JP2021052664A - 細胞とゲルを含むシート状物の製造方法 - Google Patents

細胞とゲルを含むシート状物の製造方法 Download PDF

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芳樹 澤
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繁 宮川
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賢二 大山
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文哉 大橋
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Abstract

【課題】本発明は、細胞とゲルとを含むシート状物、当該シート状物を作製するための方法、当該シート状物を作製するためのキットおよび当該シート状物を適用する方法などの提供を目的とする。【解決手段】細胞とゲルとを含むシート状物であって、細胞間接着が形成されていない細胞同士が、ゲルによりシート状に成形された、前記細胞が、シート状物の一面に局在している、前記シート状物などにより、上記課題が解決された。【選択図】図1

Description

本発明は、細胞とゲルとを含むシート状物、当該シート状物を作製するための方法、当該シート状物を作製するためのキットおよび当該シート状物を適用する方法に関する。
近年、損傷した組織などの修復のために、種々の細胞を移植する試みが行われている。例えば、狭心症、心筋梗塞などの虚血性心疾患により損傷した心筋組織の修復のために、胎児心筋細胞、骨格筋芽細胞、間葉系幹細胞、心臓幹細胞、ES細胞、iPS細胞などの利用が試みられている(非特許文献1)。
このような試みの一例として、スキャフォールドを利用して形成した細胞構造物(特許文献1)や、細胞をシート状に成形したシート状細胞培養物(非特許文献2)などの移植を目的とした細胞調製物が開発されており、それらの一部は臨床応用の段階に入っている。
このような細胞調製物の作製において、様々な目的のために、ゲルが用いられている。例えば、シート状細胞培養物の上にゲル積層し、操作性を向上させたもの(特許文献2)や、心筋細胞、平滑筋および線維芽細胞をヒドロゲルに包埋後、培養することにより作製されたCardiopatch(非特許文献3)などがある。
特許第4943844号公報 特開2016−52272号公報
Haraguchi et al., Stem Cells Trans1 Med. 2012 Feb;1(2):136-41 Sawa et al., Surg Today. 2012 Jan;42(2):181-4 Ilya Y. Shadrin et al., Nature Communications 8: 1825, 2017
本発明は、細胞とゲルとを含むシート状物、当該シート状物を作製するための方法、当該シート状物を作製するためのキットおよび当該シート状物を適用する方法を提供することを目的とする。
シート状細胞培養物の作製においては、細胞同士で細胞間接着を形成させるための、シート化培養の工程が必須である。細胞をシート化するためには、細胞種にもよるが、通常数時間〜数日培養する必要があり、緊急を要する事態に対応することは困難であった。
本発明者らは、細胞を含むシート状物を迅速に作製する方法について研究する中で、時間を要する培養の工程を経ずとも、シート状物を作製することができることを見出し、そしてかかる知見に基づいてさらに研究を続けた結果、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下に関する。
[1]細胞とゲルとを含むシート状物であって、
細胞間接着が形成されていない細胞同士が、ゲルによりシート状に成形され、前記細胞が、シート状物の一面に局在している、
前記シート状物。
[2]ゲルが、フィブリンゲル、ゼラチンまたはコラーゲンを含有する、[1]に記載のシート状物。
[3]細胞が、心筋細胞、肝細胞、線維芽細胞、筋芽細胞、膵細胞、腎細胞、血管内皮細胞、角膜上皮細胞のいずれか1つ以上を含む、[1]または[2]に記載のシート状物。
