JP2021091925A - 耐孔食性に優れるFe基合金およびその製造方法 - Google Patents

耐孔食性に優れるFe基合金およびその製造方法 Download PDF

Info

Publication number
JP2021091925A
JP2021091925A JP2019221778A JP2019221778A JP2021091925A JP 2021091925 A JP2021091925 A JP 2021091925A JP 2019221778 A JP2019221778 A JP 2019221778A JP 2019221778 A JP2019221778 A JP 2019221778A JP 2021091925 A JP2021091925 A JP 2021091925A
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
based alloy
corrosion resistance
matrix
dispersed phase
mass
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Pending
Application number
JP2019221778A
Other languages
English (en)
Inventor
遥 齋藤
Haruka Saito
遥 齋藤
武藤 泉
Izumi Muto
泉 武藤
昌史 西本
Masashi Nishimoto
昌史 西本
優 菅原
Masaru Sugawara
優 菅原
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Tohoku University NUC
Original Assignee
Tohoku University NUC
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Tohoku University NUC filed Critical Tohoku University NUC
Priority to JP2019221778A priority Critical patent/JP2021091925A/ja
Publication of JP2021091925A publication Critical patent/JP2021091925A/ja
Pending legal-status Critical Current

Links

Landscapes

  • Powder Metallurgy (AREA)

Abstract

【課題】主に塩化物イオンの存在により局部腐食性を有する水溶液に対して高い耐孔食性を有する、耐孔食性に優れるFe基合金およびその製造方法を提供する。【解決手段】マトリックスと分散相とから構成されるミクロ組織を有し、マトリックスがFeあるいはFe基合金で、分散相がMo、V、Nb、WおよびSnのうちの1種もしくは2種以上の純金属もしくは合金、または、Mo、V、Nb、WおよびSnの総計が50質量%以上の合金であり、分散相の体積比率が0.08%以上30%以下である。分散相となる純金属あるいは合金の粉末と、マトリックスとなるFeあるいはFe基合金の粉末とを均一に混合した後、圧縮成形と焼結とを行い製造する。【選択図】なし

