JP2021099914A - 空気二次電池用の空気極触媒及びその製造方法、ならびに空気二次電池 - Google Patents

空気二次電池用の空気極触媒及びその製造方法、ならびに空気二次電池 Download PDF

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Abstract

【課題】充放電反応における過電圧を低減することができる空気二次電池用の空気極触媒及びその製造方法、ならびにこの空気極触媒を含む、エネルギー効率の向上と高出力化が図られた空気二次電池を提供する。【解決手段】電池2は、セパレータ14を介して重ね合わされた空気極16及び負極12を含む電極群10と、電極群10をアルカリ電解液とともに収容している容器4と、を備え、空気極16は、Bi2Ru2O7パイロクロア構造及びこれに類似する結晶構造を主体とする結晶構造を有しているビスマスルテニウム複合酸化物であって、CuKα線を使用した粉末X線回折測定で2θ=17.0〜17.4度の範囲内に回折ピークが存在しているビスマスルテニウム複合酸化物を備えている。【選択図】図1

Description

本発明は、空気二次電池用の空気極触媒及びその製造方法、ならびに空気二次電池に関する。
近年、大気中の酸素を正極活物質とする空気電池が、エネルギー密度が高く、小型、軽量化が容易であること等の理由から注目を集めている。このような空気電池においては、亜鉛空気一次電池が補聴器用の電源として実用化されている。
また、充電が可能な空気電池として、負極用金属に、Li、Zn、Al、Mgなどを用いる空気二次電池の研究がなされており、このような空気二次電池は、リチウムイオン二次電池のエネルギー密度を超える可能性がある新しい二次電池として期待されている。
このような空気二次電池の一種として、電解液にアルカリ性水溶液(アルカリ電解液)を用い、負極活物質に水素を用いる空気水素二次電池が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に代表されるような空気水素二次電池は、負極用金属として水素吸蔵合金を用いているが、空気水素二次電池における負極活物質は、上記した水素吸蔵合金に吸蔵放出される水素であるので、電池における充放電の際の化学反応(以下、電池反応という)にともない水素吸蔵合金自体の溶解析出反応は起こらない。このため、空気水素二次電池は、負極用金属が樹枝状に析出するいわゆるデンドライト成長による内部短絡の発生やシェイプチェンジによる電池容量の低下といった問題が起こらないメリットを有している。
上記の空気水素二次電池のようにアルカリ電解液を用いる空気二次電池では、正極(以下、空気極という)において以下に示すような充放電反応が起こる。
充電(酸素発生反応):4OH→O+2HO+4e・・・(I)
放電(酸素還元反応):O+2HO+4e→4OH・・・(II)
反応式(I)で示すように、空気二次電池は、充電時に空気極で酸素が発生する。この酸素は、空気極内部の空隙を通って、空気極における大気に開放されている部分から大気中に放出される。一方、放電時は、大気中から取り込まれた酸素が反応式(II)で表されるように還元されて水が生成される。
ところで、上記した空気二次電池においては、エネルギー効率は未だ十分な値とはなっておらず、また、高出力化も未だ十分には図られていない。このため、空気二次電池の実用化を図るためには、更なるエネルギー効率の向上や高出力化が求められている。
上記したようなエネルギー効率の向上や高出力化を妨げている主な要因は、空気極の充放電反応における過電圧が大きいことである。
このような空気極の充放電反応における過電圧を低減させる対策として、空気極に含まれる空気極触媒を改良することが試みられている。例えば、様々な貴金属、金属酸化物、金属錯体が空気極触媒として検討されている。その中でもBiRuパイロクロア型複合酸化物は酸素還元と酸素発生の「2元機能」を有し、充電反応においても放電反応においても過電圧を低減することができるため、空気極触媒として特に有効であると考えられている。
特許第4568124号公報
しかしながら、BiRuパイロクロア型複合酸化物を空気極触媒として採用した空気二次電池は、実用化に十分な性能を獲得するまでには至っていない。このため、空気二次電池の更なるエネルギー効率の向上や高出力化を図るべく、触媒活性がより高いBiRuパイロクロア型複合酸化物の開発が望まれている。
本発明は、上記の事情に基づいてなされたものであり、その目的とするところは、充放電反応における過電圧を低減することができる空気二次電池用の空気極触媒及びその製造方法、ならびにこの空気極触媒を含む、エネルギー効率の向上と高出力化が図られた空気二次電池を提供することにある。
上記目的を達成するために、本発明によれば、BiRuパイロクロア構造及びこれに類似する結晶構造を主体とする結晶構造を有しているビスマスルテニウム複合酸化物であって、CuKα線を使用した粉末X線回折測定で2θ=17.0〜17.4度の範囲内に回折ピークが存在しているビスマスルテニウム複合酸化物を備えている、空気二次電池用の空気極触媒が提供される。
前記BiRuパイロクロア構造の格子定数が10.25Å以上、10.30Å以下である構成とすることが好ましい。
前記粉末X線回折測定により得られる前記BiRuパイロクロア構造における面指数111のピーク積分強度が、面指数222のピーク積分強度に対して、1.3%以下である構成とすることが好ましい。
前記粉末X線回折測定により得られる回折ピークに基づき、Scherrerの式によって求められる前記BiRuパイロクロア構造の平均結晶子サイズが、5nm以上、100nm以下である構成とすることが好ましい。
また、本発明によれば、Biの金属塩及びRuの金属塩を含む酸性水溶液に水酸化ナトリウム水溶液を添加し、前記Bi及び前記Ruの水酸化物あるいは酸化物を含む前駆体を形成させる前駆体形成工程と、前記前駆体に水酸化ナトリウム水溶液を50重量%以上加え、水酸化ナトリウムを含む前記前駆体を、空気雰囲気下にて400℃〜600℃の温度範囲で熱処理する熱処理工程と、を備えている、空気二次電池用の空気極触媒の製造方法が提供される。
更に、本発明によれば、セパレータを介して重ね合わされた空気極及び負極を含む電極群と、前記電極群をアルカリ電解液とともに収容している容器と、を備え、前記空気極は、上記した何れかの空気二次電池用の空気極触媒を含んでいる、空気二次電池が提供される。
