JP2021141000A - 燃料電池用セパレータ材及びその製造方法 - Google Patents

燃料電池用セパレータ材及びその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】プレス成型時に基材表面に設けられた表面層の剥離が抑制されたセパレータ材とその製造方法の提供。【解決手段】チタン基材2と、チタン基材2の上に形成された表面層3と、を備え、表面層3は、チタン層4と、チタン層4中に分散した炭素粒子5と、を含む、燃料電池用セパレータ材1。さらに炭素粒子5がカーボンブラックであり、またチタン層4とチタン基材2が直接接している燃料電池用セパレータ材1。またチタン基材2の表面に炭素粒子5を塗布する塗布工程と、前記塗布工程の後に、チタン基材2を酸化雰囲気下で熱処理し、酸化チタン層を形成する酸化処理工程と、前記酸化処理工程の後に、チタン基材2を非酸化雰囲気下で熱処理し、前記酸化チタン層をチタン層4に還元する還元処理工程と、を含む、燃料電池用セパレータ材1の製造方法。【選択図】図1

Description

本開示は、燃料電池用セパレータ材及びその製造方法に関する。
燃料電池は、固体高分子電解質膜をアノード電極とカソード電極とで挟んだ構造体を単セルとして備える。また、燃料電池は、ガス(水素、酸素等)の流路となる溝が形成されたセパレータ(バイポーラプレートとも呼ばれる)を介して前記単セルを複数個重ね合わせたスタックとして構成される。燃料電池は、スタックあたりのセル数を増やすことで、出力を高くすることができる。
燃料電池用のセパレータは、発生した電流を冷却水(FCC)が流れる面を介して隣のセルに流す役割も担っている。そのため、セパレータを構成するセパレータ材には、高い導電性及びその高い導電性が燃料電池のセル内の雰囲気中においても長期間維持されることが要求される。ここで、高い導電性とは、接触抵抗が低いことを意味する。また、接触抵抗とは、電極とセパレータ表面との間で、界面現象のために電圧降下が生じることをいう。
このような要求を満たすべく、例えば、特許文献1には、純チタン又はチタン合金からなる基材上に、酸化チタンとカーボンブラックが混合した混合層が形成されており、前記酸化チタンが結晶性のルチルを含み、前記混合層中のカーボンの結合状態をX線光電子分光分析により分析した際に検出されたカーボンのうちの70%以上がC−C結合を有するカーボンブラック単体として存在していることを特徴とする燃料電池用セパレータ材が開示されている。特許文献1には、カーボンブラックは導電性に優れており、また、酸化チタンは耐食性に優れているため、特許文献1に記載の燃料電池用セパレータ材は高い導電性及び導電耐久性を有することが記載されている。
特開2016−122642号公報
燃料電池用セパレータの製造において、燃料電池用セパレータ材はプレス成型されてガスや冷却水の通り道となる流路が形成される。プレス成型の際、溝の幅を狭くして流路をより多く形成することにより、発電効率を向上させることができる。そのため、溝の幅を狭くして流路の本数を増やすようにプレス成型することが望ましい。ここで、特許文献1に記載の酸化チタンは結晶性のルチル(二酸化チタン、TiO)であり、ルチル型の二酸化チタンは比較的靱性が低い。そのため、特許文献1に記載のセパレータ材を溝の幅を狭くした条件でプレス成型すると、ルチル型の二酸化チタンがチタン基材の変形に追従できずに混合層が剥離する場合がある。混合層の剥離が生じると、導電性が得られなくなる。そこで、プレス成型時に基材表面に設けられた表面層の剥離が抑制されたセパレータ材の開発が求められている。
本開示の課題は、表面層の剥離が抑制されたセパレータ材を提供することである。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、チタン基材上に、チタン層中に炭素粒子が分散した構造を有する表面層を形成することにより、プレス成型時に剥離が抑制されたセパレータ材を提供できることを見出した。
そこで、本実施形態の態様例は以下の通りである。
(1)チタン基材と、
前記チタン基材の上に形成された表面層と、
を備え、
前記表面層は、チタン層と、前記チタン層中に分散した炭素粒子と、を含む、燃料電池用セパレータ材。
(2)前記炭素粒子がカーボンブラックである、(1)に記載の燃料電池用セパレータ材。