Description

本発明は、耐孔食性に優れるFe基合金およびその製造方法に関する。
ステンレス鋼に代表されるFe基の耐食合金は、腐食環境で使用されることを前提として成分設計が行われている。しかし、主に塩化物イオン濃度が高い場合や高温の溶液などの過酷な腐食条件下では、意図しない高い腐食速度で孔食が成長することもある。このような局部腐食損傷を低減するためには、Mo、V、Nb、W、Snを、Feに多量に固溶・合金化させることが有効である。たとえば、このような合金として、Moを質量%にて2.0〜10.00%添加したオーステナイト系ステンレス鋼がある(例えば、特許文献1参照)。
しかし、Moなどの希少金属を多量に添加した金属材料は、原料コストが高くなるという問題がある。さらに、資源の安定的な確保が困難な場合もあり、工業製品として金属材料を安定供給するうえでも課題を抱えている。
従来、Moなどの、FeおよびFe基合金の耐孔食性を改善する金属元素は、マトリックスとなる金属に固溶状態となるように添加されている。代表的な例は、SUS316ステンレス鋼である。この鋼の公称組成は、Fe-17%Cr-12%Ni-2.5%Mo(数字は質量%での添加量、以下同様)であるが、MoはFeを主成分とするオーステナイト相に固溶している。このSUS316は、Moを添加しているにもかかわらず、海水環境での長期間の使用は困難であるとされている。そこで、SUS316の耐孔食性を改善した鋼種として、SUS312Lステンレス鋼が実用化されている。この鋼の公称組成は、Fe-20%Cr-8%Ni-6%Mo-0.7%Cu-0.2%Nであり、この場合もMoはFeを主成分とするオーステナイト相に固溶している。しかし、Feに対してMoをこれ以上固溶させることは工業的に困難であり、さらなる耐孔食性の向上は事実上不可能である。このように、Fe基合金のオーステナイト相へのMoの固溶による耐孔食性向上には、技術的な制約がある。しかし、これを回避する技術は未だ知られていない。Moを固溶ではなく、第二相としてマトリックス中に分散させ、それにより高い耐食性が得られる技術が開発されれば、Moの固溶・合金化による技術的制約を回避することができる。しかし、Moをマトリックスに分散される場合の好適な合金設計の条件は知られていない。さらに、SUS316よりも少ないMo添加量であっても、より効果的に耐孔食性を向上させる方法も知られていないのが現状である。
以上のように、従来のFe基耐食合金では、耐孔食性を改善する金属元素を固溶状態で添加しているのみである。耐孔食性を改善する金属元素を、第二相のような形態でマトリックス中に分散させたFe基耐食合金は見出されていない。すなわち、耐孔食性を改善するための具体的な金属元素と、その組み合わせ、分散相の体積比率やマトリックス組成との組み合わせに関する条件も知られていない。
ところで、金属粉末を原料として焼結や積層造形などの粉末冶金の手法を用いると、溶解−鋳造−鍛造という「凝固」を経由する工程では不可能な相を組み合わせた複雑な金属組織を有する材料を製造することができる。例えば、機械加工性、耐食性及び耐摩耗性に優れる鉄基焼結合金として、炭化チタン粉末、Cr粉末、Mo粉末、Ni粉末、Co粉末、及び、Al、Ti又はNbの何れかの粉末を混合し、オーステナイト+マルテンサイトの二相組織からなるマトリックスに、炭化チタン粉末に基づく硬質粒子が島状に分散してなるものが開発されている(例えば、特許文献2参照)。このように、硬さの異なる相や潤滑性のある相をマトリックスと組み合わせることで、耐摩耗性と耐食性とを両立した材料が開発されている。しかし、Moなどの高耐食化元素を節約し、しかも高い耐孔食性示すためのFe基合金やそれを製造するための具体的な条件は見出されていない。
ところで、Fe粉末、Cr粉末、Ni粉末、およびMo粉末を焼結し、熱処理することで、これらの金属が合金化した単一の金属相からなるFe−Cr−Ni−Mo系ステンレス鋼を作製する試みがなされている。例えば、フェロクロム合金粉末と、金属ニッケル粉末、フェロニッケル粉末及び酸化ニッケル粉末を含む群から選択された1種以上と、金属モリブデン粉末,フェロモリブデン粉末、三酸化モリブデン粉末及び炭化モリブデン粉末を含む群から選択された1種以上と、鉄系粉末、窒化鉄粉末及び酸化鉄粉末を含む群から選択された1種以上との混合物を、バインダーと混合して射出成形し、成形体に脱バインダー処理を施し、減圧下での焼結後、非酸化性雰囲気中で焼結することにより、高密度オーステナイト系ステンレス鋼焼結体を製造する方法が開発されている(例えば、特許文献3参照)。そして、このような試みの失敗事例(比較例)として、Moが特定の金属相に偏在した多相焼結金属の報告があるが、耐孔食性を改善するための具体的な金属元素と、その組み合わせ、分散相の体積比率やマトリックスとの組み合わせに関する具体的な数値条件は明らかにされていない。
特開2014−005497号公報 特開2017−206749号公報 特開平7−224348号公報
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、主に塩化物イオンの存在により局部腐食性を有する水溶液に対して高い耐孔食性を有する、耐孔食性に優れるFe基合金およびその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者は、以上のような従来技術の限界を克服し、未解決の課題を解決するため種々の試験研究を行い、本発明を完成させた。
