以下に、本発明に係る空気入りタイヤの実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、この実施形態の構成要素には、発明の同一性を維持しつつ置換可能かつ置換自明なものが含まれる。また、この実施形態に記載された複数の変形例は、当業者自明の範囲内にて任意に組み合わせが可能である。
以下の説明において、タイヤ径方向とは、後述する空気入りタイヤ1の回転軸(図示省略)と直交する方向をいい、タイヤ径方向内側とはタイヤ径方向において回転軸に向かう側、タイヤ径方向外側とはタイヤ径方向において回転軸から離れる側をいう。また、タイヤ周方向とは、回転軸を中心軸とする周り方向をいう。また、タイヤ幅方向とは、回転軸と平行な方向をいい、タイヤ幅方向内側とはタイヤ幅方向においてタイヤ赤道面(タイヤ赤道線)CLに向かう側、タイヤ幅方向外側とはタイヤ幅方向においてタイヤ赤道面CLから離れる側をいう。タイヤ赤道面CLとは、空気入りタイヤ1の回転軸に直交すると共に、空気入りタイヤ1のタイヤ幅の中心を通る平面であり、タイヤ赤道面CLは、空気入りタイヤ1のタイヤ幅方向における中心位置であるタイヤ幅方向中心線と、タイヤ幅方向における位置が一致する。タイヤ幅は、タイヤ幅方向において最も外側に位置する部分同士のタイヤ幅方向における幅、つまり、タイヤ幅方向においてタイヤ赤道面CLから最も離れている部分間の距離である。タイヤ赤道線とは、タイヤ赤道面CL上にあって空気入りタイヤ1のタイヤ周方向に沿う線をいう。
図1は、実施形態に係る空気入りタイヤのトレッド部の一部断面を示す斜視図である。図1に示す空気入りタイヤ1は、タイヤ径方向の最も外側となる部分にトレッド部2が配設されており、トレッド部2の表面、即ち、当該空気入りタイヤ1を装着する車両(図示省略)の走行時に路面と接触する部分は、トレッド面3として形成されている。トレッド面3には複数の溝10が形成されており、複数の溝10によって複数の陸部15が区画されている。溝10としては、例えば、タイヤ周方向に延びる複数の周方向溝11と、タイヤ幅方向に延びる複数のラグ溝(図示省略)とが形成される。
空気入りタイヤ1は、トレッド面3にサイプ20が形成されている。サイプ20は、タイヤ周方向に沿って間隔を空けて複数配置されている。サイプ20は、所定の深さでタイヤ幅方向に延びて形成されており、溝10によって区画される各陸部15に設けられている。サイプ20は、タイヤ幅方向に延びつつタイヤ周方向に屈曲するものを含んでいる。サイプ20は、タイヤ径方向に延びつつタイヤ周方向に屈曲するものを含んでいる。このサイプ20は、サイプ部21と、拡幅部22とを有する。
サイプ部21は、トレッド面3からタイヤ径方向内側に延在する部分である。サイプ部21は、トレッド面3に細溝状に形成されるものであり、空気入りタイヤ1を正規リムにリム組みし、正規内圧の内圧条件で、無負荷時には細溝を構成する壁面同士が接触しないが、平板上で垂直方向に負荷させたときの平板上に形成される接地面の部分に細溝が位置する際、または細溝が形成される陸部15の倒れ込み時には、当該細溝を構成する壁面同士、或いは壁面に設けられる部位の少なくとも一部が、陸部15の変形によって互いに接触するものをいう。サイプ部21は、トレッド面3で開口する溝幅Wsが例えば0.4mm以上1.0mm以下に形成されている。正規リムとは、JATMAで規定する「標準リム」、TRAで規定する「Design Rim」、或いは、ETRTOで規定する「Measuring Rim」である。また、正規内圧とは、JATMAで規定する「最高空気圧」、TRAで規定する「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に記載の最大値、或いはETRTOで規定する「INFLATION PRESSURES」である。
拡幅部22は、サイプ部21の底部において、サイプ部21の細溝の溝幅から拡大するものである。本実施形態において、拡幅部22は、サイプ部21の溝幅から両側(図1ではタイヤ周方向の両側)に拡大し、断面が略円形状に拡大して形成されている。拡幅部22は、サイプ部21とは異なり、陸部15の倒れ込み時に壁面同士は互いに接触しない。拡幅部22は、最大幅Waが例えば0.5mm以上6.0mm以下に形成されている。
また、サイプ20は、陸部15から溝10に開口して形成されていることが好ましい。本実施形態において、サイプ20は、図1に示すように周方向溝11に開口して形成されている。
