JP2021080565A - オーステナイト系ステンレス鋼材 - Google Patents

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Abstract

【課題】650℃以上の高温環境においても優れた耐水蒸気酸化性を有するオーステナイト系ステンレス鋼材を提供する。【解決手段】本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材は、質量%で、C:0.01〜0.15%、Si:0.01〜1.00%、Mn:2.00%以下、P:0.040%以下、S:0.010%以下、Cr:20.0〜25.0%、Ni:23.0〜32.0%、Nb:0.10〜1.00%、Mo:0.01〜2.50%、W:2.5〜6.0%、Al:0.010〜0.300%、V:0.01〜1.00%、B:0.0005〜0.0500%、REM:0.001〜0.100%、N:0.15〜0.35%、及び、残部はFe及び不純物からなり、結晶粒度番号Dは、式(1)を満たし、表面から1μm深さ位置での酸素濃度が1.00質量%未満である。2W/7−Mo+3D/4≧3.00(1)【選択図】図1

Description

本開示は、オーステナイト系ステンレス鋼材に関する。
火力発電プラントに代表される発電プラントでは、COガスの排出抑制及び経済性の観点から、発電効率の向上が求められている。そのため、タービン蒸気圧力の高温化及び高圧化が進められている。発電プラントで使用される伝熱部材は、高温及び高圧の水蒸気に長時間晒される。伝熱部材はたとえば、火力発電用ボイラ、タービン及び蒸気管等の発電プラント用機器に用いられる配管である。高温の水蒸気に長時間晒されると、伝熱部材の表面に酸化スケールが生成する。伝熱部材の耐水蒸気酸化性が十分でない場合、伝熱部材の表面に多量の酸化スケールが生成する。ボイラの起動及び停止によって、伝熱部材は熱膨張及び熱収縮する。そのため、多量の酸化スケールが生成すれば、酸化スケールは剥離して配管の詰まりの原因となる。酸化スケールが多量に生成した場合はさらに、酸化スケールによって配管外部から配管内部への熱伝導が阻害される。そのため、配管内の温度を高く維持するために、外部からより多くの熱を与える必要がある。配管の温度上昇は、クリープ強度の低下を引き起こす。そのため、火力発電用ボイラ、タービン及び蒸気管等の発電プラント用機器に用いられる伝熱部材には、高い耐水蒸気酸化性が求められている。
発電プラント用途の鋼材として、オーステナイト系ステンレス鋼材が利用される。発電プラント用途のオーステナイト系ステンレス鋼材はたとえば、国際公開第2016/204005号(特許文献1)、特開2017−14576号公報(特許文献2)、特許第5000805号公報(特許文献3)、及び、特表2005−509751号公報(特許文献4)に開示されている。
特許文献1に開示された高Cr系オーステナイトステンレス鋼は、成分組成が、質量%で、C:0.03〜0.12%、Si:0.10〜1.00%、Mn:0.10〜3.00%、P:0.030%以下、S:0.020%以下、Cr:21.50〜28.00%、Ni:26.00超〜35.00%、W:2.00超〜5.00%、Co:0.80%以下、V:0.01〜0.70%、Nb:0.15〜1.00%、Al:0.001〜0.040%、B:0.0001〜0.0100%、N:0.010〜0.400%を含有し、残部はFe及び不純物からなり、さらに、不純物元素であるTa、Nd、及びZrの含有量について、Ta+0.8Nd+0.5Zr:0.020〜0.200%を満たす。不純物元素であるTa、Nd、及びZrの含有量を制限することにより、高温環境でのクリープ強度が高まる、と特許文献1には記載されている。
特許文献2に開示されたオーステナイト系耐熱合金は、化学組成が、質量%で、C:0.04〜0.14%、Si:0.05〜1%、Mn:0.5〜2.5%、P:0.03%以下、S:0.002%以下、Ni:23〜32%、Cr:20〜25%、W:1〜5%、Nb:0.1〜0.6%、V:0.1〜0.6%、N:0.1〜0.3%、B:0.0005〜0.01%、Al:0.03%以下、O:0.02%以下、並びにSe、Te、Bi、Sn、Zn、及びPbの1種又は2種以上の合計:0.001〜0.02%、残部:Fe及び不純物である。Se、Te、Bi、Sn、Zn、及びPbの1種又は2種以上の合計含有量を制限することにより、高温環境でのクリープ強度が高まる、と特許文献2には記載されている。
特許文献3に開示されたオーステナイト系ステンレス鋼は、質量%で、C:0.04〜0.10%、Si:0.4%以下、Mn:0.6%以下、Cr:20〜27%、Ni:22.5〜32%、Mo:0.5%以下、Nb:0.20〜0.60%、W:0.4〜4.0%、N:0.10〜0.30%、B:0.002〜0.008%、Al:0.003〜0.05%、Cu:2.0〜3.5%、Co:0.5〜3%を含有し、残部がFe及び不純物からなる。Cu及びCoを含有することにより、高温環境でのクリープ強度が高まる、と特許文献3には記載されている。
特許文献4に開示されたオーステナイト系ステンレス鋼は、質量%で、Cr:23.0〜30.0%、Ni:25.0〜35.0%、Mo:2.0〜6.0%、Mn:1.0〜6.0%、N:0〜0.4%、C:0.05%以下、Si:1.0%以下、S:0.02%以下、Cu:3.0%以下、W:0〜6.0%、Mg、Ce、Ca、B、La、Pr、Zr、Ti、Ndの族の1種以上の元素:2.0%以下、及び、残部がFe及び不純物からなる。Mg、Ce、Ca、B、La、Pr、Zr、Ti、Ndの族の1種以上の元素の合計含有量を2.0%以下にすることにより、酸性環境及び塩基性環境において、耐粒界腐食性を高めることができる、と特許文献4には記載されている。
国際公開第2016/204005号 特開2017−14576号公報 特許第5000805号公報 特表2005−509751号公報
ところで、発電プラントでは、650℃以上の高温環境において、上述のとおり、優れた耐水蒸気酸化性が求められる。特許文献1〜4では、650℃以上の高温環境における耐水蒸気酸化性について検討されていない。
本開示の目的は、650℃以上の高温環境においても優れた耐水蒸気酸化性を有するオーステナイト系ステンレス鋼材を提供することである。
本開示のオーステナイト系ステンレス鋼材は、
質量%で、
C:0.01〜0.15%、
Si:0.01〜1.00%、
Mn:2.00%以下、
P:0.040%以下、
S:0.010%以下、
Cr:20.0〜25.0%、
Ni:23.0〜32.0%、
Nb:0.10〜1.00%、
Mo:0.01〜2.50%、
W:2.5〜6.0%、
Al:0.010〜0.300%、
V:0.01〜1.00%、
B:0.0005〜0.0500%、
REM:0.001〜0.100%、
N:0.15〜0.35%、
Ti:0〜0.100%、
Cu:0〜1.00%、
Co:0〜1.0%、
Zr:0〜0.100%、
Ta:0〜1.0%、
Re:0〜5.0%、
Ca:0〜0.0500%、
Mg:0〜0.0500%、
Hf:0〜1.0%、及び、
残部はFe及び不純物からなり、
ASTM E112−88に準拠して測定された前記オーステナイト系ステンレス鋼材の結晶粒度番号Dは、式(1)を満たし、
前記オーステナイト系ステンレス鋼材の表面から1μm深さ位置での酸素濃度が1.00質量%未満である。
2W/7−Mo+3D/4≧3.00 (1)
ここで、式(1)中のDには、結晶粒度番号が代入され、式(1)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
本開示によるオーステナイト系ステンレス鋼材は、650℃以上の高温環境においても優れた耐水蒸気酸化性を有する。
図1は、化学組成が本実施形態の範囲内であり、かつ、表面から1μm深さ位置での酸素濃度が1.00質量%未満であるオーステナイト系ステンレス鋼材における、F1値と、耐水蒸気酸化性評価試験で得られた内層酸化スケール厚さ(μm)との関係を示す図である。
本発明者らは、650℃以上の高温環境において、優れた耐水蒸気酸化性を有するオーステナイト系ステンレス鋼材について検討を行った。高温環境で耐水蒸気酸化性を高める場合、高温環境での鋼材の使用中において、鋼材表面にCrを含有する被膜を形成することが有効である。高温環境での使用中に鋼材表面にCrを均一に形成するためには、高温環境において、鋼材中のCrを表面に拡散しやすくすることが有効である。
鋼材に含有される元素のうち、Wは、650℃以上の高温環境において、Crの拡散を促進する。一方、Moは、650℃以上の高温環境において、Crの拡散を抑制する。そこで、本発明者らは、650℃以上の高温環境において、Crが拡散しやすい化学組成を検討した。その結果、質量%で、C:0.01〜0.15%、Si:0.01〜1.00%、Mn:2.00%以下、P:0.040%以下、S:0.010%以下、Cr:20.0〜25.0%、Ni:23.0〜32.0%、Nb:0.10〜1.00%、Mo:0.01〜2.50%、W:2.5〜6.0%、Al:0.010〜0.300%、V:0.01〜1.00%、B:0.0005〜0.0500%、REM:0.001〜0.100%、N:0.15〜0.35%、Ti:0〜0.100%、Cu:0〜1.00%、Co:0〜1.0%、Zr:0〜0.100%、Ta:0〜1.0%、Re:0〜5.0%、Ca:0〜0.0500%、Mg:0〜0.0500%、Hf:0〜1.0%、及び、残部はFe及び不純物からなる化学組成を有する鋼材であれば、650℃以上の高温環境において優れた耐水蒸気酸化性が得られる可能性があると考えた。
