JP2021176265A - 標的配列を高効率で改変するシステム - Google Patents

標的配列を高効率で改変するシステム Download PDF

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Abstract

【課題】本発明は、ガイドRNA依存性ヌクレアーゼを用いた標的遺伝子破壊および遺伝子改変をより効率的に行うための技術を提供する。【解決手段】本発明は、ガイドRNA依存性ヌクレアーゼを利用した標的切断系を構築するにあたり、感染効率が高く、導入遺伝子を高発現させる特性を持つマイナス鎖RNAウイルスベクターにヌクレアーゼ遺伝子だけを搭載させ、これをあらかじめ細胞に導入してヌクレアーゼを発現させた後で、ガイドRNAを別途細胞に供給する新たなシステムを開発した。これにより、切断効率の上昇と再切断の低下を両立させることに成功し、標的遺伝子改変効率の向上並びに標的外破壊の抑制を実現できた。本発明は、indelの発生が抑制された効率的な遺伝子改変技術として有用である。【選択図】なし

Description

本発明は、遺伝子の機能解析、遺伝子治療、品種改良、生物工学的創作等を目的に遺伝子配列を簡便に短期間で改変する分子遺伝学技術に関する。
遺伝子編集を目的に標的とする塩基配列部位を切断する技術としては、ZFN法、TALEN法、CRISPR/Cas9法等が知られているが、現在では簡便性からCRISPR/Cas9法が最も広く利用されている(Morton, J., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 103, 16370-16375 (2006); Cermak, T. et al., Nucleic Acids Res. 39, e82 (2011); Cong, L. et al., Science 339, 819-823 (2013); Mali, P. et al., Science 339, 823-826 (2013))。どの切断方法であっても、細胞内機能として、切断直後に再結合反応が起こり、indelと呼ばれる挿入/欠失/変異配列への変化が生じうる。従って、これらの細胞内機能は遺伝子破壊技術を目的に利用されることが多い。一般に、遺伝子改変の頻度は遺伝子破壊頻度よりも著しく低いため、それを実行するためには、以下に記す方法が一般的に採用されている。
代表的な方法の一つでは、エキソン改変後塩基配列と、その直近のイントロンに部位特異的組換え酵素認識配列(LoxP, FRT)で挟まれた薬剤耐性遺伝子が挿入された配列とからなる供与DNAを導入し、ゲノム上の対応するエキソン-イントロン領域内を切断する。イントロン薬剤耐性マーカー遺伝子からエキソン改変後塩基配列まで、長鎖に渡って供与DNAの配列に置き換わった細胞クローンを単離した後、薬剤耐性マーカー遺伝子を除去するために、当該細胞クローンに対して、部位特異的組換え酵素(Cre, Flp)遺伝子を導入して、薬剤耐性マーカーだけが抜けた細胞を獲得する(Li, H. L.et al., Stem Cell Reports 4, 143-154 (2015))。
別の方法では、エキソン改変後塩基配列とその直近のイントロンにトランスポザーゼ認識配列(PiggyBac (PB) IRE)で挟まれた薬剤耐性遺伝子からなる供与DNAを導入し、当該エキソン-イントロン領域を切断する。イントロン薬剤耐性マーカー遺伝子からエキソン改変後塩基配列まで、長鎖(1 kb以上)に渡って供与DNAの配列に置き換わった細胞クローンを単離した後、当該細胞クローンに対して、トランスポザーゼ(PiggyBac transposase)遺伝子を導入して、薬剤耐性マーカーと認識配列(PiggyBac IRE)が抜けた細胞を獲得する(Yusa, K. et al., Nature 478, 391-394 (2012))。
最近では、droplet digital PCR法によって、上記の2方法のような選択マーカー遺伝子の挿入・除去を行わずに、改変後塩基配列に変換された細胞をsib-screeningを経て選抜することも試みられている。例えば、0.02%が配列改変細胞、数十%がindel(挿入/欠失/変異配列)に変化した不正確な再結合細胞、残りが親型の細胞である集団から、2段階程度のsib-screeningの後に配列改変細胞を選抜できたことが報告されている(Miyaoka, Y. et al., Nat. Methods 11, 291-293 (2014))。
Morton, J., Davis, M. W., Jorgensen, E. M. & Carroll, D. Induction and repair of zinc-finger nuclease-targeted double-strand breaks in Caenorhabditis elegans somatic cells. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 103, 16370-16375 (2006) Cermak, T. et al. Efficient design and assembly of custom TALEN and other TAL effector-based constructs for DNA targeting. Nucleic Acids Res. 39, e82 (2011) Cong, L. et al. Multiplex genome engineering using CRISPR/Cas systems. Science 339, 819-823 (2013) Mali, P. et al. RNA-guided human genome engineering via Cas9. Science 339, 823-826 (2013) Li, H. L.et al.Precise Correction of the Dystrophin Gene in Duchenne Muscular Dystrophy Patient Induced Pluripotent Stem Cells by TALEN and CRISPR-Cas9. Stem Cell Reports 4, 143-154 (2015) Yusa, K. et al. Targeted gene correction of α1-antitrypsin deficiency in induced pluripotent stem cells. Nature 478, 391-394 (2012) Miyaoka, Y. et al. Isolation of single-base genome-edited human iPS cells without antibiotic selection. Nat. Methods 11, 291-293 (2014)
本発明は、ゲノム配列を効率的に改変するための方法、および当該方法において用いられるベクター等を提供することを課題とする。
上に記した従来のゲノム改変技術には、いくつかの問題がある。
(1)ON-target及びOff-targetにおける不正確再結合
活性酸素などによって染色体切断が生じると通常は正確に再結合される。同位置に活性酸素が再度作用する確率は極めて低いが、ZFN法、TALEN法、CRISPR/Cas9法では、標的配列または標的外に存在するゲノム上の類似した配列(標的外配列という)で切断・再結合が繰り返され、その過程でindelと呼ばれる挿入/欠失/変異配列に変化した不正確な再結合を生じた細胞が生じる。遺伝子破壊の際には、標的外配列でのindelは回避されなければならないし、遺伝子改変の際には、同時に生じる多くのindel保持細胞が遺伝子改変細胞の選抜を困難にする。
(2)2段階選抜
従来法では、遺伝子改変効率が低いため2段階を要する。まず目的の改変配列断片に選択マーカー遺伝子を近接させた供与DNAを導入し、両方が標的部位に挿入された薬剤耐性の遺伝子改変細胞クローンを単離して、最後に選択マーカーを除去する方法であるが、2段階のスクリーニング操作のため過剰な労力と時間を要するという課題がある。
(3)部位特異的組換え配列の残存
供与DNA上に搭載された改変後配列と薬剤選択マーカー遺伝子は標的部位に同時に導入され、その後、部位特異的組換え酵素認識配列(LoxP, FRT)で挟まれた選択マーカー遺伝子だけが部位特異的組換え酵素によって除去されるが、Cre/LoxP法、Flp/FRT法を代表とする方法では、一つの認識配列が残ってしまうため、遺伝子改変には適用できないという課題がある。
(4)標的切断配列の喪失
上述の部位特異的組換え法、トランスポザーゼ法は、標的切断部位に供与DNA配列内の長鎖(1 kb以上)領域が導入されるが、この機構に依存する両方法においては、染色体遺伝子座上の標的配列の切断のみならず、供与DNA上の標的配列に切断が生じると、長鎖領域の組み換え反応が抑制されるので、供与DNA上から切断配列を除去して、供与DNA上での切断を回避する必要があるが、切断配列を除去するために本来は必要のない喪失がデザインされた供与DNAを用いた場合、供与DNA配列が標的部位にコピーされた配列改変細胞では、不必要な喪失が最終産物となるため、遺伝子改変には適用できないという課題がある。
また部位特異的組換え法にしろ、トランスポザーゼ法にしろ、供与DNAが導入された細胞を選択後に、部位特異的組換え酵素やトランスポザーゼを発現するベクター等を細胞に導入するという追加的な工程が必要であり、その後、マーカー遺伝子が期待通りにゲノムから除去されたことを確認することや、導入したベクターが除去された細胞を選択することも必要となるなど手順が煩雑である。
Indelが発生したり、供与DNA由来の不要なDNA配列の痕跡が細胞のゲノム上に残ることを防ぎつつ、高い精密さを持つ遺伝子改変を高効率で可能とするために本発明者らは、マイナス鎖RNAウイルスベクターを用いてCas9などのヌクレアーゼを発現させることを考えた。遺伝子改変の実験ではないものの、自己切り出し型のガイドRNAと共にCas9遺伝子を発現するマイナス鎖RNAウイルスベクターを細胞に導入した実験は既に報告がある(Park, et al., Mol Ther Methods Clin Dev., 2016, 3:16057, doi:10.1038/mtm.2016.57)。それによると、ベクターを導入した細胞の75〜98%の細胞でindelが生じたことが報告されている。
センダイウイルスベクターなどのマイナス鎖RNAウイルスベクターは細胞質で発現し、発現過程においてDNAのフェーズを持たないため、ウイルスゲノムが宿主染色体に組み込まれるリスクがない。また、広範囲な細胞に対して高い感染性を示し、搭載遺伝子を高発現させることができるなどの優れた能力を持っている。しかし、複製型のマイナス鎖RNAウイルスベクターであれ、複製能を欠失したエンベロープ蛋白質遺伝子欠失型のマイナス鎖RNAウイルスベクターであれ、搭載遺伝子が発現するためには細胞質内でウイルスゲノムRNAが複製され、そこからさらに各ウイルス蛋白質をコードする遺伝子群が発現することによりウイルスの発現系が発動する必要があることから、ベクターを細胞に感染させてから搭載遺伝子の発現が十分に上昇するまでにはタイムラグが生じることは避けがたく、また、発現の立ち上がりを厳密に制御することも困難である。そして感染後、搭載遺伝子の発現レベルが十分に上昇するまで培養を続ける必要があるため、発現期間は長くならざるを得ない。本発明者らは、マイナス鎖RNAウイルスベクターの発現制御がこのように困難であり、このベクターを用いてCas9などのヌクレアーゼを発現させる場合に、その発現期間が長くならざるを得ないことが、細胞内におけるヌクレアーゼによる切断・結合の繰り返しを引き起こし、indelの生成を助長しているのではないかと考えた。そして、ヌクレアーゼが機能できるタイミングをより厳格に制御し、切断・結合の繰り返しを抑えることができれば、indelの生成を抑えることができるのではないかと考えた。
ヌクレアーゼが機能できるタイミングをより厳格に制御するために本発明者らは、Cas9などのヌクレアーゼが、ガイドRNA依存的に機能を発揮することに着目した。ガイドRNA依存性ヌクレアーゼの場合、該ヌクレアーゼの活性の発現に必要なガイドRNAが揃っていない条件下でヌクレアーゼを発現させても機能は発揮されない。マイナス鎖RNAウイルスベクターにヌクレアーゼ遺伝子を搭載させ、該ヌクレアーゼの活性に必要なガイドRNA(例えばtracrRNAとcrRNAのセット)の遺伝子は搭載させないか、あるいは搭載させるとしても該ヌクレアーゼの活性に必要なガイドRNAのすべてはコードしないように設計した場合、当該マイナス鎖RNAウイルスベクターからはヌクレアーゼ蛋白質等だけ(ヌクレアーゼ蛋白質のみ、またはヌクレアーゼ蛋白質と一部のガイドRNAだけ)が高発現するが、ヌクレアーゼの活性に必要なガイドRNAがすべて揃わないためヌクレアーゼの機能は発揮されない。本発明者らは、まずマイナス鎖RNAウイルスベクターを細胞に導入し、ヌクレアーゼ蛋白質等だけを高発現させて細胞に蓄積させておき、その後、ヌクレアーゼの活性が発現するために不足しているガイドRNAを細胞に供給すれば、あらかじめ高発現しているヌクレアーゼ等と別途供給されたガイドRNAが合わさることにより機能的ヌクレアーゼが一気に生成して機能を発揮することになるため、マイナス鎖RNAウイルスベクターが持つ高発現の有利性を享受しつつ、マイナス鎖RNAウイルスベクターが持つ発現のタイムラグという欠点を克服することができるのではないかと考えた。
また、マイナス鎖RNAウイルスベクターとして温度感受性のマイナス鎖RNAウイルスベクターを使用し、ヌクレアーゼ遺伝子等を発現させる際には許容温度で培養し、その後、ガイドRNAの供給前後に温度を非許容温度まで上げれば、ベクターを迅速に不活化させることができる。これにより、ガイドRNAの供給後にヌクレアーゼが不必要に生成され続けることは回避されるので、機能的ヌクレアーゼが細胞内で活性を発揮できるタイミングをより鋭く制御することができると考えた。
実際、温度感受性のマイナス鎖RNAウイルスベクターにヌクレアーゼ遺伝子を搭載させ、これを細胞に導入して許容温度で発現させた後、ガイドRNAと供与DNAを細胞に導入して非許容温度で培養したところ、遺伝子改変が起こり読み枠が復帰した細胞が2.6×10-3〜3.6×10-3という驚くべき高頻度で取得できることが判明した(実験3、4参照)。また発現プラスミドを用いた従来の方法では、供与DNAの組み込みに成功したと思われた細胞17クローン中6クローン(実験1)、または12クローン中6クローン(実験2)で塩基挿入などの意図しない変異が生じていたのに対し、本発明の方法では、得られた12クローン(実験1)または24クローン(実験2)中、そのようなクローンは一つもないことが確認された。
また、ヌクレアーゼ遺伝子を搭載するマイナス鎖RNAウイルスベクターを細胞に導入して発現させた後、供与DNAを用いずにガイドRNAだけを細胞に導入する実験を行ったところ、驚くべきことに、発現プラスミドを用いた従来の方法よりも有意に高い頻度で標的破壊を達成できることも判明した(実験5、6)。しかしその値は、供与DNAを用いた場合の上述の遺伝子改変頻度と大きな違いはないことから、実験5、6で観察された遺伝子破壊頻度に対する、実験3、4で観察された遺伝子改変頻度の比の値は、本発明のベクター系を用いた場合の方が、発現プラスミドを用いた従来の方法の比の値よりもはるかに高いということができ、実験3、4の遺伝子改変において、発現プラスミドを用いた従来の方法ではindelの発生が観察されたのに対し、本発明の方法ではindelの発生が観察されなかったことと整合している。
このように本発明者らは、ヌクレアーゼ遺伝子だけを搭載し、ガイドRNAの遺伝子を搭載しないマイナス鎖RNAウイルスベクター(あるいはヌクレアーゼ遺伝子を搭載し、一部のガイドRNAはコードするが、ヌクレアーゼの活性に必要なガイドRNAのすべてはコードしないマイナス鎖RNAウイルスベクター)をまず細胞に導入し、ヌクレアーゼ等を蓄積させた後に、不足するガイドRNAを細胞に供給することによって、indelの生成を抑制し、従来の方法では達成することができなかった高頻度・高品質の遺伝子改変が可能となることを見出し、本発明を完成した。
すなわち本発明は、マイナス鎖RNAウイルスベクターを用いた高効率な遺伝子改変技術を提供するものであり、より具体的には請求項の各項に記載の発明を包含する。なお同一の請求項を引用する請求項に記載の発明の2つまたはそれ以上の任意の組み合わせからなる発明も、本明細書において意図された発明である。すなわち本発明は、以下の発明を包含する。
〔1〕 ガイドRNA依存性DNAヌクレアーゼを用いる遺伝子改変細胞の製造方法であって、
(a)該ヌクレアーゼの遺伝子を搭載し、該ヌクレアーゼの活性に必要なガイドRNAの少なくとも一つをコードしない温度感受性マイナス鎖RNAウイルスベクターを細胞に導入し、許容温度下で該ベクターを発現させ、該ガイドRNAの非存在下で該ヌクレアーゼを細胞に蓄積させる工程、
(b)工程(a)の後、不足するガイドRNAを細胞に供給する工程、
(c)工程(b)の前後または同時に培養温度を非許容温度に上昇させ、該ガイドRNAが細胞中に存在する状態で培養する工程、を含む方法。
〔2〕 (d)遺伝子が改変された細胞を回収する工程、をさらに含む、〔1〕に記載の方法。
〔3〕 工程(b)においてガイドRNAを細胞に導入する、〔1〕または〔2〕に記載の方法。
〔4〕 工程(b)の実施時か、遅くともその24時間後までには培養温度は非許容温度に上昇している、〔1〕から〔3〕のいずれかに記載の方法。
〔5〕 該ヌクレアーゼが、CRISPR/Casクラス2エンドヌクレアーゼである、〔1〕から〔4〕のいずれかに記載の方法。
〔6〕 該マイナス鎖RNAウイルスベクターがガイドRNAをコードしない、〔1〕から〔5〕のいずれかに記載の方法。
〔7〕 工程(b)において供与DNAも細胞に導入する、〔1〕から〔6〕のいずれかに記載の方法。
〔8〕 該供与DNA中にポジティブ選択マーカー遺伝子を含まない、〔7〕に記載の方法。
〔9〕 工程(c)の後、供与DNA中の配列が組み込まれた細胞を選択する工程、をさらに含む、〔7〕または〔8〕に記載の方法。
〔10〕 該選択工程が、ポジティブ選択マーカーに頼らずに細胞を検査して供与DNA中の配列が組み込まれた細胞を選択する工程である、〔9〕に記載の方法。
〔11〕 〔1〕から〔10〕のいずれかに記載の方法に用いられるベクターであって、ガイドRNA依存性DNAヌクレアーゼ遺伝子を搭載し、該ヌクレアーゼの活性に必要なガイドRNAの少なくとも一つをコードしない、温度感受性マイナス鎖RNAウイルスベクター。
〔12〕 温度感受性センダイウイルスベクターである、〔11〕に記載のベクター。
〔13〕 F遺伝子欠失型温度感受性センダイウイルスベクターである、〔12〕に記載のベクター。
〔14〕 センダイウイルスベクターが、F遺伝子を欠失し、M蛋白質にG69E、T116A、およびA183Sの変異、HN蛋白質にA262T、G264R、およびK461Gの変異、P蛋白質にL511Fの変異、ならびにL蛋白質にN1197SおよびK1795Eの変異をゲノムに含む、〔12〕または〔13〕に記載のセンダイウイルスベクター。
〔15〕 以下の(i)および/または(ii)の変異をさらにゲノムに含む、〔14〕に記載のセンダイウイルスベクター。
(i)P蛋白質のD433A、R434A、およびK437Aの変異
(ii)L蛋白質のY942H、L1361Cおよび/またはL1558Iの変異
〔16〕 該ヌクレアーゼが、CRISPR/Casクラス2エンドヌクレアーゼである、〔11〕から〔15〕のいずれかに記載のベクター。
