以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。但し、以下の実施形態は本発明を限定するものではなく、また、本実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが本発明の解決手段に必須のものとは限らない。また、実施形態に記載されている構成要素の相対配置、形状等はあくまで例示であり、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
〔第1実施形態〕
図1は、本実施形態で使用するインクジェット記録装置1(以下、記録装置1)の内部構成図である。図において、x方向は水平方向、y方向(紙面垂直方向)は後述する記録ヘッド8において吐出口が配列される方向、z方向は鉛直方向をそれぞれ示す。
記録装置1は、プリント部2とスキャナ部3を備える複合機であり、記録動作と読取動作に関する様々な処理を、プリント部2とスキャナ部3で個別にあるいは連動して実行することができる。スキャナ部3は、ADF(オートドキュメントフィーダ)とFBS(フラットベッドスキャナ)を備えており、ADFによって自動給紙される原稿の読み取りと、ユーザによってFBSの原稿台に置かれた原稿の読み取り(スキャン)を行うことができる。なお、本実施形態はプリント部2とスキャナ部3を併せ持った複合機であるが、スキャナ部3を備えない形態であってもよい。図1は、記録装置1が記録動作も読取動作も行っていない待機状態にあるときを示す。
プリント部2において、筐体4の鉛直方向下方の底部には、記録媒体(カットシート)Sを収容するための第1カセット5Aと第2カセット5Bが着脱可能に設置されている。第1カセット5AにはA4サイズまでの比較的小さな記録媒体が、第2カセット5BにはA3サイズまでの比較的大きな記録媒体が、平積みに収容されている。第1カセット5A近傍には、収容されている記録媒体を1枚ずつ分離して給送するための第1給送ユニット6Aが設けられている。同様に、第2カセット5B近傍には、第2給送ユニット6Bが設けられている。記録動作が行われる際にはいずれか一方のカセットから選択的に記録媒体Sが給送される。
搬送ローラ7、排出ローラ12、ピンチローラ7a、拍車7b、ガイド18、インナーガイド19およびフラッパ11は、記録媒体Sを所定の方向に導くための搬送機構である。搬送ローラ7は、記録ヘッド8の上流側および下流側に配され、不図示の搬送モータによって駆動される駆動ローラである。ピンチローラ7aは、搬送ローラ7と共に記録媒体Sをニップして回転する従動ローラである。排出ローラ12は、搬送ローラ7の下流側に配され、不図示の搬送モータによって駆動される駆動ローラである。拍車7bは、記録ヘッド8の下流側に配される搬送ローラ7および排出ローラ12と共に記録媒体Sを挟持して搬送する。
ガイド18は、記録媒体Sの搬送経路に設けられ、記録媒体Sを所定の方向に案内する。インナーガイド19は、y方向に延在する部材で湾曲した側面を有し、当該側面に沿って記録媒体Sを案内する。フラッパ11は、両面記録動作の際に、記録媒体Sが搬送される方向を切り替えるための部材である。排出トレイ13は、記録動作が完了し排出ローラ12によって排出された記録媒体Sを積載保持するためのトレイである。
本実施形態の記録ヘッド8は、フルラインタイプのカラーインクジェット記録ヘッド(ラインヘッド)であり、記録データに従ってインクを吐出する吐出口が、図1におけるy方向に沿って記録媒体Sの幅に相当する分だけ複数配列されている。即ち、記録ヘッド8は、複数色のインクを吐出可能に構成されている。記録ヘッド8が待機位置にあるとき、記録ヘッド8の吐出口面8aは、図1のように鉛直下方を向きキャップユニット10によってキャップ(被覆)されている。記録動作を行う際は、後述するプリントコントローラ202によって、吐出口面8aがプラテン9と対向するように記録ヘッド8の向きが変更される。プラテン9は、y方向に延在する平板によって構成され、記録ヘッド8によって記録動作が行われる記録媒体Sを背面から支持する。記録ヘッド8の待機位置から記録位置への移動については、後に詳しく説明する。
インクタンクユニット14は、記録ヘッド8へ供給される4色のインクをそれぞれ貯留する。インク供給ユニット15は、インクタンクユニット14と記録ヘッド8を接続する流路の途中に設けられ、記録ヘッド8内のインクの圧力および流量を適切な範囲に調整する。本実施形態では循環型のインク供給系を採用しており、インク供給ユニット15は記録ヘッド8へ供給されるインクの圧力と記録ヘッド8から回収されるインクの流量を適切な範囲に調整する。
メンテナンスユニット16は、キャップユニット10とワイピングユニット17を備え、所定のタイミングにこれらを作動させて、記録ヘッド8に対するメンテナンス動作を行う。メンテナンス動作については後に詳しく説明する。
図2は、記録装置1における制御構成を示すブロック図である。制御構成は、主にプリント部2を統括するプリントエンジンユニット200と、スキャナ部3を統括するスキャナエンジンユニット300と、記録装置1全体を統括するコントローラユニット100によって構成されている。プリントコントローラ202は、コントローラユニット100のメインコントローラ101の指示に従ってプリントエンジンユニット200の各種機構を制御する。スキャナエンジンユニット300の各種機構は、コントローラユニット100のメインコントローラ101によって制御される。以下に制御構成の詳細について説明する。
