JP2021140878A - MgB2超伝導線材の前駆体、MgB2超伝導線材およびMgB2超伝導線材の製造方法 - Google Patents

MgB2超伝導線材の前駆体、MgB2超伝導線材およびMgB2超伝導線材の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】パウダーインチューブ法によってMgB2超伝導線材を製造するとき、伸線加工時にMgB2の原料粉末を内包している金属管に破れを生じ難く、原料粉末の熱処理後に高い臨界電流密度が得られるMgB2超伝導線材の前駆体、それを用いたMgB2超伝導線材およびMgB2超伝導線材の製造方法を提供する。【解決手段】MgB2超伝導線材の前駆体は、MgB2のフィラメントとなる前駆領域と、前駆領域を内包する金属管とを備え、前駆領域は、マグネシウムで形成された母相中にホウ素粒子が分散した第1領域と、マグネシウムで形成された母相中にホウ素粒子が存在しない第2領域とで構成されている。MgB2超伝導線材は、フィラメントを覆う金属管を備え、フィラメントは、縦断面において、MgB2の充填率が70体積%以上であり、空隙のメディアン径が100nm未満であり、粗大空隙の数密度が500個/mm2よりも大きい。【選択図】図2

Description

本発明は、MgB超伝導線材の前駆体、それを用いたMgB超伝導線材およびMgB超伝導線材の製造方法に関する。
超伝導線材は、ゼロ抵抗で大電流を通電可能であるため、送電ケーブル、超伝導磁石等に利用されている。超伝導体にゼロ抵抗で流せる電流密度の上限は、臨界電流密度(Jc)と呼ばれている。臨界電流密度は、温度と磁場に依存し、試料温度や外部磁場による影響を受ける。第二種超伝導体の臨界電流密度は、磁束ピンニング現象により決定付けられる。
第二種超伝導体では、下部臨界磁場を超えると量子化磁束の侵入が起こる。超伝導線材に侵入した磁束線は、通電時に、ローレンツ力で運動しようとする。磁束線が運動すると、誘導起電力が発生して損失を生じる。そのため、実利用される超伝導体には、磁束線をピンニングするための欠陥や不均質部が導入されている。このような箇所は、磁束ピンニングセンタと呼ばれている。
超伝導線材の一般的な形態は、金属母材中に複数の超伝導フィラメントが埋め込まれた多芯線材である。多芯線材を製造する際には、金属管に超伝導物質や前駆物質を充填し、その金属管を伸線加工して単芯組込材とする。そして、多芯化のために用意された複数本の単芯組込材が別の金属管に挿入される。このように組み立てたものはビレットと呼ばれている。
多芯線材は、ビレットを繰り返し伸線加工することによって得られる。金属管に前駆物質を充填する場合には、伸線加工後に、超伝導物質を生成させるための熱処理を行う。キロメートル長の多芯線材の作製には、直径が数十ミリメートル以上のビレットが用いられる。伸線加工時には、ビレットの直径がミリメートルからサブミリメートルまで縮径される。
伸線加工における縮径の程度を表す指標としては、断面減少率が一般的に用いられている。ビレットの断面減少率ΔSは、次の数式(I)で表される。
ΔS=(Si−Sf)/Si・・・(I)
ここで、Siは伸線加工前のビレットの断面積、Sfは伸線加工後の断面積である。工業上で用いられる多芯線構造の超伝導線材は、ビレットの断面減少率が99.9%を超えるような伸線加工を経る。
二ホウ化マグネシウム(MgB)は、現在広く普及しているニオブチタン、ニオブ三スズ等のニオブ系超伝導体と比較して、高い臨界温度(Tc)を示す超伝導体である。MgBのTcは約40Kである。MgBは、原料が豊富で入手し易く、超伝導線材を低コストで製造することができるため、次世代の超伝導材料として有望視されている。
MgBにおける主要な磁束ピンニングセンタは、結晶粒界であるとされている。一般に、結晶粒界による磁束ピンニング力は、結晶性を低くしたり、結晶粒径を小さくしたりすると高くなる。MgBの磁束ピンニング力を高くする方法としては、600〜700℃の低温でMgBを合成する方法が有効と考えられている。
一般に、MgB超伝導線材は、パウダーインチューブ(Powder In Tube:PIT)法によって製造されている。PIT法は、粉末を充填した金属管を伸線加工する方法である。PIT法は、ex−situ法とin−situ法とに大別される。ex−situ法は、MgBの粉末を金属管に充填し、金属管を伸線加工した後に、MgB同士を焼結させる方法である。in−situ法は、マグネシウムとホウ素を混合した混合粉末を金属管に充填し、金属管を伸線加工した後に、MgBを焼成する方法である。
ex−situ法では、MgBの粒子同士を焼結させるために、800〜900℃の高温の熱処理が行われる。このような高温の熱処理を行うと、MgBの結晶化や粒成長が進むため粒界密度が小さくなる。ex−situ法は、MgBの磁束ピンニング力を向上させる観点からは不利な方法である。
一方、in−situ法では、原料粉末からMgBを焼成させるために、600〜700℃の低温の熱処理が行われる。このような低温の熱処理であっても、相互の結合が多いMgBの多結晶体が得られる。しかし、MgBを生成するマグネシウムとホウ素との反応は、体積減少を伴うため、焼成されるMgB中に空隙を生じ易い。MgB中に空隙が形成されると、輸送電流の電流路が遮られる。従来のin−situ法も、臨界電流密度の点では課題を抱えているといえる。
非特許文献1には、in−situ法が抱える課題に対する一つの対策として、メカニカルミル法について記載されている。一般的なメカニカルミル法は、原料粉末をボールと共にポットに投入し、遊星型ミル装置に取り付けたポットを高速で自公転させることにより行われる。原料粉末は、ボールやポットの内壁と激しく衝突しながら混合され、高加速度による高エネルギが加えられるため、マグネシウムで形成された母相中にホウ素粒子が分散した状態になる。
このようなメカニカルミル法によって得られる原料粉末は、ホウ素が均一性高く分散しており、粒子間の空隙が小さい状態になるため、充填率が高いMgBの焼成を可能にする。一般的なin−situ法では、MgBの充填率が70%を超えることはないが、メカニカルミル法を用いると、70%を超える高い充填率のフィラメントが得られる。
しかし、メカニカルミル法によって得られる原料粉末は、硬いホウ素がマグネシウム中に分散した粉末組織となるため、粒子自体の硬度が高くなるし、集合体としての変形能が低くなる。このような原料粉末を用いると、金属管に伸線加工を施したとしても、金属管に充填されている原料粉末が十分には変形しなくなる。そのため、従来のメカニカルミル法も、臨界電流密度の向上に関しては改善の余地があった。
このような状況下、特許文献1や特許文献2に記載されているように、伸線加工時にカセットロール加工や溝ロール加工を用いる方法が提案された。また、特許文献3に記載されているように、原料粉末に固体有機化合物を添加する方法が提案された。これらの方法によると、伸線加工が終了した段階で、金属管に充填されている原料粉末の充填率が高くなるため、従来よりも高い臨界電流密度が得られるようになっている。
特許第6498791号公報 特開2019−133849号公報 国際公開第2017/179349号
Supercond. Sci. Technol. 30 (2017) 044006
in−situのパウダーインチューブ(PIT)法において、メカニカルミル法を用いると、原料粉末の充填率は高くなるものの、伸線加工中に金属管が破れ易くなる、という新たな問題を生じる。メカニカルミル法を用いると、原料粉末自体の硬度が高くなるし、原料粉末の集合体としての変形能が低くなるため、伸線加工中に金属管が縮径されると、金属管の内面に不均一な力が加わり易くなる。金属管に強い力が不均一に加わると、管壁に破れを生じ、最終的には破断して断線に至る。
特に、多芯線構造の超伝導線材の場合には、伸線加工の断面減少率が高いため、金属管の内面に強い力が加わり易くなる。また、断線の原因となる破れが、金属管が挿入されているシース管内に潜在化する虞もある。メカニカルミル法を用いた場合、従来よりも高い臨界電流密度が得られるが、金属管に生じる破れが、MgB超伝導線材の製造の障害となっている。