なお、本明細書に記載した任意の技術的事項およびその任意の組み合わせは、本明細書において意図されている。また、それらの発明において、本明細書に記載の任意の事項またはその任意の組み合わせを除外した発明も、本明細書において意図されている。また本発明に関して、明細書中に記載されたある特定の態様は、それを開示するのみならず、その態様を含むより上位の本明細書に開示された発明から、その態様を除外した発明も開示するものである。
・ON-target及びOff-targetにおける不正確再結合の減衰
不正確再結合体は、標的DNAの切断・結合の繰り返しの末に生じる。切断の繰り返しを抑えることができれば、不正確再結合も抑えられると考えられる。本発明は、切断酵素の発現を強化・短期化することによって、標的ゲノムの繰り返し切断を抑え、不正確再結合を抑制することができる。これにより、例えば遺伝子破壊の際には標的外配列でのindelを抑えることができ、遺伝子改変の際には、標的で生じたindel保持細胞の減少により、遺伝子改変細胞の選抜を容易にすることが期待できる。
・2段階選抜の回避
2段階選抜の労力・時間の消耗という課題の根本的な解決手段は、遺伝子改変効率の向上であると考えられる。ガイドRNA依存性ヌクレアーゼ遺伝子を高頻度感染・高発現ベクターであるマイナス鎖RNAウイルスベクターに搭載させ、ガイドRNAは別途供給することにより、ヌクレアーゼの作用時間を短期化させる本発明の方法により、遺伝子改変効率の向上が実現し、選択マーカーを必要とせず、改変配列のみ標的挿入された遺伝子改変細胞を、限られた数の生細胞クローンからスクリーニングできるワンステップ選抜が可能であるため、労力と時間を削減できる。
・部位特異的組換え配列残存の回避
従来法では、遺伝子改変効率が低いため、供与プラスミド上で改変配列に、部位特異的組換え配列に挟まれた選択マーカーを近接させ、両方が標的部位に挿入された薬剤耐性の遺伝子改変細胞クローンを単離して、部位特異的組換えによって選択マーカーを除去する必要があったが、この方法によれば、最終産物(最終的に得られる細胞のゲノム)に部位特異的組換え配列が残ってしまう。本発明では、遺伝子改変効率の向上によって高頻度に遺伝子改変が起こるため、改変後配列が導入された遺伝子改変細胞を非選択条件下で選抜できるので、選択マーカー・部位特異的組換えシステムが不要となり、部位特異的組換え配列の残存の問題を回避することができる。
・標的切断配列情報の喪失の回避
染色体遺伝子座上の標的配列の切断によって誘導される、供与プラスミド上の選択マーカーを含む長鎖(1 kb以上)領域の、遺伝子座上標的部位への組み込みの頻度は、供与プラスミド上の標的相同配列(被切断可能な配列)の存在によって、低下する。従来法では、供与プラスミド上の被切断可能な配列をあらかじめ除去、または、蛋白質をコードする配列である場合はコードされるアミノ酸配列を変化させないように同義変換することによって、供与プラスミドの切断を回避し組み換え反応を維持する。本発明では、上述したように供与プラスミド上に選択マーカーを必要としないため、組み換え反応は、改変後配列のみを含む短鎖(〜20 bp以下)領域内で完了する。このような短鎖領域組み換え反応による遺伝子改変は、供与プラスミド上に標的相同配列(被切断可能な配列)が存在しても、低下しないことを発見したので、本発明実施形態には、供与プラスミドの標的相同配列の除去も同義変換配列も必要としないことから、標的切断配列情報の喪失も同義変換も伴わない。長鎖組み換え反応系と短鎖組み換え反応系における被切断可能配列の影響の違いについて、長鎖組み換え反応中には、反応中間体が再切断を受け破壊され易いが、短鎖組み換え反応は短時間で完了するため再切断を受ける確率が低いという可能性が考えられる。
また本発明により、以下の発明の実施も可能となる。
(i) 短期強発現による高頻度標的切断遺伝子改変方法
本発明の系では、1)切断酵素遺伝子をマイナス鎖RNAウイルスベクターから発現すること;2)トランスフェクションによる導入RNA量の最適化の2点によって、高頻度感染性で搭載遺伝子を強く発現させる機能を有するマイナス鎖RNAウイルスベクターの特性を利用して切断酵素を短期間だけ高活性状態にさせることができるため、これにより達成できる高頻度標的切断能力に帰する、高頻度遺伝子改変方法の実施が可能となる。
(ii) 高頻度感染性を有した短期型強発現ウィルスベクター
本発明の方法において高頻度遺伝子改変を行うための必須ツールであり、高頻度感染性を有し、搭載された切断酵素遺伝子を短期に強く発現させるための機能を有するマイナス鎖RNAウイルスベクターにガイドRNA依存性ヌクレアーゼ遺伝子が搭載されたベクターを提供する。
(iii) 改変後配列とその周辺の相同領域からなる供与DNA
従来の遺伝子改変法は低頻度である故に供与プラスミドに選択マーカーを搭載しなければならないが、本発明の遺伝子改変方法は高頻度であるために供与プラスミド上から選択マーカーを省くことができることから、この高頻度技術との同時使用によって初めて可能となった、改変後配列とその周辺の相同領域のみから成る、単純化供与DNAが提供される。
(iv) 導入RNA量の調節によるゲノム安全性の向上
本発明の遺伝子改変方法の高頻度化は、マイナス鎖RNAウイルスベクターによる十分量のガイドRNA依存性ヌクレアーゼの発現と導入ガイドRNA(gRNA)分子の量的最適化によってさらに高めることができる。十分量のガイドRNA依存性ヌクレアーゼが発現する本発明の系において初めて、簡便に(導入gRNA量の調節だけによって)ゲノム不安定性を抑え、安全性を向上させることができる方法が可能となる。
従来のゲノム編集技術の骨子を示す図である。供与DNAは標的部位に隣接して部位特異的組換え酵素認識配列(loxP)に挟まれたポジティブ選択マーカー遺伝子(Hyg)が含まれており、外側のプラスミド骨格中にはネガティブ選択マーカー遺伝子(TK)が含まれている。CRISPR/Cas9により細胞の標的DNAを切断し、供与DNAが組み込まれた細胞をハイグロマイシンおよびガンシクロビルにより選択する(第1段階)。その後、部位特異的組換え酵素Creを作用させてポジティブ選択マーカー遺伝子(Hyg)を取り除く(第2段階)。このように二段階の選択が必要なことに加え、loxPの配列は最終的に取り除くことはできない。 本発明のゲノム編集技術の骨子を示す図である。マイナス鎖RNAウイルスベクターにはガイドRNAの遺伝子は搭載されず、ヌクレアーゼ蛋白質の遺伝子だけが搭載される。複製能欠失型のウイルスベクターの場合、感染性ウイルスが細胞外に放出されることはない(図中のAの太いバー)。ガイドRNAの非存在下で発現したヌクレアーゼ蛋白質は核に大量に蓄積する(図中のAのハサミ)。その後、供与DNAとガイドRNAを細胞に導入すると、ヌクレアーゼが機能を発揮し高頻度で組み換えが生じるため、薬剤選択の必要はなく、一段階で目的の遺伝子改変体を取得することも可能である(図中のB)。 本発明のゲノム編集技術による高頻度遺伝子改変(復帰)の実証実験を示す図である。供与DNAにHPRT遺伝子断片を用い、HPRT細胞を標的細胞として用いた。Cas9遺伝子を搭載する温度感受性SeVベクターを細胞に感染させ、許容温度(35℃)で培養してCas9を強発現させる。その後、ガイドRNA(tracrRNA, crRNA)および供与DNAを導入し、非許容温度(37℃)で培養する。細胞のゲノムDNAの標的切断によって誘導される遺伝子改変(復帰)反応が高頻度で生じ、限られたコロニーの解析で目的の細胞を得る。 SeV-Cas9上清サンプルによる遺伝子復帰クローンの出現頻度などを示す図である。Cas9とガイドRNA(sgRNA)をプラスミドから発現させる従来の方法と比べ、Cas9発現SeVを用いた本発明の方法では、生細胞に対するHAT耐性細胞(HPRT細胞)の出現頻度は著しく上昇した(パネルA)。 HAT耐性コロニーにおける標的領域の構造の確認を示す図である。得られたHAT耐性コロニーにおける標的領域をPCRで増幅したところ、本発明の方法では、全クローンで期待される長さの増幅断片が得られたものの、プラスミドを用いる従来の方法では、17クローン中2クローンにおいて、期待されるよりも長い断片となっていることが観察された(パネルC)。 得られたHAT耐性クローンの標的領域を解析した結果を示す。従来の方法では、実験1(Exp.1)においては17クローン中6クローンで、実験2(Exp.2)では12クローン中6クローンで、標的断片のランダムインレグレーションの付随や予期しない塩基挿入が見られたのに対し、本発明の方法ではそのようなクローンは一つも観察されなかった(パネルD)。 SeV-Cas9精製サンプルによる遺伝子復帰クローンの出現頻度などを示す図である。SeV-Cas9上清サンプルを精製サンプルに変更することでCell viabilityが改善された。Cas9とガイドRNA(sgRNA)をプラスミドから発現させる従来の方法と比べ、Cas9発現SeVを用いた本発明の方法では、生細胞に対するHAT耐性細胞(HPRT細胞)の出現頻度が著しく上昇した。 SeV-Cas9精製サンプルによる遺伝子破壊クローンの出現頻度などを示す図である。Cas9とガイドRNA(sgRNA)をプラスミドから発現させる従来の方法と比べ、Cas9発現SeVを用いた本発明の方法では、生細胞に対する6チオグアニン耐性細胞(HPRT-細胞)の出現頻度が有意に上昇した。
本発明は、マイナス鎖RNAウイルスベクターを用いた新たな遺伝子改変方法を提供する。当該方法は、マイナス鎖RNAウイルスベクターを用い、ガイドRNAを発現させることなく(あるいは一部のガイドRNAは発現させるが、ヌクレアーゼの活性の発現に必要なガイドRNAのすべてを発現させることなく)、ガイドRNA依存性DNAヌクレアーゼを当該ベクターから発現させることを特徴とする。不足しているガイドRNA(該ヌクレアーゼの活性の発現のために欠けているガイドRNA)は、マイナス鎖RNAウイルスベクターから当該ヌクレアーゼが発現した後で、別途、細胞に供給される。すなわち、例えば別途細胞に導入されるか、またはマイナス鎖RNAウイルスベクターよりも迅速に発現できるベクターによって転写される。より具体的には、本発明の遺伝子改変方法は例えば以下の方法が例示できる。なお本発明において遺伝子改変は所望の遺伝子編集を包含し、例えば遺伝子変換、遺伝子修復、遺伝子置換、遺伝子復帰、および遺伝子破壊等を包含する。
ガイドRNA依存性DNAヌクレアーゼを用いる遺伝子改変方法であって、
(a)ガイドRNA依存性DNAヌクレアーゼの遺伝子を搭載し、該ヌクレアーゼの活性の発現に必要なガイドRNAの少なくとも一つをコードしないマイナス鎖RNAウイルスベクターを細胞に導入し、該ベクターを発現させ、該少なくとも一つのガイドRNAの非存在下で該ヌクレアーゼを細胞に蓄積させる工程、
(b)工程(a)の後、不足するガイドRNAを細胞に供給する工程、を含む方法。
なお、工程(b)の後に、
(c)遺伝子が改変された細胞を回収する工程、をさらに含んでもよい。
マイナス鎖RNAウイルスベクターは広範な細胞に対して高い感染性を有し、搭載遺伝子を極めて高いレベルで発現する能力を持つものの、感染から高発現に至るまでには一定の時間を要する。そのため、ベクターを感染後は一定期間培養することが必要であり、その間、搭載遺伝子の発現産物は徐々に細胞に蓄積して行くことになるため、それが活性を持つ酵素である場合は、その間、細胞中で作用し続けることになる。本発明においては、あえてマイナス鎖RNAウイルスベクターからヌクレアーゼだけ(あるいはヌクレアーゼと一部のガイドRNAだけ)を発現させ、ヌクレアーゼの活性の発現に必要なすべてのガイドRNAを発現させないようにすることにより、ベクターを細胞に導入して搭載されているヌクレアーゼ遺伝子が発現して細胞に蓄積する間、活性型のヌクレアーゼが細胞に作用することができないように設計されている点に特徴がある。
ガイドRNA依存性DNAヌクレアーゼには、ガイドRNAが一つしか必要のないものや、複数のガイドRNAが必要なものがある。例えば天然のCRISPR-Cas9系では、上述の通りcrRNAとtracrRNAという二つのRNAがヌクレアーゼと共に複合体を形成することによってヌクレアーゼ活性を発揮するため、そのどちらかがなければヌクレアーゼは機能を発揮できない。これに対してCpf1は、crRNAが標的サイトへのガイドRNAとして機能し、tracrRNAを必要としない。本発明のマイナス鎖RNAウイルスベクターは、コードしているガイドRNA依存性DNAヌクレアーゼの活性に必要なガイドRNAの少なくとも一つ(全部でもよい)をコードしないことにより、当該ベクターが発現してもヌクレアーゼが細胞に作用することができない。例えば活性の発現にcrRNAとtracrRNAが必要なヌクレアーゼの場合、本発明のマイナス鎖RNAウイルスベクターは、crRNAまたはtracrRNAのいずれか、あるいはその両方をコードしていない。活性の発現に一つのガイドRNAしか必要としないヌクレアーゼの場合、本発明のマイナス鎖RNAウイルスベクターは、そのガイドRNAをコードしていない。なお本発明においてガイドRNA等の遺伝子を「コードする」とは、発現可能にコードしていることをいい、当該遺伝子を発現可能に搭載していることをいう。
本発明において用いられるマイナス鎖RNAウイルスベクターとしては特に制限はない。例えば、パラミクソウイルスベクターを好適に用いることができる。パラミクソウイルスとはパラミクソウイルス科(Paramyxoviridae)に属するウイルスまたはその誘導体を指す。パラミクソウイルス科はパラミクソウイルス亜科(Paramyxovirinae)(レスピロウイルス属(パラミクソウイルス属とも言う)、ルブラウイルス属、およびモービリウイルス属を含む)およびニューモウイルス亜科(Pneumovirinae)(ニューモウイルス属およびメタニューモウイルス属を含む)を含む。パラミクソウイルス科ウイルスに含まれるウイルスとして、具体的にはセンダイウイルス(Sendai virus)、ニューカッスル病ウイルス(Newcastle disease virus)、おたふくかぜウイルス(Mumps virus)、麻疹ウイルス(Measles virus)、RSウイルス(Respiratory syncytial virus)、牛疫ウイルス(rinderpest virus)、ジステンパーウイルス(distemper virus)、サルパラインフルエンザウイルス(SV5)、ヒトパラインフルエンザウイルス1, 2, 3型等が挙げられる。より具体的には、例えば Sendai virus (SeV)、human parainfluenza virus-1 (HPIV-1)、human parainfluenza virus-3 (HPIV-3)、phocine distemper virus (PDV)、canine distemper virus (CDV)、dolphin molbillivirus (DMV)、peste-des-petits-ruminants virus (PDPR)、measles virus (MeV)、rinderpest virus (RPV)、Hendra virus (Hendra)、Nipah virus (Nipah)、human parainfluenza virus-2 (HPIV-2)、simian parainfluenza virus 5 (SV5)、human parainfluenza virus-4a (HPIV-4a)、human parainfluenza virus-4b (HPIV-4b)、mumps virus (Mumps)、およびNewcastle disease virus (NDV) などが含まれる。ラブドウイルスとしては、ラブドウイルス科(Rhabdoviridae)の水疱性口内炎ウイルス(Vesicular stomatitis virus)、狂犬病ウイルス(Rabies virus)等が含まれる。
なおマイナス鎖RNAウイルスのゲノムRNAはマイナス鎖(ネガティブ鎖)であり、蛋白質やRNAをコードする場合は、ゲノムRNA上にアンチセンス配列としてコードされている。本発明においては、このような場合も蛋白質やRNAを「コードしている」と称す。また、蛋白質やRNAがマイナス鎖RNAゲノムにアンチセンス配列としてコードされているとき、当該蛋白質や当該RNAの遺伝子が当該ゲノムに搭載されているとも称す。マイナス鎖RNAゲノムを鋳型としてプラス鎖(ポジティブ鎖)RNAゲノム(アンチゲノムとも言う)が複製される他、マイナス鎖RNAゲノムを鋳型として転写が起こり、センス鎖のRNAが生成される。本発明においては、マイナス鎖RNAゲノムおよびプラス鎖RNAゲノムを「ゲノム」と総称する。
本発明のウイルスベクターは、好ましくはパラミクソウイルス亜科(レスピロウイルス属、ルブラウイルス属、およびモービリウイルス属を含む)に属するウイルスまたはその誘導体であり、より好ましくはレスピロウイルス属(genus Respirovirus)(パラミクソウイルス属(Paramyxovirus)とも言う)に属するウイルスまたはその誘導体である。本発明を適用可能なレスピロウイルス属ウイルスとしては、例えばヒトパラインフルエンザウイルス1型(HPIV-1)、ヒトパラインフルエンザウイルス3型(HPIV-3)、ウシパラインフルエンザウイルス3型(BPIV-3)、センダイウイルス(Sendai virus; マウスパラインフルエンザウイルス1型とも呼ばれる)、麻疹ウイルス、サルパラインフルエンザウイルス(SV5)、およびサルパラインフルエンザウイルス10型(SPIV-10)などが含まれる。本発明においてパラミクソウイルスは、最も好ましくはセンダイウイルスである。
パラミクソウイルスは、一般に、エンベロープの内部にRNAとタンパク質からなる複合体(リボヌクレオプロテイン; RNP)を含んでいる。RNPに含まれるRNAはマイナス鎖RNAウイルスのゲノムである(−)鎖(ネガティブ鎖)の一本鎖RNAであり、この一本鎖RNAが、NPタンパク質、Pタンパク質、およびLタンパク質と結合し、RNPを形成している。このRNPに含まれるRNAがウイルスゲノムの転写および複製のための鋳型となる(Lamb, R.A., and D. Kolakofsky, 1996, Paramyxoviridae: The viruses and their replication. pp.1177-1204. In Fields Virology, 3rd edn. Fields, B. N., D. M. Knipe, and P. M. Howley et al. (ed.), Raven Press, New York, N. Y.)。