前記負極は、水素吸蔵合金を含んでいる構成とすることが好ましい。
本発明に係る空気二次電池用の空気極触媒は、BiRuパイロクロア構造及びこれに類似する結晶構造を主体とする結晶構造を有しているビスマスルテニウム複合酸化物であって、CuKα線を使用した粉末X線回折測定で2θ=17.0〜17.4度の範囲内に回折ピークが存在しているビスマスルテニウム複合酸化物を備えている。本発明に係るビスマスルテニウム複合酸化物は、Biサイトの配置に乱れがあり、これにより、空間的な余裕が生まれ、格子酸素の脱離がより容易になっている。このため、充放電反応における酸素の授受がスムーズに行われるので、本発明に係るビスマスルテニウム複合酸化物は、充放電反応における過電圧を低減することに貢献する。よって、斯かるビスマスルテニウム複合酸化物を空気極触媒として含んでいる空気二次電池は、エネルギー効率が向上し、出力も高くなる。このため、本発明によれば、充放電反応における過電圧を低減することができる空気二次電池用の空気極触媒及びその製造方法、ならびにこの空気極触媒を含む、エネルギー効率の向上と高出力化が図られた空気二次電池を提供することができる。
本発明の実施形態に係る空気水素二次電池を概略的に示した断面図である。 BiRuパイロクロア構造の結晶構造モデルを示した斜視図である。 実施例1のBiRu触媒のXRDプロファイルである。 実施例2のBiRu触媒のXRDプロファイルである。 比較例1のBiRu触媒のXRDプロファイルである。 実施例1に係る図3を拡大したXRDプロファイルである 実施例2に係る図4を拡大したXRDプロファイルである。 比較例1に係る図5を拡大したXRDプロファイルである。 実施例1、実施例2及び比較例1のBiRu触媒について、スムージングとバックグラウンド除去をした後のXRDプロファイルである。 実施例1、実施例2及び比較例1の空気水素二次電池の放電特性カーブを示したグラフである。
以下、本発明に係る空気二次電池用の空気極触媒を含む空気水素二次電池2(以下、電池2という)について図面を参照して説明する。
図1に示すように、電池2は、容器4と、この容器4の中にアルカリ電解液82とともに入れられた電極群10とを備えている。
電極群10は、負極12と、空気極(正極)16とがセパレータ14を介して重ね合わされて形成されている。
負極12は、多孔質構造をなし多数の空孔を有する導電性の負極基材と、前記した空孔内及び負極基材の表面に担持された負極合剤とを含んでいる。上記したような負極基材としては、例えば発泡ニッケルを用いることができる。
負極合剤は、負極活物質としての水素を吸蔵及び放出可能な水素吸蔵合金粒子の集合体である水素吸蔵合金粉末と、導電材と、結着剤とを含む。ここで、導電材としては、黒鉛、カーボンブラック等の粒子の集合体である粉末を用いることができる。
水素吸蔵合金粒子を構成する水素吸蔵合金としては、特に限定されるものではないが、例えば、希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金を用いることが好ましい。この希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金の組成は自由に選択できるが、例えば、
一般式:Ln1−aMgNib−c−dAl・・・(III)
で表されるものを用いることが好ましい。
ただし、一般式(III)中、Lnは、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Sc、Y、Zr及びTiよりなる群から選ばれた少なくとも1種の元素を表し、Mは、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Mn、Fe、Co、Ga、Zn、Sn、In、Cu、Si、P及びBよりなる群から選ばれた少なくとも1種の元素を表し、添字a、b、c、dは、それぞれ、0.01≦a≦0.30、2.8≦b≦3.9、0.05≦c≦0.30、0≦d≦0.50の関係を満たす数を表す。
ここで、水素吸蔵合金粒子は、例えば以下のようにして得られる。
まず、所定の組成となるように金属原材料を計量して混合し、この混合物を不活性ガス雰囲気下にて、例えば、高周波誘導溶解炉で溶解した後、冷却してインゴットにする。得られたインゴットは、不活性ガス雰囲気下にて900〜1200℃に加熱され、その温度で5〜24時間保持する熱処理が施され均質化される。この後、インゴットを粉砕し、篩分けを行うことにより所望粒径の水素吸蔵合金粒子の集合体である水素吸蔵合金粉末を得る。
結着剤としては、例えば、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、スチレンブタジエンゴム等が用いられる。
ここで、負極12は、例えば以下のようにして製造することができる。
まず、水素吸蔵合金粒子の集合体である水素吸蔵合金粉末、導電材、結着剤及び水を混練して負極合剤ペーストを調製する。得られた負極合剤ペーストは負極基材に充填され、その後、乾燥処理が施される。乾燥後、水素吸蔵合金粒子等が付着した負極基材はロール圧延されて、単位体積当たりの合金量を高められ、その後、裁断がなされ、これにより負極12が得られる。この負極12は、全体として板状をなしている。負極12に含まれる負極合剤層は、水素吸蔵合金の粒子、導電材の粒子等により形成されているので、多孔質構造をなしている。
次に、空気極16は、多孔質構造をなし多数の空孔を有する導電性の空気極基材と、前記した空孔内及び空気極基材の表面に担持された空気極合剤層(正極合剤層)とを備えている。上記したような空気極基材としては、例えば、発泡ニッケルやニッケルメッシュを用いることができる。
空気極合剤は、空気二次電池用の空気極触媒と、導電材と、結着剤とを含む。
空気二次電池用の空気極触媒としては、ビスマスルテニウム複合酸化物が用いられる。ビスマスルテニウム複合酸化物は、酸素発生及び酸素還元の2元機能を有しており、このような2元機能を有する触媒は、充電過程でも、放電過程でも電池の過電圧を低減させることに寄与する。
本発明のビスマスルテニウム複合酸化物は、BiRuパイロクロア構造及びこれに類似する結晶構造を主体とする結晶構造を有しており、且つ、CuKα線を使用した粉末X線回折測定で2θ=17.0〜17.4度の範囲内に回折ピークを有している。
