JP2021105218A - 広分布な粒度分布を持つ銀ナノ粒子の製造方法及び銀ナノ粒子 - Google Patents

広分布な粒度分布を持つ銀ナノ粒子の製造方法及び銀ナノ粒子 Download PDF

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Abstract

【課題】 刺激臭の強いアミンの排出量が抑えられた方法で、良好な物性の銀ナノ粒子を得る方法を提供する。【解決手段】 熱分解性を有する銀化合物(a)と、(a)と錯体形成しうるアミン化合物(b)とを反応させて錯体を形成し、得られた錯体を加熱して熱分解させることにより、銀ナノ粒子を形成する銀ナノ粒子の製造方法であって、(b)が、直鎖状のアミノアルコールであり、その直鎖状分子の両末端にアミノ基と水酸基とを1つずつ持ち、直鎖状分子構造内に、エーテル結合を有するアミノアルコール(b1)であることを特徴とする銀ナノ粒子の製造方法。【選択図】なし

Description

本発明は、粒度分布が広く、エーテル結合を有する特定のアミノアルコールが保護剤として結合した銀粒子の製造方法及び銀ナノ粒子に関する。
銀ナノ粒子は、金属ナノ粒子の融点降下の性質により、低温でも焼結するため、基板上への電気配線や、パワーデバイス半導体の接合材として利用されている。しかし、銀ナノ粒子は微細であることから凝集しやすく、また融点降下により融着しやすいため、銀ナノ粒子の表面には保護剤と呼ばれる有機物層を存在させている。これらの有機物層は、脂肪酸やアルキルアミン等が用いられることが多いが、特にアルキルアミンまたはアルキルジアミンで被覆された銀ナノ粒子は比較的低温で保護剤が脱離し、低温焼成可能な銀ナノ粒子として知られている(特許文献1〜2)。
このような低温焼成可能な銀ナノ粒子を用いた焼成塗膜を配線などの導電材料としての利用が期待されるが、配線等の導電材料としての信頼性や導電性を担保するために、配線を厚膜にして対応する手法がとられている。そういった厚膜化を目的とするために設計された銀ナノ粒子として、特許文献3では、数nm〜数十nm程度の一次粒子径を持った銀ナノ粒子を用いて、5〜20μmの導電性銀塗膜が得られる銀塗料組成物(インク)が報告されている。また、特許文献4では、粒径100〜200nmの銀粒子を粒子数基準で30%以上含むことにより焼結体とした際に低抵抗化できること、水分を銀化合物100重量部に対して5〜100重量部反応系内に含ませることにより、そのような銀粒子を得ることができることが記載されている。
これらの公知文献では、銀化合物とアミン化合物との錯体形成反応を利用して銀ナノ粒子を作成する。具体的にはシュウ酸銀とアルキルアミンまたはアルキルジアミンを無溶媒下で錯体形成を行う。しかし、無溶媒下で錯体形成すると、流動性がない固体物となり撹拌がしにくく、系の均一性に欠け、局所的に発熱反応を伴ったりするため、品質面・安全面に問題があり、工業的実用化が難しい。そこで、アルコール溶媒中で錯体形成反応を行うことで、錯体反応を促進・補助したり、系内の撹拌性を上げたり、熱分解で急激に発生する炭酸ガスを抑えたり、品質面・安全面を向上された銀ナノ粒子製造方法が報告されている(特許文献5〜7)。
また、シュウ酸銀−アルキルアミン錯体を加熱分解する過程で、副生ガス(主に炭酸ガス)が発生して排出される際に、揮発しやすいアルキルアミンも含まれて系外に排出されてしまう問題を回避するため、前記錯体化合物を連続的に反応容器内に導入し、熱分解反応時の副生ガス発生量を制御した製造方法が報告されている(特許文献8)。
特許第5574761号公報 特開2012−162767号公報 特許第6001861号公報 特許第5795096号公報 特許5975440号公報 特許6026565号公報 特開2016−132825号公報 特開2015−40319号公報 特開2014−152337号公報
しかし、特許文献3には、実施例では8μmに達しない厚さの塗膜しか作成していない。仮に10μm以上の導電性塗膜を作成したたとしても、銀粒子は一次粒子径が数10nmの粒子が主体なので、有機保護剤量も多く、保護剤離脱による体積収縮が生じるため、寸法安定性が低く、クラックによる断線の現象が起こる可能性が高い。
また、特許文献5〜8のように副生ガスの量を制御したとしても、最終的に系外へアルキルアミンを含んだ炭酸ガスを排出する事には変わりはない。
本発明は、以上の問題点を解決し、作業性・安全性・環境面等のスケールアップを考慮した銀ナノ粒子の製造方法、及び高分布の粒度分布範囲を持つ銀ナノ粒子の製造方法を提供することを課題とする。
これらの課題を解決するため、本発明者は鋭意検討を重ねた。その結果、銀化合物と錯体形成しうるアミン化合物として、エーテル結合を有する特定のアミノアルコールを使用することにより、アルキルアミンの排出が抑えられ、環境にやさしく、しかも同時に、得られる銀粒子は粒径と分布が優れたものであり、得られる焼結塗膜も優れた性能を有することを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明には、以下の発明が含まれる。
(1) 熱分解性を有する銀化合物(a)と、(a)と錯体形成しうるアミン化合物(b)とを有機溶媒(c)中で反応させて錯体を形成し、得られた錯体を加熱して熱分解させることにより、銀ナノ粒子を形成する銀ナノ粒子の製造方法であって、(b)が、直鎖状のアミノアルコールであり、その直鎖状分子の両末端にアミノ基と水酸基とを1つずつ持ち、直鎖状分子構造内に、エーテル結合を有するアミノアルコールであることを特徴とする銀ナノ粒子の製造方法。
(2) (b)が、炭素数4以上であることを特徴とする上記(1)記載の銀ナノ粒子の製造方法。
(3) (b)が、ジグリコールアミンである上記(1)又は(2)記載の銀ナノ粒子の製造方法。
(4) (a)がシュウ酸銀である上記(1)〜(3)のいずれかに記載の銀ナノ粒子の製造方法。
(5) (a)と(b)との錯体形成反応時に、銀化合物(a)100重量部に対して5〜20重量部の水を存在させることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の銀ナノ粒子の製造方法。
(6) (b)/[(a)に含まれる銀原子]のモル比が0.7〜2.0であることを特徴とする上記(5)記載の銀ナノ粒子の製造方法。
(7) (c)/(a)の重量比が0.8〜1.3であることを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれかに記載の銀ナノ粒子の製造方法。
(8) 上記(1)〜(7)のいずれかに記載の方法により銀ナノ粒子を作製し、得られた銀ナノ粒子を有機溶媒に分散することを特徴とする、銀ナノ粒子分散体の製造方法。
(9) 上記(1)〜(8)のいずれかに記載の方法により銀ナノ粒子を作製し、得られた銀ナノ粒子を有機溶媒に分散し、さらに有機バインダーを添加することを特徴とする、銀塗料組成物の製造方法。
(10) 上記(8)記載の方法により得られた銀ナノ粒子分散体又は上記(9)記載の方法により得られた銀塗料組成物を基板上に塗布し、焼成して銀導電層を形成する工程を含む銀導電材料の製造方法。
本発明に係る粒径制御された銀粒子を含む銀塗料組成物は、150℃以下の低温領域であっても焼結が可能で、生成する焼結体はバルクの銀に近い低抵抗値を示す。本発明は、スクリーン印刷を代表とする印刷方法により、PETやポリプロピレンなどの比較的耐熱性の低いプラスチック基板上に、数〜数10μmの厚膜の銀配線を成形できる材料、または導電性の接合材料やパワーデバイス等の大電流を取り扱う電気機器の接合材として利用が期待できる。
また、本発明での銀粒子の合成では、使用するアミン化合物量が従来の合成法よりも少ない他、熱分解性を持つ銀化合物と錯形成を起こすアミン化合物として、特定の炭素数4以下のアミノアルコールを用いることにより、人体や環境の負荷の高いアルキルアミンの利用をさらに低減できるので、スケールアップされた工業的な製造において、安全性の高い製造方法が提供される。
