JP2021107774A - 標的物質と両親媒性高分子との複合体の形成反応の反応温度の評価方法 - Google Patents

標的物質と両親媒性高分子との複合体の形成反応の反応温度の評価方法 Download PDF

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Abstract

【課題】本発明は、タンパク質又はペプチドと、両親媒性高分子との複合体を形成する反応の反応条件を評価する方法、及び前記評価方法により適していると評価された反応条件で前記複合体を形成する方法を提供する。【解決手段】標的物質と両親媒性高分子との複合体の形成反応の反応温度の評価方法であって、前記標的物質がタンパク質又はペプチドであり、前記標的物質に対してサーマルシフトアッセイを行い、温度に対する蛍光強度プロファイルを測定し、前記蛍光強度プロファイルに基づいて、前記複合体を形成する反応に適した温度か否かを評価する、評価方法。【選択図】なし

Description

本発明は、タンパク質又はペプチドと両親媒性高分子との複合体を、効率よく形成する方法、当該複合体の形成反応の反応条件の適正を評価する方法に関する。
近年、低分子医薬品の開発において、受容体・標的選択性の高い化合物をスクリーニングする結果、分子量が大きくなる傾向にあり、新規候補化合物の多くが水に難溶性となっている。また、近年の化学合成技術の発展により、タンパク質やペプチドの様なバイオ医薬品と呼ばれる製剤の実用化例がその数を増やしているが、タンパク質やペプチドには、疎水部があり、水に難溶性である物質が特に多くなっている。タンパク質のようなバイオ医薬品は、熱による変性や凝集によって活性が失われることが多く、活性を維持したまま可溶化させる方法の開発が求められている。
難溶性の薬効成分は、一般的に、生体内への吸収や目的の組織への送達の効率を高めるために、疎水性部位と親水性部位の両方を備える両親媒性分子に担持させて水への溶解性を向上させる。例えば、特許文献1には、タンパク質又はペプチドを、ステリル基が導入されたヒアルロン酸誘導体に担持させられること、当該ヒアルロン酸誘導体に、タンパク質やペプチドをその生物活性を維持したまま多量に封入したものは、徐放性製剤として有用であることが記載されている。
国際公開第2010/053140号
本発明は、タンパク質又はペプチドと、両親媒性高分子との複合体を形成する反応の反応条件を評価する方法、及び前記評価方法により適していると評価された反応条件で、標的物質と両親媒性高分子との複合体を形成する方法を提供することを目的とする。
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を行った結果、タンパク質又はペプチドと両親媒性高分子との複合体の形成反応を、タンパク質等を加温して構造を戻した(アンフォールディング)状態で行うことにより、タンパク質等がネイティブな構造の状態で行った場合よりも、当該複合体を効率よく形成できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下の通りである。
[1] 標的物質と両親媒性高分子との複合体の形成反応の反応温度の評価方法であって、
前記標的物質がタンパク質又はペプチドであり、
前記標的物質に対してサーマルシフトアッセイを行い、温度に対する蛍光強度プロファイルを測定し、
前記蛍光強度プロファイルに基づいて、前記複合体を形成する反応に適した温度か否かを評価する、評価方法。
[2] 前記蛍光強度プロファイルを測定した温度の中で、下記温度条件(1)及び(2)を充足する温度を、前記複合体を形成する反応に適した温度であると評価する、前記[1]の評価方法:
(1) 前記蛍光強度プロファイル中の最大蛍光強度値Amaxをとる温度Tmax以下の温度であること、及び、
(2) 前記蛍光強度プロファイル中、蛍光強度値Aが、前記標的物質を含まないブランク試料の蛍光強度値A0の1.05倍以上である温度であること。
[3] 前記蛍光強度プロファイル中の最大蛍光強度値Amaxを、前記蛍光強度プロファイル中の最小蛍光強度値Aminで除した値が、1.1超である場合に、
前記蛍光強度プロファイルを測定した温度の中で、下記温度条件(1)及び(3)を充足する温度を、前記複合体を形成する反応に適した温度であると評価する、前記[1]の評価方法:
(1) 前記蛍光強度プロファイル中の最大蛍光強度値Amaxをとる温度Tmax以下の温度であること、及び、
(3) 前記蛍光強度プロファイル中、蛍光強度値Aが、下記式で表されるPが0.1以上1以下となる温度であること。
Figure 2021107774
[4] 前記両親媒性高分子が、親水性高分子に疎水性側鎖が導入された高分子である、前記[1]〜[3]のいずれかの評価方法。
[5] 前記両親媒性高分子が、疎水性側鎖が導入された多糖類である、前記[4]の評価方法。
[6] 標的物質と両親媒性高分子との複合体を形成する方法であって、
前記標的物質がタンパク質又はペプチドであり、
前記[1]〜[5]のいずれかの評価方法を行い、前記複合体を形成する反応に適した温度であると評価された温度で、前記標的物質と前記両親媒性高分子とを混合し、前記複合体を形成する、複合体の形成方法。
[7] 前記両親媒性高分子が、親水性高分子に疎水性側鎖が導入された高分子である、前記[6]の複合体の形成方法。
[8] 前記両親媒性高分子が、多糖類、ポリエチレングリコール、及び、エチレングリコール構造を含む高分子の側鎖に疎水性基が導入された高分子である、前記[7]の複合体の形成方法。
[9] 前記両親媒性高分子が、側鎖に疎水性基が導入された多糖類である、前記[8]の複合体の形成方法。
[10] 前記疎水性基がステリル基である、前記[8]又は[9]の複合体の形成方法。
[11] 前記両親媒性高分子が、ステリル基が導入されたヒアルロン酸誘導体である、前記[10]の複合体の形成方法。
[12] 前記標的物質が、生理活性物質である、前記[6]〜[11]のいずれかの複合体の形成方法。
本発明により、より効率よく、タンパク質又はペプチドを両親媒性高分子に結合させて複合体を形成させることができる。
実施例1において、アプロチニン、リボヌクレアーゼA(RNase A)、炭酸脱水酵素、オボアルブミン、コンアルブミン、及びアルドラーゼについて、サーマルシフトアッセイを行い、得られた蛍光強度プロファイルである。 実施例15と比較例4において、各hGH濃度における細胞増殖率(%)の測定結果を示した図である。
以下、本発明を実施するための形態(以下、実施の形態)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
また、以下において、「X〜X(X及びXは、X<Xを満たす実数)」は、「X以上、X以下」の数値範囲を意味する。
本明細書において使用される「親水性部位」という用語は、ハンセンの溶解度パラメーター(SP値)が15超の構造部分を意味する。また、「疎水性部位」とは、SP値が15以下の構造部分を意味する。SP値は、HSPiPソフトウェアを用いて計算することができる。
本明細書において使用される「C1−24アルキル基」という用語は、炭素数1以上24以下の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を意味し、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基等の「C1−4アルキル基」が含まれ、さらに、n−ペンチル基、3−メチルブチル基、2−メチルブチル基、1−メチルブチル基、1−エチルプロピル基、n−ヘキシル基、4−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、1−メチルペンチル基、3−エチルブチル基、2−エチルブチル基等が含まれる。C1−24アルキル基には、炭素数が1以上20以下のC1−20アルキル基、炭素数が1以上12以下のC1−12アルキル基、炭素数が1以上6以下のC1−6アルキル基も含まれる。
