JP2021181970A - Ae波検出装置、腐食検知システム、および構造物の腐食検知方法 - Google Patents

Ae波検出装置、腐食検知システム、および構造物の腐食検知方法 Download PDF

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Abstract

【課題】鋼製の構造物に対する腐食の程度の把握を、より簡便に行う。【解決手段】本発明のAE波検出装置10は、鋼製の構造物の測定部位に加熱と冷却との繰り返しである環境ストレスを付与する電圧調整器16および熱源13と、鋼製の構造物に設置され、環境ストレスが付与された測定部位からのAE波を検知するAEセンサ11と、AEセンサ11により検知されたAE波に関する情報を出力する出力部23と、を備えた。【選択図】図2

Description

本発明は、AE波検出装置、腐食検知システム、および構造物の腐食検知方法に関する。
非特許文献1では、貯槽タンク底板の腐食程度を把握するに際し、大気さびの成長や破壊によってアコースティック・エミション(AE)が発生するのか、またAE信号が検出されればどのような周波数成分と振幅の波動として検出されるのかを、ラム波(板波)AE信号と水中縦波の解析によって検討している。
非特許文献2では、ラム波AE信号を監視することにより、円筒形タンクの下部プレートの腐食の調査結果が示されている。より詳しくは、AE信号により特定された腐食ゾーンが、超音波テストによって検出された壁の減少ゾーンとよく一致していることを明らかにすることにより、円筒形タンクからのAE信号を監視することで腐食ゾーンの正確な位置を把握している。
大気さびの成長・破壊によるアコースティック・エミッション,竹本幹男,Zairyo-to-Kankyo, 51, p.256-261 (2002) MIKIO TAKEMOTO, HIDEO CHO and HIROAKI SUZUKI, LAMB-WAVE ACOUSTIC EMISSION FOR CONDITION MONITORING OF TANK BOTTOM PLATES, J. Acoustic Emission, 24,p.12 (2006)
近年、構造物の高経年化による損傷は、内外国において大きな問題となっている。なかでも、鋼製の構造物における腐食による劣化・事故の事例が数多く報告されている。例えば、橋梁などの構造物の検査には、目視検査や打音検査などが行われているが、これには多大な時間と労力がかかる。また、検査結果が点検者の技量や練度に依存してしまうために客観的な点検を行うことが困難である。
このような鋼製の構造物の損傷を把握するために、従来、アコースティック・エミッション(AE)法によって進行性腐食を検知する技術が存在していた。ここでは、検出したAE波を解析することにより、腐食の有無と、その位置とを推定することを可能としている。しかしながら、この従来の方法では、腐食の有無、および位置を推定することは可能であったが、検出された腐食が、問題となる段階のものか否かが判断できず、維持管理や安全管理に際して十分に利用できるものではなかった。
一方で、腐食により減肉が生じると、その減肉を埋めるように腐食生成物が成長して埋まっていく。このとき、腐食が減肉の上方で割れた場合と、減肉の底の方で割れた場合とで出てくるAE波の信号が変わってしまう。減肉の底の方で割れた場合の信号を取得する必要があるが、腐食がどこで発生するか、は確率の問題となるので、深いところで割れるまで待つことが必要となる。そのために、解析に必要なAE波の信号を得るためには、長期間にわたり常時の計測が必要となり、実際の現場への適用に際して経済的な課題があった。
本発明は、本構成を採用しない場合に比べて、鋼製の構造物に対する腐食の程度の把握をより簡便に行うことを目的とする。
請求項1に記載された発明は、板状または管状からなる鋼製の構造物の所定箇所に環境ストレスを付与する付与手段と、前記構造物に設置され、前記環境ストレスが付与された前記所定箇所からのAE波を検知するAEセンサと、前記AEセンサにより検知されたAE波に関する情報を出力する出力手段と、を備えたことを特徴とするAE波検出装置である。
請求項2に記載された発明は、前記付与手段により付与される前記環境ストレスは、加熱と冷却との繰り返しであることを特徴とする請求項1記載のAE波検出装置である。
請求項3に記載された発明は、板状または管状からなる鋼製の構造物に設置されたAEセンサから、当該構造物の環境ストレスが付与された所定箇所からのAE波を取得するAE波取得手段と、取得した前記AE波から前記構造物の腐食の程度に関する情報を出力する出力手段と、を備えたことを特徴とする腐食検知システムである。
請求項4に記載された発明は、前記AE波取得手段は、気温差または前記構造物の温度差により誘発される前記所定箇所からのAE波を取得することを特徴とする請求項3記載の腐食検知システムである。
請求項5に記載された発明は、前記AE波取得手段は、前記所定箇所に対し前記環境ストレスとして加熱と冷却との繰り返しを付与したときのAE波を取得することを特徴とする請求項3記載の腐食検知システムである。
請求項6に記載された発明は、前記AE波取得手段から取得した前記AE波から伝播モードを分析する伝播モード分析手段、を更に備え、前記出力手段は、分析した前記伝播モードより得られた前記構造物の腐食の程度に関する情報を出力することを特徴とする請求項3記載の腐食検知システムである。
請求項7に記載された発明は、前記AE波取得手段から取得した前記AE波から対称モードおよび非対称モードを含む伝播モードの強さを把握する強さ把握手段、を更に備え、前記出力手段は、把握した前記伝播モードの強さを用いて得られた前記構造物の腐食の程度に関する情報を出力することを特徴とする請求項3記載の腐食検知システムである。