図1は、アミン化合物の銀原子への配位モデル及び成長イメージを示すイメージ図である。 図1中、図1−1は、ジグリコールアミンの銀原子への配位モデル(直鎖型)、図1−2は、ジグリコールアミンの銀原子への配位モデル(OH基接近型)、図1−3は、アルキルアミンの銀原子への配位モデルのイメージ図である。 図1−4は、アルキルアミンに多い直鎖型吸着と銀粒子成長のイメージを示すイメージ図、図1−5は、アミノアルコールのO原子吸着型吸着と銀粒子成長のイメージを示すイメージ図、図1−6は、アミノアルコールの現実的な吸着と銀粒子成長イメージを示すイメージ図である。 図2は、実施例1で得られた粒子のSEM写真を示す図である。 図3は、実施例2で得られた粒子のSEM写真を示す図である。 図4は、実施例3で得られた粒子のSEM写真を示す図である。 図5は、実施例4で得られた粒子のSEM写真を示す図である。 図6は、実施例5で得られた粒子のSEM写真を示す図である。 図7は、実施例6で得られた粒子のSEM写真を示す図である。 図8は、実施例7で得られた粒子のSEM写真を示す図である。 図9は、実施例8で得られた粒子のSEM写真を示す図である。 図10は、比較例1で得られた粒子のSEM写真を示す図である。 図11は、比較例2、3で得られた粒子のSTEM写真を示す図である。 図12は、比較例4で得られた粒子のSTEM写真を示す図である。 図13は、比較例5で得られた粒子のSEM写真を示す図である。 図14は、比較例6で得られた粒子のSEM写真を示す図である。 図15は、比較例7で得られた粒子のSEM写真を示す図である。 図16は、比較例8で得られた粒子のSEM写真を示す図である。 図17は、比較例9で得られた粒子のSEM写真を示す図である。 図18は、比較例10で得られた粒子のSEM写真を示す図である。 図19は、比較例11で得られた粒子のSEM写真を示す図である。 図20は、比較例12で得られた粒子のSEM写真を示す図である。 図21は、実施例1で得られた粒子の粒度分布ヒストグラムを示す図である。 図22は、実施例2で得られた粒子の粒度分布ヒストグラムを示す図である。 図23は、実施例3で得られた粒子の粒度分布ヒストグラムを示す図である。 図24は、実施例4で得られた粒子の粒度分布ヒストグラムを示す図である。 図25は、実施例5で得られた粒子の粒度分布ヒストグラムを示す図である。 図26は、実施例6で得られた粒子の粒度分布ヒストグラムを示す図である。 図27は、実施例7で得られた粒子の粒度分布ヒストグラムを示す図である。 図28は、実施例8で得られた粒子の粒度分布ヒストグラムを示す図である。 図29は、比較例1で得られた粒子の粒度分布ヒストグラムを示す図である。 図30は、比較例2、3で得られた粒子の粒度分布ヒストグラムを示す図である。 図31は、比較例4で得られた粒子の粒度分布ヒストグラムを示す図である。 図32は、比較例11で得られた粒子の粒度分布ヒストグラムを示す図である。 図33は、比較例12で得られた粒子の粒度分布ヒストグラムを示す図である。
本発明は、熱分解性を有する銀化合物(a)と錯体形成するアミン化合物(b)を反応させて銀ナノ粒子を製造する方法において、アミン化合物として、(i)直鎖状構造であって、(ii)アミノ基と水酸基が直鎖状分子の量末端に1つずつ持ち、かつ(iii)直鎖状構造内にエーテル結合を1つ以上有するアミノアルコールを使用することが特徴である。このような特定のアミノアルコールを使用することにより、広分布で比較的大粒径の銀ナノ粒子を容易に得ることができ、特に200〜500nmの大粒径領域の銀ナノ粒子を合成しやすく、またアミン化合物全体の使用量を少なくすることができるため環境に優れている。
以下、詳細に説明する。
<銀ナノ粒子合成における材料の説明>
〔1.銀化合物(a)の説明〕
本発明の銀粒子の製造方法では、まず、出発原料として熱分解性を有する銀化合物を用いる。熱分解性を有する銀化合物とは、後述する成分(b)と錯体化して、通常の設備で可能な加熱条件下で熱分解する銀化合物をいう。具体的には、シュウ酸銀、硝酸銀、酢酸銀、炭酸銀、酸化銀、亜硝酸銀、安息香酸銀、シアン酸銀、クエン酸銀、乳酸銀等を適応できる。これら銀化合物のうち、特に好ましいのは、炭酸銀又はシュウ酸銀(Ag)である。さらに好ましくはシュウ酸銀である。シュウ酸銀は、還元剤を要することなく比較的低温で分解して銀粒子を生成することができる。また、分解により生じる二酸化炭素はガスとして放出されることから、溶液中に不純物を残留させることもないためである。
〔2.錯体形成するアミン化合物(b)〕
次に、本発明においては、(b)成分として銀化合物と錯体形成しうるアミン化合物を用いる。この化合物は、銀化合物と錯体を形成して銀化合物の熱分解温度を下げ、低温で銀粒子を生成することを可能にする機能を有する。同時に、アミン化合物の有する有機基により、銀粒子の分散安定性の効果を持たせる保護剤の機能を有する。このようなアミン化合物としては、銀化合物と錯体を形成しうるアミン化合物であれば特に限定されない。特に、アミン化合物のアミノ基に結合する水素原子の数は、1つまたは2つ、すなわち、1級アミン(RNH2)、又は2級アミン(R2NH)が好ましい。
このように銀化合物と、これと錯体形成しうるアミン化合物から銀粒子を形成すること自体は背景技術として説明したように公知である。そして本発明でも、アミン化合物として公知技術で使用されてきた「脂肪族炭化水素モノアミン」や「脂肪族炭化水素ジアミン」のような脂肪族炭化水素アミン化合物を使用することも差し支えない。「脂肪族炭化水素モノアミン」や「脂肪族炭化水素ジアミン」として具体的には、アルキルアミン、アルコキシアミン、アルキルエーテルアミンが挙げられる。このうちアルキルアミンとしては、n−ブチルアミン、n−ペンチルアミン、n−ヘキシルアミン、n−ヘプチルアミン、n−オクチルアミン、2−エチルヘキシルアミン等が挙げられる。
しかし、これらのアミン化合物のうちアルキルアミンは刺激臭が強く、分解反応時に炭酸ガスとともに高温で排出されるリスクがあるので、刺激臭を抑えたい場合には、酸素原子を含むアミン化合物を用いるのが好ましい。具体的には、アルコキシアミン、アルキルエーテルアミン、アミノアルコールである。
本発明者の検討により、これらの酸素原子を含むアミン化合物は、刺激臭が抑えられるだけでなく、そのうち特に以下に説明する特定のアミノアルコールは、得られる銀粒子の物性も優れていることが判明した。
[2−1.大粒子径・広分布効果のあるアミノアルコール(b1)]
次に、本発明においては、(b)成分である銀化合物と錯体形成しうるアミン化合物として、以下のものを使用することを特徴とする。すなわち、(i)直鎖状構造であって、(ii)アミノ基と水酸基が直鎖状分子の量末端に1つずつ持ち、かつ(iii)直鎖状構造内にエーテル結合を1つ以上有するアミノアルコール(b1)を使用することが特徴である。これらのアミン化合物は、銀化合物と錯体を形成することにより、銀化合物の熱分解温度を下げ、低温で銀粒子を生成することを可能にする機能を有する。さらに、本発明においては、得られる銀粒子の粒径を容易に大きくかつ広い分布のものとすることを可能にする。すなわち、上記の(b)成分を使用することにより、意外にも、得られる銀ナノ粒子は、粒径が比較的大きく、しかも粒度分布が広いものであることが本発明者らの検討により判明したのである。この大粒径で分布が広い銀ナノ粒子は、後述するように、優れた効果を有するものである。
アミン化合物(b1)のアミノ基の級数は限定されず、1級アミン、2級アミン又は3級アミンのいずれも使用できるが、特に1級又は2級が錯体を形成しやすいので好ましい。
このアミン化合物(b1)は、(i)直鎖状構造を有する。ここで「直鎖状」とは、アミン化合物を構成する炭素原子とヘテロ原子とが、直鎖状につながっていて分岐を有さないことをいう。この炭素原子とヘテロ原子の直鎖状構造の両末端にそれぞれ、(ii)アミノ基と水酸基とを有している。そして直鎖状構造内に(iii)1つ以上のエーテル結合を有している。エーテル結合の数は1つ以上であれば限定されない。
