JP2021175828A - 高温部材 - Google Patents

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Abstract

【課題】遮熱コーティング(TBC)を備える高温部材の耐久性を向上する技術を提案する。【解決手段】高温部材は、耐熱合金からなる基材と、基材の表面に設けられたNiCoCrAlY合金からなるボンドコートと、ボンドコートの表面に設けられた等軸晶組織のα−Al2O3からなる酸化バリア層と、酸化バリア層の表面に設けられた酸化物系セラミックスからなるトップコートとを備える。【選択図】図4

Description

本開示は、遮熱コーティング(Thermal Barrier Coating:TBC)が施された高温部材及びその製造方法に関する。
従来、産業用ガスタービンの構成部品を高温の環境から守るために、TBCが利用されてきた。TBCは、一般に、金属製基材上に、低熱伝導率のセラミックスから成る低熱伝導率のトップコート(遮熱層)と、トップコートと基材の間の密着性を向上するためのボンドコート(結合層)とを成膜した2層構造を有する。
近年、エネルギー問題への意識の高まりから、ガスタービンにはより一層の効率向上が求められている。ガスタービンの効率を向上させるためには、タービン入口温度を高温化することが一つの有効な手段である。タービン入口温度が高温化すると、それに伴い、高温環境下で使用されるノズル、ガイドベーン、ブレードなどの高温部材はより高温の環境に晒されることとなる。ガスタービンの高温部材は、その表面にTBCが適用されることにより、表面から内部への伝熱を抑制する遮熱性を備えている。しかしながら、TBCを高温下で長期間使用するとトップコートの剥離や遮熱性能の低下が生じるため、ガスタービンの高温部材が高温環境下での長時間の使用に耐えうる耐久性を維持することが困難となっている。
トップコートの剥離を引き起こすメカニズムとしては様々なものが論じられているが、トップコートとボンドコートとの界面においてボンドコートの高温酸化によって形成される酸化物(Thermally Grown Oxide :TGO)が関与していることが認識されている。
したがって、TBCのトップコートの剥離を抑制し、TBCの耐久性向上を図るためには、TGOの成長を抑制することが重要であると考えられる。特許文献1,2及び3では、TGOの成長を抑制するための技術が提案されている。
特許文献1では、金属製基材の表面に、MCrAlYからなる結合層を設けた後、真空環境下900℃で熱処理を行うことにより結合層の表面にα−Al層を形成し、続いて、α−Al層の表面に酸化物系セラミックスからなる遮熱層を設けて、高温部材を製造することが記載されている。ここでは、成長速度の小さいα−Al層を結合層上に形成することにより、遮熱層と結合層との界面でのTGOの成長を抑制しようとしている。
また、特許文献2では、耐熱合金製基材の表面にAlの含有量が3〜24mass%であるMCrAlX(MはCo,Cr,Ni及びFeのうちから選ばれる1種又は2種以上、XはY,Hf,Ta,Cs,Ce,La,Th,W,Si,Pt,Mn及びBのうちから選ばれる1種又は2種以上)からなる耐高温酸化性合金皮膜を設け、その合金皮膜の表面にAl層を介し、酸化クロム皮膜(又は、酸化クロム皮膜及びクロム皮膜)を積層形成させることが記載されている。ここでは、耐高温酸化性合金皮膜の表面に、緻密性で密着性に富み、且つ保護性に優れたAlのみからなる酸化バリア層を積極的に生成させることにより、耐高温酸化性合金皮膜の優れた耐高温酸化性を十分に発揮できるようにしている。
また、特許文献3では、耐熱合金基材の表面に耐酸化被膜を介してセラミック遮熱層を形成した耐酸化コーティング部材において、耐酸化被膜とセラミック遮熱層との界面に、不純物元素として含まれるCo及びNiの各含有量が1原子%以下である薄いα−Al層を形成することが記載されている。このα−Al層は、耐熱合金表面に対して垂直方向に延び、太さが0.2μm以上の柱状の結晶粒から構成されている。
特開2000−17458号公報 特開2004−76099号公報 特開2007−262530号公報
本開示は、上記背景技術に鑑み、TBCのトップコートとボンドコートの界面酸化物の成長の抑制に優れた効果を発揮することはもちろん、TBCの耐久性の更なる向上に寄与する酸化バリア層を形成する技術を提案することを目的とする。ひいては、TBCの耐久性の向上によって、TBCが適用された高温部材の長寿命化に寄与する。
上記特許文献1〜3に記載のように、α−Alはトップコートとボンドコートの界面酸化物の成長を抑制する酸化バリアとして機能する。一方、α−Alと結晶構造の異なるθ−Alは、格子欠陥を含むため、α−Alのような酸化バリアとしての効果は期待できない。また、θ−Alからα−Alへの相転移は約13%もの体積収縮を伴うため、トップコートとボンドコートとの界面にθ−Alが存在するとそれが相転移して酸化バリア層に欠陥を生じさせるおそれがある。酸化バリア層に欠陥が生じると、酸化バリア効果が損なわれ、それが、トップコートの剥離の要因となるおそれがある。これらのことから、TBCの耐久性の更なる向上を図るためには、トップコートとボンドコートの界面に酸化バリア層を形成する際に、θ−Alを生成させずにα−Alのみを生成することが望ましい。
本願の発明者らは、一定以下の低酸素分圧の真空雰囲気下でボンドコートの予備酸化処理を行うことにより、トップコートとボンドコートの界面にθ−Alを殆ど生じさせることなくα−Alからなる酸化バリア層を生成させることができるという知見を得た。
そこで、本開示の一態様に係る高温部材の製造方法は、
耐熱合金からなる基材の表面に、NiCoCrAlY合金粉末を溶射して、NiCoCrAlY合金からなるボンドコートを形成させる工程と、
前記ボンドコートが形成された前記基材に対し、1.0×10-15−1.0×10-9Pa
の酸素分圧の真空雰囲気下において、1000−1200℃の範囲内の所定温度で、1〜6時間加熱する予備酸化処理を行うことにより、前記ボンドコートの表面に酸化バリア層を生成させる工程と、
前記酸化バリア層の表面に、酸化物系セラミックス粉末を溶射して、トップコートを形成させる工程とを含むことを特徴としている。
また、本開示の別の一態様に係る高温部材の製造方法は、
耐熱合金からなる基材の表面に、NiCoCrAlY合金粉末を溶射して、NiCoCrAlY合金からなるボンドコートを形成させる工程と、
前記ボンドコートが形成された前記基材の表面に、酸化物系セラミックス粉末を溶射して、トップコートを形成させる工程と、
前記ボンドコート及び前記トップコートで被覆された前記基材に対し、1.0×10-15
−1.0×10-9Paの酸素分圧の真空雰囲気下において、1000−1200℃の範囲内の所定温度で、1−6時間加熱する予備酸化処理を行うことにより、前記ボンドコートと前記トップコートの界面に酸化バリア層を生成させる工程とを含むことを特徴としている。
また、本開示の一態様に係る高温部材は、
耐熱合金からなる基材と、
前記基材の表面に設けられたNiCoCrAlY合金からなるボンドコートと、
前記ボンドコートの表面に設けられた等軸晶組織のα−Alからなる酸化バリア層と、
前記酸化バリア層の表面に設けられた酸化物系セラミックスからなるトップコートとを備えることを特徴としている。
上記の高温部材の製造方法において、前記予備酸化処理における、前記ボンドコートの昇温レートが5−15℃/minであってよい。
