JP2021164048A - 伝送回路一体型マイクロ波発生素子 - Google Patents
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Abstract
【課題】増幅器を利用しなくてもマイクロ波の高出力化を図ることが可能な伝送回路一体型マイクロ波発生素子を提供する。【解決手段】高周波発振素子10と、該高周波発振素子から発振されるマイクロ波を伝送するための下部ストリップライン17及び上部ストリップラインとを備える伝送回路一体型マイクロ波発生素子1であり、高周波発振素子の出力インピーダンスが0.1〜25Ωであり、かつ、前記下部及び前記上部ストリップラインにおいて、前記伝送回路一体型マイクロ波発生素子の出力インピーダンスが前記高周波発振素子の出力インピーダンスの2倍以上のインピーダンスになるようにインピーダンス変換して、前記高周波発振素子から発振されたマイクロ波を前記下部及び前記上部ストリップラインを利用して伝送するものである。【選択図】図2
Description
本発明は、伝送回路一体型マイクロ波発生素子に関する。
携帯電話やタブレットなどの電子素子においては、直流電源である電池によって駆動させて内部の発振器によって100MHz〜200GHz前後の高周波数の電磁波を生成することにより高速な無線通信等を行っている。このような高周波数の電磁波を用いた通信技術は、IoT(Internet of Things)社会化に伴う通信情報量の爆発的増加に対応するために特に重要である。そして、このような通信の高速化が進むにつれ、高周波数の電磁波の発振器の小型化や高能率化が重要な課題となってきている。
このような高周波数の電磁波の発振器としては、例えば、特開2006−295908号公報(特許文献1)に、強磁性多層膜磁気抵抗素子と、該強磁性多層膜磁気抵抗素子を挟むように設けられた下部ストリップラインおよび上部ストリップラインとを備える伝送回路一体型マイクロ波発生素子を利用することが提案されている。しかしながら、上記特許文献1に記載のような従来の伝送回路一体型マイクロ波発生素子は、マイクロ波の高出力化の点では未だ十分なものではなかった。
本発明は、前記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、増幅器を利用しなくてもマイクロ波の高出力化を図ることが可能な伝送回路一体型マイクロ波発生素子を提供することを目的とする。
本発明者らは、前記目的を達成すべく、従来のマイクロ波発生素子について検討を重ねたところ、先ず、以下のような知見を得た。すなわち、一般に、高周波発振素子における高周波の発振出力Pは、直流電流Iの2乗に比例する(例えば、後述の式(1)参照)。そのため、直流電流Iをより大きくした場合、高周波発振素子の発振出力Pもより大きくすることが可能である。しかしながら、直流電流Iを大きくするために、単に素子印加電圧Vを大きくしてしまうと、高周波発振素子のスペーサ層(ここにいう「スペーサ層」としては、例えば、高周波発振素子が強磁性多層膜磁気抵抗素子である場合、MgOを用いているスペーサ層等を例示できる)の絶縁破壊が起こってしまい、結果として十分に大きな発振出力Pを得ることができなくなる。そのため、素子印加電圧Vの大きさは絶縁破壊が生じない範囲に制限する必要がある。このような観点から、高周波発振素子を用いる場合においては、スペーサ層の絶縁破壊を抑えながら高出力化を図る必要があると考えられる。
ここで、絶縁破壊電圧を増加させて高出力化を図る場合、高周波発振素子のスペーサ層の膜厚を増加させる方法を採用することが考えられるが、その場合、膜厚に対して指数関数的に磁気抵抗が増加し、直流電流Iが小さくなってしまうことから、結果として高周波発振素子の出力Pを上げることができない。
一方、絶縁破壊の生じない低電圧で高周波発振素子を駆動させる場合、マイクロ波の伝送路に増幅器を接続して、その後続の増幅器で出力を増幅させることにより素子から発せられるマイクロ波の高出力化を図ることも考えられる。しかしながら、マイクロ波の増幅器が、通常、縦横の大きさがそれぞれ約数十mm程度と大きなものであることから、通信機器等に利用する際に、小サイズな高周波発振素子を用いても、かかる機器の小型化を図ることができないという問題が生じる。このように、通信機器の小型化等を図るといった観点からは、高周波発振素子を利用しながら、増幅器を利用せずにマイクロ波の高出力化を図ることが可能な技術の出現が望まれる。
このような従来技術が有する課題等を鑑みて、本発明者らが、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、伝送回路一体型マイクロ波発生素子を、高周波発振素子と、該高周波発振素子から発振されるマイクロ波を伝送するための下部ストリップライン及び上部ストリップラインとを備えるものとし、前記高周波発振素子の出力インピーダンスを0.1〜25Ω以上とし、かつ、前記下部及び前記上部ストリップラインにおいて、前記伝送回路一体型マイクロ波発生素子の出力インピーダンス(前記下部及び前記上部ストリップラインからなる伝送回路のマイクロ波の出力側(負荷側)のインピーダンス)が前記高周波発振素子の出力インピーダンスの2倍以上のインピーダンスになるようにインピーダンス変換することにより、前記高周波発振素子から発振されたマイクロ波を前記下部及び前記上部ストリップラインを利用して効率よく伝送(伝搬)させることが可能となり、増幅器を利用することなくマイクロ波の高出力化を図ることが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の伝送回路一体型マイクロ波発生素子は、高周波発振素子と、該高周波発振素子から発振されるマイクロ波を伝送するための下部ストリップライン及び上部ストリップラインとを備える伝送回路一体型マイクロ波発生素子であり、
前記高周波発振素子の出力インピーダンスが0.1〜25Ωであり、かつ、
前記下部及び前記上部ストリップラインにおいて、前記伝送回路一体型マイクロ波発生素子の出力インピーダンスが前記高周波発振素子の出力インピーダンスの2倍以上のインピーダンスになるようにインピーダンス変換して、前記高周波発振素子から発振されたマイクロ波を前記下部及び前記上部ストリップラインを利用して伝送するものであることを特徴とするものである。
前記高周波発振素子の出力インピーダンスが0.1〜25Ωであり、かつ、
前記下部及び前記上部ストリップラインにおいて、前記伝送回路一体型マイクロ波発生素子の出力インピーダンスが前記高周波発振素子の出力インピーダンスの2倍以上のインピーダンスになるようにインピーダンス変換して、前記高周波発振素子から発振されたマイクロ波を前記下部及び前記上部ストリップラインを利用して伝送するものであることを特徴とするものである。
このように、本発明の伝送回路一体型マイクロ波発生素子においては、前記下部及び前記上部ストリップラインにおいて、前記伝送回路一体型マイクロ波発生素子の出力インピーダンス(該伝送回路一体型マイクロ波発生素子中の前記高周波発振素子から見た場合の負荷側のインピーダンス:下部ストリップライン及び上部ストリップラインにおけるマイクロ波の出力側のインピーダンス)が、前記高周波発振素子の出力インピーダンスの2倍以上のインピーダンスになるように、インピーダンス変換を行う。なお、このようなインピーダンス変換における、前記高周波発振素子の出力インピーダンスに対する変換後のインピーダンスの倍率を、以下、場合により、単に「インピーダンスの変換割合」と称する)。
ここで、従来公知の外部アンテナ(負荷)のインピーダンスは、一般的に50Ω又は75Ω程度である。そのため、例えば、このような50Ω又は75Ω程度のインピーダンスを有する公知の外部アンテナを利用する素子において、前記高周波発振素子として単に出力インピーダンスが0.1〜25Ωの素子を利用した場合には、外部アンテナ(負荷側)との間でインピーダンスの不整合が生じることは明らかである。これに対して、本発明においては、マイクロ波の高出力化を図るといった観点から、前記下部及び前記上部ストリップラインにおいて、インピーダンス変換をして、前記伝送回路一体型マイクロ波発生素子の出力インピーダンスを前記高周波発振素子の出力インピーダンスの2倍以上(より好ましくは100倍以上、更に好ましくは250倍以上、特に好ましくは500倍以上5000倍以下)の大きさとする。そして、上述のようなインピーダンスの変換割合で、前記下部及び前記上部ストリップラインにおいてインピーダンス変換を行うことで、出力インピーダンスが0.1〜25Ωの高周波発振素子を利用した場合であって、かつ、伝送回路一体型マイクロ波発生素子に、例えばインピーダンスが50Ωや75Ω程度の公知の外部アンテナ(一般的なアンテナ等)を接続した場合においても、インピーダンス不整合による反射ロスを十分に抑制しながら、より効率よく、前記高周波発振素子から発振されたマイクロ波を前記下部及び前記上部ストリップラインを利用して伝送(伝搬)させることが可能となる。そして、本発明の伝送回路一体型マイクロ波発生素子においては、0.1〜25Ωといった出力インピーダンスが小さい高周波発振素子を利用するため、高周波発振素子の駆動に利用される一般的な大きさの電圧(通常5V以下程度である)を印加した場合においても、十分に高い電流量を確保すること(電流量を十分に増加させること)が可能である。このように、本発明においては、0.1〜25Ωといった出力インピーダンスが小さい高周波発振素子を利用することにより、従来の素子と比較して電流量を十分に増加させて高周波の発振出力を増加させることを可能とする。
なお、上記特許文献1においては、磁気抵抗素子の抵抗値の望ましい範囲が1Ω〜1kΩである旨や、素子の抵抗値としては直流抵抗値において1Ω以上、10kΩ以下であることが好ましい旨が記載されている。しかしながら、そのような磁気抵抗素子の抵抗値に関して、同文献の段落[0021]には「磁気抵抗素子とマイクロ波伝送回路での接合部におけるインピーダンス・ミスマッチによる損失を最小とするために、磁気抵抗素子の抵抗値を、マイクロ波伝送回路のインピーダンス値に一致させることが望ましい」と記載されている。このように、上記特許文献1においては、磁気抵抗素子の抵抗値をマイクロ波伝送回路のインピーダンス値に一致させるといった技術が明示されているに過ぎず、0.1〜25Ωの出力インピーダンスを有する高周波発振素子を利用した場合に、インピーダンスの整合の観点から、伝送回路(下部ストリップラインおよび上部ストリップライン)において、インピーダンスの変換割合が2倍以上となるようにインピーダンスを変換するといった技術的な思想までは開示されていない。
このように、本発明の伝送回路一体型マイクロ波発生素子においては、高周波発振素子の出力インピーダンスが0.1〜25Ωでありながら、上述のようなインピーダンスの変換割合で、前記下部及び前記上部ストリップラインを利用してインピーダンス変換を行うため、前記下部及び前記上部ストリップラインにより、伝送回路一体型マイクロ波発生素子の出力インピーダンスと、負荷側(外部アンテナ等)のインピーダンスとの間においてインピーダンスの整合を図ることが可能となり、これにより前記下部及び前記上部ストリップラインを介して、効率よく負荷側にマイクロ波を伝送(伝搬)させることを可能として、外部にマイクロ波を高出力で発振(出力)することを可能とする。
また、本発明においては、高出力化の観点から、高周波発振素子として、出力インピーダンスが0.1〜25Ω(より好ましくは0.1〜5Ω、更に好ましくは0.1〜1Ω)のものを利用する。なお、このような高周波発振素子の出力インピーダンスが前記下限未満となると、高周波発振素子中の絶縁層が薄くなりすぎて、ピンホールの発生を十分に抑制することが困難となることなどにより、絶縁不良の発生を十分に抑制することが困難となり、他方、前記上限を超えると、高周波発振素子に流れる電流が減少して該素子の発振出力が減少する。