例えばセンダイウイルスの各遺伝子の塩基配列のデータベースのアクセッション番号は、NP遺伝子については M29343、M30202, M30203, M30204, M51331, M55565, M69046, X17218、P遺伝子については M30202, M30203, M30204, M55565, M69046, X00583, X17007, X17008、M遺伝子については D11446, K02742, M30202, M30203, M30204, M69046, U31956, X00584, X53056、F遺伝子については D00152, D11446, D17334, D17335, M30202, M30203, M30204, M69046, X00152, X02131、HN遺伝子については D26475, M12397, M30202, M30203, M30204, M69046, X00586, X02808, X56131、L遺伝子については D00053, M30202, M30203, M30204, M69040, X00587, X58886を参照のこと。またその他のウイルスがコードするウイルス遺伝子を例示すれば、NP遺伝子(N遺伝子とも言う)については、CDV, AF014953; DMV, X75961; HPIV-1, D01070; HPIV-2, M55320; HPIV-3, D10025; Mapuera, X85128; Mumps, D86172; MV, K01711; NDV, AF064091; PDPR, X74443; PDV, X75717; RPV, X68311; SeV, X00087; SV5, M81442; および Tupaia, AF079780、P遺伝子については、CDV, X51869; DMV, Z47758; HPIV-l, M74081; HPIV-3, X04721; HPIV-4a, M55975; HPIV-4b, M55976; Mumps, D86173; MV, M89920; NDV, M20302; PDV, X75960; RPV, X68311; SeV, M30202; SV5, AF052755; および Tupaia, AF079780、C遺伝子については CDV, AF014953; DMV, Z47758; HPIV-1. M74081; HPIV-3, D00047; MV, ABO16162; RPV, X68311; SeV, AB005796; および Tupaia, AF079780、M遺伝子については CDV, M12669; DMV Z30087; HPIV-1, S38067; HPIV-2, M62734; HPIV-3, D00130; HPIV-4a, D10241; HPIV-4b, D10242; Mumps, D86171; MV, AB012948; NDV, AF089819; PDPR, Z47977; PDV, X75717; RPV, M34018; SeV, U31956; および SV5, M32248、F遺伝子については CDV, M21849; DMV, AJ224704; HPN-1. M22347; HPIV-2, M60182; HPIV-3. X05303, HPIV-4a, D49821; HPIV-4b, D49822; Mumps, D86169; MV, AB003178; NDV, AF048763; PDPR, Z37017; PDV, AJ224706; RPV, M21514; SeV, D17334; および SV5, AB021962、HN(HまたはG)遺伝子については CDV, AF112189; DMV, AJ224705; HPIV-1, U709498; HPIV-2. D000865; HPIV-3, AB012132; HPIV-4A, M34033; HPIV-4B, AB006954; Mumps, X99040; MV, K01711; NDV, AF204872; PDPR, Z81358; PDV, Z36979; RPV, AF132934; SeV, U06433; および SV-5, S76876 が例示できる。但し、各ウイルスは複数の株が知られており、株の違いにより上記に例示した以外の配列からなる遺伝子も存在する。これらのいずれかの遺伝子に由来するウイルス遺伝子を持つセンダイウイルスベクターは、本発明のベクターとして有用である。例えば本発明のセンダイウイルスベクターは、上記のいずれかのウイルス遺伝子のコード配列と、90%以上、好ましくは95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、または99%以上の同一性を持つ塩基配列を含む。また、本発明のセンダイウイルスベクターは、例えば上記のいずれかのウイルス遺伝子のコード配列がコードするアミノ酸配列と、90%以上、好ましくは95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、または99%以上の同一性を持つアミノ酸配列をコードする塩基配列を含む。また、本発明のセンダイウイルスベクターは、例えば上記のいずれかのウイルス遺伝子のコード配列がコードするアミノ酸配列において、10個以内、好ましくは9個以内、8個以内、7個以内、6個以内、5個以内、4個以内、3個以内、2個以内、または1個のアミノ酸が置換、挿入、欠失、および/または付加されたアミノ酸配列をコードする塩基配列を含む。
なお本明細書に記載した塩基配列およびアミノ酸配列などのデータベースアクセッション番号が参照された配列は、例えば本願の出願日または優先日における配列を参照するものであって、本願の出願日および優先日のいずれ時点における配列としても特定することができ、好ましくは本願の出願日における配列として特定される。各時点での配列はデータベースのリビジョンヒストリーを参照することにより特定することができる。
なお本発明のマイナス鎖RNAウイルスベクターは、ウイルスが本来持つエンベロープ蛋白質とは異なる蛋白質をエンベロープに含むウイルスを使用してもよい。例えば、ウイルス製造の際に、所望の外来性エンベロープ蛋白質をウイルス産生細胞で発現させることにより、これを含むウイルスを製造することができる。このような蛋白質に特に制限はなく、哺乳動物細胞への感染能を付与する所望の接着因子、リガンド、受容体等の蛋白質を用いることができる。具体的には、例えば水疱性口内炎ウイルス(vesicular stomatitis virus; VSV)のG蛋白質(VSV-G)を挙げることができる。VSV-G蛋白質は、任意のVSV株に由来するものであってよく、例えば Indiana血清型株(J. Virology 39: 519-528 (1981))由来のVSV-G蛋白を用いることができるが、これに限定されない。例えばセンダイウイルスベクターは、他のウイルス由来のエンベロープ蛋白質を任意に組み合わせて含むことができる。
また本発明において用いられるマイナス鎖RNAウイルスベクターは誘導体であってもよく、誘導体には、ウイルスによる遺伝子導入能を損なわないように、ウイルス遺伝子が改変されたウイルス、および化学修飾されたウイルス等が含まれる。
またマイナス鎖RNAウイルスは、天然株、野生株、変異株、ラボ継代株、および人為的に構築された株などに由来してもよい。例えばセンダイウイルスであればZ株が挙げられるが、それに限定されるものではない(Medical Journal of Osaka University Vol.6, No.1, March 1955 p1-15)。例えば、野生型ウイルスが持ついずれかの遺伝子に変異や欠損があるものであってよい。例えば、ウイルスのエンベロープ蛋白質または外殻蛋白質をコードする少なくとも1つの遺伝子に欠損あるいはその発現を抑制するストップコドン変異などの変異を有する伝播能欠失型ウイルスを好適に用いることができる。このようなエンベロープ蛋白質を発現しないウイルスは、例えば感染細胞においてはゲノムを複製することはできるが、感染性ウイルス粒子を形成できないウイルスである。このような伝搬能欠損型のウイルスは、特に安全性の高いベクターとして好適である。例えば、FまたはHNのいずれかのエンベロープ蛋白質(スパイク蛋白質)の遺伝子、あるいはFおよびHNの遺伝子をゲノムにコードしないウイルスを用いることができる (WO00/70055 および WO00/70070; Li, H.-O. et al., J. Virol. 74(14) 6564-6569 (2000))。少なくともゲノム複製に必要な蛋白質(例えば N、P、およびL蛋白質)をゲノムRNAにコードしていれば、ウイルスは感染細胞においてゲノムを増幅することができる。エンベロープ蛋白質欠損型でありかつ感染性を持つウイルス粒子を製造するには、例えば、欠損している遺伝子産物またはそれを相補できる蛋白質をウイルス産生細胞において外来的に供給する(WO00/70055 および WO00/70070; Li, H.-O. et al., J. Virol. 74(14) 6564-6569 (2000))。一方、欠損するウイルス蛋白質を全く相補しないことによって、非感染性ウイルス粒子を回収することができる(WO00/70070)。
また、変異型のウイルス蛋白質遺伝子を搭載するウイルスベクターを用いることも好ましい。例えば、エンベロープ蛋白質や外殻蛋白質において弱毒化変異や温度感受性変異を含む多数の変異が知られている。これらの変異蛋白質遺伝子を有するウイルスを本発明において好適に用いることができる。本発明においては、望ましくは細胞傷害性を減弱したベクターを用い得る。細胞傷害性は、例えば細胞からの乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)の放出を定量することにより測定することができる。例えば細胞傷害性が野生型に比べ有意に減弱化したベクターを用いることができる。細胞傷害性の減弱化の程度は、例えば、ヒト由来 HeLa細胞(ATCC CCL-2)またはサル由来 CV-1細胞(ATCC CCL 70)にMOI(感染価)3で感染させて3日間培養した培養液中のLDH放出量が野生型に比べ有意に低下したもの、例えば20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、または50%以上低下したベクターを用いることができる。また細胞傷害性を低下させる変異には、温度感受性変異も含まれる。
本発明において用いられるマイナス鎖RNAウイルスベクターに特に制限はないが、好ましくは少なくとも1つ、より好ましくは少なくとも2、3、4、5、またはそれ以上のウイルス遺伝子に欠失または変異を有していてよい。欠失と変異は、各遺伝子に対して任意に組み合わせて導入してよい。ここで変異とは、機能低下型の変異または温度感受性変異であってよく、好ましくは、少なくとも37℃において、野生型または当該変異を有さないウイルスに比べ、ウイルスの粒子形成能(非伝播型ウイルスにおいては非感染性ウイルス様粒子(Nontransmissible virus-like particle formation; NTVLP)形成能 (Inoue et al., J. Virol. 77:3238-3246, 2003))、増殖速度および/または搭載するいずれかの遺伝子の発現レベルを好ましくは1/2以下、より好ましくは1/3以下、より好ましくは1/5以下、より好ましくは1/10以下、より好ましくは1/20以下に低下させる変異である。例えば本発明において好適に用いられるマイナス鎖RNAウイルスベクターは、少なくとも2つのウイルス遺伝子が、欠失または変異している。このようなウイルスには、少なくとも2つのウイルス遺伝子が欠失しているもの、少なくとも2つのウイルス遺伝子が変異しているもの、少なくとも1つのウイルス遺伝子が変異しており少なくとも1つのウイルス遺伝子が欠失しているものが含まれる。変異または欠失している少なくとも2つのウイルス遺伝子は、好ましくはエンベロープ構成蛋白質をコードする遺伝子である。例えばF遺伝子を欠失し、Mおよび/またはHN遺伝子をさらに欠失するか、Mおよび/またはHN遺伝子に変異(例えばNTVLP形成抑制型変異および/または温度感受性変異)をさらに有するベクターは、本発明において好適に用いられる。また、例えばF遺伝子を欠失し、MまたはHN遺伝子をさらに欠失し、残るMおよび/またはHN遺伝子に変異(例えばNTVLP形成抑制型変異および/または温度感受性変異)をさらに有するベクターも、本発明において好適に用いられる。本発明において用いられるベクターは、より好ましくは、少なくとも3つのウイルス遺伝子(好ましくはエンベロープ構成蛋白質をコードする少なくとも3つの遺伝子;F, HN, およびM)が、欠失または変異している。このようなウイルスベクターには、少なくとも3つの遺伝子が欠失しているもの、少なくとも3つの遺伝子が変異しているもの、少なくとも1つの遺伝子が変異しており少なくとも2つの遺伝子が欠失しているもの、少なくとも2つの遺伝子が変異しており少なくとも1つの遺伝子が欠失しているものが含まれる。より好ましい態様を挙げれば、例えばF遺伝子を欠失し、MおよびHN遺伝子をさらに欠失するか、MおよびHN遺伝子に変異(例えばNTVLP形成抑制型変異および/または温度感受性変異)をさらに有するベクターは、本発明において好適に用いられる。また例えばF遺伝子を欠失し、MあるいはHN遺伝子をさらに欠失し、残るMあるいはHN遺伝子に変異(例えばNTVLP形成抑制型変異および/または温度感受性変異)をさらに有するベクターは、本発明において好適に用いられる。このような変異型のウイルスは、公知の方法に従って作製することが可能である。
例えば、ウイルスの構造蛋白質(NP, M)やRNA合成酵素(P, L)において弱毒化変異や温度感受性変異を含む多数の変異が知られている。これらの変異蛋白質遺伝子を有するパラミクソウイルスベクターなどを本発明において目的に応じて好適に用いることができる。
具体的には、例えばセンダイウイルスのM遺伝子の好ましい変異としては、M蛋白質における69位(G69)、116位(T116)、および183位(A183)からなる群より任意に選択される部位のアミノ酸置換が挙げられる(Inoue, M. et al., J.Virol. 2003, 77: 3238-3246)。センダイウイルスのM蛋白質に上記の3つの部位のいずれか、好ましくは任意の2部位の組み合わせ、さらに好ましくは3つの部位全てのアミノ酸が他のアミノ酸に置換された変異M蛋白質をコードするゲノムを有するウイルスは、本発明において好適に用いられる。
アミノ酸変異は、側鎖の化学的性質の異なる他のアミノ酸への置換が好ましく、例えばBLOSUM62マトリックス(Henikoff, S. and Henikoff, J. G. (1992) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 10915-10919)の値が3以下、好ましくは2以下、より好ましくは1以下、より好ましくは0のアミノ酸に置換する。具体的には、センダイウイルスM蛋白質のG69、T116、およびA183を、それぞれGlu (E)、Ala (A)、およびSer (S) へ置換することができる。また、麻疹ウイルス温度感受性株 P253-505(Morikawa, Y. et al., Kitasato Arch. Exp. Med. 1991: 64; 15-30)のM蛋白質の変異と相同な変異を利用することも可能である。変異の導入は、例えばオリゴヌクレオチド等を用いて、公知の変異導入方法に従って実施すればよい。
また、HN遺伝子の好ましい変異としては、例えばセンダイウイルスのHN蛋白質の262位(A262)、264位(G264)、および461位(K461)からなる群より任意に選択される部位のアミノ酸置換が挙げられる(Inoue, M. et al., J.Virol. 2003, 77: 3238-3246)。3つの部位のいずれか1つ、好ましくは任意の2部位の組み合わせ、さらに好ましくは3つの部位全てのアミノ酸が他のアミノ酸に置換された変異HN蛋白質をコードするゲノムを有するウイルスは、本発明において好適に用いられる。上記と同様に、アミノ酸の置換は、側鎖の化学的性質の異なる他のアミノ酸への置換が好ましい。好ましい一例を挙げれば、センダイウイルス HN蛋白質のA262、G264、およびK461を、それぞれThr (T)、Arg (R)、およびGly (G) へ置換する。また、例えば、ムンプスウイルスの温度感受性ワクチン株 Urabe AM9を参考に、HN蛋白質の464及び468番目のアミノ酸に変異導入することもできる(Wright, K. E. et al., Virus Res. 2000: 67; 49-57)。
またセンダイウイルスは、P遺伝子および/またはL遺伝子に変異を有していてもよい。このような変異としては、具体的には、SeV P蛋白質の86番目のGlu(E86)の変異、SeV P蛋白質の511番目のLeu(L511)の他のアミノ酸への置換が挙げられる。上記と同様に、アミノ酸の置換は、側鎖の化学的性質の異なる他のアミノ酸への置換が好ましい。具体的には、86番目のアミノ酸のLysへの置換、511番目のアミノ酸のPheへの置換などが例示できる。またL蛋白質においては、SeV L蛋白質の1197番目のAsn(N1197)および/または1795番目のLys(K1795)の他のアミノ酸への置換が挙げられ、上記と同様に、アミノ酸の置換は、側鎖の化学的性質の異なる他のアミノ酸への置換が好ましい。具体的には、1197番目のアミノ酸のSerへの置換、1795番目のアミノ酸のGluへの置換などが例示できる。P遺伝子およびL遺伝子の変異は、持続感染性、2次粒子放出の抑制、または細胞傷害性の抑制の効果を顕著に高めることができる。さらに、エンベロープ蛋白質遺伝子の変異および/または欠損を組み合わせることで、これらの効果を劇的に上昇させることができる。またL遺伝子は、SeV L蛋白質の1214番目のTyr(Y1214)および/または1602番目のMet(M1602)の他のアミノ酸への置換が挙げられ、上記と同様に、アミノ酸の置換は、側鎖の化学的性質の異なる他のアミノ酸への置換が好ましい。具体的には、1214番目のアミノ酸のPheへの置換、1602番目のアミノ酸のLeuへの置換などが例示できる。以上に例示した変異は、任意に組み合わせることができる。
例えば、SeV M蛋白質の少なくとも69位のG、116位のT、及び183位のA、SeV HN蛋白質の少なくとも262位のA,264位のG,及び461位のK、SeV P蛋白質の少なくとも511位のL、SeV L蛋白質の少なくとも1197位のN及び1795位のKが、それぞれ他のアミノ酸に置換されており、かつF遺伝子を欠損または欠失するセンダイウイルスベクター、ならびに、細胞傷害性がこれらと同様またはそれ以下、および/または37℃におけるNTVLP形成の抑制がこれらと同様またはそれ以上のF遺伝子欠損または欠失センダイウイルスベクターは、本発明において好適である。
より具体的には、F遺伝子を欠失し、M蛋白質にG69E、T116A、およびA183Sの変異、HN蛋白質にA262T、G264R、およびK461Gの変異、P蛋白質にL511Fの変異、ならびにL蛋白質にN1197SおよびK1795Eの変異をゲノムに含むセンダイウイルスベクターは、本発明において好適に用いることができる。本発明において、F遺伝子の欠失とこれらの変異との組み合わせを「TSΔF」と称す。
ガイドRNA依存性DNAヌクレアーゼの遺伝子を搭載するマイナス鎖RNAウイルスベクターの細胞への導入は、適宜周知の方法に従って実施すればよい。実施例ではMOI(multiplicity of infection)は3付近で実施されているが、MOIに特に制限はなく、適宜調整してよい。MOIは、例えば0.1〜50、好ましくは0.5〜30、1〜20、2〜10、または3〜5程度であってよく、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10であってよい。
ベクターを導入する標的細胞に特に制限はなく、マイナス鎖RNAウイルスが感染できる所望の細胞を用いることができる。細胞が由来する生物にも特に限定はなく、例えば所望の真核生物の細胞であってよい。より具体的には、標的細胞としては、例えば動物細胞または植物細胞、好ましくは動物細胞であり、より好ましくは哺乳動物細胞、例えば霊長類の細胞、具体的にはマウス、ラット、サル、およびヒトの細胞が挙げられる。また、細胞の種類にも特に制限はなく、所望の組織の細胞を用いることができ、分化した細胞や未分化な細胞、前駆細胞、始原細胞等にドナーポリヌクレオチドを導入してゲノム改変を行うことができる。また、胚性幹細胞、多能性幹細胞(例えば誘導多能性幹細胞 (iPS細胞))等に導入することもできる。