また、上記の高温部材及びその製造方法において、前記NiCoCrAlY合金は、質量分率で表して、18.0−28.0%のCo、13.0−21.0%のCr、10.0−15.0%のAl、及び、0.1−0.8%のYを含んでなることがよい。
上記の高温部材及びその製造方法によれば、TBCを形成しているボンドコートとトップコートとの界面に設けられた酸化バリア層は、θ−Alを殆ど含まず、α−Alからなる。よって、高温部材に生成された酸化バリア層は、TBCのトップコートとボンドコートの界面酸化物の成長の抑制に優れた効果を発揮することはもちろん、θ−Alを殆ど含まないことによりTBCの耐久性の更なる向上に寄与することができる。そして、TBCの耐久性の向上により、TBCが適用された高温部材の長寿命化を実現できる。
本開示によれば、TBCの耐久性の更なる向上に寄与する酸化バリア層を形成する技術及びその技術が適用された高温部材を提供することができる。
図1は、試料を大気雰囲気下で1100℃まで昇温した際の、in-situ XRDによるボンドコートの表面の分析結果である。 図2は、試料を酸素分圧が1.0×10-1Paの真空雰囲気下で1000℃まで昇温した際の、in-situ XRDによるボンドコートの表面の分析結果である。 図3は、試料を酸素分圧が1.0×10-12Paの真空雰囲気下で1000℃まで昇温した際の、in-situ XRDによるボンドコートの表面の分析結果である。 図4は、酸素分圧が1.0×10-14Paの真空雰囲気下で予備酸化処理が行われた試料の断面のTEM像である。 図5は、酸素分圧が1.0×10-16Paの真空雰囲気下で予備酸化処理が行われた試料の断面のTEM像である。 図6は、異なる複数の酸素分圧の真空雰囲気下と大気雰囲気下で予備酸化処理された試料のXRDによるボンドコートの表面の分析結果である。 図7は、高温酸化試験の結果を表す図表である。 図8(a)は試験片を3000時間熱暴露した後のボンドコートとトップコートの界面の断面SEM写真であり、図8(b)は比較用試験片を3000時間熱暴露した後のボンドコートとトップコートの界面の断面SEM写真である。 図9は、トップコート施工後に予備酸化処理を行った試料の高温酸化試験の結果を表す図表である。
〔高温部材〕
本開示の一実施形態に係る高温部材は、耐熱性に優れた合金からなる基材が、遮熱コーティング(Thermal Barrier Coating:TBC)で被覆されたものである。TBCは、基材の表面に形成されたボンドコート(結合層)、ボンドコートの表面に生成した界面酸化物からなる酸化バリア層、及び、酸化バリア層の表面に形成された低熱伝導率のトップコート(遮熱層)からなる。
上記基材は、Ni基合金や、Co基合金などの、一般にガスタービン翼や燃焼器の構成材として使用されている耐熱合金からなる。このような耐熱合金として、特に限定されるものではないが、例えば、MAR−M−247(登録商標)、Udimet520TM、CMSX−4(登録商標)などの耐熱合金が挙げられる。
上記トップコートは、低熱伝導率のセラミックスからなる。このような低熱伝導率のセラミックスとして、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)などの酸化物系セラミックスが挙げられる。
上記酸化バリア層は、主に等軸晶組織のα−Alからなる。α−Alは、緻密であると共に高温環境下での長時間の使用に伴う成長速度が遅い。このような酸化バリア層がボンドコートとトップコートとの界面に存在することによって、ボンドコートとトップコートとの界面酸化物のそれ以上の成長が抑制される。
上記ボンドコートは、NiCoCrAlY合金からなる。なお、上記NiCoCrAlY合金には、NiCoCrAlYSiHf合金も含まれる。NiCoCrAlY合金では、各成分の質量分率がNi>Co>Cr>Alの関係となっている。
JIS H8260「溶射粉末材料」では、NiCoCrAlY合金粉末の種類が、コード番号4.3−4.4(記号NiCoCrAlY47 22 17 13)及びコード番号4.5(記号NiCoCrAlYSiHf47 22 17 13)で区分されている。ボンドコートの材料として、上記コード番号4.3−4.5に区分される種類のNiCoCrAlY合金が用いられてよい。また、ボンドコートの材料として、例えば、AMPERIT(登録商標)405、AMPERIT410、AmdryTM365、Amdry386などの市販されているNiCoCrAlY合金が用いられてよい。表1では、市販されているNiCoCrAlY合金の化学成分を示す。
Figure 2021175828
NiCoCrAlY合金に分類される合金の各成分の質量分率は、Co:18.0−28.0%、Cr:13.0−21.0%、Al:10.0−15.0%、Y:0.1−0.8%、残部Niである。また、NiCoCrAlY合金(そのうち、NiCoCrAlYSiHf合金)に分類される合金の各成分の質量分率は、Co:18.0−26.0%、Cr:13.0−21.0%、Al:10.0−15.0%、Y:0.1−1.0%、Hf:0.1−1.0%、Si::0.1−0.7%、残部Niである。なお、上記NiCoCrAlY合金は、各成分の質量分率に表れていない微量の不純物が含まれていてよい。
NiCoCrAlY合金の成分のうちNi,Cr,Al,Coの各成分の質量分率が、α−Alの生成に関与していると考えられている。詳細には、NiCoCrAlY合金の成分のうち、Cr及びAlの質量分率の増加はα−Alの生成を促進し、NiとCoの質量分率の増加はα−Alの生成を阻害すると考えられている。
このことから、高温部材のボンドコートの材料として採用され得るNiCoCrAlY合金を、Ni,Cr,Al,Coの各成分の質量分率のバランスで定義することができる。つまり、ボンドコートの材料として好適なNiCoCrAlY合金は、質量分率で表して、18.0−28.0%のCo、13.0−21.0%のCr、10.0−15.0%のAl、及び、0.1−0.8%のYを含んでなることが好適である。
〔高温部材の製造方法〕
上記高温部材は、次の工程(1)−(3)により製造される。なお、高温部材の製造工程は(1)−(3)の順に進行する。
(1)基材の表面に、NiCoCrAlY合金を溶射して、例えば、100−150μm厚のボンドコート(即ち、NiCoCrAlY合金皮膜)を形成させる。この際、NiCoCrAlY合金の溶射には、高速フレーム溶射法と呼ばれるHVOF(High Velocity
Oxy−Fuel)溶射法、又は、減圧プラズマ溶射(Low Pressure Plasma Spraying:LPPS)が用いられる。なお、ボンドコートの厚みは上記に限定されない。
(2)上記のように形成されたボンドコートの予備酸化処理を行い、ボンドコートの表面に酸化バリア層(即ち、酸化膜)を生成させる。予備酸化処理では、ボンドコートが形成された基材を、酸素分圧が平均で1.0×10-15−1.0×10-9Paの真空雰囲気の、1000−1200℃の範囲内の所定温度の炉内で、1−6時間加熱する。なお、上記予備酸化処理の加熱時間には、基材の熱処理のための時間が加味されている。
予備酸化処理において、ボンドコートを1000−1200℃の範囲内の所定温度に昇温するまでの昇温レートが5−15℃/minとなるように、炉内の温度や環境が調整される。予備酸化処理において、酸素分圧や加熱温度条件に加えて、ボンドコートの昇温レートは、ボンドコートの表面に生成する酸化バリア層の結晶構造(後述する等軸晶組織)に影響を与えると考えられる。