本明細書において使用される「C2−24アルケニル基」という用語は、炭素数2以上24以下の直鎖状又は分岐鎖状のアルケニル基を意味し、例えば、C1−24アルキレン基で列挙されたアルキレン基のうち、炭素数が2以上の基の1箇所以上の飽和結合が不飽和結合に置換された基である。不飽和結合は、C2−24アルケニル基中のいずれの炭素−炭素結合であってもよい。幾何異性が存在する場合は、それぞれの異性体及びそれらの混合物も含まれる。
本明細書において使用される「C1−24アルキルカルボニル基」という用語は、アルキル部分が既に言及したC1−24アルキル基であるアルキルカルボニル基を意味する。C1−24アルキルカルボニル基には、炭素数が1以上20以下のC1−20アルキルカルボニル基、炭素数が1以上12以下のC1−12アルキルカルボニル基、炭素数が1以上6以下のC1−6アルキルカルボニル基、炭素数が1以上4以下のC1−4アルキルカルボニル基も含まれる。C1−4アルキルカルボニルには、例えば、アセチル基、プロピオニル基、n−プロピルカルボニル基、iso−プロピルカルボニル基、n−ブチルカルボニル基、sec−ブチルカルボニル基、iso−ブチルカルボニル基、tert−ブチルカルボニル基等が含まれる。
本明細書において使用される「C2−24アルケニルカルボニル基」という用語は、アルケニル部分が既に言及したC2−24アルケニルであるアルケニルカルボニル基を意味する。幾何異性が存在する場合は、それぞれの異性体及びそれらの混合物も含まれる。
本明細書において使用される「アミノC2−20アルキル基」という用語は、置換基としてアミノ基を有する炭素数2以上20以下の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を意味し、例えば、アミノ基はアルキル基の末端の炭素原子上に位置していてもよい。アミノC2−20アルキル基には、炭素数が2以上12以下のアミノC2−12アルキル基も含まれる。
本明細書において使用される「ヒドロキシC2−20アルキル基」という用語は、置換基としてヒドロキシ基を有する炭素数2以上20以下の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を意味し、例えば、ヒドロキシ基はアルキル基の末端の炭素原子上に位置していてもよい。ヒドロキシC2−20アルキル基には、炭素数が2以上12以下のヒドロキシC2−12アルキル基も含まれる。
本明細書において使用される「C2−30アルキレン基」という用語は、炭素数2以上30以下の直鎖状又は分岐鎖状の2価の飽和炭化水素基を意味し、例えば、エチレン基、プロピレン基等を含み、炭素数が2以上20以下のC2−20アルキレン基、炭素数が2以上8以下のC2−8アルキレン基、−(CH−(ここで、nは2以上30以下であり、2以上20以下が好ましく、2以上15以下がより好ましい。)を含む。
本明細書において使用される「C1−5アルキレン基」という用語は、炭素数1以上5以下の直鎖状又は分岐鎖状の2価の飽和炭化水素基を意味し、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基等を含む。
本明細書で言及する用語「C2−8アルケニレン基」とは、炭素数2以上8以下の直鎖状又は分岐鎖状の、1以上の二重結合を含む、2価の不飽和炭化水素基を意味し、例えば、−CH=CH−、−C(CH)=CH−、2−ブテン−1,4−ジイル基、ヘプタ−2,4−ジエン−1,6−ジイル基、オクタ−2,4,6−トリエン−1,8−ジイル基等を含む。幾何異性が存在する場合は、それぞれの異性体及びそれらの混合物も含まれる。
本明細書で言及する用語「C2−20アルケニレン基」とは、炭素数2以上20以下の直鎖状又は分岐鎖状の、1以上の二重結合を含む、2価の不飽和炭化水素基を意味し、例えば、C2−20アルキレン基で列挙されたアルキレン基のうち、1箇所以上の飽和結合が不飽和結合に置換された基である。不飽和結合は、C2−20アルケニレン基中のいずれの炭素−炭素結合であってもよい。幾何異性が存在する場合は、それぞれの異性体及びそれらの混合物も含まれる。
<反応条件の評価方法>
本発明に係る評価方法は、タンパク質又はペプチドを標的物質とし、標的物質と両親媒性高分子との複合体を形成する反応の反応条件を評価する方法である。本発明に係る評価方法では、タンパク質等の立体構造の少なくとも一部が天然状態(ネイティブな状態)から戻された状態(変性状態)が、両親媒性高分子との複合体を形成する反応の反応条件として適していると評価する。
タンパク質又はペプチドは、一般的に、天然状態で特定の立体構造を形成しており、当該立体構造の表面という非常に限られた領域でしか、両親媒性高分子と結合することができない。特に、難溶性物質を両親媒性分子に担持させる場合、一般的には、難溶性物質が両親媒性分子中の疎水性部位に結合した状態で、両親媒性分子が自己集合させて複合体を形成する。このため、タンパク質等の疎水性部位と両親媒性高分子の疎水性部位とを効率よく相互作用させることができれば、タンパク質等と両親媒性高分子との複合体形成の効率も改善される。しかし、多くのタンパク質等では、天然状態の立体構造では、側鎖が疎水性である疎水性アミノ酸残基を比較的多く含む疎水性部位は内部にある。このため、天然状態のタンパク質等では、両親媒性分子との複合体形成効率が十分ではない場合が多い。
一方で、タンパク質は、その立体構造の安定性は温度に依存する。低温では天然状態、すなわち、正常なフォールディングをとっているが、加温することにより、立体構造が徐々に戻されて(アンフォールディング)、変性する。ただし、温度が高くなりすぎると、変性したタンパク質は、疎水性部位同士で結合して凝集してしまう。天然状態の少なくとも一部は戻された状態から、凝集が生じる前の状態が、天然状態では立体構造の内部にあった疎水性部位が露出して両親媒性高分子と結合しやすく、複合体を形成する反応の反応条件として適している。
本発明においては、タンパク質の立体構造の変性状態を、サーマルシフトアッセイにより評価する。サーマルシフトアッセイは、タンパク質の疎水性部位と結合することで蛍光を発する蛍光分子と、評価対象であるタンパク質とを含む水溶液を調製し、この水溶液を室温〜100℃まで加温しながら蛍光強度の変化をモニタリングするアッセイである。タンパク質が天然状態である低温領域では、当該蛍光分子はタンパク質表面の極一部の疎水性部位にしか結合できず、このため、蛍光強度は小さい(初期蛍光強度)。加温して熱変性が生じると、アンフォールディングにより表面に露出した疎水性部位に当該蛍光分子が結合する。温度が上昇するにつれ、熱変性も進行し、表面に露出する疎水性部位も多くなり、タンパク質に結合する蛍光分子量が増加し、蛍光強度が上昇する。さらに温度が高温となり、タンパク質の疎水性部位同士で凝集が始まると、タンパク質に結合する蛍光分子量が減少し、蛍光強度が低下する。このように、サーマルシフトアッセイにより得られる蛍光強度値は、タンパク質の熱変性の程度の指標となる。
本発明に係る評価方法では、標的物質とするタンパク質等に対してサーマルシフトアッセイを行い、温度に対する蛍光強度プロファイルを測定する。得られた蛍光強度プロファイルに基づいて、標的物質と両親媒性高分子との複合体を形成する反応に適した温度か否かを評価する。具体的には、当該蛍光強度プロファイルから、熱変性が進行している状態の温度を判断し、当該温度が、複合体形成反応の反応温度として好ましいと評価する。
得られた蛍光強度プロファイルから、最小蛍光強度値Aminをとる温度Tminと最大蛍光強度値Amaxをとる温度Tmaxを決定することができる。最小蛍光強度値Aminは、通常、天然状態の蛍光強度値(初期蛍光強度値)である場合が多い。また、最大蛍光強度値Amaxは、熱変性によって立体構造が戻された状態であって、疎水部の露出から凝集に転移する蛍光強度値である。当該蛍光強度プロファイルにおける、蛍光強度値が最小蛍光強度値Aminより大きく、最大蛍光強度値Amax以下となる温度であって、かつTmax以下の温度範囲内の温度が、アンフォールディングによってタンパク質一分子当たりの疎水生部位の露出量が多くなり、両親媒性高分子がより結合しやすくなり、複合体形成の効率も向上する。