(3)前記チタン層及び前記チタン基材が直接接している、(1)又は(2)に記載の燃料電池用セパレータ材。
(4)(1)〜(3)のいずれか1つに記載の燃料電池用セパレータ材の製造方法であって、
前記チタン基材の表面に前記炭素粒子を塗布する塗布工程と、
前記塗布工程の後に、前記チタン基材を酸化雰囲気下で熱処理し、酸化チタン層を形成する酸化処理工程と、
前記酸化処理工程の後に、前記チタン基材を非酸化雰囲気下で熱処理し、前記酸化チタン層をチタン層に還元する還元処理工程と、
を含む、燃料電池用セパレータ材の製造方法。
本開示により、表面層の剥離が抑制されたセパレータ材を提供することができる。
本実施形態に係る燃料電池用セパレータ材の構成を説明する概略断面図である。 本実施形態に係る燃料電池用セパレータ材の製造方法を説明するフローチャートである。 塗布工程S2でチタン基材2の表面に炭素粒子5を塗布した状態を示した概略断面図である。 図3Aに続き、酸化処理工程S3を行った状態を示す概略断面図である。 図3Bに続き、還元処理工程S4を行った状態を示す概略断面図である。 試験片の接触抵抗値の測定方法を説明するための模式図である。
本実施形態は、チタン基材と、前記チタン基材の上に形成された表面層と、を備え、前記表面層は、チタン層と、前記チタン層中に分散した炭素粒子と、を含む、燃料電池用セパレータ材である。
本実施形態に係る燃料電池用セパレータ材は、チタン層を含み、該チタン層は靱性に優れるため、チタン基材の変形に追従し易い。そのため、溝の幅を狭くする等の厳しい条件でプレス成型した場合でも、表面層の剥離が生じ難く、その結果、炭素粒子を含む表面層による導電性をプレス後でも効果的に維持可能である。
以下、適宜図面を参照して、本実施形態に係る燃料電池用セパレータ材及びその製造方法について詳細に説明する。
<燃料電池用セパレータ材>
図1は、本実施形態に係る燃料電池用セパレータ材の構成を説明する概略断面図である。図1に示すように、本実施形態に係る燃料電池用セパレータ材1は、チタン基材2上に、表面層3が形成されている。表面層3は、チタン層4と、該チタン層4中に分散した炭素粒子5とを含む。炭素粒子5は、表面層3のマトリックスとしてのチタン層4中に炭素粒子5が埋まっている。なお、該断面は、基材の面方向に対して平行な面による断面であってもよく、面方向に対して垂直な面による断面であってもよく、面方向に対して斜めとなる面による断面であってもよい。炭素粒子5は、チタン層4の表面(図1において上側の面)からチタン層4とチタン基材2との界面まで分散しており、電流を流す導電パスとして存在する。
チタン基材は、純チタン又はチタン合金から構成される基材である。純チタンとしては、例えば、JIS H 4600に規定されるものを挙げることができる。また、チタン合金としては、例えば、Ti−Al、Ti−Nb、Ti−Ta、Ti−6Al−4V、Ti−Pdを挙げることができる。ただし、いずれの場合もこれらの例示に限定されるものではない。純チタン又はチタン合金製のチタン基材は、軽く、耐食性に優れている。また、チタン基材の表面に表面層に被覆されずに露出している部分があったとしても、燃料電池内の高温酸性雰囲気(例えば、80℃、pH2)でチタン又はチタン合金が溶出せず、固体高分子膜を劣化させる恐れがない。
チタン基材は、例えば、冷間圧延材である。
チタン基材の厚さは、例えば、0.05〜1mmである。厚さがこの範囲であると、セパレータの軽量化及び薄型化の要求を満足し易く、セパレータ材としての強度及びハンドリング性を備える。そのため、セパレータ材をセパレータの形状にプレス加工することが比較的容易となる。チタン基材の形状は、コイル状に巻かれた長尺帯状であってもよく、所定の寸法に切断された枚葉紙状であってもよい。
炭素粒子は、炭素で構成される粒子であり、例えば、カーボンブラック、黒鉛、Bドーピングダイヤモンド粒子、Nドーピングダイヤモンド粒子等が挙げられる。炭素粒子は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。カーボンブラックは、無定形炭素から成る鎖状構造を持つ炭素粒子である。カーボンブラックは、その製造方法によってファーネスブラック、アセチレンブラック又はサーマルブラック等に分類されるが、いずれも使用可能である。黒鉛としては、人造黒鉛又は天然黒鉛が挙げられる。