そこで、本発明は、パウダーインチューブ法によってMgB超伝導線材を製造するとき、伸線加工時にMgBの原料粉末を内包している金属管に破れを生じ難く、原料粉末の熱処理後に高い臨界電流密度が得られるMgB超伝導線材の前駆体、それを用いたMgB超伝導線材およびMgB超伝導線材の製造方法を提供することを目的とする。
前記課題を解決するために本発明に係るMgB超伝導線材の前駆体は、パウダーインチューブ法による熱処理前のMgB超伝導線材の前駆体であって、マグネシウム粉末とホウ素粉末が充填されており、熱処理によってMgBのフィラメントとなる前駆領域と、前記前駆領域を内包する金属管と、を備え、前記前駆領域は、元素の分布が互いに異なる第1領域と第2領域で構成されており、前記第1領域は、マグネシウムで形成された母相中にホウ素粒子が分散した領域であり、前記第2領域は、マグネシウムで形成された母相中にホウ素粒子が存在しない領域である。
また、本発明に係るMgB超伝導線材は、MgBで形成されたフィラメントと、前記フィラメントの外周を覆う金属管と、を備え、前記フィラメントは、前記フィラメントの縦断面において、MgBの充填率が70体積%以上であり、空隙の円相当径の個数基準分布のメディアン径が100nm未満であり、周長が10μmより大きい粗大空隙の数密度が500個/mmよりも大きい。
また、本発明に係るMgB超伝導線材の製造方法は、MgBの原料となる原料粉末を調製する工程と、前記原料粉末を金属管に充填する工程と、前記原料粉末が充填された前記金属管を伸線加工して前駆体を得る工程と、前記前駆体を熱処理してMgBを生成させる工程と、を含み、前記原料粉末は、MgBの化学量論比よりもホウ素量に対するマグネシウム量が少なく、メカニカルミリングによって得られる、マグネシウムで形成された母相中にホウ素粒子が分散した第1粉末と、MgBの化学量論比に対する前記マグネシウムの不足分を含み、前記メカニカルミリングに相当するエネルギを加えられてなく、マグネシウムで形成された母相中にホウ素粒子が存在していない第2粉末とを、前記メカニカルミリングよりもエネルギが小さくなる条件で緩く混合した粉末である。
本発明によると、パウダーインチューブ法によってMgB超伝導線材を製造するとき、伸線加工時にMgBの原料粉末を内包している金属管に破れを生じ難く、原料粉末の熱処理後に高い臨界電流密度が得られるMgB超伝導線材の前駆体、それを用いたMgB超伝導線材およびMgB超伝導線材の製造方法を提供することができる。
MgBの原料として用いられる原料粉末の形態を模式的に示す図である。 熱処理前のMgB超伝導線材の前駆体および熱処理後のMgB超伝導線材の縦断面を模式的に示す図である。 比較例1に係るMgB超伝導線材の前駆体の横断面の光学顕微鏡像である。 比較例1に係るMgB超伝導線材の前駆体のスエージング加工後の縦断面の走査型電子顕微鏡による反射電子像である。 実施例1に係るMgB超伝導線材の前駆体のスエージング加工後の縦断面の走査型電子顕微鏡による反射電子像である。 実施例1に係るMgB超伝導線材の前駆体のスエージング加工後の縦断面の走査型電子顕微鏡による反射電子像である。 実施例1に係るMgB超伝導線材の前駆体のスエージング加工後の縦断面の走査型電子顕微鏡による反射電子像を画像処理した二値画像である。 実施例および比較例に係るMgB超伝導線材の縦断面の走査型電子顕微鏡による反射電子像である。
以下、本発明の一実施形態に係るMgB超伝導線材の前駆体、それを用いたMgB超伝導線材およびMgB超伝導線材の製造方法について、図を参照しながら説明する。なお、以下の各図において、共通する構成については同一の符号を付して重複した説明を省略する。
<MgB超伝導線材>
本実施形態に係るMgB超伝導線材は、パウダーインチューブ(PIT)法によって作製される超伝導線材であり、MgBで形成されたフィラメントと、フィラメントの外周を覆う金属管と、を備える。このMgB超伝導線材は、MgBの原料となる原料粉末を用いて、MgB超伝導線材の前駆体を作製し、その前駆体を熱処理することによって製造される。
MgB超伝導線材の前駆体は、熱処理によってMgBのフィラメントとなる前駆領域と、その前駆領域を内包する金属管と、を備える。MgB超伝導線材の前駆体は、MgBの原料粉末が金属管に充填されたものであり、原料粉末が充填された金属管の伸線加工後、かつ、MgBを生成させる熱処理前の状態である。フィラメントとなる前駆領域は、充填時や伸線加工時に圧密化された原料粉末によって形成される。
本実施形態に係るMgB超伝導線材は、外周が金属管で覆われた一本のフィラメントを有する単芯線構造であってもよいし、外周が金属管で覆われた複数のフィラメントを有する多芯線構造であってもよい。in−situのPIT法では、MgBの原料として、マグネシウムとホウ素とが混合した原料粉末が金属管に充填される。
一般に、単芯線構造のMgB超伝導線材は、次のような方法で製造される。はじめに、原料粉末を金属管に充填してシングルビレットとする。シングルビレットを伸線加工すると、単芯線構造のMgB超伝導線材の前駆体が得られる。このような前駆体を所定の温度で熱処理すると、原料粉末からMgBが生成して、単芯線構造のMgB超伝導線材が得られる。
また、多芯線構造のMgB超伝導線材は、次のような方法で製造される。原料粉末を金属管に充填し、その金属管を伸線加工して単芯組込材とする。複数本の単芯組込材を作製し、より大径の金属管に挿入してマルチビレットとする。マルチビレットを伸線加工すると、多芯線構造のMgB超伝導線材の前駆体が得られる。このような前駆体を所定の温度で熱処理すると、原料粉末からMgBが生成して、多芯線構造のMgB超伝導線材が得られる。
本実施形態に係るMgB超伝導線材の形態としては、多芯線構造が好ましい。多芯線構造であると、実用上で求められる大電流への対応が比較的容易になる。また、伸線加工時に金属管の破れが生じ難くなるという本発明による効果の有効性が高くなる。なお、本明細書において、金属管を伸線加工して得られる単芯組込材は、マルチビレットを伸線加工したものと同様に、MgB超伝導線材の前駆体に該当するものとする。
本実施形態に係るMgB超伝導線材は、多芯線構造である場合、複数の金属管を外側から覆う安定化材を備える断面構造であってもよいし、複数の金属管に外側から覆われた安定化材を備える断面構造であってもよい。伸線加工時に金属管の破れが生じ難くなるという本発明による効果は、いずれの断面構造においても得ることができる。
本実施形態に係るMgB超伝導線材や、本実施形態に係るMgB超伝導線材の前駆体は、MgBの原料粉末を調製する際に、メカニカルミル法を利用した所定の混合条件を用いるものである。本実施形態では、従来の一般的なin−situ法や、従来の一般的なメカニカルミル法を用いたin−situ法(特許文献1等参照)とは異なり、メカニカルミル法自体は利用するが、マグネシウムの全体にホウ素の粒子が均一に分散するような完全な混合は行わない。
本明細書において、メカニカルミル法とは、粉末の粒子を、攪拌用のボール等のメディアや、攪拌用のポットの内壁と激しく衝突させて、高加速度による機械的エネルギ等を加え、粒子を強加工しながら粉砕・混合する方法を意味する。本明細書において、メカニカルミル法は、広義にはin−situ法の一種を意味する。本明細書では、このような方法を用いて超伝導線材の前駆体や超伝導線材を作製する方法の全体をメカニカルミル法ということがある。
図1は、MgBの原料として用いられる原料粉末の形態を模式的に示す図である。
図1の左欄は、本発明に係るメカニカルミル法を利用した所定の混合条件によって調製される原料粉末を示す。図1の中央欄は、従来の一般的なメカニカルミル法によって調製される原料粉末を示す。図1の右欄は、従来の一般的なin−situ法で調製される原料粉末を示す。
図2は、熱処理前のMgB超伝導線材の前駆体および熱処理後のMgB超伝導線材の縦断面を模式的に示す図である。
図2の上段は、本発明に係るメカニカルミル法を利用した所定の混合条件を用いた場合に作製される形態である。図2の中段は、従来の一般的なメカニカルミル法を用いた場合に作製される形態である。図2の下段は、従来の一般的なin−situ法を用いた場合に作製される形態である。左欄は、伸線加工後かつ熱処理前のMgB超伝導線材の前駆体である。右欄は、熱処理後のMgB超伝導線材である。