これら(i)〜(iii)の特徴を有することにより、後述するメカニズムにより上述した優れた効果が得られていると考えられる。
(b1)成分のアミノアルコールの炭素数は限定されないが、 炭素数4以上が好ましい。通常、炭素数4〜7である。この範囲で前述した優れた効果が最も優れている。すなわち、得られる銀粒子の粒径が大きくかつ粒度分布が広くなる。おそらく、炭素数4以上の場合に、後述するメカニズムにおける2つの配位結合モデル間の、立体障害における排除体積の差が大きくなるため、粒子が大きく成長し、かつ粒度分布が広くなると推測される。
以上の条件を満たすアミノアルコールとしては、例えば、ジグリコールアミン、3−(3−アミノプロポキシ)プロパノール、2−[2−(3-アミノプロポキシ)エトキシ]エタノールが挙げられる。好ましくは、ジグリコールアミンである。従来の脂肪族炭化水素アミン化合物のような強い刺激臭もなく、取り扱う上でも安全面で有利である。なお、以上の(b1)成分は、1種のみを用いても、2種以上混合して用いてもよい。
[2−1.(b1)成分添加による大粒子径銀粒子生成メカニズム]
以上説明した(b1)成分を銀化合物と錯体形成するアミン化合物を用いることにより、大粒径で分布の広い銀ナノ粒子を得ることのできるメカニズムは完全には明らかではない。しかし、本発明者は以下のように推測している。
アミン化合物と銀化合物の錯体形成は、アミン化合物のアミノ基の非共有電子対が、銀原子の空軌道に配位して形成される。アミン化合物中の水酸基についても、アミノ基と同様に極性がありマイナスに帯電していることから、銀原子へ接近しやすい挙動を示すと考えられる。この性質を踏まえ、(b1)成分である特定のアミノアルコールの銀原子の配位結合状態について、以下のモデルが考えられる。i)アミノ基が銀原子へ配位し、アルキル鎖が外側(分散媒側)へ直線状に配向するモデル(図1−1)、ii)アミノ基が銀原子へ配位し、水酸基や構造中のエーテル結合部分の酸素原子も銀原子側へ近づき安定化するモデル(図1−2)である。この2つの配位結合モデルが存在するために、銀原子周辺でのアミン化合物による立体障害が一様ではない。このため、出来上がる粒子径にバラつきが生まれ、大粒子径から小粒子径まで幅広く形成されると考えられる。
これに対し、従来用いられてきたアルキルアミンについては、アミノ基部分しか電子供与性がないので、直線状にしか配向しないので、図1−3のようになる。したがって、粒子のばらつきは生まれにくい。粒子の揃った銀粒子しか合成できないのはこのためであると考えられる。
〔3.錯形成を促進させるアミノアルコール(b2)〕
本発明では、(b1)成分と併用して、酸素原子を含むアミン化合物、特に炭素数3〜4のアミノアルコール(b2)を用いることができる。(b2)成分は、粒子径を大きく、かつ粒度分布を広くする効果を一層上げることができるので好ましい。
さらに好ましくは、(i)炭素数3〜4の分岐型1級アミノアルコールであって、(ii)アミノ基と水酸基とを1つずつ持ち、かつ(iii)炭素数2のアルキル鎖を介して、アミノ基と水酸基が結合されているもの、またはiv)炭素数3の直鎖状2級アミノアルコールである。このような特定のアミノアルコールを用いることにより、特に得られる銀粒子の粒径を容易に大きくかつ広い分布のものとすることを可能にする。
ここで、(i)「分岐型」とは、炭素原子とヘテロ原子とからなる骨格が直線状ではなく枝分かれしていることをいう。また(ii)アミノ基と水酸基とを1つずつ持つものであれば、その数は限定されないが、通常は各々1つずつが好ましい。(iii)「炭素数2のアルキル鎖を介して、アミノ基と水酸基が結合されている」とは、炭素原子とヘテロ原子とからなる骨格中、隣り合った2つの炭素原子に各々、アミノ基と水酸基とが結合していることをいう。
この条件を満たすアミノアルコール(b2)を併用することにより、アミン化合物(b1)のみを使用した場合と比べて、銀化合物との錯体反応をより促進させることができ、かつ一層大粒径で分布の広い粒子を得ることができる。
以上の条件を満たす炭素数4以下のアミノアルコールとしては、(i)〜(iii)を満たすアミノアルコールとして、1−アミノ−2−ブタノール、DL−1−アミノ−2−プロパノール、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール(以下、AMP)、DL−2−アミノ−1−プロパノール、が挙げられる。また、(iv)を満たすアミノアルコールとして、N−メチルエタノールアミン、が挙げられる。
これらのうち特に、(i)〜(iii)を満たすアミノアルコールであるAMP、1−アミノ−2−ブタノール、DL−1−アミノ−2−プロパノール、及びDL−2−アミノ−1−プロパノールがが扱いやすく、アルコール溶媒のような極性溶媒存在下での錯形成が容易に起こり、かつ大粒径かつ広い粒度分布の銀粒子を容易に得ることができるので最も好ましい。これらのうちでも特に、AMPが最も以上の効果が高く優れている。
なお、以上の(b2)成分は、1種のみを用いても、2種以上混合して用いてもよい。
〔4.立体障害による分散安定化効果を持つアミン化合物(b3)〕
本発明ではさらに、(a)と(b)の錯体形成時に、以上説明した(b1)(b2)成分以外のアミン化合物を存在させることができる。
この成分は、立体障害効果により、銀粒子の分散安定性の効果を持たせる機能を有する。
(b1)(b2)成分以外のアミン化合物として、特に分子の長さが5Å以上のものが好ましい。すなわち、分子の長さが5Å以上であって、前述した(b1)及び(b2)の各要件にあてはまらないアミン化合物である。
ここで、分子の長さとは、水素原子を含まない最も距離の長い2原子の距離である。この分子の長さは計算により求めることができる。計算条件は、密度汎関数法、関数 ωB97X-D、基底関数 6-31+G*、環境 真空中 エネルギー状態 基底状態、で、SPARTAN`16V1,1,0 など各種の分子計算ソフトウェアで計算できる。
分子の長さは好ましくは7Å以上である。もっとも、あまり長いと沸点が高くなり、除去することが難しくなるので、好ましくは、8Å以下である。
特に、アミノ基を含めて7原子以上で構成された主鎖(主骨格)を持つアミン化合物が好ましい。
中でも、アミン化合物を構成する原子が、N、C及びHであるもの、又はN、C、H及びOであるものが好ましい。
アミン化合物のアミノ基に結合する炭化水素基の数は限定されないが、1つまたは2つである1級アミン又は2級アミンが特に銀と配位結合しやすいので好ましい。
このような(b3)成分としては、例えば炭素総数4以上の脂肪族炭化水素モノアミンが挙げられる。
炭素数4以上の脂肪族炭化水素モノアミンは、従来技術で説明した銀化合物と錯体を形成して銀ナノ粒子を形成する方法で多く用いられているものである。しかし、炭素数4以上の脂肪族炭化水素モノアミンは、刺激臭が強く、分解反応時に炭酸ガスと共に高温で排出されるリスクがあるので、他のアミン化合物を用いても良い。具体的には、炭素数4以上の、酸素原子を含むアミン化合物(アルコキシアミン、アルキルエーテルアミン、アミノアルコール)であって、(b2)成分として前述した(i)〜(iii)又は(iv)にあたらないものである。
以上の(b3)成分の具体例として、アルキルアミンとしては、n−ブチルアミン、n−ペンチルアミン、n−ヘキシルアミン、n−ヘプチルアミン、n−オクチルアミン、2−エチルヘキシルアミン等が挙げられる。アルコキシアミンとしては、3−メトキシプロピルアミン、3−エトキシプロピルアミン等が挙げられる。アルキルエーテルアミンとしては、HUNTSMAN製JEFFAMINEのMシリーズ、M−600、M−1000、M−2005、M−2070等が挙げられる。アミノアルコールとしては、4−アミノ−1−ブタノール、5−アミノ−1−ペンタノール、6−アミノ−1−ヘキサノール等が挙げられる。