ここで、BiRuパイロクロア型酸化物の結晶構造を図2に示す。この図2では、RuO八面体で構成されるRu−Oネットワークと、Bi−O’ネットワークが入れ子状になっている構造を示している。このパイロクロア構造は、ホタル石格子を2×2×2=8個積み重ね、かつ酸素を一個取り除いた欠陥構造に相当する。このホタル石型単位格子は、内部に8個の酸素イオンで囲まれた大きな空間があるため、酸素イオンが比較的容易に移動できる。さらに、構造ひずみやO’原子の酸素欠損によって酸素イオンの移動度はさらに高まる傾向を示し、格子酸素の移動が関与する触媒反応に優位に影響すると考えられている。
本発明に係るBiRuパイロクロア構造の特徴は、室温の粉末X線回折測定(XRD)で面指数002の禁制反射指数に非常に弱いものの回折強度を与えることである。詳しくは、CuKα線を使用した粉末X線回折測定で2θ=17.0〜17.4度の範囲内に回折ピークを有していることである。
ここで、ビスマスルテニウム複合酸化物においては、組成や結晶構造が異なるものが多数存在している。このことは、国際回析センター(International Centre for Diffraction Data, ICDD)が収集したデータベース(以下、ICDDデータベースという)において、BiやOの欠損量が異なり、格子定数やピーク強度比が異なる構造が多く報告されていることからも明らかである。これは、単独酸化物では異常原子価や酸素欠陥があると不安定となるが、複合酸化物であれば他の元素の原子価あるいは不定性比によって電荷補償されることで、安定な相となっているためである。そして、通常のパイロクロア構造では、面指数002の反射は面指数004の反射と互いに干渉しあい打ち消されるため消滅する(消滅則)。ICDDデータベースにおいても、BiRuにおいて面指数002には回折ピークは報告されていない。
上記したように、従来のビスマスルテニウム複合酸化物においては、構造の異なる多数の種類があるが、その中でも面指数002に回折ピークが存在するビスマスルテニウム複合酸化物は知られていない。このように、CuKα線を使用した粉末X線回折測定で2θ=17.0〜17.4度の範囲内に回折ピークを有している本発明に係るビスマスルテニウム複合酸化物は、従来のビスマスルテニウム複合酸化物に比べ特異な構造をなしているといえる。本来、消滅則により消滅するはずの面指数002の回折ピークが現れるのは、結晶構造に乱れが生じ、禁制反射が起こっているためと考えられる。
上記したような特異な構造のBiRuパイロクロア型酸化物は、Biサイトの配置の乱れにより空間的な余裕が生まれ、格子酸素の脱離がより容易になり、速やかな酸化還元を可能にすると考えられる。このため、充放電反応における酸素の授受がスムーズに行われるので、本発明に係るビスマスルテニウム複合酸化物は、充放電反応における過電圧を低減することに貢献する。
ここで、BiRuと同様にパイロクロア構造をとるCdOsについて、単結晶X線回折測定にて面指数00L(L=2+4n)の禁制反射が観測された事例が存在する(例えば、山浦淳一、大串研也、広井善二、日本結晶学会誌55、116(2013)参照)。このような禁制反射の誘起の原因は、電子分布の対称性のずれやスピンフラストレーションに起因する特異な磁気構造による磁気反射にあると推測される。本発明に係るビスマスルテニウム複合酸化物においても同様な原因により禁制反射が生じ得ると考えられる。
また、本発明に係るビスマスルテニウム複合酸化物は、BiRuパイロクロア構造の格子定数が10.25Å以上、10.30Å以下である構成とすることが好ましい。格子定数が上記した範囲内にあるビスマスルテニウム複合酸化物は、上記した特異な構造となり、充放電反応における過電圧を低減することに貢献する。
また、本発明に係るビスマスルテニウム複合酸化物は、粉末X線回折測定により得られる前記BiRuパイロクロア構造における面指数111のピーク積分強度が、面指数222のピーク積分強度に対して、1.3%以下である構成とすることが好ましい。面指数111のピーク積分強度が上記した範囲内にあるビスマスルテニウム複合酸化物は、上記した特異な構造となり、充放電反応における過電圧を低減することに貢献する。
また、本発明に係るビスマスルテニウム複合酸化物は、粉末X線回折測定により得られる回折ピークに基づき、Scherrerの式によって求められる前記BiRuパイロクロア構造の平均結晶子サイズが、5nm以上、100nm以下である構成とすることが好ましい。BiRuパイロクロア構造の平均結晶子サイズが上記した範囲内にあるビスマスルテニウム複合酸化物は、上記した特異な構造となり、充放電反応における過電圧を低減することに貢献する。
次に、本発明に係るビスマスルテニウム複合酸化物の製造方法に関し、具体的に以下に説明する。
まず、Bi(NO・5HO及びRuCl・3HOを同じ濃度となるように希硝酸水溶液の中に投入し、撹拌してBi(NO・5HO及びRuCl・3HOの混合水溶液を調製する。このとき混合水溶液の温度は、60℃以上、90℃以下とする。そして、この混合水溶液に、1mol/L以上、3mol/L以下のNaOH水溶液を加え、沈殿物を形成させる。この際の浴温度は60℃以上、90℃以下に保持する。沈殿物が沈殿した後は、混合水溶液のpHを11に維持し酸素バブリングを行いながら撹拌する。この撹拌作業は24時間行う。その後、撹拌作業を止め、混合水溶液を24時間静置する。その後、混合水溶液の底部に沈殿した沈殿物を吸引ろ過して回収する。この沈殿物は、Bi及びRuの水酸化物あるいは酸化物を含む前駆体である。次に、水分を含んでいる前駆体を80℃以上、100℃以下に保持して水分の一部を蒸発させてペースト状にする。得られたペーストを蒸発皿に移し、100℃以上、150℃以下に加熱し、その状態で2時間以上、10時間以下保持して乾燥させ、前駆体の乾燥物を得る。そして、この乾燥物を乳鉢と乳棒を用いて粉砕し粉末状にする。その後、粉末状の前駆体に1mol/LのNaOH水溶液を加えた後、100℃以上、130℃以下で2〜5時間保持し乾燥処理を施す。ここで、NaOH水溶液は、上記した粉末状の前駆体に対し、50重量%以上となる量を加える。