請求項8に記載された発明は、前記腐食の程度に関する情報は、腐食の減肉量または減肉率をユーザが判断できる情報であること、を特徴とする請求項3乃至7何れか1項記載の腐食検知システムである。
請求項9に記載された発明は、板状または管状からなる鋼製の構造物に設置されたAEセンサから、当該構造物の環境ストレスが付与された所定箇所からのAE波を取得し、取得した前記AE波から前記構造物の腐食の程度に関する情報を出力する、ことを特徴とする構造物の腐食検知方法である。
請求項10に記載された発明は、板状または管状からなる鋼製の構造物の腐食により発生するAE波の対称モードおよび非対称モードを含む伝播モードと当該構造物の腐食の深さとの関係を記憶し、前記構造物に設置されたAEセンサから当該構造物の環境ストレスが付与された所定箇所からの検出AE波を取得し、取得した前記検出AE波に含まれる対称モードおよび非対称モードを含む伝播モードを取り出し、取り出した前記伝播モードを、記憶された前記関係に当てはめ、前記検出AE波の元となった前記構造物の腐食の深さを把握する、ことを特徴とする構造物の腐食検知方法である。
本発明によれば、本構成を採用しない場合に比べて、鋼製の構造物に対する腐食の程度の把握をより簡便に行うことができる。
本実施の形態が適用される信号処理システムのシステム構成を示す図である。 本実施の形態が適用されるAE波検出装置の機能構成を説明するための図である。 (A),(B)は、AE波検出装置にて行われるAE波検出処理を示すフローチャートである。 本実施の形態が適用される信号処理装置の機能構成を示す図である。 (A)〜(C)は、減肉量とAE波との関係を説明するための図である。 判定情報記憶部に記憶された判定情報の一例を示した図である。 (A),(B)は、腐食程度判定部によって行われる判定処理の一例を示した図である。 信号処理装置にて実行される構造物の腐食検知方法を示すフローチャートである。 サーバを用いて構造物の腐食検知処理を行う機能構成を示す図である。 サーバにて行われる構造物の腐食検知方法を示すフローチャートである。 (A),(B)は、本実施の形態が適用された場合の効果を説明するための図である。
〔信号処理システムのハードウェア構成〕
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、本実施の形態が適用される信号処理システム1のシステム構成を示す図である。
信号処理システム1は、配管などの鋼管や鉄橋などの鋼板の、錆などによる腐食や亀裂の状態を検知する腐食検知システムとして機能する。この信号処理システム1は、鋼管や鋼板などの鋼製の構造物に設置されるAE波検出装置10と、このAE波検出装置10からの信号を処理する信号処理装置30とを有している。また、信号処理装置30とネットワーク90を介して接続され、腐食の状態を判断するとともに、信号処理システム1の全体を制御するサーバ50を備えている。さらに、ネットワーク90を介して構造物の腐食の状態に関する情報を取得するユーザ端末70を備えている。信号処理装置30およびサーバ50は、各々、単体の装置として、本件の腐食検知システムの一例として機能する場合がある。AE波検出装置10が設置される鋼製の構造物の形状は、板状や管状であり、その厚さは10mm以下、好ましくは3mm〜8mm程度である。
本実施の形態で用いられるAE(Acoustic Emission:アコースティック・エミッション)法は、構造物の内部で発生する微小な変形や破壊によって生じる弾性波を検出し,非破壊的に損傷をモニタリングすることが可能な非破壊検査法である。AE波検出装置10では、構造物の腐食、例えば錆がボロッと落ちる際に発生する弾性波を検出し、AE信号に変換されたAE波に関する情報を出力する。
信号処理装置30は、AE波取得手段の1つとして機能しAE波検出装置10から出力されるAE波を取得する情報取得部31を備えている。この情報取得部31は、AE波検出装置10から出力される環境ストレス情報を取得する機能も有する。また、取得したAE波の解析など、各種処理を行う処理部32と、取得したAE波を記憶する記憶部33と、外部装置に情報を出力する通信部34とを有している。通信部34からは、例えば、AEの波形データや、解析に必要な特徴量、または解析完了後の判定結果、を送信するように構成することができる。
また、例えば信号処理装置30がサーバ50を用いず腐食検知システムの1つとして機能するような場合には、ユーザが腐食の深さなどの腐食の程度を把握できる情報を信号処理装置30が自ら出力する態様となる。その際には、信号処理装置30は、処理部32による処理と共に腐食の程度を把握できる情報を生成する出力情報生成部35と、生成された出力情報をユーザに対して出力する、例えばディスプレイなどからなる出力部36とを有する。なお、信号処理装置30が腐食検知システムとして機能するような場合には、記憶部33には、出力情報を生成するために用いられる情報も記憶される。ここで、弾性波の伝播モードには、対称モードと非対称モードの2種類がある。記憶される情報は、AE波の対称モードと非対称モードの弾性波の伝播モードと構造物の腐食の深さとの関係を示す情報であり、この情報としては、後述するような、予め実験によって得た、減肉量とSモードのウェーブレット係数強度との関係式、減肉率とL/F強度比の関係式などがある。