なお、本発明においては、上述のようなインピーダンスの変換割合で、前記下部及び前記上部ストリップラインを利用してインピーダンス変換を行うため、出力インピーダンスが0.1〜25Ωの高周波発振素子から発振される高出力のマイクロ波を、伝送効率が70%以上(より好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上)となるような割合で、前記下部及び前記上部ストリップラインを介して負荷側に伝送(伝搬)させることも可能である(なお、ここにいう伝送効率としては、測定装置としてベクトルネットワークアナライザ(通称「VNA」:例えば、キーエンス社製の商品名「E5071C」等)を用いて測定できるSパラメータのうち、S21の値を利用して、かかるS21のピーク値を2乗することにより求められる値(式:[伝送効率]=(S21ピーク)2を計算することにより求められる値)を採用する)。
このように、本発明は、高周波発振素子として、出力インピーダンスが0.1〜25Ωの素子を利用しながら、負荷側のインピーダンスの大きさに応じて、伝送回路(前記下部及び前記上部ストリップライン)において、前述のような割合でインピーダンス変換して、出力インピーダンスと負荷インピーダンスとの整合を図るものである。そのため、本発明によれば、高出力化のために別途増幅器を利用する必要がなく、マイクロ波の高出力化を図ることができることから、マイクロ波の高出力化と、伝送回路一体型マイクロ波発生素子を組み込んだ発振装置の小型化を効率よく図ることが可能である。従って、例えば、本発明の伝送回路一体型マイクロ波発生素子を通信機器等に利用する場合等に、その通信機器の小型化を図りつつ、マイクロ波の高出力化を図ることが可能となる。そのため、本発明の伝送回路一体型マイクロ波発生素子は、通信の高速化と小型化を図る上で有用なものである。なお、本発明において「マイクロ波」とは、周波数が300MHz〜300GHzの電磁波を意味する。また、このようなマイクロ波を発振する高周波発振素子としては、マイクロ波を発振することが可能なものであればよく、特に制限されず、公知の高周波発振素子を適宜利用することができ、例えば、強磁性多層膜磁気抵抗素子やトンネル共鳴ダイオード等を適宜利用することができる。
また、本発明の伝送回路一体型マイクロ波発生素子においては、前記下部及び前記上部ストリップラインのうちの少なくとも一方が、
前記高周波発振素子から発振されるマイクロ波の周波数f0に対して共振の伝送線路となるように、共振周波数f1を前記高周波発振素子から発振されるマイクロ波の周波数f0に合わせた第一伝送線路と、
前記高周波発振素子から発振されるマイクロ波の周波数f0と共振周波数f2との差Δfが周波数f0の±10〜30%(より好ましくは±10〜25%、更に好ましくは±10〜20%)の大きさとなるように、前記高周波発振素子から発振されるマイクロ波の周波数f0から共振周波数f2をずらした第二伝送線路と、
を磁気共鳴するように組み合わせてなるものであることが好ましい(なお、本明細書においては、前記高周波発振素子から発振されるマイクロ波の周波数を「周波数f0」と表現し、第一伝送線路の共振周波数を「共振周波数f1」と表現し、第二伝送線路の共振周波数を「共振周波数f2」と表現する。また、本明細書において「周波数f0の±10〜30%の大きさ」という表現は、「周波数f0の10%以上30%以下(10〜30%)の大きさ」であること又は「周波数f0の−10%以下−30%以上(−10〜−30%)の大きさ」であることを示す。)。
前記高周波発振素子から発振されるマイクロ波の周波数f0に対して共振の伝送線路となるように、共振周波数f1を前記高周波発振素子から発振されるマイクロ波の周波数f0に合わせた第一伝送線路と、
前記高周波発振素子から発振されるマイクロ波の周波数f0と共振周波数f2との差Δfが周波数f0の±10〜30%(より好ましくは±10〜25%、更に好ましくは±10〜20%)の大きさとなるように、前記高周波発振素子から発振されるマイクロ波の周波数f0から共振周波数f2をずらした第二伝送線路と、
を磁気共鳴するように組み合わせてなるものであることが好ましい(なお、本明細書においては、前記高周波発振素子から発振されるマイクロ波の周波数を「周波数f0」と表現し、第一伝送線路の共振周波数を「共振周波数f1」と表現し、第二伝送線路の共振周波数を「共振周波数f2」と表現する。また、本明細書において「周波数f0の±10〜30%の大きさ」という表現は、「周波数f0の10%以上30%以下(10〜30%)の大きさ」であること又は「周波数f0の−10%以下−30%以上(−10〜−30%)の大きさ」であることを示す。)。
このような条件を満たす前記第一伝送線路と前記第二伝送線路とを組み合わせた場合、周波数f0と共振周波数f1とが同じ大きさとなるため、第二伝送線路の共振周波数f2(共振点)と、第一伝送線路の共振周波数f1(共振点)との差(Δf)が、共振周波数f1(又は周波数f0)の±10〜30%の大きさとなる。このように、共振周波数の大きさを共振周波数f1とする前記第一伝送線路と、共振周波数の大きさを共振周波数f1(又は周波数f0)から共振周波数f2へとずらした前記第二伝送線路とを組み合わせることで、すなわち、前記第一伝送線路と前記第二伝送線路の両者間において、共振周波数の大きさの差Δfが、周波数f0の大きさの±10〜30%となるように(両者間において、共振周波数の大きさが周波数f0の大きさの±10〜30%分シフト(オフセット)するように)、前記第二伝送線路の共振周波数をずらして利用することにより、伝送回路一体型マイクロ波発生素子の出力側のインピーダンスを、より効率よく高周波発振素子のインピーダンスの2倍以上の大きさのインピーダンスに変換することができ、これにより、出力側のインピーダンスと外部アンテナ(負荷)との間のインピーダンスとの整合をより効率よく図ることが可能となって伝送効率をより向上させることが可能となる(後述の図9の説明を参照)。ここで、前記周波数f0と共振周波数f2との差(f0からのシフト量)Δfの絶対値を周波数f0の10%以上とする場合(Δfをf0の10%以上又は−10%以下の大きさとする場合)、インピーダンス不整合による電力損失が伝送線路による電力損失を下回る傾向にあり、他方、前記Δfの絶対値を周波数f0の30%以下とする場合(Δfをf0の30%以下又は−30%以上の大きさとする場合)、インピーダンス不整合による電力損失が伝送線路による電力損失を上回る傾向にある。すなわち、シフト量Δfを、周波数f0の±10〜30%の範囲内の大きさとすることで、高効率な伝送線路による電力伝送が可能となる傾向にある。
このように、共振周波数f1を周波数f0に合わせた第一伝送線路と、第一伝送線路の共振周波数f1に対して共振周波数f2を前記Δfの大きさの分だけシフト(オフセット)させた第二伝送線路とを利用して、これらを磁気共鳴させて電力伝送を行なうことにより(すなわち、前記マイクロ波の周波数f0に対して共振の第一伝送線路(この場合、共振周波数f1と周波数f0は同じ大きさである)と、前記マイクロ波の周波数f0から±10〜30%の大きさの分だけシフト(オフセット)させた周波数([シフト後の周波数]=f0±(f0×[0.10〜0.30の間の数値]))に対して共振の第二伝送線路とを組み合わせて磁気共鳴を利用して電力伝送を行なうことにより)、第一伝送線路と第二伝送線路とをそれぞれ共振器のように利用(第一伝送線路が第一の直列共振器、第二伝送線路が第二の直列共振器となるように利用)して、交流信号の伝達が可能になり、更には、共振器の構成要件、具体的には線路の導電率、透磁率、長さ、幅、厚み、および基板の厚み、誘電率、透磁率、ならびに線路を取り囲む物質(空気、絶縁体モールド等)や、それらによって構成されるインダクタンスとキャパシタンスの比に応じたインピーダンスの変換が可能となる。そのため、別途、共振器(インピーダンス変換器)や増幅器などを利用しなくても、高出力のマイクロ波を、より効率よく取り出すことができる。なお、前記第一伝送線路と、第一伝送線路に対して前記差(シフト量)Δfの大きさの分だけ共振周波数をシフト(オフセット)させた第二伝送線路とを磁気共鳴させるといった観点からは、前記第一伝送線路と前記第二伝送線路の設計時に伝送線路の長さや幅等を適宜調整して、磁気共鳴を発生させればよく、そのような磁気共鳴を達成させるための方法は特に制限されず、上述のような条件を満たす前記第一伝送線路及び前記第二伝送線路を利用する以外は、公知の方法を利用して適宜設計することが可能である。
なお、従来の伝送回路一体型マイクロ波発生素子においては、取り出す出力信号は交流成分と直流成分が重畳したものとなっているのに対して、上述のように磁気共鳴を利用してマイクロ波を出力する場合には、第一伝送線路と第二伝送線路とが直接電気的に導通していないため交流成分だけを取り出して出力することも可能となり、この点においても、より効率よくマイクロ波を取り出すことが可能となる。
また、ここにいう「前記高周波発振素子から発振されるマイクロ波の周波数f0」とは、本発明の伝送回路一体型マイクロ波発生素子により外部に出力することを目的とするマイクロ波の周波数である(例えば、高周波発振素子が強磁性多層膜磁気抵抗素子である場合、その強磁性多層膜磁気抵抗素子が備える磁化自由層のラーモア周波数(素子の発振周波数)であり、目的に応じて強磁性多層膜磁気抵抗素子および外部磁界の設計を変更することで所望の周波数とすることができる)。ここにおいて、高周波発振素子から発振(出力)されるマイクロ波には、その設計上、基本的に目的とする発振周波数(高周波発振素子が強磁性多層膜磁気抵抗素子である場合には、前述の磁化自由層のラーモア周波数)と異なる周波数成分の割合が少ないものと考えられるため、高周波発振素子から発振されるマイクロ波の周波数帯の中で強度が最も高い周波数を「前記高周波発振素子から発振されるマイクロ波の周波数f0」と判断してもよい。
また、本発明の伝送回路一体型マイクロ波発生素子においては、前記下部及び前記上部ストリップラインにおいて、前記伝送回路一体型マイクロ波発生素子の出力インピーダンスが50〜75Ωとなるようにインピーダンス変換することが好ましい。このような出力インピーダンスとすることで、一般的に利用される外部アンテナ(負荷)と効率よくインピーダンスを整合させることが可能となり、より効率よく高出力化を図ることが可能であるとともに、より高い実用性を有するものとすることが可能である。
本発明によれば、増幅器を利用しなくてもマイクロ波の高出力化を図ることが可能な伝送回路一体型マイクロ波発生素子を提供することが可能となる。
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明及び図面中、同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
先ず、本発明の伝送回路一体型マイクロ波発生素子の好適な一実施形態(高周波発振素子として強磁性多層膜磁気抵抗素子を利用する形態)について説明する。図1は、本発明の伝送回路一体型マイクロ波発生素子の好適な一実施形態を上面側から模式的に示す模式上面図である。図2は、図1に示す実施形態の伝送回路一体型マイクロ波発生素子のAA’断面を模式的に示す断面図である。また、図3は、図1に示す実施形態の伝送回路一体型マイクロ波発生素子のBB’断面を模式的に示す断面図である。さらに、図4は、図1に示す実施形態の伝送回路一体型マイクロ波発生素子のCC’断面を模式的に示す断面図である。また、図5は、図2中において符号10で示す強磁性多層膜磁気抵抗素子(高周波発振素子の好適な実施形態)を模式的に示す斜視図である。
図1〜4に示す実施形態の伝送回路一体型マイクロ波発生素子1(以下、便宜上、場合により単に「マイクロ波発生素子1」と称する)は、強磁性多層膜磁気抵抗素子10(以下、便宜上、場合により単に「磁気抵抗素子10」と称する)と、入力側の上部電極(入力側電極)11と、第一伝送線路(入力側伝送線路)12と、第二伝送線路(出力側伝送線路)13と、出力側の上部電極14と、絶縁層15と、入力側の下部電極(グラウンド電極)16Aと、出力側の下部電極(グラウンド電極)16Bと、下部ストリップライン17と、基板18とを備える。また、本実施形態の伝送回路一体型マイクロ波発生素子1においては、入力側の上部電極(入力側電極)11と、入力側の下部電極(グラウンド電極)16Aとからなる一対の電極により、強磁性多層膜磁気抵抗素子10に通電することが可能なように構成されている。なお、本実施形態の素子1において、強磁性多層膜磁気抵抗素子10は、下部ストリップライン(グラウンドプレーン)17上に配置されおり、その下部ストリップライン17が図1〜4に示すように入力側の下部電極(グラウンド電極)16Aと接続されていることから、例えば、入力側の上部電極(入力側電極)11と、入力側の下部電極(グラウンド電極)16Aとを電源に電気的に接続することで、高周波発振素子10に通電することが可能である。