すなわち、本発明に係る耐孔食性に優れるFe基合金は、マトリックスと分散相とから構成されるミクロ組織を有し、前記マトリックスがFeあるいはFe基合金で、前記分散相がMo、V、Nb、WおよびSnのうちの1種もしくは2種以上の純金属もしくは合金、または、Mo、V、Nb、WおよびSnの総計が50質量%以上の合金であり、前記分散相の体積比率が0.08%以上30%以下であることを特徴とする。
本発明に係る耐孔食性に優れるFe基合金は、海水、河川水、雨水、水道水、温泉水、工場排水、各種化学薬品、飲料食品、血液、唾液など主に塩化物イオンの存在により局部腐食性を有する水溶液に対して高い耐孔食性を有している。
本発明に係る耐孔食性に優れるFe基合金は、前記マトリックスが、8質量%以上35質量%以下のCrを含有するFe基合金であってもよく、前記マトリックスが、8質量%以上35質量%以下のCrと3質量%以上35質量%以下のNiとを含有するFe基合金であってもよい。
本発明に係る耐孔食性に優れるFe基合金の製造方法は、前記分散相となる純金属あるいは合金の粉末と、前記マトリックスとなるFeあるいはFe基合金の粉末とを均一に混合した後、圧縮成形と焼結とを行うことを特徴とする。または、本発明に係る耐孔食性に優れるFe基合金の製造方法は、Mo、V、Nb、W、およびSnの金属粉末のうち1種または2種以上と、ステンレス鋼の粉末とを均一に混合した後、圧縮成形と焼結とを行うことを特徴とする。
本発明に係る耐孔食性に優れるFe基合金の製造方法は、本発明に係る耐孔食性に優れるFe基合金を好適に製造することができる。本発明に係る耐孔食性に優れるFe基合金の製造方法は、前記焼結が放電プラズマ焼結であることが好ましい。本発明に係る耐孔食性に優れるFe基合金の製造方法により製造された本発明に係る耐孔食性に優れるFe基合金は、「凝固」を含む製造工程で作製した場合より、少ない量のMo、V、Nb、W、Snの添加で、FeあるいはFe基合金の耐孔食性を高めることができる。
本発明によれば、主に塩化物イオンの存在により局部腐食性を有する水溶液に対して高い耐孔食性を有する、耐孔食性に優れるFe基合金およびその製造方法を提供することができる。
本発明の実施の形態の耐孔食性に優れるFe基合金は、マトリックスと分散相とから構成されるミクロ組織を有し、マトリックスがFeあるいはFe基合金で、分散相がMo、V、Nb、WおよびSnのうち1種もしくは2種以上の純金属もしくは合金、または、Mo、V、Nb、WおよびSnの総計が50質量%以上の合金であり、分散相の体積比率が0.08%以上30%以下であることが必要である。作用機構の詳細は不明であるが、Mo、V、Nb、W、Snは、塩化物イオンが存在する水溶液中で、比較的低い酸化還元電位でアノード溶解が生じ、生成したイオン種(たとえば、MoO 2−、VO 3−、NbO 、WO 2−、SnO やSn(OH) 2−など)が塩化物イオンの腐食性を軽減し、FeあるいはFe基合金の局部腐食を軽減する。したがって、Mo、V、Nb、W、Snを、FeあるいはFe基合金であるマトリックス中に固溶させる必要はなく、分散相として添加することができる。しかも、分散相とすることで、Fe基合金の固溶限を超えて、多量に添加することも可能である。
分散相は、Mo、V、Nb、W、Snの純金属に限定されるものではない。これらのうち2種以上の合金であってもよい。さらに、分散相には、Mo、V、Nb、W、Sn以外の成分が含まれていてもよい。しかし、分散相からMo、V、Nb、W、Snが電気化学的に溶解する必要があるため、分散相は金属(金属間化合物を含む)である必要がある。炭化物、窒化物、ホウ化物、ケイ化物などでは、腐食環境下でのMo、V、Nb、W、Snのアノード溶解が不十分で、所定の効果を期待できない。分散相がMo、V、Nb、W、Snを主成分とする合金相の場合には、Mo、V、Nb、W、Snの質量%の合計が、合金相全体の50%以上である必要がある。50%未満では、耐食性改善の効果を期待できない。
分散相の体積比率は、0.08%以上30%以下である必要がある。これよりも少ないと耐食性向上の効果が弱く、これよりも比率が高いと分散相の溶解生成物が目視で確認できるようになり、耐孔食性には優れるが意匠的に好ましくない。本発明に係る耐孔食性に優れるFe基合金は、分散相の粒径を限定しないが、分散相の直径を0.5μm以上100μm以下に制御することが望ましい。
Mo、V、Nb、W、Snは、ステンレス鋼などのFe基合金やFeに対して、特に良好な防食効果を発揮する。そのため、マトリックスがFeあるいはFe基合金である必要がある。特に高い耐食性を必要とする用途では、マトリックス自体の耐食性を高めておく必要もあるため、マトリックスを8質量%以上35質量%以下のCrを含有する鋼、あるいは、マトリックスを8質量%以上35質量%以下のCrと3質量%以上35質量%以下のNiとを含有する鋼とする必要がある。Cr濃度が8質量%未満では、耐食性向上の効果が弱い。しかし、35質量%超のCrの添加は、マトリックスの靱性が低下するため好ましくない。必要に応じて、マトリックス中にNiを添加することが望ましい。Niは、孔食の成長開始を抑制する。しかし、Niが3質量%未満では、効果が弱い。Niの35質量%超の添加は、原料コストに見合った耐孔食性の向上が見られず、経済性が損なわれる。
以上のような分散相とマトリックスとからなるFe基合金を製造する方法としては、分散相となる純金属あるいは合金の粉末と、マトリックスとなるFeあるいはFe基合金の粉末とを均一に混合した後、圧縮成形と焼結とを行うこと好適である。粉末同士を混合し、圧縮成形と焼結とを行うことで、分散相を均一に分散させた金属材料を、容易に低価格で製造することができる。粉末冶金の手法は、複雑な形状の最終部品を、単純な工程で製造できるという利点を有している。