サーバ50は、通信部51と、情報取得部52と、処理部53と、記憶部54と、出力情報生成部55と、出力部56とを有する。通信部51は、ネットワーク90を介して情報を送受信する。情報取得部52は、通信部51にて受信した信号処理装置30からのAE波に関する情報や、環境ストレス情報を取得する。処理部53は、情報取得部52にて取得したAE波に関する情報から構造物の腐食の程度に関する情報を生成する処理を行う。記憶部54は、情報取得部52にて取得した情報や処理部53にて処理された情報を記憶する。出力情報生成部55は、ユーザに対して提供する出力情報を生成する。出力部56は、出力情報生成部55にて生成された出力情報をユーザに対して出力する。出力情報生成部55にて生成された出力情報は、通信部51を介してユーザ端末70に対して提供することができる。出力手段の1つとして機能する出力部36,56、ユーザ端末70では、構造物の腐食の程度に関する情報として、腐食の減肉量または減肉率をユーザが判断できる情報が出力される。例えば、減肉量である深さ(mm)や、管状部材の肉厚に対する腐食部の深さ(減肉量)の割合である減肉率(%)などを、具体的な数値や、図表などで表現して出力する。
信号処理装置30やサーバ50、ユーザ端末70は、例えばデスクトップPCやノートPCなどであるコンピュータ装置で構成され、図1に示すシステムを構成する。これらの装置では、装置全体を制御するCPU(Central Processing Unit)、演算に際して作業エリアとして用いられるRAM(Random Access Memory)などのメモリ、プログラムや各種設定データなどの記憶に用いられるHDD(Hard Disk Drive)や半導体メモリ等の記憶装置を有している。また、ネットワークを介してデータの送受信を行うインタフェース機能や、ユーザからの入力操作を受け付けるキーボード、ポインティングデバイス、タッチパネル、ユーザに対して画像やテキスト情報などを表示する液晶ディスプレイなどを有している。
〔AE波検出装置10の機能構成〕
まず、AE波検出装置10の機能構成について説明する。
図2は、本実施の形態が適用されるAE波検出装置10の機能構成を示した図である。AE波検出装置10は、構造物の腐食により発生するAE波を電気信号(AE信号)に変換して出力するAEセンサ11と、AEセンサ11から出力された微弱なAE信号を増幅するプリアンプ(増幅器)12とを備えている。また、構造物の腐食が発生した箇所である腐食部に対して環境ストレスを付与する付与手段の一つである熱源13と、熱源13を構造物に固定する固定部14とを備えている。また、構造物に取り付けられ、熱源13が備えられた近傍の構造物の表面温度を測定する温度センサ15を備えている。
また、AE波検出装置10は、温度センサ15からの出力から熱源13のON/OFFを制御する電圧調整器16と、温度センサ15の出力から測定部位の温度の変化を記録するデータ記録計(データロガー:Data logger)17とを備えている。さらに、AE波検出装置10の全体を制御する制御部20と、朝夕の気温変化などの変化情報を取得する変化情報取得部21とを有する。さらに、プリアンプ12の起動制御など、出力情報を制御する出力情報制御部22と、出力情報を信号処理装置30に向けて出力する出力部23とを有する。
AEセンサ11は、圧電素子の圧電効果を利用してAE波を電気信号に変換しているが、この圧電素子は、AE波の伝播による微小なひずみを検出するために、変換能力の高い、例えば圧電セラミックスなどが用いられる。本実施の形態では、一つのAE波検出装置10に、管状部材である鋼製の構造物に対してAEセンサ11を複数個(少なくとも2つ以上)設けている。本実施の形態では、測定部位に熱源13による環境ストレスを付与しているが、他の箇所からもAE波が発生する可能性がある。そのため、距離を置いて少なくとも2つのAEセンサ11を配置し、これらのAEセンサ11にて取得されたAE波が、注目している測定部位からのものか否かを、例えば信号処理装置30にて判断可能としている。また、図2に示す機能構成では、AEセンサ11からそれぞれ出力された微弱なAE信号を増幅するプリアンプ(増幅器)12が設けられている。プリアンプ12からの出力は、出力情報制御部22を経てAE波の解析等を行う信号処理装置30に提供される。
熱源13は、例えば赤外線ランプが用いられ、電圧調整器16の制御により、予め定められた時間ONすることにより測定部位である所定箇所を加熱し、予め定められた時間OFFすることにより測定部位を自然冷却させる。これにより構造物に対して温度差を形成し、錆割れを誘発してAE波の発生を促す。ここで「所定箇所」としては、「腐食発生箇所」や「腐食発生が予測される箇所」、「腐食発生が疑われる箇所」などが挙げられる。なお、熱源13としては、温度制御が可能なもので、非接触で測定部位の加熱と冷却とを繰り返すことができるものが選定される。サイクル加熱を行う熱源13としては、遠赤外線ヒータ、ハロゲンヒータ、高周波誘導、温風、トーチなどを用いることができる。固定部14は、例えばベルトやマグネットなどで構造物に熱源13を固定する。温度センサ15も含めて構造物に取り付けるように構成することもできる。このとき、熱源13は構造物に非接触となるように取り付けられるが、温度センサ15は構造物にて、熱源13からの熱を直接受けない位置に取り付けられる。温度センサ15は、例えば、検出素子に熱電対が用いられ、例えばマグネットなどを用いて構造物に取り付けられる。図2に示す例では、1つの測定部位に対して2つの温度センサ15が設けられている。その1つは、熱源13のON/OFF制御に際して用いられるものであり、他の1つは、測定部位の温度(測定部位の近傍箇所の温度)の変化をデータ記録計17にて記録する際に用いられるものである。電圧調整器16は、熱源13による加熱温度を一定に保持し、腐食箇所である測定部位を、例えば30分間加熱した後、60分間冷却する、といったような熱サイクルで加熱制御を行う。