また、予備酸化処理の上記のような極低酸素分圧の炉内環境は、炉内を真空ポンプで真空引きして、アルゴンガスを導入することにより実現可能である。ここで、「真空」とは、大気圧より低い圧力で満たされた空間の状態を意味する。
(3)上記のように形成された酸化バリア層の表面に、低熱伝導率の酸化物系セラミックスを溶射して、約200μm厚のトップコート(即ち、セラミックス皮膜)を形成させる。この際、低熱伝導性セラミックスの溶射には、大気プラズマ溶射(Atmospheric Plasma Spraying:APS)溶射法が用いられる。なお、トップコートの厚みは高温部材の用途に応じて適宜調整される。
〔ボンドコートの表面の酸化挙動の分析〕
高温部材の製造過程におけるボンドコートの表面の酸化挙動を分析するために、ボンドコートの表面に生成される酸化物に対しin-situ XRD(X線回折法)による相組成分
析(結晶成分の相同定/定性分析、定量分析、結晶構造解など)を行った。
in-situ XRD分析用の試料は、単結晶Ni基合金であるCMSX−4からなる耐熱
合金基材に、NiCoCrAlY合金粉末を溶射し、約100μm厚のボンドコート(即ち、NiCoCrAlY合金皮膜)を形成させ、ボンドコートの表面を鏡面になるまで研磨したものである。この試料に対し、10℃/minの昇温レートで1000−1100℃となるまで加熱し、加熱を1時間保持し、50℃/minの降温レートで常温まで冷却する、一連の予備酸化処理を行った。この予備酸化処理において、試料は、雰囲気制御可能な高温ステージ(Anton Paar社製DHS1100)に載置した。高温ステージの雰囲気は、酸素分圧の影響を比較するために、真空度の異なる複数種類の真空雰囲気と、大気雰囲気下とした。
上記in-situ XRD分析用の試料の予備酸化処理の間、XRDによるボンドコートの
表面酸化物の相組成分析を連続して行った。
図1は、試料を大気雰囲気下で1100℃まで昇温した際の、in-situ XRDによるボンドコートの表面の分析結果である。図1に示す分析結果では、加熱を開始してから試料温度が1000℃に達するまでの間は、ボンドコートの表面に酸化物の生成が確認されなかった。なお、600℃前後から、γ−Niのピーク幅が減少するとともに、β−NiAlのピークが出現したが、これは結晶性の低い溶射膜のγ−Ni組織が、昇温により再結晶が進むとともに熱力学的に安定なγ−Niとβ−NiAlの混合組織に変化したためと考えられる。試料温度が1000℃を超えた時点から、β−NiAlのピークが消失し、代わって、θ−Alのピークと、α−Alの弱いピークとが検出された。
図2及び図3は、試料を2種類の異なる酸素分圧の真空雰囲気下で1000℃まで昇温した際の、in-situ XRDによるボンドコートの表面の分析結果である。2種類の異な
る酸素分圧条件のうち、条件(a)の酸素分圧が平均で1.0×10-1Paであり、条件(b)の酸素分圧は平均で1.0×10-12Paである。図2では条件(a)での分析結
果が示され、図3では条件(b)での分析結果が示されている。
図2及び図3に示す分析結果では、上記いずれの酸素分圧条件においても、加熱を開始してから試料温度が1000℃に達するまでの間は、ボンドコートの表面に酸化物の生成が確認されなかった。条件(a)では、1000℃での温度保持開始とともに、β−NiAlのピークが消失し、代わって、酸化物のピークが出現した。酸化物はθ−Alとα−Alであり、両者は同時に出現し、両者のピーク強度は時間の経過とともに増大した。一方、条件(b)では、1000℃での温度保持中に酸化物のピークが出現し、この酸化物はα−Alのみであった。
以上の分析結果によれば、大気雰囲気下における1100℃で1時間の予備酸化処理では、ボンドコートの表面においてθ−Alからα−Alへの相転移は十分に進行しないと推察される。一方、酸素分圧が低い真空雰囲気下での予備酸化処理では、より低温の1000℃においてもボンドコートの表面にα−Alが生成した。とりわけ、条件(b)の極めて低い酸素分圧の真空雰囲気下での予備酸化処理では、ボンドコートの表面にθ−Alが生成することなく、α−Alのみが生成した。
つまり、以上の分析結果から、一定以下の低酸素分圧の真空雰囲気下でボンドコートの予備酸化処理を行うことにより、トップコートとボンドコートの界面にθ−Alを殆ど生じさせることなく、α−Alを(相転移を経ずに)生成させることができることがわかった。
〔酸化バリア層の形態観察〕
透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)を用いて、ボンドコートの表面に生成される酸化物(即ち、酸化バリア層)の形態観察を行った。
TEM観察用の試料は、単結晶Ni基合金であるCMSX−4からなる耐熱合金基材に、NiCoCrAlY合金粉末を溶射し、約100μm厚のボンドコート(NiCoCrAlY合金皮膜)を形成させ、ボンドコートの表面を鏡面になるまで研磨したものである。この試料に対し、1080℃で4時間の条件で予備酸化処理を行い、ボンドコートの表面に酸化バリア層(即ち、酸化膜)を生成させた。予備酸化処理中の雰囲気の酸素分圧(平均値)を、1.0×10-3Pa、1.0×10-9Pa、1.0×10-14Pa、1.0
×10-15Pa、1.0×10-16Paの異なる複数種類で変化させて、酸素分圧が酸化バリア層の生成に与える影響を比較した。
上記予備酸化処理後のTEM観察用の試料に対し、集束イオンビーム(Focused Ion Beam:FIB)でTEM試料作製加工を行って、試料の所定箇所の断面を露出させた断面試料を作製し、この断面試料の酸化バリア層をTEMを用いて観察した。併せて、予備酸化処理後のTEM観察用の試料に対し、XRDによる酸化バリア層の相組成分析を行った。
図4は、酸素分圧が1.0×10-14Paの真空雰囲気下で予備酸化処理が行われた試料の断面のTEM像である。図4の試料の断面のTEM像では、ボンドコートの表面に連続的な酸化膜(即ち、酸化バリア層)が生成している。また、この断面のTEM像からは、酸化膜の厚さが0.1−0.5μmであること、及び、酸化膜は結晶径が0.1−0.5μm程度の等軸晶が隙間が殆どなく並んだ組織構造を有していることがわかる。酸化バリア層内の物質拡散は主に粒界拡散であると考えられるため、このように、等軸晶組織のα−Alからなる酸化バリア層は、柱状晶組織のα−Alからなる酸化バリア層と比較して、層の厚みが同じ場合には、トップコートとボンドコートの界面でOやAlが拡散する粒界の表面積に対する割合が小さいことから、高い酸化バリア効果が得られると考えられる。
図5は、酸素分圧が1.0×10-16Paの真空雰囲気下で予備酸化処理が行われた試料の断面のTEM像である。図5の試料の断面のTEM像では、ボンドコートの表面の一部分に酸化物が生成している。
次表2では、予備酸化処理中の真空雰囲気の酸素分圧を1.0×10-3Pa、1.0×10-9Pa、1.0×10-14Pa、1.0×10-15Pa、1.0×10-16Paの複数種類で変化させたときの、酸化バリア層の生成の成否を表している。
Figure 2021175828