工程(a)においてベクターを導入した後、ベクターから発現されるヌクレアーゼが、少なくとも組み換えを引き起こすのに必要な量に達するまで培養される。実施例での期間は48時間であるが、その期間は適宜調整してよい。例えば12時間以上、24時間以上、36時間以上、または48時間以上である。また、例えば1日以上、2日以上、3日以上または4日以上発現させることができる。工程(a)の培養期間の上限に特に制限はないが、ヌクレアーゼが十分に蓄積すれば適宜次の工程に進んでよい。工程(a)の期間は、例えば10日以内、9日以内、8日以内、7日以内、6日以内、5日以内、4日以内、または3日以内である。
工程(a)の次に、ヌクレアーゼが活性を発揮するために不足しているガイドRNAを細胞に供給する(工程(b))。当該ガイドRNAは、細胞に導入しても、ガイドRNAを発現するベクターを細胞に導入し、ベクターから発現させてもよい。
ガイドRNAをベクターから発現させる場合、ベクターとしては、工程(a)で用いたマイナス鎖RNAウイルスベクターよりも迅速に発現を開始できるベクターが用いられる。そのようなベクターとしては、例えばプラスミドベクターなどの非ウイルスベクターが挙げられるが、それに限定されるものではない。ベクターからRNAを転写させるためのプロモーターは特に制限はなく、Pol Iプロモーター、Pol IIプロモーター、Pol IIIプロモーター、バクテリオファージの所望のプロモーターを用いることができる。例えばT4ファージやT7ファージのRNAポリメラーゼやプロモーターを例示することができる。またポリメラーゼII(Pol II)プロモーターとしては、例えばCMVプロモーターやβ-globinプロモーター等を例示することができる。数百塩基以内の比較的短いRNAを発現させるためには、Pol IIよりも高い発現量が見込めるポリメラーゼIII(Pol III)プロモーターを利用することが好ましい。Pol IIIプロモーターとしては、U6プロモーター、H1プロモーター、tRNAプロモーター、7SKプロモーター、7SLプロモーター、Y3プロモーター、5S rRNAプロモーター、Ad2 VAIおよびVAIIプロモーター等を例示することができる(Das, G. et al., 1988, EMBO J. 7:503-512; Hernandez, N., 1992, pp. 281-313, In S. L. McKnight and K. R. Yamamoto (ed.), Transcriptional regulation, vol. 1. Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, N.Y.; Kunkel, G. R., 1991, Biochim. Biophys. Acta 1088:1-9; Lobo, S. M., and N. Hernandez, 1989, Cell 58:55-67; Mattaj, I. W. et al., 1988, Cell 55:435-442; Geiduschek, E.P. and G.A. Kassavetis, 1992, pp.247-280, In Transcriptional regulation. Monograph 22 (ed. S.L. McKnight and K.R. Yamamoto), Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York.)。特に、Class 3プロモーター、例えばU6, 7SK, hY1 および hY3, H1, および MRP/Th RNA遺伝子のプロモーターが挙げられる(Hernandez, N., 1992, pp. 281-313, In Transcriptional regulation. Monograph 22 (ed. S. McKnight and K.R. Yamamoto), Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York)。
ガイドRNAをベクターから発現させるときに、ガイドRNAだけを正確に転写させることが困難である場合、自己切り出し型のリボザイムとの融合RNAとして発現させ、転写後にガイドRNAが正確に切り出されるようにすることができる。
好ましくは、ガイドRNAは発現ベクターを介して発現させるのではなく、ガイドRNAそのものが細胞に導入される。そのためには、トランスフェクションなどによりRNAを細胞に導入すればよい。
RNAなどの核酸を細胞に導入する方法は数多く知られている。例えば、リン酸カルシウム法(Graham FL et al., 1973, Virology 52(2):456-467; Chen C et al., 1987, Mol. Cell Biol. 7(8):2745-2752)、リポフェクション法(Felgner PL et al., 1987, Proc Natl Acad Sci USA 84(21):7413-7417)、DEAE デキストラン法(Vaheri A et al., 1965, Virology 27(3):434-436; McCutchan JH et al., 1968, J. Natl. Cancer Inst. 41(2):351-357)、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法、パーティクル・ガン法などが挙げられるが、それらに限定されない。陽イオン性脂質、デンドリマー、Polyethylenimine (PEI) 等のポリマーを利用した試薬による導入は簡便であるため好ましい。
ガイドRNAは所望の方法で作製してよく、合成RNAであってもベクター等から発現させたRNAであってもよい。また、天然の塩基から成っていてもよく、修飾された塩基が含まれていてもよい。活性が維持される限り、ガイドRNAは適宜改変してもよい。例えば工程(b)において導入されるガイドRNAは、一つであっても複数であってもよい。天然のCRISPR-Cas9系では、CRISPR RNA(crRNA)とトランス型活性型CRSPR RNA(tracrRNA)という二つのRNAが複合体を形成することによって、標的DNA部位にCas9ヌクレアーゼを配向させるが、crRNAとtracrRNAは末端をつなげて1つのガイドRNA(single guide RNA; sgRNA)にできることは周知である(Mali, P. et a l., 2013, Science 339(6121):823-826)。このようなsgRNAを好適に用いることができる。また、ガイドRNAの配列は、活性が維持される限り、適宜変異を導入することができる(Sander, JD et al., 2014, Nature Biotechnology, 32:347-355)。
なお、例えばCRISPR-Cas9系においては、標的切断に必要な要素は、Cas9タンパク質、tracrRNA、crRNAであるが、標的部位がどこであっても使われる共通要素は、Cas9タンパク質とtracrRNAであるので、マイナス鎖RNAウィルスベクターにCas9遺伝子とtracrRNA遺伝子を同時搭載して、crRNAだけをトランスフェクションすることもできる。
トランスフェクション等によりガイドRNAを細胞に導入する場合、導入するRNA量は適宜調整することができる。具体的には、例えば各ガイドRNAの濃度として0.1ng/ml〜2mg/ml、より具体的には、0.2ng/ml〜1mg/ml、0.4ng/ml〜500μg/ml、1ng/ml〜250μg/ml、2ng/ml〜100μg/ml、5ng/ml〜50μg/ml、10ng/ml〜20μg/ml、20ng/ml〜10μg/ml、または10ng/ml〜5μg/mlで含む溶液に細胞を懸濁してRNAを導入することができるが、それらに限定されない。細胞数は適宜調整してよく、例えば1×103〜1×107/ml、具体的には、2×103〜8×106/ml、5×103〜4×106/ml、1×104〜2×106/mlの細胞数でRNAを導入することができるが、それらに限定されず、例えば細胞を限界希釈して1細胞のみが存在する条件下でRNAを導入してもよい。実施例の実験1〜6では、tracrRNAを 0.135〜1.08μg/well (6-well plate;500μl/well)(すなわち0.27〜2.16μg/ml)、crRNA 0.075〜0.6μg/well (6-well plate;500μl/well)(すなわち0.15〜1.2μg/ml)、その時の細胞量は大凡1〜3×106 cellsで実施したが、効率の大きな変動は見られなかったことから、幅広いRNA量で実施が可能である。
本発明においては、工程(a)で用いるマイナス鎖RNAウイルスベクターとして温度感受性マイナス鎖RNAウイルスベクターを好適に用いることができる。温度感受性マイナス鎖RNAウイルスベクターを用いることによって、工程(a)が終了後、培養温度を上げることによりベクターを迅速に失活させることができるため、活性型のヌクレアーゼの発現期間をより厳密に制御することが可能となる。温度感受性マイナス鎖RNAウイルスベクターとは、低温(例えば32℃から35℃、より具体的には例えば35℃)におけるベクターからの発現に比べ、37℃における発現が有意に低下するマイナス鎖RNAウイルスベクターを言う。例えば、本発明において用いられる温度感受性マイナス鎖RNAウイルスベクターは、低温(例えば35℃)におけるベクターからの発現に比べ、37℃における発現が1/2以下、好ましくは1/3以下、より好ましくは1/4以下、1/5以下、1/6以下、1/7以下、1/8以下、1/9以下、1/10以下、1/20以下、1/30以下、1/40以下、1/50以下、または1/100以下に低下する。発現レベルは、例えば発現蛋白質に対する蛍光標識抗体を用い、蛍光強度を測定することによって知ることができるほか、GFP蛋白質等を発現させ、その蛍光強度を測定することによって知ることもできる。
本発明において許容温度(permissive temperature)とは、温度感受性ベクターの発現が有意に抑制されない温度を言い、非許容温度(non-permissive temperature)とは、温度感受性ベクターの発現が抑制される温度を言う。より具体的には、許容温度は、例えば温度感受性ベクターの最適温度(24時間あたりの発現量が最大となる最高温度)での発現量と温度感受性ベクターの非最適温度(24時間あたりの発現量が最小となる最低温度)(例えば37〜39℃における最低温度)での発現量との差の中間となる温度を境界とし、それ未満の温度を許容温度、それ以上の温度を非許容温度とすることができる。許容温度は、例えば36.5℃未満の温度、例えば36℃以下、または35.5℃以下、または35℃以下の温度であり、非許容温度は、例えば36.6℃以上の温度、例えば36.8℃以上、または37℃以上の温度であってよい。
温度感受性マイナス鎖RNAウイルスベクターを用いる本発明の方法は、例えば以下の方法が挙げられる。
ガイドRNA依存性DNAヌクレアーゼを用いる遺伝子改変方法であって、
(a)該ヌクレアーゼの遺伝子を搭載し、該ヌクレアーゼの活性の発現に必要なガイドRNAの少なくとも一つをコードしない温度感受性マイナス鎖RNAウイルスベクターを細胞に導入し、許容温度下で該ベクターを発現させ、該少なくとも一つのガイドRNAの非存在下で該ヌクレアーゼを細胞に蓄積させる工程、
(b)工程(a)の後、不足するガイドRNAを細胞に供給する工程、
(c)工程(b)の前後または同時に培養温度を非許容温度に上昇させ、該ガイドRNAが細胞中に存在する状態で培養する工程、を含む方法。
なお、工程(c)の後に、
(d)遺伝子が改変された細胞を回収する工程、をさらに含んでもよい。
温度感受性ベクターを用いない場合との違いは、工程(a)において許容温度下で細胞を培養することと、工程(b)の前後または同時に培養温度を非許容温度に上昇させ、工程(b)で供給したガイドRNAが細胞内に存在する状態で培養する工程が含まれる点(工程(c))にある。これにより、細胞内に機能的ガイドRNAが存在する状態において、該マイナス鎖RNAウイルスベクターは不活化する。工程(a)の培養温度は、用いるベクターに応じて、ベクターからの発現が阻害されない温度を適宜選択すればよく、例えば30℃〜36℃の範囲内、例えば32℃〜35℃、例えば約32℃、約33℃、約34℃、約35℃または約36℃である。
培養温度を非許容温度に上昇させるタイミング(工程(c))は、工程(b)の実施と同時であっても、工程(b)の前または後であってもよいが、ガイドRNAの供給により十分な量の活性型ヌクレアーゼを形成させ、その後速やかに活性型ヌクレアーゼを消失させるためには、工程(b)の実施から時間的にあまり離れていないことが望ましい。例えば工程(b)の実施時か、遅くともその24時間後までには培養温度は非許容温度に上昇していることが好ましい。そのためには、工程(b)の実施時かその直前または直後に培養温度を上昇させることができる。実施例ではリポフェクション開始と同時に非許容温度に上昇させたが、例えば工程(b)の実施時の前後24時間以内、好ましくは23時間以内、22時間以内、20時間以内、18時間以内、16時間以内、15時間以内、12時間以内、10時間以内、8時間以内、6時間以内、4時間以内または3時間以内においても、培養温度を非許容温度(例えば37〜38℃、37〜37.5℃、または約37℃)にまで上昇させることができる。
用いる温度感受性マイナス鎖RNAウイルスベクターは特に制限はなく、所望の温度感受性変異やその他の変異を導入したベクターを用いることができる。
例えば、センダイウイルス(SeV)の場合、L蛋白質の変異としては、SeV L蛋白質の942位(Y942)、1361位(L1361)、および1558位(L1558)から任意に選択される部位のアミノ酸の他のアミノ酸への置換も挙げられる。上記と同様に、アミノ酸の置換は、側鎖の化学的性質の異なる他のアミノ酸への置換が好ましい。具体的には、942番目のアミノ酸のHisへの置換、1361番目のアミノ酸のCysへの置換、1558番目のアミノ酸のIleへの置換などが例示できる。特に少なくとも942位または1558位が置換されたL蛋白質を好適に用いることができる。例えば1558位に加え、1361位も他のアミノ酸に置換された変異L蛋白質も好適である。また、942位に加え、1558位および/または1361位も他のアミノ酸に置換された変異L蛋白質も好適である。これらの変異により、L蛋白質の温度感受性を上昇させることができる。
またP蛋白質の変異としては、SeV P蛋白質の433位(D433)、434位(R434)、および437位(K437)から任意に選択される部位のアミノ酸の他のアミノ酸への置換が挙げられる。上記と同様に、アミノ酸の置換は、側鎖の化学的性質の異なる他のアミノ酸への置換が好ましい。具体的には、433番目のアミノ酸のAla (A) への置換、434番目のアミノ酸のAla (A) への置換、437番目のアミノ酸のAla (A) への置換などが例示できる。特にこれら3つの部位全てが置換されたP蛋白質を好適に用いることができる。これらの変異により、P蛋白質の温度感受性を上昇させることができる。
SeV P蛋白質の少なくとも433位のD、434位のR、および437位のKの3箇所が、他のアミノ酸に置換された変異P蛋白質、およびSeV L蛋白質の少なくとも1558位のLが置換された変異L蛋白質(好ましくは少なくとも1361位のLも他のアミノ酸に置換された変異L蛋白質)をコードする、F遺伝子を欠損または欠失するセンダイウイルスベクター、ならびに、細胞傷害性がこれと同様またはそれ以下、および/または温度感受性がこれと同様またはそれ以上のF遺伝子を欠損または欠失するセンダイウイルスベクターも、本発明において好適に用いられる。各ウイルス蛋白質は、本明細書に例示した変異以外に他のアミノ酸(例えば10以内、5以内、4以内、3以内、2以内、または1アミノ酸)に変異を有していてもよい。上記に示した変異を有するベクターは高い温度感受性を示すので、細胞を通常温度(例えば約37℃、具体的には36.5〜37.5℃、好ましくは36.6〜37.4℃、より好ましくは36.7℃〜37.3℃)で培養することにより、ベクターを簡便に除去することができる。ベクターの除去においては、やや高温(例えば37.5〜39℃、好ましくは38〜39℃、または38.5〜39℃)で培養してもよい。
具体的なベクターを例示すれば、例えばF遺伝子を欠失し、M蛋白質にG69E、T116A、およびA183Sの変異、HN蛋白質にA262T、G264R、およびK461Gの変異、P蛋白質にL511Fの変異、ならびにL蛋白質にN1197SおよびK1795Eの変異をゲノムに含むセンダイウイルスベクターが挙げられる。
また、好ましくは、例えばF遺伝子を欠失し、M蛋白質にG69E、T116A、およびA183Sの変異、HN蛋白質にA262T、G264R、およびK461Gの変異、P蛋白質にL511Fの変異、ならびにL蛋白質にN1197SおよびK1795Eの変異をゲノムに含むセンダイウイルスベクターであって、以下の(i)および/または(ii)の変異をさらにゲノムに含むセンダイウイルスベクターが挙げられる。
(i)P蛋白質のD433A、R434A、およびK437Aの変異
(ii)L蛋白質のY942H、L1361Cおよび/またはL1558Iの変異
より具体的に例示すれば、F遺伝子を欠失し、M蛋白質にG69E、T116A、およびA183Sの変異、HN蛋白質にA262T、G264R、およびK461Gの変異、P蛋白質にL511Fの変異、ならびにL蛋白質にN1197SおよびK1795Eの変異をゲノムに含み、以下の(i)から(iv)のいずれかの変異をさらにゲノムに含むセンダイウイルスベクターが挙げられる。
(i)P蛋白質のD433A、R434A、およびK437Aの変異、ならびにL蛋白質のL1361CおよびL1558Iの変異(TS15)
(ii)P蛋白質のD433A、R434A、およびK437Aの変異(TS12)
(iii)L蛋白質のY942H、L1361C、およびL1558Iの変異(TS7)
(iv)P蛋白質のD433A、R434A、およびK437Aの変異、ならびにL蛋白質のL1558Iの変異(TS13)
(v)P蛋白質のD433A、R434A、およびK437Aの変異、ならびにL蛋白質のL1361Cの変異(TS14)
ヌクレアーゼ遺伝子をベクターに搭載させる場合、ヌクレアーゼ遺伝子は、いずれかのウイルス遺伝子(NP, P, M, F, HN, または L)の直前(ゲノムの3'側)または直後(ゲノムの5'側)に挿入することができる。例えばセンダイウイルスのP遺伝子の直後、すなわちP遺伝子のすぐ下流(マイナス鎖RNAゲノムのすぐ5'側)に組み込むことができるが、それに限定されない。
これらのベクターは、37℃においてNTVLP(nontransmissible virus-like particle)の形成が抑制され、細胞傷害性が低い優れたベクターとなる。NTVLP形成は、文献Inoue et al., J. Virol. 77:3238-3246, 2003に従って測定することができる。ベクターの細胞傷害性は、例えば細胞からの乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)の放出を定量することにより測定することができる。具体的には、例えばHeLa(ATCC CCL-2)またはサルCV-1(ATCC CCL 70)にMOI 3で感染させて3日間培養した培養液中のLDH放出量を測定する。LDH放出量が少ないほど細胞傷害性は低い。また温度感受性は、ウイルス宿主の通常の温度(例えば37℃ないし38℃)におけるウイルスの増殖速度または搭載遺伝子の発現レベルを測定することにより決定することができる。変異を有さないものに比べ、ウイルスの増殖速度および/または搭載遺伝子の発現レベルが低下すれば、その変異は温度感受性変異だと判断され、当該増殖速度および/または発現レベルが低下するほど、温度感受性は高いと判断される。