[4]細胞が、心筋細胞を含む、[1]または[2]に記載のシート状物。
[5]細胞とゲルとを含むシート状物を作製するための方法であって、
細胞を基材上に沈降させるステップ、
細胞をゲルによりシート状に成形するステップ
を含む、前記方法。
[6]沈降が遠心力によって行われる、[5]に記載の方法。
[7]細胞が、細胞同士で細胞間接着を形成していない細胞である、[5]または[6]に記載の方法。
[8]ゲルが、フィブリンゲル、ゼラチンまたはコラーゲンを含有する、[5]〜[7]のいずれか1つに記載の方法。
[9]細胞が、心筋細胞、肝細胞、線維芽細胞、筋芽細胞、膵細胞、腎細胞、血管内皮細胞、角膜上皮細胞のいずれか1つ以上を含む、[5]〜[8]のいずれか1つに記載の方法。
[10]細胞が、心筋細胞を含む、[5]〜[8]のいずれか1つに記載の方法。
[11]細胞が、シート状物の一面に局在している、[5]〜[10]のいずれか1つに記載の方法。
[12][5]〜[11]のいずれか1つに記載の方法により作製された、細胞とゲルとを含むシート状物。
[13][12]に記載の細胞とゲルとを含むシート状物を作製するためのキットであって、
細胞、該細胞を沈降させるための基材、および該細胞をシート状に成形するためのゲルを含む、前記キット。
[14]細胞とゲルとを含むシート状物の適用により改善される疾患を処置する方法であって、[5]〜[11]のいずれか1つに記載の方法により作製されたシート状物を、それを必要とする対象に適用することを含む、前記方法。
本発明の方法によれば、シート形状にするために、長時間培養する必要がないため、極めて短時間で、例えば1時間以内、最短15分以内でシート状物を作製することができる。
また、本発明の方法によれば、細胞が一面に局在しているシート状物を得ることができる。非特許文献2に記載のCardiopatchにおいては、細胞がパッチの内部に入り込んでいるものであるところ、本発明に係るシート状物においては、細胞を基材上に沈降させた後にゲルによりシート形成させているため、細胞がシート状物の一面に局在し、その一面において露出している。したがって、本発明によるシート状物においては、細胞は露出している面から酸素や栄養などを摂取することができ、またそれらの細胞から産生されるサイトカインは、ゲルに妨げられることなく、シート状物を適用した部位の周辺の細胞に直接的に、および/または間接的に作用することができる。
加えて、本発明に係るシート状物は、従来のシート状細胞培養物と異なり、剥離後に収縮しないため、作製に使用した基材と同じ大きさのシート状物が得られ、同じ大きさの基材で作製されたシート状細胞培養物よりも大きなシートが得られる。
図1は、遠心分離によって、細胞を基材上に沈降させてからゲルによりシート状に成形した、シート状物1の断面図である。細胞は破線で囲っている部分に局在している。 図2は、遠心分離を行わずにゲルによりシート状に成形した、シート状物2の断面図である。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の一側面は、細胞間接着が形成されていない細胞同士が、ゲルによりシート状に成形され、前記細胞が、シート状物の一面に局在している、細胞とゲルとを含むシート状物に関する。
本発明において、「シート状物」とは、細胞が、シート状に成形されたものを指す。
本発明の一態様において、シート状物は、細胞とゲルとを含み、好ましくはゲル以外のスキャフォールド(支持体)を含まない。スキャフォールドは、その表面上および/またはその内部に細胞を付着させ、シート状物の物理的一体性を維持するために当該技術分野において用いられることがあり、例えば、ポリビニリデンジフルオリド(PVDF)製の膜等が知られている。本発明のシート状物は、かかるスキャフォールドがなくともその物理的一体性を維持することができる。
本発明において、「細胞間接着が形成されていない」とは、細胞が細胞間接着のみによってシート状の形態を維持することができる、すなわちシート状細胞培養物を形成することができるほどには、細胞間接着が形成されていないことを指す。