図1および図2において、符号1はマグネシウム、符号2はホウ素、符号3は金属管、符号4は粒子間隙、符号5はMgBのフィラメントを示す。符号101は、マグネシウムで形成された母相中にホウ素粒子が分散した領域(第1領域)を示す。符号102は、マグネシウムで形成された母相中にホウ素粒子が存在しない領域(第2領域)を示す。符号401は、周長が10μmより大きい粗大空隙、符号402は、周長が少なくとも10μm以下である微小空隙を示す。
図1の右欄に示すように、従来の一般的なin−situ法では、MgBの原料として、マグネシウム1の粉末とホウ素2の粉末とを単に混和させた原料粉末が用いられている。従来の一般的なin−situ法では、原料粉末を調製するときに、遊星型ミル装置等によるメカニカルミリングを行わないため、原料粉末の粒子に加わるエネルギは小さい。
そのため、従来の一般的なin−situ法によると、マグネシウム1の粒子とホウ素2の粒子とが、互いに分離した状態で原料粉末を構成する。マグネシウム1の粒子は、ホウ素2の粒子が付着した状態になり得る。しかし、マグネシウム1の粒子の内部は、ホウ素2の粒子が実質的に存在しない状態となる。ホウ素2の粒子間には、粒子間隙4が少なからず生じる。
図2の下段左欄に示すように、従来の一般的なin−situ法を用いてMgB超伝導線材の前駆体を作製すると、フィラメントとなる前駆領域に、マグネシウムで形成された母相中にホウ素粒子が存在しない領域(ホウ素2の粒子から分離した状態で分散しているマグネシウム1の領域)102と、マグネシウム1の粒子から分離した状態のホウ素2の粒子と、マグネシウム1の粒子やホウ素2の粒子の粒子間に形成された粒子間隙4と、が生じる。
マグネシウム1は、ホウ素2よりも柔らかく変形し易い。そのため、従来の一般的なin−situ法を用いた場合に金属管に伸線加工を施すと、マグネシウム1の粒子は、金属管3の長手方向に伸長し、アスペクト比が大きい粗大な粒子となる。一方、ホウ素2は、マグネシウム1よりも硬度が高い。また、ホウ素2としては、製法が異なるため、マグネシウム1よりも小さい粒子が一般的に用いられる。そのため、ホウ素2の粒子は、伸線加工後においても、周囲に多量の粒子間隙4を残す。
図2の下段右欄に示すように、従来の一般的なin−situ法を用いたMgB超伝導線材の前駆体を熱処理すると、MgBのフィラメント5に、金属管3の長手方向に伸長した多数の粗大空隙401や、多数の微小空隙402が形成される。
MgBは、一般に、600〜700℃で合成される。このような温度では、マグネシウムの蒸気圧が高くなるため、気体のマグネシウムが固体のホウ素の側に拡散する。また、マグネシウムの融点は、約650℃であるため、液体のマグネシウムも流動・拡散し得る。また、マグネシウムとホウ素との反応によってMgBが生成すると、物質として、約25%の体積減少が生じる。
そのため、マグネシウムとホウ素との反応が進むと、マグネシウムが存在していた領域を中心に空隙を生じ易くなる。従来の一般的なin−situ法を用いた場合に熱処理を施すと、金属管3の長手方向に伸長したマグネシウム1の粒子が存在していた領域(マグネシウムで形成された母相中にホウ素粒子が存在しない領域102)に粗大空隙401が形成されたり、ホウ素2の粒子間の粒子間隙4が存在していた領域に微小空隙402が形成されたりする。
このように、従来の一般的なin−situ法を用いると、粗大空隙401や微小空隙402の数密度が大きくなる。そのため、MgBのフィラメント5において、輸送電流の電流路が確保され難くなり、高い臨界電流密度が得られなくなる。従来、このような問題に対する一つの対策として、原料粉末の調製にメカニカルミル法が用いられている。
図1の中央欄に示すように、従来の一般的なメカニカルミル法では、MgBの原料として、マグネシウム1の粉末とホウ素2の粉末とをメカニカルミリングした原料粉末が用いられている。メカニカルミル法では、原料粉末の粒子に対して、1Gを大きく超える加速度や機械的エネルギ等が加えられる。メカニカルミル法で調製した原料粉末は、マグネシウム1で形成された母相中にホウ素2の粒子が分散した均一性が高い粉末となる。
そのため、メカニカルミル法によると、ホウ素2の粒子は、変形したマグネシウム1に練り込まれ、マグネシウム1に内包される。マグネシウム1の粒子は、マグネシウム1で形成された母相中にホウ素2の粒子が均一性高く分散した状態となる。また、原料粉末の全体としても、ホウ素2の分布の均一性が高くなる。ホウ素2の粒子間には、マグネシウム1が存在するため、粒子間隙4が生じ難くなる。
図2の中段左欄に示すように、従来の一般的なメカニカルミル法を用いてMgB超伝導線材の前駆体を作製すると、フィラメントとなる前駆領域に、マグネシウムで形成された母相中にホウ素粒子が分散した領域101が生じる。金属管3の長手方向に伸長したマグネシウム1の粒子が存在していた領域(マグネシウムで形成された母相中にホウ素粒子が存在しない領域102)は、極めて狭いか、または、実質的に存在しない。前駆領域は、ホウ素2の分布が略一様な組織となる。
マグネシウム1は、ホウ素2よりも柔らかく変形し易い。また、ホウ素2の粒子を内包したマグネシウム1の粒子は、伸線加工時に力が加わると、ある程度変形することができる。そのため、メカニカルミル法を用いた場合に金属管に伸線加工を施すと、マグネシウム1やホウ素2の周囲の粒子間隙4が、更に少なくなる。
図2の中段右欄に示すように、従来の一般的なメカニカルミル法を用いたMgB超伝導線材の前駆体を熱処理すると、MgBのフィラメント5に、僅かに微小空隙402が形成され得るが、粗大空隙401は殆ど形成されなくなる。
従来の一般的なメカニカルミル法を用いた場合、フィラメントとなる前駆領域には、ホウ素2の粒子が、均一性が高い分布で全体にわたって分散している。また、ホウ素2を除いた領域には、マグネシウム1で形成された母相が緻密に存在している。そのため、熱処理を施すと、マグネシウム1の拡散や体積減少が進行しても、粗大空隙401が形成され難くなる。また、粒子間隙4が元々少ないため、微小空隙402も形成され難くなる。
このように、従来の一般的なメカニカルミル法を用いると、粗大空隙401や微小空隙402の数密度が小さくなる。そのため、MgBのフィラメント5において、輸送電流の電流路が確保され易くなり、高い臨界電流密度が得られる。
MgB超伝導線材のフィラメントにおけるMgBの充填率P[%]は、概ね次の数式(II)によって与えられる。
P=Pi(1−ΔV)・・・(II)
ここで、Piは、フィラメントとなる前駆領域における原料粉末の充填率[%]である。ΔVは、マグネシウムとホウ素との反応による体積減少率[%]である。ΔVは、理論上、約25%である。
従来の一般的なin−situ法を用いると、前駆領域における原料粉末の充填率Piは、通常、最大でも80%程度となる。そのため、最終的なMgBの充填率Pは、60%程度と低くなる。典型的な試作結果からは、一般的なin−situ法を用いた場合、MgBの充填率Pが70%以上にならないことが確認されている。
一方、メカニカルミル法を用いると、前駆領域における原料粉末の充填率Piを、100%に近い値にすることができる。そのため、最終的なMgBの充填率Pは、75%に近い値となる。典型的な試作結果からすると、メカニカルミル法を用いた場合、MgBの充填率Pを70%以上にすることが容易である。
従来のPIT法では、原料粉末の充填の困難性や、反応に伴う体積減少に起因して、熱処理後のフィラメントに空隙が残り易いため、電流路の実効的な断面積の確保が大きな課題となる。臨界電流密度を向上させるためには、如何に空隙を減らすかが重要になる。この点において、メカニカルミル法を用いた製造プロセスは、従来の一般的なin−situ法と比較して有効といえる。
しかし、従来の一般的なメカニカルミル法を用いると、伸線加工時に金属管が破れる、という新たな問題が発生する。従来の一般的なメカニカルミル法で調製した原料粉末は、マグネシウムよりも硬いホウ素が全体にわたって分散した状態になる。このような原料粉末を金属管に充填すると、フィラメントとなる前駆領域が、マグネシウムで形成された母相中にホウ素粒子が分散した領域のみで構成されるようになる。