酸素分圧が1.0×10-16Paでは、酸化物は生成されたものの、それがボンドコート表面で膜状に連続しなかった、つまり、成膜しなかった。酸素分圧が1.0×10-3Paでは、α−Alではなく、酸化バリア機能を成さない複合酸化物が生成された。酸素分圧が1.0×10-15Paから1.0×10-9Paの範囲では、酸化バリア層の生成が確認された。以上から、予備酸化処理の酸素分圧(pO)は、1.0×10-15Pa以上1.0×10-9Pa以下が好適であることがわかる。
図6は、異なる複数の酸素分圧の真空雰囲気下と大気雰囲気下で予備酸化処理された試料のXRDによるボンドコートの表面の分析結果である。図6の図表において、Sample-Aは大気雰囲気下で予備酸化処理された試料、Sample-Bは酸素分圧が1.0×10-14Paの真空雰囲気下で予備酸化処理された試料、Sample-Cは酸素分圧が1.0×10-16Paの真空雰囲気下で予備酸化処理された試料の分析結果を示している。
Sample-Aの分析結果では、ボンドコートの表面の酸化物としてα−Al、θ−Al、及び、スピネル型酸化物である(Ni,Co)Alが検出された。また、Sample-BとSample-Cの分析結果では、ボンドコートの表面の酸化物としてα−Alが検出され、θ−Alや(Ni,Co)Alは検出されなかった。
以上の分析結果から、Sample-Aでは、in-situ XRDの分析結果では検出されなかったα−Alが検出されたことから、4時間の熱処理の間に、θ−Alからα−Alへの相転移が生じたと考えられる。また、高い酸素分圧での処理のため、Ni及びCoが酸化し、(Ni,Co)Alを生じたと考えられる。Ni及びCoは、準安定アルミナからα−Alへの相転移を抑制する効果があるとされており、Sample-Aのボンドコートの表面にθ−Alが残存する原因となったと考えられる。
一方、Sample-B及びSample-Cでは、予備酸化処理の酸素分圧がNi及びCoが酸化する条件ではないため、α−Alのみが検出されたと考えられる。Sample-B及びSample-Cにおいて、θ−Alが検出されなかった事実は、前出のin-situ XRDの分析結果と一致する。
以上から、比較的高酸素分圧の環境では、NiCoCrAlY合金の酸化生成物としてはα−Alだけでなくθ−Al等の準安定アルミナ及び(Ni,Co)Alを生じるが、一定以下の酸素分圧になると、NiCoCrAlY合金の酸化生成物としてはθ−Alを殆ど生じさせることなくα−Alのみを形成させることができることが明らかとなった。このことから、適正な酸素分圧範囲でボンドコートの予備酸化処理を行うことにより、ボンドコートの表面に界面酸化物の成長の抑制に効果的なα−Alから成る酸化バリア層を形成できると考えられる。
〔TBCの耐剥離性の評価〕
高温部材のTBCの耐剥離性を評価するために、高温酸化試験(isothermal oxidation test)を行った。
高温酸化試験では、1050℃の大気炉を用い、試験片(及び、比較用試験片)を大気中で熱暴露した。そして、高温酸化試験の途中で試験片を取り出して切断し、試験片の断面をSEMにて観察し、画像解析することによって、ボンドコートとトップコートの界面酸化物の厚さを計測した。
高温酸化試験用の試験片は、Ni基合金(MAR−M−247)からなる基材に、NiCoCrAlY合金粉末を溶射して約150μm厚のボンドコートを形成させ、酸素分圧が1.0×10-14Paの真空雰囲気下において1080℃で4時間の予備酸化処理を行ってボンドコートの表面に酸化バリア層を生成し、酸化バリア層の表面にイットリア安定化ジルコニア粉末を溶射して約200μm厚のトップコートを形成させたものである。
高温酸化試験用の比較用試験片は、Ni基合金(MAR−M−247)からなる基材に、NiCoCrAlY合金粉末を溶射して約150μm厚のボンドコートを形成させ、ボンドコートの表面にイットリア安定化ジルコニア粉末を溶射して約200μm厚のトップコートを形成させ、トップコートを形成した後で酸素分圧が1.0×10-16Paの真空雰囲気下で1080℃で4時間の熱処理を行ったものである。つまり、比較用試験片は、予備酸化処理を行わず、トップコートを形成した後で熱処理を行った点、及び、熱処理時の酸素分圧の値で試験片と異なる。なお、酸素分圧が1.0×10-16Paの真空雰囲気
下での熱処理(予備酸化処理)では、前述の通りボンドコートとトップコートの界面に酸化バリア層が形成されないことがわかっている。
図7は、高温酸化試験の結果を表す図表であり、横軸が熱暴露時間を表し、縦軸が界面酸化物の厚さを表している。図7に示す高温酸化試験の結果では、試験片では3000時間熱暴露した後でも界面酸化物の厚みが20μm程度であるのに対し、比較用試験片では3000時間熱暴露した後の界面酸化物の厚みは35μm程度である。
図8(a)は試験片を3000時間熱暴露した後のボンドコートとトップコートの界面の断面SEM写真であり、図8(b)は比較用試験片を3000時間熱暴露した後のボンドコートとトップコートの界面の断面SEM写真である。図8(a)及び図8(b)から、予備酸化処理を行った試験片は、予備酸化処理が行われていない比較用試験片と比較して、界面酸化物の成長が著しく抑制されていることが確認できる。
以上から、ボンドコートの予備酸化処理によってボンドコートとトップコートの界面に生成された酸化バリア層によって、界面酸化物の成長が効果的に抑制されたことが明らかとなった。
なお、上記実施形態の高温材料の製造方法では、ボンドコートの予備酸化処理を、トップコートを形成する前に行っている。これに対し、ボンドコートの予備酸化処理を、トップコートを形成した後に行っても、同様の高温部材を製造できることが分かった。
つまり、上記の高温部材は、次の工程(1)−(3)からなる変形例1に係る製造方法によっても製造することができる。なお、工程は(1)−(3)の順に進行する。
(1)耐熱合金からなる基材の表面に、NiCoCrAlY合金粉末を溶射して、NiCoCrAlY合金からなるボンドコートを形成させる。
(2)ボンドコートが形成された基材の表面に、酸化物系セラミックス粉末を溶射して、トップコートを形成させる。
(3)ボンドコート及びトップコートで被覆された基材に対し、1.0×10-15−1.0×10-9Paの酸素分圧の真空雰囲気下において、1000−1200℃の範囲内の所定温度で、1〜6時間加熱する予備酸化処理を行うことにより、ボンドコートとトップコートの界面に酸化バリア層を生成させる。
次に、上記の変形例1に係る製造方法によって製造された高温部材の性状を評価するために、以下に説明する高温酸化試験を行った。
高温酸化試験用の試験片は、Ni基合金(CMSX−4)からなる基材に、NiCoCrAlY合金粉末を溶射して約150μm厚のボンドコートを形成させ、酸化バリア層の表面にイットリア安定化ジルコニア粉末を溶射して約200μm厚のトップコートを形成させたのち、酸素分圧が1.0×10-14Paの真空雰囲気下において1080℃で4時間の予備酸化処理を行って、ボンドコートとトップコートの界面に酸化バリア層を生成したものである。
高温酸化試験用の比較用試験片は、Ni基合金(CMSX−4)からなる基材に、NiCoCrAlY合金粉末を溶射して約150μm厚のボンドコートを形成させ、ボンドコートの表面にイットリア安定化ジルコニア粉末を溶射して約200μm厚のトップコートを形成させたのち、酸素分圧が1.0×10-16Paの真空雰囲気下で1080℃で4時間の熱処理を行ったものである。なお、酸素分圧が1.0×10-16Paの真空雰囲気下での予備酸化処理では、前述の通りボンドコートとトップコートの界面に酸化バリア層が形成されないことがわかっている。