さらに、Mo、V、Nb、W、Snの金属粉末のうちの1種または2種以上と、ステンレス鋼の粉末とを均一に混合した後、圧縮成形と焼結とを行うことで、広く一般に市販されている廉価な粉末原料のみから、高い耐孔食性を有するステンレス鋼を製造することができる。ステンレス鋼粉末として、SUS430L、SUS304L、SUS316Lなどの大量生産品を使用することで、完成品の価格を大幅に下げることができる。
本発明の実施の形態の耐孔食性に優れるFe基合金の製造方法は、焼結の手法を限定するものではないが、空隙などの内部・表面欠陥の少ないものを必要とする場合には、放電プラズマ焼結法により焼結することが望ましい。放電プラズマ焼結法とは、パルス通電法、パルス通電加圧焼結法、プラズマ活性化焼結法、通電加熱焼結法などとも呼ばれ、粉体や固体などを黒鉛製焼結型などに充填し、加圧を行いながらパルス通電により加熱を行う方法である。圧縮成形した粉末に直接電流を流して加熱するため、低温でしかも短時間で焼結が完了し、空隙が少ないものとなる。
ここで、分散相とは、マトリックスとは異なる結晶構造や結晶系を有し、異相界面により囲まれたものに加え、結晶構造や結晶系は同じであるが、組成がマトリックスとは大きく異なる領域も包含するものである。たとえば、面心立方構造を有するオーステナイト系ステンレス鋼のマトリックス中に、体心立方構造のMoが分散相として存在している場合に加え、体心立方構造を有するフェライト鋼のマトリックス中に、体心立方構造のMo濃化領域が存在している場合にも、このMo成分の濃化領域を分散相と定義するものとする。マトリックスと分散相(成分濃化領域)とが同じ結晶構造や結晶系であっても、その部分のMo、V、Nb、W、Snの原子濃度の合計が、マトリックスの濃度に対して質量%で30%以上の差異がある場合には、その部分を分散相と定義する。したがって、分散相とは、平衡論的な二相分離で現れる第二相などに加え、程度の激しい偏析や焼結における未固溶領域も包含するものである。
以下、実施例に基づき本発明の実施の形態を詳細に説明するが、本発明は実施例の記載に限定されるものではない。
耐孔食性は、非脱気のNaCl水溶液中で動電位アノード分極曲線を測定し、孔食電位により評価した。NaCl水溶液のpHは、HClおよびNaOHで調整した。電位の掃引速度は、20 mV/minとした。電位表示の基準は、3.33 mol/L KCl水溶液を内部液とする銀・塩化銀電極である。孔食電位は、25℃で3回計測し、その平均値で評価した。試験片は、表面をSiC研磨紙で粗研磨した後に、ダイヤモンドペーストで鏡面研磨し、耐孔食性の評価に使用した。
表1に、比較例の結果を示す。これらは、アーク溶解と熱処理により作製したFe基合金である。比較例1は、純Feに、約0.3質量%のMoを固溶・合金化したものである。同様に、比較例2〜5は、純Feに、それぞれV、Nb、W、Snを約0.3質量%固溶・合金化したものである。添加元素が分散相を形成していないことは、電子線後方散乱回折法(Electron backscatter diffraction;EBSD)による結晶構造解析と、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope;SEM)およびエネルギー分散型X線分析(Energy dispersive X-ray spectrometry;EDS)による元素分布の解析により確認した。試験片の組成は、試験片を酸液に溶解し、その溶液を誘導結合プラズマ発光分光分析により定量して求めた。表1に示すように、比較例1〜5では、孔食電位はいずれも0Vを超えることはなかった。
Figure 2021091925
次に、表2の番号1〜9の条件で、Mo、V、Nb、W、Snのうち1種の粉末と、マトリックスとなるFeの粉末とを混合し、最終的に厚さ約5 mm、直径約15 mmの焼結体を作製した。粉末の種類は、表2に示すとおりである。粉末の粒径をおおむね30μm〜80μmにそろえるために、ボールミリングを施し、粗大な粒子を排除するために、ふるいにかけた。粉末の混合は、コロナ放電により除電されたグローブボックス中(Arガス雰囲気)で行った。混合粉末を内径15 mmの円筒形の炭素容器に装填し、Arガス雰囲気中で10 MPaの圧力で成形し、その後、放電プラズマ焼結により30 MPaの圧力下で焼結体を作製した。焼結体を厚さ方向に二等分し、焼結体の中心部分に相当する面の耐孔食性を評価した。なお、本実施例で使用した純金属は、いずれも質量%で99.9%〜99.99%の純度を有するものである。また、分散相の体積比率は、焼結後にEBSDとSEM/EDS解析を行い決定した。
Figure 2021091925
表2の番号1は、分散相の体積比率が0.08%未満の例であり、Moからなる分散相が存在していても、耐孔食性は表1の比較例1と大差がないことが分かる。これに対して、表2の番号2〜5は、分散相の体積比率が0.08%以上の例であり、分散相比率の増加に伴い、孔食電位が高くなり、耐孔食性が高まることが分かる。特に、番号3の分散相の体積比率が約0.30%の例に着目すると、表1の比較例1よりも孔食電位が大幅に高く、Moをマトリックスに固溶させるのではなく、分散相として存在させることが耐孔食性向上に効果があることが分かる。
表2の番号6〜9は、V、Nb、W、Snを分散相とした例である。表1の比較例2〜5と対比すると、これらの元素を分散相として存在させることで耐孔食性が向上していることが分かる。