一態様において、本発明のシート状物は、細胞間接着が全く形成されていない細胞同士がゲルによりシート状に成形されている。別の一態様において、本発明のシート状物は、一部分においてまたは僅かに細胞間接着が形成されている細胞同士が、ゲルによりシート状に成形されている。
シート状物に含まれる細胞は、シート状物を形成し得るものであれば特に限定されず、例えば、接着細胞(付着性細胞)を含む。接着細胞は、例えば、接着性の体細胞(例えば、心筋細胞、線維芽細胞、上皮細胞、内皮細胞、肝細胞、膵細胞、腎細胞、副腎細胞、歯根膜細胞、歯肉細胞、骨膜細胞、皮膚細胞、滑膜細胞、軟骨細胞など)および幹細胞(例えば、筋芽細胞、心臓幹細胞などの組織幹細胞、胚性幹細胞、iPS(induced pluripotent stem)細胞などの多能性幹細胞、間葉系幹細胞等)などを含む。体細胞は、幹細胞、特にiPS細胞から分化させたもの(iPS細胞由来接着細胞)であってもよい。シート状物に含まれる細胞の非限定例としては、例えば、筋芽細胞(例えば、骨格筋芽細胞など)、間葉系幹細胞(例えば、骨髄、脂肪組織、末梢血、皮膚、毛根、筋組織、子宮内膜、胎盤、臍帯血由来のものなど)、心筋細胞、線維芽細胞、心臓幹細胞、胚性幹細胞、iPS細胞、滑膜細胞、軟骨細胞、上皮細胞(例えば、口腔粘膜上皮細胞、網膜色素上皮細胞、鼻粘膜上皮細胞など)、内皮細胞(例えば、血管内皮細胞など)、肝細胞(例えば、肝実質細胞など)、膵細胞(例えば、膵島細胞など)、腎細胞、副腎細胞、歯根膜細胞、歯肉細胞、骨膜細胞、皮膚細胞等が挙げられる。ここで、iPS細胞は、遺伝子を導入することにより誘導された、分化万能性および自己複製能を有する細胞である。iPS細胞由来接着細胞の非限定例としては、iPS細胞由来の心筋細胞、線維芽細胞、上皮細胞、内皮細胞、肝細胞、膵細胞、腎細胞、副腎細胞、歯根膜細胞、歯肉細胞、骨膜細胞、皮膚細胞、滑膜細胞、軟骨細胞などが挙げられる。
本開示において「筋芽細胞」は、横紋筋細胞の前駆細胞であり、骨格筋芽細胞および心筋芽細胞を含む。
本開示において「骨格筋芽細胞」は、骨格筋に存在する筋芽細胞を意味する。骨格筋芽細胞は当該技術分野でよく知られており、骨格筋から任意の既知の方法(例えば、特開2007−89442号公報に記載の方法など)により調製することもできるし、商業的に入手することもできる(例えば、Lonza、Cat# CC-2580)。骨格筋芽細胞は、限定されずに、例えば、CD56、α7インテグリン、ミオシン重鎖IIa、ミオシン重鎖IIb、ミオシン重鎖IId(IIx)、MyoD、Myf5、Myf6、ミオゲニン、デスミン、PAX3などのマーカーにより同定することができる。特定の態様において、骨格筋芽細胞はCD56陽性である。さらに特定の態様において、骨格筋芽細胞はCD56陽性およびデスミン陽性である。骨格筋芽細胞は、骨格筋を有する任意の生物、限定されずに、例えば、ヒト、非ヒト霊長類、げっ歯類(マウス、ラット、ハムスター、モルモットなど)、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、ウマ、ウシ、ヤギ、ヒツジなどの哺乳動物に由来してもよい。一態様において、骨格筋芽細胞は哺乳動物の骨格筋芽細胞である。特定の態様において、骨格筋芽細胞はヒト骨格筋芽細胞である。
本開示において「心筋芽細胞」は、心筋に存在する筋芽細胞を意味する。心筋芽細胞は当該技術分野でよく知られており、Isl1などのマーカーにより同定することができる。心筋芽細胞は、心筋を有する任意の生物、限定されずに、例えば、ヒト、非ヒト霊長類、げっ歯類(マウス、ラット、ハムスター、モルモットなど)、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、ウマ、ウシ、ヤギ、ヒツジなどの哺乳動物に由来してもよい。一態様において、心筋芽細胞は哺乳動物の心筋芽細胞である。特定の態様において、心筋芽細胞はヒト心筋芽細胞である。
本開示において「心筋細胞」は、心筋細胞の特徴を有する細胞を意味し、心筋細胞の特徴としては、限定されずに、例えば、心筋細胞マーカーの発現、自律的拍動の存在などが挙げられる。心筋細胞マーカーの非限定例としては、例えば、c−TNT(cardiac troponin T)、CD172a(別名SIRPAまたはSHPS−1)、KDR(別名CD309、FLK1またはVEGFR2)、PDGFRA、EMILIN2、VCAMなどが挙げられる。心筋細胞としては、iPS細胞由来の心筋細胞が好ましく例示される。