図9は、高温酸化試験の結果を表す図表であり、横軸が熱暴露時間を表し、縦軸が界面酸化物の厚さを表している。図9に示す高温酸化試験の結果では、試験片では800時間熱暴露した後でも界面酸化物の厚みが8μm程度であるのに対し、比較用試験片では800時間熱暴露した後の界面酸化物の厚みは19μm程度であった。この高温酸化試験の結果から、変形例1に係る製造方法によって製造された高温材料でも、ボンドコートとトップコートの界面に生成された酸化バリア層によって、界面酸化物の成長が効果的に抑制されたことがわかる。
本開示に係る高温材料及びその製造方法は、産業用ガスタービンの構成部品に限らず、ボイラやジェットエンジンの構成部品などの高温の環境に晒される高温部材に広く適用することができる。
本開示は、遮熱コーティング(Thermal Barrier Coating:TBC)が施された高温部材及びその製造方法に関する。
従来、産業用ガスタービンの構成部品を高温の環境から守るために、TBCが利用されてきた。TBCは、一般に、金属製基材上に、低熱伝導率のセラミックスから成る低熱伝導率のトップコート(遮熱層)と、トップコートと基材の間の密着性を向上するためのボンドコート(結合層)とを成膜した2層構造を有する。
近年、エネルギー問題への意識の高まりから、ガスタービンにはより一層の効率向上が求められている。ガスタービンの効率を向上させるためには、タービン入口温度を高温化することが一つの有効な手段である。タービン入口温度が高温化すると、それに伴い、高温環境下で使用されるノズル、ガイドベーン、ブレードなどの高温部材はより高温の環境に晒されることとなる。ガスタービンの高温部材は、その表面にTBCが適用されることにより、表面から内部への伝熱を抑制する遮熱性を備えている。しかしながら、TBCを高温下で長期間使用するとトップコートの剥離や遮熱性能の低下が生じるため、ガスタービンの高温部材が高温環境下での長時間の使用に耐えうる耐久性を維持することが困難となっている。
トップコートの剥離を引き起こすメカニズムとしては様々なものが論じられているが、トップコートとボンドコートとの界面においてボンドコートの高温酸化によって形成される酸化物(Thermally Grown Oxide :TGO)が関与していることが認識されている。
したがって、TBCのトップコートの剥離を抑制し、TBCの耐久性向上を図るためには、TGOの成長を抑制することが重要であると考えられる。特許文献1,2及び3では、TGOの成長を抑制するための技術が提案されている。
特許文献1では、金属製基材の表面に、MCrAlYからなる結合層を設けた後、真空環境下900℃で熱処理を行うことにより結合層の表面にα−Al層を形成し、続いて、α−Al層の表面に酸化物系セラミックスからなる遮熱層を設けて、高温部材を製造することが記載されている。ここでは、成長速度の小さいα−Al層を結合層上に形成することにより、遮熱層と結合層との界面でのTGOの成長を抑制しようとしている。
また、特許文献2では、耐熱合金製基材の表面にAlの含有量が3〜24mass%であるMCrAlX(MはCo,Cr,Ni及びFeのうちから選ばれる1種又は2種以上、XはY,Hf,Ta,Cs,Ce,La,Th,W,Si,Pt,Mn及びBのうちから選ばれる1種又は2種以上)からなる耐高温酸化性合金皮膜を設け、その合金皮膜の表面にAl層を介し、酸化クロム皮膜(又は、酸化クロム皮膜及びクロム皮膜)を積層形成させることが記載されている。ここでは、耐高温酸化性合金皮膜の表面に、緻密性で密着性に富み、且つ保護性に優れたAlのみからなる酸化バリア層を積極的に生成させることにより、耐高温酸化性合金皮膜の優れた耐高温酸化性を十分に発揮できるようにしている。
また、特許文献3では、耐熱合金基材の表面に耐酸化被膜を介してセラミック遮熱層を形成した耐酸化コーティング部材において、耐酸化被膜とセラミック遮熱層との界面に、不純物元素として含まれるCo及びNiの各含有量が1原子%以下である薄いα−Al層を形成することが記載されている。このα−Al層は、耐熱合金表面に対して垂直方向に延び、太さが0.2μm以上の柱状の結晶粒から構成されている。
特開2000−17458号公報 特開2004−76099号公報 特開2007−262530号公報
本開示は、上記背景技術に鑑み、TBCのトップコートとボンドコートの界面酸化物の成長の抑制に優れた効果を発揮することはもちろん、TBCの耐久性の更なる向上に寄与する酸化バリア層を形成する技術を提案することを目的とする。ひいては、TBCの耐久性の向上によって、TBCが適用された高温部材の長寿命化に寄与する。
開示の一態様に係る高温部材は、
耐熱合金からなる基材と、
前記基材の表面に設けられたNiCoCrAlY合金からなるボンドコートと、
前記ボンドコートの表面に設けられた等軸晶組織のα−Alからなる酸化バリア層と、
前記酸化バリア層の表面に設けられた酸化物系セラミックスからなるトップコートとを備えることを特徴としている。
本開示によれば、TBCの耐久性の更なる向上に寄与する酸化バリア層を形成する技術及びその技術が適用された高温部材を提供することができる。
図1は、試料を大気雰囲気下で1100℃まで昇温した際の、in-situ XRDによるボンドコートの表面の分析結果である。 図2は、試料を酸素分圧が1.0×10-1Paの真空雰囲気下で1000℃まで昇温した際の、in-situ XRDによるボンドコートの表面の分析結果である。 図3は、試料を酸素分圧が1.0×10-12Paの真空雰囲気下で1000℃まで昇温した際の、in-situ XRDによるボンドコートの表面の分析結果である。 図4は、酸素分圧が1.0×10-14Paの真空雰囲気下で予備酸化処理が行われた試料の断面のTEM像である。 図5は、酸素分圧が1.0×10-16Paの真空雰囲気下で予備酸化処理が行われた試料の断面のTEM像である。 図6は、異なる複数の酸素分圧の真空雰囲気下と大気雰囲気下で予備酸化処理された試料のXRDによるボンドコートの表面の分析結果である。 図7は、高温酸化試験の結果を表す図表である。 図8(a)は試験片を3000時間熱暴露した後のボンドコートとトップコートの界面の断面SEM写真であり、図8(b)は比較用試験片を3000時間熱暴露した後のボンドコートとトップコートの界面の断面SEM写真である。 図9は、トップコート施工後に予備酸化処理を行った試料の高温酸化試験の結果を表す図表である。
〔高温部材〕
本開示の一実施形態に係る高温部材は、耐熱性に優れた合金からなる基材が、遮熱コーティング(Thermal Barrier Coating:TBC)で被覆されたものである。TBCは、基材の表面に形成されたボンドコート(結合層)、ボンドコートの表面に生成した界面酸化物からなる酸化バリア層、及び、酸化バリア層の表面に形成された低熱伝導率のトップコート(遮熱層)からなる。
上記基材は、Ni基合金や、Co基合金などの、一般にガスタービン翼や燃焼器の構成材として使用されている耐熱合金からなる。このような耐熱合金として、特に限定されるものではないが、例えば、MAR−M−247(登録商標)、Udimet520TM、CMSX−4(登録商標)などの耐熱合金が挙げられる。
上記トップコートは、低熱伝導率のセラミックスからなる。このような低熱伝導率のセラミックスとして、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)などの酸化物系セラミックスが挙げられる。
