極活物質は、一種単独で、又は複数種を組み合わせて用いることが可能である。
負極活物質としては、本実施形態においてイオン伝導度を発現させる原子として好ましく採用される原子、好ましくはリチウム原子と合金を形成し得る金属、その酸化物、当該金属とリチウム原子との合金等の、好ましくはリチウム原子に起因するリチウムイオンの移動を伴う電池化学反応を促進させ得るものであれば特に制限なく用いることができる。このようなリチウムイオンの挿入脱離が可能な負極活物質としては、電池分野において負極活物質として公知のものを制限なく採用することができる。
このような負極活物質としては、例えば、金属リチウム、金属インジウム、金属アルミ、金属ケイ素、金属スズ等の金属リチウム又は金属リチウムと合金を形成し得る金属、これら金属の酸化物、またこれら金属と金属リチウムとの合金等が挙げられる。
本実施形態で用いられる電極活物質は、その表面がコーティングされた、被覆層を有するものであってもよい。
被覆層を形成する材料としては、本実施形態で用いられるガラスセラミックス固体電解質においてイオン伝導度を発現する原子、好ましくはリチウム原子の窒化物、酸化物、又はこれらの複合物等のイオン伝導体が挙げられる。具体的には、窒化リチウム(LiN)、LiGeOを主構造とする、例えばLi4−2xZnGeO等のリシコン型結晶構造を有する伝導体、LiPO型の骨格構造を有する例えばLi4−xGe1−x等のチオリシコン型結晶構造を有する伝導体、La2/3−xLi3xTiO等のペロブスカイト型結晶構造を有する伝導体、LiTi(PO等のNASICON型結晶構造を有する伝導体等が挙げられる。
また、LiTi3−y(0<y<3)、LiTi12(LTO)等のチタン酸リチウム、LiNbO、LiTaO等の周期表の第5族に属する金属の金属酸リチウム、またLiO−B−P系、LiO−B−ZnO系、LiO−Al−SiO−P−TiO系等の酸化物系の伝導体等が挙げられる。
被覆層を有する電極活物質は、例えば電極活物質の表面に、被覆層を形成する材料を構成する各種原子を含む溶液を付着させ、付着後の電極活物質を好ましくは200℃以上400℃以下で焼成することにより得られる。
ここで、各種原子を含む溶液としては、例えばリチウムエトキシド、チタンイソプロポキシド、ニオブイソプロポキシド、タンタルイソプロポキシド等の各種金属のアルコキシドを含む溶液を用いればよい。この場合、溶媒としては、エタノール、ブタノール等のアルコール系溶媒、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒等を用いればよい。
また、上記の付着は、浸漬、スプレーコーティング等により行えばよい。
焼成温度としては、製造効率及び電池性能の向上の観点から、上記200℃以上400℃以下が好ましく、より好ましくは250℃以上390℃以下であり、焼成時間としては、通常1分〜10時間程度であり、好ましくは10分〜4時間である。
被覆層の被覆率としては、電極活物質の表面積を基準として好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは100%、すなわち全面が被覆されていることが好ましい。また、被覆層の厚さは、好ましくは1nm以上、より好ましくは2nm以上であり、上限として好ましくは30nm以下、より好ましくは25nm以下である。
被覆層の厚さは、透過型電子顕微鏡(TEM)による断面観察により、被覆層の厚さを測定することができ、被覆率は、被覆層の厚さと、原子分析値、BET表面積と、から算出することができる。
また、上記電池は、正極層、電解質層及び負極層の他に集電体を使用することが好ましく、集電体は公知のものを用いることができる。例えば、Au、Pt、Al、Ti、又は、Cu等のように、上記の固体電解質と反応するものをAu等で被覆した層が使用できる。
次に実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら制限されるものではない。
(実施例1)