炭素粒子の平均粒径は、20〜200nmであることが好ましい。炭素粒子の平均粒径が20nm以上である場合、後述の酸化処理工程における酸化による消滅を抑制し易くなる。また、炭素粒子の平均粒径が200nm以下である場合、表面層中に保持し易くなる。なお、この平均粒径(一次粒子径)は、透過型電子顕微鏡画像(TEM画像)において無作為に選択した100個の炭素粒子の直径(円相当径)の平均値である。
チタン層は、主にチタンから構成される層である。表面層において、チタン層中に導電性を有する炭素粒子が含有されている。該炭素粒子は、電流を流す導電パスとしての役割を果たす。通常、チタン層の表面には、酸化により約10nm程度の厚さの不動態膜が形成されている。この不動態膜は導電性に劣るが、表面層中に含まれている炭素粒子の存在により、本実施形態に係るセパレータ材は、優れた導電性を有する。また、カーボンブラック等の炭素粒子は酸化に対して安定であるため、導電性が安定的に維持される。また、チタン層は、チタン基材と直接接していることが好ましい。表面層が追従性に優れるチタン層を有することにより、プレス成型時における表面層の剥離が抑制される。具体的には、例えば、溝の幅を狭くした条件(例えば、溝の間隔が200μm以下)でプレス成型する場合でも、表面層のチタン層がチタン基材の変形に追従するため、表面層の剥離が抑制される。
チタン層は、実質的にチタンから構成されるが、本開示の効果の発生を妨げない程度に、他の元素を含んでもよい。チタン層中のチタンの含有量は、例えば、90質量%以上であり、95質量%以上であることが好ましい。チタン層中のチタンの含有量は、例えば、X線光電子分光法(XPS)により測定することができる。また、後述するように、チタン層は、例えば、酸化チタン層の還元により形成することができる。剥離性の観点からは、酸化チタン層はチタン層に完全に還元されることが好ましいが、チタン層には若干の酸素が残存してもよい。この場合、チタン層は、TiOとしても表され得るが、xは0.1以下であることが好ましい。TiOのxの値は、透過型電子顕微鏡(TEM)に電子エネルギー損失分光法(EELS)を組み合わせたTEM−EELSを用いて、TiのL端のエネルギーシフト量を求めることにより測定することができる。このエネルギーシフト量は、金属チタンのエネルギーを基準としており、TiOのxと相関がある。
表面層の厚さは、20〜200nmであることが好ましい。表面層の厚さが20nm以上である場合、炭素粒子を保持し易くなり、導電性を効果的に向上することができる。また、表面層の厚さが200nm以下である場合、チタン層を酸化チタンの還元処理により形成する際に、炭素粒子とチタン層の界面にTiCが形成されるのを抑制し易くなる。具体的には、表面層の厚さが200nm以下である場合、チタン層を形成するための酸化チタン層の処理時間を短くすることができ、その結果、炭素粒子とチタン層の界面におけるTiCの形成を抑制し易くなる。TiCは、燃料電池の使用環境下において腐食し易い傾向がある。
表面層の断面(面方向に垂直な面による断面)の反射電子画像を三次元走査電子顕微鏡(3D−SEM)により取得した際、該反射電子画像におけるチタンに相当する部分(明るい部分)の面積(STi)と炭素粒子に相当する部分(暗い部分)の面積(S)が以下の式(1)を満たすことが好ましい。
20%≦S/(S+STi)×100≦80%・・・(1)
「S/(S+STi)×100」が20%以上である場合、十分な量の炭素粒子を表面層中に含有させることができ、導電性を効果的に向上させることができる。「S/(S+STi)×100」が80%以下である場合、チタン層を十分な量とすることができ、炭素粒子を保持することができる。
なお、表面層の上に、炭素粒子の層が形成されていてもよい。この炭素粒子の層は、例えば、表面層の形成に用いられた炭素粒子が残存したものである。また、一実施形態において、このような炭素粒子の層は、洗浄等により除去される。また、表面層はチタン基材の片面のみに形成してもよく、チタン基材の両面に形成してもよい。
<燃料電池用セパレータ材の製造方法>
図2は、本実施形態に係る燃料電池用セパレータ材の製造方法を説明するためのフローチャートである。図2に示すように、本実施形態に係る燃料電池用セパレータ材の製造方法は、塗布工程S2と、酸化処理工程S3と、還元処理工程S4と、を含み、これらの工程がこの順で行われる。本実施形態に係る燃料電池用セパレータ材の製造方法により、図1に示すような本実施形態に係る燃料電池用セパレータ材1を効率的に製造することができる。