上記酸化バリア層は、主に等軸晶組織のα−Alからなる。α−Alは、緻密であると共に高温環境下での長時間の使用に伴う成長速度が遅い。このような酸化バリア層がボンドコートとトップコートとの界面に存在することによって、ボンドコートとトップコートとの界面酸化物のそれ以上の成長が抑制される。
上記ボンドコートは、NiCoCrAlY合金からなる。なお、上記NiCoCrAlY合金には、NiCoCrAlYSiHf合金も含まれる。NiCoCrAlY合金では、各成分の質量分率がNi>Co>Cr>Alの関係となっている。
JIS H8260「溶射粉末材料」では、NiCoCrAlY合金粉末の種類が、コード番号4.3−4.4(記号NiCoCrAlY47 22 17 13)及びコード番号4.5(記号NiCoCrAlYSiHf47 22 17 13)で区分されている。ボンドコートの材料として、上記コード番号4.3−4.5に区分される種類のNiCoCrAlY合金が用いられてよい。また、ボンドコートの材料として、例えば、AMPERIT(登録商標)405、AMPERIT410、AmdryTM365、Amdry386などの市販されているNiCoCrAlY合金が用いられてよい。表1では、市販されているNiCoCrAlY合金の化学成分を示す。
Figure 2021175828
NiCoCrAlY合金に分類される合金の各成分の質量分率は、Co:18.0−28.0%、Cr:13.0−21.0%、Al:10.0−15.0%、Y:0.1−0.8%、残部Niである。また、NiCoCrAlY合金(そのうち、NiCoCrAlYSiHf合金)に分類される合金の各成分の質量分率は、Co:18.0−26.0%、Cr:13.0−21.0%、Al:10.0−15.0%、Y:0.1−1.0%、Hf:0.1−1.0%、Si::0.1−0.7%、残部Niである。なお、上記NiCoCrAlY合金は、各成分の質量分率に表れていない微量の不純物が含まれていてよい。
NiCoCrAlY合金の成分のうちNi,Cr,Al,Coの各成分の質量分率が、α−Alの生成に関与していると考えられている。詳細には、NiCoCrAlY合金の成分のうち、Cr及びAlの質量分率の増加はα−Alの生成を促進し、NiとCoの質量分率の増加はα−Alの生成を阻害すると考えられている。
このことから、高温部材のボンドコートの材料として採用され得るNiCoCrAlY合金を、Ni,Cr,Al,Coの各成分の質量分率のバランスで定義することができる。つまり、ボンドコートの材料として好適なNiCoCrAlY合金は、質量分率で表して、18.0−28.0%のCo、13.0−21.0%のCr、10.0−15.0%のAl、及び、0.1−0.8%のYを含んでなることが好適である。
〔高温部材の製造方法〕
上記高温部材は、次の工程(1)−(3)により製造される。なお、高温部材の製造工程は(1)−(3)の順に進行する。
(1)基材の表面に、NiCoCrAlY合金を溶射して、例えば、100−150μm厚のボンドコート(即ち、NiCoCrAlY合金皮膜)を形成させる。この際、NiCoCrAlY合金の溶射には、高速フレーム溶射法と呼ばれるHVOF(High Velocity
Oxy−Fuel)溶射法、又は、減圧プラズマ溶射(Low Pressure Plasma Spraying:LPPS)が用いられる。なお、ボンドコートの厚みは上記に限定されない。
(2)上記のように形成されたボンドコートの予備酸化処理を行い、ボンドコートの表面に酸化バリア層(即ち、酸化膜)を生成させる。予備酸化処理では、ボンドコートが形成された基材を、酸素分圧が平均で1.0×10-15−1.0×10-9Paの真空雰囲気の、1000−1200℃の範囲内の所定温度の炉内で、1−6時間加熱する。なお、上記予備酸化処理の加熱時間には、基材の熱処理のための時間が加味されている。
予備酸化処理において、ボンドコートを1000−1200℃の範囲内の所定温度に昇温するまでの昇温レートが5−15℃/minとなるように、炉内の温度や環境が調整される。予備酸化処理において、酸素分圧や加熱温度条件に加えて、ボンドコートの昇温レートは、ボンドコートの表面に生成する酸化バリア層の結晶構造(後述する等軸晶組織)に影響を与えると考えられる。
また、予備酸化処理の上記のような極低酸素分圧の炉内環境は、炉内を真空ポンプで真空引きして、アルゴンガスを導入することにより実現可能である。ここで、「真空」とは、大気圧より低い圧力で満たされた空間の状態を意味する。
(3)上記のように形成された酸化バリア層の表面に、低熱伝導率の酸化物系セラミックスを溶射して、約200μm厚のトップコート(即ち、セラミックス皮膜)を形成させる。この際、低熱伝導性セラミックスの溶射には、大気プラズマ溶射(Atmospheric Plasma Spraying:APS)溶射法が用いられる。なお、トップコートの厚みは高温部材の用途に応じて適宜調整される。
〔ボンドコートの表面の酸化挙動の分析〕
高温部材の製造過程におけるボンドコートの表面の酸化挙動を分析するために、ボンドコートの表面に生成される酸化物に対しin-situ XRD(X線回折法)による相組成分
析(結晶成分の相同定/定性分析、定量分析、結晶構造解など)を行った。
in-situ XRD分析用の試料は、単結晶Ni基合金であるCMSX−4からなる耐熱
合金基材に、NiCoCrAlY合金粉末を溶射し、約100μm厚のボンドコート(即ち、NiCoCrAlY合金皮膜)を形成させ、ボンドコートの表面を鏡面になるまで研磨したものである。この試料に対し、10℃/minの昇温レートで1000−1100℃となるまで加熱し、加熱を1時間保持し、50℃/minの降温レートで常温まで冷却する、一連の予備酸化処理を行った。この予備酸化処理において、試料は、雰囲気制御可能な高温ステージ(Anton Paar社製DHS1100)に載置した。高温ステージの雰囲気は、酸素分圧の影響を比較するために、真空度の異なる複数種類の真空雰囲気と、大気雰囲気下とした。
上記in-situ XRD分析用の試料の予備酸化処理の間、XRDによるボンドコートの
表面酸化物の相組成分析を連続して行った。
図1は、試料を大気雰囲気下で1100℃まで昇温した際の、in-situ XRDによるボンドコートの表面の分析結果である。図1に示す分析結果では、加熱を開始してから試料温度が1000℃に達するまでの間は、ボンドコートの表面に酸化物の生成が確認されなかった。なお、600℃前後から、γ−Niのピーク幅が減少するとともに、β−NiAlのピークが出現したが、これは結晶性の低い溶射膜のγ−Ni組織が、昇温により再結晶が進むとともに熱力学的に安定なγ−Niとβ−NiAlの混合組織に変化したためと考えられる。試料温度が1000℃を超えた時点から、β−NiAlのピークが消失し、代わって、θ−Alのピークと、α−Alの弱いピークとが検出された。
図2及び図3は、試料を2種類の異なる酸素分圧の真空雰囲気下で1000℃まで昇温した際の、in-situ XRDによるボンドコートの表面の分析結果である。2種類の異な
る酸素分圧条件のうち、条件(a)の酸素分圧が平均で1.0×10-1Paであり、条件(b)の酸素分圧は平均で1.0×10-12Paである。図2では条件(a)での分析結
果が示され、図3では条件(b)での分析結果が示されている。