1Lの撹拌翼付き反応槽に、窒素雰囲気下で硫化リチウム13.19g、五硫化二リン21.26g、臭化リチウム4.15g及びヨウ化リチウム6.40gを導入した。これに、錯化剤としてテトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)100mL、溶媒としてシクロヘキサン800mLを加えて、撹拌翼を作動させて、撹拌による混合を行った。循環運転可能なビーズミル(「スターミルLMZ015(型番)」、アシザワ・ファインテック株式会社製)に、ジルコニアボール(直径:0.5mmφ)を456g(粉砕室に対するビーズ充填率:80%)仕込み、上記反応槽と粉砕室との間を、ポンプ流量:550mL/min、周速:8m/s、ミルジャケット温度:20℃の条件で循環させながら、60分の粉砕を行い、電解質前駆体のスラリーを得た。
次いで、得られた電解質前駆体のスラリーを、直ちに減圧下(真空度300Pa以下)で室温(23℃)にて乾燥し、粉末の電解質前駆体を得た。
得られた粉末の電解質前駆体の30gをグローブボックス内で振動乾燥機の缶体(容量:150ml)に充填した。これを真空度100Pa以下とし、粉体温度が110℃になるまで段階的に昇温した。加熱(錯分解)は、振動乾燥機ジャケットに、熱媒ユニットで所定の温度まで加熱した熱媒を循環させることで行った。加熱処理の間、真空度が100Paを超えないように熱媒循環量を調整した。錯分解の終了は、粉温が110℃を超えてから1時間以上経過し、かつ、真空度が加熱開始前の値に戻っていることを判断基準とした。得られた非晶性固体電解質を、減圧下(真空度300Pa以下)で加熱温度200℃にて2時間の加熱(結晶化)を行い、ガラスセラミックス固体電解質を得た。
(実施例2)
実施例1で得られた粉末の電解質前駆体の30gをグローブボックス内で振動乾燥機の缶体(容量:150ml)に充填した。これを真空度300Pa以下とし、粉体温度が110℃になるまで段階的に昇温した。真空度300Paは、真空ポンプの吸い込み口に導入するN量を調整することで維持した。加熱(錯分解)は、振動乾燥機ジャケットに、熱媒ユニットで所定の温度まだ加熱した熱媒を循環させることで行った。錯分解の終了は、粉温が110℃を超えてから2時間以上経過していることを判断基準とした。得られた非晶性固体電解質を、減圧下(真空度300Pa以下)で加熱温度200℃にて2時間の加熱(結晶化)を行い、ガラスセラミックス固体電解質を得た。
(比較例1)
実施例1で得られた粉末の電解質前駆体の20gをグローブボックス内でガラスシュレンク瓶(容量:500ml)に充填した。これを真空度300Paとし、シュレンク瓶を撹拌を行うことなく、静置した状態で110℃にて4時間加熱(錯分解)を行った。得られた非晶性固体電解質を、減圧下(真空度300Pa以下)で加熱温度200℃にて2時間の加熱(結晶化)を行い、ガラスセラミックス固体電解質を得た。
(比較例2)
実施例1で得られた粉末の電解質前駆体の20gをグローブボックス内で撹拌子入りガラスシュレンク瓶(容量:500ml)に充填した。これを真空度1000Paとし、撹拌子を回転させながら、110℃にて4時間加熱(錯分解)を行った。得られた非晶性固体電解質を、減圧下(真空度300Pa以下)で加熱温度200℃にて2時間の加熱(結晶化)を行い、ガラスセラミックス固体電解質を得た。
(比較例3)
実施例1で得られた粉末の電解質前駆体の20gをグローブボックス内で撹拌子入りガラスシュレンク瓶(容量:500ml)に充填した。これを真空度1000Paとし、撹拌子を回転させながら、110℃にて20時間加熱(錯分解)を行い、非晶性固体電解質を得た。
(比較例4)
1Lの撹拌翼付き反応槽に、窒素雰囲気下で硫化リチウム15.3g、五硫化二リン24.7gを添加した。撹拌翼を作動させた後、予め−20℃に冷却したテトラヒドロフラン400mLを容器に導入した。室温(23℃)まで自然昇温させた後、72時間撹拌を継続し、得られた反応液スラリーをガラスフィルター(ポアサイズ:40〜100μm)に投入して固形分を得た後、固形分を90℃で乾燥させることにより、白色粉末としてLiPS(純度:90質量%)を38g得た。得られた粉末について、XRDパターンの結果から、ハローパターンを示し、非晶性のLiPSであることが確認された。得られたLiPSは、錯化剤を構成成分として含まないものである。
撹拌子入りシュレンク(容量:100mL)に、窒素雰囲気下、前記の非晶性のLiPSとヨウ化リチウムを、モル比でLiPS:LiIが1:1となるように合計2.0g秤量し、導入した。撹拌子を回転させた後、錯化剤のDME20mLを加えた。3日間を継続した後、50℃で乾燥(室温:23℃)して粉末を得た。更に、得られた粉末を真空下で100℃で加熱を2時間行った。
(錯化剤含有量)
実施例1、2、比較例1、2で得られた粉末の電解質前駆体、結晶性固体電解質、比較例3で得られた非晶性固体電解質の一部をメタノールに溶解させて、得られたメタノール溶液のガスクロマトグラフィー分析を行い、テトラメチルエチレンジアミン(錯化剤)の含有量を測定した。その結果を表1に示す。
Figure 2021190427
(結晶構造)
実施例1で得られた電解質前駆体、非晶性固体電解質及びガラスセラミックス固体電解質について、X線回折(XRD)装置(D2 PHASER、ブルカー(株)製)を用いて粉末X線回折(XRD)測定を行い、X線回折スペクトルを図3に示すが、ともにチオリシコンリージョンII型結晶構造を含むことが確認された。
本実施例測定にてX線回折(XRD)測定は以下の通り実施した。
各例での固体電解質の粉末を、直径20mm、深さ0.2mmの溝にガラスで摺り切り試料とした。この試料を、XRD用カプトンフィルムで空気に触れさせずに測定した。
上記の粉末X線回折測定装置を用いて以下の条件にて実施した。
管電圧:30kV
管電流:10mA
X線波長:Cu−Kα線(1.5418Å)
光学系:集中法
スリット構成:ソーラースリット4°、発散スリット1mm、Kβフィルター(Ni板)使用
検出器:半導体検出器
測定範囲:2θ=10−60deg
ステップ幅、スキャンスピード:0.05deg、0.05deg/sec
ピーク強度については、以下の方法により算出した。
半値幅の計算は最大ピーク±0.5°の範囲を用いる。ローレンツ関数の割合をA(0≦A≦1)、バックグラウンドを補正したピーク強度をB、2θ最大ピークをC、計算に使用する範囲(C±0.5°)のピーク位置をD、半値幅パラメータをE、バックグラウンドをF、計算に使用するピーク範囲の各ピーク強度をGとすると、変数をA、B、C、D、E、Fとした際に、各ピーク位置ごとに以下を計算する。
H=G−{B×{A/(1+(D−C)2/E2)+(1−A)×exp(−1×(D−C)2/E2)}+F}
計算する上記ピークC±0.5°範囲内でHを合計し、合計値を表計算ソフトエクセル(マイクロソフト)のソルバー機能でGRG非線形で最小化して、ピーク強度を求めた。なお、標準試料のピークは、Siの(111)面を示す28.6°のピークを採用した。ピーク強度Isは353894であった。
電解質前駆体のX線回折スペクトル(図1)では使用した原料由来のピークとは異なるピークが観測され、非晶性固体電解質、ガラスセラミックス固体電解質(図4及び5)とも異なるX線回折パターンを示した。また、各実施例で用いた原料(非晶性LiPS、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、硫化リチウム、五硫化二リン、結晶性LiPS)についても、粉末X線回折(XRD)測定を行い、そのX線回折スペクトルを図6に示す。電解質前駆体のX線回折スペクトルは、原料のX線回折スペクトルとも異なるX線回折パターンを示した。
実施例1で得られた非晶性固体電解質のX線回折スペクトルでは原料由来のピーク以外ピークがないブロードなパターンを有することが確認された。また、ガラスセラミックス固体電解質のX線回折スペクトルでは主に2θ=20.2°、23.6°に結晶化ピークが検出され、チオリシコンリージョンII型結晶構造を有しており、イオン伝導度を測定したところ、4.1×10−3(S/cm)であり、高いイオン伝導度を有していることが確認された。