本発明に係る評価方法の一つ目の形態として、下記温度条件(1)及び(2)を充足する温度を、前記複合体を形成する反応に適した温度であると評価する。
(1) 前記蛍光強度プロファイル中の最大蛍光強度値Amaxをとる温度Tmax以下の温度であること。
(2) 前記蛍光強度プロファイル中、蛍光強度値Aが、前記標的物質を含まないブランク試料の蛍光強度値A0の1.05倍以上である温度であること。
サーマルシフトアッセイにより測定された蛍光強度プロファイル中、蛍光強度値がA0×1.05以上の場合、標的物質は、十分な量の疎水性部位が表面に露出した状態にあると考えられ、両親媒性高分子との複合体の形成反応効率の向上が期待できる。そこで、蛍光強度値が蛍光強度値A0×1.05以上をとり、かつTmax以下である温度であれば、両親媒性高分子との複合体の形成反応が良好に進むと評価する。前記複合体を形成する反応の反応温度について、Tmax以下の温度範囲のうち、蛍光強度値が、当該A0の1.15倍以上である温度がより適しており、当該A0の1.3倍以上である温度がさらに適しており、当該A0の1.45倍以上である温度がよりさらに適している、と評価する。
ここで、ブランク試料の蛍光強度値は、温度によって多少変動する。このため、本発明及び本願明細書において、「標的物質を含まないブランク試料の蛍光強度値A0」は、標的物質を含まないブランク試料の蛍光強度プロファイル中、25℃から95℃までの蛍光強度値の平均値とすることが好ましい。
なお、最小蛍光強度値AminがA0×1.05以上の場合、標的物質は、天然状態であっても、表面に十分な量の疎水性部位が表面に露出した状態にあると考えられ、Tmax以下の任意の温度において、両親媒性高分子との複合体形成反応が良好に進むことが期待できる。
本発明に係る評価方法の二つ目の形態として、下記温度条件(1)及び(3)を充足する温度を、前記複合体を形成する反応に適した温度であると評価する。
(1) 前記蛍光強度プロファイル中の最大蛍光強度値Amaxをとる温度Tmax以下の温度であること。
(3) 前記蛍光強度プロファイル中、蛍光強度値Aが、下記式で表されるPが0.1以上1以下となる温度であること。
Figure 2021107774
前記Pが0.1以上であれば、タンパク質一分子当たりの疎水生部位の露出量が、天然状態よりも十分に多くなり、複合体形成効率の十分な向上が期待できる。そこで、Pが0.1以上1以下となり、かつTmax以下である温度であれば、両親媒性高分子との複合体の形成反応が良好に進むと評価する。当該評価方法では、前記複合体を形成する反応の反応温度について、Tmax以下の温度範囲のうち、当該Pが0.2以上1以下である温度範囲がより適しており、当該Pが0.4以上1以下である温度範囲がさらに適している、と評価する。
ただし、当該評価方法は、蛍光強度の変化が小さすぎる標的物質には適さない。このため、対象とする標的物質の条件として、Amax/Amin>1.1を満たすものであることが好ましい。
サーマルシフトアッセイは、常法により実施することができる。具体的には、標的物質であるタンパク質等と、タンパク質の疎水性部位と結合することで蛍光を発する蛍光分子とを含有する水溶液を反応溶液として調製し、当該反応溶液について、温度を低温から高温まで、例えば、20℃前後から100℃程度まで連続的に変化させながら、温度ごとの蛍光強度値を連続的に測定する。蛍光強度値の測定は、例えば、汎用されているリアルタイムPCR装置等を用いて行うことができる。
タンパク質の疎水性部位と結合することで蛍光を発する蛍光分子としては、一般的にサーマルシフトアッセイで使用される蛍光分子の中から適宜選択して用いることができる。当該蛍光分子としては、例えば、SYPROTM Orange(Thermo Fisher Scientific社製)、PROTEOSTAT(Enzo Life Sciences社製)、8−アニリノナフタレン−1−スルホン酸、N−(7−ジメチルアミノ−4−メチルクマリン−3−イル)マレイミド、9−ジュロリジニルメチレンマロノニトリルなどを用いることができる。
評価対象とする標的物質としては、タンパク質又はペプチドであれば特に限定されるものではない。本発明に係る評価方法は、一般的に両親媒性高分子との複合体形成が困難な難溶性分子であることが好ましい。なお、「難溶性分子」とは、第14改正日本薬局方において、溶質1gを溶かすのに必要な水量が30mL以上必要であることをさす。
標的物質とするタンパク質又はペプチドは、生理活性物質であることも好ましい。生理活性物質であるタンパク質又はペプチドとしては、特に限定されないが、例えば、アプロチニン、リボヌクレアーゼA(RNaseA)、炭酸脱水酵素、オボアルブミン、コンアルブミン、アルドラーゼ、エリスロポエチン(EPO)、グラニュロサイトコロニー刺激因子(G−CSF)、シリアリーニュートロフィクファクター(CNTF)、チューマーネクローシスファクター(TNF)、チューマーネクローシスファクター結合タンパク質(TNFbp)、インターロイキン−10(IL−10)、FMS類似チロシンカイネース(Flt−3)、成長ホルモン(GH)、インシュリン、インシュリン類似成長因子−1(IGF−1)、血小板由来成長因子(PDGF)、インターロイキン−1レセプターアンタゴニスト(IL−1ra)、ブレイン由来ニューロトロフィクファクター(BDNF)、ケラチノサイト成長因子(KGF)、幹細胞因子(SCF)、メガカリオサイト成長分化因子(MGDF)、オステオプロテゲリン(OPG)、レプチン、副甲状腺ホルモン(TPH)、塩基性フィブロブラスト成長因子(b−FGF)、骨形成タンパク質(BMP)、心房性ナトリウム利尿ペプチド(CNP)、グルカゴン様ペプチド−1(GLP−1)、抗体、ダイアボディー、ミニボディー、断片化抗体等を挙げることができる。
<標的物質と両親媒性高分子との複合体を形成する方法>
本発明に係る標的物質と両親媒性高分子との複合体を形成する方法(以下、「本発明に係る複合体形成方法」ということがある)は、前記の本発明に係る評価方法を行い、当該複合体を形成する反応に適した温度範囲であると評価された温度範囲内の温度で、前記標的物質と前記両親媒性高分子とを混合し、複合体を形成する。標的物質を、標的物質一分子当たりの疎水性部位の露出量が天然状態よりも多い状態で、両親媒性高分子と混合することにより、両者の複合体の形成効率が向上する。
評価対象とする標的物質と複合体を形成する両親媒性分子としては、疎水性部位と親水性部位を含む高分子であれば特に限定されるものではない。当該両親媒性高分子としては、例えば、親水性高分子に疎水性側鎖が導入された高分子のように、主鎖に親水性部位があり、側鎖に疎水性部位がある高分子であってもよく、疎水性高分子に親水性側鎖が導入された高分子のように、主鎖に疎水性部位があり、側鎖に親水性部位がある高分子であってもよい。
本発明において用いられる両親媒性高分子としては、形成された複合体を医薬品や飲食品等の経口組成物の原料としてより好適であることから、親水性高分子に疎水性側鎖が導入された高分子であることが好ましく、多糖類、ポリエチレングリコール(PEG)、及び、エチレングリコール構造を含む親水性高分子に、疎水性側鎖が導入された高分子であることがより好ましい。両親媒性高分子中の親水性部位は、これらの3種の構造のうち、それぞれを単独で用いることもでき、2種以上の構造を組み合せて用いることもできる。
両親媒性高分子中の親水性部位を構成する多糖類としては、特に限定されないが、例えば、ヘパリン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、アルギン酸、プルラン、マンナン、レバン、イヌリン、キシログルカン、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ペクチン、アミロペクチン、アミロース、グリコーゲン、デキストラン、キチン、キトサン等が挙げられる。本発明において、両親媒性高分子中の多糖類は、本発明の効果を満たす範囲内で化学的な修飾反応によりその構造を変化させたものを用いてもよい。