コントローラユニット100において、CPUにより構成されるメインコントローラ101は、ROM107に記憶されているプログラムや各種パラメータに従って、RAM106をワークエリアとしながら記録装置1全体を制御する。例えば、ホストI/F102またはワイヤレスI/F103を介してホスト装置400から印刷ジョブが入力されると、メインコントローラ101の指示に従って、画像処理部108が受信した画像データに対して所定の画像処理を施す。そして、メインコントローラ101はプリントエンジンI/F105を介して、画像処理を施した画像データをプリントエンジンユニット200へ送信する。
なお、記録装置1は無線通信や有線通信を介してホスト装置400から画像データを取得しても良いし、記録装置1に接続された外部記憶装置(USBメモリ等)から画像データを取得しても良い。無線通信や有線通信に利用される通信方式は限定されない。例えば、無線通信に利用される通信方式として、Wi−Fi(Wireless Fidelity)(登録商標)やBluetooth(登録商標)が適用可能である。また、有線通信に利用される通信方式としては、USB(Universal Serial Bus)等が適用可能である。また、例えばホスト装置400から読取コマンドが入力されると、メインコントローラ101は、スキャナエンジンI/F109を介してこのコマンドをスキャナ部3に送信する。
操作パネル104は、ユーザが記録装置1に対して入出力を行うための機構である。ユーザは、操作パネル104を介してコピーやスキャン等の動作を指示したり、印刷モードを設定したり、記録装置1の情報を認識したりすることができる。
プリントエンジンユニット200において、CPUにより構成されるプリントコントローラ202は、ROM203に記憶されているプログラムや各種パラメータに従って、RAM204をワークエリアとしながら、プリント部2が備える各種機構を制御する。コントローラI/F201を介して各種コマンドや画像データが受信されると、プリントコントローラ202は、これを一旦RAM204に保存する。記録ヘッド8が記録動作に利用できるように、プリントコントローラ202は画像処理コントローラ205に、保存した画像データを記録データへ変換させることで、記録ヘッド8が記録動作に利用できるようにする。
記録データが生成されると、プリントコントローラ202は、ヘッドI/F206を介して記録ヘッド8に記録データに基づく記録動作を実行させる。この際、プリントコントローラ202は、搬送制御部207を介して図1に示す給送ユニット6A、6B、搬送ローラ7、排出ローラ12、フラッパ11を駆動して、記録媒体Sを搬送する。プリントコントローラ202の指示に従って、記録媒体Sの搬送動作に連動して記録ヘッド8による記録動作が実行され、印刷処理が行われる。
ヘッドキャリッジ制御部208は、記録装置1のメンテナンス状態や記録状態といった動作状態に応じて記録ヘッド8の向きや位置を変更する。インク供給制御部209は、記録ヘッド8へ供給されるインクの圧力が適切な範囲に収まるように、インク供給ユニット15を制御する。メンテナンス制御部210は、記録ヘッド8に対するメンテナンス動作を行う際に、メンテナンスユニット16におけるキャップユニット10やワイピングユニット17の動作を制御する。
スキャナエンジンユニット300においては、メインコントローラ101が、ROM107に記憶されているプログラムや各種パラメータに従って、RAM106をワークエリアとしながら、スキャナコントローラ302のハードウェアリソースを制御する。これにより、スキャナ部3が備える各種機構は制御される。
例えばコントローラI/F301を介してメインコントローラ101がスキャナコントローラ302内のハードウェアリソースを制御することにより、ユーザによってADFに搭載された原稿を、搬送制御部304を介して搬送し、センサ305によって読み取る。そして、スキャナコントローラ302は読み取った画像データをRAM303に保存する。なお、プリントコントローラ202は、上述のように取得された画像データを記録データに変換することで、記録ヘッド8に、スキャナコントローラ302で読み取った画像データに基づく記録動作を実行させることが可能である。
図3は、記録装置1が記録状態にあるときを示す。図1に示した待機状態と比較すると、キャップユニット10が記録ヘッド8の吐出口面8aから離間し、吐出口面8aがプラテン9と対向している。本実施形態において、プラテン9の平面は水平方向に対して約45度傾いており、記録位置における記録ヘッド8の吐出口面8aも、プラテン9との距離が一定に維持されるように水平方向に対して約45度傾いている。
記録ヘッド8を図1に示す待機位置から図3に示す記録位置に移動する際、プリントコントローラ202は、メンテナンス制御部210を用いて、キャップユニット10を図3に示す退避位置まで降下させる。これにより、記録ヘッド8の吐出口面8aは、キャップ部材10aと離間する。その後、プリントコントローラ202は、ヘッドキャリッジ制御部208を用いて記録ヘッド8の鉛直方向の高さを調整しながら45度回転させ、吐出口面8aをプラテン9と対向させる。記録動作が完了し、記録ヘッド8が記録位置から待機位置に移動する際は、プリントコントローラ202によって上記と逆の工程が行われる。
次に、プリント部2における記録媒体Sの搬送経路について説明する。記録コマンドが入力されると、プリントコントローラ202は、まず、メンテナンス制御部210およびヘッドキャリッジ制御部208を用いて、記録ヘッド8を図3に示す記録位置に移動する。その後、プリントコントローラ202は搬送制御部207を用い、記録コマンドに従って第1給送ユニット6Aおよび第2給送ユニット6Bのいずれかを駆動し、記録媒体Sを給送する。