次いで、NaOHを含む前駆体を空気雰囲気下で400℃以上、600℃以下の温度に加熱し、0.5時間以上、24時間以下保持することにより熱処理を施す。熱処理が施された後の前駆体は、60℃以上、90℃以下の蒸留水を用いて水洗された後、乾燥処理が施される。これにより、ビスマスルテニウム複合酸化物(BiRu)が得られる。
次に、得られたビスマスルテニウム複合酸化物を硝酸水溶液に浸漬させ、酸処理を施すことが好ましい。具体的には、以下の通りである。
まず、硝酸水溶液を準備する。ここで、硝酸水溶液の濃度は、5mol/L以下とすることが好ましい。硝酸水溶液の量は、ビスマスルテニウム複合酸化物1gに対して20mLの割合となる量を準備することが好ましい。硝酸水溶液の温度は、20℃以上、25℃以下に設定することが好ましい。
そして、準備された硝酸水溶液の中に、ビスマスルテニウム複合酸化物を浸漬し、6時間以下撹拌する。所定時間経過後、硝酸水溶液中からビスマスルテニウム複合酸化物を吸引濾過する。濾別されたビスマスルテニウム複合酸化物は、60℃以上、80℃以下に設定された蒸留水に投入され洗浄される。
洗浄されたビスマスルテニウム複合酸化物は、100℃以上、130℃以下の環境下で1時間以上、4時間以下保持され、乾燥させられる。
以上のようにして、酸処理が施されたビスマスルテニウム複合酸化物を得る。このように酸処理を施すことにより、ビスマスルテニウム複合酸化物の製造過程で生じる副生成物を除去することができる。なお、酸処理に用いられる酸性水溶液は、硝酸水溶液に限定されるものではなく、硝酸水溶液の他に塩酸水溶液、硫酸水溶液を用いることができる。これら、塩酸水溶液及び硫酸水溶液においても、硝酸水溶液と同様に副生成物を除去できるという効果が得られる。
上記のようにして得られたビスマスルテニウム複合酸化物は所定の粒径に調整すべく、必要に応じ機械的に粉砕される。これにより、所定粒径の粒子の集合体であるビスマスルテニウム複合酸化物の粉末が得られる。
上記したビスマスルテニウム複合酸化物の製造方法においては、ビスマスルテニウム複合酸化物の前駆体を過剰な量のNaOHとともに熱処理することを特徴としている。この熱処理により、上記したような特異な構造のビスマスルテニウム複合酸化物が形成されると考えられる。過剰な量のNaOHは、通常よりも低い温度でBiRuへの転移を誘起していると考えられる。
次に、導電材について説明する。この導電材は、空気二次電池の高出力化を図るべく内部抵抗を低下させるため、及び、上記した触媒の担体として用いられる。斯かる導電材として、例えば、ニッケル粒子の集合体であるニッケル粉末を用いることが好ましい。上記したニッケル粒子としては、例えば、平均粒径が0.1μm〜10μmの粒子を用いることが好ましい。ここで、本発明においては、平均粒径といった場合、特に言及した場合を除き、対象となる粒子の集合体である粉末について、レーザー回折・散乱式粒径分布測定装置を用いて体積基準で粒径分布を測定して得られた体積平均粒径を指すものとする。
上記したニッケル粉末は、空気極合剤中において、60質量%以上含有させることが好ましい。このニッケル粉末の含有量の上限は、空気極合剤における他の構成材料との関係から80質量%以下とすることが好ましい。
結着剤は、空気極合剤の構成材料を結着させるとともに空気極16に適切な撥水性を付与する働きをする。ここで、結着剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、フッ素樹脂が用いられる。なお、好ましいフッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が用いられる。
空気極16は、例えば、以下のようにして製造することができる。
まず、ビスマスルテニウム複合酸化物粒子の集合体である触媒粉末、導電材としてのNi粒子の集合体である導電材粉末、結着剤及び水を準備する。そして、これら触媒粉末、導電材粉末、結着剤及び水を混錬して空気極合剤ペーストを調製する。
得られた空気極合剤ペーストは、例えば、ローラプレスを施すことによりシート状に成形され、それにより空気極合剤シートを得る。その後、空気極合剤シートは、ニッケルメッシュ(空気極基材)にプレス圧着される。これにより、空気極の中間製品が得られる。
次いで、得られた中間製品は、焼成炉に投入され焼成処理が行われる。この焼成処理は、不活性ガス雰囲気中で行われる。この不活性ガスとしては、例えば、窒素ガスやアルゴンガスが用いられる。焼成処理の条件としては、300℃以上、400℃以下の温度に加熱し、この状態で、10分以上、20分以下の間保持する。その後、中間製品を焼成炉内で自然冷却し、中間製品の温度が150℃以下になったところで大気中に取り出す。これにより、焼成処理が施された中間製品が得られる。この焼成処理後の中間製品を所定形状に裁断することにより、空気極16が得られる。この空気極16は、空気極合剤により形成された空気極合剤層を備えている。空気極合剤は、ビスマスルテニウム複合酸化物の粒子等を含んでいるので、斯かる空気極合剤で形成された空気極合剤層は、全体として多孔質構造をなしており、ガス拡散性に優れている。
上記のようにして得られた空気極16及び負極12は、セパレータ14を介して積層され、これにより電極群10が形成される。このセパレータ14は、空気極16及び負極12の間の短絡を避けるために配設され、電気絶縁性の材料が採用される。このセパレータ14に採用される材料としては、例えば、ポリアミド繊維製不織布に親水性官能基を付与したもの、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン繊維製不織布に親水性官能基を付与したもの等を用いることができる。
形成された電極群10は、アルカリ電解液とともに容器4の中に入れられる。この容器4としては、電極群10とアルカリ電解液とを収容できるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、アクリル製の箱状の容器4が用いられる。この容器4は、例えば、図1に示すように、容器本体6と、蓋8とを含んでいる。
容器本体6は、底壁18と、底壁18の周縁部から上方に延びる側壁20とを有する箱形状をなしている。側壁20の上端縁21で囲まれた部分は、開口している。つまり、底壁18の反対側には、開口部22が設けられている。また、側壁20においては、右側壁20R及び左側壁20Lの所定位置に、それぞれ貫通孔が設けられており、これら貫通孔は、後述するリード線の引出口24、26となる。