本発明において、細胞は、好ましくは、心筋細胞、肝細胞、線維芽細胞、筋芽細胞、膵細胞、腎細胞、血管内皮細胞、または角膜上皮細胞であり、より好ましくは心筋細胞であり、最も好ましくはiPS細胞由来の心筋細胞である。一態様において、本発明のiPS細胞に由来する心筋細胞を含有するシート状物は、心筋細胞のほかに血管内皮細胞、壁細胞、線維芽細胞等を含んでいてもよい。本発明のシート状物に含まれる細胞の構成比は、例えば、心筋細胞約30〜70%、血管内皮細胞0.1%〜約20%、および壁細胞約1%〜約40%であってもよい。
シート状物に含まれる細胞を構成する細胞は、シート状物による治療が可能な任意の生物に由来し得る。かかる生物には、限定されずに、例えば、ヒト、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ブタ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、げっ歯目動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモットなど)、ウサギなどが含まれる。また、シート状物を構成する細胞の種類の数は特に限定されず、1種類のみ細胞で構成されていてもよいが、2種類以上の細胞を用いたものであってもよい。シート状物を形成する細胞が2種類以上ある場合、最も多い細胞の含有比率(純度)は、シート状物の形成終了時において、50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは75%以上である。
細胞は異種由来細胞であっても同種由来細胞であってもよい。ここで「異種由来細胞」は、シート状物が移植に用いられる場合、そのレシピエントとは異なる種の生物に由来する細胞を意味する。例えば、レシピエントがヒトである場合、サルやブタに由来する細胞などが異種由来細胞に該当する。また、「同種由来細胞」は、レシピエントと同一の種の生物に由来する細胞を意味する。例えば、レシピエントがヒトである場合、ヒト細胞が同種由来細胞に該当する。同種由来細胞は、自己由来細胞(自己細胞または自家細胞ともいう)、すなわち、レシピエントに由来する細胞と、同種非自己由来細胞(他家細胞ともいう)を含む。自己由来細胞は、移植しても拒絶反応が生じないため、本開示においては好ましい。しかしながら、異種由来細胞や同種非自己由来細胞を利用することも可能である。異種由来細胞や同種非自己由来細胞を利用する場合は、拒絶反応を抑制するため、免疫抑制処置が必要となることがある。なお、本明細書中で、自己由来細胞以外の細胞、すなわち、異種由来細胞と同種非自己由来細胞を非自己由来細胞と総称することもある。本開示の一態様において、細胞は自家細胞または他家細胞である。本開示の一態様において、細胞は自家細胞である。本開示の別の態様において、細胞は他家細胞である。
本発明において、シート状に成形するために用いられるゲルは、生体に悪影響を与えないものであれば、任意のものを使用することができる。生体に悪影響を及ぼさないゲルとしては、これらに限定されるものではないが、例えば、フィブリンゲル、ゼラチン、コラーゲンおよびアルギン酸ナトリウムなどが挙げられる。一態様において、ゲルは生体内分解性ゲルであり、生体内において分解し、体内へ吸収され、代謝、排泄される。
一態様において、ゲルは2液を混合することによりゲル化が生じるものである。一態様において、ゲルは室温付近で固化状態にあるものである。一態様において、ゲルは温度による可逆性を示さない。このようなゲルとしては、これらに限定されないが、フィブリノゲン液とトロンビン液を混合させてなるフィブリンゲル、NHS化CMデキストリンおよびトレハロース水溶液と炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム水溶液を混合させてなる癒着防止剤などが挙げられる。これらは、例えばボルヒール(登録商標)組織接着用(帝人ファーマ社製)、ベリプラスト(登録商標)組織接着用(CSLベーリング社製)、アドスプレー(登録商標)(テルモ社製)として商業的に入手可能であり、本発明において使用することができる。