このような空気入りタイヤ1において、サイプ20は、サイプ部21によりトレッド面3と路面との間の水を受け入れて除水効果を生じ氷上路面での走行性能の向上に寄与する。また、空気入りタイヤ1において、サイプ20は、拡幅部22により水の吸水量が向上し、より除水効果を生じて氷上路面での走行性能の向上に寄与する。さらに、空気入りタイヤ1において、サイプ20は、溝10に開口して形成されているため、溝10への排水効果を生じて氷上路面での走行性能の向上にさらに寄与する。
次に、実施形態に係るタイヤ成形用金型101について説明する。図2は、実施形態に係る空気入りタイヤを製造するタイヤ成形用金型の説明図である。図3は、実施形態に係るタイヤ成形用金型の一部断面を示す斜視図である。なお、以下の説明では、空気入りタイヤ1のタイヤ径方向を、タイヤ成形用金型101においてもタイヤ径方向として説明し、空気入りタイヤ1のタイヤ幅方向を、タイヤ成形用金型101においてもタイヤ幅方向として説明し、空気入りタイヤ1のタイヤ周方向を、タイヤ成形用金型101においてもタイヤ周方向として説明する。
タイヤ成形用金型101は、図2に示すように、分割型のタイヤ成形用金型101であり、いわゆるセクターモールドとして構成され、タイヤ周方向に分割される複数のセクター101Aを相互に連結して成る環状構造を有している。なお、図2では、タイヤ成形用金型101が8つのセクター101Aから成る8分割構造の形態を図示しているが、タイヤ成形用金型101の分割数は、これに限定されない。
1つのセクター101Aは、製品となる空気入りタイヤ1のトレッド部2の成形を行う複数のピース102と、これらのピース102を相互に隣接させて装着するバックブロック104とを備える。1つのピース102は、一定のピッチまたは任意のピッチで分割されたトレッドパターンの一部分に対応し、トレッドパターンの一部分を形成するためのトレッド成形面103を有している。1つのセクター101Aは、タイヤ周方向およびタイヤ幅方向に、それぞれ複数のピース102を有しており(図示省略)、複数のピース102が集合することにより、1つのセクター101Aのトレッド成形面103が構成される。換言すると、1つのセクター101Aが有するピース102は、複数のピース102に分割されている。
バックブロック104は、複数のピース102を所定の配列で装着して保持する。これにより、1つのセクター101Aが構成される。
タイヤ成形用金型101は、これらのように構成されるセクター101Aが複数用いられ、複数のセクター101Aが環状に連結されることにより構成される。タイヤ成形用金型101は、このように複数のセクター101Aが環状に連結されることにより、各セクター101Aのトレッド成形面103が集合し、トレッドパターン全体のトレッド成形面103が構成される。
タイヤ成形用金型101は、図3に示すように、各セクター101Aにおけるトレッド成形面103に、空気入りタイヤ1のトレッド部2に溝10を形成するため、周方向溝11を形成する周方向溝成形骨111と、図には明示しないがラグ溝を形成するラグ溝成形骨とが配置されている。周方向溝成形骨111およびラグ溝成形骨は、トレッド成形面103から突出するリブ110として形成されている。
また、タイヤ成形用金型101は、図2および図3に示すように、各セクター101Aにおけるトレッド成形面103に、サイプ20を形成するサイプブレード120が配置されている。サイプブレード120は、金属材料からなる板状の部材として形成されている。サイプブレード120を形成する金属材料としては、例えば、ステンレスが用いられる。サイプブレード120は、各セクター101Aにおいて、トレッド部2に形成されるサイプ20が配置される数と対応してタイヤ周方向に沿って複数配置され、かつトレッド部2に形成されるサイプ20が配置される位置と対応する位置に配置されている。サイプブレード120は、タイヤ幅方向に延びつつタイヤ周方向に屈曲するものを含んでいる。サイプブレード120は、タイヤ径方向に延びつつタイヤ周方向に屈曲するものを含んでいる。このサイプブレード120は、ブレード部121と、拡大部122とを有する。
ブレード部121は、トレッド成形面103からタイヤ径方向内側に延在する部分である。ブレード部121は、所定の長さでタイヤ幅方向に延びて形成されており、リブ110によって区画される凹部115に設けられている。ブレード部121は、タイヤ幅方向に延びつつタイヤ周方向に屈曲するものを含んでいる。ブレード部121は、タイヤ径方向に延びつつタイヤ周方向に屈曲するものを含んでいる。ブレード部121は、薄板状に形成されるものであり、トレッド成形面103での幅Wtが例えば0.4mm以上1.0mm以下に形成されている。