更に、容器本体6には、電解液貯蔵部80が取り付けられている。この電解液貯蔵部80は、アルカリ電解液82を収容する容器であり、例えば、底壁18に設けられた貫通孔19と連通する連結部84を介して取り付けられている。連結部84は、容器4の内部と電解液貯蔵部80との間を連通するアルカリ電解液82の流路である。このように、容器4の内部と電解液貯蔵部80とは連通しているため、アルカリ電解液82は、容器4の内部と電解液貯蔵部80との間を移動することができる。
蓋8は、容器本体6の平面視形状と同じ平面視形状をなしており、容器本体6の上部に被せられ、開口部22を塞ぐ。蓋8と、側壁20の上端縁21との間は液密に封止される。
蓋8において、容器本体6の内側に臨む内面部28には、通気路30が設けられている。通気路30は、容器本体6の内側に面する部分が開放されており、全体として1本のサーペンタイン形状をなしている。更に、蓋8の所定位置には、厚さ方向に貫通する入側通気孔32及び出側通気孔34が設けられている。入側通気孔32は、通気路30の一方端と連通しており、出側通気孔34は、通気路30の他方端と連通している。つまり、通気路30は、入側通気孔32及び出側通気孔34を介して大気に開放されている。なお、入側通気孔32には、図示しない圧送ポンプを取り付けることが好ましい。この圧送ポンプを駆動することにより入側通気孔32から通気路30に空気を送り込むことができる。
容器本体6の底壁18の上には、必要に応じて、調整部材36を配置する。調整部材36は、容器4内において、電極群10の高さ方向の位置合わせに用いられる。調整部材36としては、例えば、発泡ニッケルのシートが用いられる。
調整部材36の上には、電極群10が配設される。このとき、電極群10の負極12は、調整部材36と接するように配設される。
一方、電極群10の空気極16側には、空気極16と接するように撥水通気部材40が配設される。この撥水通気部材40は、PTFE多孔膜42に不織布拡散紙44が組み合わされたものである。撥水通気部材40は、PTFEにより撥水効果を発揮するとともに、気体の通過を許容する。撥水通気部材40は、蓋8と空気極16との間に介在し、蓋8及び空気極16の両方に密着している。この撥水通気部材40は、蓋8の通気路30、入側通気孔32及び出側通気孔34の全体をカバーする大きさを有している。
上記のような、電極群10、調整部材36及び撥水通気部材40を収容した容器本体6には、蓋8が被せられる。そして、図1において概略的に描かれているように、容器4(容器本体6及び蓋8)の周端縁部46、48が連結具50、52により上下から挟みこまれる。その後、所定量のアルカリ電解液82が電解液貯蔵部80から注入され、容器4内にアルカリ電解液82が満たされる。このようにして、電池2が形成される。
なお、上記したアルカリ電解液82としては、アルカリ二次電池に用いられる一般的なアルカリ電解液が好適に用いられ、具体的には、NaOH、KOH及びLiOHのうち、少なくとも1種を溶質として含む水溶液が用いられる。
ここで、電池2においては、蓋8の通気路30は撥水通気部材40に相対している。撥水通気部材40は、気体は通すが水分は遮断するので、空気極16は撥水通気部材40、通気路30、入側通気孔32及び出側通気孔34を介して大気に開放されることになる。つまり、空気極16は、撥水通気部材40を通じて大気と接することになる。
また、この電池2においては、空気極(正極)16に空気極リード(正極リード)54が電気的に接続されており、負極12に負極リード56が電気的に接続されている。これら空気極リード54及び負極リード56は、図1中においては概略的に描かれているが、気密性及び液密性を保持した状態で引出口24、26から容器4の外に引き出されている。そして、空気極リード54の先端には空気極端子(正極端子)58が設けられており、負極リード56の先端には負極端子60が設けられている。したがって、電池2においては、これら空気極端子58及び負極端子60を利用して充放電の際の電流の入力及び出力が行われる。
[実施例]
1.電池の製造
(実施例1)
(1)空気極触媒の合成
1)第1ステップ
0.037molのBi(NO・5HO及び0.037molのRuCl・3HOを準備し、これらBi(NO・5HO及びRuCl・3HOを75℃の希硝酸水溶液中に投入し、撹拌してBi(NO・5HO及びRuCl・3HOの混合水溶液を調製した。なお、希硝酸水溶液は2L準備した。そして、得られた混合水溶液に、2mol/LのNaOH水溶液を徐々に加えて沈殿物を形成させた。この際の浴温度は75℃とした。沈殿物が形成された後は、混合水溶液のpHを11に維持したまま酸素バブリングを24時間行いながら撹拌した。その後、混合水溶液の撹拌を止めて24時間静置した。この操作によって生じた沈殿物を吸引ろ過することにより回収した。この沈殿物は、Bi及びRuの水酸化物あるいは酸化物を含む前駆体である。次に、当該前駆体を85℃に保持して水分の一部を蒸発させてペースト状とした。得られたペーストを蒸発皿に移し、120℃に加熱し、その状態で3時間保持して乾燥処理を施し、前駆体の乾燥物を得た。
2)第2ステップ
得られた前駆体の乾燥物を乳鉢及び乳棒を用いて粉砕して粉末状とした後、得られた粉末に1mol/LのNaOH水溶液を200mL加えた。その後、当該前駆体の粉末に、100℃以上、130℃以下で2〜5時間保持する乾燥処理を施し、引き続き、空気雰囲気下で500℃に加熱し3時間保持する熱処理を施した。当該熱処理が終了した後の前駆体を、75℃の蒸留水を用いて水洗した後、吸引濾過し、120℃で3時間乾燥処理を施した。これにより、およそ12gのビスマスルテニウム複合酸化物(空気極触媒)を得た。
得られたビスマスルテニウム複合酸化物の粉末に関し、走査型電子顕微鏡による二次電子像を観察した結果、ビスマスルテニウム複合酸化物の粒子径は0.1μm以下であった。
3)第3ステップ
ビスマスルテニウム複合酸化物の粉末2gを40mLの硝酸水溶液とともにスターラーの撹拌槽に入れ、当該硝酸水溶液の温度を25℃に保持したまま1時間撹拌して酸処理を施した。ここで、硝酸水溶液の濃度は5mol/Lとした。
撹拌が終了した後、硝酸水溶液中からビスマスルテニウム複合酸化物の粉末を吸引濾過することにより取り出した。取り出されたビスマスルテニウム複合酸化物の粉末は、75℃に加熱した蒸留水1リットルで洗浄した。洗浄後、ビスマスルテニウム複合酸化物の粉末を、120℃の雰囲気下で3時間保持することにより乾燥させた。