本発明において、ゲルは、好ましくは、フィブリンゲル、ゼラチンまたはコラーゲンであり、より好ましくはフィブリンゲルである。
本発明において、ゲルはシート状物を基材から剥離させる際、およびシート状物を適用のために移動させる際に、シート状物の破損を防ぐ支持体の役目を担っていてもよい。
本発明において、シート状物の厚さは、例えば10μm〜2000μm、好ましくは10μm〜500μm、より好ましくは50μm〜200μmである。
本発明において「細胞が、シート状物の一面に局在している」とは、大部分の細胞が、シート状物の一方の面に存在し、シート状物のその他の部分にはごく少数の細胞しか存在していないことを指す。本発明において、細胞を基材上に沈降させ、基材の底面に均一に存在している状態においてゲルによりシート状に成形するので、シート状物の一面に細胞を局在させることができる。一態様において、細胞は、シート状物の断面の一面側において、断面の端から1〜100μm、好ましくは20〜50μm、より好ましくは20〜30μmの部分に局在する。一態様において、細胞は、シート状物の断面において、断面の端からシート状物の断面の全長に対して1〜30%、好ましくは10〜25%、より好ましくは15〜20%の部分に局在している。
本発明の別の側面は、細胞を基材上に沈降させるステップ、細胞をゲルによりシート状に成形するステップを含む、細胞とゲルとを含むシート状物を作製するための方法に関する。
基材は、細胞がその上でシート状物を形成し得るものであれば特に限定されず、例えば、種々の材質の容器、容器中の固形もしくは半固形の表面などを含む。容器は、培養液などの液体を透過させない構造・材料が好ましい。かかる材料としては、限定することなく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ナイロン6,6、ポリビニルアルコール、セルロース、シリコン、ポリスチレン、ガラス、ポリアクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、金属(例えば、鉄、ステンレス、アルミニウム、銅、真鍮)等が挙げられる。また、容器は、少なくとも1つの平坦な面を有することが好ましい。かかる容器の例としては、限定することなく、例えば、細胞培養皿、細胞培養ボトルなどが挙げられる。また、容器は、その内部に固形もしくは半固形の表面を有してもよい。固形の表面としては、上記のごとき種々の材料のプレートや容器などが、半固形の表面としては、ゲル、軟質のポリマーマトリックスなどが挙げられる。基材は、上記材料を用いて作製してもよいし、市販のものを利用してもよい。
基材は、刺激、例えば、温度や光に応答して物性が変化する材料で表面が被覆されていてもよい。かかる材料としては、限定されずに、例えば、(メタ)アクリルアミド化合物、N−アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体(例えば、N−エチルアクリルアミド、N−n−プロピルアクリルアミド、N−n−プロピルメタクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、N−シクロプロピルアクリルアミド、N−シクロプロピルメタクリルアミド、N−エトキシエチルアクリルアミド、N−エトキシエチルメタクリルアミド、N−テトラヒドロフルフリルアクリルアミド、N−テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド等)、N,N−ジアルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体(例えば、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−エチルメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド等)、環状基を有する(メタ)アクリルアミド誘導体(例えば、1−(1−オキソ−2−プロペニル)−ピロリジン、1−(1−オキソ−2−プロペニル)−ピペリジン、4−(1−オキソ−2−プロペニル)−モルホリン、1−(1−オキソ−2−メチル−2−プロペニル)−ピロリジン、1−(1−オキソ−2−メチル−2−プロペニル)−ピペリジン、4−(1−オキソ−2−メチル−2−プロペニル)−モルホリン等)、またはビニルエーテル誘導体(例えば、メチルビニルエーテル)のホモポリマーまたはコポリマーからなる温度応答性材料、アゾベンゼン基を有する光吸収性高分子、トリフェニルメタンロイコハイドロオキシドのビニル誘導体とアクリルアミド系単量体との共重合体、および、スピロベンゾピランを含むN−イソプロピルアクリルアミドゲル等の光応答性材料などの公知のものを用いることができる(例えば、特開平2−211865、特開2003−33177参照)。これらの材料に所定の刺激を与えることによりその物性、例えば、親水性や疎水性を変化させ、同材料上に付着した細胞の剥離を促進することができる。温度応答性材料で被覆された培養皿は市販されており(例えば、株式会社セルシードのUpCell(登録商標)やDIC株式会社のCepallet(登録商標))、これらを本発明の製造方法に使用することができる。
上記基材は、種々の形状であってもよいが、平坦であることが好ましい。また、その面積は特に限定されないが、典型的には、約1cm〜約200cm、好ましくは約2cm〜約100cm、より好ましくは約3cm〜約50cmである。
本発明において、細胞を基材上に沈降させるステップは、細胞を基材の底面側に均一に存在している状態にするために行われる。一態様において、沈降は自然沈降によって行われる。別の態様において、沈降は、遠心力によって行われる。
沈降が自然沈降によって行われる場合、例えば、1分〜24時間、好ましくは、5分〜6時間、より好ましくは、5分〜1時間静置される。
沈降が遠心力によって行われる場合、沈降は、細胞を基材の底面に均一に存在させるのに十分な遠心力および時間の条件で行われる。一態様において、沈降が遠心力によって行われる場合、遠心分離機を使用してもよい。遠心分離機を用いた沈降は、遠心分離機で、遠心力、遠心にかける時間、遠心分離機の機内温度などを適宜設定して行われる。遠心力は、例えば、10G〜1000G、好ましくは、50G〜1000G、より好ましくは、50G〜400Gに設定される。遠心にかける時間は、例えば、10秒〜2時間、好ましくは、1分〜60分、より好ましくは、1〜15分、さらに好ましくは、1分〜10分に設定される。機内温度は、例えば、0℃〜42℃、好ましくは、4℃〜37℃に設定される。
一態様において、細胞の基材上への播種は、約1.0×10個/cm〜約3.4×10個/cm、約3.0×10個/cm〜約3.4×10個/cm、約3.5×10個/cm〜約3.4×10個/cm、約1.0×10個/cm〜約3.4×10個/cm、約3.0×10個/cm〜約1.7×10個/cm、約3.5×10個/cm〜約1.7×10個/cm、約1.0×10個/cm〜約1.7×10個/cmなどの密度で行うことができる。
本発明において、細胞をゲルによりシート状に成形するステップは、細胞を基材上に沈降させた後に、細胞が基材の底面側に均一に存在している状態を乱さないよう、ゲルを静かに添加することにより行われる。ゲルの添加される量は、任意の量であってよいが、好ましくはシート状物が上記の厚さになる量である。一態様において、ゲルは2液を混合することによりゲル化が生じるものであり、このようなゲルを用いてゲル化する方法は、任意の既知の方法を用いることができる。かかる方法として、例えば、フィブリノゲン液を細胞と懸濁し、細胞を基材上に沈降させた後に、トロンビン液を噴霧することによりフィブリンゲルを形成する方法や、フィブリノゲン液を細胞上に滴下し、その後トロンビン液を噴霧することによりフィブリンゲルを形成する方法(特許第6495603号公報)を用いることができる。
一態様において、細胞が、シート状物の一面に細胞が局在している。