また、伝送回路一体型マイクロ波発生素子1は、下部ストリップライン17上に設けられた絶縁層15により、第一伝送線路(入力側伝送線路)12と第二伝送線路(出力側伝送線路)13とからなる上部ストリップラインと、下部ストリップライン(グラウンドプレーン)17とが電気的に絶縁された構成を有する。また、絶縁層15は、磁気抵抗素子10の周囲を囲むように、下部ストリップライン17上に形成された層となっている。また、第二伝送線路(出力側伝送線路)13は出力側の上部電極14に接続され、更に、下部ストリップライン17は出力側の下部電極(グラウンド電極)16Bに接続されている。このような出力側の上部電極14及び出力側の下部電極(グラウンド電極)16Bは、負荷側(出力側)の一対の電極となる。
このような伝送回路一体型マイクロ波発生素子1においては、上述のように、高周波発振素子として、強磁性多層膜磁気抵抗素子10を利用している。このような強磁性多層膜磁気抵抗素子10としては、特に制限されず、基本構造として、磁化自由層10Aと、スペーサ層10Bと、磁化固定相10Cとを備えるものを好適に利用できる。このように、強磁性多層膜を有する磁気抵抗素子10は基本構造として、磁化自由層10A/スペーサ層10B/磁化固定層10Cの3層構造を有するものを好適に利用できる。なお、このような磁気抵抗素子10は、該素子10に電流を通電することにより、磁化自由層10Aの磁化の方向が変化して、結果として素子10の抵抗値が変化する。すなわち、例えば、電源により磁気抵抗素子10の強磁性多層膜に直流電流を通電した場合を検討すると、磁化自由層10Aと磁化固定層10Bの間のスピントランスファ効果により磁化自由層内の磁化が振動し、磁化自由層の磁化と磁化固定層の磁化のなす角度θが時々刻々変化する。この時の角度θの変化に伴い、主にスピンバルブ磁気抵抗効果により素子10の低抗値(素子抵抗)が時々刻々変化する。このような素子抵抗が時々刻々変化する現象を「磁気抵抗」という。なお、このような素子抵抗の変化に伴って、その素子から電圧の交流成分が現れ、その交流成分を取り出すことにより、マイクロ波のシグナルを得ることができる。このような磁気抵抗素子10としては、いわゆるトンネル磁気抵抗(TMR)効果を用いた公知の強磁性多層膜磁気抵抗素子(例えば、国際公開第2011/039843号に記載の磁気抵抗素子、特開2006−295908号公報に記載の磁気抵抗素子等)を適宜利用することができる。
また、このような磁気抵抗素子10においては、磁化自由層10A及び磁化固定相10Cがいずれも強磁性体からなる層となっている。このような磁化自由層10Aや磁化固定相10Cは、それぞれ、公知の強磁性多層膜磁気抵抗素子において用いられる強磁性体からなるものを適宜利用できる。このような強磁性体としては、フェロ磁性体やフェリ磁性体を挙げることができる。ここで、フェロ磁性体とは、ある巨視的サイズ(磁区)中でその物質すべてのスピンの向きが一方向に揃う性質の物質を指す。このようなフェロ磁性体としては、例えば、鉄、コバルト、ニッケルなどの磁性金属、鉄−コバルト、鉄−ニッケル合金などを例示できる。また、フェリ磁性体とは、その物質のスピンが複数の成分(副格子)から構成され、ある磁区中でそれぞれの成分のスピンの向きが反平行であるが、それらの大きさが一様でないため、物質全体では有限の磁化を発生する性質の物質を指す。
また、磁化自由層10Aや磁化固定相10Cの材料としては特に制限されるものではないが、Co、Ni、Fe又はそれらを含む合金(例えば、コバルト−鉄、コバルト−鉄−ボロン)からなるものとすることが好ましい。また、磁化自由層10Aとしては、その構成を、強磁性膜と非磁性膜とが積層された多層膜(例えば、Feからなる膜とCrからなる膜の積層体、Coからなる膜とCuからなる膜の積層体)としたものを適宜用いてもよい。また、磁化自由層10A等においてフェリ磁性体を利用する場合、フェライト、鉄ガーネットなどの公知のフェリ磁性体を適宜利用してもよい。
なお、磁気抵抗素子10において、磁化の共鳴振動を起こす割合は、磁化自由層10Aの全体(100%)でなくてもよい。例えば、磁化自由層10Aの70〜80%が共鳴すれば、磁化の状態を巨視的に変化させることができるため、マイクロ波を発振する上では十分な性能を得ることが可能である。
また、スペーサ層10Bは、素子10において磁化自由層10Aと磁化固定相10Cの間の中間層である。このようなスペーサ層10Bは、MgO(酸化マグネシウム)又はAlO(酸化アルミニウム)からなる層であることが好ましく、磁気抵抗(Magneto−Resistance:MR)比が大きくなり、より高い出力を得ることが可能となることから、MgOからなる層であることが特に好ましい。このように、磁気抵抗素子10として、MgOからなるスペーサ層10Bを備えるものとした場合には、かかる素子10を、MgOをトンネルバリアとして有するトンネル磁気抵抗素子とすることができる。このようなMgOトンネルバリアを持つトンネル磁気抵抗素子を、磁気抵抗素子10として用いた場合には、スピン依存トンネル伝導を利用できるため、該素子が高いMR(磁気抵抗)比を持つため、かかる素子10の発振効率をより高くすることも可能である。
また、磁気抵抗素子10の高さ(厚み)Hは、10〜100nmであることが好ましい。また、このような高さHが前記下限未満では磁化が不十分となる傾向にあり、他方、前記上限を超えるとMR比が小さくなる傾向にある。
また、このような磁気抵抗素子10において、スペーサ層10Bの厚み(高さ)Tは、0.1〜2nm(より好ましくは0.1〜1nm)であることが好ましい。このような厚みTが前記下限未満では、高周波発振素子中の絶縁層が薄くなりすぎて、ピンホールの発生を十分に抑制することが困難となることなどにより、絶縁不良の発生を十分に抑制することが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると高周波発振素子に流れる電流が減少して該素子の発信出力が減少する傾向にある。
なお、磁気抵抗素子10は、スペーサ層10Bの厚み(高さ)Tを調整することにより、素子10の抵抗値(出力インピーダンス)を自由に設定することが可能である。ここで、出力Pと素子10の出力インピーダンスZとの関係は下記式(1):
(なお、Pはマイクロ波の出力を示し、Iは電流の大きさを示し、ηはスピントルク分極率を示し、MR’は素子10の磁気抵抗比を示し、θは磁化自由層の磁化と磁化固定層の磁化とのなす角度を示し、θ0は未通電時の磁化自由層の磁化と磁化固定層の磁化とのなす角度を示し、Δθは磁化自由層の磁化がスピントルクを受けてθ0の角度を中心に歳差運動する角度を示し、R(θ0)は素子10の出力インピーダンスZ(スペーサ層の抵抗値)を示す。)
で表わすことができる。このような式(1)から、マイクロ波の発振出力Pは電流Iの2乗に比例して大きくなることが分かる。なお、本発明においては、素子抵抗の小さな強磁性多層膜磁気抵抗素子を利用しつつ、ストリップラインにおいて、伝送回路一体型マイクロ波発生素子の出力インピーダンスと負荷側のインピーダンスとを一致(整合)させるべく、伝送回路一体型マイクロ波発生素子の出力インピーダンスが強磁性多層膜磁気抵抗素子の出力インピーダンスの2倍以上(このようなインピーダンスの変換割合は、強磁性多層膜磁気抵抗素子の出力インピーダンスと負荷側のインピーダンスとの関係に応じて、100倍以上とすることが好ましく、250倍以上とすることがより好ましく、500倍以上とすることが更に好ましい)のインピーダンスとなるようにインピーダンス変換するため、負荷側にマイクロ波を効率よく伝送することが可能である。ここにおいて、素子抵抗の小さな強磁性多層膜磁気抵抗素子を利用することから、従来と同じ電圧を利用した場合においても従来よりも電流Iをより大きくすることができ、発振出力Pを十分に増加させることが可能であることから、増幅器を利用することなく、伝送回路一体型マイクロ波発生素子の高出力化を効率よく図ることを可能とする。
で表わすことができる。このような式(1)から、マイクロ波の発振出力Pは電流Iの2乗に比例して大きくなることが分かる。なお、本発明においては、素子抵抗の小さな強磁性多層膜磁気抵抗素子を利用しつつ、ストリップラインにおいて、伝送回路一体型マイクロ波発生素子の出力インピーダンスと負荷側のインピーダンスとを一致(整合)させるべく、伝送回路一体型マイクロ波発生素子の出力インピーダンスが強磁性多層膜磁気抵抗素子の出力インピーダンスの2倍以上(このようなインピーダンスの変換割合は、強磁性多層膜磁気抵抗素子の出力インピーダンスと負荷側のインピーダンスとの関係に応じて、100倍以上とすることが好ましく、250倍以上とすることがより好ましく、500倍以上とすることが更に好ましい)のインピーダンスとなるようにインピーダンス変換するため、負荷側にマイクロ波を効率よく伝送することが可能である。ここにおいて、素子抵抗の小さな強磁性多層膜磁気抵抗素子を利用することから、従来と同じ電圧を利用した場合においても従来よりも電流Iをより大きくすることができ、発振出力Pを十分に増加させることが可能であることから、増幅器を利用することなく、伝送回路一体型マイクロ波発生素子の高出力化を効率よく図ることを可能とする。
本発明においては、高出力化の観点から、強磁性多層膜磁気抵抗素子10として、出力インピーダンスが0.1〜25Ω(より好ましくは0.1〜5Ω、更に好ましくは0.1〜1Ω)の素子を利用する。また、このような磁気抵抗素子10としては、磁場に依存して変化する最大の抵抗値と最小の抵抗値の比(MR比[(最大の抵抗値)/(最小の抵抗値)])が200%以上のものが好ましく、500〜2000%のものがより好ましい。このようなMR比が前記下限未満では出力が小さくなる傾向にある。
また、磁化自由層10A/スペーサ層10B/磁化固定層10Cの3層構造を有する強磁性多層膜磁気抵抗素子10は、入力側の上部電極(入力側電極)11と、下部電極(グラウンド電極)16Aとに電気的に接続されている。ここにおいて、入力側の上部電極(入力側電極)11は磁化自由層10Aに接している。一方、下部電極(グラウンド電極)16Aは、下部ストリップライン(グラウンドプレーン)17を介して前記磁化固定層10Cに電気的に接続されている。このように、本実施形態においては、下部ストリップライン(グラウンドプレーン)17は、磁性多層膜磁気抵抗素子10の下部電極の一部としても機能する。そのため、入力側の上部電極11と、入力側の下部電極(グラウンド電極)16Aとを、直流電源に電気的に接続することで、強磁性多層膜磁気抵抗素子10に直流電流を通電することができる。このように、本実施形態において、入力側の上部電極11と、入力側の下部電極(グラウンド電極)16Aは、磁気抵抗素子10の一対の電極として機能する。
また、本実施形態のマイクロ波発生素子1においては、強磁性多層膜磁気抵抗素子10から発振されるマイクロ波を、入力側の上部電極11を介して伝送可能なように、入力側の上部電極11に第一伝送線路(入力側伝送線路)12が接続されている。そして、本実施形態のマイクロ波発生素子1においては、かかる第一伝送線路(入力側伝送線路)12と、第二伝送線路(出力側伝送線路)13とにより上部ストリップラインが形成される。このように、第一伝送線路12と第二伝送線路13とからなる上部ストリップラインと、下部ストリップライン17が、強磁性多層膜磁気抵抗素子10に直接又は電極を介して接続されているため、かかる上部ストリップラインと下部ストリップライン(グラウンドプレーン)17とにより、強磁性多層膜磁気抵抗素子10から発振されたマイクロ波を伝送することが可能となる。