図2及び図3に示す分析結果では、上記いずれの酸素分圧条件においても、加熱を開始してから試料温度が1000℃に達するまでの間は、ボンドコートの表面に酸化物の生成が確認されなかった。条件(a)では、1000℃での温度保持開始とともに、β−NiAlのピークが消失し、代わって、酸化物のピークが出現した。酸化物はθ−Alとα−Alであり、両者は同時に出現し、両者のピーク強度は時間の経過とともに増大した。一方、条件(b)では、1000℃での温度保持中に酸化物のピークが出現し、この酸化物はα−Alのみであった。
以上の分析結果によれば、大気雰囲気下における1100℃で1時間の予備酸化処理では、ボンドコートの表面においてθ−Alからα−Alへの相転移は十分に進行しないと推察される。一方、酸素分圧が低い真空雰囲気下での予備酸化処理では、より低温の1000℃においてもボンドコートの表面にα−Alが生成した。とりわけ、条件(b)の極めて低い酸素分圧の真空雰囲気下での予備酸化処理では、ボンドコートの表面にθ−Alが生成することなく、α−Alのみが生成した。
つまり、以上の分析結果から、一定以下の低酸素分圧の真空雰囲気下でボンドコートの予備酸化処理を行うことにより、トップコートとボンドコートの界面にθ−Alを殆ど生じさせることなく、α−Alを(相転移を経ずに)生成させることができることがわかった。
〔酸化バリア層の形態観察〕
透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)を用いて、ボンドコートの表面に生成される酸化物(即ち、酸化バリア層)の形態観察を行った。
TEM観察用の試料は、単結晶Ni基合金であるCMSX−4からなる耐熱合金基材に、NiCoCrAlY合金粉末を溶射し、約100μm厚のボンドコート(NiCoCrAlY合金皮膜)を形成させ、ボンドコートの表面を鏡面になるまで研磨したものである。この試料に対し、1080℃で4時間の条件で予備酸化処理を行い、ボンドコートの表面に酸化バリア層(即ち、酸化膜)を生成させた。予備酸化処理中の雰囲気の酸素分圧(平均値)を、1.0×10-3Pa、1.0×10-9Pa、1.0×10-14Pa、1.0
×10-15Pa、1.0×10-16Paの異なる複数種類で変化させて、酸素分圧が酸化バリア層の生成に与える影響を比較した。
上記予備酸化処理後のTEM観察用の試料に対し、集束イオンビーム(Focused Ion Beam:FIB)でTEM試料作製加工を行って、試料の所定箇所の断面を露出させた断面試料を作製し、この断面試料の酸化バリア層をTEMを用いて観察した。併せて、予備酸化処理後のTEM観察用の試料に対し、XRDによる酸化バリア層の相組成分析を行った。
図4は、酸素分圧が1.0×10-14Paの真空雰囲気下で予備酸化処理が行われた試料の断面のTEM像である。図4の試料の断面のTEM像では、ボンドコートの表面に連続的な酸化膜(即ち、酸化バリア層)が生成している。また、この断面のTEM像からは、酸化膜の厚さが0.1−0.5μmであること、及び、酸化膜は結晶径が0.1−0.5μm程度の等軸晶が隙間が殆どなく並んだ組織構造を有していることがわかる。酸化バリア層内の物質拡散は主に粒界拡散であると考えられるため、このように、等軸晶組織のα−Alからなる酸化バリア層は、柱状晶組織のα−Alからなる酸化バリア層と比較して、層の厚みが同じ場合には、トップコートとボンドコートの界面でOやAlが拡散する粒界の表面積に対する割合が小さいことから、高い酸化バリア効果が得られると考えられる。
図5は、酸素分圧が1.0×10-16Paの真空雰囲気下で予備酸化処理が行われた試料の断面のTEM像である。図5の試料の断面のTEM像では、ボンドコートの表面の一部分に酸化物が生成している。
次表2では、予備酸化処理中の真空雰囲気の酸素分圧を1.0×10-3Pa、1.0×10-9Pa、1.0×10-14Pa、1.0×10-15Pa、1.0×10-16Paの複数種類で変化させたときの、酸化バリア層の生成の成否を表している。
Figure 2021175828
酸素分圧が1.0×10-16Paでは、酸化物は生成されたものの、それがボンドコート表面で膜状に連続しなかった、つまり、成膜しなかった。酸素分圧が1.0×10-3Paでは、α−Alではなく、酸化バリア機能を成さない複合酸化物が生成された。酸素分圧が1.0×10-15Paから1.0×10-9Paの範囲では、酸化バリア層の生成が確認された。以上から、予備酸化処理の酸素分圧(pO)は、1.0×10-15Pa以上1.0×10-9Pa以下が好適であることがわかる。
図6は、異なる複数の酸素分圧の真空雰囲気下と大気雰囲気下で予備酸化処理された試料のXRDによるボンドコートの表面の分析結果である。図6の図表において、Sample-Aは大気雰囲気下で予備酸化処理された試料、Sample-Bは酸素分圧が1.0×10-14Paの真空雰囲気下で予備酸化処理された試料、Sample-Cは酸素分圧が1.0×10-16Paの真空雰囲気下で予備酸化処理された試料の分析結果を示している。
Sample-Aの分析結果では、ボンドコートの表面の酸化物としてα−Al、θ−Al、及び、スピネル型酸化物である(Ni,Co)Alが検出された。また、Sample-BとSample-Cの分析結果では、ボンドコートの表面の酸化物としてα−Alが検出され、θ−Alや(Ni,Co)Alは検出されなかった。
以上の分析結果から、Sample-Aでは、in-situ XRDの分析結果では検出されなかったα−Alが検出されたことから、4時間の熱処理の間に、θ−Alからα−Alへの相転移が生じたと考えられる。また、高い酸素分圧での処理のため、Ni及びCoが酸化し、(Ni,Co)Alを生じたと考えられる。Ni及びCoは、準安定アルミナからα−Alへの相転移を抑制する効果があるとされており、Sample-Aのボンドコートの表面にθ−Alが残存する原因となったと考えられる。
一方、Sample-B及びSample-Cでは、予備酸化処理の酸素分圧がNi及びCoが酸化する条件ではないため、α−Alのみが検出されたと考えられる。Sample-B及びSample-Cにおいて、θ−Alが検出されなかった事実は、前出のin-situ XRDの分析結果と一致する。
以上から、比較的高酸素分圧の環境では、NiCoCrAlY合金の酸化生成物としてはα−Alだけでなくθ−Al等の準安定アルミナ及び(Ni,Co)Alを生じるが、一定以下の酸素分圧になると、NiCoCrAlY合金の酸化生成物としてはθ−Alを殆ど生じさせることなくα−Alのみを形成させることができることが明らかとなった。このことから、適正な酸素分圧範囲でボンドコートの予備酸化処理を行うことにより、ボンドコートの表面に界面酸化物の成長の抑制に効果的なα−Alから成る酸化バリア層を形成できると考えられる。
〔TBCの耐剥離性の評価〕
高温部材のTBCの耐剥離性を評価するために、高温酸化試験(isothermal oxidation test)を行った。
高温酸化試験では、1050℃の大気炉を用い、試験片(及び、比較用試験片)を大気中で熱暴露した。そして、高温酸化試験の途中で試験片を取り出して切断し、試験片の断面をSEMにて観察し、画像解析することによって、ボンドコートとトップコートの界面酸化物の厚さを計測した。
高温酸化試験用の試験片は、Ni基合金(MAR−M−247)からなる基材に、NiCoCrAlY合金粉末を溶射して約150μm厚のボンドコートを形成させ、酸素分圧が1.0×10-14Paの真空雰囲気下において1080℃で4時間の予備酸化処理を行ってボンドコートの表面に酸化バリア層を生成し、酸化バリア層の表面にイットリア安定化ジルコニア粉末を溶射して約200μm厚のトップコートを形成させたものである。