フィラメントとなる前駆領域がこのような状態であると、分散強化の機構が働くため、原料粉末の集合体として変形能が低くなる。このような原料粉末を充填した金属管に伸線加工を施すと、金属管が縮径される過程で、原料粉末から金属管の内面に対して不均一な力が加わり、金属管の管壁が破れ易くなる。
伸線加工時に金属管が破れると、その後の伸線加工のパス中等に、周囲への応力の集中が起こる。最終的には、金属管が断線するため、超伝導線材を製造することができなくなってしまう。このような断線によるリスクは、超伝導線材が長尺であるほど問題になる。
また、原料粉末を充填する金属管は、MgBの生成を妨げる銅等の阻害因子を阻止するバリア材としての機能を有している。通常、原料粉末が充填された金属管は、銅等の安定化材と共にビレット化されたり、銅管等に挿入されてビレット化されたりする。バリア材としての金属管に破れを生じると、フィラメントの形成が阻害されるため、不良の原因がシース内に潜在化することになる。
これに対し、図1の左欄に示すように、本発明に係るメカニカルミル法を利用した所定の混合条件においては、メカニカルミル法自体は利用するが、マグネシウムの全体にホウ素の粒子が均一に分散するような完全な混合は行わないため、元素の分布が互いに異なるマグネシウム1の粒子を得ることができる。マグネシウム1の粒子において、ホウ素2の粒子が存在しない領域は、伸線加工中に生じる応力を緩和する作用をもたらす。
具体的には、原料粉末を調製する方法として、例えば、メカニカルミリングの条件を調整する方法を用いることができる。メカニカルミリングの条件は、従来の一般的なメカニカルミリングに相当するエネルギ、すなわち、マグネシウムの全体にホウ素の粒子が均一に分散するようなエネルギが、原料粉末の全体に加わらないように調整する。例えば、粉末に加わるエネルギが、従来よりもやや小さくなるように緩いメカニカルミリングを行うと、原料粉末の一部を、マグネシウムで形成された母相中にホウ素の粒子が分散した均一性が高い状態、残部を、マグネシウムで形成された母相中にホウ素の粒子が存在しない状態にすることができる。
メカニカルミリングの条件は、例えば、混合時間、ミル装置の回転速度や公転半径、メディアの大きさや材質、メディアの投入量、ポットの容量や材質、原料粉末の投入量ないしメディアに対する重量比等、種々のパラメータによって調整することができる。これらのパラメータは、いずれか一種を調整してもよいし、複数種を調整してもよい。例えば、混合時間を短縮等すると、粒子を内包し易い形状に塑性変形したマグネシウム片が減るため、マグネシウムの全体にホウ素の粒子が均一に分散するような完全な混合を避けることができる。
また、原料粉末を調製する方法として、メカニカルミリングによって得られる強加工粉末(第1粉末)と、このようなメカニカルミリングに相当するエネルギを加えられていない非強加工粉末(第2粉末)とを、このようなメカニカルミリングよりもエネルギが小さくなる条件で緩く混合する方法を用いることもできる。
強加工粉末(第1粉末)としては、マグネシウムとホウ素を含むが、MgBの化学量論比よりもホウ素量に対するマグネシウム量が少ない粉末、すなわち、ホウ素に対するマグネシウムのモル比が1/2よりも小さい粉末を用いる。強加工粉末については、マグネシウムで形成された母相中にホウ素の粒子が均一性高く分散した状態になるように、従来の一般的なメカニカルミル法と同様に高エネルギが加わる条件でメカニカルミリングを行う。
強加工粉末によると、フィラメントとなる前駆領域に、マグネシウムで形成された母相中にホウ素粒子が分散した領域(第1領域)を形成することができる。この領域におけるホウ素量に対するマグネシウム量は、MgBの化学量論比よりも少ない状態とされる。
非強加工粉末(第2粉末)としては、マグネシウムのみ、または、マグネシウムとホウ素を含み、強加工粉末(第1粉末)との関係においてMgBの化学量論比に対するマグネシウムの不足分を含む粉末を用いる。非強加工粉末としては、強加工粉末(第1粉末)との関係においてマグネシウムの不足分を供給する限り、例えば、マグネシウム粉末のみを用いることができる。或いは、マグネシウム粉末とホウ素粉末とを混合した混合粉末を用いることもできる。混合粉末については、マグネシウムで形成された母相中にホウ素の粒子が均一性高く分散した状態にならないように、従来の一般的なメカニカルミル法よりも低エネルギが加わる条件で混合を行う。
非強加工粉末によると、フィラメントとなる前駆領域に、マグネシウムで形成された母相中にホウ素粒子が存在しない領域(第2領域)を形成することができる。この領域におけるホウ素量に対するマグネシウム量は、混合粉末を用いる場合であっても、MgBの化学量論比よりも多い状態とされる。しかし、前駆領域の全体がMgBの化学量論比を大きく逸脱しない範囲であれば、マグネシウムの拡散によって十分な反応が進むため、フィラメントのMgBの充填率は高くなる。
非強加工粉末を調製するための混合や、強加工粉末と非強加工粉末との混合の条件は、例えば、混合時間、ミル装置の回転速度や公転半径、メディアの大きさや材質、メディアの投入量、ポットの容量や材質、原料粉末の投入量ないしメディアに対する重量比等、種々のパラメータによって調整することができる。これらのパラメータは、いずれか一種を調整してもよいし、複数種を調整してもよい。例えば、混合時間を短縮等してもよいし、加速度が1Gを超えないような緩い混合を行ってもよい。
原料粉末を調製する方法としては、メカニカルミリングの条件を調整する方法、および、強加工粉末と非強加工粉末とを混合する方法のうち、いずれか一方を用いてもよいし、両方を組み合わせて用いてもよい。また、強加工粉末と非強加工粉末とを混合する方法を用いる場合、非強加工粉末として、加えられたエネルギが同等である一種の粉末を用いてもよいし、加えられたエネルギが互いに異なる複数種の粉末を用いてもよい。例えば、メカニカルミリングの条件を調整する方法を用いて非強加工粉末を用意し、この非強加工粉末を強加工粉末と混合することもできる。
原料粉末、強加工粉末および非強加工粉末に関して、マグネシウムとホウ素とのモル比は、MgBの化学量論比を大きく逸脱しない範囲である限り、適正な範囲で調整することができる。但し、マグネシウムとホウ素とのモル比は、最終的な混合状態において、2:1に近いことが好ましく、化学量論比に対して±5%以内であることが好ましい。マグネシウムとホウ素とのモル比が、MgBの化学量論比を大きく逸脱していると、熱処理後に未反応物が残留することになり、輸送電流の電流路が遮られて、高い臨界電流密度が得られなくなるためである。
図1の左欄に示すように、メカニカルミリングの条件を調整する方法や、強加工粉末と非強加工粉末とを混合する方法を用いると、マグネシウム1の粒子中にホウ素2の粒子が均一性高く分散した粒子、マグネシウム1の粒子中にホウ素2の粒子が部分的に分散している粒子、マグネシウム1の粒子中にホウ素2の粒子が存在しない粒子等が得られる。
図2の上段左欄に示すように、本発明に係るメカニカルミル法を利用した所定の混合条件を用いてMgB超伝導線材の前駆体を作製すると、フィラメントとなる前駆領域に、マグネシウムで形成された母相中にホウ素粒子が分散した領域(第1領域)101と、マグネシウムで形成された母相中にホウ素粒子が存在しない領域(第2領域)102と、が生じる。
マグネシウム1は、ホウ素2よりも柔らかく変形し易い。また、ホウ素2の粒子を内包したマグネシウム1の粒子は、伸線加工時に力が加わると、ある程度変形することができる。そのため、本発明に係るメカニカルミル法を利用した所定の混合条件を用いた場合に金属管に伸線加工を施すと、第2領域102は、金属管3の長手方向に伸長し、アスペクト比が大きい粒子となる。また、マグネシウム1やホウ素2の周囲の粒子間隙4が、更に少なくなる。