例えば、マイナス鎖RNAウイルスの製造は、以下の公知の方法を利用して実施することができる(WO97/16539; WO97/16538; WO00/70055; WO00/70070; WO01/18223; WO03/025570; WO2005/071092; WO2006/137517; WO2007/083644; WO2008/007581; Hasan, M. K. et al., J. Gen. Virol. 78: 2813-2820, 1997、Kato, A. et al., 1997, EMBO J. 16: 578-587 及び Yu, D. et al., 1997, Genes Cells 2: 457-466; Durbin, A. P. et al., 1997, Virology 235: 323-332; Whelan, S. P. et al., 1995, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92: 8388-8392; Schnell. M. J. et al., 1994, EMBO J. 13: 4195-4203; Radecke, F. et al., 1995, EMBO J. 14: 5773-5784; Lawson, N. D. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92: 4477-4481; Garcin, D. et al., 1995, EMBO J. 14: 6087-6094; Kato, A. et al., 1996, Genes Cells 1: 569-579; Baron, M. D. and Barrett, T., 1997, J. Virol. 71: 1265-1271; Bridgen, A. and Elliott, R. M., 1996, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93: 15400-15404; Tokusumi, T. et al. Virus Res. 2002: 86; 33-38、Li, H.-O. et al., J. Virol. 2000: 74; 6564-6569)。またウイルスの増殖方法および組み換えウイルスの製造方法については、ウイルス学実験学 各論、改訂二版(国立予防衛生研究所学友会編、丸善、1982)も参照のこと。
本発明のベクターに搭載されるガイドRNA依存性ヌクレアーゼ遺伝子に特に制限はなく、ゲノム編集に使用できる所望のガイドRNA依存性DNAエンドヌクレアーゼの遺伝子を搭載することができる。例えばCRISPR-Casシステムのヌクレアーゼが挙げられ、特にCRISPR-Casシステムのクラス2のヌクレアーゼ、例えばタイプII、タイプV、およびタイプVIのヌクレアーゼが挙げられる。具体的には、Cas9(Jinek M. et al. (2012) Science. 337 (6096): 816-821)、Cpf1(Accession No. NZ_CP010070.1)(Zetsche B et al., Cell (2015) 163(3):759-71)、C2c1(Yang H et al., Cell. (2016) 167(7):1814-1828)を例示することができるが、これらに限定されない。他生物由来のこれらのホモローグのいずれをも搭載することができる。
また本発明は、本発明のガイドRNA依存性DNAヌクレアーゼを用いる遺伝子改変方法によって、遺伝子改変細胞を含む細胞集団を製造する方法にも関する。当該方法は、例えば以下の方法が包含される。
ガイドRNA依存性DNAヌクレアーゼを用いた、遺伝子改変細胞を含む細胞集団、または該改変細胞の製造方法であって、
(a)ガイドRNA依存性DNAヌクレアーゼの遺伝子を搭載し、該ヌクレアーゼの活性の発現に必要なガイドRNAの少なくとも一つをコードしないマイナス鎖RNAウイルスベクターを細胞に導入し、該ベクターを発現させ、該少なくとも一つのガイドRNAの非存在下で該ヌクレアーゼを細胞に蓄積させる工程、
(b)工程(a)の後、不足するガイドRNAを細胞に供給する工程、を含む方法。
なお、工程(b)の後に、
(c)得られた細胞集団を回収する工程、
をさらに含んでもよい。
あるいは工程(b)または(c)の後に、
(c’)遺伝子が改変された細胞を回収する工程、
をさらに含んでもよい。
また当該方法において、温度感受性マイナス鎖RNAウイルスベクターを用いることも好適である。すなわち本発明は、例えば以下の方法を包含する。
ガイドRNA依存性DNAヌクレアーゼを用いた、遺伝子改変細胞を含む細胞集団、または該改変細胞の製造方法であって、
(a)該ヌクレアーゼの遺伝子を搭載し、該ヌクレアーゼの活性の発現に必要なガイドRNAの少なくとも一つをコードしない温度感受性マイナス鎖RNAウイルスベクターを細胞に導入し、許容温度下で該ベクターを発現させ、該少なくとも一つのガイドRNAの非存在下で該ヌクレアーゼを細胞に蓄積させる工程、
(b)工程(a)の後、不足するガイドRNAを細胞に供給する工程、
(c)工程(b)の前後または同時に培養温度を非許容温度に上昇させ、該ガイドRNAが細胞中に存在する状態で培養する工程、を含む方法。
なお、工程(c)の後に、
(d)得られた細胞集団を回収する工程、
をさらに含んでもよい。
あるいは工程(c)または(d)の後に、
(d’)遺伝子が改変された細胞を回収する工程、
をさらに含んでもよい。
また本発明は、上記した、ガイドRNA依存性ヌクレアーゼをコードし、該ヌクレアーゼの活性の発現に必要なガイドRNAの少なくとも一つをコードしないマイナス鎖RNAウイルスベクターの、本発明の方法を用いてゲノム改変を行うための使用、そして、本発明の方法を用いてゲノム改変された細胞を製造するための使用を提供する。また本発明は、当該マイナス鎖RNAウイルスベクターを含む、本発明の方法を用いてゲノム改変を行うための試薬(ゲノム改変剤)を提供する。また本発明は、当該マイナス鎖RNAウイルスベクターを含む、本発明の方法を用いてゲノム改変を行うための組成物を提供する。当該マイナス鎖RNAウイルスベクターおよび組成物は、医学的用途および非医学的用途のために用いることができ、メディカルおよびノンメディカルの態様において有用である。例えば本発明は、治療、手術、および/または診断、あるいは非治療、非手術、および/または非診断の目的に用いることができる。本発明の方法は、例えば生体外(例えばインビトロまたはエクスビボ)において実施される。なお本発明においてインビトロにおける実施には、エクスビボにおける実施も包含される。なお、エクスビボを包含しないインビトロにおける実施態様も本明細書に開示されていることは言うまでもない。
本発明のガイドRNA依存性ヌクレアーゼをコードし、該ヌクレアーゼの活性の発現に必要なガイドRNAの少なくとも一つをコードしないマイナス鎖RNAウイルスベクターを含む組成物は、適宜、薬学的に許容される担体または媒体を含んでよい。本発明の組成物は、医薬組成物、例えば、遺伝子疾患のゲノム修復用の医薬組成物として用いられる。担体および媒体に特に制限はないが、例えば、水(例えば滅菌水)、生理食塩水(例えばリン酸緩衝生理食塩水)、グリコール、エタノール、グリセロール、ラクトース、スクロース、リン酸カルシウム、ゼラチン、デキストラン、寒天、ペクチン、オリーブオイル、ピーナッツ油、ゴマ油などのオイル等が挙げられ、緩衝剤、希釈剤、保存剤、安定剤、賦形剤等も挙げられる。また本発明は、ガイドRNA依存性ヌクレアーゼ遺伝子を搭載し、該ヌクレアーゼの活性の発現に必要なガイドRNAの少なくとも一つをコードしない上記本発明のマイナス鎖RNAウイルスベクターを含むキットを提供する。当該組成物およびキットは、ガイドRNA依存性ヌクレアーゼを用いたゲノム編集、すなわち、遺伝子破壊や遺伝子変換、遺伝子修復などを含む遺伝子改変のために有用である。
本発明の組成物は、適宜、ガイドRNAと組み合わせることができる。例えば本発明のキットは、マイナス鎖RNAウイルスベクターを含む組成物と、ガイドRNAを含む試薬とを含むことができる。上述の通り、tracrRNAの配列は標的部位に依存しないため、本発明のマイナス鎖RNAウイルスベクターと、当該ベクターにコードされているヌクレアーゼに対応するtracrRNAとの組み合わせを含むキットは本発明において有用である。本発明のキットは、さらに供与DNAを含んでもよい。また当該キットには、適宜、取扱説明書を添付することができる。本発明のキットは、本発明の方法を用いたゲノム編集や改変に有用である。
例えば、本発明のマイナス鎖RNAウイルスベクターを用いて、標的ゲノム部位を効率よく破壊することができる。実施例7および8に示す通り、本発明の方法は、Cas9遺伝子を搭載するプラスミドベクターを用いた従来の方法よりも高頻度で標的遺伝子を破壊することができた。それでも、本発明の方法ではindelの発生頻度は比較的低い値に抑えられており、実施例5〜6からしても、不要なindelの発生頻度は低いことが期待できる。したがって本発明の方法は、目的外の部位(Off target)の変異のリスクを最小限に抑えつつ、目的の標的部位のみを破壊する方法として有用と考えられる。
また、標的とするゲノムDNAにヌクレアーゼを作用させるときに、ゲノムDNAと相同な配列を持つ供与DNAを共存させておくことで、標的DNAと供与DNAの間で組み換えを惹起させ、供与DNA中に存在する配列(ドナー配列)が組み込まれたゲノムを持つ細胞を取得することができる。供与DNAは、標的とする細胞が持つゲノムDNAの配列と高いホモロジーを持つDNAを含んでおり、その供与DNAは2本鎖であってもいずれかの1本鎖DNAであっても良い。
供与DNAは、標的細胞のゲノム配列と高いホモロジーを持つDNAを含む限り、他の配列をさらに含んでいてもよい。供与DNAは、所望のベクターとして調製してもよく、例えばプラスミドベクター、ファージベクター、コスミドベクター、ウイルスベクター、人工染色体ベクター(例えば酵母人工染色体ベクター(YAC)および細菌人工染色体ベクター(BAC)を含む)等に由来するDNAを含んでもよい。このように供与DNAがベクター骨格を有し、ベクターとして機能する場合、本発明の供与DNA(ドナーDNA)は、供与ベクター(ドナーベクター)ともいう。ベクターがプラスミドベクターの場合、本発明の供与DNAは、供与プラスミド(ドナープラスミド)ともいう。ベクターとして機能する供与DNAは、適当な宿主(細胞や大腸菌)内で保持されうる。またベクターに複製能がある場合は、供与DNAは宿主内で複製されうる。本発明の供与DNAは、好ましくは、適当な宿主(例えば大腸菌)内で自律複製能を有する。
供与DNAに含まれるゲノム断片の長さに特に制限はなく、細胞に導入した場合に、細胞のゲノムと組み換えが起こるのに必要な長さを少なくとも有していれば、所望の長さの断片を用いることができる。供与DNAに含まれるゲノム断片の長さは、例えばオリゴ長(例えば十数ベース〜数十ベース)から染色体長(数百Mbまたはそれ以上)の範囲を含む所望の長さであってよく、例えば0.01kb以上、0.05kb以上、0.5kb以上、1kb以上、1.5kb以上、2kb以上、3kb以上、4kb以上、または5kb以上であり、例えば10,000kb以下、5,000kb以下、500kb以下、300kb以下、200kb以下、100kb以下、80kb以下、50kb以下、30kb以下、20kb以下、または10kb以下である。なお、供与DNAに含まれるゲノム断片を、一遺伝子座サイズに相当する数十kbまたは数百kb程度まで拡大することによって、広範囲にわたる複数の変異箇所をまとめて改変することもできる。本発明の供与DNAは、そのような長いゲノム断片を含んでいてもよい。
供与DNAを細胞に導入することにより、供与DNAに含まれるゲノム断片の配列(ドナー配列)に対応する標的細胞中のゲノム配列との間で組み換えが誘発される。例えば、供与DNAに含まれるドナー配列(ゲノム断片等)の配列は、標的とする細胞のゲノムの対応する断片の配列と、通常90%以上、好ましくは95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、または99.9%以上の同一性を有し得る。
すなわち本発明は、ガイドRNA依存性DNAヌクレアーゼを用いる遺伝子改変方法であって、
(a)ガイドRNA依存性DNAヌクレアーゼの遺伝子を搭載し、該ヌクレアーゼの活性の発現に必要なガイドRNAの少なくとも一つをコードしないマイナス鎖RNAウイルスベクターを細胞に導入し、該ベクターを発現させ、該の少なくとも一つのガイドRNAの非存在下で該ヌクレアーゼを細胞に蓄積させる工程、
(b)工程(a)の後、不足するガイドRNAおよび供与DNAを細胞に供給する工程、を含む方法に関する。
なお上記の方法は、工程(b)の後、
(c)遺伝子が改変された細胞を選択する工程、
をさらに含んでもよい。
当該工程は、「供与DNA中の配列が組み込まれた細胞を選択する工程」であってもよい。
当該マイナス鎖RNAウイルスベクターとしては、上述の通り温度感受性マイナス鎖RNAウイルスベクターを用いることができる。すなわち本発明は、ガイドRNA依存性DNAヌクレアーゼを用いる遺伝子改変方法であって、
(a)該ヌクレアーゼの遺伝子を搭載し、該ヌクレアーゼの活性の発現に必要なガイドRNAの少なくとも一つをコードしない温度感受性マイナス鎖RNAウイルスベクターを細胞に導入し、許容温度下で該ベクターを発現させ、該の少なくとも一つのガイドRNAの非存在下で該ヌクレアーゼを細胞に蓄積させる工程、
(b)工程(a)の後、不足するガイドRNAおよび供与DNAを細胞に供給する工程、
(c)工程(b)の前後または同時に培養温度を非許容温度に上昇させ、該ガイドRNAおよび供与DNAが細胞内に存在する状態で培養する工程、を含む方法に関する。
なお上記の方法は、工程(c)の後、
(d)遺伝子が改変された細胞を選択する工程、
をさらに含んでもよい。
当該工程は、「供与DNA中の配列が組み込まれた細胞を選択する工程」であってもよい。
ガイドRNAと供与DNAは一緒に細胞に導入しても、別々に細胞に導入してもよいが、一緒に導入することが簡便であり好ましい。細胞への供与DNAの導入方法に特に制限はなく、上述のガイドRNAと同様に、リポフェクション、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、パーティクル・ガン法などの所望の方法によって導入することができる。
導入する供与DNA量に特に制限はなく、適宜決定すればよい。例えば、実施例に記載の実験1、2、3、4では2.5μg/well (6-well plate;500μl)であり、その時の細胞量は大凡1〜3×106 cellsであったが、それに限定されることはなく、幅広い供与DNA量にて適用することが可能である。
本発明において供与DNAは、ポジティブ選択マーカー遺伝子および/またはネガティブ選択マーカー遺伝子を含んでもよいが、含まなくてもよい。ここでポジティブ選択マーカー遺伝子とは、当該マーカーを保持する細胞を選択する(および/または当該マーカー遺伝子を持たない細胞を除去する)ために用いられるマーカーをコードする遺伝子であり、ネガティブ選択マーカー遺伝子とは、当該マーカーを保持する細胞を除去する(および/または当該マーカー遺伝子を持たない細胞を選択する)ために用いられるマーカーをコードする遺伝子を言う。ポジティブ選択マーカー遺伝子およびネガティブ選択マーカー遺伝子は適宜選択することができる。例えばポジティブ選択マーカー遺伝子としては、Hyg(ハイグロマイシン耐性遺伝子)、Puro(ピューロマイシン耐性遺伝子)、β-geo(βガラクトシダーゼとネオマイシン耐性遺伝子の融合遺伝子)などの種々の薬剤耐性遺伝子などが例示されるが、それらに限定されるものではない。ネガティブ選択マーカー遺伝子としては、例えば細胞増殖または生存の阻害を直接的または間接的に誘導する遺伝子が挙げられ、具体的には、単純ヘルペスウイルス由来チミジンキナーゼ(TK)遺伝子、ジフテリアトキシンAフラグメント(DT-A)遺伝子、シトシンデアミナーゼ(CD)遺伝子などが挙げられるが、これらに限定されない。
ポジティブ選択マーカーを用いる場合、ポジティブ選択マーカー遺伝子は、供与DNA中の、標的細胞のゲノムに導入される断片の中(例えばイントロンの中)に挿入される。ポジティブ選択マーカー遺伝子は、後で取り除けるようにするために、部位特異的組換え酵素の認識配列(LoxP, FRT等)で挟み込んでおいてもよい。
ネガティブ選択マーカーを用いる場合、供与DNA中の、標的細胞のゲノムに導入される断片以外の部分(プラスミドベクターを用いる場合は、プラスミドの骨格中など)に挿入される。
しかし本発明の方法によれば、供与DNAがゲノムに組み込まれた細胞を極めて高い割合で取得できるため、選択マーカーを使う必要は必ずしもない。ポジティブ選択マーカー遺伝子を使用しない場合、供与DNA中にマーカー遺伝子や上述の部位特異的組換え酵素の認識配列などの異種配列(標的細胞が属する生物種が本来持っていない配列)を挿入する必要はなく、供与DNAに含まれるドナー配列は標的細胞に最終的に導入したい配列のみから構成させることができる。例えば、標的細胞が持つ異常遺伝子や疾患遺伝子を正常遺伝子に置換したい場合、ドナー配列は正常遺伝子の配列のみで構成させることができる。これにより、最終的に得られる細胞のゲノムに、マーカー遺伝子や部位特異的組換え酵素の認識配列などの異種配列が残存することがなくなるので、理想的な遺伝子改変が可能となる。すなわち本発明は、本発明のマイナス鎖RNAウイルスベクターと、ポジティブ選択マーカー遺伝子を持たない供与DNAとを用いる、遺伝子改変方法を提供する。
具体的には本発明は、上記「遺伝子が改変された細胞を選択する工程」(または「供与DNA中の配列が組み込まれた細胞を選択する工程」)において、選択マーカーに頼らずに細胞を検査して供与DNA中のドナー配列が組み込まれた細胞を選択する方法に関する。本発明の方法によれば、マーカーで選択を行わずとも、目的の組み換えを起こした細胞(標的部位に供与DNA中のドナー配列が組み込まれた細胞)が、例えば全生細胞中1×10-4以上、例えば2×10-4以上、3×10-4以上、4×10-4以上、5×10-4以上、6×10-4以上、7×10-4以上、8×10-4以上、9×10-4以上、1×10-3以上、2×10-3以上、3×10-3以上、4×10-3以上、5×10-3以上、6×10-3以上、7×10-3以上、8×10-3以上、9×10-3以上、1×10-2以上、または2×10-2以上の割合で生成する。実際、実施例に示す通り、目的の組み換えを起こした細胞(標的部位に供与DNAの配列が組み込まれた細胞)は、全生細胞の2.6×10-3〜2.4×10-2の割合で認められた。よって、選択マーカーに頼らずとも、限られた数の細胞を調べれば目的の組み換えを起こした細胞を取得できると期待される。割合の上限に特に制限はないが、例えば1未満であってよく、例えば0.8以下、0.7以下、0.6以下、0.5以下、0.4以下、または0.3以下である。本発明は、上記「遺伝子が改変された細胞を選択する工程」(または「供与DNA中の配列が組み込まれた細胞を選択する工程」)において、選択マーカーに頼らずに、例えば5000個未満の細胞を検査して供与DNAの配列が組み込まれた細胞を選択する方法に関し、好ましくは、3000個未満の細胞、より好ましくは2000個未満、1000個未満、800個未満、600個未満、500個未満、400個未満、300個未満、200個未満、100個未満、または50個未満の細胞を検査して供与DNAの配列が組み込まれた細胞を選択する方法に関する。上記の数値は、平均値、概算値、または期待値等であってもよい。