しかしながら、上述の化学組成を有するオーステナイト系ステンレス鋼材であっても、650℃以上の高温環境において十分な耐水蒸気酸化性が得られない場合があることが判明した。そこで、本発明者らは、耐水蒸気酸化性を高める方法について、さらに検討を行った。その結果、上述の化学組成を有するオーステナイト系ステンレス鋼材において、表面から1μm深さ位置での酸素濃度を1.00質量%未満とすることが有効であることを知見した。表面から1μm深さ位置での酸素濃度は、表面の酸化スケールの有無を意味する。表面から1μm深さ位置での酸素濃度が1.00質量%未満であれば、オーステナイト系ステンレス鋼材の表面に酸化スケールが実質的に存在していない。この場合、650℃以上の高温環境において、鋼材表面でのCrの生成が酸化スケールにより阻害されない。そのため、高温環境において、鋼材表面にCrが均一に生成しやすくなる。
本発明者らはさらに、上述の化学組成を有し、かつ、鋼材表面から1μm深さ位置での酸素濃度が1.00質量%未満であるオーステナイト系ステンレス鋼材において、オーステナイト結晶粒の結晶粒度番号Dが式(1)を満たせば、650℃以上の高温環境における耐水蒸気酸化性が顕著に高まることを知見した。
2W/7−Mo+3D/4≧3.00 (1)
ここで、式(1)中のDには、結晶粒度番号が代入され、式(1)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
F1=2W/7−Mo+3D/4は、650℃以上の高温環境での鋼材表面のCrの形成度合いを示す指標である。上述のとおり、Wは高温環境においてCrの拡散を促進する。Moは高温環境においてCrの拡散を抑制する。そして、結晶粒度番号Dが大きいほど、つまり、結晶粒が微細であるほど、高温環境においてCrの拡散が促進される。結晶粒が微細であれば、結晶粒界の面積が増大する。結晶粒界はCrの拡散経路になると考えられる。そのため、結晶粒度番号Dが大きいほど、Crの拡散経路が増加し、Crの拡散が促進され、650℃以上の高温環境での鋼材表面のCrが形成されやすいと考えられる。
図1は、表面から1μm深さ位置での酸素濃度が1.00質量%未満であるオーステナイト系ステンレス鋼材における、F1値と、後述の耐水蒸気酸化性評価試験で得られた内層酸化スケール厚さ(μm)との関係を示す図である。内層酸化スケール厚さが薄いほど、650℃以上の高温環境における耐水蒸気酸化性が高いことを意味する。
図1を参照して、F1値が3.00になるまでは、F1値が増大しても、内層酸化スケール厚さが厚い状態が続く。一方、F1値が3.00以上となると、内層酸化スケール厚さが顕著に低下する。以上の結果に基づいて、本発明者らは、化学組成が上述の範囲内であり、かつ、表面から1μm深さ位置での酸素濃度が1.00質量%未満であるオーステナイト系ステンレス鋼材において、F1を3.00以上とすれば、650℃以上の高温環境において、耐水蒸気酸化性が顕著に高まることを見いだした。
本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材は、上記知見に基づいて完成したものであり、次の構成を有する。
[1]
オーステナイト系ステンレス鋼材であって、
質量%で、
C:0.01〜0.15%、
Si:0.01〜1.00%、
Mn:2.00%以下、
P:0.040%以下、
S:0.010%以下、
Cr:20.0〜25.0%、
Ni:23.0〜32.0%、
Nb:0.10〜1.00%、
Mo:0.01〜2.50%、
W:2.5〜6.0%、
Al:0.010〜0.300%、
V:0.01〜1.00%、
B:0.0005〜0.0500%、
REM:0.001〜0.100%、
N:0.15〜0.35%、
Ti:0〜0.100%、
Cu:0〜1.00%、
Co:0〜1.0%、
Zr:0〜0.100%、
Ta:0〜1.0%、
Re:0〜5.0%、
Ca:0〜0.0500%、
Mg:0〜0.0500%、
Hf:0〜1.0%、及び、
残部はFe及び不純物からなり、
ASTM E112−88に準拠して測定された前記オーステナイト系ステンレス鋼材の結晶粒度番号Dは、式(1)を満たし、
前記オーステナイト系ステンレス鋼材の表面から1μm深さ位置での酸素濃度が1.00質量%未満である、
オーステナイト系ステンレス鋼材。
2W/7−Mo+3D/4≧3.00 (1)
ここで、式(1)中のDには、結晶粒度番号が代入され、式(1)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
[2]
[1]に記載のオーステナイト系ステンレス鋼材であって、
前記結晶粒度番号Dは2.50〜8.00である、
オーステナイト系ステンレス鋼材。
[3]
[1]又は[2]に記載のオーステナイト系ステンレス鋼材であって、
鋼材表面の算術平均粗さRaは10.00μm以下である、
オーステナイト系ステンレス鋼材。
[4]
[1]〜[3]のいずれか1項に記載のオーステナイト系ステンレス鋼材であって、
Ti:0.001〜0.100%、
Cu:0.01〜1.00%、
Co:0.1〜1.0%、
Zr:0.001〜0.100%、
Ta:0.1〜1.0%、及び
Re:0.1〜5.0%からなる群から選択される1元素以上を含有する、
オーステナイト系ステンレス鋼材。
[5]
[1]〜[4]のいずれか1項に記載のオーステナイト系ステンレス鋼材であって、
Ca:0.0001〜0.0500%、及び、
Mg:0.0001〜0.0500%からなる群から選択される1元素以上を含有する、
オーステナイト系ステンレス鋼材。
[6]
[1]〜[5]のいずれか1項に記載のオーステナイト系ステンレス鋼材であって、
Hf:0.1〜1.0%を含有する、
オーステナイト系ステンレス鋼材。
以下、本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材について詳述する。元素に関する「%」は、特に断りがない限り質量%を意味する。
[化学組成]
本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材の化学組成は、次の元素を含有する。
C:0.01〜0.15%
炭素(C)は、オーステナイト系ステンレス鋼材の高温環境での使用中において、炭化物を形成して鋼材のクリープ強度を高める。C含有量が0.01%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、C含有量が0.15%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、高温環境での使用中において炭化物が粗大化して、クリープ強度が低下する。したがって、C含有量は0.01〜0.15%である。C含有量の好ましい下限は0.02%であり、さらに好ましくは0.03%であり、さらに好ましくは0.04%である。C含有量の好ましい上限は0.14%であり、さらに好ましくは0.13%であり、さらに好ましくは0.12%である。
Si:0.01〜1.00%
シリコン(Si)は、製造工程において、鋼を脱酸する。さらに、Si含有量を過剰に低減すれば、製造コストが高くなる。したがって、Si含有量は0.01%以上である。一方、Si含有量が1.00%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の熱間加工性が低下する。したがって、Si含有量は0.01〜1.00%である。Si含有量の好ましい下限は0.02%であり、さらに好ましくは0.03%であり、さらに好ましくは0.10%であり、さらに好ましくは0.15%であり、さらに好ましくは0.20%である。Si含有量の好ましい上限は0.90%であり、さらに好ましくは0.85%であり、さらに好ましくは0.80%であり、さらに好ましくは0.75%である。
Mn:2.00%以下
マンガン(Mn)は不可避に含有される。つまり、Mn含有量は0%超である。MnはSiと同様に、製造工程において、鋼を脱酸する。Mnはさらに、Sと結合してMnSを形成して、鋼材の熱間加工性を高める。しかしながら、Mn含有量が2.00%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、オーステナイト系ステンレス鋼材の高温環境での使用中において、鋼材の表面に、Cr及びMnを含有するスピネル型酸化物(Cr−Mnスピネル型酸化物)を形成する。Cr−Mnスピネル型酸化物は、高温環境での使用中の鋼材の表面において、Crの生成を阻害し、鋼材の耐水蒸気酸化性を低下する。したがって、Mn含有量は2.00%以下である。Mn含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.05%であり、さらに好ましくは0.10%であり、さらに好ましくは0.30%であり、さらに好ましくは0.50%であり、さらに好ましくは0.70%である。Mn含有量の好ましい上限は1.90%であり、さらに好ましくは1.85%であり、さらに好ましくは1.80%であり、さらに好ましくは1.75%であり、さらに好ましくは1.60%である。