また、このような上部ストリップラインの第二伝送線路13は出力側の上部電極14に接続され、他方、下部ストリップライン17は出力側の下部電極(グラウンド電極)16Bに接続されており、これにより、かかる上部ストリップラインと下部ストリップライン(グラウンドプレーン)17とを介して伝送されたマイクロ波を、外部(負荷側)に取り出すことを可能としている。なお、本実施形態の下部ストリップライン17は、図1〜4に示すように、入力側の一部の領域を除いて、基本的に絶縁層15の一面を覆うような形状となっている。
このような電極11、第一伝送線路12、第二伝送線路13、電極14、電極16A、電極16B及び下部ストリップライン(グラウンドプレーン)17を形成するための材料は特に制限されず、公知のものを適宜利用でき、例えば、金、銅、白金、チタン、アルミニウム、クロム、鉄等が挙げられる。なお、第一伝送線路12及び第二伝送線路13の共振特性のQ値が、マイクロ波の伝送線路の効率に影響を与えるため、第一伝送線路12及び第二伝送線路13の材料には、できるだけ電気抵抗の小さい材料(例えば、金、銅、アルミニウムを好適なものとして例示できる)を用いることがより好ましい。
また、第一伝送線路12及び第二伝送線路13からなる上部ストリップラインと、下部ストリップライン17とは、絶縁層15により電気的に絶縁されている。このような絶縁層15を形成する材料としては特に制限されず、誘電正接(tanδ)の値が低い材料(より好ましくは、GHz帯における誘電正接(tanδ)の値が0.01以下の材料)を好適に利用することができる。このような絶縁層15を形成する材料としては、誘電正接(tanδ)の観点から、例えば、アルミナ、シリカ、フッ素系樹脂、ガラス繊維樹脂、イットリウム鉄ガーネット(YIG)を好適に利用できる。なお、強磁性多層膜磁気抵抗素子10の近傍に磁性体からなる材料を利用して絶縁層15を形成すると、その磁性体中の磁化と強磁性多層膜中の磁化とが相互作用を起こし損失を生じさせるため、絶縁層15を形成する際に磁性体を利用する場合には、絶縁層15の強磁性多層膜磁気抵抗素子10の近傍部分を磁性体以外の材料からなるものとすることが好ましい(すなわち、絶縁層15の材料の一つとしてYIGを利用する場合には、絶縁層15の強磁性多層膜磁気抵抗素子10の近傍部分はYIG以外の材料からなるものとし、それ例外の部分をYIGからなるものとすることが好ましい)。
さらに、このような絶縁層15は、比誘電率εrが2〜10であることが好ましく、3〜5であることがより好ましい。このような比誘電率が前記下限未満では素子サイズが大きくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると誘電正接(tanδ)が大きくなるため損失が大きくなる傾向にある。また、このような絶縁層15の厚みは、強磁性多層膜磁気抵抗素子10(STO)の厚みHと一致していることが好ましい。
さらに、本実施形態のマイクロ波発生素子1においては、第一伝送線路12及び第二伝送線路13からなる上部ストリップライン及び下部ストリップライン17において、マイクロ波発生素子1の出力インピーダンスが、強磁性多層膜磁気抵抗素子10の出力インピーダンスの2倍以上(より好ましくは100倍以上、更に好ましくは250倍以上、特に好ましくは500倍以上5000倍以下)のインピーダンスになるように、インピーダンス変換を行うといった観点から、第一伝送線路12を、前記高周波発振素子(強磁性多層膜磁気抵抗素子10)から発振されるマイクロ波の周波数f0に対して共振の伝送線路となるように、共振周波数f1を前記高周波発振素子から発振されるマイクロ波の周波数f0に合わせたものとし、かつ、第二伝送線路13を、前記高周波発振素子(強磁性多層膜磁気抵抗素子10)から発振されるマイクロ波の周波数f0と共振周波数f2との差Δfが周波数f0の±10〜30%の大きさとなるように(周波数f0から前記差Δfの大きさの分(f0の大きさに対して±10〜30%となる大きさの分)だけシフト(オフセット)させた周波数に対して共振となるように)、共振周波数f2を前記高周波発振素子から発振されるマイクロ波の周波数f0からずらしたものとして、第一伝送線路12と第二伝送線路13とを磁気共鳴するように組み合わせている。なお、共振周波数f2に関して、周波数f0を基準とした場合に周波数をずらす方向(シフトさせる方向:オフセットする方向)は正負どちらでもよく、特に制限されないが、図1〜4に示す実施形態の第一伝送線路12と第二伝送線路13においては、共振周波数f2に関して周波数をずらす方向(オフセットの方向)を、マイクロ波の周波数f0を基準とした場合に負の方向(周波数が小さくなる方向)としている。すなわち、図1〜4に示す実施形態は、共振周波数f2を共振周波数f1よりもΔfの絶対値だけ小さな周波数としている形態の素子1である。
ここで、第一伝送線路12と第二伝送線路13との関係を説明するため、絶縁層15上に形成された第一伝送線路12と第二伝送線路13の関係を図6に模式的に示す。
本実施形態のマイクロ波発生素子1においては、図1や図6に示すように、第一伝送線路12と第二伝送線路13は平行に離間して(それぞれ非接触状態で)配置されており且つ電極と接触していない終端の部分がいずれも解放されている。
このような第一伝送線路12は、強磁性多層膜磁気抵抗素子10から出力されるマイクロ波の周波数f0に対して共振の伝送線路とするために、共振周波数f1を前記高周波発振素子から発振されるマイクロ波の周波数f0に合わせたものとすることが好ましい。なお、第一伝送線路12を強磁性多層膜磁気抵抗素子10から出力されるマイクロ波の周波数f0に対して共振の伝送線路とするといった観点からは、その電気長(electrical length)L1を強磁性多層膜磁気抵抗素子10から発振されるマイクロ波の波長λ1の4分の1波長(λ1/4)とすることが好ましい。また、第二伝送線路13は、強磁性多層膜磁気抵抗素子10から出力されるマイクロ波の周波数f0と共振周波数f2との差Δfが周波数f0の±10〜30%(より好ましくは±10〜25%、更に好ましくは±10〜20%)の大きさとなるように、前記高周波発振素子から発振されるマイクロ波の周波数f0から共振周波数f2(共振点)をずらしたものとすることが好ましい。このような条件を満たす第二伝送線路13を設計するといった観点からは、共振周波数f2を共振周波数f1よりもΔfの絶対値だけ小さな周波数とする場合(周波数を負の方向にずらす場合)には、第二伝送線路13の電気長L2を強磁性多層膜磁気抵抗素子10から発振されるマイクロ波の波長λ1の1/0.9倍(約1.1倍)〜1/0.70倍(約1.4倍)とすることが好ましく、他方、共振周波数f2を共振周波数f1よりもΔfの絶対値だけ大きな周波数とする場合(周波数を正の方向にずらす場合)には、1/1.1倍(約0.9倍)〜1/1.3倍(約0.77倍)の波長λ2に対して4分の1波長(λ2/4)とすることが好ましい。
なお、このような第一伝送線路12の電気長(線路長)L1と、第二伝送線路13の電気長(線路長)L2に関して、マイクロ波の伝送回路の実効比誘電率εeとし、強磁性多層膜磁気抵抗素子10から発振されるマイクロ波の波長をλ1とし、マイクロ波の波長の1/0.9倍〜1/0.70倍または1/1.1倍(約0.9倍)〜1/1.3倍(約0.77倍)の範囲の波長をλ2とした場合に、それぞれ下記式:
に記載の条件を満たす場合に、電気長L1が、マイクロ波の波長λ1の4分の1波長となっているものと判断してもよく、電気長L2が、波長λ2の4分の1波長となっているものと判断してもよい。なお、このような式(2)や式(3)に記載のように、マイクロストリップラインの電気長(線路長)は、基本的に、伝送回路一体型マイクロ波発生素子の実効誘電率に応じた波長短縮率を乗じた長さとすることが好ましい。ここにおいて、波長短縮率は、式:
により求められる値である。また、実効比誘電率εeは、第一伝送線路12と第二伝送線路13の幅をいずれもWとし、絶縁層15の厚みをhとし、絶縁層15の比誘電率をεrとすると、下記式:
を計算することで求めることができる。
このような観点から、第一伝送線路12の電気長L1は上記式(2)に記載の条件を満たすことが好ましく、また、第二伝送線路13の電気長L2は上記式(3)に記載の条件を満たすことが好ましい。また、伝送回路一体型マイクロ波発生素子1においては、計算式(2)〜(6)を利用して、第一伝送線路12の電気長(線路長)L1が上記式(2)に記載の条件を満たすように設計し、かつ、第二伝送線路13の電気長(線路長)L2が上記式(3)に記載の条件を満たすように設計することが好ましい。なお、波長λ2は整合させるべき負荷(外部アンテナ)のインピーダンスに応じて適宜設定すべき値であり、例えば、後述の図9に示すようなグラフ(関係)を求めること等により、最適な値を適宜求めることができる。
第一伝送線路12と第二伝送線路13の線幅W(マイクロストリップラインの線幅)は特に制限されず、用途等に応じて適宜任意の大きさとすることができ、それぞれ、10μm〜1mmとすることが好ましく、0.1〜0.5mmとすることがより好ましい。このような線幅Wが前記下限未満ではQ値が低下する傾向にある。なお、線幅Wを大きくなるほど素子サイズが大きくなるため、用途等に応じた目標サイズの範囲内でより大きくすることが好ましい。
また、第一伝送線路12の厚み及び第二伝送線路13の厚みは、それぞれ、表皮効果による表皮深さよりも厚いことが好ましく、中でも、表皮効果による表皮深さよりも2倍以上厚いことがより好ましい。例えば、波長1GHzでの表皮効果による表皮深さが5μmである場合において、波長1GHzのマイクロ波を伝送する場合には、伝送線路12及び13の厚みは、それぞれ、10μm以上とすることがより好ましい。
さらに、第一伝送線路12及び第二伝送線路13の間の距離(ギャップ)Dは、上部ストリップライン及び下部ストリップラインにおいて第一伝送線路の共振点におけるインピーダンスが、素子1に接続する負荷(外部アンテナ)のインピーダンス(発振器の出力インピーダンス)と等しくなるように、第一伝送線路12及び第二伝送線路13の線幅及び厚みを考慮して、設計することが好ましい。このような第一伝送線路12及び第二伝送線路13間の距離Dに応じて第一伝送線路の共振点におけるインピーダンスが変化する理由は、2つの伝送線路12及び13間の磁気共鳴の結合係数kが距離Dに応じて変化し、磁気共鳴を介して第一伝送線路側から観測される負荷のインピーダンスの大きさがその結合係数kに応じて変化するためである。
なお、このような第一伝送線路12と第二伝送線路13との間の磁気共鳴は、電磁波の漏洩をより低減させて、より効率よくマイクロ波の出力向上を図るといった観点から、偶モード(Even Mode)の結合状態となっていることが好ましい。なお、ここにいう「偶モード」とは電気壁を構成する状態の結合モードをいう。また、上述のように、第一伝送線路12と第二伝送線路13とを磁気共鳴させて、ストリップラインにおいてインピーダンス変換を行ってマイクロ波を出力する場合には、強磁性多層膜磁気抵抗素子10の出力インピーダンスZを0.1〜25Ωとした場合においても、負荷側のインピーダンスとインピーダンスの整合を図ることができ、増幅器などを利用しなくても高出力のマイクロ波をより効率よく取り出すことができる。なお、このように第一伝送線路12と第二伝送線路13との間において磁気共鳴を引き起こすために、第一伝送線路12と第二伝送線路13は以下のように設計することが好ましい。すなわち、第一伝送線路12と第二伝送線路13は、これらの線路間で磁気結合が生じて相互インダクタンスが生じるようにするため、互いの伝送線路から発せられる磁界が互いの伝送線路と下部ストリップラインとの間を鎖交するように設計することが好ましい(このような設計の例としては、例えば、第一伝送線路12と第二伝送線路13の伝送線路同士を磁界強度が十分に強い距離において共通グランドプレーン上に平行に配置すること等が挙げられる)。
