JP2021109209A - フラックス入りワイヤ及び溶接継手の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】ガスシールドアーク溶接においてスラグ巻き込みを抑制して立向上進溶接を行うことができ、溶接金属中の拡散性水素量を低減することで、低温割れを抑制し、かつ、低温割れを抑制するための予熱作業を省略又は簡易化でき、溶接時のヒュームの発生が抑制されることで溶接作業性が高いフラックス入りワイヤ及び溶接継手の製造方法を提供する。【解決手段】鋼製外皮と、前記鋼製外皮の内部に充填されたフラックスとを備えるガスシールドアーク溶接用のフラックス入りワイヤであって、窒化物を含み、前記フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%で、N含有量が0.003%以上であり、Ti酸化物の含有量が0.20〜8.00%であり、Ni含有量が0超〜90.00%であるフラックス入りワイヤ。【選択図】なし

Description

本開示は、ガスシールドアーク溶接用のフラックス入りワイヤ及び溶接継手の製造方法に関する。
近年、建設機械、産業機械の大型化、軽量化の要求が増加しており、それに伴って使用される鋼板も780MPa級鋼、980MPa級鋼などの超高張力鋼板が使用されるようになっている。これらの超高張力鋼板が使用される理由は、製品の軽量化、そして鋼材使用量が減ることで鋼材費用や運搬費用が減少することや、鋼材が薄手になり単重が減ることで、鋼材の取り回しが良く、溶接量も軽減することから、製造工期短縮、施工コスト削減が期待されるためである。
しかし、超高張力鋼に対する使用の要求は非常に高くなっているにも関わらず、780MPa級以上の超高張力鋼の使用量は全体量から見るとまだ僅かである。
この理由としては、超高張力鋼では予熱作業をせずに溶接すると、低温割れが発生し易いことが挙げられる。低温割れとは、溶接後、溶接部の温度が常温付近に低下してから溶接部に発生する割れの総称であり、ビード下割れ及び止端割れ等はこの割れに属する。
低温割れは、一般にその形状が鋭い切り欠きになるので、溶接欠陥の中でも特に重大な欠陥の一つである。低温割れの発生は、溶接施工の際に溶接部に予熱を行うことにより抑制可能であるが、予熱工程は溶接施工の費用及び工期を大きく増大させる。
高強度鋼の溶接部の耐低温割れ性を向上させるフラックス入りワイヤとしては、例えば特許文献1で示されるワイヤが提案されている。特許文献1では、490〜780MPa級高張力鋼用のフラックス入りワイヤについて、Vの含有量を最適化し、Vに拡散性水素を吸蔵させることで耐低温割れ性を改善し、溶接割れ停止予熱温度を50℃以下としたワイヤが提案されている。このワイヤは、弗化物をスラグ剤として添加している。
特開平8−257785号公報
特許文献1に開示されているフラックス入りワイヤのように、スラグ剤に弗化物が含まれると、ヒュームが多量に発生するという問題を有する。このヒュームが多すぎると溶融金属やアーク状態の視認性が悪化し、溶接欠陥を発生させる要因となる。
以上述べられた理由により、予熱作業を行うことなく、又は簡易的な予熱作業のみで低温割れの発生を抑制し、かつ過剰なヒュームの発生を抑える溶接材料が望ましい。
本開示は、上記のような状況に鑑みて成されたものであり、ガスシールドアーク溶接においてスラグ巻き込みを抑制して立向上進溶接を行うことができ、溶接金属中の拡散性水素量を低減することで低温割れを抑制し、かつ、低温割れを抑制するための予熱作業を省略又は簡易化でき、溶接時のヒュームの発生が抑制されることで溶接作業性が高いフラックス入りワイヤ及び溶接継手の製造方法を提供することを目的とする。
本開示の要旨は次のとおりである。
<1> 鋼製外皮と、前記鋼製外皮の内部に充填されたフラックスとを備えるガスシールドアーク溶接用のフラックス入りワイヤであって、
窒化物を含み、前記フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%で、N含有量が0.003%以上であり、Ti酸化物の含有量が0.20〜8.00%であり、Ni含有量が0超〜90.00%であるフラックス入りワイヤ。
<2> 前記窒化物、酸化物、弗化物、及び炭酸塩を除く化学成分が、フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%で、
C:0.003〜0.500%、
Si:0〜3.50%、
Mn:0〜10.00%、
P:0〜0.030%、
S:0〜0.030%、
Cu:0〜10.00%、
Ni:0.10〜90.0%、
Cr:0〜50.00%、
Mo:0〜50.00%、
Nb:0〜0.50%、
V:0〜0.50%、
Ti:0〜0.50%、
Al:0〜1.000%、
Mg:0〜2.000%、
B:0〜0.100%、
Ca:0〜2.000%、
REM:0〜0.500%、
Bi:0〜0.300%、並びに
残部:Fe及び不純物である<1>に記載のフラックス入りワイヤ。
<3> Fe酸化物、Ba酸化物、Na酸化物、Si酸化物、Zr酸化物、Mg酸化物、Al酸化物、Mn酸化物、K酸化物、及びCa酸化物からなる群より選択される1種又は2種以上の特定酸化物を含み、フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%で、前記特定酸化物の合計含有量が10.0%以下である<1>又は<2>に記載のフラックス入りワイヤ。
<4> 弗化物を含み、前記フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%で、F含有量が0.002%以上である<1>〜<3>のいずれか1つに記載のフラックス入りワイヤ。
<5> MgCO、NaCO、LiCO、CaCO、KCO、BaCO、FeCO、MnCO3、及びSrCOからなる群より選択される1種又は2種以上の金属炭酸塩を含み、フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%で、前記金属炭酸塩の合計含有量が10.000%以下である<1>〜<4>のいずれか1つに記載のフラックス入りワイヤ。
<6> 前記窒化物が、AlN、BN、Ca、CeN、CrN、CuN、FeN、FeN、FeN、MgN、MoN、NbN、Si、TiN、VN、ZrN、MnN、及びMnNからなる群より選択される1種又は2種以上である<1>〜<5>のいずれか1つに記載のフラックス入りワイヤ。
<7> 表面にパーフルオロポリエーテル油が塗布されている<1>〜<6>のいずれか1つに記載のフラックス入りワイヤ。
<8> <1>〜<7>のいずれか1つに記載のフラックス入りワイヤを用いて、鋼材をガスシールドアーク溶接する工程を備える溶接継手の製造方法。
本開示によれば、ガスシールドアーク溶接においてスラグ巻き込みを抑制して立向上進溶接を行うことができ、溶接金属中の拡散性水素量を低減することで、低温割れを抑制し、かつ、低温割れを抑制するための予熱作業を省略又は簡易化でき、溶接時のヒュームの発生が抑制されることで溶接作業性が高いフラックス入りワイヤ及び溶接継手の製造方法が提供される。
本開示の一例である実施形態について説明する。
なお、本明細書中において、「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値に「超」又は「未満」が付されていない場合は、これらの数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。また、「〜」の前後に記載される数値に「超」又は「未満」が付されている場合の数値範囲は、これらの数値を下限値又は上限値として含まない範囲を意味する。