次に、記録ヘッド8に対するメンテナンス動作について説明する。図1でも説明したように、本実施形態のメンテナンスユニット16は、キャップユニット10とワイピングユニット17とを備え、所定のタイミングにこれらを作動させてメンテナンス動作を行う。
図4は、記録装置1がメンテナンス状態のときの図である。記録ヘッド8を図1に示す待機位置から図4に示すメンテナンス位置に移動する際、プリントコントローラ202は、記録ヘッド8を鉛直方向において上方に移動させるとともにキャップユニット10を鉛直方向下方に移動させる。そして、プリントコントローラ202は、ワイピングユニット17を退避位置から図4における右方向に移動させる。その後、プリントコントローラ202は、記録ヘッド8を鉛直方向下方に移動させメンテナンス動作が可能なメンテナンス位置に移動させる。
一方、記録ヘッド8を図3に示す記録位置から図4に示すメンテナンス位置に移動する際、プリントコントローラ202は、記録ヘッド8を45度回転させつつ鉛直方向上方に移動させる。そして、プリントコントローラ202は、ワイピングユニット17を退避位置から右方向に移動させる。その後プリントコントローラ202は、記録ヘッド8を鉛直方向下方に移動させて、メンテナンスユニット16によるメンテナンス動作が可能なメンテナンス位置に移動させる。
図5(a)はメンテナンスユニット16が待機ポジションにある状態を示す斜視図であり、図5(b)はメンテナンスユニット16がメンテナンスポジションにある状態を示す斜視図である。図5(a)は図1に対応し、図5(b)は図4に対応している。
記録ヘッド8が待機位置にあるとき、メンテナンスユニット16は図5(a)に示す待機ポジションにあり、キャップユニット10は鉛直方向上方に移動しており、ワイピングユニット17はメンテナンスユニット16の内部に収納されている。キャップユニット10はy方向に延在する箱形のキャップ部材10aを有し、これを記録ヘッド8の吐出口面8aに密着させることにより、吐出口からのインクの蒸発を抑制することができる。また、キャップユニット10は、キャップ部材10aに予備吐出等で吐出されたインクを回収し、回収したインクをポンプ(不図示)に吸引させる機能も備えている。
一方、図5(b)に示すメンテナンスポジションにおいて、キャップユニット10は鉛直方向下方に移動しており、ワイピングユニット17がメンテナンスユニット16から引き出されている。ワイピングユニット17は、ブレードワイパユニット171とバキュームワイパユニット172の2つのワイパユニット(ワイピング手段)を備えている。
ブレードワイパユニット171には、吐出口面8aをx方向に沿ってワイピングするためのブレードワイパ171aが吐出口の配列領域に相当する長さだけy方向に配されている。ブレードワイパユニット171を用いてワイピング動作を行う際、ワイピングユニット17は、記録ヘッド8がブレードワイパ171aに当接可能な高さに位置決めされた状態で、ブレードワイパユニット171をx方向に移動する。この移動により、吐出口面8aに付着するインクなどはブレードワイパ171aに拭き取られる。
ブレードワイパ171aが収納される際のメンテナンスユニット16の入り口には、ブレードワイパ171aに付着したインクを除去するとともにブレードワイパ171aにウェット液を付与するためのウェットワイパクリーナ16aが配されている。ブレードワイパ171aは、メンテナンスユニット16に収納される度にウェットワイパクリーナ16aによって付着物が除去されウェット液が塗布される。そして、次に吐出口面8aをワイピングしたときにウェット液を吐出口面8aに転写し、吐出口面8aとブレードワイパ171a間の滑り性を向上させている。
一方、バキュームワイパユニット172は、y方向に延在する開口部を有する平板172aと、開口部内をy方向に移動可能なキャリッジ172bと、キャリッジ172bに搭載されたバキュームワイパ172cとを有する。バキュームワイパ172cは、キャリッジ172bの移動に伴って吐出口面8aをy方向にワイピング可能に配されている。
バキュームワイパ172cの先端には、吸引ポンプ24(図8(b)参照)に接続された吸引口としての開口部26aが形成されている(図6(b)参照)。このため、吸引ポンプを作動させながらキャリッジ172bをy方向に移動すると、記録ヘッド8の吐出口面8aに付着したインク等は、バキュームワイパ172cによって拭き寄せられながら開口部26aに吸い込まれる。この際、平板172aと開口部の両端に設けられた位置決めピン172dは、バキュームワイパ172cに対する吐出口面8aの位置合わせに利用される。
本実施形態では、ブレードワイパユニット171によるワイピング動作を行いバキュームワイパユニット172によるワイピング動作を行わない第1のワイピング処理と、両方のワイピング処理を順番に行う第2のワイピング処理を実施することができる。第1のワイピング処理を行う際、プリントコントローラ202は、まず、記録ヘッド8を図4のメンテナンス位置よりも鉛直方向上方に退避させた状態で、ワイピングユニット17をメンテナンスユニット16から引き出す。
そして、プリントコントローラ202は、記録ヘッド8をブレードワイパ171aに当接可能な位置まで鉛直方向下方に移動させた後、ワイピングユニット17をメンテナンスユニット16内へ移動させる。この移動により、吐出口面8aに付着するインク等はブレードワイパ171aに拭き取られる。すなわち、ブレードワイパ171aは、メンテナンスユニット16から引き出された位置からメンテナンスユニット16内へ移動する際に吐出口面8aをワイピングする。