両親媒性高分子中の親水性部位を構成するポリエチレングリコールとしては、通常市販されているものから適宜選択して用いることができる。親水性部位を構成するポリエチレングリコールの末端構造は、水酸基に限定されず、アミノ基やN−ヒドロキシスクシンイミド基、チオール基、イソシアネート基、カルボキシル基、カルボジイミド基、アクリル基、メタクリル基、アリル基、2−ブロモイソブチラート基、アセチレン基、エポキシ基、トシル基、アジド基、ヒドラジド基、トリアルコキシシリル基等、様々な官能基であってもよい。ポリエチレングリコールの末端構造の官能基を用いて化学的に反応させることにより、本発明において用いられる両親媒性高分子を製造することができる。
両親媒性高分子中の親水性部位を構成するエチレングリコール構造を含んだ高分子は、ポリエチレングリコールと他の化合物とが重付加若しくは重縮合して得られる高分子、又は、エチレンオキサイドを単独若しくは他のエポキシ化合物と併せて開環重合して得られる高分子を示す。
ポリエチレングリコールと他の化合物とが重付加若しくは重縮合して得られる高分子としては、例えば、ポリエステル、ポリウレタン、ポリチオウレタン等が挙げられる。
ポリエステルは、ポリエチレングリコールとジカルボン酸及び/又はその誘導体との反応により得られる。用いられるジカルボン酸としては、特に限定されないが、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、フマル酸、マレイン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、グルタミン酸(アミノ基を変性したものも含む)、アスパラギン酸(アミノ基を変性したものも含む)、シスチン、リンゴ酸、酒石酸等が挙げられる。用いられるジカルボン酸の誘導体としては、エステル、酸塩化物、アミド、酸無水物等が挙げられる。
ポリウレタンは、ポリエチレングリコールとジイソシアネートとの反応により得られる。用いられるジイソシアネートとしては、特に限定されないが、例えば、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、シスタミン、オルニチン(カルボキシル基を変性したものも含む)、シスチン(カルボキシル基を変性したものも含む)、リシン(カルボキシル基を変性したものも含む)より誘導されるジイソシアネート等が挙げられる。
ポリチオウレタンは、ポリエチレングリコールとジイソチオシアネートとの反応により得られる。用いられるジイソチオシアネートとしては、特に限定されないが、例えば、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、シスタミン、オルニチン(カルボキシル基を変性したものも含む)、シスチン(カルボキシル基を変性したものも含む)、リシン(カルボキシル基を変性したものも含む)より誘導されるジイソチオシアネート等が挙げられる。
エチレンオキサイドを単独若しくは他のエポキシ化合物と併せて開環重合して得られる高分子としては、特に限定されない。当該高分子の合成に用いられるエポキシ化合物としては、例えば、メチルグリシジルエーテル、エチルグリシジルエーテル、n−プロピルグリシジルエーテル、イソプロピルグリシジルエーテル、n−ブチルグリシジルエーテル、イソブチルグリシジルエーテル、t−ブチルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル等が挙げられる。プロピレンオキシド等のアルキレンオキサイド、エピクロルヒドリン、エピブロモヒドリン等も用いることができる。
多糖類、ポリエチレングリコール(PEG)、及び、エチレングリコール構造を含む親水性高分子に導入する疎水性側鎖としては、ステリル基、C1−24アルキル基、C2−24アルケニル基、C1−24アルキルカルボニル基、C2−24アルケニルカルボニル基、アリール基等が挙げられる。また、これらの疎水性基は、親水性高分子に直接導入してもよく、リンカーを介して導入させてもよい。親水性高分子に導入される疎水性側鎖は、1種類のみであってもよく、2種類以上であってもよい。親水性高分子1分子当たりに2種類以上の疎水性基を導入が導入される場合、それぞれの疎水性基を連結するリンカーは、同種であってもよく、互いに異なっていてもよい。
当該リンカーとしては、2価基であれば特に限定されるものではなく、例えば、単結合、−O−、−CO−、−NH−、−N=C(CH)−、−N=C−、−S−、−S−S−、炭素数1〜3のアルキレン基、ピペリジン−1,4−ジイル基、ピペラジン−1,4−ジイル基、又はこれらの群より選択される2種以上の組み合わせが挙げられる。また、遺伝子工学により導入し得る任意のペプチドリンカー、又は合成化合物リンカーを用いることもできる。当該ペプチドリンカーの長さは特に限定されず、目的に応じて当業者が適宜選択することが可能であるが、好ましい長さは2アミノ酸以上(上限は特に限定されないが、通常、30アミノ酸以下、好ましくは20アミノ酸以下)であり、特に好ましくは15アミノ酸である。
ステリル基は、ステロイド骨格を有する基であれば特に制限されない。具体的には、コレステロール、コレスタノール、カンペスタノール、エルゴスタノール、スチグマスタノール、コプロスタノール、スチグマステロール、シトステロール、ラノステロール、エルゴステロール、シミアレノール、胆汁酸、テストステロン、エストラジオール、プロゲストロン、コルチゾール、コルチゾン、アルドステロン、コルチコステロン、デオキシコルチステロン等の骨格を有する化合物から誘導された一価基が挙げられる。なかでも、本発明において用いられる両親媒性高分子としては、コレステリル基、スチグマステリル基、ラノステリル基、エルゴステリル基などを有する高分子が好ましく、コレステリル基を有する高分子がより好ましく、コレスタ−5−エン−3β−イル基を有する高分子がさらに好ましい。
アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、9−フルオレニル基等が挙げられる。
親水性高分子に導入される疎水性側鎖としては、ステリル基、炭化水素基、アリール基は、1個以上の置換基を有していてもよい。2個以上の置換基を有する場合、置換基同士は互いに同種であってもよく、異種であってよい。当該置換基としては、本発明の効果を損なわない限りに特に限定されるものではない。当該置換基としては、例えば、炭化水素基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミノ基等が挙げられる。
本発明において用いられる両親媒性高分子としては、多糖類、ポリエチレングリコール(PEG)、及び、エチレングリコール構造を含む親水性高分子に、ステリル基が導入された高分子が好ましく、多糖類にステリル基が導入された高分子がより好ましく、ヒアルロン酸にステリル基が導入されたヒアルロン酸誘導体がさらに好ましい。当該ヒアルロン酸誘導体としては、例えば、特許文献1に記載のものを用いることができる。
本発明において用いられる両親媒性高分子としては、例えば、下記一般式(I)で表される繰り返し単位(以下、「繰り返し単位(I)」と称する場合がある)を1以上有するヒアルロン酸誘導体(以下、「ヒアルロン酸誘導体(I)」と称する場合がある)等が挙げられる。なお、ヒアルロン酸誘導体(I)は、例えば、特許文献1に記載の方法で製造できる。
Figure 2021107774
(式中、R、R、R、及びRは、それぞれ独立に、水素原子、C1−6アルキル、ホルミル及びC1−6アルキルカルボニルからなる群より選択され;
Zは、直接結合、又は2個以上30個以下の任意のアミノ酸残基からなるペプチドリンカーを表し;
は、以下の式:
−NR−R、
−NR−COO−R、
−NR−CO−R、