一態様において、本発明の方法に係る細胞は、実質的に細胞同士で細胞間接着を形成していない細胞である。この場合において、細胞同士は、細胞間接着を形成していないか、または細胞間接着のみによってシート状の形態を維持することができるほどには、細胞間接着が形成されていないことを指し、一部分においてまたは僅かに細胞間接着が形成されていてもよい。一態様において、本発明の方法に係る細胞は、細胞外マトリックスを実質的に形成していない細胞である。この場合において、細胞は、細胞外マトリックスを形成していないか、または細胞外マトリックスによってシート状の形態を維持することができるほどには細胞外マトリックスが形成されていないことを指し、一部分においてまたは僅かに細胞外マトリックスが形成されていてもよい。
一態様において、本発明に係る、細胞とゲルとを含むシート状物を作製するための方法は、細胞がゲルによりシート状に成形される前または成形された後に、さらに培養するステップを含んでもよい。
一態様において、本発明に係るシート状物を作製するための方法は、これらに限定されるものではないが、凍結細胞を融解するステップ、融解した細胞に洗浄液を添加するステップ、洗浄液を添加した細胞を遠心分離にかけるステップ、などのステップを含んでいてもよい。
本発明のまた別の側面は、細胞、該細胞を沈降させるための基材、および該細胞をシート状に成形するためのゲルを含む、細胞とゲルとを含むシート状物を作製するためのキットに関する。
本発明におけるキットは、これらに限定されるものではないが、例えば、培地、洗浄液、緩衝液、チューブ、細胞培養に使用する器具、輸送容器、使用方法に関する指示などをさらに含んでもよい。
細胞培養に使用する器具としては、例えば、ピペット、セルストレーナー、セルスクレーバーなどが挙げられる。
使用方法に関する指示としては、例えば、使用説明書、製造方法や使用方法に関する情報を記録した媒体、例えば、フレキシブルディスク、CD、DVD、ブルーレイディスク、メモリーカード、USBメモリーなどが挙げられる。
本発明のさらに別の側面は、細胞とゲルとを含むシート状物の適用により改善される疾患を処置する方法であって、本発明に係る方法を用いて作製したシート状物を、それを必要とする対象に適用することを含む、前記方法に関する。
以下の実施例において、多能性幹細胞として、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)で樹立された臨床用ヒトiPS細胞を用いた。M. Nakagawa et al., Scientific Reports, 4:3594 (2014)を参考に、ヒトiPS細胞をフィーダーフリー法で維持した。次いで、Miki et al., Cell Stem Cell 16, 699-711, June 4, 2015やWO2014/185358およびWO2017/038562の記載を参考にして、ヒトiPS細胞を心筋細胞へと分化誘導して胚様体を得た。具体的には、フィーダー細胞を含まない培養液で維持培養したヒトiPS細胞を、EZSPERE(登録商標)(AGCテクノグラス社製)上で10μMのY27632(和光純薬)を含有するStemFit AK03培地(味の素)中で1日培養し、得られた胚様体をアクチビンA、骨形成タンパク質(BMP)4および塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を含有する培養液中で培養し、さらにWnt阻害剤(IWP3)およびBMP4阻害剤(Dorsomorphin)およびTGFβ阻害剤(SB431542)を含む培養液中で培養し、その後VEGFおよびbFGFを含む培養液中で培養を行うことで、iPS細胞由来のヒト心筋細胞を得た。得られた細胞における心筋細胞の割合は50%〜90%であった。
例1.細胞とゲルを含むシート状物の作製
細胞保存用保存液(10%DMSO含有MCDB培地)中で凍結保存したiPS細胞由来のヒト心筋細胞を37℃で融解し、10%FBS/DMEMで希釈後、遠心分離し、上清を除去したのち細胞2×10個を、100μLのフィブリノゲン液(ベリプラスト(登録商標)組織接着用(CSLベーリング社製)のバイアル1の内容物(フィブリノゲン凍結乾燥粉末)をバイアル2の内容物(フィブリノゲン溶解液)で溶解したもの、フィブリノゲン濃度80mg/mL)に懸濁し、基材(UpCell(登録商標)、48穴マルチウェル、CS3001、セルシード社)に、2×10細胞/cmの密度で播種した。播種後、細胞を遠心分離機(TOMY、LX−120)を用いて、1200rpm、25℃、5分間の条件で遠心した。