拡大部122は、ブレード部121の延在端において、ブレード部121の幅から拡大するものである。本実施形態において、拡大部122は、ブレード部121の幅から両側(図3ではタイヤ周方向の両側)に拡大し、断面が略円形状に拡大して形成されている。拡大部122は、最大幅Wbが例えば0.5mm以上6.0mm以下に形成されている。
また、サイプブレード120は、リブ110に接続して形成されていることが好ましい。本実施形態において、サイプブレード120は、図3に示すように周方向溝成形骨111に接続して形成されている。
次に、タイヤ成形用金型101および空気入りタイヤ1の詳細について説明する。図4は、実施形態に係る空気入りタイヤおよびタイヤ成形用金型を示す断面図である。図5および図6は、サイプブレードおよびサイプを示す拡大図である。なお、図4では、1つのセクター101Aと、このセクター101Aにより成形される空気入りタイヤ1のトレッド部2の一部とを示している。
タイヤ成形用金型101は、各セクター101Aが、タイヤ周方向の端部となる分割位置101Aaを有している(図2参照)。また、タイヤ成形用金型101は、図4に示すように、1つのセクター101Aにおいて、タイヤ周方向の中央領域SCと、分割位置101Aa付近となる外側領域SSとを有する。中央領域SCは、1つのセクター101Aにおけるタイヤ周方向の中央Oからタイヤ周方向両側に、1つのセクター101Aのタイヤ周方向寸法(分割位置101Aa間の寸法)SAの25%の領域をいう。外側領域SSは、各分割位置101Aaからタイヤ周方向内側に、1つのセクター101Aのタイヤ周方向寸法SAの25%の領域をいう。
上述したように、タイヤ成形用金型101は、1つのセクター101Aにおいて、サイプブレード120がタイヤ周方向に沿って複数配置されている。また、上述したように、サイプブレード120は、ブレード部121と拡大部122とを有する。図5および図6に示すように、サイプブレード120は、セクター101Aにおけるトレッド成形面103からの延在長さLの50%以上の位置に拡大部122が形成されている。また、サイプブレード120は、拡大部122の最大幅Wbと、ブレード部121のトレッド成形面103での幅Wtとが、Wb>Wtの関係を満たす。
そして、タイヤ成形用金型101は、セクター101Aの中央領域SCに配置されたサイプブレード120について、図5に示すように、ブレード部121の延在端に形成された拡大部122が、ブレード部121の中心線Cを基準にしてタイヤ周方向で均等に拡大して形成されている。即ち、中央領域SCにおいて、サイプブレード120は、中心線Cから拡大部122の各タイヤ周方向側端までの各距離W0が等しく、W0=W0の関係を満たす。なお、中心線Cは、トレッド成形面103の法線であってタイヤ径方向に直線状に延在する。そして、中心線Cは、図5に示すように、本実施形態において、ブレード部121がタイヤ径方向に直線状に延在している場合は、ブレード部121の幅Wtの中心を通過してタイヤ径方向に向けて延びる。中心線Cは、ブレード部121がタイヤ径方向に延びつつタイヤ周方向に屈曲する場合、タイヤ周方向の最も屈曲している部分(前端部という)と、その反対のタイヤ周方向に最も屈曲している部分(後端部という)があるとき、前端部と後端部のタイヤ周方向の中心を通る直線とする。
また、タイヤ成形用金型101は、セクター101Aの分割位置101Aa付近となる外側領域SSに配置されたサイプブレード120について、図6に示すように、ブレード部121の延在端に形成された拡大部122が、ブレード部121の中心線Cを基準にしてタイヤ周方向で分割位置101Aa寄りに大きく偏って拡大して形成されている。即ち、外側領域SSにおいて、サイプブレード120は、中心線Cから拡大部122の分割位置101Aa側のタイヤ周方向外側端122eまでの距離W1が、中心線Cから拡大部122の分割位置101Aaとは反対側で中央O側のタイヤ周方向内側端122cまでの距離W2よりも大きく、W1>W2の関係を満たす。
タイヤ成形用金型101は、セクター101Aの分割位置101Aa付近となる外側領域SSに配置されたサイプブレード120について、図6に示すように、拡大部122の最大幅Wbと、ブレード部121のトレッド成形面103での幅Wtとが、1.2≦Wb/Wt≦6.0の関係を満たす。好ましくは、タイヤ成形用金型101は、拡大部122の最大幅Wbと、ブレード部121のトレッド成形面103での幅Wtとが、2.0≦Wb/Wt≦4.0の関係を満たす。