実施例1の非晶性固体電解質のX線回折スペクトルにおいて、2θ=12.4°にLiX錯体のピークがわずかに観測されている。このピークのピーク強度Icと標準試料試料の2θ=28.6°のピーク 強度Isとの強度比Ic/Isを求めたところ0.0045であった。また、結晶化後のガラスセラミックス固体電解質のLiXの回折ピーク強度Ix(2θ=28.3、LiBr)とガラスセラミックスの回折ピーク強度Igcとの強度比Ix/Igcを求めたところ0.08であった。したがって、仮に錯分解により結晶化後と同じようなGC化固体電解質が得られたとしてもLiXの溶出や凝集は生じていないことがわかる。なお、図4における2θ=12°、20°、23°付近のピークはLiX錯体のピークであり、結晶化後に現れるガラスセラミックスの2θ=20.2°、23.6°のピークとは異なるものである。
Figure 2021190427
Figure 2021190427
一方、比較例で得られた非晶性固体電解質のX線回折スペクトルでは強度比Ic/Isは、実施例よりも大きくなった。これは、錯分解時にハロゲンの溶出や凝集に起因するものと考えられる。さらに比較例1の結晶性固体電解質では、臭化リチウムに由来するピークが明瞭に確認された。さらに、比較例2においては、結晶性LiPSやLiに由来するピークが観測され、イオン伝導度は低い値であった。なお、比較例3については、錯分解の時間を延ばしたものの、比較例2と同等の非晶性固体電解質が得られたため、結晶化を行わなかった。なお、上記の実施例では、錯分解によりGC化固体電解質は得られていない。ただし、仮に錯分解後に得られるGC化固体電解質が、比較例1〜3で得られたガラスセラミック固体電解質であったとすると、これを熱処理により結晶化を進めたとしても高イオン伝導度のガラスセラミックス固体電解質は得られない。LiXのピークがガラスセラミックスのピークよりも大きくなっていることからもわかるようにLiXの凝集が生じているためである。比較例4で得られた固体電解質については、2θ=26°、29°にヨウ化リチウムに由来するピークが明瞭に確認された(図7)。
(イオン伝導度)
実施例1、2及び比較例1、2、4で得られた固体電解質のイオン伝導度の測定は、以下のようにして行った。
得られた固体電解質から、直径10mm(断面積S:0.785cm)、高さ(L)0.1〜0.3cmの円形ペレットを成形して試料とした。その試料の上下から電極端子を取り、25℃において交流インピーダンス法により測定し(周波数範囲:5MHz〜0.5Hz、振幅:10mV)、Cole−Coleプロットを得た。高周波側領域に観測される円弧の右端付近で、−Z’’(Ω)が最小となる点での実数部Z’(Ω)を電解質のバルク抵抗R(Ω)とし、以下式に従い、イオン伝導度σ(S/cm)を計算した。
R=ρ(L/S)
σ=1/ρ
得られたイオン伝導度σを表2に示す。
Figure 2021190427
実施例では、高いイオン伝導度を有するガラスセラミックス固体電解質が得られた。一方、振動を加えなかった比較例1、振動ではなく撹拌を加えたものの真空度を1000Pa未満としなかった比較例2では、本願所定の錯分解物が得られず、実施例のような高いイオン伝導度を有する固体電解質が得られなかった。また、比較例4のように固体電解質(非晶性のLiPS)とハロゲン化リチウムを錯化剤とともに混合し、また、非晶性又はガラスセラミックス固体電解質を経ずに得られた結晶性固体電解質はヨウ化リチウムを含むため、イオン伝導度が実施例の固体電解質と比較して、低いものとなった。
本実施形態によれば、イオン伝導度が高く、電池性能に優れ、硫化水素の発生を抑制するガラスセラミックス固体電解質を製造することができる。本実施形態の製造方法により得られるガラスセラミックス固体電解質は、電池に、とりわけ、パソコン、ビデオカメラ、及び携帯電話等の情報関連機器や通信機器等に用いられる電池に好適に用いられる。