P:0.040%以下
燐(P)は不可避に含有される不純物である。つまり、P含有量は0%超である。Pは、鋼材の溶接性及び熱間加工性を低下する。P含有量が0.040%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の溶接性及び熱間加工性が十分に得られない。したがって、P含有量は0.040%以下である。P含有量の好ましい上限は0.035%であり、さらに好ましくは0.030%である。P含有量の過剰な低減は、鋼材の製造コストを引き上げる。したがって、通常の工業生産を考慮すれば、P含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.003%である。
S:0.010%以下
硫黄(S)は不可避に含有される不純物である。つまり、S含有量は0%超である。Sは、鋼材の溶接性及び熱間加工性を低下する。S含有量が0.010%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の溶接性及び熱間加工性が十分に得られない。したがって、S含有量は0.010%以下である。S含有量の好ましい上限は0.009%であり、さらに好ましくは0.008%である。S含有量の過剰な低減は、鋼材の製造コストを引き上げる。したがって、通常の工業生産を考慮すれば、S含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.002%である。
Cr:20.0〜25.0%
クロム(Cr)は、オーステナイト系ステンレス鋼材の高温環境での使用中において、耐水蒸気酸化性を高める。具体的には、650℃以上の高温環境での使用中において、Crは、鋼材の表面にCr(クロミア)を形成する。鋼材の表面にCrが均一に形成されれば、鋼材の耐水蒸気酸化性が高まる。Cr含有量が20.0%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、Cr含有量が25.0%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、オーステナイトの安定性が低下する。この場合、高温環境での使用中において、クリープ強度が低下する。したがって、Cr含有量は20.0〜25.0%である。Cr含有量の好ましい下限は20.5%であり、さらに好ましくは21.0%であり、さらに好ましくは21.5%である。Cr含有量の好ましい上限は24.5%であり、さらに好ましくは24.0%であり、さらに好ましくは23.5%である。
Ni:23.0〜32.0%
ニッケル(Ni)は、オーステナイトを安定化する。Niはさらに、オーステナイト系ステンレス鋼材の高温環境での使用中において、鋼材の耐水蒸気酸化性を高める。Ni含有量が23.0%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、Ni含有量が32.0%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の熱間加工性が低下する。したがって、Ni含有量は23.0〜32.0%である。Ni含有量の好ましい下限は23.5%であり、さらに好ましくは24.0%であり、さらに好ましくは24.5%であり、さらに好ましくは25.0%である。Ni含有量の好ましい上限は31.5%であり、さらに好ましくは31.0%であり、さらに好ましくは30.5%であり、さらに好ましくは30.0%である。
Nb:0.10〜1.00%
ニオブ(Nb)は、オーステナイト系ステンレス鋼材の高温環境での使用中において、Nと結合して窒化物を形成する。Nbはさらに、Ni及びFeと結合して、Laves相(Fe(Nb、W))及び/又はガンマダブルプライム相(γ’’相(NiNb))に代表される金属間化合物を形成する。これらの析出物は、高温環境での使用中において、粒内及び粒界に析出する。その結果、鋼材のクリープ強度が高まる。Nb含有量が0.10%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、Nb含有量が1.00%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上述の金属間化合物が過剰に多く生成する。この場合、鋼材の靱性及び熱間加工性が低下する。したがって、Nb含有量は0.10〜1.00%である。Nb含有量の好ましい下限は0.12%であり、さらに好ましくは0.14%であり、さらに好ましくは0.18%であり、さらに好ましくは0.20%である。Nb含有量の好ましい上限は0.95%であり、さらに好ましくは0.90%であり、さらに好ましくは0.85%である。
Mo:0.01〜2.50%
モリブデン(Mo)は、母相であるオーステナイトに固溶して、固溶強化により、高温環境で使用中の鋼材のクリープ強度を高める。Moはさらに、高温環境において微細な金属間化合物を生成して、析出強化により、高温環境で使用中の鋼材のクリープ強度を高める。Mo含有量が0.01%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、Mo含有量が2.50%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、高温環境においてCrの拡散を抑制し、高温環境での鋼材表面のCrの形成を抑制する。その結果、鋼材の耐水蒸気酸化性が低下する。したがって、Mo含有量は0.01〜2.50%である。Mo含有量の好ましい下限は0.03%であり、さらに好ましくは0.05%であり、さらに好ましくは0.10%である。Mo含有量の好ましい上限は2.45%であり、さらに好ましくは2.40%であり、さらに好ましくは2.35%であり、さらに好ましくは2.30%である。
W:2.5〜6.0%
タングステン(W)は、母相であるオーステナイトに固溶して、固溶強化により、高温環境で使用中の鋼材のクリープ強度を高める。Wはさらに、高温環境においてLaves相(FeW)等の微細な金属間化合物を生成して、析出強化により、高温環境で使用中の鋼材のクリープ強度を高める。Wはさらに、高温環境においてCrの拡散を促進し、高温環境での鋼材表面のCrの形成を促進する。その結果、鋼材の耐水蒸気酸化性が高まる。W含有量が2.5%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、W含有量が6.0%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の靱性及び熱間加工性が低下する。したがって、W含有量は2.5〜6.0%である。W含有量の好ましい下限は2.6%であり、さらに好ましくは2.7%であり、さらに好ましくは2.8%である。W含有量の好ましい上限は5.8%であり、さらに好ましくは5.5%であり、さらに好ましくは5.3%であり、さらに好ましくは5.0%である。
Al:0.010〜0.300%
アルミニウム(Al)は、Si及びMnと同様に、製造工程において鋼を脱酸する。Al含有量が0.010%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、Al含有量が0.300%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、非金属介在物が多量に生成する。この場合、鋼材の熱間加工性及び高温環境でのクリープ強度が低下する。したがって、Al含有量は0.010〜0.300%である。Al含有量の好ましい下限は0.015%であり、さらに好ましくは0.020%であり、さらに好ましくは0.025%である。Al含有量の好ましい上限は0.250%であり、さらに好ましくは0.200%であり、さらに好ましくは0.150%であり、さらに好ましくは0.100%である。
V:0.01〜1.00%
V(バナジウム)は、オーステナイト系ステンレス鋼材の高温環境での使用中において、Nと結合してV窒化物を形成する。V窒化物は、高温環境での鋼材のクリープ強度を高める。V含有量が0.01%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、V含有量が1.00%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、高温環境においてV窒化物が粗大化する。この場合、鋼材のクリープ延性が低下する。したがって、V含有量は0.01〜1.00%である。V含有量の好ましい下限は0.02%であり、さらに好ましくは0.05%であり、さらに好ましくは0.10%である。V含有量の好ましい上限は0.90%であり、さらに好ましくは0.80%であり、さらに好ましくは0.70%である。
B:0.0005〜0.0500%