(塗布工程)
本実施形態に係る製造方法は、チタン基材の表面に炭素粒子を塗布する塗布工程を含む。図3Aは、塗布工程S2によりチタン基材2の表面に炭素粒子5が塗布された状態を示す模式図である。
炭素粒子は、炭素粒子を分散させた水性や油性の分散液(分散塗料とも称す)の形態でチタン基材上に塗布することができる。また、炭素粒子は、チタン基材上に直接塗布することもできる。
炭素粒子を含む分散塗料は、バインダー樹脂及び/又は界面活性剤を含んでもよい。しかし、バインダー樹脂や界面活性剤は、導電性を低下させる傾向があるため、これらの含有量は可能な限り少ない方が好ましい。また、分散塗料は、必要に応じて、他の添加剤を含むことができる。
バインダー樹脂には、酸化処理工程における加熱により残渣なく分解する樹脂を用いることが好ましい。このようなバインダー樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、又はポリビニルアルコール樹脂等が挙げられる。これらのうち、分解する温度が低いほど表面層の形成に影響を及ぼさなくなるという観点から、アクリル樹脂が好ましい。バインダー樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
分散塗料における炭素粒子とバインダー樹脂との配合比率は、固形分の質量比で、(バインダー樹脂固形分量/炭素粒子固形分量)が0.3〜2.5であることが好ましい。この質量比が小さくなる程、炭素粒子の量が多くなり、その結果、導電性が向上する。それゆえ、導電性の観点から、この質量比は2.5以下であることが好ましく、2.3以下であることがより好ましい。一方、この質量比が大きくなる程、バインダー樹脂の量が大きくなる。そのため、この質量比が大きい場合、チタン基材2と塗膜との密着性が大きくなる。それゆえ、密着性の観点から、この質量比が0.3以上であることが好ましく、0.4以上であることがより好ましい。
水性の媒体としては、例えば、水又はエタノール等を用いることができる。油性の媒体としては、例えば、トルエン又はシクロヘキサノン等を用いることができる。
炭素粒子の平均粒径は20〜200nmであることが好ましい。炭素粒子は塗料中で凝集体を作りやすい傾向があるため、凝集体が形成しないように工夫された塗料を用いることが好ましい。例えば、炭素粒子として、カルボキシル基等の官能基を表面に化学結合させて粒子間の反発を強めることにより分散性を高めたカーボンブラックを用いることが好ましい。
チタン基材の表面への炭素粒子の塗布量は、特に制限されるものではなく、導電性及び凹部への充填性を考慮して適宜選択することができる。炭素粒子の塗布量は、導電性の観点から、1.0μg/cm以上であることが好ましく、2.0μg/cm以上であることがより好ましい。なお、炭素粒子の塗布量は、50μg/cm以下であることが好ましい。炭素粒子の塗布量をこれより多くしても導電性を向上させる効果が飽和する傾向がある。
炭素粒子を分散させた分散液をチタン基材に塗付する方法としては、例えば、刷毛塗り、バーコーター、ロールコーター、グラビアコーター、ダイコーター、ディップコーター、又はスプレーコーター等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、粉末の形態で塗布する方法としては、例えば、炭素粒子を用いて作製したトナーを使用し、チタン基材に該トナーを静電塗装する方法が挙げられる。
チタン基材の最表面から深さ10nmの位置での炭素濃度は、10原子%以下であることが好ましい。また、チタン基材の最表面から深さ5〜50nmの間の平均炭素濃度も、10原子%以下であることが好ましい。一般的に、最表面から深さ10nmの位置での炭素濃度が10原子%以下である場合、最表面から深さ5〜50nmの間の平均炭素濃度も10原子%以下となる。