Claims (16)

  1. ガラスセラミックス固体電解質の製造方法であって、
    リチウム原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子を含む原料含有物と、錯化剤とを混合し、前記錯化剤、リチウム原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子を構成成分として含む錯体結晶を含む電解質前駆体のスラリーを得ること、
    前記電解質前駆体のスラリーを乾燥すること、
    前記乾燥により得られた前記電解質前駆体を錯分解することにより、LiX錯体(式中、Xは、ハロゲンを表す)の回折ピーク強度Icと標準試料の強度Isとの強度比Ic/Isが0.02以下である非晶性固体電解質、又は、LiXの回折ピーク強度Ixとガラスセラミックスの回折ピーク強度Igcとの強度比Ix/Igcが0.5以下であるGC化固体電解質を得ること、を含むガラスセラミックス固体電解質の製造方法。
  2. 前記乾燥が、液体である前記錯化剤を除去することを含む請求項1に記載のガラスセラミックス固体電解質の製造方法。
  3. 前記錯分解が、前記錯体結晶の構成成分である前記錯化剤を除去することを含む請求項1又は2に記載のガラスセラミックス固体電解質の製造方法。
  4. 更に、加熱することを含む請求項1〜3のいずれか1項に記載のガラスセラミックス固体電解質の製造方法。
  5. 前記錯分解後、前記非晶性固体電解質、又は前記GC化固体電解質に、解砕及び造粒から選ばれる少なくとも一の機械的処理をする請求項1〜4のいずれか1項に記載のガラスセラミックス固体電解質の製造方法。
  6. 前記錯分解により、前記非晶性固体電解質、又は前記GC化固体電解質に含まれる前記錯化剤量を15質量%以下にする請求項1〜5のいずれか1項に記載のガラスセラミックス固体電解質の製造方法。
  7. 前記錯分解において、振動乾燥機を用いる請求項1〜6のいずれか1項に記載のガラスセラミックス固体電解質の製造方法。
  8. 前記乾燥が、媒体を用いた流動乾燥である請求項1〜7のいずれか1項に記載のガラスセラミックス固体電解質の製造方法。
  9. 原料含有物として、硫化リチウム、ハロゲン化リチウム、硫化リン、ハロゲン化リン、ハロゲン化チオホスホリル及びハロゲン分子から選ばれる少なくとも1種を含有する請求項1〜8のいずれか1項に記載のガラスセラミックス固体電解質の製造方法。
  10. 前記電解質前駆体のスラリーが更に溶媒を含有し、前記溶媒として、前記原料含有物、前記錯化剤及び前記電解質前駆体を溶解しない溶媒を含む請求項1〜9のいずれか1項に記載のガラスセラミックス固体電解質の製造方法。
  11. 前記原料含有物の合計の質量1gに対し前記溶媒を5〜50mL用いる請求項10に記載のガラスセラミックス固体電解質の製造方法。
  12. 前記錯化剤が、ヘテロ原子を有する化合物を含む請求項1〜11のいずれか1項に記載のガラスセラミックス固体電解質の製造方法。
  13. 前記錯化剤が、アミノ基を有する化合物を含む請求項1〜12のいずれか1項に記載のガラスセラミックス固体電解質の製造方法。
  14. 前記錯化剤が、分子中に少なくとも二つの第三級アミノ基を有する化合物を含む請求項1〜13のいずれか1項に記載のガラスセラミックス固体電解質の製造方法。
  15. 前記固体電解質が、チオリシコンリージョンII型結晶構造を含む請求項1〜14のいずれか1項に記載のガラスセラミックス固体電解質の製造方法。
  16. 前記固体電解質が、CuKα線を用いたX線回折測定において、結晶性LiPSに該当する2θ=17.5°、26.1°の回折ピークを有しない請求項1〜15のいずれか1項に記載のガラスセラミックス固体電解質の製造方法。
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