ブレードワイパユニット171が収納されると、プリントコントローラ202は、次にキャップユニット10を鉛直方向上方に移動させ、キャップ部材10aを記録ヘッド8の吐出口面8aに密着させる。そして、プリントコントローラ202は、その状態で記録ヘッド8を駆動して予備吐出を行わせ、キャップ部材10a内に回収されたインクを吸引ポンプによって吸引する。
一方、第2のワイピング処理を行う際、プリントコントローラ202は、まず、記録ヘッド8を図4のメンテナンス位置よりも鉛直方向上方に退避させた状態で、ワイピングユニット17をメンテナンスユニット16からスライドさせて引き出す。そして、プリントコントローラ202は、記録ヘッド8をブレードワイパ171aに当接可能な位置まで鉛直方向下方に移動させた後、ワイピングユニット17をメンテナンスユニット16内へ移動させる。これにより、ブレードワイパ171aによるワイピング動作が吐出口面8aに対して行われる。
次に、プリントコントローラ202は、再び記録ヘッド8を図4のメンテナンス位置よりも鉛直方向上方に退避させた状態で、ワイピングユニット17をメンテナンスユニット16からスライドさせて所定位置まで引き出す。続いて、プリントコントローラ202は、記録ヘッド8を図4に示すワイピング位置に下降させながら、平板172aと位置決めピン172dを用いて吐出口面8aとバキュームワイパユニット172の位置決めを行う。その後、プリントコントローラ202は、上述したバキュームワイパユニット172によるワイピング動作を実行する。プリントコントローラ202は、記録ヘッド8を鉛直方向上方に退避させ、ワイピングユニット17を収納した後、第1のワイピング処理と同様に、キャップユニット10によるキャップ部材10a内への予備吐出と回収したインクの吸引動作を行う。
図6から図9を参照しながら、バキュームワイパユニット172の詳細な構成について説明する。バキュームワイパユニット172を用いる回復動作としてのワイピング動作(以下、「バキュームワイピング」あるいは「バキュームワイピング動作」と適宜に称する。)は、上記のように第2のワイピング処理においてブレードワイパユニットによるワイピング動作後に実行される。
まず、図6を参照しながら、バキュームワイパ172cの構成について説明する。図6(a)は、キャリッジ172bに搭載されたバキュームワイパ172cを示す図である。図6(b)は、図6(a)のIXb−IXb線断面図である。
バキュームワイパ172cは、吐出口面8aと当接して負圧を作用させることが可能な開口部26aを備え、往方向に移動することにより吐出口面8aを払拭可能な構成となっている。バキュームワイパ172cは、記録ヘッド8の吐出口面8aに当接する弾性部材26と、弾性部材26を支持する支持部材28とを備えている。
支持部材28はz方向に立設され、上端28aaが開口した中空の凸部28aを備えている。支持部材28には、チューブ22を介して吸引ポンプ24(図8参照)が接続されており、プリントコントローラ202の制御に基づく吸引ポンプ24の駆動により凸部28a内が減圧される。また、支持部材28は、z方向に所定範囲内で移動可能に構成されており、バネなどの付勢部材30により矢印A方向に付勢されている。バキュームワイパ172cは、吐出口面8aとの当接によって押し込まれ、付勢部材30の付勢力に抗して矢印B方向に移動することとなる。従って、バキュームワイパ172cと吐出口面8aが当接したときには、バキュームワイパ172cは付勢部材30の付勢力によって吐出口面8aを押圧した状態となる。
弾性部材26は、その内部に支持部材28の凸部28aが挿嵌されている。また、弾性部材26はz方向に立設され、その先端が凸部28aの上端28aaよりも高い位置に位置するように設計されている。なお、バキュームワイパ172cと吐出口面8aが当接するときには、吐出口面8aと弾性部材26が当接し、吐出口面8aと支持部材28は当接しないように、バキュームワイパ172cと記録ヘッド8とのz方向の位置関係が調整されている。
弾性部材26は、例えばゴムなど、吐出口面8aと当接しながら移動しても吐出口面8aや吐出口面8aに設けられた吐出ユニット81(図9(b)参照)を損傷し難い材料により形成されている。また、弾性部材26は、その先端に開口部26aを備えている。この開口部26aは、バキュームワイパ172cが吐出口面8aの吸引準備面8ab(図9(b)参照)に当接したときには、吸引準備面8abによって密閉される。また、開口部26aは、x方向に対して所定角度だけ傾斜するように形成されている。
次に、図7を参照しながら、バキュームワイパ172cを搭載したキャリッジ172bの移動機構について説明する。図7(a)は、キャリッジ172bが位置する平板172aの開口部172aaの一方の端部近傍の拡大図である。図7(b)は、キャリッジ172bの移動機構の概略構成図である。
本実施形態では、キャリッジ172bを含むキャリッジ172bの移動機構が、バキュームワイパ172cの移動手段として機能している。バキュームワイパユニット172では、バキュームワイパ172cが搭載されたキャリッジ172bがy方向に延在する一対のガイドレール172eの摺動可能に設けられている。
このキャリッジ172bは、プリントコントローラ202の制御に基づいて駆動するバキュームワイプモータ32によってy方向に往復移動する。具体的には、平板172aにおける開口部172aaの一端から他端へ向かう往方向への移動と、他端から一端へ向かう復方向への移動を行う。なお、バキュームワイピング動作を実行しないときには、図7(b)のように、キャリッジ172bは開口部172aaの一方の端部に位置することとなる。このように、キャリッジ172bに搭載されたバキュームワイパ172cは、キャリッジ172bを介してy方向で往復移動可能な構成となっている。