より好適な具体例としては、アルキルアミンとしては、n−ペンチルアミン、n−ヘキシルアミン、n−ヘプチルアミン、n−オクチルアミン、2−エチルヘキシルアミン等が挙げられる。アルコキシアミンとしては、3−メトキシプロピルアミン、3−エトキシプロピルアミン等が挙げられる。アミノアルコールとしては、5−アミノ−1−ペンタノール、6−アミノ−1−ヘキサノール等が挙げられる。
以上の(b3)成分は、1種類もしくは2種類以上併用しても可能である。
(3−1.アミン化合物内でのモル比率 (b2)/(b))
(b2)/(b)は、好ましくは0.3〜0.8(モル比)、好ましくは0.4〜0.8である。この範囲は、大粒子で高分布を持つ銀ナノ粒子を製造するのに、最も適している。前記モル比率が、0.3よりも小さくなると、分子の長さが長いアミン化合物の添加量が多くなり、粒子が全体に小さくなり、粒度分布も狭くなる傾向があり好ましくない。また、前記モル比率が0.8より大きくなると、保護剤としての立体障害効果が弱くなり、合成時に銀粒子の融着が起こるリスクが高くなる。
(3−2.アミン化合物(b)とシュウ酸銀(a)の比率・添加量について)
銀化合物の銀原子とアミン化合物(b)との混合量について、そのモル比(アミン化合物/銀化合物の銀原子)が、0.7〜2.0 となるようにしてアミン化合物(b)の量を調整するのが望ましい。そうすることにより、粒径にばらつきが生まれ、目的の粒径範囲の銀粒子を得ることが容易である。より好ましくは0.7〜1.5、さらに好ましくは0.7〜1.3もっとも好ましくは0.7〜1.3である。
前述した従来の各種の合成方法(特許文献1〜8)においては、アミン化合物/銀化合物の銀原子のモル比が2.0以上である。これに対して本発明では、より少ないアミン量で銀粒子を得ることができるので、アミン排出量も少なくて済む。したがって、アミンの系外放出による人体や環境負荷のリスクを軽減できる。また同時に、このような従来の方法では、粒子径も小さく、分布の狭い粒子が合成されやすくなってしまうのに対し、本発明においては、分布が広く大粒径の銀粒子を得ることができ、最終的に低温焼結性に優れ、低抵抗な厚膜導電焼結体が得ることができるのである。
他方、モル比が0.7を下回ると、扁平状の粒子ができやすく凝集しやすいため、銀塗料組成物の分散安定性が低くなる。
〔4.有機溶媒(c)の説明〕
本発明は、以上説明した銀化合物とアミン化合物の錯体形成反応を、有機溶媒の存在下で行うのが望ましい。
これらの有機溶媒の極性をコントロールすることで、銀ナノ粒子の粒子径もコントロールできるファクターの1つである。例えば、溶媒の極性を低くすることで、(b)または(d)のアミン化合物が銀原子側に近づきやすくなるので、合成される銀ナノ粒子のサイズは小さくなりやすい傾向を持つ。本発明では、極性の官能基を持っている溶媒が好ましく、具体的には、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、アルデヒド系溶媒、アミド系溶媒、エスエル系溶媒、ニトリル系溶媒が好ましい。特にアルコール系溶媒が好ましく、中でも炭素数3〜12のアルコールが好ましい。例えば、n−プロパノール(沸点bp:97℃)、イソプロパノール(bp:82℃)、n−ブタノール(bp:117℃)、イソブタノール(bp:107.89℃)、sec−ブタノール(bp:99.5℃)、tert−ブタノール(bp:82.45℃)、n−ペンタノール(bp:136℃)、n−ヘキサノール(bp:156℃)、n−オクタノール(bp:194℃)、2−オクタノール(bp:174℃)、n−ノナノール(bp:215℃)、5−ノナノール(bp:195℃)、n−デカノール(bp:232.9℃)、n−ウンデカノール(bp:243℃)、2−ウンデカノール(bp:131℃)、n−ドデカノール(bp:259℃)、2−ドデカノール(bp:250℃)等が挙げられる。
これらの中でも、後に行われる錯化合物の熱分解工程の温度を高くできること、銀ナノ粒子の形成後の後処理での利便性を考慮して、n−ブタノール、n−ヘキサノール、n−デカノールが好ましい。これら単独で用いても良いし、2種類以上混同して用いてもよい。
(4−1.有機溶媒の添加量について)
また、有機溶媒は、各成分の十分な撹拌操作のため、前記銀化合物(a)100重量部に対し、80〜130重量部(すなわち有機溶媒(c)と銀化合物(a)との重量比(c)/(a))が0.8〜1.3となるように有機溶媒を混合したものが好ましい。さらに好ましくは銀化合物100重量部に対し80〜125重量部である。
(4−2.有機溶媒の添加方法について)
本発明において、アミン化合物(b)または(d)と銀化合物(a)とを銀化合物とアミン化合物の錯体形成反応を、有機溶媒の存在下で行うには、いくつかの形態をとり得る。
例えば、固体の銀化合物と有機溶媒特にアルコール溶媒とを混合して、銀化合物―アルコールスラリーを得て、次に得られた銀化合物−アルコールスラリーに、アミン化合物(b)または(d)を添加してもよい。本発明においてスラリーとは、固体の銀化合物が有機溶媒または有機溶媒とアミン化合物との混液中に分散されている混合物を表している。スラリーを得るには、反応容器に、固体の銀化合物を仕込み、それに有機溶媒または有機溶媒とアミン化合物との混液を添加しスラリーを得ると良い。
あるいは、有機溶媒とアミン化合物との混液を反応容器に仕込み、それに銀化合物を添加しても良い。
尚、シュウ酸銀については、乾燥状態において爆発性があることが報告されている。したがって、銀化合物としてシュウ酸銀を用いる場合には、湿潤状態にしたものを利用するのが好ましい。湿潤状態にすることで爆発性が著しく低下し、取扱い性が容易になるためである。そこで、水又は前述した有機溶媒を混合して湿潤状態にして用いればよい。
〔5.脂肪族カルボン酸について〕
また、粒子径、粒度分布の調整のために、錯形成時に脂肪族カルボン酸を用いてもよい。脂肪族カルボン酸を添加することで、粒子径は小さく、粒度分布は狭くなる傾向にある。水分量と適宜調整し、利用することが望ましい。前記脂肪族カルボン酸は前記アミン類と共に用いるとよく、銀化合物とアミンを混合させる際に添加して用いることもできる。前記脂肪族カルボン酸としては、飽和又は不飽和の脂肪族カルボン酸が用いられる。例えば、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、イコサン酸、エイコセン酸等の炭素数4以上の飽和脂肪族モノカルボン酸; オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、パルミトレイン酸等の炭素数8以上の不飽和脂肪族モノカルボン酸が挙げられる。
これらの内でも、炭素数8〜18の飽和又は不飽和の脂肪族モノカルボンが好ましい。炭素数8以上とすることにより、カルボン酸基が銀粒子表面に吸着した際に他の銀粒子との間隔を確保できるため、銀粒子同士の凝集を防ぐ作用が向上する。入手のし易さ、焼成時の除去のし易さ等を考慮して、通常、炭素数18までの飽和又は不飽和の脂肪族モノカルボン酸化合物が好ましい。特に、オクタン酸、オレイン酸等が好ましく用いられる。前記脂肪族カルボン酸のうち、1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
(5−2.脂肪族カルボン酸の添加量について)
前記脂肪族カルボン酸は、用いる場合には、原料の前記銀化合物の銀原子1モルに対して、例えば0.05〜10モル程度用いるとよく、好ましくは0.1〜5モル、より好ましくは0.5〜2モル用いるとよい。前記脂肪族カルボン酸の量が、前記銀原子1モルに対して、0.05モルよりも少ないと、前記脂肪族カルボン酸の添加による粒子径制御の効果が弱い。一方、前記脂肪族カルボン酸の量が10モルに達すると、粒子径が小さく揃いすぎる可能性もあるし、洗浄もしくは、表面保護剤置換工程においても、残存する可能性があるので、低温焼成での該脂肪族カルボン酸の除去がされにくくなる。ただし、脂肪族カルボン酸を用いなくてもよい。