また、本実施形態のマイクロ波発生素子1は、図1に示すように、基板18上に形成されてなる。このような基板18としては特に制限されず、公知の基板を適宜利用でき、例えば、シリコン基板、熱酸化膜付きシリコン基板、酸化物基板(酸化マグネシウム、サファイヤ、アルミナ等)、プラスチック基板、ポリイミド基板等を適宜利用することができる。
ここで、図7を参照しながら、図1〜5に示す伝送回路一体型マイクロ波発生素子1から外部にマイクロ波を出力する場合に好適に採用することが可能な方法を簡単に説明する。なお、図7は、上記伝送回路一体型マイクロ波発生素子1を備えるマイクロ波の発振器(発振装置)の好適な一実施形態を模式的に示す模式図である。このような発振器においては、伝送回路一体型マイクロ波発生素子1の一端が直流電源20に電気的に接続されかつその他端がフィルタ30に接続されている。また、かかるフィルタ30はマイクロ波の送信用のアンテナ40(外部アンテナ)に接続されている。なお、このような発振器においては、直流電源20に伝送回路一体型マイクロ波発生素子1の入力側の上部電極11及び入力側の下部電極16Aが電気的に接続されて、直流電源20から伝送回路一体型マイクロ波発生素子1中の強磁性多層膜磁気抵抗素子10に電流を通電することを可能としている。また、このような発振器においては、フィルタ30の入力ポートに伝送回路一体型マイクロ波発生素子1の出力側の上部電極14及び出力側の下部電極16Bが接続されており、伝送回路一体型マイクロ波発生素子1の出力側の上部電極14及び出力側の下部電極16Bがフィルタを介してアンテナ(負荷側)40に接続された構成となっている。
このような直流電源20としては、特に制限されず、公知のものを適宜利用できる。このような直流電源20としては、素子1からのマイクロ波の高出力化を図るために素子10に通電する電流量が十分なものとなるように、電圧が0.1〜2Vの電源を利用することが好ましい。また、このような直流電源20より通電する電流Iの大きさは、高出力化を図るといった観点から、1mA〜2000mA(より好ましくは50mA〜2000mA)となるようにすることが好ましい。
また、フィルタ30としては、特に制限されず、公知のものを適宜利用でき、例えば、一般的なバンドパスフィルタであってもよい。さらに、アンテナ40としても特に制限されず、強磁性多層膜磁気抵抗素子10から発振されたマイクロ波を外部に出力することが可能な公知の構成の外部アンテナを適宜利用できる。このようなアンテナ40は、例えば、パッチアンテナ等であってもよい。
なお、このような発振器においては、伝送回路一体型マイクロ波発生素子1中の強磁性多層膜磁気抵抗素子10の出力インピーダンスが0.1〜25Ωである。本発明においては、素子10の出力インピーダンスが、負荷側のアンテナ40のインピーダンスよりも小さい場合であっても、前述のように、伝送回路一体型マイクロ波発生素子1中の下部及び上部ストリップライン(マイクロストリップライン)において、伝送回路一体型マイクロ波発生素子1の出力インピーダンス(上記実施形態の素子1の第二伝送線路13の出力インピーダンス)が、強磁性多層膜磁気抵抗素子の出力インピーダンスの2倍以上のインピーダンスとなるように、インピーダンス変換して、負荷側のアンテナ40との間でインピーダンスの整合を図ることが可能である。そのため、強磁性多層膜磁気抵抗素子10の出力インピーダンスを0.1〜25Ωとして電流量を向上させて十分に高い出力でマイクロ波を発振することが可能となる。なお、本発明においては、出力インピーダンスが0.1〜25Ωとなるような、十分に低い素子抵抗を有する高周波発振素子(強磁性多層膜磁気抵抗素子10)を利用するが、仮に、負荷側のアンテナ40のインピーダンスが50Ωである場合においても、例えば、上記実施形態の伝送回路一体型マイクロ波発生素子1においては、第一伝送線路12及び第二伝送線路13の設計を適宜調整する等して、インピーダンス変換割合を適宜調整することができるため、第一及び第二伝送線路の設計により入力側と負荷側のインピーダンスの整合を図って、高出力のマイクロ波を効率よく発振することができる。これにより素子10から発振されるマイクロ波の出力Pを十分に大きなものとすることができ(上記式(1)参照)、結果的に、伝送回路一体型マイクロ波発生素子1から非常に高い出力でマイクロ波を発振することが可能となる。
次いで、上記伝送回路一体型マイクロ波発生素子1における伝送線路(ストリップライン)の設計フローを図8を参照しながら簡単に説明する。
このような伝送線路(ストリップライン)の設計のためには、先ず、ステップS1において、目的とするマイクロ波の周波数や出力の大きさ等から、伝送回路一体型マイクロ波発生素子1に利用する高周波発振素子(上記伝送回路一体型マイクロ波発生素子1においては強磁性多層膜磁気抵抗素子10)の種類(設計等)を決定する。このような高周波発振素子(強磁性多層膜磁気抵抗素子10)の設計のために、予め、用いるスペーサ層10Bの材料(例えばMgO等)に応じて、層10Bの厚みと出力の関係や、出力インピーダンスと磁気抵抗素子10からのマイクロ波の出力の関係等を明らかにしておき、所望の出力が得られるように利用する素子10の条件(出力インピーダンスの大きさ等)を決定してもよい。
次に、ステップS2において、設計した高周波発振素子(上記伝送回路一体型マイクロ波発生素子1においては強磁性多層膜磁気抵抗素子10)の実際の出力インピーダンスを求める。なお、このような高周波発振素子(強磁性多層膜磁気抵抗素子10)としては、上述のように出力インピーダンスが0.1〜25Ωとなるものを利用する。
次に、ステップS3において、用いる高周波発振素子(強磁性多層膜磁気抵抗素子10)から発振されるマイクロ波の周波数と、伝送線路を形成するための絶縁層(絶縁基板)15の比誘電率や厚み等の情報に基づいて、第一伝送線路12の電気長L1を決定する。すなわち、ステップS3においては、上記式(2)及び(4)〜(6)に示す関係を考慮する等して、素子10の設計などに応じた適切な長さとなるように(共振の伝送線路となるように)、電気長L1を決定する。
次いで、ステップS4において、第一伝送線路12及び第二伝送線路13が同じ電気長である場合のQ値が十分な値となるように、第一伝送線路12の第二伝送線路13の線幅を決定する。なお、ステップS3において上記式(2)〜(6)に示す関係を考慮する場合、線幅Wの情報を利用することから、ステップS3及びS4は同時に行ってもよい。
次いで、ステップS5において、高周波発振素子(強磁性多層膜磁気抵抗素子10)の出力インピーダンスに応じて、第一伝送線路12と第二伝送線路13の間の距離(ギャップ)の大きさを決定する。この点を簡単に説明すると、第一伝送線路12と第二伝送線路13の間の距離(ギャップ)は、基本的に、そのギャップが大きくなるほど、線路間(第一伝送線路12と第二伝送線路13との間)の結合係数が小さくなり、第一伝送線路側から観測されるインピーダンスの大きさは小さくなる。反対に、そのギャップが小さくなるほど第一伝送線路側から観測されるインピーダンスの大きさは大きくなる。そのため、高周波発振素子(強磁性多層膜磁気抵抗素子10)の出力インピーダンスの大きさに対して、第一伝送線路側から観測されるインピーダンスの大きさが等しくなるような線路間(第一伝送線路12と第二伝送線路との間)の結合係数をとるように、距離(ギャップ)の大きさを設計することで、高周波発振素子(強磁性多層膜磁気抵抗素子10)の出力インピーダンスに応じて、伝送効率がより高くなるように、最適なギャップの大きさ求めることができる。
その後、ステップS6において、負荷のインピーダンスの大きさ等に基いて、前記高周波発振素子から発振されるマイクロ波の周波数f0と共振周波数f2との差Δfが周波数f0の±10〜30%(より好ましくは±10〜25%、更に好ましくは±10〜20%)の大きさとなるように、前記高周波発振素子から発振されるマイクロ波の周波数f0に対する周波数のシフト量(Δf)を決めて、そのようなシフト量を達成可能な第二伝送線路13の電気長L2を求める。なお、このようなステップS6を、以下において、図9を参照しながら更に説明する。ここにおいて、図9には、使用周波数f0を基準とした場合に周波数をずらず方向(オフセットの方向)を負の方向(周波数が小さくなる方向)とした場合を例にしてグラフを示す。
図9に示すグラフにおいては、前記高周波発振素子から発振されるマイクロ波の周波数(以下、場合により「使用周波数」と称する)と同じ大きさの周波数である場合に、第二伝送線路の出口側のインピーダンスが負荷のインピーダンスと整合する大きさとなっている。このような条件を満たすように、第二伝送線路13を設計するためには、先ず、第一伝送線路12に関して、マイクロ波の周波数とインピーダンスの関係のグラフを求める(図9参照)。次いで、共振点(共振周波数f2)をシフトさせた第二伝送線路13を想定し、かかる第二伝送線路13の使用周波数(前記高周波発振素子から発振されるマイクロ波の周波数f0)におけるインピーダンスの関係をシミュレーションする(図9に示す例では周波数f0を基準として共振周波数f2を負の方向にシフトさせることを想定してシミュレーションしている)。そして、図9に示すような、使用周波数f0における第二伝送線路13のインピーダンスが、負荷(外部アンテナ等)のインピーダンスの大きさと整合する値となるグラフを求め、かかるグラフの共振点における共振周波数f2を求める。このようにして、第一伝送線路の共振点の周波数f1を基準として、負荷(外部アンテナ等)のインピーダンスの大きさに対して第二伝送線路のインピーダンスの大きさを整合させるために必要となる共振点の周波数のシフト量Δfを求めることができる。そして、このようなシフト後の共振周波数f2の大きさを利用して、負荷(外部アンテナ等)のインピーダンスの大きさと整合させるために必要となる第二伝送線路13の電気長L2を求めることができる。なお、このようなシミュレーション(負の方向にシフトさせることを想定したシミュレーション)において、シフト量Δfが−10%より大きくなるような低シフト量の領域では、周波数のシフト量に対する第二伝送線路のインピーダンスの変化量が小さく、インピーダンス整合によるロス低減と比較して整合器ロスによる影響が大きくなる傾向にあること、および、シフト量Δfが−30%未満となる場合にはインピーダンスの変化量が大きくなりすぎ、第二伝送線路13を利用して素子1の出力インピーダンスを負荷のインピーダンスと整合させることが困難になる傾向にあること、等を考慮し、前記高周波発振素子から発振されるマイクロ波の周波数(第一伝送線路12の共振周波数)からのシフト量Δf(周波数f0と共振周波数f2との差Δf)が周波数f0の−10〜−30%の大きさとなるように、共振周波数f2をシフト(オフセット)させることが好ましい。このようにして共振点のシフト量Δf(共振周波数がずれる量)を求めて、負荷(外部アンテナ等)のインピーダンスの大きさと整合させることが可能となる第二伝送線路の共振点を求めることで、その共振周波数f2の値を利用して、上記式(3)から第二伝送線路13の電気長L2を求めることができる。このように、共振点のシフト量(周波数のシフト量Δf)と、使用周波数f0におけるインピーダンスの大きさとの関係を求めて、用いる素子10に応じてマイクロ波を出力を向上させることが可能である。このように、ステップS6においては、例えば、図9に示すような伝送線路の共振周波数とインピーダンスの関係を求めることにより、インピーダンスの変換割合が適切となる第二伝送線路13の電気長L2を求める方法を採用してもよい(後述の実施例の欄に記載の設計方法を参照)。なお、図9を参照してステップS6の好適な実施形態を説明したが、ステップS6においては、例えば、共振周波数f2を周波数f0を基準として正の方向にシフトさせること(共振周波数f2を、周波数f0より大きな値となるようにシフトさせること)を想定したシミュレーションを行って、上記式(3)から第二伝送線路13の電気長L2を求めてもよい。