表1の比較例6〜8は、Mo、V、Nb、W、Snのうち2種をFeに固溶・合金化した例である。孔食電位はいずれも0Vを超えることはなく、比較例1〜5と照らし合わせると、これら元素の複合添加は耐孔食性向上には効果がないことが分かる。これに対して、表2の番号10〜12では、0.25V以上の孔食電位となっており、Mo、V、Nb、W、Snのうち2種以上の純金属を分散相とすることにより、Mo、V、Nb、W、Snの複合添加の効果が現れている。
さらに、表2の番号13〜15は、分散相として、Mo-50%W合金、Mo-50%Nb合金、W-50%Sn合金を用いた例である。これらの合金粉末は、遊星型ボールミル装置により、純金属の粉末同士をメカニカルアロイングすることにより作製した。焼結により、分散相内部に析出物などが生じたが、分散相全体の体積比率で評価した。耐孔食性としては、番号10〜12の異なる2つの純金属相を加える場合と遜色のない、高い耐孔食性が得られている。
表2の番号16〜18は、分散相としてMo、Nb、Snを主成分とする合金を用いた例である。この場合も、分散相となる合金粉末は、当該純金属の粉末同士をメカニカルアロイングすることにより作製した。いずれの場合も、Mo、Nb、Snを単独で分散相とした場合(表2の番号2〜9)と比較し、遜色のない孔食電位である。
以上より、耐孔食性に優れるFe基合金としては、マトリックスと分散相とから構成されるミクロ組織を有し、マトリックスがFeで、分散相がMo、V、Nb、W、Snのうち1種もしくは2種以上の純金属もしくは合金、または、Mo、V、Nb、W、Snの総計が50質量%以上の合金であって、分散相の体積比率が0.08%以上30%以下であることが必要であることが示された。
次は、マトリックスがFe基合金である場合の実施例を示す。表1の比較例10と11は、アーク溶解と熱処理により作製したステンレス鋼である。Moが固溶・合金化されていて、分散相を形成していないことは、EBSDとSEM/EDS解析により確認した。試験片の組成は、誘導結合プラズマ発光分光分析により定量した。いずれの場合も、孔食電位は、0.35V程度であった。
これに対して、表3の番号19〜23は、放電プラズマ焼結法を用いて作製した例である。焼結および耐食性評価の条件は、表2と同様である。分散相の体積比率はおおむね2%とし、マトリックス中のCr濃度を変化させた。その結果、Crが8.0質量%以上になると著しく耐食性が向上することが分かる。さらに、8.0質量%以上のCr濃度の場合、孔食電位は0.3V以上であり、表1の比較例10との対比から、Moは、Fe−CrからなるFe基合金のマトリックス中に固溶させるよりも、分散相として存在させる方が耐食性向上に効果的であることが分かる。表3の番号23では、水の電気分解が1.0V付近で生じ、孔食の発生を確認することができず、耐孔食性が極めて高いことが分かる。
Figure 2021091925
表3の番号24〜27は、V、Nb、W、Snを分散相として存在させたもの、番号28〜30は、Mo、V、Nb、W、Snのうち2種以上の純金属を分散相としたもの、番号31〜33は、分散相としてMo-50%W合金、Mo-50%Nb合金、W-50%Sn合金を用いたもの、番号34〜36は、分散相としてMo、Nb、Snを主成分とする合金を用いた例である。いずれの場合も、孔食電位は0.3Vを超えており、比較例10のFe-19%Cr-2.0%Moに迫る値である。表3の番号24〜36のマトリックス中のCr濃度が13.2質量%であることを勘案すると、マトリックスを8質量%以上35質量%以下のCrを含有するFe基合金とすることで、分散相の防食機能を生かし、優れた耐孔食性を示すFe基合金が得られることが分かる。
表4は、マトリックスを、Niを添加したFe基合金にして、表3と同様の検討を行ったものである。いずれも放電プラズマ焼結法を用いて作製した例である。焼結および耐食性評価の条件などは、表2と同様である。分散相の体積比率はおおむね2.5%とし、番号37〜40では、マトリックス中のCr濃度を変化させた例である。表4に示すとおり、Crが8.0質量%以上になると著しく耐食性が向上することが分かる。さらに、8.0質量%以上のCr濃度の場合、孔食電位は0.4V以上であり、表1の比較例11との対比から、Moは、Fe-Cr-NiからなるFe基合金のマトリックス中に固溶・合金化するよりも、分散相として存在させる方が耐食性向上に効果的であることが分かる。表4の番号40では、水の電気分解が1.0V付近で生じ、孔食の発生を確認することができず、耐孔食性が極めて高いことが分かる。また、番号41〜43は、マトリックス中のNi濃度を変化させた例である。Niが3.0質量%以上になると耐食性が大きく向上することが分かる。
Figure 2021091925
表4の番号44〜47は、V、Nb、W、Snを分散相として存在させたもの、番号48〜50は、Mo、V、Nb、W、Snのうち2種以上の純金属を分散相としたもの、番号51〜53は、分散相としてMo-50%W合金、Mo-50%Nb合金、W-50%Sn合金を用いたもの、番号54と55は、分散相としてMoあるいはSnを主成分とする合金を用いた例である。いずれの場合も、孔食電位は0.35Vを超えており、表1の比較例11のFe-17%Cr-12%Ni-2.5%Moを超える値である。表4の番号44〜55のマトリックス中のCr濃度が8.5質量%で、Ni濃度が12.1質量%であることを勘案すると、マトリックスを8質量%以上35質量%以下のCrと3質量%以上35質量%以下のNiを含有するFe基合金とすることで、分散相の防食機能を生かし、優れた耐孔食性を示す金属材料が得られることが分かる。
本発明の活用例としては、海水などの塩化物イオン濃度が高い溶媒を扱う化学機器を構成する材料が想定される。また、溶射などによる大面積の材料表面に焼結された金属層を形成し、耐食性を付与することも可能である。