以上のようにして、酸処理されたビスマスルテニウム複合酸化物の粉末、すなわち、空気二次電池用の空気極触媒(BiRu触媒)を得た。ここで、得られた空気極触媒のうち、一部は分析用試料として取り分けておき、残りを空気極の製造用とした。
(2)空気極の製造
ニッケルの粒子の集合体であるニッケル粉末を準備した。このニッケルの粒子は、平均粒径が10〜20μmであった。
更に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ディスパージョン及びイオン交換水を準備した。
上記のようにして得られたビスマスルテニウム酸化物の粉末(空気極触媒)1gに、ニッケル粉末3.5g、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ディスパージョン0.5g及びイオン交換水1.5gを均一に混合して空気極合剤のペーストを製造した。
得られた空気極合剤のペーストをシート状に成形し、このシート状の空気極合剤のペーストをメッシュ数60、線径0.08mm、開口率60%のニッケルメッシュにプレス圧着させた。
ニッケルメッシュに圧着された空気極合剤のペーストを窒素ガス雰囲気下で340℃に加熱し、この温度で13分間保持し、焼成した。焼成された空気極合剤のシートは、縦40mm、横40mmに裁断され、これにより、空気極16を得た。この空気極16の厚さは0.23mmであった。なお、得られた空気極16において、ビスマスルテニウム複合酸化物の粉末(空気極触媒)の量は0.26gであった。
(3)負極の製造
Nd、Mg、Ni、Alの各金属材料を所定のモル比となるように混合した後、高周波誘導溶解炉に投入しアルゴンガス雰囲気下にて溶解させ、得られた溶湯を鋳型に流し込み、25℃の室温まで冷却してインゴットを製造した。
ついで、このインゴットに対し、温度1000℃のアルゴンガス雰囲気下にて10時間保持する熱処理を施した後、アルゴンガス雰囲気下で機械的に粉砕して、希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金粉末を得た。得られた希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金粉末について、レーザー回折・散乱式粒径分布測定装置により体積平均粒径(MV)を測定した。その結果、体積平均粒径(MV)は60μmであった。
この水素吸蔵合金粉末の組成を高周波プラズマ分光分析法(ICP)によって分析したところ、組成は、Nd0.89Mg0.11Ni3.33Al0.17であった。
得られた水素吸蔵合金の粉末100重量部に対し、ポリアクリル酸ナトリウムの粉末0.2重量部、カルボキシメチルセルロースの粉末0.04重量部、スチレンブタジエンゴムのディスパージョン1.0重量部、カーボンブラックの粉末0.3重量部、水22.4重量部を添加して25℃の環境下において混練し、負極合剤ペーストを調製した。
この負極合剤ペーストを面密度(目付)が約250g/m、厚みが約0.6mmの発泡ニッケルのシートに充填した。そして、負極合剤ペーストを乾燥させ、負極合剤が充填された発泡ニッケルのシートを得た。得られたシートは圧延され、単位体積当たりの合金量を高められた後、縦40mm、横40mmに裁断された。このようにして負極12を得た。なお、負極12の厚さは、0.75mmであった。
次に、得られた負極12に、活性化処理を施した。この活性化処理の手順を以下に示す。
まず、一般的な焼結式の水酸化ニッケル正極を準備した。なお、この水酸化ニッケル正極としては、その正極容量が負極12の負極容量よりも十分大きいものを準備した。そして、この水酸化ニッケル正極と、得られた負極12とを、これらの間にポリエチレンの不織布で形成されたセパレータを介在させた状態で重ね合わせて、活性化処理用電極群を形成した。この活性化処理用電極群を所定量のアルカリ電解液とともにアクリル樹脂製の容器に収容した。これにより、ニッケル水素二次電池の単極セルを形成した。
この単極セルに対し、初回の充放電操作として、温度25℃の環境下にて、5時間静置後、0.1Itで14時間の充電を行った後、0.5Itで電池電圧が0.70Vになるまで放電させた。次いで、2回目の充放電操作として、0.5Itで2.8時間の充電を行った後に、0.5Itで電池電圧が0.70Vになるまで放電させる操作を行った。3回目以降は、上記した2回目の充放電操作を1サイクルとする充放電サイクルを複数回行うことにより負極12の活性化処理を行った。また、各充放電サイクルにおいては単極セルの容量を求めた。そして、得られた容量の最大値を負極容量とした。なお、負極容量は2.5Ahであった。
その後、0.5Itで2.8時間の充電を行った後、単極セルから負極12を取り外した。このようにして、活性化処理及び充電が済んだ負極12を得た。
(4)空気水素二次電池の製造
得られた空気極16及び負極12を、これらの間にセパレータ14を挟んだ状態で重ね合わせ、電極群10を製造した。この電極群10の製造に使用したセパレータ14はスルホン基を有するポリプロピレン繊維製不織布により形成されており、その厚みは0.1mm(目付量53g/m)であった。
次いで、容器本体6を準備し、この容器本体6内に上記した電極群10を収容した。このとき、容器本体6の底壁18の上に調整部材36としての発泡ニッケルのシートを配置し、この調整部材36の上に電極群10を載置した。ここで、発泡ニッケルのシートは、厚さが1mmであり、縦40mm、横40mmの正方形状をなしている。
次いで、電極群10の上(空気極16の上)に撥水通気部材40を配設した。ここで、撥水通気部材40は、縦が45mm、横が45mm、厚さが0.1mmであるPTFE多孔膜42と、縦が40mm、横が40mm、厚さが0.2mmである不織布拡散紙44とが組み合わされて形成されている。
次いで、容器本体6の開口部22を塞ぐように蓋8を被せた。このとき、蓋8の内面部28における通気路30、入側通気孔32及び出側通気孔34を含むエリアの全体が撥水通気部材40で覆われるように、当該エリアと撥水通気部材40とを密着させる。ここで、通気路30は、全体として1本のサーペンタイン形状をなしている。通気路30の横断面は、矩形状をなしており、当該矩形における縦寸法が1mm、横寸法が1mmである。この通気路30は、撥水通気部材40側が開放されている。