タイヤ成形用金型101は、セクター101Aの分割位置101Aa付近となる外側領域SSに配置されたサイプブレード120について、図6に示すように、ブレード部121のトレッド成形面103でのタイヤ周方向外側端121eから拡大部122のタイヤ周方向外側端122eまでの距離Wbeと、ブレード部121のトレッド成形面103でのタイヤ周方向内側端121cから拡大部122のタイヤ周方向内側端122cまでの距離Wbcとが、Wbe>Wbcの関係を満たす。タイヤ成形用金型101は、距離Wbe,Wbcが、1.3≦Wbe/Wbc≦3.0の関係を満たすことが好ましい。この距離Wbe,Wbcの関係Wbe/Wbcは、最も分割位置101Aaの近くに配置されているサイプブレード120において最大となる。
一方、空気入りタイヤ1は、図4に示すように、各セクター101A同士の合わさる各分割位置101Aaにより、トレッド面3に対してタイヤ幅方向に延びる凸状に形成された分割境界部6が形成される。また、空気入りタイヤ1は、1つのセクター101Aがなす範囲(分割境界部6,6間の範囲)において、タイヤ周方向の中央領域SC’と、分割境界部6付近となる外側領域SS’とを有する。中央領域SC’は、分割境界部6,6間におけるタイヤ周方向の中央Oからタイヤ周方向両側に、分割境界部6,6間のタイヤ周方向寸法SA’の25%の領域をいう。外側領域SS’は、各分割境界部6からタイヤ周方向内側に、分割境界部6,6間のタイヤ周方向寸法SA’の25%の領域をいう。
空気入りタイヤ1は、1つのセクター101Aがなす分割境界部6,6間の範囲において、サイプ20がタイヤ周方向に沿って複数配置されている。また、上述したように、サイプ20は、サイプ部21と拡幅部22とを有する。図5および図6に示すように、サイプ20は、トレッド面3からの延在長さLの50%以上の位置に拡幅部22が形成されている。また、サイプ20は、拡幅部22の最大幅Waと、サイプ部21のトレッド面3での溝幅Wsとが、Wa>Wsの関係を満たす。
そして、空気入りタイヤ1は、分割境界部6,6間の中央領域SC’に配置されたサイプ20について、図5に示すように、サイプ部21の延在端に形成された拡幅部22が、サイプ部21の中心線Cを基準にしてタイヤ周方向で均等に拡大して形成されている。即ち、中央領域SCにおいて、サイプ20は、中心線Cから拡幅部22の各タイヤ周方向側端までの各距離W0が等しく、W0=W0の関係を満たす。なお、中心線Cは、トレッド面3の法線であってタイヤ径方向に直線状に延在する。そして、中心線Cは、図5に示すように、本実施形態において、サイプ部21がタイヤ径方向に直線状に延在している場合は、サイプ部21の溝幅Wsの中心を通過してタイヤ径方向に向けて延びる。中心線Cは、サイプ部21がタイヤ径方向に延びつつタイヤ周方向に屈曲する場合、タイヤ周方向の最も屈曲している部分(前端部という)と、その反対のタイヤ周方向に最も屈曲している部分(後端部という)があるとき、前端部と後端部のタイヤ周方向の中心を通る直線とする。
また、空気入りタイヤ1は、分割境界部6付近となる外側領域SS’に配置されたサイプ20について、図6に示すように、サイプ部21の延在端に形成された拡幅部22が、サイプ部21の中心線Cを基準にしてタイヤ周方向で分割境界部6寄りに大きく偏って拡大して形成されている。即ち、外側領域SS’において、サイプ20は、中心線Cから拡幅部22の分割境界部6側のタイヤ周方向外側端22eまでの距離W1が、中心線Cから拡幅部22の分割境界部6とは反対側で中央O側のタイヤ周方向内側端22cまでの距離W2よりも大きく、W1>W2の関係を満たす。
空気入りタイヤ1は、分割境界部6付近となる外側領域SS’に配置されたサイプ20について、図6に示すように、拡幅部22の最大幅Waと、サイプ部21のトレッド面3での溝幅Wsとが、1.2≦Wa/Ws≦6.0の関係を満たす。好ましくは、空気入りタイヤ1は、拡幅部22の最大幅Waと、サイプ部21のトレッド面3での溝幅Wsとが、2.0≦Wa/Ws≦4.0の関係を満たす。
空気入りタイヤ1は、分割境界部6付近となる外側領域SS’に配置されたサイプ20について、図6に示すように、サイプ部21のトレッド面3でのタイヤ周方向外側端21eから拡幅部22のタイヤ周方向外側端22eまでの距離Wbeと、サイプ部21のトレッド面3でのタイヤ周方向内側端21cから拡幅部22のタイヤ周方向内側端22cまでの距離Wbcとが、Wbe>Wbcの関係を満たす。空気入りタイヤ1は、距離Wbe,Wbcが、1.3≦Wbe/Wbc≦3.0の関係を満たすことが好ましい。この距離Wbe,Wbcの関係Wbe/Wbcは、最も分割境界部6の近くに配置されているサイプ20において最大となる。