Claims (6)

  1. マトリックスと分散相とから構成されるミクロ組織を有し、前記マトリックスがFeあるいはFe基合金で、前記分散相がMo、V、Nb、WおよびSnのうちの1種もしくは2種以上の純金属もしくは合金、または、Mo、V、Nb、WおよびSnの総計が50質量%以上の合金であり、前記分散相の体積比率が0.08%以上30%以下であることを特徴とする耐孔食性に優れるFe基合金。
  2. 前記マトリックスが、8質量%以上35質量%以下のCrを含有するFe基合金であることを特徴とする請求項1記載の耐孔食性に優れるFe基合金。
  3. 前記マトリックスが、8質量%以上35質量%以下のCrと3質量%以上35質量%以下のNiとを含有するFe基合金であることを特徴とする請求項1または2記載の耐孔食性に優れるFe基合金。
  4. 請求項1乃至3のいずれか1項に記載の耐孔食性に優れるFe基合金の製造方法であって、
    前記分散相となる純金属あるいは合金の粉末と、前記マトリックスとなるFeあるいはFe基合金の粉末とを均一に混合した後、圧縮成形と焼結とを行うことを
    特徴とする耐孔食性に優れるFe基合金の製造方法。
  5. 請求項1乃至3のいずれか1項に記載の耐孔食性に優れるFe基合金の製造方法であって、
    Mo、V、Nb、W、およびSnの金属粉末のうち1種または2種以上と、ステンレス鋼の粉末とを均一に混合した後、圧縮成形と焼結とを行うことを
    特徴とする耐孔食性に優れるFe基合金の製造方法。
  6. 前記焼結が放電プラズマ焼結であることを特徴とする請求項4または5記載の耐孔食性に優れるFe基合金の製造方法。
JP2019221778A 2019-12-09 2019-12-09 耐孔食性に優れるFe基合金およびその製造方法 Pending JP2021091925A (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2019221778A JP2021091925A (ja) 2019-12-09 2019-12-09 耐孔食性に優れるFe基合金およびその製造方法