制御部20は、電圧調整器16やデータ記録計17、変化情報取得部21や出力情報制御部22などの各種機能部を制御する。変化情報取得部21は、例えばタイマ機能や温度センサ、湿度センサなどを備え、朝夕のタイミングなど、環境ストレスの発生状況を把握する。変化情報取得部21は、熱源13のON/OFFによる環境ストレスに加えて、またはこの熱源13のON/OFFとは別個に、測定部位に環境ストレスが付与されていることを認識し、認識された情報である変化情報を、制御部20に出力している。ここで「環境ストレス」とは、気温や湿度などの各種環境の乱れであり、熱源13のON/OFFによる加熱と自然冷却の繰り返し、熱源13による断続的な加熱、気温差が一日のうちで他より大きい朝や夕方などが一例である。気温差としては、一例として−10℃から40℃程度の範囲における気温の変化を対象としているが、これに限られるものではない。冷却としては、自然冷却、雨などの水等による冷却などが考えられるが、各種冷却装置により強制冷却を行っても良い。「環境ストレス」の他の例としては、外部から入力する弾性波や、車両等の通行や風といった外力により生じる歪みなどもある。これらの環境ストレスによる錆割れの誘発からのAE波を取得する。
〔AE波検出装置10の処理〕
次に、AE波検出装置10にて行われるAE波の検出処理について説明する。
図3(A),(B)は、AE波検出装置10にて行われるAE波検出処理を示すフローチャートである。図3(A)は、第1の処理として、制御部20の制御のもと、電圧調整器16および熱源13により測定部位に対して環境ストレスを付与した際の検出処理を示している。また、図3(B)は、第2の処理として、変化情報取得部21にて取得された環境ストレスの情報をもとに行われる検出処理を示している。
図3(A)に示す第1の処理では、まず、構造物の測定部位に対し、熱源13を用いて環境ストレスを施す(ステップ101)。より詳しくは、AE波検出装置10の制御部20による制御のもと、電圧調整器16は、熱源13のON/OFFを行うことにより、測定部位に環境ストレスを施す。この環境ストレスは、例えば、予め定められた時間として例えば30分間、熱源13をONして加熱し、予め定められた時間として例えば60分間、熱源13をOFFして冷却することで形成される。データ記録計17は、制御部20による制御の下、温度センサ15からの出力により、測定部位の温度変化を記録する(ステップ102)。ここで「測定部位の温度変化」は、温度センサ15の配置を考え、測定部位の周囲における温度で代用されるものである。そして、腐食の発生を待機し、腐食発生箇所からのAE波をAEセンサ11により取得する(ステップ103)。そして、検知されプリアンプ12により増幅されたAE波と、データ記録計17により記録された環境ストレス情報とを、出力情報制御部22および出力部23を介して、信号処理装置30に出力する(ステップ104)。以上により、AE波検出の第1の処理が終了する。
図3(B)に示す第2の処理では、まず、制御部20は、変化情報取得部21から変化情報を取得する(ステップ111)。例えば、一般的に気温変化が激しい朝の時間や夕方の時間など、変化情報取得部21が有する時計・暦情報を用いて環境の変化を把握する。また例えば、変化情報取得部21が、外部から取得した環境情報などから、構造物が存在する近隣において、比較的激しい温度変化が予想される環境の変化を把握する。そして、制御部20は、変化情報取得部21から取得した変化情報を受け、測定部位に環境ストレスが付与されているか否かを判断する(ステップ112)。この判断は、例えば、制御部20が温度センサ15を介してデータ記録計17から構造物の温度状況を把握すること等によって行われる。例えば、構造物自身の温度差が例えば1時間で3℃を「予め定められた値」とし、それ以上の変化があるときを、環境ストレスが付与されているときとする等である。また、例えば、図示しない温度センサや、外部から取得した環境情報により、構造物の周囲の気温差が、例えば1時間で2℃を「予め定められた値」とし、それ以上の変化があるときを、環境ストレスが付与されているとき、とする等である。このような内容にて、環境ストレスが付与されていないと判断される場合には(ステップ112でNO)、ステップ111に戻り変化情報を取得する。環境ストレスが付与されていると判断される場合には(ステップ112でYES)、例えば、プリアンプ12の起動を行うなどの起動状態に移行する(ステップ113)。データ記録計17は、制御部20による制御のもと、温度センサ15からの出力により、測定部位の温度変化を記録する(ステップ114)。そして、腐食の発生を待機し、腐食発生箇所からのAE波をAEセンサ11により取得する(ステップ115)。そして、検知されプリアンプ12により増幅されたAE波と、データ記録計17により記録された環境ストレス情報とを、出力情報制御部22および出力部23を介して、信号処理装置30に出力する(ステップ116)。以上により、AE波検出の第2の処理が終了する。
〔信号処理装置30の機能構成〕
次に、信号処理装置30の機能構成について説明する。
図4は、本実施の形態が適用される信号処理装置30の機能構成を示す図である。信号処理装置30の情報取得部31は、プリアンプ12から取得したAE波の電気信号から、解析のために必要となる周波数帯域の信号を取り出すフィルタ311と、フィルタ処理後のAE信号を再度、増幅するメインアンプ312とを含む。また、測定部位に付与された環境ストレスの情報である環境ストレス情報を取得する環境ストレス情報取得部313を有する。ここで取得する環境ストレス情報としては、図2に示す温度センサ15にて検出されデータ記録計17にて記録された情報である。例えば、この環境ストレス情報取得部313にて取得される情報をもとに信号処理装置30の主動作部の起動をON/OFFさせる。これにより電力を削減でき、例えば信号処理装置30がバッテリ駆動されているような場合には、放電を軽減して持続時間を長引かせることができる。