次に、実施形態に係るタイヤ成形用金型101を用いた空気入りタイヤ1の製造方法について説明する。図7は、実施形態に係るタイヤ成形用金型を用いたタイヤ製造方法を示す説明図である。図8は、加硫成形後の空気入りタイヤからタイヤ成形用金型を取り外す前の状態を示す説明図である。図9は、加硫成形後の空気入りタイヤからタイヤ成形用金型を取り外す状態を示す説明図である。図10は、加硫成形後の空気入りタイヤから一般的なタイヤ成形用金型を取り外す様子を示す説明図である。図11は、加硫成形後の空気入りタイヤから本実施形態に係るタイヤ成形用金型を取り外す様子を示す説明図である。
本実施形態に係る空気入りタイヤ1は、以下の製造工程により製造される。
まず、空気入りタイヤ1を構成する各種ゴム部材(図示省略)や、カーカスプライ(図示省略)やベルトプライ(図示省略)等の各部材が成形機にかけられて、グリーンタイヤGが成形される。次に、このグリーンタイヤGが、金型支持装置105に装着される(図7参照)。
図7において、金型支持装置105は、支持プレート106と、外部リング107と、セグメント109と、上部プレート112Aおよびベースプレート112Bと、上型サイドモールド113Aおよび下型サイドモールド113Bと、タイヤ成形用金型101とを備える。支持プレート106は、円盤形状を有し、平面を水平にして配置される。外部リング107は、径方向内側のテーパ面108を有する環状構造体であり、支持プレート106の外周縁下部に吊り下げられて設置される。セグメント109は、タイヤ成形用金型101の各セクター101Aに対応する分割可能な環状構造体であり、外部リング107に挿入されて外部リング107のテーパ面108に対して摺動可能に配置される。上部プレート112Aは、外部リング107の内側で、かつ、セグメント109と支持プレート106との間にて、上下方向に昇降可能に設置される。ベースプレート112Bは、支持プレート106の下方で、かつ、上下方向における支持プレート106の反対側の位置に配置される。
上型サイドモールド113Aおよび下型サイドモールド113Bは、空気入りタイヤ1のタイヤ幅方向における両側面の形状であるサイドプロファイルの成形面を有する。また、上型サイドモールド113Aと下型サイドモールド113Bとは、上型サイドモールド113Aが上部プレート112Aの下面側に取り付けられ、下型サイドモールド113Bがベースプレート112Bの上面側に取り付けられて、それぞれの成形面を相互に対向させて配置される。タイヤ成形用金型101は、空気入りタイヤ1のトレッド面3を成形可能なトレッド成形面103をもつ分割可能な環状構造(図2参照)を有する。また、タイヤ成形用金型101は、各セクター101Aが、対応するセグメント109の内周面に取り付けられ、トレッド成形面103を、上型サイドモールド113Aや下型サイドモールド113Bの成形面が位置する側に向けて配置される。
次に、グリーンタイヤGが、タイヤ成形用金型101の成形面と上型サイドモールド113Aおよび下型サイドモールド113Bの成形面との間に装着される。このとき、支持プレート106が下方に移動することにより、外部リング107が支持プレート106と共に下方に移動し、外部リング107のテーパ面108がセグメント109をタイヤ径方向内側(図7中右側)に押し出す。すると、タイヤ成形用金型101が縮径して、タイヤ成形用金型101の各セクター101Aの分割位置101Aaが合わさってトレッド成形面103が環状に接続する。また、タイヤ成形用金型101の成形面全体と下型サイドモールド113Bの成形面とが接続する。また、上部プレート112Aが下方に移動することにより、上型サイドモールド113Aが下降して、上型サイドモールド113Aと下型サイドモールド113Bとの間隔が狭まる。すると、タイヤ成形用金型101の成形面全体と上型サイドモールド113Aの成形面とが接続する。これにより、グリーンタイヤGが、タイヤ成形用金型101の成形面、上型サイドモールド113Aの成形面および下型サイドモールド113Bの成形面に囲まれて保持される。