本実施形態では、バキュームワイピング動作は、キャリッジ172bを介してバキュームワイパ172cが往方向(所定方向)へ移動するときのみに行われる。バキュームワイプモータ32は、ギア34を介してプーリ36と接続されている。プーリ36は、開口部172aaの他方の端部側に位置し、一方の端部側に位置するアイドラプーリ38との間にベルト40が張設されている。従って、ベルト40はバキュームワイプモータ32の駆動によって回動する。
ベルト40はy方向に延在するように配置されている。また、ベルト40にはキャリッジ172bが固定されている。従って、ベルト40の回動によりキャリッジ172bはガイドレール172eに沿って移動することとなり、ベルト40の回動方向によってキャリッジ172bの移動方向が決定される。また、バキュームワイプモータ32には、バキュームワイプモータ32の回転量および回転方向などを検知可能なロータリーエンコーダ33が接続されている。プリントコントローラ202は、このロータリーエンコーダ33による検知結果に基づいて、キャリッジ172bの移動方向や移動量などを検知する。
次に、図8を参照しながら、バキュームワイパ172cの吸引機構について説明する。図8(a)は、キャリッジ172bに搭載されたバキュームワイパ172cとチューブ22を介して接続された吸引機構の概略構成図である。図8(b)は、図8(a)の吸引機構を模式的に示す構成図である。
キャリッジ172bに搭載されたバキュームワイパ172cは、流路としてのチューブ22を介して吸引ポンプ24などにより構成される吸引機構に接続されている。吸引機構は、吸引ポンプ24と、吸引ポンプ24を駆動する吸引モータ42と、所定の容量の幾を収容可能であって吸引ポンプ24により内部空間を減圧可能なバッファタンク44とを備えている。また、バッファタンク44と流路46を介して接続される廃インクタンク48と、バッファタンク44内の圧力を測定可能なゲージ圧センサ50(圧力検知手段)とを備えている。
吸引ポンプ24は、バッファタンク44と廃インクタンク48とを接続する流路46に設けられている。吸引ポンプ24を駆動する吸引モータ42は、プリントコントローラ202により制御される。そして、プリントコントローラ202の制御により吸引モータ42によって吸引ポンプ24を駆動して、バッファタンク44内を減圧する。このとき、プリントコントローラ202は、ゲージ圧センサ50によってバッファタンク44内の圧力を監視し、所定の圧力に達すると吸引モータ42を介して吸引ポンプ24を停止することとなる。
また、バッファタンク44はバルブ52を介してチューブ22に接続されている。従って、バルブ52を開けるとバッファタンク44はチューブ22を介してバキュームワイパ172cと連通し、バルブ52を閉めるとバッファタンク44はチューブ22を介してバキュームワイパ172cとの連通状態が解除される。バキュームワイピングによりバキュームワイパ172cから吸引されたインクや異物などは、チューブ22やバッファタンク44などを介して廃インクタンク48に集められる。
また、バルブ52が開いた状態(バッファタンク44がバキュームワイパ172cと接続された状態)において、チューブ22内(流路内)の圧力はバッファタンク44と同等の圧力状態となる。そのため、ゲージ圧センサ50によって実質的にチューブ22内やチューブ22と接続されたバキュームワイパ172cにおける圧力値を検知可能となる。
なお、吸引ポンプ24は、チューブ(不図示)を介してキャップユニット10に接続されており、キャップ部材10a内に回収されたインクを吸引可能となっている。従って、バルブ52の開閉処理により、吸引ポンプ24を駆動するとバキュームワイパ172cまたはキャップユニット10のうち一方から択一的に吸引されることとなる。
図9(a)は、バキュームワイピング開始時に、バキュームワイパ172cに記録ヘッド8の吐出口面8aが当接した状態を示す図である。図9(b)は、バキュームワイピング開始時に、バキュームワイパ172cと当接する吐出口面8aにおける吸引準備面8ab近傍を示す図である。図9(c)は、バキュームワイパ172cが吸引準備面8abに当接した状態を示す図である。図9(d)は、図9(c)に示す状態からバキュームワイパ172cを所定量だけ往方向に移動した状態を示す図である。なお、図9(c)(d)では、バキュームワイパ172cを簡素化して示している。バキュームワイパ172cの詳しい制御については後述する。
図10は、メンテナンス制御部の詳細を表したブロック図である。メンテナンス制御部210はキャップモータドライバ1001を介してキャップモータ1002と接続され、吸引ポンプ・バルブドライバ1003を介して吸引ポンプ・バルブモータ42(吸引モータ42とも言う)と接続されている。また、メンテナンス制御部210はメンテナンスユニットモータドライバ1005を介してメンテナンスユニットモータ1006と接続され、バキュームワイパモータドライバ1007を介してバキュームワイプモータ32と接続されている。さらに、メンテナンス制御部210は、大気圧センサ1009、ゲージ圧センサ50およびタイマ1010を持つ。
図11は、記録装置1を平地に設置した状態でバキュームワイピング動作を行った場合に、ゲージ圧センサ50により検知される圧力(負圧)のプロファイルを示した図である。本実施形態において平地とは、標高約2000m未満程度の土地とする。インクジェット式の記録ヘッド8は、吐出口の周囲に付着したゴミ、吐出口内の泡、および吐出口で増粘したインクなどにより吐出不良が発生する場合がある。吐出不良を解消する手段として、バキュームワイパ172cにより吐出口に負圧を掛けることにより、記録ヘッド8内部のインクを吸引して吐出性能を回復するバキュームワイピング動作を行う。