本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階的な数値範囲の上限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値に置き換えてもよく、また、実施例に示されている値に置き換えてもよい。また、ある段階的な数値範囲の下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の下限値に置き換えてもよく、また、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
また、含有量について、「%」は「質量%」を意味する。
含有量(%)として「0〜」は、その成分は任意成分であり、含有しなくてもよいことを意味する。
<フラックス入りワイヤ>
本開示に係るフラックス入りワイヤは、鋼製外皮と、鋼製外皮の内部に充填されたフラックスとを備えるガスシールドアーク溶接用のフラックス入りワイヤであり、窒化物を含み、フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%で、N含有量が0.003%以上であり、TiO含有量が0.20〜8.00%であり、Ni含有量が0超〜90.00%である。
以下、本開示に係るフラックス入りワイヤを構成する要件(任意要件も含む)の限定理由について具体的に説明する。
まず、本開示に係るフラックス入りワイヤのフラックスに含まれる成分について説明する。
本開示に係るフラックス入りワイヤのフラックスは、窒化物を含み、好ましくは、所定の合金元素、酸化物、弗化物さらに炭酸塩を含む。また、本開示に係るフラックス入りワイヤのフラックスには、鉄粉がさらに含まれてもよい。以下に、これらの成分について詳細に説明する。なお、以下の説明において「%」は、特に説明がない限り、「フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%」を意味する。
(窒化物)
本開示に係るフラックス入りワイヤは、鋼製外皮に窒化物を含んでもよいが、フラックス中に窒化物を含ませることが好ましい。フラックス入りワイヤ中(特にフラックス中)の窒化物は、溶接金属中の拡散性水素量を減少させて、溶接金属の耐低温割れ性を顕著に向上させる働きを有する。この理由は明らかではないが、窒化物中のNが溶接中に水素(H)と結合してアンモニア(NH)となり、このNHが溶接金属外に放出されることが理由の一つであると推測される。
本開示に係るフラックス入りワイヤに使用することができる窒化物としては、例えば、AlN、BN、Ca、CeN、CrN、CuN、FeN、FeN、FeN、MgN、MoN、NbN、Si、TiN、VN、ZrN、MnN、及びMnNが挙げられる。本開示に係るフラックス入りワイヤが、これらの窒化物のいずれか1種又は2種以上を含有し、且つ、これら以外の窒化物を含まない場合、N含有量は下記の式Aにより表される。
式A:N含有量=0.342×AlN+0.564×BN+0.189×Ca+0.091×CeN+0.212×CrN+0.068×CuN+0.059×FeN+0.077×FeN+0.111×FeN+0.161×MgN+0.068×MoN+0.131×NbN+0.399×Si+0.226×TiN+0.216×VN+0.133×ZrN+0.113×MnN+0.06×Mn
ここで、式A中の窒化物の化学式は、各化学式に対応する窒化物の、フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%を示す。各窒化物の化学式の係数は、各窒化物の化学式量から算出したものである。
また、上記に列挙した窒化物以外の窒化物を含む場合、N含有量は各窒化物の化学式量から、上記式Aに準じて算出される。
(N:0.003%以上)
本開示に係るフラックス入りワイヤは、フラックス入りワイヤの全質量に対して0.003%以上のNを含む。
フラックス入りワイヤに含まれる窒素量は、JIS G1228:1997を用いて分析して、測定する。
フラックス入りワイヤ全体中のN含有量の合計が0.003%以上であれば、溶接金属中の拡散性水素量が十分に低減され、溶接金属の耐低温割れ性が向上する。従って、本開示に係るフラックス入りワイヤは、窒化物を含み、N含有量を0.003%以上にする。
溶接金属の拡散性水素量をさらに低減させるために、N含有量の下限を0.005%、0.008%、0.010%、0.015%、0.020%又は0.022%としてもよい。
本開示におけるフラックス入りワイヤは、拡散性水素量を低減する観点から、N含有量の上限は特に制限されない。但し、鋼製外皮の内部にフラックスの充填がなされることを考慮すると、実質的に、N含有量の上限は40.000%であり、35.000%であってもよく、30.000%であってもよく、25.000%であってもよい。
なお、鋼製外皮に含まれるNはワイヤ全体に対する比率が小さく、本開示に係るフラックス入りワイヤにおけるN含有量は、主にフラックス中に含まれる窒化物の種類、含有量によって調整することができる。
なお、本開示に係るフラックス入りワイヤは、フラックス中に窒化物として含まれる窒素のN含有量がフラックス入りワイヤの全質量に対して0.002%以上であることが好ましい。また、溶接金属の拡散性水素量をさらに低減させるために、フラックス中に窒化物として含まれる窒素のN含有量の下限を、フラックス入りワイヤの全質量に対して0.005%、0.008%、0.010%、0.015%、0.020%又は0.022%としてもよい。また、鋼製外皮の内部にフラックスの充填がなされることを考慮すると、実質的に、フラックス中に窒化物として含まれる窒素のN含有量の上限は、フラックス入りワイヤの全質量に対して15.000%であることが好ましく、10.000%であってもよく、8.000%であってもよく、5.000%であってもよい。
(Ti酸化物:0.20〜8.00%)
本開示に係るフラックス入りワイヤは、フラックス入りワイヤの全質量に対して0.20〜8.00%のTi酸化物を含有する。Ti酸化物の含有量は、フラックス入りワイヤに含まれる酸化物として存在するTiの質量を電子線マイクロアナライザ(Electron Probe Micro Analyzer:EPMA)を用いて分析し、この酸化物としてのTiの質量に基づき算出することで求める。具体的には、下記のようにしてTi酸化物の含有量を求める。
フラックス入りワイヤにおける総Ti量を蛍光X線で測定し、その測定値をt−Ti[モル分率]とする。
EPMAでTiと酸素の検出が重複した領域をTiOとし、その面積分率をA、Tiと窒素の検出が重複した領域をTiNとし、その面積分率をBとする。
面積分率=体積分率≒モル分率なので、Ti酸化物のモル分率を[TiO]、TiNのモル分率を[TiN]とすると、以下の式が成り立つ。
t−Ti=[TiO]+[TiN]=(B/A+1)[TiO
したがって、TiOのモル分率は以下のように算出される。
[TiO]=t−Ti/(B/A+1)
あとは、他の元素の分析結果と合わせて、モル分率を質量%に変換すれば、[TiO]の質量%が求められる。
Ti酸化物は主にスラグ形成剤として作用する。Ti酸化物の含有量が0.20%以上であるフラックス入りワイヤを用いて立向上進溶接を行う場合、溶融金属を垂れ落ちないように支えるために十分な量のスラグを確保することができ、立向溶接性を確保することができる。従って、Ti酸化物の含有量の下限値を0.20%とする。Ti酸化物の含有量の下限値は、好適には1.00%であり、より好適には2.00%である。立向溶接性を向上させるために、Ti酸化物の含有量の下限値を、3.00%、3.50%、4.00%、又は4.50%としてもよい。
一方、8.00%を超えるTi酸化物は、スラグ量を過剰に増大させるので、スラグ巻き込みの欠陥(溶接金属にスラグが残る現象)を増加させる。従って、Ti酸化物の含有量の上限値を8.00%とする。Ti酸化物の含有量の上限値は、より好適には7.00%である。必要に応じて、Ti酸化物の含有量の上限値を、6.70%、6.40%、6.20%、6.00%、5.90%、又は5.80%としてもよい。