−NR−CO−NR−R、
−COO−R、
−O−COO−R、
−S−R、
−CO−Y−S−R、
−O−CO−Y−S−R、
−NR−CO−Y−S−R、及び
−S−S−R、
で表される基からなる群より選択される基であり;
、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、C1−20アルキル、アミノC2−20アルキル及びヒドロキシC2−20アルキルからなる群より選択され、ここで当該基のアルキル部分は、−O−及び−NR−からなる群より選択される基が挿入されていてもよく;
は、水素原子、C1−12アルキル、アミノC2−12アルキル及びヒドロキシC2−12アルキルからなる群より選択され、当該基のアルキル部分は−O−及び−NH−からなる群より選択される基が挿入されていてもよく;
Rは、ステリル基であり;
Yは、C2−30アルキレン、又は−(CHCHO)−CHCH−であり、ここで、当該アルキレンは、−O−、−NR−及び−S−S−からなる群より選択される基が挿入されていてもよく;
は、水素原子、C1−20アルキル、アミノC2−20アルキル及びヒドロキシC2−20アルキルからなる群より選択され、当該基のアルキル部分は−O−及び−NH−からなる群より選択される基が挿入されていてもよく;
は、C1−5アルキレンであり;
は、C2−8アルキレン又はC2−8アルケニレンであり;
mは、1以上100以下の整数である。)
ヒアルロン酸誘導体(I)は、下記一般式(Ia)で表される繰り返し単位(以下、「繰り返し単位(Ia)」と称する場合がある)を、1以上有するヒアルロン酸誘導体を含むことが好ましい。
Figure 2021107774
(式中、R、R、R、及びRは、それぞれ独立に、水素原子、C1−6アルキル、ホルミル及びC1−6アルキルカルボニルからなる群より選択され;
Xは、−NR−Y−NR−COO−Rで表される疎水性基であり;
及びRは、それぞれ独立に、水素原子及びC1−6アルキルからなる群より選択され;
Rは、ステリル基であり;
Yは、C2−30アルキレン、又は−(CHCHO)−CHCH−であり、
mは、1以上100以下の整数である。)
ここで、ヒアルロン酸誘導体(I)に繰り返し単位(I)又は繰り返し単位(Ia)がそれぞれ2以上含まれる場合に、当該繰り返し単位は同一であってもよく、異なっていてもよい。
ヒアルロン酸誘導体(I)は、繰り返し単位(I)又は繰り返し単位(Ia)以外の位置において、修飾されていてもよく、例えば、ヒドロキシ基は−O(C1−6アルキル)、−O(ホルミル)、−O(C1−6アルキルカルボニル)等に変換されていてもよく、カルボキシ基は、アミド又はエステルに変換されていてもよく、塩を形成していてもよい。
[繰り返し単位(I)]
一般式(I)中の基「−Z−N(R)Y−X」は、以下の式:
−NH−(CHmz−NH−R;
−NH−(CHmz−NH−COO−R;
−NH−(CHCHO)−CHCH−NH−COO−R;
−NH−(CHmz−COO−R;
−NH−(CHCHO)−CHCH−COO−R、
−NH−(CHmz−O−COO−R;
−NH−(CHCHO)−CHCH−O−COO−R、
−NH−(CHmz−S−R;
−NH−(CHCHO)−CHCH−S−R;
−NH−(CHmz−O−CO−CH(R)−CH−S−R;
−NH−(CHmz−NHCO−CH(R)−CH−S−R;
−NH−(CHCHO)−CHCH−NHCO−CH(R)−CH−S−R;
−NH−(CHCHO)−CHCH−O−CO−CH(R)−CH−S−R;
−NH−(CHmz−S−S−R;及び
−Z−NR−Y−NR−COO−R
(ここで、mzは、2以上30以下の整数であり、Rは、水素原子又はメチル基であり、R及びmは、本明細書で既に定義したとおりである。)
で表される基からなる群より選択される基を含む。
当該基としては、
−NH−(CHmz−NH−COO−R;
−NH−(CHCHO)−CHCH−NH−COO−R;及び
−NH−(CHmz−S−S−R
(ここで、mz、R、及びmは、本明細書で既に定義したとおりである。)
からなる群より選択される基が好ましい。
(Z)
一般式(I)において、Zは直接結合であることが好ましい。また、別の態様において、Zがペプチドリンカーである場合に、Xは−NR−COO−Rであることが好ましい。さらに、別の態様において、Zは、−NH−[CH(−Z)−CONH]n−1−CH(−Z)−CO−で表されるペプチドリンカーであってもよく、ここで、nは2以上30以下の整数であり、Zは、それぞれ独立に、HN−CH(−Z)−COOHとして表されるα−アミノ酸中の置換基を表す。当該ペプチドリンカーは、N末端にてグルクロン酸部分のカルボキシ基に結合し、C末端にて基−N(−R)−Y−Xに結合する。当該ペプチドリンカーのアミノ酸残基として利用できるアミノ酸の例としてはα−アミノ酸、例えばアラニン、アルギニン、アスパラギン(Asn)、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン(Gly)、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン(Leu)、リジン、メチオニン、フェニルアラニン(Phe)、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、バリンといった天然型(L型)のアミノ酸、それらのD体等が挙げられ、合成されたアミノ酸を含む全てのα−アミノ酸を用いることができる。すなわち、Zとしては、例えば、−CH、HNC(NH)NH(CH−、HNCOCH−等が挙げられる。また、n個のZは、同一でも異なっていてもよい。nは、2以上30以下の整数であるが、2以上10以下が好ましく、2以上4以下がより好ましい。ペプチドリンカーの好ましい例としては、例えば、−Gly−Phe−Leu−Gly−、−Asn−Phe−Phe−、−Phe−Phe−、Phe−Gly−等が挙げられる。
(Y)
一般式(I)において、Yは−(CHn1−及び−(CHCHO)m1−CHCH−(ここで、n1は、2以上20以下の整数であり、2以上15以下の整数が好ましく、2以上12以下の整数がより好ましく、2以上6以下の整数がさらに好ましい。m1は、1以上4以下の整数である)からなる群より選択される基が好ましい。具体的には、−(CH−、−(CH−、−(CH−、−(CH12−、又は、−(CHCHO)−CHCH−が好ましい。また、純水中乃至低塩濃度下では高い溶解性を実現させつつ、生理食塩濃度下では高い沈殿形成能を示させるという観点からは、Yは−(CH−、−(CH−、−(CH−及び−(CH12−からなる群より選択される基が好ましく、−(CH−がより好ましい。
Yは、例えば、−CHCHO−CHCH−S−S−CHCHO−CHCH−、−(CHCHO)−CHCH−S−S−CHCHO−CHCH−、−CHCHO−CHCH−S−S−(CHCHO)−CHCH−、−(CHCHO)−CHCH−S−S−(CHCHO)−CHCH−等であってもよい。
(Y
としては、−CH−又は−CH−CH−が好ましい。
(Y
としては、−CH−CH−、−CH(CH)CH−、2−ブテン−1,4−ジイル、ヘプタ−2,4−ジエン−1,6−ジイル又はオクタ−2,4,6−トリエン−1,8−ジイルが好ましく、−CH−CH−又は−CH(CH)CH−がより好ましい。
基「−Z−N(R)Y−X」の具体例としては、−NH−(CH−NH−CO−コレステリル、−NH−(CH−NH−(CH−NH−(CH−NH−COO−コレステリル、−NH−(CH−NH−(CH−NH−(CH−NH−COO−コレステリル、−NH−(CH−NH−(CH−NH−COO−コレステリル、−NH−(CH−N(−(CH−NH)−COO−コレステリル、−NH−(CH−NH−(CH−N(−(CH−NH)−COO−コレステリル、−NH−(CH−NH−(CH−N(−(CH−NH−(CH−NH)−COO−コレステリル、−NH−(CH−NH−(CH−N(−(CH−NH)−CO−NH−コレステリル、−NH−(CH−NH−(CH−N(−(CH−NH)−CO−コレステリル、−NH−(CH−NH−(CH−N(−(CH−NH)−コレステリル等が挙げられる。好ましい基「−Z−N(R)Y−X」としては、R、R及びRが、水素原子であり、Yが、直鎖状のC2−30アルキレン又は−(CHCHO)−CHCH−であり、Yが、直鎖状のC1−5アルキレンであるか、又はYが、直鎖状のC2−8アルキレン若しくは直鎖状のC2−8アルケニレンである。