〔6.水・水分量の説明〕
本発明では、(b1)成分のアミン化合物とともに、水を用いてもよい。反応系の水分含有量は、銀化合物100重量部に対して5〜20重量部以下の範囲内とするのが好適である。特に好ましくは15重量部以下である。水分含有量については、錯形成に使用するアミン化合物の種類にもよるが、水分含有量が少ないと、得られる銀粒子の粒度分布が揃い、焼結体の空隙が生まれ、本発明で期待される効果が発現しにくいことがある。一方、銀化合物に対して20重量部を超える水分含有量の場合、銀粒子が粗大になりすぎ、粒子が焼結・合一する部分が生まれ、好ましくない。使用する水に関しては、金属イオン不純物を低減したイオン交換水が好ましい。水を添加するタイミングについては、加熱工程の前であればよく、銀−アミン錯体の形成前、あるいは錯体形成後の、いずれの段階で添加してもよい。
また、前述した有機溶媒(c)と水との比率は、水/有機溶媒の重量比が0.03〜0.3が好ましい。より好ましくは0.1〜0.25である。この範囲で特に、本発明の効果を得るのが容易である。
(6−1.水添加することにおける高分布銀粒子生成のメカニズムについて)
後述する熱分解による銀粒子形成の反応中、水を存在させることにより、形成される銀ナノ粒子の粒径に特にバラつきが生じ、高分布な銀粒子が得られる。そのメカニズムについては、不明な部分もあるが、水が銀化合物、特にシュウ酸銀に近づき、銀アミン錯体形成または、加熱分解する際に、アミン化合物が銀原子へ吸着するのを阻害し、阻害された部分が粒子成長すると考えられる。さらに、この水分子のシュウ酸銀への吸着量も偏りがある(局在化している)ことから、粒径に適度なバラつきが生じると考える。このための適切な量が、銀化合物100重量部に対して5重量部以上である。逆に、銀化合物100重量部に対して20重量部よりも多い量の水を添加すると、銀粒子自体が肥大化し、隣の粒子とも焼結・合一を起こしてしまうことがある。これは、水がアミンの銀原子の吸着を阻害して銀粒子が肥大化するためと推測される。
<銀ナノ粒子の製造方法>
〔7.液体原料の混合〕
本発明において、通常は、前記極性溶媒(c)の中に、前記錯体形成するアミン化合物(b)を入れ、混合する。必要に応じて、脂肪族カルボン酸、水を添加・混合し、反応に必要な液体原料を調整することができる。
液体原料で、常温で固体の物質があった場合は、適宜加熱を行い混合する事もできる。加熱する温度としては、100℃以下、好ましくは、80℃以下、さらに好ましくは、60℃以下で加熱し、液状化する液体原料の構成が望ましい。前記温度域よりも高い温度だと、銀化合物と混ぜてスラリー化する場合に、先に一部錯体化・シュウ酸分解反応が始まってしまい、系内の均一性が確保されないまま銀ナノ粒子が生成されてしまう可能性がある。
〔8.銀化合物スラリーの作製〕
前記銀化合物(a)と前記液体原料を混合し、銀化合物スラリーを調製する。または、先に極性溶媒と前記銀化合物(a)のみを混合し、前記アミン化合物を後で添加してもよい。
銀化合物と、所定量のアミン混合液、または、必要に応じて脂肪族カルボン酸、水を混合する。この際の混合は、室温で撹拌しながら、あるいは銀化合物へのアミン類との配位反応(錯体化反応)は発熱を伴うため室温以下に適宜冷却して撹拌しながら行うとよい。銀化合物とアミン化合物等との混合液は、極性溶媒存在下にて行われるので、撹拌及び冷却は良好に行うことができる。極性溶媒とアミン化合物の過剰分が反応媒体の役割を果たす。
それと、揮発性の高いアルキルアミンの臭気は作業環境への悪影響が大きい、本発明においては、銀ナノ粒子合成時に使用する揮発性の高いアルキルアミンの量を軽減、または無くすことができるので、原料を仕込む際に臭気や作業者への暴露を軽減できる。
〔9.銀アミン錯体について〕
生成する錯化合物が一般にその構成成分に応じた色を呈するので、反応混合物の色の変化から、錯化合物の生成反応の進行を検知することができる。また、色の変化で確認がとりにくい場合、反応混合物の粘性の変化や、温度の変化などで生成状態を検知することができる。このようにして、極性溶媒及びアミン化合物を主体とする媒体中に銀アミン錯体が得られる。
〔10.錯体化から分解反応までの昇温速度条件の説明〕
反応系の加熱工程において、加熱速度は析出する銀粒子の粒径に影響を及ぼすことから、加熱工程の加熱速度の調整により銀粒子の粒径をコントロールすることができる。ここで、加熱工程の速度は、設定した分解温度まで、3.0〜50℃/minの範囲で調整することが望ましい。昇温時間が遅い方が、粒子成長が起こりやすく大粒子径が形成されやすいが、3.0℃/minよりも遅い昇温速度であると、粒子成長が促進されやすく、隣の粒子とも同一してしまい、好ましくない。
〔11.銀粒子の洗浄工程について〕
銀化合物の熱分解により、得られた粒子の粒子径により、色が異なるが、黒褐色からグレーまでの色に呈する懸濁液となる。この懸濁液から極性溶媒や過剰のアミン化合物等の除去操作、例えば、銀ナノ粒子の沈降、適切な溶媒(水または、有機溶媒)によるデカンテーション・洗浄操作を行うことによって、目的とする保護剤としてアミン化合物が結合した銀ナノ粒子が得られる。
〔12.洗浄溶媒の説明〕
この銀粒子の洗浄は、溶媒としてメタノール、エタノール、プロパノール等の沸点が150℃以下のアルコールを適応するのが好ましい。そして、洗浄の詳細な方法としては、銀粒子合成後の溶液に溶媒を加え、懸濁するまで撹拌した後、デカンテーションで上澄み液を除去することが好ましい。アミンの除去量は、加える溶媒の体積と洗浄回数で制御可能である。上述の一連の作業を線回数1回とする場合、好ましくは、銀粒子合成後の溶液に対して1/20〜3倍の体積の溶媒を使用し、1〜5回洗浄する。
〔13.保護剤置換工程〕
さらに、上記の銀ナノ粒子に対して、必要に応じて炭素数4以上のアミン化合物(酸素原子を含むものも可)に表面保護剤を置換させる工程により、用途に合ったアミン化合物へ置換してもよい。最終的に置換するアミン化合物は、銀ナノ粒子を製造する際に用いたものでもよいし、用いていないものを新たに使用してもよい。洗浄後の銀粒子を最終的に置換したいアミン化合物の中で、一定時間撹拌・懸濁することで、銀粒子の表面保護剤が置換される。その際、含まれている純銀分に対して、最終的に置換したいアミン化合物を50〜100wt%添加して、約1h常温下で撹拌・懸濁させる。表面保護剤置換工程の前後の違いについては、DTA測定での焼結由来ピークの違いや、ヘッドスペースGC/MSなどで、表面保護剤の確認は可能である。上述した表面保護剤の置換工程後、再度洗浄工程を経て、目的の銀粒子を得る。
ここで用いるアミン化合物としては、炭素数4〜8のアルキルアミンまたは、酸素原子を含むアミン化合物(アルコキシアミン、アルキルエーテルアミン、アミノアルコール)である。その中でも、分子の長さが5〜8Åであるものが好ましく、さらに好ましいのは、分子の長さが7〜8Åのものである。アルキルアミンと、酸素原子を含むアミン化合物は、1種類もしくは2種類以上併用しても可能であり、その組成によって、ペーストに加工した際の粘性の調整も可能となる。
〔14.生成された銀粒子の状態(保護剤、粒度分布)〕
このようにして、用いたアミン化合物が保護剤として結合された銀ナノ粒子が形成される。銀ナノ粒子とは、以下の方法で製造されうる、銀成分を主体として通常1〜1000nmの粒径を有する微細な粒子をいう。
前記保護剤は、例えば、前記の特定の炭素数4以下のアミノアルコール(b)を含み、さらに分子の長さが5Å以上のアミン化合物(d)を含み、さらに用いた場合は前記脂肪族カルボン酸を含んでいる。保護剤中におけるそれらの含有割合は、前記アミン混合液中のそれらの使用割合と同等である。また、洗浄工程、必要であれば保護剤置換行程によって、保護剤の種類や総量を調整することが可能である。最終的に保護剤として結合しているアミン化合物の分子の長さは、2〜8Åが好ましく、さらに5〜8Åがより好ましい。そして、7〜8Åが最も好ましい。一方、保護剤の総量は純銀分100重量部に対して、0.3〜2.0重量部であることが好ましい。さらに0.5〜1.0重量部であればより好ましい。