(Ni:0超〜90.0%)
Niは、Niの固溶靭化により、溶接金属の靭性が向上する。この効果を得るためには、Ni含有量を0%超とする。一方、Niを90.0%超添加すると、溶接金属の耐高温割れ性および靭性が低下するので、Ni含有量の上限値は90.0%以下とする。Ni含有量の好ましい範囲については後述する。
次に、本開示に係るフラックス入りワイヤにおける窒化物、Ti酸化物を除く化学成分について説明する。
以下に説明する化学成分は、鋼製外皮に含まれてもよいし、フラックスに含まれてもよい。また、本開示に係るフラックス入りワイヤが鋼製外皮の外表面にめっき層を有する場合は、めっき層に含まれてもよい。以下の説明において「窒化物、酸化物、弗化物、及び炭酸塩を除く化学成分」を単に「化学成分」又は「合金成分」と称する場合がある。
本開示に係るフラックス入りワイヤの窒化物、酸化物、弗化物、及び炭酸塩を除く化学成分は、
C:0.003〜0.500%、
Si:0〜3.50%、
Mn:0〜10.00%、
P:0〜0.030%、
S:0〜0.030%、
Cu:0〜10.00%、
Ni:0.10〜90.0%、
Cr:0〜50.00%、
Mo:0〜50.00%、
Nb:0〜0.50%、
V:0〜0.50%、
Ti:0〜0.50%、
Al:0〜1.000%、
Mg:0〜2.000%、
B:0〜0.100%、
Ca:0〜2.000%、
REM:0〜0.500%、
Bi:0〜0.300%、並びに
残部:Fe及び不純物であることが好ましい。
(C:0.003〜0.500%)
Cは、固溶強化によって溶接金属の耐力及び引張強さを確保するために重要な元素である。フラックス入りワイヤの化学成分のC含有量が0.003%未満では、溶接金属の耐力及び引張強さを十分に確保できない場合がある。
一方、フラックス入りワイヤの化学成分のC含有量が0.500%を超えると、溶接金属中のC含有量が過剰になり、溶接金属の耐力及び引張強さが過度に上昇して、溶接金属の靭性が低下する場合がある。
そのため、溶接金属の靭性、耐力、及び引張強さの全てを安定的に確保するためには、フラックス入りワイヤの化学成分のC含有量の下限値を0.003%にすることが好ましく、フラックス入りワイヤの化学成分のC含有量の上限値を0.500%にすることが好ましい。必要に応じて、C含有量の下限を0.010%、0.020%、0.030%、0.040%、0.050%、又は0.060%としてもよい。同様に、C含有量の上限を0.450%、0.400%、0.350%、0.300%、又は0.250%としてもよい。
(Si:0〜3.50%)
Siは必須成分ではないので、フラックス入りワイヤの化学成分のSi含有量の下限値は0%である。
一方、Siは、脱酸元素であり、溶接金属の酸素量を低減して溶接金属の清浄度を高める働きを有する。ただし、3.50%を超えて含有させると溶接金属の靱性を劣化させる場合があるため、これを上限とすることが好ましい。また、溶接金属の靭性を安定して確保するには、Siの上限は、3.00%、2.00%又は1.00%としてもよい。必要に応じて、Si含有量の下限を0.40%、0.45%、0.50%、又は0.60%としてもよい。
(Mn:0〜10.00%)
Mnは必須成分ではないので、フラックス入りワイヤの化学成分のMn含有量の下限値は0%である。
一方、Mnは、溶接金属の焼入性を確保して溶接金属の強度を高めるために有効な元素である。フラックス入りワイヤの化学成分のMn含有量が10.00%を超える場合、溶接金属の粒界脆化感受性が増加して溶接金属の靱性が劣化する場合がある。従って、Mn含有量の上限値を10.00%とすることが好ましい。好ましくは、Mn含有量の上限値は9.50%、9.00%、8.00%、又は6.00%である。必要に応じて、Mn含有量の下限を0.40%、0.45%、0.50%、又は0.60%としてもよい。
(P:0〜0.030%)
Pは不純物元素であり、溶接金属の靱性を低下させるので、フラックス入りワイヤ中のP含有量は極力低減させることが好ましい。従って、フラックス入りワイヤの化学成分のP含有量の下限値は0%である。また、フラックス入りワイヤの化学成分のP含有量が0.030%以下であれば、Pの靱性への悪影響が許容できる範囲内となる。溶接金属の凝固割れを効果的に抑制するために、フラックス入りワイヤの化学成分のP含有量は、より好適には、0.020%以下、0.015%以下、又は0.010%以下である。
(S:0〜0.030%)
Sも不純物元素であり、溶接金属中に過大に存在すると、溶接金属の靱性と延性とをともに劣化させるので、フラックス入りワイヤ中のS含有量は極力低減させることが好ましい。従って、フラックス入りワイヤの化学成分のS含有量の下限値は0%である。また、フラックス入りワイヤの化学成分のS含有量が好ましくは0.030%以下であれば、溶接金属の靱性及び延性にSが及ぼす悪影響が許容できる範囲内となる。フラックス入りワイヤの化学成分のS含有量は、より好適には、0.020%以下、0.010%以下、0.008%以下、0.006%以下、又は0.005%以下である。
(Cu:0〜10.00%)
Cuは必須成分ではないので、フラックス入りワイヤの化学成分のCu含有量の下限値は0%である。
一方、Cuは、溶接金属の強度と靭性を向上させる効果を有する。その効果を十分に得るためには、フラックス入りワイヤの化学成分のCu含有量を0.01%以上とすることが好ましい。Cuは、フラックス入りワイヤの鋼製外皮の表面のめっきに含まれてもよく、フラックスに単体又は合金として含まれてもよい。Cuめっきは、防錆性、通電性、及び、耐チップ磨耗性を向上させる効果も有する。
従って、フラックス入りワイヤの化学成分のCu含有量は、鋼製外皮及びフラックスに含有されているCuと、ワイヤ表面のめっきに含まれるCuとの合計量である。
一方、フラックス入りワイヤの化学成分のCu含有量が10.00%を超えると、溶接金属の靭性が低下する場合があるため、10.00%以下とすることが好ましい。フラックス入りワイヤの化学成分のCu含有量の上限値は、好ましくは9.00%、8.00%、7.00%、6.00%、5.00%、4.00%、3.00%、又は2.00%である。
(Cr:0〜50.00%)
Crは必須成分ではないので、フラックス入りワイヤの化学成分のCr含有量の下限値は0%である。
一方、Crは、溶接金属の焼入性を確保して溶接金属の強度を高めるために有効な元素である。ただし、フラックス入りワイヤの化学成分のCr含有量が50.00%超の場合、溶接金属の靱性が劣化する場合がある。従って、Cr含有量の上限値を50.00%以下とすることが好ましい。より好ましくは、Cr含有量の上限値は45.00%、40.00%、35.00%、又は30.00%である。溶接金属の強度を高める効果を得るため、本開示に係るフラックス入りワイヤにおけるCr含有量の下限を0.01%、0.05%、0.10%、又は0.20%とすることが好ましい。
(Ni:0.10〜90.0%)
前述したように、溶接金属の靭性及び耐高温割れ性を向上させる観点から、本開示に係るフラックス入りワイヤはNiを必須とし、Ni含有量は、0超〜90.0%とする。溶接金属の靭性を向上させる効果を得るため、本開示に係るフラックス入りワイヤにおけるNi含有量は、0.1%以上、0.3%以上、0.5%以上、又は1.0%以上とすることが好ましい。一方、溶接金属の耐高温割れ性及び靭性の低下を抑制する観点から、Ni含有量の上限値を85.0%、80.0%、又は75.0%としてもよい。
(Mo:0〜50.00%)
Moは必須成分ではないので、フラックス入りワイヤの化学成分のMo含有量の下限値は0%である。
一方、Moは、溶接金属の焼入性を向上させる効果を有するので、溶接金属の高強度化に有効な元素である。その効果を得るためには、フラックス入りワイヤの化学成分のMo含有量の下限値を0.01%、0.05%、0.10%又は0.15%とすることが好ましい。一方、フラックス入りワイヤの化学成分のMo含有量が50.00%を超える場合、溶接金属の靭性が劣化する場合があるので、フラックス入りワイヤの化学成分のMo含有量は、50.00%以下とすることが好ましい。フラックス入りワイヤの化学成分のMo含有量の上限値は、好ましくは48.00%、45.00%、40.00%、30.00%、又は10.00%である。
(Nb:0〜0.50%)
Nbは必須成分ではないので、フラックス入りワイヤの化学成分のNb含有量の下限値は0%である。
一方、Nbは、溶接金属において微細炭化物を形成し、この微細炭化物が溶接金属中で析出強化を生じさせるので、Nbは溶接金属の引張強さを向上させる。その効果を十分に得るためには、フラックス入りワイヤの化学成分のNb含有量の下限値を0.005%、0.010%、0.015%又は0.020%とすることが好ましい。
一方、フラックス入りワイヤの化学成分のNb含有量が0.50%を超えることは、Nbが溶接金属中で粗大な析出物を形成して溶接金属の靭性を劣化させる場合がある。そのため、フラックス入りワイヤの化学成分のNb含有量の上限値は、好ましくは0.50%であり、より好ましくは0.45%、0.40%、0.30%、又は0.20%である。
(V:0〜0.50%)
Vは必須成分ではないので、フラックス入りワイヤの化学成分のV含有量の下限値は0%である。
一方、Vは溶接金属の焼入性を向上させるので、溶接金属の高強度化に有効な元素である。その効果を十分に得るためには、フラックス入りワイヤの化学成分のV含有量の下限値を0.001%、0.010%、0.030%又は0.050%とすることが好ましい。
一方、フラックス入りワイヤの化学成分のV含有量が0.50%を超えると、溶接金属中のV炭化物の析出量が過剰となり、溶接金属が過剰に硬化し、溶接金属の靭性を劣化させる場合がある。フラックス入りワイヤの化学成分のV含有量の上限値は、好ましくは0.50%であり、より好ましくは0.40%、0.30%、0.20%、0.10%、又は0.08%である。
(Ti:0〜0.50%)
Tiは必須成分ではないので、フラックス入りワイヤの化学成分のTi含有量の下限値は0%である。
一方、Tiは脱酸元素であり、溶接金属中の酸素量を低減させる効果がある。また、フラックス入りワイヤの化学成分に含まれるTiは、溶接金属中に僅かに残留して固溶Nを固定するので、固溶Nが溶接金属の靱性に及ぼす悪影響を緩和する効果を有する。従って、フラックス入りワイヤの化学成分が0.001%以上、0.010%以上、0.030%以上、0.050%以上、又は0.10%以上のTiを含有してもよい。
一方、フラックス入りワイヤの化学成分のTi含有量が0.50%を超えると、溶接金属において過度な析出物の生成による靱性劣化が生じるおそれがある。なお、フラックス入りワイヤの化学成分にTiを含有させる場合、一般的には、フェロチタン(鉄とチタンとの合金)をフラックス中に含有させる。フラックス入りワイヤの化学成分のTi含有量の上限値は、好ましくは0.50%であり、より好ましくは0.40%、0.30%、0.20%、0.10%、又は0.08%である。
なお、本開示に係るにフラックス入りワイヤはTi酸化物を0.20〜8.00%含有するが、上記Ti含有量は、Ti酸化物を構成するTi以外の含有量である。
(Al:0〜1.000%)
Alは必須成分ではないので、フラックス入りワイヤの化学成分のAl含有量の下限値は0%である。
一方、Alは脱酸元素であり、Siと同様に、溶接金属中の酸素量を低減させ、溶接金属の清浄度向上効果を有する。ただし、Alを1.000%を超えて含有させると溶接金属の靱性を劣化させる場合があるため、1.000%を上限とすることが好ましい。また、溶接金属の靭性を安定して確保するには、Al含有量の上限は、0.950%、0.900%、0.850%又は0.800%としてもよい。必要に応じて、Al含有量の下限を0.005%、0.010%、0.050%、0.100%、0.150%又は0.200%としてもよい。
(Mg:0〜2.000%)
Mgは必須成分ではないので、フラックス入りワイヤの化学成分のMg含有量の下限値は0%である。
一方、Mgは脱酸元素であり、Alと同様に、溶接金属中の酸素量を低減させ、溶接金属の清浄度向上効果を有する。ただし、フラックス入りワイヤの化学成分のMg含有量が2.000%を超えると、アーク中で激しくMgと酸素とが反応し、スパッタ及びヒュームの発生量が増大する場合がある。従って、Mg含有量を2.000%以下とすることが好ましい。なお、フラックス入りワイヤの化学成分のMg含有量の好ましい下限値は、0.150%、0.200%、0.250%、又は0.300%である。フラックス入りワイヤの化学成分のMg含有量の好ましい上限値は、1.700%、1.600%、1.500%、1.400%、1.000%又は0.900%である。
(B:0〜0.100%)
Bは必須成分ではないので、フラックス入りワイヤの化学成分のB含有量の下限値は0%である。一方、Bは、溶接金属において固溶Nと結びついてBNを形成するので、固溶Nが溶接金属の靭性に及ぼす悪影響を減じる効果を有する。また、Bは溶接金属の焼入性を高めるので溶接金属の強度を向上させる効果も有する。従って、フラックス入りワイヤの化学成分が0.0005%以上のBを含有してもよい。
一方、フラックス入りワイヤの化学成分のB含有量が0.100%超になると、溶接金属中のBが過剰となり、粗大なBN及びFe23(C、B)等のB化合物を形成して溶接金属の靭性を劣化させる場合がる。そのため、フラックス入りワイヤの化学成分のB含有量の上限値は、好ましくは0.100%であり、より好ましくは0.050%、0.030%、又は0.010%である。
(Ca:0〜2.000%)
(REM:0〜0.500%)
Ca及びREMは必須成分ではないので、フラックス入りワイヤの化学成分のCa含有量及びREM含有量の下限値はいずれも0%である。
一方、Ca及びREMは、いずれも溶接金属中での硫化物の構造を変化させ、また、硫化物及び酸化物のサイズを微細化させ、これにより溶接金属の延性及び靭性を向上させる働きを有する。従って、フラックス入りワイヤの化学成分のCa含有量を0.002%以上としてもよく、フラックス入りワイヤの化学成分のREM含有量を0.0002%以上としてもよい。
一方、フラックス入りワイヤの化学成分のCa含有量及びREM含有量が過剰である場合、スパッタ量が増大し、溶接性が損なわれる。従って、フラックス入りワイヤの化学成分のCa含有量の上限値は2.000%であることが好ましく、フラックス入りワイヤの化学成分のREM含有量の上限値は0.500%であることが好ましい。
なお、REMは、Sc、Y及びランタノイドの合計17元素の総称であり、REMの含有量はこれらの元素の合計含有量を指す。また、REMは一般的にミッシュメタルに含有される。このため例えば、合金にミッシュメタルを添加して、REMの含有量が上記の範囲となるようにしてもよい。
(Bi:0〜0.300%)
Biは必須成分ではないので、フラックス入りワイヤの化学成分のBi含有量の下限値は0%である。
一方、Biは、スラグの剥離性を改善する元素である。その効果を十分に得るために、フラックス入りワイヤの化学成分のBi含有量を0.005%以上、0.010%以上又は0.012%以上とすることが好ましい。
一方、フラックス入りワイヤの化学成分のBi含有量が0.300%を超えると、溶接金属に凝固割れが発生しやすくなるので、フラックス入りワイヤの化学成分のBi含有量の上限値は好ましくは0.300%である。フラックス入りワイヤの化学成分のBi含有量の上限値は、好ましくは0.200%、0.150%、又は0.100%であってもよい。
(残部:Fe及び不純物)
本開示に係るフラックス入りワイヤにおけるその他の残部成分はFeと不純物である。残部のFeは、例えば鋼製外皮に含まれるFe、及びフラックス中に含有された合金粉中のFe等である。