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2019221778A JP2021091925A (ja) 2019-12-09 2019-12-09 耐孔食性に優れるFe基合金およびその製造方法

Publications (1)

Publication Number Publication Date
JP2021091925A true JP2021091925A (ja) 2021-06-17

Family

ID=76311882

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2019221778A Pending JP2021091925A (ja) 2019-12-09 2019-12-09 耐孔食性に優れるFe基合金およびその製造方法

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP2021091925A (ja)

Citations (14)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JPH06338407A (ja) * 1993-05-31 1994-12-06 Isuzu Motors Ltd 希土類永久磁石原料
JPH0890511A (ja) * 1994-09-20 1996-04-09 Jiyuuken Sangyo:Kk 柱梁等の結合部加工機
JPH08134607A (ja) * 1994-11-09 1996-05-28 Sumitomo Electric Ind Ltd バルブシート用耐摩耗性鉄系焼結合金
JPH08197212A (ja) * 1995-01-26 1996-08-06 Kawasaki Steel Corp 溶融金属の連続鋳造方法および連続鋳造用鋳型
JP2002356704A (ja) * 2001-05-30 2002-12-13 Hitachi Powdered Metals Co Ltd 耐摩耗性硬質相形成用合金粉末およびそれを用いた耐摩耗性焼結合金の製造方法
JP2004204298A (ja) * 2002-12-25 2004-07-22 Fuji Heavy Ind Ltd 軽金属合金鋳包み性に優れた鉄系焼結体およびその製造方法
JP2009091609A (ja) * 2007-10-05 2009-04-30 Hitachi Powdered Metals Co Ltd 焼結複合摺動部品およびその製造方法
JP2014219097A (ja) * 2013-04-09 2014-11-20 Ntn株式会社 焼結軸受の製造方法
JP2015178650A (ja) * 2014-03-19 2015-10-08 株式会社リケン 鉄基焼結合金製バルブシート
JP5995389B1 (ja) * 2016-01-04 2016-09-21 平和産業株式会社 銅複合鉄粉の製造方法および焼結金属の製造方法
JP2017122245A (ja) * 2016-01-04 2017-07-13 平和産業株式会社 青銅複合鉄粉の製造方法および焼結金属の製造方法
JP2017133090A (ja) * 2016-01-29 2017-08-03 株式会社ダイヤメット 高温耐摩耗性、高温強度に優れるCoフリー耐熱焼結材およびその製造方法
JP2018141223A (ja) * 2017-02-28 2018-09-13 学校法人立命館 金属材料の製造方法、及び、金属材料
CN109848404A (zh) * 2019-03-12 2019-06-07 湖南恒基粉末科技有限责任公司 一种高氮不锈钢粉末及其制备方法、不锈钢