信号処理装置30の処理部32は、メインアンプ312により増幅されたAE信号に含まれる伝播モードを分析する伝播モード分析部321と、複数のAEセンサ11の位置と、各々のAEセンサ11で検出されるAE波の到達時間の時間差とから、AE発生源の発生位置(発生箇所)を特定する発生位置特定部322を含む。更に、記憶部33に記憶されているAE波の伝播モードと構造物の腐食の深さとの関係を用いて、AE発生源の腐食の程度を判定する腐食程度判定部323を含む。この腐食程度判定部323の判定結果は、例えば出力情報生成部35に出力される。ここで、伝播モード分析部321は、本件の伝播モード分析手段、および強さ把握手段、の1つとして機能する。また、腐食程度判定部323は、本件の出力手段、および予測手段の1つとして機能する。
信号処理装置30の記憶部33は、メインアンプ312により増幅された波形データを記憶する波形データ記憶部331と、伝播モード分析部321にて分析された特徴量が記憶される解析特徴量記憶部332とを含む。この波形データ記憶部331には、例えば生の波形データとして、電圧と時間(V−t)のバイナリデータ(.dat)などが記憶される。また、記憶部33は、腐食程度判定部323の判定作業に用いられる判定情報を記憶する判定情報記憶部333を含む。また、記憶部33には、腐食程度判定部323によって判定された腐食の程度に関する情報を記憶する腐食程度記憶部334を含む。
ここで、伝播モード分析部321にて分析される伝播モードについて説明する。
まず、腐食により発生するAE波には、2種類の伝播モードが含まれる。伝播速度の速い対称モードと、伝播速度の遅い非対称モードである。構造物が板状部材である場合には、対称モードをSモード、非対称モードをAモードと呼ぶ。一方、構造物が管状部材である場合には、対称モードをLモード、非対称モードをFモードと呼ぶ。
本実施の形態では、減肉量や減肉率によって板または管を伝播するAE波の伝播モードの強度が変化することに着目し、これらの伝播モードの解析から、減肉量または減肉率を定量的に推定している。より詳しくは、鋼構造物にて、腐食が進んでくると、錆が増えていき、自然に剥がれ、パリッと割れる。その際に、微弱な超音波信号が発生する。この発生する超音波信号が、鉄の板や管を伝わって出てくる。本実施の形態では、これをAEセンサ11で検知することで、腐食した位置と深さとを認識する。より具体的には、AE波の伝播モード、伝播の仕方、伝播の強さなどが変わってくることに着目し、伝播モードの解析から、腐食の深さを把握している。
図5(A)〜(C)は、減肉量とAE波との関係を説明するための図である。図5(A),(B)は、検知したAE波と、その波形に対してウェーブレット変換を行った強度分布図、図5(C)は、減肉量と各モードのピーク強度の関係を示す図である。図5(A)は浅い減肉から得たAE波、図5(B)は深い減肉から得たAE波である。ここで、図5(A),(B)に示す左図は、横軸が時間(μs)、縦軸が出力値(V)である。図5(A),(B)に示す右図では、横軸は周波数(MHz)、縦軸は伝播速度(m/s)を示し、濃淡は強度を示している。この右図にて、実線は、各周波数に対するAE波の各モードの理論速度分布曲線である。図5(C)の横軸は減肉量である深さ(mm)、縦軸はウェーブレット係数強度を示している。ここで、「ウェーブレット変換」とは、さまざまな周波数帯域にて波形の形状が変化するものを解析する周波数解析の手法である。周波数特性を求める際に時間領域情報を残すことができる。図5(A),(B)に示す右図では、色が濃いほど振幅が大きく表現される。なお、ここでは、板状部材を伝播するAE波形について考察している。
図5(A),(B)に示す左図では、生の波形データが示されており、対称モードと非対称モードとが含まれている。まず、先に伝達されるのが対称モード(Sモード)であり、図では、破線部で囲い、強調して示している。その後に非対称モード(Aモード)が到達する。浅い減肉から得た波形である図5(A)と、深い減肉から得た波形である図5(B)とを比較すると、最初に到達する対称モードの強さが異なることが理解できる。より詳しくは、深い減肉から得られた対称モードが、浅い減肉から得られた対称モードに比べて強く出てくる。
周波数毎に書き換えると、図5(A),(B)に示す右図のようになる。右図に示すウェーブレット強度分布図によると、強い信号強度を示すグラフ上の位置と理論曲線とが一致しており、Sモード破線部で囲われた箇所において、音源である減肉箇所の深さが深くなるにつれ、Sモードの励起効率が高くなる傾向が把握できる。一方で、Aモード破線部で囲われた箇所においては、Sモードとは対照的に、音源深さが深くなるにつれて励起効率が低くなる傾向があることが理解できる。これは、AEが板の表面付近で励起されると非対称モードであるAモードが強く励起され,AEが板の中心付近で励起されると対称モードであるSモードが強く励起されるためであると考察される。
図5(C)では、丸印がSモードを示し、四角印がAモードを示している。音源深さである減肉深さが深くなり板厚中心に向かうにつれ、対称モードであるSモードの励起効率が高くなり、対称モードであるSモードの強度が増加する。横軸に減肉量、縦軸にウェーブレット係数強度をとると、Sモードは右肩上がりの傾向となることが理解できる。図の直線は、プロットされたSモードの4点から導いた直線である。このような解析によって、対称モードの強さを見ることで浸食の深さを把握することが可能となる。
発生位置特定部322では、複数のAEセンサ11の各々のAEセンサ11で検出されるAE波の到達時間差からAE発生源の位置を特定する。例えば、2つのAEセンサ11を用いて1次元の位置を特定する場合に、2つのAEセンサ11の1次元の位置と、AE発生から各AEセンサ11にAE波が到達するまでの時間、これらの到達時間差、AE波の伝播速度とを用いて、AE発生源の1次元の位置が特定できる。本実施の形態では、AE発生源が、環境ストレスが付与された構造物の測定部位からのものか否かを発生位置特定部322にて判断している。