ボロン(B)は、結晶粒界に偏析して、高温環境において、Laves相に代表される金属間化合物及び炭化物の粒界での微細析出を促進する。B含有量が0.0005%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、B含有量が0.0500%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、高温環境での使用中の鋼材のクリープ強度及びクリープ延性が低下する。したがって、B含有量は0.0005〜0.0500%である。B含有量の好ましい下限は0.0010%であり、さらに好ましくは0.0015%であり、さらに好ましくは0.0020%である。B含有量の好ましい上限は0.0400%であり、さらに好ましくは0.0300%であり、さらに好ましくは0.0200%であり、さらに好ましくは0.0100%であり、さらに好ましくは0.0070%であり、さらに好ましくは0.0050%であり、さらに好ましくは0.0048%であり、さらに好ましくは0.0046%であり、さらに好ましくは0.0045%である。
希土類元素(REM):0.001〜0.100%
希土類元素(REM)は、Sを硫化物として固定し、鋼材の熱間加工性を高める。REMはさらに、鋼材表面に形成されるCrの鋼材表面への密着性を高める。REM含有量が0.001%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、REM含有量が0.100%を超えれば、他の元素含有量が本実施の範囲内であっても、酸化物等の介在物が過剰に多くなり、鋼材の溶接性が低下する。したがって、REM含有量は0.001〜0.100%である。REM含有量の好ましい下限は0.003%であり、さらに好ましくは0.005%であり、さらに好ましくは0.010%である。REM含有量の好ましい上限は0.090%であり、さらに好ましくは0.080%であり、さらに好ましくは0.070%であり、さらに好ましくは0.050%である。
本明細書において、REMとは、Sc、Y及びランタノイドの合計17元素の総称である。本実施形態の鋼材に含有されるREMがこれらの元素のうちの1種である場合、REM含有量は、含有されている元素の含有量を意味する。本実施形態に含有されるREMが2種以上である場合、REM含有量は、それらの元素の総含有量を意味する。REMは、一般的にミッシュメタルに含有される。たとえば、製鋼工程において、ミッシュメタルを鋼材に添加して、REM含有量が上記の範囲となるように調整してもよい。
N:0.15〜0.35%
窒素(N)は、オーステナイト系ステンレス鋼材の高温環境での使用中において、V又はNbと結合して窒化物を形成する。これらの窒化物は、高温環境での使用中において、クリープ強度を高める。Nはさらに、鋼材中に固溶して、鋼材の強度を高める。Nはさらに、オーステナイトを安定化する。N含有量が0.15%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、N含有量が0.35%を超えれば、窒化物が過剰に多く生成する。この場合、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の靱性及び熱間加工性が低下する。したがって、N含有量は0.15〜0.35%である。N含有量の好ましい下限は0.16%であり、さらに好ましくは0.17%であり、さらに好ましくは0.18%である。N含有量の好ましい上限は0.32%であり、さらに好ましくは0.31%であり、さらに好ましくは0.30%である。
本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材の化学組成の残部は、Fe及び不純物からなる。ここで、不純物とは、本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、又は製造環境などから混入されるものであって、本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
[任意元素(Optional Elements)について]
本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、次の第1群〜第3群から選択される1元素以上を含有してもよい。以下、第1群〜第3群について説明する。
第1群:
Ti:0〜0.100%
Cu:0〜1.00%
Co:0〜1.0%
Zr:0〜0.100%
Ta:0〜1.0%
Re:0〜5.0%
第2群:
Ca:0〜0.0500%
Mg:0〜0.0500%
第3群
Hf:0〜1.0%
[第1群(Ti、Cu、Co、Zr、Ta、Re)]
本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材はさらに、Feの一部に代えて、Ti、Cu、Co、Zr、Ta、及び、Reからなる群から選択される1元素以上を含有してもよい。これらの元素はいずれも任意元素であり、高温環境での使用中において、鋼材のクリープ強度を高める。
Ti:0〜0.100%
チタン(Ti)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Ti含有量は0%であってもよい。含有される場合、Tiは、オーステナイト系ステンレス鋼材の高温環境での使用中において、Nと結合して窒化物を形成する。Ti窒化物は、鋼材の高温環境での使用中において、クリープ強度を高める。Tiが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Ti含有量が0.100%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、Ti窒化物が粗大化して、高温環境での使用中において、鋼材のクリープ延性が低下する。したがって、Ti含有量は0〜0.100%である。Ti含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.002%であり、さらに好ましくは0.005%である。Ti含有量の好ましい上限は0.090%であり、さらに好ましくは0.080%であり、さらに好ましくは0.070%である。
Cu:0〜1.00%
銅(Cu)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Cu含有量は0%であってもよい。含有される場合、Cuは、高温環境での使用中において、鋼材中にCu相として析出する。Cu相は高温環境で使用中の鋼材のクリープ強度を高める。Cuが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Cu含有量が1.00%を超えれば、原料コストが高くなる。したがって、Cu含有量は0〜1.00%である。Cu含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.05%であり、さらに好ましくは0.10%である。Cu含有量の好ましい上限は0.90%であり、さらに好ましくは0.80%であり、さらに好ましくは0.70%であり、さらに好ましくは0.60%であり、さらに好ましくは0.50%である。
Co:0〜1.0%
コバルト(Co)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Co含有量は0%であってもよい。含有される場合、Coは鋼材の組織を安定化して、高温環境で使用中の鋼材のクリープ強度を高める。Coが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Co含有量が1.0%を超えれば、原料コストが高くなる。したがって、Co含有量は0〜1.0%である。Co含有量の好ましい下限は0.1%であり、さらに好ましくは0.2%である。Co含有量の好ましい上限は0.9%であり、さらに好ましくは0.8%であり、さらに好ましくは0.7%である。
Zr:0〜0.100%
ジルコニウム(Zr)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Zr含有量は0%であってもよい。含有される場合、Zrは、N及びOと結合してZr窒化物又はZr酸化物を形成する。これらの窒化物及び酸化物は、微細炭窒化物の析出核となり、高温環境での使用中の鋼材のクリープ強度を高める。Zrが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Zr含有量が0.100%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、Zr窒化物及びZr酸化物が多量に生成する。この場合、鋼材の熱間加工性及び溶接性が低下する。したがって、Zr含有量は0〜0.100%である。Zr含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.002%であり、さらに好ましくは0.003%である。Zr含有量の好ましい上限は0.090%であり、さらに好ましくは0.080%であり、さらに好ましくは0.050%であり、さらに好ましくは0.040%である。
Ta:0〜1.0%