詳細は図13または図14を用いて後述するが、バキュームワイピング動作において、まず吐出口面8aのうち吸引準備面8abとバキュームワイパ172cとで密閉空間を形成した状態で吸引ポンプ24を駆動して密閉空間を減圧する。ゲージ圧センサ50により取得される値を参照しながら、密閉空間を目標負圧(例えば−60KPa)まで減圧する。以降でこの工程を減圧工程(減圧動作)と呼ぶ。
その後、目標負圧に到達したら吸引ポンプ24を止めて、バキュームワイプモータ32を駆動してキャリッジ172bを移動させることで吐出口面8a(吐出口)に負圧を作用させる。負圧の作用により、吐出口を介して記録ヘッド8からインクが吸引される。以降でこの工程を吸引工程(吸引動作)と呼ぶ。
バキュームワイパ172cは、キャリッジ172bの移動により吐出口面8aと当接しながら移動する過程で外気が流入し、負圧値は徐々に小さくなる。そのため、ゲージ圧センサ50により測定される負圧値が閾値としてのポンプ駆動開始負圧まで弱まった場合は、吸引ポンプ24をもう一度駆動する。吸引ポンプ24の駆動により、再び目標負圧まで負圧が強まったら吸引ポンプ24を停止する。バキュームワイピング動作において、このような吸引ポンプ24の駆動再開と駆動停止の動作を繰り返す。
図12は、記録装置1を高地に設置した状態でバキュームワイピング動作を行った場合に、ゲージ圧センサ50により検知される圧力(負圧)のプロファイルを示した図である。本実施形態における高地とは、標高約2000m以上の土地とする。上述したバキュームワイピング動作による記録ヘッド8の回復性能を保証するためには、大気圧との差(ゲージ圧)が所望の圧力に到達する必要がある。しかしながら、高地は平地と比較して大気圧が低いため、所望のゲージ圧まで減圧するために時間がかかり、もともと設定された減圧時間(減圧工程を実行する時間)内では目標負圧まで減圧しきれないことがある。
従来のバキュームワイピング動作は、減圧工程に所定時間としての上限時間(例えば30秒)を設けており、目標負圧に到達しなかった場合でも上限時間が経過したら減圧工程を打ち切ることがあった。そのため、例えば記録装置1が高地に設置されている場合は、吐出口に対して十分な負圧を作用させることができず、回復性能が低下してしまう虞があった。
これに対して本実施形態では、減圧工程の上限時間内(所定時間内)に所定値としての目標負圧に到達しない場合は、吸引工程により負圧を作用させる作用時間(吸引時間)を延長する。すなわち、バキュームワイパ172cの移動速度を遅くすることで負圧を作用させる作用時間を延長する。これにより、回復性能の低下を抑制し、上限時間内に目標負圧に到達した場合と同様の回復性能を保証することができる。以下でその具体的な方法について説明する。
本実施形態では、減圧工程において上限時間内に所定の目標負圧に到達しなかった場合は、吸引工程の作用時間を以下に示す式(1)に基づいて算出された時間に変更する。
移動速度=標準速度×(目標負圧/測定負圧)・・・式(1)
ここで、標準速度とは、記録装置1を平地に設置した場合などの、通常状態でバキュームワイパ172cを移動させる速度である(図11、12参照)。また、測定負圧は減圧工程の上限時間経過時においてゲージ圧センサ50により測定される負圧である。なお、式(1)は適切な作用時間を算出するための計算式の一例であり、算出方法をこれに限定するものではない。例えば、吸引工程における吸引量が測定負圧によらず一律になるように、目標負圧と測定負圧の比に所定の係数を掛ける方法を採用してもよい。
また、減圧工程において上限時間内に負圧が目標負圧に到達しない原因として、記録装置1が設置された環境の大気圧が低いことの他に、記録装置1本体の不良である場合もある。しかしながら、上述したように減圧工程の上限時間内に目標負圧に到達したかどうかを判断するだけでは、記録装置1本体の不良を正しく判定することができない。
そこで本実施形態では、上限時間の経過時の圧力値(測定負圧)をエラー判定負圧と比較し、エラー判定負圧に到達しなかった場合は装置本体の不良と判定する。比較対象とするエラー判定負圧は、以下に示す式(2)に基づいて算出される可変の閾値である。
エラー判定負圧=標準エラー判定負圧×(大気圧/標準気圧)・・・式(2)
ここで、標準エラー判定負圧は、記録装置1を平地に設置した場合を想定して予め設定された閾値である。大気圧は、記録装置1が備える大気圧センサ1009により測定された大気圧であり、標準気圧は101325Paである。
なお、大気圧センサ1009の設けられる場所は記録装置1に制限されない。例えば、記録装置1外に設けられた大気圧センサ1009の値を読み込んでエラー判定負圧を算出する形態であってもよい。
また、式(2)はエラー判定負圧を算出する数式の一例であり、算出方法をこれに限定するものではない。例えば、大気圧と標準気圧の比に所定の係数を掛ける方法を採用しても良い。
図13は、本実施形態のバキュームワイピング処理を示すフローチャートである。図13を用いて本実施形態のバキュームワイピング処理の流れを説明する。このバキュームワイピング処理は、プリントコントローラ202がメンテナンス制御部210を用いることで実行される。
バキュームワイピング処理が開始されると、まずS1601で大気圧センサ1009により測定された大気圧を取得し、S1602にて式(2)を用いてエラー判定負圧を計算する。
S1603で、記録ヘッド8を図4に示すメンテナンス位置よりも重力方向の上方に退避させる。そして、S1604にてワイピングユニット17をメンテナンスユニット16からスライドさせてメンテナンスポジション(所定位置)まで引き出す。所定位置とは、記録ヘッド8がワイピング位置まで下降した際に、バキュームワイパ172cが吐出口面8a(吸引準備面8ab)と当接し、かつ、往方向へ移動することで吐出口面8aをバキュームワイピングすることが可能な位置とする。