また、このような伝送回路一体型マイクロ波発生素子の製造方法は特に制限されず、例えば、上記本発明の条件を満たすことが可能となるように、上部ストリップライン及び下部ストリップラインを設計する以外は、公知の方法(公知の強磁性多層膜磁気抵抗素子の製造方法、公知の絶縁層の製造方法、公知のストリップラインの製造方法等)を適宜利用して製造すればよい。例えば、絶縁層や下部ストリップライン等の各層の成膜にCVD法やスパッタ法等を適宜利用してもよく、電極や伝送線路のパターニングに、フォトリソグラフィー法やエッチング法等を適宜組み合わせて利用してもよい。
以上、本発明の伝送回路一体型マイクロ波発生素子の好適な実施形態やその利用方法として好適な方法等(該素子から外部にマイクロ波を出力する場合に好適に採用することが可能な方法等)について、図1〜9を参照して説明したが、本発明の伝送回路一体型マイクロ波発生素子や、その利用方法等は、上記実施形態のものに限定されるものではない。
例えば、上記実施形態の伝送回路一体型マイクロ波発生素子においては、高周波発振素子として強磁性多層膜磁気抵抗素子を利用しているが、本発明に利用することが可能な高周波発振素子は、上述のような強磁性多層膜磁気抵抗素子に制限されるものではなく、マイクロ波を発振することが可能な公知の素子を適宜利用でき、例えば、トンネル共鳴ダイオード(RTD)等を適宜利用することができる。このような高周波発振素子の中でも、サイズの観点からは、強磁性多層膜磁気抵抗素子、又は、トンネル共鳴ダイオード(RTD)がより好ましい。
また、上記実施形態の伝送回路一体型マイクロ波発生素子においては、上部ストリップラインが第一伝送線路12と第二伝送線路13とにより形成され、かかる第一伝送線路12と第二伝送線路13とが、図1及び図6に示すように、直線状でかつ平行になるように配線された構成となっているが、本発明の伝送回路一体型マイクロ波発生素子において、上部ストリップラインとして第一伝送線路12と第二伝送線路13を利用する場合、かかる上部ストリップラインの構成は、上記実施形態のものに制限されるものではなく、例えば、第一伝送線路12と第二伝送線路13の一方又は双方を並列化した配線とした構成としてもよい。ここにいう「並列化した配線」に関して、図10及び図11を参照しながら簡単に説明する。図10は、直線状の第一伝送線路12と直線状の第二伝送線路13の関係を模式的に示す図面である(図1に示す伝送線路を、簡略化して模式的に表現したものである)。ここで、図10中のポート(ターミナル)P1は入力側の磁気抵抗素子10の電極部分との接続点(端部)を概念的に示し、ポート(ターミナル)P2は出力側の上部電極14との接続点(端部)を概念的に示す。他方、図11は、第二伝送線路13を並列化した構成とした場合の第一伝送線路12と第二伝送線路12の関係を模式的に記載した模式図である(P1及びP2は図10と同義である)。図11に示す実施形態においては、第二伝送線路13が並列化された配線となっている。なお、第二伝送線路13の並列化された各線は、磁気共鳴の観点から、図10に示すように、その少なくとも一部が第一伝送線路12と平行に配線されている。このように配線を並列化した場合には、磁気共鳴の結合係数をより向上させることが可能となり、マイクロ波の伝送効率がより向上する傾向にある。そのため、マイクロ波の伝送効率の観点からは、第一伝送線路12及び/又は第二伝送線路13を並列化することが好ましいといえる。また、第一伝送線路12及び/又は第二伝送線路13を並列化した場合においても、第一伝送線路12と第二伝送線路13とを効率よく磁気共鳴させるといった観点からは、並列化された第二伝送線路の各線の開放端から、電極部分との接続点(端部)までの電気長を、それぞれ、上述の式(2)や(3)に記載の条件を満たすものとすることが好ましい。
また、上記実施形態の伝送回路一体型マイクロ波発生素子においては、上部ストリップラインを構成する第一伝送線路12と第二伝送線路13とが直線状のものとなっているが、本発明の伝送回路一体型マイクロ波発生素子に第一伝送線路12と第二伝送線路13を上部ストリップラインとして利用する場合、第一伝送線路12と第二伝送線路13をそれぞれ、曲線状としたり、折れ線状の形状としてもよい。なお、図12に、それぞれ折れ線状の形状とした場合の第一伝送線路12と第二伝送線路13の好適な実施形態を模式的に示す。図12に示すように、第一伝送線路12及び第二伝送線路13の形状を直線状以外の形状とした場合においても、第一伝送線路12と第二伝送線路13とを効率よく磁気共鳴させることが可能であり、かかる形状とした場合においても、前記下部及び前記上部ストリップラインにおいて、伝送回路一体型マイクロ波発生素子の出力インピーダンスが、前記高周波素子の出力インピーダンスの2倍以上のインピーダンスになるようにインピーダンス変換することが可能である。また、第一伝送線路12及び第二伝送線路13の形状を、直線状以外の形状とした場合においても、第一伝送線路12と第二伝送線路13との間において効率よく磁気共鳴させるといった観点からは、各伝送線路(並列化した場合には一本ごとの線路)の一端(例えば、図11や図12のポートP1又はP2)から他端(開放端)までの電気長を、それぞれ、上述の式(2)や(3)に記載の条件を満たすものとすることが好ましい。また、第一伝送線路12の解放端は第二伝送線路の始点(ポートP2)に位置を合わせることが望ましい。このように、第一伝送線路12と第二伝送線路13は、それらを磁気共鳴させることが可能な構成であれば、適宜、その形状等を変更して利用できる。
また、上記実施形態の伝送回路一体型マイクロ波発生素子においては、共振周波数f2が周波数f0(共振周波数f1)よりもΔfの絶対値だけ小さな周波数となるように、共振周波数f2に関して、周波数をずらす方向を負の方向としている形態の素子1であるが、本発明においては、共振周波数f2に関して、周波数をずらす方向は特に制限されず、正の方向としてもよい。
また、上記実施形態の伝送回路一体型マイクロ波発生素子においては、上部ストリップラインを第一伝送線路12と第二伝送線路13とからなるものとし、下部ストリップラインを平面状のもの(グランドプレーン)としているが、上部ストリップライン及び下部ストリップラインの構造は上記形態に制限されるものではなく、本発明の伝送回路一体型マイクロ波発生素子においては、前記下部及び前記上部ストリップラインにおいて、該伝送回路一体型マイクロ波発生素子の出力インピーダンスが、前記高周波発振素子の出力インピーダンスの2倍以上のインピーダンスになるようにインピーダンス変換することが可能な構造とすればよく、例えば、下部ストリップラインを第一伝送線路12と第二伝送線路13とからなるものとしてもよい。
また、上記実施形態の伝送回路一体型マイクロ波発生素子においては、下部ストリップラインを平面状のもの(グランドプレーン)として利用しており、第一伝送線路12と第二伝送線路13とからなる上部ストリップラインと、下部ストリップラインとにおいて構造が異なるものとなっているが、本発明の伝送回路一体型マイクロ波発生素子においては、上部ストリップライン及び下部ストリップラインの構造は上記形態に制限されるものではなく、例えば、上部ストリップライン及び下部ストリップラインとを同じ形状として、いわゆるダイポールアンテナのようにして利用してもよい。このように、いわゆるダイポールアンテナのようにして、上部ストリップライン及び下部ストリップラインを利用した場合においても、上記実施形態と同様に、第一伝送線路及び第二伝送線路の設計を適切なものとすることで、かかる下部ストリップライン及び上部ストリップラインにおいて、伝送回路一体型マイクロ波発生素子の出力インピーダンスが、前記高周波発振素子の出力インピーダンスの2倍以上のインピーダンスになるように、インピーダンス変換させることが可能である。
このように、本発明の伝送回路一体型マイクロ波発生素子においては、前記下部及び前記上部ストリップラインにおいて、伝送回路一体型マイクロ波発生素子の出力インピーダンスが、前記高周波発振素子の出力インピーダンスの2倍以上のインピーダンスになるようにインピーダンス変換することが可能であればよく、前記下部及び前記上部ストリップラインの構成は特に制限されず、例えば、前記下部及び前記上部ストリップラインのうちのどちらか一方を、又は、これらの双方をそれぞれ、
前記高周波発振素子から出力されるマイクロ波の周波数f0に対して共振の第一伝送線路と、
前記マイクロ波の周波数f0と共振周波数f2との差Δfが周波数f0の±10〜30%(より好ましくは±10〜25%、更に好ましくは±10〜20%)の大きさとなるように、前記高周波発振素子から発振されるマイクロ波の周波数f0から共振周波数f2をずらした第二伝送線路(周波数のシフト量(前記差Δf)がf0の±10〜30%の大きさとなる周波数f2に対して共振の第二伝送線路)と、
を磁気共鳴するように組み合わせたものとしてもよい。
前記高周波発振素子から出力されるマイクロ波の周波数f0に対して共振の第一伝送線路と、
前記マイクロ波の周波数f0と共振周波数f2との差Δfが周波数f0の±10〜30%(より好ましくは±10〜25%、更に好ましくは±10〜20%)の大きさとなるように、前記高周波発振素子から発振されるマイクロ波の周波数f0から共振周波数f2をずらした第二伝送線路(周波数のシフト量(前記差Δf)がf0の±10〜30%の大きさとなる周波数f2に対して共振の第二伝送線路)と、
を磁気共鳴するように組み合わせたものとしてもよい。
また、上記実施形態の伝送回路一体型マイクロ波発生素子においては、第一伝送線路12と、第二伝送線路13は、いずれも端部(終端部)が開放の状態となっているが、本発明の伝送回路一体型マイクロ波発生素子に、第一伝送線路12と第二伝送線路13を上部ストリップラインとして利用する場合において、第一伝送線路12の終端部と第二伝送線路13の終端部の状態は、それぞれ独立に、開放の状態となっていてもよく、あるいは、短絡の状態となっていてもよい。なお、第一伝送線路12、第二伝送線路13に関して、終端部を短絡の状態とする場合には、その伝送線路における電気長を開放の状態の2倍とすればよい。
また、上記実施形態の伝送回路一体型マイクロ波発生素子においては、高周波発振素子として強磁性多層膜磁気抵抗素子を用い、かかる強磁性多層膜磁気抵抗素子を、上から磁化自由層10A/スペーサ層10B/磁化固定層10Cの順で積層された構成の磁気抵抗素子10としているが、本発明において、高周波発振素子として強磁性多層膜磁気抵抗素子を用いる場合、その強磁性多層膜磁気抵抗素子の構成は、上記実施形態のものに制限されるものではなく、例えば、磁化自由層と磁化固定層の上下位置が反対になってもよく、また、強磁性多層膜磁気抵抗素子に利用することが可能な他の層(例えば、素子自体に直接形成された取出し電極層、磁化固定層の磁化方向を保持すべく支援する支援層、磁化自由層の磁化方向を調整するための支援層、キャッピング層など)を適宜積層した構成としてもよい。例えば、素子10自体が上部電極/磁化自由層10A/スペーサ層10B/磁化固定層10C/下部電極の積層構造を有するものとなるように設計してもよい。
さらに、図7に示す実施形態においては、伝送回路一体型マイクロ波発生素子1にフィルタ等を接続してマイクロ波を出力しているが、本発明の伝送回路一体型マイクロ波発生素子を用いてマイクロ波を出力する場合の装置の構成は、これに制限されず、例えば、フィルタを利用しなくてもよい。また、本発明の伝送回路一体型マイクロ波発生素子は、これを用いてマイクロ波を出力するために、他の構成物(アンテナ等)は必ずしも利用しなくてもよく、例えば、上部ストリップライン及び下部ストリップラインからなるストリップライン(マイクロストリップライン)が、アンテナとしても機能するような構成として、外部にマイクロ波を出力してもよい。このように、本発明の伝送回路一体型マイクロ波発生素子は、用途に応じて、公知の高周波発振素子(例えば強磁性多層膜磁気抵抗素子)を利用したマイクロ波の発振器として利用し得る構成とすることができ、場合に応じて、他の構成物(アンテナやフィルタ等)を適宜利用すればよい。