高温酸化試験用の比較用試験片は、Ni基合金(MAR−M−247)からなる基材に、NiCoCrAlY合金粉末を溶射して約150μm厚のボンドコートを形成させ、ボンドコートの表面にイットリア安定化ジルコニア粉末を溶射して約200μm厚のトップコートを形成させ、トップコートを形成した後で酸素分圧が1.0×10-16Paの真空雰囲気下で1080℃で4時間の熱処理を行ったものである。つまり、比較用試験片は、予備酸化処理を行わず、トップコートを形成した後で熱処理を行った点、及び、熱処理時の酸素分圧の値で試験片と異なる。なお、酸素分圧が1.0×10-16Paの真空雰囲気下での熱処理(予備酸化処理)では、前述の通りボンドコートとトップコートの界面に酸化バリア層が形成されないことがわかっている。
図7は、高温酸化試験の結果を表す図表であり、横軸が熱暴露時間を表し、縦軸が界面酸化物の厚さを表している。図7に示す高温酸化試験の結果では、試験片では3000時間熱暴露した後でも界面酸化物の厚みが20μm程度であるのに対し、比較用試験片では3000時間熱暴露した後の界面酸化物の厚みは35μm程度である。
図8(a)は試験片を3000時間熱暴露した後のボンドコートとトップコートの界面の断面SEM写真であり、図8(b)は比較用試験片を3000時間熱暴露した後のボンドコートとトップコートの界面の断面SEM写真である。図8(a)及び図8(b)から、予備酸化処理を行った試験片は、予備酸化処理が行われていない比較用試験片と比較して、界面酸化物の成長が著しく抑制されていることが確認できる。
以上から、ボンドコートの予備酸化処理によってボンドコートとトップコートの界面に生成された酸化バリア層によって、界面酸化物の成長が効果的に抑制されたことが明らかとなった。
なお、上記実施形態の高温材料の製造方法では、ボンドコートの予備酸化処理を、トップコートを形成する前に行っている。これに対し、ボンドコートの予備酸化処理を、トップコートを形成した後に行っても、同様の高温部材を製造できることが分かった。
つまり、上記の高温部材は、次の工程(1)−(3)からなる変形例1に係る製造方法によっても製造することができる。なお、工程は(1)−(3)の順に進行する。
(1)耐熱合金からなる基材の表面に、NiCoCrAlY合金粉末を溶射して、NiCoCrAlY合金からなるボンドコートを形成させる。
(2)ボンドコートが形成された基材の表面に、酸化物系セラミックス粉末を溶射して、トップコートを形成させる。
(3)ボンドコート及びトップコートで被覆された基材に対し、1.0×10-15−1.0×10-9Paの酸素分圧の真空雰囲気下において、1000−1200℃の範囲内の所定温度で、1〜6時間加熱する予備酸化処理を行うことにより、ボンドコートとトップコートの界面に酸化バリア層を生成させる。
次に、上記の変形例1に係る製造方法によって製造された高温部材の性状を評価するために、以下に説明する高温酸化試験を行った。
高温酸化試験用の試験片は、Ni基合金(CMSX−4)からなる基材に、NiCoCrAlY合金粉末を溶射して約150μm厚のボンドコートを形成させ、酸化バリア層の表面にイットリア安定化ジルコニア粉末を溶射して約200μm厚のトップコートを形成させたのち、酸素分圧が1.0×10-14Paの真空雰囲気下において1080℃で4時間の予備酸化処理を行って、ボンドコートとトップコートの界面に酸化バリア層を生成したものである。
高温酸化試験用の比較用試験片は、Ni基合金(CMSX−4)からなる基材に、NiCoCrAlY合金粉末を溶射して約150μm厚のボンドコートを形成させ、ボンドコートの表面にイットリア安定化ジルコニア粉末を溶射して約200μm厚のトップコートを形成させたのち、酸素分圧が1.0×10-16Paの真空雰囲気下で1080℃で4時間の熱処理を行ったものである。なお、酸素分圧が1.0×10-16Paの真空雰囲気下での予備酸化処理では、前述の通りボンドコートとトップコートの界面に酸化バリア層が形成されないことがわかっている。
図9は、高温酸化試験の結果を表す図表であり、横軸が熱暴露時間を表し、縦軸が界面酸化物の厚さを表している。図9に示す高温酸化試験の結果では、試験片では800時間熱暴露した後でも界面酸化物の厚みが8μm程度であるのに対し、比較用試験片では800時間熱暴露した後の界面酸化物の厚みは19μm程度であった。この高温酸化試験の結果から、変形例1に係る製造方法によって製造された高温材料でも、ボンドコートとトップコートの界面に生成された酸化バリア層によって、界面酸化物の成長が効果的に抑制されたことがわかる。
本開示に係る高温材料及びその製造方法は、産業用ガスタービンの構成部品に限らず、ボイラやジェットエンジンの構成部品などの高温の環境に晒される高温部材に広く適用することができる。

Claims (6)

  1. 耐熱合金からなる基材の表面に、NiCoCrAlY合金粉末を溶射して、NiCoCrAlY合金からなるボンドコートを形成させる工程と、
    前記ボンドコートが形成された前記基材に対し、1.0×10-15−1.0×10-9Paの酸素分圧の真空雰囲気下において、1000−1200℃の範囲内の所定温度で、1〜6時間加熱する予備酸化処理を行うことにより、前記ボンドコートの表面に酸化バリア層を生成させる工程と、
    前記酸化バリア層の表面に、酸化物系セラミックス粉末を溶射して、トップコートを形成させる工程とを含む、
    高温部材の製造方法。
  2. 耐熱合金からなる基材の表面に、NiCoCrAlY合金粉末を溶射して、NiCoCrAlY合金からなるボンドコートを形成させる工程と、
    前記ボンドコートが形成された前記基材の表面に、酸化物系セラミックス粉末を溶射して、トップコートを形成させる工程と、
    前記ボンドコート及び前記トップコートで被覆された前記基材に対し、1.0×10-15−1.0×10-9Paの酸素分圧の真空雰囲気下において、1000−1200℃の範囲内の所定温度で、1−6時間加熱する予備酸化処理を行うことにより、前記ボンドコートと前記トップコートの界面に酸化バリア層を生成させる工程とを含む、
    高温部材の製造方法。
  3. 前記予備酸化処理において、前記ボンドコートを前記所定温度に昇温するまでの昇温レートが5−15℃/minである、
    請求項1又は請求項2に記載の高温部材の製造方法。
  4. 前記NiCoCrAlY合金は、質量分率で表して、18.0−28.0%のCo、13.0−21.0%のCr、10.0−15.0%のAl、及び、0.1−0.8%のYを含んでなる、
    請求項1〜3のいずれか一項に記載の高温部材の製造方法。
  5. 耐熱合金からなる基材と、
    前記基材の表面に設けられたNiCoCrAlY合金からなるボンドコートと、
    前記ボンドコートの表面に設けられた等軸晶組織のα−Alからなる酸化バリア層と、
    前記酸化バリア層の表面に設けられた酸化物系セラミックスからなるトップコートとを備える、
    高温部材。
  6. 前記NiCoCrAlY合金は、質量分率で表して、18.0−28.0%のCo、13.0−21.0%のCr、10.0−15.0%のAl、及び、0.1−0.8%のYを含んでなる、
    請求項5の高温部材。
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