その後、記録ヘッド8を図4に示すメンテナンス位置まで降下させる(S1605)。このとき、キャリッジ172bは開口部172aaの一方の端部(初期位置)に位置し、キャリッジ172bに搭載されたバキュームワイパ172cは、吐出口面8aの吸引準備面8abと当接する(図9(a)参照)。また、このとき、バキュームワイパ172cは、付勢部材30の付勢力に抗して矢印C方向に移動するとともに、当該付勢力によって所定の圧力で吸引準備面8abと当接する。
次に、バキュームワイプモータ32を駆動して、吐出口面8aに当接した状態でバキュームワイパ172cを往方向に所定量だけ移動させる(S1606)。その後、S1607で、バルブ52の制御によって吸引ポンプ24とバキュームワイパ172cが連通した状態で、吸引モータ42の駆動を開始し、タイマ1010による計時を開始する。吸引ポンプ24の駆動により、バッファタンク44の内部と、バッファタンク44と連通するバキュームワイパ172cの内部も減圧される。S1607が減圧工程に相当する。
その後、S1608で、ゲージ圧センサ50により取得される負圧が目標負圧(本実施形態では−60KPa)に到達したか判定する。さらに、S1609でタイマ1010による計時結果を取得し、吸引ポンプ24の駆動時間(減圧工程の経過時間)が減圧上限時間(本実施形態では30秒)に到達したか判定する。
S1608にて目標負圧に到達した場合は、S1610にて吸引ポンプ24の駆動を停止する。その後、バキュームワイパ172cを吐出口面8aに当接した状態で往方向に移動させて、吐出口面8aに配置された吐出ユニット81の各吐出口に対してバキュームワイピングを行う(S1615)。この場合のバキュームワイパ172cの移動速度は、予め設定された標準速度である。
一方、S1608にて目標負圧に到達する前に、S1609にて吸引ポンプ24の駆動時間が上限時間に到達した場合は、S1611にて吸引ポンプ24の駆動を停止する。その後S1612にて、吸引ポンプ24の駆動時間が上限時間に到達した時点においてゲージ圧センサ50により取得された測定負圧がエラー判定負圧より強い負圧値か判定する。すなわち、測定負圧の絶対値がエラー判定負圧の絶対値よりも大きいか判定する。
取得された測定負圧がエラー判定閾値よりも弱い負圧値である場合は、記録装置1本体の不良と判断して、S1613にてエラー処理をする。具体的には、操作パネル104やプリンタドライバを介してユーザに対して記録装置1のエラーを通知する。
取得された測定負圧がエラー判定閾値よりも強い負圧値である場合は、S1614で式(1)を用いて測定負圧に応じた移動速度を算出する。また、S1614にて吸引ポンプ24の駆動を再び開始する。そして、S1615にて算出された移動速度によりバキュームワイパ172cを移動させることで、吐出ユニット81の各吐出口に対してバキュームワイピングを行う。すなわち、上限時間内に測定負圧が目標負圧に到達しなかった場合は、吸引ポンプ24の駆動を継続した状態でバキュームワイパ172cを移動させる。
ここで、吐出口面8aには、吐出ユニット81、枠部82、封止部83および配線封止部84が設けられている。吐出ユニット81は封止部83上に配置されており、吐出ユニット81に接続される配線は配線封止部84により封止されている。封止部83は、吐出ユニット81および枠部82に対して凹形状となっている。また、配線封止部84は、吐出ユニット81および枠部82に対して凸形状となっている。
さらに、各吐出ユニット81は、バキュームワイパ172cの移動方向(y方向)に対して傾斜して配置されている。バキュームワイパ172cは、付勢部材30により吐出口面8aに押圧されているため、上述した吐出口面8aの凹凸に対してある程度は追従することができる。しかしながら、吐出ユニット81は移動方向に複数配設されているため、その移動速度に応じて追従できない箇所が発生し、バキュームワイパ172cの開口部26aから外気が流入してしまう。
本実施形態では、バッファタンク44とともにバキュームワイパ172cの内部を減圧しているため、開口部26aから外気が流入しても、開口部26aにおいて吐出口などに作用する負圧が急激に低下することはない。しかしながら、バキュームワイパ172cの移動に伴って外気が流入するため、バキュームワイパ172cおよびバッファタンク44内の負圧は徐々に弱くなってしまう。
そこで、本実施形態では、S1616にてバキュームワイパ172cの往方向への移動中に、バッファタンク44内の圧力が所定の負圧値(ポンプ駆動開始負圧)より弱くなったか否かを判断する。すなわち、S1616において、ゲージ圧センサ50により測定された負圧が、ポンプ駆動開始負圧よりも弱い負圧値となったか判定する。
測定された負圧が所定の負圧よりも弱い場合は、吸引モータ42を駆動して吸引ポンプ24による吸引を再開する(S1617)。なお、このときバキュームワイパ172cは往方向への移動を継続している。その後、ゲージ圧センサ50により取得される圧力値が目標負圧に到達したか判定し(S1618)、到達していない場合は吸引ポンプ24の駆動を継続し、到達した場合はS1619にて吸引ポンプ24を停止する。
なお、上限時間内に測定負圧が目標負圧に到達しなかった場合は、吸引ポンプ24の駆動を継続しているため、S1616においてポンプ駆動開始負圧よりも強い負圧値が測定される。
このように、本実施形態では、バキュームワイピング中は、吸引ポンプ24の駆動および停止を繰り返して、バッファタンク44の内部およびバキュームワイパ172cの内部の圧力を所定範囲内(目標負圧とポンプ駆動開始負圧との間)に維持する。