また、上部ストリップラインが第一伝送線路と第二伝送線路からなる上記実施形態の伝送回路一体型マイクロ波発生素子においては、電極との接続部位から開放端までの長さL1及びL2に基づいて、伝送線路の好適な電気長を説明しているが、上部ストリップライン等の構成は、上記実施形態に示すものに制限されるものではなく、例えば、第一伝送線路と第二伝送線路を利用する場合においても、第二伝送線路13に、磁気共鳴に関与しない配線が更に結合しているような構成とする等、適宜、他の伝送線路と組み合わせてもよい。なお、この場合においては、磁気共鳴に関与する部分(ここにいう「磁気共鳴に関与する部分」とは、伝送線路のうちの磁気共鳴をさせるために必要となる部分をいう)の電気長が、上述の電気長L1及びL2の条件を満たすように設計することが好ましい。このように、上部ストリップラインが第一伝送線路と第二伝送線路を含む場合においても、上部ストリップラインの構成は、図1や図6に示すようなものに限定されるものではなく、本発明の効果を損なわない範囲で、電極と、第一及び/又は第二伝送線路との間の接続線(太さの異なる配線等)を適宜利用する等、その設計は適宜変更することができる。
以上、説明したように、本発明の伝送回路一体型マイクロ波発生素子は、高周波発振素子と、該高周波発振素子から発振されるマイクロ波を伝送するための下部ストリップライン及び上部ストリップラインとを備える伝送回路一体型マイクロ波発生素子であり、
前記高周波発振素子の出力インピーダンスが0.1〜25Ωであり、かつ、
前記下部及び前記上部ストリップラインにおいて、前記伝送回路一体型マイクロ波発生素子の出力インピーダンスが前記高周波発振素子の出力インピーダンスの2倍以上のインピーダンスになるようにインピーダンス変換して、前記高周波発振素子から発振されたマイクロ波を前記下部及び前記上部ストリップラインを利用して伝送するものであればよく、その具体的な形状や設計等は、上記実施形態のものに制限されるものではない。
前記高周波発振素子の出力インピーダンスが0.1〜25Ωであり、かつ、
前記下部及び前記上部ストリップラインにおいて、前記伝送回路一体型マイクロ波発生素子の出力インピーダンスが前記高周波発振素子の出力インピーダンスの2倍以上のインピーダンスになるようにインピーダンス変換して、前記高周波発振素子から発振されたマイクロ波を前記下部及び前記上部ストリップラインを利用して伝送するものであればよく、その具体的な形状や設計等は、上記実施形態のものに制限されるものではない。
このような本発明の伝送回路一体型マイクロ波発生素子は、0.1〜25Ωの出力インピーダンスを有する高周波発振素子(より好ましくは0.1〜25Ωの出力インピーダンスを有する強磁性多層膜磁気抵抗素子)を利用した場合においても、前記下部及び前記上部ストリップラインにおいて、インピーダンス変換してマイクロ波を前記下部及び前記上部ストリップラインを利用して伝送(伝搬)することが可能である。そのため、本発明によれば、高周波発振素子からのマイクロ波の出力Pを大きなものとして、伝送回路一体型マイクロ波発生素子から発振するマイクロ波の出力の向上を図ることが可能である。また、本発明の伝送回路一体型マイクロ波発生素子は、微小な高周波発振素子と、マイクロ波の伝送回路とを一体としたものであり、他に増幅器などを利用しなくても出力の向上を図ることが可能なものであるため、これを利用して通信装置の高出力化と小型化を図ることも可能とする。このように、本発明の伝送回路一体型マイクロ波発生素子は、増幅器を利用しなくてもマイクロ波の高出力化を図ることが可能なものであるため、例えば、携帯電話、無線通信、車載レーダ、衛星放送等で使用されるマイクロ波の発振器等に好適に利用することができる。
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
〔伝送回路の設計のシミュレーション〕
高周波発振素子に接続する伝送回路を、絶縁基板(材料:ガラス繊維樹脂)の一方の面に、図13に示すような構成の第一伝送線路12及び第二伝送線路13を形成し、かつ、該絶縁基板の他方の面に全体に亘って厚みが20μmの銅からなる下部ストリップライン(グランドプレーン)を形成した伝送回路とする場合を想定し、更に、前記高周波発振素子を5Ωの出力インピーダンスを有する素子(使用周波数:1GHz)とするとともに負荷(外部アンテナ)のインピーダンスを50Ωとする場合を想定して、以下のように、第一伝送線路12及び第二伝送線路13について、それぞれ周波数とインピーダンスとの関係を検討する。
〔伝送回路の設計のシミュレーション〕
高周波発振素子に接続する伝送回路を、絶縁基板(材料:ガラス繊維樹脂)の一方の面に、図13に示すような構成の第一伝送線路12及び第二伝送線路13を形成し、かつ、該絶縁基板の他方の面に全体に亘って厚みが20μmの銅からなる下部ストリップライン(グランドプレーン)を形成した伝送回路とする場合を想定し、更に、前記高周波発振素子を5Ωの出力インピーダンスを有する素子(使用周波数:1GHz)とするとともに負荷(外部アンテナ)のインピーダンスを50Ωとする場合を想定して、以下のように、第一伝送線路12及び第二伝送線路13について、それぞれ周波数とインピーダンスとの関係を検討する。
このような検討に際しては、絶縁基板として比誘電率εrが3.55でありかつ厚みが0.5mmであるものを利用することを想定し、上部ストリップラインの第一伝送線路(入力側伝送線路)12及び第二伝送線路(出力側伝送線路)13には線幅Wが0.3mmでかつ厚みが20μmの銅線を利用したものと想定する。更に、第一伝送線路12と第二伝送線路13の間の最近接の線路間(平行な部分)の距離Dは0.3mmであるものと想定する。なお、共振周波数(共振点)が1GHzとなる第一伝送線路12の電気長L1は、上記式(2)から算出すると36mmとなることが分かる。
このように各種条件を設定して、第一伝送線路12の周波数とインピーダンスとの関係をシミュレーションにより求め、次いで、かかる第一伝送線路の周波数とインピーダンスとの関係のグラフに基いて、第二伝送線路13の共振周波数(共振点)を変化(シフト)させた場合の周波数とインピーダンスの関係を示すグラフをシミュレーションにより求める。そして、このようにシミュレーションを行った場合に求めることが可能な、周波数と各線路のインピーダンスの関係を示すグラフ(シミュレーション)の一例を図14に示す。また、図14に示すようなシミュレーションのグラフから求めることが可能な、第二伝送線路13の共振周波数と使用周波数との差(Δf)と、高周波発振素子の使用周波数(第一伝送線路の共振周波数)におけるインピーダンスとの関係を示すグラフの一例を図15に示す。なお、図15に記載するグラフの横軸に関して、図14に示すグラフ(A)、(B)、(C)の特性を有する各第二伝送線路の共振点におけるシフト量(共振周波数と使用周波数との差)を、それぞれ、単に「グラフ(A)のシフト量」、「グラフ(B)のシフト量」、「グラフ(C)のシフト量」と表現している(なお、図15に記載するグラフの横軸に示すグラフ(A)〜(C)のシフト量(Δf)の値は、図14からも明らかなように、いずれも負の値である)。このようにシミュレーションにより図14及び図15に示すような周波数と各線路のインピーダンスの関係を求めた場合には、図13に示すような伝送回路を備える伝送回路一体型マイクロ波発生素子において、該伝送回路一体型マイクロ波発生素子の出力インピーダンスを負荷のインピーダンス(50Ω)と合わせるためには、図14に示すような第二伝送線路のインピーダンスに関する3つのグラフ(A)〜(C)のうち、真ん中のグラフ(B)のような特性を有する第二伝送線路を設計することが望ましいことが分かる(図15からもグラフ(B)のような特性を有する第二伝送線路を設計することが望ましいことが分かる)。このように、周波数と各線路(図14に示すグラフ(A)〜(C)の特性を有する各線路)のインピーダンスの関係から、第二伝送線路の最適な共振周波数を求めることができ、かかる共振周波数の値から、上記式(3)を計算して、第二伝送線路の電気長L2を計算することができる。なお、このようなシミュレーションに基いて伝送回路の設計を行う場合、その設計思想は、上記ステップS6において説明したものと同様であり、このようにして電気長L2を設計することで、目標とする伝送回路一体型マイクロ波発生素子の出力インピーダンスの大きさに応じて、最適な第二伝送線路を形成することが可能となることは明らかである。
〔伝送効率の測定試験(1)〕
絶縁基板(材料:ガラス繊維樹脂)の一方の面に、図13に示すような構成の第一伝送線路12及び第二伝送線路13を形成し、かつ、該絶縁基板の他方の面に全体に亘って厚みが20μmの銅からなる下部ストリップライン(グランドプレーン)を形成した伝送回路を、図13に示す第二伝送線路13のX2の部分の長さを変更しながら5個作成した(以下、かかる5個の伝送回路(測定用の試料)をそれぞれ伝送回路A〜Eと称する)。
絶縁基板(材料:ガラス繊維樹脂)の一方の面に、図13に示すような構成の第一伝送線路12及び第二伝送線路13を形成し、かつ、該絶縁基板の他方の面に全体に亘って厚みが20μmの銅からなる下部ストリップライン(グランドプレーン)を形成した伝送回路を、図13に示す第二伝送線路13のX2の部分の長さを変更しながら5個作成した(以下、かかる5個の伝送回路(測定用の試料)をそれぞれ伝送回路A〜Eと称する)。
ここにおいて、前記絶縁基板としては、比誘電率εrが3.55(カタログ値)でありかつ厚みが0.5mmであるものを利用した。また、第一伝送線路12及び第二伝送線路13はいずれも線幅Wが0.3mm、厚みが20μmの銅線からなるものとなるように設計し、更に、第一伝送線路12と第二伝送線路13の間の最近接の線路間(平行な部分)の距離Dは0.3mmとなるように設計した。また、第一伝送線路12の電気長L1は36mmとなるように設計した。なお、このような第一伝送線路12の電気長L1の設計は、上記式(2)から1GHzの周波数に対して共振となるように、電気長L1を算出することにより決定したものである。ただし、実際の伝送回路A〜Eの製造に際しては、その長さ等に多少のばらつきが生じ、伝送回路ごとに共振周波数が異なるものとなった(具体的な共振周波数については後述する)。
また、伝送回路A〜Eにおいては、それぞれ、第二伝送線路13の線路長L2を28mm〜40mmの範囲で変化させて、各伝送回路ごとに電気長L2の大きさが異なるものとなるようにした。なお、図13において、第二伝送線路13の線路長L2は、長さX1と長さX2と距離D(長さD)の和(=X1+X2+D)である。また、各伝送回路において、実際に製造した第二伝送線路13の線路長L2はそれぞれ、伝送回路A:28mm(共振点:1.07GHz)、伝送回路B:30mm(共振点:1.00GHz)、伝送回路C:32mm(共振点:0.94GHz)、伝送回路D:36mm(共振点:0.84GHz)、伝送回路E:40mm(共振点:0.76GHz)となった。
なお、第一伝送線路と第二伝送線路において、線路長と共振点(共振周波数)の関係に違いがあるが(第一伝送線路は線路長36mmで1GHzに対して共振となるように設計したものであるが、第二伝送線路では第一伝送線路の理論値(36mm)よりも6mm短い線路長30mmとした場合に1GHzに対して共振となっている)、これは、各伝送線路の形状の違いから第二伝送線路により多くの浮遊容量が発生するため、第一伝送線路と比較して第二伝送線路において線路長に対して共振点がより低くなることに起因する。
また、伝送回路A〜Eの製造時には、前述のように、各伝送線路の長さ、幅及び厚み、並びに、基板の誘電率、等に多少のばらつきが生じたため、伝送回路A〜Eの間で第一伝送線路の共振周波数は必ずしも一致せず、その値にわずかにばらつきが生じた。そして、各伝送回路において、第一伝送線路の共振周波数は、それぞれ、伝送回路Aでは1.03GHz、伝送回路Bでは1.04GHz、伝送回路Cでは1.05GHz、伝送回路Dでは1.02GHz、伝送回路Eでは1.02GHzとなった。