次に、加硫前のタイヤであるグリーンタイヤGが加硫成形される。具体的には、タイヤ成形用金型101が加熱され、加圧装置(図示省略)によりグリーンタイヤGがタイヤ径方向外側に拡張されてタイヤ成形用金型101のトレッド成形面103に押圧される。そして、グリーンタイヤGが加熱されることにより、トレッド部2のゴム分子と硫黄分子とが結合して加硫が行われる。すると、タイヤ成形用金型101のトレッド成形面103がグリーンタイヤGに転写されて、トレッド部2にトレッドパターンが成形される。
その後に、加硫成形後のタイヤが、空気入りタイヤ1である製品タイヤとして取得される。このとき、支持プレート106および上部プレート112Aが上方に移動することにより、タイヤ成形用金型101、上型サイドモールド113Aおよび下型サイドモールド113Bが離隔して、金型支持装置105が開く。金型支持装置105が開いたら、加硫成形後のタイヤと共にタイヤ成形用金型101をタイヤが金型支持装置105から取り出す。
図8は、加硫成形後の空気入りタイヤ1からタイヤ成形用金型101を取り外す前の状態を示す説明図である。タイヤ成形用金型101を用いて行う空気入りタイヤ1の加硫成形時には、タイヤ成形用金型101によってトレッド部2の成形を行うため、加硫成形が行われた直後は、空気入りタイヤ1のトレッド部2にタイヤ成形用金型101が取り付けられた状態になっている(図8参照)。即ち、タイヤ成形用金型101は、複数のセクター101Aが環状に連結された状態で、加硫成形が行われた直後は空気入りタイヤ1のトレッド部2に取り付けられている。空気入りタイヤ1の加硫成形が完了し、タイヤ成形用金型101をタイヤが金型支持装置105から取り出したら、環状に連結されて空気入りタイヤ1のトレッド部2に取り付けられている複数のセクター101Aを、それぞれ空気入りタイヤ1から取り外す。これにより、タイヤ成形用金型101を空気入りタイヤ1から取り外す。
図9は、加硫成形後の空気入りタイヤ1からタイヤ成形用金型101を取り外す状態を示す説明図である。複数のセクター101Aを空気入りタイヤ1から取り外す際には、各セクター101Aをそれぞれタイヤ径方向外側に移動させ、空気入りタイヤ1のトレッド部2から離隔させる。これにより、タイヤ成形用金型101を空気入りタイヤ1から取り外す。ここで、空気入りタイヤ1の加硫成形時には、タイヤ成形用金型101のセクター101Aのトレッド成形面103に複数配置されるサイプブレード120によって、トレッド部2のトレッド面3に複数のサイプ20が形成される。タイヤ成形用金型101のセクター101Aをタイヤ径方向外側に移動させることにより、セクター101Aを空気入りタイヤ1から取り外す際には、セクター101Aに複数配置されるサイプブレード120が、空気入りタイヤ1のトレッド部2に形成されたサイプ20から抜き取られる。
ここで、セクター101Aのトレッド成形面103に配置されるサイプブレード120は、トレッド成形面103からタイヤ径方向に沿って延びている。一方、セクター101Aを空気入りタイヤ1から取り外す際には、セクター101Aの中央Oを基点としてタイヤ径方向外側に向かって移動させる。このため、1つのセクター101Aに配置される複数のサイプブレード120のうち、中央領域SCに配置されるサイプブレード120は、ブレード部121がトレッド成形面103から延びる方向が、セクター101Aを移動させる方向に近い方向になる。
これに対し、1つのセクター101Aに配置される複数のサイプブレード120のうち、セクター101Aの分割位置101Aa付近である外側領域SSに配置されるサイプブレード120は、図10および図11に示すように、ブレード部121がトレッド成形面103から延びる方向がタイヤ径方向であり、セクター101Aを移動させる矢印A方向に対して傾斜する状態になる。つまり、セクター101Aを空気入りタイヤ1から取り外す際には、1つのセクター101Aのサイプブレード120を一体で移動させるため、セクター101Aの分割位置101Aa付近である外側領域SSに配置されるサイプブレード120が移動する矢印A方向と、当該サイプブレード120がトレッド成形面103から延びるタイヤ径方向とが異なる。
セクター101Aを空気入りタイヤ1から取り外す際においてサイプブレード120が移動する矢印A方向と、当該サイプブレード120がトレッド成形面103から延びるタイヤ径方向とが異なる場合、サイプブレード120が移動する矢印A方向は、当該サイプブレード120によって形成したサイプ20の深さ方向であるタイヤ径方向とは異なる。この場合、サイプ20を形成するゴム部材は、セクター101Aを移動させる際にサイプブレード120を引き抜く力が、サイプ20の深さ方向とは異なる方向に作用することになる。