目的とする改変を有しているか否かは、例えば目的の改変箇所に特異的な配列を直接または間接に検出することにより行うことができ、例えばPCRにより標的部位を増幅して塩基配列を確認したり、あるいは変異部位特異的なプライマー等を利用したPCRを行い、PCR産物の有無や増幅断片の長さ等を確認することにより識別することができる。
本発明のベクターを用いる遺伝子改変方法は、供与DNAの配列通りに改変された改変体の取得効率が極めて高く、意図しないindelの発生が低い。例えば本発明の方法によれば、ヌクレアーゼ遺伝子を搭載するマイナス鎖RNAウイルスベクターを細胞に導入して発現させた後、供与DNAを用いずにガイドRNAだけを細胞に導入する実験を行った場合の標的破壊の頻度(遺伝子破壊頻度(生細胞あたりの破壊頻度))に対する、供与DNAを用いた場合の供与DNAの配列通りに改変された改変頻度(供与DNAを用いた場合の供与DNA通りの改変頻度(生細胞あたりの改変頻度))の比([供与DNAを用いた場合の供与DNA通りの改変頻度]/[遺伝子破壊頻度])は、それに限定されるものではないが、例えば概ね1/50以上、1/40以上、1/30以上、1/20以上、1/10以上、1/5以上、または1/3以上である。上限は特に限定する必要はないが、例えば1000以下、500以下、300以下、100以下、50以下、30以下、または10以下である。
遺伝子改変の頻度を測定する細胞に特に制限はないが、比較を行う場合、好ましくは、同じ細胞に由来する細胞株を用いて計測される。例えば、fibrosarcoma由来細胞、具体的にはHT-1080細胞(ATCC CCL-121)に由来する細胞株などを好適に用いることができる。
また本発明は、遺伝子改変細胞を含む細胞集団を製造する以下の方法にも関する。すなわち本発明は、ガイドRNA依存性DNAヌクレアーゼを用いる、遺伝子改変細胞を含む細胞集団、または該改変細胞を製造する方法であって、
(a)ガイドRNA依存性DNAヌクレアーゼの遺伝子を搭載し、該ヌクレアーゼの活性の発現に必要なガイドRNAの少なくとも一つをコードしないマイナス鎖RNAウイルスベクターを細胞に導入し、該ベクターを発現させ、該少なくとも一つのガイドRNAの非存在下で該ヌクレアーゼを細胞に蓄積させる工程、
(b)工程(a)の後、不足するガイドRNAおよび供与DNAを細胞に供給する工程、を含む方法。
なお上記の方法は、工程(b)の後に、
(c)得られた細胞集団を回収する工程、
をさらに含んでもよい。
あるいは、工程(b)または(c)の後に、
(c’)遺伝子が改変された細胞を選択する工程、
をさらに含んでもよい。
当該工程は、「供与DNA中の配列が組み込まれた細胞を選択する工程」であってもよい。
当該マイナス鎖RNAウイルスベクターとしては、温度感受性マイナス鎖RNAウイルスベクターを用いることができる。すなわち本発明は、ガイドRNA依存性DNAヌクレアーゼを用いる、遺伝子改変細胞を含む細胞集団、または該改変細胞の製造方法であって、
(a)該ヌクレアーゼの遺伝子を搭載し、該ヌクレアーゼの活性の発現に必要なガイドRNAの少なくとも一つをコードしない温度感受性マイナス鎖RNAウイルスベクターを細胞に導入し、許容温度下で該ベクターを発現させ、該少なくとも一つのガイドRNAの非存在下で該ヌクレアーゼを細胞に蓄積させる工程、
(b)工程(a)の後、不足するガイドRNAおよび供与DNAを細胞に供給する工程、
(c)工程(b)の前後または同時に培養温度を非許容温度に上昇させ、該ガイドRNAおよび供与DNAが細胞内に存在する状態で培養する工程、を含む方法に関する。
なお上記の方法は、工程(c)の後に、
(d)得られた細胞集団を回収する工程、
をさらに含んでもよい。
あるいは工程(c)または(d)の後に、
(d’)遺伝子が改変された細胞を選択する工程、
をさらに含んでもよい。
当該工程は、「供与DNA中の配列が組み込まれた細胞を選択する工程」であってもよい。
本発明の方法で製造される細胞集団は、ゲノムの標的部位が目的通りに改変された細胞を高頻度で含む。また、個々の細胞においても、標的部位が正確に改変され、標的外部位におけるindelの生成が抑制されていることが期待される。例えば、供与DNAを用いた本発明の方法で製造された細胞集団は、標的部位に供与DNA由来のドナー配列を含む細胞の割合が、全生細胞中1×10-4以上、例えば2×10-4以上、3×10-4以上、4×10-4以上、5×10-4以上、6×10-4以上、7×10-4以上、8×10-4以上、9×10-4以上、1×10-3以上、2×10-3以上、3×10-3以上、4×10-3以上、5×10-3以上、6×10-3以上、7×10-3以上、8×10-3以上、9×10-3以上、1×10-2以上、または2×10-2以上である。割合の上限に特に制限はないが、例えば1未満であってよく、例えば0.8以下、0.7以下、0.6以下、0.5以下、0.4以下、または0.3以下である。上述の通り本発明の方法においては、細胞を選択マーカーで選択する必要はないため、本発明の方法で得られる細胞集団は、供与DNA由来の選択マーカー遺伝子を保持していない細胞が高頻度で含まれていてよい。本発明の細胞集団は、例えば供与DNA由来の選択マーカー遺伝子(例えば薬剤耐性遺伝子)を保持しない細胞を0.3以上、例えば0.4以上、0.5以上、0.6以上、0.7以上、0.8以上、または0.9以上の割合で含んでいてよい。あるいは本発明の細胞集団は、すべての細胞が供与DNA由来の選択マーカー遺伝子を保持していなくてよい。
また本発明の方法で製造される細胞集団は、ゲノムの標的部位に供与DNA由来のドナー配列を含む細胞(すなわち、ゲノムの標的部位が目的通りに改変された細胞、およびゲノムの標的部位に塩基の挿入および/または欠損を伴う意図しない改変を含む細胞を含む)のうち、ゲノムの標的部位に塩基の挿入および/または欠損を伴う意図しない改変を含む細胞の割合が、例えば0.5以下、好ましくは0.4以下、0.3以下、0.2以下、または0.1以下(例えば7%以下、6%以下、5%以下、4%以下、3%以下、2%以下、または1%以下)である。
本発明の遺伝子改変の態様について、図に沿ってさらに詳細に説明する。
図2に、この発明の一実施形態による遺伝子改変スキームを示す。
Aでは、Cas9搭載センダイウィルスベクターの感染、複製による鋳型の増幅、鋳型からのCas9 mRNAの転写、本ベクターの非再感染性を示すとともに、翻訳後核移行した多量のCas9ヌクレアーゼを示している。
Bでは、供与プラスミドのベクター骨格を細線で、供与プラスミドの改変後配列が中心に位置する改変遺伝子に相同な配列を太線で示し、その下に、改変したい遺伝子座を長い太線で示しているが、改変遺伝子座の細胞に、供与プラスミドが導入されると、改変遺伝子座と供与プラスミドの相同領域同士が整列することを示すとともに、Cas9/tracrRNA/crRNA複合体による標的配列の認識を示している。
Cでは、切断によって改変後配列の組み換え反応が誘導されて、遺伝子改変体ができることを示すとともに、高頻度切断による高頻度遺伝子改変が起こるため、この遺伝子改変体クローンを、薬剤選択なしでワンステップシステムとして、生細胞クローンから選抜可能なことを示している。
(供与DNAは、改変遺伝子に相同なDNA配列であり、ヒトHPRT遺伝子のイントロン1、改変後配列(縦線で表す)を持つエキソン2、イントロン2、エキソン3、イントロン3に渡る5488 bpの断片から成る。供与DNAとして、大腸菌DNA複製の開始点を有する供与プラスミドを活用できるが、改変遺伝子の相同DNA断片だけでも良いと考えられる。改変遺伝子座は、エキソン2内部に改変対象である改変前配列(星印)を持つ。)
図3に、SeV-Cas9技術による高頻度遺伝子改変の実証実験の手順を示す。
A-Bは、図1と同様な遺伝子改変スキームを示す。試験細胞(TG98)のHPRT遺伝子座の標的には2塩基挿入のフレームシフト変異(HPRTTG98)を持つ。本実証実験では、遺伝子改変頻度を、HPRTTG98からHPRT+への遺伝子復帰頻度として定量する。TG98細胞はHAT培地で増殖不能であり、その細胞集団の中で、HPRT+復帰細胞だけがHAT培地で増殖できるため、HAT耐性コロニーの出現頻度を測定する。供与プラスミドは、エキソン2上のSexAIサイト(ACCAGGT)を同義変換させたSmaI分子マーカー(ACCCGGG)を持つので、遺伝子座標的領域の配列改変をSexAIサイトからSmaIサイトへの変化によって確認できる。この供与プラスミドが遺伝子改変反応の鋳型に用いられずに、2塩基挿入変異からHPRT+配列に復帰することも考えられる。
C-DはA-Bの反応に沿った操作手順を示す。Cas9搭載温度感受性型センダイウィルスベクターの感染、低温度条件下でCas9強発現後、Cas9発現減衰のため高温条件下で、RNA分子と供与DNAを同時導入して非選択培地に播種する。5日後にHAT培地で選択をかけて、HAT耐性であるHPRT+への復帰クローンの出現頻度を測定し、遺伝子復帰頻度を正確に定量する。
図4(図4−1〜図4−3)に、SeV-Cas9上清サンプルによる遺伝子復帰試験結果と遺伝子復帰体候補クローン(HAT耐性コロニー)における遺伝子復帰体構造の確認手順を示す。
Aでは、実験1と実験2における、生細胞中のHAT耐性コロニーの出現頻度における、プラスミドからのCas9 sgRNA同時発現系とSeVからのCas9発現、RNA導入系間の比較を示す。2つの条件のそれぞれにおける、総細胞数、総生細胞数、cell viability、総HAT耐性コロニー数、生細胞中のHAT耐性コロニーの出現頻度を表している。HAT耐性コロニーの出現頻度は、実験1、2において、プラスミドからのCas9 sgRNA同時発現系では0.003%程度であるのに対して、SeVからのCas9発現、RNA導入系では1-2%程度であり、本発明条件において、一般的なプラスミド条件よりも顕著な高頻度化を示す。
Bでは、遺伝子改変体の構造とPCRプライマーの位置を示す。相同遺伝子座領域5488 bp断片の5’外側プライマーGT68と3’外側プライマーGT69によるPCR解析から、9367 bp相当の断片を得ることによって、供与プラスミドの骨格部分の挿入が起こっていないことを確認する。続いて、分子マーカー配列が位置するエキソン2の領域を増幅するプライマーGT19/GT22によるPCRから、525 bp相当の断片を得て配列を決定する。
Cでは、実験1から単離されたHAT耐性クローンのPCRによる構造解析の結果を示す。プライマーGT68/GT69によって9367 bp相当のPCR産物が確認されたので、供与プラスミドの骨格部分の挿入が起こっていないことを示す。Cの左下及び右下写真が示すように、分子マーカー配列が位置するエキソン2の領域を増幅するプライマーGT19/GT22によって525 bp相当のPCR産物を得たので配列解析を行う。白矢印を付けた2クローンについては、525 bpよりも大きなPCR産物を得た。これは、〜100 bp程度の挿入が存在することを示唆する(D参照)。
Dでは、第2列に、実験1と実験2におけるプラスミドからのCas9 sgRNA同時発現系由来の17個、12個のHAT耐性クローンの配列解析の結果のそれぞれを示す。実験1からの17 個のHAT耐性クローンのうち全クローンで読み枠が復帰していたが、次のような異常が伴っていた:1)17のうちの4クローンで標的断片の無作為挿入が伴っていた;2)17のうちの2クローンで近接イントロン内での挿入が伴っていた。実験2からの12 個のHAT耐性クローンのうち全クローンが遺伝子復帰されていたが、次のような異常が伴っていた:1)12のうちの6クローンで標的断片の無作為挿入が伴っていた。
第3列に、実験1と実験2におけるSeVからのCas9発現、RNA導入系由来の12個、24個のHAT耐性クローンの配列解析の結果のそれぞれを示す。実験1からの12 個のHAT耐性クローンのうち全てのクローンで読み枠が復帰していた。実験2からの24 個のHAT耐性クローンのうち全てで読み枠は復帰していた。予期しない配列の付随現象は、SeVからのCas9発現、RNA導入系で観察されなかった。この違いは、従来の方法では、切断・修復が繰り返され、indel (挿入/欠失/変異)の蓄積が伴い易いが、本発明の方法では切断の繰り返しが抑制されていることを示唆する。
以上の結果から、マイナス鎖RNAウイルスベクターからのヌクレアーゼ発現と、RNA導入とを組み合わせた方法は、indel付随を抑制できる、安全性の高い方法と言える。
図5に、SeV-Cas9の精製サンプルによる遺伝子復帰試験、実験3、実験4から、生細胞中のHAT耐性コロニーの出現頻度における、プラスミドからのCas9 sgRNA同時発現系とSeVからのCas9発現、RNA導入系間の比較を示す。2つの条件のそれぞれにおける、総細胞数、総生細胞数、cell viability、総HAT耐性コロニー数、生細胞中のHAT耐性コロニーの出現頻度を表している。HAT耐性コロニーの出現頻度は、実験3、4において、プラスミドからのCas9 sgRNA同時発現系では0.003%程度であるのに対して、SeVからのCas9発現、RNA導入系では0.3%程度であり、本発明条件において、一般的なプラスミド条件よりも顕著な高頻度化を示す。また、Cell viabilityが、SeV-Cas9の上清サンプルを用いた実験1、2では1-2%であったのに対して、SeV-Cas9精製サンプルを用いた実験3、4では10-13%に向上したことが分かる。この改善された実験条件から得られた結果を根拠に、SeVからのCas9発現、RNA導入系による生細胞中の遺伝子復帰率は0.3%程度であると考えられる。
図6に、SeV-Cas9の精製サンプルによる遺伝子破壊試験、実験5、実験6から、生細胞中の6チオグアニン耐性(6TGR)コロニーの出現頻度における、プラスミドからのCas9 sgRNA同時発現系とSeVからのCas9発現、RNA導入系間の比較を示す。2つの条件のそれぞれにおける、総細胞数、総生細胞数、cell viability、総6TGR耐性コロニー数、生細胞中の6TGR耐性コロニーの出現頻度を表している。6TGR耐性コロニーの出現頻度は、プラスミドからのCas9 sgRNA同時発現系では0.17%程度あるのに対して、SeVからのCas9発現、RNA導入系では0.3-0.5%程度であり、本発明条件において、一般的なプラスミド条件よりも有意な高頻度化を示す。Cas9発現、RNA導入系を遺伝子破壊目的で使用できることを確認した。
以下に、CRISPR/Cas9誘導型の遺伝子改変法における従来法の問題点と本発明の方法の優位性を示す。
図1には、従来遺伝子改変法の代表的なスキームを図示している。図2には、従来の課題を解決する本発明(新規遺伝子改変法)のスキームを図示している。下表には、従来法が抱える課題と、本発明による解決を示した。すなわち、本発明において用いられるマイナス鎖RNAウイルスベクターは、DNAフェーズを持たないため細胞の染色体への意図しない挿入は起こる危険はない(表の一番上)。また、切断位置で生じうる不正確再結合の課題(表中の「切断部位へのindelの付随」)、選択マーカーによる選択が必要であること(表中の「選択マーカー」)、2段階選抜に起因する過剰な労力・時間の課題、部位特異的組換え部位残存(痕跡)の課題、標的切断配列の喪失(以上、表参照)などの課題が、本発明によって解決されることを示している。これらの課題の解決は、Cas9発現の短期化・強化を実現させた本発明のシステムによる遺伝子改変頻度の数十倍以上の向上(表の一番下)によって成されたと言える。
[表1]
Figure 2021176265
本発明は、indelの生成を抑制しつつ、高い割合で細胞のゲノムに所望の改変を導入したり、ゲノム上の変異を修復するために有用であり、例えば、遺伝子の機能解析、遺伝子治療、品種改良、生物工学的創作を目的に遺伝子配列を精密に改変する分子遺伝学システムとして有用である。特に本発明は、遺伝性疾患の原因遺伝子において、疾患原因配列を正常配列に変換するために用いることができる。
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。また、本明細書中に引用された文献及びその他の参照は、すべて本明細書の一部として組み込まれる。
[実施例1] pBS-HPRTEx2SMAIプラスミドの構築
本発明で用いた供与プラスミド作製のためのサブプラスミドの構築方法を以下に示す。本発明において「pBS」とは、pBluescript SK+を示す。
pBS-HPRTEx2サブプラスミドの構築は以下の通りに行った。Fibrosarcoma由来のHT-1080細胞のgenomic DNAを鋳型にして、5’- AGCCTGGGCAACATAGCGAGACTTC -3’(GT28)(配列番号1)及び 5’- TCTGGTCCCTACAGAGTCCCACTATACC -3’(GT22)(配列番号2)を用いて、KOD-PLUS-DNA polymerase(TOYOBO)によるPCR反応(94℃-2分→94℃-15秒、60℃-30秒、68℃-3分30秒を40サイクル→68℃-7分)を行い、約2800 baseのPCR産物を得た。Fibrosarcoma由来のHT-1080細胞のgenomic DNAを鋳型にして、5’- GCTGGGATTACACGTGTGAACCAACC -3’(GT19)(配列番号3)及び 5’- TGGCTGCCCAATCACCTACAGGATTG -3’(GT24)(配列番号4)を用いて、KOD-PLUS-DNA polymeraseによるPCR反応(94℃-2分→94℃-15秒、58℃-30秒、68℃-8分を40サイクル→68℃-7分)を行い、約3100 baseのPCR産物を得た。上記の2800-bp PCR産物と3100-bp PCR産物を鋳型にして、5’- ATCCACTAGTTCTAGAAGCCTGGGCAACATAGCGAGACTTC -3’(GT29)(配列番号5)及び 5’- CACCGCGGTGGCGGCCGCTGGCTGCCCAATCACCTACAGGATTG -3’(GT30)(配列番号6)を用いて、KOD-PLUS-DNA polymerase(TOYOBO株式会社 コード番号KOD-101)によるPCR反応(94℃-2分→94℃-15秒、58℃-30秒、68℃-6分を40サイクル→68℃7分)を行い、約5500 baseのPCR産物を得た。上記の5500-bp PCR産物とNotIで消化したpBluescript SK+をIn-Fusion kit(Clontech Laboratories, Inc. カタログ番号639649)で連結させて、pBS-HPRTEx2(18-7)を得た。以後、このプラスミドをsite-directed mutagenesisの鋳型として用いた。