[繰り返し単位(Ia)]
一般式(Ia)において、Xは、−NH−(CH−NH−COO−コレステリル、−NH−(CH−NH−COO−コレステリル、−NH−(CH12−NH−COO−コレステリル又は−NH−(CHCHO)−CHCH−NH−COO−コレステリルが好ましく、−NH−(CH−NH−COO−コレステリル、−NH−(CH−NH−COO−コレステリル又は−NH−(CHCHO)−CHCH−NH−COO−コレステリルがより好ましい。
ヒアルロン酸誘導体(I)は、繰り返し単位(I)に加えて、一般式(II)で表される繰り返し単位(以下、「繰り返し単位(II)」と称する場合がある)を更に含むことができる。
Figure 2021107774
(式中、R1a、R2a、R3a、及びR4aは、それぞれ独立に、水素原子、C1−6アルキル、ホルミル及びC1−6アルキルカルボニルからなる群より選択され;
は、ヒドロキシ及び−O−Qからなる群より選択され;ここで、Qは、カウンターカチオンである。)
ここで、ヒアルロン酸誘導体(I)に繰り返し単位(II)が2以上含まれる場合に、当該繰り返し単位は同一であってもよく、異なっていてもよい。
別の態様において、ヒアルロン酸誘導体(I)は、繰り返し単位(I)、繰り返し単位(Ia)及び繰り返し単位(II)から実質的になるヒアルロン酸誘導体であってもよい。
[繰り返し単位(II)]
一般式(II)において、Qはカルボキシ基と水中で塩を形成するカウンターカチオンであれば特に限定されず、2価以上の場合は価数に応じて複数のカルボキシ基と塩を形成する。カウンターカチオンの例としては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン等の金属イオン;式:N(式中、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子及びC1−6アルキルからなる群より選択される)で表されるアンモニウムイオン等が挙げられる。中でも、Qは、ナトリウムイオン、カリウムイオン、又はテトラアルキルアンモニウムイオン(例えば、テトラn−ブチルアンモニウムイオン等)が好ましい。R、R、R及びRは、C1−6アルキルからなる群より選択される同一の基であることが好ましく、n−ブチル基が好ましい。
、R、R、及びR、並びにR1a、R2a、R3a、及びR4aは、全て水素原子であることが好ましい。また、R及びRは、いずれも水素原子であることが好ましい。
中でも、ヒアルロン酸誘導体(I)は、繰り返し単位(I)及び繰り返し単位(II)から実質的になるヒアルロン酸誘導体であることが好ましい。ヒアルロン酸誘導体(I)は、当該誘導体に含まれるD−グルクロン酸とN−アセチル−D−グルコサミンとから成る二糖の繰り返し単位のうちの、例えば80%以上が、好ましくは90%以上が、より好ましくは95%以上が繰り返し単位(I)及び繰り返し単位(II)である。ヒアルロン酸誘導体(I)は、繰り返し単位(I)及び繰り返し単位(II)のみから構成されていてもよい。
繰り返し単位(I)の割合は、例えばステリル基を用いた場合、下記のように計算することができる。
ステリル基導入率は、H−NMR測定により測定することができる。すなわち、ヒアルロン酸誘導体組成物のH−NMRスペクトルにおける、ヒアルロン酸誘導体のステリル基に由来するピークの積分値と、ヒアルロン酸誘導体に含まれるN−アセチル−D−グルコサミンのアセチル基に由来するピーク(COCH、1.6ppm以上2.0ppm以下、3H)の積分値と、を用いて、以下の式に基づいて計算することができる。なお、式中。nはピークに対応する水素原子の数を表す。
[ステリル基導入率](%)
=[(ステリル基に由来するピーク積分値×3/n)/(N−アセチル−D−グルコサミンのアセチル基に由来するピーク積分値)]×100
ステリル基でない他の置換基を用いた場合、当該置換基に特有のH−NMRスペクトルにおけるピークを用いて、計算できる。
本発明において用いられる両親媒性高分子の大きさは特に限定されるものではなく、例えば、重量平均分子量を1,000〜1,000,000とすることができる。親水性部位の重量平均分子量が1,000以上であることにより、水への溶解性を十分に高められる傾向にある。また、当該重量平均分子量が1,000,000以下であることにより、両親媒性高分子の水溶液の粘度が高すぎずに取り扱いが容易となる。本発明において用いられる両親媒性高分子の重量平均分子量は、より好ましくは5,000〜300,000であり、さらに好ましくは5,000〜120,000であり、よりさらに好ましくは10,000〜100,000である。ヒアルロン酸誘導体等の両親媒性高分子の分子量は、一般的には、対応する分子量を有する原料を使用することにより調節することができる。
両親媒性高分子の重量平均分子量は、サイズ排除クロマトグラフィー多角度光散乱検出器(SEC−MALS)により決定された重量平均分子量である。具体的には、後述する実施例に記載された方法に従って測定することができる。
標的物質と両親媒性高分子とを、水性溶媒中に添加して両者を含有する混合液を調製する。当該混合液中で標的物質と両親媒性高分子とが接触し、両者が結合して複合体が形成される。本発明において形成される複合体は、1種類の標的物質を1種類の両親媒性高分子に結合させたものであってもよく、2種類以上の標的物質を1種類の両親媒性高分子に結合させたものであってもよく、2種類以上の標的物質を2種類の両親媒性高分子に結合させたものであってもよい。
水性溶媒としては、標的物質であるタンパク質又はペプチドと両親媒性高分子の構造や両者の結合性に及ぼす影響の小さい水性溶媒であれば特に限定されるものではない。例えば、水、各種バッファー(トリスバッファー、リン酸バッファー、HEPESバッファー等。)
得られた複合体は、医薬品、医薬部外品、飲食品、化粧料、洗浄料等の有効成分とすることができる。例えば、標的物質が生理活性物質の場合、当該生理活性物質と両親媒性高分子との複合体は、1種以上の薬学的に許容しうる希釈剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、補助剤、防腐剤、緩衝剤、結合剤、安定剤、界面活性剤、脂質、他の薬物包摂基材などを含む医薬用組成物として、目的とする投与経路に応じて適当な任意の形態にして投与することができる。投与経路は、経口経路であってもよく、非経口経路であってもよい。これらの添加剤は、通常、医薬品、化粧料、飲食品等に使用されるものの中から適宜選択して用いることができる。
本発明を、下記の実施例により説明する。ただし、これらは、本発明の範囲を制限するものではない。なお、実施例、比較例における各物性の測定方法は以下の通りである。
[実施例1]
6種類のタンパク質、アプロチニン(6,500 Da)、リボヌクレアーゼA(RNase A, 137,00 Da)、炭酸脱水酵素(29,000 Da)、オボアルブミン(44,000 Da)、コンアルブミン(75,000 Da)、及びアルドラーゼ(158,000 Da) (Gel Filtration Calibration Kits、GE healthcare)について、サーマルシフトアッセイを行い、蛍光強度プロファイルを調べた。
具体的には、各タンパク質を、終濃度0.151mg/mLとなるよう純水中に溶解させ、得られた水溶液に対して、サーマルシフトアッセイ(TSA測定)を行った。
機器:リアルタイムPCR解析システム「CFX Connect(登録商標)」(Bio-Rad社製、型番:1855201)