本発明の銀ナノ粒子は、通常、粒子径が1000nm以下である。
また、平均粒子径が70〜350nm、好ましくは70〜300nm、さらに好ましくは80〜200nmである。
粒子径のばらつきを示す変動係数は30〜80%、好ましくは40〜70%、さらに好ましくは50〜60%で構成されている。
平均粒子径及び変動係数は、以下のようにして求める。得られた銀ナノ粒子をFE−SEMにて粒子形状の観察を行う。その後画像解析ソフトSCANDIUM(OLYMPUS製)を用いて、300個以上の粒子径の測長し、平均粒子径、標準偏差の値を解析により求めた。これらの値を用いて、変動係数は以下の計算式に基づき計算した。
変動係数(%)={標準偏差(nm)/平均粒子径(nm)}×100
なお粒子径測定の機材は、上記の方法と同等の結果を得られるものであれば制限されない。
以上の平均粒子径と分布(ばらつき)を有することにより、銀塗料を塗布して得られる塗膜の膜厚を厚くすることができる。具体的には、10〜30μmもの厚膜も得ることができる。さらに、厚いだけでなく、得られる膜の体積抵抗率も低くすることができる。具体的には、20μm以上の厚膜で、20〜30μΩ・cm程度の体積抵抗率を得ることができる。これは、粒度分布が広く、小さい粒子が大きい粒子の間に最密充填に近く充填されることにより、銀粒子が高充填されて銀粒子の含有量の高い膜が得られているためであると推測される。
平均粒子径が70nm未満だと、銀粒子の表面を保護するアミン化合物量が増え、得られる塗膜の体積抵抗率を低くするのが難しい。他方、平均粒子径が350nmを超えると、銀ナノ粒子の融点降下の現象が弱くなり、低温で焼結しづらくなるため、この場合も塗膜の体積抵抗率を低くすることが難しくなる。
また、変動係数が30%未満だと、粒子が揃ってしまい、粒子間の空隙を埋めることができず、塗膜の体積抵抗率を低くすることが難しくなる。他方、変動係数が80%を超えると、粒子のばらつきがあっても、粒子サイズが異なりすぎるため、この場合も粒子間の空隙を埋めることが難しくなり、この場合も塗膜の体積抵抗率を低くすることが難しくなる。
このため以上の平均粒子径とばらつきとを有する銀粒子とすることが好ましいが、本発明を用いれば、このような銀粒子を容易に得ることができ、したがって銀塗料組成物として好適な粘度に調整することができる。
スクリーン印刷用インクの粘度においては、0.1〜500Pa・sの範囲(ずり速度5 1/sec 時)が好ましい。高すぎると、流動性がなく印刷不良を起こしやすい、また低すぎると印刷したインクがダレて、線幅が広がってしまうためである。そこで、粘度を高くするには、通常、有機バインダーを添加することが多いが、有機バインダーは得られる塗膜の抵抗値を上げてしまう。これに対し、本発明の銀粒子は、有機バインダーとしてエトセル45(日新化成製)を純銀分に対し、1wt%添加した状態でも比較的高粘度とすることができ、例えば粒度を平均粒子径約80nm、変動係数約35%に調整することにより、30〜40Pa・s程度の粘度に調整できる。したがって有機バインダーの添加量が純銀分に対し、1wt%以下でも上記のスクリーン印刷に適した粘度にすることができる。このように、粒度の調整で粘度をコントロールできるので、有機バインダーの添加量の自由度が上がり、少なくすることもできるため、非常に優れている。
本発明の製造方法は、前述したように、使用するアミン種、有機溶媒種、水の添加量等で、粒子径コントロールが可能である。したがって、200〜500nmの大粒子径領域の銀粒子と50〜200nmの小粒子径領域の銀粒子を1バッチで合成することもできるなど、工業生産にも適している。
こうして得られる銀粒子は、200nm以上の大粒子径領域の銀粒子が存在しているため、銀ナノ粒子の余剰保護剤の洗浄・保護剤置換処理・ペースト化などの工程途中においても凝集(焼結)しにくく、本来の銀粒子の特性を損ねることなく、銀ナノ粒子分散体・銀塗料組成物を製造しやすいと期待できる。このことは、スケールアップを考慮した際も有効である。
<用途>
〔15.銀ナノ粒子分散体及び銀塗料組成物及びこれらの製造方法〕
上記に記載の方法で得られた銀ナノ粒子を用いて、銀ナノ粒子分散体を作製することができる。ここで、銀ナノ粒子分散体とは、少なくとも銀ナノ粒子及び分散媒を含有する組成物をいう。このような銀ナノ粒子分散体は、制限されることなく、種々の形態をとり得る。例えば、銀ナノ粒子を適切な有機溶媒(分散媒体)中に懸濁状態で分散させることにより、銀ナノ粒子分散体を得ることができる。
本発明で得られる銀ナノ粒子は分散性に優れているため、高濃度で分散媒中に安定に存在させることができる。例えば、組成物中の銀ナノ粒子の含有量として、70〜95重量%、さらに好ましくは75〜80重量%の高濃度で含有させることができ、いわゆるペースト状態とすることができる。
さらに、銀ナノ粒子及び分散媒のほか、いわゆるバインダー成分を含有させた銀塗料組成物を作製することができる。70〜95重量%、さらに好ましくは75〜80重量%の高濃度で銀ナノ粒子を含有させることにより、印刷性が良好で、厚膜な導電膜が作製しやすい銀塗料組成物とすることができる。
(15−1.分散体又は塗料組成物の分散媒)
銀ナノ粒子分散体又は銀塗料組成物を得るための分散媒としては各種の有機溶媒、例えばペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン等の脂肪族炭化水素溶媒; シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素溶媒;トルエン、キシレン、メシチレン等のような芳香族炭化水素溶媒; メタノール、エタノール、プロパノール、n−ブタノール、n−ペンタノール、n−ヘキサノール、n−ヘプタノール、n−オクタノール、n−ノナノール、n−デカノール、n−ドデカノール等のようなアルコール溶媒等が挙げられる。
有機溶媒としてはこれらの中でも特に、炭素数8〜16で構造内に酸素原子を有する沸点280℃以下の有機溶媒が好ましい。銀粒子の焼結温度の目標を150℃以下とする場合、沸点280℃を超える溶媒は揮発・除去が困難だからである。この溶媒の好ましい具体例としては、ターピネオール(C10、沸点219℃)、ジヒドロターピネオール(C10、沸点220℃)、テキサノール(C12、沸点260℃)、エチルカルビトールアセテート(C8、沸点219℃)、ブチルカルビトールアセテート(C10、沸点247℃)、2,4−ジメチルー1,5−ペンタンジオール(C9、沸点150℃)、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールジイソブチレート(C16、沸点280℃)が挙げられる。溶媒は複数種を混合して使用しても良く、単品で使用しても良い。
所望の銀塗料組成物又は銀ナノ粒子分散体の濃度や粘性に応じて、有機溶媒の種類や量を適宜定めると良い。
(15−2.塗料組成物の有機バインダーの説明)
銀塗料組成物に対して、銀粒子の分散性の補助、又は基材との密着性を付与する目的で、有機バインダーを添加しても良い。有機バインダーの添加量としては、含有している銀100重量部に対して、0.1〜10重量部が好ましい。