タンタル(Ta)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Ta含有量は0%であってもよい。含有される場合、Taは炭窒化物の微細化を促進する。その結果、高温環境での使用中における鋼材のクリープ強度を高める。Taが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Ta含有量が1.0%を超えれば、析出物が過剰に多く生成して、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の靱性が低下する。したがって、Ta含有量は0〜1.0%である。Ta含有量の好ましい下限は0.1%であり、さらに好ましくは0.2%であり、さらに好ましくは0.3%である。Ta含有量の好ましい上限は0.9%であり、さらに好ましくは0.8%であり、さらに好ましくは0.7%である。
Re:0〜5.0%
レニウム(Re)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Re含有量は0%であってもよい。含有される場合、Reは鋼材に固溶して、高温環境での使用中における鋼材のクリープ強度を高める。Reが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Re含有量が5.0%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の熱間加工性が低下する。したがって、Re含有量は0〜5.0%である。Re含有量の好ましい下限は0.1%であり、さらに好ましくは0.2%であり、さらに好ましくは0.5%であり、さらに好ましくは1.0%であり、さらに好ましくは1.5%であり、さらに好ましくは2.0%である。Reの好ましい上限は4.8%であり、さらに好ましくは4.6%である。
[第2群(Ca、Mg)]
本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材はさらに、Feの一部に代えて、Ca及びMgからなる群から選択される1元素以上を含有してもよい。これらの元素はいずれも任意元素であり、鋼材の熱間加工性を高める。
Ca:0〜0.0500%
カルシウム(Ca)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Ca含有量は0%であってもよい。含有される場合、Caは、Sを硫化物として固定して、鋼材の熱間加工性を高める。Caはさらに、鋼を脱酸する。Caが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Ca含有量が0.0500%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の靱性及び熱間加工性が低下する。したがって、Ca含有量は0〜0.0500%である。Caの好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0005%であり、さらに好ましくは0.0010%であり、さらに好ましくは0.0020%であり、さらに0.0050%であり、さらに好ましくは0.0100%である。Ca含有量の好ましい上限は0.0400%である。
Mg:0〜0.0500%
マグネシウム(Mg)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Mg含有量は0%であってもよい。含有される場合、Mgは、Sを硫化物として固定して、鋼材の熱間加工性を高める。Mgが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Mg含有量が0.0500%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の靱性及び熱間加工性が低下する。したがって、Mg含有量は0〜0.0500%である。Mgの好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0005%であり、さらに好ましくは0.0010%であり、さらに好ましくは0.0020%であり、さらに好ましくは0.0050%である。Mg含有量の好ましい上限は0.0400%であり、さらに好ましくは0.0300%である。
[第3群(Hf)]
本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材はさらに、Feの一部に代えて、Hfを含有してもよい。
Hf:0〜1.0%
ハフニウム(Hf)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Hf含有量は0%であってもよい。含有される場合、Hfは、Ta、Zr及びREMの作用を高める。Hfが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Hf含有量が1.0%を超えれば、非金属介在物が多量に生成する。この場合、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の靱性、熱間加工性及び溶接性が低下する。したがって、Hf含有量は0〜1.0%である。Hf含有量の好ましい下限は0.1%であり、さらに好ましくは0.2%であり、さらに好ましくは0.3%である。Hf含有量の好ましい上限は0.9%であり、さらに好ましくは0.8%である。
[式(1)について]
本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材ではさらに、ASTM E112−88に準拠して測定されたオーステナイト系ステンレス鋼材の結晶粒度番号Dが、式(1)を満たす。
2W/7−Mo+3D/4≧3.00 (1)
ここで、式(1)中のDには、結晶粒度番号が代入され、式(1)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
F1=2W/7−Mo+3D/4と定義する。F1は、高温環境での鋼材表面のCrの形成度合いを示す指標である。上述のとおり、Wは高温環境でのCrの拡散を促進する。Moは高温環境でのCrの拡散を抑制する。そして、結晶粒度番号Dが大きいほど、Crの拡散が促進される。
F1が3.00以上であれば、高温環境において、Crが十分に拡散する。そのため、高温環境でのオーステナイト系ステンレス鋼材の使用中において、鋼材表面にCrが均一に生成しやすくなる。その結果、オーステナイト系ステンレス鋼材の高温環境での耐水蒸気酸化性が十分に高まる。F1の好ましい下限は3.10であり、さらに好ましくは3.20であり、さらに好ましくは3.30であり、さらに好ましくは3.50であり、さらに好ましくは3.80である。F1は計算値の小数第三位を四捨五入して得られた値(つまり、小数第二位の値)である。
[オーステナイト系ステンレス鋼材の結晶粒度番号Dについて]
本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材の結晶粒度番号Dは、次の方法で求めることができる。オーステナイト系ステンレス鋼材の厚さ中央位置から1個のサンプルを採取する。オーステナイト系ステンレス鋼材が鋼管である場合、肉厚中央位置からサンプルを採取する。オーステナイト系ステンレス鋼材が鋼板である場合、板幅中央位置であって、かつ、板厚中央位置から、サンプルを採取する。オーステナイト系ステンレス鋼材が棒鋼である場合、長手方向に垂直な断面の中心位置からサンプルを採取する。
採取したサンプルの表面のうち、オーステナイト系ステンレス鋼材の長手方向に垂直な断面を、観察面とする。観察面を鏡面研磨する。鏡面研磨後の観察面を、塩酸及び硝酸の混合溶液を用いて腐食して、観察面のオーステナイトの結晶粒界を現出させる。腐食された観察面の任意の3視野を観察して、ASTM E112−88に準拠して、次の式に基づいて、オーステナイト結晶粒の結晶粒度番号を求める。各視野の面積は0.75mmとする。3視野の結晶粒度番号の算術平均値を、結晶粒度番号Dと定義する。
結晶粒度番号D=−3.2877−6.6439log10
ここで、Lは結晶粒内を横切る試験線の1結晶粒当たりの平均線分長(mm)である。
オーステナイト系ステンレス鋼材の結晶粒度番号Dを求めるためには、上述の各視野(0.75mm)における未再結晶領域が面積率で20%未満であることが前提である。つまり、本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材において、上述の3つの視野の各々において、未再結晶領域の面積率が20%未満であれば、結晶粒度番号を決定できる。上述の3視野のうち1視野でも結晶粒度番号が測定できない場合、本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材の結晶粒度番号Dを決定できない。
なお、ミクロ組織中における未再結晶領域の面積率は次の方法で測定できる。上述の結晶粒度番号Dを決定するときに用いる視野(面積は0.75mm)において、コントラストにより、未再結晶領域と、未再結晶領域以外の領域とは明確に区別可能である。そこで、各視野において、未再結晶領域の面積を求める。未再結晶領域の面積と、視野面積(0.75mm)とに基づいて、未再結晶領域の面積率(%)を求める。
[鋼材表層の酸素濃度について]