蛍光分子試薬:SYPRO(登録商標) Orange protein gel stain (Thermo Fisher Scientific社製、型番:S6651)
測定条件
SYPRO Orange溶液:SYPRO Orangeを超純水で1/50希釈した。
タンパク質溶液(各濃度):19μLに対して希釈したSYPRO Orange溶液を1μL添加した。リファレンスについては、超純水19μLに対して、希釈したSYPRO Orange溶液を1μL添加した。
測定プログラム:25℃で5分間平衡化し、25℃から0.5℃ずつ、100℃まで温度上昇(各温度ステップ:5秒間とその後のプレートリード)させ、0.5℃ずつ蛍光強度を測定した。
スキャンモード:FRET(励起波長450-490nm、測定波長560-580nm)
測定結果を図1及び表1に示す。表1中、「Amax」は、蛍光強度プロファイル中の最大蛍光強度値であり、「Amin」は、最小蛍光強度値であり、「Tmax」は、Amaxをとる温度である。「AP0.1」は、前記Pが0.1となる蛍光強度値であり、「T」は、Tmax以下の温度範囲内のうち、前記Pが0.1となる蛍光強度値をとる温度である。「A×1.05」は、標的物質を含まないブランク試料の蛍光強度値の25℃から95℃までの平均値Aの1.05倍の蛍光強度値である。
Figure 2021107774
アプロチニンとリボヌクレアーゼAは、25℃から90℃まで温度を上昇させても、蛍光強度値は変化せず、ほぼ一定であった。また、当該蛍光強度値は、Aの1.05倍よりも小さく、また、Amax/Aminが1.1未満であった。これらの蛍光強度プロファイルから、アプロチニンとリボヌクレアーゼAは、25〜90℃の範囲内には、両親媒性高分子との複合体を形成する反応に特に適した温度はなく、温度条件を調整することによって複合化率を改善することは難しいと評価した。
一方で、炭酸脱水酵素、オボアルブミン、コンアルブミン、及びアルドラーゼの蛍光強度値は、いずれも25℃から温度を上昇させるにつれて上昇し、50〜80℃において最大蛍光強度値Amaxをとり、その後低下した。25〜90℃の範囲内のいずれの温度においても蛍光強度の値はAの1.05倍以上であったことから、両親媒性高分子との複合体を形成する反応に適したタンパク質であると評価した。
[実施例2]
実施例1で用いた炭酸脱水酵素の凍結乾燥粉末を超純水に溶解して、1mg/mLのタンパク質溶液を調製した。50μLのタンパク質溶液に対して、100μLの2mg/mLのCHHA(コレステリル基を導入したヒアルロン酸誘導体、重量平均分子量:100kDa、コレステリル基導入率:15%)水溶液を添加し、最終濃度0.67mg/mLタンパク質、0.67mg/mL CHHAに調整したものを反応溶液とした。この反応溶液を、37℃で24時間静置した後、4×PBS(80mM リン酸ナトウム、600mM塩化ナトリウム、pH7.4)を50μL添加し、さらに37℃で1時間静置した後、9,000gで10分間遠心分離し、上清を回収した。この上清中に含まれるタンパク質量を、下記評価条件にてGPC分析によって決定し、コントロールとの比較によってCHHAと複合化したタンパク質量を定量した。コントロールには、当該タンパク質溶液50μLを100μLの超純水に加え、さらに前記4×PBSを50μL添加したものを用いた。反応溶液に添加したタンパク質全量に対する、CHHAと複合化したタンパク質量の割合(%)を複合化率として求めた。
(評価条件)
ポンプ:Waters e2695 separations module (Waters)
検出器:Waters 2489 UV/Vis detector (Waters)
カラム: TOSOH G2000SWXL
溶液:10mM リン酸ナトウム、150mM 塩化ナトリウム、pH7.4
流速:1.0mL/分
温度:室温
検出:280nm
溶離プログラム:0〜20分(アイソクラティック)
サンプル添加量:50μL
(ヒアルロン酸誘導体の分子量)
なお、使用したヒアルロン酸誘導体の分子量は、サイズ排除クロマトグラフィー多角度光散乱検出器(SEC−MALS)により決定された重量平均分子量である。ヒアルロン酸誘導体組成物(20mg)を超純水(10mL)に溶解して室温で12時間以上撹拌し、ヒアルロン酸誘導体組成物水溶液(2mg/mL)を得た。このヒアルロン酸誘導体組成物水溶液(750μL)に対して300mM ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(HP−β−CD)水溶液(750μL)加えて振とう機を用いて10秒間混合し、37℃にて1時間インキュベートした。そして、得られた試料をSEC−MALS測定に供して重量平均分子量を決定した。SEC−MALS測定の条件を以下に示す。
(測定条件)
カラム:TSKgel GMPWXL(東ソー株式会社製)2本
カラム温度:30℃
溶離液:10mM HP−β−CD入りリン酸緩衝生理食塩水(pH7.4)
流速:1mL/分
注入量:200μL
[実施例3]
炭酸脱水酵素に代えて、実施例1で用いたオバルブミンを用いて、実施例2と同様にしてCHHAと複合化したタンパク質量を定量した。
[実施例4]
炭酸脱水酵素に代えて、実施例1で用いたコンアルブミンを用いて、実施例2と同様にしてCHHAと複合化したタンパク質量を定量した。
[実施例5]
炭酸脱水酵素に代えて、実施例1で用いたアルドラーゼを用いて、実施例2と同様にしてCHHAと複合化したタンパク質量を定量した。
[比較例1]
炭酸脱水酵素に代えて、実施例1で用いたアプロチニンを用いて、実施例2と同様にしてCHHAと複合化したタンパク質量を定量した。
[比較例2]
炭酸脱水酵素に代えて、実施例1で用いたリボヌクレアーゼAを用いて、実施例2と同様にしてCHHAと複合化したタンパク質量を定量した。
実施例2〜5及び比較例1〜2における複合化率(%)の結果を表2に示す。実施例1において、25〜90℃の範囲内で反応に適した温度であると評価される温度がなかったアプロチニンとリボヌクレアーゼAでは、複合体が形成されなかった(比較例1及び2)。一方で、実施例1において、37℃の蛍光強度値A37が、Aの1.05倍の蛍光強度値よりも大きく、37℃が複合体形成反応に適した温度と評価された炭酸脱水酵素、オバルブミン、コンアルブミン、及びアルドラーゼでは、いずれも複合体が形成されていた(実施例2〜5)。特に、A37が、Aの1.2倍以上であったコンアルブミンとアルドラーゼは、複合化率が60%以上と非常に高かった。
Figure 2021107774
[実施例6]
実施例1で用いたコンアルブミンの凍結乾燥粉末を超純水に溶解して1mg/mLの水溶液を調製し、これをタンパク質溶液とした。50μLのタンパク質溶液に対して100μLの2mg/mLのCHHA水溶液を添加し、最終濃度0.67mg/mLタンパク質、0.67mg/mL CHHAに調整したものを反応溶液とした。この反応溶液を、25℃で24時間静置した後、4×PBS(80mM リン酸ナトウム、600mM 塩化ナトリウム、pH7.4)を50μL添加し、さらに37℃で1時間静置した後、9,000gで10分間遠心分離し、上清を回収した。上清中に含まれるタンパク質量を、実施例2と同じ評価条件にてGPC分析によって決定し、コントロールとの比較によってCHHAと複合化したタンパク質量を定量した。コントロールには、前記タンパク質溶液50μLを100μLの超純水に加え、25℃で24時間静置した後、さらに前記4×PBSを50μL添加したものを用いた。
[実施例7]〜[実施例14]
タンパク質とCHHAを含有する反応溶液を、24時間静置する際の温度を、25、45、50、52、54、56、58℃とした以外は実施例6と同様にして、CHHAと複合化したタンパク質量を定量した。
Figure 2021107774
実施例3、6〜12の測定結果を表3に示す。P値が高い実施例7〜12では、複合化率が70%程度と非常に高く、P値が0.2以上の場合、複合化率は70%以上となり、P値が0.4以上では複合化率は75%以上となった。また、Aの1.3倍を超える蛍光強度を示す温度の時、70%以上の複合化率となり、Aの1.45倍を超える蛍光強度を示す温度の時、75%以上の複合化率となった。