上記バインダー樹脂の導電性インク中における存在形態は、溶媒に対して溶解していてもよいし、エマルジョン、またはサスペンションであってもよい。上記バインダー樹脂としては特に限定されないが、例えば、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、メラミン樹脂、ビニル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリブタジエン樹脂、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体樹脂、フッ素樹脂、シリコン樹脂、ロジン、ロジンエステル、塩素化ポリオレフィン樹脂、変性塩素化ポリオレフィン樹脂、塩素化ポリウレタン樹脂、セルロース系樹脂、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリビニルプチラール、ポリビニルピロリドンなどを挙げることができる。
使用するバインダー樹脂は1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。
〔16.銀塗料組成物による印刷方法・使い方)〕
調製された銀塗料組成物を基板上に塗布し、その後、焼成するのが一般的である。
塗布は、スピンコート、インクジェット印刷、スクリーン印刷、ディスペンサ印刷、凸版印刷(フレキソ印刷)、昇華型印刷、オフセット印刷、レーザープリンタ印刷(トナー印刷)、凹版印刷(グラビア印刷)、コンタクト印刷、マイクロコンタクト印刷などの公知の方法により行うことができる。印刷技術を用いると、パターン化された銀塗料組成物層が得られ、焼成により、パターン化された銀導電層が得られる。また、この銀導電層は導電性・熱伝導性に優れた接合材料としての応用が可能であり、パワーデバイス等の大電流を取扱う電気機器の接合材としても有用である。
焼成は、200℃以下、例えば室温(25℃)以上150℃以下、好ましくは室温(25℃)以上120℃以下の温度で行うことができる。しかしながら、短い時間での焼成によって、銀の焼結を完了させるためには、60℃以上200℃以下、例えば80℃以上150℃以下、好ましくは90℃以上120℃以下の温度で行うとよい。焼成時間は、銀インクの塗布量、焼成温度などを考慮して、適宜定めるとよく、たとえば数時間(例えば3時間、あるいは2時間)以内、好ましくは1時間以内、より好ましくは30分間以内にするとよい。
銀ナノ粒子は上記のように構成されているので、このような低温短時間での焼成工程によっても、銀粒子の焼結が十分に進行する。その結果、平均粒子径が200nmを超えても優れた導電性(低い抵抗値)が発現する。低い抵抗値(例えば20〜30μΩ・cm)を有する銀導電層が形成される。バルク銀の抵抗値は1.6μΩcmである。
〔17.銀ナノ粒子分散体及び銀塗料組成物の用途〕
低温での焼成が可能であるので、基板として、ガラス製基板、ポリイミド系フィルムのような耐熱性プラスチック基板の他に、ポリエチレンテレフタラート(PET)フィルム、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムなどのポリエステル系フィルム、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系フィルムのような耐熱性の低い汎用プラスチック基板をも好適に用いることができる。また、短時間の焼成は、これら耐熱性の低い汎用プラスチック基板に対する負荷を軽減するし、生産効率を向上させる。
銀導電層の厚みは、目的とする用途に応じて適宜定めるとよく、特に本発明に係る銀ナノ粒子を使用することで比較的膜厚の大きい銀導電層を形成した場合でも高い導電性を示すことができる。銀導電層の厚みは、例えば、100nm〜30μm、好ましくは1μm〜20μm、より好ましくは10μm〜20μmの範囲から選択するとよい。
本発明の銀ナノ粒子分散体又は銀塗料組成物により得られる銀導電材料は、電磁波制御材、回路基板、アンテナ、放熱板、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、ICカード、ICタグ、太陽電池、LED素子、有機トランジスタ、コンデンサー(キャパシタ)、電子ペーパー、フレキシブル電池、フレキシブルセンサ、メンブレンスイッチ、タッチパネル、EMIシールド等に適応することができる。
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに具体的に説明する。
実施例及び比較例で用いたアミン化合物の名称、構造式等の特徴を、表−1〜2に示す。
Figure 2021105218
Figure 2021105218
[実施例1]
(銀粒子の製造)
アルミブロック式加熱攪拌機にセットした試験管に原料となる銀化合物としてシュウ酸銀の乾燥品7.58g(24.95mmol) と、極性溶媒としてn−ヘキサノール9.21g(90.14mmol)とを撹拌し、シュウ酸銀を湿潤状態にさせた。その後、DL-‐1‐アミノ−2−プロパノール2.11g(28.09mmol)、オレイン0.30g(1.06mmol)を添加した。その後、1時間撹拌し、銀―アミン錯体を製造した。その後、昇温速度3℃/minで加熱し100℃でシュウ酸銀の分解反応が起こったと思われる二酸化炭素の発生を確認した。二酸化炭素の発生が止まるまで加熱を継続し、銀粒子が懸濁された液体を得た。銀粒子の析出後、反応液にメタノール20ccを添加して洗浄し、これを遠心分離した。この洗浄と遠心分離は3回行った。このようにして、銀ナノ粒子を得た。
(粒子径の確認)
得られたメタノールで湿った状態の銀ナノ粒子をn−ヘキサノール中へボルテックスミキサーを用いて懸濁させ、その液をコロジオン膜等の支持体へ滴下し、溶媒を乾燥させて試料を得た。FE−SEM観察にて、倍率20000〜70000倍で観察・撮影し、画像の中で400個以上粒子が存在している倍率の画像を選定する。その後、FE−SEMにて粒子形状の観察を行った。その後画像解析ソフトSCANDIUM(OLYMPUS製)を用いて、粒子数400個以上をカウントし、粒子径の測長、平均粒径、粒度分布等の解析を実施した。粒子に長径とそれ以外の径がある場合は粒子径の測長は長径を測長した。
粒子の100〜200nmの粒子割合(%)、平均粒径(nm)、変動係数(%)を表−5に示す。FE−SEM写真を図3に示す。粒度分布ヒストグラムを図21に示す。
(銀ナノ粒子ペースト、インクの調製と焼成)
次に、回収した銀ナノ粒子に、溶媒としてテキサノールを銀分75wt%になるよう添加し、混合した。さらに銀粒子に対して添加量が1wt%になるように、有機バインダーとしてエトセル45(日新化成製)を添加し、最終的に銀分約70wt%の銀ナノ粒子ペーストインクを作製した。このペーストをスライドガラス上でキャストし、送風乾燥機にて、150℃で1h加熱した。乾燥後の塗膜厚みは10~30μmになるようにした。
得られた塗膜は、4端子法により表面抵抗値を測定し、得られた塗膜の厚みを乗じて、体積抵抗率を得た。
体積抵抗率の値を表−4に示す。
[実施例2〜8、比較例1〜12]
(銀粒子の製造)
使用材料及び配合割合を表−5〜12に示すものに代え、銀―アミン錯体化合物生成後の昇温速度を表−5〜12に示すものに代え、反応容器/加熱装置を表−5〜13に示すものに代えた以外は実施例1の(銀粒子の製造)と同様にして、銀粒子を作製した。
表−7に示すとおり、実施例8については、後述の内容の(保護剤置換処理)を行った。保護剤置換行程を以下に示す。シュウ酸銀のシュウ酸分解反応により、得られた銀ナノ粒子中のアミン化合物をn−ヘキシルアミンに置換するため、得られた銀ナノ粒子の純銀分に対して71.8wt%のn−ヘキシルアミンと銀ナノ粒子を常温で1時間撹拌し、上記と同様に洗浄と遠心分離を3回繰り返し、ヘキシルアミンを保護剤とした銀ナノ粒子を得た。
得られた銀粒子について実施例1と同様の方法で(粒子径の確認)を行った。なお、比較例2〜4については、STEM像で粒子径の確認を実施した。
また、実施例2〜8、比較例1、2、11、12については、得られた子を用いて実施例1と同様の方法で(銀ナノ粒子ペースト、インクの調製と焼成)を行った。
なお実施例8については、保護剤置換処理前の粒子と保護剤置換処理後の粒子を用いて各々(銀ナノ粒子ペースト、インクの調製と焼成)を行った。