S1620において、バキュームワイパ172cがバキュームワイピング終了位置まで移動したか判定し、終了位置まで移動していない場合はS1616に戻り、終了位置まで移動している場合はバキュームワイピング処理を終了する。
バキュームワイピング処理が終了すると、プリントコントローラ202により記録ヘッド8を重力方向の上方に移動させ、ワイピングユニット17から退避させる。記録ヘッド8が退避した後、プリントコントローラ202により、キャリッジ172bを復方向に移動させてバキュームワイピング前の初期位置に戻す。
このように、減圧工程の上限時間経過時の測定負圧に応じて、吸引工程における作用時間を可変にすることで、平地に比べて大気圧が低い高地においても所望の回復性能を維持することができる。さらに、取得された測定負圧と比較するためのエラー判定閾値を大気圧に応じて可変にすることで、記録装置1の設置環境に依らず、記録装置1本体の不良を正しく検知することができる。
ここで、S1606においてバキュームワイパ172cを往方向に所定量移動する目的について説明する。S1605で記録ヘッド8が下降することにより、吐出口面8aと当接するバキュームワイパ172cは、図9(c)に示すように、弾性部材26の先端(上端)面26b全体が吸引準備面8abと当接する。この状態では、吸引準備面8abと当接する先端面26bの単位面積あたりの付勢力は低く、弾性部材26の開口部26aや吸引準備面8abの微小な凹凸に追従できない場合がある。これにより、減圧工程においてバキュームワイパ172cと吸引準備面8abとの間から外気が流入し易くなる。
これに対して本実施形態では、バキュームワイパ172cが吸引準備面8abと当接した状態で往方向に所定量だけ移動することで、図9(d)に示すように、弾性部材26の先端面26bが、そのエッジで吸引準備面8abと当接することとなる。このため、吸引準備面8abに対する先端面26bの当接面積が小さくなり、吸引準備面8abと当接する先端面26bの単位面積あたりの付勢力が高くなる。これにより、弾性部材26の開口部26aや吸引準備面8abの微小な凹凸に追従することができるようになり、減圧工程においてバキュームワイパ172cと吸引準備面8abとの間から外気が流入するのを抑制することができる。
従って、上記所定量としては、吸引準備面8abに対して弾性部材26が先端面26bの全体で当接した状態から、先端面26bのエッジで当接した状態となるまでの移動量が設定される。また、上記所定量は、バキュームワイパ172cにおける弾性部材26の形状および材質などによって異なり、その量は例えば実験的に求められる。
なお、気圧が低い設置環境において回復性能を維持する方法として、吸引工程の作用時間を、大気圧センサ1009の測定値に応じて可変にする方法も考えられる。しかしながら、減圧工程の上限時間経過時の測定負圧は、大気圧のみならず、吸引ポンプ24の寸法ばらつきによる個体差、耐久劣化および使用環境温度などに応じて変化する。そのため、これらのばらつき要因に対して包括的に対応するため、本実施形態では減圧工程の上限時間における測定負圧に応じて吸引工程の作用時間を変更する方法を採用する。
〔第2実施形態〕
以下、図面を参照して第2実施形態を説明する。第1実施形態では、吸引工程における作用時間を延ばすためにバキュームワイパ172cの移動速度を落としたが、第2実施形態ではバキュームワイピング動作の回数を増やすことで吸引工程の作用時間を増やす。本実施形態の基本的な構成は第1実施形態と同様であるため、以下では特徴的な構成についてのみ説明する。
図14は、第2実施形態のバキュームワイピング処理を示すフローチャートである。このバキュームワイピング処理は、プリントコントローラ202がメンテナンス制御部210を用いることで実行される。
第2実施形態では、S1602の後にS1701にてバキュームワイピング動作の繰り返し回数をカウントするためのnを0とする。その後、S1608にてゲージ圧センサ50により取得される負圧が目標負圧に到達した場合は、S1702にて繰り返し回数を1に設定する。
一方、S1608にて目標負圧に到達する前にS1609にて吸引ポンプ24の駆動時間が上限時間に到達した場合は、S1612にて測定負圧がエラー判定負圧よりも強い負圧値か判定する。測定負圧がエラー判定値よりも弱い負圧値の場合はS1613に進みエラー処理をする。S1612にて測定負圧がエラー判定閾値よりも強い負圧値の場合は、S1703にて繰り返し回数を2に設定し、吸引ポンプ24の駆動を再開する。
その後、S1615〜S1620の工程を進めた後、S1704にてn=n+1とし、S1705にてnが繰り返し回数に到達したか判定する。繰り返し回数が1に設定されている場合は、nが繰り返し回数に到達するためバキュームワイピング動作を終了する。一方繰り返し回数が2に設定されている場合は、S1706にて記録ヘッド8を上方に異動させてワイピングユニット17から一度対比させた後、S1708にてキャリッジ172bを復方向に移動させてバキュームワイピング前の初期位置に戻す。その後、S1605に戻って、再度バキュームワイピング動作を実施する。
このように、減圧工程の上限時間経過時における測定負圧に応じてバキュームワイピング動作の実施回数を多くすることで、記録装置1の設置環境によらず所望の回復性能を維持することができる。
なお、上述した実施形態において、「インク」は広く解釈されるべきものである。従って、「インク」の概念は、記録媒体上に付与されることによって画像、模様、パターン等を形成する液体の他、記録媒体の加工、インクの処理(例えば、記録媒体に付与されるインク中の色剤の凝固または不溶化)等に供され得る付随的な液体をも含み得る。