[比較例3]
実施例1で用いたコンアルブミンの凍結乾燥粉末を超純水に溶解して2mg/mLの水溶液を調製し、これをタンパク質溶液とした。このタンパク質溶液を、58℃で12時間静置した後、溶液の透明性を確認した。溶液は白色に濁っていた。この結果から、コンアルブミン単独では、水中で凝集してしまうことがわかった。
[実施例13]
実施例1で用いたコンアルブミンの凍結乾燥粉末を超純水に溶解して6mg/mLの水溶液を調製し、これをタンパク質溶液とした。50μLのタンパク質溶液に対して100μLの9mg/mLのCHHA水溶液を添加し、最終濃度2mg/mLタンパク質、6mg/mL CHHAに調整したものを反応溶液とした。この反応溶液を、58℃で12時間静置した後、溶液の透明性を確認した。溶液は無色透明であり、沈殿は見られなかった。つまり、形成されたコンアルブミンとCHHAの複合体は、溶液中に均一に溶解しており、かつ複合体を形成していないコンアルブミンも凝集が抑制されていた。この結果から、CHHAがタンパク質の凝集抑制にも効果的であることが示された。
[実施例14]
実施例1と同条件下で、純水中でのヒト成長ホルモン(hGH)のTSA測定を行った。37℃における蛍光強度値は4269RFUであり、最小蛍光強度値Aminは3568RFUであり、最大蛍光強度値Amaxは5411RFUであった。この蛍光強度プロファイルから、37℃におけるP値は0.38であり、したがって、37℃は、hGHと両親媒性高分子との複合体の形成反応に適した温度であると評価された。
[実施例15]
hGHをCHHAと複合体化した後、当該複合体からhGHを放出させて、CHHAとの複合体化がhGHの活性に与える影響を調べた。
まず、実施例2で用いたCHHA(コレステリル基を導入したヒアルロン酸誘導体、重量平均分子量:100kDa、コレステリル基導入率:15%)を9mg/mLになるように超純水に溶解させて、CHHA水溶液を調整した。また、実施例14で用いたhGHを12mg/mLとなるように超純水に溶解させ、hGH水溶液を調整した。CHHA水溶液、hGH水溶液及び超純水を用いて、CHHA 6mg/mL、hGH0.6mg/mLとなる溶液を調製した後、当該溶液を37℃で24時間静置して反応させ、CHHA/hGH複合体を含む溶液(CHHA/hGH水溶液)を作製した。
CHHA/hGH水溶液160μLに5倍濃縮PBS40μLを加え、10回ピペッティングした後、37℃、1時間反応させた。反応後の溶液200μLに0.5M HP−β−CD溶液120μLを加え、10回ピペッティングにより混合した後、さらに37℃、1時間反応させた。反応後の溶液をPBSで希釈し、8000ng/mL CHHA+800ng/mL hGH溶液を調製し、PBS(1×)で1/2段階希釈し、hGHが800ng/mLとなる濃度を最高濃度とする9つの濃度の希釈系列液を調製した。
一方で、細胞増殖用培地で培養していたNB2−11細胞を、5mLの実験用培地で1回洗浄後、回収時と同量の実験用培地に懸濁してディッシュに播種し、24時間培養(37℃、5% CO)した。培養後の細胞を実験用培地で希釈し、96ウェル平底プレートに9000cells/90μL/well添加した。上記で調整したCHHA/hGH複合体溶液の希釈溶液を10μL/well添加し、48時間培養(37℃、5% CO)した。培養後のプレートに、実験用培地で1/3に希釈したCell Counting Kit−8溶液(同仁化学研究所製)を50μL/well添加し、さらに4時間培養(37℃、5% CO)した。マイクロプレートリーダーを用い、培養後の溶液の波長450nmにおける吸光度を測定し、次式から細胞増殖率を算出した。式中、「Ab」は、各ウェルの波長450nmにおける吸光度の測定値であり、「Ab」は、hGH 0ng/mLにおける450nmの吸光度であり、「Ab80」は、hGH 80ng/mLにおける450nmの吸光度である。
[細胞増殖率(%)]=([Ab]−[Ab])/([Ab80]−[Ab])×100
[比較例4]
実施例14のCHHA/hGH複合体溶液に代えて、hGH単独水溶液を用いて、実施例15と同様の試験を行った。
図2に、実施例15と比較例4における、各hGH濃度における細胞増殖率の測定結果を示す。実施例15において、CHHAに複合化された後に放出されたhGHは、複合体化されていないhGH(比較例4)よりも高い細胞増殖活性が確認された。これらの結果から、CHHAに複合化された後に放出されたタンパク質は、活性を維持している又は活性が向上していることがわかった。

Claims (12)

  1. 標的物質と両親媒性高分子との複合体の形成反応の反応温度の評価方法であって、
    前記標的物質がタンパク質又はペプチドであり、
    前記標的物質に対してサーマルシフトアッセイを行い、温度に対する蛍光強度プロファイルを測定し、
    前記蛍光強度プロファイルに基づいて、前記複合体を形成する反応に適した温度か否かを評価する、評価方法。
  2. 前記蛍光強度プロファイルを測定した温度の中で、下記温度条件(1)及び(2)を充足する温度を、前記複合体を形成する反応に適した温度であると評価する、請求項1に記載の評価方法:
    (1) 前記蛍光強度プロファイル中の最大蛍光強度値Amaxをとる温度Tmax以下の温度であること、及び、
    (2) 前記蛍光強度プロファイル中、蛍光強度値Aが、前記標的物質を含まないブランク試料の蛍光強度値A0の1.05倍以上である温度であること。
  3. 前記蛍光強度プロファイル中の最大蛍光強度値Amaxを、前記蛍光強度プロファイル中の最小蛍光強度値Aminで除した値が、1.1超である場合に、
    前記蛍光強度プロファイルを測定した温度の中で、下記温度条件(1)及び(3)を充足する温度を、前記複合体を形成する反応に適した温度であると評価する、請求項1に記載の評価方法:
    (1) 前記蛍光強度プロファイル中の最大蛍光強度値Amaxをとる温度Tmax以下の温度であること、及び、
    (3) 前記蛍光強度プロファイル中、蛍光強度値Aが、下記式で表されるPが0.1以上1以下となる温度であること。
    Figure 2021107774
  4. 前記両親媒性高分子が、親水性高分子に疎水性側鎖が導入された高分子である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の評価方法。
  5. 前記両親媒性高分子が、疎水性側鎖が導入された多糖類である、請求項4に記載の評価方法。
  6. 標的物質と両親媒性高分子との複合体を形成する方法であって、
    前記標的物質がタンパク質又はペプチドであり、
    請求項1〜5のいずれか一項に記載の評価方法を行い、前記複合体を形成する反応に適した温度であると評価された温度で、前記標的物質と前記両親媒性高分子とを混合し、前記複合体を形成する、複合体の形成方法。
  7. 前記両親媒性高分子が、親水性高分子に疎水性側鎖が導入された高分子である、請求項6に記載の複合体の形成方法。
  8. 前記両親媒性高分子が、多糖類、ポリエチレングリコール、及び、エチレングリコール構造を含む高分子の側鎖に疎水性基が導入された高分子である、請求項7に記載の複合体の形成方法。
  9. 前記両親媒性高分子が、側鎖に疎水性基が導入された多糖類である、請求項8に記載の複合体の形成方法。
  10. 前記疎水性基がステリル基である、請求項8又は9に記載の複合体の形成方法。
  11. 前記両親媒性高分子が、ステリル基が導入されたヒアルロン酸誘導体である、請求項10に記載の複合体の形成方法。
  12. 前記標的物質が、生理活性物質である、請求項6〜11のいずれか一項に記載の複合体の形成方法。
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