また、不純物とは、フラックス入りワイヤを工業的に製造する際に、原料に由来して、又は製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本開示に係るフラックス入りワイヤに悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
(Ti酸化物以外の酸化物の合計含有量:0〜10.0%)
本開示に係るフラックス入りワイヤは、Fe酸化物、Ba酸化物、Na酸化物、Si酸化物、Zr酸化物、Mg酸化物、Al酸化物、Mn酸化物、K酸化物及びCa酸化物からなる群より選ばれる酸化物の合計含有量が10.0%以下であることが好ましい。本開示において、Fe酸化物、Ba酸化物、Na酸化物、Si酸化物、Zr酸化物、Mg酸化物、Al酸化物、Mn酸化物、K酸化物及びCa酸化物からなる群に含まれる酸化物を「特定酸化物」と略す。また特定酸化物の各々の酸化物の含有量の合計値を、「Ti酸化物以外の特定酸化物の合計含有量」、又は「特定酸化物の合計量」と略す場合がある。
本開示に係るフラックス入りワイヤが、上記特定酸化物として、FeO、BaO、NaO、SiO、ZrO、MgO、Al、MnO、KO及びCaOの1種又は2種以上の酸化物を含む場合、上記特定酸化物の合計含有量は、FeO、BaO、NaO、SiO、ZrO、MgO、Al、MnO、KO及びCaOの各含有量の合計として求める。
なお、本開示に係るフラックス入りワイヤは、Ti酸化物以外の特定酸化物は必須成分ではないので、フラックス入りワイヤにおけるTi酸化物以外の特定酸化物の合計量の下限値は0%である。
一方、特定酸化物は、溶接ビード形状を良好に維持する効果と、立向溶接性を向上させる効果とを有する。また、Na酸化物、K酸化物、Mg酸化物、及びFe酸化物等は、アークを安定させる効果も有する。そのような効果を得るためには、Ti酸化物以外の特定酸化物の合計含有量を0%超にしてもよい。これらの効果をより発揮させるために、Ti酸化物以外の特定酸化物の合計含有量の下限を、0.05%、0.10%、0.15%、又は0.20%、としてもよい。しかし、Ti酸化物以外の特定酸化物の合計含有量が10.0%を超えると、スラグの巻き込みが生じる恐れがある。そのため、Ti酸化物以外の特定酸化物の合計含有量の上限値は10.0%とすることが好ましく、9.0%、8.0%、7.0%、6.0%、3.0%、2.0%、1.0%又は0.5%としてもよい。
本開示に係るフラックス入りワイヤにおけるTi酸化物以外の特定酸化物の含有量は、特定酸化物の種類ごとに限定する必要はないが、溶接金属中の酸素量の過度な増加による靭性劣化を抑制する観点から、例えば、Si酸化物:0.08%以上0.95%以下、Zr酸化物:0.8%以下、Al酸化物:0.5%以下である組成が好適である。
なお、本開示に係るフラックス入りワイヤにおける各酸化物の含有量及び特定酸化物の合計含有量は、前述したTi酸化物の含有量と同様に蛍光X線分析と電子線マイクロアナライザ(Electron Probe Micro Analyzer:EPMA)を併用することによって測定する。
(F含有量:0.002%以上)
本開示に係るフラックス入りワイヤは、弗化物を含む必要がない。従って、本開示に係るフラックス入りワイヤにおいて、弗化物の含有量の下限値は0%である。
一方、弗化物は、溶接金属中の拡散性水素量を減少させて、溶接金属の耐低温割れ性を顕著に向上させる働きを持つ。これは、フラックス入りワイヤで溶接した際に、そのフラックス中の弗素(F)が水素(H)と結合して弗化水素(HF)となり、このHFが溶接金属外に放出されるためと推測される。この効果を得るためには、F含有量の合計が0.002%以上であることが好ましい。
その反面、弗化物は溶接時のヒュームの発生原因になる。しかし、本開示に係るフラックス入りワイヤは、窒化物を含有することで、弗化物を含有していても溶接時にヒュームの発生が抑制されることが分かった。この原因は明らかではないが、窒素は弗化水素(HF)よりも沸点が低いことから(N;−196℃、フッ化水素(HF);+20℃)、窒化物がアークによって分解して窒素(N)が発生し、窒素分子(N)として結合し、アーク温度を低温化させることによって、アーク中の高温蒸気量が減少し、これによりヒュームの発生が抑制されるためと推定される。
本開示に係るフラックス入りワイヤが弗化物を含む場合、弗化物の種類は限定されないが、好ましくは、フラックス中にCaF、MgF、LiF、NaF、KZrF、KSiF、及びNaAlFからなる群から選ばれた1種又は2種以上の弗化物を含むのがよい。これらの弗化物によれば、電離して生じるCa、Mg、Li、Na、K、Zr、Si、及びAlが、いずれも酸素と結合して溶接金属中の酸素量を低減させることができ、脱酸元素として作用する。これにより、溶接金属の靭性や伸びを改善する点で有利である。
本開示に係るフラックス入りワイヤが弗化物を含む場合、本開示に係るフラックス入りワイヤ(好ましくはフラックス)に含まれる弗化物の質量割合の合計がF含有量で0.002%以上となる限り、各弗化物の含有量の下限値は特に制限されるものではない。また、F含有量は、弗化物に含まれる弗素(F)の量をフラックス入りワイヤの全質量に対する質量%で示すものであることから、弗化物の種類が上述した好ましい例の弗化物である場合には、F含有量は次の式Bより求めることができる。
式B:0.487×CaF+0.610×MgF+0.732×LiF+0.452×NaF+0.402×KZrF+0.517×KSiF+0.543×NaAlF
ここで、式B中の弗化物の化学式は、各化学式に対応する弗化物の、フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%を示す。各弗化物の化学式の係数は、各弗化物の化学式量から算出したものである。
また、上述した好ましい例以外の弗化物を含む場合、F含有量は各弗化物の化学式量から、上記式Bに準じて算出される。
F含有量の下限値は、フラックス入りワイヤの全質量に対する質量割合で0.002%であることが好ましく、0.005%、0.010%、0.015%、0.020%、0.025%、又は0.030%であるのがよい。
F含有量の好ましい上限値は、溶接時のヒュームの発生を抑制する観点から、フラックス入りワイヤの全質量に対する質量割合で3.000%、2.000%、1.000%、0.500%、0.100%、又は0.050%である。
なお、本開示に係るフラックス入りワイヤにおけるF含有量は、蛍光X線分析によって測定する。
(金属炭酸塩の合計含有量:0〜10.000%)
本開示に係るフラックス入りワイヤは、金属炭酸塩を含む必要がない。従って、本開示に係るフラックス入りワイヤにおいて、金属炭酸塩の含有量の下限値は0%である。
一方、金属炭酸塩は、アークによって電離し、COガスを発生させる。COガスは、溶接雰囲気中の水素分圧を下げ、溶接金属中の拡散性水素量を低減させる。この効果を得るために、本開示に係るフラックス入りワイヤは、金属炭酸塩を含んでもよい。特に、フラックス入りワイヤのフラックス中に金属炭酸塩を含むことが好ましい。
本開示に係るフラックス入りワイヤに含まれる金属炭酸塩の種類及び組成は限定されない。ただし、フラックス入りワイヤに含まれる金属炭酸塩の種類は、MgCO、NaCO、LiCO、CaCO、KCO、BaCO、FeCO、MnCO3、及びSrCOからなる群(以下、この群に含まれる金属炭酸塩を「特定金属炭酸塩」と略す場合がある)から選択される1種又は2種以上であることが好ましい。
上記のような効果を得るため上記特定金属炭酸塩を含有させることが好ましく、つまり特定金属炭酸塩の合計含有量を0%超とすることが好ましい。これらの効果をより発揮させるために、特定金属炭酸塩の合計含有量の下限を、0.050%としてもよい。