このように、本発明に係るメカニカルミル法を利用した所定の混合条件を用いると、フィラメントとなる前駆領域が、マグネシウムおよびホウ素の分布が互いに異なる、二つの領域(101,102)で構成されるようになる。マグネシウムで形成された母相中にホウ素粒子が存在しない領域(第2領域)102は、ホウ素よりも柔らかく変形し易い。そのため、前駆領域は、硬いホウ素2が全体にわたって分散しているにもかかわらず、集合体としての変形能が高くなる。伸線加工時に金属管3が縮径されたとき、前駆領域から金属管3の内面への不均一な力が緩和されるため、金属管3の破れを抑制することができる。
図2の上段右欄に示すように、本発明に係るメカニカルミル法を利用した所定の混合条件を用いたMgB超伝導線材の前駆体を熱処理すると、MgBのフィラメント5に、金属管3の長手方向に伸長した粗大空隙401が形成される。また、MgBのフィラメント5に、僅かな微小空隙402が形成され得る。
熱処理前には、フィラメントとなる前駆領域に、ホウ素2の粒子が均一性高い分布で全体的に分散している領域101がある。また、この領域101のホウ素2を除いた領域には、マグネシウム1で形成された緻密な領域102がある。前者の領域101については、金属管の破れが生じない範囲であれば、混合条件を調整することによって体積率を小さくすることが可能である。そのため、本発明に係るメカニカルミル法を利用した所定の混合条件を用いた場合、従来の一般的なin−situ法よりも粗大空隙401が形成され難くなるし、従来の一般的なメカニカルミル法と同程度に微小空隙402が形成され難くなる。
このように、本発明に係るメカニカルミル法を利用した所定の混合条件を用いると、ある程度の数密度で粗大空隙401が形成され得るが、微小空隙402の数密度が小さくなる。粗大空隙401は、金属管の長手方向に伸長しているため、輸送電流の電流路を遮断する作用が小さいし、金属管の破れが生じない範囲であれば、体積率を小さくすることができる。そのため、金属管の破れを抑制しつつ、従来の一般的なメカニカルミル法と同程度に高い臨界電流密度を得ることができる。
なお、本発明に係るメカニカルミル法を利用した所定の混合条件を用いた場合、粗大空隙401が形成されるため、従来の一般的なメカニカルミル法を用いた場合と比較して、最終的なMgBの充填率が低くなるように見える。しかし、ホウ素2の粒子が均一性高い分布で全体的に分散している領域101によって、従来の一般的なメカニカルミル法を用いた場合よりも微小空隙402が少なくなるため、粗大空隙401と微小空隙402とを合計した空隙率については、同程度にすることができる。よって、熱処理後のMgBの充填率についても、同等にすることができる。
次に、本実施形態に係るMgB超伝導線材の製造方法について、より具体的に説明する。なお、以下の説明では、原料粉末を調製する方法として、強加工粉末と非強加工粉末とを混合する方法を用いる場合を示す。
本実施形態に係るMgB超伝導線材の製造方法は、原料粉末調製工程と、充填工程と、伸線加工工程と、熱処理工程と、を含む。原料粉末調製工程、充填工程および伸線加工工程によって、MgB超伝導線材の前駆体が得られる。その後、MgB超伝導線材の前駆体が熱処理工程を経て、MgB超伝導線材が得られる。
原料粉末調製工程では、メカニカルミル法を利用した所定の混合条件を用いて、MgBの原料となる原料粉末を調製する。原料粉末としては、強加工粉末(第1粉末)と、非強加工粉末(第2粉末)とを、メカニカルミリングよりもエネルギが小さくなる条件で緩く混合した粉末を調製する。強加工粉末と非強加工粉末とは、個別に用意してもよいし、強加工粉末を調製した後に、原料の追加と混合条件の変更とを行って、強加工粉末と混合された状態で非強加工粉末を用意してもよい。
強加工粉末は、MgBの化学量論比よりもホウ素量に対するマグネシウム量が少なくなるように、マグネシウム粉末とホウ素粉末を秤量し、これらをメカニカルミリングすることによって用意する。メカニカルミリングにおいては、MgBが明確には生成しない程度のエネルギを加えることが好ましい。なお、MgBが明確に生成しないとは、粉末X線回折においてMgBのピークが実質的に確認されないことを意味する。
非強加工粉末は、MgBの化学量論比に対するマグネシウムの不足分を含むように、マグネシウム粉末、または、マグネシウム粉末とホウ素粉末を秤量し、必要に応じて、従来の一般的なメカニカルミル法よりも粉末に加わるエネルギが小さくなる条件で混合することによって用意する。なお、非強加工粉末については、混合操作自体を行わずに用意してもよい。
原料粉末、強加工粉末および非強加工粉末の混合は、例えば、ジルコニア製等のボールメディアや、ジルコニア製等のポットを用いて行うことができる。メカニカルミリングには、遊星型ミル装置を用いることができる。また、その他の混合には、遊星型ミル装置、ポットミル装置、乳鉢等を用いることができる。
原料粉末には、炭素源等の添加剤を添加することもできる。このような添加剤としては、SiC、BC、コロネン等の炭化水素、ステアリン酸等の脂肪酸、脂肪酸のマグネシウム塩等が挙げられる。MgBを生成させる熱処理の過程において、炭素原子は、蜂の巣格子を形成するホウ素原子の一部に置換することが知られている。そのため、このような添加剤を添加すると、高磁場における臨界電流密度等を向上させることができる。添加剤は、強加工粉末や非強加工粉末に添加してもよいが、強加工粉末に添加することがより好ましい。
原料粉末は、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気や、真空雰囲気等の非酸化性雰囲気で取り扱うことが好ましい。雰囲気中の酸素量や水分量は、10ppm以下であることが好ましい。強加工粉末や非強加工粉末についても同様である。
充填工程では、原料粉末をバリア材で形成された金属管に充填する。バリア材は、MgBの生成を妨げる阻害因子を阻止する材料である。バリア材としては、鉄、ニオブ、タンタル、ニッケル、チタン、これらの合金等が挙げられる。金属管は、外周が安定化材や、モネル、ニッケル、キュプロニッケル、鉄等で覆われる多層管等であってもよい。金属管は、加工性やコスト等の観点からは、鉄またはニオブで形成することが好ましい。
伸線加工工程では、原料粉末が充填された金属管を伸線加工してMgB超伝導線材の前駆体を得る。伸線加工は、引抜加工、押出加工、スエージング加工、カセットロール加工、溝ロール加工等で行うことができる。伸線加工には、ドローベンチ、静水圧押出機、伸線機、スエージャ、カセットローラダイス、溝ロール等を用いることができる。
伸線加工には、カセットロール加工、溝ロール加工等のように、線材と直接接触する部分が固定されておらず回転するような加工法を、好ましく用いることができる。原料粉末は、このような加工法を用いた場合であっても、金属管の破れが生じ難くなるためである。このような加工法を用いると、粉末へのダメージが小さく、粉末が圧縮されて緻密化するため、充填率が高いフィラメントを得ることができる。
また、伸線加工には、スエージング加工を、好ましく用いることができる。原料粉末は、このような加工法を用いた場合であっても、金属管の破れが生じ難くなるためである。スエージング加工は、ダイスが回転し、線材を径方向に叩きながら外径を絞っていく鍛造加工である。スエージング加工は、伸線加工工程中のいずれの段階で行ってもよいが、最終線径に近い段階で施すことが好ましい。スエージング加工は、カセットロール加工よりも径方向への圧縮力が大きいため、原料粉末の変形や密着を促進させることができる。
伸線加工は、1パス当たりの減面率を8〜12%として行うことが好ましい。伸線加工中には、必要に応じて、中間焼鈍を施すこともできる。伸線加工の方法として、線材と直接接触する部分が固定されている加工法を用いる場合には、原料粉末が充填された金属管をMgBが明確に生成しない程度の温度に加熱しながら伸線加工を施すこともできる。
原料粉末が充填された金属管のシングルビレットに伸線加工を施すと、MgB超伝導線材の前駆体が得られる。MgB超伝導線材の前駆体は、フィラメントとなる前駆領域が、マグネシウムで形成された母相中にホウ素粒子が分散した領域(第1領域)と、マグネシウムで形成された母相中にホウ素粒子が存在しない領域(第2領域)と、によって構成される。