次に、判定情報記憶部333に記憶されている情報を用いて、腐食程度判定部323によって行われる判定処理について説明する。
図6は、判定情報記憶部333に記憶された判定情報の一例を示した図である。ここでは、構造物として管状部材についての判定の例で説明し、対称モードであるLモードと、非対称モードであるFモードとの音源深さによる伝播モード変化を例に挙げている。図6に示す例では、横軸が減肉率(%)、縦軸がL/F強度比であり、これらの関係が示されている。ここで「減肉率」とは、腐食の程度として、健全な状態である管状部材の肉厚に対する腐食部の深さ(減肉量)の割合を示しており、減肉率が20%であるといえば、管状部材の厚みが健全な状態の4/5になっていることを示している。また、「L/F強度比」は、Lモードの強度をFモードの強度で除した値である。LモードおよびFモードとして、それぞれ着目すべき周波数におけるピーク強度を抽出し、これらの比によって「L/F強度比」が算出される。
図6に示す5つの点は、予め実験によって得た、L/F強度比と減肉率とを示す実験値である。直線333−1は、これら5つの実験値から得られた、L/F強度比―減肉率の関係直線である。判定情報記憶部333には、この図6に示す直線333−1の関係式が記憶されている。
なお、ここでは、L/F強度比と減肉率との関係を示し、音源深さを定量評価しているが、対称モードと腐食深さとの関係が把握できれば、各モードの比や減肉率の関係だけに限定されない。判定情報記憶部333には、構造物の腐食により発生するAE波の対称モードの伝播モードと、この構造物の腐食の深さとの関係が記憶されていればよい。また、構造物が板状部材である場合には、対称モードであるSモードと、非対称モードであるAモードとの関係が記憶されていてもよい。例えば、図5(C)の丸印である、対称モードであるSモードと減肉量との関係を記憶する態様もある。
図7(A),(B)は、腐食程度判定部323によって行われる判定処理の一例を示した図である。図7(A),(B)の各々に示す左図は、AE波の60kHz成分のスペクトルを示しており、横軸が時間(μs)、縦軸がウェーブレット係数強度を示している。図7(A)の例では、対称モードであるLモードの強度が、非対称モードであるFモードの強度に比べて小さい。すなわち、非対称モードであるFモードが、対称モードであるLモードよりも強く出る。図7(A)の例では、算出されるL/F強度比は、約0.43となる。一方、図7(B)の例では、対称モードであるLモードの強度が、非対称モードであるFモードの強度に比べて大きい。すなわち、対称モードであるLモードが、非対称モードであるFモードよりも強く出る。図7(B)の例では、算出されるL/F強度比は、約1.23である。
図7(A),(B)の各々に示す右図では、図6に示した判定情報記憶部333に記憶された判定情報に、図7(A)ではL/F強度比の0.43を当てはめ、図7(B)ではL/F強度比の1.23を当てはめている。L/F強度比―減肉率の関係直線である直線333−1の関係式に当てはめると、図7(A)に示すL/F強度比0.43では、減肉率が0%に近い推定結果となる。一方、図7(B)に示すL/F強度比1.23では、減肉率が50%に近い推定結果となる。このように、取得したAE波を解析し、L/F強度比を算出することで、減肉率を判断することができる。なお、L/F強度比から減肉率を求める代わりに、単に対称モードの強さから減肉量を求めることもできる。例えば、判定情報記憶部333に、図5(C)の丸印にて表現されるような、対称モードであるSモードと減肉量との関係が記憶されている場合には、対称モードであるSモードの強さを把握することで、減肉量を得ることができる。
〔信号処理装置30の処理〕
図8は、信号処理装置30にて実行される構造物の腐食検知方法を示すフローチャートである。この図8では、AE波の対称モード、または対称モードおよび非対称モードの伝播モードから腐食の程度を把握する処理について説明する。
まず、信号処理装置30の判定情報記憶部333に、伝播モードと腐食深さとの関係を判定情報として記憶する(ステップ301)。ここでは、例えば、実験値として腐食を発生させた際に信号処理装置30により分析された対称モード、または対称モードおよび非対称モードの伝播モードと、その実験の際にユーザが入力した腐食深さとから生成された判定情報が記憶される。この判定情報としては、例えば図5(C)に示すような、減肉量とSモードのウェーブレット係数強度との関係や、図4に示すような、L/F強度比と浸食の程度(例えば減肉率)との関係などが記憶される。
構造物の腐食検知方法にて、信号処理装置30の情報取得部31は、AE波検出装置10から環境ストレス情報を取得し(ステップ302)、環境ストレスの付与が開始されたか否かを判断する(ステップ303)。環境ストレスが付与されていない場合には(ステップ303でNO)ステップ302に戻り、環境ストレスが付与されている場合には(ステップ303でYES)、信号処理装置30の情報取得部31は、AE波検出装置10にて検出されたAE波を取得する(ステップ304)。そして、情報取得部31は、取得したAE波の波形データを、波形データ記憶部331に記憶する(ステップ305)。信号処理装置30の処理部32にて、伝播モード分析部321は、取得したAE波から伝播モードを分析する(ステップ306)。次に、発生位置特定部322は、腐食の発生箇所を特定する(ステップ307)。腐食の発生箇所が、構造物の測定部位である場合には(ステップ308でYES)、ステップ309以降の処理となり、腐食の発生箇所が、構造物の測定部位でない場合(ステップ308でNO)には、ステップ302へ戻る。