チタン基材の最表面から深さ10nmの位置での炭素濃度について説明する。チタン基材の最表面から深さ10nmの位置での炭素濃度は、例えば、X線光電子分光分析装置(X-ray Photoelectron Spectroscopy;XPS)を用いて、深さ方向の組成分析を行うことにより測定することができる。なお、通常、チタン基材の表層からは、雰囲気中に存在する有機物等の吸着に起因する炭素が検出される。本明細書では、有機物等が吸着したチタン基材の表層部分(コンタミ層)を除いた部分が「最表面」に相当する。この最表面から深さ10nmの位置での炭素濃度が10原子%を超えている場合、チタン基材を作製するための圧延等の工程中に、チタン基材の表層に加工油や雰囲気中に存在する有機物等が浸入しているか、又はそれらがチタンと反応してチタンカーバイド等を形成している可能性がある。チタン基材の表層に加工油や有機物等の汚染やチタンカーバイド等が存在すると、後記する酸化処理工程S3で熱処理を行った際に、チタン基材からチタンが炭素粒子間への外方拡散が起こり難くなる場合があり、炭素粒子がチタン基材の表面に結合し難くなる。その結果、表面層が形成され難くなる場合がある。
従って、チタン基材の最表面から深さ10nmの位置での炭素濃度が10原子%を超える場合、塗布工程S2を行う前に、後記する炭素濃度低減処理工程S1を行うことが好ましい。なお、圧延加工プロセスを適宜調整することで、チタン基材の最表面から深さ10nmの位置での炭素濃度を低く抑えることもできる。圧延加工プロセスの調整としては、例えば、冷間圧延の1パスあたりの圧下率が10%以下になるように条件を設定すること等が挙げられる。チタン基材の最表面から深さ10nmの位置での炭素濃度は低いほど好ましい。当該位置での炭素濃度は、8.0原子%以下であることが好ましく、5.0原子%以下であることがより好ましい。
(酸化処理工程)
本実施形態に係る製造方法は、上記塗布工程の後に、チタン基材を酸化雰囲気下で熱処理し、酸化チタン層を形成する工程を含む。図3Bは、酸化処理工程S3によりチタン基材2の表面に酸化チタン層4’が形成された状態を示す概略断面図である。酸化処理工程S3において、炭素粒子5が塗布されたチタン基材2が酸化雰囲気下で熱処理されると、チタン基材2中のチタンが炭素粒子5の間に外方拡散し、その外方拡散したチタンの一部又は全部が酸化されて酸化チタン層4’を形成する。これにより、酸化チタン層4’中に炭素粒子5が分散した混合層3’が形成される。
酸化雰囲気は、熱処理によりチタンが酸化して酸化チタンが形成される雰囲気であれば、特に制限されるものではないが、酸素分圧が25Pa以下である低酸素分圧を有することが好ましい。酸化処理工程S3における酸素分圧が25Paを超えると、炭素粒子が燃焼して二酸化炭素になり、炭素粒子が消失する可能性がある。また、炭素粒子の酸化分解が生じるとともに、チタン基材の表面が露出した部分でチタンの酸化が過剰に起こり、酸化チタン層4’が厚くなり過ぎる場合がある。そのため、酸素分圧は、25Pa以下であることが好ましく、20Pa以下であることがより好ましく、15Pa以下であることがさらに好ましく、10Pa以下であることが特に好ましい。酸素分圧は、減圧により、又はArガスや窒素ガス等の不活性ガスを用いることにより、適宜調整することができる。また、酸素分圧は、酸化促進の観点から、0.05Pa以上であることが好ましく、0.1Pa以上であることがより好ましく、0.5Pa以上であることがさらに好ましい。熱処理の温度は、例えば、300〜800℃の温度範囲であり、500〜750℃であることが好ましい。酸素分圧及び熱処理の温度がそれぞれ前記した範囲である場合、チタン基材2から外方拡散したチタン原子の一部又は全部が雰囲気中の微量の酸素と反応して酸化チタンとなり、酸化チタンと炭素粒子が混合した混合層3’を容易に形成することができる。
熱処理の時間は、熱処理の温度や酸素分圧等の条件を考慮して、適宜選択できる。熱処理の時間は、例えば、熱処理の温度が500℃の場合は1分〜60分であり、700℃の場合は10〜120秒である。
(還元処理工程)
本実施形態に係る製造方法は、上記酸化処理工程の後に、チタン基材を非酸化雰囲気下で熱処理し、酸化チタン層をチタン層に還元する還元処理工程を含む。図3Cは、還元処理工程S4により、チタン基材2上にチタン層4が形成された状態を示す概略断面図である。還元処理工程S4において、チタン基材2上に形成された酸化チタン層4’が非酸化雰囲気下で熱処理されると、酸化チタン中の酸素がチタン基材2中に内方拡散し、酸素がチタン基材中に吸収される。これにより、酸化チタン層4’がチタン層に還元され、チタン層4中に炭素粒子5が分散した表面層3が得られる。