容器本体6及び蓋8が組み合わされて形成された容器4については、その周端縁部46、48が連結具50、52により上下から挟みこまれる。なお、容器本体6と蓋8との接触部には、図示しない樹脂製のパッキンが配設されており、アルカリ電解液の漏れを防止する。
次いで、電解液貯蔵部80にアルカリ電解液82として5mol/LのKOH水溶液を注入した。なお、このとき注入したKOH水溶液の量は50mLであった。
以上のようにして、図1に示すような電池2を製造した。
なお、空気極16には空気極リード54が、負極12には負極リード56が、それぞれ電気的に接続されており、これら空気極リード54及び負極リード56は、容器4の気密性及び液密性を保持した状態でリード線の引出口24、26から容器4の外側へ適切に延びている。また、空気極リード54の先端には空気極端子58が取り付けられており、負極リード56の先端には負極端子60が取り付けられている。
(実施例2)
ビスマスルテニウム複合酸化物を製造する際の第2ステップにおいて、空気雰囲気下で600℃に加熱し、1時間保持する熱処理を施したこと、第3ステップにおいて、濃度が2mol/Lの硝酸水溶液を20mL用いて酸処理を施したことを除いて、実施例1と同様にして空気水素二次電池を製造した。
(比較例1)
実施例1と同様に第2ステップまで実施した後、空気雰囲気下で700℃に加熱し1時間保持する2回目の熱処理をさらに施した。第3ステップ以降は実施例1と同様にして空気水素二次電池を製造した。
2.空気水素二次電池の評価
(1)空気極触媒のX線回折(XRD)分析
実施例1、実施例2及び比較例1の空気極触媒の分析用試料についてX線回折(XRD)分析を行った。分析には検出器としてシンチレーションカウンタを有するX線回折装置(リガク製Mini Flex、検出器:D/tex Ultra)を用いた。ここでの分析の条件は、X線源はCuKα、管電圧は40kV、管電流は15mA、スキャンスピードは1度/分、ステップ幅は0.02度であった。分析結果のプロファイルを図3〜図8に示した。ここで、図3〜5は、全体的なプロファイルであり、図6〜8は、拡大して示したプロファイルである。また、図9はX閾値1.50にてBスプラインによる平滑化処理と、フィッティング方式によるバックグラウンド除去をした後のXRDプロファイルである。
また、分析結果より、XRDの主要ピークの半値幅からScherrerの式により形状因子を0.9として計算した平均結晶子サイズ、格子定数、面指数002におけるピークの有無及び最強線である面指数222のピーク積分強度に対する面指数111のピーク積分強度の比率(111相対積分強度)を求めた。得られた結果を表1に示した。
また、参考のため、ICDDデータベースに記載されているBiRu構造に類似する構造を有するビスマスルテニウム複合酸化物の格子定数、111相対積分強度及び各構成元素のモル比を表2に示した。
Figure 2021099914
Figure 2021099914
(2)放電試験
実施例1、実施例2及び比較例1の空気水素二次電池に、60℃の雰囲気下にて12時間保持するエージング処理を施した。エージング処理後、各電池を25℃まで冷却した。その後、実施例1、実施例2及び比較例1の空気水素二次電池については、空気極端子58及び負極端子60を介して、0.1Itで10時間充電し、0.2Itで電池電圧が0.4Vになるまで放電することを1サイクルとし、斯かる充放電を5サイクル繰り返した。このとき、充放電に関わらず、入側通気孔32から空気を入れ、出側通気孔34から空気を排出するようにして、通気路30には、33mL/分の割合で常に空気を供給し続けた。なお、1Itとは、負極容量の80%に相当する2Ahとした。
そして、各サイクルにおいて、放電容量及び電圧を測定した。
ここで、放電スタート時の放電容量と電圧との関係から放電特性カーブを求めた。その結果を図10に示した。
また、放電容量の値が全放電容量の半分の値になった時の電池電圧を中間電圧として測定した。得られた中間電圧のうち放電スタート時の値を放電中間電圧として表3に示した。
Figure 2021099914
(3)考察
図3〜9に示したXRDプロファイルより、実施例1、2及び比較例1のBiRu触媒については、ほとんどすべてのピークが、ICDDのカード番号01−073−9239のBi1.87Ru6.903に帰属していることが確認できる。ただし、実施例1及び2には、2θ=17.1度の部分に01−073−9239に帰属しないイレギュラーなピークが存在していることが確認できる。このイレギュラーなピークは、BiRuのピーク位置に対応してシフトしているため、酸処理で除去しきれなかった副生成物のピークではなく、BiRu由来のピークであると考えられる。詳しくは、面指数004における格子面間隔の値(d値)が2.58159であり、その2倍のd値を示すのが面指数002である。そして、面指数002は、2θ=17.16度に相当することから、上記したイレギュラーなピークは面指数002の禁制反射である可能性が高いと考えられる。通常のBiRuパイロクロア構造では、面指数002の反射は面指数004の反射と互いに干渉しあい打ち消されるため消滅してピークは観測されない。しかし、実施例1及び2では、本来観測されないはずの面指数002の部分にピークが表れているため、このピークは禁制反射であると考えられる。このように禁制反射が生じている実施例1及び2のビスマスルテニウム複合酸化物は通常のビスマスルテニウム複合酸化物に比べ特異な構造をなしていると考えられる。このような特異な構造が形成された原因は、ビスマスルテニウム複合酸化物の前駆体を過剰な水酸化ナトリウムとともに熱処理したことにあると考えられる。
比較例1では実施例1の状態から、さらに高い温度(700℃)での第2段階の熱処理を行っている。この比較例1では、より高温安定相であるBiへの転移は見られなかったが、実施例1や実施例2のような禁制反射が消失した。これは焼きなましの効果により、結晶構造の乱れが消失し通常のパイロクロア構造に変化したためと考えられる。
次に、表1より、結晶子サイズは、実施例1が最も小さく、実施例2と比較例1は同等であった。格子定数は、実施例1と比較例1とが同等であり、実施例2はこれらよりも小さかった。