このようにして製造した伝送回路A〜Eをそれぞれ用いて、ベクトルネットワークアナライザ(キーエンス社製の商品名「E5071C」)のポートインピーダンス変換機能を使用して、ポートP1のポートインピーダンスを5Ωとし、ポートP2のインピーダンスを50Ωとして、ポートP1からポートP2に、周波数0.8GHzから1.4GHzのマイクロ波を入力し、各伝送線路ごとに、マイクロ波の使用周波数を第一伝送線路の共振周波数と同じ大きさの周波数とした場合のマイクロ波の伝送効率を求めた。このようにして、出力インピーダンスが5Ωでありかつ使用周波数が1GHz付近である高周波発振素子を利用する場合を想定して、各伝送回路の伝送効率を測定した。なお、ここにいう伝送効率としては、ベクトルネットワークアナライザで測定されるSパラメータのS21の値を利用し、かかるS21のピーク値を2乗することにより(式:[伝送効率]=(S21ピーク)2を計算することにより)求められる値を採用した。得られた結果を図16に示す。なお、図16は、第二伝送線路13の共振点の周波数が、マイクロ波の使用周波数に対して変化(シフト)した量(マイクロ波の使用周波数からのシフト量(変化割合)Δf(%))と、使用周波数における伝送効率ηとの関係を示すグラフである。また、伝送回路A、B、C、D及びEに対する使用周波数、第二伝送線路の共振点における周波数の計算値、並びに、使用周波数に対するシフト量Δfの割合は、それぞれ、線路長L2の長さを28mmとした伝送回路Aについて、使用周波数は1.03GHz、第二伝送線路の共振周波数は1.07GHz(マイクロ波の使用周波数からのシフト量(変化割合)Δfは+3.8%);線路長L2の長さを30mmとした伝送回路Bについて、使用周波数は1.04GHz、第二伝送線路の共振周波数は1.00GHz(Δfは−4.1%);線路長L2の長さを32mmとした伝送回路Cについて、使用周波数は1.05GHz、第二伝送線路の共振周波数は0.94GHz(Δfは−10.3%);線路長L2の長さを36mmとした伝送回路Dについて、使用周波数は1.02GHz、第二伝送線路の共振周波数は0.84GHz(Δfは−17.6%);、線路長L2の長さを40mmとした伝送回路Eについて、使用周波数は1.02GHz、第二伝送線路の共振周波数は0.76GHz(Δfは−25.7%);であった。
図16に示す結果からも明らかなように、各伝送回路の使用周波数における伝送効率はそれぞれ90%(伝送回路A)、94%(伝送回路B)、95%(伝送回路C)、91%(伝送回路D)、87%(伝送回路E)であった。また、このような結果からも明らかなように、第二伝送線路13の共振点の周波数がマイクロ波の使用周波数から10.3%減少させた周波数となる伝送回路Cを利用した場合に伝送効率が最大となることが確認された。このような結果から、上記条件の伝送線路を利用した場合には、マイクロ波の使用周波数f0に対して共振の第一伝送線路12と、マイクロ波の使用周波数f0からのシフト量Δfが−10.3%となる周波数f2に対して共振の第二伝送線路13とを組み合わせた場合にマイクロ波の伝送効率が最大となることが分かった。
このように、マイクロ波の使用周波数f0に対して共振の第一伝送線路12(線路長L1:36mm)と、マイクロ波の使用周波数f0から10.3%減少させた周波数に対して共振の第二伝送線路13(線路長L2:32mm)とを利用した伝送回路Cにおいては、その使用周波数における伝送効率ηの結果から、第二伝送線路の出力インピーダンスをポートP2のインピーダンス50Ωと整合することが可能となっていることが分かる。また、伝送回路A〜Eにおいては、第一伝送線路と第二伝送線路とが並行となっており磁気結合の生じる配置であることが明らかであることから、1GHz付近の周波数のマイクロ波をポートP1から入力した場合に、第一及び第二の伝送線路間で磁気共鳴させることが可能となり、これにより、第一及び第二の伝送線路を用いてマイクロ波を効率よく伝送できるものとなったことが分かる。また、伝送効率の測定に際して、ポートP1のインピーダンスを5Ω、ポートP2のインピーダンスを50Ωとしているのに対して、伝送回路Cにおいては、共振点を周波数f0からずらして、周波数f0における第二伝送線路のインピーダンスを増加させることにより、第二伝送線路の出力インピーダンスとポートP2のインピーダンスを整合させることを可能としていることから、1GHz付近の周波数のマイクロ波をポートP1から入力した場合に、上部ストリップラインと下部ストリップラインとによりインピーダンスが10倍となるようにインピーダンス変換され、これによりマイクロ波を効率よく伝送できるものとなったことが分かる。
このような結果から、伝送回路Cを利用した場合には5Ωといった出力インピーダンスの小さな高周波発振素子を利用した場合に、50Ωの負荷へのマイクロ波の使用周波数における伝送効率を十分に向上させることが可能であることが分かった。なお、5Ωといった出力インピーダンスの小さな高周波発振素子を利用した場合には通常電流Iを十分に大きな値とすることができることから、上述のような伝送回路Cを備える伝送回路一体型マイクロ波発生素子によれば、マイクロ波の高出力化を図ることが可能であることは明らかである。
〔伝送効率の測定試験(2)〕
第二伝送線路12に接続するポートP2のインピーダンスの条件を50Ωから75Ωに変更した以外は、上記伝送効率の測定試験(1)と同様にして、使用周波数における伝送効率を求めた。得られた結果を、伝送効率の測定試験(1)の測定結果と合わせて図17に示す。
第二伝送線路12に接続するポートP2のインピーダンスの条件を50Ωから75Ωに変更した以外は、上記伝送効率の測定試験(1)と同様にして、使用周波数における伝送効率を求めた。得られた結果を、伝送効率の測定試験(1)の測定結果と合わせて図17に示す。
図17に示す結果からも明らかなように、伝送効率の測定試験(2)における各伝送回路の使用周波数における伝送効率ηはそれぞれ65%(伝送回路A)、72%(伝送回路B)、79%(伝送回路C)、86%(伝送回路D)、100%(伝送回路E)であった。また、このような結果からも明らかなように、ポートP2のインピーダンスの条件を75Ωとした場合には、マイクロ波の使用周波数f0からのシフト量(変化割合)Δfが−25.7%となる伝送回路Eにおいて使用周波数における伝送効率が最大となった。このような結果から、マイクロ波の使用周波数f0に対して共振の第一伝送線路12と、マイクロ波の使用周波数f0から周波数を25.7%減少させた場合の周波数に対して共振の第二伝送線路13とを組み合わせた場合に使用周波数における伝送効率が最大となることが分かった。
このような結果から、マイクロ波の使用周波数f0に対して共振の第一伝送線路12(線路長L1)と、マイクロ波の使用周波数から−25.7%シフトさせた場合の周波数に対して共振の第二伝送線路13(線路長L2)とを利用した伝送回路Eにおいては、その伝送効率の結果から、第二伝送線路の出力インピーダンスがポートP2のインピーダンス75Ωと整合することが可能となっていることが分かる。また、伝送回路Eにおいては、第一伝送線路と第二伝送線路とが並行となっており磁気結合の生じる配置であることが明らかであることから、1GHz付近の周波数のマイクロ波をポートP1から入力した場合に、第一及び第二の伝送線路間で磁気共鳴させることが可能となり、これにより、第一及び第二の伝送線路を用いてマイクロ波を効率よく伝送できるものとなったことが分かる。また、伝送効率の測定に際して、ポートP1のインピーダンスを5Ω、ポートP2のインピーダンスを75Ωとしているのに対して、伝送回路Eにおいては、共振点を周波数f0からのシフト量が−25.7%となるように大幅にずらして、周波数f0における第二伝送線路のインピーダンスを大きく増加させることにより、第二伝送線路の出力インピーダンスとポートP2のインピーダンスを整合させることを可能としていることから、1GHzの周波数のマイクロ波をポートP1から入力した場合に、上部ストリップラインと下部ストリップラインとによりインピーダンスが15倍となるようにインピーダンス変換され、これによりマイクロ波を効率よく伝送できるものとなったことが分かる。なお、5Ωといった出力インピーダンスの小さな高周波発振素子を利用した場合には通常電流Iを十分に大きな値とすることができることから、上述のような伝送回路Eを備える伝送回路一体型マイクロ波発生素子によって、マイクロ波の高出力化を図ることが可能であることは明らかである。
このような伝送効率の測定試験(1)及び(2)に示す結果から、上述のような第一伝送線路及び第二伝送線路を利用する場合には、第一伝送線路の共振周波数の値を基準として、第二伝送線路の共振周波数の値との差(共振周波数の変化量(シフト量))を変化させることにより、伝送回路におけるインピーダンスの変換割合を変更することができることが明らかとなり、負荷のインピーダンスの大きさに応じて、その設計を適宜変更することで、より伝送効率のよい伝送回路一体型マイクロ波発生素子を提供することが可能となることが分かる。
以上説明したように、本発明によれば、増幅器を利用しなくてもマイクロ波の高出力化を図ることが可能な伝送回路一体型マイクロ波発生素子を提供することが可能となる。したがって、本発明の伝送回路一体型マイクロ波発生素子は、携帯電話、無線通信、車載レーダ、衛星放送等で使用されるマイクロ波の発振器等として有用である。
1…伝送回路一体型マイクロ波発生素子、10…強磁性多層膜磁気抵抗素子、10A…磁化自由層、10B…スペーサ層、10C…磁化固定相、11…入力側の上部電極(入力側電極)、12…第一伝送線路(入力側伝送線路)、13…第二伝送線路(出力側伝送線路)、14…出力側の上部電極、15…絶縁層、16A…入力側の下部電極(グラウンド電極)、16B…出力側の下部電極(グラウンド電極)、17…下部ストリップライン、18…基板、L1…第一伝送線路の電気長(線路長)、L2…第二伝送線路の電気長(線路長)、W…線幅、D…第一伝送線路と第二伝送線路との間の距離(ギャップ)、H…強磁性多層膜磁気抵抗素子の高さ(厚み)、T…強磁性多層膜磁気抵抗素子中のスペーサ層の厚み、R…強磁性多層膜磁気抵抗素子中の磁化自由層の上面の直径、20…直流電源、30…フィルタ、40…アンテナ、P1〜P2…伝送回路のポート(ターミナル)。
Claims (3)
- 高周波発振素子と、該高周波発振素子から発振されるマイクロ波を伝送するための下部ストリップライン及び上部ストリップラインとを備える伝送回路一体型マイクロ波発生素子であり、
前記高周波発振素子の出力インピーダンスが0.1〜25Ωであり、かつ、
前記下部及び前記上部ストリップラインにおいて、前記伝送回路一体型マイクロ波発生素子の出力インピーダンスが前記高周波発振素子の出力インピーダンスの2倍以上のインピーダンスになるようにインピーダンス変換して、前記高周波発振素子から発振されたマイクロ波を前記下部及び前記上部ストリップラインを利用して伝送するものであることを特徴とする伝送回路一体型マイクロ波発生素子。 - 前記下部及び前記上部ストリップラインのうちの少なくとも一方が、
前記高周波発振素子から発振されるマイクロ波の周波数f0に対して共振の伝送線路となるように、共振周波数f1を前記高周波発振素子から発振されるマイクロ波の周波数f0に合わせた第一伝送線路と、
前記高周波発振素子から発振されるマイクロ波の周波数f0と共振周波数f2との差Δfが周波数f0の±10〜30%の大きさとなるように、前記高周波発振素子から発振されるマイクロ波の周波数f0から共振周波数f2をずらした第二伝送線路と、
を磁気共鳴するように組み合わせてなるものであることを特徴とする請求項1に記載の伝送回路一体型マイクロ波発生素子。 - 前記下部及び前記上部ストリップラインにおいて、前記伝送回路一体型マイクロ波発生素子の出力インピーダンスが50〜75Ωとなるようにインピーダンス変換することを特徴とする請求項1又は2に記載の伝送回路一体型マイクロ波発生素子。
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JP2020063593A JP2021164048A (ja) | 2020-03-31 | 2020-03-31 | 伝送回路一体型マイクロ波発生素子 |
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2020
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