その後、基材を遠心分離機から取り出し、細胞が基材上に満遍なく沈降していることを確認し、100μlのトロンビン液(ベリプラスト(登録商標)組織接着用(CSLベーリング社製)のバイアル3の内容物(トロンビン凍結乾燥粉末)をバイアル4の内容物(トロンビン溶解液)で溶解したもの、トロンビン濃度300単位/mL)を滴下し、約5分静置した。その後、基材に1mLのハンクス平衡塩溶液(HBSS(+)、Cat No.14025、Life Technologies社製)加えて、3回洗浄し、未反応のフィブリノゲンおよびトロンビンを除去した。その後、細胞およびゲルを含むシート状物を基材から剥離させ、回収した(シート状物1)。
また、比較例として、シート状物2を作製した。シート状物2の作製においては、遠心分離操作以外は上記シート状物1と同様に操作し、遠心分離することなく、細胞の播種後直ちにトロンビン液を添加した。
例2.細胞とゲルを含むシート状物の評価
例1で作製したシート状物1およびシート状物2を、それぞれ4%パラホルムアルデヒド(和光純薬)中に浸し、一晩固定化し、次いで各シート状物を30%スクロース/PBSに浸した。その後、各シート状物をティシュー・テック(登録商標)O.C.Tコンパウンド(サクラファインテックジャパン)に浸し、凍結処理を行い、凍結切片を作製した。作製した凍結切片について、ヘマトキシリン・エオジン染色により、細胞核をヘマトキシリンで青紫色に、その他構造物をエオジンで種々の濃さの紅色に染色し、顕微鏡(100倍)で観察を行った。
図1にシート状物1の断面を、図2にシート状物2の断面を示す。シート状物1の断面の全長は約80μmであり、そのうちシート状物1の一面側の断面の端から約20μmの部分(破線で囲まれた部分)に細胞が局在していることが確認された。これに対して、シート状物2の断面においては、細胞がシート状物中に満遍なく散在していた。

Claims (14)

  1. 細胞とゲルとを含むシート状物であって、
    細胞間接着が形成されていない細胞同士が、ゲルによりシート状に成形され、前記細胞が、シート状物の一面に局在している、
    前記シート状物。
  2. ゲルが、フィブリンゲル、ゼラチンまたはコラーゲンを含有する、請求項1に記載のシート状物。
  3. 細胞が、心筋細胞、肝細胞、線維芽細胞、筋芽細胞、膵細胞、腎細胞、血管内皮細胞、角膜上皮細胞のいずれか1つ以上を含む、請求項1または2に記載のシート状物。
  4. 細胞が、心筋細胞を含む、請求項1または2に記載のシート状物。
  5. 細胞とゲルとを含むシート状物を作製するための方法であって、
    細胞を基材上に沈降させるステップ、
    細胞をゲルによりシート状に成形するステップ
    を含む、前記方法。
  6. 沈降が遠心力によって行われる、請求項5に記載の方法。
  7. 細胞が、細胞同士で細胞間接着を形成していない細胞である、請求項5または6に記載の方法。
  8. ゲルが、フィブリンゲル、ゼラチンまたはコラーゲンを含有する、請求項5〜7のいずれか一項に記載の方法。
  9. 細胞が、心筋細胞、肝細胞、線維芽細胞、筋芽細胞、膵細胞、腎細胞、血管内皮細胞、角膜上皮細胞のいずれか1つ以上を含む、請求項5〜8のいずれか一項に記載の方法。
  10. 細胞が、心筋細胞を含む、請求項5〜8のいずれか一項に記載の方法。
  11. 細胞が、シート状物の一面に局在している、請求項5〜10のいずれか一項に記載の方法。
  12. 請求項5〜11のいずれか一項に記載の方法により作製された、細胞とゲルとを含むシート状物。
  13. 請求項12に記載の細胞とゲルとを含むシート状物を作製するためのキットであって、
    細胞、該細胞を沈降させるための基材、および該細胞をシート状に成形するためのゲルを含む、前記キット。
  14. 細胞とゲルとを含むシート状物の適用により改善される疾患を処置する方法であって、請求項5〜11のいずれか一項に記載の方法により作製されたシート状物を、それを必要とする対象に適用することを含む、前記方法。
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