本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材ではさらに、オーステナイト系ステンレス鋼材の表面から1μm深さ位置での酸素濃度が1.00質量%未満である。要するに、本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材では、表面に酸化スケールが実質的に存在していない。
オーステナイト系ステンレス鋼材の表面から1μm深さ位置での酸素濃度が1.00質量%以上である場合、鋼材表面に酸化スケールが存在していることを意味する。ここで、酸化スケールとは、Fe酸化物、及び/又はFe−Crスピネル酸化物からなる。表面に酸化スケールが存在すれば、高温環境で使用中のオーステナイト系ステンレス鋼材の表面において、酸化スケールがCrの形成を阻害する。この場合、Crが鋼材表面に均一に生成しにくい。その結果、高温環境における鋼材の耐水蒸気酸化性が低下する。
オーステナイト系ステンレス鋼材の表面から1μm深さ位置での酸素濃度が1.00質量%未満であれば、鋼材表面において酸化スケールが実質的に存在していない。この場合、高温環境で使用中のオーステナイト系ステンレス鋼材の表面において、Crが均一に生成しやすくなる。その結果、高温環境における鋼材の耐水蒸気酸化性が高まる。
[酸素濃度の測定方法]
オーステナイト系ステンレス鋼材の表面から1μm深さ位置での酸素濃度は、次の方法で測定できる。オーステナイト系ステンレス鋼材の表面を含むサンプルを採取する。採取したサンプルの表面のうち、オーステナイト系ステンレス鋼材の表面に相当する面を、観察面とする。観察面に対して、深さ方向にX線電子分光法(X−ray Photoelectron Spectroscopy:以下、XPSという)の深さ方向分析を実施する。このとき、ビーム径を100μmとして、深さ方向に48nmピッチで深さ方向分析を実施する。深さ方向分析では、酸素濃度(質量%)を測定する。観察面から1μm深さ位置での酸素濃度(質量%)を測定する。上記方法により、オーステナイト系ステンレス鋼材の表面の3箇所で、表面から1μm(=1008nm)深さ位置での酸素濃度(質量%)を求める。求めた酸素濃度の算術平均値を、そのオーステナイト系ステンレス鋼材の表面から1μm深さ位置での酸素濃度(質量%)と定義する。
本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材の表面から1μm深さ位置での酸素濃度の好ましい上限は0.80質量%であり、さらに好ましくは0.50質量%であり、さらに好ましくは0.30質量%であり、さらに好ましくは0.10質量%であり、さらに好ましくは0.05質量%であり、さらに好ましくは0.01質量%である。
[好ましい結晶粒度番号D]
本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材のオーステナイト結晶粒の結晶粒度番号Dは、好ましくは、2.50〜8.00である。結晶粒度番号Dが2.50以上であれば、高温環境においてCrが鋼材内部から鋼材表面に向かって拡散するための経路(粒界)が十分に形成されている。そのため、高温環境においてCrがさらに拡散しやすくなり、高温環境において、鋼材表面にCrがさらに均一に生成しやすくなる。また、結晶粒度番号Dが8.00以下であれば、高温環境でのクリープ強度を高く維持できる。したがって、好ましい結晶粒度番号Dは、2.50〜8.00である。結晶粒度番号Dのさらに好ましい下限は2.55であり、さらに好ましくは2.60であり、さらに好ましくは2.65であり、さらに好ましくは2.70である。結晶粒度番号Dのさらに好ましい上限は7.80であり、さらに好ましくは7.50である。
[好ましい算術平均粗さRa]
本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材ではさらに、鋼材表面の好ましい算術平均粗さRaが10.00μm以下である。
鋼材表面の粗さは、Crが形成される表面積に相当する。鋼材表面の算術平均粗さRaが10.00μm以下であれば、鋼材の表面が平坦であり、表面積が小さい。この場合、Crの形成がさらに容易になる。その結果、高温環境での鋼材の耐水蒸気酸化性がさらに高まる。
[算術平均粗さRaの測定方法]
オーステナイト系ステンレス鋼材表面の算術平均粗さRaは、JIS B 0601(2013)に規定された算術平均粗さの測定方法により測定する。具体的には、オーステナイト系ステンレス鋼材の表面において、任意の10箇所を測定箇所とする。各測定箇所において、鋼材の長手方向に延びる評価長さで、算術平均粗さRaを測定する。評価長さは、基準長さ(カットオフ波長)の5倍とする。算術平均粗さRaの測定は、レーザー測定式の粗さ計を用いて行い、測定速度は、0.5mm/秒とする。求めた10個の算術平均粗さRaのうち、最大の算術平均粗さRa、2番目に大きい算術平均粗さRa、最小の算術平均粗さRa、及び、2番目に小さい算術平均粗さRaを除いた、6個の算術平均粗さRaの算術平均値を、「算術平均粗さRa」(μm)と定義する。
本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材表面の算術平均粗さRaのさらに好ましい上限は9.50μmであり、さらに好ましくは9.00μmであり、さらに好ましくは8.50μmであり、さらに好ましくは8.00μmである。算術平均粗さRaの下限は特に限定されない。しかしながら、工業生産を考慮すれば、算術平均粗さRaの好ましい下限は0.10μmであり、さらに好ましくは0.50μmであり、さらに好ましくは0.80μmである。
以上の説明のとおり、本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材では、上述の化学組成を有し、結晶粒度番号Dが式(1)を満たす。さらに、表面から1μm深さ位置での酸素濃度が1.00質量%未満である。そのため、高温環境において、優れた耐水蒸気酸化性が得られる。
[製造方法]
上述の本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材の製造方法を説明する。以降に説明するオーステナイト系ステンレス鋼材の製造方法は、本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材の製造方法の一例である。したがって、上述の構成を有するオーステナイト系ステンレス鋼材は、以降に説明する製造方法以外の他の製造方法により製造されてもよい。しかしながら、以降に説明する製造方法は、本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材の製造方法の好ましい一例である。
本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材の製造方法は、素材を準備する工程(準備工程)と、素材に対して熱間加工を実施して中間鋼材を製造する工程(熱間加工工程)と、熱間加工工程後の中間鋼材に対して酸洗処理を実施した後冷間加工を実施する工程(冷間加工工程)と、冷間加工後の中間鋼材に対して、溶体化処理を実施する工程(溶体化処理工程)と、溶体化処理工程後の中間鋼材に対して酸洗処理を実施して、表面のスケールを除去する工程(酸洗処理工程)とを含む。以下、各工程について説明する。
[準備工程]
準備工程では、上述の化学組成を有する素材を準備する。素材は第三者から供給されてもよいし、製造してもよい。素材はインゴットであってもよいし、スラブ、ブルーム、ビレットであってもよい。素材を製造する場合、次の方法により、素材を製造する。上述の化学組成を有する溶鋼を製造する。製造された溶鋼を用いて、造塊法によりインゴットを製造する。製造された溶鋼を用いて、連続鋳造法によりスラブ、ブルーム、ビレット(円柱素材)を製造してもよい。製造されたインゴット、スラブ、ブルームに対して熱間加工を実施して、ビレットを製造してもよい。たとえば、インゴットに対して熱間鍛造を実施して、円柱状のビレットを製造し、このビレットを素材(円柱素材)としてもよい。この場合、熱間加工開始直前の素材の温度は特に限定されないが、たとえば、900〜1300℃である。
[熱間加工工程]
熱間加工工程では、素材に対して熱間加工を実施して、所定の形状の中間鋼材を製造する。中間鋼材はたとえば鋼管であってもよいし、鋼板であってもよいし、棒鋼であってもよい。
熱間加工を実施する前に、素材を加熱する。素材の加熱温度は特に限定されないが、たとえば、900〜1300℃である。
中間鋼材が鋼管である場合、熱間加工工程では、次の加工を実施する。素材として、円柱素材を準備する。機械加工により、円柱素材の中心軸に沿った貫通孔を形成する。貫通孔が形成された円柱素材に対して、ユジーンセジュルネ法に代表される熱間押出を実施して、中間鋼材(鋼管)を製造する。熱間押出に代えて、マンネスマン法による穿孔圧延を実施して、鋼管を製造してもよい。この場合、素材を、穿孔機を用いて穿孔圧延する。穿孔圧延された素材をさらに、マンドレルミル、レデューサ、サイジングミル等により熱間圧延して中間鋼材(鋼管)にする。
中間鋼材が鋼板である場合、熱間加工工程では、次の熱間圧延を実施する。一対のワークロールを備える1又は複数の圧延機を用いる。素材に対して圧延機を用いて熱間圧延を実施して、鋼板を製造する。