本実施形態において、非酸化雰囲気とは、還元処理工程における熱処理により酸化チタン層がチタン層に還元される雰囲気であればよく、若干の酸素の存在は許容されるべきである。非酸化雰囲気における酸素分圧は、0.01Pa以下であることが好ましく、0.001Pa以下であることがより好ましい。雰囲気中の酸素分圧を低いものとすることによって、酸化チタン層をチタン層に還元させることができる。酸素分圧は、真空度を調整することにより制御してもよいし、アルゴンガスや窒素ガス等の不活性ガス中の酸素濃度を調整することによって制御してもよい。非酸化雰囲気は、真空雰囲気又は不活性ガス雰囲気であることが好ましい。
還元処理工程における熱処理の温度は、例えば、400〜800℃の範囲である。還元処理工程における熱処理の時間は、熱処理の温度等を考慮して、適宜調整することができる。熱処理の時間は、例えば、0.5〜500分間である。
熱処理の温度は、600〜700℃の範囲であることが好ましい。熱処理の温度が600℃以上である場合、酸化チタンのチタンへの還元が起こり易くなる。なお、熱処理の温度を高くするほど、処理時間を短くすることが望ましい。これは、還元が完了した後も熱処理を続けると炭素粒子とチタン層の界面にTiCが過剰に形成される場合があるためである。TiCは、燃料電池の使用環境下において腐食し易い傾向がある。そのため、例えば、熱処理の温度が700℃である場合、熱処理の時間の目安は1分未満である。例えば、熱処理の温度が600℃である場合、熱処理の時間の目安は0.5〜5分間である。
本実施形態に係る燃料電池用セパレータ材の製造方法によれば、チタン層と該チタン層中に分散した炭素粒子とを含む表面層を有するセパレータ材を製造することができる。このセパレータ材では、上述したように、チタン層がチタン基材の変形に追従することができるため、プレス成型時に表面層の剥離が生じ難い。
本実施形態に係る燃料電池用セパレータ材の製造方法は以上の通りであるが、前記したように、チタン基材の最表面から深さ10nmの位置での炭素濃度が10原子%以下であることが好ましい。該位置での炭素濃度が10原子%以下である場合、酸化処理工程S3における熱処理により、チタン基材から炭素粒子間へのチタン原子の外方拡散を効率的に生じさせることができる。従って、必要に応じて、図2に示すように、塗布工程S2の前に、炭素濃度低減処理工程S1を行うことが好ましい。以下、炭素濃度低減処理工程S1について説明する。
(炭素濃度低減処理工程)
炭素濃度低減処理工程S1は、塗布工程S2の前に、チタン基材の表面を処理して、基材表面の炭素濃度を低くする工程である。具体的には、炭素濃度低減処理工程S1は、チタン基材の最表面に存在する有機物等による汚染領域やチタンカーバイドが形成されている領域を除去する工程である。一般的に、これらの領域が除去された後、チタン基材表面には自然酸化皮膜が形成される。炭素濃度低減処理工程S1では、最表面から深さ10nmの位置での炭素濃度を10原子%以下にすることが好ましい。
炭素濃度低減処理工程S1は、例えば、フッ酸を含む酸性水溶液でチタン基材を酸洗する工程を含む。フッ酸を含む酸性水溶液は、フッ酸以外に、硝酸、硫酸又は過酸化水素等を含んでもよい。これらは、1種を単独で用いてもよく、複数種を併用してもよい。例えば、フッ酸と硝酸の混合水溶液の場合、フッ酸の濃度は0.1〜5.0質量%であることが好ましく、0.5〜2.0質量%であることがより好ましい。硝酸の濃度は、1.0〜20質量%であることが好ましく、2.0〜10質量%であることがより好ましい。また、例えば、フッ酸と過酸化水素の混合水溶液の場合、フッ酸の濃度は、0.1〜5.0質量%であることが好ましく、0.5〜2.0質量%であることがより好ましい。過酸化水素の濃度は、1.0〜20質量%であることが好ましく、2.0〜10質量%であることがより好ましい。なお、酸洗処理に用いる水溶液の組成や濃度の例を挙げたが、これらに限定されるものではない。
炭素濃度低減処理工程S1を行うことで、チタン基材表面の炭素濃度を低減することができる。具体的には、例えば、前記した位置での炭素濃度が10原子%を超えている場合であっても、当該位置での炭素濃度を10原子%以下とすることができる。