pBS-HPRTEx2ISCEIサブプラスミドの構築は以下の通りに行った。Fibrosarcoma由来のHT-1080細胞のgenomic DNAを鋳型にして、5’- TAGTTCTAGAGCGGCCGCAGCCTGGGCAACATAGCGAGACTTC -3’(GT35)(配列番号7)及びI-SceI認識配列(下線)を含む 5’- ATTACCCTGTTATCCCTAACCTGGTTCATCATCACTAATCTG -3’(GT34)(配列番号8)を用いて、KOD-PLUS-DNA polymerase(TOYOBO株式会社 コード番号KOD-101)によるPCR反応(94℃-2分→94℃-15秒、58℃-30秒、68℃-3分を40サイクル→68℃-7分)を行い、約2500 baseのPCR産物を得た。Fibrosarcoma由来のHT-1080細胞のgenomic DNAを鋳型にして、I-SceI認識配列(下線)を含む 5’- TAGGGATAACAGGGTAATTATGACCTTGATTTATTTTGCATACC -3’(GT33)(配列番号9)及び 5’- CACCGCGGTGGCGGCCGCTGGCTGCCCAATCACCTACAGGATTG -3’(GT30)(配列番号6)を用いて、KOD-PLUS-DNA polymeraseによるPCR反応(94℃-2分→94℃-15秒、58℃-30秒、68℃-3分を40サイクル→68℃-7分)を行い、約2900 baseのPCR産物を得た。上記の2500-bp PCR産物と2900-bp PCR産物とNotIで消化したpBluescript SK+とをIn-Fusion kit(TOYOBO)で連結させて、pBS-HPRTEx2ISCEI(21-1)を得た。以後、このプラスミドを、site-directed mutagenesisから得られる改変配列を有した断片の置換先プラスミドとして用いた。
pBS-HPRTEx2SMAIプラスミドの構築は以下の通りに行った。前期のプラスミドpBS-HPRTEx2(18-7)を鋳型にして、改変後配列SMAI(下線)を含む 5’- GGGTATGACCTTGATTTATTTTGCATACC-3’(GT42)(配列番号10)及び 5’- GGGTTCATCATCACTAATCTG-3’(GT43)(配列番号11)を用いて、site-directed mutagenesis法の一つとしてKOD-PLUS-Inverse PCR mutagenesis kit(TOYOBO)を用いることによって、pBS-HPRTEx2SMAI(P1)得た。pBS-HPRTEx2SMAI(P1) plasmid DNA をBglIIとSphIで消化・ゲル抽出したSMAI配列を含むBglII-SphI断片とBglIIとSphIで消化した上記のpBS-HPRTEx2ISCEI(21-1) plasmid DNAでライゲーションを行い、供与プラスミドpBS-HPRTEx2SMAI (P1-6)を得た。
[実施例2] 遺伝子復帰試験の評価細胞(TG98細胞)の作製
SeV-Cas9を用いた遺伝子復帰の対象細胞の作製は以下の通りに行った。Fibrosarcoma由来HT-1080細胞のHPRT遺伝子のエキソン2内のSexAIサイト(5’-ACCAGGT-3’)の5’-CCA-3’をProtospacer Adjacent Motif (PAM)とする標的配列を設定して、その配列付近の変異を持つ細胞を単離するために、CAG-hspCas9-H1-gRNA linearized SmartNuclease vector DNA (System Biosciencesカタログ番号CAS920A-1)を用いて、H1 promoterの直後に、標的配列(下線)を含む5’-TGTATGAGACCACAATAAATCAAGGTCATAACC-3’(GT50)(配列番号12)と5’-AAACGGTTATGACCTTGATTTATTGTGGTCTCA-3’(GT51)(配列番号13)から成る2本鎖オリゴヌクレオチドを連結させて、プラスミドpCas9-sgHPRT1を得た。
次に、Fibrosarcoma由来HT-1080細胞を準備して、pCas9-sgHPRT1 plasmid DNAを、X-tremeGene HP DNA Transfection Reagent Version 08(Roche カタログ番号06 366 236 001)を用いて導入し、ディッシュに播種した後、7.5μg/mL 6-thioguanine (Wakoカタログ番号203-03771)を含む培地で交換して、1x106個オーダーのHT-1080細胞から2個の6-チオグアニン耐性コロニーを得た。配列解析の結果、2クローンともに標的配列内に変異を持つことが分かった。そのうちの一つでは、図4Dの表中上段行に示すように2塩基挿入によるフレームシフトが起こっていた。この変異をHPRTTG98として、このクローンをTG98細胞とする。
以上のようにFibrosarcoma由来HT-1080細胞のHPRT遺伝子の変異体の一つとしてTG98細胞株を得たので、Cas9搭載センダイウィルスベクターまたはプラスミド(コントロール)による遺伝子復帰試験の評価細胞として用いた。
[実施例3] プラスミドpCas9-sgRNAの作製
HT-1080細胞のHPRT遺伝子変異体TG98細胞株のエキソン2内の2塩基挿入変異(HPRTTG98)付近を標的として切断できるプラスミドを作製するために、SexAIサイト(5’-ACCAGGT-3’)の5’-CCA-3’をPAMとする標的配列を設定して、CAG-hspCas9-H1-gRNA linearized SmartNuclease vector DNA (System Biosciencesカタログ番号CAS920A-1)を用いて、H1 promoterの直後に、標的配列(下線)を含む5’-TGTATGAGACCACTAAATCAAGGTCATATAACC-3’(GT99)(配列番号14)と5’-AAACGGTTATATGACCTTGATTTAGTGGTCTCA-3’(GT100)(配列番号15)から成る2本鎖オリゴヌクレオチドを連結させて、プラスミドpCas9-sgHPRT1mを得て、遺伝子復帰実験の際に、コントロールとして用いた。なおGT99の5'端から27-28番目のTA、およびGT100の5'端から10-11番目のTAは2塩基挿入変異の位置を示す。
[実施例4] Cas9搭載センダイウィルスベクター SeV-Cas9の作製
Cas9搭載センダイウィルスベクター SeV-Cas9の作製は以下の通りに行った。Cas9 SmartNuclease All-in-one Vector (System Biosciencesカタログ番号CAS920A-1)に由来するCas9 nuclease配列をセンダイウィルスベクターSeVに搭載するために、第1PCRによって、当該Cas9 nuclease配列が10分割された第1PCR産物を得て、第2PCRでは、5’側の4つの第1PCR産物を鋳型とする場合、中央付近の3つの第1PCR産物を鋳型とする場合、3’側の3つの第1PCR産物を鋳型とする場合、それぞれの場合から第2PCR産物を得て、第3PCRで、3つの第2PCR産物を鋳型として、当該Cas9 nuclease配列の全長に渡る第3PCR産物を得て、これをセンダイウィルスベクターに搭載させた。第1PCRにおいて当該Cas9 nuclease配列を10分割する理由は、当該Cas9 nuclease配列内には9か所のA rich配列(5Aまたは6A)が散在しているが、A rich配列上では、センダイウィルスベクターの生産過程でセンダイウィルスのRNA依存性RNAポリメラーゼによるエラーが起こりがちなので、このようなエラー現象を回避するためである。A rich配列部位を分割PCRの継ぎ目になるようにPCRプライマーを設定して、各プライマー配列を同義コドンの制限下にA/TからG/Cに置換させた。
[表2]
第1PCRのプライマーと鋳型DNA
Figure 2021176265
*: CAG-hspCas9-H1-gRNA linearized SmartNuclease vector (System Biosciences カタログ# CAS920A-1)のDNAを使用した。
各プライマー配列を以下に示す。
Not1_CAS9_N (配列番号16): ATATGCGGCCGCTCGCCACCATGGCTAGTATGCAGAAACTG
CAS9_A96G_C (配列番号17): CCGATACTATACTTCTTGTCGGCAGCGGGC
CAS9_A96G_N (配列番号18): GCCCGCTGCCGACAAGAAGTATAGTATCGG
CAS9_A222G_C (配列番号19): GGCTCCAATCAGATTCTTCTTGATACTGTG
CAS9_A222G_N (配列番号20): CACAGTATCAAGAAGAATCTGATTGGAGCC
CAS9_A789G_C (配列番号21): CCAAACAGGCCGTTCTTCTTTTCGCCTGG
CAS9_A789G_N (配列番号22): CCAGGCGAAAAGAAGAACGGCCTGTTTGG
CAS9_A789G_C (配列番号23): CCAAACAGGCCGTTCTTCTTTTCGCCTGG
CAS9_A1413G_N (配列番号24): GAGAAGATCGAAAAGATTCTGACTTTCCGC
CAS9_A1602G_C (配列番号25): GCTTGGGCAGCACTTTCTCATTTGGCAGG
CAS9_A1602G_N (配列番号26): CCTGCCAAATGAGAAAGTGCTGCCCAAGC
CAS9_A2673G_C (配列番号27): CACTCTTTCCTCGGTTCTTGTCGCTGCGGG
CAS9_A2673G_N (配列番号28): CCCGCAGCGACAAGAACCGAGGAAAGAGTG
CAS9_A3147G_C (配列番号29): CTCTTGGCGATCATCTTTCTGACATCGTAC
CAS9_A3147G_N (配列番号30): GTACGATGTCAGAAAGATGATCGCCAAGAG
CAS9_A3546G_C (配列番号31): CAGTTTCTTGCTCTTTCCCTTCTCCACC
CAS9_A3546G_N (配列番号32): GGTGGAGAAGGGAAAGAGCAAGAAACTG
CAS9_A3750G_C (配列番号33): CAGTTCATTTCCTTTCTGCAGCTCGCCGGC
CAS9_A3750G_N (配列番号34): GCCGGCGAGCTGCAGAAAGGAAATGAACTG
CAS9_EIS_Not1_C (配列番号35): ATATGCGGCCGCGAACTTTCACCCTAAGTTTTTCTTACTCACTTCTTCTTCTTTGCCTGTCCTGCTTTC
これらのプライマーペアと鋳型DNAを用いて、KOD-PLUS-Ver.2-DNA polymerase(TOYOBO株式会社 コード番号KOD-211)によるPCR反応(94℃-2分→98℃-10秒、55℃-30秒、68℃-1分を30サイクル→68℃-17分)を行い、それぞれのPCR産物を得た。電気泳動によってPCR産物のサイズを確認後、NucleoSpinTM Gel and PCR Clean-up (MACGEREY-NAGELカタログ番号740609.250/U0609C)にて精製した。
[表3]
第2PCRのプライマーと鋳型DNA
Figure 2021176265
これらのプライマーペアと鋳型DNAを用いて、KOD-PLUS-Ver.2-DNA polymerase(TOYOBO株式会社 コード番号KOD-211)によるPCR反応(94℃-2分→98℃-10秒、55℃-30秒、68℃-2分を30サイクル→68℃-17分)を行い、それぞれのPCR産物を得た。電気泳動によって産物サイズを確認後、NucleoSpinTM Gel and PCR Clean-up (MACGEREY-NAGELカタログ番号740609.250/U0609C)にて精製した。
[表4]
第3PCRのプライマーと鋳型DNA
Figure 2021176265
これらのプライマーペアと鋳型DNAを用いて、KOD-PLUS-Ver.2-DNA polymerase(TOYOBO株式会社 コード番号KOD-211)によるPCR反応(94℃-2分→98℃-10秒、65℃から55℃へステップダウン-30秒、68℃-4分30秒を10サイクルずつ)→(98℃- 10秒、55℃-30秒、68℃-4分30秒 を30サイクル→68℃-17分)を行い、全長のPCR産物を得た。電気泳動によって産物サイズを確認後、NucleoSpinTM Gel and PCR Clean-up (MACGEREY-NAGELカタログ番号740609.250/U0609C)にて精製した。NotIで消化・ゲル抽出した全長Cas9断片を、NotIで消化・BAP処理したプラスミドpSeV(PM)TS15/ΔF DNA(F遺伝子を欠失し、M(G69E/T116A/A183S), HN(A262T/G264/K461G), P(D433A/R434A/K437A/L511F), L(L1361C/L1558I/N1197S/K1795E) の変異を有するセンダイウイルスベクター(WO2003/025570, WO2010/008054)のゲノムをコードするDNAであって、P遺伝子のM遺伝子の間に外来遺伝子の搭載サイトを持つ)でライゲーションを行い、クローニングされたCAS9の塩基配列を確認して、SeVに最適化された全長Cas9遺伝子(VCas9)を搭載したプラスミドpSeV(PM)CAS9TS15/ΔFを得た。このプラスミド DNAを鋳型にしてセンダイウィルス再構成を行い、Cas9搭載センダイウィルスベクター SeV(PM)CAS9TS15/ΔFを得た。
[実施例5]SeV-Cas9を用いた遺伝子復帰試験
TG98細胞HPRT遺伝子エキソン2の2塩基挿入変異(HPRTTG98)(実施例2)に対して、SeV-Cas9を用いて遺伝子復帰試験を行うために、供与プラスミドpBS-HPRTEx2SMAI (P1-6)(実施例1) DNA と同時にリポフェクションされる2種のRNA、1)標的化RNA として働くcrRNA 5’-UAAAUCAAGGUCAUAUAACC-3’ (GT79)(配列番号36)、2)Cas9酵素の足場RNAとして働く tracrRNA(ファスマックカタログ番号GE002)を準備した。crRNA内のUA(GT79の5'端から14-15番目 (下線で示す))は2塩基挿入変異に相当する部位を示す。
遺伝子復帰試験(図2)は以下の通りに行った。SeV-Cas9の感染の前日に5x105個TG98細胞/2-mL DMEM培地(6-thioguanine含)/wellで6-well plateに塗布し接着培養を行い、大凡24時間後に培地を除去、2mL Opti-MEMを添加し、37℃に置く一方で、1 well内の細胞数を測定し感染する全細胞数を算出し、感染多重度3に相当するCas9搭載センダイウィルスベクター SeV(PM)CAS9TS15/ΔF(実施例4)を採取し、Opti-MEMで希釈することによって0.5 mL SeV-Cas9溶液/wellに調整し、あらかじめ添加されていたOpti-MEMを除去、0.5 mL SeV-Cas9溶液/wellを加えて、32℃, 5%CO2条件下で吸着感染を開始し、15分毎に混合操作を行い、2時間後に、SeV-Cas9溶液を除去、2mL Opti-MEM/wellを添加、2-mL DMEM培地(6-thioguanine含)/wellで交換して、32℃, 5%CO2条件下で培養した。大凡24時間後に新しいDMEM培地に交換して、35℃, 5%CO2に移動させて、大凡24時間そのまま培養した。
リポフェクション溶液を播種する1時間前に、SeV感染細胞培養プレートから、培地を除去、Opti-MEMを2 mL/wellで加えて置いた。リポフェクション法により、crRNA GT79とtracrRNA (ファスマックカタログ番号GE002)及び供与プラスミドDNAを導入するために、X-tremeGene HP DNA Transfection Reagent Version 08(Roche カタログ番号06 366 236 001)を用いた。0.15μg のcrRNA GT79, 0.27μg のtracrRNA, 5μg のpBS-HPRTEx2SMAI (P1-6)供与プラスミドを混合して、Opti-MEM で1μg RNA・DNA/100μLに調整して、1μg RNA・DNA につき1μL のX-tremeGene HP DNA Transfection Reagentを加えて、25℃-15分間でDNA/RNA/リポソーム複合体を形成させて、Opti-MEMで総容量1 mL(2 well分)にメスアップした。このRNA濃度0.42μg/mLを1xRNAsと表現する。対照としてSeV-Cas9/tracrRNA/crRNAの代わりに、10μg のプラスミドpCas9-sgHPRT1m(実施例3)を用いて、リポフェクション溶液を調整した。
このリポフェクション溶液を0.5 mL/wellで6-well plateに添加して、37℃, 5%CO2-17時間でインキュベーションした。リポフェクション細胞を塗布するために、各wellのリポフェクション溶液を2 mL PBS/wellで交換し除去後、0.25%トリプシン/1 mM EDTA液を0.5 mL/wellで添加、37℃-1分インキュベート、0.5 mL/wellでDMEM培地を添加し3〜4回のピペッティング(P1000ピペット)で細胞を剥離・懸濁、1本の50-mLチューブに回収、細胞数測定後、1,200 rpm 3分遠心し上清を除去、4x104細胞/mLでDMEM培地(6-thioguanineなし)に懸濁して、10 mL/直径10-cmディッシュに塗布、37℃, 5%CO2条件下で非選択培養を開始した(Day 0)。Day 5で1/50量のHAT Supplement (50x), Liquid(ThermoFisher カタログ# 21060017)を加えたDMEM培地(HAT含)に交換し選択培養を開始、2、3日置きに同培地で交換を行い、Day 14で4枚のディッシュを代表してHAT耐性コロニー数を測定した。
遺伝子復帰体単離と構造解析の手順は以下の通りに行った。HAT耐性コロニーのそれぞれに対して、顕微鏡下でP1000ピペットマンを200μLに合わせて細胞を剥ぎ取り、2 mL のHAT添加培地を加えた、6ウェルプレートの1ウェルに懸濁して、HATクローンナンバーを付して、37℃, 5%CO2条件下で選択培養を行い、コンフルエント付近まで培養を続けた。培地を除去、2 mL/wellでPBSを添加・除去、0.25%トリプシン/1 mM EDTA液を500μL/wellで添加、37℃1分インキュベート、500μL/wellでDMEM培地を添加し3〜4回のP1000ピペッティングで細胞を剥離・懸濁、1本の1.5-mLエッペンドルフチューブに細胞を回収、2,500 rpm 3分遠心し上清を除去、100μL PBSを添加・ピペッティングで細胞を懸濁、40μLずつ2本のクライオチューブに分取、セルバンカー1プラスを500μL/クライオチューブで加えて-80℃に保管、残りの20μL PBS細胞懸濁液を2,500 rpm 3分遠心し上清を除去、細胞ペレットを-80℃にで凍結保存した。凍結細胞ペレットを氷中で解凍、GeneElute Mammalian Genomic DNA miniprep Kit(SIGMA-ALDRICH, カタログ番号G1N350)でゲノムDNAを抽出、100μLサンプルとして4℃保管した。HATクローンのgenomic DNAを鋳型にして、1)(GT68);5’-ACGACCTCGCCCGGCCTTGTATT-3’(GT68)(配列番号37)及び5’- GCCACTGCACCCAGCCGTATGT-3’(GT69)(配列番号38)を用いて、KOD-FX-DNA polymerase(TOYOBO株式会社コード番号KFX-101)によるPCR反応(94℃-2分→98℃-10秒、68℃-20分を40サイクル→68℃7分)を行い、HT-1080 genomic DNAを鋳型としたPCR産物と同様に約9300 baseのPCR産物が得られたので、供与プラスミドが挿入されていないことを確認した(実験1(図4B、C上)で実施;実験2、3、4で未実施)、2)5’-GCTGGGATTACACGTGTGAACCAACC -3’(GT19)(配列番号3)及び5’-TCTGGTCCCTACAGAGTCCCACTATACC-3’(GT22)(配列番号2)を用いて、KOD-FX-DNA polymerase(TOYOBO株式会社コード番号KFX-101)によるPCR反応(94℃-2分→98℃-10秒、68℃-1分を40サイクル→68℃7分)を行い、約500 baseのPCR産物を確認して(実験1(図4B、C下)、2で実施;実験3、4で未実施)、PCR clean-up(MACHEREY-NAGEL, 740609.250)で精製後、シーケンシングを行った(実験1、2で実施;実験3、4で未実施)。