多芯線構造のMgB超伝導線材を製造する場合には、原料粉末が充填された金属管を伸線加工して複数本の単芯組込材を作製し、より大径の金属管に複数本の単芯組込材を挿入してマルチビレットとし、マルチビレットに伸線加工を施す。マルチビレットには、シングルビレットと同様の加工法や装置で伸線加工を施すことができる。また、マルチビレットには、撚線加工を施すことができる。撚りピッチは、例えば、10〜100mmとすることができる。
熱処理工程では、MgB超伝導線材の前駆体を熱処理してMgBを生成させる。熱処理によって原料粉末を焼成すると、マグネシウムで形成された母相中にホウ素粒子が分散した領域(第1領域)と、マグネシウムで形成された母相中にホウ素粒子が存在しない領域(第2領域)と、によって構成される前駆領域から、MgBで形成されたフィラメントが形成される。
熱処理雰囲気は、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気や、真空雰囲気等の非酸化性雰囲気とすることが好ましい。雰囲気中の酸素量や水分量は、10ppm以下であることが好ましい。熱処理は、MgB超伝導線材の前駆体をボビン等に巻き取った巻回状態としてから施してもよいし、巻回状態とする前に施してもよい。MgB超伝導線材の前駆体は、ワインド・アンド・リアクト法を用いる場合、ガラス繊維等の耐熱性の絶縁材で覆うことができる。
熱処理温度は、例えば、600〜700℃とする。熱処理温度が600℃以上で高いほど、マグネシウムのホウ素の側への拡散が進むため、MgBの生成反応を促進させることができる。また、熱処理温度が700℃以下で低いほど、MgBの粒成長が抑制されて、磁束ピンニングセンタとなる粒界の密度が増加し、高い臨界電流密度が得られる。
熱処理時間は、例えば、数十分〜数十時間、好ましくは2〜16時間とする。熱処理時間が長いほど、MgBを確実に生成させることができる。一方、熱処理時間が短いほど、MgBの粒成長が抑制されて、磁束ピンニングセンタとなる粒界の密度が増加し、高い臨界電流密度が得られる。
以上のMgB超伝導線材の前駆体、それを用いたMgB超伝導線材およびMgB超伝導線材の製造方法によると、パウダーインチューブ法によってMgB超伝導線材を製造するとき、伸線加工時にMgBの原料粉末を内包している金属管に破れを生じ難くなるため、伸線加工時に断線を起こすことなく、熱処理後に高い臨界電流密度を得ることができる。
MgB超伝導線材は、例えば、送電ケーブル、超伝導磁石等の各種の用途に用いることができる。超伝導磁石は、MRI(Magnetic Resonance Imaging:磁気共鳴イメージング)装置や、NMR(Nuclear Magnetic Resonance:核磁気共鳴)装置の静磁場発生用のコイル等として用いることができる。
次に、以上の製造方法によって製造されるMgB超伝導線材の前駆体のフィラメントとなる前駆領域や、MgB超伝導線材の熱処理後のフィラメントの組織について、より具体的に説明する。
ここでは、本発明に係るメカニカルミル法を利用した所定の混合条件を用いた場合に、フィラメントとなる前駆領域や熱処理後のフィラメントの組織が、他の製法で製造したものと比較して、どのような組織上の特徴を有するかを定量的に示す。比較対象は、従来の一般的なin−situ法、ex−situ法、従来の一般的なメカニカルミル法である。組織上の特徴を定量的に示す指標としては、次の指標が挙げられる。
<前駆領域における面積率>
MgB超伝導線材の前駆体は、フィラメントとなる前駆領域の縦断面において、前駆領域当たりの、マグネシウムで形成された母相中にホウ素粒子が存在しない領域(第2領域)の面積率が、5%以上54%以下であることが好ましい。このような面積率は、メカニカルミル法を利用した所定の混合条件を用いた場合に、原料の混合比を調整することによって得られる。
金属管の破れを抑制する観点からは、マグネシウムで形成された母相中にホウ素粒子が存在しない領域(第2領域)の面積率が大きいことが好ましい。しかし、この領域の面積率が大きすぎると、MgBの化学量論比を逸脱し易くなる。そのため、マグネシウムで形成された母相中にホウ素粒子が分散した領域(第1領域)のマグネシウム量を、その分減らすことが好ましい。
ホウ素の最密充填構造における充填率は、ホウ素が球体であると仮定すると、74%となる。MgBの化学量論比におけるマグネシウムとホウ素の体積比は、3:2である。よって、マグネシウムで形成された母相中にホウ素粒子が分散した領域(第1領域)における残りの26%をマグネシウムで形成するとした場合、マグネシウムで形成された母相中にホウ素粒子が存在しない領域(第2領域)の面積率は最大で54%となる。
マグネシウムで形成された母相中にホウ素粒子が存在しない領域(第2領域)の面積率が54%を超えると、ホウ素の粒子同士の間隙が生じることになるため、最終的なMgBの充填率が低くなる。一方、5%未満であると、伸線加工時の断線が十分に防止されなくなる。これに対し、この領域の面積率が5%以上54%以下であれば、断線を抑制しつつMgBの充填率を高くすることができる。
フィラメントとなる前駆領域における面積率は、例えば、MgB超伝導線材の前駆体の縦断面試料を作製し、走査型電子顕微鏡で1000倍程度の二次電子像を観察し、画像解析によってコントラストに基づいて領域を区分し、各領域の面積を計測して求めることができる。面積率は、例えば、10〜100μm角程度の10個以上の測定領域の平均値として求めることができる。
<粗大空隙の数密度>
MgB超伝導線材のMgBで形成されたフィラメントは、フィラメントの縦断面において、粗大空隙の数密度が500個/mmよりも大きいことが好ましい。このような面積率は、メカニカルミル法を利用した所定の混合条件を用いた場合に、原料の混合比を調整することによって得られる。本明細書において、粗大空隙とは、MgBフィラメントの縦断面視において輪郭線の周長が10μmよりも大きい空隙を意味する。
粗大空隙の数密度は、例えば、MgBフィラメントの縦断面試料をイオン研磨によって作製し、走査型電子顕微鏡で1000倍程度の二次電子像を観察し、画像解析によって条件に適合する空隙を計数して求めることができる。粗大空隙の数密度は、例えば、10〜100μm角程度の10個以上の測定領域の平均値として求めることができる。なお、乾式研磨や湿式研磨のみで試料を作製すると、空隙に研磨屑が入り、空隙の識別が困難になるため、イオン研磨を用いることが好ましい。
<空隙のメディアン径>
MgB超伝導線材のMgBで形成されたフィラメントは、フィラメントの縦断面において、空隙の円相当径の個数基準分布のメディアン径が100nm未満であることが好ましい。このようなメディアン径は、メカニカルミル法や適切な伸線加工法を用いた場合に得られる。
空隙のメディアン径は、例えば、MgBフィラメントの縦断面試料をイオン研磨によって作製し、走査型電子顕微鏡で10000倍程度の二次電子像を観察し、画像解析によって条件に適合する空隙の円相当径を計測して求めることができる。空隙のメディアン径は、例えば、数個以上の視野における10個程度以上の空隙の円相当径から求めることができる。但し、円相当径が30nm以下の空隙は、顕微鏡観察が困難であるため、計数上では無視する。また、円相当径が10μm以上の空隙は、顕微鏡観察が難しく、数密度が極小にもなるため、計数上では無視することができる。
<MgBの充填率>
MgB超伝導線材のMgBで形成されたフィラメントは、MgBの充填率が70体積%以上であることが好ましい。このようなMgBの充填率は、メカニカルミル法や適切な伸線加工法を用いた場合に得られる。本明細書において、MgBの充填率とは、MgBフィラメントの縦断面視において空隙以外の領域が占める割合を意味する。
MgBの充填率は、MgBフィラメントの縦断面試料をイオン研磨によって作製し、走査型電子顕微鏡で1000倍程度の二次電子像を観察し、空隙の面積率を計測した後、空隙の面積率の平均値を100%から差し引いて求めることができる。MgBの充填率は、例えば、10〜100μm角程度の10個以上の測定領域の平均値として求めることができる。なお、粗大空隙と微小空隙とは、等倍率で判別できない場合があるため、倍率が異なる複数の視野の顕微鏡像を用いる。