ただし、10.000%を超える量の特定金属炭酸塩は、溶接ビードの垂れを生じさせて溶接作業性を悪化させるおそれがある。従って、本開示に係るフラックス入りワイヤが特定金属炭酸塩を含む場合、特定金属炭酸塩の合計含有量の上限値は10.000%とすることが好ましい。必要に応じて、特定金属炭酸塩の含有量の上限値を、9.000%、8.000%、7.000%、6.000%、3.000%、2.000%、1.000%又は0.500%としてもよい。
なお、本開示に係るフラックス入りワイヤにおける各金属炭酸塩の含有量及び金属炭酸塩の合計含有量は、前述したTi酸化物の含有量と同様に蛍光X線分析と電子線マイクロアナライザ(Electron Probe Micro Analyzer:EPMA)を併用することによって測定する。
本開示に係るフラックス入りワイヤは、ワイヤ表面に塗布された潤滑剤をさらに備えてもよい。ワイヤ表面に塗布された潤滑剤は、溶接時のワイヤの送給性を向上させる効果を有する。溶接ワイヤ用の潤滑剤としては、様々な種類のもの(例えばパーム油等の植物油)を使用できるが、溶接金属の低温割れを抑制するためには、Hを含有しないパーフルオロポリエーテル油(PFPE油)を使用することが好ましい。また、上述したように、本開示に係るフラックス入りワイヤは、ワイヤ表面に形成されためっきをさらに備えてもよい。この場合、潤滑剤はめっきの表面に塗布される。
本開示に係るフラックス入りワイヤに含まれる水素量は特に限定されないが、溶接金属の拡散性水素量をより効率的に低減するためには、フラックス入りワイヤの全質量に対して12ppm以下であることが好ましい。フラックス入りワイヤ中の水素量は、フラックス入りワイヤの保管の間に、フラックス入りワイヤ内に水分が侵入することにより増大するおそれがある。従って、ワイヤ製造からワイヤ使用までの期間が長い場合は、後述の手段によって水分の浸入を防止することが望ましい。
(鋼製外皮)
上述された事項が満たされる限り、本開示に係るフラックス入りワイヤの鋼製外皮は特に限定されないが、これを、例えば軟鋼外皮であって、その化学組成がC:0〜0.1%、Si:0〜0.10%、Mn:0〜3.00%、P:0.030%以下、S:0.020%以下、Al:0〜0.1%、及びN:0〜0.030%を含み、残部が少なくとも鉄及び不純物を含むものとしてもよい。
なお、通常、鋼製外皮にも不純物としてNが含まれるが、鋼製外皮中に含まれるNよりもフラックス中に窒化物として含まれるNの方が、溶接金属の拡散性水素量を低減する効果が高い。この詳細なメカニズムは不明であるが、鋼製外皮はシールドガスに触れているので、フラックスよりも温度が低いため、鋼製外皮中のNは溶滴に拡散するものの、アーク中には乖離しにくいからである、と推定される。
以上の観点から、本開示に係るフラックス入りワイヤは、フラックス中に窒化物として含まれる窒素のN含有量がフラックス入りワイヤの全質量に対して0.002%以上であることが好ましい。また、鋼製外皮に窒素を多量に含ませると伸線加工性に劣り、断線する可能性も考えられる。そのため、一般に、鋼製外皮におけるN含有量(%)は低いほうが好ましい。
(ワイヤ形状)
次に、本開示に係るフラックス入りワイヤの形状(ワイヤ構造)について説明する。
通常、フラックス入りワイヤは、鋼製外皮の継目が溶接されているのでスリット状の隙間がない形状(シームレス形状)を有するワイヤ(シームレスワイヤと呼ぶことがある)と、鋼製外皮の継目が溶接されていないのでスリット状の隙間を含む形状を有するワイヤとのいずれかに区別される。
本開示に係るフラックス入りワイヤでは、いずれの形状も採用することができる。しかしながら、溶接金属の低温割れの発生を抑制するためには、鋼製外皮にスリット状の隙間がないことが好ましい。溶接時に溶接部に侵入するH(水素)は、溶接金属及び被溶接材中に拡散し、応力集中部に集積して低温割れの発生原因となる。Hの供給源は様々であるが、溶接部の清浄度、及びガスシールドの条件が厳密に管理された状態で溶接が行われる場合、ワイヤ中に含まれる水分(HO)が主なHの供給源となり、この水分の量が、溶接継手の拡散性水素量に強く影響する。
鋼製外皮がシームを有する場合、大気中の水分がシームを通じてフラックス中に侵入しやすい。このため、鋼製外皮のシームを除去することにより、ワイヤ製造後からワイヤ使用までの間に、大気中の水分が鋼製外皮を通じてフラックス中に侵入することを抑制することが望ましい。鋼製外皮がシームを有し、且つワイヤ製造からワイヤ使用までの期間が長い場合は、水分等のHの供給源が侵入することを防止するために、フラックス入りワイヤ全体を真空包装するか、乾燥した状態に保持できる容器内でフラックス入りワイヤを保存することが望ましい。
(ワイヤ直径)
本開示に係るフラックス入りワイヤの直径は特に限定されないが、例えばφ1.0〜φ2.0mmである。なお、一般的なフラックス入りワイヤの直径はφ1.2〜φ1.6mmである。
(充填率)
本開示に係るフラックス入りワイヤの充填率は、上述された条件が満たされる限り、特に限定されない。一般的なフラックス入りワイヤの充填率に鑑みて、本開示に係るフラックス入りワイヤの充填率の下限値を、例えば8%、10%、又は12%としてもよい。また、本開示に係るフラックス入りワイヤの充填率の上限値を、例えば28%、25%、22%、20%、又は17%としてもよい。
<フラックス入りワイヤの製造方法>
次に、本開示に係るフラックス入りワイヤの製造方法について説明する。
なお、以下に説明する製造方法は一例であり、本開示に係るフラックス入りワイヤを製造する方法は、以下の方法に限定されるものではない。
(シームレス形状を有するフラックス入りワイヤの場合)
シームレス形状を有するフラックス入りワイヤの製造方法は、フラックスを調製する工程と、鋼帯を長手方向に送りながら、成形ロールを用いて成形してU字型のオープン管を得る工程と、オープン管の開口部を通じてオープン管内にフラックスを供給する工程と、オープン管の開口部の相対するエッジ部(周方向両端部)を突合せ溶接してシームレス管を得る工程と、シームレス管を伸線して所定の線径を有するフラックス入りワイヤを得る工程と、伸線する工程の途中又は完了後にフラックス入りワイヤを焼鈍する工程とを備える。
フラックスは、フラックス入りワイヤの窒化物量、N量、Ti酸化物量、Ni量、さらに必要に応じて含有される弗化物量、Ti酸化物以外の酸化物量、炭酸塩量、及び化学成分などが上述された所定の範囲内になるように調製される。なお、鋼製外皮の材料である鋼帯の幅及び厚さ、並びにフラックスの充填量等によって決定されるフラックスの充填率も、フラックス入りワイヤの窒化物量、弗化物量、酸化物量、炭酸塩量、及び化学成分などに影響することに留意する必要がある。
突合せ溶接は、電縫溶接、レーザ溶接、又はTIG溶接等により行われる。
また、伸線工程の途中又は伸線工程の完了後に、フラックス入りワイヤ中の水分を除去するために、フラックス入りワイヤは焼鈍される。フラックス入りワイヤのH含有量を12ppm以下とするためには、焼鈍温度は、650℃以上とし、焼鈍時間は、4時間以上とすることが好ましい。なお、フラックスの変質を防ぐために、焼鈍温度は900℃以下とすることが好ましい。
突合せシーム溶接された、スリット状の隙間がないフラックス入りワイヤの断面は、研磨して、エッチングすれば、溶接跡が観察されるが、エッチングしないと溶接跡は観察されない。そのため、上記のようにシームレスと呼ぶことがある。例えば、溶接学会編「新版 溶接・接合技術入門」(2008年)産報出版、p.111には、突合せシーム溶接された、スリット状の隙間がないフラックス入りワイヤは、シームレスタイプのワイヤと記載されている。フラックス入りワイヤの鋼製外皮の隙間をろう付けしても、スリット状の隙間がないフラックス入りワイヤが得られる。
(スリット状の隙間を有するフラックス入りワイヤの場合)