中間鋼材が棒鋼である場合、熱間加工工程では、たとえば、粗圧延工程と、仕上げ圧延工程とを含む。粗圧延工程では、素材を熱間圧延してビレットを製造する。粗圧延工程はたとえば、分塊圧延機を用いる。分塊圧延機の下流に連続圧延機が設置されている場合、分塊圧延後のビレットに対してさらに、連続圧延機を用いて熱間圧延を実施して、さらにサイズの小さいビレットを製造してもよい。連続圧延機では、たとえば、一対の水平ロールを有する水平スタンドと、一対の垂直ロールを有する垂直スタンドとが交互に一列に配列される。仕上げ圧延工程では、粗圧延工程後のビレットを周知の温度(900〜1300℃)で再加熱する。仕上げ圧延工程では、加熱後のビレットに対して、連続圧延機を用いて熱間圧延を実施して、棒鋼を製造する。
なお、熱間加工工程として熱間鍛造を実施して、中間鋼材(鋼管、鋼板、棒鋼)を製造してもよい。熱間鍛造はたとえば、鍛伸鍛造である。
[冷間加工工程]
冷間加工工程では、中間鋼材に対して、酸洗処理を実施した後、冷間加工を実施する。中間鋼材が鋼管又は棒鋼である場合、冷間加工はたとえば、冷間抽伸である。中間鋼材が鋼板である場合、冷間加工はたとえば、冷間圧延である。冷間加工工程における減面率は特に限定されないが、たとえば、10〜90%である。
[溶体化処理工程]
溶体化処理工程では、冷間加工工程後の中間鋼材に対して、溶体化処理を実施する。溶体化処理により、中間鋼材中の析出物を固溶する。溶体化処理工程ではさらに、鋼材中のオーステナイト結晶粒を調整する。
溶体化処理は、次の方法で実施する。炉内雰囲気が大気雰囲気である熱処理炉内に、冷間加工工程後の中間鋼材を装入する。ここでいう大気雰囲気は、大気を構成する気体である窒素を体積で78%以上、酸素を体積で20%以上含有する雰囲気を意味する。大気雰囲気の炉内において、中間鋼材を次の溶体化処理温度T1で加熱し、溶体化処理温度T1で保持時間t1保持する。
溶体化処理温度T1:1150℃以上
保持時間t1:1分以上
溶体化処理温度T1が1150℃未満である場合、又は、保持時間t1が1分未満である場合、熱処理中のオーステナイトの再結晶化が不十分となる。そのため、ミクロ組織中の未再結晶領域の割合が増大する。この場合、高温環境での耐水蒸気酸化性が低下する。なお、この場合、ミクロ組織中の未再結晶領域の割合が増大するため、結晶粒度番号Dも決定できない。したがって、溶体化処理温度T1は1150℃以上であり、保持時間t1は1分以上である。なお、溶体化処理温度T1の上限、及び、保持時間t1の上限は特に限定されない。しかしながら、溶体化処理温度T1が高すぎる場合、又は、保持時間t1が長すぎる場合、結晶粒度番号Dが小さくなり(つまり、粗粒になり)、式(1)を満たさなくなる場合がある。したがって、溶体化処理温度T1及び保持時間t1は式(1)を満たす範囲で適宜調整すればよい。溶体化処理温度T1の好ましい下限は1160℃であり、さらに好ましくは1170℃であり、さらに好ましくは1180℃である。保持時間tの好ましい下限は2分であり、さらに好ましくは3分である。
好ましくは、溶体化処理温度T1及び保持時間t1は次のとおりである。
溶体化処理温度T1:1150〜1300℃
保持時間t1:1〜30分
溶体化処理温度T1が1300℃以下であり、かつ、保持時間t1が30分以内であれば、結晶粒度番号Dが2.50以上となる。したがって、溶体化処理温度T1の好ましい上限は1300℃であり、保持時間t1の好ましい上限は30分である。溶体化処理温度T1の好ましい上限は1290℃であり、さらに好ましくは1280℃である。保持時間tの好ましい上限は28分であり、さらに好ましくは25分であり、さらに好ましくは22分である。
[酸洗処理工程]
酸洗処理工程では、溶体化処理後の中間鋼材に対して、酸洗処理を実施する。酸洗処理により、中間鋼材の表面に形成された酸化スケールを除去する。上述のとおり、酸洗処理工程前の中間鋼材の表面に形成された酸化スケールは、主としてFe酸化物、及び/又はFe−Crスピネル酸化物からなる。酸洗処理を実施して、中間鋼材の表面から酸化スケールを十分に除去して、鋼材表面から1μm深さ位置での酸素濃度を1.00質量%未満とする。
酸洗溶液として、硝酸及び弗酸の混合溶液を用いる。混合溶液はたとえば、体積%で5.0〜8.0%の硝酸と、体積%で5.0〜8.0%の弗酸とを含む水溶液である。
酸洗処理での上述の酸洗溶液への浸漬時間t2(以下、酸洗時間という)は、次の条件とする。
酸洗時間t2:1.0時間以上
酸洗時間t2が1.0時間未満である場合、鋼材表面から酸化スケールが十分に除去できない。そのため、オーステナイト系ステンレス鋼材の表面から1μm深さ位置での酸素濃度が1.00質量%以上となる。酸洗時間t2が1.0時間以上であれば、オーステナイト系ステンレス鋼材の表面から1μm深さ位置での酸素濃度が1.00質量%未満となる。
好ましくは、酸洗処理工程において、酸洗溶液の温度T2(以下、浴温という)、及び、酸洗時間t2を次の条件とする。
浴温T2:常温〜40℃
酸洗時間t2:1.0〜5.0時間
浴温T2が40℃以下であれば、酸洗処理後の鋼材表面の算術平均粗さRaは10μm以下になる。また、酸洗時間t2が1.0〜5.0時間である場合、酸洗処理後の鋼材表面の算術平均粗さRaは10.00μm以下になる。その結果、オーステナイト系ステンレス鋼材の耐水蒸気酸化性がさらに高まる。
以上の製造工程により、本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材が製造される。本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材では、上述の化学組成を有し、結晶粒度番号Dが式(1)を満たす。さらに、表面から1μm深さ位置での酸素濃度が1.00質量%未満である。そのため、高温環境において、優れた耐水蒸気酸化性が得られる。結晶粒度番号Dが2.50〜8.00である場合、さらに優れた耐水蒸気酸化性が得られる。鋼材表面の算術平均粗さがRaは10.00μm以下であれば、さらに優れた耐水蒸気酸化性が得られる。
以下、実施例により本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材の効果をさらに具体的に説明する。以下の実施例での条件は、本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例である。したがって、本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼材はこの一条件例に限定されない。
表1に示す化学組成を有する溶鋼を、真空溶解炉を用いて製造した。
Figure 2021080565
表1中の「−」は、対応する元素含有量が検出限界未満であったことを意味する。表1中の試験番号の溶鋼を用いて、円柱状のインゴットを製造した。インゴットを1220℃で3時間加熱した。加熱後のインゴットに対して熱間鍛造を実施して、円柱状のビレットを製造した。機械加工により、円柱状のビレットの中心軸に貫通孔を形成した。貫通孔が形成された円柱状のビレットに対して、熱間押出を実施して、中間鋼材(鋼管)を製造した。熱間押出前のビレットの温度は、1200℃であった。熱間押出後の中間鋼材に対して、冷間引抜を実施して、直径45mm、肉厚9.5mmの中間鋼材(鋼管)を製造した。
得られた中間鋼材に対して、表2に示す溶体化処理温度T1及び保持時間t1で溶体化処理を実施した。溶体化処理後の中間鋼材に対して、表2に示す浴温T2及び酸洗時間t2で酸洗処理を実施した。なお、酸洗溶液は、体積%で5.0〜8.0%の硝酸と、体積%で5.0〜8.0%の弗酸とを含む水溶液であった。以上の工程により、各試験番号のオーステナイト系ステンレス鋼材を製造した。
Figure 2021080565
[評価試験]
各試験番号のオーステナイト系ステンレス鋼材に対して、次の評価試験を実施した。
[表面酸素濃度測定試験]
各試験番号のオーステナイト系ステンレス鋼材(鋼管)の表面を含むサンプルを採取した。採取したサンプルの表面のうち、オーステナイト系ステンレス鋼材の表面に相当する面を、観察面とした。観察面に対して、深さ方向にXPSの深さ方向分析を実施した。このとき、ビーム径を100μmとして、深さ方向に48nmピッチで深さ方向分析を実施した。深さ方向分析では、観察面から1μm深さ位置での酸素濃度(質量%)を測定した。具体的には、オーステナイト系ステンレス鋼材の表面の任意の3箇所で、表面から1μm深さ位置での酸素濃度(質量%)を求めた。求めた酸素濃度の算術平均値を、そのオーステナイト系ステンレス鋼材の表面から1μm深さ位置での酸素濃度(質量%)と定義した。得られた酸素濃度(質量%)を、表2中の「酸素濃度(質量%)」欄に示す。
[結晶粒度番号D測定試験]
各試験番号のオーステナイト系ステンレス鋼材の結晶粒度番号Dを次の方法で求めた。オーステナイト系ステンレス鋼材(鋼管)の肉厚中央位置から1個のサンプルを採取した。採取したサンプルの表面のうち、オーステナイト系ステンレス鋼材の長手方向に垂直な断面を、観察面とした。観察面を鏡面研磨した。鏡面研磨後の観察面を、塩酸及び硝酸の混合溶液を用いて腐食して、観察面のオーステナイトの結晶粒界を現出させた。腐食された観察面の任意の3視野(各視野面積は0.75mm)を観察して、ASTM E112−88に準拠して、次の式に基づいて、オーステナイト結晶粒の結晶粒度番号を求めた。3視野の結晶粒度番号の算術平均値を、結晶粒度番号Dと定義した。