本実施形態において、サイプブレード120は、ブレード部121の延在端に拡大部122が形成されている。このため、セクター101Aを空気入りタイヤ1から取り外す際には、セクター101Aの分割位置101Aa付近である外側領域SSに配置されるサイプブレード120は、拡大部122がサイプ20を形成するゴム部材に対してサイプ20の深さ方向とは異なる方向に作用する。
ここで、図10に示すように、外側領域SSに配置されるサイプブレード120の拡大部122が、ブレード部121に対してタイヤ周方向に均等に拡大して形成されているとする。この場合、サイプブレード120は、拡大部122の径方向内側に拡大する部分がサイプ20を形成するゴム部材に対してサイプ20の深さ方向とは異なる方向に大きく作用する。このため、成形される空気入りタイヤ1は、サイプ20を形成するゴム部材がもげたり欠けたりするような変形故障が発生し易くなる。
一方、上述した本実施形態のタイヤ成形用金型101では、図11に示すように、外側領域SSに配置されるサイプブレード120の拡大部122が、ブレード部121に対してセクター101Aの分割位置101Aa寄りに大きく偏って形成されている。この場合、サイプブレード120は、拡大部122の径方向内側に拡大する部分が小さいため、サイプ20を形成するゴム部材に対してサイプ20の深さ方向とは異なる方向に作用する力が小さくなる。このため、タイヤ成形用金型101は、金型抜けが改善され、成形される空気入りタイヤ1は、サイプ20を形成するトレッド部2のゴム部材がもげたり欠けたりするような変形故障が発生し難くなる。この結果、本実施形態のタイヤ成形用金型101によれば、成形する空気入りタイヤ1の故障の発生を抑制できる。
また、本実施形態のタイヤ成形用金型101では、サイプブレード120は、セクター101Aにおけるトレッド成形面103からの延在長さの50%以上の位置に拡大部122が形成され、拡大部122の最大幅Wbと、ブレード部121のトレッド成形面103での幅Wtとが、Wb>Wtの関係を満たす。
したがって、本実施形態のタイヤ成形用金型101によれば、成形された空気入りタイヤ1は、トレッド面3から50%までは、接地時にサイプ20の溝幅が縮小することで接地面積を確保して操縦安定性能を得つつ、トレッド面3から50%以上では、拡大部122により溝底が拡大された形状となり、サイプ部21による水膜吸収量以上の水膜除去能力が得られ湿潤路面での走行性能を向上できる。
また、本実施形態のタイヤ成形用金型101では、最大幅Wbと、幅Wtとが、1.2≦Wb/Wt≦6.0の関係を満たす。
従って、成形された空気入りタイヤ1は、湿潤路面での走行性能が向上するが、拡大部122の拡大量が増大すると金型抜けが悪化する傾向となり、トレッド部2のゴム部材のもげや欠けにつながる。このため、本実施形態のタイヤ成形用金型101によれば、1.2≦Wb/Wt≦6.0の関係を満たすことで、サイプ部21による水膜吸収量以上の水膜除去能力を得つつも金型抜けの悪化を抑制できる。
また、本実施形態のタイヤ成形用金型101では、分割位置101Aa付近に設けられたサイプブレード120は、分割位置101Aa側となるブレード部121のトレッド成形面103でのタイヤ周方向外側端121eから拡大部122のタイヤ周方向外側端122eまでの距離Wbeと、分割位置101Aa反対側となるブレード部121のトレッド成形面103でのタイヤ周方向内側端121cから拡大部122のタイヤ周方向内側端122cまでの距離Wbcとが、Wbe>Wbcの関係を満たす。
従って、本実施形態のタイヤ成形用金型101によれば、分割位置101Aa側では、拡大部122の拡大量が大きく、分割位置101Aa反対側では、拡大部122の拡大量が小さい。このため、本実施形態のタイヤ成形用金型101によれば、サイプ部21による水膜吸収量以上の水膜除去能力を得つつ、金型抜けの抵抗力を低減できる。
また、本実施形態のタイヤ成形用金型101では、距離Wbeと、前記距離Wbcとの関係Wbe/Wbcが、最も分割位置101Aaの近くに配置されているサイプブレード120において最大となる。
従って、本実施形態のタイヤ成形用金型101によれば、金型抜き時に抜け方向に対して最も傾いて抵抗力が最も大きくなる分割位置101Aa側において、拡大部122の偏在量を最大にすることで金型抜けの抵抗力をより低減できる。
また、本実施形態のタイヤ成形用金型101では、セクター101Aにおけるトレッド成形面103からタイヤ径方向に突出するリブ110を含み、サイプブレード120は、リブ110に接続されている。