また、表3及び図10の放電特性カーブより、放電中間電圧は、比較例1<実施例2<実施例1の順に高くなっていることがわかる。
実施例1が実施例2よりも放電特性に優れているのは、実施例1が実施例2に比べ結晶子サイズが小さく粒子径が小さい(比表面積が高い)ことが要因の一つである。一方、比較例1は、実施例2と同程度の結晶子サイズにも関わらず、実施例1及び2よりも放電特性が劣っている。このことから、面指数002の禁制反射が現れるBiRuパイロクロア構造は、通常のパイロクロア構造よりも触媒活性が優れていることがわかる。
本発明に係る触媒の活性が高いのは、Biサイトの配置の乱れにより空間的な余裕が生まれ、格子酸素の脱離がより容易になったことで、速やかな酸化還元が可能になっていることが要因であると考えられる。このため、触媒の組成や酸素欠損量で変化する格子定数によらず、禁制反射が現れる結晶構造は触媒活性が高くなることが予想される。実際に、実施例1と比較例1は同じ格子定数であるにも関わらず、実施例1の方が優れた触媒活性を示している。本発明者の実験では、出発材料の組成比や焼成条件を変えることで格子定数は10.25〜10.30Åまで変化したが、全てで面指数002の禁制反射が観察された。
合成の方法によっては触媒の一次粒子径は変化することが予想される。特に、前駆体の合成条件によって触媒の一次粒子径は変化するが、粒子径が大きくなるとBiRuへ相転移する温度が高くなることが予想される。その結果、Biサイトの配置の乱れが緩和され、比較例1と同様に通常のパイロクロア構造へ変化すると想像される。逆に、数nmの小さい粒子を合成する際は表面エネルギーの効果が顕著に表れるため同様な結晶構造が作られる保証はない。よって、本発明の結晶構造が得られる粒径は、5nmから100nm程度とすることが好ましいと考えられる。
また、表1の結果より、面指数111の相対積分強度は、実施例1<実施例2<比較例1の順に大きくなっている。ここで、111の相対積分強度が1.3%以下である実施例1及び2は、放電中間電圧が0.7V以上の値を示しており、放電特性に優れている。一方、面指数111の相対積分強度が1.3%を超える比較例1の場合、放電中間電圧は0.688Vであり、実施例1及び2よりも放電特性が劣っている。
面指数111の相対積分強度は、室温における粉末X線回折測定において、面指数222のピーク積分強度に対する面指数111のピーク積分強度の比率を指す。表2に示すように、ICDDデータベースに記録されているビスマスルテニウム複合酸化物の各種構造のデータから、BiRu及びBiRuのBiやO欠損体における111相対積分強度は6.5%〜9.2%である。実施例1及び2の面指数111の相対積分強度の値がICDDの各種ビスマスルテニウムの値に比べて非常に低い値となっている原因としては、上記した消滅則と同様に、面指数111の反射と面指数222の反射が互いに干渉して打ち消しあうようになっていることが考えらえる。これはBiサイトとRuサイトの電子数が見かけ上近くなっているためであり、Biサイトの欠損、BiサイトのRu・Na等での置換、及びBiの原子変位パラメータが大きくなっていることが原因していると考えられる。ただし、比較例1において、さらに高温の熱処理で面指数111のピーク強度が増加したことは、熱処理で欠損量や置換量が減少したとは考えにくく、Biの配置の乱れに起因する空間的な広がりが収縮したと考えられる。
実施例1、2および比較例1より、格子定数と充放電過電圧は比例しない。単純には酸素原子の欠損量が増えるほど格子定数が小さくなることから、欠損量の大小が充放電過電圧差の直接原因ではないと考えられる。詳細は不明であるが、Biサイトの配置の乱れにより空間的な余裕が生まれ、格子酸素の脱離がより容易になったことで、速やかな酸化還元が可能になっている可能性がある。
なお、本発明は上記した実施形態及び実施例に限定されるものではない。例えば、本発明は、空気水素二次電池に限定されるものではなく、負極に用いる金属として、Zn、Al、Mg、Liなどを用いた他の空気二次電池であっても構わない。これら他の空気二次電池における空気極での反応は、本発明の空気水素二次電池と同様であり、空気極における過電圧を低減する効果が同様に得られる。
2 電池(空気水素二次電池)
4 容器
6 容器本体
8 蓋
10 電極群
12 負極
14 セパレータ
16 空気極(正極)
30 通気路
40 撥水通気部材

Claims (7)

  1. BiRuパイロクロア構造及びこれに類似する結晶構造を主体とする結晶構造を有しているビスマスルテニウム複合酸化物であって、CuKα線を使用した粉末X線回折測定で2θ=17.0〜17.4度の範囲内に回折ピークが存在しているビスマスルテニウム複合酸化物を備えている、空気二次電池用の空気極触媒。
  2. 前記BiRuパイロクロア構造の格子定数が10.25Å以上、10.30Å以下である、請求項1に記載の空気二次電池用の空気極触媒。
  3. 前記粉末X線回折測定により得られる前記BiRuパイロクロア構造における面指数111のピーク積分強度が、面指数222のピーク積分強度に対して、1.3%以下である、請求項1又は2に記載の空気二次電池用の空気極触媒。
  4. 前記粉末X線回折測定により得られる回折ピークに基づき、Scherrerの式によって求められる前記BiRuパイロクロア構造の平均結晶子サイズが、5nm以上、100nm以下である、請求項1〜3の何れかに記載の空気二次電池用の空気極触媒。
  5. Biの金属塩及びRuの金属塩を含む酸性水溶液に水酸化ナトリウム水溶液を添加し、前記Bi及び前記Ruの水酸化物あるいは酸化物を含む前駆体を形成させる前駆体形成工程と、
    前記前駆体に水酸化ナトリウム水溶液を50重量%以上加え、水酸化ナトリウムを含む前記前駆体を、空気雰囲気下にて400℃〜600℃の温度範囲で熱処理する熱処理工程と、
    を備えている、空気二次電池用の空気極触媒の製造方法。
  6. セパレータを介して重ね合わされた空気極及び負極を含む電極群と、
    前記電極群をアルカリ電解液とともに収容している容器と、を備え、
    前記空気極は、請求項1〜4の何れかに記載の空気二次電池用の空気極触媒を含んでいる、空気二次電池。
  7. 前記負極は、水素吸蔵合金を含んでいる、請求項6に記載の空気二次電池。
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