酸洗処理における酸性水溶液の温度は、例えば、室温である。また、酸性水溶液の温度は、処理速度等の観点から、10〜90℃の範囲で適宜調整することが好ましい。浸漬時間は、適宜調整することができ、例えば、1〜30分であり、5〜10分である。これらの条件は、チタン基材の最表面から深さ10nmの位置での炭素濃度に応じて適宜設定することができる。
なお、炭素濃度低減処理工程S1での処理方法としては、前記した酸洗処理に限定されるものではない。炭素濃度低減処理工程として、例えば、真空中(例えば1.3×10−3Pa未満)で650℃以上の温度で熱処理することにより、炭素をチタン基材中に拡散させる方法や、ショットブラストや研磨等により炭素濃度が高い層を物理的に除去する方法等も適用可能である。
本実施形態に係る燃料電池用セパレータ材の製造方法は、以上に述べた工程以外の工程を任意に含むことができる。例えば、炭素濃度低減処理工程S1の前に、材料を所望の厚さに圧延してコイルに巻き取る圧延・巻き取り工程や、圧延油を除去する脱脂工程を含んでもよい。また、炭素濃度低減処理工程S1と塗布工程S2との間にチタン基材を洗浄して乾燥する洗浄・乾燥工程を含んでもよい。塗布工程S2と酸化処理工程S3との間に塗布面を乾燥する乾燥工程を含んでもよい。さらに、酸化処理工程S3又は還元処理工程S4の後に、熱処理で生じた長さ方向のチタン基材の反りを矯正して、平坦化させる矯正工程(レベリング工程)を含んでもよい。なお、矯正は、例えば、テンションレベラー、ローラーレベラー又はストレッチャーを用いることにより行うことができる。また、還元処理工程S4又は矯正工程を終えた燃料電池用セパレータ材1を、洗浄して乾燥する洗浄・乾燥工程を含んでいてもよい。該洗浄により、表面層上に存在する余剰な炭素粒子を除去してもよい。また、還元処理工程S4又は矯正工程を終えた燃料電池用セパレータ材1を所定の寸法に裁断する裁断工程を含んでいてもよい。これらの工程はいずれも任意の工程であり、必要に応じて行うことができる。
<燃料電池用セパレータの製造方法>
本実施形態に係る燃料電池用セパレータ材を用いて燃料電池用セパレータを作製するには、燃料電池用セパレータ材に対して、ガスを流通させるガス流路及び当該ガス流路にガスを導入するガス導入口を形成させるプレス成形工程を行うことが好ましい。
プレス成形は、例えば、所望の形状を有する成形用金型(例えば、ガス流路及びガス導入口を形成する成形用金型)を装着したプレス成形装置を用いて行うことができる。なお、必要に応じて、成形時に潤滑剤を使用してもよい。潤滑剤を用いてプレス成形する場合は、潤滑剤を除去するための工程をプレス成形工程後に行うことが好ましい。
以下に、本実施形態について実施例に基づき説明する。
[実施例1]
(基材)
基材には厚さ0.1mmの純チタン(JIS H 4600に規定される1種)の冷間圧延材(サイズ:20×65mm)を用いた。XPS分析によって測定した結果、基材の最表面から深さ10nmの位置での炭素濃度は18原子%であった。また、最表面から深さ5〜50nmの間の平均炭素濃度も18原子%であった。
(炭素濃度低減処理工程:酸洗処理)
酸洗処理液として、2.0質量%の硝酸と0.5質量%のフッ酸とを含む混合水溶液(フッ酸を含む酸性水溶液)を調製した。次に、この酸洗処理液に、前記基材を5分間室温にて浸漬させた。これにより、基材表面に存在する炭素濃度が高い領域を除去した。その後、水洗及び超音波洗浄を行い、基材を乾燥させた。酸洗処理後の基材の最表面から深さ10nmの位置での炭素濃度は、3原子%以下であった。また、最表面から深さ5〜50nmの間の平均炭素濃度も3原子%以下であった。
(塗布工程:炭素粒子分散塗料の塗布)
炭素粒子として、市販のカーボンブラック含有塗料(Aqua Black−162、東海カーボン(株)製)を用いた。この塗料を蒸留水とエタノールを用いて希釈した後、アクリル樹脂を添加してカーボンブラック分散塗料を調製した。そして、このカーボンブラック分散塗料を、バーコーターによってチタン基材の両面に塗布した。塗布量は、カーボンブラックが20〜30μg/cmの範囲となるように調整した。
(酸化処理工程)
酸化処理及び還元処理は、サンプル室及び加熱室を備える熱処理炉を用いて行った。まず、カーボンブラック分散塗料を塗布したチタン基材を熱処理炉のサンプル室に配置した。次に、炉内を真空ポンプで0.01Pa以下に排気した。次に、加熱室の温度を650℃に昇温させた。次に、炉内に酸素を導入して、炉内の圧力を1.2Paとした。次に、チタン基材をサンプル室から加熱室に搬送し、650℃で15秒間加熱した。その後、チタン基材をサンプル室に戻して冷却した。