従って、本実施形態のタイヤ成形用金型101によれば、リブ110は、成形された空気入りタイヤ1において溝10を成形するものであり、このリブ110にサイプブレード120を接続することで、成形された空気入りタイヤ1において溝10にサイプ20が接続される。このため、本実施形態のタイヤ成形用金型101によれば、成形された空気入りタイヤ1において排水性能を向上できる。
また、本実施形態の空気入りタイヤ1は、タイヤ周方向に分割される複数のセクター101Aを有するタイヤ成形用金型101を用いて加硫されたタイヤであって、トレッド面3からタイヤ径方向内側に延在するサイプ部21およびサイプ部21の底部においてサイプ部21の溝幅から拡大する拡幅部22を有し1つのセクター101Aの範囲でタイヤ周方向に複数設けられたサイプ20を含み、1つのセクター101Aの範囲においてセクター101A同士の分割位置101Aa付近に設けられたサイプ20は、拡幅部22がサイプ部21に対して分割位置101Aa側寄りに大きく偏って形成されている。
従って、セクター101A同士の分割位置101Aa付近、即ち空気入りタイヤ1の分割境界部6付近に設けられたサイプ20の拡幅部22がサイプ部21に対して分割位置101Aa側寄りに大きく偏って形成されている空気入りタイヤ1を成形するタイヤ成形用金型101では、サイプ20を成形するサイプブレード120に形成された拡大部122がブレード部121に対してセクター101Aの分割位置101Aa寄りに大きく偏って形成されている。この場合、サイプブレード120は、拡大部122の径方向内側に拡大する部分が小さいため、サイプ20を形成するゴム部材に対してサイプ20の深さ方向とは異なる方向に作用する力が小さくなる。このため、タイヤ成形用金型101では、金型抜けが改善され、成形される空気入りタイヤ1は、サイプ20を形成するトレッド部2のゴム部材がもげたり欠けたりするような変形故障が発生し難くなる。この結果、本実施形態の空気入りタイヤ1によれば、故障の発生を抑制でき、走行時の耐久性を向上できる。
本実施形態では、上記のように、タイヤの一例として空気入りタイヤについて説明した。しかし、これに限らず、本実施形態に記載された構成は、他のタイヤに対しても、当業者自明の範囲内にて任意に適用できる。他のタイヤとしては、例えば、エアレスタイヤが挙げられる。
図12は、実施形態にかかるタイヤ成形用金型の性能試験の結果を示す図表である。以下、従来例のタイヤ成形用金型と、本発明に係るタイヤ成形用金型とについて行なったスクラップ発生率の評価試験について説明する。また、従来例のタイヤ成形用金型と、本発明に係るタイヤ成形用金型とで成形した試験タイヤの湿潤路面走行性能(ウエット性能ともいう)の評価試験について説明する。
スクラップ発生率の評価試験では、タイヤサイズ225/65R17 102Hの空気入りタイヤを、タイヤ成形用金型を用いて加硫成形し、加硫終了時にタイヤ全体が変形してしまいスクラップとなった発生率が算出された。この評価は、従来例を基準(100)とした指数評価により行われ、その数値が小さいほどスクラップ発生率が少なく優れていることを示している。
湿潤路面走行性能の評価試験では、タイヤ成形用金型を用いてタイヤサイズ225/65R17 102Hの空気入りタイヤを加硫成形し、スクラップではない空気入りタイヤをJATMAの規定のリムに組み付け、JATMAの規定内圧(230kPa)を付与した。そして、この空気入りタイヤを試験車両(2400ccクラスのフロントエンジンフロントドライブ車のSUV(Sport Utility Vehicle)車両)に装着した。この試験車両にて水深1mmの湿潤試験コースを走行し、100km/hから停止するまでの距離が測定されて、評価が行われる。この評価は、数値が大きいほど、湿潤路面走行性能が優れていることを示している。
従来のタイヤ成形用金型は、サイプブレードにおいてブレード部の延在端に拡大部が形成されている。この拡大部は、すべてがブレード部に対してタイヤ周方向両側に均等に拡大しており、偏りがない。
一方、実施例1から実施例13のタイヤ成形用金型は、サイプブレードにおいてブレード部の延在端に拡大部が形成されている。この拡大部は、分割位置付近である外側領域において分割位置側寄りに拡大が大きく偏って形成されている。
そして、試験結果に示すように、実施例1から実施例13のタイヤ成形用金型は、従来に対してスクラップ発生率が少なく、故障の発生が抑制されていることが分かる。また、実施例1から実施例13のタイヤ成形用金型により加硫成形された空気入りタイヤは、従来に対して湿潤路面走行性能に優れていることが分かる。