まず、上記の遺伝子復帰試験を2回行った。実験1では、生細胞中のHAT耐性クローン出現率が、プラスミドpCas9-sgHPRT1m導入条件で3.0e-5に対して、SeV-Cas9感染/CRRNA GT79/TRACR RNA導入条件で9.7e-3であり、計算上、本発明条件において、一般的なプラスミド条件よりも326倍の高頻度化を示した(図4A Exp. 1)。実験2では、生細胞中のHAT耐性クローン出現率が、プラスミドpCas9-sgHPRT1 m導入条件で2.5e-5に対して、SeV-Cas9感染/crRNA GT79/tracrRNA導入条件で2.4e-2であり、計算上、本発明条件において、一般的なプラスミド条件よりも975倍の高頻度化を示した(図4A Exp. 2)。また、実験1では、cell viabilityが、プラスミドpCas9-sgHPRT1m導入条件で6.5%に対して、SeV-Cas9感染/crRNA GT79/tracrRNA導入条件で2.0%であり(図4A Exp. 1)、実験2では、cell viabilityが、プラスミドpCas9-sgHPRT1m導入条件で12%に対して、SeV-Cas9感染/crRNA GT79/tracrRNA導入条件で1.4%であり(図4A Exp. 2)、SeV-Cas9感染によるcell viabilityの低下が認められた。これは、用いられたSeV-Cas9サンプルが、限外濾過・カラム精製前の上清サンプルであることが影響している可能性が考えられるので、次項において、SeV-Cas9の限外濾過・カラム精製後の精製サンプルを用いて同様な実験を行い、プラスミドpCas9-sgHPRT1m導入条件に対する本発明条件による高頻度化の程度を判定した。
[実施例6]SeV-Cas9を用いた遺伝子復帰
SeV-Cas9の精製サンプルを用いて、実施例5の遺伝子復帰試験を、実験3、実験4としてさらに2回行った。実験3では、cell viabilityが、プラスミドpCas9-sgHPRT1m導入条件で15%に対して、SeV-Cas9感染/crRNA GT79/tracrRNA導入条件で11%〜17%であり(図5Exp. 3)、実験4では、cell viabilityが、プラスミドpCas9-sgHPRT1m導入条件で14%に対して、SeV-Cas9感染/crRNA GT79/tracrRNA導入条件で11%〜15%であり(図5Exp. 4)、SeV-Cas9感染によるcell viabilityの低下が認められなかった。また、実験3では、生細胞中のHAT耐性クローン出現率が、プラスミドpCas9-sgHPRT1m導入条件で3.9e-5に対して、SeV-Cas9感染/crRNA GT79/tracrRNA導入条件では2.6e-3〜3.5e-3であり、本発明条件において、一般的なプラスミド条件よりも84〜90倍の高頻度化が観察された(図5Exp. 3)。実験4では、生細胞中のHAT耐性クローン頻度が、プラスミドpCas9-sgHPRT1m導入条件で3.0e-5に対して、SeV-Cas9感染/crRNA GT79/tracrRNA導入条件では3.3e-3〜3.6e-3であり、本発明条件において、一般的なプラスミド条件よりも110〜118倍の高頻度化が観察された(図5Exp. 4)。遺伝子復帰頻度について、SeV-Cas9の上清サンプル(図4A Exp.1 Exp.2)及び精製サンプルの両方においてもプラスミドpCas9-sgHPRT1mよりも著しく高いことが再現されたと言える。プラスミドpCas9-sgHPRT1m導入条件とSeV-Cas9感染/crRNA GT79/tracrRNA導入条件間のcell viabilityがおおよそ揃っている実験3、4の結果に基づいて、プラスミドpCas9-sgHPRT1m導入条件に対する本発明条件による高頻度化の程度は、100倍前後と判定する。
実験1と実験2において、実施例5に示した手順で、遺伝子復帰体HATクローンの単離を行い、構造解析を行った。
実験1におけるプラスミドからのCas9 sgRNA同時発現系では、17 個のHAT耐性クローンにおいて、標的領域5488 bp断片の5’外側プライマーGT68と3’外側プライマーGT69によるPCR解析から、9367 bp相当の断片を得たことから(図4C上左)、供与プラスミドの骨格部分の挿入が起こっていないことを確認し、続いて、エキソン2の領域を増幅するプライマーGT19/GT22によるPCRから、主に525 bp相当のPCR産物を得た(図4C下左)。白矢印を付けた2クローンについては、525 bpよりも大きなPCR産物を得た。これは、〜100 bp程度の挿入が存在することを示す。プライマーGT19/GT22 PCR産物のシーケンス解析から、17 個のHAT耐性クローンの全クローンにおいて(図4D中段2列目)、標的配列部位が復帰していたが、次のような異常が伴っていた:1)17のうちの2クローンで近接イントロン内での挿入が伴っていた;2)17のうちの他4クローンで2塩基挿入変異配列断片がゲノム上のどこかに残っていた。また、実験2におけるプラスミドからのCas9 sgRNA同時発現系では、12個のHAT耐性クローンにおいて(図4D下段2列目)、標的配列部位が復帰していたが、実験2由来の17クローンのような異常が伴っているかどうか解析したところ、近接イントロン内での挿入は12個中に存在しなかったが、12個のうちの6クローンで2塩基挿入変異配列断片がゲノム上のどこかに残っていた。
実験1におけるSeVからのCas9発現、RNA導入系では、12個のHAT耐性クローンにおいて、標的領域5488 bp断片の5’外側プライマーGT68と3’外側プライマーGT69によるPCR解析から、9367 bp相当の断片を得たことから(図4C上右)、供与プラスミドの骨格部分の挿入が起こっていないことを確認し、続いて、エキソン2の領域を増幅するプライマーGT19/GT22によるPCRから、525 bp相当のPCR産物を得た(図4C下右)。プライマーGT19/GT22 PCR産物のシーケンス解析から、12 個のHAT耐性クローンのうち全てにおいて(図4D中段3列目)、標的配列部位が復帰していて、近接イントロン内での挿入や2塩基挿入変異配列断片のゲノム上での残存の付随現象は、観察されなかった。また、実験2におけるSeVからのCas9発現、RNA導入系では、24個のHAT耐性クローンにおいて(図4D下段3列目)、標的配列部位が復帰していて、近接イントロン内での挿入や2塩基挿入変異配列断片のゲノム上での残存の付随現象は、観察されなかった。
プラスミドからのCas9 sgRNA同時発現系では、読み枠が復帰しても、1)近接イントロン内での挿入;2)2塩基挿入変異配列断片のゲノム上のどこかでの残存の付随現象が伴う危険性があり、SeVからのCas9発現、RNA導入系ではそのような危険性がより低いと考えられる。
[実施例7]SeV-Cas9を用いた遺伝子破壊試験
SeV-Cas9を用いて遺伝子破壊試験を行うために、Fibrosarcoma由来HT-1080細胞のHPRT遺伝子のエキソン2内のSexAIサイト(5’-ACCAGGT-3’)の5’-CCA-3’をProtospacer Adjacent Motif (PAM)とする標的配列を設定して、リポフェクションされる2種のRNA、1)crRNA 5’-AAUAAAUCAAGGUCAUAACC-3’ (GT78)(配列番号39)、2)tracrRNA(ファスマックカタログ番号GE002)を準備した。
遺伝子破壊試験は以下の通りに行った。SeV-Cas9の感染の前日に5x105個HT-1080細胞/2-mL DMEM培地/wellで6-well plateに塗布し接着培養を行い、大凡24時間後に培地を除去、2mL Opti-MEMを添加し、37℃に置く一方で、1 well内の細胞数を測定し感染する全細胞数を算出し、感染多重度3に相当するCas9搭載センダイウィルスベクター SeV(PM)CAS9TS15/ΔF(実施例4)を採取し、Opti-MEMで希釈することによって0.5 mL SeV-Cas9溶液/wellに調整し、あらかじめ添加されていたOpti-MEMを除去、0.5 mL SeV-Cas9溶液/wellを加えて、32℃, 5%CO2条件下で吸着感染を開始し、15分毎に混合操作を行い、2時間後に、SeV-Cas9溶液を除去、2mL Opti-MEM/wellを添加、2-mL DMEM培地/wellで交換して、32℃, 5%CO2条件下で培養した。大凡24時間後に新しいDMEM培地に交換して、35℃, 5%CO2に移動させて、大凡24時間そのまま培養した。
リポフェクション溶液を播種する1時間前に、SeV感染細胞培養プレートから、培地を除去、Opti-MEMを2 mL/wellで加えて置く。リポフェクション法により、crRNA GT79とtracrRNA (ファスマックカタログ番号GE002)を導入するために、X-tremeGene HP DNA Transfection Reagent Version 08(Roche カタログ番号06 366 236 001)を用いた。0.15μg のcrRNA GT79、0.27μg のtracrRNAを混合して、Opti-MEM で1μg RNA/100μLに調整して、1μg RNA につき1μL のX-tremeGene HP DNA Transfection Reagentを加えて、25℃-15分間でDNA/RNA/リポソーム複合体を形成させて、Opti-MEMで総容量1 mL(2 well分)にメスアップした。このRNA濃度0.42μg/mLを1xRNAsと表現する。対照としてSeV-Cas9/tracrRNA/crRNAの代わりに、10μg のプラスミドpCas9-sgHPRT1(実施例2)を用いて、リポフェクション溶液を調整した。本試験において、ドナープラスミドの導入は行わない。
このリポフェクション溶液を0.5 mL/wellで6-well plateに添加して、37℃, 5%CO2-17時間でインキュベーションした。リポフェクション細胞を塗布するために、各wellのリポフェクション溶液を2 mL PBS/wellで交換し除去後、0.25%トリプシン/1 mM EDTA液を0.5 mL/wellで添加、37℃-1分インキュベート、0.5 mL/wellでDMEM培地を添加し3〜4回のピペッティング(P1000ピペット)で細胞を剥離・懸濁、1本の50-mLチューブに回収、細胞数測定後、1,200 rpm 3分遠心し上清を除去、4x104細胞/mLでDMEM培地に懸濁して、10 mL/直径10-cmディッシュに塗布、37℃, 5%CO2条件下で非選択培養を開始した(Day 0)。Day 5でDMEM培地(6-thioguanine含)に交換し選択培養を開始、2、3日置きに同培地で交換を行い、Day 14で4枚のディッシュを代表して6チオグアニン耐性コロニー数を測定した。
[実施例8]SeV-Cas9を用いた遺伝子破壊
SeV-Cas9の精製サンプルを用いて、実施例7の遺伝子破壊試験を、実験5、実験6として2回行った。実験5では、生細胞中の6チオグアニン耐性(6TGR)クローン出現頻度が、プラスミドpCas9-sgHPRT1 導入条件で1.8e-3に対して、SeV-Cas9感染/crRNA GT79/tracrRNA導入条件では3.5e-3〜5.3e-3であり (図6Exp. 5)、実験6では、生細胞中の6TGRクローン頻度が、プラスミドpCas9-sgHPRT1導入条件で1.6e-3に対して、SeV-Cas9感染/crRNA GT79/tracrRNA導入条件では3.6e-3〜5.3e-3であり(図6Exp. 6)、本発明条件において、一般的なプラスミド条件よりも2〜3倍の高頻度化が観察された。遺伝子破壊頻度において、SeV-Cas9感染/crRNA GT79/tracrRNA導入系がプラスミドpCas9-sgHPRT1 導入系よりも有意に高かったことから、前者の方が後者よりも細胞あたりの切断頻度が高いと考えられる。
実験3、実験4(遺伝子復帰試験)、実験5、実験6(遺伝子破壊試験)においては、の2〜8xRNAsの範囲でRNA量を振ったが、それぞれの頻度に対して、強い影響は認められなかった(図5、6)。
本発明の好ましい態様を詳細に説明してきたが、これらの態様が変更され得ることは当業者にとって自明であろう。よって、本発明は、本発明が本明細書に詳細に記載された以外の方法や態様で実施され得るが、それらもまた本発明に含まれることは意図されている。即ち、本発明は添付の「特許請求の範囲」の精神またはその本質的部分を同じくする範囲に包含されるすべての変更を含むものである。
本発明により、indelの発生を抑え、極めて高効率で標的遺伝子を改変する方法が提供された。従来の方法では、遺伝子改変を行うためには、供与DNAが挿入された細胞を選択マーカー遺伝子を用いて選択する工程と、選択マーカー遺伝子を除去された細胞を選択する工程という二段階選抜を行うことが必要であったが、本発明は極めて高い効率で遺伝子改変細胞を取得することができるため、選択マーカー遺伝子を用いることは必ずしも必要ではなくなり、一段階の選抜で目的の細胞を取得することも可能となる。
また、選択マーカー遺伝子を除去する従来の方法では、除去後も部位特異的組換え酵素の認識配列が残存することは避けられなかったが、本発明の方法では選択マーカー遺伝子を用いることは必要ではなく、選択マーカー遺伝子を除去する必要もなくなることから、部位特異的組換え酵素の認識配列が残存する問題を回避することができる。
また、本発明は遺伝子破壊(遺伝子ターゲッティング)においても有用である。遺伝子を破壊すると細胞または個体レベルで表現型(例えば障害)が顕れ、そこから本来の遺伝子機能を推察することができる。最近CRISPR/Cas9による新しい遺伝子破壊技術の利用が、基礎研究分野から臨床研究分野まで拡がっている。しかしながら、CRISPR/Cas9技術は高効率に標的遺伝子を破壊できる一方、標的外遺伝子での破壊を伴うことが多く、顕れた障害が標的遺伝子破壊か標的外遺伝子破壊によるものかを直ちに特定することはできない。かつて、化学変異原処理によって作製された変異株に対して、それらの機能解析の段階で見られたように遺伝子機能の誤解釈をもたらす危険性がある。CRISPR/Cas9技術による誤解釈を回避して、顕われた機能障害の正しい原因遺伝子を特定するには、相補性試験などを含む過重な労力と時間を要する。
しかし本発明の方法ではindelの発生が抑えられることから、標的部位だけが破壊された細胞をより効率的に取得できるため、実験効率の上昇が期待できる。
また、大半の酵素は複数のドメインから成り立つが、ドメインの機能を解明するためには、遺伝子破壊技術は不適切であり、代わりに、ドメイン内のアミノ酸配列に相当する特定エキソンの塩基配列を精密に改変しなければならない。従来CRISPR/Cas9技術は、遺伝子改変細胞よりも遺伝子破壊細胞の方が数十倍高く生じるので、前者を選抜するためには、選択マーカー遺伝子の適用が必要とされる。選択マーカーなしで選抜するためには、sib-screeningを簡便化できる高額な機器(droplet digital PCR)の適用が必要とされる。
しかし上述の通り本発明の方法は極めて高い効率で遺伝子改変細胞を取得することができるため、より簡便に遺伝子改変を実施することができる。従って、機能障害の原因遺伝子を特定するための労力と時間を削減できる。また、切断効率の向上から、ドメイン解析のための特定配列の変換を可能にしたと言える。このように本発明は、遺伝子疾患の原因究明などの基礎および応用研究や、遺伝子治療などの臨床適用までを含むあらゆる場面での遺伝子改変において、極めて有用な技術を提供するものである。

Claims (16)

  1. ガイドRNA依存性DNAヌクレアーゼを用いる遺伝子改変細胞の製造方法であって、
    (a)該ヌクレアーゼの遺伝子を搭載し、該ヌクレアーゼの活性に必要なガイドRNAの少なくとも一つをコードしない温度感受性マイナス鎖RNAウイルスベクターを細胞に導入し、許容温度下で該ベクターを発現させ、該ガイドRNAの非存在下で該ヌクレアーゼを細胞に蓄積させる工程、
    (b)工程(a)の後、不足するガイドRNAを細胞に供給する工程、
    (c)工程(b)の前後または同時に培養温度を非許容温度に上昇させ、該ガイドRNAが細胞中に存在する状態で培養する工程、を含む方法。
  2. (d)遺伝子が改変された細胞を回収する工程、をさらに含む、請求項1に記載の方法。
  3. 工程(b)においてガイドRNAを細胞に導入する、請求項1または2に記載の方法。
  4. 工程(b)の実施時か、遅くともその24時間後までには培養温度は非許容温度に上昇している、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
  5. 該ヌクレアーゼが、CRISPR/Casクラス2エンドヌクレアーゼである、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
  6. 該マイナス鎖RNAウイルスベクターがガイドRNAをコードしない、請求項1から5のいずれかに記載の方法。
  7. 工程(b)において供与DNAも細胞に導入する、請求項1から6のいずれかに記載の方法。
  8. 該供与DNA中にポジティブ選択マーカー遺伝子を含まない、請求項7に記載の方法。
  9. 工程(c)の後、供与DNA中の配列が組み込まれた細胞を選択する工程、をさらに含む、請求項7または8に記載の方法。
  10. 該選択工程が、ポジティブ選択マーカーに頼らずに細胞を検査して供与DNA中の配列が組み込まれた細胞を選択する工程である、請求項9に記載の方法。
  11. 請求項1から10のいずれかに記載の方法に用いられるベクターであって、ガイドRNA依存性DNAヌクレアーゼ遺伝子を搭載し、該ヌクレアーゼの活性に必要なガイドRNAの少なくとも一つをコードしない、温度感受性マイナス鎖RNAウイルスベクター。
  12. 温度感受性センダイウイルスベクターである、請求項11に記載のベクター。
  13. F遺伝子欠失型温度感受性センダイウイルスベクターである、請求項12に記載のベクター。
  14. センダイウイルスベクターが、F遺伝子を欠失し、M蛋白質にG69E、T116A、およびA183Sの変異、HN蛋白質にA262T、G264R、およびK461Gの変異、P蛋白質にL511Fの変異、ならびにL蛋白質にN1197SおよびK1795Eの変異をゲノムに含む、請求項12または13に記載のセンダイウイルスベクター。
  15. 以下の(i)および/または(ii)の変異をさらにゲノムに含む、請求項14に記載のセンダイウイルスベクター。
    (i)P蛋白質のD433A、R434A、およびK437Aの変異
    (ii)L蛋白質のY942H、L1361Cおよび/またはL1558Iの変異
  16. 該ヌクレアーゼが、CRISPR/Casクラス2エンドヌクレアーゼである、請求項11から15のいずれかに記載のベクター。
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