スリット状の隙間を有するフラックス入りワイヤの製造方法は、オープン管の周方向の両端部を突き合わせ溶接してシームレス管を得る工程の代わりに、オープン管を成形してオープン管の端部を突き合わせてスリット状の隙間有りの管を得る工程を有する点以外は、シームレス形状を有するフラックス入りワイヤの製造方法と同じである。スリット状の隙間を有するフラックス入りワイヤの製造方法は、突き合わせられたオープン管の端部をかしめる工程をさらに備えてもよい。
スリット状の隙間を有するフラックス入りワイヤの製造方法では、スリット状の隙間有りの管を伸線する。
<溶接継手の製造方法>
次に、本開示に係る溶接継手の製造方法(溶接方法)について説明する。
本開示に係る溶接継手の製造方法は、上述された本開示に係るフラックス入りワイヤを用いて、鋼材を、ガスシールドアーク溶接する工程を備える。
本開示のフラックス入りワイヤは、あらゆる種類の鋼材の溶接に対して適用可能であり、本開示に係るフラックス入りワイヤは、予熱なしで、あるいは予熱温度50℃以下で、低温割れを効果的に抑制できる。
本開示に係る溶接継手の製造方法において溶接継手の母材となる鋼材(被溶接材)の種類は特に限定されないが、例えば、PCM(溶接割れ感受性組成)が0.24%以上である低温割れ感受性が高い鋼材、特に、引張強さが590MPa以上1700MPa以下であり、板厚20mm以上の高強度鋼板を好適に用いることができる。このような鋼板は低温割れ感受性が高いので、通常の溶接継手の製造方法でこれらの鋼板を溶接した場合、十分な予熱なしに低温割れの発生を抑制することは困難である。
一方、本開示に係る溶接継手の製造方法は、低温割れを抑制することができる本開示に係る溶接ワイヤを用いるので、低温割れ感受性が高い鋼材を本開示に係る溶接継手の製造方法で溶接した場合、予熱を行わずに、又は予熱を著しく軽減しながら低温割れの発生を抑制することができる。また、本開示に係る溶接継手の製造方法によって得られる継手は、溶接金属の引張強さが鋼板母材の引張強さより低いアンダーマッチの継手となってもよい。
本開示に係る溶接継手の製造方法では、1パスから最終パスのいずれか1つ以上において、本開示に係るガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤを用いて母材鋼板をガスシールドアーク溶接する工程を備える。溶接が1パスのみである場合、その1パスにおいて本開示に係るガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤが用いられる。
母材鋼板(母材)の種類は特に限定されない。フラックス入りワイヤの極性は、溶接金属の拡散性水素量及びスパッタ発生量に及ぼす影響が無視できる程度に小さいので、プラス及びマイナスのいずれであってもよいが、プラスであることが好ましい。
本開示に係る溶接継手の製造方法において用いられるシールドガスの種類は特に限定されない。本開示に係る溶接継手の製造方法は、シールドガスの種類に関わらず、優れた溶接作業性を発揮し、高強度、高靱性、及び高疲労強度を有する溶接継手を得ることができる。本開示に係る溶接継手の製造方法におけるシールドガスとして、一般的に多用されている100vol%の炭酸ガス、及びArと3〜30vol%COとの混合ガス等を好ましく使用することができる。また、本開示に係るフラックス入りワイヤを用いた溶接の際のシールドガスは5vol%以下のOガスを含んでいてもよい。これらのガスは廉価であるので、これらのガスを用いた溶接は産業利用上有利である。
通常、これらのガスは、ルチル系フラックス入りワイヤと組み合わせて用いられた際に、多量のスパッタを生じさせて溶接作業性を悪化させる。しかしながら、本開示に係る溶接継手の製造方法は、スパッタ量を十分に抑制することができる本開示に係るフラックス入りワイヤを用いるので、これらのガスがシールドガスである場合でも、良好な溶接作業性を発揮することができる。
本開示に係る溶接継手の製造方法における溶接姿勢は特に限定されない。本開示に係る溶接継手の製造方法は、溶接姿勢が下向姿勢、横向姿勢、立向姿勢、及び上向姿勢のいずれであっても、良好な溶接作業性を発揮することができる。
本開示に係る溶接継手の製造方法によって得られる溶接継手は、母材鋼板(母材)と、溶接金属及び溶接熱影響部から構成される溶接部とを備える。溶接継手の母材は特に限定されない。本開示に係る溶接継手は、窒化物量等が好ましく制御された本開示に係るフラックス入りワイヤを用いて製造されるので、良好なビード形状を有する溶接金属を備える。
本開示に係るフラックス入りワイヤを用いてガスシールドアーク溶接することで、予熱作業を省略又は簡易化でき、耐低温割れ性に優れる溶接部を得ることができ、且つ溶接中のヒューム発生量の増加を効果的に抑制することができる。
次に、実施例及び比較例により、本開示の実施可能性及び効果についてさらに詳細に説明するが、下記実施例は本開示を限定するものではなく、前・後記の趣旨に徹して設計変更することはいずれも本開示の技術的範囲に含まれるものである。
(フラックス入りワイヤの製造)
実施例及び比較例のフラックス入りワイヤは、以下に説明する方法により製造した。
まず、鋼帯を長手方向に送りながら、成形ロールを用いて成形してU型のオープン管を得た。このオープン管の開口部を通じてオープン管内にフラックスを供給し、オープン管の開口部の相対するエッジ部を突合わせ溶接してシームレス管を得た。
このシームレス管を伸線して、スリット状の隙間がないフラックス入りワイヤを得た。ただし、一部の試料は、シーム溶接をしないスリット状の隙間有りの管とし、それを伸線した。
このようにして、最終のワイヤ径がφ1.2mmのフラックス入りワイヤを試作した。 なお、これらフラックス入りワイヤの伸線作業の途中で、フラックス入りワイヤを650〜950℃の温度範囲内で4時間以上焼鈍した。試作後、ワイヤ表面には潤滑剤を塗布した。これらフラックス入りワイヤの構成を表に示す。
表1A〜表1Dに開示された窒化物、化学成分(合金成分として含まれる各元素の含有量)、酸化物、弗化物、及び炭酸塩の含有量及び鉄粉の含有量の単位は、フラックス入りワイヤ全質量に対する質量%である。表中において「フラックス入りワイヤ全質量に対する質量%」は、「質量%」と略し、「窒化物、酸化物、弗化物、及び炭酸塩を除く化学成分」は、「合金成分」と略した。
表1Aに示されたフラックス入りワイヤのN合計含有量は、フラックス中の窒化物に含まれる窒素(N)の量を、フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%で示すものであり、上述の式Aによって求められた値(N換算値)である。
表1Bに示されたF含有量は、フラックス中の弗化物に含まれる弗素(F)の量を、フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%で示すものであり、上述の式Bによって求められた値(F換算値)である。
表1Bに示された酸化物の合計量とは、Fe酸化物、Ba酸化物、Na酸化物、Si酸化物、Zr酸化物、Mg酸化物、Al酸化物、Mn酸化物、K酸化物及びCa酸化物として用いた、FeO、BaO、NaO、SiO、ZrO、MgO、Al、MnO、KO及びCaOの各々の含有量での合計値である。
Figure 2021109209
Figure 2021109209
Figure 2021109209
Figure 2021109209
表に示されたフラックス入りワイヤの残部(すなわち、表に示された各成分以外の成分)は、鉄及び不純物である。
表に示されたフラックス入りワイヤは、「ワイヤ構造」欄で特に断りが無い限り、シームレス形状を有し、「備考」欄で特に断りが無い限り、潤滑剤としてパーム油が塗布されたワイヤである。また、「ワイヤ構造」欄で「隙間有」と記載されたフラックス入りワイヤは、シーム状の隙間を有するワイヤであり、「備考」欄で「PTFE塗布」と記載されたワイヤは、PTFE油が塗布されたワイヤである。