(還元処理工程)
次に、炉内を真空ポンプで0.01Pa以下に排気した。次に、チタン基材を再び加熱室に搬送し、650℃で50秒間加熱した。その後、チタン基材をサンプル室に戻して冷却した。
(洗浄工程)
チタン基材が100℃以下に冷えた後、炉内を大気圧に戻し、チタン基材を取り出した。その後、チタン基材の表面に存在する余剰のカーボンブラックをエタノールを含浸させたガーゼでふき取った。次いで、基材をエタノール中で超音波洗浄した。
以上の工程により、試験片E1を作製した。
試験片E1の断面を3D−SEMで観察した結果、カーボンブラックが分散したチタン層が確認された。また、断面画像において、上述の[S/(S+STi)×100]の値は、約40%であった。
[比較例1]
還元処理工程を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして試験片C1を作製した。
[評価]
各試験片を引張変形させた後、耐久試験を行った。耐久試験前と後の試験片の接触抵抗値を測定し、比較した。
(引張変形)
引張変形は以下の通り行った。まず、試験片(20mm×65mm)の長手方向の両端辺からそれぞれ20mmの箇所にマジックペンで端辺と平行な標線を2本引いた。次いで、2本の標線間の距離(25mm)が20%又は30%伸びるように、引張試験機により試験片を長手方向に引っ張って変形させた。この引張変形により、チタン基材にすべりが生じ、表面層が追従できない場合は、表面層の剥離が生じる。
(耐久試験)
耐久試験は以下の通り行った。引張変形後の各試験片を80℃の燃料電池用冷却液中に100時間浸漬させた。冷却液としては、水及びエチレングリコールを1:1の割合で混合させた混合液を用いた。
(接触抵抗値の測定)
接触抵抗値は、図4に示す接触抵抗測定装置10を用いて測定した。詳細には、試験片11の両面をカーボンクロス12(Fuel Cell Earth社製、CC6 Plain、厚さ26mils(約660μm))で挟み、さらにその外側を接触面積1cmの2枚の銅電極13で挟み、荷重98N(10kgf)で加圧した。そして、直流電流電源14を用いて7.4mAの電流を通電し、カーボンクロス12の間に加わる電圧を電圧計15で測定し、接触抵抗値を求めた。なお、耐久試験後の接触抵抗値が20mΩ・cm以下である試験片を良品(合格)と判断した。
表1に、耐久試験前と後の試験片について接触抵抗値を測定した結果を示す。
Figure 2021141000
[考察]
試験片E1(実施例1)は、引張率が20%及び30%の両方の場合において、接触抵抗値が20mΩ・cm以下であり、良好な結果を示した。一方、試験片C1(比較例1)は、引張率が20%及び30%の両方の場合において、接触抵抗値が20mΩ・cmを超えた。
1 燃料電池用セパレータ材
2 チタン基材
3 表面層
3’ 混合層
4 チタン層
4’ 酸化チタン層
5 炭素粒子
S1 炭素濃度低減処理工程
S2 塗布工程
S3 酸化処理工程
S4 還元処理工程

Claims (4)

  1. チタン基材と、
    前記チタン基材の上に形成された表面層と、
    を備え、
    前記表面層は、チタン層と、前記チタン層中に分散した炭素粒子と、を含む、燃料電池用セパレータ材。
  2. 前記炭素粒子がカーボンブラックである、請求項1に記載の燃料電池用セパレータ材。
  3. 前記チタン層及び前記チタン基材が直接接している、請求項1又は2に記載の燃料電池用セパレータ材。
  4. 請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料電池用セパレータ材の製造方法であって、
    前記チタン基材の表面に前記炭素粒子を塗布する塗布工程と、
    前記塗布工程の後に、前記チタン基材を酸化雰囲気下で熱処理し、酸化チタン層を形成する酸化処理工程と、
    前記酸化処理工程の後に、前記チタン基材を非酸化雰囲気下で熱処理し、前記酸化チタン層をチタン層に還元する還元処理工程と、
    を含む、燃料電池用セパレータ材の製造方法。

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