MgBの充填率は、MgBフィラメントから試験片を採取し、試験片の重量と寸法から試験片の相対密度を計算し、得られた相対密度をMgBの真密度(2.62g/cm)で除算することによって求めることもできる。
<他の製法との比較>
フィラメントとなる前駆領域や熱処理後のフィラメントの組織は、本発明に係るメカニカルミル法を利用した所定の混合条件を用いた場合と、他の製法で製造した場合とで、次の表1に示すような特徴を示す。
Figure 2021140878
表1に示す指標を照合することによって、任意のMgB超伝導線材が、どのような製法で製造されたかを推定することが可能である。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。例えば、本発明は、必ずしも前記の実施形態が備える全ての構成を備えるものに限定されない。或る実施形態の構成の一部を他の構成に置き換えたり、或る実施形態の構成の一部を他の形態に追加したり、或る実施形態の構成の一部を省略したりすることができる。
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。
<比較例1>
比較例1では、従来の一般的なメカニカルミル法を用いて原料粉末を調製し、その原料粉末を用いてMgB超伝導線材の前駆体を作製した。
出発原料としては、マグネシウム粉末(粒度:200メッシュ、純度:99.8%以上)、ホウ素粉末(粒径:250nm以下、純度:98.5%以上、非晶質)、コロネン粉末(C2412粉末、純度:83%以上)を使用した。
出発原料の粉末を、モル比でMg:B:C=1:1.96:0.04となるように秤量し、ジルコニア製ボールと共にジルコニア製容器に封入した。この粉末を遊星ミル装置を用いて400rpmで6時間混合して原料粉末を得た。
得られた原料粉末を、鉄管(外径:16.5mm)に充填し、外径が8.0mmになるまで引抜加工による伸線加工を施して単芯組込材を得た。この単芯組込材を鉄棒(直径:8.0mm)の周囲に6本配置し、その外側に鉄管を被せ、その更に外側に銅管を被せて、ビレット(外径:30mm、長さ:300mm)を得た。その後、伸線加工を施して、MgB超伝導線材の前駆体を得た。
比較例1で作製したビレットに複数回の引抜加工による伸線加工を施したところ、線径が1.9mm以下になった段階で、引抜加工中に度々断線を生じた。線径が1.6mmになった段階で得られた線長は、最大でも10m程度であった。
伸線加工によって得られたMgB超伝導線材の前駆体を樹脂に埋め込み、湿式研磨によって横断面試料を作製して、光学顕微鏡で観察した。
図3は、比較例1に係るMgB超伝導線材の前駆体の横断面の光学顕微鏡像である。
図3に示すように、従来の一般的なメカニカルミル法を用いてMgB超伝導線材の前駆体を作製すると、金属管に破れが生じた。金属管の破れは、一部の横断面において発生しており、隣接するフィラメント前駆領域同士の間を貫通する形態となった。このような破れが存在すると、その後の伸線加工のパスにおいて、内部応力の過度な偏りが生じるため、断線が起こる可能性が高いといえる。
続いて、線径を1.6mmまで縮径させたMgB超伝導線材の前駆体に、特許文献2のように、スエージング加工を施した。その後、スエージング加工されたMgB超伝導線材の前駆体を樹脂に埋め込み、乾式研磨とアルゴンイオン研磨によって縦断面試料を作製して、走査型電子顕微鏡で観察した。
図4は、比較例1に係るMgB超伝導線材の前駆体のスエージング加工後の縦断面の走査型電子顕微鏡による反射電子像である。電子顕微鏡観察において、加速電圧は15kV、倍率は1000倍とした。
図4に示すように、灰色のコントラストを呈する領域が全体にわたって均一性高く分布することが確認された。灰色のコントラストを呈する領域は、マグネシウムで形成された母相中にホウ素の粒子が分散した領域である。
続いて、スエージング加工後のMgB超伝導線材の前駆体を、短尺に切り分けた。そして、アルゴン雰囲気中、600℃で12時間にわたって熱処理を施した。その後、ヘリウムガスを吹き付けて20Kに冷却した。得られたMgB超伝導線材について、直流四端子法で臨界電流密度を測定した。その結果、外部磁場5Tにおいて、Jc=140A/mmであった。
<実施例1>
実施例1では、本発明に係るメカニカルミル法を利用した所定の混合条件を用いて原料粉末を調製し、その原料粉末を用いてMgB超伝導線材の前駆体を作製した。実施例1は、メカニカルミリングの条件を調整する方法で原料粉末の調製を行い、遊星ミル装置を用いた混合の時間を3時間に変えた点を除いて、比較例1と同様にして行った。
実施例1で作製したビレットに複数回の引抜加工による伸線加工を施したところ、線径が1.6mmになるまで、断線を生じなかった。線径が1.6mmになった段階で得られた線長は、50m程度であった。メカニカルミリングによる混合時間を短縮すると、伸線加工時の金属管の断線が抑制されることが分かった。
図5は、実施例1に係るMgB超伝導線材の前駆体のスエージング加工後の縦断面の走査型電子顕微鏡による反射電子像である。電子顕微鏡観察において、加速電圧は15kV、倍率は1000倍とした。
図5に示すように、白色のコントラストを呈する領域が分布しており、元素の分布にムラがある均一性が低い組織が確認された。この白色のコントラストを呈する領域は、マグネシウムで形成された母相中にホウ素粒子が存在しない領域である。
図6は、実施例1に係るMgB超伝導線材の前駆体のスエージング加工後の縦断面の走査型電子顕微鏡による反射電子像である。電子顕微鏡観察において、加速電圧は5kV、倍率は1000倍とした。
図6に示すように、加速電圧を低くすると、電子ビームが試料の深部まで侵入し難くなるため、図5と比較してコントラストが鮮明になった。図5には、試料の深さ方向について平均化された元素の分布が現れているが、図6には、薄い断層における元素の分布が現れている。
実施例1に係るMgB超伝導線材の前駆体では、フィラメントとなる前駆領域に、灰色のコントラストを呈する領域と、白色のコントラストを呈する領域とが、明確に存在しており、その他の領域は殆ど存在しなかった。フィラメントとなる前駆領域は、マグネシウムで形成された母相中にホウ素の粒子が分散した領域と、マグネシウムで形成された母相中にホウ素粒子が存在しない領域と、によって構成されることが分かった。
図7は、実施例1に係るMgB超伝導線材の前駆体のスエージング加工後の縦断面の走査型電子顕微鏡による反射電子像を画像処理した二値画像である。
図7は、図6の反射電子像を二値化処理したものである。図7において、黒色の領域は、反射電子像において白色のコントラストを呈していた領域であり、マグネシウムで形成された母相中にホウ素粒子が存在しない領域である。二値画像を画像解析した結果、マグネシウムで形成された母相中にホウ素粒子が存在しない領域の面積率は12%であった。
続いて、スエージング加工後のMgB超伝導線材の前駆体を、短尺に切り分けた。そして、アルゴン雰囲気中、600℃で12時間にわたって熱処理を施した。その後、ヘリウムガスを吹き付けて20Kに冷却した。得られたMgB超伝導線材について、直流四端子法で臨界電流密度を測定した。その結果、外部磁場5Tにおいて、Jc=150A/mmであった。マグネシウムで形成された母相中にホウ素粒子が存在しない領域を導入することによって、臨界電流密度を低下させることなく、伸線加工時の金属管の断線を抑制することができることが分かった。
なお、遊星ミル装置を用いた混合の時間を1.5時間に変えた点を除いて、比較例1と同様にして原料粉末を調製した。作製したビレットに複数回の引抜加工による伸線加工を施したところ、伸線加工時に金属管断線は生じなかった。但し、フィラメントとなる前駆領域には、白色のコントラストを呈する領域が、殆ど存在しなかった。メカニカルミリングの時間が短すぎると、従来の一般的なin−situ法と同様の組織となることが分かった。