表1Dに示されたフラックス入りワイヤに合金成分として含まれる各元素は、鋼製外皮又は金属粉の形態である。なお、表においては、本開示で規定される範囲から外れる数値に下線を付してある。
また、表1A〜表1Dにおいて、化学成分や化合物などの含有量に係る表中の空欄は、その化学成分や化合物などが意図的に含有されていないことを意味する。これらの化学成分や化合物などが不可避的に混入されるか生成することもある。
[評価]
実施例及び比較例のフラックス入りワイヤを用いてガスシールドアーク溶接することにより評価を行った。具体的には、以下に説明する方法により評価された。
溶接する鋼板として板厚が50mmである引張強さ780MPa級鋼を用い、評価の際の溶接ガスの種類は、Ar−20%COガスとした。また、評価の際に、溶接電流は全て直流とし、ワイヤの極性は全てプラスとした。
(溶接金属の拡散性水素量の評価)
実施例及び比較例のフラックス入りワイヤを用いてガスシールドアーク溶接することにより得られる溶接金属の拡散性水素量を評価した、評価する際の溶接条件は、表2記載の条件とした。
溶接金属の拡散性水素量の測定は、JIS Z 3118:2007(鋼溶接部の水素量測定方法)に準拠したガスクロマトグラフ法によって実施した。溶接金属の拡散性水素量が1.0ml/100g以下となるフラックス入りワイヤを、拡散性水素量に関し「合格」とした。0.5ml/100g以上1.0ml/100g以下を○、0.5ml/100g未満を◎、1.0ml/100g超は×とした。
Figure 2021109209
(ヒューム量の評価)
実施例及び比較例のフラックス入りワイヤを用いてガスシールドアーク溶接する際のヒューム量を評価する際の溶接条件は、表2に記載の条件とした。
溶接により発生するヒューム量の測定は、JIS Z3930:2013(アーク溶接のヒューム発生量測定方法)に準拠したハイボリウムエアサンプライヤーによる全量捕集方法によって実施した。ヒューム量が1000mg/min以下となるフラックス入りワイヤを、ヒューム量に関し「合格」とした。
(耐低温割れ性の評価)
耐低温割れ性の評価は、温度5℃かつ湿度60%の一定雰囲気管理下において、板厚が50mmである引張強さ780MPa級鋼板に、表2の溶接条件で溶接を行い、これにより得られた溶接継手にJIS Z 3157―1993(U形溶接割れ試験方法)及びJIS Z 3158:2016(y形溶接割れ試験方法)に準拠した試験を行うことにより実施した。U形溶接割れ試験及びy形溶接割れ試験の両方で割れが生じなかった溶接継手にかかるフラックス入りワイヤを、耐低温割れ性に関し「合格」とした。
(スラグ巻き込みの評価)
スラグ巻き込みの評価は、立向上進隅肉溶接を上述の鋼板に行うことで評価した。溶接条件は、表2に記載の条件とし、溶接部5箇所の断面全てでスラグ巻き込みがないフラックス入りワイヤを「合格」とした。
上述の方法により得られた試験結果を表3に示す。なお、全ての評価項目で合格の場合は、総合判定で合格とし、1つでも合格に満たない場合は総合判定を不合格とした。
Figure 2021109209
実施例のフラックス入りワイヤを用いて溶接を行った場合、たとえ溶接環境の温度が、技術常識に鑑みて非常に低温条件であるとみなされる5℃であり、且つ鋼材の予熱が行われなくても、y形溶接割れ試験及びU形溶接割れ試験のすべての断面において、断面割れ無し(断面割れが発生していないこと)であった。従って、実施例のフラックス入りワイヤが極めて高い耐低温割れ性を有していることが証明された。
さらに、表3の試験結果に示されるように、実施例のフラックス入りワイヤは、ヒューム量評価においても合格であり、良好な溶接作業性を示した。加えて、実施例のフラックス入りワイヤは、溶接金属中の拡散性水素量の評価項目においても合格であり、優れた機械特性を有する溶接金属を製造することができた。
また、実施例のフラックス入りワイヤは、立向上進溶接においてスラグ巻き込みが発生せず、立向溶接性にも優れていた。
一方、比較例は、本開示で規定する要件のいずれかを満たしていなかったので、1つ以上の評価項目において不合格となった。

Claims (8)

  1. 鋼製外皮と、前記鋼製外皮の内部に充填されたフラックスとを備えるガスシールドアーク溶接用のフラックス入りワイヤであって、
    窒化物を含み、前記フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%で、N含有量が0.003%以上であり、Ti酸化物の含有量が0.20〜8.00%であり、Ni含有量が0超〜90.00%であるフラックス入りワイヤ。
  2. 前記窒化物、酸化物、弗化物、及び炭酸塩を除く化学成分が、フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%で、
    C:0.003〜0.500%、
    Si:0〜3.50%、
    Mn:0〜10.00%、
    P:0〜0.030%、
    S:0〜0.030%、
    Cu:0〜10.00%、
    Ni:0.10〜90.0%、
    Cr:0〜50.00%、
    Mo:0〜50.00%、
    Nb:0〜0.50%、
    V:0〜0.50%、
    Ti:0〜0.50%、
    Al:0〜1.000%、
    Mg:0〜2.000%、
    B:0〜0.100%、
    Ca:0〜2.000%、
    REM:0〜0.500%、
    Bi:0〜0.300%、並びに
    残部:Fe及び不純物である請求項1に記載のフラックス入りワイヤ。
  3. Fe酸化物、Ba酸化物、Na酸化物、Si酸化物、Zr酸化物、Mg酸化物、Al酸化物、Mn酸化物、K酸化物、及びCa酸化物からなる群より選択される1種又は2種以上の特定酸化物を含み、フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%で、前記特定酸化物の合計含有量が10.0%以下である請求項1又は請求項2に記載のフラックス入りワイヤ。
  4. 弗化物を含み、前記フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%で、F含有量が0.002%以上である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のフラックス入りワイヤ。
  5. MgCO、NaCO、LiCO、CaCO、KCO、BaCO、FeCO、MnCO3、及びSrCOからなる群より選択される1種又は2種以上の金属炭酸塩を含み、フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%で、前記金属炭酸塩の合計含有量が10.000%以下である請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のフラックス入りワイヤ。
  6. 前記窒化物が、AlN、BN、Ca、CeN、CrN、CuN、FeN、FeN、FeN、MgN、MoN、NbN、Si、TiN、VN、ZrN、MnN、及びMnNからなる群より選択される1種又は2種以上である請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のフラックス入りワイヤ。
  7. 表面にパーフルオロポリエーテル油が塗布されている請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のフラックス入りワイヤ。
  8. 請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載のフラックス入りワイヤを用いて、鋼材をガスシールドアーク溶接する工程を備える溶接継手の製造方法。
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