また、比較例3及び、4については、特許文献1及び、2のように、銀分55wt%になるようにし、イソオクタン/n−ブタノール=4/1(体積比)の混合溶媒中に分散させた銀ナノ粒子分散体をスピンコートすることにより、ガラス上に塗工した。
実施例2〜8、比較例1〜4、11,12について、得られた粒子の平均粒径(nm)、変動係数(%)、各粒子径範囲での粒子割合(%)、を表−5〜12に示す。SEMもしくはSTEM画像を図2〜20に示す。実施例2〜8、比較例1〜4、11、12の粒度分布ヒストグラムを図21〜33に示す。実施例1〜10及び、比較例1〜4について、焼結塗膜の体積抵抗率及び膜厚の値を表−5〜12に示す。
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以上のように、本発明により、錯体形成時に(b)成分のアミン化合物を添加し、合成された銀粒子を用いることで、20μm以上の焼結塗膜を形成することが可能でかつ、150℃での焼成条件において、塗膜の体積抵抗率が50μΩ・cm以下であり、導電性がある膜を得られることが確認できた。
実施例1〜3では、ジグリコールアミンと(b2)成分のアミン化合物を併用している。その中でも実施例3において、AMPを使用すると、変動係数も大きくばらつきが大きくなり、小粒子径の粒子割合も多くなり、各焼成温度において、最も体積抵抗率が低い焼成膜が得られた。
また、実施例3、4では、ジグリコールアミンの添加量を増減させているが、添加量が多い実施例4において、実施例3よりも大きな粒子径の粒子が得られた。しかも、平均粒子径が大きくなったにも関わらず、各焼成温度での焼結塗膜の体積抵抗率はほぼ変わらない結果となった。
実施例4〜6では、(b2)成分のアミンと短鎖アルキルアミン、もしくはアルキルジアミンを用いた事例で、ジグリコールアミンを用いることで、どの実施例においても、平均粒子径200nm以上の比較的大きな粒子径を形成することができた。その中でもAMPを用いた実施例4が最も変動係数が大きくばらつきのある粒子が得られた。
実施例7、8については、AMP、ジグリコールアミンを用いており、実施例8はさらに水を併用した。すると、さらに大粒子径化ができた。しかも大粒子径化しても、各温度における焼結塗膜の体積抵抗率は低下することはなかった。また実施例8については、へキシルアミン置換処理前後の焼結塗膜の体積抵抗率を評価したところ、ほぼ同等の性能であった。保護基の極性を変化することができるので、各種溶媒への分散性についても対応できる幅が広い粒子を合成することができた。
比較例1では、ジグリコールアミンや(b2)成分のアミン化合物を使用しない場合の銀粒子であるが、平均粒子径が64nmで、変動係数が20.3%で、比較的小さくそろった粒子径の粒子が形成された。その結果、20μm程度の厚膜焼結膜では抵抗値が大きく上がってしまう結果となった。小粒子径だと多くの保護剤成分が必要となるので、厚膜だと保護剤が残存し抵抗成分となったと考えられる。
また、特許文献1,2の製法と同等の方法で作製した比較例2〜4の粒子について、テキサノールペーストにして評価した比較例2において、焼成後に体積収縮が激しく起こり、塗膜全体にクラックが生じてしまった。また、特許文献1、2のような低粘度の分散液状態で塗工した比較例3、4では、0.5μm程度の焼結塗膜となってしまい、厚膜化は困難であった。
比較例5〜10では、ジグリコールアミンと類似の構造を持つアミン化合物について評価を行った。まず比較例5,6では、量末端にアミノ基を有する1,5−ジアミノペンタン、比較例7では、量末端にアミノ基と水酸基を有し、構造内に2級アミノ基を持つ2−[(3−アミノプロピル)アミノ]エタノール、比較例8、9では、量末端にアミノ基とカルボン酸を有する6−アミノヘキサン酸、比較例10では、量末端にアミノ基を有し、構造内にエーテル結合を持つ2,2−オキシビス(エチルアミン)を用いた。しかし、いずれのアミン化合物を使っても、合成時に粒子が凝集を起こしてしまい、分散可能な状態の銀粒子を得ることはできなかった。これらは、銀粒子との吸着が強い、アミノ基やカルボン酸が分子内に2つ以上あると、粒子間で吸着するため、凝集を引き起こすものと考える。水酸基は完全に銀粒子へは吸着しないものの、銀粒子へ接近する程度の程よい極性を持っているために、アミノアルコール、さらに分子内にエーテル結合を有する(b1)成分、とくにジグリコールアミンが、銀粒子を凝集させることなく合成できる保護剤としての作用を発現できると考える。
ただし、(b1)成分ではない、分子の長さが5Å以上のアミノアルコールについては、保護剤としての性能はあるものの、比較例11、12に示すよう、銀粒子を大粒子へ成長させる効果は極めて低いと考える。おそらく、アルキルアミンと同様の直線状の配位が優勢だと考えられる。分子内にエーテル結合がない分、片末端の水酸基だけでは、O原子接近型の配位は取りづらいものと考える。
以上の結果からわかるように、(b1)成分のアミン化合物、特にジグリコールアミンを使用することにより、本発明の方法で本発明の銀ナノ粒子は、平均粒子径200nm以上の粒子を形成しやすくなり、粒度分布に適度なバラつきを持たせることで、低抵抗な厚膜導電膜を得られやすい銀塗料組成物を作製することが可能であることがわかる。
本発明により、刺激臭の強いアミンの排出量が抑えられた方法で、大粒径で広い分布を有し、厚膜で且つ高い導電性を有する銀導電層を容易に形成することのできる銀ナノ粒子を得ることができる。

Claims (10)

  1. 熱分解性を有する銀化合物(a)と、(a)と錯体形成しうるアミン化合物(b)とを有機溶媒(c)中で反応させて錯体を形成し、得られた錯体を加熱して熱分解させることにより、銀ナノ粒子を形成する銀ナノ粒子の製造方法であって、(b)が、直鎖状のアミノアルコールであり、その直鎖状分子の両末端にアミノ基と水酸基とを1つずつ持ち、直鎖状分子構造内に、エーテル結合を有するアミノアルコール(b1)であることを特徴とする銀ナノ粒子の製造方法であって、かつ有機溶媒(c)が、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、アルデヒド系溶媒、アミド系溶媒、エスエル系溶媒、ニトリル系溶媒のうちいずれか一種以上から選ばれることを特徴とする銀ナノ粒子の製造方法。
  2. 有機溶媒(c)が、炭素数3〜12のアルコールであることを特徴とする請求項1記載の銀ナノ粒子の製造方法。
  3. (b1)が、ジグリコールアミンである請求項1又は2記載の銀ナノ粒子の製造方法。
  4. (a)がシュウ酸銀である請求項1〜3のいずれかに記載の銀ナノ粒子の製造方法。
  5. (a)と(b)との錯体形成反応時に、銀化合物(a)100重量部に対して5〜20重量部の水を存在させることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の銀ナノ粒子の製造方法。
  6. (b)/[(a)に含まれる銀原子]のモル比が0.7〜2.0であることを特徴とする請求項5記載の銀ナノ粒子の製造方法。
  7. (c)/(a)の重量比が0.8〜1.3であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の銀ナノ粒子の製造方法。
  8. 請求項1〜7のいずれかに記載の方法により銀ナノ粒子を作製し、得られた銀ナノ粒子を有機溶媒に分散することを特徴とする、銀ナノ粒子分散体の製造方法。
  9. 請求項1〜8のいずれかに記載の方法により銀ナノ粒子を作製し、得られた銀ナノ粒子を有機溶媒に分散し、さらに有機バインダーを添加することを特徴とする、銀塗料組成物の製造方法。
  10. 請求項8記載の方法により得られた銀ナノ粒子分散体又は請求項9記載の方法により得られた銀塗料組成物を基板上に塗布し、焼成して銀導電層を形成する工程を含む銀導電材料の製造方法。
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