結晶粒度番号D=−3.2877−6.6439log10
ここで、Lは結晶粒内を横切る試験線の1結晶粒当たりの平均線分長(mm)である。
得られた結晶粒度番号Dを表2に示す。
[算術平均粗さRaの測定試験]
各試験番号のオーステナイト系ステンレス鋼材(鋼管)の表面の算術平均粗さRaを、JIS B 0601(2013)に規定された算術平均粗さの測定方法により測定した。具体的には、オーステナイト系ステンレス鋼材の表面において、任意の10箇所を測定箇所とした。各測定箇所において、鋼材の長手方向に延びる評価長さで、算術平均粗さRaを測定した。評価長さは、基準長さ(カットオフ波長)の5倍とした。算術平均粗さRaの測定は、レーザー測定式の粗さ計(KEYENCE社製VR−3000 G2)を用いて行い、測定速度は、0.5mm/秒とした。求めた10個の算術平均粗さRaのうち、最大の算術平均粗さRa、2番目に大きい算術平均粗さRa、最小の算術平均粗さRa、及び、2番目に小さい算術平均粗さRaを除いた、6個の算術平均粗さRaの算術平均値を、「算術平均粗さRa」と定義した。得られた算術平均粗さRa(μm)を表2の「Ra(μm)」欄に示す。
[耐水蒸気酸化性評価試験]
各試験番号のオーステナイト系ステンレス鋼材(鋼管)の内表面(管内表面)を含む試験片を採取した。試験片のサイズは、肉厚方向(t方向)に約3mm、鋼材の長手方向(l方向)に25mm、肉厚方向と鋼材の長手方向に垂直な方向(w方向)に10mmであった。試験片を100%水蒸気雰囲気中に、650℃で1000時間保持した。水蒸気雰囲気の溶存酸素量を100ppbとした。100%水蒸気雰囲気中に、650℃で1000時間保持した後の試験片を、l方向に垂直に切断した。切断面(t方向とw方向とを含む面、つまり、鋼管の長手方向に垂直な断面)を観察面とした。観察面を鏡面研磨した。鏡面研磨後の観察面のうち、管内表面近傍の任意の10視野を選択した。各視野において、管内表面からの内層酸化スケール厚さ(内層酸化スケール深さ)を測定した。10視野での内層酸化スケール厚さの算術平均値を、その試験番号のオーステナイト系ステンレス鋼材での内層酸化スケール厚さ(μm)と定義した。得られた内層酸化スケール厚さを、表2中の「内層酸化スケール厚さ(μm)」欄に示す。
[試験結果]
表2を参照して、試験番号1〜18、26、27、30、31、39〜46では、化学組成が適切であり、かつ、製造条件も適切であった。そのため、試験番号1〜18、26、27、30、31、39〜46のオーステナイト系ステンレス鋼材では、式(1)を満たし、かつ、表面から1μm深さ位置での酸素濃度が1.00質量%未満であった。その結果、試験番号1〜18、26、27、30、31、39〜46では、内層酸化スケール厚さが12.00μm未満と薄く、耐水蒸気酸化性に優れていた。
なお、試験番号1〜18、26、27、30、31、及び、43〜46は、試験番号39〜42と比較して、結晶粒度番号Dが2.50〜8.00の範囲内であるか、又は、算術平均粗さRaが10.00μm以下であった。そのため、試験番号1〜18、26、27、30、31、及び、43〜46では、試験番号39〜42よりも、内層酸化スケール厚さが薄かった。
また、試験番号1〜18では、結晶粒度番号Dが2.50〜8.00の範囲内であり、かつ、算術平均粗さRaが10.00μm以下であった。そのため、試験番号26、27、30、31、及び、43〜46と比較して、内層酸化スケール厚さがさらに薄かった。
一方、試験番号19及び20では、溶体化処理温度T1が低すぎた。そのため、未再結晶領域の面積率が20%を超える視野が存在し、結晶粒度番号Dが特定できなかった。その結果、内層酸化スケール厚さが12.00μm以上であり、耐水蒸気酸化性が低かった。
試験番号21及び22では、溶体化処理温度T1が高く、結晶粒度番号Dが小さくなり、F1が式(1)を満たさなかった。その結果、内層酸化スケール厚さが12.00μm以上であり、耐水蒸気酸化性が低かった。
試験番号23及び24では、溶体化処理温度T1での保持時間t1が短すぎた。そのため、未再結晶領域の面積率が20%を超える視野が存在し、結晶粒度番号Dが特定できなかった。その結果、内層酸化スケール厚さが12.00μm以上であり、耐水蒸気酸化性が低かった。
試験番号25では、溶体化処理温度T1での保持時間t1が長く、結晶粒度番号Dが小さくなり、F1が式(1)を満たさなかった。その結果、内層酸化スケール厚さが12.00μm以上であり、耐水蒸気酸化性が低かった。
試験番号28及び29では、酸洗処理での酸洗時間t2が短すぎた。そのため、表面から1μm深さ位置での酸素濃度が1.00質量%以上であった。その結果、内層酸化スケール厚さが12.00μm以上であり、耐水蒸気酸化性が低かった。
試験番号32及び33では、Cr含有量が低すぎた。そのため、内層酸化スケール厚さが12.00μm以上であり、耐水蒸気酸化性が低かった。
試験番号34及び35では、Mo含有量が高すぎた。そのため、内層酸化スケール厚さが12.00μm以上であり、耐水蒸気酸化性が低かった。
試験番号36では、W含有量が低すぎた。そのため、内層酸化スケール厚さが12.00μm以上であり、耐水蒸気酸化性が低かった。
試験番号37及び38では、F1が式(1)を満たさなかった。そのため、内層酸化スケール厚さが12.00μm以上であり、耐水蒸気酸化性が低かった。
以上、本発明の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。したがって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。

Claims (6)

  1. オーステナイト系ステンレス鋼材であって、
    質量%で、
    C:0.01〜0.15%、
    Si:0.01〜1.00%、
    Mn:2.00%以下、
    P:0.040%以下、
    S:0.010%以下、
    Cr:20.0〜25.0%、
    Ni:23.0〜32.0%、
    Nb:0.10〜1.00%、
    Mo:0.01〜2.50%、
    W:2.5〜6.0%、
    Al:0.010〜0.300%、
    V:0.01〜1.00%、
    B:0.0005〜0.0500%、
    REM:0.001〜0.100%、
    N:0.15〜0.35%、
    Ti:0〜0.100%、
    Cu:0〜1.00%、
    Co:0〜1.0%、
    Zr:0〜0.100%、
    Ta:0〜1.0%、
    Re:0〜5.0%、
    Ca:0〜0.0500%、
    Mg:0〜0.0500%、
    Hf:0〜1.0%、及び、
    残部はFe及び不純物からなり、
    ASTM E112−88に準拠して測定された前記オーステナイト系ステンレス鋼材の結晶粒度番号Dは、式(1)を満たし、
    前記オーステナイト系ステンレス鋼材の表面から1μm深さ位置での酸素濃度が1.00質量%未満である、
    オーステナイト系ステンレス鋼材。
    2W/7−Mo+3D/4≧3.00 (1)
    ここで、式(1)中のDには、結晶粒度番号が代入され、式(1)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
  2. 請求項1に記載のオーステナイト系ステンレス鋼材であって、
    前記結晶粒度番号Dは2.50〜8.00である、
    オーステナイト系ステンレス鋼材。
  3. 請求項1又は請求項2に記載のオーステナイト系ステンレス鋼材であって、
    鋼材表面の算術平均粗さRaは10.00μm以下である、
    オーステナイト系ステンレス鋼材。
  4. 請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のオーステナイト系ステンレス鋼材であって、
    Ti:0.001〜0.100%、
    Cu:0.01〜1.00%、
    Co:0.1〜1.0%、
    Zr:0.001〜0.100%、
    Ta:0.1〜1.0%、及び
    Re:0.1〜5.0%からなる群から選択される1元素以上を含有する、
    オーステナイト系ステンレス鋼材。
  5. 請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のオーステナイト系ステンレス鋼材であって、
    Ca:0.0001〜0.0500%、及び、
    Mg:0.0001〜0.0500%からなる群から選択される1元素以上を含有する、
    オーステナイト系ステンレス鋼材。
  6. 請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のオーステナイト系ステンレス鋼材であって、
    Hf:0.1〜1.0%を含有する、
    オーステナイト系ステンレス鋼材。
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