また、遊星ミル装置を用いた混合の時間を4.5時間に変えた点を除いて、比較例1と同様にして原料粉末を調製した。作製したビレットに複数回の引抜加工による伸線加工を施したところ、伸線加工時の断線は生じなかった。フィラメントとなる前駆領域には、灰色のコントラストを呈する領域と、白色のコントラストを呈する領域とが、明確に存在しており、その他の領域は殆ど存在しなかった。二値画像を画像解析した結果、マグネシウムで形成された母相中にホウ素粒子が存在しない領域の面積率は、7%程度であった。この領域の面積率が概ね5%以上である場合には、伸線加工時の断線が生じ難くなることが分かった。
<実施例2>
実施例2では、本発明に係るメカニカルミル法を利用した所定の混合条件を用いて原料粉末を調製し、その原料粉末を用いてMgB超伝導線材の前駆体を作製した。実施例2は、強加工粉末と非強加工粉末とを混合する方法で原料粉末の調製を行い、マグネシウム粉末とホウ素粉末とをメカニカルミリングした後に、マグネシウム粉末のみを追加して緩く混合する方法で行った。
出発原料としては、比較例1と同様に、マグネシウム粉末(粒度:200メッシュ、純度:99.8%以上)、ホウ素粉末(粒径:250nm以下、純度:98.5%以上、非晶質)、コロネン粉末(C2412粉末、純度:83%以上)を使用した。
出発原料の粉末を、MgBの化学量論比よりもホウ素量に対するマグネシウム量が少なくなるように、モル比でMg:B:C=1−x:1.96:0.04となるように秤量し、ジルコニア製ボールと共にジルコニア製容器に封入した。この粉末を遊星ミル装置を用いて400rpmで6時間混合した後、MgBの化学量論比に対するマグネシウムの不足分を追加し、ポットミル装置で混和させて原料粉末を得た。
得られた原料粉末を、比較例1と同様に、鉄管(外径:16.5mm)に充填し、外径が8.0mmになるまで引抜加工による伸線加工を施して単芯組込材を得た。この単芯組込材を鉄棒(直径:8.0mm)の周囲に6本配置し、その外側に鉄管を被せ、その更に外側に銅管を被せて、ビレット(外径:30mm、長さ:300mm)を得た。その後、伸線加工を施して、MgB超伝導線材の前駆体を得た。
強加工粉末と非強加工粉末とを混合する方法においても、マグネシウムで形成された母相中にホウ素粒子が存在しない領域が導入されるため、臨界電流密度を低下させることなく、伸線加工時の金属管の断線を抑制することができることが分かった。
図8は、実施例および比較例に係るMgB超伝導線材の縦断面の走査型電子顕微鏡による反射電子像である。電子顕微鏡観察において、加速電圧は15kV、倍率は1000倍と10000倍の2条件を用いた。
図8の一段目は、ex−situ法を用いた場合に形成されるフィラメントを示す。図8の二段目は、従来の一般的なin−situ法を用いた場合に形成されるフィラメントを示す。図8の三段目は、従来の一般的なメカニカルミル法を用いた場合に形成されるフィラメントを示す。図8の四段目は、本発明に係るメカニカルミル法を利用した所定の混合条件を用いた場合に形成される実施例1のフィラメントを示す。左欄は、倍率が1000倍の画像である。右欄は、倍率が10000倍の画像である。
図8の一段目に示すように、MgBの原料粉末を調製する方法として、ex−situ法を用いると、粗大空隙の数密度が小さくなり、空隙のメディアン径が比較的大きくなった。この結果は、MgBの生成や焼結の過程が、in−situ法とは異なることに起因すると考えられる。ex−situ法では、MgBの粒子同士の粒子間隙が、熱処理後の空隙となる傾向がある。通常、MgBの粉末を作製する際には、バルク状のMgBを焼成した後に粉砕して粉末化する。しかし、粉砕によって形成される粒子径は、最小でも1μm程度である。その一方で、in−situ法では、ホウ素の粒子同士の粒子間隙が、熱処理後の空隙となる傾向がある。通常、ホウ素としては、粒子径が1μm以下の粉末が用いられる。そのため、ex−situ法を用いると、in−situ法よりも空隙のメディアン径が大きくなる。
図8の二段目に示すように、従来の一般的なin−situ法を用いると、線材の長手方向に伸長した粗大空隙や、多数の微小空隙が形成された。MgBの充填率は、70%未満となった。粗大空隙の数密度は、1000個/mmを超え、数千個/mm程度となった。
図8の三段目に示すように、従来の一般的なメカニカルミル法を用いると、僅かに微小空隙が形成されたが、粗大空隙は形成されなかった。MgBの充填率は、70%以上となった。粗大空隙の数密度は、500個/mm未満となった。
図8の四段目に示すように、本発明に係るメカニカルミル法を利用した所定の混合条件を用いると、線材の長手方向に伸長した粗大空隙や、僅かに微小空隙が形成された。MgBの充填率は、70%以上となった。粗大空隙の数密度は、500個/mm以上となり、2000個/mm程度となった。
よって、表1に示す指標によって、本発明に係るメカニカルミル法を利用した所定の混合条件を用いて作製したMgB超伝導線材が特定されているといえる。
1 マグネシウム
2 ホウ素
3 金属管
4 粒子間隙
5 フィラメント
101 マグネシウムで形成された母相中にホウ素粒子が分散した領域(第1領域,前駆領域)
102 マグネシウムで形成された母相中にホウ素粒子が存在しない領域(第2領域,前駆領域)
401 粗大空隙
402 微小空隙

Claims (9)

  1. パウダーインチューブ法による熱処理前のMgB超伝導線材の前駆体であって、
    マグネシウム粉末とホウ素粉末が充填されており、熱処理によってMgBのフィラメントとなる前駆領域と、
    前記前駆領域を内包する金属管と、を備え、
    前記前駆領域は、元素の分布が互いに異なる第1領域と第2領域で構成されており、
    前記第1領域は、マグネシウムで形成された母相中にホウ素粒子が分散した領域であり、
    前記第2領域は、マグネシウムで形成された母相中にホウ素粒子が存在しない領域であるMgB超伝導線材の前駆体。
  2. 請求項1に記載のMgB超伝導線材の前駆体であって、
    前記前駆領域の縦断面において、前記前駆領域当たりの前記第2領域の面積率が5%以上54%以下であるMgB超伝導線材の前駆体。
  3. 請求項1または請求項2に記載のMgB超伝導線材の前駆体であって、
    前記金属管は、鉄またはニオブで形成されているMgB超伝導線材の前駆体。
  4. MgBで形成されたフィラメントと、
    前記フィラメントの外周を覆う金属管と、を備え、
    前記フィラメントは、前記フィラメントの縦断面において、MgBの充填率が70体積%以上であり、空隙の円相当径の個数基準分布のメディアン径が100nm未満であり、周長が10μmより大きい粗大空隙の数密度が500個/mmよりも大きいMgB超伝導線材。
  5. 請求項4に記載のMgB超伝導線材であって、
    外周が前記金属管で覆われた複数の前記フィラメントを有する多芯線構造であるMgB超伝導線材。
  6. 請求項5に記載のMgB超伝導線材であって、
    複数の前記金属管を外側から覆う安定化材を備えるMgB超伝導線材。
  7. 請求項5に記載のMgB超伝導線材であって、
    複数の前記金属管に外側から覆われた安定化材を備えるMgB超伝導線材。
  8. 請求項6または請求項7に記載のMgB超伝導線材であって、
    前記金属管は、鉄またはニオブで形成されており、
    前記安定化材は、銅であるMgB超伝導線材。
  9. MgBの原料となる原料粉末を調製する工程と、
    前記原料粉末を金属管に充填する工程と、
    前記原料粉末が充填された前記金属管を伸線加工して前駆体を得る工程と、
    前記前駆体を熱処理してMgBを生成させる工程と、を含み、
    前記原料粉末は、MgBの化学量論比よりもホウ素量に対するマグネシウム量が少なく、メカニカルミリングによって得られる、マグネシウムで形成された母相中にホウ素粒子が分散した第1粉末と、MgBの化学量論比に対する前記マグネシウムの不足分を含み、前記メカニカルミリングに相当するエネルギを加えられてなく、マグネシウムで形成された母相中にホウ素粒子が存在していない第2粉末とを、前記メカニカルミリングよりもエネルギが小さくなる条件で緩く混合した粉末であるMgB超伝導線材の製造方法。
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