ステップ309以降の処理では、まず、腐食程度判定部323は、伝播モード分析部321にて分析された伝播モードを取り出し(ステップ309)、判定情報記憶部333に記憶された判定情報に伝播モードを当てはめ、腐食の詳細な状態として、腐食の程度を把握する(ステップ310)。腐食の程度としては、例えば、減肉量や減肉率が挙げられる。腐食程度判定部323は、判定された腐食の程度に関する情報を腐食程度記憶部334に記憶する(ステップ311)。そして、これらの処理を環境ストレスの付与が終了するまで行う。すなわち、環境ストレスの付与が終了してない場合には(ステップ312でNO)、ステップ302へ戻って処理が繰り返され、環境ストレスの付与が終了した場合には(ステップ312でYES)、腐食程度判定部323は、腐食程度記憶部334に記憶されている複数の腐食の程度に関する情報を用いて、出力すべき腐食の程度を選定する(ステップ313)。より具体的には、例えば、構造物の測定部位にて、最も腐食の程度が進んでいると判断される腐食の程度に関する情報を選定する。その後、出力情報生成部35および出力部36は、選定された腐食の程度に関する情報を出力し(ステップ314)、処理が終了する。なお、解析完了後の判定結果は、ネットワーク90を介してサーバ50に送信される。
このステップ310〜313にて、複数の腐食の程度に関する情報から出力すべき腐食の程度に関する情報を選定するのは、同一の測定部位であっても錆の発生が表面に近いところと深いところとでAE波が発生することから、最も深いところで発生したAE波から得られた腐食の程度に関する情報をユーザに対して出力することが好ましい。
なお、ステップ312による環境ストレスの付与の終了は、必要な数や質のAE信号が得られた段階で止めることになる。しかしながら、環境ストレスの付与の回数と信号発生の回数には、環境や条件によって大きなばらつきが予想される。そこで、例えば構造物毎に必要なAE信号の量と質を予め定め、その量と質のAE信号が得られた時点で環境ストレスの付与を停止する、という制御を行ってもよい。
〔サーバ50の機能構成〕
次に、サーバ50の機能構成について図9および図10を用いて説明する。ここでは、腐食判定処理を信号処理装置30とサーバ50とにより行うものとして記載している。なお、実施の形態1と同様の機能については同様の符号を用い、ここではその詳細な説明を省略する。
図9は、図1に示す信号処理システム1のサーバ50を用いて構造物の腐食検知処理を行う機能構成を示す図である。サーバ50の処理部53は、伝播モード分析部321、発生位置特定部322、および腐食程度判定部323を有する。また、記憶部54には、判定情報記憶部333、腐食程度記憶部334を含む。サーバ50の通信部51は、信号処理装置30から、環境ストレス情報と、AE波の情報とを取得する。通信部51が取得するAE波としては、処理を施していない波形データである場合や、解析に必要な特徴量である場合がある。
図10は、サーバ50にて行われる構造物の腐食検知方法を示すフローチャートである。
まず、サーバ50の判定情報記憶部333に、伝播モードと腐食深さとの関係を判定情報として記憶する(ステップ501)。
判定処理にて、サーバ50の情報取得部52は、信号処理装置30から通信部51を介して環境ストレス情報を取得する(ステップ502)。情報取得部52は、環境ストレスの付与が開始されたか否かを判断する(ステップ503)。環境ストレスが付与されていない場合には(ステップ503でNO)ステップ502に戻り、環境ストレスが付与されている場合には(ステップ503でYES)、信号処理装置30から通信部51を介してAE波を取得する(ステップ504)。取得するAE波は、AE発生の都度でも良いし、複数のAE波が束となったものを取得してもよい。サーバ50の処理部53における伝播モード分析部321は、取得したAE波から伝播モードを分析する(ステップ505)。次に、発生位置特定部322は、腐食の発生箇所を特定する(ステップ506)。腐食の発生箇所が、構造物の測定部位である場合には(ステップ507でYES)、ステップ508以降の処理となり、腐食の発生箇所が、構造物の測定部位でない場合(ステップ507でNO)には、ステップ502へ戻る。
ステップ508以降の処理では、まず、腐食程度判定部323は、伝播モード分析部321にて分析された伝播モードを取り出し(ステップ508)、判定情報記憶部333に記憶された判定情報に伝播モードを当てはめ、腐食の詳細な状態として、腐食の程度を把握する(ステップ509)。腐食程度判定部323は、判定された腐食の程度に関する情報を腐食程度記憶部334に記憶する(ステップ510)。そして、これらの処理を環境ストレスの付与が終了するまで行う。すなわち、環境ストレスの付与が終了してない場合には(ステップ511でNO)、ステップ502へ戻って処理が繰り返され、環境ストレスの付与が終了した場合には(ステップ511でYES)、腐食程度判定部323は、腐食程度記憶部334に記憶されている複数の腐食の程度に関する情報を用いて、出力すべき腐食の程度を選定する(ステップ512)。その後、出力情報生成部55および出力部56は、選定された腐食の程度に関する情報を出力し(ステップ513)、処理が終了する。なお、選定された腐食の程度に関する情報は、ネットワーク90を介してユーザ端末70に送信することができる。
このように、サーバ50の処理によれば、測定対象である構造物の近くに配置される信号処理装置30の構成を簡略化し、処理をサーバ50に集約できる。そのため、例えば遠隔地にある複数の構造物の観察を行う場合などで、信号処理システム1の構成を簡略化できる。
なお、信号処理装置30によって減肉量の解析を完了させる他、サーバ50にその一部の処理を実行させてもよい。同様に、上記の例では、サーバ50に処理されていないAE波の情報が送信されているが、一部の処理を信号処理装置30にて行い、その残りの処理をサーバ50で実行するように構成することができる。