Patent Citations (14)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JPH06338407A (ja) * 1993-05-31 1994-12-06 Isuzu Motors Ltd 希土類永久磁石原料
JPH0890511A (ja) * 1994-09-20 1996-04-09 Jiyuuken Sangyo:Kk 柱梁等の結合部加工機
JPH08134607A (ja) * 1994-11-09 1996-05-28 Sumitomo Electric Ind Ltd バルブシート用耐摩耗性鉄系焼結合金
JPH08197212A (ja) * 1995-01-26 1996-08-06 Kawasaki Steel Corp 溶融金属の連続鋳造方法および連続鋳造用鋳型
JP2002356704A (ja) * 2001-05-30 2002-12-13 Hitachi Powdered Metals Co Ltd 耐摩耗性硬質相形成用合金粉末およびそれを用いた耐摩耗性焼結合金の製造方法
JP2004204298A (ja) * 2002-12-25 2004-07-22 Fuji Heavy Ind Ltd 軽金属合金鋳包み性に優れた鉄系焼結体およびその製造方法
JP2009091609A (ja) * 2007-10-05 2009-04-30 Hitachi Powdered Metals Co Ltd 焼結複合摺動部品およびその製造方法
JP2014219097A (ja) * 2013-04-09 2014-11-20 Ntn株式会社 焼結軸受の製造方法
JP2015178650A (ja) * 2014-03-19 2015-10-08 株式会社リケン 鉄基焼結合金製バルブシート
JP5995389B1 (ja) * 2016-01-04 2016-09-21 平和産業株式会社 銅複合鉄粉の製造方法および焼結金属の製造方法
JP2017122245A (ja) * 2016-01-04 2017-07-13 平和産業株式会社 青銅複合鉄粉の製造方法および焼結金属の製造方法
JP2017133090A (ja) * 2016-01-29 2017-08-03 株式会社ダイヤメット 高温耐摩耗性、高温強度に優れるCoフリー耐熱焼結材およびその製造方法
JP2018141223A (ja) * 2017-02-28 2018-09-13 学校法人立命館 金属材料の製造方法、及び、金属材料
CN109848404A (zh) * 2019-03-12 2019-06-07 湖南恒基粉末科技有限责任公司 一种高氮不锈钢粉末及其制备方法、不锈钢

Similar Documents

Publication Publication Date Title
Kuwabara et al. Mechanical and corrosion properties of AlCoCrFeNi high-entropy alloy fabricated with selective electron beam melting
Gholipour et al. Microstructure and wear behavior of stellite 6 cladding on 17-4 PH stainless steel
EP1548138A1 (en) Nano-crystal austenitic metal bulk material having high hardness, high strength and toughness , and method for production thereof
US20110217567A1 (en) Method for the manufacture of a compound product with a surface region of a wear resistant coating, such a product and the use of a steel material for obtaining the coating
TWI415955B (zh) 抗蝕及抗磨之合金
CN105945456B (zh) 一种耐热耐磨药芯焊丝
KR102256012B1 (ko) 내부식 및 내마모성 냉간 공구강
KR20080065211A (ko) 스퍼터링 타겟 및 다수의 재료를 갖는 스퍼터링 타겟의제조방법
Datta et al. Sintered duplex stainless steels from premixes of 316L and 434L powders
EP3202934B1 (en) Two-phase alloy, product using said two-phase alloy, and method for producing said product
EP3467128B9 (en) Extrusion die made of hot working steel and production method thereof
Mohammed et al. Effect of filler wire composition on microstructure and pitting corrosion of nickel free high nitrogen stainless steel GTA welds
CN113396233A (zh) 具有改进的可压缩性和生坯强度的硬质粉末颗粒
Wang et al. Effects of B contents on the microstructure and wear resistance of hypereutectic Fe-Cr-C hardfacing alloy coating
Liu et al. High temperature wear and corrosion resistance of Co-free Ni-based alloy coatings on nuclear valve sealing surfaces
CN104769145A (zh) 无镍的不锈钢合金
Cockeram The fracture toughness and toughening mechanisms of nickel-base wear materials
An et al. Corrosion resistance and high temperature wear behavior of carbide-enhanced austenite-based surfacing layer prepared by twin-wire indirect arc welding
Cornish et al. The Platinum Development Initiative: Platinum-based alloys for high temperature and special applications: Part I
JP2021091925A (ja) 耐孔食性に優れるFe基合金およびその製造方法
CN104532169B (zh) 一种CrCo基块体非晶合金
He et al. Effect of milling time on powder’s structure evolution of Ti (C, N)-304 stainless steel cermet
EP3156169A1 (en) Buildup welded metal and machine structure
Zhang et al. Distribution of strong carbide forming elements in hard facing weld metal
CN104404335B (zh) 一种钢结硬质合金

Legal Events

Date Code Title Description
A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A821

Effective date: 20191210

A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20200610

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20210720

A02 Decision of refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A02

Effective date: 20220201