図11(A),(B)は、本実施の形態が適用された場合の効果を説明するための図であり、環境ストレスの1つとして熱サイクル試験を行った結果を示している。図11(A)は、所定箇所の1つとして孔の深さが3.5mmの箇所に対して熱サイクルを施した累積イベント数を示し、図11(B)は、所定箇所の1つとして孔の深さが0.5mmの箇所に対して熱サイクルを施した累積イベント数を示している。図11(A),(B)にて、横軸は時間(hour)を示し、縦軸に、温度(℃)と累積イベント数とを示している。図11(A)に示す11a−1のグラフは孔3.5mmの箇所の近傍における温度の変化を示し、11a−2のグラフは累積イベントの変化を示している。同様に、図11(B)に示す11b−1のグラフは孔0.5mmの箇所の近傍における温度の変化を示し、11b−2のグラフは累積イベントの変化を示している。
図11(A)に示すように、孔の深さが3.5mmの箇所に対し、加熱して温度を約24℃から約84℃まで加熱させた場合に、累積イベント数が約2200から約2400まで上昇している。これは、発明者等が行う腐食促進試験を30日間行った場合の累積イベント数の上昇に相当する。また、図11(B)に示すように、孔の深さが0.5mmの箇所に対し、加熱して温度を約24℃から約80℃まで加熱させた場合に、累積イベント数が約120から約180まで上昇している。これは、発明者等が行う腐食促進試験を40日間行った場合の累積イベント数の上昇に相当する。このように、環境ストレスを施すことによって、錆割れを誘発したことによるAE波が多く発生することがわかり、短期計測でAE波を観測できることが理解できる。
以上、詳述したように、本実施の形態では、温度変化の激しいタイミングなど、測定部位に対して環境ストレスが付与されているタイミングをみて、AE波を検出している。これによって、例えば錆などを誘発させ、強制的に発生させることができる。環境ストレスを付与しない場合に数日〜数ヶ月の長期間の計測が必要となるのに対し、本実施の形態によれば常時測定が不要となり、短期間の測定でも深い箇所での腐食を捉えることが可能となる。
10…AE波検出装置、11…AEセンサ、13…熱源、15…温度センサ、16…電圧調整器、20…制御部、21…変化情報取得部、30…信号処理装置、31…情報取得部、32…処理部、33…記憶部、34…通信部、35…出力情報生成部、36…出力部、50…サーバ、51…通信部、52…情報取得部、53…処理部、54…記憶部、55…出力情報生成部、56…出力部、70…ユーザ端末、90…ネットワーク

Claims (10)

  1. 板状または管状からなる鋼製の構造物の所定箇所に環境ストレスを付与する付与手段と、
    前記構造物に設置され、前記環境ストレスが付与された前記所定箇所からのAE波を検知するAEセンサと、
    前記AEセンサにより検知されたAE波に関する情報を出力する出力手段と、
    を備えたことを特徴とするAE波検出装置。
  2. 前記付与手段により付与される前記環境ストレスは、加熱と冷却との繰り返しであることを特徴とする請求項1記載のAE波検出装置。
  3. 板状または管状からなる鋼製の構造物に設置されたAEセンサから、当該構造物の環境ストレスが付与された所定箇所からのAE波を取得するAE波取得手段と、
    取得した前記AE波から前記構造物の腐食の程度に関する情報を出力する出力手段と、
    を備えたことを特徴とする腐食検知システム。
  4. 前記AE波取得手段は、気温差または前記構造物の温度差により誘発される前記所定箇所からのAE波を取得することを特徴とする請求項3記載の腐食検知システム。
  5. 前記AE波取得手段は、前記所定箇所に対し前記環境ストレスとして加熱と冷却との繰り返しを付与したときのAE波を取得することを特徴とする請求項3記載の腐食検知システム。
  6. 前記AE波取得手段から取得した前記AE波から伝播モードを分析する伝播モード分析手段、を更に備え、
    前記出力手段は、分析した前記伝播モードより得られた前記構造物の腐食の程度に関する情報を出力することを特徴とする請求項3記載の腐食検知システム。
  7. 前記AE波取得手段から取得した前記AE波から対称モードおよび非対称モードを含む伝播モードの強さを把握する強さ把握手段、を更に備え、
    前記出力手段は、把握した前記伝播モードの強さを用いて得られた前記構造物の腐食の程度に関する情報を出力することを特徴とする請求項3記載の腐食検知システム。
  8. 前記腐食の程度に関する情報は、腐食の減肉量または減肉率をユーザが判断できる情報であること、を特徴とする請求項3乃至7何れか1項記載の腐食検知システム。
  9. 板状または管状からなる鋼製の構造物に設置されたAEセンサから、当該構造物の環境ストレスが付与された所定箇所からのAE波を取得し、
    取得した前記AE波から前記構造物の腐食の程度に関する情報を出力する、
    ことを特徴とする構造物の腐食検知方法。
  10. 板状または管状からなる鋼製の構造物の腐食により発生するAE波の対称モードおよび非対称モードを含む伝播モードと当該構造物の腐食の深さとの関係を記憶し、
    前記構造物に設置されたAEセンサから当該構造物の環境ストレスが付与された所定箇所からの検出AE波を取得し、
    取得した前記検出AE波に含まれる対称モードおよび非対称モードを含む伝播モードを取り出し、
    取り出した前記伝播モードを、記憶された前記関係に当てはめ、前記検出AE波の元となった前記構造物の腐食の深さを把握する、
    ことを特徴とする構造物の腐食検知方法。
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